英文資料に基づき1997年に作成したものです。脚注は私が追加しています。

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合弁事業(ジョイント・ベンチャー)についてのセミナー

(日本語版資料作成:川村真文)

序文

合弁事業

(ジョイント・ベンチャー)(FN1)は多様な法律に関係し、必ず契約法および租税法の側面を含む。合弁事業のために会社が設立される場合には、会社法も関係する。

(FN1. 複数当事者がある事業目的を実現するために行う共同事業。多くの場合、複数企業がある目的のために共同で会社を経営し、これの株式を各々一定の割合で保有する形態をとる。)

合弁事業は、究極的には、相乗効果

(シナジー)の追求、すなわち相互利益の探求である。合弁事業を行う理由には次のものが含まれる。

(a) 商業上の理由

これは、当事者が、相互に提供し得る価値ある資産を有する場合である。資金、商標もしくは商号、技能を有する人員、または技術/マーケティング上の専門知識もかかる資産となることができる。相互利益のため資産を結合することが商業的に好ましい場合、合弁事業が行われる。

(b) 政治または法律上の理由

政府の政策または法的規制も合弁事業の理由となり得る。例えば、オーストラリア、インドネシア、マレーシア、ニュージーランド、タイおよびフィリピンでは、「現地参加」または「現地資本」が一般に要請され、これらの地域で一定の事業を始めようとする外国当事者はかかる政策または法的規制に従わなくてはならない。

シンガポールでも、船舶代理店事業(Ship Agency Business)(貿易開発局(Trade Development Board)により過半の現地参加が奨励される。)やエンジニアリング(Professional Engineers Act に現地資本の要請が規定されている。)等の一定の分野で、類似の要請が存在する。

合弁事業は、実際に頻繁に行われている。アジアでの新たな経済市場(中国およびベトナムはその顕著な例である。)の出現および世界規模の技術促進は、合弁事業が今後も重要であることを示唆している。

以上をふまえ、本セミナーでは次の点を取り上げる。

A. 合弁事業の性質および形態

B. 合弁事業における弁護士の役割、および

C. 会社形態の合弁事業の一定の側面。これには、合弁事業のための書類の作成の際に考慮されるべき事項が含まれる。

 

A.合弁事業の性質および形態

合弁事業の性質

大まかに、「合弁事業」は、「複数当事者の一定の利益の結合」と表現できる。金銭的利得は必ずしも合弁事業に不可欠な要素ではない。例えば、製造会社は、合弁事業により供給を共同に行うことで、規模の経済によって費用の削減を図ることができる。

「合弁事業」の用語は、シンガポールでは法的に定義されていない。しかしながら、オーストラリア(FN2)の判決の傍論で次のように述べられた。

「「合弁事業」の用語は、特定のコモン・ロー上の意味を有する専門的なものではない。日常用語として、それは、相互利益の観点からの取引き、商業、採掘またはその他の財政的事業の共同で、各参加者が通常(いつもではない)資金、財産または技能を提供するものという意味を有す。」(per Mason Brennan and Deane JJ, United Dominions Corporation Ltd v. Brian Pty Ltd [1985] 60 ALR 741.)

(FN2. シンガポールでは、シンガポール法の他、マレーシアならびに英国、オーストラリアおよびニュージーランド等のコモンウェルス(英連合)の判例法が考慮される。)

これはかなり広い概念であるが、上記の定義から合弁事業の次の特徴を引き出すことができる。

(a)  この用語は、実際には、(今のところ)特定の法的意味を有さない日常用語である。学問的には、このように全てを囲い込む概念を実際に定義できるか疑問であり、おそらく、この概念の中でさらなるニュアンスが展開される余地を残すために、定義しないでおくのが望ましいであろう。

(b)  合弁事業は当事者の共同である。この点につき、相手方は必ずしも1人である必要はないことに留意することが有用である。相手方は多数で有り得る。しかしながら、本セミナーでは、単純化のため、相手方が1人しかいない場合を想定する。

(c) 共同は相互利益(必ずしも金銭上のものに限らない。)を目的とする。

(d) 各参加者は、通常なんらかの資産を提供する。

実務上、合弁事業の各段階で、これらの特徴を心に留めておくことは有用である。

合弁事業の形態

合弁事業を行う当事者は、その事業目的の追求のため、多様な形態を選択することができる。可能な形態には次のものが含まれる。

(a) 組合(Partnership) (FN3)

合弁事業およびその参加者が同じ国にある場合、組合の創設により一定の財政的な利益を得ることができる。合弁事業の当事者は、合弁事業から生じる損失を、当該当事者がその他の事業から得る利益から差引くことができる。これは、もちろん、ほとんどのコモンウェルスの国において、組合は無限連帯責任の危険を伴うことによって、バランスがとられている。

(FN3. 複数の者が、営利の目的で金銭、労務等を出資して事業を行う契約関係。法人格を有しないが、第三者との関係においては、組合名において訴えまたは訴えられることができる。)

(b) 会社

これは、シンガポールで最も一般的な形態である。その重要性のため、この形態に必要な書類に特別な注意を払い、これからの議論は、合弁事業の当事者がこの形態を選択したと仮定して進められる。

(c) 共同事業体(Consortium)その他の合弁企業体/上記(a)または(b)に該当しない形態

当事者は、より柔軟な法的構造を規定したよりゆるい共同契約の形態を選択することもできる。彼らは、いわゆる「契約合弁事業

(Contractual Joint Venture)」またはしばしば「非持分合弁事業(Non-equity Joint Venture)」と呼ばれるものを行う。例えば、入札された特定の契約の実行といった一時的な目的のための合弁事業の場合、別個の法人格を創設しない契約の締結によって行うことができる。

これが、現行法の既存の法理論にそのままの形で適合するかは疑問である。会社に至らないものとして、当事者は組合員とみなされる危険を負う。

(FN4)

(FN4. 組合の場合、@各組合員は、組合の事業の遂行に関して、組合の代理人であり、組合は、その事業の範囲内で組合員のなした行為につき責任を負い、A組合員がその職務を行うについて第三者に損害を加えたときは、組合は、その組合員と同じ程度までその不法行為について責任を負い、B組合の債務について、全ての組合員は、法律行為に関しては合同の、不法行為に関しては連帯の責任を負う。結局、組合員は、相手方の行為について大きな責任を負うことになる。)

他の形態に対するある形態の選択は、合弁事業の設立に必要な書類に影響を与え、通常その形態への規制との関係で、他の法的または管理上の影響も伴う。

組合形態の合弁事業の場合、必要な付随書類とともに、組合契約が締結されなくてはならない。

会社形態の合弁事業の場合、会社が設立されるか、合弁会社となるべき既存の会社の株式が購入されなくてはならない。組合と対照的に、会社法および会社法規則のより厳格な要請が考慮されなくてはならない。

最後の形態の場合は、基礎にある契約関係が当事者の権利および義務を規定する。さらに、契約および代理についての一般法が合弁事業に影響する。

 

B. 合弁事業における弁護士の役割

まず、合弁事業の相手方を見つけなくてはならない。見つかれば(通常クライアントは既に相手方を見つけている。)、クライアントは、その意図する当事者間の関係に実体を与えるよう、弁護士に依頼する。その作業において、次の要請が交渉過程で留意される必要がある。

(a) いつ法的義務を生じさせるべきかの検討。

(b) 当事者の商業的意図に法的効果を与えるのに最も適した形態の検討。

(c) 覚書(Letters of Intent/Memoranda of Understanding)の必要性、および覚書を当事者の誠実な合意を規定するものとするのか法的義務を規定するものとするのかの検討。

(d) 当事者の合意、権利および義務をどの程度契約に基づくものとするのかの検討。

(e) 情報の秘密保持および使用禁止契約の必要性の検討。かかる契約に関して、「LOCK-IN」または「LOCK-OUT」条項(FN5)の必要性もまた考慮されなくてはならない。常に、バランスがとられるよう留意する。潜在的合弁相手方が情報を判断した上で返事ができるようにするため、提供し得る潜在的資産についてどの程度知らせる必要があるかを検討しなくてはならない。他方、価値ある秘密情報が不当に利用されれば、最低でもいくらかの情報の取り返しのつかない予想外の損失、最悪の場合は商業的機会の喪失を被ることになる。

(FN5. LOCK-IN」条項とは、相手方に一定期間自分とだけ交渉することを義務づける条項であり、「LOCK-OUT」条項とは、他の者とは事業を行わないことを義務づける条項である。)

(f) 法は常に変化することに留意する。当事者がその権利および義務を明確に規定しなければ、それらは常に黙示的に示され得る。合弁事業にむけて交渉する当事者は、相互に受任者(Fiduciary)(FN6)と見なされ得るという法概念の発展に注意しなくてはならない。これには多くの分岐がある。これについては、次の判例を参照のこと。

(a) United Dominions Corporation Ltd v. Brian Pty Ltd [1985] 60 ALR 741. (FN7)

(b) LAC Minerals Ltd v. International Corona Resources Ltd [1988] 61 DLR (4th) 14.(FN8)

(c) Haw Par Brothers International v. Jack Chiarapuk and Others [1991] 2 MLJ 428.(FN9)

(FN6. 当事者間に信認関係(Fiduciary Relation)が存在する場合に、相手方の信頼を受け、その者の利益のために行動、助言する義務を負う者。)

(FN7. 単なる交渉の段階を超えて、合弁事業に関して将来締結が予定される合弁契約に合致した支出その他の行為が行われている段階において、いまだ合弁契約を締結していない当事者間に信認関係を認めた判決。)

(FN8. 組合または合弁事業の潜在的当事者として原告に近づいた被告が、原告から入手した秘密情報に基づいて入札を行い、原告を退けて採掘権を得た事案について、秘密情報を乱用しない義務(Duty not to misuse confidential information)の違反を認めた判決。)

(FN9. 合弁会社の取締役の義務違反についての判決。)

交渉

弁護士は、

DEAL MAKER であって DEAL BREAKER でなないことを忘れてはならない。弁護士が専門事項のためまたはタフ・ネゴシエーターでありすぎたため合弁事業を失敗させた場合、クライアントはそれにあまり感謝しない。守られるべき商業目的を見失ってはならない。弁護士は一本の木に執着するあまり森を見失うべきではないという格言に留意すべきである。クライアントはただでは何かをあきらめず、むしろよりよいものを引換えに得ようとするため、相互性(Reciprocity)はキーワードである。

さらに、弁護士は、合弁事業に関する複雑な法および実務に熟達し、守るべき商業目的に精通してはじめて、

(後でクライアントの立場に対する適切な保護を失うことなく)賢明に交渉する術を知ることができる。これを念頭に、合弁事業の最も一般的な形態の詳細な検証に入る。

 

C. 会社形態の合弁事業

既に述べたように、

(当事者が最初の引受人となって)会社が設立されるか、(当事者がそれぞれ会社の持分を取得する形で)合弁会社となる既存の会社の株式が購入されなくてはならない。私たちは、会社を設立しなくてはならないことを前提として話しを進める。会社は、合弁契約締結前に設立されても、合弁契約で合弁会社の設立に合意してもよい。

設立前

当事者は、合弁会社の設立手続に限定して関与すべきであり、さもなければ、既に指摘した信認関係の罠

(Fiduciary Trap)に陥る危険がある。(Spicer (Keith) v. Mansell [1970]1 ALL ER 462(FN10)も参照のこと。)

(FN10.合弁事業のために会社の設立を共同で行っていた当事者について、単に会社の設立を共同で行っていただけで、設立前に利得のためまたはパートナーとして取引する意図で事業を共同に行っていたわけではないとしてパートナーシップを否定した判決。)

弁護士は、設立されるべき合弁会社の種類についても、クライアントにアドバイスする必要がある。合弁会社は無限責任または有限責任とすることができる。弁護士は、有限責任の場合、私有限責任株式会社、公開有限責任会社またはその他にすべきかについて、検討しアドバイスする必要がある。

設立

会社の設立のため、その設立書類を用意しなくてはならない。以下は注意すべき点である。

(a) 基本定款(Memorandum of Association)

会社法第

25条に注意し、その効果、特に第25条第2(b)を考慮する。(FN11)

(FN11.会社法第25条は、会社の能力(目的)外の行為の効力についての規定である。会社法第25条第1項は、「会社の行為.....は、会社にかかる行為をおこなう能力または権限.....がないということのみをもって無効とはならない。」と規定する。会社法第25条第2項は、会社の能力または権限の欠缺を主張できる場合を規定しており、第(b)号は、その1つの場合として、「会社または会社の構成員による会社の現在または過去の役員に対する法的手続」を規定する。)

(b) 通常定款(Articles of Association)

(i) 各当事者の特別の利益を守るため数種の株主権の創設を考える。あまりに限 定的に考えるべきではなく、これを少数株主の保護手段としてのみ考慮すべ きではない。

(ii) 資本(持分)減少トラップ(Capital Reduction Trap)・・資本(持分)減少をい かに回避すべきかを考える。最低25%プラス1株の保有。(FN12)

(FN12.75%以上の多数株主は、資本減少の要件の1つである特別決議(Special Resolution)を単独で行うことができる。)

基本および通常定款は合弁契約の規定と整合しなくてはならない。いいかえれば、基本および通常定款の規定は、できる限り合弁契約のそれに一致させるべきである。

(c) 少数株主の保護

この問題は、持分が50/50でない場合に生じ、少数株主は常に検討すべき問題である。商業的、規制的またはその他の障害のため、持分が50/50でない合弁事業は珍しくない。特に、次を考慮すべきである。

(i) 権利の堅守(特に数種の株主権として)

(ii) 少数株主抑圧行為(Minority Oppression Action)(FN13)

(FN13.「1または複数の会社の構成員.....への抑圧的な(Oppressive)方法で、または会社の構成員、株主.....としての利益を無視して会社の業務が行われまたは取締役の権限が行使された」場合(第1項(a))、および「1または複数の構成員....を不当に差別し、またはそれらにその他不利益を与える会社の行為が行われもしくは行われる恐れがあり、または.....決議が可決もしくは提案された」(第1項(b))場合の救済が、会社法第216条に規定される。)

(iii) 正当かつ公正な理由による清算(FN14)・・(事業)目的が基本および通常定款 に明確に規定されるべきである。(これは、各事業に合わせて目的条項を作成 する利点である。)(FN15)

(FN14.会社の清算原因の一般規定(会社法第254条第1(i))である。)

(FN15.会社がその構成員の当初の一般的な意図および共通の理解から全く逸脱した行為に従事している場合、これは清算の「正当かつ公正な理由」となり得る。会社の主たる目的についての構成員の一般的な意図および共通の理解は、会社の基本定款で確認することができる。(Company Law, Walter Woon, p487-488))

(iv) 加重投票権(Bushell v. Faith [1970] AC 1099 を参照)(FN16)。議決権信託(FN17)契約(Voting Trust Agreements)もまた考慮する。(Greenwell v. Porter [1902] 1 Ch. 530(FN18)を参照)

(FN16.会社法第64条により、加重投票権は公開会社の子会社ではない私会社(Private Company)についてのみ可能である。)

(FN17.議決権を与える目的でなす株式の信託。株式を信託した者は、受託者から議決権信託証書を受取り、受益者として利益配当等の経済的諸利益を受け、受託者は、あらかじめなされた合意に従って株主として議決権を行使する。)

(FN18.売主とかかる売主からその一部の株式を購入した者との間で、売主は買主の意思に従って議決権を行使する旨を合意した場合、かかる合意は有効であり、差止命令により強制され得るとする判決。)

合弁契約

さらに、合弁契約または株主間契約が存在する。合弁事業の当事者は、合弁契約の必要性およびその合弁会社の設立書類との区別を理解すべきである。合弁契約が合弁会社の設立書類に反映されまたは設立書類から反映されるべき規定を含む場合、いっそう両者の区別に留意しなくてはならない。特に注意すべきものとして次のものがある。

(a) 構成員としての権利のみ強制力を有する。(Raffles Hotel Ltd v. Malayan Banking Bhd(No.2) [1966] 1 MCJ 206 at 208(FN19)、および London Sack & BagCo v. Dixon & Lugton Ltd [1943] 2 ALL ER 765 を参照)(FN20)上記に続き、Russell v. Northern Bank Development Corporation [1992] 1 W.L.R. 588(FN21)での貴族院の判断からの教訓が適用されるべきである。

(FN19.会社の定款は会社と構成員ではない者との間の契約とはならず、かかる間で会社を拘束しないとする判決。)

(FN20.定款は構成員の権利を規定するが、これは構成員間の契約とはならず、会社とその構成員との間の契約にすぎない。従って、定款に基づく構成員としての権利および義務は、会社を通じてのみ、他の構成員に対して強制することができる

(HALSBURY'S LAWS OF ENGLAND, Fourth Edition, Vol7(1), p122 para 143))

(FN21.定款を変更する法定の力を制限する定款規定、または会社によるその旨の正式な約束は無効となっても、各株主は、適法に、その議決権の行使に関して私的な契約を締結することができるとする判決。)

(b) 合弁契約が合弁会社の構成員としての権利を超えて規定する場合、それは単なる株主間契約ではなく合弁契約として拘束力を有することを明確にするのが望ましい。これは、さらに、会社法第186条および第40条第3項に関係する問題を回避することになる。(FN22)

(FN22.会社法第186条は一定の決議および契約の登記および配布について規定し、第40条は、基本および通常定款の構成員への配布について規定する。)

合弁契約の基本的条項

(a) 当事者条項

これは、合弁契約の当事者を十分に特定する。合弁事業の当事者が会社の場合には、(登記情報による)会社調査が行われるべきである。

(b) 前置条項

これは、合弁事業の背景および目的を規定する。これは、通常「Recitals(説明部分)」条項と呼ばれる。別段に規定されなければ、Recitals は法的拘束力を有するものとは意図されない。しかしながら、これは、状況的な背景を記述するものとして、曖昧な条項の解釈に用いられることがある。前置条項は、かかる目的に留意して作成されなくてはならない。合弁会社の株式資本(授権資本、発行払込済資本)は、通常Recitals にも記載される。

(c) 「定義」または「解釈」条項

この条項の作成にあたっては、会社法および解釈法(Interpretation Act)に定義される用語を、参照により取入れることが有用で有り得ることに留意する。

(d) 通貨条項

合弁事業の少なくとも1当事者が外国当事者の場合、通貨条項を考慮すべきである。次の点を考慮する必要がある。

(i) 株式の表示通貨、

(ii) 通貨安定条項の必要性、および

(iii) 外国為替規制の存在。

(e) 合弁会社の資本

当事者は、合弁当事者への株式の発行の対価として合弁会社がいかなる「支払い」を求めるかを検討しなくてはならない。現金は、選択肢の1つにすぎない。従わない/気が進まないまたは納得しない合弁当事者については、事業に積極的な当事者は、彼らへの(実行目標が達成されなければ持分を売却できる)「売付選択(Put Option)」権の供与または試験期間後に持分の買取りを強制する「強制買取(Forced Buy-in)」条項の検討を希望するかもしれない。合弁事業の当事者が合弁会社をその「子会社」とみなす権利を希望する場合が増えている。シンガポール会社法は、持分支配はそのための多様な手段の1つにすぎない旨を規定する。(FN23)従って、合弁事業の複数の当事者が合弁会社を子会社とみなすという目的をそれぞれ同時に達成することも可能である。

(FN23.次の場合には、会社は他方の会社の子会社と見なされる。(会社法第5条第1)

(a) 他方の会社が(i) 最初の会社の取締役会の構成を支配し、(ii) 最初の会社の議決権の過半を支配しもしくは (iii) 最初の会社の発行済株式資本(優先株式の部分を除く)の過半を有し、または(b) 最初の会社が他方の会社のいずれかの子会社の子会社である」場合。)

(f) 経営条項

経営条項が規定されるべきである。これは、以下を含むべきである。

(i) 取締役会の構成

これは、会社の取締役会の取締役の人数、ならびに取締役の選任または解任方法である。取締役会の議長の選任および解任ならびに取締役会の定足数もまた検討する。取締役に補償を認める場合、会社法第172条に留意する。(FN24)

特別な注意点として、ノミニー取締役(特定の株主に指名された取締役)を思い浮かべるかもしれない。伝統的に、ノミニー取締役は、他の取締役と同様に扱われた・・・特定の種類の株主ではなく「会社全体」に義務を負う。しかしながら、ノミニー取締役に、合弁事業についての彼らを選任した株主の商業目的に「特別な配慮」(唯一のではない)を行うことを許容する法理が英国で発展した。にもかかわらず、慎重な弁護士はいまだ伝統的な見解に立つ。少数株主側は、しばしば、その被指名者/被選任者(の出席)を定足数要件の一部とするよう主張する。(しかし、Re Opera Photographic Ltd [1989] 1 WLR 634 参照。(FN25))

(FN24.会社法第172条は取締役および会計監査人に対する補償について規定する。会社はその取締役に過失(Negligence)、不履行(Default)、義務違反(Breach of Duty)または信託違反(Breach of Trust)の責任を免除しまたはかかる責任について補償を行うことはできない。(第1項)取締役が訴えられて勝訴した場合等には、会社は訴訟の防御について生じた責任について取締役に補償することができる。(第2項))

(FN25.少数株主(取締役)が欠席するため定足数が満たされず取締役解任の決議が行えない事案において、51%の持分を有する株主は取締役を解任する法定の権利を有し、定足数の規定は少数株主に拒否権を与えるものとはみなされないとして、株主総会を命じた判決。)

(ii) 役員の選任およびその雇用条件。

前者(i)に関し、中立的な専門家の選任が検討されるべきである。(下記行詰り(Deadlock)条項参照。)

(g) ビジネス条項

これは、合弁会社の事業の種類、場所および方法を明確に規定する。必要であれば、技術援助、特許またはその他の工業所有権のライセンシングを検討する。

(h) 全員一致の承認を必要とする事項

少数株主にとっては、合弁契約の当事者の全員一致の承認を必要とする事項を列挙するのが望ましい。これらの事項は、通常、合弁会社の事業範囲、資本的取引、借入れ、役員の選任および解任、合弁契約に規定されない株式の追加発行、ならびに基本または通常定款の修正に関係する。

(i) 先買権

通常、合弁契約の当事者は、合弁会社の株式の譲渡および新株式の発行の際の先買権(引受権)を相互に認めるのが望ましい。

(j) 行詰り(Deadlock)条項

特に、持分比率が

50/50の場合、「行詰り」の場合について規定するのが望ましい。これは、一方当事者が合弁事業から撤退およびその株式の処分を希望する場合、合弁会社および他の株主にその意図を通知し、一定期間内に他の株主がその株式を購入せずそれを購入する第三者を見つけることも出来なければ、合弁会社の清算手続を行うことを意味する。他のバリエーションも存在し、創造的な行詰まり条項の作成は弁護士の想像力のテストである。

さらに、当事者は、商業的方針の争い

(中立的な取締役が行詰りを打開する最善の者で有り得る。)と当事者間の権利に関する争いの区別を規定することを考えるべきである。勝利のために多大な犠牲を払うのは避けるべきである。

(k) 会社の名称

当事者が合弁会社の名称を決めている場合、それを合弁契約に規定すべきである。合弁会社の名称には、合弁当事者の会社名またはその合弁当事者の商号または商標を含めることができる。例えば、合弁当事者が「DBS Ltd.」の場合に、合弁会社の名称が「DBS Airlines Ltd」であるかも知れない。「DBS」の名称が重要な商業的価値を有する場合、かかる名称に対する DBS Ltd の権利、権原および利益を当事者が確認する旨を規定し、DBS Ltd がかかる名称に利益を有することを明記するのが望ましい。さらに、DBS Ltd が、合弁会社の会社名から「DBS」の言葉を外すよう合弁会社に要求できる場合についても規定すべきである。例えば、DBS Ltd が合弁会社の株主でなくなりまたは一定比率の株式を有さなくなった場合等。

(l) 競業禁止条項

当事者が合意すれば、合弁事業の期間またはその終了後の合理的な期間も、合弁会社と競合する事業を行ういかなる企業についても当事者が直接または間接的に利益を有さないことを合弁契約に規定すべきである。

(m) ファイナンス条項

直接的に資金提供によるかまたは間接的に借入れによるかを問わず、合弁事業の資金の確保についての各当事者の義務(借入れの際の約束、保証または念書(Letters of Comfort)の提供義務を含む)の規定を検討すべきである。後に合弁事業に追加資金が必要となった場合、いかにしてそれが調達されるのかが常に規定される必要がある。「その時になって話し合う」つもりでも、両当事者が同等の資金力および交渉力を有している場合(そのような場合は多くない)を除いて、かかる話し合いは通常合意に達しない。

(n) 配当政策

当事者の配当政策も合弁契約に規定するのが賢明である。合弁会社の取締役会に委ねる場合であっても、次のような規定を設けるのが賢明である。

「会社の配当は、その勧告がある場合には、会社の最大利益のために行動する取締役会のその時々の勧告に従うものとし、ここでの当事者は株主総会で勧告された期末配当を宣言することに合意するが、中間配当は株主総会の承認なしに取締役会によって宣言されることができる。」

(o) 会計年度

常に、合弁会社の会計年度の開始と終了を規定すべきである。ここでは税金が関係する。

(p) 合弁契約と定款との矛盾の場合の規定

合弁契約と通常定款とが矛盾する場合、どちらが優先するかを規定する必要がある。(教訓的な判例として、Greenwell v. Porter [1902] 1 Ch. 530(FN26) および

Puddlephatt v Leigh

[1916] 1 Ch. 200 (FN27) 参照。)

(FN26.上記 FN18 参照。)

(FN27.株式の譲渡抵当権者による譲渡抵当設定者の希望に従い議決権を行使する旨の合意を強制するため、作為的差止命令(Mandatory Injunction)を認めた判決。)

(q) 期間、債務不履行および終了

常に、合弁契約の期間、当事者による債務不履行事由、かかる債務不履行の場合の合弁契約の終了方法、およびかかる終了の結果を規定する。「BUY-OUT」または「SELL-OUT」条項(FN28)が検討されるべきである。相互性は必ずしも適当ではない。

(FN28.BUY-OUT」とは、相手の株式を購入することによって相手方を合弁事業から撤退させること、「SELL-OUT」とは、自分の株式を相手方に売却して合弁事業から撤退することを意味する。)

(r) 準拠法

履行地の法の選択を検討すべきである。他の選択肢には、中立国、「市場」、合弁の一方当事者または合弁会社の設立場所の法が含まれる。これに関連して、紛争解決条項も有用である。裁判から、仲裁、専門家による決定まで選択可能である。当事者は、各方法ならびにその利点および欠点を理解する必要がある。常に、法的手段は、必ずしも、商業的紛争を解決する最善の手段ではないことに留意する。複合的な解決方法も考える。

(s) 不可抗力条項

時間的猶予が適当かどうか、そうであれば、どれだけの期間が適当かを考える。かかる時間的猶予を超えた場合の結果も規定されるべきである。

(t) 重大な状況の悪化/安定(Stabilisation)条項

通常、離脱条項

(Escape Clause)の形をとる。

実務上、概して、クライアントは契約書の作成の多くを弁護士に委ね、合弁契約のより重要な条項についてのみ指示を与える。しかしながら、疑問が生じれば、常にクライアントの指示を得なくてはならない。

付随契約

付随契約は、合弁事業に一層の効果をもたらすために締結される。これらの契約は、典型的な合弁契約にはそのままは収まらないが、これらの契約を締結する旨の合意は合弁契約に規定され得る。付随契約のいくつかの例として、次のものがある。

(a) 技術移転/ライセンス契約。これは、移転者(ライセンサー)に主導権を与えることに注意する。(FN29)

(FN29.ライセンサーの撤退とともに技術が使用できなくなれば、第三者をかわりに入れて合弁事業を続けることもできなくなる。)

(b) 経営/管理サービス契約。合弁会社の会社利益の問題に注意する。(FN30)

(FN30.取締役が会社全体に対して義務を有することとの整合性が問題となる。)

 

結論

以上からうかがわれるように、合弁事業は実に広範な法律に関係する。契約法が必ず関係し、組合形態の合弁事業の場合は組合法

(Partnership Law)が関係する。会社形態の合弁事業の場合、次の分野の法律が関係し得る。

(a) 会社法、

(b) 不動産法・・・・購入、リース、テナンシー、

(c) 租税法・・・・・所得税、租税免除、租税上の奨励策、印紙税、技能開発資金課税(Skills Development Fund Levy)、

(d) 福祉・・・・・・中央年金基金法(Central Provident Fund Act)

(e) 労働・・・・・・雇用法(Employment Act)、および

(f) 知的所有権・・・商標、商号、特許および登録意匠。

これらの6分野はそれぞれ非常に専門的な分野である。従って、合弁事業は簡単ではない。よい合弁契約を作成するには能力が必要である。弁護士は、次の基準を留意すべきである。・・・クライアントに対する義務、事実および法に正確であること、そして最後に、簡明かつ的確な言葉を用いること。