シンプラル法律事務所
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勉強会(判例時報2016前半)

判例時報の勉強会用の資料です(随時更新)

★平成28年6月分
2292
  行政p30
大阪高裁H27.10.15  
  入れ墨の有無等を尋ねる調査に回答することを義務付ける職務命令と憲法13条、21条、大阪市個人情報保護条例違反(否定)
  事案 Yの地方公営企業(大阪市交通局)の職員X1が、Yに対し、入れ墨の有無等を尋ねる調査に所定の書面で回答しなかったことが職務命令違反にあたるとして大阪市交通局長がX1に対して地方公営企業法29条1項各号等に基づいて戒告処分⇒それが違法であると主張して、その戒告処分の取消しを求めるとともに、国賠法1条1項に基づき損害賠償請求。 
  X1の主張 本件の調査は、憲法13条及び21条並びに大阪市個人情報保護条例に違反すると主張。 
  規定 大阪市個人情報保護条例 第6条

実施機関は、個人情報を収集しようとするときは、個人情報を取り扱う事務の目的を明確にし、当該明確にされた事務の目的(以下「事務の目的」という。)の達成に必要な範囲内で、適正かつ公正な手段により収集しなければならない。
 
2 実施機関は、思想、信条及び宗教に関する個人情報並びに人種、民族、犯罪歴その他社会的差別の原因となるおそれがあると認められる事項に関する個人情報を収集してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
 (1) 法令又は条例(以下「法令等」という。)に定めがあるとき
 (2) 事務の目的を達成するために必要不可欠であると認められるとき
  原審 本件の調査等は、憲法13条及び21条に違反しない。
特定の職員が入れ墨をしているか否か等の情報を収集することは、本件条例6条2項に違反⇒戒告処分取消請求を認容。
損害が発生したとは認められない⇒損害賠償請求は棄却。 
  判断 本件条例にも違反せず⇒原判決が戒告処分取消請求を認容した部分を取り消して、同請求を棄却。
憲法13条及び21条に違反しないとする理由については、以下の骨子の原判決を引用。
①本件の調査は、Yの職員が児童に入れ墨を見せて恫喝したとの新聞報道後、Yの職員が入れ墨をしていることに対する批判が高まっていることを受けて、今後同様の問題が発生することによって市政に対する信用が失墜することのないよう、市民等の目に触れる可能性ある部位に入れ墨をしている職員が市民等に接する機会の多い職務に従事している場合には、よりその機会の少ない職務を端とするさせるための人事配置を行うことを目的とする⇒目的は正当
②再び同様の問題が生じた場合は、非難は更に高まることが予想されるから、あらかじめ、職員の上記部位における入れ墨の有無等を把握し、入れ墨をしている職位にについては市民等と接触する機会が多い部署には配置することを避けるという人事配置上の配慮を行うことには、合理性がある。
③調査の必要性も認められ、さらに、本件の調査は、手段の相当性も認められる。
  解説 判断が分かれた最大の点は、特定の職員が市民等の目に触れる可能性のある部位に入れ墨をしているか否か等の情報が、本件条例6条2項の「その他社会的差別の原因となるおそれがあると認められる事項に関する個人情報」(「差別情報」)に該当するか否か。 
原審:
①差別情報の意義につき、社会生活において一般的に知られることにより、特定の個人又はその関係者が社会的に不当な差別を受けるおそれがある情報をいう
②入れ墨に対する抵抗感から過剰に反応して不当な差別がされる可能性があることは否定し難い。
⇒差別情報該当性を肯定。
本判決:
入れ墨をしているという属性を、本件条例6条2項に具体的に列挙されている人種、民族又は犯罪歴といった属性と同列に考えることは相当ではない。
⇒差別情報該当性を否定。
本判決:
本件条例6条2項1号の「法令等に定めるあるとき」には、法令等の規定の趣旨、目的からみて、差別情報等を収集することができるものと解される場合を含む。
管理者の指揮監督権を定める地方公営企業法15条2項の規定は「法令等」に該当すると判示。
原審:
「法令等」には一般人事行政に関する包括的な指揮監督権を定める規定又は事務分掌規程は含まれない。
否定の裁判例として、大阪高裁H19.11.30
  行政p42
東京地裁H27.5.15  
   
  事案 中国残留邦人に対する改正された支援法が平成19年12月5日に公布成立したが、その適用をめぐって争われた事例。
Xは、昭和21年1月21日旧満州の吉林市で生まれた。出生届等は提出されていなかった。
  争点 Xの父(A)が、日本の本籍を有する日本人かどうか。 
  判断 これを肯定し、Xが中国残留邦人に該当しないとする厚生労働大臣の却下処分を取り消した。
支援法の適用を受けるには、Xの両親が、いずれも昭和20年9月2日現在のにおいて日本に本籍を有する日本人であることが必要。
問題は、父Aが(死亡した場合も含めて)その要件を満たしているか。
     
  民事p55
最高裁H25.12.19  
国立大学法人が所持しその役員又は職員が組織的に用いる文書についての文書提出命令申立
  事案 国立大学法事において作成され、同法人が所持する文書について、文書提出義務の除外自由を規定した民訴法220条4号ニの自己利用文書該当性及び同号ロの公務秘密文書該当性が争われた事案。 
国立大外法人Y大学の人文学部教授であるXらが、同学部の学部長等からハラスメントを受けたとしてYに苦情を申し立てたところ、Yの設置するハラスメントの防止、対策、調査の方法が不当であったために不利益を被ったなどと主張して、Yに対し、再調査の実施、損害賠償の支払等を求めた。。
Xらは、本案事案において、委員会の運営及び調査の方法が不当であったことを立証するために必要であるとして、Yの所持に係る委員会の調査報告書、ヒアリング記録及び委員会の議事録等の各文書(「本件各文書」)につき、文書提出命令の申立て。
Yは、本件各文書が同号ニの「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」(自己利用文書)又は同号ロの「公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」(公務秘密文書)に該当すると主張。
  規定 民訴法 第220条(文書提出義務)
次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。
一 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。
二 挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。
三 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき
イ 文書の所持者又は文書の所持者と第百九十六条各号に掲げる関係を有する者についての同条に規定する事項が記載されている文書
ロ 公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの
ハ 第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書
ニ 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)
ホ 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書
  原決定 ①国立大学法人が民訴法220条4号ニ括弧書部分の「国又は地方公共団体」に当たるか、または、これが類推適用されると解すべき
⇒同号二には該当しない。
②本件各文書の一部につき同号ロの公務秘密文書該当性を肯定し、その余の文書はこれに当たらない。

Yにその提出を命じた。
    Yが許可抗告を申し立て。
  本決定 抗告棄却
  解説 民訴法の一部を改正する法律(平成13年法律大96号、同年12月1日施行。)

①公務文書についても、公務秘密文書を除いて提出義務を一般義務化し(民訴法220条4号柱書、ロ、二の括弧書)
②公務秘密文書に当たるか否かを裁判所が判断する場合には監督官庁の意見を聞かなければならないものとし(民訴法223条3項)
③高度の公務秘密文書について、公務秘密文書に当たるか否かを裁判所が判断する場合には、監督官庁の意見の相当性を審理することとし(同条4項) 
④公務秘密文書中に私企業等の第三者の技術又は職業の秘密が記載されている場合には、裁判所から意見を求められた監督官庁において当該第三者の意見を聴くこととし(同条5項)、
⑤公務文書の提出義務の存否を裁判所が判断するものとし、その判断のためにインカメラ手続をとることができるとした(同条6項)
平成13年改正法では、公務文書についても民訴法220条4号二の自己利用文書は除外文書とされた
←公務文書の中にも公務員が個人的に使用する目的で作成した手控え・備忘録等のようにおよそ外部に開示することを予定しない文書が存在し、公務員の自由な意志活動が不当に妨げられる事態を防止するため。

民訴法220条4号二括弧書部分(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)が付加された趣旨

①平成13年4月1日施行の「行政機関の職員が組織的に用いるものとして行政機関が保有している文書」と定義し(行政情報公開法2条2項)、これにより、国が所持する内部決裁用文書等であって行政機関が組織的に用いるものとして保有している限りは行政情報公開の対象となること、
②公務員個人の手控えのように個人的に用いるものは公開の対象とならないことを明らかにしていることから、このような行政情報公開制度の対象文書との均衡を図ったもの
  国立大学:従前は、文部科学省の施設等機関(国家行政組織法8条の2)と位置付けられた国の機関であったが、国立大学法人法(平成15年10月1日施行)により、平成16年4月より各大学単位で法人化され、各国立大学法人が各国立大学を設置(同法2条1項)。
その教育研究機関としての特殊性に配慮し(同法3条参照)、独立行政法人通則法に基づく設立という法形式を採らず固有の法人類型とされたが、
業務の公共性・透明性・自主性原則・財務会計制度、役員の兼職禁止、国の財政面への関与等において独立行政法人と類似した扱いがされているほか、「独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律」(独立行政法人等情報公開法)の適用もあるものとされている。
独立行政法人等情報公開法の構造は、基本的に行政情報公開法と同じであり、その対象文書や不開示情報の規定の内容も共通。
国立大学法人の職員の身分は、直接国家公務員法の適用を受ける公務員ではないが、「みなし公務員」(刑法その他の罰則の適用については公務員として扱われる者)とされており(国立大学法人19条)、公務員と同様の秘密保持義務も課せられている(同法18条)。 
国立大学法人について「国又は地方公共団体」そのものに該当するとはいい難く、民訴法220条4号ニ括弧書部分の直接適用は困難であると思われるが、平成13年民訴法改正の経緯等に照らすと、情報公開との関係で国の行政機関と同様の規律を受ける国立大学法人について、同括弧書部分が類推適用されるとの考え方は十分あり得る。
国立大学法人の教育研究機関として行う教育活動それ自体についてみれば私立大学の場合との差異が明らかではない面があるものの、
国立大学法人法においては、その達成すべき業務運営に関する目標を文部科学大臣が定め(同法2条5項)、学長及び監事の任命も文部科学大臣が行い(同法12条1項、8項)、資本金について政府から出資を受ける(同法7条)など、組織的な業務運営、役員の任命等及び財政面において国から一定の関与を受けることを前提として、我が国の教育・学術研究の中核を担うという公的な役割が求められており(同法1条)、その役員及び職員はみなし公務員とされている(同法19条)。そして、前記のとおり、情報公開の面においては、私立学校法による学校法人と異なり、独立行政法人等情報公開法が適用されるものとされ(同法2条1項、別表第一)、行政情報公開法の適用を受ける国の行政機関の場合とほぼ同様に開示すべきものとされている。

行政情報公開制度との整合性を測った平成13年改正法の趣旨に照らし、国立大学法人については、民訴法220条4号ニの「国又は地方公共団体」に準ずるものとして扱うものが相当。
  本件各文書が民訴法220条4号ロの除外文書(公務秘密文書)に当たるかを検討するに当たっては、前提として、国立大学法人の役員及び職員が同号ロにいう「公務員」に含まれるかが問題となり、本決定は、これを肯定。
平成13年改正法が公務秘密文書を除外文書としたのは、公務の民主的効率的遂行のために公務員の守秘義務を保護するという守秘義務制度と民事訴訟における証拠調べ制度との整合性を図るという趣旨に基づくもの。
国立大学法人は、民訴法220条4号二の「国又は地方公共団体」に準ずるものと解され、みなし公務員である国立大学法人の役員及び職員については、国立大学法人法において、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならず(同法18条)、これに違反して秘密を洩らした者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する旨の罰則(同法38条)が定められている

国立大学法人の役員及び職員が民訴法220条4号ロにいう「公務員」に含まれると解することは、前記の平成13年改正法の趣旨に沿ったものと考えられる。
公務秘密文書性の評価の問題について、最高裁H17.10.14は、労災事故が発生した場合に労働基準監督官等の調査担当者が労働基準監督署長に対してその再発防止に係る措置等の判断に供するために提出するいわゆる「災害調査復命書」が、民訴法220条4号ロの公務秘密文書に該当するかどうかが問題となった事案に関するもの。
事実審である原審がインカメラ手続によって提示された文書を閲読した上でした文書の記載内容の認定は、それが一件記録に照らして明らかに不合理であるといえるような特段の事情がない限り、法律審である許可抗告審において争うことができない(最高裁H20.11.25)。
本決定は、原決定の判断についてそのような不合理があるといえる特段の事情はないとの判断の下に、公務秘密文書該当性に関する原審の判断を正当として是認。
  民事p58
東京高裁H28.1.20  
  自賠法施行令2条2項における「同一部位について後遺障害の程度を加重した場合」の意義
  解説 自賠法16条1項は、同法3条に基づく保有者の損害賠償責任が発生した場合に、被害者は、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払を請求することができると、また同13条1項は、責任保険の保険金額は政令で定めると規定し、これを受けて自賠法施行令2条2項は、自賠法13条1項の保険金額は、既に後遺障害のある者が傷害を受けたことによって同一部位について後遺障害の程度を加重した場合における当該後遺障害による損害については、当該後遺障害の該当する別表第1又は別表第2に定める等級に応ずるこれらの表に定める金額から、既にあった後遺障害の該当するこれらの表に定める等級に応ずるこれらの表に定める金額を控除した金額とすると規定。 
  事案 「同一部位について後遺障害の程度が加重した場合」の解釈が問題となった事案。 
  規定 自賠法 第13条(保険金額)
責任保険の保険金額は、政令で定める。
  自賠法施行令 第2条(保険金額)
2 法第十三条第一項の保険金額は、既に後遺障害のある者が傷害を受けたことによつて同一部位について後遺障害の程度を加重した場合における当該後遺障害による損害については、当該後遺障害の該当する別表第一又は別表第二に定める等級に応ずるこれらの表に定める金額から、既にあつた後遺障害の該当するこれらの表に定める等級に応ずるこれらの表に定める金額を控除した金額とする。
  一審 施行令2条2項の趣旨は、その内容からして、保険会社に対し、「同一の部位」について二重の損害賠償の負担を負わせることを避けることにあると解され、同法16条1項の損害賠償が交通事故による身体障害から生じた損害賠償が交通事故による身体障碍から生じた損害賠償請求権全体を対象としていることを踏まえれば、同項にいう「同一の部位」とは、損害として一体に評価されるべき身体の類型的な部位をいうと解すべき。
Y2は、認定基準における解釈に従って、本件既存障害は、脊髄という中枢神経の障害であり、本件症状は、末梢神経の障害だえるから、いずれも神経系統の機能又は精神の障害として「同一系列」の身体障害に当たると主張する。
しかしながら、胸椎と頸椎とは異なる神経の支配領域を有し、それぞれ独自の運動機能、知覚機能に影響を与えるものであるから、本件既存障害と本件症状とは、損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位に当たると解することはできず、「同一の部位」であるということはできない。
⇒Xの請求を認容。
  判断 一審判決を引用して、控訴を棄却。 
  解説 労災補償の分野においても同様の規定が置かれている(労基法施行規則40条5項、労災補償保険法施行規則14条5項)。
そこで定められた障害等級表においては、身体をまず解剖学的な観点から「部位」に分け、次にそれぞれの部位における身体障害の機能の面に重点を置いた生理学的な観点から、例えば眼における視力障害、運動障害、調節機能障害及び視野障害のように一種又は数種の障害群に分け(「障害の系列」)、更に、各障害はその労働能力喪失の程度に応じて一定の序列の下に配列するという構成がとられているところ、「同一の部位」とはこの「同一系列」の範囲内をいうと解されている。
施行令2条2項は労災補償における加重障害に関する前記規定の趣旨を引き継いだ
⇒自賠責保険の実務では、労災補償における実務の運用と同様に「同一の部位」の意義を「同一系列」の範囲内をいうものと解釈していた。

本件で問題となる「神経系統の機能または精神の障害」に関していうと、これは「部位」の一つであると共に単一の「系列」を構成するとされているから、この部位に関する障害が二度発生した場合、それらは同一の部位に関するものとなり、先に発生した障害が後に発生した障害と同じ等級か、あるいはそれより上位のものであるときは、加重が否定されて、保険金の支払はされないことになる。
  少なくとも、「神経系統の機能又は精神の障害」については、その支配領域の違いによって身体の様々箇所に症状が発現し得る(本件では、体幹と両下肢の機能を全廃する後遺障害を負っていたところに、新たに頚部や上肢に障害を負った。)、これを同一部位として一括りにすることは問題がある。
原判決は、「同一の部位」について、自賠責保険の運用と異なる解釈を示し、控訴審もこれを維持。
  民事p63
東京地裁H27.2.13  
  事業者が収集、管理、有料提供する医療機関に関する情報の一部を無断でデータベースに組み込み、無料で公開⇒不法行為(否定)
  事案 Xが、YはXが作成したデータベース(「Xデータベース」)上の医療機関に関する情報を無断で修習、複製してYのデータベース(「Yデータベース」)に組み込むことにより、Xの営業活動上の利益を侵害したとして、Yに対し、不法行為に基づき784万円余の損害金の支払を求めた事案。 
Xは、Xデータベースを著作物ではないものの、法的保護に値するものであるところ、これを侵害されたと主張。
  判断 一般にデータベースがその作成、維持のために費用や労力をかけたものとして独立の経済的価値を有するものであっても、当該データベースが著作物として保護されない場合には、そのデータベースに組み込む行為は、情報及びデータベースの内容及び性質、行為の態様及び目的、権利侵害の程度等に照らして、著しく不公正な方法で他人の権利を侵害したと評価できる場合に限り、不法行為を構成するというべき。
Xデータベース上の医療機関情報の主要部分は、病院名、住所、電話番号等の情報で、一般に公開される必要性が高く、実際に公開されている情報ではあるが、Xデータベースは、Xにより相当の費用及び労力をかけて情報を収集、整理して作成、更新されたものであるから、独立の経済的価値を有し、法的保護に値する。
①Xデータベースは、独立した経済的価値を有するものではあるが、医療機関情報の主要部分は一般に公開されることが要請され、実際にも公開されている情報であること、
②XデータベースとYデータベースは、医療機関情報のデータベースという点で共通するものの、項目も、医療機関情報も相当程度異なること、
③YがXデータベース上の医療情報機関情報の一部をYデータベースに組み込んだことは認められるが、どの程度の情報を組み込んだかは不明であり、組み込み又は組み込んだ可能性のある情報の多くは他のデータベース上のデータと実質的に一致すること、
④YがYデータベースを用いて行った事業が、X又はXの顧客のXデータベースを用いた事業にどの程度影響を及ぼすかは不明であること
⑤Yは、Xデータベースから医療機関情報を組み込むに当たり、X及びXデータベースの存在を認識していなかったこと

Yの行為を著しく不公正な方法で他人の権利を侵害したと評価することはできない。
  解説 東京地裁H13.5.25:
自動車データベースを複製した者に対する損害賠償請求、不正競争行為差止請求事件。
自動車データベースは著作物には当たらないが、「人が費用や労力をかけて情報を収集、整理することで、データベースを作成し、そのデータベースを製造販売することで営業活動を行っている場合にオいて、そのデータベースのデータを複製して作成したデータベースを、その者の販売地域と競合する地域において販売する行為は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値すr営業上の利益を侵害するものとして、不法行為を構成する場合がある」として、不法行為を構成すると判示。
  民事p70
甲府地裁H27.10.6  
  継続的な食品の製造委託取引における委託者による、信義則上の注意義務違反⇒不法行為(肯定)
  事案 X:雑穀類の加工・販売等を目的とする会社
Y:各種食料品の製造・加工等を目的とする会社
平成14年頃から、YがXに対して、雑穀製品の製造を委託し、Xがこれを製造してYに売り渡すという製造委託取引を開始
平成16年4月1日、雑穀製品の包括的な製造委託契約(基本契約)を締結
Yは、平成21年初頭、雑穀の拡大販売を計画し、新商品を秋に販売することとし、同年1月頃、Xに拡大販売計画案を提示してい、本件商品等をXが製造すること、Xの工場内に新たな包装機械を設置することなどが可能かについて検討を依頼
同年5月から6月にかけて、X及びYが製造する商品の一覧表(本件一覧表①②)をXに交付。
同年8月18日、Xは本件包装機械を発注し、購入代金を支払う。
YはXに対し、平成21年度から平成23年度の間、本件商品の製造を指示せず。
平成25年1月22日、YはXに対し、基本契約の終了を通知。 
  主張 Xは、
主位的に、Yは、本件一覧表①及び②に記載された内容により平成21年度から平成23年度分の本件商品の製造を委託する旨の個別の製造委託契約を締結したにもかかわらず、納入する数量・納期等その製造に必要な指示を行わなかったために、Xはこれを製造できず、製造のために支出した設備投資費用相当額の損害を受けた⇒債務不履行に基づく損害賠償
予備的に、仮に個別の製造委託契約の成立が認められなくても、YはXに対してこれを締結することにつき強い信頼を抱かせたにもかかわらず、これを締結しなかったことにより、Xは前期設備投資費用相当額の損害を受けた⇒信義則上の注意義務違反による不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償として、
設備投資費用相当額9906万円余等の支払を求めた。 
  判断 本件の具体的な事案の下では、本件商品に係る個別の製造委託契約が成立したと認めることはできない⇒Xの主位的請求を棄却。
Yは、Xに対し、本件商品について、Xが本件商品について、Xが本件包装機械等で製造することを前提に、本件一覧法①及び②に記載された程度の内容の個別の製造委託契約を異締結できるとの強い信頼を与えておきながら、これを締結しなかった。
⇒信義則上の注意義務違反が認められ、Yは、Xに対して、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
Xが被った損害は、本件包装機械等の購入代金相当額9906万円余からその中古価格を控除した7906万円余と認められる。
独自に雑穀市場の調査分析を行うことなく漫然とYから提供された情報のみに依拠して本件包装機械等を自社で購入する決定をしたXの過失割合を5割と認定して過失相殺。
⇒Xの予備的請求を3953万円余等の支払を求める限度で一部認容。
  解説 契約締結上の過失責任のうち、本件は、交渉破棄事例。
交渉破棄事例には、①「誤信惹起型」(=締結の可能性ないし確実性について誤信させるもの)と②「信頼裏切り型」(=締結は確実であると信頼させておきながら、交渉を破棄する)に分類されるが、本件は②。
②については、「当事者間において契約締結の準備が進捗し、相手方において契約の成立が確実のものと期待するに至った場合には、その一方の当事者としては相手方の右期待を侵害しないよう誠実に契約の成立に務めるべき信義則上の義務がある」(東京高裁昭和62.3.17)
  民事p79
静岡地裁浜松支部H27.12.2 
  日本法を準拠法とし、イタリア人父から日本人祖父に対する、親権に基づく子(8歳、二重国籍)の引渡請求(認容)
  事案 二重国籍の未成年者の実父であるイタリア国籍の原告が、日本国内に居住する未成年者の母方祖父である被告に対し、親権及び監護権に基づき、未成年者の引渡しを求めた事案 
  規定 通則法 第32条(親子間の法律関係)
親子間の法律関係は、子の本国法が父又は母の本国法(父母の一方が死亡し、又は知れない場合にあっては、他の一方の本国法)と同一である場合には子の本国法により、その他の場合には子の常居所地法による。
民法 第821条(居所の指定)
子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。
民法 第820条(監護及び教育の権利義務) 
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
民法 第818条(親権者)
成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。
  争点  ①本件(原告の親権及び監護権)の準拠法
②原告妻から被告に対する監護委託の効力
③親権濫用の有無 
  判断 ●準拠法
母は死亡。原告の本国法がイタリア共和国。未成年者の本国法が日本法。
⇒未成年者の常居所地が問題。
未成年者の常居所地については、原告妻の死亡後の事情を考慮するまでもなく、平成23年8月5日の来日から原告妻の死去までの事情から、日本。
日本民法821条により、親権者は子の居所を指定し、同法820条に基づき、子を事実上監護する者に対し、子の引渡しを求めることができる。
  ●監護委託の効力 
原告妻は、同人死去後の監護を被告に委ねない旨書面で表明している。
仮に、被告主張の監護医薬契約が原告妻の意向に沿うものであっても、原告の同意がない(民法818条3項)として、被告の主張を排斥。
  ●親権濫用について
本請求は、親権濫用に当たらない。
①原告が未成年者を叩く等の事実があったことは疑問であり、深刻な虐待等は認められない
②原告の性格についても、本請求が子の引渡であり、法的手段を現実的に行使している等の事情から、原告の感情統制に問題がない
③請求自体が「子の引渡し」であり、「イタリア共和国への引渡し」でない以上、被告の主張するイタリア共和国へ連れて行く事情は親権濫用の評価根拠事実にはならないとした上、同国内に連れて行くことを前提としても、同評価根拠事実にはならない
④未成年者がイタリア語をあまり話せない点も、未成年者が新たな環境に適応する能力に劣っていることが窺われないこと等⇒未成年者の帰国が健全な成長を阻害するといえない
  解説  ●子の引渡し請求について 
  ●常居所地の認定及び準拠法 
常居所地の認定は、主観的な事情及び客観的な居住の事情等を考慮して決されるとしており、本判決もそれに沿った判断。
  ●親権に基づくこの引渡し請求 
親権に基づく妨害排除請求権の行使として、親権者から非親権者・非監護者に対する子の引渡請求ができることは確定した判例実務(最高裁昭和35.3.15)
but
妨害排除という構成⇒被告の行為が原告の親権行使に対する妨害と評価されるかどうかが問題。その関係で、未成年者が自発的意思で被告のところにいるのかどうかが問題とされることが多い。
本件では、口頭弁論終結時にようやく8歳になったとうことから、その点を問題としなかったのだろう。
  ●監護委託 
  ●親権濫用 
    ●手続選択 
監護受託者である祖父母に対するこの引渡しが家事審判事項にあたらないとした東京高裁決H20.1.30
仮に家事審判手続による余地があるとしても、民事訴訟手続によることを妨げるものではない。
  知財p88
大阪地裁H27.9.24  
  著作権の保護対象ではない錦絵を所有する原告が、当該錦絵の写真を教材等に掲載した被告に対し、所有権侵害、商慣習法違反、不当利得等を主張(否定)。
  事案 著作権保護対象ではないXの所蔵品のうち別紙1本件錦絵目録記載の絵画について、YがXの許諾を得ずに本件浮世絵の写真を教材に掲載し、その際、本件浮世絵の所有者名等を記載しなかったことに対し、損害賠償請求、不当利得返還請求、虚偽の表示に対する損害賠償請求、慰謝料請求および弁護士費用を求めた事案。
  Xの主張 Xは、本件錦絵写真を無許可で複写又は撮影し転載したもの
⇒①商慣習又は商慣習法違反、あるいは、②所有権侵害
を理由とする不法行為であると主張。 
①については、絵画などの所有者、写真エージェンシー及び及び書籍出版社においては、その使用や利用に一定の財産的価値が存することを理由とする、対価の支払を許諾を得るという商慣習または商慣習法が存在している
⇒対価なしに無断で写真を複製又は撮影して利用する行為は、その法律上保護される利益の侵害となる。
②について、所有者には、その物を見せるか否か、写真撮影させるか否か、また、その場合の条件方法について決定する権利がある⇒Yは出版を業として商慣習等を知悉しながら対価を支払わな会ったという点について、不法行為を構成
予備的には、無許諾で複製の上転載することで支払うべき対価支払を免れている⇒所有権侵害を理由とした不当利得返還請求。
  判断 所有権侵害について、Yの行為は有体物である本件錦絵の排他的支配権能を犯すものではないとして退けた。
●  事実上の商慣習に違反しただけでは不法行為法上違法とはいえないことは明らか。
商慣習法として認められるためには「それ自体で法規範足り得る商慣習法である必要がある。」
  文化庁、国公立博物館、資料館、国立国会図書館、写真エージェンシー等においては、著作権の有無にかかわらず、許諾を得るあるいは有償で貸与されるという事実から、そのような慣習が存在するように見受けられる。
but
X所蔵品の映像は、一般に入手可能でありながら利用に際して、Xの利用規定に従って契約を締結。
これは、Xと利用者との合意にすぎず、これを対価の支払根拠とすることによって、Xのいう商慣習又は商慣習法の存在を認めることはできない。
  本件錦絵の所蔵者名の記載がないことについて、記載漏れの可能性も容易に思い至るとし、それによって本件錦絵の所有権が否定されたと積極的に理解されるとまでは言えず、信用が毀損されるような事態が生じるとまでは認められない。 
  解説 著作権保護対象ではない美術の著作物に関する最高裁昭和59.1.20(①):
「第三者が有体物としての美術の著作物の原作品に対する排他的支配権能をおかすことなく原作品の著作物の面を利用したとしても、右行為は原作品の所有権を侵害するものではないというべきである」 
錦絵等のコレクションを所蔵する者が無許可で収蔵品の写真を記載した出版社に対し、不正競争防止法及びパブリシティ権侵害であるとした大阪地裁H16.9.28においても、いずれの請求も棄却され、パブリシティ権については存在を肯定できないことに加え、著作権保護期間経過後は「所有権者がパブリシティ権に基づき同権利を有するとするならば、著作権法が著作物の保護期間を定めた意義は全く没却される」とした。
判例①の、「更に、博物館や美術館において、著作権が現存しない著作物の原作品の観覧や写真撮影について料金を徴収し、あるいは写真撮影をするのに許可を要するとしているのは、原作品の有体物の面に対する所有権に縁由するものと解すべき」という点について、
本判決では、「その利用者は、直接写真撮影をできない所蔵品等について写真映像を利用することができることから、博物館等から資料写真の写真原版を借り受け、その対価を支払っていると考えられ、そこには対価を払う経済的合理性も認められるし、なによりそのような有償契約を利用者に求める根拠は、所蔵品の所有者としての博物館等の所有権の権利行使としても、写真原版自体の所有権行使としても説明できる」として、商慣習又は商慣習法の存在は否定している。
本判決ではまた、「原告が商慣習又は商慣習法で保護されるとする利益は・・著作権法が保護しようとしているのと同じ利益であり、しかも著作権法が明確に保護範囲外としている利益を保護しようとする慣習は・・それが存在するとしても、そこから進んで、これを法規範として是認し難いものである」とも述べられている。
but
出版の為には、美術館等の団体による写真原版の有償提供が事実上継続していることは明らかであり、それが、所有美術館等と利用者との契約に基づくものであっても、今後これが一つの商慣習あるいは商慣習法となり得る可能性は否定できない。
著作権保護対象ではない絵画等の作品を撮影した写真の著作権については、東京地裁H10.11.30で、「撮影対象が平面的な作品である場合には、正面から撮影する以外に撮影位置を選択する余地がない上、右認定のような技術的な配慮も、原画をできるだけ忠実に再現するためにされるものであって、独自に何かを付け加えるというものではない」として、著作物性が否定されている。」
  商事p94
東京地裁H27.10.2  
  経営の悪化した会社の標章を続用、同会社と同様な事業⇒事業譲渡を認め、会社法22条1項類推を肯定。
  事案 会社の事業譲渡の有無、会社法22条1項の類推適用が問題になった事件。 
A株式会社が不払い。
Aの取締役Dは、平成24年7月、知人の有する休眠会社であったY㈱の使用を許諾され、同年4月2日付で、Yの商号を「株式会社DWP」(Aの称号であるデザインワークスプロジェクトの英語の略称であり、標章は、DWPのうちDを逆さまにしたもの)に変更するとともに、目的をAと同一のものに変更。
Dが代表取締役に就任した旨の登記。
Yは、Aの従前使用していた標章を使用し、Aの使用していた事務所を本店所在地として登記し、Aの従業員の一部について退職後、雇用し、顧客の一部を引き継いだ。
Xは、YがAの事業を譲り受け、その標章を続用していると主張し、会社法22条1項の類推適用に基づき、貸付金の残元金等の支払を請求。
  規定 会社法 第22条(譲渡会社の商号を使用した譲受会社の責任等)
事業を譲り受けた会社(以下この章において「譲受会社」という。)が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う。
  争点 AのYへの事業譲渡の有無、標章の続用による会社法22条1項の類推適用の当否。
  判断 Aの経営状況、従業員の退職状況、休眠会社であったYの称号、目的、役員の各変更、本店の移転、「DWP」のブランド力、Aの従業員の一部のYへの入社状況、Aの顧客の一部への挨拶・引継状況、標章の続用状況等の事実を認定した上、Aが内装工事の設計監理業務のために組織化され有機的一体として機能する財産を譲渡したものとし、事業譲渡を肯定。
会社法22条1項が営業主体の交替を認識することが一般に困難であることから、商号の続用の外観を信頼した債権者保護のための規定。
本件では、YがAの英語表記の略称の商号を続用し、Aが使用していた標章を続用しているものであり、標章は商号と同様に、商品等の出所を表示し、品質を保証し、広告宣伝の効果を上げる機能があり、営業主体がそのまま存続しているとの外観を作出していた。
⇒会社法22条1項の類推適用を肯定し、請求を認容。
  解説 会社法22条1項(旧商法26条1項)の類推適用を認めた判例として、最高裁H16.2.20(ゴルフクラブの名称の続用の事例) 
  労働p100
高知地裁H27.11.27  
  公務とうつ病発症との間の公務起因性(肯定) 
  事案 A村の職員であったXが、Xに発症した精神疾患は公務に起因するものであると主張⇒処分行政庁が公務災害を認定しなかった処分の取消しを求めた事案。 
  判断 公務起因性の有無について、「公務と疾病との間の相当因果関係があるというためには、その疾病が当該公務に内在又は随伴する危険が現実化したものであると認められることが必要」
Xの労働時間のみからは、Xが「強度の精神的又は肉体的負荷を与える事象を伴う事務に従事した」と認めることは困難。
but
Xの負担した業務は、「平成17年4月以降、担当すべき業務が増加し、移動に要する時間で本来の業務をすべき時間が削られる中で、並行して複数の業務をこなしていかなければならず、その中には、新たな業務も含まれていたにもかかわらず、X業務を軽減したり、業務を支援したりする措置も執られないまま、いわば孤立した状態の中で、課せられた業務をこなさなければならなかったといった以上のような諸事情を総合すれば、Xにかかる精神的負荷は強度の域に達していたものということが」できる。
⇒本件疾病と公務との関係、すなわち、公務起因性を認め、本件処分を取り消した。
  解説 過重な業務によるストレスから労働者がうつ病を発症し、場合によっては自殺に至るケースがある。
精神疾患は、特定の職業等に特有のものではなく、発症の可能性について個人差が大きい⇒業務(公務)に起因するものか否か認定の困難なものが多々ある。
公務と災害との間に相当因果関係があるというためには、当該災害が公務に内在する危険が現実化したものといえるか否かにより判断するというのが最高裁の示した基準(最高裁H8.1.23)。
精神疾患の原因としてあげられる類型として最も多いのが長時間労働・過重労働。
裁判例の中では、職員が減員される中、仕事量が増え、変化したこtにより精神疾患を発症する類型があるとされており、本件はこの類型に入るもの。
  刑事p112
大阪高裁H27.3.27
  JR西日本福知山線の脱線転覆事故と同社の歴代代表取締役社長3人の刑事上の過失(否定)
争点 被告人らにおいて、本件曲線での速度超過による列車脱線転覆事故が発生する危険性についての具体的予見可能性があったかどうか 
原審 予見可能性を否定⇒無罪。
■予見可能性の判断手法等について 
●指定弁護士の主張 
第一審:
被告人らは、各過失期間において、本件線形変更工事による本件曲線の半径、制限速度の変更内容(①②)や、ATS(自動列車停止装置)の設置基準と本件曲線がその基準に該当すること(③)、曲線における速度超過事故の例(④)、ダイヤ改正による快速列車の増加(⑤)などの事情を認識していたこと(被告人Cは、①を認識し、②から⑤を認識し又は容易に認識できたことなど)により、本件曲線において列車の脱線事故が発生する危険性を予見できた旨主張(本件曲線の半径の変化等は、担当者に調査させれば容易に判明した事情であるといった点も、付加して主張されていた)。
控訴審:
事実認定としての予見可能性だけではなく、具体的予見可能性の判断手法という過失の解釈の側面に関わる問題を大きく取り上げる内容。
①予見可能性判断の基礎事情等について、被告人と同様の大規模鉄道事業者として社会通念上要請される情報収集措置により認識し得た事実として、本件曲線の半径の長さや制限速度等も予見可能性の判断の基礎となること、
②予見可能性の程度については、一般常識の範囲内として想定しておくことが要請されるという程度の蓋然性をもって認識できれば足りる(大幅な速度超過の状態で本件曲線に進入すれば強い遠心力により列車が脱線転覆するおそれがあると常識的にいえれば、予見可能性は肯定できる)こと
等が主張。
●判断
原判決の「過失犯における結果の予見可能性は、一般通常人が認識し得た事実及び行為者が特に認識した事情を基礎として、結果が具体的に予見可能であるか否かという検討手法により判断されてきた。ここで一般通常人とは、被告人らと同じく大手鉄道会社の代表取締役等を想定することになり、その立場の一般人において一般に認識し得た事実が予見可能性判断の基礎とされる」を引用し、この判断手法に誤りがあるとはいえない。
 「予見が可能であることとは、例えば、内容が十分に特定されない危惧又は不安といった一般的、抽象的な程度の予見では足りず、構成要件的結果及びその結果発生に至る因果の経過の基本的部分について予見が可能であることをいう」

従来の裁判例の考え方を踏襲したもので、危惧感説の立場をとらないことを明らかに。
規範的・評価的な側面の強い事後判断に重きをおいて予見可能性を認定しようとするのは、責任主義という基本原則に反し、賛同できないといった考え方が随所にうかがわれる
●解説 
刑法上の過失について、結果の予見可能性及び予見義務、結果の回避可能性及び回避義務を内容とする注意義務違反であると解されており、具体的な結果発生の予見が可能であったかどうかが、当該注意義務を負う者の地位等の属性によって類型化される一般通常人の注意義務を標準に判断されている(最高裁昭和42.5.25)。
  ■予見可能性の認定判断等について
本件曲線の特徴は、比較相対的にいえば、速度超過による脱線転覆事故が起きる可能性を示す事情といえるとしても、同種、類似の曲線は他にも相応に存在し、また、本件事故当時、後に採用された手法で転覆危険率を算出し、個々の曲線ごとに脱線転覆の危険性を分析するといった見当も行われていなかった。
⇒被告人らやJR西日本の関係者が、列車脱線転覆の具体的危険性が高い箇所として特に本件曲線に着目することは、かなり困難であったと認めざるを得ない。
本件事故の直接の原因は、大幅な速度超過状態で列車を走行させ本件曲線に侵入させたという運転士の「異常な運転」であり、そのことは社会通念上予見が相当困難な事態であった旨判示しており、本件のような事故が発生する危険性や、その原因としての直接性・重要性の両面において、運転士の異常運転こそが本件事故のいわば核心であって、被告人らがそのような事態を具体的に予見することが相当困難であった以上は、(本件曲線において)本件のような列車脱線転覆事故が発生する危険性を予見することができたと認めるのは困難との見方。
2291   
  行政p50
札幌高裁H27.12.10  
  土地区画整理組合の総代会は清算人を選任することができるとされた事例
  事案 A土地区画整理組合(本組合)の総代会が抗告人を本件組合の清算人に選任⇒元清算人であった被抗告人が、同選任は無効であると主張して、抗告人の解任を求めている事案。 
  規定 土地区画整理法 第三十六条  組合員の数が百人をこえる組合は、総会に代つてその権限を行わせるために総代会を設けることができる。

3  総代会が総会に代つて行う権限は、左の各号に掲げる事項以外の事項に関する総会の権限とする。
一  理事及び監事の選挙及び選任
二  第三十四条第二項の規定に従つて議決しなければならない事項

4  第三十二条第一項から第六項まで及び第八項、第三十三条第一項から第三項まで及び第四項本文並びに第三十四条第一項及び第三項の規定は、総代会について準用する。この場合において、これらの規定中「通常総会」とあるのは「通常総代会」と、「臨時総会」とあるのは「臨時総代会」と、「総会」とあるのは「総代会」と、「組合員」とあるのは「総代」と読み替えるものとする。
土地区画整理法 第四十六条  組合が第四十五条第一項第一号から第四号までのいずれかに掲げる事由により解散した場合においては、理事がその清算人となる。ただし、総会で他の者を選任した場合においては、この限りでない。
土地区画整理法 第四十六条の二  前条の規定により清算人となる者がないとき、又は清算人が欠けたため損害を生ずるおそれがあるときは、裁判所は、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、清算人を選任することができる。
土地区画整理法 第四十六条の四  清算人の職務は、次のとおりとする。
一  現務の結了
二  債権の取立て及び債務の弁済
三  残余財産の引渡し
2  清算人は、前項各号に掲げる職務を行うために必要な一切の行為をすることができる。
  解説 組合員の数が100人を超えると、総会を開く場合においてその場所の選定が困難となり、通知事務が煩雑になる等多大の障害が予想される
⇒法36条は、このような総会に代わって、その権限を行わせるため、総代会を置くことができるとしている。
総代会は、原則として総会の権限に属する行為を代わって行う権限を有するが、
理事及び監事の選挙及び選任(1号)及び法34条2項に規定する特別議決事項(2号)に限っては、総会の専権に属し、総代会が権限代を行することが否定されている(法36条3項)。
これらの重要な事項は、たとえ多大な障害があったとしても、総会を招集して議決することが必要とされた。
清算中の組合を代表することになる清算人の選任については、法は、総会の権限とする(46条の2ただし書)一方で、36条3項において明示的には総代会の権限外とはしていない。
A:総代会の権限を否定
←清算人が理事と同様の広範な代表権を有しており、その選任は理事の選任と変わらない重要な事項
B:総代会の権限を肯定
←清算人の地位を理事の地位と同列に論ずる必要はない
  判断 判断:
肯定説に立って、否定説に立つ原決定を取り消して、解任申し立てを却下。

清算人は、現務の結了等の限られた職務及び権限を有しているにすぎず(法46条の4)、理事の地位と同列に論ずる必要は必ずしもない。
  民事p52
最高裁H27.12.17  
  補正命令の期間経過後の抗告提起の手数料納付の場合の効力
  事案 抗告人は訴訟救助の申立て⇒却下決定⇒大阪高裁に即時抗告提起but抗告上に所定の印紙を貼付していなかった⇒原裁判長から、抗告提起の手数料を命令送達の日から14日以内に納付することを命ずる補正命令を受けたが、当該命令で定められた期間内に前記手数料を納付しなかった⇒原審裁判長は、民訴法137条2項(同法331条、288条による準用)に基づき、抗告人に対いて抗告状却下命令を発することとし、その告知のため、同命令の謄本が抗告人に宛てて発送されたが、抗告人は、その送達を受ける前に前記手数料を納付⇒抗告人が前記抗告状却下命令につき許可抗告を申し立てた。
  判断 抗告提起の手数料の納付を命ずる裁判長の補正命令を受けた者が、当該命令において定められた期間内にこれを納付しなかった場合においても、その不納付を理由とする抗告状却下命令が確定する前にこれを納付すれば、その不納付の瑕疵は補正され、抗告状は当初に遡って有効となるものと解される。

原審裁判長の抗告状却下命令を破棄。
  解説 最高裁昭和31.4.10:請求の趣旨変更申立書に係る印紙不足の事案において、
「下級審に差し出された訴訟書類の正本に貼用された印紙に不足があった場合にこれを上級審に於いて追貼すればその瑕疵は補正されその書類は初めに遡って有効となるものと解するのを妥当とする」
最高裁昭和37.11.30:控訴状の印紙不足に係る事案について、同様の判断。

訴えの提起や各種申立ての手数料に係る不納付又は不足の瑕疵は、当該事件の上級審においても補正することができ、その場合、訴状や申立書等は当初に遡って有効となる。
以上のとおり、手数料の不納付又は不足の瑕疵につき、補正命令の補正期間内に補正がされなかった場合や、その結果として訴状等却下命令がされた場合においても、同却下命令が確定するまでの間は、不足手数料を納付することにより有効に補正し得ると解されている。
  民事p54
大阪高裁H27.5.28  
  後遺障害診断書記載の症状固定日より前の時点で「損害を知った」と認められるとして、消滅時効の抗弁を肯定。
  事案 当時小学校5年であったX1が、平成13年9月、下校途中に同級生のAから後頭部を殴打される暴行⇒脳脊髄液減少症ないし低髄液圧症候群を発症し、後遺障害等級5級に相当する頭痛、頚部痛、頚部可動域制限の後遺障害

X1及びその母X2が、Aの両親Y1、Y2に対し、民法714条又は民法709条(監督義務違反)に基づき、X1につき1億1322万2322円の、X2につき500万円の各損害賠償金及び遅延損害金の連帯支払を求めた。 
  規定 民法 第709条(不法行為による損害賠償) 
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法 第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。
  民法 第724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
  Yらの主張 ①友人同士がじゃれ合っていた際の事故⇒本件暴行の態様や責任原因を争う。
②脳脊髄液減少症等の発症並びにX1の受傷及び現在の症状と本件暴行との因果関係を否認
③受傷及び症状固定から本件訴訟提起までに3年が経過したとして、消滅時効を援用。
  Xらの主張 ③について、X1が本件暴行により脳脊髄液減少症等を発症したことを前提に、平成22年8月に病院を受診した際に新たな髄液の露出箇所が判明⇒その時点までに消滅時効は進行しない。
  判断  脳脊髄液減少症等の発症は認められない。
仮に脳脊髄液減少症等を発症したととしても、平成17年9月には症状固定に至っており、その頃実施した3回目のブラッドパッチの効果がなく、担当医師からこれ以上実施不能と告げられて同治療法を断念し、平成20年4月には頸椎捻挫による症状が遷延化して就業困難である旨の診断を受け、その後約2年間はあまり通院しなかった
⇒遅くとも平成20年4月の診断の時点でX2(X1の親権者でもある)において、症状固定を認識していたと認められる
⇒遅くとも同時点が起算点となるとして、消滅時効の抗弁を肯定。 
  解説 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点である「損害及び加害者を知った時」(民法724条)とは、「被害者において、加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に、それが可能な程度に損害及びっ加害者を知った時を意味し、」「損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時」をいい(最高裁H16.12.24)。
損害の程度又は数額を知る必要はなく(大判大9.3.10)「被害者が不法行為に基づく損害の発生を知った以上、その損害と牽連一体をなす損害であって当時においてその発生を予見することが可能であったものについては、すべて被害者においてその認識があったものとして」時効が進行し(最高裁昭和k42.7.18)、受傷から相当期間経過後に受傷当時に医学的に通常予想し得なかった治療を必要とされ、治療費を要したときは、治療を受けるまでは同治療費について消滅時効は進行せず(最高裁昭和49.9.26)、受傷から相当期間経過後に顕在化した後遺症については顕在化した時が損害を知った時に当たるとされる(最高裁昭和49.9.26)。
下級審裁判例では、後遺障害の消滅時効の起算点は、症状固定(の診断)時とするものが多く、最高裁H16.12.24も交通事故の後遺障害に基づく損害賠償請求権について、遅くとも症状固定の診断を受けた時から消滅時効が進行すうr。
本件は、客観的な症状固定時期(平成17年9月)と後遺障害診断書記載の症状固定時期(平成23年7月)とが大きくかい離していたが、本判決は、診療の経緯等から、X2においても遅くとも平成20年4月の時点では症状固定の事実を知り、後遺障害分を含めた損害賠償請求権の行使が可能な状態にあった(同時点で医師が明示的に症状固定の診断をしたわけではないが、実質的には同診断がされたものと同視できる状況にあったとみたのであろう。)
平成22年9月のブラッドパッチは、医学的に予想できなかった治療法に当たらず、新たな髄液漏れがあったとしても、新たな後遺症の顕在化には当たらない
⇒遅くとも平成20年4月から全損害についての消滅時効が進行すると判断。
  民事p68
福岡高裁H28.1.20  
  面会交流についての誠実協議義務違反による共同不法行為(否定)
  Xの主張 Xは、Y1,Y2の不法行為として、
①本件調停までのY1の面会交流不実施
②7月6日から8月上旬までのY1の面会交流不実施
③Y2受任後9月までのY1・Y2の協議を遅延させた行為
④10月以降の協議遅延行為等を主張
  原審 本件調停成立前:
監護親は面会交流できるように努力する義務があり、非監護親は子と面会交流する権利があることは明らかであるが、具体的日時、場所、方法等が決定されていない
⇒その権利義務はいまだ抽象的なものであるとして、不法行為に基づく損害賠償請求を否定。 
本件調停成立後:
面会交流が子の福祉のため重要な役割を果たすことに鑑みれば、当事者は本件調停に従って面会交流を実施するために具体的日時、場所、方法等の詳細な面会交流の条件の取り決めに向けて誠実に協議すべき条理上の注意義務(誠実協議義務)を負担すると解すべき。

社会通念に照らし事実上協議を拒否したと評価される場合には、誠実競技義務に違反し、相手方当事者のいわyるう面会交流権を侵害するものとして、相手方当事者に対する不法行為を構成する。
Y2(弁護士)が④の10月以降メールではなく専ら書面郵送の方法によったことが面会交流を行わないための意図的な遅延行為であり、誠実義務の違反があり不法行為を構成する
⇒Y1(本人)にも共同不法行為責任を認めた。
  判断 調停成立前の非監護親の面会交流の権利について:
仮にこれを観念できるとしても、いまだ抽象的にとどまる。 
本件調停成立後について:
原判決の掲げた誠実義務を支持したうえ、
②~④につき、Y1・Y2の誠実義務違反を認めなかった。
①Y2がXに書面郵送の方法で連絡したことについては、それが面会交流の実質的拒否に匹敵するほどの遅延を招くものではなく、本件で面会交流が実施されなかった原因は、双方の感情的対立により面会条件の具体的協議が困難になったことによるもので、書面送達の方法をとったことによるものではない。
②内容によっては慎重さを期すために書面による方法が適切な場合もあり、本件でXがY2に送信したメールには、事務的打合せの範囲を超えた事項も含まれ、いずれによせY2が即時に回答することは困難で、書面郵送によることが面会交流の協議の進展に実質的な影響があったことは窺われない。
③Xも当初は連絡を書面またはメールで行うことを求めていた。

Y2が連絡方法として書面郵送の方法をとったことにつき、不法行為責任を生じるこういうとは認められない。
  民事p75
札幌高裁H27.11.17  
  分割弁済の定めがされており、保全の必要性はないとして、債権者の仮差押命令申立てが却下された事例
  事案 X会社は、平成26年12月、本件貸金の残元本約2900万円を被保全権利として、Y会社が所有する土地について仮差押決定
⇒Y会社は、本件貸金には本件弁済表どおりに分割弁済の定めがされており、保全の必要性はないと主張して、保全異議の申立て。
⇒原審がY会社の保全異議の申立てを認容し、仮差押決定を取り消した⇒X会社が保全抗告の申立。 
  判断 ①本件貸金には本件返済表どおりに分割弁済の定めがされており、
②Y会社が仮差押決定後も分割弁済を続け、
③短期の支払能力ないし金融機関からの資金調達には取り立てて問題がみられない
⇒本件貸金について保全の必要性の疎明がない
⇒保全抗告を棄却
  解説 貸金債権において弁済期の定めがされているかどうかは、個別の事実認定の問題。
契約書が作成されていない場合は、当該貸付け前後の事実経過が重視。
本件も、
①X会社とY会社との間で従前にも同様の貸付け及び分割弁済がされ、
②Y会社が本件返済表どおり分割弁済を続け、
③本件貸金を長期借入金として会計処理をしてくることについて、X会社が異議を述べた形跡がない
といった貸付け前後の事実経過を認定。
⇒分割弁済の定めがあると認定。
  本件と同様に、債権者が金融機関からの借入金を債務者に貸し付け、債務者が金融機関に対する弁済条件と同様の条件で分割弁済を続けていた事案で、分割弁済の定めがされたとは認められないとした裁判例(東京地裁H15.9.24)。
  民事p79
東京地裁H27.8.5   
  建物の明渡請求につき、50万円の立退料をもって正当事由の充足を認め、指図による占有移転を命じた事例 
  事案 Xが、Yに対し、X・Y間の建物の賃貸借契約は期間満了又は解除により終了したとして、賃貸借契約の終了に基づき、建物の明渡し並びに賃料相当損害金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案。 
  規定 借地借家法 第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
  Xの主張 ①第三者への転貸を目的とする建物の賃貸借契約には借地借家法28条の適用がない 
②仮に適用されるとしても、Xの解約の申入れには正当事由がある。
③更新拒絶通知後の転借人の募集活動は債務不履行に該当し解除する。
  争点 Xの解約申入れに正当事由があるか
  判断 ①第三者への転貸を目的とする建物の賃貸借契約であるX・Y間の賃貸借契約にも借地借家法が適用されるところ、賃貸の目的である建物を占有負担のない形で売却するために本件契約を終了させる必要性というX側の事情は、本来的な意味での自己使用の必要性をいうものではないものの、他方、Y側も、賃借人が当該建物を使用する必要性は転貸による経済的利益に尽き、その額も低額であり賃貸借契約の終了によりYの経営に影響を及ぼすような重大な不利益が生ずるものとは認められない。
②X・Y間の賃貸借契約には契約終了時に賃貸人が転借人の賃借権を引き受ける旨の条項があり、Xが転借人に対するYの地位を引き受ける立場に立つため転借人の事情を考慮する必要はないことから、X側の事情は、本来的な意味での自己使用の必要性をいうものではなく、それだけで正当事由を充足するということはできないものの、他方、Y側にとっても建物を使用する強い必要性があるわけではなく、これらの事情を総合すれば、50万円の立退料をもって正当事由の充足を認められる。

正当事由の存在を肯定 

Yが転借人に対して有する建物の返還請求権をXに譲渡し、かつ転借人に対し以後同建物をXのために占有すべき旨の通知をせよと判示。
  解説 建物を転借人が現実に占有しており、Yは間接占有を有しているにすぎず、YとしてはXに現実に引き渡すことができない関係にある⇒Yに対して指図による占有移転を命じることになる。
  民事p84
長野地裁伊那支部H27.10.28   
  事業者の、太陽光発電設備設置反対住民に対する損害賠償請求本訴の提起がいわゆるスラップ訴訟に当たり違法とされた事例
  事案 Xは、Yに対し、住民説明会におけるYの発言が、Xの名誉及び信用を毀損する違法なものであり、かつ、Yがこれらの発言や反対運動によりXに太陽光発電設備の設置を断念させたと主張して、不法行為に基づき、損害金約2億5000万円の一部である6000万円の支払を求めた(本訴請求事件)。
Yは、Xの本訴請求の訴えの提起は違法であるとして慰謝料200万円の支払を求める反訴請求を提起(反訴請求事件)。
  判断 Yの発言内容に違法な点はない⇒本訴請求を棄却。 
●  反訴請求について:
訴えが違法になるのは、「当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たというのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる」場合に限られるとの規範を示した。
Xは。通常人であれば容易に自己の主張に根拠がないことを知り得たのにあえて訴えを提起した
⇒本件訴えの提起は裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く
⇒慰謝料50万円の支払を命じた。
  解説 スラップ訴訟としてその違法として認められるためには、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くか否かにかかっており、この点は、最高裁昭和63.1.26で示されている。 
スラップ訴訟としてその違法性が認められたもの:
幸福の科学が、これを批判する弁護士らに対し8億円の名誉毀損訴訟を提起したことが違法とされた事案
「武富士の闇を暴く」という著書を出版したジャーナリストに対する損害賠償等訴訟の提起が違法とされた事案
  民事p92
青森地裁H27.1.23  
  破産手続開始の申立代理人の財産散逸防止義務違反(否定)
  事案 X(破産管財人)が、 Y(申立代理人)において本件防止措置を講じなかったことがBについての破産手続開始の申立代理人が負ういわゆる財産散逸防止義務に違反する旨主張⇒Yに対し、不法行為に基づく損害賠償を請求。
  判断 いわゆる自己破産の申立てを受任した弁護士は、破産制度の趣旨に照らし、債務者の財産が破産管財人に引き継がれるまでの間、その散逸を防止するための措置を講ずる法的義務(財産散逸防止義務)を負い、この義務に違反して破産財団を構成すべき財産を減少・消失させた場合には、不法行為を構成。
⇒破産管財人に対し、損害賠償責任を負うことがある。
破産財団が最終的には破産者の債権者に対する配当原資となるべきもの⇒自己破産の申立てを受任した弁護士の行為が財産散逸防止義務に違反するものであるか否かの判断に当たっては、当該行為が前記債権者に不利益を及ぼすものであるか否かを個別具体的な事案に即して検討する必要がある。
本件については、
①Bに対する破産債権がいずれもAに対する債権を主たる債権とする保証債務履行請求権であること等⇒Bに係る破産手続は、いわばAに係る再生手続きを中核とする一連の倒産事件の一部と評し得るものであり、このような事案の社会的実態からすれば、Bの債権者の利益は、当該債権者が前記のような一連の倒産事件を通じて得るべき利益(本件総利益)を通じて実現されるもの。
⇒Yにおいて本件防止措置を講じなかったことがその財産散逸防止義務に違反するか否かは、当該行為によって本件総利益にどのような影響を及ぶことになるかとう観点から判断すべき。
②企業再生を中核とする一連の倒産事件について、当該企業に係る再生事件の申立代理人とその経営者に係る破産事件の申立代理人を兼ねる弁護士の活動は、当該弁護士の専門家としての合理的な裁量に委ねられているものと解するのが相当。
本件防止措置を講じない旨のYの判断が前記のような専門家としての合理的な裁量に照らして不合理なものといえないのであれば、Yが本件防止措置を講じなかったことをもって財産散逸防止義務に違反するものということはできない。
①本件労使交渉の経緯等の具体的な事実関係に照らせば、Yが本件防止措置を講ずると、Aの労働組合等の強い反発を招き、本件労使交渉の妥結が遅延し、労使合意に基づく人員削減の実施が遅れ、あるいは労使間で合意に至らないまま人員削減を実施しなければならなくなることが合理的に予見できたものというべき。
余剰人員に係る人件費の流出又はAの労働組合等の協力が得られないことによる売上高の減少のため、Aの再生手続が頓挫して破産手続に移行してしまう公算が高いとのYの判断が不合理とはいえない。
②Aにおいて再生手続を通じてその経営を立て直すことにより相当の規模の配当原資の確保を見込むことが可能であったこと等
⇒Aの再生手続が頓挫して破産手続に移行した場合の本件総利益は、再生手続によってAが再生した場合のそれと比べて大幅に減少するとのYの判断も不合理とは言えない。

本件防止措置を講ずることを断念したYの判断が専門家としての合理的な裁量に照らして不合理なものということはできず、Yが本件防止措置を講じなかったことをもって財産散逸防止義務に違反するものということはできない。
  解説 近時、破産手続開始申立てを受任した弁護士の財産散逸防止義務違反を認めた裁判例が複数ある。 
本判決も、自己破産の申立を受任した弁護士が財産散逸防止義務を負うものであることを肯定。
他方、本件の事案は、破産債権がいずれも破産者を代表取締役とする会社に対する債権を主たる債権とする保証債務履行請求権である点で特殊。

Yの財産散逸防止義務違反の有無を、Yの行為によって本件総利益にどのような影響を及ぶことになるかという観点から判断すべき旨を判示。
  知財p102
知財高裁H27.10.8  
  サポート要件違反を理由に特許を無効とした審判を維持
  事案 Xの有する特許権に対してYが特許無効審判⇒請求項1~6、9~10について無効審決(第一次審決)⇒Xが審決取消訴訟を提起⇒一旦知財高裁が審決を取り消した⇒特許庁が審理を続け、請求項1~6、9~10について再度無効審決(第二次審決)⇒審判取消訴訟(本件) 
第二次審決における特許無効の理由:
①サポート要件違反(特許法36条6項1号)
②原文新規事項記載(同法123条1項5号)
  規定 特許法 第36条(特許出願)
6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
特許法 第123条(特許無効審判)
特許が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係るものについては、請求項ごとに請求することができる。

五 外国語書面出願に係る特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないとき。
  判断 ①について無効理由あり
②については判断なし 
PtOEP等化合構造を特定していない請求項記載の発明について、サポート要件を満たしていないと判断。
  解説  特許制度は、発明者に一定期間の排他権を付与するための条件として、新規技術の内容を当業者に開示し公衆に裨益することを要求。
⇒法は特許付与の要件として記載要件(法36条各項)を規定。
記載要件の中心をなす要件は
①実施可能要件(同条4項1号)および
②サポート要件(同条6項1号)
であり、共に拒絶・無効理由となっている。(同法49条4号、123条1項4号)
  サポート要件は、排他権付与の対象となるクレイム記載の発明が、明細書中で説明されている発明の範囲を超えてはならないと規定。
実施可能要件は、明細書において説明されている発明は当業者が利用可能な程度のに記載されていなければならないとする要件。
  知財高裁H17.11.11(偏向フィルムの製造法):において、問題となったパラメータ発明:
問題となったパラメータ発明について、開示された発明に比して広範な排他権を求めるかのように見える特許権(特許出願)は、サポート要件を積極的に活用して排除すべきと説示。
  知財高裁H22.1.28(性的障害の治療におけるフリバンセリンの使用)
~条文との整合性および実施可能要件との機能分担の観点から、サポート要件が拡大し過ぎることに警笛をならすもの
:サポート要件違反を理由とした拒絶審決について、サポート要件はあくまでクレイムと明細書の関係を問題とする要件であるから、明細書の詳細な説明のいを判断の対象とし、クレイムとの対比を行わずに特許出願を拒絶した審決は理由不備があるとして取り消した。

サポート要件は、クレイムの範囲が明細書の記載を超えていないかを「形式的に」判断する要件だとしている。
  商事p121
東京地裁H27.8.18 
  被保険者が被害者に対して支払うべき損害賠償金から、被保険者が被害者に対して損害賠償金を支払うことによって代位取得するものの価額を控除した額の限度で保険金を支払う旨の賠償責任保険普通約款条項の適用範囲。
  事案 「債権差押の執行停止決定の通知が裁判所から届いたら本件差押命令は執行する」との誤った助言⇒Cが二重払い⇒Xは、Cに対し、8997万7207円について損害賠償義務路履行。
  弁護士であるXを被保険者とし、損害保険等を目的とする保険会社であるYを保険者とする弁護士賠償保険契約に基づき、Xが、Yに対し、保険金8997万7207円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案。 
  規定 民法 第422条(損害賠償による代位)
債権者が、損害賠償として、その債権の目的である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは、債務者は、その物又は権利について当然に債権者に代位する。
  約款 賠償責任保険普通保険約款
(ア)Yが保険金を支払う損害の範囲(2条1項1号)
被保険者が損賠賠償請求権者に支払うべき損害賠償金(損害賠償金を支払うことによって代位取得するものがある場合は、その価額を控除する)(括弧内の部分を「本件控除規定」という。)
(イ)事故発生時の義務(16条2号及び3号)
保険契約者又は被保険者は、事故が発生したことを知った場合は、以下の義務を履行しなければならず、正当な理由がなくこれらの規定に違反した場合は、Yは、以下の括弧内において定める額を差し引いて保険金を支払う。
(ウ)代位(21条)
損害が生じたことにより被保険者が損害賠償請求権その他の債権(被告が保険金を支払うべき損害に係る保険金、共済金その他の金銭の請求権及び共同不法行為等の場合における連帯債務者相互間の求償権を含む。)を取得した場合において、Yがその損害に対して保険金を支払ったときは、その債権はYに移転する。 
  判断  本件控除規定は、被保険者が権利等を代位取得しただけで直ちにその価額(額面額)を控除すべきことを定めた規定であると解するのではなく、その権利等の価額の限度で被保険者の損害が回復されたと認められる場合に限りこれを控除する趣旨の規定を解すべき。
代位取得すべき権利等が債権である場合には、被保険者が現実に債務者から債務の履行を受けるなどして債権の満足を得たか、これと実質的に同視すべき事情がある場合に限り、その額が控除されるというべき。
  解説  Xが、債務者の資力や回収可能性を踏まえて早期弁済を受けることが確実である額を「価額」とすべきであると主張したのに対し、
本判決は、さらに進めて、本件控除規定は、現実に損害が回復された場合に限り、その回復された額を、「価額」として適用されるべきであり、債権の場合は現実に債務の履行を受けるなどした場合等にその限度で控除すべきであるとの立場をとったもの。

①本件控除規定の趣旨は、民法422条により被保険者が代位取得するものがあるのに、代位取得したものの価額相当額も含めて保険金を受け取ることによって被保険者が二重に利得することを防止する点にあること
②債務者の資力等の被保険者の責めに帰すことのできない事情による債権回収リスクの一切を被保険者が負うことになれば、責任保険の効用は著しく減じられること
③約款16条や21条は、被保険者が他人に対して損害賠償等の請求ができる場合であっても、まずは保険金を支払った上で、保険者にその損害賠償請求権等を代位取得させることで被保険者の不当な利得を防止することを予定している。
保険約款の解釈に当たっては、保険契約及び各約款条項の趣旨を考慮しつつ合理的な意義を探求しているのが裁判例の通例。
その際に決定的な基準となるのは、
①保険契約の特質を考慮した上で、当該条項が置かれている趣旨を問題とするとともに、他方で
②保険契約者側の合理的な利益を考慮した合理的な意味内容は何か
との指摘がある。
本判決も、約款条項の文理からはやや離れるものの、
①約款の文言のみではなく、②責任保険の効用維持という観点に加えて、③本件控除規定の趣旨や他の約款規定との整合性も考慮した上で、
本件控除規定の合理的な意味内容を見出そうとしたものと解される。
  労働p129
さいたま地裁H27.11.27  
  減給に対する同意の意思表示の効力
  規定 民法 第93条(心裡留保) 
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
民法 第95条(錯誤)
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
労働契約法 第9条(就業規則による労働契約の内容の変更)
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
  判断 ●心裡留保の主張 
Xは、戯言で本件減給に対する同意の意思表示をしたのではなく、単に、本心では同意することに納得しておらず、いわば意思表示を渋々したものであるといえるところ、これは、意思表示をすることに対する表意者の感情に過ぎず、意思表示に対応する内心的効果意思の内容とは全くの別のもの。

Xは、本件減給に対する同意をしたくないという感情であったものの、まさに本件減給に対する同意をするという内心的効果意思で本件減給に対する同意の意思表示をしたと認められる。
⇒心裡留保には当たらない。
  ●錯誤の主張(本件同意書の提出の動機は、解雇を避けるためであることが黙示的に表示されている)
Xが本件減給に同意しないと解雇されると思い込むのは不合理であり、Xが本件減給に同意しないと解雇されると思い込んだということはできない。

錯誤の成立を否定。
  ●強行法規や信義則違反
労働契約法9条本文によれば、労働者との合意があれば、その内容が強行法規に違反する場合や信義則(民法1条2項)に違反する場合を除き、労働条件の不利益変更も有効。
Xは、本件減給が強行法規や信義則に違反するとの主張及び証拠の提出をしていない⇒Xの主張は失当。
  解説 本心では減給されることについて納得していない場合の減給に対する同意の意思表示をめぐり、その効果が問題となった事案。
感情と内心的効果意思を峻別し、本件においては前者の問題に過ぎないと指摘して意思と表示の不一致を否定。
「不本意ではあるが、真意である」という、意思表示の効果について判断。
   刑事p137
大阪高裁H27.3.11
  傷害致死で懲役8年(裁判員裁判)⇒暴行罪で罰金20万円(控訴審)に
  事案 80歳の実母に対し息子及びその妻が暴行を加え全身にわたる多発性障害を負わせて死亡させたとして、傷害致死罪で起訴された事案。
一審は裁判員裁判。
  規定 刑訴法 第321条〔被告人以外の者の供述書面の証拠能力〕
被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。
二 検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異つた供述をしたとき。但し、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る
  一審 傷害致死罪を認定⇒被告人両名を各懲役8年に。
  判断  事件を目撃した被害者の夫の供述(刑訴法321条1項2号で採用された検察官面前調書)をもとに被告人両名の暴行行為を一部認定したが、死亡の原因となった傷害は、認知症の影響によって暴れる被害者を被告人両名が抑えようとして共に転倒した際に生じたことも十分にあり得る。

①致命傷が被告人両名の故意の暴行によるものとした一審の判断を不合理とし、他方
②一部認定できる暴行は、それによる傷害結果を特定できない
⇒被告人両名を暴行罪により各罰金20万円に処した。
  解説 認知症の患者が暴れることがあるとの知見は未だ一般的になっているとは言えず、それを理由とする一審における被告人両名の主張は信用されなかったが、控訴審において新たに専門家の意見書等が提出。 
被告人側は、故意による暴行を一切否認し、被害者の夫も公判ではそれに沿う証言。
but
1,2審とも公判証言の信用性を否定し、検面調書の特信性を認めて採用し、これが被告人両名の一部有罪の唯一の証拠。

①検察庁での取調べの際に被害者の夫がうそを言う理由がない。
②調書作成時に内容を確認した上で署名指印した。
③公判廷での証言が被告人両名を庇っている疑いがあるから信用できない。
but
被害者の夫は右検面調書作成時、本件事件の被疑者とされていた
⇒「嘘を言う理由がない」とは即断できない。
公判証言が信用できないとしてもそれだけでは検面調書の特信性肯定の理由にはならないはず。

共犯者あるいは被疑者とされた第三者の検面調書の特信性については種々問題が指摘されている。
2290   
  13頁
福井地裁H27.4.14  
大飯・高浜原発差止仮処分命令申立事件:
関西電力の高浜原子力発電所3号機及び4号機の再稼働に対し、同発電所から250キロメートル圏内に居住する住民らが、その運転の差止めの仮処分を求めた申立て
⇒原子力規制委員会の定めた新規制基準が、想定され得る大地震等にかんがみると緩やかに過ぎ原子力発電所の安全性が確保されておらず合理性に欠ける
⇒原子炉の運転の仮差止めを認容。
  事案 関西電力が設置した高浜発電所から250キロメートル圏内に居住しているXらが、関西電力に対し、人格権の妨害予防請求権に基づいて、高浜原発の3号機及び4号機の運転差止めの仮処分を求めた事件。
本件原発はいずれも定期検査のため運転を停止。
改正原子炉規制法43条の3の8第2項が準用する同法43条の3の6第1項4号に基づく「実用発電用原子炉及びその設備の基準に関する規則」及び「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及びその設備の基準に関する規則の解釈」(「新規制基準」)の施行を踏まえ、関西電力は、平成25年7月8日、原子力規制委員会に対し、本kね原発の原子炉設置変更許可の申請(再稼働申請)を行い、平成27年2月12日、同許可がなされた。
  判断 ①原子力発電所は、その特性から、施設の損傷に結びつき得る地震が起きた場合、速やかに運転を停止し(止める)、運転停止後も電気を利用して水によって核燃料を冷却し続け(冷やす)、万が一に異常が発生したときも放射性物質が発電所敷地外部に漏れ出すことのないようにしなければならなう(閉じ込める)、この3つが揃って初めて原子力発電所の安全性が保たれることとなるところ、本件原発には冷やす機能と閉じ込めるという構造に問題がある。
②冷却機能の維持については、各地の原発施設外に幾たびか到来した激しい地震や各地の原発施設に5回にわたり到来した基準地震動を超える地震が高浜原発には到来しないという根拠が乏しいこと、基準地震動に満たない地震によって外部電源が断たれ、かつ主給水ポンプが破損し主給水が断たれるおそれがあることは関西電力も自認しているところ、基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得るというのであれば、そこでの危険は現実的で切迫した危険と評価できる。
③閉じ込めるという機能については、使用済み燃料が原子炉格納容器の外の建屋内の使用済み核燃料プールに多量に置かれており、使用済核燃料プールから放射性物質が漏れた時これが原子力発電所敷地外部に放出されることを防御する堅固な設備が存在しない点を問題とし、そのような堅固な費用を設備を設けるためには膨大な費用を要するということに加え、国民の安全が何よりも優先されるべきであるとの見解に立つのではなく、深刻な事故はめってに起きないだろうとの見通しの下にかような対応が成り立っていると言わざるを得ない。

本件原発の安全施設、安全技術には多方面にわたる脆弱性があるといえ、この脆弱性は、
①基準地震動の策定基準を見直し、基準地震動を大幅に引き上げ、それに応じた根本的な耐震工事を実施する、
②外部電源と主給水の双方において基準地震動に耐えられるような耐震性(Sクラス)とする、
③使用済み燃料を堅固な施設で囲い込む、
④使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性をSクラスとする
という各方策が取られることによってしか解消できないが、新規制基準は右いずれの点についても規制の対象としていないとした。
新規制基準に求められるべき合理性とは、原発の設備が基準に適合すれば深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な内容を備えていることであると解すべきことになるところ(いわゆる伊方原発訴訟についての最高裁H4.10.29)新規制基準は緩やかにすぎ、同基準に適合しても本件原発の安全性は確保されていない。
本決定は、新規制基準は右のとおり合理性を欠くものであり、そうである以上、その新規制基準に本件原発が適合するか否かについて判断するまでもなく、Xらの人格権侵害の具体的危険性が肯定できることになる。

Xらの仮処分申し立てを肯定。
  解説 東京電力福島第一原子力発電所の事故後、新たに設置された原子力規制委員会の策定した新規制基準自体が原子力発電所の安全性を判断する基準として合理性を欠くとして、そのことを理由に本件原発から250キロメートル圏内に居住するXらの人格権を侵害する具体的な危険を認めたもの。
  90頁
福岡高裁宮崎支部H28.4.6  
  川内原発差止仮処分命令申立事件:
原子炉等規制法等の法令所定の新規制基準に適合すると判断された原発稼働の差止めを求める仮処分申立事件について、新規制基準、同基準への適合性の判断が不合理ではなく、被保全権利の疎明なし⇒申立て却下
抗告棄却
  事案 稼働中の原子力発電所(原発)である鹿児島県所在の川内原発1号機、2号機の周辺の住民がその差止めを申し立てた仮処分の抗告審事件。 
  争点 ①本件申立てについての司法審査のあり方
②地震に起因する川内原発事故の可能性と人格権侵害又はそのおそれの有無
③火山事象により川内原発の原子炉が影響を受ける可能性と人格権侵害又はそのおそれの有無
④その他の事象により川内原発が影響を受ける可能性と人格権侵害又はそのおそれの有無
⑤避難計画等の実効性と人格権侵害又はそのおそれの有無
⑥保全の必要性
⑦担保金の額 
  判断 必要な範囲において原決定を引用しつつ、
①運転の差止請求が認められるためには、原子炉施設が安全性に欠けるところがあり、その運転に起因する放射線被曝により、住民らの生命、身体に直接的かつ重大な被害が生じる具体的な危険が存在することで足りるが、確保すべき安全性は我が国の社会がどの程度の水準のものであれば容認するかという社会通念を基準として判断するほかないこと、
②福島第一原発事故後、原子炉等規制法等が最新の科学的、技術的知見を規制に反映させ、規制を強化したことは安全性についての社会通念が反映していること、
③最新の科学的、技術的知見を踏まえた合理的な予測を超えた具体的な安全性に準じる安全性の確保を求めることが社会通念になっているとはいえないこと、
④運転の差止請求訴訟、仮処分では、原告(債権者)が原子炉施設につき客観的に安全性に欠け、放射性物質が周辺環境に放出され、直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険の存在につき主張、立証(疎明)責任を負うこと、
⑤原告(債権者)が一定の地域に居住等する場合には、被告(債務者)である事業者が具体的危険が存在しないことにつき相当の根拠、資料に基づき主張、立証(疎明)する必要があり、事業者がこれを尽くさない場合には、具体的危険の存在が事実上推定されること、
⑥事業者が原子力規制委員会の審査基準に適合する旨の判断をした場合には、その判断に不合理な点がないことないし調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落がないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証(疎明)すれば足りること
⑦新規制基準は何ら不合理な点はなく、Yの重大事故等対策が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断が不合理であるとはいえないこと、
⑧Yが相当の根拠、資料に基づく疎明を尽くしたこと、
⑨川内原発が耐震安全性を欠くことにより、直接的かつ重大な被害を受ける具体的な危険が存在するということはできないこと、
⑩川内原発が火山の影響に対する安全性の確保に係る新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断が不合理であるとはいえないこと、
⑪その他の事象(竜巻、テロリズム及び戦争行為)による人格権に対する違法な侵害行為のおそれがあるとはいえないこと

被保全権利の疎明がないとして、抗告を棄却。
  解説 原発稼働の安全性と司法審査との関係については、伊方原発の原子炉設置許可処分の取消訴訟の最高裁判決(最高裁H4.10.29)が
原子炉の施設の安全性に関する審査が多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的な判断が必要である等とし、行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきである等とし、主張・立証責任の所在・内容、司法審査の対象、判断のあり方等を明らかにしている。 
   ★平成28年5月分
2288
  行政p15
最高裁H27.12.14  
  市街化調整区域における開発に関する工事が完了し検査済証が交付された後の開発許可取消しを求める訴え(適法)
  事案 処分行政庁である鎌倉市長が行った都市計画法(平成26年法律第42号による改正前のもの)29条1項による開発行為の許可について、本件開発許可に係る開発区域の周辺に居住するXらが、Y(鎌倉市)を相手に、その取消しを求めた事案。
  判断 市街化調整区域のうち、開発許可を受けた開発区域以外の区域においては、都市計画法43条1項により、原則として知事等の許可を受けない限り建築物の建築等が制限されるのに対し、開発許可を受けた開発区域においては、同法42条1項により、開発行為に関する工事が完了し、検査済証が交付されて工事完了公告がされた後は、当該開発許可に係る予定建築物等以外の建築物の建築等が原則として制限されるものの、予定建築物等の建築等についてはこれが可能となる。そうすると、市街化調整区域においては、開発許可がされ、その効力を前提とする検査済証が交付されて工事完了公告がされることにより、予定建築物等の建築等が可能となるという法的効果が生ずるものということができる。

市街化調整区域内にある土地を開発区域とする開発行為ひいては当該開発行為に係る予定建築物等の建築等が制限されるべきであるとして開発許可の取消しを求める者は、当該開発行為に係る工事が完了し、当該工事の検査済証が交付された後においても、当該開発許可の取消しによって、その効力を前提とする予定建築物等の建築等が可能となるという法的効果を排除することができる。

市街化調整区域内にある土地を開発区域として開発許可を受けた開発行為に関する工事が完了し、当該工事の検査済証が交付された後においても、当該開発許可の取消しを求める訴えの利益は失われない。 
  解説  ●取消訴訟の訴えの利益 
行政処分の取消訴訟の目的は、処分の法的効果により個人の権利利益を侵害されている場合に、判決によりその法的効果を遡及的に消滅させ、個人の権利利益を回復させることにある(最高裁昭和47.12.12)。

当該行政処分の取消しの訴えは、国民の権利利益を侵害する処分の法的効果が存続しており、これが取り消されることによって処分により侵害された国民の権利利益が回復される場合に限り、その利益を肯定することができる。

処分が取消判決によって除去すべき法的効果を有しているか否か、処分を取り消すことによって回復される法的利益が存するのか否かという観点から検討。
  ●都市計画法による開発行為と予定建築物等の建築等の規制 
◎開発許可
◎検査済証の交付・工事完了公告 
◎工事完了公告があるまでの間の建築制限 
◎工事完了公告があった後の建築制限 
◎監督処分(違反是正命令) 
  平成5年最判及び平成11年最判:
市街化区域内にある開発区域における事案であるが、工事が完了し、検査済証が交付された後は、訴えの利益がなくなる旨判示。 
平成5年最判:
都市計画法29条の開発許可は、あらかじめ申請に係る開発行為が同法33条所定の要件に適合しているかどうかを公権的に判断する行為であって、その本来的な効果は、これを受けなければ適法に開発行為を行うことができないというものであり、許可に係る開発行為に関する工事が完了したときは、開発許可の有するこの法的効果は消滅。
同法81条1項1号に基づく違反是正命令も訴えの利益を基礎付けるものではない。
平成11年最判:
工事が完了し、検査済証が交付された後は、予定建築物について建築確認がされていないとしても訴えの利益は失われる。
  but
市街化区域と市街化調整区域では、建築等の制限の態様が異なり、開発許可の法的効果も異なる。 
開発行為を伴わず開発許可を要しない建築物の建築等:
市街化区域⇒用途地域に関する建築制限等に従う限り、自由にこれを行うことができる。
市街化調整区域⇒都市計画法43条により、原則として都道府県知事の許可を受けない限りこれを行うことが禁止。
開発行為を伴う建築物の建築等:
市街化区域又は市街化調整区域のいずれであっても、開発許可を受けた上で開発行為を行う必要がある。
開発許可がされた場合:
工事完了公告がされた後は、都市計画法42条1項により、当該開発区域内において当該許可に係る予定建築物等以外の建築物の建築等が原則として禁止される。

市街化調整区域においては、予定建築物等の建築等が可能となる。
市街化区域については、原則として用途地域が定められる⇒都市計画法42条1項ただし書きにより、その制限が一部の場合を除いて及ばないこととなる(建築物の建築等は制限されず、特定工作物のうち一定のものについてのみその新設等が禁止されるにすぎない)⇒同法42条1項の規制は、実質的には市街化調整区域のみについての規制であるとも理解されている。

開発許可により、
市街化区域については、原則的な自由の状態が基本的に維持されるのに対し、
市街化調整区域については、一般的な禁止の状態から予定建築物等の建築等につき禁止が解除されるに至る。

市街化調整区域内における開発許可については、当該開発許可を受けた開発行為に関する工事が完了し、検査済証の交付がされた後においても、当該開発許可に係る予定建築物等の建築等をすることができるという法的効果が残っており、本件においても、Xらは、このような法的効果を排除することにより本件の開発区域における予定建築物の建築を回避して自らの法的利益を回復することが可能となる。
  行政p18
福岡地裁H27.3.16   
  厚生年金基金からの任意脱退を承認しなかった対応に裁量権の逸脱・濫用はないとされた事例。
  事案 厚生年金基金であるYの設立事業所であるX1及びX2が、Yから任意脱退したと主張し、
主位的には、XがYの設立事業所でなくなったことの確認及びこれを反映したY規約の改正にかかる厚生年金保険法115条3項所定の手続をすることを求め、
予備的に、XがYに支払うべき掛金にかかる納入告知処分の取消しを求めた事案。
  規定 民法 第678条(組合員の脱退)
組合契約で組合の存続期間を定めなかったとき、又はある組合員の終身の間組合が存続すべきことを定めたときは、各組合員は、いつでも脱退することができる。ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、組合に不利な時期に脱退することができない。
2 組合の存続期間を定めた場合であっても、各組合員は、やむを得ない事由があるときは、脱退することができる。
  解説 基金から設立事業所が脱退する場合、設立事業所の減少として厚生年金保険法115条1項所定の規約の変更を要する

厚生年金法上、代議員会の承認決議及び厚生労働大臣の認可が必要であり、Yの規約においても代議員会の承認を要することされている。 
  判断 基金の代議員会が設立事務所から任意脱退の申出にどのような対応をするかは代議員会の合理的な裁量に委ねられており、全く事実の基礎を欠くか、又は社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の反にを超え又はこれを濫用したと認められる場合に限り、承認決議をしないことが違法となるとの判断枠組み

Xの主位的請求を棄却し(確認の利益は肯定)、
予備的請求も、一部不適法とする部分を除き、これを棄却した。
  解説 同じく基金からの任意脱退について代議員会の承認決議が必要かが問題となった長野地裁H24.8.24:は、「基金から設立事務所が任意に脱退することを常に制限する合理的理由は存在しないというべきであり、少なくとも、「やむを得ない事由」がある場合は、基金からの任意脱退を制限することは許されない」としたうえ、「脱退についての「やむを得ない事由」とは、基本的には原告(設立事務所)の主観的事情によるというべきであるが、被告(基金)事業の不振や他の構成員の不誠実など、被告についての事情もこれに当たると解すべきであり、被告との信頼関係の破壊が重要な要素となるものというべきである。」と判断。 
民法上の組合における組合員の脱退に関する民法678条中、やむを得ない事由がある場合は組合から脱退することができるとする部分が強硬規定であって、これに反する組合契約における約定が無効であるとは確定した判例(最高裁H11.2.23)。
本判決:
基金は高い公益性・公共性を有する⇒任意脱退に関する代議員会の判断に裁量権の逸脱又は濫用がある場合に限り、承認決議をしないことが違法となると判断。
  民事p31
最高裁H27.12.8   
  特例財団法人の、同一性を失わせる定款変更(有効)
  事案 宗教法人であるXが、Yに対し、Yの寄附行為に加えられた4件の変更の無効確認等を求める事案。 
設立時のYの寄附行為には、
①Yの目的について定める条項で、YはB派の維持を目的とするものと(「本件目的条項」)、
②Yの解散に伴い残余財産の帰属ついて定める条項において、Yの解散に伴う残余財産はB派に寄附するものと(「本件残余財産条項」)
③Yの寄附行為は所定の手続を経てこれを変更することができるものとする
との定め。
Yは、平成20年12月、一般社団・財団法人法及び整備法の施行により特例財団法人となり、その寄附行為は定款とみなされ、さらに、Yは、平成23年2月、整備法45条の認可を受け、通常の一般財団法人に移行したが、この際、
①本件変更二として、本件目的条項が、広く仏教文化を興隆する事業を行うことにより世界の精神文化発展に寄与すること等を目的とする旨に、
②本件変更四として、本件残余財産条項が、Yの残余財産は類似の事業を目的とする公益法人等に贈与する旨に変更。
特例財団法人から一般財団法人への移行時にされた2件の変更について、法人の同一性を失わせるような根本的事項の変更である場合には無効となるか否かが争われた。
  原審 本件変更二及び四はYの同一性を失わせるような根本的事項の変更であるから無効⇒その無効確認等を求める限度でXの請求を認容。
  判断 特例財団法人は、所定の手続を経て、その同一性を失わせるような根本的事項の変更に当たるか否かにかかわらず、その定款の定めを変更することができるものというべきである。 
  解説 財団法人の設立に際しては、設立者が根本規範である寄附行為(旧民法の場合)又は定款(一般社団・財団法人法の場合)を作成。
旧民法は、財団法人の寄附行為の変更に係る規定を欠いていた。
学説(通説):
財団法人は、設立者の決定した根本規則に基づき理事が活動するだけであって、法人の活動を自主的に決定する機関をもたない⇒寄附行為は原則として変更できない。
寄附行為に変更の方法を規定している場合には、寄附行為の実行として変更が可能。
どのような変更が可能であるかは、財団の設立者が寄附行為の定めによってどの範囲の変更を許容しているかという個別的な認定に係る問題。
  ●  平成18年に成立、公布された一般社団・財団法人及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律においては、法人格の取得と公益性の判断を分離し、剰余金の分配を目的としない社団又は財団について、その行う事業の公益性の有無にかかわらず、準則主義により簡便に法人格を取得することができる一般的な法人制度を創設し、そのうちで公益目的事業を行うものは内閣総理大臣等の認定を受ければ公益社団法人又は公益財団法人となることができるとされた。 
このような制度の下における一般財団法人の定款変更においては、
①目的並びに評議員の選任及び解任の方法に係る定款の定め(「目的等の定め」)を除き、評議員会の決議によって変更することができ(一般社団・財団法人法200条1項)
②設立者が原始定款において目的等の定めを評議員会の決議により変更することができる旨を定めた場合には、評議員会の決議によってこれを変更することができ(同条2項)
③設立当時予見することができなかった特別の事情によって、目的等の定めを変更しなければ運営の継続が不可能若しくは著しく困難となるに至ったときは、裁判所の許可を得て、評議員会の決議により、これを変更することができる(同条3項)。
①②の目的等の定めの変更の可否を設立者の意思に委ねた
←一般財団法人は設立者の定めた目的を実現するための法人であり、その運営等根幹部分につき設立者の意思が尊重される仕組みとすることが相当。
③について、
←そのような場合にも定款変更を一切許容しないとすれば、かえって法人運営の機動性・柔軟性を阻害するため、定款変更を認めることがむしろ法人の設立者の合理的意思にも合致する。
  ①旧民法の規定に基づく財団法人の寄附行為の記載事項と一般財団法人の定款の記載事項とは異なるから定款変更が不可欠
②特例財団法人は公益目的支出計画の作成及び実施を義務付けられているところ、現在の目的が公益目的事業とはいい難いため公益目的の支出のための事業ができない場合や、現在の目的に従って上記事業を行うだけでは実効性のある公益目的支出計画が作成、実施できない場合等には、設立者の意思等にとらわれずに目的を変更することが必要となり得る
③整備法では、特定財団法人において、必要ならば定款変更に関する規定を自ら整備した上で、定款変更ができる旨が規定されており、他方、特例財団法人の同一性を失わせるような根本事項に関して定款の変更が許されない旨を定めた規定は存在しない。
④公益法人制度改革における議論では、旧民法の規定に基づく公益法人から一般の非営利法人への移行が円滑にできるようにすべきであるとされていたことなどからしても、特例財団法人の定款の変更に明文のない制約があると解することは困難

特例財団法人は、目的等の定めを含む定款の変更について、その同一性を失わせるような根本的事項の変更であるか否かにかかわらず、その判断によりその定款の変更をすることができると解するのが相当。
  民事p36
大阪高裁H24.3.29  
   
  事案 別居中の夫・父Xが、妻・母Yに対し、母が監護している長女Aと父との面会交流を命じる審判(債務名義)の執行として、母に対し債務名義に記載されたとおりの姪月1回の面会交流をさせること、及び面会交流債務の不履行1回につき2万円の支払を命じる間接強制の申立

原審:不履行1回につき8000円とする範囲で父の申立てを認めた 

母が執行抗告をした。
規定 民執法 第172条(間接強制)
作為又は不作為を目的とする債務で前条第一項の強制執行ができないものについての強制執行は、執行裁判所が、債務者に対し、遅延の期間に応じ、又は相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うべき旨を命ずる方法により行う。
判断 間接強制命令を発するためには、債務者の意思のみによって実現できる債務であることが必要
⇒面会を拒む意思を強固に形成している10歳の長女との父子面会につき間接強制を命じた原判決を取消して間接強制申立てを却下。
  解説 母の本件面会交流実施債務は不代替的債務⇒民執法172条の間接強制の問題。 
最高裁H25.3.28:
母は父からの面会交流の申立てを受けて、7歳の長女が拒否していると主張
but
子の面会交流審判は子の心情等を踏まえた上でされているから、面会交流を命ずる審判がされた場合、子が非監護親との面会交流を拒絶する意思を示していることは、間接強制の妨げとなるものではない。
  自動の権利条約9条(父母からの不分離)・10条(家族の再統合)・12条(意見表明権)等の規定がそのまま国内法化されるわけではないとしても、その趣旨は尊重される必要がある。
家事事件手続法65条の子の意思の重視規定等

10歳以上の子の拒絶の意思は尊重されなければならず、そうだとするとこの場合は最高裁判例の射程距離外と解する余地もある。 
前期債務名義でも法は不可能を強いるわけではなく、本件義務者母としては自己の努力で可能な債務は全部履行しているので、そもそも債務不履行はないと解する余地もある。
  民事p40
仙台高裁H26.11.28  
原裁判所が、家事調停事件につき、自庁処理することなく、職権により相手方の住所地を管轄する裁判所に移送⇒原裁判所に与えられた裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たり違法
  規定  家事事件手続法 第245条(管轄等)
家事調停事件は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所の管轄に属する。
家事事件手続法 第9条(移送等)
裁判所は、家事事件の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、これを管轄裁判所に移送する。ただし、家庭裁判所は、事件を処理するために特に必要があると認めるときは、職権で、家事事件の全部又は一部を管轄権を有する家庭裁判所以外の家庭裁判所に移送し、又は自ら処理することができる。
  解説 家事事件手続法が、管轄のない家事事件については、管轄裁判所へ移送することを原則としつつ、例外的に、管轄権を有しない家庭裁判所による自庁処理を認める。
←事案によっては、管轄権を有しない家庭裁判所で審理等をする方が適切な場合がある。 
①自庁処理があくまでも管轄権を有しない家庭裁判所における例外的な措置(法が、当事者に自庁処理の申立権までは付与していないことも、その表れ)
②家事事件手続き法が自庁処理の具体的要件につき定めていない

同法は、自庁処理をすべきか否かの判断については、原則的な管轄裁判所を相手方の住所地とした同法の趣旨を踏まえつつ、当該事件の内容、当が事件が管轄権のない裁判所に申し立てられた経緯等を総合的に考慮して行われる家庭裁判所の合理的な裁量権に委ねる趣旨。

自庁処理を行わずに管轄違いを理由として、事件を管轄裁判所に移送したことが違法とされるのは、自庁処理をすべき特段の必要があることが明らかであるにもかかわらず、家庭裁判所がこれをせずに事件を移送するなど、家庭裁判所が与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合に限られる。
  判断 ①当該家事調停事件は、相手方の婚約不履行を理由とする慰謝料調停及び申立人が子の法定代理人親権者母として申し立てた認知調停であったところ、申立人と相手方との男女関係は、もともと原裁判所の管轄区域内で生じたものであり、移送先裁判所に管轄が生じたのは、その後に相手方が転居したため。
②申立人が本件調停を管轄権のない原裁判所に申し立てたのは、原裁判所に、相手方が先に申し立てた男女関係解消に関する調停(前件調停)が既に継続しており、本件調停は、前件調停の話合いを実質的なものにするために申し立てられたものであったこと、特に認知調停は相手方の意向を受けて申し立てられたものであり、慰謝料調停もこれと併せて申し立てられたものであったこと、
③申立人には生後1年を経過しない乳児がおり、移送先裁判所に出頭するには困難が伴うことが予想されたのに対し、相手方は、もともと自ら原裁判所に前件調停を申立てて原裁判所に一度出頭し、本件両調停の申立てがなければ今後も原裁判所に出頭することが予定されていたこと

本件両調停の事案の内容、その申立て経緯、当事者の出頭の確保の観点から見て、本件両調停を原裁判所で行う方が当事者間の公平に資する上に、話し合いがまとまりやすいと認められ、これを移送先裁判所で自庁処理すべき特段の必要があることが明らかに認められる。

原決定は、自庁処理をすべきか否かの判断が家庭裁判所の合理的裁量に委ねられていることを前提としても、同判断の際に考慮すべき事情を十分考慮せず、その結果、当事者間の公平を著しく欠くなど法の趣旨に悖る結果を生ずるもの

原裁判所に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、またこれを濫用したものと判断したもの。
  民事p43
東京地裁H27.8.7  
土地の売買後に発見された土壌汚染の一部が隠れた瑕疵⇒瑕疵担保責任に基づく買主の損害賠償請求を一部認容
  事案 原告(大手製紙業者)は、公的研究機関である被告から、被告が研究施設として用いてきた土地及び建物を入札により取得。
土壌汚染の調査で、一定の範囲で、土壌汚染対策法の定める特定有害物質が、同法の定める基準を超えて検出⇒被告は入札手続においてこの結果を公表した上、検出された汚染については、被告の負担で除去することを約し、実際に被告による除去工事を実施。
原告は、入札手続において、被告に対し、本件土地の一部につき土壌汚染の存否が不明である認識を示した上で、将来的に汚染が発生した場合の浄化費用の負担につき質問をしたところ、被告は、土壌汚染対策法7条1項ただし書きに基づき対応する旨を回答。
原告は、落札後調査⇒一定の範囲で、基準を上回る特定有害物質等の汚染物質が検出

主位的に、原告による調査によって発見された汚染物質が本件土地の隠れた瑕疵に当たるとして、瑕疵担保責任に基づき、
予備的に、被告が売買契約上負う土壌汚染浄化義務に不履行があるとして、債務不履行責任に基づき、
同調査の費用及びこれによる本件土地の減価額相当額として同土壌汚染の掘削除去工事費用相当額の賠償を求めた。
  争点 ①原告に調査により発見された土壌汚染が隠れた瑕疵に当たるか
②原告と被告との売買契約上瑕疵担保責任を制限する特約が成立しているか
③予備的請求との関係で被告に汚染浄化義務違反があるか
④原告の損害額
  判断 ●争点① 
本件と同様に土地の売買における土壌汚染が隠れた瑕疵に該当するか否かが問題となった事案において、当事者の合意を重視する考え方を採ることを明らかにした最高裁H22.6.1を引用し、本件売買においては双方当事者が土壌汚染の可能性を認識していたことのほか、買主である原告において予定されていた本件土地の利用目的等の事実を認定した上、それに基づき、本件売買の当事者間において予定された本件土地の品質及び性能についての判断基準を定立し、同基準に則して、原告の主張する本件土地の土壌汚染の一部についてのみ隠れた瑕疵に該当するものと認めた。
  ●争点② 
契約交渉過程等に照らすと、当事者間に瑕疵担保責任を制限する特約が成立しているとは認められない。
  ●争点③ 
契約の内容及び汚染の程度に照らすと、被告に汚染浄化義務の不履行があるとは認められない。
  ●争点④
調査費用相当額については、隠れた瑕疵の有無を判断するための調査費用は瑕疵との因果関係が認められないが、
隠れた瑕疵の存在を前提にその対策方法を判断するための調査費用は瑕疵との因果関係が認められる。
本件土地の減価額相当額について、原告において直ちに汚染を除去すべき法令上の義務があるわけではなく、義務が生じる場合であっても必ずしも掘削除去が必要となるわけではなく、かつ、原告が予定していた本件土地の利用方法等にも鑑みれば、将来、法令上義務付けられ得る対策の範囲は明らかでなかった。

隠れた瑕疵と認められる土壌汚染の全てを掘削除去した場合の費用に一定割合を乗じることにより、本件土地の減価額を認定。
  解説 土地の売買において、引渡し後に土壌汚染又は埋設物等が発見され、買主が売主に対し瑕疵担保責任又は説明義務違反等に基づく損害賠償を請求する事案は少なくない。
平成22年最高裁判決は、売買の対象である土地の土壌にフッ素が含まれていた事案において、「売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかはについては、売買契約当時の取引観念をしんしゃくして判断すべし」と判示

民法570条にいう「瑕疵」の意義について、具体的な契約を離れて抽象的に捉えるのではなく、契約当事者の合意、契約の趣旨に照らし、通常又は特別に予定されていた品質・性能を欠く場合をいうものと解するいわゆる主観説を採用することを明らかにしたもの。
  民事p60
東京地裁H27.8.31  
 
  事案 Xは、本件不動産の所有者Bとの間で専属選任媒介契約を締結していた宅建業者Aに買付証明書を提出。
A代表者は、本件不動産は他に競合相手すなわち買受希望者がいるので、取引を確実に成立させるためと称して300万円を交付。
butBは、本件不動産を第三者に売却。
  Xは、Yに対し、取引の相手方をA、対象債権を本件預け金の返還請求権、債権発生時をBが第三者に本件不動産を売却した時点として、宅地建物取引業法64条の8第2項に基づき認証の申出をしたが、Yは、Xの申出に係る本件預け金の返還請求権は弁済業務の対象債権とは認められないとの理由で認証を拒否。
⇒Xが提訴。 
  規定 宅地建物取引業法 第64条の8(弁済業務保証金の還付等)
宅地建物取引業保証協会の社員と宅地建物取引業に関し取引をした者(社員とその者が社員となる前に宅地建物取引業に関し取引をした者を含む。)は、その取引により生じた債権に関し、当該社員が社員でないとしたならばその者が供託すべき第二十五条第二項の政令で定める営業保証金の額に相当する額の範囲内(当該社員について、すでに次項の規定により認証した額があるときはその額を控除し、第六十四条の十第二項の規定により納付を受けた還付充当金があるときはその額を加えた額の範囲内)において、当該宅地建物取引業保証協会が供託した弁済業務保証金について、当該宅地建物取引業保証協会について国土交通大臣の指定する弁済業務開始日以後、弁済を受ける権利を有する。
2 前項の権利を有する者がその権利を実行しようとするときは、同項の規定により弁済を受けることができる額について当該宅地建物取引業保証協会の認証を受けなければならない。
  解説 宅建業者と宅地建物取引業に関して取引をした者は、その取引によって生じた債権に関し、当該宅建業者が営業保証金を供託しているときは、その営業保証金について、宅地建物取引業者保証協会の社員となり弁済業務保証金分担保を納付しているときは、社員でない場合に供託すべき営業保証金の額の範囲内において、同保証協会が供託した弁済業務保証金について、還付または弁済を受ける権利を有する(前者につき宅建業法27条、後者につき64条の8第1項)。
後者の場合、当該弁済を求める者は、当該宅地建物保証協会の認証を受ける必要がある(64条の8第2項)。
宅建業法は、営業保証金及び弁済業務保証金による各弁済の対象債権について、いずれも「その取引により生じた債権」と規定しており、ほかにその内容や範囲を制限することを容認する規定は存在しない。
その対象債権は同一のものと解すべきとされている。
「その取引により生じた債権」の内容・範囲について、最高裁H10.6.11は、「宅地建物取引業に関する取引を原因として発生した債権を意味し、売買契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求権も含まれる」としている。
  判断 弁済業務保証金制度の趣旨等から、宅建業者と相手方が通謀して不正な行為を行い、これに関して金員の授受がなされたような場合には、宅建業者としての正当な業務の範囲内とはいえず、当該金員の返還請求権を保護することが弁済業務保証金制度の目的である宅建業者に対する信頼の維持に資するものでもないこと等

「その取引により生じた債権」とは宅地建物取引業に関する取引の機会に生じた債権であればどのような原因により生じたおのであってもよいとするのではなく、弁済業務保証金制度の目的に照らして弁済に値すると法的に評価できるような債権、当該取引と相当因果関係を有する債権をいう。 
本件覚書は売主B側の専属選任媒介業者であるAが、特定の買受希望者であるXと、事実上他の買受希望者を排除してXが契約を締結するものを確約するものであり、他に有利な買受希望者が現れればBに報告すべきAが、Bの了解なくXとかかる合意を行うのは売主に対する忠実義務違反であり、通常の業務を著しく逸脱すること、本件預け金は売主であるBではなくAに交付されたこと等からしてお本件預け金は申込証拠金とは認められず、本件預け金授受時の状況等からすれば本件預け金はBに働きかけるための工作資金の趣旨で交付されたと認められること等

本件預け金の交付はAの通常の業務の範囲内とはいえず、その返還請求権は本件不動産の売買取引と相当因果関係を有する債権とはいえない。
  民事p70
東京地裁H27.2.18  
  区分所有者の管理組合として区分所有者に管理費等を請求した団体の、権利能力のない社団性が否定された事例。
  事案 X(代表者理事長A)は、平成26年、Yに対し本件訴訟を提起し、自らがビルの管理組合であることを前提に、設立後4年3か月分の管理費・修繕積立金183万6000円と、耐震補強工事に要する費用1155万円の費用のうち総会決議でY負担と定めた183万円余りの支払を求めた。
  解説 最高裁昭和39.10.15:
法人格のない社団、すなわち権利能力のない社団が団体として成立し、構成員に総有的に権利義務が帰属する法律効果を受けるための要件として、「団体としての組織をそなえ、そこには多数決の原則が行われ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、しかしてその組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない」と判示。
この判示内容の財産的側面について、
最高裁H14.6.7が、必ずしも固定資産ないし基本的財産を有していいなくとも、内部運営や対外的活動に必要な収入を得る仕組みや収支管理体制が備わっている等の事情があれば足りる場合もあると判示。
  判断 Xについて、規約等を定めたとされる平成21年開催の総会に関する事実関係のほか、設立語約5年間のXの形骸化した運営実態(区分所有法30条5項に反し規約が書面化されなかったこと、定時総会が一度も開催されなかったこと、任期二年の役員の改選や毎年の会計報告、決算承認が一度も行われていないこと)、不明朗な会計処理、AとBCDの人的関係、Xの規約がXとCの一体関係を前提とした内容であること等の事実経過を認定。
上記の2つの最高裁判例をふまえ
①Cが区分所有者でなくなった場合、Xが管理規約の定めに則った団体として存続することは著しく困難になる、
②X固有の組織は当初から全く形骸化しており、Xが法や規則に基づき自律的に運営されることは期待できない、
③Cは、説得力の乏しい手法により区分所有者数を増やしており、多数決は、定時総会が一度も開催されない中、CないしAが必要な都度開催する臨時総会でのみ機能している、
④長期間、管理者と一部の区分所有者との人的関係に基づき透明性の低い会計処理が行われるとともに、説明責任の果たされた収支管理を行う体制も確立されていない、との検討

Xは、昭和39年最判の基準に照らして、権利能力のない社団として存続しているkと評価するに足りる実体を備えたとはいえず、総有的な権利義務の帰属という法的効果を受けることはできない。

Xの請求を棄却。
  解説 昭和39年最判の基準は、団体が実体法的な権利帰属主体となり得るか否かを判断するためのもの。
民訴法29条の「社団」該当性、すなわち当事者能力もこの基準によって判断されることが多く、昭和39年最判の基準を用いた判断が行われる裁判例には、
①権利義務主体性が争われる類型と②当事者能力が争われる類型がある。
このほか、所得税法2条1項8号等の租税法上の「人格のない社団等」該当性についても、同じ基準が用いられている。
問題の団体が訴訟当事者である場合、論理的には、当事者能力と権利帰属主体性の両方が争点となるし、当事者能力は、公益性の強い訴訟能力として、弁論主義の適用はなく、裁判所は職権調査を経てその存否を判断しなければならない。
but
本判決では、Xの当事者能力は争点ではなく、裁判所も判断していない。
YとBCDが今後も同じ建物の区分所有者であり続けるという実情⇒管理組合を自称するXの実体法的な存否に決着をつけることは、YとBCDやAとの紛争の解決に有益。
  民事p75
大阪地裁H26.3.18  
  大学病院で、脳内に再発した悪性脳腫瘍の治療として大量抗がん剤治療⇒転移先の病院で死亡(過失否定)
  事案 Bが、Aが敗血症(感染症)により死亡したとして、Y1大学病院及びY2総合病院の医師らには、敗血症を疑わなかった過失があったなどと主張して訴訟提起。 
  争点 大量抗がん剤投与後のAの診療経過に照らして、Y1大学病院及びY2総合病院の医師らには、敗血症を疑うべき義務があったか? 
  判断 ●  ●Y1大学病院について 
骨髄抑制から回復した後は敗血症の臨床症状(悪寒・戦慄を伴う38度台又は39度台以上の発熱)に合致する症状が認められなかったなどの診療経過

①大量抗がん剤治療を受けた後には、骨髄抑制による白血球数の低下が一般的に生じること
②自家末梢血幹細胞移植を併用した大量抗がん剤投与の効果及び術後の経過観察について医学的知見の集積もない

Aの白血球数がSIRS項目の一つである4000未満であったとしても、敗血症であったとはいえない
⇒Y1大学病院の医師らには、敗血症を疑うべき義務はなかった。
  ●Y2総合病院について 
レントゲン及びCT検査の結果、肺炎像は明らかであったとはいえず、検査数値や臨床症状から敗血症を疑わせる状況にもなく、精神症状についても原疾患である胚細胞腫の悪化によるものと考えられる。
⇒Y2総合病院の主治医には、敗血症を疑うべき義務はなかった。
  民事p86
山形地裁H27.12.22  
  自己が所有する自動車の助手席に同乗していた者と自賠法3条の「他人」(否定)
同乗者に運行支配があり、事故防止に中心的責任を負っていた⇒過失相殺
逸失利益の算定に際し、介護職員の将来の収入増額の蓋然性を否定
  事案 Aの妻X1と子X2、X3は、Aの生命損害について、自賠法3条、民法709条に基づき損害賠償請求。 
  規定 自賠法 第3条(自動車損害賠償責任) 
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
  判断 ●  ●自賠法3条の「他人」
  最高裁判例に依拠し、自賠法3条の「他人」とは、運行供用者及び運転者以外の者であるとし(最高裁昭和47.5.30)、自動車の所有者は、第三者に運転をゆだねている場合であっても、事故防止につき中心的な責任を負う者として、運転につき具体的に指示する等運行支配が可能⇒特段の事情のない限り「他人」にあたらない(最高裁昭和57.・11.26)。
Aは長時間にわたり飲酒していたが、一定の判断能力あり⇒特段の事情も認められない。
●  ●過失相殺 
Aは、Yも飲酒していることを認識しており、事故防止に中心的責任を負っていたにもかかわらず防止できなかった過失は相当に大きく、シートベルトを着用していれば死亡という重大な結果を回避できた可能性があるのに着用していなかった
⇒60%の過失相殺
●  ●逸失利益 
Xらの主張(介護職員に対する需要の高まり等)を踏まえてもAに収入増額の蓋然性があったとはいえない⇒事故発生前年のAの年収338万4286円を基礎収入とした。
  解説 先例として、運転者である客にビールを提供していたホステスが酔っていることを承知で同乗し事故にあったケースで、同乗を中止し、客に運転の中止を忠告すべきことを怠った⇒50%の過失相殺をしたもの(最高裁昭和52.9.22)。 
将来の賃金上昇を考慮するものには、口頭弁論終結時の最新の賃金センサスに民間主要企業賃金上昇率を加味した例(東京高裁昭和53.11.21)があるが、統計資料による裏付けもない本件では、上昇の蓋然性がないとして否定。
現実の収入が賃金センサス平均年収より低い場合に、この平均年収を基礎収入とした例もあるが、それは被害者が若い就労者で、平均年収によって算定することになる同年代の未就労者と不均衡を生じると認められるような場合。
被害者が中学卒の17歳であり、将来の賃金上昇が当然に見込まれるとして、男子中学卒と高校卒平均賃金を加算して二分した額によるべきとした例がある(東京地裁昭和61.11.27)。
  商事p91
札幌高裁H27.9.29  
  車両に傷をつけられたことを理由とする車両保険金請求事件⇒保険金請求者は、損傷が人為的にされたものであることのほか、損傷が被保険者以外の第三者によって行われたという事実を主張立証する責任を負う。
  争点 保険金請求者が、車両に傷が付けられたことが保険事故に該当するとして、車両保険を請求する場合、
①保険金請求者が「損傷が被保険者以外の第三者によって行われたこと」の主張立証責任を負うか否か、
②負うとして、本件においては、上記の損傷が被保険者であるX以外の第三者によって付けられたと認められるか否か
  原審 ●争点①について 
車両に傷が付けられたことが保険事故に該当するとして車両保険金を請求する場合、事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることを主張立証すべき責任を負わないが、上記主張立証責任の分配によっても、保険金請求者は「車両に傷をつけられた」という保険事故の外形的事実、すなわち「損傷が人為的になされたものであること」及び「損傷が被保険者以外の第三者によって行われたこと」という事実を主張立証する責任を免れない。
  争点②について 
①Xが車両に損傷が発生したと主張するイオンモールの駐車場は、当時薄暗かった可能性があり、また利用客はさほど多くはなかったものと推認される。
②車両の損傷状況からすると、金属の突起物があれば1人の人物が数分程度でつけることが可能。
③Xは、借金があったが、定職に就いており、安定した生活を失うリスクを冒してまで、わずかな保険金を得るために保険金詐欺を企図するとは考えにくい。

本件の損傷が第三者によって付けられた蓋然性を充分認めることができる。
  判断  争点②について:
①損傷が生じたのは、Xが主張するイオンモールの駐車場においてか、その後自宅車庫内においてかのどちらかであるとみるべきところ、イオンモールのXが駐車させたという駐車場所は、イオンモールの入り口からの見通しを妨げるものがないところであることや、車両の外装部全周に傷を付けるためには、通路にも出て行かなければならないこと等を考えると、第三者がこのような場所に駐車している車両に、通路を通って損傷を付けようとすることは考え難い。
②自宅車庫で第三者により損傷が付けられた可能性も否定される。
③Xの車両損傷の発生場所及び覚知時期についての供述が不自然、不合理に変遷している。

本件損傷が第三者によるものであると認めることはできず、「偶然な事故」が発生したとは認められない。
  解説 本件車両保険に適用される家庭用総合自動車保険約款:
①「衝突、接触・・・・その他偶然な事故」によって被保険車両に生じた損害に対し、被保険者に保険金を支払う旨の条項(3条1項)と
②保険会社は、保険契約者、被保険者又は保険金を受け取るべき者の故意又は重過失によって生じた損害に対しては、保険金を支払わない(4条1項)という規定。 
●「偶然の事故」
保険法施行前の商法下の裁判例であるが、
最高裁H18.6.1(最高裁①判決):「衝突、接触・・・その他偶然な事故」を保険事故とする自家用自動車総合保険契約の約款に基づき、車両の水没が保険事故に該当するとして、保険者に対して車両保険金の支払を請求する者は、事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張、立証すべき責任を負わない。

①商法629条が損害保険契約の保険事故を「偶然なる一定の事故」と規定したのは、損害保険契約は保険契約成立時においては発生するかどうか不確定な事故によって損害が生じた場合にその損害をてん補することを約束するものであり、保険契約成立時において保険事故が発生すること又は発生しないことが確定している場合には、保険契約が成立しないということを明らかにしたものと解すべき
②同法641条は、保険契約者又は被保険者の悪意又は重過失によって生じた損害については、保険者はこれをてん補する責任を有しない旨規定しているが、これは、保険事故の偶然性について規定したものではなく、保険契約者又は被保険者が故意又は重過失によって保険事故を発生させたことを保険金請求権の発生を妨げる免責事由として規定したものと解される
③本件条項は・・・保険契約成立時に発生するかどうか不確定な事故をすべて保険事故とすることを分かりやすく例示して明らかにしたもので、商法629条にいう「偶然なる一定の事故」を本件保険契約に即して規定したもの
車両の前後及び両側面にひっかき傷が付けられたという事案につき、最高裁H18.6.6(最高裁②判決)は、商法及び約款につき最高裁①判決と同様の解釈論を展開したうえで、「車両の表面に傷が付けられたことが保険事故に該当するとして、車両保険金の支払を請求する者は、事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張、立証すべき責任を負わない。」と判示。
車両が盗難にあったとされる事案についての最高裁H19.4.17(「最高裁③判決」)は、商法及び保険約款の解釈について、最高裁①②と同様の解釈をした上、一般に盗難とは、「占有者の意に反する第三者による財物の占有の移転である」が、「被保険自動車の盗難という保険事故が保険契約者、被保険者等の意思に基づいて発生したことは・・・保険者において免責事由として主張、立証すべき事項である」から、被保険自動車の盗難という本件事故が発生したとして車両保険金の支払を請求する者は、「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という外形的な事実を主張、立証すれば足り、被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張、立証すべき責任を負わない

請求者は、自然な経過でけでは発生しない客観的、外形的な事故が発生したということを主張、立証すべきであるが、事故が故意によらないという主観的な事実まで主張、立証する必要はないとする保険者負担説(外形的事故説)
but
盗難というのは、占有者の意に反する第三者による財物の移転

①客観的外形的な事実の側面と
②被保険者の意思に基づかないという主観的な側面
とを切り分ける必要。
最高裁③判決と最高裁H19.4.23:
「占有者の意に反する第三者による財物の移転」のうち保険請求者が主張立証すべき客観的外形的な事実は
①「被保険者の占有に係る被保険自動車が保険金請求者の主張する所有場所に置かれていたこと」及び
②「被保険者以外の者がその場所から被保険自動車を持ち去ったこと」
という事実。
保険法が平成20年6月6日に公布され、平成22年4月1日から施行。
これらの最判が示した考え方は、現行の保険法下においても、当てはまる。
  東京高裁H21.11.25:
車両にひっかき傷が付けられた事案につき、「いたずら事故」という概念を立て、いたずら事故の主張立証責任を検討するとして、
・・・本件保険契約においては、被保険自動車のいたずらによる損傷という保険事故が保険契約者又は被保険者の意思に基づいて発生したことは、保険者が免責事由として主張、立証すべき事項⇒被保険自動車のいたずらによる損傷という保険事故が発生したとして保険金の支払を請求する者は、被保険自動車への損傷行為が被保険者の意思に基づかないものであることを主張、立証すべき責任を負うものではない。
but
上記主張立証責任の分配によっても、保険金請求者は、「被保険者以外の者がいたずらをして被保険自動車を損傷したこと」といういたずらによる損傷の外形的な事実を主張、立証する責任を負うものというべき。
いたずらによる損傷という保険事故の外形的事実としては
①「損傷が人為的にされたものであること」及び
②「損傷が被保険者以外の第三者によって行われたこと」
という事実から構成される。

「所有者の意思に反する」と「第三者による車両への損傷行為」とを切り分けて、後者については請求者が主張、立証すべきとしたもの。
  人為的事故であることが明らかな事案においては、モラルリスク防止の観点から保険金請求者のハードルが高くなるのもやむを得ないという実務感覚?
  労働p102
東京高裁H27.11.11  
  数次請負契約が偽装請負にあたり違法かが争われた事例
  事案 Y1と雇用契約を締結していたXが、Y1社とM社及びM社とY2社との間の各業務委託契約に基づきY2社に派遣されていた
⇒Xが、本件雇用契約及び本件各業務委託契約がいわゆる偽装請負に該当し、公序良俗違反で無効であるから、XとY2社との間に黙示の雇用契約が成立しているとして、Y2社との雇用契約上の地位確認等を求めた。
  規定 職業安定法 第4条(定義)
⑥この法律において「労働者供給」とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号。以下「労働者派遣法」という。)第二条第一号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする。
  職業安定法 第44条(労働者供給事業の禁止)
何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。
労基法 第6条(中間搾取の排除)
何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。
  原審 Y2社がその事業所内においてXに直接具体的な指揮命令をして作業を行わせており、本件各業務委託契約を請負契約と評価することはできず、M社は自己が雇用していないXを業としてY2社に派遣していたことになる

4社(Y2社、M社、Y1社、X)間の関係は、職安法4条6項にいう労働者供給を業として行うものとして、職安法44条に違反する。
また、Xの就業に介入して利益を得るもので労基法6条(中間搾取の禁止)違反に該当。
but
職安法44条及び労基法6条の趣旨並びにその取締法規として性質、さらには労働者を保護する必要性等に鑑みれば、職安法44条及び労基法6条に違反する行為が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによって本件雇用契約が無効となることはない。
⇒Xの請求棄却。
  判断 ①製造条件が完全に標準化されていない作業や、目視による微細な品質判定が要求される「コア業務」にY2の従業員が従事する一方で、M社やY1社の従業員はコア業務以外の業務(製造付業務)を担当しており、Xの担当工程は逐一指示を要しないパンプ後工程である貫通工程等であった。
②Y1社の従業員の勤怠管理はもっぱら同社が行っており、同社は現場管理者、工程リーダーおよびシフトリーダーを配置し、独自にスキル評価を実施したり教育を行ったりして、班編成に意見を反映させ、配置展開を行うなど、基本的な労務管理を行っていた。
③本件工事のバンプ工程で使用する設備や機材は、大日本印刷またはY2社が所有するものであり、作業着やネームプレートについてはY1社の指定したものがあり、Y1社の従業員が使用するクリーンルームや前室やエアシャワーゾーンについても、基本的にY2社の従業員が使用するものと区別されていた等

本Y1社が自らその従業員への指揮命令を行っているものであり、Y2社がXを含むY1社の従業員に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせている場合に当たらない。

XとY1社との間で本件雇用契約が有効に成立しており、本件各業務委託契約が偽装請負契約には該当しない。
  解説 請負契約において、請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、請負人と注文者との間において請負契約という法形式がとられていたとしても 、これを請負契約と評価することはできず(最高裁H21.12.18)、偽装請負と評価される。
but
労働者派遣法に違反する派遣が行われた場合について、労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等に鑑みれば、仮に労働者派遣法に否する労働者派遣が行われた場合においても、「特段の事情」が存しない限り、そのことだけでは派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効となることはない。
尚、「特段の事情」に該当するとして、黙示の労働契約の成立が認められたもの(マツダ事件、山口地裁H25.3.13)。
この場合
A:職安法44条の禁止する労働者供給契約
vs.
労働者供給には労働者派遣法2条1号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないと定める職安法4条6項⇒偽装請負が職安法4条6項にいう労働者供給に該当すると解することは困難。
●  偽装請負の成立が否定された事案として日産自動車ほか事件(東京地裁H27.8.18)
  刑事p134
大阪地裁H27.1.27(①)
同H27.6.5(②)
  ①事件:GPS発信器による動静捜査は強制処分には当たらない⇒同捜査によって得られた証拠能力も肯定
②事件:GPS発信器による動静捜査は対象者のプライバシー等を侵害する強制処分に当たると認めた上、検証の性質を有する。
検証の許可状によらずに行った同捜査を違法とし、同捜査によって得られた証拠及びこれを密接に関連する証拠の証拠能力を否定。
②事件:数か月間にわたって被告人らを追尾監視し、ビデオ撮影した捜査を任意捜査として適法。
but
共犯者方郵便受けの投函口の隙間から内部の郵便物を撮影したことはプライバシーを侵害する捜査又は検証の性質を有する強制処分に該当。
⇒無令状で行った行為は違法。
   
解説 ●GPS捜査の強制処分該当性
強制処分と任意処分の区別に関する指導的判例とされる最高裁昭和51.3.16:
①個人の意思の制圧と②身体、住居、財産等の制約を強制処分の要件としている。
①については、現実の意思制圧がなくても、合理的に推認される当事者の意思に反することは同価値であると解する見解が有力。
犯罪関連の情報を秘密裡に取得する捜査は、対象者の合理的に推認される意思に反する場合が少なくない⇒専ら②の権利利益の侵害の有無・程度によって決せられる。
各決定では、権利利益の侵害として、
①対象車両使用者の位置情報取得による同使用者のプライバシー侵害と
②GPS発信器取付けのために私有地等に無断で立ち入る場合の管理権侵害が問題。
①事件:
本件GPS捜査の具体的な実施状況に着目し、捜査官が尾行の補助手段として接続時に限って位置情報を取得し利用していたことや、制度が低い場合もあること⇒プライバシー侵害の程度は大きいものではないとして強制処分性を否定。
②事件:
本件GPS捜査の精度をより高く評価した上で、私有地等プライバシー保護の合理的期待が高い空間に所在する場合の位置情報が取得できる特質を重視して、同捜査が内在的かつ必然的ンプライバシーを大きく侵害すると評価したほか、管理権侵害の可能性にも言及して、強制処分性を肯定
括弧書きで、「なお、本件GPS捜査によって得られた位置情報が、公道上に存在する対象車両使用者に関するもののみであっても、本件GPS捜査に係る前記の特質に照らせば、この結論が左右されるものではない。」と説示

仮に、本件でラブホテル駐車場内の位置情報の取得や同所への捜査官の立入りがなかったとしても、GPS捜査一般に内在するプライバシー侵害の大きさを理由として強制処分性を認める趣旨
●情報取得型走査に関する最高裁判例
電話傍受に関する最高裁H11.12.16や宅配便荷物に対するエックス線検査に関する最高裁H21.9.28は、いずれも意思制圧の要件に格別言及することなく、権利利益(プライバシー)の侵害を理由に強制処分性を肯定
防犯ビデオ映像の人物と同一性識別のために、公道上及びパチンコ店内にいる被疑者をビデオ撮影した捜査を任意捜査として適法とした最高裁H20.4.15.
●GPS捜査に関する学説: 
A:公道上や不特定多数が出入りできる領域につき、尾行監視と同質である⇒任意処分とする見解
B:一定の厳格な要件の下で任意捜査として許容
C:強制処分とする見解

プライバシー保護について公共空間と私的空間を分ける公私二元論を批判し、かつ尾行等との異質性を理由に、公道上を含め、GPS捜査を強制処分とする。
任意捜査として秘密裡に行われる場合、公共空間の位置情報取得に限るつもりであっても、私的空間に係る位置情報が取得されることは避けられない。
●検証許可状による規制の当否: 
②事件決定は、GPS捜査は検証の性質を有し、検証許可状を要する。
通信技術を用いた情報取得捜査としては、①捜査対象者の携帯電話端末が発する微弱電波を受信した基地局の位置から端末の位置を推知する方法、②携帯電話端末のGPS機能を利用した端末の位置情報を探知する方法が、検証許可状によって行われている。
2287   
  行政p28
最高裁H27.11.6   
地方税法11条の8にいう「滞納者の地方団体の徴収金につき滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合」の意義
  事案 株式会社Aが、東京都知事から株式会社Bを滞納者とする都税に係る徴収金について地方税法11条の8の規定による第二次納税義務の納付告知を受けた⇒A社を吸収合併したXが、Yを相手に、その取消しを認めた事案。
  解説 第二次納税義務:
納税義務者が租税を滞納した場合において、その財産について滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合に、納税義務者と一定の関係を有する者が納税義務者に代わって租税を納付する義務をいい、
国税及び地方税について、ほぼ同様の規定が設けられている(国税徴収法32条以下、地方税法11条以下)。 
地方税法11条の8は、無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務について定めているところ、本件では、本件納付告知が同条にいう「滞納者の地方団体の徴収金につき滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合」との要件(「徴収不足要件」)を満たすものであるかが争われた。
  判断 徴収不足要件の意義について、第二次納税義務に係る納税告知時の現況において、本来の納税義務者の財産で滞納処分(交付要求及び参加差押えを含む。)により徴収することのできるものの価額が、同人に対する地方公共団体の徴収金の総額に満たないと客観的に認められる場合をいう。 
①B社が破産手続j開始の決定を受け、本件納付告知の当時、B社の財産が破産管財人の管理下に置かれていたこと
②本件納付告知の前後の時期にB社が有していた財産の額がいずれも本件納付告知の時点における本件徴収金の額を大幅に上回るものであったことなど、本件の事実関係の下では、本件納付告知が徴収不足要件を満たしていたとはいえない。
  解説  現行法が定める第二次納税義務には様々な態様があるが、いずれの場合も、本来の納税義務者が租税を滞納し、その財産につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められることが、第二次納税義務の成立要件とされており、地方税法11条の8は、「滞納者の地方団体の徴収金につき滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合」と定めている。
要件の判断基準時:
①第二次納税義務の補充性(滞納処分により本来の納税義務者の財産から徴収できる金額が徴収すべき滞納税額に足りない場合に限って第二次納税義務者から徴収を図ろうとするものであること)
②徴収不足要件の「不足すると認められる場合」という文言
③同族会社の第二次納税義務の要件等に関する規定の内容

徴収不足要件の判断基準時は第二次納税義務者に対する納付告知の時点であると解されている。
徴収不足要件については、必ずしも本来の納税義務者の財産について現実に滞納処分を執行した結果に基づく必要はない(最高裁昭和47.5.25)。
  抗告訴訟における違法判断緒基準時と裁判所が処分の適否を判断する際にいかなる資料を用い得るかの問題と同様、徴収不足要件の認定に当たっては、民事訴訟の一般原則に従い、裁判所は口頭弁論終結時までの全ての資料をしんしゃくすることができ、納付告知後の事実であっても納付告知時の事情を推認する価値のあるものは間接事実として判断の資料とすることが許され、課税庁がした第二次納付義務者に対する納付告知が事後的・客観的にみて徴収不足要件を欠くものであったと認められる場合には、上記納付告知は違法なものとして取り消されるべきものと解される。 
  行政p32
福島地裁H27.6.23  
  ①収賄罪の共謀共同正犯として懲役刑に処する有罪判決確定⇒元知事に対して退職手当の返納を求める請求(適法)
②収賄罪の共謀共同正犯として懲役刑に処する有罪判決確定⇒元知事に対する退職手当の返納命令(適法)
  事案 処分行政庁である福島県知事がXに対して、第三期分及び第四期分に係る支給済みの退職手当の返納を命じる処分(本件各処分)⇒Xが本件各処分の取消しを求め(②事件)
YがXに対し支給済みの退職手当の返還を求めた(①事件)
  本件退職手当返納規定:
退職した職員であったものが「基礎在職期間中の行為に係る刑事事件に関し禁固以上の刑に処せられたとき」は、退職手当等の額の全額を返納させることができる旨規定。 
  争点 ②事件において、本件各処分に違法性があるか
①事件において、本件各処分に重大明白な瑕疵があり無効といえるか
  判断 本件各処分には違法性がなく、重大明白な瑕疵も認められない。 
Xの主張:収賄被告事件が冤罪であるから本件各処分は違法と主張
but
本判決:
本件退職手当返納規定に関して、その趣旨を踏まえ、刑事事件において禁固以上の刑に処する旨の有罪判決が言い渡され、これが確定したことそのものを要件とし、返納命令を発する処分行政庁において、あらためて非違行為の存否を判断することが要件とはされていないとして、Xの主張を排斥。
Xの主張:Xは実行行為を分担しておらず、その弟の実行行為は第四期に行われていること、Xとその弟の間で共謀が成立したのも第四期であるから、Xの第三期に係る「基礎在職期間中の行為に係る刑事事件」に該当しない。
but
本判決:
「基礎在職期間中の行為に係る刑事事件に関し」との要件について、退職した職員に対する刑事事件の判決のいて摘示された「罪となるべき事実」に掲げられた犯罪の構成要件に該当する行為が、同職員の基礎在職期間中に行われていること指すものとする。
収賄被告事件の確定した高裁判決のの認定を詳細に検討し、同判決において「罪となるべき事実」として適示されたXとXの弟の共謀とは、第三期から第四期にかけて行われた行為を指しており、罪となるべき事実に掲げられたXの構成要件に該当する行為が、第三期に係る基礎在職期間中に行われている。

処分行政庁が、第三期分の退職手当についても返納命令を発したことに違法性がない。
  民事p45
東京高裁H27.6.29
  幼稚園内で園児が虐待されたとする週刊誌記事について名誉毀損が問われた事案 
  一審 Xらの名誉が毀損され、その内容が真実であるとも、Yがその内容が真実であると信ずるにつき相当な理由があったとも認められない。

名誉毀損肯定
⇒X1に対し386万9550円を、X2に対し165万円を認めた。
  争点 事実の重要な部分について真実であるとの証明があったか否か。 
  判断 真実性の証明につき、本件園児の話を聞いた父及び目撃園児の話を聞いた母の供述は、伝聞過程を経た証拠であって、本件園児や目撃園児が話したとされる供述の信用性を検討するに当たっては、伝聞の過程で原供述との齟齬・乖離が生じた可能性も念頭に置く必要がある。
本件園児の傷の位置から自傷によるものではなく、加害行為によるものである蓋然性が高い⇒信用性を疑う事情はない。
両親が関与した加害行為を疑わせる事情もなく、両親によるねつ造であるとも考えられない。
⇒本件園児及び目撃園児の話したことの信用性は高い。
これに対し、X2やX1理事長の供述の信用性は低い。

事実の重要な部分は、いずれも真実である高度の蓋然性がある。
  解説 民事上の名誉毀損については、公益目的が認められ、摘示された事実がその重要な部分において真実であるとことの証明があれば、違法性がなく不法行為が成立しない(最高裁昭和41.6.23)。
事実が真実であることの証明がないときにも、事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば故意又は過失が否定され、結果として不法行為は成立しない(最高裁H9.9.9)。
真実性の証明は、主要な部分又は重要な部分について真実性が証明されれば足り(最高裁昭和58.10.20)、事実審の口頭弁論終結時における客観的な判断によって決せられる(最高裁H14.1.29)。 
民事訴訟における伝聞証拠の扱いは、裁判官の自由心証の問題であり、伝聞証拠であることを理由に証拠能力が否定されるわけではない(最高裁昭和27.12.5)。
but
伝聞供述を直ちに信用することは、事実認定を誤る恐れがあるから、慎重に検討する必要がある。
被害者の直接の供述がなく、伝聞によって被害事実を認定するには、その伝聞事実を述べる者について相当程度の信用性を必要とし、供述者に対する反対尋問のテストをしなくとも真実性を担保できる事情が必要である(大阪高裁H21.5.15)。
  民事p57
高松高裁H28.1.15  
  落雷に伴い生じた瞬間電圧低下により電子機器に損傷を生じた⇒店舗総合本件普通約款にいう「落雷によって生じた損害」には当たらないとして、保険金請求棄却。
  事案 落雷⇒事務所内でのパソコンのネットワークに接続されたハードディスクが損傷⇒代替のハードディスク購入代金、データ復旧費用、データの再作成のために必要となった給与等の損害が生じた⇒保険契約に基づき、損害相当額である335万1000円の保険金支払を求めた。
  本件契約に適用される店舗総合保険普通約款
「当会社は、次のいずれかに該当する事故によって保険の対象について生じた損害に対して、この約款に従い、損害保険金を支払います。」
上記事故の1つとして「落雷」が挙げられている。 
  原審 本件約款が保険金を支払うべき場合と定める落雷によって保険目的物に損害が生じた場合とは、落雷によるエネルギーを直接受けて保険の目的物が損壊されて損害を生じた場合に限定されていると解することはできない。 
落雷、瞬低、本件損傷との間には順次相当因果関係が認められる⇒落雷によって本件損傷が生じたものと認め、Xの請求を一部認容。
  判断 本件約款にいう落雷によって保険目的物に損害を生じたい場合とは、直撃を受けたり引込線を通じたりすることで落雷の異常高電圧電流によって保険目的物が損傷した場合をいうと解されるが、本件損傷は、これには当たらない。
  解説 保険約款の解釈は、その性質上、一般的な保険契約者の合理的な理解可能性を基準とした客観的・合理的なものであることが必要であるとされている。 
約款の文言の意義については、当事者の意思の探究に重きを置いた解釈がされる場合と、文言の客観的意味を重視した解釈がされる場合がある。
約款の文言が多義的であったり不明確である場合には、衡平の見地から作成者である保険者に不利に解釈されるべきとの準則(作成者不利の原則)が取られていることや、判例においては、字義通りとする保険契約者側に一方的に不利になりうる条項については、解釈を通じて不当性を除去してきた。
火災による爆発によって損害が生じた場合にその損害が火災と相当因果関係を有する限り保険者に保険金支払い義務がある旨を判示した大判昭和2.5.31。
  民事p65
東京地裁H27.8.10  
  クレジットカード会員規約中の免責条項を適用し、会員を免責した事例。
  事案 X(クレジット会社)が、会員であるYに対し、当該クレジットカードの利用に係る立替金の支払を請求
⇒YがXによる請求金額中には不正使用に係る部分が含まれていることなどを主張して争った。
  争点 ①当該クレジットカードをYが利用したと認められるか
②Yによる当該クレジットカードの利用があったといえるとして、これについてクレジットカード会員規約中の免責条項が適用されるか否か 
  判断・解説   ● ●クレジットカードの不正利用があったか否かが争われる事案において、クレジットカード利用に係る立替金請求における要件事実の構造
①クレジットカード会社がクレジットカード契約に基づきカードを会員に貸与したこと
②当該カードが加盟店において利用されたこと
③これについての立替払が行われたこと
が請求原因となり、
当該カードが紛失または盗難にあったなどとの不正利用に係る事情は、抗弁に回るものと解されている。
but
そのような主張立証責任の分配は、当該事案・契約における免責条項等の内容を踏まえて解釈されている
⇒クレジットカードの不正利用が主張される事案一般において、当然に上記の主張立証責任の分配が妥当することができるものではない。
判断:
①会員が自らの意思で第三者に占有を移転したカードが使用された場合は会員本人の責任とし、盗難、詐取、横領又は紛失に係るカードが第三者により不正使用された場合においても原則としては会員本人の責任。
②一定要件のもとで会員の損害を填補することにより実質的に免責するとしている規約の構造や、その背景にあると考えられる諸事情

Yの指摘する規約の文言を考慮しても、多くの裁判例が採用する主張立証責任の構造は、本件事案においても採用されるべき。
「カードの利用」とは提示及び売上票への署名等の行為が外形的に行われていれば足り、これを行った主体が第三者であることや、その際に支払意思を伴っていたか否かなどの点は、抗弁における不正利用の要素として判断すべき。

Yは一旦は支払意思をもってカードを提示したものの過大請求を受けてこれを取り戻した、しかし取戻し以前に決済手続は行われていたを前提として「利用」があったと認めたもの。
  本判決:
本件規約が免責の対象とする不正使用の形態を「盗難、詐取、横領」に限定する趣旨であったとは考え難く、会員の正当な意思によることなく占有が移転されるなどしたカードが不正使用された場合についても適用される。
⇒本件事実関係がそのような場合にも当たる。 
  民事p71
東京地裁H27.9.3  
  管理組合と調停成立で工事施工⇒販売業者・施工業者の区分所有者らに対する共同不法行為(否定)
  事案 マンションを購入した区分所有者らがマンションの瑕疵につき販売業者、施工業者に対して共同不法行為責任を追及した事案。 
  争点 ①共同不法行為の成否(本件瑕疵の治癒の成否、損害の回復等)
②二重起訴の有無
③消滅時効の成否等
  判断 本件瑕疵の概要、調査の経緯、調停の内容、補修工事等の経緯等の事実を認定した上、耐震偽装問題に社会的関心が高まる中、本件マンションに構造上の安全性に疑念を抱かせるような本件瑕疵が存在した
but
①Y1らが本件瑕疵のすべての補修工事を完了したこと
②本件マンションの交換価値の下落分を算定する信頼できる資料がないこと
③Y1らの負担でかなり大がかりなヴァージョンアップ工事が行われ、本件マンションに新たな価値が付加されたこと
④管理組合とY1らとの間の調停には清算条項が存在すること等

Xらの損害が既に填補されたものとし、Y1らの不法行為の成立を否定し、請求を棄却。
  解説 マンション等の住宅の安全性に関する施工業者らの不法行為責任については、最高裁H19.7.6、同H23.7.21が、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵を基本的な要件とする判例理論を展開。
本判決は、区分所有者らの損害の填補を認め、マンションの販売業者、施工業者の不法行為責任を否定したもの。
  民事p78
大阪地裁H26.10.21   
  一般産婦人科病院の当直医師の、超低出生体重児に対する、気管挿管の上で陽圧人口換気をすべき義務(否定)
  事案  超低出生体重児に対して適切な措置を施すべく、新生児専門医の待機や来院を要請すべき注意義務があるのにこれを怠り、適切な蘇生措置が遅れた結果、X1が低酸素性虚血性脳症による脳性麻痺になった。

Yに対し、診療契約上の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求した事案 
  争点 ①A医師がZ病院の新生児専門医の来院を要請する義務を尽くしたといえるか
②A医師にはX1に対して気管挿管 をして陽圧換気をすべき義務があったか
  判断 ●新生児専門医の来院を要請する義務について 
A医師が、12月8日午後11時5分頃のX3の来院後、速やかに診察をし、分娩が切迫していることを確認した上で、同日午後11時15分k路、Z病院に新生児専門員の来院要請をしている

X3らのY病院への電話連絡の内容等に照らしても、A医師が同日午後11時15分より前に、Z病院の新生児専門医の来院を要請する義務はないとして、Xらの主張を排斥。
  ●気管挿管をした上で陽圧人工換気をすべき義務について
A医師が既に新生児専門医の来院要請をし、間もなく新生児専門医の来院が見込まれる状況にあったとの事実関係の下で、超低出生体重児に対する気管挿管は熟練が必要であり、不慣れな者が行った場合には気管を損傷するなどのリスクがあった
⇒A医師には気管挿管をした上で陽圧人工換気をすべき義務はなかった。
  民事p87
津地裁四日市支部H27.10.28  
  事故により死亡した者の遺影を撮影し報道した行為の適法性
  事案 母が、情報プライバシー権として本件(子どもの)遺影を公表されない自由及び、静穏に個人を悼む利益や敬愛追慕の情を侵害するものとして、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案。 
  判断 本件遺影は原告の子を撮影したものであり、原告のプライバシー権として本件遺影を公表されない自由があるということはできない。
静穏に故人を悼む利益や敬愛追慕の情についても、本件報道は社会的関心の高い事故に対するもので、遺影の報道が不必要とか不当な目的によるものであるとは言えず、また撮影は遺族の同意を得ずに塀越しに撮影したものであるが、遺族の側も明確な拒絶の意思を表示しておらず、撮影及び報道により社会的受忍限度を超えて、原告の静穏に個人を悼む利益や敬愛追慕の情を侵害したとは言えない。
  解説 判例においては、死者の人格権ないし人格的利益を抽象的には認めながら、実際上はこれを否定あるいは扶養とし、遺族の名誉や敬愛追慕の情等の問題として扱っている。 
エイズに罹患し死亡した女性の遺影を無断で撮影し、写真と共にこの女性が売春をしていた旨の記事を掲載した事件においては、「死者の人格権はこれを認めることができない」とし、遺族の人格権侵害の問題として扱い、個人に対する敬愛追慕の情の侵害を認めた。(大阪地裁H1.12.27)
本件は、情報プライバシー権を主張。
しかし、この概念は情報の公開のみならず、収集・保管・利用といった段階でも能動的に「自己情報」をコントロールする権利を意図するもの。

死者自身の肖像権ないしプライバシー権として構成するほうが、本筋であった。
「静穏に故人を悼む利益」ないし「敬愛追慕の情」に関して:
自衛官合祀最高裁判決(最高裁昭和63.6.1):
「静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益なるものは、これを直ちに法的利益として認めることはできない。」 
靖国神社による戦没者の合祀についての大阪高裁H22.12.21:
敬愛追慕の情を基軸とする人格権について、本件については未だ法的な保護に値する権利・利益とまでは言えない。
他者の「信教の自由」が絡む合祀関係の上記判例と異なり、
「落日燃ゆ」事件では、
一審・控訴審とも抽象的次元では故人に対する遺族の敬愛追慕の情を人格的法益として認め、
西東三鬼が特高のスパイだったとする実力小説「密告」事件では、遺族の敬愛追慕の情の侵害による損害賠償と謝罪広告掲載を命じている。

「エイズ・プライバシー事件」では、死者に対する敬愛追慕の情の侵害による不法行為の成立を認めた。 (報道の公共性も公益性も、真実又は真実と信じる相当性も認められないといして違法性は阻却されなかった。)

「敬愛追慕の情」を人格的利益とし、具体的にその侵害があれば救済を認めるのが判例の基本的な流れ。
   
  知財p91
知財高裁H27.11.12  
   
  事案 発明の名称を「生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置」とする発明(「本件発明」)に係る特許権(「本件特許権」)を有するXが、
①被告装置(生海苔遺物分離除去機)並びにその部品である本件固定リング及び本件板状部材(以下、総称して「被告製品」という。)を製造、販売、輸出又は販売の申出をする行為は本件特許権を侵害する行為であると主張して、Yに対し、特許法100条1項に基づき、被告製品の製造、販売、輸出又は販売の申出の差止めを求め、同条2項に基づき被告製品の廃棄を求め、
②本件メンテナンス行為一(被告装置のいずれかに対して、本件固定リング又は本件板状部材を取り付ける行為)及び本件メンテナンス行為二(被告装置に対して、点検、整備、部品の交換、修理を行う行為(ただし、本件メンテナンス行為1を除く))も本件特許権を侵害する行為であると主張して、Yに対し、特許法100条1項又は2項に基づき、本件各メンテナンス行為の差止めを求めるとともに、
③特許権侵害の不法行為による損害賠償請求権の又は無償実施による不当利得返還請求権に基づき、2億3000万円(一部請求)の支払を求める事案。
  規定 特許法 第100条(差止請求権) 
特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 特許権者又は専用実施権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(物を生産する方法の特許発明にあつては、侵害の行為により生じた物を含む。第百二条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。
特許法 第2条(定義)
3 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
二 方法の発明にあつては、その方法の使用をする行為
三 物を生産する方法の発明にあつては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
特許法 第102条(損害の額の推定等)
3 特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
  判断 Xの請求を、
①被告装置の製造、販売、輸出又は販売の申出の差止め、本件固定リング及び本件板状部材の製造、販売又は販売の申出の差止め、被告製品の廃棄、
②本件メンテナンス行為1(ただし、部品の交換としての行為に限る。)の差止め、
③損害賠償又は不当利得金として7072万8115円及び遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却。
  解説  ●本件メンテナンス行為1 
被告装置に対して、効用を失った本件固定リング又は本件板状部材に交換する行為を前提にすると、このような行為に対して特許権を行使することができるか?

特許製品に加えられた加工行為や部品の交換行為については、再生産か修理かという議論
最高裁H19.11.8(インクタンク事件):
製品について加工や部材の交換をする行為であっても、その行為によって特許製品を新たに作り出すものと認められるときは、特許製品の生産(特許法2条3項1号)として、侵害行為に当たる。
当該加工等が特許製品の新たな製造に当たるとして特許権者がその特許製品について特許権を行使することが許されるといえるかどうかについては、当該製品の属性、特許発明の内容、加工及び部材の交換の態様のほか、取引の実情等も総合考慮して判断すべき。
本判決:
上記最高裁の判断基準の下、「表面側の突出部」、「側面側の突出部」を失った被告装置について、新しい本件固定リング及び/又は本件板状部材を交換することにより、新たに「表面側の突出部」、「側面側の突出部」を設ける行為は、本件各発明の「共回り防止装置」を新たに作り出す行為
⇒特許法2条3項1号の「生産」に該当するとして、その差止めを認容。
もっとも、Xの請求が、「被告装置に対して、本件固定リング又は本件板状部材を取り付ける行為」の差止めを求めるもの
⇒そのうち、「部品の交換としての行為に限る」とした。

それ以外の取付け行為、すなわち、単に点検等の目的で本件固定リング等を取り外し、点検後にそのまま取り付けるような行為は、特許法3条2項所定の実施行為のいずれにも当たらず、侵害の予防に必要な行為にも当たらない。
  ●本件メンテナンス行為2 
特許法100条2項の「侵害の予防に必要な行為」は、同項が、特許権者が差止請求権を行使するに際し請求することができる侵害の予防に必要な行為として、侵害の行為を組成した物の廃棄と侵害の行為に供した設備の除去を例示

特許発明の内容、現に行われ又は将来行われるおそれがある侵害行為の態様及び特許権者が行為する差止請求件の具体的内容等に照らし、差止請求権の行使を実行あらしめるものであって、かつ、それが差止請求権の実現のために必要な範囲内のものであることを要する(最高裁H11.7.16)。

差止めの実効性と必要性の総合考慮による。
本判決:
本件固定リングと回転円板とで形成された環状隙間による遺物分離除去機能が維持、発揮されることは、先行技術による効果であって、本件各発明の実施により奏する効果であるとはいえない
⇒これらの行為をおよそ差し止めるというのは、差止請求権の実現のために必要な範囲を超える過大な請求であって許されない。
  ●特許法102条3項について
「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額」についても、「原則として、侵害品(直接侵害品又は間接侵害品)の売上高を基準とし、そこに、当該特許発明自体の価値や当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献などを斟酌して相当とされる実施料率を乗じて算定する」ことを明言し、
不当利得返還請求についても、特許法102条3項の「受けるべき金銭の額に相当する額」が、不当利得(民法703条)における受益者の利得の額に相当し、かつ、権利者の損失の額に相当することを判断。
被告装置についての「受けるべき金銭の額」は寄与度等を考慮して3%、間接侵害品である本件固定リング等については10%とした。
  労働p118
東京高裁H27.10.7  
  不適切言動等を理由とする医師の解雇(有効)未払割増賃金の供託⇒付加金支払の支払義務もなくなった。
  争点 ①Xに対する解雇の効力(解雇権濫用の成否)。
②未払割増賃金の有無
  一審 ●争点①について 
解雇権濫用及び不法行為の成立を否定⇒Xの請求を全て棄却。
  ●争点②について 
Xが行った時間外労働のうちX・Y間の雇用契約の一部となっているYの医師時間外勤務給与規程(「本件時間外規程」)において時間外手当の対象外とされている時間の労働に対する割増賃金については、これをXの年俸制賃金の中に含めて支払う旨の合意がX・Y間で有効に成立しているとして、当該部分について未払割増賃金の存在を否定し、
①当該合意の対象に含まれていないと認めた深夜労働及び月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金及び
②算定方法が一部不適切であったために既払いの割増賃金の額が過少であったと認めた分の限度で、Xの未払割増賃金請求を認容。
また、②については同額の付加金の支払を命ずることが相当であるとした。
  判断  一審判決を肯定。 
Yが未払割増賃金及び遅延損害金を供託⇒未払割増賃金は消滅し、これによって付加金の請求も認められなくなった。
⇒Xの請求を全て棄却。
  解説 ●割増賃金の定額払いが労基法上許容されるか?
①労基法所定の方法で計算した額を下回らない額が割増賃金として支払われていること
②この点の判断が可能となるように、通常の労働時間に対する賃金と割増賃金が判別可能であること
を要する。(菅野等通説)
通常の労働時間に対する賃金と割増賃金との判別可能性を欠く場合には割増賃金の支払いがあったとは認められない(最高裁)。
本判決:
以上の学説・判例と異なり、通常の労働時間の賃金と割増賃金との判別可能性を欠く場合において、割増賃金(の一部)を年棒制賃金の中に含めて支払うことが許容されるという珍しい判断。
  割増賃金・遅延損害金にかかる債務の弁済により、第一審判決で命じられていた付加金の支払義務が消滅した旨の判断(最高裁H26.3.6)
本件同様控訴審段階で供託がなされた事案(札幌高裁H24.2.16)
  刑事p137
岐阜地裁H27.10.9
成年後見人として活動した弁護士に対する家事審判官による権限行使が公務員職権乱用罪に該当するか(否定)
  規定 刑法 第193条(公務員職権濫用) 
公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、二年以下の懲役又は禁錮に処する。
  争点 Yの発言によってXに「義務のないことを行わせた」(刑法193条)といえるか。 
  判断   公務員職権濫用罪の成立を否定し、本件請求を棄却。 
  ①人に「義務をないことを行わせた」というためには、作為を強制するような場合でも、職権濫用行為の相手方の利益が実質的に害されたとみるべき程度の行為の存在を要するというべきであり、準備行為にとどまるような場合はこれに当たらない。
②本件において、最終的に支払うべき金額や支払時期等は未だ定まっていなかったということを踏まえると、Xが行ったのは支払準備としても暫定的な措置であったに過ぎず、実質的な負担ないし不利益を伴うものではない。
⇒その利益を実質的に害したとまではいえない。
 
Yがその職権濫用行為により、Xに「義務のないことを行わせ」たとは認められない。
  解説 ●公務員職権濫用罪の保護法益
第一次的:国家の作用の適正を保持し、その威信を保つこと。
第二次的:公務員の職権濫用行為の相手方である故人の自由、権利。
  ●「職権の濫用」 
最高裁H1.3.14:
「刑法193条の公務員職権濫用罪における「職権」とは、公務員の一般的権限のすべてをいうのではなく、そのうち、職権行使の相手方に対し法律上、事実上の負担ないし不利益を生ぜしめるに足りる特別の職務権限をいう」
  ●公務委員職権濫用罪の既遂時期 
公務員職権濫用罪は未遂犯処罰規定なし⇒既遂時期の判断は大きな意味。
公務員職権濫用罪の法的性質:
A:侵害犯
B:危険版
具体的事案において
「事実上の負担ないし不利益」(最高裁H1.3.14)が発生したか否かについても、その解釈には相当程度の幅があり得る。
本判決:
公務員職権濫用罪の既遂時期について、「職権濫用行為の相手方の利益が実質的に害されたとみるべき程度の行為の存在」を要求。

保護法益について、個人的法益にも力点を置く態度。
2286   
  行政p27
東京高裁H27.5.13 
   
  事案 Xは、本件ビデオテープの保管機関である裁判所職員及び公安総務課長の違法な職務行為によって本件紛失が生じ、精神的損害を被ったとして、Yら(国及び東京都)に対し、国賠法1条1項に基づき、各1000万円の支払を求めた。 
  解説 国賠法1条1項は、「国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を与えたとき」国又は公共団体に賠償責任を認めるもの(最高裁昭和60.11.21、最高裁H17.9.14)。

これらはいずれも国会議員の立法行為ないし立法不作為を問題としたものであるが、国賠法上の違法性の有無の基準については、判例は、「職務を尽くすべき注意義務」に反したことをもって違法と考える職務行為基準説を採用(最高裁H5.3.11)。 
  行政p40
名古屋高裁H27.11.12   
   
  事案 原告らが国を被告として行政事件訴訟法の定める実質的当事者訴訟として、土地家屋調査士の懲戒処分を行わないとの処分の違法確認を求めたもの。 
  一審 原告らと国との間に公法上の法律関係が存在せず確認の利益が認められないとして、訴えを却下。 
  判断 一審で明示的な主張がされていなかった本件決定の行政処分性について当事者双方に主張を尽くさせた上、本件決定の行政処分性を肯定し、原告らと国との間に公法上の法律関係が存在すると判断。
but
既にされた行政処分に対する不服の訴えは原則として抗告訴訟としての取消訴訟又は無効確認訴訟によるべきであって、本件について例外的に違法確認の訴えによるべき事情も見当たらない。

結論としては一審の判断を維持。
  解説  ●  ●本件決定の行政処分性
  本判決は、各文献の記載とは異なり、本件決定の行政処分性を肯定。

懲戒申出制度が「国民一般からの懲戒処分の請求を認めることを検討する」との政府の規制改革推進3か年計画を盛り込んで新設された制度であることを指摘し、法務局長等の応答義務や申出人からの不服申立てを認めなければ、この申出は法務局長等の職権発動を促すものにすぎなくなり立法前の状態を変わりはないから、立法の目的を達するには、懲戒申出を講学上の申請と解し、これを拒否する処分を行政処分と解する必要がある。

規制改革によって事前の帰省が緩和され、事後の監督が重視されるに至っているが、本判決は、事後の監督を所管官庁に任せるのではなく、これを規制対象者を利用する立場にある国民一般の監視下におき、不服申立てや行政訴訟の提起を可能にすることによって、監視の実効性を確保することが必要と考えているよう。
  ●本件訴えの適否 
従来から訴訟実務を支配している抗告訴訟中心主義⇒本件決定が行政処分である以上、本件訴えは不適法。
本件のように既にされた行政処分については違法確認の訴えを認めないのが大方の見解。
最高裁H24.2.9が、公務員の処遇上の不利益の予防を目的とする確認訴訟を適法とするに当たって、行政処分による不利益の予防を目的とするものを除外しているのも同様の考え方。
  ●本判決の意義
  弁護士については、既に懲戒請求者に日弁連への異議申出を明文の規定で認めているが(弁護士法64条1項)、取消訴訟の可否については明文の規定がなく、最高裁昭和38.10.18は弁護士会の自治を尊重する立場からこれを否定。
but
弁護士法の会を再検討する1つの契機となりえる。
これまで行政庁に対する請求権はないものと考えられてきた各種の通報等の制度、例えば独禁法45条1項の報告などを再検討することを通じて、国民一般の行政に対する関与の在り方を考え直す契機を与える判決。
  民事p45
最高裁H27.11.30  
   
  事案 建物の所有者であるXが、本件貸室を占有するYに対し、所有権に基づき、本件貸室の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求めた事案。 
XとYとの間には、第一審の和解期日で、本件賃貸借契約を合意解約すること、Yは本件貸室を明け渡すこと、XがYに対して立退料として220万円訴払うことなどを内容とする訴訟上の和解(本件和解)が成立。
その後、Yが期日指定の申立てをしたため、第一審裁判所は口頭弁論期日を経た上で、本件訴訟は本件和解が成立したことにより終了した旨を宣言する訴訟終了判決を言い渡した。
一審判決に対しては、Yのみが控訴し、Xは控訴も附帯控訴もしなかった。
  論点 和解による訴訟終了判決に対して、被告のみが控訴した場合に不利益変更禁止の原則(民訴法304条)がどのように作用するか、
その場合の判決主文はどのようなものになるか。 
  規定 民訴法 第304条(第一審判決の取消し及び変更の範囲)
第一審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみ、これをすることができる。
  原判決 本件和解の条項が被告の真意に出たものであることを認めるに足りる証拠はない⇒本件和解は無効であると言わざるを得ない
⇒一審判決を取り消し、本件和解が無効であることを確認するとした上で、Yに対して、Xから40万円の支払を受けるのと引換えにXに本件貸室を明け渡すこと、賃料相当損害金を支払うことを明示、Xのその余の請求をいずれも棄却。 
  ■上告受理申立て理由 
①原判決の処分権主義違反をいうものと解される部分と
②原判決の不利益変更禁止の原則(民訴法304条)違反をいう部分
  判断 ●処分権主義違反の点 
いずれの当事者も本件和解が無効であることの確認は求めていない⇒原判決には処分権主義違反がある。
  ●不利益変更禁止の原則 
和解による訴訟終了判決である第一審判決に対し、被告のみが控訴し原告が控訴も附帯控訴もしなかった場合において、控訴審が第一審判決を取り消した上原告の請求の一部を認容する本判決をすることは、不利益変更禁止の原則に違反して許されない」
この場合の判決主文については、
「控訴審が訴訟上の和解が無効であり、かつ、・・・請求の一部に理由があるとして自判をしようとするときには、控訴の全部を棄却するほかないというべきである。」とした。
  本件では、Yのみが控訴し、Xは控訴も附帯控訴もしていないのであるから、原審としてはYの控訴の全部を棄却するほかなかったとし、原判決の処理には、法令の違反があるとして、原判決を破棄して、Yの控訴を棄却した。 
  解説 ●  原判決が却下判決である場合の不利益変更禁止の原則:
最高裁判例:
訴え却下の判決に対して原告が上訴し、上訴審での審理の結果、訴訟要件の存在は認められるものの請求を棄却すべきと認められた場合

却下判決では訴訟要件の不存在のみが既判力で確定され、請求権の不存在については既判力が生じず、訴え却下の判決は請求棄却の判決よりも有利
⇒上訴審としては、上訴棄却の判決をすべきである。
訴訟終了判決:
最高裁昭和47.1.21:
「(和解による訴訟終了判決は、)訴訟が終了したことを確定する訴訟判決であって、訴訟上の和解が有効であるとの点について既判力を有すると解することはできない」としており、判例は、訴訟終了判決の既判力については、訴訟が終了したことについて生ずるものであって、訴訟終了を導いた訴訟行為の有効・無効までは及ばないものと解している。
訴訟終了判決に対する控訴審の構造:
最高裁昭和45.7.15:
原告の死亡により訴訟終了を宣言した原判決を取り消すに当たって、事件を原々審に差し戻している。

訴訟終了判決に対する控訴がされれば、事件が一体として移審し、訴え却下判決に準じて、原則として差戻しをすべきであるとする見解を採用したものであると理解。
  和解による訴訟終了判決の不利益変更について:
○A:判決比較説:一般に有利か不利かは判決の効力を基準に決められるのであるから、和解による訴訟終了判決の不利益変更は、一審判決の既判力と審理の結果されることとなる判決の既判力を比較して決するべき(本判決)
B:和解比較説
C: 本案判決可能説:訴訟終了判決は訴訟終了についてのみ判断しており何ら本案について判断するものではない⇒審理の結果に従って本案判決をしたとしても不利益変更禁止の原則とは無関係。
判決比較説⇒
訴訟終了判決に対し被告のみが控訴し原告が控訴しなかった場合において、控訴審が審理の結果、原告の請求の一部に理由があると認めたとしても、請求の一部を認容する判決はできず、当該部分については、被告の控訴は容れられなかったという意味で、一部控訴棄却判決。
but
訴訟上の和解については、訴訟上の当事者ではない者が参加したり、訴訟上の請求とはm関係の内容の合意を含み得る
⇒全体としての訴訟上の和解が、和解の対象となった請求全体について訴訟終了効を生じると考えられる。
⇒訴訟上の和解による訴訟終了効は、当該和解が対象として請求の全部について生じるか、又は、全く生じないかであって、訴訟上の和解の訴訟終了効の一部のみが発生し、訴訟上の和解が対象とした請求のある部分については訴訟終了効がないという事態は想定できない。

和解による訴訟終了判決に対する控訴において控訴の一部のみを棄却するときには、本来和解の対象となった請求の一部分については発生しないはずの訴訟上の和解による訴訟終了効をその一部について発生させることになるが、このような事態は、訴訟上の和解による訴訟終了判決の性質に反し、許されない。

また、実務上も、訴訟終了判決に対して一部の控訴棄却がされると、一審の和解調書のどの部分について執行力があると解すべきかの処理に窮する事態が考えられ、実務上の観点からも好ましくない。

本判決は、和解による訴訟終了判決に対する控訴の一部を棄却することは相当ではなく、自判する限りにおいては、控訴の全部を棄却するほかないとするもの。
(その結果、不利益変更禁止の原則との関係では問題のない一部請求棄却の判決もされないことになる。)
  民事p48
東京高裁H26.12.24  
  血縁関係になり被控訴人Dに対する被控訴人Cの認知について、Cの父母である控訴人Xらが民法786条の「利害関係人」に当たる
⇒これらと異なる見解に立ってXらによる同認知向こうの訴えを不適法として却下した原判決を取り消し、原審に差し戻し。
  事案  父母Xらは、被告Cの両親
F女は平成19年に被告Dを出産
C・Fは平成24年に婚姻し、同年、子Eをもうけ、CはDの血縁上の父ではないが、同年、Dについて本件認知をした。

Xらは、本件認知の無効確認の訴えを提起し、
①CがXらの法定相続人であること、
②Dは戸籍上Xらの直系卑属に当たるので、仮氏にCがXより先に死亡したときはDが代襲相続人の地位を取得すること
③XらとDは戸籍上直系血族となっており、互いに扶養する義務があること
等を理由に主張。
  規定 民法 第786条(認知に対する反対の事実の主張)
子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる。
  原審 Xらが現時点において本件認知の無効を確認すべき具体的利益はない⇒訴えを不適法として却下。 
  判断 民法786条所定の「利害関係人」は、当該認知が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受ける者を指すものと解されているところ、本件認知により、民法877条1項の扶養義務の発生、及び民法889条1項1号による第二順位の相続権の発生があるから、これに該当するというべきであり、それらの影響の可能性が低いことからその影響が間接的であるということはできないし、また第三者による認知効の否定は子Dの福祉に資さないとの主張に対しては、血縁関係にない者が親子関係を形成することを望む場合は本来養子縁組によるべき。 
  民事p50
大阪高裁H25.3.27  
  購入した土地付き建売住宅の基礎に重大な瑕疵⇒売主会社、同社の代表取締役、仲介会社の代表取締役の不法行為責任(肯定)
  事案 訴外A会社の仲介により、Y1会社から土地付き建売住宅を初期購入したXが、当該住宅には補修不能な施工上の瑕疵があったとして、
Y1会社に対しては、瑕疵担保、債務不履行、不法行為を理由に損害賠償を請求するとともに、
A会社の代表取締役Y2及びY1会社の代表取締役Y3に対し、当該住宅が瑕疵なく施工されることを担保すべき注意義務を怠ったなどとし、
改正前商法266条の3、不法行為に基づき損害賠償を請求。 
  判断 Y1
当該住宅の建築の工事施工者及び工事管理者は、いずれもY1会社。
Y1会社には、公庫仕様を前提とした売買契約を締結した上で、公庫仕様でない施工図面を下請業者に交付させながら、実効性のある管理監督を行っていないという重大な過失がある
⇒不法行為責任を負う。
  Y3には、Y1会社の代表取締役として、業務執行につき少なくとも重大な過失があったということができるし、Y3の行為は、Xとの関係で民法709条の一般不法行為にあたる 
  Y2は、売主側仲介業者として、Xに重要事項説明を行ったが、公庫融資の対象とならない物件については、公庫仕様と異なる施工が行われることを認識しながら、それと異なる重要事項を行った
⇒A会社の代表取締役として、その業務執行について少なくとも大きな過失があったということができる、Xとの関係で民法709条の一般不法行為責任を負う。
⇒当該住宅の建替え費用等の損害賠償請求を認容。 
  解説 目的物の瑕疵とは、物の通常の使用に適する性質を全く又は相当程度欠くことと解すべきこと(通説・判例)
本件で売買された住宅の基礎の底盤コンクリートの厚さ及び鉄筋の太さが、設計図面が予定したものに満たず、建築基準法に反する基本的な安全性を損なうもの⇒瑕疵に該当するのは当然。
売却した建物に瑕疵がある場合
①瑕疵担保
②債務不履行
③不法行為
の3社の適用関係に触れることなく、右三者は選択的との判断。
本判決は、建物の建替費用相当の損害賠償請求を認めた。
  民事p72
東京地裁H27.6.26  
  路線バスが歩行者を轢過した事故について自賠法3条但書の免責肯定事例
  事案 歩道を歩いていた82歳のAが突然バランスを崩して車道に転倒し、路線バスに左上肢を轢過⇒相続人であるXらが、
①バスの保有者Y1に対し、自賠責3条に基づき、Aの人身損害の賠償を求めるとともに、
②Y1と自動車保険契約を締結していたY2に対し、Y1に対する判決の確定を条件に、Y1と同額の金員の支払を求めた。 
  規定 自賠法 第3条(自動車損害賠償責任) 
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
  争点 自賠法3条ただし書の免責が認められるか。 
  判断 ①本件事故の発生についてAに過失があったことは争いがない
②本件事故の態様からすれば、バスの構造上の欠陥又は機能の障害の有無は本件事故と関係がない。

免責が認められるか否かは、路線バスの運転者Bが本件事故に関して無過失をいえるか否かにかかる。
①Aは82歳の高齢者であるが、BがAを発見してからAから目を離すまで、Aが歩道を普通に歩行していたと推認される。
⇒Aがバランスを崩して車道に転倒することをBが予見するのは困難であった。
⇒Bに対して、Aが車道に転倒することを予見した上でAから目を離さないようにすべきであったとか、あるいはバスの速度をさらに減速すべきであったとはいえない。
②バスの乗客が騒ぎ声を上げた時、AはBが目視できない位置にいた
⇒Bがその時点でAが車道に転倒したことに気付かなかったとしても、それはやむを得ないというべきである。
仮にBが乗客の騒ぎ声を聞いた時にバスのサイドミラーを見てAが車道に転倒したことを認識し、直ちに急ブレーキをかけたとしても、Aの轢過を回避することはできなかった。

乗客の騒ぎ声を聞いたBがそのまま左折を続けたことも過失とはいえない。
  解説 自賠法3条ただし書の「自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと」は、運行供用者及び運手者ともに過失がないことを意味すると解されている。
事故と関係がない免責要件はその旨を主張立証すれば足りる(最高裁昭和45.1.22)。
本件事故と関係がある運転者Bの過失の有無について、Aが車道に転倒する前と後に分けて検討し、
転倒前はAの転倒を予見するのは困難であったとして予見可能性を否定し(①)
転倒後はAの轢過を回避することはできなかったとして結果回避可能性を否定し(②)、本件事故についてBは無過失と認められると判断。
  民事p76
新潟地裁H27.3.23  
   
  事案 新潟水俣病患者又はその相続人であると主張する11名の原告が、加害企業である被告昭和電工(Y1)に対して、
主位的に補償協定に基づいて、被告国(Y2)及び被告新潟県(Y3)に対して、食品衛生法、いわゆる水質二法及び新潟県内水面漁業調整規制に基づく規制権限の不行使又は行政指導の不作為の違法があったと主張して、国賠法1条1項に基づき、慰謝料等各1200万円及び遅延損害金の支払いを求めた事案。 
  判断   7名を水俣病患者と認めて、Y1に対する不法行為に基づく損害賠償請求を一部認容、Y2及びY3の規制権限の不行使及び行政指導の不作為の違法は認められないとして国賠法に基づく請求を棄却。 
  ●水俣病の認定基準 
  ●規制権限の不行使等の違法について
国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国賠法1条1項の適用上違法となるというこれまでの判例の立場を踏襲。
食品衛生法4条、17条及び22条に基づく規制権限不行使について、
Xらが問題とする昭和39年8月頃までの時点における水俣病の原因物質や発症の機序に関する解明状況、メチル水銀の定量分析技術、阿賀野川の魚介類の危険性についての社会一般の認識状況等に照らすと、Y2(国)及びY3(新潟県)が、阿賀野川の魚介類について、食品衛生法4条2号の「有毒食品」に該当すると判断することはできなかった
⇒国賠法1条1項に基づく責任を否定。
水質二法に基づく規制権限不行使について、
Y2は、昭和34年11月末の時点で、水俣病の原因物質がある種の有機水銀化合物であること及びその排出源がチッソ水俣工場であることを高度の蓋然性をもって認識し得る状況にあり、Y1の鹿瀬工場が水俣工場と同種のアセトアルデヒド製造施設であることを認識していたことは認められるが、新潟水俣病の発生が報告された時期や公表された時期、アセトアルデヒド製造工程において有機水銀が副生される機序や水俣病発症の機序にについての解明状況等から、Xらが問題とする昭和39年8月頃までの時点で、Y2が水質二法に基づき鹿瀬工場の排水規制をしなかったことが、同法の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、著しく合理性を欠くとは認められず、国賠法1条1項の適用上違法であるということはできない。
⇒Y2の責任を否定。
新潟県内水面漁業調整規則に基づく規制権限不行使について、
当時のY3の認識状況等から、Y3が同規則に基づく規制権限を行使しなかったことが、同規則の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、著しく合理性を欠くとは認められない。
⇒国賠法1条1項に基づく責任を否定。
行政指導の不作為の違法について、
阿賀野川の魚介類の危険性やその原因物質の排出源が鹿瀬工場の工場排水であることを認識し、又は容易に認識することが可能であったとは認められない
⇒Y2及びY3の国賠法1条1項に基づく責任を否定。
     
  民事p118
大阪地裁H27.7.22  
  成年被後見人が相続債務について何ら遺言していない⇒家庭裁判所が審判で定めた成年後見人報酬金支払債務は、法定相続人が法定相続分に応じて分割承継する。
  事案 成年被後見人Cの成年後見人に選任された弁護士である原告Xが、C死亡後、相続人である長男被告A及び長女被告Bに対し、死亡までの最後の後見人報酬42万1200円について、各被告の法定相続分及びこれに対する年5分の遅延損害金を求めた事案。 
Cは、平成3年8月8日付公正証書遺言により、その所有する複数の不動産の帰属者について遺言をしたほか、Cの現金・預貯金その他齋家名は二男Eに相続させるとして指定した財産は、Eの子であるG・Hが二分の1ずつ相続させる旨の遺言。
相続債務に関する記載はない。
被告ABの各法定相続分は4分の1。
  規定 民法 第862条(後見人の報酬)
家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる。
  判断 民法862条が「被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる。」と規定しているのは、後見事務は被後見人の保護及び支援のために行われる事務であるから、後見人に対する報酬を支払う者は被後見人であるところ、被後見人の財産を超えて報酬を支払うことはできないとする趣旨。
本件後見人報酬はCが死亡するまでのXの後見事務に対して付与されたものであるから、その債務者は成年被後見人本人Cであり、したがって相続債務となり、本件審判により後見終了時であるC死亡時にさかのぼって発生する。
  商事p122
東京地裁H27.9.7  
   
  事案 ①会社の清算に際して、その株主である原告に分配すべき残余財産の有無及び額②清算会社に対する債権の存否又は額について争いがある場合に相当財産を留保することなく残余財産の分配を行ったことを内容とする決算報告を承認する株主総会決議の効力が問題となった事案。 
Xは、その有する放射能物質の除染技術に係る特許及びノウハウを事業化するために、完全子会社としてYを設立した上で、Zとの間で、Z等がYに出資してその発行株式総数の3分の2を取得すること等を内容とする基本合意を締結。
基本合意には、XがYに知財の独占的な線y法実施権を付与する旨の条項のほか、Yの残余財産について、現預金その他の金融資産全てをZに、金融資産以外の全ての財産をXに配分する旨の条項あり。
Yは、Xから本件基本合意に基づく特許権の専用実施権を付与されなかったことから事業遂行が不可能になったとして、解散する旨の株主総会決議。
解散決議の日における、Yの株主構成は、X1万8000株、B2000株、Z4万株。
Xは、Yに対して少なくとも229万7220円の債権を有している旨を主張するとともに、原告の保有する株式数に応じた残余財産の分配を行うよう請求。
but
Yは、留保していた217万2689円についても、X以外の株主に対して分配し、臨時株主総会において清算事務が終了したとして決算報告を承認する旨の決議を行った。
  規定 会社法 第109条(株主の平等)
株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、公開会社でない株式会社は、第百五条第一項各号に掲げる権利に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる。
会社法 第309条(株主総会の決議)
4 前三項の規定にかかわらず、第百九条第二項の規定による定款の定めについての定款の変更(当該定款の定めを廃止するものを除く。)を行う株主総会の決議は、総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、総株主の議決権の四分の三(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。
  会社法 第502条(債務の弁済前における残余財産の分配の制限)
清算株式会社は、当該清算株式会社の債務を弁済した後でなければ、その財産を株主に分配することができない。ただし、その存否又は額について争いのある債権に係る債務についてその弁済をするために必要と認められる財産を留保した場合は、この限りでない。
  争点 ①Xに分配すべき残余財産の有無及び額で、残余財産の分配に関する属人的な定めが定款変更の形を取らず全株主の同意により定められた場合の当該定めの有効性
②本件決議の無効事由の有無 
  判断  ●争点①について
会社法が、残余財産の分配に関する属人的な定めを創設又は変更するために株主総会の特別決議による定款変更を必要としている(会社法109条2項、309条4項)趣旨は、少数派株主の利益保護を図ろうとしたものと解される。
定款変更という形式がとられていなくても、全株主が同意している場合には、定款変更のための特別決議があったものと同視でき、他に権利を害される株主がない⇒有効。
  ●争点②について 
原告が主張する経費に係る支払請求権は、「その存否又は額について争いのある債権に係る債務」に該当。」
原告の主張する経緯日に係る債権についてその弁済のための財産を留保することなく残余財産の分配を行ったことは会社法502条に違反し、これを内容とする決算報告を承認する決議は、その内容が法令に違反するものとして無効事由がある。
  労働p127
札幌高裁H27.10.2  
  大学の入試委員会の委員長の入試ミスに対する減給1割1か月の懲戒処分(有効)
  事案 入試ミスあり⇒入試委員会の委員長であったXが、入試ミスがあったこと等を懲戒事由として、Yから減給1割1か月(5万8520円)の懲戒処分(Yは労働審判事件で制裁の1階の額は平均賃金の1日の半額を超えてはならない(労基法91条前段)との指摘を受け、Xに対し前記減額分のうち2万4603円を支払った。)
  規定 労基法 第91条(制裁規定の制限)
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
  判断 Xは、入試委員会の総括責任者の立場にあり、本件文科省通知で留意事項とされていた入試開始後における試験問題の点検を、ガイドラインなどに定めて実施することが容易であったとにこれを怠り、また、出題者が作成したチェック表のチェックがなかった項目について、出題者と第三者点検者に確認して注意喚起するなどの、初歩的かつ重要であり、容易に実施できることを怠った。
  本件ミスそのものの責任は主に出題者にあるとしても、Xの地位や職務懈怠の内容に照らせば、その責任は問題作成者よりも軽いとはいえず、したがって、減給1割1か月の懲戒処分は、X以外に懲戒処分を受けたものが戒告であることとの均衡に照らしても、重すぎるとはいえず、有効である。
  刑事p138
東京高裁H27.3.4  
  被告人を留め置いた措置、覚せい剤及び大麻の差押えへ違法、鑑定書等の証拠能力は肯定
  規定 刑訴法 第198条〔被疑者の出頭要求・取調べ〕
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる
  原審 覚せい剤の所持を被疑事実とする捜索差押許可状に基づく、職務質問の現場における被告人の所持品等の創作並びにその結果派遣された覚せい剤及び大麻の差押えには重大な違法⇒それらの鑑定書及び現行犯逮捕後に任意提出された被告人の尿の鑑定書の証拠能力をいずれも否定し、被告人を無罪に。
  判断 警察官が同令状の執行まで被告人を現場に留め置いた措置は、任意捜査として許容される限度を超えた違法なものであり、その状態を利用した捜索差押えも違法。 
任意捜査における有形力の行使は、相手方の同意・承諾がなくとも、有形力を用いる必要性と侵害される相手方の法益との均衡が保たれている限り許されるが、それは具体的状況のもとで相当と認められる限度内のものでなければならない。
本件は覚せい剤取締法違反という重大事犯であり、被告人の自由な行動を許せば薬物等を投棄することが想定できる⇒留め置きの必要性は肯定できる。
but
本件留め置きは、再三立ち去ろうとしていた被告人の移動の自由、ときに身体の自由という重要な法益を侵害したもので、しかも被告人の動きに対応した受動的、一時的なものではなく、あらかじめ立ち去りを防止しようとして、約3時間40分にわたって移動を制限したもの。
⇒手段の相当性を欠き、違法であり、その結果を利用した捜索差押も違法である。
前記鑑定書等の証拠能力は肯定し、原判決を破棄して被告人を有罪とした。
  解説  薬物事犯において、被疑者の留め置きの適法性が争われる事例はすくない。 
東京高裁H21.7.1、同22.11.8:
留め置きを「純粋に任意捜査として行われている段階」と、強制採尿令状の請求準備着手以降の「強制手続への移行段階」とに分ける「二分論」の判断枠組みを提示し、後者については、被疑者に対する嫌疑が高まっていて、被疑者の所在を確保する必要性が高い
⇒「相当程度強くその場にとどまるよう被疑者に求めることも許される」との判断。
札幌高裁H26.12.18:
犯罪の嫌疑の程度は、採尿令状の請求準備を開始するか否かという警察官の判断により直ちに左右されるものではない⇒検察官が主張した二分論を採用せず、有形力の行使を伴う留め置きを違法としている。
本判決は、二分論に準拠したものではない。
違法判断に当たっては、当該有形力の行使が、任意捜査における有形力行使の許容性について判示した最高裁昭和51.3.16に照らし、相当な程度を超えたと判断されたことが重視。
強制執行への移行段階に着目する場合、強制採尿令状であれば、犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合の最終的手段として許容される(最高裁昭和55.10.23)⇒相応の説得をしても応じないことが要件となる。
捜索差押許可状では、右要件が求められない⇒より早く令状請求に着手できる。
  原判決:
①令状発布の違法、②令状請求の疎明資料中の虚偽記載、③警察官の慎重さの欠如、④警察官の事実に反する証言などを証拠能力否定の理由。 
本判決:
①②④に関する原判決を誤りとし、③も違法を重大とするものではないとした。
①留め置きは悪質な態様とはいえず、法益侵害も重大とはいえない
②覚せい剤所持の嫌疑が相当程度認められ、留め置きの必要性があった
③覚せい剤等は令状に基づく捜索によって発見され、留め置きは同令状の執行確保のためであった
④二分論を採用した裁判例があり、これに沿った対応が行き過ぎたという面がある

証拠能力を肯定。
★平成28年4月分   
2285   
  行政p23
名古屋高裁H27.7.10  
  処分不作為の違法確認が認められ、認可の義務付けの訴えは棄却された事例
  事案 処分行政庁が認可申請を認可すべきであるのに何らの処分をしないことは違法であるとして、処分行政庁の所属する県(Y)に対し
①本件認可申請について処分行政庁が何らの処分をしないことの違法確認(行訴法37条)と、
②処分行政庁が本件採取計画を認可することの義務付け(同法37条の3)を求めた事案の控訴審。 
  規定 行政事件訴訟法 第37条(不作為の違法確認の訴えの原告適格)
不作為の違法確認の訴えは、処分又は裁決についての申請をした者に限り、提起することができる。
行政事件訴訟法 第37条の3
第三条第六項第二号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、次の各号に掲げる要件のいずれかに該当するときに限り、提起することができる。
一 当該法令に基づく申請又は審査請求に対し相当の期間内に何らの処分又は裁決がされないこと。
二 当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において、当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であること。.
  原審  Xの請求①②の双方を認容。 
  判断 ●請求①について
①Yが岩石採取計画の認可申請に対する処分をするまでの通常要すべき標準的な期間を申請受理から60日間と定めて公式ホームページに公表
②認定された事実関係によれば、処分行政庁は遅くとも平成26年12月末日の時点では、降水量に関する最新のデータに基づいて新規の採石認可申請に対する判断を行うことが可能な状態になっていたと認められること
③本件認可申請がされた後、処分行政庁が5回にわたって行ったXに対する補正指示の内容には、その趣旨が必ずしも判然としないものや一貫性がないものが含まれていること
④処分行政庁は事後的な規制権限を行使することによって実効的な濁水対策を実施をすることも可能であること

控訴審口頭弁論終結時(平成27年3月25日)の時点においては、処分行政庁が本件認可申請に対する処分をするのに必要な「相当の期間」(行訴法37条の3第1項1号)がすでに経過

XのYに対する前記不処分についての違法確認請求は理由がある。
  ●  ●請求②について 
都道府県知事は採石法33条の認可申請があった場合であっても、当該申請に係る採取計画に基づいて行う岩石の採取が他人に危害を及ぼし、農業、林業その他の産業の利益を損じる等、公共の福祉に反すると認めるときは、同条の認可をしてはならないとする同法33条の4、都道府県知事が同法33条の認可等に当たって条件を附することができるとする同法33条の7第1項等の規定を指摘。
本件認可申請に係る新たな採石事業による環境負荷、漁業への影響等に関して取り調べられた本件全証拠によっても、処分行政庁が本件認可申請を認可すべきか否か、認可する場合に条件を附すべきか否か、条件を附して認可する場合にどのような条件を附すべきかが一義的に明確になっているとは認めがたい。

処分行政庁が控訴審口頭弁論終結時において、本件認可申請について、Xの申請どおりの処分をしなければならないとまでいうことはできず、申請通りの処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると断定することはできない。

本件採取計画を認可することを求める義務付けの訴えは理由がない。
  解説 具体的な事案が行訴法の不作為の違法確認の訴え及び義務付けの訴えの要件該当性が判断されたものとして参考になる。
  民事p52
最高裁H27.11.20  
遺言者が自筆証書である遺言書の文面全体に故意に斜線をひく⇒民法1024条前段所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当し遺言を撤回したものとみなされた事例 
  事案 Aの長女であるXが、Aの長男であるYに対し、本件遺言が無効であることの確認を求める事案。
  規定  民法 第1024条(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。
民法 第968条(自筆証書遺言)
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
  原審 本件斜線が引かれた後も本件遺言書の元の文字が判読できる状態である以上、本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為は、民法1024条前段により遺言を撤回したものとみなされる「故意に遺言書を破棄したとき」には該当しない。 
  判断 本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為は、民法1024条前段所定の「j故意に遺言書を破棄したとき」に該当するというべきであり、これにより本件遺言を撤回したものとみなされることになる。
⇒本件遺言は、効力を有しない。
  解説  民法1024条前段にいう「遺言書の破棄」:
学説:「遺言書の破棄」とは、遺言書の焼却、切断等といった遺言書の形状自体を破壊する行為のみならず、文面を抹消する行為も含まれる。 
民法968条2項は、自筆証書等の遺言書の加除その他の変更について厳格な方法を定めている。
通説:この方法に違反した変更がされた場合、そのような変更のみが無効となり、変更前の遺言が方式を充たしている限り、当該以後は変更前の内容のものとして有効に成立。

遺言書の文字を抹消する行為が、民法1024条前段の「遺言書の破棄」と同法968条2項の「変更」のいずれに当たるのか?
①本件のように遺言者が故意に赤いボールペンで遺言書の文面全体を斜線に引く行為は、通常は、その行為の有する一般的な意味に照らして、その遺言書全体をもはや遺言書として使わないという意思の現れとみるのが相当。
②民法968条2項は、その趣旨・文言に照らして、遺言書の一部の変更(一部の抹消)を念頭に置いていると解され、遺言書の文面全体の抹消の場合にまで同項の規律を及ぼすべき必要性、相当性はないと思われる。
本判決:
遺言者が故意に遺言書の文面全体に斜線を引くといったように、その行為の一般的な意味に照らして、前記遺言書の全体を不要なものとし、そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当であるときには、斜線を引いた後に元の文字が判読できても、もはや民法968条2項の規律は及ばないとの前提に立ち、そのような文面全体に故意に斜線を引く行為が、民法1024条前段所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当し、これにより遺言者が遺言を撤回したものとみなされると判示。
  遺言書の一の抹消にとどまる場合で、抹消後に元の文字が判読できるときは、民法968条2項の規律が及び、同項の方式を遵守していない限り、抹消としての効力が認められないことになると思われる。
  民事p54
東京高裁H27.7.8  
  弁護士兼法務大臣の名誉毀損につき、損害賠償に加え謝罪広告掲載を認容した事例 
  事案 弁護士でもある参議院議員Xは、Aより建物明渡しうを請求されたFの訴訟代理人(訴額約18億円)を務めたところ、訴訟がFの敗訴に終わり、AがFの破産を申し立てた。
平成22年3月18日、Fとの間に、着手金報酬4800万円の内3300万円と、控訴審着手金報酬4000万円の合計7300万円の本件報酬債権が存在し、Fがこれを一括して同月23日限り支払う旨の債務弁済公正証書を作成し、Fの破産手続において破産債権として届出。

管財人との間で、Xは6300万円を超える部分について届出を取り下げる旨の裁判上の和解。
和解成立前、Xが法務大臣に就任して間もない平成24年2月8日、出版社Yが記事を掲載。
XはYに対して、Yの記事は、全体として、XがFと共謀して配当金をだまし取るため、虚偽の弁護士報酬債権を届け出て違法請求したとの事実を摘示し、金銭に関して清廉であるという社会的信頼性が極めて重視される職業にあるXの社会的評価を著しく低下させる名誉毀損に当たるとして、1100万円の損害賠償を謝罪広告の掲載を請求。
  Yの主張 本件記事及び広告は、Xが違法請求をしたとの確定的事実を摘示するものではなく、その疑惑が存在することを指摘したものにとどまるか、ないしは、疑惑が存在すること自体法務大臣の重責を担う資質がないとする意見の表明であって、一般読者に疑惑が裏付けられていると理解されるものではない。
⇒Xの社会的評価が低下することはなく、名誉毀損に当たらない。
  一審  本件記事は、一般読者に疑惑が裏付けられているかのように読み取られ、XがFと共謀して虚偽の債権を届け出て違法に請求したものと認識されることになり、Xの社会的評価を低下させるが、
本件広告は、疑惑を裏付ける事実の具遺体的記載を欠いており、Xの社会的評価を低下させない。 

慰謝料150万円、弁護士費用15万円を認めた。
謝罪広告の掲載請求は棄却。
  判断 損害賠償について一審判断維持。 
謝罪広告について、本件記事によってXの名誉が毀損された程度は著しく、その救済として金銭賠償だけでは十分とはいえず、併せて原状回復の手段をとることが必要。
⇒謝罪広告の掲載を命じた。
  解説 当該言説の内容が何を意味しているかが問題となったときには、一般読者の普通の注意と読み方を基準として、当該言説を全体として、その表現方法にとらわれることなく判断しなければならない(最高裁昭和31.7.20)。
この法理に基づいて本判決は、一審判決と同様に、本件各記述は本件疑惑が事実によって裏付けられているかのように読み取られるものと認めた。
Xが参議院議員であり法務大臣という特別職公務員であったことから、本件疑惑報道につきYにより広く大胆な自由が認められるか? 
本判決:
一審判決と同様に、国会議員や法務大臣を務める公人の疑惑を追及することには社会的価値があり、公人の活動につき相当程度の批判は許される。
but
疑惑報道を行うに当たっては、当該疑惑につき確定的な事実であるとまでの裏付けはなくとも、違法行為を行ったとの合理的疑いが存在しなければならない。
本件記事はXと対立するAの主張をほとんど裏付けの乏しいまま事実として摘示するものであって正当化されるものではないとした。
謝罪広告の合憲性については、最高裁昭和31.7.4以来、「倫理的な意思、良心の自由」 を侵害するものではないとする立場が一応定着。
but
毀損された名誉がいまだ回復されておらず、毀損による被害が金銭によっては十分に償われていない場合であっても、謝罪広告を命じようとしない下級審判決が少なくない。
本判決は、Xに名誉回復の必要性があることだけを理由に謝罪広告の掲載を命じた。
  民事p65
東京地裁H27.7.6   
  偽装株主によって選任された代表取締役によって訴訟の追行を委任された弁護士の弁護士報酬の不当利得返還義務(肯定) 
  事案 A:唯一の取締役であり株主、平成21年11月8日死亡
Y2:Aの内縁の夫
Aを作成者とする平成21年9月25日付AがY2にX有限会社についてのAの株式全部(本件株式)を譲渡する旨の証書等が存在
Y2は、Xの1人株主として、自分を、Y1をAの取締役に選任した後、Y1が代取に選任。
Cは、平成22年、Y2、X(代取はY1)を被告とし、Cが本件株式を有する株主であることの確認等を請求する訴訟を提起、Y1は、Y3弁護士に訴訟の追行を委任。
Cが勝訴し、Y1,Y2についてXの取締役を解任された旨の登記。
Xは、
Y1に対し、役員報酬等の名目で受領した金銭の返還、Xの預金の引出しに係る不法行為に基づき損害賠償請求
Y2に対し、役員報酬等の名目で受領した金銭の返還
Y3に対し、弁護士報酬の名目で受領した金銭の返還
を請求
  判断 Y1,Y2がXの取締役、代表取締役に適法に選任されたものではない。
Y1らが取締役の報酬でなく、従業員の給与としての金銭はXからの不当利得返還請求をかわすための詭弁。

Y1,Y2の不当利得の成立を肯定。 
Y1の預金の引出しは無権限で行われたもの⇒不法行為を肯定。
Y3の弁護士報酬:
①別件訴訟の委任契約はY1が無権限でXを代表して締結⇒Xにその効果が帰属しない。
②Y3においてY1が取締役・代表取締役として適法に選任されていると信じて委任契約を締結したとしても、少なくとも、そのように信じたことに過失があり、別件訴訟の内容から本件株式の帰属についての結論次第では同訴訟の委任契約の効力自体が問題になることを承知していた。⇒Y3が外観法理によって保護すべき必要性なし。

Y3の不当利得肯定。
  民事p71
東京地裁H27.6.26  
  元請人の下請人に対する建築瑕疵を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求(棄却)
  事案 A社は、Bに対し本件建物を売却。
東北地方太平洋沖地震により本件建物の敷地を含む周囲の地番が液状化し、その影響で本件建物に不同沈下
⇒Bは、本件建物の沈下修正工事を計画したが、事前調査を行ったC社から、本件基礎の序盤の厚さが薄いため予定している沈下修正工事はできない
⇒Xに対し、本件基礎の安全性が確保されていないとして建物の建替え費用の賠償を求めた。Xは、解決金1000万円支払。
  Xは、最高裁判例を引用し、
Yが施工した本件基礎の序盤の厚さ及び鉄筋のかぶり厚さはいずれも薄く、これは最高裁判決が説示する「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」に該当するところ、この瑕疵によりBに解決金の支払を余儀なくされたとして、被告に対し、不法行為に基づき解決金相当額等の損害賠償を求める訴えを提起。
  判断 建物の建築に関し、下請人の過失により建物の基本的な安全性を損なう損害賠償責任を追及される可能性があるところ、自らが関与しない下請人の所為によって経済的な負担を強いられないという利益は不法行為法上も法的保護の対象となる。
⇒元請け人から下請人に対する損害賠償請求の可能性を肯定。
but
結論としては、専門家調停委員の意見も踏まえ、本件基礎の状態を具体的、全体的にみる限り「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」があるとまではいえない。
⇒請求棄却。
  解説 最高裁平成19年判決、同平成23年判決:
概要、建物の設計者、施工者及び工事管理者(設計・施工者等)につき、「建物の建築に当たり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負う」として、「設計・施工者がこの義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合」には不法行為法上の損害賠償義務を負う場合がある(最高裁H19.7.6)。
「建物の瑕疵が、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず、当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には、当該瑕疵は、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当する。」(最高裁H23.7.21)

元請人と下請人との間でも「建物の基本的な安全性を損なう瑕疵」の有無により建築瑕疵に関する不法行為の成否を検討するという判断枠組みが妥当するかどうかが争点。
本判決:元請人につき「自らが関与しない下請人の所為によって経済的な負担を強いられないという利益」も法律上保護されるべき利益に該当するとして、下請人が「建物の基本的な安全性を損なう瑕疵」を生じさせた場合には元請人との関係で不法行為責任を負うことがあると判断。
Xは、Yの過失により本件基礎に「建物の基本的な安全性を損なう瑕疵」が生じた場合、建物所有者であるBに対しそれに基づく損害の賠償を行えばBに代位してYに損害賠償請求をすることが可能であったと解される(民法500条)。

本判決もこのようなケースとの平仄を考慮。
  民事p79
宇都宮地裁H27.12.17  
  特別史跡特別天然記念物である被告所有の杉の木が倒木で建物を直撃した事例(責任肯定)
  事案 平成25年の台風による強風で杉並木に属する杉の木が多数倒木し、うち一本がXの建物を直撃破損

XはYに対し、
①民法717条2項に基づき建物被害相当額の損害賠償を請求するとともに、
②杉並木に属する木のうち倒木した木とは別の複数の木について、X所有土地への倒木の危険性が高いと主張し、土地建物の所有権に基づく妨害予防請求権の行使として杉の木の伐採等を請求。
  判断・解説    ●損害賠償について:
  X・Y間の「杉の倒木による被害の補償を求めない」旨の免責合意の効力が問題。
当該合意は、Xが文化財保護法128条に基づき文化庁長官に対する現状変更(自宅建替工事)の許可申請をするに当たり、申請書に添付するY(特別天然記念物所有者)作成の承諾書に、承諾の条件として不動文字で記載されていたもの。
判断:
①Xには事実上Y提示の本件免責合意に応じるしか選択の余地がなかったこと、②合意を文字通りに解釈すると民法の危険責任法理に照らして著しく不均衡

本件免責合意については、通常の注意義務を尽くせば隠れた瑕疵の外部的徴表を認識できて、引き続く追加調査により瑕疵の発見が可能であった場合には、免責の効力が及ばないと解すべき。
倒木した木には大きく目立つ開口空洞が根元付近にあったことから、本件は、上記の免責の効力が及ばない場合に当たる。

免責合意を適用せず、Xの賠償請求を全部認容。
結論に至る理由付けについて、
①事実認定として合意の際の当事者の合理的意思を認定したのか
②契約条項の解釈を行ったのか
③契約条項に信義則違反・権利濫用・公序良俗違反等の一般条項を適用したのかが、明らかでない。
  ●妨害予防請求について: 
請求に係る杉の木のうち1本が折損の危険性が非常に高いとして伐採請求が認容。
その余の杉の木については、近い将来倒壊するおそれが大きいとまではいえないとして請求棄却。
Xの土地建物所有権に基づく妨害排除請求権の行使の場面においては、文化財保護法125条の規定により妨害予防請求権が制約されることはないと判断。
  民事p88
大阪地裁H26.9.1  
  抗不整脈剤であるアンカロンの副作用による薬剤性間質性肺炎にり患し死亡⇒医師の責任肯定
  争点 ①Aは、アンカロンの服用によって、薬剤性間質性肺炎が憎悪して死亡したか? 
②Yは、どのような注意義務を負っていたか。
  判断 Aは、アンカロンを継続的、長期間、服用しており、Aの体内には平成20年10月ころには110g、平成21年4月ころには146gのアミオダロンが蓄積
⇒遅くとも平成21年6月4日の時点(E病院に入院時)にはアンカロン投与による薬剤性間質性肺炎に罹患していたと認定。
「アンカロンを服用している間は、数か月に一度程度、X線検査や血液検査などの定期検査を行う」義務があるところ、Yはこれを怠り、その結果、Aは薬剤性間接性肺炎に罹患し、死亡。
⇒Yに対し、1829万円余の損害賠償を支払うよう命じた。
  解説 医薬品は効能とともに副作用があるのが通常
⇒医薬品の添付文書には、副作用が記載されており、これを無視して、医師が患者に医薬品を投与した場合には、損害賠償の問題が生じる。
裁判例
(責任肯定例):
・患者が呼吸困難を訴えているのに、ミノマイシンの投与を中止することなく、これを服用させたことに過失があるとして医師の責任を肯定した事例。
・薬剤性肺炎いついては、抗生物質の投与方法を誤り、その結果薬剤性肺炎に罹患させ、これによって引き続く急速な呼吸不全の状態に対する適切な治療時期、方法を失わせたとして医師の責任を認めた事例。
(責任否定例)
間質性肺炎について、抗がん剤「イレッサ錠250」を服用後、間質性肺炎を発症して死亡した末期の肺がん患者の遺族が、国、薬品会社に対し、間質性肺炎について、添付文書の警告欄に記載していないこと、重大な副作用欄の筆頭に記載していないことについて過失があるか否か等が問題となった、いわゆるイレッサ訴訟で、最高裁H25.4.12は、記載すべき義務はないとして国や薬品会社の責任を否定。
  民事p100
津地裁H27.7.2  
  時効完成後に登記を備えた第三者について背信的悪意者とした事例
  事案  X(県)が、県道として利用されている土地の名義人Aから本件土地の所有権移転登記を了したYに対して、所有権に基づき、時効取得を原因とする本件土地の所有権移転登記手続を求めた事案。 
  主張 Xは、同登記よりも前に本件土地を時効取得し、かつ、Yは背信的悪意者であると主張。
背信性を基礎付ける事実:
①本件土地は、県道の中に含まれる形で存在するうえ、その大きさは約4坪に過ぎず、一般私人及びYにとって利用価値なし
②Yが、道路を封鎖する等の発言を再三述べており、行政活動の損害の目的を有してた
③Yが、Aの代理人として本件土地に関する交渉をしていたのに、当該土地の登記をした後、民法177条の第三者であると主張
Yの主張:
①人権擁護団体であるYは、Aから相談を受け、本件土地の無断利用を止めるべく、Xと交渉を続けていた
②税金等の支払の原資にするため、本件土地の売却を考えていたAから、いわば人助けとして、本件土地を売買により取得することになったに過ぎない
  判断 Yが、Aから本件土地の譲渡を受けた平成25年2月28日時点において、Xが本件土地を長年県道の敷地の一部として使用してきたことを認識してきた。
本件土地の客観的状況(長年県道として利用され、約4坪程度しかないこと)
Yに具体的な利用計画等がなかったこと
Yの代表者の発言(「県道として勝手に使用されているので、是正を求める」「納得いなかなければ道路を封鎖する」)といった事実等

控訴人が、既に被控訴人が本件土地を時効取得している可能性の存在を容易に推測できる状況のもと、客観的には利用価値が乏しく、現に具体的な利用計画等もないままに本件土地を購入して登記を備えたのは、もっぱら所有権者として被控訴人との交渉主体となり、被控訴人に対して理不尽な要求を突き付けるためであったと推認できる。

Yが背信的悪意者に該当するとして、Xの再抗弁を認め、Xの請求を認容。
  解説 登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情:
(所有者:甲、第1買主:乙、第2買主:丙)
①乙の物権変動の登記欠缺を主張することが、自己の過去の行動に矛盾し信義則に反するもの
(ex.乙の物権変動の成立につき、甲の代理人・仲介人・立会人などになった者など)
②丙の権利取得が不当・不正な意図や動機によってなされたもの
(ex.未登記なのを奇貨として、安価に二重買いをし、不当な利益を目的に自己の権利を主張する者)
③甲が乙への移転登記を不当に妨げたことに協力しておいて自ら第三者の立場を主張するもの
④当事者に準ずる立場にありながら第三者の立場を主張するもの(例えば、親族関係や法人とその代表者といった関係)
そんほか、
⑤乙が不動産を占有している事情
⑥丙がさしあたり不動産を使用する必要性がない事情
⑦乙が代金支払済みであるか大部分支払済みである事情
などが加味される場合がある。
本件は、①②の類型には直接該当しないが、実質は類似するものであり、⑥の事情も認められる。
  知財p108
大阪地裁H26.6.26  
   
  事案 Yによるウェブサイト上でのY標章及びドメイン名の使用が、X商標権の侵害に当たるとして、X商標の商標権者であるXが、Yによる使用行為の差止め・損害賠償を請求した事案 
X商標:
片仮名文字「ライサポ」
指定役務:
第39類:車両による輸送・車椅子の貸与など
第42類:高齢者や身障者への介護又は監護・福祉機器の貸与など
Yは、ウェブサイト上で「ライサポいけだ」などY標章が使用
平成26年2月3日に、Yによりこれらは解約され又は閲覧不可となった。
  争点 ①Y標章がX商標に類似するか 
②Y標章が商標として使用されているか
③Y使用のドメイン名が、X商標に類似するか
④Xの被った損害額
  判断 ●  ●争点②について 
ウェブサイト1につき、
①Yによる障害者のための居宅介護事業等の実施の旨が記載されていものの、事業の具体的内容、料金、利用を促す勧誘の文言や申込みの手順や方法等が開示されていない。
⇒特定非営利法人であるYの事業内容等を啓発活動等を含め、社会全般に広く紹介することを目的としたもの。
②同サイト内におけるY標章の使用態様も「特定非営利活動法人 ライフサポートネットワークいけだ」と最も目立つ場所に大きく記載された上で、バナー、リンクテキスト、イラストなしい記述的文書中で、略語として「ライサポいけだ」と記載しているにすぎない。
ウェブサイト2についても、Yの職員等が日記風に出来事を記載しているのみで、役務の広告とはいえず、「ライフサポートネットワークいけだのブログ」とのタイトルの下、記述的文書中で略語として使用。

ウェブサイト1及び2上におけるY標章の使用は商標としての使用ではない。
  ●争点①について
類似の判断につき、Yの「標章の現実的な使用を前提に、誤認混同のおそれを判断すべき」。
①ウェブサイトの閲覧者は、・・・Y標章がYの正式名称の略語であることが容易に認識される。
②Y標章事態についても池田市に本拠を置く生活を支援する目的の団体であるとの観念を抱く。

Y標章は一体として認識され、「ライサポ」のみを抽出されることはなく、前記のような観念を抱かせるもの⇒X商標との間の誤認混同のおそれはなく類似しない。
  ●争点③について
Yのドメイン名につき、要部を「lisapo-ikeda」とした上で、X商標との間で、外観、呼称、観念について対比を行ったうえで、いずれについても類似する要素がない。
  解説 ●  商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有(商標法25条)、
商標権を侵害するおそれのある者に対し差止め(商標法36条)及び損害賠償(民法709条)を請求できる。
また、商標法37条では、侵害とみなされる行為が列挙されている。
「使用」の要件を定義することで、具体の混同のおそれを問うことなく形式的に侵害の判断を行われることとなり、これにより保護範囲の明確化が図られることとなる。
商標法2条3項各号における「使用」の定義に形式上該当したとしてしても、出所識別機能を果たさない態様で使用されている場合には商標としての使用に当たらないことから、商標権侵害とならないとする判例理論が確立。
  「商標」は標章のうち、業として使用されるものとされ(商標法2条1項)、「使用」は商標法2条3項各号に定義されている。
商標の定義のうち、「業として」とは、営利目的であることを要さず、一定の目的の下で反復継続して行うことと理解されている。
  不正競争防止法2条1項1号における「営業」概念については、商工業のみならず、医療、文化事業や慈善事業なども該当するとされ、
裁判例(東京地裁H24.6.29)でも、「不正競争防止法2条1項1号にいう「営業」とは、営利を直接の目的として行われる事業に限らず、役務又は商品を提供してこれと対価関係に立つ給付を受け、これらを収入源とする経済収支の計算に基づいて行われる非営利事業も含むものと解される」とし、当該権利能力なき社団の「事業活動は、経済上の収支計算の上に立って経済秩序の一環として行われる事業活動としての性格を有するもの」として営業に該当する。 
「業として」の意義やこれら不正競争防止法に関する判示に照らせば、事業の具体的内容、料金、利用を促す勧誘の具体的内容、料金、利用を促す勧誘の文言や申込みの手順や方法等が開示されていないことから、特定非営利法人たるYの活動を社会に広く紹介することを目的であるとしても、必ずしも商標的使用を否定する要素ととらえることとはならず、Yによる障碍者のための居宅介護事業等が実施されていることが記載されていることを踏まえれば、試用が肯定された可能性も否定できない。
  商事p117
大阪高裁H27.10.29  
   
  事案 株式会社Aの株主であるXが、Aの株主であるXが、Aの取締役兼代表取締役社長Y1、取締役Y2及び社外取締役Y3~Y6が、Aの二段階買収たるマネジメント・バイアウト(本件MBO)を行うに際し、利益相反等の善管注意義務違反及び忠実義務違反並びに情報開示義務違反に当たる行為をしたため、本件MBOが頓挫し、そのことによりAに無駄な費用支出や信用失墜を招いたと主張

会社法423条1項、430条及び847条3項に基づき、Yらに対し、連帯して、Aに5億円の損害賠償を支払うよう求めて提起した株主代表訴訟。 
  規定 会社法 第423条(役員等の株式会社に対する損害賠償責任) 
取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
会社法 第430条(役員等の連帯責任)
役員等が株式会社又は第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合において、他の役員等も当該損害を賠償する責任を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。
会社法 第847条(責任追及等の訴え) 
3 株式会社が第一項の規定による請求の日から六十日以内に責任追及等の訴えを提起しないときは、当該請求をした株主は、株式会社のために、責任追及等の訴えを提起することができる
  判断 ①会社との関係では、取締役が企業価値の移転について公正を害する行為を行えば、MBOの公正に対する信頼を失うことになり、会社が本来なら不必要な出費を余儀なくされることは十分に考えられる
⇒取締役は、そのことによって会社が被った損害を賠償する義務がある。
②Y1に、MBOの合理性確保義務違反はないが、買付者側の想定価格に近付けるために根拠薄弱な利益計画による数字合わせを測り、第三者評価機関の算定方法に不当に介入してその独立性を脅かしたこと等は、許される限度を超えた介入として、取締役としての善管注意義務に違反し、一旦かかる不当な介入がされれば、その後の行動如何にかかわらず、本来なら不必要な出費をAが余儀なくされる⇒かかる出費による損害を賠償する義務を負う。
このことを認識しながら適切な監督を怠ったY2も同様。
③Y3~Y5には、Y1の監視義務違反はなく、公開買付価格の決定プロセスに不当な介入をしたとはいえず、不当な価格形成がされたものとはいえない⇒手続的公正性配慮義務違反があったとはいえない。
④Yらが、プレスリリースに、法律事務所のアドバイスにより賛同意見表明に至ったわけではないのに、そのように誤解されかねない記載をした程度では、情報開示義務に違反したとはいえない。
⑤Y1及びY2の善管注意義務違反と相当因果関係のある損害は、利益相反行為のため本件MBOの公正が疑われたことにより、Aがその検証、調査等のために支出を余儀なくされた1億2006万9421円である。

Y1及びY2に、Aに対する同金額の連帯支払を命じたが、
Y1及びY2に対するその余の請求及びY3~Y5に対する請求をいずれも棄却。

①MBO完遂尽力義務のような一般義務を認めなかった。
②Yらに情報開示義務違反を認めなかった。
③Y1及びY2の損害賠償の範囲を、MBOの公正が疑われ、Aが検証、調査等のために支出を余儀なくされた費用に限定。
  解説 MBOにおける買付者側取締役には、構造的利益相反性及び情報の非対称性がある⇒これをできる限り除去するような措置を講じないと、善管注意義務違反に問われるおそれがある。
本件において、Y1及びY2は、
①初動を誤り、社外取締役(Y3~Y5)との交渉体制を確立する前に、第三者評価機関の独立性を害するような行動に及び、
②もともとAの支配株主であるから、MBOの形でM&Aに臨む必要もなかったのに、取締役の地位にとどまっていたため、あるいは
③公開買付及びスクイーズ・アウトを完遂できていれば、責任を追及する第三者株主もいなくなっていたのに、公開買付段階で頓挫したため、
Aに生じた無駄な費用の支出について取締役責任を負うことになったもの。
  刑事p137
山口地裁H27.7.28 
   
  事案 山間の農山村地域に住んでいた被告人らが、近隣住民が自分への嫌がらせをしているという妄想から、近隣住民5名を殺害し、一部被害者の住居二棟を放火したという、殺人、非現住建物等放火の事案。 
  主張 ①被告人は一連の殺人及び放火の犯人ではない。
②仮に犯人であったとしても、被告人は妄想性障害により事件当時は心神喪失又は心神耗弱の状態にあった。 
  判断 責任能力について: 
鑑定人の鑑定意見を参照しつつ
①妄想により被告人に生じていた被害感が自らの生命に対する差し迫った危機感とは異なっていること
②本件各被害者に対する報復という被告人が供述する動機を完遂するために被告人自身が重要と考える行為をしていること
③妄想が被告人の行為の選択肢を狭めたり報復の仕方に影響を与えたりしたとはいえないことなどを、弁識能力・制御能力と関連付けながら指摘し、
結論として、妄想性障害に基づく被告人の妄想は、本件各被害者に対する報復という犯行の動機を形成する過程に影響したとはいえるが、報復をするか、報復をするとしてどのような方法で報復をするかは、被告人の人格に基づいて選択したこと
⇒被告人の完全責任能力を肯定。
  解説 最高裁H20.4.25:
被告人の精神状態が心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかは法律判断であって専ら裁判所にゆだねられるべき問題であることを前提に、
生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度について、鑑定医の公正さや能力に疑いが生じたり、鑑定の前提条件に問題があったりするなど、これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り、裁判所は、その意見を十分に尊重して認定すべき。 
最高裁H27.5.25:
妄想性障害にり患していた被告人が、隣人らに対する怨恨を募らせ、親族を含む隣人ら8名を襲撃し、うち7名を殺害し、1名に瀕死の重傷を負わせたほか、母親が現住する自宅に放火したという事案について、死刑判決を是認。
2284   
  最高裁H27.12.16  
  再婚禁止期間違憲訴訟大法廷判決
  規定 民法 第733条(再婚禁止期間)
女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
2 女が前婚の解消又は取消しの前から懐胎していた場合には、その出産の日から、前項の規定を適用しない。
民法 第772条(嫡出の推定) 
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
民法 第773条(父を定めることを目的とする訴え)
第七百三十三条第一項の規定に違反して再婚をした女が出産した場合において、前条の規定によりその子の父を定めることができないときは、裁判所が、これを定める。
憲法 第14条〔法の下の平等、貴族制度の否認、栄典の限界〕
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
憲法 第24条〔家族生活における個人の尊厳と両性の平等〕
婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
②配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
  事案 平成20年3月に前夫と離婚したが、女性について6か月の再婚禁止期間を定める民法733条1項の規定があるため後夫との婚姻(再婚)が遅れ、精神的損害を被った⇒国賠請求訴訟。 
本件規定が両性の平等を定める憲法14条1項、24条2項に反するものであり、本件規定を改廃しない立法不作為は国賠法1条1項の適用上違法の評価を受ける。
⇒国であるYに対し、精神的損害等の賠償金165万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
  判断 上記当時においては、本件規程のうち100日超過部分が憲法に違反するものとなってはいたものの、これを国賠法1条1項の適用の観点からみた場合には、憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反することが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の立法措置を怠っていたと評価することはできない。

国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。 
  解説 ●本件規定の憲法適合性判断
本件規定を改廃しない立法不作為の違法性が争われた事案で、最高裁H7.12.5:
民法733条の元来の立法趣旨が、父性の推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにある⇒国会が同条を改廃しないことが直ちに国賠法上違法となる例外的な場合に当たると解する余地がない。
◎本件規定の憲法適合性の判断方法
判例は、法律の規定の平等原則違反(憲法14条1項適合性)の判断方法に関し、当該区分に「合理的な根拠」(最高裁昭和48年4月4日)があるかどうかについて、立法府に合理的な範囲の裁量判断が認められることを前提に、事案に応じた判断枠組みの下で合理性を判断。
多くは、立法目的及び目的達成のための手段の合理性を具体的に検討して判断するという判断枠組みを示し、立法裁量の範囲の広狭にかかわる検討要素として、当該区別の事由や区別の対象となる権利利益の性質とその重要性を総合的に考慮するという判断方法。
本判決:
立法目的・手段による判断枠組みをしめしており、その判断に当たっては「婚姻をするについての自由」が憲法24条1項の規定の趣旨に照らし十分尊重に値するものであり、本件規定が「婚姻」に対する直接的な制約を課すことを内容とするものであることを十分考慮に入れた検討が必要である旨を判示。

「婚姻をするについての自由」が重要なものであり、本件規定がこれを直接的に制約するものであるという事柄の性質を十分に考慮して、立法目的・手段の合理性を検討すべきことを判示したもの。
◎本件規定の憲法適合性判断
○立法目的
「父性の推定の重複を回避し、もって父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにある。」

①現行の民法が、嫡出親子関係について法律上の父子関係を早期に定める父性の推定の仕組みを設けている趣旨
②民法733条2項が再婚後に前夫の子との推定が働く子が生れない場合を本件規定の除外規定として規定し、同法773条が本件規定に違反した再婚により同法772条の不正の推定が重複した場合の父子関係確定のための手続を設けているなど、本件規定が父性の推定の重複を避けるためにおかれていること
○100日の再婚禁止期間の合理性 
民法772条2項の懐胎時期の推定規定⇒父性の推定の重複を回避するめには計算上100日の再婚禁止期間が必要であり、この部分については立法目的との関係において合理性がある。
再婚禁止期間が6か月と定められたことを根拠づける理由:
①再婚後に前夫の子が生まれる可能性をできるだけ少なくして家庭の不和を避ける
②父性の判定を誤り結構に混乱が生ずることを避ける

①医療や科学技術の発達等とともにその意義が薄れ
②「婚姻をすることについての自由」(再婚)の制約をできる限り少なくするという要請が高まっていることなどの社会状況の変化等

遅くとも平成20年当時において、100日超過部分の合理性を保つことが困難になっている。
  ある法律の制定当時の立法事実に照らして制定当時は合憲と判断した上で、その後の立法事実の変化をたどりながらその後の合憲性を判断するという手法 

違憲判断の基準時は、付随的意見審査制の下では当該個別事件において判断が求められる時期
  ●国賠法上の違法性判断 
  ◎従来の判例理論 
最高裁昭和60.11.21:
在宅投票制度を廃止しこれを復活しない国会の立法行為又は立法不作為の国賠法上の違法性が争われた事案において、「国会議員は、立法の関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきであって、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国賠法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない」
最高裁H17.9.14:
在外国民の選挙権行使を認めない公職選挙法が憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条但書に違反するとの違憲判断を行った上、
そのような公職選挙法の改正を怠った立法不作為につき、「立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。」
⇒国賠請求を一部認容。

法律上選挙権の行使が否定されていたこと、および、選挙権行使を認めた1984年内閣提出の改正案が廃案となってから1996年の選挙に至るまで10年以上もの長きにわたり何らの立法措置も執ろうとしなかったことが重視されたものと思われる(芦部)
平成17年判決の前段・後段は、国会の立法行為又は立法不作為が例外的に違法となる場合の一部の例示にとどまり、これらの場合に限定する趣旨ではなく、前段は、違憲の法律を制定する立法行為やこれと同視し得る立法不作為により本来自由に行使し得る憲法上の権利が侵害され、期間の経過を要せずに直ちに地方となる極端な場合を想定した説示として述べたものにとどまる。
平成17年判決:「国民に憲法上保障されている権利」
本判決:「憲法上保障され又は保障されている権利利益」

既にある法律の規定が違憲とされた後、国家賠償法上違法となり得るのは、選挙権のような明確に人権とされる権利の侵害のみならず、憲法上保障される利益が合理的な理由なく制約された場合も含まれるはずであるという理解。
  ◎本件立法不作為の違法性の評価 
具体的な検討要素としては、
違憲の明白性の観点から
①本件規定の不合理性ないし違憲性が国会にとって容易に理解可能であったか否か
②本件規程をめぐっては、100日超過部分を撤廃する趣旨の平成8年の民法改正要綱が公表され、また、諸外国が再婚禁止期間を廃止する傾向にあったこと、
③本件規定については、憲法判断を示すことなく立法不作為の違法性を否定した平成7年判決という最高裁の先例があり、これによって再婚禁止期間の設定を含めてその改廃が立法政策に委ねられたとの信頼が立法府の側に生じたものと考えられ、
④本件規定の違憲性に論及する司法判断は今回が初めてであることなどの事情。
本判決は、上記①③④の点を重視して、本件立法不作為の違法性に係る判断基準時である平成20年時点における違憲の明白性を否定し、期間の要件については具体的に検討するまでもなく違法性が否定されると判断。
  ●その他 
論理的には、憲法適合性に関する判断が違法性の有無の判断に先行すると考えられるところ、合憲又は意見の判断を明示的に示す必要性が当該毛脳問題の重要性・社会的影響等を考慮した個々の事案ごとの裁判所の裁量に委ねられているという立場に立ったもの。
  最高裁H27.12.16  
  夫婦別姓訴訟大法廷判決 
  事案 原告ら5名は、婚姻前の氏を通称として使用している者又は氏の選択をせずに提出した婚姻届が不受理となった者。
原告らは、民法750条(「本件規定」)が憲法13条、14条1項、24条又は「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」に反するものであって、夫婦同氏制度に加えて夫婦別氏制度という選択肢をもうけない立法不作為が国賠法1条1項の適用上違法の評価を受ける⇒国に対し、それぞれ精神的損害の賠償金150万円又は100万円の支払を求めた。
  規定 民法 第750条(夫婦の氏)
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
憲法 第24条〔家族生活における個人の尊厳と両性の平等〕
婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
②配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
  争点 ①憲法13条に関連して、婚姻の際に、「氏の変更を強制されない自由」が人格権の一内容であるといえるか
②憲法14条1項に関連して、本件規定がほとんど女性のみに不利益を負わせる差別的な効果を有する規定であるといえるか
③憲法24条に関連して、本件規定が同条1項の趣旨に添わない制約を課したものか、本件規定が同条の定める立法上の要請、指針に照らして合理性を欠くものか。
  ●  ●憲法13条関係 
  ◎「人格権」の位置づけ 
最高裁の判例
①公権力との関係で憲法13条により保障された権利として認められたもの(ex.みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由)
②憲法13条を根拠とする権利として触れられたもの(「人格権としての個人の名誉の保護」)
③私法上の権利として認められたもの(「肖像等が有する商品の販売等を促進する顧客吸引力を排他的に利用する権利(パブリシティ権)」)
④権利には至らない法的保護に値する人格的利益として認められたもの(ex.他人からその氏名を正確に呼称されること)
⑤法的利益であることが否定されたこと(ex.「宗教上の人格権であるとする静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益」)

「人格権」の内容や位置づけは様々。
氏名は「人格権の一内容を構成するもの」(最高裁昭和63.2.16)としても、具体的な検討は、氏名に関するいかなる内容の利益が問題となっているのか、それが憲法上の権利として保障される性格のものであるのかといった点を念頭に置いた上で行う必要
  ◎判断 
「氏」を含む婚姻及び家族に関する法制度は、その在り方が憲法上一義的には定められておらず、具体的な内容は法律により規律される

「氏に関する上記人格権の内容も、憲法上一義的に捉えれるべきものではなく、憲法の趣旨を踏まえつつ定められる法制度をまって初めて具体的に捉えられる」

一定の法制度を前提とする人格権や人格的利益は、いわゆる生来的な権利とは異なり、具体的な法制度の構築と共に形成されていくものであって、当該法制度において認められた権利や利益を把握した上で憲法上の権利であるかを検討することが重要となるほか、法律による制度の構築に当たって憲法の趣旨が反映されることを指摘したもの。
現行の民法における氏に関する規定を通覧した上で、氏の性質について、名と同様に「個人の呼称としての意義」があるものの、名とは切り離された存在として「社会の構成要素である家族の呼称としての意義」がある。
婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が人格権の一内容を構成するものではなく、本件規定が憲法13条に違反するものではない。
○人格的利益として機能する場面
but
氏を改めることにより、
①いわゆるアイデンティティの喪失感を抱くこと、
②従前の氏を使用する中で形成されてきた他人から識別し特定される機能が阻害されること、
③個人の信用、評価、名誉感情等に影響が及ぶことといった不利益が生ずることは否定できず、近年の晩婚化が進んだ状況の中では、これらの不利益を被る者が増加してきていることがうかがわれる。
これらの点についての利益は、憲法所の権利として保障される人格権の一内容であるとまではいえないものの、憲法24条に関連し、氏を含めた婚姻及び家族に関する法制度のあり方を検討するに当たって考慮すべき人格的利益。
  ●憲法14条関係 
◎本判決 
従前の最高裁判例を引用し、その上で、本件規程の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない。
夫婦の氏の選択が夫婦となろうとする者の間の協議に委ねられている⇒夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占める事実が本件規定の在り方から生じた結果であるといえない。

憲法14条1項の「平等」が、少なくとも裁判規範としては基本的に形式的な平等をいうものであることを示した上で本件規定を当てはめ、さらに、間接差別、差別的効果の法理の考え方を念頭に置いて、文言上の当てはめにとどまらない検討をした。
○実質的平等の機能する場面
広く平等の観点から検討し、氏の選択に関し、これまでは夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数⇒この現状が、夫婦となろうとする者双方の真に自由な選択の結果によるものかについて留意が求められる。
「仮に、社会に存する差別的な意識や慣習による影響があるのであれば、その影響を排除して夫婦間に実質的な平等が保たれるように図ることは、憲法14条1項の趣旨に沿うものである」
このような実質的平等を図ることは、直ちに裁判規範となるものではないものの、憲法24条に関連し、氏を含めた婚姻及び家族に関する歩数制度の在り方を検討するに当たって考慮すべき事項の1つ。
  ●  ●憲法24条関係 
  ◎憲法24条1項 
  本判決:
憲法24条1項について、「婚姻をするかどうか、いつ誰と婚姻をするかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたもの」であるとした。
①本件規定が婚姻の効力を一つとして夫婦が夫又は妻の氏を称することを定めたものであり、婚姻をすることについての直接の制約を定めたものでない。
②婚姻及び家族にかする法制度の内容に意に沿わないところがあることを理由として婚姻をしないことを選択した者がいるとしても、これをもって上記法制度を定めた法律が婚姻をすることについて憲法24条1項の趣旨に沿わない制約を課したものと評価することはできない。
  ◎憲法24条(2項) 
  憲法24条の法意:
最高裁昭和36.9.6:
「継続的な夫婦関係を全体として観察した上で、婚姻関係における夫と妻とが実質上同等の権利を享受することを期待した趣旨」とするが、法的な位置づけは明らかでない。 
  本判決: 
婚姻及び家族に関する事項については、関連する法制度においてその具体的内容が定められていくものであることから、当該法制度の制度設計が重要な意味を持つものであることを指摘。
「憲法24条2項は、具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、同条1項も前提としつつ、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画したものといえる」とする解釈。
「憲法上直接保障された権利とまではいえない人格的利益をも尊重すべきこと、両性の実質的な平等が保たれるように図ること、婚姻制度の内容により婚姻をすることが事実上不当に制約されることのないように図ること等についても十分に配慮した法律の制定を求めるものであり、この点でも立法裁量に限定的な指針を与えるもの」として、憲法布24条には憲法13条や14条1項の範囲にとどまらない固有の意義があることを認めた。 

婚姻及び家族に関する法制度を定めた規定が憲法13条や14条1項に違反する場合には、同時に憲法24条にも違反。
憲法13条や14条1項に違反しない場合であっても、更に憲法24条に適合するものかについて検討すべき場合があることになる。
◎  ◎憲法24条の合憲性判断基準
「婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が憲法13条、14条1項に違反しない場合に、更に憲法24条にも適合するものとして是認されるか否かは、当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し、当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべきものとするのが相当である。」と説示。

合理性の基準。
典型的な意味での基本的人権を直接制約する規定の合憲性審査基準が問題となっているものではなく、検討すべき対象が人格的利益や実質的平等といった内容及び実在のあり方が多様な利益。
  ◎本件規定の検討 
①夫婦同氏制が我が国の社会に定着してきたものであること
②社会の自然かつ基礎的な集団単位である家族の呼称を一つに定めることに合理性が認められること
③夫婦が同一の氏を称することは、家族を構成する一員であることを対外的に公示し、識別する機能を有しており、夫婦間の子が嫡出子であることを示す仕組みを確保することにも一定の意義があること
④家族を構成する個人が夫婦同氏制によりその一員であることを実感することに意義を見出す考え方もあること
⑤夫婦同氏制の下においては、子がいずれの親とも氏を同じくすることによる利益を享受しやすいこと
⑥夫婦がいずれの氏を称するかは、夫婦となろうとする者の間の協議による自由な選択に委ねられていること
⑦夫婦同氏制の下においては氏を改める者に一定の不利益が生じ得ることは認めら獲るものの、婚姻前の氏の通称使用が広まることにより一定程度緩和され得ること

本件規定が直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であることは認めることはできない。
⇒憲法24条に違反しない。
  行政p63
東京高裁H27.6.18  
  訴訟代理人が、多数の法律雑誌に働きかけ、判例批評コメント⇒それを前提に第三者が判決を批判しているかのように控訴状に記載する行為は、弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」にあたるとした事例
  事案  AとBとの売買システムの不備を理由とする注文不処理に関する損害賠償請求訴訟において、Aの代理人であった原告らX1、X2、X3が、X1らを懲戒しない旨の所属弁護士会の決定に対する懲戒請求者からの異議の申出を受けた被告日本弁護士連合会がした、所属弁護士会の決定を取消X1らを戒告する旨の各懲戒処分につき、弁護士法61条により取消しを求めた事案。
懲戒事由:
X1、X2、X3の行為は、一方当事者の代理人が公正中立な第三者や編集部などを装い判決の批評記事を掲載したものであって、読者の信頼を裏切るものであり弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。(懲戒事由1)
X1、X2の行為は、控訴状にあたかも第三者が判決を批判しているかのように装って、裁判所の判断を誤らせかねない記載をしたものであり、弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。(懲戒事由2)
  規定 弁護士法 第61条(訴えの提起)
第五十六条の規定により弁護士会がした懲戒の処分についての審査請求を却下され若しくは棄却され、又は第六十条の規定により日本弁護士連合会から懲戒を受けた者は、東京高等裁判所にその取消しの訴えを提起することができる。
  判断 弁護士懲戒制度の趣旨等に照らせば、ある事実関係が弁護士に対する懲戒事由に該当するかどうか、該当するとした場合に懲戒するか否か、懲戒するとしてどのような処分を選択するかは弁護士会の合理的な裁量に委ねられていると解され、全く事実の基礎を欠くか、又は社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用されたと認められる場合に限り、違法となる。(最高裁H18.9.14)
事実を認定した上、
X1、X2、X3の行為は、訴訟の一方代理人が訴訟の係属中に、訴訟の展開を有利に導く意図の下に、第三者を装って批評記事を執筆、掲載したとの評価を免れず(懲戒事由1)、
X1、X2の行為は、自らの執筆であることを秘して控訴状に第三者が判決を批判しているかのごとく指摘することは裁判官が誤解することも充分考えられるところであって、誠実性、公正性に欠け(懲戒事由2)、
いずれも弁護士としての品位を失うべき非行であり、
同様の前提で懲戒処分のうち最も軽い戒告とした本件懲戒処分が裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用したものとはいえず適法。

原告らの請求棄却。
  民事p72
大阪高裁H27.7.30  
  相続人の1人が他の相続人らに対し、被相続人が生活保護を受給するために必要であるなどと欺罔して相続放棄申述書を作成させ、これを裁判書に提出して相続放棄をさせ、相続財産を売却して代金取得⇒不法行為成立 
  判断 Yは、Xらの相続放棄申述書につき詐欺により取り消されたか、錯誤により無効であるから不法行為は成立しない旨を主張するが、右主張は不法行為の成否に関係なく、失当。 
Xらは、Yの欺罔行為により相続放棄の申述をさせられ、これが受理されたことにより、相続に関しては、初めから相続人とならなかったとみなされた

Xらは、各自の相続分に応じた財産的損害を被ったというべきであり、Yの欺罔行為は、Xらに対する関係で、不法行為を構成。

Xらの控訴に基づき、Xらの損害賠償額を増額。
  解説  被相続人の死亡する前に相続放棄をすることはあり得ないが、本件では、Yが、そのことを知らないことに乗じて相続放棄させかつ悪質な詐欺行為。
  民事p82
東京地裁H27.7.17 
  アニメーション作品の原画の作監業務の請負契約と請負人の債務不履行(否定) 
  事案 XがYからアニメーション作品の制作業務及びその原画についての作監業務を(「作監業務」)請負、これを完成させたとして、請負契約に基づき、各業務の請負代金残額(制作業務につき315万円、作監業務につき157万5000円)の支払を求めた事案。 
  Yの主張 ①Xによる作監業務に債務不履行⇒同業務に係る請負契約を解除。 
②作監業務を履行しないまま作品を完成⇒制作業務に瑕疵⇒それに基づく損害賠償請求権と同業務にかかる残代金の支払義務との同時履行を主張⇒それぞれの業務の残代金の支払を拒否。
③反訴を提起し、制作業務の代金として支払済みの200万円の返還を求めた。
  争点 ①XがYから請け負った作監業務の具体的内容
②Xによる作監業務の履行の有無
③YがXによる制作業務の瑕疵(Xが制作業務の内容を成す作監業務を契約に定められたとおりに履行しなかったこと)によって被った損害の額
  判断 争点①について:
制作業務や作監業務に係る請負契約の締結過程や各契約の文言を認定した上、本件文言は、全原画の50%の完成をもって第三回中間金の支払期限とすることを定めたに止まり、A又はXの担当者をして全原画の50%以上に修正を加えさせることを債務の内容として定めたものとは解されない

Xが作監業務として請け負った内容は、Xの担当者によって全原画を点検し必要に応じて修正を加えるほか、Aに原画又は原画の元となるレイアウト若しくは原画を連続再生した動画の全部又は一部を点検させて必要に応じてAに原画又は原画の元となるレイアウト若しくは原画を連続再生した動画の全部又は一部を点検させて必要に応じてA自ら又はXの担当者に修正を加えさせることに止まる。
争点②について:
Xはそのような作監業務を履行した

作監業務の不履行や制作業務の瑕疵があるとはいえないと判断し、請求認容。 
  民事p87
さいたま地裁熊谷支部H27.3.23   
  公正証書遺言が錯誤により無効とされた事例 
  事案 Yが経営する養護盲老人ホームに入所していたM女による、M女がYに葬儀費用等を除いた財産全部を包括遺贈する旨の公正証書遺言について、M女の長女であるXが、Yに対し、同公正証書遺言の無効確認を求めるとともに、不当利得に基づき、Yが利得した2093万円余の返還を求めた事案。 
  争点 ①M女が全盲であったことを理由に無効を主張することができるか。
②錯誤が認められるか。 
  判断 最高裁昭和55.12.4:遺言者が全盲であっても、遺言者が口授し、公証人が遺言の内容を読み聞かせることによってその内容を確認でき、それで足りる
⇒本判決もその立場を踏襲し、Xの無効の主張は理由がない。
●  「錯誤により遺言が無効とされる場合とは、当該遺言による遺言者の真意が確定された上で、それについて遺言者に錯誤が存在するとともに、遺言者が遺言の内容となった事実についての真実を知っていたならば、かかる遺言をしなかったといえることが必要」 
本件遺言書骨子案と本件遺言の内容とは異なっているところ、本判決は、「M女の意思は、XやAに生活費等が確実に支払われることがM女にとって極めて重要であって、少なくとも、YがXとAに対し生活費等を支払う法的義務を負わないと認識していれば、本件遺言をしなかったことが認められる。M女が全盲であったこと、法的知識を十分に有していたと認められないことにも照らせば、M女が、本件遺言時、M女の死亡後、Yが、確実にXやAに生活費等を支払ってくれるものと誤信して本件遺言したものと推認できる」

錯誤を認め、Xの請求を認容。
  解説 遺言者が全盲であり、本件遺言の約1か月前に遺言の骨子案が残っていたこと、遺言者に付言事項の効果(法的強制力はなく、単に任意履行を期待するにすぎない)を十分説明することなく本件遺言を作成した点を重視し、錯誤を認めた点に特徴。
公正証書遺言が錯誤により無効とされた事例は見当たらない。
最近は、遺言者の遺言能力がないのに遺言書を作成したとして公正証書遺言を無効とする裁判例もでている。
  民事p94
大阪地裁H27.6.24  
  会社(主債務者)の銀行に対する債務を代位弁済した信用保証協会に対して、連帯保証人である右会社代表取締役が、右会社休眠後に代表者としての弁済でない意思を推認させる形態で信用保証協会に対し求償債務の一部弁済
⇒主債務者である会社の債務を承認したものとはいえず、他の連帯保証人は主債務者についての消滅時効を援用できる。 
  事案 信用保証協会であるXは、Y1株式会社の銀行に対する債務を代位弁済したとして、Y1に対して求償を請求し、Y2(Y1の代表取締役)及びY3はY1の同求償債務を連帯保証したと主張して、Y2及びY3に対しては連帯保証債務の履行を請求。
Y3は、Y1による求償債務の最終弁済は平成20年11月28日に行われたものであり、平成25年11月28日の経過によって主債務である本件求償債務について消滅時効が完成し、これによりY3の保証債務も消滅したとして、本件訴訟手続において、消滅時効を援用する旨の意思表示。
Y2は、平成20年11月28日までは、払込取扱票の払込人住所氏名欄にY1の本店所在地及び名称があらかじめ印字されていたところを修正せずにしのまま用いて支払を行い、その後は、払込取扱票に印字されていたY1の本店所在地・名称を二重線で消し、Y2の住所及び氏名を記載した上で、支払っていた。
  判断 平成20年12月以降の支払はY2が個人として行ったものというべき。
主債務の承認を行うことができるのは主債務者Y1に限られるとした上で、Y2(Y1の代表取締役)がした連帯保証債務の弁済が主債務である本件求償債務の承認を包含しているといえるためには、その弁済がY2個人としての行為であるにとどまらず、Y1の代表取締役として行った行為としての性格を有することが必要であり、その判断は、①当該行為の内容のほか、②相手方から見て誰の行為であると理解し得るかということ、③当該行為に至る経緯、④Y1の活動状況などの事情を勘案しつつ、Y2の意思を合理的に解釈することによってなされれるべき。
①本件においては、Y2はY1の住所及び名称を敢えて抹消した上でY2の個人の住所及び氏名を記載して振込を行っている⇒Y2はY1代表者の行為という性格を敢えて排斥しようとする意図を有していたことが認められ、このことはXも認識することができたというべき。
②Y1は平成18年には事実上活動を停止していたのであり、このことからしても、Y2はY1の代表取締役としてY1の行為を行う意思を有していなかった。

平成20年12月以降の振込は、Y2個人としての行為の性質を有するにすぎず、これに加えてY1の代表者としての行為の性質を併せ持ったものであると評価することはできない。
X:連帯保証人が主債務者を相続したことを知りながら行った保証債務の弁済が主債務の承認にあたるとして主債務の時効の中断を認めた最高裁H25.9.13を援用し、本件においても連帯保証債務の弁済によって主債務の時効が中断すると主張。 
本判決:上記最高裁の事例では、同一の法人格が主債務者と連帯保証人とを兼ねており、連帯保証債務の弁済も主債務の承認もともに当該同一の法人格の行為であるからこそ、連帯保証債務の弁済という行為をその前提となる主債務の承認を包含するものと解釈することができたもので、本件とは異なる。
 
Y1が本件求償債務を承認したのは遅くともY1の名称等が印刷されたままの払込取扱票によって支払がなされた平成20年11月28日であるから、それから5年が経過した平成25年11月28日の経過によって本件求償債務(主債務)は時効により消滅。⇒時効を援用したY3に対する請求は理由がない。
  民事p99
山口地裁H27.7.8  
  胎児が出生後2日目に死亡⇒吸引分娩、鉗子分娩及びクリステレル胎児圧出法を実施した医師らの過失肯定 
  事案 胎児が出生後2日目に死亡⇒両親らが、分娩を担当した医師らに過失があったとして、Yらに対し、各3573万円余の損害賠償請求をした事案。 
  争点 Y2の行った吸引分娩、鉗子分娩及びクリステレル胎児圧出法が適切な方法であったか否か。
  判断 「硬膜下麻酔、吸引・鉗子分娩という手順を、その時点での児頭の位置及び胎勢を十分確認せず、また、吸引、鉗子のどちらがより適切かの検討も不十分なまま実施し、吸引分娩で直ちに児頭が下降しないいことについて次の手技の適応如何の検討もせず、鉗子分娩に取りかかり、結果として、直ちに下降しない児頭に対し各主義を複数回実施するとともに、看護師2人をしてクリステル胎児圧出法を実施して、胎児に過重な力を加えた過失がある」と判断。
Yらの過失と胎児の死亡との因果関係について、
「Y2医師らの行った、吸引分娩、鉗子分娩及びクリステレル胎児圧出法により、胎児は帽状腱膜下血腫を発症し、それにより急性出血性ショックを来たし、重症新生児仮死状態となり、多臓器不全で死亡した」のであるから、Y2の過失と胎児Aの死亡との間には相当因果関係がある。
⇒Yらに対し、X1X2それぞれに、2714万円余を支払うよう命じた。
  民事p109
東京家審H27.4.14  
  未成年者への輸血不同意⇒親権者らの未成年者らに対する親権を停止し、その停止期間中、 申立人を職務代行者に選任
  事案 乳児である未成年者Aは手術が必要。
Aの親権者父母であるB及びCは、手術の必要性は理解しているが、宗教上の理由から手術に伴う輸血を拒否。
X児童相談所所長は、上記手術を可能とするため、B及びCの親権停止の申立てをするとともに、親権停止及び職務代行者の選任を求める審判前の保全処分を申し立てた。
  規定 民法 第834条の2(親権停止の審判)
父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる。
2 家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、二年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める。
家事事件手続法 第174条(親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判事件を本案とする保全処分)
家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所。以下この条及び次条において同じ。)は、親権喪失、親権停止又は管理権喪失の申立てがあった場合において、子の利益のため必要があると認めるときは、当該申立てをした者の申立てにより、親権喪失、親権停止又は管理権喪失の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、親権者の職務の執行を停止し、又はその職務代行者を選任することができる。
家事事件手続法 第107条(陳述の聴取)
審判前の保全処分のうち仮の地位を定める仮処分を命ずるものは、審判を受ける者となるべき者の陳述を聴かなければ、することができない。ただし、その陳述を聴く手続を経ることにより保全処分の目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。
  判断 Aの生命の安全及び健全な発達を得るには、可及的速やかに手術を行う必要があり、緊急の場合に備え、事前に輸血についての同意を得ておく必要がある。
未成年者の生命に危険を生じさせる可能性が極めて高く、輸血に同意しないことが宗教的信念などに基づくものであっても、B及びCによる親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害することが明らか。

B及びCの陳述を聴かずに、本案審判の効力が生じるまでの間、B及びCのAに対する親権者としての職務の執行を停止し、X児童相談所長を職務代行者に選任。 
  解説 親権停止の審判が確定するのを待っていては、適時に必要な治療を行うことができない場合は、親権者の職務執行停止等の保全処分が必要になる。
  保全処分が認められるためには、本案審判認容の蓋然性及び保全の必要性が必要とされ、医療ネグレクト事案における職務親権停止・職務代行者選任においては、
①未成年者の疾患及び現在の病状、②予定される医療行為及びその効果と危険性、③予定される医療行為を行わなかった場合の危険性、④緊急性の程度、⑤親権者が未成年者に対する医療行為を拒否する理由及びその合理性の有無等が考慮要素として考えられる。
本審判ではB及びCの陳述を聴かずに審判。
家事事件手続法107条ただし書は、保全処分の目的を達することができない事情があるときは陳述の聴取の手続きを経ることなく保全処分ができるとしている。
  知財p111
知財高裁H27.10.29  
  「養命茶」との登録商標について、商標法4条1項15号に該当するとされた事例
  事案 Yは、商標法4条1項11号、15号及び19号違反を理由として、Xの本件商標の無効審判請求⇒特許庁は、同15号に基づき無効と判断⇒Xが当該審判取消しを求めて本件訴訟を提起。
  Xの主張 ①引用商標及び本件商標から「養命」部分を分離抽出した審決の認定は誤り
②Yの義務との混同を生ずるおそれはない 
  規定 第4条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。

十五 他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)
  判断 商標法4条1項15号該当性を認めた審決の判断を維持。
同15号の「混同を生ずるおそれ」の判断にあたり、レールデュタン事件判決(最高裁H12.7.11)を引用。
Y商品が「養命酒」との名称の薬用酒として、一般需要者の間に極めて高い著名性を獲得していることを認定。
引用商標の「酒」部分は、普通称としての酒(薬用のものを含む。)を示すものとして、本件商標の「茶」は、指定商品である茶飲料そのものか、その加工品等の品質、性状を示すものとして、それぞれ自他識別力は乏しい一方、「養命酒」が薬用酒の中でも極めて著名なブランドとして通用していた⇒「養命」部分は、「基幹部分」として認識される。
本件商標と引用商標を対比して、両商標は、類似する。
本件商標とY商品は、健康志向の飲料である点で共通し、茶を原料とする加工品についても、健康維持に関心のある者を需要者層とし、薬局やドラッグストアにおいて取り扱われ、取引者層を共通に
⇒本件商標の指定商品とY商品とは密接な関係を有する。
Xが取引者及び需要者をY商品と共通する本件商標を指定商品に使用した場合、これに接した取引者、需要者は、極めて高い著名性を有する「養命酒」の表示を連想し、「茶」という飲料を合わせて用いられる「養命茶」とは、養命酒の姉妹商品として、Yの出所に係るものと誤認するか、あるいは、当該商品がYとの間にいわゆる親子関係や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信され、商品の出所につき誤認を生じさせる。
  解説 商標法4条1項15号は、商標の不登録事由として、同10号ないし14号以外で混同を生ずるおそれのある商標を一般的抽象的に定めた規定。
同15号が必要となる場面は、出願商標と他人の商標との関係で、
①商標が同一又は類似で、商品・役務が非類似である場合、
②商標が非類似であるが、商品・役務が同一又は類似である場合、
③商標が非類似で商品・役務が非類似である場合
等広く考えられる。
「混同の生ずるおそれ」には、商品・役務の出所の同一性の誤認(狭義の混同)のほか、出願人の商品・役務が、他人との間に親子関係や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品・役務と誤認すること(広義の混同)が含まれる。

15号該当性の判断に当たっては、様々な事情を総合考慮する必要。
レールデュタン事件判決(最高裁H12.7.11):
「当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知・著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである」旨述べ、この判断基準が実務に定着。
  本件の判断対象は、あくまで、商標法4条1項15号の「混同を生ずるおそれ」の有無であり、同11号の判断に当たっては、必ずしも類似性が明白でない商標であっても、同項15号に該当することが十分あり得る。 
  本判決は、極めて著名な引用商標の一部を共通に含む本件商標に係る「混同を生ずるおそれ」の判断に際し、その一要素としての商標の類似性の程度の判断において「基幹部分」を観念し、「姉妹品」であるなどとして出所を誤認するとして、商標法4条1項15号に該当すると認めたもの。 
  労働p120
広島高裁H27.11.17   
  妊娠中の女性労働者につき、軽易な業務への転換を契機とした降格⇒雇用均等法9条3項に違反⇒使用者の不法行為・債務不履行肯定 
  事案 Yに雇用され管理職である副主任の地位にあった理学療法士であるXが、労基法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換に際して副主任を免ぜられ、育児休業終了後も副主任に任ぜられなかった。

本件措置は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保に関する法律(「均等法」)9条3項に違反して違法、無効であると主張⇒Yに対し、管理職手当及び損害賠償を請求。
  規定 労基法 第65条(産前産後)
③使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。
均等法 第9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
  最高裁 上告審である最高裁H26.10.23:
(1)均等法の規定の文言や趣旨⇒同法9条3項の規定は、これに反する事業主の措置を禁止する強行規定として設けられたもの。
女性労働者につき、妊娠、出産、産前産後の休業又は軽易な業務への移転等を理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは、同項に違反するものとして違法であり、無効。
(2)女性労働者につき妊娠中の軽易な業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として均等法9条3項の禁止する取扱いに当たる。
①当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承認したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、又は②事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、右措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である。

右特段の事情につき更に審理を尽くす必要があるとし、二審を破棄して、本件を二審に差し戻し。
  判断 特段の事情について審理し、
①本件につき、Xの承諾を得たと認められるに足りる証拠はなく、
②仮に承諾が認められたとしても、これが自由な意思に基づくものと認定し得る合理的理由は存在しない。
①Yにおいて本件措置につき組織人事上の決定権を有する職責者によって十分な検討がされたとは到底言い難いこと
②組織単位における主任、副主任の配置についてもYの従前の取扱いを墨守するのみで均等法等の目的、理念に従って女性労働者を遇することにつき使用者として十分な裁量を働かせたとは言いがたいこと

Yには、本件措置につき、使用者として、女性労働者の母性を尊重し、職業生活の充実の確保を果たす義務に違反した過失、労働法上の配慮義務違反がある。
⇒Xの管理職手当及び損害賠償請求を認容。
  刑事p136
東京高裁H27.11.5  
  債権管理回収業に関する特別措置法違反(無許可営業罪)の事案。 
  事案 債権管理回収業等を営む株式会社及び法人の代表者が、債権管理回収業に関する特別措置法(「サービサー法」)33条1号、3条の無許可営業罪に該当するとされた事案。 
  一審  サービサー法の無許可営業罪を認めた。 
  争点 ①本件のように全株式を取得したことが「債権を他人から譲り受けた」といえるのか。
②被告人らの行為が社会的、経済的に正当な業務の範囲内といえるのか。
③本件で問題となった支払の遅延している債権は、サービサー法の規制の対象か。
  規定 債権管理回収業に関する特別措置法
第二条  この法律において「特定金銭債権」とは、次に掲げるものをいう。
この法律において「債権管理回収業」とは、弁護士又は弁護士法人以外の者が委託を受けて法律事件に関する法律事務である特定金銭債権の管理及び回収を行う営業又は他人から譲り受けて訴訟、調停、和解その他の手段によって特定金銭債権の管理及び回収を行う営業をいう。
  解説・判断 弁護士法とサービサー法とは一般法、特別法の関係にあり、サービサー法上の無許可営業罪が成立する場合は、弁護士法違反は成立しない。
(サービサー法上の無許可営業罪の方が弁護士法違反の罪より法定刑が重い。) 
  ●争点①について 
A及びBの全株式を取得したことが「特定金銭債権を譲り受けた」ことになるか?
甲がA及びBの全株式を取得したのは、主として両社の保有する債権を取得するためであることを確認し、全株式を取得するという形で債権を取得したことが、後段の「他人から譲り受け」たことに該当する。
  ●争点②について 
具体的な事実関係を適示しながら、被告人らの権利の取得の態様、被告会社の業務の実態、債権回収の方法及び態様等に照らし、被告人らの本件行為が、到底社会的、経済的に正当な業務の範囲内にあるものとはいえないとした。
  ●争点③について 
後段は、文言上譲受債権について事件性を要件としていないと判示。
後段について
A:事件性必要説⇒構成要件該当性の問題
B:事件性不要説⇒社会的に問題のない債権の譲り受けについて違法性阻却の問題
2283   
  行政p23
最高裁H27.9.8  
  在外被爆者が日本国外で医療を受けた場合における、原子爆弾被爆者に対する救護に関する法律18条1項の適用の有無 
  事案 広島市に投下された原子爆弾により被爆し、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(「被爆者援護法」)に基づき 被爆者健康手帳の交付を受けた被爆者ら3名につき、その居住国である大韓民国で受けた医療に関して同法18条1項に定める一般疾病医療費の支給の申請⇒大阪府知事により、在外被爆者(同法1条所定の被爆者であって日本国内に居住地及び現在地を有しないもの)に対して同項の規定を適用することができない旨の理由でそれぞれ却下処分
⇒上記被爆者又はその相続人であるXらが、大阪府を相手に、本件各処分の取消等を求めた
  判断 被爆者援護法18条1項の規定は在外被爆者が日本国外で医療を受けた場合にも適用されるものと解するのが相当⇒原審の判断は是認できる⇒上告棄却。 

①被爆者援護法18条1項は、その支給対象者として「被爆者」と規定するにとどまり、被爆者が日本国内に居住地若しくは現在地を有すること、又は日本国内で医療を受けたことをその支給の要件として定めていない
②同項にいう「一般疾病医療機関(同法19条1項の規定に基づき都道府県知事が指定する医療機関)以外の者」につき、日本国内で医療を行う者に限定する旨の規定はない
③在外被爆者が医療を受けるため日本に渡航することには相応の困難を伴うのが通常であると考えられるところ、在外被爆者が日本国外で医療を受けた場合に一般疾病医療費の支給を一切受けられないとすれば、同法が、原子爆弾の放射能に起因する健康被害の特異性及び重大性に鑑み、被爆者の置かれている特別の健康状態に着目してこれを救済するという目的から被爆者の援護について定めた趣旨に反することになる。
被爆者援護法18条1項が、一般疾病医療機関以外の者から医療を受けた場合の一般疾病医療費の支給につき「緊急その他やむを得ない理由」を要件としていることにも言及し、
「被爆者の居住地又は現在地付近に一般疾病医療機関がないため近隣に所在する一般疾病医療機関以外の者から医療を受けることとなった場合には、上記の要件が満たされるものと解され、在外被爆者が日本国外で医療を受けた場合にも、これと同様に解することができる。」
  行政p26
東京地裁H27.6.25  
  国立高専准教授の訓告等に関する独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律13条1項に基づく 保有個人情報の開示請求について不開示の処分が一部取り消された事例
  事案 Y(独立業絵師法人国立高等専門学校)に対して、X(准教授を務めていた者)が、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(「法」)に基づき、保有個人情報の開示請求⇒Yがその全部を開示しない旨の決定⇒Xがその取消しを求める事案。
開示を求めたXを本人とする個人情報
①訓告書にある『職場の秩序を乱した』に係る個人情報
②訓告の原因となった成績評価の調査に係る個人情報
③平成20年10月、懲戒委調査委員会が提示した書面。及びこれの書面作成に利用した個人情報。
Yは、①②について、「開示請求の対象が保有個人情報に該当しない」ことを理由として、③について、「人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある」ことを理由として、保有個人情報の全部を開示しない旨の決定。
本件訴訟では、Yは、①について、上記決定の理由と異なり、請求に係る保有個人情報を被告が保有していることを認めた上で、当該保有個人情報に法14条5号ヘが掲げる不開示情報が含まれていることを理由とする。
  判断  ●情報①について
一般に、取消訴訟においては、別異に解すべき特段の理由のない限り、行政庁は当該処分の効力を維持するための一切の法律上及び事実上の根拠を主張することが許されるものと解すべき(最高裁昭和53.9.19)。
行政手続法や法の規定をみても、理由提示の定めが「一たび通知書に理由を付記した以上、行政庁が当該理由以外の理由を不開示決定処分の取消訴訟において主張することを許さないものとする趣旨を含むと解すべき根拠はないとみるのが相当である」(最高裁H11.11.19)
⇒理由の差替えを肯定。
情報①に係る法人文書である原議書に記録された情報は、それが開示されることにより、Yにおける人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあると認められる
⇒法14条5号へ所定の不開示情報に当たる。
  ●情報②について
Xとしては、報告書の前提をなす事情聴取等の内容がXに係る個人情報に当たる場合には、当該情報もまた開示請求の対象とする趣旨のものと解される。
Yは情報②の「事実関係について」jにおいてXが開示を求める保有個人情報の内容を保有していると認められるが、Yは、上記個人情報につき、それが不存在であるということのもいを主張。

本件決定のうち、上記個人情報を不開示とした部分は違法。
Yの主張は、Xが本件報告書の少なくとも一部を保有していると認められることからすれば、そこに記載されている個人情報までをも開示請求対象とするものではない趣旨とも解されるが、事情聴取等の内容を含む上記関係資料には本件報告書に記載された内容よりも詳しい内容が記載されているものと推認し得る

本件報告書が開示請求対象外であったからといって、その前提となる資料に係る個人情報までもが直ちに開示請求対象外になるとはいえない。
  ●情報③について 
Xが前訴で取消しを求めた別件決定と、Xが本訴で取消しを求める本件決定は別個の処分であり、その訴訟物は異なる
⇒前訴判決の既判力が本訴に及ぶと解することはできない。
情報②が記録された法人文書としてYが保有するのはA高専に懲戒審査委員会を設置するための原議書であり、そこに記録された情報は、法14条5号ヘ所定の不開示情報に該当。
  行政p34
千葉地裁H27.4.21  
  刑務所長が、服役中の受刑者と被収容者支援団体関係者との信書の発受を禁止する処分が、違法として取り消された事例。
  事案 無期懲役により服役中である原告が、被収容者支援団体関係者との信書の発受信について、刑務所長が禁止⇒違法であるとしてその取消しを求めた。
  規定 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律 第128条(信書の発受の禁止)
刑事施設の長は、犯罪性のある者その他受刑者が信書を発受することにより、刑事施設の規律及び秩序を害し、又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者(受刑者の親族を除く。)については、受刑者がその者との間で信書を発受することを禁止することができる。ただし、婚姻関係の調整、訴訟の遂行、事業の維持その他の受刑者の身分上、法律上又は業務上の重大な利害に係る用務の処理のため信書を発受する場合は、この限りでない。
  争点 その処分が、受刑者の信書の発受に関して規定した、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律128条の要件に該当するか? 
  判断・解説 信書の発受は、憲法21条で保障されている表現の自由のひとつ⇒その制約には慎重であることが求められる。
①最高裁H18.3.23:
監獄法46条2項の規定について、表現の自由を保障した憲法21条の規定の趣旨、目的にかんがみると、受刑者のその親族でない者との間の信書の発受は、受刑者の性向、行状、監護区内の管理、保安の状況、当該信書の内容その他具体的な事情の下で、これを許すことにより監護区内の規律及び秩序の維持、受刑者の身柄の確保、受刑者の改善、更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当のがい然性があると認められる時に限って、これを制限することが許される。
その場合においても、その制限の程度は、上記の障害の発生防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべきものと解するのが相当。
上記信書の発信を許すことのできない程度の障害が生ずる相当のがい然性があるかどうかについて考慮しないで、本件信書の発信を不許可としたことは、裁量権の範囲を逸脱し、又は裁量権を濫用したものとして、国賠法1条1項の適用上違法。
その他の最高裁判例(いずれも廃止された監獄法の下での判断)
②未決勾留されている者の購入する新聞紙の記事を抹消した措置に関して、国賠責任は生じないとしたもの
③受刑者の図書の閲読を宣言した措置に関して、国賠責任は生じないとしたもの
④刑務所長が受刑者の信書を検閲したことに関して、国賠責任は生じないとしたもの
⑤受刑者が発信しようとした信書の一部を抹消したことに関して、国賠責任は生じないとしたもの
①~⑤の判例は、いずれも、
規律及び秩序維持のため制限すること自体は認めつつも、
具体的処分の違法性の検討にあたっては、具体的事情のもとにおいて、規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当のがい然性があると認められるときに限り、右の障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲においてのみ制限をすることができるという立場で一貫。
  ●判断 
法128条の解釈・適用は、前記①②で最高裁が示した判断基準を踏まえて行われるべきとした上で、
法128条にいう「犯罪性のある者その他受刑者が信書を発受することにより、刑事施設の規律及び秩序を害し、又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者」とは、犯罪を犯す傾向を有している者など当該受刑者がその者と信書の発受という方法で交流すること自体により(すなわち、その信書の内容如何にかかわらず)、刑事施設の規律秩序を害し、又は矯正処遇の適切な実施に放置することができない程度の支障を生ずる相当の蓋然性がある者をいうと解する。
本件においては、原告との関係で、当該支援団体がこのような者に該当するとして刑務所長の判断が合理的な根拠に基づくか否か、信書の発受を禁止する必要があるとして判断に合理性があるか否かという観点から判断。
刑務所長による具体的な処分理由を踏まえて、支援団体自体の目的・活動内容、支援団体の代表者を含む個々の関係者の状況や活動内容等、原告の当時の矯正処遇の状況、信書の内容等を詳細に検討し、関係者の一部に不用意な点があったことを認定しつつも、刑務所長に裁量権があることを考慮しても、その判断に合理的根拠や合理性があるもとはいえないと
⇒処分を違法として取消し。
  民事p47
福岡高裁H27.1.30 
  親権者が母から抗告人(父)に変更した事例 
  事案 X(父)とY(母)は、平成20年に婚姻し、平成21年に長男A、平成22年に長女Bをもうけたが、平成25年に親権者をYと定めて協議離婚。
Yは、未成年者らをXと同居するXの両親に預け、Xの自宅を出た。 
  規定 民法 第819条(離婚又は認知の場合の親権者)
父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行う。
5 第一項、第三項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。
  Yの主張 親権者指定後の事情の変更を要する。 
  原審 調停不成立⇒審判。
親権者の指定以降の事情の変更が認められないとの理由で申立てを却下。 
  判断 「親権者変更の必要性は、親権者を指定した経緯、その後の事情の変更の有無と共に、当事者双方の監護能力、監護の安定性等を具体的に考慮して、最終的には子の利益のための必要性の有無という観点から決せられるべき」
①未成年者らをX側で監護しているという監護の実態と親権の所在を一致させる必要があること
②監護補助者の有無
③Yに監護能力があることを認めて親権者として指定されたわけではないという未成年者らの親権者をYとされた経緯
④Yの婚姻中の監護実績や監護意思石ないし監護適格の有無等

未成年者らが幼児であり、母性の存在が必要であること等を考慮しても、未成年者らの利益のためには、親権者をYからXに変更することが必要であると認めて、原審判を取り消して、未成年者A、Bの親権者をYからXへと変更。
  解説 民法819条6項は、親権者変更が認められる場合を「子の利益のため必要があると認めるとき」とする。
親権者変更審判において、子の利益のための必要性を認定する具体的事情:
①監護体制の優劣
②父母の監護意思
③監護の継続性
④子の意思
⑤子の年齢
⑥申立ての動機、目的等
相対的比較の基準:
①母親優先の原則
②監護の継続性(現状尊重)の原則
③子の意思尊重の原則
④兄弟姉妹不分離の原則等
親権者の指定は、先になされた親権者の指定後の事情の変更を要するとの見解。

親権者指定後、事情の変更もないのに、法的地位の変動を認めることは法的安定性を害するし、親権者の指定はある程度将来の事情を予測して決定しているから、事情の変更は予測したものと異なる事情が新たな生じた場合。
vs.
特に父母の協議によって親権者が指定された場合は、諸般の事情により子の利益を十分検討することなく指定された場合もあり得るところであり、このような場合に事情の変更がない限り親権者の変更を認めないというのはむしろ子の利益に反する。
これまでの審判例では、親権者指定後の事情変更による親権者変更の必要性の事例をみられず、むしろ多いのは
①親権者指定後の事情変更はなく、親権者の再指定を求める形の親権者変更の申立てか、
②親権者が子を監護していない場合に、子の監護者が親権者になるために親権者変更の申立てをするという事案(本件は後者)。
後者の場合には申立認容という結果になるのがほとんどで、親権者変更事項では監護の継続性が子の利益の決定基準として大きな比重を占めているという指摘。
本決定は、親権者変更の判断は、必ずしも親権者指定後の事情変更の有無のみで決せられるものではなく、民法819条6項の文言どおり親権者を他の一方に変更することがこの利益のために必要であるのかを諸般の事情から決すべきことを示したもの。
  民事p51
東京地裁H27.7.16
  マンションの滞納管理費等につき居室の特定承継人である区分所有者の消滅時効の援用が信義則に反し、権利濫用に当たるとされた事例 
  事案  X管理組合は、大規模マンションの管理組合。
A㈱は平成18年3月、マンション内の居室を取得した後、平成20年7月分から11月分までの管理費等(駐車場使用料、駐輪場使用料を含む)を滞納。
Y1㈱(代表取締役はY2)は、平成20年11月、不動産競売手続において本件居室を買い受け、平成21年1月、Y2は、本件居室をY1から売買により取得。
Xは、平成26年2月、A、Y1に対し、滞納管理費等の支払を求める支払督促を申立て、Aは、異議を申し立てなかったが、Y1が異議申し立て
⇒通常訴訟に移行。
Xは、平成26年7月(時効成立後)、Y2に対し、建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)8条等に基づく支払義務の承継を主張し、滞納管理費等の支払を請求する訴訟を提起し、前記訴訟と併合。
Y1、Y2は消滅時効を援用。
  規定 区分所有法 第7条(先取特権)
区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。

区分所有法 第8条(特定承継人の責任)
前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。
民法 第169条(定期給付債権の短期消滅時効)
年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、五年間行使しないときは、消滅する。
  原審 Xの請求棄却。 
  争点 ①滞納管理費等の有無
②Y1との関係においてAの一部弁済による時効中断の成否
③Y2による時効援用の信義則違反、権利濫用の成否 
  判断 区分所有法8条、管理規約34条に基づき、Y2がY1の特定承継人、Y1がAの特定承継人であるとし、Y1が区分所有権を他に移転したとしても、管理費等の支払義務を免れることはできない。
管理費等の支払請求権が民法169条所定の短期消滅時効の対象となることを前提とし、Y1との関係ではAの一部弁済による時効中断を認め、
Y2の時効援用については、
①管理規約上管理組合の組合員の資格の取得者及び喪失者がその旨をXに届け出なければならないにもかかわらず、Y2が区分所有権を取得したにもかかわらず届出をしなかったこと、
②Y2がY1名義で管理費等の支払を続けていたこと、
③本件マンションが全三棟、地上42階の大規模マンションであることから、Xが本件居室の区分所有者がY2に変更されたことを認識できなかっとことはやむを得ない
④Y2はY2の代表取締役

XがY2に対する適時の権利行使を著しく困難にした要因がY2の行動にあったとし、Y2の時効援用が信義則に反し、権利の濫用として許されない。
⇒第一審判決を取り消し、Xの請求を認容。
  解説 管理費等の滞納者から区分所有権を転々譲渡された区分所有者が管理規約に従って管理組合に組合員の資格の取得を届け出なかったこと等の事情から、区分所有者の消滅時効の援用が信義則に反し、権利の濫用として許されないとされた事例。 
  民事p56
東京地裁H27.7.22  
  弁護士の懲戒請求を担当した弁護士会、日本弁護士連合会の懲戒請求者に対する不法行為責任(否定) 
  事案 Xは、平成23年12月、Y1(弁護士会)に対し、D(弁護士)につき虚偽の事実に基づきXの所属する司法書士会にXに関する苦情の申立てをしたこと等を理由に懲戒請求。
Xは、平成25年3月、本件懲戒請求につき相当期間内に懲戒手続を終えないことを理由とし、Y2連合会(日弁連)に対し異議の申出。
Y2の綱紀委員会は、平成25年4月、本件異議申出に理由があると認める旨を決議し、Y2は、Y1に速やかに懲戒手続を進め、懲戒に関する決定をすることを命じた。
Y1は、懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする旨を決議。
⇒XはY2に対し、Y1の決定の取消しを求める異議の申出⇒Y2の綱紀委員会は、Y1の決定が相当であり、異議申出の棄却が相当と議決し、異議申出を棄却⇒Xは綱紀審査の申出⇒綱紀審査申出を棄却する旨の決定。

共同不法行為を主張して訴訟提起。 
  規定 弁護士法 第58条(懲戒の請求、調査及び審査)
何人も、弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するときは、その事由の説明を添えて、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会にこれを懲戒することを求めることができる。
  判断 弁護士法58条1項が何人にも広く懲戒請求件を認めたのは懲戒請求権者の個人的利益の保護のためではない

懲戒請求者は、弁護士会に対し適切な懲戒権の行使を求めるなどの具体的権利を有するものではなく、弁護士会による懲戒権の行使に違法不当な点があったとしても、これにより懲戒請求者の権利又は法的保護に値する利益が侵害する余地はない

懲戒請求権の侵害等を理由とする不法行為を否定。
弁護士法31条1項、45条2項の弁護士らに対する指導、連絡、監督は、専ら所属弁護士の具体的な職務執行や事件処理にわたらない範囲での研修、研究等の一般的な指導監督を想定したものであり、弁護士会あるいはY2の指導監督による是正が特に必要であるとの特段の事情が存在する場合のほかは許されず、本件では特段の事情が認められない。

Y1,Y2が弁護士Dに対する指導監督義務を負っていたとは認められず、Y2がY1に対してこの点につき指導監督義務を負っていたとも認められない
⇒指導監督請求権の侵害を理由とする不法行為も否定。
  民事p61
東京地裁H27.7.1  
  群馬県に所在するゴルフ場の経営会社の主張に係る逸失利益(風評被害)の発生、当該損害と福島第一原発事故との相当因果関係(否定) 
  事案  Xは、本件事故によって放射性物質が放出され、汚染による危険があるとの風評が広がり、本件ゴルフ場の売上げが減少したと主張し、Yに対して原賠法3条に基づき、平成23年3月から7月までの間の営業上の逸失利益、弁護費用の損害賠償を請求。
  争点 ①損害の発生(風評損害の発生)の有無
②相当因果関係の存否 
  判断 本件ゴルフ場の位置、原発との距離、本件ゴルフ場のキャンセルの状況、他のゴルフ場への賠償の状況、本件ゴルフ場の経営体制の推移、本件ゴルフ場の本件事故前後の経営状態、他のゴルフ場(群馬県、近隣県)の来場数、単価及び売上げ等の事情を認定した上、
本件事故による風評損害は、報道等により広く知らされた事実によって、放射性物質による汚染の危険性を懸念した消費者の買い控え等をいうとし、
このような風評損害と本件事故との因果関係は、消費者が本件事故による放射性物質による汚染の危険性を懸念し、敬遠したくなる心理が、平均的・一般的な人を基準として合理性を有しているか否かによって決せられる。
本件では、Xの主張に係る風評の原因とされる事実や報道が風評損害をもたらすかには疑問があるし、本件事故と高度の蓋然性が存在する程度の相当因果関係のある損害であるとの立証はない。
⇒請求棄却。
  民事p75
大阪地裁H27.6.1  
  インターネット上の動画サイトに投稿された動画の削除を命ずる仮処分 
  事案 前市長(債権者)が現市長(債務者)を相手として、現市長がタウンミーティング会場で市長選挙の際に前市長が公職選挙法違反をしたかのような発言を行い、現市長及び現市長が代表を務める地方政党(債務者)がその様子を録画した動画をインターネット上の動画サイトで公開
⇒前市長の名誉が毀損されたとして、人格権に基づき動画の削除等の仮処分を求めた事案。 
  判断  債権者が名誉毀損であると主張したタウンミーティング会場での3つの発言のうち、2つの発言及びそれらの動画の投稿や設定行為については、債権者が選挙の集票目的で町内会等に金銭を交付した事実を摘示⇒債権者の社会的評価を低下させる。
1つの発言及びその動画を視聴できる状態にしたことについては、選挙時に領収書を必要としない補助金を町内会に交付していたとの事実を摘示するにとどまり、集票目的で行われたとの事実を摘示するものではない。
⇒前二者についてのみ名誉毀損の成立を肯定し、動画の削除を命じた。 
  判断/解説   タウンミーティング会場での現市長の発言において、債権者の社会的評価を低下させる事実の摘示の有無

聴衆は主に演説者の声及び姿形により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされ、提供された情報の意味内容を十分に検討したり、再確認できない⇒一般の聴取者の普通の注意と聴取等の仕方を基準として判断するのが相当。
インターネット上の動画サイトの動画における現市長の発言:

一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方における印象等を総合考慮して判断すべき。

①動画の視聴という面でテレビジョン放送と本質的に共通している
②提供された情報の意味内容を再生によって十分に検討したり、再確認したりすることが、通常であるとも一般的に期待されているともいえない

インターネット上の動画サイトの動画における社会的評価を低下させる事実の摘示の有無の判断基準は、動画の元となったタウンミーティング会場での演説の様子を聴取する場面と異にするものではない。
●媒体による表現行為に関して名誉毀損が問題となった事例における最高裁の判断基準
新聞や雑誌など活字メディアによる名誉毀損:
当該記事についての一般読者の普通の注意と読み方とを基準として解釈した意味内容に従って判断すべき(最高裁昭和31.7.21)。
テレビによる名誉毀損:
テレビ放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかという点についても、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断するのが相当。
テレビ放送をされる報道番組においては、新聞記事等の場合とは異なり、視聴者は、音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされるのであり、録画等の特別の方法を講じない限り、提供された情報の意味内容を十分に検討したり、再確認したりすることができない。
⇒当該報道番組により適示された事実がどのようなものであるかという点については、当該報道番組の全体的な構成、これに登場した者の発言の内容や、画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容を重視すべきことはもとより、映像の内容、効果音、ナレーション等の映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して、判断すべき(最高裁H15.10.16)。
  ●いわゆる対抗言論の法理ないしそれに類似する判断基準により違法性が阻却されるか? 
違法性阻却を否定

①現市長の知名度、情報発信力は債務者のそれを大きく上回るものであり、言論市場で両社は対等な地位にあるとはいえない
②タウンミーティング会場で債務者の発言を聴取した者が、債権者が作成した反論動画を視聴するとは限らず、債権者の反論に接する保証はない。
  削除を命じた2つの動画について、社会的評価を低下させる事実の摘示ありとされた部分のみならず、二つの動画全体を削除の対象としている。

各動画をそれぞれ1単位をなす媒体として不可分のものとしてとらえたもの。 
書籍の出版禁止の仮処分についても、該当記載部分のみならず、書籍1冊全体が対象となる。
  民事p84
京都地裁宮津支部H27.8.28  
  賃料減額請求を一部認容とするととも適正賃料と既払賃料との差額の返還等を認めた事例 
  事案 土地の賃借人が賃貸人に、借地借家法11条に基づく賃料減額請求をした上で、減額された賃料額の確認とともに、適正賃料と支払賃料との差額の返還及び同差額に対する同法所定の利息の支払を求めた。
被告が、原告に対し、反訴で、同法同条に基づく賃料増額請求をした上、増額された賃料額の確認を求めた。
  規定 借地借家法 第11条(地代等増減請求権)
地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2 地代等の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3 地代等の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた地代等の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。
  判断 原被告間の賃貸借契約の推移等に関する事実を認定:
本件の対象土地を直えs津の目的とする賃貸借契約(「本件賃貸借契約」)自体は、原被告間で平成4年に締結されたが、
原被告間の従前からの複数の土地建物の賃貸借契約や、その建物の取壊し等に係る代償金の支払に関わる取決め等を踏まえ、上記本件賃貸借契約の賃料額が具体的に合意されるに至ったもの。
その後に賃料額の直近の改訂が平成11年2月されたものであること。
  本件鑑定:
本件賃貸借契約が従前の原被告間の賃貸借契約等の経緯を踏まえて合意に至ったものであることを丁寧に分析。
差額分配法、利回り法、スライド法及び賃貸事例比較法による各試算賃料を精緻に算定し、それら4試算賃料の採否及び考慮すべき割合程度についての論理を展開し、結論として、それらの平均値を適正賃料とすべきとの評価額算出方法をとった。
  原告の賃料減額請求に関して本件鑑定の評価額の限度でこれを適正賃料として確認するとともに、原告による既払額と本件鑑定による適正賃料額との差額等の返還請求を認容し、他方で、被告の賃料増額確認請求を棄却。 
  解説  ●判例・裁判例 
賃料増減請求権は形成権で、賃料増減請求の意思表示が相手方に到達した時点で直ちに実体的な効力が生じる。
裁判所が後に相当賃料額を定めるのは、上記意思表示により客観的に定まった賃料増減の範囲を確認するもの。
賃料額の相当性ないし相当賃料額については、借地借家法所定の事由(借地については同法11条1項、借家については同法32条1項)のほか諸般の事情を総合的に考慮すべき。
賃料増減額確認請求訴訟における賃料額の相当性ないし相当賃料の審理判断にあたっては、直近合意賃料をもとに、合意時から賃料増減請求時までの経済事情の変動等を考慮すべき。
賃料増減額請求における相当賃料額を判断するに当たって、単に賃料相場が変動したというだけで借地借家法の条項所定の要件を満たすものではなく、同条項の要件充足の有無を判断する前提として、まず当該契約における賃料額がいかなる事情を要素として決定されたものを確定しなければ、当該契約における賃料の相当・不相当を判断できない。
  減額を正当とする「裁判が確定した場合」との文言は、あくまで超過額返還請求の附帯請求に位置付けられる法定の利息の支払に係る記載にすぎず、法定の利息分を附帯した超過額等返還請求を認容する旨の主文に仮執行宣言を付するのが相当でないことを実質的に意味する。

判決が確定した後でなければ差額の返還請求ができないとするものではない。
  商事p92
大阪地裁H27.7.21 
  有価証券報告書等の虚偽記載がされている上場株式を取得した投資家が当該虚偽記載がなくともこれを取得した場合における、右投資者に生じた損害額 
  事案 我が国有数の光学機械メーカーであるY社の株式に関する有価証券報告書等の虚偽記載を理由とする損害賠償請求訴訟。 
Xらは、Y社の株式を取得した者ら。
Y社は、平成13年3月期より平成24年3月期第1四半期に係る有価証券報告書等に、連結純資産額につき、約500億円~約1200億円を嵩上げする等の虚偽記載。
  規定 民訴法 第248条(損害額の認定)
損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。
  争点 主たる争点は、民法709条に基づく請求の損害額の算定。 
  判断 民法709条に基づく請求の損害額の算定について、いわゆる高値取得ケースであることを前提に
高値取得ケースにおける株主の損害額は、株主が現に支出したものを前提に考えるべきであり、株式取得のために実際に支出した金銭等の額と虚偽記載がなかったとした場合の取得時点での株式の価値との差額が損害となる。
これを直接認定することはできないので、虚偽記載のための公表前後の市場価額の下落幅等を参考に推計。
本件の証拠関係の下では、取得時点での株式の価値を認定することは困難であり、本件では、損害は発生たことが明らかであるが、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときに当たる
⇒民訴法248条を適用して相当な損害を認定。
Y社の本業の業績及び本件虚偽記載の内容等を踏まえて、本件虚偽記載と相当因果関係のある株価下落分の8割に相当する額を相当な損害額と認定。
  解説 ●最高裁判例 
民法709条に基づく請求に関するものとして、西武鉄道事件(最高裁H23.9.13):
いわゆる取得自体損害ケースにおける損害額の算定方法として、取得価額と処分価額(保有しているときは現在価額)との差額から、当該虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を控除すべき
金商法21条の2に基づく請求に関するものとしてライブドア事件(最高裁H24.3.13):
金商法21条の2第1項及び第2項にいう「損害」につき、虚偽記載等と相当因果関係のある損害を全て含むものと解するのが相当であって、これを取得時差額に限定すべき理由はない。
  ●取得自体損害ケース 
本件では、本件虚偽記載がなければ、Y社の株式を取得しなかったとはいえないことについて、当事者間に争いがない。
取得自体損害ケースとなるか高値取得ケースとなるか、すなわち虚偽記載等がなければ投資家が当該株式を取得することがなかったといえるか否かは、諸般の事情を踏まえた事実認定の問題。
西武鉄道事件は、真実を公表すれば上場要件を満たさない場合。
真実が好評されていれば、投資者が主観的に取得しなかったという場合については、当該投資家の投資傾向、虚偽記載の内容等を考慮した上で、慎重な検討を要する。
  ●高値取得損害ケース 
高値取得ケースにおける損害の捉え方を示した最高裁判例はない。
公表(真実の情報)が市場価額に完全に反映された時を明らかにすることで、回帰分析による「取得時点での株式価値」を計算するという経済的な手法も考え得るが、本判決は、民法248条の適用により相当な損害額を認定。
そして、相当な損害額の認定においては、個々の株主に対応する形で本件虚偽記載と相当因果関係のある株価下落額を認定した上で、本件虚偽記載後の諸事情を考慮して、上記株価下落額の8割を相当な損害額とした。
  労働p117
東京地裁H26.8.28  
  更生管財人で更生会社の出資予定者であった株式会社再生支援機構のディレクターらによる、労働組合に対する発言が、支配介入の不当労働行為に当たるとされた事例 
  事案 JALグループの3社は更生手続開始決定⇒株式会社企業再生支援機構らが更生管財人に選任。 
更生手続中、機構の幹部であるディレクター及び管財人代理が、更生三社の従業員等により組織する労働組合である参加人らとの事務折衝において、「整理解雇を争点とする争議権が確立された場合、機構は、争議権が撤回されるまで更生計画案で予定されている3500億円の出資をすることはできない。」等と発言。

東京都労働委員会は、上記発言は労働組合法7条3号の支配介入の不当労働行為に当たると判断し救済命令を発した。

上記救済命令につき、判断の誤り等があるとして労組法27条の19第1項に基づきその取消しを求めた。
機構のディレクター(弁護士):
「争議権の確立は労働者の権利として尊重します。ただ、整理解雇を争点とした争議権が確立された場合、機構の出資後も争議権の行使により運行が停止して事業が毀損するリスクが極めて高くなります。機構出資後に争議権が行使されるリスクが顕在化している場合に公的資金をそのようなリスクにさらすことはできません。したがって、機構としては、争議権が確立された場合、それが撤回されるまで、更生計画案で予定されている3500億円の出資をすることはできません。」

管財人代理(弁護士):
「3500億円の出資がされないときには、緊急融資の返済期限まで債務を返済できないことになり、そうなると取引が止まるので原告は事業を停止することになると思われます。機構が出資するには、裁判所の認可決定が必要ですが、認可決定前に社内に争議の可能性がある会社を、裁判所が再生できると判断し、認可することは極めて慎重であると、つまり、再生計画案が可決されたも認可決定がでないかもしれないと覚悟しなければならないと私は思っております。認可決定が出なければ、出資はありませんから、その時点で事業停止ということになると理解しております。」
(以上、あわせて「本件発言」)
  規定 労働組合法 第7条(不当労働行為)
使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。

三 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
会社更生法 第80条(管財人の注意義務)
管財人は、善良な管理者の注意をもって、その職務を行わなければならない。
2 管財人が前項の注意を怠ったときは、その管財人は、利害関係人に対し、連帯して損害を賠償する義務を負う。
  争点 ①本件発言は、労組法7条の「使用者」の行為に該当するか(機構の出資予定者としての発言であり、更生管財人すなわち使用者としての発言ではないと評価できないか)
②本件発言は、労組法7条3号の支配介入に当たるか 
  判断 ●争点①について 
①更生管財人は更生会社の事業の経営及び財産の管理処分権を専有し(会社更生法72条1項)、更生三社の従業員の使用者としての地位を有していたこと、
②機構は、更生管財人に選任された後、参加人らとの団体交渉を行う等、実質的にも更生三者の従業員の使用者として責務を果たしてたこと、
③本件発言を行った機構のディレクター及び管財人代理は、機構の幹部・機構らの代理人として参加人らとの団体交渉等に出席して交渉等を行ってきた者であること等

本件発言は、更生三者の従業員の「使用者」としての行為に当たる。
本件発言は、団体交渉とは別の機会に、「機構としての見解を述べる。」等の断りをした上でされたものであって、かつ、その内容は機構の更生三社に対する出資予定者としての判断を伝えるものであった。
but
機構の更生管財人(使用者)としての立場と出資予定者としての立場は、更生三社の再生支援という一つの目的の下で密接に関連しており、本件発言を行ったディレクターらは使用者として団体交渉の場でも機構による原告に対する出資の可否について言及することがあったこと等。

本件発言は使用者である更生管財人としての立場を捨象してされたものとは認められない。
  ●争点②について 
争議権の確率は労働組合が自主的に決定すべき事項であり、本件発言当時は争議権確立のための一般投票の最中であったことからすれば、本件発言当事者争議権確立に対して抑制を加える行為に他ならない

労組法7条3号にいう労働者の労働組合の運営に介入する行為。
更生管財人労働組合に対する情報提供が、更生管財人の利害関係人に対する善管注意義務(会社更生法80条1項)の履行として適法であるというのは、少なくとも、提供した情報が正確であること、情報伝達の時期や方法が利害関係人である労働組合の利益に反しないものであることが必要。
本件発言の内容は機構の組織としての見解を正確に伝えるものであったとはいえず、また、伝達した時期についても争議権の確立の最中であり利害関係人の利益を害しない時期であったとはいえない。
⇒更生管財人の利害関係任に対する情報提供義務の履行として適法となることはない。
  解説  使用者の意見表明がいかなる場合に不当労働行為になるか?
発現の内容、それがなされた状況、それが組合の運営や活動に与えた影響、推認される使用者の意図を総合して判断するのが一般的(菅野)。
  刑事p142
東京地裁立川支部H27.4.14 
  家電量販店で万引きをした被告人に対し、行為時にNCSE(非けいれん性てんかん重積)による意識障害の状態(分別もうろう状態)にあった可能性が高いとし、心神喪失とされた事例 
  争点 被告人の責任能力 
  解説・判断 NCSE(非けいれん性てんかん重積)とは、てんかん発作が一定時間以上連続的に生じる状態でけいれんを伴わないものを指し、意識障害(分別もうろう状態)が主要な臨床症状となる。この意識障害下では、意識の清明度は軽度に下がるのみであるが、広がりや方向性が高度に狭められ、一見まとまった行動をとっているように見えるが、それまで行っていた動作を半意識的に続けたり、理性が低下して欲求が行動化したりすることがあるとされる。
けいれんのような素人にも明らかン症状がない⇒周囲の人も気付かないことが多く、このタイプのてんかん重積はしばしば見逃されていると言われる。
  精神鑑定:
・・・分別もうろう状態の脳波の特徴から、本件行動時の被告人はいわば夢の中で行動しているような状況で、葛藤や欲求を抑制していた理性がはずれている
⇒事理弁識能力を肯定しつつ行動制御能力を否定。 
  生物学的要素である精神障害の有無及び程度、並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度については、精神科医の意見が鑑定等として証拠になっている場合には、これを採用し得ない合理的な事情が認められない限りその意見を十分に尊重して認定すべきである(最高裁H2-.4.25)。
最終的に心神喪失か心神耗弱化については法律判断として規範的評価を加えるべき問題(最高裁昭和58.9.13)
⇒本判決jも、犯行態様を詳細に検討して責任能力を検討。 
  判断:
鑑定の信用性を肯定。
被告人の行動が異常、不自然であることや、記憶を正確に保持していなかった疑いがあること、本件行為と病前性格との親和性が乏しいこと
⇒鑑定のとおり本件行為時に被告人がNCSEによる意識障害の状態(分別もうろう状態)にあった可能性が高い。
  本件は、行為態様に責任能力を肯定する要素もあった。
but
本件行為の状況が、「ある程度の行動制御能力を有していれば途中で犯行を思いとどまってしかるべき」ものであったのに万引きを遂げたことを根拠に行動制御能力を否定して、心神耗弱にとどまらず心神喪失を肯定。 
★平成28年3月分
2282   
  行政p22
東京高裁H27.12.17  
  財産評価基本通達に従って決定される不動産の価格とその適正な時価との関係
  事案 4階建てマンション5棟で構成された集合住宅(「本件住宅」)の住戸、階段室及び事務所の各部分並びにその敷地の持分(本件各不動産)を平成19年に贈与により取得。
不動産鑑定士の鑑定評価による本件各不動産の価格により課税価格を算定して贈与税の申告。 
控訴人らは、各処分行政庁から、本件各不動産の価額は財産評定基本通達に定められた評価方式に評価すべき⇒平成19年分の贈与税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分。

控訴人らが、被控訴人に対し、本件各処分のうち控訴人らの申告に係る課税価格及び納付すべき税額を超える部分並びに賦課決定処分の各取消しをそれぞれ求めた事案。
  原審 評価通達に定められた評価方式が贈与により取得した財産の取得の時における時価を算定するための手法として合理的なものであると認められる場合においては、評価通達の定める評価方法による課税実務は、納税者間の公平、納税者の便宜、効率的な徴税といった租税法律関係の確定に差姉弟求められる種々の要請を満たし、国民の納税義務の適性な履行の確保(国税通則法1条、相続税法1条参照)に資するものとして、相続税法22条の規定の許容するところであると解される。 
上記の場合においては、評価通達の定める評価方法が形式的に全ての納税者に係る贈与により取得した財産の価額の評価において用いられることによって、基本的には素材負担の実質的な公平を実現することができるものであって、同条の規定もいわゆる租税法の基本原則の1つである租税平等主義を当然の前提としているものと考えられる。

評価通達に定められた評価方式によっては適正な時価を適切に算定することのできない特段の事情があるとき(評価通達六参照)を除き、特定の納税者あるいは特定の財産についてのみ評価通達に定められた評価方式以外の評価方法によってその科学を評価することは、たとえその評価方式によって算定された金額がそれ自体では同条の定める時価として許容範囲内にあるといい得るものであったとしても、租税平等主義に反するものとして許されない。
・・・本件各不動産について評価通達に定められた評価方式によっては適正な時価を適切に算定することのできない特段の事情があるということはできない。
控訴 本件各贈与がされた時期は本件住宅の建替計画に係る建物基本計画案が承認されていたにすぎず、本件住宅に係る一括建て替え決議がされていない
⇒本件住宅の建替えが実現する蓋然性が高いとはいえず、本件各不動産については評価通達による評価方法によっては適正な時価を適切に算定できない特段の事情が認められるというべきであって、本件各処分は実質的には老朽化マンションを新築マンションと同様に評価するものであり、不当と主張し控訴。 
  解説・判断 相続税法22条は、贈与等により取得した財産の価額を当該財産の取得の時における時価によるとするが、ここにいう時価とは当該財産の客観的な交換価値をいう(最高裁H22.7.16)。
相続税法は、地上権及び永小作権の評価(同法23条)、定期金に関する権利の評価(同法24条、25条)及び立木の評価(同法26条)については評価の方法を自ら直接定めるほかは、財産の評価の方法について直接定めていない。

納税者間の衡平の確保、納税者及び課税庁双方の便宜、経費の節減等の観点から、評価に関する通達により全国一律の統一的な評価の方法を定めることを予定し、これにより財産の評価がされることを当然の前提とする趣旨。
国税庁長官は財産評価基本通達を定め、この通達に従って実際の評価が行われている。

評価対象の不動産に適用される評価通達の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであり、かつ、当該不動産の贈与税の課税価格がその評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情の存しない限り、贈与時における当該不動産の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないと推認するのが相当(最高裁H25.7.12)。
租税法律主義との関係で評価通達の法的意義が問題。
最高裁H25.7.12は、固定資産評価基準(「評価基準」)による土地の価格とその適正な時価との関係等につき、総務大臣が評価基準を定めてこれを告知しなければならない旨を規定する地方税法388条1項を法的根拠として、評価基準の定める評価方法により土地の登録価格は当該土地の適正な時価を上回るものではないと推認されると判示。
これに対し、評価通達は、評価基準とは異なり、上記のような法的規定を欠くため、最高裁H25年判決が説示する趣旨が直ちに評価通達まで及ぶとはいえず、評価通達の法的意義という問題は、判例法理上重要な法律問題として残されている。
  ●裁判例 
裁判例は、租税平等主義という観点から評価通達の法的根拠を説示するものが多数。
最高裁H22年判決:
社団医療法人の増資等における出資の引受けに係る増資時における出資の引受けに係る贈与税の課税について、当該社団医療法人の定款には出資した社員が退社時に受ける払い戻し及び当該法人の解散時の残余財産分配はいずれも当該法人の一部の財産についてのみすることができる旨の定めがある場合であっても、評価通達194-2は、社団医療法人及びその出資に関する事情を踏まえつつ、出資の客観的交換価値の評価を取引相場のない株式の評価に準じて行うこととしたものであるから、その方法によっては当該法人の出資を適切に評価することができない特別の事情の存しない限り、これによってその出資を評価することには合理性がある。
  金子:
評価に関する通達の内容が、不特定多数の納税者に対する反復・継続的な適用によって行政先例法となっている場合には、特段の事情がない限り、それと異なる評価を行うことは違法になると解すべき。
評価基本通達の基本的内容は、長期間にわたる継続的・一般的適用とそれに対する国民一般の法的確信の結果として、現在では行政先例法になっていると解されるので、特段の理由がないにもかかわらず、特定の土地について評価基本通達と異なる方法を用いて高く評価することは違法であると解すべき。 
  ●本判決
  本判決は、評価通達が評価の統一を図るための財産の時価の算定に係る技術的かつ細目的な基準として定められている点については評価基準と共通していることに鑑み、相続税法は不動産の評価の方法につき直接定めるものではないが、納税者間の公平の確保、納税者及び課税庁双方の便宜、経費の節減等の観点から、同法は評価通達により全国一律の統一的な評価の方法を定めることを予定しこれを当然の前提とする趣旨。
相続税法26条の2が土地評価の意見を土地評議審議会に委ねたのも、上記趣旨を踏まえたものと解した上、相続税法自体を法的根拠として、評価通達の定める評価方法による不動産の課税価格が当該不動産の適正な時価を上回るものではないと推認されると判示。
評価通達の法的根拠が納税者間の衡平の確保その他の相続税法の趣旨を踏まえたもの
⇒評価対象の財産の価額が評価通達の定める評価方法に従って決定された場合に、かえって納税者間の公平を著しく害するなどの特別の事情の存するときは、当該財産の課税価格が評価通達によって決定される価格を上回るときであっても、上記相続税法の趣旨に照らし、その課税価格の決定が違法となると認めるのは相当ではない。
とすると、最高裁平成25年判決が評価基準によって決定される土地の価格を上回る登録価格の決定が違法となると判示したところは、評価通達には直ちに及ばないと解するのが相当。
  行政p28
大阪高裁H27.6.2  
  市の職員によって組織された労働組合、職員団体又はその連合体が、3つの年度において、市の庁舎内の一部について、事務所として利用するための目的外使用許可の申請に対する不許可処分⇒最初の年度は違法、その後の2つの年度については適法。 
  事案 X1~X6は、Y(大阪市)の職員が加入する労働組合、職員団体又はその連合体。平成23年度まで、市の庁舎内の一部を、目的外使用許可を受けて、労働組合等の事務所として利用。
X1~X6は、Yの市長に対し、平成24年度から平成26年度の3階にわたって、市の庁舎内の一部を労働組合等の事務所として利用sるウために目的外使用許可を申請⇒いずれも不許可処分

これらの各不許可処分は違法であるとして、国賠法1条1項に基づく損害賠償及びこれに対する各不許可処分の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、
平成26年度の各不許可処分について、その取消しを求めた。
(平成24年度及び平成25年度の各不許可処分についての取消請求に係る訴えについては、使用期間が経過したため、取り下げ))
  規定 労働組合法 第2条(労働組合)
この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。但し、左の各号の一に該当するものは、この限りでない。

二 団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの。但し、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、且つ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
労働組合法 第7条(不当労働行為)
使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。

三 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
  原審 平成24年度から平成26年度までの各不許可処分は、いずれも違法
⇒X1~X6の損害賠償請求を総額350万円及びこれに対する遅延損害金の限度で認容。
平成26年度の各不許可処分を取消し。
  判断  ●平成24年度の各不許可処分
①庁舎内で行政事務スペースが慢性的に不足していたとの事情が存在していたはいうものの、未だ、上記事務室部分を行政事務スペースに割り当てなければならない具体的な必要性が生じていたとまでは認め難い。
②平成24年度の各不許可処分は、市長の発案によって、庁舎内において政治活動が行われる可能性を封じるとの目的で行われたものであって、このような市長による方針の決定は、市会における議員の発言をきっかけに、事実関係の十分な調査や検討を経ずに行われたものであり、その目的と、これに対してとられた手段である上記事務室部分の使用不許可処分との間に、合理的な関連性があるということもできない。
③平成24年度の各不許可処分は、長期間、反復・継続されてきた労働組合等に対する便宜供与を破棄するものであるところ、YがX1~X6を始めとする労働組合等に対して上記事務室部分からの退去を求めてから退去の期限までの期間は約2か月と短い上、YがX1~X6に対して上記事務室部分の明渡しを求める理由を具体的に説明したのは明渡しの約1か月前。

上記事務室部分の使用許可を与えるか否かの判断が、その管理者である市長の裁量に委ねられており、X1~X6が権利として上記事務室部分の貸与をを求めることができないことなどを考慮したとしても、平成24年度の各不許可処分は、その判断要素の選択に合理性を欠くところがあり、かつ、その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められるもので、裁量権を逸脱・濫用した
⇒平成24年度の各不許可処分は違法。
  ●平成25年度及び平成26年度の各不許可処分
①Yにおいては、平成24年7月に、大阪市労使関係に関する条例が制定され(「本件条例」)、その12条で、労働組合等の組合活動に関すr便宜の供与は行わないものとすると定められている。本件条例12条は、労働組合法2条2号本文及び7条3号本文と同趣旨の内容を定めるものであるということができ、労働組合が、使用者に対し組合事務所の供与を請求する権利があるとはいえない。

本件条例12条による便宜供与の廃止が直ちに労働組合法7条3号に反するということはできず、また、地方実法238条の4第7項や労働組合法7条2号等に違反するということもできない。
②平成25年度及び平成26年度の各不許可処分は、本件条例12条に基づいて行われたもので、庁舎内に必要な行政事務スペースを確保するために行われたものということができ、X1~X6が被る不利益もやむを得ない程度のものということができる。
⇒X1~X6の団結権等を侵害するということはできず、合理的な根拠に基づいて行われたものであって、これについてのYの市長の判断が社会通念に照らし妥当性を欠き、その裁量権の範囲を逸脱したり、濫用したものであるということはできない。

平成25年度及び平成26年度の各不許可処分は違法であるということはできない。
 
X1~X6の損害賠償請求は、平成24年度の不許可処分については理由がある(総額250万円及びこれに対する遅延損害金の限度で容認)が、その余の損害賠償請求及び平成26年度の不許可処分の取消請求は理由がない。 
  解説 市の庁舎は、地方自治法238条1項にいう「公有財産」であり、同条4項にいう行政財産のうち、「公用」に供する財産に該当。
行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる(地方自治法238条の4第7項)。
市の行政財産について、その使用を許可するか否かは、原則として、その管理者である市長(地方自治法238条の4第7項)の裁量に委ねられる。
⇒管理者である市長の裁量権の行使が逸脱・濫用に当たるかが問題となる。
管理者の裁量判断は、許可申請に係る使用の日時、場所、目的及び態様、使用者の範囲、使用の必要性の程度、許可をするに当たっての支障又は許可をした場合の弊害若しくは影響の内容及び程度、代替施設確保の困難性など、許可をしないことによる申請者側の不都合又は影響の内容及び程度等の諸般の事情を総合考慮してされるものであり、その裁量権の行使が逸脱・濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となる(最高裁)。
労働組合等が当然に使用者の財産を組合事務所として利用する権利を保障されているということはできず、使用者において、労働組合等による上記利用を受任しなければならない義務を負うと解すべき理由はない(最高裁)。
類似事例
東京地裁H17.8.29:
使用者の労働組合に対する便宜供与(会議室等の会社施設の使用、組合掲示板の貸与、組合事務所の賃料の支払など)の廃止が、その時期、方法、手続などから不当労働行為意思に基づくもので不法行為に該当するとした。
東京地裁H21.3.27:
当該事案において、その後、便宜供与を再開しないことは、不法行為に当たらないとしている。
  行政p56
旭川地裁H27.7.21  
  地方公務員に支給された通勤手当と国税徴収法76条1項柱書にいう「これらの性質を有する給与」(肯定)
  事案 処分行政庁A(稚内市長)が、滞納処分としてXの給与等に係る支払請求権を差し押さえた上、第三債務者(B)(北海道)から領収した金銭について4件の配当処分をしたところ、Xが、計算方法に違法があり、配当処分も違法であると主張して、Y(稚内市)に対し、上記4件の配当処分の取消しを求めた事案。
  争点 XがBから支給された通勤手当が、国税徴収法76条1項柱書きにいう「これらの性質を有する給与」に当たるか否か、すなわち国税徴収法上差し押さえることができる債権であるか否か。 
  判断 法76条1項の趣旨に照らすと、同項柱書きにいう「これらの性質を有する給与」とは、雇用関係又はこれに準ずる職務関係に基づき雇用主等から支給される報酬その他の収入をいうものと解され、本件の通勤手当はこれに該当する。 
労務を提供する債務は持参債務であるから、通勤に要する費用は本来労働者が負担すべきものであり、通勤手当が支給されていれば労働者はその分だけ自分の財産から支出を免れることになる
⇒雇用契約等において定められた支給基準に従って支給される通勤手当を「これらの性質を有する給与」に含めてその一部を差押可能なものと取り扱っても不合理といえない。
民事執行法と国税徴収法とではその目的等や差押禁止範囲の規律が異なっていることなどに照らすと、仮に民執法152条1項2号についてはXの主張するとおりに解すべきであるとしても、これに法76条1項柱書きの解釈を合わせることが論理必然とはいえない。
  解説  法76条1項柱書きにいう「これらの性質を有する給与」については、雇用関係又はこれに準ずる職務関係により雇用主等から支給される報酬その他の収入で賞与又は退職手当の性質を有する給与以外の給与とかいされており、国税基本通達76条関係一も、通勤手当を「これらの性質を有する給与」に含める解釈を示している。
  他方、民執法152条1項2号にいう「これらの性質を有する給与」には、通勤手当は含まれないと解するのが通説。

通勤費は給与の性質を有しない実額支給金にほかならないから、給与等の差押えの対象に含まれず、差押禁止額の計算の基準額から除外して計算されるべき。
  民事p63
最高裁H27.11.19  
  保証人が主たる債務者に対して取得した求償権の消滅時効の中断事由の存在と共同保証人間の求償権の消滅時効中断 
  事案 共同保証人の1人であり、主たる債務者の借入金債務を代位弁済したX(信用保証協会)が、他の共同保証人であるYに対し、民法465条1項、442条(共同保証人間の求償権)に基づき、求償金残元金と遅延損害金の支払を求めた事案。
Xは、平成14年5月。A会社に対し、求償権の支払を求める訴訟を提起、代位弁済から18年以上経過した平成24年7月に共同保証人であるYに訴訟提起。
  規定 民法 第465条(共同保証人間の求償権)
第四百四十二条から第四百四十四条までの規定は、数人の保証人がある場合において、そのうちの一人の保証人が、主たる債務が不可分であるため又は各保証人が全額を弁済すべき旨の特約があるため、その全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用する。
民法 第442条(連帯債務者間の求償権)
連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、他の連帯債務者に対し、各自の負担部分について求償権を有する。
2 前項の規定による求償は、弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
民法 第457条(主たる債務者について生じた事由の効力)
主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は、保証人に対しても、その効力を生ずる。
  主張 Yは、求償権の時効消滅を主張。
Xは、共同保証人間の求償権を主たる債務者に対する求償権を担保するためのものであるから、主たる債務者に対する求償権の消滅時効の中断事由がある場合には、民法457条1項のる類推適用により、共同保証人間の求償権についても消滅時効の中断の効力が生じると主張。
  原審  保証人の主たる債務者に対する求償権と共同保証人間の求償権との間に主従の関係があるとはいえない
⇒A株式会社に対する求償権の消滅時効の中断事由がある場合であっても、Yに対する求償権について消滅時効の中断の効力が生ずることはない。
⇒Xの請求棄却。 
  判断 民法465条に規定する共同保証人間の求償権は、主たる債務者の資力が不十分な場合に、弁済をした保証人のみ損失を負担しなければならないとすると共同保証人間の公平に反することから、共同保証人間の負担を最終的に調整するためのものであり、保証人が主たる債務者に対して取得した求償権を担保するためのものではない。

保証人が主たる債務者に対して取得した求償権の消滅時効の中断事由がある場合であっても、共同保証人間の求償権について消滅時効の中断の効力は生じない。
  解説 主たる債務者に対する求償権と他の共同保証人に対する求償権とは、別に優劣はなく、請求権競合又は不真性連帯的に自由に選択して行使することができる。(於保、債権総論)
  民事p65
大阪高裁H27.7.9  
  架空取引の同業他社への紹介と使用者責任(肯定)
  事案  Xは、Yの従業員から勧誘を受け、携帯型ゲーム機の付属品をAから購入してBに売却するという本件取引を数次にわたり行い、Yは、Xに対する勧誘以前から、A及びBとの間で同じ商品の取引を行っていたが、Yの取引は、Bから購入した商品をAに売却するという流れで、本件取引とは商流が逆。
  Xが、Yに対し、本件取引が実際には本件商品の製造・納入を伴わない架空取引であったにもかかわらず、そのことを認識し又は認識し得たYの従業員又はYがXに告知・説明しなかったことが不法行為を構成すると主張し、使用者責任(民法715条)又は不法行為(同法709条)に基づき、損害賠償を請求。
  一審 Xの請求をいずれも棄却
  判断 Yの使用者責任を肯定
①Yの取引は、遅くとも平成21年1月以降の取引は、対象商品の製造・納入を伴わない架空取引であった
②Yの取引では、Yが、まず、本件商品の代金を製造費用としてB先払いし、本件商品がBからAに納入された後、Aがその代金をYに支払うものとされていること、しかし、Bの代表者は、Yの従業員に対し、本件商品が実際に納入されていないのに、BがAに代わってその代金を立て替えていたことがあると説明している。
③Yの取引における発注量は増加し、本件商品の代金も先払いされているにもかかわらず、B又はAの資金繰りが悪化し、その結果、Aが、Yに対し、同年5月末日を支払期限とする代金の支払を遅延。
④Yにおいても、A又はBの支払能力等に不安があることから、Bへの代金の支払方法についてその全額を現金払いすることができない状況となった。
⑤このような状況下で、Yの従業員が、同年7月中旬頃、Xの担当者に対し、Yの取引の一部をXに助けてもらいたいと称して本件取引を紹介し、Xを本件取引へと参加させた。

Yの従業員は、Yの取引の決済を確保するには、新たな取引参加者から全額先払いという方法によってB又はAに資金を調達させなければならず、それができなければ、遅かれ早かれB又はAが資金繰りに窮して、Yの取引自体が破綻する可能性が高いということを認識していた。
⑥Yの従業員は、Xの担当者に対し、本件取引の商流がYの取引の商流と逆であるにもかかわらずそのことを説明していないこと
⑦Yの取引では、本件商品の製造期間4か月を考慮し、Bへの支払い後、Aからの代金回収までの期間を6か月と定めているにもかかわらず、本件取引では、2か月後の代金回収であると説明

Yの従業員は、この当時、本件取引が本件商品の製造・納入を伴わない架空取引であることを認識していた可能性が高いが、仮にそうでないとしても架空取引であることを疑うべき事情は認識していたと認められ、その事情を認識しながら、そのことを告げずにXを本件取引に勧誘することは不法行為を構成する。
①本件取引は、Yの取引ではないが、YとBとの取引を確保するために行われるもの⇒その勧誘行為はYの事業と密接に関連する行為。
②Xを本件取引に参加させるために勧誘する行為は、外形からみて、営業担当者の職務の範囲内に属する。

Yの「事業の執行について」されたものといえ、YはXに対し、使用者責任を負う。
Xが本件商品の購入代金としてAに支払った4485万6000円をXの財産的損害と認める。
Xにも本件取引に伴うリスクを最小限にするための調査を怠った点で著しい過失がある⇒過失相殺によって5割減額。
本件取引に関してB及びAから金銭支払を受けた分を損害の填補として控除した残金1071万3000円と弁護士費用100万円の合計1171万3000円を認容。
  民事p75
東京地裁H27.7.23  
  福島県の宅地分業事業者の主張する損害と原発事故との因果関係(否定)
  事案 福島県内の不動産業者が福島第一原子力発電所の事故(「本件事故」)による損害賠償を請求した事案 
Xは、平成23年5月2日、B有限会社との間で工期を着工後2か月として宅地造成工事に関する請負契約を締結したが、土木作業員が不足し、大幅に遅延。
Xは、Yに対し、本件事故がなければ、仮設住宅の設置を必要とすることはなく、工事が遅延することはなかった等と主張し、逸失利益、固定費用相当額、つなぎ融資利息額、他の事業者との住宅建築開発事業に関する損害、ガソリン供給の停滞による営業損害、弁護士費用相当額につき、原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)3条1項本文に基づき損害賠償を請求(一部請求)。
  争点 損害の発生の有無
因果関係の存否 
  判断 宅地造成工事について、
仮設住宅が本件事故、地震、津波によって必要になったものであり、需要増加、土木作業員の不足が専ら本件事故にあるとはいえず、Bが独自の判断により他の建設工事に優先させたことが遅延の直接の原因であるとうかがわれる。

Xの主張に係る損害が生じたとしても、相当因果関係が認められない。 
他の損害にかかるXの主張も、同様な理由で排斥。
  解説 本件事故に係る損害賠償は、原賠償18条に基づき設置された原子力損害賠償紛争審査会の作成、公表に係る中間指針を基にYによる交渉、合意等によって行われ、賠償額は既に5兆円を超えている。 
  民事p78
さいたま地裁H27.12.12  
  検索エンジンの管理者に検察結果の削除を求めた仮処分命令の申立てが「忘れられる権利」に基づき認容された事例
  事案 債権者の住所と氏名で検索⇒児童買春の罪での逮捕歴についての検索結果の表示⇒債権者は、この検索結果の表示により「更生を妨げられない利益」が違法に侵害され、人格権に基づく妨害排除又は妨害予防の請求として検察結果の削除請求権を有すると主張し、仮の地位を定める仮処分を申し立て、検索結果の削除を求めた。
  原決定 検察結果により更生を妨げられない利益が受忍限度を超えて侵害されている⇒人格権に基づき検索エンジンの管理者である債務者に対し検索結果の削除を求めることができ、検索結果が今後表示し続けられることにより回復困難な著しい損害を被るおそれがある。
⇒仮に検察結果を削除することを債務者に命じた。
  債務者が保全異議 
  判断 検索エンジンに対する検索結果の削除請求を認めるべきか否かは、
①検索エンジンの公益的性質にも配慮する一方で、②検索結果の表示により人格権を侵害されるとする者の実効的な権利救済の観点も勘案しながら、諸般の事情を総合考慮して、更正を妨げられない利益について受忍限度を超える権利侵害があるといえるかどうかによって判断すべき。
債権者は、既に罰金刑を処せられて罪を償ってから3年余り経過した過去の児童買春の罪で逮捕歴がインターネット利用者によって簡単に閲覧されるおそれがあり、そのため知人にも逮捕歴を知られ、平穏な社会生活が著しく阻害され、更生を妨げられない利益が侵害されるおそれがあって、その不利益は回復困難かつ重大であると認められ、検索エンジンの公益性を考慮しても、更生を妨げられない利益が社会生活において受忍すべき限度を超えて侵害されていると判断。
受忍限度の判断の考慮事情については、①侵害行為の態様と程度、②被侵害利益の性質と内容、③侵害行為の公共性の内容と程度、④被害の防止又は軽減のため加害者が講じた措置の内容と程度についての全体的な総合考察を必要とする。
更生を妨げられない利益が侵害されるとして、検索エンジンの管理運営者に対し逮捕歴に関する記載が表示される検索結果の削除を求める請求については、その者のその後の生活状況を踏まえ、検索結果として逮捕歴が表示されることによって社会生活の平穏を害され更生を妨げられない利益が侵害される程度を検討し、他方で逮捕歴を検索結果として表示することの意義及び必要性について、事件後の時の経過も考慮し、事件それ自体の歴史的又は社会的意義、その当事者の重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、検索エンジンの目的、性格等に照らした実名表示の意義及び必要性をも併せて判断し、逮捕歴にかかわる事実を公表されない法的利益が優越し、更生を妨げられない利益について受忍限度を超える権利侵害があると判断される場合に、検索結果の削除請求が認められる。
  解説 受忍限度の考え方:大阪国際空港夜間飛行禁止等請求事件(最高裁昭和56.12.16)、国道43号、判旨高速道路騒音排気ガス規制等請求事件(最高裁H7.7.7)
前科及び犯罪歴は人の名誉、信用に直接かかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有すると判示し、弁護士法23条の2に基づく照会に応じて前科及び犯罪経歴を報告したことが過失による公権力の違法な行使にあたるとした判例(最高裁昭和56.4.14)。
ノンフィクション逆転事件(最高裁H6.2.8)において、ある者が刑事事件につき被疑者とされ、さらには被告人として公訴を提起されて判決を受け、とりわけ有罪判決を受け、服役したという事実は、その者の名誉あるいは信用に直接にかかわる事項であるから、その者は、みだりに右の前科等にかかわる事実を公表されないことにつき、法的保護に値する利益を有するとし、この理は、右の前科等にかかわる事実の公表が公的機関によるものであっても、私人又は私的団体によるものであっても変わるものではなく、その者が有罪判決を受けた後あるいは服役を終えた後においては、一市民として社会に復帰することが期待されるのであるから、その者は、前科等にかかわる事実の公表によって、新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられない利益を有する。
新聞に事実に反する記事を掲載頒布し、これにより他人の名誉を毀損することは、単なる過失による場合でも正当業務行為ということはできない(最高裁昭和31.7.20)。
●忘れられる権利 
本決定は、一度は逮捕歴を報道され社会に知られてしまった犯罪者といえでも、人格権として私生活を尊重されるべき権利を有し、更生を妨げられない利益を有するから、犯罪の性質等にもよるが、ある程度の期間が経過した後は過去の犯罪を社会から「忘れられる権利」を有するとの判断。
どのような場合に検索結果から逮捕歴の抹消を求めることができるかについては、公的機関であっても前科に関する情報を一般に提供するような仕組みをとっていないわが国の刑事政策を踏まえつつ、インターネットが広く普及した現代社会においては、ひとたびインターネット上に情報が表示されてしまうと、その情報を抹消し、社会から忘れられることによって平穏な生活を送ることが著しく困難になっていることも、考慮して判断する必要がある。
忘れられる権利は、情報化社会において「私生活を尊重される権利」(フランス民法9条)をより適切に保障する観点から、インターネット上の個人情報について検索エンジン事業者に対し検索結果からの削除を求める権利として、フランスなどで近年論じられている。 
欧州連合司法裁判所2014.5.13:
氏名で検索すると、グーグルの検索結果に氏名を含む自己の不動産競売の広告が掲載された1998年の新聞記事へのリンクが表示されることについて、グーグル・スペイン及び米国法人グーグル・インクに対して検察結果の表示の削除を求めた請求を認めた。
その後、フランスの情報処理及び自由に関する国家委員会や英国の情報コミッショナー事務局が、欧州連合司法裁判所判決に基づき、グーグルに対し検索結果の削除を求める対応を行っておrい、「忘れられる権利」の適用と理解されている。
裁判所でも、東京地裁H26.10.9は、氏名で検索すると反社会的集団に所属していたことが読み取れる検索結果が表示される場合に、その検索結果を削除するようグーグル・インクに命ずる仮処分を発した。
フランスでは、パリ大審裁判所が、2014年11月24日及び2014年12月19日の急速審理命令により、2006年の詐欺事件での懲役3年(内2年6月執行猶予)の刑の宣告を報じた新聞社のホームページ上の記事が、氏名で検索すると検索結果に表示されることにつき、欧州連合司法裁判所判決やフランス民法9条などに依拠しつつ、検察結果の削除をグーグル・インクに命じている。
  民事p90
福島地裁H27.6.30  
  福島原発事故と自殺との因果関係肯定
  事案 福島第一原発における放射能物質の放出事故(「本件事故」)により、福島県双葉郡浪江町に居住していたAが、同町からの避難を余儀なくされたこと等が原因となり、同年7月23日に自殺⇒Aの相続人であるXらが、Yに対し、原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)3条1項本文及び選択的に民法709条ないし711条に基づき、損害賠償請求。
  争点 ①本件事故とAの自死との間に因果関係を認めることができるか
②因果関係を認めた場合にAの個体側の要因を理由とする損害額の減額の可否及び減額割合
③具体的な損害額 
  判断 ①本件事故によりAが居住していた浪江町から避難を余儀なくされた経緯、
②郡山市及び二本松市における避難生活の状況
③Aの個体側の要因としての二型糖尿病の状況等
について詳細に事実を認定し、本件事故とAの自死の間の因果関係を認定。 
因果関係に関して、一般的に不法行為に基づく損害賠償と同様に相当因果関係の有無により判断。
具体的には、
①本件事故がAの自死につながる準備状態を形成した諸原因の中でどの程度の重要性を有していたか、
②自死につながる準備状態の形成と関連性が強いとされている気分障害(主にうつ病)Aが罹患していたか
を検討。
その上で、Aが生前、精神疾患の専門家の寝台、治療歴を有していなかったこと等を踏まえ、Aがうつ病を発症していたことまでは認定しなかったが、原告側の専門家の意見書を踏まえ、平成23年7月以降、Aが「うつ病を発症していた可能性があり、少なくとも小うつ病性障害を発症していた蓋然性が高いとみても矛盾のない精神状態」(「本件うつ状態」)に至っていたと認定。
そして、本件うつ状態に至った要因として、Aの様々なストレス要因を取り上げて、精神障害に関する労災認定実務において用いられているストレス強度の評価表を参照して各ストレス要因の強度を評価。

主として本件事故を原因とするストレスによって、Aの自死につながる準備状態が形成され、それがAをして自死の実行に及ばせたと認定。
Aの個体側の要因を理由とする損害額の減額の可否及び減額割合に関して、
最高裁H4.6.25に基づき民法722条2項を類推適用する方法。 
①Aの既往症であった二型糖尿病が、本件事故による避難がもたらすストレス要因としてAを本件うつ状態に至らせる要因となっていたこと
②本件事故による避難者の大多数が避難による様々なストレスを抱えながらも自死に至っていないこと
③平成23年7月(自死)当時のAの精神状態はうつ病そのものを発症した可能性が高い状態ではなく、本件うつ状態であったにとどまる

Aが二型糖尿病に罹患していたこと及びAの自死に精神障害以外の要因が関与した可能性がある⇒損害額の4割を減額。
  解説 交通事故の被害者がが自殺した場合に、損害額について7割から8割の減額をした例が多いことと比較すると、減額幅が小さい。 
  労働p121
大阪地裁H27.1.28 
  会社更生手続下での航空会社の整理解雇が人選基準の合理性を欠くとして無効と判断された事例
  事案 整理解雇対象者の人選基準
①裁判所に更生計画案を提出した平成22年8月31日を基準日として、現に休職中の者、及び、過去の一定期間において一定以上の休職や病気欠勤に至ったことがある者を対象とする「病気・休職等基準」
②補充的な基準として、職種・職位・保有資格ごとに、削減目的に達するまで年齢の高い者から順に対象とする「年齢基準」

「病欠・休職等基準」に関しては、当初の人選基準案を公表した後、「現在何の問題もなく乗務復帰している者は、将来の貢献度が低いとはいえないのではないか」との指摘

平成22年11月15日に至って、当初の人選基準案を公表した同年9月27日を基準日とし、当該基準日時点で乗務復職している者で、かつ、平成、平成18年10月1日から平成20年3月31日までに連続して1か月を超える病気欠勤期間ないし休職期間が無かった者を整理解雇の対象外とする旨の「復帰基準」が加えられた。
「病欠・休職等基準」に該当することが解雇理由とされたXが、Yに対し、労働契約上の権利を有する地位の確認等を求めて本件訴訟を提起。
  判断 本件人選基準について、
いずれも使用者の恣意性が排除されおり、かつ、Yに対する貢献度に照らして合理的な基準。
しかし、「復帰日基準を付加して当初の人選基準案を変更し」た趣旨に照らすと、「特段の事情がない限り、本件解雇通知時に近い、手続き的にできるだけ遅い時点をもって基準日とするのが・・・合理的」なのに、「その基準日を、当基準を提示した平成22年11月15日ではなく、当初の人選基準案を提示した同年9月27日に遡らせた点において、同月1日から同月27日までに復職した労働者が本件整理解雇を免れることと比較した場合に、上記趣旨で設定された復職日基準の追加が提示された同年11月15日までに復職できている点は同じであるにもかかわらず、同年9月28日から同年11月15日までに復職した者が以前本件整理解雇の対象者とされることになり、・・・・不合理」である。したがって、「その余のてんについて検討するまでもなく、本件整理解雇は無効となる」と判断。
  解説 人選基準の合理性に関しては、使用者の恣意を排除する客観的な基準であり、かつ差別として禁止されていないことが求められるものの、それ以上に一律の判断基準があるものではない。 
本件人選基準も、使用者の恣意を排除した合理的な基準であり、基準日の前後で労働者の処遇に相違が生じることは、人選基準として当然の帰結。
but
判旨は、人選基準の合理性として、
「労使の全体的な了解(納得)を尊重すべき」(菅野)と考えられていることをい踏まえ、労働組合からの指摘を受け入れて追加された復帰日基準に特有の趣旨を強調することで、復帰日基準の設定にかかる使用者の裁量を制限的にとらえ、本件人選基準の合理性を否定。
  刑事p144
最高裁H27.8.25 
  公判調書の整理期間を定める刑訴法48条3項と憲法31条との関係
  事案 弁護人:
公判調書が弁護人の弁論及び被告人の最終陳述までに作成整理されていなかったとした上、公判調書の整理期間について、判決宣告日以降の作成整理を許容する刑訴法47条3項は、裁判員裁判において、弁論前に、高度に専門的・医学的内容を有する焦点の公判調書を謄写する機会を弁護人から奪うものであって、憲法31条に違反すると主張。

刑訴法48条3項と憲法31条の関係が問題。
  規定 刑訴法 第48条〔公判調書の作成・整理〕
公判期日における訴訟手続については、公判調書を作成しなければならない。
②公判調書には、裁判所の規則の定めるところにより、公判期日における審判に関する重要な事項を記載しなければならない。
③公判調書は、各公判期日後速かに、遅くとも判決を宣告するまでにこれを整理しなければならない。ただし、判決を宣告する公判期日の調書は当該公判期日後七日以内に、公判期日から判決を宣告する日までの期間が十日に満たない場合における当該公判期日の調書は当該公判期日後十日以内(判決を宣告する日までの期間が三日に満たないときは、当該判決を宣告する公判期日後七日以内)に、整理すれば足りる
憲法 第31条〔法定手続の保障〕
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
  判断 集中審理の実現を図る中での公判調書の位置付けを前提に、公判調書を作成する本来の目的は、
①公判期日における訴訟手続の経過及び結果を明らかにし、その訴訟手続が適式に行われたかどうかを公証することによって、訴訟手続の公正を担保することや、
②事件が上訴審に係属した場合に、上訴審が原判決の当否を審査するために原審における審理の状況を把握できるようにすることなどにある。
この「公判調書を作成する本来の目的等を踏まえ、公判調書を整理すべき期間を具体的にどのように定めるかは、憲法31条の刑事裁判における適正手続の保障と直接には関係のない事柄である」
  解説  かつては、「公判調書を確認しないと、反対尋問、論告・弁論等の訴訟活動ができない」という主張がよくされたが、本決定は、このような旧来の書面主義に基づく慣行を諫め、裁判員裁判の導入を機に本来の刑訴法が予定する口頭主義、直接主義に基づく集中審理を目指そうという機運を後押しするもの。 
            
2281   
  判例特報p20
最高裁H27.11.25  
  衆議院小選挙区選出議員の選挙区割りを定める公職選挙法13条1項、別表第1の規定の合憲性・・・衆議院議員定数訴訟大法廷判決
  事案 平成26年12月14日施行の衆議院議員総選挙について、東京都及び神奈川県内の選挙区の選挙人であるXらが、衆議院小選挙区選出議員の選挙の選挙区割り等に関する公職選挙法の規定は憲法に違反し無効⇒これに基づき施行された本件選挙区の上記各選挙区における選挙も無効であると主張し提起した選挙無効訴訟。 
  原審 本件選挙時において、本件区割規定の定める本件選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったが、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえない⇒憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない。 
  他の裁判体 本件選挙については、争点を共通にする選挙無効訴訟が全国各地で提訴され、本件の原審を含む17の裁判体による判決。
東京、大阪、広島、高松の各高裁:本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する程度に至っていたとはいえない⇒本件区割規定は合計
12の裁判体:本件選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったが、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえない⇒本件区割規定は合憲 
福岡高裁:本件選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する程度に至っており、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかった⇒違憲
  判断 平成25年改正後の平成24年改正法による選挙区割りの改定の後も、本件選挙時に至るまで、本件選挙区割りはなお憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあった。 
国会における是正の実現に向けた取組が平成23年大法廷判決及び平成25年大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものでなかったということはできず、本件において憲法上要求される合理的期間を徒過したものと断ずることはできない。
  解説 衆議院議員の選挙における投票価値の格差の問題判断の枠組み:
①定数配分又は選挙区割りが諸事情を総合的に考慮した上で投票価値の較差において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っているか否か
②上記の状態に至っている場合に、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとして定数配分規定又は区割規定が憲法の規定に違反するに至っているか否か
③当該規定が憲法の規定に違反するに至っている場合に、選挙を無効とすることなく選挙の違法を宣言するにとどめるか否か
←憲法の予定している司法権と立法権との関係に由来。
裁判所において選挙制度について投票価値の平等の観点から憲法上問題があると判断したとしても、自らこれに代わる具体的な制度を定め得るものではなく、その是正は国会の立法によって行われる。
是正の方法についても国会は幅広い裁量権を有しており、裁判所が選挙制度の憲法適合性について上記の判断枠組みの下で一定の判断を示すことにより、国会がこれを踏まえて自ら所要の適切な是正の措置を講ずることが、憲法上想定されている。

上記②の段階において憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったといえるか否かを判断するに当たっては、単に期間の長短のみならず、是正のために採るべき措置の内容、そのために検討を要する事項、実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して、国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものであったといえるか否かという観点に立って評価すべき。
  行政p43
広島高裁松江支部H27.3.18  
  公立病院の医師の過重労働・パワハラによる自殺と国賠請求
  事案 一部事務組合であるY1の運営する病院に医師として勤務していたXらの子Aが、同病院における過重労働や上司であるY2及びY3(いずれも医師)らのパワハラにより、うつ病を発症し、赴任から2か月余りで自殺に至った
⇒債務不履行又は不法行為(Xらは控訴審に至って、Y1につき予備的に国賠法1条に基づく請求を追加)によるAの損害賠償請求権を相続により取得したとして、両親であるXらがその支払を求めた事案。 
  争点 過重労働やパワハラの有無
これらとAのうつ病罹患及び自殺との相当因果関係
①一部事務組合における任用・雇用関係における国賠法の適用の有無
②過労自殺の予見可能性
③Aの性格・能力等による素因減額ないし過失相殺 
  原審 過重労働及びY2及びY3のパワハラの事実並びにこれらとうつ病罹患及び自殺との相当因果関係を認定。
①一部事務組合の運営する公立病院における医師の雇用関係ないし上下関係、業務上の協働関係は民営病院におけるそれと異ならない⇒国賠法の適用を否定。
②使用者側に労働者が置かれる就労関係やそれによる負荷と相俟って、何らかの精神疾患を生じる恐れがあることを具体的かつ客観的に認識し得れば足りる
⇒Yらの予見可能性を認定し、Y1には債務不履行責任、不法行為責任、使用者責任を、Y2及びY3には不法行為責任を認め
③精神疾患の診断は容易でない上、Aは赴任から二か月で自殺に至っていること、Aは医師であり一般人に比して精神疾患についての知識を得ていたと考えられるところ、専門医への受診等発症可能性を軽減する行動を取っていないこと等⇒過失相殺の類推適用により損害額の2割を減じ、XらのYらに対する請求を一部認容。
  判断 過重労働お湯帯Y2及びY3のパワハラの事実並びにこれらとうつ病罹患及び自殺との相当因果関係を認定
①公立病院における諸空位は医師を含め地方公務員の身分を有し、その任用関係に付随する指揮監督ないし安全管理作用も「公権力の行使」に該当
⇒国賠法の適用を認め、公務員個人であるY2及びY3の不法行為責任を否定
精神疾患の発症など専門的な判断を要する事項まで予見し得なくても、労働環境等に照らし心身の健康を損なう恐れがあることを具体的かつ客観的に認識した場合には、結果回避措置を取ることが義務付けられる。
Y1の予見可能性を認定し、安全配慮義務違反による責任及び国賠法1条に基づく責任を肯定。
③新人医師として臨床経験が乏しかったAの能力不足が、診療時間の長期化など過重労働を招いたことを認めつつも、同程度の経験の医師に比べて格別能力が劣っていたとは認められず、また、Aが医師でありながら、専門医への受診や転属を願い出るといった対応をしなかったことについても、Aの不利益に考慮できない。
⇒過失相殺ないし素因減額を認めず、賠償額を原審より増額。
  解説  公立病院の診療行為については、私経済活動⇒国賠法の適用なし(最高裁昭和57.4.1)。
一審:公立病院内部における医師・職員の任用・雇用関係及びこれに付随する安全配慮義務の履行に関して、その実態は民間病院と異ならない。
控訴審:公務員関係としての規律を重視
  本判決は、Yらの予見可能性について、電通事件判決を引用しつつ、精神疾患の発症など専門的な判断を要する事項まで予見し得なくても、その労働環境等に照らし心身の健康を損なう恐れがあることを具体的かつ客観的に認識しえた場合には、予見可能性が認められる。
本件病院ではAの前任者の段階から医師の過重労働、並びにY2及びY3のパワハラが問題とされ、Y2やY3を含め周囲もAの異変を察知していた⇒予見可能性を肯定。
医師には一定の業務裁量が認められるとしても、開業医と勤務医、診療科目、病院の所在地域や繁忙度、及び医師個人の能力等によっても裁量の有無・広狭は異なり、事案ごとの判断が求められる。
●過失相殺・損益相殺 
◎  ◎新人医師として臨床経験が乏しかったAが、標準的な整形外科医に比して能力不足があったことを減額余韻として考慮するか?
性格等の心因的要因について減額を認めなかった電通事件判決の「同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、」「そのような事態は使用者として予想すべきものといいうべきである。」との判断枠組みを労働者の能力にも及ぼし、
Aが本件病院赴任前の大学病院での稼働状況等から、同程度の経験を有する医師を標準とした場合に格別能力が劣っていたといえず、Aの能力不足はYらの通常予想すべき範囲のものであった
⇒減額原因を否定。
◎Aが神経科等専門医を受診したり、転属を願い出なかったこと等 
東芝うつ病事件判決(最高裁H26.3.24):
労働者が神経科への通院やうつ病の診断等の事実を職場に申告しなかったことについて減額を否定した事例。

神経科等を受診すらしてない本件とは事案を異にする。
本判決:
「労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には、労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で労働者の心身の健康への配慮に努める必要がある」との前掲最高裁判決の判示を引用し、減額を認めなかった。

前掲最高裁判決を、過重な業務が続く中では、申告以前に神経科等の受診についても期待できないとの理解に立つもの。
  行政p74
仙台高裁H27.10.29  
  急性ストレス障害を発症した裁判員による国賠請求(否定)
  事案 刑事裁判で裁判員として刑事事件を担当したXが、その職務の遂行により急性ストレス障害を発症したとし、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の規定は、憲法18条後段、22条1項及び13条に違反するもので、裁判員法を制定した国会議員の立法行為は違法であり、最高裁が裁判員法を合憲と判断し、裁判員法を運用させたのは違法であると主張し、Yに対し、国賠法1条1項に基づき損害賠償を請求した事例。 
  原審 請求棄却 
  控訴 予備的に、刑事裁判における検察官及び裁判官の不適切な訴訟行為ないし裁判員法の不適切な運用による違法を追加 
  判断 控訴棄却。
予備的請求棄却。
裁判員候補者に対する説明について:
裁判員等選任手続に当たり、裁判官が事件の概要や事態の理由を説明しなかったとしても、直ちにXの何らかの権利ないし法的利益を侵害されたと認められるものではない。
裁判員裁判の証拠調請求、証拠採用及び証拠調べについて:
取調請求された証拠は立証に必要なものであり、検察官及び裁判官の権限行使は相当。
裁判官のXに対する配慮の違法:
裁判中にXの心身に変調を来したことを認めるに足りる証拠はなく、また、裁判官の配慮の欠如からXがストレス障害を発症したとも認められない。
メンタルヘルスサポートに関する説明の欠如について:
裁判員アド選任手続の際、裁判所職員が、案内書を配布し、メンタルヘルスサポート窓口の説明をしている。」
  解説 裁判員法が憲法違反しないことは最高裁H23.11.16が判示。 
  行政p80
東京地裁H27.3.11  
  親権者による児童に対する虐待等を理由として行われた一時保護の継続と損害賠償請求(否定)
  事案 医療機関は、被告(東京都)の設置する児童相談所(「本件相談所」)に児童虐待の防止等に関する法律6条に基づく通告
⇒本件相談所長は、平成23年5月30日、児童福祉法33条に基づきX3の一時保護を決定し、同日、X3を一時保護。
本件相談所長は、医学部医学教室教授に対する医学相談等を行った上、同年9月9日、東京家庭裁判所に対し児童福祉法28条1項に基づく児童福祉施設入所の承認を求める審判(本件審判事件)⇒同申立ては平成24年1月6日に却下、即時抗告も却下⇒同月10日、一時保護を解除。
X3及びその親権者であるX1及びX2は、一時保護決定の要件である「必要があると認めるとき」に該当するか否かは限定的に解する必要があり、必要最小限の期間を超えて一時保護を継続することは児童相談所長の裁量権を逸脱し、又は権限を濫用するものとして違法⇒国賠請求として、慰謝料各200万円等の賠償を求めた。
  規定 児童虐待の防止等に関する法律 第6条(児童虐待に係る通告)
児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。
2 前項の規定による通告は、児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第二十五条の規定による通告とみなして、同法の規定を適用する。
3 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない。
児童福祉法 第33条〔一時保護〕
児童相談所長は、必要があると認めるときは、第二十六条第一項の措置をとるに至るまで、児童に一時保護を加え、又は適当な者に委託して、一時保護を加えさせることができる。
②都道府県知事は、必要があると認めるときは、第二十七条第一項又は第二項の措置をとるに至るまで、児童相談所長をして、児童に一時保護を加えさせ、又は適当な者に、一時保護を加えることを委託させることができる。
③前二項の規定による一時保護の期間は、当該一時保護を開始した日から二月を超えてはならない。
④前項の規定にかかわらず、児童相談所長又は都道府県知事は、必要があると認めるときは、引き続き第一項又は第二項の規定による一時保護を行うことができる。
⑤前項の規定により引き続き一時保護を行うことが当該児童の親権を行う者又は未成年後見人の意に反する場合においては、児童相談所長又は都道府県知事が引き続き一時保護を行おうとするとき、及び引き続き一時保護を行つた後二月を経過するごとに、都道府県知事は、都道府県児童福祉審議会の意見を聴かなければならない。ただし、当該児童に係る第二十八条第一項第一号若しくは第二号ただし書の承認の申立て又は当該児童の親権者に係る第三十三条の七の規定による親権喪失若しくは親権停止の審判の請求がされている場合は、この限りでない。
児童福祉法 第28条〔保護者の児童虐待等の場合の措置〕
保護者が、その児童を虐待し、著しくその監護を怠り、その他保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合において、第二十七条第一項第三号の措置を採ることが児童の親権を行う者又は未成年後見人の意に反するときは、都道府県は、次の各号の措置を採ることができる。
一 保護者が親権を行う者又は未成年後見人であるときは、家庭裁判所の承認を得て、第二十七条第一項第三号の措置を採ること。
  判断 児童福祉法の規定から認められる一時保護の目的や規定の文言等⇒一時保護を加えるか否かの判断やどのような期間一時保護を継続するかの判断、これと同趣旨の一時保護を解除するか否かは児童相談所長の合理的な裁量に委ねられており、一時保護処分の継続が国賠法上の違法行為となるのは児童相談所長が上記裁量を逸脱又は濫用した場合。
本件相談所長が本件一時保護決定の時点で有していた一時保護の必要性を基礎付ける事情に照らすと、本件相談所長が一時保護を継続したことが違法となるには、X3の監護をX1及びX2に委ねてもX3の福祉を害するおそれがあるとはいえないこと、すなわち一時保護を解除すべき基礎となる事実が存在し、かつ本件相談所長が当該事実を認識していたか、あるいは児童相談初として通常行う調査をすることにより認識することができたと認められることが必要。
本件相談初により行われた調査の内容及びXらが行うべきであったと主張する調査により判明したであろう事実、本件審判事件等において示されたX1及びX2の意向等を検討し、一時保護が解除された平成24年4月10日よりも前に本件相談所長が一時保護を解除すべきであると判断すべき事実が存在したとは認めるに足りない。
⇒同日まで一時保護を解除しなかったことが違法であるとは認められない。
  民事p98
最高裁H27.9.15   
  特定調停手続で成立した調停の公序良俗違反が争われた事例
  事案 過払い金が発生している継続的な金銭消費貸借取引の当事者間で成立した特定調停が公序良俗に違反しているかどうかが争われた事案 
平成14年6月14日特定調停成立。
XがA社に対して借受金等の残債務44万円の支払義務を認め(「本件確認条項」)分割弁済し、
本件調停条項で定めるもののほか、互いに債権債務を有しない旨を確認。
  原審 本件調停の成立日時点で貸金等の債務は残っておらず、かえって過払金234万円余及び法定利息2万円余が発生していたのに、残元利金44万円余の支払義務を認める本件確認条項は、利息制限法に違反するもので公序良俗に反し無効。
本件確認条項を前提として本件清算条項のみを有効とするのは相当ではない。
⇒本件確認条項及び本件清算条項を含む本件調停を、全体として公序良俗違反で無効。 
  判断 過払金が発生している継続的な金銭消費貸借取引に関し、借主と貸金業者との間で特定調停手続において成立した調停であって、借主の貸金業者に対する残債務の存在を認める旨の確認条項及び調停条項に定めるほか何らの債権債務がないことを確認する旨のいわゆる清算条項を含むものは、
①上記調停における調停の目的は、上記の継続的な金銭消費貸借取引のうち特定の期間内に借主が貸金業者から借り受けた借受金等の債務であると文言上明記され、上記確認条項及び上記清算条項もこれを前提とするものである、
② 上記確認条項は、上記①の借受金等の残債務として、上記特定の期間内の借受け及びこれに対する返済を利息制限法所定の制限利率に引き直して計算した残元利金を超えない金額の支払義務を確認する内容のものである
③上記清算条項に、上記の継続的な金銭消費貸借取引全体によって生ずる過払金返還請求権等の債権を特に対象とする旨の文言はないなど判示の事情の下においては、全体として公序良俗に反するものということはできない。
X主張の過払金を本件調停成立の前後で分け、既発生の過払金返還請求権等(取引履歴が開示された期間中に生じたものを含んでいる)は本件清算条項等によって消滅したとはいえないが、本件調停成立後に本件調停に基づいて支払った44万円余の支払はAの不当利得とはならないなどと判断して、原判決を変更(一部破棄自判、一部上告棄却)
  解説 裁判上の和解については、一般法律行為の解釈の基準に沿って解釈すべきもの。 
本件調停の目的が調停調書の「申立ての表示」欄とこれを受けた調停条項とで二重に限定されていることを公序良俗違反を否定する事情として判示。
判示②は、借受金等残債務額を確認した本件確認条項は、開示された取引履歴部分自体が事実に反するなど特殊な事情があれば格別、強行法規違反を理由とする公序良俗違反の問題が生じる余地は乏しいことを確認的に判示。
判示③は、特定調停実務の実情や本件確認条項の文言に照らして過払金返還請求権等の債権は本件清算条項の対象外と解し、本件清算条項によって過払金返還請求権等の債務が消滅する余地はないとして、公序良俗違反を否定する事情として判示。
  民事p105
東京高裁H27.10.15 
● 
  過払金が発生している継続的金銭消費貸借取引についての裁判外の和解の効力が否定された事例
  事案 和解
Xは、Yに対し、借入金返還債務として、2万8000円をの支払義務があることを認める。
XとYとの間には、本件和解に定めるほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する。
  規定 民法 第695条(和解) 
和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。
  争点 本件和解の対象に本件過払金請求権についての争いが含まれるか? 
  原審 本件和解をした当時、XのYに対する借入金返還債務が存在したのであれば、過払金請求権は存在しなかったことになり、逆に、過払金請求権が存在したのであれば、借入金返還債務はなかったことになるから、借入金返還債務と過払金請求権とは、同一の事柄のふたつの側面にすぎず、本件和解において、過払金請求権についての争いも本件和解の対象であったというべき。
⇒本件和解の効力によって本件過払金請求権は消滅したとして、Xの請求を棄却。
  控訴 Xは、本件和解をした当時約定借入金債務の残高が5万5310円であると誤信しており、本件過払金請求権があることを認識していなかった⇒原判決を不服として控訴。 
  判断  XはYに対し本件和解の当時客観的には本件過払請求権を有していたものの、次の(1)及び(2)など判示の事実関係の下においては、本件和解は過払金返還請求権についての争いを対象とするものではなく、本件和解の効力は否定されるべき⇒Xの請求を一部認容。 
(1)Xは、弁護士等の法律専門家に一切相談することなく、Yからの提案をそのまま受けた本件和解をした。
(2)本件和解において、XとYとの間で約定借入金債務の残額が5万5310円であったことにつき何ら争いはなく、Xは、過払金等が発生したことについて全く認識していなかった。
(3)当事者間に過払金請求権の発生の有無をめぐって争いがあったという余地はなく、もとよりこれらの点や過払金の額について本件和解においてXが何らかの譲歩をするものではなかった。
  解説 原審は表裏一体説。

①客観的に金銭消費貸借に基づく借入金返還債務が存在するという法的命題と②客観的に過払金返還請求権が存在するという法的命題とは確かに論理的には相容れない。
but
①の法的命題と③金銭消費貸借契約に基づく借入金返還債務が存在することを確認して弁済方法等について合意をしたことは、③の内容が事実の範疇に属する以上、これらを区別すべきであり、
③の合意が和解契約にあたるかどうかについては、合意の当事者間に争いが存在したかどうか、その争いをやめることを約したかどうかを証拠に基づいて認定することを要する。

表裏一体説は、法的命題の論理関係という問題と、民法695条の要件事実についての認定問題とを混同するもの。
裁判例には、和解を締結するに当たり過払金返還請求権が存在することを認識していなかったとしても、法律の不知によって錯誤を生じていたに帰するとして、錯誤の規定が適用されないとするものもあるが、本判決が付言するように、法律の錯誤も民法上は要素の錯誤として無効原因になり得る。
  民事p111
東京地裁H27.3.12   
  ジョイントベンチャー代表者の原価管理義務違反(否定)
  事案 Xが、X、Y及びAがトンネル他建設工事を発注者から共同して請け負うことを目的とする組合契約を締結したことことにより成立した企業体(いわゆるジョイントベンチャー。「本件企業体」)の代表者であるYに対し、
①主位的に経理取扱規則に基づく請負代金の分配を
②予備的に残余財産の分配を
求めた事案。
  争点 ①主位的請求については、経理取扱規則が請負代金の分配請求の根拠となるか
②予備的請求については、残余財産の存否
(原告は、残余財産の存在を基礎づけるために、本件企業体の実施予算から増額した金額を原告に負担させることは信義則に違反するなどと主張(中核は、本件企業体代表者の原価管理義務違反の有無))
  判断 ①について 
本件企業体から構成員に対して都度支払う分配金(取下金)に関する判断は、「本件企業体の構成員が本件企業体の代表者に対して、取下金の支払を請求することを認めることは、被告に経理処理についての上記裁量を認めることと相容れず、また本件企業体の財産基盤を危うくするもので同規則7条の趣旨に沿わないものとなるし、単なる経理の取扱の問題を超えることとなる」 

「同規則7条は、それを根拠として本件企業体の構成員が本件企業体の代表者に対して取下金の支払を請求することは予定しておらず、その根拠となり得ない」と判断。
  ②の信義則違反の主張: 
工種別の予算実績対比表を作成しなかったことが経理取扱規則に違反する旨の主張:
経理取扱規則の解釈として、工種別の資料を不可欠のものとしているとは認められないし、被告は、同規則上要求される資料は提出していた。
被告が原価管理義務に違反した旨の主張:
「本件請負契約は決算前に構成員の請負代金の分配請求を認めておらず、財産管理権限を被告に認めていることに照らすと、被告の財産管理権限の行使に関して、不正支出であると疑われるような特段の事情がないかぎり、原価管理義務違反とはならないというべきであり、本件企業体の構成員に対して債務の負担を求めることができると解される。」
運営員会での報告や各種請求の裏付けの有無などの事実を認定し、特段の事情を否定。
   解説 本来分配金請求においては、分配金が発生していることを原告が主張立証しなければならないが、原告は被告が行った相殺を問題とし、自働債権とされた増加費用に係る損失の分担請求権を被告に負担させることができないという主張を軸に、受働債権に対応する分が原告に分配されるべき財産であるという前提で請求。
予備的請求との関係では、残余財産の存在の主張として足りているかは問題があるが、本判決は、この点を置いて、企業体代表者の原価管理義務について、実体的判断を行った。
  類似事例:東京地裁H22.12.22:
被告は、本件共同企業体の代表として本件共同企業体の財産管理権限を有しており、本件工事原価を適切に管理すべき義務を有していたのであり、発注者との間で本件工事代金の最終合意を行う前提として、本件工事原価を推計し、本件共同企業体のもう1人の構成員である原告に対し、上記推計した本件工事原価を提示したのであって、原告は、上記推計した本件工事原価を信頼して本件合意をし、かつ、発注者との間で上記本件工事代金の最終合意に応じた

上記推計した時点で可能な限り本件工事原価を正確に把握すべきであったことは当然であり、被告の従業員である本件工事の工事所長が請求書の提出を止めていたために本件工事原価の計上漏れがあった分につき、被告が原告に対して本件工事の損失につき出資割合により負担を求めることは信義則に反する。

請負契約に基づく工事に増加費用が生じた場合に、出資割合により負担を求めることが信義則に反する部分については、工事全体に要した費用から、かかる増加費用(具体的には計上漏れがあった工事費用)を控除すべきであり、当該共同企業体には残余財産があるとして、原告の請求を認容。
  民事p124
東京地裁H27.7.30  
  行政書士による遺産分割事件の受任と報酬の受領が不法行為とされた事例
  事案 行政書士が共同相続人間の遺産分割に関する業務を行ったことにつき不法行為責任が問題となった事案 
  争点 Yの行った受任業務と弁護士法72条違反の成否
不法行為の成否
損害額 
  判断 Yが本件委任契約に基づき行った業務は、行政書士の業務に当たらず、弁護士法72条により禁止される一般の法律事務に当たり、同条に違反して無効であるとして不法行為を認めた。
損害として、
①Xが支払った報酬等合計122万8480円
②Xが遺産分割により本来取得すべきであった遺産と現実に取得した遺産の差額120万4628円
③弁護士費用24万円
を認め、請求を認容。
  民事p128
東京地裁H27.7.8  
  マンションの管理組合の理事長(管理者)による建物調査診断等の委託契約が、権限外の行為として否定された事例
  事案 株式会社X1、X2協同組合は、平成23年5月24日、権利能力なき社団であるY管理共同組合の理事長Aとの間で、建物の長さ診断等の業務を受託する契約を締結(Yの集会の決議はなし)。
Yの理事長は、規約上、管理者と規定。
Yは、平成23年7月10日、臨時総会を開催し、本件契約を白紙に戻す旨が賛成多数で承認。
X1、X2は、Yに対し、受託業務が完了したと主張し、報酬の支払を請求。
  規定 区分所有法 第18条(共用部分の管理)
共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
区分所有法 第26条(権限)
管理者は、共用部分並びに第二十一条に規定する場合における当該建物の敷地及び附属施設(次項及び第四十七条第六項において「共用部分等」という。)を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。
一般法人法 第77条(一般社団法人の代表)
4 代表理事は、一般社団法人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
5 前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
  争点  ①区分所有法18条の共用部分の管理の意義
②同法26条の管理者の権限の範囲
③一般社団奉じ及び一般財団法人に関する法律(一般法人法)77条4項、5項の類推
④民法110条の適用の当否
⑤受託業務完了の有無 
  判断 本件契約の締結は共用部分の管理に関する事項であり、区分所有法18条
1項により、集会の決議が必要。
管理者は共用部分等の保存、集会決議の実行、規約で定められた行為をする権利を有し、その職務に関して区分所有者を代理する権限を有しているにすぎず、包括的代理権を有せず、集会の決議なく本件契約を締結する権限を有していないとし、一般法人法77条4項、5項の適用・類推適用を否定。
Aが権限を欠いていることを知らなかったことにつきX1らに過失があった⇒民法110条の適用を否定し、請求棄却。
  民事p131
徳島地裁阿南支部H27.7.14 
  土地改良区に対する書簿閲覧請求権の行使につき、請求申請書1枚につき5000円以上の申請事務手数料を徴収することの適法性(適法)
  請求 本件規程は組合に対し書簿閲覧請求の申請書1枚につき5000円以上の費用を負担を求めるものであって、他団体の手数料と比較しても著しく高額で、組合員の書簿閲覧申請を断念ないし躊躇させるに十分な額
⇒土地改良法29条4項に違反し無効⇒不当利得に基づき利得金の返還を求める。
閲覧請求1件につき5000円以上の著しく高額な閲覧事務手数料を徴収することが、Yの組合員の書簿閲覧請求権を不当に侵害

主位的に国賠法1条1項に基づき
予備的に民法709条に基づき
35万円の損害金の支払を求めた。
  判断 Xの請求を棄却 
Yの書簿閲覧制度の運用には労力と費用を要することからすれば、閲覧請求者には、その公平な負担が求められるというべきであって、Yは、手数料という役務の反対給付としての性質を逸脱しない範囲で、手数料を決定する裁量権を有する。
Yにおいては、書簿閲覧請求があった場合、書類の整理等の閲覧を実施するための準備や関係する理事らによる書簿閲覧請求の承認及び閲覧当日の立会い、立ち会った理事に1人当たり1日当たり1万円(半日の場合は5000円)の日当を支払うこととされており、これらの事情を考慮すると、書簿閲覧請求の申請書1枚につき5000円以上を徴収する旨の本件規程が、役務の反対給付としての性質を逸脱しているとまでは認められない。
  商事p135
大阪高裁H27.7.10   
  株主かつ代表取締役が会社の経営をゆだねていた者が会社がリースしていた物件を第三者に譲渡したためリース料回収できず⇒代表取締役に会社法429条1項の責任(肯定)
  事案 Xは、Yは訴外会社の経営をAに丸投げしており、悪意又は重大な過失によりAの訴外会社における行動を監督、監視等してその不法行為を防止しなかったという取締役の任務懈怠があると主張し、Yに対して、会社法429条1項に基づき損害賠償を請求。 
  規定 会社法 第429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
  原審 Yの会社法429条1項の損害賠償責任を肯定 
  判断 Yは、訴外会社に関する権限をAに委ねていたが、月に1回程度Aに連絡して訴外会社の経営状況を確認し、余剰金の配当見込みを尋ねていただけで、店舗に赴いて訴外会社の会計帳簿又はこれに関する資料を閲覧したり、客の来店状況を実地に見分するなどしてAの報告の真偽を確かめることもなかった

Yが取締役としてその職務を行うについて重大な過失があり、その結果としてAの右違法行為を阻止することができず、Xに残リース料相当の損害を与えたものと認める。
⇒Yの控訴棄却。
  解説 最高裁昭和44.11.26は、 株式会社の代表取締役が、その他の者に会社業務の一切を任せきりにし、その業務執行になんら意を用いないで、その者の不正行為ないし任務懈怠を看過するにいたるような場合には、みずからもまた悪意又は重大な過失により任務を怠ったものと解すべきであると判断し、代表取締役の損害賠償責任を肯定。
  刑事p139
東京高裁H27.8.19  
傷害被疑事件の現場での現行犯逮捕の不存在⇒自発的に出頭した警察署で令状によらない逮捕⇒国賠請求(否定)
  事案  現行犯逮捕された事実はなく、被害を受けたことを説明するため、本件現場から自発的にB警察署に出頭した後、午前6時ころ取調室において、逮捕状によらない違法な逮捕をされたと主張⇒国賠法1条1項に基づき、控訴人に対し損害賠償等の支払を求めた。
  規定 犯罪捜査規範 第126条(逮捕の際の注意)
逮捕を行うに当つては、感情にとらわれることなく、沈着冷静を保持するとともに、必要な限度をこえて実力を行使することがないように注意しなければならない。
2 逮捕を行うに当つては、あらかじめ、その時期、方法等を考慮しなければならない。
3 警察本部長又は警察署長は、逮捕を行うため必要な態勢を確立しなければならない。
4 被疑者を逮捕したときは、直ちにその身体について凶器を所持しているかどうかを調べなければならない。
  原審 ①被控訴人は本件現場で手錠をかけられたり、あるいは掴まれたり密着されたりするなどの物理的な拘束をされることもなく、本件現場からパトカーに向かう際にも、物理的な拘束を直接加える方法以外の方法を含めてその身体を拘束されていなかった。
②逮捕する旨は告げられていなかった。
③被逮捕者に要求される身体捜検(犯罪捜査規範126条4項)は行われていなかった
⇒本件現場における現行犯逮捕はなかった。
  判断  ①被控訴人は逮捕する旨告げられなかったが、喧嘩の相手方が本件現場で現行犯逮捕されている状況のもとで、被控訴人の犯罪事実が明白であると判断した警察官が被控訴人のみを被害者と扱い、任意同行を促すにとどめたというのは不合理。
殴られたので殴り返した旨認めている被控訴人が自発的にB署に出頭したとは認められない。
逮捕の旨をどのように告知するかは現場の状況等に応じて一様ではなく、被控訴人に対し、「殴ったことに間違いなければ、警察署に来てもらい、詳しく事情を聴きたいと告げた」だけで、逮捕といわんかったことはさほど不自然なものとはいえない
②本件現場からB署到着までの間の被控訴人に対する身体拘束の程度は一般的な逮捕の場合と比べ非常に穏やかであったが、被控訴人をB署に連行した警察官は、被控訴人が本件現場において逮捕されていたことを認識していた、逃走や凶器所持が強く疑われる切迫した状況はなかったなどの事情。

被控訴人は本件現場で現行犯逮捕されたと認められる。
  解説 刑訴法に言う逮捕:被疑者の身体の自由を拘束し、引き続き、短時間拘束の状態を続けること。
身体拘束の方法:刑訴法に規定はない。実質的に被疑者の身体の自由を拘束するものであれば、いかなる方法であってもよい。
警察官が被疑者の身体に寄り添って看視し、何時でもその身体を捕捉できる態勢をとり、逃走を防止する方法によって自由を拘束する行為も逮捕に当たる(大阪高裁庄和32.10.10)。
警察官に現行犯逮捕の認識があっても、身体拘束が行われた客観的事情がなければ、逮捕があったとはいえない。
問題の核心は、被控訴人の身体の自由が拘束されたと見られるかどうか。
本判決は、そもそも警察官の措置が被控訴人の身体の自由を拘束したといえる理由を示していない。
被逮捕者の自由な意思に基づく行動を支配する程の処置がとられた客観的状況が認められないとして、現行犯逮捕の存在を否定し、その後の留置・勾留を違法とした裁判例として(山口地裁H12.3.28)
現行犯逮捕する旨の告知は要求されないと解されているが、被疑者が現行犯逮捕された事実を知らず、そのため無用の混乱が生じることも懸念される。
                  
2280
  行政p16
東京高裁H27.7.9 
  拘置所での接見交通中の写真撮影による接見の一時停止
  事案 東京拘置所で、弁護人Xが拘留中の被告人との接見中、職員から、写真撮影等を禁止され、接見を終了させられた

接見交通権や弁護活動を侵害し違法である、また、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(収用法)の定める要件に違反し違法であるとして、Y(国)に対し、国賠法1条1項に基づき、慰謝料の支払を求めた。 
  規定 刑訴法 第39条〔被疑者・被告人との接見・授受〕
身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。
刑訴法 第179条〔防御のための強制処分による証拠保全〕 
被告人、被疑者又は弁護人は、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときは、第一回の公判期日前に限り、裁判官に押収、捜索、検証、証人の尋問又は鑑定の処分を請求することができる。
②前項の請求を受けた裁判官は、その処分に関し、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。
収用法 第117条(面会の一時停止及び終了)
第百十三条(第一項第二号ホを除く。)の規定は、未決拘禁者の面会について準用する。この場合において、同項中「各号のいずれか」とあるのは「各号のいずれか(弁護人等との面会の場合にあっては、第一号ロに限る。)」と、同項第二号ニ中「受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障」とあるのは「罪証の隠滅の結果」と読み替えるものとする。
収用法 第113条(面会の一時停止及び終了)
刑事施設の職員は、次の各号のいずれかに該当する場合には、その行為若しくは発言を制止し、又はその面会を一時停止させることができる。この場合においては、面会の一時停止のため、受刑者又は面会の相手方に対し面会の場所からの退出を命じ、その他必要な措置を執ることができる。
一 受刑者又は面会の相手方が次のイ又はロのいずれかに該当する行為をするとき。
イ 次条第一項の規定による制限に違反する行為
ロ 刑事施設の規律及び秩序を害する行為

二 受刑者又は面会の相手方が次のイからホまでのいずれかに該当する内容の発言をするとき。
イ 暗号の使用その他の理由によって、刑事施設の職員が理解できないもの
ロ 犯罪の実行を共謀し、あおり、又は唆すもの
ハ 刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれのあるもの
ニ 受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれのあるもの
ホ 特定の用務の処理のため必要であることを理由として許された面会において、その用務の処理のため必要な範囲を明らかに逸脱するもの

2 刑事施設の長は、前項の規定により面会が一時停止された場合において、面会を継続させることが相当でないと認めるときは、その面会を終わらせることができる。
  判断   刑訴法39条1項の「接見」とは、被告人が弁護人等と面会して相談し、その助言を受けるなどの会話による面接を通じて意思の疎通を図り、援助を受けることをいうものであって、弁護人が面会時の様子や結果を音声や画像等に記録化することは「接見」に本来的に含まれない。
メモのように弁護人の接見交通権の保障の範囲内として認められるものもあるが、情報の記録化のための行為が許容されるか否かは、その目的、必要性、態様の相当性、危険性等の諸事情を考慮して検討されるべき。
本件撮影行為は証拠保全として行われたところ、刑訴法179条の証拠保全によって行うことが予定され、それで足りるから、これを禁止しても弁護活動を不当に制約するものではない。
弁護人等が起立など侵害行為をする場合に、面会の終了等の措置を執ることは、収用法117条、113条1項及び2項に基づく措置である。
同各条項は、逃亡及び罪証隠滅のおそれ等の相当の蓋然性をも要件としているものではない。
庁舎の管理者は、庁舎内における写真撮影等を禁止することができ、東京拘置所庁は、庁舎管理権に基づき、面会室内での写真撮影等を禁止し掲示していた。
Xは掲示内容を認識しながら、本件撮影行為を行い、職員から、画像データの消去を求められたのに拒否し続け、更に写真撮影等を行う意向を表明した。
このようなXの行為は規律等侵害行為に該当。
  収用法113条1項の面会の一時停止の措置とは面会を暫定的に中断させる行為をいい、面会の当事者が自由に面会を再開できない状態にするまでの行為は必要ない。
職員によりAとXの面会が暫定的に中断⇒面会の一時停止の措置が執られた。 
  収用法117条、113条2項は、刑事施設の長が、事前に、規律等侵害行為がされた場合に面会の終了の措置を執るよう指示することを許容するもの。 
東京拘置所長は、職員に写真撮影等の行為について制止に応じないなどの場合に面会の終了の措置を執るよう指示していた⇒本件措置は刑事施設の長の判断に基づくもの。
  行政p21
大阪高裁H27.6.19  
  夫のみに年齢要件を課す遺族補償年金の受給と憲法14条
  事案 遺族補償年金の受給について夫にのみ年齢要件を課す地方公務員災害補償法32条1項が憲法14条に反しないかが争われた事案。 
  原判決 遺族補償年金をを純粋な社会保障制度ではないとした上で、専業主婦世帯が多数を占めていた制定当時と異なり、現代では共働き世帯が一般化し、他の分野でも男女を同等にするように修正されている。
⇒同法の区別は不合理な差別に当たるとし違憲の判断。 
同制度を損害賠償と社会保障が併存するものと位置づけ。
同制度については立法裁量が認められるとしつつ、そのような区別をすることに合理的な根拠が認められない場合には平等違反になる。
性に基づく区分⇒そのような区分をすることに合理的な根拠があるかどうかを審査。
  判断 社会保障制度における区別の合理性の問題と捉え、現状においても当該区別には合理性があるとして原判決を破棄し、合憲の判断を下した。 
基本的に社会保障的性格とみなす。
社会保障の問題⇒憲法25条の社会権の要請⇒制度の仕組みについては広範な立法裁量が認められる。
もし、その制度に合理的理由のない不当な差別的取扱いが生じた場合には平等の問題となる。
社会保障の仕組みは広い立法裁量が認められる⇒「それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用」といえるような場合を除き裁判所の判断に適しない。
堀木訴訟・塩見訴訟・学生無年金訴訟(いずれも社会権の問題に付随する形で平等が争われた事案)を引用しながら、支給要件等に「何ら合理的理由のない不当な差別的取扱い」がある場合には平等の問題が生じる。
現在においても、①女性(特に妻)の労働力率(労働人口の割合)が低いこと、②非正規雇用が男性より多いこと(男性の約3倍)、③男女間の賃金格差が大きいこと(男性の約6割以下)、④専業主婦世帯が共働き世帯よりも少なくなっているものの専業主夫世帯よりも多いこと(約100倍)

受給年齢につき夫と妻とで区別することの合理性を認めた。
  行政p46
札幌高裁H27.7.7  
  自動車が吹雪による雪だまりに埋まって死亡⇒国賠請求(否定)
  事案 自動車が吹雪による雪の吹きだまりに埋まる⇒一酸化炭素中毒により死亡
両親であるXらが、本件道路を管理しているY(北海道)に対し、
①本件事故現場付近に設置された防雪柵の設置又は管理に瑕疵があり、また、
②道路法所定の事前規制などの措置を講じなかった違法がある
と主張し、国賠法に基づき、損害賠償等を請求。
  規定 道路法 第46条(通行の禁止又は制限)
道路管理者は、左の各号の一に掲げる場合においては、道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため、区間を定めて、道路の通行を禁止し、又は制限することができる。
一 道路の破損、欠壊その他の事由に因り交通が危険であると認められる場合
二 道路に関する工事のためやむを得ないと認められる場合
  原審 Yに対する損害賠償請求を一部認容。 
  判断 「道路吹雪対策マニュアル」での設置基準によれば、本件事故現場付近に設置された防雪柵が不適であったとは認められず、通常有すべき安全性を備えていたが、これまでの観測記録では想定できない気象状況により、本件現場付近に巨大な吹きだまりが発生し、本件事故に至った。
⇒本件防護柵の設置又は管理に瑕疵があったとはみとめられない。
道路法46条1項所定の規制権限の行使については、道路管理者が交通の危険が発生することの確実な状況を予見することが可能であり、かつ、その権限を行使することによって当該危険を防止することができる場合には、その権限の不行使は著しく合理性を欠くものとして違法となると解される。
本件事故現場付近にできた巨大な吹きだまりは、ごく局地的かつ、前例が無い特異な暴風雪によるものと認められ、道路管理者において、前例のない特異な暴風雪により巨大ない吹きだまりに道路利用者が埋まるとの本件事故の発生を予見できたとは認めがたい。
⇒Yの国賠責任を否定。
  解説 道路の設置又は管理上の瑕疵とは、道路の通常有すべき安全性を欠く状態をいい、それは、道路の設置、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合的考慮して個別的具体的に判断すべきであるが(最高裁昭和59.1.26)、事故が不可抗力による場合ないし回避可能性のない場合には、免責されるとするのが判例の立場(最高裁昭和45.8.20)。
  民事p66
最高裁H27.9.18 
  一部について訴訟上の救助をhっ世する決定⇒訴えの減縮⇒却下の可否
  事案 Xが本人訴訟として、Y(国)に対し、国賠法に基づき、慰謝料等の支払を求める事案。
争点は、請求債権の一部に対応する訴え提起手数料につき訴状救助を付与する決定がなされた後、請求が減縮された場合における訴えの却下の許否。 
Xは、請求の趣旨として、Yに対して300万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める旨記載した本件訴状を提出して、本件訴えを提起するとともに、訴訟救助の申立て。

一審は、訴訟救助の申立てにつき、Xは訴訟の準備及び追行に必要な費用を支払う資力がない者に該当すると一応認められるが、Xの請求のうち50万円を超える部分は明らかに過大であり、勝訴の見込みがないとはいえないときに該当するとは認められない
⇒Xに対し、50万円の請求に対応する訴え提起手数料5000円及び書類の送達に必要な費用についてのみ訴訟救助を付与し、その余の申立てを却下する旨の救助決定。
同時に、一審の裁判長は、Xに対し、訴え提起手数料として収入印紙1万5000円(300万円の請求に対応する訴え提起手数料2万円から訴訟救助が付与された5000円を控除した額)を本件救助決定の確定から一定期間内に納付することを命ずる本件補正命令を発した。

Xは、本件訴状の請求の趣旨の「300万円」を「50万円」に訂正する旨の訴状訂正申立書を提出し、その後、本件救助決定は確定したものの、本件補正命令で命じられた収入印紙の納付をしなかった。
  一審 訴状訂正申立書によるXの請求の減縮によっては本件補正命令に応じた補正がされたもといえず、本件訴えは不適法⇒却下。 
  判断 金銭債権の支払を請求する訴えの提起時にされた訴訟上の救助の申立てに対し、当該債権の数量的な一部について勝訴の見込みがないとはいえないことを理由として、その部分に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定が確定した場合において、請求が上記数量的な一部に減縮されたときは、訴え提起の手数料が納付されていないことを理由に減縮後の請求に係る訴えを却下することは許されない。 
  解説 最高裁昭和47.12.26:
訴訟救助の申立てがされていない事案において、訴額の算定は訴え提起の時を基準とすべきであるから、原告がその後に請求の減縮をしたとしても、当初に貼用すべき印紙額がそれに応じて減額されるものではない。 
  民事p69
東京高裁H27.5.26  
  不動産投資取引の購入資金の融資契約の締結において銀行の説明義務違反等(否定)
  事案 不動産投資取引の購入資金の融資契約の締結において銀行の説明義務違反等の不法行為責任が問題となった事案。 
Aは、
B銀行に対し、主位的に本件消費貸借契約の取消し、無効等を主張し、同契約に基づく貸付金の返還義務の不存在の確認、
予備的に説明義務違反等の不法行為に基づく770万円の損害賠償を請求するとともに、
C(30歳代以上の女性にマンションの専有部分の購入を勧誘する目的で、虚偽の年齢を結婚紹介所のウェブサイトに登録し、取引を勧誘)に対し、悪質な勧誘行為に係る不法行為に基づく慰謝料300万円の損害賠償、
D(不動産業者)に対し、宅地建物取引業法37条の2第1項による解除、消費者契約法4条1項2号、2項による売買契約の取消し等を主張し、売買代金の返還を請求。
第1審において、AとDとの間に訴訟上の和解が成立。
  判断 Bの不法行為を否定。
事前審査の段階で本人確認、申込意思確認、仮審査依頼者控えの交付といった通常される手続を実施しておらず、Aの事情、認識も考慮すると、Aの意思決定に瑕疵が生じ得る可能性があり、Dにおいて本件取引の実態に即した説明と配慮が求められる場面があったともいえなくはない。
but
Aの属性、本件マンションの評価、仮審査依頼書の作成、関係書類の作成と手付けの支払、本件消費貸借契約の内容及び締結状況、BとCらとの関係を認定し、Aは、本件マンションの収益性につき十分に判断し得る能力を有し、関係書類の作成に自ら関与し、本件消費貸借契約締結に際してその内容の説明を受けるなどしており、DがCらと密接な関係を有sるウものでなく、違法な勧誘行為を知り、知りうる立場にあったとも認め難い

本件においてBに本件消費貸借契約の内容を説明するなどの通常求められる以上に本件取引の実態に即した説明等の措置が求められていたとはいえないとして、説明義務を否定し、Bの不法行為を否定。
  解説 マンションの専有部分の売買、賃貸を組み合わせた不動産投資取引に融資を実行した銀行の不法行為責任が問題となったものであるが、不動産投資取引の勧誘が社会的に問題になった結婚の期待、交際を勧誘の手段とした不正なものであったことに特徴がある。 
売買代金の融資を実行した銀行に本人確認、申込意思確認等の事前審査上の問題があったことを認めたものの、銀行の説明義務違反等の不法行為を否定したもの。
  民事p74
大阪高裁H27.5.29  
  直腸癌の手術⇒大量出血で死亡⇒担当医師による注意義務違反を肯定
  事案 訴訟脱退前Yが開設した大阪病院において、直腸癌について低位前方切除術を受けた訴外Aが死亡⇒その遺族であるXらが、手術をした担当医師には注意義務違反があったと主張し、Yに対して、不法行為に基づき、損害賠償を請求。
  判断 ①Aの大量出血は、担当医師が、本件手術中に仙骨前面静脈叢に損傷を加え、その際いったんは止血措置がなされたものの、本件手術後5日目の深夜から早朝にかけて、同止血部分から再出血したものと推認することができる。
②本件のような早期の直腸癌に対する低位前方切除術においては、下腹神経前筋膜を温存し、仙骨前面静脈叢を露出又は損傷することがないように配慮して手術手技を行う注意義務があるというべきである。
③担当医師が、本件手術の際、仙骨前面静脈叢に対する損傷を加えたことにより、Aの大量出血が発生したものと推認することができるから、担当医師の本件手術における手技には、前記②の注意義務に違反する過失があるというべきである。

Yの使用者責任を肯定し、Xらの本訴請求を認めた。
  民事p90
東京地裁H27.6.26  
  歯科医師事業の事業譲渡契約と債務不履行
  事案  事業譲渡契約における譲渡人、譲受人の債務不履行等が問題となった事案。 
  平成25年5月、Yとの間で、
①同年9月1日をもって、代金350万円で歯科医師事業の譲渡を受けること
②譲渡日の前日までの債権債務を原則として承継しないこと
③カルテを除き、受診患者、取引先を承継すること
④ビルの賃貸借関係はYが賃貸人との間で合意解約し、保証金等の精算をし、Xが賃貸人と賃貸借契約を締結すること
⑤Yが診療スタッフとの雇用関係を終了させ、Xが必要な人員を新規に雇用すること、
⑥Yが診療、経営に関する助言指導を行うこと
等を内容とする譲渡契約を締結し、Yに350万円を支払った。
Yは、同年8月12日、Xの債務不履行を理由に本件契約を解除
Xは同月30日、Yの債務不履行を理由に本件契約を解除
Xは、Yに対し、
①譲渡代金の返還を請求するととも、
②債務不履行、不法行為に基づき8500万円余の損害賠償
③労働契約に基づき未払の賃金、退職金の支払を請求
Yが反訴として
本件契約の債務不履行に基づき損害賠償、
本訴の提起に係る不法行為に基づき損害賠償を請求
  争点 Yの本件契約の債務不履行の有無
Xの本件契約の債務不履行の有無
未払賃金の有無
未払退職金の有無
本訴提起にかかる不法行為の有無
各損害
  判断 Xの債務不履行について:
従業員を従前の労働条件に準じた労働条件により労働契約が締結されるよう誠意をもって交渉すべき義務等は、本件契約上認められない
⇒否定
Yの債務意不履行について:
Yが本件契約を解除する等、本件契約に基づく事業譲渡の実行に必要な協力を一切拒否する姿勢を明確にしている⇒履行期前の債務不履行を肯定
Xの損害について、
関係者へのお詫びの挨拶等の経費(12万円余)
雇用した者の解雇予告手当相当額(115万円)
弁護士費用(12万円余)
の損害を認め
(Xの主張に係る逸失利益、慰謝料の損害は認めず)、
原状回復として譲渡代金の返還義務を認め、
未払賃金、未払退職金の支払義務を否定
  民事p98
東京地裁H27.5.20  
テレフォンアポイントの代行を内容とする業務委託契約の債務不履行
  事案 税理士であるXが、新規顧客開拓のため、営業支援コンサルタント等を目的とするYとの間で、いわゆるテレフォンアポイントの代行を内容とする業務委託契約を締結。
Yの債務不履行により既払金相当額の110万2500円の損害を被ったとして、債務不履行を理由とする損害賠償請求。
  争点 ①本件契約において、Yに債務不履行があったといえるか
②Xに生じた損害の有無及び額 
  判断 本件契約に係る注文書記載の文言等に照らし、業務委託内容として月ごとのアポイント提供数が定められており、同アポイント提供数に不足があったと認定。 
アポイントを提供したとしても、面会約束した見込顧客が委託者の面会の趣旨を踏まえて面会約束に応じたのでなければ、受託者としての債務を履行したとはいえない。
例えば、①面会約束をした見込顧客が、勧誘の電話を受けてたことについての情報源の確認尾ために面会に臨んだと認められる場合や、②税理士を代える気はないとしたにもかかわらず電話勧誘が執拗だったため仕方なく面会に臨んだと認められる場合には、上記アポイントの提供をもって本件契約における受託者の債務を履行したとは評価できない。
本件契約において、月ごとに最低3件のアポイント提供が約され、アポイント提供1件当たりの対価は5万2500円相当であるとして、本件契約に基づき委託料を前払いしていたXは、5万2500円に、数量不足数及び質的不足数を乗じた額相当の損害を被った。
Xは、初期設定費用相当額も損害である旨主張したが、YはXの希望を踏まえた見込顧客リスト(ターゲットリスト)等を作成するなどしたとして、初期設定費用相当額は損害とはいえないとした。
  解説 本判決は、本件契約の契約類型には特に触れず、契約の目的、契約締結の経緯等に照らし、債務の内容を解釈。 
  民事p104
東京地裁H27.6.25  
  ネット詐欺と、決済に使われた電子マネー発行会社の責任(否定)
  事案 詐欺等に該当するとして、不法行為責任に基づく損害賠償を請求。
Y1の代表者である Y2及び本件サイトをY1とともに運営していたAの代表者であるY3に対しても、Y1とともに、共同不法行為責任あるいは会社法429条1項に基づいて同額の請求。
Xは、利用代金の一部につき、Y4の発行する電子マネーによって支払。

X4においては、契約上又は不法行為法上の注意義務として、本件電子マネーの決済にかかる加盟店契約を締結する際には、当該契約相手方が公序良俗に照らして問題のある業務を営んでいないかを調査確認し、そのような問題がある場合には加盟店契約を締結せず、加盟店契約後も、加盟店の業務に公序良俗に照らして問題がないかの調査・確認を継続し、そのような問題があることが判明した場合には速やかに加盟店契約を解除し、もって利用者に不測の損害を与えることのないよう注意するべき義務を負うにもかかわらず、これを怠った
⇒債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求。
  規定 会社法 第429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
  判断 Y1、Y2及びY3に対する請求に関して、証拠関係から、本件サイトがいわゆるサクラサイトであることが強く疑われるだけでなく、Y1、Y2及びY3において、X主張の事実を争うことを明らかにしないことを併せて考慮し、共同不法行為責任に基づく損害賠償を肯定。
Y4については、本件電子マネーの利用形態、決済システムの概要、経済的機能を踏まえ、Y4がいわゆる資金決済法に関する法律(「資金決済法」)所定の第三者型前払手段の発行者に該当することを前提として、公法上求められる加盟店の管理の態様の観点からY4の本件電子マネーの利用契約における法的地位を、クレジット契約における信販会社の地位と比較しつつ検討し、さらに、本件サイトに対する消費者生活センターから寄せられた苦情に対するY4の具体的な対応等の事実関係を踏まえ、X主張の加盟店管理義務を負うとは認められないと判示。
Y4において、Y1が本件サイトのような違法性の高い業務を行っていることを認識し、又は認識しえたにもかかわらず、Y1との加盟店契約を解除しなかったことにつき、ほかに、Y4がY1の行っていた業務に関与ないし関係していたなどの特段の事情もない
⇒債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を棄却。
  民事p111
岐阜地裁H27.7.8 
  解体工事の施工中に外壁が倒壊し、通常中の女子高生が死亡⇒元請業者らの責任(否定)
  事案 Aの両親であるX1、X2は、施工業者であるY1社及びその代表取締役Y2、専務取締役Y3、高次の現場責任者であるY4(「Y1社ら」)、元受会社であるY5社、その代表取締役であるY6(「Y5社ら」)を被告として 、不法行為に基づき、各8000万円余の損害賠償請求訴訟を提起。
  規定 民法 第719条(共同不法行為者の責任)
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
2 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。
第716条(注文者の責任)
注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。
  争点  施工業者であるY1社のみならず、元受業者であるY5社らにも不法行為責任が認められるか? 
  判断 本件事故の主たる原因は、 本件側壁を取り壊し、本件倒壊壁を平面的な構造状態にしたことにある。
このような構造にすれば、倒壊する危険があることは、モルタルの壁面を見れば容易に分かる。
工事の現場責任者であるY4:適切な解体手順ないし安全対策を怠った過失がある。
Y1社の専務取締役であるY3:工事部門及び営業部門を統括する立場にあり、本件工事の最終的な責任者として工程管理や技術指導を行うべき地位にあったところ、これを怠り、倒壊防止措置をとるように適切な指示をしなかった過失がある。
Y1:使用者責任。
その代表者であるY2:安全管理を徹底すべきところ、これを怠った責任がある。
Y5社:
①本件工事に関しては何らの利益を得ておらず、本件工事の工程や作業方法等についても全く関与していなかった。
②Y5社は解体業者であるところ、解体業者に対しては、国土交通省の「建築物の解体工事における外壁の崩落等による公衆災害防止対策に関するガイドライン」が出されているが、かかるガイドラインは指針にすぎない。
③Y5社らにとっては、Y4が本件のような危険な手法を選択することを予見することは困難であった。
⇒Y5社らの共同不法行為責任及び注文者責任は否定。
⇒Y1社らに対し、X1、X2に対する、各4268万円余の支払を命じた。
  解説 民法716条の但書きの注文者責任の有無が問題となった事例のうち、責任を肯定したもの
①最高裁昭和43.12.24:
請負人の過失により建築中の建物が倒壊し、隣家の居住者に損害を与えた場合において、注文者が、土木出張所から建物の補強工事を完備するよう強く勧告を受けたにもかかわらず、これを放置していた事故
②最高裁昭和54.2.20:
建物の新築工事中に隣家の屋根瓦を損傷させた事故
  知財p120
東京地裁H27.7.27 
不正競争防止法7条1項による侵害立証のための書類提出命令の申立てが認められた事例 
  事案 基本事件は、申立人(基本事件原告)が、相手方(基本事件被告)に対し、相手方が申立人のもと従業員等を通じて申立人が開発した良好な磁気特性を有する方向性電磁鋼板(「HGO」)の製造プロセス等に関する技術情報である営業秘密(「本件技術情報」)を不正に取得し使用したなどと主張する事案。
申立人は、本件申立対象文書(「本件文書」)は、いずれも不正競争による営業上の利益の侵害行為を立証するために必要な書類であり、かつ相手方においてその提出を拒むことについて正当な理由はないと主張。
  規定 不正競争防止秘法  第7条(書類の提出等)
裁判所は、不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟においては、当事者の申立てにより、当事者に対し、当該侵害行為について立証するため、又は当該侵害の行為による損害の計算をするため必要な書類の提出を命ずることができる。ただし、その書類の所持者においてその提出を拒むことについて正当な理由があるときは、この限りでない。
2 裁判所は、前項ただし書に規定する正当な理由があるかどうかの判断をするため必要があると認めるときは、書類の所持者にその提示をさせることができる。この場合においては、何人も、その提示された書類の開示を求めることができない。
3 裁判所は、前項の場合において、第一項ただし書に規定する正当な理由があるかどうかについて前項後段の書類を開示してその意見を聴くことが必要であると認めるときは、当事者等(当事者(法人である場合にあっては、その代表者)又は当事者の代理人(訴訟代理人及び補佐人を除く。)、使用人その他の従業者をいう。以下同じ。)、訴訟代理人又は補佐人に対し、当該書類を開示することができる。
4 前三項の規定は、不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟における当該侵害行為について立証するため必要な検証の目的の提示について準用する。
  判断 ①当事者間の衡平の観点から模索的な文書提出命令の申立ては許されるべきではない
②当事者が文書提出命令に従わない場合の制裁の存在等

不正競争防止法7条1項における証拠調べの必要性があるというためには、その前提として、侵害行為があったことについての合理的疑いが一応認められることが必要であると解すべき。 
①相手方が本件技術情報の少なくとも一部を取得したことが認められ、
②本件技術情報がHGOの製造プロセス及びその仕上焼純設備に関する技術情報であること、
③相手方は、申立人のもと従業員ないしその関連会社と技術協力契約等を締結した上、本件技術情報の少なくとも一部の取得に先立ち合計数億円を支払っていることなどからすれば、現段階においては、本件技術情報の不正取得及び不正使用があったことの合理的疑いが一応認められる。

基本事件の争点との関連性が認められる本件文書については、証拠調べの必要性が認められる。
同項ただし書の正当な理由の有無につき、
①営業秘密の保護に関しては、民訴法及び不正競争防止法上の手当てがされていること、
②申立人と相手方との間には、秘密保持契約が締結されていることなどからすれば、本件文書に相手方の営業秘密を含むものがあってもそれだけでは原則として上記正当な理由には当たらない。
前記認定に係る証拠調べの必要性に照らして、単に本件文書が相手方の営業秘密を含むと抽象的に主張するのみでは、相手方においてその提出を拒むことについて正当な理由があるとは到底認められない。
⇒本件文書の提出を命じた。
  商事p125
東京地裁H27.8.6  
  海外での携行品盗難事件と保険金請求(肯定)
  事案 Xがハワイ州ホノルル市内のレストランで食事中、携行品を残したまま駐車していたレンタカーが車上荒らしの盗難に遭い、ゴルフシューズ、シューズケース、携帯電話等の携行品を入れていたバッグ等総額21万8966円の被害を受けた。

①Yは別のA損害保険会社から支払われた保険金10万円を除く11万8966円の保険金の支払を求め、
②不法行為に基づく損害賠償請求権として、Yの支払拒否の結果本件訴訟を提起せざるを得なくなったことにより生じた弁護士費用6万9000円
の支払を求めた。
  Yの主張 ①盗難事件の発生の態様が不自然であり
②Xが被害を受けたと主張する物品(携行品)を所持していたことおよびX主張の金額が被害金額となることにつき、裏付けとなる領収書等がなく、購入・所有のっ実の立証が不十分
⇒保険事故の発生および損害額につき否認。
Yが保険金の支払をしないのは、保険事故の発生および損害額についてのXの立証が不十分なため。 
  判断 認定した間接事実を総合して本件盗難事件の発生を認める。
ハワイ州で開催されるゴルフ大会に出場するXにとって被害品の所持や車両内の保管は不自然でははい⇒被害品の盗難を認める。
 被害額について:
A損害保険会社がXの申告した購入時期・価格から時価を算定した認定額(本件盗難事件当時の時価額。17万6019円)を基礎に土産品等の価格(2万4994円)を加えて合計19万6019円とし、
Xは、そのうちA損害保険会社から支払いを受けた10万円を控除した9万6019円を請求できるとした。
Yが求める立証を尽くすには、保険契約者があらかじめ盗難に備えて携行品の領収書を保管しておいくなどの準備が必要となる。
but
①保険金が支払うという本件損害保険契約上の合意及び保険金が支払われない場合の説明(保険契約者への説明書面には「十分な事実が確認できない場合」と記されているに過ぎない。)に照らして、「一般人が合理的に想定することができる立証義務の範囲」を超えており、
②A損害保険会社およびB損害保険会社がいずれも支払っていた

Yの支払拒否は、損害保険会社の支払いの可否について合理的に認められる裁量の範囲を逸脱した違法なものであるとして、不法行為に基づく損害賠償の請求(1万円)を認めた。
  商事p131
甲府地裁H27.7.14  
   
  事案 Aは、Y組合の営業担当職員として勤務。
Y組合との間で、Aを被共済者、Xを死亡共済金受取人とする終身共済契約、定期生命共済契約を締結。
本件共済契約には契約締結から2年以内に被共済者が自殺した場合には、共済金を支払わないという旨の定め。
Aは、契約締結から2年以内に自殺。
Aの父親であるXが、Yに対し、死亡共済金の支払を請求⇒Yは本件免責条項に該当するとして支払を拒絶。 
  規定  保険法 第51条(保険者の免責)
死亡保険契約の保険者は、次に掲げる場合には、保険給付を行う責任を負わない。ただし、第三号に掲げる場合には、被保険者を故意に死亡させた保険金受取人以外の保険金受取人に対する責任については、この限りでない。
一 被保険者が自殺をしたとき。
二 保険契約者が被保険者を故意に死亡させたとき(前号に掲げる場合を除く。)。
三 保険金受取人が被保険者を故意に死亡させたとき(前二号に掲げる場合を除く。)。
四 戦争その他の変乱によって被保険者が死亡したとき。
  争点 Aの自殺が本件免責条項所定の「自殺」に該当するか。
  判断 Aは、上司であるB支店長から、叱責、暴行等のパワハラを受け、自殺直前には、重度のストレス反応及び適応障害を発症していたとの事実。
労働基準監督署は、Aの自殺は精神的な抑制力が著しく阻害された状態で行われたとして、遺族補償年金等の支給決定。 
本件免責条項にいうところの「自殺」とは、「被共済者の自由な意思決定に基づいてされた自殺をいうことから、被共済者の自由な意思決定に基づかないでされた自殺は本件免責条項にいう「自殺」に含まれない」
「自殺」に当たるか否かは、労災の判断とは別個に行うのが相当であるところ、具体的には
①精神障害罹患前の本来的性格・人格との乖離
②自殺に至るまでの言動
③自殺の態様及び動機等の事情を総合的に判断するのが相当。
Aは、重度のストレス反応(重度ストレスへの反応)及び適応障害の精神障害を発症しており、Aの本来的性格・人格と、自殺前の性格・人格には乖離が見られ、自殺に至る言動や自殺の態様にも異常性が見られる

上記精神障害がAの自由な意思決定能力を喪失ないし著しく減弱させた結果、Aは自殺に及んだ。

本件免責条項にいうところの「自殺」には当たらないとして、Xの請求を認容。
  解説 保険共済契約は、生命保険契約であるところ、保険法51条1号では、被保険者(被共済者)の自殺は、免責事由と法定されている。

被保険者はその生死が保険事故とされている者であるから、その者が自殺という行為により自らにより自ら保険者の保険給付義務を発生させる保険事故を生じさせることは保険契約上の信義則に反する。
被保険者の精神障害中の自殺については、免責事由としての自殺には該当しないというのが確立した判例:
精神障害中であるとは、被保険者が自由な意思決定をなしうる状態にはないということを意味するとされており、本判決でも同様の立場。
  刑事p136
大阪地裁H27.6.26 
   
  事案 白昼の繁華街で通行人2名が無差別に包丁で殺害された事案。 
  争点 ①責任能力(弁護人は心神耗弱主張)
②裁判員法67条の合憲性
③量刑(死刑選択の当否) 
  判断 ●責任能力について
弁護人は、覚せい剤中毒後遺症による幻聴を理由に心神耗弱を主張
鑑定人U(裁判所選任の鑑定人):幻聴の影響は被告人自身の決めた行為を後押ししたにすぎない
について
①幻聴の内容は被告人の置かれた現実から了解でき
②犯行前は幻聴があっても現実を吟味できており、
③犯行直前の幻聴も身の危険を感じさせるものでなく、
④犯行後の幻聴は感想のようなものでその後なくなっており、
⑤犯行直後も現実を吟味できている
ことを根拠とするものとし、その前提とした事実関係や判断過程に問題はない。
鑑定人O(捜査段階の鑑定受託者):幻聴の強い影響を認める。
被告人は幻聴との自覚を次第に失ったという前提事実に疑問を呈した。
U鑑定を尊重しつつ、総合判断により責任能力を検討。
①犯行前に異常な言動はみられず
②犯行動機は置かれた状況から了解でき
③犯行直前から犯行の際の行動も目的や状況に応じており
④葛藤への耐性及び攻撃性の発散への閾値が低い本来の人格と犯行に甚だしい異質性はない。

本件犯行は幻聴の影響が大きくない状況下で選択・実行されたもの⇒完全責任能力を肯定。
●量刑 
①無差別殺人の罪質の悪質さ
②滅多刺しにした犯行態様の残酷さ
③二名死亡等の結果の重大さ
④ダルクに戻るなど生活構築手段もあったのに自暴自棄になった動機の身勝手さ
⑤計画性は低いが、包丁購入時に殺害も選択肢として存在し、犯行決意後は包丁を裸のまま紙袋に入れて臨むなど一定の準備行為をし、強固な殺意で敢行したことを考慮すれば特に重視すべきではないこと

2名に対する殺人の中で最も重い事案であり死刑はやむを得ない。
弁護人:2名殺害の先例で重視されている計画性が認められない以上、死刑は相当ではない。
vs.
①無差別殺人では特に厳しい量刑がなされていることや、②計画性の低さは本件では重視すべきでないことなどに照らし、先例の量刑傾向を適切に考慮したものとはいえない。
  解説  ●責任能力 
責任能力の判断:
①精神障害の有無・内容及びそれが弁識・制御能力にどのように影響したのかの評価と
②当該影響を前提に、犯行当時の精神状態をもって完全(限定)責任能力ありといえるかの評価からなる。
①は臨床精神医学の本文⇒前提資料や結論を導く推論過程などに問題がない限り、鑑定を尊重して行うべき。
②においては、責任能力が最終的には法律判断である以上、鑑定以外の証拠も含めた総合的検討により、被告人の犯行時の病状、犯行前の生活状況、犯行の動機・態様等を考慮し、精神障害と犯行の関係や本来の人格と犯行の関連性を評価すべきものとされる。
覚せい剤中毒は、統合失調症等と比べると人格を変容させる程度は小さく、それによる幻覚・幻聴等の影響は低く評価されることが多い。
当該精神障害が被告人の爆発性・粗暴性を増幅させたものにすぎず、動機は理解でき、犯行態様も異常でない場合には、完全責任能力が肯定される傾向。
  ●量刑 
永山基準。
最近の2決定(最高裁H27.2.3)では、死刑選択は、裁判所の集積から窺われる考慮要素及び各要素に与えられる重みの程度・根拠を出発点とし、総合的評価の上で、公平性も考慮しながら、具体的、説得的な根拠を示して行うべき旨を説く。
各要素に加えられる重みに関して、
①被害者数、②動機・計画性・犯行態様、③その他の要素という序列。
本件は、①②の検討から死刑がやむを得ないとした上で、主として一般情状に関する③の検討より更生可能性を認めつつ、それでも死刑回避には足りないと判断。
被殺害者2名の殺人事件では、死刑と無期懲役が選択割合が拮抗。
無差別殺人では死刑を選択した先例があるが、そこでは殺害の計画性が認定。
2名の殺人で無期懲役にとどまった先例には、計画性がない又は低いと認定されたものが多い。
本件では、犯行直前に一定の準備行動の上、強固な殺意で臨んだ⇒計画性の低さは重視すべきでないと判断。
               
   ★平成28年2月分
   2279
  行政p9
最高裁H27.7.17  
1.外国法に基づいて設立された組織体の所得税法2条1項7号及び法人税法2条4号に定める外国法人該当性の判断
2.米国デラウェア州の法律に基づいて設立されたLPSが行う不動産賃貸事業への出資と、その損失の損益通算の可否
  事案 米国デラウェア州の法律に基づいて設立されたリミテッド・パートナーシップが行う中古集合住宅の賃貸事業に係る投資事業に出資した投資家らが、当該賃貸事業により生じた所得が同人らの不動産所得(所得税法26条1項)に該当するとして、その所得の金額の計算上生じた損失の金額を同人らの他の所得の金額から控除して所得税の申告又は更正の請求。

所轄税務署長から、上記のような損益通算をすることはできないとして、それぞれ所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分又は更正をすべき理由がない旨の通知処分。

各処分の取消しを求めた。
  規定 所得税法 第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
七 外国法人 内国法人以外の法人をいう。
法人税法 第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
四 外国法人 内国法人以外の法人をいう。
  争点 外国法に基づいて設立された事業体ないし組織体(「外国事業体」)が我が国の租税法上の法人に該当するか否かにつき、いかなる判断枠組みを採用することが相当か。
かかる判断枠組みを前提に本件各LPSが我が国の租税法上の法人に該当するか。 
  一審・原審 本件各LPSが我が国の租税法上の法人には該当せず、我が国の租税法上の人格のない社団等にも該当しない。
⇒本件各LPSが行う不動産賃貸事業により生じた所得は、本件出資者らの不動産所得に該当。
⇒その不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額あるときは損失通算をした上で総所得金額及び納付すべき税額を算定すべき。 
  判断 ある組織体が法人として納税義務者に該当するか否かの問題は我が国の課税権が及ぶ範囲を決する問題である。
外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かは、当該組織体が日本法上の法人との対比において我が国の租税法上の納税義務者としての適格性を基礎付ける属性を備えているか否かとの観点から判断することが予定されている。
  外国事業体が所得税法2条1項7号及び法人税法2条4号に定める外国法人に該当するか否かを判断するための枠組み:
①当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討
これができない場合には、
②当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべきものであり、具体的には、当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討することとなる。
州LPS法の定めの内容等を検討した上で、本件各LPSが自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が本件各LPSに帰属するものということができる。
⇒権利義務の帰属主体であると認められる。
⇒本件各LPSは、所得税法2条1項7号に定める外国法人に該当するものというべき。
⇒本件出資者らは、本件各LPSが行う不動産賃貸事業による所得の計算上生じた損失の金額を各自の所得の金額から控除することはできない。
  解説 外国法人について「内国法人以外の法人をいう。」とのみ定義しており(所得税法2条1項7号、法人税法2条4号)、 
内国法人は「国内に本店又は主たる事業所を有する法人をいう。」と定義(所得税法2条1項6号、法人税法2条3号)。
「法人」についての定義はない。

外国事業体が所得税法等にいう法人に該当するか否かに係る判断方法は解釈により決するほかない。
A:外国私法基準説:外国事業体の設立準拠国(地域)の法令により、当該事業体に法人格を付与されているか否かを検討すべき
B:内国私法基準説:我が国の私法において法人がいかなる属性を有するとされているかを検討した上で、当該外国事業体がそのような属性を有するかにより法人該当性を判断すべき。
本判決は、Bを基本。
  行政p16
最高裁H27.7.17 
登記簿の表題部の所有者欄に「大字西」などと記載されている土地につき、地方税法343条2項後段の類推適用により、当該土地の所在する地区の住民により組織されている自治会又は町会が固定資産税の納税義務者に当たるとした原審の判断は違法。 
  事案 堺市の住民であるXが、平成18年度から平成20年度までについて当時の堺市長が固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を違法に怠った⇒地方税法18条1項の徴収権に係る消滅時効の完成により堺市に損害⇒地方自治法242条の2第1項4号に基づき、同市の執行機関であるY(堺市長)を相手に、本件固定資産税等の徴収権に係る消滅時効が完成するまでの期間において堺市長の職にあった者及びその賦課徴収に係る専決事項を有する各市税事務所長の職にあった者(本件各専決権者)に対して本件固定資産税等相当額の損害賠償請求をすること等を求める住民訴訟 
  規定 地方税法 第343条(固定資産税の納税義務者等)
固定資産税は、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下固定資産税について同様とする。)に課する。
2 前項の所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者(区分所有に係る家屋については、当該家屋に係る建物の区分所有等に関する法律第二条第二項の区分所有者とする。以下固定資産税について同様とする。)として登記又は登録されている者をいう。この場合において、所有者として登記又は登録されている個人が賦課期日前に死亡しているとき、若しくは所有者として登記又は登録されている法人が同日前に消滅しているとき、又は所有者として登記されている第三百四十八条第一項の者が同日前に所有者でなくなつているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。
  原審  ①関係自治会等は、本件固定資産税等の賦課期日における本件各土地の登記簿上の所有名義人であるとはいえない⇒地方税法343条2項前段に基づいて本件固定資産税等の納税義務者に当たるとみることはできない。 
②関係自治会などは、台帳登録財産である本件各土地につき、堺市により同市の定める要綱等に従ってその管理処分権限を有する団体として取り扱われる⇒本件各土地の実質的な所有者を評価することができる。

本件各土地については、地方税法343条2項後段を類推適用して、関係自治会等が同項後段にいう「現に所有している者」として当該土地の本件固定資産税等の納税義務者に当たるとみるべき。
  判断 原審は、本件各土地につき、本件固定資産税等の賦課期日におけるその所有権の帰属を確定することなく、・・要綱等における取扱い等に照らして関係自治会等をその実質的な所有者と評価することができるなどとして、地方税法343条2項後段の規定を類推適用することにより、関係自治会等が本件固定資産税等の納税義務者に該当する旨の判断をしたものであり、このような原審の判断には、同項後段の解釈適用を誤った違法がある。
  解説 租税法律主義について
最高裁昭和60.3.27:
租税は、国家が、その課税権に基づき、特別の給付に対する反対給付としてではなく、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、一定の要件に外とするすべての者に関する金銭給付であるが、およそ民主主義国家にあっては、国家の維持及び活動に必要な経費は、主権者たる国民が共同の費用として代表者を通じて定めるところにより自ら負担すべきものであり、わが国の憲法も、かかる見地の下に、国民がその総意を反映する租税立法に基づいて納税の義務を負うことを定め(30条)、新たに租税を課し又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要としている(84条)。それゆえ、課税要件及び租税の賦課徴収の手続は、法律で明確に定めることが必要である・・・ 

①課税要件法定主義(課税要件及び租税の賦課徴収の手続は法律によって規定されなければならないこと)と
②課税要件明確主義(課税要件及び租税の賦課徴収の手続はなるべく一義的で明確でなければならないこと)
を確認したもの。
租税法律主義の原則は、国民の経済生活における法的安定性を図り、将来の予測可能性を与えることをその趣旨とするものであるところ、この原則は、単に立法上の原則にとどまるものではなく、租税法規の解釈にもその趣旨が及ぶ。

租税法規の解釈は原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡大解釈や類推解釈を行うことは許されない。(金子租税法20版、114頁)
  ①最高裁昭和48.11.16:
譲渡担保による不動産の取得につき地方税法73条の7第3号(当時)を類推適用した原審の判断につき、「地方税法73条の7第3号は信託財産を移す場合における不動産の取得についてだけ非課税とすべき旨を定めたものであり、租税法の規定はみだりに拡張適用すべきものではない
⇒譲渡担保による不動産の取得についてはこれを類推適用すべきものではない。
②最高裁H22.3.2:
ホステスに対する報酬に係る所得税法施行令322条の「当該支払機関の計算期間の日数」とは、集計期間の日数ではなく、その実際の出勤日数であるとした原審の判断につき、「原審は、上記・・・のとおり判断するが、租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではなく、原審のような解釈を採ることは、・・・文言上困難である」などとして、原審のような解釈は採用できないとした。
③課税実務上想定されていなかった方法による租税回避を容認することが適当でないというのであれば、「法の解釈では限界があるので、そのような事態に対応できるような立法により対処すべきものである」とする最高裁H23.2.18
  地方税法343条2項後段は、土地又は家屋の固定資産税の納税義務者たる所有者の意義について、登記簿等に所有者として登記又は登録されいている法人が賦課期日前に消滅しているときについては、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする旨規定

ある土地につき同項後段により固定資産税の納税義務者に該当するというためには、少なくとも、「当該土地を現に所有している者」であること、すなわち、賦課期日において当該土地の所有権が当該者に現に帰属していたことが必要。
but
原審は、本家土地につき、本件固定資産税等の賦課期日におけるその所有権の帰属を確定することなく(すなわち、本件各土地の所有権の帰属につき当事者間に争いがあるにもかかわらず、関係自治会等がその所有権を承継取得又は原始取得した事実関係を認定することなく)、堺市の要綱等における取扱い等に照らして関係自治会等をその実質的な所有者と評価することができるなどとして、地方税法343条2項後段の規定を類推適用。 
  たとえ原審の採用した解釈が正当であるとしても、このような解釈は一般的なものではない⇒本件各市長や本件各専決権者が原審と同様の解釈を採用しなかったからといって、その法令解釈の誤りにつき過失があるとはいえない(最高裁H16.1.15)。 
  民事p21
東京高裁H27.5.21  
  システム開発に係る多段階契約において、個別契約の成否及び個別契約の発注がある旨誤信させたことによる契約締結上の過失
  事案 システム開発の多段階契約における個別契約の成否及び個別契約の締結上の過失の有無が争われた事案 
Xは、
①Yとの間で個別契約が成立していたこと(争点1)
②Yには個別契約を発注するかのような誤信を生じさせた契約締結上の過失があったこと(争点2)を理由として、Yに損害賠償の支払を求めた。
  原審 争点1:
フェーズ2の契約締結後、AからXに対してフェーズ3以降の発注を約束しな旨の意向が度々伝えられていた⇒フェーズ3以降を発注するというAの明示摘判断がないまま、Yとしてその発注をXに対して約束するとは考えがたい。
争点2:
…発注者において、請負人に対し、次工程の個別契約が締結されることの正当な期待を生じさせた場合には、信義則に照らし、期待を侵害したことについて不法行為上の損害賠償義務は免れない。


・・・Xとして、このような移動分については、追加発注により補填又は代替的な補償措置が受けられるものと期待するのは無理からぬところであり、YにおいてもXの期待を認識可能
⇒かかる期待を抱かせたことについてYに契約締結上の過失があったと判断。
Xにおいて新フェーズ3の発注がされない場合に移動分がどう取り扱われるか等につき、Aの意向等をYに対して確認せずに覚書を締結したことにつき過失があった⇒過失相殺
  判断 争点1、2ともに否定。
Xに期待するところがあったとしても単なる期待感に過ぎず、法的保護に値するものではない。
  解説 システム開発には、一括請負契約と多段階契約方式がある。
多段階契約方式は、一般的には、基本契約のもとで、開発工程を幾つかに区切って、各工程の進行に応じて個別契約を順次て家k津する方式で、当初の契約において、スケジュール・費用等の仕様の詳細を確実なものとして固定することが困難であることから採用されるもの。

契約範囲を予測の確実なものに限定しリスクを回避することができる一方、
問題のあるプロジェクトについては打切りやすいという特徴。 
Xがフェーズ2での減額分を新フェーズ3移行にて回収することの期待をどう評価するか?
Ⅰ次工程の個別契約が約束されていないものの、基本契約に基づく一連の継続的契約であるという側面を強調
Ⅱ各フェーズに区分する以上、各工程の作業及び代金については工程ごとの交渉に委ねられるべきものであるという側面を強調
控訴審はⅡの特徴を重視。
but
①元々ベンダーとユーザーは開発の完了に向けて基本契約から各フェーズの個別契約を積み上げている⇒フェーズが進む度に開発完了への双方の期待が順次高まっていく
②多段階契約方式が選ばれる理由として、開発当初から開発対象を明確にすることが困難で流動性を持たせる必要があること⇒フェーズが進む度に開発対象が特定されることで流動性が順次減少

フェーズの進行とともに、ユーザーによる自由かつ無補償の解約・解除権行使は制限されるべきものと考えられる余地。
  民事p33
東京地裁H27.5.28 
  税理士の説明義務違反⇒委任契約の債務不履行による損害賠償責任肯定
  争点 ⅠYがAに対し資産総額を1000万円未満とすれば二期分の消費税が免税になる旨を説明したかどうか
Ⅱ本件債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点 
  判断 Ⅰについて、①X設立の目的が節税であった、②提訴前のAとYとの通話の録音内容⇒X設立の際においてもYが重大な勘違いをして誤った説明をしたことが推認される。
Ⅱについて、本来の債務である、Aに対する税務指導の履行期であるXの医療法人設立登記日⇒提訴による時効中断
  解説 法人設立登記の日までは誤った説明を撤回して資産総額を1000万円未満とすることが可能⇒本来のYの債務の履行期は法人設立登記の日とし、同日から消滅時効が進行。
税理士の説明義務違反等の職務上の事務処理の過誤に関する近時の裁判例
①税理士が顧客に提案した会計処理を実施することによって課税を受けるリスクが生じることについて税理士に説明義務違反があった。
②税理士に消費税課税事業者選択届出書の提出について助言等をする義務を否定した事例。
③確定申告書の作成を委任された税理士が依頼者から提出された不備のある資料の内容を精査、確認しないまま、その内容に基づいて確定申告書等を作成したことにつき、債務不履行を認めた事例。
  民事p39
東京地裁H27.5.25  
訴訟代理人である弁護士らが証拠として提出した株主総会の議事進行を録画したDVDの反訳書の一部に虚偽・これに基づく虚偽の主張⇒不法行為が問題(否定)
  事案  訴訟代理人である弁護士らが証拠として提出した株主総会の議事進行を録画したDVDの反訳書に虚偽記載があったこと等について、弁護士らの損害賠償責任が追及された事件。
Y2は、判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律に基づき弁護士の職務を行っていた裁判官。
  争点 ①Y2の行為が公権力の行使に当たるか
②Y2らの虚偽の主張、反訳書の提出が違法行為、不法行為に当たるか
③Y2らの主張、反訳書を摘果しいないことが違法行為、不法行為に当たるか 
  判断 Y2は、身分は裁判官であるが、本件法律に基づき弁護士としての業務を行うに当たっては、その活動が国の行う作用に属するとみることはできない
⇒Y1(国)に対する請求を棄却。 
反訳書に虚偽の記載部分があったことを認め、
Ⅰ訴訟代理人である弁護士が虚偽と知りながら、虚偽の事実を主張し、又は虚偽の証拠を提出した場合には不法行為が成立。
Ⅱ虚偽と知らない場合に不法行為が成立するには、主張、証拠の内容、性質、虚偽であることの認識の容易さ、主張・証拠の重要性等に照らして、訴訟活動が著しく不適切さを欠き社会的相当性を逸脱することを要する。
本件では、Y2らが虚偽であることを知っていた証拠はないとし、
反訳書はY2らが作成したものではないこと、DVDの反訳書であること、DVDの内容を確認することによって反訳書の正確性を事後的に検証できること、XにDVDの複製物が交付されたこと、虚偽の部分はわずかであること等を考慮し、訴訟代理人の行為として著しく不適切さを欠き社会的相当性を逸脱したとはいえない

不法行為を否定。
Y2らが主張、反訳書の証拠申出を撤回しなかったことも不法行為に当たらない。
⇒Y2らに対する請求を棄却。
  民事p45
東京地裁H27.5.27  
  参議院議員選挙候補予定者が暴力団との交際を理由に所属政党の公認を取り消されたという事実を掲載⇒名誉毀損による損害賠償と謝罪広告の掲載請求
  争点 ①社会的評価の低下の有無
②真実性の抗弁の成否
③相当性の抗弁の成否
④損害額及び謝罪広告の要否 
  判断 Xの社会的評価の低下を肯定。 
真実性の抗弁:
Xが国政選挙に立候補する予定であった⇒公共の利害に関する事実に係るものであり、専ら公益を図る目的により掲載されたもの。
摘示事実の真実性については重要な部分につき真実であることが証明されれば足りる。
本件における重要な事実:
①Xが本件組長と男女関係にあったことがあるとの事実
②B(犯罪行為を行い逮捕)が原告原告の誕生パーティを主催した事実及び元暴力団員であったDの側近であるCをDの紹介により原告が秘書としていた事実
②について「黒い交際」との論評がされた
ものと整理。
事実②については、その真実性を認定。
「黒い交際」との論評も、事実の内容よびそれが国政選挙の候補者に関するものであることに照らせば、意見ないし論評としての範囲を逸脱しているとは認められない。
事実①については、YはA(コーラスグループのリーダー)ともう1人の証人Eの供述を根拠に真実性を主張。
Aの供述については、不合理な供述の変遷や客観的事実との齟齬
⇒信用性を欠く。
相当性の抗弁:
Aの関係者のみへの取材にとどまり、また新たな事実が示されるなど、Aらの供述内容の真実性を補強するものでもなかった。
Xおよび本件組長らが男女関係にあったことを否定する回答⇒Aの供述の信用性については十分な検討が必要であったというべきところ、・・・本件訴訟におけるAの供述の不合理さ、不自然さからすれば、前記取材における供述にも同様の不合理さ、不自然さがあったと推認するのが相当。

相当の理由を否定。
①本件記事の内容が政治活動を行う者としての適格性に大きな疑義を生じさせるものであるなどによりXの社会的評価への影響は甚大
②Xは国政選挙における自由民主党の公認を辞退せざるを得なくなり、政治活動に具体的な支障が生じた

Xに生じた精神的苦痛に対する慰謝料は400万円が相当。
①本件記事による名誉毀損の程度の大きさおよびそれが②Xの政治活動の妨げとなっていること等

本件雑誌上に1回、本件ウェブサイト上に1年間謝罪広告を掲載。
  解説 YがAへの取材以外にも一定の裏付け調査を行っていないわけではない中で、比較的厳しい相当性判断をした。 
慰謝料及び謝罪広告の要否の判断に当たって、Xの政治活動に具体的な支障が出ており、さらにその妨害がなお継続しているということが重視されている。
ウェブサイトへの謝罪広告掲載の期間が1年。
  民事p57
東京地裁H27.7.17 
マンションの共有部分での手すり壁のガラスに汚れ⇒管理組合の修補拒否等による不法行為責任(否定)
  争点 ①Y(管理組合)の修補義務の有無
②Yの不法行為の成否等 
  判断 YにおいてA(接する専有部分を有する会社)に対して修補請求等をする義務違反等のXの主張を排斥。
Yが各区分所有者に対し、共用部分を適正に管理する義務を負っているものと解されるとしても、共用部分をに存在する不具合の全てにつき、その程度等にかかわらず、修補をする義務があるとはいえず、不具合の程度、修補のために生ずる費用負担の程度等に照らし、合理的な範囲で修補等の対応をする義務がある。
本件不具合がバルコニーの通常の使用に支障を生じさせる性質のものではなく、修補を行うことがYに過分の経済的負担を強いる
⇒Yに上記義務があるとはいえない
⇒Yの不法行為を否定し、請求を棄却。
  解説 共用部分の不具合の修補、修繕は、共用部分の使用者(専有使用権の有無・内容)、管理規約の内容、不具合の発生原因、不具合の程度、修補等に要する費用額等によって、その義務を負う者、修補等の内容が異なる。 
  民事p60
大阪地裁H26.12.4 
  債務者所有不動産と物上保証人所有不動産とに設定された共同抵当権の実行による同時配当の方法
  事案 いずれも自らを債権者、Aを債務者として、A所有の甲不動産(土地建物)とA・Y1共有の乙不動産(土地建物)に共同担保としての根抵当権の設定を受けていたY2が、各不動産について競売申立⇒同時配当。 
Y2への配当額につき、Y2の被担保債権をAの甲不動産所有分及び乙不動産持分にのみ割り付け、物上保証人であるY1の乙不動産持分には割り付けないとする配当表。
⇒同配当表の一般債権者(仮差押)であるXが、Y1及びY2を被告として、配当表の上記割付には、民法392条1項を適用しなかった誤りがある⇒配当異議により配当表の変更を求めた。
  規定 民法 第392条(共同抵当における代価の配当)
債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、同時にその代価を配当すべきときは、その各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分する。
2 債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、ある不動産の代価のみを配当すべきときは、抵当権者は、その代価から債権の全部の弁済を受けることができる。この場合において、次順位の抵当権者は、その弁済を受ける抵当権者が前項の規定に従い他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使することができる。
民法 第500条(法定代位)
弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する。
  解説 民法392条は、共同抵当権の実行による不動産競売で同時配当すべきときは、その不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分することとされており(1項)
異時配当すべき時は、抵当権者は、代価から債権の全部の弁済を受けることができるが、次順位抵当権者は、一項の規定に従い抵当権者が他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使することができるとされる(2項)。

民法は、共同抵当において、後順位抵当権者については、同時配当と異時廃止とで扱いが異ならないようにしている。
物上保証人は、民法500条の「弁済をするについて正当な利益を有する者」に含まれ、共同抵当の関係にある主債務者所有の不動産αと物上保証人所有の不動産βのうち、不動産βのみに競売が申し立てられ、抵当権者の債権の満足が得られた場合、物上保証人は、主債務者に対する求償権について、抵当権者が不動産αに有した抵当権について代位することができる。
●裁判例
最高裁昭和44.7.3:
共同抵当の関係にある主債務者所有の不動産αと物上保証人所有の不動産βのうち、不動産αのみに競売。
たとえ不動産αに後順位の別の抵当権者の抵当権が設定されていたとしても、物上保証人の求償権の満足を受けるという期待を保護すべき
⇒その後順位抵当権者が、不動産βに392条2項による代位をすることは許されない。
最高裁昭和61.4.18:
同時に競売された場合についても異ならないというべきである。
  争点 債務者所有不動産と物上保証人所有不動産とに設定された共同抵当権の実行にようr不動産競売事件で同時配当をする場合に、民法392条1項が適用されるか? 
  判断 物上保証人との関係において、仮に同時配当に同項を適用したとすると、異時配当の場合と異なる配当結果となってしまうが、それでは民法392条が後順位抵当権者の場合に、同時配当と異時配当で異なる取扱いとなることを認めていないことや、後順位抵当権者との関係で物上保証人の求償権の確保の優位を認めてきた裁判例との関係で相当ではない。

392条1項の適用を否定して、Xの請求を棄却。
  知財p64
知財高裁H27.9.10  
  歴史教科書の著作権
  事案 被控訴人扶桑社が従前出版した中学校用歴史教科書の執筆者であった控訴人Xが、扶桑社の子会社である被控訴人育鵬社が出版している中学校用歴史教科書(被控訴人書籍)の記述47か所が、控訴人の著作権(翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害するとして、発行者である育鵬社及び扶桑社と、被控訴人書籍を共同して制作したとする被控訴人Y1~Y3に対し、被控訴人書籍の市販本の販売等の差止及び廃棄と損害賠償6031万円の支払を求める等した。
  規定 著作権法 第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
  原判決 被控訴人が著作権侵害を主張する47か所は、創作性が認められない⇒請求棄却。
  控訴 翻案権侵害箇所を21か所に限定。
複製権侵害の主張と、
控訴人書籍中の一部の単元の構成についての創作性に関する主張と
一般不法行為を理由とする請求
を追加。 
  判断 控訴棄却。 
●    ①歴史教科書は、簡潔に歴史全般を説明する歴史書に属するものであって、他者の歴史教科書とのみ対比して創作性を判断すべきものではなく、一般の簡潔な歴史書と対比して創作性があることを要する
②記述内容に関する著者のアイデアや制作意図ないし編集方針、あるいは、歴史観又は歴史認識それ自体は、表現ではない
⇒当該視点に基づいて記されたとする具体的な記述について、表現上の創作性の有無を検討すればよい。
③同種他書に同一の記載がなかったとしても、それが他書が選択した歴史的事項の範囲内に含まれる事実として知られている場合や、当該歴史的事項に一般的な歴史的説明を補充、付加するにすぎないものである場合には、そのことによる創作性は認められない。
上記21か所における事項の選択は、いずれもありふれた選択をしたもの⇒事項の選択についての創作性はない。
④事項の配列は、単なる説明の羅列か、時系列、因果列に従ったものなど⇒いずれもありふれた配列をしたもの⇒事項の配列についての創作性はない。
⑤上記21か所における具体的表現形式は、歴史的事項の単純な説明か、一般的な言い回しを若干改めたもの。
⇒いずれもありふれた具体的表現を出ず、具体的な表現についての創作性はない。
解説  著作物として著作権法上の保護を受けるには、思想又は感情を創作的に表現したものであること、創作性を要する(著作権法2条1項1号)。
その判断基準は:
①「個性の発露の有無」又は②「表現の選択の幅」が用いられる。
言語の著作物における本案兼侵害の判断方法:
①原告書籍等と被告書籍等との共通部分を特定
②原告書籍等の当該共通部分の創作性の有無の判断
③被告書籍等の当該共通部分から原告書籍等の当該共通部分の本質的特徴が直接感得できるか否かを判断
共通部分の範囲と創作性はトレードオフの関係。
  商事p96
大阪高裁H27.5.21 
社外監査役の任務懈怠(肯定)
  事案 破産に至ったZ会社(上場会社)の破産手続において、Z会社の破産手続において、Z会社の破産管財人Y1がその役員に対し責任査定の申立て。

破産裁判所は、X(公認会計士の資格を有する社外監査役)に対して、任務懈怠責任(会社法423条1項)の損害賠償請求の額を648万円とする査定決定。
~あらかじめZ会社とXの間で締結されていた責任限定契約により、会社法427条1項所定の最低責任限度額と同様の額が、XがZ会社に対する任務懈怠責任の限度とされた。 
Xは、自らの任務懈怠はなかったとして、異議の訴えを提起。
Y1も、Xには重過失があるため責任限定契約は適用されず、本件金員交付額8000万円が損害賠償請求権の額として、異議の訴えの反訴。
⇒原審は寝k津は、いずれの請求も棄却し、原決定が認可。
⇒Xが不服として控訴。
  判断 Xが公認会計士であり、平成13年3月にZ会社の社外・非常勤監査役に就任し・・・平成22年度の監査役の監査業務の職務分担上、経営管理本部管掌業務を担当することとされていたことに加えて、取締役会への出席を通じて、A(Z会社の代表取締役)による一連の任務懈怠行為の内容を熟知していたことをも併せ考えると、Xには、監査役の職務として、本件監査役監査規程に基づき、取締役会に対し、Z会社の資金を、定められた使途に反して合理的な理由なく不当に流出させるといった行為に対処するための内部統制システムを構築するよう助言又は勧告すべき義務があったということができる。・・・Xが上記助言又は勧告を行わなかったことは、上記の監査役としての義務に違反するものであったということができる。」
Aの一連の行為は、AがZ会社の代表取締役として不適格であることを示すものであることは明らかであるから、監査役としての職務の執行を監査すべき立場にあるXとしては、Z会社の取締役ら又は取締役会に対し、Aを代表取締役から解職すべきである旨を助言又は勧告すべきであったということができる。・・・Xが上記助言又は勧告を行わなかったことは、上記の義務に違反するものであったということができる。
責任限定契約の適用の可否:
Xを含むZ会社の監査役会は、Aによって行われた一連の任務懈怠行為に対して、取締役会において度々疑義を表明したり、事実関係の報告を求めるなどしており、・・・・監査役3名は辞任する所存である旨の申入れを行い、また、・・・監査役として看過できず、然るべき対応をせざるを得ない旨申し入れるなどしていて、監査役として、取締役の職務執行の監査を行い、一定の限度でその義務を果たしていたことが認められる」から、「Xには、義務違反があったものの、その義務違反が、監査役としての任務懈怠に当たることを知るべきであるのに、著しく注意を欠いたためにそれを知らなかったとまで認めることはできない。」
⇒重過失を否定し、責任限定契約の適用を肯定。
  解説 監査役の対会社責任が追及された事例自体が取締役と比較して多くない。
責任が肯定された判例は、監査役が取締役の違法行為を知りながらこれを黙認あるいは放置していた事案(消極的ながら違法行為に加担したと評価されてもやむを得ない事案)に限られてきた。 
本件のXの場合は、代表取締役Aの一連の不正行為を認識した上で黙認することなく、様々な機会をとらえて異議を述べ、報告を徴求し、辞任を示唆するなど、監査役として会社法が付与する権限を行使したと評価しうる(会社法381条2項、382条、383条1項)。
にもかかわらず、原審・控訴審を通じてXの任務懈怠が肯定された理由は、Z会社の監査役監査規程が、日本監査役協会が定めた「監査役監査基準」の文言をほぼ準拠していたから。

内部統制システムの構築やAの解職を取締役会に助言・勧告すべき義務を措定された。
but
会社法383条1項の「発言義務」が違法行為の未然防止に役立つと解されるとしても、内部統制システム構築やAの解職はそもそも取締役会の判断事項であって、監査役は第三者的立場において取締役会の判断のプロセスや内容を主として違法性の視点から監査・報告すべき任務を負い(会社法381条1項)、また監査役の法的責任はそれに尽きるのではないかという疑問が残る。
  労働p125
東京地裁H27.7.29  
  アスペルガー症候群⇒休職命令⇒自然退職扱い⇒労働契約上の地位確認請求(否定)
  事案 業務外の傷病を理由として休職命令を受け、休職期間満了時において休職事由が消滅していない⇒就業規則に基づき「自然退職」扱い。 
⇒当該満了時において就労が可能であったとして、労働契約上の権利を有する地位の確認等を請求。
  判断 下記Bの立場から、
休職期間満了時において、
①従前の職務を通常の程度に行える健康状態、又は当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常の程度に行える健康状態であったかを判断し、さらに、
②Xが総合職(A職群三級)として採用されたため、A職三級の者が配置される現実的可能性があると認められた他の業務について労務を提供することができるかどうかという枠組みによって判断。
①について、休職満了時にX自身がアスペルガー症候群の病識を欠いていたこと、指導を要する事項について上司とのコミュニケーションが成立しない精神状態で、かつ、不穏な行動により周囲に不安を与えている状態
⇒従前の部署において就労可能とは認めがたい。
②について、Xが申し出ていた対人交渉の不要なソフトウェア開発業務(アスペルガー症候群に一般に向いているとされる)は、これをYの側では「すべて外注している旨主張している」と述べる一方、Yの総合職としてのソフトウェア開発には対人交渉の能力が必要とされているのであり、休職期間満了時におけるXの精神状態では、Yにおける対人交渉能力を必要とするソフトウェア開発の業務が可能であったとは認められない。
  解説 私傷病による休職期間満了を理由とする自然退職の効力は、原則として休職事由が消滅(治癒)したかどうかによって判断。
休職事由の消滅につき
A:従前の職務に復帰(現職復帰)できることを要するとするもの
B:一定期間解雇権の行使を制限して労働者を保護するのが病気休職制度であるところから、使用者側に復職を容認しえない事由の主張立証(今後の完治の見込みや、復職が予定されている職場の諸般の事情等を考慮して解雇を正当化しうるほどのもの)を求め、軽易業務から徐々に通常の業務に服させていくことも可能であったとして自然退職の効力を否定するもの(東京地裁庄和59.1.27)
C:職務や業務内容を特定することなく労働契約を締結している場合においては、「現に就業を命じられた特定の業務についての労務の提供が従前にはできないとしても」諸般の事情に照らして「当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供がある」と解する片山組事件(最高裁H10.4.9)の趣旨を踏まえて、使用者による就労可能な業務提供の現実的可能性の存否によって休職事由の消滅の有無を判断する事例も蓄積。(脳内出血発症による事例、神経症による休職、自律神経失調症およびクッシング症候群による休職等の事例)
配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができるかどうかについては、
私傷病の視覚障害により休職期間満了・自動退職の扱いを受けた労働者が地位確認を求めた事案(第一興商 東京地裁H24.12.25)において示された一般論:
休職事由が消滅したことについての主張立証責任は「その消滅を主張する労働者側にあると解するのが相当であるが、使用者側である企業の規模・業種はともかくとしても、当該企業における労働者の配置、異動の実情及び難易といった内部の事情についてまで、労働者が立証し尽くすのは現実問題として困難であるのが多い」
⇒当該労働者において、配置される可能性がある業務について労務の提供をすることができることの立証がなされれば、休職事由が消滅したことについて事実上の推定が働く。
これに対し、使用者が、当該労働者を配置できる現実的可能性がある業務が存在しないことについて反証を挙げない限り、休職事由の消滅が推認されると解するのが相当。

本件で、Yの側での「すべて外注している旨」の主張をもって、配置される現実的可能性があると認められる他の業務はないとする本判決について、反証が十分であったかにつき異論の余地もあり得る。
障害者基本法:事業主は個々の障害者の特性に応じた適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るよう努めなければならない(19条2項)
発達障害者支援法:発達障害者が社会経済活動に参加しようとする努力に対し、国民が協力するように努めなければならない(4条)
改正障害者雇用促進法:事業主は障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない。
but
雇用安定義務は努力義務であるし、
「合理的配慮の提供義務も、当事者を規律する労働契約の内容を逸脱する過度な負担を伴う義務を事業者に課するものではない」とし、「雇用安定義務や合理的配慮の提供義務は、使用者に対し、障害のある労働者のあるがままの状態を、それがどのような状態であろうとも、労務の提供として常に受け入れることまでを要求するものとはいえない」
と消極的に解している。
  刑事p138
東京高裁H27.8.31   
  略式命令請求で、検察官が示談書提出せず。
  事案 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反被告事件について、検察官が略式命令請求の際に有利な情状資料を提出しなかったことの適法性が争われた。 
検察官は略式命令請求の際に、弁護人から受領した示談者の写し(被告人が被害者に20万円を支払い、被害者が被告人を宥恕した旨が記載)を提出せず、被害者から聴取した「示談したことは間違いありません。必要なら処罰してもらってもかまいません。」という内容の電話聴取書を提出。

被告人に対してなされた略式命令は、検察官の求刑意見と同じ50万円の罰金であり、被告人は正式裁判の請求。

示談書が証拠請求され取調べられ、罰金50万円。
⇒被告人は控訴。
控訴理由は:
①被告人が20万円を支払い、被害者が被告人を宥恕したという事実が記載されている示談書を略式命令請求の際に裁判所に提出せずに罰金50万円を求刑したいのは明らかに正義に反するのに、これを不問に付した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある。
②本件示談書を考慮しないで出された略式命令と同額の罰金を言い渡した原判決に量刑不当がある。
  規定 憲法 第37条〔刑事被告人の諸権利〕
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
②刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
③刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
  判断 検察官は本件略式命令請求の際に一般情状に関する重要な証拠である示談書を提出するべきであった。but示談書の不提出が違法とはしていない。
←検察官がどのような資料を提出するかについては、一定の裁量権が認められるという趣旨。
正式裁判の公判において示談書が取り調べられた⇒原判決に法令違反はない。
量刑も、示談書についても考慮した上で罰金額を定めており、不合理な量刑とはいえない。
  解説 略式手続は、被疑者の同意を条件に、書面審理のみで財産刑を言い渡す制度。
被疑者の同意は、憲法37条が保障する裁判を受ける権利の部分的放棄。 
but
被疑者は同意に際して、あらかじめ略式命令請求の際の証拠資料を知らされるわけではない。
検察官が裁判官の量刑資料を提供することへの信頼がなければ、真の同意は担保出来ない。
検察官に略式命令請求の際に差し出す資料についての裁量権が認められているとしても、その裁量権は、公正さが保たれる限度で行使されなければならない。
被害者が宥恕した旨の示談書を弁護人が証拠請求した場合に、検察官が被害者がなお処罰意思を有している旨の電話徴収書を証拠請求するする例は少なくないとされている。
but
公判で電話聴取書が検察官から証拠請求されれば、弁護人としては不同意とするのが通常。
  刑事p140
東京家裁H27.4.30 
  少年の痴漢認定but不処分
  事案 少年が電車内において隣の座席に座った女性の胸を指先で触るなどのいわゆる迷惑防止条例違反の非行をしたとして家庭裁判所に送致。 
少年は、被害者とされる女性の隣に座っていたことは認めたが、当時は眠っており故意に触ったことは否認。
裁判所は、当該女性及び目撃者とされる男性の証人尋問を実施⇒少年の非行を認定。
保護処分については、その必要がないものと判断し、保護処分に付さない旨の決定。
  解説 少年が事実を争い、送致された記録中の証拠のみで非行事実を認定できない⇒職権で証拠調べ。
証拠調べの範囲、限度、方法の決定は、家庭裁判所の合理的な裁量に委ねられる(最高裁昭和58.10.26)。 
手続保障も考慮すべき。
最高裁H58.10.26:
少年・付添人に立会の機会を与えないまま犯行の目撃者を参考人として審判廷外で取り調べた家庭裁判所の措置に合理的裁量の誤りはないとした抗告審決定に対し、反対尋問の機会を保障しないなどの措置が憲法違反であると主張して再抗告がなされた事案。
同主張を単なる法令違反の主張として排斥したものの、職権判断として「非行事実の認定にあたっては、少年の人権に対する手続上の配慮を欠かせない」と判示。
団藤裁判官の補足意見では、少年又は付添人に当該目撃者の供述を得るについて立会い及び反対尋問の機会を与えなかった家庭裁判所の措置が、合理的裁量の範囲を逸脱するもの、すなわち違法との見解。
少年審判は、刑事裁判手続のように行為に対する罰として制裁を科すものではなく、少年自身の更生すなわち再非行防止のためのもの。

再非行に及ぶ可能性が低いと判断できればあえて保護処分に付す必要はない。
but
少年が非行を犯したと認められるにもかかわらずこれを否認している場合、多くは少年自身の反省が十分ではないと評価される。
2278   
  行政p21
東京高裁H27.5.28  
  1.卒業式における君が代起立斉唱命令違反⇒停職3月・停職6月の各懲戒処分⇒懲戒権者の裁量逸脱として取消し
2.国賠請求認容
  事案  事前の職務命令にもかかわらず、平成19年3月の卒業式における国歌斉唱時に起立せず、地公法32条、33条に違反⇒X1につき停職3月、X2につき停職6月の懲戒処分
⇒本件職務命令および本件各処分が憲法19条、23条、26条、教育基本法16条1項に違反するなどとして、Y1(東京都教育委員会)を相手取って取消訴訟を提起するとともに、Y2(東京都知事)に対して国賠法に基づく損害賠償(慰謝料)請求
  先例 最高裁H24.1.16:
平成18年3月の卒業式における不起立を理由とするX1・X2に対する停職3月という懲戒処分を対象。
処分の量定に関し、懲戒処分をすべきか、いかなる処分を選択すべきかを決定する処分庁の裁量を前提としながら、
不起立行為に対する懲戒において戒告、減給を超えて停職の処分を選択することが許容されるのは、過去の非違行為による懲戒処分等の処分歴や不起立行為の前後における態度等に鑑み、学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的事情が認められる場合であることを要する。 
過去に不起立行為による3回の処分歴しかないX1に対する停職処分は重きに失し、裁量権の範囲を超えるが、過去に不起立行為によるもののほか卒業式等の進行妨害や校長批判文書の配布等による処分(懲戒処分5回および文書訓告)歴を有するX2に対する停職3月の処分は裁量権の範囲内とした。
  原審 停職処分の「相当性を基礎づける具体的な事情」が問われ
X1については、 裁量権の範囲を逸脱⇒処分取消し。
X2については、裁量権の範囲を逸脱しない。
国賠法1条との関係では、X1に対する処分が取り消されるべきものであっても、本件X1停職処分が裁量権の範囲内の措置として適法を判断したことにつき、職務上通常尽くすべき注意義務違反も過失も認められず、国賠法に基づく損害賠償請求は認められない。
  判断 X1、X2について、取消しを認め、国賠請求についても請求を一部認容し、Y2による各10万円の損害賠償を命じた。
●  X2に対する停職処分の選択について、
「当該停職期間を選択することの相当性や合理性を基礎付ける具体的な事情」が認められるかどうかを問い
①本件不起立の前後におけるX1の態度等において、特に処分の加重を必要とするような特段の事情が認められるか、②停職期間を加重することによってX2が受けることになる具体的な不利益の内容、の2点を十分に勘案して、慎重に検討することが必要。
①前回処分による停職期間中に校門前での抗議行動等を本件処分にあたって考慮することは思想及び良心の自由や表現の自由を保障する日本国憲法の精神に抵触する可能性があり、相当でない。
②停職期間の上限とされる6月の停職処分を課すことは、不起立行為を重ねた場合に残されている懲戒処分が免職だけということになり、身分喪失の可能性をX2に意識させる、極めて大きな心理的圧力を加えるもの。
③前回処分以前の処分歴が前回処分において考慮されている。

X2に対する停職6月の懲戒処分は、具体的に行われた非違行為の内容や影響の程度等に鑑み、社会通念上、行為と処分との均衡を著しく失し、裁量権の合理的範囲を逸脱する違法なもの。
国賠請求について、本件処分にあたって通常尽くすべき注意義務を怠ったといえるか否かを問題にし、過失を肯定。
  解説 本判決は、毎回加重される処分量定方式を君が代不起立事案に機械的に適用することの違法を明らかにした。
当該処分実務によって比較的短期間で「自己の歴史観や世界観を含む思想等により忠実であろうとする教員にとっては、自らの思想や信条を捨てるか、それとも教職員としての身分を捨てるかの二者択一の選択を迫」るもので、それが個人としての思想及び良心の自由に対する実質的な侵害につながる点が指摘される。
  行政p32
大阪高裁H27.6.26  
  市職員らの労働組合等に対する市庁舎一部の目的外使用不許可処分の適法性 
  事案 X労働組合らは、平成18年7月以降、Y市本庁の地下1階の一部につき目的外使用許可を受け、組合事務所として使用。
Y市市長にAが就任⇒Y市役所の本庁舎からの組合事務所退去というA市長の方針
X労働組合が、平成24年2月17日、使用期間を同年4月1日から1年間とする目的外使用許可申請⇒不許可処分。X労働組合らは退去せず、組合事務所として占有。 
平成24年7月27日に、A市長の提案による「Y市労使関係に関する条例」がY市本会議で可決。
同条例12条では、「労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は、行わないものとする」と規定。
その後も、目的外使用許可申請は不許可。
X労働組合らは、平成24年度から平成26年度までの上記各年度の不許可処分は、団結権及び労働組合活動の自由を侵害する違法行為であるとして、国賠法に基づく損害賠償を求め、平成26年度の不許可処分について、その取消しを求めるとともに本件事務室部分に係る目的外使用許可処分の義務付けを求める一方、
Yは、X労働組合らが本件不許可処分後も、組合事務所として占有している本件事務室部分について明渡しを求めるとともに、使用料損害金の支払を求めた。 
  規定  地方自治法 第238条の4(行政財産の管理及び処分)

7 行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。

9 第七項の規定により行政財産の使用を許可した場合において、公用若しくは公共用に供するため必要を生じたとき、又は許可の条件に違反する行為があると認めるときは、普通地方公共団体の長又は委員会は、その許可を取り消すことができる。
  憲法 第94条〔地方公共団体の権能〕
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる
  原審 上記各不許可処分は、Y市の裁量権を逸脱・濫用したもので違法⇒損害賠償を一部認容。
平成26年度の不許可処分について、その取消しを命じ。
同年4月1日から同年27年3月31日までの使用許可処分の義務付けを命じる。
Y市のX労働組合らに対する本件事務室部分の明渡請求及び損害賠償請求について棄却。
  判断 行政財産の「目的外使用を許可するか否かは、その用途又は目的を妨げないことを前提とした上で、原則として、行政財産管理者の合理的な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。そして行政財産管理者の裁量判断は、許可申請に係る使用の日時若しくは期間、場所、目的及び態様、使用者の範囲、使用の必要性の程度、許可をするに当たっての支障又は許可をした場合の弊害若しくは影響の内容及び程度、代替施設確保の困難性等許可をしないことによる申請者側の不都合又は影響の内容及び程度等の諸般の事情を総合考慮してされるものであり、その裁量権の行使が逸脱・濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるものと解するのが相当である。」(最高裁H18.2.7)とする理は、労働組合等が行政財産の目的外使用許可を受けて組合事務所として使用する場合においても変わらない。
●平成24年度の不許可処分:
A市長が専ら労働組合を嫌悪し、労働組合に対する支配介入の意思を有しているとまでは認められない。
A市長は、平成23年度の許可満了のわずか3か月前に、何の前触れもなく不許可の方針を表明し、不許可方針の説明も詳細に渡ることを避けた

平成24年度不許可処分は団結権を有する労働組合等であるX労働組合らに対する配慮を欠き、あまりに請求であったということは否定のしようがない。
⇒平成24年度不許可処分は、著しく合理性を欠き、社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものと言わざるを得ない。
●平成25年度不許可処分と平成26年度不許可処分:
本件条例12条につき、憲法28条に違反するものではなく、労組法は、最小限の広さの事務所の供与をしないことや、供与している状態を解消することについては、直接規制を及ぼす趣旨ではないと解される。
⇒労組法や地方公務員法に違反するものでもない。
行政事務スペースとして利用性が存している⇒いずれの不許可処分も適法⇒国賠請求、平成26年度の不許可処分の取消請求について理由がない。
平成25年度及び平成26年度の不許可処分は適法⇒Y市による本件事務室部分の明渡請求を肯定。
  解説 ●本判決
 市の庁舎は公有財産であり公用以外での使用が原則として禁止され、目的外使用許可及びその取消しにおいては、行政庁側の使用の必要性が重視され、使用許可を受ける者の使用の必要性はそれに劣後するというのが目的外使用許可制度の趣旨(地方自治法238条の4、7項・9項)。
目的外使用を許可するか否かは、その用途又は目的を前提とした上で、原則として、行政財産管理者の合理的な裁量に委ねられている。
行政財産管理者の裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査には、考慮すべき事項を考慮したか、考慮すべきでない事項を考慮しなかったかという審査密度の低い形式審査ではなく、考慮要素の重み付けの審査を行う審査密度の濃い判断過程合理性審査の方歩を採って判断した、呉市学校施設使用不許可事件最高裁判決(最高裁H18.2.7)で示された判断枠組みを引用し、目的外使用許可を受けて組合事務所として使用する場合においても妥当する一般準則であるとする判断をした。
本件組合事務所利用について目的外使用不許可に関する裁量権行使の総合考慮において、職員の団結権等に及ぼす支障の有無・程度についても考慮すべき要素にとどまるとし、団結権の侵害や不当労働行為が認められても直ちに目的外使用不許可が違法となるものではないとした。
組合事務所の便宜供与に関しては、当然に使用者の財産を組合事務所として利用する権利を保障されているものではないとする一連の最高裁で示された許諾説をベースとする考え方(最高裁昭和54.10.30)。
組合事務所の供与に関しては、複数組合下での一方組合に対する組合事務所貸与拒否につき不当労働行為として組合事務所貸与を命じた日産自動車事件最高裁判決(最高裁昭和62.5.8)。 
  民事p63
最高裁H27.9.18  

  一部の区分所有者が共有部分を第三者に賃貸して得た賃料と各区分所有者の不当利得返還請求権 
  事案 区分所有建物の区分所有者の1人であるXが、同じく本件マンションの区分所有者であるYに対し、不当利得返還請求権に基づき、Yが本件マンションの共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち共用部分に係るXの持分割合相当額の金員及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案。 
  判断 一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち区分所有者の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権(本件請求権)について、原則として各区分所有者が自己に帰属する請求権を個別に行使することができる。 
区分所有建物については
①区分所有者の団体が存在し、共用部分の管理が団体的規制に服していること、
②本件請求権が共用部分の管理と密接に関連するものであるといえること

区分所有者の団体は、区分所有者の団体のみが本件請求権を行使することができる旨を集会で決議し、又は規約で定めることができ、この場合には、区分所有者は、自己に帰属する本件請求権を行使することができない。
管理者が共用部分の管理を行い、共用部分を特定の区分所有者に無償で使用させることができる旨の本件マンションの管理規約中の定めは、区分所有者の団体のみが本件請求権を行使することができる旨を含む
⇒Xは本件請求権を行使することができない。

共用部分の管理を団体的規制に服させている区分所有法の趣旨を重視して、通常の契約解釈よりも相当程度緩やかに規約を解釈。
  解説 ●請求権の帰属
マンションの管理組合が、共用部分に瑕疵が生じたと主張して、建設会社及び販売会社に対して不法行為に基づく損害賠償請求をした事案事案で、当該損害賠償請求権は各区分所有者に分割的に帰属⇒管理組合の請求を棄却(東京高裁H8.12.26)を正当として是認(最高裁H12.10.10)

各区分所有者に分属的に帰属
  本判決の考え
vs.
集会における議決権の過半数を有する区分所有者が共用部分を不法に第三者に賃貸した場合に、その余の区分所有者が不当利得返還請求権を行使することができなくなって結論が不当
but
共用部分の管理に関する事項については、集会の決議又は規約の定めがあれば区分所有者全員がこれに拘束されるというのが区分所有法の枠組み⇒この結論が不当とはいえない。
管理者に対する監督(管理者解任の訴え(区分所有法25条2項)等)や集会の運営の適正化(一般社団法人及び一般財田法人に関する訴えの規定の類推適用等)により対処。 
本判決のような集会の決議又は規約の定め

①区分所有者の団体が「法人でない社団」(民訴法29条)としてその名において訴訟を提起するか
②区分所有者の団体の執行機関である管理者が区分所有法26条4項の規定によりその名において訴訟を提起
  民事p66
東京高裁H26.10.2  
  離婚後15年以上婚氏を称した者について、婚姻前の氏に変更する「やむを得ない事由」 
  事案 婚氏続称の届出⇒離婚後15年以上、婚氏を称してきたところ、婚姻前の氏に変更することの許可を求めた。 
  規定 戸籍法 第107条〔氏の変更〕
やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。
戸籍法 第107条の2〔名の変更〕
正当な事由によつて名を変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。
  原審 戸籍法107条1項に定める「やむを得ない事由」があるとは認められない⇒申立てを却下する審判。 
  判断  Xは、離婚後15年以上、婚姻中の氏を称してきた⇒その氏は社会的に定着。
①Xが、離婚に際して婚氏続称を選択したのは、当時9歳であった長男のためであるところ、長男は、約2年半前に大学を卒業。
②Xは、離婚後、Xの婚姻前の氏である両親と同居し、9年にわたり、両親とともに、婚姻前の氏を用いた屋号で近所付き合いをしてきた
③Xには、妹が2人いるが、いずれも婚姻しており、両親と同居しているXが、両親を継ぐものと認識
④長男は、Xが氏の変更許可を求めることについて同意

本件申立てには、戸籍法107条1項の「やむを得ない事由」があるものと認めるのが相当。
⇒原審判を取り消し、Xの氏を婚姻前の氏に変更することを許可する決定。
  解説 氏は、民法上、出生により定まり、その後、婚姻、離婚等により変動。(民法上の氏)
これに対し、民法上の氏の変動はないが、その呼称(戸籍の氏名欄の氏の記載)を変える必要がある場合に、一定の要件と手続の下で、その変更が認められる。(呼称上の氏)
  個人の識別手段である氏が安易に変更される社会は混乱する⇒呼称秩序を維持するために安易な変更を認めない趣旨⇒「やむを得ない事由」によって氏を変更しようとするときは、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない(戸籍法107条1項)。
「正当な事由」がある場合に認められる名の変更(戸籍法107条の2)に比べて、より厳格な要件。
実務上、離婚の際にいわゆる婚氏続称の届出(民法767条2項、戸籍法77条の2)をした後に、再び婚姻前の氏に戻りたいとして、氏の変更許可を求める申立てがされることが多い。
この場合、
A:通常の氏の変更と同様に厳格に解するもの
B:緩やかに解するもの
民法 第767条(離婚による復氏等)
婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。
2 前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から三箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる。
戸籍法 第77条の2〔離婚の際の氏を称する場合〕
民法第七百六十七条第二項(同法第七百七十一条において準用する場合を含む。)の規定によつて離婚の際に称していた氏を称しようとする者は、離婚の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。
  民事p67
仙台高裁H27.9.16 
  相続開始から10年を経過した後にした遺留分減殺請求権の行使
  事案 訴外Aは所有する本件土地建物をその孫であるYに遺贈するとの自筆証書遺言。
Aは平成10年1月5日死亡し、Xら4名が相続。
本件遺言書は開封されているため、本件遺言は無効であるとして遺産分割協議を継続。
平成23年10月30日の第4回の遺産分割協議において、Aの子Bが、本件遺言の効力について、従前の見解を改め、遺言として有効である旨の見解。司法書士も有効との説明⇒遺産分割協議を継続しない旨の発言。 
Xは、平成24年6月27日、Yに対し、本件遺言によるYへの遺贈について遺留分減殺請求権行使の意思表示をした上、本件土地建物について、Xの持分とする所有権移転登記手続を求めた。
  規定 民法 第1042条(減殺請求権の期間の制限)
減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
民法 第160条(相続財産に関する時効の停止)
相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
  判断 相続開始後、受遺者による相続開始の時から10年経過後の新たな権利主張が容認される一方で、これに対する遺留分減殺請求権の行使が一切許されないと解するのは、公平の見地から相当とはいえない。 
本件においては、民法1042条後段の適用についえては、同法160条の法意に照らし、遺留分権利者であるXが、遺留分減殺請求権を行使することを期待することができない特段の事情が解消された時点から6か月内に同権利を行使したと認められる場合には、Xについて、同法1042条後段により遺留分減殺請求権消滅の効果は生じないものと解するのが相当。
but
本件では6か月経過⇒Xの主張認めず。
  解説 民法1042条後段の10年は、時効でなく除斥期間であると解するのが通説。
除斥期間⇒中断がなく、当事者の援用を要しない。 
最高裁H21.4.28:
民法724条後段に関し、民法160条の適用は否定しつつも、同条の法意に照らし、制限期間内に権利を行使することができない特段の事情があるときには、その事情が解消された時から6か月内に行使すれば、民法724条後段の効果は生じない旨の新たな法理論。
民法 第724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
  民事p73
東京地裁H27.6.29  
  株式会社の取締役を解任された者が、会社、代表者につき反社会的勢力との関係ががある等の内容を記載した文書の株主、取締役等への送付と名誉・信用毀損(肯定)
  事案 会社の取締役を解任された者が会社、その代表者につき非社会的勢力(暴力団)との交流、不正経理等を内容とする文書を株主らに送付する等し、名誉・信用毀損が問題になった事案。 
X1(会社)、X2(代取)は、Yに対して、文書の送付が名誉・信用毀損に当たると主張し、名誉・信用毀損行為の差止め、損害賠償を請求。
Yが反訴として閲覧謄写請求の違法な拒否に係る不法行為に基づき損害賠償、正当な理由のない解任等に係る損害賠償を請求。
  争点 ①真実性の証明
②真実に係る相当の理由の有無
③差止請求の可否
④閲覧等請求の拒否の違法性の有無 
  判断 ①文書に摘示された非社会的組織との交流、②不正経理について個別に検討し、真実であるとは認められず、真実であると信じるにつき相当の理由があったとも認められない。

名誉毀損行為の不法行為を肯定し、X1の損害額200万円lX2の損害額50万円
差止請求について:
不正経理を内容とする部分は事後の金銭賠償による回復が不可能、著しく困難とはいえず、不正経理の内容を特定することが困難
⇒非社会的勢力との交流を内容とする部分のみを認める。
反訴は棄却。
差止の対象となる行為については、発言、架電、文書送付、ファクシミリの送信、メールの送信として具体化。
  民事p83
大阪地裁H26.1.23  
  システム開発を目的とする契約と債務不履行責任(否定) 
  事案  ユーザーであるXが、ベンダーであるYに対し、経営情報システムの開発の請負契約を締結。
Yが同システムを完成させなかった

①主位的に債務不履行により損害賠償請求に基づき
②予備的に解除による原状回復請求権に基づき
支払済みの代金相当額及び遅延損害金の支払を求めた。 
反訴は、YがXに対し、上記システムの開発は完成しているとして、
①上記請負契約に基づく本件仕事の代金残額
②Xとの間で、完成を条件として締結していた保守契約を不当に破棄されたとして、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償
③Xとの間で、本件請負契約とは別のシステム第二次開発の作業(A区分部分)の受注契約に基づく代金、
④Xが保守契約を締結しなかったのは不法行為であるとして損害賠償を、
各遅延損害金とともに求めた事案。
  判断 システム開発は完成している⇒Xの本訴請求を棄却。 
Yの反訴請求のうち、
①の本件仕事の残代金及び③の第二次開発の仕事の代金及び各遅延損害金について請求を認めた。
but
保守契約は成立しておらず、更に締結しなかったことが不法行為にはならない⇒②及び④の請求は認めなかった。
●本件システム開発契約の内容 
X:
提供した資料について基本設計書であると主張。

判決:
①ドキュメント相互で用語の統一が図られていない、②各画面毎の入力属性の説明がない⇒基本設計書としての内容を備えたものとは認められない。
X:
Mの脱退に当たり、基本設計所の作成責任者がXからYに変わった

判決:
Xが、Mの理論に基づく設計は困難であるとして、Mとの契約を打ち切ったものであり、YがXに対して、基本設計を担当することの承諾を求めたが、Xがこれを承諾しなかった⇒基本設計書の作成責任者がXからYに変わったとは認められない。
●本件仕事の範囲は本件仕様書の範囲に限られるか? 
X:
Yが第二次開発に当たると主張する部分についても、本件仕事に含まれると主張。

判決:
XとYが、M脱退後、仕様の確定時期までに仕様とした部分を本件請負契約の対象とすることに合意した上で、その後、Yがドキュメントを提供し、Xが確認した上で、最終的にXの担当者が承認する形で本件仕様書が作成
されていった経緯⇒本件仕事の範囲を本件仕様書の範囲に限られる。
本件仕様書完成後に新たな開発対象とした部分は、本件仕事とは別の第二次開発に含まれる。
●本件仕事の完成の有無 
X:多数の項目において不具合を主張し、本件仕事は完成していない

判決:
本件仕事が完成したと認められるために求められる品質は何かを検討

Yが行うべきとされる本件仕事の範囲が、本件仕様書に定められた仕様に従って詳細設計より下流工程にある作業を行うこと
⇒Yが本件仕事を完成したか否かは、本件仕様書の内容に従って開発行為を行ったといえるか否かで判断される。
プログラムミスに起因するエラーは、試験稼働中に発見され、検収までに補修されることもあるが、検収後、本件システムを稼働する中でも発見せざるを得ないものもある⇒その後のメンテナンスの中で、賄われるべき一定のプログラムミスは許容されていた。
それが仕事の完成と評価されないためには、部分的なプログラムミスにとどまらず、本件仕様書の記載に明らかに反し、軽微で容易に改修ができるものではなく、システム全体を見直しを行わなければならないほどの欠陥であると認められなければならない。
Yが仕様に従った作業を行ったかを踏まえ、Xが主張する欠陥について個別に検討し、いずれも仕事の完成を妨げるような欠陥ではなく、本件仕事は完成している。
保守契約を締結した事実は認められない。
Xは、本件仕事が完成しないという認識を示していた⇒そのような認識をYも熟知していた以上、保守契約の締結に向けての法的保護に値する信頼があったとは認められない。 
  解説 システム開発の契約では、①情報伝達の困難性、②専門技術に関する知識の非対称性、③合意形成の過程で多数者が関与
⇒合意形成過程においての認識の齟齬が生じ、これに気付かないままプログラム開発の製造工程に入ることが少なくない。
①ベンダーの提案に対し承諾を与えるユーザーについても、提案に対する相応の理解と責任が求められる。
②検収の前後で、一定のプログラムミスに起因するエラーの発生は不可避という実態。
⇒ベンダーにとっての債務の履行としては、確定した仕様どおりに作業を行うことにほかならない
⇒仕事が完成したといえるか否かも、そのような契約生成過程、結果を含む製造工程の実態を踏まえたものとしてとらえる必要。
  商事p119
山口地裁萩支部H27.3.23  
  損害保険会社から損害保険契約締結の代理権を付与されていた者が、積立保険料名目で契約者から順次金銭を詐取⇒損害保険会社に保険業法283条の損害賠償責任あり(過失相殺4割)
  事案 Xが、A損保会社に対し、同社から損害保険契約締結の代理権を付与された保険代理店の代表者Bから、保険募集について保険料名目で金銭を詐取されたと主張して、保険業法283条1項に基づく損害賠償を求めた事案。 
  規定  (所属保険会社等及び保険募集再委託者の賠償責任)

保険業法 第二百八十三条  所属保険会社等は、保険募集人が保険募集について保険契約者に加えた損害を賠償する責任を負う。
・・・・・
  判断  Y:XがBから受け取った受領書は保険料領収書ではなく、保険取引の外形がなく、本件取引1ないし3は保険募集に該当しないと主張 
本件取引1について:
①Xは具体的な保険商品の勧誘を受けている
②受領書には保健期間と解しうる文言が記載されている

BはXに対しYの取り扱う積立傷害保険及び年金払積立傷害保険の締結を勧誘し、保険料名目でXから金員の交付
⇒Yは、保険業法283条1項にもとづき、損害賠償責任を負う
本件取引2,3について
XとBのやりとり等→XからBに対し交付された金員は、Yの取り扱う積立傷害保険に関する保険料として授受されたもの
  ●悪意又は重大な過失の有無
Xが金融取引等に精通しているとまではいえず、Bとの保険取引が相当長期間にわたっており、その間に繰り返されてきた保険取引においても書類等が常に交付されるわけではなく、本件取引が従前の保険取引に比して特段に不自然であったともいえない
⇒悪意・重過失を否定
  過失相殺として3割を減じ、Xの請求を一部認容。 
  解説  保険業法283条の適用の有無が問題となった事案。

保険会社等のために保険募集を行う会社の役員・使用人その他の補助者が、その募集行為によって顧客に及ぼした損害について、それらの者が所属する保険会社等の利益を保護しようとする規定。 
保険募集人が「保険募集について」保険契約者に食わせた損害を賠償する規定
⇒「保険募集について」の意義が問題。
募集行為である契約締結の代理・媒介自体に限定されず、それと密接に関係・関連する行為を含む(大阪高裁昭和33.5.30)。
保険契約者が保険募集人が権限外の行為を行っていることについて悪意又は重大な過失がある場合には賠償責任を免れるとされている。
  労働p129
東京地裁H27.6.26  
  1.大学教授に対する解任決議の有効性(肯定) 
2.女子大学院生に対するハラスメント行為の事例
  判断 女子学生らに対するハラスメント行為を認定して解任決議の有効性を肯定。
  解説 Xの女子大学院生Bへのわいせつの意図・意思は認定し難い⇒
本判決において認定された女子大学院生Bに対するハラスメント行為につき、①強制わいせつ罪(刑法176条)等の性犯罪としての評価や、②セクシャルハラスメントに基づく損害賠償請求の当否の検討には困難な面がある。 
but
大学教授という教育者の適格性審査という観点につき、Xが妻との夫婦関係の悩みから短期間のうちに二人の女性に対するハラスメント行為に及んだという本件の事実関係に基づき、
「本学および本学大学院の社会的責任と信用を著しく損なう行為であり、教育者としての資質にも大いなる疑義を抱かざるを得ない」、「教員としての職責を全うすることができない」などとする解任決議がXに対してなされたもの。
  刑事p144
最高裁H27.9.15  
  組織的な犯罪の処罰及び販売収益の規則等に関する法律3条1項9号の「詐欺罪に当たる行為を実行するための組織」
  規定 組織的犯罪処罰法 第3条(組織的な殺人等)
次の各号に掲げる罪に当たる行為が、団体の活動(団体の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するものをいう。以下同じ。)として、当該罪に当たる行為を実行するための組織により行われたときは、その罪を犯した者は、当該各号に定める刑に処する。
十三 刑法第二百四十六条(詐欺)の罪 一年以上の有期懲役
  上告趣意 一審、原審では、詐欺罪の成否を中心に争われた。
上告趣意では、法令違反及び量刑不当のみ主張。 
本件会社の一般の営業員や電話勧誘員には詐欺行為に加担しているという認識がなかったところ、組織的詐欺罪の成立を認めるには、メンバー全員が、自らその団体の活動に参加する意思を抱き、そのようなメンバー全員の意思が結合することで、犯罪組織を形成する必要があると解すべきとの主張。
  判断 「詐欺にあたる行為を実行することを目的として成り立っている組織により行われた」といえるか?
被告人はもとより、本件会社の主要な構成員にあっては、遅くとも平成21年9月上旬の時点で、本件会社が実質的な破たん状態にあり、集めた預託金をを返還する能力がないことを認識したにもかかわらず、それ以降も、役員及び従業員らによって構成される組織による営業活動として、施設利用預託金等の名目で金銭を集める行為を継続したとの原判決の認定を前提に、上記時点以降の営業活動は、客観的にはすべて「人を欺いて財物を交付」させる行為にあたることになる⇒そのような行為を実行することを目的として成り立っている上記組織は、「詐欺罪に当たる行為を実行するための組織」に当たることになったというべき。
上記組織が、元々は詐欺罪に当たる行為を実行するための組織でなかったからといって、また、上記組織の中に詐欺行為に加担している認識のない営業員や電話勧誘員がいたからといって、別異に解すべき理由はない。
  解説 組織的犯罪処罰法3条1項は、犯罪に当たる行為が、団体の活動として、これを実行するための組織により行われた場合の加重規定。

このような場合は、通常、継続性や計画性が高度で、多数人が統一された意思の下、指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務分担に従って一体として犯罪を実行するという点で、その目的実現の可能性が著しく高く、また、重大な結果を生じやすいなど、特に違法性が高いといえる。
2277   
  行政p13
東京高裁H27.7.30  
  1.自衛隊機の午後8時から翌日午前8時までの運行差止めの認容
2.米軍機の運行差止めは、存在しない行政処分の差止めを求めるものであるとして不適法却下
厚木基地航空機運行差止訴訟控訴審判決 
  事案 近隣住民67名が、Y(国)に対して、厚木基地に離着陸する航空機の発する騒音により身体的被害及び精神的被害を受けているとして、行政事件訴訟法に基づき自衛隊航空機及び米海軍航空機の一定期間の運行の差止め等を求めた事案。
  請求 主位的請求:
①自衛隊の一定の態様の運航(午後8時から翌日午前8時までの間の運行、訓練のための運行、一定値を超える騒音をX1に到達させる運航(「係争の運行態様」))の差止め
②①と同態様による米軍機の運航のために厚木基地の一定の施設および区域を使用させることの差止め 
予備的請求:
行訴法に規定する公法上の法律関係に関する訴訟(いわゆる実質的当事者訴訟)として、
①人格権(平穏生活権)に基づく「係争の運航態様」の妨害排除請求(第1順位)
②「係争の運航態様」をなさない義務を負うことの確認請求(第2順位)
③「係争の運航態様」によって生じる各騒音をX1らの居住地に到達させない義務を負うことの確認請求(第3順位)
④各種航空騒音の受忍義務のない旨の確認請求(第4順位)
  経緯 周辺住民は、昭和51年9月以降本件訴えまでにYを被告として3回にわたって厚木基地に離着陸する航空機の騒音等によって被害を受けているとして運行差止と損害賠償をン求めて提訴⇒民事上の運行差止めは否定されたが損害賠償責任は肯定する判決が確定(最高裁H5.2.25)。
限定的ながら将来にわたる損害賠償請求も認容。
  規定 行政事件訴訟法 第37条の4(差止めの訴えの要件)
差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。
2 裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分又は裁決の内容及び性質をも勘案するものとする。
3 差止めの訴えは、行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。
4 前項に規定する法律上の利益の有無の判断については、第九条第二項の規定を準用する。
5 差止めの訴えが第一項及び第三項に規定する要件に該当する場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきでないことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは裁決をすることがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、裁判所は、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずる判決をする。
  判断 ●自衛隊機の運航と公権力の行使
防衛大臣の権限に自衛隊機の運航を統括する権限も含まれる。
自衛隊機の運航は必然的に騒音等の発生を伴い、防衛大臣のこの権限の行使は、自衛隊機の運航に必然的に伴う騒音等について周辺住民の受忍を義務付けることになる。
⇒周辺住民との関係において、公権力の行使に当たる。
  ●原告適格について 
自衛隊機の運航により一定程度異常の騒音等の被害を受けることによりその主張する人格権等の権利を侵害する住民が運航の差止めについて法律上の利益を有するというべき。
  ●重大な損害を生ずるおそれ 
損害の重大性を判断するためには、①自衛隊機運航処分によりX1らに生ずるであろう損害の性質及び程度を勘案して、損害回復の困難の程度ばかりでなく、②自衛隊機運航処分の内容及び性質、すなわち、その公共性や公益性をも考慮することを要する。
本件の場合、X2らの被害は、騒音による睡眠妨害やその他の生活妨害によりその人格的利益は大きく損なわれている。そのうち睡眠妨害の程度は相当深刻なものであり、その被害の性質上、金員の支払のみによっては損害が填補され、これを回復することはできない。
その被害の実態に照らすと、「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められ、公共性や公益性のみをもってこれを否定することはできず、この点は、同処分の違法性の判断において考慮されることとなる。
  ●補充性について 
X1らに生ずるおそれのある重大な損害を避けるために他に適当な方法があるとは認められない。
  ●自衛隊運航処分の違法性について 
自衛隊機運航処分は、防衛大臣に広汎な裁量が認められるので、裁量行為に該当し、その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものとして違法となり、その差止めが認められる。
行訴法の差止めの訴えが認められるためには、民事上の損害賠償を求める際の判断基準となる受忍義務を超えているか否かという意味での違法性ではなく、行訴法の定める違法性に関する請求認容要件である防衛大臣がその与えられた裁量権の範囲を逸脱又は濫用したという意味での違法性が必要。
自衛隊機の運航が、防衛政策全般にわたる判断の下、極めて高度な政治的、専門的及び技術的な判断に基づくものであり、緊急の必要性が高いということができる。他方、自衛隊機運航処分は、その全部について緊急性が認められるわけではないので、切迫した状況にない場合にはこれを行う時間帯を制限しても、これによって達成しようとする行政目的を阻害するとまではいえない。
  ●自衛隊機に対する予備的請求 
  ◎給付請求 
事実行為としての自衛隊機運航処分は、その行使に当たって一方的に周辺住民に対して騒音等による被害の受忍を義務付けるだけで、これらの者との法律関係について具体的な法の規定を欠く以上、周辺住民の側に防衛大臣ないしその所属する国に対して直接公法上の権利として何らかの給付を求め得る権利を付与したものと解することは困難。
  ◎確認請求 
X1らと防衛大臣ないしその所属する国との間に公法上の法律関係を認めることはできず、かつ、自衛隊機運航処分による被害からの救済を求めるには差止の訴えによることができる。
⇒予備的請求はいずれも確認の利益を欠く。
  ●米国機差止めの訴えと予備的請求(当事者訴訟)に係る訴えについて 
本件米軍機差止請求に係る訴えは、存在しない行政処分の差止めを求めるものとして不適法⇒却下。
米軍機に関する予備的請求に係る訴え
⇒確認の利益を欠き不適法として却下、あるいは、国の支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求するものであるから主張自体失当として棄却。
  解説 ●抗告訴訟としての差止訴訟 
差止請求は、平成16年の行政事件訴訟法改正前においては、明文の根拠規定はない⇒無名抗告訴訟として提起するほかなく、それが認められる要件を理論的に構築する必要があり、現実に提起するのは困難が伴った。
改正後、差止訴訟は抗告訴訟として明文化。
  ●実体的権利について 
判例は、これまで環境権を正面から定義することに消極的
本判決も、原告適格を認める際に「一定程度以上の騒音等の被害を受けることによりその主張する人格権等の権利を侵害される住民が運航の差止めについて法律上の利益を有する」とし、
違法性の一判断要素として、「航空機の発する騒音により睡眠妨害、聴取妨害及び精神的作業の妨害からなる生活妨害、アノイアンスや健康被害への不安をはじめとする精神的苦痛」を「被害の質及び量の問題」として指摘するにとどまっている。
  ●基地訴訟の特殊性への配慮 
差止めを認める要件である「重大な損害を生ずるおそれ」の判断の中で、「自衛隊機運航処分の内容及び性質、すなわち、その公共性や公益性をも考慮することを要する」とし、また、違法性の判断においても、「自衛隊機の運航が、自衛隊法に規定された防衛出動(等)を行うために行われる場合、航空機をいつ、どの程度使用するかといったことは、防衛政策全般にわたる判断の下、極めて高度な政治的、専門的及び技術的な判断に基づくものであり、緊急の必要性が高いということができる」とし、「客観的にやむを得ない事由に基づく場合」には「除外事由としておくのが相当である」として、その特殊性に一定の配慮を示している。
     
★平成28年1月分
2276   
  行政p15
福岡地裁小倉支部H27.2.26  
  拘置所内での接見交通の際の写真撮影と接見交通権
  事案 弁護士Xが、国選弁護人を務める被告人Aと拘置所の面会室において面会を行った際、デジタルカメラ機能付き携帯電話を用いてAの容ぼうの写真撮影⇒拘置所の職員から当該撮影に係る画像の消去を強要されるなどして接見交通権を侵害された⇒Y(国)に対し、国賠法1条1項に基づき、330万円の損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた事案。 
  主張 写真撮影に関して、拘置所職員らが、次のとおりXの弁護人としての接見交通権を侵害する違法な行為を行ったと主張 
本件行為1:
面会の状況を確認する目的の下、XとAとの会話の内容を聞き、また、本件面会室の被収容者側の扉から内部の様子をのぞき見ることで、XとAとの面会の内容を確認していた。また、拘置所職員は、本件面会室内部の様子をのぞき見ることにより右写真撮影を認めるや、本件面会室に入り、Xによる写真撮影を阻止してXとAとの面会について一時停止の措置をとった。
本件行為2:
本件面会終了後、待合室において、約30分にわたり、Xに対し、「重大な違法行為であり、絶対に認められない」「日弁連との協定にも違反する重大な行為であり、日弁連も含めて大問題となる。」等と述べるなどして、本件画像の消去を繰り返し求めた。
本件行為3:
弁護人待合室への出入口を南京錠で施錠した上、弁護人待合室において、Xに対し、撮影した画像を消去しない限り拘置所の建物からの退去を認めないとして、Xの退去を阻止し、画像の消去を強要した。
本件行為4:
拘置所職員は、本件面会の翌日、Xが申請書を提出し、通信機能を備えないカメラを持ち込んでAと接見を行うことを求めたにもかかわらず、これを拒否した。
  規定 憲法 第34条〔抑留・拘禁に対する保障〕
何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律
第117条(面会の一時停止及び終了)
第百十三条(第一項第二号ホを除く。)の規定は、未決拘禁者の面会について準用する。この場合において、同項中「各号のいずれか」とあるのは「各号のいずれか(弁護人等との面会の場合にあっては、第一号ロに限る。)」と、同項第二号ニ中「受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障」とあるのは「罪証の隠滅の結果」と読み替えるものとする。
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律
第113条(面会の一時停止及び終了)
刑事施設の職員は、次の各号のいずれかに該当する場合には、その行為若しくは発言を制止し、又はその面会を一時停止させることができる。この場合においては、面会の一時停止のため、受刑者又は面会の相手方に対し面会の場所からの退出を命じ、その他必要な措置を執ることができる。
一 受刑者又は面会の相手方が次のイ又はロのいずれかに該当する行為をするとき。
イ 次条第一項の規定による制限に違反する行為
ロ 刑事施設の規律及び秩序を害する行為
・・・・
2 刑事施設の長は、前項の規定により面会が一時停止された場合において、面会を継続させることが相当でないと認めるときは、その面会を終わらせることができる。
  判断 ●  弁護人依頼権を定める憲法34条前段は、被疑者等に対して弁護人等から援助を受ける機会を持つことを保障するという趣旨が実質的に損なわれないかぎりにおいて、法律に接見交通権の行使と刑罰権の発動・捜査権の行使との間を調整する規定や刑事施設の規律を設けることを否定するものではなく、収容法の右規定は、そのような調整の規定に当たるものとして定められたものであると解される。
接見交通権が憲法の保障に由来する権利であり、とりわけ、未決拘禁者においてはその防御権の尊重に特に留意しなければならない一方、逃亡又は罪証隠滅の防止という未決勾留の目的並びに刑事施設の規律及び秩序の意地の必要性に鑑みて、「刑事施設の規律及び秩序を害する行為」は、逃亡又は罪証隠滅・刑事施設の適正な規律及び秩序に支障を及ぼす具体的な行為をいうものと解するのが相当。
弁護人等と被疑者等との面会の場面における刑事施設の職員による収容法113条1項に基づく措置については、「刑事施設の規律及び秩序を害する行為」に該当すrものとされる行為の具体的内容及び性質、同項に基づく措置を講ずる必要性及び当該措置による接見交通権への制約の程度等に照らし、接見交通権に対する不当な制約とならないかぎりにおいてこれを行い得るものと解すべき。
弁護人等と被疑者等との面会の場面においても、規律及び秩序を害する行為が行われ得ることは一概に否定することができず、このような場合には当該行為の制止等の必要があるものというべき⇒刑事施設の職員が「刑事施設の規律及び秩序を害する行為」が行われる具体的なおそれがある場合に面会の状況を視認しようとすることは、弁護人等と被疑者等との意思疎通の内容を把握しようとすることのない限り、許されるものというべきであり、刑訴法39条1項の趣旨に反するものではない。
●   本件行為1のうち、拘置所職員が本件面会室の会話が途絶えていることなどに気付き、不審に思って本件面会室の前に向かってその内部を見たことは、右「視認」として適法に行い得る行為の範囲にとどまる。
拘置所職員が本件面会室に入り、Xによる写真撮影を阻止した行為について、
収用法113条1項に基づく制止の措置についても、「刑事施設の規律及び秩序を害する行為」が認められる場合において、接見交通権に対する不当な制約とならない限りにおいてのみ、これを行いうる。
but
本件において面会室への通信・撮影機器の持ち込みが禁止されている措置は逃亡又は罪証隠滅・刑事施設の適正な規律及び秩序の維持の目的を達するために必要かつ合理的な措置であり、また、通信・撮影機器の持ち込みが禁止されるにとどまり、接見交通権の保障により確保されるべき、身体の拘束を受けている被疑者等が弁護人等と相談し、その助言を受けるなどの援助を受ける機会自体が制限されるものということはできず、当該禁止措置自体に何ら違法な点はない。
刑事施設内の面会室において証拠を保全する目的で写真撮影を行うことは、弁護人等と被疑者等との間で行われる意思疎通には当たらず、また、これを補助するものとみることもできない。
⇒接見交通権保障の範囲に含まれると解することはできない。
携帯電話の本件面会室への持ち込みは本件拘置所における右禁止措置に違反するものであり「刑事施設の規律及び秩序を害する行為」に当たる。
写真撮影等、弁護人等が面会において把握した情報を記録する行為は弁護活動の一つとして重要なものであって尊重されるべきものであるが、これも刑事施設の規律及び秩序の維持等の観点からの制約があるものというべきであり、本件拘置所における右禁止措置は、弁護活動を不当に制約するものとまでいうことはできず、右制約の範囲内にあるものとみるべき。
本件行為2についても、接見交通権を侵害するものではない。
本件行為3,4の違法性を否定。
(Xに対し撮影した画像の消去を求める過程において社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した違法な強要行為があったと認めるべき事情は見いだせない)
  民事p28
大阪高裁H27.10.2  
  民事訴訟における当事者の陳述書及び弁護士の準備書面の記載と名誉毀損による共同不法行為の成立(肯定)
  事案 Y2作成の陳述書及びY2の訴訟代理人であった弁護士Y1作成の準備書面の記載(①Aの従弟であるXが近隣のトラブルメーカーであること、②Xが入れ墨を見せびらかしていることなど)により、Xが名誉を毀損されたと主張し、Y1とY2に対して、共同不法行為に基づき、300万円の損害賠償を請求。 
  原審 Yらの陳述書及び準備書面は、Xの確認等の信用性を弾劾する目的提出されたものであるところ、Xに関する主張には、一部不相当或いは極めて誇張された表現方法があることを弾劾しても、正当な訴訟活動を逸脱してされたとまでは認められない⇒Xの本訴請求を聞かyく。 
  判断 ①Xに関する主張等は、Xの社会的評価を低下するものと判断
②Xに関する主張等は、Xの確認書等の信用性弾劾するという訴訟行為としても必要性が認められない
③Xに関する主張等は、Xが自認する入墨の点を除き、客観的に事実であったと認めることはできない。

Xに関する主張等は、その必要性、関係者の地位、主張事実の真実性、証拠や表現方法を総合的に判断しても、正当な訴訟活動として認容されるものとは認められない。
⇒Yらの共同不法行為責任を認め、原判決を変更し、Yらに対して30万円の支払を求める程度で、Xの本訴請求を認容。
  解説 民事訴訟においては、自由な訴訟追行が補償されなければならないが、
名誉毀損の違法性の判断枠組みとしては、①要証事実との関連性、②主張の必要性、③主張方法の相当性、④内容の真実性を考慮要素とすべきであるとする見解。 
  民事p38
名古屋高裁H27.7.30  
  原告(弁護士)の申立てによりされた公示送達が無効とされた事例 
  事案 X(弁護士)がYから委任を受けて訴訟追行した民事訴訟事件の終了後に、Yが同事件についてXに支払った費用や報酬合計72万5000円を返還を求め、Xの事務所を訪問するなどしたところ、Xが、右返還義務は存在せず、Yの右返還請求は通常の請求方法を逸脱し不法行為に該当すると主張して、Yに対し、右返還義務の不存在確認と損害賠償請求権に基づき80万円の支払を求めたもの。 
  原審と経緯 Xの公示送達の申立てに基づき、Yを受送達者として本件訴状の副本等を公示送達の方法により送達し、本件訴訟を認容する判決を言渡し、Yに対し、原判決を公示送達の方法により送達。
同判決に基づく債権差押命令がYの旧住所に宛てて郵便による送達⇒現住所に転送され、Yに交付⇒Yが本件原審の判決を不服として控訴。 
  判断 (1)①Xは、Yの職業、事務所、電話番号及びファックス番号を知っており、特に、本件訴えの提起直後には、右ファックス番号を使用してYとやり取りをしていた⇒右事務所に赴いてその所在地等を調べたり、右電話番号に架電し又は右ファックス番号に当てて文書を送信してYと連絡をとり、現在の住所を問い質することは容易にできたと考えられるし、②弁護士法23条の2所定の照会申出をして自らこれを調査し、民訴法186条の調査嘱託の申立てをして裁判所に調査を求めることもできたと考えられるが、これらの措置を行っていない。
(2)Xは、本訴提起の頃には、Y宛てに発送した暑中見舞いの葉書の還付は受けていないのであるから、葉書が転送された可能性が高いことを容易に推測できたが、公示送達申立ての際にはこのことを裁判所に申し出ていない。

本件公示送達は、民訴法110条1項1号の要件を満たさない申立てに基づきされたものとして無効であり、原審における訴訟手続きは違法。
⇒原判決を取り消し、事件を原審に差し戻した。
  解説 公示送達は、当事者の住所、居所その他送達する場所が知れない場合に広く行われる。
その申立ての資料としては、一般的には、住民票、戸籍附票、住居所及び就業場所についての当事者ないし第三者の報告等が提出されるが、申立てによる公示送達の審査は書記官が行う。 
公示送達の要件を欠いてされた公示送達は当然無効(最高裁)。
右公示送達に基づいてされた裁判の効力については見解が分かれるが、当該事件が上級審に係属した場合においてはその判断を受けることができる。
  民事p42
仙台高裁H26.3.28  
  任意自動車保険の約款上の被害者直接請求権は自賠法16条による被害者請求権と異なる枠組みでの運用を予定⇒被害者が加害者(被保険者)に対する損害賠償請求権を行使しないことを一方的かつ抽象的に宣言することによって、直ちに、保険者に損害賠償額の支払を求めることを許容するものではない。
請求棄却。
  事案 Xは、普通乗用自動車を運転中、平成17年11月18日(第1事故)にAが運転する自動車と、平成18年7月3日(第2事故)にBが運転する自動車と、交通事故。
Aは、Y1保険会社と自賠責保険契約と任意自動車保険契約を締結。
Bは、Y2保険会社と自賠責保険契約を締結し、Y3保険会社と任意自動車保険契約を締結。 
Xは、第1事故及び第2事故が競合して低髄液圧症候群を発症し、後遺障害等級第12号が残存したとして、
Y1及びY2に対し、自動車損害賠償保障法16条に基づく損害賠償額の支払請求として自賠法施行令の定める後遺障害保険金額の不足分の支払を求めるとともに、
Y1及びY3に対し、任意自動車保険に適用される約款上の直接請求権に基づく損害賠償としてA及びBに遅滞する損害賠償請求権を行使しないことを同人らに対し書面で承諾することを条件に損害賠償金の支払を、それぞれ求める訴えを提起。
自動車損害賠償保障法 第16条(保険会社に対する損害賠償額の請求)
第三条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。
  原審 Xの低髄液圧症候群発症を否認し後遺障害等級第14級を認定し、
自賠法16条1項請求は時効完成により、
任意自動車保険の対人賠償条項における約款上の直接請求権の行使は約款免責に該当するとして、それぞれの請求を棄却。 
  判断 Xの低髄液圧症候群発症を否認。
自賠法16条1項請求に関しては、Xは本件各事故の競合により、後遺障害等級第14級相当の障害を負ったものであるとし、Xは自賠法16条に基づく被害者請求として、Y1及び同Y2各自に対し75万円を支払うよう求めることができる(不真正連帯債権)とした上で、Y1及びY2がXに自賠法の損害賠償額としてそれぞれ75万円を支払済みであることを理由に、Xの請求を否定。
Y1及びY3に対する任意自動車保険の約款上の直接請求権行使に関しては、
①自動車対人賠償責任保険は、契約によって定められた事故の発生により、被保険者が第三者に対する損害賠償責任を負担したことにより被る損害をてん補する責任保険の一種⇒その性質上、保険会社による保険金の給付は、これんひ先だって、加害者(被保険者)が負担する損害賠償の額が確定していることが論理上前提となる。
本件約款6条の直接請求を受けて保険会社がなす給付も、被害者の損害の速やかな回復と同時に加害者(被保険者)の被る損失のてん補を目的とするものであり、その給付内容が被害者の加害者(被保険者)に対する損害賠償額を基準とする点においては保険金の給付と変わるところはない⇒保険給付に先立ち、損害賠償額が確定しているか、又は、少なくとも保険会社において損害賠償額が事実上確定したと認めてこれを争わない状態にあることを前提としているものと解する。
②任意保険における直接請求権は、保険会社が行う示談代行につき非弁行為との疑念を払拭するために、保険会社に当事者性を与え、ひいては被害者保護の充実を図ることを目的として創設されたという経緯⇒任意保険会社に自賠法16条と同様の法的地位を与えることを直接の目的とするものではなく、実際に、被害者に直接請求権を認めた約款の規定上も、自賠法16条の規定ぶりとは異なり、同法にはない支払条件に関する規定等をおき、その支払条件を厳格に定めている⇒その制度の沿革や規定ぶりからみても、これが自賠法16条による被害者請求権と異なる枠組みでの運用を予定していることは明らか。

保険会社が被害者からの請求に応じる場合は別として、被害者が加害者に対する損害賠償額の確定等のための手続を取らないまま、加害者に対する損害賠償請求権を行使しないことを一方的かつ抽象的に宣言することによって、直ちに、保険者に損害賠償額の支払を求める法的手続を取ることを許容するするものとはいいがたい。
⇒Xの請求を棄却。
  解説 任意自動車保険の約款上の被害者直接請求権は、①保険会社が行う示談代行と弁護士法72条(非弁行為)との関係を調整し保険会社に当事者性を与えると共に②被害者保護の充実を図ることをも目的として創設されたという経緯。 
約款上、被害者直接請求に基づく損害賠償額の支払要件として、
①被保険者と被害者の間で被保険者の負担する法律上の損害賠償責任の額の確定、
②被害者の被保険者に対する書面による損害賠償請求権不行使の承諾
③損害賠償額の保険金額超過
④被保険者の破産等、
が規定されている。
①の損害賠償責任の額の確定方法は、判決の確定、裁判上の和解、調停又は書面による合意(示談)の成立のいずれでもよいが、被保険者が被害者に損害賠償請求すべき金額が具体的に確定されていることが求められている。
本判決は、責任保険契約の法的性質を踏まえ、②の場合でも、保険会社において損害賠償額が事実上確定したと認めているこれを争わない状態があることを前提として被害者救済のために損害賠償請求権者からの直接請求に応じることを定めたものと解すべきであることを明確に判旨したもの。
  民事p61
東京地裁H27.4.28  
  プールを含む総合スポーツクラブ施設の賃貸借契約における、プールの天井裏の屋根周り部材が腐食による天井崩落の危険発生と、賃貸人・賃借人の債務不履行責任(双方否定) 
  事案 Xは、Yに対し、屋根回り部材が腐食し、天井崩落の危険が生じ、損害が生じたことはYの債務不履行⇒損害賠償を請求。
Yは、反損として、逆にXの債務不履行が原因であるとして、損害賠償を請求。 
  争点 ①Yの使用目的に適した状態で引き渡すべき債務不履行の有無
②Yの本件接続部単管等の空調設備の点検すべき債務不履行の有無
③Yの鉄骨の維持管理をすべき債務不履行の有無
④平成16年12月末の時点においけるXの防火ダンパー等につき適切な措置を執らなかった債務不履行の有無
⑤平成17年12月27日の時点におけるXのプールの天井裏につき適切な措置を執らなかった債務不履行の有無
⑥Yの損害及び因果関係の存否
  判断 争点①について:
設計仕様はプールの排気ダクトに塩ビコーティングダクトとするものであったが、建築基準法7条の規定による完了検査を受けるためには建材試験センター等の機関による認定を受けた部材を用いる必要があり、当該部材として塩ビコーティングを施した防火ダンパーが存在しない⇒Yの債務不履行を否定。
争点②について:
本件契約の各特約に照らすと、本件接続部単管等の空調設備の保守点検の義務を負うのは、賃借人であるXであり、Yには当該義務はない⇒Yの債務不履行を否定。
争点③について:
本件契約の特約に照らすと、プールの鉄骨の保守点検の義務を負うのは、賃借人であるXであり、Yには当該義務はなく、本件契約の各特約を合理的に解釈すると、プールの天井裏の鉄骨の保守点検を実施する義務の履行として保守点検を実施する義務を負うものの、その結果、維持管理及び修理取替えの必要が判明したときは、Yがその責任と費用負担において行うことが合意されたものと考えるのが相当。
本件ではXが天井浦の鉄骨の点検を行っていない⇒Yの鉄骨の維持管理を行う義務がいまだ具体的には生じていなかった。
⇒Yの債務不履行を否定。
争点④について:
平成16年12月末の時点において、Xが防火ダンパー等の腐食の状況を認識していたが、遅滞なく、Yに修繕を要する旨を通知すべき義務に違反し、自ら適切な修理を行うべき義務に違反⇒Xの債務不履行を肯定。
争点⑤について:
平成17年12月27日の時点において、Xが天井裏の腐食の状況を認識していたが、遅滞なく、Yに修繕を要する旨を通知すべき義務に違反⇒Xの債務不履行を肯定。
争点⑥について:
Yの主張にかかる損害がBへの調査・改修工事代金相当額であり、因果関係が認められるためには、平成17年頃の鉄骨の状況では賃料免除、調査・改修工事をする必要がなかったことが認められる必要があるところ、当時、鉄骨の一部に相当な腐食が生じており、結局、Yが調査・改修工事と同様な工事を実施せざるを得ない蓋然性が高く、賃料免除をするに至った可能性も否定することが困難。⇒因果関係を否定し、Xの本訴請求、Yの反訴請求を棄却。
  解説  信託銀行とスポーツ施設の運営会社との間の保守点検、維持管理等に関する詳細な特約が付された同施設の賃貸借契約においてし施設の一部に生じた腐食に伴う損害賠償責任が賃貸人、賃借人のどちらにあるかが問題となった事案。 
本件の解決は、主として本件契約中の特約の解釈、適用にある⇒賃貸人の債務不履行を否定。
賃借人の債務不履行は肯定したが、損害との間の因果関係を否定し、債務不履行を否定。
  民事p71
東京地裁H27.5.11 
  雑誌の付録の瑕疵⇒制作業者の瑕疵担保責任(肯定)
  事案 出版社Xは、自ら発行する雑誌Aにつける付録の制作を、雑誌・布製品等の製作を業とするY社に委託。
両社の間には、
個々の付録の制作にかかりその都度締結される個別契約と、個々の個別契約に共通して適用される基本契約とが締結されており、
基本契約において、Y社は、X社から委託されて制作した付録につき、
X社が定める検査基準に合致すること並びに付録の品質、商品性及び使途に対する適性をY社が保証する旨の瑕疵担保席んを負い、当該基本契約についてのX社側からの行使され得る解除権の発生と個別契約に基づく既払い代金の返還並びに損害賠償請求に関する約定。
また、本件事案で問題となった6月号付録については、個別契約の中で、目的物の材質・デザイン・品質・梱包方法・納期などについて具体的に規定。
  ①納期遅れ⇒X社が検査する時日がほとんどないまま発送
②材質・寸法・梱包方法等について多数の苦情。
  X社が、Y社に対して、本件基本契約の解除と既払い代金の返還と損害賠償を請求。 
  判断 損害計算についての若干の修正をしたほか、概ねXの請求を認める判断。 
  解説 本件付録作成契約は基本的に
①請負契約とされているが、
②Y社が材料も提供していること等に鑑み、製作物供給契約と解することもできるし、
③物品の提供に重きを置く場合には売買契約の側面から考えることもできる。 
甲が乙と締結した、乙が着物の製作供給する契約に関わり、乙が甲に代金の支払い請求をしたところ、甲が、乙は当該目的物を模倣した商品を制作して甲と競争相手となっている訴外丙に提供したとして、不正競争防止法に基づきこの請求を拒絶する旨抗弁し、この甲の抗弁の一部が認められたという事案(東京地裁H23.3.31)。
使用者の指揮命令に服することを旨とする雇用契約とは異なり、
業務の高度の専門化とこれに対応した分業構造に規定され、医師や弁護士などの専門職従事者を一方の当事者とする契約が著しく増え、現代社会では役務提供に関わる契約の重要性が大きくなっている。
  民事p77
東京地裁H27.3.31 
  1.鉄道軌道敷敷地内に土砂が流入した事故と同敷地に接する傾斜地の造成業者らの損害賠償責任(肯定)
2.鉄道軌道敷敷地内に倒木した事故と倒れた樹木の所有者の損害賠償責任(肯定)
3.鉄道軌道敷敷地内への倒木についての鉄道会社との過失相殺(2割)。
  事案 鉄道会社であるXが、被告ら(Y1ないしY3)が行った造成工事等が原因で、Xの鉄道軌道敷敷地内に平成24年5月3日に土砂が流入し、同年6月19日に倒木し、いずれもXの鉄道運行が妨げられたなどと主張し、Y1ないしY3に対し、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害金及び遅延損害金の連帯支払を求めた事案。
  判断  ●土砂流入について 
①本件傾斜地は非常に軟らかい又は軟らかいローム質土で構成され、平成23年8月ないし9月当時、本件傾斜地付近では高木が倒れるなどしていた。
②本件傾斜地に隣接する土地について、東京都は「工事中又は工事を廃止する場合において、雨水その他の地表水等により、工事区域外に土砂の流出又はがけ崩れを生ずるおそれのある箇所には、流土止め、仮排水溝等の防護設備を施すこと」などの開発条件を付して開発許可を出していた。
③Y2及びY3は、本件傾斜地及び前記開発許可を受けた区域において、明確に区別できない状態で伐木等の作業を行っていた。
⇒Y1ないしY3について、本件傾斜地において、流土止め、仮排水溝等の防護設備を設置する義務があったにもかかわらずこれを怠った。
  ●倒木について
倒木した樹木はY1の所有地に生えていたものであり、倒木した当時、本件傾斜地には倒木のおそれのある高木が複数存在した。
⇒Y1について、伐木等の措置を講じる義務があったにもかかわらず、これを怠った。
Y2及びY3については、倒木した樹木の付近で工事を行っていたかなどが証拠上明らかでない⇒倒木防止義務があったとまでは認めない。
  ●過失相殺について 
土砂流入について否定。
倒木については、Xが本件傾斜地に倒木のそおれのある樹木が存在することを認識、あるいは認識し得た。
Xが、伐木作業に着手していたY2に伐木の中止を求めた後、Y2から伐木の時期、方法等について協議の申入れがないまま放置していたことは、Xの過失として斟酌すべき。
⇒2割の過失相殺。
  解説 鉄道会社が崩落した急斜面の所有者である市を被告として、民法702条1項の事務管理に基づく費用償還を求め、これを認容したもの(岡山地裁H20.7.22)。
本判決は、鉄道軌道敷敷地内への土砂流入に関し、流土止め、仮排水溝等の防護設備を設置する義務を怠った造成業者らに対し、共同不法行為による損害賠償責任を認めた事例。
  民事p85
仙台地裁石巻支部H27.3.26  
  切断された道路上に垂れ下がった電話線を避けようとして発注した交通事故と、電話会社による電話線の保存の瑕疵(否定) 
  事案 Yが設置、管理して所有する電話線が、何らかの理由により切断されて県道の走行車線上に垂れ下がっていたところ、X1が所有しその従業員が運転する自動車が、本件電話線との接触を避けるべく対向車線に進出して対向車に衝突するという交通事故が発生。 
本件事故による損害の一部を負担したX1が、Yに対し、電話線の設置、管理に瑕疵があったと主張して、民法717条1項に基づく損害賠償の支払を、X1と共済契約を締結していたX2が、同契約に基づきX1らに共済金を支払ったとして、共済約款及び商法622条に基づく求償金の支払を求めた事案。
  規定 民法 第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
  判断 ①本件電話線が切断された原因が車高制限違反等の車両の通行にあった
②切断は本件事故の直前、最長でも数時間以内に起きた
と認定。 
国賠法2条1項の営造物責任に関する最高裁判例を引用し、
①保存の瑕疵とは「通常備えているべき安全性」を欠いた状態にあることをいい
②所有者が瑕疵を現状に復すことが不可能であった場合には、保存に瑕疵があったとは認められない
①Yにおいて切断事故の発生は予見できたとしても、その発生可能性の低さやYの管理する電話線網の規模等に照らすと、全ての事故を感知し即座に修理できる体制等を構築すべき義務があったと認めるのは相当ではない
⇒本件電話線が「通常備えているべき安全性」を欠いているとはいえない。
②Yが本件電話線の切断を知ったのは本件事故から57分後であったことなどを総合考慮すると、本件事故の発生前にYが切断を知って対処することはほぼ不可能であった。
⇒Yによる本件電話線の保存には瑕疵がなかった。
  解説 直接証拠がない中で、
①道路の幅や電話線の高さについて考えられる最小値などから、本件電話線が本件道路上の空中において切断されたことを認定し、その上で、そのような切断を生じさせる原因は、車高制限に違反した車両が本件道路を通行したこと以外にないと認定。
②本件道路が幹線道路であり通行量が多い⇒警察又はYへの通報が切断後長時間にわたりなされないまま放置される事態は考え難い⇒本件電話線は本件事故発生の直前又はそれに近い時期に切断されたと認定。
  所有者が工作物を適正に設置、保存していたにもかかわらず、第三者あるいは自然災害等によってこれが損壊されるなど危険な状態が発生した場合において、所有者であるという立場のみにおいて、当該危険により発生させた損害について全て賠償責任を負うとするのは、所有者にとって酷。

本件のように、事前に所有者が対処することが不可能であった場合には、当該工作物の保存の瑕疵には当たらないとしたことは、社会生活上の危険負担の在り方として一定の合理性。 
  Yに切断事故等を即座に感知し修理できるような体制を構築すべき義務は認められないと判断した点について、
安全設備の設置について、当該設備の普及度、予測される危険性の程度、設置の必要性・困難性等の事情を総合考慮して、通常有すべき安全性の存否を考えるべきであるとした、国賠法2条1項に関する最高裁昭和61.3.25の考え方とも親和的。 
  民法717条1項の土地工作物責任については、いわゆる無過失責任であるとされ、占有者又は所有者の側から、損害発生の原因となった事象について、そもそも設置の又は保存の瑕疵にあたらないとして争われる事例が少なくない。 
  知財p90
知財高裁H26.12.4  
  発明の名称を「アイロンローラなどの洗濯処理ユニットへフラットワーク物品を供給するための装置」 とする特許の特許権者及びその専用実施権者による、特許権侵害に基づく損害賠償請求(一部認容)
  事案 発明の名称を「アイロンローラなどの洗濯処理ユニットへフラットワーク物品を供給するための装置」とする本件特許(原審係属中に特許期間満了)の特許権者であったX1及び その専用実施権者であったX2が、Yの製造販売する布類展張搬送機(Y製品)が本件特許に係る特許権を侵害すると主張して、Yに対し損害賠償を請求する事案。
  規定 特許法 第102条(損害の額の推定等)
特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

3 特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
  原審 Xらの請求を一部認容。 
  控訴 Yは控訴。
X1は、X1の請求を棄却した部分について附帯控訴。
Xらは、附帯控訴により、原審での損害賠償請求期間以後の機関における販売分についての損害賠償を新たに請求。
  争点 ①Y製品が本件特許発明の構成要件を充足するか
②本件特許に無効理由があるか
③損害額
  判断 争点①を肯定
争点②について、Yの主張を採用せず 
争点③について:
X1の損害に関しては、X2に専用実施権を設定⇒Yとの間でライセンス契約を締結して実施料を得られる可能性は全くなかった⇒特許法102条3項により実施料相当額を損害額と推定する基礎を欠く。
but
民法709条に従った損害賠償請求は可能。
Y製品のうち国内向け販売分に係る実施料相当額についてはYの行為と相当因果関係のある損害ということができるが、海外向け販売分については、Y製品の販売がなかったならばX2がX製品を同一数量販売することができ、X1が対応する実施量を取得できたとの立証があったということは困難。
X2の損害に関しては、
①X製品の単位数当たりの利益の額の算定のために行われた計算鑑定の信用性を否定するYの主張を採用せず
②Yの主張する各種費用の控除については、輸出のための費用の一部につき、Y製品の代わりにX製品を輸出していればX2において当然に発生したであろう費用であるとしてその控除を認めたほかは、更なる控除を認めず。
③本件特許発明の寄与率の考慮の要否について、本件特許発明のY製品に対する寄与は一部にとどまるとのYの主張に対しては、本件特許発明は装置全体の発明であることや、Y製品に実施されているとするY側の特許発明のY製品の売上げに対する寄与を認めるに足りる証拠はない⇒寄与率による減額を否定。
④X製品において複数のx2の特許発明が実施されていることを理由に、損害額は利益額の一部に限られるべきとのYの主張に対しても、X製品の装置としての性能や顧客吸引力は、専ら本件特許発明に負っているとして、寄与率による減額を否定。
  解説 専用実施権を設定した特許権者が特許法102条3項に基づく損害賠償請求をすることができるか?
特許権者は専用実施権の設定により設定行為の範囲内で重畳的に第三者に実施許諾を与える権限を有しない⇒否定(通説)。
but
特許権者は民法709条に基づいて、専用実施権から取得することができた実施料相当額について損害賠償請求をすることができる。 
Y製品の海外販売分については、違法行為と損害の発生との間の相当因果関係の立証があったということは困難⇒否定。
X2の損害の算定に当たっては、特許法102条1項に基づき、Y製品の海外向け販売分についても、「その譲渡した物の数量」に含めて算定していることとの関係については、「立証責任の所在が異なる以上、同一手続内であっても証拠関係により結果的に当事者毎に異なるに認定となることは特段不自然なことではない」と判示。
特許法102条1項の「単位数量当たりの利益の額」については、いわゆる限界利益、すなわち特許権者等の製品の販売価額から同製品の販売数量の増加に伴って増加する変動費(及び同製品の販売のために直接必要であった直接固定費)のみを控除した金額をもって利益額とするのが通説及び裁判例の大勢。
but
原材料費や仕入価格の控除は当然としても、その他の費用で控除が認められたものの範囲は、事案によって必ずしも一律ではない。
  商事p138
札幌地裁H27.1.30  
  証券会社の従業員による、長年会社を経営し社債を中心に投資をしていた当該会社の代表者に対する、産活法的適用の認定を受けている電子部品製造販売会社の社債の購入を勧誘と断定的判断の提供(損害賠償肯定)
  判断 Y担当者は、A社がすでに業績の大幅な悪化に陥り産活法による再生計画を再申請していたところ、本件社債の購入を躊躇するX代表者に対して、
①経産省官僚のインサイダー取引によって、産活法適用の再認定が行われにくくなる可能性について言及せず、
②逆に産活法の適用を打ち切りにくくなったとの評価を提供し、また、
③本件社債について、「本当に、いいものだと思います。」と評価を述べた上、クレジット分析を紹介して、
④産活法適用の再認定がされない可能性について、Y担当者個人の意見を一般的な評価とされているかのように、「ほぼ10%未満なんで、0に近いと言われています。」と発言して、
産活法適用の再認定がされないことによるAの倒産の可能性がないと誤認させるおそれのあることを告げたとして、Yの責任を肯定。
X代表者が、長年会社を経営し、多数回かつ多額の社債等の取引を行っていた⇒Xについて8割の過失相殺。
  解説 証券取引における投資決定は、顧客の責任と判断において行われる必要あがある⇒証券会社が顧客に対し、断定的判断を提供し、又は確実であると誤解されるおそれのあることを告げて取引を勧誘することは、顧客の投資決定の意思形成過程に不当な影響を与えることとなる⇒禁止されている。(金商法38条2号、金販法4条) 
断定的判断に当たるかどうかについては、取引の勧誘に際して用いられた言葉がどのようなものであったかによって一様に決せられるわけではなく、具体的事情に応じて、個別的に判断される。
断定的判断の提供の禁止は、証券会社に対する行為規制⇒提供された判断が結果的に正しかったかどうかは問題とされない。
最高裁H9.9.4:
特別の事情の存しない限り、断定的判断の提供が、顧客の意思決定に影響を及ぼしたものと推認することが相当であると判示。
  刑事p143
東京地裁H27.3.9  
  被告人が他国の競業他社に流出させた営業秘密情報について、被告人を懲役5年及び罰金300万円に処した事例 
  事案 電子情報処理機器の製造等を目的とする会社の従業員である被告人が、被害会社らが競業他者に先んじて開発した、当時世界最小の半導体メモリであるNAND型フラッシュメモリの信頼性検査の方法や試験データ等に係る営業秘密情報を、不正の競争の目的で、他国の競業他社に流出させた、不正競争防止法違反の事例。 
  手続 公判前整理手続

営業秘密侵害罪という事案の性質上、営業秘密の秘匿の範囲も問題となる可能性があり、公判前整理手続において、営業秘密秘匿の範囲を明確にした上で、被告人質問を含む証拠調べの方法についても、検察官、弁護人と事前に十分協議して公判審理を行うのが相当。
平成23年の法改正により、営業秘密を保護するための刑事訴訟手続の特例(法23条ないし31条)

営業秘密侵害罪に係る事件の刑事訴訟手続について、侵害された営業秘密の内容が公になることへの懸念から、被害会社が告訴を躊躇する事態が生じているとの指摘
①裁判所は、当該事件の被害者等から申出があり、相当と認めるときは、公訴事実に係る営業秘密について秘匿決定をすることができる(法23条1項)。
②秘匿決定⇒営業秘密を公開の法廷で明らかにすることなく行う。
営業秘密の秘匿を実質的に担保するため、呼称等の決定(法23条4項)、起訴状の朗読方法の特例(法24条)、尋問等の制限(法25条)、公判期日外の証人尋問等(法26条)、証拠書類の朗読方法の特例(法28条)等の規定
本件、
①公判前整理手続において、NAND型フラッシュメモリに関する秘密性の高い情報について、秘匿決定。
②被告人が開示した情報の非公知性・有用性等を立証趣旨とする被害会社の技術者の証人尋問の全部、それに関する被告人質問の一部が公判期日外で行うこととされた。
③公判期日外の証人尋問等⇒公判期日において、その結果を記載した書面を取り調べる(刑訴法303条等)。
  判断 本件開示情報に高い有用性を認めている。 
「極めて悪質な営業秘密情報開示の事案であり、我が国産業の中で重要な半導体事業の分野において技術情報の流出がなされたという意味で、社会に与えた衝撃も大きい」~犯情の悪質さを強調し、被告人を懲役5年及び罰金300万円に処した。
  解説 営業秘密侵害罪の保護法益:
①公正な競争秩序の維持という社会的法益
②営業上の信用という個人的法益
本件では、②の点で、競業他者と被害会社の一方との間で和解が成立し、競業他者が相当高額な和解金を支払った。
平成27年7月3日、不正競争防止法の一部を改正する法律が成立し、同月10日に公布。
改正法では、営業秘密侵害罪の罰金刑の上限額が引き上げられ(個人につき、罰金刑の上限額2000万円、海外仕様の場合等については、上限額3000万円)、非親告罪とされる。
~罰則強化等による抑止力の向上が図られている。
2275
  行政p18
大阪高裁H27.2.20  
  1.京都府風俗営業法施行条例所定の第3種地域において、風俗案内所を営む法定地位を有することの確認を求める訴え等の適否
2.京都府風俗案内所規制条例3条1項、16条1項1号と憲法22条1項(違反を否定)
  規制 風営法は、風俗営業に対して営業者、地域等を基準とする許可制を採用(3条、4条)、地域基準について「良好な風俗環境を保全するため」に都道府県条例で定める地域内にあるときは許可をしてはならない旨定める(4条2項2号)。
性風俗関連特殊営業(2条5項)に対しては、届出制を採用して(27条1項等)、広告宣伝を禁止・制限するなど(27条の2等)、他の風俗営業(2条1項)よりも大幅な制限を課している。
さらに、その中の店舗型性風俗特殊営業に対しては、学校等及び都道府県条例が定める保護対象施設から200m以内の区域での営業を禁止する(28条1項)ほか、都道府県条例所定の地域での営業を禁止し(28条2項)、厳しい規制を行っている。 
平成22年7月制定の「京都府風俗案内所の規制に関する条例」(「本件条例」)は、学校など条例所定の保護対象施設(無床診療所等を含むがほぼ風営法の保護対象施設に相当)から200m以内の地域を営業禁止区域と定め、接待風俗営業は性風俗営業についての情報提供等を含めて、同区域内での風俗案内所の営業を禁止し(3条1項)、違反者には刑罰を科す旨を定めた(16条1項1号)。
その結果、第三種地域の祇園・木屋町地区は風俗案内所の営業が全面禁止されることとなった。
  事案 かつて第三種地域において風俗案内所を経営していたXが、本件条例が営業の自由を不当に制限することで憲法22条1項に反するなどと主張して、Y(京都府)に対し、
主位的に、第三者地域において接待飲食等営業に関する情報を提供する方法により、風俗案内所を営む法的地位を有すること及び風俗案内所内において接待飲食等営業の従事者を表示する法的地位を有することの確認を求め、
予備的に、第三者地域の内の保護対象施設から70m以内の範囲に含まれない場h祖において、上記の主位的請求と同様の法的地位を有することの確認を求めた事案。
  判断 風俗案内所内において従業員を表示する法的地位についても確認の利益を肯定。 
店舗型性風俗関連特殊営業に対する200m以内の営業禁止など性風俗営業所に対する風営法の規制内容と、風俗案内所の特質、
①多数の風俗営業所の情報が集積し、集客のためそれらの積極的な宣伝広告が行われることや構造設備案件の規制がないため風俗案内所の方が単体の風俗営業所よりも外部環境に与える影響が格段に大きいこと、
②違法な性風俗営業店と結びつきやすいこと、
とを総合すると、保護対象施設から一定の距離内を営業禁止区域とし、罰則を設ける等、風俗案内所に対して風俗営業所よりも厳しい規制を設けることは合理的な規制であり、規制内容の必要性と合理性についても立法府の裁量に逸脱ないし濫用を認めることができず憲法22条に反しない。
  解説 確認の訴え及び確認の利益については、平成16年の行政事件訴訟法改正後、最高裁が、確認の利益の判断方法を確立していないものの、実質的当事者訴訟の確認訴訟の適法性を認め、確認の利益を柔軟に解釈する方法を示している。
本件も、本件条例によって禁じられた自らの法的地位を争うもので、従来なら違反行為について刑事裁判等で争うべきものとされていた事例に属するものといえるが、予防訴訟における確認の利益を柔軟に解釈し、確認訴訟を憲法訴訟として活用。
職業選択の自由を含む財産権に対する規制の合憲性については、規制目的二分論や比例原則違反などの議論があるものの、
規制目的の正当性、目的達成手段の「必要性」と「合理性」の判断は第一次的には立法府の判断が合理的な裁量の範囲を逸脱ないし濫用しているかどうかが審査基準になるとの枠組みが判例上定着(最高裁昭和50.4.30)。
本判決は、この枠組みに依拠するものであり、風俗案内所に対して地域規制を行う本来条例の立法事実を検証し、風俗案内所がもたらす弊害とその程度が風俗営業所よりも大きいと認定して、風俗営業所よりも厳しい規制の必要性と合理性を肯定。
  民事p46
名古屋高裁H26.6.26  
  被相続人の祭祀財産(仏壇・墳墓)の承継者及び被相続人の遺骨の帰属先について、原審と判断が分かれた事例
  原審 被相続人の祭祀承継者にはAを指定、Cの遺骨の所有権をA(二女)に帰属させるのが相当。 
  判断 B(長女)はCの生前療養看護をしており、親密に交流しCの葬儀も取り仕切っており、Cの死後法要を行っていないがそれはAとの間で遺産分割の紛争が生じたためで、これをもって祭祀主宰の意思を欠くとはいえず、BはCの遺骨を先祖代々の墓に入れて自ら墓を管理する意向を持ち、仏壇も位牌も引き継いで自ら祭祀を主宰することができる立場にあり、Bを祭祀財産や遺骨の帰属者と認めるのが相当。
  解説 祭祀承継者指定等の判断基準を示したリーディングケースとして、東京高裁H18.4.19:
「承継候補者と被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係、承継候補者と祭具等との間の場所的関係、祭具等の取得の目的や管理等の経緯、承継候補者の祭祀主宰の意思や能力その他一切の事情」を総合的に判断すべきとしており、学説も支持。 
  民事p49
高松高裁H26.5.23  
  破産会社のメインバンクへの弁済と故意否認(肯定) 
  事案 平成21年8月12日破産手続開始決定を受けた破産会社のメインバンクであるYが、破産会社が支払不能であったことを知りながら、平成21年7月23日、同社から8億7000万円の弁済を受けた
⇒破産管財人Xが、破産法162条1項1号イに基づいて本件弁済を否認し、Yに対して、弁済金の返還を求めた。 
  規定 破産法 第162条(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)
次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
  原審 平成21年7月23日の時点では、同年7月15日の2億円の融資により、同日弁済期にあたった債務については支払が行われており、同日23日の本件弁済までに、弁済期にある債務の支払がなされていなかったとの事実は、なんら具体的に認められない⇒7月23日の時点では支払不能ということはできない。 
⇒Xの請求を棄却。
  判断 ①破産会社においては、平成21年7月15日に弁済期が到来した債務については支払はしているものの、これは、本来は受けられなかったはずの融資を取り付けて資金調達したことによるものにすぎず、破産会社において無理算段をしたというほかない
⇒客観的にみれば、破産会社が支払能力を欠いていたことは明らかであり、かつ、破産会社は、1年以上にわたって船別収支実績表の粉飾を継続して融資金を債務の弁済に充てるとの対応を繰り返して窮地をしのいできた。

破産会社が、弁済期の到来した債務につき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態にあったことも疑いようのないところであり、破産会社は平成21年7月23日の時点においては支払不能の状態であった。
②Yは、破産会社が大幅な赤字状態にあって、追加融資をすることができない状況にあることを認識しており、これに基づいて追加融資は実行しない方針を内部的に固めていたものと認められ、Yは、破産会社がYを欺罔して融資を受けるなどの無理算段をして支払をしていたことを知っていたことなどからすれば、Yは、本旨弁済がなされた時点では、破産会社が支払不能であることを知っていたものと認めるのが相当。
⇒Yの本件弁済の否認を認め、原判決を取消し、Xの本件請求を認容。
  解説 本旨弁済も故意否認の対象となる(判例)。
支払不能とは、弁済能力の欠乏のために債務者が弁済期の到来した債務を一般的かつ、継続的に弁済することができないと判断される客観的状態であると解されている。
第1に、弁済能力の欠乏は、財産、信用、あるいは労務による収入のいずれをとっても、債務を支払う能力がないことを意味する。
第2に、弁済能力の欠乏は、一般的、かつ、継続的でなければならないが、債務者が表面的には弁済能力を維持していると見える場合であっても、客観的弁済能力が欠けていれば、支払不能状態とみなされるし、また、将来多額の債務が支払えないことが予想されてもかまわないとされている。
  民事p68
東京地裁H27.6.22  
  株式譲渡を内容とする事業譲渡契約における表明保証条項に基づく請求(肯定) 
  事案 会社の全株式を買い受ける内容の事業譲渡契約における表明保証条項の違反の有無、違反による補償額が争点になった事案。 
事業譲渡契約には、
①Y、Aらが現在行っている事業を行うために必要な行政当局の許認可、免許及びその他類似の承認は、すべてY、Aらによりそれぞれ適法に取得されており、かつ有効であること、
②Y、Aは契約書記載のY、Aが所有するとされている不動産(本件不動産)に対して完全な所有権を有しており、その現状における使用を第三者により妨げられないこと、
③本件不動産には新会社の営業の継続に重大な影響を及ぼす欠陥、瑕疵、その他の不具合は存在しないこと、
④Yの表明保証違反が発生又は判明した場合、これに起因してXに生じた損害をXに補償すること(第三者からの請求の結果生じたものか否かを問わない。合理的な弁護士費用を含み、これに限定されない。)
等の条項(本件表明保証条項)があった。
Xは、平成22年5月頃、本件工場に消防法に違反した状態があることが発覚したことから、消防当局の指導の下、危険物の回収、排出等のために改修工事を行うこととし、平成23年2月から平成24年7月にかけて改修工事を実施し、施工業社に約3億円支払った。Xは、平成25年9月、本件工場を閉鎖した。

Xは、Yに対し、表明保証条項に基づき、Yに消防法違反等があり、表明保証条項に違反し、違反状態を解消するために支出した本件改修工事費用、人件費、弁護士費用合計3億4446万7079円の損害賠償を請求。
  判断 本件工場のクリーンルームが本件契約当時、消防法上要求される政令で定める技術上の基準を満たしておらず、市長の許可を取得していない状態であり、半導体事業を行うために必要な行政当局の許認可、免許等が適法に取得されておらず、表明保証条項に違反し、本件不動産の一部である本件工場に営業の継続に重大な影響を及ぼす欠陥、瑕疵等があったものであり、表明保証条項に違反。 
前記違反に起因してXに発生した損害を補償する義務は、本件工場の消防法違反状態を解消するためにXが要する費用であり、表明保証条項における保証内容の実現に必要な限度にとどまると解すべき。
本件においては、Xの主張に係るシステム化工事を必要とするものではなく、Yの主張に係る方法で足りる。
本件システム化工事以外の工事の価格については、個別の項目を検討し、合計7130万9700円であると認め、Yが負担すべきコスト等の金額については、Yの主張にかかる方法を前提とし、補償すべき期間を1年間とし、合計6233万円と認め、改修工事に係る人件費の一部、弁護士費用も表明保証に含まれるとし、1億5276万500円を補償すべきであるとし、Xの請求を一部認容。 
  解説 表明保証は、契約締結、履行上のリスクの転嫁、デュー・ディリジェンス等にも関連する重要な契約条項として機能。 
  民事p80
東京地裁H27.3.30  
  賃貸管理等を行う不動産業者の従業員による在職中の競業会社設立・顧客奪取と不法行為(肯定)
  事案 Xは、Yに対し、Yが在職中に会社を設立し、Xの顧客を奪った等と主張し、不法行為に基づき逸失利益の損害賠償、使途不明の出金につき損害賠償又は不当利得の返還、Xの所有に係る業務書類の引渡し等を請求 
  争点 ①Xの競業行為と不法行為の成否
②Xの損害
③出金に係る不法行為又は不当利得の成否
④業務書類の返還請求の当否 
  判断 Yが在職中から会社の開業準備を行っており、顧客に対する営業活動を行っていたものと推認し、引継物件のパソコン内のデータを消去する等した
⇒違法な態様でXの営業活動を妨害し、顧客に対しても虚偽の説明をして勧誘したものであり、社会通念上自由競争の範囲を逸脱したものであるとした上、
Xの損害について、顧客らとの委託関係報酬相当額は、賃貸借契約の期間のものが相当因果関係があるとし、平成25年1月時点で見込まれる賃貸借契約の残存期間がおよそ1年程度であったと推認し、236万3880円であると認め、
更新手続報酬は事実上期待できな事務に対する報酬にすぎず、相当因果関係が認められないとした。
預金口座からの出金は事務引継ぎに係る合意が認められず、違法であるものの、B名義で委託者に支払われ、Xがその支払義務を免れたもの
⇒委託管理報酬に相当する出金の5%に相当する8万1295円の損害を認め、業務書類の引渡請求については、業務書類の所有権がXにあるとし、
Xの損害賠償請求を一部認容し、業務書類の引渡請求を認容。
  解説 不動産の賃貸借の仲介、管理等を行う小規模の会社の従業員の競業行為の不法行為責任が主として問題となったもの。
①従業員の競業会社の設立、②後任者への業務の引継ぎの拒否、③業務関係のデータの消去、④在職中からの顧客に対する虚偽の説明による勧誘等を認定し、社会通念上自由競争の範囲を逸脱したものとして不法行為を肯定。 
従業員の違法な競業による委託管理業務に係る営業上の逸失利益について、残存の賃貸借期間を推認することによって算定⇒逸失利益の算定事例として参考。
違法な競業を行ったものが業務書類を持ち出していた場合について、会社の所有権を認めた上、引渡請求を認容。
  民事p87
東京地裁H27.6.24 
  元プロ野球選手に関する週刊誌の記事と名誉毀損、プライバシー権侵害の不法行為(肯定)
  事案 (1)Nの子であるXは、平成16年頃、N宅の地下に保管されていたNに授与された野球関係の記念品等をNに無断で他に売却
(2)Xの事務所が、Nの商標登録を更新しない間に、上記商標の設定登録をした
(3)Xと妹が絶縁状態となったため、N家が家庭崩壊状態になり、Nは子供と共に過ごすことができず、寂しい思いをしている。
との記事。 
  判断 (1)(2)の重要な部分は真実であると認められる。
(3)の記載も論評としての範囲を逸脱した不相当な表現とは認められない。
but本件記事はXの社会的評価を低下させるものと認められる。
①本件記事は、多数人の社会的利害に関係し、これに関心を寄せることが社会的に正当と認められる事実を記載したものとは認められないし、専ら公益を図る目的に出たものであったとは認められない。
②本件記事は、私生活上の事実であり、私人の立場からして公開を欲しない事実であると考えられるとし、それを公表する理由がXのプライバシーを公表されない法的利益に優越するとは認められない。

Xに対する名誉毀損とプライバシー権侵害の不法行為の成立を認め、Yに対して慰謝料150万円と弁護士費用15万円の支払を求める限度で、Xの本訴請求を認容。
  解説  他人の名誉を毀損する行為であっても、当該行為が
①公共の利害に関する事実に係り、
②専ら公益を図る目的に出た場合には、
③事実が真実であることが証明されたときは、
違法性はなく、不法行為は成立しない(最高裁)。 
①公表事実の公共性と②公表の公益目的とは、機械的に各自別個に判定するというよりは、両者の相関的考察によって総合的に判断されるべきであるとされるが、その判定は微妙で困難である場合がある。
本判決は、本件記事の真実性を認めながら、事実の公共性・公益目的を否定して名誉毀損の成立を認めた珍しい事例。
他人に知られたくない事柄が公表されるプライバシーを侵害する行為については、公表の理由と公表されない法的利益とを相関的にとらえ、公表されない利益がこれを公表する理由に優越するときに不法行為が成立(最高裁H6.2.8)。
  民事p97
東京地裁H27.4.28 
  1.集合債権譲渡担保契約と破産法162条1項1号の否認(否定)
2.集合債権譲渡担保契約締結後に発生した将来債権に付された債権譲渡禁止特約と民法466条2項但書(不適用)。譲渡禁止特約に反してなされた債権譲渡と譲渡人の破産管財人の無効を主張する独自の利益(否定)
  事案 Aは訴外BとCから継続的に注文を受けて建物の内装工事を行い、その都度、B等に対してに対して請負代金債権を取得していたが、AとB等との協議により当該債権には債権譲渡禁止特約。
AはX社から建材等を継続的に購入していたところ、XとAとの間で、XがAに対して現在及び将来取得する一切の債権を担保するために、AがB等に対して現在及び今後5年間に取得する売掛金その他一切の債権をXに譲渡する旨の集合債権譲渡担保契約(本件契約)が締結され、債権譲渡登記がなされた。
本件契約には、「債務者(A)は、債権者(X)が第三債務者(BとC)宛に通知するまでの間、第三債務者よりう譲渡債権について弁済を受領することができる」が、譲渡人Aが支払停止などの危機的状況に陥った時点で譲受人Xは「登記事項証明書を第三債務者宛てに交付して通知することにより第三債務者から当該譲渡債権を取り立てることができる」旨の契約条項(取立権限付与合意)。
その後、A振出の約束手形が不渡りとなり、XはAのB等に対する請負代金債権等についてXが譲渡を受けた旨をB等に通知するとともに、登記事項証明書をB等に交付。
B等は真の債権者を確知できないことを供託原因として請負代金等について供託。
  Aは破産手続開始決定を受け、YがAの破産管財人に選任された。
  Xは本件供託金還付請求権を有することの確認を求めたが(甲事件)、これに対してYも本件供託金還付請求権を有することの確認を求めた(乙事件)。
  争点 ①譲渡禁止特約に違反した債権譲渡について譲渡人の破産管財人が無効を主張できるか?
②集合債権譲渡担保契約は破産法162条1項1号による否認の対象となるか? 
  判断 破産管財人による無効の主張を否定。
否認権の行使も認められない。
⇒Xの請求を認容し、Yの請求を棄却。 
  解説  ●集合債権譲渡担保
集合債権譲渡担保:
既発生、未発生の多数債権の債権譲渡の法形式を用いて包括的に担保化する非典型担保。
①本件契約のように債権譲渡それ自体の形式を利用する本契約型のほか
②譲渡人の支払停止など一定事由の発生を停止条件として債権を譲渡させる停止条件型
③譲受人に債権譲渡の予約完結権を与える予約型
がある。 
集合債権譲渡担保権について第三者対抗要件を具備するには、
①民法467条が定める債務者に対する通知もしくは債務者からの承諾による方法と
②動産債権譲渡特例法4条1項に基づき債権譲渡登記をする方法がある。
②の場合でも、債権譲渡を債務者に対抗するためには登記事項証明書を債務者に交付して通知することが必要となる。
集合債権譲渡担保は、譲受人が譲渡人に対して有する被担保債権を回収するために設定されるために設定される担保⇒被担保債権の債務者である譲渡人が任意弁済をする限りにおいて譲受人が譲渡債権の取立てをする必要はない。⇒債権の移転を受けた譲受人から譲渡人に譲渡債権の取立権限が付与される。
本契約型の集合債権譲渡担保において民法467条により譲渡人から債務者に対して「取立権限付与合意」が記載された債権譲渡通知がなされた事案を対象として最高裁H13.11.22:
債権譲渡契約によって譲渡債権の帰属は確定的に譲受人に移転しており、譲受人に帰属する譲渡債権について譲受人から取立通知がなされるまで譲渡人に取立権限が付与されるにすぎないとして、「取立権限付与合意」が記載された債権譲渡筒井でも第三者対抗要件としての効力を有する。

債権の帰属と取立権限の所在を分けて考えている。
  ●集合債権譲渡担保と否認
破産法 第164条(権利変動の対抗要件の否認)
支払の停止等があった後権利の設定、移転又は変更をもって第三者に対抗するために必要な行為(仮登記又は仮登録を含む。)をした場合において、その行為が権利の設定、移転又は変更があった日から十五日を経過した後支払の停止等のあったことを知ってしたものであるときは、破産手続開始後、破産財団のためにこれを否認することができる。ただし、当該仮登記又は仮登録以外の仮登記又は仮登録があった後にこれらに基づいて本登記又は本登録をした場合は、この限りでない。
破産法 第162条(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)
次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。
従来から主として、停止条件型や予約型において譲渡人からの授権に基づき譲受人から債務者になされた債権譲渡通知が対抗要件否認(破産法164条1項)の対象になるかが問題。
対抗要件否認を認めた裁判例。
本件では対抗要件否認ではなく、本件契約が偏頗行為否認の対象となるかが問題。
破産法162条1項1号によると、破産者が支払不能になった後に既存の債務についてなされた担保供与行為で、債権者がその行為の当時、債務者が支払不能であったこと又は支払停止があったことを知っていた場合には、当該行為は否認の対象となる。
⇒取立権限の移転が実質的な債権譲渡であると解すれば、本件契約は偏頗否認の対象となり得る。
最高裁H16.7.16:
停止条件型の集合債権譲渡担保について、実質的には債務者(譲渡人)の支払停止等の危機時期が到来した後で行われた債権譲渡と同視すべき⇒破産法旧72条2号が定める危機否認の対象になる。
東京地裁H22.11.12:
予約型の事案において破産法162条1号の否認を認めている。
本判決:
停止条件型についての最高裁H16.7.16とは事案が異なる。
「契約締結時に確定的に債権を移転させる債権譲渡契約」であり、取立権限付与合意は「一定の譲渡担保権実行事由が発生するまでは、Aに譲渡債権についての受領権限を認めるというXとAとの間の内部的合意にすぎない」として、危機時機到来時における譲渡人から譲受人への取立権限の移転を実質的な債権譲渡とみる見解を否定し、本契約は破産法162条1項1号が定める否認の対象にならないとした。

債権の帰属と取立権限の所在を分けて捉える最高裁H13.11.22の基本的な考えを否認の問題にも拡張したもの。
  ●債権譲渡禁止特約に反した債権譲渡 
民法 第466条(債権の譲渡性) 
債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。
債権者と債務者間の合意である譲渡禁止特約により債権の譲渡性(民法466条1項)は制限され(同条2項本文)、特約に反して債権者が債権を譲渡した場合、当該債権譲渡は無効(物権的効力説、最高裁H9.6.5)。
2項但書において譲渡禁止特約は善意の譲渡人には対抗できない。
判例により善意重過失者は悪意者と同視。
本件では、
①民法466条2項但書が適用されるのか
②譲渡人の破産管財人が債権譲渡の無効を主張できるのか
が問題。
集合債権譲渡担保の対象に含まれる将来債権については、債権譲渡契約が締結された後に債権が発生して譲渡禁止特約が付される。
⇒債権譲渡担保契約が締結された時点において債権譲渡禁止特約が締結された時点において債権譲渡禁止特約が存在していない。
本判決:
民法466条2項但書の「善意」とは現に債権譲渡禁止特約があるという事実を知らないことを意味する概念であり、債権譲渡禁止特約よりも前に債権譲渡契約が締結された場合には、譲渡時における債権譲渡禁止特約の有無についての「善意」の概念を入れる余地がない⇒民法466条2項但書の適用を否定。
譲渡禁止特約に反してなされた債権譲渡の無効を主張できる者の範囲:
最高裁H21.3.27:
譲渡禁止特約は債務者の利益を保護するために付されるものであり、特約に反して債権を譲渡した債権者(譲渡人)は特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有しておらず、債務者(第三債務者)に譲渡の無効を主張する意思があることが明らかであるなどの特段の事情のない限り、譲渡人が無効を主張することは許されない。
本判決:
最高裁H21.3.27を基本的に踏襲し、破産管財人の法的地位を差押債権者と同視し、譲渡人に対して債権を有する一般債権者は譲渡禁止債権を差し押さえても譲渡禁止特約の無効を主張する独自の利益を有していない。
⇒差押債権者と同視し得る破産管財人も債権譲渡の無効を主張できない。
  民事p106
東京家裁H24.4.20  
  生前や死後の縁故の程度に応じ、相続財産総額1億4000万円の預金のうち、被相続人の義理の姪に500万円、義理の従妹に2500万円をそれぞれ分与した事例
  事案 A:被相続人の姉Dの長男Eの妻であり、被相続人の義理の姪(3親等)
B:被相続人の妻Fの母Gの妹Hの娘であり、被相続人の妻の実の従妹で被相続人の従妹(4親等)。
A・Bは、いずれも被相続人と生計を共にしておらず、また被相続人の療養看護に努めたものでもない。
被相続人は平成21年自宅で死亡し、時を経て平成22年死亡の事実が判明。
被相続人の財産は、1億4259万7381円の預金債権。
  規定 民法 第958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)
前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
  判断 Aは民法958条の3第1項の特別縁故者に該当し、分与額は500万円が相当。 

①被相続人とE間では相当程度密接な交流がされ、被相続人は、E生存中は同人に対して財産の管理処分を任せる意向を有するなどしてEを頼りにしており、申立人Aとも主としてEを通じて被相続人と密接な交流を継続。
②被相続人がEに財産の管理処分を託する遺言書を書いた旨伝えており、被相続人はAに対しても一定程度の経済的利益を享受させる意向を有していた。
Bは特別縁故者に該当し、分与額は2500万円が相当。

長期にわたり被相続人夫婦と交流を続け、特に平成14年からは被相続人自宅の鍵を預かり、比較的高い頻度で被相続人自宅を訪問して家事を行い、被相続人の妻の世話をしたこと、被相続人の死後その葬儀には参列しなかったものの、被相続人の遺骨をY寺に納骨したことなどからすれば、被相続人はBに相当程度の財産を遺す意向を示していたことが認められる。
  解説 比較的事例が少ない「その他被相続人と特別の縁故があった者」の事例を新たに加えたもの。
残り1億1千万円余は国庫に帰属。 
  知財p109
知財高裁H26.12.17  
  商標の類否判断につき、非類似の主張が訴訟上の信義則に反し、許されないものとされた等事例
  事案 X1は、被控訴人商標1及び2の商標権を有する自然人であり、X2社は、これらの商標の独占的通常使用権を有する者。 
X1及びX2社が、Y社は、被控訴人商標1及び2に類似する控訴人標章1から6を付した洋服等を使用し、その行為によって、X1の前記商標権を侵害し(商標法37条1号、2条3項1号、2号、8号)、また、X2の前記独占通常使用権を侵害する不正競争行為に及んでいる(不競法2条1項1号)として、Y社に対し、
①X1において、商標法36条1項及び2項に基づき、上記侵害行為の差止め及び控訴人標章1から6を付した洋服等の廃棄など侵害の予防に必要な行為を求め、
②X2社にいおいて、不競法4条、5条2項、民法709条に基づき、損害賠償金1億6500万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案。
Y社は原審に不出頭⇒擬制自白が成立⇒X1及びX2の請求を全て認容する内容の欠席判決。
規定 商標法 第37条(侵害とみなす行為)
次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
一 指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用
不正競争防止法 第2条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
主な争点 Ⅰ商標の類否判断につき、非類似の主張が訴訟上の信義則に反し、許されないものか否か
Ⅱ商標類否
Ⅲ不競法2条1項1号所定の不正競争行為の存否
  判断 ●争点Ⅰについて 
争点:
①X1において平成24年に被控訴人商標1を引用商標として控訴人標章1の指定商品の一部についての登録無効審判請求をし、特許庁は、同請求のとおりの無効審決をしたこと、②Y社は、控訴人標章1についての別件審決の取消しを求めて審決取消訴訟を提起したが、請求棄却の判決を受けたこと、③Y社は、上告及び上告受理申立てをしたが、上告棄却及び上告不受理の決定を受け、控訴人標章1についての別件判決が確定したことから、控訴人標章1と被控訴人標章1とが非類似であるというYの本件における主張が、控訴人標章1についての別件審決取消訴訟を蒸し返すものとして、訴訟上の信義則に反し、許されないか?
判断:
①本件訴訟は、いわゆる侵害訴訟であり、民事訴訟であるから、特許庁による審決の取消しを求める行政訴訟である控訴人標章1についての別件審決取消訴訟とは、訴訟物が異なる。
②訴訟の当事者も、控訴人標章1についての別件審決取消訴訟がX1とY社との間の訴訟であったのに対し、本件訴訟は、X1及びX2社とY社との間の訴訟。
but
①の点に関しては、本件訴訟及び控訴人標章1についての別件審決取消訴訟は、控訴人標章1と被控訴人商標1との類否という争点を共通にしている、
②の点について、本件訴訟も、実質においては、X1とY社との間の訴訟と同視できるというべき。

控訴人標章1と被控訴人商標1とが非類似であるというY社の本件における主張は、実質において、控訴人標章1と被控訴人商標1との類否判断につき、既に判決確定に至った控訴人標章1についての別件審決取消訴訟を蒸し返すもの
⇒訴訟上の信義則に反し、許されない。
  ●争点Ⅱについて
控訴人標章2から6と被控訴人商標1との類否について、外観に関し、
図形と文字から成る結合商標である控訴人標章4から6につき、図形部分を要部と認め、
控訴人標章2及び3並びに控訴人標章4から6の各要部である図形部分と、被控訴人商標1とが外観において類似している旨を認定。
呼称及び観念に関し、①控訴人標章2及び3と、被控訴人商標1とは、いずれも特定の呼称を生じない点及び「頭蓋骨と骨」との観念を生じる点において共通している、②控訴人標章4から6と、被控訴人商標1とは、いずれも「頭蓋骨と骨」との観念を生じる点において共通しており、呼称については、控訴人標章4から6は、「アールオーイーエヌ」及び「ロエン」の称呼を生じる点において、特定の呼称を生じない被控訴人商標1と相違するが、同相違は、外観上の共通点及び観念の同一性を凌駕するものとはいえない。
⇒控訴人標章2から6は、被控訴人商標1に類似する。
  ●争点Ⅲについて
称呼として提出された多数のファッション雑誌において、被控訴人商標1及び2と同一又は類似の標章を付したX2社の商品が掲載されている状況を詳細に認定し、被控訴人商標1及び2は、遅くとも平成20年8月1日の時点において、既にX2の商品を表示する商品等表示として、消費者やファッション関係者である需要者に周知されていたもとと認められる。

Y社が控訴人標章1から6又はこれに類似する標章を付した商品を販売し、また、販売のために展示したことなどを認定し、これらをもって、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当する旨認めた。
  解説 結合商標の類否判断についての最高裁の基準:
複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であるとと思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において、その構成部分の一部を抽出し、この部分のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、原則として許されない。
他方、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対して商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての呼称、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許される。
  商事p129
東京地裁H27.3.19  
  四半期報告書に虚偽記載がされている上場株式を取引所市場で取得した投資者の請求につき、当該虚偽記載と相当因果関係のある損害として、金融商品取引法21条の2第2項の規定により損害額を算定した事例
  事案 被告は、関東財務局長に対し、虚偽記載のある四半期報告書を提出し、同報告書は、平成23年8月11日から公衆の縦覧に供された。
原告は、同年10月14日から同月17日までの間、取引所市場において、被告株式の現物売買を複数回にわたって行い、合計10万株の株式を合計1億5537万809円で取得したが、被告が有価証券投資等に係る損失計上の先送りの事実を公表した後の同年11月11日、本件株式全てを合計4359万8800円で売却処分。 

原告が、虚偽記載のある四半期報告書の提出者である被告に対し、金融商品取引法21条の2に基づき、取得価額と処分価額の差額である1億1177万2009円の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める。
原告の主張:
①虚偽記載がなければ本件株式を取得しなかったから、取得価額と処分価額の差額である1億1177万2009円が損害額。
②仮に虚偽記載がなければ本件株式を取得しなかったといえないとしても、虚偽記載の公表に先立ち被告の代表取締役が解任された平成23年10月14日以降の株価下落分は全て一体として虚偽記載と相当因果関係のある損害とみるべきであり、1億1177万2009円(又は、少なくとも9938万円)が損害額となる
③上記の各主張がいずれも認められないとしても、法21条の2第2項の規定に基づき算定すると8400万円が損害額となる。
  規定 金融商品取引法 第21条の2(虚偽記載等のある書類の提出者の賠償責任)
第二十五条第一項各号(第五号及び第九号を除く。)に掲げる書類(以下この条において「書類」という。)のうちに、重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているときは、当該書類の提出者は、当該書類が同項の規定により公衆の縦覧に供されている間に当該書類(同項第十二号に掲げる書類を除く。)の提出者又は当該書類(同号に掲げる書類に限る。)の提出者を親会社等(第二十四条の七第一項に規定する親会社等をいう。)とする者が発行者である有価証券を募集又は売出しによらないで取得した者に対し、第十九条第一項の規定の例により算出した額を超えない限度において、記載が虚偽であり、又は欠けていること(以下この条において「虚偽記載等」という。)により生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、当該有価証券を取得した者がその取得の際虚偽記載等を知つていたときは、この限りでない。
2 前項本文の場合において、当該書類の虚偽記載等の事実の公表がされたときは、当該虚偽記載等の事実の公表がされた日(以下この項において「公表日」という。)前一年以内に当該有価証券を取得し、当該公表日において引き続き当該有価証券を所有する者は、当該公表日前一月間の当該有価証券の市場価額(市場価額がないときは、処分推定価額。以下この項において同じ。)の平均額から当該公表日後一月間の当該有価証券の市場価額の平均額を控除した額を、当該書類の虚偽記載等により生じた損害の額とすることができる。
4 第二項の場合において、その賠償の責めに任ずべき者は、その請求権者が受けた損害の額の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことを証明したときは、その全部又は一部については、賠償の責めに任じない。
5 前項の場合を除くほか、第二項の場合において、その請求権者が受けた損害の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことが認められ、かつ、当該事情により生じた損害の性質上その額を証明することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、賠償の責めに任じない損害の額として相当な額の認定をすることができる。
金融商品取引法 第19条(虚偽記載のある届出書の届出者等の賠償責任額)
前条の規定により賠償の責めに任ずべき額は、請求権者が当該有価証券の取得について支払つた額から次の各号の一に掲げる額を控除した額とする。
一 前条の規定により損害賠償を請求する時における市場価額(市場価額がないときは、その時における処分推定価額)
二 前号の時前に当該有価証券を処分した場合においては、その処分価額
2 前条の規定により賠償の責めに任ずべき者は、当該請求権者が受けた損害の額の全部又は一部が、有価証券届出書又は目論見書のうちに重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けていたことによつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことを証明した場合においては、その全部又は一部については、賠償の責めに任じない。
  判断 主張①について:
①原告による本件株式の取得当時、被告株式につき上場廃止の措置が採られていた蓋然性は極めて低かった⇒虚偽記載がなければ原告が本件株式を取得できなかったとはいえないと判断。
②原告の属性や投資性向、本件株式を取得した動機や経緯、原告による被告株式の取引の内容、虚偽記載等の内容など諸般の事情を認定した上で、虚偽記載の公表により被告の過去の損失計上先送りが明らかになるなどして被告株式の株価が下落を続けていた状況の中でも、原告がその後の反騰を狙ってあえて被告株式の購入を継続していたであろうことが推認される。

虚偽記載がなければ原告が本件株式を取得しなかったということはできない。 
主張②について:
①法21条の2第1項の「損害」とは虚偽記載等と相当因果関係のある損害を全て含む⇒同項の「損害」が取得時差額に限られるとの被告主張を排斥。
②当時の被告代表取締役解任以降、虚偽記載の疑惑が徐々に信ぴょう性を増していたことが被告株式の株価下落に一定程度の影響を与えたことは否定できない。
but
上記解任時点では、虚偽記載の疑惑等を問題提起する報道がなかったことや、被告における過去の損失計上先送りの存在は被告の公表により初めて明らかになったもので、それ以前に上記事実の漏洩等があった事情もなかった。

虚偽記載の公表に先立つ代表取締役の解任以降の被告株式の株価下落分の全てが、本件虚偽記載と相当因果関係を有する損害と見ることはできない。
③少なくとも9738万円の損害があるとの原告主張についてもその具体的な立証がない。

原告主張②を排斥。
主張③について:
①被告によるプレスリリースがされた平成23年11月8日が法21条の2第2項所定の「公表日」に当たるとして、1株当たりの推定損害額を602.2円と算出。
②当時の代表取締役解任が被告株式の下落に一定程度の影響を与えていたことは否定できない⇒同解任以降の株価下落分のうち一定部分は、上記推定損害額から控除、減額。
③公表日以前の被告株式の株価下落のうち虚偽記載等によって生ずべき値下がり以外の事情によって生じた損害額を具体的に証明することはその性質上極めて困難。
⇒同条5項を適用して、認定事実をはじめ本件に表れた一切の事情を総合考慮し、同条2項により算出される推定損害額のうち、賠償の責めに任じない額として2割を減額。
  解説 有価証券報告書等に虚偽記載があったこと等が発覚し株価が下落した場合に投資者に生じた損害に関する最高裁判例
①有価証券報告書等に虚偽記載がなければ投資者が当該株式を取得することはなかった場合に関し、株式の取得価額と処分価額との差額から当該虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を控除した額が投資者に生じた損害額であるとの判断を示した、西武鉄道事件判決(最高裁H23.9.13)
②法21条の2第1項の「損害」は、一般不法行為の規定に基づきその賠償を請求することができる損害と同様に、有価証券報告書等における虚偽記載と相当因果関係のある損害を全て含むものであって、取得時差額に限定される理由はないとの判断を示したライブドア事件判決(最高裁H24.3.13)
③法21条の2第2項の規定に基づく損害算定に関して、同条3項及び5項の要件の意義などにつき判断を示したアーバンコーポレーション事件判決(最高裁H24.12.21)がある。 
上記各最高裁判例が示す損害額の算定方法は、それぞれアプローチが異なるものの、いずれも有価証券報告書等における虚偽記載と相当因果関係のある損害額はいくらになるかを示したものであって、認定されるべき損害額は原理的にはいずれの算定方法であっても差異がないといえる。
本判決は、上記理解を前提に、本件が有価証券報告書等に虚偽記載がなければ投資者が当該株式を取得することはなかったとはいえないとして西武鉄道事件判決の算定方法の枠組みに当てはまらないことを示し、
ライブドア事件判決が示した法21条の2第1項の「損害」概念を前提に原告主張の株価下落分の全てが有価証券報告書等における虚偽記載と相当因果関係のある損害がくとはいえないとした上で、
アーバンコーポレーション事件判決で示された法21条の2第2項の規定に関する算定方法に則って損害額を算定したもの。
  刑事p139
最高裁H27.5.18  
  刑訴法278条の2第3項に規定する過料の制裁と憲法31条、37条3項(違反せず)
  規定 刑訴法 第278条の2〔在廷命令〕
裁判所は、必要と認めるときは、検察官又は弁護人に対し、公判準備又は公判期日に出頭し、かつ、これらの手続が行われている間在席し又は在廷することを命ずることができる。
②裁判長は、急速を要する場合には、前項に規定する命令をし、又は合議体の構成員にこれをさせることができる。
③前二項の規定による命令を受けた検察官又は弁護人が正当な理由がなくこれに従わないときは、決定で、十万円以下の過料に処し、かつ、その命令に従わないために生じた費用の賠償を命ずることができる。
憲法 第31条〔法定手続の保障〕
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
憲法 第37条〔刑事被告人の諸権利〕
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
②刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
③刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
  判断 刑訴法278条の2第3項の立法趣旨について、従来の刑事裁判において、一部の事件で当事者になる公判廷への不当な不出頭や退廷が審理遅延の1つの原因になっており、刑事裁判の充実、迅速化のためには裁判所の期日の指定等の訴訟指揮の実行性を担保する必要があり、また、連日的、計画的な審理を要請する裁判員制度の導入を機にその必要性が一層高まった
⇒平成16年の刑訴法改正によって、新たに裁判所が弁護人らに対して出頭在廷を命ずることができる旨の規定が設けられるとともに、その命令を実行あらしめるため過料等の制裁の規定も設けられた。
過料の制裁の目的、性質について、訴訟手続上の秩序違反行為に対する秩序罰として設けられるものであり、弁護士会等における内部秩序を維持するための弁護士法上の懲戒制度とは、目的や性質を異にする。
刑訴法278条の2第3項は、訴訟指揮の実効性担保のための手段として合理性、必要性があるといえ、弁護士法上の懲戒制度が既に存在していることを踏まえても、憲法31条、37条3項に違反するものではない。
  刑事p142
東京高裁H27.1.13 
  窃盗、道路交通法違反、ぐ犯保護事件により少年を中等少年院に送致する旨の決定の対し、事実誤認及び処分不当を理由に抗告申立て
⇒抗告を棄却した上で、一般短期処遇相当の処遇意見を付した事例
  事案 少年が、①路上に駐車中の原動機付自転車1台を窃取し、②その原動機付自転車を無免許で運転し、③保護者の正当な監督に服しない性癖があり、正当な理由がなく家庭に寄り付かず、不道徳な人と交際し、自己及び他人の特性を害する行為をする性癖があり、このまま放置されれば、その性格及び環境に照らして、将来窃盗、詐欺等の罪を犯すおそれがあるという窃盗、道路交通法違反、ぐ犯保護事件の事案。
  規定 少年法 第3条(審判に付すべき少年) 
次に掲げる少年は、これを家庭裁判所の審判に付する。
一 罪を犯した少年
二 十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年
三 次に掲げる事由があつて、その性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
ロ 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。
ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入すること。
ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。
2 家庭裁判所は、前項第二号に掲げる少年及び同項第三号に掲げる少年で十四歳に満たない者については、都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けたときに限り、これを審判に付することができる。
  原審 ①~③までの各事実を認定。
少年を中等少年院に送致する保護処分。 
  抗告 ③のぐ犯事実に関する事実認定及び処分不当を理由に抗告。 
少年について、少年法3条1項3号イのぐ犯事由に該当する事由はあるが、同ロ、ハ及びニのぐ犯事由に該当する事由はない。
⇒これらの事由があると認めた原決定には重大な事実の誤認がある。
  判断・解説  ●ぐ犯事実について
少年法3条1項3号イから二までに掲げられているぐ犯事由は、人権保障の見地からぐ犯性判断に客観性を与えるため現行法で初め規定されたものであり、ぐ犯性を類型化して限定するもの⇒制限列挙であると解される。
これらのぐ犯事由のいずれか1つ以上に該当し、かつ、その性格又は環境に照らして、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をするおそれ(ぐ犯性)のあることが、ぐ犯少年の要件とされる。
判断:
①少年が、約1か月にわたり家出をし、その後も夜遊びを繰り返して、両親とは口も聞かずすれ違いのような生活を送っていたことなど⇒少年法3条1項3号ロの「正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと」のぐ犯事由に該当。
②少年が、特殊詐欺への関与を持ち掛けてきた人物に対し、詐欺に関与する者として友人と引き合わせるとともに、そのような人物と行動を共にしていた。
⇒ハ「不道徳な人と交際」すること、二「自己」及び「他人の特性を害する性癖のあること」の各ぐ犯事由にも該当。
  ●処分の相当性について 
判断:
少年の要保護性は極めて高く、社会内処遇により健全育成を図ることは困難であって、少年を少年院に収容し、専門的、系統的な矯正教育を施す必要があり、少年を中等少年院に送致した原決定の処分が著しく不当であるとはいえない。
⇒抗告棄却。
尚、一般短期処遇による教育を実施することが相当であるとの意見を付した。

①少年に家裁係属歴がないこと、②少年が、未だ十分ではないながらも自己の問題性に気付き始め、更生する意欲を示すに至っていること、③両親も、不安を抱きつつも、少年を監護・指導する意向を示していることなどの事情。
少年院送致決定に当たり、短期間の処遇勧告を付さなかったことが、処分不当の抗告理由になるか?
消極に解する見解が有力。

①短期処遇が通達に基づく運用上の処遇過程にすぎないこと
②家庭裁判所が付す処遇勧告(少年審判規則38条2項)には執行機関を法的に拘束する効力はない。
短期間の処遇勧告が付されなかった少年院送致決定に対し、処分不当を理由に抗告が申立てられた場合において、抗告審が短期処遇相当という判断に達した場合、抗告を棄却した上で、理由中でその旨の意見を表明するのが通例。
少年院に対しては、処遇勧告書ではなく、通知書を送付する取扱いが一般的。
 2274
  行政p15
名古屋地裁H26.8.28  
  1.刑事訴訟法39条1項にいう「被疑者」の該当性が問題となった事例。
2.拘置所に死刑確定者として収容されている者と弁護士との間の刑訴法39条1項に基づく接見を、当該収容者が「被疑者」に当たらないことを理由に認めなかった拘置署所長の措置と国賠請求(肯定)
  事案 弁護士X1及びX2が、名古屋拘置所に死刑確定者として収容されていたX3が国家公務員法違反被疑事件の被疑者であることを前提に、刑訴法39条1項に基づく接見申込⇒①接見を認めず、あるいは②職員を立ち会わせることにより法39条1項の接見させなかった⇒接見交通権ないし秘密交通権を違法に侵害されたとして、国賠法1条1項に基づく損害賠償として、X1においては200万円、X2においては400万円、X3においては176万円の各支払をそれぞれ請求。 
  規定 刑訴法 第39条〔被疑者・被告人との接見・授受〕
身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。
②前項の接見又は授受については、法令(裁判所の規則を含む。以下同じ。)で、被告人又は被疑者の逃亡、罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を規定することができる。
③検察官、検察事務官又は司法警察職員(司法警察員及び司法巡査をいう。以下同じ。)は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第一項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。但し、その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない。
  判断 刑訴法39条1項にいう「被疑者」に当たるか否かについては、犯罪の嫌疑や捜査機関の捜査行為、検察官の処分等に係る事実に照らして客観的に判断すべきであり、捜査機関が、特定の者に対する具体的な犯罪の嫌疑に基づいて、取調べ等の具体的な捜査行為を開始した場合には、その開始時点において当該者は「被疑者」に当たると解すべき。 
①本件各接見申込みがされる前の時点において、X3が、捜査機関(司法警察員の資格を有する名古屋拘置所職員)から、具体的な犯罪(国公法111条、109条12号、100条1項の罪)の嫌疑に基づいて具体的な捜査行為(取調べ)の着手を受けていたこと、②本件被疑事実について不起訴処分がされたのは、本件各措置がされた時点よりも後であったと考えられる
⇒本件各措置がされたいずれの時点においても、X3は、刑訴法39条1項にいう「被疑者」であったというべきである。
Xらが、本件各措置によって接見交通権ないし秘密交通権を侵害され、それぞれ精神的苦痛を受けたことは明らか⇒当該慰謝料として、Xら各人につき本件各措置1回当たり各3万円を認めるのが相当。
  解説 死刑確定者として収容されている者について法39条1項の「被疑者」該当性が問題となった珍しい事案。 
  民事p23
東京高裁H26.1.15 
  特別縁故者が否定された事例 
  事案 被相続人Aの従姉の養子である抗告人Xが、Aの特別縁故者として相続財産の分与を求めた事案。 
  規定 民法 第958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)
前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
  主張 ①Xは本件、Aは分家の関係にある。
②生前、XとAは継続的な親戚づきあいがあった
③Aの生前、XはAから後事を託された
④Aの死後、XはAの法要やA宅の植木等の維持管理をした 
  原審 ②について通常の親戚づきあいを超える交流があったとは認められない
③についてXがAから後事を託されたとの事実は認められない 
  判断 Aが単身で身寄りがないことや、Aの死後、XがAの法要やA宅の庭木等の維持管理のため一定の労力と費用をかけ、今後も継続する意思を有していることなど、Aの境遇やAの死後のXの貢献を加えて検討しても、XのAとの生前の交流の程度に鑑みると、Xを特別縁故者と認めることはできない。 
  解説 特別縁故者に対する相続財産分与制度(民法958条の3)

①遺言があまり行われない我が国の現状を前提として、被相続人の意思を推測すれば遺贈を受ける関係にあったと考えられる者に財産を分与することが望ましい。
②特別縁故者となることが多い内縁配偶者や事実上の養子の保護を図るべき。 
「被相続人と特別の縁故があった者」 (民法958条の3第1項)
被相続人と生計を同じくしていた者(生計同一者)、被相続人の療養看護に努めた者(療養監護者)その他被相続人と特別の縁故があった者

被相続人との間に生計同一者あるいは療養監護者に準ずる程度の具体的かつ現実的な交渉があり、その者に相続財産の全部又は一部を分与することが被相続人の意思に合致するとみられる程度に被相続人と密接な関係があったことを要すると解されている(裁判例)。
  民事p24
大阪高裁H27.3.6  
  被相続人もと所有の土地取得費用の負担を認定し、相続人(抗告人)に寄与分を肯定した事例 
  事案 被相続にAは平成2年に死亡し、子であるX、孫であるY1,Y2を相続人として、相続開始。 
Xは、Aに対する身上介護、遺産となったAの実家土地等の不動産取得のためのローンの返済に寄与したこと等を理由にその寄与分を主張。
  規定 民法 第904条の2(寄与分)
共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4 第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。
  原審 B名義の借入れの返済がAによってなされたことを否定できない
⇒寄与分を否定。 
  判断 XのAに対する身上介護については、Xの主張する食費の負担を立証する資料なし⇒否定。
Aが昭和58年にその実家土地を取得するにあたり、その売買代金がXの夫であるBを債務者とするローン(金700万円)により賄われ、その後、昭和62年にやはりBを債務者とするローン(金500万円)によりこれが完済され、その返済がBの預金口座から引落の方法でなされた。
一方A名義の口座からこれらの返済がなされた形跡はなく、Aの当時の収入及び支出に照らしても右ローンの返済は困難であった。

Aの実家土地は、BまたはXの資産を原資にして返済されたものと認め、、金700万円のXの寄与分を肯定。
  解説 民法904条の2は、被相続人の財産の 財産の維持又は増加につながる特別の寄与を行った者に、貢献に応じた相続分を加算する寄与分制度を定めた。
その趣旨:
A:法定相続分を修正する調整要素とする調整説
B:遺産に化体した寄与者の持ち分を精算する不当利得と同様の権利とする権利説。
寄与行為:
①家事従事型、②出資型、③財産給付型、④療養看護型、⑤扶養型、⑥財産管理型などの類型。
財産給付型の寄与行為では、現実の出資等が行われる⇒他の類型に比較して寄与行為を認定しやすい。
原審:その返済がAによってなされたことを否定できない⇒寄与行為を否定。
判断:Aの生前の収支状況を具体的に事実認定し、Aによるローン返済の形跡はなかった⇒原審を覆した。
そもそも寄与分を受けるのは、共同相続人に限られる(民法904条の2第1項)。
but
裁判例は、これまでも、相続人の配偶者の寄与を相続人自身の寄与と同視しうる場合など、寄与分を認めてきた。
本件の場合、XがBの営む会社から給与を受けていたことなども踏まえ、BのみならずXの資産を原資にローンの返済がなされたとして、返済額とほぼ同額のXの寄与分を認めた。
本件では、被相続人死亡後にその債務を返済したことも寄与行為として主張されている。
寄与の時期が相続開始前のものに限定されるか?
A:消極説
B:積極説
本件では、消極説に立ち、死亡後の寄与の主張を退けた。
  民事p29
福岡高裁H27.8.27  
  カラオケ店舗と共に同店舗の駐車場として賃貸された土地についての賃貸契約の更新拒絶と権利の濫用(肯定)
  事案 本件建物と本件土地の所有権を取得して賃貸人の地位を承継したXが、Yに対し、主位的に所有権に基づき、予備的に賃貸借契約の解約に正当理由があるとして、その明渡しを求めた事案。 
  原審 本件建物の賃貸借はカラオケ営業の目的に使用されるため借地借家法の適用あり⇒解約の申し入れには正当の事由がないから、本件建物の明渡しは理由がない。
本件土地の賃貸借には借地借家法の適用はないが、その明渡し請求は権利の濫用として許されない。
  判断 ①本件土地の賃貸借契約については更新拒絶を認めなかったとしても、本件土地のみでは利用価値は低く、本件土地と本件建物は一体として利用することが社会経済上望ましいし、当事者の合理的意思に合致。
②その賃料が適正でない場合には賃料増額請求を行うことも可能なのであり、Xに特段の不利益はない。

本件建物の賃貸借が終了していないにもかかわらず、本件土地について更新拒絶をすることは権利の濫用というべきであり、本件土地の賃貸借は更新されて、期間の定めのない契約となったと解するのが相当。
  解説 契約期間満了に際し、同一の条件で契約更新の要求があった場合、この要求を拒絶することができるか否かについては、借地借家法等の特別法の規制がない限り、契約自由の原則が妥当し、契約が当然に更新されると解すべきではないとするのが判例・学説。
but
契約期間満了によって契約を終了させることが、契約締結の経緯、契約内容や取引の実態からみて不合理である場合には、信義則上、当事者に契約更新義務が認められたり、黙示の更新が認定される場合がある。
本件は、借地借家法が適用されない土地の賃貸借につき、賃貸人による更新拒絶が権利の濫用とされた事例。
  民事p37
東京地裁H27.3.25