シンプラル法律事務所
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行政法概説U(行政救済法)(宇賀克也)


行政法概説U(行政救済法)(宇賀克也)   
★序論 行政救済法の体系   
     
     
     
     
     
     
 ★第1部 行政訴訟法  
☆序章 行政争訟法の基礎  
     
     
  ◆2 行政争訟の分類 
  ◇(1) 主観争訟と客観争訟 
    主観争訟:自己の権利利益が侵害されたことを理由として救済を求められた場合の争訟
客観争訟:自己の権利利益と関わらない紛争の解決が求められた場合の争訟
    行政事件訴訟法⇒主観争訟と客観争訟の双方について規定
行政不服審査法⇒主観争訟についてのみ規定
     
  ◇(2) 抗告争訟と当事者争訟 
    主観争訟には、
@抗告争訟と
A当事者争訟
がある。
  ■1)抗告争訟
    抗告争訟:行政庁の処分その他公権力の行使を直接争うタイプの争訟
ex.
営業停止命令の取消しもしくは無効確認を求める
許可申請拒否処分の取消もしくは無効確認を求める
行政不服審査法等による行政上の不服申立ても抗告争訟
     
  ■2)実質的当事者争訟 
    当事者間の公法上んぼ法律関係に関する争訟
ex.
公務員が国に対して俸給を請求する争訟
免職処分の無効を前提として公務員の地位の確認を求める争訟
年金減額決定が無効であるとして減額前の金額を支給することを求める
    行政事件訴訟法⇒抗告争訟と当事者争訟の制度を設ける。
行政不服審査法⇒抗告争訟の制度のみを設けている 
     
  ■3) 形式的当事者争訟 
    実質的には抗告訴訟であるが、形式的には当事者争訟として争わせる仕組が採られている場合。
     
  ◇(3) 民衆争訟と機関争訟 
    客観争訟の中には、
@民衆争訟と
A機関争訟がある。
    民衆争訟:
自己の権利利益とは関わりなく、選挙民としての資格で選挙の有効性を争ったり(公職選挙法202条〜204条)
地方公共団体の住民としての資格で地歩公共団体の財務会計行為の妥当性・適法性を争うような争訟(地自法242条、242条の2)
    機関訴訟:
地方公共団体の長と議会の間の紛争のように(地自法176じょう)、行政主体の機関相互間での紛争を争訟形式で処理しようとするもの。
    客観訴訟は、法律に特別の定めがある場合に限り認められる。
     
     
     
     
     
★第2部 国家補償法   
☆第19章 国家補償法の意義と機能   
     
     
☆第20章 国家賠償総説   
     
     
 ☆第21章 公権力の行使に関する国家賠償(p436)
  ◆1 国賠法1条の意義
     第一条[公務員の不法行為と賠償責任、求償権]
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
A前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
  ◆2 公権力の行使 
   
  ◆3 国または公共団体 
  ◇公権力概念による主体の確定
     
    児童福祉法27条1項3号の規定に基づき県知事が児童養護施設に入所させた児童が、同施設に入所していた他の児童から暴行を受け、重大な障害を負わされた事案。
最高裁H19.1.25:
同号の規定に基づき児童養護施設に入所した児童との関係においては、入所後の施設における養護監護は本来都道府県が行う事務であり、
このよな児童の養護監護に当たる児童養護施設の長は、同号の規定に基づく入所措置に従い、本来都道府県が有する公的な権限を移譲されてこれを都道府県のために行使するもの
⇒当該児童に対する当該施設の職員等による養護監護行為は、都道府県の公権力の行使。
国または公共団体以外の者の被用者が第三者に損害を加えた場合であっても、当該被用者の行為が国または公共団体の公権力の行使に当たるとして国または公共団体が被害者に対して国賠法1条1項の規定に基づく損害賠償責任を負う場合には、被用者個人が民法709条の規定に基づく損害賠償責任を負わないのみはらず、使用者も同法715条に基づく損害賠償責任を負わない。
  ◆4 公務員 
  ◆5 職務行為関連性 
  ◆6 違法性 
  ◇(1) 意義 
  ◇(2) 法律上の争訟 
  ◇(3) 学説・判例の概況(p426)
  ■1) 過失と違法性 
    予見可能な損害を回避する義務違反が過失⇒過失要件の中で、加害者・被害者双方の事情が総合的に判断され、過失の要件を認定する必要はない。
  ■2) 違法性についての基本的学説 
  □結果不法説 
  □行為不法説 
    行為不法説:侵害行為の態様の観点から違法性を認定
    A:公権力発動要件の欠如をもって違法と解する説(「公権力発動要件欠如説」)
B:公務員として職務上尽くすべき注意義務を懈怠したことをもって違法とする説(「職務行為規準説」)
  □相関関係説 
    両者の折衷的立場で、侵害行為の態様と被侵害法益の双方を違法正判断において勘案。
  ■3) 従前の裁判例の一般的傾向 
  ■4) 違法性相対説
  ■5) 逮捕・起訴等の違法 (p450)
□結果違法説と職務行為基準説 
A:職務行為基準説:
検察官は合理的な嫌疑があれば公訴を提起することが許される⇒無罪判決が確定したからといって起訴が当然に違法となるわけではない。

最高裁H1.6.29:「公訴の提起時において、検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば、右公訴の提起は違法性を欠くものと解する。」
B:結果違法説:
無罪判決が確定した以上、起訴や逮捕は国賠法上当然に違法となる。
□公権力発動要件欠如説としての「職務行為基準説」 
この場合のいわゆる「職務行為基準説」は、起訴や逮捕という公権力発動要件の欠如をもって違法とする「公権力発動要件欠如説」。
  ■6) 裁判の違法
    最高裁昭和57.3.21:
「裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在したとしても、これによって当然に国賠法1条1項の規定に言う違法な行為があったものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるわけのものではなく、右責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもってこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である」
担当裁判官が当事者の主張を取り違えたというだけでは、特別の事情があるものとはいえない⇒違法性を否定し、国賠請求を認めなかった。

公権力発動要件欠如説と区別された意味での職務行為基準説を採用。
違法性限定説。
行政法学的には、前記最高裁判決の見解は、国賠法上の違法事由を故意がある場合に限定したものととらえている。
◎違法性限定説の根拠(論点体系 判例行政法3 p371)) 
最判解説民事編(平成元年度)門口正人
「法治国家においては、行政も司法も立法権の定立した法規を執行する点において共通の面を有するが、前者が、結果を意欲しその実現を図ることを目的としていることから、関係人に不服がある場合に行政機関の自己判断に最後の決定権を認めることを留保しているのに対し、後者は、本来的に対立する当事者を前提として法律のみを基準に最終的な判定を与えるものであって自己完結的な判断作用を営むものである点に違いを見出すことができる。・・・・更にいえば、司法は、法秩序の維持と安定を確保し、民主政治の基盤たる法の支配を確立するために、裁判官のした事実の認定、法令の解釈適用及び具体的事案に対する判断について、上訴制度等を設けて当該訴訟手続内において是正されることを予定し、それによって得られた最終的判断は覆し得ないものとして尊重すべきものとし、また、裁判を担う裁判官は、その良心に従い独立して職権を行うこととされている。

裁判所又は裁判官のする職務行為は、民事・刑事事件に対する判決による処理から行政処分に類する事務手続にまで及ぶものの、仮にその職務行為に法規範に違背する瑕疵が存在したとしても、直ちに国家賠償法上の違法を問うべきではなく、同法上の違法をいうためには、当該職務行為の性質や内容のほか、不服申立手続の有無当該手続への当事者の参画の程度等の諸事情を考慮に容れた上、その違反が著しく不当あるいは不法であって、およそ裁判官としての誠実な権限行使と評価し難い程度に合理性を欠くものでなければならないということができよう。・・・前記昭和57年の判例の背景にある思想は、争訟の裁判に限らず広く裁判官の職務行為一般に妥当するといってよいであろう」。

違法性限定説は、
@司法が自己完結的な判断作用を営むものであること
A裁判上の瑕疵の是正は上訴・再審等によって是正されることが制度上予定されていること
B国家賠償請求の後訴において前訴の裁判上の瑕疵を是正することは、憲法上保障された裁判官の職権行使の独立との関係で問題が生じ得ること
を根拠とする。
◎遅延関係 
最高裁昭和47.12.20:高田事件

そもそも、具体的刑事事件における審理の遅延が右の保障条項に反する事態に至つているか否かは、遅延の期間のみによつて一律に判断されるべきではなく、遅延の原因と理由などを勘案して、その遅延がやむをえないものと認められないかどうかこれにより右の保障条項がまもろうとしている諸利益がどの程度実際に害せられているかなど諸般の情況を総合的に判断して決せられなければならないのであつて、たとえば、事件の複雑なために、結果として審理に長年月を要した場合などはこれに該当しないこともちろんであり、さらに被告人の逃亡、出廷拒否または審理引延しなど遅延の主たる原因が被告人側にあつた場合には、被告人が迅速な裁判をうける権利を自ら放棄したものと認めるべきであつて、たとえその審理に長年月を要したとしても、迅速な裁判をうける被告人の権利が侵害されたということはできない。

ところで、公訴提起により訴訟係属が生じた以上は、裁判所として、これを放置しておくことが許されないことはいうまでもないが、当事者主義を高度にとりいれた現行刑事訴訟法の訴訟構造のもとにおいては、検察官および被告人側にも積極的な訴訟活動が要請されるのである。しかし、少なくとも検察官の立証がおわるまでの間に訴訟進行の措置が採られなかつた場合において、被告人側が積極的に期日指定の申立をするなど審理を促す挙に出なかつたとしても、その一事をもつて、被告人が迅速な裁判をうける権利を放棄したと推定することは許されないのである。本件の具体的事情を記録によつてみるに、

 (一)本件は、第一審裁判所である名古屋地裁刑事第三部で、検察官の立証段階において、被告人朴鐘哲ほか二五名については昭和二八年六月一八日の第二三回公判期日、被告人趙顕好ほか三名については昭和二九年三月四日の第四回公判期日を最後として、審理が事実上中断され、その後昭和四四年六月一〇日ないし同年九月二五日公判審理が再び開かれるまでの間、一五年余の長年月にわたり、全く審理が行なわれないで経過したこと、
 (二)当初本件審理が中断されるようになつたのは、被告人ら総数三一名中二〇名が本件とほぼ同じころに発生したいわゆる大須事件についても起訴され、事件が名古屋地裁刑事第一部に係属していたため、弁護人側から大須事件との併合を希望し、同事件を優先して審理し、その審理の終了を待つて本件の審理を進めてもらいたい旨の要望があり、裁判所がこの要望をいれた結果であること、
 (三)大須事件が結審したのは、昭和四四年五月二八日であつたが、本件について審理が中断された段階では、裁判所も訴訟関係人も、大須事件の審理がかくも異常に長期間かかるとは予想していなかつたこと、
 (四)昭和三九年頃被告人団長および弁護人から、大須事件の進行とは別に、本件の審理を再び開くことに異議がない旨の意思表明が裁判所側に対してなされたこと、
 (五)本件被告人中大須事件の被告人となつていたもののうち五名が被告人として含まれていた、いわゆる中村県税事件、PX事件および東郊通事件が名古屋地裁刑事第二部に係属しており、本件と同様大須事件との併合を希望する旨の申立が昭和二七年頃弁護人からなされたが、右刑事第二部においてはこの点についての決定を留保して手続を進め、昭和三一年頃、全証拠の取調を完了したうえ、論告弁論の段階で大須事件と併合することとして、次回期日を追つて指定する措置をとつたこと、
 (六)本件審理の中断が長期に及んだにもかかわらず、検察官から積極的に審理促進の申出がなされた形跡が見あたらないこと、
 (七)その間、被告人側としても、審理促進に関する申出をした形跡はなく消極的態度であつたとは認められるが、被告人らが逃亡し、または、審理の引延しをはかつたことは窺われないこと、
 (八)その他第一審裁判所が本件について、かくも長年月にわたり審理を再び開く措置をとり得なかつた合理的理由を見いだしえないこと、の各事実を認めることができる。これら事実関係のもとにおいては、検察官の立証段階でなされた本件審理の事実上の中断が、当初被告人側の要望をいれて行なわれたということだけを根拠として、一五年余の長きにわたる審理の中断につき、被告人側が主たる原因を与えたものとただちに推認することは相当ではない。

次に、本件審理の遅延により、迅速な裁判の保障条項がまもろうとしている前述の被告人の諸利益がどの程度実際に害せられたかをみるに、記録によれば、
 (一)本件のうち、いわゆる高田事件、民団事件については、第二二回公判期日に行なわれた最後の証拠調までの間には、関係被告人らの具体的行動等についての証拠調はなされておらず、また同じくいわゆる大杉事件、米軍宿舎事件については未だ何らの証拠調もなされていなかつたこと、
 (二)検察官がかねてより申請していた高田事件の共謀場所であるとする旧朝連瑞穂支部事務所や民団事件の犯行現場である大韓民国居留民団愛知県本部事務所の検証について、その後右両事務所消滅のゆえをもつてその申請が撤回されており、その他地理的状況の変化、証拠物の滅失などにより、被告人側に有利な証拠で利用できなくなつたものもあるのではないかと危倶されること、
 (三)長年月の経過によつて、目撃証人やアリバイ証人はもとより被告人自身の記憶すら瞬味不確実なものとなり、かりに証人尋問や被告人質問をしたとしても、正確な供述を得ることが非常に困難になるおそれがあること、
 (四)各被告人の検察官に対する各供述調書につき、被告人らは当初よりすべてその任意性を争い、ことに多数の被告人らにおいて、右任意性の有無の判断の一資料として取調警察官による暴行脅迫の事実があつたと主張しているのであるが、取調当時から長年月を経過した時点において警察官の証人尋問を行なつても果してどの程度真実を発見し得るかは甚だ疑わしく、その争点についての判断が著しく困難になるおそれがあること、などの事実が認められる。したがつて、もし、本件について、第一審裁判所である名古屋地裁刑事第三部が、前記刑事第二部と同じ審理方式をとり、全証拠を取り調べた後、論告弁論の段階で大須事件との併合を予定し、次回期日を追つて指定することとしていたならば、右の被告人側の不利益も大部分防止できたものと思われるが、かかる措置がとられることなく放置されたまま長年月を経過したことにより、被告人らは、訴訟上はもちろん社会的にも多大の不利益を蒙つたものといわざるをえない

以上の次第で、被告人らが迅速な裁判をうける権利を自ら放棄したとは認めがたいこと、および迅速な裁判の保障条項によつてまもられるべき被告人の諸利益が実質的に侵害されたと認められることは、前述したとおりであるから、本件は、昭和四四年第一審裁判所が公判手続を更新した段階においてすでに、憲法三七条一項の迅速な裁判の保障条項に明らかに違反した異常な事態に立ち至つていたものと断ぜざるを得ない。したがつて、本件は、冒頭説示の趣旨に照らしても、被告人らに対して審理を打ち切るという非常救済手段を用いることが是認されるべき場合にあたるものといわなければならない。刑事事件が裁判所に係属している間に迅速な裁判の保障条項に反する事態が生じた場合において、その審理を打ち切る方法については現行法上よるべき具体的な明文の規定はないのであるが、前記のような審理経過をたどつた本件においては、これ以上実体的審理を進めることは適当でないから、判決で免訴の言渡をするのが相当である。
広島高裁H15.6.13:

民事事件の審理を担当する裁判官は,すべての事件について2か月以内に判決を言い渡すべき法的義務を負うものではないが,法2条の趣旨に違背することのないよう,できる限り迅速に判決言渡しをするように努めなければならず,事件が複雑である場合その他特別の事情がある場合でも,裁判官としての客観的良心ないしは職業倫理に従い,誠実に職務権限を行使しなければならないのであって,その判決言渡しについて,当該裁判官が違法又は不当な目的をもってこれを遅延したなど,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認め得るような特別の事情がある場合には,当該裁判官の職務行為は,国家賠償法上違法の評価を受けるものというべきである。

この点,判決言渡しの遅延については,当事者に不服申立ての方途が認められていないことから,訴訟手続内で不服申立制度が確立している裁判内容や手続に関する違法や過誤を理由として国家賠償を求める場合とはいささか場面を異にするとも考えられる。しかしながら,判決書の完成の時期を左右する要素としては,当事者の主張や証拠評価の難易(記録や論点の多寡を含む。),判例・参考文献等の調査・入手の難易,他事件の審理・判決との時間調整の難易,合議の難易(合議事件の場合)等が考えられるところ,これらのうちのいかなる要素が判決書の早期作成に障害どなったかの点を,国家賠償請求の可否を審理する裁判所が,証拠に,よって,あるいは当該事件の受訴裁判所を構成する裁判官の証人尋問によって明らかにするというようなことは,裁判官の自由な心証や合議の秘密を害するおそれがあり,許容されないことは明らかである。

そうすると,判決言渡しの遅延を理由とする国家賠償請求においても,裁判内容の過誤等を理由とする国家賠償請求と同様,国家賠償責任が肯定されるためには,「当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判したなど,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とする」(昭和57年3月最高裁判決参照)との,極めて例外的,かつ,裁判官の自由心証や合議の秘密を離れても立証可能な明確な基準によらざるを得ないと考えられる。
東京地裁昭和51.5.31:

国家賠償法一条一項にいわゆる違法とは、厳密な法規違反のみを指すのではなく、当該行為(不作為を含む)が法律、慣習、条理ないし健全な社会通念等に照らし客観的に正当性を欠くことをも包含するものと解するのが相当である。ただし、不法行為責任が元来損害の公平な分担を目的としているのみならず、今日では公務員が法令に基づかないで事実上職務行為を行っている場合(例えば行政指導等)が少なくないからである。
 ところで、本件における争点事項である民事訴訟において判決言渡をなすべき時期については、民事訴訟法一九〇条一項が「判決の言渡は口頭弁論終結の日より二週間内にこれをなす。但し、事件繁雑なるときその他特別の事情あるときはこのかぎりにあらず。」と規定しているが、右規定但書にも明示されているように、具体的事案の内容の難易によって判決言渡につき遅速が生ずることは当然であり、わが国における裁判実務の現況に照らすと、民事事件の判決言渡を口頭弁論終結後原則として二週間以内になすことは事実上不可能というべきであるから、右法条本文の規定はいわゆる訓示規定であると解せざるをえない。そして、この点について他に何らの規定も存しないから、民事訴訟において判決言渡をなすべき時期の決定は、一応担当裁判官の裁量に委ねられているものと解すべきである。
 
しかしながら、民事訴訟制度の本来の目的は私的紛争の解決にあり、迅速な裁判なくして権利保護の実現が著しく困難であることは多言を要しない。そして、わが国においても民事訴訟手続において当事者主義が採用されているが、口頭弁論終結後判決言渡がなされるまでの間に原則として当事者の訴訟行為が介在する余地はない。右に述べた民事訴訟制度の目的および機能、判決言渡行為の性質等に鑑みると、民事事件を担当している裁判官が口頭弁論終結後判決言渡を著しく遅延させ、右遅延が客観的に正当性を欠くと認められる程度に至った場合には、国家賠償法一条一項にいわゆる違法の要件が充足されたものと解するのが相当である。
 
そして、右遅延が客観的に正当性を欠くか否かは 単に遅延の期間のみならず、当該遅延の原因および理由のほか、当事者の被侵害利益の内容、当該事件の種類および内容等諸般の状況を総合的に考量して判断すべきものと解すべきである。
◎強制執行手続における救済手続の懈怠
最高裁昭和57.2.23:
不動産の強制競売手続における執行裁判所の処分は、債権者の主張、登記簿の記載その他記録にあらわれた権利関係の外形に依拠して行われたものであり、その結果、関係人間の実体的権利関係との不適合が生じることがありえる。
これについては、執行手続きの性質上、強制執行法に定める救済手続により是正されることが予定されている⇒権利者が当該手続による救済を求めることを怠ったため損害が発生しても、その賠償を国に対して請求することはできない。

損害を回避するための法的手段が付与されていれば、まずそれを用いるべきで、その行使を懈怠した者に対しては国賠請求を認めないという思考。
but
本判決の射程は、強制執行法上の救済手段の懈怠に限定され、上訴の懈怠、抗告訴訟の提起の懈怠にまで及ばないと解される。
◎レペタ訴訟 
公判を傍聴する際にメモをとることを許可されなかったレペタ氏が、精神的損害の賠償を求めて国賠請求訴訟(レペタ訴訟)を提起。
最高裁H1.3.8:
法定警察権の目的、範囲を著しく逸脱し、またはその行使が甚だしく不当であるなどの特段の事情がない⇒拡売法1条1項の違法性は認められない。
but
傍論で、法廷における筆記行為は、特段の事情がない限り、傍聴人の自由に任せるべきであり、それが表現の自由を保障した憲法21条1項の規定の精神に合致する⇒法廷における傍聴人によるメモは解禁。
  ■7) 立法の違法
    A:最高裁昭和60.11.21(在宅投票事件):
国会議員の立法行為(立法不作為を含む。以下同じ。)が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行為が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって、当該立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべき。
仮に当該立法行為が直ちに憲法の規定に違反する廉があるとしても、その故に国会議員の立法行為が直ちに違法の評価を受けるものではない。

職務行為規準説を選択。
さらに、立法の政治的性格について論じたのち、職務行為規準説の中で特に違法性を限定する違法性限定説を採ることを明らかに。
but
B:在外投票についての立法を違憲と判示した最高裁H17.9.14:
形式的には、在宅投票最判と趣旨は異ならないとしているが、
「立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所用の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受ける」と判示。

実質的には、違法性の認定を緩和したようにもみえなくもない。
C:再婚禁止期間事件大法廷判決:
最高裁H27.12.16:
法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては、国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして、例外的に、その立法行為は、国賠法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けることがあるというべきでである。
  在外投票事件大法廷判決(B)で問題となったのは選挙権という明確な人権⇒「憲法上保障されている権利」についてのみ判示
再婚禁止期間事件大法廷判決(C)の事案⇒婚姻をするかどうか、いつ誰と婚姻をするかというような婚姻をするについての自由が問題となっており、かかる自由は明確に人権とはいえないものの、憲法上保護されている利益に当たり、それが合理的理由なく制約された場合も、国賠法上の違法となりうることを明示する必要から「憲法上保障され又は保護されている権利利益」という表現。
B⇒立法の国賠法上の違法の判断基準が
「立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合」(前段)と
「国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所用の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合」(後段)
に分かれていたが
Cでは、前段と後段に分かれていない。
C判決の千葉勝美裁判官の補足意見:
B判決の前段部分は、A判決の事案と同様の違憲の立法を行なった国会議員の立法行為または立法不作為になったケースについてのものであり、その判示内容は、A判決とは表現が異なる点はあるが、それと異なる判断内容を示したものではなく、単に従前の判断を踏襲する趣旨で表現を簡潔にして述べたもの、すなわち、A判決と同様に、当然に違法となる極端な場合を示したにすぎない。
B判決の後段部分は、当該事案で問題になった国会議員が憲法上の権利行使の機会を確保する立法措置をとることについて国家賠償法上の違法の判断基準を説示したもの。
C判決の事案は、B判決との関係では、その前段部分と同様のケースであるところ、前段部分の判示のような憲法上の権利侵害が一義的に文言に違反しているような極端な場合ではない
⇒多数意見は、今回改めて、A判決、B判決の判示をも包摂するものとして、一般的判断基準を成立して示したもpのであり、今後は、この点の判断基準は、C判決の多数意見を示すことになろう。
 
  ■8) 行政処分の国家賠償法上の違法 (p458)
    行政処分の国家賠償法上の違法については、公権力発動要件欠如説が支配的。
but
東京地裁H1.3.29:
取消訴訟における違法と国家賠償における違法が異なるとする違法性相対説を行政処分につき明確に採ったのみならず、職務行為規準説を採用。
    ●公権力発動要件欠如説
最高裁H3.7.9:
・・・無効である以上違法であるとしながら、過失を否定。
最高裁H16.1.15:
処分の要件を満たしていないことをもって違法としながら、法律の解釈を誤ったことについて過失がない。
最高裁H17.4.19も、
違法過失を区分して判断する公権力発動要件欠如説の立場。
    ●職務行為規準説
but
最高裁H5.3.11は、行政処分である更正処分についても、職務行使基準説を採用。
「税務署長のする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすることなく漫然と更正したと認め得るような事情がある場合に限り、右の評価を受けるものと解するのが相当」
それ以外にも、
最高裁H15.6.26
最高裁H18.4.20
最高裁H20.2.19
  ※判例の整合的理解の試み 
国賠法1条1項の最高裁判決の主要類型を
(1)全法令秩序に照らして、不法行為上の保護法益に当たる生命身体の安全、人格的利益等の「権利又は法律上保護された利益」が侵害されたか否かが争われた事案と、
(2)建築基準法等の特定の法律(および条例)における「法律上の地位」が侵害されたか否かが争われた事案とに大別。
被害者が、加害行為をどのように特定し、いかなる権利利益の侵害があったとして損害賠償請求を組み立てるかは任意。
従前公権力発動要件欠如説ではなく、職務行為基準節を最高裁が採用したとされる事案は、原告が(2)ではなく(1)の争いをしたから。
奈良民商事件最高裁判決では、
原告が賠償請求をしているのは過納税額相当額ではなく、税務職員が原告の取引先に反面調査に入ったことによる取引先から信用を失ったことによって精神的被害を受けたことの慰謝料⇒(1)の争い方を選択⇒課税処分の抗告訴訟における違法と異なる違法性の認定が行なわれた。
 
     
  ■9) 権力的事実行為の違法(p438)
    権力的事実行為も、法律の留保に服する
but
その行為規範が明確にされていないことが少なくない
⇒国賠請求において、違法性をいかに判断するかについて、意見が分かれている。
    最高裁昭和61.2.27:
およそ警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断してなんらかの犯罪を犯したと疑うに足りる相当な理由のある者を停止させて質問し、また、現行犯人を現認した場合には速やかにその検挙又は逮捕に当たる職責を負うものであって(警察法2条、65条、警察官職務執行法2条1項)、右職務を遂行する目的のために被疑者を追跡することはもとよりなしうる
⇒警察官がかかる目的のために交通法規等に違反して車両で逃走する者をパトカーで追跡する職務の執行中に、逃走車両の走行により第三者が損害を被った場合において、右追行行為が違法であるというためには、右追跡が当該職務目的を追行する上で不必要であるか、又は逃走車両の逃走の態様及び道路交通状況等から予測される被害発生の具体的危険性の有無及び内容に照らし、追跡の開始・継続若しくは追跡の方法が不相当であることを要するものと解すべき。

違法性の要件において、諸般の事情を比較衡量。
法令上は明示さいれていない追跡という事実行為の発動要件を定式化。
この発動要件を欠く⇒違法と評価。
それを欠くことにつき故意過失があったか否かが問われる。
     
     
  ■10) 非権力的事実行為の違法 
  ■11) 規制権限の不行使の違法
  ■12) 申請に対する不作為の違法 
  ◇(4) 検討 
     
  ◆7 故意過失 
  □故意 
     
  □違法過失二元的判断 
    違法な行政処分についての過失:
当該行政処分が違法であることを認識すべきであったとに、認識しなかったことを意味。
     
  □過失一元的判断 
     
  □違法一元的判断 
     
  □組織的過失 
     
  ◆8 損害 
  ◆9 公務員の個人責任 
     
☆第22章 公の営造物の設置管理の瑕疵に関する国家賠償  
     
     
     
     
☆第23条 国家賠償法のその他の問題  
     
     
     
     
  ◆3 安全配慮義務(p523) 
  ◇(1) 意義
     
  ◇(2) 国家賠償請求権との関係(p524) 
  ■1) 請求権の競合 
  ■2) 消滅時効
    債権法改正前:
安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任の消滅時効期間⇒権利行使できる時から10年(166条1項、167条1項)
国賠責任の消滅時効期間は、被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知ったときから3年(724条))

消滅時効については、債務不履行構成の方が不法行為的構成より有利。
(but
損害または加害者を知り得ない⇒不法行為的構成の方(20年)が有利)
     
  平成29年民法改正と消滅時効:
債務不履行による損害賠償請求権の消滅時効期間:
債権者が権利を講師することができることを知った時から5年に短縮。
(改正後民法166条1項1号)
人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は、5年間に延長
(改正後民法724条の2)

安全配慮義務構成をとることによる消滅時効期間の面でのメリットは存在しなくなった。
     
☆第24章 損失補償  
     
     
     
☆第25章 国家賠償の谷間(p534)  
  ◆1 「国家補償の谷間」の存在 
     
  ◆2 解釈論による対応 
  ◇(1) 損害賠償の側からのアプローチ 
  ■1) 過失要件 
   
  ■2) 予防接種禍訴訟によるアプローチ 
  □国家賠償による解決 
     
  □禁忌者であることの推定 
     
  □高度の注意義務 
     
  □ 予見可能性の推定 
     
  □予防接種実施主体が立証すべきこと 
     
  □過失認定の容易性 
     
  ◇(2) 損失補償の側からのアプローチ 
  ■1) 収用類似の侵害に基づく補償 
     
  ■2) 憲法29j法3項の規定の類推適用またはもちろん解釈 
     
     
  ◆3 立法論による対応 
  ◇(1) 無過失責任主義と立証責任の転換 
     
     
  ◇(2) 
     
     
  ◇(3)