シンプラル法律事務所
〒530-0047 大阪市北区西天満2丁目6番8号 堂島ビルヂング823号室TEL(06)6363-1860
MAIL    MAP


勉強会(判例時報)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

★平成23年12月分 
2129
2129 行政p31
最高裁H23.7.14
介護保険法上の指定居宅サービス事業者等の指定を府知事から受けた事業者が、不正の手段によって当該指定を受けた場合において、市から受領した居宅介護サービス費等につき介護保険法22条3項(平成17年法第77号による改正前のもの)に基づく返還義務を負わないとされた事例
事案 堺市の住民であるXが、A会は、厚生労働省令で定める基準に係る事項を偽って事業者の指定を受けたなどと主張し、偽りその他不正の行為により支払を受けた介護報酬の返還等について定めた介護保険法(平成17年改正前のもの)22条3項に基づき、A会に対して指定後に支払を受けた介護報酬額1億1186万円余の返還請求をするようY(堺市長)に求める住民訴訟。
法規制 市町村は、事業者が偽りその他不正の行為により介護報酬の支払を受けたときは、当該事業者に対し、その支払った額につき返還させるほか、その返還させる額に100分の40を乗じて得た額の加算金を支払わせることができる。(法22条3項)
事業者の指定は都道府県知事が行うが、厚生労働省令で定める基準を満たしていないときには指定をしてはならず、事業者が父性の手段により指定を受けたときは、都道府県知事は当該事業者に対する指定を取り消すことができる。
前記基準に係る事項の1つとして、原則として事業所ごとに専らその職務に従事する常勤の管理者を置かなければならないことが規定。
主張 A会が指定を受けるに当たって管理者として申請していた者に前記常勤の管理者としての実態がなく、A会はこれを秘して指定を受けたものであって、当該指定を前提に支払を受けた介護報酬は偽りその他不正の行為により支払を受けたものであるから、その全額を返還すべきであると主張。
⇒1審、原審はXの主張を入れてXの請求をほぼ全て認容。
判断 原判決中Y敗訴部分を破棄し、Xの請求を棄却すべきものとした。
介護保険22条3項は、事業者が介護報酬の支払を受けるに当たり偽りその他不正の行為をした場合における介護報酬の不当利得返還義務の特則を設けたもの。

同項にいう「偽りその他不正の行為」の要件は、加算金の支払請求をも可能とする同項を適用するための加重要件と理解され、当該請求の前提としての利得についての法律上の原因の欠如という不当利得の要件が不要となるわけではない。
参加人が不正の手段によって指定を受けたという指定当初からの瑕疵の存在を理由とする大阪府知事による本件各指定の取消しはされておらず、また、参加人が大阪府知事から本件各指定を受けるにあたっての・・・本件各指定を無効とするほどの瑕疵の存在をうかがわせるものとはいえない。
そうすうrと、参加人が前記の既に返還済みの部分を除いた介護報酬の支払を受けたことにつき、不正の手段によって指定を受けたことの一事をもって、直ちに法律上の原因がないということはできず、他に法律上の原因がないことをうかがわせる事情もない。
⇒参加人は、堺市に大使、被上告人の請求に係る介護保険法22条3項に基づく介護報酬の返還義務を負うものではない。
解説 法律上の原因がないものとして介護報酬の返還が求められる場合、
@本件のように不正の手段により指定を受けていたとして当該指定があることを前提に支払を受けた介護報酬の全ての返還が求められる場合と
A個々の介護報酬の支払につき個別的に違算や不正請求等の事由があるとして当該違算や不正請求に関わる介護報酬部分についてへ何が求められる場合がある。
@の場合:
指定は都道府県知事が行うものであって、介護報酬を受領し得る地位を与える行政処分と解されるから、法律上の原因の有無は指定の公定力を踏まえて判断。
指定の取消しがされていないにもかかわらず、指定があることを前提として支払われた介護報酬の返還を求めることは、指定の効力を否定するものにほかならず、公定力に反するもの⇒指定の取消しがない限り、介護報酬を受けたことについて法律上の原因がなということはできず、介護保険法22条3項に基づく請求をすることもできない。
@は当初から指定に瑕疵がある場合であるが、事後的に生じた瑕疵を理由に指定が取り消された場合の同項に基づく返還の範囲は、当該取消事由の内容等に応じて個別に検討を要する。
Aの場合:
法律上の原因の有無は、指定の効力都は関係なく個別的な事情に基づいて判断⇒指定の取消しをせずとも、所定の要件を満たせば介護保険法22条3項に基づく請求をし得る。
民事p36
最高裁H23.7.21
最高裁平成17年(受)第702号同19年7月6日第2小法廷判決のいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」の意義
事案 共同住宅・店舗として建築された建物を建築主から買い受けた原告が、本件建物に瑕疵があることを理由に、設計及び工事監理並びに建築請負人(Yら)に対して、不法行為に基づく損害賠償性請求する事件の第二次上告審。
第1次上告審 最高裁H19.7.6:
建物の建築に携わる設計・施工者等は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負い、設計・施工業者等がこの義務を怠ったために建築された建物に上記安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合には、設計・施工者等は、不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負うというべきであって、このことは居住者等が当該建物の建築主からその譲渡を受けた者であっても異なるところはない。
本件(第2次上告審) 第一次上告審にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、居住者等の生命、身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい、建物の瑕疵が、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず、当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には、当該瑕疵は、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当すると解するのが相当である。
解説 ●建物に瑕疵がある場合に、建物の所有者等は、建物の構築に携わる設計・施行者等が瑕疵ある建物を建築し、流通過程においたことが不法行為を構成するものとして、損害賠償を請求することができるか?
第1次上告審判決:
建物の建築に携わる設計・施工者等は、建築に当たり、当該建物に建物としての基本的な安全性に欠けることがないように配慮すべき不法行為法上の注意義務を負うとして、「建物としての基本的安全性を損なう瑕疵」ある建物を設計・施工した者の不法行為責任を肯定する判断。
⇒2つの解釈問題
@「建物としての基本的安全性を損なう瑕疵」の意味
A不法行為に基づき請求することができる財産上の損害の範囲
@⇒本判決
Aについて
「建物としての基本的安全性を損なう瑕疵」が生じた場合には、そのことにより、少なくとも建物の補修費用相当額の損害が生じているとみられる。(判例解説)
「建物としての基本的安全性を損なう瑕疵」の存在を知らずに当該建物を取得した所有者は、不法行為に基づく損害賠償請求をすることができるが、
@当該所有者が、これを「建物としての基本的安全性を損なう瑕疵」の存在しない建物として転売⇒当該所有者は、その損害を填補されたものと評価することができるから、もはや不法行為に基づく損害賠償を請求することができず、転得者が不法行為に基づく損害賠償請求権を取得することになる。
A「建物としての基本的安全性を損なう瑕疵」が存在することを前提として売却⇒転得者は、不法行為に基づく損害賠償請求権を取得しない反面において、前所有者はいったん取得した損害賠償請求権を失うことはない。
Xは競売により本件建物の所有権を失ってはいるが、その際には、本件建物に「建物としての基本的安全性を損なう瑕疵」を含む各種の瑕疵があることを前提とする評価がされていることが明らか。
⇒Xは、不法行為に基づく損害賠償請求権を失わない。
民事p41
最高裁H23.9.20
1.債権差押命令の申立てにおける差押債権の特定の有無の判断基準
2.大規模な金融機関の全ての店舗または貯金事務センターを対象として順位付けをする方式による預貯金債権の差押命令の申立ての適否
事案 Xが、XのYに対する金銭債権についての債務名義による強制執行として、Yの三大メガバンク(三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行)及びゆうちょ銀行に対する預金債権の差押えを求める申立てをするに当たり、
@三大メガバンクに対す預金債権については、それぞれの取扱店舗を一切限定せずに「複数の店舗に預金債権があるときは、支店番号の若い順序による」という順位付けをする方式により、
Aゆうちょ銀行に対する貯金債権につては、全国の貯金事務センターを全部列挙して、「複数の貯金事務センター―の貯金債権があるときは、別紙貯金事務センター一覧表の番号の若い順序による」という順序付けをする方法により、差押債権の表示をした事案。
(「全店一括順位付け方式」)
規定 民事執行規則 第133条(差押命令の申立書の記載事項)
債権執行についての差押命令の申立書には、第二十一条各号に掲げる事項のほか、第三債務者の氏名又は名称及び住所を記載しなければならない。
2 前項の申立書に強制執行の目的とする財産を表示するときは、差し押さえるべき債権の種類及び額その他の債権を特定するに足りる事項並びに債権の一部を差し押さえる場合にあつては、その範囲を明らかにしなければならない。
民法 第481条(支払の差止めを受けた第三債務者の弁済)
支払の差止めを受けた第三債務者が自己の債権者に弁済をしたときは、差押債権者は、その受けた損害の限度において更に弁済をすべき旨を第三債務者に請求することができる。
2 前項の規定は、第三債務者からその債権者に対する求償権の行使を妨げない。
原審・原々審 民事執行規則133条2項の求める差押債権の特定を欠く不適法な申立て
⇒申立てを却下すべきものとした。
判断 @民事執行法が、債権差押命令による差押えの効力(債務者に対する処分禁止、第三債務者に対する弁済禁止)は差押命令が第三債務者に送達された時点で直ちに生じ、差押えの競合の有無についてもその時点が基準となるものとしていることに照らすと、差押債権の表示が差押明理恵の送達を受けた第三債務者において差し押さえられた債権を迅速かつ確実に識別することができるものでなければ、その識別作業が完了するまでの間、差押えの効力が生じた債権の範囲を的確に把握することができず、第三債務者はもとより、競合する差押債権者等の利害関係人の地位が不安定なものになりかねない。

民事執行規則133条2項の求める差押債権の特定とは、債権差押命令の送達を受けた第三債務者において、直ちにとはいえないまでも、差押えの効力が上記送達の時点で生ずることにそぐわない事態とはならない程度に速やかに、かつ、確実に、差し押さえられた債権を識別することができるものでなければならない。
A大規模な金融機関である三大メガバンク及びゆうちょ銀行を第三債務者として全店一括順位付け方式により差押債権を表示した本件申立ては、各第三債務者において、先順位の店舗の預貯金債権の全てについて、差押えの効力が生ずる預貯金債権の全てについて、差押えの効力が生ずる預貯金債権の総額を把握する作業が完了しない限り、後順位の店舗の預貯金債権に差押えの効力が生ずるか否かが判明しない
⇒送達を受けた第三債務者において上記の程度に速やかに確実に差し押さえられた債権を識別することができるものであるということはできず、差押再建の特定を欠き不適法。
差押債権の特定の有無は、差押債権の表示それ自体を基準に判断すべきであって、当該事案における第三債務者の個別的な対応如何によって判断を異にすべきではない。
解説 民事執行規則133条2項は、「差し押さえるべき債権の種類及び額その他の債権を特定するに足りる事項」を明らかにしなければならないと規定。
but
無形の財産であり、公示されてもいない他人の債権を差し押さえようとする者がその債権の内容を具体的に把握するのは往々にして困難
⇒差押命令申立書(そのううちの差押債権目録)において、差押再建の特定として何をどの程度記載することを要するかはしばしば問題となる。
執行実務上、預貯金債権の差押命令申立ての場合、預貯金の属性については、
@先行する差押え等の有無
A預貯金の請求
B口座番号の順序による順位付けをして差押債権を表示することが許容されてきたが、
一般の銀行の預金債権についてはその預金の取扱店舗を、
ゆうちょ銀行の貯金債権についてはこれを所管する貯金事務センターを
特定することを求める扱い。

銀行では一般に預金取引や顧客管理が本支店ごとにある程度独立して行われており、ゆうちょ銀行では貯金の管理がその口座を開設した地域を所管する貯金事務センターにおいて行われている。
下級審:
A:肯定説

@顧客情報管理システムを備えている金融機関は差し押さえられた債権を識別する作業が複数の店舗にまたがっても対応可能
A差押命令の第三債務者に対する送達により差押えの効力が発生した後、第三債務者が差し押さえられた債権を識別するまでに要する時間が増大するとしても、その間の債務者に対する払戻しの遅延については債務不履行責任を否定し、また、債務者に払戻しをしてしまったばあには民法478条の類推により再検車に対する弁済を免れるという解釈をとれば問題ない。

B:否定説

@第三債務者が差し押さえられた債権を識別する作業が複数の店舗にまたがるときは、第三債務者が差し押さえられた債権を識別するには相当の負担と時間を要すると解される。
A第三債務者は差し押さえられていない債権の払戻を遅滞すれば債務者から債務不履行責任を追及され、差し押さえられた債権を債務者に払い戻してしまえば民法481条により差押債権者にも二重に支払をしなければならないという危険を負う。
判示@は、預貯金債権の差押えに限らず、概括的又は間接的な識別情報を第三債務者が保有する情報に当てはめることによって初めて差し押さえられた債権が具体的に明らかとなるような方式により差押債権を表示する債権差押命令の申立て一般に妥当する。
仮差押債権の特定についても、民事執行規則133条2項の同旨の定め(民事保全規則19条2項1号)があり、同様に妥当。
判示Aは、本件第三債務者らが現時点で備えているコンピュータシステムが全店一括順位付け方式による差押えがあった場合に差し押さえられた債権を迅速かつ確実に識別することができるような機能を有しているとは認められないという現状認識を前提
⇒そのような状況が異なるに至れば、異なる判断があり得る。
民事p46
東京地裁H23.6.27
1.防衛庁調達実施本部(当時)の発注した石油製品の指名競争入札において、指名業者の受注調整行為が不当な取引制限に該当するとされた事例
2.不当な取引制限に起因して国と落札業者との間に成立した売買契約が公序良俗に反して無効とされた事例
3.石油製品の客観的価格に関する被告らの主張が認められなかった事例
事案 防衛庁調達実施本部の発注した自衛隊の期待等で消費されるガソリン等の石油製品について指名競争入札の方法で発注するにあたり、被告らを入札業者として指名したところ、被告らが事前に各石油製品について受注予定者を決定し、受注予定者以外の被告らは受注予定者が落札できるように協力する旨の合意を行っていた旨主張。

原告と被告らとの間の石油製品に関する売買契約が無効であることを前提に、被告らに支払った売買代金から本件売買契約時における石油製品の客観的価格を控除した金額及びこれに対する商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案。
(被告らの一部については、独禁法違反の罪で有罪判決が確定。)
判断 @本件受注調整行為が不当な取引制限に該当するか?
被告らの受注う調整行為が行われた経緯やその内容等について認定した上で、被告らの受注う調整が行われた結果、調達実施本部の側にも調達不能や各基地等への納入遅滞の回避、入札事務の簡略化、会計検査院に対する説明の便宜等の利点があったことは否定できないものの、調達実施本部の担当官による指示ないし要請があったとは認められず、被告らの受注調整行為が調達実施本部発注に係る石油製品の油種ごとの取引分野における競争を実質的に制限したもの。
A本件売買契約が公序良俗に反するか?
・・・原告と被告らとの売買契約が公序良俗に反すると判断。
独禁法制定当時から本件売買契約が締結された当時に至るまで刑事罰が設けられていることから、本件売買契約締結当時においても反社会性の強い行為。
B本件石油製品の客観的価格?
本件石油製品の客観的価格の算定時期としては、本来現物返還が不能になった時を基準とするべきであるが・・・・本件売買契約締結時における想定落札価格を被告らが立証すれば、特段の事情がない限り、当該価格をもって現物返還不能時における客観的における客観的価格であると事実上推定するのが相当。
解説 談合行為の態様、目的、意図、結果の重大性等に併せて、個別契約が談合行為と極めて密接に関連するものであることを理由として個別の売買契約を無効とした裁判例。(社保庁目隠しシール入札談合事件(東京地裁H12.3.31))
入札談合が問題となったこれまでの事例では、不法行為に基づく損害賠償を請求した裁判例が多く、支払済みの金員が被告らの不当利得であるとしてその返還を求めた訴訟は少数。
不法行為に基づく損害賠償請求

前後理論、物差りリオン、市場占有率理論等の米国の反トラスト法における損害額の算定方法が従来紹介。
近時は、住民訴訟において民訴法284条を適用することによって損害額を認定する裁判例が増えている。
不当利得の場合は、製品価格の算定方法については学説上もあまり議論がなく、民訴法248条にあたる規定も存在しない⇒主張・立証、認定には困難を伴うことが多い。
民事p82
東京地裁H23.4.19
企業買収として行われた株式の譲渡契約中の経営等に重大な影響を及ぼす可能性のある事実の表明・保証条項の違反が否定された事例
事案 Y社からその100パーセント子会社(Z)の発行済全株式を譲り受けたX社が、同株式譲渡に先立ち、YはZの事業、経営等に重大な悪影響を及ぼす可能性のある債務不履行が発生しているとの通知を受領していないことを表明、保証し、これを前提条件として株式譲渡を行ったにもかかわらず、実際にはZの製造した機械の売買契約について機械の使用未達という債務不履行が生じていたことを告知しないなど、事実と異なる説明をして、同表明・保証に違反し、結局右機械売買契約が解除されてZがその代金債権を失うことになり、Xも同額の損害を被ることになったとして、Yに対しtえその損害賠償を請求した事案。
判断 XY間の本件株式譲渡気鋭約に至るまでの当事者間のやりとり及びXにおける検討状況について詳細な事実認定を行い、本件においては、Yがその表明・保証の対象たる事項について「重要な点で」不実の情報を開示し、あるいは情報を開示しなかった事実は認められず、その他、Xが本件株式譲渡契約を実行するかどうかを判断するに必要な情報は提供されていたというべきであって、Yが本件株式譲渡契約上の義務に違反したものであるとは認められない。
⇒Xの請求を棄却。
民事p88
東京地裁H23.9.5
公立小学校における清掃時間中に生じた小学校4年生同士の衝突事故につき担任教諭の注意義務違反が否定された事例
事案 X1は、Y市立A小学校4年に在籍していたところ、教室内で清掃中、同級生のBにぶつかられて頭部を打ちつけ、頭部打撲、脳挫傷等の傷害を負った
⇒X1とその父母X2、X3は、A小学校の教諭らに安全配慮義務の違反があったと主張し、Y市に対して、国賠法1条に基づき、損害賠償を請求。
判断 一般的に、小学校の担任教諭は、その職務の性質及び内容から、担任として、保護監督すべき各児童に対て注意力を適正に配分してその動静を注視し、危険な行為をする児童を制止したり厳重な注意を与えるなど適切な指導を行い、児童を保護監督して事故を未然に防止する注意義務がある。
本件事故は、小学校における清掃時間中に起きたものであるところ、・・・学校内で行われる作業として児童に危険を生ずることのないように必要な注意指導が行われるべき。
but
本件教室内にいる児童を指導監督するために、本件教室に在室し、あるいは本件教室内に立ち寄るなどして、本件事故の発生を防止するための措置を講じなければならないという具体的な注意義務を負っていたということはできない。
本件事故当時の情況に照らせば、本件においては、X1が負傷するという事態を予見すべき特段の事情を認めることができない。
⇒担任教諭の安全配慮義務違反を否定し、Xらの本訴請求を棄却。
解説 教師には、学校教育の精神、教師の職務等か学校における教育活動及びこれと密接不離の関係にある生活関係において、児童・生徒の保護監督義務があることは通説であり、多くの下級審裁判例の肯認するところ。
正課授業中の生徒間の事故については、担任教諭の直接のコントロールが強く及んでいなければならない。
本件の清掃作業は、学校における従業であるkとみられるので、担任教師不在で清掃作業をさせることは、それ自体危険な行為でなくても、やや問題。
知財p95
知財高裁H23.7.27
名称を「ベンゼンフルフォナート化合物」とする発明において、「本願発明の課題を解決する優れた作用効果が奏されていれば、引用発明との相違点に係る構成が容易でない」旨の原告の主張について、奏された効果が当業者に予測可能であるから、原告の主張は採用できないなどと判示して、本願発明は特許を受けることができないとした審決が維持された事例
事案 Xが特許出願をしたが拒絶査定を受け、Xが無効審判請求をしたが、特許を受けることができないとの審決。
⇒Xが審決取消訴訟を提起。
争点 審決の容易想到性の判断について、
@周知技術の認定の誤り
A引用発明に刊行物2記載の発明を摘要した誤り
B本願発明の効果に係る認定の誤り
判断 争点Bについて:
・・アルキル化反応において、優れた脱離基は、遷移状態のエネルギーが低く、反応性が大きいこと、一般に、遷移状態のエネルギーが低く、反応性が大きければ、より穏和な条件の下でも反応が進みやすく、副反応が少なく、より不純物の少ない高純度のものが得られる可能性が高くなることは、本願出願前における当業者の技術常識と認められる。⇒「脱離基としてより優れたものを用いれば、脱離が容易になって、より穏和な条件で反応を行うことができ、その結果、不純物の少ない高純度のものが得られる」ことも、一般的な技術常識ということができる。
したがって、より脱離基として優れた本願発明の化合物を用いることにより、化合物7Qの4−ハロゲノブチル化を行った場合に高い純度及び収率で目的化合物が得られることは、当業者であれば予測可能な効果というべきであり、原告の主張は失当である。
解説 化学物質等の発明について、顕著な作用効果を有する旨主張された場合の容易想到性について:
特許庁の審査基準によれば、k
@請求項に係る発明が引用発明と比較した有利な効果を有していても、当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことが、十分に論理づけられたときは、進歩性は否定されるが、
A当該有利な効果が、技術水準から予想される範囲を超えた顕著なものであることにより、進歩性が否定されないこともある。
(ex.引用発明と比較した有利な効果であって引用発明が有するものとは異質な効果を有する場合、あるいは、同質の効果であるが際だって優れた効果を有し、これらが技術水準から当業者が予測することができたものではない場合)
知財p108
知財高裁H23.7.21
「HORECA」等の複数の文字及び星形図形等の複数の図形から成る本願商標が「HORECA」の欧文字及び「ホレカ」の片仮名文字から成る引用商標に類似するとした審決が維持された事例
事案 商標の出願に対する拒絶査定不服審判の請求について、特許庁がした請求不成立審判の取消しを求める事案。
規定 商標法 第4条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの.
審判 本願商標と引用商標とは、類似の商標であり、かつ、指定商標が同一又は類似のものであるから、商標法4条1項11号に該当し登録を受けることができない。
判断 商標法4条1項11号に係る商標の類否は、
同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が、その外観、観念、呼称等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とし(最高裁昭和43.2.27)また、
複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものと認められる場合において、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、原則として許されないが、他方で、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての呼称、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許されること(最高裁H20.9.8)を前提に、本件商標と引用商標とは、全体としてその外観そのものは類似するものではないが、同一の呼称が生じるものであり、1個の商標から2個以上の呼称、観念を生じる場合には、その1つの呼称、観念が登録商標と類似するときは、それぞれの商標は類似すると解すべきである(最高裁昭和38.12.5)

本件商標から生じる呼称、観念の1つである「HORECA」と引用商標が同一する以上、本願商標は、商標法4条1項11号に該当するものと認めるのが相当。
Xが主張する取引の実情については、本願商標に係る指定商品は、いわゆる日用品であり、これらの商品の取引者、需要者がXが属する企業グループ内の会社が経営する店舗を利用する飲食業に携わる者に限定されるものでないことは明らかであり、商標登録出願は、その商標を使用する商品又は役務を指定して行われるものであるから(商標法6条1項)、本願商標に係る指定商品の取引者、需要者については、飲食業に携わる者に限定されるのではなく、広く一般の消費者を含むものと想定される以上、現在の同店舗の販売形態がXが主張するとおりであったとしても、本願商標と引用商標との類否を検討するに当たり、同店舗を利用する飲食業に携わる者だけをその判断基準とすることはできない。
商事p114
東京地裁H23.7.7
不成功に帰したMBOの一環として行われた公開買付けの際、対象会社の旧経営陣の不正な行為(利益相反行為)が開示されていれば、被告会社株式を取得することもなかったとして、当時の役員及び被告会社に対し、当該株取得者が取得価格と処分価格の差額相当分の損害賠償を求めることの可否
事案 Y1(被告会社)の株主又は株主であったXらにおいて、旧経営陣及びファンドによるマネジメント・バイアウト(MBO)の一環として行われたY1株式に対する公開買付けが、Y1の旧経営陣の不正な行為(利益相反行為)が原因となって失敗し、Y1の株価が下落したところ、その不正行為が適切に開示されていれば、Y1株式を取得することもなかったと主張して、当時の役員及びY1に対し、取得価格と処分価格の差額相当分の損害賠償を求めた事案。
判断 @本件MBOの公表前に原告らが取得した株式については、原告らが主張する被告下役員らの違法行為と無関係に取得⇒当該株式の株価下落を損害として主張する賠償請求は理由がない。
A本件MBO公表後に原告らが取得した」株式については、本件において認められる諸事情に照らすと、通常の投資者の判断を基準とした場合に、原告らが違法行為として主張する被告元役員らの利益相反行為がなければ、原告らが被告会社株式を取得することはなかったという関係が存するとまでは認め難い。

当該利益相反行為は、その開示又は不開示につき当時の役員や被告会社の義務違反を問える対象としての、投資判断をするに当たって重要な事項又は公表すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実に当たるとまではいえない。

右記利益相反行為が投資者に対し適切に開示されるべきことを前提とする原告らの本訴請求はいずれも理由がない。
解説 「MBOの買収側取締役に利益相反行為が存したとしても、このこことから直ちに、投資者がMBOの実施を踏まえた投資によって被った損失に関して、買収側取締役の義務違反を認めるのは相当でない。」
「当該利益相反行為につき、買収側取締役が、投資者の株式評価を含む投資判断のために重要な事項について虚偽の事実を公表したといえる場合、又は公表すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために重要な事実の公表をしなかったいえる場合に、右記損失に関して買収側取締役の義務違反を認め得るというべきである(金商法24条の4参照)。」

Xらは、投資者として本件MBOの公表を投資判断の拠り所とするわけであるから、この点に着目して、虚偽記載のある有価証券報告書の提出会社の役員等の賠償責任に関する金商法24条の4を参考にしつつ、買収側取締役が義務違反となる場合について基準を示した。
MBOの実施に当たり、対象会社の取締役は、株主の共同利益に配慮すべきであって、事案に応じて、MBOに内在する利益相反を回避又は解消するために必要な措置を講じなければならず、自己の利益のみを図り、株主の共同利益を損なうようなMBOを実施した場合には、その義務の違反が取締役の善管注意義務や忠実義務違反となり得る。
本件ではMBO自体は成功しなったもので、Xらは、投資家の立場で取得価格と処分価格の差額相当分を損害として請求すべく、まず違法行為(任務懈怠行為)として不正行為(利益相反行為)の存在を主張するが、本判決は、これが投資家に対する違法性を有するとすれば、その開示の場面になることに着目して、損害との因果関係にも関わる面を責任原因として判断したものとみることができる。
労働p121
東京高裁H23.2.23
1.使用者の労働者に対する解雇が、当該労働者が業務上の疾病としてうつ病にかかり、その療養のために休業していた期間にされたものであるとして、労基法19条1項本文に反し、無効であるとされた事例
2.民法536条2項に基づく賃金債権の行使について、労働者において労務提供の意思を有していなくても、使用者の責めに帰すべき事由により労働者が労務提供の意思を形成し得なくなった場合には、当然に同条項の適用があると解すべきであると解した上で、業務上の疾病としてうつ病を罹患した労働者について、かかる場合に当たるとして、同賃金債権の行使が認められた事例
3.民法536条2項に基づく賃金債権の行使に係る賃金額を算出するに当たり、当該労働者が健康保険上の傷病手当等の給付や労災保険法上の休業補償給付等の給付を受けているときでも、これらの受給により賃金額を減額すべきではない
4.労働者に生じたうつ病の発症及びその増悪に関し、その発症及びその増悪のうち一定時期までの部分について、使用者に不法行為及び雇用契約上の安全配慮義務に違反する債務不履行が成立するとして、損害賠償が認められた事例
事案 Yの従業員であるXが、Yによる解雇は、業務上の疾病であるうつ病により休業していたXに対してした違法無効なものであるとして、Yに対、雇用契約に基づき、大要
@Yとの間で雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認
A本件解雇以降判決確定日までの月額賃金の支払を求めるとともに、雇用契約上の安全配慮義務又は労働者の健康を損なわないように注意する義務を怠ったことによりXがうつ病に罹患したとして、債務不履行又は不法行為に基づき、
B慰謝料等の支払を求めた事案。
規定 労基法 第19条(解雇制限)
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
民法 第536条(債務者の危険負担等)
前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
1審 @本件解雇はXが平成13年4月に業務上発症したうつ病にかかりその療養のための休業期間にされたものとして労基法19条1項本文に反し無効であるとし、A民法536条2項本文により本件解雇後以降の月額賃金の支払請求権の存在を認めたが、その額は、Xの精神障害を発症する以前の平成12年の年収額を12(月)で除した額からXがYの健康保険組合から支給を受けた傷病手当金等を差し引いた額(月額47万3831円)であるとした。
B安全配慮義務違反等については、平成13年4月のXのうつ病発症から同年8月頃までの症状の増悪につきYに安全配慮義務違反等があるとして損害賠償請求を認める一方で、同月下旬以降の対応については、Yの安全配慮義務を否定。
判断 @〜Bの各請求につてき、地位確認、賃金請求及び損害賠償請求のいずれも認めた。
Aの本件解雇以降の期間の賃金請求に係る月額については、一審判決と異なり、時間外労働賃金及び賞与相当額を算入することはできないとした一方で、健康保険ッ組合からの傷病手当金等の休符や労働基準監督署からの休業補償給付等の給付(一審判決後に受給した)は、賃金を填補する関係にないから、Xがこれらの給付を受領していることをもって、Yが支払うべき賃金額を減額すべきことにはならないとして、月額26万9683円とした。
解説 @うつ病の業務起因性:
労基法19条1項の解雇制限の要件である業務上の疾病か否かについて、労働災害保証制度における「業務上」(労基法75条)の疾病かどうかと判断を同じくするとする一審判断を是認。
従前の最高裁判例の考え方に従い、同「業務上」の疾病とは、業務との相当因果関係のある疾病であるとし、当該疾病の発症につき当該業務に内在する危険が現実化したと認められる場合に相当因果関係があると判示。
かかる相当因果関係が存在するというためには、当該労働者の担当業務に関連して精神障害を発病させるに足りる十分な強度の精神的負担ないしストレスが存在することが客観的に認められる必要があり、その判断は、当該労働者と同種の職種において通常業務を支障なく遂行することが許容できる程度の心身の健康状態を有する平均的労働者を基準とすべきであるが、ここでいう平均的労働者とは、平均的労働者として通常想定される範囲内にある同種の労働者集団の仲の最も脆弱である者を基準とすべきものと判示。

平均的労働者の具体的内容として、
A:同種労働者の中でストレスに基も脆弱な者を基準とするもの(名古屋高裁H15.7.8)
B:一般的平均的な労働者を基準とするもの(名古屋高裁H19.10.31)
等がみられるが、本判決はAの見解を採用。
A民法536条2項の適否について:
使用者の責に帰すべき事由により労働者が労務提供の意思を形成し得なくなった場合には、当然に同項の適用がある⇒業務上の疾病としてうつ病に罹患したXの状況はこのばあに当たる⇒同項の適用による賃金請求を認めた。
民法536条2項に基づく解雇後の未払賃金請求については、一般に使用者が労務の受領を拒否したことに加えて、労働者に労務提供の意思及び能力がああることが必要であると解されているところ、本判決は、労働者が労働提供の意思を有していなくても、これを形成し得なくなった理由が使用者の責めに帰すべき事由によるものであるときには同項の適用が排除されないと判示。
but
事案により、同項を適用し得なくなる時期(終期)を検討しなければならないこともあり得ると考えられる。
A賃金債権の額について:
労災保険法上、労災保険給付と使用者の負う民事損害賠償との間では、労働保険給付の実質が使用者の労基法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行う損害填補の性質を有することを理由として、一定の範囲で調整が図られている(労災保険法64条)が、賃金債権との関係については、明文規定がない。
本判決は、労務提供が不可能となった労働者について民法536条2項により賃金債権の行使が認められる場合において、当該労働者が健康保険組合からの傷病手当金等の休符や労働基準監督署からの休業補償給付等給付を受けているときでも、これらの受給により賃金額を減額すべきものではなく、賃金債権は全額認めた上で、これらの受給について不当利得により清算解決すべきものと判示。
BYの安全配慮義務違反の有無について、うつ病の発症及びその増悪の過程を仔細に検討し、特定の時期(平成13年8月)の前後で安全配慮義務違反の範囲を画した1事例。
2128
2128 行政p26
東京高裁H23.5.18
東京都の区長選挙につきい「選挙の基本理念である自由公正の原則が著しく阻害されるとき」に当たらないとされた事例
事案 原告らが、杉並区長選挙及び杉並区議会議員補欠選挙の手続が選挙の規定に違反し、その違反が選挙の結果に異動を及ぼす虞があるとして、過ぎなl未来選挙管理委員会に選挙の効力に関する異議の申出をしたが棄却され、被告の東京都選挙管理委員会に対する審査申立も棄却されたので、その棄却裁決の取消と本件選挙を無効とすることを求めた。
規定 公職選挙法 第205条(選挙の無効の決定、裁決又は判決)
選挙の効力に関し異議の申出、審査の申立て又は訴訟の提起があつた場合において、選挙の規定に違反することがあるときは選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合に限り、当該選挙管理委員会又は裁判所は、その選挙の全部又は一部の無効を決定し、裁決し又は判決しなければならない。
判断 過去の選挙における無効票等との比較のみから、本件選挙の投票方法の適否を論じるのは相当でない。
⇒本件選挙の手続が不公正であったとはいえないとして排斥。
解説 公職選挙法205条1項所定の「選挙の規定に違反することがあるとき」には、選挙の管理執行手続に関する明文の規定がなくても、「選挙の基本理念である自由公正の原則が著しく阻害されるとき」も含む。(最高裁昭和27.12.4)
昭和51.9.30(選挙管理委員会の委員長らが候補者に対しその選挙運動用のポスター記載の文言の抹消を求めた行為が選挙の自由公正を著しく阻害したとして選挙が無効とされた事例)でも明らかに。
民事p33
最高裁@H23.3.24
最高裁AH23.7.12
@事件:
消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約が消費者契約法10条により無効となる場合
@A事件:
消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約が消費者契約法10条により無効ということはできないとされた事例
事案 居住用建物の賃借人(消費者)が賃貸人(事業者)に対し保証金の返還を求める事案。
争点 いわゆる敷引特約が消費者契約法10条により無効か否か
規定 消費者契約法 第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
民法、商法(明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、
民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
民法 第1条(基本原則) 
私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
解説 敷引特約:
建物の賃貸借契約において、敷金ないし保証金名下に賃借人から賃貸人に差し入れられた金員のうち一定額ないし一定割合を控除してこれを賃貸人が取得し、建物明渡し後に残額を賃借人に返還する旨の特約。
敷引金の性質:
@損耗の修繕費(通常損耗料ないし自然損耗料)
A空室損料(中途解約により次の入居者が現れるまでの空室期間が生ずることに対する賃料収入の補償)
B賃料の補充ないし前払(賃料を低額にすることの代償)
C礼金(賃貸借契約の対価)
下級審裁判例の多くは、総じて、損耗等の修繕費(通常損耗料)としての性質を中心に、各性質を1つないし複数兼ね備えているものと認定。
最高裁H10.9.3:
敷引特約がされた場合であっても、災害により家屋が滅失して賃貸借契約が終了したときは、特段の事情がない限り、同特約を適用することはできないと判示。

敷引特約が原則として有効であることを前提とする。
消費者契約法(平成13年4月1日施行)10条:
@民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって(前段要件)
A民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの(後段要件)は、無効とすると定める。
@事件判決 まず前段要件につき、
敷引特約は、契約当事者間にその趣旨について別異に解すべき合意等のない限り、通常損耗等の補修費用を賃借人に負担させる趣旨を含むとした上で、賃借人は、特約のない限り、通常損耗等についての原状回復義務を負わず、その補修費用を負担する義務も負わないにもかかわらず、賃借人に通常損耗等の補修費用を負担させる趣旨を含む本件の敷引特約は、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の義務を加重するものであるとした。

敷引特約一般につき原則として前段要件を満たすものと解される。
後段要件につき、
敷引特約は通常損耗等の補修費用を賃料と敷引金とで二重に賃借人に負担させる不合理な特約であるとする論旨に対し、
敷引金の額について契約書に明示されている場合には、賃借人は、賃料の額に加え、敷引金の額についても明確に認識した上で契約を締結するのであって、このような場合には、通常損耗等の補修費用が含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当であって、敷引特約によって賃借人が上記補修費用を二重に負担するということはできない。

上記論旨を排斥し、敷引特約が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできないとした。
敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、特段の事情のない限り、敷引特約は信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となる。
本件では、敷引金の額が契約年数に応じて月額賃料額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることなどから、敷引金の額が高額に過ぎるとはいえず、敷引特約が消費者契約法10条により無効ということはできない。
平成17年判決 最高裁H17.12.16:
建物の賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である。
〜通常損耗の補修義務を賃借人に負わせる特約の成立を厳格に判断する立場。

賃借人が通常損耗の補修義務を負い、退去時にその費用(実費)を支払うべきものとすれば、賃借人にとっては退去時に自らが負担することとなる補修費用の額について、契約時において明確な認識を持つことができず、結果的に退去時に予想外に高額な補修費用を負担させられるおそれがあり、これが賃借人にとって特別の負担になり得ることを考慮したため。
A事件判決 @事件判決をふまえ、本件では、@契約書には敷引特約について明記されていたこと、A本件敷引金の額が月額賃料額の3.5倍程度にとどまっているjことなどから、敷引金の額が高額に過ぎるとはいえず、敷引特約が消費者契約法10条により無効であるということはできないとした。
結論 @事件判決、A事件判決
⇒賃料の額等に比して敷引金の額が高額に過ぎると評価することができる者でない限り、敷引特約が消費者契約法10条により無効であるということはできないことになる。
民事p52
東京地裁H23.6.30
マンションの特定の区分所有建物についての管理費及び修繕積立金の額に係る原始規約の定めを増額変更する管理組合総会の決議に手続上及び実態上の瑕疵はなく、同決議は有効とされた事例
事案 本件マンションの管理組合法人である原告が、同マンションの107号室の区分所有者である被告に対し、被告の管理費及び修繕積立金(「管理費等」)の額が、原始規約当時から他の区分所有者の管理費等の額より著しく低廉に定められ、区分所有者間に不公平な状態を生じている⇒同規約を変更し、・・増額変更する臨時総会決議を行い、これに基づき、増額後の管理費等の額を基準として、被告から支払われている従前額との差額の支払を請求したのに対し、被告が、右総会決議には手続上及び実体上の瑕疵があるとして、その無効を主張し、争った。
規定 区分所有法 第31条(規約の設定、変更及び廃止)
規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
判断 他の区分所有者との不均衡を是正するため、右管理費等の額を増額する必要性も合理性もあるとして、その増額後の金額も他の一般の区分所有者の平米当たりの平均単価と同額の管理費等の額にするものであるから、社会通念上相当な額である。
⇒本件総会決議により、被告の本件部屋に係る権利に区分所有法31条1項後段所定の特別の影響を及ぼすことはない⇒被告の同意がなくても本件総会決議は有効。
民事p58
東京地裁H23.6.13
1.仲裁手続が我が国の手続的公序に反することは、仲裁法44条1項8号の仲裁判断の取消事由に含まれる。
2.当事者間に争いのある事実を争いのない事実として仲裁判断をすることは我が国の手続上公序に反する
事案 高炉スラグに関する日本における特許を有する米国法人であるYと、本件特許を利用した高炉スラグの日本における製造・販売に関して合弁事業を行ってきた日本法人であるXとの間で、同事業をめぐって紛争が生じたため、YがXに対して合弁事業に関して締結された契約の有効性の確認と同契約に基づく「技術サービス料」の支払を求めて仲裁を申し立てたところ、YのXに対する技術サービス料の支払等の請求を認める内容の仲裁判断が下された。
⇒Xが、本件仲裁判断には、仲裁法44条1項8号の取消原因があると主張して、本件仲裁判断の取消しを申し立てた事案。
規定 仲裁法 第31条(当事者の陳述の時期的制限)
仲裁申立人(仲裁手続において、これを開始させるための行為をした当事者をいう。以下同じ。)は、仲裁廷が定めた期間内に、申立ての趣旨、申立ての根拠となる事実及び紛争の要点を陳述しなければならない。この場合において、仲裁申立人は、取り調べる必要があると思料するすべての証拠書類を提出し、又は提出予定の証拠書類その他の証拠を引用することができる。
2 仲裁被申立人(仲裁申立人以外の仲裁手続の当事者をいう。以下同じ。)は、仲裁廷が定めた期間内に、前項の規定により陳述された事項についての自己の主張を陳述しなければならない。この場合においては、同項後段の規定を準用する。
3 すべての当事者は、仲裁手続の進行中において、自己の陳述の変更又は追加をすることができる。ただし、当該変更又は追加が時機に後れてされたものであるときは、仲裁廷は、これを許さないことができる。
4 前三項の規定は、当事者間に別段の合意がある場合には、適用しない。
仲裁法 第36条(仲裁判断において準拠すべき法)
仲裁廷が仲裁判断において準拠すべき法は、当事者が合意により定めるところによる。この場合において、一の国の法令が定められたときは、反対の意思が明示された場合を除き、当該定めは、抵触する内外の法令の適用関係を定めるその国の法令ではなく、事案に直接適用されるその国の法令を定めたものとみなす。
2 前項の合意がないときは、仲裁廷は、仲裁手続に付された民事上の紛争に最も密接な関係がある国の法令であって事案に直接適用されるべきものを適用しなければならない。
3 仲裁廷は、当事者双方の明示された求めがあるときは、前二項の規定にかかわらず、衡平と善により判断するものとする。
4 仲裁廷は、仲裁手続に付された民事上の紛争に係る契約があるときはこれに定められたところに従って判断し、当該民事上の紛争に適用することができる慣習があるときはこれを考慮しなければならない。.
仲裁法 第44条
当事者は、次に掲げる事由があるときは、裁判所に対し、仲裁判断の取消しの申立てをすることができる。
一 仲裁合意が、当事者の行為能力の制限により、その効力を有しないこと。
二 仲裁合意が、当事者が合意により仲裁合意に適用すべきものとして指定した法令(当該指定がないときは、日本の法令)によれば、当事者の行為能力の制限以外の事由により、その効力を有しないこと。
三 申立人が、仲裁人の選任手続又は仲裁手続において、日本の法令(その法令の公の秩序に関しない規定に関する事項について当事者間に合意があるときは、当該合意)により必要とされる通知を受けなかったこと。
四 申立人が、仲裁手続において防御することが不可能であったこと。
五 仲裁判断が、仲裁合意又は仲裁手続における申立ての範囲を超える事項に関する判断を含むものであること。
六 仲裁廷の構成又は仲裁手続が、日本の法令(その法令の公の秩序に関しない規定に関する事項について当事者間に合意があるときは、当該合意)に違反するものであったこと。
七 仲裁手続における申立てが、日本の法令によれば、仲裁合意の対象とすることができない紛争に関するものであること。
八 仲裁判断の内容が、日本における公の秩序又は善良の風俗に反すること。

2 前項の申立ては、仲裁判断書(第四十一条から前条までの規定による仲裁廷の決定の決定書を含む。)の写しの送付による通知がされた日から三箇月を経過したとき、又は第四十六条の規定による執行決定が確定したときは、することができない。

6 裁判所は、第一項の申立てがあった場合において、同項各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるとき(同項第一号から第六号までに掲げる事由にあっては、申立人が当該事由の存在を証明した場合に限る。)は、仲裁判断を取り消すことができる。
民訴法 第338条(再審の事由) 
次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。
一 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
三 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
四 判決に関与した裁判官が事件について職務に関する罪を犯したこと。
五 刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至ったこと又は判決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたこと。
六 判決の証拠となった文書その他の物件が偽造又は変造されたものであったこと。
七 証人、鑑定人、通訳人又は宣誓した当事者若しくは法定代理人の虚偽の陳述が判決の証拠となったこと。
八 判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。
九 判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと。
十 不服の申立てに係る判決が前に確定した判決と抵触すること。
Xの主張 @Xは、仲裁手続において、技術サービス料はライセンス料であると主張して争っていたにもかかわらず、本件仲裁判断においては、技術サービス料が合弁事業から得られる利益の分配であることを争いのない事実としており、これは日本における手続的公序に反し、仲裁法44条1項8号の取消事由に該当する。
A技術サービス料はライセンス料であるときろ、本件特許は本件契約の締結時点において、すでに存続期間満了により消滅しており、対価に当たる特許やノウハウは存在しない。
⇒本件契約は、独禁法19条の禁止する不公正な取引方法に該当し、違法となるにもかかわらず、その拘束力を肯定してXに対して不当なライセンス料の支払義務を課す本件仲裁判断は、公序良俗に反する取引を将来にわたって容認するもの。
⇒その名言うが日本における公序に反し、仲裁法44条1項8号の取消事由に該当する。
判断 @について判断し、仲裁判断を取り消した。
解説 仲裁法44条1項8号に手続的公序違反が含まれるかについて判断した裁判例は見当たらない。
学説は、手続的公序違反を仲裁法44条1項8号に含むと解している。
3号、4号、6号該当性(定められた手続きに反するか)と8号該当性(仲裁手続に関して公序良俗に反するような事態が存したか)とは別もの。
8号は職権調査事項、3号、4号、6号は職権調査事項とはされていない(6項)。
本決定 「仲裁判断は、当事者が陳述した事項(仲裁法31条)につき、法にせよ衡平と善にせよ、一定の規範を適用して行われ(同法36条)、これにより紛争を解決するものである」と説示した上で、「当事者が適法に手続上提出した攻撃防御方法たる事項で、仲裁判断の主文に影響のある攻撃防御方法について判断せずに仲裁判断をすることは、主文に影響のある攻撃防御方法について判断されることにより紛争の解決を求めた当事者にとってみれば判断を受けていないに等しく、仲裁に対する信頼も損なわれる」とした上、
結論として「このようの場合には、仲裁の適正の理念に反するものとして、我が国の手続的公序に反するものと解するのが相当である(なお、民訴法338条1項9号参照)」と説示。
Xによる手続的公序違反の主張を申立期間経過前(仲裁法44条2項)に行っている旨を認定しつつ、そうでなかったとしても、職権調査事項とされる仲裁法44条1項7号および8号の主張は、申立時期経過後であっても許される。
解説 仲裁判断は事実に規範を適用して紛争を解決するという点において判決と類似し、仲裁判断取消決定は、内容の当否の審査に及ばない点で再審類似の構造を有する。

当事者間に争いのある事実を争いのない事実として判断をすうることが、我が国の公序に反するかについては、民訴法の再審に関する規定が参考になる。
再審の制度趣旨・目的は、訴訟手続に重大な瑕疵があったり判決の基礎たる資料に異常な欠点があったりした場合、裁判の適正の理念に反するし当事者にも酷であり、裁判に対する信頼も損なうことになるため、これを是正する必要がある。
民訴法338条1項9号は、当事者が適法に訴訟上提出した攻撃防御方法たる事項、または、当事者が調査を促した職権調査事項で、判決の主文に影響があるものについて、判決理由中で判断を示さなかった場合をさす。(大判昭7.5.20)
民事p76
横浜地裁H23.7.13
放送受信契約上の受信料債権につき民法173条1号、2号の適用が否定された事例
事案 X(NHK)は、Yに対し、未払いの受信料の支払を請求したが、本件受信契約の成否、ケーブルテレビ加入者の受信契約の締結義務の有無、民法173条、169条所定の短期消滅時効の適用の有無が争点。
規定 民法 第173条
次に掲げる債権は、二年間行使しないときは、消滅する。
一 生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権
二 自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権
三 学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権
民法 第169条(定期給付債権の短期消滅時効)
年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、五年間行使しないときは、消滅する。
判断 本件受信契約の成立を認めた上、ケーブルテレビのような有線テレビ放送施設を介して受信する場合であっても、Xの放送を受信することができる設備を備えていることから、放送法32条1項の受信契約締結義務を負う。
短期消滅時効に関する主張は、
民法173条1号については、放送の性質等に照らし、Xを同号所定の「生産者」と解することが困難であり、放送と放送受信料の支払義務とが完全に対価的な関係に立つと解することができない。⇒同号の適用を否定。
同条2号については、Xの業務の性質・内容等からして同号の要件に該当しない⇒同号の適用を否定。
民事p80
前橋地裁H23.7.27
交通事故の被害者について示談成立後に重い後遺障害の認定がされた場合、新たな拡大損害の請求が認められた事例
事案 Aは自転車に乗って走行中、Yの運転する自動車と衝突し、脳挫傷等の障害を負う。
⇒平成16年5月18日に後遺障害等級12級12号の認定⇒同年9月16日Yとの間で損害を579万5525円とすることで示談。
その後、Aは後遺障害認定に対して異議の申立て⇒平成22年12月2日に、後遺障害等級が9級10号とされた。
Aは、平成21年8月19日に死亡したため、Aの父母であるXらが、右後遺障害による新たな損害として、Yに対して、3570万円余の損害賠償を請求。
Yの主張 右の後遺障害の等級変更は、障害の等級変更にすぎず、新たな障害や対象障害の重症化を認めるものではなく、示談によりAの損害賠償請求は放棄されている。
判断 Aは、受領した賠償金以外については、請求権を放棄することが認めらえるが、示談の特約として、今後Aの後遺障害を上回る後遺障害が認められた場合は、その差額については、別途協議する旨合意されている。

Aの後遺障害については、平成22年12月2日、後遺障害等級が9級10号に変更されたものであるから、当初認定の後遺障害による損害と新たな認定に係る後遺障害による損害との差額は、示談による請求権放棄の対象には含まれないと解される。
⇒Xの請求を認容。
解説 最高裁昭和43.3.15:
示談の拘束力を制限的に解し、示談後の損害拡大については別途請求することができると判断した。
知財p84
知財高裁H22.3.31
発明の名称を「熱伝導性シリコーンゴム組成物」とする特許権の侵害訴訟において、特許請求の範囲の記載を限定的に解釈して、被告製品は、特許発明の技術的範囲に属さないとされた事例
事案 平成11年8月3日に公開された「熱伝導性シリコーンゴム組成物」という特許権の公開公報(補正前のもの)を前提としてXから実施許諾を受けていたYが、平成14年3月22日付けで登録された特許権(補正後のもの)の技術的範囲に被告製品(放熱シート)は含まれないとして、同契約を解除して実施料支払を終了したkとを契機に、XがYに対し、Yの右製品はXの右特許権の請求項1及び請求項5を侵害するとして
@被告製品の製造販売禁止
A被告製品の廃棄
B右実施許諾契約に基づき、未受領である平成14年6月1日から平成15年10月1日までの実施料1800万円(売上高の3%)及びこれに対する遅延損害金の支払
C右特許権侵害による損害賠償として、平成15年10月2日から平成18年9月30日までの分として1億400万円(売上高の8%)及びこれに対する遅延損害金の支払を求めたもの。
判断 原審:Yの製品が本件各特許発明の技術的範囲に属するとして、Xの請求を一部認容。
本判決:被告製品は、本件特許発明の技術的はにに属さないとして、原判決の認容部分を取り消し、Xの請求を棄却。
規定 特許法 第70条(特許発明の技術的範囲)
特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。
2 前項の場合においては、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。
解説 特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲に基づいて定めなければならず(特許法70条1項)、明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の異議を解釈する(特許法70条2項)。

特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲に基づいて定めるのであるが、それに当たっては、明細書の記載及び図面を考慮しなければならない、さらに出願経過なども考慮される。
本判決は、特許請求の範囲のみでは必ずしもその意義が明確でない特許発明について、明細書の記載や出願経過を考慮して、限定的に解釈したもの。
被告製品が均等侵害であるかについても判断し、最高裁H10.2.24がいる第5要件「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない」ことという要件を充たさないから、被告製品を本件各特許発明の技術的範囲に属すると認めることはできないと判断。
知財p136
知財高裁H23.9.14
小売等役務を指定役務とする商標(本件商標は「Blue Note」の文字の間に「音符の図形」を有する。)の権利の及ぶ範囲について判断がされた事例
事案 Yが本件商標の商標権者であるところ、Xが、ジャズレーベルとして著名な「BLUE NOTE」又は「ブルーノート」という引用商標を引用して、本件商標登録が商標法4条1項15ごう、19号に該当するなどと主張して無効審判を請求したが、特許庁が、審判請求を不成立とする審決をしたことから、Xが、審決取消訴訟を提起した事案。
本件商標の指定役務は、小売等役務であり、
「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(総合小売等役務)と、
織物及び寝具類など取扱商品の種類が特定されている商品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供(特定小売等役務)からなる。
規定 第2条(定義等)
この法律で「商標」とは、文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
2 前項第二号の役務には、小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供が含まれるものとする。
第4条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。

十五 他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)

十九 他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)
判断 Xの請求を棄却。(商標法4条1項15号、19号に該当しない。)
「特定小売等役務」において・・本件商標権者が本件特定小売等役務について有する占有権の範囲は、小売等の業務において行われる全ての役務のうち、合理的な取引通念に照らし、特定された取引商品に係る小売等の業務との間で、目的と手段等の関係にあることが認められる役務態様に限定されると解するのが相当(侵害行為については類似の役務態様を含む。)
「総合小売等役務」において・・・小売等の業務において行われる全ての役務のうち、合理的な取引通念に照らし、「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品」を「一括して取り扱う」小売等の業務との間で、目的と手段等の関係にあることが認められる役務態様に限定されると解するのが相当(侵害行為については類似の役務態様を含む。)。
第三差において、本件商標と同一又は類似のものを使用していた事実があったとしても、「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品」を「一括して取り扱う」小売等の業務の手段としての役務態様(類似を含む。)において使用していない場合、すなわち、
@第三者が、「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る」各種商品のうちの一部の商品しか、小売等の取扱いの対象にしていない場合(総合小売等の業務態様でない場合)、あるいは、
A第三者が、「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る」各種商品に属する商品を取扱いの対象とする業態を行っている場合であったとして、それが、「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う」小売等の一部のみに向けた(例えば一部の販売促進等に向けた)役務についてであって、各種商品の全体に向けた役務ではない場合には、本件総合小売等役務に係る独占権の範囲に含まれないというべきである。
本件商標が、その指定役務について使用された場合、引用商標が使用される商品の出所と混同を生ずるおそれはない。

Xの引用商標の使用態様は、商品「レコード等」の販売等又は同商品を販売等する過程で行われる便益提供に限られ、本件総合小売等役務を指定役務とする本件商標権をYが有することによって保護される独占権の範囲に含まれるものではないから、Yが同商標を使用したとしても、需要者、取引者において、その役務の出所がXであると混同するおそれがあると解することはできない。
本件特定小売等役務には、「「レコード等」の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は、含んでいないから、本件商標を本件特定小売等役務に使用することによって、Xの業務に係る商品又は役務との間で、出所の混同を来すことはない。
解説 小売り等役務商標制度は、商標法2条2項が改正され、平成19年4月1日より施行されたもの。
同制度導入前は、小売業者及び卸売業者が顧客に対するサービス活動は商標法上の「役務」には該当しないとされ、それらのサービス活動に使用される商標は、「商品」に係る商標としての保護にとどまっており、商品と具体的な関連性のないサービス(ショッピングカート、店員への制服等)への使用は保護されない等の問題があったため、同制度が設けられた。
本判決は、商標権者と第三者との衡平を図り、円滑な取引を促進する観点から、小売等役務商標の査定・登録により付与される独占権の範囲が際限なく拡大することのないよう、役務の内容、態様等を特定し、明確にすることが必要不可欠

「特定小売等役務」と「総合小売等役務」の権利の及ぶ範囲について判断し、特に、「総合小売等役務」については限定的なものとする解釈を示したもの。
刑事p144
最高裁H23.8.24
遊客において周旋行為の介在を認識していなかったことを売春防止法6条1項の周旋罪の成否
事案 いわゆる出会い系サイトを利用して誘客を募る形態の派遣売春デートクラブを経営していた被告人が、男性従業員と共謀の上、女性従業員を誘客に引き合わせて売春をする女性として紹介し、売春の周旋をしたという売春防止法違反の事案。
遊客において、被告人らが介在して女性従業員を売春をする女性として認識していなかったことから、ここような場合でも、売春防止法6条1項の周旋罪が成立するのか。
規定 第6条(周旋等)
売春の周旋をした者は、二年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
2 売春の周旋をする目的で、次の各号の一に該当する行為をした者の処罰も、前項と同様とする。
一 人を売春の相手方となるように勧誘すること。
二 売春の相手方となるように勧誘するため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと。
三 広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引すること。
判断 売春防止法6条1項の周旋罪の成否に関し、同罪が成立するためには、売春が行われるように客観的に周旋行為がなされれば足り、遊客において周旋行為が介在している事実を認識しているkとを要しない。
2127
2127 行政p3
最高裁H22.11.25
検察審査会法41条の6第1項所定の検察審査会による起訴をすべき旨の議決の適否につき行政事件訴訟を提起して争い、これを本案とする行政事件訴訟法25条2項の執行停止の申立てをすることができるか
事案 Xを被疑者として告発された被疑事実に係る検察官の不起訴処分につき、検察審査会が、起訴を相当とする議決をし、検察官の再度の不起訴処分後、検察審査会法41条の6に基づき、起訴を相当と認めて起訴をすべき旨の議決をしたことから、Xが本件起訴議決は検察審査会の権限を逸脱してされたものであり違法であり、・・・本件起訴議決の取消しを求める行政事件訴訟を提起した上で、本件起訴議決の取消訴訟を本案としてその執行停止と求めている事案。
判断 起訴議決の適否は、刑事訴訟手続において判断されるべきものであり、行政事件訴訟を提起して争うことはできず、これを本案とする行政事件訴訟法25条2項の執行停止の申立てをすることもできないとして、原審の判断を正当として是認し、Xの公告を棄却。
解説 検察官の公訴権の行使について、最高裁昭和27.12.24は、検察官の不起訴処分に対して民事訴訟ないし行政訴訟を提起することは許さない旨判示。
刑事訴訟手続と別個に、起訴議決の適否につき行政事件訴訟を提起して争うことができるとするなら、判断の矛盾抵触等、現行法上解決不能の不合理な問題が生じることは明らか。
最高裁昭和41.1.13は、検察審査会の議決に対する行政訴訟の提起は許されないとしているが、その理由は、検察審査会の議決の法的拘束力を付与していない改正前の検察審査会法の下で、当該議決は申立人又は第三者の具体的な権利義務なしい法律関係に直接の影響を与えるものではないから法律上の争訟性を欠くというもの。
本決定は、検察審査会の議決に法的拘束力を付与した現行検察審査会法における検察審査会の議決の適否を判断する手続きについての判断。
民事p9
福岡高裁H23.7.1
担当検事が被疑者から弁護人との接見内容を聴取し、これを調書化して証拠調べ請求をしたことは違法であるとして、国の国家賠償責任が認められた事例
事案 Xは、担当検察官が、被疑者からXとの接見内容を聴取して調書を作成し、これの証拠調べ請求をしたことは、それぞれXの固有権たる秘密交通権の違法な侵害に当たるなどと主張して、Y(国)に対し、180万円の損害賠償を請求。
規定 刑訴法 第39条〔被拘束者との接見・授受〕
身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。
憲法 第34条〔抑留・拘禁に対する保障〕
何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
一審 担当検察官の右職務行為は国賠法上違法であるとはいえない⇒本訴請求を棄却
判断 @捜査機関は、刑訴法39条1項の趣旨を尊重し、被疑者が有効かつ適切な弁護人等の援助を受ける機会を確保するという同項の趣旨を損なうような接見内容の聴取を控えるべき注意義務を負っているし、起訴後も、検察官が同趣旨の注意義務を負っており、これに違反して職務行為を行った場合に、当該職務行為は、国賠法上違法となる。
A担当検事が、被疑者とXとの接見内容を聴取して、これを調書化し、これの証拠調べを請求したことは違法であり、担当検事に重大な過失がある。
⇒Yに対しして55万円の支払を求める限度で、Xの本訴請求を認容。
解説 被疑者と弁護人の接見は立会人なくして行うことができるとされている⇒検察官が被疑者から弁護人との接見内容を聴取することは違法であるとする本判決の判断は相当。
民事p19
東京地裁H23.5.31
医療事故に関する告訴についての病院側の新聞社に対するコメントの提供が名誉棄損に当たらないとされた事例
判断 ・・・一般の読者は、原告側と被告側の認識の違いがあり、言い分が食い違っているとの印象を受けるにとどまるのであって、Xが、医師の勧めに反して検査の実施を要望したにもかかわらず、その検査で意思に反する結果が生じたところ、Yを訴えるような不当な行動をとる人物であると、読み手が受け取るとはいえない
⇒本件コメントに真実に反する内容が含まれることを考慮しても、これが直ちにXの社会的評価を低下させると認めることはできない。
解説 名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価(最高裁昭和45.12.18)
名誉を毀損するとは、人が社会から受ける客観的評価を低下させることをいうが、社会的評価を低下させるものであるかどうかは、平均的な一般読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきである(最高裁昭和31.7.20)。
but
新聞の記事等の読み方は他人によって様々であるから、ある記事が人の社会的評価を低下させるものであるかどうかの判断はこんなであり、かつ微妙。
民事p21
東京地裁H23.7.20
1.大規模会社の従業員が、子会社への移籍の前後を通して、権限なく、複数化にわたり、ソフトウェア等の割賦販売契約を締結したことにつき、当該大規模会社に使用者責任が認められた事例
2.加害者の一部が被害者から譲り受けた損害賠償請求権に基づき、他の加害者に対して損害賠償の請求をした場合に、その請求権の行使につき、共同不法行為者間の求償と同様の制限を負わないとされた事例
規定 会社法 第350条(代表者の行為についての損害賠償責任)
株式会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
民法 第715条(使用者等の責任)
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
事案 総合電機メーカーであるY1の従業員であったP(後にY1のグループ会社Y2の子会社であるY3に移籍)は、移籍の前後を通じて、総合リース業等を営むA社との間で、権限なく、Y1名義で複数回にわたりソフトウェア等の割賦販売契約を締結し、A社に本件ソフトウェア等の購入先に対し代金を支払わせた。
A社は、、Y1ないしY3に対し使用者責任に基づき、本件不法行為に加担したQが代表取締役を務めるY4に対し会社法350条に基づき、損害賠償を求めた。
その後、A社は、Yらに対する損害賠償請求権をXらに譲渡し、Xらが本訴訟を承継。
争点 @:Y1ないしY3は、PのY3への移籍後はY1とPとの間に使用関係がない。
A:Pの行為は事業執行と無関係になされたものである。
BA社には悪意又は重過失があった。
C:Xらの請求は、実質的には、A社らに対しXらが負担する損害賠償義務を履行し、Yらに対し求償権を行使するのと同様であるから、求償の循環を避けるため、Yらのその負担部分の限度においてのみXらに対して損害賠償義務を負う。
解説 民法715条にいう「他人を使用する」については、実質的な指揮監督の下に他人を仕事に従事させる事を意味する(大判大6.2.22)もの。
現実に指揮監督が行われていた事を要するものではなく、客観的に見て指揮監督をすべき地位にあったことをもって足りると解されている。
使用関係の存否は、使用者と被用者との間で画一的に存否が決せられるものではなく、当該不法行為との関係で相対的に決せられる。
本判決は、
@資本関係に基づく統括会社(Y1)のグループ会社(Y3)への経営支配力
APがY3において引き続きY1の業務を行っていたこと、
BY1はPがかかる業務を行っていることを把握する契機があったこと、
C加害行為がY1の業務と認められること
を踏まえて、Y1はPを事実上指揮監督すべき立場にあったとして使用関係を肯定。
⇒判例の傾向に沿う。
民法715条の「事業の執行について」は、被用者の職務執行行為そのものには属しないが、その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合をも包含するものと解されている(最高裁昭和32.7.16)。

本件のようないわゆる取引的不法行為においては、使用者の事業の施設、機構及び事業運営の実情と被用者の
当該行為の内容・手段等を相関的に斟酌し、当該行為が、
@被用者の分掌する職務と相当の関連性を有し、かつ、
A被用者が使用者の名で権限外にこれを行うことが客観的に容易である状態に置かれている場合にも、外形上の職務行為に該当する(最高裁昭和40.11.30)。

使用者の職制上・事実上の職務権限と加害行為との関連性が密接な場合は、その余の点について詳細な検討を加えることなく被用者の職務の範囲内であるものと判断される傾向にある。

本判決は、Pが行っていた業務と加害項負いとの間に密接な関連性を認定したうえで、複数の外形的要素(移籍後も同様の業務を担当することの自然さ、Y1従業員の関与・協力の外観、業務分掌の把握の困難性)を挙げて事業執行性を肯定しており、判例の傾向に沿う。
加害行為が外形上、被用者の職務行為と認められる場合であっても、実際には被用者が職務権限を濫用・逸脱した場合で、被害者がそのことを知り又は重過失により知らなかった場合には、使用者責任の成立は否定される(最高裁昭和42.11.2)。

重過失の意義としては、故意に準ずる程度の注意の欠缺があり、公平の見地上、相手方に全く保護を与えないことが相当と認められる状態をいう(最高裁昭和44.11.21)。

ホ判決は、被害者の対応(Pの上司との面談の不実施、納品確認方法)、取引態様(屋外での契約書交付)及び取引内容(支払人の利用)を、A社の過失を基礎付ける事実として挙げたが、上司との面談を強く求めるのは困難であったこと、納品確認についても一定の注意を払っていた事などを指摘して、重過失を否定。
共同不法行為については、自己の負担部分を超えた賠償を行い、共同の免責を得た場合には、他の共同不法行為者に対し求償することができる(最高裁昭和63.7.1)。

Xらがその被用者の共同不法行為により使用者責任を負う場合には、Yらは、Xらに対し(被用者等の過失割合によって定まる)負担部分を超えた賠償金の弁済を行った後、Xらに対して求償を行うことができる。

三当事者が相互に他の当事者の不法行為によって損害を被った場合に、「共同不法行為相互の内部関係においてその責任を分配し、負担の公平を期し、究極の清算を簡明ならしめる」ため、「自己の右負担部分を超える部分について、かつ他の各自の負担部部に応じてのみ、損害賠償しうる」と判示した裁判例もある(東京高裁昭和46.4.27)。

本判決は、加害行為が複数存在し、加害行為ごとに関与者も異なるという複雑な本事案において、各当事者の損害賠償責任の有無が確定しない段階において負担部分についての主張立証を尽くすことを求めるのは必ずしも相当ではないと指摘して、Y4の主張を排斥。
民事p64
大阪地裁H23.5.13
フランチャイザーとフランチャイジーとの間の紛争が発生している状況において、原告となるフランチャイジーを勧誘した弁護士の文書の交付等につき名誉棄損が否定された事例
事案 弁護士団の団長である弁護士が問い合わせをしてきたフランチャイジーに説明文書を交付したり、フランチャイザーを批判する訴状を陳述したこと等につき名誉棄損等が問題になった事案。
判断 契約上の地位の侵害の主張については、Yによる文書の送付とフランチャイジーの契約解除、ロイヤリティの不払いとの間の相当因果関係がない等とし、不法行為を否定。
名誉毀損については、Yが送付した文書中の文言はX1らが組織的に故意に詐欺行為を行っているとの印象を与えるとし、名誉を毀損するおそれのある記載であるとしつつ、送付した範囲、趣旨から、Yが文書を送付する方法でX1らを相手方とする訴訟を提起する原告を募った行為は弁護士としての職務として目的・手段ともに相当であり、正当行為として違法性が阻却される。
別件訴訟における訴状の記載はX1らの名誉を毀損するおそれのある記載であるが、相応の根拠もないまま訴訟遂行上の必要性を超えて、著しく不適切な表現内容、方法、態様で主張したことを認めるに足りない等として、正当行為として違法性が阻却される。
解説 弁護士の名誉棄損につき、フランチャイザーの社会的評価の低下の可能性を認めたものの、弁護士としての正当行為であると認め、違法性の阻却を根拠に不法行為を否定したもの。
but
事件の依頼の勧誘につき妥当な方法かどうかの問題があり、微妙な判断を示している。
民事p71
新潟地裁H22.12.28
市が発注した下水道工事の競争入札に談合があったとして市が受注社に対し求めた損害賠償につき、損害賠償請求権が民法724条前段の消滅時効にかかり消滅したとして棄却された事例
事案 Y会社は、X市に対して、第1回弁論準備手続期日において民法724条前段の消滅時効を援用する旨の意思表示。
規定 第724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
解説 不法行為が談合の場合における消滅時効の起算点が問題となったもので、公正取引委員会審査官作成の準備書面の謄写を受けた時点、遅くとも同審査官作成の証拠申出書の謄写を受けた時点を時効の起算点と判示した。
知財p78
知財高裁H23.7.21
排気熱交換器に係る本件発明のオフセットフィンのフィンピッチを大きさ、フィンの高さ及び切り起こし部の長さに関する構成につき、排ガス熱交換器に係る引用発明との関係で進歩性を認めた審決について、本件発明の上記構成は、引用発明と相違しないとして、これが取り消された事例
事案 Xが、発明の名称を「排気熱交換機」とする本件発明に係るYの特許に対するXの特許無効審判の請求について、特許庁が同請求は成り立たないとした本件審決の取消しを求める事案。
主張 Xは、取消事由として、明細書の記載要件についての判断の誤り(取消事由1)、相違点についての判断の誤り(取消事由2)等を主張。「
判断 本件発明における4条件は、フィンピッチの大きさ、フィンの高をいずれも重複しない4つの範囲に分け、それぞれの範囲において、切り起こし部の長さの最適範囲を特定したものであり、各条件は択一的な数値限定であり、引用発明には、本件発明の条件1又は2の数値を充足する部分があることがあることが認められる以上、条件1ないし4に係る構成については、本件発明と引用発明とに相違はない。
解説 特許の発明の要旨の認定は、特段の事情がない限り、特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるところ(最高裁H3.3.8)、本判決、特許請求の範囲の記載に基づき、右4条件は択一的関係にあると認定したもの。
数値限定の発明においては、当該発明の数値範囲が引用発明の数値範囲に包含される場合には、重複部分が存在することのみを理由に直ちに新規性が否定されるわけではないが・・・格別の技術的意義の有無については、本件明細書に記載はないと説示して、本件発明と引用発明に相違がないと判断。
知財p87
東京地裁H22.8.31
インターネットショッピングモールの運営者であるYが、同ショッピングモールの出店者が行った商品の販売のための展示や販売に関して、商標法2条3項2号や不正競争防止法2条1項1号及び2号の「譲渡のために展示」や「譲渡」の主体には当たらないと判断された事例
事案 Xが、Yが主体となって出店者を介し、出店者と共同で、又は出店者を幇助して、Xの登録商標又は周知・著名な表示に類似する標章を付した商品(本件各商品)を展示又は販売(譲渡)して、Xの商標権を侵害し、不正競争行為を行ったと主張して、Yに対して、差止めと損害賠償の支払求めた。
規定 商標法 第2条(定義等)
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
不正競争防止法 第2条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為
判断 @Yが運営する楽天市場においては、出店者がYサイト上の出店ページに登録した商品について、顧客がYのシステムを利用して注文(購入の申込み)をし、出店者がこれを承諾することによって売買契約が成立し、出店者が売主として顧客に対し当該商品の所有権を移転
AYは上記売買契約の当事者ではなく、顧客との関係で、上記商品の所有権移転義務及び引渡義務を負うものではない。

出店者が当該商品の「譲渡」の主体であって、Yは、その「主体」に当たらない。
「譲渡のために展示」の主体も各出店者。
Yの幇助行為が「譲渡」に当たるとのXの主張も採用できない。
解説 商標法2条3項2号では、商品又は商品の包装に標章を付したものを「譲渡」する行為、「譲渡のために展示」する行為は、標章の「使用」に該当。
不正競争防止法2条1項1号、2号も、周知又は著名な商品等表示を使用した商品を「譲渡」し、「譲渡のために展示」する行為を不正競争行為とすると規定。
本件では、本件各標章を付した本件各商品を出店ページに販売のため展示し、これを販売した本件各出店者の行為は、商標法及び不正競争防止法における「譲渡のための展示」及び「譲渡」に該当。
問題は、Yが、「譲渡」や「譲渡のために展示」する行為を行ったといえるか。
「譲渡」の主体であるといえるか否かは、その者が、譲渡の対象商品の決定や価格等の
条件設定、譲渡契約の成否の決定等にどの程度関与しているか、譲渡契約成立後の商品の受け渡しや代金の受領にどの程度関与しているかなどの諸事情を総合勘案して判断。⇒Yは「譲渡」の主体でも、「譲渡のために展示」の主体でもないと判断。
商事p105
前橋地裁H23.7.20
企業に対する追加融資を譲渡推進・決定した銀行の代表取締役及び取締役に、その回収についての善管注意義務等の違反があるとして、銀行に対する損害賠償責任が認められた事例
事案 X銀行がA会社に対する融資のうち、8400万円の新規貸付分は回収可能性がないのになされた著しく不当な融資であり、回収可能となったことにつき・・・Xの取締役としての善管注意義務ないし忠実義務違反があるとしt4え、Xは、Y1およびY2に対し、旧商法266条1項5号に基づく損害賠償を求めると同時に、
Y1がその際しであるY3〜Y5に対して唯一の資産である土地建物を贈与し、XのY1に対する前記損害賠償請求権を侵害したとして、詐害行為取消権に基づき贈与された土地建物についての贈与契約の取消及び所有権(持分権)移転登記の抹消登記手続を求めた事案。
判断 銀行の取締役が融資業務を行うに当たっては、元利金の回収不能という事態が生じないように融資先の経営状況、資産状況等を調査検討し、その安全を確認して融資を決定し、原則として担保を微求する等相当な保全措置をとる義務があり、
一方で、継続的な貸借取引において回収不能という事態が生じるおそれがある場合には、当該融資による回収額の増加の見込みの有無、程度、その変動要因の有無、程度等を勘案して、どの時点で融資を打ち切るかなどを検討し、当該融資を実行した方がそれ自体回収不能となる危険を考慮しても、既存の融資を含む融資全体の回収不能額を小さくできると判断するにつき合理性が認められる場合に限って融資の決定をすることが許され、また、
融資の決裁権限を有しない取締役については、回収不能という事態が生じることを予見した場合には、これを等閑視することなく、権限を有する取締役に対しその旨伝える等、必要かつ適切な手段を講じて当該融資を承認又は実行しないよう監視・監督する義務がある。
Y1は、本件融資資金が回収できなくなるおそれが高いことを認識しながら、実質的に破綻状態にあるAに対して、Xの審査担当者等の反対を押し切って本件融資を実行したものであること、
Y2は、業務推進、営業統括部長の知言いにあるが、本件融資があにたいするBホテル事業断念の見返り融資であることを了知しながら、回収可能性等を等閑視し、専らAの立場から融資を促し、関係者に対し積極的に働きかけをしたことは、Xの取締役としての善管注意義務等に違反すると認められること。
⇒Y1及びY2は、Xに対して旧商法266条1項5号に基づき連帯して損害賠償責任を負う。
XのY1、Y3〜Y5に対する詐害行為取消権の主張は、本件贈与が行われた時点で、Y1にたいする責任追及の具体的な手続が開始されるような事情はなく、いかも、引責辞任後のXの株主総会で退職慰労金1億5000万円の贈呈決議がなされており、Y1としては、本件贈与当時にXに対し損害賠償責任を負うとは認識していなかった。
⇒Xの詐害行為取消権に基づく請求は理由がない。
労働p124
東京高裁H23.8.31
取引先の従業員の引抜等を会社が設置したコンプライアンス室に内部通報した従業員を3度にわたり配置転換した場合において、最初の配転命令が内部通報をしたことを動機とする不当なものであり、続く2度の配転命令がその延長であるとし、上司の不法行為責任、会社の使用者責任が肯定された事例
事案 取引先の従業員の引抜等を会社が設置したコンプライアンス室に内部通報した従業員が配置転換されたため、従業員が配置転換命令の効力を争うとともに、上司、会社に対して損害賠償を請求した控訴審の事件。
第1審は請求棄却⇒従業員が控訴。
第1回口頭弁論の終結後に、2度目の配転命令、控訴審の係属中に3度目の配転命令⇒訴えを一部変更。
内部告発を理由とする不利益取扱い、パワーハラスメントの事件
一審 本件内部通報が公益通報者保護法所定の通報対象事実に該当する通報ではないこと等を根拠として配転命令権の行使が権利の濫用と認められないなどと判断。
判断 訴えの変更を認めた上、Xの会社の設定に係るコンプライアンスヘルプライン運用規定(運用規定)に従ったコンプライアンス室への内部通報、その後の経過につき詳細な事実を認定し、内部通報を受けたコンプライアンス室の担当者が運用規定に従って通報者であるXの秘密を守りつつ適正に処理しなければならなかったところ、Xが承諾しないにもかかわらず、Xの氏名、通報内容を開示する等し、上司が最初の配転命令を開示する等し、上司が最初の配転命令を検討したのは本件内部通報を知った直後であること、配転命令の内容、必要性等の事情を考慮し、本件内部通報等が正当なものであったにもかかわらず、これを問題視し、業務上の必要性とは無関係に、主として個人的感情に基づき、いわば制裁的に行ったものと推認し、通報による不利益取扱いを禁止した会社の運用規定にも反する等とし、続く2度の配転命令もいわば最初の配転命令の延長のものであり、上司の行為が不法行為に当たるとし、会社の使用者責任も認め、・・・・配転先で勤務する雇用上の義務のないことの確認、損害賠償請求を一部認容。
配転命令の動機が不当であることを指摘してるだけでなく、運用規定に違反した事も重視。
解説 公益通報者保護法の制定、施行の前後、日本の主要な会社において内部告発、内部通報をコンプライアンス等のためにコンプライアンスヘルプライン等の名称で手続化、組織化が図られてきた。
会社がこのような手続・組織を設定・設置した場合には、それに従うべきことは当然であり、これに違反した場合には、関連する諸事情と相まって会社が不法行為責任(使用者責任)を負うことがあり得る。
本判決は、内部通報した従業員の配転がコンプライアンスヘルプライン違反の不利益取扱いに当たるとし、違反した上司の不法行為責任、会社の使用者責任を肯定した事例。
刑事p145
最高裁H23.8.31
弁護人に対し証拠開示することを命じる旨求めた弁護人からの証拠開示命令請求(刑訴法316条の26第1項)の棄却決定に対する即時抗告提起期間の起算日
事案 公判前整理手続における弁護人からの証拠開示命令請求(刑訴法316条の26第1項)を棄却する決定に対する即時抗告提起期間の起算日が争われた事案。
証拠開示命令請求を棄却する決定の謄本が、被告人本人は25日に、主任弁護人には27日に送達。
同決定に対して弁護人から30日に即時抗告の申立。
規定 刑訴法 第358条〔上訴提起期間〕
上訴の提起期間は、裁判が告知された日から進行する。
刑訴法 第422条〔即時抗告の提起期間〕
即時抗告の提起期間は、三日とする。
刑訴法 第55条〔期間の計算〕 
期間の計算については、時で計算するものは、即時からこれを起算し、日、月又は年で計算するものは、初日を算入しない。但し、時効期間の初日は、時間を論じないで一日としてこれを計算する。
刑訴法 第433条〔特別抗告〕
この法律により不服を申し立てることができない決定又は命令に対しては、第四百五条〔憲法違反・判例違反〕に規定する事由があることを理由とする場合に限り、最高裁判所に特に抗告をすることができる。
主張 本件即時抗告の提起期間は、原々決定謄本が主任弁護人に送達された同月27日から進行し同月30日までとされるべき。
判断 諸論は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張であって、刑訴法433条の抗告理由に当たらないとした上で、職権で
「・・・弁護人において、上記の証拠開示制度の趣旨、内容にも照らすと、弁護人において、上記の証拠開示命令棄却決定を受けたものと解されるから、同決定に対する即時抗告の提起期間は、弁護人に同決定が送達された日から進行するものと解するのが相当である」

@請求の主体は弁護人であり、裁定請求が認められた場合に証拠開示を受ける相手として予定されているのも弁護人であるという、証拠開示命令請求の形式
A公判前整理手続における証拠開示制度の趣旨、内容
解説 決定謄本が、被告人と弁護人の双方に対して日を異にして送達された場合における不服申立期間は、弁護人固有の権利でないものについては、弁護人が被告人本人のために不服申立てをしているのであるから、被告人本人に対する送達日から進行すると解すべき(通説的見解)。
判例も、様々な決定に対する抗告(異議申立てや特別抗告)について、その提起期間は、決定謄本が弁護人に送達された日からでなく、被告人本人に送達された日から進行するとの判断。
★平成23年11月分 (12/21勉強会)
2126
2126 行政p28
大阪地裁H22.12.17
アメリカ合衆国デラウェア州法に基づくリミテッド・パートナーシップ(LPS)が、我が国の租税法上の法人に該当するとされた事例
事案 原告らは、受託銀行との信託契約を介して、アメリカ合衆国(米国)デラウェア州法に基づくリミテッド・パートオナーシップ(本件各LPS)を組成し(受託銀行がリミテッド・パートナー)、本件各LPSは、米国において不動産を取得しその貸付けを行った。
原告らは、本件各LPSの不動産賃貸事業による損益につき、我が国の任意組合の場合と同様に構成員課税(パススルー課税)となることを前提に、これが原告らの不動産所得(所得税26条1項)に当たるとして、減価償却費等による損益通算をして所得税の申告をし又は更正の請求を行った。
これに対し、所轄税務署長は、本件各LPSは外国法人であり、当該損益は不動産所得に該当せず減価償却費等の損益通算は許されないなどとして、原告らに対し所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに更正の請求を棄却する旨の通知処分をした。
⇒原告らがこれらの処分を不服としてその取消し(ただし、原告らが認める総所得金額及び税額を超える部分)を求めた事案
争点 (1)本件各LPSが米国で営む不動産賃貸事業から生じた損失を、我が国の所得税法上、原告らの不動産所得の金額の計算上生じた損失として取り扱うべきか否か。
@本件LPSが我が国の租税法上「法人」に該当するか否か
A本件各LPSが我が国の租税法上「人格のない社団等」に該当するか否か
B本件各LPSを通じて原告らが得た損益の所得区分
(2)原告らに過少申告加算税額を課されない「正当な理由」(国税通則法65条4項)があるか否か
判断 租税法においては、法人の意義として、我が国の私法が前提とする法人の意義と同一の意義採用(借用概念)。
私法の一般法である民法の解釈において、法人とは、「自然人以外のもので、権利義務の主体となることのできるもの」をいうと解されている。
⇒租税法上の法人概念についても、これと同様の観念を採用。
外国の事業体が我が国の租税法上の「法人」に該当するか否か、すなわち、当該事業体が「権利義務の主体となることのできるもの」であるかどうかの判断に当たっては、当該事業体がその準拠法においてどのような概念として定義付けられているかのみによって結論を導くことはできず、実質的な観点から、当該事業体に認められている能力及び属性の内容を検討し、その上で、我が国の私法上「法人」とされることによって当然に認められる能力及び属性(法人格から当然に派生する能力及び属性)を全て具備していると評価できるか否かにより決するほかはない。
外国の事業体が我が国の租税法上(私法上)の「法人」に該当するか否かを判断するにあたっては、
実体法的には、当該事業体が
@その構成員の個人財産とは区別された独自の財産を有すること(具体的には、当該事業体の財産につき構成員が直接の具体的な持分を有しておらず、かつ、当該事業体の名義により登記等の公示を行うことができること)、及び
Aその名において契約等の法律行為を行い、その名において権利を融資義務を負う事ができること
という能力等を有するかどうかにより判断。

また、手続法的には、
Bその名において訴訟当事者となり得ること(訴訟上の当事者能力)も、法人とされることによって当該事業体に当然に付与される能力等の1つであり、外国の事業体の法人該当性の判断要素の1つ。
@〜Bまでの能力等を全て具備しているかどうかの判断にあたっては、・・・原則として、当該事業体の準拠法の規定及びその解釈を基礎として判断されるべき。
本件各LPSは、@ABの能力を有する⇒我が国の租税法上(私法上)の「法人」に該当。
⇒本件各LPSが営む本件各不動産賃貸事業から請じた損益は、本件各LPS自身に直接帰属⇒その損益は原告らの不動産所得には該当しない。⇒損益通算の適用を受けられない。
原告らが本件各そんしつを不動産所とkるに該当するとして損益通算ができると判断したことは、原告らの主観的な事情に基づく単なる法律解釈の誤りにすぎない
⇒国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるということはできない⇒過少申告加算税賦課決定についても適法。
解説 平成17年度の税制改正において、不動産所得を生む事業を行う民法組合等の個人組合員について、不動産所得の金額の計算上、その組合事業による損失の金額はなかったものとみなす措置(租税特別措置法41条の4の2)が講じられている
民事p70
福岡高裁H23.3.8
売買されたマンションが前入居者によって相当長期間にわたり性風俗特殊営業に使用されていたことは、民法570条にいう瑕疵に当たるとされた事例
事案 購入した本件マンションで風俗営業が行われていたことが判明⇒Xの妻は心因反応となり、日常生活における困難性などの症状が発症し、居室の不快感を解消するための各種の出捐を要した。

XはY1(売主)に対して、瑕疵担保責任及び不法行為に基づいて600万円の損害賠償を請求し、Y2(仲介業者)に対しては、説明義務違反に基づいて150万円の損害賠償を請求。
判断 本件マンションが前入居者によって相当長期間にわたり性風俗特殊営業に使用されていたことは、これを買った者がこれを使用することにより通常人として耐え難い程度の審理的負担を負うべき事情に当たるし、・・・マンションの売買代金を下落させる。
⇒相当長期間にわたり性風俗特殊営業に使用されていたことは、民法570条の瑕疵に当たる。
規定 第570条(売主の瑕疵担保責任)
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。
第566条(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
解説 民法570条の「瑕疵」は、物の通常の使用に適する性質を、全くまたは相当程度に欠くことをいうとされ、それは、客観的・抽象的な意味に解すべきとされてきた。
but
建築された建物については、建物の使用に物理的な支障がなくても、一般人が不安や懸念を抱くなどの審理的圧迫を抱く場合にも、瑕疵があるということになるとされ、裁判例では、便所のいわゆる鬼門への設置についてもいわゆる「心理的瑕疵」があるとされている。(名古屋地裁昭和54.6.22)
民事p73
東京地裁H23.3.30
1.元一級建築による分譲マンションの構造計算書の偽装について不法行為責任が認められた事例
2.構造計算書の偽装された分譲マンションの設計業務の委託を受けた設計事務所の代表者である元一級建築士がその偽装を看過したことにつき、不法行為責任及び平成17年法律第87号による改正前の商法266条の3第1項による責任が認められなかった事例
3.構造計算書の偽装された分譲マンションの建築確認を実施した指定確認検査機関の確認検査員がその偽装を看過したことにつき、過失があるということはできないとされ、その分譲マンションについて建築確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体の国賠責任が認められなかった事例
事案 耐震強度偽装事件において構造計算書の偽装された分譲マンションの購入者らが、建物としての基本的安全性を欠くマンションを購入したことにより損害を被ったとして、各被告に損害賠償を求める。
@マンションの構造設計を担当した元一級建築士(Y1)⇒不法行為に基づく請求。
Aマンションの設計業務の委託を受けた設計事務所(A)の代表者である元一級建築士(Y2)⇒構造図や構造計算書の内容が法令に適合しているか否かを確認する義務を怠った⇒不法行為又は旧商法266条の3第1項に基づく請求
Bマンションについて建築確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体(Y3)⇒指定確認検査機関の確認検査員がの義務違反について、国賠法1条1項に基づく請求
判断 Y1について、構造計算書の偽装行為を認定し、損害賠償責任を肯定。
Y2について:
Y2が、本件マンションの設計全体を統括する者であったことを前提としつつも、設計図面中に構造計算書の偽装を疑わせる明らかな徴表があったといえない場合には、構造計算書の偽装を発見するべき注意義務を負うことはなかった。
Y2が確認すべき範囲において構造計算書の偽装を疑わせる明らかな徴表があったとはいえず、Y2には構造計算書の偽装を発見できなかったことについて注意義務違反があったとはいえない⇒不法行為、旧商法266条の3第1項に基づく請求を棄却。
Y3について:
建築基準法の改正前である本件マンションの建築確認時において、Cの確認検査員に注意義務違反があったと認められるためには、Y2と同様、設計図面中に構造計算書の偽装を疑わせる明らかな徴表のあったことが必要。
Cが確認すべき範囲において構造計算書の偽装を疑わせる明らかに徴表があったとはいえず、注意義務違反があったとはいえない
⇒請求棄却。
民事p95
岡山地裁H23.7.19
夜間自転車を運転し市道を走行中の大学生が、遊歩道に下る階段に気付かず転落し、用水路で溺死した事故につき、市及び県に対し、市道、階段、遊歩道、用水路等の諸施設の設置・管理に瑕疵があるとして、国家賠償責任が認められた事例
事案 Aの父母X1X2と同人との保険契約に基づき人身傷害保険金を支払ったX3保険会社が、Y1市及びY2県に対して、本件事故は、市道、階段、遊歩道及び用水路に係る設置・管理に瑕疵があったために発生したとして、国賠法2条1項に基づき損害賠償を求めた事案。
規定 国賠法 第2条〔営造物の設置管理の瑕疵と賠償責任、求償権〕
道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
A前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。
判断 Y1市及びY2県はその管理につき共同の責任主体。
本件施設は通常有すべき安全性を欠くものと評価され、その設置管理に瑕疵があったということができる。
Aは、本件市道を道交法上の規制に反して進行方向の右側を走行して転落。
周囲の状況に応じて危険を察知したときに安全に停車できる速度で走行していたら事故は防げた
⇒過失相殺4割
民事p105
那覇地裁H23.6.21
結石を除去する外科的手術において除去に失敗したことについて、担当医師は手技の実施上の過失があったとして、病院側の損害賠償責任が認められた事例
判断 外科的手術において結石の除去に失敗したとした上、右手術における結石の嵌頓は、その他の原因が認められない限り、医師の操作上の誤りにあると推認し得るとして担当医師の過失を肯定し、結石除去の失敗と急性膵炎、糖尿病との因果関係を肯定し、請求を認容。
解説 医師側の責任原因に当たる診療行為と患者に生じた死傷等との間の因果関係の立証は困難。

訴訟上要求される因果関係は高度の蓋然性で足りる(最高裁昭和50.10.24)とし、脳神経減圧手術を受けた患者が、脳内血腫により死亡した事件で、手術後間もなく発生した患者の小脳内出血は、手術中の何らかの操作上の誤りに起因するのではないかとの疑いを抱かせるものであるというべきであると判断し、その原因が手術であることを否定した原判決を破棄(最高裁H11.3.23)。
知財p113
知財高裁H23.7.7
液晶用スペーサー及び液晶用スペーサーの製造方法の発明において、当該発明は、刊行物に記載された引用発明の構成から特定の構成に限定したもので、それに基づいて生じる格別の作用方法を奏するものということができず、引用発明とは異なる発明として区別できるものではないとして、新規性が否定された事例
事案 無効審判請求について、特許庁が同請求は成り立たないとした審決の取消しを求めた事案。
規定 第29条(特許の要件) 
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
判断 本件発明は、引用発明1において例示的に列挙された構成の中から、一部の構成に限定した者であり、同発明から本件発明が限定した部分について、引用発明1の他の部分とその作用効果において差異があるということはできないから、同発明と異なる発明として区別できるものではなく、本件発明と引用発明1との間には、相違点はない。
解説 新規性及び進歩性について、特許庁及び裁判所の判断が異なった事案。
特許庁が新規性及び進歩性を肯定したところ、裁判所が新規性を否定し取消し。
進歩性については、@本願発明の要旨認定、A引用発明の認定、B本願発明と引用発明の対比による一致点及び相違点の認定、C相違点についての判断という手順で、その有無が判断される。
相違点が存在しない⇒新規性が否定。
相違点についての判断においては、出願当時の技術常識、周知技術を参酌しつつ、相違点に係る構成について、引用発明や周知技術を組み合わせることによって容易に想到し得るものであるか、当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎないか等について判断されるが、この場合、本願発明、引用発明、周知技術について、技術分野が共通し、あるいは関連するものであるか、解決すべき課題・作用効果が共通するか、組合せや適用について動機付けや示唆があるか、阻害事由がないかなどについても慎重に検討した上で、判断。
無効審判における審理において、取消事由のタイトルとして新規性に係る判断を争う趣旨を明示しなかったとしても、主張自体から新規性についても争う趣旨である旨理解することができるのであれば、裁判所が新規性につちえ判断することは可能。
知財p125
知財高裁H23.8.9
テレビ番組のオープニングテーマ用の楽曲の作曲者らによる、同楽曲を使用した放送社の承継会社に対する、同人らの許諾を得ずに同楽曲を使用したという主張に基づく不当利得返還請求が認められなかった事例
事案 Xらは、・・・使用料が支払われておらず、本件楽曲の使用を許諾していないと主張して、Aの権利義務を承継したYに対し、右期間の使用料相当額の不当利得の返還を請求。
争点 @本件楽曲の本件使用についての許諾の有無
AXらの損失の額
判断 本件における事実関係からするとXらは、B又はAに対し、20万円を対価として、本件楽曲をオープニング映像に使用することを許諾したと認めるのが相当であり、許諾に当たり、Xらが主張するような停止条件(相当額の著作権使用料の支払)が付されていたと認めることはできない。
解説 当初から、使用目的、使用方法等が特定されて制作を委嘱された著作物については、当初予定されていた範囲内における使用(複製、上演、上映、公衆送信、展示等)であれば、著作者はその使用を許諾していると認められる場合が多いであろう。
but
具体的事例においては、当該著作物の内容、著作物の制作に当たって金銭の授受がなされたか否か、その金銭の額、当該著作物の使用の形態・回数、著作物制作に至る経緯、その後の経緯等の諸事情を総合して、著作物の使用につき著作権者の許諾があるか否かを判断。
労働p133
東京高裁H22.12.22
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条1項は私法的効力、強行性を有するものではないとされた事例
規定 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 第9条(高年齢者雇用確保措置)
定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
一 当該定年の引上げ
二 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
三 当該定年の定めの廃止
事案 60歳定年制を定める就業規則は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条1項に違反して無効である⇒雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求め、Xらの雇用契約上の地位を否定することは不法行為に当たるとして、損害賠償を請求。
判断 @雇用安定法9条1項の規定は、これに違反した場合に、65歳未満の定年を無効とする、私法的効力、強行性を有するものではない
A保年制度が雇用安定法9条1項2号の継続雇用制度に該当しないということはできない、
B本件制度は公序良俗に違反するとはいえない。
刑事p143
@最高裁H22.9.27
A最高裁H22.9.27
@事件:
道路整備特別措置法58条、24条3項は実質的には高速道路株式会社に定めを委任していないなどとして、同条項に関する憲法31条、41条、73条6項違反の主張が排斥された事例
A事件:
道路整備特別措置法58条、24条3項は実質的には高速道路株式会社に定めを委任していないなどとして、同条項に関する憲法31条、73条6項違反の主張が排斥された事例
規定 憲法 第31条〔法定手続の保障〕
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
第41条〔国会の地位、立法権〕 
国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
第73条〔内閣の事務〕
内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
判断 @:
本条24条3項は、国土交通省令で定めるところにより通行方法を定めることができるものとされ、かつ、定めるに当たっては国土交通大臣の認可を受けることとされているから、実質的には高速道路う株式回hさに定めを委任しておらず・・・。
A:
本条24条3項は、料金の徴収を確実に行うため国土交通省令で定めるところにより通行方法を定めることができるものとされ、かつ、定めるに当たっては国土交通大臣の認可を受けることとされているから、実質的には会社に定めを委任しているとはいえず・・・
2124
2124 東京地裁H23.3.23 1.抗がん剤イレッサにつき、厚生労働大臣の輸入承認行為が国家賠償法1条1項の適用上違法とはいえないとされた事例
2.抗がん剤イレッサにつき、厚生労働大臣がその副作用である間質性肺炎による被害の発生を防止するために製薬会社に対し添付文書の記載について行政指導をしなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例
3.抗がん剤イレッサにつき、製造物責任法上の設計上の欠陥があるとはいえないとされた事例
4.抗がん剤イレッサにつき、添付文書による医師等に対する間質性肺炎の副作用についての安全性確保のための情報提供が不十分であったとして、製造物責任法上の指示・警告状の欠陥があるとされた事例
事案 英国の制約会社であるAstraZeneca PLCが合成・開発し、その我が国における子会社である被告アストレゼネカ株式会社が輸入販売した肺がんの抗がん剤(「イレッサ」)を投与されてその後死亡した患者3名の遺族である原告らが、同患者らはイレッサの副作用により間質性肺炎を発症しまたは憎悪させて死亡したものであり、その輸入承認をした厚生労働大臣の行為に国家賠償法1条1項の適用上の違法があり、また、その輸入販売をした被告会社に対して製造物責任法3条または不法行為に基づき、上記患者らの死亡に係る損害(慰謝料、弁護士費用)の賠償を求める事案。(原告合計4名、請求額合計7700万円)
解説 厚生労働大臣の薬事法上の措置の国賠法1条1項の適用上の違法性について、クロロキン製剤に関する最高裁H7..6.23:

厚生大臣による医薬品の製造の承認等の行為と国家賠償法1条1項の違法性について、「厚生大臣による医薬品の製造の承認等の行為は、その時点における医学的、薬学的知見の下で、当該医薬品がその副作用を考慮してもなお有用性を肯定し得るときは、国賠法1条1項の適用上違法ではない」旨判示。

厚生大臣のが医薬品の副作用による被害の発生を防止するために薬事法上の権限を行使しなかったことと国賠法1条1項の違法性につき、
「厚生大臣が医薬品の副作用による被害の発生を防止するために薬事法上の権限を行使しなかったことが、当該医薬品に関するその時点における医学的、薬学的知見の下において、薬事法の目的及び厚生大臣に付与された権限の性質等に照らし、その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その権限の不行使は、国賠法1条1項の適用上違法となる」旨判示。
本判決は、薬事法(14年改正前のもの)23条、14条の規定を踏まえつつ、クロロキン訴訟最高裁判決の違法性判断基準に則り、イレッサの輸入承認当時の有用性(有効性、安全性)、国の医薬品輸入承認、規制権限不行使の違法性について、詳細に判断。
医薬品添付文書の記載と医師の注意義務について判断した、最高裁H8.1.23、最高裁H14.11.8を踏まえ、添付文書は、法の規定に基づいて、医薬品の製造業者又は輸入販売業者が作成するものであり、その投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載されるものであって、医薬品を治療に使用する医師等が必ず確認し、そこに記載された使用上の注意事項に従わなければならないものであるから、その時点における医学的、薬学的知見に基づいてい、医薬品の副作用等その安全性を確保するために必要な使用上の注意義務は基本的に添付文書に記載されていなければならない。

厚生労働大臣は、医薬品の輸入を承認するに当たり、原則として、その添付文書に当該医薬品の副作用等その安全性を確保するために必要な使用上の注意事項の記載がされているか否かを審査すべきであり、安全性確保のために必要な記載が欠けていれば、これを記載するよう行政指導する権限を行使すべき責務があるというべきであって、他の時期、態様等の相当な措置を考慮することができる。

添付文書に対する行政指導を怠ることは許されず、この面における厚生労働大臣の指導は医薬品の安全性確保のために不可欠のものというべきである旨の判断。
製薬会社における医薬品の安全性確保義務の観点から、製造物責任の判断基準を示しており、特に、添付文書による指示・警告については、前記のような添付文書の性質にかんがみ、医薬品の副作用等その安全性を確保するために必要な使用上の注意義務は基本的に添付文書に記載されていなければならない。
これを欠く場合には、他の方法により安全管理が十分に図られたなどの特段の事情のない限り、指示・警告上の欠陥がある。
判断 ■国の責任
●輸入承認の違法

イレッサは、承認当時、「手術不能または再発非小細胞癌」について効能、効果を有すると認められ、その効能、効果に比して、著しく有害な作用を有することにより医薬品として使用価値がないとは認められず、有用性を肯定することができた。
イレッサは、承認当時の医学的、薬学的知見の下で、有用性を肯定することができたから、厚生労働大臣によるイレッサの承認は、国賠法1条1項の適用上、違法とはいえない。
●イレッサの輸入承認時における権限不行使の違法

厚生労働大臣は、イレッサ輸入を承認するに当たり、被告会社に対し、イレッサの副作用として間質性肺炎が発症することを、添付分sy穂の警告欄に記載するか、そうでなくても、他の副作用の記載よりも前の方に記載し、かつ、致死的となる可能性のあることを記載するよう行政指導すべきであった。本件において、他に安全性確保のために十分な措置が講じされたなどの特段の事情も認められなかったことは、イレッサの投与を受ける患者との関係において、国賠法の適用上の違法がある。
■被告会社の責任
●設計上の欠陥

効能・効果に比して、著しい有害性を有するものとは認められず、設計上の欠陥を有するとはいえない。
●指示・警告状の欠陥

イレッサの添付文書の第1版の記載では、イレッサを使用する医師等に対する間質性肺炎の副作用に係る安全性確保のための情報提供として不十分なものであったから、イレッサには指示・警告状の欠陥があり、製造物責任法2条2項にいう「通常有すべき安全性を欠いている」状態にあった。
添付文書が第3版に改訂される前にイレッサの服用を開始した2名の患者について、添付文書の第1版にイレッサの副作用である間質性肺炎が致命的にとなる可能性があることが記載されていたとすれば、イレッサの服用を開始してこれを継続するすることはなかった⇒間質性肺炎による死亡との因果関係を肯定。
2123
2123 判例特報p3
@最高裁H23.5.30
A最高裁H23.6.6
B最高裁H23.6.14
C最高裁H23.6.21
1.公立高等学校の校長が教諭に対し卒業式における国家斉唱の際に国旗に向かって起立し国家を斉唱することを命じた職務命令が憲法19条に違反しないとされた事例(@事件)
2.公立高等学校の校長が教職員に対し卒業式等の式典における国家斉唱の際に国旗に向かって起立し国家を斉唱することを命じた職務命令が憲法19条に違反しないとされた事例(A事件)
3.公立中学校の校長が教職員に対し卒業式又は入学式において国家掲揚の下で国家斉唱の際に起立して斉唱することを命じた職務命令が憲法19条に違反しないとされた事例(B事件)
4.公立高等学校等の校長が教職員に対し卒業式又は入学式において国旗掲揚の下で国家斉唱の際に起立することを命じた職務命令が憲法19条に違反しないとされた事例
事案 @A事件:
不起立行為が職務命令違反等に当たることを理由に採用選考不合格⇒右職務命令は憲法19条に違反し、上告人を不合格としたことは違法であると主張し、国家賠償請求。
BC事件:
国家斉唱の際に不起立⇒戒告処分等取消し並びに国賠法1条1項に基づく損害賠償を求めた。
規定 第19条〔思想及び良心の自由〕
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
判断 本件職務毎令の憲法19条適合性について判断:
(ア)
本件職務命令は、一般的、客観的な見地からは式典における慣例上の儀礼的な所作とされる起立斉唱行為ないし起立行為を求めるものであるところ、それが国旗及び国歌に対する敬意の表明の要素を含む行為であることから、結果としtて上記の要素との関係で上告人らの歴史観ないし世界観に由来する敬意の表明の許否という行動との相違を生じさせることとなるという点で、思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があることは否定した難いとした上で、
(イ)
本件職務命令は、学校教育の目標や卒業式等の儀式的行為の意義、在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿い、かつ、地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性を踏まえた上で、生徒等への配慮を含め、教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図るものであり、職務命令の目的、内容と制約の態様等を総合的に較量すれば、本件職務命令には、上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるから、上告人らの思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反するとはいえないと解するのが相当であるとして、それぞれ上告人らの上告を棄却。

職務命令による外部的行動の制限が思想及び良心の自由についての制約に該当するか否か(制約該当性)、該当するとして許容されるか否か(制約許容性)について、判断。
解説 内心の自由と外部的行動との関連性を認め、外部的行動の制限が内心の自由についての間接的な制約となる場合があり得ることを肯定した上で、一定の外部的行動の制約が、それ自体としては内心の自由を制約する目的はなく、個人の思想とは関係のない事柄を目的とするものであっても、個人の歴史観ないし世界観において否定的な評価の対象となるものに対する敬意の表明の要素を含むものと一般的、客観的な見地からも認められる事例においては、社会一般の規範等が個人の歴史観ないし世界観に由来する外部的行動と抵触する場面の一例として、個人の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があると評価されると判断したものであり、この判断枠組みは、外部的行動の強制を通じて思想及び良心の自由が間接的に制約される場合があり得るとする学説の考え方とも符合。
このような間接的な制約の合憲性に係る審査基準については、その制約が思想及び良心の自由に対する直接的な制約ではなくその趣旨に照らした間接的な制約であることに鑑み、精神的自由権のうち表現の事由等に対する直接的な制約について論じられている「明白かつ現在の危険」や「LRA」等の基準によるのではなく、右のような間接的な制約に即した判断枠組みとして、一定の外部的行動をも尾tめる職務命令が個人の思想及び良心の自由について及ぼす間接的な制約の態様等との相関性の度合いに応じて、その外部的行動を命ずる職務命令にその間接的な制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるかという較量の観点から当該職務命令の合憲性を判断するという、相関的・総合的な比較衡量の判断枠組みが採用されたもの。
精神的自由権の直接的な制約の合憲性に係る近時の最高裁の判例は、一般的に、一定の利益を確保しようとする目的のために制限が必要される程度と、制限される自由の内容及び性質、これらに加えられる具体的制約の態様及び程度等を具体的に比較衡量するという利益考量論を採用した上で、その際の判断基準として、「明白かつ現在の危険」の原則、「不明確のゆえに無効」の原則、「必要最小限度」の原則、「LRA」の原則などの様々な基準のうち、個々の具体的な事案に応じて、その処理に適する基準を適宜選択してその内容を変容させ若しくはその精神を反映させる限度にとどめ、又は様々な基準ないしその精神を併せて考慮することによって、あえて特定の基準を定立してこれに縛られることなく、柔軟な対処をしているものと解されている。
その上で、思想及び良心の自由についてはの間接的な制約においても、問題となる職務命令の目的及び内容には種々のものが想定される上、これによる外部的行動の制約を介して生ずる思想及び良心の自由についての間接的な制約の態様等も個々の事情に応じて様々であることを考慮して、当該職務命令に右の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるか否かとうい相関的・総合的な比較衡量の判断枠組みを採る合憲性審査基準が示されたもの。
間接的な制約を許容するに足りる職務命令の必要性及び合理性の程度も、このような間接的な制約の態様等との相関関係における総合的な較量によって判断されるべきこととなる。
このような観点から、本件各判決は、本件職務命令の必要性及び合理性について検討し、学校の式典における国旗掲揚の下での国家斉唱の際に起立性勝行為または起立行為を求める本件職務命令は、学校教育の目標や卒業式等の儀式的行為の意義、在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿い、かつ、地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性(憲法及び地方公務員法上の全体の奉仕者性等)を踏まえた上で、生徒等への配慮を含め、教育上の行司にふさわしい秩序の確保ととともに当該式典の円滑な進行を図る者であるということができるとして、両者の相関的・総合的な比較衡量の観点から右の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるとの判断を示したもの。
民事p41
最高裁H23.6.3
土地を時効取得したと主張する者が、当該土地は所有者が不明であるから国庫に帰属していたとして、国に対し当該土地の所有権を有することの確認を求める訴えにつき、確認の利益を欠くとされた事例
事案 宗教法人であるXが、本件土地は民法239条2項にいう「所有者のいない不動産」として国庫に帰属していたところ、Xが法人格を取得し昭和30年から20年間これを占有して時効取得したと主張して、Y(国)に対し、Xが本件土地について所有権を有することの確認を求めた事案。
規定 民法 第239条(無主物の帰属) 
所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
2 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。
不動産登記法 第74条(所有権の保存の登記) 
所有権の保存の登記は、次に掲げる者以外の者は、申請することができない。
一 表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人
二 所有権を有することが確定判決によって確認された者
不動産登記法 第27条(表示に関する登記の登記事項)
土地及び建物の表示に関する登記の登記事項は、次のとおりとする。
一 登記原因及びその日付
二 登記の年月日
三 所有権の登記がない不動産(共用部分(区分所有法第四条第二項に規定する共用部分をいう。以下同じ。)である旨の登記又は団地共用部分(区分所有法第六十七条第一項に規定する団地共用部分をいう。以下同じ。)である旨の登記がある建物を除く。)については、所有者の氏名又は名称及び住所並びに所有者が二人以上であるときはその所有者ごとの持分
四 前三号に掲げるもののほか、不動産を識別するために必要な事項として法務省令で定めるもの
判断 表題部所有者の登記も所有権の登記もない土地を時効取得したと主張する者が、当該土地は所有者が不明であるから国庫に帰属していたとして、国に対し当該土地の所有権を有することの確認を求める訴えは、
@国が、当該土地が国の所有に属していいない事を自認している
A国は、上記の者が主張する取得時効の起算点よりも前に当該土地の所有権を失った、
B上記の者において、当該土地につき自己を表題部所有者とする登記の申請をした上で保存登記の申請をする手続を尽くしたにもかかわらず所有名義を取得することができなかったなどの事情もうかがわれないといった事情の下では、
確認の利益を欠く旨を判示。
解説 確認の利益は、原告の権利または法律的地位に危険・不安定が現存し、かつ、その危険・不安定を除去する方法として原告・被告間当該請求について判決することが有効適切である場合に認められる。

原告が権利を有することの確認を求める訴えの確認の利益が認められる場合について、最高裁昭和35.3.11は、被告において原告の権利を否認する結果、原告の権利者としての地位に危険、不安定等何らか不利益を及ぼすおそれが現に存在する場合であることを要するとの判断を示している。
不動産登記法は、表示に関する登記と権利に関する登記とにより構成されるが、Xが本件訴えにつき勝訴判決を得た後で本件土地の所有名義を取得する方法として考えていたのは、Xが本件土地の所有権を有することを確認する旨のかくにん判決を、不動産登記法74条1項2号所定の「確認判決」として添付して、Xを所有者とする所有権の保存登記を申請する方法。(「保存登記直接型」)
but
国を被告とする本件土地の所有権確認訴訟についての勝訴判決が法74条1項2号の判決に当たるとは考えにくく、そもそもXが本件土地の所有名義を取得する方法として保存登記直接型は困難。
所有者不明で表題部所有者の登記も所有権の登記もない土地を時効取得した者が所有名義を取得するために他にとり得る方法としては、時効取得者がまず、法27条3号に基づいて自己を所有者とする表示に関する登記を申請し、次に表題部所有者としての資格に基づいて、法74条1項1号により所有権保存登記を取得する方法。(「表示登記介在型」)

表示の登記を申請にするに当たり、自己が当該土地を時効取得した事を証する情報を添付。
登記官において、実地調査の結果、申請者が時効取得者であると認められないと判断したときは、表示登記の申請を却下(法25条)。

表示に関する登記の申請を却下する登記官の行為の行政処分性の有無については議論があるところであるが、少なくとも、表題部所有者の登記の申請を、申請者が所有者であるとは認められないことを理由として却下する登記官の行為については、これと裏腹の関係にある「登記官が不動産登記簿の表題部に所有者を記載する行為」につき最高裁H9.3.11がその行政処分性を肯定したことに照らすと、行政処分性が肯定されるものと思われる。
民事p43
大阪高裁H23.4.6
一筆の土地の一部についての権利を保全するため当該一筆の土地全部について処分禁止の仮処分の申立てをすることは、保全の必要性を欠くとして理由はないが、債務者に代位した当該部分の分筆手続を行い、仮処分登記手をするため等特段の事情があるときは、申立ては理由があるというべきであるとして、原決定を取り消して事件が原審に差し戻された事例
事案 X1の被相続人Aは、本件土地(1)の一部である本件土地部分(1)をYらの被相続人であるBから購入して、その土地上に建物を建築し、Aの死亡により、X1が相続した。
X2は本件土地(1)及び本件土地(2)の一部である本件土地部分(2)にあった建物をBから購入し、その後、Bから本件土地部分(2)を購入した。
本件各土地部分については、分筆登記と所有権移転登記がなされないまま、Bが死亡し、Yらがその権利義務を承継した。
X1及びX2は、それぞれの土地部分を売買若しくは取得時効により取得したとして、Yらを債務者として、いずれも本件土地(1)及び本件土地(2)について処分禁止の仮処分の申立てをした。
原決定 一筆の土地の一部が被保全権利となっている場合、土地全部について処分禁止の仮処分をもとめることは被保全権利を超えるものであり、被保全権利の成立が一筆の土地の一部にしき認められない場合には、一筆の土地の一部についての処分禁止の仮処分を認めれば仮処分債権者は、当該命令を代位原因を証する書面として債務者に代位して、その部分の分筆の申告及びその登記をすることができるから、土地全体について処分禁止の仮処分をすることは、特段の事情がない限り必要性を欠くもので許されない。
判断 一筆の土地の一部についての権利を保全するため、当該一筆の土地全部に着いて処分禁止の仮処分の申立てをすることも、原則として保全の必要性を欠くものとして理由がないとしたものの、現行登記実務においては、実質には、分筆手続のためには、既に地積測量図が作成されているような場合を除いて、隣地所有者立会の上作成された筆界確認書、立会者の印鑑登録証明書、測量図の提出が要求され、一筆の土地の一部についての処分禁止の仮処分を認められた仮処分債権者が仮処分発令後に分筆のための手続を履践していると、測量等に相当の時間を要するばかりでなく、その密行性を保てなくなるおそれがあり、その間にYらが土地を一筆ごと現場いするなどして、仮処分の目的が達成されなくなることも十分考えられ、また、係争との土地の範囲は本件土地(1)および本件土地(2)の約80%を占めるからYらの不利益は小さい。⇒保全の必要性を認め、補償金の額を決定する手続等を行わせるために本件を原審に差し戻した。
解説 最高裁昭和28.4.16:
被保全権利が土地の一部について存するに過ぎない場合は処分禁止の措置は、この部分のみについて講ずべきであると判示しており、これを前提に、仮処分申立のための図面は正確な地積測量図を用いることが必要である旨記載。
処分禁止の仮処分を含む概念である「係争物に関する仮処分の場合には、被保全権利の疎明が確実であれば、保全の必要性はかなり抽象的なレベルのもので足りる場合が出てくる。これは訴訟承継主義の決定を補完するというこの仮処分の機能から導きだされることである。」(瀬木比呂志、・民事保全法)
民事p47
東京地裁H23.6.15
1.(1) ウェヴサイトのニュース欄に掲載された死者に係る記事について、遺族の死者に対する敬愛追慕の情を、受忍限度を超えて侵害するものとは認められないとされた事例
(2)ウェヴサイトのニュース欄に掲載された死者の手錠姿の写真について、遺族の死者に対す敬愛追慕の情を、受忍し難い程度に侵害するものと認められた事例
2.ウェブサイトの運営会社が、死者の手錠姿の写真の配信を受けてこれをウェブサイトに掲載したことにより、配信をした新聞社と共同不法行為責任を負うとされた事例
事案 Xが、Yらが共同してXの亡夫Aの社会的評価を低下させる記事及びAの手錠姿の写真をウェブサイト上に掲載したことにより、XのAに対する敬愛追慕の情を侵害されたと主張して、Yらに対し、共同不法行為に基づき、慰謝料の支払を求める事案。
判断 ●本件記事について:
「死者の名誉を毀損する行為が遺族の死者に対する敬愛追慕の情を受忍限度を超えて侵害するものであるか否かについては、当該行為の行われた時期(死亡後の時期)、死者と遺族との関係等のほか、当該行為の目的、態様や、摘示事実の性質、これが真実(又は虚偽)であるか否か、当該行為をした者が市pン実であると信ずるについて相当な理由があったか否か、当該行為による名誉棄損の程度等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。」とし、「死者に対する名誉棄損行為が不法行為となるのは、必ずしも虚偽の事実を摘示して死者の名誉を棄損した場合に限られるものではない。」とした。
⇒敬愛追慕の情の侵害による不法行為の成立を否定。
●本件写真について:
本判決は、「死者の容ぼう等が撮影された写真を公表する行為が遺族の死者に対する敬愛追慕の情を受忍限度を超えて侵害するものであるか否かについては、当該公表行為の行われた時期(死亡後の期間)、死者と遺族との関係等のほか、当該公表行為の目的、態様、必要性や、当該写真の撮影の場所、目的、態様、撮影時の被撮影者の社会的地位、撮影された活動内容等を総合考慮して判断すべきである。」
⇒本件写真の公表は、Xの敬愛追慕の情を受忍し難い程度に侵害する。
●サイト運営会社(Y2)の責任について
Y2は、本件サイトに人の人格的利益を侵害するような写真が掲載されないよう注意すべき義務を怠り、本件サイトに本件写真を掲載
⇒Y2には、本件写真を公表したことについて過失があるとして、Y2の共同不法行為責任を肯定。
解説 東京高裁昭和54.3.14:(「落日燃ゆ」事件)
「故人の死後44年後に文章が発表された場合に、行為の違法性を肯定するためには、少なくとも摘示事実が虚偽であることを要し、かつ、敬愛追慕の情を受忍し難い程度に害したと言いうる場合に不法行為が成立」
本判決は、新聞社グループ会社でる配信元が第三者の権利を侵害するものではない旨を保証しているとしても、そのことから直ちに過失がないと評価できるものとはいえないと判示。

最高裁H14.1.29:
報道内容に一定の信頼性を有している通信社から配信された記事に基づくものであるとの一事をもって、新聞社に相当の理由があったものとはいえないと判示。
「・・・取材のための人的物的体制が整備され、一般的にはその報道内容に一定の信頼性を有しているとされてう通信社からの配信記事であっても、我が国においては当該配信記事に摘示された事実の真実性について高い信頼性が確立しているということはできないのである。」

通信社が免責される場合に限って、裏付け取材をしていない新聞社も免責され得るとの考え方を示したもの。(最高裁H23.4.28)
民事p57
東京地裁H23.8.9
ビルの清掃を行っていた業者の従業員が清掃中、ビルを事務所としていた信託銀行の従業員が転倒した事故につき、転倒した者の事故態様等に関する供述の信用性が否定され、清掃業者の使用者責任が否定された事例
事案 Xは、右転倒の原因は、ビルの清掃を請け負っていたY会社の従業員が右通路に水を撒いていたことによるものであると主張し、Yに対し、民法715条に基づき、286万円余の損害賠償を請求。
判断 本件自己の原因・態様がXの主張のとおりであると認定できる証拠はXの供述等のみということになるとした上、Xが主張・供述する転倒の態様は、それ自体、普通に歩いていて濡れた床面に足を取られて転倒した態様としては通常考え難いものであること、清掃中のYの従業員は、Xがモップの柄をまたぐなどして転倒したと証言し、証人として出廷した事故報告書を作成した証人も本件事故当日その旨の報告を受けたと証言するなど、Y側の主張する事故態様は事項当日から一貫していることなど、判示の事情を考慮すれば、本件事故の原因・態様等についてはXの供述等を直ちに採用することはできず、Yの従業員に過失があったとは認められない。
民事p61
大阪地裁H23.6.27
校庭で小学校6年生(11歳11カ月)が蹴ったサッカーボールが道路に飛び出し、バイク運転中の高齢者(85歳11カ月)がこれを避けようとして転倒し、受傷したことにより死亡した事故につき、児童の責任能力は否定されたものの児童の良心の監督者責任が認められて遺族の損害賠償請求が認容されたが、被害者の死亡に対する寄与度から損害額の6割が減額された事例
事案 小学校の校庭で同校の6年の児童Y1(当時11歳11カ月)が蹴ったサッカーボールが隣接する道路に飛び出し、同道路をオートバイで進行中のA(当時85歳11カ月)がこれを避けようとして転倒し、その際の傷害が原因で死亡した事故に着き、Aの遺族X1〜X5が、Y1及びY1の両親Y2らに対して求めた損害賠償の事案。
規定 民法 第722条(損害賠償の方法及び過失相殺)
第四百十七条の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。
2 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
第712条(責任能力)
未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。
第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。
判断 Y1の過失を認めた上で、Xらの請求のうち両親Y2らに対する請求を認めたが、Y1に対する請求はこれを棄却。
Y1による過失は肯定。(・・・同道路を進行中の車両が、これを回避するため急制動等の急な運転動作を余儀なくされ、転倒等の事故が発生する危険性があることを予見することは十分に可能)

Y1は、当時11歳の小学生であったから、いまだ自己の行為の結果、どのような法的責任が発生するかを認識する能力がなかった⇒民法712条により賠償責任を負わない。

Y1の親権者Y2らはY1を監督すべき義務を負っていた⇒民法714条1項により賠償責任を負う。

本件事故とAの死亡との間には因果関係がある。

AとY1の寄与度を比較すると、Aの方が重く、Aの損害については公平な分担の見地から民法722条の規定を類推適用して、Aの訴因ないし既往症を斟酌して治療関係費の一部を除き、お6割を減額するのが相当。
解説 本件は、当該児童(11歳11カ月)の責任能力を否定して同児童に対する損害賠償請求は棄却したが、両親の監督者責任を認めた上で、被害者の死亡に対する本人の素因等及び本件事故の寄与度を斟酌し、損害の6割を減額した犯意で損害賠償を認容。
裁判例:
責任能力否定:
11歳・12歳11カ月
責任能力肯定:
13歳11カ月・13歳4カ月・14歳7カ月
被害者の心因的要因あるいは体質的要因(寄与度)により損害が発生したり、拡大した場合には民法722条2項の類推適用により損害を減額するのが相当とするのが確定した判例。(最高裁昭和63.4.21)

細菌の先例として、交通事故の被害者の事故前の身体的要因及び心因的要因により損害額の70%を減額したものがある。(松山地裁今治H20.12.25)
民事p70
静岡地裁H23.7.11
自衛隊の三等空曹が自殺した事故につき、その原因が先輩隊員のいじめるによることが認められ、遺族の国に対する国家賠償請求が認容されたが、加害先輩隊員に対する不法行為による損害賠償請求は棄却された事例
事案 航空自衛隊の三等空曹Aが自宅で自殺した事故につき、先輩隊員Y1のいじめが原因であるとして、その相続人である妻X1及び子X2並びにAの両親X3及びX4が、Y2に対して安全配慮義務違反があるとして、国賠法1条1項に基づき、またY1に対して民法709条に基づき損害賠償を求めた。
判断 Aは、適応障害がもたらす希死念慮が高じて自殺に及んだと推認するのが相当であり、Aの自殺は、Y1の違法行為から通常生じ得る事柄であるから、Y1の違法行為とAの自殺との間には、相当因果関係が認められる。⇒XらのY2に対する国賠請求は理由がある。
Y1のAに対する行為は不法行為に当たるが、Y1のAに対する行為は、その職務においてなされた行為であるところ、公権力の行使に当たる国の公務員がその職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、国がその被害者に対して賠償の責に任ずべきであって、公務員個人はその責任を負わない。(最高裁昭和53.10.20)
⇒Y1に対する請求は理由がない。
民事p108
甲府地裁H23.6.30
大学生のテニスサークルの飲み会に参加した学生が飲酒後に死亡した場合、同会に参加した大学生の損害賠償責任が否定された事例
事案 Aの両親であるxらは、Aの死亡は急性アルコール中毒であるとした上、右の飲み会に参加した学生Yらに対し、Aに焼酎を飲み回しさせたこと、危険な状態に陥ったのに介護しなかたっとし、不法行為ないし安全配慮義務違反に基づき、損害賠償を請求。
判断 @Aは、自らの意思で飲んでいた様子がうかがわれるので、Yらが、Aに対し飲み回しを強制したと認めることはできない。
AAは飲酒後失禁したことがあるが、急性アルコール中毒によるものかどうか判定することは不可能。⇒Aの死亡に予見可能性があったともいえない。
BY1に安全配慮義務を課すのは困難。
⇒請求棄却。
民事p113
津地裁H23.7.7
被告人との接見禁止の対象となっていない母親の面接申出の許否は違法であるとして、国に対する損害賠償請求が認められた事例
事案 同職員が、面会拒絶から30分後にXの母に電話連絡して面会実施が可能であることを伝えるなど、直ちにXの接見交通権を回復するための措置を講じたことなどの判示のような事情を総合的に考慮すれば、Xは、面会拒絶により精神的苦痛を被ったと認められるところ、これを慰謝するに足りる金額は3万円と認めるのが相当。
⇒弁護士費3000円とあわせ、Yに対して3万3000円の支払を求める限度で、Xの本訴請求を認容。
規定 刑訴法 第39条〔被拘束者との接見・授受〕
身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。
A前項の接見又は授受については、法令(裁判所の規則を含む。以下同じ。)で、被告人又は被疑者の逃亡、罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を規定することができる。
B検察官、検察事務官又は司法警察職員(司法警察員及び司法巡査をいう。以下同じ。)は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第一項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。但し、その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない。
解説 慰謝料の本質について、判例では、裁判官が、諸般の事情を考慮して裁量によって算定するものであって、算定の根拠を示す必要はない。
知財p116
知財高裁H23.2.28
「アミノシリコーンによる毛髪パーマネント再整形方法」との発明に係る特許出願について、特許法36条6項1号の規定に適合しないとした審決に誤りがあるとして、審決が取り消された事例
「アミノシリコーンによる毛髪パーマネント再整形方法」との発明についての特許出願拒絶査定に対する不服審判の不成立審決に対する取消訴訟。
規定 第36条(特許出願)
6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること
二 特許を受けようとする発明が明確であること。
三 請求項ごとの記載が簡潔であること。
四 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。
第68条(特許権の効力)
特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。ただし、その特許権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその特許発明の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。
第70条(特許発明の技術的範囲)
特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。
2 前項の場合においては、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。
3 前二項の場合においては、願書に添付した要約書の記載を考慮してはならない。
判断 特許法36条6項1号の適合性判断:
特許権者の占有権のん及ぶ範囲は、「特許請求の範囲」の記載によって画される。(68条、70条)
仮に「発明の詳細な説明」に記載・開示がされている技術的事項の範囲を越えて、「特許請求の範囲」の記載がされるような場合があれば、特許権者が開示していない広範な技術的範囲まで独占権を付与することになり、当該技術を公開した範囲で、公開の代償として独占権を付与するという特許制度の目的を逸脱。
法36条6項1号は、そのような「特許請求の範囲」の記載を許さないものとするために設けられた規定。

「発明の詳細な説明」において、「実施例」として記載された実施態様やその他の記載を参照しても、限定的かつ狭い範囲の技術的事項しか開示されていないと解されるにもかかわらず、「特許請求の範囲」に「発明の詳細な説明」において開示された技術的範囲を越えた、広範な技術的範囲を越えた、広範な技術的範囲を含む記載がされているような場合は、同号に違反するものとして許されない。
特許法36条6項1号への適合性を判断sるに当たっては、「特許請求の範囲」と「発明の詳細な説明」とを対比することから、その前提として、「特許請求の範囲」の記載に基づく技術的範囲を適切に把握すること、及び「発明の詳細な説明」に記載・開示された技術的事項を適切に把握することの両者が必要。
but事案に即し、審決の判断は誤り。
解説 特許法36条6項1号は、特許請求の範囲の記載について、発明の詳細な説明に記載した発明の範囲を越えて記載してはならない旨規定。(いわゆる、記述要件ないしサポート要件の規定)
審査基準において、特許法36条6項1号違反の類型:
@請求項に記載された事項と対応する事項が、発明の詳細な説明に記載も示唆もされていない場合
A請求項及び発明の詳細な説明に記載された用語が不統一であり、その結果、両者の対応関係が不明瞭となる場合
B出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合、
C請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を越えて特許を請求することとなる場合
知財p126
知財高裁H23.3.17
「N-S.P.C.ウォール工法」なる商標について、その登録出願の経緯が著しく社会的妥当性を欠くものではなく、また、その構成それ自体が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるとはいえないとして、商標法4条1項7号に該当しないとされた事例
事案 Xが、Yの有する「N-S.P.C.ウォール工法」なる本件商標に係る商標登録を無効にすることを求めたXの無効審判請求について、特許庁が同請求は成り立たないとした審決の取り消しを求めた事案。
Xは、本件商標の構成それ自体が公序良俗に反するものであることを主張するのではなく、専らその登録出願の経緯が著しく社会的妥当性を欠くものであると主張。
規定 第4条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。

七 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標法
判断 本件商標は、その登録出願の経緯が著しく社会的妥当性を欠くものではなく、また、その構成それ自体が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるとはいえないことは明らか。
⇒本件審決の判断に誤りはない。
解説 特許庁の商標審査基準:
「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」とは、
「その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合及び商標の構成自体がそうでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会の公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれるものとする。」
「他の法律によって、その使用等が禁止されている商標、特定の国若しくはその国民を侮辱する商標又は一般に国際信義に反する商標は、本号の規定に該当するものとする。」

審査実務においては、商標の構成自体又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合にも、同号に該当する余地がある。
東京高裁H11.11.29:
「母衣旗」「ほろはた」からなる登録商標について、町の経済の振興を図るという地方公共団体としての政策目的に基づく公益ていな施策に便乗してその遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、当該施策の中心に位置付けられている「母衣旗」の名称による利益の独占をはかる意図で登録出願したものと言わざるをえず、公正な競業秩序に反するとした例。
〜地方公共団体が原告として訴訟を提起したもの。
裁判例:
原則として、当事者同士の私的な問題として解決されるべきであって、登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないような場合に限られるものとする裁判例が複数存在。

@商標法4条1項7号は商標の構成に着目した規定
A同法4条1項欠く号が個別に不登録事由を定めていることからすると、・・・専ら当該条項の該当性の有無によって判断吸うべき
B先願主義を採用していることからすると、同項7号の規定を私的領域までに拡大解釈することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになりかねない。
商事p134
東京地裁H23.7.7
企業グループの組織再編に関連する一連の株主総会の決議不存在確認又は決議取消し等の請求につき、原告がその前提となる株主であるとは認められず、確認の利益または原告適格を有しないとして、その訴えがいずれも却下された事例
事案 大企業Sグループの創業者Aの法定相続人であるXが、同グループの事実上の持株会社であったBの株式の大半はその名義人ではなく、Aの未分割遺産としてXを含む創業者の承継人に帰属しているにもかかわらず、Y1ほかが、実質株主であるXを無視し、名義人を株主と扱って同グループの組織再編を強行(創業家を排除)したと主張し、これに関連する一連の会社組織法上の行為(@株主総会決議、A株式移転、新株発行及び合併)について、不存在の確認若しくは取消し(@につき)又は無効(Aにつき)を求めた事案。
判断 XはY1の株主となった事がないことが明らか⇒Y2を設立する株式移転の承認決議の不存在確認の訴えについての確認の利益を有せず、また、同取消しの訴え及び当該株式移転の無効の訴えについても原告適格を有しない。
解説 借用名義株主権の存否が重要な争点。
直接的な決め手となる証拠がない一方で、膨大な証拠と間接事実に関する主張があり、そのような事案における株主権の帰属を巡る争いについての事実認定の在り方として参考になる。


★平成23年10月分 (11/22勉強会)
2122
2122 判例特報p33
知財高裁H23.6.29
「肘掛椅子」を指定商品とする立体商標の出願につき、当該商標が商標法3条1項3号に該当し、同条2項に該当しないとして商標登録出願を拒絶すべきものとした審決が、同法3条2項該当性の判断を誤ったものとして取り消された事例
Yチェア立体商標事件判決
事案 「肘掛椅子」を指定商品とする立体商標の登録出願を拒絶すべきものとした審決に対する取消訴訟
規定 第3条(商標登録の要件)
自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。

三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標法

2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。
第4条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。

十八 商品又は商品の包装の形状であつて、その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標法
判断 商標法3条1項3号に該当するとした点に誤りはないが、同条2項の適用により登録を受けられるべきものに該当しないとした点に誤りがある。
●商品等の立体的形状の登録の適格性:
商標法は、商品などの立体的形状の登録の適格性について、平明的に表示される標章における一般的な原則を変更するものではないが、同法4条1項18号において、商品及び商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標については、登録を受けられないものとし、その機能を確保するために不可欠な立体的形状については、特定の者に独占させることを許さないとしているものと解される。

商品等の機能を効果的に発揮させ、商品等の美感を追及する目的により選択される形状であっても、商品、役務の出所を表示し、自他商品、役務を識別する標識として登録される可能性が一律的に否定されると解すべきではなく、・・・また、出願に係る立体商標を使用した結果、その形状が自他商品識別力を獲得することになれば、商標登録の対象とされ得ることに格別の支障はないというべきである。
●商標法3条1項3号該当性:
商品等の形状は、多くの場合に、商品等の機能又美観に資することを目的として採用されるものであり、客観的に見て、そのような目的のために採用されたと認められる形状は、特段の事情のない限り、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当すると解するのが相当。

同種の商品等について、機能又は美感上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状として、商標法3条1項3号に該当するものというべき。

商品等に、需要者において予測し得ないような斬新な形状が用いられた場合であっても、当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには、商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれば、商標法3条1項3号に該当するというべき。

本件は、・・当然に、商品の出所を識別する標識と認識させるものとまではいえず、商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に該当するとして、本願発明は商標法3条1項3号に該当。
●商標法3条2項該当性:

立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは、当該商標ないし商品等の形状、使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣伝のされた期間・地域及び規模、当該形状に類似した他の商品等の存否などの諸事情を総合考慮して判断するのが相当。

本件は3条2項により商標登録を受けることができる。
行政p45
福岡高裁H23.2.7
産業廃棄物処分場の周辺住民による、県知事が同処分場の事業者に対して廃棄物処理法19条の5第1項に基づく措置命令をすることの義務付け請求が認容された事例
事案 A社が操業していた産業廃棄物処理場において、廃棄物の処理及び清掃に関する法律所定の産業廃棄物処理基準に適合しない産業廃棄物の処分が行われたことにより、生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあるとして、本件処分場の周辺地域に居住するXら13名が、
主位的に、県知事が法19条の8第1項に基づき右支障の除去等の措置を講ずること(「本件代執行」)の義務付けを求め、
予備的に、県知事がA社に対し法19条の5第1項に基づき右支障の除去等の措置を講ずべきことを命ずること(「本件措置命令」)の義務づけをもとめた、
いわゆる非申請型義務付け訴訟。
規定 行政事件訴訟法 第37条の2(義務付けの訴えの要件等)
第三条第六項第一号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる。
2 裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。
3 第一項の義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。
4 前項に規定する法律上の利益の有無の判断については、第九条第二項の規定を準用する。
5 義務付けの訴えが第一項及び第三項に規定する要件に該当する場合において、その義務付けの訴えに係る処分につき、行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、裁判所は、行政庁がその処分をすべき旨を命ずる判決をする。
争点 <非申請型義務付け訴訟の適法要件>
@義務づけの対象となる本件各処分が「一定の処分」として特定されているか否か
A原告適格の有無
B本件各処分がなされないことにより「重大な損害を生ずるおそれ」の有無
C「損害を避けるために他に適当な方法」の有無(補充性)
<本案>
D本件処分場において産業廃棄物処理基準に適合しない産業廃棄物の処分が行われ、生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあると認められる(法19条の5第1項)か否か
E本件各処分につき義務づけの要件(行訴法37条の2第5項)が認められるか否か
判断 本件代執行の義務づけ請求については、法19条の8第1項各号の要件該当性を否定して棄却。
本件是正命令の義務付け請求については、法19条の5第1項1号の要件に該当し、また、県知事が法に基づく規制権限を行使せず本件措置命令をしないことは著しく合理性を欠き、その裁量権の範囲を超え又はその濫用となるとして、これを認容。
解説 非申請型義務付け訴訟の適法要件として「重大な損害を生ずるおそれ」等が求められる趣旨は、法令上の申請権がない者が一定の処分を求めることは処分の根拠となる行政実体法が制度上予定していないことであって、非申請型義務付け訴訟は例外的な救済方法であることから、救済の必要性が極めて高い場合に限り提起することができる。

その判断にあたっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質を勘案するものとされている。(行訴法37条の2第2項)
「重大な損害を生ずるおそれ」の審理・判断の手法については、
@個別、具体的なアプローチ(当該事案における個別、具体的な事情を基に「重大な損害を生ずるおそれ」の有無を判断)をとる裁判例と、
A一般的、抽象的なアプローチ(当該建築物等について原告が主張すると仮定した場合にそれによって一般的、抽象的に「重大な損害を生ずるおそれ」があるか否かを検討)をとる裁判例に分かれている。
民事p82東京高裁決定H223.6.22 第三債務者である銀行が事前の弁護士会照会に回答しなかった場合において、複数の店舗の取扱いに係る預金債権の差押えにつき、債権者が差押債権をいわゆる支店間支店番号順序方式により表示したときは、債権の特定を欠くとはいえないとされた事例
事案 Xは、複数の金融機関を第三債務者として、相手方が第三債務者に対して有する預金債権・貯金債権につ、各第三債務者の取扱店舗を特定することなく、いわゆる支店間支店番号順序方式により、差押債権目録「複数の店舗に預金債権があるときは、支店番号の若い順序による」と記載して債権差押命令及び転付命令の申立てをした
原決定は、右の記載では差押債権の特定が不十分⇒本件申立を却下。
Xが執行抗告。
Xは、抗告審判裁判所の指揮に従い、すべての銀行に弁護士会照会をしたところ、
三菱東京UFJ銀行は預金の種類、支店名及び口座番号を回答
三井住友銀行、りそな銀行は預金債権なしと回答
みずほ銀行は回答せず。
MKA 最高裁の判断あり。
民事p89
東京地裁H23.1.26
構造計算書の偽装された分譲マンションの建築確認及び完了検査を実施した建築基準法上の指定確認検査機関又はその確認検査員がその偽装を看過したことにつき、過失があるということはできないとされた事例
事案 耐震強度偽装事件で、構造計算の偽装された分譲マンションの購入者らが、そのマンションの建築確認及び完了検査を実施した建築基準法上の指定確認検査機関であるY1(不法行為)及び右マンションの建築された区域における建築基準法所定の確認に関する事務をつかさだどる建築主事が置かれた地方公共団体Y2(国賠法1条1項)に対して損害賠償を求める。
判断 Xらの請求を棄却。

構造計算書にあった数値の食い違いを発見できれば偽装が判明したとはいえるものの、Y1又はその確認検査員にその数値の対照を行うべき義務があったとはいえず、これを行わなかったことをもって過失があるということはできない。
解説 最高裁H17.6.24:
指定確認検査機関の確認に係る建築物について確認をする権限を有する建築主事が置かれて地方公共団体が、指定確認検査機関の当該確認につき行政事件訴訟法21条1項所定の「当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体」に当たると判断。
民事p99
東京地裁決定H22.7.6
ペット霊園におけるペット火葬炉の使用の差止めを求める仮処分の申立てを認容した保全裁判所の決定が異議裁判所において認可された事例
事案 同じ町内に居住するXらが、Yらにおいて、同霊園内にペットを火葬するための本件火葬炉を完成しているとして、人格権に基づき、Yらに対し、その使用の差止めを求めた仮処分事件。
当初は、建築禁止を求める仮処分を申し立てたが、保全手続が進行中、本件火葬炉が完成したため、申請の趣旨を変更して、本件火葬炉の使用の差し止めを求めるに至ったもの。
判断 強烈な刺激臭をXらに与えるおそれが高い。
⇒本件火葬炉の操業はXらの人格権を侵害するというべき。
解説 本件については、その後、XらがYらに対して原決定に基づく間接強制を申し立て、その申立てが認容されている。
執行裁判所は、Yらが本件火葬炉を使用したときは、Xらに対し、違反行為をした日1日につき3万円の連帯支払を命じている。
変更工事により火葬炉が別の火葬炉となれば、原決定の効力は及ばない。
⇒新たな仮処分が必要。
民事p103
大阪地裁H23.2.7
競売不動産の元所有者の買受人に対する固定資産税等の日割清算額の不当利得返還請求が否定された事例
事案 平成22年1月1日時点において、不動産の所有者であったXが、同年8月20日に担保不動産競売手続により当該不動産に係る平成22年度の固定資産税及び都市計画税の全額を納付したことにより、Yが当該不動産を取得した日の翌日以降の期間に対応する固定資産税等の負担を免れたことが不当利得に当たるとして、その日割清算額の返還及び遅延損害金の支払を求めた事案。
解説 最高裁昭和47.1.25:
固定資産税等の賦課期日である1月1日時点の所有名義人とは異なる真の所有者が存在する場合には、所有名義人の真の所有者に対する固定資産税等相当額の不当利得返還請求権が認められている。
A積極説:
賦課期日における所有者(執行債務者)は、買受人に対し、納付した固定資産税等の日割清算額の返還を求めることができる。

B消極説:
不動産競売手続による所有権移転の場合には、その返還を求めることはできない。

C折衷説:
不動産の最低売却価額(売却基準価額)の決定に固定資産税等の負担が反映されたなどの特段の事情のない限り、その返還を求めることができない。
民事p106
大阪地裁H23.3.25
中国における仲裁判断に基づく民事執行が許可された事例
事案 申立人が中国国際経済貿易仲裁委員会がした仲裁判断の我が国における執行決定を求めた事案。
規定 仲裁法 第45条(仲裁判断の承認)
仲裁判断(仲裁地が日本国内にあるかどうかを問わない。以下この章において同じ。)は、確定判決と同一の効力を有する。ただし、当該仲裁判断に基づく民事執行をするには、次条の規定による執行決定がなければならない。
仲裁法 第46条(仲裁判断の執行決定)
仲裁判断に基づいて民事執行をしようとする当事者は、債務者を被申立人として、裁判所に対し、執行決定(仲裁判断に基づく民事執行を許す旨の決定をいう。以下同じ。)を求める申立てをすることができる。
民事執行法 第22条(債務名義) 
強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。

六の二 確定した執行決定のある仲裁判断
憲法 第98条〔憲法の最高法規性、条約・国際法規の遵守〕
この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
A日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
解説 仲裁判断に基づいて強制執行をするには、執行決定が必要。(仲裁法45条1項、46条1項)
仲裁判断はそのままでは債務名義とはならず、確定した執行決定のある仲裁判断が債務名義となる。(民事執行法22条6号の2)
これは、外国における仲裁判断に基づく強制執行を求める場合でも同様。
外国における仲裁判断の承認及び執行については、仲裁法のほかに適用されるべき条約が存する場合、条約の規定が仲裁法に優先して適用される(憲法98条1項)。
中国における仲裁判断の承認及び執行に関しては、
@ニューヨーク条約の締約国とんはるとともに、
A中国との二国間条約である日中貿易協定
を締結。
@Aの関係。
A:二国間条約はニューヨーク条約よりも一層自由な要件を定めている範囲においてのみ適用される。
B:二国間条約でその条約が優先して適用されると規定し又はそのように解される場合には二国間条約が優先し、それ以外の場合には当事者の選択を認める。

本判決:ニューヨーク条約7条1項の規定に照らし、ニューヨーク条約と二国間条約とはいわば一般法と特別法の関係に立つとして、日中貿易協定が優先して適用されると判断。
日中貿易協定8条4項は、「両締約国は、仲裁判断について、その執行が求められる国の法律が定める条件に従い、関係機関によって、これを執行する義務を負う。
「法律が定める条件」:
A:ニューヨーク条約が国内法的効力を有する⇒ニューヨーク条約が定める条件をいう。
B:日本の法律(旧民訴法)が定める条件を言う。

仲裁判断の承認及び執行要件につき、ニューヨーク条約と実質的に同一の規定が設けられたことから、現在ではいずれの見解でも具体的な結論にはほとんど差異は生じない。
外国における仲裁判断の主文は、日本での判決等の主文とは形式が異なる場合が多い。
⇒場合によっては、日本の強制執行に適する形式に補正する必要が生じる。
民事p109
水戸地裁H23.6.19
介護老人保健施設において、入所中のパーキンソン病患者が食事として提供された刺身を食し燕下障害により死亡した事故につき、施設経営会社に介護保護義務違反があるとして損害賠償責任が認められた事例
判断 Aにこのような刺身を提供すれば、誤嚥する危険性が高いことを十分予想し得たと認められる
⇒同施設でAに対して刺身を常食として提供したことには、Aに対する介護契約上の安全配慮義務違反、または過失が認められる
⇒Y会社には、Aに対する債務不履行があると同時に不法行為法上の過失が認められる
⇒Y会社はAに対する損害賠償責任を負う。
知財p118
知財高裁H23.3.17
「水処理装置」に係る本願発明と「水熱反応装置」に係る引用発明とは、水の役割という点において異なり、技術分野においても異なるものであり、容器内の圧力状態や温度状態も異なるから、両者が「処理装置」の点で共通するとした審決の一致点の認定には誤りがあり、これを相違点として判断しなかった審決には、結論に影響を及ぼす違法がある。
事案 「水処理装置」に関する特許出願に対する拒絶査定不服審判の請求について、特許庁がした、請求不成立審決の取消しを求める事案
規定 特許法 第29条(特許の要件) 
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
解説 特許法29条2項のいわゆる進歩性の判断は、同条1項の発明から容易に発明することができるたか否かという観点から行われる。
同条1項の発明は「引用例」。
事後分析的な後知恵の判断を回避するためには、対象となる発明を認識しないという想定の下で引用例の選択が容易であったことを論証する必要がある。
往々にして、技術分野の異なるものを引用発明とする場合に、上位概念における一致点を認定する場合には、容易想到性の判断に留意が必要。
本判決は、両者が、水の役割という点において異なるものであり、技術分野においても異なる上、容器内の圧力状態や容器内の温度状態も異なることを指摘して、審決を取り消したものであり、主引用例適格性の問題を指摘したもの。
知財p127
知財高裁H23.4.28
浄水器に係る本件意匠について、引用意匠との共通点は、いずれも各別に顕著な特徴ということはできないのに対し、差異点は、美感に及ぼす影響が大きく、需要者に全体として引用意匠とは異なる美感を生じさせる意匠的効果を有するから、本件意匠と引用意匠とを全体的に観察した場合、両意匠は類似するものということはできないとされた事例
事案 Xが、Yの本件意匠(物品「浄水器」)に係る意匠登録に対する無効審判請求について、特許庁が同請求は成り立たないとした審決の取り消しを求めた事案。
規定 第3条(意匠登録の要件)
工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる
一 意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠法
二 意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた意匠法
三 前二号に掲げる意匠に類似する意匠法
2 意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは、その意匠(前項各号に掲げるものを除く。)については、前項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。
第23条(意匠権の効力)
意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する。ただし、その意匠権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

第24条(登録意匠の範囲等)
登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添附した図面に記載され又は願書に添附した写真、ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基いて定めなければならない。
2 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。
判断 本件意匠と引用意匠は類似するものとはいえないと判断し、Xの請求を棄却。
@共通点について
・・いずれも本件出願日前から普通に見られる、ありふれた態様であって、本件意匠及び引用意匠における格別に顕著な特徴ということはできない。
A差異点について
・・顕著な特徴ということができ、美感に大きな影響を与えるものということができるのみならず、差異点7についても、美感に影響を与えるものということができる。
⇒需要者に全体として引用意匠とは異なる美感を生じさせる意匠的効果を有する。
B類否について
本件共通点は、浄水器において普通に見られるありふれた態様であって、いずれも本件意匠及び引用意匠における格別に顕著な特徴ということはできないのに対し、本件差異点は、美感に及ぼす影響が大きく、需要者に全体として引用意匠とは異なる美感を生じさせる意匠的効果を有するものと認められるから、本件意匠と引用意匠とを全体的に観察した場合、両意匠は類似するものということはできない。
解説 意匠の登録事由に係る類否判断において、意匠法3条1項1号及び2号所定の公知意匠と類似の意匠であることを理由として、同項3号に該当することを理由に意匠登録出願について拒絶するためには、
@意匠に係る物品が同一又は類似であることが必要であり、さらに、
A意匠自体においても同一又は類似と認められるものでなければならない。
(最高裁昭和49.3.19)

意匠審査においては、
@対比する両意匠の意匠に係る物品の認定及び類否判断、
A対比する両意匠の形態の認定
B形態の共通点及び差異点の認定
C形態の共通点及び差異点の個別評価
D意匠全体としての類否判断
という手法で判断される。
意匠権の効力は、登録意匠及びこれに類似する意匠にも及び、意匠の類否の判断は需要者の視覚を通じて起こさせる美観に基づいて行う。(意匠法23条、24条2項)から、同法3条1項3号については、同一又は類似の物品の意匠間において、需要者のの立場から見た美感の類否についての検討することが必要。
労働p133
岐阜地裁H23.2.24
上司の指示により、裏金を県職員組合へ寄附する方法も考えられると各課へ示唆する行為を行った岐阜県職員に対する懲戒免職処分が、社会通念上著しく妥当性を欠くとして、取り消された事例
事案 岐阜県職員であったXが、上司から指示されて、裏金が各課に残存している場合には県職員組合の口座に振り込む方法もあることを各課に伝達した事につき、岐阜県知事より懲戒免職処分に付されたことを不服として、Y(岐阜県)に対し、同処分の取消及び退職手当相当額等の損害賠償を求めた事案。
判断 懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が、社会通念上著しく妥当を欠く場合は違法となり、処分を取り消し。

@Yにおける裏金は、これらを存在しないものとすることとする知事らの方針により、各課に管理されている状態で、既に組織的に隠ぺいされていたといえ、これを職員組合へ移転することによる新たな隠ぺいの効果は限定的。
AXに、本件集約が裏金の隠ぺい工作としてされたとの認識があったという本件処分の前提認識は妥当性を欠く。
BXは、本件集約決定自体には関与しておらず、機械的、従属的かつ代替的な本件伝達行為を行ったにすぎず、「深く」本件集約に関わったとはいえない。
解説 最高裁昭和32.5.10:
公務員に対する懲戒処分については、懲戒権者が懲戒処分を発動するかどうか、懲戒処分のうちのいずれの処分を選ぶべきかを決定することは、その処分が全く事実上の根拠に基づかないと認められる場合であるか、もしくは社会通念上著しく妥当性を欠き懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えるものと認められる場合を除き、懲戒権者の裁量に任されているものと解するのが相当である。
2121
2121 判例特報p34
最高裁H23.6.6
証券取引法(平成18年法律第92号による改正前のもの)167条2項にいう「公開買付け等を行うことについての決定」の意義
事案 平成16年11月8日ころ、ライブドアのCから、同社の業務執行を決定する機関が同社においてニッポン放送の総株主の議決権の5%以上の株券等を買い集めることについての決定をした旨の公開買付けに準ずる行為の実施に関する事実の伝達を受けた後、同事実の公表前であに、ニッポン放送轄計193万3100株を価格合計99億5216万円余りで買い付けた行為が、証券取引法167条3項に違反するとして、起訴された事実。
争点 「公開買付け等の実施に関する事実を知った」という要件を満たすか否か。
より具体的には、
証券取引法167条2項が、「公開買付け等の実施に関する事実」とおは、公開買付社等が法人である場合、当該法人の「業務執行を決定する機関」が「公開買付け等を行うことについて決定をしたこと」と規定し、証取法施行令31条は、会社の総株主の議決権数の5%以上の株券等の買集めを、公開買付けに準ずる行為と定めていることから、
@C及び、ライブドアの取締役兼最高財務責任者であったDが、ライブドアの業務執行を決定する機関であるか、
AC及びDが、平成16年11月8日までの間に、ニッポン放送株の5%以上の大量買集めを行うことについての決定をしたのか、
B被告人に故意があったのか
が争点。
判断 「決定」の有無の判断の際に公開買付け等の実現可能性がどのように位置づけられるかという点に関しては、証券取引法167条は、インサイダー取引としての規制範囲を明確にして、予測可能性を高める見地から、同条2項の決定の事実があれば通常それのみで投資判断に影響を及ぼし得ると認められる行為に規制対象を限定することによって、投資判断に対する個々具体的な影響の有無程度を問わないこととした趣旨と解されるとした上で、
証券取引法167条2項にいう「公開買付け等を行うことについての決定」をしたというためには、同項にいう「業務執行を決定する機関」において、公開買付け等の実現を意図して、公開買付け等の又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされれば足り、公開買付け等の実現可能性があることが具体的に認められることは要しない
解説 最高裁H11.6.10:
証券取引法166条2項1号にいう株式の発行を行うことについての「決定」の意義について、「証券取引法166条2項1号にいう「株式の発行」を行うことについての「決定」をしたとは、右のような機関において、株式の発行それ自体や株式の発行に向けた作業等を会社の業務として行う旨を決定したことをいうものであり、右決定をしたというためには右機関において株式の発行の実現を意図して行ったことを要するが、当該株式の発行が確実に実行されるとの予測が成り立つことは要しないと解することが相当である。」
行政p38
最高裁H23.6.7
公にされている処分基準の適用関係を示さずにされた建築士法10条1項2号及び3号に基づく一級建築士免許取消処分が、行政手続法14条1項本文の定める理由提示の要件を欠き、違法であるとされた事例
事案 耐震性等の不足する構造上危険な建築物を現出させ、また、構造計算書に偽装が見られる不適切な設計を行ったとの理由で、国土交通大臣から、建築士法10条1項に基づく懲戒処分として、一級建築士免許の取消処分を受けたXが、Y(国)を相手に、本件免取消処分の取消しを求めた事案。
Xの主張 @・・本件処分基準に当てはめると免許取消しの基準には達しておらず、本件免許取消処分には裁量権の範囲を逸脱した違法がある。
A本件免許取消処分は、公にされている本件処分基準の適用関係が理由として示されておらず、行政手続法14条1項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法な処分である。
規定 行政手続法 第14条(不利益処分の理由の提示)
行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。
3 不利益処分を書面でするときは、前二項の理由は、書面により示さなければならない。
行政手続法 第12条(処分の基準)
行政庁は、処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない。
2 行政庁は、処分基準を定めるに当たっては、不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。
判断 原判決を破棄し、第一審判決を取り消して、Xの請求を認容。

建築士法10条1項2号及び3号に基づいてされた一級建築士免許取消処分の通知書において、処分の理由として、名宛人が、複数の建築物の設計者として、建築基準法令に定める構造基準に適合しない設計を行い、それにより耐震性等の不足する構造上危険なん建築物を現出させ、又は構造計算書に偽装が見られる不適切な設計を行ったという処分の原因となる事実と、同項2号及び3号という処分の根拠法令が示されているのみで、同項所定の複数の懲戒処分の中から処分内容を選択するための基準として多様な事例に対応すべくかなり複雑な内容を定めて公にされていた本件処分基準の適用関係が全く示されていないなど判示の事情の下では、名宛人において、いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって当該処分が選択されたのかを知ることができず右取消処分は、行政手続法14条1項本文の定める理由提示の要件を欠き、違法である。
解説  ●最高裁のこれまでの判例:
一般に、法が行政処分に理由の提示を求めているのは、処分庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものであり、その提示を欠くにおいては処分自体の取消しを免れず、どの程度の理由を提示すべきかは、処分の性質と理由の提示を命じた各法律の規定の趣旨目的に照らしてこれを決定すべきであるとされてきた。
●処分基準と理由の提示の程度:
行政手続法14条の解釈として、処分基準が公にされている場合には、理由の提示において、処分基準のどの部分に依拠して結論に達したかを示す必要があるとする学説が有力。

判断過程の透明化という観点から、行政手続法12条において、処分基準を設定して公表すべき努力義務が行政庁に課されており、14条の理由提示の規定は、12条の規定とあいまって、処分庁の判断の慎重と合理性を担保し、名宛人に不服の申立ての便宜を与えることをその趣旨とする。
●処分理由の差替:
行政庁の処分時における事実認定や根拠法規の解釈適用に誤りがあった場合等に、取消訴訟の審理過程において、行政庁側が処分時には考慮していなかった新たな事実上及び法律上の根拠を処分の適法性を基礎付ける事由として訴訟上主張すること。

取消訴訟の訴訟物は処分の違法一般であり、行政庁側は、特段の理由のない限り、当該処分の効力を維持するための一切の法律上及び事実上の根拠を主張することができる。(最高裁昭和53.9.19)

処分の同一性を失わない限り、処分理由の差替えは原則として自由

法が処分理由の提示を要求する一般的な趣旨は、理由提示の不備がそれのみで独立の処分の取消事由となり、しかもこの瑕疵の治癒が容易に認められないと解されていることで一応担保されている。

処分時における理由の提示の要否及びその程度と訴訟における処分理由の差替えの可否とは必ずしも論理的に連動する関係にはない。(最高裁H11.11.19)
民事p50
東京高裁H23.3.24
貸金業者が交付したリボルビング方式による貸付けに係る契約書面の記載が貸金業法17条所定の要件を具備するものでなかった場合において債務者から利息制限法所定の制限超過部分の支払を受けた貸金業者についての悪意の受益者と推定するのを妨げる特段の事情があるとした第1審判決を取り消して悪意の受益者と推定された事例
争点 Yの悪意の有無。
Xは、Yが交付したリボルビング方式による貸付けに係る契約書面の記載が貸金業法17条所定の要件を具備するものでなかった場合であることを前提に、Yの悪意を主張。
Yは、Yが当該取引にみなし弁済規定の適用が認められるとの認識を有していたことについて、やむを得ない特段の事情があったと主張してその悪意を争う。
解説 利息制限法所定の制限超過部分の支払にみなし弁済規定の適用がなくその元金充当によって過払金が発生する場合に、貸金業者が当該過払金について悪意の受益者であるといえるか否かについては、貸金業者がみなし弁済規定の適用があるとの認識を有し、かつ、そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ない特段の事情があるときでない限り、その悪意が推定される(@最高裁H19.7.13)。
A最高裁H19.7.13はその推定を覆すことができない場合
B最高裁H19.7.17はその推定がされる場合
について判示。
C最高裁H21.7.10、D最高裁H21.7.14は、その推定ができない場合について判示。
貸金業者の悪意の認定(推認)について、

@ABは、みなし弁済規定の適用がないことの認識がいわゆる書面性に係る場合であって、みなし弁済規定の適用を求める貸金業者に交付が義務づけられている契約書面及び受取証書の記載が書面性の要件を充足するものあったか否かの認識の問題であって、貸金業者が自ら書面性の要件を具備するものと判断して作成すべき書面性の要件に欠けるとしたら、特段の事情のない限り、その悪意が推定されるべきもの。

CDは、いわゆる任意性の要件に係る場面であって、貸金業者に対する債務者の返還が任意性の要件を具備するものであったか否かについて、貸金業者が容易に判断し得るものであれば、書面性の要件と同列に論じ得ないわけではないが、貸金業者が容易に判断し得るものではなく、基調を異にする判断が示されている。
本件は、書面性の要件を充足しないためにみなし弁済規定の適用を否定されるという場合。⇒@ABの判旨が妥当する場合。
民事p55
知財高裁H23..6.30
受託者が委託者の顧客に対して継続的にLPガスを供給する旨のLPガス配送委託契約が合意解除された後、受託者が委託者の顧客に対して自らの営業活動を行ったことが、同契約に基づく守秘義務及び競業避止義務並びに信義則上の競業避止義務に違反する債務不履行にも、違法な勧誘行為により委託者の顧客を奪った不法行為にも当たらないとされた事例
事案 Xが、Xの顧客名簿をYが不正に使用して営業活動を行い、Xの顧客を奪ったことは、
@不正競争防止法2条1項7号の「営業秘密の不正使用」に該当する
AXとYとの間のLPガス供給契約に基づく守秘義務及び競業避止義務並びに信義則上の競業避止義務に違反する債務不履行に該当する
B違法な勧誘行為によりXの顧客を奪った不法行為に該当する
などと主張して、損害賠償金1億3440万円及び遅延損害金の支払いを求めた事案。
規定 第2条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
七 営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為

6 この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
判断・解説 ●営業秘密保不正使用 営業秘密の不正使用について主張する以上、Xが当該「営業秘密」について具体的に特定し、主張する必要がある。
but
本件では、営業秘密について具体的な主張がされていない。
不正競争防止法における「営業秘密」に係る不正行為に該当すると、損害賠償(損害額の推定等の定めもある。)及び差止めという強力な効果が生じる。

同法2条6項が定める
@秘密管理性、A有用性、B非公知性の各要件は厳格に判断されている。

「秘密管理性」の要件を満たすには、
書類にマル秘マークを付したり
ロッカー内に施錠して保管したり
パスワードを設定する等の方法により、秘密であることを明示し、アクセス制限を設ける等
不正利用者に対して秘密とされていることが認識され得る程度に厳重に管理されていることが必要となり、他の情報と大差ない状態で管理されている場合には、当該要件を充足するものではない。

営業秘密に関する主張立証により、非公知性が失われる危険性もあり、訴訟記録鵜の閲覧等の制限(民訴法92条)を活用するなどの工夫が必要。
民訴法 第92条(秘密保護のための閲覧等の制限)
次に掲げる事由につき疎明があった場合には、裁判所は、当該当事者の申立てにより、決定で、当該訴訟記録中当該秘密が記載され、又は記録された部分の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又はその複製(以下「秘密記載部分の閲覧等」という。)の請求をすることができる者を当事者に限ることができる。

一 訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載され、又は記録されており、かつ、第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより、その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること。

二 訴訟記録中に当事者が保有する営業秘密(不正競争防止法第二条第六項に規定する営業秘密をいう。第百三十二条の二第一項第三号及び第二項において同じ。)が記載され、又は記録されていること。.
守秘義務・競業避止義務 Xは、その顧客に対するLPガスの供給業務をYに委託

当該委託関係が継続している間において、XがYの顧客に対して営業活動を行えば、競業避止義務違反を問われる。
本判決は、平成21年4月以降もYがXの顧客に対するLPガスの供給を一部継続したことを、ライフライン維持を目的とした例外的扱いであるとして、本件契約が既に合意解除されたものと認定し、さらに、当該例外的取扱いが継続する期間において、Yは競業避止義務を負わないものとしている。
X自らが営業権の譲渡を計画し、Yの競合企業に売却を決意
明確な競業避止義務に関する合意が認められない本件において、信義則に基づく競業避止義務を認めるのは困難。
不法行為 本件では、本件営業活動について、自由競争の範囲を逸脱したとまでは認められない態様の営業活動であり、不法行為に該当しない。
but
営業活動において、虚偽の事実を申し向けるなどして、従来のXの顧客を獲得するに至ったのであれば、不法行為が成立する余地はある。
民事p65
名古屋高裁H23.3.18
交通事故の被害者について、脳脊髄液減少症の発症が認められた事例
事案 犬を連れて歩道線内部を散歩中、後方から進行してきたY運転の自動車に跳ね飛ばされた。
原審 髄液漏れを否定し、Xの損害は、既払金975万円余により全て補填されている。
⇒Xの請求棄却。
判断 Yに対し、未払い分約588万円余の支払いを求める限度で、本訴請求を認容。

@Xは、本件事故により、外傷性脳脊髄液減少症となり、熱海病院の診療によってこれが完治したものと推認するのが相当。
AXは、日本神経外傷学会の診断基準に当てはめても、起立性の強い頭痛が事故直後から発生し、髄液の漏出も確認されているのであるから、Xの疾病が脳脊髄液減少症であることは明らか
BXが外傷性脳脊髄液減少症の診断を受けたのが、事故後約2年8カ月程度経過後であったとしても、自己との間の法的因果関係を否定することはできない。
解説 その病態の発症機序や治療方法等について確立した見解がないため、その処理に困難が伴うが、病態の主因は、脊髄で髄液の漏出であることは間違いなさそうであり、近時の診断基準としては、国際頭痛学会の診断基準日本神経外傷学会の診断基準が用いられている。
下級審の裁判例では、近時、これを否定するものが多くなっている。
本件では、髄液漏れと診断されたことを重視し、脳脊髄液減少症を認めたもの。
民事p71
東京地裁H22.6.9
1.医療法人の業務委託契約の締結及び業務委託料の支払について医療法人理事長、監事、事業委託先会社及び業務委託先会社代表者の共同不法行為が成立するとして、医療法人の共同不法行為者に対する適正な業務委託料を超える支出分についての共同不法行為に基づく損害賠償請求が認容された事例
2.医療法人の業務委託契約の締結及び業務委託料の支払について医療法人理事長及び監事の善管注意義務違反の債務不履行が成立するとして、医療法人の理事長及び監事に対する適正な業務委託料を越える支出分についての債務不履行に基づく損害賠償請求と共に認容された事例
3.医療法人の締結した業務委託契約が理事長の利益相反取引に当たり無権代理により無効であるとして、医療法人の業務委託先会社に対する適正な業務委託料を越える支出分についての不当利得返還請求が不法行為に基づく損害賠償請求と共に認容された事例
4.医療法人の資産の廉価売買について理事長と買主の共同不法行為が成立するとして、共同不法行為者に対する時価と売却価格との差額相当額の損害賠償請求が認められた事例
争点 @本件各行為についての本件共同不法行為1の成否
A本件債務不履行の成否
B本件不当利得の成否
C本件売買についての本件共同不法行為2の成否
解説 取引的不法行為 取引的不法行為
必ずしも所有権などの財産権の侵害を伴わず、当事者(通常は取引の相手方)の社会的相当性を欠く違法な行為によって取引行為を介して被害者の一般財産が減少するなどして損害を被った場合に、取引行為(これに付随する勧誘行為等も含む。)そのものを不法行為ととらえて損害の賠償を求めるもの。

侵害行為の客観的態様図利他害等の行為者の意図等を総合的に考慮して社会的相当性を逸脱して違法性を有するか否か(違法性判断)によって、不法行為の成否を判断するのが判例・通説。
本判決:
本件各行為は、代表者の利害相反取引であって、悪意の相手方に無効であることを対抗しうる取引行為である上、善管注意義務を負う代表者がその任務に違背して図利他害目的をもって権限を逸脱・濫用して行った必要性・有用性・対価性を欠いて相手方に利益を本人に損害をもたらす取引行為であって、社会的相当性を逸脱して違法性を有する取引的不法行為に該当。
⇒不法行為該当性を肯定。
本判決:
当事者の法律構成を前提に、本件売買の効力について触れることなく、対価性の欠缺と当事者の認識に着目して本件売買の不法行為該当性を肯定し、本件売買を一般財産に対する侵害ととられ、差額である本件損害2(時価と売却価格との差額相当額の損害)を損害として認定。
but
代表者の権限濫用行為は、相手方が代表者の意図を知り又は知りうべきときは、民法93条但書を類推適用して無効と解するのが判例(最高裁昭和38.9.5)。

取引行為としても無効となって、物権的請求権に基づいて、本件資産の返還を求めるか、返還が不能な場合の代償請求権を行使するのが直截的な法律構成。

物権的請求権に基づいて本件資産の返還請求ができる場合に損害の発生が認められるか、本件資産のような個別財産に対する侵害行為があった場合の損害は本件資産の時価額とならないかが問題となる余地。
第93条(心裡留保) 
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
共同不法行為 判例は共同不法行為の関連共同性について、客観的共同性に立つが、
本判決も、同様の立場に立って、主観的共同性(共謀)のあった当事者及びその代表者の他に、理事の対外的事務執行である本件各行為に関する監査義務を怠る任務違背行為(作為義務違反に該当する不作為)のあった監事Y4についても、客観的共同関係があったとして、本件各行為についての共同不法行為の成立を認めた。
債務不履行 法人の役員選任行為は、委任類似の契約であり、委任の規定が適用され(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第64条参照)、役員は、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う(民法644条)。
医療法人の理事は、利益相反事項については、代理権を有さず、(改正前医療法68条、民法57条、改正後医療法46条の4E)、これに違反すれば無権代理となり、法人に効果は帰属せず、ここに利益相反事項とは、両者の実質的利益が総判旨、理事の善管義務の履行を期待しがたい事項は全て包含すると解するのが通説。

医療法人の監事は、理事の業務執行ないし法人の業務を監視し、不正を発見したときには、総会に報告し、総会を招集する義務を負う。

本判決は、かかる役員の負担する義務を前提に、本件各行為が理事の背任行為に当たり、監事について、これを放置した監査義務を怠る任務違背行為が認められたことから、債務不履行責任を肯定。
選択的併合 @Y1及びY4に対する本件不法行為債権と本件債務不履行債権
AY2に対する本件不法行為債権と本件不当利得返還請求権
は、いずれも請求権競合の関係にあり、選択的併合によるのが当事者の通常の意思

選択的併合とは、同一の給付又は形成的効果を目的とする実態法両立する複数の請求について他方が確定的に認容されることを解除条件として同時並列的に審判を申し立てること。
いずれかの請求を認容する判決をした場合には、解除条件が成就し、他の請求について判決することはできない。
この場合、どの請求権でそれぞれどれだけを認容したかを明らかにしておかなければならないが、実務上この点の判示がルーズになっているとの指摘。
請求権競合の場合であっても、原告が各別の請求原因について各別に判決を求める単純併合を選択した場合には、裁判所としてこれを排斥する理由はなく、各請求毎に請求の当否について判決すべき義務があるものと解される。
民事p88
東京地裁H23.3.17
預けられた登録刀剣の売買につき、即時取得の成立が否定された事例
判断 @刀剣類については、厳格な法規制があり、刀剣類の売買、貸付等取引を行う場合には、現物とともに登録証原本を交付するという取扱は、刀剣を扱う業界において厳守されているものであり、商慣習であるともいえ、このことは、Yも十分認識していたのであるから、Aが、本件売買の際に本件刀剣の登録証原本を所持していなかったことをもって、Yとして、Aが本件刀剣の所有権を正当に有しているかどうかについて、強く疑うべきものであった。
A・・・特に調査等も行わずに本件刀剣を買い受けたYは、本件売買の際、Aに本件刀剣の所有権ないし処分権限があると信じたとしても、そのように信じるにつき過失があったと優に認めることができる。
⇒即時取得を否定し、Xの本訴請求を認容した。
規定 民法 第192条(即時取得)
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
民法 第186条(占有の態様等に関する推定)
占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
2 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。
解説 民法192条の即時取得の要件のうち、平穏公然善意は民法186条1項により推定される。
無過失も推定される(最高裁昭和41.6.9)。
「過失のないとき」とは、占有者が権利者である外観を有しているため、この外観に対応する権利があるものと誤信し、そう信ずるについて過失のないことを意味するが、過失の有無は、取引業者の職業、商慣習、法規制、取引の状況等を総合して判断すべき。
本件は、売主が登録証原本を所持していなかったこと、Yが取引専門業者であること、取引の状況等を総合し、Yに過失があったとして即時取得を否定。
民事p91
東京地裁H22.12.22
建築業者2社からなる共同事業体が請負工事を施工し、損失が発生した場合において、企業体の代表者である建設業者が他の建設業者に損失の負担を求めることが信義則に反するとされた事例
事例 Xは、Yに対し、Yが受領した29億9420円のうち、Xの出資割合である35%に相当する10億4797万813円の分配請求権を有するとして、その一部である2億3000万円の支払を求めた。
判断 本件工事原価は34億8460万円であると認定し、損失のうち、人件費の圧縮によりYが1億円を負担する合意をした旨認定。

Yは共同企業体の代表者として財産管理権限を有し、本件工事原価を適切に管理すべき義務を有しており、中日本高速道路との間で本件工事代金の最終合意を行う前提として本件工事原価を推計し、Xに提示し、これに基づいて中日本高速道路との最終合意に応じたのであるから、Yの従業員である本件工事所長が請求書の提出を止めていたために本件工事原価の計上漏れがあった7000万円について出資割合による損失の負担を求めることは信義則に反するとしたが、その余の損失の負担については、Xが共同企業体の運営委員会等に参加して本件工事原価の管理が困難になっていることを認識していたなどとして、信義則に反することはない。
規定 第667条(組合契約) 
組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。
2 出資は、労務をその目的とすることができる。
民法 第674条(組合員の損益分配の割合)
当事者が損益分配の割合を定めなかったときは、その割合は、各組合員の出資の価額に応じて定める。
2 利益又は損失についてのみ分配の割合を定めたときは、その割合は、利益及び損失に共通であるものと推定する。
解説 大型工事でよく見られる共同事業体(ジョイントベンチャー)については、民法上、組合契約の性質を有するものとされ、その利益、損失の分配については、共同企業体の契約に特別の定めがなければ、工事完成後、損失分配の割合について定める民法674条に基づいて行われることになる。
本件は、損失の分配に関し、損失の分担が問題になった事例で、その損失の一部の分配請求が信義則により制限された事例。
民事p101
大阪地裁H22.11.29
建設機械の発注の信義則上の改修義務は、機械の耐用年数の経過等の事情により消滅したと認められた事例
判断 @XとYとは、CMT掘進機の売買の際、・・有償で改修する旨の合意をしたとは認められない。
AYは、信義則上CMT掘進機の改修に応ずべき義務を負うというべきであるが、Yの右義務は平成20年8月には消滅した。
⇒Yの債務不履行及び不法行為責任を否定し、Xの本訴請求を棄却。
解説 売買においては、売主に瑕疵担保責任があるが、実務では、売主が右責任とは別に瑕疵がないことを保証する例がしばしば見られる。
判例(最高裁H17.9.16)では、売主が、売買契約上の付随義務として、買主に対して、防火戸の操作方法について説明すべき信義則上の義務を負う。
本判決は、右判例理論に依拠し、YにCMT掘進機の信義則上の改修義務を認めたが、右掘進機の耐用年数は既に経過していること、Xは、独自に改修していること、Yとの間の信頼関係が失われていること等を考慮し、右義務は消滅したものと認めたもの。
民事p110
千葉地裁H23.2.17
建物を購入してから長期間居住した後に建物が接道義務を満たしていないため立替えができないことを理由とする買主の売主及び仲介業者に対する説明義務違反を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求が認容された事例
事案 本件土地は、道路に接していないが、本件路地を介して道路に接しているところ、本件路地は、Xの単独所有ではなく、本件土地の西側隣地の所有者の本件隣家の所有者と共有するものであって、本件土地と西側隣地には、Xの本件建物と西側隣地の所有者の本件隣家という2棟の建物が存在するが、本件路地の幅員を4メートル確保するか、本件土地の東側隣地の一部に使用権を設定しない限り、建築基準法に抵触。
争点 本件建物が接道義務を満たしていないことを前提に、
(1)Yらの説明義務違反を理由とする不法行為責任の有無
(2)不法行為責任が認められる場合の、損害の算定。
判断 (1)について、説明義務違反を否定し得ない以上、不法行為責任は免れ得ない
(2)について、Xの被った損害を1726万4356円とした。
@本件売買代金相当額2550万円と本件適正価格1500万円との差額1050万円
A本件借入れに係る各利息金相当額347万702円
B弁護士費用139万7070円
解説 東京地裁H12.2.16:
相続制法所定の相続財産の価額の算定に係る「財産評価基本通達」について、「接道義務」を充足していないためにそのままでは建物の新築ができないことによる土地の減価を、当該土地の評価額から不足土地の評価額に相当する価額の控除によって別途斟酌していることからすれば、間口4メートル未満の土地を一律に評価する財産評価基本通達の規定は不合理であるとは解されない」
民事p117
奈良地裁葛城支部H23.5.10
固定資産を評価するに当たり担当職員に評価の誤りがあり、市に損害賠償責任があるとしたが、更正処分及び還付により損害は治癒されているとして、国家賠償請求が棄却された事例
事案 Xは、Yが、Xの所有する本件建物固定資産評価を誤り、誤った課税処分を行ったと主張し、Yに対し、国賠法1条1項に基づく損害賠償を請求。
判断 固定資産評価業務に従事するYの職員は、本件建物を評価する際、本件建物に床タイルが使用されていないのに、これが使用されているを評価したのであるから、注意義務に違反する過失がある。
この誤りについては、Xから指摘を受け、Yは課税処分において、これを更正して減額分を還付しているなどと判断して、Xの本訴請求を棄却。l
解説 固定資産税は固定資産に課する地方税であり、建物の価格は「適正な時価」をいうものと定められている(地方税法341条5号)、その価格は、固定資産評価基準に基づいて決定されなければならない。
Xは、不当に徴収された税金の還付を受けているのであるから、財産上の不利益はなく、損害は回復されていいるとしは本判決の判断は相当。
財産的損害の場合は、その損害の填補を受けることによって、精神的損害も償われるので、慰謝料請求を排斥した本判決の判断は妥当。
知財p122
知財高裁H23.5.30
特許を受ける権利の共有者らから委任を受けた特許管理人が、共有者らのうちの一部の者のみを請求人として記載した審判請求書を提出して行った拒絶査定不服審判請求が、共有者全員のために行ったものであると認められるとされた事例
事案 拒絶査定に対する不服審判請求で、
審判請求書には審判請求人としてX1の名称しか記載されていなかったため、特許庁は、審判請求は不適法な請求であり、その補正をすることができないものであるとして、補正命令をすることなく、審判請求を却下する旨の審決。
Xらが、審判の取消しを求めた事案。
判断 X2およびX3の原告適格を求めた上で、審決を取り消した。

・・・共有者の一部の者のためにのみする旨の表示となっている場合があったとしても、そのような審判請求書は、誤記に基づくものであると判断するのが合理的である。

審判庁は、同法133条1項に基づき、Xらの代理人たるAに対して、相当の期間を定めてその補正をすべきことを命じなければならなかったといえる。
規定 第38条(共同出願)
特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができない。
第132条(共同審判)
3 特許権又は特許を受ける権利の共有者がその共有に係る権利について審判を請求するときは、共有者の全員が共同して請求しなければならない。
第131条(審判請求の方式)
審判を請求する者は、次に掲げる事項を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならない。
一 当事者及び代理人の氏名又は名称及び住所又は居所
二 審判事件の表示
三 請求の趣旨及びその理由
第135条(不適法な審判請求の審決による却下)
不適法な審判の請求であつて、その補正をすることができないものについては、被請求人に答弁書を提出する機会を与えないで、審決をもつてこれを却下することができる。
第131条の2(審判請求書の補正)
前条第一項の規定により提出した請求書の補正は、その要旨を変更するものであつてはならない。ただし、当該補正が、特許無効審判以外の審判を請求する場合における同項第三号に掲げる請求の理由についてされるとき、又は次項の規定による審判長の許可があつたときは、この限りでない。
第133条(方式に違反した場合の決定による却下)
審判長は、請求書が第百三十一条の規定に違反しているときは、請求人に対し、相当の期間を指定して、請求書について補正をすべきことを命じなければならない。
解説 特許を受ける権利が共有の場合に、共有者らのうちの一部の者が行った拒絶査定不服審判請求は、不適法な請求であり、しかも、補正をすることができないものであるとして、同法135条により却下される。(請求人の追加は要旨変更となり、そのような請求書の補正は認められない(同法131条の2第1項)。)
請求書の記載上、共有者らのうちの一部の者が行った審判請求であると見られる場合であっても、共有者全員による審判請求であると解しうる場合がある。
共同出願人全員から委任を受けた代理人が共同出願人のうちの一部の者を請求者とする審判請求書を提出したとした事案であり、審判請求書の請求人欄の記載にかかわらず、共同出願人全員が審判請求をしていると判断できるとしたもの。
本件は、手続経過等から、特許管理人にXら全員のために審判請求をする意思があることは明らかであると判断して、Xらを救済したもの。
知財p127
知財高裁H23.3.24
指定商品を「黒糖を使用した棒状形のドーナツ菓子」とする「黒糖ドーナツ棒」との文字を手書き風の文字で二列に縦書きしてなる登録商標(本件商標)につき、本件商標と外観において同一と見られる標章を付した包装が指定商品とされる商品に使用されており、その使用開始時期、使用期間、使用態様、当該商品の数量又は売上高等及び当該商品又はこれに類似した商品に関する本件商標に類似した他の標章の存否等の事情を総合考慮するとき、本件商標は、使用された結果、登録審決時点において、需要者が商標権者の業務に係る商品であることを認識することができるものになっていると認められた事例
事案 Xは、Yの商標登録を無効とすることを求める審判を請求したが、特許庁が当該請求が成り立たないとの審決(本件審決)を下したので、その取消しを求めて本件訴訟を提起。
争点 @「黒糖ドーナツ棒」との本件商標が商標法3条1項1号に該当するか
A本件商標が本件登録審決までに同条2項の要件を充足していたか
規定 商標法 第3条(商標登録の要件)
自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標法

三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標法

2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。
判断 「黒糖ドーナツ棒」との普通名称が存在しない⇒商標法3条1項1号への該当性を排斥。
本件商標がその指定商品に用いられた場合、「黒糖を使用した棒状形のドーナツ菓子」の品質、原材料及び形状を普通に用いられる方法で表示する標章⇒同項3号に該当。
商標法3条2項の要件に該当するか否かは、
「出願に係る商標と外観において同一と見られる標章が指定商品とされる商品に使用されたことを前提として、その使用開始時期、使用期間、使用態様、当該商品の数量又は売上高等及び当該商品又はこれに類似した商品に関する当該標章に類似した他の標章の存否などの事情を総合考慮して判断されるべきである。」

本件商標が使用をされた結果、本件審決登録時点において、需要者がYの業務に係る商品であることを認識することができるものになっていた旨を判示。
解説 商標法3条2項は、同条1項3号ないし5号に該当する商標であっても、「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」については、商標登録を認める。(特別顕著性)
商標法3条2項の該当性については、実務上、特許庁の審査基準により、
使用されていた標章と出願に係る商標との同一性及び使用された商品等と出願に係る指定商品等の同一性を前提として、例えば、
@実際に使用している商標並びに商品又は役務、
A使用開始時期、B使用期間、C使用地域、D生産、証明若しくは譲渡の数量又は営業の規模(店舗数、営業地域、売上高等)、E広告宣伝の方法、回数及び内容といった事実を総合考慮することによって、商標が使用により識別力を有するに至ったかどうかを判断。(商標審査基準第2の2、3)
商標法3条2項の趣旨:
同条1項3号ないし5号に該当する標章であっても、相当期間の使用実績に基づく独占的な使用によって自他識別力を獲得した場合には、これについて商標登録とそれに基づく独占権を認めることにある。

同項の文言自体が非常に規範的な要件を定めており、審査基準に準拠したとしても多様な要素を総合考慮することとされている
⇒争点も多様化する傾向が窺われ、判断の重心も事案ごとに異なっている。

学説も、全国規模の使用が必要である立場と、相当範囲の地方で使用された事実があれば足りるとする立場。
本件においては、総合考慮の対象とされた各事実の中で、Yによる一貫した販売活動や宣伝広告活動に加えて、駄菓子という商品の性質に照らすとき相当規模が大きいといえる本件商品の販売実績や、何より本件商標に類似した他の標章が本件商品又はこれに類似した商品に全く使用されず約13年弱という期間が経過した点が、特に重視されている。
商事p134
大阪高裁H23.2.23
被保険者がうたた寝から覚めて起きざまにアルコールを摂取するか摂取しようとしたことがきっかけとなり、うたた寝前に摂取していたアルコールの影響とうたた寝前に服用していた向精神薬の副作用とが相まって、嘔吐、誤嚥、気道閉塞となって窒息死するに至った場合において、普通傷害保険約款にいう「外来の事故」とは認められないとして、これと異なる第一審判決が取り消され、被保険者の法定相続人の保険金請求が棄却された事例
事案 食吐物の誤嚥を原因とする窒息により死亡した被保険者(A)の妻、長女、長男が、Aと損害保険会社(Y)との間で締結されていた普通傷害保険契約(本件保険契約)に基づき、Yに対し、死亡保険金のXらの法定相続分に応じた支払を求める事案であって、Aの死亡が本件保険契約の傷害保険普通約款(本件約款)の定める保険金を支払う場合に当たるか否か、すなわち、本件約款所定の「急激かつ偶然な外来の事故」に該当するか否かがもっぱら争点。
判断 本件保険金の支払事由である「外来の事故」とは、「被保険者の身体の外部からの作用による事故」をいうが、「外部からの作用が直接の原因となって生じた事故」をいい、「薬物、アルコール、ウィルス、細菌等が外部から体内に摂取され、あるいは侵入し、これによって生じた身体の異変や不調によって生じた事故は含まない」

後者を含むと解すると、社会通念上「疾病」と理解されている事例も含まれることとなって、「傷害」に対して保険金を支払うという傷害保険の趣旨を逸脱する結果になるし、「外来の事故」によって、保険金支払の原因となる事故とそうでない事故を明確に区別しようとした約款の趣旨に合致しない」
Aに起こった窒息は、嘔吐により、食道ないし胃の中の食物残●が吐物となって口腔内に逆流し、折から、Aの気道反射が著しく低下していたため、これが気道内に流入して生じたものであって、・・・上記窒息は、外部からの作用が直接の原因となって生じたものとはいえない」
解説 事件の急激性、偶然性、外来性を巡って「真偽不明」⇒主張立証責任の帰属で判断。
最高裁H19.7.6:
災害補償共済規約が「被共済者が急激かつ偶然の外来の事故で身体に傷害を受けたこと」を補償費の支払事由と定め、これとは別に「被共済者の疾病によって生じた傷害については補償費を支払わない」との規定を置いている場合、補償費の支払を請求する者は、被共済者の身体の外部からの作用による事故と被共済者の傷害との間に相当因果関係があることを主張、立証すれば足り、上記傷害が被共済者の疾病を原因として生じたものでないことを主張、立証すべき責任を負わない。
最高裁H19.10.19:
自動車総合保険契約の人身傷害補償特約が、「自動車の運行に起因する事故等に該当する急激かつ偶然な外来の事故により被保険者が身体に傷害を被ること」を保険金支払事由と定め、被保険者の疾病によって生じた傷害に対しては保険金を支払わない旨の規定を置いていない場合、自動車の運行に起因する事故等が被保険者の疾病によって生じたときであっても、保険者は保険金支払義務を負い、保険金の支払を請求する者は、上記事故等との間に相当因果関係があることを主張、立証すれば足りる。
労働p137
福岡高裁H23.2..16
1.いわゆる「内々定」の取消しが内々定により成立した労働契約を一方的に解約するものであって違法であるとして損害賠償を求めた請求が棄却された事例
2.いわゆる「内々定」の取消しが期待権侵害ないし信義則違反による不法行為を構成するとして損害賠償を求めた請求が一部認容された事例」
事案 Yからいわゆる「内々定」を受けたXが、Yにおいて、その後、内々定を取り消したことから、その違法を理由に、Yに対し、115万5000円(慰謝料100万円、就職活動費5万円、弁護士費用10万円)の損害賠償を求めている事案。
主張 @内々定によってX・Y間に労働契約が成立していることを前提に、その一方的な取消は解雇に相当するところ、本件においては、解雇を正当とする事情(整理解雇の4要件)はない。
A内々定による労働契約の成立が認められないとしても、本件における内々定の取消しは、期待権侵害ないし信義則違反による不法行為を構成する。

@Aは訴訟物を異にし、かつ、両立し得ない関係にある。
⇒@が主位的請求、Aが予備的請求。
判断 内々定による労働契約の成立は認められない⇒@は棄却

本件内々定は、内定とは明らかにその性質を異にするものであって、内定までの間、企業が新卒者をできるだけ囲い込んで、他の企業に流れることを防ごうとする事実上の活動の域を出るものではないというべきである。
本件内々定の取消しについては、「労働契約締結過程の一方当事者であるYとしては、Xらにつき内々定取消しの可能性がある旨を人事担当者であるAに伝えて、Xら内々定者への対応につき遺漏なきよう期すべきものといえるところ、Yは、かかる事情をAに告知せず、このためAにおいて従前の計画に基づき本件連絡をしたもので、かかるYの対応は、労働契約締結過程における信義則に照らし不誠実と言わざるを得ない」
⇒慰謝料20万円、弁護士費用2万円、以上合計22万円及び遅延損害金の支払いを
認める限度で予備的請求を認容。
解説 内定について、最高裁昭和54.7.20:
「大学卒業予定者が、企業の求人募集に応募し、その入社試験に合格して採用内定の通知を受け、企業からの求めに応じて、大学卒業のうえは間違いなく入社する旨及び一定の取消事由があるときは採用内定を取消されても異存がない旨を記載した誓約書を提出し、その後、企業から会社の近況報告その他のパンフレットの送付を受けたり、企業からの指示により「近況報告書を送付したなどのことがあり、他方、企業において、採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることを予定していなかったなど、判示の事実関係のもとにおいては、企業の求人募集に対する大学卒業予定者の応募は労働契約の申込であり、これに対する企業の採用内定通知は右申込に対する承諾であって、誓約書の提出とあいまって、これにより、大学卒業予定者と企業との間に、就労の始期を大学卒業の直後とし、それまでの間誓約書記載の採用内定取消事由を留保した労働契約が成立したものと認めるのが相当である。」
東京高裁H16.1.22:
「採用内々定の段階では、被控訴人が確定的な採用の意思表示(就職希望者の申込みに対する承諾の意思表示)をしたと解することはできず、それ故採用内々定時に被控訴人と控訴人の間において、控訴人の採用に関し、労働契約の予約あるいは解約権の留保付労働契約その他いかなる法的効力のある合意も成立したと認めることはできない。」
2120
2120 民事p1
最高裁H23.5.28(@)
最高裁H23.5.30(A)
民訴法38条後段の要件を満たす共同訴訟につき同法7条ただし書により同法9条の適用が排除されるか
事案 単独の原告が、複数の被告を共同被告とし、それぞれの被告に対して140万円を超えない額の請求を地裁に提起したところ、受訴裁判所(地裁)において、被告側の申立てにより(@事件)、又は職権で(A事件)、被告ごとに弁論が分離された上、各被告に係る訴訟は地裁ではなく簡裁の事物管轄に属するとして民訴法16条1項に基づき簡裁への移送決定がされた。
規定 民訴法 第38条(共同訴訟の要件) 
訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき、又は同一の事実上及び法律上の原因に基づくときは、その数人は、共同訴訟人として訴え、又は訴えられることができる。訴訟の目的である権利又は義務が同種であって事実上及び法律上同種の原因に基づくときも、同様とする。
民訴法 第7条(併合請求における管轄)
一の訴えで数個の請求をする場合には、第四条から前条まで(第六条第三項を除く。)の規定により一の請求について管轄権を有する裁判所にその訴えを提起することができる。ただし、数人からの又は数人に対する訴えについては、第三十八条前段に定める場合に限る
民訴法 第9条(併合請求の場合の価額の算定)
一の訴えで数個の請求をする場合には、その価額を合算したものを訴訟の目的の価額とする。ただし、その訴えで主張する利益が各請求について共通である場合におけるその各請求については、この限りでない。
2 果実、損害賠償、違約金又は費用の請求が訴訟の附帯の目的であるときは、その価額は、訴訟の目的の価額に算入しない。
判断 法38条後段の共同訴訟であっても、いずれの共同訴訟人に係る部分も受訴栽培所が土地管轄権を有しているものについて、法7条ただし書により法9条の適用が排除されることはないというべきである。
解説 学説では、民訴法7条は土地管轄に関する規定であり、請求を併合提起する場合の事物管轄は民訴法9条によって定めるべきとするのが定説。
本件は、これと同様の見解を相当とする旨を判断。
民事p6
最高裁H23.2.17
1.数人の提起する養子縁組無効の訴えにおいて共同訴訟人の1人が上告を提起した後にされた他の共同訴訟人による上告の適否
2.数人の提起する養子縁組無効の訴えにおいて共同訴訟の1人が上告受理の申立てをした後にされた他の共同訴訟人による上告受理の申立ての適否
事案 Aを養母とし、Yを養子とする養子縁組が無効であるとして、Aの子であるX1が、Yに対し、右養子縁組の無効確認を求める訴えを提起し、Aの別の子であるX2が、これに共同訴訟参加した事案。
1審はXらの請求を認容。
原審は、Xらの請求を棄却。

X1が上告及び上告受理申立てをした後、
X2も上告及び上告受理申立てをした。
判断 X1の上告については、その上告理由は、理由の不備・食違いをいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、明らかに民訴法312条1,2項に規定する事由に該当しない⇒決定により上告を棄却。
X1の上告受理申立てについては、民訴法318条1項により受理すべきものと認められない⇒決定により不受理。

X2の上告及び上告受理申立てについては、数人の提起する養子縁組無効の訴えは、いわゆる類似必要的共同訴訟でると指摘した上で、X2が上告を提起するとともに、上告受理の申立てをした時には、既に共同訴訟人であるX1が本件養子縁組無効の訴えにつき上告を提起し、上告受理の申立てをしていた
⇒X2の上告は二重上告であり、X2の上告受理の申立ては二重上告受理の申立てであって、いずれも不適法であるとして、決定により上告を却下し、上告受理の申立てについても不受理とした。
規定 民訴法 第40条(必要的共同訴訟)
訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合には、その一人の訴訟行為は、全員の利益においてのみその効力を生ずる。
民訴法 第142条(重複する訴えの提起の禁止)
裁判所に係属する事件については、当事者は、更に訴えを提起することができない。

第313条(控訴の規定の準用)
前章の規定は、特別の定めがある場合を除き、上告及び上告審の訴訟手続について準用する。

第297条(第一審の訴訟手続の規定の準用)
前編第一章から第七章までの規定は、特別の定めがある場合を除き、控訴審の訴訟手続について準用する。ただし、第二百六十九条の規定は、この限りでない。
解説 必要的共同訴訟では、共同訴訟人の1人の訴訟行為は、全員の利益においてのみその効力を生ずる(民訴法40条1項)

共同訴訟人の1人による上訴の効力:
@上訴の提起は、不利な判決の確定を妨げるものであるので、利益な訴訟行為として、全共同訴訟人のためにその効力を生じる
A共同訴訟人全員のために判決の確定遮断の効力及び移審の効力が生じる
B上訴を提起した共同訴訟人も上訴人の地位に立つ

必要的共同訴訟において共同訴訟人の1人が上訴を提起すれば、他の共同訴訟人にもその効力が及び、他の共同訴訟人も上訴人の地位に就く
⇒右上訴提起後に、他の共同訴訟人が提起した上訴は、二重上訴として不適法。
(条文上の根拠は、二重起訴の禁止を定めた民訴法142条が、同法313条ないし同法297条により、上告審ないし控訴審の訴訟手続に準用される。)

最高裁昭和60.4.12:
固有必要的共同訴訟の共同訴訟人の1人が上告を提起した後にされた別の共同訴訟人による上告については、二重上告であり不適法として、却下。

最高裁H1.3.7:
補助参加人が上告を提起した後に被参加人のした上告は、二重上告であり不適法。
最高裁H9.4.2:
複数の住民の提起した住民訴訟が類似必要的共同訴訟であることを明らかにした上で、住民訴訟については、自ら上訴をしなかった共同訴訟人は、上訴人にはならない。

最高裁H12.7.7:
複数の株主の追行する株主代表訴訟が類似必要的共同訴訟であることを明らかにした上で、株主代表訴訟についても、自ら上訴をしなかった共同訴訟人たる株主は、上訴人にはならない。

類似必要的共同訴訟である数人の提起する養子縁組無効の訴えにおいても、ある共同訴訟人が上訴しても、自ら上訴をしなかった共同訴訟人は上訴人にはならないのではないかが問題。

上記9年判決、12年判決の理由付けは、住民訴訟ないし株主代表訴訟の特性を強調したものであり、他の類似必要的共同訴訟においても、直ちに「自ら上訴をしなかった共同訴訟人は、上訴人にはならない」ということになるものではない。

かえって、類似必要的共同訴訟については、共同訴訟人の1人が上訴した場合には、他の共同訴訟人も上訴人になるということが原則であることを前提とした上で、住民訴訟ないし株主代表訴訟については、元々他の住民ないし株主を代表して訴訟追行するという側面があり、その一部のみが上訴した場合には、その者に訴訟追行をさせれば足り、訴訟を追行する意思を失った者の意思に反してまで、その者を当事者として訴訟追行に関与させることが相当でないとの判断の下に、例外的に、上訴人の地位に就かないとの判断をしたものであると理解するのが素直な解釈。

住民訴訟及び株主代表訴訟においては、提訴者各人が自己の個別的な利益を有しているわけではないから、上訴しなかった住民や株主の上訴審における手続関与権を必ずしも重視する必要はないのに対し、養子縁組無効の訴えにおいては、養子縁組の無効を主張する者の上訴審における手続関与権を軽視することはできない
(上訴しなかった共同訴訟人が上訴人としての地位に就かなくても、その請求部分が上訴審に移審するのであれば、その者の当事者としての地位を全面的に否定すべきではなく、手続に関与することができる余地を残すことが相当。)
民事p9
東京高裁H23.3.24
貸金業者間で企業再編の一環として業務提携契約が締結され、その中で併存的債務引受の合意がなされたものの、その撤回前に借主が業務提携契約に基づく契約の切替えに同意したときは、第三者のためにする契約としての併存的債務引受の受益の意思表示と認められた事例。
事案 YとAは、企業再編のため、Yとの間で切替契約を締結しAの顧客(契約顧客)に対して負担する利息返還債務等Aが契約顧客に対して負担する一切の債務について、A及びYが連帯してその責めを負うものとし、これにより生じたA及びYの連帯債務における負担割合は、Yが0割、Aが10割とする旨の約定(併存的債務引受)をッ含む業務提携契約を締結。

Xは、Yからの切替契約の勧誘を受け、Yとの間で、残高確認書兼振込代行申込書を作成し、XのAに対する債務額を確認し、同額をYがXを代行してAに支払うとともに、同額をYのXに対する貸付けとすることを約した。
その後Xは、Yに対し、切替契約に基づく弁済をした。

その間、YとAは、前記業務提携契約に関し、同日以降、Aが切替契約の締結時までに契約顧客に対して負担していた利息返還債務等はAのみが負担し、Yは何らの債務及び責任は負わないことなどを約する変更契約を締結した。

Xは、過払金の返還訴訟を提起。
判断 本件併存的債務引受は契約顧客を第三者とする第三者のための契約と解すべきところ、YはAの顧客の利益を図ることなどを目的としてAとの間で前記業務提携契約を締結し、その趣旨に則ったYの切替契約の勧誘に従い、Xは残高確認書兼振込代行申込書を作成した上で、Yとの切替契約を締結し、AとYとの間の切替契約に関する合意内容を受け入れたから、本件併存的債務引受における受益の意思表示をしたものと認められる。
解説 東京高裁H22.9..29:
残高確認書兼振込代行申込書は、Aに対して負担している債務をYから借り入れて返済することの代行をYに依頼する書面にすぎず、これをもってYが併存的債務引受をしているとか、Xによる受益の意思表示があったとは認められない。
(本判決と異なる見解)
最高裁H23.3.22:
貸金業者が貸金債権を一括して他の貸金業者に譲渡する旨の合意をした場合における借主と右債権を譲渡した業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位の移転の有無について、
譲渡業者の有する資産のうち何が譲渡対象であるかは合意内容により、その譲渡が営業譲渡の性質を有するとしても借主と譲渡業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が譲受業者に当然に移転するとは解されず、譲渡契約において譲受業者が過払金返還債務を承継しない旨明確に定めている場合には、金銭消費貸借取引に係る契約上の地位の移転を内容とするものと解する余地はないと判示。
民事p15
知財高裁H23.6.23
1.事業譲渡に関する覚書について、当該事業を第三者に譲渡し、その譲渡代金によって譲渡人の債務を処理する一方、事業の譲受人である第三者には譲渡人に債務を承継させず、当該事業の維持、再生を図るという趣旨の合意であって、譲渡人の株式の譲渡契約と解することはできないとされた事例
2.債務の弁済について利害関係を有する第三者が、債務者の意思に反して債務を弁済した場合に債務者に存する現存利益について、第三者が弁済及び代物弁済に供した製品の仕入価格相当額をもって算定すべきであるとされた事例
事案 Y2社の事業全部の譲渡を受けたと主張するX1及び同人から当該事業の譲渡を受けたと主張するX2社が、Y2社、同社の代表取締役であるY1に対し以下を請求。
X1のYらに対する金銭請求:
X1が、事業譲渡契約において譲渡の対象とされなかったY2社の債務の弁済(第三者弁済)を余儀なくされたと主張
Y2社には、民法650条1項若しくは702条1項に基づく求償金請求(一部請求)として、又は債務不履行若しくは不法行為による損害賠償請求(一部請求)として、7617万729円及び遅延損義金又は利息の支払を求める。
Y1には、会社法429条1項、430条に基づき、Y2と連帯(不真正連帯)して、同額の損害の賠償を求める。
X1のY2に対する商標権移転登録手続請求:
X1が、商標権も事業譲渡契約において譲渡の対象とされていたと主張し、Y2社に対し、商標権の移転登録手続をすることを請求。
XらのY2社に対する差止め等の請求:
競業禁止特約に基づき、本件製品の製造、販売、頒布の差止め。
不正競争防止法2条1項14号、3条に基づき、Xらに対する営業誹謗行為の差止め。
同法2条1項14号、14条に基づく信用回復措置としての謝罪広告の掲載
を求める請求。
XらのYらに対する金銭請求
競業、営業誹謗行為によって被った損害。
規定 民法 第650条(受任者による費用等の償還請求等)
受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
民法 第474条(第三者の弁済) 
債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2 利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。
民法 第702条(管理者による費用の償還請求等)
管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる。
会社法 第429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
会社法 第430条(役員等の連帯責任)
役員等が株式会社又は第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合において、他の役員等も当該損害を賠償する責任を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。
会社法 第21条(譲渡会社の競業の禁止) 
事業を譲渡した会社(以下この章において「譲渡会社」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(東京都の特別区の存する区域及び地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあっては、区。以下この項において同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から二十年間は、同一の事業を行ってはならない
2 譲渡会社が同一の事業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その事業を譲渡した日から三十年の期間内に限り、その効力を有する。
3 前二項の規定にかかわらず、譲渡会社は、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない。
不正競争防止法 第2条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
十四 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為
不正競争防止法 第3条(差止請求権)
不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。第五条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。
不正競争防止法 第14条(信用回復の措置)
故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の信用を害した者に対しては、裁判所は、その営業上の信用を害された者の請求により、損害の賠償に代え、又は損害の賠償とともに、その者の営業上の信用を回復するのに必要な措置を命ずることができる。.
不正競争防止法 第4条(損害賠償)
故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、第十五条の規定により同条に規定する権利が消滅した後にその営業秘密を使用する行為によって生じた損害については、この限りでない。.
判断 @本件覚書の趣旨・効力:
Y2社の事業を第三者に譲渡し、その譲渡代金によってY2社の債務を処理する一方、事業の譲受人である第三者にはY2社の債務を承継させず、事業の維持、再生を図るという計画を実行する具体的方法について文書化したものと解するのが相当。
株式譲渡契約を意味するものではない。
AXらによる譲受代金及びY2社の債務の弁済の有無並びにその金額:
X1は、事業譲渡において、Y2社の債務を承継しないものとされていたが、X2社は、Y2社に預託金を預託した会員からの要求に応じて、本件製品を無料で贈呈したり、預託金を返還したもの。
当該(代物)弁済は、Y2社の意思に反していたものであるが、X2社は各弁済についての法律上の利害関係を有する者であり、Y2社の意思に反しても弁済をすることができ(民法474条2項)、Y2社に対して現存利益の求償を請求できる。(民法702条3項)
B競業避止義務違反:
本件事業譲渡契約において、競業避止義務が黙示的に定められた。
⇒Y2は20年間、競業避止義務を負う。(会社法21条1項)
民事p37
東京地裁H23.4.15
個人が診療所に設置したエレベータの保守管理契約につき製造会社による契約の解除が信義則に反して許されないとされた事例
事案 Xは、診療所を建築したが、Yとエレベーターにつき、常時遠隔点検及び監視サービスを行うことを内容とするメンテナンス契約を締結。
Yは、本件契約を解除するときは、相手方に30日前に書面で通知するとの本件特約に基づき、本件契約を解除する旨の意思表示。
Xは、Yの解除の意思表示は無効であるとして、Yに対し、本件契約に基づく契約上の地位を有することの確認等を求めた。
判断 @契約の当事者の一方からこれを解除することができるとする解除権の留保は、契約自由の原則から許容されるというべき⇒各当事者は、解除権を行使することが信義則に反するなど特段の事情がない限り、いつでも本件契約をを解除することができる。
AYが、本件解除の意思表示をするまでに、XY間の信頼関係には支障が生じていたことが認められる。
BXY間の信頼関係に支障が生ずるに至った発端は、本件遠隔監視装置が正常に機能しないというYの責に帰すべき事由によるものであったと認められるから、Yが本件契約を解除することは、信義則に反し、許されない
解説 継続的契約関係は、維持・継続させることが、当事者にとって望ましい
⇒契約の解除に「やむを得ない事由」等を要するとする裁判例が多い。
解除権の行使には、契約関係を継続し難いような不信行為の存在等やむを得ない事由が必要であると解するのが相当とする裁判例。
民事p47
東京地裁H23.2.18
子会社の代表取締役兼親会社の取締役が子会社の債務超過の営業を譲渡したことが同人の不法行為に当たるとされたが、親会社の使用者責任が否定された事例
事案 Xは、A会社は、平成15年当時債務超過であったにもかかわらず、Y1っは、Y2会社が新会社に対して年間売上高6億円以上の映画制作等の業務を発注すうるので新会社の経営が成り立つ旨欺罔し、Xをしてその旨誤信させたのであるから詐欺に当たるとし、民法709条に基づき5億5000万円の損害賠償を請求するとともに、Y1が取締役副社長であったY2会社に対し、民法715条により同額の損害賠償を請求。
規定 民法 第715条(使用者等の責任)
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。.
判断 @Y1の行為は・・Xに対する欺罔行為に当たり不法行為を構成すると判断し、XのY1に対する本訴請求を認容
AY1の本件営業譲渡契約の締結行為は、その行為の外形からみて、Y2における職務の範囲内の行為と評価することができないなどと判断し、また、Y2が新会社に対して業務を発注することを保証する書面を提出したとしても、Y1に右書面を提出する権限があるかどうかを確認することを怠ったものであり、Xに重大な過失があったと判断し、Y2の民法715条の責任を否定し、XのY2に対する本訴請求を棄却。
解説 営業譲渡について、契約の締結に当たっては、当事者は、信義誠実の原則に従い、正確な情報を提供し、可能な限り、相手方の損害を軽減するよう努める義務がある。(大阪高裁H1.4.14、大阪高裁H1.6.29等)
刑罰法規は私的利益の保護をも目的としているものとみられるから、刑罰法規違反の行為により他人の権利を侵害した場合には、原則として不法行為責任が発生する。
民事p57
広島地裁H23.2..23
扁桃摘出後の医師の気道確保の選択に過失があったとして病院側の損害賠償責任が認められた事例
事案 A病院の医師らは、
@手術選択の誤り
A説明義務違反
B手技上の過失
C止血措置に関する過失
があるなどと主張し、Yに対して、医療契約の不履行及び不法行為に基づき、損害賠償を請求。
判断 鑑定による医学的知見を踏まえ、・・・A病院の医師らは、迅速導入法を選択した場合に想定される危険等を避けるため、意識下挿管法を選択すべきであったとし、迅速導入法を選択して麻酔の指示を行った点に過失がある。
Xの遷延性意識障害等との間に相当因果関係もある。
⇒請求認容。
解説 一定の疾患、病状に対して、一般的に採用されている治療方法が複数存在する場合、いずれの方法を選択すべきかについて、患者の症状、その推移、先行する処置の内容、治療効果、危険性、予後等の諸事情を十分検討して判断することになるから、担当医師の比較的広い裁量に委ねられていると解されている。
(本件で過失の判断は微妙)
民事p65
横浜地裁H23.5.13
市立工業高校3年生の生徒が修学旅行中に海難事故で死亡したことにつき、引率教員に過失があるとして市の国家賠償責任が認められた事例(過失相殺4割)
解説 引率教員としては、海に入る予定のニシ浜周辺に関し、危険個所の有無及び沖縄で海に入る場合の注意点等の情報を収集した上、この調査を行えば、ニシ浜の一角にリーフカレントが発生しやすい危険な場所である本件事故現場が存在することを把握出来たのであり、・・・引率教員らには前記の事前調査義務及び注意喚起義務に違反した過失があり・・・・・
因果関係も認められる。
民事p78
京都地裁H23.5.24
市のごみ焼却施設(ストーカ炉)の建設工事の指名競争入札による受注につき、受注会社が談合により高額な請負代金で受注し、市に損害を与えたとして、市が受注会社に対して求めた損害賠償請求が棄却された事例
知財p98
知財高裁H22.11.17
1.出願後に頒布された引用例2に記載された事項を、引用発明1に採用することによって、本願発明を容易に発明することができたと判断した審決には、特許法29条2項の適用を誤った違法がある。
2.審決における刊行物記載の発明と公知技術との組合せにより容易に発明できたという理由を、取消訴訟において、技術常識の名の下に刊行物記載の発明から容易に発明できたという理由に差し替えることは許されない。
事案 拒絶査定不服審判を請求し、請求不成立審決を受けた。
本件は、Xがその取消しを求める訴訟。
判断 引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたか否かは、特許出願時において判断すべきはいうまでもないことであるから、本件原出願後に頒布されたものであることについて当事者間に争いがない引用例2に記載された事項を、引用発明1に採用することによって、容易に発明をすることができたと判断した本件審決には、特許法29条2項の適用を誤った違法がある。
本願発明においては、相違点2に係る短波長レーザーの構成が、課題解決のための本質的な部分であると解される。・・・容易想到性を判断するに際し、引用例2に代えて周知技術で置き換えるという理由の差替えを、審判段階ではなく、訴訟段階に至ってから特許庁の側が行うことは、審決に理由を付することを義務づけた特許法157条の趣旨に反するものであり、許されない。
規定 特許法 第29条(特許の要件) 
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
特許法 第157条(審決)
審決があつたときは、審判は、終了する。
2 審決は、次に掲げる事項を記載した文書をもつて行わなければならない。
一 審判の番号
二 当事者及び参加人並びに代理人の氏名又は名称及び住所又は居所
三 審判事件の表示
四 審決の結論及び理由
五 審決の年月日
解説 特許の新規性・進歩性は特許出願時において判断すべき
⇒本件原出願後に頒布された刊行物に記載された事項を引用発明に採用することによって容易に発明をすることができたと判断した本件審決には法29条2項の適用を誤った違法がある。
出願当時の技術水準を出願後に頒布された刊行物によって認定し、これにより右進歩性の有無を判断することは、特許法29条2項の規定に反するものではない。(最高裁昭和51.4.30)
Y主張のような理由の差替えを、審判段階ではなく訴訟段階に至ってから特許庁側が行うことは、審決に理由を付することを義務づけた特許法157条の趣旨に反するものであり、許されない。
審決取消訴訟において、審判の手続で審理判断された刊行物記載の発明との対比における進歩性を有無を認定して審決の適法、違法を判断するにあたり、審判の手続には現れていなかった資料に基づき当業者の特許出願当時における技術常識を認定し、これによって同発明の持つ意義を明らかにすることは許される。(最高裁昭和55.1.24)
but
刊行物記載の発明と公知技術と組合せにより容易に発明できたという拒絶理由を、技術常識の名の下に刊行物記載の発明と訴訟提起後に提出された証拠から容易に発明できたという理由に差替えることが、当然に許されるわけではない。
知財p103
知財高裁H23.3.28
被控訴人使用の各標章は被控訴人の商品の出所識別表示として使用されているものではないから、その使用は「登録商標に類似する商標の使用」(商標法37条1号)又は「商品等表示」(不競法2条1項1号、2号)には当たらないと判断された事例
事案 Y使用のお各標章は、保険登録商標及びXの商品等表示として周知又は著名な「ドーナツ枕」の標示とそれぞれ類似する標章(表示)であるから、Yの各行為は、Xの本件商標権の侵害行為に当たるとともに、不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争行為に当たる旨主張し、商標法36条又は不正競争防止法3条に基づいて、被告各標章を包装に付した被告商品の販売等の差止め等を求めるとともに、商標法36条、民法709条又は不正競争防止法4条に基づいて、損害金2310万円及びその遅延損害金の支払求めた事案。
規定 不正競争防止法 第2条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

第3条(差止請求権)
不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。第五条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。

第4条(損害賠償)
故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、第十五条の規定により同条に規定する権利が消滅した後にその営業秘密を使用する行為によって生じた損害については、この限りでない。
商標法 第36条(差止請求権)
商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 商標権者又は専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。

第37条(侵害とみなす行為)
次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
一 指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用
第709条(不法行為による損害賠償) 
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
判断 @「ドーナツ」の語には・・・「中央部分に穴のあいた円形、輪形の形状の物あるいはこのような円形、輪形に似た形状の物」の観念が想起される。
AY商品の包装箱、ウエブサイト、カタログには、その出所識別表示としては、各テンピュール商標が別に存在しており、・・・被告商品がその中央部分を取り外すと、中央部分に穴のあいた輪形に似た形状となるクッションであることを説明するために用いられたものであると需要者に認識し、商品の出所を想起するものではないと認められる

Yの標章の表示は商標法37条1号の「登録商標に類似する商標の使用」又は不正競争防止法2条1項1号、2号の「商品等表示」には当たらない。
解説 商標権侵害訴訟において、登録商標と同一の標章が形式的に表示されていても、その標章の表示が自他商品の識別機能、出所表示機能を果たす態様で用いられていないと認められる場合には、商標権の侵害に当たらないと一般に理解。
商事p126
最高裁H23.4.26
吸収合併等によりシナジーその他の企業価値の増加が生じない場合に消滅株式会社等の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」の意義
事案 Yを株式交換完全子会社、株式会社USENを株式交換完全親会社とする株式交換に反対したYの株主であるXらが、Yに対し、Xらが各保有する株式を公正な価格で買い取るよう請求したが、その価格の決定につき協議が調わないため、Xら及びYが、会社法786条2項に基づき、それぞれ価格の決定の申立てをした事案。
規定 第786条(株式の価格の決定等)
株式買取請求があった場合において、株式の価格の決定について、株主と消滅株式会社等(吸収合併をする場合における効力発生日後にあっては、吸収合併存続会社。以下この条において同じ。)との間に協議が調ったときは、消滅株式会社等は、効力発生日から六十日以内にその支払をしなければならない。
2 株式の価格の決定について、効力発生日から三十日以内に協議が調わないときは、株主又は消滅株式会社等は、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる。.
判断 会社法782条1項所定の吸収合併等によりシナジーその他の企業価値の増加が生じない場合に、同項所定の消滅株式会社等の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」は、原則として、当該株式買取請求がされた日における、同項所定の吸収合併契約等を承認する旨の決議がされることがなければその株式が有したであろう価格をいうとの判断。
「株式交換を行う旨の公表等がされる前の市場株価を参照することや、上記公表等がされた後株式買取請求がされた日までの間に当該吸収合併等以外の市場の一般的な価格変動要因により当該株式の市場株価が変動している場合に、これを踏まえて参照した株価に補正を加えるなどして同日のナカリセバ価格を算定することが、裁判所の合理的な裁量の範囲内にある」
解説 ナカリセバ価格の算定手法について、
組織再編の公表前の市場株価を参照しつつ、その後の組織再編以外の市場の一般的な価格変動要因により、当該株式の市場株価が変動している場合に、これを踏まえて、参照した株価に補正を加えて、基準日におけるナカリセバ価格を算定すべきであるとの見解(江頭)が有力。
その補正の手法として、回帰分析手法(変数間の相関関係を分析して定量化する統計的手法であり、株価の予測変動率を求めるとすれば、日経平均株価等の市場インデックス等を用いてこれと当該株式の株価との相関関係を分析することにより、株価の変動につき、市場の一般的価格要因に起因する当該株式の変動率を算定するもの)を指摘する見解。
労働p130
福岡地裁小倉支部
H23.2.8
元従業員の会社に対する退職金請求が権利の濫用にあたるとして棄却された事例
事案 XはYに対し、未払退職金の支払いを求めた。
Yは、Xが在職中に多額の金員を着服して横領していたとして、不法行為に基づく損害倍h送金の支払いを求める。
・・・Xは、Yに対し、自己が担当していた経理に関して著しい背信行為を行ったというべきであり、Xの退職金請求は権利の濫用に当たる。
解説 就業規則等において退職金不支給(減額)事由に関する条項が定められている場合に、その規定の有効性については学説上見解が分かれる。
退職金が功労報酬的性格をも有しているから、労働者に永年の勤続の功を抹殺してしまうほどの背信行為があったと認められる場合等には退職金請求は権利の濫用に当たり許されないとの見解を前提とする裁判例も少なくない。


★平成23年9月分 (10/31勉強会)
2119
2119 ■判例特報p18
最高裁H23.4.19
1.吸収合併等によるシナジーその他の企業価値の増加が生じない場合に消滅会社等の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」の意義
2.株式買取請求がされた日における吸収合併契約等を承認する旨の株主総会の決議がされることがなければその株式が有したであろう価格を算定するに当たって参酌すべき市場株価として、同日における市場株価やこれに近接する一定期間の市場株価の平均値を用いることが、裁判所の裁量の範囲内にあるとされる場合
(楽天対TBS株式買取価格決定申立事件許可抗告審決定)
事案 Xを吸収分割株式会社、Aを吸収分割承継株式会社とする吸収分割に反対したXの株主であるYが、Xに対し、Yの有する株式を公正な価格で買い取るよう請求したが、その価格の決定につき協議が調わないため、X及びYが、会社法786条2項に基づき、それぞれ価格の決定の申立てをした事案。
規定 第786条(株式の価格の決定等)

株式買取請求があった場合において、株式の価格の決定について、株主と消滅株式会社等(吸収合併をする場合における効力発生日後にあっては、吸収合併存続会社。以下この条において同じ。)との間に協議が調ったときは、消滅株式会社等は、効力発生日から六十日以内にその支払をしなければならない。
2 株式の価格の決定について、効力発生日から三十日以内に協議が調わないときは、株主又は消滅株式会社等は、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる。
原審 会社法785条1項に基づき同法786条2項による組織再編行為に関する反対株主からの株式買取価格の決定の申立てにおいて、裁判所が合理的な裁量により決定すべき「公正な価格」は、組織再編行為により、@企業価値、株主価値が増加する場合には、相乗効果というべきシナジーを反映した価格を基礎として「公正な価格」を算定すべきであり、逆に、A企業価値、株主価値が減少する場合には、当該組織再編行為の決議がなかったとしたら有していたであろう価格を基礎として「公正な価格」を算定すべきである。

本件吸収分割のような吸収分割株式会社の事業を完全子会社である吸収分割承継会社に承継させ自らをその持株会社とする吸収分割では、通常、吸収分割自体によって、吸収分割株式会社の企業価値や同社の株主価値が毀損されることはなく、吸収分割により承継される事業にシナジーはそもそも生じない。
・・・・
判断 会社法785条1項により吸収合併等に反対する株主に「公正な価格」での株式の買取りを請求する権利が付与された趣旨に照らせば、吸収合併等によりシナジーその他の企業価値の増加が生じない場合には、増加した企業価値の適切な分配を考慮する余地はないから、当該吸収合併等を承認する旨の株主総会の決議がされることがなければその株式が有したであろう価格(「ナカリセバ価格」)を算定し、これをもって「公正な価格」を定めるべきである。

株式買取請求をすれば会社の承諾を要することなく、法律上当然に株主と会社との間に売買契約が成立したのと同様の法律関係が生じ、会社には、その株式を「公正な価格」で買い取るべき義務が生ずる反面、株主は会社の承諾を得なければ、その株式買取請求を撤回することができないことになることからすれば、売買契約が成立したのと同様の法律関係が生ずる時点であり、かつ、株主が会社から退出する意思を明示した時点である株式買取請求がされた日を基準日として、「公正な価格」を定めるのが合理的である。

そうすると、会社法782条1項所定の吸収合併等によりシナジーその他の企業価値の増加が生じない場合に、同項所定の消滅株式会社等の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」は、原則として、当該株式買取請求がされた日におけるナカリセバ価格をいうものと解するのが相当である。
吸収合併等により企業価値が増加も毀損もしないため、当該吸収合併等が消滅株式会社等の株式の価値に変動をもたらすものではなかったときは、その市場株価は、当該吸収合併等による影響をう受けるものではなかったとみることができるから、株式買取請求がされた日のナカリセバ価格を算定にするに当たって参照すべき市場株価として、同時における市場株価やこれに近接する一定期間の市場株価の平均値を用いることは、裁判所の合理的な最良の範囲内にある。そして、原審が、Yが株式買取請求をした日である平成21年3月31日の市場株価を用いて同日のナカリセバ価格を算定したことは、その合理的な最良の範囲内にあるから、これをもって「公正な価格」であるとした原審の判断は、結論において是認することができる。
解説 「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」⇒「公正な価格」(会社法785条1項、797条1項、806条1項等)へと改正。

組織再編行為による企業価値増加分の公平な分配への考慮がいわゆる退化柔軟化の導入に伴って顕在化することを契機として、その分配が行われることを可能にするため。
「公正な価格」の意義については、概ね
@組織再編によるシナジーを適切に反映した価格若しくは客観的価値、又は
A組織再編に係る決議がなかったとすればその株式が有していたであろう価格若しくは客観的価値
を基礎として算定すべき。

江頭等:
組織再編により企業価値が増加する場合には@の価格であり、
企業価値が減少する場合にはAの価格である
とする見解。

本決定は、会社法782条1項所定の吸収合併等によりシナジーその他の企業価値の増加が生じない場合に限ってでっはあるが、この場合における「公正な価格」の意義について「決議ナカリセバ価格」であることを最高裁として初めて示した。
基準日:
本決定は、会社法782条1項所定の吸収合併等によりシナジーその他の企業価値の増加が生じない場合における基準日が、株式買取請求がされた日(株式買取請求権が行使された日)であることを明らかにした。
「ナカリセバ価格」の算定:

本決定は、「上場されている株式について、反対株主が株式買取請求をなした日のナカリセバ価格を算定するに当たっては、それが企業の客観的価値を反映していないことをうかがわせる事情があれば格別、そうでなければ、その算定における基礎資料として市場株価を用いることは、合理性が認められる」として、市場株価の利用を正面から是認。

ナカリセバ価格を算定する以上、吸収合併等による影響を排除して、その価格を算定する必要がある。
そのために、吸収合併の公表等の前の市場株価(「参照株価」)を参照してこれを算定することや、吸収合併の公表等の後に吸収合併等以外の要因により株価が変動している場合に、これを踏まえて参照株価に補正を加えるなどして、基準日のナカリセバ価格を算定することなどは、裁判所の合理的な裁量に委ねられている旨判示。
■民事p32
最高裁H23.4.13
即時抗告申立書の写しを即時抗告の相手方に送付するなどして相手方に攻撃防御の機会を与えることなく、相手方の申立てに係る文書提出命令を取り消し、同申立てを却下した抗告裁判所の審理手続に違法があるとして職権により破棄された事例
事案 Xが、Yに対し、時間外勤務手当の支払を求めて提訴した訴訟において、同手当の計算の基礎となる労働時間を立証するために、Yの所持するXのタイムカードが必要であると主張して、本件文書について、文書提出命令の申立をした事案。
規定 憲法 第32条〔裁判を受ける権利〕
何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
民訴法 第331条(控訴又は上告の規定の準用)
抗告及び抗告裁判所の訴訟手続には、その性質に反しない限り、第一章の規定を準用する。ただし、前条の抗告及びこれに関する訴訟手続には、前章の規定中第二審又は第一審の終局判決に対する上告及びその上告審の訴訟手続に関する規定を準用する。.

民訴法 第289条(控訴状の送達)
控訴状は、被控訴人に送達しなければならない。
原審 Xに対し、即時抗告申立書の写しを送付することも、即時抗告があったことを知らせることもなく、Xに何らの反論のん機会を与えないまま、原々決定後に提出された書証をも用い、本件文書が存在していると認めるに足りないとして、原々決定を取り消し、本件申立てを却下。
主張 原審が、即時抗告があったことをXに知らせず、抗告状の写しの送付等をせず、Xに手続に参加する機会を保障しないままに、原々決定を取り消したことは、違憲(32条)であると主張し、特別抗告。
抗告許可の申立は、原審は、これを許可しなかった。
決定 原審の手続の法令違反の有無につき職権で検討し、原審が、即時抗告申立書の写しをXに送付するなどしてXに攻撃防御の機会を与えることのないまま、文書提出命令を取り消し、本件申立てを却下したことは、明らかに民事訴訟における手続的正義の要求に反する
⇒その審理手続には、裁量の範囲を逸脱した違法があると判断し、原決定を破棄し、本件を原審に差し戻した
解説 最高裁H20.5.8:
婚姻費用分担の審判に対する抗告審が、抗告の相手方に対し抗告状の副本を送達せず、反論の機会を与えることなく不利益な判断をしたことは、憲法32条所定の「裁判を受ける権利」を侵害したものとはいえないと判断。⇒特別抗告を棄却。

そのなお書きで、
「そもそも本件において原々審の審判を即時抗告の相手方である抗告人に不利益なものに変更するのであれば、家事審判手続の特質を損なわない範囲でできる限り抗告人にも攻撃防御の機会を与えるべきであり、少なくとも実務上一般に行われているように即時抗告の抗告状及び抗告理由書の写しを抗告人に送付するという配慮が必要であったというべきである。以上のとおり、原審の手続には問題があるといわざるを得ない」との指摘。
最高裁H21.12.1:
遺産分割審判に対する抗告審が、抗告の相手方に対し抗告状の副本の送達又はその写しの送付をすることなく、原審判を相手方に不利益に変更した原決定に対する許可抗告事件。

右相手方において即時抗告があったことを既に知っていたことがうかがわれる上、抗告状に記載された抗告理由も抽象的なものにとどまり、抗告状には抗告理由も抽象的なものにとどまり、抗告状には抗告人の攻撃防御の機会を与えることを必要とする事項は記載されていなかった。
⇒抗告状の副本の送達等がなかったことによって抗告人が攻撃防御の機会を逸し、その結果として十分な審理が尽くされなかったとまではいえないとして、抗告を棄却。
抗告審の実務:
抗告の相手方に対して、一般的に、抗告状等を送達ないし送付するのではなく、裁判体の判断により、事案に応じて、送達ないし送付をしているという実情。

民訴法331条は、抗告及び抗告裁判所の訴訟手続きには、その性質に反しない限り、控訴の規定を準用。民訴法289条1項は、控訴状は、被控訴人に送達しなければならない。
but
抗告状の送達を必要とすることは、迅速性が要求される即時抗告の手続にそぐわないことなどからして、同項の規定が準用されることはない。
手続進行に関して裁判所に裁量がある場合であっても、裁量の逸脱がある場合には、その手続が違法になることもあり得る。
弁論の再開をするかは裁判所の裁量に属するが、
最高裁昭和56.9.24:
「裁判所の裁量権も無制限のものではなく、弁論を再開して当事者に更に攻撃防御の方法を提出する機会を与えることが明らかに民事訴訟における手続的正義の要求するところであると認められるような特段の事由がある場合には、裁判所は弁論を再開すべきであり、これをしないで判決をするのは違法である」と判示。

抗告状の等の写しの送付を行うかについての裁量を逸脱した場合には、抗告審の手続は違法になる。
■民事p34
東京高裁H23.4.28
警察官から挙動不審のために職務質問を受けた不法残留中国人が、逃げ回った末に追い詰められるや右手で竹の棒を振り回し、左手に灯籠上部の宝珠を頭上に掲げて持って、警察官を威圧するように接近し、後退する警察官からそれらの物を捨てること及びそれに応じなければ拳銃で撃つことを警告されたにもかかわらず、接近してきたため、警察官が拳銃を発砲し、当該中国人を死亡させるに至ったことについて、国賠法1条1項の違法行為に当たるとして国賠責任があると認められた事例
規定 第7条(武器の使用)
警察官は、犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。但し、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十六条(正当防衛)若しくは同法第三十七条(緊急避難)に該当する場合又は左の各号の一に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。
一 死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁こにあたる兇悪な罪を現に犯し、若しくは既に犯したと疑うに足りる充分な理由のある者がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しようとするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、これを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合。
二 逮捕状により逮捕する際又は勾引状若しくは勾留状を執行する際その本人がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しようとするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、これを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合。
判断 甲が乙のけん銃を奪おうとした事実は認められず、甲が右手に持って振り回していた竹の棒を捨てた後に宝珠を頭上に持ち上げるなどしていたことは認められるも、乙に1メートルほどに迫り右手に持ち替えた宝珠で乙に殴りかかろうとした事実は認められないなどと事実認定。
乙の本件発砲は、警察官のけん銃使用及び取扱い規範の趣旨をも考慮すると、警職法7条本文の必要性及び比例原則の要件を充足しない違法なもの

70%の過失相殺をした上で国賠法1条1項による損害賠償責任を認めた。
解説 警職法7条は、警察官の武器の使用について、
刑法上の正当防衛若しくは緊急避難に該当する場合又は重罪犯人等が警察官の職務執行に対して抵抗したり、逃走しようとするとき(本条1号)、
逮捕状による逮捕又は拘引状の執行をする際、本人が警察官の職務執行に対して抵抗したり、逃走しようとするとき(本条2号)、
これらを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合を除いて、人に危害を加えてはならないことが規定。
人に危害を加えないような威嚇発砲等のために武器を使用する場合であっても、
犯人の逮捕若しくは逃走の防止又は公務執行に対する抵抗の抑止のために必要であると認める相当な理由のある場合において(必要性要件)、
その事態に応じて合理的に必要と判断される限度において(均衡性要件ないし比例原則要件)、
武器を使用することができると規定されている。
以上を受けて、警察官等けん銃使用及び取扱い規範の第2章の規定。
■民事p47
大阪高裁H23.2.25
倉庫会社のトラクター運転手に中皮腫による死亡について会社の安全配慮義務違反の責任を認めた一審判決を維持した上、さらに会社の責任につき説示した控訴審判決例
事案 一審判決は、一審原告らの請求を基本的に認容。

一審原告らは、主として一部認容された損害額に不服があるとし、また、遅延損害金の起算日を主位的にはAが死亡した日として附帯請求部分を欠きう長して控訴。

一審被告は、Aの死亡に関し、使用者としての安全配慮義務違反や不法行為の成立を全面的に争い、双方が控訴。
判断 @予見可能性に基づく危険予見義務は、事業者の事業規模の大小によって異なることにはならない。
一審被告は、我が国を代表する有数の、倉庫保管、港湾運送、陸上運送等の事業を営む大企業であり、雇用する労働者の安全を配慮することに関しての社会的責務は、より大きいものがあったとし、国の規制権限の不行使等に不作為の違法があって、国賠責任が生ずるこおとがあるとしても、一審被告の責任を「国」よりも軽くする合理的理由はない。
A一審被告の、倉庫業の公益性からの安全配慮義務と責任対応の限界については、一審被告の倉庫業の公益性を肯定しつつも、事業の公益性ゆえに、各事業で働く労働者の安全についての使用者の注意義務が軽くなるものではない。
B倉庫業・港湾運送業を行う企業の場合、取扱貨物の危険性の違いによって、その責任を負うのが第一次的には「国」、第二次的には「荷主・荷送人」、その後に「倉庫業(事業者)」というように順序づけることもできない。
一審原告らの附帯請求(遅延損害金)の始期を、Aの死亡時から発生するとして、死亡慰謝料を増額。
解説 石綿の荷役作業についていた港湾労働者の石綿のばく露に関して、高裁段階では始めて企業の責任を認めたもの。
■民事p54
東京地裁H23.5.26
父と娘婿との間の建物所有を目的とする土地の使用関係が使用貸借とされ、契約締結時に信頼関係が存在しなかったことを理由とする解約が認めれれた事例
事案 Aは、長女Bと婚姻したYに本件土地を貸与し、Yは、本件土地上の本件建物を建築。

Aは死亡し、Aの妻も長女Bも平成12年に死亡⇒Aの三女であるXが、本件土地を相続。
Xは、XY間の本件土地に係る使用貸借を解除した上、Yに対し、本件建物の収去土地明渡しを求めた。
規定 第597条(借用物の返還の時期)
借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。
2 当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。
3 当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。
判断 @本件土地に係る敷地利用権は使用借権であるとするのが相当である、
A本件土地使用貸借の基本的な目的は、高齢であったAの生活をYとBが援助することにあったもので、YとBとが円満な生活送ることが予定されていたと考えられるが、Yは、本件使用貸借契約に先立って、AやBらに秘して不貞行為を続け、二子をもうけていたが、更に、これらの事実を秘したまま、Y夫婦の関係が円満であると誤信していたAから本件土地の使用借権の設定を受けたのであるから、Xは、民法597条2項ただし書の類推適用により、本件使用貸借契約を解除することができると判断。
⇒Xの請求を認容。
解説 最高裁昭和42.11.24:
老父母を扶養する等の目的のため使用貸借が設定された土地であっても、信頼関係が破壊された場合には、民法597条2項ただし書を類推適用して、貸主は借主に対し使用貸借を解約することができる。
■民事p58
東京地裁H23.3.3
交通事故の被害者について、脳脊髄液減少症の発症が認められなかった事例
判断 本件の争点は、X1に脳脊髄液減少症が発症したか否かであるが、
X1に髄液漏出を認めることはできず、また、国際頭痛分類基準も日本神経外傷学会作業部会の診断基準の大基準も満たすとはいえないから、X1に脳脊髄液減少症の発症を認めることはできない。
更に、高次脳機能障害の発症も否定。
⇒Yらに対し、約725万円の支払を求める限度で、本訴請求を認容。
解説 脳脊髄液減少症:
脳脊髄液腔から脳脊髄液が漏出することにより、脳脊髄液が減少し、頭痛、めまい、頸部痛、耳鳴り、倦怠感などの症状が生ずる疾患。
診断基準については、国際頭痛分類基準、日本神経外傷学会基準のほか、ガイドライン作成委員会の意思らによる「ガイドライン2007」などがあるが、右ガイドラインは仮説にすぎないとし、実務では、国際頭痛分類基準を基本にして認定する例が多い。(東京高裁H22.10..20)
脳脊髄液減少症の発症については、初期にはこれを肯定する裁判例もあったが、現在では否定するものが多くなっている。
本判決は、国際頭痛分類基準と日本神経外傷学会作業部会の診断基準に従って、脳脊髄液減少症の発症を否定。
■民事p67
東京地裁H22.12.14
家電量販業者に関して消費者の満足度アンケートの調査結果が最下位であったなどの週刊誌の記事につき名誉棄損による不法行為の成立が否定された事例
判断・解説 ●名誉毀損該当性:
本件記事が名誉毀損に当たるか否かについて、ある記事が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準に判断するのが相当(最高裁昭和31.7.20)

本件記事は、Xの社会的評価を低下させるものであって名誉棄損に当たる。
●公共性、公益目的:
民事上の不法行為である名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図るものである場合には、摘示された事実がその重要な部分について事実であることの証明がされたとき、あるいは、そうでなくとも、その行為者がその事実を真実と信じるについて相当の理由があるときは、故意又は過失を欠くものとして、不法行為は成立しない(最高裁昭和41.6.23)

本件記事は、家電量販店を利用する消費者にとっては有意義が情報であり、社会的に関心をもたれる事実であり、社会的に関心をもたれる事実であるから公共の利害に関する事実に当たり、Yは専ら公益を図る目的でこれらの記事を掲載した。
●真実性及び真実と信じたことの相当性:
本件調査の手法(調査対象者の抽出方法、回答数、不正回答のチェック方法等)について認定した上で、調査結果の合理性を担保するための一定の配慮がなされており、恣意的な調査結果が生じ得るような事情を見出すことはできず、他の調査方法を採用すれば調査結果の信用性がより高まったとの立論が可能であるとしても、それをもって本件調査の調査結果の信用性そのものを否定することはできない。
⇒真実性を肯定。

調査方法に問題があった場合には調査結果をそのまま掲載したとしても真実性要件との関係において調査結果が信用できると言えるか否かについての判断訴w示したものであり、結論においては比較的広範に信用性を認める方向にたつもの。
●真実と信じたことに相当の理由があるか(記事2について)
Bの社長および店長に取材した上で、Xの取締役に対しても取材内容をファクスで送信した上で取材したにもかかわらず摘示に係る事実について特に否定されることはなかったなどと経緯を認定
⇒前記事実関係のもとではそれ以上の取材をしなかったことが不相当とはいえないから、・・・真実と信じたことには相当の理由がある。
■民事p79
大阪地裁H23.4.22
弁護士が税務業務を行う場合の税理士法に基づく手続を怠っているのに対し、国税局が税務職員と弁護士の委任者との間の相続税に関する協議への立会いを拒絶したことを違法としての国賠請求が認容された事例
事案 弁護士Xが委任者Aの相続税の納税の履行に関して大阪国税局と交渉していたところ、同国税局の主査Bにおいて、委任者と同国税局との交渉、協議の場にXが同席することを拒絶したことが違法な公権力の行使にあたるとして、国に対して国賠法に基づき慰謝料200万円及び遅延損害金の支払いを求めた事案。
新たに担当者となった主査Bより、税理士法51条に基づき、所属弁護士会を経由して当該税理士業務を行おうとする区域を管轄する国税局長に、同法施行規則26条所定の書面(税理士業務開始通知書)(51条通知)を提出せず、また、税理士法30条に基づき、同法施行規則15条所定の書面(税務代理権限証書)を税務官公署に提出していないことを理由に、滞納相続税の連帯納付義務の処理に関する委任者と大阪国税局との交渉、納付協議の場にXが同席することを認められない旨、電話で伝えた。
Xは、税理士業務開始通知書の提出を拒絶。
判断 ・・・・・からすれば、Bにおいて、右の事実や51条の立法の趣旨に遡り、この段階で51条通知等の提出を認める必要性、合理性及びXを手続から排除することの相当性等を慎重に検討することなく、形式的理由のみで行った本件措置は、職務上の義務に違反するもので国賠法上も違法と評価できる。
Xが受任した法律事務の履行を阻害された慰謝料の額は10万円が相当。
■民事p86
福岡地裁H23.3.24
建築設計事務所から依頼を受けてマンションの構造計算を行った建築士に構造計算のん誤りがあった場合、所有者に対する不法行為責任が認められた事例
事案 Xは、マンションの管理組合であるが、A建築設計事務所から本件マンションの構造計算を委託されたYが、建築基準法令にのっとって本件マンションの構造計算を行い、建物の安全性を検討するなどの注意義務を怠ったため、本件マンションに建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があるなどと主張。
⇒Yに対し、不法行為に基づく損害賠償を請求。
Yは、マンションの構造計算は、建築基準法令に適合し。たものであり、本件マンションの不具合は、建設会社の施工ミスであるなどと主張。
判断 @建物の建築に携わる設計者等は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負う。
AYは、本件マンションの構造計算に当たり、誤った構造計算を行ったのであるから、本件マンションに建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を怠ったものと認められる。
B本件マンションは、大規模な地震等により崩壊、破壊又は重大な変形等を起こす危険性があり、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があると認めるのが相当。

Yの不法行為責任を肯定し、XのYに対する本訴請求を認容。
解説 建築士法18条によれば、建築士は、設計は法令の定める基準に適合するようにしなければならないとお規定⇒構造計算に誤りがあったような、設計そのものに瑕疵があった場合には責任を負うことは当然。
建物の設計等に注意義務違反があり、そのため建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、これにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害されるばあいには不法行為責任を負う。(最高裁H19.7.6)
■民事p95
神戸地裁H22.10.7
顧客がヘアカタログのデザインを見せてカットを依頼したが、当該カタログどおりの髪型とならなかった場合において、美容師に美容契約上の債務不履行はないとされた事例
判断 Xがデザイン変更を指示した時期等の事実関係について、Yの主張を認め、第1デザインに沿って髪を短くカットした後に、Xが第2デザインへの変更を求めたため、第2デザインと異なる髪型となったものであり、Yは、Xの依頼に応じて、美容契約上の裁量を逸脱しない範囲で施術した。
さらに、デザイン変更の際には、Yにおいて、全く一緒というのは難しいと思うとXに伝えている⇒説明義務違反もない。
⇒債務不履行を否定し、Xの請求を棄却。
反訴請求:
イメージどおりの髪型にならなかったので自ら途中でデザインを変更したことに原因があったにもかかわらず、美容院の芸業時間に執拗に電話をかけ、200万円の休業損害が発生するなどとと告げている。
⇒不法行為の成立を認め、7万円の慰謝料を認めた。
■知財p100
知財高裁H22.8.9
発明の名称を「バッチ配送システムにおけるバッチの最大化方法」とする特許出願に対する拒絶査定不服審判の請求について、同請求は成り立たないとした審決が維持された事例
事案 Xが、発明の名称を「バッチ配送システムにおけるバッチの最大化方法」とする特許出願に対する拒絶査定不服審判の請求について、特許庁が同請求は成り立たないとした審決の取消しを求めた事案。
規定 特許法 第29条(特許の要件) 
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
審決 サポート要件及び明確性の要件を充足しない。
引用発明1に基づいて、又は、引用発明2に周知技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができ、法29条2項に該当。
⇒進歩性を否定。
判断 進歩性を否定し、Xの請求を棄却。
解説 ●判断順序
特許請求の範囲の記載がサポート要件や明確性の要件を充足することを確認した上で、進歩性について検討することが、論理的。
but
進歩性についての結論が容易に判断することが可能である場合には、訴訟経済の観点からも、サポート要件や明確性の要件等に関する判断を留保し、まず、進歩性について判断することも許されるう。
●進歩性について
進歩性については、
@本願発明の要旨認定、
A引用発明の認定、
B本願発明と引用発明との対比による一致点及び相違点の認定、
C相違点についての判断
という手順で、その有無が判断されるのが通例。
●国際調和
各国の特許権は、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められる権利であるから(属地主義の原則)、他国において対応する特許が登録されたからといって、日本で当然に特許されなければならないということはできない。
■知財p115
知財高裁H22.8.31
無効審判における複数請求項に係る訂正請求について請求項基準説に立った上で、「筆記具のクリップ取付装置」に係る旧実用新案が無効と判断された事例
事案 Yは、本件実用新案の請求項1,2及び5についての無効審判を請求。
Xは、請求項1,2及び5の訂正を請求。
特許庁は、訂正を澪tめ、請求項1,2及び5についての実用新案登録を無効とする旨の審決。

Xは審決取消訴訟を提起し、請求項1ないし6の訂正を求める訂正審判を請求し、知財高裁は差戻決定。

差戻後の無効審判において、Xは、訂正審判請求書に添付された全文訂正明細書を援用する訂正を行い、特許庁は、審理のうえ、請求項1,2及び5についての実用新案登録を無
効とする旨の審決(第2次審決)。

第2次審決は、無効審判請求をされていない請求項3,4及び6に係る再訂正が独立特許要件を欠くため、無効審判請求されている請求項1,2及び5についての分も含め、再訂正を認めることはできない。
訂正が認められても、容易に考案できる。
⇒請求項1,2及び5についての実用新案登録は無効。

本訴は、この第2次審決に対する審決取消訴訟。
判断 審決は、無効審判請求されていない請求項に「ついての再訂正が認められないことのみを理由として、無効審判請求されている請求項についての再訂正が認められないと判断した点で誤り。
but
審決は、無効審判請求されている請求項についての再訂正が認められたとしても、再訂正後の考案は、当業者がきわめて容易に考案することができたものであるとしてその実用新案を無効とする旨判断しており、その点の審決の判断に誤りがない。。

審決の判断の誤りは審決の結論に影響を及ぼすことなく、審決に、これを通り消すべき違法はない。
解説 ●複数の請求項に係る訂正が請求された場合の訂正の許否:
最高裁H20.7.10(発光ダイオードモジュールおよび発光ダイオード光源事件):
特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合、特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正は、訂正の対象となっている請求ごとに個別にその許否を判断すべきであり、一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として、他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されないとして、特許異議申立事件において請求項基準説を採用することを示した。
本判決は、無効審判請求における訂正請求について、請求項基準説に立つべきであるとして、一体説に立った審決の判断部分は誤りであるとしたが、審決は、請求項基準説に立って再訂正を認めたとしても進歩性がなく考案が無効になると判断していたので、審決は維持。
■労働p135
東京高裁H23.2.15
定年に達した後の有期の雇用契約の更新がされずに雇止めがされたことにつき、従業員の希望に応じて契約を、更新する労使慣行が存在していたとはいえず、従業員において契約が更新されることについて合理的な期待を有していたというkともできないとして、雇止めが有効とされた事例
事案 Y社の従業員であったXらは、満60歳の定年に達した後、っ順次、嘱託社員(平成15年に定年となった)及び特別嘱託社員(65歳に達した後)としてYとの間で有期の雇用契約として稼働していたが、特別嘱託社員としての雇用契約の更新がされずの雇止めがされた。

Xらは、同雇止めが無効であると主張し、Yに対して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、ならび雇止っめがされた後の期間についての賃金及び賞与の支払等を求めて訴えを提起。
主張 @・・・特別嘱託社員たる従業員についてもその希望に応じて雇用契約を更新する労使慣行が存在し、同労使慣行は、XらとYとの間の各雇用契約の内容になっている。
A仮にそうでないとしても、Xらは、その各特別嘱託雇用契約が更新されることについて合理的な期待を有していたにもかかわらず、Yがかかる合理的な期待に反してXらとの各特別嘱託雇用契約の期間満了を理由としてXらの雇止めをしたなどとして、同雇止めは無効。
判断・解説 65歳に達した従業員が使用者との間で締結した有期の雇用契約の期間満了による雇止めについて、当該雇用契約の内容・運用に関する具体的事情を前提として、
@従業員の希望どおりに特別嘱託社員として採用等をする一般的取扱い(労使慣行)が長期間反復継続して行われ、使用者及び従業員双方に対して事実上の行為準則として機能していた事実はなく、また、
A当該従業員らについて雇用継続する合理的な期待があったとはいえないとしたものであり、雇止めが適法と判断された事例。
2118
2118 ■民事p34 最高裁H23.3.22 貸金業者が貸金債権を一括して他の貸金業者に譲渡する旨の合意をした場合における、借主の上記債権を譲渡した業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位の移転の有無
事案 Xが、貸金業者であるA鰍ィよび同社からその資産を譲り受けたB鰍吸収合併しその権利義務を承継したYとの間の継続的な金銭消費貸借取引に係る各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の制限を超えて利息として支払った部分を元本に充当すると過払い金が発生していると主張して、Yに対し不当利得返還請求権に基づき、その返還等を求める事案。

Aは、Aの消費者ローン事業に係る貸金債権等の資産を一括してYに売却する旨の契約を締結。
本件譲渡契約は、
第1.3条において、
Yは、譲渡対象資産に含まれる契約に基づき生ずる義務のすべて(クロージング日以降に発生し、かつ、クロージング日以降に開始する期間に関するものに限る。)を承継する旨を、
第1.4条(a)において、
Yは、第9.6条(b)に反しないで、譲渡対象資産に含まれる貸金債権の発生原因たる金銭消費貸借契約上のAの義務又は債務を承継しない旨を定め、

第9.6条(b)においては、
「買主は、超過利息の支払の返還請求のうち、クロージング日以後初めて書面により買主に対して、または買主および売主に対して主張されたものについては、自らの単独の絶対的な裁量により、自らの費用および経費を負担して、これを防御、解決または履行する。買主は、かかる請求に関して売主からの補償または負担を請求しない。」と規定。
判断 @第9.6条(b)は、Yが第三者弁済をする場合における求償関係を定めるもので、これをもってYが本件債務を承継したとはいえない、
A当該資産が譲渡の対象であるかは合意内容いかんにより、営業譲渡の場合であっても、金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が当然に移転するとはいえないところ、本件譲渡契約において本件債務は承継の対象から明確に除外されているとして、原判決を破棄し、本件を民訴法260条2項の申立てと共に差し戻した。

なお、Yは、上告受理申立書において、不服申立ての範囲を原審におけるものより拡張したが、当審において不服申立ての範囲を拡張することは許されないとして、拡張部分に関する上告を却下。
解説 債権譲渡の場合はもちろん、資産譲渡契約が事業譲渡契約(営業譲渡)の場合であっても、譲渡業者の財産が譲受業者に当然に承継されるわけでないし(譲渡業者は、譲渡対象であある財産の種類に従い、個別に移転手続を行わなければならない)、この場合、特約により一部の財産を譲渡の対象から除外することができないわけでもない。

結局、当該資産譲渡契約において、何が譲渡の対象であるかは、計約内容(譲渡の対象に係る定めの内容)を個別に検討して判断するほかない。

基本契約に基づく継続的な金銭消費言貸借取引においては、計約内容いかんにかかわらず、契約上の地位が譲受業者に当然に移転する、あるいは、譲受業者が過払金返還債務を貸金債権と一体のものとして当然に承継するなどという考え方は困難。


最高裁昭和44.12.11
「営業譲渡契約は、客観的意義における営業をその同一性を維持しながら移転することを約するものであるから、特段の契約上の定めがないかぎり、営業に属する一切の財産は、譲受人に移転すべきものと推定すべきである。」と判示するが、本件債務を承継しない旨を明確に定めている本件譲渡契約に、右推定は及ばない。
■民事p37 東京高裁H22.3.17 週刊誌に掲載された八百長相撲に関する記事について元横綱らに対する名誉棄損の成立を認め、出版社らに対し、損害賠償の支払を謝罪広告の掲載が命じられた事例
事案 Xらが、Yらに対し、Y社が週刊誌に掲載した、
@X1の優勝決定戦における取組が八百長であった、
A当時の財団法人X2の理事長の指示による八百長相撲があった、
B横綱が下位力士から勝ち星を買う伝統があり、X1が右取組以外にも勝ち星を売る八百長をしていた、
CX2の親方同士の間で弟子の相撲の勝負につき八百長を仕組んでいた
との各記事がXらの名誉を毀損するとして、不法行為に基づく損害賠償と、名誉回復処分として取消広告の掲載を求めた事案。
判断 X1の名誉棄損を肯定。
財団法人X2の名誉棄損性についても肯定。

本件各記事において摘示された事実が真実であること、仮に真実でないとしても真実であると信ずるについて想到の理由があったとはいえないと結論付けている。
■民事p45 東京地裁H22.7.30 18年にわたって継続した販売代理店契約を4カ月の予告期間をもって解約したのは契約上の義務違反であるとし、1年間の予告期間が相当であるとして、その間の補償請求が認められた事例
事案 Xは、Yとの間で、オーストラリアのワイン会社のワインを日本において独占的に輸入・販売することを内容とする販売代理店契約を締結し、ワインを輸入販売。

Xは、Yの解約通知は、本件契約上の1年間の予告期間を設ける義務に違反するとともに、Xの日本における独占的な輸入販売権を侵害するものであって不法行為を構成すると主張し、Yに対して、債務不履行又は不法行為に基づき、8280万円の損害賠償を請求。
判断 XとYは、本件契約に基づき18年という長期にわたり取引関係を継続し、その間にXは日本におけるワインの売上を大幅に伸ばしてきた。

Xにおいて将来にわたってYのワインが継続的に供給されると信頼することは保護に値する。

Yが本件契約を解約するには、1年の予告期間を設けるか、その期間に相当する損失を補償すべき義務を負う。
Yの本件解約は、本件契約上の義務に違反する。

Xの8カ月分の純利益に相当する約550万円の支払を求める限度で、Xの本訴請求を認容。
解説 販売代理店のような継続的契約関係においては、下級審判例では、代理店が多額の投資を行い、販売促進活動を実施したことなどを考慮し、
@契約解約にあたっては相当の予告期間を設ける、
A解約によって相手方の被る損失を補償する
という傾向がみられる。

本判決は、18年にわたって継続したワインの販売代理店契約を解約するには、1年の予告期間を設けるか、その期間に相当する損失を補償する義務があるとして、解約者側の損害賠償責任を認めたもの。
■民事p50 東京地裁22.12.22 中国の事業者が製造した冷凍食品を輸入した事業者から同食品を転売のため継続的に購入していたところ、中国の事業者における毒物混入の問題が発覚し、購入した食品の廃棄等を余儀なくされた場合について、売主の瑕疵担保責任が肯定され、債務不履行責任、製造物責任が否定された事例
事案 輸入食品の毒物混入の問題が発覚したため、日本国内における食品の買主が売主に対して損害賠償を請求した事案。
規定 民法 第570条(売主の瑕疵担保責任)
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。

商法 第526条(買主による目的物の検査及び通知)
商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が六箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする。
3 前項の規定は、売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない。
判断 本件売買契約の目的物は転売を予定した食品であり、取引観念上、最終的に消費者の消費に供し得る品質を有し、これに基づいて他社への販売が可能である商品価値を有することが予定されているところ、中毒事件の公表当時、社会全体においてBの製造した製品全般に対し、有害物質が混入している疑いがあるとの目が向けられており、その疑いの存在によって商品価値を有していなかった。
⇒本件商品の瑕疵を認めた。

商法526条2項の通知も認める。

廃棄した商品の代金額、回収の際の返送・転送経費及び保管経費、消費者からの回収経費、安全性確認検査費用、消費者対応等に要した人件費、社告掲載費用、廃棄費用、販売先に支払った損害賠償金の損害を認め、請求を認容。

Yの債務不履行については、Yの責めに帰すべき事由が認められないとして否定。

本件商品の欠陥については、本件商品に有害物質が混入していたとは認められないとして否定。
■民事p60 大阪地裁H23.4.26 併合9級の後遺障害が残った歯科医師について、喪失率を70%として逸失利益をが算定された事例
事案 Xの逸失利益について、Xは切削治療等が不可能となったことから、歯科医院を退職し、今後、歯科医として稼働することが不可能になったとし、Xの後遺障害がXの労働能力に与える影響は極めて大きい。

Xの労働能力の喪失率は70%、喪失期間も40歳から27年間。

Xの事故前の年収792万円を基礎として、8119万792円と認定。
解説 後遺障害による逸失利益の算定における労働能力喪失率については、労働省労働基準監督局長通牒による労働能力喪失率表記載の喪失率を認定基準として採用するのが実務の一般的傾向であり、右喪失率表は、逸失利益を算定するに当たって有力な資料となる(最高裁昭和42.11.10)。

but
右喪失率表は、あくまで参考資料にとどまる
⇒逸失利益は、これを参考とした上、被害者の年齢・職業・後遺障害の部位程度、事故前後の稼働状況等の諸般の事情を総合して判断されるべきもの。
実際の裁判例においては、具体的事案に応じ、同喪失率表を超えた喪失率により逸失利益を算定したものや、同喪失率表に満たない喪失率により逸失利益を算定したものも少なくない。
■民事p66 名古屋地裁H23.2.l.25 重婚的内縁関係にある者の間において、その一方が死亡した後は他方が共同で使用してきた建物を単独で使用する者の合意が成立していたと認められた事例
事案 Aの相続人の1人であるXは、本件建物の共有持分権に基づき、Aと同居していたYに対し、同建物の明渡しと賃料相当損害金の支払を求めた。

Yは、
@本件建物はYとAが二人で共同して営んでいた訴外会社の工場兼自宅として共同事業の収益を原資として建築した不動産であるから、本件建物について2分の1の持分を有している。
AYとAとの間では、本件建物をAの死亡後もYが単独で無償で使用する旨の合意が成立していた、
BXが、Yに対し本件建物の明渡しを求めることは権利の濫用である
と主張。
判断 @本件建物についてYの共有持分の取得を否定、
AAとYとの間で、Aの死亡後は当然Yが本件建物を単独で無償使用する旨の合意が黙示に成立
B仮に右合意が成立したといえないとしても、Xの本件建物の明渡請求は権利の濫用として許されない。

請求棄却
解説 建物の所有者と同居していた内縁の配偶者が所有者の死亡後に右建物に居住し続けることができるかどうかの問題(「内縁の妻の居住権」)

@所有者から内縁の妻への生前の贈与を認めたもの(最高裁昭和39.5.26)
A建物の明渡請求を権利の濫用に当たるとしたもの(最高裁昭和39.10.13)
B死亡後の単独使用の合意の成立を認めたもの(最高裁H10.2.26)


本判決は、重婚的内縁関係にある配偶者についても、一夫一婦制の趣旨が没却されない限度で保護されるとして、Bの趣旨が妥当するとして、黙示の使用貸借の成立を認めた。
■民事p70 神戸地裁尼崎支部H23.5.13 高次脳機能障害(5級2号)、醜状障害(12級13号)の後遺障害により併合4級と認定された被害者につき、労働能力喪失率が85パーセントと認められた事例
主張 Xは、逸失利益算定の労働能力喪失率については、4級相当として92%を主張。

Yらは、Xらの醜状障害は労働能力の喪失に影響しないし、Xの症状からすれば79%を認定すれば十分であるなどと主張。
判断 Yらに対し、7680万円余の支払を求める限度で、Xの本訴請求を認容。

労働能力喪失率については、後遺障害等級4級に相当する場合には、一般に、労働能力の92パーセントを喪失したものと認められるとしつつ、

Xの職業、年齢、性別、後遺症の部位・程度、事故前後の稼働状況等の事情を含めて検討した上、Xは、良好な人間関係を保ちながら、継続的に就労することは困難を伴うといわざるを得ないが、単純な作業程度の仕事はできなくはないといえる

Xの事故前の就労状況、頭部及び顔面部の醜状痕の部位・程度などからすると、労働能力喪失率は85%と認めるのが相当と判断。
解説 逸失利益算定における労働能力喪失率においては、一般に、労働能力喪失率表を参考として評価するが、被害者の職業、年齢、性別、後遺障害の部位・程度・事故前後の稼働状況等を総合的に判断して、事案ごとに適宜判断して良いと解されている。

裁判例でも、5級2号の被害者について79%を認めたものヤ、85%を認めたものがある。
■民事p81 佐賀地裁H22.9.24 建築主との間で建築確認申請の手続を行う旨の合意をし、建築確認申請書の工事監理者欄に自己の名を記載して建築確認申請の手続を行ったが、その後、工事監理業務を行わず、建築主をして工事監理者の変更の届出をさせる等の措置を執らなかった一級建築士について、当該建物の瑕疵に関し、建築主に対する不法行為責任が肯定された事例
事業 本件建物の基礎に瑕疵があるとして、Y1(二級建築士の資格を有するY2を代表者とするY1)及びY2に対し、本件建物の補修工事費用等の損害賠償を求めるとともに、Y3に対して損害賠償を求めた。

XはY3(建築確認申請を行った一級建築士)に対して、AとY3との間に本件建物の建築工事に係る工事監理契約が成立していることを前提に、主位的には不法行為責任の成立を、予備的には債務不履行責任の成立を主張し、また、仮にAとY3との間に工事監理契約が成立していないとしても最高裁H15.11.14の判示内容に照らせば、不法行為が成立する旨主張。
判断 本件建物の基礎は、本件土地の地盤の沈下又は変形に耐えられる安全性を欠いていた⇒瑕疵に当たると判示しY1及びY2の責任を肯定。

AとY3との間の本件建物の建築工事に係る工事監理契約の成否について検討し、同工事監理契約の成立を否定し、AとY3との間では、建築確認申請の手続について、Y3がこれを行う旨の合意、及びY3が完了検査に立ち会う旨の合意が成立していたにとどまるものと認めるのが相当。

最高裁H15.11.14は、建築主との関係でも当てはまるものであり、本件についてみると、Y3は、いったん工事監理者としてY3の名を記載した以上は、Aとの間で工事監理契約を締結して工事監理業務を行うか、これが不可能な場合、Aをして工事監理者の変更の届出をさせる等の適切な措置を執るべき法的義務があった

これを怠ったとして、不法行為責任を負うことは免れない。

5割の過失相殺。
解説 最高裁H15.11.14
建築士は、その業務を行うに当たり、建築物を、購入使用する者に対する関係において、建築士法3条から3条の3まで及び建築基準法5条の2の各規定等による規制の潜脱を容易にする行為等、その規制の実効性を失わせるような行為をしてはならない法的義務があり、故意又は過失によりこれに違反する行為をした場合には、その行為により損害を被った建築物の購入者に対し、不法行為に基づく賠償責任を負う旨判示し、いわゆる名義貸しの事案において、名義貸しをした建築士の当該建物を購入した者に対する不法行為責任を肯定。

本判決は、最高裁H15.11.14の法理は、建築主との関係でも当てはまるものとであるとして、建築確認申請書の工事監理者欄にその名が記載されていたが、実際には工事監理業務を行わなかった建築士の責任を肯定したもの。
■民事p91 盛岡地裁H23.1.14 パチンコ業者が風俗営業の許可に係る規制を利用して競業者の出店を阻止する目的で近接する土地を買収し、これを学校法人に寄附した行為が不法行為に当たるとされた事例
判断 X2の出店予定を察知し、Y1は、Y2の店舗の営業利益の減少を防止し、X2の出店を阻止するため、X2の出店予定地付近の土地を取得したうえ、学校法人に寄附したものでああるが、これらの行為は、風営法の規制を利用し、X2がパチンコ店を開業することを妨害したものというべく、許された自由競争の範囲を逸脱し、X2の営業の自由を侵害するものとして、不法行為を構成する。

X2の本訴請求を認容。
解説 問題となる行為が自由競争の枠内にとどまるものか、公序良俗に反するかといった観点から吟味すべきもの(潮見)。

最高裁H19.3.20
パチンコ店の出店を阻止するため、近接土地を児童遊園として社会福祉法人に寄附した行為は不法行為を構成すると判断。
■知財p109 知財高裁H22.8.4 撮影準備完了状態を知らせるため、操作者からよく見える場所にレーザー光を照射するX線撮影装置に関する引用発明に、照射のランプの点滅等の方法によりX線照射中の状態を視覚的に認識することができるという周知技術を適用しても、照射のランプに撮影準備完了状態を視覚的に認識させる機能を併有させる本願発明に係る構造を想到することは容易とは認められないとして、これと異なる審決の判断に誤りがあるとされた事例
事案 Xが、発明の名称を「X線撮影装置」とする特許出願に対する拒絶査定不服審判の請求について、特許庁が同請求は成り立たないとした審決の取消しを求めた事案。

判断
引用発明及び周知技術からは、相違点に係る構造を想到することが用意とは認められない。
⇒進歩性を肯定し、審決を取り消した。
解説
進歩性について
@本願発明(本件発明)の要旨認定、
A引用発明の認定、
B本願発明(本件発明)と引用発明との対比による一致点及び相違点の認定、
C相違点についての判断
という手順によって、その有無が判断されることが通例。

相違点についての判断においては、出願当時の技術常識、周知技術を参酌しつつ、相違点に係る構成について、引用発明や周知技術を組み合わせることによって容易に想到し得るものであるか、当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎないか等について判断される。
この場合、本願発明(本件発明)、引用発明、周知技術について、技術分野が共通し、あるいは関連するものであるか、解決すべき課題・作用方法が共通するか、組合せや適用について動機付けや示唆があるか、阻止事由がないかなどについても慎重に検討した上で判断される。


裁判所は、本願発明及び引用発明は、撮影準備完了状態を視覚的に認識させるものであるが、周知技術は、照射野ランプの点灯状態の変化によりX線撮影装置の作動状態を視覚上明らかにするにとどまること(本願発明及び引用発明の解決課題と周知技術の内容)、撮影準備完了状態を視覚的に認識させるという点で、本願発明と引用発明は共通するっものの、引用発明ではX線被曝を防ぐため、操作者ができるだけX線撮影装置から離れた位置で撮影しようとすることを前提として、操作者が離れていても見やすく、かつ、被験者に不安を与えることがないような照射場所として天井が例示されているが、本願発明では、術者が非権者から視界をお外さなければならないという課題を解決するために、「被検者の撮影部位」を選択していることから、引用発明について、当業者が「被検者の撮影部位」を選択することは困難であること(本願発明及び引用発明の解決課題の詳細、阻害事由の有無)、当業者が「被検者の撮影部位」を選択すること及びレーザー光照射部をX線撮影装置の適宜の位置に設けることについて容易に想到し得るものであるとしても、照射野ランプとレーザー光照射部とがX線撮影装置に併設されるというにとどまることなどから、照射野ランプに撮影準備完了状態を知らせる機能を併有させる構成については、引用例は、そもそも照射野ランプの構成自体を有さない以上、何らの示唆を有するものではない(引用例における示唆の有無、周知技術の詳細)としており、周知技術の内容、各発明の解決すべき課題、組合せに係る示唆や動機付け、阻害事由の有無について詳細に検討したものということができる。


本判決のポイントとしては、
照射野ランプに係る周知技術の内容を詳細に認定した上で、照射野ランプの構成を有しない引用発明において、作動状態を知らせる機能を有する周知技術である照射野ランプを適用し、さらに、撮影準備完了状態を示すレーザー光を照査する場所として「被検者の撮影部位」を選択し、レーザー光照射部をX線撮影装置の適宜の位置に設けるとしても、照射野ランプのレーザー光照射部とがX線撮影装置に併設されるにとどまるっものであるから、それ以上に、照射野ランプに撮影準備完了状態を知らせる機能を併有させることにつても、照射野ランプに係る周知技術をもって当業者が容易に想到し得るとした審決の判断は、いわゆる後知恵であると判断したもの。
■知財p120 大阪地裁H22.12.16 ベビー服・子供服の陳列のための商品陳列デザインにつき、それ自体で売り場の他の構成要素から切り離されて認識記憶される対象とはいえないとして営業表示該当性が否定された事例
事案 Xが、その店舗内でベビー服・子供服の陳列のために用いている商品陳列デザインは、Xの営業表示として周知又は著名であるとして、不正競争防止法2条1項1号又は2号に基づき、Yが用いている商品陳列デザインの使用の差止め及び損害賠償等を請求した事案。
規定 第2条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為
争点 @ X商品陳列デザインは、Xの周知又は著名な営業表示に該当するか
A Yの店舗におけるベビー服・子供服の商品陳列デザインは、X商品陳列デザインに類似するか
B 誤認混同のおそれがあるか(不正競争防止法上の争点)
C Yの行為がXに対する不法行為を構成するか
D Xの損害
解説
商品陳列デザインが、不正競争防止法2条1項1号又は2号の営業表示に該当するかという点は十分には議論されていない論点。

大阪地裁H19.7.3:
店舗外観は、本来、営業主体を識別させるために選択されるものではない、という性質から、店舗外観が営業表示性を備えるのは、特徴的な店舗の外観の長年にわたる使用等が認められる例外的な場合である旨位置付けられている。


本判決:
商品陳列デザインというものが、機能的な観点から選択されるものであって、営業主体の出所表示を目的とするものではないことから、本来的には営業表示には当たらない。
商品陳列デザインに少し特徴があるとしても、それは売場全体の視覚的イメージの一要素として認識記憶されるにとどまるのが通常と考えられる⇒商品陳列デザインだけが、売場の他の視覚的要素から切り離されて営業表示性を取得するに至るということは考えにくい。

商品陳列デザインだけで営業表示性を取得するような場合があるとするなら、それは商品陳列デザインそのものが、それだけでも売り場の他の視覚的要素から切り離されて認識記憶されるような極めて特徴的なものであることが少なくとも必要であると考えられる。


機能的な観点から選択された商品陳列方法を不正競争防止法での保護の対象とすると、競合他社のビジネスを著しく阻害する、という価値判断がある。
■商事p136 東京地裁H23.5.23 自動車の盗難を保険事故とする保険金請求において、盗難の外形的事実である「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」につき高度な蓋然性があると認められる程度まで立証できたといはいえないとして、保険金請求が棄却された事例
事案 Xは、管理する資材置場に本件車両を駐車していたところ、盗難にあったとして、Yに対して、本件保険契約の保険条項に基づく保険金及びこれに対する遅延損害金の支払を請求。
争点 @ 保険事故(盗難)発生の有無
A 故意免責条項該当事由の有無
原審 本件盗難事故がX(X代表者又は同人の意思を通じた者)以外の第三者によって生じたものであると認めて請求を認容。
判断 原判決を取り消し、Xの請求を棄却。
解説 本判決は、自動車の盗難を保険事故とする保険金請求において、
@ 盗難現場とされる資材置場の構造及び状況、とりわけ、街宣車が駐車されており、イモビライザー標準装備車であることから盗難されにくいはずのに、設置されていたセキュリティシステムを合理的な理由なく切っていたこと、
A 車両を預けていた自動車販売業者からの引き揚げの経緯、車両を資材置場に移動させた理由が不自然であること、
B 請求者が経済的に逼迫した状況にあること、
C 車両の必要性が低いことなどの事情が認められる場合には、盗難の外形的事実である「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」につき高度な蓋然性があると認められる程度まで立証できたとはいえないとして、保険金請求が棄却。


判例(最高裁)は、
「衝突、接触・・・その他偶然な事故」及び「被保険自動車の盗難」を保険事故として規定している家庭用総合自動車保険約款・一般自動車総合保険約款に基づき、盗難に当たる保険事故が発生したとして保険者に対して車両保険金の支払を請求する者は、「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という外形的な事実を主張、立証すれば足り、被保険車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張、立証すべき責任を負わない。

「被保険自動車の盗難」という保険事故が発生したとして、一般自動車総合保険約款に基づき車両保険金の支払を請求する者が、「外形的・客観的に見て第三者による持ち去りとみて矛盾のない状況」を立証するだけでは、「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という外形的事実を立証したことにはならないにもかかわらず、右の立証をするだけで盗難の事実が想定されるとした原審の判断には、主張立証責任の分配に実質的に反する違法がある。(最高裁H19.4.23)
■労働p142 東京地裁H22.4.7 1.飲食店のアルバイト店員について変形労働時間制の適用がないとされた事例
2.タイムカードによって勤怠管理がなされていた飲食店のアルバイト店員についてタイムカードによって労働時間が認定された事例
事案 賃金支払請求権に基づいて、未払時間外手当及びタイムカードに打刻された労働時間のうち賃金が支払われていない部分の未払賃金の各支払、付加金請求権に基づいて、本件未払時間手当と同額の付加金の支払を求めた事案。

Yは、半月単位の変形労働時間制を採用しているので、割増賃金は発生しないと主張⇒変形労働時間制の適用の有無が争点。
判断
Yにおける変形労働時間制は就業規則によれば1か月単位のそれであったのに、半月ごとのシフト表しか作成せず、変形期間全てにおける労働日及びその労働時間等を事前に定めず、変形期間におけるき期間の起算日を就業規則等の定めによって明らかにしていなかった
⇒労基法に従った変形労働制の要件を遵守しておらず、かつ、それを履践していたことを認めるに足りる証拠もない⇒変形労働時間制の適用は認められない。


タイムカードの打刻によって労働時間を認定。
規定 労基法 第32条の2
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は就業規則その他これに準ずるものにより、一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が前条第一項の労働時間を超えない定めをしたときは、同条の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において同項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。
A使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。

労基法 第89条(作成及び届出の義務) 
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
解説
使用者は、事業者との労使協定又は就業規則その他これに準ずるものにより、1か月以内の一定期間を平均して1週間当たりの労働時間が週法定労働時間を超えない定めをした場合には、法定労働時間にもかかわらず、特定された週において40時間を、特定された日において8時間を超えて労働させることができる。(労基法32条の2A)

変形労働時間の主張は、法定労働時間制を前提とする割増賃金の請求に対する権利障害事実として抗弁となる。

1か月以内の期間の変形労働時間制の適用が認められるためには、法定労働時間を上回る週または日を特定し、かつ、単位期間を平均し1週間当たりの労働時間が週法定労働時間を超えないことを明らかにするために、各週・各日の所定労働時間を就業規則又は労使協定に規定する必要があり、就業規則上は、始業・終業時刻が必要的記載事項であるため(労基法89条1号)、就業規則上は各日の始業・就業時刻の特定も要し、労使協定による場合も同様(最高裁H14.2.28)。

業務の性質上就業規則又は労使協定による事前の特定が困難な場合は、変形の期間、上限、勤務のパターンなどの変形制の基本事項を就業規則又は労使協定に定めた上、変形期間の開始前に、具体的な勤務割りで特定することも認められる(最高裁昭和63.3.14)。

就業規則又は労働協定に労働時間制の枠組みを定めるだけで労働時間を特定せず、具体的な労働時間については使用者が任意に定めることができるような制度は違法(仙台高裁H13.8.29)。

本判決は、右の要件の充足が認められないとして、変形労働時間制の適用は認められないとした。


割増賃金訴訟においては、実労働時間についての立証責任は、労働者側にあり、労働者は、日ごとに始業時刻と終業時刻を特定して主張する必要がある。

タイムカードによって時間管理がなされている場合、特段の事情のない限り、タイムカード打刻時間をもって実労時間と事実上推定するのが多くの判例の立場。

タイムカードが導入されていながら、タイムカードが時間管理のためではなく、単に出退勤管理のために設置されていたとして、タイムカードによって実労働時間を認定しなかった裁判例(大阪地裁H1.4.20)。
シフト表によって実労働時間を認定した裁判例(岡山地裁H19.3.27)。
2117
2117 ■民事p3 最高裁H23.4.26 精神神経科の医師の患者に対する言動と上記患者が上記言動に接した後にPTSD(外傷後ストレス障害)と診断された症状との間に相当因果関係があるということはできないとされた事例。
事案 Xが、A病院を開設するYに対し、A医師の言動によりそれまで抑えられていたPTSDの症状が現れた旨主張して、診療契約上の債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を求める事案。
原審 本件面接時のXの状態を考慮することなくされた本件言動は違法であり、本件言動が再外傷体験となってXはPTSDを発症したもの

Xの請求につき、過失相殺により損害額の4割を減額して、
結論として201万円余の支払いを求める限度で認容。
判断 XがPTSDを診断されたことを前提として、PTSDの診断基準ないし医学的知見を踏まえ、違法と主張される行為とPTSDと診断された症状との間の相当因果関係を否定すべきとの判断を示した。
解説 PTSD(Post Traumatic Stress Disorder):
「フラッシュバック」といわれる再体験症状などを主たる症状とする。

PTSD発症という医師の診断がない場合はもちろん、その診断がある場合であっても、真にPTSDが発症したといえるか、違法行為と主張される行為とPTSD発症との間に相当因果関係があるといえるか等について争われる例が多い。

PTSDの発症原因については、精神科医の間で様々な意見があるようであるが、そのような条¥今日の下で、一般的な診断基準を超えて、過去にPTSDの発症原因となり得る外傷体験をした者につき、その外傷体験と類似せず、これを想起させるものでもなく、かつ、それ自体として重大とはいえないストレス要因によってPTSDを発症し得るという見解を採用するのは無理がある。

A医師の本件言動は不適切であり、Xに一定の心的ストレスを与えたものといえるが(違法性があるとまでいえるかについては疑問がある)、PTSDを発症させるような性質を有しているとはいえず、本件言動とその後にXに現れたPTSDと診断された症状との間に相当因果関係があるということはできない。
■民事p6 東京高裁H23.5.30 1.全国紙の県版において報道された市長選挙候補者が市税を滞納している旨の記事につき、現に滞納していることの真実性は認められないが、取材に応じた候補者本人の回答から誤信したことに相当な理由があるとして名誉棄損の成立が否定された事例
2.市長選挙候補者が市税を滞納している旨の新聞記事を掲載されたことにつき、貴社が取材することなく報道したもので妨害記事である旨のビラを日刊紙各紙に約1万3000部を折り込んで配布したこと等が報道機関に対する名誉棄損に当たるとされた事例
3.弁護士が受任事件に関して記者会見をする場合には、記者会見における発言が第三者の名誉棄損に当たるとしても、依頼者は弁護士に対し意図的に虚偽の情報を提供して弁護士の判断を誤らせた等の特段の事情がない限り、弁護士の発言について、不法行為責任を負うものではない。
事案 X(新聞社)は、Yの行為は名誉棄損であるとして、不法行為に基づき慰謝料1000万円と弁護士費用100万円の支払を請求。(本訴)

Yは、本件記事掲載当時Yには市税の滞納はなかったのに誤報されたことにより名誉が毀損⇒不法行為に基づき慰謝料300万円と弁護士費用60万円、謝罪広告を求める。(反訴)
解説
全国紙の県版において報道された市長選挙候補者が市税を滞納している旨の記事につき、現に滞納していることの真実性は認められないが、取材に応じた候補者の回答から誤信したことに相当な理由があるとして、名誉棄損の成立を否定。


「事実の摘示」による名誉棄損については、
人格権と表現の自由(報道の自由)との調整を図る必要から、
@公共の利害に関する事実に係ること(公共性)
A専ら公益を図る目的に出たこと(公益目的性)
B摘示された事実が重要な部分において真実であることが証明されたこと(真実性)
C摘示された事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があること(誤信相当性)
の要件を満たす場合に免責を認める。

@ないしBの要件を満たすときは、違法性が阻却。
Cの要件を満たす時は、故意又は過失が阻却される。
(最高裁)


誤信相当性の判断:
新聞記者の取材に対して取材対象者が自己に不利益な事実を回答した場合、取材対象者本人が誤解して回答していることがうかがえる事情があれば格別、そうでなければ、記者として、取材対象者の回答が真実であると受け止めるのは自然。

誤信相当性を肯定。


弁護士が受任事件に関して記者会見をする場合には、記者会見における発言が第三者の名誉棄損に当たるとしても、依頼者は弁護士に対し意図的に虚偽の情報を提供して弁護士の判断を誤らせた等の特段の事情がない限り、弁護士の発言について、不法行為責任を負うものではない。

弁護士の職責又は職務の独立性から、記者会見における発言が第三者の名誉棄損に当たる場合には、弁護士固有の不法行為責任が問われるべきとの考え方。

●使用者責任について
弁護士の職務は独立したものであるから、依頼者が現実に具体的指示をしたときでも弁護士は無批判にこれに従うべき立場にはない⇒使用者責任を消極に解した。
■民事p20 東京地裁H23.1.28 橋梁の建設工事共同体の締結した請負契約において独禁法3条違反により公正取引委員会から課徴金納付命令を受け、これが確定した場合には発注者に対して請負代金額の10分の1に相当する金額を支払う旨の条項が有効とされ、適用された事例
事案 日本道路公団の発注した高速道路インターチェンジランプ橋の工事について、本件工事を請け負った共同企業体の権利・義務を承継したX社が、公団の地位を承継したY社に対して、当該請負代金未払分の支払を求めた訴訟。

Yは、Xの主張に対して・・・本件違約金条項に定める事由が受注社に発生したため、当該違約金請求権および遅延損害金請求権をもって右請負代金未払分の請求権と相殺したと主張して、争った。

Xは、発注者である公団が入札談合を主導し、本件談合を承諾していたので、本件に本件違約金条項の適用はなく、仮に適用されるとしても、公団は本件違約金条項を適用しないことを黙示的に合意していたか、本件違約金条項を適用する権利を放棄していたと主張。
規定 第130条(条件の成就の妨害)
条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。
判断・解説 公共工事の請負契約にあたって入札談合が行われたとして公正取引委員会から課徴金納付命令を受け、同命令が確定した場合には、受注社が発注者に対して違約金を支払う旨の契約条項の適用につき、発注者自身が談合を主導していたから同違約金条項の適用がない、あるいは同違約金条項に基づいて違約金を請求することは信義則に違反するもしくは権利の濫用に当たる等とする受注社側の主張を退け、同違約金条項に基づく発注者の請求権の行使を認め、さらに過失相殺も認めなかった事例。

過失相殺の主張について:
本件橋梁談合には公団の当時の理事・職員の積極的な関与が認められるものの、Xは自らの判断で、自らの利益を目的の1つとして談合に関与したということができる上、本件橋梁談合はXを含む鋼橋工事各社と公団の技術系職員が、社会的非難が強いことを
認識しながら公団に対して共同不法行為を行ったものということができるから、本件談合に関し公団には過失相殺をすべき事情は認められない。
■民事p28 東京地裁立川支部H23.4.25 多重債務者から債務整理を委任された弁護士法人が貸金業者から過払金を回収した預かり金につき、多重債務者が弁護士法人に対して求めた返還請求の一部が認容された事例
判断 多重債務者の債務整理に当たるY1法人としては、経済的苦境にあるXの立場に後見的な配慮を要するのに、Y1法人の辞任はこの後見的配慮が不十分で、Y1法人の帰責事由による委任契約の終了と評価される。
しかし、Y1法人の帰責によって本件委任契約が終了した場合でも、終了までに委任の趣旨に沿って処理され、委任者Xの受けた利益については相当の報酬請求権を取得することは妨げられない。
Y1法人は、Xの本件委任により、過払金の回収等の利益をXに与えているが、過払金の21%に相当する額及び実費として通常必要とする金額(合計20万4452円)がY1法人の報酬額としては相当。

XはY1法人及びY2弁護士に対し、誹謗中傷の共同不法行為による損害賠償を求めるが、その主張するY2弁護士の言動の範囲ではこれを認めることはできない。
解説 多重債務者Xから債務整理を委任されたY1弁護士法人が貸金業者より過払金として回収した預かり金につき、Xがっ約定弁護料の支払いを怠ったとしてY1法人が委任契約を解除したが、その解除は同法人の後見的立場に反するものでY1法人の帰責事由によるものであると解し、しかし、解除前のY1法人への報酬の支払義務を認めて、XのY1法人に対する預り金返還請求額のほぼ半額を控除し認容したもの。
■民事p37 大阪地裁H22.10.19 日刊新聞紙面で脅迫・威力業務妨害の罪の容疑者として警察で取調べを受け立件される可能性があるとして実名で報道された者が、発刊元の新聞社に対して求めた名誉棄損を理由とする損害賠償請求が認容された事例
判断 Xが警察から本件脅迫事件の犯人として嫌疑をかけられ、既に複数回の事情聴取を受けているとの事実を摘示しているところ、Yは、同社記者の取材によると証言するが、その取材源の秘匿を理由として取材対象となった警察関係者を明らかにせず、取材内容自体抽象的な供述をするのみで、真実性または真実相当性について具体的に主張・立証をしない以上、本件第2回の記事が真実であること、及び真実であると信ずることに相当な理由があるとは認められない。
⇒名誉棄損による損害賠償責任を負う。

報道対象者の不利益において真実性又は真実相当性に関する事実の主張、立証の程度を緩和することはできないと判示。
■民事p44 大阪地裁H23.1.14 控訴理由が失当な控訴につき、訴訟の完結を遅延させることのみを目的としたものとして制裁金の納付が命じられた事例
規定 民事訴訟法 第303条(控訴権の濫用に対する制裁)
控訴裁判所は、前条第一項の規定により控訴を棄却する場合において、控訴人が訴訟の完結を遅延させることのみを目的として控訴を提起したものと認めるときは、控訴人に対し、控訴の提起の手数料として納付すべき金額の十倍以下の金銭の納付を命ずることができる。
判断 一審判決は相当であるとして、Yの控訴を棄却するとともに、Yの右控訴理由が失当であることは一見して明らかであり、Yは、訴訟の完結を遅延させることのみを目的として本件控訴を提起したものと認められる。
⇒民訴法303条1項に基づき、Yに対し、3万円を国庫に納付することを命じた。
解説 民訴法303条1項は、民事訴訟の遅延防止をはかるために設けられたものであるが、その主観的要件の認定が難しいため、これを認めた裁判例は極めて少ない。
■民事p45 広島地裁H23.3.23 死刑確定者が弁護士と再審請求のため拘置所内で接見した際に拘置所長が職員を立ち会わせたことにつき、所長の裁量の範囲を逸脱した違法があるとして国家賠償請求が認容された事例
事案 拘置所に拘置されている死刑確定者X1と再審請求手続の受任弁護士が、再審請求についての打合せのための接見に際して、拘置所に対して立会人をつけないことを要請したが、拒否された。

再審請求人と再審請求弁護人間の秘密交通権(刑訴法39条1項、440条、憲法34条、自由権規約14条3項)等の侵害又は拘置所長の裁量権の逸脱、濫用であるとして、Xらは精神的苦痛を受けたとして国賠請求。
規定 刑訴法 第39条〔被拘束者との接見・授受〕
身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。

刑訴法 第440条〔弁護人の選任〕
検察官以外の者は、再審の請求をする場合には、弁護人を選任することができる。
A前項の規定による弁護人の選任は、再審の判決があるまでその効力を有する。

憲法 第34条〔抑留・拘禁に対する保障〕
何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

刑事収用施設法 第32条(死刑確定者の処遇の原則)
死刑確定者の処遇に当たっては、その者が心情の安定を得られるようにすることに留意するものとする。
2 死刑確定者に対しては、必要に応じ、民間の篤志家の協力を求め、その心情の安定に資すると認められる助言、講話その他の措置を執るものとする。

刑事収容施設法 第121条(面会の立会い等)
刑事施設の長は、その指名する職員に、死刑確定者の面会に立ち会わせ、又はその面会の状況を録音させ、若しくは録画させるものとする。ただし、死刑確定者の訴訟の準備その他の正当な利益の保護のためその立会い又は録音若しくは録画をさせないことを適当とする事情がある場合において、相当と認めるときは、この限りでない。
判断 刑訴法39条の規定は、捜査手続又は公判手続を前提とする
⇒既に判決が確定した後の手続である最新手続には準用されない。
憲法34条も死刑確定者に適用がなく、自由権規約14条3項も適用されない。

死刑確定者と再審請求の弁護士との打合せの接見に拘置所職員を立ち会わせるか否かは、拘置所長の裁量にかかり、第1回の面会時は死刑確定者に精神不安定があり職員を立ち会わせることに裁量権の逸脱はないが、第2・3回の面会時には死刑確定者にはかかる事情はないので職員の立会いをさせることは、拘置所長の裁量権の範囲を超えた違法行為。
⇒国賠責任を認めた。
解説 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律32条は、死刑確定者の心情の安定を処遇の原則として明文で定めている。

最高裁H11.2.26
「死刑確定者の心情の安定にも十分配慮して、死刑の執行に至るまでの間、社会から厳重に隔離してその身柄を確保するとともに、拘置所内の規律及び秩序が放置することができない程度に害されることがないようにするために、これを制限することが必要かつ合理的であるか否かを判断して決定すべきものである」と判断。
■民事p58 札幌地裁H[22.3.26 炭坑におけるじん肺患者が国の安全対策に瑕疵があるとして求めた国家賠償請求につき、国の主張した消滅時効による消滅を斥け、国家賠償請求が認容された事例
事案 じん肺に罹患して死亡した者の遺族であり、平成20年になって、Yに対し、国賠請求。
炭鉱での粉じん作業によりじん肺に罹患した労働者またはその遺族の国に対する損害賠償請求権については、Y(国)は、平成16年4月27日の最高裁の筑豊事件判決によって明らかになった。
⇒その後3年を経過して提起された本訴による損害賠償請求権については消滅時効が完成していると主張。

規定
民法 第724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
判断 @民法724条前段の「加害者を知った時」は、当該被害者が現実に認識した事実をもとに判断すべき
A一般人を基準に判断すべきであるとする見解は、被害者にとって著しく酷であり不当である
BXらは、提訴の3年以上前にYに対して損害賠償を請求することができるとは認識できなかった。

消滅時効の主張を排斥して、Xらの本訴請求を認容。
解説 不法行為による損害賠償請求権は、損害及び加害者の双方を知った時から3年で消滅時効にかかる。(民法724条)

判例:
「損害を知った時」とは、損害の発生を現実に知った時をいう。(最高裁H14.1.29)

「加害者を知った時」について、一般人を基準とすべきか、被害者本人を基準とすべきかについては、明確な判例はない。
■民事p77 津地裁H23.5.12 市長による市街地再開発推進のため民間主導で設立された準備組合に対する補助金給付決定の取消及び給付方針の撤回を違法として求めた国賠請求が棄却された事例
事案 Y市長が、市街地再開発事業を推進するための準備組合に対する平成19年度開発事業費補助金の交付決定の取消と平成21年度意向の補助金交付の方針を撤回したため、同組合が破産するに至り、その結果、同組合に対する業務委託料債権者であるXらの債権回収ができなくなったとして、XらがY市に対して債権侵害による国賠請求又は憲法29条3項に基づく損失補償請求を求めた事案。
規定 第29条〔財産権〕
財産権は、これを侵してはならない。
A財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
B私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
判断 本件再開発事業は経済の変動から、Y市主導が頓挫し民間主導を前提に開始されたものであり、Y市における補助金交付に係る予算はY市議会において、本件再開発事業における権利変換及び保留床処分について平等かつ妥当性のある単価とし、事業推進について全権利者において応分の負担を行うことを内容とする確約書をA準備組合がY市に交付することによってようやく可決されたものであり、当時Y市のみが多額の支出を強いられる計画案が受け入れられる情勢にはなかったこと、Y市としてはこのような情勢の下で、他の関係者に比してY市の負担が著しく大きい収支計画がA準備組合から公表され、2度にわたあって再考を求めたが、A準備組合はその打開を図ることができなかったこと、このような状況の下で、Y市によりなされた平成21年度以降の補助金交付方針の撤回及び平成19年度補助金交付決定の取消行為等を国賠法上違法とは言えない。
⇒国賠請求には理由がない。

憲法29条3項に基づく損失補償について:
本件補助金交付取消によりXらがA準備組合に対する債権を回収することができなくなったとしても、それは単にA準備組合の資産状況が悪化して破産に至った結果に過ぎず、Y市がXらに対して公共のために財産権を制限したとも、特別の財産上の犠牲を強いたとも解することはできない。
⇒Xらの請求は理由がない。
■知財p89 知財高裁H23.1.25 1.ロボットの旋回半径を小さくするという技術思想に基づくダブルアーム型ロボットの発明について、分割前の発明の特許請求の範囲が基礎の関節部の回転中心軸、台座の旋回中心軸、基端以外の関節部の位置関係に、分割後の本件発明の特許請求の範囲がコラム、台座の旋回中心軸、基端の関節部の回転中心軸の位置関係に、それぞれ着目して規定されているが、原出願明細書において、コラム、台座の旋回中心軸及び基端の関節部の位置関係に関し、本件発明の特許請求の範囲を充足する構成が図示されている以上、本件発明の技術思想は原出願明細書及び図面に記載されたものということができ、分割要件に違反しないとされた事例
2.本件発明におけるアームの取付け位置やハンドの伸縮方向に係る構成及びコラムの旋回位置等に係る構成は、いずれも引用発明に周知技術等を適用することによって当業者が容易に想到し得るものでるとして、これと異なる審決の判断が誤りであるとされた事例
事案 本件は、Xが、発明の名称を「ダブルアーム型ロボット」とする本件特許に対する無効審判請求について、特許庁が同請求は成り立たないとした審決の取消しを求めた事案。

審決は、本件発明は、原出願の請求項7(原出願発明7)、原出願明細書及び図面に記載されたものであるから分割要件に違反するものではなく、また、進歩性も認められるとしたため、Xは、原出願明細書等には、台座の旋回中心、肩関節部の回転中心、コラムが略一直線に配置される構成以外の構成が開示されていると解することはできないから、本件発明は原出願明細書に開示されていない事項を副ッ未、分割要件に違反する、仮に分割要件に違反しないとしても、本件発明は、引用発明に周知技術等を適用することによって、当業者が容易に想到し得るものであるなどと主張し、審決の取消しを求めた。
規定 特許法 第44条(特許出願の分割)
特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。
一 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる時又は期間内にするとき。
二 特許をすべき旨の査定(第百六十三条第三項において準用する第五十一条の規定による特許をすべき旨の査定及び第百六十条第一項に規定する審査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定を除く。)の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。
三 拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月以内にするとき。
判断 本件発明に係る特許出願は分割要件を充足するものの、本件発明1は、引用発明に周知技術を適用することによって当業者が容易に想到し得るものであり、本件発明1に係る誤った判断を前提とする本件発明2ないし9についての審決の結論も直ちに是認することはできないとして、審決を取り消した。
解説 ●分割要件

特許法44条は、「2以上の発明を包含する特許出願の一部」について、分割出願を認めるもの。
分割要件を充足すると、分割出願は、原出願のときに出願したものとみなされる。
分割要件を欠き、出願日の遡及が認められない場合、分割出願に係る発明は、原出願の特許公開公報に基づいて、進歩性を有しないと判断されるのが通常。


Xは、原出願発明7及び本件発明1のいずれも、少なくとも基端の関節部はアームの肘関節部の張り出し方向へオフセットさせることはできないことを前提とした発明であるというべきであって、本件発明1のように・・・であればよいとする発明を開示するものではない、原出願発明7及び本件発明1は、いずれも台座の旋回中心、肩関節部の回転中心、コラムが、この順で略一直線上に配置される構成を有する場合でなければロボットの旋回半径を小さくするという作用効果が発揮されないなどと主張した。

本判決:
当業者であれば、Xが前提とする極端な設計は採用しないことが通常であるし、特許請求の範囲が、作用効果を有しない構成を含むからといって、必ずしも常に分割要件を欠くものということはできないと、Xの主張を排斥。

分割要件を厳格に解する場合、原出願明細書図2から、本件構成要件を満たす配置自体を認識することが可能であったとしても、本件構成要件におけるコラム、台座の旋回中心軸、基端の関節部の回転中心軸の位置関係がどのような技術的意義を虐るうかについて、原出願明細書から明らかでない以上、分割要件違反とかいすることになろう。

本判決は、分割要件について厳格な解釈を採用せず、原出願発明及び本件発明は、いずれもロボットの旋回半径を小さくするという目的に基づく発明であって、各構成の位置関係に着目してこのような目的を達成しようとするものであるから、原出願明細書図2に本件構成要件を充足する配置が開示されている以上、分轄要件を充足するものと判断。

●進歩性について
本件発明1の進歩性を否定。


取消事由1においては、当業者が技術常識に反するような設計はしないことも考慮して、分割要件違反とうことはできないとされたが、取消事由2においては、周知技術の適用についての動機付けを否定する主張を排斥する根拠として、当業者が技術常識に反するような設計はしない点が指摘されている。
各取消事由における主張について矛盾なく一貫した主張を行うことの重要性、困難性について、意識する必要。
■知財p104 知財高裁H23.3.17 商標権者及び通常使用権者が、その構成中に「JIL」との表示が含まれる照明器具の企画に適合していることを証する標章を、その指定商品に含まれる照明器具に貼付した場合において、「JIL」との構成からなる登録商標の使用があるとされた事例
事案 Xは・・・「JIL」の欧文字をゴシック体で横書きしてなる商標の商標権者。

Yが、本件商標について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実がないとして不使用による本件商標登録の取消しの審判(商標法50条1項)を請求したところ、これを認める審決がされたことから、Xが同審決の取消しを求めた事案。
規定 商標法 第2条(定義等)
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為

商標法 第50条(商標登録の取消しの審判)
継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。以下この条において同じ。)の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
判断 本件使用商標中から、「JIL」との独立した表示も抽出して認識することができ、この「JIL」部分も独立して自他商品識別標識としての機能も有しているということができること、Xは商標権者として、また、Xの許諾を受けて本件使用商標の使用許可を受けた製造業者は通常使用権者として、照明器具に本件使用商標を貼付したことによって、本件商標の使用(法2条3項1号)に該当するものと認められる。
解説
使用に係る商標と登録商標とが同一のものか否かについては、

使用にかかる商標が登録商標と社会通念上同一のものと認識し得るか否かによって決すべきであり、その判断に当たっては当たっては、登録商標に係る指定商品の属する産業分野における商取引の実情を考慮する必要がある。(東京高裁昭和60.9.3)


商標法50条1項の「使用」につき、
識別標章としての使用でなければ「使用」に当たらないとするもの(東京高裁H8.12.19)と
識別標識としての「使用」に限定されないとするもの(東京高裁H3.2.28)
がある。
■知財p111 東京地裁H23.5.20 折り紙の折り図について著作権侵害及び著作者人格権侵害の有無が争われた事案において、折り図がの著作物性が認められ、類否判断において著作権侵害及び著作者人格権侵害が否定された事例
事案 折り紙作家であるXが、テレビドラマの番組ホームページに「吹きゴマ」の折り図を掲載したYに対し、
主位的に、被告折り図は、Xの著作に係る折り紙の折り方を紹介した書籍に掲載された創作折り紙である「へんしんふきごま」の折り図を複製又は翻案したものでで、Yによる被告折り図の作成及び番組ホームページへの掲載行為はXんお著作物である本件折り図についての著作権(複製権ないし翻案権、公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)の侵害に当たると主張し、著作権侵害および著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償として285万円及び遅延損害金の支払と著作権法115条にも基づき、Yの運営するホームページに謝罪文の掲載を求め、
予備的に、仮にYの右行為が著作権侵害及び著作者人格権侵害に当たらないとしても、Xの有する法的保護に値する利益の侵害に当たる旨主張し、右利益の侵害の不法行為による同額の損害賠償及び遅延損害金の支払いと、民法723条に基づき右ホームページに謝罪文の掲載を求めた。
規定 著作権法 第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

十五 複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。
イ 脚本その他これに類する演劇用の著作物 当該著作物の上演、放送又は有線放送を録音し、又は録画すること。
ロ 建築の著作物 建築に関する図面に従つて建築物を完成すること。

著作権法 第115条(名誉回復等の措置)
著作者又は実演家は、故意又は過失によりその著作者人格権又は実演家人格権を侵害した者に対し、損害の賠償に代えて、又は損害の賠償とともに、著作者又は実演家であることを確保し、又は訂正その他著作者若しくは実演家の名誉若しくは声望を回復するために適当な措置を請求することができる。

民法 第723条(名誉毀損における原状回復)
他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。
解説

著作権法は、「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(同条2条1項1号)とし、思想又は環状の創作的な表現を保護するもの。

・・その作図における表現の幅は、必ずしも大きいものとはいい難く、また、折り図の著作物性を決するのは、あくまで作図における創作的表現の有無であり、折り図の対象とする折り紙作品自体の著作物性如何によって直接影響を受けるものではない。

本判決は、一般論として、折り紙の折り方を示した図の性質や目的、同分野における通常の表現内容を踏まえた上で、極めて限定的ではあるが、本件折り図に具体的内容を全体的にみて、折り紙作品である「へんしんふきごま」の一連の折り工程を見やすく、分かりやすく表現したものとして、その著作物性を肯定。


複製とは、「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい」、著作物の再製は、当該著作物に依拠して、その表現上の本質的な特徴を直接感得すうることのできるものを作成することを意味するものと解され、また、
著作物の翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものとされる。(最高裁H13.6l28)

本判決は、部分的な共通点が存在することを最大限勘案しても、根本的な表現方法の違い等の複数の相違点の存在から、両図は折り図としての見やすさの印象が大きく異なり、分かりやすさの程度においても差異があるものであって、被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができるものとはいえず、被告折り図は、本件折り図の複製物でも翻案物でもないとした。


「地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物」(著作権法10条1項6号)の著作物性ないし著作権侵害の有無が問題となった事例としては、
設計図について著作物を肯定して著作権侵害を認めた大阪地裁H4.4.30、著作物性を否定した東京地裁H9.4.25、空港案内図につき著作物性を肯定したが類否判断において著作権侵害を否定した東京地裁H17.5.12等。
■商事p124 横浜地裁横須賀支部H23.4.25 1.火災保険金請求につき、出火原因を保険契約者の代表取締役による放火と認めて、これが棄却された事例(甲事件)
2.火災による動産の滅失につき、民事訴訟法248条を適用して相当な損害額が認定された事例(乙事件)
事案 甲事件:
X1がYとの間でX1の本件建物を保険の目的とする事業活動包括保険契約(火災保険)を締結していたところ、右建物が火災により全焼したとして、Yに対して火災保険金の支払を求めた事案。

乙事件:
Zが、本件火災の類焼により、所有建物等が焼損し、建物内にあった動産類等が滅失するなどの被害を受けたとして、X1の代表取締役であるX2に対しては不法行為に基づき、X1に対しては使用者責任又は会社法350条に基づき、損害賠償を求めた事案。
規定 会社法 第350条(代表者の行為についての損害賠償責任)
株式会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
判断 甲事件:
@X2だけが本件火災発生時に出火場所に居合わせたのであり、X2以外の第三者が関与したとは考え難いこと、
A本件火災発見時の行動が切迫感を欠いており、不自然であること、
BX1の経営状態が良好ではなかったこと、
CX1は火災発生後も直ちに営業を再開できており、焼失した本件建物はX1の営業に不可欠な存在ではなかったといえること、
D本件火災発生時に関するX2の供述が不自然、不明瞭で信用できないことなどの諸般の事情を総合考慮し、本件火災の原因をX2の放火と認め、X1の請求を棄却。

乙事件:
X2について故意の放火による不法行為責任を肯定し、X1についても、事業の執行との密接関連性を肯定して、会社法350条に基づく責任を肯定した上で、Zが被った動産類の滅失による損害額の算定につき、民訴法248条を適用して相当な損害額を認定。
解説 最高裁H16.12.13:
火災保険契約の約款に基づき、保険者に対して火災保険の支払を請求する者は、火災発生が偶然のものであることを主張立証部益責任を負わない。

火災保険については、保険契約期間中に火災によって損害が生じたことが保険金請求権の成立要件となり、被保険者等の故意による放火といった事情は、免責事由(抗弁)として保険者側で主張立証しなければならないとされる。(「故意免責の抗弁」)

故意免責の抗弁の成否が争点となる事案においては、直接証拠が存在しないのが通常であり、実務上は、保険の加入時期及び金額、出火時の状況、放火の現実的可能性、火災前後の保険契約者の言動、保険契約者等の経済状態、動機の有無などの多様な関節事実を積み重ねて推認する手法によって認定判断されている。
■労働p139 最高裁H23.4.12 住宅設備機器の修理補修等を業とする会社と業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する受託者が、上記会社との関係において労働組合上の労働者に当たるとされた事例
事案 住宅設備機器の修理補修等を業とする会社であるXが、Xと業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する者(「CE」)が加入した労働組合であるY補助参加人らから団体交渉の申入れを受けた際、CEはXの労働者に当たらないとして右申入れを拒絶したところ、Y補助参加人らの申立てを受けた大阪府労働委員会から団交拒否は不当労働行為に当たるとされ、中央労働委員会に対する再審申立ても棄却されたため、同委員会の属するY国を相手に再審査棄却命令の取消しを求めた事案。
規定 第7条(不当労働行為)
使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。

二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。
判断 CEは、被上告人との関係において労働組合法上の労働者に当たると解するのが相当。
解説
労働者性の概念について、通説は、労働契約法や労働基準法と、失業者等も当然にその対象に含む労働組合法とでは自らその範囲が異なり、後者の方がより広いものと解している。

労働組合法上の労働者に当たるか否かについては、
@その者が当該企業の事業遂行に不可欠な労働力として企業組織に組み込まれているか、
A契約の内容が一方的に決定されるか
B報酬が労務の対償の性質を有するか、
C業務の発注に対し諾否の自由がないか、
D業務遂行の日時、場所、方法などにつき指揮監督を受けるか等の事情を総合考慮して判断すべき
とされている。

本判決も、基本的には上述のような考え方に立って、新国立劇場運営財団事件(最高裁H23.4.12)と同様に
@企業組織への組入れの有無、
A計約内容の一方的決定の有無、
B報酬の労務対償性の有無、
C諾否の自由の有無、
D業務遂行への指揮監督の有無等
の事情を考慮し、
CおよびDのみを特に重視するような原審の考え方を採用しなかった。

本判決は、@〜Dの各要素については契約の文言ではなく実態に即して判断すべきことを示したものと考えられるところ、労働法規は契約自由の原則に対する修正原理であるから、契約上の文言に工夫を凝らすことによって使用者がその適用を容易に回避し、団体交渉の可能性を排除することで使用者に有利な労働契約の条項を事実上永続化させるような事態は本来容認し難いもの。

@〜Dの各要素のうち積極要素と消極要素の多寡ないし重要性の大小等を総合勘案して個別具体的に判断すべき。

平均的な業務受託者について労働組合法上の労働者性が肯定されるのであれば、業務受託者の全員について個別にその労働者性を判断するまでの必要は原則としてない。


いわゆる非正規化やアウトソーシングが進み、自前の従業員で遂行することが可能な業務を従業員の身分を外した者に行わせ、契約形式を業務委託契約とすることによって、本来使用者が負うべき民事的負担労働関係諸法に基づく種々の負担を回避しようとする傾向が進んでいる

新国立劇場運営財団事件と同様、労働者概念の相対性を前提とした上で、労働組合法上の労働者性を判断するに当たってはいわゆる組織的従属性、経済的従属性及び人的従属性のそれぞれを総合的に検討すべきこと、右の検討は契約の文言に拘泥することなく実態に即して行うべきこと、考慮要素の重要性は事案により異なり得ることを示している。

★平成23年8月分 (9/26勉強会)
2116
2116 ■行政p32 東京高裁H23.3.23 1.町の発注した公共工事について受注業者の談合があり、町長が談合を幇助していたとして受注業者と町長の損害賠償責任が認められた事例
2.公共工事の談合により町が被った損害賠償につき民訴法248条を適用して合理的な根拠をもって実際に生じた損害額に最も近いと推測できる額を認定すべきであるとして契約金額の7%が認定された事例
(旧小淵町公共工事談合住民訴訟控訴審判決)
事案 旧小淵沢町、原杜市の住民であるXらが、・・22件の工事について、
@入札に参加した建設業者Z2ら6社が、他の入札業者と談合し、落札予定業者に高い落札価格で落札させた結果、旧小淵町に公平な競争による想定落札価格と現実の落札価格との差額相当額の損害を生じさせ
A平成17年当時の旧小淵沢町の町長であるZ1が、入札業者の指名権を濫用し談合を容易に実行できる指名業者の組み合わせをした上、自ら又は職員を介して、設計価格又は予定価格を建設業者であるZ2に漏洩して談合を幇助したとして、Y(北杜市、旧小淵沢町の執行機関の訴訟承継人)に対し、地方自治法242条の2第1項4号本文に基づき、建設業者Z2及びZ1に損害金の支払を請求するうよう求めた住民訴訟。
Zらは、一審段階でYに補助参加。

公共工事の談合であるが、公正取引委員会の審判手続による審決又は掲示手続が先行しているものではなく、直接証拠はない。
規定 民訴法 第248条(損害額の認定)
損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき相当な損害額を認定することができる。
判断 ●談合の有無につき
・・・22件の工事について、それぞれ談合を取り仕切るZ2の意向に沿うよう入札参加業者が指名され、または指名された入札参加業者名が知らされ、各工事の入札参加業者間でそれぞれ談合が行われて落札したものと推認した。
⇒建設業者Z2ら6社は不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

●Z1の談合幇助について
・・・これらの間接事実によれば、旧小淵沢町(ひいては、町長のZ1)は、入札参加者を指名する際にZ2を優遇していたものと推認され、それはZ1が町長となったことと相関関係があるとみることが経験則上相当である。

・・・
談合がされた22件の工事すべてについてZ1がこれを幇助したものとみることが相当である。
したがって、Z1は、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。


損害額について、本件では、民訴法248条を適用して相当な額を算定するに当たり、合理的な根拠をもって実際に生じた損害額に最も近いと推測できる額を認定すべきである。
具体的には、談合のあった平成17年度の22件の各工事のうち特殊な要素を除いた場合の平均落札率と、談合がなかった旧小淵沢町の公共工事の入札から特殊な要素を除いた場合の平均落札率との差は、6.94%ないし7.83%であるから、その落札率の差を採用するのが適切である。

本件において旧小淵沢町が22件の各工事の入札の談合により被った損害額は、本件各工事の契約金額の7%に相当する金額となる。
解説 ●認定について
談合は、事柄の性質上対向的なものであり、業者が予定落札価格を認識することができて初めて実効的なものとなる。
原判決のように、業者間の談合の存在を認めながら、行政側の幇助的な行為を推認しないのは、経験則の観点からは、むしろ問題がないとはいえない。

本判決の採用した認定方法については、例えば、談合に関与していない業者が入札に参加している場合とそうでない場合との関係業者の入札価格の顕著な差異、A建設課長が作成した執行依頼書に記載された設計価格の積算ミスがあった場合における関係業者の不可解ない入札行動への着目、町長の入札事務への関与の形態の分析など、同種事件の分析に参考になるものがある。

●損害額について
談合ケースの裁判例では、本判決のように契約金額の何%とするものが多い。

民訴法248条を適用して損害額を算定する場合:
A:損害額につき控え目な金額を相当とするのもやむを得ないとする抑制的算定説(大坂高裁H18.9.14)

B:損害額につき合理的な根拠をもって実際に生じた損害額に最も近いと推測できる金額を相当とすべきであるとする合理的算定説(本判決)
■民事p53 最高裁H23.4.22 契約の一方当事者が契約の締結に先立ち信義則上の説明義務に違反して契約の締結に関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合の債務不履行責任の有無
事案 中小企業等協同組合法に基づいて設立された信用協同組合であるYに対して、平成11年3月に各500万円の出資をしたXらが、Yが右出資の約1年9か月後である平成12年12月に金融機能の再生のための緊急措置に関する法律8条に基づく金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分を受けて経営が破綻し、出資金の払戻しを受けられなくなったことについて、出資勧誘の際の説明義務違反等を主張して、Yに対し、
@主位的には不法行為による損害賠償請求権又は出資契約の詐欺取消し若しくは錯誤無効を理由とする不当利得返還請求権に基づき、
A予備的には出資契約上の債務不履行による損害賠償請求権に基づき、出資金相当額及び遅延損害金の支払を求めた事案。

不法行為による損害賠償請求については、3年の時効が完成したのではないかが問題となり、
債務不履行による損害賠償請求については、出資契約の成立に先立つ交渉段階の説明義務違反につき契約責任の債務不履行責任を問うことができるかが問題。
原審 Yが、Xらに対する出資勧誘に当たり、その当時Yが実質的に大幅な債務超過の状態にあり、早晩監督官庁から破綻認定を受けて出資金の払戻しをすることができない事態に至る現実的な危険性があることを説明すべき義務に違反。

不法行為は時効消滅。
契約締結上の過失につき債務不履行責任を肯定⇒認容。
判断 契約の一方当事者が、当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、上記一方当事者は、相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき、不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別、当該契約上の債務の不履行により賠償責任を負うことはない

債務不履行に基づく損害賠償請求を棄却。
解説
最高裁:
契約準備段階において交渉に入った者同士の間では、誠実に交渉を続行し、一定の場合には重要な情報を相手方に提供すべき「信義則上の義務」を負っており、この義務に違反した場合はそれにより相手方被った損害を賠償すべき義務を負う旨の判断。


契約締結上の過失:
A:契約責任説(我妻等)
契約交渉に入った当事者間には、契約法によって規律される特殊な信頼関係が形成され、そこでは相手方の利益を保護するための種々の信義則上の義務が生じ、その義務違反に対しては不法行為責任以上の保護が与えられるべき。

B:不法行為責任説(潮見等)
契約準備段階での信義則に反する行為についての損害賠償責任については、わが国では、不法行為の要件が厳格なドイツとは異なり、契約責任として処理しなければならないような事情が存在するわけではなく、不法行為一般の問題として検討すれば足りる。

裁判例では、不法行為責任と構成する下級審判決が大勢を占めるが、信義則上の義務違反とだけ説示して不法行為責任であるか契約責任であるかを明示しないものもかなりあり、債務不履行責任としている例も少数ながらある。


本判決:
説明義務違反があったため、相手方において、契約を締結するか否かに関する判断を誤って契約の締結に至り、それにより損害を被ったという場合に限定して、このような場合には契約を締結したことは説明義務違反により生じた結果なのであって、この説明義務違反をもって契約に基づいて生じた義務であるということは一種の背理であるとして、契約責任を否定。

射程は限定されており、契約締結上の過失といわれているものの一般についての責任の法的性質につき最高裁の判断が示されたものではない。
■民事p61 最高裁H23.4.22 信用協同組合が自らの経営破綻の危険を説明すべき義務に違反して出資の勧誘をしたことを理由とする出資者の信用協同組合に対する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効が、遅くとも同種の集団訴訟が提起された時点から進行するとされた事例
事案 中小企業等協同組合法に基づいて設立された信用協同組合であるYに対して、平成11年3月に各500万円の出資をしたXらが、Yが右出資の約1年9か月後である平成12年12月に金融機能の再生のための緊急措置に関する法律8条に基づく金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分を受けて経営が破綻し、出資金の払戻しを受けられなくなったことについて、出資勧誘の際の説明義務違反等を主張して、Yに対し、
@主位的には不法行為による損害賠償請求権又は出資契約の詐欺取消し若しくは錯誤無効を理由とする不当利得返還請求権に基づき、
A予備的には出資契約上の債務不履行による損害賠償請求権に基づき、出資金相当額及び遅延損害金の支払を求めた事案。

本件訴訟が提起されたのは平成19年3月であり、Yが破綻してから約6年3か月後であったため、主位的請求との関係では、不法行為による損害賠償請求権が時効消滅したかが問題。
規定 第724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
判断 @本件出資からYの経営破綻までの期間が短かった
AYが本件出資の前から債務超過と見込まれていたなどの事情が、経営破綻後間もなく明らかにされた
B経営破綻の約半年後から、本件と同種訴訟が逐次提起され、経営破綻の約1年後までには集団訴訟も提起された

不法行為による損害賠償請求権は、遅くとも集団訴訟が提起された時点から進行。

不法行為による損害賠償請求権は時効消滅。
解説
「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」という不法行為の起算点の意味:
加害者に対する損害賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味する。(最高裁H14.1.29)
単に加害行為により損害が発生したことを知っただけではなく、その加害行為が不法行為を構成することを知った時との意味に解するのが相当。(最高裁昭和42.1.30)


本件では、不法行為の被害者であるXが、
@Yの担当者の勧誘に応じてした本件出資により出資額相当の損害を被った事実と、A本件出資の勧誘に当たってYが実質的な債務超過の状態にあることなどにつきYの担当者から説明を受けなかった事実については、Yの破綻後まもなく知ったことは明らか。
B本件出資の勧誘が説明義務に反するものとしてYのXに対する不法行為を構成する違法なものであることをXが知ったといえるのはいつか、という点が問題。


不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、あくまで権利者である被害者の主観的・具体的認識を根拠に考慮すべきだが、それを徹底させると時効制度としての実効性が失われかねない。

最高裁昭和44.11.27:
「民法715条において規定する使用者の損害賠償責任は、使用者と被用者の損害賠償責任は、使用者と被用関係にある者が、使用者の事業の執行につき第三者に損害を加えることによって生ずるのであるから、この場合、加害者を知るとは、被害者らにおいて、使用者ならびに使用者と不法行為者との間に使用関係がある事実に加えて、一般人が当該不法行為が使用者の業務の執行につきなされたものであると判断するに足りる事実をも認識することをいうものと解するのが相当である」

最高裁昭和57.10.15:
「町が事実上管理していた防火用水槽に転落して死亡した幼児の両親は、当該防火用水槽がそのその居住地域に設置された唯一の水利施設であること及び法令上消防用水利施設の管理等の責任が市町村にあることなど、原判示の事情のもとにおいては、当該死亡事故による損害賠償請求のため新聞社に照会の結果、防火用水槽の管理責任を追及するよう示唆を受けたことによって、その頃、当該防火用水槽の管理責任が町にることを知るに至ったというべきである」

権利者の主観的認識だけではなく一般人を基準とした認識可能性をも考慮して時効の起算点を判断。


不法行為における3年の消滅時効の起算点につき被害者の主観的認識をどこまで徹底するかについて

A:多数説:
不法行為を基礎付ける事実については被害者の認識を必要とするが、不法行為であるという法的評価については一般人ないし通常人の判断を基準にすべき。


本判決:
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効が進行を開始するための要件のうち被害者における加害行為の違法性の認識については、一般人であれば当該加害行為が違法であると判断するに足りる事実を被害者において認識すれば足り、認識の程度も確実な証拠を基に勝訴見込みが立つ程度にまで知る必要はないという考えに立つものと思われる。
■民事p64 東京高裁H23.6.22 民間の調停によっては紛争が解決されないときに裁判所における法的手段を開始する旨の合意がある場合において、当該民間の調停の手続を経ずに提起された訴訟が、訴訟要件に欠けるものではないとされた事例
事案 不法行為に基づく損害賠償請求訴訟。
当事者間には、本件の訴訟物に関する紛争について
@まず当事者間の誠実交渉を行う
A交渉開始後60日以内に紛争が解決しない場合には民間の調停を行う
B当該調停によって紛争が解決されない場合には裁判所においてあらゆる法的手段を開始する
という合意があった。

一審原告は当該調停の手続を経ないで本件訴訟を提起。
規定 裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)
第26条(訴訟手続の中止)
紛争の当事者が和解をすることができる民事上の紛争について当該紛争の当事者間に訴訟が係属する場合において、次の各号のいずれかに掲げる事由があり、かつ、当該紛争の当事者の共同の申立てがあるときは、受訴裁判所は、四月以内の期間を定めて訴訟手続を中止する旨の決定をすることができる
一 当該紛争について、当該紛争の当事者間において認証紛争解決手続が実施されていること。
二 前号に規定する場合のほか、当該紛争の当事者間に認証紛争解決手続によって当該紛争の解決を図る旨の合意があること。
2 受訴裁判所は、いつでも前項の決定を取り消すことができる。
3 第一項の申立てを却下する決定及び前項の規定により第一項の決定を取り消す決定に対しては、不服を申し立てることができない。
原審 (本件合意は)契約当事者が一定の手続を履践するまでは訴権を制限したものであると解するのが合理的であるところ、このような合意も、当該合意自体が公序良俗に反するなどの事情がない限り有効であり、(本件合意)の規定する具体的手続に鑑みても、公序良俗に反する事情は認められず、かかる合意に違反して提起された訴えは不適法。
⇒訴訟却下
判断 民間の調停を経ずに提起された訴訟も、訴訟要件を欠くものではないと判断。

@訴訟に代替する紛争解決手段(仲裁)が確保されている仲裁契約や、実態法上の権利が既に自然債務化して裁判所の判断を受ける必要性に乏しい不起訴合意がある場合に訴えが却下されるのとは異なり、訴訟を最終紛争解決手段とする本件合意の下においては、裁判を受ける権利を実質的に侵害しないように、訴え却下判決には慎重であるべき
A本件合意に従わずに提起された訴訟を不適法却下することは裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)26条の規定が、認証紛争解決手続を経る合意がある場合に当該認証紛争解決手続を経ないで提起された訴訟を不適法却下することまでは認めていないこととと間で、整合性がとれない。
B実定法上の明文の規定もないのに不適法却下することを認めると、不適法却下された一審原告に、時効中断や訴訟提起手数料の関係で不測の損害を与える。
■民事p75 名古屋高裁H23.2.217 日本野球機構及び12球団が私設応援団員に対してした入場券の販売拒否対象者の指定が無効・違法であるとして当該指定の無効確認請求および被指定者の損害賠償請求を認容した第1審判決が控訴審において取り消されて無効確認請求に係る訴えが却下され、損害賠償請求が棄却された事例
事例 中日ドラゴンズの私設応援団である8団体(団体Xら)及びその構成員である個人104名(個人Xら)が、日本プロフェッショナル野球組織(Y野球組織)、社団法人日本野球機構(Y野球機構)及びプロ野球の12球団(Y12球団)に対し、Yらが平成20年度にしたXらの一部(販売拒否対象Xら)に対してした入場券の販売拒否対象者の指定の効力を争って・・・訴訟提起。
原審 <結論>
団体Xらの訴え及び販売拒否対象XらのY野球組織に対する販売拒否対象者指定の意思表示の無効確認を求める訴えを却下。
販売拒否対象者XらのY野球組織を除くその余のYらに対する販売拒否対象者指定の意思表示の無効確認を求める請求う及び同Yらに対する各1万1000円及び遅延損害金の支払を求める損害賠償請求を認容。
販売拒否対象XらのY野球組織に対する損害賠償請求及びY野球組織を除くその余のYらに対するその余の損害賠償請求、個人Xらの請求、販売拒否対象Xらを除く個人Xらの請求、販売拒否対象Xらのその余の請求を棄却。

<理由>
Y野球機構及びY12球団が販売拒否対象Xらに対してした入場券の販売拒否対象者Xらにたしてした入場券の既販売拒否対象者の指定は無効・違法であるとして、同Xらがその無効確認を求める請求は、Y野球組織を除くYらに対する関係で理由がある。(Y野球組織に対する関係では、プロ野球の主催者ではないY野球組織には、その無効確認を求める被告適格がない)ほか、同Xらが損害賠償を求める請求は、Yらに対する関係で、前記金員の支払を求める限度で理由がある。(Y野球組織は、Y野球機構及びY12球団の上位団体であり、そのコミッショナー及びコミッショナー事務局、Y12球団の並びに各球場で構成される「暴排協」の中央協議会で協議をした上、Y12球団及びY野球機構において販売拒否対象者指定をしたのであるから、同Xらに対し、Y野球機構及びY12球団と共同不法行為責任を負う)
判断 Xらの控訴を棄却した上、Yらの控訴に基づき、原判決を変更して、販売拒否対象XらのY野球組織を除くその余のYらに対する入場券販売拒否対象者の指定の無効確認を求める請求に係る訴えの一部を却下し、また、同Xらの同Yらに対する損害賠償請求中、原判決が認容した各1万1000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分を棄却。
解説 ●本案の判断
本判決:
本件約款の規定及びこれをその定めのとおり適用することが、我が国の法秩序上許容し難いものとなることは到底解されない。
⇒販売拒否対象者指定が販売拒否対象者Xらに対する不法行為を構成するということはできない。

原審:
本件約款は、試合観戦の再に何ら違法行為をしていない者について、特別応援許可申請において虚偽記載があったことを理由として販売拒否対象者として指定することまでを予定した規定であるとは解されない。

販売拒否対象者の指定は、球場での観戦自体を制限するものであるから、応援団方式による応援のように、他の観客に迷惑をかけ球場における秩序を乱す危険性を内在する行為を制限する場合ととは異なり、その制限についてはより慎重にすべきであり、本件約款の定める販売拒否対象者指定の要件を欠くにもかかわらず、その指定を行うことは、入場券の販売に関し主催者が裁量権を有することを考慮しても、その裁量権を逸脱するものとして、許されない。」
⇒本件販売拒否対象者指定は、権利濫用として違法であり、無効なもの。

●確認の利益の有無に関する本案前の判断
本判決:
販売拒否対象者指定は、単に、将来販売拒否対象Xらから、個々の試合の主催者であるY12球団及びY野球機構に対し、入場券の購入の申込みがされても、同Yらは承諾せず、同Xらの入場を拒否するとの方針を採用し、そのことを事前に伝達したものに過ぎず、それ自体が直接的に法律効果の発生に向けられた行為ということはできない
また、仮に、販売拒否対象者指定が無効である旨宣言したとしても、それによって、Y12球団及びY野球機構に対し、当然に入場券の販売に関する契約・・・観戦契約・・・の締結義務が課せられるわけではなく、まして、観戦契約の成立が擬制されるわけでもない。したがって、本件販売拒否対象者指定は、無効確認の対象たる適格を有しない上、その無効確認を求めることは上記の紛争を解決するための有効、適切な方法であるとは認められず、・・確認の利益を欠く

vs.
被指定者が、暴力団とは関係がなく、かつ、「応援団方式による応援」をしないでプロ野球を観戦したいと申し出た場合に、その申出が虚偽であれば論外であるが、真摯な申出であったときにも、販売拒否対象者として指定されたままでは、窓口で入場券を購入することができず、試合を観戦し得ないおそれがある。したがって、そのおそれを排除するために被指定者が当該被指定者に対する販売拒否対象者の指定の効力を争うこと自体は認めざるを得ないと解されるところ、被指定者が実際に窓口で入場券の購入を申し込み、かつ、その販売を拒絶された場合にその効力を争うことができるというにとどまるのでは、裁判で指定の効力が当該被指定者に対する関係では無効・違法と判断されても、当該被指定者が観戦を希望した試合の入場券を購入する機会を失し、損害賠償を求めるしかないことになる。
そのような事態を解消するには、入場券の購入を申し込んだが、その販売を拒絶されたという以前に、指定の効力を争うことが認められる必要がある。

問題となるのは、観戦契約の成否以前に、入場券の購入を申し込めば販売を拒絶されないで購入し得る立場が認められるか否かであって、指定が無効・違法である場合には、当該被指定者が入場券を購入して試合を観戦し得るというのであれば、その立場にあることを裁判で予め確認する必要がある
■民事p84 東京地裁H23.2.28 81歳の独居年金生活者に対する投資信託の購入の勧誘につき、説明義務違反の責任が認められた事例
事案 Xは、平成17年11月、国債の満期手続を行った際、金融商品取引を業とするY会社の社員の勧誘により、「ノックイン型投資信託」を購入し、同19年1月、繰上償還を受けるなど利益を得たが、同年3月、右社員の勧誘により同様の仕組みのノックイン型投資信託である本件投資信託を購入したところ、損失を被ったため(成年後見に選任されたXの子により解約がなされた)、同社員の勧誘は、適合性原則及び説明義務に違反する違法なものであったと主張し、Yに対して、3408万円余の損害賠償を請求。
判断 本件投資信託の仕組みは複雑であるし、リスクの高い投資商品であるとした上、Xは81才と高齢であって、年相応に判断能力の衰えがあった
⇒Xは、本件投資信託のリスク等について、十分な理解をしていなかったものと認められる。

Yの社員は、理解が容易でなくリスク性の高い本件投資信託の取引について適性が低いXに対して、十分な説明をすることなく、本件投資信託の購入を勧誘した
⇒Xに他する勧誘は、不法行為法上違法となるというべきである
⇒Yの不法行為責任を肯認し、Yに対し、2051万円余の支払をもtめる限度で、本訴請求を認容。
規定 金商法 第40条(適合性の原則等)
金融商品取引業者等は、業務の運営の状況が次の各号のいずれかに該当することのないように、その業務を行わなければならない。
一 金融商品取引行為について、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行つて投資者の保護に欠けることとなつており、又は欠けることとなるおそれがあること。
二 前号に掲げるもののほか、業務に関して取得した顧客に関する情報の適正な取扱いを確保するための措置を講じていないと認められる状況、その他業務の運営の状況が公益に反し、又は投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるものとして内閣府令で定める状況にあること。

金商法 第38条(禁止行為)
金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人は、次に掲げる行為をしてはならない。ただし、第四号から第六号までに掲げる行為にあつては、投資者の保護に欠け、取引の公正を害し、又は金融商品取引業の信用を失墜させるおそれのないものとして内閣府令で定めるものを除く。
一 金融商品取引契約の締結又はその勧誘に関して、顧客に対し虚偽のことを告げる行為
二 顧客に対し、不確実な事項について断定的判断を提供し、又は確実であると誤解させるおそれのあることを告げて金融商品取引契約の締結の勧誘をする行為
三 顧客に対し、信用格付業者以外の信用格付業を行う者の付与した信用格付(投資者の保護に欠けるおそれが少ないと認められるものとして内閣府令で定めるものを除く。)について、当該信用格付を付与した者が第六十六条の二十七の登録を受けていない者である旨及び当該登録の意義その他の事項として内閣府令で定める事項を告げることなく提供して、金融商品取引契約の締結の勧誘をする行為
四 金融商品取引契約(当該金融商品取引契約の内容その他の事情を勘案し、投資者の保護を図ることが特に必要なものとして政令で定めるものに限る。)の締結の勧誘の要請をしていない顧客に対し、訪問し又は電話をかけて、金融商品取引契約の締結の勧誘をする行為
五 金融商品取引契約(当該金融商品取引契約の内容その他の事情を勘案し、投資者の保護を図ることが必要なものとして政令で定めるものに限る。)の締結につき、その勧誘に先立つて、顧客に対し、その勧誘を受ける意思の有無を確認することをしないで勧誘をする行為
六 金融商品取引契約(当該金融商品取引契約の内容その他の事情を勘案し、投資者の保護を図ることが必要なものとして政令で定めるものに限る。)の締結の勧誘を受けた顧客が当該金融商品取引契約を締結しない旨の意思(当該勧誘を引き続き受けることを希望しない旨の意思を含む。)を表示したにもかかわらず、当該勧誘を継続する行為
七 前各号に掲げるもののほか、投資者の保護に欠け、若しくは取引の公正を害し、又は金融商品取引業の信用を失墜させるものとして内閣府令で定める行為
解説 金商法上、適合性の原則(法40条)、商品内容等について、助言し、告知すべきもの(法38条)。

多くの裁判例でも、適合性の原則に違反して取引を勧誘したり、重要事項について説明を怠ったときは、業者は不法行為責任を負う。(最高裁H10.6.25)

実務では、適合性原則違反が主張される事例は少なくないが、裁判例では、その違反自体を認定したケースは乏しく、適合性の原則は、説明義務違反を認めるか否かを測る尺度として用いられている傾向がある。

本件:
81歳と高齢者で1人暮らしの年金生活者というXの状況と、本件投資信託の複雑性、リスクを総合して説明義務違反を認めたもの。
■民事p91 東京地裁H23.3.1 再生債務者がした抵当権設定行為について無償行為否認が認められた事例
事案 再生債務者A社の監督委員であるYが、Xに対し、A社がXに対してA社所有の不動産に抵当権を設定した行為が民事再生法127条3項の無償行為に当たると主張し、否認の請求(同法135条1項、136条)をしたところ、これを認容。

Xが、Yに対し、右抵当権設定登記は無償行為ではなく、また、これによって害される債権者も存在しないなどと主張して、民事再生法137条1項に基づき、原決定の取消しを求めた・

@A社は、100%親会社であるB社がXから借入れを行うに際してA社所有不動産を担保として提供し、Xに対して抵当権を設定。
AB社は、@の約1か月後、会社更生手続開始の申立てをし、その2週間後に更生手続開始の決定を受けた。
BA社は、@から6か月が経過する直前に民事再生手続開始の申立てをし、その1週間後に再生手続開始の決定を受けた。
CAの監督委員であるYは、Xに対し、@の抵当権設定が無償行為に当たると主張して、否認の請求をした。
D原裁判所は、否認の請求を認容する旨の決定(原決定)をした。
EXが、Yに対し、原決定の取消しを求めた。

@のBの借入れは、Aとは別の100%子会社(C社)の債務を弁済するために行われたもので、いわばBグループ内の借り換えともいえるもの。
Aの再生手続は、右無償行為否認によってB社グループ全体の財産を確保するという目的で行われた。
規定 民再法 第127条(再生債権者を害する行為の否認)
3 再生債務者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、再生手続開始後、再生債務者財産のために否認することができる。

民再法 第135条(否認権の行使)
否認権は、訴え又は否認の請求によって、否認権限を有する監督委員又は管財人が行う。
2 前項の訴え及び否認の請求事件は、再生裁判所が管轄する。
3 第一項に規定する方法によるほか、管財人は、抗弁によっても、否認権を行うことができる。

民再法 第136条(否認の請求)
否認の請求をするときは、その原因となる事実を疎明しなければならない。
2 否認の請求を認容し、又はこれを棄却する裁判は、理由を付した決定でしなければならない。
3 裁判所は、前項の決定をする場合には、相手方又は転得者を審尋しなければならない。
4 否認の請求を認容する決定があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。
5 否認の請求の手続は、再生手続が終了したときは、終了する。

民再法 第137条(否認の請求を認容する決定に対する異議の訴え)
否認の請求を認容する決定に不服がある者は、その送達を受けた日から一月の不変期間内に、異議の訴えを提起することができる。

会社更生法 第48条(相殺権)
更生債権者等が更生手続開始当時更生会社に対して債務を負担する場合において、債権及び債務の双方が第百三十八条第一項に規定する債権届出期間の満了前に相殺に適するようになったときは、更生債権者等は、当該債権届出期間内に限り、更生計画の定めるところによらないで、相殺をすることができる。債務が期限付であるときも、同様とする。
解説 無償行為否認における無償性:
最高裁昭和62.7.3:
破産の場合について、破産者が義務なくして他人のためにした保証又は抵当権設定等の担保の供与は、それが債権者の主債務者に対する出捐の直接の原因をなす場合であっても、破産者がその行為の対価として経済的利益を受けない限り、無償行為に当たる。

前記最判は、破産者が主債務者に対して取得することがある求償権は、当然には抵当権設定等の担保提供の対価としての経済的利益に当たるとはいえないとしているが、そこでは、取得した求償権が多くの場合に無価値であることも理由の1つとして考慮されていると言われている。

Xは、本件のように担保提供者(A社)が主債務者(B社)に対して求償権の額を上回る債務を負担している場合には、相殺によって確実に求償権の実質的回収ができるから、求償権は無価値でなく、対価として認められるべきと主張。
本判決:
主債務者であるB社について更生手続が開始されており、求償権は更生債権となるところ、更正債権者が更生債権を自働債権として相殺することができる期間は限られている上(会社更生法48条1項)、同期間内に抵当権が実行されて求償権を行使することができるようになるとは考え難い
⇒Xの主張は前提を欠く。


破産者が保証又は担保の供与をしたことにより、主債務者が資金調達をすることができ、それによって破産者自身の出資の維持ないし増殖が図られたような場合には、破産者自ら直接ないし間接に経済的利益を受け破産財団の保全に資したものとして、無償性を否定するとの有力説(伊藤眞)。

本判決は、この説によっても、本件では無償性が認められるとする。
主債務者が親会社(B社)、担保提供者(再生債務者)が100%子会社(A社)であるから、B社の倒産を回避することによってA社の財産が保全される関係にはなく、右有力説の設定する場合と事案を異にする。


本件では、抵当権設定から再生手続開始までの間に、B社が、A社の一般債権者に対して立替払をしたため、再生手続開始時におけるA社の債権者が実質的にB社のみのとなっていたことから、有害性が否定されると主張。

本判決:
有害性の有無を判断する基準時は、否認の対象である行為の時であり、その後の事情は、管財人又は監督委員が否認権を行使するか否かを決定するに際しての判断材料となるにすぎない。
⇒有害性に欠けるところはない。
■民事p97 大阪地裁H22.9.29 肝硬変の治療に当たり、生体肝移植について説明すべき義務の違反があるとされた事例
事案 Aの相続人であるXらは、主治医Y2には、生体肝移植のインホームド・コンセントの不実施等の説明義務違反があったとし、Y1に対しては、診療契約上の債務不履行又は不法行為に基づき、Y2に対して、不法行為に基づき、損害賠償の支払を求めた。
判断 @平成16年1月ころまでには、生体肝移植は、重篤な肝硬変を含む重篤な肝臓疾患に対する根本的な治療方法として専門的研究者の間で有効性と安全性を是認されていたものと認められる。
AB病院の内科医師の学会や大学医局の所属の状況やB病院と大学病院との関係、生体肝移植の実施をも想定した転医の実施例を併せて考慮すると、Aの診療当時、B病院において、生体肝移植に関する知見を有することを期待することが相当と認められるから、生体肝移植の存在を前提にして重篤な肝硬変について検査・診断・治療等に当たることが、B病院に要求される医療水準であると認められる。
BAの肝硬変は重篤な非代償性肝硬変であり、平成17年3月22日以降は、内科的治療には限界があって早晩死を免れず、生体肝移植の適応があったものと認められる。

Y2の説明義務違反を認めたが、
右つ明義務違反とAの死亡との間に相当因果関係は認められないと判断し、Xらの慰謝料請求と弁護士費用請求の一部を認容
解説 医師の負う注意義務:
当該医療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等に照らして求められる知見としての医療水準が注意義務の水準となる(最高裁H7.6.9)

他に選択可能な治療方法があれば、その内容と利害得失、予後などについて説明義務がある(最高裁H13.11.27)。
■知財p107 知財高裁H22.11.30 冒認出願(特許法123条1項6号)を理由として特許を無効とした審決が維持された事例
事案 Xは、・・・とする特許の特許権者として登録された者であった。
Yは、冒認出願を理由として無効審判を請求した。
審決は、冒認出願であるとして本件特許を無効としたので、Xが審決取消しを求めて本訴を提起した。
規定 特許法 第123条(特許無効審判)
特許が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係るものについては、請求項ごとに請求することができる。
六 その特許が発明者でない者であつてその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとき。
判断 特許権を取得し得る者が発明者及びその承継人に限定されている特許法のもとにおいて、冒認出願(法123条1項6号)を理由として請求された特許無効審判において、「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」の主張立証責任は特許権者が負担すべき。
特許権者が発明に関するすべての経緯を個別的、具体的に主張立証しなければならないわけではなく、特許権者が、正当な者によって特許が出願されたとの事実をどの程度、具体的に主張立証すべきかは、無効審判請求人のした冒認を疑わせる事実に関する主張や立証の内容及び程度に左右される。

本件は、Xは合理的な立証を尽くしたとはいえない⇒法123条1項6号に該当し無効。
■知財p118 知財高裁H23.3.3 工業所有権に関する手続の代理又は鑑定等を指定役務とし、「みずほ」を平仮名書きした登録商標は、密接な関連性を有する役務について「MIZUHO」「みずほ」なる著名な引用商標を使用している被告及び被告グループの業務に係る役務と、広義の混同を生ずるおそれがある商標である
事案 Y(みずほFCグループ)は、Yの登録商標「MIZUHO」や使用商標「みずほ」を引用して、本件商標登録の無効審判を請求
⇒特許庁は、本件商標登録は、商標法4条1項15号に該当するものであり、同法46条1項の規定により、その登録を無効とすべき。

本訴は、右審決の取消訴訟。
規定 商標法 第4条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない
十五 他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)

第46条(商標登録の無効の審判)
商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。この場合において、商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては、指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。
一 その商標登録が第三条、第四条第一項、第七条の二第一項、第八条第一項、第二項若しくは第五項、第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。)、第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条の規定に違反してされたとき。
判断 商標法4条1項15号に該当⇒Xの請求を棄却

@本件商標が引用商標と同一ないし極めて類似する商標であること
A引用商標は、もともと普通名詞であるが、Y及びYグループにより使用された結果、全国的に極めて高い著名性を有する商標であること、
B本件指定役務とY又はYグループが使用する役務とが密接な関連性を有するものであること

・・役務の出所につきいわゆる広義の混同の生ずるおそれは極めて高い。

本商標は、Y及びYグループの業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある商標であり、商標法4条1項15号に該当。
解説 最高裁H12.7.11
商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定役務に使用したときに、当該役務が他人の役務に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該指定役務が右他人との間にいわゆる親子関係や系列会社等の密接な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信される、広義の混同を生ずるおそれがある商標を含むものと解するのが相当である。

「混同を生ずるおそれ」の有無は、
@当該商標と他人の表示との類似性の程度
A他人の表示の周知著名性及び独創性の程度
B当該商標の指定役務と他人の業務に係る役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、
当該商標の指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべき。
■商事p123 東京地裁H23.4.25 分譲マンション内の排水管の漏水があり、カビの発生等の損害が区分所有者に生じ、保険金が支払われた事故について、漏水とカビの発生等との間の因果関係がないとして保険会社の管理組合に対する損害賠償請求が否定された事例
事案 101号室内にカビや剥離が生じたため、Aとの間で火災保険契約を締結していたX保険会社は、Aに対して385万2822円の保険金を支払った。

Xは、101号室のカビや剥離は102号室及び104号室の床下排水管の亀裂による漏水事故に起因するもの
⇒本件マンションを管理するY管理組合に適切な維持管理を怠った過失があるとして、Yに対し、求償金支払請求権に基づき、385万2822円の支払いを求めた。
規定 保険法 第25条(請求権代位)
保険者は、保険給付を行ったときは、次に掲げる額のうちいずれか少ない額を限度として、保険事故による損害が生じたことにより被保険者が取得する債権(債務の不履行その他の理由により債権について生ずることのある損害をてん補する損害保険契約においては、当該債権を含む。以下この条において「被保険者債権」という。)について当然に被保険者に代位する。
一 当該保険者が行った保険給付の額
二 被保険者債権の額(前号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者債権の額から当該不足額を控除した残額)
2 前項の場合において、同項第一号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者は、被保険者債権のうち保険者が同項の規定により代位した部分を除いた部分について、当該代位に係る保険者の債権に先立って弁済を受ける権利を有する。
判断 排水管の漏水事故に起因するものとは認められない
⇒棄却
解説 近時、保険会社が被保険者に保険金を支払った後に第三者に責任があるとして損害賠償を求める事例が増加。
■労働p130 東京地裁H22.12.27 1.会社の部長職にあった従業員が取引先の若い女性従業員に対するわいせつ行為を理由に懲戒解雇処分を受けたことについて、解雇事由を認定し懲戒解雇処分が有効とされた事例(本訴)
2.当該従業員がわいせつ行為の存在を否定して会社に対して起こした本訴は濫訴であり不法行為にあたるとして、会社が応訴及び反訴に要した費用の一部につき損害賠償請求が認められた事例(反訴)
事案 XがYに対して、YがXを懲戒処分にしたことは解雇事由を欠き無効であると主張して、雇用契約に基づく権利を有する地位の確認並びに賃金の支払い及び本件懲戒解雇が不法行為に当たるとして損害賠償を請求。

反訴は、Yが、Xに対して、Xのわいせつ行為は不法行為に当たり、Yは解雇手続等に相当の費用をかけることなどを余儀なくされたこと、Xの本訴請求は濫訴であって不法行為に当たり、Yは応訴及び損害回復のため反訴の提起を余儀なくされた。
⇒不法行為に基づく損害賠償等を請求。
判断 ●本訴について
A、B及びX本人の各供述の信用性について、当事者間に争いがない事実及び他の証拠によって認定できる事との合理的整合性、内容の具体的・一貫性等、他方面から検討を加えた上で、A、Bの供述が信用でき、X本人の供述は虚偽であると判断し、本件わいせつ行為を認定し、その悪質性・重大性に照らせば、本件懲戒解雇は懲戒権の濫用に当たらず有効。
⇒本訴請求を棄却。

●反訴について
○本件懲戒解雇に要した費用等

従業員が懲戒処分に該当する行為を行った場合に、使用者が適切な処分を行うため事実関係の調査等を行うことは当然。
当該調査に要する通常の経費等に関しては企業の一般的人事管理に要する経費として折り込み済みのものと解することができ、当該懲戒処分に該当する行為と相当因果関係のある損害とまではいえない
⇒通常行われる人事担当従業員らによる調査に要した費用(当該従業員らの出張旅費等)は損害に当たらない。

通常の調査の範囲を超えて弁護士による詳細なヒアリング調査を行うのに要した費用538万1710円のうち100万円を、本件わいせつ行為と相当因果関係にある損害と認めた。

本件わいせつ行為の後に精神的ショックで勤務を継続することができなくなったBの派遣元が、派遣先に対して、Bの派遣期間満了までの派遣料金相当額等を請求し、派遣先が、これを支払った後、Yに対して、使用者責任に基づく損害賠償として同額を請求し、Yがこれに応じて損害賠償金を支払ったことについて、同額につき被用者たるXに対する求償権の行使を認めた。

○本訴の対応に要した費用等

訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者がそのこおとを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる(最高裁昭和63.1.26)。

本訴提起は不法行為に該当
⇒弁護士費用3114万7500円のうち100万円を損害と認めた。

○反訴提起に要した費用等

不法行為により自己の権利を侵害された者が、その相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴えを提起することを余儀なくされた場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、不法行為と相当因果関係に立つ損害というべき。(最高裁昭和44.2.27)
⇒弁護士費用158万2850円のうち20万円を損害と認めた。
2115
2115 ■判例特報p32 最高裁H23.4.28 特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった薬事法14条1項による製造販売の承認に先行して当該承認の対象となった医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品について同項による製造販売の承認がされていることを延長登録出願の拒絶の理由とすることが許されない場合・・・・「パシーフカプセル30mg」特許権存続期間延長登録事件上告審判決
事案 Xは、製造販売の承認を得て、本件処分を得るまで本件特許権の特許発明の実施をすることができなかったとして、存続期間の延長登録の出願をした。

その特許権は、徐放効果を有する医薬品、すなわち、医薬品の効果を長期間一定に保つようにするなど成分の放出を制御する効果を有する医薬組成物に関するもの。
規定 特許法 第67条の3
審査官は、特許権の存続期間の延長登録の出願が次の各号の一に該当するときは、その出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
一 その特許発明の実施に第六十七条第二項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。

特許法 第67条(存続期間)
特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。
2 特許権の存続期間は、その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であつて当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があつたときは、五年を限度として、延長登録の出願により延長することができる。
特許庁 出願拒絶。

医薬品に係る特許は、有効成分並びに効能及び効果にその本質があるから、ある医薬品について既に製造販売の承認等がされていて、その医薬品と異なるものの、有効成分並びに効能及び効果は同一であるという医薬品について製造販売の承認等がされても、それにより特許権の延長登録は認めない。
原審 本件拒絶事由によって拒絶するためには、特許庁が、
@当該処分を受けたことによっては、特許発明の実施ができない状態が解除されたとはいえないこと、又は
A当該処分を受けたことによって実施できるようになった行為が、その特許発明の実施に該当しないこと
を主張・立証するがあるところ、特許庁のいう理由では右主張・立証をしたことにはならない。
⇒審決を取り消す旨の判断。
⇒特許庁が上告受理申立て
判断 特許権の延長登録出願の理由となった薬事法14条1項による製造販売の承認に先行して、当該承認の対象となった医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品について同項による製造販売の承認がされている場合であっても、その医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは、当該先行する承認がされていることを根拠として、当該特許権の特許発明の実施に延長登録出願の理由となった承認を受けることが必要であったとは認められないということはできない

本件での先行医薬品は、本件特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない
⇒本件において、本件先行処分がされていることを根拠として、本件拒絶事由があるということはできない。
解説 本判決は、先行医薬品が本件特許権の特許発明の技術的範囲に属しないときについてのみ判断したものであり、技術的範囲に属するときについて判断を示すものではない。
■行政p35 東京高裁H22.5.27 1.租税法上具体的否認規定がない場合でも、租税回避を目的として、当事者の選択した契約が不存在と認定されるとき又は当事者の真の効果意思が欠缺し若しくは虚偽表示により契約が無効と認定されるときには、当事者の選択した契約類型を租税回避行為として否認することが許されるが、本件では否認することはできないとされた事例
2.租税回避行為の有無が争点となる国際的取引を課税要件とする場合の準拠法は、当事者間の合意があっても、法の適用に関する通則法42条の適用によって、日本の私法を適用すべきとされた事例
事案 被控訴人(一審原告)が、100%海外子会社と締結した掛け捨て型の地震再保険契約の再保険料について、処分行政庁が損金算入を否定し更正並びに重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定をしたのは違法として、国に対して、その取消しを求めた。

掛け捨て型の再保険契約を100%海外子会社と締結。
再々保険契約を欧州の損害保険会社との間で締結。
掛捨て型の再々保険契約では被控訴人グループから外部に再々保険料が流出⇒アイルランドでは保険として扱われていたファイナイト型の再々保険契約を利用。
(保険事故があった場合には、一定限度額の保険料が支払われるが、契約期間中に保険事故が発生しなかった場合には、再再保険料の調整をすることを取り決めた。)
100%海外子会社との掛捨て型の保険料を損金とする確定申告書(青色申告書)を処分行政庁に提出。
処分庁 被控訴人に対し、再保険契約に係る再保険料として支出した金員のうち、再々保険契約に係る事後調整部分(EAB繰入額相当部分)はファンドとして積み立てるものであるから、その部分の金額は、被控訴人の預け金と認めて、損金を算入することはできないとして更正処分をし、重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
規定 法の適用に関する通則法 第7条(当事者による準拠法の選択) 
法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。

第42条(公序)
外国法によるべき場合において、その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは、これを適用しない。

法人税法 第22条(各事業年度の所得の金額の計算)
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額

所得税法 第12条(実質所得者課税の原則)
資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

法人税法 第11条(実質所得者課税の原則)
資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。
一審 海外子会社との地震再保険契約は、地震が生じた場合に会社の収支が著しく悪化することを防ぐためのものであって経済的合理性があり、再保険料の支払は、租税回避目的がないとして、再保険料を損金と認めて、一審原告の請求を認容。
判断 ●租税回避行為の否認と準拠法
契約に関する準拠法は、当事者の指定により決定される。(通則法7条)

租税回避行為の有無が争点となる事案においては、・・当事者間の合意によって日本の課税権を制限することが可能となり、著しく課税の公平の原則に反するという看過し難い事態が生ずることになるから、同法42条の適用によって、外国法の適用を排除し、国内公序である日本の私法を適用すべき。

●具体的否認規定がない場合の租税回避行為の否認
課税は、私法上の法律関係に即して行われるべきであり、法形式(契約類型)を濫用して、課税の公平の原則に反する場合、所得税法157条、法人税法132条、相続税法64条(同族会社等の行為又は計算の否認等)のような具体的否認規定がないからとって、租税回避行為として否認することが一切許されないというわけではない。

租税回避を目的として、当事者の選択した契約が不存在と認定されるばあい、又は当事者の真の効果意思が欠缺し若しくは虚偽表示により契約が無効と認定される場合には、当事者の選択した契約類型を租税回避行為として否認することが許される。

●結論
本件再保険契約に基づき100%海外子会社に支払った掛捨ての再保険料は、当該事業年度の保険事故の発生に伴い受け取るべき保険金という収益獲得のために費消された財貨として法人税法22条3項柱書にいう「損金」に算入される「費用」(同項2号)に該当する。
解説 節税を考慮したからといって直ちに租税回避の目的と断ずることはできない。


課税は、私法上の法律関係に即して行われるべき。(金子)
契約の準拠法について、課税の関係においては日本法を基準とし、その根拠については、法例(現通則法)の定めはあくまでも当事者間の私法的な関係に関するものであり、当事者間の準拠法の指定が課税当局まで拘束するというのでは、課税の公平の見地から大きな問題が生じるとの指摘。


租税回避:
私法上の選択可能性を利用し、私的経済取引プロパーの見地からは合理的理由がないのに、通常用いられない法形式を選択することによって、結果的には意図した経済的目的ないし経済的成果を実現しながら、通常用いられる法形式に対応する課税要件の充足を免れ、よって税負担を減少させあるいは排除すること。
租税法規が予定していない異常な法形式を用いて税負担の減少を図る行為。(金子)


具体的否認規定がない場合に、否認が認められるか?
A:積極説
B:消極説(金子)
but
消極説にたっても、法理論上は私法上の真実の法律関係に即した課税であるが、法現象としては租税回避の否認と同じ結果が生じることは認めている。
■民事p50 最高裁H23.4.28 新聞社が通信社からの配信に基づく自己の発行する新聞に記事を掲載するに当たり当該記事に摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由があるといえる場合
事案 Xが、社団法人共同通信社の配信した記事が地方新聞社であるY1〜Y3の発行する新聞に掲載されたことによって名誉を棄損されたとして、共同通信社及びYらに対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案。
原審 Yらは共同通信社から記事の配信を受け、新聞を製作するに当たり、自らが尽くすべき注意義務が共同通信社によって履行されることを期待し、これに依拠することができる法的地位(共同通信社からすればYらに代わって注意義務の履行を引き受ける地位)にあったから、Yらは共同通信社による取材活動の具体的内容も含めて注意義務を尽くしたことを主張立証することができる。
⇒Yらについても右事実を真実を信じるにつき相当の理由があることを肯定して、Yらに対する請求を棄却。
判断 Yらについてのみ事件を受理して、XのYらに対する上告を棄却。
解説 最高裁昭和41.6.23:
民事上の不法行為責任たる名誉棄損については、その行為が公共の利害に関する事実に係りもっぱら公益を図る目的にでた場合には、摘示された事実が真実であれば、当該行為には違法性がなく、真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるにつき相当の理由があるときには、当該行為には故意又は過失がなく、不法行為は成立しない。

相当の理由があったといえるためには、報道機関が詳細な裏付け取材を行ったことを要するというのが判例の傾向。

最高裁H14.1.29:
通信社に相当の理由が認められなかった事案において、新聞社が通信社から配信を受けて自己の発行する新聞紙にそのまま掲載した記事が私人の犯罪行為等を内容とする分野のものである場合には、当該記事が取材のための人的物的体制が整備され、一般的にはその報道内容に一定の信頼性を有しているとされる通信社から配信された記事に基づくものであるとの一事をもって、新聞社に相当の理由があったものということはできない。
⇒新聞社の免責を否定。

少なくとも私人の犯罪行為等を内容とする分野における報道に関しては、配信サービスの抗弁は認められず、新聞社は通信社からの配信に基づき記事を掲載したにすぎない場合であっても、その一事をもって免責されることはない。


本判決:
@新聞社が通信社を利用する報道システムは、国民の知る権利に奉仕するという重要な社会的意義を有しており、広く社会的に認知されていること、
A右報道システムの下では、新聞社が配信記事の裏付取材を行うことは困難であること、
B通信社は相当の理由があるため免責される場合でも新聞社が免責されないこととなれば、報道が委縮するおそれがある

少なくとも新聞社が通信社と報道主体としての一体性を有すると評価することができる場合には、新聞社は通信社に取材を代行させたものとして通信社の取材を新聞社の取材と同視することが相当であるとして、通信社に相当の理由があるのであれば、配信記事の真実性に疑いを抱くべき事実があるにもかかわらず新聞社がこれを漫然と掲載したなど特段の事情がない限り、新聞社が自己の発行する新聞に掲載した記事に摘示された事実を真実とする信ずるについても相当の理由があるというべき。

Yらが社団法人である共同通信社の社員であることなど両者の関係を詳細に説示した上で、共同通信社とYらは報道主体としての一体性を有すると評価するのが相当であるとして、Yらについても相当の理由を肯定してその責任を否定。


通信社が免責される場合に限って、裏付け取材をしていない新聞社も免責され得るとの考え方を示したもの。

通信社が免責されれば新聞社も当然に免責されるとしたものではなく、「報道主体としての一体性」を免責要件としている上、このような一体性が認められる場合であっても、「特段の事情」がある場合には新聞社の免責を認めていない、。

「特段の事情」としては、新聞社が独自に入手していた情報によれば、当該配信記事に摘示された事実が真実でないことを認識し得たのに、新聞社が当該配信記事を漫然と掲載した場合など。

いかなる場合に「報道主体としての一体性」を肯定することができるか、例えば、本件のように共同通信社(=全国の地方新聞社等を社員(加盟社)とする社団法人)と新聞社とが法人とその社員という関係を有している事案と異なり、単に記事配信契約を締結しているにすぎない場合にも「報道主体としての一体性」を肯定することができるか否かについては、今後更なる検討が必要。

報道の自由と名誉権の双方に目配りをした判決。
■民事p55 最高裁H23.3.18 妻が、夫に対し、夫との間に法律上の親子関係はあるが、妻が婚姻中に夫以外の男性との間にもうけた子につき、離婚後の監護費用の分担を求めることが、権利の濫用に当たるとされた事例
事案 本訴において、X(夫)がY(妻)に対し、反訴において、YがXに対し、互いに離婚等を請求した事案であるところ、Xとの間に自然的血縁関係が存在しないことが明らかである子につき、Xがその養育費の支払義務を負うかが争われた事案。

Xは、婚姻関係の破綻後、二男の出生から約7年後に初めて、二男との間に自然的血縁関係がないことを知った。

Xは、二男につき、民法777条所定の出訴期間内(夫が子の出生を知った時から1年以内)に嫡出否認の訴えを提起することができず、親子関係不存在確認の訴えを提起したが、訴えは却下され、もはやXと二男との親子関係を否定する法的手段は残されていなかった。
規定 民法 第777条(嫡出否認の訴えの出訴期間)
嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から一年以内に提起しなければならない。
原審 Xと二男との間に法律上の親子関係がある以上、Xはその監護費用を分担する義務を負うとして、その分担額につき、長男及び三男と同額(月額14万円)と定めた。
判断 @Yが、出産後程なく二男とXとの間に自然的血縁関係がないことを知ったのに、そのことをXに告げなかっため、Xが、二男との親子関係を否定する法的手段を失ったこと、
AXが、婚姻中、相当に高額な生活費をYに交付するなどして、二男の養育・監護のための費用を十分に分担してきたこと、
B離婚後の二男の監護費用を専らYにおいて分担することができないような事情はうかがわれないこと
などの事情を総合考慮すれば、YがXに対し離婚後の二男の監護費用の分担を求めることは、監護費用の分担につき判断するに当たっては子の福祉に十分配慮すべきであることを考慮してもなお、権利の濫用に当たる
解説 本判決は、夫が、自然的血縁関係のない場合であっても、嫡出子とされる子に対しては扶養義務を負い、離婚に際して監護に関する処分としての養育費の支払が求められた場合にはその支払義務を負うのが原則であることを前提としつつ、本件の諸事情に鑑み、妻から夫に対して当該子の離婚後の監護費用の負担を求めることが「権利の濫用」に当たるとしたもの。

自然的血縁関係のない子のために既に支払った養育費について不当利得返還請求権の成否が争われる事例が見受けられるが、そのような事例では、既に支払われた養育費につき法律上の原因がないといえるかなどが検討されており、将来の養育費の負担が争われた本件とは直接の関係はない。
■民事p57 東京地裁H23.3.25 債務整理にあたった弁護士法人の代表弁護士に対する懲戒申立てについて不法行為が成立しないとされた事例
判断 @弁護士法58条1項に基づく懲戒請求が不法行為を構成するのは、懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときに限られるものと解される、
AY1は、債務整理の事務の履行に当たり、債権者との間で個別の和解契約を成立させることについて、事前に包括的な同意を与えていたというべきである、
Bしかし、Y1は、弁護士が和解を成立させる際には、その都度依頼者に報告して個別の同意を得て交渉するのが一般的な方法であるとの説明を聞き、同弁護士法人の和解の方法について問題があると考え、Xに対して本件懲戒請求を行ったことについて、およそ事実上又は法律上の根拠を欠くにもかかわらず、あえて懲戒請求を行ったとは認められない。

不法行為の成立を否定して、Xの本訴請求を棄却した。
■民事p63 東京地裁H23.2.8 1.再生手続開始前に委託を受けた弁護士報酬請求権及び費用償還請求権は民事再生方119条1号に該当しない
2.再生手続開始前に委託を受けた弁護士の報酬請求権は民事再生法119条2号に該当しない
3.再生手続開始前に委託を受けた弁護士の費用償還請求権のうち再生手続開始前に発生したものは民事再生法119条2号に該当しないが、再生手続開始後に発生したものは同号に該当する。
4.双方未履行双務契約である委任契約について履行の請求が行われたと認められなかった事例。
事案 Xが、民事再生手続が開始し、再生計画認可の決定が確定したYに対し、当該委任事務に係る準委任契約に基づく報酬請求権及び委任事務処理費用の償還請求権は、民事再生法119条1号、2号又は49条4項により共益債権であると主張して、報酬金及び費用償還請求金の支払を求める事案。

XはYから、元従業員Aの横領等に関して、告訴・告発手続、Aに対する損害賠償請求訴訟の提起及びこれに関連する仮処分の申立てについて受任し、これらの事務を履行した。
その後、Xは、Yから、Aを債務者とする破産手続(債権者申立て)について受任し、破産手続開始の申立てをし、同開始決定がなされたば、その配当に至る前に、Yは、民事再生手続開始の申立てをし、同開始決定を受けた。
規定 民事再生法 第119条(共益債権となる請求権) 
次に掲げる請求権は、共益債権とする。
一 再生債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権
二 再生手続開始後の再生債務者の業務、生活並びに財産の管理及び処分に関する費用の請求権

民事再生法 第49条(双務契約)
双務契約について再生債務者及びその相手方が再生手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、再生債務者等は、契約の解除をし、又は再生債務者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
2 前項の場合には、相手方は、再生債務者等に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において、再生債務者等がその期間内に確答をしないときは、同項の規定による解除権を放棄したものとみなす。
3 前二項の規定は、労働協約には、適用しない。
4 第一項の規定により再生債務者の債務の履行をする場合において、相手方が有する請求権は、共益債権とする。
判断 Xの費用償還請求権のうち再生手続開の開始後に発生した部分については、共益債権であると認め、Yに対して給付を命じたが、報酬請求権及び右部分以外の費用償還請求権については、再生債権であり、Yの再生手続において前記再生計画の認可決定が確定しているから、Yは、民事再生法178条により免責されていると判断して請求を棄却。

@民事再生法119条1号に規定する請求権に該当するというためには、当該請求権が、再生手続遂行に伴う裁判上の手続に要する費用又はそれに直接関連して生ずる費用に関する請求権であることを要すると解される。

前記報酬請求権及び費用償還請求権は、Yの再生手続きとは別個のAの破産手続に関するものであるなどとして、同号該当性を否定。

A民事再生法119条2号に規定する請求権は、再生手続開始後の原因に基づいて発生するものに限られ、再生手続開始前の原因に基づいて発生する財産上の請求権はこれに含まれない。

報酬請求権は、再生手続の開始前の原因に基づくものであるとして、同号該当性を否定。
費用償還請求権については、再生手続の開始前に発生したものについては右同様に同号該当性を否定したが、再生手続の開始後に発生したものについては同号該当性を肯定した。

B民事再生法49条1項、4項については、XとYとの間の委任契約がいわゆる双方未履行双務契約に該当することは認めたものの、事実認定の問題として、・・履行の請求が行われたものと解することはできないとした。
解説
報酬請求権報酬特約付委任契約に基づいて発生
費用償還請求権は、委任契約を基礎とするけれども、個々の支出に応じて各別に発生するもの。
⇒扱いを異にする。


免責された再生債権に係る訴えについて、請求を棄却すべきか?

A:免責された再生債権に係る債務は消滅する
⇒請求棄却
B判例(最高裁H9.2.25)通説:免責された破産債権に係る債務は自然債務になる。(民事再生の場合でも同様。)

通説:自然債務⇒訴えの利益を欠くので訴えを却下。
判例:自然債務とされる破産免責の場合、請求を棄却しているのが実務の趨勢。
(破産免責制度が破産者の経済的更生を目的としてその障害となる債権者の追及を遮断し破産債務の拘束から破産者を解放しようとするもの⇒単に不起訴の合意がされた場合よりも破産免責の対象となった債権の効力を弱いものと考える方が妥当⇒請求棄却説)
■民事p70 横浜地裁H23.3.31 発生土処分場建設事業について、周辺住民ら、事業対象地に存する湿地帯及びその保全を目的として設立された権利能力なき団体が原告となってした人格権等に基づく差止請求が、湿地帯それ自体の訴えは不適法として却下され、その他の原告らの請求は棄却された事例
事案 周辺住民ら、北川湿地及び北川湿地の保全等を目的として設立された権利能力なき社団が原告となって、本件事業の事業主体であるYに対し、人格権等に基づき、本件事業の差止めを求めた事案。
争点 (1) 北川湿地に当事者能力が認められるか
(2) Xらが本件事業の差止請求権を有しているか
判断 (1)について:
自然物たる湿地に当事者能力や権利義務の主体性を認める法令上の根拠は存在しない⇒北川湿地を原告とする訴えは不適法

(2)について:
@生物多様性に関する人格権、A環境権、B自然享有権及びC研究の権利はいずれも、実体法上の明確な根拠がなく、その成立要件、内容、法的効果等も不明確

それが法的に保護された利益として不法行為損害賠償請求権による保護対象となる余地があることはともかく、差止請求権の根拠として認めることはできない

D公共の福祉による制約の法理

同法理は、土地所有権を含む財産権が、立法に基づき、内在的制約や消極的規制、積極的規制に服することを意味するもので、私人であるXらの差止請求権を根拠付けるものではない。

E土地所有権の濫用論

権利行使を受けた相手方が、権利行使者の権利主張を制限する際の理論であり、積極的な権利の発生原因にはならない。

Yが行った動植物の移植状況は生物多様性の保護という面からは不十分であるものの、本件事業の実施手続及び事業内容を検討しても、本件事業の実施がYの有する土地所有権の濫用にあたるとまでいうことは困難。

周辺住民であるXらが主張した平穏な生活を営む権利(人格権)の侵害については、社会生活上受忍すべき限度を超えて、生命、身体、健康の安全に関する利益を違法に侵害され又は侵害される蓋然性が大きいとは認められない。
解説 豊かな自然環境を享受する利益については、環境権あるいは環境利益等として種々の議論があるが、その内容が定まっているとは言い難い。
裁判例でも、差止請求権の根拠とは認められていない。

良好な景観の恵沢を享受する権利(景観利益)については、一定の要件のもと、不法行為法上の保護を受ける利益であることが判例で認められている。(最高裁H18.3.30)が、同利益についても差止請求権の根拠となるかは議論の残るところ。

生命、身体、健康の安全に関する利益侵害については、一定の要件のもと、人格権に基づく差止請求権がみとめられており、多数の裁判例では、その基準として受忍限度論を採用し、差止請求権の存否を判断
■民事p83 宇都宮地裁H23.3.30 友人2名と集団下校中に交通事故にあって死亡した中学生につき、祖父母、姉妹の固有の慰謝料が認められたほか、友人2名にも各30万円の慰謝料が認められた事例
事案 A(15歳)が友人2名と下校のため歩行中、Y1の運転する普通乗用車に衝突され死亡。
Aの両親が、Y1とその使用者であるY2に対し、損害賠償を求めるとともに、Aの祖父母及び姉妹が固有の慰謝料を求め、また、Aの友人2人も慰謝料等を請求。
判断 慰謝料につき、
本人分2200万円
父母分各250万円
祖父母、姉妹分各120万円
友人2名につき、親友を失った悲しみとともに、自らも死亡したかも知れない状況にあったことなどを考慮し、各30万円
を認容。
規定 民法 第711条(近親者に対する損害の賠償)
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母配偶者及びに対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
解説 民法711条:
死亡した被害者の父母、配偶者及び子について慰謝料を請求できる。

最高裁昭和49.12.17:
同条所定以外の者についても、同条を類推適用して、加害者に対して、固有の慰謝料を請求できる。

裁判例では、
被害者の祖母、兄弟姉妹などにつき、民法711条を類推適用して被害者の死亡による固有の慰謝料を肯定。

本判決:
本人、父母、祖父母、姉妹の慰謝料として合計3300万円を認めたほか、
友人2名にも各30万円の慰謝料を認めたもの。
■知財p90 知財高裁H22.3.28 特許権の存続期間の延長登録出願について、延長の理由となった薬事法14条1項の医薬品の承認(本件処分)に先行して、処分の対象となって物及び処分の対象となった物についての特定された用途において本件処分と重複する医薬品製造承認事項一部変更承認がなされており、発明の実施に本件処分が必要であったとは認められないとして出願を拒絶した審決が、特許法67条の3第1項1号の解釈・適用の誤りがあるとして取り消された事例
事案 薬事法14条1項の所定の医薬品の承認(「本件処分」)を延長の理由として、H17.3.24、特許権の存続期間の延長登録出願をしたところ、特許庁が、・・・本件処分に先行して、対象となった物を「ラミブジンおよび他のHIV薬」、処分の対象となった物について特定された用途を「HIV感染症」とする医薬品製造承認事項一部変更承認(「先行処分」)がなされており、本件処分と先行処分はとは、処分の対象となった物及び処分の対象となった物について特定された用途が重複し、発明の実施に本件処分が必要であったとは認められないとして本件出願を拒絶する審決。

Xが審決取消訴訟を提起。
規定 特許法 第67条の3
審査官は、特許権の存続期間の延長登録の出願が次の各号の一に該当するときは、その出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
一 その特許発明の実施に第六十七条第二項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき

特許法 第68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)
特許権の存続期間が延長された場合(第六十七条の二第五項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となつた第六十七条第二項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない

第67条(存続期間)
特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。
2 特許権の存続期間は、その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であつて当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があつたときは、五年を限度として、延長登録の出願により延長することができる。
判断 延長登録の出願に関し、法67条の3第1項1号所定の拒絶査定をするための処分要件は、「その特許発明の実施に・・・政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないとき」のみであり、その主張、立証責任は、Yが負担する。

法67条2項の「当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定める」との部分は、延長登録をすべき旨の査定をするための処分要件になるものではない。

延長登録制度は、特許発明を実施する意思及び能力があってもなお、それができなかった特許権者に対して、「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除されることなった特許発明の実施行為について、不利益の解消を図った制度であるから、「その特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であった」との事実が存在するといえるためには、
@「政令で定める処分」を受けたことによって禁止が解除されたこと、及び
A「政令で定める処分」によって禁止が解除された当該行為が「その特許発明の実施」に該当する行為に含まれること
が前提となり、その両者が成立することが必要といえる。

審査官(審判官)が、出願を拒絶するためには、
@「政令で定める処分」を受けたことによっては、禁止が解除されたとはいえないこと、又は、
A「政令で定める処分」を受けたことによって禁止が解除された行為」が「「その特許発明の実施」に該当する行為」に含まれないこと
のいずれかを論証する必要があるが、本件出願は、前記@Aの要件を充足しないから、法67条の3第1項1号の要件に該当せず、審決には誤りがある。
■知財p102 知財高裁H22.9.8 1.動画投稿サービスを管理運営する会社が、経済的利益を得るために、その支配管理するサイトにおいて、ユーザーの複製行為を誘引し、実際にサーバに複製権を侵害する動画が多数投稿されることを認識しながら、侵害防止措置を講じることなくこれを容認し、蔵置する行為は、ユーザーによる複製行為を利用して、自ら複製行為を行ったと評価することができるものであり、また、サーバに蔵置した動画ファイルを送信可能化して閲覧の機会を提供しているとして、複製権及び公衆送信権(送信可能化を含む。)の侵害主体であるとされた事例
2.動画投稿サービスを管理運営する会社が、ユーザーの投稿により提供された情報(動画)を、「電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記憶媒体又は当該特定電気通信設備の送信装置」に該当するサーバに、「記録又は入力した」ものであるとして、プロバイダ責任制限法2条の「発信者」に該当するとされた事例
事案 音楽著作物の著作権等管理事業者であるXが、動画投稿サイトを運営するY会社が運営主体となって提供するサイトのサーバに、各ユーザーが投稿したXの管理する著作物の複製物を含む動画ファイルを蔵置し、これを各ユーザーに送信していることが、著作権(著作権及び公衆送信権(送信可能化を含む))を侵害し、かつ、不法行為が成立すると主張し、
@Y会社に対しては、Xの管理する著作物を、サーバの記憶媒体に複製し又は公衆送信することの差止めを求めるとともに、
AY会社及びY会社代表者に対しては、不法行為(著作権侵害)に基づいて、過去の侵害に対する損害賠償金及びこれに対する遅延損害金並びに将来の侵害に対する損害賠償金の連帯支払を求めた事案。
規定 著作権法 第23条(公衆送信権等)
著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。
判断 ●差止め請求について:
Y会社が、本件サービスを提供して経済的利益を得るために、その支配管理する本件サイトにおいてユーザーの複製行為を誘引し、実際に本件サーバに本件借り著作物の複製権を侵害する動画が多数投稿されることを認識しながら、侵害防止措置を講じることなくこれを容認し、蔵置する行為は、ユーザーによる複製行為を利用して、自ら複製行為を行ったと評価することができる。

Y会社が、本件サーバに著作権侵害の動画ファイルを蔵置することによって、当該著作物の複製権を侵害する主体であると認められるのみならず、本件サーバに蔵置した右動画ファイルを送信可能化して閲覧の機会を提供している以上、公衆送信を行う権利を侵害する主体と認めるべきはいうまでもない。

Y会社について本件サービスの侵害主体性を肯定。

●プロバイダ責任制限法
プロバイダ責任法3条の「発信者」に該当するか?

Y会社は、発信者性の判断においては、ユーザの投稿により提供された情報(動画)を、「電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記憶媒体又は当該特定電気通信設備の送信装置」に該当する本件サーバに、「記録又は入力した」ものと評価できる

「発信者」に該当し、同法による免責を否定

●損害賠償について:
Y会社代表者も、共同不法行為者として損害賠償責任を負うべき
⇒Yらに対し、原判決と同額の損害賠償請求が認められる。

平成21年9月12日以後の使用料相当損害の支払を求めるXの請求については、原判決中、当該請求に係る訴えを却下した部分に対してXから控訴ないし付帯控訴の提起がない以上、同部分をYらに不利益に変更する余地がないので、判断の限りではない。
解説 ●侵害主体性について

著作権侵害における侵害主体性については、直接行為者のほか、いかなる場合に直接行為者(本件においては、動画を投稿したユーザ)のほか、いかなる場合に直接行為者以外の者についても、侵害主体性を肯定し得るかが問題。

各事案において、諸般の事情を考慮しつつ、直接行為者と同視し得るか否かについて規範的観点から判断されることが一般的。

本件:
侵害主体性を認めるに当たり、侵害行為を自ら行ったものと認定し得る理由として、自らにおける侵害行為と同視し得る行為を具体的に指摘している点で、原判決を補足。

●プロバイダ責任制限法について
Yらは、プロバイダ責任法は、プロバイダが、表現の自由と権利者からの損害賠償請求のいわば「板挟み状態」を余儀なくされる状態に置かれることを防止するためにプロバイダを保護する趣旨の法律であるところ、Y会社はこのような板挟み状況にあったにもかかわらず、これを「発信者」としたものであり、同法の趣旨を没却し、適法に利用する者の表現の自由、情報受領者の情報受領権を侵害すると主張。

本判決:
@本件サービスにおける本件管理著作物に係る著作権の侵害率は控えめに見積もった数字にすぎない。
AY会社は、会員規約において、本件サービスにより生じた損害の一切はユーザが賠償する義務を負い、Y会社は免責されるものと定めており、少なくとも規約上は、Y会社は「板挟み状態」にあるものではない
BY会社は、あくまで本件管理著作物の著作権を侵害する動画ファイルについて、「発信者」としての責任を負うものであるところ、本件サービスが著作権侵害の蓋然性が高いサービスである以上、発信者としての責任を負うことになっても、プロバイダ責任法の趣旨を没却するものではない。
と判断。

●損害額について
本来は有料で視聴すべき著作物について、権利者に無断で視聴させたことが著作権侵害とされ、Yらは当該侵害行為によって生じた損害について賠償義務を負う。
Y会社自らが対価を要求しないことを決定し、ユーザによるリクエスト増をもたらしたのであるから、無料で視聴させた回数を前提に損害額を算定することがむしろ自然。
■商事p118 宮崎地裁H23.3.4 信用金庫の会員が、常務会理事が決定した融資が金庫に対する善管注意義務違反にあたるとして求めた会員代表訴訟が認容された事例
事案 A信用金庫の会員Xらが、A信用金庫のB社に対する融資、C社及びD社に対する各融資に際して、A信用金庫に対する善管忠義義務及び忠実義務違反があるとして、信用金庫法39条の4(会社法847条3項)に基づきYら(常務会理事Y1〜Y6)に対して連帯して金2億1040万余円及びその遅延損害金をA信用金庫に賠償することを求めた会員代表訴訟。
規定 会社法 第847条(責任追及等の訴え) 
六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主(第百八十九条第二項の定款の定めによりその権利を行使することができない単元未満株主を除く。)は、株式会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等(第四百二十三条第一項に規定する役員等をいう。以下この条において同じ。)若しくは清算人の責任を追及する訴え、第百二十条第三項の利益の返還を求める訴え又は第二百十二条第一項若しくは第二百八十五条第一項の規定による支払を求める訴え(以下この節において「責任追及等の訴え」という。)の提起を請求することができる。ただし、責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない。
2 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主」とあるのは、「株主」とする。
3 株式会社が第一項の規定による請求の日から六十日以内に責任追及等の訴えを提起しないときは、当該請求をした株主は、株式会社のために、責任追及等の訴えを提起することができる。
判断 (1)理事Y1〜Y3は、A信用金庫に対し連帯して、1億3721万円余円((2)の限度でY5と連帯し、(3)の限度でY4と連帯して)及び遅延損害金の支払、
(2)理事Y5はA信用金庫に対しY1〜Y3と連帯して、5022万余円((3)の限度でY4と連帯して)等の支払い
(3)理事Y4はA信用金庫に対しY1〜Y3及びY5と連帯して、4022万余円等の支払いを命じ、
(4)理事Y1〜Y5に対するその余の請求及び理事Y6に対する請求ををいずれも棄却。

<理由>
第3融資については、これを決定した常務会理事Y1〜Y5は、確実な回収の保全が図られていない状況下において、事業計画及び返済原資に関する情報収集・分析・検討を行わず漫然と融資を可としており、この経営判断は、常務会理事としての裁量を逸脱したもので、A金庫に対する前回注意義務等違反が認められる。

@融資〜H融資について、この融資及び追加融資について、常務会理事らにおいて、融資しないことによりA金庫が被るおそれのある損失と、融資を実行することによりA金庫が被るおそれのある損失を具体的に比較検討・分析し、その情報収集をしたと認める証拠はなく、・・・善管注意義務違反が認められる。

当時常務会理事の地位になかった者については、損害賠償責任はない。
解説 信用金庫の融資権限を持つ常務会理事が融資及び追加融資についての経営判断の範囲を超えて貸付債権回収の保全が十分でない状況下で、融資先の事業計画・返済原資に関する情報の収集・分析・検討をなさず融資を行ったことは、信用金庫に対する常務会理事としての善管注意義務違反にあたるとして、同金庫の会員が求めた会員代表訴訟を認容。

取締役(理事)の経営判断についての会社(信用金庫)に対する善管注意義務違反の有無は、判断過程の内容が取締役(理事)として著しく不合理なものか否かを判断基準とし、
この場合の審理対象は、
@経営判断の前提となる情報収集とその分析・検討における不合理さの有無、
A事実認識に基づく意思決定の推論課程及び内容の著しい不合理さの有無
にあると指摘される。
2114
2114 ■判例特報p3 最高裁H23.4.12 年間を通して多数のオペラ公演を主催する財団法人との間で期間を1年とする出演基本契約を締結した上、各公演ごとに個別公演出演契約を締結して公演に出演していた合唱団員が、上記法人との関係において労働組合法上の労働者に当たるとされた事例(新国立劇場運営財団救済命令取消事件)
事案 財団は、平成15年2月、次期シーズンについてAを契約メンバーとしては不合格とし、このことに関するユニオンからの団体交渉の申入れに応じなかった。

ユニオンは、東京都労働委員会に対し、本件不合格措置及び本件団体交渉申入れに対する財団の対応が不当労働行為に当たるとして、救済申立て

都労委は、本件団交申入れに対する財団の対応は不当労働行為に該当するが本件不合格措置はこれに該当しないとし、財団に対し団体交渉に応ずべきこと等を命じ、ユニオンのその余の申立てを棄却する旨の命令。

同命令に対し、財団は救済を命じた部分につき、ユニオンは申立棄却部分につき、中央労働委員会に対しそれぞれ再審査を申し立てたが、中労委は、各再審査申立てをいずれも棄却する旨の命令。

財団およびユニオンが、中労委の同命令に関し、それぞれ各自の再審査申立てを棄却した部分の取消しを求めた事案。

一審・原審
契約メンバーであるAは労働組合法上の労働者に当たらず、本件団体交渉申入れに対する財団の対応および本件不合格措置について不当労働行為が成立する余地はない。
⇒財団の請求を認容し、ユニオンの請求を棄却。


契約メンバーは出演基本契約を締結しただけでは個別公演出演義務を負っていない上、個別公演出演義務を負っていない上、個別公演出演契約を締結しない限り、業務遂行の日時、場所、方法等の指揮監督は及ばず出演基本契約を締結しただけでは報酬の支払はなく、予定された公演以外の出演を事実上であっても求められることはないなど指揮命令、支配監督関係は希薄
規定 労働組合法 第3条(労働者)
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。

労働契約法 第2条(定義)
この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。

労基法 第9条〔労働者〕(定義)
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
判断 以下の事実関係の下、契約メンバーであるAは、財団との関係において労働組合法上の労働者に当たると判断し、原判決を破棄し、財団が本件不合格措置を採ったことおよび本件団交申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たるか否かについて更に審理を尽くさせるため、原審に差戻し。

(1) 出演基本契約は、財団が、試聴会審査の結果一定水準以上の歌唱技能を有すると認めた者を、原則として年間シーズンの全ての公演に出演することが可能である契約メンバーとして確保することにより、上記各公演を円滑かつ確実に遂行することを目的として締結。

(2) 契約メンバーは、出演基本契約を締結する際、財団から、全ての個別公演に出演するために可能な限りの調整をすることを要望され、契約メンバーが個別公演への出演を辞退した例は、出産、育児や他の公演への出演等を理由とする僅少なものにとどまっていた。

(3) 出演基本契約の内容や、年間シーズンの公演の件数・・上演回数、これに要する稽古の日程・・財団が一方的に決定。

(4) 財団の指定する日時、場所において、その指定する演目に応じて歌唱の労務を提供し、・・財団の選定する合唱指揮者等の指揮を受け、稽古への参加状況について財団の監督を受けていた。

(5) ・・単価および計算方法に基づいて算定された報酬・・・超過稽古手当。
解説 労働組合法3条の定義は、団体交渉の助成を目的とする労働組合法の保護を及ぼすべき者はいかなる者かという観点から定められた定義であり、必ずしも労働契約法2条1項及び労基法9条の「労働者」の定義と同一である必要はない。

労働者概念の相対性を認め、労働組合法上の労働者を、労働契約法及び労働基準法上の労働者よりも広い概念であると解する見解。


労働組合法上の労働者にあたるか否かについては
@その者が当該企業の事業遂行に不可欠な労働力として企業組織に組み込まれているか
A契約の内容が一方的に決定されるか
B報酬が労務の対賞の性質を有するか
C業務の発注に対し許諾の自由がないか
D業務遂行の日時、場所、方法などにつき指揮監督を受けるか
等の事情を総合考慮して判断すべき。
@ないしDの各要素のうち積極要素と消極要素の多寡ないし重要性の大小等を総合勘案して個別具体的に判断

@は組織的従属性
ABは経済的従属性
CDは人的従属性
にかかわる要素。


最高裁昭和51.5.6:CBC管弦楽団事件
民間放送会社との間で「自由出演契約」を締結している楽団員が労働組合法3条の労働者に当たると判断。
諾否の自由の有無について、契約の文言にとらわれることなく、契約当事者の認識を踏まえ、契約の実際の運用に即して、楽団員は原則として会社からの出演発注に応ずべき義務を負うとの判断を示した。


本判決は、@ないしDの各要素につき、本件に即して検討し、
契約メンバーは、公演の実施に不可欠な歌唱労働力として財団の組織に組み入れられ、基本的に財団からの個別公演出演の申込みに応ずべき関係にあり、出演基本契約の内容や公演日程等は財団により一方的に決定され、契約メンバーは財団の指揮監督の下に歌唱の労務を提供し、契約メンバーの受ける報酬は歌唱の労務の提供それ自体の対価とみるのが相当であるとし、これらの事情を総合考慮すれば、契約メンバーであるAは、財団との関係において労働組合法上の労働者に当たると判断。


近時は、いわゆる非正規化やアウトソーシングが進み、自前の従業員で遂行することが可能な業務を従業員の身分を外した者に行わせ、契約形式を業務委託契約とすることによって、本来使用者が負うべき民事的負担や労働関係書法に基づく種々の負担を回避しようとする傾向
⇒このような業務委託の形式による労務提供者の労働者性が問題となる事例も増加。
■判例特報p9 知財高裁H23.4.21 1.商品の用途、性質等に基づく制約の下で、同種の商品等について、機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、商標法3条1項3号に該当する。(@事件)

2.立体的形状からなる商標について、当該商標の形状が、他に見当たらない特異性を有し、需要者に強い印象を与えるものであって、15年以上にわたって香水の容器に使用されてきたことに照らし、当該形状が独立して自他商品識別機能を獲得するに至っており、香水について自他商品強い別力を有するに至った結果、これと極めて密接な関係にある化粧品等の本願指定商品に、本願商標が使用された場合にも、自他商品識別力を有するとしてされた事例(A事件)

3.本願商標に係る容器の香水が、一定期間一定程度売り上げられ、雑誌等に掲載されたとしても、その立体的形状がシンプルで、特異性が見いだせず、類似の形状がの香水も複数存在し、酷似する形状の香水すら存在することに照らすと、本願商標の立体的形状が、独立して自他商品識別力を核とするに至っているとまではいえず、しかも、本願商標が、香水とは必ずしも取引者や需要者が一致するとはいえない「洗濯用漂白剤その他の洗濯用剤、清浄財、つや出し剤、擦り磨き剤及び研磨剤」等の指定商品に使用された場合、原告の販売に係る商品であることを認識することができるとはいえず、商標法3条2項の要件を充足するとはいえないとされた事例(A事件)

4.香水等を指定商品とする立体商標について、その立体的形状が、香水の容器において機能又は美感に資することを目的として採用されたもので、香水の容器の形状として、需要者において、機能又は美感に資することを目的とする形状と予測し得る範囲のものであり、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当するとされた事例(B事件)
事案 いずれも、フランス法人のXが国際出願した立体商標について拒絶査定を受け、それに対する拒絶査定不服審判請求について特許庁が同請求は成り立たないとした審決の取消しを求める事案。

いずれの審決も、本願商標は、商標法3条1項3号に該当し、同条2項に該当しないとしたもの。
規定 商標法 第3条(商標登録の要件)
自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。

三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標法

2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

商標法 第4条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十八 商品又は商品の包装の形状であつて、その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標法

商標法 第26条(商標権の効力が及ばない範囲)
商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
五 商品又は商品の包装の形状であつて、その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標法

不正競争防止法 第2条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
判断 @事件
指定商品を「美容製品、せっけん、香料類及び香水類、化粧品」とする立体商標の容器の形状の国債出願に関するもの

本願商標は、商標法3条1項3号に該当するが、同条2項に該当するとして、本件審決を取り消した。

A事件
本願商標は、商標法3条1項3号に該当するが、同条2項に該当しない⇒Xの請求を棄却。

B事件
本願商標は、商標法3条1項3号に該当⇒Xの請求を棄却。
説明 ●立体商標制度

平成8年法律第68号で新設
商標法2条1項柱書きに「立体的形状」を追加することにより、保護の対象とされた。

@立体商標のニーズが現実にある、
A不正競争防止法により商品の形状を商品等表示として保護を認めている事例が多数存在
B立体的商標についても権利を与えることが国際的な趨勢

商品等の機能や美感と関係のない特異な形状である場合はともかくとして、商品等の形状と認識されるものからなる立体的形状をもって構成される商標については、使用された結果、当該形状に係る商標が単に出所を表示するのみならず、取引者や需要者において同種の商品等と明らかに識別されていると認識することができるに至っている場合を除き、商標法3条1項3号に該当し、商標登録を受けることはできない。

立体的形状からなる商標であっても、商品又はその包装の形状をもって構成されるものについては、本来的又は直接的には他の知的財産制度で保護されるものであることなど、平面的な商標とは明らかに異なる

指定商品やその容器の形状そのものの場合には不登録とする運用を厳しくする。

●裁判例
立体商標を認める裁判例としては、商標法3条1項3号には該当するが同条2項に該当するとして立体商標登録の拒絶査定不服審判の不成立審決を取り消した
知財高裁H19.6.27(ミニマグライト)
知財高裁H20..5.29(コカコーラボトル)
知財高裁H22.11.16(ヤクルト)
がみられる程度。

商品やその容器の形状に係る立体商標に関する従前の裁判例で、商標法3条1項3号に該当しないとしたのは、知財高裁H20.6.30(チョコレート)が唯一の裁判例。

●本判決の位置付け

商品又は商品の容器の形状は、多くの場合、商品等の機能又は美感を高める目的で選択され、商品出所表示、自他商品識別機能として用いられるものではないことを前提に、同種の商品等について、機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば、特段の事情のない限り、「商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標」として、商標法3条1項3号に該当。

いずれも機能や美感に資することを目的とするものとして、同号に該当。


同条2項の自他商品識別力について
(a)当該商標ないし商品等の形状及び当該形状に類似した他の商品等の存否、
(b)使用された期間、商品の販売数量、広告宣伝がされた期間等の使用の事情を、総合考慮して判断すべきであるとし、
@事件について自他識別力を獲得したと判断
A事件についてはこれを否定

形状の特異性と使用の期間、宣伝広告の程度等が相関して考慮されるのは、例えば不正競争防止法2条1項1号所定の周知商品等表示に該当するか否かの判断と共通。

同号についても、本来商品の美感を高めることを目的として作られる商品の形態や模様が、商標等と同様に、副次的に出所表示機能を有し同条項における周知商品表示として保護されるためには、他の形態や模様と比べ、需要者の感覚に端的に訴える独創的かつ印象的な意匠的特徴を有し、その意匠的特徴が商品表示としての統一的な把握を可能にするものであって、需要者が一見して特定の営業主体の商品であることを理解することができる程度の識別力を備えたものであることが必要であるとされている。(東京地裁H9.3.31)

客観的に他の同種の商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえない場合には、商品の形態が不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」に該当するということはできない。(東京地裁H17.5.24)

類似の形態の商品の存在は、東京高裁H12.2.24(ギブソンギター)が、米国楽器メーカーのエレクトリックギターの形態につき、いったん獲得された形態の出所表示性が、類似形態の商品が市場に出回り続け、何らの対抗措置を執られていないため、需要者が商品形態を見ただけで当該商品の出所を識別することは不可能であることを理由に消滅したものとされ、法2条1項1号該当性を否定


@A事件の結論を分けたのは、主として(a)の形状。

@事件:
当該商標が、他に見当たらない特異性を有し、その立体的形状は、需要者の目につきやすく、強い印象を与えるもの。

A事件:
当該商標の立体的形状がシンプルで、特異性が見いだせず、類似の形状の香水も複数存在し、酷似する形状の香水すら存在。

指定商品についても
@事件については、香水と極めて密接な関連を有し、取引者や需要者も共通している「美容製品、せっけん、香水類及び香料類、化粧品」に限定
A事件においては、香水とは必ずしも取引者や需要者が一致するとはいえない「洗濯用漂白剤その他の洗濯用剤、清浄剤、つや出し剤、擦り磨き剤及び研磨剤」等の商品をも含まれている。

香水と取引者や需要者が一致しない商品について、識別することはできない。
■行政p31 東京高裁H23.2.23 1.貨物船と漁船との衝突事故について、両船の位置関係から海上衝突予防法15条1項の横切り船航法の適用が認められた事例
2.貨物船と漁船とが衝突し漁船船長が溺死した事故について、貨物船航海士の見張り義務違反の過失と漁船船長の避難措置を講じなかった過失の大きさとを比較のうえ、広島地方海難審判所のした海技士である同航海士に対する業務停止1か月の裁決が重すぎ相当性を欠くとして取り消された事例
事案 広島地方海難審判所は、海難審判法3条により、同法4条1項2号を適用し、三級海技士の業務を1か月停止する旨の裁決

Xがその取消しを求めた。
争点 @東洋丸と栄光丸は、衝突回避の航行について海上衝突予防法15条1項の横切り航行法の適用があるのか、そうではなく同法38条、39条の船員の常務により律せられるのか
A横切り航行法の適用があるとした場合において、Xに対し、三級海技士の業務を1か月停止するとした裁決は相当か
■民事p47 最高裁H23.4.22 司法書士会に新たに入会する者のみに課される負担でその履行が入会の要件となっていないものが司法書士法(平成14年法律第33号による改正前のもの)15条7号にいう「入会金その他の入会についての特別の負担」に当たるか
事案 被告に入会する際に納付した大阪司法書士会館維持協力金20万円について、被告はこれを取得する法律上の原因がないと主張して、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、20万円及びこれに対する民法704条前段所定の支払を求めた事案。
規定 司法書士法 第53条(会則)
司法書士会の会則には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
六 入会及び退会に関する規定(入会金その他の入会についての特別の負担に関するものを含む。)
原審 本件会館維持協力金は、被告に新たに入会する者にその納付義務が課されるものであり、そのようなものである以上、「入会についての特別の負担」に該当するというべきであるとして、原告の本件不当利得返還請求を認容。
判断 司法書士会に新たに入会する者のみに課される負担であってもその履行が入会の要件となっていないものは、その負担が新たに入会しようとする者の入会を事実上制限するような効果を持つ程重大なものであるなどの特段の事情のない限り、法15条7号にいう「入会金その他の入会についての特別の負担」には当たらないというべきである。

本件会館維持協力金は、その納付が入会の要件となっておらず、その金額に照らしても入会を事実上制限するような効果を持つほどに重大なものではない。
⇒会則に定める必要はない。
解説 司法書士会の自主性の強化等⇒会則に記載すべき事項の1つである「会費に関する規定」の変更について法務大臣の認可を要しない。
「入会金その他の入会についての特別の負担」については、会費と異なり、既存の会員の意思で自由に決定されることによって司法書士業への参入規制となりかねない。
法務大臣の認可の対象から除外しない
とされた。
■民事p52 最高裁H23.3.1 届出のない再生債権である過払金返還請求権について、届出があった再生債権と同じ条件で弁済する旨を定める再生計画と上記過払金返還請求権の帰趨
事案 Aの相続財産法人であるXが、貸金業者である潟Nレディアを再生債務者とする民事再生手続における再生計画(本件再生計画)の認可決定が確定した後に、クレディアの権利義務を会社分割により承継したYに対し、Aとクレディアとの間の継続的な金銭消費貸借取引において発生した過払金に係る不当利得返還請求権が本件再生計画の定めにより変更されたとして、その変更権の債権の元本30万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成21年5月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案。
規定 民事再生法 第181条(届出のない再生債権等の取扱い)
再生計画認可の決定が確定したときは、次に掲げる再生債権(約定劣後再生債権の届出がない場合における約定劣後再生債権を除く。)は、第百五十六条の一般的基準に従い、変更される。
一 再生債権者がその責めに帰することができない事由により債権届出期間内に届出をすることができなかった再生債権で、その事由が第九十五条第四項に規定する決定前に消滅しなかったもの
再生計画 @確定した再生債権(再生手続き開始決定の前日までの利息、損害金を含む。以下同じ。)の60%につき免除を受け、40%を再生計画認可決定確定後3か月以内に一括弁済する。
Aただし、再生債権の額が30万円以下である場合は全額弁済し、再生債権の額が30万円を超える場合は40%相当額と30万円の多い方の額を弁済する。

「再生手続開始に至った事情及び事業再生の基本方針」の項で
「(当該債権者には「責めに帰することができない事由」が存在するものと考えるべきであり、民事再生法181条1項1号の趣旨を尊重して、)」請求があれば再生債権額の確定を行った上で、債権届出を行った債権と同じ条件にて弁済を行うべきと判断し、本再生計画においてはそのような取扱いをしている。」としている。

「再生債権に対する権利の変更及び弁済方法」中の「一般的基準」の項では、届出のない再生債権である過払金返還請求権については、「当該債権者により請求がされ、再生債権が確定(債権額の確定を含む)した時(調停、訴訟、仲裁等の手続きがなされている場合には、それらの手続によって債権が確定する。)、上記の内容に従って権利の変更を受け」、「その時から3か月以内に、上記の額を一括弁済する。」としている。
判断 @本件再生計画におおける基本方針の定めにつき、届出のない再生債権である過払金返還請求権について、一律に民事再生法181条1項1号所定の再生債権として扱う趣旨であると解し、そうすると、同項の規定するとおり、上記過払金返還請求権は、本件再生計画の認可決定が確定することにより、本件再生計画による権利の変更の一般的基準に従い変更されるとした上、
A本件再生計画における権利の変更の一般的基準の定めに付き、再生債権者は、訴訟等において過払金返還請求権を有していたこと及びその額が確定されることを条件に、上記のとおり変更されたところに従って、その支払を受けられるという趣旨であると解して、本件債権の弁済期は、本件訴訟の口頭弁論終結時にはいまだ到来しておらず、XはYに対し、本判決が確定した時、すなわち本判決言渡しの日から3か月後の日限り、本件債権(本件再生計画の定めによる変更後の債権)の支払を求めることができるにとどまる。
Xの請求は、弁済期未到来と判断されるときは、将来の給付を求める趣旨を含むものであると解するのが合理的であるとして、Yに対し、本件債権の元本30万円をその弁済期が到来した時に支払うことを命ずる変更判決をした。
遅延損害金については、原審が本件再生債権(過払金)の元本額である23万6614円に対する部分の限度で認容していたことから、不利益変更禁止の要請により、それと同額の23万6614円に対する本件債権の弁済期の翌日以降の支払を命ずるにとどめた。
解説
民事再生法は、再生計画認可の決定が確定したときは、原則として、すべての再生債権について、再生債務者の免責(再生債権者の失権)の効力が生じ(176条、178条)、例外として、免責の対象外とされる権利について、再生計画による権利の変更の効力が生ずる。(179条1項、181条1項)。
181条1項1号は、再生計画認可の決定が確定したときは、再生債権者がその責めに帰することができない事由により届出をすることができなかった再生債権は、再生計画による権利の変更の一般的基準に従い、変更されると規定。
「権利の変更」とは、権利自体の実体的な変更を意味する。


本件再生計画は、届出の過払金返還請求権について、一律に同号所定の再生債権として扱うものとする旨を定めつつ、その権利の変更の一般的基準の定めにおいて、「(訴訟等の手続によって)再生債権が確定した時、権利の変更を受ける」という、一見すると同号の規定と抵触するような表現。

原審は、字面どおりに解釈。

権利の変更の効力は、同項の規定により、本件再生契約の認可計画が確定した時点で発生するのであり、本件再生計画の定めを全体としてみれば、届出のない再生債権について、その再生債権の存否及び額に争い上がれば、訴訟等により再生債権の存否及び額を確定することが権利行使の条件となることをいわんとしたものであると解するのが合理的。⇒本判決。
■民事p58 東京高裁H23.1.12 インターネットサイト上のホームページにおいて特定の大学院医学系研究科教授の研究や研究費用補助等につき記載した内容の一部が意見ないし論評の前提事実の真実性が認められず、名誉棄損に当たるとされた事例
解説 他人等の社会的評価を低下させる公表記事が、名誉棄損における事実の摘示に当たるのか、それとも意見ないし論評に当たるのかを区別する基準は、証拠等をもってその存否を決することが可能な事項か、それとも証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や論議かにある。(最高裁H16.7.15)

記事の内容は、他人に関する特定事項を主張しているものと即断しにくいものであっても、前後の文脈や記事の公表当時に一般の読者が有していた知識ないし経験等を考慮し、その部分の修辞情の誇張等、比喩的表現、伝聞の紹介、推論などによりつつ間接的に特定事項を主張するものと理解されるならば、事実を摘示するものと見るのが相当。(最高裁H9.9.9)

公正な論評の法理による名誉棄損行為ないし免責については、最高裁H1.12.21:
論評が
@その目的が専ら公益を図るものであること、
A前提事実が主要な点において事実であること、
B人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでないこと
を要件として違法性が阻却される。
@ないしBの要件を被告側(表現者側)に主張・立証責任を負わせていると解される。

Bの要件である人身攻撃に及ぶなど論評の域を逸脱しているか否かの主張・立証責任について、英米法下では、マス・、メディアの場合、名誉棄損被害を主張する側において公表者側に「現実の害意」があったことを主張・立証すべき責任があるとされる。
■民事p65 広島高裁H21.7.2 全国に放送されるテレビのいわゆるトーク番組において弁護士である出演者が視聴者に対し特定の弁護士に対する懲戒請求を勧奨する発言をしたことが名誉棄損の不法行為に当たらないが、名誉棄損とは別個の不法行為に当たるとされた事例
争点 @本件発言がXらの名誉を棄損し不法行為に該当するか
A視聴者に懲戒請求を呼びかけた行為がXらに対する不法行為に該当するか
判断 @について
摘示事実に真実性の証明がある
意見論評の前提事実に真実性の証明があり意見論評の域を逸脱しているとはいえない
⇒名誉棄損を構成しない。

Aについて
・・・懲戒請求に理由がないことを知りながら視聴者に対しあたかも懲戒事由が存するかのような誤った発言をし、この前提に基づき、懲戒請求は簡易かつ多数の懲戒請求によってこそ懲戒の目的を達し得ると誇張的に懲戒請求を勧奨したもで、これは、弁護士懲戒制度の本来の制度趣旨目的を逸脱し、多数の者による理由のない懲戒請求を集中させることによって、Xらを含む弁護団の弁護方針に対する批判的風潮を助長し、その結果、Xらの名誉感情等人格的利益を害するとともに、不当な心身の負担を伴う反駁、反論準備等の対応を余儀なくされたもの
⇒Yは、このことについて、不法行為責任を免れない。

コメント
最高裁でひっくりかえった
■民事p77 東京地裁H22.10.26 ウラン・プルトニウム混合酸化物試験用焼結調整設備用ペレット検査設備の一部である機械の製作請負契約において請負人の当該機械の完成を理由とする残代金請求が認容され、注文者の当該機械の未完成を理由とする既払金返還請求ないし当該機械の瑕疵を理由とする損害賠償請求が棄却された事例
事案 Xが、本訴として、本件機械の完成・引渡しを理由に、Yに対し請負残代金923万1734円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める請求と、
Yが、
本件機械の完成を否認し、仮に完成しているとしても、本件機械に瑕疵があることを理由に、当該瑕疵の修補代金相当の損害賠償請求権とXの本訴請求に係る請負残代金とを相殺すると主張して、Xの本訴請求を争ったうえ

反訴として、
@本件機械の未完成を理由に、Yの既払金からXの出来高を控除した残額について不当利得として返還を求める主位的請求、
AXの債務不履行に基づき損害賠償を求める予備的請求
B本件機械が完成しているとしても、前記相殺後の差額について損害賠償請求権を有するとして、その支払いを求める予備的請求
規定 民法 第633条(報酬の支払時期)
報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第六百二十四条第一項の規定を準用する。

民法 第634条(請負人の担保責任)
仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。ただし、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない。
2 注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる。この場合においては、第五百三十三条の規定を準用する。
判断 本件請負契約の締結等、トランスの仕様決定の経緯等、XのYに対する本件機械の納品等、本件各問題(温度未達の問題及び酸化の問題)の発覚等にかかる事実認定を踏まえ、先ず、「Xは、本件請負契約において予定された各工程を一応終了し、Yに対し、本件機械を納品したことが認められるから、Xは本件請負契約における仕事を完成したものというべきであり、Yの主張する温度未達の問題は、Xが請負人としての瑕疵担保責任を負うかどうかという別の問題として検討すべき問題」

本件において、「本件各問題が生じたことについて当事者間に争いがない」が、「本件のように仕事の目的物が請負人の担当部分と注文者の担当部分とを接続して初めて一定の機能が実現されるものであり、その機能に瑕疵があることが認められるという場合に、請負人に対して瑕疵担保責任を負わせるためには、請負人の担当部分又は請負人の作業に瑕疵の原因があると認められることが必要であるが、請負人の担当部分又は請負人の作業に瑕疵の原因があると認められる場合であっても、それが注文者の与えた指示によって生じた場合には、請負人に瑕疵担保責任を負わせることはできないものと解される」との見地に立って本件各問題の原因について検討。
「温度未達の問題という本件機械の瑕疵は、注文者であるYの指示によるものであると認められるから」、また、「酸化の問題について、Xの作業に原因があったと認めることは困難であるから」、いずれにしてもXに瑕疵担保責任を負わせることはできない。

Xの本訴請求を認容
Yの反訴請求を棄却
解説 請負契約において、請負工事の完成ないし瑕疵をめぐって訴訟となる場合、請負人の工事完成を理由とする請負代金(残代金)の請求に対し、
@注文者が工事未完成を理由として請負人の請求を争うだけでなく、
A既払金の出来高との清算を前提に、既払金の返還を求める請求、
B工事の瑕疵を原因とする損害賠償請求権と請負代金債権との相殺を理由として請負人の請求を争うだけでなく、
C相殺後の損害賠償請求の支払を求める請求が
どちらか一方を本訴、他方を反訴として提起されることが少なくない。

本判決は、請負人が瑕疵担保責任を負うのは、請負人の担当部分又は請負人の作業に瑕疵の原因がある場合であって、後者の場合にも、注文者の指示による場合には、瑕疵担保責任を免れる。
⇒Xの責任を否定。
■民事p87 大阪地裁H23.3.4 高齢者の締結した約3億円の梵鐘の製作請負契約につき、消費者契約法4条に基づく取消しが認められた事例
事案 Xは平成19年3月、Yとの間で梵鐘を製作する旨の請負契約を締結し、同月1日、契約金として2億円を支払った。
Xの子であるAは、Xの後見人として、平成20年1月28日、本件請負契約につき取消しの意思表示をし、既払の2億円の返還を求めた。
規定 第4条(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認
2 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。

4 第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。
一 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件
判断 本件請負契約2条に定める消費者契約に当たるとした上、Yは、Xから前払いされた2億円が契約解除の場合にはそのまま違約金になるにもかかわらず、そのことを故意に告げなかったことにより、Xにそのことを誤信させ、本件請負契約を締結させるに至らせたものであるから、同契約については消費者契約法4条2項の取消し事由がある。

本件請負契約の取消しを認め、既払代金2億円の返還請求を認容。
解説 消費者契約法4条では、同契約を取り消すことができる場合として、消費者が誤認した場合を想定。(4条1項、2項)
「重要事項」につき「事実と異なることを告げること」によって消費者が誤認した場合には、消費者は当該契約を取り消すことができる(法4条1項1号)。

不実告知の対象は、「重要事項」であるが、それは、消費者が当該契約を締結するか否かについての判断に影響を及ぼすべきもの(4条4項)とされ、
裁判例では、宝石の小売価格、融資金の弁済方法、学習教材の月々の支払い価額などが「重要事項」に当たるとされている。
■知財p92 知財高裁H23.2.22 特許権の存続期間の延長登録につき、その延長登録(本件延長登録)に先立ってされた延長登録の理由となった処分の対象物について特定された用途と、本件延長登録におけるそれとが実質的に同一であるとはいえないとして、本件延長登録の無効審判請求を不成立とした審決が維持された事例
事案 Yが特許権を有し発明の名称を「環状アミン誘導体」とする特許権につき、平成20年6月25日に延長期間を5年とする存続期間の延長登録がなされたことに対し、Xらが無効審判請求をしたが、特許庁が請求不成立の審決をしたことから、これに不服のXがその取消しを求めた。
規定 第67条(存続期間)
特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。
2 特許権の存続期間は、その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であつて当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があつたときは、五年を限度として、延長登録の出願により延長することができる。

第68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)
特許権の存続期間が延長された場合(第六十七条の二第五項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となつた第六十七条第二項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない。
解説 特許法67条2項が規定する特許権の存続期間の延長登録については、特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力について定めた同法68条の2にいう政令で定める処分の対象となった「物」とは「有効成分」を、「用途」は「効能・効果」を意味するものと解することを前提として、有効成分と効能・効果を同じくする医薬品の薬事法上所定の承認処分が複数ある場合には、最初の承認処分のみに基づいて特許権の存続期間の延長登録出願をすることができ、後の承認処分に基づいて特許権の存続期間の延長登録出願をすることはできないというのが、従来、特許庁及び知財高裁がとってきた解釈。

but
知財高裁H21.5.29は、特許法68条の2における「政令で定める処分」が薬事法所定の承認である場合「政令で定める処分」で対象となった「物」とは、当該承認により与えられた医薬品の「成分」、「分量」及び「構造」によって特定された「物」を意味するものというべきであるとして、上告・上告受理申立てがなされたが、

「特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった薬事法14条1項による製造販売の承認(後行処分)に先行して、後行処分の対象となった医薬品(後行医薬品)と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品(先行医薬品)について同項による製造販売の(先行処分)がされている場合であっても、先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは、先行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできないとういべきである。」として、上告を棄却する判決がなされた。(最高裁H23.4.28)

本件では、本件承認処分における用途(効能・効果)である「高度のアルツハイマー型認知症における認知症状の進行抑制」と先の承認処における用途(効能・効果)である「軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」が実質的に同一であるかどうかが争点。
判断 先の承認処分及び本件承認処分における「軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症」と「高度のアルツハイマー型認知症」は実質的に異なる疾患というよりも、穏やかにかつ不可逆的に進行するアルツハイマー型認知症という1つの疾患を重症度によって区分したものと認めるのが相当。

塩酸ドネペジルが軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症の進行抑制に有効かつ安全であることが確認されていたとしても、より重症である高度アルツハイマー型認知症の患者を対象に塩酸ドネペジルを投与し、その有効性及び安全性を確認するための臨床試験が必要であったと認められると認定。

その上で、医薬品の「用途」とは医薬品が作用して効能又は効果を奏する対象となる疾患や疾病等をいい、「用途」の同一性は、医薬品製造販売承認事項一部変更承認書等の記載から形式的に決するのではなく、先の承認処分と本件承認処分に係る医薬品の適用対象となる疾患の病態(病態生理)、薬理作用、症状等を考慮して実質的に決すべきものであると解されるところ、
本件のように、対象となる疾患がアルツハイマー型認知症であり、薬理作用はアセチリコリンセルテラーゼの阻害という点では同じでも、先の承認処分と後の処分との間でその重症度に違いがあり、先の承認処分では承認されていないより重症の疾患部分の有効性・安全性確認のために別途臨床試験が必要な場合には、特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であって政令で定めるものを受ける必要があった場合に該当するものとして、重症度による用途の差異を認めることができるというべき。

疾患としては1つのものとして認められるとしても、用途についてみれば、先の承認処における用途である「軽度及び中等度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」と本件承認処分における用途である「高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」が実質的に同一であるいえないとし、存続期間の延長登録無効審判請求を不成立とた審決はその判断の結論において誤りはない。
解説A 医薬品製造販売承認事項一部変更承認処分等における先の承認処分と後の承認処分における用途の同一性における先例において、「用途(効能・効果)」の同一性については、医薬品製造販売証に事項一部変更承認処分等の記載から形式的に決するのではなく、先の承認処分及び後の承認処分に係る医薬品の適用対象となる疾患の病態、薬理作用等を考慮して実質的に決すべきとする点では本件と共通。
■知財p111 知財高裁H22.7.28 商標法50条による商標登録の不使用取消しを認めた審決に係る取消訴訟において、本件商標と通常使用権者が使用していたという商標とが、「社会通念上同一と認められる商標」であるとのX主張は、出願経過におけるXの主張に鑑み、禁反言則に反して許されないとされた事例
事案 Xが、Xの有する商標「ECOPAC」について、商標法50条に基づいて、不使用を理由とする当該登録の取消しを認めた審決の取消しを求めた事案。
規定 商標法 第50条(商標登録の取消しの審判)
継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。以下この条において同じ。)の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
審決 「エコパック」は・・「環境に優しい包装」を意味する「ECOPACK」を想起するものといえうことができる

本件使用商標と本件商標とは社会通念上同一と認められる商標とは認められないのみならず、本件使用商標は、「経済的、環境にやさしい包装容器」という、プラスチック製包装容器の品質を表示するものとして認識され、商品の出所を表示する機能を果たし得ないから、本件商標の使用とは認められない。
判断 Xの請求を棄却

●「本件使用商標(エコパック)は、本件商標(ECOPACK)」と「社会通念上同一と認められる商標」といえるか。

出願経過において、「ECOPACK」と一連に連綴した構成よりなる本件商標は、「環境保護に十分配慮した包装容器」の意味合いを指称するものではなく、取引者及び需要者は、Xにより創作された特定の観念を生じ得ない造語として把握し、理解するものであるなどと主張

本件において、Xが出願経過における前言を翻して、本件商標から「環境に優しい包装」の観念が生じるなどと主張することは、禁反言に反し、許されない

本件商標と本件使用商標とが、呼称及び観念において同一であることを前提として、本件商標と本件使用商標とが社会通念上同一であるとするXの主張を採用することはできない。

●プラスチック製包装容器を梱包した外装段ボール箱の表面に、「ECOPACK(エコパック)」なる商標を付したことが、本件商標の使用に当たるか。

・・指定商品のプラスチック製包装容器ではなく、これを梱包するにすぎない外装段ボール箱の表面に、商標「ECOPACK(エコパック)」を付したからといって、プラスチック製包装容器に本件商標を使用したものと認めることはできない
解説
商標法50条

登録主義の下においても、商標の登録が認められるのは、それが使用されることによって取引市場における商標権者の取引上の利益が保護され、経済における取引秩序・競業秩序が維持されるからであって、このような目的に沿って使用されない商標は、権利として特定人に独占させておく必要がなく、むしろその使用を欲する第三者のために開放することが望ましい。

商標権者が不使用取消を免れるためには、取消審判請求の登録前3年以内における登録商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。(←登録商標とは異なる態様において使用されていることも珍しいことではない))の使用にかかる事実を証明する必要。


商標の「使用」の概念について、自他商品識別機能、出所識別機能を有しないような使用についても、商標法が定める各種効果を認めるべきか否かについては、商標法における論点。


当該段ボール箱に本件商標が表示されていたとしても、内容物であるバイオタッチ800との関連性はなく、当該表示がバイオタッチ800の出所を表示しているものということはできない
⇒バイオタッチ800という名称のプラスチック製包装容器について、本件商標が使用されているという余地はない。


本件商標の指定商品には、第16類「紙製包装用容器」が含まれていたが、Xは、同指定商品に関する使用については何ら主張していない。
■商事p119 岡山地裁H23.2.22 車両衝突事故につき、故意免責及び不実申告免責がいずれも否定された事例
事案 Xは、Y1とその使用者であるY2に対し、民法709条、715条に基づき、損害賠償を請求するとともに、加害自動車に自動車保険契約を締結していた保険会社Y3に対し、保険金を請求。

Y3は、本件事故は、X1とY1が通謀の上、故意に起こした偽装事故である主張するとともに、Xは、Y3の調査員に対して虚偽の事実を告げ、協力義務を怠ったなどとし、約款上の免責を主張。
判断 @鑑定の結果と認定事実によれば、Y3において、本件事故が故意による事故であることの立証に成功しているとはいえない、
AXが調査員に提出した見積書には、事故以前に存在していた傷の修理費用が計上されていたとしても、金額的にはごくわずかと推認され、ほとんど無視してよいと考えられる。
⇒Y3の免責の主張を排斥し、Xの本訴請求を認容。
解説 故意免責は保険会社側において主張立証する責任がある。(最高裁H18.6.1)

保険約款では、被保険者らが提出書類に不実を記載したり、証拠を偽造したりした場合には、保険会社が免責される旨規定されているが、
判例では、免責約款の適用については限定的に解釈されるべきであるとされ(最高裁昭和62.2.20)
不実申告免責条項について、その適用につき制限的な解釈を行う裁判例も少なくない(東京高裁H11.6.30)
■刑事p131 東京地裁H23.3.30 1.覚せい剤所持で逮捕された被疑者に対する任意採尿手続に重大な違法があるとして、尿の鑑定書の証拠能力を否定し、覚せい剤自己使用について無罪が言い渡された事例
2.情況証拠から覚せい剤所持の故意が推認された事例
事案 覚せい剤自己使用の事実について、弁護人は被告人に対する採尿手続に重大な違法があるとして、尿の鑑定書の証拠能力を争った。
本証拠決定は、弁護人の違法性に関する主張を一部採用し、その鑑定書の証拠能力を否定。

被告人は公判終盤に自己使用を自白したが、本判決は、被告人の尿の鑑定にかかる証拠が存在しないことから、自白の補強証拠が十分でないとして、同事件に無罪を言い渡した

覚せい剤所持の公訴事実については、所持の故意が争点となったが、本決定は被告人の故意を推認して有罪とした。
弁護人の主張 警察官は
@現場及び池袋署に向かう車中で被告人をトイレに行かせず
A池袋署のトイレでも尿を提出しない限り排尿させないという対応をとって、被告人に失禁をさせ、
Bその後、体調不良の被告人を取調室に違法に留め置いて一睡もさせず、トイレに行きたければ尿を提出するよう追い詰めたことにより、
令状なくして被告人に違法に尿の提出を強制したもの。
判断 @について、警察官は、職務質問時には威圧的な態度や有形力の行使によって被告人を違法にトイレに行かせなかったものではなく、逮捕から池袋署までの間にトイレに行かせなかった措置も違法とは認められない。

A警察官が失禁前の被告人に尿の提出を促した疑いはあるが、尿を提出しなければ排尿させないと言って迫ったとは認められず、違法と評価すべき点はない。

Bに関し、警察官らの措置は違法。

・・・一度失禁した被告人に対し、再び失禁することになるという心裡的圧迫を与えて尿の提出を迫ったもの
・・・被告人の体調不良に対して何の配慮もしなかった。
被告人を上記のように通調室に待機させた取扱いは不適切。
カテーテルで体を傷めるのではなく、自ら尿を出すようにと言って説得した点は、強制採尿令状の発付を当然の前提としており、令状審査を先取りしたものF警察官の説得は、それ自体、違法な捜査手続であった

・・・一連の捜査過程には令状主義の精神を没却する重大な違法があり、違法捜査抑制の見地からも、尿の鑑定書の証拠能力を否定すべき。
解説
最高裁H15.2.14(最高裁として初めて尿鑑定の証拠能力を否定)も、窃盗を被疑事実とする違法な逮捕の当日に任意採尿された尿及び鑑定につき、違法な逮捕と密接な関連を有する証拠として証拠能力を否定。

本件は、採尿手続に先行する覚せい剤所持による現行犯逮捕の適法性に争いがなく、捜査官は適法な身柄拘束のもと、適法に得られた嫌疑に基づいて尿の提出を求めたもの。


刑事収容施設法182条1項や被留置者の留置に関する規則2条を援用して、体調不良の被逮捕者に対し、適切な処遇を行わず、かつ尿の提出を説得した措置を違法としている。

被逮捕者といえども、「その人権を尊重しつつ、その者の状況に応じた適切な処遇」(同規則2条)が行われるべき。


警察官らの証言では、尿の提出を強く拒む意思であった被告人が、いったん採尿に応じた理由の説明が困難である
⇒被告人の供述を採用。

このなかで、本決定は、強制採の手続をとれる見込みがあっても、警察官が簡単な任意提出を迫ることは考えられると説示。


本決定は、一部の対立点につき、どちらとも決し難いとして判断を留保。
証拠能力の挙証責任は検察官にあるとはいえ、違法収集証拠として排除されるには違法の重大性と排除相当性という厳格な要件がある。

警察官の証言と被告人の供述が甲乙つけ難いときの判断には困難が伴うことが少なくない。

★平成23年7月分 (8/22勉強会)
2113
2113 ■判例特報p30 東京高裁H23.1.28、東京高裁H23.3.10 1.東京都教育委員会が都立学校の校長に発出した「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国家斉唱の実施について(通達)」は違憲違法とはいえず、同学校の教職員は同通達に基づく校長の職務命令に従うべき義務があるとされた事例(@事件)
2.右通達に基づく校長の職務命令に違反した都立学校の教職員に対してした東京都教育委員会の戒告処分が裁量権の逸脱又は濫用に当たるとして取り消された事例(A事件)
(教職員国旗国歌訴訟控訴審判決)
事案(@事件) Xらは、本件通達が憲法19条、20条、26条等に違反し無効であること、都立学校の教職員が、入学式、卒業式等の式典において、国旗に向かって起立し、国家を斉唱すること、国家斉唱の際にピアノ伴奏をすることを強制されることは、Xらの思想・両親の自由、信教の自由、表現の自由、教育の自由等を侵害する違法なものであることを請求原因とし、Yに対し、
@無名抗告訴訟として公的義務である本件規律行為等義務の不存在確認請求
A無名抗告訴訟として本件不起立行為等を理由としていかなる処分もしてはならないとの予防的不作成請求
B民事訴訟として国家賠償法1条1項に基づく慰謝料請求
をした。

控訴審において、Xらのうち退職者、死亡者等が訴えを取り下げ、また、一審で無名抗告訴訟として提起された予防的不作為請求は、行政事件訴訟法の平成16年法律第84号によって新設された3条7項の抗告訴訟としての差止訴訟として係属。
規定 行政事件訴訟法 第3条(抗告訴訟)

6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
一 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。

7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。

第37条の4(差止めの訴えの要件)
差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。
争点(@事件) 本案前の争点:
無名抗告訴訟としての公的義務不存在確認訴訟及び差止訴訟の各適法性

本案の争点:
@本案通達は、Xらの教育の自由を侵害して憲法26条、23条に違反し、また、(旧)教育基本法10条1項、(新)16条1項の禁止する「不当な支配」に当たり、Xらの思想・良心の自由及び信仰の自由を侵害し、憲法19条、20条に違反し、明白かつ重大な瑕疵があり、違法無効か
A本件通達によりXらが損害を被ったか
判断(@事件) 本案前の判断:

本件公的義務不存在確認訴訟は、無名抗告訴訟として適法。
but
確認の利益について否定。

Xらは、・・・他方で懲戒処分の差止訴訟を別途提起していることからすると、本件公的義務不存在確認訴訟の実質は、本件通達の取消しを義務付けるものといわざるをえないが、行政事件訴訟法3条6項1号の趣旨に鑑みれば、本件公的義務不存在確認訴訟に確認の利益が認められるためには、Xらに重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないことが必要であるところ、Xらの右目的からすろと、本件通達の取消訴訟又は無効確認訴訟がより直截的で適切な訴訟類型であるうえ、本件通達の発出によって、Xらがその思想・信条・良心等の侵害を受け精神的・人格的苦痛を被ったとはいえないから、「重大な損害を生ずるおそれがある」とも認められないとして確認の利益を否定し、同訴訟を却下した。


差止訴訟は「その損害を避けるために他に適当な方法があるとき」(行政事件訴訟法37条の4第1項ただし書)には不適法となるとし、本件差止訴訟について、Xらが差止めを求めるのは都教委の行う懲戒処分であるが、その前提となる処分として本件通達が存在し、それは継続的に通用力を有するから、その取消訴訟又は無効確認訴訟を提起すれば、Xら主張の損害を避けることができるなどとして、本件差止訴訟も不適法として却下。
本案の判断:

本件通達は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律23条5号に基づく都教委の教育課程に関する監理権限に基づいて発せられたものであり、その法的性質は都立学校の校長に対する職務命令であり、その内容は現行学習指導要領の国旗・国家条項に根拠を有し、意味内容は明確であり、合理性が認められるからこそ、そこに重大かつ明白な瑕疵がない限り、法的義務が生じ有効である。

教職員は、本件通達と事実上連動する校長の職務命令によって、それに重大かつ明白な瑕疵がない限り、本件起立行為等義務を負うに至る。

本件通達は憲法にも教育基本法の禁止する「不当な支配」にも当たらない
⇒本件公的義務不存在確認請求及び本件差止請求並びに損害賠償請求はいずれも理由がない。
事案(A事件) Xら172名は、・・・事前に各校長から発令された、本件起立行為等を行うことを命じる本件職務命令は、Xらの思想・良心の自由を侵害する違憲、違法なものであったとし、Y(都教委)が右職務命令に従わなかったことは地方公務員法32条(職務命令違反)、33条(信用失墜行為)に当たるとしてしたXらに対する懲戒処分の取消しを求めるとともに、Y(東京都)に対し国家賠償法に基づき損害賠償(逸失利益及び慰謝料)の請求をした。
争点(A事件) @本案前の争点として、戒告処分を受けた後、訴訟係属中に退職した者の処分の取消しを求める訴えの利益

本案の争点として
A本件通達、本件職務命令及び本件処分はXらの思想・良心の自由を侵害し、憲法19条、20条に違反するか
B本件通達及びその後に都教委が各校長に行った指導は、旧教育基本法10条1項の「不当な支配」に該当するか
CXらの本件不起立行為等が地方公務員法32条、33条に反するか、
D本件処分に裁量の逸脱があるか
原判決 争点@について、Xらは、本件処分が取り消されれば、昇給予定時期に昇給を期待できた地位や再任用を期待し得る地位を回復することになり、これらの地位は法的保護に値するとして、Yの本案前の主張を排斥

争点Aについては、・・・本件職務命令は、Xらの思想・良心の自由の核心部分を直接否定するものではなく・・本件職務命令ににはその目的及び内容において合理性、必要性が認められるから、Xらの思想・良心の自由を制約するものとはいえない。

争点Bについては、国及び地方公共団体の教育介入は、教育の内容及び方法に関するものであっても、許容される目的のために必要かつ合理的と認められるものは旧教育基本法10条によって禁止されない・・・発出の必要性及び合理性があった。

争点CDについても理由なし。
⇒Xらの請求をすべて棄却。
判断 争点Dについてのみ、本件懲戒処分は懲戒権の逸脱・濫用に当たり違法であるとしてそのいずれも取り消すべきものとした。
損害賠償は棄却。
■行政p100 大分地裁H22.9.30 日本永住の在留資格を有する外国人による生活保護の申請は、生活保護法上の保護を求める趣旨であり、これを否定する却下処分は処分性を有する上、原告に審査請求適格も認められると判断された事例
事案 日本国における永住者の在留資格を有する外国人であるXが、市福祉事務所長による生活保護申請却下決定に対して、県知事に審査請求を行ったところ、県知事から、外国人であるXに対する右却下決定は行政不服審査法上の処分に該当しないとして、これを却下する旨の裁決を受けた
⇒本件裁決の取消しを求めた。
規定 生活保護法 24条(申請による保護の開始及び変更)
保護の実施機関は、保護の開始の申請があつたときは、保護の要否、種類、程度及び方法を決定し、申請者に対して書面をもつて、これを通知しなければならない。

行政不服審査法 第4条(処分についての不服申立てに関する一般概括主義)
行政庁の処分(この法律に基づく処分を除く。)に不服がある者は、次条及び第六条の定めるところにより、審査請求又は異議申立てをすることができる。ただし、次の各号に掲げる処分及び他の法律に審査請求又は異議申立てをすることができない旨の定めがある処分については、この限りでない。

生活保護法 第64条(審査庁)
第十九条第四項の規定により市町村長が保護の決定及び実施に関する事務の全部又は一部をその管理に属する行政庁に委任した場合における当該事務に関する処分についての審査請求は、都道府県知事に対してするものとする。

行政事件訴訟法 第3条(抗告訴訟)
この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
判断 生活保護申請書や本件却下決定の記載から、生活保義の申請が、生活保護法上の生活保護を求めるものであり、本件却下決定はこれを否定するものであると認定し、そうすると、本件却下決定は、生活保護法24条に基づき、同法上の保護を否定するものにほかならない。
⇒処分性を肯定。

本件却下決定の処分性が肯定される⇒その名宛人であるXには行政不服審査法上の審査請求適格がある。

Xによる審査請求が適法であるのに、これが不適法であるとして同請求を却下した本件裁決は違法⇒取り消した。
解説
処分性の有無
行政不服審査法4条1項は「行政庁の処分」について審査請求が可能である旨規定。

最高裁昭和39.10.29:
処分性は、「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」について存在する。

問題とする行政庁の行為を一般的かつ外形的に見て、法令に基づくものであり、名宛人の権利義務を変動させ得るものであるか否かを判断。

生活保護法64条等は、同法上の処分に不服がある場合は行政不服審査法上の審査請求が可能であることを規定。
生活保護の申請に対する処分は、同法24条に基づいてされる処分。


審査請求適格

処分の名宛人であれば一般に審査請求適格を認めてよい。(東京地裁H8.5.29)


厚生労働省は、外国人の生活保護の不服申立てがあった場合、審査した上で、外国人であることを理由にこれを棄却するよう全国の自治体に通知。
■民事p103 東京高裁H22.12.1 新聞広告の掲載について不法行為に当たらないとされた事例
判断 「広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し、又は予見しえた場合」(最高裁H1.9.19)に当たるかどうかを基準に判断し、控訴を棄却。
■民事p107 大阪高裁H23.1.20 ジャーナリストの外務省幹部からの取材テープについて、提出命令の申立てが却下された事例
事案 ・・・Aの両親であるX1とX2は、真実は、外務省がAが現在も生存しているとの立場であるにもかかわらず、外務省はAが死亡していることを知っており、Yがそのことを外務省幹部から聞いたという虚偽を述べた点に違法性があり、Aの生存を願うXらの感情を害したと主張し、Yに対して、民法709条に基づき、慰謝料を請求。

Yが平成20年11月11日に外務省幹部に行った取材を録音したテープの一部を反訳した本件書面を証拠として提出。

Xらは、Yの右発言が虚偽であることを立証するため、民訴法220条1、3、4号を提出義務の原因として、Yに対し、本件テープとその全部の反訳書の提出を求めた。

1審は、Yは、本件テープを証拠として引用し、秘密を守る利益を放棄したとして、本件テープの提出を不服として、即時抗告した。
規定 民訴法 第220条(文書提出義務)
次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。
一 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。
二 挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。
三 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。
イ 文書の所持者又は文書の所持者と第百九十六条各号に掲げる関係を有する者についての同条に規定する事項が記載されている文書
ロ 公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの
ハ 第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書
ニ 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)
ホ 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書

民訴法 第197条
次に掲げる場合には、証人は、証言を拒むことができる。
一 第百九十一条第一項の場合
二 医師、歯科医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、弁護人、公証人、宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合
三 技術又は職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合
判断 本件テープについて
@民訴法220条1号の引用文書には当たらない
A民訴法220条3号の利益文書や法律関係文書には該当しない
B本件書面の正確性、反訳範囲の相当性については同書面の作成者を証人尋問するなどの代替方法により確認することも考えられないではない。

当該取材源の秘密の社会的価値を考慮してもなお公正な裁判を実現すべき必要性が高く、そのために本件テープを提出させることが必要不可欠であるといった事情は認められない。

当該取材源の秘密は保護に値すると解されるので、本件テープについては、民訴法220条4号ハの除外事由が認められる。

原決定を取り消し、Xらの本件申立てを却下。
解説 最高裁H18.10.3:
報道関係者の主財源に係る証言の拒絶について、取材源の秘密の社会的価値を考慮してもなお公正な裁判を実現すべき必要性が高く、そのため当該証言を得ることが必要不可欠であった事情が認められない場合には、原則として、当該取材源に係る証言を拒絶することができると判断し、いわゆる比較衡量説を採用。
この理論は、文書提出命令の事案でも妥当。(最高裁決定H20.11.25)

本決定は、右判例理論に依拠し、本件テープを提出させることが必要不可欠であるとの事情は認められないとし、取材源の秘密は保護に値るすると解せられるとして、本件申立てを却下。
■民事p110 東京地裁H23.2.9 学童保育クラブに設置されたトイレの開き戸型ドアの隙間に低学年の小学生が指を挟まれた事故について、小学生の本来の用法以外の危険な用法があったとして、ドアの製造業者の製造物責任が否定された事例
事案 小学生がドアに指を挟まれた事故につきドアの製造業者の製造物責任の成否が問題となった事案。

X(保険会社)はCを被保険者とする施設賠償責任保険契約を締結。

C(社会福祉法人)は、本件施設の占有者として土地工作物責任を負うとの前提で、Dと、治療費、入院雑費、傷害慰謝料、逸失利益等の損害金として2853万5306円を支払う旨の示談を締結し同額を支払った。
Xは、Cに免責金額1万円を控除した2852万5306円の保険金を支払った。

XはYに、製造物責任法3条または不法行為に基づく損害賠償責任を負うと主張し、求償金の支払を請求。
規定 製造物責任法 第3条(製造物責任)
製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。
判断 本件ドアは・・・・指詰め事故が発生する危険があるけれども、これはドアを開けたときに生ずる吊り元側の隙間に手指を入れる場合に限られ、このような用法は本来の用法でないのはもとより、通常予見される使用形態ともいえず、本件トイレブースは通常有すべき安全性に欠けるとはいえないとし、欠陥を否定し、さらに本件の事情の下では指詰め事故発生の危険性を告知すべき義務を負うとはいえない等とし、Xの請求を棄却。
解説 本判決は、本件トイレドアの本来の使用方法、指詰め事故の危険性について本件の児童の判断能力等を踏まえ、事故防止のために
第1次的に児童側の注意義務
第2次的に保護者の注意義務
第3次的に施設管理者の注意義務
を指摘しつつ、本件トイレブースの欠陥の有無を検討、判断し、前記の理由で欠陥を否定。
■民事p116 大阪地裁H23.1.13 大手運輸会社から業務委託を受けた運送会社の不法行為につき、同運輸会社の使用者責任が認められなかった事例
事案 XはAからワインセラーを購入。
Yは、豊中支店まで搬送した上で、同支店からXの店舗への運搬作業をB会社に依頼。
B会社担当者は搬入の際、Xの店舗の床面を損傷

Xは、Yに対し、使用者責任に基づき、362万円余の損害賠償を請求。
規定 第715条(使用者等の責任)
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
判断 民法715条1項にいう「他人を使用する者」とは、事業の執行上、使用者を実質的な指揮監理下に置いている者をいうと解される。

YとB会社との間の業務委託契約には、Yが委託業務の遂行に関してB会社に対し比較的強力な指導や指揮監督を及ぼし得る条項が設けられているものの、実際には、右条項は空文化しており、B会社は、Yから相応の独立性を保ったまま、Yからの委託業務を処理しているものということができ、YがB会社やその従業員に対し、実質的な指揮監督を及ぼしていたと評価することはできない。

本訴を棄却。
解説 民法715条1項にいう「他人を使用する」とは、契約の種類、報酬の有無に関係なく、一方が他方の選任監督・指揮命令に服する関係にあること

右にいう指揮監督は、事実上のものをいういのか、それとも規範的なものをいうのかについては見解の対立がある。

仕事の遂行について処理者の自主性・独立性が認められている場合には、使用関係は成立しないと解されている。

本判決は、実質的な指揮監督の有無とB会社の業務の独立性に重点をおいて、Yの使用者責任を否定しているが、YとB会社の業務委託契約では、Yが委託業務の遂行のため、B会社を指揮監督すべき義務が認められているともみられるので、判断はやや微妙。
■民事p119 名古屋地裁岡崎支部H22.12.22 スーパーマーケットの顧客が店舗内で滑って負傷した場合、建物の監理に瑕疵がなかったとして、経営会社の損害賠償責任が否定された事例
事案 スーパーで滑って負傷
規定 民法 第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
判断 @・・・床の上に水が浮いているような状況にあったとは考えらない
A・・付近の床は若干水分を含んでいたという程度の状況にとどまるものであって、滑り抵抗が常に転倒の危険を生じるほどに低下したり、床の他の部分と極端な滑り抵抗の差が生じるような状況にあったとは認められない

・・店舗の床の管理に瑕疵があったとは認められない。
⇒Xの請求を棄却。
解説 工作物の「瑕疵」とは、工作物が通常有すべき安全性に関する性状または設備を欠くことをいうと解する。
■民事p122 札幌地裁H23.2.25 人気ラーメン店の経営者が雇用安定奨励金を詐取したとして逮捕されたことにつき、テレビ会社がテレビジョンにより経営者の裏の顔として放映されたことが名誉棄損にあたるとして経営者のテレビ会社に対する損害賠償請求が認容された事例
判断 @右報道は本件被疑事実で逮捕された事実の摘示にとどまらず、X2が「A」を経営する一方で、別の建設会社の元社長として雇用権制度を悪用した悪質巧妙な詐欺を繰り返していたとの事実を摘示するもので、X2の名誉を毀損するものといえる。
AX1(会社)の社会的評価を低下させるものではない。
Bこれらの摘示事実は公訴提起前の犯罪行為に関するものであるから公共の利益に関する事実に当たり、また、専ら公益を図る目的で報道されたものと推定できる。
CYは、右摘示事実が真実であると信ずるについて相当な理由があると認めるに足りる証拠を提出しない

不法行為に基づく損害賠償責任を肯定。
■知財p128 知財高裁H22.10.20 最初の拒絶理由通知に対してされた特許請求の範囲等の補正が、新規事項追加の禁止の要件を満たしていないときは、出願の拒絶理由となるのであって、拒絶の理由を通知しなければならない場合に当たるが、決定をもって補正を却下しなければならない場合には当たらないから、補正を却下することなく当該補正に係る発明を審理の対象とすることに誤りはない
事案 第1回補正 請求項の数9
第2回補正 請求項の数1(本件審決が対象とした発明)
第3回補正 請求項の数1 補正却下
第4回補正 請求項の数3 本件審決で却下
規定 特許法 第17条の2(願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の補正)
3 第一項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、誤訳訂正書を提出してする場合を除き、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(第三十六条の二第二項の外国語書面出願にあつては、同条第四項の規定により明細書、特許請求の範囲及び図面とみなされた同条第二項に規定する外国語書面の翻訳文(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあつては、翻訳文又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)。第三十四条の二第一項及び第三十四条の三第一項において同じ。)に記載した事項の範囲内においてしなければならない

特許法 第36条(特許出願)

2 願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付しなければならない。

6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
二 特許を受けようとする発明が明確であること。
三 請求項ごとの記載が簡潔であること。
四 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。

特許法 第50条(拒絶理由の通知)
審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。ただし、第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限る。)において、第五十三条第一項の規定による却下の決定をするときは、この限りでない。

特許法 第53条(補正の却下)
第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて第五十条の二の規定による通知をした場合に限る。)において、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第十七条の二第三項から第六項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは、審査官は、決定をもつてその補正を却下しなければならない。
審決 第4回補正は1の請求項を3にするものである等として却下した上、第2回補正に係る特許請求の範囲を検討し、特許法17条の2第3項、36条6項違反で拒絶すべきものとし、審判請求が成り立たないとした。


Xは取消事由として、第2回補正は、拒絶理由通知により補正要件の違反を指摘されているため、本来であれば補正却下されることによって以降の補正の基礎となるものではないなどとし、第4回補正の却下の誤りや、第2回補正を審理の対象としたことの誤りを主張。
判断 第4回補正の目的は、平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2第4項各号のいずれの事項にも該当せず、第2回補正に係る発明を審理の対象とすることに誤りがあるとはいえないとし、最初の拒絶理由通知に対してされた特許請求の範囲等の補正が、同法17条の2第3項に規定する新規事項加入の禁止を満たしていないときは、出願の拒絶理由となるのであって(同法49条1号)、拒絶の理由を通知しなければならない場合(同法50条)に当たるが、決定をもって補正を却下しなければならない場合(同法53条1項)には当たらないから、補正却下をしなければならない理由はないし、出願人には、最後の拒絶理由通知により指摘された補正についても、これを是正する機会が与えられていた。

Xの請求を棄却。
説明 本件における第4回補正は、拒絶査定不服審判請求に伴って行われたものであり、17条の2第1項4号に該当するから、請求項の削減、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであることが必要。(同条4項)
同号にいう「特許請求の範囲の減縮」は、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請されるものというべきであって、補正前の請求項と補正後の請求項は1対1又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。
いわゆる「増項補正」は、補正後の各請求項の記載により特定される各発明が、全体として、補正前の請求項の記載により特定される発明よりも限定されたものとなっているとしても、前述したような1対1又はこれに準ずるような対応関係がない限り、同号にいう「特許請求の範囲の減縮」には該当しない。(東京高裁H16.4.14)

「増項補正」を補正要件違反とした裁判例:
「補正の前後において、1つの当該新請求項と1つの当該旧請求項とが1対1の対応関係を維持しつつ、その対応関係にある1つの当該旧請求項の発明特定事項を限定的に減縮する補正であるということができず、結果的にみて、本件補正は、実質的に請求項数自体を明らかに増加させる増項補正となっているのであって、このような増項補正は、特許法17条の2第4項2号に掲げる事項を目的とする補正に該当するということができない」(知財高裁H17.4.25)


最初の拒絶理由通知を受けた後に補正する場合には、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であることが必要である。(同法17条の2第3項)

知財高裁H20.5.30:
「明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内」といういわゆる新規事項の追加禁止要件について、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであることをいう。
■知財p135 知財高裁H22.11.16 乳酸菌飲料「ヤクルト」の包装容器の立体的形状のみからなる商標につき、本願商標は「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」(商標法3条2項)に該当するとして、商標登録出願を認めなかった特許庁の審決が取り消された事例
(ヤクルト立体商標事件判決)
事案 立体的形状のみからなる商標について商標登録出願⇒拒絶査定⇒不服の審判請求⇒請求不成立の審決⇒審決取消訴訟
規定 商標法 第3条(商標登録の要件)
自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標法
2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。
争点 本願商標が「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」(商標法3条2項)に該当するかどうか。
判断 本願商標のような立体的形状を有する商標(立体商標)につき商標法3条2項の適用が肯定されるためには、使用された立体的形状がその形状自体及び使用された商品の分野において出願商標の立体的形状及び指定商品とでいずれも共通であるほか、出願人による相当長期間にわたる使用の結果、使用された立体的形状が同種の商品の形状から区別し得る程度に周知となり、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っていることが必要。
この場合、立体的形状を有する使用商品にその出所である企業等の名称や文字商標等が付されていたとしても、そのことのみで上記立体形状について商標法3条2項の適用を否定すべきではなく、上記文字商標等を捨象して残された立体的形状に注目して、独自の自他商品識別力を獲得するに至っているかどうかを判断すべきである。

・・・
最近のアンケート調査においても、98%以上の需要者が本件容器を見て「ヤクルト」を想起すると回答している点等を総合勘案
・・・
審決がなされた平成22年4月12日の時点では、本件容器の立体的形状は、需要者によって原告商品を他社商品との間で識別する指標として認識されていたというべきである。

・・・・
平成20年及び同21年の各アンケート調査によれば、本件容器の立体的形状のみを提示された回答者のほとんどが原告商品「ヤクルト」を想起すると回答していること、容器に記載された商品名が明らかに異なるにもかかわらず、本件容器の立体的形状と酷似する商品を「ヤクルトのそっくりさん」と認識している需要者が存在していること等からすれば、本件容器の立体的形状は、本件容器に付された平面商標や図柄と同等あるいはそれ以上に需要者の目に付きやすく、需要者に強い印象を与えるものと認められるから、本件容器の立体的形状はそれ自体独立して自他商品識別力を獲得していると認めるのが相当
説明 コカコーラ事件(知財高裁H20.5.29)
清涼飲料水コカコーラの瓶の立体形状のみからなる商標に関する事件
@一貫して変わらない形状
A9600万本の売り上げ
B長年にわたる多額の費用を投じた宣伝広告
C回答者の6割から8割がコカコーラと答えたアンケート調査
D本件形状について、相当数の専門家が自他識別力を有する典型例として上げていること、
E類似の容器の形状が市場に流通していないこと
F本件形状が「ブランド・シンボル」として認識されていたこと
等を総合して、本件では、立体的期条が極めて強い自他識別力を取得し、使用商標の容器に文字標章が付されていることは、自他商品識別力を獲得していると認める上で障害にはならない。

拒絶査定不服審判請求の不成立審決を取り消し、初めて包装容器の立体的形状のみからなる商標登録出願を認めた。

Eについて
本判決は、
数多くの類似品の存在にもかかわらず、本件容器の立体的形状に接した需要者のほとんどはその形状から「ヤクルト」を想起する、という調査結果が存在するであるから、本件においては、市場における形状の独占性を過剰に考慮する必要はないというべきである。

市場における形状の独占性がない場合でも、包装容器の立体的形状のみからなる商標登録出願が認められる場合があることを示している。
2112
2112 ■行政p30 最高裁H23.3.25 1.家屋の建替え中のため固定資産税の賦課期日に地方税法(平成18年法律第7号による改正前のもの)349条の3の2第1項所定の居住用家屋が存しない土地に係る当該年度の固定資産税及び都市計画税につき、同条2項1号、地方税法702条の3第2項所定の住宅用地に対する課税標準の特例の適用があるとされた事例
2.家屋の立替え中のため固定資産税の賦課期日に地方税法349条の3の2第1項所定の居住用家屋が存しない土地に係る当該年度の固定資産税及び都市計画税につき、同条2項1号、同法702条の3第2項各所定の住宅用地に対する課税標準の特例の適用がないとされた事例
判断 家屋の立替え中のため固定資産税の賦課期日に土地の上に住宅が存在しない場合において、

(1)右賦課期間における当該土地の現況が、既存の住宅の取壊し後に、その住宅の所有者であった者を建築主とし、約10カ月の工事予定期間を定めて、住宅となる予定の新たな家屋の建築工事が現に進行中であることが客観的に見て取れる状況にあったという事情の下では、その後になって、右建築工事が中断し、建築途中の家屋とともに当該土地が施行業者に譲渡されるという事態が生じたとしても、当該土地に係る当該年度の固定資産税及び都市計画税については、本件特例の適用があり、他方

(2)右賦課期日における当該土地の現況が、約10か月の期間を工事予定期間として着工された新たな家屋の建築工事が地下1階部分のコンクリート工事をほぼ終了した段階で1年近く中断し、相当の期間内に工事が再開されて右家屋の完成することが客観的に見て取れるような事情もうかがわれない状況にあったという事情の下では、当該土地に係る当該年度の固定資産税及び都市計画税については、本件特例の適用がない。
主文 1.原判決のうち東京都渋谷都税事務所長が上告人に対し平成19年2月9日付けでした平成19年2月9日付けでした第一審判決別紙物件目録記載の土地に係る平成17年度の固定資産税及び都市計画税の賦課決定に関する部分を破棄し、同部分につき第一審判決を取り消す。
2.前項の賦課決定を取り消す。
・・・
解説 固定資産税は、毎年1月1日を賦課期日として、土地等の固定資産の所有者に対して市長村(東京都の特別区の存する区域においては東京都)が課す地方税であり、総務大臣の定める固定資産評価基準に基づき適正な時価として決定された固定資産課税台帳に登録された価格を課税標準とし、これに一定の税率を乗じて税額が算定される。

住宅用地については、住宅政策上の見地から税負担の緩和を図ることが必要であるとの配慮の下に、特例として、右決定に係る価格の3分の1(面積が200u以下の小規模住宅用地については6分の1)の額を課税標準とする旨が規定。

都市計画税は、毎年1月1日を賦課期日として、都市計画区域のうち市街化区域内等に所在する土地及び家屋の所有者に対して市長村(東京都の特別区の存する区域においては東京都)が課すことのできる地方税であり、固定資産税の課税標準となるべき価格を課税標準とし、これに一定の税率を乗じて税額が算定される。

固定資産税の課税標準につき右の特例の適用を受ける住宅用地については、特例として、右価格の3分の2(面積が200u以下の小規模住宅用地においては3分の1)の額を都市計画税の課税標準とする旨が規定。

以上の特例の適用を受ける土地は、地方税法349条の3の2第1項において、同項所定の居住用家屋の「敷地の用に供されている土地」と定められている。


本判決:
固定資産税の賦課期日に住宅が存しない土地であっても、住宅を立替え中の土地であれば本件特例の適用を受ける場合があることを明らかにした。(平成6年移行の行政解釈を一定の限度で追認)

@課税の公平の点や本件特例の趣旨である住宅政策上の配慮。住宅建替え中の土地に対しても本件特例を適用すべきであるとの社会的要請が存在。
A地方税法349条の3の2第1項の規定が、例えば「住宅が現に存在している場合のその敷地」というような一義的な文言ではなく、規範的な解釈の余地のある「敷地の用に供されている土地」という文言を用いていることから、弾力的な解釈が可能であること。


本判決のポイント:
「敷地の用に供されている土地」に当たるかどうかの判断は、当該年度の固定資産税の賦課期日における当該土地の現況によって行われるべきであるとした。

課長内かん及び東京都通達による、事後的な検証の結果に基づく本件特例の適用の遡及的な撤回という事務処理の方法が、相当でないことを示した。


住宅を立替え中の土地であっても、固定資産税の賦課期日の現況において、「敷地の用に供されている土地」に当たるとの評価を可能にするような事情、言い換えれば、現に住宅の存する土地と同視し得るような客観的な事情の存する土地でない限り、本件特例の適用を受けることは困難であることを示した。
(法定の課税要件の解釈である以上、その規定文言からあまりにかけ離れた解釈をとることはできないという基本的なスタンスの表れ。)
■民事p36 東京高裁H21.12.21 1.仲裁合意の準拠法について当事者による明示・黙示の指定がされていないときは仲裁地法によるべきである
2.当事者が署名した契約書で引用されている契約書式中に仲裁条項が存するときは仲裁法13条2項、3項の規定するション面性の要件は満たされている
3.契約当事者の属性、業界の取引実務、過去の取引経験、履行状況等の事情に照らして仲裁合意の成立が認められた事例
事案 契約書に仲裁条項は記載されていなかったが、同契約書において詳細はAの傭船契約の書式によるとされていたところ、同書式(英文)には、ニューヨークでの仲裁を規定した元の条項を抹消した上で、当事者間で紛争が生じた場合には東京において日本海運集会所の仲裁に付する旨の条項が置かれていた。
ただし、契約書作成当時右書式は当事者に交付されておらず、後日AからX・Y双方に送付されていた。

XがYを相手方として日本海運集会所に損害賠償等を求めて仲裁の申立てをしたところ、YはX・Y間の定期傭船契約にはニューヨークを仲裁地とする仲裁条項が規定されているから、日本海運集会所のお仲裁に参加する義務はないと主張。

XはYを被告として、日本の裁判所に仲裁申立てと同一の原因に基づく民事訴訟を提起した。
規定 法の適用に関する通則法 第7条(当事者による準拠法の選択) 
法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。

仲裁法 第44条
当事者は、次に掲げる事由があるときは、裁判所に対し、仲裁判断の取消しの申立てをすることができる。
一 仲裁合意が、当事者の行為能力の制限により、その効力を有しないこと。
二 仲裁合意が、当事者が合意により仲裁合意に適用すべきものとして指定した法令(当該指定がないときは、日本の法令)によれば、当事者の行為能力の制限以外の事由により、その効力を有しないこと。

仲裁法 第45条(仲裁判断の承認)
仲裁判断(仲裁地が日本国内にあるかどうかを問わない。以下この章において同じ。)は、確定判決と同一の効力を有する。ただし、当該仲裁判断に基づく民事執行をするには、次条の規定による執行決定がなければならない。
2 前項の規定は、次に掲げる事由のいずれかがある場合(第一号から第七号までに掲げる事由にあっては、当事者のいずれかが当該事由の存在を証明した場合に限る。)には、適用しない。
一 仲裁合意が、当事者の行為能力の制限により、その効力を有しないこと。
二 仲裁合意が、当事者が合意により仲裁合意に適用すべきものとして指定した法令(当該指定がないときは、仲裁地が属する国の法令)によれば、当事者の行為能力の制限以外の事由により、その効力を有しないこと。

仲裁法 第13条(仲裁合意の効力等)
仲裁合意は、法令に別段の定めがある場合を除き、当事者が和解をすることができる民事上の紛争(離婚又は離縁の紛争を除く。)を対象とする場合に限り、その効力を有する。
2 仲裁合意は、当事者の全部が署名した文書、当事者が交換した書簡又は電報(ファクシミリ装置その他の隔地者間の通信手段で文字による通信内容の記録が受信者に提供されるものを用いて送信されたものを含む。)その他の書面によってしなければならない。
3 書面によってされた契約において、仲裁合意を内容とする条項が記載された文書が当該契約の一部を構成するものとして引用されているときは、その仲裁合意は、書面によってされたものとする

仲裁法 第2条(定義)
この法律において「仲裁合意」とは、既に生じた民事上の紛争又は将来において生ずる一定の法律関係(契約に基づくものであるかどうかを問わない。)に関する民事上の紛争の全部又は一部の解決を一人又は二人以上の仲裁人にゆだね、かつ、その判断(以下「仲裁判断」という。)に服する旨の合意をいう。
原判決 X・Y間の定期傭船契約が引用している契約書式には東京における仲裁条項が規定されているとして、Xの訴えを却下。

Xが控訴。
判断 控訴を棄却

@仲裁合意の成立及び効力並びに方式に適用される法律については、当事者間で明示の合意がされている場合、当事者が主たる契約について適用すべき法律を指定するなど黙示の準拠法の合意があると認められる場合は、それによる。
黙示の合意も認められない場合⇒仲裁法44条1項2号、45条2項2号の趣旨により、仲裁地の属する国の法理による。
A当事者が署名した契約書で引用された契約書式中に仲裁合意が含まれている
⇒仲裁法13条2項、3項が規定する仲裁合意の形式的要件である書面性の要件は満たされる。
B仲裁条項を含む契約書式が契約時に当事者に交付されていない場合は、原則として仲裁条項についての意思の合致があったとは言えないが、本件の当事者はともに国際海上運送に携わる商人であり、国際海上運送においては仲裁条項を含む契約が広く行われていると推認され、当事者も当然にこのような事情を認識していたと考えられること、当事者双方とも本件に関与した海運仲立業者と長い取引関係にありその過程で仲裁条項を含む契約書式を受領し了知する機会があったと認められること、当事者双方とも仲裁条項を含む契約書式を締結後遅滞なく送付されたと推認されるにも関わらず、特段の異議を述べることなく契約を履行している。
⇒本件においては仲裁条項についての意思の合致があった
解説
仲裁合意の準拠法
最高裁(H9.9.4)リング・リング・サーカス事件:
国際仲裁における仲裁契約の成立及び効力については、法令7条1項(当時)により当事者の意思に従って準拠法が定められるべき。
明示の合意がされない場合でも、仲裁地に関する合意の有無やその内容、主たる契約の内容その他諸般の事情に照らして当事者による黙示の準拠法の合意があると認められるときはこれによるべき。


その後仲裁法施行。
本判決:
当事者間で明示の合意がされている場合や、当事者が主たる契約について適用すべき法律をしているなど黙示の準拠法の合意あり⇒それによる。
黙示の合意も認められない仲裁地の属する国の法律によるべき。

仲裁法では、日本で出された仲裁判断についてその取消しの申立てがされた場合、その前提となる仲裁合意の有効性は、当事者が合意により仲裁合意に適用すべきものとして指定された法令当該指定がないときは仲裁地である日本の法令により判断。(仲裁法44条1項2号、3項1号)
■民事p43 東京高裁H22.3.4 肖像権に基づき出版物の事前差止めを認めた仮処分決定が抗告審において取り消されて当該仮処分命令の申立てが却下された事例
事案 人格権、肖像権及びパブリシティ権を被保全債権として、本件写真をYがその出版する図書へ掲載することを差し止める仮処分命令を申し立て、
仮処分命令の発令前に本件写真が掲載された週刊誌が発行されたため、申立ての趣旨を変更して、本件写真をYがその出版する図書へ掲載することを禁止する仮処分命令(本件仮処分命令)を申し立てた。
原審 保全裁判所ないし異議裁判所
本件申立てを認容して本件仮処分命令を発した。
判断 抗告裁判所

異議裁判所の認可決定を取り消し、Xの本件申立てを却下。

@人格的利益を違法に侵害された者又はされようとしている者は、・・・人格権としての肖像権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止を求めることができる。
A人の裸体を撮影することまた人の裸体が撮影された写真を公表することは、非撮影者はの同意があるなど特段の事情がない限り許されず、被撮影者は、人格権としての肖像権に基づき、撮影された裸体の写真が公表されようとする場合には、これを事前に差し止めることができる。
but
本件においては、
・・・・
Xは、自己の裸体を一般社会に広くさらすことによって社会の耳目を集めて話題性を作り、芸能活動への復帰を成功させようと企図しているものということができ、YがA劇場におけるストリップショー公演の際のXの裸体の写真を入手し、これをXに無断で週刊誌B及び週刊誌Cに掲載したこと自体については、これが違法と評価されて損害賠償義務が発生する余地があり得ることは否定できないものの・・・、既にXがA劇場におけるストリップショー公演の際の裸体を含む自己の裸体をマスメディアやDVDを通じて広く社会にさらしている・・・・現状及びXが求める本件写真の出版図書への不掲載が表現の事前抑制に該当し表現の自由の観点からこのような不作為を裁判所が命ずることについては謙抑的であるべきことに照らせば、XはYに対してYが今後出版する図書への本件写真の不掲載を一般的に事前に差し止め得るまでの強い権利(肖像権、人格権又はパブリシティー権)を有しないものというべきである。
解説 知財高裁H21.8.27:
著名人の氏名・肖像の使用が違法性を有するか否かの判断基準について判示した上で、雑誌記事に芸能人の写真が無断で使用されたことについて、当該芸能人が社会的に顕著な存在に至る過程で許容することが予定されていた負担を超えて自らの氏名・肖像を排他的に支配する権利が害されているものということができないとして損害賠償を否定
■民事p47 東京地裁H22.12.17 被害者のある刑事事件で被疑事実に争いがない場合において、被疑者が示談をする意思を示すときには、掲示弁護人として、刑事弁護の委任契約に基づき、被害者との間で示談交渉を行い、その結果を担当検察官に報告すべき義務(示談交渉・報告義務)があるとして、当該被疑者(委任者)から当該刑事弁護人(受任者)に対する債務不履行に基づく損害賠償請求が認められた事例
規定 弁護士法 第1条(弁護士の使命)
弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。
2 弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。

弁護士職務規程 (刑事弁護の心構え)
第四十六条弁護士は、被疑者及び被告人の防御権が保障されていることにかんがみ、その権利及び利益を擁護するため、最善の弁護活動に努める。
判断 @被害者対応に係る刑事弁護人の義務の有無及び内容について、被害者のある事件で被疑事実に争いがない場合において、被疑者が示談をする意思を示すときには、刑事弁護人としては、刑事弁護の委任契約に基づき、被疑者との間で示談交渉を行い、その結果を担当検察官に報告すべき義務(示談交渉・報告義務)がある。
解説 被疑事実に争いがない刑事事件において、実務上一般的に、示談の有無が、犯罪後の情況に関する事項として、刑事裁判の量刑判断における重要な要素となることはもとより、起訴便宜主義(刑訴法248条)の下で考慮すべき重要な事項とされている。

少なくとも被疑者が示談をする意思を示している場合において、弁護人が示談交渉をしなかったり、その結果を担当検察官に報告しなかったりするときは、刑事弁護の委任契約上の義務に違反すると解する余地もある。
■民事p51 大阪地裁H22.4.26 約6か月半の間隔で発生した2つの追突事故について、客観的な関連共同性がないとして共同不法行為の成立が認められなかった事例
事案 Xは平成16年7月10日と平成17年1月27日にそれぞれ追突された。

主位的にはYらに対し、民法719条又はその類推適用に基づき、連帯して損害全額の支払いを求め、
予備的には、Yらに対し、民法709条に基づき、各自の負担すべき損害賠償金の支払を求めた。
規定 民法 第719条(共同不法行為者の責任)
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
2 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

民法 第709条(不法行為による損害賠償) 
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
判断 @第1事故と第2事故には、全く同一性ないし関連性はなく、発生した期間も6か月半の感覚がある⇒これらの間に客観的関連共同性があるとは認められない。
AY1は第1事故について、Y2は第2事故について、各不法行為とそれぞれ相当因果関係のある損害を賠償する責任を負うにとどまる。
解説 被害者が連続して追突事故にあった場合:

共同不法行為の成立には客観的関連共同性が認められれば足りるとする最高裁の判例理論(昭和43.4.23)に立脚し、異時事故であっても、時間的、場所的にきわめて近接しているような場合には、共同不法行為の成立を認めめるが、時間的、場所的な近接性を欠くときは共同不法行為は成立しないとする。

異時事故であっても、第1事故の被害が残存している状態で、第2事故による被害が同一部位に生じ、両者が一体となって加重されたような場合、その責任の割合については、寄与度に応じて因果関係を割合的に認めるというのが実務の大勢。
■民事p66 名古屋地裁H22.5.14 請負人である株式会社のいわゆる「事実上の取締役」について会社法429条1項の類推適用による第三者である注文者に対する損害賠償責任が認められた事例
事案 Xらが、Zの事実上の取締役であったというYに対し、会社法429条1項の類推適用に基づく損害賠償請求として、本件建物の瑕疵によってXらが被ったという損害の賠償を求める事案。

Zは、建築工事の請負、設計、施工、監理等を目的とする株式会社であって、一級建築士のAが代表取締役に就任しているが、Yがその発起人の1人。
規定 会社法 第429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
判断 Zの設立の経緯、代表取締役・取締役の構成、株主の構成、関連会社2社の状況、当該関連会社とZとを合わせた本件3社の執務状況、本社三者の取引状況などを踏まえ
「Yは、Zの事実上の(代表)取締役であったと認められる」とし、
ZにおけるYの資金流用の事実を認定し、「これらのYによる個人的な金員の取得ないし流用がなければ、Zの経営が破綻することはなく、・・・・Xらの損害を賠償することは容易であったと認められるから、事実上の(代表)取締役であるYの任務懈怠によりXらが損害を被った・・・ということができる」ので、「Yは、会社法429条1項の類推適用により、Xらの上記損害を賠償すべき義務がある」
解説 第三者に対する責任の前提として、事実上の取締役に任務それ自体を遂行する義務を観念し得るのか、任務遂行義務を観念し得ないとしても、なお任務懈怠を認め得るのかといった問題がある。
■民事p75 仙台地裁H23.1.13 建物築造請負契約における注文者から請負業者に対する瑕疵担保責任及び工事管理者の使用者である管理会社に対する使用者責任に基づく損害賠償請求(不真正連帯関係)が認容された事例
事案 XがY1会社に本件建物の築造を請け負わせたが、その引渡しを受けた本件建物には設計図書や建築基準法に違反する瑕疵があるとして、Xは、
@請負人Y1会社に対して瑕疵担保責任又は不法行為に基づく損害賠償を、
A本件建物工事請負契約書に監理者といて記名押印のあるY2に対して債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を、
B本件建物の建築確認申請書における工事監理者Aの使用者であるY3会社に対して民法715条に基づく損害賠償を
求めたもの。
判断 XのY1会社及びY3会社に対する請求の一部は認容したが、Y2に対する請求及びその余の請求は棄却。

@請負人であるY1会社はXに対して、これらの欠陥につき瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任を負う。
AY3会社の責任については、本件工事の監理者である建築士Aが工事監理を怠ったため右欠陥を生じたもの
Aの使用者である工事監理会社のY3会社は、Xに対して民法715条に基づく損害賠償責任を負う。
BY2はY1会社の常務取締役で・・・本件建物の工事監理者としての義務を負担することが予定されていなかった⇒本件建物の瑕疵につきY2はその責任はない。
解説 本判決:
建物築造請負契約の注文者が請負人に対して完成した建物に瑕疵があるとして損害賠償を求め、かつ、この瑕疵は、建築確認申請上の工事監理者が管理を怠ったことにもよるから、その使用者である工事監理会社にも責任があるとして、損害賠償を求めたのに対し、請求を認容し、両会社の損害賠償責任は不真正連帯の関係にあるとした。
■民事p89 京都地裁H22.1.22 カタログ配布事業会社の行った「カタロくじ」事業が無限連鎖講に該当するとし、その会社の幹部や統括代理店の不法行為責任が認められた事例
事案 Xは、訴外A及びB会社が行っている「カタログくじ」と称する懸賞付き通信販売事業に加入し、契約金を支払った。

Xらは、A会社らが行っていた事業が違法な無限連鎖講に当たるとして、同会社を開設・運営していた者や統括代理店の地位にあり違法な組織の維持拡大に寄与した者らをYとして、不法行為に基づき、支払った金員の支払を求めた。
規定 無限連鎖講の防止に関する法律 第2条(定義)
この法律において「無限連鎖講」とは、金品(財産権を表彰する証券又は証書を含む。以下この条において同じ。)を出えんする加入者が無限に増加するものであるとして、先に加入した者が先順位者、以下これに連鎖して段階的に二以上の倍率をもつて増加する後続の加入者がそれぞれの段階に応じた後順位者となり、順次先順位者が後順位者の出えんする金品から自己の出えんした金品の価額又は数量を上回る価額又は数量の金品を受領することを内容とする金品の配当組織をいう。

第5条(罰則)
無限連鎖講を開設し、又は運営した者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

第6条
業として無限連鎖講に加入することを勧誘した者は、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

第7条
無限連鎖講に加入することを勧誘した者は、二十万円以下の罰金に処する。
判断 Yらの不法行為責任を認定し、Xらの本訴請求を一部認容。
解説 このような取引においては、迂闊であった被害者に過失があったとして過失相殺が行われることが少なくない。
(本件ではYから主張がなく判断されなかった。)
■民事p103 釧路地帯広支部H23.3.24 鳥獣保護法所定の従事者証の返納を命じた町長の行為、その行為に対する町の報道機関への告知行為、従事者証の返納に関する質問に回答しない町長の行為を違法として求めた国家賠償請求が棄却された事例
判断 @Y町長がXらに従事者証の返還を命じた行為は裁量権を逸脱したものとは認められない。
Aこれらの事柄が新聞記事となり報道されているが、これは報道機関の一方的取材によるもので、Xらの社会的評価の低下との間に相当因果関係は認められない。
BY町長は・・具体的に回答する信義則上の義務はない。

損害賠償請求は理由がない。
■知財p111 知財高裁H22.8.31 商標法4条1項15号に関し、本件商標と引用商標は類似しないこと、引用商標は本件商標の出願時及び登録審決時において相当程度に多数の需要者・取引者に知られていたといえるが著名性が高いとはいえなかったことなどの事情を考慮し、本件商標は、同号所定の商標には該当しないと判断し、同号により本件商標を無効とした審決が取り消された事例
事案 Yは、Xを被請求人として、商標法4条1項7号、11号、15号及び19号、46条1項1号に基づき、本件商標の登録を無効とすることを求めて無効審判を請求。
⇒特許庁は、本件商標の登録を無効とする審決をした。(4条1項15号に該当)
⇒審決取消訴訟
規定 第4条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十五 他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)
判断 4条1項15号に該当するとの審決の判断には誤りがある⇒審決取消し。

最高裁H12.7.11:
同号の商標は、いわゆる広義の混同を生ずる商標も含み、「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の関連性の程度、取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、右指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すべきである。

本件商標と引用商標とは、その外観において著しく異なり、呼称、観念において類似しないこと、引用商標は、本件商標の出願時及び登録審決(拒絶査定不服審判の審決)時において、相当程度に多数の需要者・取引者に知られていたといえるが、必ずしも著名性が高いとまではいえないことから、前記の基準に照らして、4条1項15号に該当しないと判断。
■知財p122 東京地裁H22.12.3 「ビデオカセットレコーダーインデックスと電子番組ガイドの組み合わせ」の発明(方法の発明)に係る特許権の侵害訴訟において、クレームの文言及び明細書の記載から、同特許発明については「記録された番組の位置」に係る情報を表示することが必要であると解釈した上、被告の製造、販売するレコーダー(HDDレコーダー)は当該情報を表示しておらず、同特許発明の方法を使用していないとして、同特許権に対する間接侵害(特許法101条5号)の成立が認められなかった事例
規定 特許法 第101条(侵害とみなす行為)
次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。
五 特許が方法の発明についてされている場合において、その方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
Yの主張 無効の抗弁(特許法104条の3第1項)も含めて多岐にわたっているが、充足論については、本件特許発明においては「記録された番組のディレクトリを表示すること」が要件となっている(構成要件D)ところ、被告製品については「記録された番組のディレクトリ」に含まれる「記録された番組の位置」(構成要件B)に関する情報が表示されないから、本件特許発明に係る方法を使用するものとはいえない。
判断 本件特許発明の構成要件Bによれば、「記録された番組の前記ディレクトリ」には、「記録された番組のタイトル」と「記録された番組の位置」が不可欠な情報として含まれ、構成要件Dにおいて、このような「記録された番組の前記ディレクトリ」が(「放送される番組の前記ディレクトリ」と二者択一に)表示されるというのであるから、これらの文言からすれば、「記録された番組のタイトル」と「記録された番組の位置」に係る情報がそのまま表示されるものと解するのが相当であり、かかる解釈が明細書の記載や図面にも合致するとした上、「記録された番組の位置」に関する情報を表示しない被告製品は、本件特許発明に係る方法を使用しているとは認められないとして、本件特許権に対する間接侵害(特許法101条5号)の成立を否定した。
解説 「特許請求の範囲」の記載に基づくクレーム解釈の実例を示すもの。
■商事p133 千葉地裁H23.3.11 被保険自動車の盗難事故の発生を理由とする保険金請求について、第三者が当該自動車を所在場所からけん引ないし積載によって持ち去ったと認められ、かつ、その持ち去りが被保険自動車の所有者の意思に基づいて発生したものとは認められないとして、当該請求が認容された事例
事案 損害保険会社であるYとの間で自動車保険契約を締結していたXが、Yに対し、保険期間内に発生したという被保険自動車(本件車両)の盗難事故により損害を被ったと主張して、本件保険契約に基づく保険金の支払いを求めるほか、Yが不十分な調査によって当該保険金の支払を拒否した行為が不法行為に当たると主張して、損害賠償を求める事案。
争点 もっぱらXの届出に係る本件車両の盗難の有無
@盗難の外形的事実、すなわち、本件車両の第三者による持ち去り行為の有無
A仮に本件車両が第三者により持ち去られたとしても、それがXの意思に基づいて発生したものであるか否か
判断 @X以外の第三者により持ち去られた。
AXの関与をうかがわせる事情としては未だ足りない⇒Xの意思に基づいて発生したものとは認められない。
解説 @保険事故は、その概念自体に、「偶発性」が要件として取り込まれている。(「偶発性」「非人為性」)(請求原因事実)

A保険契約者の「故意」に該当する事由によって生じた損害に対しては、保険金を支払わない旨の免責条項が特約されている。(「人為性」「非偶発性」)(抗弁事実)

両者の区別の曖昧性。


最高裁H19.4.23:
「衝突、接触・・・その他偶然な事故」及び「被保険自動車の盗難」を保険事故として規定している一般自動車総合保険約款に基づき、右盗難に当たる保険事故が発生したとして保険者に対して車両保険金の支払を請求する者は、
@被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったという盗難の外形的な事実を主張、立証すべき責任を負う。
A被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張、立証すべき責任を負わない。


本判決も、盗難事故の主張・立証について、その要件を2分して検討している。

@については、被保険者以外の者による本件車両の持ち去りという盗難の外形的な事実の証明がある場合。(請求原因
Aについては、被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づくこと抗弁事由となり、保険会社が主張、立証すべき責任を負う。(抗弁)


保険金の支払拒絶は、金銭債務の不履行にほかならず、民法419条1項によれば、法定利率による遅延損害金の支払を求め得るにとどまるが、その支払拒絶が不法行為を構成する場合には、遅延損害金のほか、損害賠償も求め得る。
■刑事p139 東京地裁H22.9.6 東京都公安委員会から交付を受けていたビニール製ケース入り駐車禁止除外指定者標章の有効期限欄や発行日欄の数字記載部分に、元の記載と異なる数字が印字された紙片を置いて密着させた上、ビニール製ケースとの間に挟み込むようにして同紙片を固定した行為について、公文書偽造罪の成立が認められた事例
争点 偽造方法は稚拙で、その外観において実在の公務所の作成した文書と誤信させる程度には至っていないとして無罪を争った。
判断 ・・警察官がフロントガラス越しに確認するという駐車禁止除外指定車標章の本来的な用法も併せて考慮すれば、本件標章が、一般人をして真正な公文書と信じさせるに足る程度の外観を備えていたといえる。
解説 「偽造」と認められるためには、文書が、一般人をして、作成権者がその権限内において作成したものであると信じさせるに足りる程度の外観を備えていることが必要。

文書の本来的な用法も考慮して文書偽造罪の成立を肯定した事例。
2111
2111 ■行政p3 最高裁H23.2.18 香港に赴任しつつ国内にも相応の日数滞在していた者が、国外財産の贈与を受けた時において、相続税法1条の2第1号所定の贈与税の課税要件である国内(同法の施行地)における住所を有していたとはいえないとされた事例
事案 消費者金融大手である晦の創業者兼代表取締役Bの長男である上告人が、父B及び母Cから外国法人であるD社にかかる出資持分の贈与を受けたことにつき、所轄税務署長から相続税法1条の2第1号及び2条の2第1項に基づき贈与税(1157億円余)の決定処分及び無申告加算税(163億円余)の賦課決定処分を受けたため、上告人は本件贈与を受けた時において国内に住所を有しておらず本件贈与に係る贈与税の課税要件を満たさないから納税義務を負わない旨主張して、本件各処分の取消しを求めた事案。
判断 海外赴任期間たる本件期間中の上告人の香港での滞在日数が当該期間の約3分の2を占め、国内での滞在日数の約2.5倍に及んでいること、上告人が香港で業務に従事しており、これが仮装された実体のないものとはうかがわれないことなどの判示の事実関係に照らして、上告人は、本件贈与当時、法1条の2第1号所定の贈与税の課税要件である国内における住所を有していたということはできず、贈与税の納税義務を負うものではない。

原判決を破棄し、被上告人の控訴を棄却。
解説
本件贈与が行われた平成11年当時の税法では、贈与税の課税は贈与時に受贈者の住所又は受贈財産の所在地のいずれかが国内にあることが必要とされ(法1条の2、2条の2)、贈与による取得した財産が国外にあるものである場合には、受贈者が当該贈与を受けた時において国内に住所を有することが、当該贈与についての贈与税の課税要件とされていた(法1条の2第1号)。

贈与者が所有する財産を国外に移転し、更に受贈者の住所を国外に移転させた後に贈与を事項することによって、日本の贈与税の負担を回避するという方法が一般に紹介され、一部で実行されてきた。

平成12年法律第13号による租税特別法の改正により同法69条の2が新設
「贈与・・・により相続税法の施行地外にある財産を取得した個人で当該財産を取得した時において同法の施行地に住所を有しない者のうち日本国籍を有する者(その者又は当該贈与に係る贈与者が当該贈与前5年以内において同法の施行地に住所を有したことがある場合に限る。)は、贈与税を納める義務があるものとする。」と規定され、上記方法の贈与税回避は法制上封殺。

平成15年法律第8号による相続税法の改正により創設された現行の相続税法1条の4第2号に引き継がれ現在に至っている。


「住所」の意義:
相続税法に独自の定義規定なし。
民法の借用概念であり、その意義は、民法における住所と同じに解するのが租税法律主義や法的安定性の要請に合致。(金子)

最高裁昭和29.10.20:
およそ法令において人の住所につき法律上の効果を規定している場合、反対の解釈をなすべき特段の事由のない限り、その住所は各人の生活の本拠を指すものと解するのを相当とする。

民法 第22条(住所) 
各人の生活の本拠をその者の住所とする。

民法の住所の判断に当たっては、形式的基準によらずに、実質的な生活関係に基づいて判断する(実質主義)が通説。
その人、その時における全生活を観察し、その生活及び活動の中心点を客観的に定め、これをもって住所とすべきであるとする客観説が通説。

最高裁昭和26.12.21:
「被上告人の住所意思を実現する客観的事実の形成として十分であると判断」し、被上告人の住所を認定した原審の判断は相当。
最高裁昭和32.9.13:
「その者の住所とする意思だけではな足りず客観的に生活の本拠たる実体を必要とするものと解すべき」と判示⇒居住意思をも判断要とするものと解し得る判示。
最高裁昭和36.2.28:
「住所が○○村にないことが客観的事実だけですでに明らかに判定できる場合には、更にその上にその主観的意欲等を考慮に入れる余地はない」と判示。

最高裁の先例は、客観的生活状況を基礎として、本人の主観的意思が明らかである場合にはそれも1つの考慮要素とした上で、客観的にその場所が生活の本拠としての実態を具備しているといえるか否かという基準によって生活を判断するとの立場を採用し、個別の事案ごとに、その具体的な事実関係を前提として、社会通念に照らした判断をしているものと考えられる。


住所は単一か複数か。

最高裁昭和35.32.22:
その人の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心をもってその者の住所と解すべきであるとして、私生活面の住所、政治活動面の住所等を分離して判断すべきであるとの所論を排斥
単一説を採用。


海外転居者の相続税法又は所得税法上の住所を判断した判例:
最高裁昭和63.7.15:
所得税法上の住所につき、貿易関係の仕事上、国内外に滞在していた原告について、各年度の国内滞在日数は国外滞在日数よりも13日、50日前後又は127日多く、国外では多くの都市にそれぞれ短期間滞在していたものであること、国内に土地建物を所有しそこに妻子が居住していたことなどから、生活の本拠は国内にあったとして、所得税納税告知処分の取消請求を棄却した原審の判断を是認。

最高裁H19.3.27:
相続税法上の住所につき、香港への出国9日後の贈与の事案において、香港のホテルに10泊していた最中で、さしあたり4か月間勤務する予定にすぎず、勤務内容も語学研修という側面が強く、4カ月の勤務終了後は3か月半日本に滞在した後再び香港に居住しており、その後も毎月日本に帰国し、年単位で見た場合には、1年目及び2年目は香港での滞在期間の方が長い(約1.6〜2倍)が3年目及び4年目は4分の3以上日本で過ごし、日本でも労務を提供し、妻子は日本に居住していたことなどから、生活の本拠が国外に移転していたとはいえない。


最高裁の先例は、個別の事案ごとに、その具体的な事実関係を前提として、社会通念に照らして住所の判断をしているもと考えられ、住所の判断は、滞在日数、住居、職業、生計を1にする配偶者その他の親族の居所、資産の所在、居住の意思等を総合的に考慮して判断するのが相当。


当事者の表示した法形式を無視する事実認定・法律構成を行うことが認められるは、そのような表面的な法形式が不存在なしい無効であるような、すなわち、仮装行為が存在するような、ごく例外的な場合に限られる。

「租税回避の目的」は、居住意思そのものではなあく、居住地選択のいわば動機ともいうべきものであるから、住所の判断基準としていわゆる客観説に立つか主観説に立つかにかかわらず、租税回避の目的自体を生活の本拠たる実体の有無を判断する上で、その中核的な考慮要素とすることは困難。
客観的な生活の実態自体は存在するとうのであれば、主観的な贈与税回避の目的によってこれが消滅するわけでもない。
⇒租税回避の目的を過度に重視することはできない。
■行政p12 東京高裁H22.2.18 国民年金障害福祉年金及び国民年金障害基礎年金の受給資格のある者に対して受付担当職員が受給資格がない旨の誤った教示をしたことにつき不法行為が成立するとして、国及び同職員の俸給、給与等を負担する者である市に対する国賠請求が認められた事例
事案 受付担当職員から障害基礎年金の受給資格はない旨の誤った説明を受けたため、申請を断念せざるを得なかったものであり、そのため、障害福祉年金及び障害基礎年金の支分権を時効消滅により失うという損害を受けたと主張し、国賠法1条1項に基づき損害賠償請求。
規定 国賠法 第1条〔公務員の不法行為と賠償責任、求償権〕
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

国賠法 第3条〔賠償責任者、求償権〕
前二条の規定によつて国又は公共団体が損害を賠償する責に任ずる場合において、公務員の選任若しくは監督又は公の営造物の設置若しくは管理に当る者と公務員の俸給、給与その他の費用又は公の営造物の設置若しくは管理の費用を負担する者とが異なるときは、費用を負担する者もまた、その損害を賠償する責に任ずる。
判断 本件職員はXが所持していた障害者手帳を確認したのみでXが障害基礎年金の支給要件を満たさないとの誤った判断の下に、前記のような発言をしてXには受給権がないとの誤った断定的判断を示し、Xをして裁定請求を断念するに至らせ、損害を被らせたものというべきであり、本件職員の同行為は右職務上の注意義務に違反し、不法行為が成立する。

本件は国を委任者とする機関委任事務に関して、受任者である地方公共団体の公務員の行為については不法行為が成立することから、国家賠償法1条1項に基づいて損害賠償義務を負い、また、受任者である旧Y市は、同法3条1項所定の公務員の俸給、給与その他の費用を負担する者に該当し、同条項に基づき、国と連帯してXに対して損害賠償義務を負い、Y市はその責任を承継したものであると判示。
■民事p31 最高裁H23.3.9 抗告事件を終了させることを合意内容に含む裁判外の和解と抗告の利益
事案 原々審、原審はAの遺産及びCの遺産を全てXの単独取得した上、XからYに支払われるべき代償金の額を定めるに当たり、民法900条4号但書は合憲であると判断。

Yは、抗告代理人弁護士に委任して、本件抗告を申し立てたが、その後Xとの間で直接和解交渉を行い、和解成立。
規定 裁判所法 第57条(裁判所調査官)
最高裁判所、各高等裁判所及び各地方裁判所に裁判所調査官を置く。
A裁判所調査官は、裁判官の命を受けて、事件(地方裁判所においては、知的財産又は租税に関する事件に限る。)の審理及び裁判に関して必要な調査その他他の法律において定める事務をつかさどる。
決定 本件和解は、Aの遺産相続及びCの遺産相続に関する紛争につき、原決定を前提とした上、Xが支払う代償金を増額することなどを合意してこれを全面的に解決する趣旨にでたものであって、Yにおいて本件抗告事件を終了させることをその合意内容に含むものであったというべきであり、抗告人と相手方との間において、抗告後に、抗告事件を終了させることを合意内容に含む裁判外の和解が成立した場合には、当該抗告は、抗告の利益を欠く
⇒不適法として却下。
解説
裁判外における訴え取下げの合意:
A:私法契約説(判例):
裁判外における訴えの取下げの合意に(訴えを提起した者に訴えを取り下げる私法上の債務を負担させるという)私法上の法律効果のみを認め、訴訟係属の消滅という訴訟法上の効果を認めない見解。

B:訴訟契約説

最高裁昭和44.10.17:
「裁判外で訴訟取下げの合意が成立した場合には、権利保護の利益を喪失したものとして、訴えを却下すべきである。」
〜私法契約説を採用。


上訴の利益とは、上訴をしようとする者が原裁判に対して上訴をする客観的な必要性ないし適格をいうものであるが、原裁判の取消しないし変更を求めることが上訴である以上、上訴の利益とは、結局、上訴により原裁判所が取り消されたり変更されたりすることによって一定の利益を受けること、逆にいえば、原裁判が確定することによって一定の不利益を受けること。


本件においては、原決定後の事情により特別抗告そのものの適法性が争われたため、裁判所法57条2項に基づき、裁判体の命を受け、最高裁判所調査官により本件和解の成否及びその有効性につき事実の調査が行われた。
■民事p33 最高裁H23.3.22 給与等の支払をする者が判決に基づく強制執行によりその回収を受ける場合における源泉徴収義務の有無
事案 Y(従業員)らは、・・判決に基づき、Xの主たる事務所内の現金を目的として動産執行を申し立て、Xは、民事執行法122条2項の規定により、執行官に対し、Yらのために右賃金全額の弁済の提供をした。

Xは、その後、宮崎税務署長から納税の告知を受けたため、平成19年1月、右賃金に係る源泉徴収税を納付した。
(すなわち、所得税法221条の規定により源泉所得税を徴収された。)

本件の主位的請求:
Xが、所得税法法183条1項所定の源泉徴収義務を負う者として、Yらに対し、法222条に基づき、Xが納付した源泉所得税相当額の支払を求める。
(予備的請求は、不当利得に基づき同額の支払を求めるもの。)

Yらは、賃金の支払をする者が、その支払を命ずる判決に基づく強制執行による取立てなどによりその回収を受ける場合には、右の者は当該賃金の支払の際に源泉所得税を徴収することができない。⇒法183条1項所定の源泉徴収義務を負わないと解すべきであると主張。
規定 第122条(動産執行の開始等) 
動産(登記することができない土地の定着物、土地から分離する前の天然果実で一月以内に収穫することが確実であるもの及び裏書の禁止されている有価証券以外の有価証券を含む。以下この節、次章及び第四章において同じ。)に対する強制執行(以下「動産執行」という。)は、執行官の目的物に対する差押えにより開始する。
2 動産執行においては、執行官は、差押債権者のためにその債権及び執行費用の弁済を受領することができる。

所得税法 第183条(源泉徴収義務)
居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(以下この章において「給与等」という。)の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。

(源泉徴収に係る所得税の徴収)
所得税法 第221条  第一章から前章まで(源泉徴収)の規定により所得税を徴収して納付すべき者がその所得税を納付しなかつたときは、税務署長は、その所得税をその者から徴収する。
(不徴収税額の支払金額からの控除及び支払請求等)

所得税法 第222条  前条の規定により所得税を徴収された者がその徴収された所得税の額の全部又は一部につき第一章から第五章まで(源泉徴収)の規定による徴収をしていなかつた場合又はこれらの規定により所得税を徴収して納付すべき者がその徴収をしないでその所得税をその納付の期限後に納付した場合には、これらの者は、その徴収をしていなかつた所得税の額に相当する金額を、その徴収をされるべき者に対して同条の規定による徴収の時以後若しくは当該納付をした時以後に支払うべき金額から控除し、又は当該徴収をされるべき者に対し当該所得税の額に相当する金額の支払を請求することができる。この場合において、その控除された金額又はその請求に基づき支払われた金額は、当該徴収をされるべき者については、第一章から第五章までの規定により徴収された所得税とみなす。

労基法 第24条(賃金の支払) 
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
1審、原審 Yらの主張を排斥し、Xの主位的請求を認容。
⇒Yら上告受理の申立。
判断 所得税法28条1項に規定する給与等の支払をする者が、その支払を命ずる判決に基づく強制執行によりその回収を受ける場合であっても、右の者は、同法183条1項所定の源泉徴収義務を負う
⇒Yらの上告を棄却。
解説 肯定説

@法183条1項の文言等によれば、給与等の支払が強制執行による場合であっても、源泉徴収義務を肯定するのが自然な解釈。
A給与等の支払う際には源泉所得税を徴収することはできないが、それ以降に、法222条に基づく請求等により、源泉所得税を徴収することができる。(この場合、源泉所得義務は、給与等の支をする際以降も存続し、右請求等により、その履行が完了する。)
B否定説によれば、労働者は確定申告により納税することになるが、このことも疑問。


源泉徴収義務が給与等の支払時に成立するものである(国税通則法15条2項2号)⇒明示の合意が認められない限り、判決においてその控除を認めることは困難

判決後、強制執行に至る前に、判決において命ぜられた金額から源泉徴収税を控除した金額を労働者に支払うことはできる
その支払時には、公法上源泉徴収義務が成立するから、この義務の履行のために私法上労働者には源泉徴収を受忍する義務が発生する。(所得税法183条が労基法24条1項にいう法令の別段の定めに当たると解されていることは、このことを前提としているものと思われる。)

使用者としては、判決段階における抗弁として、源泉所得税の控除を主張することが認められないとしても、口頭弁論終結後の執行段階における異議事由として、源泉所得税を控除した金額の支払の事実を主張し、請求異議の訴えを提起することができ、求償の問題を避けることができると思われる。


使用者が第三債務の場合、すなわち、給与債権を差し押さえる債権執行の手続においては、所得税等を控除した残額(の4分の1)を差し押さえるものとして取り扱われている。
(民執法152条の差押禁止の範囲の計算については、所得税等を控除した手取額を基準とするとの見解に統一されていることによる。)

第三債務者から債務者に対する求償の問題は生じない。


給与等の債権者による強制執行手続が複数回にわたって行われる場合、給与等の支払義務者が第1回目の強制執行手続に基づいて支払った給与等に係る所得税の源泉徴収義務は、その支払によって具体的に発生。

同税相当額は、それ以後に支払うべき金額から控除することができる。

給与等の支払義務者は、第1回目の強制執行によって生じた源泉所得税相当額については、第2回目以降の強制執行に対して請求異議事由として主張することができる。
■民事p38 東京高裁H23.5.16 支店を1つに特定せず支店間支店番号順序方式により差押債権である預金債権を表示した差押命令申立てが差押債権の特定を欠き不適法であるとされた事例
事案 Xは確定判決の執行力ある正本に基づき、Yが有するZ1ないしZ3の3銀行の預金について差押命令の申立てをした(債務名義上の金額を3つに分割のうえ各銀行に対して差押命令申立て)。

差押債権の表示につき、いずれの銀行についても、預金の取扱店舗を1つに特定することなく、「複数の店舗に預金債権があるときは支店番号の若い順による」と記載。
原審 支店を1つに特定しない差押命令の申立ては差押債権の特定の記載として不十分であり不適法
⇒申立てを却下
判断 支店間支店番号順序により差押債権を表示して預金債権に対する差押命令を発するとすれば、@債権者において預金債権の存在の蓋然性の調査を行わないで適宜の銀行を第三債務者として債権差押えの申立てをすることが可能となる一方、A第三債務者である銀行の支店においては、他の支店の差押えが功を奏しない場合に自らの支店に差押えの効力が生ずる等の問題が生じ、公平さ及び適正さを欠く。

支店を1つに特定せず支店間支店番号順序方式により差押え債権を表示した差押命令申立は差押債権を特定したものとはいえず不適法として、抗告を棄却。
解説 東京地裁や大阪地裁の執行専門部の裁判実務においては、複数支店の順位付けをした預金債権差押えは差押債権の特定を欠き不適法であるとの判断が一貫して示されている。

最近、支店に順位付けをして複数支店の預金債権につき仮差押え又は差押えの申立てをする複数支店順位付け方式を許容した高裁の決定が出され、次いで、支店番号の順序により全支店を対象として差押命令を発する支店間の支店番号順序方式により差押債権を表示することを認める高裁の決定が出され、判断が分かれている。

本決定は、債権の属性ごとに順位を付して差押債権を表示する方法は、差押債権の性質その他の実情からみて緩やかな特定方法を許容するだけの特別の事情がある場合に限り認められるものとであるとの判断基準を示し、その上で、支店を1つに特定せず支店間支店番号順序方式により差押債権を表示した差押命令申立ては、差押債権を特定したものとはいえず不適法であるとして抗告を棄却。

生命保険金についても、契約の種類を特定せず、契約年月日の古い順に差押えを求める申立てによる差押えの可否が議論されており、高裁の判断が分かれている。
本決定は、判示内容からみて、属性に順位付けをする方法による差押債権の表示について制限的に考える方向を示すものといえる。
■民事p41 福岡高裁宮崎支部H22.10.29 抵当権設定登記申請手続を依頼された司法書士が、登記義務者が身代わりであることを看過したとしても、義務違反の責任を問うことができないとされた事例
判断 @当事者の本人性や登記意思の存否に関する調査義務については、特に依頼者からその旨の確認を委託された場合のほか、依頼の経緯や業務を遂行する過程で知り得た情報と司法書士が有すべき専門的知見に照らして、当事者の本人性や登記意思を疑うべき相当の理由が存する場合には、これらの点についての調査確認を行うべき義務がある。
AYは・・・・一応の確認を行ったということができ、登記義務者であるCの本人性や登記意思を疑うべき相当の理由があったとはいえない⇒善管注意義務違反はない、。
解説 司法書士の本人性、とりわけ登記義務者の登記申請意思の存否の確認義務について:
登記の真実性登記手続の迅速性の要請の見地から、登記義務者の本人性、登記申請の意思が疑われる相当な事情がある場合には、それを確認すべきであると解されている。(裁判例)
■民事p48 東京地裁H23.1.20 1.土地の売買における土地の引渡し後土壌汚染が発見され、一定の金額を越える損害につき売主の責任と負担で対処する旨の特約が商法526条の適用を排除するとされた事例
2.土地の売買において法令上の基準値を超える六価クロム等が存在したことにつき売主の瑕疵担保責任が肯定された事例
事案 土地の売買が行われ、土壌汚染による売主の瑕疵担保責任が問題になった事件

特約:
引渡し後であっても土壌汚染等が発見され、買主が本件土地上において行う事業に基づく建築請負契約等の範囲を超える損害(30万円以上)が生じる等した場合には、Yの責任と負担において速やかに対処すること(本件特約1)
引渡し後であっても、隠れた瑕疵が発見されたときは、民法の規定に基づきYの負担で速やかに対処すること(本件特約2)

争点:
@本件特約1は商法526条の適用を排除する合意か
A本件土地の引渡しの時点で汚染が存在したか
B汚染が隠れた瑕疵に該当するか
規定 商法 第526条(買主による目的物の検査及び通知)
商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が六箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする。
3 前項の規定は、売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない。
判断 本件特約1が土壌汚染等につきYの責任を規定するだけでなく、むしろ軽微な損害につきYを免責することに意義があり、Yによる土壌調査に引き続きXが「遅滞なく」土壌調査を行うことはXとYとの間に想定されておらず、商法526条の適用は本件特約1により排除されていた。

鉛の汚染は引渡しの時点で存在。

土壌汚染対策法令に基づく環境省告示による六価クロム、鉛が本件土地に含まれていたものであり、土壌汚染対策法に従った調査をしたか否かにかかわらず、瑕疵に該当する。

土壌汚染対策工事費用相当額の損害を認め、請求を認容。
■民事p55 大阪地裁H23.1.20 路上で地裁所長が襲われて重傷を負った強盗致傷事件につき、無罪、不処分の家裁決定を受けた被告人らが、国、府、市に対して求めた国賠請求のうち、警察の取調べに脅迫、暴行等の違法行為があるとして、府に対する請求は認容されたが、国及び市に対する請求は棄却された事例
判断 Y2(大阪府)はXらに対して国賠法上の損害賠償責任を負うとして、Xらは既に刑事補償を受けているのでこれを減額した範囲で支払義務を負わせたが、Y1(国)及びY3(大阪市)はXらに対して国賠責任を負わない。
解説 集団による路上の強盗致傷事件について無罪又は不処分決定を受けたXらの国、府、市に対する国賠請求のうち、警察の取調べに脅迫、暴行等違法行為があったとして府に対して求めた国賠請求を認容したが、国及び市に対する請求を棄却。
■民事p97 千葉地裁H23.1.28 所有建物の増築部分に固定資産税及び都市計画税を長期にわたり二重課税されたとして求めた損害賠償請求につき、市の国賠責任が認められた事例。
事案 Y市内に建物を所有するXが、Y市長の過失により平成元年から平成9年度迄の間、同建物の増築部分に対して固定資産税及び都市計画税を二重に課税されたと主張して、Y市に対して国賠法1条1項に基づき、過誤納付金相当額の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金を請求。
判断 所有建物の増築部分に対する固定資産税及び都市計画税の二重課税を受けたとして、過払金及びこれに対する遅延損害金の支払いを、国賠法に基づき市に対して求めた損害賠償請求を全面的に認容したもの。

その他
遅延損害金:
(主張)
原告は、少なくとも、各年度の年度末である3月末日までには、当該年度の固定資産税及び都市計画税を納付しているから、各年度の年度末の翌日(4月1日)以降、年5パーセントの遅延損害金が発生している。

(判断)
固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の1月1日とされており(地方税法359条)、被告における固定資産税及び都市計画税は、各年度の4月末日、8月末日、12月末日、2月末日の4回に分割して納付するものとされているから被告市長は、遅くとも平成元年度から平成9年度までの年度末である各翌年3月末日までには、本件二重課税をしたものと認められる。したがって、被告は、原告に対し、別紙2記載の表の「過払税金」欄記載の各年度の過払税金に対する不法行為の日の後である同表の「遅延損害金起算点」欄記載の日から支払済みまで、民法所定の年5分の割合いよる遅延損害金を支払う義務があるというべきであり、各年度の年度末の翌日から平成22年3月末日までの遅延損害金は、同表の各「年度」の「遅延損害金」欄記載のとおりであり、その合計は130万1040円と認められる。
■知財p100 知財高裁H23.3.23 「スーパーオキサイドアニオン分解剤」との発明(用途発明)に係る特許について、引用例の記載と実質的には同一のものであり、新規性を欠くとして、審決が取り消された事例。
事案 「スーパーオキサイドアニオン分解剤」との発明についての無効不成立審決に対する取消し訴訟。

Xは、・・引用例に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとして、無効審判請求をしたが、特許庁は、無効不成立の審決をした。
⇒Xが同審決の取消しを求めて本訴を提起。
規定 特許法 第29条(特許の要件) 
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明

2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。

特許法 第2条(定義)
この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。
3 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
二 方法の発明にあつては、その方法の使用をする行為
判断 公知の物は、特許の要件を欠く。
その例外として、
@その物についての非公知の性質(属性)が発見、実証又は機序の解明等がなされるなどし、
Aその性質(属性)を利用する方法(用途)が非公知又は非公然実施であり、
Bその性質(属性)を利用する方法(用途)が、産業上利用することができ、技術思想の創作としての高度なものと評価されるような場合には、
単に同法2条3項2号の「方法の発明」として特許が成立し得るのみならず、
同項1号の「物の発明」としても特許が成立する余地がある。

物の「方法の発明」の実施は、当該方法の使用にのみ限られる
「物の発明」の実施は、その物の生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入、譲渡の申出行為に及ぶ点で、広範かつ強力。

物の性質の発見、実証、機序の解明等に基づく新たな利用方法に基づいて、「物の発明」としての用途発明を肯定すべきか否かを判断するに当たっては、個々の発明ごとに、発明者が公開した方法(用途)の新規とされる内容、意義及び有用性、発明として保護した場合の第三者に与える影響、公益との調和等を個々具体的に検討して、物に係る方法(用途)の発見等が、技術思想の創作として高度のものと評価されるか否かの観点から判断することが不可欠。

本件では、新規性を欠く。
解説 用途発明とは、既知の物の特性に関し、その物の新たな属性を見つけ出し、その属性が新たな用途に使用できることを見つけ出したことに基づく発明。

特許庁の審査基準では、用途限定が付された物の発明を用途発明と解すべき場合について、次の考え方。

「請求項中に用途限定がある場合であって、請求項に係る発明が、ある物の未知の属性を発見し、その属性により、その物が新たな用途に適することを見いだしたことに基づく発明といえる場合には、・・・たとえその物自体が既知であったとしても、請求項に係る発明は、用途発明として新規性を有し得る。
ただし、未知の属性を発見したとしても、その技術分野の出願時の技術常識を考慮し、その物の用途として新たな用途を提供したといえなければ、請求項に係る発明の新規性は否定される。
また、請求項に係る発明と引用発明とが、表現上の用途限定の点で相違する物の発明であっても、その技術分野の出願時の技術常識を考慮して、両者の用途を区別することができない場合は、請求項に係る発明の新規性は否定される。」
■知財p109 知財高裁H22.11.15 地域団体商標として出願された商標「喜多方ラーメン」が周知性を欠くとした審決が維持された事例(喜多方ラーメン地域団体商標事件知財高裁判決)
規定 商標法 第7条の2(地域団体商標)
事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合(法人格を有しないものを除き、当該特別の法律において、正当な理由がないのに、構成員たる資格を有する者の加入を拒み、又はその加入につき現在の構成員が加入の際に付されたよりも困難な条件を付してはならない旨の定めのあるものに限る。)又はこれに相当する外国の法人(以下「組合等」という。)は、その構成員に使用をさせる商標であつて、次の各号のいずれかに該当するものについて、その商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、第三条の規定(同条第一項第一号又は第二号に係る場合を除く。)にかかわらず、地域団体商標の商標登録を受けることができる。
一 地域の名称及び自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる商標法
二 地域の名称及び自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして慣用されている名称を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる商標法
三 地域の名称及び自己若しくはその構成員の業務に係る商品若しくは役務の普通名称又はこれらを表示するものとして慣用されている名称を普通に用いられる方法で表示する文字並びに商品の産地又は役務の提供の場所を表示する際に付される文字として慣用されている文字であつて、普通に用いられる方法で表示するもののみからなる商標法
2 前項において「地域の名称」とは、自己若しくはその構成員が商標登録出願前から当該出願に係る商標の使用をしている商品の産地若しくは役務の提供の場所その他これらに準ずる程度に当該商品若しくは当該役務と密接な関連性を有すると認められる地域の名称又はその略称をいう。

商標法 第3条(商標登録の要件)
自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標法
二 その商品又は役務について慣用されている商標法
三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標法
四 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標法
五 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標法
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標法

2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。
判断 ・・需要者の間に広く認識されていることが要求されているのは・・
@・・構成員でない第三者による自由な商標の使用が制限されることになるので、かかる制限をしてまでも保護に値する程度にまで、出願人たる団体の信用が蓄積されている商標であるか否かを峻別するためであり、あるいは
A、構成員でない第三者による便乗使用のおそれが生じ得る程度に、右団体の信用が蓄積されている商標であるか否かを峻別するため

・・・法7条の2の登録要件が法3条2項の登録要件よりも緩和されているのは、識別力の程度に関するものであって、需要者からの当該商標と特定の団体又はその構成員の業務に係る商品ないし役務との結び付きの認識の要件までは緩和されていない。
解説 地域団体商標の制度は、地域の産品等についての事業者の信用の維持を図り、地域ブランドの保護による我が国の産業競争力の強化と地域経済の活性化を目的として、いわゆる「地域ブランド」として用いられることが多い地域の名称及び商品ないし役務の名称等からなる文字商標について、登録要件を緩和する趣旨。

法7条の2第1項では、
「その商標が使用された結果自己又はその構成員の業務に係る商品の役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」ことが登録要件の1つとして要求されている。

法3条2項よりも登録要件を緩和して設けられたのが法7条の2の地域団体商標の制度。
⇒法3条2項の適用にあたって要求される商標の認識範囲及び程度よりも範囲等が小さくてもよい。

特許庁逐条解説:
当該商標が使用された結果、出願人である団体又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていることが必要であり、「少なくとも第三者による自由な使用を制限してまでも地域の名称及び商品(役務)の名称等からなる商標を保護すべきであるといえる程度に当該商標に信用が蓄積されていることが必要である。また、地域団体商標制度の目的の1つが、第三者による商標に化体した信用への便乗を排除しうるように措置することにある以上、保護対象とする商標は、第三者による便乗使用のおそれが生じうる程度に信用の蓄積がされているものに限定すべき」
■知財p122 東京地裁H22.11.25 被告が経営する学習塾の生徒募集及び従業員募集等の新聞折り込み広告及びウェブサイト上の抗告に付した「塾なのに家庭教師」という文字標章について、広告の他の記載部分と相俟って、集団塾の長所と家庭教師の長所を組み合わせた学習指導の役務を提供していることを端的に記述した宣伝文句であり、役務の出所を想起させるものではないとして、商標的的使用該当性が否定された事例。
事案 Xは、その商標権を侵害する旨主張し、Yに対し、主位的に、被告各標章を付した広告の配布の差止め等と損害賠償を求め、予備的に、仮にYが被告各標章について先使用権を有するとした場合、商標法32条2項に基づき、被告各標章の使用時に本件登録商標との混同を防ぐための表示を付すことを求めた。
請求 1.主位的請求
(1) 被告は、被告の学習塾の教授の役務に関する生徒募集及び従業員募集等の新聞折り込み広告に別紙被告標章目録1ないし4記載の各標章を付して配布してはならない。
(2) 被告は、被告の学習塾の教授の役務に関する生徒募集及び従業員募集等のウェブサイト上の広告に別紙被告標章目録5記載の標章を付して提供してはならない。
(3) 被告は、原告に対し、1億7100万円及びこれに対する平成21年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2.予備的請求
(1) 被告は、被告の学習塾の教授の役務に関する生徒募集及び従業員募集等の新聞折り込み広告に別紙被告標章目録1ないし4記載の各標章を付して配布するときは、「本標章と名学館の登録商標(登録番号第467359号)とは全く関係がありまさん。」との表示をせよ。
(2) 被告は、被告の学習塾の教授の役務に関する生徒募集及び従業員募集等のウェブサイト上の公告に別紙被告標章目録1ないし4記載の各標章を付して提供するときは、「本標章と名学館の登録商標(登録番号4684359号)とは全く関係がありません。」との表示をせよ。
規定 商標法 第32条(先使用による商標の使用をする権利)
2 当該商標権者又は専用使用権者は、前項の規定により商標の使用をする権利を有する者に対し、その者の業務に係る商品又は役務と自己の業務に係る商品又は役務との混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができる。

商標法 第3条(商標登録の要件)
2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

第2条(定義等)
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
三 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為
四 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
五 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
六 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
七 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
判断 被告各標章の使用は、本来の商標としての使用(商標的使用)に当たらないというべきであると判断。
解説 商標的使用とは、商標の本質的機能である出所表示機能・出所識別機能を問題とするものである。
商標の本質は、当該商標を使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの(商標法3条2項)として機能すること、すなわち、商品又は役務の出所を表示し、識別する標識として機能することにある。

商標がこのような出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているといえない場合には、形式的には同法2条3項各号に掲げる行為に該当するとしても、当該行為は、商標の「使用」に当たらない


本件は、被告各標章の商標的使用該当性を検討するに当たって、その構成・呼称・観念、Yの学習塾の名称に係る標章の著名性、Yの学習塾の広告における他の記載との関係を含めた被告各標章の具体的な使用態様を詳細に認定した上で、そのような具体的な事実関係の下では、当該学習塾の名称に係る標章等が役務の出所を認識させるものであり、被告各標章は宣伝文句として使用されているもので、商品の出所を想起させるものではないとして、商標的使用該当性を否定
■刑事p128 東京地裁H22.7.7 公海上から航行中の日本船舶に向けて酪酸入りのガラス瓶を圧縮空気式発射装置で発射しこれを船体に衝突・破裂させて飛散させ、乗組員の顔面等に酪酸を付着させて顔面化学熱傷の傷害を生じさせるとともに、同乗組員らの業務を妨害した行為につき、傷害罪及び威力業務妨害罪が成立するとされた事例
規定 第1条(国内犯) 
この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。
2 日本国外にある日本船舶又は日本航空機内において罪を犯した者についても、前項と同様とする。

第8条(他の法令の罪に対する適用)
この編の規定は、他の法令の罪についても、適用する。ただし、その法令に特別の規定があるときは、この限りでない。
解説 酪酸入り便の発射行為は公海上で行われているが、右の瓶を衝突・破裂させ、内容物を船内で飛散させ、結果を生じさせている。
⇒威力業務妨害罪及び傷害罪は、実行行為の一部が日本船舶内でおこなわれたものと認められ、刑法1条2項により刑法が適用。

有毒ガス入りの瓶を投げ入れ、瓶の破裂により有毒ガスを拡散させて障害の結果を生じさせた場合に、これを暴行の結果的加重犯として傷害と見るのか、暴行以外の方法による傷害ととらえるのかという問題。


★平成23年6月分
2110
2110 ■行政p23 福岡高裁H22.11.30 犯罪被害者等給付金の支給裁定の申請について法律の規定する除斥期間を経過する前の時点における申請権の行使が客観的に不可能であるといえるか、又は申請権の不行使が真に止むを得ないといえる特別な事情がある場合には、当該事情が止んだ後6か月の間は、除斥期間の経過による効果は生じないとした第1審判決が控訴審において是認された事例
事案 犯罪行為により不慮の死を遂げた者(A)の遺族(X)が、福岡県公安委員会(Z)において、Xの犯罪被害者等給付金の支給裁定の申請につき、これを支給しない旨の本件裁定をしたことから、国家公安委員会の審査請求を棄却する旨の裁定を経た上で、福岡県(Y)に対し、本件裁定の取消しを求めた事案の控訴審判決。
規定 犯罪被害者等支援法 第10条(裁定の申請)
犯罪被害者等給付金の支給を受けようとする者は、国家公安委員会規則で定めるところにより、その者の住所地を管轄する都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)に申請し、その裁定を受けなければならない。
2 前項の申請は、当該犯罪行為による死亡、重傷病若しくは障害の発生を知つた日から二年を経過したとき、又は当該死亡、重傷病若しくは障害が発生した日から七年を経過したときは、することができない。
3 前項の規定にかかわらず、当該犯罪行為の加害者により身体の自由を不当に拘束されていたことその他のやむを得ない理由により同項に規定する期間を経過する前に第一項の申請をすることができなかつたときは、その理由のやんだ日から六月以内に限り、同項の申請をすることができる。

民法 第724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

民法 第158条(未成年者又は成年被後見人と時効の停止)
時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。
2 未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その権利について、時効は、完成しない。

民法 第160条(相続財産に関する時効の停止)
相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
第1審判決 「犯罪被害者等給付金の支給裁定の真正について法律の規定する除斥期間を経過する前の時点における申請権の行使が客観的に不可能であるといえるか、又は申請権の不行使が真に止むを得ないといえる特別な事情がある場合には、当該事情が止んだ後の6か月の間は、除斥期間の経過による効果は生じない」としてXの請求を認容。

「仮に、Xが平成15年2月26日までに申請していたとしても、Zは、・・・平成17年10月5日にBらの刑事事件の第一審判決書が作成されるうまでの間は、上記の裁定を留保せざるを得なかったものというべきである」から、「Xが同日までに申請権を行使しなかったことは、真にやむを得ない特別な事情があるというべきである」
判断 第1審判決は相当。
解説 法10条2項後段の規定する7年の期間が申請権の除斥期間である7年の期間は申請権の除斥期間。

民法724条後段の規定する期間につき、除斥期間であるとする最高裁H1.12.21は、除斥期間を経過した場合につき、
「このような場合には、裁判所は、除斥期間の性質にかんがみ、本件請求権が除斥期間の経過により消滅した旨の主張がなくても、右期間の経過により本件請求権が消滅したものと判断すべきである」と判示。

最高裁H10.6.12:
「不法行為の被害者が不法行為の時から20年を経過する前6か月内において右不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において、その後当該被害者が禁治産宣告を受け、後見人に就任した者がその時から6か月内に右不法行為による損害賠償請求権を行為したなど特段の事情があるときは、民法158条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じない

最高裁H21.4.28:
「被害者を殺害した加害者が被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し、そのために相続人はその事実を知ることができず、相続人が確定しないまま上記殺害の時から20年が経過した場合において、その後相続人が確定した時から6か月内に相続人が上記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは、民法160条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じない」
■行政p31 東京地裁H22.4.23 特定の金融庁検査官に係る調査依頼書に関する書面の開示請求に対し、金融庁長官が、開示対象文書の存否を明らかにするすることが行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条1号の不開示情報を明らかにすることになるとして、同法8条により当該文書の存否を明らかにしないで不開示とした処分が適法であると判断された事例
事案 銀行であるXが金融庁法令等遵守調査室の室長宛てに前年の立入検査に参加していた特定の金融庁検査官について法令等遵守の点で問題があるとして調査依頼を送付し、その後、金融庁長官に対し、行政機関の保有する情報の公開に関する法律3条に基づき、その調査依頼書に関する書面の開示請求をしたところ、金融庁長官が本件対象文書の存否を明らかにすることは情報公開法5条1号の不開示情報を明らかにすることになるとして、情報公開法8条に基づき本件対象文書の存否を明らかにしないで不開示とする決定をしたことから、Xが不開示決定の取消しを求めた事案。

Xは、当初、本件不開示決定に対する異議申立ての棄却裁決の取消しだけを求めていたが、その後、本件不開示決定の取消しの追加的併合申立てをしたもの。
規定 情報公開法 第5条(行政文書の開示義務)
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない

一 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く
イ 法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報公開法
ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報公開法

ハ 当該個人が公務員等(国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第二条第一項に規定する国家公務員(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第二項に規定する特定独立行政法人の役員及び職員を除く。)、独立行政法人等(独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(平成十三年法律第百四十号。以下「独立行政法人等情報公開法」という。)第二条第一項に規定する独立行政法人等をいう。以下同じ。)の役員及び職員、地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)第二条に規定する地方公務員並びに地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。以下同じ。)の役員及び職員をいう。)である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分

第8条(行政文書の存否に関する情報)
開示請求に対し、当該開示請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、不開示情報を開示することとなるときは、行政機関の長は、当該行政文書の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否することができる。
請求 1.金融庁長官が、原告に対し、平成20年5月27日付けでした「平成20年1月18日付で貴庁法令等遵守調査室にご送付した乙山松尾金融証券検査官に係る調査依頼書に関する書面」の不開示決定処分を取り消す。
2.金融庁長官が、原告に対し、平成21年6月15日付けでした行政文書不開示決定に対する異議申立てを棄却する旨の決定を取り消す。
判断 請求棄却
解説 ●情報公開法5条1号本文前段該当性
「個人に関する情報」とは、
個人の内心、身体、身分、地位その他個人に関する一切の事項についての事実、判断、評価等のすべての情報が含まれるものであり、個人に関する情報全般を意味する。

「特定の個人を識別することができるもの」とは、
当該情報に係る個人が誰であるかを識別させることとなる氏名その他の記述の部分だけでなく、氏名その他の記述等により識別される特定の個人情報の全体

個人の属性、人格や私生活に関する情報に限らず、組織体の構成員としての個人の活動に関する情報も含まれる。

個人の権利利益を十分に保護するため、個人識別性のある情報を一般的に不開示とし、個人情報の判断に当たり、原則として、公務員に関する情報と非公務員に関する情報とを区別していない。
ただし、前者については、特に不開示とすべきでない情報をハにおいて除外

本件情報は、その内容からすれば、当該特定の職員個人に関する事実、評価等に関する情報ということができる⇒個人情報に当たることは明らか。
●情報公開法5条1号ただし書イからハまでの該当性
ハの「職務の遂行に関する情報」とは、
公務員が行政機関その他の国の機関又は地方公共団体の機関の一部として、その担任する職務を遂行する場合における当該活動についての情報を意味するものであり、具体的な職務の遂行との直接の関係を有する情報を対象とする。

宇賀:
「公務員等の職務の遂行に係る情報」とは、
行政庁もしくはその補助機関等として、又は独立行政法人等もしくは地方独立行政法人の役員・職員として分任する職務の遂行に係る情報であり、ある公務員AがBによって分限免職処分を受けた場合、当該処分を行うことはBの職務の遂行に係る情報ではあるが、Aにとっては職務に関する情報ではあっても、職務の遂行に係る情報ではない。
●情報公開法8条について
開示請求の拒否処分の一態様として、一定の場合に、行政機関の長は、行政文書の存否自体を明らかにしないで、拒否することができるとしたものであり、米国の情報自由法の実務において、グローマー拒否と呼ばれているもの。

ある人を名指しして、国立がんセンターに入院していたときのカルテの請求があった場合、当該行政文書はあるが情報公開法5条1号により不開示と回答したのでは、そのことのみで名指しされた者が当該病院に入院しいた事実が明らかになり、プライバシー侵害となる
■民事p40 最高裁H23.2.15 給付の訴えによる原告適格
事案 マンションの管理組合(権利能力のない社団)であるXが、本件マンション1階にある占有部分の区分所有者Y1、前区分所有者Y2及び賃借人Y3が規約の定めに反してXの承諾を得ることなく本件マンションの共用部分である1階出入口や壁面の改造工事を行い、また、Y1がXとの間で締結した看板等の設置に係る共用部分の使用契約の終了後も権原なくその使用を継続していると主張して、Yらに対し、規約所定の違約金の支払又はこれと同額の不法行為に基づく損害賠償を求めるとともに、Y1に対し、規約で定められた原状回復義務に基づく工作物の撤去、看板等の設置に係る共用部分の使用料相当損害金の支払等を求める事案。
規定 民訴法 第29条(法人でない社団等の当事者能力)
法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる。

区分所有法 第26条(権限)
4 管理者は、規約又は集会の決議により、その職務(第二項後段に規定する事項を含む。)に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。
原審 本件マンションの共用部分は区分所有者の共有に属するものであるから、共用部分の侵害を理由とする本件各請求権は、区分所有者に属し、区分所有者において行使されるべきものであり、管理組合に訴訟担当を認める規定は存在しないし、任意的訴訟担当を認める合理的必要性はない。
⇒Xが区分所有者のために本件訴訟を追行することは許されない
⇒Xの当事者適格を否定し、本件訴えを却下。
判断 給付の訴えにおいては、自らがその給付を請求する権利を有すると主張する者に原告適格があるというべきであり、本件各請求は、Xが、Yらに対し、X自らが本件各請求に係る工作物の撤去又は金員の支払を求める権利を有すると主張して、その給付を求めるものであるから、Xが、本件各請求に係る訴えについて、原告適格を有することは明らかである。
⇒原判決を破棄し、本件を原審に差し戻した。
解説
当事者として訴訟を追行することが認められるためには、
@当事者能力(訴訟における当事者の地位につくことができる一般的な資格)及び
A当事者適格(個別の訴訟における請求について当事者として訴訟を追行することができる資格)
を有することを要する。

Xは、権利能力なき社団であり@はあり(民訴法29条)。
Aについては、給付の訴えにおける当事者適格の一般論により定まる。


給付の訴えにおいては、自らが訴訟物である給付請求権を有すると主張する者に原告適格が、原告がその給付義務者であると主張する者に被告適格があり、真に原告が被告に対しその給付請求権を有するか否かは、請求の当否の問題であり、訴えの適否の問題ではない。

最高裁昭和61.7.10:
「給付の訴えにおいては、その訴えを提起する者が給付義務者であると主張している者に被告適格があり、その者が当該給付義務を負担するかどうかは本案請求の当否にかかわる事柄である」


第三者の訴訟担当が認められる場合には、主張される権利又は法律関係の主体でない者が当事者適格を有する。

区分所有法26条4項が「管理者は、規約又は集会の決議により、その職務に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる」と規定するのは、管理者の任意的訴訟担当を明文で認めたもの。

マンション標準管理規約(本件マンション規約も同様)は、理事長が管理組合を代表すると定めるとともに、理事長を区分所有法に定める管理者とすると定める。

Xの理事長は、Xの代表者として、Xの名において訴訟を追行することが可能であると同時に、区分所有法26条4項による訴訟担当者として、自らの名において訴訟を追行することも可能。

権利能力なき社団であるマンション管理組合の理事長は管理組合の代表者兼管理者という二重の地位。
⇒マンションの管理をめぐる訴訟においては、原告として訴訟を提起したのが管理組合であるのか、それとも管理者である理事長個人であるのか、そして、原告は誰に帰属する権利をいかなる根拠に基づき行使しているのか(管理組合に帰属する請求権を管理組合が自ら行使するものであるのか、区分所有者らに帰属する請求権をその者らのために訴訟担当者として行使するものであるのか)について、当事者から混乱した主張がされたり、そのような混乱が整理されないまま審理判断がされたりすることが少なくない。


本判決が、本件各請求の全てにつき、Xの代表者が本件訴訟を追行する権限を有するか否かを含め、更に審理を尽くすべきものとしているのは、本件マンションの規約には、管理費等の支払請求のほか、規約に違反した区分所有者等に対する原状回復のための必要な措置等の請求について、Xの理事長に訴訟追行権原を付与する規定があるが、本件各請求の内容は多岐にわたり、その中には、規約又は集会の決議により、理事長に対する訴訟追行権限の付与があったといえるか必ずしも明らかでないものがあるため。
■民事p47 広島高裁岡山支判H22.12.9 病院に入院中の患者がベッドから転落し負傷した事件について、病院側に転落防止のための抑制帯使用義務違反及び看護師の監視義務違反があるとして病院の責任が認められた事例
判断 既に1回転落したことのあるXの転落を防止するため、抑制帯を用いてXの体幹を抑制する義務があったにもかかわらず、抑制帯を用いなかったことに診療契約上の義務違反が認められるし、Yの看護師には、監視を継続すべき義務の不履行があったとして、Yの損害賠償責任を肯定。
解説 転落防止には、ベッド柵の設置、抑制・拘束する方法などがあり得るが、抑制・拘束「切迫性」、「非代替性」、「一時性」の3つの要件を満たすケースに限られると解されている。
(最高裁H22.1.26)
■民事p73 福岡高裁H22.11.26 胸痛を訴えて来院した患者が当直医の診断を受けた後急死した場合に、当直医は内科医で循環器の専門でなく急性心筋梗塞を診断した経験もなかったものであるときは、その内科医に循環器の専門医と同等の診断を要求することは困難であるとして、医師に過失がないとされた事例
判断 B医師はAの胸痛の強度、性状、発現の時期等について問診するとともに、意識状態、体温を確認し、聴診を行った上で、心電図検査を施行したもので、胸痛を訴える患者に対する処置として、不合理な点は見当たらない。
B医師がAを診察当時に把握した情報を基にして、Aについて急性心筋梗塞を含む急性冠症状の疑いを有することが可能であったとは認められない。
心電図の所見が軽度のST上昇を伴う心電図異常を呈していることに関連して、B医師は、消化器内科を中心とする一般内科を専門とする医師であり、これまで急性心筋梗塞の診断や治療に携わった経験はなかったのであるから、B医師に循環器専門医と同等の判断を要求することは酷といえ、B医師が心電図におけるAの急性心筋梗塞を疑わせる所見を見逃したことはやむを得なかったというべきであると判示。
■民事p83 東京地裁H23.1.27 土地の売買において土地に区の指導要綱所定の基準を超える油分が存在していたことが土地の瑕疵に当たるとしたが、買主の悪意・過失を認め、売主の瑕疵担保責任が否定された事例
事案 土地の売買が行われ、土壌汚染による売主の瑕疵担保責任が問題になった事件。

争点は、本件土地の瑕疵の有無、Xの瑕疵についての悪意・過失の有無、瑕疵担保責任の限定・免除の成否、除斥期間の経過の有無、損害額等
規定 民法 第570条(売主の瑕疵担保責任)
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。
民法 第566条(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。
解説
本件土地の瑕疵の有無については、通常の土地の品質、性状ではなく、土地に関する法令の定め、取引通念、本件売買に至る経緯、売買契約の規定を考慮し、区の要綱による指導基準をもって瑕疵の判断基準とする合意を認めた上、瑕疵を肯定したもの。

本件土地売買の合意内容によって瑕疵を肯定


売買の瑕疵担保責任の要件である「隠れた」との要件について、売買の目的物に瑕疵があることを知らず、知らないことをいうと解されているところ、悪意・過失の有無を争点にした上、買主が悪意であったか、少なくとも過失があったとしたものであり「隠れた」瑕疵であること否定
■民事p93 東京地裁H22.10.28 店舗用建物の賃貸借契約上の、連続3日間を超えて建物における営業を休業するときは、予め賃貸人に対し書面で申入れをし、賃貸人の承諾を得なければならず、賃借人がこれに反したときは、賃貸人が通知催告することなく契約を解除することができる旨の特約違反の債務不履行が肯定され、賃料相当額等の損害賠償が認められた事例
事案 X社が、Y社との間で締結した建物一階部分を借り受ける賃貸借契約の解除に基づく本件建物部分の明け渡しが終了したとして、Yに対して保証金残額及び敷金の返還等を請求する本訴を提起。

YがXに対して、XがYの承諾なく本件建物部分において営業していた店舗を閉店したことによりYが本件賃貸借契約を解除するに至ったとして、債務不履行による損害賠償請求権と右保証金及び敷金の各返還債務とを対当額で相殺した残額を反訴として請求。

賃貸借契約には、
Xが連続3日間を超えて本件建物部分における営業を休業するときは、予めYに対し書面で申入れをし、Yの書面による承諾を得なければならなず、Xがこれに反した場合、Yは通知催告することなく本件賃貸借契約を解除することができる旨の条項あり。
争点 @XがYの承諾を得ることなく本件建物部分において営んでいた家電製品等の販売店を閉店したことが、右契約条項に違反するか。
A同閉店についてXに帰責事由がないといえるか。
判断 XYは、種々の業種の賃借人が入って相互に建物全体としての本件賃貸借契約を締結し、これを担保するために、本件特約条項を含む右の各規定が定められたものと認められる
XがYの承諾なく店舗を閉店することは本件特約条項に違反する。

本件賃貸借契約は対等な企業間で、将来の収支を計算した上で締結されたものであり、契約上Xにも一定の方法による契約関係からの離脱が認められていないわけではない⇒本件特約条項が公序良俗に反するものとはいえない。

Yが正当な理由なくXの紹介した複数の候補に対する転貸を承諾しなかったものとはいえず、Xの店舗における営業が赤字であったことを考慮しても、XがYの承諾なく閉店したことにつき帰責事由がなかったということはできない。


Xの債務不履行を認め、Yの主張する損害のうち本件賃貸借契約の期間満了までの賃料相当額を得られなくなったこと等について同債務不履行と因果関係ある損害と認め、一定の損益相殺ならびにXのYに対する保証金及び敷金返還請求権との相殺をした残額である2億2654万1060円の範囲でYの反訴請求を認容し、Xの本訴請求を棄却。
■民事p103 大阪地裁H22.8.27 株式会社とその代表取締役の双方の破産申立人となった弁護士が、会社から代表取締役の着手金を受領することは、会社に対する不当利得が成立するとされた事例
判断 @本件振込みにかかる40万円は破産会社の財産である。
AYは、右40万円はAの着手金とする旨の合意があったと主張するが、右合意は認められず、破産会社は、本件振込みによって、40万円の損失を受けたものと認められる。
B破産会社とその代表取締役は、法律上、別個の法主体であって、代表取締役の破産申立着手金を破産会社の財産から支出することは許されない
CYが本件口座から振り込まれた40万円を、Aの破産申立着手金として受領したことに法律上の原因はない。

1審判決は相当であるとして、Yの本件控訴を棄却した。
■知財p106 知財高裁H22.6.30 6角形のディンプルを密に配設したゴルフボールに係る意匠につき、出願日前に頒布された刊行物に記載された意匠と類似し、新規性を欠き登録が無効であるとした審決が維持された事例
事案 意匠にかかる物品を「ゴルフボール」とする、六角形のディンプル(窪み)を球表面に密に配設したゴルフボールに係るXの意匠権につき、Yが特許庁に対して意匠登録無効審判を請求したところ、特許庁が本件意匠権の登録を無効にするとの審決をしたことから、Xが審決の取消しを請求した事案。
規定 第3条(意匠登録の要件)
工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる。
一 意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠法
二 意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた意匠法
三 前二号に掲げる意匠に類似する意匠法
審決 Xの意匠が出願前に頒布された刊行物である米国の特許明細書に記載されたゴルフボールの意匠と類似し、新規性を欠く(意匠法3条1項3号)。
判断 @前記米国特許明細書から、384個の6角形のディンプルが、隣接するディンプル同士が辺を共有するようにして、球表面全体に密に配設されている状況を容易に看取でき、前記特許明細書の記載等によっても、円形のディンプルを6角形のディンプルにデフォルメして表現したものと解しなければならないものではない。⇒図形の記載に従って引用意匠を認定した審決の認定に誤りはない。
A球表面全体に多数の六角形のディンプル同士が辺を共有するように密に配置されている点で本件意匠と引用意匠は一致し、両意匠のディンプルの個数の差異はわずかで、本件意匠の五角形のディンプルも六角形のディンプルに埋没して目立たず、ボール全体の美観に影響を与えない
本件意匠と引用意匠が類似するとした審決の判断に誤りはない。
■知財p114 東京地裁H21.12.16 1.「蛍光電子内視鏡システム」の発明に係る特許権の侵害訴訟において、明細書の記載や図面、特許異議手続における特許権者(反訴原告)の主張内容を参酌して特許請求の範囲を解釈した上、反訴被告の製造、販売する蛍光内視鏡観察システムは「送信後3つのチャンネルの信号を再構成し」ていないとして、反訴原告の有する特許権に対する文言侵害の成立が認められなかった事例
2.反訴被告の製品の構成は、反訴原告の特許発明の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるとして、反訴原告の有する特許権に対する均等侵害の成立が認められなかった事例
事案 「蛍光電子内視鏡システム」に関する特許権が、反訴被告に対し、Yが製造、販売する「蛍光内視鏡観察システム」が本件特許権に係る発明の技術的範囲に属する(文言侵害又は均等侵害)として、特許法100条1項、2項の規定に基づき、被告製品の製造、販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、不法行為(特許権侵害)による損害賠償を認めた事案。
規定 第100条(差止請求権) 
特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 特許権者又は専用実施権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(物を生産する方法の特許発明にあつては、侵害の行為により生じた物を含む。第百二条第一項において同じ。)の廃棄侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。
判断 @
特許請求の範囲の「送信後3つのチャンネルの信号を再構成し」の意義について・・・「CCDの3つのチャンネルの信号をすべて用いてモニター上に映像として再構成すること」をいい、そのような構成に限定されるものと解釈した上、被告製品については、CCDのチャンネルで受光した反射光G2(録画像信号)がビデオシステムセンター内において不要な信号として排除され、背景の映像信号としてモニターに出力されておらず、CCDの3つのチャンネルの信号のすべてを用いてモニター上に映像として再構成しているとはいえない
⇒本件特許権を文言上侵害する(文言侵害)とはいえない。

A
特許異議の手続におけるXの主張内容から、被告製品のように3つの撮像タイミングで得られる3つの信号の内の2つだけをモニター上の画像構成に用いる技術については、これを特許請求の範囲から意識的に除外したものと認められる。
⇒本件特許権に対する均等侵害も成立しないと判断。
解説
特許発明の技術的範囲は、「特許請求の範囲」の記載に基づいて定めなければならず、「特許請求の範囲」に記載された用語の意義は、明細書の記載及び図面を考慮して解釈する。(特許法70条1項、2項)
その他、特許発明の技術的範囲を認定するに当たっては、出願経過や公知技術(出願当時の技術水準)が判断資料として用いられ、これらの事項が総合的に考慮されて、特許権の効力の及ぶ範囲が定められる。
「出願経過」の中には、特許出願から権利が登録されるまでの間だけではなく、権利が成立した後の、無効審判手続や審決取消訴訟での特許権の対応等も含まれる。

本判決では、特許異議の手続における特許権者の意見も考慮した上で、本件特許権発明の技術的範囲が認定。


最高裁H10.2.24:
特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合であって、
@当該部分が特許発明の本質的部分ではなく
A当該部分を対象製品等におけるものと置き替えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
Bそのように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、
C対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、
D対象製品が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、
右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものとされる。

Dの要件(均等成立の第5要件)は、禁反言の法理を理由とするもの。
本判決は、特許異議の手続におけるXの主張内容から、被告製品の構成については、これを特許請求の範囲から意識的に除外したものと認められるとして、均等成立の第5要件を満たさないと判断されたもの。
■商事p131 岐阜地裁H23.3.23 海外旅行保険の加入者が旅行先で溺死したとして、その遺族が保険会社に保険金の支払を求めたが、加入者の死亡は旅行動向者の故意による殺人によるもので同行者は加入者の死亡による保険金受領により利益を享受する立場にあり、請求者と同一の地位にあるから免責条項に当たるとして、請求が棄却された事例
事案 観光旅行先のサイパンのビーチで溺死したAの加入した海外旅行保険契約に基づき、Aの遺族である父母XらがY保険会社に対してその相続割合により保険金各5000万円及び遅延損害金の支払いを求めた事案。
判断 Cは本件保険契約締結前から、Bを通じてX1から事業資金等の援助を受けていたことからすると、C及びDは、本件保険事故による保険金の受領により利益を直接享受し得る立場にあったということができ、公益や信義誠実の原則という本件免責条項の趣旨に照らして、C及びDが個人的動機によって故意にAを死亡させた行為をもってXらの行為と同一のものと評価できる場合に当たると判示。

海外旅行保険の加入者(被保険者)が旅行先で溺死したとして、その遺族(受取人)が保険会社に保険金の請求をしたのに対して、加入者の死亡は旅行同行者の故意による殺人によるものであるが、同行者は加入者の死亡による発生した保険金受領による利益の直接享受者の立場を有し、受取人と同一の地位にあると評価されるから、本保険の免責条項に当たる。l
⇒遺族の保険金請求を棄却。
解説 旅行保険の加入者が旅行先で溺死した原因につき、詳細に事実を検討し認定した事情から同行者の故意による殺人であることを推定。

最高裁H14.10.3:
被保険者が保険契約者又は保険金受取人の故意により死亡した場合には死亡保険金を支払わない旨の生命保険契約上の免責条項は、被保険者を故意に死亡させた第三者の行為が、公益や信義誠実の原則に照らして保険契約者又は保険金受取人の行為と同一のものと評価される場合を含む」との趣旨に従って免責条項を判断。
2109
2109 ■行政p23 東京地裁H23.2.4 市が住民基本台帳ネットワークシステムに接続していないことが違法であり、それに伴う公金支出が違法であるとして、市民である原告らが、市長に対し、その支出の差止めを求めるとともに市長個人に対する損害賠償を請求することを求めた住民訴訟が一部認容された事例
事案 国立市の住民であるXらが、Y(国立市長)が住基ネットとの接続を切断し、接続しないままの状態でいることは違法であり、住基ネットに接続していないことにより生じた郵送費等の費用を支出しているのは違法であるなどと主張して、Yに対し、郵送費等の支出の差止めを求めるとともに、Yに対し、郵送費等の額に相当する金員について、国立市長個人に損害賠償の請求をすることを求めた住民訴訟。
規定 地方自治法 第242条(住民監査請求) 
普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について、違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合を含む。)と認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下「怠る事実」という。)があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求め当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によって当該普通地方公共団体のこうむつた損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求することができる。
2 前項の規定による請求は、当該行為のあつた日又は終わった日から一年を経過したときは、これをすることができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
地方自治法 第242条の2(住民訴訟)
普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、同条第四項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第四項の規定による監査若しくは勧告を同条第五項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。
一 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求
二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求
三 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求
四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合にあつては、当該賠償の命令をすることを求める請求
判断 市町村町(特別区の区長を含む)は、都道府県知事に対して住民票の記載等に係る本人確認情報を電気通信回線を通じて創始するため、住基ネットに接続する住民基本台帳法上の義務を負う・・・
⇒Xらが差止めの対象としている公金支出のうち、住基ネットサポート委託量の支払いについては、住基ネットに接続していれば必要のないものであるからその支出も違法であり、差し止められるべき(ただし、既に契約に基づく支払義務が生じている部分を除く。)。

・・年金受給権者の現況届を日本年金機構に送付するための郵送費及び住基ネットサポート委託料の支払は住基ネットにせず得していれば必要のないものであってそれらの支出は違法であり、当該支出の権限を有するYには、その支出を阻止しなかった違法行為があった
⇒当該支出により国立市が被った損害である合計39万8040円及び遅延損害金を国立市に支払う義務がある。
主文 1.被告は、本件判決確定時において支払義務が生じているものを除き、住民基本台帳ネットワークシステムサポート委託量を支出してはならない
2.被告は、関口博に対し、39万8040円及びこれに対する平成21年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を国立市に支払うよう請求せよ
・・・
解説 本判決:
市町村町には住基ネットへの接続義務があり、接続しない状態を維持していることは住基法の規定に違反して違法であることを明確に判示し、住基ネットは住民のプライバシー権を侵害し、又はそのようなおそれがあるというYの主張については、最高裁判決を援用しつつ排斥。

請求の対象となっている公金支出のうち、差止請求に係る無償交付用の住民票用紙代及び人件費並びに損害賠償請求に係る他の市町村に転出した住民の転入通知の郵便代及び人件費については、いずれも請求の対象が特定されていないとして、また、損害賠償請求のうち監査請求期間を徒過した部分については、正当な理由(地方自治法242条2項ただし書)が認められないとして、いずれもこれらに係る訴えを却下。
■p41 さいたま地裁H23.2.2 知事が、原告の行う広告表示等につき特定商取引に関する法律違反があるとして、業務停止命令に先立って原告から提出された弁明書の内容を考慮せず、広告表示について訂正が行われるか否かを確認することなく業務停止を命じたことには裁量権を濫用した違法があるとして、当該業務停止命令が取り消された事例
事案 埼玉県知事は、Xの行う本件取引は特定商取引に関する法律に規定する業務提供誘因販売取引に該当するとの解釈のと、本件取引にかかる広告表示や書面の交付について特商法違反があるとして、平成22年8月6日付けで、Xに対し、同月10日から平成23年2月9日までの6カ月間、Xの行う本件取引に係る業務のうち、
@業務提供誘因取引についての契約の締結について勧誘すること、A業務提供誘因取引についての契約の申込を受けること、B業務提供誘因販売取引についての契約を締結することを停止する旨の業務停止命令を発した。

Xが、本件業務停止命令は違法であるとして同命令の取消しを求めた事案。
規定 特定商取引法 第57条(業務提供誘引販売取引の停止等)
主務大臣は、業務提供誘引販売業を行う者が第五十一条の二、第五十二条、第五十三条、第五十四条、第五十四条の三(第五項を除く。)若しくは第五十五条の規定に違反し若しくは前条第一項各号に掲げる行為をした場合において業務提供誘引販売取引の公正及び業務提供誘引販売取引の相手方の利益が著しく害されるおそれがあると認めるとき、又は業務提供誘引販売業を行う者が同項の規定による指示に従わないときは、その業務提供誘引販売業を行う者に対し、一年以内の期間を限り、当該業務提供誘引販売業に係る業務提供誘引販売取引の全部又は一部を停止すべきことを命ずることができる

行政事件訴訟法 第30条(裁量処分の取消し)
行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる
判断 Xが平成22年8月2日に埼玉県知事に提出した弁明書には、・・・表示方法を改めたと記載され、資料として表示方法を示した書面が添付されていたこと、その後の同月8日に発行を予定していた広告の表示が特商法に違反するともいえないことからすると、埼玉県知事は、Xが広告表示の訂正を予定していることを知悉していたにもかかわらず、改訂が実際にどのようになされるかについて確認することなく本件業務停止命令を発したものと言わざるを得ず、苦情相談件数を見ても右確認ができないほど放置できない事情があったものと認められない

埼玉県知事が、弁明書の内容を考慮せず、広告表示について訂正が行われるか否かを確認することなく本件業務停止命令を発したことには裁量権の濫用があるとして、本件業務停止命令を取り消した
主文 埼玉県知事上田清司が原告に対して平成22年8月6日付けでした特定商取引に関する法律第57条1項の規定に基づく原告の行う業務提供誘引販売取引に関する業務の一部を停止する旨の命令処分(指定消費第249号)を取り消す。
解説
業務提供誘引販売取引:
「その販売の目的物たる物品(商品)又はその提供される役務を利用する業務に従事することにより得られる利益(業務提供利益)を収受し得ることをもって相手方を誘引し、その者と特定負担を伴うその商品の販売もしくはそのあっせん又はその役務の提供もしくはそのあっせんをする取引」(特商法51条1項)

広告に際して商品又は役務の種類、特定負担に関する事項、業務の提供条件等を表示する義務を課すとともに(同法53条)、誇大広告等を禁止し(同法54条)、また、契約者が提供又はあっせなれる業務を事業所等によらないで行う個人の場合には、契約締結前に取引の概要を記載した書面(概要書面)を、契約を締結した場合には契約内容を記載した書面(契約書面)をそれぞれ交付する義務を課している。(同法55条1項2項)

業務提供誘引販売業を行う者が右義務に違反した場合において、
「業務提供誘引販売取引の公正及び業務提供誘引販売取引の相手方の利益が著しく害されるおそれ」があると主務大臣が認めたときは、当該業務提供誘引販売業に係る取引の全部又は一部が業務停止命令の対象となる(同法57条1項)。


Xが行っていた本件取引は、Xが運送業務のあっせんをし、当該運送業務に従事したことにより得られる利益は会員の収入になるとして、当該業務に必要な軽貨物自動車の販売をあっせんするというもの⇒業務提供誘引販売取引に該当。


裁量権の逸脱又は濫用について
業務停止命令の要件を満たす場合においても、特商法57条1項は、業務の停止を「命ずることができる」と規定し、同命令を発するか否かを行政庁の裁量にかからしめている。
裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に限り取り消すことができるとされている。(行政事件訴訟法30条)

行政庁の裁量処分についての審査方法としては、近時、当該裁量処分に至る行政庁の判断過程の合理性を審査するという手法が注目されている。

最高裁H18.2.7:
「裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って裁量権の逸脱又は濫用として違法となる」とした上で、
「考慮すべきでない事項を考慮し、他方、当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず、その結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いた」処分について違法であるとしている。

処分において考慮すべき事項は個々の根拠法令の趣旨や処分の性質及び目的等から導かれるものと考えられる。
■民事p50 最高裁H23.2.18 簡易生命保険契約の保険金受取人が無断で保険金等の支払を受けた者に対し不法行為に基づく損害賠償を請求する場合において上記の者が損害の発生を否認し請求を争うことが信義誠実の原則に反して許されないとされた事例
事案 Xが、簡易生命保険契約につき、その保険金受取人はXであり、保険金及び契約者配当金の請求権はXに帰属するにもかかわらず、Y1及びY2がX名義の書類を偽造するなどして、郵便局員であるY3に対し保険金支払請求を執り、本件保険金等を正当な権限なく取得したとして、Yらに対し不法行為に基づき損害賠償等を求めた事案。

Xは、日本郵政公社に対しても、主位的に不法行為に基づき損害賠償を、予備的に本件保険規約に基づき本件保険金等の支払を求めている。
一審 Yらの行為は共同不法行為にあたる
⇒Yら及び日本郵政公社に対し、本件保険金等相当額等の損害賠償を命じる全部認容判決。
原審 本件保険金等の支払については、担当者であるY3に過失があり、これが有効な弁済とはならない以上、Xは、依然として本件保険金等請求権を有しているから、本件保険金等相当額の損害が発生したと認めることはできない
⇒XのYらに対する請求を棄却
(日本郵政公社に対しては、主位的請求である不法行為に基づく損害賠償請求を棄却し、予備的請求である本件保険契約に基づく本件保険金等の請求等を認容)
判断 Y1及びY2がXに無断でX名義の支払請求手続を執ったなどの事情の下では、上記支払が有効な弁済とはならず、Xが依然として本件保険金等請求権を有しているとしても、Y1及びY2がXに損害が発生したことを否認してXの損害賠償請求を争うことは、信義誠実の原則に反し許されない
⇒原判決を破棄し、XのYらに対する請求を全部認容。
解説
最高裁H16.10.26:
何らの受領権限もないのに金融機関から預金債権について払戻しを受けた者に対し、債権者が不当利得返還請求をしたという事案において、
@弁済受領者は自ら受領権限があるものとして払戻を受けておきながら、訴訟においては一転して、金融機関に過失があるから右払戻しは無効であるなどと主張するに至ったこと、
A仮に弁済受領者が弁済の有効性を争って右請求の棄却を求めることができるとすると、債権者は金融機関が善意無過失であったか否かについての判断をした上で訴訟の相手方を選択しなければならないという負担を受忍せざるを得なくなる。
⇒弁済受領者が債権の不消滅を主張して債権者からの請求を争うことは信義則に反し許されない。


平成16年判決を受け、学説においては、
A:「損害」ないし「損失」概念を緩和し、債権の実現可能性が低下することをもって「損害」ないし「損失」と捉える考え方。

B:自ら正当な権利者であるとして弁済を受領した弁済受領者が債権の消滅を争うことは信義則上許されないとする考え方

C:債権者が弁済受領者に請求する行為、あるいは弁済受領者から弁済を受ける行為は、債務者による弁済を追認する趣旨のものとみなす考え方。


平成16年判決は信義則説に立つものであるが、その理解としては、
A:自ら正当な権利者であるとして弁済を受領した者が債権の消滅を争うことは信義則上許されないとの考え方ないし価値判断を前提に、債権者は請求原因事実として、「債権の消滅」に代えて、「弁済受領者が権限なく弁済を受領したこと」を主張立証すれば足りるとする考え方。
B:債権者は、「損害」ないし「損失」の発生をいうために、債権が消滅したこと、すなわち準占有者の弁済に当たることを主張する必要があるが、自ら正当な権利者であるとして弁済を受領した者がその主張を否認し、あるいは反証することは信義則上許されないから、債権者は右主張について立証する必要がないとしてもの
と捉える考え方があり得る。


本判決によれば、本件のような事案の下では、債権者は、債務者に対し本来の債務の履行を請求してもよいし、弁済受領者に対し不法行為に基づく損害賠償を請求してもよいことになる。

もっとも、二重取りは許されず、債権者は、いずれかの者から全額の弁済を受ければ、それ以上の弁済を受けることはできないものと思われる。
学説上は、不真正連帯債務として調整すべきであることが指摘されている。
■民事p54 東京高裁決定H23.2.24 担保権の実行としての債権差押命令に対し被担保債権の不存在又は消滅を理由に執行抗告をすることの可否
事案 根質権に基づく生命保険金債権の差押命令に対し、債務者が、利息制限法に基づき引き直し計算をすると被担保債権額はゼロとなり、むしろ過払となるとして執行抗告をした事案。
判断 本件においては被担保債権が消滅しているとして原決定を取り消し、債権差押命令の申立てを却下。
解説
担保権の実行として債権差押命令に対し、債務者が担保権の不存在又は消滅を主張して争う方法

A:手続上の瑕疵は執行抗告で争い、実体上の不服は執行異議で争うべきであるとする説。
B:執行抗告で争うべきとする説。(中野貞一郎等、多数説)


判例:
A:執行異議説(手続条の争いは執行抗告の対象となるが、実体上の事由については執行抗告は許されず、執行異議で争うべき。)

B:執行抗告説
大阪高裁昭和56.7.7等:
担保権の存在又は消滅を理由として執行抗告をすることができると解した上、差押命令の送達の前に被差押債権が譲渡されていることから、被差押債権の消滅により担保権が存在しないこととなったと判断して執行抗告を認め、原決定を取り消し、差押命令を却下した。

最高裁H14.6.13:
被差押債権の存否は執行不能かどうかの問題であり、差押命令の有効無効の問題ではない⇒これを執行抗告の理由とすることができない
として、上記高裁決定の判断を否定。


本決定は、学説上の多数説の同旨の見解に基づき、担保権の不存在又は消滅の一事由である被担保債権の不存在又は消滅について、執行抗告説を採るべきことを判示

@担保不動産競売については、競売手続開始決定に基づく差押えの段階では執行抗告が認められておらず、売却許否決定の段階において執行抗告が認められるものとされている。この手続構造の下においては、売却許否決定を待つことなく、競売手続開始決定の段階で被担保債権の存否に関する執行異議を認め、当事者間の争いに対して早期に執行裁判所の判断を示すことが迅速処理の要請にかなう
A担保権の実行としての債権差押えにおいては、債権差押命令に対する執行抗告が認められているが、これは、仮に不服申立期間の制限のない執行異議により被担保債権の存否を争わせると、取立訴訟の進行中に債権差押命令に対する執行異議が提起されるような事態も想定され、差押命令の内容の確定が遅延するおそれがあり、担保権の存否のみならず、被担保債権の存否についても差押命令に対する執行抗告により争うべきものとするのが迅速処理に資する
B担保不動産競売においては、被担保債権の存否(不存在又は消滅)のみが争点となり、数額の争いは配当異議の手続に譲られるという手続構造が採られているのであるが、担保権の実行としての債権差押えにおいては、被担保債権の範囲内に限って差押命令が発せられることが債権者の申立内容によってはあり得ることから、その場合には、被担保債権の存否のみならず、その数額も差押命令の適否に関する争点となり、被担保債権の数額も含めて差押命令に対する執行抗告で争わせるものと解すべきこととなる。

理由付け@A
⇒債権に対する担保権実行のみならず、その他の財産権に対する担保権実行についても、執行抗告説をとるべきことになる。

理由付けBの論点は、債権差押命令が可分の金銭債権であることから、債権者の申立内容によっては、そのような差押命令も可能であることを前提とする。
担保権実行としての債権差押命令については超過差押えの禁止は働かない(民実法193条2項において超過差押えの148条の2の準用を除外)ので、そのような申立てがされることはまれであるが、債権者が差押えの範囲を被担保債権の範囲内と限定することができる金銭債権の差押えにおいては、被担保債権の限度で差し押さえるということも不可能ではない。
その他の財産権に対する担保権実行においては、一般に担保権の対象財産が可分ではないため、このような問題は生じない。
■民事p56 東京地裁H23.2.10 薬剤師は、医師の処方指示に対し、その内容についても確認し、疑義がある場合には、処方医師等に問い合わせて照会する注意義務があり、薬剤の過量投与の指示に対し、疑義照会をせず、調剤・監査を行った場合は、薬剤師にも注意義務違反が認められる
事案 Y1の開設する病院に入院していたAに対し、常用量の5倍投与されたAが死亡⇒
Aの相続人であるXらが、投与を指示した担当医(Y2)、担当医の上級医である主治医代行(Y3)、内科部長(Y4)には、担当医に調剤及び投与指示の内容に誤りがないように適切な指導助言を行うべき注意義務を怠った過失があり、
調剤・監査を行った薬剤師(Y5〜Y7)らには、常用量の5倍もの処方指示、調剤について、疑義を抱き、担当医に照会すべき注意義務を怠った過失があるなどと主張し、
Yらに対し、不法行為(709条、719条1項前段715条1項)に基づき損害賠償を求めた事案。
判断
主治医代行の責任を否定

担当医から、投与量について相談された際に、添付文書や医薬品集に記載されている投与量で投与する旨の指示を出しており、主事医代行としては、特段の事情のない限り、担当医が医薬品集等で投与量を確認し、その記載の量で投与するであろうことを期待するのは当然
・・・このような過誤まで予想して、担当医に対し、あらかじめ
、具体的な投与量等についてまで、指示をすべき注意義務があったとは直ちには認められない。


内科部長の責任も否定

右のような過誤まで予想して、担当医に、あらかじめ投与量等について直接指示しなければならなかったとまではいえない。


薬剤師の責任
薬剤師法24条:
「薬剤師は、処方せんの中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない」
・・・
医薬品集などで用法・用量を確認するなどして、処方せんの内容、調剤された薬剤の内容を確認し、本来の投与量の5倍もの用量を投与することについて、処方医である担当医に対し、疑義を照会すべき義務がった。

オーダリングシステム(医薬品の用量や医薬品の相互作用等のチェックを行うシステム)・・・これが正常に機能することを信じるにつき正当な理由がある場合には、薬剤師は、同システムが正常に機能することを信頼して自らの業務を行えば足りるものと解するのが相当。
本件では、オーダリングシステムを信頼していたことにつき正当な理由は認められない。
■民事p70 東京地裁H22.11.12 破産会社が取引先に対して有する債権を銀行に担保として債権譲渡した場合について、否認権の行使が肯定された事例。
事案 A社は、平成9年3月26日、Yとの間で銀行取引約定書を取り交わして銀行取引を開始し、貸付けと返済を繰り返していた。
Aは、平成15年から出資し、平成17年9月頃から積極的に経営参加していたBが平成18年8月29日に破産手続開始決定を受けたことから、大きな負債を抱えることとなった。

Aは、平成18年6月29日、Yとの間で、AのYに対する一切の債務を担保として、Aが取引先に対して現在及び将来に取得する一切の債権をYに譲渡することを予約する旨の合意をし、その合意の中では、Aが銀行取引約定書に基づき期限の利益を喪失した時点において債権譲渡の効力が生じるものとすることなどが定められていた。

Aは、平成19年12月末ころ、取引各金融機関に対し、「返済繰延の申し入れ」と題する書面を持参し、平成19年11月から平成20年5月までの元金返済の猶予等を求めた。

Aは、Yに対し、平成20年6月2日、債権譲渡担保差入証を交付し、同日、同月16日及び同月7月29日の3回にわたり、本訴で係争の債権について債権譲渡登記手続をした。

Aは、同年9月4日、東京地方裁判所に破産手続開始申立てをし、同月5日同開始決定を受け、Xが破産管財人に就任。

Xは、前記債権譲渡行為は、Aの支払停止又は支払不能の後にされたものであるとして、破産法162条1項1号に基づく否認権を行使。
規定 破産法 第162条(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)
次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。

2 前項第一号の規定の適用については、次に掲げる場合には、債権者は、同号に掲げる行為の当時、同号イ又はロに掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実(同号イに掲げる場合にあっては、支払不能であったこと及び支払の停止があったこと)を知っていたものと推定する。
一 債権者が前条第二項各号に掲げる者のいずれかである場合
二 前項第一号に掲げる行為が破産者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が破産者の義務に属しないものである場合

3 第一項各号の規定の適用については、支払の停止(破産手続開始の申立て前一年以内のものに限る。)があった後は、支払不能であったものと推定する
破産法 第161条(相当の対価を得てした財産の処分行為の否認)

2 前項の規定の適用については、当該行為の相手方が次に掲げる者のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が同項第二号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する。
一 破産者が法人である場合のその理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人又はこれらに準ずる者
二 破産者が法人である場合にその破産者について次のイからハまでに掲げる者のいずれかに該当する者
イ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ロ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を子株式会社又は親法人及び子株式会社が有する場合における当該親法人
ハ 株式会社以外の法人が破産者である場合におけるイ又はロに掲げる者に準ずる者
三 破産者の親族又は同居者
判断 Yによる予約完結権の行使により債権譲渡がされた時点で、Aに支払停止等の事由が発生し、Yがこれを認識していたと認められる場合には、債権譲渡予約契約に係る債権譲渡を破産法162条1項1号に基づき否認することができる。

Aが平成19年12月末ころ各金融機関に対して行った返済繰延の申入れは弁済能力の欠乏のために弁済期が到来した債務を一般的かつ継続的に弁済することができない旨を外部に表示したもので、破産法162条3項の支払停止に当たることはあきらかで、同条1項の支払不能が推定される。

Yは、Aから損益計算書、資金収支計画、資金繰り表等の書類の提出を受け、経営内容の報告を受けた上で、前記申入れを受けているから、同月末ころには前記申入れが支払停止に当たることについて悪意であったと認められる。
⇒Xの請求を認容。
解説 最高裁H16.7.16
旧破産法72条2号に関し
債務者の支払停止等を停止条件とする債権譲渡契約は、その契約締結行為自体は危機時期前に行われるものであるが、契約当事者は、その契約に基づく債権譲渡の効力の発生を債権者の支払停止等の危機時期の到来にかからしめ、これを停止条件とすることにより危機時期に至るまで債務者の責任財産に属していたい債権を債務者の危機時期が到来するや直ちに当該債権者に帰属させることによって、これを責任財産から逸出させることをあらかいじめ意図し、これを目的として、当該契約を締結しているものである。上記契約の内容、その目的等にかんがみると、上記契約は、破産法72条2号の規定の趣旨に反し、その実効性を失わせるものであって、その契約内容を実質的にみれば、上記契約に係る債権譲渡は、債務者の支払停止等の危機時期が到来した後に行われた債権譲渡と同視すべきものであり、上記規定に基づく否認権行使の対象となると解するのが相当である。」と判示。
■民事p75 大阪地裁決H22.4.28 仮執行宣言付判決に対する控訴に伴う執行停止の担保につき、強制執行停止決定の効力が控訴棄却の判決により失われた後に債務者が有効な弁済供託をしたときは、債務者が上告等の不服も申し立て、仮執行宣言付判決が取り消された場合に供託金を取り戻す権利を留保し、かつ、債権者が供託を受諾していない場合であっても、担保の事由が消滅するとして、担保の取消しが認められた事例。
事案 一審で仮執行宣言付きの敗訴判決を受けたXは、控訴を提起したうえで執行停止の申立てをし、担保を立てて控訴審判決時まで執行を停止する旨の決定を得ていたところ、控訴が棄却されたXは、上告提起及び上告受理の申立てをしたうえで、一審判決で支払を命じられた遅延損害金の以後の発生を防ぎ、併せて執行停止の担保を取り戻すこと目的としてYに対し、弁済の提供をしたが、Yは、民訴法260条2項による給付の返還及び損害賠償を求められるおそれがあること等を理由として弁済を拒絶した。
そこで、Xは、債権者の受領拒絶を理由として民法494条により弁済供託をした上で、担保の事由が消滅したとして担保取消しの申立てをした。
Yは、審尋において、供託を受諾しない意思を明らかにしたが、本決定は申立てを認容した。
規定 民訴法 第260条(仮執行の宣言の失効及び原状回復等)
仮執行の宣言は、その宣言又は本案判決を変更する判決の言渡しにより、変更の限度においてその効力を失う。
2 本案判決を変更する場合には、裁判所は、被告の申立てにより、その判決において、仮執行の宣言に基づき被告が給付したものの返還及び仮執行により又はこれを免れるために被告が受けた損害の賠償を原告に命じなければならない。

民訴法 第405条(担保の提供)
この編の規定により担保を立てる場合において、供託をするには、担保を立てるべきことを命じた裁判所又は執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所にしなければならない。
2 第七十六条、第七十七条、第七十九条及び第八十条の規定は、前項の担保について準用する。

民訴法 第79条(担保の取消し)
担保を立てた者が担保の事由が消滅したことを証明したときは、裁判所は、申立てにより、担保の取消しの決定をしなければならない。
争点 弁済供託により、仮執行宣言付判決に対する控訴に伴う執行停止の担保の事由が消滅するか否か。
Yは、Xが将来供託金を取り戻す可能性がある以上、債権の絶対的消滅の効力が生じていないと主張。
決定 Xが将来供託金を取り戻す可能性を留保し被担保債権の消滅の効力が絶対的には生じていないとしても、弁済供託が有効にされている以上、Yは、供託を受諾しさえすれば仮執行により被担保債権の弁済がされた場合と同じ利益を受けられるのに、あえて自分の意思により供託を受諾しないのであるから、仮執行宣言制度の趣旨、控訴に伴う執行停止の担保の目的及び当事者の公平の観点からすれば、仮執行に寄り被担保債権の弁済がされた場合、すなわち被担保債権の発生の可能性がなくなった場合と同視して、担保供与の必要性が消滅し、担保の事由が消滅したものと判断した。
主文 当庁平成21年(モ)第731号強制執行停止申立事件について、申立人が平成21年6月5日大阪法務局に1億円を供託して立てた担保(平成21年度金第4387号)はこれを取り消す。
解説
民訴法405条2項により準用される同法79条1項にいう「担保の事由が消滅したこと」とは、担保供与の必要性が消滅したこと、すなわち、被担保債権が発生しないこと又はその発生の可能性がなくなったことをいい、上訴に伴う執行停止の場合については、その後の訴訟手続において担保提供者の勝訴判決が確定した場合又はそれと同視すべき場合をいう。(最高裁H13.12.13)

ここでいう被担保債権とは、勝訴した原告が仮執行をすることができなかったことによって被ることのあるべき損害の賠償請求権。(最高裁昭和43.6.21)

担保の事由が消滅したというためには、必ずしも担保提供者の勝訴判決が確定したことが必要ではなく、例えば、担保を提供したが既に仮執行が完了していたためにその停止、取消しをすることができなかったときも、被担保債権発生の余地がないから被担保債権発生の余地がないから担保消滅事由にあたると解されている。


債務者が弁済供託をしても、債権者が受諾しない以上、債務者は供託の取戻しができ、債権の絶対的消滅の効力は生じない。
一方、仮執行の宣言は、その宣言又は本案判決を変更する判決の言い渡しにより変更の限度においてその効力を失い(民訴法260条1項)、本案判決を変更する場合には、裁判所は、被告の申立てにより、その判決において、仮執行の宣言に基づき被告が給付したものの返還及び仮執行により又はこれを免れるために被告が受けた損害の賠償を原告に命じなければならない。(同条2項)

原告は、供託金の還付を受ければ、後日本案判決が変更された場合に、民訴法260条2項による給付の返還及び損害賠償として、受領した金銭に民法所定の年5分の割合による遅延損害金を付して被告に返還しなければならない。
but
本判決は、そのようなおそれは未確定の判決に執行力を付与する仮執行宣言の申立てをしたYが自らの危険において負担すべきものと判断。


本案訴訟は、会社の代表取締役の相続財産の破産管財人が、代表取締役が会社に対する債務の物上保証をした行為を無償否認した事案。

判決では、金融機関の与信が破産者による保証ないし物上保証と同時交換的にされた場合であっても、破産者のした担保提供行為は無償否認の対象となると判断された。

破産法 第160条(破産債権者を害する行為の否認) 
3 破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。

破産法160条3項にいう無償行為について、
判例(最高裁昭和62.7.3)は
@破産者が義務なくして他人のためにした担保の供与は、債権者の主たる債務者に対する出捐の直接的な原因をなす場合であっても、破産者がその行為の対価として経済的利益を受けない限り、同項にいう無償行為に当たる
Aいわゆる同族会社の代表者で実質的な経営者でもある破産者が当該会社のために担保の供与をしたことを直接の原因として、債権者が当該会社に対して出捐をしても、破産者がその行為の対価として経済的利益を受けない場合には、その行為は、同項にいう無償行為に当たる。
■民事p93 名古屋地裁H23.2.8 成人の責任無能力者の加害行為につき、同居する親の民法714条の損害賠償責任が否定された事例
事案 AはBを被告として、不法行為に基づく損害賠償を請求。
Bが責任無能力であるとして、請求棄却。
Aの相続人であるXらは、責任無能力者であるBの同居の実父母であるYらに対し、民法714条2項の責任があるとして、損害賠償を請求。
規定 第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。
判断 Yらは、Bを監督する法定の義務ある者に該当しないが、Bを保護監督すべき具体的必要性がある場合に限り、責任無能力者の監督義務者に準じて、民法714条の責任を負う。
Bは知的障害を伴う自閉症であったが、YらがBを保護監督すべき必要性があったとは認められず、Xらは、Yらに対し、民法714条1項又は2項に基づく損害賠償を請求することはできない。
⇒請求棄却。
解説 最高裁昭和58.2.24:
成人の精神障害者の両親であっても、事実上監督し、かつ、他人に危害を与える危険性がある場合には、民法714条の責任を負うものとされる。
■民事p96 横浜地裁H22.11.30 金銭消費貸借契約に「利息制限法の制限利息の支払を遅延したときに期限の利益を喪失する」旨の特約がある場合において、利息制限法所定の利率を超える利息の支払について、平成18年法律第115号による改正前の貸金業の規制等に関する法律43条1項が規定するみなし弁済の適用がないとされた事例。
事案 最高裁H18.1.13:
債務者が利息制限法所定の制限をを超える約定利息の支払を遅延したときは当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下での制限超過部分の支払については、特段の事情がない限り、平成18年法律第115号による改正前の貸金業の規制等に関する法律43条1項の「任意」の支払とはいえないと判示。

Yは、同判決後期限の利益喪失特約を改め、
「利息制限法所定の制限利息の支払いを遅延したとき・・・・債務者は期限の利益を失う」という記載内容に変えたほか、契約証書に利息制限法1条及び4条の定めを抜粋して挿入し、その後にAとの間で取引を開始。
判断 ●貸金業法17条1項の記載事項の明確性

最高裁H18.1.24を引用し、貸金業法17条1項所定の事項の記載が正確でないときや明確でないときも貸金業法43条1項の規定の適用要件を欠く

本件の記載のみでは、法律知識に乏しいAにとって、具体的な返済額が分かるものではない。
そして、毎月の具体的な返済額が期限の利益を喪失するという重大な法律効果と結びついている

Aにとって、その額を知る必要が極めて高いところ、・・償還表には制限利率による利息額の記載がない。

本件契約の弁済充当に関する特約によれば、弁済金は、約定利息にまず充当すべき旨が定められているのであって、支払期日に約定の元本額と利息の制限額の合計額を支払ったとしても、弁済充当に関する特約が文言どおりに適用されるのであれば、約定の元本中約定利息充当額の弁済を欠くものとして、期限の利益を喪失し、残元金を一括して支払い、これに対する遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解を与える記載。

以上、本件期限の利益喪失特約は、記載の明確性の要件を欠き、貸金業法43条1項の適用要件を欠く。

●支払の任意性

Aの支払に任意性は認められない。

@償還表には約利息額のみ記載・・・法律知識の乏しい債務者にとっては、同償還表の支払予定額を支払わないと契約上の不利益を受けるものと誤解することがあり得る。
A・・借換えであり・・期限の利益喪失特約の内容が旧契約とは異なるものになったこと及びその趣旨を明確に説明しなければ、約定利息を支払わない限り期限の利益を喪失するとの誤解を与えるおそれが解消されたとはいえず、本件ではこのような説明が行われたとはいえない。
解説 利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞した時には当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下での制限超過部分の支払については、特段の事情がない限り、支払の任意性が認められない。(最高裁H18.1.13)

通常、債務者に対し、支払期日に制限超過部分を含む約定利息を喪失するとの誤解を与えるので、この不利益を回避するため、債務者に、制限超過部分を支払うことを事実上強制することになる。

本件期限の利益喪失特約は、その記載だけからすれば、制限超過部分を含む約定利息の支払を強制するものではないが、本判決は、貸金業法43条1項の適用を否定。
■民事p103 長野地裁上田支部H23.1.14 自殺した高校生の母及びその受任弁護士が、同校の校長を告訴したり、記者会見によりその名誉を棄損したとして、共同不法行為により慰謝料の支払及び謝罪広告が命じられた事例
規定 民法 第723条(名誉毀損における原状回復)
他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる
判断 本件告訴状記載のようなXのAに対する殺人罪及び名誉棄損の嫌疑をかけうる客観的根拠は認められないから、これらの事実を確認せずになした本件告訴は違法であり、この行為及びこれに伴うYらの行為は共同不法行為と評価することができること、したがって、Yらの本件不法行為により被ったXの精神的苦痛に対する慰謝料請求が認められる外に、名誉回復の措置として新聞紙上に謝罪広告の掲載を必要とする旨判示。
主文 ・・・・
2.被告乙山花子は、原告に対し、前記信濃毎日新聞の全県版朝刊社会面広告欄に、別紙1記載の謝罪広告を別紙3記載の条件で1回掲載せよ。
3.・・・
■知財p117 知財高裁H23.3.23 控訴人(社団法人)が映画のシナリオである本件脚本を年鑑シナリオ集へ収録して出版することについて、映画の原作小説を著作した被控訴人が許諾を与えないことは、正当な権利行使の範囲内のものであって、権利濫用には当たらないと判断された事例
事案 年鑑シナリオ集を発行しているX2と、本件小説を原作とする本件映画の製作のために本件脚本を執筆したX1が、本件小説の著作者であるYに対し、本件脚本の年鑑シナリオ集への収録及びその出版についてYが許諾を与えなかったことが権利濫用に当たると主張し、X2においては、原審での出版妨害禁止請求を維持するとともに、Xらにおいては原審での訴えの一部を取り下げて、出版差止請求権不存在確認請求に係る訴えを追加。
規定 著作権法 第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)
二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

著作権法 第112条(差止請求権) 
著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物、侵害の行為によつて作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具の廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求することができる。

著作権法 第79条(出版権の設定)
第二十一条に規定する権利を有する者(以下この章において「複製権者」という。)は、その著作物を文書又は図画として出版することを引き受ける者に対し、出版権を設定することができる。

民法 第1条(基本原則) 
私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。

著作権法 第80条(出版権の内容)
出版権者は、設定行為で定めるところにより、頒布の目的をもつて、その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利を専有する。
判断 @X1の差止請求権不存在確認の訴えについては、訴えの利益を欠くとして却下。
AX2の本件脚本の収録出版に係る妨害排除請求及び差止請求権不存在確認請求については、Yが右許諾を与えないことが権利濫用には当たらないと判断し、妨害排除請求に係る本件控訴を棄却し、追加された差止請求権不存在確認請求を棄却。
解説 権利濫用の効果としては、原則として、その権利自体が消滅するのではなく、単にその行使が許されないことになる。

本件脚本の収録出版に係る妨害排除請求をしているX2としては、単にYの許諾拒否が権利濫用に当たると主張したのみでは、右妨害排除請求権は発生し得ず、主張自体失当。

X2は請求原因として、出版権(著作権法79条1項、112条1項)に基づく妨害排除請求権を主張。
but出版権設定行為で定めることにより、頒布の目的をもって、その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利を専有する権利(著作権法80条)

第三者が本件脚本を複製して出版することに対しては、出版権に基づきこれを差し止める余地があるものの、X2自身が本件脚本を本件書籍に収録して出版することを第三者が妨害しないようにと求める法的根拠にはならない。
(なお、著作物の映画化を妨害する行為であっても、それが著作物の二次的著作物に関する権利の内容たる行為に当たらない場合には、その権利を侵害しているとはいえないとして、同権利に基づき妨害行為の差止めを求める仮処分申請を却下した横浜地裁昭和60.10.29)

権利濫用の訴訟上の位置付けについて、
差止め請求権不存在確認請求においては、不存在確認の対象となる権利が特定されていれば請求原因としては足り、その差止請求権の存在はYの主張立証責任に属する抗弁事実であり、Yが抗弁として著作権法28条、112条1項に基づく差止請求権を主張することが権利濫用であるとのXらの主張は、再抗弁に位置づけられる。

権利濫用の判断基準としては、客観的な利益衡量に重点を置くと、強い者が既成事実を作ってしまえば勝ちになるとの不公正を生じさせるとの考慮から、関係当事者の主観的容態と客観的利益衡量の両面を総合的に考察することによって、権利濫用となるか否かを判断すべきとの考えが有力になってきている。
■知財p129 東京地裁H22.9.30 被告が販売するTシャツなどに付した「 」(ピースマーク)と類似する図形標章について、被告の登録商標を基調としたキャラクター図形の背景の一部として模様的に描かれており、「ピースマーク」として「平和」を表現するために用いられたものと認識され、商品の出所を想起させるものではないとして、商標的使用該当性が否定された事例(ピースマーク事件)
事案 Xは、Yが本件登録商標に類似する標章を付したTシャツ等を販売し、Xの商標権を侵害した旨主張して、Yに対し、被告各標章を付したTシャツ等の販売等の差止め及び損害賠償を求めた。
規定 商標法 第3条(商標登録の要件)
自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標法
二 その商品又は役務について慣用されている商標法
三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標法
四 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標法
五 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標法
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標法
2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

第2条(定義等)
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
三 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為
四 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
五 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
六 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
七 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
判断 被告各商品における被告各標章の使用は、本来の商標としての使用(商標的使用)に当たらない

・・・これらのキャラクター図形等の背景の一部として模様的に描かれた被告各標章については、「ピースマーク」として「平和」を表現するために用いられたものと認識し、商品の出所を想起させるものではないと認められる。
・・これらの若者層以外の一般消費者においても、被告各標章については、「ピースマーク」として「平和」を表現するために用いられたものと認識し、商品の出所を想起させるものではないものと認められる。
検討 商標的使用とは、商標の本質的機能である出所表示機能・出所識別機能を問題とするもの。
商標の本質は、当該商標を使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの(商標法3条2項)として機能すること。

すなわち、商品又は役務の出所を表示し、識別する標識として機能することにある。

商標がこのような出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているといえない場合には、形式的には同条2条3項各号に掲げる行為に該当するとしても、当該行為は、商標の「使用」に当たらないと解され、そのような場合には商標権侵害に当たらないものとされる。

本件は商標的使用該当性を否定。
2108
2108 ■p3最高裁H23.3.23 1.衆議院小選挙区選出議員の選挙についてのいわゆる1人別枠方式を含む区割基準を定める衆議院議員選挙区画定審議会設置法3条及び同基準に従って選挙区割りを定める公職選挙法13条1項別表第1の規定の合憲性
2.衆議院小選挙区選出議員の選挙において候補者届出正当に選挙運動を認める公職選挙法の規定の合憲性
事案 東京都内の選挙区の選挙人であるXらが、衆議院小選挙区選出議員の選挙の選挙区割り及び選挙運動に係る公職選挙法の規定は憲法に違反し無効であるから、これに基づき施行された本件選挙の右各選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟。
争点 @1人別枠方式を含む本件区割基準を定める本件区割基準規定及び本件選挙区割りを定める本件区割り規定が憲法14条1項等に違反するか。
A小選挙区選挙における候補者の届出は、所定の要件を備えた政党その他の政治団体又は候補者若しくはその推薦人が行うものとされ、候補者の届出をした政党その他の政治団体は、候補者本人がする選挙運動とは別に選挙運動をすることができるものとされている。⇒このような選挙運動上の差異を生じさせている公職選挙法の規定が憲法14条1項等に違反しないか。
判断 争点@について
区画審設置法3条1項において、選挙区の改正案の作成につき、選挙区間の人口の最大格差が2倍未満になるように区割りをすることを基本としていることは、投票価値の平等に配慮した合理的な基準を定めたもの。

議員は、いずれの地域の選挙区から選出されたかを問わず、全国民が代表して国政に関与することが要請されているのであり、相対的に人口の少ない地域に対する配慮はそのような活動の中で全国的な視野から法律の制定等に当たって考慮されるべき事柄であって、地域性に係る問題のために、殊更にある地域の選挙人と他の地域の選挙人との間に投票価値の不平等を生じさせるだけの合理性があるとはいい難い。

1人別枠方式の意義については、新しい選挙制度を導入するに当たり、直ちに人口比例のみに基づいて各都道府県への定数の配分を行った場合には、人口の少ない県における定数が急激かつ大幅に削減されることになるため、国政における安定性、連続性の確保を図る必要があると考えられたこと、何よりもこの点への配慮なくしては選挙制度の改革の実現自体が困難であったと認められる状況の下で採られた方策である。

1人別枠方式は、おのずからその合理性に時間的限界があるものというべきであり、新しい選挙制度が定着し、安定した運用がされるようになった段階においては、その合理性は失われる。

本件区割基準のうち1人別枠方式に係る部分は、遅くとも本件選挙時においては、その立法当時の合理性は失われ、それ自体、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた。

上記の状態にあった1人別枠方式を含む本件区割基準に基づいて定められた本件選挙区割りもまた、本件選挙時において、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた

最高裁H19.6.13において、平成17年の総選挙の時点における1人別枠方式を含む本件区割基準及び本件選挙区割りについて、いずれも憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていない旨の判断が示されていたことなどを考慮すると、本件選挙までの間にその是正がされなかったことをもって、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったものということはできない

本件区割基準規定及び本件区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない。

衆議院は、その権能、議員の任期及び解散制度の存続等に鑑み、常に的確に国民の意思を反映するものであることが求められており、投票価値の平等についてもより厳格な要請がある。

事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内に、できるだけ速やかに本件区割基準中の1人別枠方式を廃止し、区画審設置法3条1項の趣旨に沿って本件区割規定を改正するなど、投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要がある。

争点Aについて
小選挙区選挙においては、候補者のほか、所定の実績を有する政党等のみがなることができる候補者届出政党にも選挙活動を認めることとされているが、このような立法政策には、選挙制度を政策本位、政党本位のものとするという国会が正当に効力できる政策的目的ないし理由に照らして相応の合理性が認められ、これが国会の裁量権の限界を超えるものとは解されない。

候補者と並んで候補者届出政党にも選挙運動を認めることが是認される以上、候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間に選挙活動の上で差異を生ずることは避け難いところであるからその差異が合理性を有するとは考えられない程度に達している場合に、初めてそのような差異を設けることが国会の裁量の範囲を逸脱するというべきである。
■行政p21 大阪高裁H22.9.9 1.タクシー運賃及び料金の値下変更申請が道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合しないとして却下した行政処分が判決により取り消された後に、再度の審査により右申請が右基準に適合しないとして却下した行政処分が、右判決の拘束力に抵触せず、行政裁量権の逸脱又は濫用に当たらないとされた事例
2.右の再度の却下処分が行政裁量権の逸脱又は濫用に当たらないことを前提に、右申請を認可すべき義務付けの訴えが不適法とされた事例
事案 近畿運輸局長に対し、タクシー初乗り運賃を480円に値下げする等の運賃及び料金kの変更認可申請をしたところ、同局長から「申請のあった一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の変更認可申請については、道路運送法9条の3第2項3号に適合しない」との記載理由のみで申請却下処分。
⇒Xは、前却下処分の取消及び申請に応じた運賃等変更の許可処分の義務付けを請求をする行政訴訟を提起。

大阪地裁は、同却下処分取消請求のみを認容する終局判決をし、義務付けの訴えについては行訴法37条の3第6項前段により終局判決をしなかった。


判決を受けて、近畿運輸局長は、Xの申請を改めて審査し、再度申請を却下する処分。

Xは本件処分の取消及び国賠法1条1項に基づく損害賠償を請求する訴訟を提起し、前判決では残されていた義務付けの訴えを追加的に提起。

原審判決は、本件処分の取消及び認可処分の義務付けを認容し、20万円の国賠も認容。
規定 行政事件訴訟法 第37条の3
3 第一項の義務付けの訴えを提起するときは、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める訴えをその義務付けの訴えに併合して提起しなければならない。この場合において、当該各号に定める訴えに係る訴訟の管轄について他の法律に特別の定めがあるときは、当該義務付けの訴えに係る訴訟の管轄は、第三十八条第一項において準用する第十二条の規定にかかわらず、その定めに従う。
一 第一項第一号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る不作為の違法確認の訴え
二 第一項第二号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認の訴え

4 前項の規定により併合して提起された義務付けの訴え及び同項各号に定める訴えに係る弁論及び裁判は、分離しないでしなければならない。

6 第四項の規定にかかわらず、裁判所は、審理の状況その他の事情を考慮して、第三項各号に定める訴えについてのみ終局判決をすることがより迅速な争訟の解決に資すると認めるときは、当該訴えについてのみ終局判決をすることができる。この場合において、裁判所は、当該訴えについてのみ終局判決をしたときは、当事者の意見を聴いて、当該訴えに係る訴訟手続が完結するまでの間、義務付けの訴えに係る訴訟手続を中止することができる。

行政事件訴訟法 第33条
処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。
2 申請を却下し若しくは棄却した処分又は審査請求を却下し若しくは棄却した裁決が判決により取り消されたときは、その処分又は裁決をした行政庁は、判決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分又は審査請求に対する裁決をしなければならない。
3 前項の規定は、申請に基づいてした処分又は審査請求を認容した裁決が判決により手続に違法があることを理由として取り消された場合に準用する。
争点 @前判決の拘束力が再度の本件再却下処分に対して具体的にどのような範囲で及ぶか
A本件再却下処分に行政裁量権の逸脱・濫用があるか否か
B義務付けの訴えの適否は本件の口頭弁論終結時に施行されていた特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法による審査基準公示によって判断することが可能か。
判断 道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」とは、過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれをいい、そのようなおそれのある運賃に該当するか否かは、(A)当該運賃が能率的な経営の下における適正な原価を下回るものであるか否かという観点、(B)当該事業者市場での位置付け、(C)当該運賃を設定する意図等を総合的に勘案して判断。

近畿運輸局長の本件再却下処分が考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して判断したか否か、また、その判断が合理性を持つ判断として許容される限度を超えた不当なものか否かの観点から、各具体的事由や考慮事項について事実認定して検討し、本件再却下処分が裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たらないとし、原判決を取り消し、行政処分取消請求を棄却し、その判断等を前提として義務付け訴訟の却下及び国賠請求を棄却。
解説 行訴法33条は、行政処分又は裁決取消判決が確定した場合、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係官庁を拘束する旨規定。

本条により創設された特殊な効力。

その効果:
@同一事情の下で同一理由に基づいて同一内容の行政処分を行うことが禁止。
A行政庁が取消判決の趣旨に従ってあらためて措置をとるべき義務が生じること。
〜本件事案のように申請等却下などの拒否処分をした場合は、新たな再申請を待たずに、行政庁には再度行政処分を行う義務がある。

行政処分取消判決の拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるもの。(最高裁H4.4.28)

行政処分のやり直しをするには、判決理由の指摘する判断基準の内容的違法(法的基準の解釈自体や利益衡量の誤り、事実認定の誤り等)や手続的違法(処分庁の機関構成、他の関係機関の承認や意見聴取等の欠缺、理由不備等行為の方式、表示に関する瑕疵)について適切に理解した上でなされることが必要。

再度の行政処分は、前の処分取消訴訟の口頭弁論終結時までに提出できたのに提出しなかった理由によって行政庁が同一の結論の処分を行うことは信義則上問題となるが、行政取消訴訟において理由の差替えがどの程度許されるかの議論もある。
少なくとも、取消訴訟において差替えが認められなかった異なる理由によって、処分取消判決確定後に、同一結論の処分を行うことは許されるとj解されている。


行政裁量行為の違法性判断:
最高裁H4.10.29などが行政裁量統制の方法基準として採用しているように、@裁量基準の合理性及びA裁量基準のあてはめ(具体的事実認定、審査の方法・手続)の合理性という2段階の要件の充足を求めるのが実務の大勢。
■行政p38 東京地裁H22.9.29 1.出訴期間内に訴え提起があったものと同視できるか、少なくとも出訴期間を遵守することができなかったことにつき「正当な理由」があるとされた事例
2.家屋に設置された昇降機設備が当該家屋と一体のものではないことを理由として固定資産課税台帳に登録された当該家屋の価格の減額を求める審査の申出を固定資産評価審査委員会に対してできるとされた事例
事案 本件家屋の所有者であるXが、
@Y(代表者東京都知事)に対し、処分行政庁(東京都新宿都税事務所長)がした本件家屋にかかる平成20年度の固定資産税賦課決定処分及び都市計画税賦課決定処分につき、本件家屋に設置された昇降機設備の所有者はXではなく第三者であるのに、昇降機設備の価格を含めた上でされた本件家屋の価格評価は不適正であると主張し、本件各処分の取消しを求める訴え(A事件)と、
AY(代表者東京都固定資産評価審査委員会)に対し、本件家屋に設置された昇降機設備は本件家屋と一体のものではなく本件家屋に含まれないことを理由に、本件家屋にかかる平成20年度固定資産課税台帳に登録された価格の見直しを求めて、地方税法432条1項の規定に基づき審査の申出をしたのに、審査の申出ができる事項に該当しないとして裁決行政庁がこれを却下する旨の決定(本件決定)をしたことが違法である旨主張して、本件決定の取消しを求める訴え(B事件)が選択的に併合された事案。
B事件は、本件決定の決定書受領後6カ月を超えた後、行政事件訴訟法19条1項の規定に基づき追加的に併合して提起された。
規定 行政事件訴訟法 第19条(原告による請求の追加的併合)
原告は、取消訴訟の口頭弁論の終結に至るまで関連請求に係る訴えをこれに併合して提起することができる。この場合において、当該取消訴訟が高等裁判所に係属しているときは、第十六条第二項の規定を準用する。
2 前項の規定は、取消訴訟について民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第百四十三条の規定の例によることを妨げない。

行政事件訴訟法 第20条
前条第一項前段の規定により、処分の取消しの訴えをその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えに併合して提起する場合には、同項後段において準用する第十六条第二項の規定にかかわらず、処分の取消しの訴えの被告の同意を得ることを要せず、また、その提起があつたときは、出訴期間の遵守については、処分の取消しの訴えは、裁決の取消しの訴えを提起した時に提起されたものとみなす

行政事件訴訟法 第14条(出訴期間)
取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
2 取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
3 処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があつたときは、処分又は裁決に係る取消訴訟は、その審査請求をした者については、前二項の規定にかかわらず、これに対する裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したとき又は当該裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
判断 @B事件の訴えは出訴期間を徒過した不適法なものか否か:

本件の事実関係に基づき、行政事件訴訟法20条の趣旨にも鑑みて検討すれば、B事件の訴えは、A事件の訴えの提起と同時に提起されたものと同視すべきであり、少なくとも、出訴期間を遵守することができなかったことにつき同法14条1項但書の「正当な理由」があるものというべき。
⇒Bの訴えは適法。

A審査申出事項について不服がある場合に当たるか否か

本件審査申出は審査申出事項について不服がある場合に当たるとの判断を示し、B事件の請求を認容して本件決定を取り消した。
解説 争点@について
訴えの変更は、変更後の新請求については新たな訴えの提起にほかならず、新訴につき出訴期間の制限がある場合には、行政事件訴訟法20条のような特別の規定がない限り、出訴期間の遵守の有無は、変更前後の請求の間に訴訟物の同一性が認められるとき又は両者の間に損する関係から変更後の新請求に係る訴えを当初の訴えの提起の時に提起されたものと同視し出訴期間の遵守において欠けるところがないと解すべき特段の事情があるときを除き、訴えの変更の時を基準にこれを決しなければならないとするのが判例(最高裁昭和61.2.24)。

行政事件訴訟法19条1項による追加的併合提起の場合も同様に解することになる。
■民事p45 最高裁H23.2.25 適切な医療行為を受ける期待権の侵害のみを理由とする整形外科医の不法行為責任の有無を検討する余地がないとされた事例
事案 XがY2は医療水準にかなった適切かつ真摯な医療行為を行わなかったので、Xはそのような医療行為を受ける期待権を侵害されたとして、Y1及びY2に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた。
判断 整形外科医が、自ら執刀した下肢の骨接合術等の手術後の合併症として下肢深部静脈血栓症を発症しその後遺症が残った患者につき、その訴えた足の腫れ等の症状の原因が同血栓症にあることを疑うには至らず、血管疾患を扱う専門医を紹介するなどしなかったとしても、
@上記患者は、上記手術等時に装着されたボルトの抜釘後は、手術後約9年間を経過した後の診察時まで、上記症状を訴えることはなかった、
A上記整形外科医は、上記診察時の訴えに対し、レントゲン検査等を行うなどした
B上記診察当時、下肢の手術に伴う深部静脈血栓症の発症の頻度が高いことが我が国の整形外科医において一般に認識されていたわけではなかった
など判示の事実関係の下では、上記整形外科医の医療行為が著しく不適切なものであったということはできず、上記整形外科医につき、適切な医療行為を受ける期待権の侵害のみを理由とする不法行為責任の有無を検討する余地はない

Yら敗訴部分を破棄し、Xの控訴を棄却。
解説 死亡等との間の因果関係が立証されない場合の損害賠償責任
最高裁H12.9.22:
疾病のため死亡した患者の診療に当たった医師の医療行為が、その過失により、当時の医療水準にかなったものでなかった場合において、右医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者に対し、不法行為による損害を賠償する責任を負う。

慰謝料200万円を認容した原審の判断を是認。

重大な後遺症が残った事案の場合にも、平成12年判決の法理が適用される。(最高裁H15.11.11)
この法理は、債務不履行責任にも適用される。(最高裁H16.1.15)

@患者がその死亡の時点におおいてなお生存していた「高度の蓋然性」の立証がされた場合
A患者がその死亡の時点においてなお生存していた「相当程度の可能性」の立証がされた場合
B@もAも立証されない場合。

最高裁H17.12.8事件の補足・反対意見で見解分かれる。

本判決:
「患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に、医師が、患者に対して、適切な医療行為を受ける期待権の侵害のみを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否かは、当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまるべきものである」と判示。

「当該医療行為が著しく不適切なものである事案」とは
「(医師の医療行為が)著しく不適切不十分な場合」(平成17年判決島田裁判官補足意見)
「医師の検査、治療等が医療行為の名に値しないような例外的な場合(同判決才口裁判官の補足意見)」
を収斂。

そのような場合に、直ちに期待権侵害のみを理由とする不法行為責任が認められるというのではなく、「検討し得るにとどまる」。

そのような事案において初めて、期待権侵害のみを理由とする不法行為責任の有無という法律問題を議論する前提が整う。
■民事p52 最高裁H23.2.22 「相続させる」旨の遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合における当該遺言の効力
事案 被相続人Aの子であるXが、遺産の全部をAのもう1人の子であるBに相続させる旨のAの遺言は、BがAより先に死亡したことにより効力を生じないこととなり、XがAの遺産につき法定相続分に相当する持分を取得したと主張して、Bの子であるYら、すなわちAの代襲相続人らに対し、Aがその死亡時に持分を有していた不動産につきXが右法定相続分に相当する持分等を有することの確認を求めた事案。
規定 民法 第994条(受遺者の死亡による遺贈の失効)
遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない
2 停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
原審 遺言は、遺言者の死亡時からその効力を生じる
⇒遺言者の死亡時に受遺者又は遺言により財産を承継するとされた者が存在することが必要であるのは当然。
⇒遺言者が遺言により遺産分割方法の指定をしても、その対象となった相続人が遺言者の死亡以前に死亡していた場合には、その遺言は効力を生じないこととなる。

そのような場合でも、当該遺言の趣旨として、当該相続人の代襲相続人にその効力を及ぼす旨を定めていると解釈できれば、当該遺言の効力は認められるが、それは遺言の解釈の問題。

本件では、A死亡以前にBが死亡した場合にBの子であるYらに本件遺言の効力を及ぼす趣旨を読み取ることはできない。
⇒Xの請求を認容。
判断 上告受理の申立てを受理し、上告を棄却した。

「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺言を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限りその効力を生ずることはないと解するのが相当である。
解説
特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言の法的性質

最高裁H3.4.19:
遺贈とすべき特段の事情がなければ当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきであり、この場合には、特段の事情のない限り、何らの行為を要せずに当該遺産は被相続人死亡時に直ちに相続に寄り承継される。

被相続人が「全ての遺産」を相続人のうちの1人に相続させる旨の遺言をした場合についても同判決の趣旨が及ぶと考えられており、この場合には、遺産分割方法の指定と併せて、当該相続人の相続分を全部とする相続分の指定の趣旨も含まれていると解する。


遺言の法的性質が「遺贈」⇒被相続人の死亡以前に当該遺言で相続させると指定された者(受遺者)が死亡してしまった場合には、民法994条1項により、当該遺言はその効力を生じないこととなる。

当該遺言が遺産分割の方法の指定である場合に同様の事態が生じたときの遺言の効力については、明文規定はない。

理論上は、@遺贈の場合と同じく当該遺言は効力を生じないと解することも、A遺贈の場合と異なり当該相続人の子らが代襲相続すると解することも考えられる。

遺言をする者は、一般に、各推定相続人との関係につき諸般の事情を考慮して遺言をするものであり、このことは、「相続させる」旨の遺言がされる場合であっても異なるものではない

「相続させる」旨の遺言をした遺言者は、特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するということはできるが、それを超えて、当該推定相続人が自分より先に死亡した場合についての意思まで一般的に推し量ることは困難。


弁護士等は「相続させる」と指定した推定相続人の方が遺言者より先に死亡する事態を想定した補充規定を置くことに常に留意することが期待される。
■民事p57 東京高裁H21.10.15 合意で性交渉をした、合意で妊娠中絶手術を行った男女間において、男性が女性の身体的、精神的苦痛や経済的不利益を軽減し、解消するための行為をしないことが不法行為に該当するとされた事例
事案 XはYに対し、Yは妊娠及び中絶に関して条理上の責任を負うなどと主張し、治療費、慰謝料など合計905万円余の損害賠償を請求。
原審 XとYは合意の上性行為を行ったものであるが、妊娠後の出産又は中絶は、主にXに精神的・肉体的な苦痛や負担を与えるものであるから、Yは、これを軽減しあるいは解消するための行為を行う義務がある
⇒Yはその義務を履行していないのであるから、Xの損害(慰謝料、治療費、弁護士費用)の2分の1を賠償するのが相当である。
判断 妊娠したXが、人工的に胎児を母体外に排出する道を選択せざるを得ない場合においては、直接的に身体的及び精神的苦痛にさらされるとともに、経済的負担をせざるを得ないが、これらの苦痛は、XとYとの共同の性行為に由来するものであるから、XとYが等しくその不利益を負担すべき筋合いのものであるとした上、Yがその不利益を分担しない行為は、法律上保護された利益を違法に侵害するものとして、Xに対する不法行為を構成すると判断して、一審判決は相当であるとして、X、Yの控訴及び付帯控訴をいずれも棄却。
■民事p65 知財高裁H22.5.26 ドイツ法人の販売代理店の元代表者が退職後設立した会社とドイツ法人との間で販売代理店契約が締結された場合において、元代表者に対し、同一事業への従事の禁止や取引先への連絡の禁止等を求めることはできないとされた事例
事案 Xは、自ら又は子会社を介し、ドイツ法人A社の日本での唯一の販売代理店として、包装機械及びその部品の輸入販売並びにアフターサービス等を提供する事業を行う会社。
Y1は、その代表取締役や常勤顧問を務めた者。

Y1は、Xを退社後、Y2社を設立し代表取締役を務めているが、Y2において新たにA社の販売代理店となって本件事業を行うようになった。

Xが、Y1との間の営業秘密保持義務及び業務上の機密保持義務の対象であり、不正競争防止法2条6項所定の営業秘密に該当すると主張して、以下の内容の差止めを求める事案。

(1) Y1に対し、@営業秘密保持義務(又はこれに含まれる同一事業禁止義務若しくは信義則上同一事業が禁止されていること)に基づき、又はA不正競争防止法2条1項7号、3条に基づき、本件事業に従事することの差止め

(2)Y1に対し、右(1)Aに加えて、B業務上の機密保持義務に基づき、Y2の役員となり又はY2に勤務することの差止め。

(3)Y1に対し、@営業秘密保持義務に基づき、又はA不正競争防止法2条1項7号、3条に基づき、取引先に連絡すること及びアフターサービス等を提供することの差止め

(4)Y2に対し、不正競争防止法2条1項8号、3条に基づき、取引先に連絡すること及びアフターサービス等を提供することの差止め
規定 不正競争防止法 第2条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

七 営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為

八 その営業秘密について不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為

不正競争防止法 第2条(定義)
6 この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

不正競争防止法 第3条(差止請求権)
不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。第五条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。
原決定 本件情報1は、営業秘密保持義務の対象ではなく不正競争防止法2条6項の営業秘密にも該当しないし、Yらが本件情報2を取得、開示又は使用したことを認めるに足りないなどして、本件申立てを却下。
⇒Xが抗告
本決定 Xの抗告を棄却


Y2において、Y1がXから取得した取引先に関する本件情報1及び2の開示を受けたものと認めるに足りないし、A社がXとの契約を解除しY2と契約を締結したことについてY1が関与したことをうかがわせる事実はない。

Y1が営業秘密保持義務及び業務上の機密保持義務に違反したということはできないし、違反するおそれがあるということもできない。

Y1がXの代表取締役を務めたことからすると、取締役の善管注意義務(会社法350条)及び忠実義務(同法355条)の履行を確実ならしめる付随的義務として、誠実義務があると解する余地はあるが、本件においてそれを根拠に信義則上も同一事業が禁止されるとまで解すべき事情は認め難いし、同一事業への従事を無条件に禁止すべきであるということはできない。

同一事業への従事を禁止することにより保護されるXの利益及びその保護の必要性と、Y1が同一事業への従事を禁止されることによる職業選択の自由の制約による不利益を比較考量しても、本件事業への従事を禁止すべき理由は認め難い。


XからY1が取得したと主張する本件情報1及び2を、Yらが使用するおそれがあるということはできない。
⇒不正競争防止法についても理由なし。


Yらの行為が不正競争防止法2条1項7号又は8号に該当してこれによりXの営業上の利益が侵害されたと認められる場合であったとしても、本件情報1及び2の使用等侵害の停止又は予防を請求することは格別、Y1が本件事業に従事することや、Y2の役員となり又は勤務することの禁止は、差止請求権の実現に必要な範囲を超え、不正競争防止法3条2項にいう「侵害の停止又は予防に必要な行為」には当たるとはいえない旨を付言。
解説
退職者の競業避止義務について、会社法上、取締役が競業等を行う場合は株主総会の承認が必要であり(会社法366条)、善管注意義務(330条)及び忠実義務(355条)があるが、退職後の取締役の義務を直接規定するものはない。

競業避止義務を定めた合意がない場合、退任した取締役による営業活動と会社の営業との間に生ずる利害衝突については、原則は自由競争の結果に委ねられるべきであるが、退任取締役が信義則上の責任を負うべき場合もある。(東京地裁昭和45.7.23)

退職後2年間の競業避止義務を定める特約について、監査役であった者との特約は、競業行為を禁止することの合理的な理由が疎明されておらず競業行為の禁止される場合の制限がないなど、目的達成のために取られている競業行為の禁止措置の内容が必要最小限度であるとはいえず、競業行為禁止に寄り受ける不利益に対する十分な代償措置を執っているともいえないとして、公序良俗に反して無効であるが、代表取締役であった者との特約については、会社の営業秘密を取扱い得る地位にあったものとして有効であるとした裁判例がある。(東京地裁決H7.10.16)


不正競争防止法に基づく差止請求は、侵害の停止又は予防を請求できる(法3条1項)ほか、侵害の停止また予防に必要な行為を請求することができる(同条2項)。

同旨の規定は、特許法、実用新案法、意匠法、商標法、著作権法にもある。

侵害の停止又は予防に必要な行為は、侵害の行為を組成した物や侵害に供した設備を例示しているところ、「侵害の行為を組成した物」とは、侵害行為の必然的内容をなす物をいい、刑法19条1項1号の「犯罪行為を組成した物」に例えられ、「侵害の行為に供した設備」とは、侵害行為の便宜に供した物をいい、刑法19条1項2号の「犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物」に例えられる。


最高裁H11.7.16:
特許法に関するものであるが、特許法100条2項にいう「侵害の予防に必要な行為」について、
特許発明の内容、現に行われ又は将来行われるおそれがある侵害行為の態様、特許権者が行使する差止請求権の具体的内容等に照らし、差止請求権の行使を実効あらしめるものであって、かつ、差止請求権の実現のために必要な範囲内のものであることを要する旨判示。

本決定は、Xの求めた内容は、仮に不正競争行為が成立する場合であったとしても、これを超える過剰なものと評価すべきものであったことを付言している。

本件では、Yらの行為がXの営業秘密を侵害するような態様の行為ではないために、契約に基づく請求も不正競争防止法に基づく請求も棄却すべきものとされた。
■民事p72 大阪高裁H22.10.21 内縁の夫と内縁の妻との間で、両名が同居していた内妻の夫所有の建物にいついて、内縁の妻が死亡するまで同人に無償で使用させる旨の使用貸借契約が黙示的に成立していたとして、内縁の夫を相続した子から内縁の妻に対する右建物の明渡請求が棄却された事例
事案 内縁の夫の長女であり相続人である控訴人が、内縁の妻である被控訴人に対し、AとYとが同居していたA所有の建物について、所有権に基づき、建物明渡しを求めるとともに、明渡済みまでの賃料相当損害金の支払を求めた事案。
争点 @使用貸借契約の成否
A建物明渡請求の権利濫用該当性
原審 AがYに対し本件建物の使用借権を設定することは、円満な内縁関係にある当事者間においては、通常想定できることではない
⇒本件使用貸借契約の成立を否定。

・・・建物明渡請求を認容すると、Aが望んでいたYの生活利益を大きく損なうのに対し、これを認容しないとしても、Xの受ける不利益は大きくない
⇒建物明渡請求は権利の濫用に当たる。
判断 Aは平成16年頃Xをわざわざ本件建物に呼出し、同行したXの夫やY及びYの兄夫婦の前で、Xに対し、Aにもしものことがあったら、Yに本件建物をやり、そこに死ぬまでそのまま住まわせて、1500万円渡して欲しい旨申し渡している。

AがYを死ぬまで無償で本件建物無償で本件建物に住み続けさせる意思を有していたものと優に認めることができ、他方、Yにおいても、そのようなAの意向を拒否する理由は全くないと認められる。
⇒本件申渡しのあった平成16年ころには、AとYとの間で、黙示的に、Yが死亡するまで本件建物を無償で使用させる旨の本件使用貸借契約が成立していたものと認めるのが相当。

建物明渡請求及び賃料相当損害金請求をいずれも棄却。
解説 内縁の夫死亡後の内縁の妻の居住権の保護について:
@法定賃貸借関係説、A居住権説、B権利濫用説
現在、内縁の妻の居住権として使用借権を認める考え方も有力。

昭和39.10.13最高裁
権利濫用説を採用した控訴審判決(居住権説を採用して建物明渡請求を棄却した一審判決の結論を維持し、その理論構成を権利濫用説に改めたもの)を是認
⇒最高裁は、権利濫用説に立つものと理解。

最高裁H10.2.26:
使用借権説に親和的な判断を示しているが、本件のような事例で、使用借権説を正面から採用する最高裁判決は見当たらない。

権利濫用の構成⇒賃料相当損害金請求の問題は別に残り、同請求までが直ちに権利濫用として否定されるものではない。

所有権に基づく妨害排除請求が権利濫用であるとされた場合も、これによって所有者の所有権が否定されるわけではなく、妨害行為者の占有が以後適法な権原に基づくものになるわけでもない

所有権者は、無権原で占有を続ける者に対して、民法703条や民法709条の要件を満たす限り、不当利得返還請求や損害賠償請求ができる。


本判決は、賃料相当損害金請求を認めることも相当でない反面、これを権利の濫用と言う法律構成で、請求棄却の結論を導くことに困難を感じ、使用貸借契約の成立を認めることがむしろ相当な事案であるため、原審とは異なる法律構成を採用。
■民事p79 東京地裁H22.11.25 マンションの各戸の所有者が当該マンションの構造計算書の問題点を建築主事等が確認検査及び完了検査において看過したと主張して求めた建築主事等の所属する地方公共団体に対する国家賠償請求が棄却された事例
事案 4階建22戸のマンションの各戸を買い受けたXらが本件建物の構造計算書の問題点を建築主事等が確認検査(本件確認検査)及び完了検査(本件完了検査)において看過したと主張して建築主事の所属する地方公共団体Yに対し国賠請求をした事案。
判断
建築確認申請上設計者として表示されている一級建築士も共同被告とされているが、本判決は、同人に対する請求は、同人が破産手続開始の決定及び免責許可の決定を受け、免責許可の決定が確定していることを理由に棄却。


建築主事は、設計者である建築士に対する一定の信頼を前提として、建築確認審査を行うべき義務を負っており、建築基準関係規定に定められていない技術慣行については、建築基準関係規定ではない以上、原則として日本建築学会の定める基準を含めてこれを審査の基準とすべき義務はなかった。

完了検査については、建築主事としては、完了検査申請書に記載された工事監理状況に基づき、適正な管理が行われていることを前提として建築基準関係規定に違反しているか否かについて判断すれば足りる。

具体的事案の中、注意義務違反はない。
解説 構造計算につき建築主事の行った建築確認に係る地方公共団体の国家賠償責任を追及した訴訟について、責任を肯定したのは1件だけだったが、これも控訴審で取り消されて責任が否定された。
■民事p93 大阪地裁H22.11.29 うつ病治療中の税関職員が無断で、覚せい剤輸入罪の被疑者に同人の刑事事件の調査資料のフロッピーを送付し不安を与えたことにつき、資料管理者である税関職員に過失があるとして国家賠償責任が認められた事例
事案 X1が覚せい剤輸入罪の共犯として逮捕勾留された刑事事件等の調査資料が、税関職員Aにより流出したことに関して、X1が国(Y1)に対し、同調査資料の回収にあたった税関職員、刑事事件に関与した検察官、裁判官に違法な職務行為があると主張し、また、大阪府(Y2)に対し、右刑事事件と右調査資料の回収に関与したY2の警察官に違法な職務行為がある等と主張して、国賠請求を求めた。
解説 うつ病に罹患し治療中の税関職員が、無断で覚せい剤輸入罪の被疑者にその刑事事件の調査資料のフロッピーを郵送したことにつき、税関の同資料を保管する職員に保管上の過失があるとして、国の賠償責任を認めたもの。

しかし、被害が軽微であり、謝罪により解消され、また、その加害行為も悪質でないところから、認容された賠償額は極めて少額(2万5000円)。
■知財p116 知財高裁H22.12.22 発明の名称を「急性崩壊性多粒子状錠剤」とする特許権の存続期間延長登録出願に対して、医薬品についての処分が特許発明の実施に必要であったというためにはその処分によって特定される「物」、すなわち「有効成分」が特許発明の構成要件として明確に特定されていることを要するとした審決が取り消された事例
タケプロンOD錠事件知財高裁判決
事案 Xは、発明の名称を「急速崩壊性多粒子状錠剤」とする本件特許をA社から譲り受け、A社から専用実施権の設定を受けていたB社が受けた薬事法14条所定の承認に基づいて、特許権の存続期間延長登録の出願(特許法67条2項)を行ったが、拒絶査定を受け、これを不服とする審判請求。これに対し、特許庁は、医薬品についての処分が特許発明の実施に必要であったというためには、少なくともその処分によって特定される「物」、すなわち、「有効成分」が特許発明の構成要件として明確に特定されていることを要するとした上、本件特許発明では、どのような物質又は成分を使用するのかが特定されていないから、特許発明の実施に当該処分が必要であったとすることはできず、存続期間の延長登録出願が特許法67条の3第1項1号に該当するとして、審判が成り立たない旨判断

Xがその審決の取消しを求めた。
規定 特許法 第67条(存続期間)
特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。
2 特許権の存続期間は、その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であって当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があつたときは、五年を限度として、延長登録の出願により延長することができる。

特許法 第67条の3
審査官は、特許権の存続期間の延長登録の出願が次の各号の一に該当するときは、その出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
一 その特許発明の実施に第六十七条第二項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。

特許法 第68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)
特許権の存続期間が延長された場合(第六十七条の二第五項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となった第六十七条第二項の政令で定める処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない

特許法 第2条(定義)
3 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあっては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
二 方法の発明にあっては、その方法の使用をする行為
三 物を生産する方法の発明にあっては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
判断 Xの請求を認容

●特許法67条2項及び67条の3第1項1号の解釈

法67条2項の趣旨:
「特許発明の実施」について、同項所定の「政令で定める処分」を受けることが必要な場合には、特許権が存続していても、特許権者は特許発明を実施することができずにその利益を享受することが困難であり、いわば特許期間が侵食される事態が生ずるため、特許発明を実施することができる機関について、5年を限度として、特許権の存続期間を延長することとした。

「特許発明の実施」に「政令で定める処分」を受けることが必要であったと認められるためには、「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除される行為のうちに「特許権発明の実施」に当たる行為が存することが必要

例えば、薬事法14条所定の医薬品の製造の承認や医薬品の製造の承認事項の一部変更に係る承認である場合に、前記要件を充足するためには、薬事法14条所定の当該承認を受けることによって禁止が解除された医薬品の製造行為に、当該特許発明の実施に当たる部分がある必要。

●法68条の2の解釈

法68条の2の趣旨は、特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力は、その特許発明の全範囲に及ぶものではなく、「政令で定める処分の対象」となった「物」(その処分においてその物に使用される特定の用途が定められている場合にあっては、当該用途に使用されるその物)についてのみ及ぶというもの。

特許発明の実施がさまたげられる場合に存続期間の延長を認めるという特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨

●延長登録出願と特許請求の範囲
「政令で定める処分の対象」となった「物」又は「物及び用途」に限定して特許権の存続期間の延長が認められる

特許権の存続期間満了後に当該特許発明を実施しようとする第三者に対して不測の不利益を与えないという観点から、その存続期間の延長登録出願が適法であるためには、「政令で定める処分の対象」となった「物」又は「物及び用途」が、客観的に明確に記載され、かつ、当該特許発明に含まれるものであることが、「特許請求の範囲」を基準として「発明の詳細な説明」の記載に照らして認識できるものでなければならず、また、それで足りる。

存続期間の延長登録出願に際し、「政令で定める処分」を前提として、その対象となった「物」又は「物及び用途」が、客観的に明確に記載され、かつ、当該特許発明に含まれるものであることが、前記の手法に基づいて認識できるような場合には、当該「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除された行為に、「特許発明の実施」に当たる行為の部分があると客観的に判断することができる。

●本件延長登録出願
本件の承認を前提として、その対象となった「物及び用途」は客観的に明確に記載され、かつ、本件特許発明に明確に記載され、かつ、本件特許発明に含まれることが「特許請求の範囲」、「発明の詳細な説明」の各記載に基づいて認識できる

これに基づいて、本件の承認を受けることによって禁止が解除された行為に、本件特許発明の実施に当たる行為の部分があるか否かを客観的に判断することができる。
解説 解説
医薬品の剤型の特許について、含有される有効成分が特許請求の範囲に明示されていないことを理由に出願を拒絶した審決を取り消したもの。
■知財p127 知財高裁H22.12.15 1.指定商品を包装していな単なる包装紙等に標章を付する行為又は単に標章の電子データを作成若しくは保持する行為は、商標法2条3項1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」に当たらない。
2.標章を付した広告等が一般公衆による閲覧可能な状態に置かれていない場合には商標法2条3項8号所定の標章を付した広告の「頒布」に当たらない
事案 Yは商標を使用することなく6年以上が経過したが、平成21年3月30日に、Yが販売を予定していたLEDランプに使用することを決定し、同年4月6日に包装用容器のパッケージデザインを発注。
Xは平成21年4月14日、本件商標及び別件商標について不使用を理由とする登録の取消しを求める審判を請求し、当該請求は、同月30日に登録された。
規定 商標法 第50条(商標登録の取消しの審判)
継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。以下この条において同じ。)の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
2 前項の審判の請求があつた場合においては、その審判の請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない。ただし、その指定商品又は指定役務についてその登録商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。

商標法 第2条(定義等)
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
三 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為
四 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
五 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
六 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
七 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。次号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
解説 商標法50条1項は、商標権者等が継続して3年以上日本国内において登録商標を指定商品・役務に使用していないときは、何人もその商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる旨を規定。

同条2項は本文は、被請求人である商標権者等が登録商標の「使用」をしていることを証明しない限り、商標登録の取消しを免れないという形で、「使用」についての立証責任を転換している。

「使用」とは、商標法2条3項各号に列挙されたものをいうと定義されており、この列挙は、限定列挙と解されている。

他方で、商標法50条2項ただし書は、登録商標の不使用について「正当な理由」があることを被請求人が明らかにしたときは、商標登録が取り消されない旨を規定。
判断
商標法2条3項1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」とは、同号に並列して掲げられている「商品に標章を付する行為」と同視できる態様のもの、すなわち、指定商品を現実に包装したものに標章を付し又は標章を付した包装用紙等で指定商品を現実に包装するなどの行為をいうとして、「指定商品を包装していない単なる包装紙等に標章を付する行為又は単に標章の電子データを作成若しくは保持する行為は、標章法2条3項1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」に当たらない」


商標法2条3項8号所定の標章を付した広告等の「頒布」とは、同号に並列して掲げられている「展示」及び「電磁的方法により提供する行為」と同視でき態様のもの、すなわち、標章を付した広告等が一般公衆による閲覧可能な状態に置かれることをいうとして、「標章を付した広告等が一般公衆による閲覧可能な状態に置かれていない場合には、商標法2条3項8号所定の標章を付した広告の「頒布」に当たらないものと解するのが相当である」


「商標法50条2項ただし書にいう「正当な理由」とは、地震等の不可抗力によって生じた事由、第三者の故意又は過失によって生じた事由、法令による禁止等の公権力の発動に係る事由その他の商標権者、専用実施権者又は通常実施権者の責めに帰することができない事由が発生したために、商標権者等において、登録商標をその指定商品又は指定役務について使用することができなかった場合をいうと解するのが相当である」。
解説 商標法は、使用者の業務上の信用の維持や需要者の利益を保護することを目的(商標法1条)
登録商標が一般公衆による閲覧可能な状態に置かれるよりの前には、これらの業務上の信用は需要者の利益を観念することが困難。

本件のように、本件商標と社会通念上同一といえる標章を付した広告が掲載された本件情報誌を発送しただけでは、「頒布」があったとはいえず、それが小売店に配達された初めて、「頒布」があったものというべき。

商標法77条1項が準用する特許法3条1項本文によれば、期間の計算に当たって初日は参入されない
⇒右期間には審判の請求の登録日は含まれないと解するのが自然(尚、商標法50条3項対照)。
⇒本件においてYは、不使用取消しを免れるためには同年4月29日までに「頒布」をしていないければいけなかった。
■知財p135 東京地裁H22.9.10 小説を原作とする映画の脚本(二次的著作物)を「年鑑代表シナリオ集」に掲載することについて、映画プロダクション会社が映画化の際に締結した契約(原作使用契約)の適用はなく、原著作者である小説家には諾否の自由があり、これを拒否したとしても、脚本家らに対する関係で不法行為を構成するものではないとされた事例
事案 A社(映画プロダクション会社)は、Yの委託を受けて本件小説の著作権を管理している文藝春秋との間で、平成15年9月、本件小説に係る著作権使用予約完結権契約(文藝春秋がA社に対し、本件小説を原作とする映画を製作することに係る許諾を受けるための予約完結権を与えること等を内容とする契約)を締結した上、平成16年11月頃、A社が日本国内において本件小説を原作とする映画を独占的に製作、配給すること等を内容とする契約(「本件原作使用契約」)を締結。

・・・映画は作製された。

X2は、平成19年3月ころ、「年鑑代表シナリオ集」に掲載すべき脚本の1つとして本件脚本を選出したが、Yは、本件脚本を「年鑑代表シナリオ集」に収録、出版することを拒絶。

Xらは、本件原作使用契約には、本件脚本の出版等について、「(文藝春秋は)一般的な社会慣行並びに商慣習等に反する許諾拒否は行わない」旨の規定(3条5項ただし書)があることを根拠に、Yの許諾拒否が「一般的な社会慣行並びに商慣習等に反する」本件においては、Yとの間に本件脚本を「年鑑代表シナリオ集」に収録、出版することについて合意が成立したものと認められるべきであるとして、Yに対し、当該合意に基づき、本件脚本を「年鑑代表シナリオ集」に収録、出版することを妨害しないよう求めるとともに、Yが本件脚本を「本件代表シナリオ集」に収録、出版することを違法に拒絶したためXらが精神的苦痛を受けたとして、Yに対し、不法行為による損害賠償を求めた。
規定 著作権法 第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)
二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
十一 二次的著作物 著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。
十二 共同著作物 二人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものをいう。

第65条(共有著作権の行使)
共同著作物の著作権その他共有に係る著作権(以下この条において「共有著作権」という。)については、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又は質権の目的とすることができない。
2 共有著作権は、その共有者全員の合意によらなければ、行使することができない。
3 前二項の場合において、各共有者は、正当な理由がない限り、第一項の同意を拒み、又は前項の合意の成立を妨げることができない。
4 前条第三項及び第四項の規定は、共有著作権の行使について準用する。
判断
本件原作使用契約3条5項は、A社が本件映画や本件脚本の二次的利用をする場合についての規定
⇒本件原作使用契約の当事者ではないXらが、Yに対し、これらの規定に基づいて上記二次的利用の許諾を求めることはできない。
⇒本件脚本の出版に関する合意の成立を前提とするXらの請求には理由がない。


著作権法が二次的著作物(2条1項11号)と共同著作物(同項12号)とを明確に区別して規定し、二次的著作物については、二次的著作物の著作者と原著作者との間に互いに相補って創作をしたという密接な関係がなく、原著作者に対して同法65条3項のような制約を課すことを正当化する根拠を見出すことができない
⇒同項の規定を二次的著作物の原著作者に安易に類推適用することは許されない。


二次的著作物である本件脚本の利用に関し、Yは、原著作物の著作者として許諾の自由を有しており、その許諾をしなかったとしても、原著作物の著作者として有する正当な権利の行使にすぎず、判示認定の事実関係を前提とすれば、Xに対する関係で不法行為を構成することは認められない。
解説 二次的著作物とは「著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他本案することにより創作した著作物」をいい(法2条1項11号)、原著作物の著作権者は、当該二次的著作物の利用に関し、当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を占有する。(著作権法28条)

本件脚本は、本件小説を翻案することにより創作された著作物であり、本件小説の二次的著作物
⇒原著作物(本件小説)の著作者であるYは、本件脚本の利用について、本件脚本の著作者であるX1が有するものと同一の種類の権利を占有する。
⇒X1の権利は、X1とYの合意によらなければ行使することができない。(最高裁H13.10.25)

共同著作物は著作者間に「共同して創作した」「互いに相補って創作をした」という相互に緊密な関係がある
⇒各共有著作権者の権利行使がいたずらに妨げられることがないようにするという配慮から、同法65条3項のような制約が正当化される。

二次的著作物の成立には適法要件も必要とされておらず、原著作者の著作権者のあずかり知らないところで二次的著作物が成立する場合すらある
⇒二次的著作物の原著作が二次的著作物の利用を拒絶することについて「正当な理由」は必要でないと解されている。
but
信義誠実の原則、権利の濫用の場合には、不法行為を構成する可能性もある。


★平成23年5月分
2107
2107 ■行政p22 東京地裁H22.9.1 圏央建設事業等に伴う土地収用法に基づく事業認定並びに権利取得裁決について、いずれも違法であるとは認められないとして、その取消請求が棄却された事例
事案 @国土交通大臣がした土地収用法20条に定める事業認定の取消訴訟
A東京都収用委員会がした権利取得裁決及び明渡裁決の取消訴訟
規定 土地収用法 第20条(事業の認定の要件)
国土交通大臣又は都道府県知事は、申請に係る事業が左の各号のすべてに該当するときは、事業の認定をすることができる。
一 事業が第三条各号の一に掲げるものに関するものであること。
二 起業者が当該事業を遂行する充分な意思と能力を有する者であること。
三 事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること。
四 土地を収用し、又は使用する公益上の必要があるものであること。
解説 法20条3号は、事業認定の要件として「事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること」を挙げるところ、その要件適合性の判断は、その性質上、事業認定庁の裁量行為であるとされるのが一般的な傾向。

その判断方式については、
@判断過程統制方式
A実体的判断代置方式
B裁量権濫用方式
の3つに大別。

but
Bの手法でも、結局は、事業認定庁の裁量権に濫用があったか否かを判断する手法においても、結局は、事業認定庁がいかなる事項について、どのような評価をすることで当該事業計画が土地の適正かつ合理的な利用に寄与すると判断するに至ったのかという過程の問題とせざるを得ない場合が多い
⇒@とBの判断手法の相違は相対的。

本件:
本件各事業の施行によって得られる公共の利益と本件各事業の施行により失われる利益(地下水への影響、騒音被害、振動、低周波空気振動、オオタカへの影響等)を比較衡量して、事業認定の対象となった事業の施行による公共の利益が認められるとの国土交通大臣の判断が重要な事実の基礎を欠くか又はその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認められるに足りず、当該事業が土地収用法20条3号の要件適合性を欠くとはいえない旨結論づけられている。
■民事p112 最高裁H23.2.9 権利能力のない社団を債務者とする金銭債権を有する債権者が、当該社団の構成員全員に総有的に帰属し、当該社団のために第三者がその登記名義人とされている不動産に仮差押えをする場合における申立ての方法
事案 権利能力のない社団であるYを債務者とする金銭債権を有するXが、第三者であるAを登記名義人とする不動産(本件不動産)は、Yの構成員の総有不動産、すなわち、Yの資産であると主張し、Yを債務者として本件不動産に対する仮差押命令の申立てをした事案。

権利能力のない社団のために第三者がその登記名義人とされている構成員の総有不動産に対する仮差押えの申立ての方法が問題となっている。

X(Yを債務者とする金銭債権の債務名義を有する。)は、Y及びAを被告として、本件不動産がYの構成員全員の総有に属することの確認を求める訴訟を提起し、勝訴判決を得たが、また右勝訴判決は確定していない。
⇒本件申立書に、右訴訟において提出された主な書証及び右勝訴判決の判決書等の各写しを添付して本件申立てをした。
規定 民事保全法 第7条(民事訴訟法の準用)
特別の定めがある場合を除き、民事保全の手続に関しては、民事訴訟法の規定を準用する。

民事執行法 第20条(民事訴訟法の準用)
特別の定めがある場合を除き、民事執行の手続に関しては、民事訴訟法の規定を準用する。

民訴法 第29条(法人でない社団等の当事者能力)
法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる。

民事保全規則 第20条(申立書の添付書面)
次の各号に掲げる仮差押命令の申立書には、当該各号に定める書面を添付しなければならない。
一 民事執行法第四十三条第一項に規定する不動産(以下「不動産」という。)に対する仮差押命令 次に掲げる書面
イ 登記がされた不動産については、登記事項証明書及び登記記録の表題部に債務者以外の者が所有者として記録されている場合にあっては、債務者の所有に属することを証する書面
・・・

民執規則 第23条(申立書の添付書類)
不動産に対する強制競売の申立書には、執行力のある債務名義の正本のほか、次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 登記がされた不動産については、登記事項証明書及び登記記録の表題部に債務者以外の者が所有者として記録されている場合にあつては、債務者の所有に属することを証する文書
解説@ 最高裁H22.6.29
権利能力のない社団のために第三者がその登記名義人とされている構成員の総有不動産に対する強制執行の申立ての方法については、社団を債務者とする金銭債権の債務名義を有する債権者は、強制執行の申立書に、上記不動産が当該社団の構成員全員の総有に属することを確認する旨の上記債権者と当該社団及び上記登記名義人との間の確定判決その他これに準ずる文書(確定判決等)を添付して、当該社団を債務者とする強制執行の申立てをすべきである。

権利能力のない社団は、民執法上も当事者能力を有する(同法20条、民訴法29条)
⇒社団を債務者とする金銭債権の債務名義を有する債権者は、構成員の総有財産に対して強制執行をすることができる。

不動産に対する強制執行においては、一般に、債務名義上の債務者と強制執行の対象とする不動産の登記名義人とが一致することを前提に、申立てに際し、登記事項証明書の添付が必要(民執規則23条1号)とされているが、社団のために第三者がその登記名義人とされている構成員の総有不動産については、最高裁昭和47.6.2が、社団を権利者とする登記又は社団の代表者である旨の肩書を付した代表者個人名義の登記をすることは許されないと判示
⇒債務名義上の債務者と強制執行の対象とする不動産の登記名義人を一致させることができない。
⇒前記最高裁判決による解決方法。
判断 権利能力のない社団を債務者とする金銭債権を有する債権者が、当該社団の構成員全員に総有的に帰属する不動産に対して仮差押えをする場合において、上記不動産につき、当該社団のために第三者がその登記名義人とされているときは、上記債権者は、仮差押命令の申立書に、上記不動産が当該社団の構成員全員の総有に属する事実を証する書面を添付して、当該社団を債務者とする仮差押命令の申立てをすることができ、上記書面は、強制執行の場合とは異なり、上記事実を証明するものであれば足り、必ずしも上記不動産が当該社団の構成員全員の総有に属することを確認する旨の上記債権さと当該社団及び上記登記名義人との間の確定判決その他これに準ずる文書であることを要しない

原決定を破棄、原々決定を取り消し、本件を原々審に差し戻した。
解説A
民事執行規則と同じ民事保全規則の文言をやや異なる解釈をすることにはなるが、債権者の権利の円滑な実現という観点に照らし、仮差押えの場合には、強制執行の場合とは異なり、確定判決等の添付までは必要としないと解するのが相当。

@そうでないと仮差押えができず、右金銭債権の実現を保全することが著しく困難になる。
A不動産に仮差押えがされたとしても、当該社団の構成員が権利を喪失することも、右登記名義人が登記を抹消されることもないのであって、これらの者の利益に配慮して、仮差押命令の発令を、右不動産の権利関係が確定判決等によって証明されたような場合に限ることまでは必要でない。


仮差押えの対象不動産の帰属についての立証の程度は、疎明ではなく証明であるとするのが通説的見解でありその点では、強制執行の場合と仮差押えの場合とでは差異はない。
そこで、本決定も、対象不動産が当該社団の構成員全員の総有に属する事実を証明すべきものとしているが、証明の程度は、事案に応じ、事実上軽減するということも考えられる。
■民事p116 東京高裁H22.11.25 1.ホテルの施設使用許可仮処分が確定したにもかかわらず施設の使用を拒否されたことを理由とする損害賠償請求が認容された事例
2.前記事案につき一審判決の認容額の4割に損害賠償額が減額され謝罪広告掲載命令が取り消された事例
3.前記事案につき法人の非財産的損害が財産的損害の3倍の額と認定された事例
プリンスホテル日教組大会会場等使用拒否事件控訴審判決
事案 日教組教研集会の会のためホテル施設使用予約をしていたX(日本教職員組合)が、当該ホテルを経営するYから解約を理由に一方的に使用を拒否されたとして、施設使用許可仮処分を申請し、仮処分命令を得た後、保全異議、保全抗告を経て決定が確定したが、施設の使用を拒否されたとして、債務不履行及び不法行為に基づく損害賠償及び謝罪広告を求めるとともに、会社法429条1項の取締役の第三者に対する損害賠償責任の規定に基づき、Yの取締役12人にもYと連帯して損害を賠償することを求めた。
判断・解説 単位組合は日教組に従属した立場にある⇒Xの財産的損害と認められるもののみを認容し、単位組合独自の請求については、契約関係になく仮処分の当事者でもないとして棄却。
組合員個人の請求についても同じ理由により棄却。

日教組及び単位組合の非財産的損害の請求については、法人に精神的損害の賠償請求を認めることができるか?
最高裁判決により、法人について生じる「金銭評価の可能な無形の損害」についても損害賠償の対象となるものとの判断が示された。

本判決は、非財産的損害について、財産的損害の3倍の賠償を命じた。

取締役の責任:
平成20年1月30日に東京高等裁判所において保全抗告が棄却された後は、当該紛争に関する司法判断が確定したわけであるから、控訴人プリンスホテルは、これを本案訴訟において争うことは別として、当該司法判断に従うべき法律上の義務を負ったものであり、にもかかわらず、これに従わない方針を立てて被控訴人日教組の施設使用を拒否したことは、取締役としての職務上の注意義務に違反したものであり、この注意義務違反について悪意又は重大な過失があったものというべきである。⇒連帯して損害賠償責任を負う。

謝罪広告の掲載:
本件会見及びインタビューが事実に反することによって被控訴人日教組が被った名誉及び信用の毀損の損害を回復するには、損害賠償を命ずるのが相当であり、被控訴人日教組が主張する謝罪広告の掲載が毀損された名誉及び信用の回復のための相当な措置であると認めることはできない。
この損害賠償については、・・・非財産的損害の中に評価済みである。
■民事p122 大阪高裁H22.6.22 自動車の仮差押えをした債権者は本執行として当該自動車の強制競売を申し立てるに当たって当該自動車を仮差押え後に占有している第三者に対し執行官に引き渡す旨の命令を申し立てることができるか(積極)
事案 Yの所有する本件自動車に対する仮差押えをしたXが、本件自動車に対す本執行として強制競売を申し立てるに当たって、仮差押えの後、本件自動車を占有しているZに対し、民事執行規則176条2項、174条2項に基づき、本件自動車を執行官に引き渡す旨の命令を申し立てた事案。
規定 民執規則 第176条(自動車の競売)
自動車を目的とする担保権の実行としての競売の申立書には、第百七十条第一項各号に掲げる事項のほか、自動車の本拠を記載し、自動車登録ファイルに記録されている事項を証明した文書を添付しなければならない。
2 法第百八十一条から法第百八十四条まで並びに前章第二節第四款(第八十八条及び第九十七条において準用する第六十二条を除く。)及び第百七十四条第二項から第四項までの規定は、自動車を目的とする担保権の実行としての競売について準用する。この場合において、同条第二項中「船舶国籍証書等」とあるのは、「自動車」と読み替えるものとする。

民執規則 第174条(船舶の競売)
船舶を目的とする担保権の実行としての競売の申立書には、第百七十条第一項各号に掲げる事項のほか、船舶の所在する場所並びに船長の氏名及び現在する場所を記載しなければならない。
2 執行裁判所は、競売の申立人の申立てにより、当該申立人に対抗することができる権原を有しない船舶の占有者に対し、船舶国籍証書等を執行官に引き渡すべき旨を命ずることができる。
3 前項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
判断 執行裁判所:
Yに対する申立てを認容したうえ、Zに対する申立てについては、民事施行規則176条2項、174条2項は担保権の実行としての競売における執行方法を規定したものであって、これを強制競売に類推適用することはできないとして、却下。
Xの執行抗告に基づく抗告審決定:
原決定を取り消し、Zに対し、Xの申立てを受けた執行官に対する本件自動車の引渡しを命じた。
解説 自動車に対する強制競売は、民事執行規則第2章・第2節・第4款に規定。

執行裁判所は、強制競売の開始決定において、債務者に対し、自動車を執行官に引き渡すべき旨を命じる(民執規則89条1項)が、執行官が強制競売の開始決定の発せられた日から1月以内に自動車を取り上げることができないときは、執行裁判所は、強制競売の手続を取り消さなければならない(民事執行規則97条による民執法120条の読み替え準用)

債務者が占有している場合には、引渡しの執行(規則89条4項)により得るとしても、債務者以外の第三者が占有する場合には、当該第三者から任意に引渡しを受け得るような場合は格別、強制競売を求めることができない結果となる。

そのため、目的自動車を仮差押えしておく必要があるが、当該仮差押えに当たって、民事保全規則35条の規定に基づく仮差押えの登録がされていても、債務者が占有している状態では、その占有が第三者に移転する危険を防止し得ない。
⇒仮差押えと同時に、執行官に対し自動車を取り上げて保管すべき旨を命ずる、執行官保管の方法(保全規則35条)も可能であるが、実際に、仮差押えと同時に執行官保管の方法がとられる場合はそう多くなく、本件でも、仮差押え後、本件自動車の占有がYからZに移転。

このような場合に、債権者が仮差押をした自動車の本執行として強制競売を求めることができないというのでは、本来、仮差押えの処分禁止の効力から、仮差押え後にその目的自動車の占有を第三者が取得したとしても、当該第三者の占有取得原因である債務者との間の処分行為の効力は否定されるにもかかわらず、その目的自動車を仮差押えした債権者の犠牲において、第三者、そして、債務者が強制競売を免れるという不当な結果となる。

このような場合に、担保権の実行に基づく自動車の競売手続において規定されている民執法176条2項によって準用される、174条2項を強制競売においても類推適用し得るとの見解。
■民事p127 東京地裁H22.11.17 区分所有者が長期にわたって管理費等を滞納した場合において、区分所有者の共同の利益に反するとして、管理者の区分所有権等の競売請求が認容された事例
事案 区分所有者が管理費等を長期にわたって滞納した場合、建物の区分所有等に関する法律59条の競売が認められるかが問題となった事案。
XはYに対し、区分所有権等の競売を請求。
規定 区分所有法 第59条(区分所有権の競売の請求)
第五十七条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。

法 第6条(区分所有者の権利義務等)
区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。

法 第7条(先取特権)
区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
2 前項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、共益費用の先取特権とみなす。
3 民法(明治二十九年法律第八十九号)第三百十九条の規定は、第一項の先取特権に準用する。
判断 長期にわたり多額の管理費等を滞納することが区分所有法6条1項所定の共同の利益に反する行為に当たる。

Yが管理費等の全額を任意で支払う見込みがなく、不払額が今後とも増大すると推測され、Xが回収のために取り得る手段を講じており、区分所有法7条所定の先取特権に基づき競売を申し立てたとしても、回収が困難である。

同法59条1項による競売請求以外の他の方法によって共同生活の維持を図ることが困難であると認められるとして、請求を認容。
■民事p129 神戸地裁伊丹支部H22.12.15 破産者と金融業者との間の過払金返還請求権の放棄を内容とする和解が否認された事例
事案 過払48万5822円で、5万円の返金を受けその余の請求権を放棄する内容で和解。
破産管財人は、本件和解は、支払停止後にした破産債権者を害する行為に当たるとして、破産法160条1項2号に基づき、同和解を否認し、Yに43万5822円の支払いを求めた。
規定 破産法 第160条(破産債権者を害する行為の否認) 
次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
二 破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。

破産法 第173条(否認権の行使)
否認権は、訴え、否認の請求又は抗弁によって、破産管財人が行使する。
2 前項の訴え及び否認の請求事件は、破産裁判所が管轄する。
判断 否認の請求を認容

@任意整理を依頼した旨の本件通知書をY及び債権者に送付したが、本件通知書の送付は、支払の停止に当たる。
A本件和解は、経済的合理性を欠くままに破産者の資産を減少させる行為であり、破産債権者を害する行為に当たる。
BYは、本件和解当時、支払の停止があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったとは認められない。
解説 破産者が支払停止があった後にした破産債権者を害する行為は、破産財団のために否認することができる。(破産法160条1項2号)

破産者を害する行為とは、破産者の一般財産を減少させることによって全債権者に損害を与える行為。

破産者のする行為が有害行為に当たるかどうかは、行為の経済的効果、債権者平等の原則、行為の経済的合理性、行為の不明朗性等を総合して判断するほかない。

本件和解は、破産者の請求権放棄であり、回収不能のリスクがあったとは認められない⇒債権者を害する行為に当たる。
■知財p131 知財高裁H23.1.31 名称を「換気扇フィルター及びその製造方法」とする発明において、容易想到性の判断に当たり当該発明が容易であったとするためには、「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」ことのみでは十分ではなく、「解決課題の設定が容易であったこと」についての判断は、証拠に基づいた論理的な説明が不可欠であると判示し、課題解決設定及び解決手段の達成の容易想到性について証拠を基礎とした論理的な説明が示されていないとして、審決が取り消された事例
事案 Xらが換気扇フィルター及びその製造方法にかかる発明の特許権者
Yが本件特許の無効審判請求⇒特許庁が特許を無効とする審決⇒XらがYを被告として審決取消訴訟を提起。
規定 特許法 第29条(特許の要件) 
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
判断 容易想到性の有無の判断:
従来技術における当該発明に最も近似する発明(「主たる引用発明」)から出発して、これに主たる引用発明以外の引用発明及び技術常識等を総合的に考慮して、当業者において、当該発明における、主たる引用発明と相違する構成に到達することが容易であったか否かによって判断するのが客観的かつ合理的な手法。

容易想到性の有無の判断に当たっては、当該発明が目的とした解決課題を的確に把握した上で、それとの関係で「解決課題の設定が容易であったか」及び「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であったか否か」を総合的に判断することが必要かつ不可欠。

たとえ「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」としても、「解決課題の設定・着眼がユニークであった場合」には、当然には、当該発明が容易想到であるとはいえない。

「解決課題の設定が容易であったこと」についての判断は、着想それ自体の容易性が対象とされるため、事後的・主観的な判断を防止するためにも、証拠に基づいた論理的な説明が不可欠となり、その前提として、当該発明が目的とした解決課題を正確に把握することは、とりわけ重要である。

審決において、本件発明1と同様の解決課題を示唆するものはなく、審決において、本件発明1における解決課題設定及び解決手段の達成が容易に想到できたとの点について、証拠を基礎とした客観的合理的な論理に基づいた説明が示されていると判断することはできない。
⇒判断に誤り。
■知財p143 知財高裁H23.1.25 「YUJARON/ユジャロン」との構成を有する商標につき、不使用を理由とする登録取消審判請求を不成立とした審決が維持された事例
事案 X社が、特許庁に対し、Yが権利を有する登録商標が、その指定商品につき継続して3年以上使用されていないと主張して、商標法50条1項に基づいてその登録の取消しの審判請求⇒請求不成立の審決⇒X社がこの審決の取消しを求めた事案。
規定 商標法 第50条(商標登録の取消しの審判)
継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。以下この条において同じ。)の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
2 前項の審判の請求があつた場合においては、その審判の請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない。ただし、その指定商品又は指定役務についてその登録商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。
審決 X社の審判請求の登録の日から3年以内に、日本国内において、Y1社、Y2社および本件商標の通常使用権者と認められるX社によって、指定商品に含まれる「柚子茶」につき本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用していたことが証明された⇒商標法50条2項本文に該当するとして、Xの請求不成立。
判断 審決の判断を維持。
解説 特許庁の審判便覧では、
商標法50条1項にいう社会通念上同一と認められる商標に当たるか否かの認定に当たって、「登録商標に係る指定商品及び指定役務の属する産業分野における取引の実情を十分に考慮し、個々具体的な事例に基づいて判断すべきものである」とされている。
2106
2106 ■行政p33 最高裁H23.1.14 町がその所有する普通財産である土地を町内の自治会に対し地域集会所の建設用地として無償で譲渡したことにつき地方自治法232条の2所定の公益上の必要があるとした町長の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用による違法があるとはいえないとされた事例
事案 町の普通財産である土地を地域集会所の建設用地として自治会(地方自治法260条の2第1項の認可を受けた地縁による団体)に無償で譲渡したことについて、町の住民Xが、本件無償譲渡は違法な財務会計行為であるとして、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、Y(町長)に対し、本件無償譲渡をした当時の町長個人に対して損害賠償の請求することなどを求めた住民訴訟。
規定 地方自治法 第232条の2(寄附又は補助)
普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる。
判断 地方自治法232条の2にいう「寄付又は補助」には、普通地方公共団体の所有する普通財産の無償譲渡も含まれるとした上で、・・・・本件無償譲渡につうき同法232条の2所定の公益上の必要があるとした町長の判断に裁量権を逸脱・濫用した違法はない。

また、公有地拡大法の規定及び趣旨に反するなどの手続上の違法もない。

Y敗訴部分を破棄し、同部分に関するXの控訴を棄却。
解説 地方自治法237条2項が、適正な対価によらない普通財産の譲渡を条例又は議会の議決にかからせているのは、判断を慎重に行わせるための手続的な規制であって、普通財産の無償譲渡が公益上の必要と言う同法232条の2所定の実態要件を欠く場合においては、これを承認する議会の議決があったとしても、当該譲渡は違法となる。

地方公共団体の行う寄附又は補助には公益上の必要があるかどうかの判断にあたっては、様々な行政目的を斟酌した政策的な考慮が求められる。
⇒この点についての各地方公共団体の判断は、特に社会通念上不合理な点がある場合又は不公正な点がある場合でない限りはこれを尊重することが必要であり、これを地方公共団体の長の権限という面からみると、長にその裁量権が付与されており、その行使に逸脱・濫用がある場合に限り、当該寄附又は補助が共益上の必要を欠くものとして違法となる。
■民事p37 東京高裁H22.7.20 相当賃料額に関する不動産鑑定評価書に引用された賃貸事例の対象物件特定文書について文書提出命令が却下された事例
事案 Xは、賃料が不相当になったとして賃料増額の意思表示をした上、増額後の賃料額の確認を求めた(本訴)。
Yが賃料減額の意思表示をした上、減額後の賃料額の確認を求めた(反訴)。

Yは、A不動産鑑定事務所作成の4通の不動産鑑定評価書を賃料額が相当であることの証拠として提出。
Xは、A事務所を相手方として本件各鑑定評価書中に引用された賃貸事例一覧表の各事例の対象物件を特定する文書について、文書提出命令を申し立てた。
Aは、民訴法220条4号ハ所定の文書に当たると主張して争う。
規定 民訴法 第220条(文書提出義務)
次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。
一 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。
二 挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。
三 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき
イ 文書の所持者又は文書の所持者と第百九十六条各号に掲げる関係を有する者についての同条に規定する事項が記載されている文書
ロ 公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの
ハ 第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書

第197条
次に掲げる場合には、証人は、証言を拒むことができる。
一 第百九十一条第一項の場合
二 医師、歯科医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、弁護人、公証人、宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合
三 技術又は職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合
2 前項の規定は、証人が黙秘の義務を免除された場合には、適用しない。

第223条(文書提出命令等)
6 裁判所は、文書提出命令の申立てに係る文書が第二百二十条第四号イからニまでに掲げる文書のいずれかに該当するかどうかの判断をするため必要があると認めるときは、文書の所持者にその提示をさせることができる。この場合においては、何人も、その提示された文書の開示を求めることができない。

第221条(文書提出命令の申立て)
文書提出命令の申立ては、次に掲げる事項を明らかにしてしなければならない。
一 文書の表示
二 文書の趣旨
三 文書の所持者
四 証明すべき事実
五 文書の提出義務の原因
2 前条第四号に掲げる場合であることを文書の提出義務の原因とする文書提出命令の申立ては、書証の申出を文書提出命令の申立てによってする必要がある場合でなければ、することができない。
原審 @民訴法223条6項に基づき、Aの所持にかかる対象文書を得知事させたうえ、原決定文書目録記載2の文書(新規賃貸事例の一部に関するもの)については、インターネット上に公開⇒職業上の秘密とはいえず、Aに提出義務があるとしてその提出を明示た。

これに関する登記簿謄本は、Xにおいて、法務局にて容易に入手可能⇒民訴法221条2項により、Aに提出義務はない。

Aその余の本件各文書については、Aの職業の秘密にあたる⇒文書申立命令の申立てを却下。

Xが抗告
判断 抗告棄却

民訴法220条4号ハで引用される同法197条1項3号にいう「職業の秘密」とは、その事項が公開されると、当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいう。

文書提出命令の対象文書に職業の秘密に当たる情報が記載されていても、所持者が民訴法220条4号ハ、同法197条1項3号に基づき提出を拒絶することができるのは、対象文書に記載された職業の秘密が保護に値する秘密に当たる場合に限られ、当該情報が保護に値する情報であるかどうかは、その情報の内容、性質、その情報が開示されることにより所持者に与える不利益の内容、程度等と、当該民事事件の内容、性質、当該民事事件の証拠として当該文書を必要とする程度等の諸般の諸事情を比較衡量して決すべき


Aが会員契約をするインターネットのホームページ上からダウンロードした事例⇒職業上の秘密に該当しない。


Aが賃貸人等の第三者から収集した賃貸事例における建物の新規賃料及び継続賃料の金額、保証金額、契約面積及び期間などの賃貸条件・・・Aの業務に深刻な影響が生じる可能性がある。

Xは、自ら、不動産鑑定士等の専門家の知識を補充することなどにより、本件各鑑定評価書に記載されている各賃貸事例につき開示された情報から、相当程度の検証を行い、これに反論を加えることは十分に可能。


各賃貸事例に関する情報をAの職業の秘密として保護すべき必要性が相当程度認められる。
Xにおいて、開示された情報以上に最寄駅などの各賃貸事例を分析する上で有益な情報を開示すべき必要性は相対的に低い。

各賃貸事例に関する情報は、保護に値する職業上の秘密に当たるものであるから同文書の提出を命ずることはできない。
解説 民訴法220条4号ハにいう職業の秘密とは、その秘密が公開されると、その職業の経済上重大な打撃を与え、社会的に正当な職業の維持遂行が不可能または著しく困難になるようなもの(最高裁H12.3.10)が、
文書所持者が提出を拒絶することができるのは、対象文書に記載された職業の秘密が保護に値する秘密に当たる場合に限られ、保護に値する秘密かどうかの判断は、その情報の内容、性質、その情報が開示されることにより所持者に与える不利益の内容、程度等と、当該民事事件の内容、性質、当該民事事件の証拠として当該文書を必要とする程度等の諸般の諸事情を比較衡量して決すべき(最高裁H18.10.3)。
■民事p41 仙台高裁H23.2.10 公共事業である水路橋布設替工事の騒音等により、付近の牧場において牛が死傷する等の被害を被ったとして牧場主から提起された損害賠償請求事件において、工事と被害との因果関係及び騒音等が受忍限度を超えていたことを認め、工事業者と工事を発注した県に対する損害賠償請求が認容された事例
事案 Y1県の発注に基づいてA会社が実施した水路橋布設替工事の騒音等により、牛が死傷。
補償の合意による履行請求権又は不法行為による損害賠償請求権に基づき、Y1県及びA会社に対し、連帯して1億4186万5751円及びその遅延損害金の支払を求めた。
判断 争点:本件工事によって発生した騒音等が受忍限度を超える違法なものであった否か。

工事等の実施による騒音等の違法性の有無は、騒音規制法上の規制値との関係その他騒音の程度、騒音発生の時期、時間及び発生期間、騒音発生たる工事等の目的、公共性の有無、程度、騒音等によってもたらされる被害の内容や程度、従前の土地の利用状況、加害者と被害者の事前の交渉の過程等を総合考慮して判断すべき。

・・牛の修正にも着目した検討を必要とするところ、右認定の牛の習性に照らすと、L5(90%レンジ上端値)の最大値に加えて、瞬間的、突発的な騒音をも対象としてLmax(最大騒音瞬間値)をも、違法性を判断する際の、重要な要素として考慮すべき。

本件工事の施工方法や公共性が高いこと等本件工事に関する実際の事情を考慮しても、本件工事は、Xに対する関係で、受忍限度を超える騒音を発生させたもので、違法性が認められる。

本件工事は、事業認定を経た一連の継続的工事であることから、全体として一個の不法行為と認められ、時効期間(3年)は、工事全体が終了したときから起算すべき⇒Yらの消滅時効の主をいずれも排斥した。
解説 市街化調整区域における工事の騒音等が問題となったこと、牛の特性にも着目して騒音値と受忍限度のとの関係を考慮
■民事p52 高松高裁H22.8.30 個人の知人が相続人に相談なく銀行から個人名義又は精神病に罹患している子名義の預金の払戻しを受け、葬式代及びこの世話のための費用その他の名目で使用した場合に、故人と知人との間に預金払戻等についての管理処分のための委任契約がされ、個人の死亡に寄っては同契約は終了しないとされ、また、子との関係では一部事務管理による費用として認められるとされた事例
事案 Xが、Y2及びCの夫婦が共謀して、Y1銀行のA及びB名義の預金口座から無権限で預金の払戻を受けた等と主張して、Y2及びCに対しては不法行為による損害賠償等を請求し、
Y1に対してはA名義の預金の返還を請求。
原判決 AはAがなくなる少し前に、Y2にA名義の通帳と印鑑を渡し
@「葬式から何からして欲しい。Bの世話をして欲しい。Y2しか頼む人がいない。」旨頼んだこと、
Aその際、AはY2に対し「残った分はY2にあげるから。XにはXの父が亡くなった時に退職金等を渡しているので関係ない、かたをつけている。」旨の説明をしたなどの事実を認定。

Aは、本来A及びBに対する何らの義務のないY2に対して、Aが死亡した後のA関係の一切の事務の処理と統合失調症に罹患しているBの世話を依頼し、その費用及び報酬としてA名義の預金を負担付贈与としたと判示。

BはY2がB名義の預金を管理することに少なくとも黙示の同意(推定的意承諾)をしていた。

不法行為を構成しない。
判断 Y2につて、A名義の預金及びB名義の年金受取要の預金から払戻しを受けた金銭の一部に相当する2723万4328円につき、Xに対する損害賠償義務を認めた。

Y2はAからの委託の趣旨に従い、善良な管理者としての注意義務をもってA名義の預金を管理すべき義務があるところ、実質的にY2が払戻を受けた金額のうちA名義の預金からの正当な支出して認められる額はその一部。その余の1887万2961円については、Y2はXに対する損害賠償義務を負う。

B名義の預金のうち年金受取用に開設されたものについては、Bが自己の財産の管理について有効な意思表示をする能力が存在したと認めるのは疑問であり、AがY2に対してBの財産の管理を委託することについてBが事前に黙示的に同意していたと認めることは困難。

B名義の同預金については、Y2は事務管理者として、その事務の性質に従いBの利益に最も適合する方法によってその事務を管理しなければならないことになるところ、同預金から払い戻された金額の中で、正当な支出と認められるものをを除いて、損害賠償義を負う
解説 相続人でない者により預金者の死後に払い戻された金銭、あるいは統合失調症に罹患している者の名義の預金から払い戻された金銭について、当該相続人でない者が葬儀や精神病の子供の世話等を行うことを委託され(委任契約)、その費用に充てるため預金全部の管理処分権が与えられたとしつつ、また事務管理としての費用支出を認めつつ、当該委託の趣旨に基づくと認められる支出または事務管理の費用として正当と認められる支出に相当する金額を除く払戻金相当額について、当該相続人でない者の預金名義人らの相続人に対する損害賠償義務を認めた事例。
■民事p64 東京地裁H22.11.19 長期にわたって更新が繰り返された商品の販売促進業務に関する業務委託契約の更新が委託企業によって拒絶された場合において、更新拒絶に一応の合理性があるとして、委託企業の不法行為が否定された事例
事案 長期にわたって継続した業務委託契約につき更新を拒絶したことが不法行為に当たるかが問題となった事案。

XとYは、・・Yの商品の販売促進活動等を行う、期間を平成19年3月20日までとする。
期間満了の1か月前までに別段の意思表示をしない限り、更に1年間更新する。

Yは平成21年2月、委託対象地域のうち関東地区を同年3月21日以降他の企業に委託するなどの旨を記載した書面(本件通知書)をXに送付⇒同年2月27日、Xが東京地裁に本件委託契約上のXの地位の保全を求める仮処分を申し立てた(その後申立ては取り下げられた)。

Yは、Xに対し、平成21年3月18日、本件通知書は、同月20日をもって本件委託契約の更新を拒絶するとともに、関東以外の地区について半年間の新たな契約の申込みをしたものであり、本件委託契約を更新する趣旨ではない旨を通知。

Xのスタッフは、Yの提案に基づきXを退職し、Yの関連会社において販売促進業務に従事した。

Xは、Yに対し、Yが合理的理由もなく本件委託契約の更新を拒絶したことが不法行為に当たると主張し、損害賠償を請求した。
判断 平成20年、Xのスタッフの退職が増加し、労務管理等の観点からデジタルタコメーターを導入したことに伴い、スタッフが反対し、退職する者もでた⇒YがXに対して販売促進業務を委託することにつき問題があるとの疑念を抱くに足りる状況があり、本件委託契約の更新拒絶は一応の合理性があり、Xに対する不法行為に当たらないと判示するとともに、Xからスタッフを解雇せざるを得ない旨告げられたことから雇用の継続のために移籍を勧誘したものであり、この勧誘は不法行為に当たらないと判示し、請求を棄却したもの。
解説 商品の販売促進業務の委託契約につき長期にわたって更新が繰り返されていた状況において(継続的契約)委託者が期間満了時に更新を拒絶した場合につき、更新拒絶をした委託者の受託者に対する不法行為の成否が主として問題となった。

本件で問題となった契約は、事業者間の商品の販売促進業務の委託であるが、契約期間を1年とするもの。

更新拒絶等の理由として正当な事由、やむを得ない事由を要件とするものが多かったところ、本判決は、一応の合理性があれば足りるとしたもの。
■民事p69 大阪地裁H22.8.26 売主の代理人として投資信託の受益証券を販売した銀行の担当者の勧誘行為につき、適合性原則違反及び説明義務違反が認められた事例
事案 主位的請求:
XがYを売主の代理人として締結した投資信託の受益証券の売買契約が不成立又は錯誤により無効であるとして、代金決済額から投資信託の償還による返還額を控除した残額の預金払戻請求権があると主張し、

また、Y担当者の勧誘行為に適合性原則違反、説明義務違反、断定的判断の提供の違法があり、不法行為が成立すると主張して、預金の払戻及び弁護士表相当額等の支払を求めたもの。

予備的請求:
Y担当者に前記の不法行為が成立するとして、使用者責任に基づき、取引により生じた損失及び弁護士費用相当額等の支払を求めた。

本件投資信託は、いずれも日経平均ノックイン型の投資信託。
購入後の日経平均株価がワンタッチ水準を下回ったため、元本割れが発生。
判断 契約の成立について、申込書にXが署名押印及び申込書の記載内容等⇒契約の成立を認定。
本件投資信託が預金と異なることや、元本が保証されるには条件があること自体は、Xも認識⇒錯誤の成立を否定し、主位的請求を棄却。

適合性原則違反を肯定

@本件投資信託は元本保証を重視する投資家には適さない商品
AXには投資経験及び知識がほとんどなく、本件投資信託の内容を理解することが困難
BXが元本を重視する慎重な投資意向であった
C安定した資産を同種のリスク内容の投資信託に集中して投資するという勧誘内容
DY担当者がYの内部基準を形骸化する運用をして勧誘

説明義務違反も肯定

@勧誘担当者において、本件投資信託の内容についての知識不足があった
Aワンタッチ水準となる価格を示したのみで、株価の変動状況や株価予測の参考となる情報を提供しなかったこと
B勧誘時の状況から、Xが本件投資信託の危険性を具体的に理解できないことを、勧誘者は容易に認識できた

2割の過失相殺をし、予備的請求を一部認容
解説 適合性原則:
最高裁H17.7.14:
担当者が、顧客の意向と実情に反して、明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは、当該行為は不法行為法上も違法となる。

本件は、勧誘態様がYの内部ルールに違反していることを適合性原則違反の考慮要素に挙げている。

直ちに違法の認定に直結するものではないと思われるが、勧誘の積極性や不相当性を示す有力な事情に該当することを示したもの。

説明義務:
当該商品の仕組みの複雑性、取引による危険性の大きさ及びその社会への周知度、顧客の理解能力等を総合的に判断して個別具体的に決定されるものであり、顧客が理解できる程度の具体的な説明が必要。
■民事p83 大阪地裁H22.10.21 マンションの敷地売買で、売主が敷地内の地中杭の撤去を怠り買主に損害を与えたとして、買主が売主の代理人である弁護士に対し、右売買契約に関与したとの理由で求めた損害賠償請求が棄却された事例
判断 XのYに対する請求を棄却。

@Aが本件売買契約に基づき、本件土地の引渡しまでにXの主張するような徹底的な地中杭の撤去義務を負ったとまではいえないから、右委任契約に基づき、YがAに対して、地中杭を撤去する内容の既存建物の解体契約を締結するように助言すべき注意義務があったとは認められない
A契約の相手方であるXとの関係において、YがAに対してそのような助言をすべき不法行為法上注意義務はない

本件訴訟において賠償を請求する本件土地の地中杭撤去費用相当額の土地の価格下落の損害の発生につき、Yは、Xに対して不法行為に寄る損害賠償義務を負うことはない。
■民事p88 横浜地裁H22.12.21 下請会社の従業員が元請会社の工事現場の作業員詰所の階段から転落受傷した事故につき、元請会社の安全配慮義務違反及び工作物責任、下請会社の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が棄却された事例
事案 Y1元請会社の建築工事現場で、Y2下請会社の従業員Xが、作業員詰所とされていた駐車場棟の階段から転落受傷した事故につき、Y1に対して安全配慮義務違反の責任又は工作物責任に基づく、またY2に対して安産配慮義務違反の責任に基づく損害賠償を求めた。
判断 本件事故はXが不用意に本件階段を踏み外して転落した可能性を否定できず、結局、転落態様は不明であるからXの転落との因果関係は認め難く、X主張の本件事故についてのY1の安全配慮義務違反及び工作物責任並びにY2の安全配慮義務違反は認められない。
解説 事故現場である作業員詰所への階段自体に工作物責任にに相当する瑕疵が認められず、また、事故の目撃者がおらず、事故の態様は専ら被害者である従業員の供述のみによらざるを得ないのに、その供述が変遷し不合理であることから、請求を棄却。
■知財p97 知財高裁H22.4.14 1.被控訴人が製造販売した食用油の製造方法は発明の名称を「酵素によるエステル化方法」とする控訴人の分割出願に係る特許権を侵害するものであるが、同発明の技術的事項は、酵素反応の場について「可及的乾燥」を要件とせず、可及的水分を低下させたものではない基質を用いることを含むものであって、これを可及的水分を低下させた基質を用いて行われる「可及的乾燥」した系において水を系外に排出する方法を記載するものである原出願明細書に記載された事項の範囲内のものということができず、同分割出願は適法な分割出願であるということができないとし、現実の出願日が出願日となることを前提に分割出願に係る発明が進歩性を有さず、また、分割出願に係る願書に添付された明細書中の特許請求の範囲の訂正も訂正後の発明が進歩性を有さず独立特許要件を欠く不適法なものであって特許の無効理由が解消されるものではないとして、特許権侵害による損害賠償請求を棄却されるべきものとされた事例
2.発明の名称を「酵素によるエステル化方法」とする分割出願に係る発明について、同発明の技術的事項は、酵素反応の場について「可及的乾燥」を要件とせず、可及的水分を低下させたものではない基質を用いることを含むものであって、これを可及的水分を低下させた基質を用いて行われる「可及的乾燥」した系において水を系外に排出する方法記載するものである原出願明細書に記載された事項の範囲内のものということができず、同分割出願は適法な分割出願であるということができないとし、現実の出願日が出願日となることを前提に訂正後の発明が進歩性を有さず独立特許要件を欠くとして、明細書の訂正が許されないとされた事例
事案 @事件:
XがYに対し、Yが「エコナクッキングオイル」等の商品名で製造販売した食用油の製造方法について、Xが有した本件特許権(分割出願によるもの)を侵害するものであったと主張し、主位的には民法709条に基づく損害賠償請求として、予備的には民法703条に基づく不当利得返還請求として、その主張にかかる損害賠償金ないし不当利得金8億円のうち5億6000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案。

A事件:
@事件の控訴人であるXが、右特許権に係る発明についての明細書の訂正審判請求において、特許庁が、訂正後の発明に係る技術的事項が原出願の当初明細書に記載した事項の範囲内のものではなく、適法な分割出願ということができず、原出願発明等に基づいて進歩性を有さないことになるから独立特許要件を欠くことになるなどとし、同請求が成り立たないとした審決について、訂正後の発明に係る技術的事項が原特許出願に添付された明細書に記載された事項の範囲外であるとした認定判断の誤りがあるなどと主張して、特許庁長官に対し、右採決の取消しを求めた事案。
規定 特許法 第104条の3(特許権者等の権利行使の制限)
特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。
2 前項の規定による攻撃又は防御の方法については、これが審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。
原審 本件発明は、引用発明との関係で新規性を有さず、特許法104条の3の無効の抗弁の成立によって本件特許権を行使することはできない。⇒Yによる本件特許権侵害の成否について判断するまでもなく、Xの請求には理由がない。

⇒Xは3億円の範囲で控訴するとともに、Yからの無効の抗弁の主張に対抗するため、A事件に係る本件発明の明細書の訂正審判を申し立て。
判断 @判決
Yが製造販売した食用油の平成11年3月19日以降の製造方法は、Xの有した本件特許権を侵害するものであった。

本件特許の分割出願について、分割出願が原出願の出願時に遡って出願したとみなされる(改正前特許法44条2項)ためには、分割出願に記載された発明に係る技術的事項が、原出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載されていることが必要
本件発明に係る技術的事項には・・・・原出願明細書に記載されていない・・・方法が包含されている
⇒本件特許出願は、適法な分割出願とすることができず、その出願と見なされる日は現実の出願日となる。

本件発明は、原出願発明との関係で進歩性を有さず、本件特許は無効とされるべきもの。

A事件
Xの本件発明に係る明細書の訂正による無効理由解消の際抗弁について検討⇒これについても、原出願発明との関係で進歩性を有さず、独立特許要件を具備するものではなく、本件訂正は不適法なもので、本件訂正による無効理由解消の再抗弁は認められない。
⇒控訴を棄却。
解説
出願分割の制度:
2以上の発明を包含するものの出願につき、一定の時期までは、その一部を分割して1又は2以上の新たな出願とすることができ、この場合、新たな特許出願はもとの特許出願時に遡って出願がされたものとみなして特許を受けさせるもの。

分割が適法となるには、分割の対象となる発明が、もとの特許出願に添付した明細書又は図面に開示されていなければならない。(最高裁)
もっとも、もとの明細書に明記されていなくても、当業者が容易に読み取れるものならばよく、また、当業者にとって自明な事実や周知事項は明細書に記載されていなくてもよいとされている。

もとの出願の願書に添付された明細書又は図面に開示されていないものについては、分割出願として出願されても、出願日がとの出願日まで遡ることはなく、これを基準として、進歩性等の判断がされることになる。

本判決は、本件特許出願について、適法な分割出願とみることができない⇒現実の出願日が出願日になるとして、進歩性の判断をした。


本判決:
原出願に係る補正後の明細書によっても、本件発明が原出願に記載されることになるものではない⇒原出願明細書の補正時まで分割出願の出願日が遡ることはない。

論理的には、まず、分割時の発明について原出願当初明細書の際の範囲内か否かを判断し、出願日とみなされる基準日を確定し、次いで、この基準時を基にして、訂正後の発明についての進歩性の有無等の独立特許要件を検討することが順当と考えられる。

最高裁昭51.3.l0は、審判で審理判断されなかった新たな引用例をもって審決取消訴訟で新たな無効原因を主張することはできないと判断。

本判決は、審決取消訴訟の審理範囲として、対比する対象の発明が実質上同一の場合に、理由を差替えて判断した。
■知財p128 知財高裁H22.7.21 図形と欧文字からなる本願商標が、引用商標1及び2に類似し指定商品も同一又は類似するとした審決が、取り消された事例
事案 商標登録出願⇒拒絶査定⇒これを不服として審判請求⇒請求不成立の審決⇒審決の取消訴訟
規定 商標法 第4条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。

十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
判断 @本願商標の認定
本願商標から「ロキ」の呼称をも生ずるとの認定に誤りはない。

A引用商標1及び2の認定
審決の認定に誤りはない

B類否判断の誤り
両商標は、呼称について共通する場合があるものの、外観において大きく相違し、観念においても比較できないものと認められ、本願商標がその図形部分と文字部分とが常に一体として使用されているという取引の実情も考慮すれば、本願商標を使用した商品とその出所につき誤認混同を生じるおそれは極めて少ない
⇒取消事由Bには理由がある。
解説 商標法4条1項11号:
先願の他人の登録商標と同一又は類似する商標であって、当該登録商標の指定商品・役務又はこれに類似する商品・役務に使用するものは、商標登録を受けることができない旨を規定。

商標の同一又は類似:
最高裁昭和43.2.27:
商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商標の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべき

商標の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かは、
「そのような商品に使用された商標がその外観、観念、呼称等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする」

「商標の外観、観念または呼称の類は、その商標を使用した商品につき出所の誤認近藤のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、従って、右3点のうちその1において類似するものでも、他の2点において著しく相違することその他取引の実情等によって、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標を解すべきではない。」と判示。


本判決:
両商標は、「ロキ」との呼称について共通する場合があるが、外観において大きく相違し、観念においても比較できず、本願商標がその図形部分と文字部分とが常に一体として使用されているという取引の実情も考慮して、本願商標を使用した商品が引用商標1を使用した商品とその出所につき誤認混同を生ずるおそれは極めて少ないと判断。


引用商標2の商標権者である株式会社について、破産手続終結決定が確定し、商標権の存続期間満了日までの間、引用商標2がその正当な権利者(商標権者またはこれから使用許諾を受けた者)によって使用される可能性が極めて低いことを前提として、引用商標2と本願商標との間で商品の出所についての混同を生ずるおそれはないと判断。

引用商標の商標権者が合併により解散し、従前の会社名を表記する引用商標が使用されていない事例で、商標法4条1項11号にいう先願の「他人の登録商標」が現実に使用されているか否かは類否判断に際し考慮すべき取引の実情に当たらないと判示する裁判例(知財高裁H18.2.16)
⇒取引の実情としてどのような事情が考慮できるか、議論が分かれる。
■商事p141 神戸地裁H22.9.14 被保険者が転寝から覚めて置きざまにアルコールを摂取するか摂取しようとしたことがきっかけとなり、うたた寝前に窃取していたアルコールの影響とうたた寝前に服用していた向精神薬の副作用とが相まって、嘔吐、誤嚥、気道閉塞となって窒息死するに至った場合において、普通傷害保険約款にいう「急激かつ偶然な外来の事故」により死亡したものと認められた事例(神戸地裁H22.9.14)
事案 食吐物の誤嚥を原因とする窒息により死亡したAの妻であるX1、長女であるX2及び長男であるX3が、Aと損害保険会社であるYとの間で締結されていた普通傷害保険契約に基づき、Yに対し、死亡保険金のXらの法定相続分に応じた支払を求める事案。

Aの死亡検案書の記載では、直接の死因は「窒息」、窒息の原因は「食吐物誤嚥」と記載されているほか、死亡の種類として「不慮の外因死」と記載。
傷害が発生したときは「平成20年12月25日午前2時頃(推定)」、その状況は「飲酒と共に食物を窃取中突然意識消失し、死亡」と記載。
争点 Aの死亡が本件保険契約の傷害保険普通約款の定める保険金を支払う場合にあたるか否か。
本件約款所定の「急激かつ偶然な外来の事故」に該当するか否か。
判断 請求認容

本件保険契約における保険金請求者は、「急激かつ偶然な外来の事故」と被保険者の傷害(死亡)との間に相当因果関係があることを主張、立証すれば足り、被保険者の傷害(死亡)が被保険者の疾病を原因として生じたものでないことまで主張、立証すべき責任を負うものではない。

うたた寝から覚めて置きざまに、身体の外部からアルコールを摂取しようとしたことがきっかけとなり(身体の外部からの作用)、うたた寝前に身体の外部から窃取していたアルコールの影響と同じくうたた寝前に服用していた向精神薬の副作用(いずれも身体の外部からの摂取した物に起因する作用であって、疾病に基づく作用であるとはえいえない。)が相まって、にわかに、予期しない嘔吐、誤嚥、気道閉塞となり窒息死するに至ったことになるから、Aは「急激かつ偶然な外来の事故」により死亡したものと認めるのが相当である。
解説 最高裁H19.7.6:
保険契約ではなく、共済契約の事案であるが、要旨「災害補償共済規約が「被共済者が急激かつ偶然の外来の事故で身体に障害を受けたこと」を補償費の支払事由と定め、これとは別に「被共済者の疾病によって生じた傷害については補償費を支払わない」との規定を置いている場合、補償費の支払を請求する者は、被共済者の外部からの作用による事故と被共済者の傷害との間に相当因果関係があることを主張、立証すれば足り、上記傷害が被共済者の疾病を原因として生じたものでないことを主張、立証すべき責任を負わない。」と判示。


被保険者の傷害(死亡)の原因の外来性と疾病性とを両立し得るものとして区別した上で、外来性は請求原因事実として保険金請求者が主張立証すべきものであるのに対し、疾病性は抗弁事実として保険者が主張立証すべきもの。
2105
2105 ■行政p3 最高裁H23.1.14 1.弁護士である破産管財人は、自らの報酬の支払いについて、所得税法204条1項2号所定の源泉徴収義務を負う
2.弁護士である破産管財人の報酬に係る源泉所得税の債権は、旧破産法47条2号ただし書にいう「破産財団に関して生じたる」請求権に当たる。
3.破産管財人は、破産債権である所得税法199条所定の退職手当等の債権に対する配当について、同条所定の源泉徴収義務を負わない
事案 旧破産法の下において、
@弁護士である破産管財人の報酬の支払及び
A破産債権である元従業員の退職金債権に対する配当を行う破産管財人が、これらの支払及び配当について所得税法上の源泉徴収義務を負うか否かが争われた事案。

所得税務署長から源泉所得税の納税の告知を受けた破産管財人が原告となり、国を被告として、右義務の不存在の確認等を求めて訴えを提起した。
第一審・原審 @Aのいずれについても、破産管財人の源泉徴収義務を認め、かつ、国が有する源泉所得税の債権は財団債権に当たるとして、原告の請求を棄却。
判断 @については、原審の判断は結論において是認することができるとして、原告の上告を棄却。
Aについては、破産管財人は、破産債権である退職手当等の債権に対する配当について源泉徴収義務を負わないとして、原判決を破棄し、第一審判決を取り消して、原告の請求を認容。
解説
源泉徴収義務とは、労働者の給料、退職手当、弁護士の業務に関する報酬等、所得税法所定の一定の所得または報酬等の「支払をする者」が、その支払の際に同法所定の金額の所得税(源泉著徳税)を徴収(天引き)し、これを原則として徴収の日の属する月の翌月10日までに国に納付しなければならない義務のこと(同法183条、199条、204条等)。
この義務に違反して源泉所得税を徴収せず、又はこれを納付しなかった者には、懲役刑又は罰金刑が科せられることになっている(同法240条、242条3号)。


所得税法所定の「支払をする者」について

同法204条1項及び199条の各規定が「支払をする者」に源泉徴収義務を課しているのは、
@支払を受ける者と「特に密接な関係」にあって、
A徴税上特別の便宜を有し能率を挙げ得る者を義務者とする趣旨であるとの理解に立ち、
破産管財人がその報酬の支払や破産債権に対する配当を行う場面において@Aの要件を満たすかを検討。

本判決は、徴税の便宜を有する者のうち、支払を受ける者との間に「特に密接な関係」のある者に限って源泉徴収義務が認められるという解釈。
←刑罰の担保まである源泉徴収義務を負担させるためには、支払を受ける者との間にその税務に関する処理を実質行わせることが相当な程度の関係が必要であるとの考え。

「特に密接な関係」にある者
本判決は、基本的には、支払を受ける者との間で当該支払につき法律上の債権債務関係に立つ本来の債務者を想定し、これに準ずると評価できる程度の関係にある者を「特に密接な関係」にある者として源泉徴収義務者の範囲の中に取り込んでいくという解釈手法をとったものと解される。


破産管財人:
破産手続を適正かつ公正に遂行するために、破産者から独立した地位を与えられて、法令上定められた職務の遂行に当たる者。

@破産管財人の報酬が、破産管財人に就任して管財業務を遂行した者のその役務の提供の対価として破産財団の中から支払われるものであること、A報酬を現に支払う者とこれを受ける者とが同一人であって、その間に字義どおりの究極の「密接」性が認められる⇒破産管財人は少なくとも本来の債務者に準じて「支払をする者」に当たると解し、その源泉徴収義務を肯定したものと考えられる。

その上で、破産宣告後の原因に基づいて生じた租税等の請求権のうち財団債権となるものを「破産財団に関して生じたるもの」に限定した旧破産法47条2号ただし書の趣旨について、これを、破産財団の管理の上で当然支出を要する経費に属し、破産債権者におい共益的な支出として共同負担するのが相当であるものに限る趣旨であると判示した最高裁判例の考え方を踏襲し、破産管財人の報酬の支払によって成立する源泉所得税の債権も右の意味での財団債権に当たるとしたもの。


弁護士の業務に関する報酬であっても、給与等の支払をする個人事業者以外の個人から支払われる場合には、源泉徴収を要しない(所得税法204条2項2号)

破産管財人報酬の支払はこれには該当しない。


破産管財人の報酬に係る源泉所得税の債権は、現行破産法148条1項2号にいう「破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権」として、財団債権に当たるものと解される。


配当を受ける労働者と破産管財人との間に、「特に密接な関係」があるとされるか。

@破産管財人に固有の地位の側面:
破産管財人の地位の独立性のほおか、破産管財人の行う配当が破産手続上の職務の遂行として行われるものであることを指摘。
〜破産管財人が何らかの実態法上の義務の履行として配当を行っているわけではない

A破産管財人が破産者から承継する地位の側面:
破産者の源泉徴収義務者としての地位を破産管財人が承継することの根拠となり得る法令の根拠は存在せず、破産管財人に破産財団の管理処分権が専属する旨を定めた旧破産法7条の規定も右の承継を根拠づけるものではない。
破産管財人が破産者から承継する管理処分権の中には破産債権の債務者としての地位は含まれず、これに付随する源泉徴収義務者としての地位も含まれない。


破産債権に対する配当を行う破産管財人は本来の債務者に準じて「支払をする者」に含まれず、当該配当について源泉徴収義務を負うものではないと結論。

以上は、退職手当等の債権に対する配当のみならず、給与等の債権等、源泉徴収の対象となり得る他の破産債権に対する配当に関しても基本的に妥当。
現行破産法の下における破産債権に対する配当及び弁済許可に基づく弁済(同法101条)に関しても同様。

現行破産法の下では、労働者の給料及び退職手当の請求権の一部が財団債権とされ(同法149条)、随時の優先弁済とうけられるようになっているが、これらの請求権のうち本来の性質が破産債権であるものについては、本判決の考え方が妥当。
⇒破産管財人は、その弁済について源泉徴収義務を負わない。


配当金の受領に対する所得税の賦課徴収

破産債権に対する配当(破産管財人の源泉徴収義務につきこれと同様に解すべき弁済を含む)がされたときに、配当金の受領に対する所得税の賦課徴収がどのように行われる事になるのか?

A:破産者本人による源泉徴収義務肯定
配当の結果としての「支払」を実体法上の法律関係としては破産者自身による支払と解すべき⇒配当が行われた時に破産者本人に源泉徴収義務が成立。

国は、配当を受けた破産債権者からではなく、破産者本人から所得税を徴収しなければならず(所得税法221条)、徴収を受けた破産者は、当該所得税の額に相当する金額の支払を、配当を受けた破産債権者に対して請求(求償)(同法222条)。

この破産債権者に対する支払請求権(不当利得返還請求権)は、破産者の自由財産(新得財産)になる。

破産者が法人である場合など破産者自身による源泉所得税の納付が期待できない場合、国は、滞納処分として破産者の有する右の支払請求権を差し押さえ、又は債権者代位権(国税通則法42条、民法423条)に基づいて直接破産債権者に支払を請求し、その支払いに係る金員を源泉所得税の債権に充当。

実際の運用としては、所得税務署が、配当を受ける破産債権者の同意を得て、破産管財人に対し配当実施時における天引きを委託する方法。

少なくとも旧破産法の下では、当該源泉所得税の債権が破産債権又は財団債権として破産財団から弁済を受けることは、本判決により否定された。
「破産管財人は・・・所得税の源泉徴収をすべき者としての地位を破産者から当然に承継すると解すべき法令上の根拠は存しない。」との判示はこの趣旨を含む。

B:破産者は、法律により破産財団の管理処分権を失っており、自由財産からの支払も困難であることから、配当による「支払」については源泉徴収義務を免れる。

配当のあった破産債権は、当該配当のあった部分の金額に限り、源泉徴収を要しない
⇒確定申告において当該部分に係る源泉徴収税額を申告税額から控除することはできず(所得税法120条1項5号にいう「源泉徴収を・・されるべき所得税の額」に含まれない。)、また、給与所得者及び退職所得者について一定の場合に解除される確定申告義務が解除されない(同法121条1項各号、2項1号にいう「全部について・・所得税の徴収を・・されるべき場合」に当たらない。)。

権利確定主義(同法36条1項)の下では、配当金の受領に係る所得は、その配当に係る請求権が確定的に発生した年分の所得と考えられる⇒配当を受けた場合には、修正申告又は期限後申告

A説、B説いずれが正当かは決し難く、早急に立法的手当てが望まれる。
■民事p9 最高裁H23.1.21 抵当権設定登記後に賃借権の時効取得に必要な期間不動産を用益した者が賃借権の事項取得当該不動産の競売又は公売による買受人に対抗することの可否
事案 公売により本件土地を取得した原告Xが、土地所有権に基づき、
@本件土地上の建物を所有する被告Y1に対して、建物収去土地明渡し等を
A本件建物に居住するその他の被告(Y2〜Y4)に対して、各占有部分についての建物収去土地明渡しを、
それぞれ請求したところ、被告らが、賃借権の時効取得を主張して争った事案。

尚、国税につき担保に供された金銭以外の財産については、滞納処分の例により処分して国税等に充てるものとされており(国税通則52条1項)、差し押さえて(国税徴収法47条)、公売に付することとされている(同法89条、94条)。
原審 本件抵当権設定登記を起算点とする賃借権の時効取得を認めることはできない。
仮に本件抵当権設定登記後の占有により賃借権を時効取得したとしても、既に抵当権設定登記を経ている抵当権者に対抗することはできない。

@抵当権は交換価値を支配する権利であり、抵当権設定者が第三者に使用させるのは自由であるのが原則であり、抵当権者は例外的にしか第三者による賃借権の時効取得を中断する手段を有しない。
A民事執行実務上、最優先順位の担保権に先立つ賃借権であって対抗要件を備えたもののみが、抵当権実行手続において引き受けとなると扱われる。
判断 抵当権の目的不動産につき賃借権を有する者は、当該抵当権の設定登記に先立って対抗要件を具備しなければ、当該抵当権を消滅させる競売や公売により目的不動産を買い受けた者に対し、賃借権を対抗することができないのが原則。
この原則は賃借権を時効取得した場合であっても異なるものではなく、抵当権設定登記後に賃借権の時効取得に必要とされる期間、当該不動産を継続的に用益したとしても、買受人に対抗できない。
解説 抵当権が実行されて目的物が買受人に移転すると、用益権と買受人の取得した所有権が衝突⇒用益権と抵当権の対抗関係によって解決。

抵当不動産の賃借権者は、抵当権設定登記に先立って対抗要件を具備しなければ、抵当権を消滅させる競売や公売による買受人に対抗できないのが原則。(民事執行法59条1項、2項、国税徴収法124条1項)

本判決は、この原則は賃借権を時効取得した場合であっても異なるものではない⇒抵当権設定登記後に賃借権の時効取得に必要とされる期間、当該不動産を継続的に用益したとしても、そもそも抵当権設定登記に先立って賃借権の対抗要件を具備することはあり得ないから、買受人に対抗できないことは明らか。
準則T:
Aの土地をBが時効取得した場合、BがAに時効を主張するには登記は不要。

時効取得者と従前の所有者との間に権利変動の当事者間に類する関係(時効取得者が所有権を取得する反面、従前の所有者が所有権を失うという関係)が生じる⇒対抗要件なしに時効取得を従前の所有者に主張できる。

準則U:
時効完成前にAから土地を譲り受けたCとの関係でも、登記は不要。
Cの登記がBの時効完成後にされた場合であって、同様。

準則V:
時効完成後にAから土地を譲り受けたDとの関係では、A⇒B、A⇒Dの二重譲渡がされたのと同様の関係となり、登記が必要。

準則W:
Bが占有開始時をずらして、時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできない。
時効期間は、時効の基礎たる事実の開始された時を起算点として計算すべき。

準則X:
Bは、Dの登記後、さらに取得時効に必要な期間占有すれば、Dに対し登記なしに時効取得を対抗できる。

時効完成後の第三者の登記により一旦対抗問題による優劣決定がされた後に、再び同第三者と時効取得者(占有者)との間に物件変動の対立当事者としての局面が生じるに至っており、第三者が登記を経て完全な所有者となった以降は、時効取得者(占有者)と第三者を物件変動を惹起する対立当事者として考える必要があり、時効の法律関係もまた両当事者に生じる。
抵当権対賃借権の事例では、抵当権は賃借権と両立し得るのであり、賃借権を時効取得する者が現れたとしても、その半面で賃借権の負担を受けるのは抵当権者ではなく所有者
抵当権者と賃借権の時効取得者との間においては権利の得喪は生じず、この間に対抗要件なしに賃借権の取得を主張することができるような権利変動の当事者に準ずる関係が生じるわけではない。
■民事p11 東京高裁H22.9.29 郵政事業会社が転居届に関わる情報について負う守秘義務が弁護士法23条の2に基づく照会に対する報告義務に劣後し、報告を拒絶したことに正当な理由はないが、照会の権利・利益の主体は個々の依頼者ではないから、不法行為に基づく損害賠償を請求することができないとされた事例
事案 甲弁護士は、弁護士法23条の2に基づいて、東京弁護士会に対し、Yに照会して、
@Aの郵便物につき転居届が出ているか否か、A出ている場合には転居届に記載された転送先等について報告するよう求めることを申出、東京弁護士はYに照会。
Yは「信書の秘密」を侵害するとして報告を拒絶。
規定 弁護士法 第23条の2(報告の請求)
弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
2 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。

憲法 第21条〔集会・結社・表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密〕
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
A検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

個人情報保護法 第23条(第三者提供の制限)
個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。
一 法令に基づく場合
二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
三 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
四 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

個人情報保護法 第2条(定義)
この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。

4 この法律において「個人データ」とは、個人情報データベース等を構成する個人情報をいう。
判断
弁護士法23条の2の趣旨:

弁護士が、受任事件を処理するために必要な事実の調査及び証拠の発見収集を容易にし、当該事件の適正な解決に資することを目的として設けられたもの。
照会する権限の弁護士会に付与し、
@の権限の発動を個々の弁護士の申出に係らせつつ、
A個々の弁護士の申出が弁護士照会の制度の趣旨に照らして適切であるか否かの判断を当該弁護士会の自律的判断に委ねる
という2段階の構造。


報告義務の性質:

照会した弁護士会に対し報告する公法上の義務を負うが、
照会を受けた者が報告をしないことについて正当な理由を有するときは、報告を拒絶することが許される


本件照会に対する報告拒絶の正当な理由:

「通信の秘密」(憲法21条2項後段)とは、
@「通信の秘密」に属する通信内容や事務上の事項について調査、探求をしてはならないこと(積極的知得行為の禁止)、
A通信事務取扱者が「通信の秘密」について知り得た事項につき秘密を守るべきこと(漏洩行為の禁止)を意味する。

転居届の情報が報告されても、個々の通信の内容は何ら推知されない⇒同情報は「通信の秘密」に該当せず、「信書の秘密」(郵便法8条1項)にも該当しない⇒Yは「通信の秘密」「信書の秘密」に基づく守秘義務を負うことはない。

郵便法8条2項は「郵便物に関して知り得た他人の秘密」を漏洩することを禁じている。
⇒Yは、転居届の情報については、守秘義務を負う。

転居届は住居所に関する情報を含むところ、これは個人の内面に適わるような秘匿性の高い情報とはいえないが、みだりに第三者に開示又は公表されないことについて利益がある。
住居所についての情報はプライバシー性を有する

転居届の情報は、生存する個人に関する情報であり、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができ、個人情報保護法23条1項により保護される個人情報に当たるが、同条項1号は、法令に基づく場合には、あらかじめ本人の承諾を得ないで、個人情報を第三者に提供することを許容⇒Yが弁護士照会に対して報告することには、法的制約はなく、個人情報保護法に基づく守秘義務を負うことはない。


守秘義務と報告義務との優劣:
@A宛ての郵便物についての転居届の有無
A転居届の提出年月日
B転居届記載の転送先

Yの報告義務は、その守秘義務に優越する。

@単に住居に関する情報であり、その実質的な秘密性は低く、照会に応じても情報が知られる範囲は限定的。
A弁護士照会は、その制度趣旨から報告の必要性は高い。

C転居届の筆跡の状況(回答に代わる転居届の写しの送付依頼)
D転居届受理の際の本人確認の有無及びその方法

Yの守秘義務が報告義務に優越する。

@転居届の作成者、提出者等についての情報の報告を求めるものであり、転居届の作成者、提出者等について転居届の作成者、提出者等について転居届等について転居届に記載された事項の報告を超えて、Yが郵便業務の遂行の過程で取得した情報を開示を求めるものであり、@〜Bに比し秘密性が高い。
A強制執行(動産執行)をするためには比較的必要性が低く、重要性も低い


不法行為の成否:

Yの本件照会事項@ないしBの報告拒絶は、報告義務違反に当たり、過失があるが、Xに対する不法行為を構成するものではない。

弁護士照会の権利は、利益の主体は、その構造上、弁護士会に属するものであり、個々の弁護士及びその依頼者は、その反射的意利益を享受するもの。(←弁護士法23条の2は、個々の弁護士に所属弁護士会に対する照会申出の権限を与え、弁護士会に照会の権限を与えている。)
解説 本判決は、弁護士会に照会権限、弁護士に照会申立て権限があるのに対し、依頼者は利益享受主体としみるとしても反射的なものであり照会権限はない⇒消極に解した。

この点については、積極・消極両方の裁判例がある。
■民事p20 福岡高宮崎支判H21.12.24 日本の医科大学等で稼働していた英国人の逸失利益の算定において、日本の男子労働者大卒の平均収入を基礎とするのが相当であるとされた事例
主張 Xの逸失利益の基礎収入について・・・・英国に帰国した場合、Xの年齢、資格、経験からして、大学講師の職に就き、標準的な年収を得られたはずであるとして、平成13年賃金センサス男子労働者の40ないし44歳の平均収入782万1000円を基礎とすべきであると主張。
原審・本判決 逸失利益の基礎収入については、Xの事故直前の収入は431万9635円であるが、Xの学歴や経歴等にかんがみると、賃金センサス平成13年男子労働者大卒全年齢得平均680万4900円程度の収入を得られる蓋然性は認められると判断し、右金額を基礎に逸失利益を算定。
解説 最高裁H9.1.28:
日本滞在可能期間内はわが国での収入等を基礎とし、その後は、出国先(母国)での収入等を基礎として逸失利益を算定するのが合理的であるとの判断。

本件は、日本に滞在する英国人について、就労による収入が低かったにもかかわらず、日本の賃金センサス男子大卒労働者の平均収入を基礎として逸失利益を算定した事例。
■民事p33 東京地裁H22.9.24 振り込め詐欺の組織に属するグループのリーダーに対し同組織の他のグループによる詐欺行為についての不法行為が認められた事例
事案 Xら(62名)が、同(振り込め)詐欺集団に加わっていたYに対して、民法709条、719条に基づいて、詐取された金員相当額の損害金、慰謝料等を請求した訴訟。
事実 本件詐欺集団はAが組織した数組の詐欺グループによって活動。
手口は
@出会い系サイト等の利用者の名簿を使い、架空の出会い系サイト等の利用代金を請求する旨の虚偽の請求
A学校の先生や会社員の家へ電話を書け、息子や夫、勤務先の上司、弁護士などになりすまし・・・・。

Xらは、これら数組の詐欺グループのうち1組または2組の詐欺グループのいずれかによって被害を被ったと推認
規定 第719条(共同不法行為者の責任)
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
2 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。
判断 Yは、Yが所属していた2組の詐欺グループによる振り込め詐欺被害を受けた者に対してはもちろん、別の詐欺グループによる振り込め詐欺被害を受けた者に対しても、Yが本件詐欺集団に加入した平成17年8月以降に行われた振込詐欺について、民法709条、719条に基づく不法行為を負う。
解説 組織的な詐欺行為がなされた事案について、自己が直接詐欺行為に関与した場合のほか、詐欺の手の指導等を通じて他のグループとの間における手口等の共有に直接関与し、かつ、これら他のグループも一体の組織として詐欺行為を行っていたことを認識していたとして、自己が詐欺行為自体には直接関与していない他のグループの行った詐欺行為についても不法行為責任を認めたものであり、組織的詐欺行為のような事例について共同不法行為責任が認められる範囲を具体的に示した例として、参考になる裁判例。
■民事p44 大阪地裁H21.12.4 1.弁護士に守秘義務違反を理由とする慰謝料請求が認容された事例
2.弁護士である被告の依頼者である原告に対する委任契約に基づく報酬請求権の消滅時効の起算点は、原告が被告に対し訴訟代理人から解任する旨を通知した時であるとして、右報酬請求権は短期消滅事項によって消滅したと判断された事例
規定 弁護士法 第23条(秘密保持の権利及び義務)
弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。但し、法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

民法 第172条(二年の短期消滅時効)
弁護士、弁護士法人又は公証人の職務に関する債権は、その原因となった事件が終了した時から二年間行使しないときは、消滅する。
2 前項の規定にかかわらず、同項の事件中の各事項が終了した時から五年を経過したときは、同項の期間内であっても、その事項に関する債権は、消滅する。
判断 ●守秘義務違反:
依頼者と弁護士との間の委任関係の存否に関する事実は、依頼者が法的紛争の当事者となっていることやその紛争の現状に関わる事実であって、一般人の立場から見て秘匿しておきたいと考える性質を持つ事実。

XらがYを訴訟代理人から解任した事実は、一般に知られていない事実であり、依頼者と弁護士との間の委任関係の存否に関する事実に当たるから、Xにとって秘密に当たる。

Aらの逸失利益に関する主張は、Aらの年収、職歴、健康状態、年齢、同居の家族に関する情報等のプライバシーに関わる事実を基礎としており、逸失利益及びこれらの基礎となる事実は一般に知られておらず、一般人の立場からみて秘匿しておきたいと考える性質をもつ事実である上、Xらが特に秘匿しておきたいと考える性質の事項であることは明らか

Aらの逸失利益及びその基礎となる事実は秘密に当たる。

●消滅時効の起算点:
委任契約上の報酬請求権であって、弁護士の職務に関する債権(民法172条)に当たる。
「その原因となった事件が終了した時」とは、弁護士と依頼者との間の委任契約が終了した時点で弁護士と依頼者との間で金銭債権等の精算が行われ、その時点から弁護士の職務に関する債権を行使することができるから、依頼者と弁護士との間において当該事件の委任契約が終了した時をいうものと解される。

YのXらに対する委任契約上の報酬請求権の原因となった委任契約は、Xらが、Yに対し、本件損害賠償請求訴訟の訴訟代理人から解任する旨を通知した時に終了。
解説 職務上知り得た秘密を他にもらさないことは、弁護士の職務の構造から本質的に導かれる、弁護士倫理上の根幹・中核となる義務。
←依頼者は、弁護士からよりよい法的助言を得るために、秘密が守られると信じて、弁護士に秘密を開示する。

「秘密」:
一般的に知られていない事実であって、本人が特に秘匿しておきたいと考える性質をもつ事項(主観的意味の秘密)に限らず、一般人の立場からみて秘匿しておきたいと考える性質をもつ事項(客観的意味の秘密)をも指す。
ex.
過去の犯罪歴、病気や怪我、親族関係、財産関係など

弁護士との間での委任関係の存否に関する事実は、通常、秘匿しておきたいと考えられる性質を持つ当事者の第三者との間の法的紛争の存否に関する事実であり、秘密に当たると解される。

紹介者は委任契約の当事者ではない⇒依頼者の明示又は黙示の同意がない限り、これらの事実を開示することを正当化する理由になるものではない。
■民事p59 横浜地裁H22.8.26 介護老人保健施設において入所者が死亡したことにつき、被告の施設及び職員に対する管理体制、被告施設の職員らの事故発生前の対応及び事故発生後の救命活動のいずれかについても過失が否定された事例
事案 82歳のAが食事中に意識を焼失し、食事を誤嚥した状態で発見され、翌日に死亡。
@Yの施設及び職員に対する管理体制
A被告施設の職員らのAに対する事故発生前の対応、及び
B事故発生後のAに対する救命活動
についての過失よるものであると主張し、
Aの相続人らが、Yに対し、不法行為又は債務不履行に基づき損害の賠償を請求した事案。
争点 @Aの死亡の原因
AY及びその職員らの過失の有無
解説 @について、Aの死亡は脳梗塞、心筋梗塞等の何らかの疾病を原因とするもの、すなわち、Aが脳梗塞、心筋梗塞による発作を起こし、それによる吐き戻しの誤嚥が起きたものである蓋然性が高い。
Aについて、医療施設ではなく介護保険法に基づく介護老人保健施設である被告施設に課せられる注意義務の程度が問題。
■民事p75 さいたま地裁H23.1.21 石綿粉じんにより石綿関連疾患で死亡した従業員の会社に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権は死亡から起算して10年の消滅時効にかかり、会社の消滅時効の援用が権利濫用にあたらないとされた事例
事案 石綿セメント管を製造するY会社の工場の元従業員らが、その作業中に石綿粉じんに暴露され、石綿肺等の石綿関連疾患に罹患して死亡したとして、元従業員らの遺族であるX1〜X5の5名がYに対し、安全配慮義務違反による損害賠償請求権に基づき損害賠償を求めると共に、元従業員の家族で、工場の近隣に居住していたX1及びX2が元従業員が自宅に持ち帰っていた作業着等を介し、また付近工場から排出された石綿粉じんの暴露により健康被害を被ったとして、Yに対して安全配慮義務違反による損害賠償を求めた事案。
規定 民法 第167条(債権等の消滅時効)
債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2 債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。

民法 第166条(消滅時効の進行等) 
消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
2 前項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を中断するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。
判断 請求を棄却。

・・・Yの工場に就労し、いずれも石綿を扱う業務に従事
Yが右期間に石綿粉じん暴露による労働者の健康被害の防止に配慮する義務を尽くしたとは認められない、
Yに予見可能性及び安全配慮義務違反が認められる昭和35年以降に限っても、亡Aについては約14年、亡きBについては約17年、亡Cについては約12年という長期間にわたってYに就労
⇒Yは右従業員らの死亡について安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償責任を負う。

but
Xらは、雇用契約上の安全配慮義務の債務不履行に基づく損害賠償請求権を行使するものであるから、同請求権の消滅時効期間は10年(民法167条1項)で、その起算点は同法166条1項により、同損害賠償請求権を行使し得る時とされ、本件では、元従業員らが死亡した時から時効期間が進行するものと解するのが相当。

消滅時効の援用が権利の濫用に当たるには、債務者が消滅時効を援用することが社会的に許容された限界を逸脱したものである場合に限られるが、そのような事情は認められない。

元従業員の家族の石綿被害についての予見が可能となったのは昭和51年以降であり、X2の請求は昭和51年以前に関するもの
⇒Yに予見可能性を認めることはできず、・・・現時点で損害が発生しているとは認められない。
解説 石綿粉じんの暴露により石綿関連疾患に罹患し死亡した従業員の遺族が求めた損害賠償請求について、会社に対する安全配慮義務違反による損害賠償請求権は死亡後10年の消滅時効にかかり、会社の時効の援用による消滅した。

従業員の家族の石綿粉じんによる健康被害については、予見可能性または損害が認められないとして請求を棄却した。
■民事p103 札幌簡裁H23.1.14 金貨を販売し、換金する形で現金を提供するいわゆる「金貨金融」は、実質上金銭消費貸借契約であり、暴利行為であって公序良俗に反し無効であるとされた事例
事案 YはXから10日後に代金を支払う約束で金貨を6万5600円で買い受けたが、すぐにXの店員から紹介された人物との間で換金して現金4万2400円を受領。
YはXに65600円を支払わなかった。
⇒XはYに対し、金貨の売買代金65600円の支払いを求めた。
判断 Xの本訴請求を棄却

@本件取引は、金貨の売買代金の名目で融資額よりも高額の金員の回収を得ようとするもので、実質上は金銭消費貸借契約
AXは、Yに4万2400円を貸し付け、10日後に6万5600円の返還を受けるとするもので、その差額2万3200円は利息とみなされ、暴利行為であることは明らかであり、公序良俗に反し無効である。
解説 「金貨金融」を形式上売買契約となっているが、実質上金融消費貸借契約であると踏み込んだ判断をしたことは、初めての判断として注目すべき。

いわゆる「暴利行為」は、公序良俗に反し無効であるとされ、流質契約、抵当直流契約や高利の金銭貸借契約は暴利行為に当たると解されている。
■知財p105 知財高裁H21.5.25 会計処理システムに係る発明について、自然法則を利用した技術的思想の創作に該当するとした審決の判断に誤りはないなどとして、請求不成立とした無効審決が維持された事例
事案 Xは、発明の名称を「旅行業向け会計処理装置」とする特許の特許権者(本訴脱退被告)を被請求者として無効取消訴訟をし、請求不成立審決を受け、審決取消訴訟を提起したところ、脱退被告が破産手続開始決定を受け、本件特許を引受参加人に譲渡し、引受参加人は、本訴を引受承継し、脱退被告は本訴から脱退。
規定 特許法 第134条の2(特許無効審判における訂正の請求)
特許無効審判の被請求人は、前条第一項若しくは第二項、次条第一項若しくは第二項又は第百五十三条第二項の規定により指定された期間内に限り、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求することができる。ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一 特許請求の範囲の減縮
二 誤記又は誤訳の訂正
三 明りようでない記載の釈明
5 第百二十六条第三項から第六項まで、第百二十七条、第百二十八条、第百三十一条第一項及び第三項、第百三十一条の二第一項並びに第百三十二条第三項及び第四項の規定は、第一項の場合に準用する。この場合において、第百二十六条第五項中「第一項ただし書第一号又は第二号」とあるのは、「特許無効審判の請求がされていない請求項に係る第一項ただし書第一号又は第二号」と読み替えるものとする。

特許法 第131条の2(審判請求書の補正)
前条第一項の規定により提出した請求書の補正は、その要旨を変更するものであつてはならない。ただし、当該補正が、特許無効審判以外の審判を請求する場合における同項第三号に掲げる請求の理由についてされるとき、又は次項の規定による審判長の許可があつたときは、この限りでない。
判断 Xの請求を棄却

@無効審決中の訂正請求に係る訂正請求書について行われた補正(本件補正)は、特許法134条の2第5項で準用する131条の2第1項の規定を充足しており、審決が、本件訂正を認めた上で請求項1に係る発明の内容を認定した点に誤りはない。
A請求項1に係る発明は、コンピュータプログラムによって会計上の具体的な情報処理を実現する発明⇒自然法則を利用した技術的思想の創作に該当し、同旨の審決の判断に誤りはない。
B特許請求の記載は明確であり(36条6項2号)、発明未完成ではなく(29条1項柱書)、同旨の審決の判断に誤りはない。
解説 訂正請求書の補正について、訂正請求書の補正が要旨を変更するものであってはならないとされた趣旨は、訂正拒否の判断について審理の遅延を防止する点にあるから、要旨変更に当たるか否かは、そのような観点から実質的判断すべきである。

各手段は、コンピュータプログラムに従って作動することにより実現され、各手段によって行われる会計上の情報の判定や計上処理が具体的に特定され、経理ファイル上に、「売上」と「仕入」とが、「前受金」、「未収金」、「前払金」、「未払金」と共に、一旅行商品単位で同日付けで計上されるようにするための会計処理装置の動作方法およびその順序等が具体的に示されており、コンピュータプログラムによって会計上の具体的な情報処理を実現する発明であるから、自然法則を利用した技術的思想の創作に当たると認められる。
■知財p117 知財高裁H22.9.8 宿泊施設の提供等を指定役務とする出願商標「こころをなでる静寂 みやこ」が商標法4条1項11号に規定する商標に当たるとされた事例
事案 「こころをなでる静寂 みやこ」の文字を標準文字で表し、指定商品を「宿泊施設の提供」等として商標登録出願したが、拒絶査定⇒不服の審判の請求⇒出願商標について、大手ホテルチェーンにおいて使用されている、指定商品を「宿泊施設の提供」等とする登録された引用商標と相紛れるおそれのある類似の商標であるとして、商標法4条1項11号に該当し登録不可との審決。
⇒本件審決取消訴訟。
規定 第4条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
判断 本願商標と引用商標とは、共通の観念及び呼称を有する類似の称号ということができること、指定役務が同一又は類似すること、さらに、引用商標を使用するホテルチェーンの経営するホテル名には「都」が存在し、引用商標が使用されており、本願商標を宿泊施設の提供等に使用するならば、取引者・需要者に対して出所の誤認混同を生じるおそれがあると認定・判断。
⇒本願商標は、商標法4条1項11号に該当する商標登録を受けることができない称号であるとし、Xの請求を棄却。
解説 商標法4条1項11号に係る商標の類否判断について、
最高裁昭和43.2.27:
同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が、その外観観念呼称等によって取引者・需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し、また、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきもの。

結合商標のうちの一部分について要部として抽出して類否判断の対象とすることの可否との結合商標の類否判断の問題について、最高裁によると、
商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然である思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを引用商標の比較して商標そのものの類否を判断することは、原則として許されないが、他方、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての呼称、観念が生じないと認められる場合等には、商標の構成部分の一部だけを引用商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許される。

本判決も、本願商標のうち「こころをなでる静寂」との部分は、宿泊施設の雰囲気を表すキャッチコピーや役務の質と見ることができ、他方、これに続く「みやこ」の部分が役務の出所識別機能を有するものとして強く支配的な印象を与えるものとして抽出することができる。⇒それに基づいて類否判断をした。
■商事p124 東京高裁H33.4.22 株券上場廃止基準に当たる有価証券報告書等の虚偽記載がされた場合において、その事実の公表後に株価の下落があったときに、その虚偽記載によって当該会社の株式を保湯する者に損害が発生したものの、その額を立証することが極めて困難であるとして、相当額が認定された事例
事案 Y1社の株式を信託し又は受託して取得したXらが、Y社とその代表取締役Y2に対して不法行為による損害賠償を請求した事件。

不法行為の理由:
Y1社が、その有価証券報告書及び半期報告書に、A社(後にY2社が吸収合併)の保有するY1社株式の数を過少に掲載するなどし、A社もその虚偽記載に深く関わり、それによってY1社株の減価を招いた。

東京取引所の「株券上場廃止基準」
上場廃止事由として
@少数特者持株数が上場株式数の80%を超える場合で1年内にそれ以下にならないとき
A財務諸表等の虚偽記載基準や投資者保護等の公益基準に該当した場合で取引所が認めたとき。

Y1社株は、虚偽記載の公表日1081円、その翌日881円、上場廃止決定の公表日268円、上場廃止前日485円で推移し、その後のY1社らの再編時には919円と上昇。
争点 損害の有無及びその額

Xらは、損害賠償として
@株式の取得価格から処分価格を差し引いた額
A取得価格から虚偽記載の事実が公表されていた場合に想定される価格を差し引いた額
B虚偽記載の事実が公表された日の価格から処分価格を差し引いた額
を主張。
原審 虚偽記載がなければ上場廃止⇒本来取得するはずのない株式を取得させられることによって株価変動を甘受するべき地位に立たされた⇒@説を採用。
判断 株主の被った損害につき、その額を立証することが極めて困難な場合に当たる。⇒虚偽記載の公表直前の株式の終値の15%を1株当たりの損害と判断。

@本件不法行為は、株主らが正しい情報に基づいて投資判断を行うことができるという法的な利益を侵害。
Aその損害は、虚偽表示によって潜在していた減価事由が現実化したことによる減価について相当因果関係にある部分
B本件虚偽表示は、株主の構成にとどまり、資産価値等に係るものではなく、また、株式の取得行為そのものに瑕疵があったものではない⇒取得自体を損害とはいえない。(@説を否定)
C株価が虚偽表示と関わりのない多数の要因により変動⇒虚偽表示によって取得費用として支出する必要がなかった部分が具体的にあったかどうかは不明で想定価格を決めることはできない。(A説を否定)
公表前後の時点は期間の下落率を乗じて、取得価格と想定価格との差額を算定する方法にも合理性がない。
D自己責任による証券取引の特質等からすると、虚偽表示事実の公表とその後の株価の推移あるいは個別の処分との間に相当の因果関係があるとはいえない。(B説を否定)
E虚偽表示の公表によって減価事由が現実化して株式の価値が具体的に毀損され、その部分が一定の限度で株価に反映したといえるが、その毀損の程度等を認定するに足りる証拠はなく、その毀損の程度等を認定するに足りる証拠はなく、株価変動の諸要因からすると、株主の被った損害につき、その額を立証することが極めて困難な場合に当たる。
その額は、株式の評価額や買取額等を参酌して、15%を下回らない高度の蓋然性がある。
解説 裁判例
@取得価格と売却価格の差額分
A虚偽記載発覚時の価格と売却価格の差額分
B取得価格と虚偽記載発覚時の想定価格との差額分(取得価格に「下落率」を乗じたもの)
C虚偽記載発覚時の価格の一定割合(15%)とするの
D取得価格とするもの
■労働p136 東京地裁H22.10.27 会社の従業員が退職後3年間競合関係に立つ事業を自ら開業又は設立しない旨の合意をした場合について、合意に基づく会社の差止請求が認められた事例
事案 Xは、Yの右事業の開始は、XとYとの間の本件競業避止合意に違反するとして、Yに対して、右営業の差止めを求めた。

Yは
@本件競業避止合意は公序良俗に反する
AYは、Xに損害を与えるような競業をしていないから、差止めの利益はない
B本訴提起は権利の濫用に当たる
などと主張
主文 被告は、平成23年8月29日までの間、ホームページ及びブログ等を作成してウェブ上に公開することによって、被告が運営するヴォイストレーニング教室の宣伝、勧誘等の営業行為をしてはならない。
判断 @本件競業避止合意は、秘密情報を守る目的のためであり、正当であり、競業行為の禁止も退職後3年間であって合理性があるから、公序良俗に反しない。

AYの営業行為は本件競業避止合意に反するものであり、Yが今後も右営業を行う意思を有していることからすると、差止め求める必要性が高い。

B本訴提起がYの退職から2年後にされているとしても非難されることはない。XのノウハウはYの営業により現実的に侵害される可能性がある。
解説 会社の従業員の退職後の競業避止義務については、特約がある場合には、それにより、あるいは労働契約上の信義則上の義務として、一般に認められている。
but
右義務については、労働者の退職の自由、憲法上の職業の選択の事由との関係で単純ではなく、合意の有無、対象地域、職種、代替措置の有無、企業秘密、期間制限の有無などを総合してその義務の有無を判断。
裁判例では、制限範囲を限定するものが多い。
■刑事p141 最高裁H22.10.26 航行中の航空機同士の異常接近事故について、便名を言い間違えて降下の管制指示をした実地訓練中の航空管制官及びこれを是正しなかった指導監督者である航空管制官の両名に業務上過失傷害罪が成立するとされた事例
判断 被告人両名につき業務上過失傷害罪の成立を認めた。

過失行為について:
TCASの機能や、907便に対する降下指示が出された頃には、ほぼ同高度を、907便が上昇、958便が巡航していたことに照らせば、958便に降下RAが発出される可能性が高い状況にあったにもかかわらず、907便に対し降下指示を出すことは、両機が接触、衝突するなどの事態を引き起こす高度の危険性を有する行為として過失行為に当たる。

因果関係:
管制指示とRAが相反した場合の優先順位の規定がなかったことや、907便の機長が降下操作を継続した理由に鑑みると、同操作は異常なものとはいえず、むしろ同操作は本件降下指示に大きく影響されたものといえる。
⇒本件ニアミスは、言い間違いによる降下指示の危険性が現実化したもので、因果関係がある。

予見可能性:
被告人両名は、警報により両機が異常接近しつつある状況にあったことを認識していたのであるから、言い間違いによる降下指示の危険性も認識できたし、被告人両名のTCASに関する知識を前提にすれば、958便に降下RAが発出されることは十分予見可能で、本件のような結果の発生も予見できたと認められる。

★平成23年4月分
2104
2104 ■行政p19 東京地裁H22.12.22 1.国立市が、民間企業からの別件損害賠償請求事件において、前市長の当該民間企業に対する営業活動妨害等を理由に損害賠償金等の支払を命じる判決を受け、当該民間企業に対し、当該損害賠償金等を支払ったことから、国立市が前市長に対して求償権(国賠法1条2項)を有し、その不行使が怠る事実に該当するとして、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、前市長に当該損害賠償金等の支払いを請求することを現市長に対して求める請求が、認容された事例。
2.上記民間企業が国立市に対してした上記損害賠償金等と同額の一般寄付は、上記損害金等を実質的に填補する趣旨でなされたものではないとして、これをもって国立市の前市長に対する上記求償権が消滅したとは認められないとされた事例
3.国立市が前市長に対して上記求償権を行使することが信義則に反するとはいえないとされた事例
事案 国立市は、A株式会社からの別件損害賠償請求事件において、前国立市長Zが、国立市内にマンションを建築しようとしたAに対し、その営業活動を妨害し、その信用を毀損して損害を与えたとして、A社に対する合計2500万円及びこれに対する平成15年4月1日から支払済みまでの遅延損害金の支払を命じる判決を受けたことから、A社に対し、同損害賠償金及び遅延損害金を支払った。
国立市の住民であるXらが、Zの右行為は故意又は重大な過失によるものであって、国立市はZに対して国賠法1条2項の求償権を有すると主張し、地方自治法242条の2第1項4号の規定に基づき、Yに対し、Zに対して本件賠償金相当額の支払を請求することを求める住民訴訟を提起。
規定 地方自治法 第242条(住民監査請求) 
普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合を含む。)と認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下「怠る事実」という。)があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によつて当該普通地方公共団体のこうむつた損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求することができる。

地方自治法 第242条の2(住民訴訟)
普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、同条第四項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第四項の規定による監査若しくは勧告を同条第五項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる
一 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求
二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求
三 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求
四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合にあつては、当該賠償の命令をすることを求める請求

国賠法 第1条〔公務員の不法行為と賠償責任、求償権〕
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
A前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
争点 @本件求償権の存否及び行使の可否
AYが本件求償権の行使を違法に怠っているか否か
判断
ZのA社に対する故意又は重大な過失による営業活動の妨害行為及び信用毀損行為の有無

普通地方公共団体の長が、当該普通地方公共団体の事務の執行等に当たり、私人の適法な営業活動を妨害する目的を有していることが明らかで、かつ、他の事情とあいまって、当該長に要請される中立性・公平性を逸脱し、社会通念上許容されない程度に私人の営業活動を妨害した場合には、違法性を阻却する事情が存しない限り、行為全体として当該私人の営業活動を妨害したものとして、当該長が、当該私人に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められ、国賠法1条1項の違法がある。

Zの行為は之に該当する。


Zは、その基礎事実を十分に認識しながら、本件違法行為に及んでA社の適法な営業行為を妨害したと認められる以上、少なくともXに重大な過失がある。


本件違法行為による損害賠償義務の履行による国立市の損害に対する実質的填補の有無又は本件求償権行使の信義則違反の成否

本件寄付は、本件賠償金を実質的に填補する趣旨でなされたものとはいえず、これをもって本件求償権が消滅したとは認められない。

Zは、少なくとも重大な過失により、自ら主体的かたう積極的に一連の本件違法行為に及んでA社に損害を与えた
⇒本件寄付等を考慮しても、国立市がZに対して本件求償権を行使することが信義則に反するとはいえない。


Yによる本件求償権の不行使は、違法な怠る事実に当たる。
解説 XがYの怠る事実として国立市がZに対して有する本件賠償金についての国賠法1条2項の求償権(本件求償権)の不行使を主張

当該求償権の要件事実である
@Zらの行為が国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けること
A前記行為につきZに故意又は重大な過失があったこと
BA社の損害の発生(本件賠償金の額の相当性)
について判断。

国賠法1条1項の「違法」については、公務員が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したか否かにより判断するのが判例の立場(最高裁H17.9.14)であるところ、本判決は、普通地方公共団体の長が私人に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められる場合を明らかにした上、Zによる一連の行為について、ZがA社に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められ、国賠法1条1項の違法があるとした。

同条2項の
「故意」とは、自己の行為により被害者に違法に損害が生じることを認識しながらあえてその行為をすることを意味し、
「重大な過失」とは、抽象的な、抽象的な注意義務違反の程度がはなはだしい過失をいうと解されている。

本判決は重大な過失を認定。
A社の損害の発生も認め、国立市はZに対して本件求償権を取得したことを認めた。

本件寄付が本件賠償金を実質的に填補する趣旨でされたものとはいえないとして、これによる本件求償権の消滅を否定。

住民訴訟においても、違法な財務会計行為による地方公共団体の損害の発生の有無に関して、@財務会計行為による地方公共団体の「損害」とA当該財務会計行為の結果、当該地方公共団体が利益を得、又はその支出を免れることによる「利得」との間に相当因果関係があると認められる限りは、いわゆる損益相殺を認めるのが判例。(最高裁H6.12.20)


本判決は、本件違法行為におけるZの立場、目的、行動内容及びこれによる国立市の経済的不利益等を踏まえ、国立市がZに対して本件求償権を行使しても信義則に反するとはいえないとした。

一般に、国賠法1条2項の求償権については、国・公共団体自身の過失を考慮してその範囲を制限することがあり得る。

本件:国立市の市長であったZが自ら主体的かつ積極的に一連の本件違法行為に及んだ旨判示⇒本件求償権については、国立市自身の過失を理由にその範囲が制限されることはないと判断したもの。


Yが本件求償権の行使を違法に怠っているかについて、
最高裁H21.4.28は、原則として、地方公共団体の長に客観的に存在する債権の行使又は不行使についての裁量はない(最高裁H16.4.23)が、不法行為に基づく損害賠償請求権の不行使が違法な怠る事実に当たるというためには、少なくとも、客観的に見て不法行為の成立を認定するに足りる証拠資料を地方公共団体の長が入手し、又は入手し得たことを要するとしている。

本件においては、Yが客観的に見て本件求償権の成立・行使が可能であることを認めるに足りる証拠資料を入手⇒別件判決が確定した時点では、Yにおいて、本件求償権を行使することにつき、格別の支障はなかったものと認められるとして、Yによる本件求償権の不行使は、違法な怠る事実に当たるとした。
■民事p40 東京高裁H22.6.29 1.日本放送協会が受信者の妻と夫名義の放送受信契約を締結した場合における民法761条の適用の可否(積極)
2.日本放送協会に課せられている豊かで良い放送を行う義務(放送法7条参照)は、国民に対しいて一般的抽象的に負担する義務であり、放送受信契約の相手方が負担する放送受信料支払義務との関係において牽連性はない。
3.放送法32条及び日本放送協会放送受信規約9条は、それぞれ憲法13条後段、19条、21条1項、市民的及び政治的権利に関する国際規約19条1項に反しないとされた事例
4.放送受信契約の締結と義務付ける放送法32条は、これと異なる合意をすることを禁止する強硬規定として消費者契約法11条2項にいう「民法及び商法以外の他の法律に別段の定め」に該当することから、放送法32条に基づく日本放送協会との間の放送受信契約の締結については、同法10条が適用される余地はない
事案 YらがNHKの放送受信料の支払を拒絶

請求原因の否認:
@放送受信契約の不成立
A放送受信契約が民法761条の日常の家事に関する法律行為に当たらないという効果不帰属

抗弁:
BXが、そのテレビ番組の制作において政治的介入を許容し、放送受信料を不正に有用しており、「豊かで良い放送を行う義務」(放送法7条)を履行していないから、放送受信料支払義務を履行拒絶できる。(牽連性に基づく履行拒絶)
C放送受信契約の締結及び放送受信料の支払を強制する放送法32条並びに受信機を廃止しない限りXとの放送受信契約の解約をを禁止する日本放送協会放送受信規約9条の無効
D放送受信規約9条の消費者契約法10条による無効
規定 民法 第761条(日常の家事に関する債務の連帯責任)
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

消費者契約法 第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
民法、商法(明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

消費者契約法 第11条(他の法律の適用)
消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し及び消費者契約の条項の効力については、この法律の規定によるほか、民法及び商法の規定による。
2 消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し及び消費者契約の条項の効力について民法及び商法以外の他の法律に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
判断 @XとYらとの間の放送受信契約の成立
A放送受信契約に係る日常家事該当性
を認める。
B〜Dの抗弁を排斥。

Dについて、放送受信規約9条は放送受信契約の締結を義務付ける放送法32条と同趣旨のことを定めているところ、同条は、これと異なる合意をすることを禁止する強行規定として消費者契約法11条2項にいう「民法及び商法以外の他の法律に別段の定め」に該当する
⇒放送受信契約については、同法10条が適用され得る余地がないとして排斥。
■民事p48 大阪高裁H22.12.21 戦没者の遺族の靖国神社及び国に対する損害賠償請求並びに靖国神社に対する合祀取消請求が棄却された事例
事案 戦没者の遺族であるXらが、Y1(靖国神社)が戦没者を合祀し、郷士を継続している行為は、Xらの敬愛追慕の情を基軸とした人格権を侵害する違法な行為であり・・・Y1とY2(国)に対して損害賠償請求を請求するとともに、Y1に対して戦没者の氏名の抹消等を求めた事案。
判断 @戦没者の合祀は、戦没者の名誉を棄損したり、プライバシーを侵害するものではないし、これによりXらの法的利益が侵害されたと認めることはできない
AY1の行為が違法とは認められないから、Y2の行為との間の共同行為性を判断する必要はない。
⇒一審判決は相当であるとして、Xらの控訴を棄却。
解説 護国神社における殉職自衛隊員の合祀に関する判決
最高裁昭和63.6.1:
死亡した配偶者の追慕、慰霊等に関して、私人がした宗教上の行為によって信仰生活の静謐が害されたとしても、それが信教の自由の侵害に当たり、その態様、程度が社会的に許容し得る限度を超える場合でない限り、法的利益が侵害されたとはいえない。
■民事p57 東京地裁H22.9.28 介護付有料老人ホームの入居契約上の入居一時金を消却する旨の特約が消費者契約法10条に違反しないとされた事例
事案 XはYが本件ホームの入居契約に基づく介護義務、再発防止義務等を懈怠したなどとして契約解除の意思表示をするとともに、入居契約の錯誤無効、本件供去金及び入居一時金が消費者契約10条に該当し無効であると主張し、返還を受けた入居金569万8000円を控除した795万2000円の返還を求める本訴を提起。
規定 消費者契約法 第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
民法、商法(明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
判断 本件入居契約ではAの死亡が終了原因になっている⇒Xの解除は本件入居契約終了後になされたもので効力は発生しないとし、錯誤の主張も契約締結後の事情に基づくもので理由がないと排斥。

消費者契約法10条該当性についての主張については、本件入居金の額、使途及び償却基準等はいずれも東京都の有料老人ホーム設置運営指導指針に従ったものであること、Yは、本件入居契約締結時、Xに対し、入会金、施設協力金、入居一時金の趣旨について説明するとともに、入居一時金が20%を契約締結時に、残り80%は5年間で償却されることを重要事項説明書を用いて説明し、Xもこれに署名していることを認定し、消費者契約法10条を適用すべき理由はない。
解説 有料老人ホームの入居契約に伴う入居一時金の償却が消費者契約法10条に該当しないと判断したもので、事例的意義がある。
■民事p62 東京地裁H22.11.30 1.第三者が組成・発行した仕組み債への投資勧誘を行った者について、平成18年法律第66号による改正前の金融商品の販売等に関する法律(旧金販法)4条及び民法709条に基づく損害賠償責任が認められた事例
2.第三者が組成・発行した仕組み債の購入代行及び保護預かりを行って同歳への投資に関与した金融機関につき、旧金販法4条に基づく損害賠償責任が否定された事例
3.第三者が組成・発行した仕組み債の購入代行及び保護預かりを行って同債への投資に関与した金融機関につき、民法709条、同法719条及び同法715条にmのとづく損害賠償責任が、当該金融きお間の従業員につき、民法709条及び同法719条に基づく損害賠償責任が、それぞれ否定された事例
4.平成16年法律第97号による改正前の証券取引法(旧証取法)第17条の規定の適用範囲
5.外国の裁判所を専属的裁判管轄とする管轄合意が存在する場合に民訴法7条ただし書きの併合管轄によって我が国に裁判管轄が認められた事例
事案 全国の小売酒販業者によって組織され、私的年金制度を営んでいた任意団体であるXが、Y1から勧誘を受けて、年金資金の運用の一環として、外国法人が発行した仕組み債に約144億円の年金資金を投入することとし、外国に本店を有する金融機関であるY2に本件債券の購入の取次ぎを依頼して、本件投資を実行したが、償還期限を経過したにもかかわらず全く元本の償還を受けられずに損害を被ったとして

@Y1に対しては旧証取法17条、旧金販法4条及び不法行為、共同不法行為に基づいて、
AY2(クレディスイス)の担当従業員であるY3に対して旧証取法17条、不法行為、Y1との共同不法行為又は幇助に基づいて
BY2に対しては使用者責任、旧証取法17条、旧金販法4条及び不法行為、Y1との共同不法行為又は幇助に基づいて、各自約160億円の損害賠償を求めた事案。
規定 民訴法 第7条(併合請求における管轄)
一の訴えで数個の請求をする場合には、第四条から前条まで(第六条第三項を除く。)の規定により一の請求について管轄権を有する裁判所にその訴えを提起することができる。ただし、数人からの又は数人に対する訴えについては、第三十八条前段に定める場合に限る。
判断
本件契約は、理事会から権限の委任を受けたBの権限に基づいてAが締結⇒有効に成立。


Y1の責任:
Y1が管理会社の業務状況によって本件債券に元本欠損が生じるおそれがあることを説明しなかった(旧金販法3条1項違反)⇒旧金販法4条に基づく損害賠償責任を認める。
Y1は、相当な注意を払えば本件債券の実際の仕組みや回収リスクを認識し得たのであり、Y1の旧金販法3条1項に違反した行為には過失も認められる民法709条に基づく損害賠償責任も認めた。


Y2の責任:
Y2には旧金販法3条1項の説明義務違反は認められるものの、Y2はXが本件債券に投資することを決定した後で、本件債券の保護預かり等を行うことに限定して本件投資に関与⇒Y2の説明義務違反行為とXによる本件投資の実行及び損害との間には相当因果関係が存しない⇒同法4条に基づく責任を否定。

Y2が、本件契約の締結を回避する措置を怠ったことなどを理由とする不法行為責任:
本件契約の内容、本件投資への関与の在り方等の本件の事実関係⇒Y2の行為・不作為に不法行為条の違法があるとも、Xによる本件投資の実行及び損害との間に相当因果関係があるとも認められない⇒不法行為責任を否定


Y3の責任:
Y3には本件債券の仕組みやリスク等について確認・説明を行うべき義務はなく、その他Y3が本件投資に関与した過程における行為・不作為について不法行為を構成するような違法があるとは認められない
Y3の行為・不作為と本件投資の実行及び損害の発生との間に相当因果関係があると評価することはできない
⇒不法行為・共同不法行為・幇助による責任を否定。


旧証取法17条は有価証券の募集又は売り出しの場合を規制の対象とした規定であり、本件債券のような私募債の場合には同条の適用はない。


Y2による本案前の抗弁について、
管轄合意は有効に成立しているとしたものの、当該具体的な事案に照らし、日本の裁判所において裁判を行うことが当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に適合するものと認められる特段の事情が存在する場合には、民訴法7条ただし書きの併合管轄を理由に我が国の裁判所に国際裁判管轄が認められると判断を示した上、
@本件訴訟提起時にY2の支店が日本国内に存在したこと、
A本件に係る一連の交渉が日本国内で行われたこと、
B我が国に裁判管轄が認められるY1及びY3の責任の検討とY2の責任の検討がとは密接な関連性があり、本件に関与した主要な人物の多くの日本国内に居住していた
⇒特段の事情が存在する
⇒Y1及びY3との併合管轄が認められるとして、日本の裁判管轄を認めた。
解説 旧金販法3条1項、4条、5条1項は、民法の不法行為の特則であり、金融商品の販売を業として行う金融販売業者等についての一定の重要事項に関する説明義務違反を無過失責任化し(同法3条1項、4条)、これによって顧客に生じた損害との間の因果関係やその額を推定して(同法4条、5条1項)、顧客の立証責任を負担を軽減したもの。


金融商品への投資に関与した金融商品販売描写やその従業員の責任が問題となった同種事案の多くは、担当従業員について不法行為責任、金融販売業者について使用者責任を追及したものが多い。


専属的国際裁判管轄の合意と併合管轄:
客観的併合については、国際訴訟においてもこれを認めるのが通説。
客観的併合が認められる要件を示した最高裁判例。(最高裁H13.6.8)

主観的併合については、意見が分かれる。

本判決は、従前の国債裁判管轄に関する判断基準及び専属的国債裁判管轄の合意の有効性についての判断を示した最高裁判例に即して国際裁判管轄の存否及び専属的国足裁判管轄の合意の有効性を判断した上で、専属的国際裁判管轄の合意が認められるときでも、民訴法の定める併合管轄の規定の適用を一律に排除するのではなく、国際裁判管轄が肯定される場合の判断基準に則して、併合管轄が認められる場合についての一定の判断枠組みを示している。
■民事p95 大阪地裁H22.11.4 連棟式一棟建物の区分所有住戸部分の収去土地明渡の強制執行が、収去対象住戸部分の隣接住戸部分に倒壊の危険性がある等の事情から、右強制執行による収去請求権の行使は権利の濫用に当たるとして、右隣接住戸部分の区分所有権者の求めた右強制執行停止の請求が認容された事例
事案 YがAの住戸部分についての建物収去の強制執行に着手したことに対して、Xが右強制執行の対象には、Xが共有部分を有する共用部分が含まれており、また、右強制執行による収去請求権の行使がXに対する関係で権利の濫用に当たるとして、右強制執行の不許を求めた事案。
規定 民事執行法 第38条(第三者異議の訴え)
強制執行の目的物について所有権その他目的物の譲渡又は引渡しを妨げる権利を有する第三者は、債権者に対し、その強制執行の不許を求めるために、第三者異議の訴えを提起することができる。
2 前項に規定する第三者は、同項の訴えに併合して、債務者に対する強制執行の目的物についての訴えを提起することができる。
3 第一項の訴えは、執行裁判所が管轄する。
4 前二条の規定は、第一項の訴えに係る執行停止の裁判について準用する。

区分所有法 第10条(区分所有権売渡請求権)
敷地利用権を有しない区分所有者があるときは、その専有部分の収去を請求する権利を有する者は、その区分所有者に対し、区分所有権を時価で売り渡すべきことを請求することができる。
判断 本件強制執行による収去請求権の行使は、Xに対する関係で権利の濫用に当たり許されない。

@風圧力に対する耐力が弱くなり倒壊の危険性が増大し、使用への影響も大きく、Xのみならず本件強制執行の対象部分の東側の区分所有者らも懸念を表明。
A本件対象物件を収去した場合、両側の界壁を残して養生工事を行うために更地となる部分は狭いものとなり、新たな建物の敷地として実用的ではなく、更地となる土地部分の利用価値は低くYの本件強制執行を行う利益は高いものではない
BYは区分所有法10条に基づく区分建物の売渡請求権を有するのでこれを行使してその所有権を取得し、同建物を第三者に賃貸する等してその経済的不利益の発生を回避することの可能性もある。
C告げずに本件強制執行に着手し、XのYに対する調停の申立にも出頭せず
DXはYを相手とする区分建物取壊禁止の仮処分の審理手続中にも、切離し後のX建物の補強工事の具体的提案の和解案を提出したのにYが無視
解説 連棟式一棟建物の区分所有の住戸部分に対する建物収去土地明渡の確定判決による強制執行によりう当該住戸部分の収去がなされると、それに隣接する住戸部分の区分所有者の住戸部分は、風圧力による倒壊の危険性のある状態となり、他方、強制執行により更地となった土地は狭く利用価値は低く、右強制執行による経済的利益については、区分所有法10条により右収去対象の住戸部分を買取り大三者に賃貸して経済的不利益を避ける可能性があること等から、本件強制執行による収去請求権の行使は、隣接住戸部分の区分所有者との関係において権利の濫用に当たるとして、右区分所有者の求めた強制執行停止の請求を認容した。

第三者異議の訴えにつき、強制執行申立者の権利濫用を理由に、これを認容したもの。
■知財p101 知財高裁H21.6.29 1.冒認出願(123条1項6号)を理由として請求された特許無効審判において、「特許出願がその特許に係る発明の発明者自信又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任は、特許権者が負担するとした上、審決には、冒認出願に関する判断の誤りがあるとして、審決が取り消された事例
2.冒認出願を理由として請求された特許無効審判について、職権で口頭審理から書面審理に変更した点において手続上の瑕疵があるとして、審決が取り消された事例
事案 Xは、冒認出願を理由として無効審判を請求。審決は、冒認出願であることの主張立証責任を無効審判請求人であるXが負うとの判断を前提とし、Xが提出した証拠及びXの主張によっては、本件特許が冒認出願に対してされたものであるとすることはできない⇒請求不成立審決。
Xが審決取消し求めて本訴を提起。
規定 特許法 第123条(特許無効審判)
特許が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係るものについては、請求項ごとに請求することができる。

六 その特許が発明者でない者であつてその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとき。
判断 主張立証責任に関して、
特許権を取得し得る者が発明者及びその承継人に限定されている特許法のもとにおいて、冒認手続(法123条1項6号)を理由として請求された特許無効審判において、「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」の主張立証責任は特許権者が負担すべきであるとした。

その上で、主張立証責任を特許権者が負担するとしても、すべての事案において、特許権者が発明の経緯を個別的、具体的に主張立証しなければならないわけではなく、特許権者の行うべき主張立証の内容、程度は、冒認出願を疑わせる具体的な事情の内容及び無効審判請求人の主張立証活動の内容、程度により左右される

Xは、冒認を疑わせる事情を具体的に主張立証していたが、Yは、「特許出願がその特許に係る発明の発明社自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」について具体的な主張立証活動を行っていなかった⇒それにもかかわらず請求不成立として審決には、冒認出願に係る事実についての主張立証責任の所在の判断の誤りがある。

本件審判手続は、その具体的な争点の内容、性質に照らすと、口頭審理によるべきであるが、それにもかかわらず、職権で、口頭審理から書面審理に変更したことは、審判長の裁量を逸脱しており、審決の結論に影響を及ぼす手続上の瑕疵
■知財p111 東京地裁H22.7.16 登録商標を「シルバーヴィラ」とする商標権を有し、かつ、「シルバーヴィラ向山」との名称の老人ホームを運営する原告の「シルバーヴィラ揖保川」等の名称で介護保険に係る施設を開設・運営する被告に対する、不競法に基づく「シルバーヴィラ」の標章の使用の差止請求及び商標権侵害に基づく損害賠償請求の一部が認められた事例
事案 登録商標を「シルバーヴィラ」とする商標権を有し、かつ、「シルバーヴィラ向山」との名称の有料老人ホームを運営するXが、「シルバーヴィラ揖保川」等の名称で介護保険に係る施設を開設・運営するYに対し、@商標権侵害に基づく「シルバーヴィラ」の標章の使用の差止め及び損害賠償の支払を求めるとともに、A不競法2条1項1号の不正競争行為に該当するとして、不競法3条1項に基づく「シルバーヴィラ」の標章の使用の差止めを求めた。
規定 不正競争防止法 第2条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

不正競争防止法 第3条(差止請求権)
不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。第五条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。

商標法 第32条(先使用による商標の使用をする権利)
他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果その商標登録出願の際(第九条の四の規定により、又は第十七条の二第一項若しくは第五十五条の二第三項(第六十条の二第二項において準用する場合を含む。)において準用する意匠法第十七条の三第一項の規定により、その商標登録出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの商標登録出願の際又は手続補正書を提出した際)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。

不正競争防止法 第19条(適用除外等)
第三条から第十五条まで、第二十一条(第二項第六号に係る部分を除く。)及び第二十二条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。
三 第二条第一項第一号に掲げる不正競争 他人の商品等表示が需要者の間に広く認識される前からその商品等表示と同一若しくは類似の商品等表示を使用する者又はその商品等表示に係る業務を承継した者がその商品等表示を不正の目的でなく使用し、又はその商品等表示を不正の目的でなく使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

商標法 第2条(定義等)
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
三 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為
四 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為

商標法 第39条(特許法の準用)
特許法第百三条(過失の推定)、第百四条の二から第百五条の六まで(具体的態様の明示義務、特許権者等の権利行使の制限、書類の提出等、損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定、秘密保持命令、秘密保持命令の取消し及び訴訟記録の閲覧等の請求の通知等)及び第百六条(信用回復の措置)の規定は、商標権又は専用使用権の侵害に準用する。

特許法 第103条(過失の推定)
他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。

商標法 第38条(損害の額の推定等)
3 商標権者又は専用使用権者は、故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
判断 「被告は、介護保険に係る役務を提供するに当たり、その営業上の施設又は活動に「シルバーヴィラ揖保川」又は「シルバーヴィラ」と当該施設若しくは活動の種別を示す名称とを組み合わせた標章を付してはならない。」
・・
商標と表示を肯定。

商標法32条1項の先使用については、被告各標章が、原告商標権の出願前に、需要者の間に広く認識されていたとは認められないとして、その成立を否定。
原告登録商標が慣用商標化していることも否定。

商標権侵害を認めた。


Xが運営する老人ホームが開設当初から多数の新聞等に取り上げられていた
原告標章の周知性を認めて、Yによる被告各標章の使用は、不競法2条1項1号の他の要件も満たし、不競法19条1項3号の先使用については、原告標章は、被告の各標章が使用される前から周知であったとして、その成立を否定し、慣用商標の主張も否定し、被告各標章の使用は、不競法2条1項1号の不正競争行為に該当。


不競法3条1項に基づく差止めの範囲:

介護保険に係る役務の提供に被告各標章を付することの差止めを認める範囲で、差止めを認めた。
←Yが被告各標章を使用して提供する役務が介護保険に係るものに限定されており、その範囲を越えてこれを使用するおそれがあるとは認められない。

「シルバーヴィラ」を付した施設による役務の提供の差止めを求める部分については当該施設を使用することは、商標法2条3項4号の商標の「使用」には当たらず、不競法2条1項1号に規定する行為にも該当しないし、被告各標章の使用の差止めのほかに、当該施設の使用の差止めを認める必要性もない。

本件においては、商標法36条1項に基づく差止めの範囲は、不競法3条1項に基づきう差止めの範囲に包含される⇒前記の範囲で、不競法3条1項に基づく差止請求を認容。


損害賠償:

商標権侵害に基づく損害賠償請求については、過失の推定(商標法39条、特許法103条)が働くのは、商標公報発行日以降⇒同日日以降につきYの過失を認めるとともに、損害額については、・・・商標法38条3項に基づき、Yの売上額の0.5%の額につき損害賠償請求を認めた。
解説 商標権侵害を理由とする差止めと不正競争防止法に基づく差止めとの関係について、Xは選択的併合として主張していたところ、裁判所は、本件においては、商標権侵害を理由とする差止請求は、不競法に基づく差止めの範囲に包含されると判示。

商標権侵害を理由とする差止めは、商標権侵害行為、すなわち商標法2条3項各号に掲げられている商標を使用する行為等が対象。不競法においては、そのような使用行為の限定がない。
⇒差止めの範囲が一致しない場合が生じ得る。


損害賠償につき、原告登録商標の使用料相当額につき、介護保険に係る施設であるというYが運営する施設の性格や当該施設の主な利用者の地域性等を考慮して、被告各施設の売上の0.5%としており、低い割合で認定。
■商事p130 東京地裁H22.11.26 金融商品取引法192条1項に基づき、金融商品取引法違反行為の差止めが命じられた事例
事案 内閣総理大臣から委任を受けた証券取引等監視委員会がY1並びにその代表取締役Y2及び取締役Y3が金融商品取引法29条に違反して同条所定の登録を受けずに株式及び新株予約権の取得の斡旋・勧誘等を業として行っているなどとして、同法192条1項に基づき、東京地裁に対し、Yらを右金商法違反行為の禁止を命じるよう申し立てた事案。
規定 金商法 第29条(登録)
金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行うことができない。

金商法 第192条(裁判所の禁止又は停止命令)
裁判所は、緊急の必要があり、かつ、公益及び投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣及び財務大臣の申立てにより、この法律又はこの法律に基づく命令に違反する行為を行い、又は行おうとする者に対し、その行為の禁止又は停止を命ずることができる。
2 裁判所は、前項の規定により発した命令を取り消し、又は変更することができる。
3 前二項の事件は、被申立人の住所地の地方裁判所の管轄とする。
4 第一項及び第二項の裁判については、非訟事件手続法(明治三十一年法律第十四号)の定めるところによる。
判断 証券監視委の申立てを認容してY1らに対する緊急差止命令を発令。
解説 法192条は
@緊急の必要があり、かつ
A公益及び投資家保護のため必要かつ適当であると認めるとき、
B内閣総理大臣等からの申立てにより
Cこの法律又はこの法律に基づく命令に違反する行為を行い、行おうとする者に対し、
Dその行為の禁止又は停止を命ずることができる。

行政処分の対象とならない、いわゆる無登録業者による未公開株式等の販売・勧誘により投資家(特に個人投資家)が被害を受ける事例が社会問題化

@これまで金融庁長官にのみ委任されていた緊急差止命令の申立て権限が証券監視委及び財務局長等にも委任されたたこと(金商法194条の7第4項、7項、同法施行令44条の5)、
A緊急差止命令違反について両罰規定を設け、法人にも3億円以下の罰金刑を科することにより(金商法207条1項3号)その実効性が高められたこと
B平成22年3月に閣議決定された消費社基本計画においても緊急差止命令の活用が具体的施策とされていた。


本決定においては、差止命令の名宛人に、いわゆる無登録業者であるY1のみならず、その役員であるY2及びY3をも含めた上、差止命令の対象をA社が発行する株式等に限定せずに「株券、新株予約権証券又はこれらに表示されるべき権利であって株券若しくは新株予約権証券が発行されていない場合における当該権利について、売買、売買の媒介若しくは代理又は募集若しくは私募の取扱い」と広く認めており、例えば、将来Y2,Y3がY1を離れて同種の無登録業を行うことも禁止の対象としている。


また、証券監視委は、A社の行為が金商法4条1項に違反する無届募集等に該当するとして、甲府地方裁判所に対し、2例目となる緊急差止め命令の申立てを行い、同裁判所は認容する旨の決定。
■労働p133 東京地裁H22.4.15 大手通信社の記者が、糖尿病性ケトアシドーシスにより多臓器不全等に陥って急性心不全に至り死亡した場合について、業務起因性が否定された事例
事案 大手通信社である株式貨車時事通信社において政治部首相官邸記者クラブ担当の三席記者の業務に従事していた36歳のAが、糖尿病を基礎疾患とする合併症である糖尿病性ケトアシドーシスにより、多臓器不全に陥って急性心不全に至り死亡した場合において、本件疾病発症の業務起因性が争われた事案。
争点 @業務起因性の判断の枠組み
A業務の過重性
B業務と本件疾病の基礎疾患である糖尿病発症との相当因果関係
C業務と本件疾病発症との相当因果関係
D業務による治療機会喪失と本件疾病との相当因果関係
判断 争点@:
業務と死亡等との間に相当因果関係が認められることが必要であり、相当因果関係を認めるためには、当該死亡等の結果が当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要(最高裁)。

争点A:
死亡前6カ月の時間外労働が月平均で約134時間、死亡前1週間の時間外労働時間が1日平均約5時間。

仕事内容
⇒Aの業務は、通常人にとって過重な負荷となるものであった。

争点B:
1型糖尿病⇒発症に身体的・精神的ストレスが影響していたと解する余地はない
2月糖尿病⇒どのようなストレスがどのようなメカニズムでどの程度関与するのかについての具体的な医学的知見の主張立証はない。

業務による身体的・精神的ストレスを含む広い意味でのストレスについて、業務に内在する危険の現実化として糖尿病が発症したという意味での相当因果関係を肯定するだけの根拠に関する立証が尽くされていない。⇒Aの糖尿病発症について業務起因性を否定。

争点C:
相当因果関係を肯定するだけの根拠は乏しい⇒本件疾病発症の業務起因性を否定。

争点D:
治療を早期に受けなかったことが業務多忙によるものとは認められず、Aの過重な業務が本件疾病の治療機会を喪失させたとはいえない。⇒治療機会の喪失という意味での業務起因性も否定。
■刑事p145 最高裁H22.12.20 労働基準法22条1項(週単位の時間外労働の規制)違反の罪と同条2項(1日単位の時間外労働の規制)違反の罪との罪数関係
事案 石油製品のん運搬等を目的とする会社の代表取締役である被告人が、同社の運転者に、労使協定によって定めたらた1か月130時間の延長労働時間を超えて時間外労働をさせるなどした労働基準法違反等の事案。
規定 労働基準法 第32条(労働時間) 
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
A使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
判断・解説 労基法32条1項は、使用者は、労働者に、
1週間について40時間を超えて労働させてはならないとし、
同条2項は、使用者は、労働者に、1日について8時間を超えて労働させてはならないとして、週単位、1日単位の時間外労働を規制。

争点:
週単位の時間外労働の規制違反とその週の内の1日単位の時間外労働の規制違反の両方に該当する場合に罪数関係をどのように考えるべきか?

A:週単位の規制を原則として、それが成立する限りその単位内の1日単位の違反は別罪を構成せず、法条競合となる。
B:両罪が成立し併合罪となる。


判断:
労基法32条1項違反の罪が成立する場合においても、その週内の1日単位の時間外労働の規制違反について同条2項違反の罪が成立し、両罪は併合罪の関係にある。

「労働基準法32条1項(週単位の時間外労働の規制)と同条2項(1日単位の時間外労働の規制)とは規制の内容及び趣旨等を異にする


@それぞれの規定の趣旨が異なり、片方の規制が守られただけでは労働者の疲労の回復は図られないから、各項が別個の意義を有すること
A労基法32条1項による週単位の時間外労働の規制は、同条2項による1日単位の時間外労働の総和を規制しているものといえない
B項を分けて別々の規制とされ、両立する別個の規制としての意味合いを強めている。
C法定刑も同一であり、吸収関係にもない。

両罪が成立する場合、それぞれの行為は社会的見解上別個のものと評価すべきものであって、両罪は併合罪の関係にある。

社会的実態(行為者の動態)としてみて、使用者の週単位の労働時間管理と、1日単位の労働時間管理とは社会的事象として同じとはいえず、・・・違反の一部に重なりあったとしても、それぞれの違反行は別個の行為であると解される。
2103
2103 ■民事p24 東京高裁H22.1.24 株式会社が満期転換社債型新株予約権付社債を発行した際に作成・退出した金融商品取引法所定の臨時報告書等の虚偽記載等を原因として同社の株主であった者が民事再生手続が開始された同社に対して再生債権として届け出た同社の株式の価格の下落を理由とする損害賠償請求権について金商法21条の2第4項、第5項所定の「当該書類の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたこと」の証明がないのに同第5項を適用して当該株主の株式の取得価格から処分価格を控除した価格の2割を控除して損害を査定した異議裁判所の査定裁判が控訴審において当該2割の控除を認めた点において相当でないとして変更された事例
事案 再生手続が開始された株式会社(Y)が満期転換社債型新株予約権付社債(本件CB)を発行した際に作成・提出した金商法所定の臨時報告書等の虚偽記載等を原因として同社の株主であった者(X)が再生債権として届け出たその所有する株式の価格の下落を理由とする損害賠償請求権の査定をめぐって争われた場合に、「CBの発行に当たって払込金の全額をスワップ契約の当初支払に充てること等を開示しなかった臨時報告書等が「記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な事項の記載が欠けている」ものに当たるとされた事例」ないし「単に有価証券報告書等の虚偽記載等の公表直前の市場価格が公表日前1カ月間の市場価格の平均額若しくはは当該有価証券の取得価格を下回り、あるいは当該有価証券の市場価格が継続的な値下がりの傾向を示していたというだけでは、損害の額の全部又は一部が虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことの証明があるということはできないとされた事例」として紹介された東京地裁H22.3.9の控訴審判決。
原判決 前記の証明がないとしたが、この場合にも金商法21条の2第5項を適用し得るとの見地に立ち、同項を適用して、Xの株式の取得価格と処分価格との差額である19万7900円からYが賠償責任を負わない損害として2割を控除した15万8320円をXの損害と査定。
本判決 前記の証明がない以上、金商法21条の2第5項を適用することはできないとの見地に立ち、同項の適用を否定して、取得価格と処分価格との差額である19万7900円を損害と査定して、その限度で原判決を変更。
規定 金商法 第21条の2(虚偽記載等のある書類の提出者の賠償責任)
第二十五条第一項各号(第五号及び第九号を除く。)に掲げる書類(以下この条において「書類」という。)のうちに、重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているときは、当該書類の提出者は、当該書類が同項の規定により公衆の縦覧に供されている間に当該書類(同項第十二号に掲げる書類を除く。)の提出者又は当該書類(同号に掲げる書類に限る。)の提出者を親会社等(第二十四条の七第一項に規定する親会社等をいう。)とする者が発行者である有価証券を募集又は売出しによらないで取得した者に対し、第十九条第一項の規定の例により算出した額を超えない限度において、記載が虚偽であり、又は欠けていること(以下この条において「虚偽記載等」という。)により生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、当該有価証券を取得した者がその取得の際虚偽記載等を知つていたときは、この限りでない。
2 前項本文の場合において、当該書類の虚偽記載等の事実の公表がされたときは、当該虚偽記載等の事実の公表がされた日(以下この項において「公表日」という。)前一年以内に当該有価証券を取得し、当該公表日において引き続き当該有価証券を所有する者は、当該公表日前一月間の当該有価証券の市場価額(市場価額がないときは、処分推定価額。以下この項において同じ。)の平均額から当該公表日後一月間の当該有価証券の市場価額の平均額を控除した額を、当該書類の虚偽記載等により生じた損害の額とすることができる。
3 前項の「虚偽記載等の事実の公表」とは、当該書類の提出者又は当該提出者の業務若しくは財産に関し法令に基づく権限を有する者により、当該書類の虚偽記載等に係る記載すべき重要な事項又は誤解を生じさせないために必要な重要な事実について、第二十五条第一項の規定による公衆の縦覧その他の手段により、多数の者の知り得る状態に置く措置がとられたことをいう。
4 第二項の場合において、その賠償の責めに任ずべき者は、その請求権者が受けた損害の額の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことを証明したときは、その全部又は一部については、賠償の責めに任じない。
5 前項の場合を除くほか、第二項の場合において、その請求権者が受けた損害の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことが認められ、かつ、当該事情により生じた損害の性質上その額を証明することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、賠償の責めに任じない損害の額として相当な額の認定をすることができる。
解説 原判決が2割の減額の根拠とした金商法21条の2第5項は、その規定上、「損害の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことが認められ」ることを適用の要件としている。

本判決は、この点に着目して、原判決を変更したの。
損害の算定それ自体としては、取得価格と処分価格との差額をもって損害を算定するとう、「差額説」に立った、オーソドックスな認定をしている。
■民事p33 名古屋高裁H22.7.29 遺産確認請求訴訟の係属中にその確認の対象となった遺産の一部について被告が原告の請求を一部認諾したが、その効力を否定した上、当該遺産の全部を確認の対象として、その一部が遺産に属することが確認された事例
事案 亡Zの共同相続人であるX1ないしX3及びYの間で、Zが生前に関係していたAないしEの各株式会社5社の株式が亡きZの遺産であるか否かをめぐって争われている事案。
当該株式の名義人は、目録上、特定されていない。

本件訴訟の弁論準備手続期日において、本件各株式の一部について、YがXらの請求を一部認諾。
判断 Z名義以外の株式は、名義株ではなく、実質株であって、当該名義人に属する。

本件訴訟の係属中に確認の対象となった株式の一部について被告が原告の請求を一部認諾したが、原告らがこれを争ったため、本判決に際して、その効力が問題となっただけでなく、その効力が否定された。

「Xらは、・・遅れて乙9が提出されたことで、不十分ながらも、Xらがようやく遺産の範囲の絞り込みができるようになり、Xら名義の株式等を訴訟の対象から除外すべく、訴えの一部を取下げようとしていた矢先、これを察知して、これまでの主張を翻す本件認諾書を提出し、Xらの訴えの一部取下げを不同意にして、本件認諾をしたことが認められ、しかも、Yが名義株でありZの遺産であると認諾した部分は、名義株ではなくXらの実質株であると認められるものであったのであり、このような経緯での本件認諾は、遺産確定訴訟における訴訟当事者として、訴訟上の信義則(民訴法2条)に著しく反するものであり、無効である」
解説 ●認諾の効力が争われた事案

貸金請求訴訟の原告が被告の支配人甲の発案で甲を被告の送達先とする訴状を提出。⇒甲が出廷して認諾⇒
債務名義に基づく強制執行とその請求異議訴訟の被告勝訴を経て、原告の期日指定申立てにより再開された右貸金訴請求訴訟につき、原告の行為は訴訟上の信義則に反し、訴権を濫用するものであるとして訴えを却下した事例。(東京地裁H13.3.27)

甲所有の不動産を賃借していた乙が、甲死亡後その特別縁故者として右不動産の所有権を取得したとする丙を被告として、丙に賃貸人の権利がないことのみの確認を求めるべきところ、乙を賃借人、丙を賃貸人とする賃貸借契約自体の不存在確認訴訟を提起したのに対し、丙が乙の請求内容に右のような不手際のあることを知りながらこれに乗じて直ちに請求を認諾し訴訟を終結させた上、別途乙を被告として右不動産につき所有権に基づく明渡等請求訴訟を提起し、その訴訟中で前訴における認諾の効力を主張して乙の賃借権の抗弁を排除しようとすることは信義則に反し許されないとされた事例。(大阪高裁H6.12.16)

(同一訴訟内で)錯誤に基づく請求の認諾が無効となるのは、右錯誤が刑事上罰すべき他人の行為に起因する場合に限られるとの判断が示された事例。(東京地裁H5.7.26)
■民事p42 高松高裁H22.9.28 債権者である公庫及び金庫と連帯保証人との間で求償制限特約が締結されている場合であっても、共同保証人間で負担割合に応じて求償することができるとされた事例
事案 XはA漁協の農林漁業金融公庫に対する貸金債務及びこれに対する農林中央金庫の保証委託債務を連帯保証。

Xは、金庫から預金債権の相殺通知を受け、A漁協の配当金の差押えを受け、合計1億36万1149円について、金庫及び公庫に免責を得た。

Xは、A漁協の理事であったYらに対し、YらがA漁協の主債務を減少させるなどの義務を怠ったなどとして水産漁協同組合法39条の6第8項又は民法709条に基づく損害の賠償を求めるとともに、Y1に対してA漁協の債務をXと共同して連帯保証していたとして求償権に基づき5018万574円の支払を求めた。
原審 Xの請求をいずれも棄却。
公庫及び金庫との間の契約においては、
連帯保証人は、この借入債務の一部を弁済した場合において、公庫及び金庫が債権の全額の弁済を受けるまでは、代位によって取得した権利を行使せず、かつ、公庫又は金庫から請求を受けたときは、その権利を無償で公庫及び金庫に譲渡する」(「本件求償制限特約」)と規定
⇒連帯保証人の主債務に対する求償権のみならず、連帯保証人相互間の求償権も制限されると判示。
判断 本件求償制限特約は公庫及び金庫との間で公庫及び金庫のために締結された特約であり、連帯保証人間相互において結ばれるなどしたものではないから、連帯保証人が他の連帯保証人に対して事後求償権を行使することは妨げられない。
解説 連帯保証人間相互において結ばれるなどしたものではない

連帯保証人間で直ちに原判決の指摘するような効力を認めることは困難
そのため、本件求償制限特約では、公庫及び金庫は、借入債務の一部を弁済したことにより取得した「権利を無償で公庫及び金庫に譲渡する」ことを求められると定めている。

実質的にも、公庫等がそうした権利を行使せず、また、当該連帯保証人に対して訴えを提起するなどして、保証債務の履行を請求していないような場合にまで、連帯保証人に本件求償制限特約を援用させ、求償権を制限する必要性は認め難い。
■民事p50 東京地裁H22.7.13 公正証書による負担付死因贈与について贈与者に意思能力がなかったとは認められず、有効とされた事例
事案 XらがYに対し、Xら及びYの父であるAとYとの間で締結された公正証書による負担付死因贈与契約等が、Aが認知症により意思能力を欠く状態で締結されたものであるとして、その無効の確認等を求めた事案。
判断 本件贈与契約締結当時、Aに意思能力がなかったと認めることはできないと判断して、本件贈与契約を有効であると認めた。

@認知症にあったbut
Aの主治医によれば、契約締結前後のAについて、相手の話を理解して会話が成り立つときもあれば、相手の話を理解することができないときもある波のある状態であったと供述。
Aが常に意思能力を欠く状態にあったとは認められない

A公証人は、公正証書作成に際しAの意思能力に問題がないことを確認

BAは、公正証書の作成中、住居表示と登記簿上の記載の相違について指摘したり、押印する印鑑が実印かどうかを気にしていたりした

CYとAが絶縁状態にあったことを認めるに足りる証拠はなく、他方で・・・見舞いをし、同妻と看護師との間に置いて、Aの退院後の居住場所などについて話し合いがんあされていた
解説 老人性認知症等の関係で、意思能力の有無が問題になり、公正証書による遺言等の効力が争われた裁判例は多数ある。

かかる問題について判断するには、認知症等の症状や進行の程度及び公正証書を作成する際の公証人による意思確認の態様作成の際の行為者の言動行為者の動機等といった個別の事情の吟味が必要となる。
■民事p64 東京地裁H22.11.25 大規模な詐欺的な投資取引を行った事業者の開催したコンサートに出演する等した歌手の共同不法行為、幇助が否定された事例
事案 詐欺的な投資取引を行った事業者が開催したコンサートに出演した著名な歌手の共同不法行為等の損害賠償責任が問題になった事案。

X1らは、Yに対し、共同不法行為、Aの不法行為につきほう助を主張し、損害賠償を請求。
判断 Aやその投資商品と密接な関係を有することを示すような具体的な発言は認められず、積極的にAを推奨したとは認められないし、Aを宣伝したものでもないし、また、DVDへの出演もその経緯に照らして直ちに不法行為、幇助とはいえないとし、Yの共同不法行為、幇助を否定し、X1らの請求を棄却。

Yがコンサートに出演するに当たり、Aの事業内容、信用性をあらかじめ十分に調査・確認した上でなければ出演してはならないという一般的な法的義務があるとは直ちには認められない
■民事p74 東京地裁H22.9.9 ガス湯沸器の不完全燃焼による一酸化炭素中毒による死亡事故について、販売会社の従業員の修理に過失があったとして、同会社の損害賠償責任が認められた事例
事案 Aの遺族X1と、X2〜X4は、右死傷事故は、右ガス湯沸器に欠陥があったことに原因があるとして、右湯沸し器を販売したY1と製造したY2に対し、共同不法行為に基づき、またY1の従業員がガス湯沸し器の不正改造を行ったとして、民法709条、715条に基づき損害賠償を請求。
判断 Y1(販売業者)の修理上の過失による責任を認めた。
■民事p91 横浜地裁H22.3.25 知的障害者入所厚生施設の入所者がトイレ内で転倒負傷した事故について、施設側の損害賠償責任が認められなかった事例
事案 Yの職員Aが、X1に暴行を加え、または過失によってX1をトイレ内で転倒させ、傷害を負わせたとして、不法行為又は安全配慮義務違反に基づき、損害賠償を請求した。
判断 請求棄却
解説 病院や施設等において治療・保護を受けている患者等の自傷・他傷事故について、施設側の損害賠償を請求する事例は増加する傾向。
その責任の存否は、患者等の身体的・精神的状況病院側の看護体制の状況等を総合考慮して判断。
■民事p98 京都地裁H22.10.5 6階建マンションの築造により近隣住民が、景観、日照、圧迫感、プライバシー等の被害及び工事騒音被害等様々の被害を挙げて、マンションの一部撤去及び損害賠償を求めたのに対し、工事騒音被害に対する損害賠償請求のみが認容され、その余の請求は棄却された事例
事案 6階建てマンションの築造により、付近住民Xらが、
@景観権ないし景観利益に基づく妨害排除請求権として、本件マンションの占有者かつ所有者である更生会社Aの管財人Y1に対して、本件マンションの一部除去を求め、
A景観権等の侵害に対する不法行為に基づく損害賠償として、Y1、本件マンションの注文会社Y2及び建設会社Y3に対して金員の支払等を求め
B本件マンション建設工事による騒音・振動被害に基づき、Y2及びY3に対して損害賠償を求め、
C本件マンションによる圧迫感、プライバシー侵害、日照侵害に基づき、Y1、Y2及びY3に対して損害賠償を求め、
D本件工事に基づく家屋被害、地盤沈下被害に基づき、Y2及びY3に対し、補修費用及び地番強化工事費の支払を求め、
E本件工事により地盤が変動し、Xらの家屋なしい生命身体が侵害されたとして、所有権ないし人格権に基づき、
Y1に対し、本件土地の地盤強化工事排水施設設置及び独立擁壁設置を求めた事案。
判断 @(景観権ないし景観利益の侵害)条例違反はあっても重大なものではなく、Xの景観に対する影響は少なく・・・社会的に容認され、Xらの景観利益が違法に侵害されたとは認められない。
A(公示による騒音・振動被害)工事騒音は付近居住のX1らの受忍限度を超えるものではあるが、振動はその規制基準を超える日は僅かで受忍限度内
B(圧迫感・日照被害)高さ、容積率を低く計画変更⇒Xらの被害は受忍限度内
C(プライバシー侵害)受忍限度内
D(本件工事の過失)過失は認められず、工事で付近の建物の柱が傾いたり、地盤が沈下したことは認められないし、その危険性も認められない

工事騒音で精神的苦痛を負ったX1らのみは、Y2(注文会社)及びY3(建設会社)に対して損害賠償を求めることができるが、その余のXらの請求は理由がない。
解説 高層マンションの築造による近隣居住者との紛争については、通常は建築確認の段階で近隣被害の減少のため話し合いがなされ、その過程を経て訴訟となるものが多い。
■知財p124 最高裁H23.1.18 1.公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより、当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置が単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合に、当該装置は自動公衆送信装置に当たるか
2.公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより、当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置が、公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており、これを継続的に情報が入力されている場合における送信の主体
事案 放送事業者であるXらが「まねきTV」という名称で利用者所有の機器を事故の事務所内に設置することによって、利用者がインターネットを通じてテレビ番組を視聴することができるようにするサービスを有償で提供しているYに対し、本件サービスが
@放送についての送信可能化権(著作権法99条の2)侵害
A放送番組についての公衆送信権(同法23条1項)侵害
となる旨主張して、放送の送信可能化行為の差止め及び損害賠償の支払を求めた事案。
規定 著作権法 第23条(公衆送信権等)
著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。

著作権法 第99条の2(送信可能化権)
放送事業者は、その放送又はこれを受信して行う有線放送を受信して、その放送を送信可能化する権利を専有する。

著作権法 第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

七の二 公衆送信 公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。

九の四 自動公衆送信 公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)をいう。

九の五 送信可能化 次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。
イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号及び第四十七条の五第一項第一号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。以下同じ。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。

ロ その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。
原審 各ベースステーションは、あらかじめ設定された単一の機器宛てに送信するという1対1の送信を行う機能を有するにすぎず、自動公衆送信とはいえないなどとして、放送の送信可能化権侵害、放送番組の公衆送信権侵害のいずれも認めず、Xの請求を棄却。
判断 自動公衆送信装置の意義について、公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより、当該装置入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は、これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても、当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは、自動公衆送信装置に当たるというべきである。
当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており、これに継続的に情報が入力されている場合には、当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当であるとした上、本件において、Yはベースステーションに放送の入力をしているとみるべきであり、Yからみて利用者は不特定として公衆に当たるから、本件サービスの提供は放送の送信可能化に当たる。

テレビアンテナからベースステーションまでの送信の主体はいずれもYであるから、テレビアンテナから利用者の端末機器に放送番組を送信することは、同番組の公衆送信に当たる

ベースステーションがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しないことのみをもって自動公衆送信装置の該当性を否定して、送信可能化又は公衆送信を認めなかった原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
⇒知財高裁に差し戻した。
解説 送信の主体について、受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており、これに継続的に情報が入力されている場合に限定して判示しているが、これは、受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置に既に情報が蓄積されていて、当該装置をインターネットに接続するような場合には、その津続行為者が、当該装置が情報を送信することができる状態を作り出しているとして、送信の主体ととらえることが可能であるといわれるように思われる。
■知財p128 最高裁H23.1.20 放送番組の複製物を取得することを可能にするサービスの提供者が複製の主体と解される場合・・ロクラクU事件上告審判決
事案 業者の施設内に置かれた「ロクラクU」と呼ばれる機器において、テレビ番組の複製ファイルが作成され、それがインターネットを通じて利用者の手元に送られ、利用者がテレビ番組を視聴することができるというテレビ番組の録画転送サービスにおいて、具体的な複製は、サービスの各利用者が自らレンタルしているロクラクUに対して複製の指示をしてされるというものであるときに、そこでされるテレビ番組等の複製の主体が誰であるかが争われた事案。

Xらは、放送事業者であるところ、「ロクラクU」という名称のインターネット通信機能を有するハードディスクレコーダーを用いたサービスを提供するYに対し、同サービスはXらが制作した著作物である放送番組等についての複製権(著作権法21条、98条)を侵害するなどと主張して、放送番組等の複製の差止め、損害賠償の支払等を求めた。
規定 第21条(複製権) 
著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

第98条(複製権)
放送事業者は、その放送又はこれを受信して行なう有線放送を受信して、その放送に係る音又は影像を録音し、録画し、又は写真その他これに類似する方法により複製する権利を専有する。
原審 仮に各親機ロクラクがYの管理、支配する場所に設置されていたとしても、Yは本件サービスの利用者が複製を容易にするための環境等を提供しているにすぎず、Yにおいて、本件番組等の複製をしているとはいえない
⇒Xらの請求を棄却。
判断 放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて、サービスを提供する者が、その管理、支配下において、テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器に入力していて、当該機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合、その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても、当該サービスを提供する者はその複製の主体と解すべきである。

本件サービスにおける親機ロクラクがYの管理、支配する場所に設置されていたとしても、テレビ番組等の複製をしているのはYとはいえないとしてXらの請求を棄却した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
⇒本件を知財高裁に差戻した。
解説 サービス利用者の複製⇒私的利用目的の複製として適法とされる余地がある。
サービスの提供者である業者がしている⇒違法となる。

本判決は、本件のような場合について、サービス提供者がその支配管理下で放送を受信してこれを複製機器に入力するなどの一定の行為が複製の実現に当たって枢要な行為であるとして、サービスの提供者は複製の主体であるとしている。
■知財p132 知財高裁H22.11.30 「ハーブヨーグルトン」等の複数の文字及び双葉模様や豚のシルエット等の複数の図形からなる本件商標が、「ヨーグルトン」のカタカナを標準文字で表記した引用商標に類似するとした審決が維持された事例
事案 Xは本件商標の商標権者であるところ、Yが、本件商標は、引用商標(「ヨーグルトン」)と類似し、本件商標登録が商標法4条1項11号に該当するなどと主張して無効審判を請求し、特許庁が、本件商標の指定商品中、「食用油脂、乳製品」を除くものについての登録も無効とする旨の審決をしたことから、Xが、審決中、本件商標の登録を無効とする部分の取消しを求める訴訟を提起した事案。
規定 第4条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
判断 本件商標の各構成部分は、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとは認められないとした上、本件商標と引用商標は、「ヨーグルトン」の呼称を共通にし、観念において比較することができず、外観は、取引者、需要者の注意をひく「ヨーグルトン」の部分は共通している
⇒両商標は類似する。
解説 ●呼称の類否
呼称において類似する。

●観念及び外観の類否
呼称の類似性を否定するに足りる特徴的な外観、観念上の相違はない。

●結合商標の類否判断について
同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が、その外観観念称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり(最高裁昭和43.2.27)、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての呼称、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されない(最高裁昭和38.12.5)。

本判決は、右の判例理論を踏まえ、複数の文字及び図形の結合商標である本件商標について各構成部分の出所識別標識性を詳細に認定するとともに、格別の観念を生じることのない造語である引用商標の出所識別力は強いものと認めて、両商標の類否を判断。
■商事p139 神戸地裁H22.10.6 韓国に輸出中の機械が航海中に損傷した場合、輸出代行業の債務不履行責任及び運送業者の不法行為責任が認められた事例
事案 Xは、工作機械等の売買、輸出入等を業とする株式会社であるが、鉄を加工するための本件工作機械を韓国の業者に転売したため、、Y1との間で、本件機械の輸出通関、船積み手続を委託する契約を締結したところ、Y1は、本件機械のバンニング、本船への引渡し業務をY2に委託。
運送中に子尾低ベルトが損傷⇒Xは、韓国の業者に対し、本件機械の修理費用として400万円を支払った。

Xは、Y1に対して、委託契約上の債務不履行として修理費用400万円と弁護士費用40万円の支払を求めるとともに、Y2に対しては、民法709条に基づき、右と同様440万円の支払を求めた。
判断 Y1は、海上運送中に荷崩れ等により本件機械が損傷することがないよう本件機械が損傷することがないよう本件機械を固定する義務を負うにもかかわらず、ラッシング、シェアリングが不十分であったため海上運送中に本件機械を損傷⇒委託契約上の義務を怠ったものと言わざるを得ないとして、XのY1に対する本訴請求を認容。

Y2は、Y1と同様の義務を負うにもかかわらず、ラッシング、ショアリングが不十分であったため、海上運送中に本件機械を損傷させた過失がある
⇒Y2の民法709条の責任を認め、XのY2に対する本訴請求を認容。
■労働p146 東京地裁H22.3.29 1.日本放送協会の受信契約取次ぎ及び受信料収納等を業務内容とする委託契約における受託者の報酬(事務費)を構成する単価について、単価は、毎年4月、日本放送協会と受託者が協議の上、決定することという契約書の文言は、受託者との協議を経た上で、最終的には、日本放送協会が、毎年、決定するものと解釈すべきであり、単価の決定に各受託者又は受託者加入団体との合意が必要で、合意が成立しなければ前年度の単価が継続して適用されるとの原告らの主張は採用できず、この結論は、本件契約の法的性質を労働契約ないし労働契約類似の契約とみるか否かによって異なることはないとされた事例
2.日本放送協会が、平成19年度の受信料収入に係る業績回復を予測する等して平成18年度よりも安い単価を決定したことに合理性の欠如は認められず、単価の決定が権利濫用に該当すると評価することはできないから、受託者である原告らは、本件契約に基づき、日本放送協会が定めた平成19年度の単価に拘束されるとされた事例
事案 被告である日本放送協会(Y)との間で本件契約を締結した受託者であるXらが、Yによる平成19年度の単価の決定に対し、前年度より減額。
本件契約を労働契約ないし労働契約類似の契約と解釈すると、労働条件の一方的不利益変更に該当⇒就業規則が制定されていない以上無効であり、当然に前年度の単価が適用される。
本件契約を委託と請負の混合契約と解釈すると、合意が必要であり、合意がないときは前年度の単価が継続して適用される。。

平成19年4月〜平成20年3月の報酬として受領済みの金額と、平成18年度の単価で算出した場合の金額との差額等を請求した事案。
争点 @本件契約において単価の決定に受託者との合意を要するか
A合意を要しないとした場合でも、本件における単価の決定が受託者であるXらを拘束しないことがあり得るか
判断 争点@について、単価は毎年Yが決定するものと解釈するべき。
⇒合意を要するとのXらの主張を排斥。

本件契約が労働契約であっても、年度ごとに賃金の改定行われ、使用者側に最終的な賃金決定権が権利濫用にわたらない限り、契約当事者を拘束することは、労働契約における合意原則に照らして当然である。
⇒本件契約の法的性質論に言及することなく、前記主張を排斥。

争点Aについて、Yに決定権があるとの解釈をとりつつも、受託者との協議を要件としている本件契約の契約書の文言等に照らし、本件契約は、単価の決定について、協議を経ることによ、その内容が合理的なものとなることを当然に前提としている。
Yの決定が合理性を欠く場合には、権利濫用に該当し、受託者らはYの決定に拘束されない

本件では、合理性を欠くとは評価することはできない。
解説 あくまで当該契約の解釈の問題として捉え、当該契約の契約書の文言、当該契約の性質ない趣旨、単価決定の慣行等を踏まえて、契約の一方当事者に決定権があるとの解釈を導いたもの。
■刑事p155 最高裁H22.12.20 観賞ないしは記念のための品として作成された家系図が、行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」に当たらないとされた事例
事案 行政書士でない被告人が、行政書士である共犯者らと共謀の上、行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」である家系図合計6通を、報酬を得て作成し、業として行政書士の業務を行ったとして、行政書士法違反に問われた事案。
規定 行政書士法 第1条の2(業務)
行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
判断 ・・それ以上の対外的な関係で意味のある証明文書として利用されることが予定されていたことをうかがわせる具体的な事情は見当たらないという事実関係の下では、本件家系図は、依頼者に係る身分関係を表示した書類であることは否定できないとしても、行政書士法1条の2第1項にいう「事実関係に関する書類」に当たらない
⇒無罪
解説 およそ「事実証明」という要素が含まれている書類の全てがこれに該当するというような広い解釈は、同条が、行政書士の業務独占の範囲を画するとともに、刑事罰の対象をも画することに照らすと、妥当ではない。

行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」については、一定の限定解釈をすべきである。
並列して規定されている「官公署に提出する書類」に匹敵する程度の実質を伴った、対外的な関係が現実化した書類に限定するのが相当。
■刑事p158 東京高裁H21.11.16 住居侵入後、キャッシュカードの窃取に着手し、いつでも容易にその占有を取得できる状態に置いた上で、同キャッシュカードの占有者に脅迫を加えて同キャッシュカードの暗証番号を強いて聞き出した行為につき、刑法236条2項の強盗罪が成立するとされた事例
事案 キャッシュカードを窃取した被告人が、被害者に対し、包丁を突き付けながら、「1番金が入っているキャッシュカードと暗証番号を教えろ。」などと語気鋭く申し向けて脅迫し、その犯行を抑圧して、同人名義の預金口座の暗証番号を聞き出して同口座から預金の払い戻しを受ける地位を取得し、もって財産上不法の利益を得たとして、いわゆるニ項強盗罪で起訴。
規定 第236条(強盗)
暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
原審 @被告人が被害者から窃取に係るキャッシュカードの暗証番号を聞き出したとしても、財物の取得と同視できる程度に具体的かつ現実的な財産的利益を得たとは認められず、
A刑法236条2項の「財産上不法の利益」は「移転性」のある利益に限られ、同項に該当するためには、犯人の利益の取得に対応した利益の喪失が被害者に生じることが必要であるところ、被告人が暗証番号を聞き出したとしても、キャッシュカードの暗証番号に関する情報が被害者と被告人との間で共有されるだけで、本件被害者の利益がうしなわれるわけではない⇒被告人が財産上不法の利益を得たとはいえない。
⇒強盗罪の成立を否定し強要罪が成立するにすぎない。
解説・判断 @の点について、
財物の移転を伴う1項犯罪との均衡上、いわゆる2項犯罪にいう「財産上不法の利益を得」たというには、財物の取得と同視できるだけの具体的かつ現実的な財産的利益の取得が必要と解されており、裁判例も同様の理解に立っている。

東京高裁H18.11.21:
欺罔によって、キャッシングカードを用いて消費者金融会社から利用限度額(30万円)の範囲内で何回でも繰り返し金銭を借り入れることができる地位を得た場合、実質的には利用限度額の範囲内の具体的な金銭交付請求権を得たのと同視できる状況にある⇒2項詐欺罪の成立を認めている。

本判決:
犯人は、現金自動預払機(ATM)の操作により、キャッシュカードと暗証番号による機械的な本人確認手続を経るだけで、迅速かつ確実に、被害者の預金、口座から預貯金の払い戻しを受けることができるようになる。⇒キャッシュカードとその暗証番号を併せ持つ者は、あたかも正当な預貯金債権者のごとく、事実上当該預貯金を支配しているといっても過言ではなく・・・事実上、ATMを通して当該預貯金口座から預貯金の払戻しを受け得る地位という財産上の利益を得たものというべきである。

Aの点について
強盗税は移転罪ゆえ「財産上不法の利益」は移転性のある利益に限られるとし、情報や役務などについては、その非移転性ゆえに移転財の成立を一般的に肯定できないとする説も有力であるが、利益の移転性を厳密に要求せず、少なくとも有償の役務については、ニ項強盗罪の客体となり得るとするのが多数説。

本判決:
2項強盗の罪が成立するためには、財産上の利益が被害者から行為者にそのまま直接移転することは必ずしも必要ではなく、行為者が利益を得る反面において、被害者が財産的な不利益(損害)を被るという関係があれば足りる
本件においては、被告人が、ATMを通して本件口座の預金の払戻しを受けることができる地位を得る反面において、本件被害者は、自らの預金を被告人によって払い戻されかねないという事実上の不利益、すなわち、預金債権に対する支配が弱まるという財産上の損害を被ることになるのであるから、2項強盗の罪の成立要件に欠けるところはない。

暗証番号というそれ自体が財産上の利益に当たるとみたのではなく、暗証番号の果たす経済的機能に着目し、キャッシュカードとその暗証番号を併せ持つことが財産上の利益に当たると判示。
2102
2102 ■行政p3 最高裁H22.11.30 明石海峡航路北側の航路外で西に向かう甲船と東に向かう乙船が衝突した事故について、海技士である甲船の船長を戒告として高等海難審判庁の裁決が適法であるとされた事例
判断・解説 海上衝突予防法9条1項本文は、あらゆる視界の状態における船舶の航法の1つとして、狭い水道又は航路筋(狭い水道等)をこれに沿って航行する船舶は、安全であり、かつ、実行に適する限り、その右側端に寄って航行しなければならないと定めている。(右側航行義務)

狭い水道等においては、船舶が航行することができる範囲が限定され、広い外海で2隻の船舶が出あった場合を想定して同法が定めている一般の航法に従うだけでは衝突の危険を防止するのに十分でないため、原則として、右側端航行を義務付け、衝突事故の発生を未然に防止しようとしている。(最高裁昭和43.2.27)

B説:もともと狭い水道である以上、航路外については航路が設定されていない場合と同様に予防法9条1項本文が適用される。
赤い海峡について言うと、本州湾岸海域においては(沿岸に寄った)西行航行義務が、淡路島沿岸海域においては、(沿岸に寄った)東行航行義務が生じる。

予防法と海交法が一般法と特別法の関係にあることは異論がないから、海交法に規定がない以上予防法が適用される。

D説:狭い水道内に航路が設定されると、その海域全体が狭い水道ではなくなり、予防法9条1呼応本文は一切適用されない。したがって、航路において船舶はどの方向に航行してもいい。(海上保安庁)
■民事p8 最高裁H22.12.2 構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権の効力は、譲渡担保の目的である集合動産を構成するに至った動産が滅失した場合にその損害をてん補するために譲渡担保権設定者に対して支払われる損害保険金に係る請求権に及ぶか
事案 構成部分の変動する集合動産を目的とする譲渡担保権、いわゆる流動動産譲渡担保権の担保権者であるXが、譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として、担保の目的である養殖魚の滅失により譲渡担保権設定者であるYが取得した共済金請求権の差押えを申し立てた事案。

熊本地裁はXの申立てに基づいて差押え命令を発令したところ、Yは執行抗告をしたが、原審は執行抗告を棄却した。
それに対して抗告許可の申立てがされた。
判断 いわゆる流動動産譲渡担保は、担保目的物である集合動産を構成するに至った動産の価値を担保として把握するものであることをいった上で、その担保権の効力は、目的動産が滅失した場合にその損害をてん補するために譲渡担保権設定者に支払われる損害保険金に係る請求権に及ぶ

もっともその物上代位権を行使することができる時期については、このような譲渡担保契約は、設定者が目的動産を販売して営業を継続する事を前提とするものであるから、設定者が通常の営業を継続している場合には、直ちに物上代位権を行使することができる旨の合意の存在などの特段の事情がない限り、担保権者が請求権に対して物上代位権を行使することはできない

本件では、Xが共済金請求権の差押えを申し立てた時点においては、Yは営業を廃止し、また、営業のための資産に対する譲渡担保権が実行されていて、担保の目的物である動産を用いた営業を継続する余地はなかったとして、Xは物上代位権を行使することができるとした。
■民事p11 大阪高裁H21.12.25 酒瓶の回転装置契約の債務不履行により画像処理装置契約が不履行となった場合、履行補助者の法理により、信義則上、後者の契約の債務不履行責任が認められた事例
事案 Xはその製造する清酒の瓶に貼付するラベルの位置ずれ等の欠陥の有無を検査するため、瓶を回転させる装置とその瓶をカメラで撮影してその画像の処理により検査する装置から成る瓶全周検査装置について、回転装置の設置・調整等につきY1と、画像処理装置の設置・調整等につきY2とそれぞれ別個の請負契約を締結した。

Xは、本件検査装置に各契約上の債務不履行を構成する不具合があったとして、右契約を解除したと主張し、Y1とY2に対し、支払ずみの請負代金の返還等を求めた。
判断 XとY1、XとY2との契約は別個2つの契約として締結されているが、これらは一体となって作動して初めて契約の目的を達成することができるという共通の認識から、Y1の債務不履行を原因とするY2の履行不能は、履行補助者の故意過失と同様の法理により、Y2の責めに帰すべき履行不能と評価するのが相当であるとして、Y2の債務不履行を肯定し、一審判決を取消し、XのY2に対する本訴請求を認容した。
解説 契約は別個であっても、経済目的及び対象を同じくし、相互に依存する連鎖契約を全体的に考察して、その間の法律関係を処理するといういわゆる「契約グループ理論」が有力に主張されている。

本判決は、相互の債務関係及び当事者の共通認識(目的)から、信義則上、Y2の債務不履行は、履行補助者の故意過失と同様の法理により、信義則上、Y2の責に帰すべき履行不能と評価するのが相当であると判断したもの。
■民事p24 名古屋高裁H22.10.29 1.建築主事は、建築基準法(平成14年法律第22号による改正前のもの)6条1項にいう建築基準関係規定が直接定めていない事項について審査義務はなく、それらに記載された事項に関連して右規定の定める審査事項違反となるような重大な影響がもたらされるようなことが明らかな場合において、故意又は過失によって看過したという特別な事情がない限り、国家賠償法1条1項の職務上の注意義務に反したとはいえない
2.耐震偽装のある鉄筋コンクリート造りの建築物の構造設計につき建築確認に当たった建築主事に職務上の注意義務違反がないとされた事例
3.ホテル経営目的の建物の建築主とビジネスホテル経営指導契約を締結したコンサルタント業者が当該建物の設計を受託した建築士による構造設計に耐震偽装のあることを看過したことにつき、建築主に対する信義則所の注意義務に違反したとして不法行為責任が認められた事例
(半田市のビジネスホテル耐震強度偽装損害賠償請求事件控訴審判決)
事案 Xは、原審において
@Y1(建築確認を担当した建築主事D所属の自治体)に対し、建築主事Dが注意義務を懈怠し、重大な法令違反のある確認申請に対し建築確認を行ったとし、国賠法1条1項に基づき
AY2(経営コンサルタント業者)に対し、主位的に、経営コンサルタントとして、設計業者等を適切に指導監督し、違法建築物の設計施工を防止すべき注意義務を怠ったとして、民法709条等に基づき、予備的に、本件経営指導契約に基づいて設計業者等を適切に指導監督すべき義務を怠ったとして、同法415条に基づき
BY3(Y2の代取)に対し、Y2の代表取締役として、違法建築物の設計施工を防止すべき義務があるのにこれを懈怠したとして、民法709条又は建築士Aの偽装について同法75条に基づき、
それぞれ賠償責任があるとし、Yらに対し連帯してホテル休業及び建物の立替えに要した費用額5億1575万余円及び遅延損害金の支払を求めた。
判断 ●Y1に対する請求
@建基法は、損害の発生を基準とする国賠法との関係では、建物の建築主の財産権も保護法益としていると解すべき。

A建築基準関係規定に直接定める項目であれば、建築主事は職務上必要な注意義務をもって審査すべきであるが、右規定が直接定めない事項については、審査は原則不要であり、それらに関連して右規定に定める審査事項違反となるような重大な影響がもたらされることが明らかな場合において、故意又は重過失によって看過したときには注意義務違反となる。

B本件当時の審査基準によると・・耐震壁を1枚と評価するか2枚と評価するかは、建築基準関係規定に定める審査事項違反となるような重大な影響がもたらされることが明らかな場合ではなかったから、建築主事Dが1枚の耐震壁と評価したことに故意又は重過失は認められない。

C建築主事Dにおいて構造上の危険を回避する設計上の留意がされているかなどを調査すべき義務があったとは認められない。

・・・Y1に対する請求棄却

●Y2に対する請求
Y2は、Xと本件経営指導契約を締結したことに伴い、Xに対し信義則に基づき設計業者Cが行う設計を監督する一般的注意義務があったとした上、
@Y2とCが密接な関係があること
ACは、本件設計前に構造計算の委託先を他の建築士から建築士Aに変更⇒同建築の改ざん等に容易に気付きえたといえる
BY2もCが構造計算の委託先を建築士Aに変更した原因等をCを通じて知っていた等の事実関係の下では、Y2はXに対し、同建築士の不正に気付くべき注意義務があったとし、この義務を懈怠したとして、民法709条の一般的不法行為責任がある


X主張の損害につき、立替費用については不法行為との相当因果関係を否定し、耐震補強工事費、ホテル休業費用、営業再開に伴う損害、XがY2に支払った経営指導料、Cに支払った設計・施工管理料を損害と認定し、Xが既に弁済を受けた金額を控除し、弁護士費用を加えた合計1億6127万余円の支払いをY2に命じた。

●Y3に対する請求
Xは個人としてY3と契約を締結したものではないから、Y3はXに対し信義則上の義務もない
⇒民法709条の責任を負わない。

また、建築士Aの構造計算書の偽装について同法715条の責任もない。
解説
自治体又は指定検査確認機関等の間において、責任の所在をめぐる訴訟が提起されているが、その責任を否定する裁判例の方が多い。

責任否定の理由
A:建基法は、建築物についての建築主の所有権を直接保護の対象としていない以上、建築主事が建築基準関係規定適合性の判断を誤っても、違法とは評価できない。
B:建築主事の注意義務を否定


本判決:
建築設計についての専門職である建築士の故意による構造計算の偽装(耐震偽装)について、Y2が建築主であるXに対して、経営指導契約に付随して信義則上の注意義務があるとして、損害責任を肯定。

耐震偽装の張本人である建築士は無資力という現実の下に、責任を誰がどう分担するかが問題。
■民事p55 福岡高裁H22.12.6 国営諫早湾干拓事業により設置された同干拓地潮受堤防の北部及び南部の各排水門を、防災上やむを得ない場合を除き、判決確定の日から3年を経過する日までに解放し、以後5年間解放を継続すべきものとされた事例
(諫早湾干拓地潮受堤防撤去等請求事件控訴審判決)
事案 @国営諫早湾土地改良事業としての土地干拓事業において設置された諫早湾干拓地潮受堤防の撤去請求(主位的請求)
A本件潮受堤防の北部及び南部各排水門の常時無条件解放請求(予備的請求)
B慰謝料請求
の各当否が争われた事案

@Aについて、
本件潮受堤防が設置されたことによって侵害されたと主張された権利は、
市民原告らにおいては人格権、環境権及び自然享有権
漁民原告らにおいては、これらの権利のほか、漁業権又は漁業を営む権利としての妨害予防請求権及び妨害排除請求権
主文 ・・次のとおり変更する
(2)一審被告は、上記控訴人一審原告らに対する関係で、判決確定の日から3年を経過する日までに、防災上やむを得ない場合を除き、国営諫早湾土地改良事業としての土地干拓事業において設置された、諫早湾干拓地潮受堤防の北部及び南部各排水門を開放し、以後5年間にわたって同各排水門の開放を継続せよ。
・・・
判断 ●本件事業と諫早湾及びその近傍部の環境変化について

・・底生生物の生息環境に影響を及ぼすような貧酸素水が生じている可能性を否定できない。

●業業被害について
@漁業被害の発生が認められるためには、当該漁業行使権の基礎となる漁業権のの免許がされた漁場内において、同漁業権の内容となっている漁獲物については、漁獲量の有意な減少等が認められなければならない。
A原告らの属する漁協が有している漁協が有している漁業権の内容である漁業は、いずれも魚類を漁獲物とするものであるところ、本件潮受堤防の締切り後に、諫早湾及びその近傍部における漁獲量が有意に減少している。
⇒漁業被害の発生が認められる。

●潮受堤防の締め切りと漁業被害との因果関係
・・・漁業被害の発生には本件潮受堤防の締切り以外の原因も競合した可能性は否定できないが、そうだからといって本件潮受堤防の締切りと右漁業被害との因果関係は否定できない。

●潮受堤防の締切りの違法性
漁業権行使権に基づく妨害排除請求権が認容されるためには漁業行使権の侵害状況が違法と評価されることを要し、侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の持つ公共性・公益上の必要性等の事情を総合的に考察して判断して決すべき。(最高裁昭和56.12.16)

一審原告らは、生活基盤に係る権利である漁業行使権に対する高度の侵害を受けている。
潮受堤防の洪水時の防災機能は一定程度認められるが限定的であり、高潮時の防災機能及び洪水時の防災機能は、防災上やむを得ない場合に閉じることによって相当程度確保でき、本件干拓地における営農にとって本件潮受堤防の締切りが必要不可欠ともいえない。
本件各排水門を常時開放することによって過大な費用を要するとはいえないl

防災上やむを得ない場合を除き常時開放する限度で認容するに足りる程度の違法性は認められる
解説
予備的請求にかかる一審原告らの予備的請求は「本件潮受堤防の各排水門の常時開放」を求める現在の給付請求であるが、本判決の主文は、本件潮受堤防の各排水門の防災上やむを得ない場合を除き、判決確定の日から3年を経過する日までに解放し以後5年間解放を継続すべきというのであるから、将来の条件付給付命令。

第135条(将来の給付の訴え)
将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる。

現在の給付請求と将来の給付請求(民訴法135条)とは訴訟物を異にするから、予備的請求に係る一審原告らの申立がないにもかかわらず、現在の給付請求の一部認容というやり方で将来の条件付給付を命じたことは処分権主義に反するのではないか?

「防災上やむを得ない場合を除き」は一義的に定め得るものではなく、このような不確かな概念に条件付けられた主文が特定しているのか?
債務名義として本判決に基づく執行はどのような過程で行うことになるのか?


干拓地に隣接する標高が低い地域の住民や農家らが主体となって、国に開門差し止めを求める訴訟を提起する方針。
また、干拓地を所有する長崎県農業振興公社が原告となって差止め訴訟を検討する考え。
■民事p69 東京地裁H22.6.25 1.債務者がその所有する唯一の不動産を新たに譲渡担保に供し借用した金員を既存の債務の弁済に充てた場合において、当該譲渡担保設定行為が詐害行為にあたるとされた事例
2.譲渡担保設定行為を詐害行為として取り消す場合に、取消しの範囲を不動産の価格から負担すべき抵当権等の被担保債権額を控除した額に限られるとして、価格賠償が命じられた事例
事案 原告が、
@訴外Aから、当時夫婦であった訴外B及び被告Y1を連帯債務者として締結した準消費貸借契約に基づく債権の譲渡を受けたと主張して、被告Y1に対し、本件準消費貸借契約に基づく貸付金の支払いを求め、
A訴外Bと被告Y1がそれぞれ所有するマンションの一室につき、被告Y2との間で譲渡担保設定契約を締結したことが、詐害行為に当たるとして、被告Y2に対し、詐害行為取消権に基づく右各契約の取消及び価格賠償を求め、

被告Y1が原告に対し、
本件準消費貸借は無効であるにもかかわらず、被告Y1及びその子を待ち伏せするなどの取立てをしたことを不法行為に当たり、これにより被告Y1が精神的苦痛を受けたと主張して、慰謝料の支払いを求めた事案。
規定 第424条(詐害行為取消権)
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。
判断 @
被告Y1らは、被告Y2から借入をして譲渡担保設定契約を締結し、その資金をもって、他の借財の弁済に充てたものと認定。
譲渡担保の対象である本件各不動産の価格がその被担保債権額である借入額を超過するもので、詐害行為に当たり、被告Y2も悪意であった
⇒詐害行為取消権の成立を認めた。

A
原告による取消しの範囲は、本件各不動産の価格から本件各不動産が負担すべき抵当権等の被担保債権額を控除した残額の限度に限られ、その価格による賠償を命ずべきものと判断。

○円の限度で取消し、被告Y2に対し、○円及びこれに対する本件判決確定の日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金の支払を命じた。
解説
他に資力のない債務者が生計費及び子女の養育費等を借用するために、その所有物を担保に供するという事実関係のもとでは、その担保提供行為は、担保物の価格が借入額を超過したり、借財が右の目的以外の不必要な目的のためにする等特別の事情のない限り、詐害行為は成立しない。(最高裁昭和42.11.9)

債務者の一般財産がそのような借用の目的で使用され、当該担保提供により一般財産の価値が不当に減じることがなければ、社会通念上相当な一般財産の利用であると評価することができる。


実際に被告Y1らが弁護士に債務整理を依頼し、最先順位の抵当権の被担保債権が弁済され、抵当権設定登記が抹消されている。

被告Y1が、譲渡担保設定によって、被告Y2から、第三者に対する債務を弁済するための金員を借り入れ、この借入金を同債務の弁済に充てたものと推認したうえで、目的においては一応の有用性を認めた上で、譲渡担保の目的物件である不動産の価格が、譲渡担保設定による借入金と推認できる額を超過しているとして、詐害行為が成立すると判断。


詐害行為の後に弁済によって抵当権が消滅したときは、詐害行為の目的不動産の価格から同不動産が負担すべき同抵当権の被担保債権の額を控除した残額の限度で、詐害行為というべき行為を取り消し、その価額による賠償を命ずべきであり、共同抵当の目的とされた不動産の全部又は一部の売買契約が詐害行為に該当する場合に同抵当権が抹消されたときにおける価格賠償の額は、詐害行為の目的不動産の価額から、共同抵当の目的とされた各不動産の価額に応じて抵当権に被担保債権額を案分して詐害行為の目的不動産について得られた額を控除した額(最高裁H4.2.27)。

本判決:
原告による取消しの範囲は、本件不動産の価格から本件不動産が負担すべき抵当権等の被担保債権額を控除した残額の限度として、その価格による賠償を命ずべき者と判断。
■民事p78 東京地裁立川支判H22.11.29 戦時中に旧陸軍の掘削した地下壕の崩落・陥没により発生した土地・建物の損傷につき、国に土地の工作物の保存上の瑕疵があるとして、民法717条1項の工作物責任が認められた事例
事案 戦時中に旧日本軍が掘削した地下壕が崩落し土地が陥没し、Xら2名の居住する建物が傾く等の損害を被ったとして、Xらが国に対して、
第1次請求として
主位的に国賠法2条1項、予備的に民法717条1項に基づき
第2次請求として
主位的に国賠法1条1項、予備的に民法715条1項に基づき
損害賠償を求めた。
規定 国賠法 第1条〔公務員の不法行為と賠償責任、求償権〕
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
A前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

国賠法 第2条〔営造物の設置管理の瑕疵と賠償責任、求償権〕
道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
A前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。

民法 第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

民法 第715条(使用者等の責任)
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
判断 公の目的の利用に供されたとは認められない⇒公の営造物には該当せず、国は国賠法2条1項の責任を負わない

E濠は、本件地下濠の建設中から本件事故当時まで土地の工作物で得あった。
本件地下濠は、国の命令で建設されたもの⇒建設中止の際に、国はこれを占有していた。
国はE濠の保存につき瑕疵がある。

国は、Xらに対して、Xらの被った損害につき民法717条1項に基づく損害賠償責任がある。
■民事p87 大阪地裁H22.9.3 市立高校の体操部員が部活練習において、平行棒の「後方抱え込み二回宙返り下り」の試技中に着地に失敗し前頭部を床に強打し重症を負った事故につき、指導教諭に過失があるとして市の国家賠償責任が認められた事例
判断 A教諭に、Xに対して本件技の開始前及び開始後に、これを中止させる注意義務違反があったとは認められない。

Xが着地した部分を含む前方の十分な範囲にマットの敷設等を行っていれば、Xが着地した際に前頭部を床面に強打することなく、本件事故の発生を防止することができた。

A教諭の本件事故時における指導監督はこの点に関する注意義務違反がある。

Y市はX及びその父母に対して国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を負う。
■知財p98 知財高裁H22.2.24 1.発明者の認定がされた事例
2.X社が就業規則等に基づき従業者Aから特許を受ける権利の譲渡を受けた本件発明につき、AがX社退職後Y社に入社し、Y社に特許を受ける権利を譲渡してY社において特許出願した事案について、Y社は「背信的悪意者」に当たるとして、X社からY社に対する、X社が特許を受ける権利を有することの確認請求が認容された事例
事案 Y社(被控訴人)が出願し特許庁において審査中の本件発明について、X社がYに対し、使用者たるX者が就業規則等に基づき従業員から特許を受ける権利の譲渡を受けたとして、X社が同権利を有することの確認を求めた事案。
規定 特許法 第34条
特許出願前における特許を受ける権利の承継は、その承継人が特許出願をしなければ、第三者に対抗することができない。
主文 ・・・
2 控訴人と被控訴人との間において、控訴人が別紙発明目録記載の発明について特許を受ける権利を有することを確認する。
・・
判断
X社の従業員であるBは、Aに対し、本件発明に関し、ユニバーサルジョイントのニ段階接続を使うことをアドバイスしたことがあると認められるが、そうであるとしても、本件発明の前提たる周知技術についてアドバイスしたにすぎず、本件発明の特徴的な部分につてアドバイスしたとは認められない。

Bを発明者であると認めることはあできず、発明者はAのみ。


Y社の特許出願は、X社において職務発明としてされたX社の秘密である本件発明を取得して、そのことを知りながらそのまま出願したものと評価できるから、Y社は「背信的悪意者」に当たるというべきであり、Y者が先に特許出願したからといって、それをもってX社に対抗することができるとするのは、信義誠実の原則に反して許されない。
⇒X社は、本件特許を受ける権利の承継をY社に対抗することができる。
解説
誰が発明者であるかについては、当該発明の技術思想の創作的行為に現実に関与したのは誰であるかということから判断される。


特許法34条1項
特許出願前における特許を受ける権利の承継は、その承継人が特許出願をしなければ、第三者に対抗することができない。


「背信的悪意者」については、対抗要件を具備したとしても対抗することができないとするのが、不動産に関する最高裁判例として確立。

背信的悪意者:
「悪意」+「信義則違反」と言われている。

本件:
Y社代表者につき、Aから本件発明について開示を受けてそのまま特許出願しかつ製品化することは、X社の秘密を取得してY社がそれを営業に用いることになると認識していたということができることをもって、単なる悪意を超えた信義則違反の事情が存すると判断して、「背信的悪意者」に当たると認めた。
■知財p136 知財高裁H22.11.10 1.蒸気機関車を撮影した映像の著作権者に無断で当該映像を編集した放送番組を収録したDVDを販売した会社に対する著作権及び著作者人格権に基づく損害賠償請求訴訟において、著作権者に過失があるとまで認めることは困難であるとして、過失相殺(1割)を認めた原判決の判断が否定された事例
2.著作権法114条3項による損害を算定するに当たり、映像の複製権侵害は、実際に販売されたDVDの枚数のみならず、納品された枚数において生じているものであるとして、著作権者が受けるべき著作権料相当額につき、原判決を変更して、納品枚数について損害が算定された事例
事案 世界各地の蒸気機関車を撮影した映像の著作権者であるXが、Yにおいて、Xに無断で当該映像を編集し作成した作品を収録したDVDを仕入れて販売したことにつき、Yに対し、
@本件映像についての著作者人格権(同一性保持権)の侵害を理由とする、著作権法112条に基づく本件DVDの頒布等の差止め及び廃棄
A本件映像についての著作権(複製権)及び著作者人格権(公表権、氏名表示権及び同一性保持権)の侵害を理由とする、財産的損害4000万円、精神的損害500万円及び弁護士費用450万円、以上合計4950万円及び遅延損害金の支払いを求めた事案。
規定 著作権法 第114条(損害の額の推定等)
3 著作権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。
判断
Yの行為は、Xの本件映像についての著作権(複製権)及び著作者人格権(公表権、氏名表示及び同一性保持権)を侵害。


Xにおいて、放送番組を制作する企画が検討中であることを知らされたことをもって、補助参加人又はオスカ企画が本件映像を利用した放送番組を制作することを予想し得ることが可能であったということはできても、当該番組を更にY向けのDVD作品として具体的に商品化することまで予想することは困難であったものというほかない。

本件DVテープに対して何らの対応も取らなかったことをもって、XにY等の主張する過失があるとまで認めることは困難であって、過失相殺に関するY等の主張は、その前提を欠き、これを採用することはできない。


著作権法114条3項による著作権料相当額の損害賠償について、
販売価格1枚315円の本件DVDについて、1枚当たりの価格を4000円とし、著作権料相当額をその5%とした上で、「Yにおける本件DVDの販売枚数は6581枚であり、原判決は、かかる枚数についてXの損害を算定しているが、本件映像の複製権侵害は、納品された9984枚において生じているものであって、Xが受けるべき著作権料相当額は、9984枚について算定すべきである。」


販売枚数1枚当たりの受け取るべき著作権料相当額は、販売価格の5%と認めるのが相当。
解説
過失相殺の要否

損害の衡平な分担という過失相殺の規定の趣旨からすると、著作権侵害において、過失相殺を否定する理由はなく、本件においても、過失相殺の可否については争点とはなっていない。


複製権侵害は、DVDが作成された時点で発生することからすると、Xの損害は、納品枚数を基準に算定することになる。


侵害者が侵害の事実を争っている事案においては、著作権侵害が認められる場合、侵害行為が停止されていたとしても、差止め請求が認容されることも少なくない。
■商事p147 最高裁H22.12.7 社債等振替法128条1項所定の振替株式についての会社法172条1項に基づく価格の決定の申立を受けた会社が、裁判所における株式価格決定申立て事件の審理において、申立人が株主であることを争った場合における、社債等振替法154条3項所定の通知の要否
事案 株券電子化会社の発行に係る振替株式を有する株主が、会社法172条1項1号に基づき、全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定を求める事案。

争点は、社債等振替法154条3項所定の個別株主通知の要否。
規定 会社法 第172条(裁判所に対する価格の決定の申立て)
前条第一項各号に掲げる事項を定めた場合には、次に掲げる株主は、同項の株主総会の日から二十日以内に、裁判所に対し、株式会社による全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定の申立てをすることができる。
一 当該株主総会に先立って当該株式会社による全部取得条項付種類株式の取得に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該取得に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)
二 当該株主総会において議決権を行使することができない株主

社債等振替法 第154条(少数株主権等の行使に関する会社法の特例)
振替株式についての少数株主権等の行使については、会社法第百三十条第一項の規定は、適用しない。
2 前項の振替株式についての少数株主権等は、次項の通知がされた後政令で定める期間が経過する日までの間でなければ、行使することができない。
3 振替機関は、特定の銘柄の振替株式について自己又は下位機関の加入者からの申出があった場合には、遅滞なく、当該振替株式の発行者に対し、当該加入者の氏名又は名称及び住所並びに次に掲げる事項その他主務省令で定める事項の通知をしなければならない。
一 当該加入者の口座の保有欄に記載又は記録がされた当該振替株式(当該加入者が第百五十一条第二項第一号の申出をしたものを除く。)の数及びその数に係る第百二十九条第三項第六号に掲げる事項
二 当該加入者が他の加入者の口座における特別株主である場合には、当該口座の保有欄に記載又は記録がされた当該振替株式のうち当該特別株主についてのものの数及びその数に係る第百二十九条第三項第六号に掲げる事項
三 当該加入者が他の加入者の口座の質権欄に株主として記載又は記録がされた者である場合には、当該質権欄に記載又は記録がされた当該振替株式のうち当該株主についてのものの数及びその数に係る第百二十九条第三項第六号に掲げる事項
決定 個別株主通知がされることを要する。

@各株主ごとの個別的な権利行使が予定されている会社法172条1項所定の価格決定申立権が、社債等振替法154条1項の「少数株主権等」に該当することは明らかであり、
A実質的にも、個別株主通知と総株主通知との通知事項の相違に鑑みると、会社にとって、総株主通知とは別に個別株主通知を受ける必要があること、
B会社が裁判所における株主価格決定申立て事件の審理において申立人が株主であることを争った場合、その審理終結までの間に個別株主通知がされることを要し、かつ、これをもって足りるというべきであるから、個別株主通知を要すると解しても、株主に著しい負担を課すことにはならない。
解説
平成21年1月5日に実施された「株券電子化」とは、株主の権利を表章する有価証券である株券を廃止し、振替機構が管理する振替口座簿の電磁的な記録によってその権利の帰属が定められる振替制度へ移行すること。
振替制度の下では、上場株主は全て社債等振替法128条1項の「振替株主」となる。


「個別株主通知」とは、社債等振替法154条3項の定めるとおり、株主からの申出に基づき、振替機関から、発行者に対し、当該株主の名称、氏名、住所のほか、振替株式の種類、数、その数に係る増減の記録等を通知するもの。

「総株主通知」とは、社債等振替法151条の定めるとおり、例えば、「発行者が基準日を定めたとき」であれば、当該基準日現在における株主やその保有株式数を通知するものであり、保有株式数の増減の記録は通知されないという通知内容の点で、個別株主通知とは大きく相違する。


反対株主の株式買取請求権が少数株主権等に該当することはほぼ異論がなく、会社法172条1項の価格決定申立権もその一環をなす。

個別株主通知を会社法上の対抗要件である株主名簿に代わるものとする社債等振替法154条1項の規定や個別株主通知をめぐる立法当時の議論等に鑑みると、個別株主通知の法的性質は対抗要件


個別株主通知がされることを要する期間は申出から4営業日程度とすることが予定されており、休日を含めてもせいぜい1週間程度で個別株主通知の手続は完了するのが実際の運用。
■労働p151 横浜地裁H23.1.25 人材派遣会社が待機社員にした解雇が、切迫した人員削減の必要性が認められず、解雇回避努力を尽くしたと言い難い上、対象者の人選にも合理性がないとして無効とされた事例
事案 XはYによる解雇の意思表示は整理解雇の要件を満たしておらず無効であるとして、Yに対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認賃金の支払を求める本訴を提起した。
規定 労働契約法 第16条(解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
主文 1.原告が、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2.被告は、原告に対し、平成21年6月15日(本件解雇後の直近の賃金支払日)から本判決確定の日まで、毎月15日限り、29万5500円を支払え。
・・・・
判断 Yの財務状況、経営自主再建計画の策定と実行状況、Eグループの経営状況等を認定の上、整理解雇の有効性の判断に当たっては、@人員削減の必要性、A解雇回避努力、B人選の合理性、及びC手続の相当性という4要素を考慮するのが相当である。

@人員削減の必要性
・・・Yの経営状況は好ましくない方向に推移していたと認められるものの、本件解雇の時点でYに切迫した人員削減の必要性は認められないと判示。

A解雇回避努力
本件解雇当時にYが人員削減目標を定めていたかは明らかではなく、技術社員に対する希望退職の募集を一切行わないまま本件解雇を行っており、解雇回避努力を十分に尽くしたとはいえないと判示。

B人選の合理性
平成21年3月末日時点で待機状態にあり、同年4月中に新規配属された者及び同年3月末から同年4月末日の間に自己都合退職した者を除く351名を本件解雇の対象としており、その人選基準が一般的に合理性を有するとは認め難く、XがYと雇用契約を締結してから13年間継続的に派遣先で勤務し、平成21年3月末日に初めて待機状態になったというXの就業状況に鑑みても合理性がないと判示。
解説 整理解雇は、労働者の私傷病や非違行為など労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、使用者の経営上の事由による解雇である点に特徴があり、解雇権濫用法理の適用においてより厳しく判断すべきもの。

@人員整理の必要性、A解雇回避努力、B人選の合理性、C手きの相当性を考慮するのが一般的。

近時では裁判例は、「4要件」ではなく「考慮すべき4要素」であるるという4要素説を採用するにようになっている。
整理解雇法理も解雇権濫用法理の一類型であることを考慮すると、理論上は4要素説が妥当とされている。

本判決は、このううち3つの要素について具備していないとして、本件解雇を無効としたものであり、その判断手法は従来の裁判例の傾向に沿うものと評価できる。
■刑事p160 最高裁H22.12.20 保釈された者が実刑判決を受けた後、逃亡等を行ったが判決確定前にそれが解消された場合に刑訴法96条3項により保釈保証金を没収することができるか
事案 検察官が、公訴棄却判決の言渡しを受けて保釈が失効した被告人(被請求人)が判決確定前の時期(上告中の時期)にのみ逃亡していたことを理由として、刑訴法96条3項を根拠に、その当時事件記録を保管していた最高裁に保釈保証金の没収を請求した事案。

詐欺事件で逮捕勾留基礎⇒保釈⇒一審で懲役2年6月の実刑判決⇒控訴+再保釈⇒控訴棄却(保釈の効力は失われた(刑訴法404条、343条))⇒上告+再保釈請求⇒再保釈請求は却下
検察庁は控訴棄却判決後被請求人に呼出状を送付したが、呼出しに応じず、4カ月余り所在不明。その後身柄を確保されて収容されている。
規定 刑訴法 第96条〔保釈、勾留の執行停止の取消し〕
B保釈された者が、刑の言渡を受けその判決が確定した後、執行のため呼出を受け正当な理由がなく出頭しないとき、又は逃亡したときは、検察官の請求により、決定で保証金の全部又は一部を没取しなければならない。

刑訴法 第404条〔準用規定〕
第二編中公判に関する規定は、この法律に特別の定のある場合を除いては、控訴の審判についてこれを準用する。

刑訴法 第343条〔禁錮以上の刑の宣告と保釈等の失効〕
禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつたときは、保釈又は勾留の執行停止は、その効力を失う。この場合には、あらたに保釈又は勾留の執行停止の決定がないときに限り、第九十八条〔収容〕の規定を準用する。
判断 「保釈された者が実刑判決を受け、その判決が確定するまでの間に逃亡等を行ったとしても、判決確定前までにそれが解消され、判決確定後の時期において逃亡等の事実がない場合には、刑訴法96条3項による保釈保証金を没収することはできない」
として、検察官の保釈保証金没収請求を棄却した。
解説
刑訴法343条の規定により保釈が失効した後、判決が確定する前までの間の逃亡については没収規定を欠いているとして、判決確定までの逃亡を理由としては没収できないとする見解が有力。


@一審判決で実刑判決を言い渡された被告人はその直後に通常は収容され、その後の再保釈の拒否は被告人の逃亡のおそれも考慮して運用⇒再保釈が認められた被告人がその後逃亡すること自体が多くない。
A一審判決後に再保釈された被告人については、控訴棄却判決後も再保釈する事案が少なくなく、再保釈された事案については、保釈の取消に伴う保釈保証金の没収で対処


★平成23年3月分
2101
2101 ■行政p32 最高裁H22.12.17 自ら設置した加入者光ファイバ設備を用いて戸建て住宅向けの通信サービスを加入者に提供している第1種電気通信事業者が、他の電気通信事業者に対して上記設備を接続させて利用させる法令上の義務を負っていた場合において、自らの提供する上記サービスの加入者から利用の対価として徴収するユーザー料金の届出に当たっては、光ファイバ一芯を複数の加入者で強要する安価な方式を用いることを前提としながら、実際の加入者への上記サービスの提供に際しては光ファイバ一芯を1人の加入者で専用する高価な方式を用いる一方で、その方式による上記設備への接続の対価として他の電気通信事業者から取得すべき接続料金については自らのユーザー両機を上回る金額の認可を受けてこれを提示し、自らのユーザー料金が当該接続料金を下回るようになるものとした行為が、独禁法2条5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するとされた事例。
事案 電気通信事業者であるXが、光ファイバ設備を用いた戸建て住宅向けの通信サービス(FTTHサービス)の提供に際し、・・自前の光ファイバ設備を保有せずに他者の設備を利用して電気通信事業を行う電気通信事業者(競争業者)がFTTHサービス提供のためにXの光ファイバ設置に接続する際にXに支払うべき料金(接続料金)を下回る金額で、Xが自己のFTTHサービスの利用者に対する料金を設定したことが、独禁法2条5項にいう私的独占に該当し、同法3条の規定に違反するとの審決をYから受けたため、その取消しを求めた事案。
規定 第2条〔定義〕
Dこの法律において「私的独占」とは、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。

第3条〔私的独占又は不当な取引制限の禁止〕 
事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。
判断 Xの主張@:ニューファミリータイプの実質は分岐方式であるから、そのユーザー料金と接続料金んとの間にには逆ざやは生じていない。

分岐方式による接続料金の認可申請及びユーザー料金の届出は、接続料金がユーザー料金のを上回ってはならないという行政指導に抵触せずにユーザー料金を引き下げるための苦肉の方便にすぎず、少なくとも本件行為期間におおいて、分岐方式は、現実のFTTHサービス提供方法としてはもとより、将来における芯線直結方式からの移行対象としても、その実在性すら疑わしいような状況にあった。⇒実質において採用の余地のない認定非難に過ぎないとして排斥。
Xの主張A:接続料金が原価と等価である以上、Xと競争事業者との間には競争条件の同等性が担保されている。

原則、市場において支配的な地位を占める企業であったとしても、競業者との取引を行う義務はない。(競争相手との取引を勧めるのは逆に独禁法に違反。)
but
独禁法上も、取引拒絶を違法と評価すべき例外的な状況があることは従来から認識されている。
例えば、それによって競争者の取引の機会が減少し、他の代わり得る取引先を容易に見出すこともできない場合等。

本判決は、電気通信事業法上は原則として接続拒絶(取引拒絶)の自由がないことから、形式的には接続に応じる姿勢を取りつつ、他の電気通信事業者からは到底受け入れがたい接続条件を提示したという場合も、基本的には取引拒絶と同様の基準で独禁法上の違法性の有無を判断すれば足りると解したものと推察される。

FTTHサービス市場の用に生成途上のネットワーク市場においては、いかに効率的な事業者であっても、需要が立ち上がるまでは参入者に赤字が生ずるのがむしろ常態

Xの設定したユーザー料金が接続料金を下回るために競争事業者の赤字が必至であるという事実だけから、これが直ちに実質的な取引拒絶に当たると解することには注意が必要。
少なくとも、Xとの競争の同等性が確保されていたと解し得る限り、競争事業者が接続を行わなかったのはその自由な経営判断と解する余地がある。
bu
本判決は競争条件の同等性があったとは解し難いものとしたと考えられる。
Xの主張B:Xの行為がなくとも競争事業者は他者のユーザー料金に対応しなければならなかったこと、競争事業者は芯線直結方式によってニューファミリータイプとの間に差別化を図っての参入も可能であったことなどからすれば、Xの行為と競争事業者の不参入との間には因果関係が存在しない。

X自身、需要が少ない段階で分岐方式を導入すれば設備投資のみがかさむとしてこれを実施しなかった⇒これを実施した場合に月5800円をというユーザー料金を維持し得ていたかは疑問。
Xの主張D:独禁法上、Xには競争事業者に自己の設備を利用させること等によりその参入を困難にしないように配慮する義務を負ってはいない。

独禁法違反の成立にはあくまでも独禁法違反の要件を満たす必要がある。
解説 平成22年3月に独禁法の改正案が閣議決定
⇒近い将来、公正取引委員会による審判制度が廃止されて東京地裁を一審とする通常の行政訴訟の形態に移行する見込み
⇒今後、独禁法について裁判所が検討すべき事案が増加。

最高裁が私的独占の成否について初めて本格的な判断を示したもの。
■民事p39 東京高裁H22.8.26 ウェブサイトの電子掲示板において名誉棄損、信用毀損に当たる投稿があるのに、これを速やかに削除しなかったサイトの運営管理者に対する不法行為に基づく損害賠償及び謝罪文掲載請求が否定された事例
事案 X1について慰謝料及び弁護士費用損害、X2について信用の無形損害及び弁護士費用損害の各賠償並びに本件サイトへの謝罪文の掲載をそれぞれ請求した。

@Yが誹謗中傷の書き込みを行った(主位的主張)
Aそうでないとしても、本件サイトを管理するに当たって、意図的に、Xらにとって不利な書き込みを行った者の格付けを上げる処分をし、Xらにとって有利な書き込み行った者について、以後の書き込みを禁止する処分を行うことにより、Xらを誹謗中傷する書き込みを誘導した。(予備的主張@)
BXらからの削除要請に応じず、第三者がXらを誹謗中傷する書き込みを行っていることを知りながらこれを放置し、削除する義務を怠った。(予備的主張A)
(3) 被控訴人は、本判決確定の日の翌日から1年間、被控訴人の運営するインターネットサイト(・・・・)のトップページに、文字のポイント10ポイント以上で原判決別紙1の謝罪文を掲載せよ。
判断 @について認められない
Aについて、・・・Xらに有利な書き込みを行う者を閉め出す意図があったとは認められない。
Bについて、認められない。
解説 Yは、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(「プロバイダ責任制限法」)2条1項の特定電気通信に該当し、Yは、同条3号の特定電気通信役務提供者に該当する。

同法4条には、当該権利の侵害に係る発信者情報の開示義務が規定されているが、関係役務提供者が当該権利侵害情報の削除義務(送信防止措置義務)を負うかについては規定していない

最高裁昭和61.6.11:
人格権としての名誉権に基づき、名誉権等を侵害する者に対して、侵害行為の差止を請求できる。

インターネット上の情報流通により名誉権やプライバシーが侵害された場合についても、人格権としての名誉権に基づく妨害排除請求の一態様としての当該侵害情報の削除義務を条理上認めた上でそれに応じないことを不法行為として損害賠償責任を認めた裁判例や、同様に条理などを根拠として削除請求自体を認めた裁判例も少なくない。

削除義務を認めるか否かについては、条理に根拠を置き、投稿者の言論の自由、投稿に係るテーマの議論の内容の社会的意義、サイトの規模及び不当投稿の監視の難易の程度などと被害者の名誉等侵害状態などとの具体的な利益衡量等を理由説示をした上で結論的に当該削除義務を否定した裁判例も少なくない。
■民事p49 大阪高裁H22.2.10 預託金会員制のゴルフクラブを組織しているゴルフ場の経営会社が所定の手続を履践して増額した年会費について増額を承諾していない会員が支払義務を負う場合
事案 預託金会員制のゴルフクラブにおける年会費の増額をめぐって、本件クラブを組織しているゴルフ場を経営する株式会社Yと増額を承諾していない会員Xとの間で争われている事案。

増額分については、その支払義務がなく、したがって、Yのした入会契約の解除は効力を生じないと主張し、Yに対し、平成17年分ないし平成19年分の年会費につき、増額前の年会費3万7800円を超えて支払義務が存在しないことの年会費確認請求とXが本件クラブの会員たる地位を有することの地位確認請求を求めた。
1.原告と被告との間において、原告が別紙会員権目録記載の「丙川ゴルフクラブ」の会員たる地位を有することを確認する。
2.原告との被告との間において、被告の経営に係る「丙川ゴルフクラブ」に関する原告の平成17年分、平成18年分及び平成19年分の年会費支払債務が、それぞれ3万7800円を超えて存在しないことを確認する。
判断 地位確認⇒棄却
年会費確認請求⇒第1審は一部認容、控訴審は棄却
解説 本件クラブは、いわゆる権利能力のない社団としての実態を有するわけではなく、形式的には本件クラブが主体となった増額をしたようにみえても、実質的には、Yがしたものであり、問題は、そのようなゴルフ場の経営会社がした年会費の増額がその増額を承諾していない会員に対する関係でも有効か否か。

最高裁昭和61.9.11:
預託金の据置期間を延長する旨の会則の変更の効力が問題
本件ゴルフクラブの会則は、これを承認して入会した会員と上告会社との間の契約上の権利義務の内容を構成するものということができ会員は、右の会則に従ってゴルフ場を優先的に利用しうる権利及び年会費納入等の義務を有し、入会の際に預託した預託金を会則定める据置期間の経過後に退会のうえ返還請求することができるものというべきであり、右会則に定める据置期間を延長することは、会員の契約以上の権利を変更することにほかならないから、会員の個別的な承諾を得ることが必要であり、個別的な承諾を得ていない会員に対しては据置期間の延長の効力を主張することはできないものと解すべきである。」

当該ゴルフクラブが権利義務の主体となるべき社団としての実体を有していないことがその判断の前提となっている。

ゴルフクラブが社団としての実体を有する場合には、会則の変更は、既に入会していた会員に対しても、その効力を生ずると解される。

最高裁H12.10.20:
権利能力なき社団として認められるゴルフクラブにおける会員の資格要件を変更する旨の会則の変更は、その会則の変更に係る当該ゴルフクラブの総会の決議に承諾していなかった会員を含むすべての会員に効力を生じる


本件は団体法理が適用されない場合であり、最高裁の射程も含め、疑問がある。
■民事p61 札幌高裁H22.11.5 日本放送協会が受信者の妻と夫名義の放送受信契約を締結した場合においける民法761条の適用の可否(積極)
事案 放送法に基づき設立されたXが放送受信者Yに放送受信契約が締結されたと主張し、放送受信料の支払を請求したところ、妻の契約締結に伴う日常家事債務の成否等が争点となった。
解説 妻が受信料支払義務を伴う放送受信契約を締結することはが日常の家事に関する法律行為(民法761条)に該当し、夫が受信料支払義務を負うかの問題について、民法761条の適用を肯定した上、夫の支払義務を認めたもの。
■民事p67 東京地裁H22.4.15 被告が外国においてした行為により原告の法益について損害が生じたとの客観的な事実関係の証明がない場合と当該外国の裁判所が言い渡した外国判決の我が国における効力
事案 米国法人であるXが、米国裁判所(カリフォルニア州中部地区合衆国地方裁判所)において日本法人であるY6及び個人であるY1ないしY5に対して提起した不法行為に基づく損害賠償及び不正使用行為等の差止めを求める訴訟(米国訴訟)について言渡しを受けた勝訴判決(米国判決)に基づき、Yらに対し、いわゆる執行判決(民執24条)を求める事案。
争点 @米国裁判所が米国訴訟について民訴法118条1号所定の裁判権を有するか
A米国判決が同条3号所定の日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないか
規定 民事執行法 第24条(外国裁判所の判決の執行判決)
外国裁判所の判決についての執行判決を求める訴えは、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄し、この普通裁判籍がないときは、請求の目的又は差し押さえることができる債務者の財産の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
2 執行判決は、裁判の当否を調査しないでしなければならない。
3 第一項の訴えは、外国裁判所の判決が、確定したことが証明されないとき、又は民事訴訟法第百十八条各号に掲げる要件を具備しないときは、却下しなければならない。
4 執行判決においては、外国裁判所の判決による強制執行を許す旨を宣言しなければならない。

民訴法 第118条(外国裁判所の確定判決の効力)
外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。
一 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。
二 敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。
三 判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。
四 相互の保証があること。
判断 米国裁判所は米国訴訟について民訴法118条1号所定の裁判権(国際裁判管轄)を有しないとし、Xの請求は理由がないとした。

「本件においては、YらによるX技術の不正使用による侵害という不法行為の客観的事実関係の証明は、未だ足りないものというべきである。」
解説 最高裁H13.6.8:
日本国に住所、事務所等を有しない被告に対し提起された不法行為に基づく損害賠償請求訴訟において、民訴法の不法行為地の裁判籍の規定に依拠して日本国裁判所の国際裁判簡潔権を肯定するためには、原則として、被告が日本国においてした行為により原告の法益について損害が生じたとの客観的な事実関係が証明されれば足りる


米国裁判所の国際裁判管轄が認められるか否かの判断についても妥当する?

本判決の判断は、実体法の次元における不法行為の成否について判断しているものではなく、手続法の次元における国際裁判管轄が認められるための不法行為の意義について判断。
■民事p73 大阪地裁H22.10.15 戦没者の妻に支給される特別給付金が消滅時効にかかり失権したことにつき、国及び地方自治体に受給権者に対する個別請求指導義務違反があるとして求めた国賠請求が棄却された事例
事案 戦没者等の妻に対する特別給付金支給法に基づき特別給付金を受給する権利を有するX1及びX2が、国、大阪府、大阪市に対して、YらがXに対する個別請求指導(個別制度案内、個別通知)義務を怠ったため、Xらは特別給付金受給権を消滅時効により失権し、また、Y1には右消滅時効の定めを遡って撤廃しない立法不作為があり、いずれも違法行為にあたるとして、国賠法1条1項に基づく損害賠償を求めた。
判断 棄却

特別給付金については、官報による公布以外に何らの周知措置がなされなければ、多数の受給権者が請求することなく、消滅時効によって失権するに至ることは明らかであるから、国及び地方公共団体が、一定の周知措置を行うべきは当然であること、その程度は国及び地方公共団体の裁量に委ねられているところ、・・・周知活動を行っており、・・それ以上にXらが主張するような個別請求指導まですべき職務上の法的義務があるということはできない。
■民事p93 福岡地裁Hk21.12.25 食品加工の請負契約において加工品が生菌等に汚染されていた瑕疵が注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じたものではなく、かつ、除斥期間内に修補請求がされていたので損害賠償請求権も保存されていたとして、注文者の請負人に対する損害賠償請求が納品された加工品の4割に相当する得べかりし利益の支払を求める限度で一部認容された事例。
事案 食品加工の請負契約において、注文者であるXが、請負人であるYから納品された加工品が生菌等に汚染され、又はその可能性が高いため、食品衛生法6条により健康食品として販売することができなかったと主張し、Yに、民法634条2項前段に基づく損害賠償を求める事案。
規定 民法 第634条(請負人の担保責任)
仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。ただし、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない。
2 注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる。この場合においては、第五百三十三条の規定を準用する。

民法 第636条(請負人の担保責任に関する規定の不適用)
前二条の規定は、仕事の目的物の瑕疵が注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じたときは、適用しない。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。

民法 第637条(請負人の担保責任の存続期間)
前三条の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は、仕事の目的物を引き渡した時から一年以内にしなければならない。
2 仕事の目的物の引渡しを要しない場合には、前項の期間は、仕事が終了した時から起算する。
判断 瑕疵の有無:
・・・粉末バルクが生菌・大腸菌・真菌に汚染されあるいはその可能性があるとして、食品衛生法6条により販売できないことは、瑕疵が存するというべきであり、YはXに民法634条2項前段に基づき損害賠償責任を負う

免責の成否:
Xの提供した原材料については汚染されたものではなく、加工についての温度管理の指図では、汚染させる可能性が増すような事情は窺われない。
⇒Y主張の免責は認められない。

責任の帰趨:
平成18年5月18日のXからYへの送付文書で、XはYに修補請求をしたものと認められ、本件納品分が平成17年7月15日から同年8月12日までになされていることによると1年内に修補請求がなされている⇒除斥期間は経過していない。

損害額:
解説 責任の帰趨(民法637条)について、除斥期間内に修補請求をすれば損害賠償請求権を保存し得ると判断。

最高裁H4.10.20:
売主の担保責任について、
「瑕疵担保による損害賠償請求権を保存するには、右請求権の除斥期間内に、売主の担保責任がを問う意思を裁判外で明確に告げることをもって足り、裁判上の権利行使をするまでの必要はない」

「右損害賠償請求権を保存するには、少なくとも、売主に対し、具体的に瑕疵の内容それに基づく損害賠償請求をする旨を表明し、請求する損害額の算定の根拠を示すなどして、売主の担保責任を問う意思を明確に告げる必要がある」


射程が問題。

本判決は、民法637条の規定する除斥期間内に修補請求をしていれば、損害賠償請求権を保存し得るとした。
■民事p99 京都地裁H22.6.2 市立中学校の生徒が同級生からのいじめにより転校を余儀なくされた場合、学校設置者の安全配慮義務違反等の責任が否定された事例
事案 X1は、Y3(京都市)が設置するA中学に入学したが、同級生であるY1からいじめを受け、転校を余儀なくされた。
X1とその親権者X2、X3は、Y1の親権者Y2及びA中学の教師らがY1に対する必要な指導・監督を怠ったとして、また、Y3がX1を速やかに希望する中学校へ転校させなかったことが安全配慮義務に反するとして、Yらに対して、不法行為ないし国賠法1条1項に基づき、連帯して損害賠償を請求。
判断 X1のY1に対する損害賠償請求を認容。

Y3(京都市)に対する本訴請求は棄却。
←問題行動を起こしがちな