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シンプラル法律事務所
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勉強会(判例時報2018後半)

判例時報の勉強会用の資料です(随時更新)

  ●月
       
       
11月   
       
       
       
       
2381   
  行政p28
大阪高裁H29.7.20
   
  行政p41
神戸地裁H29.11.29
   
  行政p47
神戸地裁H29.4.25
   
  行政p70
名古屋地裁H30.2.8
   
  民事p79
大阪高裁H29.12.21
   
  民事p87
名古屋高裁H29.10.13
   
  民事p106
神戸地裁H29.10.26
   
  民事p114
神戸地裁H29.11.29
   
  刑事p126
大阪高裁H27.2.13
   
2380   
  行政p3
仙台高裁H30.2.8  
  政務調査費の支出が違法⇒不当利得として返還請求することを市長に求める住民訴訟(一部認容)
  事案 仙台市議会の会派及び議員が同市から交付を受けた平成23年度(平成23年9月分から平成24年3月分まで)の政務調査費のうち一部(合計約1810万円)が条例等により定められた使途規準に反して違法に支出され、前記会派及び議員に不当利得が生じている⇒Xが、市長であるYに対し、前期会派及び議員に対して不当利得の返還を請求するよう求めた住民訴訟。
  論点 ①政務調査費の支出の適法・違法の判断枠組み
②主張立証責任の分配 
  解説 ①について:
条例等により定められた使途規準に合致するか否かを適法・違法の判断の基準とし、
具体的には、政務調査費の支出と議員の調査研究活動との間に合理的関連性がない場合を使途規準に合致しない場合として違法とする裁判例が多い。
②について:
いわゆる一般的・外形的な事実説(使途規準に合致した政務調査費の支出がなされなかったことを推認させる一般的・外形的な事実が立証されたときには、適切な反証がされない限り、当該支出が使途規準に合致しないものであることが事実上推認される)に立つ裁判例が多い。
  判断 Xの請求の一部を認容した原判決を、大筋で支持。 
  解説  ●政務調査費の支出対象となる経費が(インターネット利用料など)定額のサービス利用料である場合の使途規準適合性について:
  仙台市議会においてこれを具体化する趣旨で作成された内規である「仙台市政務調査費の交付に関する要綱」があり、
その8条は「政務調査費に係る経費と政務調査費以外の経費を明確に区分し難い場合には、従事割合その他の合理的な方法により按分した額を支出額とすることができるものとし、当該方法により按分することが困難である場合には、按分の割合を2分の1を上限として計算した額を支出することができる」と規定。
原判決:
同要綱は、それ自体が法規範性を有するものではないが、このような取扱いをすることは政務調査費の支出について議員の調査研究活動のための必要性を要求する地自法及び条例等に沿うものとして合理性があると考えられる

政務調査費の支出対象となった経費の一部が調査研究活動対象以外の目的で支出されたといえる場合には、前記の定めに従って按分した額を超える支出は、結局、使途規準に合致しないものと判断されるべき。

本判決もこれを共通の前提としている。
政務調査費の支出対象となる経費が定額のサービス利用料である場合:

原判決:
調査研究活動以外の目的で利用されることがあったとしても、調査研究活動を主目的として利用するとすれば目的外利用の有無にかかわらず一定額の支払をしなければならない

前記一般論の例外として、定額の利用料については、按分をしないでその全額を政務調査費から支出しても使途規準に合致しないとはいえない。

本判決:
各会派及び議員は、定額の利用料に係る経費を政務調査費から全額支出するか一切支出しないかのいずれかを選択しなければならないものではなく、経費を按分してその一部を政務調査費から支出することができる。

定額制か従量制等かの違いだけで異なる取扱いをする合理的な理由はない。
  経費の一部について按分により政務調査費から支出することを認める前記ののような要綱の定めを実質的に使途基準適合性の判断に取り込んで支出の違法性を判断することの当否
これを取り込んだ場合に定額の利用料をさらにその例外とすることの是非
について、さまざまな議論があり得る。
  民事p87
さいたま地裁熊谷支部
H29.10.23  
   
  争点 ①Y1が、X1に対し、給食後の食器汚れを確認した際、X1の背中に触れたり、授業時間中にルール違反の有無につき問い質したりした行為が、体罰に該当するか、るいは、懲戒行為や教育的指導の限界を逸脱するか。
②Y1が前訴においてXらの記入した連絡帳等を証拠提出した行為が、Xらのプライバシーを侵害する違法なものかどうか。
  規定 学校教育法 第11条〔児童・生徒・学生の懲戒〕
校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。
  判断 ●Y1の行為の違法性(争点①) 
教諭の行為が学教法11条の懲戒権行使の範囲内にとどまる限り違法性を有しないが、同条ただし書の体罰に該当する場合は違法と評価される。
教諭の行為が懲戒権の行使として相当と認められる範囲内のものかどうか、あるいは体罰に該当するかどうかは、児童の年齢、性別、性格、成育過程、身体的状況、非行等の内容、懲戒の趣旨、教育的効果、身体的・精神的被害の大小・結果等を総合して、個別具体的に判断すべき。
①Y1がX1の背中に触れた行為:
X1に身体的被害も全く生じていない極めて軽微な身体的接触⇒体罰に該当しない。
②Y1が、授業時間中、X1が通学路を守って帰宅したのかどうかを確認した行為:
確認自体に問題はないとしても、事実確認が時間を要したことで、他の児童からの批判にさらされていたX1の精神的負担は大きくなっており、Y1において配慮に欠ける面があったこは否定できない
but
不相当とまではいえない。
③Y1が、授業時間中、X1が鉄棒の練習をしたのかどうかを確認した行為:
他の児童も立たされている状況で、Y1から厳しい口調で発言を求められたことで、X1は相当な精神的負担を受けたと推認でき、Y1において配慮に欠ける面があった
but
全体を通してもれば、X1が他の児童との円滑な人間関係を築くことができるようになり、X1の成長につながると期待されたものと理解でき、そのような懲戒の趣旨や教育的効果⇒不相当とまではいえない。
  ●前訴における証拠提出行為の違法性(争点②)
前訴においてY1が連絡帳等を証拠提出したことは、Xらのプライバシーを侵害するおそれがある。
but
訴訟行為については、たとえ相手方のプライバシーを侵害しうるものであったとしても、正当な訴訟活動の範囲内にとどまる限り、違法性を阻却し、
当該訴訟行為が、事件と全く関連性を有しない場合や、訴訟遂行上必要な範囲を超えて、著しく不適切な方法、態様で主張立証を行い、相手方のプライバシーを著しく侵害するような場合に限って、違法性が認められる。
Y1の行為は違法とは認められない。
  解説 体罰:相手方に対して肉体的苦痛を与えるものをいう(福岡地裁H8.3.9) 
体罰に該当しなくても、教諭の行為が懲戒行為や教育的指導の限界を逸脱する場合には、違法とされることがある。
本件では、Y1の言動が、X1に精神的苦痛を与え、人格の尊厳を傷つける、いわゆる言葉の暴力に当たるかが問題とされた。
本判決は、X1が相応の精神的負担を受けたことは認めつつも、
児童が受けた被害の程度だけでなく、
懲戒の趣旨や教育的効果なども総合的に考慮して判断する立場。
  労働p100
東京地裁H29.12.22  
   
  事案 出産のための休業中であった女性労働者Xが、使用者Yから退職扱いされて育児休業の取得を妨げられた
⇒労働契約又は不法行為に基づき、労働契約上の権利を有する地位の確認及び毎月の賃金(一部の機関につき予備的に雇用保険法61条の4所定の育児休業給付金相当額の損害賠償)、慰謝料等の支払を求めた事案。 
退職扱いされる直前の賞与不支給についても、賞与又はこれに代わる慰謝料が請求。
  争点 ①XからYに対する退職の意思表示の有無
②毎月の賃金又は損害賠償の請求が認容される派に
③賞与又はこれに代わる慰謝料請求の可否 
  規定 雇用機会均等法 第9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
  判断
・解説
●争点①(退職の意思表示)
退職の意思表示は、その重要性に鑑みて、その認定に慎重を期すべきことが指摘されている。
本判決:
詳細な事実認定⇒Xからの退職の意思表示の事実を否定。

雇用均等法9条3項等によって、妊娠、出産、これらに伴う休業等を理由とする不利益な扱いが禁止されており、この「不利益な取扱い」には、労働者の真意に基づかない勧奨退職を含む退職の強要も含まれている
⇒退職の意思表示及びそれが労働者の真意(自由な意思)に基づくことの認定に慎重を期すべきことも指摘。
最高裁H26.10.23:
妊娠中の軽易業務転換を契機とする降格につき、労働者の承諾があっても、その承諾が「自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」でなければ強行規定である雇用均等法9条3項の禁止する不利益取扱いに該当し、違法・無効。
  ●争点②(毎月の賃金又は損害賠償の請求が認容される範囲) 
使用者が解雇、退職などを主張して労働者からの労務提供の受領を拒んでいても、労働者に労務提供の意思及び能力が存しないときは、債権者(使用者)の責めに帰すべき履行不能(民法536条2項本文)に当たるとはいえない。(菅野p409)
Xが退職扱いされた当時産後休業中で、引き続き育児休業取得を予定しており、訴訟係属中に新たな子を妊娠・出産

Xに労務提供の意思及び能力が存する期間を認定して、その期間につき毎月の賃金の請求を認容。
他方で、Yに、Xを退職扱いし、育児休業給付金の受給を妨げた不法行為の成立を認め、育児休業取得予定であったため賃金支払請求を退けた期間につき、育児休業給付金相当額の損害賠償をj認定。
精神的損害による慰藉料も認定。
慰謝料の算定において、Yの訴訟係属中の解散で判決確定後も紛争が継続し、Xが別訴の提起を強いられると見込まれることも考慮。
but
本件では、解散が損害賠償責任の原因事実と主張されているわけではなく、本判決での考慮も、不法行為の後の慰謝料算定に関する事情としての限定的なものにとどまっている。
使用者である法人の解散は、違法な目的(労働組合壊滅等)、事業承継などの事情によっては、法人格の否認や雇用の承継に加えて、損害賠償責任の原因事実ともなりえる。(菅野p715,718)
  ●争点③(賞与又はこれに代わる慰謝料請求の可否) 
賞与制度で賞与の決定が使用者の査定に委ねられているときは、査定が具体的な賞与請求権の発生要件となる(最高裁H27.3.5)。
but
正当な理由なく査定をしなかったり、査定が強行法規に違反したりするときは別途不法行為が成立する。 
本判決:
賞与請求権の発生要件具備は否定
but
さらに期待権侵害の不法行為の成否を検討し、Yの査定の違法性を認め、慰謝料等の請求を認容。

Yの査定が休業による不就労分を超える不支給であると認定し、違法な不利益取扱いであると判断。
年次有給休暇(年休)取得に対する不利益措置につき、
最高裁H5.6.25は、
諸般の事情を総合して公序に反するときに違法・無効になる。

最高裁H4.2.18では、使用者は年休の取得日の属する期間に対応する賞与の計算上この日を欠勤として扱うことはできない旨が判示。

本判決:Yの不支給の査定が年休取得も理由とし、控除に反する旨を判断。
  刑事p116
札幌地裁H30.3.20  
   
  事案 著名再審請求事件の1つである恵庭OL殺人事件の第二次再審請求に対する地裁の規約決定。 
弁護人が提出した科学的証拠を中心とする新証拠が、いずれも確定判決の根拠となった間接事実等の認定や評価に影響を及ぼすものではない⇒新旧全証拠の総合評価段階に至ることなく、請求を退けた。
  判断等 ●確定判決等が請求人を犯人と認定した判断構造 
本件の犯人として想定可能な人物を絞り込んでいく間接事実が少なからず存在し、これらを総合的に検討して、犯人を請求人と推認、特定。
その旨の推認を妨げる事情の有無等を弁護人の主張等に即する形で検討してこれお否定、排斥。
⇒有罪の判断。
  ●弁護人の主張 
①法医学の専門家の意見書等
⇒被害者の死因は頚部圧迫による窒息とはいえず、確定判決等が依拠した司法解剖医作成の鑑定書が、死因をそのようにいうのは根拠不十分。
被害者は、性犯罪の被害にあって薬物投与により急死した疑い⇒そのような薬物を所持していなかった請求人は犯人ではない。
②燃焼学者等の専門家らの意見書等
⇒被害者の死体は、まずうつ伏せの状態で燃焼され、しばらく後に仰向けに反転させられ、再び燃料を掛けられて燃損されたと認められるが、そうであれば、請求人にはアリバイが成立する。
③確定判決控訴審判決では、灯油10リットルを掛ければ被害者の死体のように相当部分が炭化状態となるまで燃焼することが不可能とはいえないと判断。
but
燃焼学の専門家の意見書等⇒灯油10リットルを掛けて燃焼しても、被害者の死体のように体重が9キロも減少することはなく、第一次再審請求審における即時抗告棄却決定が指摘するように、灯油の燃焼終了後脂肪が独立燃焼を継続することもない。
⇒灯油10リットル以外に燃料を所持していなかった請求人は犯人ではない。
  ●判断
弁護人提出証拠の証拠価値を否定し、ひいては、いずれも刑訴法435条6号にいう明白性を否定。
①・・・・頸部圧迫による窒息の所見が少なからず認められる⇒死因をそのように認定した確定判決等の判断は左右されない。
当時科捜研において所要の薬物検査が実施され、被害者の死体からは薬毒物が検出されなかった⇒薬物を使用した性犯罪に伴う急死等の可能性は除外される。
②死体の焼損状況⇒当初から仰向けの状態で焼損されたものとみても説明がつく。
まずうつ伏せの状態で焼損され、次いで仰向けの状態にされて焼損されたとすると、臀部など焼損を免れた部位や現場の痕跡など客観的状況の説明がつかない。
③燃焼学の専門家等の意見書等は、被害者の死体に掛けられた灯油の燃焼の仕方、死体への熱の伝わり方、燃焼した灯油の分量といった燃焼の条件が実際より過度に単純化され、過小なものとなっている。
  規定  刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕 
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。
六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
  解説  刑訴法435条6号の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(明白性)とは、
確定判決における事実認定につき合理的な疑いを抱かせるものであり、その判断方法としては、新証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたら、その確定判決においてなされたような事実認定に到達したかどうかという観点から、新旧証拠を総合的に評価して行うべきものとされている(総合評価説)。
この総合評価:
一般論として、
確定判決が有罪認定の根拠とした旧証拠の構造等を分析した上、新証拠の立証命題や旧証拠の構造の中での位置付けを踏まえ、新証拠がいかなる旧証拠にいかなる影響を及ぼすのかを、そのために必要な範囲の旧証拠に分析を加えながら検討。
新証拠が旧証拠に与える影響の度合いを検討するには、その前提として、新証拠それ自体に十分な証拠価値のあることが前提。
but
本決定は、弁護人提出証拠の証拠価値をいずれも否定。
⇒新証拠への影響の度合いを論じる前提を欠いている。
10月   
2379   
  行政p3
東京高裁H29.12.7  
  地方公共団体に勧告の義務があることの確認を求める訴訟の確認の利益の有無(否定)
  事案 控訴人は、本件給食センターは本件地区計画において定められた地区整備計画に違反して建築が許されないものであるにもかかわらず、訴外会社からの建築の届出に対し、被控訴人が都計法58条の2第3項に基づく勧告をしなかったとして、
被控訴人をして同項に基づき必要な是正措置を執るよう勧告する義務があることの確認を求める訴えを公法上の当事者訴訟として提起。 
ここで求める勧告の内容は、
当初の時点では、給食センターの建築が未完成⇒「本件給食センターを建築しないよう勧告する義務」
平成29年8月に建築が完成⇒
控訴審段階では、
主位的に「本件給食センターの建物を除却するよう勧告する義務」があることの確認
予備的請求として「本件給食センターの操業に関し、排出させる油煙等の量等を常時計測し、従来維持されていた環境より栗木マイコン地区の環境が悪化するおそれが生じたときは工場の操業を一時停止するなどの措置を執るよう勧告する義務」のあることの確認。
  争点 ①行政指導にすぎない「勧告」義務があることの確認を求める本件訴え(公法上の当事者訴訟)に確認の利益があるといえるか
②控訴人の求める内容の勧告をする義務を被控訴人(川崎市)が負うといえるか(被控訴人に勧告をするか否か及び勧告内容について裁量があるか、あるとして本件で被控訴人に裁量権の逸脱濫用が認められるのか) 
  規定 都市計画法 第58条の2(建築等の届出等)
3 市町村長は、第一項又は前項の規定による届出があつた場合において、その届出に係る行為が地区計画に適合しないと認めるときは、その届出をした者に対し、その届出に係る行為に関し設計の変更その他の必要な措置をとることを勧告することができる。
  一審 訴えを却下 
  傍論として、「被告(被控訴人)が訴外会社に対し、都計法58条の2第3項に基づき、本件給食センターの建築をしないよう勧告する義務を負っていると認められるか否か」
都市計画の決定の判断は、政策的・技術的な見地から行政庁の広汎な裁量に委ねられているところ、同項に基づく勧告をするか否かの判断も、同様に政策的・技術的な見地からの行政庁の広範な裁量に委ねられている

勧告の不行使が裁量権の行使として違法になるのは、法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下においてその不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合に限定される。
行政指導としての勧告の性質
⇒勧告しないことが「許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く」と認められるためには、「相手方が勧告に従うことについての高度の蓋然性がある場合であることが必要」
⇒本件で勧告をしなかったことについての裁量権の逸脱濫用はない。
  判断  都計法上、同法58条の2第3項の規定による市町村長の勧告については、相手方に当該勧告に従うことを義務付ける規定はなく、勧告に従わないことに対する罰則や行政上の制裁措置は設けられていない
⇒当該勧告に法的効力はなく、当該勧告は行政指導としての性質を有するものと解することができる。 
勧告による指導の内容が実現されるか否かは当該勧告を受けた相手方の任意の協力が得られるか否かに委ねられる(行手法32条1項)⇒行政庁が当該勧告をしたとしても、相手方がこれに従うことが確実とはいえず、本件給食センターの建築を防止するという控訴人の目的が直接的に達成されるわけではない。
①訴外会社と被控訴人との間には、本件給食センターの建築及びその後の給食事業の実施の委託につき契約関係があり、この契約関係は、本件敷地に本件給食センターを建築し、操業することが可能であること、及び、本件地区計画の存在により契約内容が左右されないことを前提として成立したもの
②都計法58条の2第3項の勧告は、訴外会社に対し、前記契約上の債務とは別に、本件地区計画への適合性を担保するための措置を求めるものであり、訴外会社が任意にこれに従う可能性の低いことは明らか
他方で
③本件給食センターの操業により控訴人が財産的被害を受けるというのであれば、当該被害又はその発生のおそれの存在につき主張立証した上で、不法行為等に基づき、訴外会社に対し本件給食センターの操業差止めを、又は被控訴人に対し、本件給食センターへの委託に係る給食事業の差止めを求める民事訴訟を提起する手段が存在し、これに勝訴すれば、直接的に控訴人の目的を達成することができる。
予備的請求についても、本件地区の環境が悪化するおそれが生じた場合に本件給食センターの操業を一時停止すること等を勧告の内容とするもの⇒訴外会社が当該勧告に従う見込みがあるとはいえない。

本件において、被控訴人に勧告義務があることの確認を求めることは、紛争の解決に有効適切であるとは認められない⇒本件訴えは、確認の利益を欠くとして、本件訴えを全部却下。
  ①本件給食センターが本件地区計画に適合しないという事態が生じたのは、被控訴人が、自らの事業の立地として、既存の被控訴人所有地から本件敷地を選択した結果であり、
②当該選択は、主として被控訴人自身の事情(財政面の制約等)によるもの

このような選択の結果、前記不適合を自ら惹起した被控訴人が、都計法58条の2第3項の勧告に関し広範な裁量を有するといえるかについては疑問の余地がある。 
  解説  ●確認の利益一般
確認の訴えの利益は、一般的には、原告が提示した訴訟物たる権利関係について、確認判決をすることが、原告の権利又は法律関係に対する現実の不安・危険を除去するために、必要かつ適切な場合に認められる。
①確認の訴えは、権利関係の存否を観念的に確定すること通じて紛争を解決すると同時に、将来の派生的紛争を予防しようとするもの。
⇒その性質上、権利の強制的実現の裏打ちがない。
②確認の訴えの対象は論理的には無限定

①当該紛争について、権利の確認という紛争解決手段が有効適切に機能するかという実効性及び
②解決を必要とする紛争が現実に存在するかという現実的必要性
の観点から、
確認の利益の存否を吟味・検討することによって、
紛争解決にとって無益な確認の訴えを排除して、制度効率を維持ないし高める必要がある。

その観点から、確認の利益を訴訟要件とされている。
  ●地区計画と都計法58条の2第3項の勧告
地区計画の地区整備計画においては、建築物の敷地、構造、建築設備、又は用途に関する事項が定められる(都計法12条の5第7項)が、
地区計画の区域内において建築行為を行おうとする場合の地区計画適合性を担保するため、
建築行為を行おうとする者は、当該行為に着手する日の30日前までに市町村長に届出を義務付け(都計法58条の2第1項)、
市町村長は、届出内容を審査した上で、それが地区計画に適合しないと認めるときは、その届出をした者に対し、その届出に係る行為に関し設計の変更その他の必要な措置をとることを勧告(同条3項)。
建築行為が都計法29条1項の開発許可を要する場合に当たるときは前記届出を不要とし(都計法58条の2第1項5号)、適合性は開発行為の許可の際に審査するもの(都計法33条1項5号)としているし、
市町村の条例において、地区計画の内容として定められた建築物の敷地、構造、建築設備又は用途に関する事項を取り込み、制限として定めた場合(建基法68条の2)には、地区計画適合性は建築確認の際に審査される(建基法6条)。

開発許可を要する場合や地区計画で定められた事項が条例で制限として定められた場合を除くと、
地区計画適合性は、地区計画に適合しない建築行為の届出に対し、市町村長が是正の勧告をするという形で担保していくというのが都計法の制度設計になっている。
この「勧告」は、行政指導の一種であり、勧告に従わない場合に氏名を公表するということも制度的には予定されていない。
市町村長は、それ以上の権限を有しない。
開発許可を要する場合や条例に取り込まれた場合を除くと、地区計画適合性は勧告という相手方の任意の協力がなければ実現しないやわらかい手段によって担保。
  最高裁の判例には、行政指導の勧告を抗告訴訟の対象になる処分と捉え、抗告訴訟のルートに乗せたものもある(最高裁H17.7.15)。
業絵師指導は相手方の任意の協力を求めるものであるが、事実上それに従わせる力が働くことは公知の事実。

最近の行手法の改正において
「違法な行政指導の中止の求め」(36条の2)
「行政指導の求め」(36条の3)
の制度が設けられた。
これを訴訟の場面でみると、
行政指導としての勧告は、原則として抗告訴訟の対象となる処分に当たらない

公法上の当事者訴訟としての確認の訴えを利用して、
行政指導に従う義務のないことの確認とか、行政指導をする義務のあることの確認という訴訟形式で争うとうことが考えられる。

行訴法の改正で同法4条の公法上の当事者訴訟に「確認の訴え」が明記された点も、この議論の1つの支えになり得る。
行政指導というのも、任意の協力を求めるという建前はともかく、事実上それに従わせる力がある
⇒その中止を義務付けたり、行政指導するように義務付けることは、紛争の解決方法として取り上げるに値する。
訴訟の場では、それは公法上の確認の訴えという形式になり、これが紛争解決の方法として有効適切と捉えられる余地もある。
  行政p15
大阪高裁H29.9.22  
  大阪市長に対するメールの公開請求の事案
  事案 大阪市情報公開条例2条2項:
同条例における「公文書」を、
「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているものという」と規定。 
Y(大阪市)は、
大阪市長が職員との間で、いわゆる庁内メールを利用して1対1で送信した電子メールについて、
①公用パーソナルコンピュータの共有フォルダで保有しているもの
②紙に出力したものを他の職員が保有しているもの
③当該1対1メールの内容を転送先の公用PCで保有しているもの
については、公開請求の対象となる公文書に該当し、
その余のものは公文書に該当しないとの取扱いをしている。
Xは、同条例に基づき、大阪市長に対し、同市長とYの職員との1対1メールのうち、Yにおい公文書として取り扱っていないものの公開を請求
⇒大阪市長は、公開しない旨の決定。
  原審 本件文書の中には、同条例2条2項所定の公文書に該当する文書が含まれている⇒本件非公開決定は違法。 
大阪市情報公開条例2条2項の解釈及び「組織的に用いるもの」に該当するか否かの判断基準について、情報公開法2条2項に関するものと同旨の解釈及び判断基準を採用。
①大阪市長と職員との間で職務に関してやり取りされたものである以上、すべからく組織共用文書となると解するものではない
but
②メールである以上、1対1メールであっても、その作成及び利用について大阪市長及びYの職員が送信者又は受信者として関与しており、一方当事者の廃棄の判断にゆだねられているとはいえず、組織として保有するものに該当することも十分あり得る
③大阪市長と職員との間の1対1メールが職務上の指示又は意見表明に利用される場合、組織において業務上必要なものとして利用又は保存されているということができる場合があり、
証拠に表れた前市長と職員との間のメールの利用の実態に鑑みれば、1対1メールがこのように利用されていないということはできず、本件文書の中に公文書に該当するものがあったということができる。

本件非公開は違法。
  判断 原審判断を是認 
  争点 本件文書が同条例2条2項の「組織的に用いるもの」に該当するか否か 
  解説  同条例の公文書に関する定義は、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(「情報公開法」)2条2項における行政文書の定義と同旨。 
情報公開法 第2条(定義)
2 この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。
一 官報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもの
二 公文書等の管理に関する法律(平成二十一年法律第六十六号)第二条第七項に規定する特定歴史公文書等
三 政令で定める研究所その他の施設において、政令で定めるところにより、歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされているもの(前号に掲げるものを除く。)
同条項の立法過程においては、
①決裁、供覧等の文書管理規程上の手続要件で対象文書の範囲を画することは適切ではない
②職員の個人的メモなど、組織としての業務上の必要性に基づく保有しているとは言えないものまで含めることは、法の目的との関係では不可欠なものではなく、法の的確な運用に困難が生じたり、適切な事務処理を進める上で妨げとなるおそれもある

職務上作成・取得組織共用・保有が要件となった。
組織共用・保有:
作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該行政機関の組織において業務上必要なものとして利用・保存されている状態のものをいう。
  民事p24
東京高裁H29.8.31  
  病院の患者に(第三者が医師に交付した患者の)資料を開示しないことが正当化された事例
  事案 患者が病院に対して、第三者が交付した患者の資料につき、個人情報保護法25条1項に基づき、開示を求めた。 
Xは、平成21年から平成22年にかけて、Yの運営するA病院(精神科)で診察を受けた者。この間、Xの友人であるBが、A病院を訪れて医師に対し、Xの病状に関する資料を交付。
その後、Xは、Bを告訴する目的で、Yに対し、本件持参資料の記録謄写の申請⇒Yは、Bの利益を害するおそれがあるとして、本件持参資料の写しを交付しなかった。
⇒Xは、Yに対し、本件持参資料の開示を求めて提訴。
  争点 Yが開示をしないことが、改正前の個人情報保護法25条1項1号に定める「第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合」に該当するか? 
  原審 Xの請求を棄却。
厚生労働省策定の「診療情報の提供等に関する指針」(平成15年9月12日)8項によれば、
診療情報の提供を拒みうる場合として、
診療情報の提供が第三者を害するおそれがあるときを挙げ、
その想定される事例として、患者の家族や関係者が医療従事者に患者の状況等について情報提供を行っている場合に、
これらの者の同意を得ずに患者自身に当該情報を提供することにより、
患者とその家族や関係者との間の人間関係が悪化するなど、これらの者の利益を害するおそれがあるときを掲げていることを指摘。
本件持参資料が開示されて、Xの症状に関するBの認識を知ることで、XがBに対して悪感情を募らせ、既に悪化しているXとBとの間の人間関係がさらに悪化して、Bの利益を害するおそれがある
⇒本件開示請求は、改正前の個人情報保護法25条1項1号の開示しないことができる事由に該当。
  判断 原審判断を是認。 
  民事p28
東京高裁H30.4.18  
  通信制限に関する広告及び説明が重要事項の不実告知に当たる⇒消費者契約法4条1項による取消しが認められた事例
  事案 無線通信事業者であるYらが、本件の契約料金プラン(「本件料金プラン」)において採用した通信制限の方法は、ユーザーが使用した通信料が一定の値(3日で3GB制限)を超えることを、そのユーザーに対する速度制限の発動条件(トリガー)とし、発動後24時間程度の間、通信速度を低下させるといもの。 
問題 通信制限の必要性そのものではなく、通信制限の存在及び内容(ユーザーの利便を損なう程度)が、販売の際に消費者に分かりやすく適切に説明されたかどうか。
適切な説明がなかったとすればそれが民法96条の詐欺又は消費者契約法4条1項の重要事項の不実の告知に当たるかどうか。
  主張 Y1と本件料金プランの契約をした消費者であるXは、
通信サービスを使用すると、Yらの広告や契約時の説明と異なり、通信制限を受けることが多く、通信制限下では使いものにならないと主張

民法96条又は消費者契約法4条1項に基づき、契約を取り消した上で、
支払済みの契約金の返還等を求めた。 
  原審 請求棄却。
  判断 請求を認容。 
Yらは、本件料金プランにつき、広告中には3日3G制限が発動される場合の具体例や3日3G制限発動後の通信制限下での具体的な使用状況は記載せず、
3日3G制限の存在のみを豆粒のような文字で記載して、できるだけ3日3G制限の存在に気付かせずに、顧客を販売店に誘引しようとした。
Yらは、販売店においては、重要事項説明書の3日3G制限の説明(概略、直近3日間の通信料合計が3GB以上となると通信速度を翌日にかけて制限する場合があるというもの)を棒読みし、3日3G制限が発動される場合の具体例はYouTubeを標準画質で見ることができるとだけ説明して販売。
本件料金プランの広告及び店頭説明は、高速、通信量制限ないし、使い放題という利便性のみを強調し、通信制限の存在を目立たせないようにしており、
サービス(特に通信制限時)の水準が一部のヘビーユーザーのニーズに合わないことの説明がなく、
通信制限のトリガーを引かないためには通信料を自主規制せざるを得ないこと、通信料の多い使用方法の具体例及び通信制限下での通信速度等の通信状況の具体的内容の説明もない。

Xがこれら通信制限の実情を知らされていれば契約締結はなかったもので、重要事項についての不実の告知にあたる。
  民事p46
東京高裁H29.3.22  
  自筆証書遺言の有効性の判断と動画の実質的証拠能力
  事案 XとYは、被相続人Aの法定相続人。
Aは、平成26年7月に死亡。
Xが、Yに対して、自筆証書遺言が偽造されたもので法定の要件を各ため無効⇒遺言無効確認請求訴訟を提起。 
被相続人Aは、株式及び不動産を含む財産一切をXに相続させることを内容とする公正証書遺言を平成24年4月19日に作成。
AがYに対して全財産を相続させることを内容とする自筆証書遺言(作成日は平成25年2月8日)があり、Yの申立てにより遺言書検認手続を行われた。
  争点 本件遺言の作成日に撮影された動画(本件動画)について、その証拠能力及び証拠力をどのように考えるか。 
  判断 本件動画の証拠能力:
Yが、裁判所やXを欺罔する意図をもって本件動画を加工、編集した事実を認定することはできない⇒証拠能力を否定すべきではない。
実質的証拠力:
本件動画に顕れた被撮影者(被相続人A)の言動、遺言書や動画の保管状況及びこれに関する撮影者(Y)の説明の合理性その他諸般の事情を総合して判断すべき。
①本件動画には、後日の証拠となることが意識されて新聞が何度も映し出されているのに、Aが自書、押印する動作が全く撮影されていない
②添え手を含む何らかの補助を受けて書かれた可能性は否定できない
③公正証書遺言の内容を変更する事情が何ら明らかになっていない

Aが本件遺言を自書、押印したものとは認めず、本件遺言は無効。
  解説 動画は、準文書として扱われ(民訴法231条)、その実質的証拠力も文書に準じて判断されることになる。
文書の実質的証拠力は裁判官の自由心証によって決せられる。

動画が証拠として提出された場合には、その内容について、裁判官の自由な心証によって判断することができる。 
民訴法 第231条(文書に準ずる物件への準用)
この節の規定は、図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他の情報を表すために作成された物件で文書でないものについて準用する。
  民事p56
東京高裁H30.3.26
東京高裁H30.3.22  
   
  事案 日本放送協会の地上系の放送を含めたワンセグ放送を受信できる携帯電話を所有している者が、協会との間で、放送法64条1項所定の放送の受信についての契約(「受信契約」)を締結する義務がないなどとして争った事案。 
①事件:
ワンセグ機能付き携帯電話の所有者が、協会との間で、受信契約を締結須利義務が存在しないことの確認を求めた事案。

②及び③事件:
ワンセグ機能付き携帯電話の所有者が、1度は、協会との間で、地上契約を締結し、受信料を支払ったものの、その後、受信契約締結義務がなく、前記契約が無効であるなどと主張し、不当利得返還請求権に基づき、既払いの受信料の返還等を求めた事案。
  判断  ●①事件 
①法64条1項制定当時、既に形態型ラジオが存在していたにもかかわらず、「受信設備を設置した者」との表現が使われていた
②同法施行前に、同趣旨を定めていた放送用私設無線電話規則で「移動体に装置する場合」を含めて規定
⇒「設置」には、携帯型受信機を携行する場合も含む。
同項ただし書は、当該受信設備が設置されている目的が客観的に放送の受信を目的としているか否かによって判断され、設置者の主観的な目的によって左右されない
⇒ワンセグ機能付き携帯電話は、ただし書きにいう「受信設備」に該当しない
⇒原判決を取り消し請求棄却
  ●②③事件
法64条1項の「設置」を協会の「放送を受信可能な状態におくこと」などと解し、
同人らが所有するワンセグ機能付き携帯電話は同項ただし書に該当しないと判断
⇒控訴を棄却し、請求棄却を維持。
  解説 放送法64条1項に基づく受信契約の締結義務について、
最高裁H29.12.6:
法64条1項は、受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であり、協会からの受信契約の申込みに対して受信設備設置者が承諾をしない場合には、その者に対して承諾の意思表示を命ずる判決の確定によって受信契約が成立する。 
  民事p76
大阪高裁H29.2.9  
  骨髄移植手術を受けた患者が脳梗塞を発症して死亡。看護師の過失との因果関係を否定。
  事案 Pの父母であるx1とX2は、Y附属病院の医師の過失により、免疫抑制剤であるプログラフを過剰投与され、その副作用により脳梗塞を発症して死亡したと主張⇒Yに対して、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を請求。 
  原判決 Xらの請求を棄却 
    Xらは控訴。
併せて、Y附属病院の看護師の過失、Y附属病院自身の過失の主張を追加するとともに、
適切な医療を受けておれば、その死亡した時点においてなお生存していた可能性等を失い、また、適切な医療を受けることについての期待権を侵害されたとして、不法行為に基づく損害を予備的に追加主張。
  判断 プログラフの過剰投与があったことは明らか。
but
①鑑定によれば、過剰投与による脳梗塞の発症の可能性は否定できないものの、プログラフの量は、副作用としての脳梗塞を発症するだけの条件が十分であったとまでは認めることができないし、
②プログラフの投与が原因とされる脳梗塞の発症例が多いということはできない

過剰投与と脳梗塞発症との間に相当因果関係を認めることは困難。 
③Pの全身状態の悪化等からすれば、過剰投与がなかったからといって、脳梗塞の発症を回避したり、死亡の結果を回避したりすることができる相当程度の可能性があったということはできない
④過剰投与の発生について過失が認められるが、Y附属病院の医療行為が著しく不適切であったということはできない

Yの損害賠償を否定した原判決は結論において相当。
  解説 因果関係の立証について、
最高裁昭和50.10.24:
訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、
経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、
その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りる。
①プログラフは、種々の移植における拒絶反応の抑制に適応するが、これを服用すると、脳梗塞等を発症し、致死的な経過をたどることがあるとされ、
本剤を移植で使用するときは、免疫抑制療法及び移植患者の管理に精通している医師の指導のもとで行わなければならないとされている。
②鑑定でも、過剰投与により脳梗塞を発症した可能性を否定できないとされている。
⇒過剰投与と脳梗塞との因果関係はかなり微妙。
  民事p95
東京地裁H29.9.27  
  弁護士の相手方弁護士に対する名誉毀損等の不法行為(肯定)
  事案 弁護士が民事訴訟、家事調停の代理人として、相手方の代理人弁護士に対して弁護士法違反、弁護士倫理違反等の内容の弁論期日における発言、準備書面の記載・陳述をしたことにつき、名誉毀損、侮辱、業務妨害に係る不法行為責任の成否が問題になった事案。 
  争点 弁論期日における発言の有無、発言の名誉毀損等の該当性、各準備書面の提出・陳述の名誉毀損等の該当性、違法性阻却の成否、損害・金額 
  判断 本件弁論期日後間もなく作成されたXの作成に係る書面(報告文書)、弁護士日誌等の記載が信用でき、Yの供述を排斥して、Xの主張に係るYの発言を認定。 
本件発言がXの社会的評価を低下させる
準備書面の各記載もxの社会的評価を低下させる
(業務妨害の主張についてはいずれも排斥)
違法性阻却については、
本件発言について全て否定し、
準備書面の記載等につき一部肯定
本件発言の慰謝料として30万円
訴訟の準備書面の記載等の慰謝料として50万円
調停の準備書面の慰謝料として30万円
弁護士費用11万円
を認め、請求を一部認容。
  民事p107
横浜地裁H29.10.12
  交通事故で低髄液圧症候群の発症が認められなかったもの
  事案 交通事故につき、
Xが、Yに対し、
民法709条、710条、自賠法3条に基づく責任がある
⇒人身損害及び弁護士費用並びに交通事故発生日から支払済みまで年5分の割合により遅延損害金の支払を求めた事案。
  主張 X:
本件交通事故はYの一方的な過失によるものであると主張するとともに、
本件交通事故による低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)の発症、
本件交通事故発生日から約2年11箇月後の症状固定を主張 
Y:
①Xが雨傘を差していたこと、夜間であること、周囲に注意を払っていなかったと思われる
⇒15%の過失相殺を主張。
②Xの本件交通事故による低髄液圧症候群の発症を否認
③症状固定時期は一般的な交通外傷の症状固定時期である交通事故から半年後が相当である
  争点 Xの本件交通事故による低髄液圧症候群の有無 
  判断 ①国際頭痛分類第3版β版の国際頭痛分類基準
②脳神経外傷学会基準
③厚生労働省研究班による脳脊髄益漏出症画像判定基準・画像診断基準
に照らし

㋐Xが事故直後の時期に訴えた頭痛の症状は起立性頭痛(頭部全体及び又は鈍い頭痛で、座位及び立位をとると15分以内に増悪する頭痛で低髄液圧症候群発症の1つのメルクマールとなると解されている)であるとは認められないこと
㋑起床時に頭痛が激しい旨医療記録に記載されたのは、事故から1年以上経過した時点であること
㋒RI脳槽シンチグラフィー検査(ラジオアイソトープ(RI)という放射性物質をせき髄内に穿刺し、体外に排出される過程を見て脊髄液が漏出する可能性を見出す検査)は、1時間後に明らかな膀胱集積がみられた場合に脳脊髄液の漏出を疑う所見とされているところ、投与後1時間で淡い膀胱の描出、3時間後RI膀胱内集積、24時間後RI残存率の低下で、1時間後の明らかな膀胱集積ではなく、また、2.5時間以内の集積ではない⇒厚生労働省研究班による脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準を満たさない
㋓明らかな骨折や神経学的所見は認められず、頭蓋内出血など明らかな頭部外傷所見はない
㋔3回にわたり、ブラッドパッチを受けているところ、一時的に頭痛が改善されたこともあったが、直後に頭痛が悪化したりしており、ブラッドパッチにより症状が改善されたとは認められない

Xの本件交通事故による低髄液圧症候群の発症は認められない。
症状固定時期について:
本件交通事故による低髄液圧症候群の発症は認められないが、
Xの頚部痛等の症状が、他の一般的な交通外傷の事例に比べ、重いと考えられる

本件交通事故から約1年後のA診療所の最終通院の属する月末に症状固定に至ったとみるのが相当。
過失割合について:
Xは横断歩道が設置されていない場所で道路を横断⇒周囲の安全を確認する注意義務があり、一定の過失が認められる。
①現場が住宅街でスクールゾーンであること
②雨が降っていて雨傘を差して歩行したXについて、Yの発見が遅れたこと
③5月の午後8時55分頃であり、夜間で暗かったといえること
等を総合考慮

Yの90パーセント、Xの10パーセントの過失割合となる。
  解説 交通事故の損害賠償請求訴訟において、被害者が低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)の発症を主張する事案は少なくない。 
脳脊髄液減少症:
脳脊髄液腔から脳脊髄液が持続的ないし断続的に漏出することによって脳脊髄液が減少し、頭痛、頚部痛、耳鳴、視機能障害、倦怠などさまざまな症状を呈する疾患と定義される。
低髄液圧症候群等の診断基準:
国際頭痛学会が
①平成16年に公表した国際頭痛分類第2版、
②平成25年に公表した国際頭痛分類第三版β版
③日本脳神経外傷学会が提案した、外傷に伴う低髄液圧症候群の診断基準
④厚生労働省の研究班が平成23年に公表した「脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準」
⑤脳脊髄液減少症ガイドライン作成委員会が作成した脳脊髄液減少症ガイドライン2007等
がある。

本件において、②③④は一定の信頼性を有する基準と解されるとして、これらにより判断してXの低髄液圧症候群の発症を認めなかったもの。
2378   
  民事p3
最高裁H30.2.23  
  抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける⇒当該抵当権自体の消滅時効
  事案 Xは、平成13年2月13日、その有する建物共有持分について、債務者をX、根抵当権者をY、債権の範囲を金銭消費貸借取引などとする根抵当権を設定するとともに、Yとの間で金銭消費貸借取引契約を締結し、平成17年11月24日、破産手続開始の決定(同時廃止)を受けた。 
Xが破産手続開始の決定⇒本件根抵当権の担保すべき元本が確定。
その後、Xは、免責許可の決定を受け、同決定は、平成18年2月24日に確定。
Xが、本件貸金債権につき消滅時効が完成し、本件根抵当権は消滅したなどと主張して、Yに対し、本件根抵当権の設定仮登記の抹消登記手続を求めた。
  規定 民法 第396条(抵当権の消滅時効) 
抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。
民法 第167条(債権等の消滅時効)
債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2 債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。
  原審 ①本件貸金債権は、免責許可の決定の効力を受ける債権⇒消滅時効の進行を観念することができない。
②民法396条により、抵当権は債務者及び抵当権設定者に対してはその担保する債権と同時でなければ時効によって消滅しない

Xの請求を棄却。
  判断 原審の前記①の判断は是認することができる。
前記②の判断は是認することができない。
「抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合には、民法396条は適用されず、債務者及び抵当権設定者に対する関係においても、当該抵当権自体が、同法167条2項所定の20年の消滅時効にかかる」
以上のことは担保すべき元本が確定した根抵当権についても同様に当てはまる。
本件根抵当権の行使することがdきる時から20年を経過していないことは明らか
⇒Xの請求を棄却すべきもの。
原審の判断は、結論において是認することができる。
⇒上告を棄却。
  解説 破産法 第253条(免責許可の決定の効力等)
免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
免責の法的性質:
〇A:その責任が消滅するのであって債務は消滅せず、自然債務として残存する。
B:債務そのものが消滅する。
破産手続きによらないで行使することができる別除権(破産法2条9項、65条1項)が免責の効力を受けないことは、当然のことであると解されている。
  主債務者である破産者が免責決定を受けた場合に、免責決定の効力の及ぶ債務の保証人がその債権についての消滅時効を援用することができるか? 
最高裁H11.11.9:
免責決定の効力を受ける債権は、債権者におて訴えをもって履行を請求しその強制的実現を図ることができなくなり、右債権については、もはや民法166条1項に定める『権利を行使することを得る時』を起算点とする消滅時効の進行を観念することがきない。⇒破産者が免責決定を受けた場合には、右免責決定の効力の及ぶ債務の保証人は、その債権についての消滅時効を援用することはできないと解するのが相当。
  本判決:
民法396条は、その文理に照らすと、被担保債権が時効により消滅する余地があることを前提とすることを前提としているものと解するのが相当。
そのように解さないと、いかに長期間権利が行使されない状態が継続しても消滅することのない抵当権が存在することになるが、民法がそのような抵当権の存在を予定しているものとは考え難い。 
  抵当権自体の消滅時効があり得る場合のその時効期間は、民法167条2項により20年であるとするのが一般的な見解。 
大判昭15.11.26:
後順位抵当権者及び抵当物件の第三取得者に対しては、抵当権は同項により20年の消滅時効にかかる。

東京高裁H11.3.17:
法人の破産手続が終結した場合に当該法人に対する債権を担保する根抵当権の消滅時効が問題となった事案において、
当該法人に対する債権は消滅するが、
独立して存続することになった根抵当権については、同項により20年の消滅時効にかかる。
A:抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合の抵当権自体の消滅時効は被担保債権の種類に応じて、5年や10年
vs.
①そのように解することは、前記(免責)の場合にも被担保債権の消滅時効の進行を観念することに等しいものであって、その判断と相いれない。
②法に規定のない消滅時効の制度を創設することになる。
⇒採用できない。
  民事p6
最高裁H29.12.21  
  改良住宅の入居者が死亡した場合の使用権の承継について
  事案 本訴:Xが、京都市所有の改良住宅(住宅地区改良法2条6項)である本件住宅を使用する権利をXの母Aから承継したなどと主張しして、京都市に対し、本件住宅の使用権及び賃料額の確認等を求めるもの。
反訴:京都市が、本件住宅を占有するXに対し、所有権に基づく本件住宅の明渡し及び賃料相当損害金の支払等を求めるもの。 
事実 Aは、平成20年1月、改良住宅に入居させるべき者(同法18条)として本件住宅の引渡しを受けて本件住宅に居住していたが、平成25年9月に死亡。
Xは、平成22年5月頃から母Aを介護するため本件住宅に同居していたが、京都市長に対し、京都市市営住宅条例23条1項に規定する同居の承認を申請しなかった。
  規定 施行者は、国の補助を受けて建設された改良住宅の管理について必要な事項を条例で定めるものとされており(住宅地区改良法29条1項、公営住宅法48条)、
条例24条1項は、改良住宅の入居者が死亡した場合において、その死亡時に当該入居者と同居していた者で、同居の承認を受けて同居している者等は、市長の承認を受けて、引き続き当該改良住宅に居住することができる旨を規定。 
  争点 改良住宅の入居者Aの相続人であるXが、改良住宅の使用権を相続により承継したといえるか否か。 
  原審 ①公営住宅の入居者が死亡した場合には、その相続人が公営住宅の使用権を当然に承継するものではないと解されるところ(最高裁H2.10.18)、
住宅地区改良法の規定およびその趣旨に照らすと、改良住宅の入居者が死亡した場合についても、当該入居者の相続人が改良住宅の使用権を当然に承継すると解する余地はない。
②本件条例24条1項は、同法の規定の趣旨に違反するとはいえない。

民法等による相続の一般法理が適用されるとするXの主張は理由がないとして、Xによる本件住宅の使用権の承継を否定。 
  判断 住宅地区改良法の規定及びその趣旨
⇒国の補助を受けて建設された改良住宅の入居者が死亡した場合における使用権の承継については、民法の相続の規定が当然に適用されるものと解することはできず、施行者が、住宅地区改良法の規定及びその趣旨に違反しない限りにおいて、改良住宅の管理について必要な事項として、条例で定めることができるものと解される。 
本件条例24条1項の趣旨は、改良住宅が、住宅地区改良事業の施行に伴い住宅を失った者等の居住の安定を図る趣旨のものであることを踏まえて、改良住宅の入居者が死亡した場合の使用権の承継を、その死亡時に当該入居者と同居していた者で、市長の承認を受けて同居している者等に限定したものと解することができる。

本件条例24条1項は、住宅地区改良法の規定及びその趣旨に照らして不合理であるとは認められないから、同法29条1項、公営住宅法48条に違反し違法、無効であるということはできない。
  解説  改良住宅の入居後の使用関係については、基本的に私人間の建物賃貸借関係と異なるところはなく、原則として一般法である民法及び借地借家法の適用があるものと解される。(公営住宅に関するものであるが、最高裁昭和59.12.13) 
国の補助を受けて建設された改良住宅の管理等については、公営住宅法の規定の多くが準用されているところ(住宅地区改良法29条)、
公営住宅については、公営住宅法の規定の趣旨から、その入居者の相続人は、被相続人の有していた当該公営住宅の使用権を当然に承継すると解する余地はないとの判断がされており(最高裁H2.10.18)、同最判は、公営住宅法を公営住宅の使用権の相続を否定した特別法であると位置づけたものであると理解されている。
原審:
基本的に、住宅地区改良法を改良住宅の使用権の相続を否定した特別法であると位置付けたもの。
  but
改良住宅は、住宅地区改良事業の施行に伴い住宅を失う改良地区内の居住者を対象として建設されるものであり、住宅に困窮する低額所得者一般に対し、公募による入居者の募集手続を経た上で賃貸される公営住宅とは、その趣旨目的が異なる。
公営住宅の入居者が死亡した場合についての入居の承継を規定した公営住宅法27条6項は、改良住宅には準用されておらず、住宅地区改良法の制定時の国会審議においては、政府委員から「親子の代が変わるという場合には、そのまま引き継いで入居できる」と説明がされている。

同法の解釈として改良住宅の使用権について「当然に承継すると解する余地はない」とまではいえない。 
①住宅地区改良法18条は、改良住宅に入居させるべき者について「住宅に困窮すると認められるもの」に限定しており、住宅地区改良事業に伴い住宅を失った者等の全てについて無条件に改良住宅への入居を認めているものではない。
②改良地区内の居住者が従前の住宅につき有していた所有権その他の権利に対しては、施行者が金銭をもって補償することが予定されている(同法11条1項、16条1項)。

改良住宅への入居は、前記事業に伴い住宅を失った者等に対する権利の補償としてではなく、あくまでもその居住の安定という社会政策的な措置として認められたもの。

住宅地区改良法は、改良住宅の使用権の相続を認めたものであるとまで解することは困難であって、その使用権の承継については、住宅地区改良法の規定の趣旨に照らして制定されるべき条例に委ねたものと解するのが相当。
  民事p10
大阪高裁H30.3.8  
  署名のある媒介契約書の成立の真正の推定が覆された事案
  事案 Xが、Yとの間のY所有不動産売却についての一般媒介契約に基づくXの媒介行為により、同不動産の売買契約が成立した⇒本件媒介契約に基づき、約定報酬54万4320円と遅延損害金の支払を求めた。 
  一審・二審 本件媒介契約に関する本件媒介契約書は、Yの署名がある⇒真正に成立したものと推定され、これを覆すに足りる証拠はない。
本件売買契約は、Xの媒介契約により成立⇒Xの請求を認容。
  判断 ①Yは、他の書類には押印までしたにもかかわらず、あえて本件媒介契約書についてのみ押印しなかったことからすれば、Yには本件媒介契約を締結する意思がなかったことを示すものというべき
②売買契約締結時には、売買代金の決済は行われたが、X側が、売買代金から媒介報酬を控除してYに支払うという処理をしなかった⇒Yが本件媒介契約書への押印を拒否することによって、本件売買契約を締結しない意思を明らかにし、媒介報酬の支払に応じなかったことを示すというべき
③本件売買契約締結に至る経緯・・・・⇒Yにおいて、本件売買契約締結に至ったことについて、Xに媒介報酬を支払う意思がなかったため、本件媒介契約書への押印を拒絶したと考えても、格別不自然なことではない。

Yは本件媒介契約を締結する意思がなかったため本件媒介契約書への押印を拒んだものと認められ、Yの署名があることによる本件媒介契約書が真正に成立したとの推定は覆されているというべき。 
  規定 民訴法 第228条(文書の成立)
文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
  解説 文書に記載された意味内容が証拠に用いられるためには、その文書が真正に成立したものでなければならない。
文書が成立したことは、文書が挙証者の主張する作成者の意思に基づいて作成されたことを意味する。 
押印のある私文書の作成について、推定が破れる事例としては、
印章の紛失、盗難などの盗用型
印章が冒用された場合の冒用型
署名のある私文書については作成が否定された事例は見当たらない。
  民事p13
東京地裁H29.10.5  
  株主構成を変化させることで退職慰労金支給決議を再度成立させることを目的⇒訴え提起と独立当事者参加の申立てが訴権濫用として却下された事案
  事案 Xは、妻Aの父(亡B)及び母(亡C)が設立した「有限会社D」の株主であると同時に代表者。
Aの両親が死亡した後、他の株主である長男Y1(亡Bと亡Cの長男)と亡長女の子Y2(亡Bと亡Cの相続の代襲相続人)を被告として、
X、独立当事者参加人(株式会社E)及びY1らが共有する本件株式(もともと亡B及び亡Cが保有していたD社の普通株式計750株)の分割を求めた。 
X、Y1及びY2は、亡B及び亡Cの相続により、本件株式について各3分の1の割合の準共有持分を有しているが、遺産分割は未了。
Aは、Xに対し、平成28年2月24日付けで、本件株式の持分3分の1を455万9000円で譲渡し(「本件第1譲渡契約」)、X及びAは、参加人Eに対し、平成28年4月4日、Xが有していたD社の株式750株及び本件株式のXの持分3分の1などを1株当たり1万6688円で譲渡した(「本件第2譲渡契約」)。
D社においては、平成27年4月30日に、Aに対して8300万円の退職慰労金を支払う旨の株主総会決議(「退職慰労金支給第1決議」)等がされ、平成28年4月18日には、本件第2譲渡契約を承認する旨の決議(「本件譲渡承認決議」)がされ、同月26日には、退職慰労金支給第1決議の取消が確定することを停止条件として、Aに対して退職金8300万円を支給し、その効力を平成27年4月30日に遡って生じさせる旨の決議(「退職慰労金支給第2決議」)をしている。

尚、平成28年3月25日には、退職慰労金支給第1決議について、特別利害関係人であるAが議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたとき(会社法831条1項3号)に当たるとして、これを取り消す旨の判決がされている。
  判断 本件第1及び第2譲渡契約については、株主構成を変化させて、Aに対する退職慰労金支給決議を再度成立させることを目的としてされたものであり、
被告Y1を本件株式の権利行為者とする指定の効力が争われている状況下で本件訴訟が提起

本件第1及び第2譲渡契約による株主構成の変更に加え、本件株式の一部について独立して議決権を行使することができる状況を作出することによって、前記目的を実現することを企図している。

Xによる本件訴訟の提起及び参加人の独立当事者参加について、訴権の濫用に当たるとして、これらを不適法却下。 
  解説 ●私権と訴権
訴権:
「公法的訴権説」で「本案判決請求権説」通説。
  ●裁判を受ける権利と訴権 
憲法32条は「裁判を受ける権利」を保障する。

①裁判を受ける権利(憲法32条)、
②司法権の範囲(憲法76条1項)、
③法律上の争訟(裁判所法3条1項)、
④裁判の公開(憲法82条1項)
については、判例は、これらを同じ次元で考える「四位一体」論をとっている(最高裁H10.12.1)。
  ●私権の濫用と訴権の濫用
本件:
Aに多額の退職慰労金を支給する目的で、その支給を決議した株主総会決議が不当であるとして取消判決がされたにもかかわらず、その取消事由である特別利害関係株主(A)による議決権行使を回避するために株式譲渡を行った上で、本件共有物分割の訴えを提起⇒訴権の濫用を理由にXの請求を却下。
but
原告の権利行使が権利濫用と認めらる場合、
その権利行使のために訴訟を提起したときは、
「私権の濫用」(請求棄却)とするか
「訴権の濫用」(訴え却下)とするか
について争いがあり、
訴権濫用とする場合の処理についても、
その訴訟での主張が信義則に反するとするのか、
訴え提起自体を不適法とするのか
などについても、議論がある。
①訴権は、裁判を受ける権利と類似した権利であり、裁判を受ける権利が基本権を保障するための基本権であって、実定法上、「法律上の争訟」(裁判所法3条)であれば、全ての訴えにつき裁判を受けることが認められている

訴えを却下して裁判を受ける権利を否定するかのごとき処理は問題が多い。

請求棄却⇒請求権の不存在について既判力が生じる。
訴え却下⇒それについて既判力が生じない。
  民事p22
さいたま地裁H29.10.3  
  ツイッターのアカウント全体の削除を求めた仮処分が認容された事例
  事案 債権者は、他人が開設したツイッターのアカウントにおいて、債権者が元AV女優Bと同一人物である旨の虚偽の事実が摘示されて名誉権が侵害されていると主張⇒米国のツイッター社に対し、人格権に基づく妨害排除請求権に基づき、アカウント全体の削除と返信ツイートとして投稿された記事の削除を求めて、仮の地位を定める仮処分命令の申立て。 
  判断 本件アカウントは、アカウント名、プロフィール欄の記載、ヘッダ画像及び投稿記事の全てにおいて、債権者が本件アカウント開設したかのように装い偽った上で、閲覧者に対し、債権者が元AV女優であって、投降した画像のアダルトビデオに出演しているかのよな印象を与え、かつ、債権者がそのような画像を投稿したかのような印象を与えることを目的として、開設され表現がされた。

アカウント全体が、どの構成部分をとってみても、債権者の人格権を侵害することのみを目的として、明らかに不法行為を行う内容の表現である。
アカウント全体が不法行為を目的とすることが明白であり、これにより重大な権利侵害がされている場合には、権利救済のためにアカウント全体の削除をすることが真にやむを得ないものというべきである。

例外的にアカウント全体の削除を求めることができる。
  解説 名誉権の侵害のおそれを理由に出版を差し止めるな同年の表現行為に対する事前抑制は、
表現の自由を保障し検閲を禁止する憲法21条の趣旨に照らし、
厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうる。(最高裁昭和61.6.11) 
人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができ、
どのような場合に侵害行為の差止めが認められるかは、
侵害行為の対象となった人物の社会的地位や侵害行為によって受ける被害者側の不利益と
侵害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較考量して決すべきであり、
侵害行為が明らかに予想され、その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるときは侵害行為の差止めを肯認すべき。
(最高裁H14.9.24)
本件:
アカウント全体の削除が表現行為の事前差止めの性質も含む点を考慮して、表現行為の事前抑制に関する判例の趣旨を踏まえ、明白かつ重大な権利侵害があることを要件として、例外的にアカウント全体の削除を認めた。
民事保全規則9条2項6号に基づき、理由ではなく、理由の要旨を記載。
仮処分決定は、債務者の審尋がされた当日中に無担保で発令。
  商事p24
東京地裁H29.4.13
  代表取締役に対する取締役会の招集通知を欠いたが、取締役会決議の結果に影響がないと認められるべき特段の事情があるとして、決議が有効とされた事例
  事案 Y社の代表取締役であったXが、Y社に対し、取締役会決議について、Xに対する適法な招集通知を欠いているとして、無効であることの確認を求めた事案。 
  事実 Xは、Y社の代表取締役として、Y社内で必要な手続を経ないまま、X以外の取締役をいずれも解任し、Xの息子を執行役員社長に選任したこと等を内容とする人事発令。

Xを除くY社の取締役らがXらの行動への対応策を協議し、臨時取締役会を開催することとした。 
その日の午後11時23分、Xを含む全取締役及び監査役のY社内で割り当てられている各メールアドレスに対し、翌日午前9時30分からY社内会議室において、本件取締役会を開催すること等を内容とする電子メールを送信。

Xを除く取締役ら6名及び監査役が出席し、Xを代表取締役から会食する議案を出席取締役6名のうち1名(棄権)を除く5名の賛成により可決し、Xを代表取締役から解職する旨の決議が成立。
  争点 ①Xに対して本件取締役会の招集通知がされたといえるか
②Xが本件取締役会に出席してもなお本件決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるか 
  判断 ①取締役会の招集通知は、各取締役に到達することを要し、招集通知が各取締役に到達したというためには、当該取締役の了知可能な状態に置かれること(いわゆる支配圏内に置かれること)を要する。
②Xは自らパソコンを操作することがなく、Y社内におけるXのパソコンはY社内の秘書室において管理されていた上、本件メール送信時においても、秘書室においてXのメールアドレスの受信状況を確認していなかったことがうかがわれる⇒本件メールがXのメールアドレスに係るメールサーバに記録されたことをもって、Xの了知可能な状態に置かれた(支配圏内に置かれた)ということはできない。 
取締役会の開催に当たり、取締役の一部の者に対する招集通知を欠く場合には、その招集手続に瑕疵があり、取締役会の決議は無効になる。
but
その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認められるべき特段の事情があるときは、前記瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、決議は有効になる。
①Xを除く取締役らは、本件取締役会の前夜、顧問弁護士らも交えて協議をし、Xの息子が判断能力の低下したXを利用してY社に混乱をもたらすこと等を防止するため、Xを代表取締役から解職するとの意見を形成するに至り、
このことについて反対の意見を述べたり、賛成することにとどまったり、意見を留保したりした者がいたとの事情はうかがわれない。
②前記意見は、相応の根拠に基づく強固なものであったと推認される

XがY社の取締役会において相当に強い影響力を有していたこと等を考慮しても、Xが本件取締役会に出席してもなお本件決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情がある。
  解説 「特段の事情」とは、
決議と反対の側に投票されても、票数の上で決議を動かすに足りないということのみならず、
その取締役が他の取締役との関係で取締役会において占める実質的影響力、その取締役について予想される意見、立場と決議の内容との関係などから判断して、同人の意見が決議の結果を動かさないであろうことが確実に認められるような場合がこれに当たるとされる。 
2377   
  行政p4
最高裁H30.1.9  
  内閣官房報償費の支出に関する行政文書をめぐる情報公開訴訟。 
  事案 Xが、平成25年1月1日から同年12月31日までの期間(第二次安倍内閣、菅官房長官)における同支出に関する行政文書のうち、
①政策推進費受払簿、②支払決定書、③出納管理簿、④報償費支払明細書、⑤領収書、請求書及び受領書の各文書(「本件文書」)に記載された情報が行政機関の保有する情報の公開に関する法律(「情報公開法」)5条3号及び6号所定の不開示情報(国の安全等に関する情報、事務又は事業に関する情報)に当たるとしてされた不開示決定の取消し及び本件各文書についての開示決定の義務付けを求める事案。
  解説 内閣官房報償費:
内閣官房の行う事務を円滑かつ効果的に遂行するために、当面の任務と状況に応じて機動的に使用することを目的とした経費として、毎年予算措置が講じられているものであり、その取扱いについて定めた基本方針等によれば、
内閣官房報償費の執行は、
①政策推進費(施策の円滑かつ効果的な推進のため、内閣官房長官としての高度な政策的判断により、機動的に使用することが必要な経費)
②調査情報対策費(施策の円滑かつ効果的な推進のため、その時々の状況に応じた必要な情報を得るために必要とされる経費)
③活動関係費(政策推進、情報収集等の活動が円滑に行われ、所期の目的が達成されるよう、これを支援するために必要な経費)
の3つの目的類型ごとに、それぞれの目的に照らして行うものとされている。
  規定 情報公開法 第5条(行政文書の開示義務)
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。

三 公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報

六 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
イ 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
ロ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
ハ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
ニ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
ホ 独立行政法人等、地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ
  判断 ①政策推進費受払簿、③出納管理簿及び④報償費支払明細書に記録された情報のうち、調査情報対策費及び活動関係費の各支払年月日、支払金額等を示す情報は、情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報に当たる。
政策推進費の繰り入れの時期及び金額、一定期間における政策推進費又は内閣官房報償費全体の支払合計額等を示す情報は、前記各号所定の不開示情報に当たらない

①政策推進費受払簿の全部並びに、
③出納官吏簿及び
④報償費支払明細書
のうちそれぞれ調査情報対策費と活動関係費の各支払決定に係る記録部分を除いた 部分についての不開示決定を取り消すとともに、
これらについての開示決定を命じた。
  解説 本件では、情報公開法5条3号及び6号所定の各不開示事由の有無が問題
but
それについて説示した最高裁判例はない。 
内閣官房報償費の支出の対象となる事柄の性質や、これらに関する情報が開示された場合の支障等について一般的な説示をした上で、
当該文書または部分に記録された情報から内閣官房報償費の支払相手方や具体的使途が明らかになり、あるいはこれらを相当程度の確実さをもって特定することが可能になる場合があるかどうかという観点から、
情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報該当性について判断。
but
どこまでの情報が明らかになれば支払相手方等を相当程度の確実さをもって特定することが可能になる場合があるといえるかという点で、(下級審での)それぞれの見解に相違。
本判決の判断は、あくまでも本件各事件の対象となった本件各文書の記載の形式や内容、不開示決定がされた当時における社会の状況等の諸事情を前提としたもの⇒これらの事情に変化があれば、同じ内閣官房報償費の支出に関する行政文書であっても、異なる判断となることがあり得る。
  行政p10
最高裁H30.4.26  
  県議会議長の県議会議員に対する発言の取消命令と司法審査
  事案 愛知県の県議会議員であるXが、県議会議長から、地自法129条1項に基づき、県議会の一般質問における県知事に対する発言の一部を取り消すよう命じられた⇒Xは、前記発言は社会通念上相当な内容のものであるなどとして、Y(県)を相手に、本件命令の取消しを求めた。
  規定 地自法 第104条〔議長の権限〕
普通地方公共団体の議会の議長は、議場の秩序を保持し、議事を整理し、議会の事務を統理し、議会を代表する。
地自法 第129条〔議場の秩序保持〕 
普通地方公共団体の議会の会議中この法律又は会議規則に違反しその他議場の秩序を乱す議員があるときは、議長は、これを制止し、又は発言を取り消させ、その命令に従わないときは、その日の会議が終るまで発言を禁止し、又は議場の外に退去させることができる。
地自法 第120条〔会議規則〕
普通地方公共団体の議会は、会議規則を設けなければならない。
地自法 第123条〔会議録〕
議長は、事務局長又は書記長(書記長を置かない町村においては書記)に書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下この条及び第二百三十四条第五項において同じ。)により会議録を作成させ、並びに会議の次第及び出席議員の氏名を記載させ、又は記録させなければならない。
  判断 最高裁昭和35.10.19を引用した上で、
地方議会の運営に関する事項については、議会の議事機関としての自主的かつ円滑な運営を確保すべく、その性質上、議会の自律的な権能が尊重されるべきものであり、
法は、議員の議事における発言に関しては、議長に当該発言の取消しを命ずるなどの権限を認め、もって議会が当該発言をめぐる議場における秩序の維持等に関する係争を自主的、自律的に解決することを前提としている。

議事を速記法によって速記し、配布用会議録を関係者等に配布する旨を定めた本件規則の規定は、配布用会議録には県議会議長が取消しを命じた発言を掲載しない旨の規定と併せて、法123条1項が定める議長による会議録の調整等について具体的なきていを定めたものにとどまると解するのが相当であり、
県議会議員に対して議事における発言が配布用会議録に記載される権利利益を付与したものということはできない。 

県議会議長により取消しを命じられた発言が配布用会議録に掲載されないことをもって、当該発言の取消命令の適否が一般市民法秩序と直接の関係を有するものと認めることはできず
その適否は県議会における内部的な問題としてその自主的、自律的な解決に委ねられるべきものというべき。
  解説 ●裁判所法3条1項の法律上の争訟と司法権の限界
裁判所法 第3条(裁判所の権限)
裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。
憲法 第76条〔司法権、裁判所、特別裁判所の禁止、裁判官の独立〕 
すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
判例・通説:
憲法76条1項の司法権の範囲=裁判所法3条1項の法律上の争訟
と解しており、
判例は、法律上の争訟につき、
「当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令適用によって終局的に解決することができるもの」と定義。
but
国会ないし各議院の自律権に属する行為や団体の内部事項に関する行為など、
法律上の係争ではあるが、事柄の性質上裁判所の審査に適しないものは、司法審査の対象外であると解されている。
  ●地方議会の内部事項と司法審査の範囲 
判例は、昭和35年最判が、
地方議会の議員に対する出席停止の懲罰決議について、
裁判所法3条の一切の法律上の争訟とはあらゆる法律上の争訟という意味ではなく、
自律的な法規範を持つ社会ないし団体にあっては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ、必ずしも裁判に待つのと適当としないものがあるとし、議員の権利行使の一時的制限にすぎない出席停止の懲罰はこれに該当するとして司法審査の対象外であるとした(除名処分のような議員の身分の喪失に関する重大な事項は、単なる内部規律の問題にとどまらないとした。)。
これに対し、
議員の議場外の個人的行為又は私的紛争についての言動に関する地方議会の懲罰決議等の適否については、司法審査の対象としている。(最高裁昭和28.11.20、最高裁H6.6.21)

判例は、
①議員の議場外の個人的行為又は私的紛争についての言動に関する地方議会の懲罰決議等の適否については、一般市民法秩序と直接の関係を有するものとして司法審査の対象としている
②議員としての行為につき、除名処分のような議員たる身分の得喪に関する処分については司法審査の対象とする一方、
議員の権利行使の一時的制限にすぎない懲罰決議等の適否については、内部規律の問題として自治的措置に任せるのを適当とし、司法審査の対象外としている。
団体の内部事項に関する行為に対する司法審査についての判断について、
その自律性、自主性を支える憲法上の根拠に応じて個別具体的に判断しているものと理解することが可能であり、地方議会については自律権が根拠となるものと考えられる。
  ●本件命令の適否と司法審査 
憲法 第94条〔地方公共団体の権能〕
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
地方公共団体は、地方公共団体が処理する事務を実施すに際して条例を制定することができ(憲法94条)、これは実質的な意味においては、形式的意味における条例のみならず各種規則も含まれるところ、
この条例制定権は「法律の範囲内」に限られること(同条)から、
法120条によりその制定が義務付けられる普通地方公共団体の会議規則も、このような法の規定の枠内で制定し得るものと解するのが相当。

県議会議長が取消しを命じた発言を掲載しない旨を規定した本件規則123条は、議長に議場における秩序の維持等の権限を認めた方104条及び法129条1項の規定を前提として定められたものと解するのが立法者の意思や(地方自治)法との自治体規則との関係に照らして合理的。
本件命令をXに対する制約と解しても、
①県議会議長による発言の取消命令に関しては、法129条1項により、その対象は当該発言部分に限られ、命令に従わないときも、その日の会議が終わるまでの発言を禁止すること等が具体的に規律されており、翌日以降にわたることは許されないと解されている⇒取消命令による効果は一時的な制約にとどまる。
②本件規則123条の定める県議会議長による取消命令の対象となった発言が配布用会議録に掲載されない事態は、法104条及び129条1項により議長に議場における秩序の維持等の権限を与え、もって議会が自主的、自律的に解決することにしたことに伴って生じるものであり、議場の公開を促進するものとして議会の外部と接点があるとしても、県議会議員が議事においてした発言の一部が配布用会議録の掲載されないことは、取消命令の対象となった発言部分の公開が制限されるという部分的な制約にすぎず、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる。
  ●標準的な会議規則の定めとの関係 
総務省、議会関係者及び学識関係者による検討の結果作成された標準的な会議規則(標準都道府県議会会議規則、標準市議会会議規則)も、本件規則と同様の規定を設けている。
  行政p15
名古屋地裁H29.2.9  
  特例解散制度による解散する厚生年金基金における選択一時金の支給を停止する旨の規約変更の有効性
  事案 平成25年法律第63号による改正前の厚生年金保険法(「旧厚年法」)に基づき設立された厚生年金基金であるYの設立事務所であったA株式会社の従業員又は元従業員であるXらが、Yに対し、Y厚生年金基金規約(平成26年5月21日に厚生労働大臣により認可を受けて改正される前のもの。(「本件規約」))附則に基づく選択一時金の請求⇒Yから、Y代議員会の議決により選択一時金の支給を停止する旨の規約の変更がされたことを理由とする各不支給決定を受けた

本件規約変更はXらの権利を侵害する著しく不当な不利益変更である上、本件規約変更には手続上の瑕疵があるなどと主張して、本件各処分の各取消しを求めるとともに、
本件規約附則に基づき、処分等一覧表「選択一時金額」記載の各金員等の支払を求める事案。 
  経緯 A社は、平成23年2月25日、Yに対し、本件規約に基づいて算出した脱退時特別掛金を納付し、同月28日にYを脱退。
Xらは、同日までYの加入員であったが、A社が同日、Yを脱退したため、同年3月1日、Yの加入資格を喪失。 
平成25年6月19日、保有する年金資産総額が老齢厚生年金の代行部分(基金が国に代わって給付を行う老齢厚生年金の報酬比例部分)の給付に必要な積立額(最低責任準備金)に満たない、いわゆる代行割れ基金の早期自主解散を促して基金制度を原則として廃止することを目的として、「公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」が成立し、平成26年4月1日に施行。
Yは、平成26年2月18日開催の通常代議員会で、特別解散制度により解散する旨の解散方針の意思決定を議決し、年金資産保全のために本件規約附則に基づく選択一時金の支給を停止する旨の規約変更をする旨の議決をした。
Yは、同年3月7日、厚生労働大臣に対し、本件規約の一部変更の認可申請をし、同年5月21日、厚生労働大臣の認可を受けた。
Xらは1名(X31)を除き、Yに対し、本件規約附則に基づき、処分等一覧表「選択一時金額」欄記載の各金員を請求したが、Yは、Xらに対し、選択一時金を支給しない旨の本件各処分。
⇒C厚生局社会保険審査官に対し、各審査請求をしたが、C厚生局社会保険審査官は、本件Xらに対し、前記各審査請求をいずれも棄却する旨の各決定。
  規定 行政事件訴訟法 第八条(処分の取消しの訴えと審査請求との関係)
処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。ただし、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない。

2前項ただし書の場合においても、次の各号の一に該当するときは、裁決を経ないで、処分の取消しの訴えを提起することができる。
一 審査請求があつた日から三箇月を経過しても裁決がないとき。
二 処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき。
三 その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき。
  判断  ●X31の訴えの適法性:
Yがした本件規約に基づく選択一時金を支給しない旨の処分に不服がある者は、社会保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服がある者は、社会保険審査官に対して再審査請求をすることができる一方で、その取消訴訟は、再審さ請求に対する裁決を経た後でなければ提起することができない旨法定
but
X31は審査請求をしておらず、このため社会保険審査会の採決を経ていない

X31に係る処分の取消しを求める訴えは、適法な不服申立てを前置しておらず、行訴訟8条1項ただし書等に基づき、不適法。
X31について「裁決を経ないことにつき正当な理由」(行訴法8条2項3号)があるとはいえない。

X31の訴えを却下。
  ●年金等支給契約の成否 
旧厚年法が厚生労働大臣の認可を通じて基金の規約、設立及び解散を規制

基金、受給者及び事業主の権利・法律関係につき、基金の安定的運営、権利・堡塁津関係の画一的処理等の公益上の要請から、個別の契約ではなく、法令と基金の規約によって規律されるものと解すべき。

基金がした裁定等の処分は、行訴法3条2項所定の行政庁の処分と同様の効力を有すると解される。

基金が減少設立事業所の事業主に対してした脱退時特別掛け金の告知や、同事業主による脱退時特別掛金の支払をもって、第三者のためにする契約が成立したとみる余地はなく、本件Xらの裁定を求める「請求」を受益の意思表示と観念する余地もない。
●本件規約変更の効力をXらに対して主張することの可否
①本件規約変更は、代議員会において議決され、厚生労働大臣による認可を受けて適法にされたものであり、Y厚生年金基金規約は、その適用日である平成26年2月18日から適用されるものと認められる。
②Yの財政状況や2%の掛金の引き上げにも耐えられないような設立事務所の経営状況などに鑑みるとYの本件規約変更に際しての対応はやむを得ないものであり、信義則違反と評価できるような違法性があるとはいえない。
③本件Xらは、平成23年4月15日頃には、選択一時金の請求をすることが可能であったため、その意味では選択一時金を請求する機会が全くなかったわけではない。
④本件規約変更は特例解散に伴うものであり、財政状況が悪化している基金において旧厚年法改正法の施行に伴う特例解散を行うという極めて特殊な状況の下では、関係者に相応の負担が生じることを回避することは困難といわざるを得ない。
⑤元加入員に対する手続保障がなければ規約変更の効力が否定されるわけではない。

本件規約変更の効力を本件Xらに主張することが信義則違反にんるということはできない。

本件Xらの請求を棄却。 
  解説 東京高裁H21.3.25:は、通常の基金において規約変更により具体的に発生している年金受給者の給付額の切下げをした事案であるところ、
本件は、代行割れとなって特例解散をする基金において未発生の選択一時金の支給の停止をした事案
⇒本判決は、両者は事案を全く異にするとし、前掲東京高裁判決が判示した要件を用いることはできないとしている。 
  行政p28
前橋地裁H30.2.14  
  県立公園における朝鮮人労働者を追悼する追悼碑の設置期間の更新不許可処分が違法とされた事案
  事案 県立公園群馬の森を管理するY(群馬県)の代表者である処分行政庁(群馬県知事)は、追悼碑の設置を知根氏した団体Aに対し、平成16年3月4日、「設置許可施設については、宗教的・政治的行事及び管理を行わないものとする。」との条件を付して、戦時中に労務動員され、群馬県内でなくなった朝鮮人労働者を追悼する追悼碑の設置を認可(設置期間10年)。
本件追悼碑に関する権利義務を承継したと主張するXは、前記設置許可の期間満了前である平成25年12月18日、処分行政庁に対し、都市公園法5条1項に基づき、本件追悼碑の設置期間の更新申請。
but
処分行政庁は、平成26年7月22日、本件追悼碑の前で本件許可条件に反する政治的行事が繰り返し行われた結果、本件追悼碑は、日韓、日朝の友好の促進という当初の目的から外れ、存在自体が論争となり、街宣活動、抗議活動などの紛争の原因になっており、都市公園の効用を全うする機能を喪失したとして、設置期間の更新不許可処分。

Xは、本件更新不許可処分の取消しとともに、処分行政庁に対する本件更新申請の許可の義務付けを求めて本件訴えを提起。
  規定 法2条2項:
「公園施設」の定義について、「都市公園の効用を全うするため」当該都市公園に設けられる施設をいう旨規定。
法5条1項:
法の規定により都市公園を管理する者(「公園管理者」)以外の者が、都市公園に公園施設を設け、又は公園施設を管理しようとするときは、公園管理者の許可を受けなければならない。
同条2項:公園管理者が前記許可をすることができない条件を規定。 
  判断 ●Xが、本件許可条件所定の政治的行事を行ったか 
本件追悼碑の設置許可申請に至る団体名や碑文の変更に関する経緯⇒少なくとも、本件追悼碑に関して「強制連行」の文言を使用して、歴史認識に関する主義主張を訴えることを目的とする行事は、「政治的行為」に含まれ、かつ、そのことをXも認識していた
⇒そのような内容の発言が「政治的行事」に含まれ、Yが政治的発言に該当すると主張した各発言のうち、一部の発言は、いずれも政治的発言に該当する。

これらの一部の発言がなされた追悼式自体が政治性を帯びることは否定できない。
平成17年及び平成18年開催の各追悼式は、いずれも「政治的行事」に該当し、Xは本件許可条件に違反。
  ●本件追悼が都市公園としての効用を全うする機能を喪失したか
①前記政治的発言がされた後、平成24年に至るまでは、Yに対しても本件追悼碑に関する抗議や意見が寄せられたことはなく、追悼式の開催、運営に支障や混乱が生じたと認めるに足りる証拠はない
②Y自身も、本件追悼碑が本件公園の効用を全うする機能を喪失したとは考えていなかった

本件更新不許可処分は、本件追悼碑が都市公園の効用を全うする機能を喪失していたとは考えていなかったと認めるべき事情がある

本件更新不許可処分は、本件追悼碑が都市公園の効用を全うする機能を喪失していたといえないにもかかわらずなされた処分であり、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められ、裁量権を逸脱しtあ違法があるとして、Xの本件更新不許可処分の取消しの訴えを認容。
  ●処分行政庁が、本件更新申請に対する許可処分をしないことが、裁量権の逸脱又は濫用となるか 
公園管理者が、更新申請者に対し、具体的にいかなる期間の更新を許可すべきかは、公園管理者の合理的な裁量に委ねられていると解するのが相当。
処分行政庁が10年間と期間を特定した本件更新申請を許可しないことが、その裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となるということまではできない。

Xの本件更新申請の許可の義務付けの訴えを棄却。
  解説 ある施設が「都市公園の効用を全うする」(法2条2項)か否かは、
個々の公園の特殊事情に応じて、具体的に決すべき問題であり、公園管理者の裁量が認められる。
but
公園管理者の判断に裁量権の逸脱又は濫用があると認められる場合には、違法となる。 
  民事p47
最高裁H30.3.15  
  ハーグ条約実施法に基づく返還を命じる終局決定に応じない⇒人身保護請求の事案
  事案 米国に居住するX(上告人、父親、日本人)が、Xの妻であるY(被上告人、母親、日本人)によりA(米国で出生した子、13歳、米国籍と日本国籍との重国籍)が米国から日本へ連れ去られ、法律上正当な手続によらないで身体の事由を拘束されていると主張
⇒人身保護法に基づき、Aの釈放を求める。
これに先立ち、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(いわゆるハーグ条約実施法)に基づいてYに対して米国にAを返還することを命ずる旨の終局決定が確定したが、その執行手段が奏功しなかった
⇒本件人身保護請求がなされた。
  規定 人身保護法 第二条
法律上正当な手続によらないで、身体の自由を拘束されている者は、この法律の定めるところにより、その救済を請求することができる。
人身保護規則 第3条【拘束及び拘束者の意義】
法及びこの規則において、拘束とは、逮捕、抑留、拘禁等身体の自由を奪い、又は制限する行為をいい、拘束者とは、拘束が官公署、病院等の施設において行われている場合には、その施設の管理者をいい、その他の場合には、現実に拘束を行つている者をいう。
人身保護規則 第4条【請求の要件】
法第2条の請求は、拘束又は拘束に関する裁判若しくは処分がその権限なしにされ又は法令の定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著である場合に限り、これをすることができる。但し、他に救済の目的を達するのに適当な方法があるときは、その方法によつて相当の期間内に救済の目的が達せられないことが明白でなければ、これをすることができない。
人身保護規則 第5条
法第2条の請求は、被拘束者の自由に表示した意思に反してこれをすることができない。
  判断 拘束者(母親)により国境を越えて日本への連れ去りをされた被拘束者(子)が、現在、13歳で意思能力を有し、拘束者の下にとどまる意思を表明しているとしても、次の(ア)(イ)など判示の事情の下においては、
被拘束者が拘束者の下にとどまるか否かについての意思決定をするために必要とされる多面性、客観的な情報を十分に得ることが困難な状況に置かれているとともに、
当該意思決定に際し、拘束者が被拘束者に対して不当な心理的影響を及ぼしているといえる

被拘束者が自由意思に基づいて拘束者の下にとどまっているとはいえない特段の事情があり、拘束者の被拘束者に対する監護は、人身保護法及び同規則にいう拘束に当たる。
(ア)
被拘束者は、出生してから来日するまで米国で過ごしており、日本に生活の基盤を有していなかったところ、
前記連れ去りによって11歳3か月の時に来日し、その後、米国に居住する請求者(父親)との間で意思疎通を行う機会を十分に有していたこともうかがわれず、
来日以来、拘束者に大きく依存して生活せざるを得ない状況にある。
(イ)
拘束者は、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づき、拘束者に対して米国に被拘束者を返還することを命ずる旨の終局決定が確定したにもかかわらず、被拘束者を米国に返還しない態度を示し、子の返還の代替執行に際しても、被拘束者の面前で激しく抵抗するなどしている。
国境を越えて日本への連れ去りをされた子の釈放を求める人身保護請求において、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づき、拘束者に対して当該子を常居所地国に返還することを命ずる旨の終局決定が確定したにもかかわらず、拘束者がこれに従わないまま当該子を監護することにより拘束している場合には、
その監護を解くことが著しく不当であると認められるような特段の事情のない限り、拘束者により当該子に対する拘束に顕著な違法性がある。
  解説  ●人身保護法上の拘束の有無
最高裁昭和61.7.18:
意思能力がある子の監護について、当該子が自由意思に基づいて監護者の下にとどまっているとはいえない特段の事情のあるときは、前記監護者の当該子に対する監護は「拘束」(人身保護法2条1項、同規則3条)に当たる。

前記の特段の事情の有無については、被拘束者の置かれた環境、被拘束者と拘束者との関係その他の事情に応じて、特に慎重に検討すべき場合があると考えられる。

最高裁昭和61.7.18最高裁H2.12.6は、いずれも、
①当該子が拘束者の基にとどまるべきか否かの意思決定をするに当たり、その置かれた具体的状況や当該意思決定の重大性などに鑑みて必要な情報を十分に取得している状況にないと評価すべき場合
拘束者が当該子に対して不当な心理的影響を及ぼしていると評価すべき場合など

基本的に、当該子がその自由意思について監護者の下にとどまっているとはいえない特段の事情が存在するという理解を前提として、当該各事案の具体的内容に応じてその点を慎重に判断した事例。
本判決:
子を監護する父母の一方により国境を越えて日本への連れ去りをされた子が、
当該連れ去りをした親の下にとどまるか否かについての意思決定をする場合において、
当該意思決定には、このような国際的な事案に特有の重大性、困難性があるとともに、
当該子が連れ去りをした親から影響を受ける度合いが類型的に大きい

子が当該意思決定をするために必要な情報を偏りなく得るのが困難な状況に置かれることが少なくない

①当該子による意思決定がその自由意思に基づくものか否かを判断するに当たり、基本的に、当該子が前記の意思決定の重大性や困難性に鑑みて必要とされる多面性、客観的な情報を十分に取得している状況にあるか否か、
②連れ去りをした親が当該子に対して不当な心理的影響を及ぼしていないかなどといった点
を慎重に検討すべき旨を判示。
その上で、上記(ア)(イ)などの事情を、
AがYの下にとどまるか否かについての意思決定をするために必要とされる多面的、客観的な情報を十分に得ることが困難な状況にあり、
YがAに対して不当な心理的影響を及ぼしていると認めるための重要な要素として斟酌し、前記の特段の事情を肯定。
  ●人身保護法上の顕著な違法性 
人身保護法に基づいて子の引渡し等を求める事件のうち

(1)夫婦間における共同親権に服する幼児に係る人身保護請求について、

最高裁H5.10.19は、
幼児に対する拘束者の監護につき拘束の違法性が顕著であるというためには、同監護が、請求者の監護に比べて、子の幸福に反することが明白であることを要するという判断基準。

最高裁H6.4.26は、この明白性の要件を充足する場合として、
①拘束者の親権の行使が幼児引渡しを命ずる仮処分又は審判(家事手続法157条1項3号、154条3項)により実質上制限されているのに、拘束者がこれに従わない場合、
②拘束者の幼児に対する処遇が親権の行使という観点からも容認できないような例外的な場合であるとし、その判断基準を示した。

(2)監護権者から非監護権者に対して人身保護法に基づく幼児の引渡しを請求した場合(離婚した夫婦間で親権者として指定された者から他方に対する請求等)について、
最高裁H6.11.8:
幼児を請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り、
拘束の違法性が顕著であるとする判断基準。

(3)離婚調停において調停員会の面前でその勧めによってされた合意により、夫婦の一方が他方に対してその共同親権に服する幼児を、期間を限って預けたが、他方の配偶者が、前記合意に反して約束の期日後も幼児を拘束し、前記幼児の住民票を無断で自己の住所に移転

前記拘束に顕著な違法性がある(最高裁H6.7.8)

(4)離婚等の調停の進行過程における夫婦間の合意に基づく幼児との面接の機会に夫婦の一方が前記幼児を連れ去ってした拘束に顕著な違法性があるとして、夫婦の他方からした人身保護法に基づく幼児の引渡請求を認めた最高裁H11.4.26
本判決:
違法性判断に際して、監護者の所在や子の幸福という観点を明示的に採っていない

監護権の所在や内容を一次的な考慮要素とはせず、
拘束者が、確定判決により形成された子の返還義務を履行しないという明白な違法行為に及んでいる状態で子を監護していること自体に着目して、
特段の事情のない限り顕著な違法性があると評価。
  本判決:
国境を越えて日本への連れ去りをされた子である被拘束者の釈放を求める人身保護請求において、意思能力のある被拘束者が自由意思に基づいて拘束者の下にとどまっているとはいえない特段の事情の存在が認められる限界事例の1つ示すとともに、
拘束者の実施法に基づく子の返還を命ずる終局決定に従わないまま子を監護・拘束している場合における当該拘束の顕著な違法性の判断基準を初めて示したもの。
  民事p51
最高裁H30.4.17  
   
  事案 担保不動産競売において抵当建物(「本件建物」)を買い受け、その代金を納付した買受人Xが、滞納処分による差押えがされた後に設定された賃借権により本件建物の使用又は収益をする占有者Yに対する不動産引渡命令を求める申立てをした事案。 
①本件建物の所有者Zを債務者とする抵当権が、平成23年9月、本件建物に設定され、その旨が登記。
②本件建物について滞納処分による差押えが平成24年5月にされ、その旨が登記。
③Yは、平成24年10月、Zから本件建物を賃借し、その引渡しを受けた。
④本件建物について担保不動産競売の開始決定が平成29年3月にされ、それによる差押えがされた旨の登記がされたう。
⑤Xは、本件建物を買い受け、平成29年10月、その代金を納付して、Yを相手方とする不動産引渡命令を求める申立て。
  原々審 不動産引渡命令を発令。 
    Yが執行抗告
  原審 滞納処分による差押えがされた後の占有者であっても、
競売手続の開始前から賃借権に基づき占有する者であれば、民法395条1項1号に掲げる「競売手続の開始前から使用又は収益をする者」に該当

原々命令を取り消し、Xの不動産引渡命令を求める申立てを却下(原決定)。
    Xが抗告許可の申立て⇒原審はこれを許可
  判断 抵当権者に対抗することができない賃借権が設定された建物が担保不動産競売により売却された場合において、
その競売手続の開始前から当該賃借権により建物の使用又は収益をする者は、
当該賃借権が滞納処分による差押えがされた後に設定されたときであっても、
民法395条1項1号に掲げる「競売手続の開始前から使用又は収益をする者」に当たる。
  規定 民法 第395条(抵当建物使用者の引渡しの猶予)
抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
一 競売手続の開始前から使用又は収益をする者
二 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者
2 前項の規定は、買受人の買受けの時より後に同項の建物の使用をしたことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその一箇月分以上の支払の催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、適用しない。
  解説  民法は、かつて、抵当権者と賃借権者との間の利益調整を目的とする規定として、同法602条所定の短期賃貸借は抵当権の設定登記後に対抗要件を具備したものであっても抵当権者に対抗することができるとする短期賃貸借保護制度を定める同法395条を規定。
vs.
①短期賃貸借保護制度を濫用する事例が後を絶たない
②これによる保護の有無及び内容が、当該賃貸借の期間と差押えの時期との関係や競売手続に要する時間の長短などの偶然の事情に左右されるなど、賃借人保護の制度としても合理性に乏しい。

平成15年法律第134号(担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律)により、民法395条を改正して、前記の短期賃貸借保護制度を廃止する一方で、明け渡し猶予制度を設ける。

少なくとも対抗要件の具備が抵当権設定登記に後れて設定された賃借権は、一律に抵当権者に対抗することができないことになり、民執法に基づく競売における売却によってその効力を失うことになった。
明渡猶予制度は、抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当建物の使用又は収益をする占有者であって一定の要件を有するものは(前記の短期賃貸借保護制度で保護されていなかった者であったとしても、)その建物の競売による買受けの時から6箇月の間、その建物を明け渡さなくてもよいとすることにより、
その競売手続において必ずしもその進行等についての通知等についての通知等を受けない賃借人が突然に退去を求められる不利益を緩和する趣旨。
買受人は、買受けに際して、建物賃借人についての6箇月の明渡猶予期間以上の負担を考慮する必要がなくなった。
  民事p54
大阪高裁H28.11.29  
  従業員が業務上の事故により死亡⇒遺族が労働者災害補償保険法に基づく給付を受けた⇒労働保険料増額⇒使用者が加害者に損害賠償請求(否定)
  事案 控訴人の従業員Aが、業務上運転をしていた普通乗用自動車に被控訴人が運転していた大型自動二輪車が衝突し、Aが死亡⇒Aの遺族に対し、労災法に基づく給付がされた⇒控訴人の負担すべき平成29年から31年度の労働保険料が合計336万3516円増額⇒これを損害として、控訴人が被控訴人に対し、不法行為による損害賠償を請求。 
  メリット制 「労災保険率は、災害のリスクに応じて、事業の種類ごとに定められているが、事業の種類が同じでも、作業工程、機械設備、作業環境、事業主の災害防止努力の違いにより、個々の事業上の災害率には差が生じる。

労災保険制度では、事業主の保険料負担の公平性の確保と、労働災害防止努力の一層の促進を目的として、その事業場の労働災害の多寡に応じて、一定の範囲内(基本:±40%、例外:±35%、±30%)で労災保険率または労災保険料額を増額させる制度(メリット制)を設けている。 
  判断 ①労働保険料は、事業主が、法に基づく義務として、その負担するものであって、その負担額は、第三者の不法行為に起因する業務災害があったか否かにかかわらず、事業主の負担の具体的公平を図るなどの観点から、徴収法により定められているもの。
②事業主が負担する労働保険料は、計算の基となる三保険年度における保険給付の総額等や賃金総額によって変動⇒その増減額は、ある特定の業務災害があったことから直ちに算出し得るものではない。
③ある特定の業務災害が発生した場合に、具体的にいつ、どのような保険給付がされるかは、労災法施行規則に基づく請求や決定といった手続がされない限り不明。

控訴人に生じた労働保険料の増加という負担は、
①本件事故につき被控訴人に不法行為が成立するために生じるものではないし、
②被控訴人がした不法行為から通常生じる損害ともいえないし、
③予見可能な特別の事情による損害ともいえない。

控訴人に生じた保険料増額という負担は本件事故による損害とは認めることができない。
  1審 控訴審と結論同じ。
①労災保険の保険料の負担額は、使用者が労災保険により労災補償責任の免除等の利益を受けるための支出と評価できる⇒労災保険により利益を受ける使用者が負担すべきであり、これにより利益を受けない第三者に転嫁することはできない。
②メリット制は、労働者の保護、使用者の具体的公平及び災害防止努力の促進という政策目的を同時に達成するため、徴収法により定められたもの⇒メリット制に基づく労働保険料の増加は、徴収法の政策目的に由来すると評価すべきものであって、第三者である被控訴人の故意・過失により生じたと認めることはできない。
③使用者は、労災保険を利用せず、直接労働者に労基法に基づく災害補償責任を履行することができ、これにより、労使合保険給付が生じたことによるメリット労災保険率の上昇を抑えることも可能
⇒メリット制の下における労災保険給付による保険率の上昇は、自ら災害補償責任を履行しないという使用者自身の責任の結果に由来。
  解説 自ら契約していた車両保険を使って車両の修理代を支出⇒契約更新後の保険料が増額⇒加害者が損害賠償請求できるか?
肯定する裁判例もあるが、
否定する裁判例が多数になりつつある。

被害者が加入していた車両保険を利用するか、車両保険を利用せずに自己の保有する金員により修理するかは被害者の自由であるから、車両保険を利用することを選択することにより次に契約する車両保険の保険料が高くなったとしても、それは被害者の自由な選択による結果であり、これをもって本件事故により生じた損害であると言うことはできない。

赤い本:
任意保険が利用者による自衛手段であるとの性質⇒保険料、そしてその増額分は、利用者の負担すべきコストであり、加害者に対して賠償を求めることのできる範囲外と考えるべき。
  本件:
その根底には、
労災保険料は(その増額分も含めて)使用者が負担することが法制度上予定されているのであり、このような使用者の負担を、直接の被害者が被った損害分に上乗せして加害者に転嫁することは公平でないとう判断⇒相当因果関係がないという結論。 
  民事p61
神戸地裁H30.2.14  
  タイヤ製造工場に勤務していた元社員についての、アスベスト損害賠償事件
  事案 タイヤの製造工場に勤務していた元社員が、タイヤの製造工程で使う粉末「タルク」に含まれるアスベスト(石綿)などが原因で肺がんや中皮腫等を発症したかが問題となった、アスベスト損害賠償事件。 
BないしG及びX23の7名は、1945年から1961年にかけて、タイヤ製造業者であるYに入社し、Yの向上でタイヤのゴムを練る作業や成型業務等に従事。
Yを退社後、肺がんや中皮腫等を発症。
  判断   ●Bら7名の社員の肺がんや中皮腫等の原因がタイヤの製造工程で使う粉末(タルク)に含まれるアスベストか? 
肺がんの発症リスクを2倍以上に高める石綿ばく露があった場合をもって石綿に起因するとみなす考え方、石綿繊維25本/ml×年は肺がんの発症リスクを2倍にするばく露量とjみなす考え方が、肺がんの石綿起因性に関し、確立した医学的知見というべきところ、
平成24年基準(平成24年3月29日基発0329第2号通達)に定められる累積ばく露量の指標が実質的に認められるか否かを検討するのが相当であるという判断基準を判示。
C及びFの2名については、肺がんの発症が工場での勤務に起因するものであることが高度の蓋然性をもって証明されたといえない⇒損害賠償請求は認められない。
but
E及びX23については、
①ばく露した石綿の量も相当量に達している
②胸膜プラーク所見による裏付けもある

平成24年基準に定められる累積ばく露量の指標が実質的に認められるとして、アスベストと肺がんとの因果関係を認めた。

石綿肺で死亡したB、中皮腫で死亡したD、Gについては、疾病と発症との間に因果関係がある。
  ●Yに安全配慮義務違反があるか? 
生命、健康という被害法益の重大性

安全配慮義務違反の前提として、使用者であるYが認識すべき予見義務の内容は、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り、必ずしも生命・健康に対する障害の性質、程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はない。
本件では、抽象的な危惧が認められる
⇒予見可能性がある。
Yは、
①粉じんの発生を防止し又は粉じんの飛散を防止する措置をとる義務
②呼吸用保護具を適切に使用させる義務
③粉じん濃度を測定し、その結果に従い改善措置を講じる義務
④安全教育及び安全指導を行う義務
を負っているところ、
これを履行しなかった安全配慮義務違反が認められる。
  損害算定にあたり、
E及びX23については、喫煙歴に照らし、
Eについては1割、
X23については2割
を減額するのが相当。 
  ●消滅時効の援用と権利の濫用 
組合による団体交渉の申入れから団体交渉が実現するまでに5年以上の期間を要しているところ、このことは、Yが組合から団体交渉の申入れを拒否した結果、訴訟にまで発展し、訴訟においてYが団体交渉に応じる義務があると判断されている
⇒Y側の不当な団体交渉拒否の態度に起因
⇒消滅時効の援用は権利の濫用に当たり許されない。
   刑事p112
東京高裁H28.5.11
  一審心神耗弱(弁護人争わず)⇒控訴審心神喪失で無罪
  事案 被告人(当時31歳)が、弟(当時28歳)及び祖母(当時89歳)に対し、それぞれ、頚部、腹部等を果物ナイフで多数回突き刺すなどして殺害したという殺人2件の事案。 
  一審 裁判員裁判で、被告人の責任能力に対し、心身耗弱であったことについて検察官と弁護人との間に争いがなく、量刑のみが争点。
検察官:懲役10年を求刑
弁護人:刑の執行猶予の意見
弁護人の主張に対する判断を示すことなく、被告人の精神症状を簡潔に説示した上、被告人は、本件当時、「広汎性発達障害と妄想型統合失調症が複雑に絡みつつ発展した精神障害により心神耗弱の状態にあった」と判示して、法律上の軽減を行った上で、懲役8年。
    被告人が控訴。
控訴人の弁護人:
被告人は本件当時心神喪失であったから原判決には事実誤認がある。
量刑不当。
を主張。
  判断 第1審判決について
悪魔に関する妄想の圧倒的な影響をうかがわせる、犯行態様の執拗性、過剰性、異常性に関する事情及び犯行に至る経緯における事情が多数認められるにもかかわらず、これらを適切に考慮することなく、また、・・合理的とはいえない起訴前の精神鑑定に依拠して心神耗弱の認定

論理則、経験則等に照らして不合理な認定をしたものと言わざるを得ず、事実誤認がある。
第1審判決を破棄し、心神喪失であることについて合理的な疑いがある⇒無罪。
  解説 ●心神喪失・心神耗弱の認定
心神喪失と心神耗弱とは、いずれも精神障害の態様に属するものであるが、その程度を異にする。
心神喪失:
精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力がなく又はこの弁識に従って行動する能力がないことを指称
心神耗弱:
精神の障害がいまだ前記の能力を欠如する程度に達していないが、その能力が著しく減退した状態を指称。
(大判昭和6.12.3)
心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかは、法律判断
⇒専ら裁判所にゆだねられるべき問題。
その前提となる生物学的、心理学的要素についても、法律判断との関係で究極的には裁判所の評価に委ねられるべき問題。(最高裁昭和58.9.13)
生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度:
その診断が臨床精神医学の本分
⇒専門家たる精神医学者の意見が鑑定等として証拠となっている場合には、鑑定人の公正さや能力に疑いが生じたり、鑑定の前提条件に問題があったりするなど、これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り、その意見を十分に尊重して認定すべき。(最高裁H20.4.25)
but
鑑定の前提条件に問題があるなど、合理的な事情が認められれば、裁判所はその意見を採用せずに、責任能力の有無・程度について、被告人の犯行当時の病状、犯行前の生活状態、犯行の動機・態様等を総合して判断することができ、
特定の精神鑑定の一部を採用した場合においても、当該意見の他の部分に事実上拘束されることなく、前記事情を総合して判定することができる。(最高裁H21.12.8)
文献。
  ●本判決の位置付け 
①犯行に至る経緯や犯行状況は、悪魔に関する妄想の圧倒的な影響が強く疑われることを指摘。
②D1意思やD2医師の証人尋問等の事実調べを行い、
③被告人の成育歴、家庭環境等を検討。

本件犯行の態様や犯行動機の異常性について妄想型統合失調症に起因する「一時的妄想」の影響を重視し、
本件犯行が広汎性発達障害によるもので、妄想も「二次的妄想」による影響が大きいとしたD1医師の鑑定の推論過程等を合理的でないとした。
検察官の主張(動機は了解可能である、犯行態様は合目的的である、被告人の統合失調症の症状は重症化していあに、犯行当時の妄想の確信度は低く、事後的に妄想追想によって体系化されて確信度が高まった)を踏まえて検討しても、被告人は、保険当時、心神喪失であった合理的な疑いがある。
心神喪失・心神耗弱の認定は、究極的には、裁判所に委ねられるべき問題

裁判所は、たとえ、心神耗弱であることについて、検察官と弁護人の間に争いはなく、公判前整理手続において心神喪失や心神耗弱の問題が積極的に争点とされなかったとしても、後半審理における証拠調べに基づき、鑑定に対する評価を含め、慎重に判断することが求められる。
9月   
2375、2376   
  京都地裁H30.3.15  
  福島第一原発事故の避難者集団訴訟のうち、4件目の判決
  事案 Xら174名が、Y1(東京電力ホールディングス㈱)に対しては、原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)3条1項又は民法709条に基づき、Y2(国)に対しては国賠法1条1項に基づき、それぞれ損害賠償を求めた。
  特徴 Xらのうち、文科省の原子力損害賠償紛争審議会が自主的解決に資するために定めた中間指針の「避難指示等対象区域」の住民が2名のみ
その大半は同中間指針追補が定める「自主的避難等対象区域」の住民
そのほか、自主的避難等対象区域にも含まれない地域の住民が複数含まれる。
Xらが賠償を求める損害は、慰謝料にとどまらず、避難にかかる実費や逸失利益等も含んでいる

責任論の判示だけでなく、
前記住民の避難が本件事故と相当因果関係があるか(避難の相当性)、また、避難の相当性が認められ宇としても、どの範囲まで損害賠償が認められるか
の判示。
  判断   ●予見可能性の有無 
津波の到来について、Y1及び経済産業大臣のいずれも予見可能性も肯定。
予見の対象となる危険は、その趣旨からして、回避措置をとり得る程度に具体的であれば足りる
⇒現実の到来した津波と同程度までは不要であり、敷地高を超える津波の到来で足りる。
政府の特別機関として設置された地震本部が公表した「長期評価」の信頼性が問題となったが、
Y1や経産大臣が注意を払うべき最新の知見とは、必ずしも統一的通説的見地である必要はなく、長期評価は、地震に関するY2の専門機関が地震防災のために公表したものであり、学者や民間団体の位置見解とは重要性が明らかに異なる公式的見解
⇒学者間の異論の存在を理由に検討にも値しないものとはいえず、疑問点があればその払拭も含めて、積極的に検討を行うべきであった
⇒同見解をもとに予見可能性を肯定。
  ●Y1の責任について
Y1の予見可能性を肯定した上で、
津波を回避する対応(防護壁の設置や電源設備の水密化・高所配置)を怠ったことは義務を果たすには十分ではなかった⇒通常の過失は認められる。
but
故意と同視できる重過失までは認められない⇒慰謝料の増額事由とはならない。
原賠法の趣旨に鑑み、民法709条の責任の成立も否定。
  ●Y2(国)の責任について 
権限不行使の違法性を検討する前提として、経産大臣の規制権限の有無を検討。
権限不行使の違法性を認めた上で、Y2の責任範囲についても言及。
経産大臣の規制権限の有無について、
いわゆる段階的規制論を前提に、
経産大臣は、原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針の安全にかかわる規制権限を有しなかったとのY2の主張に対し、
①電気事業法の文言上も権限が詳細設計の場合に限ると明文で規定されているとはいい難く、
②実質的に考えても、安全確保のためには基本設計部分にも対応する必要がある
⇒経産大臣は、津波対策に関して電気事業法40条に基づく技術基準適合命令を行使することができた。
核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法)上の権限にも言及し、
経産大臣はY2が行政指導に従わない場合には、炉規法に基づく設計許可を取り消し、又は原子炉の運転の一時停止を命じることができる。
◎権限不行使の違法性について 
①法の趣旨・目的、②原子力災害の重大性、③予見可能性の程度、④結果回避可能性、⑤権限の性質・影響等、⑥現実に実施された措置の合理性、⑦防災対策に対する意識の高まりとその認識
⇒これらを踏まえると、どれほど遅くとも、平成18年末時点においては、経産大臣は権限行使をすべきであり、権限不行使は違法。
最高裁は、従来、
①規制権限の定めた法が保護する利益の内容及び性質、②被害の重大性及び切迫性、③予見可能性、④結果回避可能性、⑤現実に実施された措置の合理性、⑥規制権限行使以外の手段による結果回避困難性(被害者による被害回避可能性)、⑦規制権限行使における専門性、裁量性などの諸事情を総合的に検討して、違法性を判断。
●Y2の責任範囲について 
Y1の原賠法上の責任とY2の国賠法上の責任について、いずれもが損害全額に寄与した
⇒共同不法行為の成否にかかわらず、賠償責任としてもY2は、Y1とともに、Xらに対し全額について責任を負う。
過去の裁判例:
規制を受ける者が一次的責任を負うべきであり、国は二次的、補充的な責任を負うのみ

国の責任の範囲を4分の1や3分の1等であるとして限定的に解するものが多い。
but
本判決:
Y2の二次的、後見的立場は、Yら間の負担割合に影響するとしても、Xとの関係では責任は限定されない
⇒責任範囲を限定すべきとするY2の主張を排斥。
  ●避難の相当性について 
ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告内容である公衆被ばくに関する線量限度の年間1mSvを超える地域からの避難及び避難継続が全て相当であるとするXらの主張を排斥しながらも、
政府の策定した年間追加被ばく20mSvという基準も、避難指示の基準としては一応合理性を有するが、そのまま避難の相当性を判断する基準ともなり得ない。
そもそも、避難の相当性の判断は、科学的判断そのものではないし、政策判断そのものでもなく、
原子炉の運転等により、原子力損害が生じたといえるか、すなわち本件事故の結果として、当該原告が避難することが相当因果関係のある避難であり、原子力事業者等に損害賠償責任を負わせるべきであるかという法的な判断

低線量被ばくの場合であっても、避難者が放射線に対する恐怖や不安を抱き、放射線の影響を避けるために避難し、その避難が当事者のみならず、一般人からみてもやむを得ないものであって社会通念上相当といえる場合には、本件事故と当該避難との間には、相当因果関係が認められる
いわゆる自主的避難であっても、個々の属性や置かれた状況によっては社会通念上相当である場合はあり得る。
その判断は、
①避難指示等対象区域居住者、②自主的避難等対象区域居住者、③①及び②の区域外居住者に区別し、それぞれに判断を基準や考慮要素を設定し、
②はおおむね避難時期によって、
③はそれに加えて、福島第一原発からの距離や各区域との近接性、放射線量に関する情報、自主的避難者の多寡、避難した世帯に子どもや放射線の影響を特に懸念しなければならない事情を持つ者がいるかなどの事情を踏まえて、個別具体的に検討。
⇒Xら174名中、149名について避難が相当。
  ●損害の範囲 
避難が相当⇒自主的避難の場合であっても、避難後、避難生活の継続することもやむを得ないとして、避難時から2年経過までに生じた損害も、本件事故と相当因果関係のある損害と認めている。
直接請求やADR手続で用いられている基準等や、同手続で認められた損害を、事実上の推定を用いて、本判決でも損害額の認定に用いることができる。
各損害項目(避難交通費、一時帰宅・面会交流交通費、世帯分離による生活費増額費用、家財道具購入費用、就労不能損害・営業損害など)やADR手続等により既払金の充当については、
全体の方針を立て、それをあてはめる形で、Xらを世帯ごとにわけて、認定判断。
慰謝料について、
概ね中間指針等を踏まえた判断(自主的避難等の場合は額を増額)となっているが、区域外の住民にもそれぞれの状況に応じた慰謝料を肯定。
  行政p176
最高裁H29.12.19   
  地方自治法92条の2に該当する旨の決定⇒補欠選挙⇒決定取消判決but議員の地位は回復せず
  事案 村議会は、地方自治法127条1項に基づき、Xが地方自治法92条の2に該当する旨の決定。

Xが、本件決定の取消しを求める訴えを提起した上、これを本案として、行訴法25条2項に基づき、本件決定の効力の停止を求めた。 
  事実 村議会は、平成28年7月14日、本件決定をし、これによりXは議員の職を失ったものとされた。
Xは、同年11月16日、本件訴えを提起。 
Xが村議会の議員の職を失ったことに伴う補欠選挙について、平成29年3月21日、その選挙期日を同月26日とすることを告示。

Xは、これに先立つ同月3日、本件訴えを本案として、本件決定の効力を本案の判決の確定まで停止することを求める本件申立て
⇒札幌地裁は、本件補欠選挙の選挙期日の3日前である同月23日、本件決定の効力を本案の第1審判決の言渡し後30日を経過するまで停止する旨の決定(原々決定)。
but
本件補欠選挙は、同月26日にその投票及び開票が行われ、X以外の者が当選。
本件補欠選挙及び前記当選の効力に関し、公選法202条1項又は206条1項所定の各期間内に異議の申出はされなかった。
  規定 地方自治法 第127条〔失職、資格決定〕
普通地方公共団体の議会の議員が被選挙権を有しない者であるとき又は第九十二条の二(第二百八十七条の二第七項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に該当するときは、その職を失う。その被選挙権の有無又は第九十二条の二の規定に該当するかどうかは、議員が公職選挙法第十一条、第十一条の二若しくは第二百五十二条又は政治資金規正法(昭和二十三年法律第百九十四号)第二十八条の規定に該当するため被選挙権を有しない場合を除くほか、議会がこれを決定する。この場合においては、出席議員の三分の二以上の多数によりこれを決定しなければならない。
地方自治法 第92条の2〔関係諸企業への関与禁止〕
普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地方公共団体に対し請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算人たることができない。
  Yの主張 原々決定に対し、Y(村)が抗告:
本件補欠選挙について所定の期間内に公選法に基づく異議の申出がされなかった⇒Xの議員の地位は回復することができない状態にあり、本件訴えは訴えの利益を欠き却下されるべきであり、本案について理由がない。
  原決定 Xは原々決定により本件補欠選挙の投開票がされる前に村議会議員の地位を暫定的に回復⇒同選挙について公選法に基づく異議申出期間が経過したからといって、その地位を喪失することはないとして、Yの抗告を棄却。
  判断 ①公選法に定める選挙又は当選の効力は、同法所定の選挙争訟等の結果無効となる場合のほか、原則として当然無効となるものではない。
②本件補欠選挙について所定の期間内に異議の申出がなされなかった⇒同選挙及びその当選の効力はもや争い得ない。

Xは、本件決定を取り消す旨の判決を得ることによって、本件決定時から議員の地位を回復することはできない。
Xは、本件決定を取り消す旨の判決を得ることによって、本件決定時から議員の地位を回復できなかった時までの議員報酬を請求し得る
⇒本件訴えについては訴えの利益がなお認められる。
but
現時点においてもはや議員の地位を回復できない
⇒本件決定の効力の停止を求める利益はない。
⇒原決定を破棄し、原々決定を取り消した上、Xの本件申立てを却下。
  解説  ●地方公共団体の議会の議員や長を失職させる行為(資格決定、除名処分、不信任議決等)(「失職処分」)が選出され、その選挙や当選の効力についての争訟手段が所定の期間内にとられなかった場合に、失職処分を受けた者はなおその地位を回復することができるのか? 
最高裁昭和31.10.23:
村長が議会の不信任議決により失職し、新村長の選挙が行われて他の者が当選した事案:
①公選法に定める選挙又は当選の効力は、同法に定める争訟の結果無効となる場合のほか、原則として当然無効となるものではない。
②新村長の選挙によりその就任が確定し、旧村長はその地位に復する余地はない
⇒旧村長が提起した不信任議決の無効確認を求める訴えは法律上の利益を失う。
最高裁H11.1.11:
町議会議員が議会から除名処分を受けて失職し、その4日後に繰上補充が行われた後に、旧議員が除名処分の取消訴訟を提起するとともに効力停止の申立てをした:
「除名処分の効力停止決定がされることにより同処分の効力は将来に向かって存在しない状態に置かれ、議員としての地位が回復されることになり、これに伴って、除名による欠員が生じたことに基づく繰上補充による当選人の定めは、その根拠を失うことになる
⇒町選挙管理委員会は、効力停止決定に拘束され、繰上補充による当選人の定めを撤回し、その当選を将来に向かって無効とすべき義務を負う。」
旨説示した原審の判断は、正当として是認できる。

選挙争訟等の結果によらず当選の効力を否定することを認めたもの。
  本件の事実経過に照らせば、本件補欠選挙について、原々決定により欠員が生じていないこととなったにもかかわらず行われた無効なものであることが異議の申出の事由となる。 

裁判所の効力停止決定により選挙の実施要件が失われたにもかかわらず選挙が行われたという根本的な瑕疵がある場合には、選挙争訟等において選挙の無効事由として主張しうるとしたもの。

救済手段の確保の必要性という点で、本件は平成11年最決の事案とは状況を異にすることになり、このことも考慮して、選挙の法的安定性を重視する昭和31年最判に則った判断をした。
  行政p182
大阪高裁H30.1.26  
  DV加害者とされる者の代理人弁護からの戸籍の附票の交付申出に対する拒否についての取消請求(否定)
  事案 住民基本台帳事務処理要領によれば、市町村長は、ドメスティック・バイオレンス(「DV」)等の加害者が、戸籍の附票の写しの交付等の制度を不当に利用して被害者の住所を探索することを防止するため、支援措置を講ずる。
この場合、加害者とされる者から被害者に係る戸籍の附票の写しの交付等の申出がされた場合にはこれを拒否するものとされている。 
本件申出がされるまでに、Bから、AをDVの加害者とする支援措置の実施を求める申出を受け、その必要性を確認した上、Bにつき支援措置を開始
⇒本件申出に対し、Bに係る戸籍の附票の写しを交付しないとする本件処分
⇒Xは、Y(橋本市)を相手に、本件処分は裁量権の逸脱・濫用の違法があるとしてその取消しを求める本件訴訟を提起。
  原審 裁量権の範囲の逸脱し、又はこれを濫用した違法なもの⇒Xの請求を認容。
  判断 支援措置の運用に関して国が定めた事務処理要領によれば、DVの加害者とされている者からの被害者に係る戸籍の附票の写しの交付申出については、原則として住基法20条3項各号に掲げる者に該当しないとして、同法に基づきこれを拒むとされている。

住民のプライバシー保護に配慮するという住基法の目的に合致するとともに、国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律に基づきDV被害者の適切な保護を図る責務を果たすという観点からも合理性を有する
⇒住基法の解釈を誤ったものとはいえない。
市町村長は、DV被害者等の保護のための支援措置を講ずることとした場合には、被害者に係る戸籍の附票の写しの交付については、事務処理要領に従って運用し、裁量権を行使すべき。
事務処理要領によれば、
戸籍の附票の写しの交付については、加害者が判明しており、加害者から申出がなされた場合には、住基法20条3項各号に掲げる者に該当しないとして申出を拒否するとされ、
利用目的の厳格な審査の結果、特別の必要があると認められる場合にも、加害者に得交付しないで目的を達成することが望ましいとされている。

戸籍の附票の写しが交付されることで、被害者の住所等の情報が、加害者に知られるという事態を可及的に抑止しようとするものであり、合理性のあるもの。
加害者の代理人に被害者に係る戸籍の附票の写しを交付した場合、代理人を通じて被害者の住所が加害者に知られるおそれがあることは否定できない

加害者の代理人からの申出も、原則として加害者本人からの申出に準じた処理がされるのもやむをえない。
本件において、橋本市長は、本件申出がされるまでに、Bから、Aを加害者とし、B自信をDV被害者とする支援措置の実施を求める申出を受け、その必要性について第三者機関(橋本警察署)から意見を聴取して確認した上、Bにつき支援措置を開始した。
本件申出は、加害者としてされているAの代理人(X)からの申出ではあるが、本件処分は、A本人からの申出があった場合に準じて、事務処理要領に定めるところに従い、Aが住基法20条3項各号に掲げる者に該当せず、かつ本件申出が相当なものとは認められないとして、これを拒否。

裁量権の逸脱・濫用の違法があるとはいえない。
  解説 全国の市長村長は、支援措置の運用に関し、事務処理要領の定めに従って行っており、これと異なる取扱いをすることは基本的に想定されていない。 
支援措置の目的は、DVの加害者等が、戸籍の附票の写しの交付等の制度を不当に利用して被害者の住所を探索することを防止することにあり、被害者の生命・身体を保護するためには被害者の住所情報が加害者側に知られるという事態を可能な限り抑止しなければならない。
本判決:
特に高い倫理性が要求される弁護士が代理人となって申出をした場合でも、加害者本人から申出があった場合に準じて事務処理要領の定めに従って裁量権を行使すべきであって、被害者に係る戸籍の附票の写しを交付しないとした本件処分には裁量権の逸脱・濫用の違法がないと判断。
  行政p194
千葉地裁H29.12.19  
  農業委員会の会長を解任した総会決議の効力等が問題となった事案
  事案 農業委員会において、Xに対し、農業委員会等に関する法律(平成27年法律第63号による改正前のもの)5条7項に基づき会長の職を解任する決議。

Xは、会長の職を解任されたことについて、同解任に係る総会決議は無効であると主張して、
①農業委員会の会長の地位にあることの確認を求めるほか、
②違法な選任決議により名誉を侵害されたとして国賠法に基づく損害賠償等を求めた。
  本案前の争点 ①法5条7項により農業委員会が行った会長解任決議の効力に係る紛争が、裁判所法3条1項所定の「法律上の争訟」として司法審査の対象になるか?
②会長解任の要件である法5条7項の「農業委員会は、その所掌事務を行うにつき会長を不適当と認めるとき」の解釈 
  判断   当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争で、法令の適用によって終局的に解決できるものは、原則として司法審査に服する。
純粋な内部問題の場合は、団体の自治を尊重して司法審査を控える場合がある。 
農業委員会の会長という団体内部の地位の問題として司法審査を控えるべきかが問題。
but
①農地法、土地改良法等による権限等を有する農業委員会の事務処理の結果は、農業者の権利義務に大きな影響を及ぼし(農地法3条等)、農業者以外の国民の権利にも影響を及ぼす場合がある(同法5条2項等)
②その農業委員会の代表者である会長の地位が争われている

市民法秩序と直接的な関連を持たず内部の問題にとどまるものとはいえず、司法審査の対象になる法律上の争訟に当たる。
  農業委員会の会長の解任に関し法5条7号は
「農業委員会は、その所掌事務を行うにつき会長を不適当と認めるときは、その決議によりこれを解任することができる」とのみ定め、不適当と認められるべき具体的な解任事由を規定していない⇒その法解釈が争われた。
農業委員会における所掌事務の処理に不適当と認められるかについては、農業委員会の合議体としての裁量的判断を尊重し、農業委員会による会長を解任する旨の判断は、それが社会通念上著しく妥当性を欠いており、農業委員会に委ねられた裁量権を逸脱又は濫用したと認められる場合に限り、違法と評価するのが相当。
①Xは、農業委員会の農業委員15名の3分の1以上に当たる11名の者から、会長不信任案を付議するための臨時総会の招集を書面で要求された⇒この請求に応じて臨時総会の招集をすべき義務。
②Xが、臨時総会の招集に応じなかったことは、法21条の2項の規定に違反し、かつ、会長として適格性を疑わせる行為。
③Xの対応は他の委員らとの間に軋轢を生じさせるものであったから、Xが会長であることは合議体である農業委員会における所掌事務の遂行に支障を生じさせ、それを困難とするもの。

Xを会長から解任する旨の判断には裁量権の逸脱又は濫用は認められない⇒解任が無効であるとはいえない。
  民事p200
東京高裁H27.3.31  
  ハーグ条約実施法28条1項4号及び5号の返還拒否事由の主張を排斥し、子の常居所地国(米国)への返還を命じた事案
  事案 米国に居住していたX及びYの夫婦間に生じた国際的な子の連れ去りに関する紛争。 
Y(父)は、X及び子らと別居するに至った後、Aを除く4名の子らとの宿泊付きの面会交流中に本件子らとともに日本に帰国し、そのまま日本国内に居住。

Xが、Yに対し、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(いわゆるハーグ条約実施法)に基づき、本件子らを米国に返還することを求めた。
  規定 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律 第二八条(子の返還拒否事由等)
 裁判所は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる。

四 常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。

五 子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。
  争点 ①実施法28条1項5号のいわゆる子の異議の返還拒絶事由の有無
②同項4号のいわゆる重大な危険の返還拒絶事由の有無 
  判断 ●争点① 
原決定を是認
原決定:
同号の文言

①子が、その意見を考慮に入れることが適当である年齢及び成熟度に達していること、
②子の意見が、常居所地国に返還されることに対する異議であること
が要件。

家庭裁判所調査官によって行われた本件子らの意向及び心情の調査結果等
⇒いずれの子についても両要件がともに満たされることは無く、前記返還拒否事由があるとはいえない。
最年長のB(調査時11歳)は、前記調査時に、主に兄弟のAやXとの関係に係る懸念を示して、日本にいたい旨を述べた。

原決定:
Bはその意見を考慮すべき年齢及び成熟度に達している。
but
その意見の実質は、X及びAの下に返還された際に、Aとの喧嘩があり得ることや、それについてXが適切な対応をしてくれるかについての懸念を示すものにすぎず、
Bは米国で生まれ育ち、米国での生活を拒否するような客観的な事情がうかがわれない

常居所地国である米国に返還されること自体に対する異議を述べているものとはいえないとして、②の要件を満たさない。
  ●争点② 
原決定を是認
原決定:
Xによる本件子らの監護状況等について詳細に事実を認定した上で、
①Xとの同居生活中に本件子らに軽度のけがを負うことがあったこと、
②Xが本件子らを自宅に残して外出し、児童福祉機関によりネグレクトと認定されたこと等、
Xの監護状況に不適切な面がなかったとはいえない
but
①そのけがが通常の日常生活の中で生じ得る程度のものであったこと、
②Xの対応に前記ネグレクト以外に不適切といえるものはなかったこと


本件子らの監護状況に重大な問題があったとまでは言い難い。
①本件子らを米国に返還した場合の危険性の検討のためには、返還後、米国において、本件子らを保護しその危険性を減ずる措置がとられるかという点も重要な考慮要素。
②本件子らが居住していた州では、州の児童福祉機関や裁判所等の関係機関の関与を通して子の保護が図られる制度があり、連れ去りまでの間、本件子らの監護について、これらの制度が有効に機能していた。
⇒実施法28条1項4号の返還拒否事由があるとはいえない。
  民事p210
大阪高裁H27.8.17  
  ハーグ条約実施法で、相手方による不法な留置の開始時期・留置の同意・承諾が問題となった事案
  事案 父であるXが、母であるYに対し、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(「実施法」)に基づき、Yが日本に不法に留置している両者の子Cをその常居所地国であるカナダに返還することを求めた事案。 
  争点 ①Yによる留置開始時期が実施法の施行日である平成26年4月X日より後であったか(実施法は、その附則2条によって、その施行前に開始された不法な留置には適用されない)
②XがYによる留置に同意又は承諾したか(実施法28条1項3号の返還拒否事由があったか)
  判断  ●争点①
  原決定:
常居所地国以外の国で子を監護している父母その他の者が子を常居所地国へ返還しない意思を示したと客観的に判断できる時点で留置が開始されたということができる。
⇒Yが日本への帰国に際して購入した往復航空券による復路の予約を取り消して同航空券を失効させ、カナダに戻らないことをXに伝えた平成26年6月をもって留置が開始
⇒本件に実施法が適用される。

本決定もこの判断を是認。 
  ●争点②
留置の同意又は承諾があるというためには、返還申立ての申立人において、子が新たな居住地に定住することを承認し、子の返還を求める権利を放棄したことが客観的な証拠により認定される必要がある。
本件においては、そのような同意又は承諾は認められない。
  解説 留置の開始時期は、
返還事由の有無を認定する際の前提となるだけではなく、
実施法28条1項1号及び2号の返還拒否事由を判断する際の基準時としての意味を持つ。
法 第二八条(子の返還拒否事由等)
 裁判所は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる。
一 子の返還の申立てが当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時から一年を経過した後にされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応していること。
二 申立人が当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に子に対して現実に監護の権利を行使していなかったこと(当該連れ去り又は留置がなければ申立人が子に対して現実に監護の権利を行使していたと認められる場合を除く。)。
   刑事p219
東京高裁H29.4.12 
  道交法上の救護義務違反・報告義務違反が成立するための要件
  事案 被告人が、
①赤色信号を殊更に無視し、時速約80kmで進行して歩行者に衝突して負傷させ死亡た事実(危険運転致死)と、
②自己の運転に起因して他人を負傷させたのに、直ちに車両の運転を停止して救護等の措置を講じず、自己について警察官に報告しなかった事実(道交法違反)で起訴 
  規定 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
第二条(危険運転致死傷)
 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。

五 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
  道交法 第72条(交通事故の場合の措置)
交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。
  判断
・解説
●他車に追跡されていると感じた者の危険運転 
原判決:
他の車両のドライブレコーダーの映像の解析等⇒被告人車の事故交差点の通過時の速度は時速80kmであったと認定。
事故交差点に至る前も終始かなりの高速度で走行していたと推認。
信号表示を意に介することなく、赤信号であってもこれを無視する意思で進行したと推認。
「被告人が誰かに追われていると思っていたとしても、信号表示を守って運転しているつもりであった」との供述は信用できない。
控訴審:
①W1交差点出口から事故交差点までの320mを長くとも約14秒で走行⇒平均速度を時速約80kmと推認
②信号機が赤信号を表示している交差点を連続して通過した点を指摘

被告人は、赤色信号を認識しながらあえて通過したか、
およそ信号表示に従う意思がなく信号表示を見なかったものとして、
原判決を支持。
  交通事故があったとき、当該事故に係る車両の運転者が救護及び報告の義務を負うのは、事故の発生を認識したことが前提。 
原判決:
被告人が2人組の男に暴行を受けた

救護及び報告の義務の履行が可能であった期間を事故発生時点からY地点に停止させる時点までの間に限定し、
被告人が事故発生を認識したのはどの時点かを検討。

事故発生時に直ちに人身事故であると認識したとは認められない
but
①事故時に衝撃があり、衝突音が発生したこと
②フロントガラスに大きな破損が生じたこと
⇒遅くともX2交差点手前で停止した時点までには人身事故を起こしたことを認識したと推認できる。

本判決も同様の推認。
運転者が交通事故の発生と同時又は直後にこれを認識することができないまま走行を続けた裁判例もある。
  ●時間経過後の事故発生を認識した運転者のとるべき行動 
原判決:
被告には被害者に衝突した後もそれを認識しないまま走行を続け、X2交差点に至って自己の発生を認識。

人身事故を起こしたことを認識した運転者は、停車可能な場所にすぐさま自車を停止させ、救護及び報告の義務を履行すべき。
but
①走行中に事故発生を認識した場合に内心が動揺・混乱することがあり、瞬時に履行の決意をすることは容易ではなく、決意をしてもその時の信号表示や車の流れに従って一旦走行してしまうことや、適切な停車場所をうかがううちに数十秒が経過してしまうことがあり得る。
②被告人が人身事故を起こしたことを認識した時点からY地点で停止し2人組の男に追い付かれる時点までの時間は数十秒程度
③被告人が数十秒程度車両を走行させ、Y地点で停止したことをもって直ちに自車の運転を停止しなかったとすることには疑問が残る。
④被告人はY地点で自らの意思で停車した後、必要な連絡をとるために携帯電話機を探しており、二人組の男に襲われて義務の履行が困難になるまでにわずかな時間しかなかった可能性がある。

直ちに自車の運転を停止して救護義務及び報告義務を履行しなかったとは認められない。
控訴審:
被告人は、X2交差点で停止した時点までに、人身事故を起こしたことひいては救護及び報告の義務があることを認識したにもかかわらず、自車を再発進したのは、義務の履行と相容れない行動
but
事故交差点から約300mのY地点に自らの意思で停車し、その後連絡がとれるようにして交差点に戻ろうと思って携帯電話機を探していた

Y地点から事故交差点に引き返して救護義務及び報告義務を果たそうとしていた可能性は否定できない。
検察官:
原判決が運転者の内心の動揺や混乱を救護義務及び報告義務の履行遅滞の正当理由として認めるかのような解釈をしたのは、「直ちに車両等の運転を停止して」の解釈を誤ったもの。
vs.
本判決:
人身事故を起こした運転者が救護義務及び報告義務の履行と相容れない行動をとれば、直ちにこれらの義務に違反する不作為があったとまではいえず、一定の時間的場所的解離を生じさせて、これらの義務の履行と相容れない状態にまで至ったことを要する。
⇒原判決に法令解釈の誤りはない。
①本件の被告人は、事故現場から2つ目の交差点まで走行してようやく事故発生を認識した後、再発進して現場から遠ざかる方向へ更に約150m走行し、停車した後、連絡をとろうとして携帯電話機を探しているうちに、二人組の男に襲われたために、自己交差点に戻って救護及び報告を行うことができなくなってしまった。
②再発進して現場から遠ざかる方向へ走行したのは、直ちに停車して救護と報告を行うべき義務の履行と相容れない行動であるということはできる
but
事故発生を認識した後の運転者の心理状態やそのときの道路交通の状況等の事情によればそのようなこともあり得るのであり、これだけをとらえて救護義務・報告義務の違反とするのは相当ではない。

事故現場から遠ざかる方向に走行したとしても、救護義務・報告義務の違反が成立するためには、事故発生時から相当の時間が経過し、事故現場から相当の距離が生じて、それらの義務の履行を相容れない状態に陥ることを要する
とした点に、本判決の意義がある。
大津地裁H6.4.6:
仮眠状態に陥って追突事故を起こした運転者が、頭部を打った衝撃等により事態を認識できない状態となり、そのまま運転を続けた。
その後意識を取り戻すまでの間については救護義務違反を問うことはできず、意識を取り戻した後も、事故現場の所在を認識していない運転者が現場に戻って負傷者を救護することは不可能⇒救護義務違反は成立しない。
降車した際自車が大破している⇒何らかの交通事故の発生を認識したものと考えられ、その時点で警察官に報告する義務があった。
名古屋高裁金沢支部昭和39.7.21:
運転者の負傷等のため事故直後から他人を介しても報告することが不可能である事態が続く限り、法はその者に自己報告を期待しない。
その後報告の可能状態が生じた直後に報告すれば、それが事故と時間的に隔たっていても直ちに報告したものというとができる。
2374   
  民事p34
札幌高裁H30.3.15  
  除斥期間による請求権の消滅の阻止と訴訟での一部請求
  事案 X:
平成6年5月17日、交通事故により、頭部外傷、脳挫傷等の傷害。
平成23年8月8日 脳外傷後高次脳機能障害と診断。
平成26年5月14日:
本件訴訟を提起したが、訴え提起当初、1億4112万3225円の損害額の一部であることを明示して、2000万円および事故日からの遅延損害金の支払を求めた。
平成26年11月20日:
1億位2309万8584円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める請求に請求を拡張。
  争点 ①Xの高次脳機能障害が交通事故により生じたものか
②症状固定時をいつとすべきか
③消滅時効が完成しているか 
  規定  民法 第724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
  判断 民法724条後段について、消滅時効を定めたものではなく、除斥期間を定めたもの。
その趣旨について、不法行為を巡る法律関係の速やかな確定を図るため、一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を定めたものであって(最高裁H1.12.21)、
これによる請求権の消滅を妨げるためには、同期間内に裁判上の権利行使をする必要がある。
Xにおいては、一部請求であることを明示した上で本件訴訟を提起しており、残部請求部分について訴えが提起されたとはえいえず、
明示的一部請求の残分について裁判上の催告としての効果があるとしても(最高裁H25.6.6)、裁判上の請求としての効果は認められない

民法724条後段の除斥期間による請求権の消滅を妨げるには足りない
⇒当該部分の請求権が除斥期間の経過により消滅。
  解説   ●  除斥期間による請求権の消滅を妨げるためには、期間内に訴えを提起する必要があるか、それとも裁判外における権利行使で足りるか? 
最高裁H4.10.20:
民法566条3項の1年の除斥期間について、
売主の瑕疵担保による損害賠償請求を保全するためには、売主の担保責任を問う意思を裁判外で明確に告げることをもって足り、
裁判上の権利行使をするまでの必要はない。

このような短期の除斥期間については裁判外の権利行使をもって請求権を保全することができると解しているものが多い。
学説上、
少なくとも723条後段の除斥期間に関しては、裁判上の権利行使を必要とするものが多い。
  除斥期間といっても、その期間も性質も様々であり、
除斥期間が定められた権利の保存方法についても、
その期間制限が付されている権利の性質や期間制限された趣旨を踏まえた考察が必要。
  明示的一部請求の訴えの提起が残部についていかなる効果をもたらすか? 
最高裁H25.6.6:
数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合、
当該訴えの提起による裁判上の請求としての消滅時効の中断の効力は、
その一部について生ずるのであって、
当該訴えの提起は、
残部について、裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずるものではない。
but
明示的一部請求の訴えが提起された場合、
債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど、残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り、
当該訴えの提起は、
残部について、裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずる。

明示的一部請求の訴えにおける残部については、
裁判上の催告としての効力は認められるものの、
裁判上の請求あるいはこれに準ずるものといった効果は認められない。
  民事p54
大阪高裁H29.4.20  
  財産分離(民法941条)の請求と財産分離の必要性
  事案 大阪家裁は、平成28年、Dについて後見開始の審判をし、弁護士であるBを成年後見人に選任。 
Aは、Dの財産を生前から事実上管理していたが、Bが成年後見人の職務としてのDの財産の開示、引渡しを求めてもこれに応じなかった。
Dは同年に死亡し、法定相続人は、Dの子であるAとCの2名。
Bは、後見事務を処理するのに立て替えた費用等についてDに対して債権を有している。
Bは、大阪家裁において、第一種財産分離の申立てをした。
  規定 民法 第941条(相続債権者又は受遺者の請求による財産分離)
相続債権者又は受遺者は、相続開始の時から三箇月以内に、相続人の財産の中から相続財産を分離することを家庭裁判所に請求することができる。相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、その期間の満了後も、同様とする。
  原審  ①被相続人Dの財産を生前から事実上管理していた相続人Aは、後見人Bが職務上、Dの財産の開示、引渡し等を求めても応じることはなく、
②Dが平成28年に、死亡したことにより、Dの債権者の債権の引当てとなるべき被相続人Dの財産と相続人A及びCがDの相続開始前から有する固有財産(債権の引当となる固有の財産を有すると認めることはできない。)とが混合するおそれが生じた

相続人らの固有財産から被相続人の相続財産を分離するのが相当。

民法941条1項に基づき財産分離を命ずるとともに、
同法943条1項に基づき、職権で相続財産管理人としてBを選任する旨の審判をした。 
  判断 民法941条1項の定める第一種財産分離は、相続人の固有財産が債務超過の状態にある場合(もしくは近い将来において債務超過となるおそれがある場合)に相続財産と相続人の固有財産との混合によって相続債権者又は受遺者の債権回収に不利益を生じることを防止するために、相続財産と相続人の固有財産とを分離して、相続債権者又は受遺者をして相続人の債権者に優先して相続財産から弁済を受けさせる制度。

家庭裁判所は、相続財産の分離の請求があったときは、申立人の相続債権、申立期間といった形式的要件が具備されている場合であっても、前記の意味における財産分離の必要性が認められる場合にこれを命じる審判をなすべきものと解するのが相当。 
本件においては、抗告人A及び相続人Cについて、その固有財産が債務超過の状態(もしくは近い将来において債務超過となるおそれがある状態)にあるかどうかは明らかではなく、財産分離の必要性について審理しないまま、財産分離を命じた原審の判断は相当ではない
⇒この点について原審においてさらに審理を尽くす必要がある。
  解説 財産分離は、債権者がその債権回収について不利益を被ることがないように、相続財産と相続人の固有財産との混合を阻止して、まず、相続財産について清算を行う制度。
相続債権者等が請求する第1種財産分離(民法941条以下)と
相続人の固有の債権者が請求する第2種財産分離(同法950条) 
第一種財産分離は、その間、遺産分割ができなくなるなど相続人の財産管理等や第三者にも大きな影響を及ぼすもの
⇒これを認めるためには、それなりの合理的な理由(財産分離の必要性)を要すると解すべき。
本決定に対し、財産分離の要件に関する部分について抗告許可

最高裁H29.11.28:
本決定のいう「財産分離の必要性」の内容について
「相続人がその固有財産について債務超過の状態にあり、またはそのような状態に陥るおそれがあることなどから、相続財産と相続人の固有財産とが混合することによって相続債権者等がその債権の全部又は一部の弁済を受けることが困難になるおそれがあると認められる場合」であるとされ、本決定もその趣旨をいうものとして是認。

相続人の固有財産が債務超過の状態にある場合でも、例えば、相続財産が極めて多額に及ぶケースでは、なお相続債権者が害されるおそれはないといえる。

家庭裁判所としては、事案に応じて、相続債権者等が債権の全部又は一部の弁済を受けることが困難となるおそれがあるかどうかを総合判断することになる。
抗告審: なお書きで、原審判が財産分離を命じるとともに申立人の自薦に基づき申立人自身を相続財産管理人に選任
⇒本件において、相続財産管理人の職務内容に鑑みれば、相続債権者を相続財産管理人に選任するのは相当でない旨を付言。
相続財産管理人の選任(民法943条、家事手続き法別表第1の97項)のみ独立して不服申立てができない(家事手続法202条2項)。
  商事p56
東京高裁H30.3.19  
  会社の上場実現及び維持のために有価証券報告書等の虚偽記載に故意に加担した会計士が所属する監査法人の責任(肯定)
  解説 株式市場における適正な価格形成の実現には、上場企業が開示する財務・経営に関する情報の真実性、正確性の確保が不可欠。 
金商法は、企業その他の関係者に開示情報の真実性・正確性の確保を求めるとともに、そのエンフォースメンとの持効性を強化する手段として、行政処分、課徴金、刑事責任などとあわせて、民事責任規定(金商法18条、21条、22条、24条の4等)を充実強化。
民事責任規定を、被害者救済手段だけでなく、開示規定違反行為の抑止手段とするという立法意思は明確であって、民事責任規定による巨額の賠償リスク・倒産リスクは、違法行為抑止の手段として位置付け。
  事案 公認会計士が企業の粉飾決算に故意に加担した事案であり、
有価証券報告書等に係る金商法193条の2第1項に規定する監査証明において、財務諸表等の記載が虚偽でない旨の監査証明をした公認会計士の所属する監査法人が、金商法の賠償責任を問われた事案。 
監査証明時に当該公認会計士が所属していた監査法人を吸収合併した別の監査法人が被告⇒監査法人のM&Aのリスクを示す。
  経緯 株式会社Aの上場実現のため、C監査法人所属のB公認会計士とA社の社長らは共謀して、故意に、財務諸表中の売上高や利益の額の大幅な水増しという粉飾決算を実行。
A社は、粉飾した財務諸表を提出して上場審査を受け、平成17年12月にJASDAQ市場への上場を実現。 
A社は、上場の際株式の募集や売出し等のために、平成17年11月に有価証券届出書(金商法4条、5条)を提出。
A社は、上場企業の義務として、平成18年9月に有価証券報告書(金商法24条)を提出。

売上高や利益の額を大幅に水増しするという粉飾が施された財務諸表が添付されていた。
C監査法人所属のB公認会計士は、故意に粉飾に加担していたにもかかわらず、これらの有価証券届出書や有価証券報告書に係る金商法193条の2第1項に規定する監査証明において、財務諸表等のj記載が虚偽でない旨の監査証明。
平成18年10月に、Y監査法人はC監査法人を吸収合併し、公認会計士法34条の19第4項の規定により、C監査法人の権利義務を承継。
A社は、証券取引等監視委員会の調査を受けて粉飾の事実を摘発され、平成20年9月19日に証券取引等監視委員会がA社の粉飾決算の事実を公表。
⇒A社の株価は公表前の200分の1未満の水準まで暴落し、同年10月27日に上場廃止。
⇒民事再生法による再生計画(再生型の再生計画)の認可を経て、最終的に破産手続開始決定。
株主らが原告となり、C監査法人を吸収合併したY監査法人に対して株価の下落による損害の賠償請求をした。
  根拠規定 (ア)平成17年11月の有価証券届出書提出後に上場の際の株式募集や売出しに応じてA株を取得⇒金商法21条 
(イ)平成17年11月の有価証券届出書提出後、かつ同年12月の上場後に、JASDAQ市場でA株式を取得⇒金商法22条
(ウ)平成18年9月の有価証券報告書提出後にJASDAQ市場でA株式を取得⇒金商法24条の4((イ)でも請求可)
  原審 請求を全部棄却 
  判断 請求の大部分を認容 
  判断・解説  ●要件
  金商法21条等の規定する要件(重要な事項についての虚偽の記載)の該当性をみるのに、有価証券届出書や有価証券報告書中の財務諸表に赤黒転換(真実は赤字なのに黒字と虚偽記載)
⇒重要事項に虚偽記載あり。 
金商法21条1項3号の要件も満たす。
金商法21条の責任を追及する場合には、同条2項2号において故意過失がなかったことを、免責を求める賠償義務者側の立証責任としている。
⇒本件では不適用。
金商法22条及び24条の4の責任を追及する場合には、賠償権利者側が虚偽記載について善意であることの立証責任を負う
本判決:善意の証明あり。
  ●損害額
  株式の取得価額の全額を損害算定の基礎とした
←粉飾の事実が上場審査時に発覚したらA社株式の上場は実現しなかった。 
有価証券報告書中の重要事項の虚偽記載があった場合の損害算定が問題となった西武鉄道最高裁判決(最高裁H23.9.13):
株式の取得価額の全額を損害算定の基礎とした上で、
①「株式取得価額と株式処分価額又は事実審口頭弁論終結時の株式価格との差額」を算定し、更に
②「虚偽記載に起因しない価額の下落分(経済情勢、市場動向、当該会社の業績等に起因する価額の下落分)」があればこれを控除する
という考え方。
本判決:
公表後事実審口頭弁論終結時(上場廃止時)までに処分(売却)した株式の前記①の段階の損害額算定:
株式取得価額から処分(売却)価額を控除した額を、この段階の損害算定額とした。
公表後事実審口頭弁論終結時までに処分できずに保有し続けている株式の前記①の段階の損害算定:
事実審口頭弁論終結時の株式価格がゼロ円と判断⇒株式取得価額をそのまま損害算定額とした。
前記②の段階の損額算定:
虚偽記載に起因しない価額の下落分(経済情勢、市場動向、当該会社の業績等に起因する価額の下落分)については存在しない(存在するとしても、損害額の算定上無視し得る程度の微々たるものにすぎない。)と判断。
⇒前記②の段階において控除すべき金額はない。 
西武鉄道最高裁判決の事実関係との相違:

西武鉄道事案:
上場廃止後も金融機関からの信用を失わず、倒産状態にも陥らず、中心的事業の経営が継続され、その後の企業再編を経て上場廃止企業の完全親会社が株式再上場を果たしている。
上場廃止後も株式は無価値になっておらず、株価に影響を与える他の要因も検討する必要があった。

本件:
A社は上場廃止時には粉飾の発覚により金融機関からの信用を全面的に失い、
倒産状態に陥った。
清算型の再生計画が認可され、上場廃止後の株式は無価値になった。

前記②の段階において控除すべき金額はない。
粉飾公表時期がいわゆるリーマンショックによる株価水準一般の暴落時機と重なった。
but
公表後上場廃止時までのA社株式の株価の推移を具体的かつ詳細に事実認定した上で、
リーマンショックの影響とは無関係に、A社が倒産して株式が無価値になるという市場参加者一般の予測により、A社株式は公表前の株価よりも99.5%以上も下落したと認定判断。
  労働p78
名古屋高裁H29.11.30
  従業員の自殺について、業務起因性を認定し、勤務先会社の損害賠償責任が認められた事例
  事案 Aが、被控訴人Y2及びY3からいじめ等を受け、かつ、被控訴人Y1は、前記事態を放置した上、十分な引継をすることなくAの配置転換をして、過重な業務を担当させた結果、Aが強い心理的負荷を受けてうつ状態に陥り自殺

Aの両親である控訴人Xらが、
被控訴人Y2及び被控訴人Y3に対しては、不法行為に基づき、
被控訴人Y1に対しては、債務不履行(安全配慮義務違反)又は不法行為に基づき、
損害賠償金の支払を求めた。
労働者災害補償保険において、平成25年12月、Aの死亡について業務起因性を認定。
  原審 Aは仕事上の入力ミスなどが比較的多かったが、
被控訴人Y3が、平成23年9月移行、Aに対して、仕事上のミスがあると、厳しい口調でかつ頻繁にわたり叱責し、
営業事務に配置転換となった以降も、ミスがある毎に、Aを呼び出して、被控訴人Y2と一緒に同様に叱責していたことは、
業務上の注意や指導の範囲を超えて、Aに精神的苦痛を与えるもので、
不法行為に該当する。
被控訴人Y2は、Aの前記配置転換後の業務遂行状況を踏まえて、Aに対する適宜の支援を行うべき職責を負っていたが、これを怠ったほか、
配置転換後のAに対する叱責行為は、不法行為に該当する。
被控訴人Y2及びY3の前記各不法行為及び配置転換後の業務の負担と、
Aの自殺との相当因果関係:
①Aがうつ病を発症していたとは認められず、
②前記配置転換後の業務負担がAの心身の健康の喪失に繋がるようなものでなく、業務外の原因が影響した可能性もある
⇒否定
Aの損害について、165万円の限度で認容。
  判断 Y3の責任については、原審と同様。
Y2の責任について、
Aに対する叱責行為は原審判決と同様に不法行為になる。
Aに対する適宜の支援を行うべき義務を怠った点については、
従業員の業務分配の決定権は、上司であるB(取締役)にある
⇒この点はBの注意義務違反。
Aは、被控訴Y2及びY3から厳しい叱責を受け、かつ、Bが叱責を制止せず、本件配置転換後のAの業務内容や業務分配の見直しが必要であったのはこれを検討しなかったことにより、Aが受けた心理的負荷の程度は、全体として強いものであったと認められ、客観的に見てうつ病を発症させる程度のものと評価することができる。

Aは遅くとも平成24年6月中旬には、うつ病を発症していたと認められ、これらの不法行為とAの自殺との間には、相当因果関係がある。
Y2及びY3の各不法行為については、それのみでうつ病を発症させる程度のものと評価することはできず、Aの自殺との間の相当因果関係は認めなかった。

Aの損害については、被控訴人Y1の不法行為について、控訴人Xら固有の損害を含めて約5574万円を認め、
被控訴人Y2及びY3の不法行為については、限定的な範囲で認めた。
  解説 使用者は、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負う。’(最高裁H12.3.24) 
不法行為とAの自殺との相当因果関係の判断
原審判決:
①配置転換直前からの時間外労働時間が月約50時間から67時間程度であってそれほど長時間とはいえない
②周囲の従業員らでAが精神障害に関連する症状を発症していると感じた者がいなかった
③家庭生活においても明らかな異常は見られず、精神障害に関連する受診歴がなく
④配置転換後も趣味に関するツイートがある
⑤異性との交際問題が自殺に影響した可能性もある

Aがうつ病を発症したとは認めなかった。
本判決:
①時間外労働時間が配置転換前と比較して明らかに増加傾向にある
②身なりにかまわなくなったこと、③食慾が減退し、趣味に関するツイート数が大幅に減少し、被控訴人Y2及びY3から叱責されて落ち込んでいた

Aが受けた心理的負荷の程度は、全体として強いものであったと認められ、中等症うつ病エピソードの患者と診断できる状態にある。

自殺との相当因果関係を肯定。
8月   
2373   
  行政p8
大阪高裁H29.11.28    
  国籍留保の届出が届出期間経過後になされたものとされた事案
  事案 F区長は、平成28年、Gの出生届を受理したが、本件国籍留保の届出については、Bが届出できるに至った時点は、E(Bの父、Xの祖父)につき就籍の審判がされた平成20年であることを前提に、
本件国籍留保の届出は、戸籍法104条1項及び3項の期間を経過した後にされたもので、Xは日本国籍を喪失(国籍法12条)⇒本件各届出をいずれも不受理とする処分をした。 
  原審 B(昭和39年生)は、平成20年、E(Bの父)が就籍⇒出生により父の日本国籍を取得(昭和59年改正前の国籍法2条1号、父系主義)。
G(Bの長男、Xの兄)は、前記改正後の国籍法施行日(昭和60年1月1日)よりも前(昭和58年)にC国(血統主義)で出生⇒国籍留保の対象ではなく、そのため、Xと異なり日本国籍を有する者として出生届出が受理。
X(昭和60年生)は、改正後の国籍法施行後に出生⇒国籍留保制度(国籍法12条)の対象となる。
but
Eの就籍(平成20年)に先立ち、Xの国籍留保の届出を戸籍法104条1項所定の届出期間内(Xの出生から3か月)に求めるのには無理がある。

Bに同条3項の届出人の「責めに帰することができない事由」があるかが問題。
Eが就籍審判の通知を受けた時点(平成20年)で同項の「届出をすることができるに至った」と解すべき⇒そこから14日を経過すると、Xの出生届や国籍留保のの届出をすることはできなくなる。

当時、Bは戸籍記載が未了で、本籍や戸籍上の氏名もなかったが、それは、客観的にみて本件国籍留保の届出をすることの障害とはならない
⇒Xは、出生時に遡って日本国籍を失ったとして、Xの就籍許可の申立てを却下。
  判断 戸籍法は、出生届出書には父母の氏名および本籍の記載を要するが(同法49条2項3号)、記載すべき事項が存在しない場合にはその旨を記載し(同法34条1項)、本籍のない者が届出後に本籍を取得したときはその旨を届け出ることを要する。

Bの戸籍記載が未了で、本籍や戸籍上の氏名もなくても、客観的にみて本件国籍留保の届出をすることの障害にはならない。

Xの抗告を棄却。
  解説  国籍留保:
日本国民が国外で出生し、重国籍となった者について戸籍法の定めに従い留保をしない限り、出生の時に遡って日本の国籍を失うこととして、国籍の積極的な抵触(重国籍)の防止を図る制度。
国籍留保をしないと、自己の志望で日本国籍を喪失⇒国籍離脱の自由を実現。
国籍留保には届出が要件⇒戸籍に記載されない日本国民の発生を防止し、戸籍上日本国民の範囲を画する機能。 
国籍法は、昭和59年改正後の12条において、
「出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは、戸籍法の定めるところにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ、その出生の時にさかのぼつて日本の国籍を失う。」と規定。

国籍留保の適用範囲が拡大
←昭和59年の国籍法改正により、父系主義から父母両系主義に変更されたことに伴い増加する重国籍の発生を防止するため。.
  ●国籍留保の要件(国籍法12条)
①日本国外で生まれ、出生により外国籍を取得し、日本国籍と重国籍の状態となったこと、
②法定の期間内に日本国籍留保の意思表示がされること
①について:
(a)出生により外国籍を取得したこと(出生地主義、血統主義)
(b)血統により日本国籍を有すること
(c)国外で生まれたこと
②について:
国籍留保の意思表示は、
天災その他届出人の責めに帰することのできない事情のない限り、出生の日から3か月以内に、
原則として父又は母から出生届とともに届け出なければならない。(戸籍法104条1項、2項)
天災その他届出人の責めに帰することができない事由⇒届出をすることができる時から14日以内に国籍留保の届出をしなければならない。(同条3項)
●戸籍法104条3項にいう、届出人の「責めに帰することができない事由」:
①国籍留保の制度趣旨、目的
②同項が「天災」と例示

客観的にみて国籍留保の届出をすることの障害となる事情やその程度を勘案して決せられるべきもの。 
最高裁H29.5.17:
父母が戸籍に記載されておらず、父母の本籍及び戸籍上の氏名がないという事情だけでは、客観的にみて、子に係る国籍留保の届出をすることの障害とならないことは明らかである旨を判示。
  行政p12
名古屋高裁H30.3.7  
  被爆者援護法の「医療」の意味等
  事案 被爆者健康手帳の交付を受けている控訴人ら2人が、原子爆弾の傷害作用に起因して疾病にかかり現に医療を要する状態にあると主張し、厚生労働大臣に対し、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)11条1項に基づき、当該疾病が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の認定の申請
⇒厚生労働大臣が前記申請をいずれも却下する旨の処分
⇒本件各処分の取消しを求めた。 
  争点  ①控訴人らの申請疾病が原子爆弾の放射線に起因するものであるか否か(放射線起因性)
②当該疾病が現に医療を要する状態にあるか否か(要医療性)
③原爆症認定要件としての要医療性の要否 
  判断 放射性起因性については、一審判決をほぼそのまま引用し、これを肯定した。 
  要医療性の意義:

一審判決:
被爆者が積極的な治療行為を伴わない定期検査等の経過観察が必要な状態にあるような場合、特段の事情がない限り、定期検査等は被爆者援護法10条1項所定の「医療」に当たらない。

本判決:
①経過観察が特定の疾病等の治癒を目指すもの⇒治療の一環といえる
②経過観察も診察が基本となるところ、被爆者援護法10条2項がまずは「診察」(1号)を予定

同条1項の「医療」は、積極的な治療を伴うか否かを問うべきではなく、被爆者が経過観察のために通院している場合であっても、認定に係る負傷又は疾病が「現に医療を要する状態にある」と認めるのが相当。 
X2の申請疾病である右上葉肺がんについて:
①手術日から原爆症認定申請日までに約14年6か月余りが経過
②前記疾患は既に治癒
⇒要医療性を否定。
X2の申請疾病である左乳がん:
①再発の可能性が特に長期にわたる疾患
②当時の主治医がなお長期間にわたって経過観察が必要であると判断したのは申請疾病(左乳がん)が多重がんの性質を有するものであることを考慮したものと考えられる

少なくとも原爆症認定申請時及び本件処分時においては、いまだ再発のリスクが否定できないから経過観察の必要性があった
⇒要医療性を肯定
X3の申請疾病である慢性甲状腺炎(橋本病):
同疾患が甲状腺機能低下症等様々な合併症・続発症が生ずるおそれがあり、経過観察によってこれらの続発症等が発生している兆候の有無を見極める必要があるため長期にわたる経過観察が欠かせいない等

少なくとも原爆症認定申請時及び本件処分時においては経過観察を行うべき状態にあった。
⇒要医療性を肯定。
  解説 要医療性について:
A:被爆者援護法10条1項の「医療」は原則として積極的治療を要し、経過観察の状態にある場合はこれに当たらない
B:積極的治療を伴わない経過観察のために診察を受けている場合でもこれに該当する
C:Aの見解に立ちつつ、申請時点ないし申請に対する判断時点において定期的な経過観察にとどまっている場合であっても、当該疾病の予後として一般に悪化や再発が予想され、その状況に応じてそれに的確に対処するための積極的な治療行為を行うことを要する場合などは要医療性がある
原爆症認定要件としての要医療性:
旧法当時の裁判例であるが、
石田原爆訴訟判決(広島地裁昭和51.7.27)がこれを肯定し、その後の松谷訴訟最高裁判決(最高裁H12.7.18)も同様の立場を採用。
  行政p21
前橋地裁H30.1.31  
  給与が振り込まれた当日に貯金差押⇒不当利得と国賠請求が認められた事案
  事案 Xが、滞納していた市県民税及び国民健康保険税の徴収のため、Y市長によって2回にわたってなされたX名義の貯金債権の差押えは差押禁止債権を差し押さえたものであるから違法⇒これらの差押えに引き続いて取り立てた12万6226円は支払を受けるべき法律上の原因を欠く

Y市に対し、
前記2回の差押処分の各取消しを求めるとともに、不当利得返還請求として12万6226円の支払を求め、
国賠法1条1項に基づき慰謝料及び弁護士費用として55万円の支払を求めた。 
  判断 ●Xに本件各差押処分の取消しを求める法律上の利益があるか 
市県民税及び国民健康保険税に係る滞納処分による差押えは、国税徴収法(「法」)に規定する滞納処分の例によることとされ、
債権の差押えの場合、
第三債務者に対する債権差押えの効力が生じ、
差し押さえられた債権の取立として金銭を取り立てたときは、
その限度において、
滞納者は滞納税を支払ったものとみなされる。

Y市は既に取り立てを終了しており、
本件各差押処分はいずれも目的を達してその法律効果は既に消滅

本件各差押処分の取消しを求める法律上の利益はない。
(最高裁昭和55.11.25に立脚)
  ●Y市が本件各差押処分に基づいて取り立てた12万6226円が、支払を受けるべき法律上の原因を欠くか(=不当利得返還請求権が成立するか否か)
Y市長が差し押さえた貯金口座は、Xの給与が払い込まれる口座。
給与が払い込まれる口座の預金を差し押さえることは、地方税法41条1項、331条6項、728条7項が準用する法76条1項、2項(給与の差押禁止)に反するかが問題となるところ、
原則として、給与等が金融機関の口座に振り込まれることによって発生する預貯金債権は、直ちに差押禁止債権としての属性を承継するものではない。
(最高裁H10.2.10)

本件各差押処分自体は違法とはいえない。
給料等が受給者の預貯金口座に振り込まれた場合であっても、法76条1項、2項が給料等受給者の最低限の生活を維持するために必要な費用等に相当する一定の金額について差し押さえを禁止した趣旨はできる限り尊重されるべき。

滞納処分庁が、実質的に法76条1項、2項により差押えを禁止された財産自体を差し押さえることを意図して差押処分を行ったものと認めるべき特段の事情がある場合には、上記差押禁止の趣旨を没却する脱法的な差押処分として、違法となる場合がある。
本件では、Y市は、実質的に給与自体を差し押さえることおw意図して本件各差押処分を行ったと認めるべき特段の事情がある。
⇒不当利得返還請求を肯定。
●国賠法1条1項の損害賠償請求 
本件各差押処分は、実質的に給与自体を差し押さえることを意図してなされた
⇒国賠法上も違法。

慰謝料5万円、弁護士費用5000円の合計5万5000円を認容。
  行政p29
さいたま地裁H29.11.24  
   
  事案 Xは、大学を卒業後、大学時代に講師としてアルバイトをしていた学習塾の教え子の15歳の女子生徒Aと交際を開始。
Xは、Y県教育委員会(県教委)に教員として採用され、中学校において勤務を開始。(Xは、採用後1年間を条件付採用期間とされていた。)
Xは、中学の教員になった後も、Aの保護者に承諾を得ないまま、Aと交際を継続し、自らのアパートや2人で出掛けた先でキスや抱擁をしたほか、Aをアパートに宿泊させて同じベッドで寝るなどした(本件非違行為)。
Xは、Aとの交際がAの保護者に発覚⇒Aの保護者に謝罪した上、Aとの交際を解消。
県教委は、本件非違行為が地公法33条に違反⇒同法29条1項1号及び3号の規定により原告に対して懲戒免職処分(本件処分)
  判断 ●本件非違行為が懲戒事由に該当するか? 
①教育に携わる教育公務員は、公務員の中でも高度の倫理性が期待、要求されている⇒教職に対する生徒、保護者、社会一般の信用を傷つけ、公教育全体への信頼を損なう行為は許されない
②本件非違行為について、X自身が勤務する中学校の生徒とほとんど年齢も違わず婚姻適齢にも達しないAを恋愛対象としたことにより、生徒、保護者が、Xに対し、中学校の生徒に好意を抱くなどして生徒を平等に扱わなかったり、生徒の未成熟さに乗じて性的行為に及んだりするのではないかなどと不信感や不快感を抱いたとしてもやむを得ない

中学校教諭の「職の信用を傷つけ」「全体の奉仕者にたるにふさわしくない非行」を行ったといえる。

懲戒事由に該当。
  ●懲戒免職処分の違法性
①懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したと認められる場合に限り、違法であると判断すべき。(最高裁昭和52.12.20)

県教委が定める職員の懲戒処分の基準(本件基準)において、具体的な処分量定の決定に当たっては、標準例を基本として、非違行為の動機、態様及び結果、故意は過失の程度、職員の職責、他の職員及び社会に与える影響、過去の非違行為の有無、日頃の勤務態度並びに非違行為後の対応等を含めて総合的に考慮した上で判断するものとされており、
本件基準は、裁量権緒行使を適正妥当なものとし、併せて公平性を確保しようとする趣旨に基づくものと解される

本件処分が、社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱したものであるかを判断する上においても、前記の諸事情を考慮して判断するのが相当。
本件非違行為は、18歳未満の者に対する「わいせつな行為」に当たる
⇒本件基準による処分量定の標準例は、免職又は停職であるところ、

Xは、教諭の職にある者としてAを教え導く立場であるのに、Aに言われるがままに本件非違行為に及んだ⇒思慮が浅すぎる
but
XとAとの交際は、
Aが積極的に望んでいたものであること、
X及びAが将来を見据えて真剣に交際をしていたこと

Xが自らの性的欲求を満たすために本件非違行為に及んだとは認められず、Aの判断能力が未成熟であることを考慮しても、Xの動機が強い非難に値するものとはいえない。

Xが、中学校の教諭でありながら、Aの保護者の同意を得ないで、指導する生徒と年齢が極めて近い未成年者のAと交際をし、
アパートに宿泊することを許した上、
Aが丸一日以上、その自宅に帰宅していないのを漫然許容して一緒に過ごすなどして本件保護者の監護権等を侵害した行為は、教育に携わる公務員として県民の信頼を得るべき立場としての意識や責任感に欠ける
but
Xは、Aと真剣に交際しており、
アパートに宿泊させた日を除けば、Aをそれほど遅くない時間に帰宅させていたこと、
キスや抱擁以上の性的な行為に及んでいない上、
キスの態様や抱擁の体勢

わいせつ性の程度は低いといえ、わいせつ性の程度は低い

 
Xが条件付採用職員であり、非違行為等について日頃から特に指導を受けていたにもかかわらず、本件非違行為に及んだことを考慮しても、
県教委が懲戒免職処分を選択したことは、社会観念上著しく妥当性を欠き、その裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したと認められ、違法。 
  民事p38
大阪高裁H29.12.15  
  私立大学医学部に通う申立人が、父である相手方に、扶養料の支払いを求めた事案
  事案 Y(医師)と母(薬剤師)は、平成5年に婚姻し、Xと長女をもうけた。
Yは、平成19年頃不貞が発覚⇒平成21年に医院を開業して自宅を出た。
平成23年に離婚を申入れ、平成23年に5000万円のローンを組んでマンションを購入し、Xらは箱はそこに移り住んだ。
Yは、母に対し、平成23年に離婚の調停申立て、平成24年にXと長女の親権者を母と定めて離婚する旨の調停が成立。

養育費:
子ら1人500万円の一時金と
子らが大学(医学部を含む)卒業まで1人月額25万円を支払う。
私立大学医学部に進学する場合、子らが直接Yに希望を解絶え、不足分については別途協議する。

財産分与として、母に前記マンションの持分2分の1を分与し、母子に住まわせ、Yにおいて住宅ローンを完済し、将来Yの持分(残り2分の1)もXに譲渡。
Yは、平成25年に再婚⇒養育費の減額調停⇒大阪高裁は、標準的算定方式に準拠し、養育費減額の申立てを却下。
母は、Yに対し、子らとの面会交流を求める調停を申し立てたが、Yはこれを拒み、審判で認容された後も子らとの交流に応じていない。
母は、Yに対し、奨学金を受けるためXを扶養家族から外すよう求めたが、これも拒否。
Xは、平成27年4月、2浪して私立大学医学部に入学。
医学部進学後の学費を扶養料として支払うよう求めて調停を申立てが、平成29年不成立⇒審判手続きに移行。
  原審 Xの私立大学医学部への進学に係る追加費用の負担について、
離婚時の調停条項

YはXが医学部に進学した場合を含め、大学卒業まで扶養義務を履行することを合意。
本件離婚の養育費は、私立大学を含む医学部進学を前提として、既存の養育費では不足が生じる場合、XからYに対し、扶養義務の履行として追加費用を請求できることが規定。
Xが医学部在学中に要する追加費用は、学納金や書籍代等(合計3230万円)であり(Xの生活費等は除かれる)、
これをYと母の基礎収入で按分弁済(9対1)
⇒Yの分担k額2907万円程度。
ここから、養育費一時金500万円と毎月25万円の6年分(1800万円)、さらにXが高校卒業後(2浪中)の養育費(600万円)のうち200万円の合計2500万円を控除⇒Yが分担すべき追加費用は、6年間で407万円(月額5万7000円)
    X・Y双方が抗告
  判断 Yは、離婚時、Xの私立大学医学部進学への希望に沿い、
養育費だけでは医学部の学費等を賄えない事態を想定し、Xに対し、追加費用(扶養料)を負担する意向を有していた。 
分担の対象:
大阪高裁決定のいて、先に定められた養育費が標準的算定方式に基づく算定金額を下回ることがないとの判断に着目。
⇒既存の養育費のうち標準的算定方式では賄えない部分(これが医学部の学費に当たる。)のみを扶養料として請求できる。
Yが負担すべき前記追加分(扶養料)の額の認定:
Xが医学部在学中に要する追加費用は、学納金等約3200万円。
そこから公立学校の教育費相当額(年間33万円)の6年分を控除した3000万円程度。
Yと母との按分割合:
母がその後、薬剤師として稼働し始めたほか、Yがローン全額を負担するマンションに居住
⇒Y4に対し母1とし、Yの負担額は2400万円。
ここから、先の養育費一時金500万円とXの2浪目の養育費(年額300万円)を控除し、さらに、
Xの養育費(月額25万円)が標準的算定方式の上限(月額18万円)を越えている⇒そこに私立大学の学費も一部考慮されたものとみて、本件の医学部在学中の6年間の養育費のうち月額10万円(720万円)を控除すべき

Yの分担額を6年間で880万円程度(年額150万円)と認定。
支払方法は、学納金の納期限に合わせて年3回の分割払い。
  解説 父母が離婚に際し子の養育費を定めても、その後、子が要扶養状態にあるならば、子は自ら申立人となって義務者に対し、扶養料を請求できる。 
子が成人に達すると、原則として要扶養状態は解消される。
but
大学生など独立して生計を営むことができない場合、義務者の承諾(黙示を含む)があれば、大学卒業まではなお未成熟子として扶養料を請求することができる。
  ●分担の可否
原審・抗告審とも、
Yと母の離婚時において、YはXが大学卒業まで扶養義務を履行することを合意した上、私立大学を含む医学部進学を前提として、養育費に不足が生じる場合、Xから扶養義務の履行として追加費用を請求できることが想定。

①離婚時の調停条項の記載内容や、
②Y・母ともに医師一家に育ち、Yには医師として高額の収入がある
ことからすると、Y(義務者)の承諾を十分認め得るケース。
  民事p49
札幌高裁H30.1.30  
  離婚後再婚と養子縁組⇒事情変更ありで養育費算定
  事案 XがYと離婚後、公正証書により両名間の子の養育費として月額4万円を支払うとの合意⇒その後再婚し、再婚相手の子らと養子縁組⇒事情変更があたっとして、養育費を月額6616円に減額することを求めた事案。 
  原審 事情変更を肯定⇒養育費の額を3万3000円に減額する旨の審判。 
  判断 ①前記公正証書作成後、Xが再婚相手の子らに対する扶養義務を負うに至った
②当事者双方の収入が変動
⇒公正証書が作成された後の事情を考慮して未成年者の養育費を算定するのが相当。 
前記公正証書が作成された当時の双方の収入や扶養家族の状況を前提として、標準算定方式を参考に養育費を試算⇒試算額は月額1万5282円。

当事者双方は、同公正証書において、これを2万4718円加算する趣旨であったと解するのが合理的。
以上を参考に、本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、Xの負担すべき未成年者の養育費の額を月額2万円とするのが相当。
  解説 民法 第766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
民法766条3項:
家庭裁判所は、離婚後の子の養育費に関する協議又は審判による定めを、必要があると認めるときは、変更することができる。
一般に、
「法的安定性の要請から、前協議又は審判の際に予見されなかった事情であり、かつ、前協議又は審判を維持することが困難な程度の事情の変更が顕著であることを要する」と解されている。
養育費の算定方式:
労研方式、生活保護基準方式、標準生計費方式等

養育費の程度を決める算定基準:
一般的には、収入を按分し、同一水準の生活費を出す方法
本件:
新たな養育費の負担を定めるものではなく、合意で定められた養育費の額を変更⇒合意の意思を尊重するのが相当。
経済的には、一切の事情を考慮し、月額2万円が相当と判断。
  民事p55
大阪地裁H30.1.11  
  陳述書の作成等が名誉毀損となると主張⇒不法行為に基づく損害賠償請求(否定)
  事案 A大学の教授であったXが、当時A大学の学生であったYが
「私が、A大学大学院在学中にX教授からセクハラ・アカハラ被害を受けたことは事実であり」などと記載された陳述書を作成し、本件陳述書がYの了解の下に、Xと第三者との間の別件訴訟において書証として提出
⇒名誉を毀損されたなどとして、Yに対し、不法行為に基づき慰謝料等を請求。 
  争点 ①本件陳述書によってXの名誉が毀損されたか
②Yが本件陳述書を作成し訴訟において提出されることを了解したことが違法か 
  判断 ●争点① 
XがYに対するセクハラ・アカハラ行為をした旨の本件陳述書の記載内容がXの社会的評価を低下させることは明らか。
⇒本件陳述書が作成され、別件訴訟において書証として提出されたことにより、Xの社会的評価が低下し、Xの名誉が毀損された。
  ●争点② 
民事訴訟における陳述書が主尋問を一部代替又は補完する機能のみならず作成者の法廷での供述内容を事前に相手方に明らかにする証拠開示機能(反対尋問権保障機能)を有している
⇒その真実性の要請のみを過度に重視すべきではない。
仮に、・・・とすれば、、陳述書の作成者は自己の認識にかかわらず裁判所によって認定されることが確実と思われる事実しか記載しなくなる
⇒陳述書の前記機能が失われるとともに当事者の立証活動に大きな萎縮的効果が生じ、ひいては実態の解明を困難にするなど、民事訴訟の運営に支障を来すことが容易に生じ得る。

当事者等の社会的評価を低下させる事実や当事者等の名誉感情を害する事実が記載された陳述書を作成し訴訟において書証として提出する行為は、
作成者が陳述書記載の当該事実の内容が虚偽であることを認識しつつあえてこれを記載し行なった場合に限り、違法性を帯びる。
本件陳述書についてはその内容(セクハラ・アカハラ被害)が虚偽であるとまでは認められない
⇒Yが本件陳述書を作成し訴訟において書証として提出されることを了解したことは、違法性を帯びず、Yに不法行為は成立しない。
  解説  民事訴訟におけつ当事者等による陳述書の作成・提出行為がどのような場合に名誉毀損として不法行為に当たるか? 
①当該陳述書の内容が、要証事実に関連性を有し、明らかにする必要性がある限り、他人の名誉を毀損し、もしくは侮辱することになったとしても、それが真実と認められる場合には、違法性を阻却し、不法行為に当たらない。
(東京地裁H13.4.25)
②その当事者において、特に故意に、しかも専ら相手方を誹謗、中傷する目的の下に、粗暴な言辞を用いて主張立証行為を行ったような場合等特段の事情がない限りは、原則として違法性は認められない。
(東京地裁H14.12.17)
③~⑥
⑦違法と評価されるには、「その記載内容が客観的な裏付けを欠く(客観的裏付けのあることを立証できない場合を含む。)というだけでは足りず、少なくとも、陳述書に記載された事実が虚偽であること、あるいは、判断等の根拠とされた資料に看過できない誤りがあり、作成者がその誤りを知り又は当然に知り得たことを要する」(東京地裁H27.10.30)
  民事p59
京都地裁H29.12.7  
   
  事案 冬季登山の救助中の市消防局のヘリコプターでの事故⇒国賠請求(否定) 
Aの妻及び子である遺族Xらが、Yし消防航空隊の救助活動には、救助器具の選択を誤ったなど5つの過失がある⇒Y市に対し、国賠法1条1項に基づき、約9169万円余の損害賠償請求を求めた。
  判断 山岳遭難者の救助に際し、救助隊員らに課される義務:
適切な救助方法の選択に当たっては実際に救助に当たる救助隊員の合理的な判断に委ねられるのが相当。
本件のような高高度における救助隊員の救助活動については、救助時の救助隊員及び要救助者が置かれた具体的状況に照らし、救助隊員が、救助に際して明らかに合理的と認められない方法をとった場合は、職務上の注意義務を欠いた違法なものとなるが、
そうでない場合は、救助方法の選択等は救助隊員の合理的裁量に属し、違法とはならないと解すべき。 
争点①のY救助隊員らが救助器具としてDSVを選択したことについて、かかる選択に問題ない。
争点②のDSVの装着時、D救助員がAにした胸バンドの縛着が不十分であったかという点については、これを推認させる的確な証拠はない。
その他、Y救助隊員らが救助に際して明らかに合理的と認められない方法を採ったことは認められない。

Y救助隊員らには過失はない。
  解説 北海道積丹岳の遭難死で、北海道警察の救助活動の違法性が問われた事案:
違法というためには、救助を行う際の救助隊員及び遭難者が置かれている具体的状況に照らして、明らかに合理的と認められない方法を採ったと認められることが必要。

本判決とほぼ同様の判断基準。
  民事p70
横浜地裁小田原支部
H29.9.15  
  校外授業中の交通事故で死亡⇒国賠請求(肯定)
  事案 小学校6年生の児童が校外授業中に交通事故に遭い死亡した事例。 
  Aの両親であるX1及びX2が、
Y2に対し運行供用者責任及び不法行為責任を、 
Y1市及び費用負担者であるY3県に対し、本件小学校の教員Bが授業の実施にあたって児童の生命身体に対する安全を確保するために必要な措置を講じていなかったとして国家賠償責任を、
それぞれ求めた。
Aの弟であるX3も、Yらに対し、共同不法行為に基づき、固有の慰謝料請求を求めている。
  判断  自動車を運転していたY2について、
進路前方の安全を十分に確認しないまま漫然時速5キロメートルで発進させて本件交通事故を発生させた
⇒運行供用者責任及び不法行為責任を認めた。
過失相殺の主張:
Y2は、本件小学校正門前でAがしゃがんで絵を描いていることを認識しながら、その直後、車を発進させる際にこれを失念し、本件交通事故を生じさせたのに対し、
Aは図工の授業中に絵を描くためにB教諭の許可を得て事故現場にいた

本件交通事故はY2の一方的な過失によって生じたものというべきであり、Aに過失相殺すべき落ち度はない。
  本件交通事故当時、
本件小学校の児童を迎えに来た保護者の車両が本件小学校正門前に複数台駐車することが常態化していた。

B教諭としては、児童が図工の授業中に本件公道を含む校外で絵を描くことを認めれば、前記状態のため本件公道をさほど危険なものと認識しない児童において前記車両の付近でしゃがむなどして絵を描く者が出てくることや、その結果児童が前記車両によって死亡することを容易に予見することができた。

B教諭の過失を肯定。
Y1市の公権力の行使にあたる公務員であるB教諭が、その職務を行うについて、過失によって違法にA及びXらに損害を加えた
⇒Y1市は国家賠償責任を負う。
Y3県は、本件小学校の職員の給与その他の費用も負担していた
⇒Y3も国家賠償責任を負う。
  損害額:
Aの死亡による損害を6310万円余
Xらの固有の損害額を各100万円
弁護士費用を加算し、
両親のX1、X2にはそれぞれ3580万円余
弟であるX3には110万円
を認めた。 
  解説 校外活動における担当教諭の注意義務を考えるにあたっては、
時間の経過に従い、
①安全な授業計画を立案しているか、
②授業前に児童に対して適切な指導をしていたか、
③授業中に児童を適切に指導監督していたか
④事故後に適切な対応をしたか
の観点から検討するのが大切。 
  労働p75
大阪高裁H29.12.26  
  東日本大震災直後の被災地支援で派遣⇒くも膜下出血で搬送、死亡⇒公務上の死亡(肯定)
  事案 大阪府職員の被災地派遣先における死亡が、地方公務員災害補償法(地公災法)所定の公務災害にあたるかどうかが争われた事案。
  原審 2回にわたる派遣の経緯等を認定。
地公災法31条にいう公務上の死亡(同法施行規則別表第1第8号にいう「相当の期間にわたって継続的に行う長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務に従事したために生じた」もの)には当たらない
⇒Xの請求を棄却。
  判断 東日本大震災の被害の甚大さ、
宿泊先ホテルの状況、
被災地における自動車運転の困難性
発症当日午前の頭痛(前駆症状)と服薬
被災地において公務に従事する職員のトラウマティックストレス(惨事ストレス)に関する知見等
を新たに認定。 
①本件被災地派遣における運転業務は軽度のものとはいえず、強い精神的緊張を強いられるもの
②前記のような体調不良があっても休めるような状況にはなかった
③本件疾病はX主張の脳出血(脳内出血)ではなくY主張のくも膜下出血であった

①前記業務はくも膜下出血の発症要因となり得る程度の高度の負荷であったというべき
②前駆症状が生じた後も前記業務を継続せざるを得なかったこと等によって早期の治療機会を喪失したといえる

本件疾病による死亡は公務上の死亡に当たる。
地公災法にいう公務上の災害とは、職員が公務に起因して負傷又は疾病を発症した場合をいい、
公務と疾病等との間に条件関係が存在することのみならず、社会通念上、その疾病等が公務に内在又は随伴する危険が現実化したと認められる関係、すなわち、相当因果関係があることを要する。
本件のような脳血管疾患にあっては、当該職員と同程度の年齢・経験等を有し、基礎疾患を有していても通常の職務を支障なく遂行することができる程度の健康状態にある者を基準として、
公務による負荷が、医学的経験則に照らし、客観的に、脳血管疾患の発症の基礎となる病変を、自然的経過を超えて著しく増悪させ得るものと認められる場合に、
当該疾患発症は公務に内在する危険が現実化したものと評価して、
公務起因性を認めるのが相当であり、
Yが援用する認定基準等には法的に拘束されない。
  解説 本判決:
原判決と異なり、認定事実を加えた上で、
①公務自体の過重負荷と
②公務中の治療機会喪失
の両方を認めた。
分岐点は、
①従前と同じ自動車運転業務に従事しており、
②運転時間自体はそれほど長いとはいえず、
③業務終了後の休養中に倒れた
といった点を重視するか、
④本件被災地派遣における自動車運転業務の特殊な状況等を重視するか。
参考判例
支店長付きの運転手が自動車運転の業務中に発症したくも膜下出血が業務条の疾病に当たるとした最高裁H12.7.17
公務として行われたソフトボールの競技に参加した地方公務員の急性心筋こうそくによる死亡が地公災法上の公務上の災害に当たるとした最高裁H6.5.16
心臓疾患を有する地方公務員が公務として行われたバレーボールの試合に出場した際に急性心筋こうそくを発症した場合につき同人の死亡とバレーボールの試合に出場したこととの間の相当因果関係を否定した原審の判断に違法があるとした最高裁H18.3.3
地方公務員(小学校教諭)が午前中に出血を開始した特発性脳内出血により当日午後の公務(児童のポートボールの試合の審判)に従事中に意識不明となってとあれ入院後死亡した場合につき死亡の公務起因性を否定した原審の判断に違法があるとした最高裁H8.3.5
  刑事p104
札幌高裁H29.4.14  
  危険運転致死傷罪の共同正犯と救護・報告義務
  訴因 ①Aの酒気帯び運転
②A・Bにつき被害者5名それぞれに対する危険運転致死傷の共同正犯(予備的にAの過失運転致死傷、Bの過失運転致死)、
③Bの救護・報告義務違反 
主張 被告人両名:
①赤信号を見落としただけで殊更に無視していない
②信号無視高速運転の共謀はない
被告人B:
③Aと共謀していない⇒B車が轢跨したV3以外の被害者に対する交通事故については救護・報告の義務を負わない
④V3に対する交通事故については、V3を轢跨し引きずった認識がなかった⇒救護・報告義務違反の故意を欠く
  解説 ●危険運転致死傷罪の共犯に関する裁判例 
危険運転致死傷罪:
構成要件として、
正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為や重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為等を行い、
よって人を死傷させたことを規定

その「運転する行為」を行う者として想定されるのは「運転席に位置して運転操作をする者」
最高裁H25.4.15:
①運転者と被告人両名(先輩)との関係
②運転者が被告人両名に車両発進につき了解を求めるに至った経緯及び状況
③これに対する被告人両名の応答態度等

運転者が車両を運転するについては、先輩であり、同乗している被告人両名の意向を確認し、了解を得られたことが重要な契機となっている一方、
被告人両名は、運転者がアルコールの影響により正常な運転が困難な状態であることを認識しながら、車両発進に了解を与え、その運転者の運転を制止することなくそのまま車両に同乗してこれを黙認し続けた

上記の被告人両名の了解とこれに続く黙認という行為が、運転者の運転の意思をより強固なものにすることにより、運転者の危険運転致死傷罪を容易にしたこと明らか

危険運転致死傷幇助罪の成立を肯定
  ●複数の車両で走行した場合の共同正犯 
本件:信号無視高速運転類型の事案であり、共同正犯として起訴されたのは競い合うように高速度で走行した2台の運転者
  原審 ①AとBがそれぞれ相手の車が高速度で走行する状況を認識した上で、一方が速度を上げれば他方も速度を上げるなど、速度を競うように高速度で走行しており、事故交差点に接近する際も、相手方停止しようとしない走行状況を認識していた
②AとBの双方が、相手が赤色侵害に従わずに高速度のままで交差点を通過しようとする意思を有していることを認識し、自らも一緒に赤色信号に従わずにそれまでの走行と同様に競うように高速度のまま交差点を通過しようとする意思を有していた

交差点に侵入する時点において、赤色信号に従わずに高速度のままで交差点を通過する意思を相通じていた

共謀の成立を認めた。
  判断 AとBとが、交差点に至るに先立ち、殊更に赤色信号を無視する意思で、両車両が交差点に進入することを認識し合い、
そのような意思を暗黙に相通じて共謀を遂げた上、
各自がそのままの高速度による走行を継続して交差点に進入し、危険運転行為に及んだことが肯認できる

原判決を支持 
  運転者AがA車を運転して赤色信号を無視して高速度で交差点に進入した行為がA車による危険運転致死傷罪の実行行為。

B車の運転者であるBは、実行行為を分担したのではなく、共謀により加担した者と位置づけられる。
B車による危険運転致死罪の実行行為に対するAの関与も同様。

観念的には、
Bと共謀してAが実行行為に及んだA車による危険運転致死傷(V1~V5)の共同正犯と、
Aと共謀してBが実行行為に及んだB車による危険運転致死(V3)の共同正犯とが並立。
控訴審判決でも、AとBが共謀を遂げた上で各自が危険運転の実行行為に及んだとして、この点が明確に。
本件のような類型の危険運転致死傷罪の共同正犯は、
運転者の信号無視高速運転について意思を連絡した者すべてに共謀共同正犯が成立するのか、
限定的な範囲で成立するとすべきなのかは、
今後の検討課題。
ex.
A社の同乗者がAの危険運転行為を提案し、積極的に賛同した場合。
AとBが信号無視高速運転の意思を共有して交差点に接近したが、A車のみが交差点に進入して交通事故を起こし、B車は交差点に進入しなかった場合。
  ●救護・報告義務を負う運転者 
  規定 道交法 第七二条(交通事故の場合の措置)
 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。
道交法 第一一七条
車両等(軽車両を除く。以下この項において同じ。)の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があつた場合において、第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項前段の規定に違反したときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2前項の場合において、同項の人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
  道交法72条の義務は、当該交通事故に関与した車両の運転者に課せられたもの。
名古屋地裁H22.1.7:
危険運転致死傷に基づく運転者の不救護・不申告について、同乗者が共謀共同正犯又は幇助犯として起訴されたが、いずれも成立しないとされた。
  本件の事案:
Bだけでなく、V車と衝突したAも現場から走り去ったとした場合、危険運転致死傷罪の共同正犯たるAとBに救護・報告義務違反の共同正犯が成立するのか、それぞれが単独犯になるのか?
本件では、A車がV車と衝突してV1~V5を負傷させた事故(A車事故)と、B車がV3を轢跨して負傷させた事故(B事故)が連続して発生。

運転者の救護・報告義務を検討するに当たり、両方の事故を包括して考えるのか、個別に考えるのか?
被告人Bは、A車事故については救護・報告義務を負わない、B事故について認識がないと主張。
but
原審は、B車事故についての救護・報告義務違反について検討するまでもなく、A社事故についての救護・報告義務があったとし
Bは、Aとの間で危険運転致死傷罪の共謀が成立する⇒A車がV車に衝突したことについてもBは責任を負う関係にある。すなわち、A車がV車に衝突して被害者らを負傷させた交通事故も、Bの運転に起因する。

罪となるべき事実として
「Bが、B車を運転中、V1及びV3らに傷害を負わせる交通事故を起こし、もって自己の運転に起因して人に傷害を負わせたのに、B車の運転を停止して同人らを救護する等必要な措置を講じず、事故発生の日時等を警察官に報告しなかった」との事実を認定。
  車両や歩行者との衝突・ 轢過など車体が直接接触することがなくても、車両の交通により人が死傷し、これとの相当因果関係が認められることもあり得る(最高裁昭和38.1.24)。
控訴審も、BがAとの間で危険運転行為の共謀を遂げたことを理由として、BにA車事故に基づく救護・報告義務の違反が成立するとした判断を支持。
2372   
  行政p11
最高裁H29.12.15   
  競馬の当たり馬券の払戻金が雑所得、外れ馬券の購入代金が必要経費とされた事例
  事案 長期間にわたり馬券を購入し、当たり馬券の払戻金を得ていた被上告人が、
平成17年分から同22年分までの所得税の確定申告。
その際、前記払戻金に係る所得は雑所得に該当し、外れ馬券の購入代金は必要経費に当たるとして、総所得金額及び納付すべき税額を計算

所轄税務署長から、
前記所得は一時所得に該当し、外れ馬券の購入代金を一時所得に係る総収入金額から控除することはできないとして、
前記各年分の所得税に係る各更正並びに同17年分から同21年分までの所得税に係る無申告加算税及び同22年分の所得税に係る過少申告加算税の各賦課決定

前記各更正のうち確定申告額を超える部分及び前記各賦課決定の取消しを求める事案。
  争点 被上告人が得た払戻金が「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に該当するか否か、
外れ馬券の購入代金がその必要経費に当たるか否か 
  解説 最高裁H27.3.10:
払戻金に係る所得が雑所得に当たるとされ、外れ馬券の購入代金が必要経費に当たるとされた。
but
その事案は、馬券の購入態様が「馬券を自働的に購入するソフト」を使用して、「個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入」をすることにより多額の利益を恒常的に上げるもので、そのような一連の馬券の購入が「一体の経済活動の実態を有する」と評価されるもの。 
but
本件:自動購入ソフトを使用せず、個々のレースに着目して馬券購入
一審 ①具体的な馬券の購入を裏付ける資料が保存されていない⇒被上告人が機械的、網羅的に馬券を購入していたのか不明
②被上告人がレースの結果を予想し、どのように馬券を購入するかを個別に判断していたというのであれば、その購入態様は一般的な競馬愛好家と質的に大きな差があるとはいえず、自動的、機械的に馬券を購入していたともいえない

被上告人による一連の馬券の購入は一体の経済活動の実態を有するとはいえない。

被上告人が得た競馬所得は一時所得に区分されるものであり、外れ馬券の購入代金はその算定上、差し引かれるものではない。
  原審 ①被上告人は、期待回収率が100%を超える馬券を有効に選別し得る独自のノウハウに基づいて長期間にわたり多数回かつ頻繁に当該選別に係る馬券の網羅的な購入をして100%を超える回収率を実現することにより多額の利益を恒常的に挙げていた
②このような一連の馬券の購入は一体の経済活動の実態を有するといえる

被上告人が得た競馬所得は雑所得に区分されるものであり、外れ馬券の購入代金はその必要経費に当たる。 
  判断 国側の上告受理申立てに基づき、上告棄却。 
  解説  平成27年最判:
飽くまで、当該事案における馬券の購入態様によって得られた払戻金が
「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」
に該当するか否かという観点から雑所得か一時所得かの判断をしたものであるが、
それが雑所得に当たるとする判断部分においては
「馬券を自働的に購入するソフトを使用して」、「個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入」をしたこと等の事情が認められる⇒「一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえる」旨が指摘。

当該事案における払戻金が雑所得に当たることを、当該事案の特徴を踏まえて説示(=事例判断)。
本判決:
①平成27年最判の事案に及ぶほどの馬券購入額や利益発生の規模、
②被上告人が6年間継続して年間を通じての収支で相当額の利益を得ており、回収率が100%を超えるような馬券の選別方法を用いていたと推認できること等の事情を総合考慮して、
被上告人が得た払戻金が「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に当たり、雑所得に区分される旨を判断。
平成27年最判:
当たり馬券の払戻金が
「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」といえるか否かにについては、
「文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情」を考慮すべきである旨説示。
  本判決:
被上告人の馬券購入態様を前提とした場合における外れ馬券の購入代金は、所得税法37条1項前段の必要経費に当たるとも判断。 
所得税法37条1項が規定する必要経費:
①同項前段にいう、いわゆる個別対応費用(当該総収入額を得るために直接に要した費用)
⇒それが生み出した収入の帰属する年度の必要経費。
②同項後段にいう、いわゆる期間対応費用(その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた必要)
⇒それが生じた年度の必要経費。
競馬ににおいては、外れ馬券の購入代金は払戻金の発生とほぼ同時に確定
⇒外れ馬券の購入代金が必要経費に当たるといえる限りは、それが同項前段の必要経費であろうが、同項後段の必要経費であろうが、必要経費に算入すべき年分に違いが生ずることはない。
本判決:
被上告人による馬券購入態様と払戻金の発生の関係に照らせば、外れ馬券の購入代金は同項前段にいう必要経費に当たると判断。
被上告人は、偶然性の影響を減殺するために長期間にわたって頻繁に馬券を購入しており、そのような購入によって年間を通じての収支で利益が得られるようにしていた。
⇒外れ馬券の購入を含めた被上告人の馬券購入を一連の行為と捉えて全体的にみた場合には、外れ馬券の購入代金を含む馬券の購入代金が総体として払戻金の発生と対応していると考えられる
⇒所得税法37条1項前段の必要経費に該当。
  民事p16
最高裁H29.12.21  
  国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律⇒子の返還を命じた終局決定が117条1項の規定により変更された事案
  事案 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(「実施法」)に基づく父Xの申立てについて、母Yが、その確定後の事情の変更によりこれを維持することが不当となったと主張⇒実施法117条1項に基づき、これを変更してXの申立てを却下するよう求めた。 
  経緯 X、Y及び両名の子4名(「本件子ら」)は、米国において同居。
Yは、平成26年7月、同年8月中に米国へ戻るとXに約束して、本件子らを連れて日本に入国し、Yの両親宅に居住。
入国当時、子らのうち
年長の双子であるA及びBは11歳7か月
年少の双子であるC及びDは6歳5か月。 
Yは、Xから平成26年9月以降もしばらく日本にいるように言われ、Xの了承を得て本件子らをインターナショナルスクールに入学させた。
その後、本件子らの米国への帰国についてXとYの意見が対立し、Xは、本件子らについて実施法に基づくこの返還の申立て。
家裁調査官の調査:
A及びBは米国への返還を強く拒絶
C及びDも米国への返還に拒否的な意見
本件子らはいずれも他の兄弟姉妹と離れたくないと述べた。
Xはこの頃には、本件子らを適切に監護養育するための経済的基盤を有しておらず、その監護養育について親族等から継続的な支援を受けることも見込まれない状況。
  高裁 平成28年1月、
A及びBについては、実施法28条1項5号の返還拒否事由があるとしながら、
米国に返還することが子の利益に資する
⇒同項ただし書を適用すべきものとして、
本件子らをいずれも米国に返還するよう命ずる旨の決定(「変更前決定」)をし、同月確定。
  経緯 Xは、平成28年2月、Y及び本件子らと居住していた米国の自宅が競売⇒同月8月頃、自宅を明け渡し、知人宅の一室を借りて住むようになった。 
Xが代替執行を申立て

執行官は、平成28年9月、本件子らをXと面会させようとしたが、本件子らは、米国への返還を拒絶し、Xと面会しようとしなかった。
執行官は日を改めて、A及びBとXとの間で会話をさせたが、両名の意向に変化はなく、執行を続けると両名の心身に有害な影響を及ぼすおそれがある⇒前記代替執行を執行不能により終了させた。

Yが実施法117条1項に基づいて変更前決定の変更を求める申立て。
  規定 実施法 第二八条(子の返還拒否事由等)
 裁判所は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる。
一 子の返還の申立てが当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時から一年を経過した後にされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応していること。
二 申立人が当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に子に対して現実に監護の権利を行使していなかったこと(当該連れ去り又は留置がなければ申立人が子に対して現実に監護の権利を行使していたと認められる場合を除く。)。
三 申立人が当該連れ去りの前若しくは当該留置の開始の前にこれに同意し、又は当該連れ去りの後若しくは当該留置の開始の後にこれを承諾したこと。
四 常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること
五 子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。
六 常居所地国に子を返還することが日本国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められないものであること。
  実施法 第一一七条(終局決定の変更)
 子の返還を命ずる終局決定をした裁判所(その決定に対して即時抗告があった場合において、抗告裁判所が当該即時抗告を棄却する終局決定(第百七条第二項の規定による決定を除く。以下この項において同じ。)をしたときは、当該抗告裁判所)は、子の返還を命ずる終局決定が確定した後に、事情の変更によりその決定を維持することを不当と認めるに至ったときは、当事者の申立てにより、その決定(当該抗告裁判所が当該即時抗告を棄却する終局決定をした場合にあっては、当該終局決定)を変更することができる。ただし、子が常居所地国に返還された後は、この限りでない。
  原審 変更前決定の確定後に生じた事情の変更により、本件子らが米国に返還された場合に、Xが本件子らを監護することが困難な事情に陥った
⇒実施法28条1項4号の返還拒否事由(「4号拒否事由」)に該当
⇒実施法117条1項に基づき、変更前決定を変更し、本件申立を却下。
  Xから許可抗告の申立て⇒原審が許可 
  判断 変更前決定の確定後の事情の変更により、A及びBについては実施法28条1項ただし書の規定を適用すべきであるとはいえず、
C及びDについては同項4号の返還拒否事由が認められる

変更前決定を維持することが不当となるに至ったと認め、本件申立てを却下するのが相当
⇒本件申立てを却下。 
  解説  本件では、変更前決定確定後の「事情の変更によりその決定を維持することがを不当と認めるに至ったとき」に当たるかが争われ、

原審:
変更前決定確定後の事情の変更により、本件子らについて
「常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険」という4号拒否事由が認められる。

本決定:
A及びBについて、Xにより監護養育態勢が看過し得ない程度に悪化したことから、5号拒否事由が認められるにもかかわらず米国に返還することが子の利益に資するとはいえない⇒実施法28条1項ただし書により返還を命ずることはできない。 
  5号拒否事由:
「子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。」

国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(「条約」)13条2項の規定に対応したもの。

立法担当者:概ね10歳程度に達していれば5号拒否事由の要件を満たす場合が多い。
  条約13条2項:
子の異議が認められる場合には子の返還を命ずることを拒むことができる。

実施法28条:
1項本文において、返還拒否事由があると認めるときは子の返還を命じてはならないと定めた上、
同項ただし書において、5号拒否事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる旨を定めた。

実質において違いはない(立案担当者)。 
  条約13条2項により子の返還を命ずることを拒むことができる場合に、子の返還を命ずるか否かの裁量権の行使:
①子の迅速な返還という条約の政策目的と
②子の自律的意思の尊重
とのバランスを図る必要。 
本決定:
変更前決定後にXの監護養育態勢が看過し得ない程度に悪化⇒このバランスに変化を生じたと判断したもの。
  A及びBについて米国への返還を命ずることができない
⇒C及びDのみを米国に返還すると、両名を兄弟であるA及びBから引き離す結果を生ずる。
本決定:
C及びDについて、両名の米国への返還により兄弟分離を生ずることなど本件に現れた一切の事情を考慮し、4号拒否事由が認められるとした。
  民事p20
東京高裁H29.6.30  
  元夫が元妻に財産分与を求めた事案での不動産の持分の分与
  事案 元夫である原審申立人が元妻である原審相手方に対し財産分与を求めた事案。 
不動産について、
元夫と元妻がそれぞれ2分の1の持分で共有し、その購入のための借入金の債務が残っていた。
元夫は、本件不動産の元妻共有持分の取得を希望。
  原審 ①本件不動産の借入金について、元妻が主債務者、元夫が保証人となっている
②元妻の借入金債務を被担保債権として本件不動産に抵当権が設定されている

元妻が返済を怠った場合、抵当権が実行される可能性があり、
元夫が同債務を返済すると求償関係の問題が生じる

本件不動産の元妻持分を元夫に分与することは相当でない。 
  判断 財産分与の対象財産のうち元妻名義の普通預金は、元夫と元妻が本件不動産購入のために連帯債務として借り入れた住宅ローン(前記借入金債務)の預金担保となっており、その預金額と住宅ローン債務額がほぼ同じ

財産分与の対象となる資産としては預金、債務とも0円として、
本件不動産には抵当権が付されているが、不動産評価額から被担保債務額を控除しない。 
元夫と元妻が被担保債権について連帯債務を負い、元妻名義の預金が担保とされている⇒本件不動産に設定されている抵当権が実行される可能性は相当程度に低く、本件不動産の元妻共有持分を元夫に分与することが相当。
  民事p25
東京高裁H29.4.27  
   
  事案 相殺の抗弁が時機に遅れた攻撃防御方法に当たるかどうかが争われた。 
  経緯 Xは、平成26年12月17日に、Yに対し、業務委託契約に基づき、未払委託料及び源泉所得税等の立替金の合計1045万6996円円の支払を求める本件訴訟を提起。
提訴から10か月近く経過した同年10月14日の第5回口頭弁論期日において、Yは、業務委託料に水増しなどがあるため合計885万5700円の不当利得返還請求権及びYの理事兼従業員の報酬名目で合計540万円を支払わせたことによる同額の不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているとして、これらを自働債権として相殺の意思表示をした。
Xは、相殺の抗弁は時機に遅れた攻撃防御方法であるとして却下を求めた。
  規定 民訴法 第156条(攻撃防御方法の提出時期)
攻撃又は防御の方法は、訴訟の進行状況に応じ適切な時期に提出しなければならない
民訴法 第157条(時機に後れた攻撃防御方法の却下等)
当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。
2 攻撃又は防御の方法でその趣旨が明瞭でないものについて当事者が必要な釈明をせず、又は釈明をすべき期日に出頭しないときも、前項と同様とする。
  原審 相殺の抗弁を却下した上、弁論を終結し、Xの請求につき、1004万7036円の支払を求める限度で認容。 
  判断 相殺の抗弁の主張が訴訟の完結を遅延させるものということはできない。 
  解説 時機に遅れたかどうかについては、審理状況などを考慮して総合的に判断される。 
相殺の抗弁については、時機に遅れたものかどうかの判断において、その自働債権が本来的には訴訟の経過と関係なく権利行使が可能
⇒相殺適状となった時期が重要。(大判昭和17.10.23)
第12回口頭弁論期日で初めて提出された相殺の抗弁の主張を時機に遅れたものとして却下。
本件:
①Xの釈明事項や客観的な資料の提出をまって、Yにおいて、相殺の抗弁の基礎となる事実を形成させる途上にあり、
②請求に係る業務委託料と抗弁の水増し分の不当利得額がいわば表裏の関係にある⇒当事者の合意の内容を確定させることで、YのXに対する相殺の抗弁の内容も確定される
⇒訴訟の経過や審理の内容などからすれば、抗弁の機会を奪うべきではない。
③原審の第5回口頭弁論期日以降も当事者の主張立証がなされることは明らかであった。

原審に審理不尽。
  民事p40
大阪高裁H29.9.15  
  ハーグ条約実施法に基づき子の返還を命じた原審を維持
  事案 X(夫・Z国籍)とY(妻・日本国籍)は平成26年婚姻し、長女(現2歳)をもうけた。
長女は出生以来、X・Y夫婦と一緒にZ国で生活。 
Yは、平成28年、長女を連れて日本に帰国し、以降、わが国で生活。
現在、長女のZ国への渡航は妨げられている。(本件留置)
Xは、Yに対し、平成29年、
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(いわゆるハーグ条約実施法)に基づき、長女を常居所地国であるZ国に返還するよう求めた。
  規定 実施法 第二七条(子の返還事由)
 裁判所は、子の返還の申立てが次の各号に掲げる事由のいずれにも該当すると認めるときは、子の返還を命じなければならない。
一 子が十六歳に達していないこと。
二 子が日本国内に所在していること。
三 常居所地国の法令によれば、当該連れ去り又は留置が申立人の有する子についての監護の権利を侵害するものであること。
四 当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に、常居所地国が条約締約国であったこと。
  実施法 第二八条(子の返還拒否事由等)
 裁判所は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる。
一 子の返還の申立てが当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時から一年を経過した後にされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応していること。
二 申立人が当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に子に対して現実に監護の権利を行使していなかったこと(当該連れ去り又は留置がなければ申立人が子に対して現実に監護の権利を行使していたと認められる場合を除く。)。
三 申立人が当該連れ去りの前若しくは当該留置の開始の前にこれに同意し、又は当該連れ去りの後若しくは当該留置の開始の後にこれを承諾したこと。
四 常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。
五 子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。
六 常居所地国に子を返還することが日本国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められないものであること。

2裁判所は、前項第四号に掲げる事由の有無を判断するに当たっては、次に掲げる事情その他の一切の事情を考慮するものとする。
一 常居所地国において子が申立人から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次号において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無
二 相手方及び子が常居所地国に入国した場合に相手方が申立人から子に心理的外傷を与えることとなる暴力等を受けるおそれの有無
三 申立人又は相手方が常居所地国において子を監護することが困難な事情の有無

3裁判所は、日本国において子の監護に関する裁判があったこと又は外国においてされた子の監護に関する裁判が日本国で効力を有する可能性があることのみを理由として、子の返還の申立てを却下する裁判をしてはならない。ただし、これらの子の監護に関する裁判の理由を子の返還の申立てについての裁判において考慮することを妨げない。
  争点 (1)Z国において、長女を耐え難い状況に置くことになる重大な事由があるか(法28条1項4号)
(2)Xは長女を監護する権利を行使しなかったか(法28条1項2号)
(3)Xが本件留置を承諾したか(法28条1項3号)
  原審  ●子の返還事由(法27条各号)について、
長女が16歳に達しておらず(1号)
日本国内に所在し(2号)
常居所地国と認められるZ国の法令によれば、Xは長女について監護の権利を有し、本件留置がその権利を侵害すること(3号)
本件留置の開始時にZ国がハーグ条約の締結国であったこと(4号)
を認定。
⇒本件では、子の返還事由がある。
  ●返還拒否事由について
◎(1)Z国において、長女を耐え難い状況に置くことになる重大な事由があるか(法28条1項4号)
①Z国において、Xによる長女自身に対する虐待は認められず、そのおそれもあに
②Xから長女に心理的外傷を与えるような暴力を受けるとのYの主張を裏付けるのに十分な資料も具体的な事情も認められない
③子の返還決定は、X・Yの同居を命ずるものではなく、YがZ国で個人保護命令を得ている⇒X・YがZ国で別居した場合にXがYに対し再度の暴行を加えるおそれがあるとは認められない。
④XがZ国で長女を監護することが困難な事情は認められない。
⑤YはXの暴力に起因するPTSDや住宅事情を主張するが、Yが罹患したとするPTSDの程度は判然としないし、Z国の住宅事情も、Xが実家に転居しYが自宅に戻るという選択肢もある⇒いずれも監護困難事情とは認められない。

本件では、長女を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があるとはいえない。
  ◎(2)Xは長女を監護する権利を行使しなかったか(法28条1項2号)
Yは、平成28年に長女を連れて自宅を出てシェルターに入所したが、これをもってXが長女に対する監護の権利を行使していないとはいえない。
  (3)Xが本件留置を承諾したか(法28条1項3号)
それを認めるに足りる的確な資料はない。
    ⇒Xの申立てを認容。
  判断  原審と同様、返還拒否事由はいずれも認められない
⇒Yの抗告を棄却。
(1)について、
Yは日本に帰国後も保護命令の審理や長女とXとの面会交流のためにZ国に複数回入国しているが、Xはその間保護命令に反する行動をとっておらず、そこに一定の抑止効果を認めることができる。
Yの、PTSD悪化する等の、意見書、診断書も採用せず。
(2)について
Xが監護の権利を行使しなかったのは、Yがシェルターに入所してYに居所を秘匿していたから。
(3)について
Xは、Yが長女を連れて日本に入国したことを知ると、
Z国の中央当局を通じて援助決定通知を受け、
わが国の外務省の面会交流支援事業を通じて長女と面会交流を実施するなどしている

これらの一連の経緯をみると、Xの本件申立てがYの日本入国から約1年経過しているとしても、これを留置の承諾とみることはできない。
  解説 子の返還の申立てを受けた家庭裁判所:
法27条所定の返還事由があると認めたときは、法28条所定のいずれかの返還拒否事由があると認めた場合を除き、子の返還を命じなければならない。
(ただし、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、その場合でも子の返還を命じることができる。(法28条1項柱書ただし書、裁量返還))
子の監護権の不行使(法28条1項1号):
子の返還を求める親が、監護権を有するのに現実にこれを行使しなかったという事態はあまり想定されない。
留置の承諾(同項3号):
一般的に、
紛争の経緯の中で表明された意見自体の意味内容が多義的であったり、変遷したり、双方の認識に隔たりがあることも少なくない
⇒その認定には慎重さが求められる。
裁判例:
子のわが国における滞在に対する同意・承諾といっても、一時的なものでは足りず、相当長期間にわたり居住し続けることを認めて、もはや子の返還を求める権利を放棄したと評価できる程度まで要するとするものが多い。
法28条1項4号
「常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。」:
この返還拒否事由は、子の返還を拒む親の気持ちを直截的に表明⇒その有無が争点となる事例は極めて多い。 
法は、裁判規範を明確にし、当事者予測可能性を確保する観点
⇒該当性判断に当たり考慮すべき事情を法28条2号各号に列挙。
本件でも、
Z国において長女がXから暴力等を受けるおそれ(同項1号)
長女がZ国に入国した場合、YがXから長女に心理的外傷を与えるような暴力その他有害な言動等を受けるおそれ(同項2号)
XとYとがZ国において長女を監護することが困難な事情(同項3号)
が検討された。
本件:
医師の意見書等について、
いずれも医師としての具体的な診断結果に基づくものではなく、害悪の発生を予想し、あるいはその可能性を指摘するにすぎない⇒不採用。
裁判例の中には、
医師による意見書等の信用性評価について、
①診断書等が前提としている事実関係が専ら監護親の説明に基づいており、内容の正確性が担保されていないとか、
②監護権を侵害された親と子の面会交流の状況と整合しない内容を含むとか、
③子はそれまで常居所地国では精神状態に係る診察等を受けたことがなかったとに、来日後、子の返還を請求されるや、これに呼応する形で精神科を受診させている
などの経緯が指摘されている。
  民事p47
福岡高裁H29.3.17  
  任意後見より法定後見が優先された事案
  事案 本人(X)は夫であるDと2人で暮らしていた。

平成2年からは、長男であるB及びその妻Eと同じ敷地内の棟続きの家に住み、内部ドアで行き来するようになった。

Dは、昭和43年にF株式会社(F社)を設立してその代表者となっていたが、
別途、Xと共有するマンションの賃料等の管理会社として有限会社Gを設立し、その代表者となった。
F社においては、平成20年にBがその代表者に。 
Bの妻Eは、F社やG社の経理を担当し、Xの預金通帳の管理を任さるるなどしていた
but
Xの了解を得ずにその口座から金銭を払い戻してF社への貸付に回したり、G社の口座からX名義の口座又はその他に移すべき金銭を、引き出した後にF社の債務弁済に充てる等の行為
⇒Xと両会社との間で不明朗な金銭貸借関係が生じた。
BもF社の代表者としてEの行動に起因するF社の債務につき、Xに対して同額の債務を負う。
Xは、平成21年に、BとEに対し自宅からの退去を求め、更に自宅の内部ドアに施錠してBらが行き来できないようにした。
Dは平成22年2月に入院。
Xは、平成22年12月28日に長女であるAとの間で、Aを後見受任者とする任意後見契約(「第1契約」)を締結し、その後認知症の症状が進み、平成26年7月からA宅に居住。
Xは同年8月6日にAと口論となって自宅に戻る。
Bは、Xを医師に受診させるようになった。
Aは、同月18日、原裁判所に任意後見監督人選任の申立て。
but
Xは家裁調査官の調査の際に、第1契約の発効について同意しなかった。

Aは同月30日に申立ての趣旨を法定後見開始に変更。

同月29日に第1契約が解除されるとともに、XとBとの間でBを任意後見受任者とする任意後見契約が締結。
⇒Bは任意後見監督人選任の申立て。 
原裁判所は、法定後見開始申立事件につき、2回にわたる鑑定を実施。
1回目は補佐相当
2回目は後見相当
との鑑定結果。 
  規定  任意後見法 第10条(後見、保佐及び補助との関係)
任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。
  原審 第1契約の解除及び第2契約の締結はいずれも効力を生じている。 
Eの預金払戻しに起因するXとF社との間における金銭関係及びXとF社の代表者であるBとの金銭関係が解決していない
⇒Bは任意後見受任者としての適格性を有しない
⇒法定後見を開始することにつき「本人の利益のために特に必要がある
診察回数及び検査の実施内容に照らすと、
1回目の鑑定結果には疑問があり、2回目の鑑定結果は合理的

Xは事理弁識能力を欠く常況ににあると認定し、Aの申立てを認容し、Bの申立てを却下。
    Bは即時抗告を申し立てて原審結の取消し及びXの任意後見監督人の選任(予備的に本件の差戻し)を求め
抗告理由として、
①任意後見契約が締結された場合にはこれを発行させて法定後見開始の申立てを却下するのが原則であり、本件ではその例外とすべき事情がない
②Xの精神状態については1回目の鑑定結果に従い補佐相当と認定すべきであった
と主張。 
  判断 E又はF社がXに返済すべき債務については完済されたかどうかが不明であり、
Eの一連の行為につきBが認識していなかったとは到底認められず、
Bが代表者であるF社とXとの債権債務関係はBの任意後見人としての適格性に関わる重要な事実

法定後見を開始するにつきXの利益のために特に必要がある。
Xの精神状態についても原審判の判断に誤りはない。
  解説 任意後見法10条1項:
本人による自己決定を尊重すべき

既に任意後見契約が締結され、かつ、これが登記されている場合においては、
本人について法定後見開始の申立てがあったとしても、
家庭裁判所は、法定後見を発動することが「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」でない限り、
当該申立てを却下しなければならない。
立法担当者:
具体例として
①任意後見人に委託された代理権を行うべき事務の範囲が狭すぎる上、本人の精神が任意の授権の困難な状態にあるため、他の法律行為について法定代理兼の付与が必要な場合
②本人について同意権・取消権による保護が必要な場合。

要件を厳格に絞ることで任意後見優先の原則をできる限り維持することを想定。
but
親族間紛争を背景に、自身を任意後見受任者とする任意後見契約を本人に締結させて後にこれを発効させることにより、意図しない者が成年後見人に選任されるのを妨害しようとするケース。

最近の実務は、本人の客観的な保護を重視して、この要件を広めに解釈して法定後見人を優先するが面が多くなっている。
大阪高裁H14.6.5:
「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」について
諸事情に照らし、任意後見契約所定の代理権の範囲が不十分である、
合意された任意後見人の報酬があまりにも高額である、
任意後見契約法4条1項3号ロ、ハ所定の任意後見を妨げる事由がある等、
要するに、
任意後見契約によることが本人保護に欠ける結果となる場合を意味。
大阪高裁H24.9.6:
本人名義の預貯金から多額の金銭が引き出されて任意後見受任者の口座に移されている等、任意後見受任者の本人の財産への関与に不適切な点が認められ、「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に当たるといえる事情が存在するにもかかわらず、原裁判所が任意後見法10条1項の要件を認めずに法定後見開始申立てを却下したのは相当ではない。
⇒原審判を取り消した上、事件を原裁判所に差し戻している。
学説:
「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」とは、
本人の現在のニーズを当該任意後見契約によっては十分に充足することができず、本人の客観的福祉の観点から、法定後見に夜保護を発動することが望ましい事態を指すと考えればよい(新版注釈)。
  民事p59
大阪地裁H29.11.16  
  インターネットでの投稿まとめによる名誉毀損・侮辱の不法行為(肯定)
  事案 在日朝鮮人のフリーライターであるXが、Yが平成25年7月1日から平成26年7月3日までの間、インターネット上にXに関する投稿の内容をまとめた45本のブログ記事を掲載⇒名誉毀損、侮辱、人種差別等に当たる⇒不法行為に基づき、慰謝料2000万円及び弁護士費用200万円の合計2200万円の支払を求めた。
  争点 ①本件各ブログ記事の内容はXの権利を侵害するか
②本件各ブログ記事の掲載行為による新たな権利侵害があるか 
  判断 ●争点①:本件各ブログ記事の内容はXの権利を侵害するか
本件ブログ記事のうち
①一部は、Xの行動が在日朝鮮人の特権を守るための言論の弾圧や恫喝に当たるという意見ないし論評を表明するなどし、Xの社会的評価を低下させる表現を含む
②ほぼ全ては「キチガイ」「朝鮮の工作員」等の侮辱的又は不穏当な表現を多数用いてXの精神状態、知的能力、人種、性別、年齢、容姿等を揶揄するなどし、その名誉感情を著しく害する内容である上、これらが約1年間にわたって同一のブログに順次掲載される形で積み重ねられていった⇒社会通念上許される限度を超えた侮辱に当たる内容を含む
③多くは、在日朝鮮人であることを理由にXを著しく侮辱し、日本の地域社会から排除することを扇動するもの⇒人種差別に当たる内容を含む。

本件各ブログ記事のうち44本のブログ記事について、名誉毀損、侮辱、人種差別などに当たる内容が含まれている。
  ●争点②:本件各ブログ記事の掲載行為による新たな権利侵害があるか 
①Yによる表題の作成、情報量の圧縮、引用元の投稿の並べ替え、表記文字の強調といった行為により、本件各ブログ記事は、引用元の投稿を閲覧する場合と比較すると、記載内容を容易に、かつ効果的に把握することができるようになった。
②本件各ブログ記事の内容は、2ちゃんねるのスレッド又は原告のツイッターの読者以外にも広く知られたものになった

本件各ブログ記事の掲載行為は、引用元の2ちゃんねるのスレッド等とは異なる、新たな意味合いを有するに至った

Yにより前記44本のブログ記事の掲載行為は、2しゃんねるのスレッド又はツイッター上の投稿の掲載行為とは独立して、新たにXの人格権を侵害。
  Yにより前記44本のブログ記事の掲載行為という不法行為により、Xの人格権が侵害された
⇒Yに対し、慰謝料180万円及び弁護士費用20万円の合計200万円の支払を命じた。 
  解説 新聞記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかについて、
一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものとされている(最高裁昭和31.7.20)。
インターネット上の記事についても同様。(最高裁H24.3.23) 
侮辱的表現について、社会通念上許される限度を超える侮辱であると認められる場合に人格権を侵害するものと解されており、
インターネット上の侮辱的な表現についても同様。(最高裁H22.4.13)
  民事p71
大阪地裁H29.9.20  
  刑事弁護の報酬請求にあたり、説明義務違反⇒弁護士の損害賠償責任(肯定)
  事案 被告:弁護士
原告:被告に刑事弁護を依頼した者 
原告は、被告に対し、原告が実質的に経営する複数の会社及び原告自身についての法事税法違反等の刑事事件の弁護を委任し、
本件委任契約に基づき、
着手金として432万円、
「軍資金」の名目で120万円を支払った。
その後、原告は、被告を解任。
原告:
被告に対し、
①本件着手金につき、
被告が本件委任契約に基づく弁護活動をほとんど履行しないうちに、被告を解任た⇒本件委任契約の終了に基づく前払報酬返還請求として、
本件着手金のうち、
被告が解任されるまでになした弁護活動の報酬相当額等を除いた金銭の返還を請求し、
②本件軍資金につき、
(i)被告は、弁護士としての職務に反し、
刑事手続を恐れる原告の心理状態に乗じて、
「軍資金」なる名目で使途を説明せず、
用途不明瞭な120万円を請求した上、
その後も再三にわたり追加の報酬及び費用の支払を求めた
⇒不法行為に基づく損害賠償請求として、本件軍資金相当額及び慰謝料の支払を求め、
(ii)予備的に、
被告が本件委任契約に基づく弁護活動をほとんど履行しないうちに、被告を解任した
⇒本件委任契約の終了に基づく前払報酬返還請求(さらに予備的に本件委任契約の終了に基づく前払費用返還請求)として、本件軍資金の返還を請求。
  判断 ●着手金について
本件委任契約の主たる目的及びその履行の有無を検討し、
本件委任契約で主たる目的とされた事務について、被告は解任されるまでの間にこれを履行していた
⇒請求を認めず。
  ●本件軍資金について 
①弁護士はその職務上、依頼者に対し、受任事務の内容を明らかにするとともに、弁護士報酬等について、十分説明すべき義務を負っている
②被告としては、本件軍資金について、弁護士費用であることを説明すべきであり、ましてや、「軍資金」などという誤解を招く表現で、使途は説明できないかのような態度で金銭を要求することは、原告の誤解を招くもの
⇒弁護士の職務上の義務に反する。

不法行為に基づく損害賠償責任を肯認し、本件軍資金相当額の支払を求める限度で原告の請求を認容。
  解説  弁護士の説明義務違反を認めた判例:
債務整理に係る法律事務を受任した弁護士が、消滅時効の完成を待つ方針を採るのであれば、当該方針に伴う不利益やリスクを説明するとともに、回収した過払金をもって債権者に対する債務を弁済することにより最終的な解決を図るという選択肢があることも説明すべき義務を負っていた
(最高裁H25.4.16)

事件を受任した弁護士は、委任契約に基づく善管注意義務の一環として、委任者に対し、一定の場合に説明義務を負う。
弁護士職務規定29条1項
弁護士の報酬に関する規定5条1項
  民事p80
名古屋地裁H29.11.9  
  配偶者暴力法8条の2の援助申出の相当性の判断が国賠法上違法とされる場合
  事案 Xの元妻Aが、配偶者暴力法8条の2の援助の申出として、Xからの暴力を理由に行方不明者届の不受理の申出を行ったことに対し、警察官がAの申出を相当と判断した行為によって、Aとの間の子Bの安否を知ることができず、また、配偶者に暴力を振るった加害者として扱われたことで精神的苦痛を被った

Xが、当該警察署の設置主体であるYに対し、国賠法1条1項に基づき、損害賠償を求めた。 
  規定 配偶者暴力法 第八条の二(警察本部長等の援助)
 警視総監若しくは道府県警察本部長(道警察本部の所在地を包括する方面を除く方面については、方面本部長。第十五条第三項において同じ。)又は警察署長は、配偶者からの暴力を受けている者から、配偶者からの暴力による被害を自ら防止するための援助を受けたい旨の申出があり、その申出を相当と認めるときは、当該配偶者からの暴力を受けている者に対し、国家公安委員会規則で定めるところにより、当該被害を自ら防止するための措置の教示その他配偶者からの暴力による被害の発生を防止するために必要な援助を行うものとする。
  Yの主張 ①法の規定は被害者に対する関係での関係機関の努力義務等を定めたものであり加害者とされる他方配偶者に対し関係機関は職務上の法的義務を負っていない。
②仮に職務上の法的義務を負っていいると想定したものであったとしても、Dに職務上の注意義務違反はない。 
  判断 国賠法1条1項が、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責めに任ずることを規定するもの。(最高裁昭和60.11.21)

Aの援助申出の相当性を判断した際におけるDの対応がXに対して負担する職務上の法的義務に違背したかの問題となる。 
法8条の2は、被害者の保護を図るために警察署長等に援助を行う義務があることを定めた規定であり、援助申出の相当性の判断は警察署長等の合理的な裁量にゆだねられている。
but
援助申出を受理した場合、その反面、加害者とされる者に事実上の不利益を課すことにもなる
その判断が著しく不合理であって、裁量を逸脱又は濫用していると認められる場合には、加害者とされる者との関係で違法と評価される場合もあり得る。
①本件では、DがFの担当者からAをBとともにシェルターへ避難させる予定であり、Aが行方不明者届の不受理を要望している等の連絡を受けていた
②AがXからの暴力被害につき具体的に供述するとともに、その日のうちにシェルターに避難することになっている旨を述べた
③DがAの供述等を踏まえて上司らとともに前記通達に照らしてAからの援助申出の相当性を検討した
等の事情

C警察署長によるAからの援助申出受理の手続を執ったことが著しく不合理であって、裁量を逸脱又は濫用しているとはいえない。

国賠法1条1項の適用上の違法を否定。
  解説 法8条の2の援助申出の受理件数は年々増加し、平成29年の受理件数は9000件を超えた。 
  民事p85
岡山地裁H29.6.1  
  証券会社の説明義務違反が認められた事例
  事案 Yに証券取引口座を開設して取引を行うXが、Yに対し、
平成22年10月22日から平成23年10月27日までの間に行った外国株式(米国株式、中国株式)の売買取引(「本件取引」)について、
取引を担当したY従業員P2及びP3の行為には、過当取引又は違法な一任売買又は適合性原則違反、説明義務違反があると主張

不法行為(民法715条)に基づく損害賠償請求として、本件取引による損害3862万円余、弁護士費用386万円及び遅延損害金の支払を求めた。 
  判断    Xの主張する過当取引、違法な一任売買、適合性原則違反はないが、
説明義務違反が存在。
説明義務違反:
顧客を証券取引に勧誘するに当たり、自己責任による投資判断の前提として、当該商品の仕組みや危険性等について、当該顧客がそれらを具体的に理解することができる程度の説明を、当該顧客の投資経験、知識、理解力等に応じて行う義務がある。
Xの従前の取引は、株式、投資信託、外国債券等について、いずれも中長期的に保有し、株式優待を受けたり、預金利息よりも高い利率で分配金や配当金を受領できるものとして運用していたところ、
本件取引は、積極的な投資運用による利益重視へと投資方針を転換するもの。

Y従業員らは、Xに対し、投資方針を転換することにより多額の損失が生じる可能性がることについて、Xに具体的に理解させるために必要な方法及び程度をもって説明すべきであるのに、これをしていない。
⇒説明義務違反を認定。
  XにもYの違法行為を助長させ、損害を拡大した過失
⇒過失相殺5割を認め、約1300万円の損害賠償を肯定。
  解説  Xは説明義務違反について、外国株取引の投資勧誘について、外国株取引の投資勧誘においては、「外国証券情報」を投資家に提供、交付して、対象証券の内容とリスクを説明すべきところ、これを行っていないと主張。(投資商品についての説明義務違反)

本判決は、投資方針を転換することにより多額の損失が生じる可能性があることについて説明していない義務違反があると判示。(投資方針の変更に際しての説明義務違反) 
  労働p99
大阪高裁H29.9.29  
  労働者の自殺の業務起因性(肯定)
  事案 A(当時24歳の男性)は、高速道路の巡回、管制、取締等交通管理業務を行うことを主な事業内容とする本件会社に勤務し巡回等の業務に従事。
平成24年5月25日から26日にかけての本件夜勤に従事した後、同月28日自殺。 
  争点 労働者Aの死亡の業務起因性
①Aが本件自殺の直前頃うつ病を発症したか
②同うつ病は業務に起因して発症したか 
  解説 厚生労働省は、平成23年12月、労働基準監督署長が精神障害の業務起因性を判断するための基準として「心理的負荷による精神障害の認定基準」(「認定基準」)を策定。 
認定基準は、
①対象疾病を発病していること
②対象疾病の発病前おおむね6カ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと
のいずれの要件も満たす対象疾病について、業務上の疾病として取り扱うこととしている。
  一審 出来事②は『嫌がらせ、いじめを受けた場合』に該当するとはいえない。
出来事③、⑦~⑩の各出来事について、それぞれ、客観的にみて精神障害を発症させるに足りる程度に強度の心理的負荷があったとまでは認められない

当該業務と本件疾病(うつ病)発症との間に相当因果関係があると認めることはできない。
  判断 労働者が発症した疾病等について、業務起因性を肯定するためには、業務と前記疾病等との間に相当因果関係のあることが必要であると解されている(最高裁昭和51.11.12)。
本件の事実関係を、因果関係の有無に関する、ルンバール事件等の判例法理の見地に立って総合検討すると、Aは、本件各出来事による心理的負荷によって、本件自殺の直前頃、うつ病を発症したことを推認することができる。
  解説  本判決は、うつ病の発症につき業務起因性を判断するに当たって、
「認定基準所定の各認定要件を満たしているかどうかを判断基準として、因果関係の有無を判断する」という判断手法をとるのではなく、
ルンバール事件等の判例法理と同様、
間接事実(因果関係のの有無に関わる間接事実)の総合検討を行って、因果関係の有無の判断を行った。 
  刑事p126
最高裁H28.7.12  
  花火大会での歩道橋での事故で業務上過失致死傷罪の共同正犯の成否が問われた事例
  事案 平成13年7月、兵庫県明石市の公園において花火大会等が行われた際、公園と最寄り駅とを結ぶ歩道橋上で発生した雑踏事故に関して、当時の明石警察署副署長であった被告人が、検察審査会の強制起訴制度により業務上過失致死傷罪で起訴された事案。
被告人は、自己による最終の死傷結果の時点から計算すれば既に公訴時効期間が経過していた平成22年4月20日に起訴。
but
明石警察署のB地域官がこれ以前の平成14年に業務上過失致死傷罪で起訴され、平成22年に有罪判決が確定。

B地域官に対する起訴により、共犯の1人に対する起訴が他の共犯についても時効を停止させる旨規定した刑訴法254条2項に基づいて被告人に対しても公訴時効停止の効果が生じるかが問題。

被告人とB地域官に業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立するか否かが争点。
  規定 刑訴法 第254条〔時効の停止〕
時効は、当該事件についてした公訴の提起によつてその進行を停止し、管轄違又は公訴棄却の裁判が確定した時からその進行を始める。
②共犯の一人に対してした公訴の提起による時効の停止は、他の共犯に対してその効力を有する。この場合において、停止した時効は、当該事件についてした裁判が確定した時からその進行を始める。
  解説 過失犯の共同正犯:
最高裁昭和28.1.23:
共同して飲食店を経営していた2名の被告人が、過失によりメタノール含有飲食物を販売したという事案において、被告人両名について共同正犯の成立を認め、過失犯の共同正犯が成立し得ることを示した。
but
事例判例。
東京地裁H4.1.23(世田谷ケーブル火災事件):
共同の注意義務を負う共同作業者間において、その注意義務を行った共同の行為があると認められる場合には、その共同作業員全員に対し過失犯の共同正犯が成立する。
  判断 業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立するためには、共同の業務上の注意義務に共同して違反したことが必要。 
B地域官、被告人等の職制や、準備段階及び事故当日における職務執行状況等に関する詳細な事実認定を前提に、
①B地域官及び被告人がそれぞれ分担する役割は基本的に異なっていた
②本件事故発生の防止のために要求され得る行為についても、
B地域官にについては、
事故当日において、配下警察官を指揮するとともに、
C署長を介し又は自ら直接機動隊の出動を要請して、本件歩道橋内への流入規制等を実施すること、
準備段階において、自ら又は配下警察官を指揮して本件警備計画を適切に策定することであったのに対し、
被告人については、
各時点を通じて、
基本的にはC署長に進言することなどにより、B地域官らに対する指揮監督が適切に行われるよう補佐することであった

本件事故を回避するために両者が負うべき具体的注意義務が共同のものであったということはできない。

被告人とB地域官の間に業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立する余地はないとして、上告を棄却。
  解説 本決定は、本件のように組織的な過失が問題となる事案においても、問われているのは各行為者個人の刑事責任であることを踏まえ、各行為者の役割及び各行為者に事故発生防止のために要求され得る行為を特定し、
これらの同質性の程度や相互の関連性を総合的に考慮し、
各行為者が負う注意義務を具体的に想定して、
これらが共同の注意義務と言い得るものなのかを事案に即してきめ細かく判断するべきであるという考えを前提にし、
本件の結論を導き出すに当たっても、
前記のようなB地域官及び被告人の役割の違い(それぞれの活動場面が異なることが指摘できる。)や、それぞれが要求され得る行為の内容(B地域間及び被告人それぞれに対して要求され得る行為の中で、互いに相手方は直接の働きかけの対象とはなっていないなど、協働する場面が想定し難い内容になっているという点等が指摘できる。)等を総合的に考慮したものと推定される。 
  刑事p129
高松高裁H28.6.21①
高知地裁H29.8.7②  
  高齢者の万引きで責任能力が争われた事例
  事案 ②事件は①事件の差戻審。
  被告人(女性、犯行当時69歳)は、平成27年8月、青果店で食料品4点を万引き。
被告人は、平成21年以降、万引窃盗により罰金刑、執行猶予付き懲役刑、保護観察付きの執行猶予付き懲役刑に各回処せられ、本件各判決当時は最終刑の執行猶予期間中。 
  差戻前1審 弁護人は、心神喪失又は上津役を主張して精神鑑定を請求。
その必要性を明らかにするため、精神科医師A作成のA意見書2通を提出⇒取調べ。 
A意見書:
2回の問診、脳画像検査(SPECT)、心理検査、親族からの聴取を踏まえて、被告人は前頭側頭型認知症にり患。
被告人の異常な窃盗行為は、脳の前方連合野から大脳基底核への抑制が外れた結果として発生する前頭葉の機能が障害された結果、社会的対人行動の障害、自己行動の統制障害等につながり、状況の判断ができず、同じ行動を繰り返す傾向のため、窃盗行為という形で病的に行動を継続してしまう
として、同認知症が本件犯行及び弁識制御能力に与えた影響を説明し、正式な精神鑑定の必要があると述べていた。
前記精神鑑定請求を却下。
被告人が前頭側頭型認知症にり患していたことは否定しなかったものの、
①一部を購入し一部を窃取した、
②夫等と一緒のときは万引きをしていない、
③窃取品は食料品という無用でない物であり、その一部を警察署まで隠匿
④同認知症が表れたとされrかなり前から万引きをしていた

完全責任能力を認めた。
  控訴審
(①)
①A医師の精神医学に関する専門家としての能力や公正さに疑問を抱かせる事情はうかがわれず、
②A意見書は、正式鑑定ではないことから十分とへいえないものの、前提条件についての重要な誤りがあるとはいえない。
③原審証拠には、A意見書に示された前頭側頭型認知症の診断及び同認知症の診断及び同認知症が弁識制御能力に与えた影響を否定できるだけの証拠はない
④本件当日の被告人が責任能力に疑問を抱かせるような無軌道な行動をとっている。

原審裁判所は、より十分な資料と精神医学の専門的知見を得て、被告人の精神障害、具体的には発症時期を含めた前頭側頭型認知症り患の有無及び程度並びにその弁識制御能力への影響を明らかにする必要があった。

訴訟手続の法令違反により原判決を破棄。
  差戻審
(②)
B医師による精神鑑定(B鑑定):
①前頭側頭型認知症を否定し、
被告人は平成23年頃からアルツハイマー型認知症にり患しており、鑑定時は軽度で、本件当時は軽度ないしごく軽度。
②被告人は、窃盗が悪いことであると答える能力はあるが、記憶障害や判断力の障害などから行動を制御する能力は著しく落ちており、そのことが本件犯行に大きく影響。
B鑑定のうち
①被告人がアルツハイマー型認知症にり患し、鑑定時において軽度であるとする点
②同認知症により、自分の身を守り、捕まらないようにするという判断応力や、このような行動をしたら、自分の身にどのような影響を与えるかという社会的動物としての予見性、判断力が低下していたとする部分
を採用。

同認知症の犯行に対する影響は大きいとする部分については、
①重症度の判定につき具体的な根拠が乏しいこと
②影響が大きいとした根拠である記憶障害や、当日、自分がどこに行って、どこで盗んだかも分かっていなかったという点は、取調べDVDにおける被告人の供述状況(当日の4回の万引きにつき客観的事実と概ね一致)と整合しない

採用できない。
①犯行態様から被告人の違法性の意識は明らかで、その行動は万引きの目的に照らし合理的であること、
②夫等といるときは万引きをしていないこと
などを総合
⇒完全責任能力を肯定。
量刑判断:
①被告人の判断能力はアルツハイマー型認知症によって大きく低下していた疑いがあり、これが犯行に相当程度影響を与えたことは責任を相当程度減じるもの
②保釈後の治療の継続や再犯防止の措置
⇒罰金刑を選択。
  解説  常習的な万引き事案において、窃盗症(クレプトマニア)又は摂食障害を伴う窃盗症を理由とする心神喪失又は耗弱が主張され、あるいは、これらを理由とする責任の減少や治療の必要性・有効性が減刑事由として主張されることが少なくない。 
大阪高裁昭和59.3.27は、摂食障害を理由に心神喪失を認めた。
その後は、大阪地裁岸和田支部H28.4.25のみ:
広汎性発達障害の影響下で摂食障害、盗癖にり患し、食料品の溜め込みと万引きへの欲求は制御し得ない程度であったという精神鑑定
⇒制御能力の著しい減退による心神耗弱をみとめたもの(罰金)。
量刑判断において、
①責任能力(多くの事例が制御脳能力)の減少による責任の減少や、
②窃盗症等の治療の開始による再犯防止の見込み

(再度の)執行猶予付き懲役刑や罰金刑に処した事例も相当数存在。
  65歳以上の高齢者の窃盗による起訴人員の増大。 
認知症による責任能力の減退や責任減少が問題となる事例。
 精神鑑定に基づき、認知症のために行動制御能力が著しく減退⇒心神耗弱を認めた例。
被告人を診察した医師の証言・意見書により、前頭側頭型認知症のために衝動制御が困難⇒再度の執行猶予。
but
前頭側頭型認知症にり患しているとの医師の見解を排斥して責任の減免を否定した例も。
認知症による心神耗弱又は責任の減少が認められた事例では、弁識能力はあるが、認知症のために衝動制御が困難だ得るとして、制御能力の低下をいう鑑定意見等が出されている。
  証拠の採否は、それが裁判所の合理的裁量の範囲内にある限り違法とされることはない。
精神鑑定請求についても、裁判所が、既出の証拠から被告人の精神状態に異常がないとの心証を形成し、鑑定を命じても心証が覆らないと判断⇒却下しても差し支えない。
本件差戻し前第一審:
①心理学的要素に関する諸事実と
②前頭側頭型認知症のエピソードの出現前に被告人が万引きを始めていたこと
⇒完全責任能力を肯定。
but
控訴審は、精神医学の専門家であるA医師から相応の資料と根拠に基づく問題提起⇒原判決が指摘する事情では、精神鑑定を不必要とする判断に合理性がないとしたもの。
   刑事p137
神戸地裁H29.3.29
  てんかんの発作で意識障害に陥ったことによる交通事故⇒危険運転致死傷罪の故意が争われた事例
  事案 てんかんの発作で意識障害に陥ったことによる交通事故。 
  解説 てんかん:脳の神経細胞の一部が過剰な電気活動を起こすことによって全身のけいれんや意識消失などの発作症状を繰り返し発症する病気。
抗てんかん薬の服用⇒神経細胞の過剰な活動を抑え、発作を起こりにくくする。
  てんかん発生時に意識障害が発症⇒一時的に見当識を失い、もうろう状態になる⇒その時点での運転が過失行為として起訴された事案について、心神喪失時の行為とされた裁判例。 
  運転開始時点における過失行為が基礎された事案:
運転を差し控えるべき注意義務とその違反が認定。
but
その注意義務の前提となる事情は事案によって異なる。 
事例①:
てんかん性発作により事故を起こしたことあがり、投与治療を受けて、運転を差し控えるよう注意されていた⇒運転を差し控える義務があった。
事例②:
突然意識に障害を来たしてもうろう状態に陥るてんかん発作の持病がある者は、将来、突発的に同じような発作が起こるかもしれないことを予見すべき⇒運転を差し控える義務があった。
事例③~事例⑧
  自動車死傷法3条2項による規制 
規定   第三条
 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。

2自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律施行令〔平二六政一六六〕第三条(自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気) 

法第三条第二項の政令で定める病気は、次に掲げるものとする。

一 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する統合失調症

二 意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれがあるてんかん(発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)

三 再発性の失神(脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気であって、発作が再発するおそれがあるものをいう。)

四 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する低血糖症

五 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈するそう鬱病(そう病及び鬱病を含む。)

六 重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
自動車死傷法3条は、運転開始時点において、運転開始後の走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態になっていた場合に、そのことを認識した上で運転を開始し、走行中に正常な運転が困難な状態に陥ったことにより事故を起こして人を死傷させる行為を処罰することとしたもの。
同条1項:アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥るおそれがある状態を規定。
同条2項:病気の影響により走行中に症状が発現して、正常な運転が困難な状態に陥るおそれがある状態を規定。

同項は、その病気を政令に委任しているところ、同法施行令3条2号は、「意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれがあるてんかん(発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)」と規定。
  判断 本罪の故意があるというためには、自動車死傷法施行令3条各号に規定された病名の認識を必要とするものではなく、規定された病気の特徴の認識、すなわち、本件でいえば、意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれを有する何らかの病気により正常な運転に支障が生じるおそれがあるとの認識があれば足りる。
被告人は
①5年前に意識障害に陥ったことで、自分にはてんかんに見られるような意識消失発作を起こすおそれがあることを認識した
②過去に交通事故を起こした際、相手方等のやりとりから自分が意識を喪失して自己を起こしたことを理解しており、運転を繰り返せば同様の意識喪失の状態に陥るおそれがあることを認識した

被告人は、本件当時、少なくとも意識障害をもたらす発作が再発するおそれを有する何らかの病気により、正常な運転に支障が生じるおそれがあることを認識していた

本罪の故意がある。
本件に至るまでの間で医療機関でてんかんの疑いを持たれ、検査を経たものの、てんかんの診断を受けてなかった

意識障害の発作が再発するおそれのある何らかの病気の影響で運転中に意識喪失の状態に陥るおそれがあることについての認識の程度は必ずしも高いとはいえないと評価しており、
社会内更生の機会を与える際に考慮すべき事情とした。
  裁判例 大阪地裁H29.2.7:
主位的に、運転開始時における実行行為と故意の存在を主張:
①最後の発作から10年が経過
②当時、発作のリスクが高まっていたとはいえない
⇒運転開始は本罪の実行行為とはいえず、その時点で正常な運転に支障が生ずるおそれを認識していたとは認められないとして故意を否定。
予備的主張に関し、
前兆を感じてから体が動かなくなるまでの数十メートルの間に道路端に停車し、再発進しないことが可能であたっとした上で、
前兆を感じた時点以降、正常な運転に支障が生ずるおそれを認識していた
⇒故意を認定。 
東京地裁H29.6.27:
治療歴などから、抗てんかん薬を処方通り飲んでいても、疲労などの要因から複雑部分発作が起きうることを認識しており、
事故直前に前兆を感じていたにもかかわらず運転を開始した

発進時、走行中の意識障害を伴う複雑部分発作を起こす具体的危険性を認識していたとして故意を認定。
宮崎地裁H30.1.19:
車を歩道に侵入させて6名を死傷させた事案において、
てんかん発作により意識レベルの変動があったのではなく、被告人の認知機能の低下により事故が引き起こされた可能性があると判断。
2371
  行政p14
東京地裁H29.1.31  
  労働保険料認定処分の取消訴訟において、業務災害支給処分の違法を取消事由として主張できるか(否定)
  事案 総合病院を開設し、労災保険率の算定に当たり、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(「徴収法」)12条3項に基づく、いわゆる「メリット制」の適用を受ける事業主(「特定事業主」)である医療法人社団Xが、前記総合病院に勤務する医師Aが脳出血を発症し、労働者災害補償保険法(「労災法」)に基づく休業補償給付等の支給処分(「本件支給処分」)を受けたことに伴い、処分行政庁から、本件支給処分がされたことにり労働保険の保険料が増額されるとして、徴収法19条4項に基づく平成22年度の労働保険の保険料の認定処分(「本件認定処分」)を受けた
⇒本件認定処分は違法であり、これを前提とする本件認定処分も違法であるとして、本件認定処分のうち増額された保険料額の認定に係る部分の取消しを求めて訴えを提起。
  解説 労働保険料の額の算定に用いられる保険料の構成要素のひとつである労災保険率(徴収法10条、11条1項、12条1項参照)は、事業の種類ごとに、労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行令(「徴収令」)、同施行規則(「徴収規則」)に基づいて定められている「基準労災保険率」を基準として(徴収法12条2項、徴収令2条、徴収規則16条1項)、
・・・当該連続する3保険年度の間における業務債が保険給付等の額等に応じて、法令に定める範囲内の一定率(「メリット増減率」)を引き上げ又は引き下げる処理等を行った後の率をもって基準日の属する保険年度の次々年度の労災保険率とすることができることとされている(メリット制)。 
  争点 労働保険料認定処分(本件認定処分)の取消訴訟において特定事業主が同処分の前提とされた業務災害支給処分(本件支給処分(労災法7条1項1号、12条の8等))の違法を主張することができるか?
これが肯定された場合、本件支給処分の違法性の有無について判断されることになる。 
  判断 ●①特定事業主の事業に係る業務災害支給処分(処分の名宛人は労災申請をした者であり特定事業主ではない)の取消訴訟において特定事業主が原告定格を有するか(=特定事業主に手続的保障の前提があるか)? 
特定事業主は、業務災害支給処分の名宛人以外の者ではあるものの、自らの事業に係る業務災害支給処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによってこれを回復すべき法律上の利益を有する

業務災害支給処分の取消し訴訟の原告適格(行訴法9条1項)を有する。
仮に、業務災害保険給付等の額が極めて僅少である等の事情により、当該業務災害支給処分によってメリット増減率が上昇するおそれがなくなったと認めるべき特段の事情が認められる場合には、当該特定事業主が当該支給処分の取消しを求める訴えの利益を欠くことになるものと解されるが、
本件において前記特段の事情があるとは認められない。
  ●②労働保険料認定処分の取消し訴訟において特定事業主が同処分の前提とされた業務災害支給処分の違法を主張することができるか? 
法令上先行処分の存在を前提として後行処分がされる関係にある場合、原則として、先行処分の違法を後行処分の取消事由として主張することは許されない。
本件について、
(ア)業務災害支給処分と労働保険料認定処分の実体的な関係
(イ)特定事業主の手続的保障
(ウ)業務災害支給処分の法律効果の早期安定の要請
の各観点からの検討を行い、
例外的に、
公定力ないし不可争力により担保されている先行処分に係る法律効果の早期安定の要請を犠牲にしてもなお後行処分の取消訴訟において先行処分の違法を主張する者の手続的保障を図るべき特段の事情が認められ、先行処分の違法を主張すること許されるかどうかについて判断。
  (ア)について、
業務災害支給処分と労働保険料認定処分は、同一の目的を達成するための連続した一連の手続を構成しているとみる余地もあり得るといえるものの、
相結合してはじめてその効果を発揮するものということはできない。

前記各処分が実態的に相互に不可分の関係にあるものとして本来的な法律効果が後行処分である労働保険料認定処分に留保されているということはできない。
  (イ)について、
業務災害支給処分については、
保険給付手続に事業主が一定の関与を義務付けられ、また、保険給付の請求について所轄労働署長に書面で意見を申し出ることができるなど、
その適否を争うための手続的保障が特定事業主にも相応に与えられている一方で、
特定事業主が、労働保険料認定処分がされる段階までは争訟の提起という手続を執らないという対応を合理的なものとして容認するのは相当ではない。 
  ◎(ウ)について
業務災害支給処分については、その法律効果の早期安定が特に強く要請されるにもかかわらず、仮にその違法を理由に労働保険料認定処分を取り消す判決が確定すると、所轄労基署長により職権で取り消される得ることになり、早期安定の要請ひいては労働者の保護の要請を著しく害する結果となる。 
    本件支給処分は取消判決等により取り消されたものではなく、また、別件判決を踏まえても(業務起因性があるとして行われた)本件支給処分が無効であるとみる余地はない

本件認定処分の取消し粗放である本件訴訟において、Xが本件支給処分の違法を本件認定処分の取消事由として主張することは許されない。
  解説 本判決は、
原則として先行処分の違法を後行処分の取消事由として主張することは許されないとしつつ、
違法性の承継を正面から肯定した初めての最高裁判決(H21.12.17)がその判断過程において考慮した観点をほぼ踏襲。
(but同最判は、違法性の承継に関する一般的判断基準を示したものではない。) 
控訴審(東京高裁H29.9.21):
本判決の結論を維持し、Xの控訴を棄却。
but
控訴審判決は、違法性の承継が例外的に認められる場合の根拠及び基準について、本判決の判示部分を一部改め、
個別の処分について定める事実行政法規の解釈として先行の処分と後行の処分とが同一の目的を達成するための一連の手続を構成し、相結合して1つの効果を実現しているといえるか否か、
先行の処分と後行の処分とが実体的に相互に不可分の関係にあるものとして本来的な法律効果が後行の処分に留保されているといえるか否か、
先行の処分の処分の段階においてその適否を争うための手続的保障が後行の処分により不利益を受ける者に与えられているといえるか否か等の事情を総合的に考慮し、
公定力ないし不可争力により担保されている先行の処分に係る法律効果の早期安定の要請を犠牲にしてもなお、先行の処分の違法を主張することにより後行の処分の効力を争おうとする者の手続的保障を図るべき特段の事情があるといえる場合には、
違法性の承継が肯定される。
  民事p40
最高裁H29.12.18  
  マンション管理組合の理事長の(理事の過半数の一致による)解任
  事案 マンションYの区分所有者であるXが、本件マンションの管理組合であるY管理組合にに対し、理事長であるXの役職を理事長から理事に変更する旨の理事会決議の無効確認等を求める事案。 
  争点 本件理事会決議の無効事由の存否に関し、
Y管理組合が定めた本件マンションの管理規約の下で、理事の互選による理事長に選任された者(理事)の役職を理事長から理事に変更することを総会の決議ではなく理事の過半数の一致により行うことができるか? 
  本件規約 管理組合にその役員として理事長等を含む理事及び監事を置く(40条1項)
理事は、組合員のうちから総会で選任する(同条2項)
理事長は、理事の互選により選任し(同条3項)
区分所有法に定める管理者とする(43条2項) 
役員の選任及び解任については、総会の決議を経なければならない(53条13号)。
  原審 ①本件規約40条3項は解任についての定めではない
②本件規約は理事長を管理組合の役員とし、役員の解任は総会の議決事項とする旨を定めている

本件規約40条3項を根拠として、理事長の地位を喪失させることは許されず、本件理事会決議は本件規約に違反して無効である
⇒本件理事会決議等の無効確認請求を認容。
  判断 理事長を区分所有法に定める管理者とし、
役員である理事に理事長を含むものとした上、
役員の選任及び解任について総会の決議を経なければならないとする一方で、
理事を組合員のうちから総会で選任し、理事の互選により理事長を選任する旨の定めがある規約を有するマンション管理組合においては、
理事の互選により選任された理事長につき、当該規約中の理事の互選理事長を選任する旨の定めに基づいて、理事の過半数の一致により理事長の職を解任することができる。
  解説 本件規約の定めは、管理組合が各マンションの実態に応じて規約を制定・変更する際の参考(ひな型)として公表されている国土交通省住宅局長通知「マンション標準管理規約(単棟型)」に準拠⇒標準管理規約に準拠して定められた他のマンション管理組合の規約でも問題。 
  区分所有法は、
区分所有者が法律上当然に建物等の管理を行うため団体(「区分所有者の団体」)を構成するものとし(3条前段)、
集会を意思決定機関、
規約を自治的規範
管理者を実質的な事務執行者・代表者
と位置付け、
区分所有者の団体を構成してする管理は、同法に規定する集会・規約・管理者の制度を利用してすべきことを定める。 
規約が自治的規範

建物の使用や共用部分等の管理について相互に協力すべき緊密な共同関係にある区分所有者は、区分所有関係を維持・管理するために必要な定めを、区分所有者の合理的な総意に基づいて適宜に定めることができ、その定めがその後その関係に加入した者に対しても当然にその効力を生ずるものとする必要。
区分所有法は、管理者の選任及び解任は、規約に別段の定めがない限り、集会の決議によってすることができる旨を規定(25条1項)。
  本件のように規約の定めの解釈が問題となる場合は、
どのような解釈が区分所有者の合理的意思に合致するかという観点から検討するのが相当。 
本件規約:
監事以外の役員(理事及び理事長等)については
理事の地位と理事長等の地位を一応分化し、
理事長を理事が就く役職の1つと位置付けた上、
原則として、総会で選任された理事に対し、その互選により理事長の職に就く者を定めることを委ね、
その限度では改めて総会の決議を経ることを要しないとしたものと解される。

理事の互選により選任された理事長について理事の過半数の一致により理事長の職を解き、別の理事を理事長に定めることも総会で選任された理事に委ねる趣旨と解するのが、本件規約を定めた区分所有者の合理的意思に合致。

本件規約において役員の解任が総会の決議事項とされていること(53条13号)は、理事の過半数の一致による理事長の解職を認めることの妨げにはならない。
  民事p45
東京高裁H29.4.27  
  成年後見人による横領⇒家庭裁判所の後見監督等を理由に国賠請求
  事案 原告の母の成年後見人として選任された司法書士が、成年後見人として預かり保管中の預金等から約6750万円を横領
⇒家庭裁判所の裁判官は成年後見人の適格性を十分に調査せずに成年後見人を選任し、また、選任後も、裁判官は適切な監督を怠ったとして、国賠法1条1項に基づき、国に対して損害賠償請求。 
  解説 ●後見関係事件における裁判官の判断に関する国賠法上の違法性の判断の枠組み 
◎   裁判官がした争訟の裁判に関する国賠法上の違法性に関する判断枠組について
「当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与されて権限の趣旨を明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある」場合にのみ国賠法上の損害賠償責任が肯定される(最高裁昭和57.3.12)。

裁判官の争訟の裁判に対する判断が違法と判断される場合は、行政主体の公権力の行使を比べて限定されるとの見解が採用されている(「違法限定説」)。
but
前記判示は、「争訟の裁判」について判示⇒その射程は「争訟の裁判」以外には及ばない。
「争訟の裁判」とは、「権利又は法律関係の存否について、関係当事者間に争いがある場合に、当事者の一方の申立てに基づいて、裁判所又は裁判官が双方当事者を手続に関与させたうえで、公権力をもってその争いを裁断する作用ないし手続をいうもの」

家庭裁判所の裁判官が行う成年後見人の選任や後見監督といった当事者間に紛争があることを予定していない事件類型がこの「争訟の裁判」に当たらないことは明らか。
「争訟の裁判」に当たらない裁判官の判断に関する国賠法上の違法性の判断枠組みについては、「当該手続に当事者がどのような形で参画できるか、不当な裁判の是正のための不服申立制度としてどのような手続が整備されているかなどの要素も右の判断に影響せざるをえない」と考えられており、
当該裁判官の判断の法的性質等に応じて、個別に検討していく必要がある。
後見監督と類似した手続である不在者財産管理事件における財産管理人の監督に関し、長期間監督を怠ったために財産管理人による横領を看過したと主張された事案:
・・・独立した判断権を有し、かつ、独立した判断を行う職責のある裁判官たる家事審判官の職務行為として行われる

家事審判官による不在者財産管理人の監督につき職務上の義務違反があるとして国賠法上の損害賠償責任が肯定されるためには、
争訟の裁判を行う場合と同様に、家事審判官が違法又は不当な目的をもって権限を行使し、又は家事審判官の権限の行使の方法が甚だしく不当であるなど、家事審判官がその付与された趣旨に背いて権限を行使し、又は行使しなかったと認め得るような特別の事情があることを必要とする。
(東京高裁H22.10.7) 
後見監督事件について、 家事審判官が長期にわたって成年後見人から報告等を求めなかったために成年後見人の横領を阻止できなかったと主張した事案:
・・上記権限の行使等の具体的なあり方は、個々の事件について独立した判断権を有し、かつ、その職務を負う家事審判官の広範な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。
このような後見監督に関する家事審判官の職務行為の内容、特質⇒争訟の裁判を行う場合と同様の基準。(大阪地裁堺支部H25.3.14)
  他方で、後見監督に関して、「争訟の裁判」と同様の判断枠組みを採用しなかった裁判例:
家事審判官が職権で行う成年後見人の選任やその後見監督は、審判の形式をもって行われるものの、その性質は後見的な立場から行う行政作用に類するものであって、争訟の裁判とは性質を異にする。

争訟の裁判に関する判断枠組みは採用できず、
家事審判官の成年後見人の選任や後見監督が被害を受けた被後見人との関係で国賠証1条1項の適用上違法となるのは、
具体的事情の下において、家事審判官に与えられた権限が逸脱されて著しく合理性を欠くと認められる場合に限られる。
(広島高裁H24.2.20)
  判断  成年後見人の選任に関する判断について:
「同審判に対する不服申立てが許されない点を考慮しても」争訟の裁判に対する違法性の判断枠組みを採用するのが相当。 
後見監督についても、
家庭裁判所による後見監督が「独立した判断権を有し、かつ、独立した判断を行う職責を有する裁判官の職務行為として行われるものであることに鑑みれば」、争訟の裁判に対する違法性の判断枠組みを採用することが相当。
  解説 後見監督は、民事訴訟等とは異なり、当事者間の紛争に対して公権力をもって裁断するものではなく、家庭裁判所が成年後見人に選任することによって成年後見人に付与した法的権限が逸脱・濫用されていないかどうかについて、当該成年後見人から後見事務についての報告を求めたり、あるいは、成年被後見人の財産を調査したりするものであって、その報告徴収権や調査権といった点に着目すれば、各種業法に基づく行政庁の規制・監督権限に類するものとも見える。
but

行政庁による規制・監督:
例えば、各行政府省の大臣等に一元的にその規制・監督権限が付与されるなどして、統一的な権限の行使が予定。

後見監督:
独立した判断権を有する裁判官が、個別の成年後見人に対して、その事案において必要な範囲において監督権限を行使した上で、必要に応じて、一定の処分を命じたり(民法863条2項)、更には成年後見人を解任したり(民法846条)するといった判断を行うことが予定。

その判断は、飽くまでも個別具体的な事案における担当裁判官の独立した判断に委ねられている。
  民事p57
東京高裁H29.9.7  
 ガスレンジによって一酸化炭素中毒にり患⇒業者に損害賠償請求 (否定)
  事案  ガスレンジによって一酸化炭素中毒にり患⇒損害賠償請求。 
  争点 本件レンジの不完全燃焼が本件作業(Yの従業員P4により、本件レンジの奥側コンロのノズルを大径ノズルに交換)を原因とするものか否か
  原審 Xの請求を一部認容 
  判断 ①本件レンジの火力を強める本件作業によって、不完全燃焼が必然的に生ずるものではない、
②本件作業の行われた時期は、Xがドイツから帰国した直後であって、Xの体調の悪い時期と重なっており、Xの頭痛等の症状は、一酸化炭素中毒でなければ説明し得ない症状ではない
③Xの頭痛はストレスが原因の可能性もあるとの医師の指摘
④本件レンジは、Y以外の第三者に調整されていることが窺われる
⑤基準値を超える一酸化炭素濃度が測定されたのは本件作業から約3年が経過してから

不具合の発生が本件作業に起因するものとは断定し難い。
  民事p79
大阪高裁H29.10.27  
  福島第一原発の事故で自主避難⇒損害賠償請求
  事案 Xら(父X1、母X2、子X3~X5)が、福島第一原発を設置・運営するY(旧東京電力)に対し、同原発の事故のために家族で福島県内から自主避難せざるを得なくなり、X1が精神疾患に罹患したことで、Xらは精神的苦痛を被った。
X1及びX2は就労ができなくなった。

原発法3条1項本文に基づき、損害賠償を求めた。 
  判断   ●自主避難を継続する合理性が認められる期間:
原審:
Xら全員につき平成24年8月31日(中間指針等に基づき、18歳以下及び妊娠していた者につき、Yが精神的損害等を賠償する対象期間の終期)まで
本判決:
X2~X5については原審の判断を維持
X1について:
同人が自主避難の当初平成23年内には福島県に帰還する予定であったことや子らの監護の必要性など
⇒同年10月31日まで。 
  ●長期低線量被ばくの健康リスク:
原審と同様、年間20msvを下回る被ばくが健康に被害を与えるものと認めるにはたりない
⇒年間20msvを下回るようになった後において自主避難の合理性を認めることは困難。
  ●うつ病について
原審と同様、X1が避難開始後うつ病等に罹患したことと本件事故との間に相当因果関係を認めた。
but
保険事故と相当因果関係のある治療期間及び就労不能期間について:
原審:うつ病の症状が残存する現在においても就労不能状態が続いている。
本判決:
自主避難によってX1の受けたストレスの強度等の事情に加えて、うつ病の回復や復職期間に関する報告等を考慮

治療開始時から約2年間経過した平成25年11月30日までを本件事故と相当因果関係のある治療期間と認め、
本件事故と相当因果関係のある就労不能期間も同日までと認めるのが相当。
 
X1が避難開始後うつ病等にり患したことにつき、本件事故以外の要因が精神疾患の悪化に相当程度寄与
⇒民法722条2項を類推適用してX1及びX2の休業損害等について減額。
その割合を、
X1につき60%から40%に
X2につき30%から20%に
それぞれ変更。
  民事p89
東京地裁H28.3.3  
  船舶油濁損害賠償保険法と国土交通大臣等の要件適合確認義務(否定)
  事案 宮崎市に所在する漁業協同組合である原告が、
香港に本拠地のあるA社が所有するベリーズ船籍の船舶(本件船舶)が山口県から中国に向かう途中で漂流し宮崎市の海岸沖に座礁し、撤去されないまま放置されている

被告国に対し、
A社の所有する本件船舶が出港するに当たっては、船舶油濁損害賠償保障法(「油賠法」)上、保障契約の有効性を審査すべきであるところ、
A社から保険会社Bに対する保険料が未だ着金せず、保険契約の効果が生じていないにもかかわらず、一般船舶保障契約証明書を交付し、当該審査義務を怠り、公務員の職務上の注意義務に違反
⇒国賠法に基づき、損害賠償として撤去費用相当額の支払を求めた。
原告は、本件に先立ち、
A社及び保険会社Bに対して、
本件船舶の撤去費用の支払を求めて、宮崎地方裁判所に訴えを提起し、
A社については、
A社が公示送達による呼び出しを受けたにもかかわらず、出頭しなかった⇒認容判決
保険会社Bについては、
保険会社Bの仲裁合意の抗弁を認め、訴えを却下。
  主張 被告国に対し、
①保険契約の有効性を判断すべき油賠法上の義務がある
②油倍法上の義務がないとしても、運輸局の運用によれば、保障契約の有効性を確認すべき義務がある
  判断 ①油賠法上、国土交通大臣等には保障契約の有効性を審査すべき権限がない
②保障契約の有効性を基礎づける入金確認のような書面を求めることは油賠法及び同法施行規則上の根拠を欠く事実上の行為であり、政治的・技術的裁量に属し、本件では任意の提出を促しても実効性を有するとはいえない。

いずれの義務も否定し、請求を棄却。
  解説 油賠法は、
船舶に積載されていた油によって船舶油濁損害が生じた場合における船舶所有者等の責任を明確にし、及び船舶油濁損害の賠償等を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図り、あわせて海上輸送の安全な発達に資することを目的とし(油賠法1条)、
油濁損害が生じた場合におけるタンカー及び一般船舶の所有者が、その損害の賠償責任を負う旨を定める(同法3条、39条の2)
油濁損害額は、莫大になり得る可能性がある

油賠法において、タンカー及び一般船舶の所有者の責任を制限する(同法5条、6条、8条、39条の3等)などの考慮がされているほか、
日本国籍を有するタンカーを2000トン超えるばら積みの油の輸送の用に供するため、日本国籍を有する一般船舶が国際航海をするため、日本国籍を有する一般船舶以外の一般船舶などが本邦内の港から出港などするためには、
それぞれこの法律で定める油濁損害賠償保障契約を締結しなければならない。

タンカー等の航行に当たって保障契約の締結を強制。
本件では、このような保障契約が有効に成立しないままに、一般船舶が出航し、海難事故に遭遇⇒保障契約による保障が得られなかった⇒保障契約締結に関する国の審査手続が問題。
  国土交通大臣:
一般船舶について保障契約を保険者等とする締結している者の申請があったときは、当該一般船舶について保障契約が締結されていることを証する書面を交付しなければならない(同法39条の6、17条1項)。 
  本判決は、油賠法の文言、一般船舶保障契約証明書の交付に必要な申請書の様式の内容

国土交通大臣等には、保障契約の有効性など実体的な要件判断をする権限や義務はなく、単に油賠法の要件に適合する保障契約であるかどうかという形式的な権限しか与えられていないと判断。 
  知財p99
知財高裁H30.2.7  
  真正商品の並行輸入で、商標が広告に付され、外国の商標権者と我が国の商標権者が異なる場合
  事案 我が国において「NEONERO」等の商標(本件商標)について商標権(本件商標権)を有するXが、Yの、本件商標と同一ないし類似の標章を商品に関する広告に付した行為(本件被疑侵害行為)が本件商標権侵害に該当
⇒Yに対し、Yの商品の販売等の差止め等を求めた。 
  判断   並行輸入品が、フレッドペリー事件最高裁判決(最高裁H15.2.27)の示す三要素を満たす場合には商標権侵害として実質的違法性を欠く、 
商標を広告に付する行為については、同最高裁判所の
「当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものである」という要件を、
「当該商品に当該商標を使用することが外国における商標権者との関係で適法であること」とすべき。
本件被疑侵害行為は、前記要件を充足する。
前掲最高裁判決の
「我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される」という要件(第3要件)につき、
外国の商標権者と我が国の商標権者とが異なる場合において、
外国の商標権者と我が国の荷商標権者とが法律的又は経済的に同一視できる場合には、原則として、外国の商標権者の品質管理可能性と我が国の商標権者の品質管理可能性は同一に期すべきものであるといえる。
ただし、外国の商標権者と我が国の商標権者とが法律的又は経済的に同一視できる場合であっても、我が国の商標権の独占権能を活用して、自己の出所に係る商品独自の品質又は信用の維持を図ってきたという実績があるにもかかわらず、外国における商標権者の出所に係る商品が輸入されることによって、そのような品質又は信用を害する結果が生じたといえるような場合には、
この利益は保護に値するということができる。
Xが、PVZ社とは独自に、Xの商品の品質又は信用の維持を図ってきたという実績があるとまで認めることはできず、
Yの商品の輸入や本件被疑侵害行為によって、Xの商品の品質又は信用を害する結果が生じたとはいえず、Xに保護に値する利益があるということはできない。
⇒本件被疑行為は前記要件を充足する。
⇒本件被侵害行為は商標権侵害の実質的違法性を欠く。
  解説 ●商標を広告に付する場合 
フレッドペリー事件最高裁判決が示した、
いわゆる真正商品の並行輸入が商標権侵害の実質的違法性を欠く場合の要件のうち、
「当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者らから使用許諾を受けた者により適法に付されたものである」との要件は、
商標が商品に付されている場合の要件。
本件における身飾品のように、商品自体に商標が付されておらず、商品を輸入してから、我が国において商品に関する広告に商標を付した場合。
A:
商品に商標が付されていると仮定して当該商品の輸入行為が商標権侵害の実質的違法性を欠くか否かを検討した上で、商品の輸入行為が商標権侵害の実質的違法性を欠く場合には、当該商品の宣伝広告に商標を使用する行為も商標権侵害の実質的違法性を欠くというアプローチ。
B:
広告に商標を使用するという行為について、商標権侵害の実質的違法性を欠くか否かを検討するというアプローチ。

本判決は、Bの立場を採用。
  ●外国の商標権者と我が国の商標権者が異なる場合の品質管理可能性 
商標法で保護されるべき商標の機能は、
第一次的に出所表示機能であり、
商標の品質保証機能とは、商標の付された商品等が、商標の表示する出所に由来することによって、商品等の出所の管理する品質を備えていることを保証する機能。

フレッドペリー事件最高裁判決の出所表示機能に関する「当該外国における商標権者と我が国商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するもの」である場合には、商標の示す出所は1つであり、その出所の管理する品質にも違いがない。
本判決:
例外的に、我が国の商標権者が自己の出所に係る商品独自の品質又は信用があり、そのような信用等が外国商標権者の出所に係る商品の輸入によって害される結果が生じた場合には、我が国の商標権者の商品独自の品質を、品質管理可能性の要件において管理される「品質」であるとすべき。
  労働p109
東京高裁H29.10.18  
  退職強要ハラスメント等の事案
  事案 Y1(会社)の従業員であったX1ないしX4が、Y1とその代表者Y2に対し、次の請求を行なった。
① Xらは在職中にY2から退職を強要するハラスメントを受けたと主張し、Y2に対し不法行為に基づき、Y1に対し会社法350条に基づきそれぞれ慰謝料等330万円等、
②X1及びX2は、退職直前の夏季賞与の減額分が無効であると主張し、Y1に対し減額分等、
③Xらは、いずれも退職願を提出し、会社都合退職に基づく係数によって算定された退職金との差額分が支給されていないと主張し、Y1に対し差額分等、
④X2は、同人が受けた降格の懲戒処分が無効であると主張し、Y1に対し同処分により減額された賃金相当額等
の支払を求めた。
  争点 ①Y2がXらに対し退職を強要するハラスメントをしたかどうか
②Y1による夏季賞与の減額が無効か
③Xらの退職は自己都合退職か会社都合退職か
④X2に対する降格の懲戒処分が無効か
  規定 労働契約法 第15条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
  原審 一部認容 
  判断 原審の認容部分に加え、
①のX1・X3・X4の慰謝料を増額し
③のX1・X3・X4の退職金支払請求を認容
  ④について:
降格の懲戒処分は、
実体面において処分の前提事実を欠き、就業規則の懲戒事由該当性の判断を誤るものであるとともに、
手続面においても、就業規則及びこれに基づく賞罰規定に違反するもので著しく不公正。 
降格処分は、
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない
⇒無効。
  ②について:
Y1は賃金規定において賞与の支給方法は別に定めると規定し、年度当初に賞与支払基準を決めていたが、
その支払基準は従業員の評点を含む
⇒その部分は会社の裁量に委ねられている。
but
評定について裁量権の逸脱濫用があれば査定は無効。
減額の理由とされた責任があるとは認められず、減額の査定部分は裁量権の逸脱濫用があって無効。
  ①について:
X2に対し賞与を正当な理由なしに減額し、無効な降格処分を行うなどしており、退職を強要するものであって、違法な行為。 
X1について:
X2が正当な理由がない懲戒処分を受けることを認識し、自身も正当な理由なく賞与を減額されている⇒一連の行為が退職を強要するもの。
X3・X4について:
降格の懲戒処分、賞与の減額査定を受けていない
but
Xら女性4名のみの職場において、X1・X2に対しハラスメントの違法行為があり、その内容が同年代の女性に対する退職勧奨行為
⇒X3・X4にも退職勧奨行為がされているものと当然に理解される
⇒同人らに対する違法行為でもある。
  ③について:
退職強要行為により退職を余儀なくされた⇒会社都合退職と同視でき、退職金規程の会社都合退職に当たる。 
  解説 ●争点④(降格の懲戒処分の有効性) 
降格は懲戒処分の1つ。
懲戒処分(労契法15条)の有効要件
①懲戒処分の根拠規定の存在
②懲戒事由への該当性
③相当性
  ●争点②(賞与減額の有効性) 
賞与の請求権:
就業規則によって保障されているわけではなく、
各時期の賞与につき労使の交渉又は使用者の決定により算定基準・方法が定まり、算定に必要な成績査定もなされて初めて発生。
but
算定基準・方法が規定ないし決定
⇒それらに従って成績査定を実施するように請求できるし、
査定を行わない場合には当該労働者にとって確実に得られるはずの査定点による請求もすることができる。
  ●争点①(退職勧奨による不法行為の成否) 
職場のパワーハラスメントの行為類型:
①暴行・傷害(身体的な攻撃)
②脅迫、名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
③隔離・仲間はずし・無視(人間関係からの切り離し)
④職務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
⑤業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じられることや仕事を与えないこと(過小な要求)
⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
が挙げられる。
社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な退職勧奨行為は不法行為を構成し、当該労働者に対する損害賠償責任が生じる。
懲戒権の濫用と評価される場合も、処分の無効に加えて、使用者(および責任者)の不法行為(民法709条)を成立させることがある。
  ●争点③(会社都合退職の成否) 
退職金請求事件において、退職金規程が退職事由において異なる支給率を定めている場合の退職事由の主張の要否:
自己に有利な加減額事由は、この適用を主張する側が主張立証。
当該退職が退職金支給規程の自己都合か会社都合かの判断:
就業規則に規定があればこれによる。
特段の定めがない場合:
退職に至る主たる原因が労働者側の事情やその主観的意思によるのか、
会社側の経営上の必要や会社側の違法行為が大きいのかにより、
会社の違法な行為により退職を余儀なくされた⇒会社都合と同視。
  労働p121
名古屋地裁H29.12.5  
  パワーハラスメントによる不法行為責任と会社の使用者責任(肯定)
  事案 建築事業等を営む株式会社であるY1の従業員であったXが、Y1らにおけるXの上司であったY2からいわゆるパワーハラスメント行為を受けてうつ病となり、退職を余儀なくされたなどと主張

不法行為等に基づく損害賠償として慰謝料等合計750万円余の支払を求めた事案。 
Xは、平成24年10月にY1に入社し、支店の営業職として勤務。
平成25年2月以降、上司となったY2から指導、教育を受けるようになった。
Xは、平成26年6月、うつ病のため就労が困難、2か月間の仕事の休養及び自宅での療養加療が必要であると診断され出社しなくなり、同年10月末をもってY1を退職。
  労基署 Xが平成26年4月頃に「F32うつ病エピソード」を発症していたと推測される
⇒その発症前おおむね6カ月の間に、
「ひどい嫌がらせやいじめ、又は暴行を受けた」
「達成困難なノルマが課せられた」
⇒全体評価として心理的強度の負荷は「強」であったと判断し、業務起因性を肯定。 
  判断 Y2のパワハラとされる言動について、Xの主張とおおむね同旨の事実を認定。
これらは、Xに対するいやがらせ、いじめ、あるいは過大な要求と捉えざるを得ないものであって、強度の心理的負担をXに与えたものであり、これによりXはうつ病を発症。
⇒Y2の前記言動は不法行為を構成。
Y1:
パワハラの予防、パワハラの発生後の対応について、一定の措置を講じていたとはいえる
but
①本件以前からY2には他の従業員に対する威圧的言動が時にみられたのに指導をした形跡がない
②本件におけるY2の言動が継続している期間中に、X以外の従業員が相談窓口に連絡した形跡もなく、支店への抜き打ち調査等でも前記言動は把握されないまま数か月にわたってY2の言動が継続していた

Y1は使用者としてY2の選任監督につき相当の注意をしたとはいえない
⇒使用者責任を肯定。
7月
2370
  行政p19
札幌高裁H30.1.17  
  自然環境保護団体等の原告適格が否定された事例
  事案 リゾート事業を営む会社がスキー場建設計画に伴い、
東大雪支署長(国)から国有財産法18条6項の規定による国有林野の使用許可処分(「本件使用許可」)を、
北海道知事から北海道自然環境等保全条例30条1項の規定に依る開発行為の許可処分を
それぞれ受けた。

十勝地方の自然保護団体、エゾナキウサギの研究者及びエゾナキウサギの保護活動を目的とする組織の代表者(「原告ら」)が、国及び北海道に対し、
前記各処分は、生物の多様性に関する条約(「生物多様性条約」)に違反し無効であることの確認を求めるとともに、
国及び北海道に対し、国賠法1条1項に基づき、慰謝料の支払を求めた事案。 
  争点 本件各処分の名宛人でない原告らが、行訴法36条にいう本件各処分の無効確認を求める「法律上の利益を有する者」に当たるか? 
  規定 行訴訟 第36条(無効等確認の訴えの原告適格) 
無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる。
行訴法 第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
  解説 行訴法36条にいう「法律上の利益を有する者」の意義については、取消訴訟の原告適格についての同法9条1項の「法律上の利益を有する者」と同義であり、
当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれあるある者をいい、
当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有する。
(最高裁H4.9.22)
平成16年の行訴法改正により新設された同法9条2項は、行政処分の名宛人でない第三者について原告適格の有無を判断する際の解釈指針を規定しているところ、
最高裁判所(最高裁H17.12.7)は、いわゆる小田急高架事件において、
「処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨および目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び及び性質並びにこれが害される態様及び程度を勘案すべきものである」
などとして、前記解釈指針に従って原告適格を判断すべきである旨を説示。
  原審 ①本件使用許可について、原告らの主張する生物多様性が保全された良好な自然環境を享受する利益は、不特定多数の者が等しく享受することができる内容及び性質を有するものであり、
その利益を享受する主体の外延に何らの限定も付すことができない

専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめるべき不特定多数の者の具体的利益ないし一般的公益そのもの。

本件使用許可を定めた行政法規が、前記利益をそれが帰属する個々人の個別的利益を含めるものと解することはできず、また、原告らの主張する本件使用許可の手続きで意見を述べる権利についても、法令がこのような権利を地域の住民等に手続上の権利ないし個別的利益として付与し、法律上保護すべきものとする趣旨を含むものと解することはできず、
原告らの主張する生物多様性条約及びそのガイドライン等を踏まえてもその結論は変わらない。

原告らの原告適格を否定。
②本件開発許可についても、同様の理由で、原告適格を否定。
  判断 原審の判断を支持。 
生物多様性条約及びそのガイドラインの規定から、
公益とは全く別のナキウサギ研究集団(セクター)ないし地域の集団(セクター)の一員として個別的利益を侵害された旨の原告らの控訴理由について、
生物多様性条約が、地域の住民や生物多様性条約にいう知識を有する者等に対して、自国の国内法令によらず直接、手続上の権利なしい個別的利益を付与していると解することはできない。
  行政p22
大阪地裁H29.10.2  
  行政文書の開示を求める民事上又は公法上の請求権を被保全権利とする仮処分命令の申立(否定)
  事案 近畿財務局長に対し、
学校法人Aによる国有地払下げ問題に関連する行政文書の開示請求(「本件開示請求」)をし、一部開示決定を受けたXが、
本件処分に基づき開示された行政文書(「本件開示文書」)の他にも開示請求をした行政文書が存在するはずであると主張し、当該未開示の行政文書の開示を求める民事上又は公法上の請求権を被保全権利として、
本件仮処分対象文書の変更、改ざん等を禁ずる旨の仮処分を求めた保全事件の事案。 
  判断 行政機関の保有する情報の公開に関する法律(「情報公開法」)の各規定を引用し、
同法の定める情報公開制度のの下において、同法3条の規定により行政文書の開示の請求をした者(開示請求者)は、
行政機関の長が同法9条1項の規定により行政文書の全部又は一部を開示する旨の決定(開示決定)をすることによって初めて、当該開示決定に係る行政文書の開示を受けることができる法的地位に立つ。

開示決定がされていない特定の行政文書について、国ないし行政機関の長等に対し、その開示を求める請求権を有する余地はない。 
本件における事実関係の下において、本件処分が本件仮処分対象文書を開示する趣旨を含むものと解する余地はなく、
本件処分のほかに近畿財務局長により本件開示請求に対する応答として開示・不開示等の決定がされたこともない。

本件仮処分対象文書について開示決定がされたものと認めることはできない。

Xが国又は近畿財務局長に対して本件仮処分対象文書の開示を求める民事上又は公法上の請求権を有するものということはできない。

被保全権利は認められず、本件仮処分命令の申立てを却下。
  規定 情報公開法 第3条(開示請求権)
何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長(前条第一項第四号及び第五号の政令で定める機関にあっては、その機関ごとに政令で定める者をいう。以下同じ。)に対し、当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる
情報公開法 第5条(行政文書の開示義務)
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。
・・・・・
  解説 本決定:
情報公開制度の仕組みに照らし、開示決定がされていない特定の行政文書について、その開示を求める具体的な請求権が生ずることはない旨を説示。
  仮に、特定の行政文書について開示決定がされたにもかかわらず開示の実施がされない場合に、開示決定を受けた者が訴訟において国等に対し当該行政文書の開示を請求することができるか?
同請求権を被保全権利として仮処分命令の申立てをすることができるのか? 
  本決定:
仮に本件開示文書のほかにも本件開示請求に係る行政文書が存在するとすれば、本件開示請求に対する応答として本件開示文書についてのみ開示決定をするなどした近畿財務局長の対応に一定の瑕疵があったものと評価される可能性があることに言及。

行政機関の長が、開示請求がされた文書を殊更に狭く特定した上で開示決定をした場合に、開示対象文書の特定に不服がある開示請求者が、訴訟手続き上、どのように争えるか?
A:本件開示対象とされるべきであった行政文書については実質的に不開示決定がされたものと見てその取消訴訟を提起する方法
B:不作為の違憲確認訴訟(行訴訟3条5項)
いずれの方法によるにしても、仮の救済としては仮の義務付け(行訴法3条5項)が考えられ、これらを本案として仮処分命令を発令する余地はないように思われる。
  民事p28
最高裁H29.12.19 
  Aに対して貸金債権を有していたYは、AのB社に対する給料債権を差し押さえ、平成22年4月、その債権差押命令がB社に送達。
butB社は、その後も給料の全額をAに支払った。
Yは、平成25年10月頃、B社に対し、Aの給料債権のうち本件差押命令により差し押さえられた部分(「本件差押部分」)の支払を求める支払督促を申立て、B社は、督促異議の申立てをする一方、
平成26年1月までに、
Aに支払うべき給料から合計26万円を控除し、これを本件差押部分の弁済としてYに支払った。(「本件支払1」)
督促異議により移行した訴訟⇒平成26年2月、B社が本件差押部分の弁済として141万905円をYに支払うなどを内容とする和解が成立し、B社はこれを支払った。(「本件支払2」)
  破産者Aの破産管財人Xが、
破産手続開始前の決定前にAのB社に対する給料債権を差し押さえて取り立てたYに対し、
破産法162条1項1号イの規定により、
その取立による弁済を否認し、
これによりYがB社から受領した金銭に相当する金額等の支払を求める事案。
  規定 破産法 第162条(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)
次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。
二 破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前三十日以内にされたもの。ただし、債権者がその行為の当時他の破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
民執法 第155条(差押債権者の金銭債権の取立て)
金銭債権を差し押さえた債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から一週間を経過したときは、その債権を取り立てることができる。ただし、差押債権者の債権及び執行費用の額を超えて支払を受けることができない。
2 差押債権者が第三債務者から支払を受けたときは、その債権及び執行費用は、支払を受けた額の限度で、弁済されたものとみなす。
民執法 第145条(差押命令)
執行裁判所は、差押命令において、債務者に対し債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ、第三債務者に対し債務者への弁済を禁止しなければならない
民法 第481条(支払の差止めを受けた第三債務者の弁済)
支払の差止めを受けた第三債務者が自己の債権者に弁済をしたときは、差押債権者は、その受けた損害の限度において更に弁済をすべき旨を第三債務者に請求することができる。
2 前項の規定は、第三債務者からその債権者に対する求償権の行使を妨げない。
  原審 本件支払は、いずれもAの財産である給料債権からの支払であり、これによりAのYに対する貸金債権が消滅する⇒破産法162条1項の規定による否認の対象となる。 
  判断 債権差押命令の送達を受けた第三債務者が、差押債権につき差押債務者に対して更に弁済した後、差押債務者が破産手続開始の決定を受けた場合、
後者の弁済は、破産法162条1項の規定による否認権の対象とならない。 

Xの請求のうち本件支払2に係る部分を棄却。
  解説  破産法162条1項1号は、
破産者が支払不能になった後にした既存の債務の消滅に関する行為等について、破産財団のために否認することができると規定。 
本件支払2については、これをYに対してしたのが破産者A自身ではなく第三債務者B社⇒破産者に代わって第三者が弁済をする場合に破産法162条1項による否認が認められるか否かが問題。
  旧法下の判例:
破産者が破産債権者を害することを知ってしたことを要件とする故意否認(旧破産法72条1号)については、
破産者による害悪ある加功の事実を要する。
(最高裁昭和37.12.6)
これを要件としない危機否認(旧破産法72条2号)については、
破産者の意思に基づく行為のみならず、破産者の財産をもって債務を消滅させる効果を生ぜしめる場合も否認対象行為に含む。
(最高裁昭和39.7.29)
学説:
破産者の詐害意思が要求される詐害行為類型(破産法160条1項)については、破産者自身の行為又はこれと同視される第三者の行為であることが必要。
災害医師の不要な偏頗行為類型(破産法162条1項)については、効果においては三者の行為と同視される第三者の行為であれば否認の対象となる。
  差押債権者が民執法155条1項の規定により第三債務者から差押えに係る金銭債権を取り立ててその弁済を受けた場合、通常は、 差押債務者の財産である債権が差押債権者に対して弁済されることにより、その限度で差押債務者の差押債権者に対する債務が弁済されたものとみなされる(同条2項)。

差押債務者が破産者であれば、破産者の財産をもってその債務を消滅させる効果を生ぜしめたものとして偏頗行為類型の否認の対象となる。
but
本件において否認の対象となるか否かが問題となるのは、B社が、Aに給料債権の弁済(第一弁済)をした後に、Yの取立てに応じてした更なる弁済(第2弁済)
債権差押命令が第三債務者に差押債務者への弁済を禁止(民執法145条1項)⇒第1弁済は無効⇒Aの給料債権は第1弁済によって消滅せず、AはB社に対し弁済受領額相当の不当利得返還義務を負う
⇒第2弁済によりAの財産であるAの給料債権をもってAのYに対する債務を消滅させることになり、第2弁済は否認権の対象となる。
but
民法481条1項は、支払の差止めを受けた第三債務者が自己の債権者に弁済したときは、差押債権者は、その受けた損害の限度において更に弁済をすべき旨を第三債務者請求することができると規定しており、
判例:
第三債務者が差押債務者にした給付は、差押債務者に対する関係では弁済として有効であるが、差押債権者には対抗できず、その限りで無効(相対的無効)。

第1弁済は、Aに対する関係では有効であり、これによってAの給料債権者消滅するのであって、
B社がYの取立に応じて更に第2弁済をしなければならないのは、民法481条1項により、Aへの弁済による本件差押部分の消滅をYに対抗できないことによるものにすぎず、第2弁済によって本件差押部分が消滅するものではない。

第2弁済によるAのYに対する債務の消滅は、破産者であるAの財産(給料債権)によるものとはいえない。
本件支払2は、Aの財産を減少させるものではなく、破産財団を損なうものとはいえない。
本件支払2により、B社はAへの求償権(民法481条2項参照)が発生して破産債権となっているが、破産債権となるべきYのAに対する債権が消滅している(本件支払2の否認が認められれば、破産法169条によりこの債権が復活し、破産債権となる)
⇒本件支払2は、破産債権者を害するとはいえず、有害性を欠く。
  民事p31
東京高裁H29.7.6  
  相続分の譲渡と特別受益(肯定)
  事案 遺留分減殺請求権の行使による不動産の移転登記手続等の請求。 
X1、X2及びYは、父Aと母Bの子。
父Aの相続に際しては、Bは、法定相続分2分の1をYに無償で譲渡し、X2も法定相続分6分の1をYに譲渡
⇒X1の相続分6分の1、Yの相続分6分の5として、遺産分割審判により、Aの遺産が分割された。
その後Bが死亡したが、B固有の遺産はなし。
Xらは、Bの遺留分算定の基礎となる財産がAの法定相続分として有していた相続分のみ⇒Yに対し、遺留分減殺請求権を行使。
  争点 相続分の譲渡が特別受益の対象となる贈与に当たるか。 
  判断 本件相続分の譲渡は、生計の資本としての贈与であり、特別受益に該当。
⇒Xの主張を肯定。
  規定 民法 第903条(特別受益者の相続分)
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
  解説 相続分の譲渡が「贈与」(民法549条)に当たり、それが「生計の資本」(民法903条1項)としてされたのであれば、特別受益として、遺留分算定の基礎となる。
本件は、相続分の贈与が特別受益に当たり、遺留分算定の基礎となって減殺の対象となる贈与に該当することを明らかにしたもの。
  民事p36
大阪高裁H29.12.1  
  再審請求弁護人の死刑確定者との秘密面会の制限と国賠請求(肯定)
  事案 死刑確定者として大阪拘置所に収容されているX1並びにその再審請求のために選任された弁護人であるX2~X5が、
大阪拘置所長に対し、X1と面会する際に、
120分の面会を認めること、職員の立会いのない面会を認めること、パソコンの使用を認めることを要請したにもかかわらず、
同拘置所長が面会時間を60分に制限したこと、職員の立会いのない面会を許さなかったこと、パソコンの使用を認めなかったことが違法であると主張し、
Y(国)に対し、国賠法1条1項に基づき、200万円の賠償金の支払を求める事案。
  判断 秘密面会(拘置所職員の立会いのない面会)の利益は、死刑確定者だけでなく、再審請求弁護人にとっても重要なもの

刑事施設の長は、死刑確定者の面会に関する許否の権限を行使するにあたり、その規律及び秩序の維持等の観点からその権限を適切に行使するとともに、
死刑確定者と再審請求弁護人との秘密面会の利益をも十分尊重しなければならない。

死刑確定者又は再審請求弁護人が再審請求に関する打合せをするために秘密面会の申出をした場合に、これを許さない刑事施設の長の措置は、特段の事情のない限り違法となると解するのが相当。 
but
本件においては、特段の事情があったものとは認められない。

違法
大阪拘置所長は、120分の秘密面会の申出につちえ、漫然と従前の例を踏襲して面会の時間を60分に制限

裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してXらの秘密面会をする利益を侵害したものとして違法。
Xは、秘密面会の際、パソコンの使用の許可を求めたのに対し、大阪拘置所長は、その使用により拘置所の規律及び秩序を害する結果を生ずる具体的なおそれがあるかどうかについて考慮することなく、これを認めない措置をとった。

裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして、違法となる。

Y(国)に対して103万7540円及び遅延損害金の支払を求める限度で、Xらの請求を認容。
  解説 秘密面会の申出の許否に関する判断基準:
これを許さない刑事施設の長の措置は、
秘密面会により刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認められ、又は死刑確定者の面会についての意向を踏まえその心情の安定を把握する必要が高いと認められるなど特段の事情がない限り、
裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用して死刑確定者の秘密面会をする権利を侵害するだけでなく、
再審請求弁護人の固有秘密面会をする利益をも侵害するとして、
国賠法1条1項の適用上違法となる。
(最高裁H25.12.10)
  民事p54
大阪高裁H29.12.15  
  器械体操部での事故と学校側の損害賠償責任(肯定)
  事案 Y(大阪府)の設置する高等学校の器械体操部に所属していたX1が部活動の練習中に鉄棒から落下して負傷し、重大ない後遺障害が残った事故。
X1とX1の母であるX2や姉であるX3・X4が、当時同部の顧問であったP1教諭、外部指導者であったP2コーチには、注意義務違反があり、これによってXらが損害を被った
⇒Yに対し、国賠法1条1項に基づき、損害賠償金の支払を求めた。 
  原審 請求をいずれも棄却。 
  判断 P2コーチがX1に対し通し練習に関する指導をするにあたっては、X1が前方車輪とは逆方向に回転を始める状態になった場合には、鉄棒から手を離して着地する危険回避方法をとらずに他の不確実な危険回避方法をとろうとすることのないように、必ず鉄棒から手を離して着地するよう指導すべき注意義務があり、
P2コーチには、通し練習に関する指導につき、注意義務を怠た過失がある。
P2コーチには、X1が鉄棒を逆手握りで握りつづけたまま前振りになったときに、補助行為によってX1の回転を止めることができるよう、自ら補助者として鉄棒下の適切な位置に立つべき注意義務があり、P2コーチには、自ら補助者として鉄棒下に立つことなく、鉄棒から約10メートル離れた位置に立ってX1の演技を見ていたことにつき、注意義務を怠った過失がある。
  解説 クラブ活動中の生徒の事故について、学校側の責任を追及する方法としては、
①債務不履行責任として構成する方法と、
②不法行為責任として構成する方法
がある。
課外のクラブ活動であっても、それが学校の教育の一環として行われるものである以上、その実態について、学校側に生徒を指導監督し事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務がある(最高裁)。
注意義務の具体的内容として、
①事前注意義務
②指導監督上の注意義務
③事故対応義務
などが挙げられ、

注意義務違反の存否の判断にあたっては、
クラブ活動の内容、生徒の学年や年齢、競技等の経験、健康状態、生徒側の指導違反等、様々な要素が考慮される。
  民事p68
東京地裁H29.6.6  
  認知症で公正証書遺言の遺言能力が否定された事案
  争点 本件遺言(平成23年6月の公正証書遺言)の有効性であり、遺言能力の有無が争われた。 
  主張 原告:
遺言者は、本件遺言当時、アルツハイマー型認知症を発症しており、
長谷川式簡易知能評価スケールの検査結果や介護認定記録などから窺えるように、短期的記憶力や認識障害がみられ、記憶力を前提とした判断能力が著しく低下
⇒遺言者の遺言能力が欠如していた旨を主張。 
被告:
アルツハイマー型認知症を発症していたものの、その程度は重要なものではない⇒遺言者は遺言能力を欠如していなかった。
  判断 ①遺言者は、平成18年ころから物忘れが目立つようになり、同年11月以降は長谷川式簡易知能評価スケールにおいて16点ないし18点で推移
②遺言者は、遅くとも平成19年5月までにアルツハイマー型認知症であると診断された
③遺言者は、平成20年10月、妻が脳梗塞を発症して入院し、その後は有料老人ホームに入所することになり、独居生活となったため、被告は、遺言者のために要介護認定・要支援認定を申請し、同年11月、被告が同席して同認定のための調査が行われたが、
その際、遺言者は服薬をしているがその認識がなく、
電話の内容等もすぐに忘れてしまうこと、
1日の予定をホワイトボードに記載してもこれを理解及び記憶することができずに被告に何度も電話してくることが説明されたほか、
遺言者は、当時の季節と月を答えることができず、
調査中、7回も妻がどこにいくかを尋ね、妻がいないのに自分はどのように生活しているかを確認していた
④平成20年11月に作成された主治医意見書では、日常生活自立度は「J2」及び「IIb」の各欄にチェックが付され、認知症の中核症状として短期記憶に問題があることや自分の居場所が分からなくなることが見られる旨が指摘されている
⑤平成21年3月、被告の同席の下、要介護認定・要支援認定のための調査が行われたが、遺言者は季節に適した服装を選択することができないこと、
服薬について、薬を飲む時間や量を理解できないため、家族が食事と一緒に準備しているが飲み忘れがあること、
金銭管理について、計算能力及び管理能力はないこと、
電話をかけ又はこれを受けることはできるが、電話をかけたことや話の内容等をまったく覚えていないこと、
ホワイトボードに1日の予定が書いていあるが理解しておらず、自分では何をすべきか分からずに1日に何度も家族に電話をかけて聞くこと、
同調査日に家族と病院に行ったことを覚えていないこと、
季節の理解ができず、寒い日に暖房をつけず薄着で震えていたことがあったこと、
妻が入院していることがわからず不安になっていること、
習慣的なことを除き、直前の会話の内容や出来事を記憶していないこと
などが説明され、また、
調査中にジュースを飲みながらビールを飲んでいると何度も繰り返し話していた
⑥平成21年3月の主治医意見書にも前記平成20年11月の主治医意見書ど同内容の記載があること、
⑦平成23年3月、被告の同席の下、要介護認定・要支援認定のための調査が行われたが、遺言者は配膳された通常食を自力で食べるが、食べたすぐあとに「ご飯は?」と被告に聞くこと、
1人だとヘルパーが来る日に散歩に出かけてしまい不在となることが月2回ほどあること、
品物を見せて3分後に聞いても忘れて答えられないこと、
散歩も決まった場所でないと外出しないが、時々帰らず被告が探しに出ること、
同じ質問ばかり何度も被告にしており、1分おきに聞くために被告がこれを非難すると感情が混乱して泣くことがあること、
介護関係者の顔を忘れているほか、
東北大地震のニュースを見るたびに新鮮に驚き、被告との伝言や約束事もできないこと、
薬の飲み忘れが多いこと、
被告が金銭管理しているが、行きつけのパン屋で同じパンを繰り返し買って食べてしまうほか、会計も定員に任せており、被告からは何度も注意を受けて体重も増えていること、
会員の協力もありテニスクラブに通っているが、それ以外の場所に行けず、動作上はスポーツができるが、テニスクラブは休業であることを被告が伝えたにもかかわらず、直後に出向いてしまったこと
などが説明されるなどした
⑧平成23年3月の主治医意見書には、前記平成21年3月の主治医意見書と同様の記載があるほか、認知症の周辺症状として、「徘徊」の欄にチェックが付されていること
など

遺言者が本件遺言を行った当時、アルツハイマー型認知症により、短期記憶障害が相当程度進んでおり、その他の症状等や遺言内容が複雑であることなどことなども併せて考慮すると、
遺言内容を理解及び記憶することができる状態ではなかった蓋然性が高い。

遺言能力は欠いており、本件遺言は無効。
  商事p74
東京高裁H29.4.26  
  未公開株式ファンドの販売に際しての説明義務違反(肯定)
  事案 ファンドの販売に関して、同ファンドに出資した投資家が損害の賠償を求めた事案。 
Y1:信託業務等を営む会社
Y5:その会計監査人
Y2:投資顧問業等を営む会社
Y3:その代表取締役
Y4:投資を勧誘した訴外Aの取締役ないし代表取締役であった者
X1及びX2:Y1の販売した信託型ベトナム未公開株式ファンド第1号に出資した者
X1及びX2は、本件ファンドの販売勧誘にあたり説明義務違反及び適合性原則違反があったとして、出資金相当額及び弁護士費用の損害の賠償をともめ、併せてY1の会計監査人Y5に対し、任務懈怠を理由として、損害の賠償を求めた。
  争点 ①説明義務違反
②適合性原則違反
の有無 
  原審 請求棄却。
適合性原則違反:
X1:本件ファンドへの投資以前に1000万円程度の投資信託及び本件ファンドと同様に株価下落リスクがある現物株式の購入経験がある
X2:1100万円ないし1200万円程度の現物株式及び投資信託の購入経験等がある
⇒適合性原則違反は認められない。
説明義務違反:
①セミナー又は説明会で、Y3及びY4から、未公開株式の為替リスクや株価下落リスクなど想定される具体的リスクが説明された
②本件ファンドに元本補填や利益の補足がないことについて、複数のスライドを用いる方法での説明があった
③インターネットを通じての申込の際に確認することを求められる信託約款および申込説明書には具体的なリスクが記載。

Y1、Y3及びY4の説明に問題はないとして、説明義務違反を否定。
  判断 説明義務違反を肯定し、一部認容。 
①信託約款や申込説明書による説明があったことは認められる
but
②信託財産のうち総額5億5300万2791円を要して未公開株式が購入されたにもかかわらず、その実質の対価は出資金の約2割にあたる約1億9300万円にすぎず、約4割にあたる約3億6000万円は未公開株式を購入するに際しての仲介手数料に充てられていた
③未公開株式購入額やこれに直接影響する高額の仲介手数料の存在及びその額等は、投資家にとって極めて関心の高い事項であるにもかかわらず、この点の説明は何らされていなかった
④これについて何ら説明がなされなかったということは、本件ファンドの重要事項について説明が尽くされていたとはいえない

説明義務違反を肯定。
  解説 契約締結に先だって、契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき事情を提供しなかった場合には、信義則上の説明義務違反として不法行為による損害賠償責任が生じる。(最高裁H23.4.22) 
説明義務の範囲や程度は、顧客の知識、取引経験等に応じて自己責任の下に合理的判断が可能かという点から決定される。(東京高裁H26.4.17)
⇒具体的事情を詳細に検討する必要。
  刑事p90
大阪高裁H29.3.9  
  原判決での死刑を量刑不当で破棄し、無期懲役とした事例
  事案 白昼の繁華街において、無差別に通行人男女2名を包丁で殺害した事案。
    ●責任能力について
    検察官は、本件の起訴前にD1医師(公判前整理手続段階で死亡)によるD1鑑定を行ったが、
公判前整理手続において新たに裁判員法50条による鑑定を請求し、D2医師によるD3鑑定が行われた。
原審公判では、D3医師に対する鑑定人尋問と弁護人請求のD2医師(D1鑑定の鑑定補助者)の証人尋問が行われ、弁護人請求のD1医師作成の精神鑑定書も取り調べられた。
D1、D2鑑定及びD2証言:
被告人は、犯行時、覚せい剤中毒後遺症ないし覚せい剤精神病の遷延・持続型(「本件精神障害」)にり患しており、それによる「刺しちゃえ」等の幻聴が犯行に影響したことを認める。
D3鑑定:幻聴の影響は被告人自身が決めた行為を後押しし又は強化する程度にすぎず、覚せい剤の長期使用による大きな人格変化もないとしたのに対し、
D1鑑定とD2証言:犯行は幻聴に強く影響されており、被告人は覚せい剤の長期使用によって攻撃性等が強まりやすくなっていて、犯行前にそれらが著しく強まっていたとした。
  原審 D3鑑定には合理性を欠くところがないが、
D1鑑定・D2証言には、前提とした幻聴内容等の事実関係又は前提事実からの推論過程に問題がある⇒D3鑑定を尊重すべき。 
①犯行前の生活状況に異常がない、
②自暴自棄になって幻聴に従って刺すことしたという犯行動機は了解可能
③犯行に向けて合目的的に行動している
④犯行直後に反省の弁を述べている
⑤人格との異質性がない
⇒弁識制御能力が若干低下していた可能性はあるが、完全責任能力が認められる。
  判断 原判断は正当。 
①被告人が供述する幻聴の存在は否定できないが、
D3鑑定は、当時の被告人の状況や前後の言動等を踏まえて、変遷の著しい被告人供述を批判的に検討した上で、幻聴の影響を合理的に説明
D1鑑定のうち幻聴が犯行に強く影響したとする点は、被告人供述のとおりの事実を前提としていることから疑問
幻聴が人格全体を巻き込んで深く影響したとはいえないというD1鑑定の結論部分は、D3鑑定と大きな隔たりがない
②被告人には葛藤に対する耐性が低く、攻撃性の発散に対する閾値が低いという人格の偏りがあり(D1、D3両鑑定)、そのような被告人が、将来への不安・失望からくる死にたい気持ち、親族に対する憤りなどの複合的な葛藤状態に置かれ、自暴自棄となって本件犯行を決意したと認められる。
③覚せい剤使用による人格変化については、もともと被告人には著しい人格の偏り(攻撃性等)があり、D1鑑定及びD2医師が検討していない覚せい剤使用前からの暴力的な傾向をみると、人格の具体的変化は認められず、反抗への影響も大きくはない。
D1鑑定もこれと大きくは異ならず、人格変化を重視するD2証言は具体的根拠を欠く。

D3鑑定が合理的。
D3鑑定によれば、本件犯行は、前記人格の偏りのある被告人が葛藤状態の下、自らの意思で決めた行動であって、幻聴は被告人自身が決めた行為を後押しし又は強化する程度にとどまり、本件犯行が本件精神障害に支配され又は著しく影響を受けていたとは認められない。
動機の了解可能性、反道徳性の意識、行動の合理性、人格異質性(消極)については、原判決説示のとおり。

完全責任能力を認めた原判決は正当。
  解説 最高裁H20.4.25:
生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度については、専門家たる精神医学者の意見が鑑定等として証拠となっている場合には、鑑定人の公正さや能力に疑いが生じたり、鑑定の前提条件に問題があったりするなど、これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り、裁判所は、その意見を十分に尊重して認定すべき。 
最高裁H21.12.8:
控訴審判決が、本件は妄想性障害による病的体験に直接支配された犯行であり、被告人は弁識制御能力を喪失していたとする精神鑑定を、前提資料や結論を導く推論過程に疑問があるとして採用せず、病的体験と犯行との関連性等を検討して心神耗弱を認めたことについて、その判断手法に誤りはなく、結論も相当であるとした。
最高裁H27.5.25(加古川7人殺害事件):
控訴審判決が、精神鑑定に基づいて妄想性障害を認めながら、同鑑定のうち同障害によって判断能力に著しい障害を受けていたとする部分を採用せず、完全責任能力を認めたことにつき、同鑑定部うbンは妄想の影響の程度に関する前提を異にしているとして、これを是認。
本判決の責任能力の判定場面における説示は、
まず鑑定意見に基づいて、精神障害が犯行に与えた影響の機序及び程度と、健常な精神機能(人格の偏りを含む)が作用した部分をできる限り明らかにして、その上で、精神障害の影響が弁識制御能力の喪失ないし著しい低下をもたらしたかについて、動機の了解可能性等を検討して、これを否定したもの。
鑑定結果が重大事件の帰趨を決することもある⇒請求者が的確な疑問を提起しているのであれば、50条鑑定の採用を躊躇してはならない。
  ●量刑不当について 
判断 原判決の量刑理由のうち、
①罪質の悪質さ、②強固な殺意に基づく態様の残虐さ、③結果の重大性、④社会的影響の大きさは正当。
⇒無期懲役よりも軽い刑は相当ではない。
but
⑤計画性が低いことを特に重視すべきでないとする点は是認できない、
⑥動機原因につき、反抗の決意に影響した幻聴は、覚せい剤の長期使用によって自ら招いた本件精神障害によるものであるから、幻聴の影響は特に有利に考慮できないとする点も是認できない、
⑦動機が身勝手かつ自己中心的であるとする点は相当だが、動機原因に酌むべき点が全くないとは言い切れない。
原判決の量刑判断は重要な犯情事実に関する誤った評価を前提とするもの。
計画性が低い上に精神障害の影響が否定できない。
殺害された2名以外に人的被害がない。

究極の刑罰であって公平性の確保の観点も考慮して真にやむを得ない場合に適用されるべき死刑につき、その選択がやむを得ないものとはいえない。

量刑不当により原判決を破棄し、無期懲役に。
  解説  殺害の計画性は永山基準が挙げる因子ではない。
but
最高裁H27.2.3:
早い段階から被害者の死亡を意欲して殺害を計画し、これに沿って準備を整えて実行した場合には、生命侵害の危険性がより高いとともに生命軽視の度合いがより大きく、行為に対する非難が高まる。
かかる計画性があったといえなければ、これらの観点からの非難が一定程度弱まる。
従来の裁判例では、
覚せい剤の長期使用による精神障害の影響につき、犯行に影響した精神症状が、犯行に近接した摂取ではなく覚せい剤中毒後遺症による場合であっても、それは自己が招いた結果であるとして、量刑上被告人に有利に考慮しないことが多かった。
本判決の判断:
幻聴の影響は、被告人が自己の意思で決めた本件犯行(の遂行)を後押し又は強化した程度ではあるが、
それは、残虐な無差別通り魔殺人における被告人の生命軽視の態度を減じる要素として、また、遂行過程を含む犯行に向けた被告人の意思決定を一定程度左右した要素として考慮され、責任非難の度合いが軽減される。 

薬物依存を自己の意思のみで断ち切ることは困難であるし、
刑の一部執行猶予の導入にも触れて、違法薬物の長期使用がもたらした幻聴の影響を量刑上考慮すべきであるとした。
薬物等の摂取による一時的精神障害につき、コモン・ローは精神障害の免責抗弁を認めていないが、
薬物等の長期使用によって持続的な物質誘発性精神疾患のような不治の精神障害になった場合には、この免責の抗弁を主張できるのが、
アメリカにおける一般的ルール。
  量刑事実(量刑判断の対象となる事実)、特に行為責任の大きさに関わる重要な事実について原判決の認定・評価に誤りがあり、原判決の量刑がこれらを正しく認定・評価した場合の量刑の枠を逸脱している場合には、量刑不当と判断。
事後審である控訴審は、量刑判断の不合理性を具体的に示す必要。
H27.2.3最高裁:
死刑の科刑が是認されるためには、死刑の選択をやむを得ないと認めた裁判体の判断の具体的、説得的な根拠が示される必要であり、
控訴審は、第一審のこのような判断が合理的なものといえるか否かを審査すべきであると判示。

死刑を言い渡す判決には、死刑の選択をやむを得ないと認めた具体的、説得的な根拠を示すべき重い説明責任が課されており(量刑傾向を大きく踏み出す懲役刑についても同じ問題がある。(最高裁H26.7.24))、
死刑選択を根拠として示された重要な量刑事実の認定・評価につき、控訴審が、その不合理性を具体的に指摘できるだけの理由をもって誤りと認めた場合には、死刑を選択した原判決が不合理であると判断され得る。
H27.2.3最高裁:
死刑は誠にやむを得ない場合に行われるべき究極の刑罰であって、その適用は慎重に行われなければならず、また、究極の刑罰であるがゆえに、その運用に当たっては、公平性の確保にも十分に注意を払わなければならない。
本判決:
死刑が究極の刑罰であることを踏まえて、
「死刑が相当かの判断は、無期懲役刑か死刑かどうかという連続性のない質的に異なる刑罰の選択であり、有期懲役刑における刑期のような、許容される幅といった考え方にはなじまないものである。」と説示。
  刑事p117
広島高裁松江支部H29.3.27
  犯人性が争われ、強盗殺人の訴因に対して1審有罪(殺人・窃盗)2審無罪
  第1審 強盗殺人の訴因に対して、
被告人を、
①平成21年9月29日午後9時34分頃に米子市内のいわゆるラブホテルにおいて同ホテル支配人を殺害した殺人罪と
②その際に現金約26万8000円を窃取した窃盗罪
で有罪を認定。
  ●証拠構造 
  ◎第1次的間接事実 
被告人の自白はなく、状況証拠のみによって有罪と認定。
①本件はホテルの内部構造と施錠状況を知った者の犯行であるところ被告人は本店長としてそれを知っていた
②被告人は盗まれた千円札とほぼ同枚数の千円札230枚を犯行の翌日所持していた
③被告人に動機がある
④被告人は事後の逃走等犯行を疑わせる行動がある
⑤被告人以外に犯人性のある人物がいない
  ◎第2次的間接事実 
前記の第1次間接事実を推認させる第2次間接事実
①(内部犯行=被告人)については、
(a)犯行場所であるホテルの事務室の場所は外部の者にはわからないこと、
(b)ホテル事務室への侵入経路は被告人しか辿れないこと
②(「盗品」の近接所持)については、
(a)窃盗の被害額は26万円であり、そのすべてが千円札
(b)犯行日の翌日に被告人は230枚の千円札を自分の口座に入金
(c)230枚の千円札の入手経路に関する被告人の弁解が信用できない
  ◎第3次的間接事実 
①(内部犯人性)の侵入経路を推認させる第3次間接事実として、
(a)犯人は午後9時30分に106号室の客室ドア2回開閉した(この事実はホテルの電磁記録から疑いない)
(b)犯人は午後9時34分に310号室の2階客室の扉を開けた(この事実はホテルの電磁記録から疑いない)
(c)前記(a)と(b)の時間関係からみて、
310号室の2階客室ドアは逃走時ではなく侵入時に開けられたものであり、
侵入経路は310号室1階駐車場⇒310号室(2階)⇒2階従業員用通路⇒ホテル事務室以外に考えられない
(d)前記の3つの事実から、外部の者が侵入可能な他の経路はすべて否定される。
  判断 ●内部犯人性に関する間接事実1について
原判決:犯行場所である事務室の所在は外部からは判別できない
vs.
事務室のある部屋の窓(ガラス戸)は他の客室の窓(板状の戸)とは明らかに異なっている⇒外部の者でも事務室の所在を推認できる。
⇒この点に関する原判決の認定は論理則、経験則に照らして不合理
  ●内部犯人性に関する間接事実2について
原判決:106号室の客室ドアを2階開閉したのは偏見の犯人であると認定しそれを根拠に侵入経路を特定
vs.
犯人以外の者がその開閉をする可能性があり、かつ犯人が内部事情に詳しい者であれば106号室の客室ドアを開閉するというような迂遠な行動はとならない
⇒この点に関する原判決の認定は論理則、経験則に照らして不合理
⇒原判決認定以外の侵入・逃走経路も否定できない。
被告人が230枚の千円札を所持する必要性と可能性及び事件後にこれを手放す(口座に入金する)理由の存在を根拠に、原判決の認定を不合理であると判断。 
  解説 ●判断準則
情況証拠のみによって有罪認定する場合の立証程度について、最高裁H19.10.16が、
さらにその場合情況証拠によって認められる間接事実中に一定の事実関係が含まれていることを要するとした最高裁H22.4.27.
刑訴法382条によって控訴審が第1審判決に事実誤認があるとする場合の判断方法について、最高裁H24.2.13
  盗品近接所持の法理:
盗品の被害発生の時点と近接した時点において盗品を所持していた者については、右物品の入手状況につき合理的な弁明をなし得ない限り、右物品を窃取したと認定してよいとする理論
but
本件では、被告人が所持していた230枚の千円札が盗品の千円札であるという証拠は存在しない。

この点に関する被告人の弁解の信用性判断は、盗品そのものの所持に関する弁解の信用性判断とは異なる。 
  弁護人の訴訟手続の法令違反の主張につき原審裁判所の訴訟指揮は不適切であったと判示。
公判前整理手続において争点とされたの:
「被告人が金品物色中に事務所に戻ってきた被害者に発見されて殺害行為に及んだ」(=訴因は強盗殺人)というものであったところ、

原判決:
「窃盗の目的で侵入した事務所に予期に反して被害者がいて一度は窃盗を諦めたが、何らかのやり取りの後のいさかいから殺害行為に及んだ」
と認定した際、これを争点として顕在化させる手続をとらなかった。
原判決が、被害者の行動と犯行態様をずらしたのは、近接所持からくる被告人犯人説に合うように侵入経路と犯行時間をずらした結果であると推認される。

裁判員裁判という時間的制約のもとでの有罪の評議結果と認定事実の整合性について、難しい対応を迫られる一事例。
2369   
  判例特報
p12
横浜地裁川崎支部H30.2.8   
  川崎市過労交通事故死訴訟和解勧告決定
  事案 亡Aの両親のXらが、本件事故は、Yが亡Aに不規則で過重な労働をさせた上、21時間以上の徹夜の労働に従事させたために極度の疲労と睡眠不足の状態となり居眠り等が原因となって生じたと主張

Yは亡Aに対して過重な業務に従事させ、業務が深夜早朝に及ぶ場合は原付バイクで通勤せざるを得ないことを認識し、徹夜の業務を終え原付バイクで帰宅中に本件事故が生じることを予想することができた
⇒亡Aの業務の軽減を図る措置を講ずるなどして本件事故を回避すべき安全配慮義務に違反⇒債務不履行又は不法行為に基づき亡Aの死亡による損害金合計約9910万円及び遅延損害金の支払を求めた。
  判断 ●亡Aの労働の状況と本件事故当時の心身の状況 
①従事していた仕事内容
②過労による労働者の心身の健康に対する影響に関し、厚生労働省労働基準局長通達に係る「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」を参照し、
亡Aが従事していた業務と本件事故発生との時間的関連性を見ると、
(i)本件事故の日(前日の出勤時から当日の退勤時まで、21時間42分間の拘束時間)
(ii)本件事故以前10日間の短期間(拘束時間1日平均13時間51分、最大23時間)
(iii)本件事故以前1か月間(時間外労働時間91時間49分)、2か月間(時間外労働時間平均約78時間38分)及び6か月間(同約63時間20分)
の各期間のいずれにおいても、心身に対する負荷が顕著に高く、
深夜及び早朝の勤務を含む不規則で、過重な業務に従事し、
本件事故の日の前月である平成26年3月の1か月間で見ると、
労使協定(36協定)に違反する1か月30時間を超え1か月約67時間35分となる労働に従事

亡Aは、
入社以来、継続して、心身に対する負荷が顕著に高く、深夜及び早朝の勤務を含む、不規則で長時間にわたる過重な業務に従事していたのに加え、
本件事故の日の前日の4月23日午前11時06分から21時間42分にわたり、夜通しで、かつ、心身に対する負荷が顕著に高い特に過重な業務に従事していたため、
疲労が過度に蓄積し、顕著な睡眠不足の状態に陥っていた。
  ●本件事故と過重な労働との間の因果関係(業務起因性)
①事故態様
②実況見分により原付バイクのハンドル、ブレーキの故障は何ら認められていない
③過労運転の危険に係る公知の事実(道交法65条、75条参照)

本件事故は、亡Aが、疲労が過度に蓄積し、顕著な睡眠不足の状態にあり、原付バイクの運転中にこの心身の状態に起因して居眠り状態に陥って運転操作を誤って生じた蓋然性が高く、
この他に原因があるとの疑いを差し挟ませる特段の事情は認められない

前記の過重な労働と本件事故との間の因果関係(業務起因性)が認められる。
  ●被告の安全配慮義務違反 
①使用者の指揮命令により労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険があること
②労働者がこのようにして、心労や心理的負荷等が過度に蓄積したり、極度の睡眠不足の状態に陥ると、自動車や原付バイクの正常な運転ができないおそれがあること
③この自動車等の場合と同様に、安全な運転を要する機械等の正常な運転ができないおそれがあるから、労働者がこの心身の状態に起因して、使用者の指揮管理する勤務時間及び勤務場所において、社用車や機械等の運転操作を誤ったり、深夜や早朝の業務の終了後に使用者が指示又は容認する自社の運転による帰宅の途中など、使用者の指揮管理する勤務時間及び勤務場所に隣接する時間及び場所において、自車の運転操作を誤るなどして、労働者の生命・身体を害する事故が生じる危険のあること
は周知。

使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務やそのための通勤の方法等の業務遂行の内容及び態様等を定めてこれを指揮管理するに際し、
業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積したり、極度の睡眠不足の状態に陥るなどして、労働者の心身の健康を損ない、
あるいは労働者の生命・身体を害する事故が生じることのないように注意する義務(安全配慮義務)を負う。

①亡Aの業務を指揮命令していた被告又は亡Aの上司は、亡Aの前記の深夜及び早朝における作業を含む不規則で過重な業務内容、長時間にわたる労働時間及びこれらの継続の状況を具体的に把握
②亡Aに対して深夜及び早朝の就労により公共交通機関の利用ができない場合の交通手段として原付バイクによる通勤を明示して指示しており、原付バイクによる通勤の方法を禁止せずこれを利用し、これを容認⇒深夜及び早朝の業務終了後という被告の指揮管理する勤務時間及び勤務場所に密接する時間及び場所において亡Aが原付バイクに乗って帰宅することがあることを認識

被告の雇用する労働者である亡Aに従事させる業務やそのための通勤の方法等の業務遂行の内容及び態様等を定めてこれを指揮管理するに当たり、亡Aの業務の負担を軽減させるための措置を講じたり、適切な通勤の方法等を指示するなどして、亡Aが過度の疲労状態や顕著な睡眠不足の状態に陥り、心身の健康を害したり、生命・身体を害する事故が生じることを回避すべき義務を負っていた。
but
・・・・前記の回避義務に違反した。

・・・・
  規定  労契法 第5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
  解説 ●問題の所在と本決定の位置づけ
使用者の安全配慮義務:
業務の遂行によって労働者の心身の健康や生命・身体の安全が損なわれる危険(労働災害)から保護するよう配慮すべき義務。(労契法5条)
  ●過重労働と通勤中の事故死との間の因果関係(業務起因性)の認定の仕方 
  業務災害における保険給付に係る業務起因性の認定に関しては、
①過労死(脳・心臓疾患)について「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」、
②過労自殺(精神障害)について「心理的負荷による精神障害の認定基準」
が厚生労働省労働基準局長通達として発せられており、
業務外認定の取消訴訟においては、
この基準を参考とし、あるいはこれを踏まえつつ、
労働の量のほかに労働の質も考慮して過重性(身体的負荷、心理的負荷)の大小、程度及び当該疾患の発症との時間的関連性の程度等を考慮して、
業務起因性(相当因果関係)の有無が判断。
「過労自殺」訴訟における安全配慮義務違反の評価の対象となる過重労働の程度の認定評価及びこれと発症・死亡との間の(相当)因果関係(業務起因性)の認定判断も同様。
菅野:
「過労死」訴訟の近年の裁判例の傾向について、
『脳・心臓疾患の業務上認定の基準』において定立されている労働時間基準をこえる長時間労働などの過重な業務への従事が認定⇒使用者において脳・心臓疾患の発症が基礎疾病などの業務外の事由によるものであることを首肯させる特段の事情を証明できないかぎり、業務への従事と発症との相当因果関係が認められ、かつ業務を軽減したりする措置を怠ったものとして健康配慮(注意)義務の違反も肯定される傾向。

脳・心臓疾患については、使用者の損害賠償義務の成否は、業務上認定に近い手法で判定される傾向にある。
本決定:
亡Aが従事していた業務の質として身体的負荷の高い業務に従事していたことを認定し、これと業務の量(労働時間)を考慮した業務の過重性の程度の評価について、
前記の「過労死(脳・心臓疾患)」の認定基準を参酌して、
本件事故発生との間の時間的関連を考慮した期間における労働状態について認定評価

本件事故当時、不規則かつ過重な業務と夜通しの長時間の業務の遂行によって疲労が過度に蓄積し、顕著な睡眠不足の状態に陥っていたと認定。
本決定が同認定の基準を参酌

「過労死事故」の類型では「過労死」の場合と同様に、事故の発生(脳・心臓疾患の発症)に近いほど、過重労働が労働者の心身の健康や睡眠の状態に与える影響が強いことを考慮。
①通常の通勤経路の直線道路を走行していたブレーキ及びハンドル機能ば正常な原付バイクが、制動措置や左右への回避措置などの正常な運転がされないまま、平坦な車道上から斜走を続けて電柱に激突したという本件事故の態様及び本件事故発生の状況
②過労運転の危険の公知ないし周知の事実(道交法65条、75条)

本件事故は、前記の亡Aの心身の状態に起因して居眠り状態となったために原付バイクの正常な運転ができず、運転操作を誤って生じた蓋然性が高く、
この他に原因があるとの疑いを差し挟ませる特段の事情は認められない。

前記の過重業務と本件事故との間の因果関係(業務起因性)を認定。
過労事故死に関する裁判例は、いずれも、
過労運転の危険に係る経験則(公知ないし周知の事実)を前提として、
①被害者の過重業務による事故当時の心身の状態
②事故の態様及び事故発生の状況
③他の原因の存在の可能性に係る事情
を総合して判断。
  ◎最高裁昭和50.10.24:ルンバール事件
ルンバール施術前後の患者の状態の推移等⇒「他に特段の事情が認められない限り」、施術と発作等との間の因果関係を否定するのは経験則に反するとして、
患者の基礎疾患が影響した可能性もあり発作等の原因を判定し難いとして請求を棄却。 
橋本:
「他の原因の不存在との関係における推認」として論じており、
原告主張の原因と相反する(被告主張の)他の原因については、その存在を示す具体的な証拠や特段の事情が存在せず一般的な可能性にとどまるのに対し、
原告主張の原因については、診療経過や患者の症状等に基づいて検討した結果、患者の死傷の原因である具体的な可能性が肯定されれば、
通常人にもっぱら他の原因によるのではないかという合理的な疑いを抱かせない
⇒原告主張の原因を推認すべき。
  事故原因として被告が主張する「他の原因」が、別途、過労死の責任原因となる(本件事故時における)「脳・心臓疾患の発症」である場合で、いずれが原因か心証が50%対50%に分かれるような特殊な事例

過重労働と事故の発生の間の因果関係の認定判断として、いわゆる「択一的」認定判断がされ、いずれの原因の場合であっても被告の安全配慮義務違反が認められると判断されることによって、その責任を肯定し得る余地がある。 
  ●「過労死事故死」における使用者の安全配慮義務について 
「過労自殺」の事例で最高裁H12.3.24(電通事件)は、
民法715条1項所定の使用者責任を肯定するに当たり、
労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところ
⇒使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う。
  本件:
「通勤中の事故死」に焦点を合わせた例示

「深夜や早朝の業務の終了後に使用者が指示又は容認する自車の運転による帰宅の途中など、使用者の指揮管理する勤務時間及び勤務場所に密接する時間及び場所において、自車の運転操作を誤るなどして、労働者の生命・身体を害する事故が生じる危険」から保護すべき義務。

その具体的内容として、
被告の雇用する労働者である亡Aに従事させる業務やそのための通勤の方法等の業務遂行の内容及び態様等を定めてこれを指揮管理するに当たり、
亡Aの業務の負担を軽減させるための措置を講じたり、適切な通勤の方法等を指示するなどして、亡Aが過度の疲労状態や顕著な睡眠不足の状態に陥り、心身の健康を害したり、生命・身体を害する事故が生じることを回避すべき義務を負っていた。 
  ●過失相殺の規定の適用及び類推適用の当否及び割合の判断の在り方 
  裁判例:
労働者側の過失と使用者側の過失を対比検討して過失相殺の可否及びその割合を決してきている。 
斎藤論文:
労災事故におけるの規定の適用ないし類推適用の当否及びその割合の判断については、損害の公平な負担という観点から考慮する必要がある。

労働者が所与の労働環境の下で業務を遂行するには、労働契約、就業規則、その他使用者の定めた各種業務規定、作業準則等を遵守し、かつ、使用者ないし上司の具体的・個別的な職務命令に従うことを要する。
⇒その過程で事故の自由な判断にまかせられている場面は限られているばかりでなく、基本的に職場環境の維持は使用者の責務であり、これを果たすためには労働者に通常みられる程度の身体的及び精神的能力並びに性格等の個人差を考慮し、当該職場あるいは作業に通常随伴する危険性にあらかじめ対処しておくことが要求される。

これらの諸点を前提とした上で、なお損害の実質的な公平な負担を図るという観点から労働者側に存する個別的要因を考慮すべきか否かを慎重に判断することを要する。

職場環境の維持は使用者側の責務であり、これを怠ったために発生した損害については基本的に使用者がその責めを負うべきものであるから、当該作業ないし職場に通常随伴する危険性の発現として発生した結果についての責任を労働者に転嫁することや、通常みられる程度の能力及び性格等の個人差から生じる結果を殊更に重視することは許されない。
  本決定:
労使の指揮命令関係を考慮した一般的な説示を詳細にし、過労死事故死の場合についても説示⇒公共交通機関を利用せず原付バイクを運転した亡Aの過失を1割に限定する判断を詳しい理由を付して説示。 
  ルンバール事件最判は、
国に公務員に対する安全配慮義務を認める根拠として、
公務員が職務専念義務(国公法101条1項前段)並びに法令及び上司の命令に従うべき義務(同法98条1項)を負い、
国がこれに対応して公務員に対し給与支払義務(同法62条)を負うことを定めていることを挙げている。

労働契約関係における前記の指揮命令関係と基本的に異なることがない。 
  電通事件最判:
原判決が肯定した過失相殺の規定の適用ないし類推適用の当否に関し、
①企業等に雇用される労働者の性格が多様のものであることはいうまでもない⇒ある業務に従事する特定の労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れる者でない限り、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべきもの。
②使用者又はこれに代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う者は、各労働者がその従事すべき業務に適するか否かを判断して、その配属先、遂行すべき業務の内容等を定めるのであり、その際に、各労働者の性格をも考慮することができる。

労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因としてしんしゃくすることはできない。
過重な業務による鬱病は発症し増悪した場合で、当該労働者が自らの精神的健康に関する一定の情報を使用者に申告しなかったことをもって過失相殺することができないと判示した最高裁H26.3.24.
  Yが過失相殺の事由として亡Aがオンラインゲームをしていたことを主張
vs.
その回数と時間の程度とこれが休日等にされていた
⇒むしろ過重な労働による心理的負荷を軽減する効果があったと推測し得ると説示して排除。 
東京高裁H24.3.22:
過労による精神障害に起因する過度のアルコール摂取により死亡した事例:
労働者が自らの不調を使用者に申し出なかった事情に加え、
就寝前にブログやゲームに時間を費やして自らの精神障害の要因となる睡眠不足を増長させた
⇒3割の過失相殺。
  ●裁判所の判決の見通しの開示により和解勧告と社会的影響や波及効果のある事件の解決の方法としての和解勧試と本決定の意義 
  民訴法 第89条(和解の試み)
裁判所は、訴訟がいかなる程度にあるかを問わず、和解を試み、又は受命裁判官若しくは受託裁判官に和解を試みさせることができる。
和解は、これを試みる旨の裁判所の決定に基づいている。
この決定は、口頭弁論においても、弁論外でもすることができる、当事者に告知すべき。
この決定は、訴訟指揮に関する決定(120条)であり、これに対しては不服申し立てを許さず、裁判所はいつでもこれを取り消すことができる。
  条理にかない実情に即した解決を図ることを目的とする(民調法1条)調停と異なり、
民事訴訟の審理及び判決を担当する受訴裁判所が主催する訴訟上の和解においては、
それまでの審理の段階に応じた裁判所の法解釈上及び事実認定上の心証(判決の見通し)に基づき、これを前提として、その判決による解決よりも当事者のそれぞれにとって利点があり、必ずしも訴訟物に限定されない、当該事案に応じて的確な内容の和解勧告がされるべきと考えられている。 
裁判所がこの心証を適宜の方法で当事者に示して裁判所が策定する和解案による和解を勧告することが多くされている。

和解勧告の段階:
争点等の整理が終了して人証予定の当事者本人及び証人の陳述書を含む書証の取調べをすべて終えた争点等の整理の終局段階が比較的多い。
口頭弁論終結後に勧告される場合⇒判決の内容と同じ完全に形成された心証が開示。

口頭又は書面によってされ、口頭の場合は、当事者対席の場にされる場合のほか、交互にされることが多い。

書面による和解勧告がされる典型的な訴訟類型として交通事故訴訟。
~当事者双方の検討、特に被告の保険会社の決裁上の必要から書面で。
裁判所の具体的な心証の開示の内容に不服⇒裁判所の和解案を拒絶⇒証拠調べ等の審理を経て判決。
藤村:
裁判所がどのよな段階の和解手続であれ、裁判所の事件に対する見通しを法律上及び事実上の観点から当事者に述べるのは訴訟手続の主催者として義務。
そのことによって、当事者は仮にそれが間違っていると思えばそれを指摘して意見を述べればよい。
  本決定:
①過労死防止法1条所定の「過労死」の定義には該当しない「過労死事故」という「過労死」及び「過労自殺」に並ぶ労働災害の類型について使用者の安全配慮義務違反を認める裁判所の判断の先例(裁判規範及び社会的規範)としての意義は大きく、本件訴訟の帰趨は「過労死」対策の対象を前進させるなど、社会的影響がある⇒和解による解決をする場合には、裁判所の所見が具体的に示され、これが公表されて先例となることを希望する旨を被害者遺族であるXら及び訴訟代理人弁護士が裁判所に明確に伝えている。
②その先例としての意義(波及効果や社会的影響)

民訴法89条所定の「決定」の「理由」中の「当該裁判所の判断(所見)の概要」欄で、本件の争点に係る裁判所の判断(所見)が比較的詳しく説示されたものが、本決定の理由中に示されている。
本決定が勧告する和解の内容及びこれにより成立した和解の内容には、本和解の成立及びその内容並びに本決定の判例雑誌への掲載を含む公表の相互の同意条項がある。
実務上は、逆に、いわゆる秘密保持・口外禁止条項が定められる場合がある。
民訴法 第91条(訴訟記録の閲覧等)
何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる。
民訴法 第92条(秘密保護のための閲覧等の制限)
次に掲げる事由につき疎明があった場合には、裁判所は、当該当事者の申立てにより、決定で、当該訴訟記録中当該秘密が記載され、又は記録された部分の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又はその複製(以下「秘密記載部分の閲覧等」という。)の請求をすることができる者を当事者に限ることができる。
一 訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載され、又は記録されており、かつ、第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより、その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること。
二 訴訟記録中に当事者が保有する営業秘密(不正競争防止法第二条第六項に規定する営業秘密をいう。第百三十二条の二第一項第三号及び第二項において同じ。)が記載され、又は記録されていること。
2 前項の申立てがあったときは、その申立てについての裁判が確定するまで、第三者は、秘密記載部分の閲覧等の請求をすることができない。
3 秘密記載部分の閲覧等の請求をしようとする第三者は、訴訟記録の存する裁判所に対し、第一項に規定する要件を欠くこと又はこれを欠くに至ったことを理由として、同項の決定の取消しの申立てをすることができる。
4 第一項の申立てを却下した裁判及び前項の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
5 第一項の決定を取り消す裁判は、確定しなければその効力を生じない。
民訴法91条1項の訴訟記録の閲覧等の規定が、憲法82条の裁判の公開の趣旨をより徹底するために何人に対しても訴訟記録の閲覧請求権を認めたものであり、
民訴法92条所定の秘密保護のための閲覧等の制限がされ、あるいは権利濫用の事情がない限り、判決書や裁判書はもちろん和解調書も公開される対象となる。

当事者は、相手方当事者のプライバシーや名誉権の侵害に当たるなど、不法行為を構成しない限り、これらの文書を公表・公開することは妨げられない。

秘密保持条項は、例外的に和解の内容を第三者に対して公表・口外されることを不利益と考える当事者がこれを相互に禁止する条項を入れることを相手方に希望し、相手方の同意を得て定められるもの。
公表の相互同意条項は、公表が妨げられるものでないことを注意的に定めたもの。
  本件のような和解勧試及び和解勧告の決定の法形式の採用は、今後、
社会的影響や波及効果のある事件類型で、
早期の全面解決の利益のほか、例えば、比較的高額の和解金の分割支払(定期金支払を含む)条項、謝罪条項、努力条項等の当事者のそれぞれにとって判決によるよりも和解による解決をする利益がある事件において、
裁判所及び当事者が和解による解決を選択する途を広げる1つの方法。 
  民事p34
大阪地裁H29.9.29 
  契約書に訴訟についてにみ管轄合意がある場合の調停についての管轄合意?
  事案 レンタル基本契約の契約書に管轄条項
「この契約について訴訟の必要が生じたときは、C地方裁判所又はA簡易裁判所を管轄裁判所とすることに合意します。」
申立人はA管轄裁判所に調停申立て。 
相手方は、この管轄条項は、、訴訟に関する合意であって、調停に関する合意ではない⇒基本事件をB簡裁へ移送する申立て。
  規定 民事調停法 第3条(管轄)
調停事件は、特別の定めがある場合を除いて、相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する簡易裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所若しくは簡易裁判所の管轄とする。
  原決定 移送申立てを却下。 
  判断 民調法3条1項は、特別の定め又は当事者間の合意がない限り、相手方の住所等を管轄する簡易裁判所に調停の申立てをすると定めているが、
これは合意による紛争解決を目的とする調停事件について、
相手方の出頭の便宜に配慮し、調停の円滑な進行に資するところにある。
レンタル基本契約の管轄条項は、文言上、訴訟についての管轄を定めるものであり、調停についても管轄の合意があったと解釈することはできない。
⇒原決定を取り消して、相手方の移送申立てを認容。
  解説 民調法3条1項
~主として、相手方の出頭の便宜を考慮したものであり、調停を起こされる側の出頭の利便を考慮することが衡平にかない、調停の円滑な進行に資する。

申立人が自己の住所等を管轄する裁判所に調停の申立てをすることができるとすると、遠隔地に居住する相手方に対してみだりに調停の申立てをして、過料の制裁によって相手方の出頭を強制する結果となり、相手方にとって甚だ過酷なことになる。 
契約書の管轄合意条項に訴訟にのみで調停についての合意がない場合、大阪地裁は、調停についての管轄合意書の提出がない調停申立てを管轄する簡裁へ移送する運用。
非訟法(平成23年法律第51号)が施行され、民調法22条が、特別の定めのある場合を除いて、調停に関しては、その性質に反しない限り、非訟法第2編の規定を準用
⇒同法施行(平成25年1月1日)以降は、委任事項として「訴訟行為」に加えて「手続行為」が記載された委任状が一般的に使用されている。

「手続行為」の記載がない委任状
⇒民調法17条に基づく調停に代わる決定(17条決定)に対する異議申立て等の種々の手続行為について、適切に委任されているかの問題が生じる可能性がある。
  民事p36
甲府地裁H29.11.7  
  朝鮮人労働者の強制連行に係る記事が虚偽⇒新聞社に対し不法行為に基づく損害賠償請求(否定)
  事案 Xら150名が、Yが発行する日韓新聞紙「A新聞」に掲載した、・・・・Xらの知る権利を侵害したと主張⇒Yに対し、不法行為に基づき、慰謝料各1万円及び遅延損害金の支払を求めた。 
  判断 憲法21条等のいわゆる自由権的基本権の保障規定は、国又は地方公共団体の統治行動に対して基本的な個人の自由と平等を保障することを目的としたものであって、私人相互の関係については、たとえ相互の力関係の相違から一方が他方に優越し、事実上後者が前者の意思に服従せざるを得ないようなときであっても、適用ないし類推適用されるものではない。
⇒憲法21条1項の規定が私人であるYに対する関係で適用ないし類推適用されることを否定。 
不法行為の要件の1つである違法性について
違法性を検討するに当たって、憲法の人権規定を1つの要素として考慮に入れるのが適切な場合には、これを考慮に入れて判断すべき。
but
マス・メディアの報道と国民の知る権利との関係についてみると、知る権利は、国民が様々な情報に接することを可能にするという意義を有するものであるところ、
現代社会においては、国民は、新聞、雑誌、放送等、様々な報道機関による多様な報道に触れることができる
⇒あるマス・メディアが真実に反する報道をしたとしても、それによって直ちに国民の知る権利がおびやかされるとはいえない。

多様な情報が飛び交っている中で何を信頼するかは、情報の受け手の判断に委ねられている⇒国民が特定の報道機関の報道によって真実を知る権利を有するとはいえない。

新聞社側の表現の自由という観点:
新聞社には表現の自由が保障されており、新聞社が行う報道の内容は、新聞社の自律的判断に委ねられている
⇒過去の報道内容について事後的に疑義が生じた場合や報道を予定していた内容に疑義が生じた場合の対応についても、新聞社の自律的判断に委ねられている。


A新聞の読者や一般国民の法律上保護される利益が侵害されていたということはできないとして、Xの請求をいずれも棄却。
  解説 国民が憲法21条1項の表現の自由の派生原理として「知る権利」を有している。
but
私人相互の関係では、保障されていない。
(最高裁) 
  商事p41
東京高裁H29.6.29  
  インサイダー取引を理由とする課徴金納付命令が取り消された事例
  事案 処分行政庁は、平成25年6月27日、A証券会社の営業員P1がその職務に関し知った本件公募増資が決定された旨の事実について、Xがその伝達を受けながら、当該事実の公表前に売付を行った⇒Xに対し、課徴金6万円を納付することを命ずる旨の決定。 
  争点 A証券会社の営業員P1が、公表前に、職務に関し本件公募増資に係る重要事項を知ったか否か。 
  判断 P1が重要事実を知ったとは認められない⇒Xの請求を認容し、本件決定を取り消した。
金商法(平成23年改正前のもの)166条1項5号の規定により、上場会社等の契約締結の交渉中の法人等の他の役員等がその者の職務に関し重要事実を知ったといえるためには、
その者が職務に関し重要事実を構成する主要な事実を単に認識したというだけでは足りず、
当該契約の締結もしくはその交渉をする役員等が知った重要事実が法人内部においてその者に伝播したものと評価することができる状況のもとで重要事実を構成する主要事実を認識した場合であることを要する。
Bが本件公募増資を行うことを決定したことは、法166条1項に規定する重要事実に該当する。
but
A証券会社内において、重要事実を伝達されたP2及びP3から、P1に対し、Bが本件公募増資を行うことを決定した可能性を積極的に示唆し、あるいは暗にその可能性を伝えることがあったとは認められない。
⇒重要事実がP1に伝播したものとは認められず、P1が重要事実を職務に関し知ったということはできない。
  解説 法166条1項又は3項の規定に違反した者には、課徴金の納付(法175条1項)が命じられ、さらには刑事罰(法197条の2第13号)が科される。
また、会社関係者から重要事実の伝達を受けた者についても、その他の一般投資家との間に情報格差が生じて不公平となる
⇒そのような者の有価証券等の売買等も禁止される(法166条3項)。
  労働p61
東京高裁H28.12.7  
  告発等を行った私立小学校の教頭の普通解雇(肯定)
  事案 Y4は、X1には、
①パワーハラスメントを受けたとの虚偽の事実を述べて慰謝料請求をしたこと(解雇事由1)
②不当な目的で本件告発を行い、Y4及びY1の名誉と信用を毀損したこと(解雇事由2)
③小中高一貫教育を掲げるY4の方針に公然と反対し、多数の教員に虚偽の事実を述べてY4及びY1の名誉と信用を毀損したこと(解雇事由3)
等の解雇事由がある
⇒X1を主位的に懲戒解雇し、予備的に普通解雇した。
X1は、Y4に対し、本件解雇は無効であるとして、本件小学校の教頭としての地位の確認を求めるとともに、Y1ないしY3に対し、本件告発等に対する報復行為として本家解雇その他嫌がらせを行った
⇒共同不法行為に基づく損害賠償を求めて本件訴訟を提起。
  原審 本件解雇は解雇事由が存在しない又は解雇権を濫用するもので無効
⇒X1が雇用契約上の地位にあることを確認するとともい、未払賃金の支払を認めた。
but
X1の損害賠償請求は棄却。
    Y4が控訴
X1も、原審敗訴部分の取消し及び賞与相当額の支払等を追加して控訴。
  判断  懲戒解雇としては無効であるが、普通解雇としては有効
⇒X1の地位確認請求及び未払賃金請求を棄却。
  解雇事由1:
面談に同席することは本件小学校の教頭としての職責に属する行為であり、
X1は、自らが希望する形での業務監査にY4が応じることを条件に面談に同席すると述べて同席を拒んだ上、最終的には自らの意思で面談に同席。
⇒客観的にパワーハラスメントにあたると評価しうる状況ではなかった。

X1が謝罪及び慰謝料200万円を請求したことは、事実の評価を曲げて自らの主張を通そうとするものであって、普通解雇事由に該当。
解雇事由2:
本件告発は監督権限を有する県に対し(私立学校振興助成法を参照)、財務状況の調査に加え、横領・背任等の刑罰法令に違反する行為があるとして、Y1及びY2を理事から解職することを求めるもの
⇒Y1及びY2の名誉を傷つけるのみならず、Y4の信用を害し、業務に支障を生じさせるおそれがある。
⇒根拠なく誤った告発を行うことは、Y4の定める普通解雇事由に該当。
Y4において財務状況の悪化の懸念を裏付ける一応の状況があり、県によりサッカースクールとの業務委託契約の見直し等の指導
but
本件告発は、いずれも横領・背任等の刑事法令に違反するものとは認められず、根拠は薄弱で、容易に確認できる事項の確認もなされていない(ex.X1は、Y4から財務諸表の分析の機会を与えられながらこれを行っていない)
⇒X1の本件告発は普通解雇事由に該当する。
解雇事由3:
X1は十分な調査と裏付けのないまま、本件小学校の教員ほぼ全員を一同に集め、 Y1及びY2が刑罰法令に反する行為を行っており、本件小学校の財務状況が極めて悪化しているとの虚偽の事実を指摘して、本件小学校を独立採算制とするという、小中高一貫教育を行っているY4の経営方針の根幹に触れる持論を展開
⇒普通解雇事由に該当。
  解雇事由1ないし3に基づく解雇が社会通念上相当性を欠くとはいえない。
  解説  解雇の合理性及び相当性に加え、公益通報法3条によって解雇が無効となるかも争点とされた。
公益通報法3条は、通報が不正な目的でない限り、公益通報をしたことを理由として行った解雇を無効としている。
but
その要件は通報先によって異なっている。
①労務提供先等に対する通報:通報対象事実が生じたと思料すれば足りる
②権限を有する行政機関に対する通報:通報対象事実が生じたと信ずるに足りる相当の理由を必要
③その他の外部通報先への通報:さらに具体的な用件。
通報対象事実が生じたと「信ずるに足りる相当の理由」:
単なる憶測や伝聞等ではなく、通報内容を裏付ける内部資料等がある場合や関係者による供述がある場合をいい、
通報者は労働者として通常知りうる範囲内で、これらの要件を立証する責任を負う。
本判決:
X1の本件告発は、薄弱な根拠に基づき、容易に可能な裏付け調査すら行わないまま行われたものであり、
通報対象事実である横領又は背任の事実が生じたと信ずるに足りる相当の理由があったとは認められない

公益通報法3条2号の適用を否定。
  刑事p125
最高裁H28.12.19  
  被告人に訴訟能力欠如で回復の見込み無し⇒公訴棄却の可否(肯定)
  事案 統合失調症に罹患していた被告人が、平成7年5月3日、愛知県内の神社の境内で、面識のない2名を文化包丁で刺殺⇒殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反により起訴。 
  規定 刑訴法 第338条〔公訴棄却の判決〕
左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
四 公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。
  判断 被告人に訴訟能力がないために公判手続が停止された後、訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断される場合、裁判所は、刑訴法338条4号に準じて、判決で公訴を棄却することができると解するのが相当である。 
  規定 刑訴法 第314条〔公判手続の停止〕
被告人が心神喪失の状態に在るときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定で、その状態の続いている間公判手続を停止しなければならない。但し、無罪、免訴、刑の免除又は公訴棄却の裁判をすべきことが明らかな場合には、被告人の出頭を待たないで、直ちにその裁判をすることができる。
刑訴法 第257条〔公訴の取消し〕
公訴は、第一審の判決があるまでこれを取り消すことができる。
刑訴法 第339条〔公訴棄却の決定〕
左の場合には、決定で公訴を棄却しなければならない。
三 公訴が取り消されたとき。
  解説 刑訴法314条1項は、被告人が「心神喪失の状態」すなわち訴訟能力を欠くh状態にあるときは、原則として「その状態の続いている間公判手続を停止」しなければならない。
被告人に訴訟能力の回復の見込みがない⇒検察官が同法257条により公訴を取り消せば、裁判所は、同法339条1項3号により、公訴棄却の決定をもって手続を打切り。 
but
公判手続が停止された後、その回復の見込みがない場合で、検察官が公訴を取り消さないとき、裁判所がいかなる措置をとることができるかについて、明文規定なし。
  本判決:
訴訟手続の主催者である裁判所において、被告人が心神喪失の状態にあると認めて公判手続を停止する旨決定した後、被告人に訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断
⇒事案の真相を解明して刑罰法令を適正迅速に適用実現するという刑訴法の目的(同法1条)に照らし、形式的に訴訟が係属しているにすぎない状態のまま公判手続の停止を続けることは同法の予定するところではなく、裁判所は、検察官が控訴を取り消すかどうかに関わりなく、訴訟手続を打ち切る裁判をすることができるものと解される。
刑訴法はこうした場合における打切りの裁判の形式について規定を置いていないが、
訴訟能力が後発的に失われてその回復可能性の判断が問題となっている場合⇒判決による公訴棄却につき規定する同法338条4号と同様に、口頭弁論を経た判決によるのが相当。

刑事訴訟の趣旨等に照らし訴訟係属状態を維持すべきではないという観点から形式裁判である公訴棄却により訴訟手続を打切り、判断の内容等に照らし判決でこれを行うことを導き、刑訴法338条4号に準じて処理するというアプローチ。
  刑事p130
東京高裁H29.7.14
  心神喪失等の状態で重大な他害行為⇒医療及び観察等に関する法律と憲法違反(否定)
  事案 対象者が、神奈川県内の書店において、被害女性(当時52歳)に対し、突然体当たりしてその場に転倒させる暴行を加え、よって、同人に全治約2か月間を要する仙椎骨折の傷害を負わせた
検察官は、対象者を心神耗弱者と認め、本件対象行為について公訴を提起しない処分をするとともに、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行なった者の医療及び観察等に関する法律33条1項の申立て。
  原審 鑑定人作成の鑑定書及び横浜保護観察所長作成の生活環境調査報告書を含む1件記録に加え、審判期日の結果等

医療観察法42条1項1号により、対象者に対し、医療を受けさせるために入院させる旨決定。 
  抗告申立 原審付添人は、
①医療観察法は、そもそも、憲法14条1項、22条1項及び31条に反するほか、
②原決定には、対象者について、医療観察法42条1項1号所定の入院をさせて同法による医療を受けさせる必要があると認めた点等において決定に影響を及ぼすべき重大な事実誤認がある。 
  判断 ①②を否定し、抗告棄却。 
2368   
  判例特報
最高裁H29.12.11   
  だまされたふり作戦での荷物の受取役⇒詐欺未遂罪の共同正犯(肯定)
  事案 被告人は、氏名不詳者による被害者に対する欺罔行為の後、氏名不詳者により依頼され、被害者から発送された荷物の受取役として本件に共謀関与したものと認定。

共犯者による欺罔行為後、だまされたふり作戦の開始を認識せずに、共謀の上、被害者から発送された荷物の受領行為に関与した者が、詐欺未遂罪の共同正犯の責任を負うか? 
  一審 ①被告人の共謀加担前に共犯者が銀網行為によって詐欺の結果発生の危険性を生じさせたことについては、それを被告人に帰責することができず、かつ、
②被告人の共謀加担後は、だまされたふり作戦が開始⇒被告人と共犯者らにおいて詐欺の実行行為がされたとはいえない。
⇒無罪 
  原審 ①承継的共同正犯の成立を肯定
②未遂罪として処罰すべき法益侵害の危険性の有無の判断に際しては、当該行為時点でその場に置かれた一般人が認識し得た事情と行為者が特に認識していた事情を基礎とすべきであり、だまされたふり作戦の開始によっても受領行為に詐欺の既遂に至る現実的危険性があったといえる。

詐欺未遂罪の共同正犯の成立を肯定。
  判断 だまされたふり作成の開始いかんにかかわらず、被告人は、その加功前の本件欺罔行為の点も含めた本件詐欺につき、詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当。
  解説 ①詐欺罪の承継的共同正犯を肯定
②だまされたふり作戦の開始は詐欺未遂罪の共同正犯の成立に影響を及ぼさない 
  ●詐欺未遂罪の承継的共同正犯の問題
承継的共同正犯の問題については、従来から、全ての犯罪類型に統一的な処理の指針を見出すのは困難⇒犯罪の種別ごとの個別的検討の重要性。
「詐欺を完遂する上で欺罔行為と一体のものとして予定されていた受領行為への関与」という点を指摘。
原判決の指摘:
詐欺罪の保護法益は個人の財産であり、欺罔行為はこれを直接侵害するものではなく、欺罔行為を手段として錯誤に陥った者から財物の交付を受ける点に法益侵害性があるという詐欺罪の特質。
  民事p18
最高裁H29.12.19  
  個人再生の再生計画案の可決が信義則に反する行為に当たるか否かの判断
  事案 再生債務者である抗告人Yが申し立てた小規模個人再生において、民再法202条2項4号の「決議が不正の方法によって成立するに至ったとき」 の不認可事由の存否の判断が問題となった事案。
  規定 民事再生法 第202条(住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可又は不認可の決定等)
2 裁判所は、住宅資金特別条項を定めた再生計画案が可決された場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、再生計画不認可の決定をする。
四 再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき。
民事再生法 第230条(再生計画案の決議)
8 届出再生債権者は、一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかった届出再生債権(第二百二十六条第五項に規定するものを除く。以下「無異議債権」という。)については届出があった再生債権の額又は担保不足見込額に応じて、第二百二十七条第七項の規定により裁判所が債権の額又は担保不足見込額を定めた再生債権(以下「評価済債権」という。)についてはその額に応じて、それぞれ議決権を行使することができる。
  原々審 可決された再生計画案につき不認可事由は認められない
⇒再生計画認可の決定
    Yが即時抗告
  原審 Xは実際には存在しない本件貸付債権を意図的に債権者一覧表に記載するなどの信義則に反する行為により再生計画案を可決させた疑いが存在
⇒本件貸付債権の存否を含め、信義則に反する行為の有無につき調査を尽くす必要がある。 
    Xが抗告許可の申立て
  判断 小規模個人再生において、再生債権の届出がされ(法225条により届出がされたものとみなされる場合を含む。)、一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかったとしても、住宅資金特別条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たっては、当該再生債権の存否を含め、当該再生債権の届出等に係る諸般の事情を考慮することができると解するのが相当。
  解説 法202条2項4号の解釈:
通常の民事再生の場合の不認可事由である法174条2項3号についての最高裁H20.3.13と同様に、
「議決権を行使した再生債権者が詐欺、強迫又は不正な利益の供与等を受けたことにより再生計画案が可決された場合はもとより、再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合も含まれるものと解するのが相当」と判断。 
民事再生法 第38条(再生債務者の地位)
2 再生手続が開始された場合には、再生債務者は、債権者に対し、公平かつ誠実に、前項の権利を行使し、再生手続を追行する義務を負う。
  民事p23
大阪地裁H29.8.25
  資料請求における外国人差別で不法行為成立事案
  事案 我が国の永住資格を有する外国人(トルコ国籍)であるXが、中古自動車販売の加盟店事業等を行う株式会社Yに対し、Yのウェブサイト上に設けられた無料の資料請求フォームを用いて、Yが運営する加盟店事業の内容及び加盟店契約に関する資料の請求を行なった。
  Yの従業員Aによって、原告が外国籍を有することのみを理由に資料の送付を拒否された

不当な外国人差別(国籍差別)ないしは人種差別に当たり、人格権を侵害されたとして、不法行為(使用者責任715条1項)に基づき、慰謝料の損害賠償を求めた。 
  争点 AがXに対して資料の送付を拒否した行為が、憲法14条1項に反する不当な外国人差別(国籍差別)に当たり、民法上も違法な行為として不法行為を構成するか否か。 
  判断 憲法上の人権規定が私人間の法律関係に及ぼす影響:
憲法の人権規定は私人相互の関係を直接規律することを予定する者ではないj。
but
当該規定の趣旨は、私的自治の原則との調和を図りつつ、民法709条など個別の実体法規の解釈適用を通じて実現されるべきものである(最高裁昭和48.12.12)。

Yに契約締結の自由ないし営業の自由(憲法22条)が保障されることを考慮してもなお、YないしAにより資料送付許否行為が合理的理由を欠き、社会的に許容し得る範囲を超えて原告の法的利益を侵害すると認められる場合には、民法上も違法なものとして、不法行為を構成する。 
Yの提供する資料請求サービスは、Yの事業経営の一環として集客目的ないし顧客獲得のための情報提供を目的として設けられたものであり、Y自身が、広く一般公衆に資料請求サービスの利用を認め、また、一般公衆に対し当該サービスの提供を受けられるとの合理的期待を惹起している。
そのような場合においては、Yに契約の自由ないし営業の自由が認められるとしても、請求者の特定の属性のみを理由に何ら合理的な根拠に基づくことなく資料送付に応じないことは、憲法14条1項の趣旨に照らし、不合理な差別的取扱いに当たる。
⇒不法行為の成立が認められる。
  解説 私人間における外国人に対する差別的取扱いが不法行為を構成するかが争われた事例:
<責任肯定>
①店舗へ等への入店許否・利用許否が問題となった事例
②賃貸物件への入居許否が問題となった事例。
<責任否定>
③永住資格のない外国人の住宅ローン申込みに応じなかった銀行の行為
④ゴルフクラブへの入会許否
無料の資料請求サービスの拒絶という、直ちに請求者の具体的な利益が侵害されるとはいえない場面においても、場合によっては人格権を侵害する不当な差別的取扱いとして不法行為が成立し得ることを明らかにしたもの。
  商事p30
最高裁H29.12.14  
  不動産は商事留置権の対象になるか(肯定)
  事案 土地所有者である上告人Xが、土地を占有する被上告人Yに対し、所有権に基づき明け渡しを求める事案。 
Y:当該土地につきXに対する運送委託契約上の未払代金債権を被担保債権として商法521条の商人間の留置権を主張。
  規定 民法 第295条(留置権の内容) 
他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
民法 第85条(定義) 
この法律において「物」とは、有体物をいう。
民法 第86条(不動産及び動産)
土地及びその定着物は、不動産とする。
商法 第521条(商人間の留置権)
商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にあるときは、債権者は、その債権の弁済を受けるまで、その債務者との間における商行為によって自己の占有に属した債務者の所有する物又は有価証券を留置することができる。ただし、当事者の別段の意思表示があるときは、この限りでない。
  解説 現行商法521条の文理解釈⇒包含説が素直⇒除外説の論拠が包含説のいう文理解釈を覆し得る程度に合理的なものかという点から検討すべき。
除外説の根拠:
①立法の経緯・沿革:
ドイツ商法典においても、商人間留置権の対象は動産と有価証券であり、不動産が除外。日本の商人間の留置権の定めは、ドイツ法の系譜。
②休競売法の規定:
民法及び商法の留置権の競売手続を定めた明治31年制定の競売法では、動産の競売手続を定めた3条において、競売申立人を「留置権者・・・その他民法の規定に依りて競売をなさんとする者」と定め、「商法の規定」による競売が挙げられていない。
③:当事者の合理的意思:
商人間の取引で一方当事者所有の不動産の占有が移されたという事実のみで当該不動産を取引の担保とする意思が当事者にあるとみるのは困難。
④法秩序全体との整合性:
登記の先後により優先順位が定まるのを原則とする不動産取引において、商人間の留置権のような強力な権利が登記とは無関係に抵当権に優先することを認めれば、不動産取引の安全を著しく害し、担保制度全体の整合性を損なう。
vs.
①現行商法521条は、明治32年制定の商法284条に由来しており、同商法の制定経緯や、明治44年の改正時の政府委員の説明をみると、少なくともこの段階では商法の「物」を民法85条、86条と同じ意味に解していたことがうかがわれること等⇒現行商法の解釈として、民法と異なり不動産を除外しているとは解されない。
②競売法は手続規定⇒その規定に定めがないからといって商法の解釈に当たっての決め手にはならない。
現行民執法59条4項や195条は留置権の契番を民法商法の区別なく規定。
③商取引の必要性は不動産にも存在⇒不動産を商人間留置権の対象に沿わないとはいえない。
④留置権能を有する担保物権である留置権が抵当権より事実上優先することは民事留置権においても同様であり、そのような自体が常に不当であるとも言い切れない。
  判断 商法521条の「物」を民法85条の「物」と別異に解する理由はないとして、その文理解釈から包含説をとることを明らかにした。 
  労働p32
東京地裁H29.9.14  
  労働契約法20条違反が問題となった事案
  事案 被告である日本郵便株式会社(Y社)との間で有期労働契約を締結した原告X1からX3まで(「Xら」)が、
無期労働契約を締結しているY社の正社員と同一の業務に従事していながら、手当等の労働条件について正社員と差異があることが労契法20条に違反⇒
Y社社員給与規程及びY社社員就業規則の各規定がXらにも適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、
公序良俗に反すると主張し、同条施行前については不法行為による損害賠償請求権に基づき、
同条施行後については、主位的には同条の補充的効力を前提とする労働契約に基づき、予備的には不法行為による損害賠償請求に基づき、諸手当の正社員との差額及びこれらに対する遅延損害金の支払を求めた。 
  規定 労働契約法 第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない
  争点 ①労契法20条の成否
②労契法20条の効力
③公序良俗違反の有無
④Xらの損害
  判断 ●争点①:労契法20条の成否 
本件において問題となる労働条件の相違は、いずれも正社員と契約社員とで適用される就業規則や給与規程が異なるために生じている
⇒期間の定めの有無に関連して生じたもの。
労契法20条の不合理性の判断について:
問題とされている労働条件の相違が不合理と評価されるかどうかを問題としている⇒合理的な理由があることまで要求する趣旨ではない。
不合理性について、
労働者において、相違のある個々の労働条件ごとに、当該労働契約が期間の定めを理由とする不合理なものであることを基礎づける具体的事実(評価根拠事実)についての主張立証責任を負い、
使用者において、当該労働条件の相違が不合理であることの評価を妨げる事実(評価障害事実)についての主張立証責任を負い、
主張立証にかかる労契法20条が掲げる諸要素を総合考慮した結果、当該労働条件の相違が不合理であると断定するに至らない場合には、当該相違は同条に違反するものではない。
労契法20条は、
有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違について、
①職務の内容、
②当該職務の内容及び配置変更の範囲、
③その他の事情
を考慮要素としており、
同条は、同一労働同一賃金の考え方を採用したものではなく、同一の職務内容であっても賃金をより低く設定することが不合理とされない場合があることを前提としており、
有期契約労働者と無期契約労働者との間で一定の賃金制度上の違いがあることを許容するもの。
Xら契約社員と労働条件を比較すべき正社員は、担当業務や異動等の範囲が限定されている点で類似する新一般職とするのが相当。
旧人事制度においては、Xら契約社員と比較すべき正社員は、旧一般職とするのが相当。
正社員と契約社員との労働条件の相違について、不合理性が認められたの:
年末年始勤務手当、住居手当、夏季冬季休暇、病欠休暇。
不合理性が認められないとされたの:
外務業務手当、早出金等手当、祝日給、夏季年末手当、夜間特別勤務手当、郵便外務・内務業務精通手当。
  ●争点②:労契法20条の効力 
  労契法20条は、訓示規定ではなく、同条に違反する労働条件の定めは無効であり、その定めに反する取扱いには、民法709条の不法行為が成立し得る。
but
労契法20条の法的効果として補充的効力は認められない。 
  Y社において、正社員と契約社員に適用される就業規則及び給与規定等が、別個独立に存在し、前者がY社の全従業員に適用されることを前提に、契約社員については後者がその特則として適用されるという形式とはなっていない

就業規則、給与規定等の合理的解釈として、正社員の労働条件が契約社員に適用されると解することはできない。
  正社員と契約社員の労働条件の相違について年末年始勤務手当、住居手当、夏季冬季休暇及び病気休暇についての相違は、平成25年4月1日以降(住居手当は平成26年4月以降)労契法20条に違反し、Xらに対する不法行為を構成。
  ●争点③:公序良俗違反の有無 
労契法20条施行の前後を通じ、公序良俗に反するとはいえない。
  ●争点④:Xらの損害 
年末年始勤務手当の相違にかかる損害:旧一般職及び新一般職に対する支給額の8割相当額
住居手当の相違にかかる損害:正社員の支給要件を適用して認められるべき住居手当の6割相当額
  解説 ●争点③について 
労契法20条施行前の裁判例である丸子警報器事件(長野地裁上田支部)では、
非正規社員の賃金額が、同じ勤務年数の正社員の8割以下となるときは、許容される賃金格差の範囲を越え、公序良俗違反となるとした。
本件:
労契法施行の前後において、労契法20条に違反する労働条件の相違を含め、正社員と契約社員の労働条件の相違が公序良俗違反となることを基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はない。
  ●争点④について 
本判決:
有期契約労働者に当該労働条件が全く付与されていないこと、又は無期契約労働者との間の給付の質及び量の差異をもって不合理であると認められる労働条件の場合(本判決の年末年始勤務手当及び住居手当)には、種々の要素(人事制度との整合性、昇任昇給の経路や配置転換等の範囲の違い等)を踏まえて決定される給付されるべき手当額を証拠に基づき具体的に認定し、それとの差額をもって損害と認定。
but
それは、その決定過程に照らして極めて困難。

民訴法248条に従い、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定すべき。

年末年始勤務手当については新旧一般職の支給額の8割相当額
住居手当は正社員の支給要件を適用して得られる額の6割相当額
  刑事p56
最高裁H29.12.25  
  東京都庁郵便小包爆発事件(一審有罪⇒控訴審無罪⇒最高裁無罪)
  事案 オウム真理教の信者らによるいわゆる東京都庁郵便小包爆発事件に使われた爆薬原料となる薬品を運搬した被告人に対する爆発物取締罰則違反幇助、殺人未遂幇助被告事件に関し、
裁判員が参加した第一審判決:殺人未遂幇助罪につき有罪
控訴審判決:刑訴法382条に定める事実誤認を理由に破棄、無罪の自判 
上告審:控訴審判決は結論において是認できる⇒上告棄却
  解説 最高裁H24.2.13:
覚せい剤密輸入事件に関し、故意の有無が問題となった事案において、
刑訴法382条にいう「事実誤認」の意義について、
「第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることをいう」
「控訴審が第一審判決に事実誤認があるというためには、第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要である」 
  公訴事実 オウム真理教の信者であった被告人が、平成7年5月のオウム真理教の信者らによる治安妨害と東京都知事ら殺害の目的をもってされた爆発物の製造・使用、殺人未遂事件に関して、
爆薬原料となる薬品等を山梨県内の教団施設から東京都内のアジトに運ぶなどして、正犯者らの犯行を容易にさせたこれを幇助したという、
爆発物取締罰則違反(爆発物の製造・使用)幇助、殺人未遂幇助の事案。) 
  一審 被告人が、爆発物の製造使用があり得ると認識していたとは認められないが、他人の殺傷を伴うことがあり得ると認識していたと認められる
⇒殺人未遂幇助罪のみを認定し、懲役5年。
    被告人が控訴
  原審 第一審判決による被告人の認識の推認過程には、論理則、経験則に照らし不合理な点があるため、被告人が殺人未遂幇助の意思を有していたと認めることはできない。⇒無罪。
    検察官が上告
  判断   上告を棄却。 
控訴審における第一審判決の事実誤認の審査に当たっては、第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であるかどうかを検討しなければならない。
第一審判決においては、間接事実の積み重ねによって殺人未遂幇助の意思を認定した判断構造の枠組みが示されているが、その合理性には看過できない問題がある。
第一審判決に事実誤認があるとした原判決は、第一審判決による判断構造を十分に捉え直さないまま、その判断過程に沿って個別の事実認定を検討した上、その不合理性を具体的に示していない説示部分を含んでおり、これをそのまま是認することはできない。
but
間接事実からの推論の過程が説得的でないなどとして、第一審判決が説示する間接事実の積み重ねによって殺人未遂幇助の意思を認定することはできないとした原判決は、結論において是認することができる。
  第一審判決の判断構造を整理したうえで、
殺人未遂幇助の意思を認定する前提としている「人の殺傷結果の想起可能性」を推認するための間接事実において、
被告人の認識対象が広範、曖昧な内容にとどまっており、その推認が困難であること、
「人の殺傷結果の想起可能性」自体も抽象的な結果発生の認識可能性をいうにすぎず、これに付加する間接事実も、いずれも被告人の漠然とした疑念ないし抽象的な認識可能性の契機を指摘するもので、殺人未遂幇助の認定にまで高めるには飛躍がある
⇒第一審がその判断構造を採用したこと自体不合理である。
第一審判決の判断構造に関する不合理性の現れとして、
①間接事実となる各個別事実の検討における問題点や、
②一方で殺人未遂幇助の意思を認定し、他方で爆発物取締罰則違反ほう助の意思を認定できないとしたこととの関係についても指摘、
⇒結局、第一審判決は、殺人未遂幇助の意思を認定した点において、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があり、控訴審において破棄を免れない。
原判決が、第一審判決の判断構造についての評価が不十分なまま証拠の信用性等の検討を行った⇒
①原審段階では必ずしも重要とはいえなくなったと解される証拠関係について詳細に判示し、しかも、
②第一審判決の事実認定の不合理性を必ずしも具体的に指摘しないまま証拠の信用性について第一審判決と異なる判断をするなど、
控訴審における事実認定の審査のあり方という観点から問題がないわけではない。
but
結論において是認できる。
  刑事p87
福岡高裁H29.11.29  
  松橋事件再審即時抗告審決定
  事案 松橋事件につき、再審開始を認めた地裁決定に対する即時抗告審決定。 
  規定 刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕 
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。

六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
  解説 白鳥・財田川決定以後、新旧全証拠を総合評価すること自体に異論はない。
but
その手法、特に、「新証拠と直接関連する以外の部分を、どの程度再評価してよいのか」という点で見解が対立。
×確定審の心証形成へのみだりな介入
〇新証拠の存在を根拠としての確定審の心証形成への介入 
  原決定 平成24年にXの成年後見人が、平成27年にXの長男が再審請求し、原審は、再審開始の決定。 
①Xの犯人性に関する直接証拠は捜査段階の自白のみであり、確定判決の判断の分岐点は自白の任意性及び信用性。
②巻き付けた布切れに関する新証拠によれば、凶器である小刀に血が付かないように布切れを巻き付けた旨の供述が体験供述でない合理的疑いが生じる。
③使用された凶器に関する新証拠によれば、被害者の創傷と小刀の形状は矛盾し、小刀が本件凶器でない疑いが一層強まる。
④このように、凶器の特定及びその使い方という自白の核心部分の信用性がかなり動揺すると、確定判決が自白の信用性を担保するとした確補助事実の証明力・証拠価値に疑問が生じ、確定判決の有罪認定に合理的疑いが生じる。
    検察官が即時抗告
  判断 巻き付けた布切れに関する新証拠、使用された凶器に関する新証拠は、Xに無罪を言い渡すべき新規かつ明白な証拠であり、原決定の刑訴法435条6号の要件充足の判断に誤ったところはない。 
  検察官:新証拠も提出されていないのに、Xの自白や公判供述の信用性を改めて判断して確定判決と異なる判断を示しており、このような判断手法は確定判決の心証形成に介入したもので、再審制度の構造に反している。
vs.
①確定判決は、「特に犯行の手段、方法等の点につき客観的証拠に照らし格別不自然、不合理な点を見出し得ないこと等に鑑みると、Xは取調べに対し、自己の体験したところを素直に供述したものと推定される」と判断。
②新証拠によって、犯行の手段、方法につき客観的証拠に照らして不自然、不合理な点が現れた。
③そして、小刀に布切れを巻き付けた旨の供述をするに至った経緯から、捜査官に迎合する姿勢が看取できる。
④そのことは、Xが取調べにより精神的に混乱して皮底靴を焼却した事実につながる。
⑤そのことが、自白の直接の契機となったポリグラフ検査で、犯人でないのに特異な反応をしめした合理的な疑いに結びつく。
⑥このような連鎖により、新証拠による犯行の手段、方法が自白と整合しないことは、自白全体の信用性を否定し、公判供述の信用性を肯定することに行き着く。
⑦以上のとおり、原決定は、新証拠の存在を根拠にして、確定判決の心証形成に介入しているのであり、その判断手法は違法、不適切ではない。
  刑事p130
名古屋地裁H29.3.17   
  自閉スペクトラム症の少年による殺害(裁判員裁判)の事案
  事案 未成年である被告人が、日頃から嫌悪していた祖父に雰囲気が似ていた面識のない被害者をたまたま認め、同人に祖父を重ね合わせて怒りを感じ、その頚部等を持っていたサバイバルナイフで複数回刺すなどして殺害。
送致を受けた家庭裁判所が少年法20条に基づいて検察官送致決定(逆送)⇒裁判員裁判で審理。
  争点 ①殺意の有無
②責任能力の程度
③少年法55条移送の相当性 
  判断 ●争点① 
①凶器及び犯行態様の危険性、被害者が負った傷の深さ⇒被告人の行為は人が死ぬ危険性が高いものであった
②被告人は、自己の行為や被害者の動きなどを認識したうえで前記危険な行為に及んでいる

殺意を肯定。
  ●争点② 
弁護人:
弁護側証人の医師2名の証言に基づき、被告人は生まれつきの自閉スペクトラム症(「ASD」)であり、本件当時はASDを背景とした二次障害である解離症状、精神的混乱状態の影響により、行動制御能力が著しく低下⇒心神耗弱状態。
検察側証人の医師1名及び前記弁護側証人を証拠採用し、証人尋問を実施。

被告人がASDと診断される状態であったと認定したが、その一方で、
同証言のうち、ASDの本件犯行への影響について述べた部分については信用性を否定。
犯行前後の行動、記憶の保持状況、犯行動機の理解可能性を考慮し、心神耗弱を否定。
  ●争点③ 
弁護人:
少年院での処遇が有効であるとして、少年法55条により家庭裁判所移送を求めた。
本件は原則として刑事処分が相当とされる事案。
本件犯行の危険性の高さ、犯行態様の残忍さ及び執拗さ、遺族の処罰感情の強さ、犯行後の情況の悪さなど
⇒被告人の責任は相当に重い。
本件犯行の責任にはASDの影響があったこと、被告人に自身の行為に向き合おうとする姿勢がうかがわれること、保護処分歴がないことを考慮しても、なお刑事処分を選択すべき。
  解説 ●争点① 
①客観的犯行態様と②犯行態様に対する被告人の認識の両面から殺意の有無を判断。
~実務上スタンダードな判断枠組みに沿った判断。
  ●争点② 
刑法39条にいう心神喪失や心神耗弱の概念は、精神医学上の概念ではなく、純然たる法律上の概念⇒その判断は、もっぱら刑事裁判所の判断に委ねられる。(最高裁昭和58.9.13)
but
責任能力の判断の前提事実となる生物学的要素並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度については、その診断は、臨床精神医学の本分⇒精神医学者の意見が証拠となっている場合には、その意見を十分に尊重して認定すべき。(最高裁H20.4.25)
ASDの本件犯行の影響に関する部分については、他の証拠から認定事実と整合しない部分があるとして信用性を否定。
ASDが本件非行に与えた影響の程度を独自に認定した上で、法的基準を当てはめて被告人が心神耗弱の状態にはなかたっと判断。
  ●争点③ 
少年法55条移送の相当性(保護処分相当性)と少年法20条の逆相決定の相当性(刑事処分相当性)は、表裏の関係にあり、刑事処分相当性には、保護不能の場合と保護不適の場合が含まれる。

保護処分相当性が認められる場合とは、
刑事裁判所における証拠調べを経た段階で保護不適及び保護不能のいずれもが否定される場合。
少年法55条移送の判断は、刑事裁判所の自由裁量に委ねられているとするのが通説・判例であるが、運用上は、家庭裁判所の専門的な検討を経た上での判断を尊重し、社会記録等を慎重に検討して判断すべき。
本件:
被告人にとって少年院での処遇が有効であることを認めた上で、
その責任に見合った刑罰を受けさせるべき事案としている
~保護不能ではないものの保護不適であると判断。
       
     
  判断 ◎主張立証責任 
  ◎本件要綱に基づく経費の按分 
  ●選挙期間中の政務調査費の支出の適法性 
  解説 ●政務調査費の支出の違法性に係る判断枠組み 
①不当利得の要件事実的な考え方と
②現実の立証問題への配慮
⇒一般的、外形的な事実の立証を原告に求める一般的、外形的事実説が妥当であると考えられている。
but
どのような事実をもって一般的、外形的事実とするかはなお議論。