シンプラル法律事務所
〒530-0047 大阪市北区西天満2丁目6番8号 堂島ビルヂング823号室 【地図】
TEL(06)6363-1860 mail:kawamura@simpral.com 


勉強会(判例時報2017後半)

判例時報の勉強会用の資料です(随時更新)

  9月
2338
  行政p3
大阪地裁H28.11.2  
   
  事案 4期12年4か月にわたってY(枚方市)の市長を務めたXが、現職警察官、ゼネコン担当者らと共謀の上、清掃工場建設工事の入札において談合を行った⇒談合罪で懲役1年6月(執行猶予3年)に処せられ、同判決が確定。
⇒処分行政庁であるY市長から、市職員の退職手当に関する条例、市長等の退職手当に関する条例にン基づき、2期目及び3期目に係る退職手当の返納命令を受けた⇒その取消しを求めた。
(4期目に係る退職手当については、Xが起訴後に辞職願を提出したことを受け、起訴後判決確定前に退職したときは退職手当を支給しない旨の特別措置条例が制定・施行⇒支給されていない。)
本件市長退職手当条例4条は、
「市長等の退職手当の支給方法については、一般職の職員の例による」旨規定。
本件職員退職手当条例12条の3第1項は、
「退職した者に対し、一般の退職手当等を支給した後において、その者が在職期間中の行為に係る刑事事件に関し禁固以上の刑に処せられたときは、任命権者は、その支給をした一般の退職手当等の額のうち次に掲げる額を返納させることができる」旨規定。
  Xの主張 ①本件処分の根拠となる条例が存在しない
②本件処分のうち、2期目に関する部分は「在職期間中の行為に関し禁固以上の刑に処せられたとき」という要件を満たさない。
③本件処分は裁量権を逸脱・濫用したものである。
④返納命令の対象となるのは、現実にXに支払われた所得税及び住民税を控除した後の金額に限られる。 
  判断 ●主張①について 
本件職員退職手当条例12条の3第1項の文言⇒返納命令の対象となるのは一般の退職手当等に限られ、特別退職手当は対象外。
市長の退職手当は一般の退職手当である。
Xは、
①本件市長退職手当条例4条は、支給に関する規程のみを準用するにとどまり、返納に関する規定を準用していない。
②市長には任命権者が存在しない⇒本件職員退職手当条例12条の3第1項を適用することはできない
と主張。
市長と一般の職員を比較した場合、市長の方がはるかに職責が重く、また、権限も強大であることからすれば、刑事事件で禁固以上の刑に処せられた場合に、一般の職員であれば退職手当の返納が命じられるにもかかわらず、市長であれば退職手当の返納が命じられないというような制度設計をすることは想定し難い

本件職員退職手当条例、本件市長退職手当条例が本件処分の根拠となる条例にあたる。
  ●主張②について 
本件退職手当条例12条の3第1項の文言

在職期間中の行為が、刑法あるいは特別刑法等が定める犯罪の構成要件に該当することが必要であり、
共謀共同正犯の場合は、共謀行為あるいは談合行為のいずれかが在職危難中に行われたと認定されることが必要。
Yが指摘するホテルでの会談について、同会談は2期目の在職期間中に行われたものであり、刑事事件の判決においても、共謀を認定する重要な間接事実として認定されているが、
①間接事実は犯罪行為の存在を推認される事実ではあるものの犯罪行為そのものではないこと、
②本件処分が、退職手当の返納という不利益処分であること
⇒その要件については厳格に解する必要がある。

j間接事実が行われたことをもって、「在職期間中の行為に関し禁固以上の刑に処せられたとき」という要件を満たすということはできない。
  ●主張③について 
退職手当返納命令は羈束処分ではなく裁量処分。
Xが市長として市政に熱心に取り組み、一定の成果をあげてきたことなど、Xが主張する事情を十分に考慮しても、
①本件で問題となっているのが公務に対する信頼を大きく害する談合という行為であること、
②Xが地方公共団体の長である市長という立場にあったこと

Xの行為は重大な非違行為に当たり、裁量権の逸脱・濫用はない。
  ●主張④について 
所得税の源泉徴収及び住民税の特別徴収が徴収納付の租税であり、納税義務者は、過納付があっても、原則として、直接国又は地方公共団体に対して還付を求めることはできない

返納命令の対象となるのは、Yが徴収納付義務者として控除した額を除いた部分に限られる。
  解説 公務員の非違行為を行った場合の退職手当の返納命令処分については、
退職手当の性格等を考慮し、
全部不支給を原則、一定の事由がある場合に例外的に一部不支給とした上で、
退職手当管理機関の裁量を認め、
社会通念上著しく妥当性を欠いた場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものして違法とならないものというべきであるとの基準で判断されることが多いと思われ、本判決も同様の基準で判断。 
  民事p16
東京高裁H28.8.10  
   
  事案 本件建物周辺に居住するXらは、本件建物が暴力団の組事務所として使用されることで、Xらの生命、身体の安全などが害される危険がある
⇒Yらに対し、平成14年に、人格権に基づき、暴力団事務所使用差止め等の仮処分を申し立て、その旨認められた。
仮処分決定の内容は、五代目傘下のA及びその他の暴力団の事務所又は連絡場所として使用してはならないこと、Yらは本件建物内を銃砲刀剣類等の保存場所に供してはならないこと等。
その後、平成28年に、本件債務名義に基づき、本件間接強制申立てがされた。
  争点 債務名義には五代目傘下のAに本件建物を使用させない義務を表示しているのに対し、間接強制の申立ては六代目傘下のAに本件建物を使用させない義務の履行を求めるもの⇒義務の同一性が認められるか。
  原決定 仮処分決定から13年以上経過し、五代目傘下のAと六代目傘下のAとが同一であるとは直ちにいえず、五代目傘下のAは四次組織であったが、六代目傘下のAは三次組織であり、両者は異なる存在。
⇒義務の内容に同一性は認められない
⇒本件建物を使用させない義務について申立てを却下 
  判断 ①兵庫県公安委員会は、「五代目B組」の名称で代表する物を「C」とする団体について、暴対法に規定する要件を満たす暴力団と指定して官報に告示し、その後に再指定されるに当たっての指定番号に連続性がある
② 「六代目B組」の名称で代表する者を「D」とする団体の指定番号は従前と同様で、再指定も「五代目B組」の更新時期に行われている

代表する者の交替に伴い名称を変更したに止まり、団体として同一であると認められる。
四次組織が三次組織になった点については、B組内での階層的序列の問題⇒同一性の判断を左右するものではない。
⇒義務の内容の同一性を認めた。
  解説  債務名義の表示と現状との間に不一致がある場合、執行機関が解釈によって同一性について判断しなければならない。 
債務の内容として団体の表示が異なる場合において、その団体のの同一性の判断にあたっては、単に団体の名称等の外観のみに依拠するのではなく、団体に係る客観的諸事情によって連続性が肯定できるかを検討すべき。
債務の内容に疑義⇒さらに訴えを提起することが必要となる(最高裁昭和42.11.30)。
  民事p20
広島高裁H29.3.9  
   
  事案 訴外Aの妻の弟であり、Aと同居しているXが、Aから、AのYに対する不法行為に基づく損害賠償又は不当利得返還請求ほか多種の債権を譲り受けたとして、Yに対し、同請求権に基づく支払を求めた。
  規定 信託法 第10条(訴訟信託の禁止)
信託は、訴訟行為をさせることを主たる目的としてすることができない。
  原審 本件債権に基づく請求権が成立したとは認められない
⇒Xの請求を棄却。 
  判断 Yは、控訴審において、Xの主張する債権譲渡は、AがXに訴訟行為をさせることを主たる目的としたものであり、信託法10条の趣旨に反すると主張。
債権譲渡であっても、信託法10条の趣旨に反するものは違法であって、無効というべきである。
仮に、AからXに対する本件債権の譲渡が存在するとしても、
①AからXに対する本件債権の譲渡は別件訴訟において、Aの訴訟代理人が辞任したため、別件訴訟についてXに訴訟行為をさせる目的で始まった
②その後にされた本件債権の譲渡を見ると、債権譲渡の提訴ないし訴えの追加という訴訟行為とが時間的に接近している
③Xが債権譲渡を受ける前に、Aとの間で、反対債権の回収方法について協議をしていた事実も認め難い

AからXに対する本件債権の上とは、XのAに対する債権回収を目的とするものではなく、Xに訴訟行為をさせることを主たる目的としたものであると認めるのが相当。
Aが弁護士でないXに対する本件債権の上とは、XのAに対する債権回収を目的とするものではなく、Xに訴訟行為をさせることを主たる目的としたものであると認めるのが相当であり、Aが弁護士でないXに本件訴訟の訴訟行為をさせることは、合理的必要性があるとは認められない。
⇒信託法10条に反する行為と言うべきである。
  解説 信託法10条は、訴訟行為をすることを主たる目的とする信託を禁止。

このような信託を認めると、濫訴のおそれ、弁護士代理の原則を潜脱するおそれがある 
同条が禁止するのは、訴訟行為を主たる目的とする信託であって、たまたま受託者として訴訟行為をさせることがあっても、それが信託の主目的でない場合は無効とはならない。
訴訟を主たる目的とするか否かは、①受託者の職業、②委託者と受託者の関係、③受託者が訴訟を提起するまでの時間的隔たり等、諸般の事情を参酌して実施的に決すべく、また行為の当時を標準として判断すべき。
  民事p24
神戸地裁H28.3.30  
   
  事案 県立高校の男子生徒Aが、同級生Y1~Y3によるいじめ行為を原因として自殺したと主張して、Aの父X1及び母X2が、
Y1らに対して不法行為に基づく損害の賠償を求めるとともに、
同校クラス担任教師Y5が、いじめ行為を発見・防止すべき義務を怠り、
同校校長Y4がY5を監督すべき義務を怠ったため、
あの自殺を防止できなかったと主張

Y1~Y5に対しては不法行為に基づき、
同校を設置するY県に対しては国賠法1条1項に基づき、
損害賠償を求めた。
  判断 世上「いじめ」といわれる行為のうち、「自分より弱い者に対して、一方的に、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手方深刻な苦痛を感じているもの」との定義に該当する場合に限り「不法行為」を構成する。 
Y1らの行為のうち一部のこういについて共同不法行為であると判断。
  Y県は、入学許可処分によって発生する公法上の法律関係に基づく付随義務として、
信義則上、学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係によって生ずるおそれのある危険から生徒を保護し、安全の確保に配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っており、
かかる義務は、教師が国賠法上負う職務上の注意義務の内容をも構成する。 
かかる法理は学校生活の場におけるいじめ行為にも妥当することを前提に、
具体的な義務の内容として、
本件いじめ行為の存在を認定することが可能であったY5は、本件いじめ行為の存在を具体的に把握して、これを防止し、適切な措置を講ずるべき注意義務(予防・発見義務)を負い、
Y4は、他の教員にいじめ防止のための適切な指導・助言を与え、生徒の生命身体の安全をはかるべき注意義務(指導・助言義務)を追っていたが、
Y5・Y4ともに各注意義務に違反。
  ●Aの自殺との間の条件関係(事実的因果関係)
①Aが、本件いじめ行為を受け続ける中で、自殺以外の解決方法がおもい浮かばない心理的な視野狭窄の状態に陥っていたことが推認される
②Aが抱えていた他の問題だけでは直ちに自殺を選択する原因とはなり得ない

Aの自殺は、専ら本件いじめ行為に基因するものとみることに通常人の立場から合理的な疑いを挟む余地はないとして、これを肯定。
Y5及びY4の前記各義務違反とAの自殺との事実的因果関係についても、
①本件いじめ行為の性質、態様等に照らすと、Y5が予防・発見義務を尽くしていたならば、いじめ行為を察知し、然るべき措置を講じることなどにより、Aが自殺に至らなかったであろうことを是認し得る程度の蓋然性が認められる。
②Y4の指導・助言義務が尽くされていれば、Y5も予防・発見義務を尽くしていたものとみるのが自然

いずれも肯定。
  ●Aの自殺による損害との間の相当因果関係 
①Aの自殺は、本件いじめ行為の性質等に照らして特別損害に該当⇒相当因果関係を認めるためにはY1ら、Y5及びY4がAの自殺を予見し得たことが必要。
②本件いじめ行為の態様等のほか、Aの抱えるその他の問題等についてY1ら、Y5及びY4が知る由もなかったことなどの事情

いずれも否定。

Y1ら及びY県の負う損害賠償責任の範囲は、本件いじめ行為によって被ったAの精神的苦痛に対するものにとどまる。
  ①Y県は、安全配慮義務の1内容として、学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係と何らかの関連性がうかがわれる生徒の死亡事故等が発生した場合、遺族対応において、その心情等を著しく傷付けないよう配慮すべき義務(配慮義務)を追う。
②Xらが配慮義務違反であると主張した各行為のうち、Y6が著しく不適切な発言をして配慮義務に違反し、Y4は同校の行使を指導・監督すべき義務を尽くさなかった

Y県に配慮義務違反及び国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を肯定。
  県が債務不履行に基づく損害賠償責任を負う場合であっても、国賠法1条1項に基づく損害賠償を追う場合と同様、公共団体に対し賠償義務が認められれば賠償能力に欠けるところはない⇒公務員個人はその責を追わない。 
  解説 学校事故に関する最高裁昭和62.2.13:
「学校の教師は、学校における教育活動によって生ずるおそれのある危険から児童・生徒をほごすべき義務を負っている」 
  民事p61
さいたま地裁越川支部H28.12.22  
   
  事案 X1及びX1の母X2は、Y10(川越市)が設置する市立中学に在学していたY1、Y4、Y7が、同学年のX1に対し暴行を加え、遷延性意識障害を負わせた

①Y1、Y4、Y7に対し、共同不子方行為に基づき、
②前記3名の親権者であるY2、Y3、Y5、Y6、Y8、Y9に対し、監督義務違反を理由として、不法行為に基づき、
③Y10に対し、安全配慮義務違反を理由として、国賠法に基づき、
それぞれ損害賠償を求めた。 
  判断  ●上記①について
  暴行に至る経緯や暴行態様等を認定。Y1、Y4、Y7の加害少年3名は、「タイマン」名下にX1に対し順次暴行を加え、場合によっては共同して暴行を加えることを合意し、かかる合意に基づいてX1に対する暴行を実行。
⇒加害少年3名により一連の暴行とX1の傷害結果についての相当因果関係が認められ、加害少年3名は共同不法行為責任を負う。
●上記②について 
加害少年3名の生活態度、関与した事件及びこれらに対する親権者の指導状況等について認定⇒
①親権者は問題行動について指導を行っており、
②それ以上の措置をとらなければならないような切迫した状態にあったとも認められず、
③X1に対する暴行も予測し得ないものであった。
⇒親権者らの責任を否定。
●上記③について 
中学校の教員が負う注意義務:
学校教育の場自体においてのみならず、これと密接に関連する生活場面においても、生徒に対して、他の生徒からもたらされる生命、身体等に危険が及ぶおそれが具体的に予見される場合には、被害発生を防止すべき注意義務(結果回避義務)を追う。
①教員らは、X1が周囲の生徒から継続的なからかいの対象となっており、このことが暴力を伴う事件いまで発展していたことを認識し得、文科省の発した通知におけるいじめの定義に照らして、これがいじめに当たるものと評価し得た。
②X1と加害少年3名は、いずれも同学年の野球部員であり、学校教育の場と密接に関連する放課後や部活動終了後の帰宅までの間などの生活場面において行動を共にすることが多かった。

教員らは、前記生活場面においても、X1に対するからかいや嫌がらせが暴力を伴う事件にまで発展する事態を予見し得た。
加害少年3名によるX1に対する暴行は、冬休み期間中に学校外の公園で行われたものではあるが、部活動の後、時間を置かず、中学校に近い公園で行われた

学校教育の場と密接に関連する生活場面における事件と評価でき、
教員らにおいても予見可能であった。
教員らのとるべき措置として、いじめに関与した生徒らに対する適切な指導・監督及びX1の母であるX2への働きかけといった具体的な措置を検討した上で、教員らがこうした措置を講じることが可能であり、これによりX1に対する暴行を回避し得たにもかかわらず、教員らは前記措置をとらなかった。
⇒注意義務を怠った過失がある。
①教員らの認識してた事実を前提としてもいじめを認識できた
②X1と加害少年3名との関係等に照らし、暴行を受けるに至ったことにつき、X1、X2に考慮すべき過失があるとは認められない。

Y10らの過失相殺の主張を斥けた。 
●損害について 
在宅介護において不可欠な医療機関との連携について具体的な主張立証がないなど、現段階において在宅介護の蓋然性が著しく低く、これを前提とする介護費用等の損害は相当因果関係が認められない。

将来の介護費用等について、施設入所を前提とする限度でこれをみとめた
  解説 学校の教員が負う注意義務については、
学校における教育活動によって生ずるおそれのある危険から児童・生徒を保護すべき義務を負っている(最高裁)ところ、
その範囲については、学校教育活動及びこれに密接に関連する生活関係に限定されるものと解されている。。
加害少年の親権者らの監護義務違反の有無について、
未成年者が責任能力を有する場合であっても監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認めるときは、
監護義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立(最高裁)。
  民事p86
新潟地裁H28.9.30
   
  商事p91
東京高裁H28.7.6 
   
  知財p96
知財高裁H28.11.30
   
  刑事p112
福岡高裁H28.12.20
   
  2337
  行政p3
最高裁H28.12.8  
  騒音を理由とする自衛隊航空機の運航差止訴訟
  事案 海上自衛隊及びアメリカ合衆国海軍が使用する厚木海軍飛行場の周辺に居住するXらが、自衛隊及びアメリカ合衆国軍隊の使用する航空機の発する騒音により精神的及び身体的被害を受けている

国を相手方として、行政事件訴訟法に基づき、
主位的には、厚木基地における毎日午後8時から午前8時までの間の運航等に係る差止めを
予備的には、これらの運行による一定の騒音をXらの居住地に到達させないこと等を求めた事案。

予備的請求に係る訴えは、主位的請求に係る訴えと実質的に同内容のものを公法上の当事者訴訟の形式に引き直して提起。
  経緯 厚木基地の周辺住民は、これまでも本件飛行場からの騒音被害を理由として、自衛隊機の運行差止め等を求める訴えを提起していたが、これらはいずれも民事訴訟として提起。
最高裁H5.2.25:
民事上の請求として自衛隊機の離着陸等の差止め及び自衛隊機の騒音の規制を求める訴えについて、
このような請求は、必然的に防衛庁長官に委ねられた自衛隊機の運航に関する権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含

行政訴訟としてどのような要件の下にどのような請求をすることができるかはともかくとして、(民事上の訴えとしては)不適法である旨を判示。 
  1審 ●自衛隊機運航差止請求に係る訴えについて:
法定抗告訴訟としての差止めの訴え(行訴訟3条7項、37条の4)にはなじまないが、
無名抗告訴訟(抗告訴訟のうち行訴法3条2項以下において個別の訴訟類型として法定されていないもの)として適法。 
防衛大臣は、毎日午後10時から午前6時まで、やむを得ないと認める場合を除き、自衛隊機を運航させてはならないとする限度で一部認容。
(予備的請求に係る訴えについては、いずれも不適法であるとして却下。)
●米軍機運航差止請求に係る訴えについて:
本件飛行場の使用許可という存在しない行政処分の差止めを求めるもの⇒不適法で却下。
予備的請求については、これを棄却し又は訴えを却下。
  原審 ●自衛隊機運航差止請求に係る訴えについて:
法定広告訴訟としての差止めの訴えの訴訟要件である「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められる。
防衛大臣は、平成28年12月31日までの間、やむを得ない事由に基づく場合を除き、本件飛行場において、毎日午後10時から午前6時まで、自衛隊機を運航させてはならないとする限度で一部認容すべきものと判断。
(予備的請求に係る訴えについては、いずれも不適法であるとして却下。)
  米軍機運航差止請求に係る訴えについては、一審と同旨。
  判断 原判決中、自衛隊機運航差止請求に係る国の敗訴部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消してXらの前記請求をいずれも棄却。
(予備的請求に係る訴えのうち、原判決に前記請求の認容部分と予備的併合の関係にある部分は、いずれも不適法であるとして却下。)
米軍機に係る請求に関するXらの上告について、上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除⇒これを棄却。
  規定 行訴法 第3条(抗告訴訟)
7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。
行訴法 第37条の4(差止めの訴えの要件)
差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。

5 差止めの訴えが第一項及び第三項に規定する要件に該当する場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきでないことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは裁決をすることがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、裁判所は、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずる判決をする。
  解説 ●行訴法37条の4第1項所定の「重大な損害を生ずるおそれ」があるとの要件
行訴法の平成16年改正⇒法定抗告訴訟の新たな類型として創設された差止めの訴え(行訴法3条7項、37条の4)
~処分又は裁決がされることにより「重大な損害が生ずるおそれがある場合に限り」提起することができるものとされている(行訴法37条の4第1項)。

差止めの訴えは、取消訴訟と異なり、処分等がされる前に、行政庁がその処分等をしてはならない旨を裁判所が命ずることを求める事前救済のための訴訟

そのための要件は
①国民の権利利益の実効的な救済の観点を考慮するとともに、
②司法と行政の役割分担の在り方を踏まえた適切なものとする必要

事前救済を求めるにふさわしい救済の必要性がある場合に限り認めるのが適当。
「重大な損害を生ずるおそれ」があるの要件の判断基準:
最高裁H24.2.9:
処分がされることにより生ずるおそれのある損害が、
①処分がされた後に取消訴訟又は無効確認訴訟を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができものではなく、
②処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なもの
であることを要する。

差止めの訴えの制度創設の趣旨に沿って、事後救済の争訟方法との関係を踏まえ、差止めの訴えの適法性を基礎付ける事前救済の必要性の有無を判定する上での一般的な判断基準を示したもの。
本判決:
①本件飛行場の航空機騒音による被害の性質及び程度
②そのような被害を反復継続的に受け、蓄積していくおそれがあることによる損害の回復の困難の程度等

Xらに生ずるおそれのある損害は、事後の方法により容易に救済を受けることができるものとはいえない。

自衛隊機の運行の内容、性質を勘案しても、Xらの自衛隊機運航差止請求に係る訴えは、「重大な損害を生ずるおそれ」があるとの要件を満たす。
●行訴法37条の4第5項の差止めの訴えの本案要件について
行訴法37条の4第5項は、
裁量処分に関しては、行政庁がその処分をすることがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるときに差止めを命ずる旨を定める

個々の事案ごとの具体的な事実関係の下で、当該処分をすることが当該行政庁の裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められることを差止めの本案要件とするもの。
行政裁量に対する司法審査に当たっては、法が処分を行政庁の裁量に委ねるものとした趣旨、目的、範囲は一様ではない⇒これに応じて裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法とされる場合もそれぞれ異なる⇒当該処分ごとに検討すべき。
本判決:
自衛隊機の運航に係る防衛大臣の権限の行使の内容や性質等について検討。
前記権限の行使が裁量権の範囲を超え又はその濫用と認められるか否かについては、それが防衛大臣に委ねられた広範な裁量権の行使としてされることを前提として、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められるか否かという観点から審査を行うのが相当。
その検討に当たっては、当該飛行場において継続してきた自衛隊機の運航やそれによる騒音被害等に係る事実関係を踏まえた上で、当該飛行場における自衛隊機の運航の目的等に照らした公共性や公益性の有無及び程度、前記の自衛隊機の運航による騒音により周辺住民に生ずる被害の性質及び程度、当該被害を軽減するための措置の有無や内容等を総合考慮すべきものである。
前記権限の行使に関する防衛大臣の裁量が広範なものである。

防衛大臣は、我が国の防衛や公共の秩序の維持等の自衛隊に課せられた任務を確実かつ効率的に得遂行するため、自衛隊機の運航に係る権限を行使するものと認められるところ、
その権限の行使に当たっては、わが国の平和と安全、国民の生命、身体、財産等の保護に関わる内外の情勢、自衛隊機の運航の目的及び必要性の程度、同運航により周辺住民にもたらされる騒音による被害の性質及び程度等の諸般の事情を総合考慮してなされるべき高度の政策的、専門技術的な判断を要することが明らか。
前記の裁量審査に当たっては、自衛隊機の運航の公共性や公益性の有無及び程度のみならず、その騒音により周辺住民に生ずる被害の性質及び程度、被害軽減措置の有無や内容等についても総合考慮すべきもの。

自衛隊機の運航にはその性質上必然的に騒音の発生を伴うところ、自衛隊法107条1項及び4項は、航空機の運航の安全又は航空機の航行に起因する障害の防止を図るための航空法の規定の適用を大幅に除外しつつ、同条5項において、防衛大臣は航空機による災害を防止し、公共の安全を確保するため必要な措置を講じなければならない旨を定めていることなど、自衛隊機の運航の特殊性及びこれを踏まえた関係法令の規定の趣旨を考慮。
本件飛行場において継続してきた自衛隊機の運航やそれによる騒音被害等に係る事実関係

①前記運航には高度の公共性、公益性があるものと認められる
②Xらに生ずる被害は軽視できないものの、これらの被害の軽減のため、自衛隊機の運航に係る自主規制や周辺対策事業の実施など相応の対策措置が講じられていること
等の事情を総合考慮

本件飛行場において、将来にわたり前記運航が行われることが、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認めることは困難。

原判決とは異なり、前記権限行使がその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるときに当たるということはできない。
Xらが、本件訴えと並行して、国に対し、本件飛行場の航空機騒音につき国賠法2条1項に基づく損害賠償を求める民事訴訟を提起し、同民事訴訟においては、Xらの損害賠償請求が一部に認容。
  ●小池裁判官の補足意見: 
「重大な損害を生ずるおそれ」があるとの要件判断について、
自衛隊機の離着陸に係る運航を行政処分と捉えると、離着陸に伴い処分が完結
⇒事後的に取消訴訟等による救済を得る余地は認め難い。
自衛隊機運航請求に係る本案要件の有無について:
①自衛隊機の運航に係る防衛大臣の権限の行使は、あらかじめ一定の必要性、緊急性等に関する事由によって判断の範囲等を客観的に限定することが困難な性質を有し、防衛大臣の広範な裁量に委ねられている
②自衛隊の任務を遂行する中で、前記権限行使によって国民全体に関わる利益を守ることと騒音被害の発生という不利益を回避することは、その対応と調整に困難を伴う事柄であり、具体的な対応については、関連する状況の内容、程度等に応じて様々な態様をとるべきものであること
③前記の2つの要請が作用する中で、本件飛行場において相応の被害軽減措置を講じつつ自衛隊機を運航する行為が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものと認めることは困難であること
を指摘。
  行政p12
東京地裁H28.8.30 
  精神保健指定医の指定取消処分が争われた事例
  事案 精神保健指定の指定を受け、A大学病院に神経精神科の医長として勤務していた医師である原告が、本件病院に勤務する医師が指定医の指定の申請に際して提出した虚偽の内容の書面に確認の証明文を付す指導医として署名

処分行政庁から、平成27年6月19日付で指定医の指定の取消処分を受けるとともに、
同年10月1日付で、同月15日から同年12月14日までの期間医業の停止を命ずる処分を受けた

処分行政庁の所属する国を被告として、本件指定取消処分及び本件医業停止処分がいずれも処分要件を充足せず、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用してされた違法なものであり、手続上も違法

前記各処分の取消しを求めるとともに、国賠法1条1項に基づき、前記各処分につきそれぞれ100万円の損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた。 
  争点 ①本件指定取消処分該当性の有無及び処分選択の適否
②本件指定取消処分の手続上の違法事由の有無
③本件医業停止処分の取消しを求める訴えの利益の有無
④本件医業停止処分の処分事該当性の有無及び処分選択の適否
⑤本件医業停止処分の手続上の違法事由の有無
  判断 ●争点①について
指定医の申請者への指導、ケースレポートの内容の確認が、精神保健及び精神障碍者福祉に関する法律(「精神福祉法」)19条の2の定める「職務」に当たる。
同項の「その職務に関し著しく不当な行為を行ったときその他指定医として著しく不適当と認められるとき」に該当するか否か、指定の取消し又は職務の停止のいずれの処分を選択するかは、法令上具体的な基準が定められていない

厚生労働大臣の合理的裁量に委ねられている。

原告が、ケースレポートを作成する申請者に対する指導・確認を怠ったことに基づき、精神保健医としての指定を取り消したことは適法。
  ●争点②について 
聴聞の通知を受けた医師が聴聞の期日までの間に本件病院の他の医師ら等の関係者と通謀して証拠隠滅工作等を行う可能性を想定し、本件聴聞期日の2日前に同送付書を送付したことには合理的な理由があった
⇒手続的違法はない。
  ●争点③について 
処分を受けたことを理由とする不利益な取扱いを定める法令の規定がある場合に、当該者が将来において前記の不利益な取扱いの対象となる規定があるときは訴えの利益があるが、
処分を受けることを理由とする将来の処分における情状として事実上考慮される可能性があるにとどまる時は、法律上の利益があるとはいえない。
⇒本件訴えは訴えの利益がなく、不適法。
  ●争点④について 
医師法7条2項の規定は、医師に同項の引用する同法4条各号の欠格事由があった場合に、厚生労働大臣が、当該医師に対し、医師免許の取消し、3年以内の医業の停止又は戒告の処分をすることができる旨を定めているところ、いかなる処分をなすかは厚生労働大臣の合理的裁量に委ねられている。

原告が、ケースレポートを作成する申請者に対する指導・確認を怠ったことについて、2か月間の医業停止処分をしたことは適法。
  ●争点⑤について 
理由提示、弁明の機会の付与について手続上の違法はない。
  解説  ●争点①について
  精神福祉法19条の2第2項は、指定医の指定の取消し又は職務の停止に係る処分事由として、
「その職務に関し著しく不当な行為を行ったときその他指定医として著しく不適当と認められるとき」を挙げている。

平成11年の改正により、指定の取消しに加えて、期間を定めてその職務の停止を命ずることができるという規定が設けられたもの。
  厚生労働大臣がその裁量権の行使としてした処分は、それが社会観念上著しく妥当性を欠いており、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認められる場合でなければ違法とはならない(最高裁昭和63.7.1)。
but
平成9年6月27日の公衆衛生審議会精神保健福祉部会における「精神保健指定医の取消しについて」という資料では、
職務に関し著しく不当な行為を行ったときの例として、
主として患者の人権侵害があった場合を挙げており、行政規則の裁量基準に準じた位置づけを有していた可能性がある。

申請者がケースレポートを作成する際の指導・確認を原告が怠ったことについて、職務の停止ではなく、指定の取消しをしたことは、比例原則に照らし、やや重すぎるのではないか(いったん保険医の指定を取り消されると、5年間は再登録ができないという事情があるようである。)との見解もあり得る。
  ●争点②について 
行政手続法の定める聴聞手続(同法13条)は、処分の公正の確保と処分に至る行政手続の透明性の向上を図り、当該処分の名宛人となるべき者の権利利益の保護を図る観点から、処分の原因となる事実について、その名宛人となるべき者に対して防御の機会を保障する趣旨のもの。

同法15条1項にいう聴聞の通知から期日までの「相当な期間」は、不利益処分の内容や性質に照らして、その名宛人となるべき者が防御の機会を準備するのに必要な期間とみるのが相当であり、
同項1号及び2号所定の通知事項である「予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項」及び「不利益処分の原因となる事実」については、不利益処分の名宛人となるべき者にとって、その者の防御権の行使を妨げない程度に、行政庁がどのような事実を把握しているかを認識できる程度の具体性をもって具体的事実が記載されていることが必要。
本判決は、防御の機会を与え、審議を尽くす利益よりも、証拠隠滅の防止の利益の方が優先するとし、聴聞会の2日前に通知書を発し前日に届いた措置を適法とした。
~証拠状況によっては、異なる判断もあり得たであろうし、異論もあり得る。
  ●争点③について 
処分の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった場合には、当該処分を受けた者がその取消しを求める訴えの利益は失われるのが原則。
but
当該者がその場合においてもなお処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有するときは、その取消しを求める訴えの利益は失われない(行訴法9条1項括弧書き)。
そして、処分を受けたことを理由とする不利益な取扱いを定める法令の規定がある場合に、当該者が将来において前記の不利益な取扱いの対象となる規定があるときは訴えの利益がある。
but
処分を受けることを理由とする将来の処分における情状として事実上考慮される可能性があるにとどまる時は、法律上の利益があるとはいえない(最高裁昭和55.11.25)。
精神福祉法19条の2第1項が
「指定医がその医師免許を取り消され、又は期間を定めて医業の停止を命ぜられたときは、厚生労働大臣は、その指定を取り消さなければならない」としている。

医業の停止が保険医の指定の取消事由になることが法定されている以上、処分を受けたことを理由とする不利益な取扱いを定める法令の規定がある場合に当たる可能性がありえる。
本件で、保険医の指定の取消しは医業の停止よりも前になされているため、直接の処分理由とはされていないが、不利益な取扱いを定める法令の規定自体は存在すると考えることも可能。
  行政p29
津地裁H28.12.8  
   
  事案 自宅に隣接した場所に折り畳み式ゴミボックスを設置された住民が、本件ゴミボックス設置を許可した道路占有許可処分の取消しを求める原告適格があるのか否かが問題となった事案。 
Xが取消の理由としているのは、
①本件ゴミボックスの設置により、Xは交通上の危険にさらされており、安全な交通環境等で生活する利益を侵害された
②Xは自宅敷地の利用を制限され自宅敷地の市場価値も下落する
  争点 Xに本件処分の取消しを求める原告適格があるのか否か 
  規定 行訴法 第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
  判断 道路法が道路の占有について制限を設けた趣旨及び目的は、道路の構造を保全し、交通の障害を防止することによって、広く一般的公益を保護することにあり、同規定において考慮されている利益は、一般に道路を利用する者が共通して持つ一般的な利益であり、当該道路近隣の居住者の利益の保護は、前記一般的公益の保護の結果として、反射的に実現されるにすぎない。 
道交法についても、当該道路の近隣の居住者の利益保護は、道路における危険が防止され、円滑な交通が保たれるという一般的な利益が確保される結果として、反射的に実現されるにすぎない。
以上のような道路法32条、道交法77条の各規定の趣旨及び目的、これらの規定が道路占有許可、道路使用許可を通じて保護しようとしている利益の内容及び性質を考慮
⇒本件設置場所に隣接して居住するXの安全な交通環境等の生活上の利益及び財産権が一般的な利益以上に個別具体的な利益として保護されているとはいえない。

Xの本件処分の取消しをもとめる原告適格はない。
  解説 行訴訟9条1項の「」法律上の利益を有する者 について、法律上保護された利益説。
①処分行政庁B社に対してしたガス管の埋設を目的とする道路占有許可処分の取消訴訟で、原告的確を肯定したが請求を棄却した事案。
②墓地経営許可処分がされた土地の周辺住民のうち、違法な墓地経営に起因する周辺の衛生環境悪化により健康又は生活環境の著しい被害を直接に受けるおそれのあるものには原告適格があるとした事例。
③産業廃棄物処理施設付近に居住する住民が施設設置許可処分の取消訴訟の原告適格を肯定した事例。
④成田空港への航空機燃料輸送暫定パイプライン埋設のための道路占有許可処分をしたところ、住民からの取消訴訟について原告適格を否定した事例、
⑤道路法92条の不用物件の管理者がした使用承諾処分により営業上重大な支障を被った第三者の取消訴訟について原告適格を肯定した事例。
  民事p34
最高裁H29.4.6  
   
  事案 亡Xの共同相続人の1人であるXが、亡Cが信用金庫であるYに対して有していた普通預金債権、定期預金債権及び定期積金債権(本件預金等債権)を相続分に応じて分割取得したと主張⇒Yに対し、その法定相続分相当額の支払等を求めた
亡きCのその他の相続人であるA等がYに補助参加 
  原審 本件預金等債権は当然に相続分に応じて分割される⇒Xの請求を一部認容 
  判断 共同相続された定期預金債権及び定期積金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない。 
  解説  共同相続された普通預金債権が相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるものでない(最高裁H28.12.19)。 
平成28年大法廷決定は、ゆうちょ銀行の定期預金債権についても同様の結論となることを判示しており、この考え方はゆうちょ銀行以外の金融機関の定期預金・定期貯金にも及ぶものと考えられていた。
一部支払が可能である旨の特約は、定期預金の基本的性質を変更するものではない。
定期積金:期限を定めて一定金額の給付を行うことを約して、定期に又は一定の期間内において数回にわたり受け入れる金銭(銀行法2条3項) 
定期積金契約とは、金融機関が、あらかじめ一定の期間を定め、一定の期日に所定の金額の掛金を受け入れ、満期時に掛金総額と給付補填金を合計した一定の金額(給付金)を給付する諾成の有償片務契約であるが、その私法的性質において預金と区別する理由に乏しいとされている。
定期積金における給付補填金は、預金の元本に相当する掛金総額に加算して給付される金額⇒経済的には預金の利子と同じ実質を有する。
相続開始と同時に当然に分割されるか(共同相続人全員の同意の有無にかかわらず遺産分割の対象となるか)という点について定期積金債権と定期預金債権と区別する理由はない。
原告が相続により取得したと主張する分割単独債権について給付を求める訴訟を提起⇒原告の請求は棄却。
(給付の訴えにおいては、自らがその給付を請求する権利を有すると主張する者に原告適格がある(最高裁))
この場合の請求棄却判決の既判力は、原告と他の共同相続人との準共有債権を訴訟物とする訴訟には及ばないものと解される。
(不動産について原告が所有権を有しない旨の確定判決の既判力が原告の共有持分権を訴訟物とする訴訟に及ぶのとは異なり、前訴と後訴の訴訟物の間に内包関係がない。)
原告が他の共同相続人と準共有する債権について給付を求める訴訟を提起する場合、1個の物を共有する数名の者全員が共同原告となり、共有権(その数名が共同して有する1個の所有権)に基づきその確認を求める訴訟(最高裁昭和46.10.7)と同様に、固有必要的共同訴訟となるものと解される。
本判決は、平成28年大法廷決定の直接の射程の外にあった定期預金及び定期積金についても同じ法理が妥当することを示したもの。 
  民事p39
千葉地裁松戸支部H28.3.25  
   
  事案 A社(代表取締役B)は、弁護士法人であるY1に自己破産の申立を委任し、Y1の社員であるY2が担当。
Xが破産管財人に選任された。
  ①Y2がA社の財産からBに対し役員報酬等として115万8220円を支払うなどしたこと、②破産申立ての弁護士報酬として相当金額を250万円を上回る金銭及びゴルフ預託金回収の弁護士報酬として800万円をY1に入金したことは、破産申立代理人として負うべき財産散逸防止義務に違反しており、不法行為に該当。

Xが、Y1に対しては、弁護士法30条委の30第1項、会社法600条に基づいて、
Y2に対しては、民法709条に基づいて、
それぞれ損害金合計1165万8220円の支払を求めた事案。
Y2がXに対して、XのYらに対する前記損害賠償請求の訴えの提起等が不法行為に該当すると主張して、慰謝料30万円の支払を求める訴えを提起。
  判断 債務者から破産申立てを受任した弁護士(弁護士法人)は、破産制度の趣旨に照らし、破産管財人に引き継がれるまで債務者の財産が散逸することのないよう、必要な措置を取るべき法的義務(財産散逸義務)を負い、この義務に違反して破産財団を構成すべき財産を減少・消失させたときは、不法行為を構成するものとして、破産管財人に対し、損害賠償責任を負う。
Y2がA社の財産からbに支払うなどした115万円は、本件委任契約以降破産開始手続申立てまでのBの職務執行の対価である報酬と認めるのが相当であり、一般破産債権にすぎない取締役の報酬債権の支払は偏頗弁済に当たり、破産財団を構成すべき財産の減少を招いた。

Y2がA社の財産からBに支払うなどした金銭の内前記115万円を含む115万8220円について、Y2の不法行為が成立。
●  破産申立代理人が破産者から支払を受ける弁護士報酬は、破産手続においては、役務の提供と合理的均衡を失する場合、合理的均衡を失する部分の支払行為は、破産債権者の利益を害する行為として否認の対象となり、その支払を受領することは破産財団を構成すべき財産を減少させたもの。
具体的な弁護士報酬の額が役務の提供と合理的均衡を失するか否かの判断は、客観的な弁護士報酬の相当額との比較において行うのが相当であり、
事件の経済的利益、事案の難易、弁護士が要した労力の程度及びその時間その他の事情を考慮し、日弁連が定めた旧日弁連報酬基準、弁護士の報酬に関する規程等も斟酌し、総合的に勘案すべき。
本件委任契約における前記諸事情を斟酌すると、本件委任契約の弁護士報酬相当額は200万円を上回ることはない⇒弁護士報酬450万円のうち200万円を超える部分は、Y2の役務の提供と合理的均衡を失する
⇒Y2がその部分をY1に入金したことについて、不法行為が成立。
ゴルフ預託金回収の弁護士報酬相当額は、前記諸事情を斟酌すると、530万円を上回ることはない。
⇒弁護士報酬800万円のうち530万円を超える部分は、役務の提供と合理的均衡を失するものであり、Y2がその部分をY1に入金したことについて、不法行為が成立。 
ゴルフ預託金を全額又はこれに近い金額回収することは通常容易ではなく、Y2はゴルフ預託金2100万円のうち1600万円を回収しており、破産申立て代理人としては可及的速やかに破産手続開始申立てを行うことが望ましいものの、ゴルフ預託金の回収行為が当然に財産散逸防止義務違反になるとまでは言い難い。
⇒弁護士報酬800万円全額についての不法行為の成立は認めなかった。 
  解説 労働者に対する給与等は破産手続開始後は財団債権となる⇒その支払から破産財団を構成すべき財産を減少させるものとはいえない。
but
代表者の報酬は一般の破産債権にすぎない⇒その支払は他の破産債権者との関係で偏頗弁済に当たる。 
弁護士報酬の支払について否認権の行使が認められた裁判例はあるが、本件では、否認権の行使ではなく、不法行為に基づく損害賠償として請求。
  民事p49
京都地裁H28.2.18  
   
  事案 福島第一原発事故⇒
自主避難等対象区域(中間指針等に基づくもの)内の自宅から家族で自主避難原告らが、福島第一原発を設置・運営するY(東京電力)に対し、本件事故の結果、X1らが自宅から避難せざるを得なくなった上、X1(父)が精神疾患に罹患し、X1(父)及びX2(母)は就労が出来なくなった

原賠法3条1項に基づいて、
X1は自主避難に伴う費用、通院に伴う費用、休業損害、慰謝料等、
X2は休業損害、慰謝料等
X3~X5は、慰謝料等
の損害賠償を求めた。
  争点 本件事故と相当因果関係の認められるX1らの損害の範囲
①避難先で起業が奏功しなかったため更に転居したことが自主避難として合理的であり、これによってX1に生じた損害につきYが賠償責任を負うか
②自主避難を継続する合理性が認められる期間
③本件事故とX1の精神疾患の発症との相当因果関係の有無
④本件事故がX1の精神疾患の発症に寄与した度合い
⑤本件事故と相当因果関係のあるsン買いは、中間指針等により示された損害に限られるか
  判断 ●争点①について
X1らが当該転居の主な理由とする避難先で起業を計画したその見通しが立たなかったことについて:
①起業は自主避難者としての合理的行動とはいえない
②起業が奏功しなかった責任は本来的に当人に帰すべきものである
⇒特段の事情のない限り合理的な理由とはいえない。
③本件では同事情は認められない。

再度の転居の理由についても、合理性は認められない。
  ●争点②について 
①政府の要請に基づき設置されたワーキンググループの報告書をはじめとした低線量被ばくの危険性に関する科学的知見等を根拠に、年間20mSvを下回る被ばくが健康に被害を与えるとは認められない
②同知見の内容、その周知状況、自主避難等対象区域内のX1らの自宅所在地付近の放射線量の推移、本件における主張関係等を考慮

平成24年8月31日(中間指針等に基づき、18歳以下及び妊娠していた者につき、Yが精神的損害等を賠償する対象期間の終期)以降、X1らが自主避難を続けることに合理性は求められない。
  ●争点③について 
PTSDについては、
本件事故が原因で同疾患に罹患したという医師の診断書を排除。
PTSDの診断基準を満たすとは認められない
⇒本件事故との因果関係を否定。
うつ病については、精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会が報告している具体的な出来事に係る心理的負荷の強度を掲げた上で、
本件事故に起因してX1は種々のストレス要因にさらされた
⇒本件事故との因果関係を肯定
  ●争点④について 
X1のうつ病の悪化については、自主避難者の行動として合理性を欠くX1の様々な行動等に伴うストレスが相当程度寄与

民法722条2項類推適用により、うつ病に伴う損害の賠償責任を減じている。
  ●争点⑤について 
中間指針等は本件事故に基づき賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示したものにすぎない
⇒中間指針等の対象にならなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではない。
  解説 本件事故からの自主避難者によるYへの損害賠償請求を認めた初めての判決。 
自主避難中の再度の転居に自主避難としての合理性がないと判断したが、一般論を述べたものではないと理解すべき。
自主避難中に起業を選択することや、それに伴い生じた損害をYに負担させることが相当とされる事情が認められる場合は、その合理性が認めらる場合もあり得る。
but
①放射線被ばくの危険性が解消されるまでの間暫定的に非難を続けるという自主避難の性質
②起業は失敗により経済的損失を拡大するリスクを内包
③成功しても資本の回収に長時間を要することがある

避難者が起業を選択したことにより生じた損害の賠償責任をYに負わせることが相当とされる事情が認められる場合はそれほど多くないと思われる。
低線量被ばくによる危険性についての判断がただちに自主避難を継続する合理的期間を決定するのではなく、危険性が残存しているといえない場合であっても、危険性に関する情報開示が十分でない状況であれば、自主避難を続けることに合理性は認められる。

自主避難継続の合理性の立証責任は自主避難者の側にあることを前提として、本件事案における主張立証状況を踏まえた上での判断。
民法722条2項類推適用により寄与度減額による割合的解決。
  民事p69
宇都宮地裁H29.2.2  
   
  事案 Yの設置するA小学校の給食に出された白玉汁の白玉団子を食べた小学1年生Bが、白玉団子を喉に詰まらせて窒息し、脳死状態となり、約3年後に死亡
⇒小学校職員等に白玉団子の提供方法や誤飲事故の救命措置に過失がないか否かが問題となった事案。 
  争点 ①大きさ直系2センチ強の白玉団子を白玉汁の形で提供したことに過失があるか
②本件事故発生後の学校の対応に過失があるか 
  判断 Bが誤嚥する具体的危険性を予見させる兆候はなかった
⇒A小学校ないし給食センターの過失はない
教員らは、本件事故を察知してから2分ないし3分後には救急車を要請している⇒救急車の要請が遅れたとの評価はできない。
①職員らは、Bが自立できているうちは背部叩打法(=傷病者を立位又は座位にし、傷病者の上半身を前のめりにし、背後から左右の肩甲骨の真ん中辺りの背中を手掌基部で連続して叩く手法)を試み、Bがぐったりして自立できなくなってからは心臓マッサージと人工呼吸の手続を行うなどしている。
②ハイムリック法(=傷病者の後ろから両腕を回し、みぞおちの下で片手の手を握り拳にして、腹部を上方に圧迫する手法)については、15歳以下の児童の 場合、「内臓損傷、胃内容物の気管内への流入の可能性があることを念頭に入れて処置しなくてはならないとされており、職員らが当時7歳で大柄でもないBに対し、既に行っている背部叩打法のほかにハイムリック法を行うべき義務はない
⇒Yの責任を否定。
  解説 学校給食は、学校に在学するすべての児童又は生徒に対し実施されるものであり、学校給食の安全性につき、安全配慮義務を学校に課している。 
責任肯定事例:
①学校給食で出されたそばを食べ、食物アレルギーで窒息死した事案
②学校給食を食べて食中毒を起こした事案
責任否定事例:
③学校給食中に食器が破損して失明した事案
④養護学校の給食時間に、摂食指導中、2度にわたり誤嚥により呼吸困難に陥り、入院を経て死亡した事案
1歳9か月の幼児がこんにゃくゼリーを食べ、喉に詰まらせて死亡した事案につき、製造販売会社の責任を否定した大阪高裁H24.5.25
  知財p79
知財高裁H28.11.30  
   
  事案 Xは、本願意匠(物品「吸入器」)の登録出願⇒拒絶査定⇒不服の審判を請求⇒特許庁は、本願意匠は引用意匠に類似する意匠であるから意匠法3条1項3号に該当するとして、不成立審判⇒Xが、同審決の取消しを求めた。
  規定 意匠法 第3条(意匠登録の要件)
工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる。
一 意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠
二 意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた意匠
三 前二号に掲げる意匠に類似する意匠

2 意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは、その意匠(前項各号に掲げるものを除く。)については、前項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。
意匠法 第24条(登録意匠の範囲等)
登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添附した図面に記載され又は願書に添附した写真、ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基いて定めなければならない。
2 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。
  判断   本件意匠は、引用意匠と類似するとはいえず、意匠法3条1項3号に該当しない⇒本件審決の判断は誤りであるとして、審決を取り消した。
  ●量意匠に係る物品の需要者 
意匠に係る物品は、いずれも使用者が本体部を持って、マウスピース部から薬剤を吸引するための吸引器に関するものであり、その需要者は、当該薬剤を吸引する必要のある患者及び医療関係者。
需要者である患者は、薬剤を必要とする際に吸入器を使用するものであって、その使用方法は、本体部を持って、マウスピース部を口にくわえて、薬剤を吸引するというものであり、両意匠に係る物品を、このような使用状況に応じて観察。
需要者である医療関係者は、患者が薬剤を適切に吸引できるよう、薬剤の性質に応じた吸引の機能を有しているか否か、患者の症状や属性に応じた使用が可能か否かという観点から、両意匠に係る物品を観察し、選択。

持ちやすさや使いやすさという観点からは、吸入器全体の基本的構成態様が需要者の注意を惹く部分であるとともに、
薬剤の吸引という吸入器の機能の観点からは、患者が薬剤を吸引するマウスピース部の端部の形態が最も強く需要者の注意を惹く部分。
  ●基本的構成態様
意匠に係る物品の基本的な構成は、必然的に限定される。
基本的構成態様と同様の態様を有する吸入器がありふれたものとして存在。

基本的構成態様は、需要者である患者及び医療関係者の注意を強く惹くものとはいえない。
  ●具体的構成態様 
本願意匠のマウスピース部の端部に形成された円形孔は、特に機能を重視する医療関係者に対し、強い印象を与えるものということができ、患者についても同様。
引用意匠のマウスピース部の端部のような態様の吸入部は、ありふれたもの。

本願意匠のマウスピース部の端部に円形孔が形成されている点は、最も強く需要者の注意を惹く部分。
  ●両意匠の類否 
両意匠に係る物品の性質、用途及び使用態様並びに公知意匠との関係を総合すれば、
マウスピース部の端部の形態の相違は、需要者である患者及び医療関係者らの注意を強く惹き、視覚を通じて起こさせる美感に大きな影響。

マウスピース部の端部についての相違点は、それ以外の共通点から生じる印象に埋没するものではない。
  解説 意匠登録出願前に日本国内又は外国において、公然知られた意匠又は頒布された刊行物に記載された意匠等(「公知意匠」)に類似する意匠は、意匠登録を受けることができない(意匠法3条1項3号)。 
意匠法3条1項3号の類似性について、
最高裁昭和49.3.19において、「一般需要者の立場からみた美観の類否を問題とする」旨説示され、平成18年法律第55号により新設された意匠法24条2項には、「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする」と規定。
最高裁昭和49.3.19:
意匠法3条1項3号の類似性と同条2項の創作容易性とは別個の観念であるとした。
この2つは、ともに創作性の要件に関するものではあるが、
同条1項3号は、「公知意匠と構成要素において部分的差異があっても、その全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面においてなんら異なるところのない意匠は、本質的に公知意匠に含まれるものであり、創作として未知のものと評価するに値しない」ことから、類似の意匠として登録しないこととしたもの(最判解説)。
類似性の判断主体は、需要者であると理解されているところ、かかる需要者は「当該意匠に係る物品の分野に通暁した専門家ではないが、先行意匠にもある程度の予備知識のある取引者を含めた需要者が想定されているもの」と解される。
本判決は、類似性の判断主体である需要者に着目し、その観察、選択態様を具体的に着目し、その観察、選択態様を具体的に考察して、需要者の注意を惹く部分の認定評価を行った点が特徴的。
  商事p88
東京地裁H28.6.3  
   
  事案 一般乗用・貸切旅客自動車運送事業等を営むX株式会社が、税理士Yから株式会社Aの発行済株式の全部を譲り受ける旨の契約を締結⇒株式譲渡の実行後に、その実行前におけるAの純資産の変動及び簿外債務の存在が判明⇒Yに対し、株式譲渡契約上の価格調整条項に基づく譲渡価格の減額及びYの表明保証違反に基づく損害賠償を求めた。 
判断・解説  ●株式譲渡契約上の価格調整条項:
基準貸借対照表における純資産額に変動が生じた場合に、それに応じて譲渡価格を増減し、事後的に清算する旨の価格調整条項。
X:当該条項に基づき純資産額の減少に伴う譲渡価格の減額を主張
Y:Aの所有不動産の評価額の増加分を考慮すべきとして、純資産額の増加を主張
価格調査条項は、譲渡価格決定の基礎となる財産状況が資産された日(基準日)から実際の株式譲渡日までの間に対象会社の流動資産自体又はその評価に変動が生じる可能性があることを考慮してのもの。
不動産については、基準日から株式譲渡日までの間という比較的短期間(本件では約1ヶ月半)に評価額の変動が生じる可能性は低い⇒譲渡価格の調整に際して考慮すべき資産とはならない。

①Aの所有不動産の評価額が譲渡価格の決定に当たって当事者間で合意されていた。
②基準貸借対照表において、現金化可能な資産など評価額の変動が生じる可能性のある資産・負債の項目に徴が付されていた。
東京地裁H20.12.17:
譲渡価格の調整の基礎とされる株式譲渡実行時点の貸借対照表の確定手続が争われたものであるが、
価格調整において買収対象事業の再評価をすることは想定されていなかったこと等、当事者間の合意内容に関する詳細な事実認定
⇒基準貸借対照表における会計処理の原則を変更することは許容されない。
  ●簿外債務の存否
Yによる表明保証の内容として、基準貸借対照表が適正な会計基準に基づいて作成されており、そこに記載されていない簿外債務及び偶発債務等は存在しない旨規定。
Xは、
①Aの積立てていた事故対策費が従業員への返還義務を伴う預り金であること
②Aが基準貸借対照表に記載されていない借入債務を負っていたこと
を主張し、表明保証違反に基づく損害賠償を請求。
判決は、Xの主張を認め、簿外債務に相当する金額について、Yに損害賠償を命じた。
①価格調整条項に基づく譲渡価格の減額と②表明保証違反に基づく補償請求は、実質的に重複することも少なくないところ、本判決は、そのような場合に価格調整条項による処理を行った例。
  刑事p93
東京高裁H28.6.22  
   
  事案 少年(当時17歳)を含む5名の男子少年が、被害女性が当時18歳に満たないものであることを知りながら、同女にいわゆる野球拳を行った後、順次性的行為を行い、もって、青少年に対して、単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められない性行為をした。 
  原決定 少年の行為が、千葉県青少年健全育成条例20条1項(みだらな性行為等の禁止)に当たる⇒同項違反の非行事実を認定し、少年に対し、第1種少年院に送致する旨の決定。 
  抗告 ①本条例の解釈を誤った法令違反
②重大な事実の誤認
③処分の著しい不当 
  問題 本条例30条本文は、「この条例に違反した者が青少年(=小学校就学の始期から18歳に達するまでの者をいう、本条例6条1号)であるときは、この条例の罰則は、青少年に対しては適用しない。」と規定。 
家庭裁判所で保護処分の決定をする場合の「罪を犯した少年(少年法3条1項1号)」については、刑の減免自由、処罰阻却事由がある場合でも、犯罪が成立している以上、犯罪少年として審判に付することができると解されている。

本条例30条本文が、構成要件該当性や違法性を阻却する趣旨ではなく、単に処罰阻却の趣旨であれば、本条例20条1項違反の行為を行った少年に対し、同事実を非行事実として保護処分の決定をすることができる。
  判断 本条例20条1項違反の行為を非行事実とする保護処分を認めた原決定を是認。

(性行為やわいせつんは行為が未成熟な青少年に与える影響の大きさ⇒このような行為から青少年を保護するという本条例20条の目的は、行為者が青少年か否かで異なるものではなく、同条が「何人も」と規定しているのはその表れ
⇒本条例30条本文は、青少年の行為については、処罰を免除するということを規定したものであり、少年の保護、教育を目的とする保護処分に付することは可能。) 
  刑事p97
神戸地裁H27.11.13  
   
  事案 被告人は、首謀者(女性)の義理のいとこであるが、首謀者Aを中心とする共同体(A一家)の一員として、Aら共犯者と共謀の上、
①Aの義妹Bの戸籍上の夫V1に対する保険金目的の殺人とその保険金の詐欺(第1)
②Aらの虐待に耐えかねて行方をくらましていたV4に対する生命身体加害略取、傷害致死(第2)
③Aらの虐待に耐えかねて行方をくらましていたV4の長女V2に対する監禁、殺人と、Aの怒りを買ったA一家の家政婦的存在であったV3に対する監禁(第3)
④A一家が財産目的で介入していた家族から預かっていた女児の胸を触ったとしてAの怒りを買ったV5に対する逮捕監禁、殺人、死体遺棄(第4)
により起訴。 
  争点 ①第1について、他人に自殺するよう働き掛けた場合に殺人(未遂)罪が成立するか、仮に成立するとして、被告人に殺意及び共謀が認められるか
②第2について、被告人が傷害致死の実行行為を行ったのを見たという目撃者の証言の信用性
③第3、第4について、いずれも、被害者に対する行為を殺人罪の実行行為と評価することができるか、仮にできるとして、被告人に殺意及び共謀が認められるか
  判断   いずれの点についても肯定し、被告人に殺意及び共謀が認められるとした。
  ●第1について 
自殺関与罪(自殺教唆罪)なのか、被害者を利用した殺人(未遂)なのかについて、
他人の意思決定の自由を完全に失わせるに至らない場合であっても、単なる働き掛けの域を超え、暴行や脅迫、偽計等を用いて他人を自殺する以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせた結果、その者が自殺行為に及んだ場合は、刑法199条(203条)の構成要件に該当。
被害者が崖から飛び降りて死ぬに至った経緯について詳細に検討⇒自殺する以外に選択することができない精神状態に陥らせた。
  ●第2について 
①目撃証言が、捜査機関の求めに応じて被害者の頭部CT写真や診療録等の分析を求められた頭部外傷の専門家である医師の証言に裏付けられている
②被告人の犯行を捜査機関に告白した経緯・状況に作為性が感じられず、被告人を陥れようとする意図がうかがわれない
③証言の信用性を補強する別人(C)の証言がある

その信用性を肯定。
  ●第3、第4について、 
第3の犯行:
7月頃から被害者をベランダに置いた簡易物置の中に閉じ込める中、数か月間にわたって継続的に監禁、暴行、飲食睡眠の制限、排泄・入浴制限による不衛生等の数々の虐待を加えたことにより11月中旬頃の時点で、監禁下で虐待を継続する行為は、客観的にみて、被害者の生命を大きな危険にさらす行為
⇒殺人罪の実行行為に該当する。
第4の犯行:
7月に前記物置に入れた被害者をビニールひもや手錠等を用いて緊縛した上で殴る蹴るなどの暴行を加え、2日以上正座を強制して飲食を制限した場合も、客観的にみて、被害者の生命を大きな危険にさらす行為
⇒殺人罪の実行行為に該当する。
被告人が、これらについて、被害者が死亡する危険性があるとは思わなかったと供述

単に他人の生死に無頓着になっていたために、自分の行為の違法性について意識を喚起できなかっただけであって、このような合理的根拠に基づかない憶測をもって殺意を否定することなどできない。
  量刑について:
検察官は無期懲役刑の求刑。
判決:
一連の犯行によって3人が殺害され、1人が死亡させられるという極めて重大な結果。
被告人は、いずれの犯行においても、主犯であるAに匹敵するほどの重要な役割を積極的に果たした。
⇒死刑を選択する余地も含めて検討すべき。

①被告人がAに比べて従たる役割であったことは否定できない
②被告人をAと全く同列には論じられない
⇒結論的には、死刑の選択には躊躇せざるを得ないとして、求刑通り無期懲役刑。 
2336   
  行政p28
最高裁H29.2.28  
  私道の用に供されている宅地の相続税における財産評価での減額の要否等
  事案 共同相続人であるXらが、相続財産である土地の一部につき、財産評価基本通達(「評価通達」)の24に定める私道の用に供されている宅地(「私道供用宅地」)として相続税の申告⇒相模原税務署長から、これを貸家建付地として評価すべきであるとしてそれぞれ更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分
⇒Yを相手に、本件各処分(更正処分については申告額を超える部分)の取消しを求める事案 
  一審・原審 一般の通行の用に供している私道は、特段の事情のない限り、これを廃止して通常の宅地地して利用することが可能
⇒評価通達24にいう私道とはその利用に道路内の建築制限や私道の変更等の制限などのような制約があるものを指すと解するのが相当。 
本件各歩道状空地は、建築基準等の法令上の制約がある土地ではなく、また、市からの要綱等に基づく指導によって設置されたことをもって制約と評価する余地があるとしても、これは被相続人の選択の結果であり、Xらが利用形態を変更することにより通常の宅地と同様に利用できる潜在的可能性と価値を有する
⇒私道供用宅地に該当するとはいえない。
⇒Xらの請求をいずれも棄却。
  判断 私道の用に供されている宅地の相続税に係る財産の評価における減額の要否及び程度は、
私道としての利用に関する建築基準法等の法令上の制約の有無のみならず、当該宅地の位置関係、形状等や道路としての利用状況、これらを踏まえた道路以外の用途への転用の難易等に照らし、
当該宅地の客観的交換価値に低下が認められるか否か、また、その低下がどの程度かを考慮して決定する必要がある。 

本件を原審に差し戻した。
  規定 相続税法 第22条(評価の原則)
この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。
  解説 ●相続税法22条の規定と私道の意義等 
相続税法22条は、相続等により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨を規定(=時価主義を採用)
相続税における「取得の時」とは被相続人の死亡の時であり、「時価」とは課税時期における当該財産の客観的な交換価値をいう(最高裁)。

不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額を意味する。
「私道」:
一般的には、「私人がその所有権に基づき維持管理している道路」又は「私物たる道路」と定義。
「道路」:
一般に広く人の通行の用に供されている物的施設をさし、道路法上の道路とそれ以外の道路(農道等の公道と私道)に大別され
歩道とは、歩行者が通行するための道路。
  ●財産評価基本通達24の定め等について 
相続税の課税対象となる財産は多種多様であり、その客観的な交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではない
⇒国税庁によって相続税・贈与税及び地価税に共通の財産評価に関する基本通達として評価通達が定められている。
評価通達24は、「私道の用に供されている宅地」(私道供用宅地)と規定するのみであり、その逐条解説は、
①不特定多数の者の通行の用に供するいわゆる通抜け道路と
②袋小路のように専ら特定の者の通行の用に供するいわゆる行き止まり道路
に分類
①⇒私道の価額を評価せず
②⇒路線価等の100分の30として評価
ただし、
③所有者の通路としてのみ使用されている私道は、敷地部分と併せて路線価等としての評価を行い、私道としての評価は行わないとしている。
  ●相続税法22条の時価評価と不動産鑑定評価等について 
評価通達は法令ではなく、個別の財産の評価はその価額に影響を与えるあらゆる事情を考慮して行われるべきもの

財産の評価が評価通達と異なる基準で行わたとしても直ちに違法となるものではない。
(下級審裁判例は、評価通達の定める評価方法は一般的に合理性を有するものとして課税実務上も定着している⇒同通達によって評価することが相当でないと認められる特段の事情がない限り、同通達に規定された評価方法によって画一的に評価するのを相当とするものが多い。)

本件で検討されるべき問題は私道の相続税法22条における時価評価。
ここでの時価は、不動産の鑑定評価における正常価格と基本的には同一の概念である(地価公示法2条参照)。
不動産鑑定士による土地評価の統一基準である不動産鑑定評価基準には、私道に関する独自の評価基準は存在しない。
but
私道については、、不動産鑑定評価基準に基づく鑑定評価等において、建築基準法等の法令上の制約の有無に加えて、道路としての利用状況、他の用途への転用の難易の程度等を踏まえて減額評価しているように思われる。
  ●私道の用に供されている宅地の相続税法22条の財産評価について 
私道の用に供されている宅地の財産評価において一定の減額が認められるのは、当該財産の使用、収益又は処分に一定の制約が存在することによって宅地としての最有効使用を実現することができないことにあると解されるところ、
本判決は、このような理解を前提として、
当該宅地が第三者の通行の用に供され、所有者が自己の意思によって自由に使用、収益又は処分をすることに制約が存在することにより、その客観的交換価値が低下する場合に、そのような制約のない宅地と比較して、相続税に係る財産の評価において減額されるべきであると判示。
本件各歩道状空地は、
①車道に沿って幅員2mの歩道としてインターロッキング舗装が施されたもので相応の面積がある上に、本件各共同住宅の居住者等以外の第三者による自由な通行の用に供されていることがうかがわれる
②本件各共同住宅を建築する際、都市計画法所定の開発行為の許可を受けるために、市の指導要綱等を踏まえた行政指導によって私道の用に供されるに至ったもの

本件各共同住宅が存在する限りにおいて、Xらが道路以外の用途へ転用することが容易であるとは認め難い

本件各共同住宅の建築のための開発行為が被相続人による選択の結果であるとしても、直ちに本件各歩道状空地について減額して評価をする必要がないとはいえない。
  民事p32
大阪高裁H28.12.9  
  区分所有者の、管理組合が保管する文書の閲覧・写真撮影を請求する権利(肯定)
  事案 控訴人らは、本件訴訟を提起し、被控訴人(管理組合で、権利能力なき社団)に対し、平成21年度以降の総会及び理事会の議事録、会計帳簿、現資料、組合員名簿の閲覧等とデジタルカメラでの写真撮影を容認するよう求めた。 
  原審 規約に定めがある請求(議事録、会計帳簿、什器備品台帳及び会員名簿の閲覧請求)を認容したが、
規約に定めがない請求(原資料の閲覧請求及び閲覧文書の写真撮影請求)を棄却。

控訴人らの権利は、規約以上でも以下でもないと判断 
  判断 ①被控訴人は、他人(組合員)が拠出した費用をもって、当該他人が保有する不動産(マンションの敷地及び共用部分)を管理する社団⇒他人の財産に関する準委任事務の受任者と位置づけることができる。
②マンションの管理の適正化の推進に関する法律3条所定のマンション管理適正化指針は、管理組合に対し、帳票類の作成・保管および区分所有者に対する開示を義務付け、組合経理の透明性を確保するよう求めており(同指針2の4)、同指針に沿った法解釈が相当。
③一般社団法人及び一般財団法人に関する法律32条、97条、129条は、個々の社員について、社員名簿、計算書類や事業報告書の閲覧謄写請求権を有すると規定し、121条は、一定の社員について、原資料の閲覧謄写請求権まで有すると規定。社団の内部関係に関しては、社団法人に関する法律の規定が類推適用されるというのが通説。

これらを総合すれば、社団たるマンション管理組合と個々の区分所有者の間の法律関係には民法645条(受任者の報告義務を定めた規定)が類推適用される。

被控訴人に対し、
業務に関する報告義務の履行として、控訴人らに対し、規約に定めがない文書(原資料)の開示を命ずるとともに、規約に定めがない方法(写真撮影)による開示も命じ、結果的に、控訴人らの請求を全部認容。
マンション管理組合の業務内容に照らせば、一般法人法121条を類推適用する際、10分の1要件は不要。
  解説 従来の下級審は、規約自治・団体自治を尊重し、社団構成員と社団の間の権利義務は「全て規約によって定まる」とするものが多かった。
but
①わが国の法律学の通説は、社団の内部関係については社団法人に関する法律の規定が類推適用されるとする(我妻、民法総則等)。
②今日では、社団法人の内部関係を規律する多数の規定が一般法人法において整備されている。

閲覧謄写の可否に関する紛争が生じた場合、裁判所としては、一般法人法の規定の類推適用が可能かどうかを検討すべき。
  民事p41
大阪高裁H28.11.17  
  破産管財人の義務違反(否定)
  事案 A社(破産会社)を破産者とする破産手続(本件破産手続)の破産債権者であったXが、本件破産 手続の破産管財人であったYに対し、破産管財人には破産債権者に対し破産債権届出期間及び破産債権調査期日の通知が適切にされているかを確認し、破産債権届出を催促すべき義務があったところ、Yがこれを怠った
⇒破産法85条2項に基づき、Xが得られたであろう配当額502万円余の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案。
  争点 Xが主張する確認・催告義務を破産管財人が負っているか。 
  判断 ①知れている破産債権者に対して破産債権届出期間等の通知を行う義務を負うのは破産裁判所⇒破産管財人が破産規則7条により通知に関する補助的な事務を取り扱うとしても、通知事務そのものに関して法的義務を負っていない
②破産管財人が、破産債権者に対して、自らは直接担当しない破産債権者に対する通知を破産裁判所が適切に行ったか否か確認すべき義務があることを根拠付ける規定等は見当たらない。
③京都地裁と京都弁護士会が協議の上で作成したマニュアルには、未届出破産債権者に対し、破産債権届出を催促がすることが定められているが、本件マニュアルは運用を定めたものであり、それと異なる運用をした場合に、直ちに破産管財人の善管注意義務違反を問われる法的性格のものとはいえない
④本件破産手続において、破産裁判所が破産管財人Yに対し、債権届出をしていない未届出破産債権者に対して債権届出を催促することを求めた事実はなく、本件マニュアルの記載が破産手続において一般的な扱いであたっとはいえない

破産管財人の義務を否定。 
  解説 破産管財人の職務執行は広範な裁量にゆだねられている
⇒善管注意義務に違反するかどうかは、破産管財人の具体的な行為の態様に加え、事案の規模や特殊性、早期処理の要請の程度に照らして個別に判断される。 
最高裁H18.12.21の調査官解説で、谷口調査官は、破産管財人の善管注意義務の内容について、破産管財人が、「法令に明確に定めがある事項や、明らかに解釈が固まっている事項について、独自の見解に基づいて職務を遂行して利害関係人に訴なぎを与えた場合等には免責されないが、その処理につき学生・判例が固まっていない分野について破産管財人の措置が結果的に違法な職務行為であると判断されたとしても、直ちに善管注意義務に違反するものと評価することはできない」としてる。
  民事p49
名古屋高裁金沢支部H29.1.25  
  市庁舎前広場の使用許可申請に対する不許可処分の適法性(適法)
  事案 金沢市庁舎前広場における開催が計画されていた「軍事パレードの中止を求める集会」の参加予定者であったXらが、金沢市長による本件集会開催の許可申請に対する平成26年5月14日付け不許可処分は違憲・違法な処分であり、他の集会場所を用意するための費用の支出を余儀なくされた
⇒Y(金沢市)に対して、国賠法1条1項に基づき損害賠償を請求。 
  原審 本件不許可処分は違憲・違法とはいえない⇒Xらの請求を棄却 
  判断 ①本件広場とは別に金沢市庁舎建物への出入用通路が存在することが認められるが、これらは独立した構造を持つものではなく、むしろ本件広場と出入用通路が一体となって金沢市庁舎建物への来庁者の通行に利用されることが予定されたと認められる
②Yは、一貫して市庁舎と本件広場を一体として管理してきた
③本件集会は、自衛隊市中パレードという特定の具体的な行動に対し、これに反対して中止を求める旨の集会⇒本件広場で本件集会が開かれた場合にはYの事業に支障が生じないものと認めることはできない。
それ以外は原審と同じ。

控訴棄却
  解説 本件広場は地方自治法244条にいう公の施設に当たる
⇒管理者は、正当な理由がない限り、その利用を拒んではならず(同条2項)、また、その利用について不当な差別的扱いをしてはならない(同条3項)とされている。
前記の「正当な理由」とは、使用料を支払わない場合、利用者が施設の定員を超える場合、利用者に著しく迷惑を及ぼす危険が明白な場合が、これに当たるとされている。
公の施設の利用については、地方公共団体において条例を制定し、「庁舎等の管理上支障がある場合、(地方公共団体の)事業の執行が妨げられる恐れがある場合」には許可しないとされている。
皇居外苑の使用不許可の適否が争われた最高裁昭和28.12.23:
集会の用に共される公の施設の管理権者は、当該施設の種類に応じ、また、その規模、構造、設備等を勘案し、公の施設としての使命を十分達成せしめるよう適正に管理権を行使すべきであって、管理権の行使を誤り、ために実質上表現の自由等を侵害したと認められうるに至った場合には、違憲の問題が生じうる旨判示。
  民事p69
広島高裁岡山支部H29.2.2  
  市の、地縁による団体に対する、役員を交代するまで当該地域における投資的事業を休止することが違法とは認められないとされた事例
  事案 X:地方公共団体Yに属する特定の地域の住民全員で構成する地方自治法260条の2第1項所定の地縁による団体。
Yは、Xを、当該地域の住民との窓口としていた。 
  原審 本件指導が行政指導か否かはともかく、Yの投資的事業の実施権限を背景としてXに役員交代等を事実上強制してその自治権を侵害したものであり、Xの構成員にだけYの投資的事業による恩恵を享受させない差別をしたもの

Xに対し、非財産的損害等の賠償義務がある。
  判断 本件通知は、全体として読めば、Xを当該地域の住民との窓口をしているYが、当該地域におけるYの投資的事業を円滑に実施するため、Xに対し、Xの役員交代等を求めた行為⇒行政指導である。
Xの役員は、当該地域の住民全員の総意によって選任され、Yの行う施策の説明等の相手方としてYの職員と対応⇒Xの役員の前記行為は、Xの組織的な行為。
当該地域とその周辺では、Xの役員の前記行為により、行政施策の円滑な実施を不当に妨げられる状況があった⇒Yにおいて、その事情を考慮し、当該阻害要因が解消するまでの期間を目安として、当該地域における一部の投資的事業を一時的に休止することは、Yの投資的事業の実施に係る裁量権の範囲内にあるもの。
これがXが行政指導に従わないことを契機としてされたものであり、それによってXに不利益が生じたとしても、その不利益は、行政手続条例の禁止する「不利益な取扱い」には当たらない
⇒国賠法上の違法性があるとは認めなかった。
  規定 行政手続法 第32条(行政指導の一般原則) 
行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
2 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。
  解説 本件通知がXに役員交代等を求める行為⇒行政指導。
行政指導が国賠法の「公権力の行使」に該当することは、多くの裁判例が認めるところ。
その違法性の判断基準も、平成5年の行政手続法の制定及び各地方公共団体の行政手続条例の制定によって、相当明確になっている。
行政手続法32条2項は、行政指導に携わる者は、その相手方が、行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならないと規定。
「不利益な取扱い」とは、同法1項が、行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであると規定していることを受けて、これを否定するような不当なもの、すなわち、
制裁的な意図をもって行う行為や、相手方の任意性を損なうものをいい、不利益効果のある行為一般をいうわけではない(塩野等)。

各地方公共団体の行政手続条例においても、同様に解される。
市がマンションを建築しようとする事業主に対して指導要綱に基づき教育施設負担金の寄付を求めた行為が違法な公権力の行使に当たるとした最高裁H5.2.18。
行政指導の適法性が問題となった事例は許認可等の権限と関連するものが多いのに対し、本件はいわゆる行政対象暴力を背景にして、地方公共団体のに広範な裁量権がある投資的事業の実施権限と、当該地域の住民全員で構成する地縁による団体の自治権が問題となった事例。 
  民事p80
仙台高裁秋田支部H29.2.1  
  訴状送達が無効とされた事例
  事案 交通事故により傷害を負わせたXが被害者であるYに対し、損害賠償債務が66万8580円を超えて存在しないことの確認を求めた事案。 
  原審 Yが、原審口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しなかった⇒Yにおいて請求原因事実を争うことを明らかにしないものとして、これを自白したものとみなし、Xの請求を認容。 
  判断 ①Yは、本件事故当時山形県A市に居住していたが、平成27年、東京都内で稼働するようになり、これに伴い東京都に転居したが、住民登録上の住所については転出届けを出していない。
②Xは、平成28年3月22日、原審に本件訴訟を提起。
原審の裁判所書記官は、同月29日と4月11日、本件訴状副本及び第1回口頭弁論期日呼出状等を山形県A市のY住所に宛てて特別送達による交付送達を試みたが、送達は奏功せず。
③担当書記官は、Xの訴訟代理人に対し、Yの就業場所及び所在の裏付け調査を行うよう指示⇒YがA市に居住していることを確認。
④担当書記官は、Yに対し、民訴法107条1項1号に基づき、本件訴状副本及び第1回口頭弁論期日呼出状等をA市のY住居に宛てて書留郵便に付して送達するとともに、民訴規則44条の通知。
⑤原審は、Xの請求を認容する判決
⇒調書判決正本をA市の住居に宛てて書留郵便に付して送達するとともに、民訴規則44条の通知。
①書留郵便による送達は、その発送時において、その送達場所が送達者の住居所でなければならなず、かつ、その住居所については、受送達者が現にそこに居住又は現在しているなどの実態を伴うものであることを要する。
②本件訴え提起時及びそれ以降におけるA市の住居は、もはや実体を伴うものであたっとは言えない。

担当書記官がした本件訴状副本及び第1回口頭弁論期日呼出状並びに調書判決正本の書留郵便に付する送達は、発送時において、Yの住居所でない宛先を送達場所として行われたことになり、いずれもその効力を有しない。

原判決を取り消し、本件第1審裁判所に差し戻した。
  規定 民訴法 第107条(書留郵便等に付する送達)
前条の規定により送達をすることができない場合には、裁判所書記官は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める場所にあてて、書類を書留郵便又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第六項に規定する一般信書便事業者若しくは同条第九項に規定する特定信書便事業者の提供する同条第二項に規定する信書便の役務のうち書留郵便に準ずるものとして最高裁判所規則で定めるもの(次項及び第三項において「書留郵便等」という。)に付して発送することができる。
民訴規則 第44条(書留郵便に付する送達の通知・法第百七条)
法第百七条(書留郵便に付する送達)第一項又は第二項の規定による書留郵便に付する送達をしたときは、裁判所書記官は、その旨及び当該書類について書留郵便に付して発送した時に送達があったものとみなされることを送達を受けた者に通知しなければならない。
  解説 送達は、交付送達、出会送達によるものを原則とするが、補充送達及び差置送達により送達することができない場合には、書留郵便等に付して送達することができる(民訴法107条)。
その送達は、送達を受けるべき者の住所、居所、営業所又は事務所においてすべきものであり、その要件は厳格に解すべきであり、発送時における受送達者の住所、居所等に発送することが必要(伊藤等)。
受送達者の住所、居所が本来の住所、居所と異なっている⇒その効力が否定。
発送後に住所等を変更⇒送達の効力に影響がない。
  民事p83
静岡地裁H28.5.13  
  硬式野球部の部活動中の事故について、顧問兼監督教諭の注意義務違反が認められた事例
  事案 高等学校の硬式野球部の部活動において、打撃投手を務めていた原告が、その右側頭部に、打者が打ち返したボール(硬球)が直撃した事故(本件事故)により後遺障害が残存⇒被告に対し、国賠法1条1項に基づき損害賠償を請求。 
  争点 ①本件野球部の顧問兼監督を努めていたA教諭の職務行為の違法性(過失による職務上の義務違反)
②本件事故による原告の損害
③過失相殺の要否 
  判断 ●争点①(A教諭の職務行為の違法性の有無)
高等学校における部活動を指導、監督する者として、A教諭は、部活動を行う生徒の生命及び身体の安全に配慮する義務に基づき、打撃投手を務める生徒に対し、一般財団法人製品安全協会によるSGマークが付けられている投手用ヘッドギアを着用するよう指導すべき職務上の注意義務を負っていた。
本件高校には投手用ヘッドギアが存在しており、A教諭も部活動に立ち会っていたにもかかわらず、原告に対し、投手用ヘッドギアを着用するよう指導を行っていなかった。
⇒A教諭の職務行為には違法性が認められる。
  ●争点②(本件事故による原告の損害) 
当事者間で争われたの:
①将来の治療費、②後遺障害逸失利益、③後遺障害慰謝料
本件事故により、てんかん発作が起きる可能性のある脳波異常残存(「鋭波」の混入)等が残存したものの、「棘波」の混入は見られなかった

①学校の管理下における生徒等の災害に関して適用される独立行政法人日本スポーツ振興センター障害等級認定の基準に関する規程(平成15年度規程第7号)の定める障害等級第12級の13は、「発作の発現はないが、脳波上に明らかにてんかん性棘波を認めるもの」には該当しないが、鋭波であっても、てんかん発作を引き起こす可能性を否定できない
②本件事故による後遺障害の存在を認めた上、その程度に関し、再度頭部につい衝撃が生じることは避ける必要があり、てんかん発作が発現する可能性も残っていることから、ある程度職業選択に制限が生じると認められること
③現在の原告の生活状況等を総合考慮

規程の定める障害等級14級の9等の「局部に神経症状を残すもの」と同等のものであると認めるのが相当。
原告の損害について、公益財団法人日本高等学校野球連盟(高野連)が保険契約者として加入している普通傷害保険契約の保険会社及び独立行政法人日本スポーツ振興センターから原告に対し、合計90万7687円が支払われていた
⇒これらの既払金の充当方法が争われた。
前記保険会社から支払われた金員は、いずれも損害費目との結びつきが明確
⇒原告と被告との間において、損害の発生時に遡って損害賠償債務のうち当該損害費目の元本に充当するとの黙示の合意が存在するものと認めるのが相当。
⇒元本への充当を認めた。
前記充当の合意により消滅する損害賠償債務の元本に対する遅延損害金の扱いについて:
不法行為責任に関し、不法行為時に全損害が発生してこれに対する遅延損害金も発生すると観念するのは、簡明、迅速な損害賠償の処理等を目的とする一種の擬制にとどまる

保険金等が通常必要かつ相当な期間内に支払われた本件においては、当事者の意思に鑑み、損害の発生と同時に支払がなされたものとして、被害者には当該保険金額に相当する元本に対する遅延損害金は発生していないと解することができる。
  ●争点③(過失相殺の要否) 
被告:本件事故の当時、原告の前にはL字型ネットが設置されていた⇒原告は、投球後に同ネットに頭部を隠すことで本件事故を回避することができたとして、3割の過失相殺を主張。
①投手用ヘッドギアは、打撃投手を務める者と打者との距離及び打球の速さに鑑み、L字型ネットだけでは当該打撃投手が打球を避けられない場合があることなどから高野連がその着用を義務付けたもの
②本件の打撃練習が、ハーフバッティングという打撃投手と打者の距離が公式ルールで定められた距離よりも短いものであり、打者の打球が打撃投手の頭部に当たる可能性が一層高かった。

A教諭の過失は重大であったとして、損害の衡平な分担という見地から、過失相殺を認めることは相当でないと判断。
  知財p92
東京地裁H28.12.6  
  特許法102条2項における推定覆滅率等についての事案
  事案 ①発明の名称を「遮断弁」とする特許権(X特許権1)を有し、また、発明の名称を「流体制御弁」又は「遮断弁」とする3件の各特許権(X特許権2~4)を有していたXが、遮断弁(Y製品)を販売するYに対し、
X特許権の1の侵害を理由として、Y製品の販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、
X特許権1~4の侵害を理由として、損害賠償金及び不当利得返還金の合計2億5607万5000円(一部請求)並びに遅延損害金の支払を求めた事案(本訴)
②発明の名称を「モーター駆動双方向弁とそのシール構造」とするYと第三者との共有特許権(Y特許権)を有していたYが、遮断弁(X製品)を販売するXに対し、
Y特許権の侵害を理由として、損害賠償金及び不当利得返還金の合計5000万円(一部請求)及び遅延損害金の支払を求めた事案(反訴) 
  争点 本訴請求について:
①文言侵害及び均等侵害の成否(争点(1)~(3))
②差止め・廃棄請求の必要性(争点(4))
③Xの損害額及びYの不当利得額(争点(5))
反訴請求について:
①文言侵害の成否(争点(6))
②無効理由(進歩性欠如、サポート要件違反、更正不可欠要件違反)の有無(争点(7))
③訂正の再抗弁の成否(争点(8))
④Yの損害額及びXの不当利得額(争点(9))
  判断 本訴請求に関し損害賠償金債権(遅延損害金を含む)約2億5300万円、
反訴請求に関し損害賠償金及び不当利得返還請求債権(同)合計1憶6400万円
がそれぞれ生じたと認めた上、
前記各債権はX・Y間の相殺合意によって対等額で消滅

Yに対し、前記各債権の差額である約8900万円等の支払を命じる一方、反訴請求は棄却。
  ●本訴請求について 
Y製品がX特許権1に係る文言侵害を認めたが、
X特許権2~4については文言侵害及び均等侵害のいずれも認めなかった。
差止め、廃棄の必要性については一部を除き認められる。
特許法102条2項の推定に対する覆滅割合をXが主張するとおり20%と判断し、約2億4100万円(Y製品の限界利益の8割及び弁護士費用2200万円の合計額)をX特許権1の侵害によって生じたXの損害と認定。
  ●反訴請求について 
Yの訂正発明について無効理由が存在せず、かつ、X製品がY訂正発明の技術的範囲に属するとして訂正の再抗弁を認める。
Y訂正発明に係る訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするもの
⇒X製品は同訂正前のY発明の技術的範囲に当然に属する
⇒訂正前発明についての無効理由の存否を判断するまでもなく、X製品はY特許権を侵害。
特許法102条2項に基づく損害額(反訴提起日から遡って3年前の日以降の分)につき、同条項の推定に対する覆滅割合をYが主張するとおり20%と判断。
Y特許権が共有特許権であることによる推定覆滅について、共有者によるY特許権の実施割合は認められないことを前提に、特許法102条3項に基づく損害額の覆滅されるとした上、仮想実施両立を4%と算定し、約1億500万円(Y製品の限界利益の8割から共有者の損害額を減じた額及び弁護士費用950万円の合計額)をY特許権の侵害によって生じたYの損害と認定。
さらに、民法703条に基づくXの不当利得額(反訴提起日から遡って10年前の日から同3年前の日の前日までの分)につき、約4000万円と認定。
Yは、Y特許発明が基本特許である価値が高いのに対して、X特許発明はY特許発明の改良発明にすぎず、その技術的意義が小さいと主張。
but
本判決は、
Y製品の売上に対するX特許発明とY訂正発明の技術的意義や発明の客観的価値が相違する旨のYの上記主張は、直ちに推定覆滅率についての判断を左右するものとはいえず失当である旨判示。)
  規定 特許法 第102条(損害の額の推定等)
2 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。
  解説 特許法102条2項は、侵害者が侵害の行為により利益を受けているときに、その利益がの額を特許権者等の損害の額と推定する旨規定するところ、特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られただろうという事情が存在する場合には2項の適用が認められると解すべきであり、特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情では、推定された損害額を覆滅する事情として考慮され(知財高裁H25.2.1)、いわゆる寄与率として控除(推定の一部覆滅)されることとなる。
この2項の推定の覆滅の有無及び割合を認定するに当たっての考慮事情としては、侵害品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合、営業的要因(市場における代替品の存在、侵害者の営業努力、広告、独自の販売形態、ブランド等)、侵害品自体の特徴(侵害品の性能、デザイン、需要者の購買に結びつく当該特許発明以外の特徴等)等が挙げられることが多い。
本判決は、同様の判断枠組及び判断要素を採用した上、
①対象発明の技術的意義及び
②侵害品の具体的構成に加えて
③侵害品の構成全体について対象発明が実施されていること、
④市場がX・Yの寡占状態で需要者にとってX製品・Y製品以外の代替品の選択肢がほぼ存在しないこと、
⑤X・Yが長年にわたり対象製品について拮抗する市場シェアを有していたこと
などを考慮

いずれも大幅な推定覆滅を認めることは相当でないとして、本訴・反訴共に20%の限度でのみ推定の覆滅を認めた。
2項侵害に係る損害論の審理においては、しばしば、侵害者から、推定覆滅事情の主張として、対象となる特許発明の価値(技術的意義)が小さいとの主張がなされる。
but
2項は侵害者の利益額を権利者の損害額と推定するもの。

2項による推定を覆滅させるためには、侵害者において、権利者の売上減少による逸失利益の額の数量的ないし金額的な全部又は一部の不存在を基礎付けるに足りる事情、すなわち、侵害者の利益額に結びついた特許権侵害以外の要因(侵害者の資本、営業努力、宣伝広告、製造技術等)を具体的に主張・立証することが必要。
発明の技術的意義や客観的価値の大小が2項の推定覆滅の可否又は割合と直ちに結び付くものではない。
but
侵害者の利益額に結びつく当該発明以外の具体的な要因が認められた場合には、特許発明の技術的意義の大小が推定覆滅割合を判断する上での一事情として考慮されることもあり得る。
2項については、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情については、特許発明外侵害品の一部のみに実施される部品特許の場合を除いては、
1項においてはただし書の事情として
2項については推定覆滅の事情として、
いずれも侵害者に立証責任を負わせることが相当であり、
「寄与度減額」という発想からは決別すべきである旨が指摘されている。 
  刑事p129
最高裁H28.12.5
  暴力団幹部の土地取得のための所有権移転登記等の申請が、電磁的公正証書原本不実記録罪に該当しないとされた事例
  事案 被告人が、暴力団幹部及び不動産仲介業者と共謀の上、茨木県内の土地5筆(「本件各土地」)について、真実の買主はその暴力団幹部であるのにこれを隠すため、被告人が代表取締役を務める会社を買主として売主との間で売買契約を締結した上、登記官に対し、その会社を買主とする虚偽の登記申請をして、登記簿(磁気ディスク)に不実の記録をさせ、これを備え付けさせて供用したことが、電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条1項)及び同供用罪(同法158条1項)に当たるなどとして罪責を問われた事案。
  原審 被告人とB(暴力団員)との間の合意を重視し、この売買は買受名義人を偽装したものと見て、土地の所有権が売主らからBに移転したものと認定。 
  判断 売買契約の締結に際し当該暴力団員のためにする旨の顕名が一切なく、売主らが買主はA社であると認識していたことなど
⇒土地の所有権は売主からA社に移転したものと認定し、本件各登記が不実とはいえない。
⇒公訴事実第1及び第2については無罪。
  解説  不実記録罪等の保護法益は、公正証書の原本として用いられる電磁的記録に対する公共的信用。 
刑法第17章の全体につき、文書に対する公共的信用性を保護法益とする。
最高裁昭和51.4.30:公文書偽造罪について、公文書に対する公共的信用を保護法益とする旨判示。
不動産登記制度は、不動産に係る物権変動を公示することにより不動産取引の安全と円滑に資するためのもの。

不実記録罪等の成否に関し、当該登記が不実の記録に当たるか否か等については、原則として当該登記が当該不動産に係る民事実体法上の物権変動の過程を忠実に反映しているか否かという観点から判断すべきものと解され、本判決も判断の前提としてこの点を確認。
本判決「登記実務上許容されている例外的な場合を除く」旨述べるが、その例としては、判決により中間省略登記が命ぜられた場合が挙げられる。
わが国の民法は顕名主義を採用しているところ(99条1項)、本件では被告人によってA社のためにする明らかな顕名がされており、契約の相手方である売主らもそのとおり認識⇒原審の判断は、民事実体法の観点からの事実認定として不適切。
  暴力団排除条例⇒反社会的勢力が不動産取引の当事者となることが困難になっている。
本件条例では、不動産を譲渡しようとする者等に対し、契約締結前に当該不動産を暴力団事務所の用に供するものではないことを確認することについての努力義務を課し、暴力団事務所の用に供されることを知って当該不動産の譲渡等をすることを禁止するなどの規制。
行為者において売主との関係で詐欺の実行行為と評価される挙動が認められるケースでは、詐欺罪の共犯が成立する余地もある。
8月   
2335
  行政p4
東京地裁H28.10.14  
  独立行政法人医薬品医療機器総合機構法に基づく救済給付等における因果関係の主張立証責任
  事案 Xらは、子及び夫が後遺障害が残り、又は死亡したのは、タミフルの副作用⇒X1、X2は機構法に基づく障害児養育年金の給付請求を、X3は機構法に基づく遺族一時金及び葬祭料の給付等の請求⇒いずれも不支給とする各決定⇒本件各決定の取消しを求めて本訴を提起。 
  争点 ①A、Bの知的障害及びCの死亡とタミフルとの因果関係の主張立証責任は、Xら(救済給付請求者)が負うのか、それともY(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)が負うのか
②タミフルの服用と前記知的障害や死亡との間に相当因果関係が認められるか 
  判断 争点①について:
副作用救済給付の支給決定は、授益的処分としての性質を有するものというべきであり、その根拠法規である機構法16条1項が副作用救済給付の請求権について規定する一方、同条2項が同条1項の規定にかかわらず、これを支給しない場合を規定するという機構法の文言・構造等
⇒因果関係の主張立証責任はXら(救済給付請求者)にある。 
争点②について:
Xらの主張:タミフルに中枢神経抑制作用があることを前提に、服用したタミフルにより、A及びBには重篤な脳障害が残存したし、Cは突然死した
①経口投与されたタミフルについて、オセルタミビル未変化体が脳内に移行する割合は限られており、インフルエンザ罹患時にオセルタミビル未変化体の脳内濃度が上昇するとしても、脳内の各種受容体等へ有意に作用するほとには至らないものと考えられ
②動物実験の結果についても、臨床用量のタミフルが、中枢神経抑制作用を有することを裏付けるものとは評価し難い

Xらの主張を排斥。

疫学調査の結果等もタミフルの服用と異常行動との間に因果関係が存在することを裏付けるとも言い難い。

タミフルの服用とAの精神運動発達遅滞との間、Bの重度脳障害との間、Cの死亡との間には、それぞれ因果関係があるとはいえない。
⇒Xらの請求をいずれも棄却。
  民事p28
東京高裁H29.1.31   
  社会福祉法人の理事選任の紛争
  事案 Xは、
(ア)自らが保育園、老人介護施設などを設置運営する社会福祉法人であるY(代表者理事A)の理事に就任した旨、
(イ)AはYの理事兼評議員でない旨
の各確認を求めて提訴。 
  原審 Bの役員人事に関する提案はされたが、理事の1人が反対意見を述べた結果、提案された人事案は承認されなかった
⇒(ア)の確認請求を棄却、(イ)の確認の訴えを不適法として却下。
    Xが控訴し、
(ア)の確認請求を(ウ)XがYの理事兼常務理事の権利義務を有することの確認請求に交換的に変更し、
(←平成28年3月末日の経過により、当初の2年の理事任期が満了したことから、社会福祉法人においても役員が退任した場合に後任者が選任されるまでに従前の役員がその権利義務を有するとの任期伸長規定(一般法人法75条1項、会社法346条1項)が類推適用されるべきとの主張)
(エ)YがXを理事兼常務理事の地位を認めなかったことにつき不法行為に基づく慰謝料請求を追加
  争点 ①役員会におけるXの理事選任、事務理事指名の有無
②Xの理事兼常務理事の権利義務を有する地位の有無
③Aが理事兼評議員でないことの確認請求に係る訴えの利益の有無
④Yの不法行為の成否・損害論
⑤②に関連して、社会福祉法人における役員の退任後、後任者が選任されるまでの任期伸長規定の類推適用の可否
  判断 Xが役員会でYの理事に選任されて就任し、併せて新理事長となったBから常務理事に指名されたと認定(争点①)
2年の任期が経過したことによりXは理事を退任し、その後Xが理事兼常務理事の権利義務を有するとの法律上の根拠はない(争点②)⇒(ウ)は棄却 
Xは(イ)の確認を求める法律上の利益はない⇒不適法として却下
Xが理事に選任されたにもかかわらず、Yが一貫して否定し続けたことは不法行為に当たる⇒慰謝料10万円を相当と認める。
争点⑤について、
①当時の(平成28年法律21号による改正前のもの)社会福祉法には一般法人法75条1項、会社法346条1項にみられる任期伸長規定がない
②一般法人法78条等の準用規定はあるが、同法75条1項は準用しておらず、
③定めがない以上適用の余地はない

Xが理事兼常務理事の権利義務を有するという法律上の根拠はない
  解説  社会福祉法人の役員等に欠員が生じた場合に関する先例:
①「社会福祉法人において、理事の退任によって定款に定めた理事の員数を欠くに至り、かつ、定款の定めによれば、在任する理事だけでは後任理事を選任するのに必要な員数に満たないため後任理事を選任することができない場合において、仮理事の選任を待つことができないような急迫の事情があり、かつ、退任した理事に後任理事の選任をゆだねても選任の適正が損なわれるおそれがない場合には、民法654条の趣旨に照らし、退任した理事は、後任理事の選任をすることができる」(最高裁H18.7.10)
②退任理事が仮理事選任の申立てをしたのに対し、処分行政庁が職権で別の者を仮理事に選任する処分をした場合に、当該退任理事は処分行政庁の行った仮理事選任処分取消訴訟を提起する原告適格を有する(広島高裁H27.10.28) 
  民事p35
大阪高裁H28.3.22  
  大学の教員の成績評価権等が問題となった事案。
  事案 Xは大学の教授。 
Xは、Aについて、卒業研究の単位を与えることができないと判断。
本件学部の学部長であるYは、平成25年2月13日、Xが所属する本件学科の教員らで構成される教室会議に対し、Aを卒業させる方向で検討させるよう伝えた(本件諮問)。
これを受けて、同月15日、臨時の教室会議が開催され、Aの指導担当教員をXから他の教員に変更することが決議された。Yは、同月20日、Aの指導担当教員をXからBに変更する旨決定し(本件措置)、同年3月4日、本件学部の教授会においてAの指導担当教員をXからBに変更した旨を報告。
  争点 ①本件諮問及び本件措置の違法性
②名誉毀損の有無
③Xの損害及び名誉回復処分の要否 
  原審 大学教員が成績評価を行う権利又は利益は、大学における教授の自由と密接な関係を有する
but
成績評価を行うことが専門の研究結果を教授することの不可欠な内容をなすとまではいえず、教授に伴って付随的に生じるもの
⇒教授の自由とは保障の程度が異なる。 
学校法人は学生との在学契約上、適切な教育を行う義務を負い、組織体として自主的な秩序維持の権能も認められる必要がある

成績評価を行う権利又は利益は、当該教員の学生に対する指導状況や、当該学部が秩序維持の権能を行使する必要性等から合理的な制約に服する。
違法性の有無は、Yの人事権の行使に逸脱、濫用が認められるかどうかで判断すべき。
本件事実関係の下では、本件措置には必要性があり、目的は不当ではなく、本件措置によりXが受けた不利益は甚だしいとはいえず、本件措置の必要性や理由につき、Xに必ずしも十分な説明がなかったとしても、教室会議で意見を述べる機会は保障されていた
⇒Yによる人事権の行使に逸脱、濫用はないとして、本件諮問とともに違法ではない。
判断 原審と同じ枠組みを採用した上、本件措置の前提として、XのAに対するハラスメントの可能性が否定できない状況にあったことや、Xに代わってAの指導担当となったBが行った成績評価の内容、本件諮問を受けた教育会議の審議状況等を補足して、本件措置や本件諮問が不当ではなく、かえって相当であった旨判示して、控訴を棄却。 
  解説 大学における指導担当教員と学生との関係において、セクハラやパワハラなど、いわゆるアカデミックハラスメント(アカハラ)が問題となった事案で、本件と同様の枠組みを採用したものとして、大学教員を、必須科目の講義担当から外し、その研究室に学部4年生を配属せず、学科会議や専攻会議に出席させない措置を採ったことについて、
大学が有する人事権・業務命令権の行使としての職務命令権に基づくものであるが、大学教員の権利を制限する観点からこれを正当とするだけの合理的理由が必要であるとしつつ、人事権の濫用とは認められないとした裁判例。(東京地裁H24.5.31) 
成績評価権がもんだいとなった事案として、大学教員が、論文を提出しなくても単位を認定するなど、単位認定基準を変更したことに関し、学部長から、学生への説明文を用意して事前に見せるよう不当な要求をを受けたとして損害賠償を求めた事案において、
成績評価権は、教育の自由から派生したものではあるが、学部の有する単位認定権限や秩序維持権限などによって合理的な制約を受けるものであって、学部長の要請に違法性はないとした裁判例。(東京高裁H22.1.21)
  民事p52
東京地裁H28.10.28  
  民法910条の価額請求についての事案
  事案 被相続人亡Aの相続開始後、
死後認知によって相続人となった原告X1、X2が、
被相続人の配偶者であって、既に被相続人の遺産分割をしていた被告Yに対し、
主位的に価額請求をし、
予備的に不当利得返還請求を求めた事案。
  規定 民法 第910条(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。
  Yの主張 価額請求は審判事項
民法910条に基づく価額請求は、被相続人には子Bがいて、Yの相続分に影響がない⇒本件訴えの相手方とはならない。
不当利得返還請求について法律上の原因を欠くことはない。
  判断 ①遺産分割後、被認知者が行う価額請求は訴訟事項
②被認知者が被相続人の子で、被認知者以外に被相続人の子がいる場合には、被相続人の配偶者に対しては、価額請求をすることができず
③否認知者が価額請求をすることはできない場合には、不当利得返還請求をすることもできない。 
  解説   ●価額請求の法的性質 
A:相続回復請求権の一種であるとして訴訟事項
B:分割方法が価額請求に限定された遺産分割請求の一種
通説・裁判例:審判事項とする明文規定がない⇒訴訟事項説
本判決:
家事事件手続き法39条は別表第1及び第2において家事審判事項を列挙していると解されているところ、価額請求は掲げられていない⇒民事訴訟の手続によるべき⇒訴訟事項説。
  ●被認知者以外に被相続人の子がいる場合に、被相続人の配偶者を相手方として、価額請求できるか?
通説:被相続人の配偶者は、別系列の相続人だから、被認知者の出現によりその相続分に影響を受けない⇒価額請求の相手方にならない。 
  ●不当利得返還請求の可否
①民法910条は、なされた遺産分割の効果を覆すものではなく、これを有効とした上で、価額請求を認めたもの。
②Yが遺産を取得したのは有効な遺産分割協議に基づくもの

法律上の原因を欠くものとはいえない。
  商事p57
東京地裁H28.3.31  
  上場企業の巨額損失隠しに関与した経営コンサルティング会社の代表取締役らの責任(肯定)
  事案 光学機器の製造販売等を業とする上場企業Xが、以前証券会社でXの営業担当を務め、その後経営コンサルティング等を主たる業務とするD社を設立してその代表取締役となったY1及びY1の元部下であり、Y1と共にD社を設立してその取締役に就任したY2が、Xの経理・財務部門等に所属していたZ1らと共謀の上、Xの金融資産に発生していた巨額のの運用損失を連結決算の対象とならない海外の投資ファンド(「簿外ファンド」)に移して当該損失を隠匿し、その後当該簿外損失を解消するため、Yらが設立するなどしたいわゆるベンチャー企業3社(「新事業3社」)の株式を不当に高い価格でXに買い取らせるなどし、Xにおいて架空ののれんの計上とその償却などを内容とする違法な会計処理を行わせた⇒Yらに対し不法行為に基づく損害賠償を請求。
主位的に、新事業3社の株式の取得原価と購入価格の差額約572億円並びにXが有価証券報告書虚偽記載の罪により有罪判決を受けて支払った罰金7億円相当額及び虚偽記載のある四半期報告書を提出したことにより納付した課徴金1986万円相当額の合計額の一部請求として5億円の支払いを求め、
予備的に、右簿外ファンド管理手数料として支払われた費用等合計額約117億円並びに右罰金及び課徴金相当額の合計額の一部請求として5億円の支払いを求めた。
  事実関係 X社においては、平成8年頃までに、金融資産の運用による含み損が約900億円にまで拡大。
Z1らは、海外に簿外ファンドを組成し、Xやその子会社が保有する特金等の資産の中から国債等を貸し付け、簿外ファンドにおいてこれを売却し、その資金をもってXの含み損を抱える金融資産を簿価で買い取らせた。
その後、企業会計原則の見直しによる時価評価主義採用の動き⇒特金等の計画的解消が求められる状況に。
but
国債等を簿外ファンドに貸し付けたままの状態では特金等の残高を減らすことができず、また多額の含み損を抱えた金融資産の存在が露見してしまうおそれ。
⇒Z1は、簿外ファンドに新たな資金を供給して国債等を買い戻す方法を模索。
Z1らは、国債等買戻しのため
①平成10年3月、X及び子会社名義で外国銀行に口座を開き、口座内の資産に簿外ファンドを債務者とする根担保権を設定して、同口座内資産を担保に簿外ファンドが外国銀行から融資を受けるようにし、
②平成12年3月、新たにケイマン諸島に事業投資ファンドを組成してX等が出資し、同出資金の一部を債券購入代金として簿外ファンドに送金し、
③右外国銀行に新たなファンドを組成してもらってX及び子会社がこれに出資し、同月、同出資金の一部を、Z1らがケイマン諸島に新たに組成した複数のファンドを経由して、簿外ファンドに債券購入代金として送金するという、一連の操作を行った。
これらの操作を通じて簿外ファンドに流れた資金によって、簿外ファンドは特金等から借りていた国債等を買い戻してX及び子会社に返還し、これによってZ1らは特金等を解消して、Xの巨額の簿外損失の発覚を免れた。
右含み損を抱えたXの金融資産が簿外ファンドに付け替えられたままでは、簿外ファインドが債務超過の状態となり、将来Xの損失隠しが発覚しかねなかった上、簿外ファンドの維持費用もかさむ一方

平成16年4月から平成20年3月にかけて、簿外ファンドの新事業3社の株式を取得させ、X及びZ1らが組成した別のファンドがそれらの株式を本来の価値より高い金額で買い取り(ファンドが買い取った株式は、その後どうファンドの解散に伴いXが現物で取得した。)この売買によって簿外ファンドが代金として受領した多額の金を用いて簿外ファンドがXの金融資産を購入した際に行った借入を等を返済して債務超過状態を解消。
Xは、本来の価値に比べて極めて高い金額で購入した新事業3社の株式について、平成20年3月期の連結貸借対照表に約545億円ののれんを計上(これによりXの簿外損失が計数上解消されたことから、簿外ファンドは全て解散した)。
  判断 以上の事実を認定した上で、
Z1らによる右一連の行為はXに対する不法行為に当たるところ
Yらは、前記①ないし③の一連の資金移動等の目的がXの損失隠匿することにあることを認識しながら、平成10年3月頃、前記外国銀行の東京駐在所長をZ1らに紹介したほか、ファンドの組成・運営や資金移動に関与し、また、新事業3社に対する投資の目的がXの簿外損失を解消することにあることを認識して、平成17年頃、Z1らに新事業3社を紹介し、新事業3社の株式取得等に関与

YらはZ1らの不法行為を幇助したというべきであるから、民法719条2項に基づき、共同行為者とみなし、Xに生じた損害を賠償すべき責任がある。
Yらは、共同行為者として、Xが支払った罰金7億円及び課徴金1986万円の全額について、Z1らと連帯して賠償責任を負う⇒Xの主位的請求(一部請求5億円)を認容。
主位的請求のうち新事業3社の株式の取得原価と購入価格の差額の賠償請求については、含み損を抱えていたXの金融資産を簿価で簿外ファンドに購入させて損失を移転していたものを、新事業3社の株式を実際の価値よりも高い代金で購入することによってふたたび含み損をXに戻した

実質的にはX内部の資金移動にすぎず、Xの損害には当たらない。
  労働p90
最高裁H29.2.28  
  賃金規則上の定めが公序良俗に違反するとの原審の判断に違法があるとされた事例
  事案 Y社(上告人)に雇用され、タクシー乗務員として勤務したX(被上告人)らが、歩合給の計算に当たり残業手当等に相当する金額を控除する旨を定めるYの賃金規則上の定めが無効であり、Yは、控除された残業手当等に相当する金額の賃金の支払い義務を負うと主張し、Yに対し、未払賃金等の支払を求める事案。
本件で特に問題とされているのは、本件賃金規則のうち歩合給(1)に関する定めであり、乗務員に支払われる歩合給(1)につき、次のとおり規定
対象額A(揚高(売上高)から一定額を控除し、控除後の額に一定割合を乗じたもの)-(割増金(深夜手当、残業手当及び公出手当の合計)+交通費)
  主張 Xらは、本件規定は、歩合給の計算に当たり、対象額Aから割増金及び交通費に相当する額を控除するものとしているところ、これによれば、割増金と交通費の合計額が対象額Aを上回る場合を別にして、揚高(売上高)が同額である限り、時間外労働等をしていた場合もしていなかった場合も乗務員に支払われる賃金は同額になる⇒このような定める労基法37条を潜脱するものであると指摘。
  規定 労基法 第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規
定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
労基法 第13条(この法律違反の契約) 
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。
  争点 ①本件規定の有効性
②遅延損害金の利率
③付加金の支払を命じることの可否及び相当性
  原審 本件規定のうち歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除する部分は労基法37条の趣旨に反し、ひいては公序良俗に反するものとして無効⇒対象額Aから割増金に相当する額を控除することなく歩合給を計算すべき。

請求を一部認容
  判断 労基法37条は、時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払義務を定めているところ、割増賃金の算定方法は、同条並びに政令及び厚生労働省令に具体的に定められている。
使用者が、労働者に対し、時間外労働等の対価として労基法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには、労働契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で、そのような判別をすることができる場合に、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべき。
他方において、労基法37条は、労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしていない
⇒労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に、当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの、
当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効であると解することはできない。
but
原審は、本件規定のうち歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除している部分が労基法37条の趣旨に反し、公序良俗に反し無効であると判断するのみで、
①本件賃金規則における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否か、また、
②そのような判別をすることができる場合に、本件賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断することなく、Xらの未払賃金の請求を一部認容すべきとした。

原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った結果、前記の点について審理を尽くさなかった違法がある。
  解説   ●労基法における割増賃金制度の概要 
労基法37条は時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払義務を規定。
その趣旨は、時間外・休日労働は通常の労働時間又は労働日に賦課された特別の労働⇒それに対して一定額の補償をさせることと、時間外労働に係る使用者の経済的負担を増加させることによって時間外・休日労働を抑制すること。
割増賃金の算定方法については、労基法37条、労基法37条1甲の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令、労働基準法施行規則19条に定められている。
割増賃金を支払うべき時間外労働とは、労基法32条又は40条に規定する労働時間(法定労働時間)を超える労働であり、休日労働とは同法35条に規定する休日(法定休日)における労働。

就業規則等に定められた所定労働時間を超える労働で法定労働時間内にとどまるもの(いわゆる法内残業)については、労基法上は割増賃金を支払う義務はなく、就業規則等に定められた法令休日以外の休日(いわゆる所定休日)についても同様。
  ●労基法37条等所定の算定方法とは異なる割増賃金の算定方法の取扱い 
労基法37条は、同法所定の割増賃金の支払いを義務付けるにとどまり、同条所定の計算方法を用いることまで義務付ける規定ではない。
⇒使用者が労基法37条等所定の算定方法と異なる割増賃金の算定方法を採用すること自体は適法。
その上で、労基法37条等所定の算定方法と異なる割増賃金の算定方法が採用されている事案においては、その算定方法に基づく割増賃金の支払により、労基法37条等所定の割増賃金の支払をされたといえるかが論じられる。
従前の最高裁判例(最高裁H6.6.13、最高裁24.3.8):
労基法37条等所定の計算方法によらずに割増賃金を算定し、これに基づいて割増賃金を支給すること自体は直ちに違法とはいえないことを前提に、
①通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることを要件とした上で(「判別要件」)、そのような判別がでく場合に、
②割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金相当部分とされる金額を基礎として、労基法所定の計算方法により研鑽した割増賃金の額を下回らないか否かを検討して、労基法37条等に定める割増賃金の支払がされたといえるか否かを判断。
上記判例法理に沿った見当をするに当たっては、賃金規則等において支払うとされている「手当」等が割増賃金、すなわち時間外労働等に対する対価の趣旨で支払われるものである必要。
当該「手当」等がそのような趣旨で支払われるものと認められない場合には、そもそも割増賃金に当たるとはいえず、判別要件を充足するか否かを検討する前提を欠くことになる。
使用者の賃金規則等において通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否かは、個別の賃金規則等の内容に即して判断せざるを得ない⇒一般的は判断基準を定立することは容易ではない。
but
①労基法37条等が割増賃金の算定方法を具体的に定めている
②従前の最高裁判例の判示内容

少なくとも、「基本給(歩合給)に割増賃金が含まれる。」といった抽象的な定めを置くのみでは足りず、賃金規則等に定められた計算式等により、支給された総賃金のうち割増賃金とされた金額を具体的に算定することが可能であり、かつ、その割増賃金に適用される「基礎賃金の一時間当たり金額(残業単価)」を具体的に算定することが可能であることが必要。
  労基法37条等は割増賃金の算定方法を具体的に定めており、割増賃金の算定方法を具体的に定めており、割増賃金の支払方法が同条等に適合するか否かは客観的に判断が可能

端的に当該賃金の定めが労基法37条等に違反する否かを検討し、仮に同条に違反するのであれば、その限度で当該賃金の定めが同法13条により無効となり、労基法37条等所定の基準により割増賃金の支払義務を負うとすれば足りる。

殊更に公序良俗に違反するかいなっかを問題とする必要はない。
  仮に、本件規定が労基法37条に違反するものとしてその効力が否定されると解し得る場合の法的効果?
労基法37条に違反するとしてその効力を否定⇒当該賃金規則等に定められている通常賃金と割増賃金との区別の全部又は一部が無効となると解した上で、当該賃金規則等において割増賃金とされている部分を通常賃金として取り扱う。

当該賃金規則等に定められている割増賃金を通常賃金に振り替える取り扱いをするもの。
but
労働契約の内容が労基法に違反する場合の法的効果は、同法13条により規律され、同条は、労働契約のうち同法に違反する部分のみを無効とし(強行的効力)、無効とされた部分につき、同法所定の基準を契約内容として補充するもの(直律的効力)と解されているところ、賃金規則等における割増賃金を通常賃金に振り替えるという取り扱いをすることが、この強行的効力や直律的効力によるものであると理解することができるかについては慎重な検討を要する。
労基法37条は、使用者に対し、法内時間外労働や法定外休日労働に対する割増賃金を支払う義務を課しておらず、使用者がこのような労働の対価として割増賃金を支払う義務を負うか否かは専ら労働契約の定めに委ねられている。

Xらに割増賃金として支払われた金額が労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断するに当たっては、Xらの時間外労働等のうち法内時間外労働や法定外休日労働に当たる部分とそれ以外の部分とを区別する必要がある。
本判決は、賃金規則において歩合給の計算に当たり、売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の定めがされているという事案において、そのような定めを含む賃金規定に基づく割増賃金の支払により、労基法37条等所定の割増賃金の支払がされたといえるかを検討するに当たって、そのよな定めが当然に公序良俗に違反するとして無効であるとすることができないとした事例判断。 
  刑事p96
高松高裁H28.7.21  
  予備的訴因追加を許可した原審の訴訟手続に法令違反はないが、認定において過失が否定され無罪された事例
  事案 被告人運転の普通乗用自動車が民家のブロック塀に衝突し、同乗していた夫が死亡。 
検察官:
起訴状において、被告人が、
「ブレーキペダルと間違えて不用意にアクセルペダルを踏み込んだ過失」と主張
原審弁護人及び被告人:
約750メートル手前から被告人車両のフットブレーキが利かなくなったため衝突に至ったとして過失を争った。
原審検察官は、起訴から約2年後の原審最終時に、
「自車の制動機能が悪化してブレーキペダルを踏み込んでも制動効果が得られない状態にあったから、サイドブレーキを掛けるなどして自車を停止させて運転を中止すべき注意義務に反して運転を継続した過失」とする予備的訴因の追加を請求。

原審弁護人は損変更の不許可を求めたが、原審裁判所はこれを許可し、追加訴因に関して被告人質問を行った後、直ちに結審。
  原審 被告人車両にペーパーロック現象(ブレーキディスク等が高温となってブレーキ液が沸騰して気泡が発生し、それがブレーキパイプ等に入ることで、ブレーキの制動圧力が伝わらなくなる現象)が生じていた可能性は排除できない⇒フットブレーキが利かなくなったという被告人供述を排斥することができない⇒本位的訴因の過失を否定。 
適切にサイドブレーキをかけるなどの対処法をとっていれば、衝突地点までに停止させることは可能であった⇒予備的訴因の過失を認め、有罪。
  判断 ●訴訟手続きの法令違反 
本件予備的訴因の追加請求は、起訴から2年後の原審の弁論終結直前になされたものであり、予備的訴因に係る争点は従前の攻撃防御の成果を利用できないもの。
but
①審理が長期化した点はやむを得ない面があった
②予備的訴因の内容自体は予想されたものであった
③検察官が新たな立証を求めず、審理の長期化を招いていない

同追加請求が著しく時機に後れ、また検察官の訴訟上の権利の濫用に当たる違法なものであるとはいえないとして、これを許可した原審の訴訟手続は違法ではない。
  ●事実誤認の論旨
①サイドブレーキを掛ける操作操作によって停止し得たかについて十分な証明がない、
②フットブレーキが利かなくなった状態で、そのような操作を義務付けることができるかについても証明がない
③「サイドブレーキを掛けるなどして」と認定しているが、サイドブレーキ以外の具体的な方法は示されていない

予備的訴因の過失を認めた原判決には事実誤認がある。
原判決の認定:
フットブレーキが利かなくなった場合には、サイドブレーキなどで制動を試みるべきであるという常識的な判断と、予備的訴因の追加前に証言した検察権請求の専門家証人が、サイドブレーキを引くことによって停止させると証言したことに基づくもの。
①サイドブレーキによるによる制動機能の程度は常識レベルで判断できることではなく、同証人の停止可能であるという証言も、フットブレーキに異常はなかったという証言に加えて、簡単に答えたものにすぎず、証拠価値が吟味されていない。
②同証人は、サイドブレーキをぎゅっと引くとスピンをする可能性があるので、余裕があれば、少しずつ引くのがよいと証言しているが、それによれば、単純に、自損事故の危険を冒しても、一挙にサイドブレーキを掛けるべきであるという注意義務を課すことはできないし、被告人の供述等に照らせば、少しずつ引くような余裕のある状況であったかについても疑問がある。

原判決の認定は論理則、経験則等に反するものである。
本判決は、フットブレーキが突然利かなくなったという緊急事態において、一般の自動車運転者にどの程度の結果回避義務を課すことができるのかについても、検討すべき課題がある。
本位的訴因についての原判断を支持。

いずれについても犯罪の証明がないとし、無罪。
最後に差戻しの要否を検討し、
①原審検察官は、予備的訴因の追加後に何らの証拠調べも請求しておらず、
②予備的訴因の追加及び立証について十分に検討する機会があった

更に被告人に手続的な負担を負わせて、証拠調べをする必要はないとして、無罪の自判をしている。 
  解説 第一審又は控訴審における訴因変更請求が当該審級において訴訟上の権利の濫用等の理由で不許可とされた事例や、第1審における不許可を是認した事例はあるが、原審における訴因変更の許可を違法とした高裁及び最高裁判例は見当たらない。 
訴因変更の請求については、公訴事実の同一性がある限り許可すべき(刑訴法312条1項)とされており、被告人の防御に実質的な不利益を生ずる虞がある場合は、必要な期間公判手続を停止することとされている(同条4項)。

第一審裁判所における訴因変更の許可が訴訟手続の法令違反とされる場合は相当に限られる。
本件のように、単純一罪の事実に関する本位的・予備的訴因について攻防対象論が問題となった事案につき、最高裁H1.5.1は、同一の被害者に対する同一の交通事故に係る業務上過失傷害事件で本位的訴因と予備的訴因が構成された場合において、予備的訴因を認定した第一審判決に対し被告人のみが控訴したからといって、検察官が本位的訴因の訴訟追行を断念して、本位的訴因が当事者間の攻撃防御の対象から外れたとみる余地はない。
最高裁H25.3.5:
本位的訴因とされた賭博開帳図利の共同正犯は認定できないが、予備的訴因とされた同幇助犯は認定できるとした第一審判決に対し、検察官が控訴の申立てをしなかった場合に、控訴審が職権により本位的訴因について調査を加えて有罪の自判をすることは、職権の発動として許される限度を超え、違法である。
最高裁調査官解説:
最高裁25年決定は、第一審判決に対して検察官が控訴の申立てをしなかった時点で、「検察官が本位的訴因の訴訟追行を断念したとみるべきかどうか」という観点から本位的訴因が当事者間の攻撃防御の対象から外れるかどうかを判断しているようにうかがえる。
平成元年については、過失の態様についての証拠関係上、本位的訴因と予備的訴因が構成され、訴因構成に当たって検察官の訴追裁量が働く場面ではないから、検察官が控訴しなかったとしても、本位的訴因の訴訟追行を断念したとみつことはできないと分析。
大阪高裁H16.10.15:
窃盗の本位的訴因を認めず、盗品等保管の予備的訴因を認めた第一審判決に対し、被告人のみが控訴した事案において、予備的訴因の認定を事実誤認として原判決を破棄した上、自判するに当たり本位的訴因も判断の対象となるとして、同訴因により有罪としている。
  刑事p105
東京地裁H28.3.15 
  実在の児童とCGで描かれた児童との同一性の判断(児童ポルノ法)
  事案 被告人が、
(1)衣服の全部又は一部を着けない実在する児童の姿態が撮影された画像データを素材として描写したコンピュータグラフィクス(CG)の画像データ16点を含むCG集をパーソナルコンピュータのハードディスク内に記憶、蔵置させ、もって児童ポルノを製造し、
(2)本件CG集1及び前記同様のCGの画像データ18点を含むCG集を、インターネット通信販売サイトを通じて、不特定の者3名にダウンロードさせ、もって不特定又は多数の者に児童ポルノを提供したとして、
平成26年法律第79号による改正前の児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(「児童ポルノ法」)違反の罪に問われた事案。
  争点 ①本件16点を含む本件CG集1の画像データが記録されたハードディスクが児童ポルノ法2条3項の「電磁的記録に係る記録媒体」として児童ポルノに当たり得るか、また、本件CGの画像データが同法7条4項後段の「電磁的記録」に当たり得るか(「本争点」)
②本件CGと検察官がその基ととなったと主張する写真とが同一であるか
③本件CGの女性が実在したか
④本件CGの女性が18歳未満か
⑤児童ポルノの製造又は提供の罪が成立するためには、本件CGの基となった写真の被写体の女性が製造又は提供の時点及び児童ポルノ法の施行時点において18歳未満でなければならないか
  弁護人 本争点(争点①)について、機械的な複写の場合を除いては、 実在の児童を被写体として直接描写するものでない限り、児童ポルノ法2条3項にいう「児童ポルノ」あるいは同法7条4項後段の「電磁的記録」に該当せず、前記のようなものではないCGについてはこれに当たらない。
  判断 児童ポルノ法の目的や児童ポルノ法7条の趣旨

 同法2条3項各号のいずれかに掲げられる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したと認められる物については、CGの画像データに係る記録媒体であっても同法2条3項にいう「児童ポルノ」に当たり得、また、同画像データは同法7条4項後段の「電磁記録」に当たり得る。
児童ポルノ法の目的や同法7条の趣旨

同法2条3項柱書及び同法7条の「児童の姿態」とは実在の児童の姿態をいい、実在しない児童の姿態は含まないものと解すべき。
CGであっても、同法2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したと認められる物であり、かつ、そこに描写された姿態が実在の児童の姿態であると認められる場合については、児童ポルノ法の規制対象となり得る。
CGに描かれた児童と実在の児童とが同一である判断する際の基準およびその際に考慮すべき要素について、「被写体の全体的な構図、CGの作成経緯や動機、作成方法等を踏まえつつ、特に、被写体の顔立ちや、性器等(性器、肛門又は乳首)、胸部又は臀部といった児童の権利擁護の観点からしても重要な部位において、当該CGに記録された姿態が、一般人からみて、架空の児童の姿態ではなく、実在の児童とCGで描かれた児童とが同一である(同一性を有する)と判断でき、そのような意味で同一と判断できるCGの画像データに係る記録媒体については、同法2条3項にいう「児童ポルノ」あるいは同法7条4項後段の「電磁的記録」として処罰の対象となると解すべき」
  解説 児童ポルノ法は、2条3項において「児童ポルノ」の定義を規定。
そこにいう「児童」が実在する児童である必要があるかについては、一般に肯定(大阪高裁H12.10.24)。
絵であっても、実在する児童の姿態を描写⇒児童ポルノに該当。
当該事案で、実在の児童を描写した「児童ポルノ」といえるか否かについて、実在する児童について、その身体の大部分が描写されいている写真を想定すると、そこに描写された児童の姿態は「実在する児童の姿態」に該当し、そこで、その写真に描写されていない部分に他人の姿態を付けて合成すれば、児童ポルノに当たる場合がある(文献)。
  控訴審:
児童ポルノ提供罪についての罪数判断において、本件CG集1の提供行為と本件CG集2の提供行為とは、併合罪関係に立つとみるのが相当。
本件CG集2の提供行為の点について無罪を言い渡した。
本件CG集1のうち有罪認定したCG3点に係る児童ポルノの製造、提供の各行為については、児童の具体的な権利侵害は想定されず、違法性の高い悪質な行為とみることはできない⇒罰金刑。
2334   
  大阪高裁H29.3.28  
  高浜原発差止仮処分命令申立事件
  事案 大津地裁が平成28年3月9日に関西電力の設置にかかる高浜原子力発電所3号機、4号機について運転を禁止する仮処分を発令⇒同年7月12日に関西電力がした保全異議申立ても退けた⇒関西電力が大阪高裁に申し立てた保全抗告に対する決定。 
  原決定 債権者住民らの、「本件原発は、地震や津波に対する安全対策、原子力災害対策等が不十分であり、運転を継続した場合、過酷事故を起こして債権者らの人格権を侵害する具体的危険がある」旨の主張を認めた。 
  本決定 本件原発の安全性が欠如していることの疎明があるとはいえない
⇒保全異議審決定及び原決定を取り消し、本件仮処分申立てを却下。 
  解説  ●原発周辺住民が原発の運転差止めを目的として提起する訴訟
①設置運転許可の取消し等を求める行政訴訟
②運転の差止めを求める民事訴訟ないし民事仮処分申立て
  ●原発に求められる安全性 
本決定:
(1)「絶対的安全性」を求めることはできず、「相対的安全性」に止まる
(2)安全性の程度は格段に高度なものでなければならず、被害発生の危険性が社会通念上無視し得る程度にまで管理されていることが必要
(3)原発の有用性、必要性の高低によって求められる安全性の程度は左右されない
(4)新規制基準に適合した原発は原則として原発に求められる安全性を具備する
but
(3)について、
一般に「危険」が社会的に許容される理由は「社会的有用性」であると理解
⇒原発を運転していないても日本の電力供給に支障がないことが明らかになった現在、「原発に求められる安全性」を判断する際に、そのことを考慮要素とする考え方は、十分成り立ち得る。
審査基準の策定(A)とその適合性判断(B)は、規制行政庁に専門技術的裁量があると解釈されてきた。
(A)の作業を分析すれば、
「原発に求められる安全性の決定」(a1)と
「その安全性を実現するための審査基準の策定」(a2)
に分けられる。
原子力規制委員会を構成している原子力工学や放射線防護学等の専門家は、(a2)については、専門性を有しているが、(a1)については専門性を有しているとは言えない。

原子力規制委員会が定めた「原発に求められる安全性」をそのまま是認できるという社会的合意が存在するとは言えない。
  ●立証責任論
本決定:
本件原発が安全性を欠くことは、住民側に立証責任がある
but
安全性の審査に関する資料を関西電力が保有
⇒関西電力において、本件原発が原子力規制委員会が定めた「安全性の基準に適合すること」を主張立証すべきであり、
この主張立証が十分尽くされないときは、人格権侵害の具体的危険があることが事実上推認され、
関西電力が前記主張立証を尽くしたときは、住民側において、安全性の基準自体が合理性を欠き、又は適合するとした原子力規制委員会の判断が合理性を欠くことを主張立証する必要がある。
◎伊方最高裁判決(最高裁H4.10.29):
原子炉設置許可処分についての取消訴訟においては、
被告行政庁がした判断に不合理な点があることの主張、立証責任は、本来、原告が負うべきものと解されるが、
当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持していることなどの点
⇒被告行政庁の側において、まず具体的審査基準並びに判断の過程等、被告行政庁の判断に不合理な点がないことを相当の根拠、資料に基づき立証する必要。
被告行政庁が右主張、立証を尽くさない場合には、被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認される。

ここでの「推認」は破れることがない。

本来的に立証責任を負担していない被告の立証責任の総合的評価の結果としての「推認」が、本来的に立証責任を負担している原告の立証活動によって破れることは想定できない。

原子炉設置許可処分取消訴訟は、被告行政庁が、「被告行政庁の判断に不合理な点がないこと」を立証できたか否かについて攻防が行われ、
立証できる⇒原告の請求は棄却
立証できない⇒請求認容
  女川原発についての仙台地裁H6.1.31:
原発民事差止め請求訴訟において初めて立証責任論を展開。
本件原子炉の安全性については、被告の側において、
まず、その安全性に欠ける点のないことについて、立証する必要があり、
被告が右立証を尽くさない場合には、本件原発に安全性に欠ける点があることが事実上推定(推認)され、
被告において必要とされる立証を尽くした場合には、安全性に欠ける点があることについての右の事実上の推定は敗れ、原告らにおいて、安全性に欠ける点があることについて更なる立証を行わなければならない。

被告が「安全性に欠ける点がないこと」を立証した場合でも、原告が「安全性に欠ける点があること」を立証できる

被告の立証命題である「安全性に欠けるところがないこと」と
原告の立証命題である「安全性に欠ける点があること」
とは、1枚のコインの裏表ではない。
裁判所は、前者は後者よりもレベルが低いものと想定。
  民事p116
東京高裁H28.7.20  
  特別の事情による仮処分の取消しのための担保の事由が消滅したとされた事案
  事案 Xは、Yとの間で抵当権設定登記手続をする合意をしたと主張して、Yを債務者とする土地(本件土地)の処分禁止の仮処分命令を申し立て、その旨の仮処分命令(本件仮処分命令)を得た上、Yに対する抵当権設定登記手続を求める訴えを提起(別件訴訟①)。 
Yは、民保法39条1項に定める特別の事情があるとして、本件仮処分命令の取消しを求め⇒東京地裁は、担保を立てることを条件として本件仮処分命令を取り消す旨の決定をし、Yは担保(本件担保)の供託。
Xは、別件訴訟①において訴えを変更し、Yが他社に所有権を移転する登記手続をするとともに本件仮処分命令の取消申立てをして貸付金の回収を不可能にしたとして、Yに対し、不法行為に基づく損害賠償等を求めた。
but
東京地裁は、XがYとの間で本件土地にXを抵当権者とする抵当権の設定登記手続をする旨の合意をしたとは認められないなどと判断し、損害賠償請求を棄却。
Xは、不服として控訴を提起したが、別件訴訟①の控訴審で主張を変更し、
主位的に、抵当権設定合意に基づく信義則上の義務の不履行、
予備的に、共同不法行為に基づく損害賠償請求
⇒東京高裁はXの請求を棄却、上告・上告受理申立も棄却・不受理。
Xは、別件訴訟①における請求とは異なるものとして、Yらに対し、特別事情による本件仮処分命令の取消申立てによって貸付金の回収が不能になったことなどを理由とする損害賠償等を求める訴えを提起(別件訴訟②)。
Yは、別件訴訟②の係属中に、本件担保の事由が消滅したと主張してその取消しを申し立て、東京地裁は、本件担保を取り消し⇒Xが、原決定を不服として、その取消しを求めて即時抗告。
  規定 民訴法 第79条(担保の取消し)
担保を立てた者が担保の事由が消滅したことを証明したときは、裁判所は、申立てにより、担保の取消しの決定をしなければならない。
  判断 本件担保について、Xが本件抵当権設定登記請求権を行使すれば回収し得た金員を本件取消決定により回収し得なくなるであろう損害を担保するもの。

本件担保について担保事由が消滅したとは、本件取消決定により取り消された本件仮処分命令において疎明されたと判断された被保全権利である本件抵当権設定登記請求権の不存在がその後の訴訟手続において確定した場合又はそれと同視すべき場合をいうものと解される。 
Xが別件訴訟①で主張したXのYに対する損害賠償請求権は、本件仮処分命令の被保全権利である本件抵当権設定登記請求権の発生原因事実及び本件担保が担保する損害を包摂すると解され、これを棄却する判断が確定しており、仮に、別件訴訟①の控訴審で主張した損害賠償請求権が一審の訴訟物と異なると解するとすれば、Xは貸付金の回収困難を発生原因とする不法行為に基づく損害賠償請求と同一の訴えを提起できない。

本件においては、本件担保の事由は消滅したとして、抗告を棄却。
  解説 民訴法79条1項の「担保の事由が消滅したこと」の意義
最高裁H13.12.13は、「担保供与の必要性が消滅したこと、すなわち、被担保債権が発生しないこと又はその発生の可能性がなくなったこと」をいう。
民事保全における請求の基礎の同一性について、
最高裁昭和26.10.18は、本案の訴えの不提起による保全取消し(民保法37条)における本案について、請求の基礎が同一であれば足りると解し、
最高裁H24.2.23も、仮差押命令について、当該命令に表示された被保全債権と異なる債権について、これが前記保全債権と請求の基礎を同一にするものであれば、その実現を保全する効力を有するものと判示。
but
保全処分の手続においては、同一訴訟手続内で行われる訴えの変更の可否が問題となる場面と異なり、審理を行う裁判所が同一であるとは限らない

請求の基礎の同一性の有無の判断にあたって訴えの変更の可否とは異なる考慮がされる余地もないではないと思われるとの指摘(最判解説)。
本決定は、最高裁H13.12.13を引用した上で、
別件訴訟①の第一審において、保険処分禁止仮処分の被保全権利に係る発生原因事実を請求原因事実として包含する損害賠償請求権が棄却され、また、控訴審における訴え変更後の請求も棄却され、その判断が確定したことを認定し、
本件抵当権設定登記請求権の不存在がその後の訴訟において確定した場合又はこれと同視すべき場合であると認められるとし、別件訴訟②の提起にかかわらず、担保の事由の消滅を認めたもの。
  民事p120
広島高裁H28.12.1  
  認知症により要介護3の認定を受けた高齢者が締結した根抵当権設定契約が、意思能力がなく無効とされた事例
  事案 A(訴訟承継前原告)とその次女X(原告)が共有して居住する本件建物につき、銀行であるYを根抵当権者とする根抵当権設定登記がされていたところ、平成24年11月に根抵当権に基づく競売開始決定
⇒Aが根抵当権の実行禁止及び競売手続停止の仮処分を得た上、根抵当権設定登記の抹消登記手続を求めた。 
  原審 根抵当権設定契約証書の原告の署名押印にXが関与した可能性は否定できず、本件契約書にAの意思に基づく署名押印があったとは直ちに認め難く、本件根抵当権設定契約は不成立。
⇒請求認容。 
  判断 本件契約書にAが自ら署名押印したものと認めることができ、本件根抵当権設定契約が成立したものと認めるのが相当。
but
Aの意思能力について、本件根抵当権設定契約当時、同契約の意味を理解するだけの意思能力はなく、本件根抵当権設定契約は無効
⇒請求を認容した原判決は結論において相当。
  解説 高齢者の場合には、その法律行為の態様等からみて、意思能力の理論よりも、法律行為不存在の理論のほうが有用であり、立証が容易であると言われている。 
本判決では、Aの意思能力について詳細な事実認定が行われており、特に、事実認定の調査の際に作成された「介護保険認定調査票」や「介護保険主治医意見書」が有力な証拠として利用されている。
   刑事p129
大阪地裁H28.2.26 
大阪地裁H28.1.28
  乳幼児に対するいわゆる虐待死の事案
  事案 乳幼児に対するいわゆる虐待死の事件
積極的に暴行を加える⇒傷害致死
殺意あり⇒殺人
養育の放棄⇒保護責任者遺棄致死や重過失致死
客観的な証拠や目撃者等が少なく、事実認定上難しい問題を抱えている。
  ①事件  事案 被告人(男性)が実子(被害児。生後2か月。)に対し、頭部に強い衝撃を与える何らかの暴行を加えて死亡させたとして起訴された、傷害致死被告事件の裁判員裁判で、被告人にのみ波高可能性のある時間帯以前に、既に死因となった脳損傷が生じていた可能性が否定できないなどとして、無罪が言い渡された事例。
  判断 何らかの外圧(頭部への複数回の打撲ないし圧迫やゆさぶりなどの故意の暴行が想定される)が加わって被害児の死因となった外傷性急性くも膜下出血・脳腫脹(本件脳損傷)が生じたことはおおむね明らかで、受傷時期が25日午前8時頃以降と認められるのであれば、その間、被害児と2人きりでいた被告人がその外圧を加えたと推認されることになり(10時31分に、被告人が119番通報)、受傷時期がそれ以前であれば、この推認は成り立たないことになるという、証拠関係。 
法医学を専門とする医師2名の各所見に加え、被害児の頭部CT画像で本件脳損傷を確認した脳神経外科の専門医2名の各所見

被害児が受傷した時間帯は、25日午前8時以降であると医学的には断定できず、かえって、その時間帯より以前に受傷していたと考える方がより整合的。
死亡前日の被害児の様子や被告人以外の者の暴行による受傷の可能性等についても検討

前日の夜中の時点で既に本件脳損傷に至る受傷をしていた可能性が排除できないし、また、あくまでも可能性の問題ではあるが、被害児の実母にも暴行を加える機会があったといえ、被告人以外の者による暴行の可能性を排除することはできない。
  解説 外に可能性がないから被告人の犯行であるとの、いわば消去法的な事実認定にならざるを得ない⇒種々の問題。 
  ②事件 事案 難病である先天性ミオパチーに罹患した3歳の女児が低栄養により死亡した事案について、女児と養子縁組をして同居し、女児をその実母であると妻とともに監護すべき立場にあった養父である被告人に、
主位的訴因である保護責任者遺棄致死罪の成立を認めず、
予備的訴因である重過失致死罪の成立を認め、
執行猶予付きの禁固刑(禁固1年6月、3年間執行猶予)を言い渡した裁判員裁判の事例。 
  訴因 保護責任者遺棄致死罪の主位的訴因の要旨:
被告人は、
妻の実子である女児(被害者)と養子縁組をして同居し、
妻と共に被害者を監護すべき立場にあったものであるが、
妻と共謀の上、
平成26年4月頃から6月中旬頃までの間、
幼年者であり、かつ先天的ミオパチーにより発育が遅れていた被害者に十分な栄養を与えるとともに、適切な医療措置を受けさせるなどして生存に必要な保護をする責任があったにもかかわらず、
被害者に対して十分な栄養を与えることも、適切な医療措置を受けさせるなどのこともせず、
もってその生存に必要な保護をせず、
よって同年6月15日、被害者を低栄養に基づく衰弱により死亡させた。 
  争点 ①被害者の死因
②被害者が保護を要する状態にあったか否か
③これに対する被告人の認識・認容の有無
  判断 医師の所見
⇒被害者は低栄養による衰弱により死亡。
平成26年4月頃以降の時点では、普通の人であれば十分な栄養を与えられていないために生命身体が害されるかもしれないと認識する状態(=保護を要する状態)にあった。
but
被告人は、被害者の体重や(手足が痩せていたように見えたのを除く)体系の変化、食事量の減少を認識していたとは認められず、
同年6月13日と14日の被害者の様子を認識しても、直ちに病院に連れて行かなければならないほど被害者が衰弱していると認識していたとまでは認められない。

被害者が保護を要する状態にあるとの認識・認容が認められず、保護責任者遺棄致死罪は成立しない。
①被害者の手足が従前に比べて痩せていたこと、被害者が頻繁に食事を抜くなど、その食生活に変化が生じたことは認識しており、これらを踏まえて意識的に観察すれば、被害者の体重と食事量の減少傾向を容易に認識できた
②同年6月13日、被害者が昼間から就寝し、買い物の誘いにも応じないのに接し、夜にはその頬が痩せているのを認め、翌14日夜には、風邪等の症状があるわけでもないのに被害者が朝から一切食事をせずに就寝し続けているのを認識して、翌日病院に連れていることを意識する程度には被害者の健康状態に不安感を抱いていた

少なくとも同月14日夜の時点であれば、被害者が衰弱していることを容易に認識できた。

被告人は、僅かな注意を払えば、被害者が低栄養により生命身体が害されるかもしれない状態にあることを認識できた。

被告人には、被害者に適切な医療措置を受けさせるなどしてその生命身体への危険の発生を未然に防止すべき注意義務と、これを怠った重大な過失がある。

重過失致死罪の成立。
2333   
  特報p4
最高裁H29.3.15  
  GPS捜査の適法性大法廷判決
  事案 広域集団窃盗・建造物侵入等被告事件について、車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する刑事手続上の捜査の適法性が問題とされた事案。 
GPSを利用した捜査には、携帯電話・スマートフォンのGPS機能を利用して携帯電話等の位置情報を電話会社等から検証許可状の発付を受けて取得する方法があり、実務上も行われているが、本判決はこれには触れない。
  一審 本件GPS捜査は検証の性質を有する強制の処分(刑訴法197条1項但書)に当たり、検証許可状を取得することなく行われた本件GPS捜査には重大な違法がある⇒本件GPS捜査により直接得られた証拠及びこれに密接に関連する証拠の証拠能力を否定。
but
その余の証拠に基づき被告人を有罪とした。
    被告人が控訴
  原審 その余の証拠についても証拠能力を否定すべきという控訴趣意をいずれも排斥。
本件GPS捜査に重大な違法があったとはいえないと説示。
  争点 ①GPS捜査の強制処分性及び令状主義(憲法35条)との関係
②強制処分性が肯定される場合、現行刑訴法上の強制処分との関係(GPS捜査が「現行刑訴法上の」強制処分といえるかという問題) 
  規定 憲法 第35条〔住居侵入・捜索・押収に対する保障〕
何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
②捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
刑訴法 第197条〔捜査に必要な取調べ、照会、通信履歴保管命令等〕
捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。
  判断 上告趣意のうち、憲法35条違反をいう点は、原判決の結論に影響を及ぼさないことが明らかであり、その余は、適法な上告理由に当たらない。
but
所論に鑑み、
論点①について
車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する刑事手続上の捜査であるGPS捜査は、個人のプライバシーの侵害を可能とする機器その所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であり、令状がなければ行うことができない強制の処分である
論点②について
GPS捜査について、刑訴法197条1項ただし書の「この法律に特別の定のある場合」に当たるとして同法が規定する令状を発付ことには疑義がある。
GPS捜査が今後も広く用いられ得る有力な操作方法であるとすれば、その特質に着目して憲法、刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい。
  解説 ●GPS捜査の強制処分性及び令状主義との関係
強制処分性が問題とされた捜査手法:
①公道上における写真撮影
②人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるビデオ撮影
~強制処分性否定

③刑訴法222条の2制定前の電話傍受
④宅配運送の過程下にある荷物の外部からのエックス線検査
~強制処分性肯定
判例上、強制処分とは、
「有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味する」(最高裁昭和51.3.16)
本判決:
GPS捜査は、対象車両の時々刻々の位置情報を検索し、把握すべく行われるものであるが、その性質上、公道上のもののみならず、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを必然的に伴う

個人のプライバシーを侵害し得るものであり、
また、そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり、公権力による私的領域への侵入を伴うものというべき。
本判決が、GPS捜査について令状が無ければ行うことができない強制の処分と結論付けた理由:
憲法35条は、『住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利』を規定しているところ、
この規定の保障対象には、『住居、書類及び所持品』に限らずこれらに準ずる私的領域に『侵入』されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。
  ●現行刑訴法上の各種強制処分との関係
本判決:
GPS捜査は、情報機器の画面表示を読み取って対象車両の所在と移動状況を把握する点では刑訴法上の『検証』と同様の性質を有するものの
対象車両にGPS端末を取り付けることにより対象車両及びその使用者の所在の検索を行う点において、『検証』では捉えきれない性質を有することも否定し難い。

検証に「必要な処分」(刑訴法129条)としても説明しきれないとの意味。
本判決:
GPS捜査は、GPS端末を取り付けた対象車両の所在の検索を通じて対象車両の使用者の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うものであって、GPS端末を取り付けるべき車両及び罪名を特定しただけでは被疑事実と関係のない使用者の行動の過剰な把握を抑制することができず、裁判官による令状請求の審査を要することとされている趣旨を満たすことができないおそれがある。
令状主義の趣旨:
①被疑事実との関連で必要性のある処分であるか否かを裁判官に事前審査させるとともに、
②捜査機関に対し権限行使の具体的範囲をあらかじめ令状に明示させることにより、捜査権限の恣意的行使を抑制するところにあると解されている。
GPS捜査は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴う⇒把握される情報の中には被疑事実と関係のない行動に関するものが必然的に含まれる。
その中には将来の犯罪に関するものも含まれるが、そのような将来の犯罪の強制捜査は、刑訴法上は想定されておらず、これを許容するためには特別の立法が必要と解される。
本判決:
GPS捜査は、被疑者らに知られる秘かに行うのでなければ意味がなく、事前の令状提示を行うことは想定できない。
刑訴法上の各種強制の処分については、手続の公正の担保の趣旨から原則として事前の令状呈示が求められており(同法222条1項、110条)、
他の手段で同趣旨が図られ得るのであれば事前の令状呈示が絶対的な要請であるとは解されないとしても、これに代わる公正の担保の手段が仕組みとして確保されていないのでは、適正手続の保障という観点から問題が残る。
本判決:
これらの問題を解消するための手段として、一般的には、実施可能期間の限定、第三者の立会い、事後の通知等様々なものが考えられるところ、、捜査の実効性にも配慮しつつどのような手段を選択するかは、刑訴法197条1項ただし書の趣旨に照らし、第一次的には立法府に委ねられていると解される。
仮に法解釈により刑訴法上の強制の処分として許容するのであれば、以上のような問題を解消するため、裁判官が発する令状に様々な条件を付す必要が生じるが、事案ごとに、令状請求の審査を担当する裁判官の判断により、多様な選択肢の中から的確な条件の選択が行われない限り是認できないような強制の処分を認めることは、『強制の処分は、この法律に特別の定めのある場合でなければ、これをすることができない』と規定する同項ただし書の趣旨に沿うものとはいえない。

令状請求を受けた裁判官がGPS捜査を可能にするために刑訴法上の令状を発付することは基本的に想定していない。
  行政p10
長崎地裁H28.2.22  
  原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律1条3号に該当する者とされた事例
  事案  昭和20年8月9日に原子爆弾が長崎市に投下された際ないしその後、いわゆる「被爆未指定地域」で生活していたXらが、原爆投下時に爆心地から7.5ないし12キロメートルの範囲内の地域にある居住地において生活していたから、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律1条3号にいう「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当すると主張
⇒長崎県又は長崎市に対し、被爆者健康手帳交付申請却下処分の取消し、同手帳交付の義務付け、健康管理手当の支払等を請求。
  解説 被爆者援護法は、昭和32年制定の原子爆弾被爆者の医療等に関する法律および昭和43年制定の原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律を統合する形でこれらを引き継ぐとともに、その援護内容をさらに充実発展させるものとして、平成6年に制定。
国の責任において、原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ、高齢化の進行している被爆者に対する保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じることをその目的とする。
  争点 Xらが被爆者援護法1条3号に該当するかどうか 
  判断 被爆者援護法1条3号の意義について、
前身の原爆医療法制定に至る経緯及び同法の定め、同法につき発出された通達・通知、同法の改正並びに原爆特例措置法の制定経過及び同法の定め、被爆者援護法制定に至る経緯、同法1条3号該当性の審査基準に係る運用(広島市の例も含む)等

同法の立法趣旨や健康被害を生ずるおそれがあるために不安を抱く被爆者に対して広く健康診断等を実施することが同法の趣旨に適うと考えられる

同法1条3号にいう「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」とは、原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったことをいうものと解するのが相当であり、同事実の存否は最新の科学的知見に基づき判断すべきである。 
①長崎に投下された原爆の概要、②放射線・被爆・原爆放射線に関する科学的知見、③下痢・脱毛・出血傾向の原因及び放射線による急性症状に関する知見、④被爆未指定地域における放射性降下物による外部被曝の状況、⑤内部被曝の影響、⑥遠距離被曝と急性症状の発症、⑩一定地域の住民に対する染色体異常・白血球数増加についての調査結果、⑪低線量被曝が人体に及ぼす影響等について、当事者から提出及び申請された多くの資料、専門家の意見等を整理し、詳細に吟味。
被爆未指定地域の住民は、その地域に降下した放射性降下物の発する放射線によって外部被曝及び放射性降下物を呼吸や飲食の際に摂取して内部被曝する状況にあったところ、被爆者援護法上の援護は、被爆者が原子爆弾の等価によって「特殊の被害」を受けたことを根拠にするもの

日常生活における個々人の生活状況の相違に起因する被曝の量の差に含まれる程度の被曝をしたことをもって、原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったというのは相当ではない。
具体的には、原爆投下による年間積算線量が自然放射線による年間被曝線量の平均2.4ミリシーベルトの10倍を超える25ミリシーベルト以上(福島原発事故において当初計画的避難地域に指定され、その後居住制限区域に指定された地域と同程度以上の年間被曝線量)である場合には、個々人の生活状況に起因する被曝の量の差を超える程度の被ばくをすると評価することができ、原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったというが相当。
Xらのうち原爆投下当時一定の地域に居住していた10名については、年間積算線量の推計値が
①減衰率をマイナス1.5とした場合、②マイナス1.2とした場合、③その平均値をとった場合の数値がいずれも25ミリシーベルトを超えており、被爆者援護法1条3号にいう「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」というのが相当。
⇒これら10名による被爆者健康手帳交付請求却下処分の取消し請求及び被爆者健康手帳交付の義務付けを求める請求を認容。
but
同10名以外のXら(その被相続人を含む)については、本判決が示す前記の基準に達していない⇒同法1条3号に該当すると認めることはできない。
  民事p68
最高裁H28.12.19  
  普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性(肯定)
  事案 被相続人Aの遺産分割審判における許可抗告事件。 
Aの法定相続人はXとYのみで、その法定相続分は各2分の1。
Aは、不動産(評価額合計約258万円)のほかに預貯金債権(合計4000万円以上)を有している。
  規定 民法 第427条(分割債権及び分割債務) 
数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。
  原審 預貯金債権は預金者の死亡によって法定相続分に応じて当然に分割され、相続人全員の合意がない限り遺産分割の対象とすることはできない。
Yに特別受益があり、その額は5500万円程度と認めるのが相当⇒Yの具体的相続分は0⇒Xが前記不動産を取得すべき。
    Xが許可抗告の申立てをしたところ、原審がこれを許可。
  判断 「共同相続された普通預金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる」

原決定を破棄し、本件を原審に差し戻した。 
  解説 ●預金債権の遺産分割対象性 
最高裁判決(昭和29.4.8):
「可分債権」について相続により債権者が数人となった場合に、共同相続人の数に相当する個数の債権に分割されて各共同相続人に帰属すること(民法427条が定める分割債権関係。ただし、その割合は相続分による。)を判示。
最高裁H16.4.20:
相続財産中に可分債権があるときは、その債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり、共有関係に立つものではないと解される。
債権が各共同相続人に当然に分割されて帰属⇒共同相続人による当該債権の準共有状態は存在しないから、当該債権は遺産分割の対象とならないというのが、昭和29年判決や平成16年判決の論理的帰結。

「可分債権」は原則として遺産分割の対象とならないが、共同相続人全員がこれを遺産分割の対象に含める合意をした場合には、遺産分割の対象となるとの見解が、家裁実務の大勢。
近似の判例で、①定額郵便貯金債権、②委託者指図型投資信託の受益権、個人向け国債、③委託者指図型投資信託の受益権につき相続開始後に発生した元本償還金等に係る預り金について、当然分割を否定。
but
これらは、それぞれの事案で問題とされた財産権が昭和29年判決や平成16年判決にいう「可分債権」に当たらないことを理由に(前記両判決等の射程を限定して)当然分割を否定し、その裏返しとして当該財産権を遺産分割の対象とすることを認めたもの。
中田:
給付がその性質上可分である債権には、相続開始と同時に当然に分割債権となる「分割型」と、そうでない「非分割型」とがあり、後者には債権者全員が共同して出ないと行使することができない債権(共同債権)が含まれる。
潮見:
債権発生原因である契約により内容・属性を与えられた金銭債権が相続の結果として共同相続人に承継される場合に、分割単独債権として各自に帰属するのか共同相続人の準共有となるのかは、前記の内容・属性に則しは判断されるべきであるが、預金債権の相続に関しては、<預金債権=準共有=相続人全員による共同行使>構成の採用を正面から検討すべきである。
  ●本決定の考え方 
①遺産分割制度の趣旨・目的について説示し、共同相続人間の実質的公平を確保するという目的に照らして、具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整を容易にする財産を遺産分割の対象とすることを指摘。
②預貯金に関する事務の内容、預貯金の決裁手段としての性格や現金との類似性等について詳細に説示した上で、遺産分割の実務において当事者の同意を得て預貯金債権を遺産分割の対象とする運用が広く行われていることを指摘。

預貯金債権が遺産分割の対象とすることになじむ財産であることを示す。
普通預金債権・通常貯金債権(普通預金)について、
普通預金契約(通帳貯金契約を含む。以下同じ。)が、一旦契約を締結して口座を開設すると、以後預金者が自由に預入れ、払戻しをすることができる継続的取引契約であり、口座に入金が行われた場合、これにより発生した預貯金債権は口座の既存の預貯金債権と合算され、一個の預貯金債権として扱われる(一個の債権として同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものである)という特殊性を指摘。

普通預金債権等が相続により数人の共同相続人に帰属するに至る場合、各共同相続人に確定額の債権として分割されることはない。
相続開始時における各共同相続人の法定相続分相当額を算定することはできるが、預貯金契約が終了していない以上、その額は観念的なものにすぎない。

共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り、例えば、相続開始時の残高が100万円であったとしても、その翌日には残高が110万円になっているかもしれないのであり、本質的にそのような可能性を有するものとして普通預金債権等は存在⇒相続が開始された場合、各共同相続人はそのような1個の債権の上に準共有持分を有すると解すべきであるという趣旨。
以上のような普通預金債権等の特殊性を捉えて、本決定は、共同相続された普通預金債権等は相続開始と同時に当然に分割されることはなく、遺産分割の対象となると判示。
本決定:
株式会社ゆうちょ銀行に対する定期貯金債権について、契約上分割払戻しが制限されており、このことは単なる特約ではなく定期貯金契約の要素となっている

共同相続された定期貯金債権は相続開始と同時に当然に分割されることはなく、遺産分割の対象となる。
以上の説示は、近時の判例と同様に、本件で問題とされている普通預金債権等及び定期貯金債権が、その内容及び性質に照らして昭和29年判決にいう「可分債権」に当たらない旨をいうものと解される。
本決定の考え方は、貯金債権が相続開始と同時に当然に分割される旨を判示した平成16年判決等と相反するものであり、これを変更したもので、昭和29年判決を変更したものではない。
  ●個別意見の概要 
鬼丸意見:
①多数意見が述べる普通預金債権等の法的性質⇒相続開始後に被相続人名義の預貯金口座に入金が行われた場合、当該口座に係る預貯金債権の全体が遺産分割の対象となる(相続開始時の残高相当額部分のみが遺産分割の対象となるものではない。)。
②果実、代償財産、可分債権の弁済金等が被相続人名義の預貯金口座に入金された場合、具体的相続分の算定の基礎となる相続財産の価額をどう捉えるかが問題となることになる。
  ●本決定の射程等 
本決定:
普通預金債権等及び定期貯金債権について、権利の内容及び性質に照らし遺産分割の対象となることを判示。
定額貯金債権に関する説示(=分割払戻しの制限が契約の要素となっていること)の考え方は、ゆうちょ銀行の定額貯金のほか、その他の金融機関の定期預金・定期貯金にも及ぶ(約款上一部解約が認められることは定期預金等の本質に影響しないのではないか。)。
共同相続人の1人が相続開始前に被相続人に無断でその預貯金を払い戻した場合に発生する不当利得返還請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権(いわゆる使途不明金問題)については、本決定の射程外。
平成16年判決の事案のように、相続開始後に共同相続人の1人が相続財産の預貯金を払い戻した場合、他の共同相続人は、自己の準共有持分を侵害されたものとして、払戻しをした共同相続人に対し、不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができるものと解される(結論において、平成16年判決が説示したところと同じに帰するが、理由を異にする。)。
本決定の考え方⇒相続人は全員で共同しなければ預貯金の払戻しを受けることができない(民法264条本文、251条)

共同相続人の一部が、被相続人の預貯金債権を相続分に応じて分割取得したと主張して、金融機関に対しその法定相続分相当額の支払を求めた場合、その請求は棄却されるべきものとなる。
(このことと、金融機関が顧客の便宜のために相応のリスク判断の下で一定の便宜を行うことは、もとより両立し得るものと思われる。)
  ●確定判決等に与える影響 
既に確定している遺産分割審判や預貯金払戻請求訴訟の判決に影響を与えるものではない。
but
預貯金債権が残存する場合には、別途これについての遺産分割をすることを要する。
本決定と異なる解釈を前提として遺産分割の協議や調停がされた場合に、その協議や調停の効力が当然に錯誤等により影響を受けるものではない。
  民事p78
仙台高裁H28.12.7  
  義援金の不正疑惑についての署名活動と署名を求める文書が、正当な意見・論評であり名誉毀損とならないとされた事例
  事案 東日本大震災にかかる義援金の不正疑惑について、警察による捜査を求める署名活動と署名を求める文書(「本件文書」)が、名誉毀損となるかが争われた事案。
原告:町議会議員
被告:(同じ)町議会の議員と市民オンブズマンの代表者
⇒不正疑惑の追及の名を借りた政敵への攻撃と見る余地
  原審 事実摘示型の名誉毀損とし
被告は、不正疑惑の存在を摘示したのではなく、真実不正が存在するとして摘示したもので、
摘示事実について真実と信じた相当な理由があるとは言えない。
  判断  被告の署名活動と本件文書につき、
事実摘示型の名誉毀損ではなく、義援金にかかる不正疑惑があるという事実を前提として、捜査機関に疑惑の解明を求める、意見・論評であると判断。 
①本件文書に、雑誌やブログによる記事の引用がある
②原告による義援金の不正利用により町民が受給するべき義援金が減額されたのではないかという疑惑があるとの記載がある
⇒被告の行為は、事実を摘示したもの。
but
本件文書は、
これらの事実を前提とした町民の怒りの感情や、捜査機関に対して、原告が受領した義援金の総額や使途を明らかにすること、不正使用の疑惑を解明するよう求める部分を含んでおり、これらの部分は、客観的証拠等をもってその存否を決することのできないもの。

一定の事実を前提とした意見ないし論評であると判断。

事実の摘示から構成される原告に対する名誉毀損か、あるいは、
疑惑解明を求める意見・論評(感情・要望)か
という問いについて、後者であると判断。
  民事p90
東京地裁H28.6.27  
  青果物等の卸売業者と仲卸業者らの協同組合との間の合意内容の解釈
  事案 青果物及び青果加工品の卸売業者であるXが、仲卸業者らの協同組合であるYに対し、
①代払契約に基づく代払債務の履行請求として、又は、
②保証契約に基づく保証債務の履行請求として(①と選択的請求)、
XがYの組合員に対して売り渡した商品の代金の支払、及び、これに値する商事法廷利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた。 
  事実 東京都中央卸売市場条例85条1項は、買受人は、卸売業者又は仲卸業から買い受けた物品の引渡しを受けると同時に買い受けた物品の代金を支払わなければならないが、卸売業者又は仲卸業者があらかじめ知事の承認を受けて買受人と支払猶予の特約をしたときは、この限りでない旨規定。
XとYは、取引協約書を取り交わし、以下の規定のある、支払猶予の特約を締結。
①Yに所属する組合員のXに対する買受代金は、買い受けた日から起算して6日以内にYがXに対して「代払い」を行うこと(本件代払契約)
②Yが買受代金を①によって完納した場合、XはYに対し、完納奨励金として10000分の10を支払うこと
③Yに所属する組合員のXに対する買受代金の債務についてはは、Yが、関係法令に準拠してこれを「保証」すること(本件保証契約)
  争点 ①代払債務の履行請求につき、本件代払契約に係る当事者の合意内容(Yは、無制限の代払義務を負うか、Yが組合員から入金された金額の限度のみ支払えばよいか)
②保証債務の履行請求につき、本件保証契約に係る当事者の合意内容(Yは、Yが通知した金額の限度で保証債務を負うという「限度付き」保証か)
③相殺の抗弁(Yは、Xに対し、不当利得返還請求権を有するか)
  判断 ①取引協約書の文言
②青果物の取引に係る買受人組合(仲卸組合等)による代払制度や完納奨励金支払制度に係る沿革
③本件における完納奨励金支払の経緯等
について検討
⇒ 
当事者の合意内容は、Yが組合員から入金された金額の限度のみ支払えばよいというものではなく、Yは組合員からの入金金額にかかわらず、代払義務を負う。
①取引協約書の文言
②前記条例85条1項の規定内容
③X・Y間の取引の経緯等
について検討

X・Y間において、Yが指摘する取引も代払いや保証の対象とするという合意が成立したことが推認される。

被告の相殺の抗弁を否定。
  解説 本判決は、
当事者間の合意につき、当事者間で作成された文書や、当事者間の経緯だけであなく、青果物の取引に係る買受人組合(仲卸組合等)による代払制度や完納奨励金支払制度に係る沿革等も考慮した上で、判断を行ったもの。 
  民事p103
京都地裁H28.10.11  
  特定商取引に関する法律での法定書面における商品名の記載とクーリングオフ期間の進行
  事案 家庭教師の派遣及び学習用教材の販売等を目的とするA社と消費者Yとの間の受験用教材の売買契約に係る売買代金債権を譲り受けたXが、Yに対し、売買残代金とこれに対する遅延損害金の支払を求めて訴訟提起。

Yが、特定商取引に関する法律9条1項に基づく解除等を主張。
特商法9条1項は、本文で、訪問販売における購入者によるクーリングオフを認め、ただし書で、特商法5条所定の書面を受領した日から起算して8日を経過した場合には、これを制限している。
  判断 特商法5条1項は、販売業者は、訪問販売契約等を締結したときは、遅滞なく、主務省令で定めるところにより、同法4条各号の事項についてその売買契約の内容を明らかにする書面(「法定書面」)を購入者等に交付しなければならない旨を定め、同法4条は、その6号として、同条1号ないし5号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項を挙げ、これを受けて、特定商取引に関する法律施行規則3条は、特商法4条6号において、商品名および商品の商標又は製造者名を掲げている。
このように、特商法施行規則3条4号が、法定書面に商品名等を記載することを要求したのは、訪問販売において、購入者等が契約内容を十分に吟味しないままに契約を締結して後日のトラブルが生じることを防止するとともに、クーリングオフの行使の機会を確保させるために、契約の目的である商品と実際の商品とが一致するかを客観的に確認できるようにすることにあると解される。

法定書面に該当する書面に記載すべき商品名については、実際の商品と客観的に一致しているかどうかの判断を可能とする程度の記載がされる必要がある。
A社からYに売買契約書及び概要書面が交付されているところ、各書面の記載内容が異なり、A社からYに交付された書面の商品名の記載を一義的に解することは困難
⇒同書面には、契約の目的である商品と実際の商品とが客観的に一致しているかどうかの判断を可能とする程度に具体的な記載がなされていなかったといわざるをえない。

Yが法定書面を受領したとはいえないとして、Yのクーリングオフを認めた。
  民事p107
東京家裁H28.6.29  
  親権停止審判申立事件を本案事件とする審判前の保全処分申立事件で、本案審判認容の蓋然性及び保全の必要性を認め、未成年者に対する職務の執行を停止した事例
    親権停止審判申立事件を本案事件とする審判前の保全処分申立事件
  事案 児童相談所長は、未成年者を一時保護し、親権者らについて親権停止の審判を求めるとともに、同審判が効力を生じるまでの間、親権者らの未成年者らに対する職務の停止を求める審判前の保全処分を申し立てた。 
  判断 未成年者の病状は今後予定される手術の内容等
⇒未成年者の親権者としては、未成年者を頻繁に見舞うとともに、医療従事者と十分に意思疎通を図り、緊急の事態が生じた場合も含めて、未成年者が必要としている医療行為が実施されるよう、迅速かつ適切に対応する必要がある。 
親権者らのこれまでの対応や現在の生活状況等
⇒親権者らが迅速かつ適切に対応できるかどうか疑問がある。

本案審判認容の蓋然性及び保全の必要性があると判断し、申立人の申立てを認容。
  規定 民法 第834条の2(親権停止の審判)
父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる。
2 家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、二年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める。
家事事件手続法 第174条(親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判事件を本案とする保全処分)
家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所。以下この条及び次条において同じ。)は、親権喪失、親権停止又は管理権喪失の申立てがあった場合において、子の利益のため必要があると認めるときは、当該申立てをした者の申立てにより、親権喪失、親権停止又は管理権喪失の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、親権者の職務の執行を停止し、又はその職務代行者を選任することができる。

2 前項の規定による親権者の職務の執行を停止する審判は、職務の執行を停止される親権者、子に対し親権を行う者又は同項の規定により選任した職務代行者に告知することによって、その効力を生ずる。
  解説 未成年者が病気・事故等のために手術や治療を必要としている場合、医療機関がその未成年者に対し医療行為を行うには、通常、親権者の同意が必要。
but
親権者が正当な理由もなく未成年者に対する医療行為についての同意を拒否して放置することにより、未成年者の生命・身体が危険にさらされている場合がある(=医療ネグレクト)。 
親権停止(民法834条の2)は、平成23年の民法改正によって設けられた制度であり、親権を喪失させるまでには至らない比較的程度の軽い事案や、一定期間の親権制限で足りる事案において、必要に応じて適切に親権を制限することができるようにするために設けられていたもの。
家庭裁判所は、親権喪失・親権停止等の申立てがあった場合において、親権者による虐待の程度が重大で子の心身に危険が生じている場合など、「子の利益のため必要がある」と認められる場合には、本案事件の申立人の申立てにより、本案審判が効力を生ずるまでの間、親権者の職務の執行を停止し、又はその職務代行者を選任することができる(家事事件手続法174条)。
本件では、保全処分の内容として、親権者の職務執行停止のみが申し立てられており、職務代行者選任は申し立てられていない。

未成年者につき一時保護が行われているため、親権者の職務の執行を停止しさえすれば、児童相談所長において親権の行使が可能とされている(児童福祉法33条の2)。
but
職務代行者を選任しない場合、職務代行者に告知をすれば親権者への告知を待たずに審判の効力が生ずるとする家事事件手続法174条2項を適用することができない(同法74条2項及び109条2項により、親権者に告知されたときに効力を生じる)。
医療ネグレクト事案における本案審判認容の蓋然性及び保全の必要性についての考慮要素
①未成年者の疾患及び現在の病状
②予定される医療行為及びその効果と危険性
③予定される医療行為を行わなかった場合の危険性
④緊急性の程度
⑤親権者が未成年者に対する医療行為を拒否する理由及びその合理性の有無等
本件についても、前記の考慮要素等を総合考慮の上、未成年者の病状が深刻であって、直ちに治療及び手術を受ける必要性があり、これを受けなった場合には未成年者の生命に危険が生じかねない事態であることを重視し、親権者らがこのような緊急事態に迅速かる適切に対応できるかどうか疑問であるとして、本案審判認容の蓋然性及び保全の必要性を認めた。
  労働p110
大阪高裁H28.10.26  
  賃金減額協定による賃金減額が認められなかった事例
  事案 Yの従業員であるXらが、Yは平成23年8月から10月に支払う賃金について一方的に減額してその一部を支払っただけ⇒Yに対し、未払賃金と遅延損害金の支払を求め、
一部のXらは、賃金を支払わないことが不法行為に該当するとして、予備的に不法行為に基づく損害賠償金の支払を求めた。 
  争点 (1)
14パーセント減額協定が就業規則の変更等としてXらに効力を及ぼすか、
14パーセント減額協定に対応する合意がXらとYとの間で個別に成立し、個別合意として効力を及ぼすか、
14パーセント減額協定が労働協約としてXらに効力を及ぼすか
(2)
14パーセント減額協定の効力がXらに及ばない場合、Xらの賃金はいくらか 
  判断 ●争点(1)について
①14パーセント減額協定は就業規則ないしそれに準ずるものとしてXらに効力を及ぼすとは認められない
②14パーセント減額協定に対応する合意がXらとYとの間で個別に成立したとは認められない
③14パーセント減額協定はYとA労働組合関西地方C支部が確認書を作成した時点で労働協約として効力を生じたと認めるのが相当であるが、C支部Y分会を脱退したXらについては労働協約としての効力は及ばない
①就業規則を変更する場合には、その内容の適用を受ける事業場の労働者が就業規則の内容を知り得る状態に置かれていることを要すると解するのが相当
②控訴人が就業規則の変更とみるべきと主張する社内報には、賃金改定の内容や説明が記載されているものの、それが就業規則の変更となる旨の説明はない上、交渉結果の報告等を交えたものとなっていることからすると、就業規則の体裁も整っていない。

前記社内報は、協定内容等の説明文書の域を超えるものとはいえず、前記社内報に賃金改定の内容等が記載されていることによって、従前の就業規則が変更されたとみることはできない。
労使慣行(C支部との協議あるいは従業員との意見交換を踏まえた上で、社内報による周知により賃金改定を行う)の主張も否定。

①労使慣行は、就業規則、労働協約などの成文の規範に基づかない集団的な取扱いが長い間反復・継続して行われ、それが使用者と労働者の双方に対して事実上の行為準則として機能する場合の問題であり、成文の規範であり所定の手続が必要とされる就業規則の変更の効力がこのような労使慣行により直ちに生じるものとは認め難い。
②本件においては、およそ社内報による周知等によって賃金改定の法的効力が生じているとは評価し難く、労使ともに社内報による周知によって賃金の改定が実施されたと理解していたものとも認め難い。
  ●争点(2)について 
Xらは、基本給協定、9パーセント減額協定及び逓増初任給協定に基づいて算定した賃金の支払を受ける権利を有している。
  規定  労契法 第7条
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
民法 第92条(任意規定と異なる慣習)
法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。
  解説 ●就業規則が法的拘束力を有するにはいかなる手続が必要か
最高裁H15.10.10(フジ興産事件):
就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を、適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきであると判示し、労契法7条においてもその旨を規定。
内規の形で労働組合に提示された退職功労金の支給基準について、体裁、手続面などを検討し、同基準自体は就業規則の一部ではないと判断した大阪高裁H27.9.29
●労使慣行について 
最高裁H7.3.9:
①労使慣行が長期間にわたtって反復継続して行われ、
②労使双方がこれを明示的に排除しておらず、
③労使双方、特に使用者の規範意識によって支えられている場合
には、「事実たる慣習」(民法92条)としてその法的効力を認める。
  商事p122
最高裁H29.2.21  
  取締役会設置会社である非公開会社における株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができる旨の定款の効力(有効)
  事案 取締役会設置会社である非公開会社において、取締役会の決議によるほか、株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができる旨の定款の定めが有効かどうかが争われた事案。 
Y1(非公開会社で、取締役会を設置する旨の定款の定めを有する取締役会設置会社)の定款には、
代表取締役は取締役会の決議によって定めるものとするが、必要に応じ、株主総会の決議によって定めることができる旨の定めがされていた。
Xは、Y1の代表取締役であった者。
Y2は、平成27年9月30日に開催されたY1の株主総会において取締役に選任する旨の決議及び代表取締役に定める旨の決議がされた者。
Xは、Y1及びY2に対し、本件株主総会の前記各決議には法令違反があるとして、Y2の取締役兼代表取締役の職務執行及び職務代行者選任の仮処分命令の申立て。
  規定 会社法 第二九五条(株主総会の権限)
株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
2前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。
3この法律の規定により株主総会の決議を必要とする事項について、取締役、執行役、取締役会その他の株主総会以外の機関が決定することができることを内容とする定款の定めは、その効力を有しない。
  原決定 代表取締役の選任・解任権限を株主総会に認めたからといって、取締役会の監督権能が失われるものではなく、本件定めが無効であるとはいえない。
⇒Xの申立を却下。 
    Xからの許可抗告の申立てを原審(東京高裁)は許可
  判断 ①会社法295条2項によれば、取締役会設置会社において、株主総会は、会社法に規定する事項及び定款定めた事項に限り、決議をすることができるところ、この定款で定める事項の内容を制限する明文の規定はない
②取締役会設置会社である非公開会社において、取締役会決議によるほか株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができるとしても、代表取締役の選定及び解職に関する取締役会の権限が否定されるものではなく、取締役会の監督権限の実効性を失わせるものではない

本件定めを有効として、本件許可抗告を棄却すべき。
  解説 会社法295条は、株主総会が決議することができる事項を、
1項で「この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項」とし、
2項で取締役会設置会社においては、「この法律に規定する事項及び定款で定めた事項」に株主総会の決議事項を限定。
本決定は、
取締役会設置会社である非公開会社において、
取締役会の決議によるほか株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができる旨の定款を有効であるとの法理を示したもの。
①公開会社について、株主総会にも代表取締役の選定権限を認める定款が有効かどうか
②取締役会設置会社において、株主総会のみに代表取締役の選定権限を認める定款が有効かどうか
などについては、判示するものではない。
7月
2332   
  民事p13
最高裁H29.1.31  
  相続税の節税のための養子縁組と縁組意思(民法802条1号)
  事案 亡Aの長女であるX1及びAの二女であるX2が、Aの孫であるYに対して、AとYとの間の養子縁組は縁組をする意思を欠くものでると主張⇒養子縁組の無効確認を求めた。 
  規定 民法 第802条(縁組の無効) 
縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
一 人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき。
  原判決 本件養子縁組は専ら相続税の節税のためにされたものであり、かかる場合は民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たる。
⇒Xらの請求を認容。
  判断 専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。
  解説 本判決は、相続税の節税のために養子縁組をすることは、節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るもの

専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできないと判断。
借養子縁組を無効とした最高裁昭和23.12.23:
たとえ養子縁組の届出自体については当事者間に意思の一致があったとしても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたものに過ぎないときは、養子縁組は効力を生じない

相続税の負担軽減のための便法として、養子縁組を仮装したような場合には、養子縁組が無効となるものと思われる。
「本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はない」との説示で、縁組意思が存在する旨の積極的な認定、説示はされていない。

養子縁組の無効確認の訴えにおいて、縁組意思がないことについては、縁組の無効を主張する原告に証明責任があるという見解に立ったものと思われる。
相続税法上、遺産に係る基礎控除額の算定の際に、相続人の数に算入される養子の数は、実子がいれば1人、実子がいなくても2人まで(同法15条2項)。
その制限内の人数の養子であっても、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、税務署長は、その養子の数をその遺産に係る基礎控除額算定上の相続人の数に算入しないで更正又は決定できる(同法63条)。

相続税の節税のための養子縁組が直ちに無効とならないとしても、相続税の節税効果が得られるとは限らない。
  民事p16
最高裁H29.1.24   
  不特定多数の消費者に向けられた働きかけと消費者契約法12条の「勧誘」(肯定)
  事案 消費者契約法2条4項の適格消費者団体であるXが、健康食品の小売販売を営むYに対し、Yが自己の商品の原料の効用等を記載した新聞折込チラシを配布することが、消費者契約の締結について勧誘をするに際し、いわゆる不実告知(法4条1項1号)を行うことに当たると主張⇒法12条1項及び2項に基づき、新聞折込チラシに前記の記載をすることの差止め等を求めた事案。
規定 消費者契約法 第一二条(差止請求権)
適格消費者団体は、事業者、受託者等又は事業者の代理人若しくは受託者等の代理人(以下「事業者等」と総称する。)が、消費者契約の締結について勧誘をするに際し、不特定かつ多数の消費者に対して第四条第一項から第三項までに規定する行為(同条第二項に規定する行為にあっては、同項ただし書の場合に該当するものを除く。次項において同じ。)を現に行い又は行うおそれがあるときは、その事業者等に対し、当該行為の停止若しくは予防又は当該行為に供した物の廃棄若しくは除去その他の当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとることを請求することができる。ただし、民法及び商法以外の他の法律の規定によれば当該行為を理由として当該消費者契約を取り消すことができないときは、この限りでない。

2適格消費者団体は、次の各号に掲げる者が、消費者契約の締結について勧誘をするに際し、不特定かつ多数の消費者に対して第四条第一項から第三項までに規定する行為を現に行い又は行うおそれがあるときは、当該各号に定める者に対し、当該各号に掲げる者に対する是正の指示又は教唆の停止その他の当該行為の停止又は予防に必要な措置をとることを請求することができる。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
消費者契約法 第四条(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)

 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。

一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
争点 本件チラシの配布が法12条1項及び2項にいう「勧誘」に当たるか否か?
  原審 「勧誘」には不特定多数の消費者に向けて行う働きかけは含まれないところ、本件チラシの配布は新聞を購読する不特定多数の消費者に向けて行う働きかけ。
⇒前記の「勧誘」に当たるとは認められない。 
  判断 事業者等による働きかけが不特定多数の消費者に向けられたものであったとしてもそのことから直ちに「勧誘」に当たらないということはできない。
⇒原審の前記判断には法令の解釈適用を誤った違法がある。 
but
その事実関係からは、法12条1項及び2項にいう「現に行い又は行うおそれがある」とはいえない
⇒原審の判断は結論において是認することができる。
⇒原告の上告を棄却。
  解説 そもそも、法は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み、消費者の利益の擁護を図ること等を目的として(1条)、
事業者等が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、消費者の意思形成に不当な影響を与える一定の行為をしたことにより、消費者が誤認するなどして消費者契約の申込み又は承諾の意思表示をした場合には、当該消費者はこれを取り消すことができることとし(4条1項~3項、5条)
さらに、一定の要件の下で適格消費者団体が事業者等に対して前記行為の差止め等を求めることができることとするもの(12条1項及び2項)。
事業者が、その記載内容全体から判断して消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような新聞広告により働きかけを行うときは、その働きかけが個別の消費者の意思形成に直接に影響を与え、これにより当該消費者が誤認するなどして消費者契約を締結することもあると考えられる

事業者等が不特定多数の消費者に向けて働きかけを行う場合を「勧誘」に当たらないとして法の適用対象から一律に除外することは、前記の法の趣旨目的に照らし相当とはいえない。
  民事p19
高松高裁H28.11.25  
  宗教法人との間の根抵当権設定契約が内部手続がとられていないことを理由に無効とされた事例
  事案  Y銀行が、Aとの間の銀行取引等に基づきAが負担すべき債務を担保するために、Aが代表者である宗教法人Xが有する不動産につき、Xとの間で根抵当権設定契約を締結し、同設定登記を経由したところ、Xが、本件設定契約は利益相反取引であるにもかかわらず宗教法人法及びXの規制に定められた手続を欠くからその効力を生じない⇒Y銀行に対し、前記不動産の所有権に基づき妨害排除請求として、根抵当権設定登記の抹消登記手続を求めた。 
  規定 宗教法人法 第21条(仮代表役員及び仮責任役員)
代表役員は、宗教法人と利益が相反する事項については、代表権を有しない。この場合においては、規則で定めるところにより、仮代表役員を選ばなければならない。
宗教法人法 第23条(財産処分等の公告)
宗教法人(宗教団体を包括する宗教法人を除く。)は、左に掲げる行為をしようとするときは、規則で定めるところ(規則に別段の定がないときは、第十九条の規定)による外、その行為の少くとも一月前に、信者その他の利害関係人に対し、その行為の要旨を示してその旨を公告しなければならない。但し、第三号から第五号までに掲げる行為が緊急の必要に基くものであり、又は軽微のものである場合及び第五号に掲げる行為が一時の期間に係るものである場合は、この限りでない。
一 不動産又は財産目録に掲げる宝物を処分し、又は担保に供すること。
  事実 Xの規則には、これらの宗教法人法の規定と同旨の規定が置かれている。
また、Xが解散したときには、その残余財産が原則として現代表役員(A)に帰属することが定められている。 
  判断 特に、包括宗教団体の代表者作成の承諾書面やX内部で公告手続がされたことを証する旨の信者作成の書面については、Y銀行の担当者が作成した原稿をAの責任役員等ではなくB社の従業員に交付して関係者の署名押印を求めるという経緯で作成されたものであった上、実際には公告手続がとられていなかったこと、Xの規則20条が定める責任役員会の同意手続がとられていなかったことを認定。
  本件設定契約が利益相反取引に当たるにもかかわらず宗教法人法及びXの規制が定める仮代表役員選任の手続を経ていないから無効であるところ、
①金融機関であるY銀行が本件設定契約の締結が利益相反取引に当たることを看過していたこと、
②Xに対するAの影響力が大きく、解散時の残余財産がAに帰属する旨がXの規則に定められているなどの事情は認められるものの、Xが宗教法人としての実態を有しており、A個人は別の法主体として固有の保護法益が認められること
③本件設定契約の締結手続に関して作成された前記各書面も前記認定の経緯で作成されたものである上、実際には公告手続がとられておらず、公告がされたか否かについては外部からの確認も容易であったにもかかわらずY銀行が何らの確認もしていない等の事情

前記各書面の交付を受けたことによりY銀行の信頼を重視すべきとは認められない。
⇒Xの請求を認容
  民事p29
大阪地裁H28.12.12  
   
  事案  起立斉唱拒否等を理由に再任用教職員採用選考不合格⇒国家賠償請求
  判断 先例(最高裁H23.5.30)に基づき、本件指導はXの歴史観・世界観を否定するものではない⇒Xの思想及び良心の自由を直ちに制約せず、また、本件指導及び本件不合格は、Xの思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面はあるものの、本件指導の目的及び内容並びに制約の態様等を総合的に較量すれば、前記制約を許容し得る程度の必要性と合理性が認められる。
自己申告票については教職員に特定の世界観や人生観等、個人の人格形成に必要ないしはそれと関連のある事項の記載をさせるものとは認められない。

本件所為及び自己申告票を提出しなかったことを本件不合格事由としたことについては、憲法19条に違反しない。
  本件不合格に当たって、Xには本件所為のほか、その後の職務命令違反行為や自己申告書の不提出等複数の事由の存在が認められる

他の教員と事情が同じであるとは認め難い

本件不合格は憲法14条に違反しない。
  ①本件指導は児童に対するものではない、②本件不合格はXの行為を理由にするもの⇒それぞれは児童の権利を侵害しない。 
教育の自由は現行法規の体系下での教育を実施する上で認められるところ、本件不合格はXの行為を理由とするもの
⇒教師の教育の自由を侵害しない。
  ①再任用の合否や採否の判断に関しては、市教委に広範な裁量権が認められているところ、②Xに係る各事情はXの教育公務員としての適性に疑義を抱かせるもの⇒これらの事情を考慮してXを不合格・不採用とすることに裁量権の逸脱・濫用はない。
  解説 最高裁は、不規律等の職務命令違反を理由とする懲戒処分における裁量論の判断枠組を示している(最高裁H24.1.16)が、他方で、不起立等をした教員に対する再任用について裁量論のそれを示していない。
下級審では、
再任用についての教育委員会の広範な裁量を認めつつ、
「不合格等の判断が客観的合理性や社会的相当性を著しく欠く場合には」裁量権の逸脱・濫用を認めるべきという判断枠組を示した判決(東京地裁H27.5.25)。
この枠組みを踏まえ、不起立等の行為が消極的な態様で、その程度が重大であることの客観的な説明ができない
⇒行為の非違性を不当に重く扱う一方で他の具体的な事情を考慮することがなかったものとして、教育委員会の不合格の判断は、客観的合理性及び社会的相当性を欠き、裁量権の逸脱・濫用に当たるとされた事例(東京高裁H27.12.10)。
  民事p44
名古屋地裁H28.9.26  
  傷害保険契約の保険金の支払請求(否定事案)
  事案 本件法施行後の平成23年10月に発生した、カーブした山道を走行中崖から車両ごと転落して運転者Aが死亡⇒X(会社、事故当時の代表取締役A)と保険会社Yとの間で、保険法施行前に締結され、毎年自動継続されてきた、Aを被保険者とする普通傷害保険契約に基づき、XがYに対し、保険金の支払を請求。
約款では、保険金の支払事由を
「被保険者が急激かつ偶然な外来の事故により傷害を被ったこと」と定め、
他方、
被保険者の故意又は重大な過失によって生じた傷害を免責事由と定めている。
  原告 被保険者の故意又は重大な過失によって生じた保険事故を免責事由とする保険法下の障害疾病定額保険契約に適用される約款の解釈について、かかる保険法の規定の内容等が斟酌される⇒最高裁H14.4.20の判示するところは妥当しないのであり、原告において事故の偶然性の主張・立証をする必要はない。 
  規定 保険法 第八〇条(保険者の免責)

保険者は、次に掲げる場合には、保険給付を行う責任を負わない。ただし、第三号に掲げる場合には、給付事由を発生させた保険金受取人以外の保険金受取人に対する責任については、この限りでない。

一 被保険者が故意又は重大な過失により給付事由を発生させたとき。
二 保険契約者が故意又は重大な過失により給付事由を発生させたとき(前号に掲げる場合を除く。)。
三 保険金受取人が故意又は重大な過失により給付事由を発生させたとき(前二号に掲げる場合を除く。)。
四 戦争その他の変乱によって給付事由が発生したとき。
  判断  ●事故の偶然性の主張立証責任について 
保険金請求者側が主張立証責任を負う

①保険法は、傷害疾病定額保険については、「人の傷害疾病に基づき」一定の給付を行うと定義するのみであるから、保険契約において、急激性、外来性の3要件を充足する事故のみを保険事故たる傷害の原因事故と定めたうえ、それにより生ずる傷害のみを保険保護の対象とすることは、保険法の定めに反するものではない。
②保険約款において、「傷害」について、急激かつ偶然な外来の事故によって被ったものであることを保険金給付事由と定めている以上、保険金請求者側において、発生した事故が急激かつ偶然な外来の事故であることの主張立証責任を負う。
③その場合、故意免責の規定は確認的な規定と解さざるを得ないが、保険法80条1号は任意規定とされているから、直ちにこれに反するわけではない。
  ●本件事故の偶然性 
①本件事故現場の道路脇に設けられた待機所に設置されたコンクリートブロック(崖への転落防止用擁壁)の損傷状態、②現場のわだちの跡、③本件事故後の車両の破損状況、④Xの経営状況、⑤事故前のAの状況、⑥事故日前後のAの言動等を検討。
①②③⇒Aは、本件事故現場付近でいったん道路のカーブに沿って右にハンドルを転把し、夜間の照明もない山道において、最高速度を10キロメートル程度上回る高速で走行したうえ、緩やかに左ハンドルを転把してコンクリートブロックに衝突したもので、意図的にダム湖に向かうようにハンドル操作をしたと認定できる
⇒本件事故が外形的に見て事故であるといえるような事故態様であったとはいえない。
Xの経営状況(倒産の危機に瀕していたとなどとは言えない。)、Aの事故前後の行動状況(本件事故後の予定も組まれていた等)など⇒Aが自殺する意図を有していたとまでは言えない。
but
Aは当時Xの業績の変動等から相当のストレスを受けていたと考えられること等から、およそ自殺を考えるような状況になかったとも言えない。

結局、本件事故については、急激かつ偶然のものとは認め難い(外形的に見て事故であることの立証がされれば、急激かつ偶然の事故であることについて一応立証がされたとする立場に立ったとしても、本件では、外形的に見て事故であるとの立証がされたとも言えない。)として、Xの請求を棄却。
  解説 保険法制定前の商法には傷害疾病定額保険契約について規定はなく、約款において規律されるものとなっていたところ、
約款において、
被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に被った傷害に対して保険金を支払うものとされる一方、
被保険者の故意、自殺行為によって生じた傷害に対しては保険金を支払われないものと定められていた事案につき、
平成13年最高裁判決:
前記約款に基づき死亡保険金の支払を請求する場合における自己の偶然性の主張立証責任は保険金を請求する者が負うとし、故意による場合の免責の規定は確認的注意的なものにとどまる旨判示。
(なお、同日付の最高裁判決は、生命保険契約に付加された災害割増特約についての約款に基づき災害死亡保険金を請求する場合、請求する側が発生した事故の偶然性について主張・立証責任を負うと判示。) 
①保険法では、傷害疾病定額保険契約を「人の傷害疾病に基づき一定の保険給付を行うことを約するもの」とだけ定義し、かつ、
②被保険者の故意により給付事由を発生させたことを免責事由として定めている

被保険者の故意による自己招致(偶然性の不存在)は抗弁として位置づけられるので、平成13年最高裁判決の判断は保険法下では維持できないという考え方もあり得る。
約款の規定の仕方から保険金請求者の側において偶然性の主張立証責任を負うと解すると、保険金請求者の側に困難を強いる。

平成13年最高裁判決は、立証の程度の問題について、保険金請求者側の負担を軽減する判断手法を用いることを否定するものではないとし、
①人は一般に自ら自分を傷つけるものではないという人の自己保存本能に基づく経験則が存在する⇒保険金請求者側において、外形的にみて事故であるということ(例えば、道路から車が湖に転落したこと)が立証できれば、事故が偶然であることが事実上推定される
②これに対し、保険者が、事故の偶然性を争うためには、自殺を真に疑わせる事項を立証する必要がある
③保険者がこの立証をした場合には、保険金請求者は、この疑念を反ばくするに足りる程度の立証をする必要があり、これができなければ、偶然性の立証はされなかったことになる
とする見解が有力に主張。
本件事故の偶然性の判断については、自殺の動機という面からはあまり決定的なものは見当たらず、現場のコンクリートブロックに残されていた損傷という客観的状況から推定される車両の進行状況から意図的に左にハンドルを切って路外に高速で進行したという判断が導かれたことが決定的。 
  民事p58
京都地裁H28.2.17  
  肝機能が悪化した場合に専門の医療機関を紹介する診療契約締結とその不履行が認められた事例
  事案 Xが、Yの開設するYクリニックにおいて、Yとの間で、B型肝炎の治療を目的とした診療契約を締結
but
Yクリニックの担当医師であるA医師が、適切な診察を怠った結果、肝硬変及び肝がんに罹患

診療契約の債務不履行に基づき、1億2278万円余の損害賠償請求。
B医師は、A医師にXを紹介するにあたり、XがB型肝炎ウイルスキャリアであり、肝機能障害に注意すべきであるとの引継ぎ。
but
Yクリニックは、Xに対し積極的に肝炎の治療は行わなかった。
Xは平成17年10月、C病院で肝がんの疑いを指摘され、同年11月にはD病院で肝腫瘍と診断された。
  判断  ①Yクリニックでの治療を受ける前のB医師の治療でもバセドウ病の治療を受けており、B型肝炎の治療を受けていない
②YクリニックはB型肝炎の専門的な治療を行う医療機関ではない
③XもYクリニックにおいて積極的な肝炎の治療を受けていたとまでの認識がない

X・Y間でB型慢性肝炎に関する諸検査等を積極的に実施するなどの治療管理を内容とする診療契約が成立したとまでは認定できない。
but
①A医師はB医師からXがB型肝炎ウイルスキャリアであり、肝機能障害に注意すべきである旨の引継を受けた
②これを受けて、A医師は、第1回目の診察の際、血液検査を実施し、その2か月後の診察の際には、腹部エコー検査及び腫瘍マーカー検査を実施し、「肝機能←ならG紹介」とカルテに記載している
③甲状腺機能亢進症の治療で処方されるメルカゾールにより肝機能が悪化することがあり、治療の際にも肝機能には注目しなければならない
④A医師は、定期的にXの血液検査を実施し、GOT及びGPTの各値をカルテに記載

A医師は、バセドウ病の治療を継続する際に、肝機能に着目し、Xの肝機能が悪化した場合には、専門医療機関を紹介する必要があるとの意思を有していた

Yは、Xの肝機能が悪化した場合には、肝臓専門の医療機関を紹介する診療契約を締結したと認定。
①平成15年6月に実施された血液検査によれば、GOT値がGPT値を上回るような数値でないものの、GOTが97、GPTが166といずれも急激に上昇しており、肝硬変への進行が疑わる数値が表れている
②A医師自身も、前記検査結果を受けてカルテに「肝機能←」と記載

平成15年6月の時点で、XをG等の肝臓の専門医療機関に紹介すべき義務があったのに、これに違反した債務不履行がある。
Yの債務不履行とXの肝硬変及び肝がん罹患との因果関係について、
平成15年6月の時点でXが肝臓の専門医療機関において治療を受けていれば、少なくとも、肝がんへの進行時機を遅らせることができたとして因果関係を肯定。
損害については、4割の過失相殺
⇒954万円余の限度で請求の一部を認容。
  解説 医師は、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準に従った診療を行うべき注意義務を負っている。
医師が自ら医療水準に応じた診療をすることができないときは、医療水準に応じた診療をすることができる医療機関に患者を転送する義務がある(最高裁)。 
  民事p71
高知地裁H28.12.9  
  重症新生児仮死の状態で出生し、重度の後遺障害を負った⇒損害賠償請求(肯定)
  事案 Yの運営する病院で重症新生児仮死の状態で出生し、重度の後遺障害を負ったA並びにその両親である父B及び母Cが、Y病院の医師及び助産婦には急速遂晩の準備及び実行をすべき義務があるのにこれを怠った過失等がある
⇒Yに対し、民法715条1項に基づき、合計約2億円余の損害賠償請求。 
  判断 ①遅発一過性徐脈がある場合には胎児が低酸素状態にあることが、基線細変動が減少している場合には胎児の状態が悪化していることが、それぞれ推測される
②上記のとおり、Aの遅発一過性徐脈は一時的なものではなく、午後3時40分頃には高度遅発一過性徐脈が発生し、午後3時50分頃から、基線細変動の減少を伴う高度遅発一過性徐脈が複数回にわたり発生

担当医Dにおいては、遅くとも午後4時40分頃に分娩室に入室したころには、Aが低酸素状態にあり、その状態が悪化していることを認識することができた。 
Aがその後直ちに娩出されるような状況にはならなかった

陣痛促進薬による経膣分娩をそのまま続行した場合には、上記の低酸素状態がさらに増悪し、ひいてはAに低酸素状態を原因とする脳性麻痺の後遺障害が生じることがあり得ることを予見することができた。

急速遂娩を行わなかった担当医Dには過失がある。
Yに対し、Aに1億7411万円余、Bに330万円、Cに440万円を支払うよう命じた。
  解説 本判決が依拠したのは日本産婦人科学会と日本産婦人科医会が発表している「産婦人科診療ガイドライン・・・産科編2011」。

日本産婦人科学会と日本産婦人科医会でコンセンサスが得られた医学的知見が示されていると判示。
  労働p90
札幌高裁H28.11.18  
  公立学校教員の懲戒免職処分及び退職手当支給制限処分が取り消された事案
  事案 処分庁が設置する公立学校の教員であったXが、ソフトウエアの違法コピーをインターネット上で販売したという非違行為を理由に、懲戒免職処分及び退職手当支給制限処分を受けた⇒本件各処分は、いずれも処分庁が有する裁量権の範囲を逸脱し又はそれを濫用したものであると主張し、処分庁の所属するYを相手に、本件各処分の取消しを求めた事案。 
  原審 公立学校教員の懲戒処分にかかる先例である伝習館事件上告審判決(最高裁H2.1.18)を参照しつつ、公務員の懲戒処分は、「社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者が、その裁量権の範囲を逸脱し、又はそれを濫用してしたものであると認められる場合に限り、違法となる」という判断枠組みの下、
①Xの非違行為は、地方公務員法上の懲戒事由に該当し、職務外の行為ではあるものの、 「高い倫理と廉潔性が求められる」教員にとって重大な非違行為であり、Yの地方教育行政に対する社会的信頼も著しく低下させられた
②窃盗との材質の近似性

内部的な懲戒処分の指針に従って免職処分としたことはYの裁量権の範囲を逸脱し、又は裁量権を濫用したものとは認められない。
  判断 前記伝習館事件上告審判決に加え、公務員の懲戒処分にかかる先例である神戸税関事件上告審事件(最高裁昭和52.12.20)を参照しつつ、
一審と同様、「社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者が、その裁量権の範囲を逸脱し、又はそれを濫用してしたものであると認められる場合に限り、違法となる」という判断枠組みの下、
Xの非違行為は、地方公務員法上の懲戒事由に該当するとし、懲戒処分の選択に当たって内部的な指針に従うことが相当と判断。
but
①Xの非違行為について、窃盗との罪質の近似性を否定し、極めて重大な非違行為であるとまでは言えないと判断。
②本件非違行為は職務外の行為であり、Xが本件非違行為をしたことによって、Yの教育公務員が遂行する地方教育行政に係る職務に対し、・・・社会全体が有する信頼が著しく低下したとまで認めることはできない
③本件非違行為の発覚前後や処分前後におけるXの勤務状況や態度

教員としての地位を失わせる免職処分は「社会観念上著しく妥当性を欠き、処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱したものとしうべき」
と判断。
  解説 一般の民間労働者に関して、使用者は、労働契約上の付随義務である企業秩序順守義務の違反について、規則の定めるところに従い制裁として労働者に懲戒処分を科すことができる。
そして、当該懲戒処分に関しては、労働契約法15条に基づき、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」か否かの司法審査に服する。
労働契約法 第15条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
Xのような公務員に関しては、国家公務員法82条1項ないし地方公務員法29条1項に基づいて、法律上、任命権者が懲戒処分を科すことができるが、任用関係である公務員に対して、労働契約法は適法されない(同法22条1項)。 
労働契約法 第22条(適用除外)
この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない。
2 この法律は、使用者が同居の親族のみを使用する場合の労働契約については、適用しない。

公務員の懲戒処分の適否に関しては、労働契約法の制定後も、前掲神戸税関事件上告審事件が設定した判例上の判断枠組みに従って、「社会観念上著しく妥当を欠」くか否かという観点から、裁量権の逸脱ないし濫用の有無が審査。
民間労働者の場合、使用者は、労働遂行に関係する限りで労働者の行動を規制する権限を有するに過ぎない
⇒本件のような私生活上の非行について当然に制裁を科す権限を有していない。

そこでは、私生活上の非行をもって懲戒すること自体は可能と解されているものの、懲戒の可否・適否をめぐっては、「当該行為の性質、情状、会社の事業の種類・態様・規模、従業員の会社における地位・職種等諸般の事情を考慮して、企業の社会的評価の毀損の有無」を「厳格に審査」すべきものと考えられている。 
本件のような公務員の私生活上の非行に関しては、やはり任命権者が懲戒処分を科すること自体は可能と解されているものの、私生活上の非行であることにより民間労働者のような制約が生じるのか明らかでない。
民間労働者の場合、懲戒処分として行われる解雇(懲戒解雇)に関しては、当該処分に伴う有形・無形重大な不利益に鑑みて、その適法性が特に厳格に判断されている。

公務員の場合にも、懲戒処分として行われる免職(懲戒免職)に関しては、公務員たる地位を失わせる重大な結果をもたらすことに鑑みて、特に慎重な配慮を要するものと解されている。
  刑事p109
東京高裁H28.12.9  
  尿中から覚せい剤成分が検出された被告人が無罪とされた事例
  事案 警察官に任意提出した尿中から覚せい剤成分が検出⇒覚せい剤使用の事実で起訴。 
  一審 有罪 
  判断 わが国においては覚せい剤が厳しく取り締まられており、日常生活を送る中で、本人の意思に基づかずに覚せい剤が体内に取り込まれることは通常考え難い
⇒尿中から覚せい剤成分が検出されたことは、その者が自らの意思で覚せい剤を摂取したことを強く推認させる。 
この事実に加え、同人と覚せい剤との結び付きを示す事情や、覚せい剤の意図的な使用を疑わせる同人の言動等が認められるときは、前記推認は一層強いものとなり、その推認を妨げる特段の事情が認められなければ、同人が自らの意思で覚せい剤を窃取したとの事実を認定することができる。
but
「日常生活を送る中で、本人の意思に基づかずに覚せい剤が体内に取り込まれることは通常は考え難い」との前提は、尿中から覚せい剤が検出された者の生活状況や人間関係等によって妥当性の程度に差異がある

前記のような推認を強める事情が認められないにもかかわらず、尿中から覚せい剤成分が検出されたことのみに基づいて、自らの意思で覚せい剤を摂取したものと認定するには、その者の生活状況等や推認を妨げる特段の事情に関する慎重な検討が必要。
特段の事情につき検討するに当たっても、推認を妨げる事情があることの立証責任が被告人にあるかのような判断に陥らないように注意する必要がある。
本件においては、被告人の尿から覚せい剤成分が検出されたとの事実が認められるだけであって、被告人と覚せい剤との結び付きを示す事情や覚せい剤を使用したことを疑わせる被告人の言動等は見当たらない。
被告人が自らの意思で覚せい剤を摂取したものと推認することの適否や特段の事情の有無を慎重に検討し、
被告人の生活状況や人間関係等に照らせば、第三者が被告人の飲食物に覚せい剤を入れ、被告人の知らないままに覚せい剤がその体内に取り込まれたという可能性を否定することができず、被告人が自らの意思で覚せい剤を摂取したとするには合理的な疑いがある。
原判決は、「何者かがわざわざ被告人の飲食物に覚せい剤を混入させるというのも、にわかには想定し難い」と判示するが、その旨を抽象的に述べるだけで、以上のような具体的な事実関係を踏まえた検討が行われた形跡はうかがわれない。 
・・・・被告人が、自己の身体から覚せい剤等の違法薬物の成分が検出されることを想定していなかったとの疑いを生じさせるものである。この疑いは単なる一般的な可能性に留まるとはいい難いにもかかわらず、原判決の前記説示は、その疑いを超えて、被告人が自らの意思で覚せい剤を摂取したと認定することができる理由の説明として実質的な内容を含んでおらず、捜索が入るとの話を被告人が聞いていたことについては検討の跡もうかがえない
被告人には覚せい剤を購入する資力はなかったとする原審弁護人の主張についても、それが根拠を欠く主張ではないにもかかわらず、原判決は、被告人が自らの意思で覚せい剤を窃取したとの推認を妨げる事情とはならないとの結論を示すだけで、そのように判断した理由の説明は全くない
  解説  注意すべきは、被告人が思い当たることとして説明する内容そのものが「特段の事情」ではないこと。
その説明内容が信用できないからといって「特段の事情がない」ことになったり、自らの意思で覚せい剤を摂取したとの推認が強化されたりするわけではない。
「特段の事情がない」ことの立証責任が検察官にあることは、刑事裁判における鉄則である。しかし、実質上、被告人に「特段の事情があること」の立証責任を負わせているのではないか、と思わせるような判示に遭遇することも稀とはいえない。
尿中からの覚せい剤成分の検出ほどの強い推認力がある場合でもないのに、「〇〇の事実が認められることからすれば、特段の事情のない限り、××の事実が推認される」などと判示することには慎重であるべき。
実際には、当該事案における個別具体的な事実関係に基づく事実上の推認にすぎないものを、あたかも一般的な経験則であるかのように表現することになるし、そのフレーズを使うことによって、立証責任を転換したかのような判断に陥る危険も生まれる。
本来「〇〇の事実からは、××の事実が推認される。△△の事実は右の推認を覆すものとはいえず、他に右の推認を覆すべき事情も認められない」、とすれば済む。
2331   
  行政p12
函館地裁H28.8.30   
  地方議会での行為と司法審査の範囲
  事案 Y町の町議会議員である4名が、Y町に対し、
①Y町議会によるXらそれぞれをY町議会懲罰委員会に付託する旨の各決議の無効確認を求め(請求①)
②Y町議会によるX1に対する3日間の出席停止の決議並びにX2、X3及びX4に対する戒告の各決議の無効確認を求め(請求②)
③Xらとは別のY町議会議員3名がXらに係る各町会動議を提出し、その理由を読み上げた行為が、Xらの名誉を毀損するものであるとして、Xら各自に対し、それぞれ慰謝料200万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた(請求③)
事案 
  判断 ●請求①②について 
本件各付帯決議及び本件各懲罰決議は、いずれも、XらのY町会議員としての身分を喪失させるものではなく、一般市民法秩序と直接の関係を有しないものであり、内部規律の問題として自治的措置に任せるのが相当
⇒事柄の性質上、司法審査の対象とはならない。
⇒不適法で却下。
  ●請求③について 
本件動議提出行為によってXらの名誉という私権が侵害され、Y町に国賠法上、賠償責任が生じるか否かが問題となっているのであり、これは純然たる内部規律の問題ではなく、一般市民法秩序に関係する問題。
⇒司法審査が及ぶ。
本件動議提出行為は、Xらの名誉を毀損するものであって、一部を除き違法性阻却事由も認められない。
⇒一部認容。
  解説 ●地方議会における決議と司法審査の範囲 
裁判所は、日本国憲法に特別の定めがある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判する権利を有する(裁判所法3条1項)が、
法律上の争訟とはあらゆる法律上の係争を意味するものではなく、事柄の性質上司法審査の対象外とするのを相当とするものがある。
一般市民社会の中にあってこれとは別個に自律的な法規範を有する特殊な部分社会における法律上の係争については、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主的、自律的な解決に委ねるのと相当とし、裁判所の司法審査の対象とはならない(判例)。
◎いかなる場合に内部規律の問題にとどまるとされ、いかなる場合に一般市民法秩序と直接の関係を有するとされるか?
最高裁昭和35.10.19:
地方議会の議員に対する懲罰決議のうち出場停止(地方自治法135条1項3号)について、司法審査の範囲外であると判断し、同判例は、傍論ながら、地方議会の議員に対する懲罰決議のうち除名処分(同項4号)については、議員の身分の喪失に関する重大事項で単なる内部規律の問題に止まらないから司法審査の対象となるとしている。
一般市民法秩序と直接の関係を有するとされ、司法審査が許される場合であっても、
当該団体の内部的自立権の尊重という観点⇒司法審査は原則として、処分等が当該団体の内部規範に合致しているか否かという手続面の当否に限定されるべき(最高裁昭和63.12.20)。
  ●損害賠償請求等と司法審査の範囲 
最高裁H6.6.21:
町議会が議員辞職勧告決議等をしたことが名誉毀損にあたるとして国賠請求がなされた事案で、当該議員辞職勧告決議は、私人間の土地所有権をめぐる紛争についての言動を理由とするものであり、これを司法審査の範囲内と判断。
大阪高裁H26.2.27:
公認会計士協会が所属する公認関係しに対し懲戒処分をし、当該処分及び当該処分を会報に掲載したことが名誉毀損にあたると争われた事案。
当該処分となった行為は公認会計士の監査の方法に関するものであり、当該処分及び当該処分を会報に掲載したことが名誉毀損にあたるか否かは、いずれも司法審査の範囲内であると判断。
本件動議提出行為:
Xらの町長に対する不信任の提出に関する地方議会議員としての言動を理由とするもの。
but
①地方議会の議員に対する懲罰決議そのものでなく、その前提としてなされた行為にすぎず、
②その後に可決された本件各付託決議及び本件各懲罰決議の有効性を前提とするものではない。

本件動議提出行為がXらの名誉を毀損するものか否かについては、議会内部の規律のみにゆだねて解決すべき問題とはいい難く、司法審査が及ぶ事項であると判断。
  ●地方議会議員が地方議会においてした発言と国家賠償責任 
地方議会議員の地方議会における発言が特定個人の名誉を低下させる場合、いかなる要件の下で国賠法1条1項にいう違法な行為があったものとして地方公共団体の責任が生じるか?
最高裁H9.9.9:
国会議員が国会の質疑などの中でした個別の国民の名誉又は信用を低下させる発言につき、国賠法1条1項の規定にいう違法な行為であったとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法または不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とする。
国会議員には、憲法上、免責特権(憲法51条)が認められており、地方議会議員には、明示的に免責特権が認められているわけではない。
⇒地方議会における議員の発言についての名誉毀損が問題となる場合の国賠法1条1項の規定にいう違法な行為であったとして地方公共団体の損害賠償責任が肯定されるための要件として、最高裁H9.9.9以上に厳格な要件が課されることは考え難い。
本判決は、少なくとも前掲最高裁の要件を満たす場合は、地方公共団体の損害賠償責任が肯定されるとし、本件動議提出行為はこれを満たすと判断。
  行政p23
宇都宮地裁H28.12.21  
  家屋課税台帳の登録価格について、需給事情による減点補正をすべき場合
  事案 那須塩原市に所在する家屋に係る平成24年度家屋課税台帳の登録価格について、XがYに対し、需給事情による減点補正をすべきであるとして審査の申出。
⇒Yが棄却する決定⇒Xが同決定の一部取消しを求めた。 
  解説 固定資産の価格は、固定資産評価基準によって決定しなければならないとされているところ(地方税法403条1項)、平成24年度において適用される固定資産評価基準は、家屋の評価について、各個の家屋について評点を付設し、当該評点数に評点1点あたりの価格を乗じて当該家屋の価格を求める方法によると定める。
そして、各個の家屋の評点数は、
①当該家屋の再建築費評点数を基礎とし
②これに家屋の損耗の状況による減点を行って付設するものとし、
さらに
③家屋の状況に応じ必要があるものについては、家屋の需給事情による減点を行うものとしている。 
  争点 ①需給事情による減点補正率の適用は極めて限定的な場合に限られるべきか否か
②本件家屋において需給事情による減点補正率を適用すべきか否か、適用すべきとした場合の割合 
  判断 ●争点①について 
固定資産評価基準が需給事情による減点補正を認めている趣旨からすると、需要と供給の間に乖離がある場合には需給事情による減点補正をしなければならない⇒需給事情による減点補正率を適用するのは極めて限定的な場合に限られるとまではいえない。
  ●争点②について 
①本件家屋所在地域の観光客入込数及び宿泊数等の著しい減退傾向
②上下水道の不存在
③公図未整備地区内に所在すること
④日光国立公園内に所在すること
⑤土砂災害特別警戒区域内に所在すること

これらの要因を総合的に考慮すると、本件家屋において需給事情による減点補正を行う必要があり、
需給事情による減点補正率は15パーセントが相当。
減点補正率の算定にあたり各要因がどの程度影響を与えたか?
①の要因:一定程度影響を与える
②の要因:影響が大きいとはいえない
③の要因:影響がそれほど大きいとはいえない
④の要因:影響が大きいとはいえない
⑤の要因:大きく影響を与える
  解説 固定資産評価基準は、需給事情による減点補正率の適用について、
「建築様式が著しく旧式となっている非木造家屋、所在地域の状況によりその価格が減少すると認められる非木造家屋等について、その減少する価格の範囲において求めるものとする。」とのみ定め、具体的な適用場面をそれ以上明らかにしない。 
昭和42年10月21日改正の固定資産評価基準の取扱いについての依命通達
(1)・・・最近の建築様式又は生活様式に適応しない家屋で、その価額が減少するものと認められるもの。、
(2)不良住宅地域、低湿地域、環境不良地域その他当該地域の事情により当該地域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在する家屋
(3)交通の便否、人口密度、宅地価格の状況等を総合的に考慮した場合において、当該地域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在する家屋
について需給事情による減点補正を適用すると定めている。
本判決で大きく考慮された要因は⑤の要因と思われるが、これは、同要因を通達の環境不良地域((2))又は同地域に準ずる地域に該当する事情とした上で、土砂災害等が生じた急傾斜地の崩壊などが起きた場合には、住民等の生命または身体に著しい危害が生じるおそれがあり危険性が大きいため、本件家屋の市場性に大きく影響を与えると判断した結果。
  民事p31
大阪高裁H28.12.22  
  公立中学の部活動中の熱中症での脳梗塞⇒国賠請求(肯定)
  事案 Y(東大阪市)の設置する本件中学校のバドミントン部に所属していたXが、指導教諭等による熱中症予防対策が不十分であったことにより、部活動中に熱中症に罹患して脳梗塞を発症⇒国賠法1条1項に基づき5639万円余の損害賠償を求めた。 
  原審 Yの損害賠償責任を認め、Yに対して411万円余の支払を求める限度で請求を認容。 
  判断 ●中学校長等の過失
スポーツ活動中の熱中症を予防するための措置を講ずるには環境温度を認識することが前提となり、その把握が極めて重要であることは、平成22年当時において学校関係者に既に周知されていたと認められる。
⇒Yの中学校長に温度計を設置すべき義務があった。
  ●本件過失と脳梗塞との間の因果関係 
Xは少なくとも当日の検査でいずれもプロテインS抗原量等の数値が基準を下回っている⇒原審がXのプロテイン欠乏症が脳梗塞の発症及びその重篤化に相当大きく寄与したと推認され、寄与度70%と認定したことは相当。
  解説 国公立学校の教育活動に伴う事故について、国賠法1条の公権力を広義に解し、学校教育活動もそれに含まれる(最高裁)。
クラブ活動であっても、それが学校の教育活動の一環として行われるものである以上、その実施について、学校側に生徒を指導監督し事故の発生を未然に防止すべき一時的な注意義務のあることを否定することはできない(最高裁昭和62.2.6)。
危険から生徒を保護するために、常に安全に十分な配慮をし、事故の発生を未然に防止べき一般的な注意義務がある(最高裁H9.9.4)。
学説:
注意義務の具体的基準について
①クラブ活動の性質・危険性の程度
②生徒の学年・学齢
③生徒の技能・体力
④教育指導水準
などの要素を考慮すべき。
熱中症の死亡事故について
千葉地裁H3.3.6は、顧問教諭の過失を肯定しているが、そこでは、水分・塩分の補給が問題。
本件では、環境整備義務の一環として温度計設置義務違反が認められている。
  民事p49
福岡高裁那覇支部H28.7.7  
  破産管財人に対する財団債権としての不当利得返還請求権が認められた事例
  事案 2社から構成される建物の建築工事の共同企業体が工事を施工し、発注者から請負代金を同企業体名義で振込受領する等した後、同企業体の代表者であった会社につき破産手続開始。
請負代金が破産裁判所を介して、破産管財人に引き渡され、財団組入⇒同企業体の組合員である会社が破産管財人に対して取戻権、財団債権を行使。 
A㈱とB㈱は、平成25年5月、C市の発注に係る幼稚園新築工事の請負につきX共同企業体を結成。
Aは、平成25年7月、Xを代表し、Cとの間で、請負代金2億356万9537円で前記新築工事、同年10月、請負代金341万2500円で付随する防音工事の請負契約を締結。
Aの代表者Dは、平成26年4月9日、Aの破産を考え、E司法書士に破産申立書の作成を依頼するとともに、請負代金がF銀行のX名義の預金口座に入金されると相殺されるおそれがあり、G信用金庫のX名義の預金口座に入金先を変更し、Cは、GのX口座に請負代金残金7447万4037円を入金したほか、Dは、Xの財産を保全するため、Eに前記請負代金を預けることとし、同日、Eの預金口座に振込入金をした。(E口座①.当時、別事件の預り金1826万円余も預けられていた)。
Eは、その後、E口座①からXの債権者に対する支払等の入出金をしたが、同年5月7日、他の事件の預り金と区別して保管するため、本来は7440万5997円となるべきところ、誤ってXの請負代金残額として7408万281円をH銀行のE名義の預金口座(E口座②.当時、Aからの預り金31万円余も預けられていた)に振替送金。
Aは、Eの作成に係る申立書等の書類によって、同年10月8日、N地裁O支部に破産手続開始の申立て。
X(清算人はB)は、
主位的に、金銭6832万9457円(請負代金)の所有権を主張し、破産法62条の取戻権の行使として、同金銭の返還を請求
予備的に、債権としての請負代金につきEとの間の委任契約、あるいは信託契約に基づく受取物引渡義務を主張し、取戻権の行使としての返還、
財団債権としての不当利得の返還を請求する訴訟をO支部に提起。
  規定 破産法 第148条(財団債権となる請求権) 
次に掲げる請求権は、財団債権とする。
五 事務管理又は不当利得により破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権
  争点 ①請負代金についてのXの所有権の有無
②Xの取戻権の有無
③委任契約の成否
④信託契約の成否
⑤財団債権としての不当利得請求権の有無
等 
  判断 主位的請求は理由なし。
予備的請求について:
Xの代表者Aの代表取締役Dは、Eとの間で、Xの請負代金の保全を目的とし、これを保管し管理する旨合意し、請負代金を預託

金銭の所有権はEに一旦帰属するものの、Eは、委任の趣旨に従って権利し、委任終了時に残金の返還義務を負い、Xは、委任契約上の預託金返還請求権を有するに至った。(Xの信託契約の主張については、同契約の成立は認め難いとした)。
①Eが裁判所に請負代金を含む7008万円余を予納したのは、とりあえず散逸防止のため予納させたと推認でき、Xに属すべき金銭であることが判明すれば、その時点で何らかの処理をするもの。
②予納自体は対価性を有する行為でなく無償行為に属するものであり、請負代金がXが帰属すべき金銭である以上、裁判所が取得すべき法律上の原因は存しないし、Xに帰属すること判明すれば速やかに本来の権利者たるXに返還すべき義務を負う。
③裁判所は、前記7008万円余をYに支給し、Yが財団組入したが、支給決定自体は単に裁判所の保管金を破産管財人に交付するための内部手続にすぎず、何らかの法的原因や対価関係を伴うものではなく、破産管財人がこれを取得する法律上の原因たりえないし、損失と利得との間の直接の因果関係を否定するものでもなく、財団組入は破産手続開始決定時における法定財団と現有財団との間に不一致がある場合に、破産管財人の管理下になかった財産を回収し、現有財団に帰属させる行為にすぎず、第三者に帰属すべき財産を破産者ないし法定財団に帰属させる法律上の原因にならない

Yが請負代金を財団組入したことは、単に第三者であるXに帰属する財産を事実上破産財団としてYの管理下に置いたもの⇒Xは、Yに対してこの時点で直接に不当利得返還請求権を取得し、Yは財団組入時に悪意であったとして、破産法148条1項5号所定の財団債権を肯定。
  解説 財団債権としての不当利得返還請求の有無について、
控訴審判決は、
請負代金が共同企業体の固有財産であることを前提とし、共同企業体の預金口座、司法書士の二口の預金口座、破産裁判所の保管金口座、破産管財人の預金口座のそれぞれの振込を経て、破産管財人が財団組入した場合に、予納、支給決定、財団組入のそれぞれの法的な性質を説示しながら、破産管財人が請負代金を財団組入したことは、法律上の原因がなく、不当利得の要件を満たすとし、
共同企業体が破産管財人に対して財団組入の時点で直接に不当利得返還請求権を取得したこと、
本件の破産管財人が悪意であるとしたこと、
破産法148条1項5号所定の財団債権に当たることを判示。
  民事p61
大阪地裁H28.7.27   
  ①売買代金支払うまで②建物明渡しを拒絶する同時履行の抗弁権と③抵当権消滅請求の手続終了まで代金支払を拒絶する旨の主張
  事案 Xは、平成16年7月2日、Yに対して賃貸用マンションである本件建物及びその土地(「本件物件」)を2億3500万円で売り渡した。
その際、XとYとの間で、Xが本件物件を2置く9464万5000円でXの一方的な意思表示により買い戻すことができる旨の再売買の予約を合意。 
Xは、平成20年4月1日、Yに対し、本件再売買の予約を完結する意思表示を行ったとして、本件物件を2億9464万5000円で売り渡すことを求めた。
Yは、本件合意が無効である等を主張⇒Xは、本件物件について所有権移転登記手続を求める訴訟を提起⇒Yに対して本件再売買の代金と引換えに所有権移転登記手続を命じる旨の判決確定。
but
Yは、平成16年7月22日、本件物件に債務者をYとし、根抵当権者を第三者とし、極度額を3億4800万円とした根抵当権設定登記を設定。

Xは、無条件での本件建物の明渡し等を求める本件訴訟を提起。
  争点 Yは、本件再売買の代金を支払うまで本件建物の明渡しを拒絶する旨の同時履行の抗弁
Xは、抵当権消滅請求の手続が終わるまで代金支払を拒絶する旨の再抗弁
前記の再抗弁に対してYが行った
①Y(売主)がX(買主)に対して遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求して一定期間が経過したから代金支払拒絶権は消滅したとの再々抗弁
②Xが本件再売買の予約完結権を行使したときに本件登記が存在することによる減価は考慮澄み⇒民法577条1項前段の適用はないとの再々抗弁
③代金供託を求める再々抗弁
  規定 民法 第567条(抵当権等がある場合における売主の担保責任)
売買の目的である不動産について存した先取特権又は抵当権の行使により買主がその所有権を失ったときは、買主は、契約の解除をすることができる。
2 買主は、費用を支出してその所有権を保存したときは、売主に対し、その費用の償還を請求することができる。
  民法 第577条(抵当権等の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶)
買い受けた不動産について抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、その代金の支払を拒むことができる。この場合において、売主は、買主に対し、遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。
民法 第578条(売主による代金の供託の請求)
前二条の場合においては、売主は、買主に対して代金の供託を請求することができる。
  判断 ●代金支払拒絶権の消滅の再々抗弁(争点①)の可否 
民法577条1項前段の趣旨:
抵当不動産の買主は売主に対してて抵当権消滅請求の手続を行うために要した費用の償還を民法567条2項により請求することができる。
⇒抵当不動産の買主が抵当権消滅請求の手続を終えた後にその費用を差し引いた売買代金額を支払えば足りるとすることによって、当事者間の衡平を図ることにある。
抵当不動産の買主が所有権移転登記を備えていない場合には抵当権消滅請求手続を行うことはできないところ、抵当不動産の売主が所有権移転登記手続に協力することなく民法577条1項後段に基づく抵当権消滅請求手続を行うことの請求ができるとすれば、抵当不動産の売主は同項前段による代金支払の拒絶を恣意的に回避することできる⇒同項前段の趣旨を没却。

抵当不動産の売主が所有権移転登記を備えていない買主に対して抵当権消滅請求の手続を行うことを請求するためには、原則として所有権移転登記を備えることへの協力を併せて行わねばならない。
前訴判決に基づいてXは単独で所有権移転登記を備えることができるはずとのYの主張についても、前記判決に基づいて所有権移転登記手続を行うためには本件再売買代金全額を支払わなければならず、抵当権消滅請求の手続を先行させてその費用を差し引いた売買代金を支払えばよいとすることによって当事者間の衡平を図る同項前段の趣旨に反することになる。
⇒採用できない。
  ●民法577条1項前段の適用除外の再々抗弁(争点②) 
前記の民法577条1項前段の趣旨に鑑みれば、民法567条2項に基づく償還が否定される場合に限り、民法577条1項前段の適用が否定される。 
民法567条2項に基づく償還が否定される場合とは、売買契約を締結する際に、買主が、担保権がある事実を知った上、その債務の額を控除して代金額を定めたことにより、買主において担保権の被担保債権の債務引受けがあるものと認められる場合。
本件の再売買の合意は本件登記が設定される以前にされたもの⇒上記が妥当する場合ではない。
⇒Yの主張を排斥。
  ●代金供託の再々抗弁(争点③)
民法577条、578条に基づく代金供託請求は、担保権の登記のある不動産の売主が、代金支払を拒絶する買主の資力を担保するための制度

当事者間の公平のため、買主による代金の供託と売主による不動産の引渡しは履行上の牽連性を有していると解するべき。

Xによる売買代金の供託とYによる本件不動産の明渡しは同時履行関係に立つ。
  ⇒引き換え給付判決。
  民事p67
福岡地裁H28.10.7  
  検索結果削除仮処分申立事件
  事案  インターネット上でYが提供する検索サービスのいて、Xの氏名等の文字列を入力して検索すると、検索結果表題又は内容の抜粋に、Xについての逮捕や刑事事件の起訴がされたこと等が表示。

Xが、Yに対し、人格権(更生を妨げられない権利)等に基づく差止請求権に基づき、前記114件の検察結果を仮に削除するよう求めた事案。
  判断 本件検索結果114件のうち110件について、仮に削除するよう命じた。
ある者が前科を有することや逮捕又は刑事事件として起訴を受けたこと(前科等)をみだりに公表されないことは、法的保護の対象になる利益。
もっとも、前科等に関わる事実は、刑事事件又は刑事裁判という社会一般の関心又は批判の対象となるべき事項に関わるもの
⇒その者が前記の公表について受忍することを要する場合もあり得る。
その場合に当たるか否かは、その者のその後の生活状況のみならず、社会一般の正当な関心の対象とんるような公的立場にあるか否か、事件についての歴史的又は社会的な意義、著作物等の目的、性格等に照らした前科等を公表する意義及び必要性をも併せ考慮し、前科等に関わる事実を公表されない法的利益が優越するか否かについて判断すべき。(最高裁H6.2.8)
本件においては、
①本件削除対象検索結果の内容は、Xの氏名や当時の住所、職業、年齢等が摘示されるなどし、Xの知人であれば、検索結果中に示される人物とXが同一人物であると判断できる
②Xは刑の終了後犯罪を行うことなく、平穏な社会生活を送っており、政治的、社会的な団体に属したり、議員その他の公的立場に就任したり、又は就任しようとしたりしておらず、Xが社会一般の正当な関心の対象となるような公的立場にあるとはいえない
③Xの前科等の内容は児童買春といった被害者として未成年者等を想定する犯罪類型ではない
④Xの前科等は、本決定時まで、判決時から13年〇〇月、刑の執行終了時から10年〇〇月が経過している

Xにおいて前科等の公表を受忍しなければならないとはいえない。
  解説 最高裁H29.1.31:
検索事業者が、ある者に関する条件による検索の求めに応じ、その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは、
①当該事実の性質及び内容、
②当該URL等情報が提供されるこによってその者のプライバシーに属る事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、
③その者の社会的地位や影響力、
④上記記事等の目的や意義、
⑤上記記事などが掲載された時の社会的状況とその後の変化、
⑥上記記事等において当該事実を記載する必要性など
を比較衡量して判断すべき。
  商事p74
名古屋地裁岡崎支部H28.3.25  
  不正な金融支援について代表取締役及び担当取締役の任務懈怠が認められた事例
  事案 X㈱の経理部担当取締役A及び経理部参与Bが適正な手続を経ずに取引先で資本関係もあるC社に対する不正な金融支援を行ったのは、Xの代表取締役であったY1及び取締役(Cと取引を所管する部門の担当取締役)でCの非常勤取締役を兼務していたY2の監視義務違反等によるもの

X及びXの株主として訴訟参加(会社法849条1項)をしたZが、Y1及びY2に対し、会社法423条1項に基づき、回収不能になった融資金相当額等の賠償を求めた事案。
  事実関係 平成17年8月、A及びBは、Cの代表取締役の融資方の要請を受け、Xの取締役会の承認を経ることなく1憶5000万円をCに送金(本件無断融資)。
その後、AないしBによるCに対する無断融資ないし保証が繰り返され、平成19年9月、Cが銀行から7億円を借入れるに当たり、BがX取締役会の承認を得ずにXをしてこれを保証(本件無断保証)。
本件無断保証が発覚⇒A及びBは、本件無断保証を解消すべくCに資金を調達させることとし、Cは金融機関から14億5000万円を借り受けることになった。
その際、Bは、同借受金の返済のため、平成19年11月に、X取締役会の承認を得ずに、同金融機関に対してXの約束手形(額面3億円の手形5枚)を振り出した。
同約束手形の最初の決済日までにCが返済資金を準備することができななかった⇒Bは、同約束手形が決済されるのを防ぐためCに資金を送ることにしたが、Cに対する送金であることを隠すため、平成20年3月及び4月に、X取締役会の承認を経ることなく、別会社Dに対し立替金名目または金型代金名目で合計14億9700万円を送金し、Dを経由してCに送金されるようにした。
A及びBは、C代表者の申出に応じ、Xの子会社(香港法人)Eの董事長であったY2に7億円を融通することを依頼し、Y2はこれを了承し、平成19年12月、EからAないしBに指定された口座に7億円が送金された。
同7億円の一部が返済されなかった⇒Y2はこれを回収するため、平成20年11月、EからXに対し、通常の金型代金緒請求に未返済額に相当する187万4999・40米ドルを上乗せして請求し、その支払を受けた。
  判断 ●Xの代表取締役であるY1について
遅くとも平成19年11月頃の認識内容を前提としても、
①不正行為に関わったA及びBを直ちにCの担当から外し、自ら指揮するか、A及びB以外の者に指示して、速やかにXとCとの取引関係を監視下において、Cに対してこれ以上の不正な金融支援が行われることを阻止することを周知徹底し、Xのリスク拡大を防止するとともに、
②早急にXのCに対する本件無断保証を含む債権債務関係の全容とCの現在の経営状態を調査させ、
③Xがどのようなリスクを負っているかを明らかにした上で、なし得る限りの対応を迅速に尽くさせるなどの措置を講ずべき義務があった。
but
Y1は、本件無断保証が発覚してから、再発防止のための措置を取らず、事実関係の調査もリスク状況の確認もせず、損害の回避又は軽減のための措置も何ら講じなかった

前記調査義務及び再発防止措置を講ずる義務を全く果たしておらず、Y1が代表取締役としての任務を懈怠したことは明らか。
  ●Y2について
前記EからCへの7億円を有ずる件について、
Cにそうした資金を送金するについては取締役会決議が得られていない以上応じられないとするとともに、

本件無断保証の事後承認が議案となったX取締役会(平成19年11月)においても、
①XとCとの取引関係の実態について最もよく知る立場から、本件無断保証はそのままXの損失につながる危険性の大きい行為であり、Cが金融機関から15億円を独力で借り入れることは困難であることから、Xの金融支援なしに買入れを行うことができるのかどうかを含め、借入れ条件を確認する必要があることなどを指摘するとともに、
②A及びBがCに送るための資金としてEから7億円を融通することを求めてきていることを報告した上、
③X取締役会として本件無断保証を事後承認するかどうかについては、XのCに対する本件無断保証を含む債権債務関係の全容とCの現在の経営状態を調査し、Xが現在どのよゆうなリスクを負っているかを明らかにした上で判断する必要があること、
④Xの損害を回避又は軽減するために緊急対応が必要になっていないかどうかを確認し、必要な場合には迅速に適切な対応をすべきこと、
⑤Cの経営状態にかんがみ、経理部門の独断によるCに対する金融支援を即刻やめさせる必要があり、そのためにはXとCとの取引関係を監視下においた上、Cに対するこれ以上の不正な金融支援が行われることを阻止することを周知徹底し、Xのリスクが拡大することを防止する必要があることなどについて、適切な意見を具申し、また、
⑥本件無断保証の経緯や原因のほか、本件無断保証によるXのリスクについて、Cの非常勤取締役で内情を知り得る立場から、Cの現在の経営状態等の実情についての調査に取り掛かり、判明次第、報告すべき義務があった。
but
Y2は、右いずれの義務も果たしておらず、かえって、A及びBの依頼に応じて、Cに送金されることを知りながらEから7億円を送金して資金を融通し、平成19年11月のX取締役会においても、A及びBが独断で不正な金融支援を金融支援を継続していること等、自己が認識している事情について黙っていた

取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反する行動をとっていたことは明らか。

Y1及びY2は、Xに対し、連帯して、これら送金額及び未返済額相当額から口頭弁論終結時までに損害填補された金額を控除した額並びに弁護士費用1500万円を賠償する義務がある。 
  労働p108
東京高裁H28.11.2  
  高年齢者雇用安定法に基づく継続雇用制度によって採用された有期雇用労働者と労契法20条違反(不成立)
  事案 運送業を営むY社(被告・控訴人)において所定の定年年齢を迎え、高年齢者雇用安定法9条に基づく継続雇用制度によって採用された有期雇用労働者X(原告・被控訴人)について、Y社の嘱託社員就業規則に基づき、期間の定めのない労働契約を締結した正社員労働者と全く異なる賃金体系が適用⇒定年前よりも賃金が引き下げられたことを受け、Xが、当該賃金の差異を労契法20条違反であると主張し、正社員労働者と同一の権利を有する法的地位にあることの確認などを求めた。
  規定 労働契約法 第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
  原審 本件における賃金の差異を「期間の定めがあることによ」る差異と認めた上で、労契法20条が禁止する「不合理と認められる」労働条件の差異か否かを判断するに当たっては、条文上の考慮要素である、①職務の内容、②職務の内容及び配慮の変更の範囲、③その他の事情を総合考慮するとしつつ、 
通常の労働者と同視すべきパート労働者にかかる均等待遇義務を規定したパート労働者9条の要件との対比という発想を持ち出して、
前記①及び②の各事情が同一である場合には、「特段の事情がない限り、不合理であるとの評価を免れない」という判断枠組みを設定。
本件では、①及び②が同一であるとし、「特段の事情」の有無を審査し、結論として本件における賃金の差異を、全体として労契法20条違反とした。
  判断 本件における賃金の差異を「期間の定めがあることによ」る差異と認めた上で、
労契法20条違反の成否については、前記①ないし③を「幅広く総合的に考慮して判断すべき」とする判断枠組みを設定。
前記①及び②は「正社員とおおむね同じである」としつつ、高年齢者雇用安定法によって義務づけられた雇用確保措置の趣旨や継続雇用制度の位置づけからして、「定年後継続雇用者の賃金を定年時により引き下げることそれ自体が不合理であるということはできない」とする理解を示した。
労働政策研究・研修機構の調査報告書の記載を元に、「控訴人が属する業種又は規模の企業を含めて、定年の前後で職務の内容・・・並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲・・・が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは、広く行われているところであると認められる」という認識を示し、たとえ新入社員よりも賃金水準が低くなっているとしても、統計資料による平均減額率や運輸業の赤字が推測されることに照らすと、「年収ベースで二割前後賃金が低額になっていることが直ちに不合理であるとは認められ」ず、「(手当の増減などによって、)正社員との賃金の差額を縮める努力をしたことに照らせば、個別の諸手当の支給の趣旨を考慮しても、なお不支給や支給額が低いことが不合理であるとは認められない」と判示。
高年齢者雇用安定法の継続雇用制度において、「職務内容やその変更の範囲等が(定年前と)同一であるとしても、賃金が下がることは、広く行われていることであり、社会的にも容認されている」とし、労働組合との団体交渉の結果として労働条件の改善が見られることも「考慮すべき」として、労契法20条違反の成立を否定。
  刑事p114
最高裁H28.11.28  
  インサイダー取引事案。金商法施行令の「公開」の意義。リーク報道がされた場合のインサイダー取引規制。
  事案  経済産業省大臣官房審議官であった被告人が、職務上の権限の行使に関し、上場会社であるNECエレクトロニクス㈱の業務執行を決定する機関が、株式会社ルネサステクノロジと合弁することについての決定をした旨の重要事実を知った⇒その公表前に、NECエレクトロニクス社の株券合計5000株を代金合計489万7900円で買い付けたというインサイダー取引の事案。
  本件の重要事実であるNECエレクトロニクス社とルネサステクノロジ社の合併に関する意思決定は、両社及び親会社の連名により、平成21年4月27日に適時開示されているところ、これに先立つ同月21日から同月27日の間に、被告人はNECエレクトロニクス社㈱の購入を行った。
  解説 金商取引法(塀絵師23年法律第49号による改正前のもの)166条4項及びその委任を受けた金融商品取引法施行令(平成23年政令第181号による改正前のもの)30条は、インサイダー取引規制の解除要件である重要事実の「公表」の方法を、
(1)有価証券届出書・報告書等の、公衆の縦覧
(2)報道機関(2以上を含む報道機関に対して公開)し、12時間経過
(3)取引所への通知と公衆への縦覧(適時開示)
  弁護人主張 平成21年4月16日付け日本経済新聞朝刊及びそれに引き続く一連の報道において、本件の重要事実を内容とする情報源不明のリーク報道

①本件重要事実は、施行令30条1項1号に基づき公表され、法166条1項によるインサイダー取引規制の対象外となった可能性が高く、少なくともかかる方法により公表されていないことにつき検察官が立証責任を果たしていない。
②本件重要事実は、一連のリーク報道により公知の状態に⇒法166条所定の「重要事実」性を喪失し、インサイダー取引規制の効力が失われていた。
  判断 法令上、重要事実の公表の方法として限定的かつ詳細な規定が設けられた趣旨:
「投資家の投資判断に影響を及ぼすべき情報が、法令に従って公平かつ平等に投資家に開示されることにより、インサイダー取引規制の目的である市場取引の公平・公正及び市場に対する投資家の信頼の確保に資するとともに、インサイダー取引規制の対象者に対し、個々の取引が処罰等の対象となるか否かを区別する基準を明確に示すことにあると解される。」
論点①について:
かかる法令の趣旨に照らせば、施行令30条1項1号の方法は、
「当該報道機関が行う報道の内容が、同号所定の主体によって公開された情報に基づくものであることを、投資家において確定的に知ることができる態様で行われることを前提としていると解される」
「情報源を公にしないことを前提とした報道機関に対する重要事実の伝達は、たえその主体が同号に該当する者であったとしても、同号にいう重要事実の報道機関に対する「公開」にあは当たらない」
⇒本件において同号に基づく、「公開」はされていない。
論点②について:
所論のような解釈は「当該報道に法166条所定の「公表」と実質的に同地の効果を認めるに等しく」、「公表の方法について限定的かつ詳細な規定を設けた法令の趣旨と基本的に相容れない」とした上、
「会社の意思決定に関する重要事実を内容とする報道がされたとしても、情報源が公にされない限り、法166条1項によるインサイダー取引規制の効力がうしなわれることはない」
と判示。
  解説 最高裁判例が存在しない方166条4項の「公表」を巡る論点のうち、リークないしリーク報道とインサイダー取引規制の効力の関係について初判断を示したもの。 
  刑事p116
東京高裁H28.6.15  
  オレオレ詐欺に係る詐欺保護事件における少年院送致の処分が著しく不当であるとされた事例
  事案 被害者から400万円を詐取したといういわゆるオレオレ詐欺の事案。
少年は受け子として関与。
家庭裁判所は、非行事実を認め、第1種少年院に送致。
⇒原審付添人が、事実誤認と処分不当を理由に抗告
⇒東京高裁は、事実誤認の主張は排斥したが、処分不当の主張を容れ、原決定を取り消して家裁に差し戻し。
  家裁 ①本件の組織性・計画性
②子を思う親の心理に付けこむ犯行態様の悪質性
③被害額が比較的高額
④少年が現金授受という犯罪完成に不可欠の役割を果たしたこと
⑤少年の犯意が強いこと
⑥それにもかかわらず、少年の問題意識が高まっていない

少年の要保護性は大きいと判断し、第一種少年院に送致。

①少年の前歴が審判不開始1件
②母親と同居して高校に通っている

非行性が進んでいるとまではいえないとして、短期間の処遇勧告を付した。
  本決定 ①本件は、少年がすぐに逮捕され被害金が還付されていることから実質的には未遂に近い事案。
②オレオレ詐欺が重大な犯罪であり、それに関与する非行も軽視できないが、常に施設内処遇が必要であるとはいえない。
③少年は、詐欺の方法などの犯行の全容を知らされておらず、約束された報酬も低額にとどまっており、共犯者の中では末端に位置するものと評価される。
④少年の関与の程度や期間に照らすと、本件が社会内処遇得が許されないほどの重大な非行であるとは必ずしもいえず、非行性の程度や保護環境等を十分検討したうえで処遇を選択すべき。
具体的事実を挙げて、
少年は、過去にある程度の生活の乱れがあったものの、それ以外は、通学し、補導されることもなく生活をしていた⇒審判不開始となった前歴等を考慮しても、少年の非行性が深まっているとはいえなず、本件のような悪質な非行を繰り返す危険性があるとはいえない。
少年の保護環境の検討に移り、
母親及びその交際相手と少年との関係、母親の指導力、在籍高校への通学可能性を検討して、少年の保護環境にも大きな問題はない。
家庭裁判所が重視した、少年の自己の問題点や犯罪への問題意識が十分に高まっていない点についても、少年の非行性を程度等から見て、社会内資源を活用して認識を深めさせることで対応できる。

家庭裁判所の説示は、本件非行の重大性をやや厳しくとらえすぎている上、少年の非行性の程度についても検討が不十分であり、結論としての少年院送致という処分は著しく不当なものとなっている。
⇒原決定を取り消して、本件を家庭裁判所に差し戻した。
2330   
  民事p15
東京高裁H28.9.21  
  NHKの放送受信契約とその受信料(相当額)の請求
  事案 Yらが運営する各ホテルに平成26年11月以降に設置されたテレビジョン受信設備に関して、その設置後まもなく、X(NHK)が、Yらに対してそれぞれ放送受信契約締結を申し込んだ⇒Yらがこれを承諾しなかった

①主位的に、前記申込みにより放送受信契約が成立した⇒各受信設備に応じた放送受信料の支払を求める
②予備的に、Yらには放送受信契約の申込みを承諾する義務が生じた⇒Yらに対して各承諾の意思表示及び各受信設備に応じた放送受信料の支払を求めるとともに、撤去済み受信設備について不当利得が生じている⇒その支払を求める。
  規定 放送法64条1項本文:
「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」
放送法施行規則23条:
「法第64条3項の契約の条項は、少なくとも次に掲げる事項を定めるものとする。」「一 受信契約の締結方法」 
「条項」として総務大臣の認可を受けた「日本放送協会放送受信規約」3条1項は、受信機を設置した者に遅滞なく放送受信契約書を提出する義務を課し、
規約4条1項は、「放送受信契約は、受信機設置の日に成立する。」と定めているが、これ以外に、放送受信契約の成立についての規定はない。
民法 第414条(履行の強制)
2 債務の性質が強制履行を許さない場合において、その債務が作為を目的とするときは、債権者は、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし、法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる
  判断 主位的請求をいずれも棄却する一方、予備的請求を認容。
受信設備設置者の承諾なしに申込みのみによって放送受信契約が成立すると解することはできない。
受信設備設置者は、放送受信契約締結の申込みをした被控訴人(X)に対し、放送法64条1項に基づきこれを承諾する旨の意思表示をする義務を負う⇒放送受信契約の申込みを受けた受信設備設置者がこれを承諾しない場合には、被控訴人は、民事裁判において、放送受信契約締結の承諾の意思表示をすることを求めることができる(民法414条2項ただし書)。
上記意思表示を命ずる民事裁判の判決が確定⇒放送受信契約は、規約4条1項に基づき受信機の設置の日に遡って成立したこととされ、受信設備設置者は、被控訴人に対し同日からの放送受信料を支払う義務を負う。
口頭弁論終結前に受信機を撤去⇒その設置から撤去まで間、放送受信契約を締結すべきであったとにこれをしなかった⇒被控訴人の損失において法律上の原因なく放送受信料の支払を免れるという利益を得たものとして、被控訴人に対して当該期間の放送受信料に相当する金員を不当利得として返還する義務を負う。
  解説 法64条1項は、設置者に対して契約締結の義務を負わせたもの。
受信設備設置者がこれを無視し、又は承諾を拒否した場合
A:NHKが申込みをすれば、正当な理由がない限り一定の期間経過後(原則は1週間とする。)に放送受信契約が成立⇒NHKは、当該期間経過後には直ちに放送受信料を徴収できる。
←NHKの受信料の広狭的な性格(放送法15条、20条参照)を重視し、放送法64条1項の「契約をしなければならない」との文言をいわば目的論的に解釈。
B:受信設備設置者による承諾の意思表示がない限り放送受信契約は成立しない。
←放送法64条1項の文言によれば、契約を成立させるためには申込みに対する承諾が必要。
but
同条項が存在する以上、受信設備設置者は、承諾を義務づけられており、NHKは、放送受信料を徴収するためには承諾の意思表示を命ずる判決を得る必要がある。
  民事p28
東京高裁H28.7.8  
  養育費の減額事例
  事案  相手方(元夫)xが、抗告人(元妻)Yに対し、離婚の際に公正証書により合意した養育費の減額を求めた事案。 
  X(元夫)とY(元妻)は、離婚の際、公正証書により、両名の間の3人の子の養育費について、XがYに対し子1人につき月額2万5000円(合計月額7万5000円)を支払うとの合意。
離婚後Yは再婚し、再婚相手と子ら(この子らは再婚相手と養子縁組していない)と共に生活。 

Xは、Yの再婚や経済状況の変化などを理由に養育費の減額を求める調停の申立て。but審判移行後、申立てを却下するとの審判が確定。

事情の変更を肯定した上、公正証書による合意はいわゆる標準算定方式により算定される額を月額5万5000円上回っている⇒この合意の趣旨を反映させるべく、前件審判時の双方の収入により算定される養育費月額6万円に5萬5000円を加えた月額11万5000円とすべき。
他方、Yの再婚相手がXとYとの間の子らの扶養に一定の責任を負うことは否定できない
⇒Xが負担すべきは11万5000円の3分の2であるとし、結論としては変更の必要なし。
その後、Xも再婚し、その再婚相手との間に一児をもうけた⇒再度、養育費の減額を求める審判申立て。
  判断 前記審判後にXが再婚相手及びその間に生まれた子の扶養義務を負うに至ったことは、養育費の額を変更すべき事情変更に当たる。 
前件審判を前提に、
子それぞれについての養育費の額を生活費指数(親を100とした場合の子に充てられるべき生活費の割合)に応じて按分し、結論として、減額が相当。
  解説 父母が養育費について合意し、あるいは審判により養育費が定められた後に、その合意等を基礎付ける事情が変更⇒養育費の増減額を求めることができる。 
事情の変更は、一般に、「法的安定性の要請から、前協議又は審判の際に予見されなかった事情であり、かつ、前協議又は審判を維持することが困難な程度に事情の変更が顕著であることを要する。」
前に合意し、あるいは審判により定められた養育費の額がいわゆる標準算定方式により算定される額と相違する場合には、増減額の検討に当たってこの相違を考慮する必要がある。 
両者の差額を①固定額としてとらえて考慮したり、②両者の比率に着目して考慮したりするなどの方法があり得るが、最終的には、事案ごとに判断することになる。
本件では、5万5000円の加算を、XとYの間の3人の子のみに配分すべきか、Xとその再婚相手との間の子等にも配分すべきか?
本決定「未成年者ら以外に相手方が扶養義務を負う子を未成年者らより劣後に扱うことまで求める趣旨であるとまで解すことはできない」

Xが、Yとの間の3人の子に対して負う扶養義務と、再婚相手との間の子に対して負う扶養義務との間に差異はない。 
原審判は、5万5000円をXの基礎収入(養育費を捻出する基礎となる収入)に加算することで、同額をX自身にも配分してしまっている。
~合意の趣旨を超えている。
Y(元妻)の再婚相手は養親ではない以上、Xの養育費支払義務の検討においてYの再婚相手の存在を考慮すべきでないという考え方もあり得るが、考慮するという考えもあり得る。
以上の検討を経て、XとYとの間の3人の子の養育費の合計額を算定した上で、これを3人の各生活費指数に応じて按分して、子ごとの養育費の額を算定。
←標準算定方式による算定の過程において、子ごとに異なる生活費指数を用いている。
  民事p33
大阪高裁H28.10.4  
  不動産業者等によるコンサルティングが弁護士法72条違反と不法行為とされた事案
  事案 Y1会社:不動産業を営む有限会社
Y12:Y1の代表者
Y3:Y1を退社し個人で不動産業に関わる仕事をしている者 
X:2か所に住宅を所有しており、いずれも、敷地は亡妻と共有(持分各2分の1)、建物はXの単独所有。
Xと亡妻は本件住宅Aに居住し、本件住宅Bには長男がその家族と居住。
長女は結婚し別の場所に住む。
亡妻は平成22年7月に死亡。
遺言により亡妻の前記敷地共有持分はいずれもXと長女が2分の1ずつ取得。
同年12月、Xは、本件住宅Bの敷地のX共有持分の4分の1を長女に贈与し、同敷地の長女の共有持分は2分の1になった。
Xは、同年11月以降、介護老人施設で生活するようになり、同年12月、長女と共に本件住宅Bの売却をY1に相談。
Xは、同年8月ころ長男に対する資金の回収を弁護士に相談しており、長女もそのことを知っていた。
Y1は、Y2と共に、X及び長女から話を聞き、Y1とXは、住宅B売却の仲介の他に、長男に対する明渡の交渉、長男に対する貸金の回収を解決することを内容とするコンサルティング契約を締結。
Y2は、長男と交渉して、長男は住宅Aに転居し、かつ、長男が住宅Aの土地建物の所有権を取得すること、長男の前記転居に伴う費用(住宅Bの家財の搬出や廃棄の費用、長男の引越費用)はY1が負担することを合意し、亡妻の住宅Aの敷地持ち分を長男が相続したとする遺産分割協議書の作成や、Xの住宅Aの建物所有権及び敷地共有持分を長男に贈与するとの贈与契約書の作成を手配。
住宅Bは2195万円で売却され、Xは仲介手数料40万1600円とコンサルティング料203万円をY1に支払い、謝礼名目でY3に50万円を支払った。
  規定 弁護士法 第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
  争点 ①本件コンサルティング契約の締結及び長男との交渉が弁護士法72条の要件である「業として」行われたものか否か
②控訴人らの行為が弁護士法72条に反するだけでなく、不法行為に該当するか 
  判断
・解説
●争点①について 
弁護士法72条の「業として」は、反復的に又は反復の意思をもって法律事務の取扱等をし、それが業務性を帯びるに至った場合を指す(判例)。
「業として」行われたものと判断。

①Y2、Y3は、住宅Bの売買の仲介を依頼されたことがきっかけでXと知り合ったのであって、以前からの友人、知人といった属人的なつながりから長男との立退や貸金回収の交渉を引き受けたものではなく、当初から対価を得る目的で長男との交渉を引き受けた。
②Y1は以前にも不動産仲介に伴って不動産の立退交渉を行い「お世話料」の名目で金員を得ていた。
③長男との交渉の最終目的は住宅Bの明渡しを成功させてこれを売却することにあり、売却が成功すればY1は仲介手数料得ることができた。

Y1は反復の意思をもって本件コンサルティング契約を締結して、長男との交渉等の法律事務を行ったといえる。
  ●争点②について 
弁護士法72条で禁止される「一般の法律事件に関して、法律事務を取り扱うこと」を内容とする契約は、民法90条の公序良俗に反する法律行為として無効⇒前記契約に基づいて支払われた報酬等については、不当利得返還請求権に基づきその返還を求めることができる。
①Y1がXから受け取ったコンサルティング料が仲介手数料の約5倍に及び、Y2が受け取った謝礼も仲介手数料を上回っている上、②Yらは、Xと同道の上、Xが長男に対する貸金等を以前から相談していた弁護士に対する依頼を解消するにも関わっている。

公序良俗に違反して無効であるのみならず、不法行為法上もこれを違法ということができる。
  民事p49
東京地裁H28.9.8   
  歯のインプラント治療での歯科医の過失による損害賠償請求
  事案 Yが運営し、院長を務めるY歯科医院でインプラント治療を受けた患者Xが、Yの治療行為により後遺障害が残存する損害を受けたと主張⇒Yに対し、損害賠償請求。 
  判断 ●本件事故と本件後遺障害(右側オトガイ感覚神経感覚障害)との間の因果関係
①Xは本件事故の翌日から継続して唇付近の麻痺を訴えている
②Xは本件事故から約1か月後にT病院を受診し、オトガイ神経麻痺との診断を受け、治療を受けている
③T病院で実施されたパントモ撮影(歯科用のX線撮影)では下顎管に達する透過像が認められ、同時に実施されたCT検査ではインプラント埋入窩で神経の断絶が認められる
⇒本件後遺障害は本件事故によるもの。
  ●本件診療契約の債務不履行にもとづき、契約を解除し、Yに支払った報酬の全額の返還を求めることができるか?
インプラント治療の工程に照らすと、フィクスチャー(人工歯根)の埋入と上部構造の装着は一般的に治療の工程として分離可能
⇒患者は、インプラント治療に占めるフィクスチャー(人工歯根)の埋入部分の割合に応じて報酬を支払わなければならない。
フィクスチャー(人工歯根)が終わっている本件ではXは報酬の7分の4はYに対し支払う義務がある。
  民事p56
東京地裁H28.2.8  
   
  事案 懲戒請求等にかかる請求者の不法行為責任を問題となった事件 
  判断  ●懲戒請求について 
最高裁H19.4.24を引用し、懲戒請求の根拠とした各事由がいずれもYにおいて認識することも無理のない事情であり、相応の根拠があるとか、Yの判断には一応の合理性があると評価できる
⇒不法行為を否定。
  ●Yの中間金の受領について 
Yが中間金を保持する権限ないし理由がないと判断したとしても、一応の合理性がある
⇒その違法性を否定
  ●横領の申告について
疑念を抱いたことに無理のない事情があった⇒違法性を否定
  ●虚偽の風説について
いささか侮辱的な発言であるもの、委任中の弁護士に関する評価を含むことを考慮し、違法性を否定。
  民事p68
東京地裁H28.7.21  
   
  事案 産婦が分娩直後の大量出血で死亡
⇒法定相続人であるXらが、Y病院の担当医師らには、
①輸液、②輸血、③DIC(播種性血管内凝固症候群)に対する治療、④頸管裂傷に対する処置などの点について注意義務違反ないし過失があり、これにより本件患者は死亡したと主張⇒合計8890万円の損害賠償を求めた。
  判断  ●輸液についての注意義務違反
輸液の経過として、午後4時頃までの出血量約1200gから1700gの純出血量に対し、少なくとも合計約1000mlの輸液がされ、さらに午後4時以降については、本件患者の状況の変化に応じて相当量の輸液⇒本件患者に対する輸液量として明らかに不足しているとまではいえない。
  ●輸血についての注意義務違反 
交差適合試験の実施をまって輸血したため開始が遅かった。
but
本件当時、「産科危機的出血への対応ガイドライン」は存在せず、どのような場合に血液型不明で、かつ、交差適合試験を実施しないままの輸血の実施が許容されるかについては、依拠すべき一般的指針はまだ確立していない。
⇒輸血についての注意義務を否定。
  ●DICに対する治療についての注意義務 
 DICに対する一定の治療は行っており、注意義務違反があるとまでは認められない。
  ●頸管裂傷について
頸管裂傷が本件患者の死亡に直接影響したものとはいえない。
  本判決:
本件患者の死亡原因を羊水塞栓症を原因とするDICの進行で死亡したと判断。
羊水塞栓症とは、何らかの原因で羊水成分が母体血中に流入し、母体に呼吸不全、循環不全、ショック、DICなどを併発する極めて重篤な疾患であるところ、仮にY病院の医師がXらの主張するような措置を採っていたとしても、本件患者を究明することは極めて困難であった可能性が高い

注意義務違反を否定し、Xらの請求を棄却。
  労働p84
最高裁H28.12.1  
  私立大学の教員にかかる期間1年の有期労働契約が、更新限度期間(3年)の満了後に期間の定めのないものとなったか?(否定)
  事案 Yとの間で期間1年の有期労働契約を締結し、Yの運営する短期大学で講師として勤務していたXが、Yによる雇止めは無効であると主張

Y2を相手に、
①労働契約上の地位の確認及び
②雇止め後の賃金の支払
を求めた事案。
  事実 Xは、平成23年4月1日、Yとの間で、Yの契約職員規程(「本件規程」)に基づき、契約期間を同日から平成24年3月31日までとする有期労働契約を締結し、Yの運営する短期大学の講師として勤務。
  本件規程には、契約職員の更新限度期間が3年であり、
契約職員のうち、勤務成績を考慮し、Yがその者の任用を必要と認め、かつ、当該契約職員が希望した場合は、
契約期間が満了するときに、期間の定めのない職種に異動することができる旨の定め。 
Y⇒Xに、平成24年3月、同月末で本件労働契約を終了する旨を通知。
Xは、同年11月、本件訴えを提起。
Y⇒Xに、平成25年2月、仮に平成24年3月末で終了していないとしても、平成25年3月末で本件労働契約を終了する旨を通知。
Y⇒Xに、平成26年1月に、契約期間の更新限度は3年であるので、仮に本件労働契約が終了していないとしても、同年3月末で本件労働契約を終了する旨を通知。
  規定 労働契約法 第19条(有期労働契約の更新等)
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
  判断 本件労働契約が3年の更新限度期間の満了後に無期労働契約となったとはいえず、同契約が同期間の満了をもって終了した旨判断。 
  解説 ●雇止め法理と労契法19条 
有期労働契約は、契約期間の満了により当然に終了するのが原則。
but
判例上
①有期労働契約があたかも無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、又は
②労働者において期間満了後も雇用契約が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合
解雇権濫用法理が類推適用され、当該労働契約の雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないときには効力を否定すべき。

平成24年改正により、労契法19条として明文化。
  ●有期労働契約の無期労働契約への転換(労契法18条) 
労契法の平成24年改正で、有期労働契約の無期労働契約への転換の規定が新設。
同法18条は、
①同一の使用者の下で有期労働契約が更新されて通算契約期間が5年を超える場合に、
②労働者が無期労働契約への転換の申込みをすれば、
使用者がその申込みを承諾したものとみなされ、無期労働契約が成立。

有期労働契約の濫用的利用を抑制し、労働者の雇用の安定を図る観点から、従来の判例法理にない規制原理を新たに創設したもの。
無期労働契約への転換が可能となるための通算契約期間については、大学の教員等の任期に関する法律の改正により、大学の教員等に係る通算契約期間を10年とする特例(同法7条1項)が規定。
労契法18条は、その施行日(平成25年4月1日)以後の日を契約期間の初日とする有期労働契約について適用され、施行日前の日が初日である同契約の契約期間は通算契約期間には算入されない。
  ●労働契約における期間の定めと試用期間との関係 
試用期間:正規従業員としての適格性を判定するため、使用者が労働者を本採用前に試みに使用する期間であり、
判例は、試用期間中の労働関係について(個々の事案ごとに判断する必要があることに留意しつつも)解約権留保付労働契約であると解している。
新規採用時の労働契約における期間の定めが、実際には試用期間を意味するとされる場合。
最高裁H2.6.5:
私立高校に1年の契約期間で雇われた「常勤講師」の期間満了による雇止めの効力が争われた事件において、使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、
その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、期間の満了により雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、
同期間は契約の存続期間ではなく、無期労働契約下における試用期間(解約権留保期間)と解すべき。
  ●有期労働契約が無期労働契約となる場合 
A:当該有期労働契約が、更新限度期間の満了時に当然に無期労働契約となることを内容とするものであったと解釈できる場合。
B:労契法18条による場合。
C:民法629条1項により黙示に更新された労働契約。
雇止め法理は有期労働契約の更新の場合に適用されるものとして形成、確立されてきたものであり、これを利益状況の大きく異なる無期労働契約への転換の場面に直ちに借用できないのは明らか。
     
  労働p89
東京高裁H28.6.30  
  消防吏員に対する懲戒処分が取り消された事例
  事案 Y(大和市)の消防吏員として勤務していたXが、Yの消防庁から平成24年11月30日付で懲戒停職6月の処分⇒その取消しを求めた。 
  原審 ●Xの行為が横領に該当するか 
標準貸与期間を徒過した貸与品についても、Yの所有物であり、X自身の廃棄処分にするか退職時に返還するかを委ねられているにすぎず、X・Y間の貸与品に係る委託関係は継続
⇒インターネットオークションに出品・売却することは、上記委託の趣旨に反してYの所有物を不法に領得したもの⇒横領に該当。
  ●本件処分が裁量権の逸脱濫用に当たるか 
最高裁判決(最高裁昭和52.12.20)を参照し、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきではなく、
懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したと認められる場合に限り処分が違法であると判断すべき。
具体的な考慮要素として、
①本件行為の原因、動機、②本件行為の性質、③本件行為の態様、影響、④本件行為の結果を検討。

①は強く非難されるべき、
②は、Yの貸与品の管理状況に鑑みれば、「委託関係に反した点における違法ないし非行の程度は軽いもの」であり、
③は、本件行為が「消防吏員としての職務遂行に直接関わるものでなく」、「公務に対する信用を直ちに失墜させるおそれがあったものとはいえ」ず、
④は、Yに「経済的損失はなかった」

本件行為は、「横領の類型の中では、かなり軽い部類に属するものというべき」。

Xは過去に非違行為や懲戒処分を受けたことがない

本件処分は、「重きに失し、社会通念上著しく相当性を欠」き、Y職員の懲戒処分に関する指針に照らしても、本件処分は「裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用したものとして違法」。
  判断 原判決を基本的に支持し、控訴棄却。
原判決に補足し、
①Yにおける貸与品亡失届出書の提出件数は少なく、「損傷等した貸与品の届け出をするかどうかは、貸与を受けた者の自由に任されていた」こと
②編上げ靴は、一般に販売されているもの
③「標準貸与期間が経過した本件編上げ靴は、その時点で、一段と・・委託関係が緩やかになったと見ることができ」、Xにおいて「自らの判断により破棄することも可能であった物品という意味では、私物に近い存在であった」
④Xは、「当初から職務に使用する意思がなく、インターネットオークションに出品、売却して利益を得る意図のもとに貸与を受けたものではな」く、計画的、意図的な行為ではない

「違法ないし避難の程度は軽く、違反の程度は軽微」である。
  解説 公務員の懲戒処分の裁量権濫用をめぐる判断に関しては、
「社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合」に処分が違法となるのが判例であるが、
本件では、とりわけ「処分の相当性」が主な争点となった。 
編上げ靴についての横領の成立は認めつつも、前記のYの貸与品管理状況等から、標準貸与期間が経過している貸与品の横領については、違反の程度が軽微であるとして、本件処分は重すぎると判断。
  刑事p100
最高裁H28.3.31  
  虚偽の供述調書の作成が証拠偽造罪に当たる場合
  事案 被告人が、
①共犯者と共謀の上、生活保護費を不正受給して騙し取った、という詐欺事件のほか、
②共犯者と共に警察署を訪れ、警察官らと意を通じ、知人の暴力団員が覚せい剤を所持しているのを目撃した旨の共犯者を供述者とする内容虚偽の供述調書を作成して証拠を偽造した
という事案。 
  争点 参考人の捜査官に対する虚偽の供述に基づき供述調書が作成された場合に証拠偽造罪が成立するか。 
  判断

解説
「他人の刑事事件に関し、被疑者以外の者が捜査機関から参考人として取調べ・・・を受けた際、虚偽の供述をしたとしても、刑法104条の証拠を偽造した罪に当たるものではないと解されるところ・・・その虚偽の供述内容が供述調書に録取される・・・などして、書面を含む記録媒体上に記録された場合であっても、そのことだけをもって、同罪に当たるということはできない。」

現行刑法は、偽証罪以外の虚偽供述を不処罰としており、参考人が捜査官に虚偽供述をして、それに基づき供述調書が作成された場合であっても証拠偽造罪は成立しないと解するのが相当。
「本件において作成された書面は、参考にAのC巡査部長に対する供述調書という形式をとっているものの、その実質は、被告人、A、B警部補及びC巡査部長の4名が、Dの覚せい剤所持という架空の事実に関する令状請求のための証拠を作り出す意図で、各人が相談しながら虚偽の供述内容を創作、具体化させて書面にしたものである」と本件の特殊事情を示した上、
「本件行為は、単に参考人として捜査官に対して虚偽の供述をし、それが供述調書に録取されたという事案とは異なり、作成名義人であるC巡査部長を含む被告人ら4名が共同して虚偽の内容が記載された証拠を新たに作り出したものといえ、刑法104条の証拠を偽造した罪に当たる」

本件は、単に参考人が捜査官に対して虚偽の供述をし、それに基づき供述調書が作成された場合とは異なり、被告人が調書の作成名義人である警察官らと共同して供述調書という形式の虚偽の証拠を作り出した場合であることから、前記の基本的立場が適用されるべき事案ではないと判断されたもの。
  刑事p102
大阪高裁H28.3.15  
  再審請求棄却の原審に対する抗告審(原審否定)
  事案 2人組の郵便局での強盗。
AがBと共謀して強盗に及んだとして公訴提起。
Aは犯行への関与を否定し、本件はBとCによる犯行であると主張。
Bは、自ら警察に出頭して、Cから金を取る話を持ちかけられ、Cと一緒に郵便局に入って犯行に及んだ」と述べていた。 
  確定審 一審:
強盗事件の局面における事実とAの領域における事実を対比する形で複数の間接事実として指摘⇒AとBの密接な関係をも考慮すると、AがBの共犯者として本件強盗を敢行したことが強く推認される。
「共犯者はCである」とのBの証言及び「自分にはアリバイがある」とのAの供述は信用できない。
A以外の者がAの管理下にある倉庫内の車両を使用し、証拠物を倉庫内に隠匿したとの合理的な疑いが生じ得る事情はない。

Bとともに強盗を行ったのはAであると認定し、Aを懲役6年に処した。
控訴上告も棄却され、確定。 
  規定 刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕 
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。
六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
刑訴規則 第286条(意見の聴取)
再審の請求について決定をする場合には、請求をした者及びその相手方の意見を聴かなければならない。有罪の言渡を受けた者の法定代理人又は保佐人が請求をした場合には、有罪の言渡を受けた者の意見をも聴かなければならない。
  再審請求審原審 確定審ではAが実行犯人か否かが争点とされたが、再審請求審において再審開始の事由があるとするためには、弁護人が提出した証拠と確定審で取り調べられた証拠とを総合評価して、Aが実行犯人であると認定した確定判決に合理的な疑いを生じさせるだけでは足りず、Aが犯人であることに合理的な疑いを生じさせることが必要。
確定判決の証拠構造を整理し、間接事実のうち最も重要なのは「強取された現金全額が事件発生後短時間のうちにAが管理権限を有する倉庫に持ち込まれたこと」であり、この事実からAが犯人の一人であることがかなり強く推認されるが、これだけでは実行犯人の1人であることまでは推認できず、Aが実行犯人ではない共犯である可能性が残る。
次いで重要なのは「犯人が逃走に使った自動車が短時間のうちに本件倉庫に持ち込まれ、ナンバープレートに罪証隠滅工作が施されていたこと」等で、異常を併せると、Aが犯人の1人であることが極めて強く推認される。
提出された証拠が無罪を言い渡すべき明らかな証拠であるというためには、①前記の被害現金が倉庫に持ち込まれた事実の認定を覆すに足りる蓋然性があること、または②Aが犯人の1人であるとの強力な推認を妨げる蓋然性があることを要する。
①本件倉庫にA以外の者が立ち入ることができたとしてもAが犯人の1人であるとの推認は揺るがない
②Aが実行犯人でないとしても第三の共犯者が第三者の共犯者が加わることになるに過ぎず、Aが犯人の1人であるとの強力な推認は妨げられない、
③Cが実在するとしても実行犯人の1人がCである疑いに結びつくわけではなく、Aが犯人の1人であるとの強力な推認が妨げられるはずもない。
  請求人の主張 即時抗告し、
再審請求審の審理対象は「確定判決における事実認定」であるからAが実行犯人か否か以外の事実について審理することはできない。
できるとしても訴因変更を要する事実にまで広げることは許されない。 
  即時抗告審 再審請求審が新たな証拠を加えて総合評価した結果、確定判決が認定したのと同一の事実を認定することができないとしても、同一の構成要件に該当する事実や法定刑が軽くない他の構成要件に該当する事実を認定することができる場合には刑訴法435条6号の新たな証拠を発見したことにはならない

再審請求審の審理対象は「確定判決における事実認定」に限定されない。
本件は、確定審において、訴因変更又はその他の不意打ち防止の措置を講じることによって訴因と同一の構成要件に該当する事実を認定することができる場合

再審請求審において、請求人の主張や証拠を検討した結果に基づき、釈明を求め主張を促すなど十分な防御の機会を与えて審理を尽くせば防御の権利を損なうことにならず、実行犯人以外の共犯形態についても審理することができる。
共犯の形態が実行共同正犯かそれ以外の共犯かの点、いかなる者との間で共犯関係が成立するのかの点は、再審請求審の審理に当たって請求人の主張の組立てや提出すべき証拠の内容に影響を及ぼすことが考えられる

原審が、実行共同正犯以外の共犯の形態等に関して争点を顕在化させる措置を講じず、主張立証の機会を与えなかったことは、請求人に対し不意打ちを与え、その防御権を侵害する違法なもの。
Aの関与なしにA以外の者が本件倉庫に被害現金を隠匿したり犯行使用車両を持ち込んだりすることは考え難いという推認については、そのような管理状態であったことが前提となるはずで、原審がAの管理権限を基礎に推認力を認めたのは論理則・経験則に反する、間接事実の推認力が減殺されるか否かについて弁護人から提出された証拠の信用性を検討しておらず、審理が尽くされていない。
実行共同正犯以外の共犯性について弁護人が証拠を提出し、検察官も意見書を提出して信用性を争っていたにもかかわらず、原審は証拠の信用性について検討を加えておらず、間接事実の検討について十分な審理が尽くされていない。
⇒原決定を取り消し、審理を尽くさせるために差し戻した。
  解説  ●再審請求審の審理対象 
有罪の言渡しをした確定判決に対し再審を開始するためには、その言渡しを受けた者に対して無罪等を言い渡すべき明らかな証拠又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したことが必要。
再審請求審において、従来の証拠構造に新しい証拠を加えて総合評価した結果、確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じ、その認定した犯罪事実と全く同一の事実を認定することができなくなったとしても、ただちに刑訴法435条6号に該当するということにはならない。
そのような場合でも、確定判決の認定した事実と同一の構成要件に該当する事実やその事実よりも法定刑が軽くない他の構成要件に該当する事実を認定することができ、かつ、その事実が確定判決の認定した犯罪事実との関係で公訴事実の同一性の範囲内にある場合には、無罪を言い渡すべき又は原判決よりも軽い罪を認めるべき証拠が発見されたとはいえないとした例(福岡高裁H7.3.28)。

公判手続であれば審理の進展に伴い訴因変更を要する事態になるような場合であっても、再審請求審において、公訴事実の同一性の範囲内で審理の対象を広げ、別の犯罪事実を認定し得ることを前提とした考え方。
同事件のと特別抗告審(最高裁H10.10.27):
放火の方法のような犯行の態様に関し、詳しく認定判示されたところの一部について新たな証拠等により事実誤認のあることが判明したとしても、そのことにより更に進んで罪となるべき事実の存在そのものに合理的な疑いを生じさせるに至らない限り、法435条6号の再審事由に該当するということはできない。

訴因変更の余地については言及していない。
確定判決では被告人と共犯者が共謀して被告人が放火の実行行為をしたと認定されていたところ、再審請求審において新しい証拠を他の証拠と総合すると実行行為をしたのは共犯者であると認められるが、このような場合でも刑訴法435条6号の証拠に当たらないとした例(東京地裁昭和43.7.1)。
  実行共同正犯の訴因で審理が勧められた事案において共謀共同正犯の認定をすることができるかが問題となったケースの公判審理について、被告人の防御に実質的な不利益をもたらす場合には訴因変更の手続を必要とするものと解すべき(大阪高裁昭和56.7.27)。
本決定:
再審請求審の審理の中で、実行犯人であるB及びもう1人の者と請求人との間で共謀関係が成立し、これに基づいてBらが実行に及んだという事実関係を想定し、その事実を推認するための間接事実の位置づけ及び証拠構造の組立てを明確にした上で、請求人に対してこれに対する反論及び証拠提出の機会を与えるべきであった。

公判審理とは構造が異なる再審請求審の手続についても適正手続の保障が及ぶとして、請求人の防御権に配慮し、その意見を十分に酌むことを求めたもの。
  ●再審開始後の訴因変更 
A:刑訴法451条により通常の訴訟手続として更に審判をする⇒必要な限りにおいて当然に許される(大阪高裁昭和37.9.13)。
B:A訴因での有罪認定の誤りを正すために再審請求して認められたらかえってB訴因で有罪の危険にさらされるというのでは利益再審の制度に不利な制約を課すことになる⇒否定説。
強盗事件の公訴事実に記載された特定の日について請求人にアリバイがあるとして再審を開始したとしても、再審の審理手続において、その日ではない別の日の犯行として訴因が変更され、変更された訴因について有罪の言渡しがなされるとしたならば、結局、前記のアリバイの事実もなんら公訴事実について無罪を言い渡すべき理由とはなりえない(東京地裁昭和51.1.14)。
but
その即時抗告審は、犯行日時は証拠により特定済のものであって今後の立証の如何により変更の余地があるとは認められない。
⇒再審証拠の明白性を肯定(東京高裁昭和k55.10.16)。
  ●再審請求をした者意見の聴取