シンプラル法律事務所
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勉強会(判例時報2016後半)

判例時報の勉強会用の資料です(随時更新)

  12月
2310
  行政p39
最高裁H28.3.29  
  信託契約の受託者が所有する複数の不動産の固定資産税に係る滞納処分としてされた、信託財産である土地とその上にある固有財産である家屋に係る賃料債権の差押え(適法)
  規定  (信託財産に属する財産に対する強制執行等の制限等)
第二十三条  信託財産責任負担債務に係る債権(信託財産に属する財産について生じた権利を含む。次項において同じ。)に基づく場合を除き、信託財産に属する財産に対しては、強制執行、仮差押え、仮処分若しくは担保権の実行若しくは競売(担保権の実行としてのものを除く。以下同じ。)又は国税滞納処分(その例による処分を含む。以下同じ。)をすることができない。
  争点 本件処分においては、信託財産である本件土地に係る固定資産税とX1会社所有名義の本件土地以外の不動産に係る固定資産税を区別せず、その全体を差押えに係る地方税として、信託財産である本件土地の賃料相当額部分を含む本件賃料債権全体に対する差押えが行われた
⇒旧信託法16条1項(新信託法23条1項相当)との関係でその適法性が争われた。 
  判断 信託契約の受託者が所有する複数の不動産の固定資産税に係る滞納処分としてされた、同各不動産のうちの信託財産である土地とその上にかる固有財産である家屋に係る賃料債権の差押えは、滞納に係る同固定資産税等のうち信託財産である同土地以外の不動産の固定資産税相当額部分に基づき、同賃料債権のうち同土地の賃料相当額を差し押さえる点において旧信託法16条1項との関係で問題があるものの、その問題となる部分は右の限度にとどまり、差押えを全体として違法とするような特段の事情もうかがわれないなど判示の事情の下においては、適法である。

原判決を破棄し、控訴を棄却。 
  解説 本件賃料債権及び本件固定資産税について、信託財産に架kる部分と固有財産に係る部分を識別し得るとすると、実体的に見るならば、本件処分については、本件滞納固定資産税等のうち本件土地以外の不動産の固定資産税相当額に係る部分に基づき、本件賃料債権のうち本件土地の賃料相当額部分を差し押さえることとなる点において旧信託法16条1項との関係で問題。
but
本件滞納固定資産税等のうち本件土地の固定資産税に係る部分に基づき、本件賃料債権を差し押さえることや、本件滞納固定資産税等に基づき、本件賃料債権のうち本件家屋の賃料相当額部分を差し押さえることは、同項に反するものではない。
どの段階で、右の実体的関係を反映させるための調整を行うべきか?
A:差押えの段階で調整する必要はない
B:実体的な観点から調整の余地がある以上、差押えの段階で対応すべき
最高裁昭和43.7.16:
滞納者の所有財産(宅地)に対する滞納処分が、その滞納者の滞納税金のみならず、誤って他の者の滞納税金をも徴収するために行われた場合には、同所分の瑕疵は、他の滞納者の滞納税金に対するものとしてなされた部分についてのみ存し、その滞納処分全体を違法ならしめるものではない。
本件賃料債権を信託財産部分と固有財産部分に識別した上、信託財産部分を本件土地に係る滞納固定資産税に充当したb結果、同滞納固定資産税が全て徴収された場合には、本件賃料債権のうち信託財産部分について取り立てた金員があれば、これをX1会社に交付すべきこととなり、X1会社からは不当利得の返還請求をすることが可能。 
本件賃料債権中消費税相当額部分についても差押えの対象となし得るか? 
について、本判決は肯定。

そもそも消費税の納税義務者は消費者ではなく事業者であり(消費税法5条1項)、消費税相当額の実質的な出損をしたのが消費者(訴外会社)であったとしてもこの点は同様であり、消費者の負担する消費税相当額は、消費者からの預り金ではなく、事業者と消費者の間の商品・役務の対価の一部であるべきものと解される。
⇒消費税相当額を差し押さえたことに何ら違法はない。
  行政p43
東京地裁H28.3.11  
  政務調査研究費と住民訴訟
  事案 東京都千代田区が同区議会政務調査研究費の交付に関する条例に基づき同区議会の各会派に交付した政務調査研究費について、被告補助参加人である会派A及び同C並びに会派Bの各使徒の一部は違法なものであり、本件各会派は違法な本件各支出相当額を悪意で不当に利得している、同区長(Y)はその返還請求を怠っている⇒同区の住民であるXが、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、Yに対し、当該不当利得の返還及びこれに対する政務調査研究費決算報告書の提出期限の翌日である平成24年4月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による法定利息の支払をA及びCに対しそれぞれ請求するよう求めた住民訴訟。
①当初、その被告を同区議会議長として提起⇒被告適格を有さないとして却下⇒控訴審で被告をYに変更することの許可の申立て(行政事件訴訟法15条1項)⇒本件裁判所に移送された当該変更後の訴え。
②会派Cは、同会は所属議員の議員としての任期が口頭弁論終結日以前において満了⇒会派として解散⇒清算の目的の範囲内において、なお存続しているとみなされる(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律207条類推)
  争点 Yが本件各会派に対する本件各支出相当額の不当利得返還請求をしないことが違法に財産の管理を怠る事実に該当するか?
  判断 千代田区議会政務調査研究費の交付に関する条例施行規則に定めるその使途内容及び使途禁止事項を内容とする使途基準(「本件使途基準」)に適合しない使途にに充てるために支出された使途範囲外支出相当額に係る範囲で、Xの請求を一部認容 
本件使途基準のうち、使途禁止事項とされている経費に係る支出⇒直ちに使途範囲外支出に当たる。
経費の支出のの対象となる行為が、その客観的な目的や性質に照らして①議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性を欠く場合や、②当該行為に係る経費の支出の必要性に関する当該議員の判断が合理性を欠く場合などには、使途範囲外支出に当たる。
その際、本件使途基準の適正執行のために同区議会運営委員会が定めた「使途基準注意事項・指摘事項等」は、前記の合理的関連性の有無や必要性の有無の判断の指針として参照すべき。
「悪意の受益者」であることも肯定。
  解説 政務調査費:
地方議会の審議能力を強化し、議員の調査活動基盤の充実を図るため、その調査研究に係る必要な経費の一部を助成するために条例の定めるところに交付される金銭。
平成12年の地方自治法の改正において地方自治法上に制度化されたもの。
その後、全国都道府県議会議長会等からその使途範囲の拡大の要望⇒平成24年の地方自治法の改正において、交付目的に「その他の活動」の文言が加えられ、その名称も「政務活動費」に改められた。
同時に、政務活動費を充てることができる経費の範囲も条例で定めなければならないこと、及び、議長は政務活動費の使途の透明性の確保に努めるものとすること(改正後の法100条16項)が新たに明定され、使途の適正性を確保するためにその透明性を高めることが意図されている。
以上の経緯⇒議会内部において、任意に定めた自主的な申し合わせである本件注意事項は、それが地方自治法の趣旨等に合致しない不合理なものと認められない限り、本件使途基準の解釈の指針として参照されうる。
  民事p67
東京高裁H26.11.26  
  情報システムのパッケージソフトの導入請負契約に基づく未払請負代金請求等
  事案 業務を履行したのに、Yが請負代金を支払わないと主張して、Yに対し、未払請負代金と遅延損害金の支払を求めた。
  争点 ①本件契約においてXが履行すべき業務の合意(パッケージ尾ソフトの導入合意か、新システム開発の合意か)
②本件契約はYの錯誤により無効となるか
③本件契約をXの詐欺により取り消すことができるか
④Xによる仕事の完成及び提供があったか
⑤Xが本件プロジェクトを管理する義務の不履行があったか
  原審 Yの契約締結の意思表示に錯誤あり⇒Xは契約に基づいて請負代金を請求することはできないとして、請求棄却。 
  判断   債務の内容について
本件本件基本合意と本件契約書による合意の関係に着目し
①一定の時期までの間に、X・Y間で本件基本合意が成立し、これに基づいて、キックオフミーティングが開催され、Xによる作業が開始され、その作業にはYのプロジェクトメンバーを参加していた
②その後、YのA専務は本件契約書に調印した
③本件契約書は、本件基本合意の対象となった業務のうちのプロジェクト準備フェーズ及びビジネス設計フェーズを対象とするもの
④本件契約書の調印時までに、Xから提出された契約書の案に一部変更が加えられたことはあったが、本件基本合意の内容が修正されたことはなかった

本件契約書は、基本合意のうちのプロジェクト準備フェーズ及びビジネス設計フェーズに関する部分について、既に合意され、それに基づいて作業が行われていた基本合意の内容を確認し、更にこれに付加する内容を詳細に規定したものであり、本件契約書には基本合意の内容も含まれている。
X・Y間では、本件基本合意でも、本件契約書にA専務が調印した時点での契約内容としても、新システム開発の合意がされたものでなく、パッケージソフトの導入合意がされた。
  Yの錯誤について:
Yが新システム開発の合意をする内心的効果意思を有していたと認めることはできない⇒錯誤の主張は失当。 
  Xの提案はシステム開発を内容としていたものではない⇒欺罔行為をしたとはいえない。 
①Xは、プロジェクト準備フェーズについて順次データで送付し納品を完了し、ビジネス設計フェーズについてもYに提供したが、Yは受領を拒絶。
②後者には、納品物の一部に未完成のものがあるが、これはYが本件プロジェクトを一時凍結したことにより打合せ作業ができなかったことによるものであり、Yの責めに帰すべき事由によってその債務を完全に履行することができなかったもの。
⇒本件契約に基づき、請負代金の全額を請求することができる。
  解説 近時のシステム開発における裁判例:
①ソフトウェア開発契約において、請負人が仕事を完成させたということができるための最後の工程が、シナリオテストを終えて一応の品質の確保されたこと。
それを終えて納品された以降に発見される不具合・障害は、瑕疵担保の問題。
納品された新基幹システムに順次、長期間にわたって軽微とはいえない瑕疵が発現した上、不具合・障害が更に多数発生する原因となる可能性のある事情も存在。
⇒瑕疵担保責任に基づくソフトウェア開発契約の解除を有効とした事例。 
②請負型のソフトウェア開発契約において、原則として、仕事完成のためにユーザーによる検収への協力が不可欠であり、協力がなく検収が完了できない場合には、確定された仕様を満たす状態のソフトウェアを、ユーザーにおいて検収できる状態にしていれば、仕事完成が認められ、また、初期段階でのバグの発生は技術的に不可避であり、実務的にも納品後のバグ対応が織り込み済みであることから、順次解消可能なバグの存在は、ソフトウェア完成の認定を妨げるものではない。
⇒遅くともテスト稼働の時点におけるシステムの完成を認めた事例。
③システム開発会社XがY社との間で締結した、パイロットシステム開発契約、業務管理システムの使用許諾契約(第1次、第2次)について、パイロットシステムは債務の本旨に従った内容で納品され、また、第一次使用許諾契約に関してアップロードされた管理システムも債務の履行として許容される程度に完成されていた。but第二次使用許諾契約に関する追加システムは、必要な機能を欠く不完全なものであった。
⇒同契約の解除を認め、追加システムの未払使用料に関するXの本訴請求を否定して、同契約に関するYの既払代金相当額の返還請求を認容。
④X・Y間のシステム開発において開発工程を全3のフェーズに分割して行い、多段階契約方式が採用。フェーズ2の作業について減額が行われるなどした後、新フェーズ3の発注はYにされなかったケースにき、フェーズ毎の個別契約の締結をまって条件等が定まるものであり、Xの期待感は保護に値するものではない。⇒不法行為に基づく損害賠償請求を否定。
システム開発契約など開発型契約における論点はさまざまであるが、その審理においては合意内容の事実認定をいかにしていくかという問題に収斂することが多い。
  民事p85
大阪高裁H28.3.2  
  ①身の回りの世話をしてきた近隣在住の知人と②成年後見人であった四親等の親族を特別縁故者として認めた事例
  事案 平成25年9月に、1億2572万円余の銀行預金等を遺して死亡したAについて、X1及びX2が、特別縁故者としての財産分与を申し立てた事件。 
  規定 民法 第958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)
前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
  原審 ①身の回りの世話をしてきたにとどまる親族でないX1
②報酬を得て成年後見の職務を行ってきたX2
の特別縁故者性を否定⇒各申立てを却下。 
  判断 特別縁故者性を判断する一般的基準として
「相続財産の全部又は一部を・・・分与することが被相続人の意思に合致するとみられる程度に被相続人と密接な関係があったと評価」することができるかどうかを挙げた。
X1について:
①平成12年以降平成25年までの身の回りの世話、②精神科受診への付添い、③B弁護士への相談、X2との連絡等の成年後見申立てに向けた支援への取り組み、④Aが遺贈しようと考えて書面を作成した事実。
⇒特別縁故者性を肯定。
アルバイト料支払の事実は、金額的、時期的に限られており、特別縁故者と認めることの妨げにならない。
X2について:
①親戚づきあいに加えて相談に親身にのるなどのつきあいをしていたこと、②X1と共に、成年後見申立てに向けた支援へ取り組んだこと、③Aが遺贈しようと考えて前記のような経緯で書面を作成した事実
⇒特別縁故者性を肯定。
後見人としての正当な額の報酬があっても、前記各事情とりわけAがその財産をX2に遺贈する意思を有していたと認められることからすれば、特別縁故者と認めることの妨げにならない。
  解説 本件は、
①被相続人の死亡まで10年以上継続的に身の回りの世話をし、成年後見申立てのきっかけを作ったのが、被相続人の親族又は生計同一者ではない近隣の知人であり、
②成年後見人として就任したのは親族だが、四親等の関係であって、相当額の後見報酬を受け取っていた
という、特別縁故者性が問われた従来の事案にはあまりない事案。 
従来の裁判例では、「被相続人の療養看護に務めた者」(民法958条の3第1項)かどうかについて、生計同一者と重複して判定されることが多く、生計同一者でない者が療養看護者として特別縁故者と認められる例は比較的少なかった。
成年後見については、被相続人に対する生前の関わりが成年後見人としての職務の範囲を超える程度であると認め、特別縁故者性を認めたものがあったが、同裁判例については、成年後見人が無報酬であった等、財産分与を認める方向に考慮される事情があったことが指摘されていた。
本件では、Aが作成した文書の存在から、AがX1、X2に遺贈する意思を有していたという事情を認めたことの意味が大きい。
従来の裁判例においても、生計同一者又は療養看護者以外の者の特別縁故者性が認められる例として、被相続人作成の遺言書が方式違背で無効であるなど、被相続人が有効な遺言をすれば遺贈したであろう意思が認められる場合があげられている。
また、本決定は、X2が成年後見人就任前からAと単なる親戚関係を超えた関係があったことを原審に追加して事実認定。
  民事p90
名古屋高裁金沢支部H27.11.25  
  司法書士が締結した和解契約が弁護士法72条により無効とされる場合の、依頼者の無効主張と信義則違反(否定)
  事案 債務者が司法書士を代理人として140万円を超える過払金返還債権につき和解契約を締結⇒和解契約の効力等が争点。 
  規定 弁護士法 第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
  争点 ①Yが利息制限法の制限超過部分の受領につき悪意の受益者か
②本件和解契約が無効か
③Xが無効を主張することが信義則に反するか 
  一審 公序良俗違反の特段の事情がある場合には当たらず、Xが本件和解契約の無効を主張することは信義則に反して許されない
⇒請求棄却 
  判断 本件和解契約は、弁護士法72条本文に違反した委任契約に基づき締結⇒無効の瑕疵を帯びる。
同条は公益規定⇒無効主張が信義則違反として封じられることは、これがやむを得ないと認められる特段の事情がある場合に限られる。
Xが本件和解契約の約定自体は認識していたとしても、和解金額がYに請求できる過払金額を下回る等、利害得失を理解していなかったこと等⇒Xが和解無効を主張することが信義則に反し許されないと解することはできない。
  解説 非弁護士の締結した契約と弁護士法72条違反について、民法90条を介して無効とする最高裁昭和38.6.13. 
  民事p96
広島高岡山支部H26.8.7  
  自賠法3条に基づく損害賠償請求について、同条ただし書の免責の主張が認められた事例
  事案 X(原付で頭蓋底骨折等)が、自賠法3条に基づき、普通乗用自動車を運転していたYに対し損害賠償を求め、YがXに対し、本件事故により生じた物損についての損害賠償を求めた(反訴)。 
Yは、本件事故が発生したのは、右ウィンカーを出して道路中央線付近を原則走行していたXを左側から追い越した直後、Xが左ウィンカーをださず、バックミラーで後方を確認することもなく、左方向に斜行(進路変更)してきたため⇒自賠法3条ただし書に基づく免責を主張。
  規定 自賠法 第3条(自動車損害賠償責任) 
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
道交法 第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
三 車道 車両の通行の用に供するため縁石線若しくはさくその他これに類する工作物又は道路標示によつて区画された道路の部分をいう。
  原審 外側線の左側部分は車道ではない⇒YがXを追い越すためこの部分を車両で通行することは通行区分に違反する行為であり、この点に過失あり⇒Yに30パーセントの過失を認めた。 
  判断  ①本件事故の発生原因は、右ウィンカーを出しながら減速し、本件道路の中央線付近を走行していたXをYが左側から追い越した直後、突然、Xが、左ウィンカーを出すことなく、サイドミラーで左後方の安全を確認することもしないまま、進行方向を左方向に変え、Y運転に係る車両の右後部に向かってきたため
②外側線から左側にはみ出して走行した部分も車道であって、通行区分に反する行為ではなく、本件事故の発生原因のほか、Yも追越しを開始した後はXの動静に注意を払っていたこと等

Yは自賠法3条ただし書に基づく免責を主張することができる。 
  解説 自賠法3条は、自動車事故による人的損害についての損害賠償責任について、運行供用hさに対し一種の無過失責任に近い思い責任を負わせる半面、ただし書において、運行供用者が
①自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、
②被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと
③自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと
という3つの要件を証明したときは、前記の損害賠償責任を免れることができる旨規定。
道交法2条1項3号は、車道を「車両の通行の用に供するため縁石線若しくはさくその他これに類する工作物又は道路標示によつて区画された道路の部分をいう。」と定義。
車道外側線は、、道路管理者が、道路の構造を保全し、又は交通の安全と円滑を図るため、必要な場所に設けた区画線の1つであり、「車道の外側の縁線を示す必要のある区間の車道の外側」とされている(道路法45条1項、2項、・・命令5条及び別表第3)が、車道外側線を表示する区画線が路側帯を表示する道路標識とみなされるのは、「歩道の設けられていない道路又は道路の歩道の設けられていない側の路端寄りに設けられ、かつ、実線で表示されるもの」に限られる(同命令7条)。
本判決は、本件道路の左側に設けられていた外側線は、路側帯を表示する道路標識に当たらず、道交法における通行区分を画する法的効果はない⇒Yが外側線をまたいでXを左側から追い越した行為が通行区分(道交法17条1項)には反する行為であるいうことはできない。
  民事p108
広島高裁H27.11.18  
  火災事故を理由とする企業総合保険契約に基づく保険金請求訴訟で保険会社の免責の主張が否定された事例
  争点 企業総合保険契約の普通保険約款に定めた「保険契約者の故意若しくは重大な過失又は法令違反によって生じた損害に対しては、保険者が保険金を支払わない」との免責条項が、本件火災事故で適用されるか。 
  事案 消防署の火災原因判定書によると、本件火災の出火原因としては、
A:火災が起きた保険対象建物内の電気配線であるFケーブルがショートしたこと
B:保険契約者(クリーニング事業者)の顧客の中にエステティックサロンが含まれており、そうした顧客から保険対象建物内へ運び込まれたタオルにエステオイルが付着しており、そのオイルが自然発火した
C:保険契約者である原告の代表者又はその意を受けた者が放火したこと
の3つの可能性。
  一審 ABの可能性は著しく低いとして除外。
建物内に火気がなく、無施錠⇒放火が出火原因と認めるのが相当。
保険契約者の代表者には放火の動機が十分にあり、言動に不自然不可解な点が多々見られる⇒放火は同代表者又はその意を受けた者によると認めるのが相当。
  判断 まず、C放火が火災原因かを最初に検討し、
①出火場所の焼残物からは油性成分が検知されなかったこと
②出火場所に近い場所から油性成分が検出されたものの、一般に助燃剤として認識されるガソリンではなく、クリーニングの業務で日常的に用いられてきたシリコン溶液及び殺虫剤(灯油)の可能性がある
③本件火災当時、保険契約者は金融機関からの借入の返済を遅滞していた事実は窺われず、財務状況は改善傾向にあるし、本件火災後も新たに金融機関から高額の融資を受けて、建物の解体撤去等を行った上で操業を再開し事業を継続⇒保険契約者に放火の動機を裏付けるような経済状況、行動は認められない。

放火が火災原因とは認められないし、
保険契約者の代表者が方かを実行し又は第三者に実行させたとも認められない。
ABのいずれの可能性も否定されない。

保険者の免責を認めず、保険者に保険金の支払を命じた。
  解説 火災保険契約に基づく保険金請求における故意免責の立証責任は、保険者が負う。 
故意免責の成否の判断に当たっては、直接証拠が存在することは少なく、間接事実を積み上げていく必要のある場合が多い。
間接事実の類型:
(1)火災の原因が放火と認められるかについて
①出火箇所及び出火態様
②出火日時
③放火以外の出火原因の可能性
(2)放火について請求者が関与したと認められるかについて
①事故の客観的状況等(建物出入口等の設置及び施錠状況、かぎの管理状況)
②請求者等の事故前後の行動等(火災前後の請求者等の行動の不自然性、供述内容の不自然性及び変遷等、アリバイ)
③請求者の属性・動機等(請求者等の経済状態、保険事故により請求者等が受ける利益、同種事故の経験の有無)
④保険契約に関する事情(保険契約締結に至る経緯、保険契約締結と火災発生との時間的近接性)
一審判決:法海外の出火の可能性が著しく低いとして排斥するという消去法⇒放火が出火原因と認定。
本判決:直接的に火災原因が放火であるかを中心に検討し、放火と認めるだけでの間接事実に乏しいと判断。
補足的に、他の出火原因の可能性が排除できないと判断。
  民事p126
東京地裁H27.9.18  
  女性アイドルの男性ファンとの交際と不法行為責任・債務不履行責任(肯定)
  事案 芸能プロダクションに所属していた女性アイドルが男性ファンと交際等⇒芸能プロダクション、共同運営業者が、アイドルとその父親に対して損害賠償責任を追及。 
Y1(平成9年生まれ)は、平成25年3月、X1と専属契約を締結。
本件契約にはファンとの親密な交流・交際等が発覚した場合には、Y1に損害賠償を請求できる旨の規定。
but異性交遊が発覚
⇒Aグループを解散

X1、X2はY1に対して、債務不履行、不法行為に基づき
Y1の父Y2に対して、民法714条1項に基づき
関連商品、レッスン等の費用の損害賠償を請求。
  規定 民法 第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
  判断 請求を一部認容。
  ①Y1が本件契約、規約の交際禁止を認識しており、交際禁止条項の効力を認めた上、Y1の交際がファンやX1らに発覚したことが交際禁止条項に当たる。
②異性とホテルに行った行為自体が直ちに違法な行為とはならないものの、アイドルとして活動していたY1は、異性との交際が発覚するなどすれば、Aグループの活動に営業が生じ、X1らに損害が生じうることは容易に認識可能であった。

不法行為を構成することは明らかであるとし、Y1の債務不履行責任及び不法行為責任を肯定。
損害としてX1らの主張に係る費用を損害と認めた(信用毀損に係る損害の主張は排斥)。
交際と損害との因果関係について、
①アイドル、芸能プロダクションにとってアイドルの交際が発覚することは、アイドル、プロダクションに多大な社会的イメージの悪化をもたらし、これを避ける必要性が相当に高いこと
②本件では写真が一部のファンに流出し、さらに流出するなどして交際が広く世間に発覚し、X1らの社会的イメージが悪化する蓋然性が高かったこと等
⇒X1らがAグループの早期解散を決めたことに一定の合理性があるとして、相当因果関係の存在を肯定。
過失相殺を40%認めて、X1、X2の各損害を算定。
Y1の責任能力を認めて、Y2が民法714条1項の監督義務者であることを否定。
  民事p132
和歌山家裁H27.9.30  
  親権停止の審判⇒原因消滅⇒親権停止審判の取消し
  事案 母親Aは、平成25年に2年間親権を停止するとの審判を受けたが、その後、子Bについて親権を停止すべき原因が消滅したとして、親権停止の取消を請求。 
  判断 親権停止の取消しを認めた。 
  解説 親権喪失の取消について、大判昭12.3.2
過去において親権者に存したる著しき不行跡が消滅して現存せずと言い得んがためには、親権者において衷心先非を悔悟し従来の不行跡を改めかつ将来再び同様の不行跡を繰り返すおそれなき程度にその性格心情の遷善向上したる事実あることを要する
but
平成23年民法改正で、親権停止の制度が、親権喪失より軽度の親権制限として導入された。
家庭裁判所は、子、その親族等からの請求により、その原因げ消滅すると見込まれる期間、2年を越えない範囲内で親権停止期間を定める。
そして、親権停止にかかる原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人等の請求によって、その審判を取り消すことができる。
児童福祉法では、児童相談所長もこれらの請求を行うことができる。
軽度の私権制限としての親権停止は、その原因消滅を総合的に判断して取り消す審判と相まって、親権濫用に対して早期に介入し、可能であれば親子の再統合をはかって子どもの利益を守ろうとする制度。
  知財p134
知財高裁H28.1.14  
   
  事案 発明の名称を「棒状ライト」とする特許の特許権者であるXに対し、本件発明1ないし9が本件製品を販売することによりその特許出願前に公然実施されたこと又は、それに基づいて容易に発明をすることができたことを理由に、Yが本件特許の無効審判請求⇒Yの請求を一部認める審決⇒Xがその審決の取消しを求めた。 
  規定 特許法 第29条(特許の要件) 
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
  判断 特許法29条1項2号にいう「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいう。
外部からはわからなくても、当業者がその商品を通常の方法で分解、分析することによって知ることができる場合も公然実施となる。
①本件製品の構成F以外の構成は、その外観を観察することにより知ることができる、本件製品の構成Fについても、本件製品の保持部分を分解することにより知ることができる。
②本件製品が販売されるに当たり、その購入者に対し、本件製品の構成を秘密として保護すべき義務又は社会通念上あるいは商慣習上秘密を保つべき関係が発生するような事情を認めるに足りる証拠はない。
③本件製品の購入者が販売者等からその内容に関し分解等を行うことが禁じられているなどの事情も認められない。
④本件製品の購入者は、本件製品の所有権を取得し、本件製品を自由に使用し、また、処分することができる⇒本件製品を分解してその内部を観察することもできることは当然。

公然実施を肯定。
  説明 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明は、特許を受けることができない(特許法29条1項2号)。 
公然実施:発明の内容を不特定多数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいう(学説・裁判例)。
  労働p139
東京地裁H27.12.11  
  変形労働時間制がその要件を満たさず適用がないとされた事例
  事案 原告X(平成25年7月退職)が、Yに対し、雇用契約に基づき、未払賃金(平成23年9月から平成25年7月までの法定時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金)、賃金の支払の確保等に関する法律所定の年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払、並びに労働基準法114条に基づき、未払割増賃金と同額の付加金及び遅延損害金の支払を求めた事案。 
  規定 賃確法 第6条(退職労働者の賃金に係る遅延利息)
事業主は、その事業を退職した労働者に係る賃金(退職手当を除く。以下この条において同じ。)の全部又は一部をその退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあつては、当該支払期日。以下この条において同じ。)までに支払わなかつた場合には、当該労働者に対し、当該退職の日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該退職の日の経過後まだ支払われていない賃金の額に年十四・六パーセントを超えない範囲内で政令で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。
  労基法 第114条(付加金の支払)
裁判所は、第二十条、第二十六条若しくは第三十七条の規定に違反した使用者又は第三十九条第七項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から二年以内にしなければならない。
労基法 第32条(労働時間) 
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
②使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
  争点 ①XにY主張の1か月単位変形労働時間制が適用されるか
②割増賃金の計算に当たって、労働時間をXがスマートフォン用の勤怠管理アプリケーション(「勤務ログ」)で記録した時間とするか、勤務時間管理表に記載された時間によるか
③休憩時間の算定
④その他(付加金請求の可否、共済会回避及び旅行積立金控除の有効性、遅延損害金の元本組入れ)
  判断 Yの就業規則は、「社員の勤務時間計算の起算日は、平成23年5月9日とします。」と規定しており、同規定は変形労働時間制の変形期間の起算日を毎月9日と定めるものと認められる。

Yが行っていた毎月1日を起算日とするローテーション表による労働時間の特定方法は同規定に反するもの。
仮にYが毎月末日までに翌月分のローテーション表を作成していたとしても、翌々月1日から8日までの労働時間は特定されていない⇒変形期間すべてにおける労働時間が特定されていないことになる。 
Yの就業規則は、「会社は業務の都合等、必要ある場合は前項の時間配置を変更することがあります。」と規定しており、Yが業務の都合によって任意に労働時間を変更することを認めている。
⇒Yが採用する変形労働時間制は、変形期間における各日、各週の労働時間の特定を欠き、変形労働時間制適用の要件を満たさない。
●  Yは、勤務時間管理表及び時間外・休日勤務届を用いて従業員労働時間を管理しており、従業員に対し、出退勤の都度、各自の勤務時間管理表に業務開始時刻、業務終了時刻等を記載して押印し、時間外・休日労働を行う場合には、事前に時間外・休日勤務届を作成して管理職の承認を受けた上、時間外・休日労働後に管理職の確認を受けるよう指示。
Xは、開店前は朝礼や開店準備作業のため、閉店後は発注、品出し、清掃、他部門の手伝い等の作業のため、所定の始業時刻前及び終業時刻後に相当の時間外労務を行っており、Xの入力したい勤務ログの記録は、実際の出退勤時刻をその都度記録していたものと主張。
but
勤務ログの記録は勤務時間管理表の記録と整合せず、Xの実際の始業時刻及び終業時刻が勤務ログの記録のとおりであったことを裏付ける的確な証拠はない。

勤務ログの出退者時刻がXの始業時刻及び終業時刻を全て正確に記録したものと認めるのは困難⇒Xの始業時刻と終業時刻は、基本的にはXの勤務時間管理表に記載された時刻と認めるのが相当。
Yの所定の休憩時間は、「全出」のシフトの場合は80分、「早出」及び「遅出」の場合は各30分であり、業務の繁閑に応じて分割して与えるものとされているところ、①Yにおいては、従業員の休憩時間も勤務時間管理表及び時間外・休日勤務届により管理されていたこと、②Xを含む従業員は、売り場の状況に応じて、他の従業員と調整しながら交代で休憩をとっていたことが認められ、③Xが休憩時間中も売り場からの呼出し等に対応するよう義務づけられていたとは認められない。

Xは、所定の休憩時間に加え、残業をした日については、時間外・休日勤務届及び勤務時間管理表記載のとおり休憩をとっていた。 
割増賃金算定の基礎には、①基本給及び②皆勤手当が含まれる。
③共済手当は、Yの従業員等の福利厚生を目的として、Yの従業員等によって組織される共済会の会費を一部補助するため、Yから共済会会員である従業員に支払われているものであり、Yの就業規則及び給与規定にも共済会手当に関する規定は存在しない。
⇒労働基準法上の賃金には該当せず、割増賃金の算定基礎には含まれない。 
Yは労基法37条に違反して割増賃金の支払をしておらず、その違反の程度・態様等に照らせば、割増賃金と同額の付加金の支払を命じるのが相当。 
Y:Xの賃金からの共済会会費及び旅行積立金の控除は、Yと従業員代表との間で締結された賃金控除協定に基づき適法に行われた。
vs.
従業員代表が適法に選出されたことについて何ら具体的な主張立証をしない
⇒賃金控除協定が有効に成立したとは認められない。 
but
①共済会会費は、Yの共済会への入会を希望して入会届を提出した者の賃金から控除されるものであり、実質的な負担額は月800円に過ぎない
②旅行積立金は、従業員の親睦旅行のための積立金であるが、キャンセル料発生前に不参加の意向を伝えた場合は全額返金されるもので、Xもこのことを認識したことが認められる。
③XがYに勤務していた際、共済会会費及び旅行積立金の控除に対し異議を述べた事実が認められない。

Xは、共済会会費及び旅行積立金の控除について、自由な意思に基づき同意していたものと認めるのが相当。

共済会会費及び旅行積立金の控除は有効であり、被告に共済会会費及び旅行積立金相当額の賃金の未払があるとは認められない。
  解説 1か月単位の変形労働時間制は、単位期間を通算して平均が週40時間(法定労働時間)を超えない定めをした場合に、ある日またはある週の労働時間が法定労働時間を超えていても、使用者は、労基法32条1項および2項違反に問われることなく、労働者を労働させることができる制度。
1か月単位の変形労働時間制を導入するためには、就業規則その他これに準ずるもの、または従業員の過半数代表者との書面協定によることとされている。
その際、単位期間内の各週・各日の所定労働時間を特定することが要件とされる。
変形労働時間制が採用されている場合においても、就業規則作成が義務付けられる事業場においては(常時10人以上を使用する事業場)、始業・終業の時刻を就業規則に記載しなければならない。
業務の実態から、このような特定が困難であり、月ごとに勤務割を作成する必要がある場合は、就業規則において変形労働時間制の基本事項である各勤務の始業終業時刻、各勤務の組合せの考え方、勤務割票の作成手続及び周知方法等を定めておき、それに従って各日の勤務割を変形期間の開始前までに具体的に特定する足りる(昭和63.3.14基発150号)。
判例(最高裁H14.2.28):
労働協約又は改正就業規則において、業務の都合により4週間ないし1か月を通じ、1週平均38時間以内の範囲内で就業させることがある旨が定められていることをもって、変形労働時間制が適用されていたとした原審判断について、
「そのような定めをもって直ちに変形労働時間制を適用する要件が具備されているものと解することは相当ではない。」
具体的勤務割である勤務シフトが作成されていたとしても、「作成される各書面の内容、作成時期や作成手続等に関する就業規則等の定めなどを明らかにした上で、就業規則等による各週、各日の所定労働時間の特定がされていると評価し得るか否かを判断する必要がある」
使用者がが日又は週に法定労働時間を越えて労働させることが可能となる反面、過密な労働により、労働者の生活に与える影響が大きい

就業規則等において、単位期間内におけるどの日又は週が法定労働時間を超えるのかについてできる限り具体的に特定させ、それが困難であっても、労働者がその日又は週における労働時間をある程度予測できるような規定を設けておくべきことを要求(仙台高裁H13.8.29)。
勤務変更は、業務上のやむをえない必要がある場合に限定的かつ例外的措置として認められるにとどまるものと解するのが相当。
使用者は、就業規則等において勤務を変更し得る旨の変更条項を定めるに当たっては、同条が変形労働時間制における労働時間の「特定」を要求している趣旨にかんがみ、一旦特定された労働時間の変更が使用者の恣意によりみだりに変更されることを防止するとともに、労働者にどのような場合に勤務変更が行われるかを了知させるため、上記のような変更が許される例外的、限定的事由を具体的に記載し、その場合に限って勤務変更を行う旨定めることを要する。(広島高裁H14.6.25)
  刑事p147
横浜地裁H28.4.12
  公訴権の濫用は否定されたが、刑が免除された事案
  事案 検察官は、被害者の障害を「頸椎捻挫等で約1週間の通院加療見込み」とする医師の診断等に基づいて被告人を一旦不起訴処分⇒その後、被害者から肋骨骨折、頸椎捻挫捻挫等の申告と医師の回答⇒「症状固定まで約244日間を要する肋骨骨折等」とする公訴事実により被告人を起訴⇒証拠調べを終えた段階で、被害者の傷害を「加療約二週間を要する頸椎捻挫等」に訴因変更し、この「頸椎捻挫等」に肋骨骨折は含まれない旨釈明した上で、論告を行い、罰金30万円を求刑。 
  判断 本件起訴は公訴権の濫用に当たらない。
被害者の傷害を「加療約1週間を要する頸椎捻挫」等と認定し、過失運転致傷罪の成立を認めた。 
①検察官において、被害者にうつ病等の精神症状があることも踏まえて、関係証拠をより慎重に検討していれば、いったん不起訴処分となった本件が、そのまま起訴されなかった可能性があること
②被告人の過失が単純かつ比較的軽微なものであること
③被告人が長期間にわたって応訴を強いられたという訴訟の経過等

被告人に対し刑を免除した。
  解説 最高裁昭和55.12.17:検察官の訴追裁量権の逸脱によって公訴提起が無効になる場合を限定するとともに、審判の対象とされていない他の事件の公訴権の発動の当否を軽々に論定することは許されない旨指摘。
2309   
  さいたま地裁H28.8.26     
  事案 ①ワンセグ機能付き携帯電話を所有する者は放送法64条1項の「協会の放送を受信することのできる受信装置を設置した者」に該当しない
②仮に、該当するとしても、Xは、ワンセグ機能付き携帯電話をY(日本放送協会(NHK))の放送を視聴する目的で所有していない⇒放送法64条1項ただし書きの「放送の受信を目的としない受信設備」に該当する
と主張し、XがYに対し、Xの現住所においてYの放送の受信についての契約を締結する義務が存在しないことの確認を求める事案。 
  判断  
  解説 受信契約に基づく受信料債権について、「受信料は、月額又は6か月若しくは12か月前払い額で定められ、その支払方法は、1年を2かげつごとの期に区切り各期に当該期分の受診料を一括して支払う方法又は6か月分若しくは12か月分の受診料を一括して前払する方法によるものとされている」

民法169条所定の「年又はこれより短い時期によって定めた金銭の給付を目的とする債権」に当たる⇒消滅時効期間は5年。
(最高裁H26.9.5)
  行政p58
大阪高裁H28.6.30  
  タクシーの下限割れ運賃の届出と差止訴訟(肯定)
  規定 行政事件訴訟法 第37条の4(差止めの訴えの要件)
差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。
2 裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分又は裁決の内容及び性質をも勘案するものとする。
3 差止めの訴えは、行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。
4 前項に規定する法律上の利益の有無の判断については、第九条第二項の規定を準用する。
5 差止めの訴えが第一項及び第三項に規定する要件に該当する場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきでないことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは裁決をすることがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、裁判所は、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずる判決をする。
  争点 差止訴訟の訴訟要件を満たすか
本案について
公定幅の設定、それに基づく運賃変更命令、事業許可取消処分等が裁量濫用になるか 
  解説 差止訴訟の許容性の基準(行訴法37条の4第1項) :
積極要件:
①処分がなされる蓋然性の存在
②重大な損害を生ずるおそれ
消去要件:
③補充性(その損害を避けるため他に適当な方法があるときではないこと)
②の基準について
最高裁H24.2.9:
国旗起立国歌斉唱等に係る職務命令の違反を理由とする懲戒処分の差止め訴訟において
「処分がされることにより生ずるおそれのある損害が、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要する」
判断 差止訴訟の訴訟要件の点:
運賃変更命令⇒認める
輸送施設使用停止命令①⇒認めない
輸送施設使用停止命令②⇒原審は認めたが、本判決は否定 
本案について:
公定幅運賃を定めるに際し、標準事業者を基準とするという国の見解に対し、いわゆる下限割れで営業していた業者にもすべて公定幅の範囲内の運賃設定を強制する点で、考慮すべき事項を考慮していない
⇒裁量権濫用。 
立法者は、下限割れ運賃事業者を抑圧することを目的に公定幅運賃制度を工夫⇒そのような考慮事項は見いだせる条文はなさそう。
判決は、実質的には、下限割れ運賃事業者の営業の自由を侵害しないために裁量濫用の手法を活用。 
  民事p64
最高裁H28.4.12  
  死刑確定者による信書の発信を許さなかったことの適法性が問題となった事案
  事案 死刑確定者として拘置所に収容されているXが、信書の発信を拘置所長が許さずこれを返戻した行為が違法であると主張⇒Yに対し国賠法1条1項に基づき、慰謝料等の支払を求めた事案。
拘置所長は、本件信書1は、外形的にはA弁護士を名宛人としているものの、その2枚目以降は、XがA弁護士を介して支援者ら4名に対して信書の転送を図ったもの。

その発信を許可した場合、刑事収容施設法の定める死刑確定者の外部交通についての制限の潜脱を認める結果となり、ひいては、不正連絡等の手段として利用されるなど拘置所の規律及び秩序を害するおそれがあると判断。
  規定 刑事収容施設法 第139条(発受を許す信書)
刑事施設の長は、死刑確定者(未決拘禁者としての地位を有するものを除く。以下この目において同じ。)に対し、この目、第百四十八条第三項又は次節の規定により禁止される場合を除き、次に掲げる信書を発受することを許すものとする。
一 死刑確定者の親族との間で発受する信書
二 婚姻関係の調整、訴訟の遂行、事業の維持その他の死刑確定者の身分上、法律上又は業務上の重大な利害に係る用務の処理のため発受する信書
三 発受により死刑確定者の心情の安定に資すると認められる信書
2 刑事施設の長は、死刑確定者に対し、前項各号に掲げる信書以外の信書の発受について、その発受の相手方との交友関係の維持その他その発受を必要とする事情があり、かつ、その発受により刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがないと認めるときは、これを許すことができる。
  原審 本件各信書をA弁護士宛の信書であると認定しながら、支援者らとの交友関係の維持の必要性を理由として刑事収容施設法139条2項の要件該当性を認めており、「その発受の相手方」に信書の実質的な相手方を含めた。
その発信により刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあるとは認められない⇒本件各信書は同条2項の要件を満たしており、拘置所長はその発信を許可すべき義務を負っていた。

拘置所長が本件各信書をXに対して返戻した行為は国賠法上違法であると判断し、Xの請求を一部認容。 
  判断 拘置所長が、刑事収容施設法139条2項の規定により発信を許することができないものとして、Xに対し本件各信書を返戻した行為は、本件の事情の下では、国賠法1条1項の適用上違法であるとはいえない⇒Xの請求を棄却。
  解説 刑事収容施設法139条2項は、同条1項各号に掲げる信書以外の信書の発受について、その発受の相手方との交友関係の維持その他その発受を必要とする事情があり、かつ、その発受により刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがないと認めるときは、刑事施設の長は、死刑確定者に対し、これを許すことができる。

死刑確定者の信書の裁量的発受について規定。 
同項は、交友関係の維持を目的とする信書の裁量発受の許否の判断に当たり、発受の相手方を特定した上で、当該相手方との関係で交友関係の維持に資するか否かを検討することを当然の前提としている。
  民事p66
大阪高裁H27.6.24  
  石綿粉じんばく露による健康被害についての予見可能性・損害発生・因果関係等(否定された事案)
  事案 原告らは、被告工場で石綿粉じんにばく露したところ、胸膜プラークが存在することだけで損害が発生したと認めるべき⇒債務不履行(安全配慮義務違反)又は不法行為に基づき、損害賠償を求めた。 
  原審 肺がんや中皮腫に関する知見は昭和35年以降に集積⇒X1及びX3の請求を棄却。
X2につき、胸膜プラークが存在し、閉塞性換気障害による一定の呼吸機能の低下が生じているが、喫煙によって生じた可能性が十分存在。
⇒請求棄却。 
  判断 予見可能性につき、一般的な危惧感が存在すれば足りるとの見解(「危惧感説」)を採用せず。 
遅くとも昭和33年8月以降は、被告の従業員に3年以上の長期にわたって抑制目標限度を超える濃度の石綿粉じんが浮遊する作業場における作業を継続させることがないようにすべき義務を負う。
⇒(それ以前に退職していた)X1及びX3の請求を棄却。
X2について: 
①日本では、胸膜プラークは石綿ばく露によってのみ発生すると考えてよいが、その存在自体によって労働能力を一部でも喪失するようなものではないこと
②胸膜プラークが、胸部X線写真では読影困難な大きさ、形状にすぎないこと
③被告工場に局所排気装置が導入され、昭和45年8月頃までに全体としては抑制目標限度以下になっていたこと、
④当該従業員が鉄工工作室に配置され、常時石綿製品の製造工程で作業に従事していたわけではないこと、
⑤ばく露開始から概ね45年が経過し、退職後35年が経過した現時点においても肺の線維化が進行しておらず、拘束性換気障害がうかがわれないこと

閉塞性換気障害の指標となるFEV1%の低下等の症状も重喫煙者であったことに起因する。
⇒損害の発生及び因果関係を否定。
  解説 予見可能性について:
アスベスト製品の製造工場において長期間アスベストにばく露した従業員の家族に値する間接ばく露(家庭内ばく露)が問題となった事案につき、東京地裁H16.3.25は、「本件で検討すべき予見可能性は、石綿の家庭内暴露によって、労働者の家族が疾患を発症するなど健康を害する危険性があることについての予見可能性であるというべきであり、その予見可能性があったというためには、予見可能性を検討すべき時期において、それに関する知見があったことが必要」と判示。
大阪高裁H24.5.29は、「安全配慮義務の前提として、使用者が認識すべき予見義務の内容は、生命、健康といいう被害法益の重大性にかんがみ、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危険があれば足り、生命、健康に対する障害の性質、程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はない」と判示。
  予見可能性につき、危惧感説を採用せず、昭和33年8月当時について勤続3年未満の従業員に対する安全配慮義務違反ないし不法行為の成立を否定。
胸膜プラークが存在するが、石綿関連疾患が発症したことを未だ認めるに足りない事案について損害の発生を否定したもので、その判断が最高裁によって是認されたもの。 
  民事p90
横浜地裁H27.12.22  
   
  事案 笹子トンネル事件
天井板が崩落し9名が死亡。
ワゴン車に乗って本件トンネルを通行中に本件事故により死亡した被害者5名の遺族であるXらが、土地工作物である本件トンネルの管理に瑕疵があったと主張⇒
本件トンネルを占有管理するY1(中日本高速道路㈱)に対して民法717条1項又は同法715条1項に基づき 
本件トンネルの保全点検等の業務を受託していたY2(中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京㈱)に対しては民法715条1項に基づき、
連帯して本件事故による各損害額及びこれらに対する遅延損害金の支払を求めた。
  規定 民法 第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
民法 第715条(使用者等の責任)
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
  争点 Y1及びY2の被用者らの過失の有無 
  判断 予見可能性:
①(Y1及びY2の担当部署の被用者)としては、・・・35年という歳月の経過による本件トンネルの天頂部アンカーボルトに経年劣化が生じて荷重に対する引抜抵抗力を喪失する可能性も否定できない
⇒適切な点検方法を設定し、これを実施しなければ本件トンネルの天頂部アンカーボルトの不具合(本件事故の原因となった引抜抵抗力の低下)を予見し得た。
②当業者であれば、打音点検及び触診(特に打音点検)がアンカーボルトの不具合を発見する上で有効であるとの認識を有し、こうしたアンカーボルトの引抜抵抗力を把握するための点検方法が存在することを認識し得た。

(同被用者らは、)本件点検の点検方法に係る協議の際、打音・触診といった目視以外の適切な点検方法を設定しなければ、本件トンネルの天頂部アンカーボルトの不具合を看過し、その結果、本件事故のような天井板の崩落事故が発生することを予見できた。
結果回避可能性:
①本件点検において打音点検が実施されていれば、(本件事故後の緊急点検)同様の結果が得られた可能性が高く、同結果における不具合の数量は、異常な数値であって、引抜抵抗力の大小を正確に判定し得ないとしても、本件トンネルの異常性を認識するには十分。
②上記のような異常な数の天頂部アンカーボルトの変状が発見されれば、天井板の落下に繋がる可能性が高いことは明らか。

Y1は、担当部署による点検結果報告を受け、本件トンネルの安全を確保ないし確認できるまで、本件トンネルを通行止めにし、アンカーボルトの引抜抵抗力試験を実施するなどして、更なる調査、応急対策、補修・補強工事又は天井板の撤去工事等の抜本的な対策を開始することにより、少なくとも通行者が通行中に天井板が崩落するという本件事故の発生を回避することができた。
 ⇒
・・・上記入念な方法を採用し、本件トンネルの天頂部アンカーボルトの不具合を発見し得る適切な点検実施計画を立案ないし設定すべき注意義務があったのにこれを怠り、触診はもとより打音点検を採用せず、双眼鏡による目視のみという方法を採用した過失があった。
  解説 過失判断の手法として、打音検査によってXらの主張する具体的な崩落箇所についての引抜抵抗力喪失の判定に至らなくても、同検査を契機として通行止め、引抜抵抗力試験などの対策を開始することで本件事故の発生を回避することができた

予見可能性、結果回避可能性を肯定。 
札幌地裁H13.3.29:
被告である国が原告らの主張する瑕疵の1つを認めて争わなかった事案。
「原告らにより選択的に主張された責任原因の1つに基づく損害賠償請求権の成立が明らかになったにも拘らず、そのことを考慮せず、なお被告国の責任事態の解明のため、右以外の責任原因の有無をも審理、判断することは、民事訴訟としての実益を欠くものと言わざるを得ない。」
この点、本件では、本件事故についての損害賠償責任を認めていたY1の被用者の過失についても判断を示した。
  民事p121
千葉家裁松戸支部H28.3.29  
  離婚訴訟で未成年者の親権者を非監護者であった父親とした事案
  事案 平成22年5月6日、Xが長女を連れて自宅を出て別居状態。 
Yは、子のが監護者指定及び子の引渡し申立事件並びにこれを本案とする審判前の保全処分申立。
Xも子の監護者の指定事件。
⇒家裁は平成24年2月28日、長女の監護者をXと定め、Yの申立てをいずれも却下。
Yは、その後2度にわたって、子の監護者の変更を求める申し立てをしたが、いずれも却下。
平成24年
Xは、婚姻関係の破綻を理由に、離婚及び慰謝料500万円の支払を求め、附帯処分として、養育費の支払及び年金分割を求めた。
Xは、親権者の指定について、長女はXとともに安定した生活を送っていること、監護者指定の審判において、Xが監護者として指定されていることなどから親権者をXと指定するべきであると主張。
Yは、離婚請求の棄却を求めるととも、予備的に、長女の親権者をYと定めるべきであると主張し、その場合の附帯処分として、長女の引渡しのほか、Xと長女との面会交流に関して、時期、方法等を定めることを求めた。
  規定 民法 第819条(離婚又は認知の場合の親権者)
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。
  判断 婚姻関係の破綻⇒離婚請求を認容
慰謝料請求を棄却
年金分割についての請求すべき割合を0.5
主たる争点である親権者の指定について、
①原告は被告の了解を得ることなく、以来、今日までの約5年10か月間、長女を監護し、その間、長女と被告との面会交流には合計で6回程度しか応じておらず、今後も一定の条件のもとでの面会交流を月1回程度の頻度とすることを希望している。
②被告は、長女が連れ出された直後から、長女を取り戻すべく、数々の法的手段に訴えてきたが、いずれも奏功せず、爾来今日まで長女との生活を切望しながら果たせずにきており、それが実現した場合には、整った環境で、周到に監護する計画と意欲を持っている。
③長女と原告との交流については、緊密な親子関係の継続を重視して、年間100日に及ぶ面会交流の計画を予定している。

長女が両親の愛情を受けて健全に成長することを可能にするためには、被告を親権者と指定するのが相当。
X:長女を慣れ親しんだ環境から引き離すのは長女の福祉に反する。
vs.
今後長女が身を置く新しい環境は、長女の健全な成長を願う実の父親が用意する整った環境であり、長女が現在に比べて劣悪な環境に置かれるわけではない。
加えて、年間100日に及ぶ面会交流が予定されている。
⇒原告の懸念は杞憂に過ぎないというべき。
  解説 ●  ●親権者指定の判断基準
もっぱら子の利益ないし福祉の増進という観点から行われるべき。
何が子の利益にあたるか?
父母のいずれが親権者として適格であるかを当該事案における諸事情を総合的に比較衡量して決定される。
父母の側の事情:
①監護能力
②精神的・経済的家庭環境
③居住・教育環境
④子との親和性
⑤監護補助者の有無
子の側の事情:
①子の年齢・性別・心身の発達程度
②従来の環境への適応状況
③環境の変化への適応性
④子の意向
⑤父母及び親族との親和性
次第に子の意向、子と親との情緒的結びつきなど、主観的要素を重視する傾向。
裁判例においては、諸事情をある程度相対的に比較する基準
①乳幼児については、母親優先の基準
②子の健全な成長のためには親と子の不断の心理的結びつきが重要であって、養育監護者の変更は子の心理的不安定をもたらす⇒子を養育看護する者を優先させるべきとする現状尊重の基準(継続性の原理)
③子の意思尊重の原則(家事事件手続法169条2項、子(15歳以上のものに限る)の陳述を聴かなければならない。)
④多面的な人間関係を構築する可能性を保障⇒兄弟姉妹不分離の原則。
  ●本件 
親権者の適格性を基礎づける事情として面会交流の適切な実施の可能性を考慮している。
当事者が面会交流を一切拒否しているような場合はともかく、面会交流の方歩う頻度について意見を述べている場合には親権者の適格性と切り離して判断することが妥当な場合もあろう。
本件では、Xからの申立てがないにもかかわらず、親権者となるべきYからの申立てによって、Yへの面会交流の義務を命じたのは、それがYへの親権者指定のいわば条件となっているからと思われる。
but
当事者双方の協力が不可欠な面会交流の実施を条件的なものとすることは慎重であるべきとする異論もあろう。
  知財p127
最高裁H27.11.17  
  特許権の存続期間の延長登録出願の理由として、先行する承認があるため、承認を受ける必要があったとは認められないとされた事例
  事案 本件特許の特許権者である被上告人が、本件特許権の存続期間の延長登録出願に係る拒絶査定不服審判の請求を不成立とした特許庁の審決の取消しを求める事案。 
  争点 特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(「医薬品医療機器等法」)の規定による医薬品の製造販売の承認に先行して、同一の特許発明につき医薬品医療機器等法の規定による医薬品の製造販売の承認(「先行処分」)がされている場合において、先行処分の存在により延長登録出願に係る特許発明の実施に出願理由処分を受けることが必要であったとは認められないとして、特許法63条1項1号に該当することになるか否かが争われた。
  規定 特許法 第67条(存続期間)
特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。
2 特許権の存続期間は、その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であつて当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があつたときは、五年を限度として、延長登録の出願により延長することができる。
特許法 第67条の3
審査官は、特許権の存続期間の延長登録の出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
一 その特許発明の実施に第六十七条第二項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。
  審決 本件特許権の特許発明のうち本件医薬品に係る発明特定事項に該当する全ての事項によって特定される範囲は、既に本件先行処分によって実施できるようになっている。
⇒本件特許権の特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められない。 
  原審 本件特許権の延長登録出願については、政令処分を受けたことにって禁止が解除されたということはできず、法67条の3第1項1号の定める延長登録出願の拒絶要件があるとはいえない。
⇒審決を取り消し。 
  判断 特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった医薬品医療機器等法の規定による医薬品の製造販売の承認に先行して、同一の特許発明につき同法の規定による医薬品の製造販売の承認がされている場合において、延長登録出願にかかる特許発明の種類や対象に照らして、医薬品としての実質的同一性に直接かかわることとなる審査事項について両承認を比較した結果、先行する承認の対象となった医薬品の製造販売が、延長登録出願の理由となった承認の対象となった医薬品の製造販売を包含すると認められるときは、延長登録出願に係る特許発明の実施にその出願の理由となった承認を受けることが必要であったとは認められない。 
これを本件事案にあてはめ、原判決を正当として是認
  解説 特許権の存続期間の延長登録出願の制度は、政令処分を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的とするもの(最高裁H23.4.28)。 
平成23年最高裁判決:
特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった医薬品医療機器等法14条1項による製造販売の承認に先行して、当該処分の対象となった医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品について同項による製造販売の承認がされている場合であっても、先行処分の対象となった医薬品が延長登録出願に係る許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは、先行処分がされていることを根拠として、当該特許権の特許発明の実施に当該処分を受けることが必要であったとは認められないということはできない。
  労働p131
東京高裁H27.1.28  
  大学の入学試験実施を妨害する労働組合に対する情宣活動の差止請求(肯定)
  事案 学校法人Xは、大学消費生活協同組合の従業員であったY2ないしY5と同人らが構成員となっている労働組合であるY1に対し、平穏に教育及び研究を行う権利、平穏に営業活動を行う権利(営業権)及び入学試験を平穏に実施する権利に基づき、Y1らの行う情宣活動の差止めを求めた。 
  判断 本案前の主張(請求の特定)に関し:
差止めを求める場所的範囲につき、ある地点を基点として半径200メートルの範囲内の土地という定め方をすれば、地図によってその範囲を確定することが可能。
⇒社会通念上、禁止される場所的範囲が明らかになる程度に特定されているということができる。 
Xが差止めを求める法的根拠:
学校法人であるXにも個人と同様、人格権に基づき平穏に業務を遂行する権利が認められる。
私人間における紛争⇒Yらに憲法21条で保障された表現行為の差止めの問題ではなく、Xの経済的自由権とYらの精神的自由権の優劣が問題となるものとはいえない。
Yらが団体行動権を有するとしても、その情宣活動がXの平穏にその業務を行う権利を侵害するときに、労働組合活動であることの故をもって当然に正当化されるものではない。
本件情宣活動の違法性:
Xが労働組合法7条の使用者に該当しないことは最高裁まで争われて確定している⇒同法8条によるYらの情宣活動の違法性阻却事由は認められない。
Yらの行為は、その目的、態様、被侵害利益の侵害の程度その他の事情を考慮し、社会通念上相当と認められるときに限り、その違法性が否定される。
Xに交渉応諾義務がないことが公権的に確定している状況において、入学試験当日に本件のような態様で情宣活動を行うことは社会通念上相当性を欠く。
Xの入試会場のうち、過去にYらの情宣活動が行われたことがない会場については、将来、Yらが情宣活動を行う蓋然性が認められない。
その余の会場について蓋然性が認められる⇒情宣活動の差止めを認めるべき。
  解説 大阪地裁H23.9.21:
労働組合の行動ないし団体行動は、その目的だけでなく、その手段・態様においても社会的に相当と認められて初めて正当なものとして法的保護の対象となる旨判示。 
差止の場所的範囲の特定方法についての実務例:
特定の地点から半径〇〇メートルとした例として、
自宅のマンションの入口ドアの中心点、肩書住所地の住居に設置された門扉の中心点、入居するビルの入口ドアの中心点など。
請求①②は、禁止日や禁止対象行為は同一であり、実質的な禁止範囲も同一で、禁止範囲の表現方法が異なるにすぎない。
⇒訴訟物は同一。

①について却下する理由は、請求の特定を欠く不適法なものということではなく、訴えの利益を欠くとすべきであった。
  刑事p148
大阪高裁H27.10.7
  国税徴収法違反事件について、原審の再審開始棄却決定を取り消して再審開始決定をした事例
  事案 有罪が確定した事実:
請求人XがA及びBと共謀の上、Aが経営する風俗営業店の財産に対する税金の滞納処分の執行を免れる目的で、その店の営業をBに仮装譲渡等して財産を隠滅した。 
確定審での主たる争点:
AからBに対する営業の仮装譲渡についてのXとA・B間の共謀の有無。
検察官は、AがXに仮装譲受人の紹介を依頼したところXがBを紹介し順次共謀が成立したと主張。
  規定 刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕 
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。
二 原判決の証拠となつた証言、鑑定、通訳又は翻訳が確定判決により虚偽であつたことが証明されたとき。
六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
  証拠 確定一審の証拠構造は、
共謀の直接証拠であるA旧証言、B調書並びに共謀の間接証拠であるC調書。
本件再審請求における新証拠:
Aの新供述(公証人に対する宣誓供述書と再審即時抗告審における証言(「A新供述」))とCの同僚の行政書士Eの宣誓供述書(「E新供述」)
いずれもA旧証言とB調書の信用性を弾劾するために提出。
  原決定 請求人の請求を棄却。 
  判断 本件主要新証拠により、A旧証言とB調書の信用性に大きな疑問が生じた
⇒刑訴法435条6号所定の事由に該当するとして原決定を取り消し、再審開始の決定。
①Aが虚偽供述に及んだとして述べるところは、旧証言時にAが置かれていた状況に照らすと、十分に理解できる。
②自らの刑責を少しでも軽くするために偽証に及んだというA新供述は、直ちにこれを虚偽であるとして排斥することができない。
③A旧証言の信用性に疑問を抱かせる事情の存在。

本件主要新証拠を踏まえると、A旧証言の信用性を支える事情が大きく崩れる。
④請求人が本件に関与したことによる経済的利益を全く得ていないことを併せて考慮すると、請求人において、上記のような積極的な意図があったと直ちに認めるのは困難。
⑤「党勢拡大」という動機にも疑問が残るというべきである。

本件主要新証拠を踏まえると、A旧証言及びB調書の信用性には大きな疑問が生じ、請求人の共謀を認定することには合理的な疑いが残るというべきであるから、その他の新証拠について検討するまでもなく、本件は刑訴法435条6号所定の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとき」に該当。
  解説 本件の最も重大な争点は、確定判決を支えたA旧証言とこれを弾劾する新証拠として提出されたA新供述の、各信用性の判断。 
本件確定審では、Bの方は、法廷でXの無罪主張に沿う証言をしている(⇒そのためこれを相反するB調書が証拠採用されている。)
Aの方は、Xが在廷する法廷においてXとの共謀を認める証言をし反対尋問にも答えている
⇒後日にこれを覆したとしても、よほどの事情がない限り旧証言の信用性は崩れない。
本決定は、この点を綿密に検討し、その「よほどの事情」が認められると判断。
2308   
  行政p43
東京地裁H28.2.24  
  国内の旅行会社の訪日旅行ツアーを主催する海外旅行会社に対する取引の輸出免税取引該当性(否定)
  事案 旅行業等を目的とするX社が、平成22年6月1日から平成23年5月31日までの課税期間分の消費税等について、海外から我が国に来訪する旅行者に向けた企画旅行を主催する海外の会社との間で、本件訪日ツアーのうち国内の旅行に係る部分についてした取引は、消費税法7条1項の規定により消費税が免除される取引に当たるとして、更正すべき理由がない旨の通知に係る処分の取消しを求める事案。
  解説・判断 消費税法4条1項は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には消費税を課する旨規定し、同法7条1項は、本邦からの輸出として行われる資産の譲渡等について、消費税を免除する旨を規定。
~ 
国外で消費される輸出品等について、源泉地国の消費税を免除され、仕向け地国の消費税を課されることにより、消費税の負担に関する限り、仕向地国および他の国々の製品と同じ条件で競争し得ることとなり、税制の国際的中立性を確保する趣旨。
同項5号、同法施行令17条2項7号の規定によれば、非居住者に対して行われる役務の提供のうち、「国内における飲食又は宿泊」(同号ロ)又はこれに「準ずるもので、国内において直接便益を享受するもの」(同号ハ)以外のものは、輸出免除取引に該当し、消費税が免除される。
⇒本件取引が同号ロ、ハに該当するか否かが問題。
本判決 消費税の課税の趣旨及び前記の免除の趣旨等

役務の提供が同号ロ、ハにより輸出免税取引から除外されるか否かを判断する基準として、当該役務の提供によってもたらされる便益が国境をまたがずに国内において直接享受されて完結するものであるか否かによって判断すべき。
本件取引(本件訪日ツアーのうち国内の旅行に係る部分)の性質、内容が、X社において、本件海外旅行会社に対し、レストラン、ホテルその他の各種サービス機関をして、海外から来訪する本件旅行者に対して、国内における飲食、宿泊、運送、観光、案内等の各種サービスを提供させるという役務を提供することを内容とするもの。

本件取引の性質、内容に照らし、本件取引は、いずれも国内のいて直接消費されて完結するもの⇒輸出免税取引に該当しない。
仮に本件取引が輸出免税取引に該当⇒X社は、本件海外旅行会社から、本件各種サービス提供機関の代金とし消費税込み代金の支払を受け、これを本件各種サービス提供機関に支払った後、その消費税分の金員について還付を受けることとなる。⇒消費税の支払として授受されたはずの当該金員がX社に滞留することになるという問題も生じる。 
  行政p53
大阪地裁H27.11.20   
  近畿運輸局長による公定幅運賃の範囲の指定の違法性とそれを下回る運賃の届出をしたタクシー業者による差止めの訴え(いずれも肯定)
  事案 道路運送法では一般乗用旅客自動車運送事業者(タクシー事業者)は運賃を定めて国土交通大臣の認可を受けなければならない(9条の3)。 
特措法:
準特定地域内におけるタクシー事業者は公定幅運賃の範囲内で運賃を定め国土交通大臣に届出なければならない。
国道交通大臣は、
①タクシー事業者から届出られた運賃が公定幅運賃の範囲内にないときは、タクシー事業者に対し運賃を変更すべきことを命ずること(運賃変更命令)ができるものとされ、
②この運賃変更命令に違反するタクシー事業者に対しては、6月以内の期間を定めて自動車等の使用停止(使用停止処分)、
③タクシー事業の許可の取消し(事業許可取消処分)をすることが可能となる。
原告が、近畿運輸局長から公定幅運賃の範囲を下回る運賃を届け出たことを理由として運賃変更命令を受けるおそれがあり、さらに、運賃変更命令に違反したことを理由として使用停止処分及び事業許可取消処分(以下「本件各処分」)を受けるおそれがあるなどと主張して、被告に対し、本件各処分の差止めを求める事案。
  規定 行訴法 第3条(抗告訴訟)
7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。
行訴法 第37条の4(差止めの訴えの要件)
差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。
2 裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分又は裁決の内容及び性質をも勘案するものとする
  判断 ●  ●差止めの訴えの訴訟要件(本件処分の蓋然性及び重大な損害) 
◎本件処分の蓋然性 
①原告の対応等⇒運賃変更命令を受けることになったとしても公定幅運賃の範囲を下回る運賃でタクシー事業を継続する可能性が高い
②近畿運輸局長が定めたタクシー事業者に対する行政処分等の基準では、運賃変更命令に違反した場合、初違反で60日車の自動車等使用停止処分、再違反で事業許可取り消し処分。

本件各処分がされる蓋然性あり。
◎重大な損害を生ずるおそれの有無 
差止めの訴えの要件である「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるためには、処分がされることにより生ずるおそれのある損害が、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要する(最高裁H24.2.9)。
本件処分基準⇒本件各処分が短期間の内に反復継続的かつ累積加重的にされるものと認められ、その結果、事業許可取消処分に至った場合にはタクシー事業の遂行事態が不可能となる。
⇒「重大な損害を生ずるおそれ」がある。
●近畿運輸局長の裁量権の逸脱濫用の有無
①特措法改正の経緯等⇒特措法が公定幅運賃制度を導入した趣旨は、タクシーの供給過剰による運転者の労働条件の悪化や、それに伴う安全性やサービスの質の低下等を防止し、利用者の利便を確保することにあると解される。
②道交法に基づく認可を受けて下限割れ運賃で営業していたタクシー事業者については、当該事業者に当該運賃による営業を認めたとしても、直ちに低額運賃競争が行われ、運転者の労働条件の悪化や、それに伴う安全性やサービスの質の低下等が生ずるということはできない。
③近畿運輸局長は、大阪市域交通圏において下限割れ運賃で営業していた原告等のタクシー事業者の運賃や経営実態等を全く考慮せずに公定幅運賃の範囲を指定

その判断は、判断の過程において考慮すべき事項を考慮しなかったことにより合理性を欠くものと認められる。

公定幅運賃の範囲の指定については近畿運輸局長の裁量権の逸脱又は濫用があると認められ、前記指定を前提に本件各処分をすることも裁量権の逸脱又は濫用があるものとして違法となる。
  民事p67
東京高裁H28.1.19
  別荘地の管理契約の解除・死亡による当然終了(否定)
  規定 民法 第651条(委任の解除)
委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
民法 第653条(委任の終了事由)
委任は、次に掲げる事由によって終了する。
一 委任者又は受任者の死亡
  争点 別荘地の管理契約を、個別の別荘地所有者が、民法651条の規定によって解除できるか?
個別別荘地所有者の死亡により、民法653条の規定によって、契約が当然終了するかどうか? 
  解説・判断 東京高裁H22.2.16判決:
別荘地の管理契約の法的性質は、個別別荘地所有者が管理会社に個別の別荘地の管理(個別管理)及び別荘地全体の維持管理(全体管理)を委託する準委任契約。
民法651条で解除可能、死亡により当然終了する。
東京地裁H24.7.27:
被告ら(別荘所有者)が締結した管理委託契約においては、所有者が別荘地であり続ける限り、更生会社(管理会社)が行う維持管理を享受し続け、かつその対価を支払い続けることが当然含意されるとともに、被告らが個別かつ一方的に所有地の別荘地としての性格を放棄することは排除されていた。
⇒管理委託契約では、土地所有者から一方的に解約することができないことが合意されていたものと解するのが相当。 
  本判決 管理会社所有の公共施設(道路、公園、排水施設、ごみ集積所、防災・防火施設、センター施設等)を全別荘地所有者に利用させる利用契約と、個別別荘地所有者が管理会社の個別の別荘地の管理(個別管理)及び別荘地全体の維持管理(全体管理)を委託する準委任契約との混合契約。
⇒民法651条の適用があるとは直ちには言えなくなる。
  契約当事者の意思解釈の手法

①別荘地分譲契約におけるダイヤランド権利契約の締結強制
②別荘地所有者全員に管理費の支払義務を課し、それを原資にして全別荘地所有者に共通の不可分的な内容の全体管理を行う仕組みの採用
③別荘地を売却する場合の買受人への契約承継義務の設定
④被上告人による役務の提供の外に被上告人所有の公共施設を利用させる契約であるため、契約の一方当事者として、被上告人を外すことはできない。
を認定

個別の別荘地所有者には、民法651条による解除をすることが許されていない旨の解釈。 
  別荘地管理契約は、別荘地所有者全員に管理費の支払義務を課し、それを原資にして全別荘所有者に共通の不可分的な内容の全体管理を行う仕組みを採用した契約。
⇒個人間の信頼関係を保護する委任の規定の適用はない。
⇒委任者の死亡による当然終了を規定する民法653条の適用もない。 
  民事p90
東京地裁H27.11.10  
  司法書士の本人・実印・書類等の確認義務違反(否定)
  事案 土地の売買に係る登記手続を受任した司法書士の委任契約上の債務不履行が問題となった事案 
法務局から添付書類につき偽造の疑いがあるとの連絡を受け、申請が却下され、登記がされなかった。

XはYに対して、Yが所有者本人の確認義務、印鑑登録証明書による実印の確認義務、真正な登記済証の確認義務違反を主張し、委任契約上の債務不履行に基づき8000万円の損害賠償を請求。
  判断 登記手続申請に必要な書類の真否の確認については、当該書類が偽造又は変造されたことが一見して明白である場合のほか、司法書士に有すべき専門的知見に照らして、書類の真否を疑うべき相当な理由が存する場合は、調査確認して依頼者に報告したり、少なくとも依頼者に対して注意を促すなどの適宜の措置を取る義務がある。 
本件では、その場で行う得る現実的な調査確認の方策を行うべき注意義務を負っていた。
印鑑登録証明書の文字のスペースが若干狭いkと、登録済症の印影が受付時期とされている当時と一致しないことあがるとしても、偽造が巧妙であり、日常的に書類を目にする司法書士であっても発見が容易であったとは断じ難い

書類の真否に関する調査確認義務違反を否定し、本人の確認義務違反を否定し、Yの債務不履行を否定し、請求を棄却。
  民事p97
東京地裁H27.12.21 
  住民票の不正請求と損害賠償請求(肯定)
  事案 探偵業務に従事する者が区役所に虚偽の理由で住民票の写しの交付を申し出て、交付を受ける等した⇒探偵、特別区の損害賠償責任が問題に。 
  判断  X1らのY2区役所に対する要望、Y2の住民票写しの交付申出の状況、開示請求と一部非開示決定等に関する事実を認定。
Y1の責任:
住民票に記載されている氏名、住所、出生の年月日及び戸籍等の情報がプライバシーに係る情報として法的保護の対象になり、Y1が故意による不正に取得
⇒Y2の不法行為を肯定。 
X1ら各自の精神的損害が30万円。
Y2の責任:
X1の住民票の交付の申出には不正取得を疑うべき事情がなく、住民票を交付したことにつきY2の担当者に職務上の法的義務違反は認められない。
  X2の住民票の交付の申出には疎明資料の契約書のX2の名が戸籍と違っていた

Y2の担当者には戸籍と異なる表示である理由につき補足説明を求める法的な義務があった

補足説明を求めずにX2の住民票を交付したことにつき国賠法上の違法がある。
X2の精神的損害は5万円。 
  民事p109
東京地裁H27.12.4  
  認知の届出書等の他の市町村への送付義務と損害賠償(否定)
  事案 Xは、婚姻関係になかったY2とAとの間に出生し、その後、XがY2の子であることを認知するとの裁判が確定。
⇒Aは、Y1区に認知届を提出し、Y1区長は、Xの戸籍の身分事項に認知事項を記載。
but
Y1区のB区(Y2の戸籍の記載をすべき者はB区長)に対する届出書等の送付漏れ⇒Y2の戸籍には、XがY2の認知した子として記載されず。

Xが、Y1区及びY2に対し損害賠償請求。
  争点 ①本件記載遺漏にY1区の故意・過失、違法性の有無
②本件記載遺漏にY2の故意・重過失が存在するか
③Y1区とY2の共同不法行為の成否
④本件記載遺漏によりXに生じた損害及びその額 
  判断  作為義務の違反につき
最高裁昭和60.11.21:
①国賠法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定。
②公務員の不作為が特定の国民に対する関係で違法な加害行為とされるためには、その国民に対する関係で権限を行使すべき作為義務があったことが必要であり、公務員の権限の不行使が違法となるのは、公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務と評価できる作為義務に違反した場合。
認知の届出又は申請を受理した市区町村長は、届出又は申請をした認知子に対して、その認知子の戸籍に所定の事項を正確に記載する義務を負う。
認知子との関係では、認知された子自身の戸籍に所定の事項が正確に記載されることにより認知子の身分関係の公証がされるものであり、これに加えて認知した父の戸籍にも記載されることは身分関係の公証に有益であるとはいえ、認知子との関係では間接的なものにすぎず、認知の届出または申請を受理した市区町村長が他の市区町村へ送付する義務は、認知子に対する義務と解することはできない。

Y1区長ないしY1区職員の届書をB区に送付すべき義務は、Xに対して負担する職務上の義務であるとまでは認められない。
  Xを認知した父であるY2には、戸籍法上、認知の裁判が確定したことを届け出る義務があるとはいえない。 
念のため、
精神的損害については、Xがその主張する精神的損害を被ったとは認められない。
無形的損害については、Xの戸籍にはY2がXを認知した旨記載されており、申し出により遅延事由の記載をする取扱いを受けることができる。
⇒金銭的な賠償を受けなければならないほどの不利益を受けたとは認められない。
有形的損害については、本件記載遺漏との因果関係は認められない。 
  民事p114
東京地裁H27.12.10  
  同族企業の代表取締役の死亡逸失利益、休業損害
  事実 Aは、B設立後、代表取締役として、管理業務を行うほか、店舗における調理業務の一部に従事。
Aは、B設立後、Bの利益状況にかかわらず、Bから役員報酬として毎年3600万円を受領。本件事故前年のAの年収は、前記役員報酬とBから受領した自宅建物の賃料600万円の合計4200万円。 
  争点 Aの休業損害及び死亡逸失利益
  判断 ①Aの基礎収入について、事実関係の他、平成25年度の賃金センサスにおける、Bよりも大規模な飲食サービス業の部長級従業員及び調理師の全年齢平均賃金の合計額を勘案した結果、Aの役員報酬の、労務提供の対価に相当する部分が、Yが争わない年収1500万円を超過するとは認められない
②賃料については、労務対価性及び逸失利益性のいずれも認められない。

Aの休業損害及び逸失利益について、基礎収入を年収1500万円とするのが相当。
  解説 企業主が生命もしくは身体を侵害されたため、その企業に従事することが不能となったことによって生じる財産上の損害額について、
判例は、「原則として、企業収入中に占める企業主の労務その他企業に対する個人的寄与に基づく収益部分の割合によって算定すべきであり、企業主の死亡により廃業のやむなきに至った場合等特段の事情の存しないかぎり、企業主の右労務等によってのみ取得されていたと見ることはできない」(最高裁昭和43.8.2)
~労務価値説。 
個人事業者については労務価値説が実務上定着しており、営業収益から物的設備を利用することによって生み出された不動産の賃料、利子等や家族等の労務による収益部分を控除した個人事業主の労務等の個人的寄与によって生み出された収益部分を、当該事業主の個人的寄与の割合を勘案した部分をもって算出する運用。
個人的寄与の認定については、事故前後の事業や収支の状況、事業の業績・業態、被害者の特殊な技能の有無や担当職務の内容、稼働状況等の事情を考慮して判断
会社役員の休業損害・後遺障害逸失利益については、前記最高裁の趣旨から、役員報酬中に労務対価性を有しない利益配当部分が含まれる場合には、これを除いた労務対価部分のみを基礎収入とする運用が実務上定着。
  民事p119
名古屋地裁H28.1.21  
  詐欺会社の加給金支払合意の公序良俗違反での無効⇒管財人による不当利得返還請求(肯定)
  事案 詐欺的商法によって社債を販売していた破産会社の破産管財人であるXが、営業成績に応じて加給金を支払うとの合意に基づき破産会社から加給金の支払を受けていた代表取締役及び従業員を相手にして、本件加給金支払合意が公序良俗に違反することを理由に、不当利得に基づき、平成22年4月から平成25年5月までの間の営業活動に対して支給された加給金の返還を求めた事案。 
  規定 民法 第90条(公序良俗) 
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
民法 第704条(悪意の受益者の返還義務等)
悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
民法 第708条(不法原因給付)
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。
  判断 破産会社の社債販売について、①顧客に対し、高利の支払及び元本の償還が確実が元本確保型の商品であると虚偽の説明をし、②社債販売によって集めた資金のほとんどが使途不明金となっていて資産運用をしていた実態が認められず、③金商法及び出資法の規定も潜脱し、④高利の配当と元本の償還をしつつ従業員たるYらに対する加給金の支払も行っていた破綻必死の事業
⇒詐欺的要素が極めて強い違法な商法であると認定。 
本件加給金支払合意は、営業担当者の営業成績に対する歩合給支払の合意であり、それ自体は違法ではないが、本件加給金支払合意が破産会社の社債販売という違法な行為を推進する目的を有し、そのとおりに効果が生じているのであれば、本件加給金支払合意自体も違法となり、公序良俗に違反して無効になるものと解すべき。
公序良俗違反かどうかは客観的に判断されるべきであり、行為の違法性の認識は公序良俗違反の要件とはならないものの、合意自体から直ちに違法性を判別できないときは、当事者が違法性を識別できるだけの状況が存在することが必要。
本件加給金支払合意は、破産会社の社債販売という違法な行為を推進する目的を有し、そのとおりに効果が生じているから違法となるところ、①破産会社の社債は、著しい高利でかつ元本確保型という想定しがたい商品であったし、②破産会社のオーナーであるAの説明は合理性を欠いており、にわかに信用すべきでなかった上に、③実際に営業会議の際に破産会社発行の社債が違法ではないかとの指摘があったり、④弁護士を通じて顧客から返還請求があったりしたことや、⑤後に東海財務局の調査や、愛知県警察の捜索差押えが入った

破産会社の幹部であったY1及びY2は加給金支払合意時から、その他の破産会社の従業員であったYらは愛知県警察の捜索差押えが入ったときから、本件加給金支払合意が客観的に公序良俗に反すると認識しうる状況にあった

その時点から本件加給金支払合意が公序良俗に反し無効である。
●  不法原因給付については、最高裁H26.10.28(無限連鎖講の配当金につき、破産管財人の不当利得返還請求を不法原因給付によって拒むことが信義則に反し許されないとした事例)の考え方によって、破産管財人lによる不当利得返還請求を認めることが被害回復につながり、民法708条の趣旨にかなうとしてYらの主張を排斥。 
  解説 本件も違法な商法を促進させる報酬合意を公序良俗違反として無効とした事例の一例。 
  労働p133
名古屋高裁H28.4.21  
  市営バス運転手の焼身自殺⇒公務起因性が問題(肯定)
  事案 名古屋市営バスの運転士Aが焼身自殺⇒Aの父親であるXが、公務に起因するものであるとして、公務災害認定請求⇒公務外の災害と認定する処分(「本件公務外災害認定処分」)⇒審査請求⇒棄却⇒本件公務外災害認定処分は違法であるとして、その取消しを求めた事案。 
  原審 公務起因性を否定⇒請求棄却。 
  判断 ①乗客の転倒事故は、警察官から取調べを受けたことなどかから、大きな精神的負荷となったと考えられる
②Aは、平成19年2月3日から4か月の間に、立て続けに3件の精神的負荷を与える業務上の出来事に遭遇したものと言え、それに上司からの指導等を考慮すると、その精神的負荷の程度は相当大きかったと認められる

Aが自死の直前に精神的疾患を発症するに至った原因をAの個体的脆弱性・反応性に求めることは相当ではなく、Aが顧客サービスの向上に努める当局の姿勢を強く意識して精神疾患を発症するに至ったと見られる

Aの精神疾患の発症は、公務に内在ないし随伴する危険が現実化したものと認めるのが相当。

本件公務外認定処分は違法であるとし、原判決を取り消し、xの本訴請求を認容。
  解説 地方公務員が自殺した場合、地方公務員災害補償法に基づき、遺族補償給付等の支給を求めることができる。
but
この給付が認められるためには、業務と自殺との間に相当因果関係が認められることを要するとするのが、判例・通説。 
精神疾患の公務起因性の認定基準に関して、平成24年3月16日付けで「精神疾患の公務災害の認定について」と題する通知。

精神疾患が「疾病発症前のおおむね6か月の間に、業務により強度の精神的又は肉体的負荷を受けたことが認められること」及び
「業務以外の負荷及び個体側要因により疾病を発症したとは認められないこと」の要件を満たす必要がある。
本件では、業務というのは、バスの運転業務そのものではなく、バスの乗客の転倒事故、警察での事情聴取、上司の指導等である点に特色。
  刑事p158
東京高裁H27.1.30
  (軽微な)暴行保護事件での医療少年院送致決定に対する抗告(棄却)
事案 非行時15歳の少年が、在籍中の中学校に登校した際、その服装を注意した教諭と口論となり、もみあいとなる中、その足を蹴った⇒医療少年院送致の決定⇒在宅処遇が相当であるとして抗告。 
解説  少年保護事件の審判対象は、(1)非行事実及び(2)要保護性。 
(2)の要保護性は、
①犯罪的危険性(塁非行性ないし非行性)、
②矯正可能性(保護処分による矯正教育を施すことによって、前記の危険性を除去しうる可能性があること。医学的にみて治癒する可能性のない精神障害者や、犯罪性の特に強い者は、精神衛生法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)の措置や刑事処分によるべきと考えられる。)、
③保護相当性(保護処分による保護が最も有効適切な保護手段であると認められること。塁非行性、矯正可能性があっても、なおかつ福祉的措置に委ねるのを相当とする場合及び刑罰を科すのが社会の法感情にかない、教化上最も有効な保護手段と認められる場合には、要保護性は否定される。)
で構成される。
実務的には、要保護性に重点を置いて処遇を選択する立場が有力。
非行事実が軽微であっても、少年の犯罪的危険性(塁非行性ないし非行性)が高いことが客観的に認定⇒少年にとって不利益性の高い処遇を選択することも許される。 
逆も妥当。
東京高裁H27.9.25:
高額の成り済まし詐欺に現金受取役として関与した少年につき、非行性がさほど深化しておらず、内省を深めつつあり、活用可能な社会資源も十分ある
⇒社会内における専門家の指導を併せ受けることにより、少年の抱える問題を踏まえた改善・更生を図る余地が残されている。
⇒試験観察に付すことを含め、在宅処遇の可能性を十分に検討することなく、直ちに少年を第一種少年院に送致することとした処分は著しく不当であるとしてこれを取り消し。
本件少年の要保護性は相当高い。
本件では、少年は医療少年院に送致。

少年の各種問題行動には、少年が少年時の交通事故により負った高次脳機能障害の後遺症が影響していると考えられ、問題行動の改善には医療的措置が必要と考えられた。 
少年院の在院者を他の少年院に移送することは矯正機関の権限あるが(少年院法134条)、家庭裁判所が、医療措置終了後の移送先少年院の種別に関する処遇勧告を行っていない場合、運用上は、家庭裁判所の意見を聴いて行うこととされている。
本件では、原裁判所は、決定に際し、移送先少年院として初等少年院に送致すべきであるとの処遇勧告。
医療少年院における医療的措置により感情統制力等を回復させた上、少年に対し、初等少年院において生活指導を実施するためには一定期間が必要。
⇒収容期間が6か月以内とされる一般短期処遇に馴染まないことは明らか。
11月   
2307   
  行政p46
最高裁H28.2.29  
  法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認規定)の該当性
  事案 ①㈱IDCフロンティア(「IDCF」)は、平成21年2月2日、ソフトバンクの完全子会社であったソフトバンクIDCソルーションズ(「IDCS」当時、多額の未処理欠損金額を保有)から、新設分割により新設された。
②IDCSは、同月20日、ヤフー㈱に対し、IDCFの発行済み株式全部を譲渡(「本件譲渡1」)。
③ソフトバンクは、同意月24日、ヤフーに対し、IDCSの発行済み株式全部を譲渡(「本件譲渡2」)。
④ヤフーは、同年3月30日、ヤフーを合併法人、IDCSを被合併法人とする吸収合併を行った。
IDCFは、本件各事業年度に書かう各法人税の確定申告に当たり、本件分割は法人税法施行令4条の2第6項1号に規定されている完全支配継続見込み要件(分割後に分割法人と分割承継法人との間に当事者間の完全支配関係が継続することが見込まれているという要件)を見たしていない⇒法人税法2条12号の11の適格分割に該当しない分割であり、法62条の8第1項の資産調整勘定の金額が生じたとして、同条4項及び5項に基づき、前記の資産調整勘定の金額からそれぞれ所定の金額を減額し損金に算入。
  四谷税務署長(処分行政庁)は、組織再編に係る行為又は計算の否認規定である方132条の2を適用し、資産調整勘定の金額は生じなかったものとして所得金額を計算した上で、IDCFに対し、本件各事業年度の法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分。

IDCFが、被上告人に対する国(被告・被控訴人)を相手に、本件に法132条の2は適用されないなどと主張して、本件各更正処分等の取消しを求める事案。 
  判断 法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為又は計算が組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいい、その濫用の有無の判断に当たっては、
①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当。 
新設分割により設立された分割承継法人が当該分割は適格分割に該当しないとして資産調整勘定の金額を計上した場合において、分割後に分割法人が当該分割承継法人の発行済株式全部を譲渡する計画を前提としてされた当該分割は、翌事業年度以降は損金に算入することができなくなる当該分割法人の未処理欠損金額約100億円を当該分割承継法人の資産調整勘定の金額に転化させ、これを以後60か月にわたり償却し得るものとするため、本来必要のない前記譲渡を介在させることにより、実質的には適格分割というべきものをこれに該当しないものとするべく企図されたものといわざるを得ないなど判示の事情の下では、法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たる。
法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「その法人の行為又は計算」とは、更正又は決定を受ける法人の行為又は計算に限られるものではなく、同条各号に掲げられている法人の行為又は計算を意味する。
  解説  組織再編税制で課税上の取扱いが異なるのは、まず第1に、その組織再編成が適格か非適格かという点にある。
①適格組織再編成⇒その移転資産等について帳簿価額による引継ぎをしたものとされ、譲渡損益のいずれも生じない(法62条の2以下)
②非適格組織再編成⇒その移転資産等を時価により譲渡したものとされ、譲渡損益を益金又は損金の額に算入しなければならない(法62条)。

組織再編成における租税回避でまず想定されるのは、不当な行為又は計算により、本来は非適格組織再編成であるものと適格組織再編成とし(適格作り)、あるいは、本来適格再編成であるものと非適格組織再編成とする(適格外し)場合。
「適格外し」について、法132条の2の典型的な適用場面の1つであると考えられていた。
本件は、それが実際に行われた事案。
●具体的な考慮事情 
◎本件の一連の組織再編に係る行為の意図等
本件の一連の組織再編に係る行為は、IDCSが有していた未処理欠損金額のうち平成22年3月期以降は損金に算入することができなくなる約124億円を余すところなく活用するため、前記未処理欠損金額のうち約100億円をIDCFの資産調整勘定の金額に転化させて以後60か月にわたり償却し得るものとするべく、ごく短期間に計画的に実行されたもの。
◎本件計画(本件譲渡1を行う計画)の意図等 
適格分割の要件である完全支配継続見込み要件を満たさないことになるように、本件分割と本件譲渡2との間に本件譲渡1を行う本件計画が立てられ、実行された。
◎本件分割の実質 
本件譲渡1の4日後に行われた本件譲渡2により、IDCSはIDCFと共にヤフーの完全子会社となり、その翌日にヤフーとIDCSとの間で合併契約が締結され、その約1か月後に本件合併の効力が生じている。

本件の一連の組織再編成を全体としてみれば、IDCSによる移転資産等の支配は本件分割後も継続しており、本件分割は適格分割としての実質を有すると評価し得る。
◎本件計画の事業目的等の有無 
①仮に本件分割後に本件譲渡1が行われなくとも、本件譲渡2と本件合併によりヤフーによるIDCSの吸収合併とIDCFの完全子会社化は実現された
②本件譲渡1の対価である115億円が本件譲渡2及び本件合併によりいずれヤフーに戻ることが予定されていた

本件譲渡1を行うことにつき、税負担の減少以外に事業目的等があったとは考え難い。
 
本件分割は、本件計画を前提とする点において、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づくものであるのみならず、これにより実態とは乖離した非適格分割の形式を作出するものであって、明らかに不自然なものであり、税負担の減少以外にその合理的な理由となる事業目的等を見出すことはできない。
法132条の2にいう「その法人の行為又は計算」の意義
IDCFは、法132条の2にいう「その法人の行為又は計算」の「その法人」とは、その文理上、更正又は決定を受ける法人のみを意味すると解すべきと主張。
原審(最高裁と結論同じ)の理由付け
①法132条の2は、組織再編税制の趣旨に鑑み、分割に伴う分割承継法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合も対象としていることは明らか。新設分割にあっては、分割承継法人(新設分割設立会社)が設立されるまでは、当該法人は存在せずその行為又は計算を観念することができない。

分割法人(新設分割会社)の分割行為など分割承継法人以外の法人の行為又は計算を否認して分割承継法人の法人税につき更正又は決定をすることも予定していると解される。
②「その法人」が「法人税につき更正又は決定を受ける法人」の趣旨であれば、例えば「その更正又は決定に係る法人」と表現されるはず
③同条と共通する趣旨・目的を有する所得税法157条4項及び相続税法64条4項が、専ら個人が納税義務者となる所得税及び相続税又は贈与税についての更正又は決定に関し、法人の行為又は計算を否認することができる旨を定めている。
  行政p55
広島高裁H27.8.27  
   
  事案 ガソリンスタンドを設置運営するXが、Yに対し、処分行政庁から受けた、消防法等に基づく危険物取扱所の変更不許可処分等の取消しを求める事案。 
     
  民事p65
東京高裁H27.8.26  
  商品先物取引における先物取引業者の注意義務違反(肯定)
  事案 X(被控訴人)が先物取引受託者であるY(控訴人)に対して、先物取引契約による先物取引について、商品取引員としてしてはならない不招請勧誘、適合性原則違反、説明義務違反、新規委託者保護義務違反、手数料稼ぎ目的の頻繁売買(過当取引)、手仕舞い拒否等を行うなど、その勧誘行為及び取引の継続に違法性があった⇒使用者責任により又はYが組織的に行ったとして、Yの不法行為又は債務不履行に基づき損害賠償を求めた事案。 
  規定 商品先物取引法 第二百十五条  (適合性の原則)
商品先物取引業者は、顧客の知識、経験、財産の状況及び商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行つて委託者等の保護に欠け、又は欠けることとなるおそれがないように、商品先物取引業を行わなければならない。
商品先物取引法 第二百十八条  (商品先物取引業者の説明義務及び損害賠償責任)
商品先物取引業者は、商品取引契約を締結しようとする場合には、主務省令で定めるところにより、あらかじめ、顧客に対し、前条第一項各号に掲げる事項について説明をしなければならない。

2  前項の説明は、顧客の知識、経験、財産の状況及び当該商品取引契約を締結しようとする目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度によるものでなければならない。

3  一の商品取引契約の締結について二以上の商品先物取引業者又は商品先物取引業者の委託を受けた商品先物取引仲介業者(以下この項において「商品先物取引業者等」という。)が第一項又は第二百四十条の十八第一項本文の規定により顧客に対し前条第一項各号に掲げる事項について説明をしなければならない場合において、いずれか一の商品先物取引業者等が当該事項について説明をしたときは、他の商品先物取引業者等は、第一項又は第二百四十条の十八第一項本文の規定にかかわらず、当該事項について説明をすることを要しない。ただし、当該他の商品先物取引業者等が政令で定める者である場合は、この限りでない。

4  商品先物取引業者は、顧客に対し第一項の規定により説明をしなければならない場合において、第二百十四条(第一号に係る部分に限る。)の規定に違反したとき、又は前条第一項第一号から第三号までに掲げる事項について説明をしなかつたときは、これによつて当該顧客の当該商品取引契約につき生じた損害を賠償する責めに任ずる。
  判断 ●適合性原則違反 
Xが無職であることをXから聞いていた旨推認し、商品先物取引は投機性が高いことから、ガイドラインに照らしても、無職者には適合性を有しない。
  ●新規委託者保護義務違反 
商品先物取引は投機性が高く、その仕組みの理解が困難で相場の変動も予測し難い
⇒商品取引員であるYは、新規委託者であるXに対し、商品先物取引に習熟して取引に適合するよう誠実公正に保護する義務を負う旨を示したうえ、本件取引においては、Xが商品先物取引に習熟していたと認めるに足る事情はない
⇒義務違反を肯定
  ●手数料稼ぎ目的の頻繁売買 
過当取引を肯定。
  解説 適合性原則違反については、不法行為に基づく損害賠償責任が成立するというのが確立した判例。
証券先物取引法では、商品先物取引業者(本件取引当時は商品取引員)は、顧客の知識、経験、財産の状況及び商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って委託者等の保護に欠け、又は欠けることとなるおそれがないように、商品先物取引を行わなければならないと規定(215条)。
  ●手数料稼ぎ目的の頻繁売買 
法律の解釈としては、商品先物取引法は、215条、218条の規定を素直に見れば、被害者たる顧客が商品先物取引業者において義務違反があったことを立証する必要がある。
注意義務違反が規範的要件として、評価根拠事実と評価障害事実のいずれもが規範的要件における主要事実と解されている。

「経済的に不合理な取引が頻繁に反復継続されており、およそ顧客の経済的利益を追求する取引が行われたとは考えられない客観的状況にある」ことが評価根拠事実として立証された以上、先物取引業者が顧客の経済的利益に配慮した指導等をすべき注意義務を怠っていなかった旨の評価障害事実を立証する必要がある。
  民事p76
東京高裁H27.2.26  
  抗告人から相手方への未成年者の仮の引渡しを認めた原審を取り消し、申立てを却下した事例
  事案 相手方(原審申立人)母Bが、抗告人(原審相手方)父Aに対し、Aと暮らしている長男Cの引渡しを求めた事案。 
Bは、Cの監護者をBと定める審判とともに、Cの引渡しを求める審判前の保全処分を申し立て。
⇒原審がBの申立てを認容
⇒抗告審の本決定が、原審判を取り消し、申立てを却下。
  規定 家事手続き法 第157条(婚姻等に関する審判事件を本案とする保全処分)
家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所。以下この条及び次条において同じ。)は、次に掲げる事項についての審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行を保全し、又は子その他の利害関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、当該申立てをした者の申立てにより、当該事項についての審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。
一 夫婦間の協力扶助に関する処分
二 婚姻費用の分担に関する処分
三 子の監護に関する処分
四 財産の分与に関する処分
  原審 ①別居前のC(3歳に満たない乳幼児)の主たる監護者がBであった
②AがCを実家に連れ帰り、以後、面会交流を行うことなく監護している
③Bと離れていることのCの精神的打撃が大きいこと

Bの監護の下にCを戻すことがその福祉のために必要であって、Cの年齢等から特に早期に実現させるべき。

Bの申立てを認容 
  判断 審判前の保全処分としての未成年者の引渡しを命ずる必要が認められない⇒原審判を取り消し、Bの申立てを却下。 
家事手続法157条1項が「強制執行を保全し、又はその他の利害関係人の急迫の危険を防止するため必要があるとき」に保全処分を命ずることができるとしている。
現在の両親の援助を受けてのAのCの監護状況に格別の問題がある状況が窺えず、Cへの急迫の危険が現在していると認めるに足りる根拠はない。
  解説 審判前の保全処分が認められるためには、本案審判申立てが認容される蓋然性と保全の必要性の疎明が必要。
●  かつて、裁判所は、主たる監護者(多くの場合母)からの申立てについて、急迫の危険を厳格には解釈せず、保全の必要性を肯定し、審判前の保全処分としての子の引渡しを認める傾向が見られた。
but
近年、保全の必要性を厳格に審査し、申立てを却下する例が目立つようになっている。
東京高裁H15.1.20:
保全の必要性について「強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するための必要があるとき」との要件を充たす必要があるとし、「子に対する虐待、放任等が現にされている場合、子が相手方の監護が原因で発達遅滞や情緒不安を起こしている場合など」が具体的に該当するとした上で保全の必要性についての疎明がないとし、原審判を取り消し、申立てを却下。
東京高裁H24.10.18:
審判前の保全処分として子の引渡しを命じる場合には、家審法15条の3第7項(家事手続法115条)で準用する民保法23条2項の「著しい損害又は急迫の危険を避けるために必要とするとき」との要件を要するとし、急迫の危険を厳格に解釈した上で保全の必要性を否定し、原審判を取り消し、申立てを却下。

いずれも主たる監護者であった母が父に対し、審判前の保全処分として子の引渡しを求めた事案に関するもの。
悪質な奪取事案で、保全の必要性を慎重に判断して申立てを却下した現審判を取り消し、審判前の保全処分としての子の引渡しを認めた東京高裁H20.12.18が存在。
「監護者が未成年者を監護するに至った原因が強制的な奪取又はそれに準じたものであるかどうか」を考慮要素として挙げている。

奪取行為の悪質性によっては保全の必要性が緩やかに判断される余地はあると解される。
but
そのような事案を除き、裁判所は、保全の必要性につき厳格に判断する傾向。
  民事p78
名古屋高裁H28.2.19  
  妻でない女性との間に子が出生⇒婚姻費用の分担額減額(肯定)
  事案 夫であるA(抗告人)が、婚姻費用の分担額を定めた調停の成立後、交際していた2人の女性との間に合計3人の子が出生⇒妻であるB(相手方)に対する、前件調停によって定められた婚姻費用の分担額の減額を求めた事案。
  原審 AがBと同居していた頃から不貞行為をしており、そのため相手方が心身の不調を訴えたにもかかわらず、前記不貞行為の相手とは別のFという女性と不貞行為をしてGをもうけて認知し、更にその後交際したHという女性との間にI及びJ(双子)をもうけて胎児認知。

G、I及びJへの扶養義務を果たすためにBへの婚姻費用の減額を認めることは、Aの不貞行為を助長・追認するも同然。
⇒Aの申立てを却下。
    Aは、憲法14条1項の平等原則に反するなどと主張して即時抗告。
  判断 前件調停後、AがG、I及びJに対する扶養義務を負うに至ったことについて、前件調停の際に予想し得た事情等ではなく、婚姻費用の分担額を減額すべき事情の変更に該当する⇒標準算定方式に依拠して、G,I及びJへの養育費を考慮したAの負担する婚姻費用額を算定し、婚姻費用額を減額。 
  解説 夫が妻以外の女性との間の子を認知した場合、夫は認知した子に対して扶養義務を負うこととなる。
認知された故への扶養義務を考慮することなく妻に対する婚姻費用分担額を定めると、結局、認知された子が十分な扶養を受けることができなくなり、その福祉を害する結果になる⇒調停成立後、婚姻費用の分担義務者であるAに、新たな認知した子であるG、I及びJに対する扶養義務が生じた場合は、婚姻費用の分担額を減額すべき事情の変更に該当すると考えるべき。 
  民事p87
広島高裁岡山支部H27.8.27
●  
  厚生労働省令と県条例に違反but職務上の注意義務違反があったとはいえない⇒国賠法上の責任なし
  事案 備前市町は、入所に要する費用は厚労省指針に依拠して算定すべきであるという考え
⇒本件盲養護老人ホームについて、基準省令の定める配置数を基礎とし、かつ、単体で措置費を算定した場合と比較して、施設長及び調理員等のほか、生活相談員についても配置数を1名減じた上で一般事務費が算定。
Xが、備前市長がした前記決定は国賠法1条1項の適用上違法であり、故意又は過失もある旨を主張して、備前市長が減じた差額相当額(ただし、一定の加算を経た後の額)について損害賠償を請求した事案。
  争点  ①Xに対する一般事務費を算定するに当たり、備前市町が考慮すべき基準。
②仮に、備前市町がした措置費の算定が、基準通知が示す基準省令に反するものであったとしても、そのことをもって、国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるか。 
  原判決 基準通知が示す基準省令の解釈等は、備前市町としても当然に承知しておくべき事柄であり、これらによれば、基準省令及び基準通知の配置基準に満たない生活相談員の配置員数を前提として本件盲養護老人ホームにおける一般事務費の額を定めることや、そのような取扱いを定めた厚労省指針の定めが不相当であることは容易に認識することができた。
⇒備前市長の過失を認めた。 
  本判決 ①盲養護老人ホームの一般事務費については、実務上は専ら厚労省指針(厚労省指針が発出するまでの間は交付要綱)に依拠して算定されてきたことが窺われる。
②本件盲養護老人ホームについても、一貫して、厚労省指針又はその前身である交付要綱が定める職員配置数等を踏まえて一般事務費が算定されてきた
③備前市長の決定に至るまでの間、直接入所者の処遇に当たる生活相談員等については、兼務は認められないとする基準省令等の内容を厚労省指針を踏まえた一般事務費の算定に反映させるべきであるとする裁判例や行政実務が存在したとは認められない

備前市長が、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすることなく漫然と一般事務費を算定したとはいえない。
⇒職務上の注意義務違反はなく、過失も認められない。
  解説 国賠法1条1項の違法は、公権力の行使に当たる公務員の職務上の注意義務違反をいう(最高裁)
本件のように、公務員が法令の解釈・適用を誤った場合において当該公務員に国賠法1条1項所定の違法性を肯定することができるかについての最高裁の立場: 
①当該公務員の行為が、法令の解釈・適用を誤ったものであったとしても、直ちに国賠法1条1項の違法があると評価されるものではなく、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認められる場合に限り、国賠法1条1項の適用上違法の評価を受ける
②ある事項に関する法律解釈について、複数の解釈が考えられ、そのいずれについても相応の根拠が認められる場合において、公務員がそのうちの1つの解釈に基づいて行為をしたときや、ある処分の根拠となる規定の有効性について、実務上特に疑いをさしはさむ解釈をされたことも裁判上問題とされたこともない場合において、従前と同様の処分を行ったときは、後に当該解釈が違法と判断されたとしても、国賠法1条1項の過失はない。
  民事p99
東京地裁H27.10.30 
  競業避止の合意が公序良俗に反して無効とされた事例
  事案 X社は、労働者派遣事業等を営む会社で、Yは、平成24年4月、Xの従業員となった。Yは、平成24年5月7日から、Xを退職する平成25年3月30日までの間、A株式会社に派遣され、Aのコストマネジメント部で積算業務に従事。
Yは、Xを退職後、平成25年4月1日、B社に転職し、同様に、Aのコストマネジメント部で積算業務に従事。
Xの就業規則には、退職後3年間、競業避止義務を負う等の規定、Yが平成24年5月1日付で差し入れた覚書には、出向中に知り得た事業者への就職をしない等の旨の規定。
Yが平成25年3月21日付で差し入れた誓約書には、在職中に業務上知り得た客先及び第三者に対して自らの営業活動をしない等の規定。
  労働者派遣事業を営む会社の従業員が退職後、他の会社に転職し、元派遣先に派遣されたことが雇用契約上の競業避止義務違反の債務不履行責任、不法行為責任を負うか?
  争点 ①Y、A、Bの引抜きに関する共謀の有無
②本件競業避止規定の効力
③損害額 
  判断 引き抜きについてY、A、Bの共謀があった旨のXの主張は否定。 
競業避止規定の効力について、退職後の転職を禁ずる規定は、その目的、在職中の地位、転職が禁止される範囲、代償措置の有無等に照らし、禁止に合理性が認められないときは、公序良俗に反して無効。
①Yが1年間勤務したに過ぎない
②禁止期間が3年
③誓約書、覚書には期間の限定が全くない
④休日出勤手当、残業手当等の支払がなかった
⇒Yの転職を禁止することに合理性があるとは到底認められない。
⇒公序良俗に反するものとして有効性を否定し、請求を棄却。
  民事p105
東京地裁H27.12.17  
  事業用物件の管理費額を倍額とする旨の規約および理事会決議と区分所有法30条3項違反(で無効)
  事案 XはAマンションの管理組合
Y1及びY2はAマンションのうち2室の共有者
各居室はいずれも、Y1が代表者を務める会社の事務所として利用。
  規定 区分所有法 第30条(規約事項)
建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。

3 前二項に規定する規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払つた対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。
  争点 ①使用目的及び利用状況、すなわち、居住用物件か事業用物件かという差異に基づき管理費割合を増額すること自体が合理的か
②増額すること自体が合理的であるとしても2倍とう割合が合理的か 
  判断 ①事業用物件であることから当然に管理費負担能力の高さが基礎づけられるとはいえない
②Aマンションにおいて居住用物件と事業用物件で共用部分の使用頻度に大きな差はなかった
③本件倍額規定については周知の程度に疑問があり、Yらが倍額の管理費を支払っていた時期があったとしても、本件倍額規定を許容していたものとは評価できない
④本件倍額規定がなくなればXが赤字になるとの事情があったとしても、これが本件倍額規程を許容すべき合理的根拠とはならない

本件倍額規定が事業用物件と居住用物件との間で管理費額に差を設けていること自体が区分所有法30条3項に違反し無効。 
  解説 ①区分所有者が住居部分を他の用途に使用した場合に管理費の増額を理事会決議により請求できる旨の原規約23条3項の有効性の問題
②これを受けて事業用物件の管理費学を通常の倍額とした平成元年決定の有効性の問題
とに区別される。
(本判決は両者を一体的にとらえて有効性を判断。) 
  知財p111
東京地裁H28.1.14
●  
  開発中の加湿器と不正競争防止法2条1項3号の「商品」該当性(否定)、著作物性(否定)
  事案 加湿器(原告加湿器1~3)の開発者であるXらが、Yらに対し、Yらによる被告製品(加湿器)の輸入及び販売は、Xらの著作権(譲渡権又は二次的著作物の譲渡権)を侵害するとともに、不正競争防止法2条1項3号の不正競争に当たる
⇒被告製品の輸入等の差止め等及び損害賠償を求めた。 
  規定 不正競争防止法 第2条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
  争点 原告加湿器1及び2に関する
①不正競争防止法2条1項3号の「商品」該当性
②著作物性
  判断 原告加湿器1及び2は開発途中の試作品であり、製品化の具体的な予定もなかった⇒不正競争防止法2条1項3号の「商品」に該当しない。
原告加湿器1及び2はその実用的な機能を離れて見た場合に、美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えていない。
⇒請求棄却。
  解説 不正競争防止法上の「商品」:
市場における流通の対象物となる有体物又は無対物をいう。
取引ないし流通の対象となっていない物は「商品」に当たらない。 
「応用美術」:
著作権法に定義規定はない。
実用に供され、あるいは産業上利用されることが予定されている美的創作物。
応用美術の著作物性に関する従来の裁判例の傾向としては、「純粋美術(美術工芸品)と同視し得る程度の美的創作性」を備えていること要件とする立場が主流。
知財高裁H26.8.28:
実用目的の応用美術であっても、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては、著作物に当たる。
本判決:
応用美術について、「実用的な機能を離れて見た場合に、それが美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えている場合を除き、著作権法上の著作物に含まれない」
  労働p116
大阪地裁H28.5.18  
  混合組合と労働組合とチェック・オフ中止についての大阪市の不当労働行為(肯定)
  事案 大阪府労働委員会は、Xの行為が不当労働行為に該当する旨のZらの申立てに基づき、Z1の組合員全員を対象とするチェック・オフの再開等を命じる救済命令
⇒Xが、本件救済命令が違法であると主張して、その取消しを求めた事案。 
  解説・判断 ●  地公法・労組法のいずれが適用される職員であっても、労働者として団体を結成して活動することは認められており(地公法52条3項、地公労法5条)、両社がともに構成員となる労働組合(いわゆる混合組合)が存在。
but
地公法は、同法の適用のある職員について労組法の適用を明示的に排除(地公法58条1項)⇒混合組合が労組法に基づき不当労働行為救済の申立てができるかどうか(労組法2条の「労働組合」に当たるかどうか)が問題。 
  判断 混合組合は、労組法適用職員に関する事項については労組法上の「労働組合」に該当するが、地公法適用職員に関する事項についてはこれに該当せず、労組法に基づき労働委員会に対して救済を求めることはできない。
⇒本件救済命令のうち地公法適用職員について救済を求めた部分を取り消した。 
  ●労働者ないし労働組合に不利益な結果を招く使用者の行為について、使用者の不当労働行為意思の存否及び不当労働行為の成否が問題とされた場合 
最高裁は、問題とされる使用者の行為が労働組合活動に与える影響、使用者が当該行為に至った経緯、その経緯における労使の交渉の内容、双方の態度、その理由の合理性等の諸般の事情を具体的かつ総合的に検討して、不当労働行為意思の存否及び不当労働行為の成否を判断。
使用者側の要求に一見合理性を有するとみられる面があっても、直ちに不当労働行為意思の存在及び支配介入の成立が否定されるものではないということができる。
  判断 ①Z1に対するチェック・オフの有償化がXの収支の改善にもたらす効果が小さいのに対し、長きにわたり継続され、Z1の財政的基盤を形作ってきたチェック・オフの中止はZ1の運営に悪影響を生じさせるものであること
②Xの市長が就任以来、労働組合に対し、勤務条件の変更に関して十分な説明を行ったり、合意を得るように努力する姿勢を全く示さず、自己のブログにおいてもZ1の活動について否定的な表現を繰り返し、Xにおいてもチェック・オフに関する団体交渉に一切応じていなかった

Xによるチェック・オフの中止は、Zらの弱体化を意図してされたものと評価されてもやむを得ない
⇒不当労働行為の成立を認めた。
  使用者は「組合員である労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」については、義務的団交事項として、団体交渉に応じる義務がある。 
他方、地公労法7条ただし書は、地方公営企業等の管理及び運営に関する事項(「管理運営事項」)は、団体交渉の対象とすることができないと定めているが、管理運営事項であっても、職員の勤務条件に影響を及ぼす限りは団体交渉の対象となると解されている。
  判断 ①チェック・オフが団体的労使関係の運営に関する事項であり、これを行うか否かも使用者であるXにおいて処分可能な事項
⇒義務的団体交渉事項であると判断される。
②長年継続してきた便宜供与の廃止に際しては労働組合との間で誠実な交渉を行うべき。

団体交渉拒否に正当な理由があるというXの主張を認めず、不当労働行為の成立を肯定。 
  労働委員会が不当労働行為に対する救済を認容する場合に、どのような内容の救済命令を発すべきかについては、特段の規定がなく、労働委員会の裁量に委ねられている(労組法27条の12第1項)。 
  判断 労働委員会が救済方法について裁量権を与えられた趣旨について、使用者による組合活動侵害行為によって生じた状態を救済命令により直接是正することにより、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復及び確保を図るためであるとした最高裁昭和52.2.23を参照し、Xに対し、Z1にその支出した口座振替手数料相当額を支払うよう命ずることは、不当労働行為による団結権ないし組合活動の侵害状態を回復するものであり、労働委員会が救済方法にうちて有する裁量権の範囲内にある。

前記支払命令が原状回復の範囲を超えており、労働委員会の裁量を逸脱しているというXの主張を排斥。
  刑事p129
名古屋高裁H28.6.29  
   
  判断 本件GPS捜査で端末が設置された対象は自動車であり、その性質上、公道上等通常他人から観察されること自体は受忍せざるを得ない場所の位置情報を取得するものにすぎない。
but
GPS捜査の特性、すなわち、対象者に気付かれずに、容易かつ低コストで、長期間にわたり常時位置情報を取得でき、さらにその情報を記録し分析することで対象者の様々な個人情報を網羅的に明らかにできる。
⇒運用次第で対象者のプライバシーを大きく侵害する危険性を内包。 
本件GPS捜査は、当初の目的達成に必要な限度内で行われたとは言い難く、GPS捜査が内包するプライバシー侵害の危険性が相当程度現実化したもの。
⇒全体として強制処分に当たり、無令状でこれを行ったことは違法。
問題となる証拠と違法なGPS捜査との関連性の有無、程度、本件GPS捜査の違法性の程度等の観点から各証拠を検討。
関連性も強いものではなく、証拠収集過程に重大な違法はなかった。
⇒証拠排除は否定。
  解説 公道上ないしパチンコ店内における容ぼう等の撮影に関する最高裁H20.4.15は、通常、人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるものであることを主な理由の1つとして適法性を認めている。

公共空間と私的空間の区別を基本としてプライバシー侵害の程度を判断。 
2306   
  行政p44
最高裁H28.3.10  
  行政事件の取消訴訟で出訴期間を徒過したとされた事例
  事案 Xが、京都府個人情報保護条例12条に基づき、実施機関である京都府警察本部長に対し、公文書の記載されている個人情報の開示請求⇒平成24年10月12日付で処分行政庁から一部開示決定⇒Y(京都府)を相手に、本件処分のうち不開示部分の取消しを求めるとともに、同不開示部分の情報を開示することの義務付けを求める。 
平成24年10月12日に本件処分、
同月15日に、同処分に係る通知書がX代理人弁護士の下に到達。
同月22日、本件処分に係る開示文書の写しがX代理人弁護士の下に到達。
平成25年4月19日に本件訴えを提起。
⇒行訴法14条1項の出訴期間の遵守が問題。
  規定 行政事件訴訟法 第14条(出訴期間)
取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
行政事件訴訟法 第37条の3
第三条第六項第二号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、次の各号に掲げる要件のいずれかに該当するときに限り、提起することができる。
一 当該法令に基づく申請又は審査請求に対し相当の期間内に何らの処分又は裁決がされないこと。
二 当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において、当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であること。
  1審 本件取消の訴えについて、
①行訴法14条1項本文の出訴期間を経過して提起。「正当な理由」なし。
⇒却下
本件義務付けの訴えについて、本件取消しの訴えが不適法⇒行訴訟37条の3第1項各号に定める要件のいずれをも満たさない⇒却下。
  原審 本件取消の訴えについて:
①本件処分に係る本件通知書には、開示の日時・場所は郵送によると記載され、本件通知書の記載だけでは不開示の内容は不明であり、本件各開示文書(写し)の到達を待たねばならなかったこと
②本件条例15条2項には、実施機関は、開示決定等をしたときは、その開示決定等の内容を当該開示請求者に書面により通知しなければならない旨規定

本件通知書と開示文書が一体となって、本件処分の通知内容を構成していると解するのが相当。

Xが本件処分の存在を現実に知った日は、平成24年10月22日であり、出訴機関の遵守においては適法。
本件義務付けの訴えについても、本件取消しの訴えが不適法なものであることを前提として不適法であるとすることはできない。
⇒一審判決を取消し、本件を一審に差し戻すべきもの。
    Yが上告受理申立て
  判断 本件通知書に、本件開示請求に対する応答として一部を開示するものである旨明示され、不開示とされた部分を特定してその理由が示されているという事情
⇒本件通知書が到達してから6か月を経過して提起された本件取消しの訴えは、当該決定に係る個人情報の開示が実施された日から6か月以内に提起されたものであるとしても、行訴法14条1項本文の定める出訴期間を経過した後に提起されたもの。
①本件通知書において出訴期間の教示がなされていること、②本件通知書の記載は不開示部分を特定して不開示の理由を付したものであること、③本件通知書がXを代理する弁護士の下に到達した一週間後に本件処分に係る個人情報の開示が実施されたことなどの事情

本件取消しの訴えが出訴期間を経過した後に提起されたことにつき、行訴法14条1項ただし書にいう「正当な理由」があるとはいえない。
⇒原判決を破棄し、控訴を棄却。
  行政p48
東京地裁H28.2.26  
  妻に対する遺族厚生年金不支給決定が取り消された事例
  事案 妻子を残して家出し不倫相手と同居していた夫が死亡⇒妻が行った遺族厚生年金の申請に対し、行政庁が生計維持要件を充たさないことを理由に不支給処分(本件処分)⇒妻がこれを違法として、国に対し、①本件処分の取消しと、②行政庁が妻に年金の支給裁定をすることの義務付けを求めた事案。
Aは別居後自らの企業年金等をXに渡さなくなったが、別居に際して現金、X名義の預貯金、証券等は残して行き、Xはその一部を生活費に当て、A名義の自宅に居住。
  判断 ①について、XはA死亡の当時、厚年法59条1項の生計維持要件を充足していたと認められるとして本件処分を取り消すとともに、②について行政庁に対し遺族厚生年金の支給裁定をすべき旨を命じた。 
  解説 遺族厚生念金は、厚生年金の被保険者であった者が死亡した場合にその遺族の生活保障を目的として支給される。 
国民年金法の遺族基礎年金が定額の年金であるのに対して(同法38条以下)、遺族厚生年金は報酬比例の年金で遺族の従前の生活の一定の維持を目的とし、生存配偶者の老齢基礎年金や遺族基礎年金の上乗せという性格をもつ。
厚年法59条1項は、遺族厚生年金を受けることができる遺族は、被保険者等の配偶者、子、父母、孫又は祖父母であって被保険者等の死亡の当時その者によって生計を維持したものとすると定め、①被保険者と一定の身分関係のあること及び②生計維持関係のあったこと(生計維持要件)を受給の要件とする。
遺族のうち配偶者(配偶者要件)には事実婚の配偶者も含まれるが(同法3条2項)、受給権を有し得る配偶者は1人が限られることが前提となっている(厚年法60条2項)⇒死亡した被保険者等が重婚的内縁関係にあった場合、法律婚と事実婚のいずれの配偶者に受給資格があるのかが問題となる。
重婚的内縁配偶者がいても原則として法律婚の配偶者が「配偶者」に該当し、法律婚関係が実体を失い形骸化してその状態が固定化し近い将来解消される見込みのないときに限り、法律婚であっても配偶者要件を充たさないとするのが現在の判例(最高裁)。

原則法律婚。
法律婚が事実上離婚状態にあるか否かによって判断。
  生計維持要件の認定は、政令に託され(厚年法59条4項)、厚年法施行令3条の10は被保険者等の死亡当時に生計同一要件及び収入要件を充たす場合に生計維持関係があると定める。
生計同一要件と収入要件の認定基準は厚労省年金局通知「認定基準」に拠り、生計同一要件は同基準三(1)①ア~ウで「住民票上同一世帯に属しているとき」等に該当する場合とされている。
これらに該当しない場合でも、この基準により整形維持関係の認定を行うことが実態と著しく懸け離れたものとなり、かつ社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には例外が認められる(例外条項)。
本判決では、「認定基準」に基づく生計同一要件は満たさないが例外条項に当たるとしてXの各請求を認容。
その判断に際して、Xの経済的依存状況につきAからの定期的な生活費の付与に限定せず、実質的夫婦共有財産である現金、預貯金、証券や婚姻住居の利用を勘案した点に特徴。
  民事p64
最高裁H28.6.2  
  外国国家発行の円建て債に係る償還等請求訴訟において、当該債券の管理会社の任意的訴訟担当としての原告適格(肯定)
  事案 いずれも銀行であるXらが、Y(アルゼンチン共和国)が発行した円建て債券を保有する債権者らから訴訟追行権を授与された訴訟担当者であるなどと主張して、Yに対し、当該債券の償還及び約定利息等の支払を求める事案。
  争点 任意訴訟担当としての原告適格の有無 
  解説・判断 社債については、旧商法297条以下で、社債管理会社による社債管理制度が設けられ、同法309条に基づき社債管理会社に訴訟追行権が認められていた。
but
外国国家が発行するいわゆるソブリン債については、社債に関する旧商法の規定の適用がない⇒任意訴訟担当の可否が問題。 
任意的訴訟担当:本来の権利主体が訴訟追行権を第三者に授与し、第三者がその授権に基づいて当事者適格を取得する場合。
最高裁昭和45.11.11:
民法上の組合の業務執行組合員の原告適格についての従前の判例を変更したもの。
任意的訴訟担当については、本来の権利主体からの訴訟追行権の授与があることを前提として(前提要件)、弁護士代理の原則を回避し、又は訴訟信託の禁止を潜脱するおそれがなく(第1要件)、かつ、これを認める合理的必要性がある(第2要件)場合には許容することができるとしたもの。 
裁判例での、一般的な傾向としては、これをも認めることに慎重なものが多い。
学説:
①「訴訟担当者のための任意的訴訟担当」と②「権利主体のための訴訟担当」に分類し、①については、訴訟担当者に固有の利益が認められれば比較的緩やかにこれを肯定し、②については、訴訟担当者が権利関係に現実に密接な関与をしていることを要求して比較的厳格な要件の下でこれを肯定。
but
学説による議論の対象は、労働者の権利を行使する場合における労働組合の執行組合員や、不動産賃貸人の権利を行使する場合における不動産管理人などが中心。
  原審 前提条件につき、 本来の権利主体による訴訟追行権の授与があったとは認められない。
第二要件につき、任意的訴訟担当を認める合理的必要性があったとは認められない。

任意的訴訟担当としての原告適格を認めず、本件訴えを不適法として却下。
  判断 Xらが原告適格を有することを認め、原判決を破棄するなどして、一審に差し戻した。
  ●訴訟追行権の授与の有無(前提要件)
発行体であるYを委託者、Xらを管理者として、本件債券につき本件管理委託契約が締結されており、その効果が本件債権等保有者に及ぶか?
第三者のためにする契約⇒(黙示の)受益の意思表示の有無の問題。
一審・原審は否定

①判決効が本来の権利主体に及ぶため、Xらが敗訴した場合には本件債券等保有者が権利を失う
②本件授権条j校の文言が抽象的
(⇒本件債券等保有者が具体的な訴訟追行の可能性を理解した上で本件債券を譲り受けたとは推認しがたい)
本件判断は肯定

多数の公衆に販売されるという本件債券と社債の類似性に着目し、債権者の合理的意思を推認した上、本件授権条項の記載が目論見書等にも記載されていることから、債権者が本件債券を購入した際にこれを受け入れたものと認めることが相当であるとして、黙示の受益の意思表示を認めた。

本件授権条項を含む本件要項は、不特定多数の者を相手に、交渉による変更を予定していない画一的・集団的な法律関係を構築するために作成されたものであり、約款と類似する性質を有していると見ることができ、そのような性質を踏まえたものと思われる。
●授権を前提とする任意的訴訟担当の許否について:
本判決:
①債券の管理会社に対して訴訟追行権を授与する仕組みが、社債と本件債券の類似性に鑑み、社債管理会社の制度に倣って設けられたものであることを指摘。

法定された社債管理の仕組みと類似した仕組みが採用されていることは、当該仕組みの必要性及びその合理性を裏付ける重要な事情であると位置づけ。
②受任者であるXらが銀行として法令上種々の監督・規制に服することや、本件管理委託契約に基づき債権者に対し公平忠実義務及び善管注意義務を負うことなどの事情を指摘。

Xらの訴訟追行者としての適格性ないし期待可能性に着目したもの。
Yからは、Xらが、Yの依頼に基づきエクスチェンジオファー(支払の繰り延べ等をするために、新たに発行する債券との交換の申し出)の事務を取り扱った⇒Xらと本件債券等保有者との間に利益相反関係が生じている旨の指摘。
本判決:
「抽象的には利益相反関係が生ずるおそれがあることを考慮しても」Xらに善管注意義務等が課されている等の事情に照らし、Xらによる適切な訴訟追行は阻害されないと判断。
  民事p68
東京高裁H27.9.24 
● 
  日本語の翻訳文が添付されていない呼出状等の送達と民訴法118条2号の送達要件(肯定された事案)
  事案 外国裁判所の判決について執行判決を出すか否かが問題となった事案。 
カリフォルニア州の裁判所に対し、損害賠償請求訴訟を提起。
カリフォルニア州登録送達人は、Yに対し、カリフォルニア州の住所において、本件外国訴訟の呼出状、訴状等を直接送達。
15万6947米ドルを支払うよう命じる判決が確定⇒Yが日本に帰国⇒Xは、Yに対し、民執法24条に基づき、本件外国判決についての執行判決を求めた。
  規定 民執法 第24条(外国裁判所の判決の執行判決)
外国裁判所の判決についての執行判決を求める訴えは、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄し、この普通裁判籍がないときは、請求の目的又は差し押さえることができる債務者の財産の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
2 執行判決は、裁判の当否を調査しないでしなければならない。
3 第一項の訴えは、外国裁判所の判決が、確定したことが証明されないとき、又は民事訴訟法第百十八条各号に掲げる要件を具備しないときは、却下しなければならない。
民訴法 第118条(外国裁判所の確定判決の効力)
外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。
一 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。
二 敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。
三 判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。
四 相互の保証があること。
  争点 「訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達」を受けたと言えるか否か。
⇒日本語の翻訳文が添付されていなければならないか?
  解説・判断 最高裁H10.4.28:
「民訴法118条2号所定の「訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達」は、我が国の民訴手続に関する法令の規定に従ったものであることを要しないが、被告が現実に訴訟手続の開始を了知することができ、かつ、その防御権の行使に支障がないものでなければならない」と判示。
  一審 ①Yの語学力や国際的活動の程度によって翻訳文添付の要否を判断することは結論を不安定にするため相当とは言い難い
②Yは、米国に在留していたものの、日常会話以上の語学能力、特に文章の理解力、読解力が備わっていたのかは疑問
⇒民訴法118条2号所定の要件を欠いていた
⇒Xの請求を棄却
  判断 ①Yは、米国において、語学学校に通い、その間、就労し、音楽活動をするなど、英語を用いてコミュニケーションを図る能力を有しており、英語によるある程度の表現能力を有していた
②本件外国訴訟提起前のAIU保険との間における本件事故の補償をめぐっての交渉過程において、XがYに対してその責任を追及するような素振りがなかったとしても、Yは、本件送達により受領した送達書類によって、本件外国訴訟の訴状がXとの間の本件事故に関する書類であることを認識したと認められる
⇒民訴法118条2号の要件を満たしている。
  本判決は、被告の語学能力等を個別に検討して判断する考え方に立って、Yに了知・防御可能性があったと判断。
  商事p77
大阪地裁H28.1.13  
  詐欺行為に関与した会社やその取締役として登記されたいた者への損害賠償請求
  事案 Xは、前記社債購入代金の振込口座名義人である被告A(法人)及びその代表取締役として登記されている被告Y1に加え、被告Aを新設分割による設立した被告B、その代表取締役として登記されている被告Y2並びに取締役として登記されている被告Y3及び被告Y4に対して、共同不法行為に基づく損害賠償を求めるとともに、被告Y1、Y2、Y3及びY4については、取締役としての任務懈怠責任(会社法429条1項)に基づく損害賠償を求めた。 
  規定 会社法 第429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
会社法 第908条(登記の効力)
この法律の規定により登記すべき事項は、登記の後でなければ、これをもって善意の第三者に対抗することができない。登記の後であっても、第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときは、同様とする。
2 故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない。
  判断 ●被告A及びその取締役らの責任
被告Aの設立の際に法務局に提出された被告Y1名義の「会社分割による株式会社設立登記申請書」について、被告Y1が闇金から金銭を借り入れるに当たって闇金にいわれるままに白紙の実印のみを押印して印鑑登録証明書と併せて交付したものを、何者かが偽造したもの
⇒その設立手続には看過し難い重大な瑕疵がある
⇒その設立を無効と認定し、被告Aに対する訴えについては、実在しない者を相手方とするものとして却下。
被告Y1について、会社法908条2項の類推適用による任務懈怠責任を肯定する余地はあるとしながらも、同被告が代表取締役への就任を承諾したとはいえないことから、不実の登記に加功したとまではいえない⇒任務懈怠責任を否定。
原告側は、仮に、闇金に実印を押印した白紙と印鑑登録証明書を交付したとしても、詐欺についての過失の幇助行為であると主張。
but
被告Y1が交付した文書が会社分割に利用され、その新設会社名義の預金口座が詐欺に利用されることについての具体的な予見可能性があったとは認められない⇒その幇助者としての不法行為責任を否定。
  ●被告B及びその取締役らの責任 
被告B及びその代表取締役として登記されていた被告Y2(いずれも公示送達)に関しては、内容虚偽の分割計画書に基づいて被告Aを新設分割により設立⇒分割手続自体に実体がなかったと認定。
被告Bについては過失による幇助責任(不法行為責任)を
被告Y2については任務懈怠責任を
それぞれ肯定。
被告Bの取締役として登記された被告Y3:
同被告が休眠会社の売買を業とする会社の従業員であり、会社を作るための人数合わせのために実印と印鑑登録証明書発行のためのカード等を勤務先会社に預けていたところ、これが利用されて、被告Bの取締役に登記されたもの。

被告Bの取締役として選任された者ではなく、そのような認識もなかった⇒不実の登記作出に加功したということはできない⇒任務懈怠責任を否定。
過失による幇助責任については、被告Y3が被告Bの取締役として就任登記に関与しなかったとしても、被告Aの新設分割は可能であった⇒幇助行為に該当しない⇒同責任を否定。
被告Bの取締役として登記されていた被告Y4:
被告Bの取締役として登記されていることを認識していた上、Xに対する詐欺行為が行われる直前まで、社債発行会社とされていたDの取締役として登記されており、その当時、既に詐欺行為の準備行為がなされていたもpのと考えられる

会社法908条2項の類推適用による任務懈怠責任及び過失による幇助責任のいずれも肯定。
  解説 本件のような劇場型の特殊詐欺の事案では、送達に難航する被告が多く、送達が奏功し、応訴がなされた被告については、詐欺行為との関連性が薄く、取締役として登記されているだけの名目的取締役にすぎないとの主張がなされることも多い。
また、会社自体、実体がないことも多く、取締役として騰貴されている者についても、会社法所定の選任手続がとられたことが全く窺えないこともある。
このような場合には、会社法429条1項に基づく責任を直接問うことは難しく、同法908条2項の類推適用(最高裁昭和47.6.15)の可否が問題となる。

いかなる場合に不実の登記の作出に加功したということができるかについては事案ごとの判断となる。
本判決は、取締役として登記されていた名目的取締役の責任について、登記されるに至った事情を個別に認定した上で、それぞれの責任を判断。
  知財p87
知財高裁H28.3.25  
  均等の5要件の主張立証責任、第1要件、第5要件
  事案 発明の名称を「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」とする発明に係る本件特許権を有するXが、Yらの輸入販売に係るマキサカルシトール製剤等(Y製品)の製造方法(Y方法)は、本件特許の請求項13に係る発明(原審係属中に訂正請求がされ、控訴審審理中に訂正を認める旨の審決が確定した(「訂正発明」))と均等であり、Y製品の販売等は本件特許権を侵害すると主張し、Y製品の輸入譲渡等の差止め及び廃棄を求めた事案。 
  原審 Y方法が訂正発明と均等であることを認め、
訂正発明についての特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない
⇒Xの請求を認容。
  判断  ● ①最高裁H10.2.24が示した均等の5要件を適用し、Y方法が訂正発明と均等であることを認め、②Yらの主張する無効理由はいずれも理由がない
⇒原判決を維持すべきものとして、控訴を棄却。
  均等の5要件の主張立証責任について、
第1要件ないし第3要件については、対象製品等が特許発明と均等であると主張する者が、
第4要件及び第5要件については被疑侵害者が、
主張立証責任を負う。
  ●均等の第1要件(非本質部分)について 
特許発明における本質的部分とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分と解すべき。
上記本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべき。
特許発明の実質的価値は、その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載、特に明細書記載の従来技術の比較から認定されるべきであり、そして、①従来技術を比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合には、特許請求の範囲の記載の一部について、これを上位概念化したものとして認定され、②従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には、特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定される。
第1要件の判断、すなわち対象製品等との相違部分が非本質的部分であるかどうかを判断する際には、特許請求の範囲に記載された各構成要件を本質的部分と非本質的部分に分けた上で、本質的部分に当たる構成要件については一切均等を認めないと解するのではなく、確定された特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し、これを備えていると認められる場合には、相違部分は本質的部分ではないと判断すべきであり、対象製品等に、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外で相違する部分があるとしても、そのことは第1要件の充足を否定する理由とはならない。
訂正発明の本質的部分を認定した上、出願物質又は中間体のビタミンD構造がシス体であることは本質的部分には含まれない⇒Y方法は、均等の第1要件を充足する。
  ●均等の第2ないし第4要件は充足
  ●均等の第5要件(特段の事情)について
特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして、出願時に当業者が容易に想到することのできる特許請求の範囲外の他の構成があり、したがって、出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとしても、そのことのみを理由として、出願人が特許請求の範囲に当該他のの構成を記載しなかったことが「特段の事情」に当たるものということはできない。
もっとも、このような場合であっても、出願人が、出願時に、特許請求の範囲外の他の構成を、特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的、外形的にみて認められるとき、例えば、出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや、出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときには、出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは、「特段の事情」に当たるものといえる。
本件特許の出願人が、出願時に、訂正発明の出発物質に代替するものとして、トランス体のビタミンD構造の化合物を認識していたものとは客観的、外形的にみて認められない
⇒第5要件の「特段の事情」は認められない。
  解説  ●  ●均等の5要件
特許請求の範囲に記載された構成中に、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(「対象製品等」)と異なる部分が存する場合であっても
①同部分が特許発明の本質部分ではなく
同部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
上記のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、
対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから当該出願時に容易に推考できたものではなく、かつ
対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、
同対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当。
  ●第1要件について 
  ◎「本質的部分」の意味 
〇A:特許法が保護しようとする発明の実質的価値についての理解からすれば、特許発明を基礎付ける課題の解決原理ないし技術思想を意味する
⇒対象製品等がこのような特許発明の課題の解決原理、特有の技術思想を共通に備ええているといえるか否かが問題(解決原理同一説)

B:特許発明の「構成中の具体的部分」であって、特許発明の技術思想ではない⇒対象製品等が、本質的部分とされる高絵師中の具体的部分を備えているかどうかによるべきこととなり、この点に相違がある場合には均等は認められない(構成要件区分説)
vs.
構成要件を本質的部分と非本質的部分に分け、前者の置換の場合にはその置換がいかに些細なものであっても均等が成立しないことになり妥当性を欠く
本判決はAの解決原理同一説を採用。
  ◎本質的部分の認定方法 
本質部分は、明細書記載以外の先行技術に関する公知文献を参酌して認定できるか?
A:明細書に記載された先行技術に限らず、特許出願時における先行技術と対比して特徴的原理を確定すべき
B:出願人が開示していない技術的思想に保護を与える事態が生じるのを防ぐために、本質的部分の認定は明細書の記載のみから判断すべき
本判決:
特許発明の本質的部分は、原則として、特許請求の範囲及び明細書の記載、特に明細書記載の従来の技術との比較から認定されるべき。
例外として、「明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが、出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合」には、明細書外の従来技術も参照して本質的部分が認定されるべき。
例外的に明細書外の従来技術を参酌して本質的部分を認定する場合には、「均等が認められる範囲がより狭いものとなると解される」

明細書に開示されていない技術的思想を本質的部分であると主張することを許容するものではないと解される。
  ●第5要件について
     
  労働p127
福井地裁H28.1.15  
  配転命令の違法性と撤回後の出勤拒否の帰責事由が会社側にあるとされた事例
  事案 Xは、入社の約1年3か月後に福井支店から長野支店への配転命令を受け、その効力を争って、以後出勤していない。
本件は、Xが、配転命令の無効確認と、出勤しなくなってから一審口頭弁論終結時までの基本賃金及び未払の時間外賃金等の支払を求めた事案
配転命令については、訴訟係属中にYが撤回⇒Xがその無効確認の訴えを取り下げた。
  規定 民法 第536条(債務者の危険負担等)
前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
  判断 ①賞罰規定による制裁が、その発令要件との関係で過酷にすぎ、著しく不合理。
②賞罰規定の目的は、専ら固定給の高い「M社員」を減らすという点のみにあったと認められる。
③50年近く福井市に住み続けてきたXに対し、内示もないまま長野支店への異動を命じることはX及びその家族にとって生活上著しい不利益となる。

本件配転命令は権利の濫用に該当し、違法である。 
①Yは本件配転命令を撤回したものの、その違法性は認めず、未払の時間外賃金の支払にも応じず、前記誓約書によっても「精勤」そた場合でなければ「M社員」での復職はできないとされているが、「精勤」の意味は明らかにされていない⇒それだけでは、単に本件配転命令発令直前の状態(平成25年9月のノルマ不達成により、Yにおいて、Xに対し、「S社員」への雇用条件変更又は指定する支店への異動を命じ得る状態)に服するだけであるとも解され、Xは、復職しても直ちに「S社員」への実質的降格を促され又は命じられるおそれがあり、仮に、Yにおいて、平成25年9月のノルマ不達成の効果を否定する意向があるとしても、Xが出勤した後、その月のうちにノルマを達成しなければ、平成25年9月から10月にかけてと同様の状況に至るだけであるとみる余地も十分にある。
②Yが本件訴訟において未払の労働賃金の存在を争い続けていることからすると、Xが出勤し、時間外労働を行ったとしても、Yは主観的に適法と考える時間外労働賃金を支払うだけで、客観的に適法な賃金が支払われないおそれも十分にあるとみざるを得ない。

本件配転命令発令後、その撤回後も含めて、Xが出勤していないのはYの帰責事由によるものといえる

民法536条2項により、Yは、Xに対し、本件配転命令発令後現在までの全期間について賃金支払義務を負う。
  解説 本判決は、 配転命令の効力について、最高裁昭和61.7.14以後の裁判例で考慮されてきた要素のうち、Xの生活上の不利益と本件配転命令の目的を認定した上で判断。
また、会社側が配転命令を撤回したにもかかわらず、従業員のその後の出勤拒否も会社側の帰責事由によるものと判断。
  刑事p137
大阪高裁H28.3.15
  弁護人側証人に対する犯人隠匿容疑での捜索差押え・取調べ⇒公判供述の信用性を否定
  事案 検察官の行った被告人側証人予定者に対する事前面接(いわゆる証人テスト)の妥当性が問題となった事例。 
捜査機関が弁護側証人に対して犯人隠匿容疑での捜索差押え・取調べ⇒証人が供述を変更。
弁護人は、Bへの事情聴取は、公判中心主義の理念に反するとともに、証人尋問におけるBの供述を妨害する目的で行われた強制捜査の濫用であり、このような捜査の影響下にあるBの公判供述は強要されたものに等しく任意性を欠く
⇒B証言の証拠能力を争った。
  規定 刑訴法 第191条の3(証人尋問の準備)
証人の尋問を請求した検察官又は弁護人は、証人その他の関係者に事実を確かめる等の方法によつて、適切な尋問をすることができるように準備しなければならない。
刑訴法 第299条〔証人等の氏名等開示と証拠等の閲覧〕
検察官、被告人又は弁護人が証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人の尋問を請求するについては、あらかじめ、相手方に対し、その氏名及び住居を知る機会を与えなければならない。証拠書類又は証拠物の取調を請求するについては、あらかじめ、相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない。但し、相手方に異議のないときは、この限りでない。
②裁判所が職権で証拠調の決定をするについては、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければならない。
刑訴法 第316条の14〔検察官請求証拠の必要的開示〕
検察官は、前条第二項の規定により取調べを請求した証拠(以下「検察官請求証拠」という。)については、速やかに、被告人又は弁護人に対し、次の各号に掲げる証拠の区分に応じ、当該各号に定める方法による開示をしなければならない。

二 証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人 その氏名及び住居を知る機会を与え、かつ、その者の供述録取書等(供述書、供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるもの又は映像若しくは音声を記録することができる記録媒体であつて供述を記録したものをいう。以下同じ。)のうち、その者が公判期日において供述すると思料する内容が明らかになるもの(当該供述録取書等が存在しないとき、又はこれを閲覧させることが相当でないと認めるときにあつては、その者が公判期日において供述すると思料する内容の要旨を記載した書面)を閲覧する機会(弁護人に対しては、閲覧し、かつ、謄写する機会)を与えること。
刑訴法 第316条の18〔被告人・弁護人の請求証拠の開示〕
被告人又は弁護人は、前条第二項の規定により取調べを請求した証拠については、速やかに、検察官に対し、次の各号に掲げる証拠の区分に応じ、当該各号に定める方法による開示をしなければならない。
一 証拠書類又は証拠物 当該証拠書類又は証拠物を閲覧し、かつ、謄写する機会を与えること。
二 証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人 その氏名及び住居を知る機会を与え、かつ、その者の供述録取書等のうち、その者が公判期日において供述すると思料する内容が明らかになるもの(当該供述録取書等が存在しないとき、又はこれを閲覧させることが相当でないと認めるときにあつては、その者が公判期日において供述すると思料する内容の要旨を記載した書面)を閲覧し、かつ、謄写する機会を与えること。
憲法 第37条〔刑事被告人の諸権利〕
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
②刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
  原審 Bの証言の信用性を肯定。
  判断 本件で検察官のとった行動は、「証人の事前面接の域を相当に逸脱した不当なものといわざるを得ず、Bには、原審公判供述当時、自らが罪に問われるのを免れるため、検察官に迎合し、虚偽の供述をする動機があった」
⇒Bの証言の信用性を否定。
被告人の自白など他の証拠から被告人に対する有罪判決は維持できる
⇒被告人からの控訴は棄却。
  解説 ●相手方当事者の事前面接の可否
A:積極説
検察官請求証人に対する弁護人による事前面接の場合を想定したものだが、証人尋問は、被告人の有罪・無罪を決める重要な手続であり適切な証人尋問には事前の「証人テスト」が不可欠であるとして、事前面接を憲法37条2項の証人審問権と包括的防御権から積極的に根拠づけようとする見解。
B:消極説
相手方当事者が事前面接を行うと、追及的になりがちであり、反対尋問予定者が自己の欲する方向に証言の内容を誘導する不当な働きかけを行う危険性が否定できない。
裁判例:
検察官の指示による警察官が証人に事前面接して作成した供述録取書を検察官が刑訴法328条に基づく弾劾証拠として請求⇒公判中心主義および当事者対等の原則に反するとして、採用しなかった事例。
一般論として、弁護側請求証人を検察官が事前に呼び出して取調べを行うことは避けるべきとしつつ、事前の解決としては、被告人の買収による偽証教唆という特別の事情があったために適法とした事例。
●本件
少なくとも、被告人側請求証人について捜査機関が事前面接をすることには一定の制約があることを事例に即して判断したもの。
被告人側請求証人が自らの信じるところを証言しようとしたことを捉えて、虚偽の供述と一方的に評価し、処罰の威嚇のもと、検察官にとって都合の良い供述を迫ることは、証人の証言を歪曲し、被告人の証人審問権(自己に有利な証人を提出する権利)を侵害しかねない危険性を内在。

被告人側請求証人に対する事前面接の可否及び限界について、検察官に対して慎重な判断を促している。
とくに、取調べと供述調書に過度に依存する捜査・公判のあり方を改め、活発で充実した公判審理を実現するという目的を掲げて改正された刑事訴訟法⇒相手方証人の証言に対する疑問jは、公判廷における反対尋問を適切に活用して弾劾する方法によるという方向性。
  法定外において有罪立証方向の虚偽供述を行い、公判廷でもその供述を維持するという動機付けが処罰の威嚇によってなされる構造。 
2305   
  民事p13 
最高裁H28.1.21
  テレビ番組による名誉毀損が否定された事例(最高裁)
事案 本件番組に出演したXが、本件番組中のX及びその父親に関連する内容を含む放送によりXの名誉が毀損されたなどと主張し、Yに対し、不法行為に基づく損害賠償を求める事案。
一審 本件番組の放送により、Xの社会的評価は低下しない⇒Xの請求を棄却 
原審 「人間動物園」という言葉は差別的な意味合いを有している
⇒Yは、本件番組によって、Xの父親はパイワン族を代表して英国に行ったというXの思いを踏みにじり、侮辱するとともに、パイワン族を代表して英国に行った人の娘であるというXがパイワン族の中で受けていた社会的評価を低下させ、その名誉を侵害した
⇒Xの請求を一部認容。
判断 テレビ番組を視聴した一般の視聴者において、日本が、約100年前に、台湾当地の成果を世界に示す目的で、西欧列強が野蛮で劣った植民地の人間を文明化させていると宣伝するために行っていた「人間動物園」と呼ばれる見せ物をまねて、Xの父親を含む台湾の一民族を、英国で開催された博覧会に連れて行き、その暮らしぶりを展示するという差別的な取扱いをしたという事実を摘示するものと理解するのが通常
⇒本件番組は、Xの名誉を毀損するものではないと判示して、Xの請求を棄却。 
解説 名誉毀損とは、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させる行為(最高裁)。
テレビジョン放送がされた番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべき(最高裁)。
テレビジョン放送がされた番組によって摘示された事実がどのようなものであるかという点についても、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断するのが相当であると判示。
本件番組の内容を全体としてみた場合、Xの父親やX自身の人格的価値に関連付けて「人間動物園」という表現を用いていると解することは困難であって、むしろ、一般の視聴者は、本件番組は当時の日本政府の姿勢を批判しようとした番組であると受け止めるものと解するのが素直。
⇒本件番組の放送によりXの社会的評価が低下するとはいえず、本件番組は、Xの名誉を毀損するものではない。、
上告受理決定において排除されているが、Yの上告受理申立て理由には、原審の準拠法の誤りを指摘する部分がある。 
法の適用に関する通則法 第19条(名誉又は信用の毀損の特例)
第十七条の規定にかかわらず、他人の名誉又は信用を毀損する不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、被害者の常居所地法(被害者が法人その他の社団又は財団である場合にあっては、その主たる事業所の所在地の法)による。

法の適用に関する通則法第22条(不法行為についての公序による制限)
不法行為について外国法によるべき場合において、当該外国法を適用すべき事実が日本法によれば不法とならないときは、当該外国法に基づく損害賠償その他の処分の請求は、することができない
本件は名誉毀損の事案であるところ、法の適用に関する通則法19条により、その準拠法は被害者であるXの常居所地法である台湾法とされ、また、同法22条1項により、台湾法を適用すべき事実が日本法によれば不法とならないときは台湾法に基づく損害賠償その他の処分の請求はすることができない。

本件で損害賠償請求が認められるためには、日本法及び台湾法のいずれにおいても名誉棄損に基づく不法行為が成立しなければならないのに、原審は準拠法について検討を欠いている。
最高裁は、日本法において名誉毀損が成立しないと考える以上、前記の点について判示する必要はないとしたもの。
  民事p16
東京地裁H27.8.19  
  医師による虚偽の診断及び診断録等の開示請求の一部拒絶についての損害賠償請求(肯定)
  事案 Xが、他の病院でセカンドオピニオンを得た結果、Yによる診断(性器クラミジア感染症及び性器ヘルペスの診断)がいずれも虚偽であったことが判明⇒代理人を通じて再三にわたり診療録等の開示を請求⇒診療録等の一部が開示されたのみで、残部の開示は拒否⇒Yに対して債務不履行又は不法行為に基づき、治療費及び慰謝料等の損害の賠償請求。
  争点 ①虚偽の診断に基づく詐欺及び傷害
② 診療録等の開示拒否
③損害
  規定 医師法 第24条〔診療録の記載及び保存〕
医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。
2 前項の診療録であつて、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、五年間これを保存しなければならない。
民法 第656条(準委任)
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
民法 第645条(受任者による報告)
受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
  判断・解説 ●争点①について 
Xは性器クラミジア感染症及び性器ヘルペスと診断する根拠なし⇒YがXを性器クラミジア感染症及び性器ヘルペスと診断したことは、確立された医学的知見に照らして不合理。
検査会社の検査報告書及び検査キットの添付文書では、性器クラミジア感染症の血清抗体検査において疑陽性と陰性の境界となるカットオフインデックスが0.90と記載されているにもかかわらず、Yがこれを0.00に改変した検査報告書を自ら作成してXに交付しており、他の患者にも同様の診断を繰り返していた
⇒Yによる検査、診断及び治療という一連の医療行為については、その全てが、医師が診療契約に基づいて尽くすべき最善の注意義務に著しく違反するもので、故意による詐欺行為と評価することができるもの。
医師の尽くすべき「最善の注意義務」について、最高裁は、「右注意義務の基準となるべきものは、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である」と判示。
⇒医療訴訟においては、確立された医学的知見によって構成される医療水準が、医師の過失について判断する基準。
●争点②について 
医師が診療の度に逐一記載する診療録(医師法24条1項)は、医師だけでなく患者にとっても診療経過を検討する上で最も重要な客観的資料

医師は、患者から診療録等の開示を請求されたときは、これを開示することが患者の心身に悪影響を及ぼすなどの特段の事情のない限り、診療契約に基づく債務の一内容として、患者に対して診療録等をすみやかに開示すべき義務を負っている。
残部の開示がXの心身に悪影響を及ぼすなどの特段の事情は見受けられない⇒Yは、診療契約に基づく債務の一内容として、Xの請求に応じて未開示の診療録等を速やかに開示すべき義務を負っていた。
診療契約の法的性質は準委任契約⇒受任者である医師は、委任者である患者に対し、医療行為が終了した後に、その顛末について報告すべき義務を負っているところ(民法656条、645条)、その報告に当たっては必ずしも診療録等を開示する必要まではないものの、少なくとも患者が医師による医療行為の当否に疑問を抱くような事情があり、診療経過について検討するために診療録等の開示を請求している場合には、医師がこれを開示すべき義務を負うことがあり得る。
●争点③について 
Yによる一連の医療行為に係る治療費、他の病院でセカンドオピニオンを得るのに要した治療費等のほか、
虚偽の診断に係る医療費として30万円
診療録等の開示拒否に係る医療費として10万円
を、Yによる虚偽の診断及び診療録等の開示拒否によってXに生じた損害と認めた。
  民事p22
京都地裁H28.1.29  
  石綿粉じんばく露について、国賠請求と企業の責任が認められた事例
  事案 建設作業に従事していた際に石綿粉じんに曝露したため、肺がん、中皮腫等の石綿関連疾患に罹患したと主張する検察作業従事者及びその相続人である原告ら27名が、国及び石綿含有建材を製造、販売していた企業(32社)に対して損害賠償請求。 
対国:
安衛法や建基法に基づき建設作業現場における石綿粉じんばく露を防止するための規制権限を行使すべきところをこれを怠った⇒国賠法1条1項に基づく損害賠償請求。
対企業:
石綿含有建材を製造販売してはならない注意義務に違反⇒民法719条等に基づき損害賠償請求。
  規定 民法 第719条(共同不法行為者の責任)
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
  判断 ●国の責任 
規制権限不行使の違法性の判断基準:
「不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるか」に求め、旧労基法、安衛法に基づく国の規制権限につき、「できる限り速やかに、技術の進歩や最新の医学的知見に適合したものに改正すべく、適時にかつ適切に行使されるべきもの」として、筑豊じん肺訴訟上告審等の最高裁判例を踏襲するとともに、石綿関連疾患に関する医学的知見の確立時期を泉南アスベスト訴訟上告審と同時期とした。
先行判決と異なり、建設作業による石綿関連疾患罹患の危険性、予見可能性の判断を、建設作業現場における石綿粉じん濃度の測定結果と各時期における粉じん濃度規制との比較により行い、屋内作業のみならず、建設作業現場については屋外作業の危険性、予見可能性も認めた。
個別の規制権限不行使について:
先行判決と同様、国の規制の実効性について検討し、防じんマスク又は送気マスクの着用、集じん機付き電動工具の使用並びに建材及び建設作業現場への具体的な警告表示の義務づけを怠った点に旧労基法、安衛法上の規制権限不行使がある⇒違法性を肯定。
労基法上の労働者に該当しない一人親方等は安全衛生法による保護対象でない⇒違法性を否定。
建設作業従事者は健基法の保護対象でない⇒健基法に基づく規制権限不行使の違法性を否定。
因果関係:
国が責任を負わない期間にも石綿粉じんに曝露したことによって、直ちに因果関係が否定されるものではない。
●企業らの責任 
企業が国と同様の時期に建材への具体的な警告表示を行うべきであったにもかかわらずこれを怠ったと過失を肯定。
企業の過失と結果との因果関係を、民法719条1項後段類推適用により肯定。
本件が民法719条1項後段の典型的な択一的競合とは異なり、その類推適用としての累積的競合又は重合的競合の場合であるとした上、
その適用には各企業の石綿含有建材の製造、販売が被災者への到達可能性を有する加害行為である必要があるとする一方、択一的競合の場合と異なる累積的競合及び重合的競合においては、選択された加害行為者以外に加害行為者がいないことの立証は不要であるが、企業は他原因を主張立証することで減責を求めうる。
一定以上のシェアを有する企業により販売され、販売の時期等判事の要素が、各被災者の就労実態に合致する建材であれば、各被災者への到達可能性を有するとして、一部の建材の製造、販売に加害行為性を認めた。
  民事p132
大阪地裁H27.7.8  
  美容外科における説明義務違反の不法行為(肯定)
  事案 原告は、被告が施術したスーパーリセリング(美容施術)の効果が全くなかったこと、事前の検査義務違反、説明義務違反があったこと等を主張、⇒債務不履行又は不法行為に基づき、約360万円(治療費、化粧品代、逸失利益、慰謝料、弁護士費用)の支払を求めた。 
  争点 ①事前の適用検査義務を怠った過失又は注意義務違反の有無
②説明義務を怠った過失又は注意義務違反の有無
③相当因果関係
④損害の発生 
  判断 ●争点②について 
①美容診療が生命身体の健康を維持ないし回復させるために実施されるものではなく、医学的に見て必要性及び緊急性に乏しいもの
②美容という目的が明確で自由診療に基づき安価とはいえない費用で行われるもの

美容診療による客観的な効果の大小、確実性の程度等の情報は、美容診療を受けるか否かの意思決定をするにあたって特に重要と考えられる。

美容診療を受けることを決定した者とすれば、医師の特段の説明ががない限り、主観的な満足度はともかく、客観的には美容診療に基づく効果が得られるものと考えているのが通常。

効果が客観的に現れることが必ずしも確実ではなく、場合によっては客観的な効果が得られないこともあるというのであれば、医師は美容診療を実施するにあたり、その旨の情報を正しく提供して適切な説明をすることが診療契約に付随する法的義務として要求される。

医師が上記のような説明をすることなく、美容診療を実施することは、診療対象者の期待と合理的意思に反する診療行為に該当するものとして、説明義務違反に基づく不法行為ないし債務意不履行を免れないと解するのが相当。
原告が、担当医師から美容効果が確実でないことについて説明を受けていたとしてもスーパーリセリングを受けた蓋然性が高かったものとは認められない。
⇒不法行為に基づく損害賠償義務を負う。
●争点③も肯定 
●争点④は、スーパーリセリングに要した費用全額を損害と認定したほか、慰謝料、弁護士費用も一部認容。 
  解説 ●説明義務違反 
美容外科においては、他の診療科に比べ、医師の説明義務が過重されると解する裁判例(京都地裁昭和51.10.1)
右目背にある腫瘤(右目結膜類皮腫)の摘出手術における説明義務が問題となった事案について
「特に本件のように美容に重点があり、是非必要とする手術でない場合は一層然りといわねばならず、それに伴う責任の免除は医師が患者に合併症について十分な説明を行い、患者が尚且これを望んだ場合にのみ与えられるべきものであり、然らざる限り契約に反する違法な侵襲となり医師はそのために生じた損害賠償の責めを免れない」とする。
説明義務の加重

①美容外科は、他の診療科と異なり、疾患のない患者に対して美容という主観的願望を満足させることを目的としており、美容外科医療を行わなくとも患者の健康状態が悪化することはない⇒医学的適応性(必要性)及び緊急性が乏しい又は存在しない。
②多くの場合、医療機関が宣伝により顧客を誘引しており、施術が高額な自由診療として実施される⇒消費者取引的側面がある。
  ●  ●損害(因果関係) 
医師の説明義務違反が認められる場合、因果関係があるとされる損害の範囲:
①説明義務違反による自己決定権の侵害に対する慰謝料
②さらに生じた悪しき結果(後遺障害等)に起因する損害
③施術費用総合額の損害
仮に十分な説明を受けていれば、患者が当該美容診療を受けなかったであろうと認められる場合⇒説明義務違反と生じた悪しき結果等の間に因果関係が認められる。
そのような認定ができない⇒生じた悪しき結果との間にまで因果関係は認められない。
本判決:
説明義務違反と相当因果関係のある損害の範囲について、十分な「説明をしなくても美容診療を受けようとする者がすでに当該美容診療の効果が確実ではないことを認識していたなどの特段の事情のない限り、当該医師による・・・説明がなされなかった結果、当該美容診療によって美容効果が確実に得られるかのような錯誤に陥り、そのような誤解に基づいて当該美容診療を受けるに至った」ものと認められる。
本件では、「特段の事情」の立証がないとし、「原告が(担当医)から美容効果が確実でないことについての説明を受けたとしても(本件美容診療)を受けた蓋然性が高かったものとは認められない」とした。

本件美容診療の施術日相当額について、「説明義務違反により、原告が錯誤に陥った状態の下で支払われたものであることからすると、その全額が原告の損害と認めるのが相当であ」ると判断。
本判決は、不法行為責任を認めながら、損害として原告が被告に支出した治療費の全額を損害としている。
一般に、診療契約の法的性質については、①準委任契約説、②請負契約説、③無名契約説の対立があり、裁判例では(治療を中心とした事務処理を目的とする)準委任契約を解するものが多い。
but
美容診療の場合、治療というよりは、美容を主たる目的としているので請負契約的側面が強い。
⇒医師が患者に約束した結果が得られない場合、債務の本旨に従った履行がないとして治療費全額を損害と認定することも自然といえる。
債務不履行責任ではなく、不法行為責任を認定したのは、治療費全額を損害とするだけでは不十分であり、慰謝料及び弁護士費用も損害とすることが相当としたとも考えられる。
  商事p140
最高裁H28.3.4
  議案を否決する株主総会等の決議の取消しを請求する訴え(否定)
事案 Yの株主であり、取締役であるX1及びX2が、Yの株主総会においてXらを取締役から解任する旨の議案を否決する決議
⇒本件株主総会の招集手続に瑕疵があるとして、Yに対し、会社法831条1項1号に基づいて、本件否決決議の取消を請求。
Yの発行済み株式総数は300株
X1及びX2が75株ずつ、Aが150株を保有。
Xら及びAは、いずれもYの取締役であり、Yは、取締役会を設置しない会社。
Aは、Xの同意を得ないまま、Yの臨時株主総会(本件株主総会)を招集し、本件株主総会において、Xらを取締役から解任する旨の議案はいずれも否決(「本件否決決議」)。
Aは、会社法854条に基づいて、Xらにつき取締役解任の訴えを提起⇒Xらは、同条の「役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき」との要件を欠く⇒別件訴訟は不適法であると主張するとともに、本件訴訟を提起。
規定 会社法 第831条(株主総会等の決議の取消しの訴え)
次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより取締役、監査役又は清算人(当該決議が株主総会又は種類株主総会の決議である場合にあっては第三百四十六条第一項(第四百七十九条第四項において準用する場合を含む。)の規定により取締役、監査役又は清算人としての権利義務を有する者を含み、当該決議が創立総会又は種類創立総会の決議である場合にあっては設立時取締役又は設立時監査役を含む。)となる者も、同様とする。
一 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。
二 株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき。
三 株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき。
2 前項の訴えの提起があった場合において、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる。
第1審 本件否決決議が取り消されるか否かによって、別件訴訟がその要件を具備するか否かが左右される
⇒本件については訴えの利益があるとした上で、Xらの請求を認容。
原審 本件否決決議は第三者に対して効力を生ずる余地がない⇒取消しの訴えの対象となる会社法831条の「株主総会等の決議」には当たらない⇒本件訴えを却下。
  ⇒Xらが上告受理申立て。
判断 本件を上告審として受理し、ある議案を否決する株主総会等の決議の取消しを請求する訴えは不適法であると判断して、Xらの上告を棄却。
解説 ●株主総会においてある議案を否決する決議がされた場合に、当該決議の取消しの訴え(会社法831条)を提起することができるか? 
A:訴えの利益があるとしてこれを肯定する適法説
○B:訴えの利益がない、あるいは議案の否決は決議取消しの訴えの対象とならないとしてこれを否定する不適法説
会社法831条1項は、瑕疵のある株主総会等の決議がされた日から3か月以内に限って訴えをもって当該決議の取消しを請求できることとしているが、これは、株主総会等の決議によって新たな法律関係が生じ、さらに、これを基礎として第三者を含む関係者との間で新たな法律関係が積み重なっていくという株主総会等の決議の性格に鑑み、法律関係の早期安定を図っている。
株主総会等の決議の取消しの訴えに係る請求を認容する確定判決に、いわゆる対世効が認められている(同法838条)のも、同趣旨。
ある議案を否決する株主総会等の決議の場合には、一般に、これによって新たな法律関係が生ずることはないし、これを取り消すことによって新たな法律関係が生ずるものでもない

株主総会等の決議によって新たな法律関係が生ずることを前提とする前記のような会社法の特殊な規律の対象とすべき必要性はない。
瑕疵がある否決決議によって法律上の不利益を受ける者は、決議取消しの訴えによらずに当該否決決議の効力を個別に争うことができると解される
⇒その権利保護に欠けることはないと考えられる。
本判決は、決議取消しの訴えに係る会社法の規定の趣旨や秘訣決議の一般的な性格を踏まえ、会社法831条に基づき否決決議の取消しを請求する訴えは不適法である旨判示。 
株主総会における否決決議に何らかの法的効果を付与していると見られる規定:
役員解任の訴えの要件を定める会社法854条1項
少数株主による議案の再提案権の制限を定める同法304条ただし書 
本判決:
このような場合であっても、当該否決決議によって新たな法律関係が生ずるとはいえない⇒その取消しを請求する訴えは不適法
否決決議によって新たな法律関係が生ずるという事例は通常想定することができないが、万一そのような事例が生じた場合にまで、本判決の射程が当然に及ぶものではないと考えられる。
補足意見:
瑕疵のある否決決議については、決議取消しの訴えに依らずに、その法律効果を定めた個別既定の解釈等によって当該法律効果を否定する処理が可能であることなどを指摘。
10月   
2304
  行政p31
さいたま地裁H27.10.28  
  生活保護受給者に対する行政指導と生活保護停止処分の適法性(違法)
  事案 生活保護を受けていたXが、生活保護法27条に基づく指導又は指示に従わなかった⇒
Xが、①本件指導の違法性、②本件停止処分の違法性を主張して、本件停止処分の取消しを求めた事案。 
平成25年12月、戸建住宅を574万円で売却し、マンションの一室を530万円で購入し、本件マンションに転居。
平成26年1月24日以降、A(春日部市福祉事務所長)から生活保護を受給⇒平成26年2月21日、Xに対し、本件マンションを売却する行政指導⇒Xは売却せず⇒平成26年4月25日付で、法62条3項に基づき、本件停止処分
⇒Xは、埼玉県知事に、本件停止処分についての審査請求をするとともに、本件停止処分の執行停止の申立て⇒当該申立を却下する決定
⇒Xは、本件停止処分の執行停止により生ずる「著しい損害を避けるため緊急の必要がある」(行政事件訴訟法8条2項2号)として、前記審判請求に対する債権を経ないで、本件停止処分の取消しを求める本件訴訟を提起。
同法25条2項に基づいて、本件停止処分の執行停止の申立て⇒本件停止処分の効力を停止する旨の決定(確定)。
  規定 生活保護法 第27条(指導及び指示)
保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる。
2 前項の指導又は指示は、被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない。
3 第一項の規定は、被保護者の意に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない。
生活保護法 第62条(指示等に従う義務)
被保護者は、保護の実施機関が、第三十条第一項ただし書の規定により、被保護者を救護施設、更生施設若しくはその他の適当な施設に入所させ、若しくはこれらの施設に入所を委託し、若しくは私人の家庭に養護を委託して保護を行うことを決定したとき、又は第二十七条の規定により、被保護者に対し、必要な指導又は指示をしたときは、これに従わなければならない。

3 保護の実施機関は、被保護者が前二項の規定による義務に違反したときは、保護の変更、停止又は廃止をすることができる。
  判断   Xの請求を認め、本件停止処分を取り消した。
  ●本件指導の違法性 
①法27条1項に基づく指導又は指示が、保護の目的達成のために必要とは認められない場合や、必要と認められる場合であっても、その最小限度を超えるものであるときは違法となり
②指導又は指示が、少なくとも書面でなされようとする場合には、その必要性及び合理性を当該事案の性質や経緯、被保護者又はその世帯の個別事情を十分考慮した上で慎重にされることを要し、その判断の過程及び手続においてそのような考慮を欠き、生活保護の理念及び社会通念に照らして妥当性を欠くものであるときには、保護の実施機関の裁量権を逸脱、濫用したものとして、違法となる。
①本件買換えの動機や経緯に生活保護の理念に抵触するものがなかったこと
②本件マンションの購入によって、Xが生活困窮に陥ったと評価することはできないこと
③本件指導が、Xに対する保護の目的達成のための必要最小限度のものではないか、又はその判断の過程及び手続においてX若しくはその世帯の特殊事情や本件買換えと本件生活保護の申請の経過等に対する十分な考慮を欠き、社会通念に照らして妥当性を欠いている
⇒違法。
  ●本件停止処分の違法性 
①指導又は指示が違法である場合には、当該指導または指示に従わなかったことを理由とする不利益処分は違法となり
②指導又は指示が適法であり、当該指導又は指示に従う義務に違反した場合でも、不利益処分をするに当たって、考慮すべき事情を考慮せず、又は考慮された事情に対する評価が合理性を欠き、被保護者に当該不利益処分による不利益を課すことが、生活保護の理念や保護の目的に照らして必要かつ合理的といえず、社会通念上著しく妥当性を欠くような場合には、当該不利益処分は、保護の実施機関の裁量権を逸脱又は濫用するものとして違法となる。
本件は①にあたり、また、仮に、本件指導が適法であったとしても、本件停止処分に当たって、本件事案の特殊事情が十分に考慮され、それらに対する適切な評価がされたとはいえない
⇒本件停止処分は、裁量権を逸脱または濫用したものであって、違法。
  解説 生活保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導・指示をすることができ(法27条1項)、被保護者は、当該指導・指示に従う義務がある(法62条1項)。
義務違反に対しては、保護の変更、停止又は廃止といった不利益処分が予定されている(同条3項)。 
  行政p39
佐賀地裁H27.7.10  
  建設業者に対する営業等停止処分について、処分の執行停止を認めた事例
  事案 佐賀県知事が、建設業法28条3項に基づき、Xに対して、公共工事に係る土木工事業に関する営業等の停止を命じる処分⇒Xが、同処分の取消しを求める本案事件を提起した上、行政事件訴訟法25条2項本文に基づき、同処分の執行の停止を求めた。 
  規定 行政事件訴訟法 第25条(執行停止)
処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。
2 処分の取消しの訴えの提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合には、することができない。
3 裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。
4 執行停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、することができない。
  解説 建設業法28条3項、同条1項3号は、国土交通大臣又は都道府県知事は、その許可を受けた建設業者(建設業者が法人であるときは、当該法人又はその役員等)又は政令で定める使用人(以下「建設業者等」)がその業務に関し他の法令(入札契約適正化法及び履行確保法並びにこれらに基づく命令を除く。)に違反し、建設業者として不適当であると認められるときは、その者に対し、1年以内の期間を定めて、その営業の全部又は一部の停止を命ずることができる。 
  争点 執行停止の要件である、
① 「処分により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要がある」か(行訴法25条2項本文)
②「本案について理由がないとみえる」か(行訴法25条4項)
  判断 争点①について:
①Xの経常利益のほぼ全てを、大部分が公共工事の施工を行う土木部の上げる利益で占めており、
②本件処分によりこれらの公共工事の営業の停止が命ぜられることになることなどが一応認められ、
③本件処分によりXの売上が大きく減少し、赤字に転落するおそれがある

「処分により生ずる重大な損害を避けるための緊急の必要」の疎明がある。
争点②について:
①建設業者等の「他の法令(入札契約適正化法及び履行確保法並びにこれらに基づく命令を除く。)に違反し」た行為(以下「法令違反行為」)が、当該建設業者の事業の態様、規模等からして、客観的には当該建設業さhの業務に関するものと認められる場合であったとしても、当該法令違反行為について、当該建設業者等が自らの私的な行為であって当該建設業者の業務に関しないものであるという主観を有しているときには、法28条1項3号の「業務に関し」という要件に該当しないと解する余地がないとはいえない
②本件では、Aが本件ぞうわについて自身の私的な行為であるという主観を有していたと認める余地もある

本件贈賄がAのXにおける「業務に関し」行われたものであるか否かを判断するため、前記法解釈のほか、同解釈によっては事実関係についてさらなる審理を尽くす必要があることを否定できない

現段階では「本案について理由がないとみえる」とまではいい難い。
  解説 業務の停止を命じる行政法25条2項所定の「重大な損害」を検討したい判例・判決例について、「損害の回復の困難の程度」 (行訴法25条3項)を、被処分者の社会的信用、顧客の継続保有可能性等の観点を併せて具体的に検討するものが多い。
「本案について理由がないとみえる」とは、本案における訴訟手続がなお進行することを前提に、双方の当事者の主張及び疎明資料に基づき、本案における申立人の請求に理由がないと一応認められことをいうなどとされるが、法解釈の当否についても、それが争点となり、本案における審理を尽くした上で判断されるべきと考えられる場合には、同要件を満たさない。
本件の本案事件について、佐賀地裁は、建設業者の業務と客観的に関連性を有する行為について法令違反が存在した場合には、当該業者が、「建設業者として不適当である」か否かを判断して監督処分の要否を検討する必要がある

法28条1項3号の「その業務に関し」の意義についても、当該建設業者の事業の態様、規模等からして、客観的にみて当該建設業者の業務に関する行為を指すと解するのが相当⇒Xの請求を棄却。
  行政p45
津地裁H28.3.24 
   
  事案 Xが三重県情報公開条例5条1項に基づいて、露天業者の道路使用許可申請書の開示請求⇒三重県警察本部長により一部非開示決定⇒
Xが、一部非開示決定処分の取消訴訟、開示決定処分の義務付け訴訟、国賠法1条1項に基づく損害賠償請求訴訟を提起 
  Xの請求 ①本件文書1のうち申請者の氏名等を本件条例7条2号(個人に関する情報)に該当するとしてなされた一部非開示決定(「本件処分1」)につき、本件処分1のうち本件非開示部分1を非開示とした部分の取消しを求める請求(甲事件)
②本件文書2のうち現場責任者の氏名(「本件非開示部分2」)等を本件条例7条2号(個人に関する情報)に該当するとしてなされた一部非開示決定(「本件処分2」)につき、本件非開示部分2を非開示とした部分の取消し及び本件非開示部分の開示決定をすべき旨を求める請求(乙事件)
③違法な本件処分1及び本件処分2により精神的苦痛を被る等を理由として、国賠法1条1項に基づきY(三重県)に損害賠償を求める請求(丙事件)
  争点 ①露天業者として事業を営む者が者が道路使用許可申請書に記述した申請者の氏名等、及び現場責任者の氏名等が「事業を営む個人の当該事業に関する情報」(本件条例7条2号及び3号)に該当するか。
・・・・・
     
  民事p54
大阪高裁H27.11.11  
  退院の際の医師の説明義務違反⇒自己決定権侵害⇒不法行為責任(肯定)
  事実 Aの遺族であるXらは、Yの経営するB病院に入院中、重大な疾患を有している可能性が高い状況にあることを認識していたにもかかわらず、その旨説明することなく、必要な検査を実施することもないままAを退院させたうえ、再入院以降においても適切な検査を行わなかったなどと主張⇒Yに対して、診療契約上の債務不履行ないし使用者責任に基づき損害賠償請求。 
  原審 Yに診療契約上の債務不履行に該当するとは認められない。
B病院の医師は、Aが退院するにあたり、Aの症状が重大な疾患による可能性があり、これを鑑別するための検査が予定されていることを伝えず、これを放置した場合の危険性について説明するどころか、前記可能性や危険性がないかのような誤った情報を提供。
⇒Aの自己決定権を侵害する不法行為に該当する。
  判断 原判決を肯定。
  解説 患者の自己決定権という概念は、憲法13条の規定中の包括的基本権の一環として位置づけられ、専門家である医師から十分な情報提供をわかりやすい説明を受け、自らの納得と自由な意思に基づき自分への医療行為に同意し、選択し、あるいは拒否する権利。 
  民事p76
大阪地裁H27.9.29  
   
  事実 「大阪府知事は『病気』である」等の見出しによる記事(「本件記事」)を平成23年10月18日発表の月刊誌に掲載。
Xが、本件府知事選挙への出馬は2万パーセントないと言っておきながら、自民党の推薦を得て立候補を表明したことなど大阪府知事選挙へ立候補した経緯や、大阪府知事としての言行不一致、府民に選ばれたXに従うよう府職員を威圧していることなど、Xが大阪府知事在任中の出来事を指摘し、Xが平気で嘘をつく生徒だったなどという高校時代のエピソードを紹介し、多くの部分で演技性人格異障害の特徴にあてはまるとして、Xのことを演技性人格障害(自己顕示欲型精神病質者)であると指摘。
  争点 ①本件記事の記述や見出しは事実の摘示か意見ないし論評の表明か
②社会的評価の低下の有無
③事実の摘示あるいは意見ないし論評における違法性阻却事由の有無
④故意又は過失の有無
⑤損害額 
  判断 本件記事においける「大阪府知事は『病気』である」との記事につき、Xに関する具体的エピソードを紹介した上で、それらの具体的エピソードが演技性人格障害の特徴の多くに当てはまるとして、Xのことを演技性人格障害であると指摘するという本件記事の内容や、Y2が精神科医として紹介されている⇒精神科医であるY2の意見ないし論評 
その意見ないし論評の前提事実を、本件記事に記載されたXに関する具体的エピソードとして紹介されている事実であると特定した上で、各部分の重要部分の真実性を検討し、その一部である高校時代のエピソードにつき真実性等の立証なし。

Yらの本件記事の掲載につき違法性阻却は認められず、また故意過失も否定されない⇒名誉毀損による不法行為が成立⇒110万円の限度でXの請求を認容。
  解説 不法行為法における名誉毀損は、事実の摘示によるもののみならず意見ないし論評によるものも含む(大判明43.11.2)が、事実の摘示と意見ないし論評の区別については、問題とされている部分に用いられている語のみではなく、一般の読者の普通の注意と読み方を基準に、当該部分の前後の文脈や、公表当時に一般の読者が有していた知識ないし経験等を考慮して、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張するものと理解される場合には事実を摘示するものと見るのが相当(最高裁H9.9.9等)。 
続いて、これら摘示された事実や表明された意見ないし論評が、Xの名誉を毀損するものかどうか、違法性阻却自由の有無、故意過失の有無についても、従来の判例に従って判断を進めている。
  民事p83
名古屋地裁H28.1.21  
  駐車場の賃貸借契約と過去の浸水被害についての説明義務違反(肯定)
  事案 Xが浸水侵害に関する信義則上の説明義務違反の不法行為等に基づく損害賠償を請求。 
  規定 消費者契約法 第3条(事業者及び消費者の努力)
事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が消費者にとって明確かつ平易なものになるよう配慮するとともに、消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深めるために、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならない。
2 消費者は、消費者契約を締結するに際しては、事業者から提供された情報を活用し、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容について理解するよう努めるものとする。
  争点 本件駐車場の浸水被害に関する賃貸人の説明義務の有無
  判断 ①地下駐車場が構造上浸水被害にある可能性があることの一般的認識と、
②当該地下駐車場に関する浸水・冠水の発生状況や浸水被害の発生状況に係る具体的認識
を区別。
②についての情報は、賃借人になろうとする者には容易に得られないという点で、賃貸借契約当事者間の情報格差を認め、
「Yは、Xにおいて当該事実を容易に認識することができた等の特段の事情がない限り、信義則上、Xに対し、本件駐車場が近い過去に集中豪雨のために浸水し、駐車されていた車両にも実際に被害が生じた事実を、X又は仲介業者であるAに告知、説明する義務を負う」と判示し、あわせて、かような判断が、消費者契約法3条によるXの立場に沿う。
①についての一般的認識についての予見可能性があったとそてもその影響を受けない。
そのうえで、「Xは、過去に本件駐車場が現に浸水して車両の被害も発生した事実を認識していれば、本件賃貸借契約自体を締結しなかった可能性が高い」
⇒義務違反と損害の因果関係を認め、被害を受けた車の時価と弁護士費用についてのXの損害賠償請求を肯定(過失相殺なし)。
  知財p87
東京地裁H27.4.24  
  本件特許出願が発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたことの立証がない⇒特許法123条1項6号及び104条の3第1項に基づき特許権の行使ができない
  事案 発明の名称を「液晶表示装置」とする特許権を有するXが、Yに対し、Yが輸入・販売する製品(Y各製品)は本件発明の技術的範囲に属しており、Yによる前記行為が本件特許権の侵害に当たる⇒民法709条に基づき、不法行為による損害賠償を求めた事案。
Y各製品は、Z(韓国法人、被告補助参加人)が製造した液晶モジュールを搭載。 
  規定 特許法 第49条(拒絶の査定)
審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。

七 その特許出願人がその発明について特許を受ける権利を有していないとき。
特許法 第123条(特許無効審判)
特許が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係るものについては、請求項ごとに請求することができる。

六 その特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき(第七十四条第一項の規定による請求に基づき、その特許に係る特許権の移転の登録があつたときを除く。)。
  争点 ①Y各製品はの本件発明の技術的範囲への属否等
②本件出願が冒認出願(特許法123条1項6号)に当たるか否か
  判断 冒認出願に係る主張立証責任について、特許出願がその特許にかかる発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりなされたことについての主張立証責任は、特許権者が負担すると解するのが相当であり、特許法104条の3第1項所定の抗弁においても同様に解すべき。
先に出願したという事実は、出願人が発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であるとの事実を推認する重要な間接事実
⇒特許権侵害訴訟において、発明者性に関し特許権者の行うべき主張立証の内容及び程度は、冒認出願を疑わせる具体的な事情の内容、それに関する被告の主張立証活動の内容及び程度がどのようなものかによって大きく左右される。
仮に被告が、冒認を疑わせる具体的な事情を何ら指摘することなく、かつ、その裏付け証拠提出していないような場合は、特許権者が行う主張立証の程度は比較的簡易なもので足りるが、他方、被告が冒認を裏付ける事情を具体的詳細に指摘し、その裏付け証拠を提出するような場合は、特許権者において、これを凌ぐ主張立証をしない限り、主張立証責任が尽くされたと判断されることはない。
発明者とは、当該発明の技術的思想の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者をいい、本件発明の構成要件のEないしHの構成である。
本件発明の構成要EないしHの構成をAi(Xの代表者)が着想したと認めることはできず、Aiは本件発明の発明者とはいえない。
⇒請求棄却。
  解説 特許出願は、対象となる発明に係る特許を受ける権利を有する者によってなされる必要があり、この要件を欠く出願(冒認出願)については、拒絶理由(特許法49条7号)及び特許成立後は無効理由(同法123条1項6号)が認められる。
●冒認出願であることを理由として請求された特許無効審判における、冒認出願に係る無効理由についての主張立証責任:
特許権者が当該責任を負う(知財高裁)。
それらの判決の一部は、先に特許出願がなされた事実により、出願人が発明者であること又は特許を受ける権利を承継した者であることが推認される旨を述べる。
共同出願違反(特許法38条違反)であることを理由として請求された特許無効審判における扱いについて、知財高裁H25.3.13は、審判請求人側が自ら共同発明者であることにつき主張立証責任を負う。
本判決は、特許権侵害訴訟における冒認出願に係る主張立証責任について、特許無効審判におけると同様、特許権者がこれを負うとしつつ、知財高裁が審決取消訴訟において示したものと同趣旨の一般論を述べる。
  労働p110
大阪高裁H28.1.28  
   
  事案 24年以上にわたってA造船会社で鉄板の切断や溶接等の作業に従事していたBが肺がんで死亡⇒その妻Xが、Bの死亡は業務遂行中の石綿ばく露が原因であるとし労働基準監督署長に対し、労働者災害補償保険法(労災法)に基づき遺族補償給付の請求⇒遺族補償給付を支給しな旨の決定⇒その取消しを求めた事案。 
  原審 石綿ばく露による肺がんの業務起因性に関する平成18年度の厚生労働省通達による基準に基づき、Bについては、石綿ばく露作業に従事した期間が10年以上あることは認められるものの、胸膜プラークが存在する高度の蓋然性を基礎付ける事情があるなど基準を満たす場合に準ずる評価をすることもできない
⇒業務起因性を否定し、Xの本訴請求を棄却。
  判断 Aは、石綿ばく露作業従事期間10年という認定基準の要件を満たしていることに加え、Aの肺内に胸膜プラークが存在する相当程度の可能性があることを否定できないことなどを併せて考慮
⇒Aについては認定基準を満たす場合に準ずる評価をすることができると判断し、業務起因性を満たす場合に準ずる評価をすることができる。

業務起因性を否定した本件処分は違法であり、原判決を取り消し、Xの本訴請求を認容。
  解説 労災法7条によれば、労働者の業務災害については保険給付が支給される(7条、16条)。 
業務起因性の認定については各種の通達が出されている。
これらの認定基準通達は、行政解釈であって、直接裁判所を拘束するものではないが、通達の基準は、一般的に認められている医学的知見に基づいて定型化された経験則⇒裁判でも、これらの認定基準を満たしているかが立証対象とされていることが多い。
  刑事p138
広島高裁岡山支部H28.1.6  
  強盗致死罪は強盗殺人罪に対して、刑訴法435条6号の「軽い罪」となる。
  事案 2件の強盗殺人等の罪で有罪とされ死刑が確定した者から、そのうち1件の強盗殺人罪につき、強盗致死罪であることの新たな証拠を発見⇒再審の請求がなされた事案。
  規定 刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕 
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。

六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
刑法 第240条(強盗致死傷)
強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
  判断 強盗致死罪は、原判決において認めた強盗殺人罪より軽い罪に該当すると解すべきであるとの判断を示した上で、証拠の新規性または明白性を否定し、請求を棄却。

①強盗殺人罪が故意犯であるのに対し、強盗致死罪は結果的加重犯であって、その違法性には大きな差があり、異なる犯罪類型であるということができ、刑法240条後段は、その構成要件とする結果を導く基本行為に違いを認めていると解され、刑訴法435条6号が規定するのは「軽い罪」であって「軽い刑」ではないから、法定刑が同じ罪を「軽い罪」に当たると解することが文理上不可能であるとまではいえない。
②量刑においても、強盗殺人罪の場合は死刑適用事例もみられるのに対し、強盗致死罪には死刑を適用しない取扱いが裁判の関連となっており、実際の救済の必要性が高い。
③最高裁昭和29.10.19は、違法性に類型的な違いはない事案における判断であり、類型的に違法性に違いがある本件の場合と同一に考えることはできず、その他の最高裁判例も事案が異なり本件には当てはまらない。
  解説 刑訴法435条6号によれば、①「無罪若しくは免訴」、②「刑の免除」、③「確定判決の罪より軽い罪」を求める再審は可能であるが、
「公訴棄却」や「刑の軽減」あるいは単に「より軽い刑」を求める再犯は予定されていない。
最高裁は、大審院の判例を踏襲し、「軽い罪」とは「その法定刑の軽い他の犯罪」を意味するものと解してきた。
最高裁昭和29.10.19は、
「本件犯行当時の食糧管理法によれば、買受、売渡、運搬の行為はいずれも同法9条1項の規定による命令に違反する行為として法定刑を同じくする同法31条の罰則の適用を受けるものである」との理由から刑訴法435条6号の原判決において認めら罪より軽い罪を認めるべき場合に当たらないとされた。
本判決は、刑法240条後段のように殺人と傷害致死という犯罪類型の異なる行為が強盗との結合犯として同一の法定刑が定められている場合、刑訴法435条6号のいう「軽い罪」に当たるか否かは、法定刑を基準とすることなく、実際の量刑における刑の適用の違い(死刑を適用しているか否か)を踏まえて判断すべきことを示したもの。
2303   
  行政p27
京都地裁H27.11.6   
  「日本人の配偶者等」の在留資格取得の要件と判断の裁量
  事案  中華人民共和国の国籍を有し、「特定活動」の在留資格で本邦に在留していたX(女性)が、「日本人の配偶者等」の在留資格への変更申請⇒日本人との婚姻関係の実体がないとして不許可処分(「本件不許可処分」)。その後、退去強制手続において、出入国管理及び難民認定法(「入管法」) 49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決(「本件裁決」)を受け、退去強制令書の発付(「本件退令発付処分」)。

本件不許可処分、本件裁決及び本件退令発付処分がそれぞれ違法であるとして、その各取消しを求めた。
  判断 最高裁H14.10.17:
「日本人の配偶者等」の在留資格をもって本邦に在留するためには、単にその日本人配偶者との間に法律上有効な婚姻関係があるというだけでは足りず、当該外国人が本邦において行おうとする活動が日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当することを要し、日本人との婚姻の届出をした外国人であっても、両者の間にこのような特別な関係があるとはいえない場合、すなわち、社会生活上婚姻関係といえるような実質的基礎を欠いている場合には、その者の活動は日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当するということはできないと解すべきである(活動要件必要説)。 
XとBは別居していたが、ラインやメールのやり取り等からすれば、同人らの関係は、真摯な意思をもって共同生活を営むものであり、社会生活上婚姻関係といえるような実質的基礎を欠いているとはいえない。
⇒本件不許可処分は、裁量の範囲を逸脱し、又は、その濫用があったものとして違法。
在留特別許可をしないでされた本件裁決は、裁量権が広範であることを前提としても社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものであるとして違法。
  解説  外国人が本邦に上陸し在留するには、在留資格を有することが必要であり(入管法2条の2)、在留資格の種類は、入管法別表に掲げられている。 
「日本人の配偶者等」としての活動要件を充たすにはどのような活動が必要か?
行政解釈では、配偶者としての活動は「社会通念上夫婦として共同生活を営むこと」であるとされている。
本判決:
「日本人の配偶者等」で必要とされる活動要件は、外国人と日本人との婚姻関係が実体を伴う限り充足しており、活動要件を充足するために特別な活動が求められることはなく、婚姻概念が多様化している今日、「同居」のみを特別扱いするのは相当ではなく、同居の有無も婚姻関係に実態があるか否かを判断する一要素にすぎない。
XとBには、努力すれば完全に同居できていた可能性はあるものの、別居状態であったとしても、判示の事情を考慮して、XとBとの間には婚姻関係の実体が認められる。
  在留資格変更許可申請不許可処分が違法と判断された場合、その後に続く退去強制手続きにおける処分が当然に違法となるか(=違法性の承継があるか)? 
本判決:
現行法上在留資格変更手続と退去強制手続とは、その判断機関や処分要件等において全く別個の手続として構成されている
⇒両者間には、同一の行政目的を追求する手段と結果として位置づけられ両者が相まって1つの効果を完成させる関係があるとは考えられない
⇒本件不許可処分の違法性が本件裁決に承継されることはない。
  民事p41
最高裁H28.4.21  
  拘置所の収容された被勾留者に対する国の安全配慮義務(否定)
  事案 大阪拘置所に未決勾留されていたXが、同拘置所医務室の医師において、Xの当時の身体状態に照らして不必要な処置を実施したことが、拘置所に収容された被勾留者に対する診療行為における安全配慮義務に違反し債務不履行を構成 ⇒国であるYに対し損害賠償を求めた事案。
  原審 拘置所に収容された被勾留者に対する診療行為に関し、国と被勾留者との間には特別な社会的接触の関係があり、国は、当該診療行為に関し、安全配慮義務を負担している
⇒Xの請求を一部認容 
    Yが上告受理申立
  判断 国は、拘置所に収容された被勾留者に対し、その不履行が損害賠償責任を生じさせることとなる信義則上の安全配慮義務を負わない。

(未決勾留は、刑訴法の規定に基づき、逃亡又は罪証隠滅の防止を目的として、被疑者又は被告人の居住を刑事施設内に限定するものであって、このような未決勾留による拘禁関係は、勾留の裁判に基づき被勾留者の意思にかかわらず形成され、法令等の規定に従って規律される
⇒未決勾留による拘禁関係は、当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上の安全配慮義務を負うべき特別な社会的接触の関係とはいえない。)
  解説 最高裁昭和50.2.25:
「安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められる」
「国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設若しくは器具等の設置管理又は公務員が国若しくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っている」
消滅時効の期間以外については不法行為責任と基本的に変わるところがない旨の指摘も多い。
学説上、「安全配慮義務」は、契約上の義務(債務不履行責任)として捉えられることが多い。
その根拠:
A:相手方を危険にさらす接触関係を重視して債務不履行責任を導く見解
B:給付内容を中心とする契約内容との問題を重視して債務不履行責任を導く見解
最高裁:
雇用関係、公務員関係、元請企業と下請企業の労働者の関係等について肯定
~雇用関係ないしこれに類似するもの

下級審判例:
雇用契約及び公務員関係のほか、私立学校の在学契約及び国公立学校の在学関係等、広い分野で安全配慮義務の適用がみられる。
  受刑者を含む強制的な収容関係に係る安全配慮義務の適用の有無:
A:適用肯定説

収容施設の設置管理者には法律に基づいて被収容者が最低限の生活を送ることができるようにすべき義務がある⇒「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者」に当たる。

〇B:適用否定説

①施設収容は法律上の規定に基づくものであり、そこでは収容施設の設置管理者と被収容者との契約関係が存在せず、収容施設の設置管理者の基本的な給付義務というものを想定することは困難。
②収容施設が負う被拘束者の身体・生命の安全を保護すべき責任ないし義務は身柄拘束に伴う国・地方公共団体の強制力行使に本来的に内在する一般的な義務であって、国・地方公共団体と被拘束者との関係は自由な意思に基づくものではないため、そこに契約関係又はこれに類似する法律関係を構成することは困難
  民事p44
大阪高裁H28.2.29  
  国が行う国有林分収育林契約と説明義務違反(肯定)
  事案 国有林野に生育している樹木の共有持ち分を譲渡し、その者から持分の対価及び当該樹木についてY(国)が行う保有及び管理に要する費用の一部の支払を受け、育林による収益をYと費用負担者が分収するという保険分収育林制度に関し、Yと分収育林契約を締結し、1口50万柄を出資。
⇒Yの担当者の違法な勧誘によって分収育林契約を締結し、出資金に相当する損害を被った等と主張し、国賠法1条1項に基づき損害賠償を請求。 
  判断  分収育林契約を締結する費用負担者は、通常は、損益にかかわらず国有林野の整備に貢献しようとするのではなく、国有林野の整備に寄与しつつ、一方では何らかの収益を得られる投資目的で契約を締結しようとしたものと推認することができる。

元本割れリスクの有無は費用負担者にとって契約締結の重要な考慮要素に当たり、この点に関する費用負担者の利益を保護する必要がある。 
Yは分収育林契約の締結に当たり、元本割れリスクについて説明しなかった⇒Yの損害賠償責任を肯定
分収育林契約には元本割れリスクがないと信じたことに過失相殺をする程の落ち度があるとはいえない。
⇒過失相殺を否定。
  解説 金融商品取引については、事業者は顧客に対し、金融商品取引契約の概要等を説明すべき義務を負うが(金商法37条の3参照)、その説明義務の範囲・程度は、商品の性格、危険性の程度、社会への浸透度、周知度、勧誘の態様、顧客の職業、年齢、財産状態、投資経験、購入目的等を総合的に判断して個別具体的に決定される。 
本判決は、本件分収育林契約は投資目的て締結されたものであると推認できるとした上で、金融商品取引と同様、Yに元本割れリスクの説明義務違反を認めたもの。
  民事p69
東京地裁H27.12.3
  (当時の)内閣総理大臣の対応を批判した野党国会議員によるメールマガジンの記事と名誉毀損の不法行為(否定)
  事案 東日本大震災後発生した原子力発電所事故当時の内閣総理大臣の対応を批判した野党の国会議員(その後の政権交代により、内閣総理大臣に就任)のメールマガジンの記事につき名誉毀損の不法行為責任が問題となった事案。 
  争点 ①社会的評価の低下の有無
②真実性又は相当性の抗弁の成否
③本件記事掲載継続による不法行為の成否
④損害額
⑤謝罪広告の当否 
  判断 本件記事はXの本件事故の対応を批判し、政治的責任を追及したものであるが、その内容はXの内閣総理大臣の資質に疑問を抱かせるもの⇒Xの社会的評価を低下させるもの。
政治論争である等のYの主張を排斥。 
  本件記事の公共性、公益性を認め、真実性については、Xには東京電力において開始した海水注入を中断させかねない振る舞いがあり、海水注入に関する本件記事は重要な部分で真実であった。 
  論評の相当性も認め、名誉毀損に係る不法行為を否定。
バックナンバーとして本件記事の掲載を継続したことについては、本件記事の重要部分が真実であるとしてバックナンバーに掲載されたにすぎない
⇒不法行為を否定。
  解説 本判決が社会的評価の低下を認めた判断については、事柄の本質が政治論争であることに照らすと、今後の議論が残る。 
  民事p81
東京地裁H27.10.9  
  社会福祉法人の理事による承認決議を経ない金融商品取引と民法110条類推(肯定)
  事案  社会福祉法人の理事が理事会の承認決議を経ることなく行った投資取引につき、主として民法110条の類推適用の可否、当否が問題となった事案。 
XのA理事は、銀行業を営むZ株式会社の従業員の勧誘、説明を受け、平成17年6月、会長B名義で、証券業を営むY株式会社から発行額5億円の為替リンク債を購入(発行体ドイツ復興金融公庫)、同年12月、同様に、発行額3億円のユーロ円建為替リンク債を購入、平成18年9月、当時会長になっていたAは、会長名義で発行額3億円のユーロ円建為替リンク債を購入(発行体ノルウェー地方金融公社)。
以上の契約は、Xの理事会の決議を経ることなく行われていた⇒Xは、Yに対して、各金融商品の購入が理事会決議を経ることなく無断で行われ、無効であると主張し、不当利得返還請求権に基づき購入代金合計11億円の返還を請求。
ZがYのために補助参加。
  規定 旧民法 第54条(理事の代理権の制限)
理事の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
  争点 ①代金支払につき法律上の原因がないか
②信義則違反・権利濫用の適否
③Yの悪意・重過失
④返還義務の範囲等
  判断 社会福祉法39条2項は、定款に別段の定めがない場合、社会福祉法人の業務は、理事の過半数をもって決すると定めている。
Xには定款に別段の定めがない

会長といっても、代表権の行使には理事会決議が必要。 
本件契約1ないし3は、Aが独断によって理事会決議を経ることなく締結したもので、社会福祉法上の理事の代表権の制限は、その範囲を超える代表権がはじめから存在せず、本来存在したはずの代表権の制限ではない
⇒民法93条の類推適用は認められない。
社会福祉法人は、同38条ただし書、39条の規定、旧民法54条の準用規定がない⇒事業の公共性に配慮して理事の業務執行についての法人の内部的意思決定を重視するものであるとしつつも、民法110条の類推適用を肯定。
第三者において理事が具体的行為を行うことについて理事会の承認決議を得て適法に法人を代表するものと信じ、かつ、このように信じるにつき第三者に正当な理由があるとき、すなわち第三者には過失がなく、むしろ法人の責に帰すべき事由があるようなときには、法人は、理事が理事会の承認決議を得ないで行った行為について責任を負う。
①AがZの従業員に理事会の承認決議を経た旨の発言をした
②理事会の議事録の提出を求めなかったものの、内部の規定に違反していない旨の記載のある書面に代表者の記名押印を得た
⇒Zの過失はなく、善意無過失。
⇒Zを登録金融機関として商品の仲介を委ねていたYは、Zと同様に善意無過失。
他方で、Xには、Aの言動、提出した書類から帰責事由あり。

民法110条の類推適用により、本件契約1から3はいずれも有効であるとして、請求を棄却。
  解説 事業の公共性が比較的強い社会福祉法人の理事の取引につき民法110条の類推適用を肯定。
これは、地方自治体のの長の行為につき同条の類推適用を認める判例(最高裁昭和24.7.14)、漁業協同組合についての最高裁昭和60.11.・29に沿ったもの。
本件のように民法110条の類推適用が認められる場合における「代理人の権限があると信ずべき正当な理由」の判断は、同条の適用の場合と比較して厳格に評価すべきではないか、容易に理事会の議事録(写しを含む)の交付要求、閲覧をしなかったことをどのように評価するか等の議論があるが、本判決は、公社については善意・無過失の判断を左右しないとした。
  民事p90
津地裁H28.2.4  
  市立中学校の女子バレーボール部の顧問教師による暴行、暴言と教育懲戒権(違法)
  事案 市立中学の女子バレーボール部の顧問であるY1教諭の暴力及び暴言⇒X1及びその両親であるX2、X3が、Y1教諭に対しては不法行為(民法709条)に基づき、中学校を設置しているY2市に対しては国賠法1条1項に基づき損害賠償請求をした事案。
  判断 体罰ないし正当な懲戒権の範囲を逸脱した行為は違法であるところ、これを判断するには、「生徒の年齢、性別、性格、成育過程、身体的状況、非行等の内容、懲戒の趣旨、有形力行使の態様・程度、教育的効果、身体的侵害の大小・結果等を総合考慮して、社会通念に則り判断」すべきである。 
Y1教諭の暴力は、
①非違行為に対するものではないこと、
②Y1教諭が自制できず、その感情(怒り)をX1にぶつけたものであること
③本件暴力は身体に対する直接的な有形力の行使であること
④本件暴力により教育的効果は認められないこと


本件暴力は体罰ないし正当な懲戒権の範囲を逸脱した違法な行為である。
M中学校は、学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係における生徒の安全を確保すべき義務を負っているところ、同校の校長はY1による違法な暴力等を認識し又は認識し得たにもかかわらず、再発防止に向けた行動を取らなかった
⇒平成24年7月以降は、同校長には安全配慮義務違反がある。
⇒Y2しは、X1に対し慰謝料150万円の限度で賠償責任がある。
Y1教諭に対しては、公務員個人は直接被害者に対し損害賠償を負わない
⇒請求棄却。
両親X2、X3の請求:
①被侵害利益として主張する「子が適切な環境で教育を受ける」権利ないしは法律上保護される利益は、その内容からすれば主体はあくまで子供であって、その親自身はこの権利主体としての地位が認められるわけではないこと、
②子どもへの賠償によって親の受けた精神的苦痛も慰藉されたと評価され、それとは別に独立して評価される性質のものではない
⇒請求棄却。
  解説 行為の程度もいわば身体的説諭・訓戒・叱責として、口頭によるそれと同一視してよい程度の軽微な身体的侵害にとどまっているとして正当な懲戒権の行使として許容された限度内の行為であるとして責任を否定した例として、最高裁H21.4.28等。 
  商事p101
大阪地裁H27.10.23 
  人身傷害保険金と車両保険金の酒気帯び免責(肯定)
  事案 交通事故による、保険契約に基づく、人身傷害保険金・車両保険金の請求事案で、酒気帯び免責が問題となった事案。
Xは、本件事故後に救急搬送先の病院で飲酒検知を受け、呼気1リットル中0.1ミリグラムのアルコールが検出。
本件免責約款:
被保険者が道路交通法65条1項に定める酒気帯び運転またはこれに相当する状態で被保険自動車を運転している場合に生じた損害に対しては、保険金を支払わない。
  規定 第65条(酒気帯び運転等の禁止)
何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。
  判断 本件免責特約にいう道交法65条1項に定める酒気帯びとは、社会通念上酒気を帯びているといわれる状態をいい、具体的には、通常の状態で身体に保有する程度以上にアルコールを保有していることが、顔色、呼気等により、外観上認知することができるような状態にあることを言う。 
Xの主張:
本件約款が、違法薬物を服用しての自動車の運転に間し、当該薬物の影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転に限り免責と認めていることとの均衡⇒本件免責特約が適用されるのは、道交法65条1項に定める酒気帯び運転のうち、酒気帯びの影響による正常な運転ができないおそれがある状態での運転の場合に限られる。
vs.
①本件免責特約は、Xが指摘する違法薬物に関する免責特約と異なり、正常な運転ができないおそれがある状態である運転であることを明文上の要件としていない
②道交法の規制も酒気帯び運転と薬物を服用した運転とでは異なっている。
本件事故後のXの状況等を認定し、本件免責特約を適用し、XのY1に対する請求を棄却。
  経済p105
東京高裁H28.1.29  
  外国法人であるXが、他の事業者と共同して、日本法人である5社が日本国外に所在する当該事業者の現地製造子会社等に購入させるテレビ用ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨を合意⇒独禁法違反(肯定)。
  事案 公正取引委員会は、外国法人であるXが、他の10社と共同して、日本法人である5社が日本国外に所在する当該事業者の現地製造子会社等に購入させるテレビ用ブラウン管(「本件ブラウン管」)の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨を合意すること(「本件合意」)により、、公共の利益に反して、本件ブラウン管の販売分野における競争を実質的に制限⇒独禁法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し、同法3条の規定に違反するもので、かつ、同法7条の2第1項1号に規定する商品の対価に係るもの⇒Xに対して、13億7362万円の課徴金の納付を命じた(「本件課徴金納付命令」)
Xは、本件課徴金納付命令に関する手続が違法である上、本件については我が国の独禁法が適用されないなどと主張⇒本件課徴金納付命令の取消しを求めて審判請求⇒公正取引委員会は、これを棄却する旨の審決(「本件審決」)
⇒Xが、①本件課徴金納付命令に関する手続が違法であるし、②本件合意は日本国外で行われたものであり、本件ブラウン管の取引も日本国外でされたのであるから、独禁法が適用されるべきではない。
⇒本件審決の取消しを求めた。
  規定 独禁法 第3条〔私的独占又は不当な取引制限の禁止〕 
事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。
独禁法 第7条の2〔私的独占・不当な取引制限に係る課徴金〕
事業者が、不当な取引制限又は不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定若しくは国際的契約で次の各号のいずれかに該当するものをしたときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、当該事業者に対し、当該行為の実行としての事業活動を行つた日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間(当該期間が三年を超えるときは、当該行為の実行としての事業活動がなくなる日からさかのぼつて三年間とする。以下「実行期間」という。)における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額(当該行為が商品又は役務の供給を受けることに係るものである場合は、当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した購入額)に百分の十(小売業については百分の三、卸売業については百分の二とする。)を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、その額が百万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
  争点 ①本件課徴金納付命令に関する手続の適法性
②本件に独占禁止法3条後段を適用することができるか否か
③本件ブラウン管の売上額は独禁法7条の2第1項の「当該商品の売上額」に該当し、課徴金の計算の基礎となるか 
  判断 課徴金納付命令に関する手続は適法。
本件合意は、本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格、購入数量等の重要な取引条件について実質的決定をする我が国ブラウン管テレビ製造販売業者を対象にするものであり、本件合意に基づいて、我が国に所在する我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との間で行われる本件交渉における自由競争を制限するという実行行為が行われた

これに対して我が国の独禁法を適用することができることは明らか。
本件ブラウン管は独禁法7条の2第1項にいう「当該商品」に当たる
⇒独禁法施行令5条に基づき算定された本件ブラウン管の売上額が課徴金の計算の基礎となる。
  解説 本件は、公正取引委員会が、日本法人の海外子会社が購入する部品について、日本国外において独禁法2条6項に規定する行為(本件合意)がされたケースについて、日本の独禁法を適用して摘発した初めてのケース。 
  刑事p131
名古屋高裁H27.11.16
  被告人の訴訟能力の欠如と公訴棄却(事案として否定)
  事案 訴訟能力に問題があって長期間公判手続が停止していた被告人について、公訴棄却という形で手続を打ち切った原審についての控訴審の判決。 
  問題点 ①平成9年以来公判手続の停止が続けられてきた被告人の訴訟能力の有無及び回復可能性
②回復可能性がない場合に、裁判所が検察官の公訴取消しを待たずに、手続を打ち切ることができるか
③打ち切ることができるのはどのような場合か 
  規定 刑訴法 第314条〔公判手続の停止〕
被告人が心神喪失の状態に在るときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定で、その状態の続いている間公判手続を停止しなければならない。但し、無罪、免訴、刑の免除又は公訴棄却の裁判をすべきことが明らかな場合には、被告人の出頭を待たないで、直ちにその裁判をすることができる。
刑訴法 第338条〔公訴棄却の判決〕
左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
一 被告人に対して裁判権を有しないとき。
二 第三百四十条の規定に違反して公訴が提起されたとき。
三 公訴の提起があつた事件について、更に同一裁判所に公訴が提起されたとき。
四 公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。
憲法 第37条〔刑事被告人の諸権利〕
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
  判断
・解説
●被告人の訴訟能力 
非可逆的な慢性化した統合失調症や脳萎縮の影響により、意思疎通能力がほぼ完全に失われている。
訴訟能力の回復に見込みがないといした原判決の判断に誤りがあるとはいえない。
~被告人の訴訟能力に関する専門家の鑑定書や意見書のうち、より信用性が高いと思われるものを採用。
●手続打切りの可能性 
訴訟能力がないという理由で公判手続が停止している事件:
検察官が公訴を取り消すまで、その時々の被告人の訴訟能力を適宜の方法で調査して、公判手続の停止が続く(多くは勾留の執行停止をして、精神病院に収容されており、停止期間延長がされている。)というのが実情。
原審は、理論的な検討を経て、公訴棄却という形式裁判で手続打切りを図った。
訴訟能力を重要な訴訟条件と位置付けた上で、公訴提起後にその条件を欠き、後発的に、「公訴提起の手続がその規定に違反したため無効」になった⇒刑訴法338条4号により控訴棄却。
本判決:
基本的には裁判所が手続を打ち切ることはできない。

①刑訴法上の規定丁、訴訟条件を欠いた場合には、管轄違い、公訴棄却、免訴などの形式裁判での手続の打切りが用意されているのに対し、公判手続の停止が続く場合にはそのような規定がない。
②当事者追行主義からみて、訴追の権限を独占的に有している検察官による公訴取消しの合理的な運用が期待されている。
but
高田事件の最高裁判決(最高裁昭和47.12.20)を引用し、検察官が公訴を取り消さないことが明らかに不合理であると認められるような極限的な場合には、憲法37条1項の趣旨に照らし、裁判所が訴訟手続を打ち切ることができる。
●手続打切りの具体的適用 
①長期間にわたって審理が放置されてきた事案と同視できない
②2名のの被害者が亡くなっている凶悪重大事案で、遺族の処罰感情も峻烈

公訴を取り消さない判断をした検察官の裁量を合理的でないと断定することもできない。
検察官が公訴を取り消さないことが明らかに不合理であると認められる極限的な場合には当たらない。

原判決は刑訴法338条4号の解釈適用を誤り、不法に控訴を棄却し、原判決を破棄し差し戻した。
2302   
  行政p29
東京地裁H27.12.15  
  抗告訴訟の対象となる行政処分・支給対象事業主に該当することの確認と確認の利益
  事案 障害者を雇用する事業者であるXが、独立行政法人高齢・障害・休職者雇用支援機構法に基づき設立された独立行政法人であるYに対し、Yの定める障害者雇用納付金関係助成金支給要領に基づき、障害者の雇用の促進等に関する法律49条1項5号及び障害者の雇用の促進等に関する法律施行規則20条の3の定める重度障害者等用住宅の賃借助成金の受給資格の認定申請

Yから、本件申請に係るXの本件助成金の受給資格は認定できない旨の決定

①主位的には、本件不認定決定が抗告訴訟の対象となる処分に当たることを前提として、本件不認定決定の取消し及び本件申請に係る本件助成金の受給資格を認定する旨の決定の義務付けを
②予備的には、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして、Xが本件申請に係る本件助成金の支給につき、支給対象事業主であることの確認を求める事案
  争点 ①本件助成金の受給資格に係る認定又は不認定の決定は、抗告訴訟の対象となる処分に当たるか
②本件確認の訴えには、確認の利益があるか
③Xは、本件助成金の支給対象事業主に当たるか 
  判断 ①法、施行規則及び本件告示は、本件助成金の支給手続について何ら具体的な定めも置いておらず、②本件助成金の受給資格の認定は、専らYの定める本件支給要領において規定された手続にすぎない

本件助成金の受給資格に係る認定又は不認定の決定は抗告訴訟の対象となる処分には当たらない

本件不認定決定の取消し及び本件申請に係る本件助成金の受給資格を認定する旨の決定の義務付けを求める訴えを却下。
本件助成金の受給資格の認定申請をした事業主が受給資格の認定がされるべき事業主に当たるか否かは当該事業主の法律上の地位に関わる事柄
⇒本件確認の訴えについて確認の利益を肯定
Yは、本件助成金の申請をする者が支給対象事業主に該当するか否かの判断につき裁量権を有しており、Xの本件助成金支給対象事業主と認めない旨のYの判断は裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たらない
⇒本件確認の訴えを棄却
  解説 ●抗告訴訟の対象となる処分
抗告訴訟の対象となる処分とは「公権力の主体たる国又は地方公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているもの」(最高裁昭和39.10.29) 
本件助成金の支給のような給付行政は、本来的に非権力的な性質を有するものの、法律の千酌から当該給付に係る行為が処分と構成されていると合理的に解釈される場合には、当該行為は処分として取り扱われるものとされている。
最高裁H15.9.4:
具体的な支給対象者、支給額、支給手続等が支給要領において定められている労働者災害補償保険法(平11法60号による改正前のもの。)23条1項2号に基づく労災就学援護費につき、その支給に関する決定は処分に当たる旨判示しているが、
本判決は、法、施行規則等の規定から、前掲の判例とは事案が異なるとして、本件助成金の受給資格の認定、不認定の地位は処分に当たらないと判断。
●助成金等の支給を受けることのできる地位(又はこれに類する地位)を有することの確認の利益
①本件助成金の支給は公益的性格を有しており、契約自由の原則が無制約に妥当するものとは解されない
②法51条1項は、一定の基準に従って本件助成金を支給すべきことを要請しており、Yとしては、本件助成金の支給につき、特段の合理的理由のない限り、関係法令等の定める支給要件等の基準と異なる取扱いをすることは許されない
⇒本件確認の訴えの確認の利益を肯定。
中小企業における労働力の確保及び良好な雇用の機会の創出のための雇用管理の改善の促進に関する法律等に基づく中小企業基盤人材確保助成金につき、その支給を受けられる地位にあることの確認の利益を認めた東京地裁H18.9.12
  民事p43
最高裁H28.3.15  
  武富士の仕組債を運用対象金融資産とする信託取引と証券会社の説明義務違反(否定)
  事案 更生会社であるTFK株式会社の管財人Xが、旧武富士において、社債の実質的な早期償還をするために、Y1により組成され、Y2の販売する仕組債(「本件仕組債」)を運用対象金融資産とする信託契約を含む一連の取引を行った際、Yらに説明義務違反等があったと主張し、Yらに対し、不法行為等に基づく損害賠償を求める事案。 
本件取引:
旧武富士が本件社債の償還原資を信託し、受託者がその償還原資を金融資産により運用して、その運用利益等を受益者に配当し、受益者がその配当金を原資として本件社債の財務代理人に本件社債の元利を支払うというもの。
Y2は、平成18年2月、旧武富士の担当者らに対し、インデックスCDSを組み込んだ本件仕組債を本件取引における運用対象金融資産とすることを提案し、インデックスCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)について説明。
CDSは、参照対照となる企業その他の組織(「参照組織」)につき、その倒産、不払などのリスクを回避したい者(保証の買手)がそのリスクを引き受ける者(保証の売手)に対し保証料を支払い、その参照組織につき倒産、不払等の事由が発生した場合に保証の売手が保証の買手に対し前記事由に応じた所定の金額を支払うことなどを内容とする金融商品。
複数のCDSの市場価格を平均値により指数化したものを用いたのがインデックスCDS。
  一審 Xの請求を棄却。 
  原審 ①説明した時期がキックオフミーティング以後でかつデューディリジェンスの予定期間の経過後
②旧武富士の担当者が金融取引につき基礎的な知識があるにとどまる
③英文の説明文書の訳文を交付しなかった
⇒Yの説明義務違反を肯定し、一部認容。 
  判断 ①本件仕組債の具体的な仕組み全体は必ずしも単純ではないが、上告人メリルリンチ証券は、甲野らに対し、シグマ債を本件担保債券として本件インデックスCDS取引を行うという本件仕組債の基本的な仕組みに加え、本件取引には、参照組織の信用力低下等による本件インデックスCDS取引における損失の発生、発行者の信用力低下等によるシグマ債の評価額の下落といった元本を毀損するリスクがあり、最悪の場合には拠出した元本300億円全部が毀損され、その他に期日前に償還されるリスクがある旨の説明をしたというべき。
②武富士は、消費者金融業、企業に対する投資等を目的とする会社で、その発行株式を東京証券取引所市場第一部やロンドン証券取引所に上場し、国際的に金融事業を行っており、本件取引について、公認会計士及び弁護士に対し上告人メリルリンチ証券から交付を受けた資料を示して意見を求めてもいた。

武富士において上記説明を理解することが困難なものであったということはできない。
原審は、上告人メリルリンチ証券による①本件担保債券をシグマ債としたこと、②本件仕組債の仮装資本元帳における具体的な記載内容、期日前償還となった場合の清算金額の計算方法等、③本件仕組債の評価額につきシグマ債の発行者の信用状況が影響すること、④本件仕組債に係る費用の正確な額、⑤上告人メリルリンチが本件仕組債の計算代理人に就任することといった事項の提示時期を問題とする。
but
①上記各事項が提示された時点において、武富士が本件取引に係る信託契約の受託者や履行引受契約の履行引受者との間で折衝に入り、かつ、上記事前調査の予定期間が経過していたからといって、本件取引の実施を延期し又は取りやめることが不可能又は著しく困難であったという事情はうかがわれない。
②本件仕組債が上告人メリルリンチ証券において販売経験が十分とはいえない新商品であり、甲野らが金融取引についての詳しい知識を有しておらず、本件英文書面の訳文が交付されていないことは、国際的に金融事業を行い、本件取引について公認会計士らの意見も求めていた武富士にとって上記各事項を理解する支障になるとはいえない。

上告人メリルリンチ証券が本件取引を行った際に説明義務違反があったということはできない。
  解説 契約交渉に入った者同士の間では、誠実に交渉を行い、一定の場合には重要な情報を相手方に提供すべき信義則上の義務を負い、これに違反した場合には、それにより相手方が被った損害を賠償すべき義務がある(最高裁)。 
信義則上の説明義務の有無、具体的な内容は、各当事者の属性(情報格差の有無及び程度、事業者か否か等)、契約交渉の経過(勧誘行為の有無等)、当該情報の重要性(それによる当該情報を得ていない当事者の自己決定権の侵害の有無及び程度等)等から決せられる。
金融取引についての説明義務の内容、程度、方法は、当該商品の仕組み等の複雑性、取引によるリスクの大きさ、これらの周知性、投資家の理解能力等との相関関係によって定まるものと解されている。
  仕組債取引による下級審裁判例:
原則として、仕組債の販売者は、 
①当該仕組債の基本的な内容及び損失が生ずる主要な危険性について説明する義務を負い、原則としてそれらの説明で足りるが、
②当該仕組債が複雑であり、危険性が高ければ、より具体的な説明が求められ、
③顧客の投資経験や理解力によっても、当該販売者の説明すべき内容の具体性が左右される
ものと考えられている。
最高裁は、金利スワップ取引に関する事例判例(最高裁H25.3.7)において、
①前記取引が単純な仕組みであり、企業経営者であれば、その理解が一般に困難でないこと、
②前記取引の相手方である銀行がその基本的な仕組み等及びリスクの説明をしたこと
③前記取引の締結前に顧客に対して交付された書面には、中途解約できないことなどが命じされていたこと
⇒銀行に説明義務違反があったということはできない。
  本件は、
①Yらに説明義務違反があったことを理由とする不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求
②Yらに本件仕組債の組成上の注意義務違反があったことを理由とする不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求
③Y1に本件仕組債の計算代理人としての注意義務違反があったことを理由とする不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求
が選択的に併合。
  民事p49
東京高裁H27.2.9  
  相続放棄の意思が欠けていた⇒遺産分割手続から抗告人を排除した決定取消
  事案 抗告人は、共同相続人となる抗告人の亡長女の子(孫)が申し立ててた抗告人の夫の遺産分割調停事件において、その孫の申立てに基づき、抗告人が既に相続放棄の申述をし、これが受理されていることを理由に、同調停の手続から排除するとの決定(原決定)を受けていた
⇒原決定後に選任された抗告人の成年後見人が、抗告人の法定代理人として、本件放棄申述をした当該抗告人は相続放棄の手続を理解する能力を欠く状態にあったから本件放棄申述は無効であるなどと主張して、原決定の取消しを求めて抗告。
  規程 家事事件手続法 第43条(手続からの排除)
家庭裁判所は、当事者となる資格を有しない者及び当事者である資格を喪失した者を家事審判の手続から排除することができる。
2 前項の規定による排除の裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
家事事件手続法 第258条(家事審判の手続の規定の準用等)
第四十一条から第四十三条までの規定は家事調停の手続における参加及び排除について、第四十四条の規定は家事調停の手続における受継について、第五十一条から第五十五条までの規定は家事調停の手続の期日について、第五十六条から第六十二条まで及び第六十四条の規定は家事調停の手続における事実の調査及び証拠調べについて、第六十五条の規定は家事調停の手続における子の意思の把握等について、第七十三条、第七十四条、第七十六条(第一項ただし書を除く。)、第七十七条及び第七十九条の規定は家事調停に関する審判について、第八十一条の規定は家事調停に関する審判以外の裁判について準用する。
  判断 ①抗告人は本件放棄申述をした約1か月半後の時点では平成23年頃から進行し始めた認知症によって精神上の障害が重度で、計算や物事の理解力が低下し、知能指数的には8歳程度の状態にあった⇒本件放棄申述をした時点でも基本的に同様の精神状態であったと認めることが相当。
②抗告人が成年後見手続の鑑定医に対して相続放棄をしたことはないと述べ、本件放棄申述をしたことを自覚していない。
③抗告人にはわずかな年金収入しかないのに、「自分の生活が安定していること」を相続放棄の理由としており、自身の経済状態を的確に把握、理解していたとは認められない。
④抗告人が夫の遺産分割について相続放棄をする合理的な理由が見出し難い。

抗告人は遺産分割調停を申し立てた孫に勧められるなどして、相続放棄の意味を理解できないまま夫の遺産について相続放棄をしたもので、本件放棄申述は、抗告人の相続放棄の意思が欠けるものとして無効。
  解説 家事事件手続法43条1項は、家庭裁判所が当事者となる資格を有しない者及び当事者である資格を喪失した者を家事審判手続から排除することができると規定。
ex.遺産分割手続において、相続を放棄したり、相続分を譲渡、放棄したりして当事者適格を喪失した者がいる場合。
  民事p52
東京地裁H27.10.9  
  分娩を担当した医師の注意義務違反(否定)
  事案 Y1の開設する総合病院において出生したX1が脳性麻痺に至ったのは、分娩を担当した医師(Y2、Y3)の注意義務違反による⇒X1及びX1の両親(X2、X3)が、Yらに対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を請求。
  判断 本件心拍数は母体心拍数を記録したもの。
⇒本件心拍数が胎児心拍数を記録していることを前提とする注意義務に関するxらの主張は前提を欠く。
Y2、Y3が本件心拍数を胎児心拍数と認識していたことを前提としても、産科医療補償制度原因分析委員会が作成した報告書、Xら及びYらのそれぞれの協力医の意見書等を根拠に、本件心拍数の波形は判読が非常に難しいといえる。
⇒Y2、Y3の判断は医療水準に照らし、不適切であるとはいえず、注意義務違反はない。
本件心拍数が母体心拍数を記録していた場合の注意義務違反の有無について、Y2、Y3は、X2に分娩監視装置を装着し、この記録に基づいて経過観察していたものというべきであり、分娩経過中に本件心拍数が胎児心拍するを記録していないのではないかとの疑いを持つことは困難であった
⇒トランスデューサの位置を調整すべき義務があったとはいえない。
分娩第二期における母体管理として30分ごとにその脈拍数を測定することが、医療水準に達していると認めることは困難。
  民事p75
東京地裁H27.10.27  
  死刑確定者である原告にテレビ視聴をさせなかった⇒国賠請求(否定)
  事案 Xは、死刑判決確定者。 
名古屋拘置所長は、判決確定後の平成23年4月13日から同年9月27日までの間、同拘置所に収容されてたXに対し、テレビ視聴をさせなかった
⇒名古屋拘置所長による本件テレビ視聴禁止措置が国賠法1条1項に規定する違法な行為であると主張し、国に対し慰謝料100万円及び弁護士費用10万円の合計110万円の損害賠償を求める訴えを提起。
  判断 本件テレビ視聴禁止措置のうち平成23年4月13日から同年7月3日までのものについて、Xが複数反則行為について調査期間が設けられた後に懲罰が科されたことを認定。
前記期間が本件規程12条3項の定める「規律違反容疑行為による取調期間中及び懲罰執行期間中」に該当する。
本件テレビ視聴禁止措置のうち同年7月4日から同年9月27日までのものについては、Xが死刑確定者として処遇される旨の告知を受けた後も反則行為を行い、反則行為に係る調査を拒否している。

テレビ視聴が刺激の強いものも含まれ得る多種多様な情報に触れるものであるという性質を考慮し、死刑確定者であるXの心情の安定等に配慮して本件テレビ視聴禁止措置をとることが本件規程12条3項の定める「テレビ視聴させることが不適当な事由があるとき」に該当するものと認めた。
⇒名古屋拘置所長の行為に職務上の法的義務違反を認めることができないものとして、Xの請求を棄却。
  解説 拘置所における死刑確定者の処遇について、本件に関する最近の事例としては、死刑確定者である原告による拘置所内において死刑確定者の視聴に供されるビデオ作品の編成及び被収容者に向けて放送されているラジオ番組の編成に偏りがあることが国賠法上の違法に当たるとして損害賠償を求めた請求が棄却された事例(東京地裁)。
  死刑確定者である原告による拘置所内におけるラジオ放送に係るポピュラー音楽主体の番組とクラシック音楽主体の番組の放送時間の比率がおおむね1対1となっていないことを理由として、これを1対1とするよう番組の編成を義務付けるとともに、国賠法1条1項に基づく損害賠償を求めた請求が却下ないし棄却された事例(東京地裁)。
  民事p79
静岡地裁沼津支部H28.3.1  
  遺産分割無効と不当利得返還請求の消滅時効の起算点
  事案 Xは、平成7年12月死亡したAの長男
平成8年9月14日、Aの遺産分割協議書作成
平成26年8月19日、判決確定で、理由中の判断として、Xの裁判上の自白が成立するから本件遺産分割協議が無効と認定

Xは、遺産分割協議に基づき代償金として支払った金員について、Y1及びY2に対し、当該遺産分割協議の無効を理由として、不当利得に基づく返還を求める訴えを提起。
  規程 民法 第166条(消滅時効の進行等) 
消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
2 前項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を中断するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。
  判断 相続人全員が遺産分割協議書に押印した後に、税理士による訂正がなされ、訂正後の内容について相続人全員の了承がなかった⇒本件遺産分割協議書に基づく遺産分割協議は無効。 
①民法166条1項の「権利を行使することができる時」とは、権利行使について法律上の障害がないことであり、XがY1に対し、代償金支払の直後から不当利得返還請求権を行使することができた
②権利の性質上、その権利行使が現実に期待できる時を起算点と解するとしても、不当利得返還請求権の場合には権利の性質に内在する障害がない
③仮に、権利者に当該権利の行使を期待しえないような特段の事情があるときは消滅時効が進行しないと解するとしても、Xが平成8年10月終わりころに本件遺産分割協議の無効を認識しており、前訴判決の確定時点まで消滅時効が進行しないと解すべき特段の事情がない

不当利得返還請求権が時効により消滅。
  解説 消滅時効の起算点(民法166条1項)
A:法律上の障害説
B:法律上の障害がないというだけでなく、権利を行使することができる時とする「現実的期待可能性説」
判例は、Aの立場であると言われており、①不当利得返還請求権の消滅時効に関する大判昭12.9.17は、権利発生と同時に消滅時効が進行を開始するとした。
but
②民法166条1項の「権利を行使することができる時」とは、単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけではなく、権利の性質上、その権利行使が現実に期待できるものであることを必要とする(最高裁昭和45.7.15)
③最高裁H8.3.5
は、Bの立場から、権利の性質上、その権利行使が現実に期待のできる時を消滅時効の起算点とする。
④最高裁H19.4.24は、消滅時効の起算点について「法律上の障害」という表現を用いつつも、実質的には、権利行使の期待可能性を考慮していると指摘

現在の判例法理はBの立場と評価されている。
札幌高裁昭和59.10.22:
相続開始前に締結された相続財産の持分権譲渡契約の無効が裁判上確定したことから、右契約に基づいて対価を支払った相続人が対価の返還を請求した事案。
A説に立ち、対価の交付時を起算点と認めつつも、不当利得返還請求権の債権者が、裁判上無効が確定するまで右契約が有効であると信じており、対価の返還を請求することが事実上期待しがたい状況にあった
⇒債務者による消滅時効の援用が信義則に反し許されない。
  民事p84
高知地裁H28.2.2  
   
  事案 刑務所に勾留されていたAの遺族が、刑務所において、Aの症状を軽微なものと判断し、刑務所の職員に対してAを転送させるために必要な指示を行わなかったことには転送義務違反がある⇒国に対して、国賠法1条1項に基づき、2200万円及び遅延損害金の支払を求める事案。
  判断 B医師としては、
①Aがけいれん重積の状態にあることも念頭に置くべき
②Bの退庁が予定されていたことや、刑務所内に他に医師はおらず、保健助手も不在になることが想定される状況にあった⇒刑務所内での医療的対応は困難な状態

Bには、Aを外部の医療機関に転送するよう指摘すべき義務があったのに、Bは、刑務所内で経過観察を続ければ足りると判断し、意識が回復した際に抗てんかん薬を投与することなどを指示したにとどまり、Aを外部の医療機関に転送するよう指摘することはなかった。
⇒前記注意義務に違反。 
Aが死亡したのは、胃噴門部に裂傷が生じ、上部消化管出血が発生し(マロリー・ワイス症候群)、出血性ショックに陥った結果、心肺停止になったことによるもの。
BがAを医療機関に転送させるよう刑務所職員に指示していれば、同月9日午前2時16分の時点においてAが生存していた高度の蓋然性がある。
⇒転送義務違反とAの死亡との間には因果関係がある。
鑑定の結果等をふまえ、Bが前記の指示をし、Aが病院に転送されていたとしても、結局、医療的措置が効を奏さず、早晩、Aの死亡という結果が生じていた可能性があることを排斥することはできない。
⇒Aの死亡慰謝料は800万円。
  解説 開業医は、患者について、
①自ら診療をすることができない特定の重大な病気の疑いがあると判断したときに、その診療をすることができる高度の技術、設備等を備えた医療機関に患者を転医させる義務があり、さらに、
②特定の重大な病気の疑いがあると判断することができない場合であっても、自ら検査も診療もすることができない何らかの重大な病気の可能性があることを認識し得た場合には、その検査・診療をすることができる高度医療機関に患者を転医させる義務がある。
最高裁H15.11.11は、後者の場合について、転医義務が生じることを示したもの。
最高裁H17.12.8は、拘置所の意思が脳梗塞を発症した勾留中の者を外部の医療機関に速やかに転送する義務の違反があったかが争われた事案において、結論としては、国賠責任を否定したが、勾留されている患者の診療に当たった拘置所の職員である医師が、過失により患者を適時に外部の適切な医療機関へ転送すべき義務を怠った場合に、前記患者が被った損害について、国が国賠責任を負うことがある旨の判示。
本判決は、最高裁H11.2.25に従い、転送義務違反とAの死亡との因果関係を認めた上で、同判決が、どの程度の期間生存し得たかは、損害の額の算定に当たって考慮されるべき事実であると指摘していたことを踏まえ、慰謝料の額の算定。
  民事p98
広島地裁H27.12.22  
  有害事象の原因不明⇒医療過誤の損害賠償請求棄却
  事案 A(当時71歳)は、・・入院から1か月半後に、被告病院のトイレで心肺停止の状態となっているところを発見され、蘇生処置を受けたが、12日後に死亡

Aの妻である原告は
①Aの心肺停止の原因は痰が軌道を閉塞したこちのよる窒息であり、被告病院の医師及び看護師がAの呼吸機能等の確認や痰の詰まりによる窒息を防止するための措置を怠った
②Aの心肺停止の原因は肺血栓塞栓症であり、被告病院の医師及び看護師は肺血栓塞栓症の発症を防止するための措置を怠った

被告に対し、民法715条の使用者責任又は診療契約の債務不履行に基づく損害賠償を請求。
  判断 原告が主張する原因によりAが心肺停止の状態となったとは認められない
⇒被告病院の医師及び看護師に注意義務違反があったとする原告の主張は前提を欠く⇒請求棄却。
①Aに多量の粘膜痰が生じていたとは認められず、自ら痰を排出する能力がなかったとは認められない
②Aが心配停止の状態で発見された際に便器に座りチアノーゼがなかったなどの状況は、気道閉塞により窒息した場合に想定される状況と整合しない
③あの心肺停止の原因がいきみである可能性を否定することはできない

Aの心肺停止の原因は痰が気道を閉塞したことによる窒息であると認めることはできない。
原告が証拠として提出した本件私的鑑定意見には、Aには肺血栓塞栓症の危険因子があり、Aがトイレへ歩行した後に突然心肺停止に陥ったという状況⇒Aの心肺停止の原因は肺血栓塞栓症が最も考慮されるべきであるとの見解。
but
本判決は、本件私的鑑定意見書においてAに存するとされている肺血栓塞栓症の危険因子うち
①好発年齢、②悪性腫瘍、③薬物の投与、④感染症及び⑤脱水については、あにそのような因子があり、トイレが肺血栓塞栓症を発症することが多い傾向にある場所であると認める一方で、
⑥長期臥床についてはAにそのような因子があったとは認められない。
蘇生処置後のAに対して行われた心エコー検査やCT検査の結果、右心系の負荷所見などの肺血栓塞栓症を発症してなかった可能性が高いとし、Aの動脈血ガス検査においても肺血栓塞栓症の発症を疑わせる所見はなかったことが認められる。
本件私的鑑定意見書について、
①Aには右心系の負荷所見がなかったことと肺血栓塞栓症の発症との間の関係について特段の言及がされていない
②本件私的鑑定意見書が、Aの心肺停止の原因が肺血栓塞栓症であることの根拠として挙げるDダイマー検査の結果は、Aが肺血栓塞栓症を発症したことを裏付けるものであるとは認められない
③本件私的鑑定意見書は単純CT検査ではなく造影CT検査が実施されなければ肺血栓塞栓症の診断は困難であるとするが、単純CT検査が肺血栓塞栓症の診断に有用でないということはできない。
⇒Aの心肺停止の原因が肺血栓塞栓症であると認めることはできない。
  解説 診療契約の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求という形式をとる医療過誤訴訟においては、原告が医師等の注意義務違反又は過失の内容を具体的に特定し、これを主張立証する必要。
これは、医療機関内で患者に発生した有害事象の原因が明らかでない場合であっても変わらない。 
  商事p111
福岡地裁H28.2.22 
  保険金支払事由としての「入院」
  事案 保険会社Y1及び生活協同組合Y2との間で、保険契約又は共済契約を締結していたXが、自転車を運転中に貨物自動車と接触し病院に入院⇒本件各契約に基づき入金給付金ないし共済金の支払等を求めた
  争点 Xの本件入院の約款上の「入院」該当性の有無 
  判断 保険金ないし共済金の支払事由としての「入院」に該当するか否かの判断は、約款における入院の定義からしても、単に当該入院が医師の判断によるにとどまらず、同判断に客観的な合理性があるか、すなわち、患者の症状等に照らし、病院に入り常に医師の管理下において治療に専念しなければならないほどの医師による治療の必要性や自宅等での治療の困難性が客観的に認められるかという観点から判断されるべきものであり、医師による入院が必要という判断があるというだけで直ちに「入院」該当性は推認されない。
本件では、Xの症状やその後の治療内容からすると、病院に入り常に医師の管理下において治療に専念しなければならないほどの医師による治療の必要性や自宅等での治療の困難性を認めることはできない。
  解説 保険約款には、保険金支払事由に当たる「入院」とは、
①医師による治療が必要であり、かつ、
②自宅等での治療が困難なため、病院又は診療所に入り、常に医師の管理下において治療に専念することをいう
と定義。

①治療の必要性の要件と、②自宅等での治療困難の要件を充たすか否かが問題とされるべき。 
仙台高裁H13.10.10:
保険約款中に「入院」の定義を定めた趣旨は、相互扶助を目的とする保険制度において、多数の契約者相互間の公平を図るために入院給付金の支払事由を限定するとともに、生命保険、特に入院保障特約が、ともすると射幸性をもつことから、保健制度を濫用するような請求を排除する点にある。

本件の入院保障特約における「入院」に該当するかどうかの判断をするに当たっても、上記のような趣旨に照らして、入院給付金の支給対象となる「入院」に該当するかどうかを判断すべき。

当初は保険金給付の対象となる糖尿病による入院等の事由があったとしても、「血糖値が改善され、在宅治療によっても血糖のコントロールが可能であると判断されるような症状の改善があった場合には、もはや入院の必要性はなくなり、在宅治療によっても十分病状に対応できるに至ったものと解すべきであり、それ以降の入院は「自宅での治療が困難なため、病院又は診療所に入り、常に医師の管理下において治療に専念するための入院」とはいえない」
  労働p117
東京高裁H27.8.26  
  和解条項における再発防止義務・周知義務の履行の有無
  事案 裁判上の和解における合意に違反があったことを理由とする、損害賠償請求事件 
Xは、Y1、Y2及び訴外Aに対し、不当な退職勧奨やパワーハラスメントを理由として損害賠償請求訴訟を提起したが、両者の間で裁判上の和解が成立。
前訴和解には
「1.被告らは、Xに対し、被告らの言動が端緒となって本件が発生したことを重く受け止め、今後の労務管理において職場環境に配慮する等して、再発防止に努めることを約束する
2.Y1は、Y1の従業員であるXとの間で和解が成立したことを、前項の文言を記載した上でY1の全職員に回覧する等して周知させる。」
という条項がある。
Xは、Yらに対し、Yらが和解の合意事項を遵守せず、共同してXの姪よを毀損する行為を行ったとして、債務不履行又は不法行為に基づき慰謝料等の支払を求めた。
  争点 ①和解条項1の再発防止義務の違背の存否
②同2の周知義務の違背の存否 
③名誉棄損行為の存否
  判断 争点①について 
一審:
Y3及びY4の発言がY1(会社)の真摯な反省に疑問を抱かせるものではあるとしながらも、同発言をもってY1が反省していないとまで断じることはできない。
Y3及びY5の自分たちは悪くない旨の発言についても、前訴和解につき退職強要やパワハラがあったことを確定するものではない。
⇒否定
判断:
Y1及びY2において前訴和解後和解条項に反する不誠実な態度をとり続け、労務管理において職場環境に配慮する等して、再発防止に努める旨の前訴和解に基づく義務の履行を怠った。
  争点②について
一審:
和解条項2が同一の文言を記載した文書を回覧する等して周知させることを要求しているにおとどまり、紛争の発端となった「被告らの言動」が具体的に何を指すのか、「再発防止に努める」と約束した対象行為とは何かについて説明をする義務を課しているものとみることはできない
⇒Xの主張を否定
判断:
和解条項2にいう周知義務は、前記文言を記載した書面を形式的に職員に回覧することのみを意味するものではなく、Y1としては、前訴和解の成立を受け、前訴被告らの言動が端緒となってXが前件訴訟をしたことを重く受け止めているとの認識及び姿勢を全職員に実際に周知させるべきであり、かつ、今後の労務管理において職場環境に配慮する等して、再発防止に努めること、これをXと約束したことについて、全職員が了解可能となる程度に周知させる義務を負ったというべき。
⇒結局のところ、Y1の前記和解後の対応は、周知義務の履行として不十分なもの。
  争点③についても、一審は否定し、控訴審は認容。
Y2ないしY6について、社会保険労務士等で構成される団体であるY1の会長又は副会長を務める者であることを考慮に入れて、前訴和解について、専門分野であるはずの労務管理上の対応を誤り、前訴和解に基づく再発防止義務及び周知義務の履行を怠るというY1の不相当な会務執行を助長したか、少なくとも放置したというべき

いずれも共同して義務違反の責任を負う。 
  労働p125
京都地裁H27.9.18  
  うつ病罹患と業務起因性(肯定)
  事案 訴外会社で半導体装置の組立てや実験等に従事していた原告が、会社代表者からの叱責・暴言等や、クリーンルーム内での長時間労働等によりうつ病を発症したとして、処分行政庁である労働基準監督署長に対し、労働者災害補償保険法に基づき、療養補償給付の支給を請求⇒不支給処分⇒同処分は違法であるとして、その取消しを求めた。 
  争点 原告が発症したうつ病につき業務起因性が認められるか否か
①精神障害に係る業務起因性の判断基準
②うつ病の発症時期
③業務上の心理的負荷の程度(会社代表者の叱責・暴言等、業務内容、労働時間)
④業務外の心理的負荷の程度(B型肝炎との診断の影響)
  判断 ●精神障害に係る業務起因性の判断基準について 
現在の医学的知見に照らすと「ストレスー脆弱性」理論が合理的。
but
いまだ医学的に解明されていない部分もある⇒個別具体的な事情を総合的に検討し、社会通念に照らして業務起因性を判断すべき。
 平成23年12月26日付け基発1226第1号による「心理的負荷による精神障害の認定基準」(「認定基準」)については、具体的な状況を十分斟酌して適正な判断をするには不十分であるが、一定の合理性は認められる。
⇒業務起因性を判断する上での一つの参考資料にはなり得る。
  ●うつ病の発症時期について 
うつ病の発症時期は、認定基準を参考とし業務起因性を判断する場合の発症前6か月の労働時間や、心理的負荷の評価期間等に影響を及ぼすことになるところ、本判決は、各医師の意見書等を比較検討した上で、原告が主張する平成21年5月中旬頃を発症時期と決めた。
  ●業務上の心理的負荷の程度について 
会社代表者の叱責・暴言等:
原告のうち病発症の約1年前から継続的に叱責・暴言等があったとし、その心理的負荷は相当に強いものであって、認定基準に照らしても、「強」か、少なくとも「中」を下回るものではない。
業務内容:
クリーンルーム内での作業につき、
①一般の作業と比較して一定の制約があることや、②原告の実際の業務内容に照らすと、一定程度の心理的負荷は認められる。

認定基準に明確には当てはまらないとしても、全体としての業務上の心理的負荷を強める方向に働き得る事情にはなる。
労働時間:
①原告の仕事の繁忙度、②業務週報、③原告作成の出勤表等
⇒うつ病発症前6か月間に、1か月当たり40時間弱~80時間弱の時間外労働時間があった。
連続した30日については、月100時間程度の恒常的長時間労働が認められる時間もあった。
  ●業務外の心理的負荷の程度について 
うつ病発症の数か月前に慢性B型肝炎との診断
but
その後の経過が良好であることや、B型肝炎につき十分な治療が可能となっている現在の医療状況

前記診断は、うつ病発症の要因となるほどの強い心理的負荷とは認められない。
  ●総合評価 
原告の業務上の心理的負荷は、社会通念上、精神障害を発症させるおそれがあるほどに強度なものであり(認定基準に照らしても、心理的負荷の総合評価は「強」となる。)、業務外の強い心理的負荷も認められない
⇒うつ病発症につき業務起因性を肯定。
  解説 ●精神障害に係る業務起因性:
「ストレスー脆弱性」理論を前提に、認定基準を参照しつつ判断を行う裁判例が多い(大阪高裁H24.2.23)。
but
認定基準は、あくまで行政庁内部の通達にすぎず、多数の事例を処理するためのツールという側面があることは否めない。
⇒裁判所の判断に当たっては、認定基準のみにとらわれない個別具体的な検討が必須。
クリーンルーム内での業務については、認定基準には明確に当てはまるものではないが、全体としての業務上の心理的負荷を強める方向に働き得る事情になる旨判示。
(従業員がクリーンルーム作業に従事していたことを一事情として、うつ病発症及び自殺につき業務起因性を肯定し、会社の不法行為責任を認めた裁判例として、東京高裁H21.7.28)
  ●心理的負荷の程度の検討:
通常の勤務に就くことが期待されている「平均的労働者」が基準とされるべき(裁判例の多数も同様)。
「平均的労働者」といっても一定の幅があることは否定できず、本判決も、「通常の勤務に就くことが期待されている平均的労働者」とは、完全な健常者のみならず、一定の素因や脆弱性を抱えながらも勤務の軽減を要せず通常の勤務に就き得る者を含むと判断。
  精神障害に係る業務起因性を肯認した事例判断であるが、
①うつ病の発症時期について、原告が主張する時期であると診断している精神科医の医証がない中で、事実認定の積み重ねにより原告主張の時期を発症時期と認定
②クリーンルーム内での作業について一定程度の心理的負荷があると認定した上で、「全体としての業務上の心理的負荷を強める方向に働き得る事情」と認定
③恒常的長時間労働と上司の叱責・暴言を関連づけて、原告の心理的負荷の程度を「強」と判断
9月   
2301   
  行政p62
最高裁H28.3.31   
  宅建業法30条2項本文の公告がされなかった時の営業保証金の取戻請求権の消滅時効の起算点
  事案 平成10年3月31日をもって宅建業の免許の有効期間が満了したXが、宅建業法25条1項に基づき供託した営業保証金につき、同25年9月20日、同法30条1項に基づき取戻請求⇒東京法務局供託官から、本件保証金の取戻請求権の消滅時効が完成しているとして、却下する旨の決定⇒Y(国)を相手に、本件却下決定の取消し及び前記取消請求に対する払渡認可決定の義務付けを求める。
  規定 宅建業法 第30条(営業保証金の取戻し)
第三条第二項の有効期間(同条第四項に規定する場合にあつては、同項の規定によりなお効力を有することとされる期間を含む。第七十六条において同じ。)が満了したとき、第十一条第二項の規定により免許が効力を失つたとき、同条第一項第一号若しくは第二号に該当することとなつたとき、又は第二十五条第七項、第六十六条若しくは第六十七条第一項の規定により免許を取り消されたときは、宅地建物取引業者であつた者又はその承継人(第七十六条の規定により宅地建物取引業者とみなされる者を除く。)は、当該宅地建物取引業者であつた者が供託した営業保証金を取り戻すことができる。宅地建物取引業者が一部の事務所を廃止した場合において、営業保証金の額が第二十五条第二項の政令で定める額を超えることとなつたときは、その超過額について、宅地建物取引業者が前条第一項の規定により供託した場合においては、移転前の主たる事務所のもよりの供託所に供託した営業保証金についても、また同様とする。
2 前項の営業保証金の取りもどし(前条第一項の規定により供託した場合における移転前の主たる事務所のもよりの供託所に供託した営業保証金の取りもどしを除く。)は、当該営業保証金につき第二十七条第一項の権利を有する者に対し、六月を下らない一定期間内に申し出るべき旨を公告し、その期間内にその申出がなかつた場合でなければ、これをすることができない。ただし、営業保証金を取りもどすことができる事由が発生した時から十年を経過したときは、この限りでない。
民法 第166条(消滅時効の進行等) 
消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
民法 第167条(債権等の消滅時効)
債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
  原審 Xの本件却下決定の取消請求を棄却し、本件保証金の払渡認可決定の義務付けの訴えを却下すべきものとした。 
    Xは、上告受理申立て
  判断 宅建業法30条1項前段所定の事由が発生した場合において、同条2項本文所定の公告がされなかったときは、営業保証金の取戻請求権の消滅時効は、当該事由が発生した時から10年を経過した時から進行するものと解するのが相当。
本件の事実関係等によれば、本件取戻請求権の消滅時効が完成していないことは明らか。
⇒Xの請求をいずれも認容。
  解説  ●消滅時効の起算点等
  消滅時効の起算点を定める民法166条1項の「権利を行使することができる時」とは、権利の行使に法律上の障害(履行期限、停止条件等)がなくなったときを意味する。
but
法律上の障害であっても、債権者の意思により除去可能なものであれば、消滅時効の進行を妨げられるものではないと解されている(ex.同時履行の抗弁権が付着している債権等)
法律上の障害の除去につき債権者の行為と一定期間の経過が必要な場合(ex.返済期を定めない消費貸借契約の貸主の返還請求権(民法591条1項)等)には、当該債権者の行為が可能となった時点からさらに前記一定期間が経過した時から消滅時効が進行。
債権者の意思により除去可能な法律上の障害であっても、債権者に法律上の障害を除去する行為を要求することが契約等の趣旨に反する場合には、当該法律上の障害がなくなるまで消滅時効は進行しない。
  ●営業保証金制度の趣旨等 
営業保証金制度:
営業上の取引による債務の支払を担保するための保証金であり、宅建業者の営業活動の社会的安全を確保するために、営業の開始に当たって供託所に供託される金銭(最高裁)
宅建業法30条2項本文の取戻公告及び同項ただし書の趣旨:
①供託されている営業保証金について還付請求権を有している者がいる場合に、その者の知らない間に営業保証金の取戻しが行われてしまうことは、その者が営業保証金から損害を賠償してもらう機会を失わせることになる⇒還付請求権を持っている者に対しては、その権利を実行する機会を与えておいて、その機会に権利を行使しない場合にのみ取戻しを認める(=営業保証金の取戻公告)
②営業保証金を取り戻す事由が発生してから10年を経過したときは、取引の相手方の有していた債権はほとんど時効となり消滅する⇒公告を要しないで取り戻すことができる。
  ●判決要旨について 
営業保証金の性質⇒同項本文の規定は、宅建業者であった者等が義務的に又は原則的になすべき行為を定めたものではなく、むしろ、宅建業者であった者等が早期に営業保証金の取戻請求を行う場合において、還付請求権者の権利行使の機会を確保するために履践すべき手続ないし要件を定めたものにすぎない
⇒同項本文所定の手続に基づく取戻請求の方法と、同項ただし書所定の期間経過による取戻請求の方法との間に優先関係はなく、宅建業者であった者等が自由な判断により選択することが可能なものとして予定されているものとみるのが相当。
①取戻公告をすることなく取戻請求をする場合に、宅建業者であった者等は取戻事由が発生すれば直ちに公告期間を最短の6か月と定めて取戻公告をすることができることを理由として、取戻事由の発生時から6か月を経過した時から取戻請求権の消滅時効が進行すると解することは、前記の選択を宅建業者であった者等の自由な判断に委ねた宅建業法30条2項の趣旨に反する。
②このように解さなければ、同項ただし書所定の期間経過による取戻請求の方法が制度上予定されていることは同項の規定の文理に照らし明らかであるにもかかわらず、当該取戻請求をなし得る期間が僅か6か月に限定され得ることになり、不合理。
(民法改正法案においては、民法166条1項の消滅時効期間は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間(1号)、又は、権利を行使することができる時から10年間(2号)⇒同法案が施行されれば、原審やYが前提とする解釈の下では、消滅時効の中断等がない限り、同項ただし書に基づく取戻請求は事実上不可能になる。)

宅建業法30条1項前段所定の事由が発生した場合において、同条2項本文所定の公告がされなかったときは、営業保証金の取戻請求権の消滅時効は、当該事由が発生した時から10年を経過した時から進行するものと解するのが相当。
  行政p67
名古屋地裁H27.10.15  
  特定秘密の保護に関する法律案の立法過程における内閣情報調査室と関係省庁との協議に係る行政文書の開示請求
  事案 Xが、内閣情報官に対し、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(「情報公開法」)に基づいて、秘密保全法制に関する関係省庁との協議に係る行政文書の開示を請求⇒同請求に係る行政文書の一部を開示し、その余の部分を不開示とする旨の各決定⇒不開示部分に係る各情報を不開示とした部分の取消しを求めた事案。
開示を請求する行政文書の名称等:
「秘密保全法制に関する法令等協議、法令以外の協議(行政文書ファイル管理簿・内閣情報調査室分)に綴られた文書」
本件開示請求に係る対象文書が著しく大量⇒情報公開法11条に基づき2回に分けて、本件開示請求に係る行政文書の一部を開示し、その余の部分を不開示とする旨の決定。
不開示部分:
①個人の氏名及び所属が記載されている部分
②秘密保全法制に関する関係省庁相互間における審議、検討又は協議の具体的な内容が記載されている部分
③公にすることを伝達することなく諸外国の行政機関等から入手した情報が記載されている部分
④内閣情報調査室の班以下の業務体制が記載されている部分
  規定 情報公開法 第5条(行政文書の開示義務)
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。

三 公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報

六 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
イ 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
ロ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
ハ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
ニ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
ホ 独立行政法人等、地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ
  Yの主張 Y(国)の主張:
本件各文書の不開示情報について
①我が国の外交機密の具体的な項目が列挙されている
②我が国の懸案事項に関する概念を整理したものが記載されている
③相手国の政府から受領した各種情報への評価等が記載されている
④公にすることを伝達することなく諸外国の行政機関等から入手した情報が記載されている
⑤秘密取扱者適格性確認制度の具体的な内容が記載されている
⑥防衛省における防衛秘密の具体的な運用に関する内容が記載されている
⑦他国との意見交換に関する具体的な内容が記載されている
⑧情報保護協定等によって他国から提供される情報のうち、我が国の特定秘密に該当し得ると考えられる事項についての例示及び例示に対する安全保障上の評価等が記載されている

情報公開法5条3号又は6号所定の各不開示情報に当たる
  争点 ①本件各不開示情報にYが主張する内容が記録されているか否か
②本件各不開示情報の中にYが主張する内容が記録されていると認められた場合において、それらの情報が情報公開法5条3号、6号所定の各不開示情報に該当するか
  判断 ●情報公開法5条3号、6号所定の不開示情報の有無に関する判断の枠組み: 
同条3号の趣旨及び文言
⇒裁判所は、当該行政文書に同号に規定する不開示情報が記録されているか否かについての行政機関の長の判断が、合理的なものとして許与される範囲内であるかどうかを審理判断すべきであり、行政機関の長の判断が社会通念上合理的なものとして許容される限度を超えるものであると認められる場合に限り、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったものとして違法になると解するのが相当。
一般に、国の安全等に関する正確かつ詳細な情報は専ら行政機関の長の側に属している⇒
Yにおいて、事案に応じ、一般的・類型的にみて、当該情報が同号に掲げる国の安全等の確保に関するものに当たることを推認するに足りる事情を立証する責任を負う。
Yの立証により、当該情報が開示された場合に、不開示の理由とされた、我が国の安全が害されるおそれなどがあることが一般的・類型的にみて肯定されるような場合には、Xにおいて、当該処分につき行政機関の長の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったことを基礎付ける具体的事実について証明することを要する。
情報公開法の構造や同法5条6号の趣旨
⇒不開示処分をした行政機関の長の所属する行政主体であるYが、当該行政文書には同号所定の不開示事由があることを主張立証する必要があるものと解することが相当。
  本件各文書の性質やその作成経緯、不開示部分の前後の文脈等
⇒不開示部分には、Yが主張する前記①ないし⑦の事項が記載されているものと推認することができる。 
これらの不開示部分を公にすると、情報公開法5条3号が定める「国の安全が害されるおそれ」や「他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ」があると判断した内閣情報官の判断が、社会通念上合理的なものとして許容される限度を超えたものということはできず、内閣情報官がした判断には同号所定の「相当の理由」があるものと認められる

これらの不開示部分は、同号所定の不開示情報に該当し、本件各不開示情報は、いずれも同号所定の不開示情報に該当する。

本件各不開示情報の同条6号所定の不開示情報該当性について判断するまでもなく、本件決定のうち本件各不開示情報を不開示とした部分は適法。
  民事p92
最高裁H28.2.26 
● 
  民法910条に基づく価額支払請求の場合の遺産の価額算定の基準時・履行遅滞となる時期
  事案 Aの相続開始後認知によってその相続人となった原告(X)が、Aの子であり、Aの遺産について既に遺産の分割をしていた被告ら(Y)に対し、民法910条に基づき価額の支払を求める事案。
同条の定める価額の支払請求をする場合における遺産の価額算定の基準時及び価額の支払債務が遅滞に陥る時期が争われている。
  規定 民法 第910条(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。
民法 第784条(認知の効力)
認知は、出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者が既に取得した権利を害することはできない。
  一審・原審 ①本件規定に基づく価額支払請求の遺産の価額算定基準時を原告が価額の支払を請求した平成23年5月6日としたうえで評価し(評価額は総額7億9239万5924円)、Xの法定相続分を8分の1としてこれに応じた額を相続人のうち価額支払義務が問題となるYらの員数(3名)で除した各3301万6496円(評価額の24分の1)の請求を認容し、
②本件規定に基づく価額の支払債務は、履行の請求を受けた時に遅滞に陥るものとして、Xが価額の支払を請求した日の翌日である同月7日からの遅延損害金の請求を認容すべきものとした。 
  Xが上告受理申立て: 
①価格算定の基準時は遺産分割時とすべき
②遅延損害金の起算日も遺産分割時とすべき
Yらが附帯上告受理申立て:
遅延損害金の起算日を事実審口頭弁論終結日の翌日とすべき
  判断 両事件を受理した上で、上告及び附帯上告を棄却。 
  解説 民法910条:
相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権を定めている。 
●価額支払請求権の遺産の価額算定の基準時
A:遺産分割時
○B:価額の支払を請求した時点(多数説)
C:事実審の口頭弁論終結時
本判決:
遺産の価額算定の基準時に関して、「相続の開始後認知によって相続人となった者が他の共同相続人に対して民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時は、価額の支払を請求した時」として、価額の支払請求時とする見解。

民法910条の位置付けについて、「相続の開始後に認知された者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしていたときには、当該分割等の効力を維持しつつ認知された者に価額の支払請求を認めることによって、他の共同相続人と認知された者との利害の調整を図るものである」
「認知された者が価額の支払を請求した時点までの遺産の価額の変動を他の共同相続人が支払うべき金額に反映させるとともに、その時点で直ちに当該金額を算定し得るものとすることが、当事者間の衡平の観点から相当であるといえるからである」

例えば遺産の価額算定基準時を遺産分割時に固定するとなると、価額の支払請求が問題となるまでの期間に生じた価額の上昇又は下落により、認知された者又は他の共同相続人のいずれか一方のみに利益や損失を生ずることとなって当事者間の衡平を欠く事態となる。
遺産分割の場面においても、実際に分割を実現する時点の評価に基づいて行うべきであるとしており、実務上も、原則として、分割時における遺産評価に基づいて分割が行われている。
例えば、相続開始後、他の共同相続んがその意思に基づき遺産を処分した場合:
遺産の価額算定の基準時を価額の支払請求時とすることで、遺産の代償財産をもって評価するなどの柔軟な解釈をとることが可能。
遺留分減殺請求権者の価額弁償請求については、(受遺者から民法1041条1項の規定による価額弁償の意思表示を受けた遺留分権利者が受遺者に対し価額弁償を請求する旨の意思表示をした場合において、当該遺留分権利者が現物返還請求権に代わる価額弁償請求権を確定的に取得することになる)弁償金の支払を請求した日の翌日が遅延損害金の起算日となるが(最高裁H20.1.24)、本件規定に基づく価額の支払請求も同様の利益状況にあることを意識したものと思われる。
このように解することで、認知された者としては直ちに価額の支払を請求するとともに、他の共同相続人としても早期にその支払に応じることの動機付けとなり(仮に、事実審の口頭弁論終結時にならなければ支払うべき金額が確定せず、遅延損害金も発生しないと解する場合には、他の共同相続人としては、支払に対する動機づけを欠くことになる)、紛争が長期化することを避けることができるようになる。
  ●価額の支払債務が履行遅滞となる時期 
民法910条に基づく他の共同相続人の価額の支払債務は、期限の定めのない債務⇒履行の請求を受けた時に遅滞に陥る。
  相続回復請求権:
A:相続物を侵害から包括的に回復することを目的とする、個別的な物権的請求権とは異なる単一の特別の請求権とする説(独立権説)
○B:相続財産についての個別的請求権の集合であり、相続権の侵害を原因として生じ、かつ、消滅時効にかかる点で特色があるにすぎない権利と解する説(集合権説)
判例はBの集合権説。 
  ●管轄 
本件規定に基づく価額の支払請求については
○A:通常の民事訴訟の手続によるべきか
B:家庭裁判所の審判手続によるべきか
家事事件手続法39条(審判事項)は、「家庭裁判所は、この編に定めるところにより、別表第1及び別表第2に掲げる事項並びに同編に定める事項について、審判をする」

家庭裁判所が家事審判の手続で審判をする事項を限定列挙。
同法は、別表第1及び別表第2に民法910条の価額の支払請求を掲げていない⇒通常の民事訴訟の手続によることを前提とする。
  ●「価額の支払請求」
遺産の価額算定の基準時となるとともに、価額の支払債務が履行遅滞となる基準となる重要な概念。
何ら限定なく単に「被相続人○○の遺産の分割を請求する」といった程度ではこれに当たらないと思われる。
  民事p96
東京地裁H27.10.14  
  フランチャイズ契約終了後同契約に基づく営業禁止を求めることが信義則違反にあたるとされた事例
  事案 15年間続いた時計店のフランチャイズ契約(「本件契約」)について、Y(フランチャイザー)から解約申入れを受けたX(フランチャイジー)が、契約終了後に約定の競業避止義務を負わないことの確認を求めた事案。 
・・15年後、XがショッピングモールBに自営店の新規出店を申し込んだところ、Yは、契約違反による解除ではなく、約定の任意解除権に基づき本件契約の解約を申し入れるとともに、契約終了後2年間はショッピングモールAで自営も含め同一の営業をしてはならない義務がある旨をXに通知。
Xが、ショッピングモールAの店舗を改装して自営店を開いた⇒YがXに対し営業禁止の仮処分を申し立てた⇒その審理中に、XがYに対し本件訴訟を提起。
本件条項:本件契約を補完する覚書での「Xは、本件契約終了以降2年間は、自営も含め、同一商業施設で、同一の営業をしていはならないものとする」との規定。
  争点 ①本件条項はYの解約申入れの場合に適用されるか
②本件条項は優越的地位の濫用によるものとして無効か
③本件条項を本件の解約に適用することが信義則に反するか 
  争点③について
Xの主張:
XがYの「Yシステム」というノウハウを使わずとも時計店を営むことは可能であるのに、YはXのショッピングモールBへの新規出店計画に端を発して一方的に本件契約を解約したのであり、XがショッピングモールAで営業できなくなれば経営が成り立たなくなるおそれがある⇒本件条項を適用することは信義則に反する。
Yの主張:
Xの時計店経営はYの「Yシステム」に基づくものであるのに、XがショッピングモールBへの新規出店についてYの許可を得ようとしなかったこと等により、信頼関係が破壊されたため本件契約を解約⇒本件条項を適用することは信義則に違反しない。
  判断 ●争点①について、本件条項はYの解約申入れの場合にも適用される
  ●争点③について 
フランチャイズ契約が終了した場合に契約上課される競業避止義務は、フランチャイズシステムの顧客及び商圏を保全するとともに、営業秘密を保持するという目的において、合理性を有する。
他方、フランチャイジーの営業の自由を直接的に制約するものであるから、その制約の程度や契約終了の経緯等に照らし、これを主張することが信義則に反する場合がある。
Yの主張する「Yシステム」には、Yの商標等、Yプライベートブランドの時計及びY物流センターを経由した仕入れ以外に、保護に値するYのノウハウが含まれているとは認められないし、Xが「Yシステム」を用いた時計店をショッピングモールBに出店しようとしたものとも認められない
⇒Xに解除事由となるべき契約違反が存在したとはいえない。
それなのに、Yの解約申入れにより本件契約が終了したという経緯を踏まえると、その後のYのショッピングモールAにおける商圏を保全すべき正当性は乏しい。
他方、ショッピングモールAにおけるXの時計店の営業が2年間も禁止されれば、Xは耐え難い経済的損失を被ることになる。

Yが本件条項に基づきXに対してショッピングモールAにおける時計店の営業禁止を認めることは、信義則に違反し許されない。
  解説 フランチャイズ契約終了後の競業避止義務は、①顧客及び商圏を保全するとともに②営業秘密を保持するという目的において合理性を有する。
but
フランチャイジーの営業の自由を直接的に制約
競業避止義務を主張することが信義則に違反するかどうかは
①顧客及び商圏の保全並びに②営業秘密の保持という競業避止義務の必要性(フランチャイザー側の事情)と
③競業避止義務による制約の程度及び④契約終了の経緯という競業避止義務の相当性(フランチャイジー側の事情)とを考慮して判断すべき。
②の営業秘密の保持が問題になる事案:
不正競争防止法が、「不正競争」及び「営業秘密」を定義し(2条1項、6項)、差止請求権や損害賠償請求権の要件を定めること(3条、4条)を通じて、事業者間の公正な競争を確保しようとしている(1条)ことも念頭に置き、営業秘密の存在を主張する側がこれを具体的に主張立証する努力をする必要。
本件は、①②の両方が問題となったが、
「Yシステム」に含まれるノウハウの具体的な内容及び有用性が明確に主張立証されなかったこと、
本件契約の解約に関してXに帰責性があったとはいえないこと
⇒営業禁止を求めることが信義則に反すると判断。
  民事p103
大阪地裁H27.12.11  
   
  事案 Xは、Yらに対し、本件犬が昼夜を問わず大きな泣き声を断続的にあげるため、Xが睡眠障害を伴う神経症を発症するなどした
⇒民法718条1項又は同法709条による損害賠償請求権に基づき、治療費及び慰謝料等の支払を求めた。 
  規定 民法 第718条(動物の占有者等の責任)
動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
2 占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。
  判断 ①本件犬は深夜や早朝の時間帯を含め、Y1がY宅から出入りする際や、見知らぬ人がY宅の付近を通った際などに、日常的に、比較的大きな音量で、一定の時間、鳴き続けていたものと推認することができる。
②本件犬が深夜や早朝を問わず泣き声をあげることによって、Xには現に睡眠を妨げられるなどの生活上の支障がが生じていたのに対して、YらはXから本件犬の泣き声に対する苦情を言われたり、調停の申立てをされたりした後も、これを真摯に受け止めて本件犬の泣き声を低減させるための適切な措置を執ったわけではなかった。

本件犬の泣き声は受忍限度を超えるものであると認定。
住宅地において犬を飼育する飼主は、犬の管理者として、犬の泣き声が近隣住民に迷惑を及ぼさないよう、日常生活において犬をしつけ、場合によっては専門家に依頼するなどして犬を調教するなどの飼育上の注意義務を負う。
Yらは、本件犬の泣き声を低減させるために有効な措置を執っていたとはいえず、本件犬について相当な注意をもってその管理をしたということができない。

民法718条1項に基づき、Yらの責任を認めた。
Xの損害として、治療費、犬の泣き声の録音機材等の費用、慰謝料、弁護士費用として合計37万9310円を認容。
  解説 騒音に基づく損害賠償請求が認容されるためには、加害行為に受忍限度を超える違法性があることが要件。
民法718条1項に基づく責任追及の場面においても、被害者は請求原因として自己の権利・法益侵害を主張立証しなければならない⇒犬の泣き声が受忍限度を超えるものであることについても、原告が主張立証する必要。
受忍限度を超えるか否かは、被侵害利益の性質、被害の程度、加害行為の態様、地域性、当事者間の交渉経緯等を総合して判断するおのとされている。
本判決は、①慰謝料だけでなく、
②Xの通院歴から、睡眠障害等のXの症状についても、本件犬の鳴き声が原因となって生じたものであるとして、心療内科への通院について本件犬の鳴き声と因果関係のある損害と認めたほか、
③警察官や弁護士に相談する際の資料を作江資する目的で購入した録音機材等の費用についても、本件犬の鳴き声によって生じた損害として認容。
  民事p112
岐阜地裁H27.9.14  
  アスベストを含む建材の製造会社の安全配慮義務違反・和解の範囲
  事案 Yの従業員として石綿(アスベスト)製品の製造作業等に従事していたX1及びX2が、Yの安全配慮義務違反によって石綿粉じんに曝露し、石綿肺に罹患⇒Yに対して損害賠償を求める訴え。 
  判断 X1については慰謝料2200万円及び弁護士費用220万円
X2については、既払の600万円のを控除した1600万円の慰謝料及び弁護士費用160万円の損害賠償の支払を命じた。 
●使用者の安全配慮義務 
◎   ◎前提としての使用者が認識すべき予見義務の内容:
労働者の生命・健康という被害法益の重大性⇒安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧があれば足りる。
本件においても、Yにおいて労働者が石綿粉じんに曝露することにより、その生命・健康に重大な障害が生じる危険性があることについて認識し得るのであれば、安全配慮義務の前提となる予見可能性があるべき。
①戦前から戦後にかけて石綿肺に関する医学的知見が積み上げられ、昭和32年3月及び昭和33年3月に、労働者の委託研究の研究報告において、石綿肺についての一応の診断基準が示されるとともに、石綿肺が重大な疾病であることが指摘されたこと
②同年5月26日には、労働省労働基準局長によって、労働環境の改善に関する技術上の問題がある程度解決し得るに至ったとして、石綿粉じんに対する各種予防対策措置が指針として示された

遅くとも同日の時点においては、石綿肺及びその予防に係る知見がすでに確立していたというべき。
Yが石綿製品の製造を取り扱う国内有数の株式会社であった

Yは、Xらが勤務していた時期(昭和34年以降)において、Xら従業員が石綿粉じんに曝露することにより、石綿肺等その生命・健康に重大な障害を与える危険性があることについて当然認識することができ、かつ認識すべきであったというべきであり、Yには安全配慮義務の前提となる予見可能性があったと認められる。
Yは、石綿粉じんの発生・飛散防止の対策として、一定の集じん装置を設け、建物内の換気に留意するなど一定の対策を講じ、また、年代を経るにつれて、マスクの支給や安全教育等についても一定の対策を講じてきた。
but
これらの対策は、石綿粉じん及び粉じん対策に関する知見が確立していた時点におけるものとしては、不十分であったと評価せざるを得ない。

Yは、Xら石綿粉じん作業に従事する者の石綿肺へのり患やその増悪を防止するべき義務を履行しなかったものと評価できる⇒Yには安全配慮義務違反があった。
X2は、Yを退職後の平成7年6月16日、Yよりじん肺退職者特別補償見舞金として600万円(Yの社内規程による管理三イに該当する退職者の補償金額)の振込送金を受け、Yに対して同補償見舞金の送金に先立って「領収に当たり私を始め家族の者よりじん肺に関し、いかなる事情が生じても補償等につき何等一切の異議を申し立てないことを確約いたします」との文言が記載されている念書を差し入れている⇒和解契約成立によりX2の請求権は消滅と主張。
本判決:
①一般にじん肺は進行性の疾患であり、その病状の進行の有無、程度、速度は、患者によって多様であり、管理二ないし管理四の各管理区分決定に相当する病状に基づく各損害には質的に異なるものがある⇒重い管理区分に相当する病状に基づく損害は、その決定を受けた時点で初めて発生する別個の損害と評価すべき。
②管理区分ごとに異なる和解金額を定める方法による和解は、当該管理区分に相当する病状に基づく損害の賠償に関する和解と解するのが相当。
③Yにおいて管理四の者が退職するときは扶養者の有無により2200万円又は2700万円が支払われることになっており、X2が受領した600万円という金額は、今後自らの病状が管理四に進行し得ることを含んだ和解金額としては相当に低額。
④本件念書にも、今後より重い管理区分決定を受けた場合や死亡した場合の損害賠償請求権をも対象とする旨の明確な記載はない。

本件念書によりX2とYとの間で、X2の当時罹患していた管理三イに相当する病状に基づく損害賠償請求権のみならず、病状が管理四に進行し得ることを前提に、その進行した病状に係る損害賠償請求権をも含めた形で和解契約を成立させる趣旨のものであったとまでは認められない。
  刑事p137
東京高裁H27.7.15 
  傷害致死被告事件の正当防衛事案(控訴審)
  事案 傷害致死被告事件について、
裁判員裁判による第一審:過剰防衛
控訴審:正当防衛の成立を認め、事実誤認を理由に第一審判決を破棄し、無罪判決。
  規定 刑法 第36条(正当防衛)
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
刑訴法 第382条〔事実誤認と判決影響明白性〕
事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
  解説・判断 ●量的過剰と「防衛行為」の一体性 
過剰防衛には:
A:急迫不正の侵害の継続中に行われた防衛行為自体が必要な程度を超えた場合(質的過剰)と
B:侵害終了後になお反撃行為が行われた場合(量的過剰)
Bについては、急迫不正の侵害に対し、正当防衛に当たる暴行(「第一暴行」)及びこれと時間的、場所的に連続して行われた暴行(「第二暴行」)を、分析的に評価するか、それとも、全体的に評価するかという2つの考え方。
判例は、全体的評価の手法が定着してきている。
本判決:
正当防衛にあたるかどうかは、その行為がなされた時点での状況により判断すべきものであるとした上で、原判決は被告人の顔面殴打行為と踏み付け行為を分断しているが、両者は倒れ込む前の被害者の攻撃に対する、ごくわずかな時間でなされた断絶のない一連一体の反撃行為とみるべきであり、頭部踏み付け行為も、防衛の程度を超えないものとして、正当防衛に当たる。
  ●「事実誤認」の意義 
「事実誤認」(刑訴法382条)の意義について、
最高裁H24.2.13は、「第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らし不合理であることをいう」とし、「控訴審が第一審判決に事実誤認があるというためには、第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要である」と判示。
本判決:
①正当防衛にあたるかどうかは、その行為がなされた時点での状況により判断すべき。
②倒れ込む直前においては、被害者は、被告人に対し、執ような攻撃を加えていた⇒被告人の顔面殴打行為により、前屈みになって倒れたとしても、すぐに体勢を立て直して攻撃してくることが予想される状況にあったとみるのが経験則に適ったもの。
③被告人は被害者が完全に倒れ込んだのを確認してから踏み付け行為に及んだものではなく、倒れ込む途中の段階で踏み付け行為に及んだもの⇒被告人の顔面殴打行為と踏み付け行為は、倒れ込む前の被害者の攻撃に対する、ごくわずかな時間でなされた断絶のない一連一体の反撃行為とみるべき。

被害者が倒れたことから、被害者は被告人を攻撃できるような状態ではなく、被告人もそのことを認識し上で被害者の頭部を足で強く踏み付けたとした原判決は、論理則、経験則等に反した不合理なものであり、是認することはできない。
頭部踏み付け行為によって外傷性くも膜下出血が生ずる可能性については、弁護人及び検察官がそれぞれ請求する医師の各証人尋問を実施した上、その可能性はないと判断。
 2300   
  行政p29
最高裁H28.2.29  
  法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2の適用
  事案 ①ヤフー㈱の代表取締役社長は、平成20年12月26日、ソフトバンク㈱の完全子会社であるソフトバンクIDCソリューションズ㈱(当時、多額の未処理欠損金額を保有)の取締役社長に就任。
②ヤフーは平成21年2月24日、ソフトバンクからIDCSの発行済株式の全部を譲り受け、IDCSをヤフーの完全子会社とした。
③ヤフーは、同年3月30日、ヤフーを合併法人、IDCSを被合併法人とする吸収合併。 
ヤフーは、本件事業年度(平成20年4月1日から同21年3月31日までの事業年度)の法人税の確定申告に当たり、本件合併は法人税法2条12号の8の適格合併であるところ、法57条3項の委任に基づく法人税法施行令112条7項5号に想定されている特定役員引継要件(要旨、合併法人と被合併法人の常務取締役以上の役員のいずれかの者が、合併後にそれぞれ合併会社の常務取締役以上の役人になる見込みがあるという要件)を充たしており、適格合併における被合併法人の未処理欠損金額の引継を制限する法57条3項の適用はないとして、同条2項に基づき、IDCSの未処理欠損金額約542億円をヤフーの欠損金額とみなして、同条1項の規定に基づきこれを損金の額に算入。
麻布税務署長(処分行政庁)は、組織再編成に係る行為又は計算の否認規定である方132条の2を適用し、前記未処理欠損金額をヤフーの欠損金額とみなすことを認めず、ヤフーに対し、本件事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分。

ヤフーが被上告人(国)を相手に、本件副社長就任につき法132条の2は適用されないなどと主張し、本件更正処分等の取消しを求める。
  判断 ●不当性要件
  法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為又は計算が組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいう。 
その濫用の有無の判断に当たっては、
①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか
②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか
等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当。
①ヤフーがIDCSの発行済株式全部を買収して完全子会社とし、その後IDCSを吸収合併した場合において、ヤフーの代表取締役社長が前記買収前にIDCSの利益だけでは容易に償却し得ない多額の未処理欠損金額を前期の買収及び合併によりヤフーにおいてその全額を活用することを意図して、前記合併後に井上がヤフーの代表取締役社長の地位にとどまっていさえいれば法人税法施行令(平成22年政令第51号による改正前のもの)112条7項5号の要件が満たされることとなるよう企図されたものであり、②その就任期間や業務内容等に照らし、井上がIDCSにおいて同号において想定されている特定役員の実質を備えていたということはできないなど判示の事情

法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たる。
  ●行為主体要件 
法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「その法人の行為又は計算」とは、更正又は決定を受ける法人の行為又は計算に限られるものではなく、同条同号に掲げられている法人の行為又は計算を意味する。
  解説 ●不当性要件の意味
ヤフーの主張:
①法132条の2が法132条の枝番
②不当性要件に係る文言の共通性等

同族会社の行為計算の否認規定である同条1項の不当性要件に係るいわゆる「経済合理性基準」(専ら経済的、実質的見地において当該行為計算が純粋経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるか否か)を採用し、かつ、その具体的な内容とし、その通説的見解とみられている「(行為・計算が)異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合」という基準を採用すべきである旨主張。
具体的には、「法132条の2の不当性要件は、私的経済取引プロパーの見地から合理的理由があるか、すなわち純経済人の行為として不合理・不自然な行為又は計算か否かという観点から判断されるべきである。そして、純経済人の行為として不合理・不自然とは、行為が異常ないし変則的で、かつ、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しない場合をいう」と主張
vs.
①経済合理性基準においては、「純経済人の行為として不自然・不合理であるか否か」という基準が用いられるところ、組織再編成は売買契約や雇用契約などの典型契約とは異なるため、必ずしも一般的な取引慣行や取引相場があるわけではなく、多数の企業が関与して複雑かつ巧妙な租税回避行為が行われた場合、そもそも純経済人(特殊な利害関係のない一般的な経済人)の行為として自然かつ合理的な組織再編成とは何かという議論の出発点からその審理判断に困難を来し、その不当性を適切に判断し得ない場合もあり得る。
⇒法132条の2の不当性要件の該当性の判断基準として経済合理性基準をそのまま用いることは、組織再編成という事柄の性質上、必ずしも適切ではない。
②法132条の2が方132条の枝番となっていることは、法133条以下の各番号の変更を避けるための立法技術上の措置
⇒不当性要件の解釈に直ちに影響するものとはいえない。
③立法主義が異なれば、同一の文言であってもその意義や内容に差異が生じることはあり得るというべきであり、法132条1項との文言の同一性もその解釈の決め手となるものではない。
④「租税回避」の概念についても、その意味内容は多義的であり、不当性要件の解釈の決め手となるようなものではない。
国の主張:
法132条の2の立法趣旨等に照らし、いわゆる「制度濫用基準」を採用すべきであると主張。
具体的には、「法132条の2の不当性要件については、組織再編税制における各個別規定の趣旨、目的に鑑みて、ある行為又は計算が不合理又は不自然なものと認められる場合をいい、租税回避の手段として組織再編成における各規定を濫用し、税負担の公平を著しく害するような行為又は計算がこれに当たる」と主張。
本判決:
同条の立法趣旨に照らし、同条の不当性要件の解釈につき、制度濫用基準の考え方を採用する旨を明確に示した。
●濫用の有無の判断に係る考慮事情 
濫用の有無の判断に当たっては、
①行為・計算の不自然性と
②そのような行為・計算を行うことの合理的な理由となる事業目的等の有無
との2点を特に重視して考慮すべきである。

経済合理性基準の具体的な内容に係る通説的見解とされている「(行為・計算が)異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合」に含まれている二つの要素を、組織再編成の場面に即して表現を修正し、特に重要な考慮要素として位置づけたもの。

制度濫用基準の考え方を基礎としつつも、その実質において、経済合理性基準に係る通説的見解の考え方を取り込んだもの。
●  ●濫用の有無の判断における具体的な観点 
「制度の濫用」の意味内容について、最高裁H17.12.19:
企業が外国税額控除制度を濫用した事例につき、当時の法人税法69条を限定解釈して同条の適用を否定したもの。
「本件取引は・・我が国の外国税額控除制度をその本来の趣旨目的から著しく逸脱する態様で利用して納税を免れ、我が国において納付されるべき法人税額を減少させた上、この免れた税額を原資とする利益を取引関係者が享受するために、取引自体によっては外国法人税を負担すれば損失が生ずるだけであるという本件取引をあえて行うというものであって、我が国ひいては我が国の納税者の負担の下に取引関係者の利益を図るものというほかない。そうすると、本件取引に基づいて生じた所得に対する外国法人税を法人税法69条の定める外国税額控除の対象とすることは、外国税額控除制度を濫用するものであり、さらには、税負担の公平を著しく害するものとして許されないというべきである。」
本判決が、濫用の有無の判断において、
①組織再編成を利用して税負担を減少させる意図(租税回避の意図)と
②組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものであること(趣旨目的からの逸脱)
をその要素としているのは、上記平成17年判決の説示における「制度の濫用」の評価の基礎とされた内容が参考にされたもの。
  民事p42
最高裁H26.11.27  
  準備書面の直送のための支出と民訴費用等に関する法律2条2号の類推(否定)
  事案 裁判所書記官が行った訴訟費用の負担の額を定める処分について、異議の申立てがされた事案。
申立人は、相手方に対する立替金請求の終了後、訴訟費用額の確定等の申立て⇒裁判所書記官は、申立人が準備書面の直送をするためにした支出である郵便料金を訴訟費用に含めないで計算し、「相手方は申立人に対し5195円を支払え」との訴訟費用の負担の額を求める処分。⇒異議の申立て⇒原々審と原審は却下の判断⇒抗告許可の申立てをしたところ、原審がこれを許可。
規定 民事訴訟費用等に関する法律 第2条(当事者その他の者が負担すべき民事訴訟等の費用の範囲及び額)
民事訴訟法(平成八年法律第百九号)その他の民事訴訟等に関する法令の規定により当事者等(当事者又は事件の関係人をいう。第四号及び第五号を除き、以下同じ。)又はその他の者が負担すべき民事訴訟等の費用の範囲は、次の各号に掲げるものとし、その額は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

二 第十一条第一項の費用その費用の額
民事訴訟費用等に関する法律 第11条(納付義務)
次に掲げる金額は、費用として、当事者等が納めるものとする。
一 裁判所が証拠調べ、書類の送達その他の民事訴訟等における手続上の行為をするため必要な次章に定める給付その他の給付に相当する金額
二 証拠調べ又は調停事件以外の民事事件若しくは行政事件における事実の調査その他の行為を裁判所外でする場合に必要な裁判官及び裁判所書記官の旅費及び宿泊料で、証人の例により算定したものに相当する金額
  判断 費用法2条2号は、裁判所が民事訴訟等における手続上の行為をするために行う必要な支出について、当事者等に予納義務を負わせるとともに、その支出に相当する金額を費用とすることにより、費用の範囲及び額の明確化を図ったもの。
これに対し、当事者が準備書面の直送をするために行う支出は、裁判所が何らかの手続上の行為を追行することに伴うものではなく、当事者が予納義務を負担するものでもない。そして、当事者が行う支出については、費用法2条4号ないし10号が、費用となるべきものを個別に定型的、画一的に定めているところ、直送は、多様な方法によることが可能であって、定型的な支出が想定されるものではない。直送をするためにした支出が費用に当たるとすると、相手方当事者にとって訴訟費用額の予測が困難となり、相当とはいえない。
 
当事者が準備書面の直送をするためにした支出については、民事訴訟費用等に関する法律2条2号の規定は類推適用されない。 
  民事p44
大阪高裁H27.12.11  
  労働組合に加入している従業員を会社から排除するための会社分割⇒共同不法行為による司法書士の損害賠償責任(肯定)
  事案 Y1は、A社の代表取締役
X2ら従業員は、輸送部門の事業に従事するA社の従業員(運転手)であり、いずれも労働組合であるX1組合に加入。
Y4は司法書士。
Y1は、X1組合との間で、業績悪化等を理由として、経営改善のための合理化案を提示するなどして交渉⇒決裂⇒
Y1は、Y4司法書士及びCと共謀の上、本件会社の事業のうち製造部門(会社分割における新設会社)をB社に承継させ、X1組合の組合員であるX2ら従業員が従事する輸送部門を分割会社であるA社に残すという会社分割をし、その後、分割後のA社の事業を閉鎖することにより、A社からX1組合の組合員であるX2ら従業員を排除することを企て、Y1及びY4司法書士において会社分割。
右会社分割の数か月後、Y1は、分割後のA社(分割会社)の事業を閉鎖。
X1組合及びX2~X5が、Y1、C、Y3(Y1の母)及びY4司法書士は、共謀の上、A社からX1組合の組合員であるX2ら従業員を排除することを企て、会社分割及び分割会社の事業閉鎖を行い、これは共同不法行為に当たる。
⇒損害賠償請求。
  原審 会社分割に係る損害賠償請求に関し、Y1及びCについては、共謀の上、A社からX1組合の組合員であるX2ら従業員を排除するために、Y1において会社分割及び分割会社の事業閉鎖を行ったものであると認定し、それは不法行為に当たる
⇒損害賠償請求を一部認容。 
Y3及びY4司法書士については、これらの者が共謀したとは認められないとして、請求を棄却。
  判断 Y4司法書士に対する損害賠償請求に関し、Y4司法書士は、Y1及びCと共謀したことが認められると判断し、「Y1、Y4司法書士及びCは、共謀の上、A社からX1組合の組合員であるX2ら従業員を排除することを企て、Y1及びY4司法書士において会社分割を行い、その後、Y1において分割会社の事業を閉鎖した。」と事実認定⇒共同不法行為に当たるとして、損害賠償請求を認容。
  解説 会社分割における債権者の保護について、平成26年法律第90号による改正前の会社法では保護対象とされていなかった債権者について、最高裁は、一定の場合に、詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができるとした(最高裁H24.10.12)。 
右改正法は、債権者について、保護規定を設けた(会社法764条等)。
新設分割の方法による会社分割において、個々の労働者の労働契約の承継については、分割会社が作成する新設分割計画への記載の有無によって基本的に定められる。
会社分割に伴い労働契約の承継等に関する法律:
新設会社に承継される事業に主として従事する労働者が右記載(新設会社が承継する旨の記載)をされたときには当然に労働契約承継の効力が生じ(3条)、当該労働者が右記載をされないときは異議を申し出ることによって労働契約承継の効力が生じる(4条)旨規定。
右事業に主として従事する労働者以外の労働者が右記載をされたときは、異議を申し出ることによって労働契約の承継から免れるものとされている(5条)。
承継法3条所定の場合には、労働者はその労働契約の承継に係る分割会社の決定に対して異議を申し出ることができない立場にあるが、分割会社は、労働契約の承継に関し、右立場にある労働者と協議しなければなrないとされており(平成12年商法改正附則5条1項)、右協議義務違反があったときは、当該労働者は承継法3条の定める労働契約承継の効力を争うことができる(最高裁H22.7.12)。、
新設会社に承継される事業に主として従事する労働者以外の労働者について、新設分割計画に新設会社が承継する旨の記載がされず、分割会社に残留することとなる場合には、異議を申し出ることはできず、分割会社に協議義務を定める規定も存しない。
本判決は、労働組合に加入している従業員を会社から排除することを目的として、会社分割をし、分割後、右従業員の所属する分割会社の事業を閉鎖した行為につき、不法行為に当たるとした事例。
本件の控訴審では、Y4司法書士の関係については、会社代表者Y1との共謀が認められるか否かという事実認定に関する争点のほか、共謀が認められない場合に過失があるといえるかが問題とされた。
本判決は、共謀を認定し、Y4司法書士については、故意の共同不法行為が成立するとした。
  民事p67
東京地裁H27.10.27  
  特商法26条1項1号の「営業のために若しくは営業として」の妥当性
  事案 家族の住む住宅兼店舗で喫茶店を営む個人が電話機、ファクシミリのリース契約を締結⇒リース料を相当期間支払った後、特定商取引に関する法律(特商法)9条1項本文に基づきリース契約を解除⇒リース業者が残リース料の支払を請求し、解除の当否等が問題になった事案。
  規定 特商法 第二条
この章及び第五十八条の十八第一項において「訪問販売」とは、次に掲げるものをいう。
一 販売業者又は役務の提供の事業を営む者(以下「役務提供事業者」という。)が営業所、代理店その他の主務省令で定める場所(以下「営業所等」という。)以外の場所において、売買契約の申込みを受け、若しくは売買契約を締結して行う商品若しくは指定権利の販売又は役務を有償で提供する契約(以下「役務提供契約」という。)の申込みを受け、若しくは役務提供契約を締結して行う役務の提供
二 販売業者又は役務提供事業者が、営業所等において、営業所等以外の場所において呼び止めて営業所等に同行させた者その他政令で定める方法により誘引した者(以下「特定顧客」という。)から売買契約の申込みを受け、若しくは特定顧客と売買契約を締結して行う商品若しくは指定権利の販売又は特定顧客から役務提供契約の申込みを受け、若しくは特定顧客と役務提供契約を締結して行う役務の提供
特商法 第二六条(適用除外)
前三節の規定は、次の販売又は役務の提供で訪問販売、通信販売又は電話勧誘販売に該当するものについては、適用しない。
一 売買契約又は役務提供契約で、第二条第一項から第三項までに規定する売買契約若しくは役務提供契約の申込みをした者が営業のために若しくは営業として締結するもの又は購入者若しくは役務の提供を受ける者が営業のために若しくは営業として締結するものに係る販売又は役務の提供
  争点  ①本件各リース契約が特商法2条1項1号所定の訪問販売に該当するか
②本件各リース契約が同法26条1項1号の「営業のためにもしくは営業として」に該当するか 
  判断 契約締結の経緯、電話機等、ファクシミリの設置場所・使用状況等を認定した上、本件各リース契約はY方で契約の申込み及び締結がされた⇒特商法2条1項1号所定の訪問販売に該当。
特商法26条1項1号は、消費者保護の趣旨に照らし、申込みをした者等が事業者であっても、「営業のために若しくは営業として」締結するものでない販売等は、特商法の適用対象外とするものではないと解する。
この判断に当たっては、契約書の契約名義等の形式的なものだけでなく、取引の実態から判断すべきである。
本件各リース契約締結の経緯、Yの営業の実態、内容、リース物件の営業使用の必要性・頻度等を考慮し、「営業のために若しくは営業として」締結したものとは認められず、5条書面の交付のない本件では、特商法9条1項本文のクーリング・オフの権利を行使でき、解除が有効。
⇒本件請求を棄却。
  民事p71
福岡地裁小倉支部H28.1.18 
  マンションの修繕積立金の一部を居住年数に応じて返金する旨の決議(公序良俗に反し無効)
  事案 マンションの修繕積立金の一部を取り崩し各区分所有者に対してその居住年数に応じて返金する旨の管理組合総会決議及びその追認決議は区分所有者間の利害の衡平を著しく害し公序良俗に反し無効か否かが問題となった事案。
Y:本件マンションの全区分所有者を構成員とし、本件マンションの敷地建物の維持管理を目的とする法人格なき社団
X:本件マンションの区分所有物を所有するYの組合員
Yは平成22年9月28日に総会を開催し「居住年数に応じて修繕費取り崩しの一部を特例として返金する」旨の決議⇒Xは、Yに対し、平成22年決議の無効確認等を求める訴えを提起し、同決議を無効とする判決が言い渡され、確定。
Yは平成26年7月16日、臨時総会を開催し、特別決議により、修繕積立金の規定を、修繕積立金の規定を、「次の各号に掲げる特別の管理に要する経費に充当する場合、又は総会の特別決議による場合に限って取り崩すことができる」旨に改正し、平成22年決議に基づく修繕積立金の取り崩し及び各組合員への配分案を改めて追認するとの決議。

Xは、配分基準が不公正であり、配分方法も不合理であるとして、公序良俗に反し無効であるとして、その無効確認を求める訴えを提起。
  規定 建物区分所有法 第19条(共用部分の負担及び利益収取)
各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。
  判断 ①修繕積立金の負担は、区分所有権及びこれを有する各区分所有者の共有部分等に対する共有持分に根ざすもの⇒本質的に区分所有者と分離して考えることができないもの
②修繕積立金を取り崩して区分所有者に配分する場合には、規約に別段の定めがある場合を除いて、専有部分の床面積の割合に応じて行うことが区分所有者間の利害の衡平に資するものである
③区分所有権の承継取得者は、その前主の区分所有者としての地位を承継するものであり、前主が区分所有者として負担した修繕積立金に関する法律関係も同様に承継するものと解されている

規約に別段の規定のない限り、修繕積立金を取り崩し、これを区分所有者に配分するに当たっては、専有部分の割合に応じて行うべき。
本件規約には、取り崩し修繕積立金の返金に伴う配分割合を定めた別段の規定はない

居住期間によって配分基準を定めた平成26年決議は、区分所有者間の利害の衡平を著しく害するものであって、公序良俗に反するとして、Xの主張を認容。
  解説 建物区分所有法19条は、「各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する」と規定
⇒管理費、修繕積立金は原則として持分に応じて負担すべき。
東京地裁H2.7.24:
「マンションの管理費・修繕積立費について、法人所有の場合と個人所有の場合とで金額に約1.6倍の差を設けていた管理規約及びこれに基づく金額決定の集会決議を区分所有法の趣旨及び公序良俗に照らし無効」
東京地裁H18.8.1:
管理費・修繕積立金を滞納しているマンションを競落した者は滞納額を承継しており、これを管理組合に支払わねばならない。
  知財p76
東京地裁H28.4.7 
  著作権判例百選事件保全異議決定
  事案 大学教授である甲野は、自らが編集著作物たる雑誌「著作権判例百選(第4版)」(「本件著作物」)の共同編集著作者の1人であり、出版社であるYがその改訂版として発行しようとしている雑誌「著作権判例百選(第5版)」(「本件雑誌」)は本件著作物を翻案したものであるなどと主張し、本件著作物の著作権(本案権等)又は著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)に基づく差止請求権を被保全権利として、Yによる保険雑誌の複製、頒布等を差し止める仮処分命令を求めた⇒東京地裁が認容⇒Yが保全異議の申し立て。 
  争点 ①甲野が本件著作物の共同編集著作者の1人であるか
②本件雑誌の表現から本件著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができるか(翻案該当性)
③本件著作物は、それ以前に他の者(丙川教授及び戊田教授)が作成した原案(「本件原案」)を原著作物とする二次的著作物にすぎず、本件著作物において新たに付加された創作的表現が本件雑誌において再製されてはいないということができるか
④氏名表示権侵害の有無
⑤同一性保持権侵害の有無
⑥甲野のYに対する黙示の許諾・合意の有無
⑦甲野が他の共同著作者との間で本件雑誌の出版に関する合意を拒むことについて、正当な理由(著作権法65条3項)がなく、信義に反する(同法64条2項)ということができ、かつ、そのことが差止請求に対する抗弁となるか
⑧権利濫用の有無
⑨出版の事前差止めの可否
⑩保全の必要性の有無
  規定 著作権法 第14条(著作者の推定) 
著作物の原作品に、又は著作物の公衆への提供若しくは提示の際に、その氏名若しくは名称(以下「実名」という。)又はその雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるもの(以下「変名」という。)として周知のものが著作者名として通常の方法により表示されている者は、その著作物の著作者と推定する。
著作権法 第19条(氏名表示権)
著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする
著作権法 第20条(同一性保持権)
著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
四 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変
著作権法 第65条(共有著作権の行使)
2 共有著作権は、その共有者全員の合意によらなければ、行使することができない。
著作権法 第64条(共同著作物の著作者人格権の行使)
共同著作物の著作者人格権は、著作者全員の合意によらなければ、行使することができない。
2 共同著作物の各著作者は、信義に反して前項の合意の成立を妨げることができない。
著作権法 第112条(差止請求権) 
著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
  判断  ●争点①
  本件著作物の表紙における甲野ら4名の氏名に「編」を付した表示は、著作権法14条の「著作者名として通常の方法により表示されている」ものに当たる⇒同条による著作者の推定が働く。
本件著作物の素材は判例及び執筆者の執筆する解説であるという前提のもと、
①甲野は、執筆者について、特定の実務家1名を削除するともに新たに別の特定の実務家3名を選択することを独自に発案してその旨の意見を述べ、これがそのまま採用されて本件著作物に具現されていること、
②本件著作物にはついては、当初から甲野ら4名を編者として「著作権判例百選(第4版)」を創作するとの共同の意思の下に編集作業が進められ、編集協力者として関わった戊田教授の原案作成作業も、編者の納得を得られるものとするように行われ、本件原案については、甲野による修正があり得るとうい前提でその意見が聴取、確認されたことm、
③このような経緯の下で、甲野は、編者としての立場に基づき、本件原案やその修正案の内容について検討した上、最終的に、編者会合に出席し、他の編者と共に、判例113件の選択・配列と執筆者113名の割当てを項目立ても含めて決定、確定する行為をし、その後の修正についても、メールで具体的な意見を述べ、編者が意見を出し合って判例及び執筆者を修正決定、再確定していくやりとりに参画

甲野が本件著作物の編集著作者の1人。
最高裁H5.3.30:
編集著作物の著作者の認定に関する判例で、高村光太郎が素材の選択・配列を「確定」する行為をしたことを理由付けに用いている。
  ●争点② 
本件雑誌の表現から本件著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができるかは、
①翻案該当性、②二次的著作物該当性、③同一性保持権の要件(最高裁H10.7.17)充足性に関わる。
本決定は、本件著作物と本件雑誌とを対比し、①判例が共通する割合、②執筆者が共通する割合、③判例と執筆者の組合せが共通する割合、④判例及び解説の配列順序等について検討
⇒直接感得性を肯定。
  ●争点③ 
Y:二次的著作物の著作権者が権利を主張できるのは新たに付加された創作的部分に限られる(最高裁H9.7.17)を前提に主張。
本決定:
「本件原案は、最終的な編集著作物の完成に向けた一連の編集過程の途中段階において準備的に作成された一覧表の一つであり、まさしく原案にすぎないものであって、その後編者により修正、確定等がされることを当然に予定していたものであった」

本件においては、その完成の段階で、甲野を共同著作者の一人に含む共同著作物が成立したとみるのが相当。
途中の段階で本件原案が独立の編集著作物として成立したとみた上で本件著作物について本件原案を原著作物とする二次的著作物にすぎないとするのは相当ではない。
  ●争点④ 
Yが本件雑誌を公衆に提供するに当たり、原著作物の編集著作者として甲野の氏名を表示しない⇒氏名表示権(著作権法19条1項後段)侵害を肯定。
  ●争点⑤ 
争点②の同一性保持権侵害の要件のほか、意に反する改変(著作権法20条1項)の有無及び「やむを得ないと認められる改変」(同条2項4号)該当性が争点。
甲野の「意に反して」改変したものに当たるとする一方、「やむを得ないと認められる改変」には当たらない
⇒同一性保持権侵害を肯定。
  ●争点⑥ 
甲野がYが主張するような黙示的な許諾ないし同意をしたとは認定できない。
  ●争点⑦ 
共同著作物の著作権及び著作者人格権については、著作権法65条2項及び64条1項が共有著作権者ないし著作者全員の合意によらなければ行使できない旨、64条2項は信義に反して合意の成立を妨げることができない旨をそれぞれ規定。
正当な理由がなく、又は信義に反して合意を拒む者がいる場合に、
〇A:他の著作権者ないし著作者としては、その者に対して民執法174条1項に基づく意思表示を命ずる判決を得る必要があるとする説と、
B:これを不要とする説。
大阪地裁H4.8.27:
一部の共有者が合意を拒む場合に、それに正当な理由がないと他の共有者が判断すれば、他の共有者のみで著作権を行使しうるとの効果が著作権法65条3項の規定から生じるとは解されない
  ●争点⑧ 
Yの、差止請求権の行使の権利濫用にあたる旨の主張を認めず。
  ●争点⑨ 
本決定:
北方ジャーナル事件における仮処分は、出版物の表現内容が名誉棄損に当たるとして、その内容の言論を公にすることを差し止めるものであるのに対し、
本件の仮処分は、一定の素材の選択・配列による編集の仕方が著作権法違反であるとして、そのような編集の仕方による出版物を公にすることを差し止めるものであり、言論の内容を公にすることについては何ら禁止するものではない。
著作権又は著作者人格権に基づく差止請求権については、著作権法112条1項で定められているところ、本決定は、差止請求権を肯定。
被保全権利としては、著作者人格権に基づくものを採った。
  商事p103
大阪高裁H27.12.10 
  仕組債の販売と証券会社の説明義務違反(肯定)
  事案 昭和27年生まれの女性であるAが、Y証券会社から仕組債を購入したが、Yの外務員による勧誘に説明義務違反があったなどと主張し、金融商品の販売等に関する法律5条又は民法715条に基づき、Yに対して損害賠償を請求した事案。 
  一審 Yの外務員は、Aに対し、本件EB債に係るリスクを説明し、
特に償還リスクについては、みずほFG株式の価格がノックイン価格を下回った場合には株式償還され、元本割れの危険があることを説明した上で、株式償還された場合につき、具体的事例を用いて説明を行ったことが認められる

金融商品販売法3条1項1号所定の重要事項について説明したものと認めるのが相当
⇒説明義務違反の違法があったということはできない。 
  判断 ①Yの外務員は、契約前に交付書面を交付せず、かつ、株式償還による元本欠損のおそれや元本欠損が生じる仕組みの重要部分を説明していない
②Yの外務員は、Aに対し、「仕組債投資のご提案」と「商品説明書 他社株転換条項付社債」と題するパンフレットを提示しながら、EB債について説明しているが、リスクについてどのような説明をしたのか明らかではないし、これらパンフレットを交付していない
③Aのように初めてEB債を購入する顧客が、本件説明書なしに、券面額を転換価格で除した数値が償還株数となるとか、転換価格と償還時株価の差額に償還株数を乗じた金額が償還時の損失になると想像することは困難
④本件EB債リスク等についてきちんとした説明を受ければ、大きな損失を被るおそれのある本件EB最を購入することはなかったと認められる

Yの外務員の説明義務違反があったとしてYの損害賠償責任を肯定し、原判決を変更して、Xの本訴請求を認容。
  解説 金融商品取引法の成立・施行、その後の改正により金融機関の説明義務は強化・厳格化されているが、金融機関の注意義務・説明義務の範囲・程度は、商品の性格、一般的な危険性の程度及び社会への浸透度・周知度、勧誘の態様、および、顧客の職業、年齢、財産状況、投資経験および購入の目的等を総合的に判断して個別具体的に決定。 
  労働p121
東京地裁H27.11.5  
  銀座のクラブママの契約の労働契約性(否定)
  事案 銀座のクラブでママとして働いて者が労働基準法及び労働契約法上の「労働者」に当たるのか否かが問題となった事例。
Xは、平成25年11月11日、Yとの間で、Yの経営する銀座のクラブでママとして稼働し、YがXに報酬を支払う旨の契約を締結。Xは、本件クラブで平成26年2月まで働いていたが、同月14日、Yから今月一杯で本件契約を解除するむねの意思表示を受けた。
Xは、
主位的に、労働契約に基づき平成26年3月1日から同年11月26日までの間の賃金の支払を求め、
予備的に、本件契約が業務委託契約(準委任契約)であった場合には、解約によって被った損害賠償金の支払を求めた。
  規定 労基法 第9条(定義)
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
労働契約法 第2条(定義)
この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。
  判断 労働基準法及び労働契約法上の労働者とは、使用者による指揮監督下において労務を提供し、当該労務提供の対価(賃金)を受ける者をいうものと解される。 
①指揮命令の有無及び程度:
「Xの主たる業務は、Xの顧客に本件クラブへの来店を勧誘し、これに応じて来店した顧客を接待すること」であり、「Yは、顧客のうちの誰にいつ本件クラブへの来店を勧誘するのか、どのような方法で勧誘するのか」について専らXに任せていた⇒Xが主たる業務を行うに当たり、Yからの指揮命令を受けていたとは評価し難い。
②業務遂行における時間及び場所の拘束:
XはYによって指定・管理されていたということは出来ない
③報酬の労働対償性:
Xの報酬は接客という労務提供の対価としてならば極めて高額⇒労働対償性を欠いている
④Xは他のホステスとは異なる待遇を受け、雇用保険にも加入していなかった。

以上の諸点に照らすと、労働基準法及び労働契約法上の労働者とはいえない。
本件契約を準委任契約と判示し、解約により被ったXの損害を198万円余であると認定し、その限度で請求を認容。
  解説 労働者性に関する従前の裁判例を分析したものとして、昭和60年に取りまとめられた「労働基準法研究会報告」(労判465・69)

①使用者の指揮監督下における労務提供の有無に関する考慮要素と
②報酬の労務対償性の有無に関する考慮要素
に大別して分析。 
労働者性否定の裁判例:
・特定の企業の業務に専従的に従事する庸車運転手
・一人親方の大工
契約書は業務委託契約の形式をとっている場合に、労働者性が肯定されるかについての裁判例。
・芸能プロダクションのタレント志願者について労働者性を肯定
・新聞社のフリーランスの記者について否定
・クラブのホステスについて労働者性を肯定
  労働p129
京都地裁H28.4.12
  管理監督者、付加金、損害賠償、素因減額等
  事案 Xは、宗教法人Yとの間で労働契約を締結し、Yが運営する宿泊施設で調理の業務に従事。
Xが、Yに対して、時間外手当が支払われていないとして、時間外手当及び付加金の支払を求め、異常な長時間労働を強いられたことにより精神疾患を発症し、就労不能となったとして、損害の賠償を求めるなどしたもの。
  Yの主張 Xは、時間外手当及び付加金請求については、管理監督者に該当。 
損害賠償請求については、Xの精神疾患は、部下の調理人へのパワーハラスメントを理由としてYから処分を受けるのではないかとの不安感等に起因するもので、長時間労働とは無関係。
Xの脆弱性や健康保持義務違反による素因減額又は過失相殺。
  規定 労基法 第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
  判断 ①Xが料理長の地位にはあったが宿泊施設内で料理の業務を担当していたにすぎず、Xが統括していた部下の人数は5人程度と極めて少数であった
②メニューの決定や食材の選択といった判断権限は調理の業務を担当する専門職としては当然の業務内容であり、かえって、出費を伴うものについては上長又はYの決裁を得る必要があった
⇒Xが経営上重要な事項の決定等に関与する立場にあったとは到底いい難い
③Xを含む調理人には、Yから前記施設で提供される料理の調理を行うべき包括的な指揮命令がなされていたというべきで、Xが出退勤時刻を判断できた面があるとしても、それは限られた範囲内において、出退勤時刻を調整することができたという意味にすぎず、労働時間について自由裁量を有していたとはいえない

Xが管理監督者に該当するとは認められない。

時間外手当合計1026万円余の支払を命じるとともに、極めて過酷ともいうべき長時間労働を強いていながら、多額の時間外手当を労基法に違反して支払っておらず、労働時間規制を軽視する態度は顕著であって、同法違反の態様は悪質⇒同法上認め得る付加金の全額に当たる677万円余の支払を命じている。
損害賠償請求に関する判断:
①Xが精神疾患を発症するまでの約1年3か月において、Xの時間外労働時間数は、ほぼ毎月140時間を超え、最も多い月では約240時間にも及んでいる
②平成23年には、349日間の連続勤務を含む356日もの勤務を行い、平成24年には、最後の出勤日までの240日のうち228日もの勤務を行っている。
③調理人の人数は、最大でも3名で、X1名の時期もあった
④前記施設の月間宿泊者数は、平均約700人で、最大約1100人にも及んでいる
⑤レストラン営業の月間提供食事数は、1000食を超える月が半数以上あり、約3000ないし3500食に及ぶ月もあった。

Xの業務が強い心理的負荷を生じさせる過重性を有していたとみることができると指摘し、Yの安全配慮義務違反ないしは注意義務違反及びこれとXの精神疾患との因果関係を肯定。
Xが、同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れる同疾患への親和性、脆弱性等の特性等を有していたとはいえない。
Xの健康保持義務違反も認められない。

素因減額及び過失相殺のいずれも否定。

Yに対して、損害合計2011万円余の支払を命じた。
  解説 管理監督者の該当性の判断:
本判決は、労基法41条2号が管理監督者につき労働時間規制を適用しないこととした趣旨から、
①経営上重要な事項の決定等に関与していたか否か
②労働時間に関する裁量があったか
③職務内容や職責等にふさわしい賃金等の待遇を受けていたか
などの事情を総合的に考慮して判断するとの一般論を述べつつも、
特に①②の点を重視した具体的判断。
付加金の支払を命じるか否か、命じるとしてどの程度の金額とするかについては、裁判所の裁量に委ねられるものと解されている。
本判決は、対象額全額の付加金支払を命じるに当たっての主たる理由として、業務が異常に長時間かつ過重な内容であり、それにもかかわらず時間外手当を一切支払っていないなど、労基法違反の態様が悪質であることを挙げている。
損害賠償について、労働時間と業務内容を認定し、量的側面と質的側面から業務の過重性を検討。
その後の判示内容からみても、業務の過重性いかんが事案の結論を左右する分水嶺となると捉えている。
2299   
  行政p28
東京地裁H28.3.22  
  政務活動費を公益社団法人の運営に充当⇒不当利得返還請求を求める住民訴訟(肯定) 
  事案 当時1人会派であった中野区議会議員が平成25年度に交付を受けた政務活動費の一部を東京青年会議所の運営費22万3000円に支出したことが、中野区議会政務活動費の交付に関する条例5条に定める政務活動費を充てることができる経費に該当しない⇒中野区の住民である原告らが、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、被告である中野区長に対し、当該支出につき当該会はに不当利得返還請求及び遅延損害金の請求をするよう求めた事案。
  規定 地方自治法 第100条〔調査権等〕
⑭普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務活動費を交付することができる。この場合において、当該政務活動費の交付の対象、額及び交付の方法並びに当該政務活動費を充てることができる経費の範囲は、条例で定めなければならない。
地方自治法 第242条の2(住民訴訟)
普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、同条第四項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第四項の規定による監査若しくは勧告を同条第五項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる
一 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求
二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求
三 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求
四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合にあつては、当該賠償の命令をすることを求める請求
  解説・判断   ●裁判所の判断の枠組み
  政務活動費の名目で支出された経費の適法性を争点とする事案に対して、裁判所は、まず、法100条14項が、議員又は会派の政務活動に資するために必要な経費の一部として政務活動費を交付する旨を定めるにとどまり、具体的な政務活動費の交付の対象、額及び交付方法を各地方公共団体の実情等を考慮してその裁量判断によって条例で定めうるとしたもの。
これを受けて制定された条例では政務活動費は政務活動に要する経費に充てることができる旨を定めるとともに政務活動費を充てることができる経費支出についての具体的な指標、いわゆる使途基準が各議会において通例設けられており、かかる使途基準が政務活動において一般的に生じるであろう項目を例示し政務活動費を議員が使用するときの具体的な経費を類型化して示している。

裁判所はこれを法100条14項の趣旨に合致した基準であると認めたうえで、政務活動費がこうした使途基準に従って使用されることを要求。
仮に使途基準に反した経費に充てた場合に、当該議員又は会派は当該地方公共団体に対して不当利得返還債務を、
また議員又は会派に故意又は過失があるときは不法行為よる損害賠償債務を負う
とする判断の枠組み。
この枠組みにおいて、政務活動費を充てることができる経費に該当するというためには、問題となった行為ないし活動が、その目的や性質に照らして議員としての政務活動との間に合理的関連性があるか否かを基準に個別的に審査するのが一般的。

使途基準に掲示された経費はあくまで政務活動費に充てることができる例示であると捉えて、当該支出の適法性を個別具体的に審査。
  判断 本件手引きに定める留意事項はその内容に照らして合理的なものであるとして、それを前提に、当該支出が本件条例別表のみならず本件手引きに則したものであることを要するとした。 
本件手引きに認められた具体的経費項目である「研究研修費」、「広聴費」等に本件支出である青年会議所の運営費及び年会費事態について記載がないうえ、「年会費を支払わなければ、本件法人が実施する研修会等を受講することができなかったとしても、年会費は研究会又は研修会に参加するために要する経費(受講費用)や会派として地域団体の会合に出席する場合の会費相当額そのものではない」⇒研究研修費や広聴費と同視することはできない。
「その他の経費」にも該当しない。
  本件手引きのような支出の指針となる自主的な内規は法規範性を有しないとされ、問題となる支出の使途基準適合性の参考とされるにすぎないとされている(大阪地裁H27.4.8)。
but
本判決は、かかる内規も経費支出の適法性の基準として位置づけ、それを厳格に適用した事案としての意義がある。 
  民事p32
最高裁H28.3.1  
  列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた認知症者に対する妻子の監督義務と民法714条の責任
  事案  旅客鉄道事業を営むXが、認知症に罹患した当時91歳のAが駅構内の線路に立ち入りXの運行する列車に衝突して死亡した事故により、列車に遅れが生ずるなどして損害を被った
⇒Aの妻Y1及び長男Y2に対し、民法709条又は714条に基づき、損害賠償金の連帯支払を求めた。 
本件事故当時、Aは認知症が進行しており、責任を弁識する能力はなかった。
鉄道営業法37条は、「停車場その他鉄道地内にみだりに立ち入りたる者」について科料に処する旨を定めており、鉄道地内にみだりに立ち入る行為は刑罰法規違反行為として不法行為を構成。
  規定 民法 第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。
民法 第752条(同居、協力及び扶助の義務)
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
  争点 Yらがそれぞれ同条所定の法定の監督義務者又はこれに準ずべき者に当たるか否か。 
  原審 一方の配偶者が精神上の障害により精神保護及び精神障害者福祉に関する法律(「精神保健福祉法」)5条に規定する精神障害者となった場合には、同法上の保護者制度の趣旨に照らしても、その者と現に同居して生活している他方の配偶者は、夫婦の協力及び扶助の義務(民法752条)の履行が法的に期待できないような特段の事情がない限り、夫婦の同居、協力及び扶助の義務に基づき、精神障害者となった配偶者に対する監督義務を負う。
⇒民法714条1項所定の法定の監督義務者に該当する
⇒XのY1に対する損害賠償請求を一部認容し、Y2に対する損害賠償請求を棄却 
  判断 Aの妻Y1及び長男Y2は、法定の監督義務者に当たらず、かつ、準監督義務者にも当たらない。
  解説    ●法定の監督義務者
  「法定」の義務は、民法新続編や特別法で定められる。
親権者や未成年者後見人等が「法定」の監督義務者に当たることについては、異論がない。
保護者(精神保健福祉法22条1項(平成25年法律第47号による改正前のもの))や成年後見人(民法858条)であることだけでは当たらない。

①保護者の精神障害者に対する自傷他害防止監督義務が平成11年の法律改正により廃止された
②成年後見人の禁治産者に対する療養監護義務が平成11年の法律改正によりいわゆる身上配慮義務に改められたこと(立法担当者は、身上配慮義務の対象は、成年後見人の法律行為に関する権限の行使に当たっての注意義務という規定の性質上、契約等の法律行為に限られるものであり、現実の介護行為にような事実行為は含まれない旨説明)

本判決は、精神障害者と同居する配偶者であるからといって、その者が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできないと判断。
精神障害者(認知症の者)の介護等を行う施設等の責任の有無の問題について判断しておらず、この点は残された問題。
  ●準監督義務者の責任
最高裁昭和58.2.24は、原審認定の事実関係の下で、成年に達した精神障害者の両親に対し民法714条の法定の監督義務者又はこれに準ずべき者としての責任を問うことができない旨判示。

監督義務者に準ずべき者について民法714条の責任を問い得ることを前提にしている。
◎本判決
法定の監督義務者に該当しない者であっても、責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し民法714条に基づく損害賠償責任を問うことができるものとするのが相当であり、このような者については、法定の監督義務者に準ずべき者として、同条1項が類推適用されると解すべき。
ある者が、精神障害者に関し、このような法定の監督義務者に準ずべき者に当たるか否かは、
①その者自身の生活状況や心身の状況など(監督者の状況)とともに
②精神障害者との親族関係の有無・濃淡、同居の有無その他の日常的な接触の程度、精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者との関わりの実情(精神障害者と監督者との関係)
③精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容(精神障害者の状況)
④これらに対応して行われている監護や介護の実態(監護や介護の実態)など諸般の事情を総合考慮して、その者が精神障害者を現に監督しているかあるいは監督することが可能かつ容易であるなど衡平の見地からその者に対し精神障害者の行為に係る責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かという観点から判断すべき。

精神障害者に関して準監督義務者該当性の判断の際の考慮事情と判断の観点を明らかにしたもの。
認知症により責任を弁識する能力のない者Aが線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた場合において、
①Aの妻Y1が、長年Aと同居しており長男Y2らの了解を得てAの介護に当たっていたものの、当時85歳で左右下肢に麻ひ拘縮があり要介護1の認定を受けており、Aの介護につきY2の妻Bの補助を受けていた
⇒Y1は、民法714条1項所定の法定の監護義務者に準ずべき者に当たらない。
②Y2がAの介護に関する話合いに加わり、BがA宅の近隣に住んでA宅に通いながらY1によるAの介護を補助していたものの、Y2自身は、当時20年以上もAと同居しておらず、本件事故直前の時期においても1箇月に3回程度週末にA宅を訪ねていたにすぎないなどの判示の事情
⇒Y2は同項所定の法定の監督義務者に準ずべき者に当たらない
  「その監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情」
監督者の引受意思のみならず、広く監督可能性等も含むものと解される。
「の者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなど」⇒監督という事実状態に基礎をおきつつも、単なる事実状態のみから準監督義務者該当性が肯定されるわけではないという趣旨が含意。
  成年の精神障害者に関する民法714条の適用について
A:親権者に匹敵する同条所定の法定の監督義務者は存在しないとして同条の責任を一切否定し、同法709条の責任のみを肯定する方向
B:精神障害者の監護等につき一定の役割を担う地位にある者を全て同法714条所定の法定の監督義務者として扱いつつ、免責事由の認定を実質化し、各義務者が負担する義務内容に照らし十分な対応がされていれば免責を緩やかに肯定する方向(別途、同法709条の責任の追及は可能とする。)
の2つが考えられるところ、
主体要件(類推適用がされる場合を含む。)について一定の限定を図りつつ別途同法714条1項ただし書の適用の可能性を排除していない
⇒本判決はAとBの中間的な立場。
  民事p54
大阪高裁H27.12.16  
  大阪市の職員に対する労使関係のアンケート実施の違法性(肯定)
  事案 Y市(大阪市)の職員であるXら及びY市の職員により組織された労働組合らが、Y市が平成24年2月、それぞれ所属する部局の職員に対し、記名式による労使関係に関するアンケートに回答するよう職務命令を出し、その実施とともにその結果を集計しようとした⇒違憲・違法な本件アンケートの実施によりXらの思想・良心の自由、プライバシー権、政治活動の自由及び団結権を侵害され精神的損害、無形的損害を被ったと主張し、Y市に対し国賠法1条1項に基づき、損害賠償を請求。 
  一審 Xらの本訴請求を一部認容。 
  判断 本件アンケートの設問ごとに設問の内容と、当該設問によって侵害され得るXらの権利を確認した上、同侵害のおそれがある場合には、当該設問による調査をするする合理性があると認められるかを、本件アンケートの目的や、調査の必要性、調査方法の相当性を踏まえて判断。
本件アンケートは、Xらのプライバシー権、団結権、政治活動の自由等を侵害する違法な設問を含むものであったところ、Y市の公務員である市長・総務局長等が、本件アンケートへの回答を命じる本件職務命令を出し、本件アンケートの実施に関する決裁等をしたことは当事者間に争いがなく、市長等の行為につき職務上尽くすべき注意義務に違反した過失があった。

Y市の国賠責任を肯定し、損害額については原判決より増額。
  解説 市長は、都道府県知事とともに、職員を指揮監督する権限を有し、地方公共団体の職員は、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならないか(地方公務員法32条)、上司の職務命令に重大かつ明白な瑕疵がない限り、これに従う義務を負うものと解される(最高裁H15.1.17)。
使用者が組合加入調査を行ったことの適否について判断した最高裁H7.9.8:
一般に、使用者において個々の労働者が組合員であるかどうかを知ろうとしたというだけで直ちに支配介入に当たるものではないが、使用者が、組合加入が判明することによって具体的な不利益が生ずることをうかがわせるような状況の下で、組合員に動揺を与えることを目的として組合加入の調査をしたと認められるような場合には支配介入に当たると解している。
  民事p92
大阪高裁H27.9.30  
  交通事故で死亡した者の相続人と保険会社の示談が意思無能力により無効とされた事例
  事案 訴外Aは、平成22年12月5日、自動車同士の正面衝突による交通事故で死亡。Aの知人であるBが主となって、加害者側の任意保険会社Y1とAが人身傷害保険にに加入していた保険会社Y2との間で示談交渉を行い、Aの唯一の相続人であるXは、保険会社二社との間で示談をし、保険会社二社はX名義の銀行口座に振り込み入金。but
Xはその保険金を取得できなかった。 

その後Xに成年後見人が選任され、その成年後見人から依頼された弁護士が、保険会社との間の示談交渉はXの意思無能力により無効であり、X名義の口座への保険金等の振込みはXに対する弁済には当たらない
⇒保険会社二社に対して、保険金等の支払を求めた。
  判断  ①Xの発達年齢は6歳程度であったこと、日常生活上単純な作業等であれば行うことができるものの、計算や読字等はほぼできず、財産の管理や抽象的な概念の理解は不可能であり、日常生活上の作業であっても、一部支障が生じるような状況にあったこと、本件示談は、Xが日常生活上行っていた単純な売買や役務の提供等とは異なる、より複雑な内容の契約であると認められること、これらのXの能力、本件示談の内容、性質等に鑑みれば、Xは、本件示談当時、その意味を理解する能力を有しておらず、意思無能力者であったというべきである。
②本件示談金を受領するためになされたX名義の預金契約の締結についても、Xは締結する意思能力を有していなかった

X名義の預金口座への振込みはXに対する弁済にはならない。
  解説 意思能力を有しない者の行為は無効であるとするのが、判例・通説。
  民事p106
福岡高裁H27.11.5  
  冠婚葬祭互助契約における解除時の手数料差引条項と消費者契約法9条1号の違法(否定)
  事案 消費者契約法13条に基づく認定を受けた適格消費者団体であるXが、冠婚葬祭の互助会を運営するXに対し、Yが消費者との間で締結している冠婚葬祭互助契約において、契約の解約時に払戻金から所定の手数料を差し引く旨の条項は、同法9条1号に定める「平均的な損害」の額を超える違約金を定めるものに当たり、また、同法10条に定める消費者の利益を一方的に害するものに当たる。

Yに対して、同法12条3項本文に基づき、解約金を差し引くことを内容とする意思表示の差止め、契約書のひな型の廃棄等を求めた。
  規定 消費者契約法 第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
  一審 解約時に支払済み金額から「所定の手数料」などの名目で425円に入会1年につき408円を加えた額を超える解約金を差し引いて消費者に対し返金する旨を内容とする意思表示を行ってはならないとする限度で、Xの本訴請求を認容。 
  判断 消費者契約法9条1号の「平均的な損害」とは、同一事業者が締結する多数の同種契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額を指し、具体的には、解除の事由、時期等により同一の区分に分類される複数の同種の解除に伴い、当該事務業者に生じる損害の額の平均値をいう。
会員の募集に要する人件費は、役務利用契約を締結した会員を確保するために必要な費用⇒「平均的な損害」に含まれる。
営業用建物の使用に要する費用のうち、会員の募集及び役務履行のための準備として支出されたものについては、Yにとって回収不能の支出となる⇒「平均的な損害」に含まれる必要経費に当たる。
⇒本件互助会契約における解約金条項の定める解約手数料は、消費者契約法9条1号に定める「平均的な損害の額」を超えているとは認められない。
  解説 本判決は、会員募集等の人件費や営業用建物の使用に要する費用のうち、会員の募集及び役務履行のための準備として支出されたものも含まれると判断。 
  民事p124
東京地裁H28.1.15  
  妻の暴力を理由とする慰謝料請求事件(地裁)の離婚及び損害賠償請求事件が係属する家庭裁判所への移送申立(却下)
  事案 地方裁判所に係属した基本損害賠償事件の被告(妻)が、人事訴訟法8条1項に基づき、別件離婚事件が係属する家庭裁判所への移送を申し立て事件。 
基本事件:夫⇒妻に対する暴力を理由とする損害賠償(慰謝料)請求事件
別件訴訟:夫⇒妻に対して離婚訴訟と不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)請求事件
  規定 人事訴訟法 第8条(関連請求に係る訴訟の移送)
家庭裁判所に係属する人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求に係る訴訟の係属する第一審裁判所は、相当と認めるときは、申立てにより、当該訴訟をその家庭裁判所に移送することができる。この場合においては、その移送を受けた家庭裁判所は、当該損害の賠償に関する請求に係る訴訟について自ら審理及び裁判をすることができる。
2 前項の規定により移送を受けた家庭裁判所は、同項の人事訴訟に係る事件及びその移送に係る損害の賠償に関する請求に係る事件について口頭弁論の併合を命じなければならない。
人事訴訟法 第17条(関連請求の併合等)
人事訴訟に係る請求当該請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求とは、民事訴訟法第百三十六条の規定にかかわらず、一の訴えですることができる。この場合においては、当該人事訴訟に係る請求について管轄権を有する家庭裁判所は、当該損害の賠償に関する請求に係る訴訟について自ら審理及び裁判をすることができる。
  解説・判断  人事訴訟法8条1項にいう関連損害賠償事件であることは肯定。
「相当と認めるとき」

人事訴訟法17条1項の規定により両請求を併合して家庭裁判所に訴えを提起することができるにもかかわらず、関連する損害賠償請求について地方裁判所等に訴えを提起した当事者には、人事訴訟との併合審理を保障する必要がないこと、それぞれの請求についての訴訟が別々の裁判所に係属している場合には、移送して併合審理することによる審理の錯綜遅延のおそれを考慮する必要があること。

①審理の錯綜遅延の回避
②当事者の意思と利益の比較衡量
  判断 ①について:
基本事件と比較して別件事件の場合は暴力が行われたとされる以前の暴力や罵倒等の有無、別居に至る事情等についても争いがあり、基本事件を移送しないで両事件を別々に審理した方が早期に解決に至る可能性が高い
②について:
相手方としては、基本事件において主張する暴力の事実だけを早期に確定する目的のもとにあえて両事件を別々に提起したもので、この意思にも合致しないこと

本件移送の申立を理由がないとして却下。
  民事p127
富山地裁H27.11.25  
  市長の発言が名誉毀損による不法行為とされた事例
  事案 死亡した学生らの親であるX1、X2、X3らは、各自、Yに対し、定例記者会見におけるB(市長)の各発言により、Xらの名誉が毀損されたとして、国賠法1条1項による損害賠償請求権に基づき、慰謝料100万円の支払を求めた。 
発言3:「この間訳の分からない失礼な文章で面会したいというお手紙が来たから、即断りました。物事の節度、有り様、礼儀というものをわきまえない手紙でしたよ。」「私は市民全体を代表する立場ですので、そうはいかない。これで伝わったと思いますけれど、おそらく、これだけ言っても意味の分からない、ご理解されない体質の人だろうと思いましたよ。」
  判断 本件発言1、同2について、いずれもXらの社会的評価を低下させるものではない。 
本件発言3について、意見ないし論評を表明するものであるとした上で、Xらの社会的評価を低下させるものである。
①本件発言3の違法性につき、Bは、定例記者会見において、本件発言3に至る前に、Xらがかわった人あるいは意味がわからない人である旨述べたうえで、XらがBに宛てた要望書について、「訳の分からない失礼な文章」「物事の節度、有り様、礼儀というものをわきまえない手紙」、Xらについて「これだけ言っても意味の分からない、ご理解されない体質の人」と論評
⇒本件発言3はXらの「体質」すなわちXらが個人として有する性質の異常性を強調する論評。
②Xらが公的人物ではなく一般市民
③本件発言3は市長の定例記者会見においてされたものであり、これが新聞やテレビジョンで報道され、拡散することは当然に予想されたこと

本件発言3は意見ないし論評の域を逸脱したものであるとして、不法行為の成立を認め、Xらの請求の一部を認容。
  解説 最高裁H1.12.21等:
事実を基礎とする意見ないし論評の表明による名誉毀損について、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、前記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、前記行為は違法性を欠く。 
本判決も、これを前提に、本件発言3が①市長の定例記者会見でされたという態様、②Xらが一般市民であり、他方Bが市長であるという属性の違いを考慮し、本件発言3が意見ないし論評としての域を逸脱したものであるとした。
  民事p137
熊本地裁人吉支部H28.1.13  
  元助役に対する求償金等請求訴訟提起が違法でないとされた事例
  事案 普通地方公共団体であるYが、建設業者でるAらから、指名競争入札において違法に指名を回避されたとして国賠請求訴訟を提起され、損害の賠償を命じる判決が確定しその損害賠償金をAに支払った
⇒当時のY町長であったB及び当時のYの助役で、建設業者指名審査会の会長を務めていたXに対し、国賠法1条2項に基づく求償金等請求訴訟を提起したところ、請求棄却が確定。

Xが、Yに対し、Xを被告とする訴訟提起は違法であったと主張して、国賠法1条1項に基づき損害の賠償を求めた。 
  判断 ①Xの地位・権限やBとの関係性
②指名回避後の対応状況及びYの町議会においても提訴の承認がなされたこと等
⇒Yが、前記審査会の会長を務めていたXも指名回避に関与したと思料し、Aらの各付の決定及び指名の決裁に関与したXの職責上の責任は重いとみて本件訴訟提起に及んだとしても、そのこと自体、特段の事実的、法律的根拠をも伴わないものということはできない。
①本件訴訟提起当時、Xが指名回避に関与したことを証する直接的な証拠は得られてはいなかったものの、関与が問題とされた指名回避という違法行為自体、その事柄の性質上、密行性を強く帯びる性質のものであり、前記諸事実に鑑み提訴をしたとしても無理からぬ点があること、
②本件求償金等請求訴訟が公金支出に関わりのある、公共の利害に深い関わり合いを有する内容のものであり、その解決に当たり、町長や審査会の会長等といった関係要職にある者の責任の存否について、世情の批判に耐え得るよう裁判等の公明正大な解決方法を選択することとしたとしても、そのこと自体直ちに不合理なものといえない

Yが、Xに対する損害賠償請求権を有しないことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて本件訴訟提起に及んだとまでは認め難いというべきであり、Yの本件訴訟提起は、いまだ裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものとはえいえず、Xに対する違法な行為とはいえない。
  解説 訴訟提起が違法となるか否かについては、最高裁昭和63.1.26:
当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる。 
  民事p143
金沢地裁H28.3.31
  「裁判の公正を妨げるべき事情」があるとして、裁判官の忌避に理由があるとされた事例
  事案 生活保護基準引下げ違憲処分取消等請求事件(基本事件)で、X(申立人・基本事件原告)らが、基本事件の受訴裁判所を構成する裁判官について、基本事件と主要な争点を同じくする別件の生活保護基準引下げ違憲処分取消等請求事件において被告国等の指定代理人として期日に出廷し、答弁書を陳述するなどの訴訟活動を行った⇒
当事者の代理人であった者が裁判官となるに実質的に等しい(民訴法23条1項5号参照)として、
主位的に当該裁判所を基本事件の職務から除斥する、
そうでないとしても「裁判の公正を妨げるべき事情」がある(民訴法24条1項)として、予備的に当該裁判所の忌避に理由があるとの裁判を求めた事案。
  規定 民訴法 第23条(裁判官の除斥) 
裁判官は、次に掲げる場合には、その職務の執行から除斥される。ただし、第六号に掲げる場合にあっては、他の裁判所の嘱託により受託裁判官としてその職務を行うことを妨げない。
五 裁判官が事件について当事者の代理人又は補佐人であるとき、又はあったとき。
民訴法 第24条(裁判官の忌避)
裁判官について裁判の公正を妨げるべき事情があるときは、当事者は、その裁判官を忌避することができる。
  判断 「裁判の公正を妨げられるべき事情」とは「当該裁判kなが当該事件やその当事者と特別な関係を有することにより、公正で客観性のある裁判を期待することができないとの懸念を通常人に抱かせる客観的事情をいう」 
以下の事情の下、忌避の理由を肯定。
①主要な争点を共通にする別件事件で当事者の訴訟代理人となっただけでは特別な関係があるとはいえないが、その共通する主要な争点は厚生労働大臣の裁量の逸脱・濫用(違憲性・違法性)の有無であり、それを判断するのに各原告の個別事情が及ぼす影響はもともと乏しい。
②基本事件は別件事件の約2か月半後に提起されるなど訴訟係属の時期が重なっているうえ、本件裁判官が指定代理人として別件事件で提出・陳述されている主張書面とは、主要な争点にかかる主張内容や形式など細部の表現まで酷似しており、二つの事件は強い関連性を有するというべき。
③本件裁判官は別件事件を担当する唯一人の訟務部付検事として主張書面の作成者の筆頭に名を連ね、その作成に実質的に関与し、何らかの影響を及ぼしたことが合理的に推測され、やはり唯一人の訟務部付検事として口頭弁論期日・進行協議期日において主張書面を現に陳述するなど訴訟活動を主動的に行たと認められる。
④その直後に本件裁判官は基本事件の受訴裁判所を構成する裁判官として関与。 
  解説 「裁判の公正を妨げられるべき事情」とは、「通常人が判断して、裁判官と事件との関係からみて、偏頗・不公平な判断がなされるであろうとの懸念を当事者に起こさせるに足りる客観的な事情をいう」(コンメンタール等) 
インフルエンザ等の予防接種で死亡し、また傷害を負った患者や遺族にによる国賠請求事件で、陪席裁判官がそれまで法務局訟務部付として国の利害にかかわる訴訟事件での国の指定代理人としての職務に従事していたとしても、当該事件やこれと同一とみるべき事件につき国の指定代理人となった形跡はない⇒訟務検事としての職務等に従事したとの一事をもって、裁判の公正を妨げるべき事情があるとみることはできない。
(名古屋高裁昭和63.7.5)
裁判官が別件の国賠請求訴訟で一方当事者と対立関係にあることは、忌避事由とならない(神戸地裁昭和58.10.28)。
弁護士から任官した裁判官について、かつて弁護士であった当時に所属していた共同法律事務所が一方当事者の顧客であったことは、忌避事由とならない(東京地裁H7.11.29)。
裁判官は公正を疑われるおそれがあるとみずから考える場合には、事前に正式な回避または事実上の回避で当該事件の担当を避けている⇒忌避の理由があるとする裁判がされる場合は極めてまれ。
     
8月
2298
  行政p17
大阪高裁H27.11.27 
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  イラン国籍を有する者に対する退去強制令書発付処分について、同処分のうち送還先をイランと指定した部分に裁量権の範囲を逸脱した違法があるとされた事例
  事案 イラン・イスラム共和国(イラン)の国籍を有するXは、偽造旅券を行使して本邦に不法入国後、名古屋でイラン人の知人を刺殺
⇒名古屋地方裁判所で殺人及び出入国管理及び難民認定法(入管法)違反(不法在留)の罪により懲役10年の判決。
Xは服役中に、大阪入国管理局(大阪入管)入国審査官から入管法24条1号(不法入国)に該当する旨の認定・通知⇒この認定に服して口頭審理の請求を放棄(入管法47条、48条)⇒同主任審査官は送還先をイランと指定した退去強制令書発付処分(本件処分)をし、本件処分はXが仮釈放された当日に執行され、Xは入国者収容所に収容。

Xは、イランに送還された場合、本件犯行により再び処罰されて死刑に処せられるおそれがあるから本件処分は違法であるとなどと主張し、その取消しを求めて本件訴訟を提起。
  規定 入管法 第53条(送還先)
退去強制を受ける者は、その者の国籍又は市民権の属する国に送還されるものとする。

2 前項の国に送還することができないときは、本人の希望により、左に掲げる国のいずれかに送還されるものとする。
一 本邦に入国する直前に居住していた国
二 本邦に入国する前に居住していたことのある国
三 本邦に向けて船舶等に乗つた港の属する国
四 出生地の属する国
五 出生時にその出生地の属していた国
六 その他の国

3 前二項の国には、次に掲げる国を含まないものとする。
一 難民条約第三十三条第一項に規定する領域の属する国(法務大臣が日本国の利益又は公安を著しく害すると認める場合を除く。)
二 拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約第三条第一項に規定する国
三 強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約第十六条第一項に規定する国
  主張 Xをイランに送還することは、
①我が国の裁判所が死刑にまでは値しないと判断した罪状により、死刑に処せられる蓋然性の高い国に送還する点で憲法13条に反し、
②イラン刑法では、本件犯行に対する選択刑が死刑しかないことから、市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)6条1項・2項、7条等に違反し
③国際的二重処罰禁止の要請に違反する
などの理由により違法。 
  原審 Xをイランに送還することができない事情があるとは認められず、本件処分は適法。
⇒Xの請求を棄却。 
  判断 原判決を変更し、本件処分のうち送還先をイランと指定した部分を取り消し、Xのその余の請求を棄却。 
①主任審査官は、入国審査官から入管法47条3項の通知を受け、容疑者が入国審査官の認定に服したときは退去強制令書を発付しなければならなず、この点に裁量の余地はないが、同令書に記載する送還先については合理的な裁量判断が求められる。
②イランの法制度の下では、殺人罪は同害報復刑の対象となる。
Xがイランに帰国した場合、本件犯行によりイランで再び起訴されて裁判が行われ、その結果、死刑に処せられる蓋然性が極めて高く、イランにおける死刑の執行方法等からすると、公開の場における絞首刑の方法で執行される可能性も相当程度ある。
③入管法53条の趣旨からすると、同条2項にいう国籍国等に「送還することができないとき」とは、送還先の国が戦争状態にあるなどの事情により事実上送還すること不可能な場合等に限らず、国籍国等に送還するときは被送還者の生命に対する差し迫った危険が確実に予想されるような場合も含まれ、その結果が我が国の法制度や刑罰法規の定め、刑事手続の運用等に照らして到底容認し難いものであるときは、たとえそれが送還先の国にとっては合法的な処罰であっても、前記の「送還することができないとき」に当たる。

前記②の事情の下では、Xにつき入管法53条2項にいいう国籍国等に「送還することができないとき」に該当する事情がある。
大阪入管主任審査官が本件処分においてXの送還先をイランと指定したことは合理的な裁量権の範囲を逸脱したものとして違法であり、Xの請求は、本件処分のうち送還先をイランと指定した部分の取消しを求める限度で理由がある。
  解説 入国審査官は、引渡しを受けた容疑者が24条各号の退去強制対象者に該当すると認定したときは、速やかに理由を付した書面をもって主任審査官及び容疑者にその旨を通知しなければならなず、容疑者がその認定に服した時は、主任審査官は、速やかに51条の規定による退去強制令書を発付しなければならない(45条1項、47条3項・5項)。
退去強制令書には送還先が記載されるところ(51条)、その送還先は、国籍国を原則としつつ、国籍国等に送還することができないときは、本人の希望により、本人と一定のつながりのある国等に送還される(53条)。
  行政p28
鹿児島地裁H27.12.15  
  自殺した中学生のいじめに関するアンケートの情報公開条例に基づく情報開示
  事案 鹿児島県出水市内の市立中学校に通っていた生徒の祖父であるXが、本件生徒が自殺したとされる事件に関し、出水市教育委員会が組織した事故調査委員会が同中学校の全校生徒を対象としたいじめに関するアンケート調査について、出水市情報公開条例に基づき、実施機関である出水市教育委員会に対して、本件解答用紙(「本件回答用紙」)及び本件アンケートの結果をまとめたもの(「本件アンケートまとめ」)の各写し(いずれも固有名詞をマスキング処理したもの。併せて「本件文書」)の開示請求⇒全部不開示とする本件処分⇒本件処分の取消し及び本件文書の開示決定の義務付けを求めたもの。
  Yの主張 本件文書に記載された情報は、本件条例7条1号前後及び後段等の不開示情報に該当。 
  判断  本件回答用紙に記載された情報は、本件条例7条1項前段に該当し、部分開示の余地もない。

本件回答用紙の写しに対する処分の取消しの請求については棄却し、開示決定の義務付けの請求については却下。
  本件アンケートまとめについて
回答者の学年、学級及び氏名の記載部分については本件条例1号前段に該当。
「あなた自身について何か伝えたいことや相談したいことがありますか。」という質問に対する回答部分については、回答者自身の気持ちや悩みが記載されていて、当該記載は回答者自身の人格権に密接に関連する情報。
⇒本件条例1号後段に該当。
他の質問に対する回答部分については、本件回答用紙の回答を転記したものであるから本件生徒及び他の生徒(回答者を含む。)の個人情報であり、・・・特定の生徒個人を識別させることから本件条例に7条1号前段に該当。
前記記述部分を除いた部分については本件条例7条1号前段の不開示情報に含まれないものとみなす部分開示の規定を適用すべき。
事前の説明及び承諾なく本件文書が開示されれば、
①表現の自由のうち回答したくないことを回答しない権利という消極的情報提供権が侵害され、又は
②自身の記載した回答がどのように取り扱われるかについてコントロールする、回答者の情報コントロール権が侵害されるから条例7条1号後段に該当するとの主張をいずれも排斥。

本件アンケートまとめの写しに対する処分の取消しの請求については、前記部分を除く同写し(ただし、固有名詞をマスキング処理したもので、前記記述部分及び質問○に対する回答部分を除いた部分。)を不開示としたした部分を取り消す限度で認容し、その余は理由がないから棄却。
開示決定の義務付けの請求については、同写しの前記不開示とした部分の開示決定を義務付ける限度で認容し、その余は却下。
  解説  本判決は、①本件回答用紙が直筆で記載されていること、②本件アンケートの質問文、③本件中学校の生徒数、本件生徒の所属する学級及び部活動の人数といった客観的事実から各不開示情報の該当性を具体的に検討。
中学校が自殺した生徒の死について生徒の書かせた作文につき、同作文は公開、開示を予定して作成されたものではないから同作文を不開示とした決定は相当であるとした裁判例(東京高裁H11.8.23)。
本判決:
本件アンケート結果の回答時において本件アンケート結果を開示しないことが明示されていたとは認められないという事実関係⇒表現の自由のうち消極的情報提供権の侵害はない。
アンケート結果について情報コントロール権が及ぶ余地を残しつつ、生徒の属性や特徴等を示す記述を除くこととすれば情報コントロール権が及ぶ部分は残存しない。
いじめ防止対策推進法が施行され、いじめによる被害が生じた際に学校が調査することが求められている昨今では、その方法としてアンケート調査を実施する例がみとめられる。
  行政p39
佐賀地裁H27.10.23  
  介護保険法22条3項に基づく返還命令処分について
  事案 介護保険法上の指定居宅サービス事業者であるXが、偽りその他不正の行為により居宅介護サービス費の支払を受けたとして、介護保険業務を行う一部事務組合であるYから法22条3項に基づき返還命令処分を受けた⇒その取消しを求めた。 
  規定 介護保険法  第二十二条   (不正利得の徴収等)

3  市町村は、第四十一条第一項に規定する指定居宅サービス事業者、第四十二条の二第一項に規定する指定地域密着型サービス事業者、第四十六条第一項に規定する指定居宅介護支援事業者、介護保険施設、第五十三条第一項に規定する指定介護予防サービス事業者、第五十四条の二第一項に規定する指定地域密着型介護予防サービス事業者又は第五十八条第一項に規定する指定介護予防支援事業者(以下この項において「指定居宅サービス事業者等」という。)が、偽りその他不正の行為により第四十一条第六項、第四十二条の二第六項、第四十六条第四項、第四十八条第四項、第五十一条の三第四項、第五十三条第四項、第五十四条の二第六項、第五十八条第四項又は第六十一条の三第四項の規定による支払を受けたときは、当該指定居宅サービス事業者等から、その支払った額につき返還させるべき額を徴収するほか、その返還させるべき額に百分の四十を乗じて得た額を徴収することができる。
  行政手続法 第13条(不利益処分をしようとする場合の手続)
行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、次の各号の区分に従い、この章の定めるところにより、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。
一 次のいずれかに該当するとき 聴聞
イ 許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき。
ロ イに規定するもののほか、名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分をしようとするとき。
ハ 名あて人が法人である場合におけるその役員の解任を命ずる不利益処分、名あて人の業務に従事する者の解任を命ずる不利益処分又は名あて人の会員である者の除名を命ずる不利益処分をしようとするとき。
ニ イからハまでに掲げる場合以外の場合であって行政庁が相当と認めるとき。
二 前号イからニまでのいずれにも該当しないとき 弁明の機会の付与

2 次の各号のいずれかに該当するときは、前項の規定は、適用しない。

四 納付すべき金銭の額を確定し、一定の額の金銭の納付を命じ、又は金銭の給付決定の取消しその他の金銭の給付を制限する不利益処分をしようとするとき。
行政手続法 第14条(不利益処分の理由の提示)
行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。
2 行政庁は、前項ただし書の場合においては、当該名あて人の所在が判明しなくなったときその他処分後において理由を示すことが困難な事情があるときを除き、処分後相当の期間内に、同項の理由を示さなければならない。
  判断 Xの請求を一部認容。
(本件処分のうち審査請求により取り消されるなどされた部分については、取消しを求める訴えの利益がないとして却下) 
本件処分は、行政手続法13条2項4号所定の「納付すべき金銭の額を確定し、一定の額の金銭の納付をじる不利益処分」に該当⇒聴聞等による意見陳述のための手続が執られなくても違法とはならない。
Xが解散し、その清算手続において債権申出期間が定められた中で本件処分がされ、Yは、本件処分の4日後に根拠法令や返還額の算定過程を記載したい資料等を交付

行政手続法14条1項ただし書所定の「理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要」が存したとともに、同条2項所定の「処分後相当の期間内」の理由の提示があった。
事業者が法22条3項に基づき居宅介護サービス費の返還義務を負うものと認められるためには、その前提として、事業者が居宅介護サービス費の支払を受けたことに法律上の原因がないといえる場合であることを要する。
そして、通所介護サービスの提供の有無について認定する証拠資料となり得るのは通所介護記録に限られるものではなく、提供されたサービスが通所介護記録に記載されていないとしても、それ以外の資料によっても当該サービスが提供されなかったと認めることができない限り、事業者が居宅介護サービス費の支払を受けたことにつき法律上の原因がないとはいえない。
本件では、有料老人ホーム届出施設の記録に照らすと、Yの主張と異なり、Xによる通所介護サービス等の提供がなかったと認めることができない部分がある⇒Xが当該部分に係る居宅介護サービス費の支払を受けたことに法律上の原因がないとはいえない。
  解説 行政手続法13条2項4号は、金銭に関する処分が多数の者に対する大量の処分であることが多く、争いがある場合には事後の争訟に委ねることが適当である等の理由により、意見陳述手続を要しないこととしたものとされている。
介護保険法22条3項の性格について、平成17年法律第77号による改正前のんものについて、最高裁H23.7.14が、介護報酬の不当利得返還義務についての特則を設けたものであるとし、事業者が同項に基づき介護報酬の返還義務を負うには、前提として、事業者が介護報酬の支払を受けたことに法律上の原因がないといえる場合であることを要する旨判示。
本判決は、後の改正によっても同j解釈は左右されないとしたもの。
本判決は、通所介護記録の記録などに関する基準の遵守は、法41条9項所定の審査対象ではない(法律上の原因の有無に関係しない)との判断を前提としているものと思われる。
  民事p47
東京高裁H27.3.24 
  債務者が住所の変更等の届出を怠ったために債権者から通知が到着しなかったときは通常到達すべきときに到着したものとみなす旨の合意と債権譲渡通知(適用否定)
  事案 Y株式会社に対する約15億円の貸金債権を債権者から譲り受けたとするX株式会社が、Yに対して、本件債権の一部1000万円及び約定損害金の支払を求めた。
Yが、同債権譲渡についての通知がYに到達しておらず、この間に本件債権が時効により消滅したと主張して、Xに対してい債務不存在確認を求めるとともに、本件債権を被担保債権とする抵当権の不存在確認及び同抵当権設定登記の抹消登記手続を求める反訴を提起。
Yは、平成19年7月27日、A株式会社から15億円を借り受けた。
同日、AはB株式会社に本件債権を譲渡し、Yは同債権譲渡を承諾するとともに、本件債権を被担保債権とする抵当権を設定。
その後、本件債権は、平成20年11月1日C株式会社に、同年12月8日、D合同会社に、平成24年12月10日、Xにそれぞれ順次譲渡。
Cは、平成25年3月27日、Y宛に、本件債権をDからXに譲渡したことを通知する旨の書面を内容証明郵便により発したが、Yは同年1月22日までに本店を移転してその旨の登記を了しており、移転前の旧本店所在地に宛てて送付された同通知は保管期間経過によりDに返送。
Yは本件債権についての平成20年6月5日までの利息及び元本の一部を支払ったが、同月6日から同年7月5日までの利息の支払日である同年6月5日が経過⇒Yは本件債権残元本について期限の利益を喪失
Xは、平成25年3月4日、Yに対し、本件債権の一部である1000万円の支払を求める支払督促を申し立て、同年5月26日、支払督促正本が代表者の住所地に送達。
Yは、同年6月7日、同支払督促に対して特則異議の申立て⇒本件訴訟に移行。
本件債権に係るA・Y間の前記金銭消費貸借契約においては、Yは、住所等の届出事項に変更があったときは、直ちに債権者に対して書面で届け出ること、この届出を怠ったために債権者の通知・書類送付等が延着し又は到着しなかったときは、通常到着すべきときに到着したものとみなす旨の約定(「本件みなし到達規定」)。
  原審 本件債権譲渡はYに到達しておらず、本件みなし到達規定が債権譲渡の通知にも適用されるとなれば、債務者には債権の帰属関係が不明確となり、二重弁済の危険が生じることとなって、取引の安全を害することになる⇒その限りで本件みなし到達規定は無効。

前記支払督促申立ては債権譲渡の通知を欠くものであるから、時効中断の効力がなく、前記競売開始申立ては時効完成(平成25年6月5日)後のものである。

Xの本訴請求を棄却。
Yの反訴請求をほぼ全部認容(債務不存在確認請求のうち本訴請求に係る1000万円の部分に限っては、確認の利益を欠くとして訴えを却下。)。
  判断 原判決の結論を支持し、Xの控訴を棄却。 
債務者の承諾とともに債務者に対する通知を債務者及び債務者以外の第三者に対する関係において対抗要件とした民法の制度は、当該債権についての債務者の認識を通じて譲渡の有無が第三者に表示されることを根幹として成立しているものであり、同認識を通じて債権についての取引の安全を確保しようとしているものと解される。
⇒その通知を発したことよりも通知が債務者に到達したことを重視すべき。

実際に本件債権譲渡通知がYに到達しておらず、これにより債務者だるYが譲渡の事実を認識するに至らなかったにもかかわらず、本件みなし到達規定により、本件債権譲渡通知がYに到達したものと解することは相当ではない。
本件みなし到達規定については、さらに、これが隔地者に対する意思表示についてはの民法97条1項に関する当事者間のの合意であるとしても、債権譲渡の通知にもこの規定が適用され、通知が到達していないにもかかわらず到達したものとすることは、結局のところ、債務者の認識を通じて債権の取引の安全を確保しようとする民法の規定する債権譲渡の体協要件制度の趣旨を没却することになる。
権利濫用、信義則違反の主張も否定。
  民事p58
東京地裁H27.10.30  

  虚偽の陳述書提出が弁護士の不法行為となる要件(否定)。
  事案 別件訴訟において訴訟代理人となった弁護士が虚偽の陳述書を作成、提出し、虚偽の主張を記載した準備書面等を提出したなどと主張し、別件訴訟の相手方当事者が弁護士の不法行為責任を追及。 
  争点 ①本件陳述書の作成提出が違法か
②第二訴訟における訴訟活動が違法か
③損害額 
  判断 陳述書が結果として裁判所の認定した事実と異なる事実や誇張された表現を記載した陳述書作成が、それだけで事後的に違法と評価することは当事者の立証活動を妨げかねない。

違法と評価されるためには、記載内容が客観的な裏付けを欠くというだけでは足りず、少なくとも、陳述書の記載された事実が虚偽であること、あるいは判断等の根拠とされた資料に看過できない誤りがあり、作成者がその誤りを知り又は当然に知り得たことを要する。
本件では、Yが関与して作成された本件陳述書の作成経緯等を詳細に認定し、Yとしては、陳述書の作成に際して行うべき一定の確認を経ていたとし、本件陳述書の一部の記載が誤りであることを知っていたとか、当然に知り得たとまではいえない。
⇒Yによる本件陳述書の作成提出が正当な訴訟活動として許容される範囲を逸脱したものとはいえない。
本件報告書、本件CDの提出が社会的相当性を逸脱しているとはいえないとし、準備書面などによる主張も、正当な訴訟活動として許容される範囲を逸脱したものとはいえない。
⇒請求を棄却。
  民事p63
東京地裁H27.2.5  
  絵画の売買契約にかかる消費者契約法4条1項に基づく取消しの主張(否定)
  事案 Yから絵画6点を購入したXが、Yに対し、
①同絵画に係る売買契約を消費者契約法4条1項に基づき取り消し、不当利得に基づいて、
②Yがあを介して同絵画の価額についていずれも市場価値と比較して約7倍から12倍の客観的価値があるかのように装い、前記売買契約を締結させたこと、もしくは、Yには前記売買契約に先立ち本件各絵画の実際の市場価値について正確に伝えるべき信義則上の義務があるのにこれを怠ったことについて不法行為に基づく損害賠償として、
③Yは、前記Aの行為について使用者として不法行為責任を負うとして、民法715条に基づいて、同額の損害賠償、及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
  規定 消費者契約法 第4条(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認
  判断 ●消費者契約法の適用について 
Xが「事業として」に当たるか否かについて、Yが主張するXの絵画のレンタル事業やサロン経営については、その内容の点で具体性を欠いており、絵画の売買契約の時点では未だ構想の段階⇒本件絵画の各購入が具体的な事業の準備とまでは評価できない⇒「事業」とは評価できない。
  ●不実告知について 
海外の市場価額が同号の「重要な事項」に当たることを前提に、事実と異なることを告げたかどうかが争われた。
絵画の価格設定について、売主の価格設定が主観的かつ相対的なものであることを肯定した上で、買主にとっての価値も、それが一般にどのような価格で販売されているかどいう事実に依拠し、その購買の意思形成はこれに密接に関連するものと解される。
絵画が流通を繰り返して一定の評価が固まっている場合は格別、そうでない場合は、絵画が顧客に販売する際に設定している価額あるいは公表価額に基づいて算定された価額が示されれば足り、専門業者に依頼しなければ算定の困難な業者買取価額が示される必要はない。
  ●断定的判断の提供
Yから販売を委託されたA(Xは使者である旨主張する。)が絵画の価額が将来高騰する旨の断定的な判断を提供したか否かが争われた。
Xが記帳していた日記には絵画の作品名と上昇する価額を示すような記載があったものの、X自身が記載したものであるから、Xの供述の裏付けとしては不十分。
他に具体的にXの供述の信用を裏付ける事情がない

その供述の信用性を否定し、Xの主張を排斥。 
  民事p72
東京地裁H27.11.12  
  破産管財人に対する優先的破産債権存在確認請求と破産法100条1項の権利行使該当性(肯定)
  事案 Xは、Aの親族が代表取締役の会社。
Aは、B株式会社の代表取締役。
Aは、平成21年4月21日、B社が破産手続開始決定を受けたことに伴い、債権者から破産手続開始申立てがされ、同年6月4日、破産手続開始決定を受けた。
Yは、Aの破産管財人に選任。
その後、Xは破産者Aに代わり同人が国に対して負担する租税債務を第三者弁済した。 
Xは、Aに対して求償権を取得するとともに、国がAに対して有する租税債権について、弁済による代位が生じたとして、同債権(破産法148条1項3号に当たる財団債権に係る部分を除く)について、破産管財人Yに対して、合計12億円余の優先的破産債権が存在することの確認を求めた。
代位取得した租税債権のうち、破産手続き開始前の原因に基づいて生じた租税等の債権であって、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの又は納期限から1年を経過していないものに当たらない債権である合計12億円余は優先的破産債権であるというのがXの主張。
  規定 破産法 第100条(破産債権の行使)
破産債権は、この法律に特別の定めがある場合を除き、破産手続によらなければ、行使することができない。
  争点 本案前の主張について
①破産法100条1項の権利行使該当性
②確認の利益の有無
本案の主張について、優先的破産債権の有無 
  判断 破産法は、債権者その他関係人の利害、債務者・債権者間の権利関係を適切に調整し、債務者の財産などの適正・公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とするものであり(破産法1条)、破産法100条1項は、基準時である破産手続開始時の債務者の総資産と総負債を破産管財人により清算し、債務者の財産などの適正・公平な清算を図るという破産制度の目的を実現するため、破産債権者による個別的権利行使を抑止し、破産財団からの配当に権利の実現を委ねるべく、破産手続害での権利行使を禁止。
破産債権の行使は、法律に特別な定めがある場合を除き、当該債権の満足を求めるすべての法律上及び事実上の行為は破産手続によらずにすることはできず、債務名義に基づく強制執行や保全執行のみならず、給付訴訟や積極的確認訴訟も破産債権の行使として許されない。
本件確認の訴えは、破産手続によらなければ行使することができない破産債権の行使に当たる⇒破産法100条1項に反する不適法な訴え⇒却下。
  解説 学説(通説):
①破産手続の目的を実現するためには、破産債権者による個別的権利行使を抑止し、破産財団を基礎とした破産配当にその権利を委ねることが求められるところ、破産法100条1項はその趣旨を明らかにしたもの。積極的確認訴訟を提起することも破産債権の行使とみなされるので、受訴裁判所は、訴えを不適法却下すべき(伊藤眞)。
②破産手続は集団的な財産清算のための手続であるから、破産債権は集団的に行使しなければならないという拘束を受けるところ、破産法100条1項は、こうした破産手続の本質的要請に基づいて個別的な権利行使を禁ずるもの(山本克己)。
  本判決は、破産法100条1項の趣旨につき通説的な理解に依拠するもの。
Xの主張を排斥する理由付け
①破産手続における破産債権の確定に当たっては、他の債権者にとって別の債権者の破産債権の存否や額、種別が自らの配当の有無及び程度に大きく影響される⇒破産債権者には債権者間に適切な利害調整をさせるべく他の破産債権者の届出債権についても異議申立権。
破産手続外で破産管財人のみを被告として破産債権の存在確認の訴えを提起し、既判力をもってその存在が確定されることは、他の債権者にかかる異議申立権を行使し、破産管財人の意向にかかわらず破産債権の存在を争うことができる機会を失わせ、債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図る上で不可欠な債権者間の適切な利害調整機能が阻害される⇒法100条1項で禁止されている権利行使。
②破産手続外で権利行使を禁止する理由は、必ずしも破産法が簡易、迅速な債権確定手続を設けているからとはいえない。
③本件確認の訴えは、YがAについて債権届出期間及び債権調査期間を定めるように対応せず、かかる状況が破産手続開始決定から長期間にわたり継続⇒Xが確実に消滅時効を中断する上で必要である旨の主張に対し、
裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足するおそれがあると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に破産債権の届出をすべき期間を定めないこともでき(破産法31条1項、2項)、その場合には、破産債権の届出をすること自体は可能であり、その届出をしたときは消滅時効中断の効力を生じると解される⇒本件破産手続との関係において、Xが本件確認の訴えを提起することで消滅時効を中断する必要は乏しい。
  民事p76
松山地裁H27.12.7  
  土地の売買契約において、売買契約書に記載された地番ではなく、売買の対象を特定したと解すべき特段の事情が存在する場合
  事案 土地の売買契約の売主Xが、買主Yに対し、Yが売買の対象となった土地の範囲を超え、隣接するX所有地(本件土地)まで占有使用していると主張して、本件土地の所有権に基づき、本件土地上にYが建築した建物を収去して本件土地を明け渡すよう求めた事案。 
  判断 本件売買契約書には売買の対象として甲153番の1の土地および甲154番の1の土地の記載。
but
XとYは、前記の記載された地番ではなく、Y主張範囲の土地(前記両土地に加えて本件土地等も含まれる別紙図面二記載の土地)を売買の対象として特定したと解すべき特段の事情が存在する。
⇒本件売買の対象はY主張範囲の土地である。 
特段の事情:
①Xは、Y主張範囲の土地等を前主等より購入したが、この一段の土地相互の境界をはっきりと認識しないまま、資材置き場等として使用していた
②Xは、Y主張範囲の土地を他に売却しようと考えて、土地家屋調査士Aに測量を依頼し、別紙図面2が作成された
③その作成後ほどなくして本件売買がなされたが、Xが売買対象範囲を限定する必要性が生じたなどの事情の変化があったことは何らうかがわれない
④別紙図面2の他に、本件売買の対象範囲を特定するような測量図面は作成されていない
⑤Yが甲154番1の土地の農地転用手続をするためにAに作成を依頼した丈量図は、Y主張範囲の土地が甲153番1の土地と甲154番1の土地であることを前提に作成されており、また、この農地転用のための測量や地積更正の手続の際には、Xも現地で立ち合い、隣地所有者として境界線を証明する趣旨の書面を作成するなどして関わっていた
⑥前記両土地の登記簿上の面積が合計1026平方メートルであるのに対し、Y主張範囲の土地の面積は3947平方メートルであり、面積が大幅に異なっている

これらの事情を総合すると、XとYは、Y主張範囲の土地を売買するという認識に基づき、それが甲153番1の土地および甲154番1の土地に当たるものとして売買契約を締結したものというべきである。
  解説 売買の目的物たる土地の範囲は当事者の意思によって自由に決めることができる(一筆の地の一部であっても売買の目的物とすることができる)。
土地の売買において目的物たる土地が表示されているものの、その土地の範囲がどこまでかが争われた事案:
最高裁昭和38.10.8:
①当事者が一筆の山林を表示して売買契約を締結した場合には、特段の事情がない限り、その一筆の山林を構成する地番の全部を売買する意思であったと解するのが契約解釈の通則である
②売買契約上一筆の山林を表示していはいるが、契約締結当時の諸事情に照らして観察すれば、売買には右山林を構成する地盤の一部を指定し、これを譲渡するという趣旨の契約に外ならず、契約の表示は、単に右山林部分の同一性を示すために、右山林部分のみを譲渡する意思を有するにすぎないと解される場合は、前記特段の事情のある場合にあたる。
最高裁昭和61.2.27:
②の「契約締結当時の諸事情」として具体的にどのような事情が考慮されるかを述べる。
目的物を一筆の土地と表示して売買契約が締結された場合であっても、現地におけるその一筆の土地の区分の状況や土地利用の状況(現地ではその一筆の土地が二つの部分に明確に区分されていて、売買契約の買主はその一方の部分のみを賃借して使用していたこと)、当事者の認識(買主もそのような区分の状況を認識した上で売買契約を締結していたこと)、当該売買契約の趣旨・目的(買主がこれまで賃借していた部分を買い受けるという趣旨であったこと)などを考慮⇒取引通念上、一筆の土地の一部(買主がこれまで賃借していた部分)のみを売買の目的物としたものと解するのが相当。
  知財p81
知財高裁H27.11.5 
  入浴施設についての商標権侵害事案(否定)
  事案 「入浴施設の提供」を指定役務とする原告商標に係る商標権を有する被控訴人が、控訴人が運営する入浴施設において被告標章を使用することについて、原告商標権を侵害すると主張して、控訴人に対して
①商標法36条1項に基づき、被告施設の外壁・掲示物、送迎用車両、ウェブサイト及び広告物等への被告標章の使用の差止め
②同条2項に基づき、外壁・掲示物等からの被告標章の抹消並びに被告標章を付した広告物の廃棄を求めるとともに
③商標権侵害の不法行為による損害賠償請求権(同法38条3項)に基づき、原告商標の使用料相当損害金1億1149万697円のうち、一部請求として、8000万円及び弁護士費用400万円の支払を求めた事案。
  規定 商標法 第37条(侵害とみなす行為)
次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
一 指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用
  原判決 被告標章は、原告商標に類似する⇒被控訴人が被告施設について被告標章をを使用する行為は、原告商標権を侵害するものとみなされる(商標法37条1号)。
被控訴人の請求を
①差止め
②抹消及び廃棄
③損害賠償のうち1234万9069円の支払を求める限度で認容 
  判断 原判決中控訴人敗訴部分を取り消し、同部分について被控訴人の請求をいずれも棄却。 
①原告商標の上段部分の「ラドン健康パレス」及び下段部分の「湯~とぴあ」の各部分は、指定役務との関係では、いずれも出所識別力が弱い。
⇒原告商標における「ラドン健康パレス」と「湯~とぴあ」は不可分一体として理解されるべき
⇒原告商標については、上段部分の「ラドン健康パレス」と下段部分の「湯~とぴあ」の部分を分離観察せずに、全体として一体的に観察して、被告標章との類否を判断するのが相当。
②被告標章における「湯~トピア」と「かんなみ」は不可分一体として理解されるべき。

被告標章の上段部分の「湯~トピア」と「かんなみ」の部分を分離観察せずに、一体的に観察して、原告商標との類否を判断するのが相当。
③原告商標と、被告標章のうち強く支配的な印象を与える部分である「湯~トピアかんなみ」・・・とは、称呼及び観念を異にするものであり、また、外観においても著しく異なることが明らか。
全国の入浴施設については、同一の経営主体が各地において同様の名称を用いて複数の施設を運営することがあり、原告商標及び被告標章にはいずれも「ユートピア」と称呼される「湯~とぴあ」又は「湯~トピア」の文字部分が含まれていることを考慮しても、原告商標と被告標章との外観上の相違点、原告施設及び被告施設以外で、「湯ーとぴあ」又はこれに類する名称を用いた施設が全国に相当数存在すること、被告施設の所在地、施設の性格及び利用者の層などの事情をも考慮すれば、原告商標と被告標章とが、入浴施設の提供という同一の役務に使用されたとしても、取引者及び需要者において、その役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできない。
  解説 ●結合商標と分離可能性
最高裁:
結合商標の各構成部分についてそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものと認められる場合には、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、原則として許されない。
but
商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許される場合
①商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合
②それ以外の部分から出所識別標識としての呼称、観念が生じないと認められる場合。
商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとは認められない場合には、一部のみ抽出して比較できる。
本件では、「入浴施設の提供」という役務との関係で、「湯ーとぴあ」又はこれに類する名称を用いた施設が全国に相当数ある
⇒この部分が識別力との関係で弱いものと認定され、これを分離して商標そのものの類否を判断することは許されない。
  ●商標の類否判断 
商標権侵害訴訟における商標の類否は、同一又は類似の商品に使用された商標が商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであり、そのためには、外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべき。
かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべき。
商標の外観、観念又は呼称の類似は、その商標を使用した商品につき出所を誤認混同するおそれを推測させる一応の基準に過ぎず、三点のうち類似する点があるとしても、他の点において著しく相違するか、又は取引の実情等によって、何ら商品の出所を誤認混同するおそれが認められないものについては、これを類似商標と解することはできない。
以上、最高裁。
  知財p91
知財高裁H28.2.17  
  進歩性を否定した判断に誤り、周知技術に関する新たな文献を提示しなかった点は手続違背⇒審決取り消し
  事案 原告は、「自己乳化性の活性物質配合物およびこの配合物の使用」という名称の発明につき、特許出願⇒拒絶査定⇒これを不服とする審判請求をするとともに、手続補正⇒補正発明は、引用文献に記載された引用発明及び周知技術に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明することができ、独立特許要件を満たさないと判断⇒審決の取消しを求めて、本訴を提起
補正後の発明:
水難溶性薬物の固体分散製剤に関するものであり、含有する脂質成分の融点やHLB値、活性成分が本質的に結晶を含まず、脂質成分と結合剤成分が分子分散状態であるという物理的状態、最終的な固定配合物が自己乳化性を有するという性質を特徴とするもの。
  争点 進歩性判断の当否
審決取消事由として、
①相違点の看過
②相違点に関する判断の誤り
③手続違反の有無 
  判断 ●①について
固体分散体(固体分散製剤)には、薬物の微結晶を含むものと、薬物が分子サイズで均一に分散(非晶質化・分子分散)しているもの(固溶体)の両方がある
⇒引用発明が、固体分散製剤であるからといって、直ちに、薬物の結晶を含まないということはできない。
引用発明において、薬物を脂肪酸等に「溶解させた溶液」、「分散させた溶液」のいずれを用いた場合も、「本質的に活性物質の結晶を含まない」ものであるとはいえない⇒この点を相違点とせず、一致点とした審決の判断には誤り。
  ●②について 
審決は、4つの点を独立の相違点と評価した上で、それぞれについて容易相当性を判断。
but
脂質成分の選択及び選択された脂質成分の含有量は、活性物質を十分に溶融させ、最終的にできた製剤中において結晶状態とならないか、他の資質成分や結合剤成分が分子分散状態で存在できるか否かという点に影響を与える重要な要素
⇒相違点1及び2は、相違点3及び5と無関係に設定できるものではないというべきであり、同時に達成可能かどうかを検討する必要がある。
その上で、少なくとも相違点4に係る構成の容易想到性について見ると、補正発明の課題は、製薬技術分野において当然お課題であったが、課題解決の方法として、本件優先日において、自己乳化性製剤が常に最適であると考えられていたわけではなく、固体分散製剤よりも自己乳化性製剤の方が好ましい等の技術情報はないし、引用文献1には、自己乳化製剤とすることについて記載も示唆もない。
⇒相違点4に係る構成は、容易に想到できる事項とはいえない。
  ●③について
審決が、相違点3及び4の判断時に初めて示した溶融押出し等の分子分散体形成のための文献は、周知な技術に関するものではあるが、当業者にとって引用発明に適用すれば、試行錯誤なしに相違点3及び4の構成を具備できるような技術といえない⇒審決が、審判手続において、相違点3及び4の存在を指摘せず、溶融押出しの技術に関する前記各文献を示すこともなく、判断を示すに至って、初めて相違点3及び4の存在を認定し、それに当該技術を適用して、不成立という結論を示すのは、実質的には、査定の理由とは全く異なる理由に基づいて判断したに等しく、当該技術の周知性や適用可能性の有無、これらに対応した手続補正等について、特許出願人に何らの主張の機会を与えないもの
⇒特許出願人に対する手続保障の観点から許されない。
  解説 手続違背について
  ●従前の学説、裁判例 
拒絶査定不服審判に伴い審査請求時の補正では、特許請求の範囲を減縮することができる。
この場合、当該補正によって従前に拒絶理由が解消され、審判手続において新たな補正後の特許請求の範囲に、拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由があっても、特許法159条2項が同法50条本文を準用していない
⇒文理上は、改めて拒絶の理由を通知し意見書の提出の機会を与える必要はない。
審査請求時における補正における再度の通知の要否については、不要とする見解と必要とする見解。
必要とする裁判例でも、当該事案において不意打ちになるか否かということを個別に判断した上で、結果的に手続違背を認めなかったものもあり(知財高裁H26.2.5)、新たな文献を提示すれば即違法として審決が取り消されるわけではなく、実質的な当事者に対する手続保障の有無が、結論に影響を及ぼす重要な要素とされている。
  ●本判決の位置づけ 
これまで、審決時に、拒絶査定の理由とは異なる理由を示した場合であっても、当業者にとっての周知技術や技術常識を適用したにすぎないのであれば、査定の理由と全く異なる理由とはいえず、改めて意見書の提出や補正の機会を与えずに補正を却下しても、手続保障の観点で問題ないとされてきた傾向(知財高裁H19.3.14)。
but
近年では、審判手続において拒絶理由通知に示されていない周知技術を加えて進歩性を否定した審決につき、手続違背の法令違反があるとして取り消した例。
本判決では、特許庁が相違点に係る容易想到性について適用した周知技術につき、①補正発明の効果の実現のために特に重要な自己乳化性に関する部分であることや、②相違点に係る構成に適用可能な周知技術か否かも不明であること
⇒手続違背を肯定。

周知技術に関する文献であっても、本願発明の構成において重要な点に関する部分であることや、本願発明に想到した場合に相違点に係る構成に適用できるか否かが必ずしも明らかではない技術に関するものであれば、例外的に、当事者の手続保障の方を重視するのが相当な場合があることを示したもの。
  商事p124
大阪地裁H27.12.14  
  会社法更生法100条に基づく役員責任査定申立ての事案
  事案 会社更生手続中の更生会社Aの管財人である申立人Xが、更生会社の監査役であった弁護士Yに対し、平成17年法律第87号による改正前の商法277条に基づく損害賠償請求権の額を1億7781万8363円と査定する旨の決定を求めた、会社法更生法100条に基づく役員責任査定申立ての事案。 
YはAの顧問弁護士であったところ、平成13年6月29日から平成18年3月31日までの間、Aの監査役の職にあって会計監査権限及び業務監査権限を有していた。
Bは、Aの代表取締役であり、株式会社Cの100%株主でもあった。
①Bは、Aの代表者として、Cとの間で業務委託契約(経営指導管理、コース管理及び建築設備管理)を締結し、Aは平成16年9月から平成18年3月までの間、Cに対し、業務委託料として合計1億1305万5594円を支払った(業務委託案件)。
②Bは、Aの代表者として、A所有の不動産を7800万円でCに売却する旨の契約を締結した際、担保権設定等を行わずにCが長期間にわたって分割弁済することを許容する合意をした(分割弁済合意案件)。
Xは、業務委託案件においてAがCに弁済した1億1305万559円及び分割払合意案件においてAがCから未だに弁済を受けていない6476万2769円について、Xが監査役としての任務を懈怠したためにAに生じた損害である旨を主張。 
  規定 会社更生法 第100条(役員等の責任の査定の申立て等)
裁判所は、更生手続開始の決定があった場合において、前条第一項各号に規定する請求権が存在し、かつ、必要があると認めるときは、管財人の申立てにより又は職権で、決定で、当該請求権の額その他の内容を査定する裁判(以下この節において「役員等責任査定決定」という。)をすることができる。
2 前項の申立てをするときは、その原因となる事実を疎明しなければならない。
3 裁判所は、職権で役員等責任査定決定の手続を開始する場合には、その旨の決定をしなければならない。
4 第一項の申立て又は前項の決定があったときは、時効の中断に関しては、裁判上の請求があったものとみなす。
5 役員等責任査定決定の手続(役員等責任査定決定があった後のものを除く。)は、更生手続が終了したときは、終了する。
  判断 ●業務委託案件
①経営管理指導に関する業務委託契約については、その業務委託料がコース管理及び建築設備管理に係る業務委託料と比較すると比較的低額であった
②コース管理及び建築設備管理に関する業務委託契約については、それらの契約が締結される前にAからCへ従業員が転籍した事実はあるものの、Yがそのことを認識していたとは認められない

Yが、Aの監査役として活動する中で、業務委託料名下でAからCへ金員を支払ったことを是正しなかったとしても、Aの監査役としての職務を懈怠したとはいえない。
  ●分割払合意案件
①Cが、分割払合意の際、相当程度の現預金を有するとともに経常利益を計上していた
②Aから買い受ける不動産により相当程度の事業収益を上げることができると予測しており、分割払合意のとおりに履行する可能性がないとはいえなかった
③Cの事業収益予測は、Cが金融機関から事業資金を借り入れる際に検討資料とされており、相応の合理性があったと推認される
④Aも、現金預金に一定程度の余裕があった

Aの取締役会において、分割払合意を承認する旨の決議がされたものの、Yに監査役としての任務懈怠があったとはいえばい。
  解説 平成17年法律第87号による改正前の商法277条は、「監査役がその任務を怠りたるときはその監査役は会社に対し連帯して損害賠償の責に任ず」と規定。
監査役の会社に対する責任追及がされる事案では、監査役が多数の取締役と一緒に被告とされることなどから、監査役固有の責任事由が主張されず、結果として監査役の責任が認められないことが多かった。

監査役の任務懈怠による損害賠償責任の成否を判断する上で必要な事実関係は何かということは、必ずしも明らかでなかった。
最高裁H21.11.27:
農業協同組合の事案で、監事としては、代表理事の言動に照らすと、補助金を受けることによって農業協同組合の資金的負担のない形で実行できるか否かについて疑問を持つことができた
⇒事業のための資金の調達方法について調査、確認する義務があった。
大阪高裁H27.5.21:
破産会社の社外監査役が、自ら取締役会に出席をしたことによって、代表取締役の違法な業務執行行為の内容を熟知していた⇒監査役の任務懈怠による損害賠償責任を認める判断。

監査役の任務懈怠による損害賠償責任が肯定されるためには、取締役が違法な業務執行行為に実際に及ぶのではないかと推測させるに足りる具体的な事実が認められることが必要になると思われる。
本判決も、代表取締役であったBの業務執行行為が違法であることについて、監査役であったYが認識可能であったか否かを検討した上で、任務懈怠による損害賠償責任を否定。
  労働p132
福井地裁H28.3.30  
   
  事案 信用金庫の従業員らが理事長らのメールファイルに無断でアクセスし、文書を閲覧、印刷する等した⇒懲戒解雇⇒公益通報の目的で行ったものであり、懲戒解雇が無効である等と主張し、労働契約上の地位の確認等を請求した事件
Aは、平成25年12月、X1、X2について、本件アクセス等が不正サクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)に違反する行為である⇒就業規則の関係規定に該当するとして懲戒解雇⇒X1、X2は、Aに対して、公益通報の目的で行ったものであり、解雇が無効である等と主張し、労働契約上の地位の確認、賃金・賞与等の支払、不法行為に基づき損害賠償を請求。
平成28年2月Y信用金庫がAを吸収合併⇒訴訟を承継。
  規定 公益通報者保護法 第4条(労働者派遣契約の解除の無効)
第二条第一項第二号に掲げる事業者の指揮命令の下に労働する派遣労働者である公益通報者が前条各号に定める公益通報をしたことを理由として同項第二号に掲げる事業者が行った労働者派遣契約(労働者派遣法第二十六条第一項に規定する労働者派遣契約をいう。)の解除は、無効とする。
  争点 懲戒解雇の有効性(X1らが公益通報を目的として本件アクセス等を行ったか、懲戒解雇が社会通念上相当でないといえるか)、不法行為の成否等が争点。
特に、公益通報目的があったかが主要な争点。 
  判断 公益通報を目的としたものかについて、本件アクセス等が不正アクセス禁止法3条に該当する行為であり、就業規則の懲戒解雇事由の1つである犯罪行為に該当するとした上、本件アクセス等の経緯・内容によると、Bとはおよそ無関係の文書が多く、不正融資とも全く関係のないものもあること、不正融資とは関連性が薄いAの職員の不祥事に関するものが大量に印刷されていること、Bへの融資に関係する資料を過去に遡って閲覧・印刷することが可能であるのに、一切行っていないこと、警察からの求めがあっても、不正アクセス等によって取得した資料を一切提出していないこと等

公益目的であった旨のX1らの主張、供述を排斥し、本件アクセス等が不正融資の証拠資料を取得して公益通報を目的とするものであったとは認められない。
本件の諸事情を総合的に勘案すれば、懲戒解雇が社会通念上相当でないものとは認められない。
⇒請求棄却。
  解説 公益通報者保護法4条は、一定の要件の下、公益通報をした労働者が解雇された場合、これを無効とすると規定。
不正アクセス禁止法3条は、何人も不正アクセス行為をしてはならないと定め(定義は、同法2条4項)、この違反には3年以下の懲役又は100万円以下の罰金の刑罰が定められている。
  刑事p142
東京高裁H27.5.19
(①事件)
東京高裁Hk27.12.10 
(②事件)
  全国弁護士協同組合連合会理事長名義の保証書をもって保証金に代えることの許可
  事案 保釈保証金納付方法の変更決定に対する検察官申立てにかかる抗告審の決定。
  保釈保証書に関しては、近年、弁護士協同組合連合会(全弁協)が保釈保証書発行事業の運用を開始。
その概要は、全弁協が、所属員(弁護士)を通じ、被告人の親族や知人(保証委託者)の委託を受けて理事長名義の保釈保証書を発行するもの。
保証委託者は、保証金額の2%に相当する金額(最低金額1万円)を手数料として支払い、また、保証金額の10%に相当する金額自己負担金として預託。 
  規定 刑訴法 第93条〔保釈保証金、保釈の条件〕
保釈を許す場合には、保証金額を定めなければならない。
②保証金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない。
③保釈を許す場合には、被告人の住居を制限しその他適当と認める条件を附することができる。
  刑訴法 第94条〔保証金納付の手続〕
保釈を許す決定は、保証金の納付があつた後でなければ、これを執行することができない。
②裁判所は、保釈請求者でない者に保証金を納めることを許すことができる。
③裁判所は、有価証券又は裁判所の適当と認める被告人以外の者の差し出した保証書を以て保証金に代えることを許すことができる。
  ①事件 事案 多数の薬物犯罪の事案。 
  ●原審(受訴裁判所) 
平成27年5月1日、保証金額を合計500万円と定めて被告人の保釈を許可(同日、保釈許可決定に対する検察官抗告も棄却)。
その後、保証金が納付されないまま推移し、同月15日、弁護人から保証金額500万円のうち300万円について全弁協発行の保証書による代納許可の申出⇒原審は、同申出のとおり、保釈保証金納付方法の変更を許可(原決定)

検察官は、原決定に対し、抗告申立て。
  ●判断 
刑訴法93条1項が保釈に際し保証金額を必要的に定めることとしているのは、一定の取消事由が生じた場合には保釈保証金が没取されるとの威嚇により、被告人の出頭の確保とともに罪証隠滅行為を防止するという担保機能を持たせるため。
そのことは保釈保証金の納付方法についても同様。
⇒納付方法の変更には同担保機能が保たれるかどうかを考慮してなされる必要がある。
①原審は被告人自身やその家族が拠出する500万円の保釈保証金が必要と判断として保釈を許可し、保釈許可決定に対する抗告審もそれを前提に保釈許可決定を是認したと解されるのに、保釈許可決定後の特段の事情の変更がない、②意見書を見ても前記担保機能が保たれることについての言及がない、③事案の内容、前科関係及び被告人に対する求刑意見から相当長期の実刑は免れない状況にある

保釈保証金のうち6割にも当たる部分を全弁協発行の保証書による納付方法に変更することは、被告人の出頭確保及び罪証隠滅の防止のための担保機能を著しく損なうことに帰する。

原決定を取り消し。
  ②事件 事案 3件の侵入盗(住居侵入、窃盗) 
  判断 ①被告人については、保釈保証金によって抑止すべき逃亡のおそれ自体が特に高いものとは言えないこと、②保証委託者は情状証人として出廷した被告人の雇用主であるところ、 全弁協が保証書記載の金額を納付したときは、同雇用主が全弁協等からの求償に応じる義務が生じることになる⇒被告人に与える心理的負担や経済的威嚇については、被告人が雇用主から借金をして保釈保証金を現金で納付する場合とさほどの違いはないこと、③雇用主と被告人との間には相当な信頼関係が存することがうかがわれる

雇用主の被る経済的損失は被告人にとっての心理的負担や経済的威嚇として十分である。
  解説 保釈実務では日本保釈支援協会が運営する保釈保証金立替システムも広く利用されているところ、②事件決定の考え方を敷衍すると、同システムを利用し、被告人の親族や知人等が申込人となって現金で納付する場合と比較しても、さほどの違いはないということになろうか。 
2297   
  行政p19
最高裁H28.1.22   
  特別の利害関係を有する理事が加わった漁業協同組合の理事会の議決(有効とされた事例)
  事案 高知県安芸郡東洋町が、台風の被害に遭った漁業者の所属する町内の漁業協同組合に対し、当該漁業者の被害復旧等に充てるための資金として、町の規則に基づき1000万円を貸し付けた⇒同町の住民である原告が、本件貸付けに係る支出負担行為等が違法であると主張し、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、東洋町長を被告として、当時の町長らに対し1000万円の損害賠償請求をすることを求めた住民訴訟。
貸付けの要件には、当該資金の借入れにつき漁業協同組合の理事会において議決されていることというものがあった。
本件漁協は、理事8名のうち6名が出席した理事会において、全会一致で、東洋町に対し本件申請をする旨の議決をしたが、その理事会に出席した理事6名には、本件申請に係る被害漁業者の経営者及び同人の子が含まれていた。
水産業協同組合法37条2項は、漁業協同組合の理事会の議決について特別の利害関係を有する理事は、議決に加わることはできない旨規定(会社法369条2項と同旨の規定)。
  規定 会社法 第369条(取締役会の決議)

 取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。

2前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。
  判断 漁業協同組合の理事会の議決が、当該議決について特別の利害関係を有する理事が加わってなされたものであっても、当該理事を除外してもなお議決の成立に必要な多数が存するときは、その効力は否定されるものでははいと解するのが相当。
本件漁協の理事8名から特別の利害関係を有する理事2名を除外した6名の過半数に当たる4名が出席してその全員が賛成してされた本件貸付けに係る理事会の議決は、無効であるとはいえない。

同議決が無効であることから本件支出負担行為等は町長の裁量権の範囲を逸脱してされたものとして違法であるとした原判決の被告敗訴部分を破棄。
原告が他に主張する本件支出負担行為等の違法事由の有無等について審理を尽くさせるため、破棄された部分につき本件を原審に差し戻す旨の判決。
  解説 最高裁昭和54.2.23は、本判決と同様の判断であるが、当時の中小企業等協同組合法42条は、昭和56年法律第74号による改正前の商法239条5項の規定を準用するところ、同項は「総会の決議に付特別の利害関係を有する者は議決権を行使することを得ず」と定めるもので、現行の会社法等の規定とは文言が異なる。
  本判決:
特別の利害関係を有する理事が理事会の議決に加わることができない旨を定める水産業協同組合法37条2項の趣旨が、理事会の議決の公正を図り、漁業協同組合の利益を保護することにあると解されることなどを説示
⇒昭和54年最判と同様に、特別な利害関係を有する理事を除いてもなお議決の成立に必要な多数が存在するならば議決の効力は妨げられないとする見解を採用。
  行政p22
東京地裁H27.10.26  
  生徒へのわいせつな内容を含む多数のメール送信等の理由による教員(担任)の免職処分(否定)
  事案 都立高校の男性教員であるXが、女子生徒Aに対し、わいせつな内容を含むメール総計845通を送信したなどとして、懲戒免職処分を受けたことにつき、処分の取消しを求めるとともに、都教委の実施した事情聴取等に違法があるとして国賠法に基づき慰謝料の支払を求めた事案。
メールの送信は勤務時間内外に行われ、メール送信の外にも、XはAに対し、ネックレス等を買い与え、現金1万円を与えるなどした。
懲戒免職処分の理由とされたのは、メール、金品の授与のほか、Aとの交際の噂が広がり保護者に不信感を与えたこと、都教委の事情聴取でXが虚偽の供述を行ったこと。
Aとキスその他の性的な関係を持ったことや交際関係にあったことは認定されておらず、処分理由ともなっていない(都教委の処分量定では、生徒とのキスや性行為は同意の有無を問わずに「免職」想到とされている。)
  規定 地方公務員法 第13条(平等取扱の原則)
すべて国民は、この法律の適用について、平等に取り扱われなければならず、人種、信条、性別、社会的身分若しくは門地によつて、又は第十六条第五号に規定する場合を除く外、政治的意見若しくは政治的所属関係によつて差別されてはならない。
  争点 ①懲戒免職処分理由の存否
②裁量権の範囲の逸脱又はその濫用
③損害賠償請求の成否等
  判断 争点①について、懲戒免職処分の理由とされた事実をすべて認定。 
争点②について、判例を引用し、裁量権の範囲を逸脱又はこれを濫用したものでないかを検討。
その際、都教委が定めている処分量定へのあてはめを検討し、処分量定と異なる処分として免職を選択するときはその客観的・合理的な根拠の有無について慎重に吟味する必要がある。
本件では処分量定では「停職」に相当する事案であり、これを特に重く処分すべき事情があるとはいえない
⇒裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとして違法である。
争点③について、違法な実質的取調べなどが主張されたが、事実が認められない、又は違法性があるとはいえない。
  解説 人事院は国家公務員法に基づく懲戒処分について懲戒処分の指針を設けている(「懲戒処分の指針について」)。
地方自治体や教育委員会等においても、訓令、通達などの形で処分量定を定めていることが多く、本件でも都教委が定めた処分量定が存在。
すべての事案を想定した処分量定をあらかじめ定めておくことは不可能であり、事案毎の妥当性を欠くおそれもある。

前記人事院の懲戒処分の指針でも事案毎に加重又は軽減した処分をすることが予定されており、都教委が本件に適用した処分量定にもその旨定められていた。
公務員の懲戒処分については、平等取扱いの原則(地方公務員法13条)が存在し、処分量定と異なる処分をするときはこの原則との関係が問題となる。
⇒処分量定で定められた処分よりも加重して懲戒処分、特に免職処分をする場合には、慎重に検討することが求められる。
この基準に合致しない処分については、いわゆる平等原則違背等の評価がされ得るものとした裁判例(東京高裁H15.4.23)や処分量定よりも重い処分を適法とした裁判例(広島高裁H15.3.2)がある。
  本件は、処分量定に定めた標準的な処分よりも加重した処分をすることにつき、処分量定上の加重事由の有無についても詳細な検討を加えた上、そのような事情は認められないとした。
  民事p40
最高裁H28.3.10  
  国際裁判管轄についての民訴法3条の9の「特別の事情」が肯定された事例
  事案 Yがウェブサイトに掲載した記事によって名誉等をきそんされた⇒Xらが、Yに対し、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案。
米国ネバダ州法人であるYが記事をウェブサイトに掲載することによって、日本法人であるX1とその取締役であるX2の名誉等の毀損という結果が日本国内で発生⇒日本の裁判所が管轄権(民訴法3条の3第8号)
争点は、民訴法3条の9の事情の有無。
X1の子会社でネバダ州法人であるA社は、ネバダ州でゲーミング(賭博営業)免許を受けているYの発行済株式の総数の約20%を保有し、X2はYの取締役でもあった。
ネバダ州の法令上、ゲーミング免許の取得者は、関係者が犯罪に関与するなど不適格であると規制当局に認定されると、当該免許をはく奪されることがある。
Yの定款には、取締役会が、ゲーミング免許の維持を脅かす可能性がある者として不適格であると判断した株主の株式を強制償還する旨の定め。
A社及びXらは、Yや他の出資者との間で、Yへの出資等に関連する複数の合意。これらの合意中には、同合意に関して提起される訴訟をネバダ州裁判所の専属管轄とし、ネバダ州法を準拠法とする定め。
Yのコンプライアンス委員会からX2についての調査を依頼された米国の法律事務所は、平成24年2月18日、X2及びその関係者が、米国の海外腐敗行為防止法に違反する行為を繰り返してきたとみられること等を記載した報告書を提出。
Yの取締役会は、平成24年2月18日、前記報告書に基づき、A社及びXらはYの定款にいう不適格である者と判断し、A社が保有するYの株式を強制償還することを決議。
Yは、平成24年2月19日、そのウェブサイトに、
①前記報告書によって、X2及びその関係者が海外腐敗行為防止法等に違反する活動をしてきたことが立証されたこと、
②Yの取締役会が前記取締役会決議をしたことを内容とする、英語の記事を掲載。
Yは、平成24年2月19日、ネバダ州裁判所に対し、A社及びXらを被告とし、Yが合法的にかつ定款等に忠実に行動したことの確認請求等に係る訴訟を提起。
A社及びX1は、同年3月、Y及びその取締役らを被告として、Yの前記取締役決議の履行の差止め等を求める反訴を提起。
上記訴訟では、当事者双方から、多数の証人及び文書が開示され、その文書の大部分は英語で作成され、証人の大半は米国等に在住し日本語に通じない。
  規定 民訴法 第3条の3(契約上の債務に関する訴え等の管轄権)
次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定めるときは、日本の裁判所に提起することができる。

八 不法行為に関する訴え
不法行為があった地が日本国内にあるとき(外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合において、日本国内におけるその結果の発生が通常予見することのできないものであったときを除く。)。
民訴法 第3条の9(特別の事情による訴えの却下)
裁判所は、訴えについて日本の裁判所が管轄権を有することとなる場合(日本の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意に基づき訴えが提起された場合を除く。)においても、事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地その他の事情を考慮して、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは、その訴えの全部又は一部を却下することができる。
  原審 ①本件に係る紛争は、XらがA社を通じた出資等により参画したYの事業遂行に伴い生じたものであるところ、X・YらともYの事業・経営に関して日本の裁判所に訴訟が係属することを予想していなかった
②証拠の多くが米国に所在し、これらを日本の裁判所で取り調べるには翻訳等を要する
③Yにとって日本で本件訴訟に対応することは相当程度の負担となる

「特別の事情」があるとして、本件訴えを却下すべきものとした。
  判断 上告を受理した上、上告を棄却。 
  解説 平成23年改正により、民訴法に国際裁判管轄に関する規定が追加され、民訴法3条の9は、民訴法3条の2以下の規定により訴えについて日本の裁判所が管轄権を有することとなる場合においても、「特別の事情」がある場合に訴えの却下を認めた。

従前の判例の趣旨を踏まえ立法化されたもので、国内土地管轄に関しては裁量移送の制度によって適切な裁判所に移送することができるが、国際裁判管轄が問題となる事案では移送をすることができないから設けられた(立法担当者)。
本判決:
①本件が既に米国に裁判所に訴訟が係属していたYの株式の強制償還等に関する紛争から派生したものであること
②想定される本案の争点についての証拠方法が主に米国に所在すること
③X・Yらとも、Yの経営に関する紛争については米国で交渉、提訴等がされると想定していたこと
④Xらが本件訴えに係る請求のため訴訟を米国で提起追行することが、Xらに過大な紛体を課することになるとはいえないこと
⑤前記の証拠を日本の裁判所において取り調べることはYに過大な負担を課することになるといえる
⇒特別の事情がある。

①は事案の性質や関連訴訟の存在
②は証拠の所在地
③は当事者の予測可能性
④⑤は、当事者の負担
を指摘。
  民事p44
東京高裁H28.1.27  
  外国為替証拠金取引(FX取引)への投資勧誘について、勧誘に当たった会社のバーチャルオフィスの総責任者として連絡先になった者及び電話回線の貸与を受けて同社に提供した者の損害賠償責任(肯定)
  事案 A社から自動売買ソフトを利用した外国為替証拠金取引(FX取引)への投資を勧誘され、それに応じて金員を交付したが、返還を得られなかった。

そもそも上記のようなソフトを利用した取引は存在しなかったのであるから、投資勧誘自体が違法な欺罔行為であるなどと主張し、A社が投資勧誘のため利用したいわゆるバーチャルオフィスの総務責任者として連絡先となったY1、電話回線の貸与を受けてA社に提供したY2らに対し、共同不法行為による損害賠償を求めた事案。
  判断  Y1について、
①電気料金を支払って領収書を入手してから2か月足らずの間に、自分の運転免許証、住民票及び電気料金等領収書の各写しを第三者に提供したものであり、これらはいずれも本人確認資料として一般に用いられるものであること、
②Y1においても、前記各書類がそのような性格のものであることを十分に分かった上で、これらをセットで提供したこと、
③それらが短期間のうちにA社の管理下に入っていること
④Y1は、これらを就職活動の一環として求人先に提出したと主張するものの、前記2か月の間において、いかなる求人先に対してこれらを提出したかについて、具体的に明らかにすることができないこと、
⑤むしろ、この期間中において、Y1は契約社員として稼働していたか、事業を立ち上げた時期であって、就職活動をして、これらを求人先に提出する必然性に乏しいこと、
⑥この点に関するY1の供述が、具体性を欠く上、極めて不自然かつ不合理であること
⇒Y1は、これらの書類をA社に提出したものと推認することができる。
Y1は、自分の本人確認資料となり得る書類をセットでA社に提供することによって、A社の不法行為に加担したものと認めることができる。
⇒Y1の不法行為責任を肯定。
  Y2について、
①住所変更後3週間程度の間に、自分の実印及び印鑑証明書等を、その後の1か月余りの間に、自分の運転免許証の写しをそれぞれ使用ないし提供したものとみとめられるところ、これらはいずれも一般に本人確認資料としてい用いられるものであること、
②Y2においても、前記各書類等がそのような性格のものであることを十分に分かった上で、これらを使用ないし提供したこと、
③それらが短期間のうちにA社の管理下に入って利用されていること、
④Y2は、自らの負っており多額の債務処理のために、いわゆる闇金業者にこれらを提供したことがあると供述しているが、具体性を欠く

Y2は、これらをA社のために使用し、又はA社に提供したものと推認することができる。

Y1と同様に不法行為を肯定。 
  解説 投資詐欺会社の勧誘に用いられた携帯電話番号について、運転免許証の写しを第三者に提供したことによって携帯電話番号のレンタル契約の名義人とされた者の損害賠償責任(不法行為の幇助)を認めた裁判例(東京地裁H22.12.22) 
本判決は、投資名目による詐欺被害に関するこれまでの裁判例の流れを踏襲しつつ、投資詐欺会社やその役員又は勧誘に直接携わった従業員以外の関係者について、間接事実を積み上げて共同不法行為責任を認めた事例。
  民事p58
大阪高裁H27.11.25  
  認可外保育施設における乳児の死亡事故と不法行為責任(肯定)
  事案 認可外保育施設に預けていた訴外Aがうつぶせ寝の体位で急死⇒Aの両親であるXらが、 保育従事者らに過失がったとして、保育従事者や本件施設の経営者であるYらに対し、共同不法行為を理由として、損害賠償を請求。
  一審 Aの死因はSIDS(乳幼児突発死症候群)と認めるのが相当であり、鼻口閉塞による窒息死であると認めることができない
⇒外因の窒息死を前提とするYらの責任を認めることができない
⇒Xの本訴請求を棄却。 
  判断 ①Aの死因は、鼻口閉塞により窒息死に至ったものと推認することができる、
②保育従事者らは、保育ルームからベビールームに連れて行く前に、生後4か月のAがうつ伏せ寝の体位で激しく泣いていたことを認識していたにもかかわらず、ベビールームに運んで仰向けに寝かせた後も、Aの呼吸確認等チェックをすることなく放置し、仰向けに戻さなくても大丈夫であると軽信し、これによりAを鼻口閉塞により窒息死させた

保育従事者らには注意義務違反があり、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。 
本件施設経営者らは、保育従事者らの使用者として、民法715条に基づく損害賠償責任を負うと認められる。
  解説 保育園等での乳児の急死について、死亡の原因が中心として争われ、
その原因が乳幼児突然死症候群である場合には責任が否定され、
そうでない場合には責任を肯定する傾向にある。 
  民事p78
東京地裁H27.11.26  
  投資信託の販売委託者及び販売委託を受けた金融機関の説明義務違反等(否定)
  事案 Y1:地方銀行 Y2:金融商品取引業者 
X1及びX2は、Y2又は訴外会社を委託会社、Y1を販売会社として、本件投資信託1及び本件投資信託2を購入。
投資信託1:不動産、債券及び株式の三種類に分散投資するもので、高いインカム収益の確保を図るとともに安定した信託財産の成長を目指すことを特色とする「財産三分法ファンド(不動産・債券・株式)毎月分配型」と称するもの。
投資信託2:内外の債券、不動産投資信託証券及び株式を主要投資対象として分散投資するもので、ハイリスクの成長重視ポートフォリオの性質を有する追加型投資信託。
X1及びX2は、Y1らにおいて、、説明義務違反、適合性原則違反(金商法40条)、虚偽記載のある目論見書等の使用の違法(金商法17条、18条)があるとして、不法行為及び金商法違反により、購入代金から売却代金及び分配金を控除した額の賠償を求めた。
説明義務として、特に、本件投資信託1について、
①特別分配金が収益を原資とするものではなく元本の一部払戻しに相当するという事実、②分配金の水準がファンドの実績を示すものではないという事実について説明を怠ったことを主張。
  規定 金商法 第17条(虚偽記載のある目論見書等を使用した者の賠償責任)
第四条第一項本文、第二項本文若しくは第三項本文の規定の適用を受ける有価証券又は既に開示された有価証券の募集又は売出しについて、重要な事項について虚偽の記載があり、若しくは記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な事実の記載が欠けている第十三条第一項の目論見書又は重要な事項について虚偽の表示若しくは誤解を生ずるような表示があり、若しくは誤解を生じさせないために必要な事実の表示が欠けている資料を使用して有価証券を取得させた者は、記載が虚偽であり、若しくは欠けていること又は表示が虚偽であり、若しくは誤解を生ずるような表示であり、若しくは表示が欠けていることを知らないで当該有価証券を取得した者が受けた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、賠償の責めに任ずべき者が、記載が虚偽であり、若しくは欠けていること又は表示が虚偽であり、若しくは誤解を生ずるような表示であることを知らず、かつ、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかつたことを証明したときは、この限りでない。
金商法 第40条(適合性の原則等)
金融商品取引業者等は、業務の運営の状況が次の各号のいずれかに該当することのないように、その業務を行わなければならない。
一 金融商品取引行為について、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行つて投資者の保護に欠けることとなつており、又は欠けることとなるおそれがあること。
二 前号に掲げるもののほか、業務に関して取得した顧客に関する情報の適正な取扱いを確保するための措置を講じていないと認められる状況、その他業務の運営の状況が公益に反し、又は投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるものとして内閣府令で定める状況にあること。
  判断  Y1らに説明義務違反等はなかったとして、X1らの請求を棄却。
①金融機関等は顧客に投資取引を勧誘するに当たっては当該顧客が当該取引について具体的に理解することができる程度の説明をすべき信義則上の義務を負い、
②その説明義務の程度については、当該顧客の属性や交付した書面の記載内容等を踏まえ、投資判断を行う前提としての事実を具体的に理解できる状況を提供できていたか否かとの観点から、個別に検討すべき。
③目論見書には、「基準価額が当初元本(一万口あたり一万円)と下回っている場合においても、分配を行う場合があります」、「収益分配金には課税扱いになる「普通配当金」と非課税扱いになる「特別分配金」(元本の一部払戻しに相当する部分)の区分があります。」、「収益分配金落ち後の基準価額が、受益者の一口当たりの個別元本を下回っている場合には、収益分配金の範囲内でその下回っている部分の額が特別分配金となり、収益分配金から特別分配金を控除した金額が普通分配金となります。」などと記載され、X1らに交付された目論見書及び販売用資料を読めば、特別の分配金が元本の一部払戻しに相当するという事実、分配金の水準はファンドの実績を示すものではないという事実を理解できるし、X1らが分配金実績を重視していたなどの事情も窺われない状況下では、目論見書を示して説明、交付がされたことをもって、前記事実を具体的に理解できる状況は提供されていたものというべき
⇒Y1は説明義務を履行していた。
  金商法17条の点については、目論見書は前記事実を理解するに足りる記載を含むもの⇒誤解を生じさせないために必要な事実の表示が欠けていたとは認められない⇒同条違反の事実は認められない。
  適合性原則の点については、X1らが余裕資金である旨述べていたことや担当者らにおいて過剰な働きかけがあったなどの事情も窺えない⇒違反行為を認めず。
本件投資信託2におけるY1の責任についても、前記説明義務違反がなかったことや本件投資信託2の時点では、X2において投資信託に関する相応の知識経験を有していた⇒責任否定。
  解説 ●説明義務
  説明義務については、契約の締結に当たって、契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき事情を提供しなかった場合には、信義則上の説明義務違反として不法行為による損害賠償責任が発生する(最高裁H23.4.22)。 
金融商品取引業者等と一般の投資家について、
①情報格差や、②顧客の金融商品取引業者等に対する依存関係
⇒金融商品取引業者等は顧客が将来不測の損害を被ることのないよう自己責任の下に取引が可能な程度に説明すべき信義則上の義務がある。
必要とされる説明義務の範囲程度は、顧客の知識、取引経験等に応じて自己責任の下に合理的な判断をすることが可能か否かという点から決定される。
  ●適合性原則
顧客の知識、取引経験等に照らして、不適当な勧誘が行われると、顧客に不利益を及ぼすことになる
⇒金融商品取引業者等は適合性原則に違反した勧誘、販売を行うことはできない(金商法40条1号)。
顧客の意向と実情に反して、明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性の原則から著しく逸脱した取引の勧誘をしてこれを行わせたときは、当該行為は不法行為上も違法となる(最高裁H17.7.14)。
その判断に当たっては、「単に・・・取引類型における一般的抽象的なリスクのみを考慮するのではなく、・・・具体的な商品特性を踏まえて、これとの相関関係において、顧客の投資経験、証券取引の知識、投資意向、財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要がある」
本判決は、X1らの属性、目論見書及び販売用資料の記載事実、これらを示した際の説明などを総合的に考慮して、顧客において投資信託に必要な情報は取得できていたとして説明義務違反等はなかったと判断。
  民事p86
札幌地裁H27.11.13  
  登記と詐害行為判断の基準時
  事案 AはB商事の代表取締役。
Xは信用保証協会。
平成22年7月22日、B商事のC銀行からの借入債務を保証する旨の信用保証委託契約を、XはB商事との間で締結。
契約内容として、Xが保証債務を履行(代位弁済)したときは、B商事はXに対し代位弁済額と代位弁済の翌日から支払済みまで年14%の割合による損害金を支払う旨合意。
Aは、平成22年7月22日、BのCからの借入債務につき、BのXに対する保険保証委託契約に基づく債務を書面により連帯保証。
平成25年7月11日、Bが廃業しCに対する期限の利益を喪失⇒XがCに代位弁済⇒AはBとともに、Xに対し連帯保証債務を負った。 
平成25年3月1日当時、本件不動産には、BのDに対する債務(約4549万円)を担保するために極度額1000万円の根抵当権の登記が設定。
Aは妻Yに本件不動産を同年3月1日に贈与。その後、同年4月24日に根抵当権設定契約の解除を原因として同年5月15日にDの根抵当権登記が抹消
Aは、同年5月21日に、本件不動産の同年3月1日の贈与契約を原因とする所有権移転登記手続をYのために完了。
Xは、右のAからYへの本件不動産の贈与が詐害行為に該当すると主張して詐害行為取消訴訟を提起。
  判断 債務者の行為が詐害行為として債権者による取消しの対象となるか否かは、その行為当時の情態によってこれを決すべきである。
その譲渡行為によって生じた効果を第三者に対抗する要件にすぎない登記手続当時の情態を基準とすべきではないと解するのが相当。
(最高裁昭和55.1.24)
本件贈与時にはDの根抵当権の登記が設定されており、その被担保債権額が目的不動産の時価を大きく上回る⇒一般債権者であるXのための共同担保は存在しない⇒Xは詐害されない。

共同担保の範囲を決定する基準時も処分行為時。
  商事p91
東京地裁H27.12.14  
  末期肺がん状態の被保険者の入浴中に死亡と保険金請求(否定)
  事案 被保険者Aが自宅で入浴中に溺死した保険金請求事件 
本件保険契約の約款には、
「急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に被った傷害」に対して、保険金を支払う旨の規定が、また、
「被保険者の脳疾患、疾病または心神喪失」のときは保険金を支払わない旨の規定が置かれていた。
  争点 ①本件事故は外来性の要件を見たしているか
②Yは疾病免責条項により免責されているか 
  判断 ●争点①について 
被保険者の志望が溺水吸引によって窒息死したのか、それとも病死したのかが争われる場合には、外来性の要件につき主張立証責任を負う保険金請求者が溺水吸引による窒息死であること(外来の事故に該当すること)を主張立証すべき責任を負う。
本件事故の状況、死体の検案書には「不慮の外圧死」「溺水」とされている⇒Aは、直接的には湯の吸引による窒息により死亡したと認定。
Yは、C医師の「Aの吸水量は少量。おそらく呼吸停止した後に溺水したのではないか」との回答を根拠に外来性の要件を充たしていないとの反証
but
反対の意見を述べる医師もおり、解剖医によって考え方が異なっている⇒反証は理由がない。
  ●争点②について、
医師らの説明に基づき検討の結果、Aは肺がんにより身体が極めて衰弱した状態にあったためずり落ちて溺水したか、又は肺がんの影響で意識障害を起こして溺水した蓋然性が高い
⇒本件事故は「疾病免責条項」に該当するとして、Xの請求を棄却。 
  解説 災害補償規約が「被共済者が急激かつ偶然の外来の事故で身体に傷害を受けたこと」を補償費の支払事由と定め、これとは別に「被共済者の疾病によって生じた障害については補償費を支払わない」との規定を置いている場合、被共済者の身体の外部からの作用による事故と被共済者の傷害との間に相当因果関係があることを主張立証すれば足り、前記傷害が被共済者の疾病を原因として生じたものでないことを主張立証すべき責任を負わない(最高裁H19.7.6)。
①体が急激に温まるとてんかん発作を起こしやすい体質であり、本来入浴する際にはてんかん発作の発現に対処することができるよう付添いが必要であるとされていたにもかかわらず、入院中の病院において入浴した際、看護婦が付き添いを怠ったため、てんかん発作を起こして溺死⇒疾病免責条項を適用して保険金請求を否定した事例。
②飲酒後にうたた寝をしていた被保険者が、起きざまに飲酒しようとしたときに食吐物誤嚥を起こし窒息死⇒「外来の事故」に当たるとして保険金請求を肯定した事例
③自動車を運転中に交通事故惹起して死亡した被保険者が糖尿病にり患していた場合⇒その死亡の直接の原因が当該事故であることが明らかであるとして、保険金請求を肯定
  経済p99
仙台地裁石巻支部H25.9.26 
  傘下組合員が支払った取引手数料の一部について協同組合連合会が割戻しを受ける旨の合意の効力(有効)
  事案 宮城県内のかき仲買人を会員とする組合の協同組合連合会であるXが、宮城県内の生かきのほぼすべての販売する県漁業組合連合会がかき仲買人から取引手数料の徴収を開始した際、Xの会員組合に所属する仲買人が県漁連に支払った手数料の一部をXに交付金として割り戻すことで県漁連と合意し、その後は手数料率や割戻率の改訂、訴訟上の和解等を経て、Yが県漁連の権利義務を包括承継した後も、毎年交付金の支給を受けていた。
but
Yが、前記合意を解除したとして交付金を支給せず
⇒Xが、Yに対し、合意に基づく交付金の支払を求めた。
  Yの主張 ①前記合意は中小企業等協同組合法にいう団体協約にあたところ、Xはその締結にあたり総会の事前承認を得ていないし、団体協約である旨が文言上明記されていない⇒無効
②前記合意が団体協約にあたらないとすると、これは同法により協同組合連合会が行い得る事業の範囲に含まれない⇒Xの権利能力を欠くもので無効。
③前記合意はYがXの傘下の仲買人と他の仲買人との不当に差別的な取扱いをするもの⇒公序良俗(独禁法等)に違反し無効
④Yによる前記合意の解除は有効。 
  判断 Yの主張を退け、Xの請求を認容。 
主張①について、前記合意はYがXに対し交付金を支給するというもので、X傘下の組合員らの取引条件等を直接定めたものとは認められない⇒団体協約に当たらない。 
主張②について、Xが所属員の事業に関する共同事業を行えることや団体協約を締結できること⇒これらの附帯事業としてXの事業の範囲内に含まれる。
主張③について、独禁法上差別的対価が違法となるのは、自己の競争者又は相手方に対し、不当な利益若しくは不利益を与え、又は不当な目的を実現させるために行われる場合⇒こうしたいとのない本件とは事案が異なる。
本件で問題となりうるのは、Xがも自らの地位を利用して自ら(の傘下の仲買人)を優遇するようYに強制すること(優越的地位の利用)。
but
本件においては、Yが対象商品のほぼ全てを供給うしていることなどに照らせば、Xの取引シェアを踏まえてもXが検討対象市場において優越的な地位にあるとは認め難く、独禁法上の問題は生じない。
  控訴審 前記合意は前記手数料が支払われる取引が続く限り当然に継続すると解される旨の判断⇒Yの控訴を棄却。
  解説 独占禁止法は、公正かつ自由な競争の促進を目的として、事業者等に対し競争を制限、阻害する行為等を規制するもので、主に行政措置によりその実現を図るものであるが、私人間においても、独禁法に違反する契約又は契約解除が私法上無効であると主張することも可能(最高裁昭和52.6.20)。
  労働p107
最高裁H26.3.24 
  労働者が自らの精神的健康に関する一定の情報を使用者に申告しなかったことを理由とする過失相殺(否定)
  事案 Yの従業員として液晶ディスプレイを製造する工場に勤務していたXが、うつ病にり患して休職し休職期間経過後にYから解雇
⇒前記うち病は過重な業務に起因するものであって前記解雇は違法、無効であるとして、Yに対し、
①安全配慮義務違反等の損害賠償
②Yの規程に基づく見舞金の支払
③未払賃金の支払
④雇用契約上の地位確認等
を求める事案。
  原審 ①本件うつ病には業務起因性が認められ、本件解雇は無効。
②未払賃金請求については、残業手当相当部分と賞与相当部分を除いた部分のみ認容
③安全配慮義務違反等の損害賠償請求について、
Xが、神経科の医院への通院、その診断に係る病名、神経症に適応のある薬剤の処方等の情報を上司や産業医等に申告しなかった⇒YにおけるXのうつ病の発症を回避したり発症後の増悪を防止する措置を執る機会を失わせる一因となった⇒過失相殺。
さらに、素因減額をして損害額の2割を減額。
Xが既に受領した健康保険法上の傷病手当金及び未支給の労災保険給付を控除。 
  判断 安全配慮義務違反等の損害賠償請求について過失相殺及び素因減額並びに損益相殺に係る部分を受理し、原審の過失相殺に関する判断には法令解釈上の誤りがあるとし、更に、原審の素因減額及び損益相殺に係る判断にも法令解釈上の誤りがあるとして、原判決のうち安全配慮義務違反等の損害賠償請求のうちX敗訴部分を破棄し、これを原審に差し戻す旨の判断。
  解説 労働災害における心因的要因に基づく過失相殺ないし素因減額について、最高裁H12.3.24は、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、損害の発生又は拡大に寄与した被害者の性格等の心因的要因を一定の限度で斟酌することができる旨を判示。
この損害の公平な分担という趣旨からすれば、安全配慮義務違反等の損害賠償請求においても、使用者側の安全配慮義務違反の内容、程度等と労働者側の事情の内容、程度等を比較衡量した上で、過失相殺ないし素因減額について判断すべきものと考えられる。 
  本判決は、本件の事実関係について、まず
①使用者側の安全配慮義務違反の内容、程度等に関する事情、具体的には、業務の過重性等に関する事情を取り上げ、次に
②労働者側の事情の内容、程度として、申告しなかった情報の性質に関する事情、次に
③当該労働者が使用者側に伝えていた、いわばサインとして送っていた事情
という順序を経て、前記過失相殺ないし素因減額について判断。 
業務の過重性:
Xの時間外労働時間は本件うつ病発症前の5か月間の平均として月約69時間54分⇒量的な過重性の点では著しく加重であるとまではいえない。
短期間でのプロジェクトのリーダーに初めてなるなど質的な加重性の点も考慮すれば、Xの業務の負荷は相当過重なものであった。
労働者側の事情:
原審:神経科への通院等のいわゆるメンタルヘルスに関する情報を申告しなかったことを過失相殺の理由とする。
but
本件のようないわゆるメンタルヘルスに関するに関する情報は、労働者のプライバシーに属する情報であり、かつ、人事考課等にも影響し得る事項として通常は職場に知られることなく就労をウ継続しようとすることが想定される性質の情報。
労働安全衛生法70条の2第1項、69条1項に基づく「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年3月31日付け告示第3号)においても、労働者の個人情報の保護への配慮に留意することが定められている。

メンタルヘルスに関する情報については、労働者本人からの積極的な申告が期待し難いものと解されるため、その不申告を理由に過失相殺することについては慎重であるべき。
さらに、本件においては、Xが周りから見ても体調不良で、頭痛等の体調不良を理由に一週間以上を含む相当の日数の欠勤を繰り返して重要な会議を欠席し、それまでしたことのない業務減額を申し出るなど、労働者側からのサインも発せられていた。
本件では、産業医についても、Xからの休暇取得の事実や頭痛、めまいが常時で不眠等が時々あるとの自覚症状を告げられながら、「まあ、一週間休んだということで。」と言うだけで、Yの管理職に業務の軽減等を検討するよう伝達するなどの対応の要否について何らかの検討をしたこともうかがわれない。
以上のような諸般の事情⇒本件において、損害賠償額を定めるに当たり、Xがメンタルヘルスに関する前記の情報をYに申告しなかったことをもって、過失相殺することは相当ではないと解される。
  Xのうつ病が長期間(9年間を超えて)寛解していないことに関し、本判決は、本件の事実関係の下において、素因減額をした原審の判断を否定。

入社以来長年にわたり特段の支障なく勤務を継続していたなどの本件のXについての個別的な事情を踏まえた事例判断にとどまるもので、一般的にうつ病が長期間寛解していないとしても素因減額できないとするものではないと解される。
  東京地裁H20.12.8においては、被災労働者が面談等の際に、医療保護入院に至ったまでの事情や職場復帰後も仕事に慣れず不安感があるなどの事情を報告せず、かえって業務に不満はなく回復傾向であることを伝えていた
⇒3割の過失相殺ないし素因減額。

①職場復帰が被災労働者の希望によるものであり、②症状の実情を単に伝えていないことにとどまらず実情に反して回復傾向であると述べるなど、いわば事情を隠していたと評価できる、③使用者において被災労働者に対して適宜面談等を行うなどその症状や業務に対する要望を把握するための機会を設けるなどの措置を執っていた。

Xが業務軽減を申し出るなどし、Yにおいても措置を十分に執ったものとは評価し難い本件とは事案を異にする。 
時間外労働時間等に照らして強度の長時間労働に当たるなど業務が著しく過重なもの⇒仮に、労働者にうつ病等の既往症があってその不申告があっても、過失相殺は困難。
当該労働者が、うつ病の既往症を有していたが、周囲からはその存在が一切うかがわれず、当該労働者も一切その旨を申告せず、周囲からもその不調が一切うかがわれなかったような場合、当該労働者が過重性の程度がさほど高くない業務に従事してうつ病にり患したときには、過失相殺がされる可能性もある。
  労働p113
大阪高裁H27.9.11  
  NHKと集金業務等に従事する者との間の委託契約の労働契約性(否定)
  事案 平成13年7月以降、5回にわたり、Yとの間で、放送受信料の集金や放送受信契約の締結等を内容とする有期委託契約を締結してきたXが、Yから平成24年3月1日をもって本契約を途中解約された
⇒本件契約は労働契約であり、右解約は労働契約法に基づかない無効な解約であると主張し、Yに対して、労働契約に基づき、①労働者としての地位の確認、②賃金及び③不当解雇の不法行為に基づき慰謝料の支払を求めた。 
  規定 労働基準法 第9条(定義)
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
  原審 本件契約は労働契約的性質を有する⇒右解約は労働契約に基づかないなどの理由で無効。
but
本件契約は平成25年3月31日の経過をもって終了しているとして、地位確認の請求を確認の利益がないとして却下。
賃金の支払請求を認容。
  判断 ①本件契約においては、諾否の自由の問題を取り上げるのは相当ではない。
②Yのスタッフに対する助言指導は、業績の不振を契機として主として稼働日数や稼働期間等についてのものであり、限定された側面におけるものということができる。
③本件契約上、1か月の稼働日数や1日の稼働期間はスタッフの判断で自由に決めていくことができ、実際の稼働をみても、スタッフにより、時期により様々。目標値はYが決定するとしても、稼働時間に対する拘束性は強いものとはいえない。
④本件契約の事務費は基本給とまではいえず、そのほかの給付も出来高払いの性格を失っている。
⑤本件契約においては、第三者への再委託が認められており、実際にも再委託制度を利用している者がいた。
⑥兼業は許容され、就業規則や社会保険の適用はない。
⑦本件契約による業務を遂行する上で必要な機材等はYによって貸与されている。

②から⑥まで、とりわけ、稼働日数や稼働時間が裁量により任されており、時間的拘束が低く、⑤のとおり、第三者への再委託が認められていることに着目すれば、⑦の事情を総合しても、本件契約が労働契約的性質を有すると認めることはできない。

原判決を取り消し、Xの本訴請求をいずれも棄却。
  解説 労働者とは、一般に使用者の指揮監督の下で労働を提供し、その労働の対価である賃金を受ける者と理解されており、使用従属関係の有無が労働者性判断の重要なメルクマールとされている。
使用従属関係の有無の判断について、労働基準法研究会の昭和60年12月19日付報告書は、
①具体的仕事の依頼
②業務遂行上の指揮監督の有無
③勤労場所及び勤務時間の拘束の有無
を挙げており、この見解は通説・判例でもある。
  刑事p135
最高裁H26.11.28 
  刑事施設にいる被告人から交付された上訴取下書と、刑訴法367条の準用する同法366条1項
  事案 勾留中の被告人が、第一回公判期日前に勾留取消し請求をし、その却下決定について準抗告申立てた後、その準抗告取下書を提出したが、拘置所内のミスにより裁判所に届く前に準抗告棄却決定がされて同決定謄本が被告人に送達。
⇒この準抗告棄却決定に対して、被告人本人から特別抗告申立。 
  争点 本件取下げの効力発生時期 
  規定 刑訴法 第367条〔同前〕
前条の規定は、刑事施設にいる被告人が上訴の放棄若しくは取下げ又は上訴権回復の請求をする場合にこれを準用する。
刑訴法 第366条〔収容中の被告人の上訴申立方法〕
刑事施設にいる被告人が上訴の提起期間内に上訴の申立書を刑事施設の長又はその代理者に差し出したときは、上訴の提起期間内に上訴をしたものとみなす。
  判断 刑事施設にいる被告人の書面提出につき、刑事施設の内部手続に時間を要して法的安定性が害されることを防ぐために到達主義の例外を設けたという刑訴法366条1項の趣旨

刑事施設にいる被告人が、被収容者からの書面の受領を担当する刑事施設職員に対し、上訴取下書を交付し、同職員がこれを受領したときは、刑訴法366条1項にいう「刑事施設の長又はその代理者に差し出したとき」に当たると解するのが相当。 
  解説 上訴の取下げは、裁判所に取下書が到達したときにその効力が発生するのが原則であるが(到達主義)、刑事施設にいる被告人による上訴取下げについては、刑訴法367条が準用する同法366条1項により、被収容者が上訴取下書「刑事施設の長又はその代理者に差し出したとき」にその効力が発生する(最高裁昭和27.11.19)。
裁判の告知が謄本の送達によってなされる場合(刑訴規則34条)、その謄本が被告人に送達される前に上訴取下書が提出されたときは、事件は有効な取下げによって終局したものとして扱うことになる。
刑訴法366条1項の「刑事施設の長又はその代理者に差し出したとき」の意義に関しては、従前、大阪高裁昭和63.6.22が、「担当看守が在監者から控訴取下書を受取り、指印証明をし、受付簿に記載を終え、控訴取下書を出したことが客観的に証明されたとき」とする解釈を示していたが、学説上は、「担当職員が受け取ったとき」と解すべきとの見解が有力に示されていた。
刑訴法366条1項及び同条を準用する同法367条が適用される場面は、上訴申立書、上訴権放棄書、上訴取下書、上訴権回復請求書といった重要な訴訟行為に関する書面。
本決定を受け、
①被収容者から上訴等申立書を受領した職員は、受領日時を記載する、
②受領した上訴等申立書は、速やかに裁判所に送付する
③上訴が取り下げられたときには、裁判所に速やかに電話などでその旨を伝達する等の取扱いを定める平成27年10月15日付け法務省矯正第2760号矯正局可聴通知が発出。
   刑事p137
東京高裁H27.6.5
  自招行為と正当防衛・過剰防衛
  争点 ①殺意の有無
②正当防衛の成否 
  一審 裁判員裁判 
①殺意を認定
②正当防衛については、「被告人に正当防衛が認められる状況になかったということはできない」。被告にが被害者を殺害した行為は、正当防衛が認められる状況でなされたものではなあるが、防衛行為として許容される限度を超えている⇒過剰防衛が成立。

被告人を懲役7年6月に処した。
  判断 「急迫の侵害」がなかったのに過剰防衛の成立を認めた原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認。 

被告人を懲役13年に処した。
  解説 ●自招行為と正当防衛の成否:
最高裁昭和52.7.21:
単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、もはや侵害の急迫性の要件を充たさない。
最高裁H20.5.20:
客観的事実経過を前提に、被告人は不正の行為により自ら侵害を招いたものであり、被告人の傷害行為は、被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況における行為とはいえない⇒正当防衛のどの要件が欠けているかということに特に触れず、積極的加害意思論とは異なる論理によって正当防衛を否定。
本判決:
被告人が、
①被害者らを挑発して、被告人に暴行を加えるために被害者らが被告人方に来る事態を招き、
②被害者らが被告人方に来て暴行を加えてくる可能性がかなり高いと認識しながら、
③そのような事態を招いた自らの発言について被害者らに謝罪の意向を伝えて、そのような事態を解消するように努めたり、そのような事態になっていることを警察に告げて救助を求めたりなどすることが可能であったのに、そのような対応をとることなく、
④被害者らが暴行を加えてきた場合には反撃するつもりで、被害者らとは別の暴力団に属する被告人の弟を被告人方に呼ぶとともに、殺傷能力の高いシースナイフを反撃するのに持ち出しやすい場所に置いて準備して対応し、
⑤被害者らから暴行を受けたことから、これに対する反撃として本件刺突行為に及んだものであり、
⑥被害者らによる被告人の弟及び被告人に対する暴行が被告人らの予期していた暴行の内容、程度を越えるものでない

本件刺突行為については、正当防衛・過剰防衛の成立に必要な急迫性を欠く。

積極的加害意思論によらずに、侵害回避義務の内容を具体化しつつ、「急迫性」という要件を否定。
  ●事実誤認と経験則 
本件で、第一審判決と本判決で結論を異にしたのは、被告人の侵害の予期の程度・内容に関する事実認定の相違
 刑訴法382条の「事実誤認」について最高裁H24.2.13:
「第一審判決の事実認定が論理則、経験則に照らして不合理であることをいう」とし、「控訴審が第一審判決を事実誤認があるというためには、第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要である」と判示。
本判決は、被害者らが被告人方に車での経緯及び被告人方に到着してからの状況についての第一審の事実認定を指示しつつも、本件において正当防衛が認められる状況になかったとは認められないとした第一審の判断は、経験則等に照らして不合理であって支持できないとして、「急迫の侵害」がなかったのに過剰防衛のの成立を認めた原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があると判示。
①被告人が被害者らにかけた電話での発言について
第一審:
被告人の方から被害者らに対して挑発を仕掛けたものとは認められず、自ら侵害を招いたものとして正当防衛が許される状況になかったというべき根拠となるほどの落ち度とは評価できない
本判決:
被告人は、被害者らを挑発して、被告人に暴力を加えるために被害者らが被告人方に来る事態を招いた

「暴力をいとわない暴力団組織に所属している被害者らに対して、その暴力団組織を軽んずる発言をしている状況」をどのように評価するかという問題。
②被害者らからの攻撃人対する予期の程度について
第一審:
「被害者らが被告人方に来る可能性があることを認識しながらも、その程度としては、確実と認識していたとまでは認められず、来るかもしれないし来ないかもしれないといった程度の認識にとどまる」「はじめから本件シースナイフを持って被害者らに応対しているわけではないことからすと、万が一に備えて準備していたにすぎないと認めるのが相当であり、本件シースナイフを使用して積極的に被害者らに対する殺傷行為に及ぼうとしていたとも認められない」
本判決:
「被告人としては、暴力団員である被害者らがこれに応じて被告人方に来て暴力を加えてくる可能性が高いと認識していたと推認できる」「被告人は、被害者らから暴行を加えられる事態になったときには、本件シースナイフで被害者らに反撃することも想定して、本件シースナイフを準備していたと推認できる。そして、本件シースナイフの殺傷能力の高さに照らせば、上記反撃で被害者らを殺傷することもやむを得ないと思っていたものと認められる。」

被告人が被害者らとは別の暴力団に所属する弟に事情を伝えて呼び出したことや、殺傷能力の高い本件シースナイフを外から戻って取りやすい勝手口付近に置いて準備していたことといった客観的な事実との関係で経験則に反しないかどうかといった観点から審査。
2296   
  特報p14
横浜地裁川崎支部H28.6.2    
  川崎市ヘイトデモ禁止仮処分命令申立事件決定(不法行為・差止請求権(妨害排除・予防請求権)(肯定))
  事案 ヘイトスピーチ対策法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(H28.5.24制定))の同年6月3日施行後初めての同月5日(日曜日)に実施が予定されたY(債務者)主催の川崎市川崎区を進行するヘイトデモを事前に差し止めた同月2日付仮処分決定。
X(債権者)は、人種・国籍等を問わずに自立した生活を地域社会で営むことを支援し、共生社会を実現することを目的とする社会福祉法人で、桜本地区に事務所を置き、その周囲の区域の9か所で保育所、児童館、高齢者・障害者交流施設、通所介護施設等を運営して民族差別解消・撤廃に取り組み、社会的評価を得ている。
X代表理事は韓国籍を有し、Xの多数の職員及び施設利用者のうち在日韓国・朝鮮人の占める割合は比較的高い。
Yは「××運動」と称する団体に参画する活動家で、平成25年5月から12回にわたり同市内において在日コリアンの排斥を訴えるデモを主催するなどし、Y主催の本件前2回のデモは、桜本地区に向かって進行し、「半島に帰れ」「ごみ、ウジ虫、ダニを駆逐する」「死ね、殺せ」「ゴキブリ朝鮮人は出ていけ」「じわじわ真綿で首を絞めてやる」等の言葉を含むヘイトスピーチがなされた。
Yがホームページにその第三弾として平成28年6月5日に主催するデモの参加を呼び掛けた。
  判断 何人も、生活の基盤としての住居において平穏に生活して人格を形成しつつ、自由に活動することによって、その品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から評価を獲得するのであり、これらの住居において平穏に生活する権利、自由に活動する権利、名誉、信用を保有する権利は、憲法13条に由来する人格権として、強く保護され、また、本邦に適法に居住する者に等しく保障される。 
専ら本邦外出身者に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で、公然その生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し、又は本邦外出身者の名誉を毀損し、若しくは著しく侮辱するなどして、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由に本邦外出身者を地域社会から排除することを扇動する、差別的言動解消法(ヘイトスピーチ対策法)2条に該当sる差別的言動について、住居において平穏に生活する人格権に対する違法な侵害行為に当たるものとして不法行為を構成する。
人格権侵害にもとづkう妨害排除請求権について、
その差別的言動をする侵害者において、当該権利者が住居において平穏に生活しているにもかかわらず、そのことを認識し、又は容易に認識し得るのに、その住居の近隣において、デモをし、あるいははいかいし、かつ、街宣車やスピーカーを使用し、あるいは大声を張り上げるという、上記の住居において平穏に生活する人格権を侵害する程度が顕著な場合には、当該権利者は、住居において平穏に生活する人格権に基づく妨害排除請求権として、その差別的言動の差止めを求める権利を有するものと解するのが相当である。
もっとも、その人格権の侵害行為が、侵害者らによる集会や集団による示威行為などとしてされる場合には、憲法21条が定める集会の自由、表現の自由との調整を配慮する必要があることから、その侵害行為を事前に差し止めるためには、その被侵害権利の種類・性質と侵害行為の態様・侵害の程度のとの相関関係において、違法性の程度を検討するのが相当である。
しかるところ、その被侵害利益である人格権は、憲法及び法律によって保障されて保護される強固な権利であり、他方、その侵害行為である差別的言動は、上記のとおり、故意又は重大な過失によって人格権を侵害するものであり、かつ、専ら本邦外出身者に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で、公然とその生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し、又は本邦外出身者の名誉を毀損し、若しくは著しく侮辱するものであることに加え、街宣車やスピーカーの使用等の上記の後遺の態様も併せて考慮すれば、その違法性は顕著であるといえるものであり、もはや憲法の定める集会や表現の自由の保障の範囲外であることは明らかであって、私法上も権利の濫用といえるものである。
これらのことに加え、この人格権の侵害に対する事後的な権利の回復は著しく困難であることを考慮すると、その事前の差止めは許容されると解するのが相当であり、人格権に基づく妨害予防請求権も肯定される。
本決定は、法人についても「社会活動の基盤としての事業所において平穏に事業を行う人格権」を認め、その侵害に基づく妨害予防請求権も自然人と同様に肯定。
  解説   「生活の平穏」という人格権ないし人格的利益(「人格権等」)の侵害による損害賠償請求及び差止請求の当否につき、判例は、それぞれ違法性の程度や受忍限度の判断をして、差止請求も認める事例が多くある。 
損害賠償請求と差止請求とで欠く違法性判断において考慮すべき要素に相違がある⇒差止請求が認容されるためにはより高度の違法性の存在が必要であるとの裁判例の傾向。
違法性の有無及び程度の判断は、通説の相関関係説によると、①被侵害権利ないし利益(「被侵害権利等」)の種類・性質・内容と②侵害行為の態様・侵害の程度を相関的に考慮してされる。
②「侵害行為の態様」の面として、空港・道路騒音訴訟等における「公共性」も積極的価値のものとして考慮要素となり、名誉権等による出版差止訴訟における「表現の自由」や「公共の利益」も同様。
②「侵害行為の態様」の他の考慮要素として、「違法な目的、害意、故意、重過失、過失」という主観的要素も違法性の有無及び程度に影響することがある。
違法性判断の方法としての受忍限度論ないし利益衡量論は、相関関係説における考慮要素を具体的に挙げ、あるいは相関関係説を基調とする考慮要素を当該事案に応じて補充し、これらを利益衡量して判断するものと理解できる。
①「被侵害権利等」の面として、騒音、振動等の生活妨害や空気・水汚染等の公害の分野における人格権等としての「生活の平穏」は、その人格的属性として、「生命、身体、健康」という、「身体的」性質を有して差止請求までも認められやすい強固な権利性ないし要保護性を有する人格権に連なっており、その一環を構成する類型のものといえる。
「生活の平穏」には、「身体障害に連なる可能性を有するストレス等の生理的・心理的影響」等の「生命、身体、健康」に関わる考慮要素が加わって判断されることも多く、これによって(公共性のない事案では)差止請求認容に結びつく。
他方、同じく「生活の平穏」といっても、人格的属性として、「名誉、プライバシー、名誉感情」といった「精神的」性質を有する人格権等に連なり、これと一環を構成する類型のものがある(「精神的性質型」)。
「精神的な意味」における「平穏に生活する利益」という分析を述べる見解として、最高裁H22.6.29.
他に、パブリシティ権等の「経済的」性質の人格権等の類型がある(最高裁H24.2.2)。
これら「身体的な性質」、「精神的な性質」、「経済的な性質」の人格権が競合して被侵害権利等を構成する事案もあると考えられる。
そもそも、精神的性質型に属して権利性が強固といわれる名誉権の侵害の場合であっても、その違法性が肯定されるのは、侵害行為の態様の面で、特定対象加害型の場合に限られると解されている。
  ヘイトスピーチについての損害賠償請求と差止請求を認めた先例である京都朝鮮学校事件の大阪高裁H26.7.8:
「生命、身体、名誉、平穏な日常生活を送る利益など人格的利益は、極めて重大な保護法益であり、物権の場合を同様に排他性を有する権利であるというべ⇒人格的利益の侵害行為がされ、それが繰り返されるおそれがある場合にもその侵害を差し控える不作為義務は発生する」
「X(学校法人)はその人格的利益の内容として、社会から受ける客観的評価である名誉を保持し、教育業務として在日朝鮮人の民族教育を行う利益を有する」「本件活動はXの教育業務を妨害し、Xの名誉を著しく損なうものであって、憲法13条にいう「公共の福祉」に反しており、表現の自由の濫用であって、法的保護に値しない」旨判示し、最高裁も維持。

差止請求も認容したのは、実質的には特定の法人に対する名誉毀損及び業務妨害たされたためであるとの見方もできる。
  「表現の自由」との調整に関して判示下最高裁判例として、その「表現」が公共の利益に関わる場合については、最大判昭61.6.11(北方ジャーナル事件)が、公共の利益に関わらない場合については、最高裁H14.9.24(石に泳ぐ魚事件)がそれぞれ判断。
「表現」が「公共の利益」に関わらない場合には、名誉等の人格権等が侵害されて回復困難な損害を被らせるおそれがあるときに差止請求も許容されることになる。 
最高裁昭和45.6.24:
憲法第三章に定める国民の権利の各条項は、性質上可能な限り内国の法人にも適用されるものと解すべきである。
  行政p23
東京高裁H27.12.17 
  千葉県議会議員の定数及び選挙区等に関する条例の議員定数配分規定の適法性(合憲)
  事案 千葉県議会議員の定数及び選挙区等に関する条例に基づき平成27年4月12日に施行された千葉県議会議員一般選挙について、選挙人である原告らが、本件条例のうち各選挙区において選挙すべき議員の数を定める規定が公職選挙法15条8項、憲法14条1項に違反して無効⇒これに基づき施行された本件選挙も無効であるとして提起した選挙無効確認訴訟。 
  規定 公職選挙法 第15条(地方公共団体の議会の議員の選挙区)
8 各選挙区において選挙すべき地方公共団体の議会の議員の数は、人口に比例して、条例で定めなければならない。ただし、特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができる。
  判断 本件の具体的な事実関係の下において、千葉県議会が有する合理的裁量の限界を超えるものということはできないとした。 
本件選挙施行直前の条例改正附則において、定数配分規定につき抜本的な見直しを速やかに開始し、逆転区の是正をはじめとする格差の是正を行う旨が定められたことを指摘した上で、千葉県議会が同附則に従って裁量権を行使すべき責務を負ったと判示。
  解説 議員定数配分規定の適法性審査においては、公選法15条8項を踏まえ、人口比例原則に修正を加えるか、どの程度修正を加えるかにつき、当該都道府県議会に裁量権が与えられていることを前提としつつ、その裁量権が合理的に行使されているかを検討することになる。 
東京都議会議員の定数配分規定の適法性に関する最高裁H27.1.15:
公選法15条8項ただし書きを適用してされた条例の制定又はその改正により具体的に決定された定数配分の下における選挙人の投票の有する価値に較差が生じ、あるいはその後の人口の変動により具体的に決定された定数配分の下における選挙人の投票の有する価値に較差が生じ、あるいはその後の人口の変動によりその較差が拡大した場合において、上記の格差が都道府県議会において地域間の均衡を図るため通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達しており、これを正当化すべき特段の理由が示されないとき、あるいは、上記の較差は上記の程度に達していないが、上記の制定時若しくは改正時において同項ただし書にいう特別の事情があるとの評価が合理性を欠いており、又はその後の選挙時において上記の特別の事情があるとの評価の合理性を基礎付ける事情が失われたときは、当該定数配分は、裁量権の合理的な行使とはいえない。
「一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達して」いるかは、
①選挙区の人口と配分された定数との比率の最大較差
②人口比定数と現実の定数の隔たりの程度(現定数配分規定による投票価値の最大較差が人口比定数によるそれよりも拡大しているか、現定数と人口比定数が不一致の選挙区の数、人口比定数よりも複数定数が不足する選挙区の数)③逆転現象(有無・例数、二人以上の顕著な逆転現象の有無・例数)を考慮して検討。
  行政p30
大阪高裁H27.10.13  
  市立小学校施設の目的外使用許可申請の不許可(違法)
  事案 大阪市教職員組合が主催する教育研究集会の会場として小学校の学校施設の目的外使用許可の申請⇒各小学校の校長が大阪市労使関係に関する条例12条の「労働組合活動に関する便宜の供与は、行わないものとする。」の規定により不許可とする処分⇒Yに対し、①本件各不許可処分の無効確認を求めるとともに、 ②国賠法1条1項に基づく損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案。
  一審 本件各不許可処分の無効確認の訴えを不適法として却下。
国賠請求の一部を認容。 

Yが一部認容部分を不服として控訴。
  判断 国賠請求につき、本件各不許可処分は裁量権の逸脱又は濫用として違法。
両校長に国家賠償法上の違法及び過失があるとは認められない。
⇒Y敗訴部分を取り消し、Xの請求を棄却。 
  規定 地方自治法 第238条(公有財産の範囲及び分類) 
4 行政財産とは、普通地方公共団体において公用又は公共用に供し、又は供することと決定した財産をいい、普通財産とは、行政財産以外の一切の公有財産をいう。
地方自治法 第238条の4(行政財産の管理及び処分)
7 行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。
  解説 地方公共団体設置の公立学校を構成する物的要素としての学校施設は、地方自治法238条4項にいう行政財産であり、これを設置目的外に使用するには同法238条の4第7項に基づく許可が必要。
  最高裁H18.2.7:
「学校施設の目的外使用を許可するか否かは、原則として、管理者の裁量にゆだねられているものと解するのが相当である。」「管理者の裁量判断は、許可申請に係る使用の日時、場所、目的及び態様、使用者の範囲、使用の必要性の程度、許可をするに当たっての支障又は許可をした場合の弊害若しくは影響の内容及び程度、代替施設確保の困難性などを許可しないことによる申請者側の不都合又は影響の内容及び程度等の諸般の事情を総合考慮してなされるものであり、その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとすべきものと解するのが相当である。」と判示。
  ●Yの主張:
本件条例12条により校長は裁量判断をする余地はなく、労働組合等であるXに対して本件各小学校施設の使用を許可することはできないから、本件各不許可処分は適法。
一審判決:本件条例12条は、同条例が適用されなければ違法とされる処分を適法化するために適用される限りにおいて職員団体の団結権等を違法に侵害するものとして、憲法28条に違反して無効とした。
本判決:本件条例12条は直ちに憲法及び地方自治法その他の法令の規定に違反するものではなく、「本件各不許可処分の違法性は、両校長の裁量判断が裁量権の逸脱又は濫用に当たるかどうかによって判断され、控訴人主張のように労働組合等の組合活動に関する便宜供与に該当すれば、他の諸事情を一切考慮することなく、その目的外使用を不許可とすべきであったということはできない。」
前記最高裁判決で示された考慮要素に沿って判断し、本件各不許可処分は、本件条例12条の存在のみを考慮することによってなされており、その他の当然考慮すべき事項を十分考慮していない⇒裁量権の逸脱又は濫用に該当し、違法である。
  ●国賠法 
判例は、職務行為基準説。
行政処分が裁量権の逸脱又は濫用として違法であったとしても、直ちに国賠法1条1項所定の違法が肯定されているわけではなく、その違法性が肯定されるのは、公権力の行使に当たる公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認められるような事情がある場合に限られる。
本判決:労働組合等の組合活動に関する便宜の供与が一律に禁止されると解することにも相応の根拠があり、地方公務員である両校長にはその職務を遂行するに当たって本件条例に従う義務がある(地方公務員法32条)こと等を考慮すれば、両校長が本件条例12条により労働組合等の組合活動に関する便宜供与が一律に禁止されると解釈して本件各不許可処分をしたことには無理からぬ面があり、両校長が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすることなく漫然と本件各不許可処分をした事情は認められない。

両校長に国家賠償法上の違法及び過失を認めることはできない。
  行政p42
名古屋高裁H27.12.24  
  事務所賃借料等、政務調査費の支出対象とならない⇒違法な支出の返還請求をすることを知事に求める請求(肯定)
  事案 愛知県議会の会派であるZ1、Z2、Z3(一審被告補助参加人。(Z1ら))が同県から交付を受けた政務調査費が使途基準に反して違法に支出されたものであるのに愛知県知事であるYはそれらの返還請求を違法に怠っているとして、同県の住民であるXが、Yに対し、Z1らに対して不当利得返還請求権を行使してそれぞれの支払を請求するように求める住民訴訟。 
Z1らは、平成21年度にYより交付を受けた政務調査費の中から、それぞれ事務所の賃借料・光熱費及び自動車のリース料の支出に、約900万円より約3800万円を充てた。これらの経費は、各議員が自己の名で締結した事務所の賃借料等であって、会派であるZ1らの事務所の賃借料等ではなかった。
会派に対する政務調査費の交付に関する条例8条1項は、各会派が政務調査費を充てることができる費用を列記しその7号が「事務費」を掲げ、同条2項は、当該事務費等の使途基準は議会の議長が定めると規定。
愛知県議会における会派に対する政務調査費の交付に関する規程4条および別表は、「事務費」の使途基準を「会派が行う調査研究に係る事務の遂行に要する事務用品・備品購入費、通信費等の経費」としていた。
愛知県議会議長が制定した「政務調査費マニュアル」は、事務費の例示として「自動車のリース」や「事務所の賃借料及び管理運営費(光熱水道等)」を挙げていた。
  原判決 議員個人が契約した事務所や自動車が、会派による調査研究活動と、議員個人によるその他の活動の双方に使用されている場合には、各活動への使用実績に応じて金額を按分した限度において政務調査費に充てることが許される。
政務調査費に充てることが許されるのはせいぜいその2分の1にとどまると推認するのが相当。

各議員の使用実績につき詳細な事実認定をした上で、Xの請求の一部を認容する判決。 
  判断 政務調査費を充てることができる経費について、個々の経費ごとにその性質を検討し、それが調査研究に資するため必要な経費といえるか否かを検討するほかない。
政務調査費制度の趣旨及び沿革、名古屋市や東京都における運用との比較、本件賃借料等の性質を検討して、本件賃借料等が一般的に「議員の調査研究に資するため必要な経費」に該当するとは認め難いから、これらの支出から概括的に一定割合につき政務調査費をもって充てることは許されず、これらに政務調査費を充てるには、個別具体的な調査研究の内容と支出との関連性を明らかにし、その両者の関係から必要な支出と認められることが必要。
Z1らにおいて、その所属議員らが個別具体的に特定された各会派の政務調査活動を実施するために事務所を賃借し、リース自動車を確保することが不可欠であるというような特別の事情の存在を主張立証しない限り、本件賃借料等の支出は本来の趣旨・目的に合った使途に充てられていないとの推認を免れない。
Z1らは、会派から議員が委託された特定の政務調査活動を遂行するために、実際どの程度の時間にわたり事務所又はリース自動車を使用しなければならなかったのかといった必要性を個別具体的に主張立証しておらず、右推認は妨げられない。

Z1らはその各所属議員らが平成21年度に支出した本件賃借料等の全額について、愛知県に対して不当利得として返還すべき義務を負うが、Yは、その不当利得返還請求権を行使していないから、違法に財産の管理を怠る事実がある。
⇒Xの請求全部を認容。
  解説 ●本件賃料等の本件使途基準適合性
政務調査費制度の沿革⇒本件賃料等の支出が「事務費」に当たらない。 
  ●本件使途基準適合に係る主張立証責任
一般的・外形的な事実説:
政務調査費が使途基準に適合しない支出に充てられたことを推認させる一般的・外形的な事実が立証⇒適切な反証がない限り不当利得と判断されるとする説。
  民事p68
大阪高裁H27.9.3  
中学2年が野球チームのレクレーションの海水浴中におぼれ死亡⇒損害賠償請求(否定)
  事案  中学2年のAが野球チームBのレクレーションの海水浴中におぼれ死亡

Aの両親X1及びX2が、
(1)当時Bの代表であったY1、副代表であったY2、保護者会会長であったY3に対しては、
①海水浴場の事前調査・確認義務の懈怠
②監督監視体制整備・現場監督監視義務の懈怠
⇒不法行為に基づき、
(2)海水浴場の監視業務を委託されていたライフセービングクラブY4に対しては、
①注意喚起義務の懈怠、
②見守り義務の懈怠、
③救助活動の不備
⇒不法行為に基づき
(3)海水浴場を開設しその管理を委託していた管理運営委員会Y5、和歌山県Y6に対しては、
海水浴場の安全性を確保するための人的設備とその運営の不備があると主張
⇒国賠法2条1項又は1条1項に基づき、
(更に、Y5に対しては、海水浴場利用契約上の債務不履行に基づき)、
損害賠償を請求。
  争点 (1)と(2)との関係で過失の有無
(3)との関係で営造物の設置・管理の瑕疵の存否 
  判断 ●(1)との関係
①(海水浴場の事前調査・確認義務の懈怠)について、①本件海水浴場は正規の海水浴場であり一応安全なものと判断される、②海水浴には常に一定の危険が伴う⇒Y1~Y3が海水浴を選定するに際し事前に調査・確認しなかったからといって、過失があるとはいえない。
②(監督監視体制整備・現場監督監視義務の懈怠)について、警告や指示を与えたり、参加者に保護者の目が届くような体制を構築したりすべきであったといえるが、
①本件海水浴場は正規の海水浴場で相当程度の監視体制を備えていたこと、②事故当時の海は穏やかで危険性が特に高まっていたわけではないこと
⇒本件海水浴が任意団体によるによる任意参加の行事
⇒Y1~Y3がBの役職者であったとしても、そのことを理由に、過失の存在を認めることはできない。
  ●(2)との関係 
Y4には事故を未然に防止しこれに対応するための救助体制が備わっていたとした上で、
①(注意喚起義務の懈怠)については、本件海水浴場にドン深(水深が急に深くなっていること)の区域があったとしても、それ自体により格別に危険な海であるとはいえない⇒Y4がその注意喚起をしていなかったとしても、過失の存在を認めることはできない。
②(見守り義務の懈怠)については、Y4には、Aが溺れる前から救助活動を開始する義務は存在しない
③(救助活動の不備)について、Y4のライフセーバーらがAを救助する過程の中で不手際は存在しない。

過失否定。
  (3)との関係
①海水浴場も公の営造物にあたること、②Y6(和歌山県)が本件海水浴場を含む区域を管理しその管理業務等をY5(管理運営委員会)に委託している⇒Y5及びY6は本件海水浴場の設置・管理に瑕疵があるときには国賠法2条1項の責任を負う、③設置・管理の瑕疵には安全性を確保するための措置として構築された監視・救助体制の瑕疵も含まれる、④危険を回避する責任は本来的には本人にあるため管理者があらゆる対策を講ずる必要はなく合理的な範囲内で適切な措置を講ずれば瑕疵は存在しない、⑤監視・救助を行うものに瑕疵があったときには国賠法1条1項の責任が問題となる旨を判示。
その上で、本判決は、本件海水浴場の安全確保の措置にも、Y4による監視・救助体制にも不備はなく、Xらが主張するドン深区域内での浮きや5メートルおきでの警告板の不設置等についても設置・管理の瑕疵はない。
Y4のライフセーバーにも過失はない。
  民事p81
大阪高裁H28.2.25  
  適格消費者団体の健康食品に関する優良誤認表示の差止請求(棄却)
  事案 適格消費者団体であるXが、健康食品の小売販売等を目的とするXが、健康食品の小売販売等を目的とする会社であるYに対し、健康食品に関する新聞折込みのチラシを配布することが不当景品類及び不当表示防止法(平成26年法律第218号による改正前のもの)10条1項1号所定の「優良誤認表示」に該当
⇒景表法10条1項1号に基づき、本件広告の差止めを求めた。 
  規定 景表法 第10条(適格消費者団体の差止請求権)
消費者契約法(平成十二年法律第六十一号)第二条第四項に規定する適格消費者団体は、事業者が、不特定かつ多数の一般消費者に対して次の各号に掲げる行為を現に行い又は行うおそれがあるときは、当該事業者に対し、当該行為の停止若しくは予防又は当該行為が当該各号に規定する表示をしたものである旨の周知その他の当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとることを請求することができる。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると誤認される表示をすること。
  判断 Yは、原判決の言渡し以来、本件広告の配布を一切行っていないし、Yが、別のチラシを新たに作成し、配布している

「優良誤認表示」に該当するか否かの法律解釈について本件訴訟で争う態度を示していることを考慮しても、Yが「優良誤認表示」を行うおそれがあるとは認められず、その差止めの必要性があるとはいえない

原判決を取り消し、Xの本訴請求を棄却。
  解説 差止請求は、被害者のけりに生じた侵害状態がなお続いている場合、違法な行為が反復されあるいは継続するおそれがある場合に認められることになる。
⇒そのような状態外ない場合には、差止めの必要性はないとして認められない。 
  民事p86
仙台高裁H27.12.9  
  保育園における睡眠中の幼児の死亡⇒保育園経営者らの不法行為責任(肯定)
  事案 Y1会社が運営する保育施設で、Xらの長女Aが午睡中に死亡⇒Aの保育を担当していた保育士に過失があったとしてY1に対し、債務不履行又は使用者責任があるとし、保育施設の園長(Y2)及び副園長(Y3)に対し、不法行為があるとし、損害賠償請求。 
  原審 Aの死因につき、乳幼児突然死症候群ではなく、うつ伏せ寝による窒息死⇒保育士に過失があるとしてY1の不法行為責任を肯定。
Y2及びY3については、保育士に対する指揮監督義務を怠った過失あり⇒不法行為肯定。 
  判断 Aの死因は、睡眠中顔面を下に向けた姿勢をとっていた事に起因する鼻口部圧迫又はこれと再呼吸の競合による急性の窒息死
①保育士は、保育の専門家として、うつ伏せ寝についての危険性を十分認識していたにもかかわらず、Aをうつ伏せに寝かせたままその傍を離れるなどして適切な観察を行わなかった過失⇒Y1の不法行為を肯定。
②Y2とY3は、保育士が乳幼児をうつ伏せに寝かせていることを知っていたにもかかわらず、保育士の行為を放置し、窒息死の危険を回避することができるような態勢を整備しなかった⇒不法行為責任を肯定。
  解説 乳幼児の保育施設等での急死について、
乳幼児突然死症候群であると認定された場合には、保育士の過失を否定
そうでない場合には保育士の過失を肯定する傾向。
  民事p97
大阪地裁H27.12.11  
  従業員に損害賠償を行った石綿製品製造販売会社の国に対する求償請求(否定)
  事案 石綿製造販売会社であるXの従業員2名がXの工場における石綿粉じん曝露が原因で石綿肺等にり患したことに関し、Xが、当該従業員やその子に対して合計4200万円を支払った
⇒前記従業員やその子らの石綿肺等へのり患につき、Y(国)との共同不法行為によって生じたものであり(予備的に競合的不法行為によって生じたものであると主張)、かつ、被告がその全てについて責任を負うべきであると主張し、Yに対し、4200万円の求償を求めた。 
  争点 Yが原告従業員らに対し、旧労基法に基づく省令制定権限不行使の違法に基づく責任を負うことに争いはなく、主たる争点は、
①原告と被告が、原告従業員らの石綿肺等への罹患に関して、共同不法行為責任を負うか
②原告と被告が共同不法行為責任を負う場合のその負担割合(求償額)
  判断 ①原告の安全配慮義務と被告が行使すべきであった規制権限は、その目的及び対象を共通にすることに加え、②原告及び被告の行為等が不可分一体となって原告従業員らの石綿肺等という不可分の一個の結果を招来したものであって、③結果について相当因果関係を有する関係にある

関連共同性を肯定⇒共同不法行為を肯定 
①旧労基法に基づく労働大臣の規制権限は、その適時・適切な規制権限の行使と規制対象となる使用者の義務履行とが相まって、旧労基法の目的を達することが期待されている⇒いかなる場合にもおよそ被告の負担部分が存在し得ないと解することはできない。
②使用者は、労働者を雇い入れて労務の提供を受けることによって、収益を上げているのであるから、労務の提供に伴う危険から労働者の生命・身体等の安全を確保すべき義務は、本来的には直接の雇用関係にある使用者が負担すべき
③原告は原告従業員らの石綿粉じん曝露による生命、身体に対する被害を防止するために被告が定める義務さえ尽くしていないのに対し、被告は、石綿粉じん曝露による労働者の生命、身体の被害を防止するために一定の措置を講じていたと認められる

原告従業員らの損害に関するXの負担部分は9割を下回ることはない⇒原告が負担部分を超えた支払をしたとは認められない⇒原告の求償権は認められない。
  解説 国が規制権限不行使の違法に基づく責任を負う場合の規制対象者との内部関係について
スモン訴訟における金沢地裁昭和53.3.1:
傍論ではあるが、両者の負担部分はk、過失割合によって定まると解されるところ、注意義務の根拠、内容、注意義務懈怠の態様を対比、総合して判断すると、国4、会社ら6の割合と判示
泉南アスベスト訴訟の高裁判決(大阪高裁H25.12.25):
国の責任が、使用者に対して安全配慮義務をまっとうさせるという意味で、二次的、補充的な責任であり、使用者の責任と国の責任との間には関連共同性がなく、共同不法行為が成立しない。 
学説:
規制権限不行使の違法が認められた場合には、国は、被害者との関係では、被規制者とともに全面的に不真正連帯責任を負い、行政主体が二次的、後見的監督責任にとどまることは、求償関係において考慮される(宇賀)。
  民事p112
東京地裁H28.3.7  
 
  争点 担任教諭の適切な受験指導義務の存否
これの違反の有無
損害の発生およびその額 
  判断 中学校までは義務教育であって、受験を必要とする中学校に進学するかどうか、受験するとしてどの中学校を受験するかは児童及び保護者のみが決定する事項であって、小学校側と児童側との間に別段の合意等がない限り、児童及び保護者のこれに係る決定に際し、小学校側に何らかの指導義務ないし助言義務が発生すると認めることはできない。
仮に、担任教諭において、児童や保護者の進路に関する希望を聞き、児童や保護者が中学受験をするかどうか、受験するとしてどの中学校を選択するかを決定すrに当たって、参考となる事項を説明したり、助言したりすることがあったとしても、決してそれは児童や保護者に対する義務として行っているものではない。
別段の合意等が認められない本件では、担当教諭に指導義務ないし助言義務を認めることはできない。
⇒Xの請求を棄却。 
  知財p116
知財高裁H27.11.26  
  商標法50条所定の「使用」の意味
  事案 原告が、商標法50条に基づいて本件商標の商標登録の取消を求める審判⇒取消しを否定する審決⇒審決取消訴訟 
  規定 商標法 第50条(商標登録の取消しの審判)
継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。以下この条において同じ。)の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
・・・
  判断  本件行為(被告が、本件商標が付された個装箱で包装したメタルハライドランプ水中灯を納品した行為)を認定し、本件行為は、商標法50条所定の「使用」の事実に該当する。
商標法50条所定の「使用」は、当該商標がその指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されれば足り、出所表示機能を果たす態様に限定されるものではない。
  解説 商標法50条に規定される不使用取消審判制度は、不使用の登録商標に対して排他独占的な権利を与えておくのは国民一般の利益を不当に侵害し、かつその存在により権利者以外の商標使用希望者の商標の選択の余地を狭める
⇒請求によりこのような商標登録を取り消す趣旨。
商標法50条2項本文は、商標登録の不使用取消審判の請求があった場合において、被請求人である商標権者が登録商標の使用の事実を証明しなければ、商標登録は取消しを免れない旨規定。
これは、登録商標の使用の事実をもって商標登録の取消しを免れるための要件とし、その存否の判断資料の収集につき商標権者にも責任の一端を分担させ、もって前記審判における審判官の職権による証拠調べの負担を軽減させたものであり、商標権者が審決時において前記使用の事実を証明したことをもって、前記の取消しを免れるための要件としたものではない(最高裁H3.4.23)。
商標登録不使用取消審判の取消訴訟の訴訟物は、当該行政処分たる同審決の違法性一般。
商標登録の不使用取消審判で審理の対象となるのは、その審判請求の登録前3年以内における登録商標の使用の事実の存否
商標の使用の事実の立証責任は、商標権者にある(商標法50条2項)。
but
商標登録の不使用取消審判の審決の取消訴訟における当該登録商標の使用の事実の立証は、事実審の口頭弁論終結時に至るまで許される(最高裁H3.4.23)。⇒訴訟に至って使用の有無が争われ、新たな立証がされることも少なくない。
  商標権侵害訴訟においては、商標法36条、25条の「登録商標の使用をする権利」、37条の「登録商標に類似する商標の使用」とし、「商標の使用」が問題となり、商標法2条3項に使用の定義がされているところ、商標権侵害訴訟においては、出所表示機能を発揮するような使用(商標的使用)でなければならないと解釈され、商標の26条1項6号にその趣旨が明文化。
登録商標取消審判においても、商標法50条の「登録商標・・・の使用」、51条の「登録商標に類似する商標の使用」など、「商標の使用」が問題となるところ、
A:商標的使用でなければならない
B:商標法2条3項の文言どおりに使用されていれば足りる
との見解が対立しているところ、
本判決はB説の見解を明確に示したもの。
  商事p124
大阪高裁H28.2.19  
  弁護士による現物出資財産の価額の証明が不当⇒債権者代位により弁護士賠償保険金の支払を請求(肯定)
  事案 株式会社が払込総額のうち20億円について土地(本件山林)を現物出資する募集株式の第三者割当発行⇒同発行に当たり、A弁護士が現物出資財産の価額が相当であることの証明(本件証明行為)をした。
同社はその後破産手続開始決定がされた。

破産管財人Xが、本件山林の実際の価値が5億円を上回ることはなかったと主張して、A弁護士と保険契約(本件保険契約)を締結していた保険会社Yに対し、債権者代位により、本件保険契約に基づく賠償保険金の支払を求める事案。
Yに対する請求とは別に、Xは、
割当先Zに対して会社法212条2号に基づく支払を求め、
現物出資財産の価額が相当であることの証明をしたA弁護士に対して会社法213条3項に基づく支払を求めて訴訟提起。
これらは、Yに対する訴訟と併合してい審理されていたところ、第一審において、XのZに対する請求は全額認められて確定し、A弁護士との間では、A弁護士の責任額を3億4800万円とする訴訟上の和解が成立。
  規定 会社法207条
9前各項の規定は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める事項については、適用しない。

 現物出資財産について定められた第百九十九条第一項第三号の価額が相当であることについて弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税理士又は税理士法人の証明(現物出資財産が不動産である場合にあっては、当該証明及び不動産鑑定士の鑑定評価。以下この号において同じ。)を受けた場合 当該証明を受けた現物出資財産の価額
  会社法 212条(不公正な払込金額で株式を引き受けた者等の責任)

募集株式の引受人は、次の各号に掲げる場合には、株式会社に対し、当該各号に定める額を支払う義務を負う。

二 第二百九条第一項の規定により募集株式の株主となった時におけるその給付した現物出資財産の価額がこれについて定められた第百九十九条第一項第三号の価額に著しく不足する場合 当該不足額
会社法 213条(出資された財産等の価額が不足する場合の取締役等の責任)

前条第一項第二号に掲げる場合には、次に掲げる者(以下この条において「取締役等」という。)は、株式会社に対し、同号に定める額を支払う義務を負う。
・・・

3第一項に規定する場合には、第二百七条第九項第四号に規定する証明をした者(以下この条において「証明者」という。)は、株式会社に対し前条第一項第二号に定める額を支払う義務を負う。ただし、当該証明者が当該証明をするについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。
  争点 ①A弁護士が会社法213条3項に基づく責任を負うことを前提として、本件証明行為が、本件保険契約の免責条項(本件免責条項)に定められている「他人に損害を与えるべきことを予見しながら行った行為(不作為を含む)」に該当するか否か
②価額証明責任に基づく金銭支払義務が、本件保険契約の対象であるか否か 
  判断 本件免責条項該当性について、「被保険者が、その行為によって他人に損害を与えることや他人に損害を与える蓋然性が高いことを認識して行った行為、及び一般的な弁護士としての知識、経験を有する者が、他人に損害を与える蓋然性が高いことを当然に認識すべき行為」は、本件免責条項に該当。
①不動産鑑定作成の鑑定書等において採用された手法自体は、不動産の正常価格を求める際に一般に用いられるものであり、
②A弁護士は、当初の不動産鑑定だけで証明をすることは断り、他の不動産鑑定士が当初の不動産鑑定に意見を表明することを聞いて証明をすることを了承、
③A弁護士は現地の検分をして、説明を受けていた

A弁護士は、本件山林が20億円よりも著しく低額であることやその蓋然性が高いことを認識していたとは認められない。
本件山林が所在する場所の不動産鑑定士協会の会長である不動産鑑定士が意見書を作成⇒本件においては、一般的な知識、経験を有する弁護士が、本件山林が20億円をよりも著しく低額であることやその蓋然性が高いことを当然に認識することができたとも認められない。
  ①弁護士等の価額証明(会社法207条9項4号)において、現物出資財産が不動産の場合には、不動産鑑定士の鑑定評価を踏まえ、法律専門家としての知識経験に基づく的確な判断をすることが期待されているものというべきであって、これが弁護士法3条の規定する弁護士業務と性質を異にするものではない。
②弁護士特約の規定において面性される業務に弁護士等の価格証明を掲げていない。

A弁護士の価格証明責任に基づく損害は本件保険契約の対象に含まれる 
  刑事p141
東京高裁H27.5.29  
  暴行の概括的故意・傷害との因果関係(肯定)
  事案 ①覚せい剤の自己使用の事案
②路上において、被告人を公務執行妨害等の現行犯人として逮捕しようとして被告人運転の自動車の直近に立って被告人車のガラスをたたくなどしてた警察官Aに対し、被告人車を後方に急発進させるなどの暴行を加え、開いていた被告人車助手席ドアと電柱との間にAの右足を挟み、その職務の執行を妨害するとともに、Aに傷害を負わせたという傷害、公務執行妨害の事案。 
  解説 ●暴行の故意について
弁護人:被告人が、本件行為の際、被告人車の助手席ドアが開けられていることを認識していない⇒被告人車がAに接触することの認識・認容がなかった⇒暴行の故意を争った。
他人の死傷という結果の発生については確定的な認識があるものの、具体的客体やその個数について不確定な認識にとどまる⇒概括的故意
この認識は、認識対象となる具体的客体が異なる複数の種であっても、同種の場合には故意を肯定できる。
最高裁H2.2.9:
覚せい剤の輸入、所持罪等の事案において、所持物が覚せい剤であることの確定的な認識はなく、覚せい剤かもしれないし、その他の身体に有害で違法な薬物かも知れないとの認識であっても、同罪の故意として欠けるところはない。

覚せい剤と覚せい剤ではない違法な薬物を、覚せい剤を含む違法な薬物類という類としてみて、その認識があれば、覚せい剤の認識を肯定。
判断:
被告人が無謀な運転行為を繰り返していた⇒被告人車の周囲にいる多数の警察官らの身体に危害が及ぶことを意に介していなかったといえる⇒これらの者に対する不法な有形力を行使することの認識、認容していて、これらの者に対する概括的な暴行の故意が認められる。
  ●暴行と傷害との間の因果関係 
弁護人:本件行為とAの受傷との間には、警察官Bが被告人車の助手席ドアを開ける行為が介在⇒本件行為と損害との間の因果関係を争った。
行為と結果との間に第三者や被害者の行為が介在した場合の因果関係について、最高裁は、被告人の行為の危険性が結果に現実化したか否かによって因果関係の有無を判断。
被害者や第三者の行為が介在した場合の「危険の現実化」の判断枠組みとしては、被告人の杭の危険性と介在事情の結果発生への寄与度を検討するものとして、次のような類型化:
①介在事情によっても、もともと被告人の行為により生じていた結果発生の危険を上回る新たな結果発生への危険性が生じない限り、結果は被告人の行為による危険が現実化したものと評価(最高裁H2.11.20等)。
②介在事情が、被告人の行為により生じた危険を上回って、結果発生の危険を新たに生じさせた場合でも、それが被告人の行為により誘発された場合など、被告人の行為の影響下にある場合には、やはり結果は被告人の行為による危険が現実化したものとして評価(最高裁H15.7.16)。
③介在事情が被告人の行為により生じ現存する危険を上回って、結果発生の危険を新たに生じさせた場合で、それが被告人の行為と独立したものであるときには、因果関係が否定される場合があり得る。
判断:
当時の現場の状況から、被告人の制止のために警察官が被告人車のドアを開けることもあり得る成り行き⇒Aの傷害につき本件行為の危険が現実化したもの⇒因果関係を肯定。

介在事情が被告人の行為に誘発されたものであると評価⇒仮に、介在事情が被告人の行為により生じた危険を上回って、結果発生の危険を新たに生じさせた場合でも因果関係が肯定(②の類型)。
  ●尿の収集手続にかかる捜査の違法性について 
弁護人:尿の差押許可状が発付されていないのに、警察官が医師に依頼して尿を保管させたのは令嬢の先取り執行であり違法であると手法。
C医師の採尿は治療のためであり、被告人も了解していた⇒採尿手続に違法性はない。
医師は、治療目的で採取した尿を自分の意思で使用、破棄でき、全量費消すべき義務もない⇒警察に協力してこれを保管していたことに違法はない。
7月
2295
  行政p35
東京地裁H27.9.10  
  事業者の労働者(国の機関が直接の指揮命令)の雇用確保についての団体交渉について、国が労組法7条の「使用者」に当たらないとされた事例
  事案 原告は、参加人(国)が設置する国土交通省の地方整備局の本件三事務所の公用車の管理運航業務を受託していた事業者に雇用されていた労働者7名が加入している労働組合。
原告(労働組合)は、参加人(国)が、原告組合員7名の雇用確保についての団体交渉申入れ拒否したことについて、労働組合法7条2号の不当労働行為に当たるとして広島県労働委員会に救済申立て⇒広島県労委はこれを一部認容する命令(初審命令)⇒参加人は中央労働委員会に対し再審査⇒中労委は、不当労働行為の成立を否定して初審命令を取り消し、救済命令申立てを棄却
⇒原告(労働組合)がその取消しを求めた抗告訴訟 
入札談合の疑い⇒一般居総入札⇒本件受託者は平成21年度の業務を落札できず、同業務に従事していた原告組合員7名を前年度の3月末をもって解雇(雇止め)
7名は、従来、本件三事業所の職員から、公用車の運行先、運行時間ないし緊急時の業務内容等について直接指揮命令を受けているという実態。
本件3事業所を所管する労働局は、本件三事務所の長に対し、本件三事務所の公用車の管理運航業務について、適正な請負ではなく労働者派遣事業に該当するものであり、適正な労働者派遣契約を締結せず、かつ、派遣受入期間の制限を超えて労働者派遣の役務の提供を受けているもの⇒その是正を求める等の行政指導を行っていた。
  規定 労組法 第七条(不当労働行為)

使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。
  争点 参加人(国)が原告組合員7名の「使用者」に当たり、本件団交拒否が労組法7条2号の不当労働行為に当たるか。 
  判断 労組法7条の「使用者」の意義について、同条にいう「使用者」とは、一般に労働契約上の雇用主を言うが、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、同条の「使用者」に当たる。 
直接の雇用関係のない派遣先等が「使用者」として団体交渉義務を負うのは、就労状況に照らし、雇用関係に近似した関係が成立していると認められる場合(派遣先等が交渉事項について現実的、具体的な支配をしていると認められる場合)、又は、雇用関係に隣接した関係が成立していると認めらる場合(近い将来において労働者と雇用関係が成立する現実的かつ具体的な可能性がある場合)において、当該交渉事項に限る。
本件では、参加人は、原告組合員7名の車両管理業務を行う際の運行先、運行時間及び業務内容等の労働条件について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定をすることができる地位にあり、その限りにおいて原告組合員7名の「使用者」ということができる。
but
上記労働条件以外の事項については、参加人は雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったとは認められず、「使用者」とはいえない。
原告組合員7名らの採用、労働契約の内容及び雇用継続か解雇かについての決定は、いずれも本件受託者の判断として行われたものであって、参加人は団交事項である原告組合員7名の雇用継続については支配力も決定力もない⇒上記団交事項について使用者とはいえない。
①参加人が派遣受入期間の制限を受けて労働者派遣の役務の提供を受けているとしても、平成24年改正前派遣法40条の4による派遣先による直接雇用申込義務の発生要件である派遣元(本件受託者)からの抵触日通知がなされていない⇒参加人は原告組合員7名に対する直接雇用申込義務を負わない。
②労働局からの行政指導は、派遣先の直接雇用申込義務についての規定を違反事項から除外⇒原告組合員7名への直接雇用の要請を含むとは認められない。

近い将来において労働者と雇用関係が成立する現実的かつ具体的な可能性がある場合にも当たらない。

本件団交拒否は労組法7条2号の不当労働行為に当たらない。
  解説 労組法7条の「使用者」について
最高裁H7.2.28:
労働契約上の雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、同条の「使用者」に当たる。 
さらに、本判決は、直接の雇用主ではない派遣先等が「使用者」といえる場合について、上記の場合に加え、労働契約と雇用関係に隣接した関係が成立していると認められる場合(近い将来において労働者と雇用関係が成立する現実的かつ具体的な可能性がある場合)を挙げており、労働基本契約説を採用。
本件では、抗告訴訟の対象である本件命令の被申立人が国土交通省(国)であったことから、処分行政庁である中労委の所属する国を被告とする訴訟において、国が行政事件訴訟法22条による参加を申し立て、受訴裁判所はこれを許可。
平成16年改正により、処分等をした行政庁に代えて、同庁の所属する国又は公共団体を被告とすることとしたのは、被告とすべき行政庁を特定する原告の負担を軽減する等の趣旨によるもの⇒改正前に適法とされていたこの主訴訟が改正により不適法となることはないと解される。
  行政p54
東京地裁H27.9.15  
  照応の原則によらない、いわゆる申出換地を定めたことが適法とされた事例
  事案 土地区画整理事業の施行区域内に土地を所有していたXを含む66名の地権者等が、当該事業の施行者であるY(独立行政法人都市再生機構)に対し、大型商業施設の誘致が予定され「共同利用」による土地利用を行うこととされている本件街区への換地を求める申出⇒Yがこれを認めて仮換地指定処分
⇒本件街区への進出企業に内定した訴外A社とXを含む3名の間で事業用借地権設定の交渉が不調に終わり、これらの者が仮契約を締結しなかった
⇒Yが、本件街区内に仮換地の指定を受けた地権者のうち、仮契約を締結しなかった3名(Xを含む)を除く63名の地権者等からの要望を考慮し仮契約を締結しなかった者の仮換地の位置を変更したうえで、本件換地処分(換地処分及び清算金決定)
⇒Xがその取消しを求めた。
  規定 土地区画整理法

(換地)
第八十九条  換地計画において換地を定める場合においては、換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない。

2  前項の規定により換地を定める場合において、従前の宅地について所有権及び地役権以外の権利又は処分の制限があるときは、その換地についてこれらの権利又は処分の制限の目的となるべき宅地又はその部分を前項の規定に準じて定めなければならない。
  Xの主張 土地区画整理法89条1項所定の照応の原則に違反 
  判断  ①最高裁昭和54.3.1を参照
⇒換地を定めるに当たり、施行区域内の特定の数筆の土地につき所有権その他の権利を有する者全員が他の土地の換地に影響を及ぼさない限度内において前記数筆の土地に対する換地の位置や範囲に関する合意をし、当該合意による換地を求める旨を申し出たとき、施行者は、公益に反せず、事業の施行上支障を生じない限り、照応の原則によることなく、合意されたところに従って換地を定めることができる。
②Xが他の地権者と同様に本件街区への換地を求める申出をしているため換地の位置や範囲に関する合意がされており、共同利用を前提とした換地処分は公益に反せず事業の施行上支障を生ずるものとも認められず、本件換地が本件街区内の他の換地と比較して不公平に定められたものともいえない

本件換地が照応の原則によることなく定めることのできるものであった。
  本件街区に定められた本件換地については、客観的な性状として、本件街区に定められた他の換地と共同利用することが可能な土地であり、地権者の個別の事情により第三者に賃貸等をすることができなかったりXがA社と賃貸者契約を締結できない状態に至っていたりすることなどは、本件換地処分の効力に影響を与えない。
 
本件換地処分は、照応の原則の各要素を総合的に考慮してもなお、Xの従前地(本件従前地)との比較、あるいは本件事業における他の換地との公平という点から、社会通念上不相当であるということができない
⇒裁量判断を誤った違法なものとはいえない。
  仮換地の指定、仮換地の指定の変更および換地処分は、いずれも別個の行政処分であり、換地処分に先だって仮換地を指摘することを要さず、仮換地の指定は暫定的処分にすぎず、仮換地のの指定の効果が存続する限りそれを抗告訴訟で争い得る
⇒仮換地の指定や変更が仮に違法であってもその違法性は換地処分に承継されない。
  解説 土地区画整理法は、施行区域内の土地の所有権等が換地の申出をしてこれに基づいて施行者が換地を定める定める制度を採用している(同法85条の2ないし85条の4)が、本件で用いられている申出換地は、同法に基づくものではない。 
申出換地について、最高裁昭和54.3.1は、「土地区画整理事業の換地計画において換地を定めるにあたり、施行区域内の特定の数筆の土地につき所有権その他の権利を有する者全員が他の土地の換地に影響を及ぼさない限度内において右数筆のと土地に対する換地の位置、範囲に関する合意を市、右合意による換地を求める旨を申し出たときは、事業施行者は、公益に反せず事業施行上支障をじないかぎり、土地区画整理法89条1項所定の基準によることなく右合意されたところに従って右各土地の換地を定めることができる。」として、これを認めている。

地権者間の合意による申出があれば、施行者は、照応の原則によることなく、換地を定めることができる。
(行政事務上も、この判例と同様に、法律に基づかない申出換地が可能であると解されている。)
本判決の特徴は、具体的な事案の下で、協働利用を前提とした換地の申出があった場合に、照応の原則によることなく換地を定めることを認め、Xが想定する自己使用や第三者への売却・賃貸などができないという地権者の個別的事情は換地処分の効力に影響を与えないとしたところにある。
共同利用の可否についてやや詳細に判断。
←本件換地が客観的な性状として共同利用できないものであれば、本件において申出換地が許容される前提を欠くこととなる。
違法性の承継について、先行処分の訴訟可能性が違法性の承継を否定する際の一要素とされている。
最高裁H21.12.17では、安全認定と建築確認の間に違法性の承継を認めるにあたって、安全認定の適否を争うための手続的保障がこれを争おうとする者に十分に与えられていないことが考慮された。
本件は、これと異なり、違法性の承継を認める必要がないとしているもの。
  民事p65
東京高裁H27.5.27  
  交通事故による不法行為に基づく損害賠償請求権に関して発生する遅延損害金について、元本組入れによる法定重利の主張(否定)
  規定 民法 第405条(利息の元本への組入れ)
利息の支払が一年分以上延滞した場合において、債権者が催告をしても、債務者がその利息を支払わないときは、債権者は、これを元本に組み入れることができる。
  判断 Xの法定重利の主張について、民法405条の類推適用を欠くか、権利濫用に当たる。

① 民法405条の趣旨は債権者保護にあるとした上で、不法行為に基づく損害賠償請求権は催告なしに不法行為のときから遅延損害金が発生すると解されており、債権者保護が図られている⇒それに加えて、遅延損害金について民法405条を類推適用するまでの必要があるかについては疑問の余地。
特に不法行為に基づく損害賠償債務は、契約上の債務とは異なり、履行すべき額が債務者にとって必ずしも明らかとはいえないから、なおさら。
②法定重利を認めるまでに債務者が怠慢であると評価するには、催告額が客観的な利息ないし遅延損害金の額と少なくとも大きくは乖離していないことを要件とすることが公平に適するところ、本件においては、催告の基礎となる元本額は、認定元本額の約3.6倍と大幅に過大⇒民法405条の類推適用の前提を欠く。
③本件では、催告者が不合理な理由で実収入額の開示を拒み、Yにおいて催告額の妥当性を検討し、相当な額による任意の履行をする機会を奪った。

Xが法定重利を主張することは権利の濫用。
  解説 民法405条については、一般に、重利の特約がない限り、債務者は延滞した利息に対してさらに利息を払うことを要しないことになるが、これは一方的に債権者に損害を課する結果になる⇒同条により債権者の一方的意思表示によって延滞利息を元本に組み入れる権利を認めたもの。 
同条が「利息」に関する規定であることは明らかであるが、消費貸借債務の不履行によるいわゆる遅延利息についても、元本使用の対価たる性質を有する⇒本条の適用があるとするのが大審院の判例(大判昭17.2.4)。
更に本件のような不法行為に基づく損害賠償請求権から生ずる遅延損害金についても、405条が適用ないし類推適用されるかについては、最上級審の裁判例はない。
下級審の裁判例では、分かれる。
  民事p78
東京地裁H27.8.28  
前回レート参照方式を用いて交換レートを決定する通貨スワップ取引と、公序良俗違反、適合性原則違反、説明義務違反(いずれも否定)
  事案  Y1証券会社を介してY2銀行との間で平成19年10月22日及び平成22年2月7日に通貨スワップ取引を行ったXが、
(1)本件各取引は公序良俗に反して無効⇒Y1証券会社及びY2銀行には不当利得返還義務がある
(2)本件各取引の勧誘は適合性原則又は説明義務に違反⇒Y1証券会社及びY2銀行には債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償義務がある。

Yらに対し、不当利得返還請求権又は債務不履行若しくは不法行為による損害賠償請求権に基づき、本件各取引に係る解約清算金相当額の168億4100万円及びこれに対する平成20年12月10日(利息の発生した日又は不法行為の日)から支払済みまで年五分の割合による利息又は遅延損害金の連帯支払を求める事案。
  判断 ●公序良俗違反
本件各取引は、円高が続くと約定レートが加速度的に上昇⇒Xにとってリスクの高い金融商品。
but
為替相場が一定の水準以上の円安で推移する限り、いかに円安が進行しようとも、一定期間にわたって、実勢為替レートと固定レートとの差に応じた相当の利益を享受し得ることになる

本件各取引が当事者の一方のみに不利益な結果をもたらす構造を有するものではない。
本件各取引開始当時、Xのみが一方的に損失を被ることを確実視させる状況にあったことをうかがわせる事情はない。

本件各取引が経済的な合理性を欠き、経済取引としておよそ社会的相当性を逸脱し、社会通念上許容し得ず公序良俗に反するものということはできない。
  ●適合性原則違反及び説明義務違反
Xが、
①為替スワップ取引に対する豊富な経験を有し、組織を挙げて情報収集や内部統制等の体制を整え、企業として積極的に為替スワップ取引に取り組んでいたこと、
②本件各取引開始に至るまでに、本件各取引と同様の取引の勧誘を何度か受けるなどしていたこと、
③Yらの本件各取引の説明資料には、本件各取引の仕組みやリスク、円高となった場合の約定レートの推移及び為替レートや金利水準の変動に伴う時価評価の変動等が記載され、Yらが上記説明資料の内容を口頭説明した

Yらの説明内容等が本件各取引に伴う危険性について正当な認識を形成するのに不十分なものであったということはできない。
  民事p98
東京地裁H27.8.21 
  会社の元取締役が解任後、会社の内部文書を占有するとし、会社の所有権に基づく内部文書の引渡請求が認容された事例。
  事案 プロ野球チームを運営する会社の取締役球団代表であった者が会社の保有する各種の資料(内部文書)を持ち出し、占有するとして、会社が資料の引渡請求をした事案。 
  判断 Yの解任に至る経緯、Yによる球団代表室からの荷物の搬出、Xにおける書類の保管状況等、B新聞による報道等、Yの執筆に係る書籍の記載、仮処分の執行、Yによる文書のデータ化に係る事実を認定。
Yが解任後、段ボール箱によって球団代表室からXの内部文書を搬出することは十分に可能であったものの、本件物件を特定して搬出したとまでは認められない。 
Xの主張に係る個別の物件ごとに検討し、B新聞の記事内容、Yの書籍内容等を分析し、Bが保有する文書の中に本件文書が含まれ、これらの文書がYからBに渡されたこと等を認め、また、これらの文書の原本及びXにおいて作成された写しは、Xが所有権を有する。

請求を一部認容。
  解説 本件においては、内部文書の流出・持出しの認定、Yによる持出しの認定、内部文書の所有権の有無・所在が重要な争点。
本判決は、新聞記事の内容、書籍の内容、Yの解任後の行動等を詳細に認定し、Xの主張に係る一部の文書につきYによる持出し、占有を推認したもの。 
  民事p111
旭川地裁H27.9.29  
  中古車の事故当時の取引価格の認定
  事案 Xが、Yに対し、Xが所有する自動車(「被害車」)とYが運転する自動車とが衝突した交通事故に関し、不法行為に基づき物損の一部である140万円の支払を求めた事案。 
X:被害車と同種車両は至上におて90万円以上で取引されている⇒被害車の時価額は90万円であると主張。
本件事故当時の被害車価格についてA市内の中古車価格査定等を営む業者6社から得た回答書、被害車と同種車両の価格が記載されたインターネット上の中古車販売情報サイトの画面印刷物を証拠提出。
Y:減価償却法によれば被害車は全部償却済み⇒新車価格の10%が残存価値である
  原審 被害車の時価額につき、
①自動車販売業者の見解は6社と数が少ない上、地域もA市内に偏っている
②インターネット情報は必ずしも被害車の客観的な時価に一致するとはいえず価格のばらつきが大きい

これらを基準として認定することができないとして、
減価償却法により時価額(38万9700円)を算定。
  判断 ①中古車の価格査定等を行うA市内の専門業者6社は、被害者と同一の車種・年式・型・走行距離・新車価格の自動車の販売価格について、いずれも100万円以上であると査定し、この査定の信用性を疑わせるよな事情は見当たらない。
②インターネット上の中古車販売情報サイトに掲載された被害車と同種車両の販売価格は、いずれも90万円以上で取引されている。
③そうすると、被害車の時価額が90万円未満であることをうかがわせる証拠が何ら提出されていない以上、本件事故当時の被害車の時価額は、Xが主張する90万円を下回るものではない。
  解説 交通事故により損傷を受けた中古車の事故当時における取引価格は、原則として、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得するために要する価額によって定めるべきであり、上記取引価格を課税又は企業会計上の減価償却の方法である定率法又は定額法によって定めることは、加害者及び被害者がこれによることに異議がない等の特段の事情がない限り許されない(最高裁昭和49.4.15)。
Yは、弁論終結後、アジャスターによる調査報告書を根拠とする主張立証のために口頭弁論の再開を求めたが、裁判所は時期に後れた攻撃防御方法に当たることは明らかであるとして、再開をしなかった。
  知財p114
東京地裁H27.10.29  
  特許権に基づく差止請求(棄却)
  事案 本件特許権を有するXが、Yに対し、Yによる被告製品の製造等が特許権侵害に当たると主張⇒特許法100条1項及び2項に基づき、被告製品の製造等の差止め及び廃棄を求めた事案。 
  規定 特許法 第29条(特許の要件) 
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
  争点 被告製品が本件発明の技術的範囲に属することについては争いがなく、争点は無効理由の有無。 
Yは、無効理由として、
①(サントリー)オールフリーに係る発明(「公然実施発明1」)にン基づく進歩性欠如及び
②(アサヒ)ダブルゼロに係る発明(「公然実施発明2」)に基づく進歩性欠如を主張するとともに、
③サポート要件(特許法36条6項1号)違反等の無効理由も主張。
  判断  ●公然実施発明1に基づく進歩性欠如 
オールフリーは本件特許の優先日前に販売が開始されたものであり、その成分等を分析することが格別困難であるとはうかがわれない。
⇒公然実施発明1は日本国内において公然実施をされた発明に当たる。
本件発明と公然実施発明1を対比すると、エキス分の総量につき、本件発明が0.5重量%以上2.0重量%以下であるのに対し、公然実施発明1が0.39重量%である点で相違し、その余の点で一致。
①・・・・これらを解消して飲み応えを向上させるために風味付与剤等の添加物を用いる技術が周知となっていること、
②この風味付与剤等は本件発明のエキス分にあたることなど

公然実施発明1に接した当業者において飲み応えが乏しいとの問題があると認識することが明らかであり、これを改善するために手段として、エキス分の添加という方法を採用することは容易であった。

本件発明は公然実施発明1に基づいて容易に想到することができたから、進歩性を欠く。
  ●公然実施発明2に基づく進歩性欠如 
公然実施発明2も日本国内において公然実施された発明にあたる。
①ノンアルコールのビールテイスト飲料の分野では、健康志向の高まりを受けて、「糖質ゼロ」との表示のある商品が消費者から支持されていたこと、
②栄養表示基準においては糖質を100ml当たり0.5g未満とすれば糖質を含まない旨の表示をすることができたこと

公然実施発明2に接した当業者において糖質の含量を100ml当たり0.5g未満に減少させることに強い動機付けがあったことは明らかであり、糖質の含量を減少させることは容易

本件発明は公然実施発明2に基づいて容易に想到することができたから、進歩性を欠く。
  解説 特許法29条1項2号にいう「公然実施をされた発明」とは、不特定の者に公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況において実施された発明。
実施品を入手等しても発明の内容を知り得ない場合には、公然実施発明には当たらないと解するのが一般的。
本判決は、公然実施発明1及び2につき、その成分等を分析することが格別困難であるとはいえないことを理由に公然実施発明該当性を肯定(通説的見解)。
   商事p124
東京地裁H27.10.8
  株式取得により他社を買収した会社の取締役及び監査役の善管注意義務違反(否定) 
  事案 Zの株主である原告X1らが、Zが行ったAの株式の取得及びBの株式の取得について、各取得時におけるZの取締役又は当時取締役であった者は、A及びBの事業の将来性、企業の継続性及び取得条件の合理性を十分に調査、検討することなく、A及びBの株式を取得する決定をしたもの。
⇒その判断は著しく不合理であるから、それぞれが関与したAの株式の取得及びBの株式の取得について善管注意義務違反ないし忠実義務違反があり、各取得時におけるZの監査役又は当該監査役であった者には、それぞれが関与した上記各株式の取得について適切に監査権限を行使しなかった善管注意義務違反があり、これによりZが損害を被った。
⇒Zに対して損害額を支払うよう求めた株主代表訴訟。
  Aは環境事業において注目されたベンチャー企業。
Aの設立者Iは、日経BPが主催する「日本イノベーター大賞」の優秀賞受賞。
Zの取締役は、平成15年12月24日、Aが行う第三者割当増資による募集株式3万2138株(払込価格8億345万円)を引き受ける。
取締役会では、出席取締役全員が賛成し、出席監査役からも反対なし。
Aは、平成16年4月、2度目の不渡りを出し、銀行停止処分を受け、Zは、平成17年3月期決算において、上記取締役会決議に基づき取得した株式を含むZ保有のA株式について、8億1300万円の投資有価証券評価損を計上。
Bは、主に居住用不動産の建築請負や売買、賃貸借に関する事業等を営む株式会社。
Zは、平成19年12月、40億円を払い込んでBの丙種優先株式100万株を取得。平成20年12月、3億2650万円を支払、Bの普通株式50万株を取得。平成21年6月、2億9750万円を払い込んでBの丁種優先株式8万5000株を取得。
各取締役会では、出席取締役全員が賛成し、出席監査役からも反対なし。
Bは、平成21年11月24日、東京地裁に更生手続開始の申立て⇒同年12月11日、更生手続開始の決定。
Bは、同更生手続において、その発行済み株式の全てを無償で取得し、これを償却。
  判断 ●A株式について 
取締役の経営判断の結果として株式投資が行われたが、これが失敗して会社に損害が生じた場合に、取締役が善管注意義務に基づく責任を負うべきか否かについては、いわゆる経営判断の原則に基づいて判断すべき。
①Aの財務状況は健全なものではなかったが、創業当初のベンチャー企業においては要する費用に比して売上規模が低水準にとどまり損失を計上することが珍しくなく、創業当初のベンチャー企業に対する出資には、ベンチャー企業が売上高を増加させて利益を上げることができるようになるまでの運転資金の供給という側面がある。⇒ベンチャー企業の創業当初の財務状況が芳しくないということのみから直ちに、当該ベンチャー企業への投資を回避すべきとはいい難い。
②ZがAの計算書類及び中間決算案を調査し、さらにその財務状況についてのヒアリングを実施して、Aの財務上・経営上の重要な事項について適切に質問しており、これに対するAの回答内容の真偽を疑うべき事情は見当たらない。
③A株式の取得当時、環境事業はその市場規模が大幅に成長していくものとみられており、Aは、環境事業における注目されたベンチャー企業だえったことから、その成長に期待することは合理的であった。
④Zはこれらの得られた情報を用いて経営企画担当取締役と財務担当取締役を中心に経営企画室において検討を加えた上で、取締役会においてA株式の取得について審議し、その取得を決定するという手続きが履践されている

A株式の取得についての被告取締役らの判断はZの取締役の判断として著しく不合理なものということはできず、被告取締役らが善管注意義務ないし忠実義務に違反したということはできない。
被告監査役らにも適切な監査権限を行使しなかった善管注意義務違反があると認めることはできない。
  ●B株式の取得
各B株取得は、配当益及びキャピタルゲインを得ることを直接の目的とするものではなく、Bとの事実上の関係を強化し、今後のZの不動産事業においてシナジー効果を享受することを主要な目的として行われた⇒このような業務提携を見込んだ株式の取得は、業務提携をすることのメリットの評価を含め、将来予測にわたる経営上の専門的判断に委ねられている。
そのような株式の取得の決定は、出資先の財務状況や経営の安全性のみならず、株式を取得して事業上の関係を強化することから得られる利益等も総合して考慮することになる⇒その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではない。
各B株取得のいずれについても、被告取締役らの判断はZの取締役の判断として著しく不合理なものということはいえず、被告取締役らが善管注意義務ないし忠実義務に違反したということもできない。
被告監査役らの善管注意義務違反も否定。
  解説 経営判断に関する取締役の善管注意義務違反の有無について、裁判例及び学説上、概ね「判断の過程・内容が取締役として著しく不合理なものであったか否か」という判断基準が採用され、その場合の審査対象は、
①経営判断の前提となる情報収集とその分析・検討における不合理さの有無
②事実認定に基づく意思決定の推論過程及び内容の著しい不合理さの有無。 
2294   
  行政p29
最高裁H27.12.147  
  国家公務員共済組合法附則12条の12第4項及び厚生年金保険法等の一部を改正する法律附則30条1項と憲法41条及び73条6号
  事案 Yが昭和49年に日本電信電話公社を退職した際に日本電信電話公社共済組合(「旧共済組合」)から退職一時金として14万12367円を受給。
平成15年7月にYが満60歳となり旧共済組合の 組合員期間を計算の基礎とする老齢厚生年金及び退職共済年金の受給権を有するようになった
⇒旧共済組合の権利義務を承継したXが、「厚生年金保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う国家公務員共済組合法による長期給付等に関する経過措置に関する政令」(以下「本件政令」という。)4条1項の規定に基づき、Yに対し、当該退職一時金として支給を受けた上記の額に利子に相当する額を加えた額に相当する金額66万円余り及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案。
  規定 憲法 第73条〔内閣の事務〕
内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
憲法 第41条〔国会の地位、立法権〕 
国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
  原審 包括的に政令に委任したもので無効。
  判断 国公共済法附則12条の12第4項及び厚年法改正法附則30条1項は、退職一時金に付加して返還すべき利子の利率の定めを白地で包括的に政令に委任するものということはできず、憲法41条及び73条6号に違反するものではないと解するのが相当。
本件政令4条2項が定める利率は、年金財源の予定運用収入に係る利率に連動して定められてきたものであり、その委任の趣旨に沿うものであるなどとして、原判決中X敗訴部分を破棄し、Xの請求を認容した第一審判決は正当であるとして、上記部分について控訴を棄却。
  解説 法律の委任とは、法律がその所轄事項を定める権能を命令に委任することをいい、委任を受けた命令は、委任の限度内で、法律事項を規定することができる(憲法73条6号)。
法律の委任は、立法権が国会に属するという憲法の原則(憲法41条)を崩さない程度において、個別・具体的に限られた特別の事項についてのみ行われ得るものであり、国会の立法権を放棄するに等しい一般的抽象的な委任は憲法上許されないと解されている。
いわゆる猿払事件判決(最高裁昭和49.11.6)は、国家公務員法102条1項による人事院規則への委任の憲法適合性につき、「政治的行為の定めを人事院規則に委任する国公法102条1項が、公務員の政治的中立性を損なうおそれのある行動類型に属する政治的行為を具体的に定めることを委任するものであることは、同条項の合理的な解釈により理解しうるところである。・・・右条項は、それが同法82条による懲戒処分及び同法110条1項19号による刑罰の対象となる政治的行為の定めを一様に委任するものであるからといって、そのこと故に、憲法の許容する委任の限度を超えることになるものではない。」
授権規定の憲法適合性に係る一般論として、
「国会が、法律自体の中で、特定の事項に限定してこれに関する具体的な内容の規定を他の国家機関に委任することは、その合理的必要性があり、かつ、右の具体的な定めがほしいままにされることのないように当該機関を指導又は制約すべき目標、基準、考慮すべき要素等を指示してするものであるかぎり、必ずしも憲法に違反するものということはできず、また、右の指示も、委任を定める規定自体の中でこれを明示する必要はなく、当該法律の他の規定や法律全体を通じて合理的に導き出されるものであってもよいと解される。」

授権規定が憲法の許容する委任の限度を超えるか否かの判断に当たっては、基本的に、授権規定において委任の基準や考慮要素が明示されていなくとも、当該規定のみならず当該法律の他の規定や法律全体の趣旨、目的の解釈によって、その委任を受けた機関を指導又は制約すべき目標、基準、考慮すべき要素等が合理的に導き出される限り、憲法の許容する委任の限度を超えるものではないという考え方を基礎とすべき。
本判決も、国公共済法附則12条の12の文言のみに着目するのではなく、その立法趣旨や同法の他の規定等を考慮した判断を示している。
  行政p34
広島地裁H27.5.20  
  原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項に基づく原爆症認定申請に対する却下処分の一部が取り消された事例
  事案 広島市に投下された原子爆弾に被爆した原告ら(4名)が、厚生労働大臣に対し、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)11条1項に基づいて行った原爆症認定申請が却下⇒
①これらの却下処分が違法であると主張してその取消しを求めるとともに、
②右各却下処分は故意または過失に基づく違法な行為であり、原告らは損害を被った⇒300万円の損害賠償を求めた。
  解説 被爆者援護法10条1項は、同法11条1項の認定を受ける要件として、
①被爆者が現に医療を要する状態にあること(要医療性)、
②医療を要する傷害又は疾病が原子爆弾の放射線に起因するものであるか、あるいは傷害又は疾病が原子爆弾の傷害作用のうち放射線以外に起因するものであり、その者の治療能力が原子爆弾の放射線の影響を受けているため右状態にあること(放射線起因性)を規定。 
厚生労働大臣は、原爆症認定を行うに当たっては、疾病・障害認定審査会の意見を聴かねばならないこととされている。
  争点 ①原爆症認定における放射線起因性の判断基準
②各原告らの原爆症認定要件該当性(放射線起因性及び要医療性)
③国家賠償責任の成否 
  判断 ①について 
放射線起因性についての高度の蓋然性を証明することが必要であるとした最高裁H12.7.18を前提としつつ、放射線に起因する疾病であっても起因しない場合と比較して特異な症状を呈するものとは限らないこと等を踏まえ、
放射線起因性の判断にあたっては、当該疾病の発症等に至った医学的・病理学的機序を直接証明することを求めるのではなく、当該被爆者の放射線への被爆の程度と、申請疾病等と放射線被爆との関連性の有無及び程度とを中心に、当該疾病等の具体的症状やその推移、その他の既往歴、他の危険因子等を総合的に考慮して、原爆放射線被爆の事実が申請疾病等を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かを判断することが相当。
放射線被ばく線量の算定については、DS02に相当の科学的合理性があることを認めたものの、誘導放射線・放射性降下物による被ばく、内部被ばくの可能性も考慮すべきであるから一応の目安とするにとどめ、被爆状況や被爆後の行動等の諸事情に照らして被ばく線量を評価すべき。
  ②について
放射線起因性について:
急性被ばくではない低線量被ばくに関連する白内障については、しきい値が存在しないかより低い値であることを示す知見がある。
⇒X2については、放射線起因性を肯定。X1については、白内障の危険因子であるステロイド点眼剤の長期投与及び加齢によって発症したものであるとして放射線起因性を否定。
X2及びX3の要医療性は肯定したが、X4については定期的な通院もしていないとして要医療性を否定。
  ③について、X2及びX3に対する却下処分は違法であるものの、厚生労働大臣は疾病・障害認定審査会の意見を尊重したものであり、その他新審査の方針の適用や証拠資料の精査について職務上の注意義務を怠ったとはいえない上、理由付記の程度も十分。
⇒国賠責任の成立を否定。 
  民事p57
最高裁H27.10.27  
  Yの配当額についてX等が配当異議⇒配当表記載の根抵当権者の配当額に相当する金額が供託⇒その後配当の場合の、当該供託金の充当方法
  事案 担保不動産競売における配当表(本件配当表)について、債務者兼所有者であるXが、根抵当権者であるYの債権額を争って提起した配当異議の訴え。
本件の競売手続に先立ち、別の不動産について、本件各貸金債権を被担保債権とするYの根抵当権に基づく担保不動産競売の手続(前件競売)が終了。
前件競売手続において、平成22年2月4日の配当期日(前件配当期日)に作成された配当表(前件配当表)記載のYの配当額につきX等が配当異議の訴えを提起⇒Yの配当額は供託。
その後、同配当異議の訴訟について平成23年1月12日にY勝訴の判決が確定し、上記の供託の事由が消滅⇒その供託金(本件供託金)につき配当の実施として支払委託がされ、Yは、同年2月3日、供託所から、本件供託金及び供託利息の払渡しを受けた。
Xは、前件競売手続におけるYの配当金は、前件配当期日における前件配当表記載の利息、損害金及び元金に法定充当がされると主張したのに対し、Yは、前件競売手続におけるYの配当金は、本件供託金の払渡しがされた時点における本件各貸金債権に法定充当がされると主張して争った。
  判断 担保不動産競売の手続における配当表記載の根抵当権者の配当額について配当異議の訴えが提起されたためにその配当額に相当する金銭が供託され、その後、当該根抵当権者が上記訴えに係る訴訟において勝訴したことにより、当該根抵当権者に対し上記配当表記載のとおりに配当がされる場合には、当該供託金は、その支払委託がされた時点における被担保政権に民法489条から491条までの規定に従った充当がされる。
  解説 本件では、担保不動産競売の手続における根抵当権者への配当金が、被担保債権について生ずる遅延損害金のうちどの範囲のものに充当されるかが問題となったもの。 
配当は、少なくとも弁済に準ずるものとして、必要に応じて弁済に関する規定が適用されるという理解が一般的であり、判例も、不動産競売手続における担保権者への配当金について、民法の弁済に関する法定充当の規定(民法489条~491条)に従って充当されるべきものとしている(最高裁昭和62.12.18)。
本判決は、本件のような場合には、執行裁判所による配当手続は支払委託によって終了することから、支払委託の時点における被担保債権に供託金が法定充当され、その限度で被担保債権が消滅すると見たものと考えられる。
  民事p60
大阪高裁H27.4.22 
  非監護親が養育費として負担すべき子の大学学費・通学費の計算
  事案 抗告人(原審相手方)父A(運転手)と相手方(原審申立人)母B(ゴルフ場キャディ)の長女C(私立大学入学)と二女D(盲学校)の各養育費につき、母が各月額5万円の支払を申し立てた⇒
原審がCにつき22歳に達する月まで月額7万2000円、Dにつき20歳に達する月まで月額2万1000円の各支払を命じた
抗告審の本件決定が、長女につき、22歳に達する年の翌月の3月まで月額3万円の支払を命じることに変更。
  判断  Aが負担すべきCの養育費の額につき、Cの私立大学進学を前提とした額hの負担をAが了承していたことを認めるに足りる証拠はないが、Cが高等学校に進学する際にAもCが国立大学に進学することを視野に入れていたと認められる⇒国立大学の学費標準額及び通学費用分についてはAも応分の費用を負担するものとして養育費の額を算定するのが相当である。
長女の学費は85万円程度であるが、国立大学の学費の標準額は、国立大学等の授業料その他の費用に関する省令で年額53万5800円と定められていることから、長女の学費等はこれに通学費用年額13万を足した66万5800円となるところ、これによりAの養育費の分担額を算定すると、標準的算定表の試算額を超える長女の学費等は33万1956円となるので、これを考慮して算定し、本件の場合当事者双方の収入等からすると、長女が奨学金あるいはアルバイト等で一部を負担せざるを得ないことが推認されること等からすれば、上記超過額のうちAが負担すべきものは、その3分の1とするのが相当。
そうすると、その年額は年間11万052円、月額9000円(1000円未満切捨て)となるので、Aの負担すべき養育費の額は前記2万1000円にこれを足した月額30000円となる。
そして、Cが大学を卒業する見込みである都市の翌年3月(22歳で迎える3月まで)をもってその終期とした。
  解説 調停や審判の実務で一般的に採用されているいわゆr簡易算定表については、原則的には合理性があるものとして、既に最高裁でも認められている(最高裁H18.4.26等)。 
問題は、これらの算定表に収まりきれない特別の事情、例えば、本件のような私立大学・私立高校等の費用の分担や、高額な医療費の分担、あるいは義務者の高額な借金の扱い等がある場合の算定方法。
私立大学や私立高校・私立専門学校あるいは市立小中学校等は、一般に教育費が高額になり、これをすべて当然に養育費の算定に組み入れることができるわけではない。
それが可能な要件としては、
①義務者が私立学校への入学を承諾している場合や、
②承諾はなくても、双方の収入・資産状況あるいは学歴その他兄弟間のバランス等から考えて、義務者に負担させるのを相当とする事情の存在することが必要。
本件は②の1場合を追加。
  民事p65
東京地裁H27.9.18  
  法律事務所に雇用された裁判所書記官の経歴を有する者の整理解雇(無効)
  事案 債務整理事件、過払金返還請求事件を主として取り扱っていた法律事務所の従業員の整理解雇をめぐる事件。
主として解雇の効力が問題。 
Xは、平成14年3月以降、事務員として勤務。
Y2は、平成21年7月以降、Xにつき数回にわたって訓告処分、減給処分、出勤停止処分を行い、平成22年6月、懲戒解雇処分。
Xは、平成22年7月、Y2に対し、東京地裁に地位保全等仮処分申立(第一仮処分事件)⇒東京地裁は、同年9月、地位の保全の申立てを却下したものの、平成23年8月までの間の賃金の仮払を命ずる決定。
Xは、Y2に対し、平成22年7月、東京地裁に雇用契約上の権利を有する地位の確認等を請求する訴訟を提起(前回本訴事件)。
Y2は、平成23年3月、Y1弁護士法人を設立し、代表者となり、法律事務所の事業をY1に譲渡したことから、Xは、Y1に対し、同様な訴訟を提起し、同訴訟は善かい本訴事件に併合された。
Xは、平成23年7月、Y1に対し、東京地裁に地位保全等仮処分を申し立てたが(第二仮処分事件)、XがY1の職場に復帰し、申立てを取り下げた。
Y1は、売上が激減したことから、平成23年5月以降、大規模な人員削減等を測り、平成25年2月、Xに対して同年3月31日をもって解雇(「本件解雇」)
Xが、Y1に対し、雇用契約上の権利を有する地位の確認、Y1、Y2に対し、賃金等の支払(予備的に不法行為に基づく損害賠償)、訓告処分・減給処分等に係る不法行為に基づく損害賠償を請求し、Y1・Y2が反訴として、源泉所得税、厚生年金保険料等の立替分の求償を請求。
  規定 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
 第8条(定年を定める場合の年齢)
事業主がその雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをする場合には、当該定年は、六十歳を下回ることができない。ただし、当該事業主が雇用する労働者のうち、高年齢者が従事することが困難であると認められる業務として厚生労働省令で定める業務に従事している労働者については、この限りでない。
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
第9条(高年齢者雇用確保措置)
定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
一 当該定年の引上げ
二 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
三 当該定年の定めの廃止
2 継続雇用制度には、事業主が、特殊関係事業主(当該事業主の経営を実質的に支配することが可能となる関係にある事業主その他の当該事業主と特殊の関係のある事業主として厚生労働省令で定める事業主をいう。以下この項において同じ。)との間で、当該事業主の雇用する高年齢者であつてその定年後に雇用されることを希望するものをその定年後に当該特殊関係事業主が引き続いて雇用することを約する契約を締結し、当該契約に基づき当該高年齢者の雇用を確保する制度が含まれるものとする。
3 厚生労働大臣は、第一項の事業主が講ずべき高年齢者雇用確保措置の実施及び運用(心身の故障のため業務の遂行に堪えない者等の継続雇用制度における取扱いを含む。)に関する指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。
4 第六条第三項及び第四項の規定は、指針の策定及び変更について準用する。
  争点 ①本件解雇の有効性
②賞与等の請求の成否
③定年制の有効性及び継続雇用の成否
④不法行為責任の成否等 
  判断 Y1における人員削減の必要性を認めたものの、Xにつき、その経験から債務整理事件、過払金返還請求事件以外の事件処理も一応可能であり、配置転換による解雇回避の検討がされるべきであり、この検討がされたとの証拠がなく、解雇回避努力義務として十分な対応があったといえず、被解雇者の選定理由の合理性にも疑問がある
⇒本件解雇は無効。
賞与及び一金請求については、雇用契約の内容になっていない⇒否定
定年制について、Y1の就業規則によりにより、平成26年8月末日に60歳の定年となり、この定年制は高年齢者等の雇用の安定等に関する法律8条が許容しており、同法9条1項は同法8条を前提として各種の高齢者雇用確保措置を講じるよう事業者に義務付けるもの
⇒60歳定年制を定めるY1の就業規則が無効とはいえない。
⇒不法行為に関するXの主張を排斥。
Y2の責任について、法人格の否認等に係るXの主張を排斥。
XのY1に対する本訴請求を一部(平成25年から平成26年8月までの賃金の支払部分)認容し、その余の本訴請求を棄却。
Y1らの反訴請求を認容。
     
  民事p78
東京地裁H27.7.14  
  不動産について、賃貸契約・買戻特約付売買契約が締結され、目的不動産について占有改定(いわゆるリースバック方式)⇒譲渡担保契約とされた事例。
  事案 賃貸借契約、買戻特約付売買契約が同時に締結され、占有改定された場合に、これらの契約が譲渡担保契約の性質を有するものであるのか否かが問題となった事案。 
Y1は、本件各建物を含む複数の店舗においてパチンコ店の企画・出店・経営等を行っていたが、Aから、買戻特約付売買と不動産賃貸借をセットにした融資(いわゆる「リースバック方式」)を利用すれば、外観上は何ら変更なく、バランスシート上も、所有不動産がなくなった代わりに現金が増えるので、会社の流動比率を上げることができるとの提案を受け、融資先としてXを紹介された。

Y1,Y2は、Xとの間で、本件各建物、本件土地を目的物として、買戻特約付売買契約、賃貸借契約を締結し、当該目的物は、従前どおりにY1において使用する(占有改定による引渡し)ことにした。
Yは、公正証書作成を拒否⇒Xは、Y1に対し、公正証書作成義務違反を理由に、本件各賃貸借契約を解除し、本件建物の明渡しを求めるとともに、解除後の賃料相当損害金の支払を求めた。
Yらは、Xに対し、買戻特約付売買契約に基づき、売買代金及び費用相当額の支払債務の履行を提供し、買戻しの意思表示をしたと主張し、各売買代金及び費用の支払いと引き換えに、買戻しを原因とする所有権移転登記手続をするよう請求。
  規定 民法 第579条(買戻しの特約) 
不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。
  判断 本件各契約は譲渡担保契約であると判断。

①本件各契約がYらにおいてXから本件不動産の売買代金名下の金融を受ける目的で締結されたもんどえあること
②本件各賃貸借契約と本件各売買契約は同時に締結され、Yにおいて、本件各建物におけるパチンコ店の営業を継続するほか、本件各建物の底地の地権者に対し、直接地代を支払うことが予定されていること
③本件各契約の締結の前後を通じて、外観上Yらの本件不動産の使用態様に変化は見られないこと
④不動産の買戻特約付売買について、目的不動産の占有の移転と伴わない契約は、特段の事情のない限り、債権担保の目的で締結されたものと推認され、その法的性質は判例上譲渡担保契約と解されていること
⑤本件各売買契約において、民法579条本文所定の制限を超える内容の買戻し代金額が定められていること。
本件各契約に公正証書を作成する旨の規定があることについて、Xが要求している賃貸借終了後の本件各建物の明渡しを目的として、債務名義lとなり得るような公正証書を作成することは当事者の合理的意思として想定していなかった
⇒Yらがかかる条項に違反したからといって本件各賃貸借契約上の義務に違反したとはいえない
⇒Xの解除の意思表示は無効。
Yらの本件不動産の買戻しを認め、Yらの提供する金額等と引き換えに、Xに対して、本件不動産について買戻しを原因とする所有権移転登記手続をするよう命じた。
  解説 本件の最大の争点は、賃貸借契約、買戻特約付売買契約が同時に締結され、占有改定された場合に、かかる契約(買戻特約売買と不動産賃貸借をセットにした融資、いわゆる「リースバック方式」)は、譲渡担保契約と解するのが、それともこれを否定して、賃貸借契約、買戻し特約付売買そのものか。 
この点については、「買戻特約付売買契約の形式が採られていても、目的不動産の占有移転を伴わない契約は、特段の事情のない限り、債権担保の目的で締結されたものと推認され、その性質は譲渡担保契約と解するのが相当である」(最高裁H18.2.7)

買戻特約付売買だけであり、賃貸借契約が締結されていなかった事例であるが、その実質は同じと考えられる。
  民事p89
大阪地裁H27.9.16 
  東日本大震災に伴う原発事故による仕入れ先工場の操業停止⇒売上げの大半を失った会社(間接損害)に対する賠償(一部認容)
  事案 原告が、A社と独占販売契約を締結してA社の化学薬品を西日本で独占的に販売し、その売上げが全売上高の約9割を占めていたところ、東日本大震災の福島原発事故によるA社の主力工場の操業停止により売り上げの大半を失った

福島原発を設置、運転する被告に対し、原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)3条1項に基づき、逸失利益及び弁護士費用の合計4億円弱の損害賠償を請求。
  規定 原子力損害の賠償に関する法律  第三条  
原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。
2  前項の場合において、その損害が原子力事業者間の核燃料物質等の運搬により生じたものであるときは、当該原子力事業者間に書面による特約がない限り、当該核燃料物質等の発送人である原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。
  争点 ①相当因果関係の有無
②相当因果関係の範囲
③損害額の算定
④過失相殺の可否 
  判断 ●①相当因果関係の有無 
原賠法3条1項の原子炉の運転等と原子力損害との因果関係を、民法上の不法行為と同視し、民法416条を類推適用。
原告は、いわゆる直接被害者ではないが、
①製品の特性上、原告はA社以外の他社から代替品を直ちに入手して取引先に販売することができなかったことや、
②原告がA社と非常に緊密かつ特殊な関係にあったことなどを考慮し、
原告の一定期間における逸失利益相当額の損害(いわゆる間接損害)と原発事故との間には、相当因果関係があるとした。
  ●②相当因果関係の範囲
原告がA社との独占販売契約を継続していれば、原発事故後5年以内には相当の売上を回復することが合理的に期待できたにもかかわらず、原発事故の約3か月後に合意解約したこと、原告が合意解約後、他の事業等を実施して損害を軽減すべきであったのに、何ら新たな事業等を実施しなかったこと等を考慮し、原発事故後約1年間の逸失利益(及び弁護士費用)に限定。
  解説 間接損害に対する賠償義務の有無については、従来、最高裁昭和43.11.15(交通事故により会社代表者を負傷させた者に対する会社の損害賠償請求が認められた事例)を中心に議論され、本件のように、交通事故以外の加害行為により一次被害者と一定の経済的関係のある間接被害者に生じた損害に対する賠償義務については、必ずしも十分な議論があったとはいえない。
近年、福島原発事故の損害賠償に関する「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」が、「間接損害」に関する項目を設け、かつ、一時被害者との取引に代替性がない場合に相当因果関係が認められるとした。
中島肇:一次被害者と二次被害者との間に、単なる債権関係を超えてリスク分散が困難な程度に「強い結びつき」がある場合には、加害行為と間接被害との相当因果関係を認める余地がある。
潮見:中間指針を、事業者にとって自らの事業に伴うリスクを転嫁することの期待可能性を超えたところにあるリスクが顕在化した場合において、それが一定の経済的関係のある一次被害者に対する権利・法益侵害から必然的に生じる結果と評価できるときに賠償を認めるという意味に捉えるのであれば、理論的枠組みとして優れている。
  労働p102
東京高裁Hk26.6.12  
   
  事案 会社解散により会社から解雇された従業員が、①解雇は解雇権濫用により無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位に有ること、②違法な解雇により精神的苦痛を被った等として、損害賠償等を求めた事案。
  争点 ①事業廃止の合理性や解雇手続の相当性との相関関係を考慮して解雇権濫用の判断をすべきか否か
②本件解雇による損害賠償とは別に、Xらが所属する労働組合を嫌悪し、経済合理性のない本件解散を組合に秘匿して突然行ったことによる損害が認められるか 
  判断 ①について 
従業員を解雇する必要があり、解雇に合理性が認められる以上は、従業員に対する説明等の手続がとられなくても解雇権の行使が権利の濫用になることはない。

かかる手続をとることが困難であったり、とったとしてもそれに見合う成果が期待しがたいような場合もある。
本件では、Y2は、本件解散及び本件解雇に先立って、Xらの所属する組合に対し、Y2の厳しい財務状況を開示した上、賃金改定できなければ会社が存続できない可能性を示唆していたが、組合が賃金改定を拒否し、それ以上の交渉に応じない旨を表明したことから、解散に至った。
「本件解雇は、それまでの経緯に照らすと、必要かつ可能な手続を敢えてとらなかったことにより、ことさらXらに不利益を与えたとまではいうことはできず、・・・Xら主張の相関関係その他を考慮しても、本件解雇が解雇権の濫用に当たるとはいえない」
  ②について
Xらの主張する本件解雇の点を除くその余の不法行為等の内容のほとんどは、Xらの労働契約上の地位を失わせるというXらの権利に対する直接の侵害行為の前後に行われ、その準備行為や事後の手続としてされたものであり、いずれも本件解雇から離れてXらの権利利益を違法に侵害して不法行為を構成するものではない

Xらの主張を退ける。
  解説 真に企業を廃止する解散決議は、労働組合を壊滅する意図によるものであっても有効であるとして、解散自体の効力を否定できないとするのが学説(菅野他)、判例の立場。 
しかし、会社解散決議が有効だとしても、親会社が組合壊滅のために解散した場合には、親会社に損害賠償義務が発生する。
解散会社においては、解散のいきさつ、解雇せざるをえない事情、解雇の条件などは従業員に対し説明すべきであり、そのような手続的配慮を著しく欠いたまま解雇が行われたという場合には、「社会通念上相当として是認」できない解雇として、例外的に解雇権の濫用になる(菅野)。
本判決は、従業員に対し、解散のいきさつ等の説明を欠くなど手続的配慮を欠いていたとしても、手続的配慮をとることが困難であったり、とったとしてもそれに見合う成果が期待しがたいような場合には、手続的配慮をしていないくても解雇権の濫用には当たらないとした。
   刑事p129
大阪高裁H27.6.23
  現行犯逮捕は肯定。but被疑者に対する有形力の行使が違法⇒国賠請求肯定。
  事案 警察官による現行犯逮捕の適法性及びその際の有形力行使の相当性が問題となった事案。 
現行犯逮捕の要件を満たしておらず、XはAの暴行によって負傷⇒国賠法1条1項に基づき、入院雑費15万7500円と慰謝料241万円の合計256万7500円及び遅延損害金の支払を求め訴訟提起。
  原判決 Xの転倒状況及び負傷の機序に関して、Y提出の意見書よりも鑑定結果をより信用すべきものとし、同鑑定結果に沿ったX供述に基づき事実認定。
XのAに対する公務執行妨害の事実が認められない以上、AのXに対する暴行は、現行犯逮捕に伴う有形力の行使とは認められず、違法。
⇒Yに対し、入院雑費15万7500円と(内容虚偽の現行犯逮捕手続書が作成されたことを重く見て)慰謝料120万円の合計135万7500円の損害賠償を命じた。
  判断 Xの行為について、Xが自ら自転車を止めて降車し、単車から降車したAに近づき、その右肩を左手で1回突き、右手を振り上げて殴りかかろうとした旨認定⇒公務執行妨害の成立を肯定。
but
Aの制圧行為は現行犯逮捕のための有形力の行使ではあるが、Xの暴行が軽微で、Aと体格差もあった⇒社会通念上、逮捕のため必要かつ相当と認められる限度を超えた違法な有形力の行使。
⇒Xの入院雑費15万7500円と慰謝料50万円の合計65万7500円及び遅延損害金の損害賠償をYに命じた。
  解説  現行犯逮捕のために許容される有形力行使については、最高裁昭和50.4.3が「現行犯逮捕をしようとする場合において、現行犯人から抵抗を受けたときは、逮捕をしようとする者は、警察官であると私人であるとを問わず、その際の状況からみて社会通念上逮捕のために必要かつ相当であるとみとめられる限度内の実力を行使することが許され」る。 
逮捕の適法性に関して当事者の言い分が真っ向から対立する事案では、証拠を慎重に検討する必要がある。
2293   
  行政p18
仙台高裁H28.2.2  
  自衛隊情報保全隊のイラク派遣反対活動等の監視のために自衛隊が行った参加者の氏名・職業等の調査⇒プライバシー侵害にあたる⇒国賠請求認容
  事案  東北地方に居住するXら91名が、自衛隊のイラク派遣に反対する派遣反対活動等を行った⇒陸上自衛隊情報保全隊によって監視、情報収集され、憲法上保障された権利を侵害され、精神的苦痛を受けた⇒Y(国)に対して、人格権に基づき、監視、情報収集活動等の差止めと損害賠償の支払を求めた 
  原審 Xのら差止め請求は却下。
XらのうちX1に10万円、X2~X5の4名につき5万円の支払を求める部分につき一部認容。
  双方控訴
  判断 X1については、アマチュア歌手で、派遣反対ライブを行っていたにすぎないのに、自衛隊において、イラク派遣反対活動について情報収集の必要があるとしても、X1の本名及び職業を探索する必要性は認め難い⇒X1のプライバシーを侵害されたものと認めるのが相当。
X2~X5については、地方議員等で、高い知名度を有しているし、自衛隊によって、イラク派遣反対活動に関する情報を収集することの必要性は否定できない。
  解説 プライバシー侵害と不法行為の成否は、情報収集行為の目的、必要性、態様、情報の管理方法、情報の私事性、秘匿性の程度、個人の属性、被侵害利益の性質、その他の事情を総合考慮して判断すべき。 
  民事p47
最高裁H28.1.12  
  主債務者が反社会的勢力であることが判明⇒保証契約の意思表示に要素の錯誤なし・免責条項該当性
  事案 信用保証協会Yと保証契約を締結していたX銀行が、Yに対し、同契約にもとづき、保証債務の履行を請求。
X銀行とYは、昭和41年に約定書と題する書面により本件基本契約を締結。
本件基本契約には、X銀行が「保証契約に違反したとき」は、YがX銀行にあ値する保証債務の履行につき、その全部又は一部の責めを免れるものとする旨が定められていたが(「本件免責条項」)、保証契約締結後に主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合の取扱いについての定めは置かれていない。
  Yの主張 X銀行の融資の主債務者であるA社は反社会的勢力であり、
①このような場合には保証契約を締結しないにもかかわらず、そのことを知らずに同契約を締結⇒同契約は要素の錯誤により無効
②X銀行には保証契約違反がある⇒YとX銀行との間の信用保証に関する基本契約(「本件基本契約」)の定める免責事由に該当し、前記保証契約に基づく債務の履行を免れる。 
  原審 Yの補償契約の意思表示に要素の錯誤があったとはいえない。
主債務者が反社会的勢力でないことが保証条件とされていたとはいえない⇒保証免責の抗弁も認められない。

X銀行の請求を認容。
  判断 原審の判断のうちYに要素の錯誤があったとは認められないとして錯誤無効の抗弁を排斥した点は是認できる。
but
保証免責の抗弁についての判断に法令の解釈適用を誤った違法がある。
⇒原判決を破棄し、同抗弁についてさらに審理させるために、本件を原審に差し戻した。 
  解説 平成4年に「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」が施行
企業活動から反社会的勢力を排除する取組みは、
平成19年に政府が「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を策定、公表⇒各業界が取組を進めた。
平成20年から21年にかけて、全国銀行協会が銀行取引約定書に盛り込むべき反社会的勢力排除条項の参考例を公表。
but
金融機関と信用保証協会との間で結ばれた信用保証に関する基本契約書及び個別の保証書には主債務者が反社会的勢力であった場合の保証契約の効力等について定めた規定なし。

多くの訴訟が係属し、高裁において、保証契約の錯誤無効を認めるものと認めないものに判断がわかれていた。
  動機の錯誤が民法95条の錯誤として意思表示の無効を来たす場合について、
「動機が表示されて意思表示(法律行為)の内容となっていた」場合でかつそれが要素の錯誤に当たる場合(最高裁昭和29.11.26等)とする。 
but
判例を全体としてみた場合に、動機が表示されさえすれば、常に要素の錯誤として意思表示の無効を来たすことを認める立場を採っているわけではなく、実質的には、問題となる契約類型、契約当事者の属性、錯誤の対象となった事項等の諸事情を踏まえて、動機の錯誤がある表意者と相手方のいずれを保護するのが相当であるかという衡量が働いていると考えられる。
本判決:
上記一般論を述べた上で、「動機は、たとえそれが表示されても、当事者の意思解釈上、それが法律行為の内容とされたものと認められない限り、表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解するのが相当」
~表意者の動機が法律行為の内容とされたか否かは、当事者の意思解釈によって決まる。
①保証契約の基本的な性格・内容に加え、②保証契約の当事者の属性(いわゆるプロ同士の間の契約であること)に照らして主債務者が反社会的勢力であることが事後的に判明する場合が生じ得ることを想定でき、かつ、そのような事態が生じた場合の取扱いを取り決めるなどの対応を採ることも可能であったにもかかわらず、そのようなことがされていなかった

主債務者であるA社が反社会的勢力でないという点に誤認があったことが事後的に判明した場合に保証契約の効力を否定することまでをY及びX銀行の双方が前提としていたとはいえず、当事者の意思解釈上、この点についてのYの動機が、保証契約の内容となっていたとはいえない。

Yによる保証契約の錯誤無効の主張を排斥。

契約前の審査で反社会的勢力が主債務者となることを完全に排除することが実際上極めて困難であるという認識がある。
  本判決は、本件基本契約上の付随義務として、金融機関及び信用保証協会の双方に主債務者が反社会的勢力であるか否かを調査すべき義務があることを明らかにした(当事者の一方が、保証契約の締結や融資の実行前に、主債務者が反社会的勢力であることを把握していた場合には、これを他方当事者に知らせて、保証契約の締結や融資の実行をしないようにすべき義務があることは当然)。 
信用保証制度を利用して融資を受けようとする者が反社会的勢力であるか否かを調査する有効な方法は、実際上限られている。

本判決は、調査の程度について、調査の時点において一般的に行われている調査方法等に鑑みて相当と認められるものであればよいとして、高度の調査義務は課していない。
前記の一般に行われている調査方法等は、例えば、金融機関や信用保証協会で整備が進められている反社会的勢力データベースのチェックや主債務者の事務所の訪問調査など当該調査の時点において、業界において行われている一般的なものを想定していると考えられる。
本判決は、金融機関に前記の意味での調査義務違反が認められ、その結果、保証契約が締結されたといえる場合には、本件免責条項に該当し、信用保証協会が、同条項により保証契約に基づく保証債務の履行の責めを免れると判断。
免責の範囲を決めるに当たっては、信用保証協会の調査状況等も勘案するとして、一部免責の可能性もあり得ることを示唆。

比喩的に言えば、過失相殺的な処理も可能であることを示唆したもの。
  民事p51
大阪高裁H25.3.14  
  糖尿病足病変による患者の左第四趾切断手術の処置等と医師の過失(否定)
  事案 Yの開設・運営する病院で、糖尿病の治療を受けるとともに、平成21年3月16日糖尿病足病変による左第四趾切断手術⇒その後転送先の病院で左大腿切断手術を受けたが、重篤な後遺障害

①通院治療では血糖管理ができなかったため、Xを入院させるか、糖尿病専門医に転送すべき注意義務を怠った
②本件手術において、感染している壊死部位の切断範囲が十分でなく、また、切断後の縫合が不適切であった
③平成21年3月19日の時点で、Xを入院させるか、糖尿病専門医に転送すべき注意義務を怠った

担当医師に過失があったとして、Yに対し、不法行為に基づく損害賠償請求。
  判断 ①病院における血糖管理が糖尿病専門医の血糖管理に比べて劣っていたとは認められず、病院の血糖管理が不適切であったとはいえない
②感染部分の切除が不十分であったと考える余地があるものの・・・担当医師が行ったように切除部分を壊死部分とし、感染部分については抗生物質による効果を期待する方法をとっても不適切であったとはいえない
③・・・Xを直ちに入院させたり、糖尿病専門医に転送したりすべき注意義務違反があったとはいえない

注意義務違反を否定。 
  解説 医師としては、診療当時にいわゆる臨床医療の実践の場における医療水準に従った最善の注意義務が要求される(最高裁H7.6.9)
but
近時の裁判例では、医療の特殊性に鑑み、医師の裁量を肯定する動向にあり、合理的裁量の範囲を越えない限り法的義務違反は問われないとしている。 
  民事p67
東京地裁H27.11.9 
  株主代表訴訟制度あるいは一般社団法人・一般財団法人における理事者の責任追及の訴えの規定の権利能力なき社団への類推適用(否定)
  事案 権利能力なき社団であるA協議会の会員であるXらは、Aの会長、副会長であるY1~Y3が、Aの規則に違反して専務理事Y4に対し1200万円を給与として支出したとして、Y1~Y4に対して、1200万円をAに対して支払うよう求めて提訴。 
  判断 ①Xらは「自らがその給付を請求する権利を有すると主張する者」ではないこと、および②権利能力なき社団については自らが当事者となって訴訟を提起することが認められているのであるから、権利能力なき社団の内部規定に基づく意思決定により権利行使、提訴を行うべき

一構成員にすぎないXらに原告適格を認めることができない
⇒Xらの本人としての原告適格を否定。 
株主代表訴訟等の類推適用も否定。
  解説 ある団体の構成員が、理事者の団体に対する責任追及の訴え(「代表訴訟」と総称する)を提起できるかについては、各種法人においても一律ではない。
一般社団法人、株式会社、農業協同組合法上の農業共同組合、消費生活協同組合法上の消費生活共同組合等のように構成員による責任追及を認めるものと、
労働組合法上の労働組合、医療法人法上の医療法人社団、建物の区分所有等に関する法律における管理組合法人などのように、代表訴訟制度を有しない法人が混在。 
代表訴訟制度を有しない法人に同制度の類推適用を認めるか否かについて、裁判例は一貫してこれを否定。
法人格を有しない権利能力なき社団に対する類推適用も、一貫して否定。

代表訴訟は法が特に認めた制度であり、その採否は立法政策であって、規定が存在しない場合には類推適用は認められない。
  民事p70
東京地裁H27.9.16  
  訴訟代理人である弁護士が証人尋問で過失により証人を受傷させた事例
  事案 訴訟代理人である弁護士の法廷での行為の不法行為該当性をめぐる紛争であり、上記弁護士及びその依頼者の不法行為責任の有無並びに訴訟事件を担当した裁判官及び書記官の行為に係る国賠責任の有無が問題となった事件。 
  解説 弁護士の訴訟活動等が不法行為に当たるとする損害賠償請求事件としては、準備書面等の記載や尋問における発言等の主張立証活動が名誉毀損ないしプライバシー侵害に当たると主張するものがしばしばみられる。
訴訟代理人である弁護士が損害賠償を請求される場合は、その依頼者も共同被告とされることが少なくない。
しかし、弁護士の職務の独立性を重視し、特に依頼者からの具体的指示がない限り、弁護士の行為を依頼者の行為と同視することはできないとする裁判例が多数。
法廷警察権について、その行使は、当該法廷の状況等を最も的確に把握し得る立場にあり、かつ、訴訟の進行に全責任をもつ裁判長の広範な裁量に委ねられて然るべきものというべきであるから、その行使の要否、執るべき措置についての裁判長の判断は、最大限に尊重されなければならないとした上で、法定警察権に基づく裁判長の措置は、それが法廷警察権の目的、範囲を著しく逸脱し、又はその方法が甚だしく不当であるなどの特段の事情のない限り、国賠法1条1項所定の違法は公権力の行使ということはできない(最高裁H1.3.8)。
  民事p75
京都地裁H27.9.10  
  月平均100時間を超える時間外労働など⇒精神障害を発病⇒自殺⇒安全配慮義務違反。他の原因あり。
  事案 男性Aは、平成9年4月から小規模の建設会社Yに勤務していたが、平成23年5月に精神障害を発病して自殺。
Aの相続人である妻X1及び子X2及びX3が、Aの精神障害はYにおける過重な業務及びYの社長からのパワーハラスメントが原因であるなどと主張して、Yに対して、債務不履行(労働契約上の安全配慮義務違反)に基づく損害賠償を求めた事案。 
  争点 ①Aの精神障害の発病及び自殺の原因(Yにおける業務の過重性及びパワーハラスメントが原因か、Aの家庭内の問題が原因か)、
②Yについての安全配慮義務違反の成否
③損害の有無及び額 
  規定 民法 第719条(共同不法行為者の責任)
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
2 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。
民法 第418条(過失相殺)
債務の不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。
  判断 Aの業務の過重性について検討し、
①Aが自殺するまでの6か月間において、月時間外労働時間数は平均約129時間に及び、最も多い月では約168時間
②10日以上の連続勤務が4回に及んでいた
③役所や認証審査機関等へ提出する書面作成を中心にきわめて多数の物件に関する業務に携わっていた

Aの業務は、労働時間及び及び業務内容に照らして客観的に相当程度に過重であったといえ、Aの精神障害及び自殺との間で条件関係は優に認められる。 
家庭の問題について、Aと義父のとの1年超にわたる話合いの経過を詳細に認定⇒・・・上記の状況下にあるAに相当な精神的負荷を生じさせるものであるといえ、このような義父の一連の対応もAの精神障害及び自殺の原因となり得るもの。
上記各原因は、いずれも、それぞれが単独でAの精神障害及び自殺の原因となり得るもの⇒上記のような家庭の問題が存在するとしても、Aの業務の過重性とAの精神障害及び自殺との間の条件関係が否定されるものではない。
争点③に関連して、上記のような義父の行為については、Aに対する不法行為を構成すると解した上で、Yによる債務不履行と責任原因が競合し、各責任原因は、単独で結果を生じさせるに足るものであるとともに、Aの精神障害及び自殺という不可分一体の結果を招来
⇒民法719条を類推適用して損害全部についてYと義父との連帯責任を認めるべきであり、Yの寄与度に応じた責任に減額を行うのではなく、Yと義父との間の求償関係によって別途解決されるべき。
  解説 本件は、会社側が業務以外の他原因の立証活動に成功した事例。

義父当人がAへの退職勧奨の状況を記録し、これをAの実父に交付していたこと、Aの両親が会社である被告と訴訟において協力するなど良好な関係にあること等が窺われる、特殊な事案。
  一般論として、本件のような過労により精神障害を発病し自殺に至った事案において、原告が精神障害を惹起するに足る業務の過重性の立証に成功した場合、被告が業務以外の他原因の存在の立証活動を行うのみでは、精神障害の原因が競合することになるにとどまり、業務の過重性との条件関係は直ちに否定されることにならない。
  精神障害の発病につき労働者に過失ないし素因が認められる場合には、民法418条又は同条類推適用によって損害額を減額することも可能。
but
本件のように、労働者に過失や素因とは関連性のない業務以外の他原因が競合した事案は、これらと異なる問題もはらむもので、同列には解し難い。
交通事故と医療過誤が競合した事案において、これらのいずれもが、被害者に不可分の一個の結果を招来し、それぞれ結果との相当因果関係を有するから、共同不法行為の関係に立ち、各不法行為者が損害全額について連帯して責任を負うとした最高裁H13.3.13。
本件では、Xらが債務不履行を主張しており、上記最高裁の射程が及ぶかが問題となり得るが、本判決は、債務不履行と不法行為とは法律構成上の違いにすぎず、いずれも損害の衡平な分担を旨とする損害賠償分野における責任原因⇒Yの債務意不履行と義父の不法行為が共同不法行為類似の関係に立つとみなすことが可能である(本判決)。
  Yは、Aが精神障害を発病することや自殺することは予見できなかった旨主張。
①安全配慮義務の存否の前提としての業務についての認識に関する部分と、②精神障害の発病や自殺が特別損害に当たることを前提とした相当因果関係に関する部分においての、「予見可能性」の主張。
本判決:
①について、Aの業務は外形的、数量的に荷重であることが明らかであり、Yにとっては精神障害の発病や自殺が予想外の事態であったというのであれば、それは結局のところYが業務の事情の把握、適正な業務環境の確保等を怠っていたことを自認するに等しい。
②について、過重な業務により精神障害を発病した者が自殺に至る場合があることは周知の事実であり、本件の経過に照らすと、Aの自殺に伴う損害は通常損害に当たるというべきであって、Yの認識いかんは問題とならない。
  民事p95
大阪地裁H27.9.17  
  高齢者の誤嚥による死亡と介護事業者の損害賠償責任(否定)
  事案 高齢者の誤嚥による死亡事故⇒その相続人が原告となり、訪問介護サービスを担当した業者の安全配慮義務違反(債務不履行)による損害賠償請求。 
死亡した高齢者の金銭につき、管理義務違反の債務不履行による損害賠償請求を主張。被告への管理の委任を前提に、金銭出納帳に記載がない支出があり、その使途が不明であると主張。
  判断 ①誤嚥は契約上定められた訪問時間外の事故であり、24時間介護スタッフの広告があったとしても、それがただちに死亡した高齢者と被告との間の契約内容になるものではない。
②誤嚥の危険いついても、食事は自立ないし何とか自分で食べられるとの主治医意見書があり、誤嚥の差し迫った危険を示すような多数のサービス実施記録等があったわけではない。

訪問時間外の事故に関する安全配慮義務違反を認めることはできないとして、損害賠償責任を否定。
金銭出納帳の記載の不備につき、多数の支出が記載され、預金通帳も併せると、実際に高齢者のために支出したが記載漏れがあり得ることを考慮のうえ、原告の主張のごく一部のみ採用。
  民事p99
さいたま地裁H28.5.19  
  サイトに表示される自己の氏名、住所、電話番号の削除と将来における掲載禁止を求めた仮処分(肯定) 
  内容 「ネットの電話帳」のウェブサイトを開設している債務者に対し、ウェブサイト上で公開している債権者の住所、氏名、電話番号の表示を削除すること等を命じた仮処分。
債権者に担保を立てさせないで仮処分命令が発せられている。
削除を命じた上で、更に、将来におけるそれらの掲載をも禁止。 
  解説 個人の氏名、住所及び電話番号に係る情報が法的保護の対象となるか?
判例(最高裁H15.9.12)は、大学が講演会の主催者として学生から参加者を募る際に収集した参加申込者の氏名、住所及び電話番号に係る情報は、参加申込者のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となる。

氏名、住所及び電話番号は、個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではないとしながら、このような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべき
⇒プライバシーに係る情報として法的保護の対象となる。
このようなプライバシーに係る情報は、取扱い方によっては、個人の人格的な権利利益を損なうおそれのあるもの⇒慎重に取り扱われる必要がある
⇒参加申込者に無断でこれらの個人情報を警察に開示した大学の行為は、参加申込者が任意に提供したプライバシーに係る情報の適切な管理についての合理的な期待を裏切るものであり、プライバシーを侵害するものとして不法行為を構成する。
これらの個人情報の秘匿性の程度、開示による具体的な不利益の不存在、開示の目的の正当性と必要性などの事情は、その結論を左右しない。
  電話帳に掲載されている個人の氏名、住所、電話番号をインターネットで公開したことがプライバシーの侵害にあたるとして不法行為による損害賠償責任が認められた判例として、神戸地裁H11.6.23。 
  判例からみると、NTTの電話帳に掲載された氏名、住所、電話番号の情報であっても、したがって電話帳への掲載については本人の承諾があったとしても、その電話帳で読む者は別として、それ以外の自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのような期待も法的に保護され、このような個人情報をインターネット上に転載して公開することは、プライバシーを侵害する不法行為となると考えられる。 
  民事p101
長崎地裁佐世保支部H27.4.27  
  注射により黄色ブドウ球菌に感染させ、死亡させたことについて、医師の注意義務違反を否定。
  主張  A女の遺族であるXらは、Y1に対しては主として細菌防止義務違反を、Y2に対しては治療義務違反、転院指示義務違反を主張。 
  判断 Y1の細菌感染防止義務違反を否定。
Xらは、F医師が滅菌手袋を着用することなく本件注射をしたことに過失があると主張したが、本判決は、滅菌手袋を着用することが望ましいものの、注射をするに当たっては、関節穿刺部位と医師の手指を消毒して行う注射方法が一般的に承認されているところ、F医師はこの方法で注射⇒責任はない。 
Y2の治療義務違反、転院指示義務違反を否定。
化膿性関節炎に対する一般的な治療方法は、関節穿刺や切開による排膿(病巣掻爬、洗浄)と有効な抗生剤投与であるとされているところ、Y2は、6月21日、A女の右膝の関節液を採取し培養検査を指示するとともに、右化膿性膝関節炎と診断して関節穿刺による洗浄及び抗生物質の点滴静注を行っており、治療義務違反はない。
Y2の転院指示義務違反については、Y2は、6月19日に、A女に対し、N医療センターを受診するよう勧めており、Y2に過失はない。
  解説 裁判例では、一般に、注射器から細菌感染した場合の責任は肯定されている。 
  民事p112
佐賀地裁H27.9.11  
  被害者に弁償した事故を起こした被用者の使用者に対する求償(肯定)
  事案 Xは、Y会社の被用者であるところ、平成25年5月4日、Y所有の貨物自動車を運転して農作物の運転作業に従事中、訴外A運転の貨物自動車と衝突し、Aに対して修理代金として38万2299円を支払った。

Xは、その賠償金について、使用者であるYに対し、求償金を取得したと主張して38万2299円の支払を求めた。 
  一審 Xの過失の程度や損害発生に対するYの寄与度等の事情を勘案し、損害の公平な分担という見地から、信義則上相当と認められる程度において、被用者であるXから使用者であるYに対し、求償請求することができる。
本件の場合の割合は、Xが負担した損害賠償額の7割程度の額を求償できるものと解するのが相当。
⇒Yに対して26万7609円の支払いを求める限度で、Xの請求を認容。 
  判断 被用者がその事業の執行につき第三者に対して加害行為を行ったことにより被用者と使用者が損害賠償責任を負担した場合、当該被用者の責任と使用者の責任は不真正連帯責任の関係に立つといえる。

一方が自己の負担部分を超えて相手方に損害を賠償したときは、その者は、自己の負担部分を超えた部分について他方に対し求償することができると解するのが相当。
その求償の割合は、一審判決と同様、7割であると判断。