シンプラル法律事務所
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勉強会(判例時報2020後半)

判例時報の勉強会用の資料です(随時更新)

                   
         
         
         
         
         
         
   2453
  行政p3
名古屋高裁金沢支部R1.10.29
     
  民事p13
東京高裁R1.11.7
     
  民事p23
大阪高裁R1.12.25
     
  民事p30
大阪高裁H31.3.11
     
  民事p47
前橋地裁R1.5.15
     
  民事p54
山口地裁宇部支部R2.2.12
     
  商事p59
名古屋高裁R1.8.22
     
  刑事p96
大阪高裁H30.10.31 
     
  刑事p113
岐阜地裁R1.5.10
     
2452    
  行政p18
最高裁R1.7.22   
  将来の不利益処分の予防を目的として当該処分の前提となる公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟の要件
  事案 陸上自衛官であるX(控訴人・被申立人)が、我が国と密接な関係にある他国に対する武力行使が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態(「存立危機事態」)に際して内閣総理大臣が自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる旨を規定する自衛隊法76条1項2号の規定は憲法に違反する⇒Y(国)を相手に、Xが同号の規定による防衛出動命令に服従する義務がないことの確認を求めた。 
  1審 現に、Xの有する権利又は法律的地位に危険や不安が存在するとは認められない⇒本件訴えは確認の利益を欠き不適法であるとして、本件訴えを却下。 
  原審 Xは、本件訴えは、Xが本件防衛出動命令に従わなかった場合に受けることとなる懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟である旨の釈明。 
本件訴えは、実質的には、本件職務命令への不服従を理由とする懲戒処分の差止めの訴えを本件職務命令ひいては本件防衛出動命令に服従する義務がないことの確認を求める訴えの形式に引き直したもの

本件訴えが摘補油な無名抗告訴訟とみとめられるためには、差止めの訴えの訴訟要件である重大な損害の要件及び補充性の要件を満たすことが必要。
本件訴えは、いずれの要件も満たすから、適法な無名抗告訴訟⇒1審判決を取り消し、1審に差し戻す。
  判断 上告受理申立てを受理し、
将来の不利益処分の予防を目的として当該処分の前提となる甲的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟は、差止の訴えの訴訟要件である「行政によって一定の処分がされる蓋然性があること」を満たさない場合には、不適法である。

原判決を破棄して事件を原審に差し戻した。 
  解説  処分(本件では懲戒処分)の前提となる公法上の法律関係の不存在の確認を求める訴えは、当該処分を差し止める機能を有するもの。
前記訴えは、
A:処分の差止めの訴えと同様に、行訴法3条1項にいう「行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟」(抗告訴訟)に当たり、無名抗告訴訟と位置付けられるのか、
B:行訴法4条後段が定める「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」、すなわち、実質的当事者訴訟に当たるのかが問題。
最高裁H24.2.9:国旗国歌訴訟最判:
公立高等学校等の教職員らが、東京都に対し、校長の職務命令に基づいて卒業式等の式典における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱し又はピアノ伴奏をする義務がないことの確認を求めた訴えにつき、

行政処分に関する不服を内容とする訴訟として構成⇒将来の不利益処分たる懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟として位置付けられるべき、

その違反が懲戒処分の処分事由との評価を受けることに伴い、勤務成績の評価を通じた昇給等に係る不利益という行政処分以外の処遇上の不利益・・・の予防を目的とする訴訟として構成⇒公法上の当事者訴訟の一類型である公法上の法律関係に関する確認の訴え(行訴法4錠)として位置付けることができる。

処分の前提となる法律関係の不存在の確認を求める訴えにつき、当該訴えが処分による不利益の予防を目的とするものだえるか、処分以外の不利益の予防を目的おとするものであるかによって、無名抗告訴訟であるか実質的当事者訴訟であるかを区別。
  一般に、行訴法3条の規定は、無名抗告訴訟が適法な抗告訴訟として許容される可能性を否定するものではないと解されているが、いかなる場合に適法な無名抗告訴訟を提起することができるのかが問題。 
長野勤評事件最判(最高裁昭和47.11.30):
処分を受けてからこれに関する訴訟のなかで事後的に義務の存否を争ったのでは回復しがたい重大な損害を被るおそれがある等、事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がある場合でない限り、処分の前提となる義務の存否の確定を求める法律上の利益を認めることはできない。

but
その後、差止めの訴えを法定した「行政事件訴訟法の一部を改正する法律」による行訴訟の改正
⇒平成16年改正後においては、同じく処分の予防を目的とする抗告訴訟である差止めの訴えの訴訟要件との関係において検討すべき。
国旗国歌訴訟最判:
差止の訴えと同様に補充性の要件を満たすことが必要
特に法定抗告訴訟である差止めの訴えとの関係で事前救済の争訟方法としての補充性の要件を満たすか否かが問題。

当該事案においては、法定抗告訴訟として職務命令違反を理由としてされる懲戒処分の差止めの訴えを適法に提起することができる⇒前記確認の訴えについては補充性の要件を欠き、不適法。
本判決:
予防的無名抗告訴訟は、
①当該処分に係る差止めの訴えと目的が同じ
②その効力についても、請求が認容されたときには行政庁が当該処分をすることが許されなくなるという点で差止めの訴えと異ならない
③確認の訴えを形式で差止めの訴えに係る本案要件の該当性を審理の対象とするものということができる

行訴法の下において、差止めの訴えよりも緩やかな訴訟要件により、これが許容されているものとは許されない。

予防的無名抗告訴訟は、差止めの訴えの訴訟要件の1つである蓋然性の要件(行政庁によって一定の処分がされる蓋然性があること)を満たさない場合には不適法となる。
  ①重大な損害の要件
②補充性の要件
③蓋然性の要件 
  民事p35
最高裁R1.8.9  
  再転相続の場合の熟慮期間の起算点(民法916条)
  事案 Aに対する判決に基づき、Aの法定相続人(再転相続人)であるXに強制執行するための承継執行文の付与⇒Xが、相続放棄を異議の事由として、強制執行を許さないことを求める執行文付与に対する異議の訴え。
  争点 甲が死亡し、その相続人である乙が甲からの相続について承認又は放棄をしないで死亡、丙が乙の相続人となったいわゆる再転相続。
民法916条は、同法915条1項の規定する相続の承認又は放棄をすべき3か月の期間(熟慮期間)は、「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」から起算する旨を規定。

本件では、Aからの相続に係るXの熟慮期間がいつから起算されるか。
  事実 M銀行は、Aほか4名に対し、貸金等に係る連帯保証債務の履行として各8000万円の支払を求める訴訟を提起し、平成24年6月7日、いずれも認容する判決が、同日確定。 
Aは、平成24年6月30日死亡。
Aの妻と2名の子は相続放棄の申述が受理⇒Aの兄弟等がAの相続人に。これらのうち、B(Aの弟)ほか1名を除く9名による相続放棄の申述が受理。
B:平成24年10月19日、自己がAの相続人となったことを知らないまま死亡。
Bの相続人Xは、同日頃、XがBの相続人となったことを知った。
●  M銀行:平成27年6月、Yに対し、本件確定判決に係る債権を譲渡。
Y:同年11月2日、本件確定判決の正本に基づき、M銀行の承継人であるYが、Aの承継人であるXに対して、本件債務名義に係る請求書につき32分の1の額の範囲で強制執行することができる旨の承継執行文の付与を受けた。
Xは、同年11月11日、本件債務名義、前記承継執行文の謄本等の送達を受けた。
⇒BがAの相続人であり、XがBからAの相続人としての地位を承継していた事実を知った。
Xは、平成28年2月5日、Aからの相続人ついて相続放棄の申述をし、同月12日、前記申述が受理された。
  判断  民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである。
本件に同条が適用されないとした原審の判断には、同条の解釈を誤った違法があるが、本件相続放棄が熟慮期間内にされたものとして有効であるとした原審の判断は、結論において是認することができる。
  規定 民法 第九一五条(相続の承認又は放棄をすべき期間)
 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
  民法 第九一六条
相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
  解説  民法915条1項本文にいう「自己のために相続の開始があったことを知った時」の意義:
相続開始の原因たる事実の発生を知っただけでは足りず、
それによって自己が相続人となったことを覚知した時をいう。 
  民法916条の趣旨:
丙は、乙の地位を引き継ぐ⇒本来、乙の熟慮期間内(例えば、この熟慮期間が2か月経過していた場合には、残りの1か月内)に承認・放棄をしなければならないことになる。
but
これでは、丙にとって、極めて短期間で、第一次相続について承認・放棄の判断を強いられることになり不当

丙が「自己の為に相続の開始があったことを知った時」から起算することとした。 
再転相続において、丙は、第1次相続及び第2次相続のそれぞれについて承認・放棄の選択権を行使することができるところ、
最高裁昭和63.6.21:
民法916条について、
丙の再転相続人たる地位そのものに基づき、甲の相続と乙の相続のそれぞれにつき承認又は放棄の選択に関して、格別に熟慮し、かつ、承認又は放棄をする機会を保障する趣旨をも有するものと解すべき。
  第1次相続(甲からの相続)に係る熟慮期間の起算点 である「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」:
A:第2次相続基準説:
丙が自分のために第2次相続(乙からの相続)の開始があったことを知った時

〇B:第1次相続基準説:
丙が乙のために第1次総則(甲からの相続)の開始があったことを知った時

①丙が自己のために乙の相続が開始したことを知ってさえいれば熟慮期間が進行するというのでは、再転相続について承認・放棄の選択権を独自に行使できるという丙の地位が実際上確保されないこととなる
②この選択権を行使するのは丙⇒主観的事情は丙について考慮すべき
③第1次相続人である乙自身についてすら、自らが相続人である事実(本件では、先順位者の放棄があったこと)を知らなければ、第1次相続に係る相続財産の調査義務を負わない(熟慮期間は開始しない)のであり、第2次相続が開始したからといって、第2次相続人である丙(甲との関係は、乙よりも薄いのが通常であろう。)に対し、その認識していない第1次相続に係る相続財産の調査義務を負わせる(熟慮期間を開始する)とするのは、丙に対して過度の負担を負わせるもの

民法916条は、第1次相続人(乙)が第1次相続に対する承認・放棄をしないまま死亡したという再転相続の場面における第1次相続についての熟慮期間の起算点を想定したものであり、
これを前提に同条を合理的に解釈すれば、
同条は、再転相続における熟慮期間につき、第1次相続人の地位を包括承継した第2次相続人(「その者の相続人」)が、第1次相続人(ただし、その地位は第2次相続人が包括承継している。)のために第1次相続が開始したこと(「自己のために相続の開始があったこと」)を知った時から起算する旨を定めたもの。

同条にいう「相続の開始」とは、第1次相続を意味するものと解する。
  民事p39
大阪高裁R1.9.4  
   
  原審 Bについて鑑定を実施できない以上、Bが精神上の傷害により事理を弁識する能力を欠く常況にあると認めることはできない⇒後見開始の審判をすることができない⇒A(長男)の申立てを却下。 
  判断   本件診断書の内容を検討し、
①Bが老人性認知症にり患し、HDS-Rの結果が11点
②自己の年齢や日時、場所すら回答できない

記憶力、見当識が著しく低下し、理解・判断力もほとんど喪失していると判断。
本件診断書には、発語不能にチェックがある一方、意思疎通は可能とのチェック。
but
F医師は自らBから聴取し、その発語を確認したはず⇒前記チェックは誤記とみるのが相当であり、本件診断書の信用性を損なわせるものではない。
  Bはグループホームに入所中の87歳という高齢であるのに、
リスクの高いマンション経営を新たに計画し、そのために駐車場の賃貸借契約を解約して、安定した賃料収入を失い、グループホームの施設費を賄えない状況に陥っているが、
このような行動は、Bの生活状況からみておよそ経済的な合理性を欠く。

Bが自署した書面に、

「ガレージよりマンションの方がよいと思う」
「成年後見人を付けることはいやです」
などの記載があるとしても、Bがその意思に基づいて自己の財産状況や後見制度の趣旨を理解した上で記載したものか極めて疑わしい
⇒これらの書面は、後見開始の判断を左右しない。
  後見の開始に当たっては、公正中立にBの財産を管理する専門職の成年後見人を選任する必要⇒この点について審理を尽くさせるため原審判を取り消し、本件を原審に差し戻した。 
  解説 家裁は、成年被後見人となるべき者の精神の状況につき鑑定をしなければ後見開始の審判をすrことができない。(家事手続法119条1項)
but
明らかにその必要がないと認めるときは、この限りでない(同項ただし書)。
問題は、親族や本人が強硬に鑑定を拒む場合。
緊急性がある場合には、診断書あるいはこれに類する書面を準備して、審判前保全処分を検討することが考えられる(法126条)。
家裁は、必要に応じて財産管理人を選任してその協力を得、家裁調査官の調査を利用するなどして、鑑定の円滑は実施に向けて働きかけることも考えられる。
  民事p43
大阪高裁R1.5.24  
  人格権に基づく、インターネット検索結果削除請求(否定事例)
  事案 X(会社経営者)の氏名で検索⇒Xが有名企業の副社長を恐喝した事件に関与していたこと、同和利権問題を起こした団体の理事であったこと、元暴力団構成員であったことを示す検索結果。
XはYに対し、
①人格権としての名誉権に基づき、本件恐喝事件及び同和利権問題に関する検索結果の削除を求め、
②人格権としてのプライバシー権に基づき、元暴力団構成員であったことに関する検索結果の削除を求め、
③検索結果の削除をYが違法に拒絶したため損害を被ったとして、不法行為に基づき、2000万円の支払を求めた、
  判断   ●人格権としてのプライバシー権に基づく検索結果の削除請求:
当該事実を公表されない法的利益と検索結果を提供する諸事情を比較衡量し、
前者が優越することが明らかな場合に請求することができる。 
  ●人格権としての名誉権に基づく検索結果の削除請求:
①検索事業者による検索結果の提供は、利用者がインターネットを通じて情報発信・情報収集することを支援するものであり、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤としての役割を果たしている
②検索事業者による検索結果の提供が違法とされ、その削除を穂木なくされることとなれば、検索結果の提供を通じて果たされている前記役割に対する制約となる

事前差止めの場合に準じて、検索結果の提供が専ら公益を図るものではないことが明らかであるか、当該検察結果に係る事実が真実ではないことが明らかであって、かつ、被害者が重大にして回復困難な損害を被るおそれがあると認められる場合に限られるべきであり、
その主張及び立証の責任は被害者が負う。
  ●元暴力団構成員であったことに関する検索結果(プライバシー権に基づく請求):





元暴力団構成員であったとの事実を公表されない法的利益が、その旨の検索結果を提供する理由に優越することが明らかであるとまではいえない。 
  ●本件恐喝事件及び同和利権問題に関する検索結果(名誉権に基づく請求):
どちらも公共の利害に関し、社会的な関心も高いが、
その公表によって重大にして回復困難な損害を被るおそれがあるとは認められない
⇒削除を請求する得ことができない。 
  解説   人格権としてのプライバシー権に基づく検索結果の削除請求については、検索事業者に対し、自己の逮捕歴に係る検索結果を仮に削除するよう求めたケースにおいて、
最高裁H29.1.31:
検索事業者による検索結果の提供は検索事業者の表現行為という側面を有し、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしていることを前提として、
当該事実の性質及び内容、当該検察結果が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその物が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、記事等の目的や意義、記事等掲載時の社会的状況とその変化、当該事実記載の必要性など、
当該事実を公表されない法的利益と当該検索結果を提供する理由に関する諸事情を比較衡量し、
前者が優越することが明らかな場合に検索結果の削除請求をすることができる。
本判決:
Xが暴力団構成員であったのが約50年前であったが、なお社会の関心が薄れていない⇒直ちに公表の必要性が失われているとまではいえないと判断。
  人格権としての名誉権に基づく削除請求について
最高裁昭和61.6.11(北方ジャーナル事件):
公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関する出版物の事前差止めは原則として許されないとしつつ、
(1)表現内容が真実ではなく、又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ、
(2)被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるときに限り許される。 
  本件削除請求との関係について、
A:平成29年最決は、対立する憲法上の利益の調整としてされる比較衡量を具体化し、受忍限度(違法性)の判定を行うという従前の判断枠組みを根底から覆すものではなく、
他方でインターネット表現の削除は事後的な差止⇒昭和61年最判を援用することは相当ではない
B:検索結果の削除請求は、既に公表されている検索結果の削除を求めるものであり、事前差止めとは異なるが、以後の情報流通を一切差し止めるという点では事前差止めと大差ない⇒事前差止めと同様の要件をもって判断するのが相当とする見解 
  本件の一審判決:
名誉毀損を根拠とする検索結果の削除に関しても平成29年最決の趣旨を及ぼして同旨の枠組みをもって判断すべき

本判決:
プライバシー権と名誉権の違いに着目し、
検索結果の削除請求は、事後的な差止めではあるが、今後は同様の内容の検索結果を得られなくなるという点で表現行為に対する強い制約になる
⇒名誉権に基づく差止めに関する昭和61年最判に準じて判断すべき。
but
本件恐喝問題及び同和利権問題により重大な損害を被るとは言えない⇒削除請求を棄却。 
  民事p59
大阪地裁R2.2.21  
  長時間労働に従事していた調理師が、劇症型心筋炎⇒死亡で、長時間労働による過労状態と死亡との相当因果関係が肯定された事例
  事案 被告会社が経営していたレストランの調理師が、長期にわたり長時間労働に従事⇒過労等によって免疫力が低下し急性心筋炎を発症し、それが劇症化したために補助人工心臓を装着⇒脳出血で死亡。

故人の相続人である原告らが、
被告会社に対しては会社法350条又は安全配慮義務違反(債務不履行)に基づき、
被告会社の代表者に対しては不法行為又は会社法429条1項に基づき、
治療費、逸失利益、慰謝料及び弁護士費用等の損害倍法を求めた。 
  争点 個人を過労状態に至らしめたことについての被告会社の代表者の注意義務違反と、それが劇症化して死亡するに至ったこととの間に、因果関係が認められるか。 
  原告主張 ・・・・このような長時間労働による免疫力の低下がなければ、故人が心筋炎を発症することはなかったと考えられるし、また、心筋炎が劇症化して死亡することもなかったということができる
⇒過労状態とウイルスへの感染や心筋炎の発症・劇症化との間に因果関係を認めることができる。 
本件レストランにおける業務が多忙⇒休業して治療・休養する機会を得ることができなかった。
早期に病院を受診し、治療を受けて休養する機会が与えられていれば、死亡に至るまでの病状の進展を未然に防止することが可能であった
⇒この点からも長時間労働と死亡との間には相当因果関係がある。
  判断  故人が心筋炎を発症した当時、著しい長時間労働とこれに伴う睡眠不足によって、過労の状態にあった上、急性心筋炎の前駆症状が現れた後も、ほぼ従前どおりの過酷な長時間労働を継続しており、そのことによって更に体力を奪われ、極めて疲弊した状態に陥っていた。 
①心筋炎、ウイルス感染症及び免疫機構に関する現在の医学的知見の状況
⇒過労の状態や睡眠不足が、ウイルス等の病原体に対する生体防御機能を低下させる要因の1つとなっている
②当時、故人は、過労や睡眠不足によって、生体防御機能が鄭アkした状態にあり、体内に侵入したウイルスが増殖して感染を成立させ、感染症を発症しやすい状況にあったといえるし、また、急性心筋炎の前駆症状が現れた後も、従前どおりの過酷な長時間労働を継続していたことが、その急性心筋炎の症状をより悪化させる要因になったことは否定し難い。

被告会社の代表者の注意義務と、故人がウイルスに感染して心筋炎を発症したことやその症状が悪化したこととの間の因果関係を肯定。
  被告らの主張のうち、個体側要因の関与につて、
心筋炎の症状の進行(劇症化)には、患者個体の何らかの遺伝的・自己免疫的素因等が関与している可能性がある。
but
過労状態による生体防御機能の低下によりウイルスの増殖を食い止めることができずに心筋炎を発症するに至った場合には、一定の遺伝的・自己免疫的素因等を有する者において、心筋炎が劇症化することは、因果の流れとして一般に想定されるものであった⇒被告会社の代表者の前記注意義務違反と、故人の心筋炎が劇症化して重症心不全によるショック状態に陥ったこととの因果関係を肯定。
尚、故人はこれによって補助人工心臓を植え込むことになり、その重篤な合併症である脳出血によって死亡⇒前記注意義務違反と個人の死亡との間の因果関係も肯定。 
  解説 相続人の生前の配偶者は、労基署に対し、遺族補償年金等の支給を請求⇒不支給⇒審査請求及び再審査請求⇒いずれも棄却⇒国を被告として、前記の各処分の取消しを求める訴えを提起⇒取り消す旨の判決⇒国が控訴。 
労災認定の場面では、因果関係の問題は、業務に内在する危険が現実化した否かという、いわゆる「業務起因性」の枠組みの中で問題。
but
労災法に基づく労災認定と使用者等に対する不法行為等に基づく損害賠償請求とでは、法制度の趣旨が異なる
⇒業務起因性の判断と相当因果関係の判断を直ちに同視することには問題があると指摘⇒必ずしも両者の判断が重なり合うものではない。
  労働p74
東京高裁R1.10.9  
  法定年次有給休暇の日数を超える有給休暇が与えられている場合と、法定年次有給休暇の部分かそれ以外の部分化を区別しない時季の指定の効力
  事案 Xは、英会話スクールを経営するY社との間で、期間を1年とする労働契約を締結し、講師として稼働。
Xの法定年時有給休暇の日数は、年間10日ないし11日であったところ、Y社の就業規則には、年間20日間の有給休暇を与えるが、そのうちの5日を超える有給休暇(15日間)については、その時季をY社が指定するとの規定。 
しかし、労基法39条6項(一定の要件を満たす労働組合等との協定があれば、法廷年次有給休暇のうち5日を超える部分について使用者がその時季を定めることができる旨の規定)の要件を満たす労使協定はなく、Xは、Y社が指定した日以外の日に、法定年次有給休暇の日数を超えて、有給休暇を取得するとして勤務しなかった。
Y社がXとの契約更新を拒絶⇒Xは、労契法19条により労働契約が更新されたものとみなされると主張し、労働契約上の地位の確認等を求めた。
  原審 労基法「39条6項の要件を満たす協定はなかった⇒法定年次有給休暇については、年間5日を超える部分であっても、使用者がその時季を指定することはできない。
but
就業規則で定められた有給休暇のうち法定年次有給休暇の日数を超える部分(「会社有給休暇」)については、使用者がその時季を定めることができる。

Y社が指定した日以外の日に法定年次有給休暇の日数を超えて勤務しなかったXは、理由のない欠勤をしたことになる。

本件雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとはいえない。
  判断 会社有給休暇については、使用者がその時季を指定することができると考えられる。
but
Y社は、法定年次有給休暇と会社有給休暇を区別することなく、年間の有給休暇20にちのうちの15日分について時季を指定しており、そのうちのどの日が会社有給休暇に関する指定であるかを特定することができない。

時季の指定は全体として無効

年間20日の有給休暇の全てについて、Xがsの時期を自由に指定できるとし、Xに理由がない欠勤があったとは認められない。
  解説 法定年次有給休暇については、使用者は、原則として、労働者の請求する時季に与えなければならない。(労基法39条5項)
but
法定年次有給休暇の日数を超えて与えられる有給休暇については、そのような規定はなく、使用者が時季を指定することができる。 
本判決:
指定が有効な部分を特定することができない⇒時季の指定は全体として無効と判断。
  刑事p83
最高裁H30.3.19  
  刑法218条の不保護により保護責任者遺棄罪の事案で高裁判決を破棄して無罪とされた事案
  事案 乳児重症型先天性ミオパチーと診断されていた当時3歳の幼児Aを実母として監護していた当時19歳の被告人が、Aを共に監護していた夫(Aの養父)と共謀の上、Aの生存に必要な保護をせずに、低栄養に基づく衰弱により死亡させたとして起訴された保護責任者遺棄致死の事案。
  1審 裁判員裁判で無罪 
  原審 有罪 
  判断 刑法218条の不保護による保護責任者遺棄罪の実行行為は、老年者、幼年者、身体障害者又は病者につきその生存のために特定の保護行為を必要とする状況(要保護状況)が存在することを前提として、その者の生存に必要な保護行為として行うことが刑法上期待される特定の行為をしなかったことを意味。
・・・被告人を無罪とした第1審判決に事実誤認があるとした原判決は、第1審判決の評価が不合理であるとする説得的な論拠を示しているとはいい難く、第1審は寝k津とは別の見方もあり得ることを示したことに留まっていて、第1審判決が論理則、経験則等に照らして不合理であることを十分に示したものとはいえない⇒刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があり、同法411条1号により破棄を免れない。
・・・第1審裁判所としては、検察官に対して、前記のような求釈明によって事実上訴因変更を促したことによりその訴訟法上の義務を尽くしたものというべきであり、更に進んで、検察官に対し、訴因変更を命じ又はこれを積極的に促すべき義務を有するものではない。
  規定 刑法 第二一八条(保護責任者遺棄等)
老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、三月以上五年以下の懲役に処する。
  解説   ●刑法218条の不保護による保護責任者遺棄罪の実行行為
不保護による保護責任者遺棄罪を含む広義の遺棄罪は、抽象的危険犯とされ、その保護法益には生命のみならず身体も含まれる。

申請不作為犯である不保護罪の実行行為である不保護行為の解釈を的確に行わなければ処罰範囲が著しく広がってしまう

実質的危険性の判断が不可欠。
刑法上の不作為は、何もしないことではなく、刑法上期待された行為をしないこと

一定の不作為が不保護行為(実行行為)に該当するか否かを判断する際には、
刑法218条の実体法解釈に基づき、
刑法上期待される行為として何をなすべきであったのかという義務の内容や、
その義務懈怠(不作為)の程度を検討する必要があり、
義務内容となるべき保護行為が具体的に特定されていなければ、それが刑法上期待される行為といえるかどうかを評価することができない。
刑法218条の文言や趣旨
⇒不保護罪が成立するためには、要扶助者につき、その生存のために一定の保護行為を必要とする要保護状況が存在していることが前提。

ある行為が刑法218条により期待される保護行為であるといえるためには、要扶助者の置かれた個々の状況に照らして、その行為を必要とする具体的な要保護状況が存在していることが当然の前提。
  第1審:
ミオパチーにり患している等のAの特性に関する前提知識がある者がAを見た場合にどのように認識され得るのかという観点からみる⇒Aの体格等の変化や痩せ方ぬい関する事実のみでは、被告人の弁解を排斥できず、Aが本件保護行為を必要とする状態にあったと認識していたと合理的疑いなく推認できない⇒被告人を無罪。
本判決:
1審判決に事実誤認があるとした原判決の判断について、
「Aの体格等の変化や痩せ方の異常性の程度について被告人が誤解していた可能性を認める余地があるとした第1審判決の評価が不合理であるとするだけの説得的な論拠を示しているとはいい難い」
「・・・・原判決のはんだんは、第1審判決とは別の見方もあり得ることを示したにとどまっていて」「第1審判決の判断が不合理であることを十分に示したものとはいえない」
⇒原判決には刑訴法382条の解釈適用を誤った違法がある。
  訴因変更命令等の義務の有無について、
殺人罪の訴因から重過失致死罪に訴因変更すれば有罪であることが明らかな場合に、例外的に訴因変更を促し又はこれを命ずる義務がある(最高裁昭和43.11.26)
傷害致死被告事件において現場共謀から事前共謀の素因に変更することにより共謀共同正犯として罪責を問いうる余地があるとされた事案について、検察官の釈明状況など諸般の事情に照らし、訴因変更命令等の義務がないとした最高裁昭和58.9.6。
本件は、公判整理手続を経た裁判員裁判の事例。
公判整理手続が導入された趣旨及び裁判員裁判において当事者が果たすべき訴訟上の責任

裁判所は、判断者に徹することが一層求められており、裁判所が検察官に対して訴訟上の求釈明義務を負うと解されるような場面自体が例外的なものとなっている現在の実務⇒訴因変更の勧告又は命令が裁判所に義務付けられるような事態はほとんど想定し難い。
  刑事p90
最高裁H30.3.22  
  特殊詐欺の事案での詐欺罪の実行の着手が認められた事例
  原審 共犯者らが被害者に述べた文言は、被害者に対し財物の交付へ向けた準備行為を促すものではあるが、現金交付まで求めるものではない⇒その行為は、詐欺罪の人を欺く行為とはいえず、詐欺被害の現実的・具体的な危険を発生させる行為とも認められない⇒無罪
  判断 本件事実関係の下においては、被害者に現金の交付を求める文言を述べていないとしても、詐欺罪の実行の着手があったと認められる⇒原判決を破棄して控訴棄却の自判。 
  解説   本件において詐欺未遂罪が成立するか否かを判断するには、
理論的にみれば、
①本件嘘を述べた行為が刑法246条1項の構成要件である「人を欺く行為」に当たるかという刑法各論解釈上の問題と、
②本件嘘を述べた行為が人を欺く行為には該当しないと解されたとしても、実行の着手があったといえるかという刑法総論解釈上の問題
がある。 
詐欺罪にいう「人を欺く行為」は、人による物・利益の交付行為に向けられたものでなければならない。
  ●  実行の着手:
A:基本的構成要件に該当する行為(実行行為)の開始が実行の着手(形式的客観説)
B:法益侵害の危険性を実質的に判断して実行の着手時期を定める実質的客観説
  現在:形式的基準と実質的基準の両者の観点から実行の着手を検討することが通説的見解

財物交付要求文言のない本件嘘を述べる行為をもって、構成要件該当行為に密接で、法益侵害の客観的危険性が認められるといえるかを検討する必要。
  本判決:
詐欺未遂罪の成立が認められるためには、必ずしも財物交付要求行為が必要ないことを明らかに。
⇒詐欺未遂罪の成立する限界をどのように考えていくべきか?
本判決:
①本件嘘を述べた行為は、あらかじめ現金を被害者宅に移動させた上で、後に被害者宅を訪問して警察官を装って現金尾交付を求める予定であった被告人に、現金を交付させるための計画の一環として行われたもの
②本件嘘の内容が、被害者が現金を交付するか否かを判断する前提となるよう予定された事項に係る重要なものであった
③段階を踏んで嘘を重ねながら現金を交付させるための犯行計画の下において述べられた本件嘘には、被害者に現金の交付を求める行為に直接つながる嘘が含まれている
④被害者に本件嘘を真実であると誤信させることは、被害者において、間もなく被害者方を訪問しようとしていた被告人の求めに応じて即座に現金を交付してしまう危険性を著しく高めるものといえる

このような事実関係の下においては、本件嘘を一連のものとして被害者に対して述べた段階において、被害者に現金の交付を求める文言を述べていないとしても、詐欺罪の実行の着手があったと認められる。
  山口厚裁判官補足意見: 
詐欺罪の実行行為である「人を欺く行為」が認められるためには、財物等を交付させる目的で、交付の判断の基礎となる重要な事項について欺くことが必要。
詐欺未遂罪はこのような「人を欺く行為」に着手すれば成立し得る。
but
そうでなければ成立し得ないわけではない。
最高裁H16.3.22:
犯罪の実行行為自体ではなくとも、実行行為に密接であって、被害を生じさせる客観的な危険性が認められる行為に着手することによっても未遂罪は成立し得る。

財物の交付を求める行為が行われていないということは、詐欺の実行行為である「人を欺く行為」自体への着手がいまで認められていないとはいえても、
詐欺未遂罪が成立しないということを必ずしも意味するものではない。
未遂罪の成否において問題となるのは、実行行為に「密接」で「客観的な危険性」が認められる行為への着手が認められるかであり、この判断に当たっては「密接」性と「客観的な危険性」とを、相互に関連させながらも、それらが重畳的に求められている趣旨を踏まえて検討することが必要。

得意に重要なのは、無限定な未遂罪処罰を避け、処罰範囲を適切かつ明確に画定するという観点から、上記「密接」性を判断すること。
本件では、警察官になりすました被告人が被害者宅において現金の交付を求めることが計画され、その段階で詐欺の実行行為としての「人を欺く行為」がなされることが予定されているが、警察官の訪問を予告する上記2回目の電話によりいち、その行為に「密接」な行為が行われていると解することができる。
前日詐欺被害にあった被害者が本件の一連の嘘により欺かれて現金を交付する危険性は、上記2回目の電話により著しく高まったもtの認められる。
  刑事p93
大阪高裁R1.9.12  
  少年の窃盗保護事件における、立件されていない大麻使用に関する事情の考慮が許容される限度を超えたものとして、違法とされた事例
  判断  本件において家裁に審判に付すべき事由として送致された事実は2件の窃盗のみであるところ、原決定は、処遇の理由の説示において、審判に付すべき事由として送致等がなされていない大麻の使用に関する事情を、2件の窃盗の事実とほぼ並列的に掲げて少年の要保護性を検討。
but
少年の大麻の使用に関する事情は、あくまで審判に付すべき事由として送致等はなされておらず、立件されたことのないもの。
少年の大麻の使用に関する事情は、窃盗の直接の動機になっているものではなく、本件の非行事実である窃盗とは性質が大きく異なる上、仮に立件されるならば、本件の非行事実である窃盗に劣らない程度に重大なものと評価される。

原決定の処遇の理由における説示は、非行事実であないが処分に実質的に大きな影響を与える可能性のある大麻の使用に関する事情を、本件の要保護性の判断として許容される限度を超えて、あたかも非行事実であったかのように扱って処分を導き出していると解される⇒法令違反がある。
  法令違反の決定に及ぼす影響について、
①原決定に至るまでの家庭裁判所における手続等に特に違法な点や調査等が不足しているような事情はない
②原決定は、大麻の使用に関する事情の部分を除いても、少年を少年院に送致する必要がある理由を一応示している

原決定の違法は決定に影響を及ぼすとまではいえない。 
  解説  少年保護事件ぬいおける審判の対象は、(1)非行事実と(2)要保護性の双方。
要保護性:①犯罪的危険性、②矯正可能性、③保護相当性の3つの要素で構成。
その中核をなすのが、①犯罪的危険性。

送致された審判に付すべき事由を要保護性の判断においてどのように扱いべきか?が問題となる、。 
少年保護手続が再非行の危険性の解消を目的とする⇒再非行の可能性に関係する事情は、可能な限り多くを考慮の対象とすることが望ましい。
余罪は、非行事実の同期、常習性などに関係し、非行事実に基づく再非行の予測に影響することもある⇒要保護性判断における考慮対象とすべき必要性はある。
but
非行事実も要保護性と並ぶ審判の対象

余罪を、非行事実と同様に実質的に処断する目的で考慮したり、非行事実の審理に関する手続保障や証拠法則等を潜脱する方法で認定したりすることなどは許されない。
  少年法32条の法令違反について要求される「決定に影響を及ぼす」とは、
法令違反がなかったならば原決定は異なった主文になっていたであろうという意味で、法理違反と原決定の主文との間に具体的な因果関係が認められることが必要であり、理由に影響するだけでは当たらない。
特に本件のように、少年が少年院送致となり収容されている場合には、仮に原決定を取り消して差戻し又は移送をしても再度同じ保護処分に付されるならば、少年に対する矯正教育を一時中断するだけとなり、弊害は軽視できない。
  刑事p97
広島高裁R1.8.28  
  ゲーム依存状態の少年緒住居侵入保護事件で、児童自立支援施設送致の原決定が取り消された事案
  経緯 原決定:少年を児童自立支援施設に送致。
判断:原決定の処分が著しく不当⇒原決定を取り消して本件を原裁判所に差戻し。 
差戻審:3か月余りに及ぶ在宅試験観察の後、高校受験を待たずに少年を一次短期保護観察に付する。
  解説    本決定:
原決定の処分が著しく不当であることの理由:
社会内処遇の可能性を十分に調査・考慮することなく、収容処遇である児童自立支援施設装置を選択 した点。
取消決定:
①他の処分相当型
②審理不尽型
で②に属する。
  処遇選択に当たり、収容処遇によって少年が受ける不利益の程度を考慮する必要があることは、いわゆる「収容処遇の謙抑性」という観点で、実務上、1つの共通認識といえる。
少年の資質、学力、進学への意欲等から、高校進学が1年遅れる、という点は、少年の健全育成の観点からは負の要因ともなりかねない⇒本件では、収容処遇には、それを正当化するに足りる程度の要保護性があるかどうかを慎重に見定める必要があるとした。
  原決定:
少年がゲーム依存状態にあり、これまでえゲーム関係品の窃盗や、家出のための邸宅侵入等の触法事件を繰り返し、診療クリニックへの入院や児童相談所における指導等の介入措置を経ても非行性が解消されずに本件に至っている。
⇒少年の非行性は大。 
本決定:
学校生活等において特段の問題行動はなく、不良親和性も不良交友もない少年の生活状況等
⇒少年の非行性はゲームに関連した限局的なものにとどまり、深刻化しているとまでは言い難い。

原決定が重視する介入措置の点⇒家裁における措置とは異なる。
  本決定:
付添人が原決定後に提出した資料を明示的に判断資料に加えている。

保護処分決定に対する抗告審は事後審とされ、原決定後の資料を判断資料とすることの可否、当否については争いがあるが、積極説が有力。
処遇選択においては、
収容処遇の謙抑性や段階処遇の合理性が指摘される一方、
時機を逃さぬ姿勢も重要。
2450、2451    
  民事p5
東京高裁R1.11.25  
  相続放棄の申述受理の事案
  事案 平成29年に死亡した被相続人の法定相続人である抗告人らが相続放棄の申述をした事案。 
抗告人らは、平成31年2月下旬頃、被相続人の固定資産税に関する市役所からの文書を受領⇒被相続人の死亡と法定相続人であることを知ったが、
3か月以上経過後に申述。
  原審 本件各申述は相続放棄の熟慮期間を経過してなされた⇒却下。 
  判断 本件各申述を受理すべき。 
  解説   最高裁:
熟慮期間は、原則として、相続人が相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から起算すべき。
but
相続人かこれらの事実を知った場合であっても、3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合
⇒熟慮期間は、相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時又は通常これを認識することのできる時から起算すべきである。 
but
熟慮期間の起算点の繰下げが例外的に認められるのが、
A:相続人が被相続人に相続財産が全く存在しないと信じた場合に限られるのか、それとも、
B:一部の相続財産の存在は知っていたが、通常人がその存在を知っていれば当然相続放棄をしたであろう債務が存在しないと信じた場合も含まれるのか?
を巡り、見解が分かれる状況。
  本件:
市役所から受領した本件文書の内容により、
①被相続人が不動産を所有していたことや、
②これに関する固定資産税が発生していること
を認識し得た。
but
起算点を繰り下げて本件各申述を受理すべきとした

①抗告人らが、生前、被相続人と全く疎遠な間柄であった上、本件文書には、被相続人の資産や負債に関する具体的な情報は何ら記載されていなかった
⇒本件文書を突然受領したからといって、高齢の抗告人らにおいて、被相続人を相続すべきか否かを適切に判断することは期待し得なかった。

昭和59年最高裁判決との関係でいえば、相続財産の認識可能性を形式的・画一的に判断するのではなく、相続人の属性にも鑑みて、限定承認や相続放棄の必要性を認識することが期待できるだけの具体的な認識があったと言えるか否かを問題とすべき場合があることを示した。

②抗告人らが、本件文書を受領してから3か月以内に相続放棄の申述を行わなかったのは、抗告人らの兄弟に当たるCが代表者として全員について相続放棄の申述を行うことによって、相続放棄の手続が完了したと信じた。

相続放棄が遅れた一因が、相続財産についての認識の有無とは別に、法的な手続の誤解にもあったというものであって、このような事実が起算点を遅らせることを一般的に許容する趣旨ではないが、相続人の帰責性の有無・程度を検討する上での考慮事情として重視。
  相続放棄の申述受理は、家事審判事項
but
非訟手続⇒それによって、相続関係及びこれに関連する権利義務が最終的に確定するわけではない。

相続放棄が効力を生じるためには、相続放棄の受理審判がなされた上で、法定単純承認の有無、熟慮期間の経過の有無等の実施的要件が具備されることが必要。
  複数の高裁決定:
熟慮期間の要否の存否について、家庭裁判所が実質的に審理を行うにしても、一応の審理で足り、その結果、要件の欠缺が明白である場合にのみ申述を却下すべきであるとの考え。
  不受理審判が当事者にもたらす効果が大きい⇒判断の微妙な事案については、家事手続き法別表第1の家事審判事項としてではなく、民事訴訟における当事者間の対立構造の中で、最終的な事実の確定を行う方が適切。 
  民事p9
福岡高裁R1.10.29  
  別居中の妻である相手方が監護者指定・子の引渡しを求めたが高裁で却下された事例
  事案 相手方(妻)は、抗告人(夫)が子らを連れて父方実家に帰ることに強い抵抗を示さなかったが、別居後j間もなく、監護者の指定と子の引渡しを求める審判を申し立てた 。
別居の原因は相手方の男性関係。
  原審 家裁調査官による子らの監護状況及び心情に関する調査

子らの信条としては、長女が相手方と暮らしたいと発言するなど、相手方により強い行為や精神的結びつきを示している⇒相手方の申立てを認容。 
  判断 原審判後に二女が就学するなど、生活環境に変化
⇒再度、調査官による調査を実施。
相手方の申立てをいずれも却下。
①子らが相手方に対する相対的な親和性の強さ
but子らは抗告人ともよく親和。 
②物心ついた頃から同じ地域で生活し、原審判後には二女も長女と同じ小学校に入学するととおもに、同じクラブにも入り、いずれもよく適応している。
③抗告人は、相手方との別居後、子らの生活や学習の細部にわたって配慮し、その心身の安定に寄与しており、抗告人の監護能力と子らとの関係に問題は見受けられない。
④現在は、相手方との宿泊付きの面会交流も安定的に実施されている状況にある。
⑤就学後の子らについて監護者を定めるに当たっては、従前からの安定した監護環境ないし生活環境を維持することによる利益を十分配慮する必要があり、乳幼児期の主たる監護者であった相手方との親和性を直ちに優先すべきとまではいえない。
⑥長女は、相手方との面会交流時には、相手方と暮らしたいと繰り返し発言しているが、担任教諭に対しては、小学校や友人と離別することへの強い不安を訴えている⇒相手方への発言が長女の相手方への思慕を示す表現であるとしても、監護者指定における位置付けについては慎重に評価・判断する必要がある。

子らにとっては、現状の生活環境を維持した上で、相手方との面会交流の充実を図ることが最もその利益に適うというべき。
  解説  民法766条1項:
子の監護について必要な事項は、子の利益を最も優先して考慮することを要求。
一般に、子の監護者を定める上での考慮要素:
従前の監護状況、現在の監護状況や父母の監護能力(健康状態、経済状況、居住・教育環境、監護意欲や子への愛情の程度、監護補助者による援助の可能性等)、
子の年齢、心身の発育状況、従前の環境への適応状況、環境の変化への適応性、
父又は母との親和性、
子の意思等
具体的な事案の中で、

主たる監護者が父母のいずれであったか、
その者による従前の監護はどうであったか、
他方の監護状況はどうであったか、
父母以外の者による監護補助の状況はどうであったか
など
過去の監護状況をまず確定し、

現在の監護状況や子の意思、互いの監護能力や監護態勢等をも検討

子の福祉の観点から、父母のいずれを監護者とするのが適当かという検討。
一般に、幼児期や小学校低学年の発達段階では、自己の置かれた客観的な状況を把握し、生活環境の変化をも想定して意向を述べることは困難

母と暮らしたいという長女の発言も、愛情表現の一種にとどまり、父との生活や学校といった現在の環境から離れることを具体的に想定したものではなかった可能性がある。 
  民事p19
東京地裁R1.8.29  
  死産となったことについての医療過誤訴訟(否定)
  事案 死産⇒妊婦から担当医師、看護師、病院を開設している医療法人に対して提起された損害賠償請求事件。 
死産となったことについて、診察治療を担当し本件病院のY2医師、Y3医師、看護を担当したY4看護師に注意義務違反があった

Y2ないしY4に対しては不法行為に基づき、
医療法人Y1に対しては不法行為(民法715条)ないし債務不履行に基づき、
胎児死亡による損害金等3300万円及び遅延損害金の支払を求めた。
Y4看護師に対し、Xの訴えに耳を傾けず暴言を述べ、Xに精神的苦痛を与えた⇒Y4看護師に対して不法行為に基づき、医療法人Y1に対して不法行為(民法715条)ないし債務不履行に基づき損害賠償として1100万円及び遅延損害金の支払を求めた。
  判断   ●Y2医師について 
主張:
Y2医師は、Xの腹腔鏡下子宮筋腫核手術(「LM」)の既往歴について問診を行わず、診療録も確認しなかった⇒その腹痛が通常の陣痛様の痛みと思い込み、至急破裂による激しい痛みと認識できず、腹部の圧痛の有無や痛みの部位等の確認をしなかったという注意義務違反等がある。
判断:
①Y2医師は、Xを診察するに際し、XにLMの既往があること認識している
②Y2医師がXを診察した時点では、Xにおいて、腹腔内出血やLMの瘢痕部の子宮筋層の菲薄化した部位が避けていることを示す所見が得られていたとは認められない

Y2医師の注意義務違反を否定。
  ●Y3医師について
①Y3医師は、診察時にXの腹部を触診し腹膜刺激症状がないことを確認している
②救急外来への診察依頼がされ、その後、少なくとも24日午前零時50分頃までは腹膜刺激症状その他の緊急性をうかがわせる所見が認められていなかった経緯

仮にY3医師がXのLMの既往を同日午前2時30分頃よりう前の時点で知ったとしても、症状としては著変のない同時点で改めて何らかの検査をすべきであったとは認められない
⇒過失を否定。
  Y4看護師の言動も、不適切な言動とまではいえない。 
  民事p34
東京地裁R1.6.7  
  東北地方太平洋沖地震⇒建物車路スロープが崩落⇒不法行為責任と民法717条3項の求償が問題となった事案
  事案 東北地方太平洋沖地震により大型商業店舗の車路スロープが崩落し2名が死亡

企業財物総合保険契約の保険者X1が、店舗の所有・運営会社Aの店舗設計者らに対する共同不法行為に基づく損害賠償請求権を、
損害賠償責任保険契約の保険者X2が、Aの同設計者らに対する民法717条3項に基づく求償権を、
それぞれ保険代位により取得

店舗の意匠設計及び監理の統括会社Y1、設計変更前の構造設計及び構造管理の一部の担当会社Y2、設計変更後の構造設計及び構造管理の一部の担当会社Y3(及びその代表者Y4)並びに施行会社Y5に対し、
前記の各請求権に基づき各金員の支払を請求。
  判断  事実認定と、証拠提出された構造解析の結果や民事調停手続における施文か調停委員の意見を踏まえ、
変位差の増大と接合部の脆弱性がともに本件事故発生に寄与しており、複数の原因が競合(重複)している

ある行為等が変位差の増大又は結合部の脆弱化に相当程度寄与していれば個別の条件関係がなくとも因果関係が認められる。
変位差が増大した状態でY3が考えるように接合部を床スラブで繋いでも車路スロープの崩落が生じたと認められる⇒その限りで変位差の増大が主たる事故原因。
  ●X1の損害賠償請求について
  Y3(設計変更後の構造設計及び構造監理の一部の担当会社)につき、
・・ほか、接合部の脆弱性に関し工事監理における役割分担と確認を怠った点に過失を認め、

Y2(設計変更前の構造設計及び構造監理の一部の担当会社)につき、
双方の事故原因に関し、設計変更前の構造設計内容の情報伝達、設計変更後の接合方法確認及び工事管理の点に過失を認め、

Y1(店舗の意匠設計及び監理の統括会社)につき、
双方の事故原因に関し、設計の齟齬や工事監理の範囲等の調整を怠った点の過失を認めた。

Y5(施工会社)につき、
施工者の立場で設計の齟齬や接合部の脆弱性の認識は困難⇒不法行為責任を否定。
Aの店舗建設担当者が事故の発端を作り、Y1らが注意義務違反を犯しやすい環境を作った⇒4割の過失相殺。
  ●X2の民法717条3項に基づく求償請求について
土地工作物責任者の過失が競合する場合、土地工作物責任者と損害の原因につき他に責任を負う者との間の求償関係が、共同不法行為者間の求償関係に類似し、不当利得返還請求権に準ずる性質を有する
⇒各責任者の負担部分の限度で求償権を行使することができる。
Aを4割、Y3を2割5分、Y2を2割、Y1を1割5分の負担割合とした。
消滅時効:
損害賠償を現実に行った時又は他に責任を負うべき者が明らかになった時のいずれか遅い時点から10年とし、時効完成を否定。
  解説  ●複数原因が競合(重複)する場合の因果関係 
複数の原因が競合した場合には各行為と権利・法益侵害との間の条件関係は不要であると解するのが相当。(内田他)
本判決:
変位差の増大及び接合部の脆弱性の双方の原因が競合して本件事故が発生したところ、各原因が事故発生に相当程度寄与する行為等であれば因果関係を認めるのが相当。
  ●意匠設計者・施行者・施主の役割等 
意匠設計者が設計全般を統括し、構造設計や設備設計を外注
⇒意匠設計者は、構造設計の誤りについていわゆる履行補助者の過失として債務不履行責任を負うことが多い。
but
不法行為責任を当然に負うものではない。
本判決:
構造設計の誤りをもって直ちにY1の過失を認めたものではなく、具体的な関与に即し、設計の齟齬や工事管理の範囲等の調整を怠った点に過失を認めた。
本判決:
施行主の不法行為責任を否定。 
建築の実務では、建築確認段階の設計図書は、そのまま施行が可能な程度に具体的であることは少なく、施行者が作成する施工図を講じ管理者が承認する過程を重ねて建築が進められるのが一般的。
この過程で施行者が設計上の問題点等を把握したときは通知等が求められようが、問題点等を把握する法的義務を広く認めるのは、施行者の役割に照らし困難。

尚、民間連合協定工事請負契約約款16条(平成28年3月改正)は、受注者が設計の不備を発見した場合の通知義務を定めるが、
設計の不備を調査・探査する義務がないことを前提にする。
  本判決:
施主に4割の過失相殺を認めた。
施主は法的責任を負わないのが一般的。
but
①Aの担当者が建築の専門知識と経験を有し、Y3からの接合部の設計内容に関する質問に自ら回答・指示するなどして具体的に関与
②AがY3を設計に参画させながら契約関係の整理を行わず、その結果、設計監理の各担当者の役割が曖昧なまま進められるに至った
ことなど、本件特有の事情を重視して、過失相殺を肯定。
  ●民法717条3項の求償権 
本判決:
X2の民法717j法3項に基づく求償請求について、共同不法行為者間の求償権行使に類似するものとみて、
被告らが不真正連帯債務を負うとのX2の主張、
3年の消滅時効にかかるとのY1及びY2の主張
を否定。
  民事p78
東京地裁R1.8;9  
  受刑者死亡⇒国賠請求の事案(否定)
  事案 東京拘置所に懲役受刑者として収容されていた亡Aの相続人であるXが、Y(国)の公務員である同拘置所の医師らが亡Aがり患していた慢性骨髄性白血病について適切な薬剤を投与する注意義務に違反したことで死亡⇒国賠法1条1項に基づき、慰謝料2500万円及び遅延損害金の支払を求めた。 
  争点 拘置所医師が、遅くとも平成25年8月26日の時点において、亡Aに投与する薬剤をグリベックからニロチニブ又はダサチニブに変更する注意義務があったか? 
  判断 ①薬剤の変更を検討する要素に関して、平成25年8月19日の血液検査において亡Aの白血球数が29万5900/ulと大幅に増加したことを受け、亡Aが、拘置所医師の指示に従い、同月21日から同月23日までグリベックを服用したところ、同月30日の血液検査では白血球数が1万3200/ulまで激減⇒亡Aについて、グリベックに対する治療反応性が不良であったとはいえない。
②亡Aが本件収容中に訴えていたグリベックの副作用は主として関節痛であり、グリベックの投薬治療の継続が困難なほどの重篤な副作用が生じていたとはいえない。
③亡Aにおいて、グリベックの服用を一旦は拒否したことがあったものの、その後、自ら服用を再開する意思を示した⇒服用を継続することは可能であったと考えられるから、亡Aがグリベックについて不耐容であったということもできない。
④当時の医学的知見によれば、第2世代チロシンキナーゼ阻害薬が、グリベックと比較して生存期間の有意な延長を得られるか明らかではなく、また、グリベックとは異なる副作用があり、重篤な副作用が生じる可能性もあるとされていた。

拘置所医師において、亡Aに投与する薬剤をグリベックから第2世代チロシンキナーゼ阻害薬であるニロチニブ又はダサチニブに変更する注意義務があったということはできない。 
  民事p85
①東京地裁立川支部R1.11.14
②広島地裁R1.11.19  
  夫婦同氏制度の維持を理由とする国賠請求(否定)
  事案 原告ら:
本件各規定(夫婦が婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称すると定める民法750条の規定及び夫婦が称する氏を婚姻届の必要的記載事項と定める戸籍法74条1項の規定)は、憲法14条1項、24条及び人権B規約(自由権規約)、女子差別撤廃条約に違反するものであることが明白であり、そにれもかかわらず、国家が正当な理由なく、長期にわたってその改廃等の立法措置を怠っている

国賠法1条1項の適用上違法⇒被告国に対し、それぞれ精神的損害の賠償金50万円の支払を求めた。
  経緯 最高裁:
平成27年12月16日、先例となる事件において、民法750条は、憲法13条、14条1項及び24条のいずれにも違反するものではなく、民法750条を改廃する立法措置をとらない立法不作為は国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないと判断。 
  主張  ①民法750条のんみでなく戸籍法74条1号も問題としている
②憲法13条に違反する旨の主張をしていない
③憲法14条1のうち性別による差別でなく信条による差別であると主張
④人権B規約に違反すると主張している
点において、平成27年最高裁判決における原告らの主張と異なる。
  ①判決  本件各規定は、原告らの主張する憲法14条1項、24条、人権B規約及び女子差別撤廃条約の各規定に違反するものであることが明白であるとは認められず、
国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合に当たるとも認められない

本件各規定の改廃を行わない立法不作為は、国賠法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けるものではない⇒請求棄却。
  ●  ●憲法14条1項
  「信条」は、宗教上の信仰のみならず、広く思想上・政治上の信念や主義を含むと解される⇒夫婦別氏を希望する考え方も、「信条」に該当する。
本件各規定は、
夫婦同氏を希望する者、夫婦別氏を希望する者のいずれにも適用されるのであって、その文言上、信条に基づく法的な差別的取扱いを定めているわけではなく、本件各規定の定める夫婦同氏制それ自体に信条による形式的な不平等が存在するわけではない
⇒憲法14条1項に違反することが明白であるとは認められない。
  ●  ●憲法24条 
  平成27年最高裁判決を踏襲した上で、
戸籍法74条1号について、同規定も、民法750条を受けて、婚姻をする夫婦により定められた夫婦の称する氏を戸籍に反映させるための手続的規定
⇒婚姻の際に夫婦が称する氏を選択しなければ婚姻届が受理されず、その結果婚姻をすることができないとしても、このことにより直ちに、本件各規定が憲法24条1項の趣旨に沿わない制約を課したものと評価することはできない。

本件各規定の存在により、夫婦別氏を望む者が婚姻をすることが事実上制約される状態となっていることは、本件各規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たって考慮すべき事情の1つにとどまる。
平成27年最高裁判決後の事情変更:
通称使用をする者の中には、婚姻前の氏に人格的価値を見出している者のみならず、夫婦同氏制を肯定しながら仕事上の便宜などのために通称を用いる者も存在していることを否定できない⇒通称使用の広がりが見られることをもって、直ちに婚姻前の氏を維持することの重要性についての社会的認識・人格的価値が確立したと評価することはできず、・・・選択的夫婦別氏制を導入すべきとの意見が大勢を占めているとは認められない。
国会や国民全体において、前記調査結果等を踏まえた議論がなされることが望ましく、これらが憲法適合性の判断結果を直ちに左右するものではない。

・・・・憲法24条に違反することが明白であるとは認められない。
  ●人権B規約(自由権規約)
事件B規約2条1項、3項(b)、3条、23条4項は、締約国相互間において国内法制度の整備等を通じて権利を確保する旨約したものというべきであり、我が国の個々の国民に対し、直接、権利を保障するものということはできない。
人権B規約17条1項及び同23条1項ないし3項は、前記各規定と比較して、その権利性をより進んで認めた趣旨とも解されるが、各配偶者の婚姻前の姓の使用の保持に直接言及した規定は存在せず、各配偶者が婚姻前の姓の使用を保持する権利が保障されているとは認められない。
  ②判決   請求棄却。 
  民事p111
名古屋家裁R1.11.8  
  遺産全部の分割を2年間禁止する旨の審判がされた事例
  事案 被相続人Aは、姪に当たるYと養子縁組をした上で、Yに対して全財産を相続させる旨の自筆証書遺言(「第1遺言」)。
but
その後、Aは、長男であるBに対して全財産を相続させる旨の自筆証書遺言(「第2遺言」)をし、さらに、Bの子であるX1及びX2、X1の妻であるX3並びにX2の妻であるCと養子縁組。
その後、Aが死亡して相続開始。その時点でB及びCは既に死亡。 
X1~X3は、Yを相手方として遺産分割の審判を申立て。
審判申立後にYが自己の相続分の一部をその夫Zに譲渡し、Zが当事者参加。
  主張 Xら:
第1遺言は、これと抵触する第2遺言により撤回
第2遺言は、BがAより先に死亡した場合には、Bの代襲者であるX1及びX2に全財産を相続させる趣旨の遺言

Aの遺産は、X1及びX2が相続。 
Y及びZ:
第2遺言は、全遺産をそうぞくさせるものとされたBがAより前に死亡したことで効力を失い、その結果、第1遺言は撤回させることなく効力を維持。
Xらは、第1遺言の無効確認等を求める民事訴訟を提起する意向を表明。
  判断 X1~X3が提起予定の別訴の結論が確定するまでは、Aの遺産の全部についてその分割をすべきではない事情がある⇒向こう2年間にわたり、遺産全部の分割を禁止する旨の審判。 
  解説  家裁は、共同相続人から遺産分割の請求⇒何らかの形でその分割をしなければならないのが原則。
but
特別の事由があるときは、期間を定めて、遺産の全部又は一部の分割を禁止することもできる(民法907条2項、3項)。
「特別の事由」に該当する類型:
①相続人資格の有無や重要な財産の遺産帰属性など、遺産分割の前提となる権利又は法律関係(いわゆる前提問題)に争いがあり、その解決を待つ必要性がある場合
②遺産の状態が債務を整理した後でないと分割に適しないとか、即時に遺産を分割するとその価値に著しい損害を及ぼすなど、遺産の即時分割を避けることが共同相続人全体の利益に資する場合等
  本件の場合、家庭裁判所が遺産分割審判をしようとすれば、その前提として、第1遺言及び第2遺言の効力等に係る争いに対して法的判断を下し、遺産を取得させる相続人の範囲及びその相続分を確定しなければならない
but
このような前提問題に対する審判中の判断には既判力がなく、当事者が別途民事訴訟において争うことが可能であり、かつ、審判中の判断と別訴における判断とが抵触した場合には、審判がその限度で失効。

別訴において、第1遺言及び第2遺言の効力等に対する判断が行われ、これによって遺産を取得する相続人の範囲及び各自の相続分が確定するのを待たなければ、適切な遺産分割を行い難い

本件審判。
  民事p113
山形地裁R1.12.17  
  原子力委員会と経済産業大臣の規制権限の不行使と国賠請求(否定)
  事案 東北地方太平洋沖地震及びそれに引き続く福島第一原子力発電所から放射性物質が外部に放出された事故の発生時に福島県内に居住等していたXらが、
本件原発を運営していたY1(東京電力)に対して、
主位的に不法行為の損害賠償請求権に基づき、
予備的に原賠法3条1項に基づき、
また
Y2(国)に対して、国賠法1条1項に基づき、
本件事故によって被った損害(慰謝料)は各X(口頭弁論終結時に死亡していた者を含む)についてそれぞれ2000万円になるとして、
そのうち1000万円および弁護士費用110万円の連帯支払等を求めた。
  争点 Y2(原子力委員会及び経済産業大臣)が地震及び津波対策並びにシビア・アクシデント(SA)及びステーションブラックアウト(SBO(全電源喪失状態))対策に関して規制権限を行使しなかったことが違法か。 
  判断  ●規制権限不行使の違法性について
①経済産業大臣には、地震及び津波対策並びにSA及びSBO対策としてXらが主張する措置を実施するように電気事業法39条1項に基づく技術基準に関する省令を変更し、同法40条に基づく技術基準適合命令を発出する権限があった
②電気事業法39条及び40条の規定は、行政庁の専門技術的裁量を許容しているといえ、前記各規定による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下においてその不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において国賠法1条1項の適用上違法となり、
将来発生する被害の予測に基づいて行使されるべき規制権限の不行使が問題になる場合、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くかどうかの判断においては、
規制権限を定めた法が保護する利益の内容及び性質等、被害の重大性及び切迫性、予見可能性、結果回避可能性、現実に実施された措置の合理性、規制権限行使以外の手段による結果回避の困難性(被害者による結果回避可能性)、規制権限行使における専門性、裁量性等の規制権限の講師が問題となる当時の具体的事情の一切を考慮すべきである。
③地震及び津波対策に係る規制権限不行使の違法性について、前記②で列挙された各事情をそれぞれ検討したうえで、経済産業大臣が地震及び津波対策に関して規制権限を行使しなかったことが許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとまで認めることはできない。
④SA及びSBO対策に係る規制権限の不行使の違法性についても、経済産業大臣が規制権限を行使しなかったことが許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとまで認めることはできない。

結論として、Y2の規制権限の不行使が違法であるとはいえない。
  解説 ●国の規制権限不行使の違法性について 
最高裁H26.10.9を参照引用した上で、
その調査官解説を参考にしたものと考えられる。
地震及び津波対策に係る規制権限の不行使について:
本判決:
Y2は平成14年頃の時点において本件原発の敷地高さ以上の高さ以上の高さの津波が本件原発に到来することを予見することが可能であった
また、行使すべき規制権限の根拠法規(電気事業法)の保護法益に照らし、適時かつ適切な規制権限の講師が規定されていた。
but
本件原発で重大な事故が発生する危険の切迫性はそこまでのものではなく、Y2は何らかの対応自体はしてきており、要急性の程度に照らしてその対応は不合理とはいえない。
結果回避可能性について、
Xらが措定する結果回避措置を執るように規制権限を行使していたとしても本件事故の発生を防止することができた可能性は否定できないという程度にとどまる。

Y2が規制権限を行使しなかったことが許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとんまで認めることはできない。
SA及びSBO対策に係る規制権限の不行使について、
地震及び津波対策に係る規制権限の不行使が違法とはいえない

より抽象度の高いSA及びSBO対策に係る規制権限の不行使につちえも許容さされる限度を逸脱して著しく合理性を欠くとまで認めることはできない。
2448    
  民事p3
大阪高裁R1.9.18 
  性同一性障害と戸籍上の名の変更
  事案 Aは戸籍上の性別は男であるが、平成17年ころに性同一性障害と診断。
Aは、大阪家裁に、性同一性障害を理由に、名の変更の許可申立てをした。 
  原審 Aが求める変更後の名Cは、その使用実績をみてもAの通称として永年使用され社会的に定着しているとまでは認められず、
Aの病歴、受診歴、現在の通院治療の状況等を併せて考えると、
現時点で、Aの名を変更することにつき戸籍法107条の2所定の「正当な事由」があるとはいえない。
⇒Aの申立てを却下。 
  判断 Aは、
①性同一性障害について医師2名による診断ガイドラインに沿った診断を受けている、
②そのような下で、生物学的な性と心理的・社会的な性意識としての性が一致せず、その不一致に悩み、生活上の不便が生じている
③その不便を解消するため、心理的な性に合わせた通称名Cの使用を平成28年6月から開始し、Aの通称は、社会的、経済的な関係において継続的に使用されている

Aの申立てには「正当な事由」を認めることができる。 
  解説 戸籍法107条の2所定の「正当な事由」の判断に当たって、その判断基準として、一般的には、通称名の永年使用による実績と社会的経済的な定着が許否の要素として重視される。
大阪高裁H21.11.10:
性同一性障害である抗告人が、社会生活上、自己が認識している性別とは異なる男性として振る舞わなければならず、男性であることを表す戸籍上の名を使用することに精神的苦痛を感じており、抗告人に戸籍上の名の使用を強いることは社会通念上不当であると認められる一方、
名の変更によって職業や社会生活に混乱が生じるような事情も見当たらない

変更後の名の使用実績が少ないとして、抗告人の名を変更することには正当な事由がある。
  民事p5
大阪高裁R1.7.19  
  タイヤ製造工程でのアスベスト曝露⇒肺がん・中皮腫発症⇒損害賠償請求(肯定)
  事案 タイヤ製造業者であるYの従業員7名が、タイヤ製造工程において使用されるアスベスト粉じん又はタルク粉じんに曝露⇒アスベストにより肺がんや中皮腫を発症⇒存命従業員及び死亡従業員らの相続人らが、
使用者であるYに対し、
当該従業員らに対する安全配慮義務違反又は不法行為に基づき、損害賠償請求。
  争点 ①当該従業員らの疾病とタルク粉じんへの曝露との間の因果関係の有無
②使用者であるYの当該従業員らに対する安全配慮義務違反の有無
③消滅時効の援用の可否
  原審 ①従業員のうち2名はアスベストに大量に曝露されたとえいえず、疾病との間に因果関係は認められないが、その余の従業員はアスベストに大量に曝露された⇒疾病との間に因果関係がある。
②昭和35年にじん肺法が施行⇒使用者には粉じんの発生を防止するなどの義務があったのに、Yはこれを怠った⇒安全配慮義務違反がある
③Yは当該従業員らによる原因究明の要求に誠実に対応しなかった⇒損害賠償債務につき消滅時効を援用することは権利濫用に該当する

5名との間で損害賠償請求を一部認容。
  判断 ①原判決が因果関係を否定した2名についても、アスベストに大量に曝露されたと認め、原発性肺がんとの間に因果関係を肯定
②③は原審と同じ
④原判決よりも慰謝料額を増額し、他方で喫煙による減額を1割の限度でのみ認めるにとどまった。 
  アスベスト粉じんの飛散状況について、昭和24年に県が大学の協力を得てYに実施した調査の結果報告書⇒控訴審で因果関係肯定。
昭和35年、他のタイヤ製造業者の附属病院に所属する医師が、タルクには、不純物としてトレモライトやアンソフィライトが含まれているとの論文を執筆⇒安全配慮義務違反肯定にプラス。 
  解説 中皮腫と胸膜プラーク:アスベスト粉じんへの曝露以外の発症原因がない
じん肺や原発性肺がん:他の原因でも発症し得る⇒寄与危険度割合が5割以上(相対的リスクが2倍以上)の場合にアスベストが発症原因と認定するのが医学的に妥当とされている。
最高裁:昭和33年当時、石綿肺に関する医学的知見が確立し、国もアスベスト粉じんによる被害の深刻さを認識⇒国が石綿製品の製造等を行う工場等に局所排気装置を設置することを義務づけなかったことが国賠法上違法と判断。

遅くとも昭和35年のじん肺法施行時に、使用者に予見義務を認め、その結果回避をしないことをもって安全配慮義務違反を認めるのは合理的。
  民事p28
大阪高裁R1.11.20  
  情報漏えい⇒共同不法行為⇒慰謝料(肯定)
  事案 Xは、通信教育等を目的とするY社において管理していたXの個人情報を過失によって外部に漏えい⇒精神的苦痛を被ったと主張しY社に対し、不法行為に基づき慰謝料請求。 
  Yの主張 個人情報(Xの氏名)の漏えいの事実は認めたが、漏えい事故対象者はA(Xの子)でありXではない。
個人情報というだけでは法律上保護されるべき権利利益とはいえない。
過失の存在を争う。 
  1審 Xの氏名の情報漏えいがY社の過失によるものであることを基礎づけるに足りる具体的事情の主張立証がない⇒請求棄却 
  原審 控訴棄却。 
  上告審 原審判決を破棄し、本件漏えいについてのY社の過失の有無、Xの精神的損害の有無及びその程度等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻した。 
  本件個人情報は、Xのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべき
but
本件事実関係によれば、本件漏えいによっては、Xは、そのプライバシーを侵害されたといえる。
原審は、前記のプライバシーの侵害によるXの精神的損害の有無及びその程度等について十分に審理することなく、不快感等を超える損害の発生について主張、立証がされていないということのみから直ちにXの請求を棄却

原審の判断には、不法行為における損害に関する法令の解釈適用を誤った結果、前記の点について審理を尽くさなかった違法がある。
 
原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原判決は破棄を免れない。
  判断 Y社の責任を肯定。
Y社及びD社(Y社のシステムの開発、運用、保守等の業務を行っていた)の本権漏えいの予見可能性について、・・・執務室内で個人情報にアクセスし得る業務に従事する従業員が、セキュリティソフトによって書出し制御の措置をとっていたMTP対応スマートフォンを執務室内に持ち込んで業務用PCのUSBポートに接続することにより個人情報を不正に取得される可能性があることを認識し得た⇒そのリスクの有無を日常的に調査確認することで、そのリスクのあること及びこれを防止する措置を講ずる必要性があることを認識できた。

D社は、MTP対応スマートフォンを前記の執務室内に持ち込んで、本件個人情報に接することのないようにするなど適切な措置を採るべき注意義務を負っていたというべきであり、これを怠ったことについて過失がある。
Y社:
個人情報提供者から提供を受けた個人情報を適切に管理すべき立場にある
but
D社と同様に本件漏えいリスクを予見できたのに、Y社の管理する当該個人情報の利用を認めたD社に対する適切な監督義務に違反した結果、Bによる本件漏えいを生じさせた⇒Xに対し、これによって生じた損害について不法行為責任を負う。
Y社とD社の不法行為(及びBの本件漏えいによる不法行為)は、Y社が保有し、その管理をD社に委託して管理させていた本件個人情報の漏えいに関するもの⇒客観的に関連するもの⇒共同不法行為に当たる(民法719条1項前段)。
Bは、故意にXの承諾もないまま本件個人情報を回収不能なほどに流出させたもので、これは一般人の感受性を基準にしてもその私生活上の平穏を害する態様の侵害行為であるといえ、本件に顕われた一切の事情を総合考慮
⇒Xの精神的苦痛を慰謝するためには、1000円の慰謝料が相当。
  解説 過失論:
①情報管理義務違反を不法行為の過失と構成する考え方と、
②従業員Bの使用者責任で構成する考え方とがある
と解されていたが、本件は①を採用 
損害(被侵害利益)をどのように捉えることが相当かについては、
Xにおいて、
①不快感や不安を抱くだけでは、損害と評価されないのか、
②迷惑行為を受けた、財産的な損害を被ったという不快感や不安を超える損害でなければならないのか
という点が問題。
本判決:個人情報を回収不能なほどに流出させたもの⇒一般人の感受性を基準にしてもその私生活上の平穏を害する態様の侵害行為⇒精神的損害を肯定。 
  民事p55
仙台高裁H31.3.15  
  利水ダムの設置者にダム設置当時の河床の高さまで浚渫する義務はないとされた事案
  事案 只見川の洪水で被害⇒流域住民のXらが、ダム及びその調整池を管理するYらに対し、Y1(東北電力)は調整池を浚渫すべきところ、これを怠った過失があり、Y2(電源開発㈱)は調整池の浚渫用作業船が流下することがないようにこれを係留すべきところ、これを怠った過失があり、その結果只見川の洪水位が上昇して被害が増大⇒民法709条、719条1項(共同不法行為)に基づき、損害賠償を求めた。 
  原審 Y1は調整池につき少なくとも昭和44年当時の河床の高さまで浚渫すべき義務があり、これを怠った。
but
これを履行していればXらが浸水被害を受けなかったとは認められない。
Y2については、流失したバックホウ船の残骸により調整池の水位が上昇したとは認められない。
⇒各請求を棄却。
  判断 Y1について、浚渫義務違反は認められない。
Y2について、バックホウ船の残骸により推移が上昇したとは認められない。

各請求を棄却。
  解説  Y1の浚渫義務違反について 
原審:
利水ダムの設置者としては、当該河川の従前の機能を維持するために、河床の堆砂により流域住民に浸水被害のおそれがある場合には、河床の浚渫等の措置を行う義務を負っている。
控訴審:
ダム設置者は、設置当時のダムの機能を維持することが求められるものの、その管理権限が及ぶのはダムにとどまり、河川にまで及ぶものではない⇒河川の従前の機能を維持する義務を負うものではなく、河川法44条1項に基づく河川管理者の指示があった場合に、その指示内容の限度で注意義務を負担することになる。
河川法:
一級河川の管理者:国土交通大臣
二級河川の管理者:都道府県知事
ダム設置者は「当該ダムの設置により河川の状態が変化し、洪水時における従前の当該河川の機能が減殺されることとなる場合においては、河川管理者の指示に従い、当該機能を維持するために必要な施設を設け、又はこれに代わるべき措置をとらなければならない」(44条1項)

河川管理者でないY1が河川の従前の機能を維持するための注意義務を当然に負うものと解することはできず、河川管理者のY1に対する河川法44条1項に基づく指示も認められない本件において、「当該河川の従前の機能を維持するため」の注意義務をY1に負担させることは難しいように思われる。
  控訴審:
ダム管理者は設置当時のダムの機能を維持する注意義務があり、浚渫作業もそのための方策⇒その限度での浚渫義務を肯定。
but 
浸食等により土砂の堆積が進み河道や河床の状況は変化⇒Y1の元河床高まで浚渫すべき注意義務を否定。
  民事p69
高松高裁H31.2.28  
   
  事案 被相続人亡Aの相続に係る遺産分割協議は訴訟により無効が確定⇒その後、改めてされた遺産分割審判が確定。 
亡Aの相続人であるXが、
①共同相続人であるYらに対し、亡Aの相続に係る遺産分割審判が確定したところ、相続開始から遺産分割までの間、相続財産に属する不動産から生じた賃料債権は、各相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、後にされた遺産分割の影響を受けないのに、Xが取得していた賃料債権についてYらが法律上の権限なく、弁済を受けていた
⇒民法190条または不法行為に基づく損害賠償請求権(選択的)として、各自、合計525万円余および遅延損害金の支払を(本訴請求①)、
②Y2に対し、Xの損害会社Zに対しる金銭消費貸借契約に基づく500万円の返還債務が存在しないことの確認を(本訴請求②)、
それぞれ求めた。
本件反訴請求:
YらがXに対し、
①X及びYらを含む亡Aの相続人6命において、相続税の申告書を作成することにより、各人が納付すべき相続税の納付および支払に関する合意(本件合意)が成立したにもかかわらず、亡Aの相続に係る遺産分割協議が無効とする判決が確定した後も、Yらが本件合意に基づくXの相続税を事実上立て替えて支払った部分をYらに支払わない⇒本件合意に基づく損害賠償として、
(a)Y1とY3は、Xが納付すべき相続税の5分の1相当額および遅延損害金の支払を(反訴請求①)、
(b)(①と選択的に)Yらは、本件合意に基づきXが支払うべき相続税を支払ったところ、亡Aの相続に係る遺産分割協議が無効となり、かつ、Xは無効であることをどう遺産分割協議の時点で知っていた⇒Xは法律上の現認なく、Yらが支払ったXが本来負担すべき相続税相当額の利得があり、Yらは同額の損害があったとして不当利得返還請求権およびその遅延損害金として、①と同額を支払を(反訴請求②)、
③遺産分割協議に基づき、Xが亡Aの預金債権344万円余を取得しその支払を受けたところ、不当利得返還請求として、Yらの法定相続分および遅延損害金の支払を(反訴請求③)
それぞれ求めた。
  規定 民法 第190条(悪意の占有者による果実の返還等)
悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。
  1審 本訴請求①を認容、同②を却下、
反訴請求①~③をいずれも棄却 
  判断  1審判決を維持 
●本訴請求① 
民法190条1項の「悪意」とは、果実収取権能のある本権のないjことを知り、またこのような本権の有無につき疑いを持っていることをいう。
Yらは、当初の遺産分割協議が無効と判断される原因となった事実について同協議の時点で知っており、果実収取権能のある本件の有無について少なくとも疑いを持っていた
⇒悪意の占有者に該当。

Xには、Yらが相続開始から遺産分割までの間相続不動産から生じた賃料(果実)を収取したものにつき、悪意の占有者として法的相続分に応じた返還請求権が認められる。
●反訴請求② 
①本権合意は、その書面自体が相続税の申告書であり、合意であった根拠とはできない。
②後の相続税についての清算を前提とするものであるが、当初の遺産分割協議が有効であれば、清算を前提とする合意をする必要がなく、合理性に欠ける

本件合意は認められない。
Yらの過納は、主としてYの行為を原因とするもの
⇒Yらの過納部分を損失、Xが本件納付すべき税額と実際納付した税額の差額を利得ととらえることを前提としても、これらの間に因果関係を肯定することは困難

自らの行為を原因として過納部分を生じさせたYらが、更正の請求をすることもなく、Xに前記差額の支払いを請求することは信義則に反する。
  解説 賃料債権について、最高裁H17.9.8:
相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、その帰属は後にされた遺産分割の影響を受けない。
but
共同相続人全員の合意により遺産異含めて遺産分割協議の対象とすることは妨げない。

原則として、相続開始に伴い、確定的に欠く相続人の相続分に従ってその賃料債権が分割帰属することとなる。

これを超えて共同相続人の一部が賃料を取得した場合には、不当利得に基づき、他の相続人の相続分に応じた部分を返還する義務を負う。

本件本訴請求①の論拠。 
●当初の遺産分割協議を前提とした相続税の納付に係る不当利得の成否についての先例: 
大阪地裁H6.5.11:
遺産分割調停を前提とする相続税の申告にあたり、調停によって各自が取得ないし負担した遺産の項目を調整し、実際には原告が負担した債務について原告の申告から除外し、これを被告が負担したかのように事実と異なる申告⇒原告は正当な申告をした場合と比較して損失額以上の利得を得た⇒不当利得の返還を求めた事案:

不当利得の制度は、法の技術的な適用によって生じた財産的価値の移動を公平の原理に基づいて調整しようとするものであるが、本件申告による原告の損失は、仮装内容の申告の結果本来納めるべき税額を越えた相続税を国に納めたことによって国に対する関係で生じているものに過ぎず、
他方、被告の「利得」も、本来国に治めるべき相続税を納めていないことによって国との関係で生じているものであって、原告の被告の間で社会通念に照らし何らかの財産的価値の移動が行われた結果生じたものではない。

右の不公平は、本来、国との関係においてそれぞれ調整されれば足りるものであって、これを原告と被告の間において公平の理念に基づいて直接調整しなければならないとするいわれはない。

不当利得における因果関係は認められない。
  民事p86
東京地裁R1.8.29
● 
  ベッドから転落等⇒病院の注意義務違反(否定)
  事案 高齢の入院患者Aがベッドから転落して急性硬膜下血腫等を受傷⇒脳外科手術⇒寝たきり状態⇒事故から約2年後に心不全で死亡

Aの子であるX1、X2が、転落事故のあった本件病院を開設していたYに対し、担当医師らに体幹抑制ベルトの装着継続や常時見守りを怠った過失及び頭部CT検査等の遅延の過誤がある⇒それぞれ1985万6428円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。 
  争点 ①本件病院の医療従事者に、ベッドからの転落を防止すべき義務違反(過失①)があったか、
②本件病院の医師らに、本件事故直後、Aに対し頭部レントゲン検査又はCT検査を実施すべき義務違反(過失②)があったか 
  判断  ●過失①について: 
入院患者の身体の拘束は、患者本人の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いか(切迫性)、身体の拘束を行う以外に代替する方法がないか(非代替性)等の諸事情を総合考慮して、患者の受傷を防止するなどのために必要やむを得ないと認められる事情がある場合に限り許容されるべき。
前記の場合に当たるとして身体の拘束を開始した患者についても拘束による弊害等を考慮⇒出来る限り速やかにこれを解除することが望ましく、身体の拘束を継続することが前記の必要やむを得ない事情がある場合に該当するか否かを常時検討することが求められている。
Aに対して7月20日から行われていた体幹抑制ベルトによる身体の拘束について、8月10日以降は、Aの生命または身体が危険にさらされる可能性が高かったとはいえず、他にベッドから転落することを防ぐ措置(4点柵の設置)が講ぜられていた⇒これを継続すべき必要性がある状況は解消されたというべきであり、Yにおいて8月10日以降もAに対する体幹抑制ベルト装着を継続すべき義務があったと認めることはできない。

過失①を否定。
  ●過失②について: 
本件事故直後のAの状況は、外傷初期診療ガイドラインにおいて外傷患者の初期診断時に確認すべきとされている(ABCDEアプローチの)
気道(A)、呼吸(B)、循環(C)及び体温(E)に異常があったとは認められない
中枢神経障害(D)の有無についてAは声掛けに返答があり、発語があるなど意識レベルの低下はなく、瞳孔所見に異常もなく、四肢に麻痺もみられなかった

本件事故直後に頭部CT検査を実施すべき義務があったとはいえない。

過失②を否定
  解説 入院患者がベッドから転落して負傷したとして医療施設の管理責任が追及される場合の判断枠組み:
①転落事故が発生することの予見可能性の有無と
②結果を回避するために適切な措置を講じていたか
によって決せられる。 
最高裁H22.1.26:
入院患者の身体を抑制することはその患者の受傷を防止するなどのために必要やむを得ないと認められる事情がある場合にのみ許容される。
  民事p93
東京地裁R1.10.1  
  不当提訴・刑事告訴等と代理人弁護士の責任(結論否定)
  事案 弁護士であるXが、自身の所属する法律事務所のブログにおいて、訴外会社2社(A社とB社)の事業には実体がないから、資金提供を持ちかけられてもそれが詐欺話であるなどと指摘する記事を投稿したことについて、
①弁護士であるY1において、A社の代理人として捜査機関にXに対する告訴状を提出した上、Xに対して損害賠償請求訴訟を提起した行為(「別件訴訟」)がいずれも不法行為に該当
⇒Y1に対し、不法行為縫い基づき150万円の損害賠償等を請求するとともに、
②弁護士であるY2ないしY4において、B社の代理人としてXを刑事告訴した行為が不法行為に該当する旨主張し、Y2らに対し、不法行為に基づき300万円の損害賠償等を請求。
別件訴訟の第1審判決:
A社は事業に実体がないことを認識しながら投資勧誘を行った⇒A社の本訴請求を棄却
A社による別件訴訟の提起等はいずれも違法⇒Xの反訴請求を一部認容
  解説 訴えの提起が違法となる場合:
最高裁昭和63.1.26:
提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起ししたなど、
訴えの提起か裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる

提訴者において、自己の主張しようとする権利等の事実的、法律的根拠につき、高度の調査、検討が要壊死されるものと解するならば、裁判制度の自由な利用が著しく阻害される結果となり妥当でない。 
告訴・告発が違法な行為となる場合:
最高裁の判断は示されていない。

大阪高裁:
他人に刑罰又は懲戒処分を受けさせる目的で虚偽の事実につき不当な告発⇒それが告発人の故意過失によりなされたと認められる限り不法行為による損害賠償義務が生じる。

東京地裁:
告訴をしようとする者は、事実関係を十分調査し、証拠を検討して犯罪の嫌疑をかけることを相当とする客観的根拠を確認した上で告訴すべき注意義務を負う


捜査機関に対する告訴・告発は、相手方の名誉を毀損することなどが当然に想定される⇒相手方に対して犯罪の嫌疑をかけることを相当とする一定の注意義務を告訴人・告発人に負わせている。
  判断  ●訴えの提起について
上記最高裁昭和63.1.26を引用し、その判断基準は弁護士が提訴者の代理人として訴えを提起した場合における当該弁護士にも妥当する。
but
A社の事業に係る契約書や協定書等を受領していたY1について、事業に実体がないことを見抜くことができなかったとしてもやむを得なかった

Y1がA社の代理人として別件訴訟を提起したことが不法行為を構成するとは認められない。
  ●告訴・告訴状の提出について 
弁護士は法律の専門家として当該告訴に主体的に関わり、事実関係を十分調査し、証拠を検討した上で告訴の当否を第1次的に検討する立場⇒犯罪の嫌疑をかけることを相当とする客観的根拠を自ら確認した上で告訴状を提出すべき注意義務を負う。
but
Y1やY2らにおいて、Xに犯罪の嫌疑をかけることを相当とする客観的根拠の有無を確認すべき注意義務を怠った過失は認められない。
  民事p99
大阪地裁R1.6.21  
  住宅等の賃貸借契約に基づく賃料等債務に係る保証委託契約の規定と消費者契約法
  事案 適格消費者団体である原告が、いわゆる家賃債務保証業を営む株式会社である被告に対し、被告が住宅等の賃貸借契約(原契約)の当事者である原契約賃貸人や原契約賃借人との間で締結する家賃債務保証契約(本件契約)に含まれる複数の条項について、消費者契約法8条1項3号又は10条に規定する条項に該当⇒同法12条3項に基づく意思表示の差止めを請求。 
  差止を求める条項 (1)原契約の当事者でない被告に対し原契約を無催告解除する権限を付与する条項
(2)被告が原契約の無催告解除権を行使することについて原契約賃借人に異議がない旨確認する条項
(3)被告が原契約賃借人に対して事前に通知することなく保証債務を履行できるものとする条項
(4)被告が原契約賃借人に対して事後求償権を行使するのに対し、原契約賃借人及びその連帯保証人において原契約賃貸人に対する抗弁をもって被告の請求を拒絶できないものとする条項
(5)一定の要件(①原契約賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠り、②被告において合理的な手段を尽くしても原契約賃借人本人と連絡がとれない状況の下、③電気・がス・水道の利用状況や郵便物の状況等から賃借物件を相当期間利用していないものと認められ、かつ、④賃借物件を再び占有利用しない原契約賃借人の医師が客観的に看取できる事情が存するとき。(以下「4要件」))をいずれも満たす場合に、原契約賃借人の明示的な意義がない限り、原契約賃借人からの賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限を被告に付与する条項
  判断   ●本件条項(5)について 
原契約後に賃借人明渡し後に賃借物件内に存する動産類を原契約賃貸人及び被告が任意に搬出・保管することに賃借人が異議を述べない旨をいう点で、消費者契約法8条1項3号にいう「当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項に該当⇒同条項を含む消費者契約に係る意思表示の差止め等を命じた。
  本件条項(1)~(4)について 
消費者契約法8条1項3号及び10条にいずれも該当しない
⇒請求棄却。
  本件契約の法的性質:
原契約賃貸人と原契約賃借人との間の賃貸借契約(原契約)及び
原契約賃貸人と個人保証人との間の連帯保証契約を前提として、
家賃債務保証業者と原契約賃貸人との間の連帯保証契約、
原契約賃借人との間の保証委託契約
を内容とする複合契約であり、かつ、
原契約の特約に位置づけられる内容も含まれる。 
  規定  消費者契約法 第一〇条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
  解説 ●本件条項(5) 
本件契約18条2項2号は、同条3項及び19条1項の内容と相まって、
原契約が終了しておらず、原契約賃借人が未だ賃借物件の占有を失っていない場合であっても被告等に自力で賃借物件の占有を取得させることを認めるものに他ならず、
これは自力救済行為として原則として不法行為に該当
but
原契約賃借人に対し、同行為を理由とする被告に対する損害賠償請求権を放棄させる内容を含む
⇒消費者契約歩8条1項3号に該当。
  ●本件条項(1) 
原契約賃借人が滞納賃料等及び変動費の合計額が賃料3か月分以上に達し、これがため原契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められない事情が存する場合に限り被告に無催告解除権を付与する条項と解し(最高裁昭和43.11.21)、消費者契約法10条前段の該当性を肯定。
本件契約の締結により、原契約賃貸人が被告からの原契約賃借人による賃料等不払いの填補を受け賃料等不払いのリスクが低減する一方、
被告が変わって原契約賃借人による求償債務不払いのリスクを負担することとなるところ、
このような原契約賃貸人と被告との間の利害関係の修正に伴い、原契約賃借人の一時的でない賃料不払いが発生したときに原契約を継続させるか否かの判断および決定権限を、原契約賃貸人だけでなく被告に付与することは格別不合理なことではない。
本件契約j13条1項の要件に係る前記解釈に照らし、原契約賃借人への不利益は限定的。

消費者契約法10条後段の該当性を否定。
  ●本件条項(2)
これに対応する本件契約13条1項に係る前記の要件解釈に照らすと、
同条項が、被告の有効な無催告解除権の行使について原契約賃借人に異議がないことを確認させる内容のものにすぎず、原契約賃借人の被告に対する損害賠償請求権を放棄させたり、無催告解除の効力を争う権利を放棄させたりするものとはいえない
⇒消費者契約法8条1項3号及び10条前段の該当性をいずれも否定。
  ●本件条項(3)(4)
本件条項(3)に対応する本件契約14条1項について、
被告の原契約賃借人に対する事後求償権の行使に対し、原契約賃借人が「債権者に対抗することができる事由」(民法463条1項、443条1項)を抗弁として主張するのを予め妨げる効力、かつ、
保証人が事前通知なくして民法463条2項、443条2項に基づき自己の弁済を有効とみなすことを可能とする効力(民法上は保証人が事前通知を懈怠して保証債務を弁済した場合、主債務者が事後通知を懈怠したことを理由として自己の弁済を有効とみなすことはできないと解されている、民法463条2項、443条2項、最高裁昭和57.12.17)を有する条項と解釈。
本件条項(4)に対応する本件契約14条4項について、
被告が原契約賃貸人に対して有効な保証債務の履行をしたときにおいて、原契約賃借人が、原契約賃貸人に対して主張できる事由をもって、被告に対抗することが出来なくなる効力を有する条項と解釈。
 
     
2447    
  民事p5
大阪高裁R1.11.8   
  直接交流(前件調停)⇒間接交流(原審判)⇒直接交流(抗告審)
  原審 当面は、AをC、Dと直接面会交流させることは相当ではない⇒前件調停における実施要領(直接交流)を、間接交流に変更した。 
  判断 AをC、Dと直接面会交流をさせることが相当である。
⇒原審判を変更し、前件調停における実施要領と同様、直接交流を認めた。 
(1)AとC、Dとの父子関係は良好であり、平成27年2月に成立した前件調停後も平成30年6月ころまでは、宿泊や2度にわたり家族でハワイ旅行をするなどAとC、Dとは、実施要領にとらわれず柔軟かつ円滑に直接交流が実施されていた。
その際、AにC、Dに対する不適切な言動も窺われない。
(2)C、Dは、現在もAを慕っており、直接交流の再開を望んでいる。
(3)長女のCはAに会いたいと思う一方で、Bの心中を慮って会うことを躊躇するという忠誠葛藤に陥っており、このような状態が続けば、過度の精神的な負担を強いることになるなどの事情。
(4)Bは自らの心身の不調を理由に間接交流を止めるべきであると主張。
vs.
①平成30年9月には復職しており、直接交流に応じることで健康状態が悪化し、C、Dの監護に支障が生じたり、C、Dに不安を抱かせる状況にあるとはいえない。
②C(9歳)、D(6歳)の心身の発達状態⇒目の届く範囲でAとBが直接対面せずに、受け渡しを実施することもできる
⇒心身の不調は直接交流を制限すべき事由にはならない。
BのAに対する感情的な反発が強い現状⇒事前の協議は困難⇒前件調停の実施要領を変更して、面会交流の内容を具体的に定める。
学校行事への参列については、その実績がなく、C、Dの意向も確認されていない⇒実施要領からは除かれた。
  解説 面会交流は、子の健全な育成にとって有益なものであり、その許否は、子の福祉、子の利益を最も優先して決せられる(民法766条1項後段)。 
実務:
子の心理状態、面会交流に対する子の態度、子の監護状況、非監護親の子に対する態度や愛情、面会交流に対する姿勢、監護親の意向などを考慮した上、
面会交流が子の福祉に反する場合でなければ、原則としてこれを認めてきた。
具体的には、
非監護親の子に対する自然の情愛の尊重、
子との情緒的交流の維持、
両親からの愛情により得られる人格の健全な育成と円満な発達などの
プラス面と

子の連れ去りリスク、
DV、暴力、虐待リスク、
父母間の紛争激化による子の精神的動揺や緊張、
情緒不安定からくる学業や生活態度への悪影響、
子の安定した生活環境の破壊などの
マイナス面
とを総合考慮し、

面会交流を禁止、制限しなければ子の福祉を害するような場合を除いて、
面会交流の方法、態様、条件などを工夫し、これを認める方向で考えられてきた。
  民事p11
東京地裁R1.12.11    
  プロバイダ責任制限法4条1項によるSMS用電子メールアドレス開示請求の可否(肯定)
  事案 インターネット上の投稿サイトに氏名不詳者がした投稿によって権利を侵害された⇒当該投稿をした者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権等を行使するため、当該投稿の発信者がその発信のために利用した経由プロバイダである被告に対し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、当該投稿の発信者に係る情報の開示を求めた。
原告らは
①氏名又は名称、
②住所、
③電子メールアドレス(SMTP)
④SMS用電子メールアドレス
を、開示を求める発信者情報の対象とした。

SMS(ショートメッセージサービス):
携帯電話やPHS動詞絵で文章をやり取りするサービスであり、SMSの送受信においては、電話番号が送受信先の電子メールアドレスとして機能
  争点 プロバイダ責任制限法4条1項によって開示の対象とする発信者情報に、SMS用電子メールアドレスが含まれるか。 
  解説 条文構造⇒特定電子メール法及び公選法の定義を引用しているプロバイダ責任制限法3条の2第2号の「電子メールアドレス等」にSMS用電子メールアドレスが含まれることは文理上明確であるが、プロバイダ責任制限法4条1項の「発信者情報」にSMS用電子メールアドレスが含まれるか否かは、同項が引用する平成14年総務省令の解釈による。
  主張 被告:
①SMS用電子メールアドレスの開示は電話番号の開示と道義であり、これを認めることは、平成14年総務省令の制定及び改正の経緯や立案担当者の意思に反する
②プロバイダ責任制限法3条の2の趣旨と、同法4条1項及び平成14年総務省令の趣旨が異なる

平成14年総務省令の定める「電子メールアドレス」にSMS用電子メールアドレスが含まれるとは解釈できない。 
  判断 SMS用電子メールアドレスが平成14年総務省令3号の「電子メールアドレス」に該当すると解するのが相当。

①法解釈の予測可能性や法的安定性等の観点に照らせば、同一の法律内における同一の用語の意義は、別段の定めがない限り、統一的に解釈するのが原則。
②電話番号が発信者情報として開示の対象となるのは、あくまでもSMS用電子メールアドレスとして利用される限りにおいてであって、電話番号が一般的に開示の対象となると解釈されるわけではない⇒SMS用電子メールアドレスの開示を認めることが、平成14年総務省令が発信者情報を限定列挙した趣旨に反するとはいえない
③ 通常の電子メールアドレス(SMTP電子メールアドレス)は開示の対象となるが、SMS用電子メールアドレスとして利用され得る電話番号について開示対象外であるとする実質的な根拠は乏しく、総務省の立案担当者の意思に照らしても実質的な根拠が乏しいとの結論を左右するものではない上、SMS用電子メールアドレスとして利用され得る電話番号に関してはSMTP電子メールアドレスよりもプライバシー及び通信の保護の要請が高いということもできない。
  民事p41
静岡地裁H31.1.23
  急激かつ偶然な事故とは認められないとされた事例
  事案 本件保険契約に適用される約款(本件保険契約約款)及び本件共済契約に適用される規約(本件規約)には、保険金又は死亡保障費の支払事由を、被保険者が「急激かつ偶然な外来の事故」により身体に傷害を被ったことと定めた規定が存し、
本件保険契約約款には「故意または重大な過失」、本件規約には「故意」によって生じた傷害を免責事由と定める規定が存在。
  争点 本件事故の偶然性 
  判断   ①Xの経営状態及び他の保険金の受領状況
②本件事故現場の状況等
③Aの健康上の問題及び本件事故前後の経過等
④本件事故態様(ペダルの踏み間違えによる急発進の可能性など)
⑤その他本件車両の前進による転落の可能性
等について検討

本件事故を偶然の事故であるとするには、なお合理的な疑いが残ると言わざるを得ない⇒Xの請求を棄却。 
  ●Xの経営状態及び他の保険金の受領状況
①Xの金融機関からの多額の借入と厳しい経営状態
②他の保険金と合計すると、Xの負債総額とほぼ同額の保険金を取得できる
③本件共済契約は、本件事故の1か月ほど前に、被保険者を従業員だけから従業員及び役員に変更

自殺の動機がなかったとはいえない。
  ●本件事故現場の状況等




本件事故が偶然生じたものとして不自然な発生状況
  ●Aの健康上の問題及び本件事故前後の経過等

・・・夜間に外灯等もない漁港に行ってカメラを探していたこと自害、不自然、不合理であって、Xの主張は採用できない。
  ●本件事故態様(ペダルの踏み間違えによる急発進の可能性など)

①・・・仮に、Xの主張どおりだとすれば、Aは車両からの脱出を試みるはずであったのに、Aはシートベルトを外しておらず、脱出を試みた痕跡が残されていなかった
②むしろ海中から引き揚げられた時のAの状態は、ハンドルを握りしめるような恰好を取っていた⇒Aが自己の意思でハンドルを固く握りしめていたことをうかがわせる。

Xの主張は採用できない。
  ●その他本件車両の前進による転落の可能性
・・・。
  解説  本判決では、
保険約款等において「急激かつ偶然な外来の事故」による傷害を被ったことが支払条件として定められている⇒保険金請求者側において、発生した事故が急激かつ偶然な外来の事故であることの主張立証責任を負う。
but
保険金請求者側において、外形的にみて事故であることが立証できれば、事故が偶然であることが事実上推定される⇒
保険者が、事故の偶然性を争う自殺を疑わせる事項を立証し、さらに
保険金請求者側でこの疑念を反駁するに足りる程度の立証をし、
これが出来ない場合、偶然性の立証はされなかったとする見解。
本件事故の偶然性の判断:
自殺の動機と言った面から決定的なものは見当たらなかった
but
種々の事情を掲げ、自殺の動機がなかったとはいえないとした。
海中から引き揚げられたときの本件車両の客観的状況や本件事故現場の状況
⇒本件車両が岸壁から港に前進し、海中に転落した。
脱出を試みた形跡がないこと等
⇒Aが意図的に海中へ浸入したものと推認し、偶然性の推定が揺らいだ。
本件車両に残された客観的な損傷状況をどのように評価するか、XとYらの主張が対立し、それぞれから専門家による鑑定意見が出され、証人尋問が行われた。
but
本判決:
それぞれの鑑定意見やソフトを用いたシミュレーションによる本件事故態様については、その前提条件等からの制約がある⇒他の状況等を詳細に検討した上で、前記結論を出した。
  民事p22
東京地裁R1.5.30  
  鍼施術⇒脊髄損傷⇒後遺障害(肯定事例)
  事案 原告が、被告の開設する鍼灸院において被告から頚部の鍼施術⇒頚髄損傷⇒右胸部から下の痛覚以上、右手の触覚低下、右下肢の温痛覚障害、排尿障害等の後遺障害⇒債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求。 
  争点 ①注意義務違反の有無
②原告の後遺障害との間の因果関係 
  判断   ●注意義務違反 
①本件鍼施術によって頚髄損傷が生じる可能性があった
②原告には本件鍼施術を受けた直後からそれまでにはなかった頚髄損傷を示唆する複数の症状が出現していた
③既往症を含め、原告には前記症状を引き起こす他の疾患の存在は確認されない
④本件鍼施術後に受けたMRI検査等の画面上、原告には頚髄損傷を一定程度示唆する所見があった

本件鍼施術によって原告の頚髄が損傷されたとの事実を認定。

被告には、鍼の刺入の深さ等を適切に選択し慎重に鍼を刺入して施術を行うべき注意義務の違反があった。
  ●因果関係 
右胸部から下の痛覚以上、右手の触覚低下、右下肢の温痛覚障害、排尿障害:因果関係を肯定。

右手の触覚低下:
原告の既往症から生じている可能性も相当にある⇒因果関係を否定

排尿障害等:
入通院を経て改善傾向にあった⇒症状固定時において後遺障害と評価すべき状態であったとまではいえない。
  解説 手技上の過失については、
①操作部位と損傷部位との場所的近接性
②当該手技と症状発生との時間的接着性
③当該手技が当該損傷を発生させる危険性の程度
④当該損傷に附随すべき事情の有無
⑤他の原因による症状発生の有無
などの事情が判断要素として挙げられる。
脳神経減圧手術とその後の脳内血腫発生との関連性を肯定した最高裁H11.3.23(判例時報1677号)
本判決でもこれらの要素が考慮:
①本件鍼施術に用いられた鍼の長さや材質、鍼の刺入部位から頚髄までの距離、その間にある人体の組織(筋肉、靭帯、硬膜など)の存在等を踏まえても、本件鍼施術によって頚髄損傷が起こり得るのか
②本件鍼施術の直後から原告に生じていた症状(感覚障害、運動障害、排尿障害など)は頚髄損傷によって生じ得るのか
③前記症状は、原告の既往症等、本件鍼施術以外の原因から生じた可能性はないのか
④本件鍼施術後に撮影されたMRI画像等の検査画像をどのように評価すべきか
なとの点を検討⇒本件鍼施術によって原告の頚髄が損傷されたとの事実を認定。
当事者双方から複数の協力医の意見書が提出されているほか
3名の鑑定人による鑑定意見が出されている。
(東京地裁の医療集中部では、原則として3名の医師が鑑定人として指定され、これらの鑑定人がラウンド法廷で口頭により鑑定意見を述べる「カンファレンス鑑定」が実施。)

本判決:
前記検討の過程で、こえらの意見を比較検討し、他の証拠から認定される医学的知見や具体的事実に照らして、いずれの意見が合理性を有するかという観点からその評価を行っている。

複数の医学的意見が出された場合の評価の在り方について、
最高裁H18.11.14(判例時報1956号):
一方の意見書を根拠に担当医の過失や因果関係を否定した原審の判断に採証法則の違法があるとした事例
  労働p64
札幌地裁R1.6.9  
  障害者が自殺⇒その雇用管理が問題となった事案
  事案 食品会社Yにおける勤務開始当初からうつ病にり患していた亡Aは、Yでの在職中に自殺。
X1(亡Aの母)及びX2(亡Aの妹)は、亡Aの上司であったCの発言及び亡Aの要望に応じて業務量を増加させなかったことによって亡Aが極度に強い心理的負荷を受けてうつ病の程度を増悪させたことが亡Aの自殺の理由⇒損害賠償請求。 
  主張 ①主位的には使用者責任、予備的には安全配慮義務違反を根拠とする債務不履行責任に基づく亡AのYに対する損害賠償請求権をX1が相続したこと、
②亡Aの死亡により、Xらが精神的苦痛を被った 
  争点 ①Cの亡Aに対する注意義務違反の有無
②Cの注意義務違反と亡Aの自殺との間の因果関係
③Xらの損害及びその額
  判断 ●争点① 
◎Cの亡Aに対する「障害者の雇用率を達成するため」に亡Aを雇用したとの発言(「本件発言」)が、亡Aに心理的負荷を与えないようにすべき注意義務に違反するか
Cが本件発言をしたと認定し、
①うつ病にり患している者は心理的負荷に対する脆弱性が高まっており、ささいな心理的負荷にも過大に反応する傾向
②Cは、亡AがYに雇用される前から亡Aがうつ病位にり患していることを認識していた

Cには、業務上、亡Aがうつ病にり患していることを前提に、心理的負荷を与える言動をしないようにする注意義務を負っていた。
本件発言は、自己のYにおける存在価値について悩んでいた亡Aに対する配慮を欠き、亡Aに心理的負荷を与えるもの
⇒注意義務違反を肯定。
◎Cが、亡Aから業務量に関する合理的配慮を求める旨の申出があった場合に、具体的な措置の内容を検討し、当該措置を実施し、又は、当該措置を実施できないときにはその旨を理由と共に伝えるべき注意義務
Cは、亡Aから業務量に関する申出があった場合には、現在の業務量による心理的負荷の有無、程度を検討し、対応が不可能であれば、そのことを説明すべき注意義務を負っていた。
but
Cは、亡Aの申出を放置せず、具体的な解決策を検討して事項しており、その後も、亡Aの申出に対応することが不可能な状況ではなかった

注意義務違反を否定
●争点② 
亡Aは、Yに在職中にうつ病の程度を悪化させた。
but
争点①の注意義務違反にyるうつ病の程度の悪化及び自殺の因果関係につき、本件発言後に業務量の増加を検討する説明したCの対応に対する亡Aの反応及び認識を踏まえ、
本件発言による心理的負荷が継続していたとはいえない
⇒本件発言と亡Aの自殺との因果関係を否定。
  解説  精神障害を有しない労働者との関係では心理的負荷を与えない言動であっても、うつ病にり患している労働者との関係では心理的負荷を与えるものがあり得ることを含意。 
業務量が過少であったためにうつ病が悪化したことが問題となった事案。
一般に、使用者は、労働者に対してどの程度の業務量を割り当てるかについての裁量権を有している。
but
当該労働者の能力とは大きくかい離した程度の低い業務量しか割り当てなかった場合、それが当該労働者に屈辱感等を与え、心理的負荷を与えることはあり得る。
本判決は、この点を踏まえた上で、障害者の雇用における雇用管理の要請(障害者基本法19条2項)、精神障害を有する者の心理的負荷に対する反応の仕方を踏まえて、Cの注意義務を設定。
but
ここでの判断対象は、
亡Aが担当していた業務量がどの程度であり、それが亡Aの能力に見合ったものであったかという点ではなく、
亡Aからの申出に対してCがしかるべき対応を取ったかという点。
  本判決:
Cの注意義務違反による心理的負荷が継続している場合には、当該注意義務違反と亡Aの自殺との間の因果関係が認められることを前提に、本件ではそのような心理的負荷が継続していたとはいえない⇒因果関係を否定。 
  刑事p77
仙台高裁H31.3.14  
  自らの意思で覚せい剤を摂取したと推認することはできない⇒覚せい剤使用について無罪、(検察官の)求釈明義務違反の主張を否定した事案。
  事案 被告人は、覚せい剤の共同所持で現行犯逮捕⇒逮捕の3日後に強制採尿の結果差押えられた被告人の尿から覚せい剤が検出⇒覚せい剤使用の罪で起訴 
  経過 公判当初:
覚せい剤が被告人の尿に混入されたか、すり替えられたという、捜査段階での問題を指摘。

最終陳述:
任意採尿を促されることなく、逮捕3日後になって強制採尿されたことに疑問が残るなどと被告人が述べた

原審は強制採尿に至る経緯等について追加の証拠調べをするとして職権で弁論を再開

警察官の証人尋問や被告人質問が行われ、2度目の最終陳述いおいて、被告人は、覚せい剤が溶けた水をそれと知らずに飲んだ可能性があると述べ、審理は終結。

原審の陪席裁判官が検察官に電話をかけ、一定のやりとり

再度弁論が再開されたが、被告人質問等はなく、検察官は補充論告をし、弁護人の弁論、被告人の最終陳述を経て終結し、判決宣告期日に無罪を言い渡し。
原審の無罪の理由:
尿のすり替え、尿への覚せい剤への混入、逮捕後警察官による被告人の飲食物への覚せい剤の混入などの主張は排斥。
but
被告人が捜索差押えの際に飲んだペットボトルの水の中に覚せい剤が混入していた可能性は否定できない。
  判断・解説  ●訴訟手続の法令違反について
検察官:
原審において、2度目の最終陳述で初めてなされた被告人の弁解について疑義があれば、裁判所には検察官に対し反論(追加立証)を促す義務がある⇒それをしなかったことが訴訟手続の法令違反。
当事者主義をとる現行刑訴法⇒当事者の主張・立証の不備に対し裁判所が後見的に釈明を求め、補充立証させる義務はない。
刑訴法294条(訴訟指揮権)、これを受けた刑訴規則208条(裁判所の釈明権)も、裁判所の権限であって義務ではない。
but
実務上、当事者が勘違いや法律解釈を誤っているのではないかと疑われる場合に、裁判所は釈明を求めることは決して珍しいことではない。
原審は、検察官に対し具体的な反論の検討を促している⇒検察官は、再開された公判期日で、追加立証はせず補充論告のみを希望⇒原審は検察官に十分に主張・立証の機会を与えたのであるから、それ以上に立証を促す義務はない。
  ●事実誤認について
覚せい剤使用の故意が争われることは多い。
but
被告人の尿から覚せい剤が検出されている場合は、使用の故意が認定されるのがほとんど。

通常の社会生活の過程で偶然の事情により人の体内に摂取されることは通常あり得ない⇒被告人の対内から覚せい剤が検出されれば、特段の事情のない限り、自己の意思で何らかの方法により覚せい剤を体内に摂取したものと合理的に推認できるという推認法則が実務上確立。
「特段の事情」として、ペットボトルの中の水に覚せい剤が混入されていた可能性。
本来:検察官としては、水を飲んだ状況を明らかにし、そのような摂取の仕方であっても、尿から覚せい剤が検出されるものであるかを検討し、立証。
but
検察官は、追加立証をせずに、補充論告の中で経験則を用いて排斥できると主張。
覚せい剤の溶けた水を飲めば、飲んだ者が何らかの異変を感じるとか、もし異変を感じなければ、覚せい剤が含まれていたとしてもその量は微量であり、3日後に採取された尿から覚せい剤が検出されることはないなどという経験則。
vs.
微量であれば、3日後の尿からは検出されないというのは本来鑑定事項。
本判決:
原審検察官が経験則であるという事項が正しいかどうかは定かでないとして疑義を呈し、
検察官が立証の機会を与えられながらも、尿中の覚せい剤濃度等の立証を行わなかった上での証拠構造を踏まえ、
本件の事実関係の下では、検察官の主張は前提に失当であるとしたこと、すなわち、被告人の弁解を排斥できないとの結論において是認した。
  検察官は、控訴審になって、被告人の尿中の覚せい剤濃度等に関する事実の取調べの請求をしたが、控訴審はこれを認めなかった。 
原審で立証の機会を与えられていた⇒刑訴法382条の2第3項の「やむを得ない事由」がないとの判断は当然。
のみならず、刑訴法393条1項本文により職権で取り調べる必要性も認められない。
←事後的に救済する必要はないとの判断。
尚、尿から覚せい剤が検出された被告人の弁解につき、弁護人がこの弁解と関係する者の証人調べを請求⇒必要性なしとして却下

なすべき審理を尽くしたとはいえないとして、訴訟手続の法令違反、事実誤認を理由に破棄し、差し戻した事例(福岡高裁)。 
  刑事p85
東京家裁R1.9.12  
  13歳の少年について、第1種少年院に送致した事例
  事案 当時13歳の少年が、覚せい剤及び大麻を友人と共に密売人から譲り受け、これを単独で所持。 
  判断 少年の薬物使用歴や使用状況、交友関係や学校等での生活状況などを詳細に認定⇒事案の重大性や少年の薬物への依存性の深刻さ、資質及び行動傾向上の問題の根深さとその改善の困難さ、保護関係などを分析評価

少年が現在13歳であり、これまで保護処分歴がないことや、本件を受けての保護者の指導監護に向けた意欲の高まりなどを考慮しても、少年に対しては、系統的で強固な枠組みの下、時間をかけてその資質面の問題に即した地道な指導を行うことにより、薬物との断絶を果たすと共に、健全な対人関係を形成する能力や社会性、規範意識を身に付けさせることが必要不可欠であり、少年を少年院に収容することが特に必要。 
  解説  14歳に満たない年少少年は、環境的な要因の影響を受けやすく、そのため非行に及んでしまったりする一方、
情操保護の必要性が高い

少年法は、非行に及んだ年少少年については、より開放的で福祉的な児童福祉機関の措置に委ね、同機関が相当と判断した場合に限って家裁の審判に付することが出来るという児童福祉機関先議の原則(少年法3条2項、児福法27条1項4号)。 
従前の少年院法2条は、こうした児童福祉機関先議の原則の理念⇒初等少年院及び医療少年院の収容可能年齢を14歳以上と定めていた
⇒触法少年及びぐ犯少年で処遇決定時14歳未満の者に関しては、前記各少年院に送致することはできなかった。
vs.
(1)14歳未満であっても、性格に深刻・複雑な問題があり、それが原因で殺人等の凶悪重大な非行に及んだ少年や、年少の頃から非行を繰り返し、何度施設に入所してもなお非行に及ぶなど非行性の極めて進んだ少年等、深刻な問題を抱える者に対しては、早期に矯正教育を施すことが、本人の改善更生を図るうえで必要かつ相当と認められる場合がある。
(2)解放処遇を原則として、家庭的な雰囲気の中で生活指導を行う児童福祉施設では、
①無断外出を繰り返したり
②暴力的な言動を行なったり
③医療的措置が必要であるなど、対応が困難と考えられる場合もある。

平成19年の少年法等の一部改正により、少年院法が改正され、
少年院に収容することができる者の年齢が「おおむね12歳以上」に引下げられる(少年院法4条1項)と共に、
「決定の時に14歳に満たない少年に係る事件については、特に必要と認める場合に限り、第3号の保護処分をすることができる」という少年法24条1項ただし書が新たに加えられた。
  本決定は、明示的に指摘してはいないものの、
児童自立支援施設等では薬物依存に対応した処遇を十分になしえず、
医療的措置の必要性あるいは薬物離脱に向けた専門的処遇の必要性をも重視したもの。
2446    
  民事p3
東京高裁R1.11.20  
  マンション管理組合理事長の善管注意義務違反(肯定)
  事案 大規模修繕工事が実施され、マンション管理組合は、修繕積立金及び金融機関借入金から工事代金を支出。
当時の管理組合の理事長であったXは、その後、事実上更迭され、新たな役員で構成される管理組合から、工事代金等の返還を請求⇒Xが、管理組合Y1に対し、債務不存在確認を求め訴えを提起。 
  1審 大規模修繕工事は管理組合の総会承認を得て実施された⇒理事長Xには、理事長としての注意義務違反行為は認められない。 
  判断  管理組合Y1に対する委任契約上の善管注意義務違反が理事長Xには認められ、工事代金支出分につき管理組合Y1が被った損害額は約715万円として、一部認容・一部棄却。 
  管理組合の役員と管理組合の法律関係:
一般に、役員と管理組合との間には委任関係が成立⇒役員は委任の本旨に従い善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負う。 
株式会社とその取締役との間の関係と同様に、管理組合の理事長が私的利益を目的として職務を遂行することは、管理組合の総会又は理事会の決議に基づくものであったとしても、善管注意義務違反になる。
大規模修繕工事の実施に関するXの理事長としての職務遂行は、総組合員の利益を目的とすることを装いつつ、その実はXの私利私益、すなわち将来の総組合員の利益を犠牲にした上での自己所有住戸の高値転売を図ったものと推認⇒理事長Xには、管理組合Y1に対する委任契約上の善管注意義務違反がある。
  大規模修繕工事代金全額(約1627万円)を損害と認めた上で、
有用性が肯定される防水工事費を損益相殺の対象とし、
さらに大規模修繕工事の実施により将来あるかもしれない修繕工事費用の支出の一部を免れたことなどを考慮して損益相殺

理事長Xは約715万円の限度で善管注意義務違反による損害賠償責任を負う。 
理事長Xが善管注意義務に違反して大規模修繕工事を行わなければ、工事代金の一部を有しでまかなう必要もなかった⇒借入金保証料及び返済利息等についても、理事長Xの善管注意義務違反と相当因果関係にある損害に当たる。 
  規定  区分所有法 第二八条(委任の規定の準用)
 この法律及び規約に定めるもののほか、管理者の権利義務は、委任に関する規定に従う。
  解説   管理組合の役員と管理組合との間には委任契約が成立⇒役員は管理組合に対し職務遂行について善管注意義務を負う(区分所有法28条、民法644条)。 
●  役員が負う善管注意義務の具体的内容:
違反の典型:
理事長が管理組合の総会決議等を得ることなく、その権限を逸脱して職務を遂行
本件:
形式的に総会決議等が存在し、理事長の職務遂行が同決議等に基づくものであった場合だえっても、それが私的利益を目的とする職務遂行⇒管理組合に対する善管注意義務違反に当たる。
株式会社の取締役:
善管注意義務の一部として、その地位を利用し会社の犠牲において自己の利益を図ってはならない忠実義務を負い、忠実義務違反の肯否は株主総会決議や取締役会決議に基づく職務遂行か否かで直ちに左右されるものではない。
  管理組合の理事長の職務遂行が私的利益を目的とするものであったか否かの認定判断:
本判決:
①大規模修繕工事の内容
②大規模修繕工事を実施する必要性
③大規模修繕工事実施を承認する理事会決議や総会決議に至る過程
④大規模修繕工事を実施した場合における理事長Xの利害状況等

理事長Xの職務遂行は、総組合員の利益を目的とすることを装いつつ、その実は、将来の総組合員の利益を犠牲にして、大規模修繕が施された自己所有住戸を高値転売するというXの私的利益を図ったものと認定判断。
  損害算定 
本判決:
大規模修繕工事代金全額を損害と認めた上で、損益相殺により損害額を減額。
善管注意義務に違反した取締役が会社に賠償すべき額:
取締役の行為によって会社が被った損害額全額であり、
それにより会社が同時に利益を受けたときは損益相殺がされる。
  民事p28
大阪高裁R1.7.17  
  遺産分割協議後に発見された遺産の分割
  事案 抗告人(原審申立人)Aが、相手方(原審相手方)Bに対し、遺産分割協議成立後に発見された遺産の分割を求めた事案。 
  主張 A:Aが先行協議において取得した遺産は200万円にすぎず、Bが取得した遺産は相続税評価額でも3355万円余り、時価では1億円余りであって、著しい不均衡が生じている⇒これを一切の事情として考慮すべきであって、本件遺産(1300万円余りのC名義の預金口座)はAが全て取得すべき。 
  原審 本件遺産について、法廷相続分により遺産分割をする旨の審判をした。 
  判断 先行協議の際、相続人らは、各人の取得する遺産の価額に差異があったとしても、そのことを是認していたというべきであり、その後の清算は予定されていなかった⇒原審を是認し、抗告を棄却。
  民事p32
大阪高裁R1.9.25  
  事業遂行中の交通事故⇒企業に生じた損害と相当因果関係(否定事例)
  事案 高速道路警備業務を遂行中の警備会社の作業員ら及び作業車両にトラックが衝突し、警備会社の多数の従業員が死傷⇒当該高速道路警備業務を請け負っていた法人である事業者Xが、衝突事故を起こしたトラック運転手Y1及びその使用者であるトラック会社Y2に対し、Xの企業としての逸失利益について損害賠償を請求。 
  主張 X:本件事故現場での警備業務が中断したことによる逸失利益のみならず、他の現場での事業遂行が困難になったことについての逸失利益も主張。
Y:本件は企業損害の事案であって最高裁判例に照らしても請求が認められる事案ではない。
  原判決 最高裁判決とは事案が異なるとして、本件事故現場に係る警備業務によって得られたはずの2か月分の逸失利益の限度で損害を認めた。 
  判断 最高裁判決との関係には触れず、本件事故後、Xにおいて業務遂行が困難になった経緯を詳細に認定し、本件事故とX主張に係る損害との間の因果関係が認められない⇒Xの請求を棄却。 
  解説   最高裁昭和43.11.15:
個人会社において会社代表者が負傷した事案について、
被上告会社は法人とは名ばかりの、俗にいう個人会社であり、その実権は従前同様A個人に集中して、同人には被上告会社の機関としての代替性がなく、経済的に同人と被上告会社とは一体をなす関係にある⇒かかる原審認定の事実関係のもとにおいては、個人会社であるとの事実関係に着目して損害賠償を肯定。

法人格否認の法理の裏返しとの比喩。
最高裁昭和54.12.13:
代替性のない従業員が業務について、相当因果関係の通常予見できない損害であることを否定した高裁判決を受けて、原審を維持したもの。

最高裁判例として何らかの先例を示した判例と理解するには疑問。
  学説
A:会社はあくまで間接損害者であるとしつつ、企業損害に対する賠償は相当因果関係の問題として把握すればよい(星野)
B:存賠償請求権利者の問題として把握すべきであり、企業損害が問題となる場面で相当因果関係を論ずるのは適切ではない(好美)
C:債権侵害の問題として捉える考え方 
裁判例:
上記最高裁で示された「経済的同一性」の基準を手掛かりに損害賠償の可否を判断し、実際に損害賠償を認めた事例は少数にとどまっている。
  原審・本判決とも、相当因果関係の問題として捉えていることは共通。 
原審:
本件事故⇒本件事故現場における警備業務の遂行に中断
~因果関係のある事実
but
合意解除により契約終了⇒それまでの期間について因果関係のある損害と認めている。
控訴審:
Xの警備業務の遂行に中断が生じた原因は、
本件事故を契機としてXの従業員らの多数が危険性のある高速道路警備業務につくことを嫌悪し、退職ないし異同を希望⇒余裕があったはずのXにおける警備業務態勢が崩壊したという特別事情。
その様な事情がなければXは本件事故当時であっても他の従業員らによって事業の継続が可能。

本件事故と警備業務遂行の中断との間に因果関係を認めなかったものと理解。
判断の違いは、
本件事故の被害者ではなく、そのため本件事故現場での業務遂行が可能であったはずのXの他の従業員らに対する本件事故の及ぼした心理的影響を、相当因果関係の判断において、どう評価するかにかかわるものということができる。
  知財p37
最高裁R1.8.27  
  当該特許発明の効果が予測できない顕著なものであることを否定した判断に違法があるとされた事案
  事案 Xが、ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための点眼剤に係る特許につき特許無効審判を請求
⇒請求不成立の審決⇒同審決の取消しを求めた。 
  争点 本件特許に係る発明の進歩性(特許法29条1項各号記載の発明からの非容易想到性)の有無に関し、当該発明が「予測できない顕著な効果」を有するか否か。 
  事実 本件特許は、公知の特定の化合物(「本件化合物」)を、ヒト結膜肥満細胞安定化の用途に適用する薬剤に関するもの。 
特許庁:
平成25年1月、本件特許に係る発明の「ヒト結膜の肥満細胞安定化」という発明特定事項は引用例1等から動機付けられたものとはいえない⇒請求不成立の請求不成立。
but
知財高裁:
審決の前記の判断は誤り⇒同審決を取り消す旨の判決。
特許庁:
平成28年12月、本件特許請求の範囲の請求項1及び請求項5に係る発明(「本件各発明」)の前記発明特定事項等は引用例1等から当業者が容易に想到することができたものであるが、
本件化合物の効果は、引用例1、引用例2及び優先日当時の技術常識から当業者が予測し得ない格別顕著な効果であり、本件各発明は当業者が容易に発明できたものとはいえない。
⇒請求不成立の審決(「本件審決」)。
本件特許の明細書に接した当業者が認識する本件化合物の効果:
同明細書記載の実験において、ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制率が、一定の濃度範囲内において濃度の増加とともに上昇し、1000uMで66.7%、その2倍の濃度でも92.6%を維持。

一方、本件特許の優先日前に頒布された刊行物には、本件化合物の中にも、人体への点眼によるアレルギー反応誘発試験において、高いヒスタミン有利抑制率を広い濃度範囲にわたって維持するものがあることが開示。
  原審 ①前訴判決によれば、引用例1に係る化合物をヒト結膜肥満細胞安定化剤の用途に適用することは容易に想到することができた⇒本件化合物がヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制作用という効果を有すること自体は、当業者にとって予測し難い顕著なものということはできない。
②当該効果の程度についても、優先日における技術水準として、高いヒスタミン有利抑制率を広い濃度範囲にわたって維持する本件他の各化合物の存在が知られていたことなどの諸事情⇒予想できない顕著なものであることは否定される。
  Yら:
原審には予測できない顕著な効果の有無の判断方法を誤った違法がある⇒上告受理申立て 
  判断 化合物の医学用途に係る特許発明の効果が、その進歩性の有無の判断基準時当時、当該特許発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものか否か、当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点から十分に検討することなく、
当該化合物を当該特許発明に係る用途に適用することを容易に想到することができたことを前提に、当該化合物と同等の効果を有する他の複数の化合物の存在が前記基準当時知られていたということのみから、直ちに、当該特許発明の効果が予測できない顕著なものであることを否定した原審の判断には、違法がある。

原判決を破棄し、本件を原審に差し戻した。 
  解説  審理の対象となる特許発明(「対象発明」)に予測できない顕著な効果があることは、一般的に、進歩性を肯定する方向の事情として考慮(知財高裁H30.4.13等)。 
予測できない顕著な効果の有無の判断方法:
A:対象発明が奏する効果を、主引用発明の奏する効果のみと比較して、顕著で、かつ、予測できないことをいうと解する件かい(主引用発明比較説)

〇B:対象発明が奏する効果を、当業者が(進歩性判断基準当時に)対象発明の構成が奏するであろうと予測できる効果と比較して、顕著で、かつ、予測できないことをいうと解する見解(対象発明比較説)

C:対象発明が奏する効果を、進歩性判断基準時の技術水準において達成されていた(対象発明とは異なる構成を有する発明が奏するものも含めた)同種の効果を比較して、顕著で、かつ、予測できないことをいうとする見解(技術水準比較説)
予測できない顕著な効果の進歩性判断における理論的な位置付けについては、大別して二次的考慮説と独立要件説の見解の対立があるが、
当該効果の有無の判断方法については、いずれの見解を前提とするかを問わず、対象発明比較説が多数。
  本判決:
本件各発明の効果が、予測できない顕著なものであるかについて、
「優先日当時本件各発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものか否か、当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点」から検討すべき旨判示。

対象発明比較説の考え方を前提としたものと解される。 
また、当該効果の有無については(本件各発明の構成から)
「当業者が予測することができなかったものか否か」(非予測性)と
「当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否か」(顕著性)との双方の観点から検討すべき旨を判示。
原判決:
優先日当日、高いヒスタミン遊離抑制効果を有する本件化合物とは構造の異なる本件他の各化合物が存在したということ以外には、本件化合物の効果の程度について、それが予測できない顕著なものであることが否定されるとする諸事情や、その程度を推認できるとする事情等を明らかにしていない。

実質的には技術水準比較説と同様に、当時の技術水準において存在が明らかにされていた、対象発明の化合物とは異なる他の化合物の同種の効果の程度との比較のみを理由として、これと同等であれば対象発明が予測できない顕著な効果を有することが否定されるとの判断をしたことになる。

そのような判断には違法がある。
  商事p41
東京地裁R2.2.14  
  元受保険契約に基づき元受保険金を支払った者による再保険契約に基づく再保険金の支払請求
  事案 2010年4月22日に発生したメキシコ湾原油流出事故に関し、原告が元受保険契約に基づき、元受被保険者である三井物産子会社に対して、元受保険金を支払った⇒再保険契約に基づき、被告らに対して、再保険金の支払を求めた。 
前記事故は、メキシコ湾のミシシッピ・キャニオン252区画において、英国のエネルギー関連企業の米国子会社であるBP社がオペレーターとして開発する石油掘削事業で起こったもので、前記元受け被保険者であるMOEXが、BP社らと操業協定を締結し、ノンオペレーターとして、10%の権益をもって、前記事業に参加。
  主たる争点 ①再保険契約の準拠法である日本法に、商慣習法として、運命共同体原則があるか
②再保険及び元受保険の保険約款で保険金の支払条件として定められた元受被保険者の損害賠償義務があるか 
  判断・解説  ●争点①
「運命共同体原則」:
再保険契約において、再保険者は、元受保険契約上の保険金の支払いが合理的に行われている限り、被再保険者(元受保険者)に対し再保険金を支払わなければならず、元受保険契約上の保険き支払義務に関して、被再保険者(元受保険者)の判断を争うことはできないというもの。
原告:大判昭15.2.21の原審判決を指摘。
被告:
同裁判例は運命共同体原則について述べたものではない。
再保険は、元受保険金の支払義務のもととなる元受被保険者損害賠償義務の存在なくして、再保険金の支払義務が発生することはない契約であって、再保険法の分野でも世界の標準となる英国判例法をみれば、英国の裁判所は、このことを踏まえて判断している。
実務上、再保険契約にフォローザセトルメント条項が多く用いられているが、これは運命共同体原則が慣習法とはなっていないから。
本判決:
運命共同体原則が商慣習法として存在するとは認められない。
仮に運命共同体原則が存在するとしても、元受保険の保険者は、被保険者の損害賠償義務の有無について調査確認し、必要に応じて法的助言を得るべきところ(英国判例法と同じ原則)、原告は、準拠法の異なる地域の法律事務所の助言を得ているに過ぎない⇒運命共同体原則は適用されない。
東京地裁H31.1.25:
follow the settlement 条項として、「この再保険は、・・・元受保険者が行った一切の保険金支払額の決定に従う。・・・但し、保険金支払義務がないことを知りながら行う支払い及び保険金支払義務があることを認めずに行う支払いを除く。」
との条項がある場合に、保険約款の適用が微妙であるときは、当該保険約款の適用について裁判所が先行的に判断して、その判断の結果を、前記条項の適用除外の有無の判断基準としている。
保険の填補対象となるか否かについて、判断が分かれ得る場合に、再保険の契約当事者の間で、一方の見解が他方に優先するとしたのでは、公平な法的解決を実現することができない⇒運命共同体原則という一方の判断が優先するという考え方には、おのずから限界がある。
本判決も東京地裁H31.1.25も、共通した理解に立っているものと思われる。
  ●争点② 
再保険の保険約款で保険金の支払条件として定められた元受被保険者の損害賠償義務について、本件では、元受被保険者であるMOEXなどが、流出した原油の清掃費用に関して、法的な支払義務を負ったかが問題。
原告:
MOEXなどが、流出原油の清掃費用について、アメリカ政府や州などBP社以外の第三者に対して、支払義務を負った⇒それが元受保険の填補対象となる。
but
本判決::
前記第三者に支払義務を負う額が判決や和解によって確定していることを必要とする約款が元受保険契約にあるが、前記の額は確定していない。
原告:
MOEXなどがBP社との操業協定により清掃費用の支払義務を負った。
vs.
BP社に、油濁損害の発生について、gross negligence or willful misconduct(重過失又は故意)がある場合には、操業協定上の分担義務をMOEXが負わない旨、前記操業協定の22.5条に規定がある。

本判決:
BP社に、油濁損害の発生について、gross negligence or willful misconduct があったと認定⇒BP社との操業協定上の支払義務を否定。
2014年に、BP社の米国水質汚濁防止法違反に関して、米国ルイジアナ東部地区地方裁判所が出した判決も、BP社のgross negligence or willful misconductを肯定する判断を示している。
原告:
BP社が第三者に対して、清掃費用を支払い、その求償義務をMOEXが負担した旨主張。

本判決:
この求償義務について、前記操業協定の第22.5条の規定が適用される旨判断⇒BP社に、gross negligence or willful misconduct がある本事例では、MOEXの求償義務も否定される。
  刑事p71
東京高裁R2.2.7  
  コインハイブ事件(有罪)
  事案 自己の運営するインターネット上のウェブサイト(音楽情報共有サイトA)の閲覧者が使用する電子計算機をもってその同意を得ることなく仮装通貨の採掘作業(マイニング)を実行させるコインハイブというプログラムコード(スクリプト本体)が蔵置された海外のサーバーコンピュータにアクセスさせ同プログラムコードを取得させて国内のサーバーコンピュータ上のAを構成するファイル内に同プログラムコードの呼出しタグ(「本件プログラムコード」)を蔵置させ保管した被告人の行為につき、不正指令電磁的記録保管罪(刑法168条の3)に該当するとして起訴。 
  原審 反意図性は認めたものの、不正性を満たさない⇒無罪 
  判断 原判決を破棄して有罪 
  主張 弁護人:
①アクセス制御機能によって管理されていない他人の計算資源を使用することは、現行法においても何ら禁止されていない(不正アクセス法2条4項)
検察官はコインハイブによる閲覧者の電子計算機への「使用権」の侵害が不正性の根拠と強弁するが、「使用権」の「侵害」なるものがいかなる法理に基づき本罪の評価に影響するのか判然としない。
②検察官は、特定の動作が使用者に不利益に働く余地がある場合には使用者の同意を要するというのがユーザー保護あるいはプログラムの信頼確保のための当然の原則。but法務省のウェブサイトでもそれは遵守されていない。
③検察官は、不正性の判断において専らウェブサイト閲覧者の利益損失を重くみて設置者の利益損失は考慮に値しないとの独自の価値観を力説。
but
インターネットは互恵的に情報共有するための媒体。
④検察官は、呼出しタグを本件プログラムコードとするが、マイニングを実施するスクリプト本体を本件プログラムコードを捉えているかのよう⇒被告人は当該スクリプトを保管しておらず、無罪。
   規定 刑法 第一六八条の二(不正指令電磁的記録作成等)
 正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
2正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
3前項の罪の未遂は、罰する。

刑法 第一六八条の三(不正指令電磁的記録取得等)
 正当な理由がないのに、前条第一項の目的で、同項各号に掲げる電磁的記録その他の記録を取得し、又は保管した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
  解説 電子計算機(コンピュータ)による情報処理はプログラムによって行われるところ、そのプログラムは、容易に広範囲の電子計算機に拡散する上、その機能全てを使用者が認識するのは困難

電子計算機のプログラムが使用者にとって信頼に値するといえるためには、電子計算機による適正かつ円滑な情報処理ひいては電子計算機の社会的機能を確保することが不可欠。

使用者の意図に反し不正な電子計算機のプログラムの作成、提供、供用、取得及び保管といった各段階の行為を処罰することにより、電子計算機のプログラムが電子計算機の使用者の「意図に沿うべき動作をせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令」を与えるものではないという社会一般の信頼(社会的信頼)を保護し、電子計算機による適正かつ円滑な情報処理ひいては電子計算機の社会的機能を確保するため、刑法168条の2以下に係る不正指令電磁的記録に関する罪が新設された。 
刑法168条の2以下の規定の趣旨
⇒プログラムに対する社会的信頼の保護と電子計算機による適正円滑な情報処理の確保という観点から当該プログラムの社会的許容性を判断。

反意図性:当該プログラム使用者からみて許容し得るかという視点で許容不可とされた場合に不正性(社会的許容性)が問題視される建付

不正性の場面では使用者以外のより広い視点から当該プログラムを許容し得るかどうかを判断するとの選択もあり得る。

電子計算機による適正円滑な情報処理力確保の点をより広い意味合いで捉えると社会基盤としての役割を担うに至ったコンピュータとインターネットの社会的機能を持続発展させるとの視点から本件プログラムコードの不正性を論ずることも考えられる。
コインハイブのスクリプト本体が蔵置されたサーバーコンピュータにリンクされる呼出しタグ(HTMLコード)はそれ自体マイニングの能力を持たずスクリプト本体がないとその機能を発揮し得ない⇒この呼出しタグをスクリプト本体と同等のものと当然視してよいか?
    2445
  p3
大津地裁R2.3.31  
  湖東記念病院再審請求事件無罪判決
  経緯  確定判決(1審判決、控訴・上告は棄却で確定)の理由の骨子:
①解剖医Cの鑑定及び証言によって、患者の死因が意図的な酸素供給途絶による低酸素状態に起因する急性心停止と認定できる
②同酸素供給途絶の原因として考えられるのは、人工呼吸器の誤作動、何者かの過失行為又は故意による加害行為であるところ、関係証拠から、故意による殺害以外の可能性は否定される一方で、被告人には犯行の機会及び人工呼吸器に関する知識があった⇒被告人の自白供述に信用性が認められる。 
  第一次再審請求
第二次再審請求⇒即時抗告審で再審開始決定(「後藤決定」)⇒検察官の特別抗告棄却⇒再審公判 
  解説  ●再審公判の審理方法 
刑訴法451条1項:「裁判所は、再審開始の決定が確定した事件については・・・その審級に従い、更に審判をしなければならない」
本件:確定判決の審級が第1審

再審公判は、人定質問、起訴状朗読から始まり、証拠調べを経て、論告、弁論、被告人の最終陳述に至るまで、起訴状謄本の送達が不要であることや起訴状一本主義の適用がないことなどの例外を除き、通常第1審の公判手続に従って新たに審理が行われる。
刑訴法にはそれ以上に特別の規定なし。
A:確定審と関係なく新たに行われるべき(覆審説)
B(実務):破棄差戻し審に準じて公判手続と同様の手続によるべき(続審説)

再審が、誤って有罪判決を下された可能性がある場合に新たに審理して判決を言い渡す手続であるので、基本的に確定審の証拠調べも踏襲した上で、新たな証拠調べを行うべきと考えられる。
本件:続審説
松橋事件の再審無罪判決では覆審説
  争点と主張  再審公判における検察官の態度:
A:有罪主張を維持するもの
B:無罪論告をするもの
C:有罪主張はしないものの、無罪論告もせず、適切な判決を求めるとするもの
本件:
取調済みの証拠に基づき適切な判断を求めると述べ、新たな立証を行わなかった。
検察官は確定審でおkなった主張の撤回をしていない⇒実質的には、なお当事者間の主張に争いのある事件。
争点:
①患者の死因
②被告人の捜査段階の自白供述の任意性、信用性
  判断  ●争点①(死因)についての判断
確定判決において高い信用性が認められた解剖医Cの鑑定書及び公判供述のうち死因の判断部分について、
①解剖時の検査結果によっても、形態学的な変化をもたらさない機能性疾患により死亡した可能性は排斥されず、
②仮に酸素供給欠乏による窒息死であると判断し得たとしても、解剖所見等による裏付けがなければ人工呼吸器の管の外れと判断することはできない。

確定判決と真逆の評価。
解剖医の示した結論が、警察官から提供された、真偽が疑わしい解剖所見外の情報に依拠して導かれた疑いがある(後藤決定で判示)
異常発見時の患者の顔面は蒼白であった⇒同事実は患者の死因が酸素供給遮断による窒息死であることとそぐわない。
(本判決は、解剖医Cが、救命措置施行前の患者の顔面に係る客観的事実を警察官から情報提供されていなかったと認定)
後藤決定以前に提出されていた山本医師、小出医師の各意見書に加え、再審開始決定確定後に作成された、法医学を専門とする吉田医師及び重症患者管理を専門とする福家医師の各意見書が弁護人から証拠請求⇒採用。

解剖医Cが検討していない患者の入院期間中(本件発生前の約8か月間)の検査記録を含む診療経過を踏まえ、C鑑定で示された客観的な解剖所見をも前提として合理的に導かれた内容。

C鑑定等の信用性に疑いがあり、かつ、酸素供給遮断以外に具体的に想定できる死因が複数認められるが、本件では被告人の自白供述がある。
仮にこの信用性が肯定できるのであれば、C鑑定等を補強証拠として、事件性及び被告人の犯人性が肯定できる可能性がある。
  ●争点②(自白供述の任意性、信用性) についての判断
◎検討の論理的順序及び信用性に関する判断
①自白の任意性、信用性の検討順序について、証拠能力の問題である任意性を先行させるのが論理的。
②一般に、自白に至っている被告人であっても、多少なりとも自己の刑事責任の軽減を図り、あるいは不都合な事実を隠蔽するなどの動機から、一部につき不合理な弁解をすることや、葛藤の中で供述が小出しになったり変遷することも実務上見られる。
⇒自白の任意性と信用性とは必ずしもリンクするものではない。
but
本判決:
本件の特質から、任意性と信用性の判断要素が相当程度重複する⇒信用性の判断を先行。

後記任意性に関する判断内容に照らすと合理的なものであったといえ、精緻な検討を可能にするための工夫と評価することが可能。
本判決:
①被告人の自白はめまぐるしく変遷しているが、特に、管の抜去による殺害を認めながら、人工呼吸器の消音状態維持機能を知った時期・方法については激しく変遷する動機は想定できない。
~後記任意性の判断にも強く関連する事情となる。

②死に瀕した患者が、病状に照らして医学上あり得ない多様な表情変化をさせたと述べる点で、被告人の自白は客観的証拠と矛盾している。

被告人の自白単独でも、これにC鑑定等を併せてみても、患者が酸素供給遮断状態を生じたために死亡したと認め得るほどの自白の信用性はない。
  ◎任意性に関する判断 
〇  自白が「任意にされたものでない疑」(刑訴法319条1項、322条1項)があるといえるか否かにつき、これまで判例は、事案に応じた個別性の高い判断を示してきた。
・暴行・脅迫によるもの
・不当に長時間にわたる取調べによるもの
・起訴猶予にするという約束に基づく自白
・切り違い尋問による自白
・糧食差入れ禁止中及び禁止後の自白等
について、任意性に疑いがあると判断された事例がある。
任意性のない自白を排除

①虚偽廃除
②人権擁護
③違法排除
の各観点
  〇規範定立
  本判決:
任意性のない自白の証拠能力が証拠能力が否定される根拠に立ち返り、
捜査手続の違法・不当性及び被疑者の人権侵害の有無を中心に据えた上、
虚偽供述である可能性の点も付加して総合的に検討すべきであるとし、
その供述がなされる過程における
①人権侵害の有無・程度
②捜査手続きの違法・不当性の有無・程度
③当該自白供述に与えた影響の有無・程度(因果性)
④それらの事情による虚偽供述誘発のおそれ等
を総合考慮して判断するのが相当であり、
その際には、
⑤供述者側の事情(例えば、年齢、精神障害等の有無・内容)も考慮しつつ、実質的・具体的に判断すべきものであるとし、
任意性に関する規範を定立。

「実質的」

外形上自発的に供述しているかのように見える場合でも、違法・不当な捜査手続等によって誘発された実態がある場合には、任意性を否定し得る。 
捜査の違法・不当性及び人権侵害の有無を考慮要素の中心に据えている。

虚偽排除の観点は、被疑者が、拷問により真実を自白した場合を説明できず、単体で中心に据えるには疑問。
検討要素を列挙した上での「総合考慮」
vs.
①ミランダ判決以前の、事情の総合説ないし事情の総体的アプローチによる事後的規制への回帰するもので不当
②個々の事情の持つ法的意味が明らかにならず、判断が不明確
③許容される取調べの限界を明示する機能を有さず、取調べ実務を有効に規制できない
④取調べ手続に違法があっても総合判断の一要素に過ぎなくなる
vs.
①本判決は、規範定立に至る部分において、捜査の違法・不当性及び人権侵害の有無を考慮要素の中心に据えることを前提として、自白排除の判断に際しいかなる要素がどのような意味を有しているかの点につき位置付けを明示
②あてはめ部分においても、取調警察官による不当な誘導や、被疑者の秘密接見交通権、弁護人による弁護を受ける権利の実質的侵害といえるかの点を中心に据え、規範として示した位置付けに従って検討

本判決は、基本的には我が国の判例の流れ(3つの観点を踏まえ、当該事案において重視すべき観点を違えながら事例判断をする)の中に位置付けられる。

本判決がこれまで任意性判断において考慮されることの少なかった供述者側の事情(年齢や精神障害等の有無・内容)を考慮要素として明示している点は非常に重要。

そもそも取調べ空間が捜査機関の支配・影響下にあるという点に十分留意する必要。
  〇あてはめ 
①F警察官は、被告人の迎合的な供述態度や自らに対する恋愛感情等を熟知しつつ、これを利用して被告人の供述をコントロールする意図の下、弁護人との信頼関係を損なうような言動をするなどして、被告人に対し、強い影響力を独占的に行使し得る立場を確立した上、捜査情報を教示しつつ、これと整合的な自白を獲得するために誘導
②このような操作は、被告人の秘密接見交通権や弁護人による弁護を受ける権利を実質的に侵害するものと言えるうえ、
知的障害等や愛着障害から迎合的な供述をする傾向が顕著である被告人に対し、前記のような誘導的な取り調べを行うことは、虚偽供述を誘発するおそれが高く不当。
③被告人が、弁護人と接見する度に否認に転じていた⇒F警察官の言動により被告人・弁護人間の信頼関係が揺らぐことがなければ、F警察官が被告人大使、強い影響力を独占的に行使し続けることは困難⇒本件自白供述は、F警察官の取調べによって誘発された。
④捜査機関側の事情に加え、知的障害等・愛着障害の特性から、通常であれば想定しがたい状況と考えられる取調警察官に恋愛感情を抱いたという被告人側の事情も含めて総合考慮

自白供述は、実質的にみて、自発的になされたものではなく、防御権侵害や捜査手続の不当によって誘発された疑いが強く、「任意にされたものでない疑」がある⇒証拠排除。
本判決:
証拠採用された精神保健指定医小出作成に係る意見書に信用性を認め、被告人が知的・発達障害及び性格的特徴としての愛着障害を有していたこと、さらにF警察官がこれらの実質を認識した上で、これを利用して自白を獲得したという一連の経過を認定。
  民事p35
名古屋高裁R1.5.17  
  大学院の学費、留学費用等と特別受益(否定)
  事案 XとY1は亡AとY2との間の子
Y2は亡Aの妻
Y3は亡Aと前妻との間の子 
亡Aは平成26年3月に死亡し、相続開始。
XがYらに対し亡あの遺産分割を求めて申し立てた調停が不成立⇒審判の事案。
XとY1は、相手方の特別受益を主張し、
Xの大学院生活及び留学生活に対する費用負担が特別受益に当たるかが争われた。
  判断 学費、留学費用等の教育費については、被相続人の生前の資産状況、社会的地位に照らし、被相続人の子である相続人に高等教育を受けさせることが扶養の一部であると認められる場合には、特別受益には当たらない。
本件においては、亡A一家の教育水準等に照らして、Xの大学院の学費、留学費用は特別受益に該当するものではなく、仮に特別受益に該当するとしても、亡Aの明示又は黙示による持戻免除の意思表示があったものと認められる。
  解説 高等教育、留学等のために、被相続人が支出した費用、相続人に贈与した金員は、被相続人の生前の資産状況、社会的地位、他の相続人との比較等に照らし、被相続人の子である相続人に高等教育を受けさせることが扶養の一部であると認められる場合には、特別受益には当たらないと解するのが相当。
本件:
亡A一家は、経済的に豊かな家庭で、教育水準が高い

亡Aにおいては、子らに、その能力に応じて4年生大学等の高等教育を受けさせることは当然に予定していたものと推測。
but
大学院への進学、仏、英、米の各国での10年に及ぶ留学⇒問題。
①亡Aが、Xが学者、通訳者又は翻訳者として成長するための時間と費用を費やすことを許容
②亡AがY1やY1の妻に対しても高額な時計、宝飾品、金銭等を贈与
③Y1も国立大学に進学していたこと等

亡Aが支出した費用の額、亡Aの遺産の規模等に照らせば、Xの大学院の学費、留学費用は特別受益に該当するものではなく、仮に特別受益に該当するとしても持戻し免除の意思表示があったと認めるのが相当。

Xのみならず、Y1も亡Aから多大な援助を受けており、Xの学費について特別受益該当性を否定しても、相続人間の公平を失わせることはないと判断。
  民事p53
東京高裁H31.2.28  
  実施法により子の常居所地国(ロシア)への返還を求めた事例で、ロシア国内の裁判所での判断の影響
  事案 子Cの父であるBが、母であるAに対し、Aによる連れ去り(本件連れ去り)により子Cに対する監護の権利が侵害されたと主張して、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(実施法)に基づき、子Cを常居所地国であるロシアに返還することを求めた事案。 
抗告審係属中に、ロシアの(H州)I市裁判所が、
BのAに対する本訴請求(子Cの居住地をBの下とすることや子Cとの面会交流について求めるもの等)及び
AのBに対する反訴請求(子Cの居住地をAの下とすることやロシアからの出国禁止命令の撤回を求めるもの)
につきそれぞれ審理の上、本訴請求を棄却し、反訴請求を認容。
子Cの居住地をAの下とするとともに、
Aが子Cを連れてロシアから日本へ出国することを許可することを禁止する命令を撤回し、Bの承諾なく、Aが子Cを連れてロシアから日本へ出国することを許可。
  規定 実施法 第二八条(子の返還拒否事由等)
3裁判所は、日本国において子の監護に関する裁判があったこと又は外国においてされた子の監護に関する裁判が日本国で効力を有する可能性があることのみを理由として、子の返還の申立てを却下する裁判をしてはならない。ただし、これらの子の監護に関する裁判の理由を子の返還の申立てについての裁判において考慮することを妨げない。
  争点 A:抗告審において
①前記決定が確定すれば、「常居所地国の法令によれば、当該連れ去り又は留置が申立人の有する子についての監護の権利を侵害するもの」(実施法27条3号)という要件を欠くことになるし(争点①)、
②子の監護をめぐる争いにつき常居所地国で裁判所による決定がされたにもかかわらず、敢て子を返還することは条約及び実施法の趣旨に合致しない(争点②)
と主張。
  判断  ●ロシアのI市裁判所の決定理由が返還事由に与える影響(争点①) 
実施法28条3項本文⇒同決定が日本国で効力を有する可能性があることのみを理由として、本件申立てを却下することはできない。
同決定の理由の本件における子の返還事由の判断への影響:
・・・・
ロシア法によれば、本件連れ去りはBの監護権を侵害するものであったと認められる。
  ●ロシアのI市裁判所の決定理由が返還拒否事由に与える影響 
I市裁判所の決定は、子CがBの下に居住することは子Cの精神状態に極めて有害な影響を及ぼすと考えられる旨説示
but
ロシアへの子の返還とBへの子Cの引渡しは同義ではなく、I市裁判所の決定はAがロシアで子Cを監護することを妨げるものではない。
・・・・

本件において子Cの返還拒否事由が認められないという判断は妨げられない。
  ●常居所地国で裁判所による決定がされた後に、子を返還することの可否 
むしろ子Cを迅速にロシアに返還し、I市裁判所の決定の上訴審での審理を含めて、その監護に関する紛争の解決を図ることがむしろ条約の趣旨にかなう。
  Aの主張:
常居所地国で同居親を監護者とする裁判所の判断が確定した場合であっても返還命令を出すことは、子の人権を侵害するものである。
vs.
①I市裁判所の決定がそのような趣旨の判断であるかはにわかに判断することができない
②仮にそうであったとしても、子の返還を命ずる終局決定が確定した後に事情の変更によりその決定を維持することが不当と認められるに至ったときは、子の返還を命ずる終局決定を変更することもできると解される(実施法117条、118条)

I市裁判所の決定の確定を待つことなく子Cの返還を命じたとしても子Cの人権を侵害することにはならない。 
  解説 子が連れ去られた先の国において、その国で子の監護に関する裁判がされたことや他の国においてされた子の監護に関する裁判がその国で効力を有する可能性があることを理由に子の返還が拒否されてしまうと、子が国境を超えて不法に連れ去られ、又は留置された場合の子の監護に関する紛争については子の常居所地国で会得k津されるのが望ましいという条約の考え方に反することになりかねない。
but
これらの子の監護に関する裁判においては、親及び子の生活状況、親子の関係性等がその理由として考慮されていることもあり、有用な場合もある。

実施法28条3項の規定。
  民事p63
福岡高裁那覇支部R1.10.7  
  刑特法の適用にあたり国賠が認められた事案、刑特法の憲法違反は否定
  事案 Xは、沖縄県名護市辺野古沿岸の米軍基地建設に対する抗議活動等として、日米安保条約により米軍の使用が許され、一般人の立入りが常時禁止されている同沿岸区域に浸入し、その身柄を米軍に拘束された。 
海上保安官は、Xの身柄拘束から約8時間経過後に米軍施設内において米軍からXの身柄の引渡しを受け、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法(刑特法)12条2項の定める緊急逮捕類似の手続によって、事前の逮捕状の発付なく、Xが制限区域に侵入して米軍の退去警告に応じず退去しなかったことを被疑事実として、その身柄の拘束を続けることとした(本件緊急逮捕的身柄拘束)。
海上保安官は、その後直ちに身柄拘束に係る逮捕状の発付を受け、Xに、検察官に送致された後、釈放された。
Xが、Y(国)に対し、
(1)米軍に拘束されてから海上保安官に引き渡されるまで約8時間要したことについて、
①海上保安官が、直ちにXの身柄を引き受けなかったこと、
②米軍が、直ちにXの身柄を引き渡さなかったことなどが、
それぞれ憲法33条等の趣旨に反して違法である
⇒国賠証1条1項等に基づき、慰謝料等60蔓延及びこれに対する遅延損害金の支払を求め
(2)引き続き本件緊急逮捕的身柄拘束されたことについて、
①刑特法12条2項の定める緊急逮捕類似の手続は、対象犯罪を限定せずに現行犯以外での無令状体を認めるもので憲法33条、31条に違反⇒これを立法し、改廃しなかった国会の行為は違法
②本件緊急逮捕的身柄拘束は、刑特法12条2項に従って行うものとしても、同項の趣旨等に違反して違法

国賠法1条1項に基づき、慰謝料等60万円およびこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
  原審 (1)①及び(2)②の各行為は国賠法上違法⇒各行為によりXが被った損害をそれぞれ4万円(慰謝料3万円、弁護士費用1万円)ずつ⇒Xの請求を、合計8蔓延及びこれに対する遅延損害金の支払を命じる限度で認容。
Xの身柄の引受けの遅延((1)①)について:
①憲法33条の趣旨や、この場合における逮捕の制限時間や起算点が米軍による身柄拘束時ではなく司法警察員等による身柄の引受時とされていること(刑特法12条4項)等⇒米軍から身柄を引き渡す旨の通知を受けた志保警察員等は、職務上直ちにその身柄を引き受けるべき高度の注意義務を負い、米軍からの身柄拘束の原因の聴取りや、身柄の引渡しを受けるのに不可欠な事務上の手続に要する時間を超えて、身柄の引受を遅延することは許されない。
②海上保安官は、Xを引き渡す旨の通知を受けてから遅くとも2時間以内には、米軍から身柄拘束の原因を聴き取り、身柄の引渡しを受けるのに不可欠な事務上の手続を行なうことが可能

同通知から約8時間経過後にXの身柄を引き受けた海上保安官の行為には国賠法上の違法がある。
海上保安官によるXの身柄の引受けの遅延が違法⇒これに引き続いてされた本件緊急逮捕的身柄拘束についても国賠法上の違法がある。
  判断 ●国賠請求について原審維持。
  ●  ●刑特法12条2項の合憲性について: 
  憲法33条の令状主義の下で、事後審査に基づく身柄拘束が許容されるためには、刑訴法210条の緊急逮捕と同様に逮捕の必要性・緊急性が高いといえる一定の事情があることが必要であり、
そのような事情としては逮捕の対象犯罪が一定の法定刑以上のものである場合に限られないものの、刑特法12条2項はその対象犯罪という面のみからみればいささか広きに失している感は否めない。
Xは、日米地位協定等の規定により現行犯として身柄拘束(現行犯的身柄拘束)された者であるところ、憲法33条は、現行犯逮捕について、犯罪と被逮捕者の結びつきが明白で、司法審査を経なくても誤認逮捕のおそれがなく、その状況自体から逮捕の必要性・緊急性が高いといえることから、令状主義の例外として許容⇒これを受けて刑訴法も、対象となる罪種自体は制限することなく無令状での逮捕を認める。
米軍による現行犯的身柄拘束も、誤認逮捕のおそれがなく、その状況自体から逮捕の必要性・緊急性が高いといえる点は刑訴法上の現行犯逮捕と同様⇒刑特法12条2項は、少なくとも米軍により現行犯的身柄拘束されたXの引渡しに適用される限りにおいては、憲法33条の趣旨に反するものではない。
同項は、少なくとも現行犯的身柄拘束されたXの引渡しに適用される限りにおいては、何ら明確性に欠けるところはなく、憲法31条に反するものではない。
  解説 憲法33条は、何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ逮捕されないとして、いわゆる令状主義を規定。 
刑特法12条2項と同様に、一定の要件の下、事前の令状の発付を得ずに逮捕を許容している刑訴法210条と憲法33条の関係:
最高裁昭和30.12.14:
法定の厳格な制約の下に、罪状の重い一定の犯罪のみについて、緊急やむを得ない場合に限り、逮捕後直ちに裁判官の審査を受けて逮捕状の発行を求めることは、憲法33条の規定の趣旨に反するものではない。
  民事p67
山形地裁R1.8.6  
  自白の撤回・時期に後れた攻撃防御方法
  事案 重要文化財に指定されている3本の日本刀を所有していたと主張するXが、盗難で所在不明となっていた本件各刀剣をYが買い取り占有しているとして、所有権に基づき本件各刀剣の引渡し及び本件各刀剣の引渡しが不能であった場合に備えた代償金の支払を求めるとともに、Yによる自白の撤回について不法行為に基づき損害賠償金の支払を求めた。 
訴訟の開始当時:
Yは、Xが本件各刀剣の所有者であることとYが本件各刀剣を自身の金庫で保管し占有していることを認めていた。
but
その後、Yが購入し保管している刀剣は本件各刀剣の偽物であると判明⇒本件各刀剣をYが保有していることなどに係る自白を撤回。
X:
自白の撤回自体を争うとともに、
当該自白の撤回は、訴訟提起後2年以上経過し、裁判所による争点整理案が作成され、証人等の尋問期日が指定されるなど相当程度訴訟が進行した時点でなされている⇒時期に遅れた攻撃防御方法であるとして却下されるべき。
  解説  ●自白の撤回の可否 
民訴法9条:
自白が成立⇒証明が不要であり、この証明不要効により裁判所及び当事者に対する拘束力が生じる。
自白が成立⇒それを前提として訴訟行為が行われることから、その撤回が安易に許されれば審理の混乱、遅延を招き、相手方に不利益を与える
⇒自白の撤回は、一定の要件を満たした場合を除き認められない。
相手方の同意がある場合や、自白が相手方または第三者の詐欺・強迫その他刑事上罰すべき他人の行為によって自白するに至った場合を除くと、
判例では、自白が真実に合致しておらず、かつ錯誤に基づいてされたことが証明されたとき、自白の撤回ができる。
反真実が証明⇒錯誤を否定すべき特段の事情がない限り、錯誤に基づいてなされたと認められる。
判例は、過失の有無は問題としていない。
  ●時期に遅れた攻撃防御方法 
自白の撤回自体も攻撃防御方法⇒自白の撤回の主張が、撤回の可否の検討とは別に、時期に遅れた攻撃防御方法(157条1項)として却下されることはあり得る。
法157条1項:
①時期に遅れて提出した攻撃又は防御の方法であること
②それが当事者の故意又は過失に基づくものであること
③当該提出により訴訟の完結を遅延させることになること
の要件。

①については、
各事件の具体的な進行状況や当該攻撃防御方法の性質に即して、個別具体的に当該提出時期よりも早期に提出することが期待できる客観的な事情があったかで判断。
  判断 ●自白の撤回 
Yの本件各刀剣の占有に係る自白について、
①Yが本件各刀剣であると考え仲介人から購入した刀剣3本は、本件各刀剣とは同一の刀剣ではないと認められる
②Yが本件各刀剣を占有していたことに関する錯誤が認められない特段の事情もない

自白の撤回を肯定。
●時期に遅れた攻撃防御方法 
Yは訴訟係属当初に適切な調査を行っておらず、軽率な面が認められる
but
①Yが購入した各刀剣が本件各刀剣とは異なると判明したのは裁判所に対する報告を求められたことがきっかけ
②弁論準備手続終結前という主張の時期
③自白に至った経緯
④当該自白の内容であるYが本件各刀剣を占有しているという事実は、引渡し請求を基礎付ける内容であり、真実発見の要請も大きい

自白の撤回の主張それ自体が時期に遅れて提出されたとまではいえない。
  刑事p78
東京地裁立川支部H30.5.7  
   
  事案 駅の改札口において、駅員に対して不満を述べていた被告人が脅迫罪で起訴⇒無罪の事案。 
  争点  被告人が、駅員に対して、着衣んの袖をまくり上げるなどして腕の入れ墨を見せつけ「なんでこの野郎」と怒鳴りながら、足で駅員の身体を蹴りつける仕草をするなどの行為の有無。 
  判断・解説  ●防犯カメラの検討 
まず防犯カメラの映像を十分検討するところから始めている。

見せつけ行為も蹴りつけ行為も、映像上認めることはできない。
  ●関係者の供述の信用性 
検察官が立証の柱としていた駅員と警察官(P2)の各証人尋問は2回行われた。
それぞれ1回目の証言内容が防犯カメラの映像と齟齬⇒再尋問⇒供述の信用性にかなり致命的な打撃。
駅員:
1回目は訴因に沿うような証言。
2回目:見せつけ行為について、現行犯逮捕した警察官のもう1名(P1)の事件後ほどなく実施された被害再現捜査の際の言動から、警察官P1がいうのならそのとおりであろうと思って1回目の証言をした。
⇒2回目の被告人の行為に関する証言もP1の言動に影響されている可能性が相当程度あると判断。

蹴りつけ行為についても、1回目の証言内容はP1の再現したものと同じ⇒P1言動の影響は否定できない。
P2:
1回目の尋問では、見せつけ行為及び蹴りつけ行為を具体的に証言していながら、
それが防犯カメラ映像と齟齬することが明らかになった後に実施された2回目の尋問では、見せつけ行為も蹴りつけ行為も見ておらず、自分が見ていた場面と他の警察官から聞いた話を混同したと思うと証言。

訴因を認めるための証拠とはなり得ない。
P1の証言は、警察官として現場に臨場して状況をうかがった上で被告人を現行犯逮捕⇒逮捕の理由たる被疑事実について正確に認識しているはず
but
事件当日における認識dえすら被告人の見せつけ行為の場面に関し、防犯カメラ映像と齟齬

他の点についても、状況を正確に把握していたといえるか疑問であるとして信用性を否定。
  検察官が立証の柱としていた証人2人が、1度は自らの記憶ではない可能性を認識しつつ、事実と異なることを平然と証言していた。
ある者の認識や証言が、他の関係者に不当な影響を与え得ることはつとに指摘されている。 
2444    
  民事p3
横浜地裁R1.10.30  
  競売手続で建物共有者に交付された剰余金についての不当利得返還請求
  事案 XとYは親子。
X単独所有の土地の上にX・Y共有(Xの持分100分の1、Yの持分100分の99)の建物が存在し、Yの実体法上の土地利用権は使用借権。 
前記土地建物が一括競売された担保不動産競売手続において、実体法上は法廷地上権が成立しないが、競売の評価上は法定地上権が成立すると扱われて売却基準価額が定められ、同売却基準価額に応じて売買代金を按分する売却代金交付計算書に基づいて剰余金がXとYとに分配⇒同分配により、Xが損失を受け、YがXの損失により利得しているとして、XがYに対し、不当利得返還請求を行った。
  説明 土地が単独所有で建物が共有であり、土地及び建物全部に抵当権が設定され土地建物全部が競売される場合、法定地上権は成立するものの、買受人が土地建物の所有権を取得⇒現実の利用権としての法定地上権は発生しないが、執行実務上、競売手続の評価上は法定地上権が成立するものとして評価が行われる。 
本件も、売買基準価額の前提となっている評価書においては、建物に法定地上権が成立することを前提に、土地利用権等割合は0.65とされており、その結果、売買基準価額は、土地が2542万円、建物が5790万円とされ、弁済金交付手続においては、この売買基準価額に応じて剰余金が按分され、Xに対し2971万2758円、Yに対し6550万8866円交付された。
他方で、実体法上の土地利用権は使用借権であるところ、こてを前提に、土地利用権等割合を0.1とすると、売却基準価額は、土地が6535万円、建物が1796万円となり、この売却基準価額に応じて剰余金が按分されると、Xに対し7489万9448円、Yに対し2032万2176円交付されるべきこととなる。
  争点 不当利得返還請求の要件である、①Yの利得、②Xの損失、③利得と損失の因果関係、④法律上の原因がないことのうち、
①②④が認められるか。 
  判断  ①②④を肯定し、不当利得返還請求を認容。 
  ①②:
剰余金は、担保不動産の所有権の価値代替物⇒複数の担保不動産の所有者に対して剰余金が分配される場合、各所有者は、各自が担保不動産の上に有していた実体法上の権利の価値に応じ、剰余金を受領する実体法上の権利を有する。
所有者のうちに、弁済金交付手続において交付された剰余金が、実体法上の権利の価値よりも低いと評価できるものがいる場合には、損失があるといえる。
  ④:
配当期日において配当異議の申出がされることなく配当表が作成され、この配当表に従って配当が実施された場合において、同配当の実施は係争配当金の帰属を確定するものではない。
弁済金交付手続は、期日の指定を必要としないなど、配当手続よりも簡易な手続であって、なおのこと係争弁済金、剰余金の帰属を実体法上確定することを目的とするものではない。
執行裁判所が弁済金交付手続きによって剰余金を保持する実体法上の権利を取得することにはならず、同剰余金の受領に法律上の原因があるということはできない。
  解説  不動産競売事件の配当期日において、配当異議の申出等をしなかった債権者が、配当実施後に、債権又は優先権を有しないにもかかわらず配当を受けた者に対し、不当利得返還請求ができるか?
最高裁(H3.3.22)は、抵当権者についてこれを肯定

①抵当権者は抵当権の効力として抵当不動産の代金から優先弁済を受ける権利を有しており、他の債権者が債権又は優先権を有しないにもかかわらず配当を受けたときは、同優先弁済を受ける権利が害されることとなり、この場合には、同債権者は同抵当権者の取得すべき財産によって利益を受け、同抵当権者に損失を及ぼしたものとなる。
②配当期日に配当表に従って実施された配当は、係争配当金の帰属を確定するものではなく、これをもって利得に法律上の原因があるとすることはできない。
配当期日に配当異議の申出をしなかった一般債権者が配当を受けた他の債権者に対して不当利得返還請求ができるかについては、最高裁は、これを否定(最高裁H10.3.26)。

抵当権者は執行目的物の上に有する実体法上の優先弁済権を害されたことによる損失があるといえるのに対し、一般債権者は執行目的物の上に実体法上の権利を有するものではないから損失があるといえない。
競売によって所有権を失った者(執行債務者)は、債権又は被担保債権を有しないのに配当を受けた債権者に対して、配当を受けた分について不当利得返還請求をすることができる。
(最高裁)
  本件は、配当手続ではなく、弁済金交付手続と不当利得返還請求権に関するものであるが、Xが執行目的物の上に有する実体法上の権利を害されたことよる損失を認め、弁済金交付手続は剰余金の帰属を実体法上確定することを目的とするものではないとして法律上の原因を否定したもの。 
  民事p13
東京高裁H31.3.27  
  常居所地国であるブラジルへの子の返還が認められた事例
  事案 子Cの父であるBが母であるAに対し、Aによる連れ去りによりBの子Cに対する監護の権利が侵害されたと主張⇒国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(「実施法」)に基づき、子を常居所地国であるブラジルに返還することを求めた。 
  争点 ①子の常居所地国
②いわゆる連れ去りの同意又は承諾の返還拒否事由の有無(実施法28条1項3号)
③いわゆる重大な危険の返還拒否事由の有無(同項4号) 
  判断・解説   ●常居所地国(争点①) 
  原決定・本決定:
「常居所」とは、人が常時居住する場所で、単なる居所とは異なり、相当長期間にわたって居住する場所をいう。
その認定に際しては、居住年数、居住目的、居住常況等子の生活実態に関する諸般の事情を総合的に考慮して、個別的に判断するのが相当。 
①子Cが日本に入国するまで1年8か月にわたってブラジルにおいて居住していた
②ブラジルを出国するまで1年以上にわたってブラジルの保育園に通園して家庭以外の社会と交流を持っていた
③ブラジル国民に付与される個人識別番号(総合登録番号)やブラジル旅券を取得するなどブラジル国民として生活する上で必要の各種の手続をとっていた
④Aはブラジルにおいて一時期仕事をしており、一定期間ブラジルに定住する意図を有していたことが窺われる

子Cの常居所地はブラジル。
依田論文:
状居地国の認定について、
「個別性が強く、定型的な判断に馴染まない面がある⇒常居所地国の認定基準を定式化することは難しい」
but
多くの決定例では、居住期間、居住目的、居住に至った経緯、居住状況等の諸要素が総合的に考慮され、事案に応じて個別的な判断がなされている。 
  ●連れ去りの同意又は承諾の有無(争点②)
  原決定・本決定:
実施法28条1項3号に規定する子の連れ去りの同意又は承諾とは、子が相当長期間にわたって日本に居住し続けることについて同意又は承諾を指し、子の返還を求める権利を放棄したと評価できる程度のものであることを要する。 
Bが旅券発行の申請手続に協力した事実について包括的に同意したと認めることはできず、子Cの返還請求権を放棄したと評価することはできない。
  依田論文:
実施法28条1項3号の返還拒否事由が認められるためには、「LBPにおいて、子が一時的に日本に滞在するにとどまらず、その後も日本に相当長期間にわたって居住し続けることまで同意又は承認し、もはや子の返還を求める権利を放棄したといえることが必要であるとする例が多い」 
  ●重大な危険(争点③) 
Aは、Bがブラジルにおいて昼間から酒を飲んだり、大麻を使用したりしており、子Cがブラジルに返還された場合、子Cがブラジルに返還された場合、子Cが大麻に触れたり、Bが子Cの面前で暴言を繰り返すなどして子Cの面前で暴言を繰り返すなどして子Cの心身に害悪が生じる重大な危険があると主張。 
原決定・本決定:
Bには従前から飲酒や薬物使用の問題があり、それが双方の間に懸念となっていたことや、Bがこれまでそれらの問題を改善できずにいることを認定しつつ、
Bの飲酒や薬物使用により子Cの監護んいおて具体的な危険が生じたことを認めるに足りる資料はない

子Cをブラジルに返還することにより、Bの飲酒や薬物使用に係る問題で子Cの心身に害悪を及ぼすことその他子Cを耐え難い状況に置くことになる重大な危険があるとは認めることはできない。
  重大な危険は、子の返還申立事件においてしばしば主張される返還事由。 
本件では、Aは、Bの飲酒や薬物使用の問題を指摘
but
実施法28条1項4号の返還拒否事由は、LBPとTPのいずれが監護権者として適格であるかを問題とするものではない
⇒仮にLBPに子の監護者として不適格な事情があったとしても、それによって子の監護に具体的な危険が生じていない以上は、返還拒否事由に該当すると認めることは困難。
  民事p20
大阪高裁R1.5.30  
  自動車保険契約における酒気帯び免責条項の解釈
  事案 損害保険会社であるX(被控訴人)が、Y(控訴人)との間で締結したYを被保険者とする個人総合自動車保険契約(「本件契約」)に基づき、Yが当事者となった交通事故について、Yに保険金を支払った⇒本件事故はYが酒気帯び運転をしていた際に発生したものであり、保険約款上の免責事由に該当⇒Yに対し、不当利得返還請求権に基づき、既払の保険金相当額の返還等を求め(本訴)、他方、Yが、Xに対し、本件契約に基づき、本件契約に基づき、本件事故によってYに生じた人的損害に係る人身傷害保険金のうち未払分等の支払を求めた(反訴)。
本件契約には、人身傷害保険契約のほか、車両保険契約、運搬・搬送費用特約が含まれているところ、本件契約に適用される普通保険約款・特約には、被保険者が道交法65条(酒気帯び運転等の禁止)1項に定める「酒気帯び運転またはこれに相当する状態」で被保険自動車を運転している場合に生じた損害に対しては、保険金を支払わない旨の定め。
  判断 酒気帯び免責条項の適用を認めて、Xの本訴請求を認容し、Yの反訴請求を棄却した原審を維持。 
  解説 酒気帯び免責条項が引用する道交法65条1項にいう「酒気を帯びて」とは、およそ社会通念上酒気を帯びているといわれている状態をいうものであって、身体にその者が通常保有する程度以上にアルコールを保有していることが外観上(顔色、呼気等)認知できる状態にあることをいい、酒に酔った状態であることや、運転への影響が外観上認知できることは必要とされていない。 
酒気帯び免責条項の解釈:
A:道交法65条1項と同様の酒気を帯びた状態での運転中の事故についての免責を定めたものであり、事故発生との因果関係も問わないという状態免責(字義どおりに解釈する厳格説)
B:何らかの制限的解釈をする制限説
本判決:
酒気帯び運転が許されないということは社会全般の共通認識であって公序を形成しており、酒気帯び免責条項は、この点を踏まえて定められたものと推認される⇒酒気帯び免責条項の解釈について厳格説の見解。
but
酒気帯び免責条項を適用する場合には、被保険者は交通事故による損失を一切填補されないこととなる
⇒酒気帯び運転をしたことについて、社会通念上当該運転者の責めに帰すことができない事由があるなどの特段の事情がある場合には、酒気帯び免責条項は適用されない。
  民事p28
東京地裁H31.3.28  
  レーシック手術と医療過誤・説明義務違反(否定)
  事案 レーシック手術ないしレーゼック手術を受けた患者Xらから、受診した眼科病院を開設していた医療法人Y1、同法人の理事長であるY2、治療に当たった医師Y3ないしY5に対して医療ミス、説明義務違反があった等⇒損害賠償請求。 
  説明 レーシック手術:エキシマレーザーを用いた屈折矯正手術の1つであり、角膜実質層を含む角膜表面近くを薄く切って蓋状のフラップを作成し、フラップを開けて、角膜実質にエキシマレーザーを照射して、角膜の形状を変化させることで、屈折を矯正し、網膜に焦点が合うように調整する手術。
角膜上皮のみをフラップとする手術をレーゼック手術という。 
  主張 Xらは、
①Yらには屈折矯正量が10Dを超えるレーシック等を行った過失
②Xらのインフォームド・コンセントなく屈折矯正率が6Dを超えるレーシック等を行った過失
があり、
③術後の合併症等についての説明を怠った等の過失がある。
  判断  ●主張①について 
①平成21年とその前の平成16年の日本眼科学会のガイドラインでは、エキシマレーザーによる屈折矯正手術につき10Dを限度と定めている。
but
その医学的根拠が必ずしも明らかではなく、
②10Dを限度とする合理的理由と考えられる角膜拡張症の防止について、本件眼科の医師らにはその発生を防止する措置が講ぜられており、
③コントラスト感度の低下を考慮して平成21年ガイドライン等が作成されたとするまで認めるに足りる証拠はない
④大学病院においても10Dを超えるレーシック手術をしており、米国では10Dを超えるレーシック手術が承認されている

Yらに10Dを超えるレーシック等を行ってはならない義務はない。
  ●主張②③について 
①平成21年ガイドライン等には、屈折矯正量が6Dを超えるレーシック等は、日常生活にとって極めて重要なコントラスト感度の有意な低下をもたらすと記載されているわけではない
②6Dを超えるとコントラスト感度が低下したことが認められ症例があることが記載された文献が存在するが、これから直ちに6Dを超えるとコントラスト感度が有意に低下すると説明する義務があるとまでは認められない

YらにはXらに説明する義務があるとまでは認められない。
その余の説明義務違反も否定。
  民事p44
福岡地裁R1.9.26  
  名誉毀損否定、名誉感情侵害肯定の事案。
  事案 Xは、C公立大学(福岡女子大学)に入学願書を提出⇒Xが男子であることを理由にXの出願を不受理に⇒本件不受理処分が憲法14条に違反する等と主張し、本件不受理処分の無効確認や損害賠償金支払等を求める訴訟(別件訴訟)を提起。
Y1(新潮社)は、Y2が編集・発行人を務める週刊誌に、「女子大に入りたい男」との表題で、Xによる別件訴訟について、「バカじゃないかしら。」「平等バカ」「そんなに小遣いが欲しいなら歌舞伎役者みたいに体を売ればいいじゃない。」等とする本件記事を掲載。
Xは、Y1及びY2に対し、本件記事が名誉毀損・名誉感情侵害に当たると主張⇒不法行為に基づき、損害賠償金220万円及び遅延損害金を請求。
  争点 ①名誉毀損について、同定可能性の存否、事実摘示及び社会的評価の低下の有無、違法性阻却事由の有無等
②名誉感情侵害について、同定可能性の要否及び存否、社会通念上許容される限度を超える侮辱行為の有無等 
  判断  ●名誉毀損について
①公立の教育機関において男女別学を維持することの是非など、社会的な関心が高く議論がある事柄⇒多様な意見が述べられることが当然に予定されており、記事の対象となる者の主張に対して批判的な意見や論評が述べられた場合であっても、そのことから直ちに、同人の当該主張が誤りであることが導かれるわけではなく、その社会的評価が低下するものとはいえない。
②本件記事は別件訴訟提起に対する批判の理論的な根拠等を示しておらず、読者は当該批判を(執筆者の)主観的なものと受け取るにすぎない。

社会的評価の低下を否定。
  ●名誉感情侵害について
①名誉感情侵害において、一般の読者を基準とした同定可能性は不法行為成立の要件ではなく、社会通念上許容される限度を超える侮辱行為か否かの考慮要素に過ぎない。
②本件記事の一部は、別件訴訟を提起することにより教育分野における逆差別を議論の俎上に載せようとしたXの意向を殊更に無視し、Xが到底受け入れられない提案(売春)をあえてすることによってXを攻撃するものであり、本件雑誌の社会的影響力や本件では同定可能性が肯定されること等⇒社会通念上許容される限度を超える侮辱行為に当たる⇒不法行為の成立を認め、55万円および遅延損害金の限度で請求を一部認容。
  解説 本判決:名誉感情侵害(侮辱)において、一般の読者における対象者の同定可能性が不法行為成立の要件ではない旨判示。
社会通念上許容される限度を超える侮辱行為によって名誉感情侵害が成立し得る(最高裁)。
名誉感情侵害は、表現の対象者が自分自身の人格的価値について有する主観的評価(主観的名誉)を保護法益とする⇒対象者が自己に関する表現であると認識できることは必要。
but
主観的評価に関与した一般の読者における同定可能性まで必要とはいえない。
名誉感情侵害は、名誉毀損と異なり公然性は不要であって、対象者のみに対する発言等によっても成立。⇒そもそも名誉毀損で問題となる「一般の読者」が観念できない場合であっても、不法行為は成立し得る。
本判決は、社会通念上許容される限度を超える侮辱行為か否かの検討を通じて一般人の捉え方を取り込むことはなお可能であり、不法行為成立の範囲を合理的に限定することができる⇒要件性を否定。
  民事p53
東京家裁H30.12.11  
  実施法28条1項1号(新たな環境への適応)の返還拒否事由があるとされた事案
  事案 子Cの養父であるとともに、子D、Eの父であるAが、母であるBに対し、Bの採れ去りにより子らに対する監護の権利が侵害された⇒国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づき、子らを常居所地国であるスペインに返還することを求めた。 
  規定 実施法 第二八条(子の返還拒否事由等)
裁判所は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる。

一 子の返還の申立てが当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時から一年を経過した後にされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応していること。

四 常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。

五 子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。
  争点 ①留置の開始時期といわゆる新たな環境への適応の返還拒否事由の有無(実施法28条1項1号)
②いわゆる重大な危険の返還拒否事由の有無(同項4号)
③いわゆる子の異議の返還拒否事由の有無(同項5号) 
  判断 ・解説 本件申立ては留置の開始から1年を経過した後にされたものであり、子らはいずれも新たな環境に適応している⇒Aの申立てを却下。
  ●留置の開始時期 
A主張:Bが子らをスペインに返還しない旨の意思を客観的に示したのは、Aが弁護士会の紛争解決センターに申し立てたADRでの協議が決裂した平成30年8月
本決定:
①Bが帰国予定日であった平成29年9月5日以降、子らをスペインに帰国させることなく日本に滞在させたままの状態に置いている
②Aにおいても、同日の経過を待って、スペインの中央当局に対し、子らの返還に関する援助申請をしており、子らの返還に向けた手続の必要性を認識している

遅くとも同日の経過をもって、Bは子らをスペインに返還しないことを明確に示し、AもBによる子らの留置を明確に認識したというべき
⇒平成29年9月5日に開始。
依田論文:
留置の開始時期については、TPが子を状居所地国に返還しない意思を示したと客観的に判断できる時点で認められる傾向にあり、
子の帰国に関する当事者間の交渉が決裂したため、TPが袋の航空券を失効させ、子を常居所地国に帰国させない旨をLBPにメール等で告知した時点等で留置の開始を認める例が多い。
  ●新環境への適応について 
3人の子のそれぞれにつき、学校や保育園における活動状況や地域社会とのつながりについての詳細な認定⇒新たな環境への適応を認めた。
①子C及び子Dについては、いずれも、来日後、目立った欠席をすることなく日本の小学校に通っており、校内活動においても周囲の児童を積極的に関わることができている
②子Cにおいては、音楽界の指揮者や代表委員になり、子Dについても他の児童をリードして遊ぶなど、集団生活の中で自らの役割を見出し、その役割を積極的に果たそうとしている
③子Eについては、継続的に日本の保育園に通園しており、当初は保育園での生活に慣れない様子も見られたが、現在では自ら話しかけることができるようになり、保育士との関係も良好であることや、日本語による言語能力も問題なく発達
④子らはいずれも、地域で行われる祭りや子供会の活動に参加しており、学校や保育園を越えて地域住民と関わることで、地域社会とのつながりを持つことができている
⑤子C及び子Dは、日本での生活を肯定的に受け止めている、子Eは、言語能力を含め心身共に順調に成長しているとうかがわれている

新環境である日本での生活に適応した。
  解説 金子1問1答国際的な子の連れ去りへの制度的対応:
子が新た環境に適応しているか否かを判断する際の考慮要素として、
「子の就学状況、課外活動への参加状況、子の友人関係といった子を取り巻く周囲の状況、子の心身の状況、子の言語能力といった子自身の生活状況等が考えられる」 
  労働p60
東京高裁H31.2.13  
  有期再雇用契約の成立を否定したが、別件訴訟を提起されたことを主な動機として再雇用契約の拒否・更新拒絶(雇止め)について不法行為が認められた事案
  事案 Y1:タクシー会社
Y2及びY3:Y1の代表取締役の地位にあった者
X1:Y1の従業員で組織される労働組合
X2ないしX13(個人原告ら):X1の組合員でY1との間で雇用契約を締結していた者
①個人原告らが、Y1に対し、Y1が個人原告らとの間で定年後の再雇用契約を締結せず又は更新拒絶(雇止め)をしたことにつき、客観的合理的理由が存在せず無効⇒雇用契約上の地位の確認を求めるとともに、前記地位にあることを前提として、雇用契約に基づく賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める請求
②Xらが、Yらに対し(Y2及びY3については、それぞれが代表取締役であった期間に再雇用拒否又は雇止めされたXらとの関係で)、Y1が、Y1に対して別件訴訟(未払賃金支払請求訴訟)を提起したX1の組合員ら(個人原告らを含む。)に対して同訴訟を取り下げるよう働きかけるなどしたことが不法行為に当たる⇒損害賠償(慰謝料)請求をした。
  判断  ●地位確認請求及び賃金支払請求について 
Y1においては、定年年齢が65歳とされ、定年後の再雇用については1年間の有期雇用契約を締結されていたが、平成26年17日以降はY1とX1との間で労働供給契約が締結され、X1は、Y1の申込みに応じて組合員を供給。
定年後にY1との間で有期雇用契約を締結した個人原告らについては、勤怠、健康状態等について問題がない限り75歳まで契約更新が可能となる限度において有期雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由(労契法19条2号)がある⇒雇止めの時点で75歳未満の者については、従前と同一の労働条件で有期雇用契約が更新されたとみなし(ただし、X3については、個別事情(勤務状況)を考慮すると、Y1において更新拒絶(雇止め)をすることについて客観的に合理的な理由があったものと評価できるとして契約の更新を否定)、雇用契約上の地位確認請求及び賃金支払請求を(一部)認めた。
but
雇止めの時点で75歳以上であった個人原告らについては、前記の合理的期待を認めることができない⇒契約更新を認めなかった。
再雇用契約の締結を拒否された原告ら:
労契法19条を類推適用することはできない。
but
無期雇用契約が定年により終了した場合であっても、労働者からの申込みがあれば、それに応じて有期再雇用契約を締結することが就業規則等で明定され、又は確立した慣行となっていて、かつ、その場合の契約内容が特定されている場合には、労働者において雇用契約の定年による終了後も再雇用契約により雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由がある。

使用者が再雇用契約を締結しない行為が権利濫用に該当し、その場合に、労契法19条、解雇権濫用法理の趣旨ないし信義則に照らして、無期雇用契約が定年により終了した後、前記の特定された契約内容による有期雇用契約が成立するとみる余地はある。
but
本件では、前記のような慣行等があったとまでは認め難く、また、成立するとみなされる契約内容が特定できない。
⇒有期雇用契約の成立を否定。
  ●不法行為に基づく請求 
YらのXら全員に対する不法行為の成立を認めた上、
再雇用契約の締結を拒否された者については、前記のとおり定年到達とともに雇用関係が終了したと言わざるを得ないものの、労働条件はともかく再雇用契約が締結される相当程度の可能性はあったものというべき
⇒Y1の再雇用契約拒否によってこれが侵害されたことについて精神的損害を求めることができる。
⇒請求額通りの100万円の慰謝料を肯定。
  解説 本判決は、
Y1による再雇用拒否又は雇止めの主要な動機が、個人原告らがY1に対して残業代の支払を求めて別件訴訟を提起したことにある⇒これらの行為及びそれを相前後する一連の働きかけが不法行為に該当。
この事情は、地位確認請求及び賃金支払請求に関して、Y1に個人原告らとの雇用契約の更新拒絶(雇止め)をする「客観的に合理的な理由」(労契法19条)があるか否かの判断に当たっても重視されている。 
   刑事p98
東京高裁R1.7.29
  軽微な非行事実については第1種少年院送致とされた事案
  事案 少年(当時18歳)が、仮眠中の交際相手の女性に対し、首をつかんで無理矢理起こし、あごを手でつかむ暴行を加えた。 
  原決定 本件非行につき、その態度自体から、相手に配慮することなく暴力を用いてまで自分の要求を押し通そうとする自己本位な態度がうかがわれる。
①少年が同種非行により保護観察処分を受けた後も母親に対する暴力的な言動が絶えなかったこと、
②少年は、母親は交際相手など親密な相手に対しては、一方的に依存して自己の過大な期待を押し付け、それがかなわないとなると、一転して暴力的な言動に出るという傾向が顕著であるという資質上の問題があり、その問題性は前件後に高まっている、
③母親が家を出た後、保護観察所や福祉担当者が少年に対する指導を行ったのに、少年が指導を受け入れる姿勢を見せなかったこと

少年の要保護性は極めて高い
⇒少年を第1種少年院に送致。
  決定 原決定の判断は相当。 
  解説 非行事実の軽重と要保護性との関係:
大半の事件では非行事実の軽重と要保護性の程度は対応・相関する。
A:非行事実が軽微な場合には、要保護性が高いことのみを理由に少年院送致のような重大な自由な制約を伴う保護処分を言い渡すことはできない。
B:刑罰における罪刑均衡と同様な意味での非行事実と保護処分の均衡は要求されない。
←少年保護手続の目的
いずれの見解でも、
非行事実の軽重は、単に行動と結果だけではなく、非行に至る経緯や動機、常習性、組織性、計画性等の事情も加味して判断される

一見すると、非行事実は警備であるのに収容保護など重い処分を決定したとみられる裁判例についても、非行事実の行為と結果だけをみれば軽微といえなくはないものの、比較的近い時期に同種の非行歴、保護観察処分があるなど、背景事情も含めて検討した場合、軽微な非行と評価するのは相当でない事案が多いとの指摘。
本件:
比較的近い時期になされた同種非行について保護観察処分を受けてから本件非行に至るまでの少年の行動など、原決定や本決定で検討されている事情は、常習性の有無など本件非行事実の軽重や少年の要保護性の態度を判断する上で重要な事情。
2443    
  行政p3
福岡高裁那覇支部R1.10.23   
  公有水面埋立法42条1項に基づく埋立ての承認取消処分と「固有の資格」
  事案 沖縄防衛局は、沖縄県宜野湾市所在の普天間飛行場の代替施設を同県名護市辺野古沿岸に建設するための公有水面の埋立てについて、当時の県知事Aから公有水面埋立法(公水法)42条1項の承認を受けていたが(本件承認処分)、本件承認処分は前県知事Bの死亡に伴う知事職務代行者であるC副知事からの委任を受けたD副知事の名義で取り消された(本件承認取消処分)。

沖縄防衛局が、行審法2条、地自法255条の2第1項1号に基づき、公水法を所管するY(国土交通大臣)に対し審査請求(本件審査請求)⇒Yは本件承認取消処分を取り消す旨の裁決(本件裁決)。 
X(沖縄県知事)は、本件裁決が違法な「国の関与」に当たる⇒地自法250条の13第1項に基づき、国地方係争処理委員会に対し審査の申出⇒同委員会は、本件裁決が「国の関与」に当たらず、同委員会の審査の対象にならないとして、同申出を却下する旨の決定。

Xは、前記決定に不服があるとして、地自法251条の5第1項に基づき、Yを相手に本件裁決の取消しを求めて本件訴えを提起。 
  争点 地自法251条の5第1項の訴えの対象は「国の関与」とされているところ、地自法245条は、「国の関与」について、国の行政機関が一定の行政目的を実現するため普通地方公共団体に対して具体的かつ個別的に関わる行為などと定めつつ、そこから「審査請求その他の不服申立てに対する裁決、決定その他の行為」を除外する(同条3号)。
行審法に基づく裁決は前記「裁決」に当たる⇒本件裁決が「国の関与」といえるかが問題となる。
  主張 本件裁決には、
(1)本件承認取消処分が、沖縄防衛局がその「固有の資格」において相手方となり、行審法が適用されない処分であるにもかかわらず(行審法7条2項)、これを対象としてされたという違法
(2)本件承認取消処分に係る「処分庁」(行審法4条)はD副知事であり、本件承認取消処分は「都道府県知事の処分」(地自法255条の2第1項1号)に当たらず、Yが審査庁になり得ないにもかかわらず、Yによってされたという違法
(3)Yによりその権限等を著しく濫用して裁決されたという違法
がある
⇒本件裁決は、これらの違法を理由に前記「裁決」に当たらず、「国の関与」に含まれる。 
  判断  本件裁決が「国の関与」に当たるとはいえない⇒却下 
  ●(1)について 
国の機関がその「固有の資格」において相手方となり、行審法の適用がない処分について審査請求がされ、同じく国の機関である審査庁の裁決により当該処分の取消が命じられた場合、裁決の形式が採られていたても、実質的には裁決以外の方法による「国の関与」が行われたと同視でき「裁決」に当たらない。
but
埋立ての承認は国の機関がその「固有の資格」において相手方となる処分ではない。
この点は埋立承認を取り消す処分(本件承認取消処分)も同様。
  ●(2)について 
審査請求時にはその委任(副知事への委任)が終了し、Xがその権限を有し、D副知事の「処分庁」としての立場も承継⇒本件承認取消処分は法定受託事務に関する「都道府県知事の処分」に当たり、公水法の所管大臣であるYが審査請求すべき行政庁となる(地自法255条の2第1項1号)
  解説  ●「固有の資格」に関する判断について 
◎  行審法7条2項は、国の機関等に対する処分で、当該機関等に対する処分で、当該機関等がその「固有の資格」において相手方となるものには、行審法の規定は適用しないとする。
この「固有の資格」は、一般人では立ち得ず、国の機関等であるからこそ立ち得る特有の立場などと定義。
一般には、処分の名宛人が国の機関等に限定されている場合や、名宛人が限定されていなくても国の機関等が事業等の原則的な担い手として想定⇒「固有の資格」で受ける処分とされている。
but
形式的には国の機関等のみ異なる取扱いがされているとしても、それが単に規制の特例にすぎず、国の機関等が実質的に私人と同様の立場に立つと解される場合⇒「固有の資格」で受けるものではない。
  本判決:
埋立の承認は、国の機関のみを名宛人とするものの、一般私人を名宛人とする埋立の免許とその性質・効果や要件が共通⇒これと本質的に異なるものではなく、「固有の資格」において相手方となるものではない。 
両処分には、処分後の埋立ての監督や所有権成立の手続に関する相違があるが、「固有の資格」性は特定の処分につき行審法の救済を認めるか否かに関する基準であり、処分自体の性質・効果を中心に判断されるべき⇒処分後の手続に関する前記相違は「固有の資格」該当性に関する判断を左右するものではない。
  ●「処分庁」に関する判断 
行審法に基づく審査請求:
一定の場合を除き、「処分庁」(処分をした行政庁)の最上級行政庁に対してするとされているが(行審法4条4号)、
これに対する特例として、法定受託事務に係る「都道府県知事の処分」等を対象とする場合は、当該処分に係る事務を規定する法律等の所管大臣に対してするとされている(地自法255条の2第1項1号)。
本件審査請求時には、処分をした行政庁の処分権限が消滅し、県知事がその権限を有してた⇒そのような場合において「処分庁」及び「都道府県知事の処分」をいかに解するかが問題。
本判決:
行審法46条1項及び52条2項などの規定⇒行審法は行政不服審査手続において「処分庁」が現に当該処分異関する権限を有していることを想定している。
処分をした行政庁の処分権限が審査請求時までに消滅等⇒現に処分権限を有する行政庁が「処分庁」としての立場を承継していると判断。
  民事p16
東京高裁R1.8.19  
  取り決められた養育費の額が住宅ローンの支払に関する合意と不可分一体のものとなっている場合の、養育費の減額請求の事案
  事案 未成年者ら3名の父であるXが母であるYに対し、平成28年の離婚時に作成された離婚給付等契約公正証書によりXがYに支払うべきものとされた未成年者らの養育費の額(1人につき月額5万円)を1人につき月額3万円に変更することを求める申立てをした事案。 
本件公正証書には:
①養育費の支払いに関する条項に加えて、
②Xは、Yに対し、Yは未成年者が暮らす住宅の住宅ローン月額10万円を完済まで支払うことを約する条項や、
③Xが同ローンを支払っている場合には、その支払額を養育費から差し引く条項(「本件差引条項」)等
が存在。
  原審 公正証書作成後の事情変更を認める。

本件差引条項等について:
養育費とは別に、住宅ローンの支払と養育費の支払いを清算する方法を定めたもの⇒その清算の在り方について当事者が別途合意した内容に変更を加えることは相当でない⇒標準算定方式に基づき前記養育費の額を未成年者1人につき月額2万6000円に変更する旨の審判。 
  判断 第一審審判を取り消し、Xの申立てを却下。 
本件公正証書は、Yが主張するとおり、単に養育費の額を定めるにとどまらず、離婚に伴う様々な事項に関する取り決めをした複雑なものであるし、そもそも、前記養育費の額は、原審判が採用している標準算定方式に基づき定められているわけではない。
未成年者らの養育費を月額5万円ずつ(3人分合計で月額15万円)と定める条項と本件差引条項は不可分一体のものとなっていると解するのが相当。

本件公正証書による合意の真の意味は、未成年者らの養育監護に使用される実際の養育費としては、住宅ローン月額10万円相当額を除いた、月額5万円を抗告人に支払うことを約するものと解するのが相当。

不可分一体というべき前記各条項につき、住宅ローンの支払に関する条項については、本来、家事審判事項とはいえず、本件において変更することは許されない。
養育費の月額のみを一方的に変更することは不当な結果を導くことになり、相当でない。
本件公正証書において合意された実際の養育費は、未成年者3名で合計月額5万円であったと解した場合でも、Xの主張する事情の変更を前提にして標準最低方式に基づき試算した養育費の額は、未成年者3名で合計月額7万8000円⇒養育費の減額が認められる余地はない。

本件においては、本件公正証書において定められた養育費の額を変更し、減額するに足りる事情を認めることはできない。
  解説 養育費:いったん合意や審判等でその額が定められた場合であっても、従前の婚姻費用の合意額を維持することが不相当と評価すべき事情の変更⇒その変更が認められる。

変更事案の場合にも、専ら標準算定方式による試算額によって新たな養育費の額が決せられるものではなく、従前の養育費額が決められた際の経緯等の関係諸事情を総合勘案した上で、最終的に適切な額が決定されるのが通常。⇒
本件のように、当初から標準算定方式に基づくものではなく、様々な思惑の下で、複雑な取決めがされているような場合には、慎重な検討が必要。 
  民事p20
東京高裁H30.5.18  
  実施法28条1項3号(留置についての同意又は承諾)及び同項4号(重大な危険)の各返還拒否事由が肯定された事案
  事案  子Cの父であるAが母であるBに対し、Bによる留置により子Cに対する監護の権利が侵害された⇒国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(実施法)に基づき、子Cを常居所地国であるシンガポールに返還することを求めた。 
Aは、B及び子Cとともに日本に滞在中、ホテルの一室で、Bの顔面等を殴り、Bに全治2週間を要する両眼球打撲傷等の傷害

AとBとの間で示談書。
①AとBが別居すること
②Bと子Cが日本に居住し、Bが子Cを監護養育する
③夫婦の在り方については代理人を通じて協議する
その後、Aは、Bと子Cを日本に残して常居所地国であるシンガポールに帰国。
  争点 ①留置の同意の返還拒否事由の有無(実施法28条1項3号)
②いわゆる重大な危険の返還拒否事由の有無(実施法28条1項4号) 
  争点① 原決定・本決定:
①本件示談書上、別居期間やBと子Cが日本に居住することにつき期限は特段定められていない
②婚姻費用は当事者双方の収入資料に基づき日本法に従って定めることとされており、Bが相当期間日本に居住することを前提としている
③本件示談の成立後、当事者双方の夫婦関係の在り方については協議を開始する旨定められているのに対し、今後の協議事項に子Cの監護については本件示談により解決をみたものとみるのが相当
④本件示談成立後も、Aは、子Cがシンガポールで通っていた幼稚園の退園手続をしたり、日用品を日本に送ったりしている⇒A自身、子Cが日本に相当程度の期間居住することを前提とする行為をとっている

本件示談において、子Cの監護について一時的、暫定的な取り決めをしたものということはできず、本件示談の成立により、Aは子CがBとともに日本に居住することを同意したものと判断。 
依田「ハーグ条約実施法に基づく子の返還申立事件の終局決定令の傾向について」家庭の方と裁判12.27:
実施法28条1項3号の返還拒否事由が認められるためには、
「LBP(Left Behind Parent)において、子が一時的に日本に滞在するにとどまらず、その後も日本に相当長期間にわたって居住し続けることまで同意又は承認し、もはや子の返還を求める権利を放棄したといえることが必要であるとする例が多い」 
本件:
示談書の内容及びその後の当事者の行動に照らし、当該合意が暫定的・一時的なものではないことを認定した上で実施法28条1項3号の返還拒否事由の存在を認めたもの。
  争点②  原決定・本決定:
婚姻期間中にAがBに対し傷害を伴うような暴行をしていたとは認められない。
but
①本件傷害事件が子Cの面前で行われていること
②暴行の態様もBの顔面を複数回にわたり拳で殴打するんど危険で悪質な態様
③経緯につきBに落ち度はなく、日常的によく見られる些細な出来事をきっかけとするもの

Bが子Cとともにシンガポールに入国した場合、子Cに心理的な外傷を与えることとなる暴力等をAから受けるおそれがある。 
原決定:
シンガポールにおける配偶者に対する暴力の支援等の枠組みが明らかでない⇒Bは子CがAと少なからず接触する機会がある

本決定:
仮に支援等の枠組みが整っていたとしても、Bが子CがAからの経済的な支援等を受けるに当たってAと接触する蓋然性が存する
  重大な危険の例外は、子の返還申立事件においてしばしば主張される返還拒否事由。
依田論文:
重大な危険の例外の適用に当たっては、LBPによる暴力等のおそれの有無が重要な要素の1つであり、そして、LBPによる暴力等があったといえるには、一定の強度の暴力等が継続的又は恒常的に行われていたことが必要とされる傾向にある。
本件:
Aが常居所地国において日常的にBに対し暴行をしていたとは認められない事案ではあるが、
①Aが子の面前で暴行に及んだという事実や
②それによってBに生じた傷害結果が明白であるという特殊性

原決定及び本決定は、いずれも、暴行行為の態様の悪質性や結果の重大性を重視し、実施法28条1項4号の返還拒否事由の存在を認めた。
  民事p27
大阪高裁H31.4.12  
  低血糖⇒胃出血⇒出血性ショック⇒低酸素性虚血性脳症⇒脳性麻痺の事実的因果関係を肯定し、医療過誤での因果関係が肯定された事案。
  事案 Xは、医療法人の運営する産婦人科医院において自然分娩で出生し、入院。 
Xの主張:
①Yの代表であり本件医院の担当医であったP3(担当医)がXの血糖値を測定する注意義務を怠り、Xが低血糖であることを看過⇒Xが低血糖に起因する胃出血により出血性ショックに陥り前記後遺症が残った。
②担当医がXを迅速に新生児集中治療室に搬送すべき注意義務を怠ったために前記後遺症が残った

主位的に不法行為、予備的に債務不履行に基づき損害賠償を求めた。

因果関係について、
①Xは本件医院入院中から低血糖であった、
②低血糖に起因して急性胃粘膜病変(AGML)が生じ、大量の吐血をし、
③出血性ショックに陥り、
④循環動態が悪化して低酸素性虚血性脳症を発症し、脳症麻痺の後遺障害が残った
  原審 担当医にxの血糖値測定義務があった
but
因果関係は、②以下を認めず、義務違反とXの後遺障害との間の因果関係を認めるに足りないとした。
また、転院義務も否定。
  判断   担当医の義務違反とXの後遺障害との間に因果関係を認め、原判決を変更しXの請求を一部認容。
  ●低血糖であった時期 
①IUGR児には低血糖症が高頻度に認められる
②B病院で低血糖に対する治療を受けても容易には回復しておらず、出血性ショックによる一時的なものではない
③ショックによって血糖値が低下する証拠はない

Xは本件医院に入院しているときから低血糖状態であった。
Xの本件医院入院時における血糖値を推知する根拠となるデータは必ずしも十分なものがあるとはいえない。
but
それは血糖値を測定しなかったという医師の注意義務の懈怠により生じたもの⇒血糖値の推移の不明確を当の医師にではなく患者の不利益に帰することは条理にも反する。
  ●胃出血の原因 
①Xは、B病院入院時、胃破裂を疑わせるほどの胃出血を起こして、出血性ショックに陥っている
②本件医院において低血糖状態であったのであり、低血糖はAGMLの1つの原因
⇒Xの低血糖は胃出血の発生の原因であった。
  ●分娩のストレスによるAGML発症の可能性
正常な分娩もAGMLの原因であるストレスとなり得る
but
出生直後の状態に異常がない
⇒出生後72時間以上経過していたXについて、分娩自体のストレスがAGMLの主たるストレスになったとは考えにくい。
Xは過長臍帯で、消化管その他の臓器の発達が未熟であった可能性があり胃のストレス耐性が低かったことが胃出血の原因となった可能性も否定できない。
but
Xに対しては、過長臍帯でIUGR児であったから臓器の発育が未熟である可能性を前提に治療に当たるべきであったのに血糖値測定などが行われていなかった⇒因果関係の判断に当たり前記可能性を重視することは相当でない。
  ●出血性ショックの発症 
①B病院の医師は一貫して出血性ショックと診断してた
②小児は血液量が体重の19分の1と少なく、少ない出血量でもショックを起こし、新生児では30mlの出血でも生命に関わることがあるとされており赤血球の輸血がされなかったことから出血性ショックを否定することはできない。
  ●高カリウム血症 
①高カリウム血症の原因の1つとして消化管出血が挙げられる
②カリウム値は時間の経過とそもに低下しており一時的なものと考えられる

高カリウム値は出血性ショックを原因とするものとみられる。
Y提出の医師の意見書は、消化管出血では致死的不整脈が起こりえるところまで上昇しにくいとする。
but
可能性を否定する趣旨とは解されない⇒前記判断を覆すに足りない。
  ●まとめ 
Xの脳の虚血性障害は、胃出血による出血性ショックのために循環動態が不安定になったことが原因。

Xは、本件医院において低血糖状態であり、それがストレスとなりAGMLを発症し、出血性ショックに陥り、循環動態が不安定になり、低酸素性虚血性脳症を発症。
これに加え、B病院で孔脳症の原因として低血糖による中枢神経障害が指摘。
低血糖の存在が神経障害の程度を高めた可能性があるとのX提出の医師の意見書における指摘

担当医の血糖値測定義務違反とXの後遺症との間には因果関係がある。
  解説  民事訴訟における訴訟上の因果関係の証明の意義:
最高裁昭和50.10.24:
訴訟上の因果関係の立証は、一転の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑い差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りる」 

因果関係は、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明すること。
  因果関係認定の考慮要素:
①医療行為の不手際の存在
②医療行為と結果との時間的関係
③同種の医療行為によって同種の結果が発生する可能性の一般的・統計的統計
④医療行為の量・内容と結果発生率との関係
⑤医療行為と生体反応の生物学的関連(診療行為から結果発生に至る作用機序についての説明の可否)
⑥患者の特異体質
⑦他原因の介入の有無・程度
⑧ 不可抗力(結果回避の可能性の有無)
を挙げる見解(遠藤先生)
vs.
①加害行為
⑧過失評価にかかわる事項
②ないし⑦:
因果の流れ自体を意味するものではなく、主要事実とみることは相当ではない
but
患者側の主張する事実的因果関係における因果の流れを証明するための経験則とみることができ、因果を構成する個別事実を推認するための間接事実であるとし、
因果関係認定にプラスに左右するものは、
③(同種の医療行為によって同種の結果が発生する可能性の一般的・統計的統計)
⑤(医療行為と生体反応の生物学的関連(診療行為から結果発生に至る作用機序についての説明の可否))
であり、
④(医療行為の量・内容と結果発生率との関係)
がそれを支えるものと論評する見解。
不作為との結果の因果関係の判断は、「仮に作為義務に従った治療がなされていれば」という仮定的な判断であり、実際には生じなかった事実経過を推定するもの⇒判断の対象が評価的、観念的、価値的にならざるを得ず、その判断に困難を伴うことが多い。
  民事p50
大阪高裁R1.8.21  
  被相続人の遺言に基づき、長男を推定相続人から廃除(肯定)
  事案 被相続人の遺言執行者であるAが、被相続人の遺言に基づき、被相続人の長男Bを推定相続人から廃除することを求めた事案。 
  規定 民法 第八九二条(推定相続人の廃除)
 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる
  原審 被相続人の言動が暴行を誘発した可能性⇒Bから相続権を剥奪するのが社会通念上相当であると認めることはできない⇒推定相続人廃除の申立てを却下。 
  判断 暴行の経緯に関するBの陳述の信用性を否定。 
たとえ被相続人の言動にBが立腹するような事情があるとしても、60歳を優に超えた被相続人に対する暴力は許されるものではなく、しかも、平成22年4月の暴行は、被相続人に全治3週間を要する左側肋骨骨折や左外傷性気胸の傷害を負わせ、入院治療を要するなど結果も重大で、一連の暴行は厳しい非難に値する

原審判を取り消し、Bを推定相続人から廃除。
  解説   推定相続人の廃除の根拠:
推定相続人に相続的協同関係ないし親族的信頼関係を破壊した行為があった
そのような評価がされるためには、被相続人が主観的にその関係を破壊されたと判断したのみでは足りず、
客観的にみても、その関係が破壊されたと認定されることが必要。
推定相続人の排除に対する判例の基本的態度は慎重であるといわれ、
老齢の親の左腕にかみついて負傷させたり、突き飛ばしたことがあったとしても、推定相続人の一時の激情による場合などは、廃除すべき事由があるとはいえない(最高裁)し、
被相続人に挑発的態度がなかったかどうかという点も考慮。
被相続人が遺言で推定相続人の廃除を求めた場合、遺言執行者が家庭裁判所に推定相続人の廃除を請求するのは被相続人の死亡後(民法893条)
⇒当該推定相続人を廃除すべき具体的な事実を認定するだけの資料を収拾することが困難な場合も多い。
  被相続人に対する虐待や侮辱を理由として、廃除を認めた裁判例:

・被相続人が末期がんで自宅療養中であったのに、療養に極めて不適切な環境を作出したり、死んでも構わないなどと述べたことが虐待に当たるとした裁判例。

・被相続人に対して継続的に暴力を加えたほか、精神障害ないし人格異常があるとの主張を繰り返したり、被相続人に無断で3500万円を超える貯金を払い戻したことが虐待、重大な侮辱及び著しい非行に当たるとした裁判例。

・被相続人に対して湯の入ったやかんを投げつけたり、「早く死ね。80まで生きれば十分だ」などと罵倒したことなどが、重大な侮辱に当たるとした裁判例。 
  民事p53
大阪高裁R1.8.21  
  婚姻後約9年間同居し、婚姻から約44年後離婚⇒年金分割の按分割合を0.5とされた事例
  事案 抗告人(原審申立人)と相手方(原審相手方)が、昭和49年に婚姻後約9年間同居した後別居し、婚姻から約44年後に離婚⇒抗告人が年金分割を求めた。 
  原審 婚姻期間に比して同居期間が短く、年金の保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような特別の事情がある⇒按分割合を0.35とする審判。
  判断 夫婦の扶助義務は別居した場合も基本的に異ならず、老後のための所得保障についても同等に形成されるべき⇒本件では特別の事情があるとはいえない⇒按分割合を0.5とするのが相当。
  解説 年金分割は、被用者年金が夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的機能を有する制度⇒対象期間中の保険料納付に対する寄与の程度は、特別の事情がない限り、互いに同等とみて、年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるのが相当。
その趣旨は、夫婦の一方が被扶養配偶者である場合についても厚年法78条の13(いわゆる3号分割)に現れているのであって、そうでない場合であっても、基本的には変わるものではないと解すべき。
前記特例の事情については、保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情がある場合に限られる。
(大阪高裁H21.9.4) 
前記按分割合については、離婚後の審判では、0.5としたものがほとんどであるとの指摘があるが、0.5より低い割合としたものも散見される。
前記「特別の事情」をどのように捉えるかが判断の分かれ目となるが、
どのような事情があれば、前記「特別の事情」があるかについては、一律の基準があるわけではない。
  民事p55
東京地裁R1.10.2  
  夫婦別姓訴訟
  事案 婚姻後の夫婦の氏として、夫婦それぞれの氏を称する旨を記載した婚姻届を提出⇒ 民法750条及び戸籍法74条1号を根拠に不受理

Xらが、本件各規定が憲法14条1項、24条、女子差別撤廃条約及び人権B規約(自由権規約)に違反するものであり、正当な理由なくその改廃等を怠っている立法不作為は国賠法1条1項の適用上違法の評価を受ける⇒Y(国)に対し、慰謝料各50万円の支払をもとめた。
  規定 民法 第750条(夫婦の氏)
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
  判断 ●憲法14条1項及び24条との関係 
民法750条の規定は、婚姻の効力の1つを定めたものであり、 婚姻をすることについての直接の制約を定めたものではなく、また、同規定は、すべての者に対して一律に、夫婦の氏の選択について、夫婦の協議に委ねるという均等の取扱いをしており、夫婦同氏を希望する者と夫婦別氏を希望する者との間でその信条の違いに着目した法的な差別的取り扱いを定めているものではない
⇒憲法14条1項に違反しない。
民法750条の採用した夫婦同氏制が、直ちに個人の尊厳と同性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認めることはできない⇒国会の立法裁量の範囲を超えるものと見ざるを得ないような場合には該当せず、本件各規定は憲法24条に違反しない。
最高裁H27.12.16が示した民法750条の憲法14条1項適合性及び憲法24条適合性に関する憲法判断は、公正・平等の原理、法的安定性の観点から、後に同種の事案を取り扱う裁判所に対する先例としての拘束性をもつ。
・・・これらの変化は、平成27年最大判の当時と比較して判例変更を正当化しうるほどの変化とまでは認められない⇒平成27年最大判の正当性を失わせるほどの事情変更があったとは認められない。
  ●女子差別撤廃条約違反との関係 
我が国において、ある条約の規定が、その名様を具体化するための国内法上の措置を執ることなく、個々の国民に権利を保障するものとして、直接に適用されて裁判規範性を有するためには、
主観的要件として、条約の内容をその公布により個々の国民の権利義務を直接に定めるものとするという締約国の意思が確認できること(要件①)、
客観的要件として、条約の規定において個々の国民の権利義務が明確かつ完全に定められていて、その内容を補完し、具体化する法令を待つまでもない内容となっていること(要件②)
が必要。
女子差別撤廃条約の文言及び同条約の発効の経過における国会答弁の内容⇒要件①を満たさない。
同条約定の規定により保障される権利の具体的内容は一義的に明確ではない上、同条項の執行に必要な機関や手続の定めを欠く⇒要件②を満たさない。

Xら主張の各権利が、同条約により直接に個々の国民に保障されているとは認められない。
  ●人権B規約(自由権規約)との関係 
自由権規約委員会の一般的意見は、我が国の裁判所による条約解釈を法的に拘束する効力を有しない。
①人権B規約23条4項の文理上、同項が婚姻する各配偶者が婚姻前の氏の使用を保持する権利を具体的に保障しているものと解釈するのは困難
②一般的意見19条及び同28条は、同権利が必ず保障されるべきことを求めるものではないと解する~がある

人権B規約23条4項により同権利が保障されると一義的に解釈することはできない。

人権B規約のその他の規定により同権利が保障されることが具体的に定められているとはいい難い。

本件各規定が人権B規約の前記各規定に違反していることが明白であるとは言い難い。
  民事p72
東京地裁R1.11.27  
  社会保険労務士法人の設立が法人格を濫用したとされた事例
  事案 社会保険労務士であるAに対して間接強制金及び損害賠償金に係る債務名義を有するXが、社会保険労務士法人Y1に対しては、Y1はAが強制執行を免れる目的で設立したものでありY1の法人格を濫用するものであるからこれを否定すべきである(法人格否認の法理)ことなどを理由として、間接強制金、損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、
不法行為による損害賠償請求権に基づき回収が遅延したことによる損害等の支払を求め、
Y1の社員であるY2に対しては、Y1の財産をもって前記債務を完済することができないとして、社会保険労務士法25条の15の3第1項、又はY1との共同不法行為に基づき、Y1と連帯して、Y1の前記債務の支払を求めた。 
  争点 ①法人格否認の法理の適否
②Y2の社員としての弁済責任
  判断  ●争点① 
Y1は信義則上Aと別異の法人格であることを否認し、間接強制金、損害賠償金等の支払を認めた。
but
回収が遅延したことによる不法行為に基づく請求は否定。
  ●争点② 
Y2は、Y1の社員として、社労士法25条の15の3に基づき、Y1と連帯して、Y1の前記債務の支払義務を負う。
  解説   法人格避妊の法理が適用される場合:
①法人格が全くの形骸にすぎない場合(法人格の形骸化)
②法人格が法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合(法人格の濫用)
法人格の濫用:
法人の背後にある者が違法又は不当な目的のために法人格を利用すること。

最高裁昭和48.10.26:
被上告人から賃貸借契約解除の通知を受けた旧会社の代表者が、旧会社の前商号を現商号に変更し、旧会社の前商号と同一の商号の新会社を設立

新会社の実質は旧会社と同一であり、新会社の設立は旧会社の債務の免脱を目的としてされた会社制度の濫用⇒上告人は新会社と旧会社が別異の法人格であることを主張できない。
  本判決:
①Aが大部分を出資したY1は、Aの社労士業務上の商号であるBと類似した名称を用いており、連絡先や所在地も同一
②Aが従前にBとして行っていた事業のほとんどをY1に引き継がせていた
③Aは当初、社労士法人の設立が不要であるとの認識であったにもかかわらず、自信の財産に対して差押えの危険が生じると知るや、早急にY1を設立し、自らの責任財産を減少させることを意図して顧問先をY1に移転させた

Y1が、形式的にはA個人とは別個の法人の形態をとってはいるものの、その実質はAと同一であり、Y1の設立は、Aが自身に対する強制執行を免れる目的をもってされた社労士法人制度を濫用するもの⇒信義則上、Y1はAと別個の法人であることは主張できない。

Y1とAの実質が同一である事実、及び
Y1の設に係るAの目的を認定した上で、
Y1の設立が法人格の濫用に該当すると判断。
  民事p78
大分地裁R1.8.22  
  加害行為を行った責任無能力者の両親の民法714条1項の監督義務者の責任(否定)
  事案 責任無能力者であったAが、居住するマンションの非常階段で、マンション管理人をしていたBを突き飛ばして転落し⇒Bの相続人であるXらが、Aの両親であるYらにおいて、民法714条1項の法定の監督義務者又はそれに準ずべき者として負う監督義務の違反があった⇒Yらに対して、同項(適用又は類推適用)に基づき、損害賠償を請求。
  規定 民法 第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
・・・
  争点 ①YらがAの法定の監督義務者に当たるか
②YらがAの法定の監督義務者に準ずべき者に当たるか 
  Xらの主張 争点①について:
①Xらは、Y1(Aの父親)が精神福祉法(平成25年改正前のもの)20条の保護者
②Yらが、Aと共同生活をしていたためにAが危険な行為をしないよう見守る義務を負い、Aの行動について責任を負うとの意思を対外的に明示
⇒Yらが法定の監督義務者に当たる。 
争点②について:
①精神科の保護院への入退院を繰り返していたAの退院に当たり、Y2(Aの母親)が前記保護院の医師から障害者支援施設への入所の提案を受けたもののこれを拒否して自らAを監督する旨前記医師に告げた
②YらがAと共同生活をする住居のドアチェーンに南京錠を設置していた
⇒Yらが法定の監督義務者に準ずべき者に当たる。
  判断  ●争点①について 
精神福祉法上の自傷他害防止監督義務が平成11年法律第65号により廃止され、保護者制度そのものも平成25年法律第47号により廃止
⇒Y1がかつてAの保護者であったことをもって、Aの法定の監督義務に当たるということはできない。
YらがAと共同生活を行っていたことについて、
Xらが主張するような見守る法定義務が発生するとはいえない。
Y2が、施設への入所を勧める医師の提案を拒否し、Aの帰宅を希望したことによって、Yらが民法714条1項に規定する監督義務者に当たると解すべき根拠はない。
  ●争点②について 
①Aが保護院への入退院を繰り返した経緯ないし経過、
②Aによる本件マンションでの問題行動
③本件当日のAの様子など

Aの行動について、Aが住居で暴れたり、Yらに対して暴力を振るったりしたことがあった一方で、
Yら以外の者に対しての暴力は認められない

Xらが主張する、AがBに対する突発的な暴力行為に出る可能性は抽象的なものにすぎない。
AがYら以外の者に対する加害行為を行っていなかった

Y2が医師の障害者施設への入所の勧めを拒否して自らAを監督する旨述べたこと、Yらの希望でAが保護院を退院していることをもって、Yらが第三者に対する加害行為の防止に向けてAの監督を引き受けたとはいえない。
YらがAと住む住居のドアチェーンに南京錠を設置していたこと
~本件マンションにおけるAの迷惑行為を防止することを念頭に置いたもの

この行動をもって、監督の引受けがあったとはいえない。
そのほか、YらがAと共同生活をしていたことなどのXらが主張する事情を踏まえても、YらがAの監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められない。
  解説 本判決は、責任無能力者の加害行為に係るその両親の監督責任の有無について、最高裁H28.3.1を踏まえて判断を示したもの。 
  刑事p84
東京高裁R2.1.23  
  殺人について犯人性が否定された事案
  事案 公訴事実の要旨:
被告人が、夜間、路上において、面識のない被害者に対し、殺意をもって、持っていた刃物で被害者の胸部、腹部を突き刺すなどして殺害した。
  争点 被告人の犯人性 
  検察官 被告人の犯人性を推認させる間接事実として、
(1)被告人の眼鏡とたばこの箱が現場に落ちていた【現場遺留物】
(2)被告人居住アパートの駐車場に、被害者の血液が付着した自転車(被告人の所有物ではない)があった【被害者血付着自転車】
(3)被告人が当夜(本件犯行日の夜から翌日未明まで)に外出し、帰宅後すぐに衣服を捨てた
(4)被告人の年齢、体格等が犯人のそれと矛盾しない【体格等】
  原審 間接事実(1)(2)(4)は認定できる。
(2)については、被害者の血液が本件犯行時に自転車に付着した事実も認定。
間接事実(3)は認定できない。 
(1)現場遺留物:
①関係証拠から認められる遺留時間帯は約6時間と幅がある
②本件現場は被告人の生活圏
⇒眼鏡と犯行とを結びつける証拠がない以上、被告人が酒に酔って転倒し、眼鏡を遺留して立ち去ったなどの反対仮説が成り立ち得る
⇒推認力はそれなりに強い程度に止まる。
(2)被害者血付着自転車:
駐車場の位置や施錠状況⇒アパート住人や近隣住民が犯人である可能性が高い。
自転車所有者の体格及び外見も犯人像と矛盾しない
but
アパートに入居したばかりで愛用の自転車を所有する被告人が、他の者と比べて被害者血付着自転車を使用した可能性が高いとはいえない
⇒推認力は低い。
(4)体格等:
目撃者が語る特徴はありふれたもので、これと矛盾しないとしても、被告人の犯人性を推認させる力は弱い。

総合評価しても、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない、あるいは少なくとも説明が極めて困難であるとはいえず、被告人の犯人性は立証されていない。
  判断 原判決には原審証拠及び論理則、経験則等に照らして不合理な点はない
⇒検察官の控訴を棄却。
  解説 犯人性を争点とする間接事実型の事案について、大阪母子殺害放火事件最判(H22.4.27) 
検察官:眼鏡等の慰留に関する被告人弁解の不合理性について判断を示すべきであると主張。
判断:仮に被告人弁解が不合理であったとしても、同弁解が信用できないことを意味するにすぎず、眼鏡等と犯行の結びつきが強まるわけではない。
自己の刑事責任を否定する被告人の弁解は、基本的に、反対仮説の可能性ないしこれに繋がるものと位置付けるのが一般的な考え方であるところ、本判決もこれと同様の立場に立つもの。