シンプラル法律事務所
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勉強会(判例時報2020後半)

判例時報の勉強会用の資料です(随時更新)

                   
                    
       
       
       
       
       
2460   
  行政p37
東京高裁R2.6.25  
  在外日本人国民審査確認等、国家賠償請求控訴事件
  請求 在外国民に審査権の行使を認めないことは憲法に違反する⇒
国に対し
①主位的にX1らが次回の最高裁判所裁判官の国民審査において審査権を行使できる地位にあることの確認
②予備的にX1らが次回の最高裁判所裁判官の国民審査において審査権を行使させないことは違法であることの確認、
③平成29年国民審査の際に原告らが審査権を行使することができなかったために精神的苦痛を被ったとして、国賠法1条1項に基づき、各原告につき1万円の支払を求めた。
  原審 ①「次回の国民審査において審査権を行使することができる地位」は、国会において、在外国民についての審査権の行使を可能にする立法を新たに行わなければ具体的に認めることのできない法的地位
②X1らに国民審査権の行使をさせないことが違法であることを確認したとしても、これによって国民審査権を行使することができる法的地位が具体的に認められるわけではない。

①②の確認の訴えは「法律上の争訟」には当たらない⇒却下。
③の請求:
平成29年10月22日当時、裁判官審査法が、在外国民であった原告らの審査権緒行使を認めていなかったことは、国民に対して審査権を認めた憲法15条1項並びに79条2項及び3項に違反
⇒国に対して、各原告に5000円を支払うよう命じた。
  争点 ①在外国民に対する国民審査権の行使制限が違憲・違法か否か
②主位的請求である地位確認の訴え、予備的請求である違法確認の訴えが適法か否か 
③原告らの国家賠償請求が認められるか否か
  判断  ①国民に、最高裁判所の裁判官の任命についての審査をする機会を付与した憲法の趣旨⇒国民の審査権又はその行使を制限することは原則として許されず、これを制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない。
②遅くとも平成29年国民審査の時点においては、裁判官審査法が在外国民の審査権の行使を一切認めずこれを制限していることについてやむを得ないと認められる事情があったとはいい難い

同法は、憲法15条1項並びに79条2項及び3項に違反。
X1らの本件地位確認の訴えは、公法上の法律関係に関する確認の訴え。
but
その確認の対象となる法的地位は、国会において、新たに立法を行わなければ、具体的に認めることのできないものであって、確認を求める対象として有効、適切ではない⇒本件地位確認の訴えは、不適法。
but
①本件違法確認の訴えは、X1らが、あらかじめ次回の国民審査において国民審査権の行使を許さないことが違法であることの確認を求める趣旨。
②国会において、在外国民に国民審査権の行使を認める旨の立法措置を講じない限り、X1らは、次回の国民審査においても、国民審査権を行使する権利が侵害される⇒その権利侵害の危険は、当審口頭弁論終結時において、現実的なものとして存在。

救済を図るために他に適切な方法がなく、即時確定の利益もある
⇒X1らの本件違法確認の訴えは、公法上の法律関係確認の訴えとして適法。
①国政選挙は投票人が候補者の氏名や政党名を記載するという単記記名式による投票によっているが、国民審査は、罷免を可とする裁判官の欄に「X」を記載する記名式による投票によっており、その実施面において国政選挙と国民投票との間には技術的な差異がある
⇒最高裁H17.9.14(在外邦人選挙制限違憲訴訟)があるからといって直ちに在外国民に国民審査を認めないことの違憲性が明白になったといえない。
②東京地裁H23.4.26(在外日本国民最高裁判所裁判官国民審査訴訟)は、在外審査制度の創設のための議論の契機になり得るものとしても、これをもって、裁判官審査法の違憲性が明白になったものともいえない
③現在に至るまで、在外審査制度の創設に係る法律案が国会に提出され、審議されたこともないこと等

平成29年国民審査の時点で、国会において、在外審査を認めていない裁判官審査法の違憲性が明白になったものということはできない

国賠法1条1項に基づく損害賠償請求は理由がない。
  解説 法律を適用することによって終局的に解決することができない紛争は、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないと解されており(最高裁H29.2.11)
判例上、過去の事実又は法律関係の確認の訴えは原則として不適法とされている。 
  民事p62
最高裁R2.2.28  
  損害賠償義務を履行した被用者の使用者に対する求償の可否
  事案 Xが、勤務先であったYに対し、Xが勤務中に起こした交通死亡事故につき、自ら被害者の遺族の1人に対して1500万円余りの損害賠償⇒Yに対する求償権を取得したと主張し、同額の求償を求めた。
Yは、別の遺族に対し損害賠償金として支払った1300万円について、Xに対して求償を求める反訴を提起。 
  原審 使用者と被用者の共同不法行為が成立する場合等を除き、被用者から使用者に求償することはできない⇒Xの本訴請求を棄却。
Yの反訴請求についても、Yの求償権の行使は信義則上制限される⇒棄却。 
  判断 被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、その使用者の事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができる

Xの本訴請求に関する部分を破棄し、同部分につき、本件を原審に差し戻した。
  解説 ×A:代位責任説(かつての一般的見解):
不法行為者である被用者が、本来、損害全部を賠償すべきであり、使用者責任は、被用者が無視力である場合もあるため被害者保護の観点から肩代わりする責任を使用者に負わせたものにすぎない⇒使用者に負担部分はなく、逆求償は認められない。 
  本判決は、逆求償を肯定。
その理由として
①使用者責任の趣旨
②使用者から被用者に対する求償の場合における結果との整合性
を挙げる。
●①使用者責任が設けられた趣旨
①使用者が被用者の活動によって利益を上げる関係にある
②自己の事業範囲を拡張して第三者に存在を生じさせる危険を増大させている
⇒損害の公平な分担という見地から、その事業の執行について被用者が第三者に加えた損害を使用者に負担させることにした。
①第三者に損害を加える危険を伴う業務を被用者に反復継続して行わせる事業を使用者が営んでいる場合を想定すると、そのような危険を伴う事業により使用者が利益を得る一方、その危険が現実化して生じた損害を全て被用者に負担させるというのは公平とはいえない。
②事故を予防するための業務態勢の整備や設備投資を行なったり、そのような対策を講じても発生し得る事故に備えて保険に加入するなどして損失を分散したりすることについては、被用者がこれを行なうことは困難で、使用者が行なうことができるもの。

使用者の事業の執行について第三者に損害が生じた場合において、使用者は、被害者との関係で損害賠償義務を負うのみならず、被用者との関係のいても、損害の全部又は一部について負担すべき場合があると解するのが、損害の衡平な分担に資する。

本判決:
使用者が「損害の全部又は一部について負担すべき場合があると解すべきである」とした。
●②使用者から被用者に対する求償の場合における結果との整合性 
本判決:
最高裁昭和51.7.8を引用しつつ
「使用者が第三者に対して使用者責任に基づく損害賠償義務を履行した場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対して求償することができと解すべき」と述べた上で、
前記の場合、すなわち、使用者が第三者に対して使用者責任に基づく損害賠償義務を履行した場合と被用者が第三者の被った損害を賠償した場合とで、使用者の損害の負担について異なる結果となることは相当でない。
  民事p71
大阪高裁R1.12.26  
  相続による敷金返還債務の承継
  事案 Xは、Aから建物を借り入れる賃貸借契約を締結し、賃貸人Aに対して敷金として3000万円を差し入れた。
Aは死亡したが、その後も賃貸借契約は継続され、後に合意解約された。 
Xは、Aの相続人の1人であるYに対し、敷金返還請求権に基づき、その法定相続分に応じた750万円及び遅延損害金を求める訴訟を提起。
法的構成:
①Aの相続人らは法定相続分に応じて法律上当然に分割された敷金返還債務を承継した
②仮にそうでないとしても、Aの相続人らの間で法定相続分に応じて分割された敷金返還債務を承継する旨の合意が成立。
  判断 敷金返還債務は、相続人が分割承継するのではなく、相続により被相続人の賃貸人としての地位を承継した者が全部承継する
⇒一審判決を維持し、Xの控訴を棄却。

①敷金は、賃貸人が賃貸借契約に基づき賃借人に対して取得する債権を担保するもの⇒敷金に関する法律関係は賃貸借契約と密接に関係し、賃貸借契約に随伴すべきもの。
②賃借人が旧賃貸人から敷金の返還を受けた上で新賃貸人に改めて敷金を差し入れる労と、旧賃貸人の無資力の危険から賃借人を保護すべき必要性とに鑑みれば、賃貸人たる地位に承継があった場合には、敷金に関する法律関係は新賃貸人に当然に承継されるものと解すべき。
③敷金の担保としての性質や賃借人保護の必要性は、賃貸人たる地位の承継が、賃貸物件の売買等による特定承継の場合と、相続による包括承継の場合とで何ら変わるものではない。 
  解説 敷金:
賃貸借契約存続中の賃料債権のみならず、契約終了後建物明渡義務の履行までに生じる賃料相当損害金その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得することのあるべき一切の債権を担保するもので、敷金返還請求義務は賃貸借契約終了後建物明渡しがされたときに発生。(最高裁) 
  ①最高裁昭和44.7.14:
建物賃借契約において該建物の所有権移転に伴い賃貸人たる地位に承継があった場合には、旧賃貸人に差し入れられた敷金は、未払賃料債務に当然充当され、残額についてのみその権利義務関係が新賃貸人に承継される。
②最高裁昭和29.4.8:
相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する。
③最高裁昭和34.6.19:
連帯債務者の1人が死亡し、その相続人が数人ある場合に、相続人らは被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とも連帯債務者となる。
本件は、
(a)賃借人は敷金債務が可分の金銭債務であることを理由に(②③系統)、相続人に対してなら誰にでも相続分に応じた敷金債務を請求することができるのか、
(b)賃貸人の地位の承継と同様に考えて(①系統)、相続により賃貸人の地位を承継した特定の相続人に対して敷金債務を請求すべきであるのか
で、
本判決は(b)の立場を採用。
  民事p76
佐賀地裁R1.12.20  
  キャンプ行事の川遊びで男児が溺死した事故の事案
  事案 権利能力なき社団であるYが主催したキャンプ行事に参加したAが、そのプログラムである川遊び中に溺水して死亡⇒Aの両親であるX1及びX2が、Yに対し、不法行為(使用者責任)又は債務不履行(委託契約上の安全配慮義務違反)に基づき、
X1において3374万623円、X2におちて1844万623円及びこれらに対する遅延損害金の支払を求めた。 
  判断 本件キャンプにおいて川遊びが予定されていた場所は流れが速くなる場所、推進が2mを超える場所もあるなど溺水の可能性のある危険な場所。

川遊びの際は、大人が全員で参加児童を監視することになっていた。
Yの事務局長であったP4は、本件キャンプ前日に行われた打合せで、川遊びの場所には危険があることや大人全員で監視に当たる計画であることを認識。
but
P4は、男子児童が川遊びを始めたと認識しながら、自らは監視に当たらず、他の大人が監視していることも確認にしていない

P4には、十分な監視体制が整うまでは男子児童が川に入るのを防止すべき注意義務があったのに、これを怠った注意義務違反があった
⇒Yの責任を肯定。 
Yの過失相殺の主張を斥け、
損害額から弔慰金(501万円)、共済金(3060万円)を控除した後の損害について、認容。
  解説 溺死事故を巡って引率教師などの責任を問う事案についての裁判例。 
  民事p84
福岡地裁R2.3.17  
  ゴーカート場で待機中に追突⇒頸椎捻挫及び腰椎捻挫等の損害賠償責任
  事案 原告の子どもと一緒にカートに乗車し、発進の合図を待っていた⇒そのカートに、小学校高学年程度の児童が運転するカートが追突⇒頚椎捻挫、腰椎捻挫等の傷害を負い、頚部及び腰部に後遺障害等級11級相当の後遺障害が残存⇒被告に対して、安全配慮義務違反又は不法行為若しくは工作物責任に基づく損害賠償請求として約2800万円余りの支払を求めた。 
  争点 ①安全配慮義務違反の有無又は不法行為における過失の有無
②本件事故と相当因果関係のある原告の受傷及び治療並びに後遺障害の有無
③原告の損害額 
  判断 ●  ●安全配慮義務違反の有無又は不法行為責任における過失の有無
本件ゴーカート場においては、4歳以上であり所定の身長制限を充たせば誰でもカートを利用できた

運転に不慣れな子どもが操作することによって追突事故が発生しうることは十分に予見できる

本件ゴーカート場を設置する被告は、遊園地の利用契約を締結した全ての利用者に対し、利用契約上の義務として、追突事故の発生を防止する措置を講じ、利用者の生命及び身体を危険から保護する義務を負っている。
発進地点から約3.4メートル後方で周回を終えたカートを停止させるという本件事故当時の被告の運用は、ブレーキとアクセルの踏み間違えによる追突事故を防止するには不十分なものであり、事故を確実に防止するためのマニュアルに沿った運用もされていなかった

被告は前記義務を怠ったものであり、不法行為責任が認められる。
  ●  ●本件事故と相当因果関係のある原告の受傷及び治療並びに後遺障害の有無 
①原告の首から上の部分がシートの背もたれからはみ出る状態になっており、後方からの追突により頚部がむち打ち状態になり得ると考えられる
②シート部分が硬く、追突されることによって腰部にも相応の衝撃が加わると考えられる

本件事故と原告の負傷との間の因果関係を肯定。
症状固定時期:
原告:本件事故から3年程度経過した時点
判断:治療経過と症状の推移⇒本件事故から1年経過後と認定
後遺障害:
①本件事故後一貫して頸部及び腰部の痛みを訴え、
②弁論終結時に至るまで左頸肩部、上肢全体の痛み及び痺れ、腰痛、左足趾の痺れ等が残存

原告には、左頸部及び上肢全体に神経症状を残すとともに、腰部及び左足趾にも神経症状を残したものとして、いずれも後遺障害等級14級9号に相当する後遺障害が残存したと認定。

原告には、頸椎及び腰椎の椎間板ヘルニア等の器質的変化が認められた
but
過去の交通事故の際に撮影されたMRI画像で既に存在
⇒本件事故に起因するものではない⇒後遺障害等級12級13号該当性を否定。
  ●原告の損害額 
症状固定日までの治療費、通院交通費、通院慰謝料を認め
休業損害については、
本件事故後もしばらくは事故前と同じ業務に従事し、その後別の会社でも勤務するなどしており、その間有給休暇以外に休業した日は窺われない
but
頻繁に通院して電気療法等の治療を受けながら痛みを我慢して業務に従事⇒2割の労働能力の喪失があったとして、休業損害の一部を認容。
逸失利益及び後遺障害慰謝料:
本件事故による衝撃は比較的軽微なものであったにもかかわらず
原告に生じた症状が過大な面がある
前回事後後に残存した後遺障害の症状とも重なっている部分が多い

本件事故前から存する身体的素因が一定程度後遺障害の発生に寄与したとして2割の素因減額。

損害額の総額としては480万円。
  解説 東京地裁昭和59.12.20:
子どもが遊戯機械を利用する際に予想外の高度にでて事故が起き得ることは予見できた⇒遊園地経営者に安全監視設備を設置すべき注意義務及びその違反を認めている。

遊園地は子どもが利用するものであるという前提に立ち、それに見合った事故防止策を採るべきことを要求。 
  労働p95
最高裁R2.3.30  
  割増賃金の支払がなされた賃金規則と言えるか(国際自動車事件) 
  事案 Y株式会社に雇用され、タクシー乗務員として勤務していたXらが、歩合給の計算に当たり売上高(揚高)等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨を定めるYの賃金規則上の定めが無効⇒Yは、控除された残業手当等に相当する金額の賃金の支払義務を負う⇒Yに対し、未払賃金等の支払を求めた。 
  賃金と主張 タクシーの乗務員の賃金:
基本給、服務手当、歩合給(1)、歩合給(2)、割増金(深夜手当、残業手当及び公出手当の総称)、交通費等からなる。
歩合給(1)=(揚高を基に算出される)対象額Aー(割増金+交通費)

タクシー乗務員が時間が労働等をすると、割増金が発生する一方で、これに応じて歩合給(1)の額が減る
結局、揚高がイバフであれば、時間外労働等の有無やその時間数の多寡にかかわらず、原則として総賃金の額は同じとなる。

時間外労働等について使用者に割増賃金の支払を義務付けた労基法37場の趣旨に反する。
  第1次控訴審 Xらの未払賃金を一部認容 
  第1次上告審 労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から労基法37場に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に、
当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの、
当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効であると解することはできない。 
本件賃金規則における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否か(いわゆる判別要件)等について審理判断することなく上告人らの請求を一部認容すべきとした第一次控訴審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った結果、前記の点について審理を尽くさなかった違法がある。
⇒差戻し
  第2次控訴審 本件規定が無効とはいえない。
判別要件に関し、
本件賃金規則が定める賃金のうち、
基本給、服務手当、歩合給(1)及び歩合給(2)が通常の労働時間の賃金に当たる部分となり、
割増金が労基法37状の割増賃金に当たる部分に該当することになり、
両者が明確に区分されている。
Xらに支払われた割増金の額は、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として労基法37条並びに政令及び厚生労働省令(「労基法37条等」)に定められた方法により算定した割増賃金の金額を下回らない
⇒Xらに支払われるべき未払賃金はない。
⇒Xらの請求をいずれも棄却。
  判断 本件賃金規則の下では、時間外労働等に伴い発生する割増金の額がそのまま歩合給(1)の減額につながり、歩合給が0円となることもある

このような仕組みは、その実質において、出来高払制の下で元来は歩合給(1)として支払うことが予定されている賃金を、時間外労働等がある場合には、その一部につき名目のみを割増金に置き換えて支払うこととするもの。

本件賃金規則における賃金の差段目につき、判別要件を満たしているということはできない⇒割増金の支払により労基法37条の定める割増賃金が支払われたとはいえない⇒再度原審に差し戻した。 
  解説  当初は主として本件規定の効力という観点から争われ、第1審及び第1次控訴審は本件規定が公序良俗に反して無効と判断。
but
第1次上告審はこの判断を否定した上、本件賃金規則における賃金の定めにつき判別要件の充足等の観点から改めて検討すべきことを示唆。 
  ●本判決:
労基法37条の趣旨は、使用者に割増賃金を支払わせることによる時間外労働等の抑制と労働者への補償にある(最高裁)。
割増賃金の算定方法は労基法37条等において定められているが、これと異なる算定方法を採用すること自体は許容される(最高裁)。
but
その場合は、労働契約における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労基法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができること(判別要件)が必要。
さらに、使用者が特定の手当の支払により割増賃金を支払えなかったと主張している場合において、前記の判別をすることができるというためには、当該手当が時kな外労働等に対する対価として支払われるものとされていること(対価性)を要する。 
対価性の有無に関し、
当該労働契約に係る契約書等の記載内容のほか諸般の事情を考慮して判断すべきであり、
その判断に際しては、
当該手当の名称や算定方法だけでなく、労基法37条の趣旨を踏まえ、当該労働契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置付け等にも留意して検討すべき。
第1次上告審判決の説示には、
本件規定のような定めにつき、
「当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得る」とする部分⇒対価性について慎重に検討すべきことを示唆。
本件賃金規則の下では、時間外労働等に伴い発生する割増金の額がそのまま歩合給(1)の減額につながり、歩合給が0円となることもある。

Yの主張するような割増金が時間外労働等に対する対価として支払われるものであるとすれば、労基法37じょうの趣旨や同条の定める割増賃金の本質に反する帰結となる⇒本件賃金規則の定める仕組みは、その実質において、「出来高払制の下で元来は歩合制(1)として支払うことが予定されている賃金を、時間外労働等がある場合には、その一部につき名目のみを割増金に置き換えて支払うこととするもの」である。

割増金の一部に対価性が認められるとしても、対価性が否定される部分も含んでいることになり、割増金のうち対価性がある部分を特定することもできない⇒結果として、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。
  労働p108
福岡地裁R1.9.10  
  時間外労働の認定、法人代表者の責任(否定)
  事案 被告の社会福祉法人の経営する特別養護老人ホームに介護職の正社員として勤務していた原告5名が、
①被告法人に対し、割増賃金、減額された賃金及び不支給とされた退職金の各支払を請求するとともに、
②被告法人の代表者に対し、割増賃金の未払について、不法行為に基づく損害賠償請求、
③被告法人の施設庁のパワーハラスメントについての損害賠償請求
をしたもの。 
  判断 ●  ●被告法人に対する割増賃金請求 
  タイムカード等の各日の労働時間を推認させる客観的資料が乏しい⇒原告らの供述等から認められる業務内容を基に平均的な時間外労働を認定。
  時間外労働の存在は、労働者が主張立証責任を負う
使用者において勤怠管理を適切におこなっていない場合であっても、主張立証責任を労働者から使用者に転換することはできず、実労働時間を推認できる程度の客観的資料がない場合には時間外労働の存在を認定することはできない。
but
実労働時間について労働者が一応の立証をしたと評価⇒使用者において有効かつ適切な反証ができなければ、労働者の提出資料によって労働時間が認定。
    本判決:
原告らの供述を同僚の証言との整合性等を踏まえて検討し、介護職である原告らの業務内容を認定して一定の残業が生じていいたとの判断を前提に、平均的な時間外労働時間について立証がなされたものとしている。
時間外労働時間に関する原告の供述を検討するに当たっては、感覚的・印象的な側面があること⇒控えめな認定。
  ●割増賃金未払についての被告代表者の責任
①割増賃金の支払は使用者の労働者に対する基本的な法的義務(労基法37条)
②違反した場合の刑罰も定められている(労基法119条1甲)

法人の業務執行の任にある理事は、当該法人をして労基法を遵守させる態勢を構築すべき一般的な義務を負う。
but
前記義務の懈怠が直ちに不法行為となるものではなく、
当該労働者との関係で、割増賃金の請求を殊更妨害したとか、割増賃金が具体的に発生していることを認識しながらあえて支払わない場合などに限られる。
but
被告代表者はこれらの場合に当たらない

不法行為上の故意・過失があったとはいえない。
  解説  会社等の法人が割増賃金の支払を怠った場合に、取締役等の役員に対して任務懈怠責任(会社法429条)ないし不法行為責任(民法709条)に基づく損害賠償請求がされることは少なくない。 
大阪地裁H21.1.15:
①会社が倒産の危機にあり割増賃金を支払うことが極めて困難な状況にあったなど特段の事情がない限り、取締役の任務懈怠責任が認められる。
②代表取締役は、時間外労働に対する対価とされる職務手当が会社の給与規程の趣旨どおりに運用されておらず、同規定の趣旨が会社内で周知されていないと認識していた可能性が高い
⇒悪意又は重過失が認められるとして、損害賠償責任を肯定。
千葉地裁八日市場支部H278.2.27:
法人の理事兼会社の代表取締役であった者について、
法令違反による任務懈怠が認められるとしても、賃金未払を明確に認識していたとはいえず、支払を求められた際には小切手を交付して未払の解消に務めていた
⇒悪意又は重大な過失があったとまでは評価できない
⇒損害賠償責任を否定。
福岡地裁H30.9.14:
長距離トラック運転手に対する運行距離に応じた賃金体系が、結果的には労働時間が長いほど賃金が増えるものとなっており、長時間労働に対し一定程度の対価を支払う制度となっていた

任務懈怠について会社法429条の重過失があったとまではいえないし、民法709条の過失といえる程度の注意義務違反があったとはいえない。

損害賠償責任を否定。
法人の代表者:
労働者の労働時間を正確に把握して割増賃金が確実に支払われるような内部体制を構築し、これを実施する義務を負っている。
but
最終的に代表者の悪意・重過失ないし故意・過失まで認めて損害賠償責任を肯定する例は必ずしも多いとは言えず、どの程度の事情があれば会社法429条の悪意・重過失ないし民法709条の故意・過失といえるかについて、裁判所の考え方は必ずしも統一されていない。
2459   
  民事p3
大阪地裁R2.3.12  
  元妻が、元夫の意思を確認しないまま融解肺移植の方法により子を出産⇒元夫の自己決定権侵害
  事案 元妻であるY1との間で対外受精を行うことを合意し、医療法人Y2が開設し不妊治療を専門とするクリニックにおいて受精卵を凍結保存することにした夫である「Xが、Y1が別居中にXの意思を確認しないまま融解肺移植の方法により子を出産⇒自己決定権を侵害されたと主張して、Y1、Y2及びその理事長かつ本件クリニックの院長であるY3に対し、共同不法行為に基づき2000万円及び遅延損害金の支払を求めた。 
  判断  ・・・・Xは、Y1が本件同意書2にXの署名をした平成27年4月20日時点において、本件移植に同意していなかったと認められ、Y1も同時点においてXが本件移植に同意していないことを認識していたか容易に認識し得たと認定
⇒Y1は、Xに対し、Y1との間で本件子をもうけるかどうかという自己決定権を侵害。 
  Y2、Y3において、本件移植に際して、Xに対し、直接の意思確認をすべき義務はない⇒その責任を否定。 

①本件同意書2のXの署名は、その体裁に照らし、Xの従前の署名と対比して異なることが容易に判明するものではない
②学会の見解においても、本件同意書2等の書式及び作成方法はこれに沿ったものであり、同意書への署名以外に、本人に直接電話をかけるのなどしてその同意を確認することまでを推奨していはおらず、本件のような取扱いが不妊治療についての医療水準として不相当なものとはいえない。
 
Y1に対し慰謝料・弁護士費用として880万円の支払を命じ、Y2、Y3に対する請求は棄却。
  解説 保存された男性の精子を用いて当該男性の死亡後に行われた人工生殖により女性が懐胎し出産した子と当該男性との間に法律上の親子関係が形成されるか?
最高裁H18.9.4はこれを否定。
妻が第三者の精子を用いて人工授精して出産した子について、夫がその嫡出性承認したとは認められない(大阪地裁H10.12.18)。
生殖補助医療施術意思は、医療行為を受ける意思の一種⇒
①その意思が明確であること、
②生殖補助医療を実施する際に存在すること
が必要とされている。
  民事p11
京都地裁R1.9.20  
  適格都道府県センターの任意的訴訟担当が問題となった事例
  事案 「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」に基づく認定を受けた適格都道府県センターである債権者Xが、本件建物の付近の居住する者の委託に基づき、暴力団であるAが本件建物をその事務所として使用していることにより、前記委託者らの平穏に生活する権利が侵害されている等と主張⇒Aの会長である債務者Yに対し、前記委託者らの人格権に基づき、本件建物をAその他の暴力団の事務所等として使用することの禁止の仮処分を求めた。 
    法32条の4は、法32条の5により認定された適格都道府県センターが、指定暴力団等の付近住民等から委託を受けて、裁判上又は裁判外において、自己の名をもってその事務所の使用等の差止めを請求できる
but
Aは「指定暴力団等」ではない暴力団⇒法32条の4の適用がない⇒いわゆる任意的訴訟担当として、前記委託者から委託を受けて、その人格権に基づく妨害排除請求権を行使することができるか?
  判断  任意的訴訟担当の許容性について、
最高裁昭和45.11.11の枠組みに従って判断。

任意的訴訟担当は、本来の権利主体から訴訟追行権の授与があることを前提として、
①弁護士代理の原則を回避し、又は訴訟信託の禁止を潜脱するおそれがなく、
かつ、
②これを認める合理的必要性がある場合
には許容することができる。
要件①について
①Xは、差止請求関係業務の権限を行使する場合、民事訴訟等に係る手続について弁護士に追行させなければならない(法32条の4第3項)、
②都道府県センターが適格都道府県センターとして認定されるには、法32条の4第1項の委託を受ける旨の決定等を行なう部門において暴力追放相談委員及び弁護士が共にその専門的知識経験に基づいて必要な助言を行い又は意見を述べる体制が整備されていることその他差止請求関係業務を遂行するための人的体制に照らして、差止請求関係業務を適正に遂行することができる専門的知識経験を有することが要件とされている(法32条の5第3項)
③実際に、本件でも代理人弁護士が手続の追行に当たっている

弁護士代理の原則を回避し、訴訟信託の禁止を潜脱するおそれがあるということはできない。
  要件②について 
①・・・・
⇒Xが指定暴力団でない暴力団事務所の使用差止めのための訴訟手続や保全手続を提起追行することも、前記の事業に含まれると解することができる。
②・・・
⇒指定暴力団でない暴力団に対する事務所使用差止訴訟又は仮処分の追行についても、体制や業務規程が整備され、専門的知識経験及び経理的基礎有しているということができる。

要件②も肯定。
  解説 最高裁H28.6.2:
同様の枠組みで、外国国家が発行した円建て債券に係る償還等請求訴訟につき、当事者債券の管理会社が任意的訴訟担当の要件を満たすものとして、原告適格を肯定。 
  商事p17
東京高裁R1.5.16  
  オリンパスの取締役に対する損害賠償請求の事件
  事案 ①X1(オリンパス㈱)が、巨額の金融資産の損失の計上を避けるため講じた(1)ないし(7)の行為等について、会社法423条1項等に基づき、X1が取締役らに対し損害賠償等を請求し、株主X2がこれに共同訴訟参加をし(請求を拡張)、また、
②違法行為の疑惑を指摘したAを代表取締役等から解職する取締役会決議をして、不祥事を隠蔽し、X1の信用を失墜させたなどとして、X2が会社法423条1項に基づき、取締役らに対し、X1に損害を賠償するよう求めた事案の控訴審。 
(1)第1類型(金利・運用手数料関係)
(2)第2類型(株式運用損関係)
(3)第3類型(国内3社株式取得関係)
(4)第4類型(V5関係)
(5)第5類型(疑惑発覚後の対応関係)
(6)第6類型(剰余金の配当関係)
(7)第7類型(課徴金・罰金関係)
(8)第2事件
  原審 第5類型:1000万円
第6類型:586億7599万8936円
第7類型:Yらにつき7億1986万円、Yら以外の1名につき1986万円
を(一部)認容
第1類型⇒損害の発生が認められない
第2事件:取締役の善管注意義務違反が認められない
第2類型・第3類型・第4類型も棄却。
  判断  ●第1類型に係るX1の控訴
Z及びY7:損失分離スキームの構築・維持が行われていることを知りながら、これを中止・是正されることを怠った
Y1:損失分離スキームを自ら構築・維持し、かつそれを中止・是正する措置を講じることもなかった
Y2及びY3:Y1の指示ないし了承の下、損失分離スキーム構築の実務作業を担い、スキームの構築・維持を行った
~いずれも取締役の善管注意義務及び忠実義務に違反。
but
損失分離スキームにおいてファンド等が融資を受けた銀行に対して支払った金利及びファンド運用手数料等は、前記善管注意義務違反等によってX1が被った損害とは認められない。
X1:主位的に、信義則上、運用手数料等の支払主体となったファンドの法人格を否認し、これら運用手数料等はX1が支払ったものと評価すべき
vs.
①そもそも法人格否認の法理は、法人格の背後にある者の責任を追及するための法理であって、法人格の背後にあるX1が自らが被ったとする損害を主張するために法人格否認の法理を援用することは相当ではない。
②この点を措くとしても、問題となるファンドは多数に及び、その法形態も多様⇒本件全証拠によるもX1と実質的同一性があると認めるのは困難。
X1:予備的に、金利及び運用手数料等の支払によりX1の預金債権又は出資債権の価値が毀損されたことがX1の損害であり、同損害は金利・運用手数料支払の時点で発生
vs.
現実に預金債権・出資債権の価値の減少が生じたものとはいえず、また、損失分離スキームの下、長期間にわたり相互に関連を有する経済活動が継続され、預金の金利などファンドの運用利益等の収益もありながら、各ファンド等の財務状況や収支等の全体は明らかでない状況の下で、過去の一時点における金利又は運用手数料等の支払のみをもって損害が発生したと捉えることは相当ではない。
  ●第5類型 
Y2及びY3:損失分離スキームを構築・維持するために具体的な手法を策定・実施するなどの実務作業を担っていたこと、
Y3:Aに対して、Aの指摘する疑念は存在しないとの回答をし続けたこと
Y2:Y3が事実に反して前記のような応答をしていることを認識していたこと、
Y2及びY3:AがY7及びY3の辞任を求めた直後の平成23年10月13日、Y7が招集した集まりに参加し、翌14日の取締役会におけるAの会食に異論を述べず、解職議案にも賛成した。

Y3は、Y7とともに、Aの疑惑追及による損失分離スキームの発覚を防ぐことを主たる目的として、Aの解職に向けた一連の行動を採ったと認定するのが相当であり、X1に対する善管注意義務及び忠実義務に違反するものと認められる。
Y2:同年6月から監査役に就任していたが、前記Y7の違法行為を阻止するため、取締役会や監査役会にその旨報告するなどの措置を採る義務を負っていたにもかかわらず、何らの措置も採らなかった⇒X1に対する善管注意義務に違反。
損害について、
①Aの解職後、X1の株価が下落
②X1の経営の混乱や迷走等を指摘する多数の新聞報道がされ、X1は、その後各種プレスリリースや第三者委員会の設置等の対応を強いられた

X1には、Aの解職によって信用毀損による損害が生じた。
当該損害の性質上その額を立証することは極めて困難⇒民訴法248条により、その損害額を1000万円と認定するのが相当。
  ●第2事件 
X2:Y8~Y15は遅くとも平成23年9月30日の取締役会の時点で、Aの指摘を真剣に受け止め、違法行為の有無について調査すべき注意義務を負っていたが、Aの指摘を事実上無視し、調査義務を怠るとともに、Y7らの違法行為を黙認ないし放置し、監視義務にも違反した。
vs.
その認定に係る同日の取締役会に至る事実経過⇒同日の取締役会の時点で、損失分離スキームに関する事情を知らないY8~Y15において、Aが指摘した違法行為について調査するなどの対応を要するような状況になく、その時点において善管注意義務違反があったということはできない。
・・・・
  ●第6類型 
Xらの主張する剰余金の配当等は、いずれもその効力を生ずる日における分配可能額を超えて行われたと認められる。
別件の詐害行為取消訴訟において成立した裁判上の和解によりY3等が合計300万円をX1に支払ったことについて、X1が同金額を損害から控除することを争わないことを陳述し、X2も特段の異議を述べていない。
⇒損益相殺として、300万円を控除。
  ●第7類型
①会社が取締役の任務懈怠によって課徴金・罰金の支払を余儀なくされた場合について、その課徴金・罰金を損害から除く根拠はない。
②任務懈怠をした取締役が会社に対する損害賠償責任を負わないということになれば、株主が代表訴訟を通じて会社に財産の回復をさせる手段も奪うことになり相当でない。
③取締役に過剰な負担となることを理由にして相当因果関係を否定する理由もない
④二重処罰にも当たらない。

課徴金・罰金も損害となる。
Y2及びY3(並びにY7):
重要事項に虚偽の記載をした有価証券報告書及び四半期報告書を作成し提出したことについて、取締役としての善管注意義務に違反し、これをX1が支払った罰金及び課徴金との間には相当因果関係がある。
Z及びY1:
①X1が罰金刑に処せられ、また課徴金を課せられたのは、いずれもZ及びY1がX1の取締役を退任した後の会計年度に係る有価証券報告書及び四半期報告書の虚偽記載についてのものであり、Z及びY1はこれらの有価証券報告書等の作成提出自体には関与していない
②刑事事件の判決において虚偽記載のある有価証券報告書提出の事実についてY7らとの共謀が認定されているわけでもない。
③本件罰金・課徴金が科されたのは、Z及びY1の影響を受けることなく、それとは独立して、Y7らが取締役として判断、意思決定をして虚偽記載のある本件有価証券報告書等を提出した結果であって、これをZ及びY1の善管注意義務違反の当然の因果の流れということは困難

同人らの善管注意義務違反との因果関係を認めることはできない。
  労働p88
東京地裁H31.2.27  
  業務成績不良⇒解雇が無効とされた事案
  事案 業務成績が不良であることなどを理由に解雇されたXが、Yに対し、本件解雇が無効であるとして、
①雇用契約上の地位確認
②未払賃金及びこれに対する遅延損害金等
③ 違法な退職勧奨やパワーハラスメント(不法行為)による慰謝料及びこれに対する遅延損害金の支払
を求めた。
  経緯 Xは、プロジェクト・コーディネーターとして勤務。
業務成績が芳しくなかった⇒業務改善指導計画(PIP)を2回実施⇒Yは、Yグループの業績不振等を理由とする早期退職募集を実施し、Xにも声をかけたが拒否された⇒Yの人事部による面談も円滑に実施されない状況の下、業務成績・業務態度不良などを根拠に、普通解雇。 
  判断 ①Xには職務遂行上必要な能力等が不足しており、その業務成績は客観的にみて不良であるとの評価を免れない
but

業績評価から直ちに解雇に値する重大な能力不足が推認されるわけではなく、業績評価に関与した直属の上司らから改善点の指摘が多いが肯定的な評価も散見される。
Yに貢献しようとする一応の意欲がみられる。
これまで懲戒処分等を受けたことはない。
⇒Xの能力不足等は改善指導によって是正し難いものとまでは認められない。

Yは人的規模の比較的大きい会社
Xは職務限定雇用ではなく、YがこれまでにXに対して2回配置転換を実施している
⇒解雇に先立ち、配置転換や職務等級の引下げによってXの業績改善を試みるなど解雇回避措置を採るべき。

Xの解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、無効。
Xが主張する違法な退職勧奨やパワハラ等による不法行為に関して、
Xが不法行為構成事実と主張するものは、
いずれも主張事実の存在が認められないか、又はXに対する不法行為を構成するとはいえない。 
  解説 能力不足・成績不良による解雇が有効かについては、職務遂行能力・業務成績の評価が客観的で適正なものか否か、仮に能力不足・成績不良が認められるとしても、それらが継続的契約としての雇用関係を維持することができない程度のものか否かを、慎重に認定・評価して判断する必要。 
  刑事p110
東京高裁R1.7.16  
  覚せい剤使用の事案で、違法収集証拠として、尿の鑑定書の証拠能力が否定された事例
  事案 覚せい剤の自己使用の事案で、被告人の尿の鑑定書が違法収集証拠に当たるかが争われた事案。 
  控訴趣意 被告人が、公道上で身体検査を受けた際、警察官から突然陰部を触られた⇒それ以上の身体検査を許否。
その後の警察官からの執拗な要求に応じて、公道上で下着を下ろし、陰部を露出して身体検査に協力
but
これらの事実を記載しない虚偽の報告書を提出して強制採尿令状を裁判所に請求し、同令状を取得⇒重大な違法がある。 

被告人の尿の鑑定書(本件鑑定書)は違法収集証拠として証拠能力がない。
  判断 被告人は、警察官から断りなく陰部付近を触られた⇒大声を出して怒る⇒警察官は、被告人の反応を見て被告人が陰部付近に違法薬物を隠匿しているのではないかと疑いを深め、「パンツの中を見たい。何か隠している」「中に隠していなければ見せることができるはずだ」などと言い続けた⇒被告人は「分かった」などと言って、ズボンとパンツを膝までおろした。 
警察官が、当初、被告人に対して、職務質問に対する応答の仕方や薬物犯罪歴等から、違法薬物の所持及び使用の嫌疑を抱いた事自体は正当。
but
その後は、
①被告人の陰部付近に薬物を隠匿しているのではないかと考えて、令状がないのに意図して陰部付近の捜索を行い、
②続けざまに、被告人に対してそのプライバシーや羞恥心への配慮を全く欠いたまま公道上でパンツを脱ぐように要求し、実際に被告人にパンツを脱ぐに至らせた上、
③以上の手続的な違法を糊塗するために、本件令状請求の孫寧資料に、令状審査を行う裁判官をして令状請求の根拠となる覚せい剤の隠匿の嫌疑に関する事実を誤解させる記載をして裁判所に提出

このような一連の捜査の家庭は、違法に違法を重ねるものであって、令状主義の精神を没却する重大な違法。
前記①ないし③の一連の捜査過程の違法は、覚せい剤所持の嫌疑に係るもの
but
本件令状請求が、覚せい剤の所持のみならず使用についても同じ疎明資料を用いて行われており、両者が相互に密接に関係

本件鑑定書は、重大な違法がある前記の一連の捜査手続と密接な関連を有するものとして、一連の違法な手続の影響を免れない

本件鑑定書は違法収集証拠として証拠能力を否定すべき。
  解説  東京地裁H24.2.27:
警察官が質問せずに所持品検査への協力を求め
交番内の相談室内で3名の警察官が取り囲み、
被告人は求められてベルトを外し・・・パンツが丸見え
警察官がパンツの上から被告人の股間に触れた

個人のプライバシーに対する配慮を欠いた著しく不適切なもので、違法。

被告人が、その結果発見された水溶液入り容器等を自発的に提出したかのように記載した報告書を作成して、令状請求の疎明資料とする

警察官らが自らの行為の違法性を認識していた

所持品検査委の違法の程度は、令状主義を没却するような重大なものであるとして、尿の鑑定書の証拠能力を否定。 
東京高裁H28.6.24:
警察官が被告人に対して覚せい剤使用の嫌疑を抱き、それを深めていった経緯について意図的に虚偽の内容を記載した捜査報告書を疎明資料として強制採尿令状を請求
任意同行の際にうそを言って被告人を立ち去ることが困難なパトカーに乗車させたとうい疑いがある

尿の鑑定書の証拠能力を否定。

強制採尿令状の疎明資料に、被告人に対する嫌疑を基礎付ける事情について虚偽の内容を記載したこと自体が問題。
  刑事p119
①大阪地裁R1.9.25
②京都地裁R1.10.29  
  違法収集証拠により尿の鑑定書の証拠能力が否定された事案
  ①事件  弁護人:
ポリ袋は麻薬取締官が持ち込んだもの
  判断 弁護人の主張が事実である疑い⇒その違法は重大⇒被告人の尿の鑑定書等はこれを密接に関連するものであるとし、その証拠能力を否定⇒自白の補強証拠がないとして無罪。

①写真2には洗面台上に本件パケが写っているのに、捜査開始後間もなく洗面台付近を撮影した写真1には本件パケらしき物が写っていない。
②9名で捜索しながら約1時間半も経って発見されたという経緯に不審な点がある。
③被告人の投機物からパケを拾得して持ち込んだ疑いがあるとうい弁護人の主張に関連して、マンションの防犯カメラの画像データが一部消去されていた。
捜査の適法性について検察官の立証責任は尽くされていないと判断。
  ②事件  争点 ①職務質問の適法性
②被告人の覚せい剤使用の嫌疑及び強制採尿等の必要性
③強制採尿令状等の執行の適法性 
  判断 争点①について:
居室前まで追従して質問した点は適法
but
居室に立ち入って留まった行為(本件立入り等行為)は、被告人の意思を制圧して、住居についての生活の平穏やプライバシー等の重要な個人的法益を大きく侵害したもの⇒無令状による違法な強制処分。

立ち入る必要性、緊急性もなかったか相当に低かった
⇒その違法は重大であり、室内での写真撮影も同様。
争点②について:
強制採尿がやむを得ない場合の最終手段⇒通常の捜索差押許可状よりも高度な嫌疑が必要。

捜査報告書の内容のうち、立ち入り前に判明した
①覚せい剤常習者特有の症状、及び
②覚せい剤事犯の犯歴
によっては、強制採尿令状発付に必要な嫌疑及び強制採尿の必要性は認められない。

③自室での被告人の異常な状況、
④注射痕の存在
⑤任意採尿の許否
⑥その後の立去り
は、嫌疑及び必要性を基礎付ける。
but
重大な違法がある本件立入り等行為の結果判明し又は現れた事実であって、同捜査報告書の瑕疵は大きい。

写真も重大な違法のある撮影行為によって直接得られたもの

これらの疎明資料に基づいて発付された令状による強制採尿手続には重大な違法がある

尿鑑定書の証拠能力を否定。
  解説 本判決:
警察官が、被告人が閉めようとしたドアを手で抑える有形力を行使しつつ、承諾なく被告人方居宅内の靴脱ぎ場まで立ち入り、退去を求められても留まっていた本件立入り行為は強制処分に当たる。
その必要性も緊急性もない又は相当低いのに、これを無令状で行なった違法は重大。 
大阪高裁H30.8.30:
警察官が被告人のアパートの共用部分に立ち入り、被告人方の扉を閉めさせなかった行為は強制処分であり、その違法性は重大。
but
本件は、住居内まで立ち入り⇒憲法35条が保障する住居の不可侵を直接侵害したものであり、同事案以上に権利侵害性が大きい。
本件A:強制採尿における嫌疑の程度について、通常の捜索差押許可状よりも高度な嫌疑が必要。
B:通常の捜索差押許可状の場合と同程度でよい

①最高裁が矯正採尿の要件として単に「嫌疑の存在」と述べている
②一般に捜索差押許可状の発付には逮捕の場合よりも低い嫌疑で足りる
③強制採尿は捜査の初動段階で行なわれる。
  刑事p129
釧路地裁R1.9.27  
  職務質問・逮捕に令状主義の精神を没却するような重大な違法⇒密接な関連を有する大麻等の証拠能力を否定
  事案 被告人が①公務執行妨害及び②大麻取締法違反の公訴事実で起訴⇒差戻前第1審が有罪判決⇒差戻前控訴審が審理不尽を理由として同判決を破棄⇒差戻後第1審が無罪判決 
  弁護人 公務執行妨害の公訴事実について:
被告人は体当たりも左肘を打ち付ける行為もしていない。
警察官らが被告人にヘッドロックをするなどして違法な職務質問を行っており、職務執行の適法性を欠く⇒無罪主張。 
大麻取締法違反の公訴事実について:
本件大麻の証拠収集過程には、職務質問中に警察官が被告人に暴行を加え、要件を欠くのに逮捕するという重大な違法⇒押収された本件大麻等は違法収集証拠として証拠能力が否定されるとして、無罪を主張。
  判断 ①被告人が逃げ出した際に警察官に体当たりや肘を打ち付ける暴行を加えた旨の警察官らの公判供述の信用性を否定
②警察官から2度にわたってヘッドロックをかけられて制圧され、現行犯人逮捕された旨の被告人の公判供述の信用性を否定することは困難

公務執行妨害の公訴事実につき、被告人による暴行行為があったと認定するには合理的な疑いが残る⇒無罪。 
大麻取締法違反の公訴事実:
①警察官が被告人に対してヘッドロックをしたことは、任意捜査である職務質問に附随する停止行為として許容される限度を逸脱したもの
②警察官らが逮捕の要件を欠く状況であったにもかかわらず本件逮捕に及んでいる

被告人に対する職務質問及び本件逮捕手続には令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これと密接な関連を有する本件大麻を証拠として許容することは、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でない。

本件大麻及びその鑑定書の証拠能力を否定し、無罪。
  解説 最高裁昭和53.9.7:
証拠の収集手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合には、証拠能力が否定される。

最高裁H15.2.14:
当該事案における逮捕手続の違法の程度は、令状主義の精神を没却するような重大なものであり、このような違法な逮捕に密接に関連する証拠を許容することは、将来における違法捜査抑制の見地からも相当でない。
前記逮捕の当日に採取された被告人の尿及びその鑑定書は、前記逮捕と密接な関連を有する証拠であるとして、前記鑑定書の証拠能力が否定される。
2458   
  行政p3
最高裁R2.3.26  
  公有水面埋立法42条1項に基づく埋立ての承認と行政不服審査法7条2項の「固有の資格」
  事案 沖縄防衛局は、・・・公有水面の埋立て(「本件埋立事業」)につき、同県知事から公有水面埋立法42条1項の承認を受けていた⇒事後に判明した事情等を理由として本件埋立承認が取り消された⇒これを不服として国土交通大臣に対し行審法に基づく審査請求⇒同大臣は、本件埋立承認取消しを取り消す旨の裁決(「本件裁決」)。
X(沖縄県知事)が、本件裁決は違法な「国の関与」に当たる⇒地自法251条の5第1項に基づき、Y(国土交通大臣)を相手に、本件裁決の取消しを求めた。
  法令 普通地方公共団体の長その他の執行機関は、その担任する事務に関する「国の関与」に不服⇒国地方係争処理委員会に対し、当該国の関与を行った国の行政庁を相手方として、審査の申出(地自法250条の13第1項)
同委員会の審査の結果又は勧告に不服⇒高等裁判所に対し、当該行政庁を被告として、訴えをもって当該審査の申出に係る違法な「国の関与」の取消しを求めることができる(同法251条の5第1項1号)。 
「国の関与」:
地方公共団体に対する国又は都道府県の関与のうち国の行政機関が行うものをいう(地自法250条の7第2項)。
but
同法245条3号括弧書により「審査請求その他の不服申立てに対する裁決、決定その他の行為」(「裁決等」)は同関与から除かれている。
行審法に基づく審査請求に対する裁決がこの裁決等に含まれることは明らか。
but
同法7条2項は、国の機関又は地方公共団体その他の公共団体若しくはその機関(「国の機関等」)に対する処分で、国の機関等がその「固有の資格」において当該処分の相手方となるものについては、同法の規定は適用しない旨を規定。
一般に、公有水面の埋立てをしようとする者は、都道府県知事の免許を受けるべきものとされている。(公有水面埋立法2条1項)
これに対し、国において埋立てをする場合については、これを実施する機関において都道府県知事の承認を受けるべきものとされ(同法42条1項)、埋立免許に係る規定の一部が準用されている(同条3項)。
尚、埋立免許及び埋立承認に係る事務は、いずれも法定受託事務に当たる(地自法別表第1)。
  Xの主張 本件埋立承認取消しは国の機関である沖縄防衛庁がその「固有の資格」において相手方となった処分⇒行審法の適用が除外され、これに対してされた本件裁決は成立に瑕疵があり、「国の関与」から除かれる裁決等に当たらない⇒本件裁決は「国の関与」に当たりかつ違法である。 
  原審 本件埋立承認取消しは沖縄防衛庁がその「固有の資格」において相手方となった処分とはいえない⇒本件裁決は「国の関与」から除かれる裁決等に当たる⇒却下。 
  判断 上告を受理した上、「公有水面埋立法42条1項に基づく埋立ての承認は国の機関が行審法7条2項にいう「固有の資格」において相手方となるものということはできない」
原審の判断を是認し、上告を棄却。 
  解説  行審法7条2項の規定によれば、同法上、国の機関等が「固有の資格」において相手方となる処分に対して審査請求がされ、これに対する応答として何らかの裁決がされることは予定されていない⇒そのような処分について、同法に基づくものとして審査請求及び裁決がされたとしても、当該裁決は、同法に基づく審査請求に対する裁決とはいえず、「国の関与」から除かれる裁決等には当たらない。

本判決:
本件訴えの適法性に関し、本件埋立承認取消に係る「固有の資格」該当性(国の機関等がその「固有の資格」において相手方となる処分か否かの問題をいう。)が問題となるとした。
  ●「固有の資格」の意義及び判断 
「固有の資格」は、一般私人が立ち得ないような立場(にある状態)をいうものと解されており、本判決も同じ。
「固有の資格」該当性の判断方法:
学説
①処分の名あて人が国の機関等に限られている場合
②処分に係る事務・事業について、国の機関等が自らの責務として処理すべきこととされ又は原則的な担い手として予定されている場合
⇒「固有の資格」に当たる。
but
③国の機関等が処分の名あて人となる場合に特例が定められていても、それが単なる用語変更にすぎない場合には、「固有の資格」に当たらない。
本判決:
①行審法は行政庁の処分に対する不服申立てに係る手続きを規定するものであり、
②「固有の資格」は国の機関等に対する処分がこの手続の対象となるか否かを決する基準
⇒「固有の資格」該当性の検討に当たっては、当該処分に係る規律のうち、当該処分に対する不服申立てにおいて審査の対象となるべきものに着目すべき。
埋立承認のような特定の事務又は事業を実施するために受けるべき処分については、その実施主体が国の機関等に限られているか否か、または、限られていないとすれば、当該事務又は事業を実施し得る地位の取得について、国の機関等が一般私人に優先するなど特別に取り扱われているか否か等を考慮して判断すべき。

国の機関等と一般私人のいずれについても、処分を受けて初めて同地位を得ることができるものとされ、かつ、当該処分を受けるための処分要件その他の規律が実質的に異ならない場合⇒処分の名称等について特例が設けられていたとしても、国の機関等が一般私人が立ち得ないような立場において当該処分の相手方となるものとはいえない。

前記の①~③の考え方を、本件の判断対象(特定の事務又は事業を実施するために受けるべき処分)に即して具体化したもの。
当該処分を受けた後の事務又は事務の実施の過程等における監督その他の規律に差異があっても、当該処分に対する不服申立てにおいて直接そのような規律に基づいて審査がされるわけではない⇒それだけで行審法の適用を除外する理由となるものではない。

行政庁の処分に対する不服申立てにおいては、当該処分を受けるための処分要件その他の規律に基づいて当該処分の適否及び当否が審査される一方、当該処分を受けた後の事務又は事業の実施の過程等が審査の対象となるものではない⇒後者の規律に差異があっても、当該処分について行審法の適用を除外する理由はなく、直ちに「固有の資格」該当性を肯定する根拠とならない。
  ●公有水面の埋立てに係る規律 
国において埋立てをしようとするときは、
これを実施する機関において知事の埋立承認を受けるべきものとされ、また、埋立工事を竣功したときは、知事にこれを通知すれば足りる。
国の埋立てには、埋立許可に係る規定のうち、出願手続、審査手続、免許基準、処分の告示等の規定が準用されている一方、
免許料の徴収、工事の着手及び竣功の義務、埋立権の譲渡及び承継、竣功認可、違法行為等に対する監督、免許の失効等の規定が準用されていない。

公有水面は国の所有に属するものであり、国は公有水面についての埋立ての権能を含む本来的な支配管理権能を有している。
●埋立承認/取消しに係る「固有の資格」該当性 
①公有水面埋立法は、国の機関と国以外の者のいずれについても、埋立ての実施主体となり得るものとし、また、知事の処分である埋立承認又は埋立免許を受けて初めて、埋立てを適法に実施し得る地位を得ることができるものとしている。
②埋立承認及び埋立免許を受けるための手続や要件等に差異は設けられておらず、「承認」と「免許」という名称の差異にかかわらず、当該処分を受けるための処分要件その他の規律は実質的に異ならない。
③国の埋立てには国以外の者が埋立てをする場合に適用される規定の一部が準用されていない
butこれらは、埋立免許がされた後の埋立ての実施の過程等を規律する規定であり、そのことによって、国の機関と国以外の者との間で、埋立てを適法の実施し得る地位を得るための規律に実質的な差異があるということではできない。

国の機関が一般私人が立ち得ないような立場において埋立承認の相手方となるものとはいえないとして、埋立承認は国の機関が行審法7条2項にいう「固有の資格」において相手方となるものということはできない。
埋立承認の取消しである本件埋立承認取消しについても、以上と別異に解すべき理由は見当たらない
⇒国の機関である沖縄防衛局がその「固有の資格」において相手方となったものということはできない。
  行政p18
①東京地裁R1.12.16
②大阪地裁R2.2.25  
  あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律2条1項の認定について、視覚障碍者以外の者を教育し又は要請する学校・養成施設について規制する同法附則19条1項の規定の憲法22条1項違反(否定)
  事案 平成27年、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律2条2項に基づき、厚労大臣に対し、同条1項の認定申請⇒視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難にならないようにするため必要があると認められるとして、法附則19条1項の規定により認定しない旨の処分⇒本件規定は職業選択の自由を害するもので、憲法22条1項等に違反し無効⇒各処分の取消しの訴えを提起。
  判断  合憲性判断基準について、
最高裁昭和50.4.30、最高裁H4.12.15を引用し、
一般に許可制は単なる職業活動の内容及び態様に関する規制を超えて、狭義における職業選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限

その合憲性を肯定し得るためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する。

最高裁昭和47.11.22を引用し、
社会経済政策上の積極的な目的のための個人の経済活動に対する法的規制措置については、立法府の政策的・技術的な裁量判断を尊重せざるを得ず、ただ当該法的規制措置が当該目的のために必要かつ合理的な範囲にとどまるとの立法府の判断が、その裁量権の範囲を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理である場合に限って、これを違憲としてその効力を否定することができる。 
●立法目的の合理性
・・・・本件規定の立法目的は、その立法時はもちろんのこと本件各処分時においても、一応の合理性がある。
  ●規制の必要性及び合理性 
本件規定が晴眼者対象学校等の新設等を全面的に規制しているわけではなく、視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにすうrため必要があると認められる場合に限って規制⇒制約は限定的。
あん摩マッサージ指圧師となるために必要な知識及び技能を修得して免許を得ようとする視覚障碍者以外の者にとっても、既設の養成施設等においてその修得ができる⇒職業選択の自由に対する制約は限定的。
・・・・視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し、視覚障碍者の生計の維持が著しく困難となることを回避するという目的達成のために本件規定による規制措置を設けることが必要であるとの立法府の判断が著しく不合理であるとはいえない。
本件規定は・・・目的達成のためのものとして、相応の合理性を有する。
・・・同判断を、文部科学大臣等の裁量判断に委ねたことにも、相応の合理性がある。
  本件規定による規制措置は、
視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し、視覚障碍者の生計の維持が著しく困難となることを回避するという目的達成のために必要かつ合理的な範囲にとどまるとの立法府の判断が、その裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であるということはできない

本件規定は憲法22条1項に違反するということはできない。
  解説  従前:規制立法に対する違憲審査基準については、従前、規制の目的が消極的目的のものか積極的目的の規制であるかによって分けて考える規制目的2分論:

消極的目的の規制⇒当該立法が発生の防止を図ることを目的とするところの社会的害悪の存在という立法事実が論証される必要があり、規制の手段・態様は、その害悪の防止という目的達成のため必要最小限のものにとどまらないといけない。

積極的目的の規制⇒規制の目的の正当性、例えば経済的弱者の保護といった憲法上許容されるものであることが論証される必要があるが、
規制の程度・手段は、その目的達成のために必要かつ合理的なものであれば足りる。
規制目的の正当性が認められる⇒規制の程度・手段の選択は立法府の裁量に属するので、合憲性が推定され、違憲審査基準としては、立法府が裁量権を逸脱し、当該規制措置が著しく不合理であることが明白か否かという明白性の原則が妥当。
but
最高裁は、規制目的が消極的目的か積極的目的かとうい点に特に触れず、論を展開。
判例解説:
規制目的二分論を単純に採用するのではなく、当該規制立法がどこまで立法事実に踏み込んだ司法判断がされるべき分野に属するのか、換言すれば、立法事実の把握、ひいては規制措置の必要性と合理性についての立法裁量をどの程度尊重すべき分野に属するのかを検討することこそが重要。
  ①事件、②事件の判決:
本件規定が視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し、視覚障碍者の生計の維持が著しく困難となることを回避するという社会経済政策上の積極的目的(弱者保護の目的)から設けられたもの⇒経済的基盤の弱い小売商の保護を目的とする小売市場の許可規制に係る判例の判断の枠組みを踏襲。 
判断の枠組みとしては立法府の裁量を広く認める立場を採りながら、そのあてはめの場面では立法事実にかなり踏み込んで立法目的の正当性・合理性、規制手段の必要性・合理性を判断。
  民事p53
最高裁R2.3.24  
  家屋の評価の誤りによる固定資産税等の税額過大と民法724条後段所定の除斥期間の起算点
  事案 Xが、建築当初における再建築費評点数の算出等に誤りがあり、これを基礎として順次算出されたその後の各基準年度の再建築費評点表にも誤りが生じたため、本件家屋につき過大な固定資産税等の賦課決定がされ、これを納付したことにより損害が生じた⇒Y(東京都)jに対し、国賠法1条1項に基づき、平成4年度から平成20年度までの各年度における固定資産税等の加納金相当額等の損害賠償を求めた。
  原審 公務員の過失のある違法行為である昭和58年の評価行為及び価格決定の時が除斥期間の起算点となる⇒Xの請求を棄却。 
  判断 家屋の評価の誤りに基づきある年度の固定資産税及び都市計画税の税額が過大に決定されたことによる損害賠償請求権に係る民法724条後段所定の除斥期間は、当該年度の固定資産税等に係る賦課決定がされ所有者に納税通知書が交付された時から進行する

本件における損害賠償請求権につき除斥期間が経過したか否かなどについて更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻し。 
  解説  ●「不法行為の時」の意義
A:生じた損害の原因とみられるべき違法な行為(加害行為)の時(加害行為自説)
B:近時の多数説:不法行為の成立要件を充足した時、すなわち損害の発生時(損害発生時説)
じん肺の事案に関する差交際H16.4.27:
水俣病の事案に関する最高裁H16.10.15:
加害行為が行われた時に損害が発生する不法行為⇒加害行為の時がその起算点となる。
but
身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害や、一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害のように、当該不法行為により発生する損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には、
当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となる。
but
本件のように一定の仕組みの下で複数の行為を経て損害発生に至るという事案では、「不法行為」をどのような単位で捉えるのか、さらに、何をもって損害発生とみるのかなどは、必ずしも一義的ではなく、いずれの説を採るのかによって直ちに結論が導かれるものではない。
  ●本件における除斥期間の起算点 
当該誤りを原因として実際に過大な課税がされ、これにより所有者に損害が生ずることが確定するのは、年度ごとに行われる賦課決定及び納税通知書の交付の時。

家屋の評価に関する同一の誤りを原因として複数年度の固定資産税等が過大に課された場合であっても、これにより生ずる損害あるいは損害賠償請求権は年度ごとに別々のものとして捉えることが相当であり、その除斥期間の起算点も何度ごとに検討すべき。

ある特定の年度に係る損害賠償請求権との関係では、当該所有権に過大な課税がされることが確定する賦課決定及び納税通知書の交付の時点をもって、除斥期間が進行を開始するものと解することが相当。
  民法724条の改正⇒20年の期間の性質が消滅時効であることが明らかにされた。
but
経過規定により、改正前の民法724条後段に規定する期間が改正法施行の際既に経過していた場合におけるその期間の制限については、なお従前の例による。
  民事p61
大阪高裁H31.3.19  
  故意招致事故の認定が問題となった事案
  事案 夜間に暗い抜け道を走行していた控訴人(被保険者)運転の本件自動車が、農業用水路に転落して全損。 
  主張 被控訴人(保険者):
①控訴人の説明する事故発生状況は、客観的痕跡から科学的に推論される事故発生状況と矛盾
②運転目的について嘘をついた
③シートベルト装着の有無に関し嘘をついた
④整備された明るい道路があるのに暗くて狭い抜け道を走行した
⑤自動車ローンの金額について誤った説明をした
⑥本件自動車を必要としていなかった
⑦事故後の通院状況について誤った説明をした
⑧事故時にシートベルトを装着していたように偽装工作をした人物(高校時代の後輩)との関係を隠そうとした
⑨本件自動車と時価(レッドブック掲載の中古車下取価格)125万円と約定保険価額(保険法18条2項)375万円の差額250万円の金銭的利得を得ることができた

控訴人が故意に事故を起こした⇒車両保険金375万円の支払を拒絶。 
  争点 本件自動車及び事故現場に残された客観的痕跡から科学的に推論されるとする事故発生状況が、被控訴人提出の乙号証(被控訴人の技術職社員作成の報告書)と、控訴人提出の甲号証(私的鑑定人たる自動車工学研究所の鑑定書)とで大きく異なっており、そのいずれが正しいかが最大の争点。
  解説 立証責任の分配:
最高裁H18.6.1:
自動車保険車両条項に基づいて車両保険金の支払請求をする被保険者は、事故発生の外形的事実を立証すれば足りるのであって、「事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張、立証すべき責任を負わない。」とし、故意招致の事実は、免責を主張する保険会社が主張立証すべ抗弁であるとした。
  原審 乙号証の報告書と甲号証の鑑定書について「どちらの主張が真実であるとまで認めることはできない」
but
②~⑤⑦~⑨の主張事実を認め、それら1つ1つでは故意招致の事実を推測させるに足りないものの、それらを総合すれば故意招致の事実を推認するのが相当。

被控訴人の免責の抗弁を容れ、控訴人の請求を棄却。 
  判断 ①の主張が立証されれば、保険契約者等が意図的に虚偽の事故状況を述べている事実は、保険契約者等が真実の事故状況を隠そうとしていることを示すということになる⇒当該事故が故意招致事故であることを推認させる重要かつ有力な間接事実となる。
but
甲号証の指摘に照らせば、客観的痕跡から科学的に推論される事故発生状況が乙号証の記述するようなものと認めることはできない。 
③④⑧の主要事実を認定。
but
ア:事故直前に約30万円の費用を投じて本件自動車のボンネットと燃料パイプを修理していた
イ:事故直後に198万円を当時て代替自動車を購入したこと、
ウ:事故後も45カ月にわたり本件自動車の自動車ローン残額239万4668円を完済

控訴人は代替自動車の購入資金とあわせて437万4668円の出捐(375万円の車両保険金を上回る出捐)を余儀なくされている
⇒故意に事故を起こしたとするには疑問の余地があり、③④⑧の事実だけから故意招致の事実を推認すべきではない。

免責の抗弁を容れず、被控訴人に対し車両保険金の支払を命じた。
  民事p84
さいたま地裁R2.2.5  
  不明確性を有する契約条項と消費者契約法12条3項における消費者契約の不当条項該当性
  事案 消費者契約法13条1項所定の適格消費者団体である原告が、被告が不特定かつ多数の消費者との間でポータルサイト「A」に関するサービス提供契約を締結するに当たり、法8条1項に規定する消費者契約の条項に該当する条項(事業者の損害賠償の責任を免除する条項)を含む契約の申込もい又は承諾の意思表示を現に行い、又は行うおそれがある⇒被告に対し、法12条3項に基づき、当該条項を含む契約の申込み又は承諾の意思表示の停止を求めるとともに、これらの行為の停止又は予防に必要な措置として、前記意思表示を行うための事務を行わないことを被告の従業員らに指示するよう求めた。 
  契約規定 「他のA会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した場合」(c号)
「その他、A会員として不適切であると当社が判断した場合」(e号)
には、
被告が会員資格取消措置等をとることができ、
この措置によりA会員に損害が生じても、当社は、一切損害を賠償しない旨の規定(7条3項)。
  主張 原告:被告が故意又は過失により前記の各判断を誤って会員資格取消措置等をとることがあり得る⇒本件規約7条3項は、事業者の債務不履行等により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する不当条項(法8条1項1号及び3号の各前段)に当たるのであり、不明確な条項につき制限的な解釈を採った上で法12条3項における不当条項該当性を判断すべきではない。

被告:本件規約7条1項c号又はe号にいう「判断」とは、一般的な契約実務に則り、「合理的な根拠に基づく合理的な判断」であることが当然の前提となっている⇒同条3項は、不当条項に当たらない。 
  判断 不明確性を有する契約条項につき、法12条3項における消費者契約の不当条項該当性を判断する際の一般的な枠組み:
差止請求の対象とされた条項の文言から読み取ることができる意味内容が、著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められる場合において、事業者が当該条項につき自己に有利な解釈に依拠して運用していることがうかがわれるなど、当該条項が免責条項などの不当条項として機能することになると認められるときは、法12条3項の適用上、当該条項は不当条項に該当。 
・・・本件規約7条3項は、同条1項c号との関係において、法12条3項の適用上、法8条1項1号及び3号の各前段に該当するというべき。
  解説 法12条3項に基づく差止請求が認められるためには、消費者契約の中の特定の条項の不当条項該当性が肯定される必要があり、その前提として、当該条項の意味内容を探求する必要が生じる。
but
①個々の消費者と事業者との間で生じた契約に関する具体的な紛争を終局的に解決するものではない、
②事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、疑義が生じない明確なもので、かつ、平易なものになるよう配慮する努力義務を負い(法3条1項1号)、当該条項につき、解釈を尽くしてもなお複数の可能が残ることのないように努めなければならないとされている

不明確性を有する契約条項が問題とされる
裁判所は、その制度趣旨に沿う限度において、当該条項の意味内容を一義的に示すべき立場にはない。
差止請求一般に備わる事前予防的な性格⇒差止めが認容されるためには、救済の必要性が認められることが通常であり、法12条3項に基づく差止請求権についても、不当条項を含む契約の申込み等を「現に行い又は行うおそれがあるとき」との要件が設定
⇒そのことを示す事情として、当該条項が実際にも不当条項として用いられ、そのように機能しているという状況が存することを要する。
  民事p93
高松地裁R2.1.28  
  園児が雲梯に挟まれて死亡⇒保育所、園長、担当保育士の責任が問題となった事案
  事案 保育園児Aが雲梯で遊戯中に頚部が雲梯に挟まれて死亡。
Aの両親であるX1、X2が、
本件保育所の園長であるY2及び担当保育士であったY2に対しては民法709条に基づき、
Y1(保育園を開設する社会福祉法人)に対しては
第1次的に民法715条1項
第2次的に民法709条
第3時的に民法415条
に基づき、損害賠償請求。
Y1は園児の身体が挟まる危険性がある本件雲梯を設置したことにつき、過失ないし保育上の安全保持義務違反があることを認めている
⇒争点は、園長であるY2、担当保育士であるY3に、本件事故につき過失が認められるか?
  判断   ●Y2(園長)について
Xら:本件雲梯の上向きのV字型開口部を解消せずに放置した点に過失
vs.
Y2においてより注意深く観察していれば本件雲梯の上向きのV字開口部に園児の身体が挟み込まれることを予見することは可能。
but
①一見しただけでは危険性があると認識することは容易ではない
②本件事故はY2が園長就任後僅か12日目に発生
⇒Y2に前記過失はない。
Xら:Y2は本件保育所の園長として園児の安全を守るために適切な監視体制を構築すべき義務があるところ、これを怠った。
vs.
Y2は、適切な監視体制を構築していたといえ、園庭で遊ぶ園児の数を限定するよう監視体制を変更したりする義務があったとまではいえない。
  ●Y3について 
Xら:Aの担当保育士としてAの動静を把握する義務を負っていたところこれを怠った過失がある。
vs.
本件雲梯は客観的には園児の身体が挟み込まれる危険性を有する遊具ではあった
but
これをY3のような個々の保育士が認識することは著しく困難

Aが本件雲梯で遊び始める可能性があったからといって、危険な遊具に当たることを前提とするような注意義務をY3に課することはできない。

Y3は、自身が園庭を離れることを園庭にいた同僚の保育士に伝えてからその場を離れたと認められる
⇒動静把握義務を果たしたといえる。
  民事p103
熊本地裁H31.4.9 
  建物明渡請求が弁護士法73条違反で、権利濫用とされた事例
  事案 Yの父Aから本件居室を買い受けたXが、本件居室に居住するYに対し、所有権に基づき本件居室の明渡し及び買受日から本件居室の明渡し済みまで月額13万円の賃料相当損害金の支払を求めた。
  判断 Xは、平成14年に設立された不動産の売買、仲介等を目的とする会社。
Xは、これまでに、占有者の明渡しを実現すいた上で、当該不動産を転売する取引を約50回以上行っており、立退料を提示して明渡しを実現したことも約30回あった。
Xは、これらの明渡しをいずれも任意交渉で実現しており、訴訟や競売手続における引渡命令等の法的手段をとったことはなかった。 
Xのこのような行為は、形式的には、他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利を実行することを業とする行為(弁護士法73条)であるところ、本件居室に買受けもその一環として行われたもの。
but
かかる行為によって、みだりに訴訟を誘発したり紛議を助長したりするおそれがない場合には、弁護士法73条に違反しないと解することができる。
Xの本件居室の買受けは、競売手続における買受けでないことはもとより、Aの債権者の権利行使に伴って行われたものでもなく、AとYとの間でYの本件居室の占有の継続すなわちYの占有権限の有無について紛争を生じたことに端を発して、Aの利益を図る目的で行われたもの

XによるAとの間の本件居室の買受けは、本件居室についてのYの占有権限の内容について何ら調査をすることなく行われたものであり、Yの法律生活上の利益に対する弊害が生じることが防止されているものとはいえない。

かかるXによるAとの間の本件居室の買受行為は、弁護士法73条に違反する行為の一環として行われたものと認めるのが相当。
①弁護士法73条に違反する行為によって国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずることを防止する公益上の要請は強く
②同条に違反する行為が刑事罰の対象とされている

同条に違反する行為の私法的効力は抑制的に解するのが相当。

本件売買契約が、AとXとの間において無効ではないとしても、Xが本件売買契約の結果取得した本件居室の所有権に基づき、本件請求を行うことは権利の濫用として認められない。
  解説 弁護士法 第73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業とすることができない。

主として弁護士でない者が、権利の譲渡を受けることによって、みだりに訴訟を誘発したりするなどして、国民の法律生活上の利益縫い対する弊害が生じることを防止するところにある。

そのような弊害がない場合には、弁護士法73条違反に当たらない。
(最高裁H14.1.22)
   刑事p109
最高裁R1.12.20
  麻薬特例法2条3項にいう「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」に該当する範囲が問題となった事例
  事案 被告人が、Aとの間で、覚せい剤100gを代金80万円前払で譲り渡すこと、覚せい剤は80gと20gに分けて引き渡すことを約束し、
代金全額の支払を受けた後、その約束に係る覚せい剤の一部として、覚せい剤78.76g(「本件覚せい剤」)を譲り渡そうとしたが、未遂に終わった。

国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(「麻薬特例法」)2条3項にいう「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」として薬物犯罪収益に該当する財産の範囲が問題。
  原審 薬物犯罪収益となるのは本件覚せい剤の代金相当額であり、被告人は約束した覚せい剤のうちの8割分として本件覚せい剤を発送⇒薬物犯罪収益となるのは64万円⇒被告人から64万円を追徴。 
  判断 覚せい剤100gを代金80万円で譲渡するという約束に基づき、代金全額の支払いを受けるとともに、その約束に係る覚せい剤の一部(本件覚せい剤)について譲渡の実行の着手したという事実関係。
⇒代金全額が麻薬特例法2条3項にいう「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」に当たる
⇒追徴部部を破棄し、80万円を追徴。 
  解説 ●判例・学説
組織犯罪法2条2項1号の「犯罪行為により得た財産」について、
最高裁判例①②③④ 
犯罪行為「により得た」とは、刑法19条1項3号(取得物件)の犯罪行為「によって得た」と基本的に同義であるとの理解。
判例③④:
条文の「文理」を指摘して、幇助行為又は犯罪行為を原因として取得したといえるかを考慮。
規制薬物の譲渡事案で代金がたまたま前払で支払われていても、犯人が譲渡を直接的な原因ないし手段として得たものであって、「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」であることに変わりはない。
「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」:
構成要件該当行為を原因として得られたものであるが、
財産を得ることが構成要件中に含まれる必要はないし、純利益性も不要。
薬物犯罪の犯罪行為と財産の取得に因果関係があることを意味する。
刑法上の取得物件については、対価物件(19条1項4号)との区別も念頭に置いて、
単に犯罪行為と因果関係があれば足りるのではなく、犯罪行為を手段として取得した趣旨、
犯罪行為と因果関係があればよいのではなく、直接取得された物に限るなどと解されている。
●本件
覚せい剤の譲渡においては、相手方に対して覚せい剤の所持を移転する一連の行為を開始して譲渡の実行に着手するのに先立ち、譲渡の約束(合意)が存在し、
「犯罪行為により得た」といえるか否かを判断するに当たっては、犯罪行為までに成立している約束の内容が考慮される。
本件:
犯罪行為である本件覚せい剤の譲渡の実行行為が、基となった約束の内容に沿うものではあるものの、未だその内容の一部を実現するものにとどまる場合にも、その約束に基づいて支払われた代金全体を、犯罪行為を原因なしい手段として得た財産とみることができるのか?
原判決:
判例①の判旨を引用し、
本件で追徴対象となる薬物犯罪集積は、薬物犯罪の犯罪行為である本件覚せい剤の譲渡未遂により得た財産の価額であり、本件覚せい剤の代金相当額に限られるとするのが相当。
vs.
判例②④が費用や送料分を控除すべきではないとしている⇒対象財産と譲渡の目的物との経済的な対価性は要求されてこなかった。
本判決:
覚せい剤100gを代金80万円で譲渡するという約束に基づき、代金全額の支払いを受けるとともに、その約束に係る覚せい剤の一部(本件覚せい剤)について譲渡の実行の着手したという事実関係。
⇒「代金全額が、その約束に係る覚せい剤の対価として本件譲渡未遂と結びついており、本件譲渡未遂を原因として得た財産といえる」

①規制薬物の有償譲渡に係る約束に基づいて財産を得た上で、その約束に沿う犯罪を行っている⇒代金全額がその約束に係る規制薬物の対価として一体的に結びついている。
②条文の文理、取得財産の没収・追徴の趣旨に沿う
ことが考慮。
取引形態や約束の内容によっては、代金全額が「犯罪行為により得た」といえるか改めて検討すべき場合もあり得る⇒事例判断。
上告審として是正しなければ著しく正義に反する点は、追徴部分のみ⇒部分破棄方式。
2457   
  民事p5
最高裁R2.4.16 
事案 抗告人が、本件調停成立後に、事情の変更により本件調停における子の返還条項(「本件返還条項」)を維持することが不当となったと主張し、ハーグ条約実施法117条1項に基づき、本件返還条項を変更することを求めた事案。
  規定 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律
第一一七条(終局決定の変更)
子の返還を命ずる終局決定をした裁判所(その決定に対して即時抗告があった場合において、抗告裁判所が当該即時抗告を棄却する終局決定(第百七条第二項の規定による決定を除く。以下この項において同じ。)をしたときは、当該抗告裁判所)は、子の返還を命ずる終局決定が確定した後に、事情の変更によりその決定を維持することを不当と認めるに至ったときは、当事者の申立てにより、その決定(当該抗告裁判所が当該即時抗告を棄却する終局決定をした場合にあっては、当該終局決定)を変更することができる。ただし、子が常居所地国に返還された後は、この限りでない。
  原審 同項は調停における子の返還条項に直接適用又は類推適用されず、本件申立ては不適法⇒これを却下した原々決定は結論において正当。
  判断 ハーグ条約実施法の規定する子の返還申立事件に係る家事調停において、子を返還する旨の調停が成立した後に、事情の変更により同調停における子を返還する旨の定めを維持することを不当と認めるに至った場合、同法117条1項の規定を類推適用して、当事者の申立てにより、前規定の変更をすることができる。
⇒原審に差し戻した。
  解説 請求異議の訴えにより調停における子の返還条項の執行力の排除を認めるという手段。
vs.
子の返還申立事件の手続は家事手続に類似する非訟手続である一方、
請求異議の訴えは民事手続。
事情の変更により調停における子の返還条項の効力を失わせるかどうかの判断は、裁判所が諸事情を考慮して合理的裁量により行う面があり、これを民事手続である請求異議の訴えにおいて行うこととするのは適切ではなく、ハーグ条約実施法117条1項の変更手続において行うこととするのが適切。
民法880条(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し)の変更手続と請求異議の訴えとの関係:
一義的に請求権の消滅等を生じさせる事由が主張⇒請求異議の訴え
裁判所の合理的裁量を経て請求権の消滅等を生じさせるか否かが決せられる事由が主張⇒民法880条の変更手続
というのが通説。
  民事p9
仙台地裁R2.5.13  
  宅下げにかかる宮城刑務所長の措置が国賠法上違法とされた事例
  事案 無期懲役刑の判決の言い渡しを受けて宮城刑務所で服役している原告が、国に対し、
宮城刑務所長等が職務を行うについて違法に精神的又は財産的損害を原告に加え、宮城刑務所において合計55件の違法行為があった⇒国賠法1条1項に基づき、慰謝料合計30万円及び弁護士費用10万円並びに遅延損害金の支払を求めた。 
宅下げ:被収容者が保管私物又は領置金品を他の者へ交付すること。
  判断 公務員による公権力の行使に国賠法1条1項にいう違法があるというためには、公務員が当該行為によって損害を被ったと主張する者に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められることが必要であるとして、実務上一般に、職務行為規準説が採用されており、本判決も同様。 
かつての監獄法52条が在監者において領置物を正当な用途に充てることを請求するときは情状によりこれを許することができる旨規定
but
刑事収容法50条は、保管私物又は領置金品の他の者への交付については、その許否を刑事施設の長の裁量に委ねず、同条各号に該当する場合を除き、その交付を許すものとしている。

被収容者が保管私物又は領置金品を他の者へ交付する申請を許さない刑事施設の長の措置は、同条各号に該当する場合を除き、国賠法1条1項の適用上違法となると解するのが相当。
宮城刑務所長は、原告の宅下げの申請につき、釈放後の社会生活上必要とは認められないし、法律上の権限を有する機関による権利救済を求めるため必要とも認められないと判断して不許可とする決定。
but
一般に販売されている前記宅下げに係る雑誌等の交付によって、宮城刑務所の規律及び秩序を害するおそれがあるもの(刑事収容法50条1号)と認めることはできず、また、その交付によって、受刑者である原告の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあるもの(同条2号)と認めることもできない。

刑事収容法50条各号に該当する事由が認められないにもかかわらず、前記雑誌等に係る宅下げの申請を許さない宮城刑務所長の措置は、国賠法1条1項の適用上違法となる。
宮城刑務所長は、法務大臣が発出した3300号訓令及び矯正局長が発出した3345号通達に基づき、本件各達示を定め、本件各達示の規定に従って本件各措置をした。 
but
本件各措置を執るまでの間に、これらの規定の有効性につき、実務上特に疑いを差し挟む解釈をされたことがない

被収容者が宅下げを申請した場合に、3300号訓令及び3345号通達に基づいて制定した本件各達示に従って指導し、その許否の判断をすることが国賠法上違法であることについて、国家公務員として法令に従ってその職務を遂行すべき義務を負う宮城刑務所長にとって、容易に理解可能であったということはできない。

宮城刑務所長は、本件各措置を執った当時、前記にいう違法を予見した又は予見すべきであったということはできない。

宮城刑務所長が本件各措置をしたことについて、国賠法1条1項にいう過失があるということはできない。
   解説 ●適法とした裁判例
仙台地裁H23.9.26:
平成19年達示21号の12条について
被収容者の同意を前提に、閲覧後の新聞紙及び雑誌を原則として廃棄するものとしており、宅下げを認める場合を同条1項各号の場合に限定し、これらに基づく運用をしているのであって、
①宅下げを認める場合の要件が合理的であること、
②宅下げ申請に係る書籍が訴訟におて証拠として提出予定であったとしても宅下げではなく居宅内での所持等でも足りる
⇒閲覧後の書籍等の取扱いに係る法令の定めに従って前記書籍等の宅下げを認めなかったことが違法であるとはいえない。
大阪地裁H25.12.5等:
本件各達示12条と同旨の規定に基づく宅下げの申請を不許可とする処分につき、
当該規定は、刑事施設の適正な管理運営と被収容者の権利の調和的実現を図る観点から定められたものであり、著しく合理性を欠くものとはいえず、刑事収容法50条1号に違反するものではない。
  ●違法とした裁判例
岐阜地裁R1.5.10:
岐阜刑務所が本件各達示12条1項と同趣旨の規定に基づき宅下げの申請を不許可とした事案において、
刑事収容法50条は、被収容者の保管私物を不許可とする事由として、同条各号の事由を限定列挙するのみであり、宅下げに伴う事務負担の程度を理由とする宅下げの不許かは想定されていない
⇒これを理由に宅下げを許可する場合を限定する岐阜刑務所における運用は、やはり同法50条が想定してはいない制限を違法に創設するもの
⇒当該不許可処分は違法。
  刑事p146
東京高裁H30.12.20  
  少年を第1種少年院に送致した原決定の処分は著しく不当⇒原決定が取り消された事例
  事案 児童相談所に一時保護されていた少年が、児童相談所職員に対して、椅子をなげつけて身体にぶつけるなどの暴行を加え、全治約5日間の右前腕打撲等の傷害を負わせた。 
  原決定 ・・・社会内処遇あるいは開放施設における改善指導は困難であって、少年院に収容して、厳格な枠組みの下における指導が必要。 
  判断 ①本件非行対態様は、自分が座っていた椅子を投げつけるなどの比較的単純なものであり、執拗な暴行を加えたというものではない
⇒無抵抗の被害者に一方的に暴行を加えた悪質な態様という評価は必ずしも相当とはいえない。
②全治約5日間という傷害結果は軽い部類に属する⇒これが軽いものではないという評価は明らかに相当ではない。
③経緯や動機において本件非行を正当化するものとはいえないという説示もやや形式的な見方といえる。

本件非行は、直ちに施設収容による矯正教育の必要性を示すような重大なものではない。
少年の問題行動の拡大のうち、他人への器物損壊、暴力行為という点は、児童相談所において一時保護中の少年の行状を指していると解される
but
①それらは、家族間のトラブルの延長という側面があると考えられる。
②それらの問題行動の状況について、調査・審判の過程で少年に確認をした形跡がない。
③「放火行為」についても、家族間のトラブルの範疇にあるとみることができる上、少年は、トイレットペーパーロールの底をコンロの火に当てたが、自分で火を消したと供述するところ、これを否定するだけの事情はない。
④アルコールを撒いたという行為は危険であるが、少年が火をつけようとしたとは認められない。

通常の「放火行為」とは様相を異にしている。
少年の問題性の深化という文脈で捉えるのであれば、その詳細を明らかにするなど検討が必要
but
調査・審判の過程にでこの点が意識されていたとは認められない。
他方で、
学校やアルバイト先での様子⇒少年の問題行動の範囲は限定されていたと評価する余地がある。
児童相談所の指導が有効な歯止めとなっていないという点
vs.
児童相談所で特段の指導が行われたようにはうかがわれず、その説示は相当ではない。
少年に対して、適切な医療的措置が施されて服薬が励行されれば、相応に問題性の改善が見られる可能性は高い
but
調査・審判の過程で、そのような医療的措置を含む社会内処遇等の可能性が具体的に検討されたようには見受けられない。
保護観察については、現時点で、実母や継父において、少年の特性を踏まえた指導や監督をしていくことは困難であるが、実母の態度に変化が見られていたのに、面会の際のやりとりや、それを踏まえた気持ちなどについて、審判において、少年及び実母に確認した形跡はない。
そして、本件非行の程度等に照らすと、これまで少年に対し、障害や性格の特性に合わせた指導が行われたことはない⇒施設収容による矯正教育以外の処遇は困難であることの見極めが必要である。

原決定は、少年の問題性ないし要保護性に関する基礎事情を十分明らかにしていなかったり、これらを一面的に評価ているところがあり、それに伴って、施設収容による矯正教育以外の処遇が困難であることの見極めを十分にしていないと言わざるを得ない。

このような調査・審判の過程により、少年を第1種少年院に送致した原決定の処分は著しく不当。
  解説 保護処分の要否及びその種別の選択においては、非行事実及び要保護性を基礎付ける事情の評価が重要。
本決定:原決定のそれらの評価の問題点を具体的に示しており参考になる。 
要保護性を基礎付ける事情については、それが処分選択上重要であるならば十分な調査が必要となるところ、
本決定は、その重要性と調査の必要性を具体的に示している。
2456   
  行政p3
東京高裁H31.2.6  
  店舗販売業者に対し、要指導医薬品の販売等を行う場合に薬剤師対面による情報の提供等を義務付ける法律と憲法22条1項違反(否定)
  事案 平成25年法律第103号により改正後の薬事法において、店舗販売業者に対し、要指導医薬品の販売又は授与を行う場合には薬剤師に対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導を行わせなければならない(36条の6第1項)ものとし、前記の場合において、前記の情報提供又は指導ができないときは要指導医薬品の販売又は授与をしてはならない(同条3項)ものとする各規定が設けられ、厚生労働省告示によって7つの製剤が要指導医薬品として指定された
⇒インターネットを通じて店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による医薬品の販売を行う事業者であるXが、Y(国)に対し、本件対面販売規制は必要性及び合理性に欠ける規制であって、憲法22条1項に違反するなどと主張し、
①本件各指定の取消しを求めるとともに、
②前記の各要指導医薬品につき、郵便等販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認を求めた。 
  原審 本件各指定の取消しの訴えは、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないものを対象として提起されたものであって不適法⇒却下 
地位確認の訴えについて、本件各規定は立法府の合理的裁量の範囲を逸脱するものと断じることはできず、憲法22条1項に違反するものということはできない。
本件各指定は、その指定の要件に欠けるものではなく適法。
⇒請求を棄却。
判断の枠組:
規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量にとどまる限り、立法政策上の問題としてこれを尊重すべき。
but
その合理的裁量の範囲については、事の性質上おのずから広狭があり得るのであって、裁判所は、具体的な規制の目的、対象、方法等の性質と内容に照らして、これを決すべき。

最高裁昭和50.4.30や最高裁H4.12.15が示していたもの。
  判断  原審と結論同じ。 
Xは、本件対面販売規制の合憲性の審査に当たっては、厳しい合憲性審査基準が適用されるべきである旨主張。
but
①本件対面販売規制の対象となるよう指導医薬品に指定される品目が多数に及ぶ事態は想定し難い
②スイッチ直後品目等については所定の調査期間が経過した後に、問題がなければ一般用医薬品に移行することとされており、規制の期間も限定されている

本件対面販売規制は、郵便等販売をその事業の柱とする店舗販売業者に対して一定の制約を生じさせるとしても、その開業又は事業の継続そのものの断念に結び付くような結果をもたらす規制であるとは認め難い
⇒狭義における職業選択の自由そのものを制約するものではなく、職業活動の内容及び態様に対する規制にとどまるということができ、しかも、その職業活動の自由を相当程度制約するものであるともいえない。
要指導医薬品として指定され得るスイッチ直後品目等は・・・・特性を有するものであり、
本件対面販売規制の目的は、一般用医薬品としての安全性の評価が確定していないスイッチ直後品目等を要指導医薬品として指定することにより、その不適正な使用による国民の生命、健康に対する侵害を防止し、もって保険衛生上の危害の発生の防止を図ることにあるものであって、Xの主張するように、同規制の主たる目的が既存の対面販売業者の保護にあるとは認められない。
・・・・本件対面販売規制のように、販売に当たって薬剤師を積極的に関与させる方策をとる必要性があると立法府が判断することは不合理とはいえない。
・・・・要指導医薬品として指定されるスイッチ直後品目等について、薬剤師による使用者への情報提供等を実効的に行う方法として、実際に対面した上で販売するという手段を採用することには、相応の合理性がある。

本件対面販売規制は合理性を有し、本件対面規制が憲法22条1項に違反すると認めることはできない。
  解説 平成18年法律第69号による改正後の薬事法の施行に伴って平成21年厚生労働省令第10号により改正された薬事法施行規則は、店舗販売業者に対し、一般用医薬品のうち第1類医薬品及び第2類医薬品について、店舗での薬剤師等の専門家による対面販売等を求め、郵便等販売を禁止⇒最高裁H25.1.11(医薬品ネット販売規制事件)は、かかる薬事法施行規則の規定は、前記各医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において、薬事法の趣旨に適合するものではなく、同法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効であると判示⇒平成25年法改正がされた。
  行政p15
東京地裁R1.9.12  
  精神保健指定医の指定取消処分につき、厚労大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったとされた事例
  事案 精神保健指定医の指定を受けていた医師Xが、厚生労働大臣から、本件指定を取り消す旨の処分を受けた⇒Y(国)を相手に、本件処分の取消しを求めた。 
  本件処分の理由:
Xが本件申請の際に、自ら担当として診断又は治療に十分関わりを持った症例とは認められない本件症例を対象として、不正な本件ケースレポートを作成して提出し、このことが精神福祉法19条の2第2項に規定する「指定医として著しく不適当と認められるとき」に該当する。
  Xの主張 Xは、本件患者の診察に十分な関わりを持っていなかとは認められない⇒本件処分は、処分理由とされた事実の認定に誤認がある。 
  判断 Xは本件症例に係る診察について自ら担当として十分な関わりを持ったと認められる⇒本件ケースレポートの提出をもって精神福祉法19条の2第2項に規定する「指定医として著しく不適当と認められるとき」に該当するとして本件指定を取り消した本件処分は、厚生労働大臣の裁量判断の前提となる重要な事実の基礎を欠く⇒その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法⇒Xの請求を認容。 
Xの本件症例へ関わりについて、Xは本件複数医体制の下、A医師及びB医師とともに本件症例に係る診療に関与したものであるところ、
①本件患者が本件病院に入院した間、勤務日(基本的に毎週月曜日~金曜日)毎に本件患者を診察し、
②他の2名の医師とともに本件患者の治療やリハビリの方針等について協議を行ったほか、看護師や本件患者の家族等を交えたリハビリテーションカンファレンスにも参加し、
③前記の医師間の協議の場において、抗精神病薬の投与等について具体的な提案をし、
④看護師がA医師と連絡を取れないときには代りにドクターコールを受けて対応し、
⑤髄膜種の再発が判明した際には、本件患者及びその家族に対し、その事実及び他病院での治療の必要性について説明し、
⑥診療情報提供書及び退院時要約の草稿を作成したことなどの事実を認定

これらの事実に照らせば、Xは、本件複数医体制の下で、指導医から指導を受ける立場の担当医に期待される役割を果たしており、本件症例について、自ら担当として十分な関わりを持ったものと認めるのが相当。
  解説 精神福祉法18条1項:
患者本人の意思にかかわらず入院を実施することができるなどの指定医の職務に鑑み、厚生労働大臣が、申請に基づき、3年以上精神障害の診断又は治療に従事した経験を有するなど所定の要件に該当する医師のうち、前記の職務を行うのに必要な知識及び技能を有すると認められる者を指定医に指定することとしている。
その要件の1つ:「厚生労働大臣が定める精神障害につき厚生労働大臣が定める程度の診断又は治療に従事した経験を有すること」(「診療経験要件」) 
  民事p45
最高裁R1.12.24  
  合資会社の無限責任社員の退社時の金員支払債務(肯定)
  事案 亡Aの長女であるXが、Aがその所有する一切の財産を長男であるYに相続させる旨の遺言⇒Yに対し、遺留分減殺請求権の行使に基づき、Aの遺産である不動産について遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続を求めるとともに、Yが前記遺言によって取得した預貯金及び現金並びに前記不動産の一部についてYがAの死後に受領した賃料に係る不当利得の返還等を求めた。
Aは、合資会社であるB社の無限責任社員であったが、後見開始の審判によりB社を退社。Aが退社当時、Bは債務超過の状態。
Xの遺留分の侵害額の算定に関し、B社の無限責任社員であったAが、退社によりB社に対して金員支払債務を負うか?
  原審 合資会社が債務超過の状態にある場合であっても、無限責任社員は、退社により当該会社に対して金員支払債務を負うことはない⇒AのB社に対する金員支払債務を考慮することなくXの遺留分額を算定⇒Xの請求を一部認容するとともに、Yの相殺の抗弁を認めるなどしてその余の請求を棄却。 
  判断 無限責任社員が合資会社を退社した場合において、退社の時における当該会社の財産の状況に従って当該社員と当該会社の間の計算⇒当該社員が負担すべき損失の額が当該社員の出資の価額を超えるときには、定款に別段の定めがあるなどの特段の事情のない限り、当該社員は、当該会社に対してその超過額を支払わなくてはならない。

原判決中Yの敗訴部分を破棄し、同部分を原審に差し戻した。 
尚、原判決が、Xの不当利得返還請求の一部を、Yの反対債権による相殺の抗弁を認めて棄却⇒前記反対債権の相殺による消滅に関して既判力が生じる⇒実質的にYの敗訴部分に当たる⇒この部分について破棄。
  解説  会社法における「退社」とは、持分会社(合名会社、合資会社又は合同会社。同法575条1項)において、会社の存続中に、特定の社員の社員としての資格が絶対的に消滅すること。 
持分会社は、いわゆる人的会社としての社員の個性や社員間相互の信頼が重要であるなど他者に承継させる方法によって会社から離脱することを認めるのは望ましくない⇒社員が持分会社から離脱する方法として退社を認める必要。
会社法611条1項:
退社した社員は、持分会社から持分の払戻しを受けることができる。
同条2項により、退社した社員と持分会社都の計算は、退社の時における持分会社の財産の状態に従ってする。
but
退社時に持分会社が債務超過である場合について、明記なし。
⇒退社した無限責任社員が、合資会社に対して金員支払債務を負うか?
  大判大7.12.7:
無限責任社員が合資会社を退社⇒退社前に既に発生していた当該社員の出資義務が消滅するか?
その理由中で、合資会社の無限責任社員が退社したときは、当該会社と当該社員との間で計算をした結果、当該社員が積極的持分を有する時は当該会社に対する債権者として持分の払戻しを請求することができるが、
消極的持分を有するにすぎないときは当該会社に対する債務者として出資義務の履行をすることを要する。 
  合資会社を退社した無限責任社員:
退社の時における当該会社の財産の状況に従って当該社員と当該会社との間の計算がなされた結果(会社法611条2項)、
持分が積極⇒当該会社に対して持分の払戻しを請求することができ(同条1項)、
この場合、持分は金瀬で払い戻すことができる(同条3項) 
合資会社に生じる損失のうち、各事業年度に生ずる損失:
損失分配の割合について定款の定めなし⇒各社員の出資の価額に応じて各社員に分配され(会社法622条1項参照)、
各社員に分配された損失が現実化するのは、退社又は清算によって社員関係が終了する時。
無限責任社員が退社した際、合資会社に損失⇒当該社員は、この損失を分担することになり、当該社員と当該会社との間の計算(会社法611条2項)がされる。
出資の額を超過する損失をどのようにすべきか?について規定なし。
but
①合資会社は、その設立及び存続のため無限責任社員の存在を必要とする点において、社員の個性が重視される人的会社であって、組合的なもの。
民法681条1項は、会社法611条2項と同様に「脱退した組合員と他の組合員との間の計算は、脱退の時における組合財産の状況に従ってしなければならない。」と規定しているところ、民法においては、組合員が組合から脱退する場合、脱退した組合員は、計算上負担すべき損失の額を支払わなければならないものとされている。
②退社した当該社員と、残存する他の社員との間の公平。
③会社法には、持分会社に生じる損失のうち、各事業年度に分配されることを前提とする規定(同法622条)があり、合資会社においても、各社員がその分配される損失を負担しなければならないことを前提にしている。

合資会社を退社する無限責任社員が負担すべき損失の額が当該社員の出資の価額を超える場合には、定款に別段の定めがあるなどの特段の事情がない限り、当該社員は、当該会社に対してその超過額を支払わなければならないと解するのが、合資会社の制度の仕組みに沿い、当該社員と残存する他の社員との間の公平にもかなう。
  民事p47
大阪高裁R2.3.26  
  施設に入所している原告からの弁護士への委任が認められない⇒訴え却下の事例
  事案 L1及びL2弁護士らがXから訴訟委任を受けたとして、Yに対し、Xの被相続人であるAとYとの間の金銭消費貸借契約に基づくXのYに対する貸金返還債務が存在しないことの確認を求めた。 
  Yの主張 XがL1及びL2弁護士に訴訟委任をしたとの立証はされておらず、Xから訴訟委任を受けないで提起した不適法な訴え。 
  原審 本訴提起の前に、本訴と同内容の訴訟がXにより提起され、X本人が裁判所に来て当該訴えを取り下げていながら、再度、L1及びL2弁護士が同一訴訟物について、本件訴訟を提起。

XがL1及びL2弁護士に本件訴訟の提起・追行について委任したかについても慎重に検討する必要。
本件委任状がXの親族により記載されたものであることを前提に、
①L1及びL2弁護士が主張するXから当該親族に訴訟委任状を代署する権限が与えられていたとの主張について、X本人の意思を確認した日とされる日の具体的なやり取りを的確に立証する証拠はない
②その後に録音されたとするXとL1及びL2弁護士との会話を録音した音声データについても、Xがどの程度の判断能力を有しているかも判然としない

XがL1及びL2弁護士に本件訴訟の提起・追行を委任したとは認められない。
⇒本件訴えを却下
  判断 ①L1及びL2弁護士が控訴人であるXから控訴審における訴訟委任を受けたことを認めるに足りる証拠はない
②仮に、Xが親族に対して代署権限を授与したとしても、Xに訴訟委任をする能力があったとは考え難い⇒有効に訴訟委任をしたということもできない。 
  解説 訴訟委任の効力に疑義がある⇒
訴訟代理人を証明する文書が私文書であれば、裁判所は、裁量により、公証人その他の認証の権限を有する公務員の認証を受けるべきことを訴訟代理人に命ずることができる(民訴規則23条2項)。
その認証を受けられない⇒訴訟代理人の訴訟行為は、訴訟代理権を欠くとして不適法となる。 
but
裁判所が前記認証を命じるかは裁量による

これを命じないときは、その成立の真否について、一般の証拠調べの方式によって立証される。
  民事p53
大阪高裁R2.6.11  
  逮捕・勾留請求・取調べが違法⇒国賠請求(否定)事案
  事案 殺人事件で嫌疑不十分で不起訴処分⇒
被告京都府に対しては、被告京都府所属の警察官の逮捕・取調べに違法があったとして、
被告国に対しては、検察官による勾留請求に違法があったとして、
国賠法1条1項に基づき、被告らに対し、それぞれ損害賠償を求めた。 
  判断  ●逮捕及び勾留請求の違法性 
・・・逮捕時又は勾留請求時において、捜査により現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠書類を総合勘案して、逮捕又は勾留請求の各時点で、刑訴法199条又は60条1項本文所定の犯罪の嫌疑を判断する上で、合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであるにもかかわらずあえて逮捕又は勾留請求をしたと認め得るような事情がある場合に限り、国賠法1条1項の適用違法の評価を受ける。
原告は、被害者を殺害する動機を有するとともに、
被害者を殺害した事件の首謀者と意思を通じ、本件殺人事件の実行に至る準備行為に関与するなどの重要な役割を果たしていたことがうかがわれる

前記首謀者と共謀の上、実行犯を利用して本件殺人事件を敢行したことが相当程度疑われる状況にあった。

警察官の逮捕及び検察官の勾留について、原告が本件殺人事件の共同正犯といえるか否かという観点からの犯罪の嫌疑があると判断したことにつき、合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであるということはできない
⇒違法性を否定。
  ●取調べの違法性 
取調べを担当する警察官において、取調べに応じない態度を示している被疑者に対し、これに応じて真実を述べるよう説得することが直ちに否定されるものではない。
but
黙秘権を保障している憲法38条1項、弁護人選任権を保障している憲法34条前段⇒取調べを担当する警察官らの説得が、社会通念上相当な範囲を逸脱し、被疑者の黙秘権及び弁護人選任権を侵害するような方法ないし態様で行われたものといえる場合には、国賠法1条1項の適用上違法の評価を受ける。
被疑者ノート等⇒
警察官らは、本件取調べにおいて、少なくとも原告が被疑者ノート記載のような発言をされたと受け取るような説得(被疑者には取調受任義務があり、弁護人が被疑者には取調受忍義務はない趣旨の発言をしていたとすればそれは誤りである旨の説得)を試みたと認定。
本件におけるこのような説得が、原告の供述しない旨の判断や弁護人選任権に由来する実質的な防御権の基礎をなす原告と弁護人との間の信頼関係に影響を与え得るものであることは否定できない。
but
明らかに虚偽ないし誤った内容のものとまではいえず、特に弁護人選任権の侵害の有無について、本件取調べの前後における原告の認識や言動から、警察官の説得によって、原告と弁護人との間の信頼関係が破壊されたとまでは言い難い。

警察官による説得は、社会通念上相当な範囲を逸脱し、原告の黙秘権や弁護人選任権を逸脱するものとまでは認められない⇒違法性は認められない。
  民事p65
東京地裁R1.10.17  
  自閉症の治療について医師の説明義務違反を認めた事例
  事案 当時2歳3か月のX1が、小児神経学の専門医であるA医師によって自閉症と診断され、A医師が提唱していた少量のL-DOPA(ドーパミンの前駆物質)を継続的に投与する少量L-DOPA療法を約15年実施
X1及びその両親であるX2、X3が、A医師には、
①L-DOPAを投与すべきではないのに、投与を開始しただけでなく、その後、副作用が発現しても投薬を中止しなかったなどの過失があるほか、
②同療法が当時医療水準として未確立であったことや副作用が出現する危険性を有することの説明もされないまま実施された説明義務違反等もあり、
そのため、X1の発達が停滞して重度知的障害の状態に進展し、不随運動その他の精神・神経症状の後遺障害が残存

死亡したA医師の相続人であるYらに対し、債務不履行又は不法行為にもとづく損害賠償として、合計1億2891万1974円及び遅延損害金の支払を求めた。
  主な争点 ①少量L-DOPA療法を開始したことが注意義務違反に当たるか
②同療法を中止しなかったことが注意義務違反に当たるか
③同療法を実施するにあたって説明義務違反はないか 
  判断  ●争点①
少量L-DOPA療法は、X1受診開始時である平成6年10月当時も現在も自閉症の専門的研究者の間で有効性と安全性が是認されているものではなく、臨床医学の実践における医療水準となっていない治療法。 
判断:
X1が平成6年10月当時、中等症以上の自閉症であったことを認定した上で、このような症状のX1に対し、少量L-DOPA療法を開始したことは医師の裁量において実施される治療行為としてその与えられた裁量を逸脱し又は濫用していると評価することはできない。

A医師が少量L-DOPA療法を開始したことに注意義務違反はない。
  ●争点②
平成8年10月頃までに、X1に少量L-DOPA療法の治療効果及び副作用が出現したと認めることはできない⇒同時点で同療法を中止すべき根拠は認められない。
  ●争点③ 
説明義務について、A医師の責任を肯定。
①少量L-DOPA療法は、平成6年当時、臨床医学の実践における医療水準となっていない治療法というだけでなく、
②A医師自身が提唱したものであり、自らも携わった研究でも悪化例に接した

そのような治療法を実施する以上は、A医師には、X1の親権者である両親に対し、少量L-DOPA療法が未確立な治療法であること及び副作用が出現する又は症状が悪化する可能性があることを説明すべきであったのに説明しなかった。
   
説明義務違反として、YらにX1に対し330万円を支払うよう命じ、その余の請求を棄却。
  解説 未確立の治療法について医師が説明すべき義務があるかについて、
最高裁H13.11.27:
乳がんの手術に当たり、当時医療水準として未確立であった乳房温存療法について医師の知る範囲で説明すべき診療契約上の義務がある。
この場合は、当時の医療水準では確立した治療法(胸筋温存乳房切除術)があったのに対し、本判決の場合、自閉症については確立した治療法がない点が異なる。 
  民事p87
大阪地裁R2.1.28  
  不妊治療で5つ子を妊娠⇒減胎手術⇒1人も出産できなかった、医療過誤の事案(否定)
  事案 X1及びその夫であるX2が、X1は医療法人Yの開設する本件医院において、妊娠した5胎の胎児の一部の減胎手術⇒執刀したA医師が、注意義務に反し、手術時に多数回の穿刺するなどしたため、胎児を1胎も救えなかった⇒Xらがそれぞれ、Yに対し、不法行為(使用者責任)又は診療契約上の債務不履行に基づき、X1につき1900万9139円、X2につき440万円及びこれらに対する遅延損害金の支払を求めた。 
  Xの主張 担当医師が手術②において、太い穿刺針を用いて過剰な回数の穿刺をした過失や、感染症対策を懈怠したこと、Ⅱ児の頭部を穿刺した過失等。
  判断 日本において、減胎手術が相当行われているようであるものの、手術を行っていることを明らかにしているのは、前記D病院の医師が見当たる程度であり、減胎手術に関する症例報告や手技等について述べた教科書・文献は少ない。
担当医師は、本件医院より前に勤務していた複数の医療機関において、先輩医師等から減胎手術の手技を習得。
Xらの主張する種々の過失について、「医学的知見が一般的に確立していたと認めるに足りる証拠はない」などとして、Xの主張をいずれも斥けて請求を棄却。
  民事p98
神戸地裁尼崎支部R1.12.17  
  周辺住民らが、まちづくり権等を主張し、開発工事の差止め等を求めた事案
  事案 Xらが、Y(事業主・工事施行者)らに対し、
主位的に、人格権から導かれる法的権利であるとする
①まちづくり権、②自然文化環境享受権、③平穏生活権が侵害された⇒人格権侵害に基づく本件開発工事の差し止めを求め、
予備的に、民法709条にいう法律上保護された利益(法的利益)であるとする前記①②③が侵害された⇒共同不法行為(民法719条、709条)に基づく損害賠償をそれぞれ求めた。 
  解説・判断  人格権が侵害された場合に、人格権侵害を理由として、当該侵害行為の差止め等を請求することができる。
but
人格権の具体的内容として、いかなる権利ないし利益が法的権利ないし法的利益として認められるかについては必ずしも明確とは言い難い。 
景観権ないし景観利益の違法な侵害を理由として、高層マンションの一部撤去と慰謝料等を求めた国立マンション景観訴訟の最高裁H18.3.30:
都市の景観は、良好な風景として、人々の歴史的又は文化的環境を形作り、豊かな生活環境を構成する場合には、客観的価値を有する。
良好な景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受すしている者は、良好な景観が有する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものというべきであり、これらの者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益(景観利益)は、法律上保護に値する。
but
このような景観利益の内容は、現時点においては、私法上の権利といい得るような明確な実体を有するものとは認められず、景観利益を超えて「景観権」という権利性を有するものとは認めることはできない。

ある行為が景観利益に対する違法な侵害に当たるというためには、少なくとも、その侵害行為が刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり、公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど、侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為として相当性を欠くことが求められる。
  本判決:
原告らが主張するまちづくり権について、その内容は不明確であって、それが明確な実体を有し、法的権利性を有するものとはいえない。
まちづくり権の法的利益性については、まちづくり権の具体的な内容の不明確性に加え、本件開発工事は都市計画法上の開発許可を受けて行われており、かかる開発許可は、無効事由のない限り、取消訴訟によって取り消されるまでは有効なものとして扱われる(取消訴訟の排他的管轄)
⇒少なくともYらのような事業主ないし施工業者との関係で、まちづくり権が法的利益として認められるとまではいうことはできないとして、否定。
   民事p123
東京家裁R1.12.6
  外国で共同親権として離婚成立⇒日本で単独親権への審判の事案
  事案 相手方音信不通で、子らに会うことも、養育費の支払もしておらず、申立人がCとの婚姻&Cと子との養子縁組予定。

子らの母である申立人と父である相手方が、外国において、子らの親権を申立人と相手方の共同親権とすることも内容とする裁判離婚をしていた
but
申立人が相手方に対し、子らの親権者を申立人と定めることを求めて審判の申立てをした。 
  規定 民法 第八一九条(離婚又は認知の場合の親権者)
 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
3子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。
4父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行う。
5第一項、第三項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。
  判断 我が国の裁判所に国際裁判管轄があり、準拠法は日本法となる。
外国における父母の共同親権を内容とする裁判が我が国においても有効とされる場合、民法819条6項に基づき、父母の一方の単独親権とすることができる。
申立人の単独親権へ変更することが子らの利益のために必要。

申立人と相手方の共同親権から申立人の単独親権に変更する審判。 
  解説  ●準拠法について 
外国裁判が承認される場合の準拠法:
承認する国の国際私法の定める準拠法(通説)
  ●外国裁判の承認について 
外国裁判の承認について、人事訴訟法等の一部を改正する法律は、家事手続法79条の2として、「外国裁判所の家事事件についての確定した裁判(これに)準ずる公的機関の判断を含む」については、その性質に反しない限り、民訴法118条の規定を準用する。」
but
改正前においても、外国裁判所の家事事件についての裁判の効力については、民訴法118条が準用ないし類推適用されると解されていた。
  ●日本法において利用すべき手続について 
実体法上の根拠:民法819条6項
申立事項と審判事項:
家事手続き法において民訴法246条に相当する規律が置かれていない
⇒審判を求める事項として特定された範囲内であれば、申立ての趣旨から外れた審判をすることも許容される。
but
①当事者の手続保障の観点
②不意打ち的な審理判断を避ける

いきなり申立てがない事項について審判することは許されない。
申立人が求めている事項以外の事項について、裁判所は判断することはできないという限度において、申立てに拘束力があるといわれている。
本件:
共同親権と定められている状態から申立人の単独親権という状態にすることを求めているというべきであって、あくまで親権者の指定の方式によることを求めているとは考えられない

親権者変更の審判をしても申立人の意思に反している。
2455   
  民事p5
横浜地裁R2.2.27  
  速度違反取締りの対象となった車両の事故⇒国賠請求(肯定)
  事案 警察官の速度取締り⇒大型自動二輪車に接触で転倒死亡。
X1(妻)及びZの父母であるX2とX3が、神奈川県に対し、国賠法1条1項に基づき損害賠償請求。 
  判断 2人目(停止線補助係)の警察官が第2通行帯上に差し出していた停止旗を引いた際に、当該停止旗がZに接触⇒本件車両が転倒。 
当該警察官の行為は国賠法上違法であり、かつ過失があると評価。
Zにも6割の過失⇒過失相殺の処理をして一部認容。
  解説 警察官の活動:
①司法警察活動
②行政警察活動
大阪地裁H28.1.25:
原告の運転する普通自動二輪車が、制限速度超過により、停止旗を示されて停止を求められた⇒停止旗と接触・転倒⇒原告が負傷で
停止旗が出されたときには事故車両から停止旗まで約50メートルの距離があった。
原告がブレーキ及びハンドルを適切に操作せず、近くに迫ったところで警察官との衝突を避けようとしてハンドルを切ったため事故が発生したと推認⇒停止旗との接触が原因であったとは認められない⇒請求棄却。
本件:
原告らによる主位的な事故態様の主張を排斥した上で、
まずは本件車両の転倒が本件車両と停止旗との接触に起因するものであるかという因果関係を検討してこれを肯定。
その上で、本件車両と停止旗が接触した経緯について、概ね被告の主張のとおりであるとしながら、停止旗の出し引きに違法性及び過失が認められるかを具体的に判断。
  民事p16
福岡地裁R1.10.3  
  防衛大でのいじめ等⇒国の安全配慮義務違反(否定)
  事案 Y(国)の設置する防衛大学校(防衛大)に2学年時まで在校し、その後、退校したXが、在校中に上級生や同級生ら8名から、暴行、強要、いじめ等の11の行為を受けた⇒Yに対し、安全配慮義務違反による債務不履行に基づき、慰謝料等の損害賠償請求をした。 
個人に対する訴訟では、7名について不法行為成立、1名の行為には不法行為不成立。
  争点 ①防衛大の組織上の安全配慮義務違反
②履行補助者である指導教官らの安全配慮義務違反の有無
  判断   Yは、防衛大の学生に対し、教育訓練及び学生舎生活を管理するに際して、信義則上、学生の生命、身体及び健康に対する危険を具体的に予見し、その予見に基づいて危険の発生を未然に防止する上で特に必要な注意をする安全配慮義務を負う。
学生への指導監督を行う教官らが安全配慮義務の履行補助者に当たる。
Yによる安全配慮義務違反は、学生の生命、身体及び健康に対する具体的な危険があることを前提として、Y自身あるいは教官らにおいて、結果の予見可能性及び回避可能性があった場合に認められる。
  ●防衛大の組織上の安全配慮義務違反 
学生間指導の特質や学生の年齢⇒教官らが講義等で学生間指導の意義等を繰り返し教育し、不適切な学生間指導の端緒を得た場合には個別に指導を是正することが求められる。
but
これを超えて、常に個別の学生間指導に介入する組織的体制を構築する義務を負うものではない。
本件各行為の発生当時、防衛大内では、暴力等を伴い、いじめともなり得る不適切な学生間指導することがあり、学生の一部にこのような指導をも是とする認識が存在。
but
これらの事情をもって、直ちに本件各行為が発生する具体的な危険があったとはいえず、Yにおいて本件各行為の発生につき予見可能性はなかった
⇒安全配慮義務違反を否定。
  ●教官らの安全配慮義務違反 
本件各行為は、本件学生ら各自がXの個別の言動への不満等に基づいて行ったものであって、集団による一連のいじめ行為ではない。
その発生前後の本件学生らの行動、教官らの認識、対応等の事実関係
⇒教官らは、抽象的には、不適切な学生間指導が行われる事態を想定し得たものの、当初の段階で本件各行為の具体的な端緒を得ることはできず、本件各行為を把握した対応をした各段階でも、その後の本件各行為の発生につき予見可能性はなかった。
⇒安全配慮義務違反を否定。
  解説 本判決:
安全配慮義務違反の判断に際し、
結果の予見可能性及び回避可能性を検討し、学校事故に係る安全配慮義務違反の一般的な判断手法をとったもの。
一方で、防衛大における学生間指導の特殊性に着目し、その目的及び限界を検討した上で、防衛大の環境や学生間指導の性質上、心身の発達途上にある学生が不適切な指導等を行う抽象的な危険は常に存在することを指摘し、
具体的状況下での安全配慮義務違反の有無を判断。
  民事p41
金沢地裁R2.1.31  
  精神科病院での身体的拘束⇒肺血栓塞栓症で死亡⇒損害賠償(否定)
  事案 Y経営のB病院(精神科病院)における医療保護入院中に肺血栓塞栓症で死亡したAの相続人であるXらが、Yに対し、
B病院の医師らがAに対して
①法令上の要件を充たさない違法な身体的拘束を開始・継続し
②身体的拘束による肺血栓塞栓症の発症を回避するための注意義務に違反した過失 により、Aが死亡
⇒不法行為(使用者責任)に基づき損害賠償を求めた。
  法令 精神福祉法36条1項は、精神科病院の管理者は、入院中の者につき、その医療又は保護に欠くことのできない限度において、その行動について必要な制限を行なうことができる旨定め、
同条3項に基づく昭和63年厚生省告示第129号は、行動の制限のうち、身体的拘束(衣類又は綿入り帯等を使用して、一時的に当該患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限)については、精神保健指定医が必要と認める場合でなければ行うことができない旨定める。 
精神福祉法37条1項に基づく昭和63年厚生省告示第130号は、精神科病院における身体拘束について、要旨、次のとおり定める。
ア身体的拘束は、代替方法が見出されるまでの間のやむを得ない処置として行われる行動の制限⇒できる限り早期に他の方法に切り替えるよう努めなければならない。
イ身体的拘束の対象となる患者は、主として次のような場合に該当すると認められる患者であり、身体的拘束以外によい代替方法がない場合において行われる。
(a)自殺企図又は自傷行為が著しく切迫している場合
(b)多動又は不穏が顕著である場合
(c)前記(a)(b)のほか精神障害のために、そのまま放置すれば患者の声明にまで危険が及ぶおそれがある場合
  判断  ●身体的拘束の開始及び継続の違法性 
指定医が実施した身体的拘束が違法となるかは、指定医が、前記イ(a)ないし(c)の場合又はこれに準じる場合であって、身体的拘束以外によい代替方法がないと判断したことに裁量の濫用又は逸脱があったかどうかを検討することが相当。
本件身体的拘束の開始については、開始時までのAの様子などに照らせば、B病院医師が、12月14日時点で、Aについて多動又は不穏が顕著である場合又はこれに準じる状況に該当し、身体的拘束以外によい代替手段がない場合に該当すると判断したことは、不合理とはいえず、違法とはいえない。
本件身体拘束の継続については、・・・・少なくとも12月18日時点で、多動又は不穏が顕著な場合がいまだ継続していると判断したとしても不合理とはいえず、違法とは言えない。
  ●注意義務違反の有無及び相当因果関係の有無 
B病院医師には、肺血栓塞栓症の予防措置のうち、弾性ストッキング装着を実施することが可能かつ容易であったにもかかわらず、これを実施しなかった注意義務違反が認められる。
but
①学会指針は「本ガイドラインであげたリスクのみでは静脈血栓塞栓症の完全な予防は困難であることを念頭に置く必要がある」とし、
②松沢報告も「静脈血栓塞栓症には安全かつ100%予防可能な方法はない」としている
③弾性ストッキングを装着した場合でも患者が死亡した事例が多数存在する
④身体的拘束自体のリスクレベルが低くないと考えられている

これを実施していたとしても、12月20日にAが急逝肺血栓塞栓症により死亡することを確実に回避することができたと認めることはできず、注意義務違反とAの死亡との間の相当因果関係は認められない。
  解説 最高裁H22.1.26:
病院の看護師らが抑制具であるミトンを用いて入院中の患者の両上肢をベッドに拘束した行為について、
入院患者の身体を抑制することは、その患者の受傷を防止するなどのために必要やむを得ないと認められる事情がある場合にのみ許容されるべきものであるが、・・・本件抑制行為は、Aの療養看護に当たっていた看護師らが、転倒、転落によりAが重大な傷害を負う危険を避けるため緊急やむを得ず行なった行為であって、診療契約上の義務に違反するものではなく、不法行為法上違法であるということもできない。 
  民事p56
大阪地裁R2.3.27  
  有価証券報告書等の虚偽記載等と株価下落による損害との相当因果関係が否定された事例
  事案 Y1(東芝)の株式を購入した株主であるXが、Y1提出の有価証券報告書等に存した重要事項についての虚偽の記載(虚偽記載等)により市場株価が下落したため損害(本件損害)を被った⇒
Y1に対しては、金商法(平成26年改正前のもの)21条の2第1項等、
Y2(代表執行役)に対しては、金商法24条の4、22条等に基づき、
損害賠償を請求。 
  争点 Y1の関係:
①本件過年度修正に関する重要な事項に係る虚偽記載等(金商法21条の2第1項)の存否
②Xに対する権利侵害の存否
③同虚偽記載等と損害との間の相当因果関係の存否
④危険への接近の法理による免責の可否
Y2の関係:
①③のほか、
⑤「虚偽であることを知らないで有価証券を取得した者」(金商法24条、22条1項)の該当性
  判断 ③の争点についてXの主張を否定⇒Xの請求を全部棄却 
①・・・Y1が、公衆の縦覧に供している有価証券報告書等に虚偽記載等が存する可能性があることによる株価下落のリスクを、一般投資家にあらかじめ警告していた
②・・・・Xの投資経験の存在を推認し、本件株式の購入時、5月8日開示、5月13日開示の内容を認識していたと認定。

Xが、Y1の有価証券報告書等につき、「工事進行基準案件につき営業損益ベースでマイナス500億円程度の影響のある虚偽記載等が存(する可能性があり)、」かつ、前記案件以外においても「網羅的な調査の必要な案件があり、これにより将来過年度修正がされる可能性があ」り、「このような事情により将来に株価が下落するリスクがある」ことを認識し、これを引き受けて本件株式を購入したものと認定。
本件の株価の下落は、Xが引き受けていた前記の「株価下落リスクが現実化したものといえ、X自身が負担すべきものである」として、Xの主張する虚偽記載等と本件損害との間の相当因果関係を否定。
  解説  本件は、Y1において、従前の会計処理について問題が判明したこと及び過年度決算修正の可能性があることなどを開示した後に、Xが同社の株式を取得した事例である点で特徴的。 
東京高裁H29.9.25:
有価証券報告書等を信頼せずに投資判断を行ったことが明らかであると認められる者については、会社は、金商法21条の2第1項ただし書の準用ないし類推適用により、同項による損害賠償を負わないものとの解釈

売上について適切な会計処理が行われなかった疑義が生じているため第三者委員会を設置して事実関係、責任の所在等の調査分析・検討を行うことなど、平成25年12月16日付け書面の開示内容を認識した上で同会社株式を取得した者について、損害賠償請求を否定。

傍論において、前記の者について、あえて株価下落のリスクを引き受けて株式を取得したものと認められ、その後の株価の下落は、同人らが認識していたリスクが現実化したものにすぎない⇒相当因果関係もない。
本判決:
①Y1が、平成27年5月13日までの開示により、一般投資家に対し、公衆の縦覧に供されている有価証券報告書等に虚偽記載等が存する可能性があり、これによる株価下落のリスクがあることをあらかじめ警告したこと、
②Xが、同日までの開示内容を認識しつつ株価を取得しており、前記の株価下落リスクを引き受けていたこと
をそれぞれ認定

前記の株価下落リスクが現実化したものと評価される本件株式の株価下落による損害につき相当因果関係を否定。

この様な枠組みに基づく判断の相当性や、
投資家が前記のような株価下落リスク引き受けたと認定できるためにどのような事情を要するかなどについて、検討が求められる。
  金商法の開示書類の虚偽記載等を理由として投資家が被った損害の判断の枠組み:
当該投資家の投資傾向や経験などに応じ、虚偽記載等と相当因果関係のある損害が、高値取得損害(取得時差額)であるのか、取得自体損害であるのかを分けて考える見解。
but
この種の類型の事案における最高裁判例の考え方は、取得時差額と取得辞退損害とを二分する見解では説明しきれないのではないかとの問題提起(潮見等)。

西武鉄道事件からうかがわれる虚偽記載等と損害との相当因果関係の判断枠組みは、
①虚偽記載等によって、投資者が意図しないリスクを引き受けさせられたといえるか否か
②投資者が意図せずに引き受けさせられたことによって被った損害の額の算定
という2段階で構成されており、
虚偽記載等に起因して市場価額が下落するリスクを投資者に負担させることができるか否かという観点からは、各最高裁判決の立場を虚偽記載等と相当因果関係のある損害の判断枠組みとして一般化することを正当化する余地もあり得るように思われるとの指摘(加藤)。

本件判例は、前記のような判断枠組みをベースとして、Y1において有価証券報告書等に虚偽記載等が存することによる株価下落のリスクがあらかじめ警告され、Xも開示の内容を認識しつつ本件株式を取得している⇒意図しないリスクの引き受けがあったとはいえないとして、相当因果関係を否定したものとも解しうる。
  民事p67
京都地裁R1.10.29  
  死刑宣告の殺人被告事件での損害賠償命令(肯定)
  事案 X1及びX2が、被相続人AをYに殺害されたため、不法行為に基づく損害賠償請求権が成立し、これを相続したと主張し、その支払を求めた。 
Yを被告人とする刑事被告事件において、損害賠償命令⇒Yが異議を申し立てた。
  争点 ①Yの犯人性
②損害
③Yの責任能力
④消滅時効(起算点、承認による中断) 
  判断  ●Yの犯人性
刑事被告事件の判決と同様、
まず自白以外の証拠に基づき、様々な可能性を検討し、
①シアン化合物以外による死亡が考えられないこと
②シアン中毒において特徴的な症状が現れないこともあること
③Yがシアン化合物を所持していたこと
④Yが犯行機会を有し、Aの死亡前前後に特異な行動をとっていたこと

YがAに対してシアン化合物を摂取させ、Aがそれにより死亡したと認定。
  ●損害 
Aの慰謝料2200万円
死亡による逸失利益142万5582円(Aは高齢者で年金収入のみ)
X1、X2の固有の慰謝料:それぞれ150万円

X1、X2とも、それぞれ1321万2791円を認容。
  ●責任能力も肯定 
  ●消滅時効 
YがAに対する殺人被疑事件で逮捕された平成27年9月9日までは、被告が加害者であることを損害賠償が可能な程度に認識し得たとは認定できない。
⇒消滅時効不成立。
  労働p75
福岡地裁R2.3.17  
  雇止めにつき、雇用継続に対する合理的期待が高い⇒労契法19条2号該当性を肯定するとともに、雇止めについての客観的合理的理由を否定した事例
  事案 被告の契約社員として勤務
被告との間で約30年にわたって期間1年の雇用契約を29回更新
but
平成30年3月31日に雇用契約が満了したとして、被告が原告を雇止めとしのは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない⇒従前の有期雇用契約が更新によって継続している旨主張し、
労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、
本件雇止め後の賃金・賞与及びこれらに対する遅延損害金の各支払を求めた。
  規制と事実 平成24年法律第56号により労契法の改正:
同一の使用者の下で有期労働契約が更新されて通算契約期間が5年を超える場合に、
労働者が無期労働契約への転換の申込みをすれば、
使用者がその申込みを承諾したものとみなされ(無期転換申込権)、期間の定めのない労働契約が成立(労契法18条)。

平成25年4月1日に施行され、同日以降新たに締結又は更新された有期労働契約から通算契約期間の算定が始まった
⇒無期転換申込権は最短で平成30年4月1日から発生。 
被告:
前記の法改正を契機に、
従前は原告に適用していなかった契約社員の雇用期間の上限を原則として最長5年とする就業規則の規定(最長5年ルール)を原告にも適用。
平成25年以降、毎年契約更新時に平成30年3月31日以降は契約を更新しない旨の条項(不更新条項)入った雇用契約書を原告と取り交わしていた。
  主張 被告:雇用契約終了は合意によるもの。
原告:
合意の成立を争うとともに、
労契法19条1号又は2号が適用され、本件雇止めは客観的合理性が理由及び社会的相当性がない⇒本件雇止めの有効性争った。 
  規定 労契法 第一九条(有期労働契約の更新等)
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
  判断  ●雇用契約終了の合意 
長期間にわたり本件雇用契約を更新してきた原告にとって、被告との有期雇用契約を終了させることは、生活面等に大きな変化をもたらす
⇒本件雇用契約を終了させる合意を認定するには慎重を期す必要があり、これを肯定するには、原告の明確な意思が認められなければならない。
不更新条項が記載された雇用契約への署名押印を拒否することは、原告にとって、本件雇用契約が更新できないことを意味する⇒このような条項のある雇用契約書に署名押印を拒否することは、原告にとって、本件雇用契約が更新できないことを意味する⇒このような条項のある雇用契約書に署名押印をしていたからといって、直ちに原告が本件雇用契約を終了させる旨の明確な意思を表明したものとみることは相当ではなく、かえって原告が雇用契約終了とは相反する行動をとっていた⇒雇用契約終了の合意は認められない。
  ●労契法19条1号又は2号の該当性 
原告が、新卒で被告に入社した以降雇止めとなるまでの間、
経理業務を中心として業務に携わり、
本件雇用契約を約30年にわたって29回も更新してきた一方で、
平成25年以降は、毎年、被告が契約更新通知書を原告に交付したり、面談を行うようになった

本件雇用契約を全体として見渡したとき、その全体を、期間の定めのない雇用契約と社会通念上同旨できるとするには、やや困難な面がある。

1号に直ちには該当しない。
①原告が新卒採用されたから約25年にもわたって、いわば形骸化したというべき契約更新が繰り返されてきた
⇒原告の契約更新に対する期待は相当に高いものであった。
最長5年ルールにも一定の例外が設けられていた
⇒契約更新に対する高い期待が大きく減殺される状況にあったとはいえない

2号該当性を肯定。
  ●雇止めに客観的合理的理由及び社会的相当性が認められるか? 
被告が主張した人件費の削減や業務効率の見直しの必要性というおよそ一般的な理由では本件雇止めの合理性を肯定するには不十分。
原告のコミュニケーション能力の問題:
雇用を継続することが困難であるほとの重大なものとまでは認め難く、被告が適切に指導教育を行っていたともいえない
⇒殊更重視すべきでない。
他に本件雇止めを是認すべき客観的合理的な理由は見出せない。
  解説 本判決:
有期契約労働者の置かれている立場、すなわち不更新条項の付された雇用契約書への署名押印を拒否することにより、次期の契約更新ができないことになる⇒不更新条項の付された契約書に署名押印をしたことをもって、直ちに、労働契約を終了させる旨の意思を明確に表明したとはいえない。 
東芝ライテック事件(横浜地裁H25.4.25)が同様の判断を示している。
どのような場合に労契法19条1号又は2合該当性が認められるのか?
施行通達(平24.8.10基発0810号2号)「労働契約法の施行について」:
当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無などを総合考慮して、個々の事案ごとに判断されるもの。
本判決:同様の観点から、1号該当性は否定したものの、2号該当性を肯定した上で、雇止めに客観的合理的理由がないとして、雇止めを否定。
  刑事p84
①東京高裁H30.11.15
②東京高裁H31.2.8  
  単独犯と共同正犯の択一的認定
  ①事件  事案 主位的訴因:
被告人が、被害者方において、被害者に対し、その頭部、顔面等を多数回殴ったり蹴ったりするなどの暴行を加え、被害者に筋挫滅による急性腎不全等の傷害を負わせ、被害者を死亡させたが、
犯行当時被告人は飲酒による複雑酩酊のため心神耗弱状態にあった。 
原審の公判段階において、前記事実に
「単独で又はP1と共謀の上」との文言を付加した単独犯と共同正犯の択一的訴因が予備的に追加された。
  主張 弁護人:
P1やその他の第三者による犯行の可能性があり、また、被告人がP1(被告人とともに被害者方を訪れていた女性)との間で被害者に対する暴行について共謀した事実はない
⇒被告人の無罪を主張した。 
  原審 P1が被害者に対する暴行の一部を加えた可能性が否定できない⇒単独犯の主位的訴因を排斥。
but
被害者に対して暴行を加えた可能性があるのは被告人だけであり、仮にP1が暴行の一部を行ったとしても、その暴行は被告人との共謀に基づくもの
⇒予備的素因のとおり、単独犯と共同正犯の択一的認定による傷害致死罪の成立を認め、被告人を懲役5年にした。
  判断 事実誤認の主張に関して、弁護人の論旨に対する判断に先立ち、原判決のような単独犯と共同正犯の択一的認定がそもそも許されるのかについて検討し、
被告人が単独で暴行を加えたとの事実が証明されていないのに、択一的にせよ同事実を認定するのは、証明されていない事実を認定することに帰するのであって許されない。

原判決には、この点において事実の誤認がある。 
but
被害者に対する暴行について被告人とP1との間の共謀を認めた原判決の認定に誤りがなければ、傷害致死罪の共同正犯の事実を認定することができ、前記の事実誤認は判決に影響を及ぼさないと解する余地もある。

被告人とP1との共謀の成否に係る論旨についても検討し、共謀の成立を認めた点でも原判決には事実の誤認がある。

原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるとしてこれを破棄し、
同時傷害の特例である刑法207条の適用の可否を含めた事実関係及び量刑について更に審理、評議を尽くすため、事件を原裁判所に差し戻した。
  ②事件  事案 主位的訴因:
被告人が、被害者を殺害して同人に対する債務の返済を免れようと考え、手段不明の方法により同人を窒息させて殺害し、前記債務の返済を免れて財産上不法の利益を得て、同人の死体を隠匿、運搬した上、土中に埋めて遺棄した。 
原審は訴因変更を促し、
検察官は、強盗殺人と死体遺棄の各公訴事実について、
「単独で又は氏名不詳者と共謀の上」との文言を付加した予備的訴因の追加的変更を請求。
弁護人:訴因変更を許可すべきではないとの意見
but
原審裁判所は両公訴事実について検察官の訴因変更請求を許可。
弁護人:
前記予備的訴因にいう氏名不詳者とは原審弁護人が犯人と主張する人物を指すのか、共謀成立時期はいつか、強盗殺人の実行行為者は誰かについて、検察官に対する求釈明を申し立てた
but
原審裁判所はこれに応じなかった。
弁護人:
同期日の後、予備的素因に関する補充立証の必要が生じたなどとして弁論の再開を請求したが、原審裁判所はこれを却下し、判決を宣告。
  原審 強盗殺人と死体遺棄のいずれの訴因についても、被告人が「単独で又は氏名不詳者と共謀の上」で犯行を行ったと認定するとともに、強盗殺人については殺意及び強取の意思が認めらない
⇒傷害致死の限度で犯罪が成立するとして、懲役10年。
  判断 証拠調べが終了し結審するまで、共犯者の存在を前提とした主張立証はされていなかった⇒原審弁護人による求釈明は弁護人の防御にとって極めて重要なもの。
but
原審裁判所がこれに応じなかったばかりか、
弁論再開請求にも応じず、
被告人が他の誰とも共謀していないという弁護人の立証も許さなかった

弁護人の反証の機会を事実上奪うもので極めて不当。
「氏名不詳者と共謀の上」という訴因が、具体的な第三者を想定したものでない⇒このような訴因では弁護人から防御のしようがないのであり、本件予備的訴因は特定性に欠ける不明確なものというほかなく、違法。
原審裁判所が原審検察官に対して「単独で又は氏名不詳者と共謀の上」との予備的訴因の追加を促した訴訟指揮、
この促しに応じて行われた訴因変更請求になされた許可決定、
予備的訴因に対する原審弁護人の求釈明の申立てに応じなかった訴訟指揮、
原審弁護人の弁論再開請求を却下した決定は
いずれも違法であり、これらの訴訟手続の法令違反が判決に影響を及ぼすことも明らか
⇒原判決を破棄し、事件を原裁判所に差し戻した。
単独犯と共同正犯の択一的認定の可否ににも言及し、
被告人が単独で実行行為のすべてを行ったとの事実が証明されておらず、また、被告人が他者との共謀の上行ったとの事実についても証明がされていない場合は、いずれの証明もできていない

「単独犯又は共謀の上」という択一的認定の形をとっても、被告人にすべての実行行為の責任を負わせることはできないと解すべき。
原審裁判所が、共犯者が存在する抽象的可能性があると単独犯であることに合理的な疑いが生じると理解しているのであれば、そのような理解は誤り。
  解説 単独犯と共同正犯の択一的認定の可否に関して、
A:東京高裁H4.10.14:
単独犯と共同正犯の択一的認定が許される
B:札幌高裁H5.10.26:
共同正犯を認定すべき
C:東京高裁H10.6.8:
単独犯を認定すべき 

いずれも、被告人が犯罪の実行行為をすべて行っており、被告人1人の行為により犯罪構成要件のすべてが充たされるが、他に共謀共同正犯者が存在する可能性があるという事例。
最高裁H21.7.21:
単独犯の訴因で起訴された被告人に共謀共同正犯者が存在するとしても、訴因どおりに犯罪事実を認定することが許される。
  刑事p102
横浜地裁H31.2.19
  父が母を殴ろうとしていると誤信した少年による父殺害の事案
  事案 事件当時18歳1か月の少年で、
父が母を殴ろうとしていると誤信して、
胸部を包丁で突き刺し(=殺人罪で誤想過剰防衛)、
倒れて動くなった父の後頭部を突き刺した(=殺人未遂)。
父は失血により死亡したが、失血の起因となったのは胸部刺創に基づく損傷。
  判断・解説  ●防衛行為についての判断
録音データには、被告人が父母の間に割って入ったことに対する父母の反応や、母親が暴行を受けたことを窺わせる発言がない
⇒父親が母親の身体をつかんで揺さぶった事実はなく、身体の近くまで接近したものの口論が続いていたにとどまり、母親の身体について急迫不正の侵害はなかった。
but
母親が大声で父親に反発するのはこの日が初めてで、被告人にとって本件当夜の父母の状況は以前と全く異なり、母親が父親から殴られるなどの危害が差し迫っていると誤信したもの。
凶器を持っていない父親に対して包丁を示して警告・威嚇をせずにいきなり胸部を刺突した点で、防衛の程度を超えたもの。
父親は胸部を刺された後は、もはや母親や被告人に対して新たな攻撃を加えることは不可能⇒急迫不正の侵害はなく、これを誤信する状況でもなかった。

更なる刺突は防衛の意思に基づくものではない⇒第2暴行については、過剰防衛も誤想過剰防衛も成立しない。
  ●行為の個数 
最高裁の判例
①屋根鋏を持った相手に追い詰められた⇒鉈をつかんで頭部を切り付け、屋根鋏を落として横倒れになった相手の頭部をなたで切り付けた

第1暴行は正当防衛であるとしても、これによって相手の侵害的態様が崩れた後なお追撃手行為に出た場合は、全体として過剰防衛が成立。

②相手から鉄パイプで殴打⇒これを取り上げて殴打⇒取り戻されて殴打されそうになり、逃げだした⇒追いかけてきた相手が勢い余って踊り場の手すりから上半身を乗り出した姿勢⇒足を持ち上げて転落させた

第2暴行時において相手の攻撃力は減弱していたものの、態勢を立て直して再度の攻撃に及ぶことが可能⇒急迫不正の侵害は継続⇒第1暴行を含む一連の暴行は全体として過剰防衛

①②は、一連の動作を1個の行為として捉えていた。
③相手が円柱形の灰皿を投げつけてきた⇒その顔面を殴打して転倒させ相手方後頭部と地面に打ちつけて動かなくなった⇒腹部を踏みつけ

転倒した後は相手方が更なる侵害行為に出る可能性はなく、それを認識した上でもっぱら攻撃の意思で第2暴行に及んだ。
両暴行は時間的・場所的に連続しているが、相手の侵害の継続性と行為者の防衛の意思の有無の点で性質を異にしていて両者の間に断絶がある⇒これらを全体として考察すべきではない。
第1暴行は正当防衛
第2暴行は防衛行為に当たらず、傷害罪が成立。

④相手が折り畳み机を押し倒してきたので押し返し、倒れて反撃や抵抗が困難になった相手の顔面を殴打

これらの暴行は急迫不正の侵害に対する一連一体のもので、同一の防衛の意思に基づく1個の行為⇒全体的に考察して1個の傷害罪(過剰防衛)

③④は、相手の侵害の継続や防衛の意思の有無に着目して行為を捉えるべきことを示している。
本件:
第1暴行⇒相手が重篤な損傷を負い、その10秒後に第2暴行で、時間的には近接。
but
①うつ伏せに倒れた相手が新たな攻撃を加えることが不可能
②第2暴行は防衛意思に基づく行為とはいえない
⇒両暴行には断絶がある

第1暴行(胸部を突き刺す)について殺人既遂罪(誤想過剰防衛)
第2暴行(後頭部を突き刺す)について殺人未遂罪(防衛行為ではない)
第2暴行の殺人未遂罪は第1暴行の殺人既遂罪に吸収されるとした上で、護送過剰防衛として法律上の軽減をした。
  ●55条移送の検討 
判断:改善更生のための教育の有効性には限界⇒保護処分を許容し得るものではない。
防衛行為が主張された事案で55条移送をした事例:
①19歳の少年が被害者から因縁をつけられ、口論するうちに、被害者が折り畳み傘の柄を伸ばしたことから、殴られるかもしれないが応戦しようと考えていた⇒いきなり後頭部を傘で殴打⇒振り向きざまに手拳で顔面を殴打して路上に転倒させて死亡させた

正当防衛・過剰防衛は成立しないが、被害者に落ち度があったことなを考慮⇒刑事処分よりも保護処分に付して更生を図るのが相当。

②16歳4か月の少年が、交際相手がカッターナイフで自傷するのをとめようとしてとっさに頚部を押さえつけた⇒くくりつけられていたタオルで頚部が絞まり、窒息死

過剰防衛又は過剰避難に当たるとした上で、保護処分相当。
2454    
  行政p5
名古屋地裁H31.1.31  
  生活保護費徴収決定に係る通知書の記載が、行手法14条1項本文の理由の提示として不十分とされた事例
  事案 生活保護法による保護を受けていたXが、X名義の預金口座への入金及びX名義で行われたFX取引により生じた利益を収入として申告しなかった⇒不実の申請その他不正な手段により保護費を受給⇒生活保護法78条に基づき、4回にわたり支給済みの保護費の徴収決定を受けた⇒Y(名古屋市)に対し、それらの取消しを求めた。 
  主張 X:
①一部の徴収決定に係る通知書における理由の記載について、「保護受給開始後から収入はないと申告を受けていたが、口座に振り込みを見つけ、申告が虚偽であることが判明」としか記載がなく、入金のあった預金口座や入金の年月日の記載がない⇒理由の提示として不十分⇒行手法14条1項本文に違反し、違法。
②X名義の預金口座への入金及びX名義で行われたFX取引により生じた利益はそもそも申告すべき収入に該当せず、仮に申告すべき収入に該当するとしても、これらを申告しなかったのは、その存在を隠蔽する意図があったからではなく、Xは不実の申請その他不正な手段により保護を受給したとはいえない
⇒生活保護法78条に基づく各徴収決定は違法。
  主な争点 ①生活保護費徴収決定に係る通知書の記載について、行手法14条1項本文の理由の提示として十分であるか
②Xが、生活保護法78条にいう「不実の申請その他不正な手段」 により保護を受給したか否か
  判断  ●争点①
Xは、入金のあった預金口座以外にも複数の預貯金口座を保有し、複数回にわたり取引を行っていた⇒通知書における理由の記載について、金融機関名、入金の年月日、振込金額等が具体的に記載されなければ、Xにおいて、どの預金口座へのどの入金を収入として申告しなかったことが処分の理由とされているかを理解することは困難⇒単に預金口座への入金があったというだけでは、行手法14条1項本文の要求する理由の提示として不十分⇒一部の徴収決定に係る通知書の記載について、行手法14条1項本文に違反し、違法。 

本件処分1は、理由の提示を欠いた違法な処分として、取り消されるべきである。
  ●争点② 
被保護者が、その最低限度の生活を維持するために活用することができる一切の財産的価値を有するものご申告すべき収入に当たる。
生活保護法78条にいう「不実の申請その他不正な手段」とは、積極的に虚偽の事実を申告することのみならず、本来申告すべき事実を隠匿することも含まれ、申告について口頭又は文書による指示を受けたにもかかわらず、これに応じなかったときも含まれる。
X名義の預金口座への入金については、Xの利用可能な資産が増加するものと認められる⇒収入認定の対象とすべき資産に該当するところ、
Xは、収入申告の義務があることを知りながら、預金口座の存在を申告しなかったうえ、入金の事実について申告をしなかったり、入金の事実について説明を求められたにもかかわらず説明をsいなかった点において、不実の申告その他不正な手段により保護を受けたということができる。

徴収決定は適法。
X名義で行われたFX取引により生じた利益について・・・・不実の申告その他不正な手段により保護を受けたということができる。

徴収決定は適法。
  解説 行手法14条1項は、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとする。
その趣旨は、
①行政庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制する
②処分の相手方の不服申立ての便宜を図る
  民事p18
最高裁R2.1.23  
  婚姻費用分担審判申立て⇒離婚の場合の、婚姻費用分担請求権の帰趨
  事案 Xが、Yに対し、民法760条の婚姻費用分担請求権に基づき、婚姻費用分担金の支払を求めた。 
X(妻)は、Y(夫)と平成26年頃から別居状態
Yに対し、平成29年12月、夫婦関係調整調停の申立て
平成30年5月、婚姻費用分担調停の申立て
平成30年7月、夫婦関係調整調停事件において、離婚調停が成立。
同調停において、親権者の指定及び年金分割に関する合意がされただけで、財産分与についての合意はされず、清算条項も定められなかった。
婚姻費用分担調停事件は、離婚調停成立と同日不成立となり、審判手続に移行。
なお、家事手続法272条4項により、婚姻費用分担調停の申立て時に審判の申立てがされたものとみなされた。
  原決定 離婚の成立により、XのYに対する婚姻費用分担請求権はは消滅。 
  判断 婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚したとしても、これにより婚姻費用分担請求権は消滅しない。 

①婚姻費用分担審判の申立て後に離婚により婚姻関係が終了した場合に、婚姻関係にある間に当事者が有していた離婚時までの分の婚姻費用についての実体法上の権利が当然に消滅するものと解すべき理由は何ら存在しない。
②家庭裁判所は離婚時までの過去の婚姻費用のみの具体的な分担額を形成決定することもできる。
  解説  ●婚姻費用分担の申立てに係る審判又は調停の係属中に離婚が成立した場合に、離婚成立時までの過去の婚姻費用分担請求権が当然に消滅するか? 
A:消滅説

①婚姻費用分担請求権は婚姻関係の存在を前置とするものであるから、具体的な請求権の形成前に夫婦が離婚し、婚姻関係が消滅したときには、婚姻費用分担請求権も消滅。
②離婚後の過去の婚姻費用は財産関係の清算である財産分与の中で解決するべき。

B:転化説
〇C:存続説
最高裁昭和40.6.30:
婚姻費用分担に関する処分は、婚姻費用の分担額を具体的に形成決定しその給付を命ずる裁判。

婚姻費用分担請求権は、家庭裁判所の審判又は当事者間の協議によりその具体的な分担額が形成決定される。
but
具体的な分担額の形成決定前であっても、婚姻中に夫婦の一方が過当に婚姻費用を負担した場合に他方に対して婚姻費用の分担を請求する根拠となる実体法上の権利自体は、同条に基づき発生している。

民法760条は、夫婦は婚姻から生ずる費用を分担する旨のみを定め、その文言上、前記形成決定の時点で、婚姻関係という身分関係が存在することまで要件としていない。
  ●財産分与と婚姻費用分担請求権との関係 
最高裁昭和53.11.14:
裁判所は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができる。
but
同判示は、当該清算の方法を財産分与に限る趣旨のものであるとは解されない。
  民事p21
東京高裁H31.4.17  
  火災等共済金請求権の破産財団性
  事案 破産者Y(破産管財人X)は、破産手続開始決定前に、火災共済を運営するZとの間で、自ら所有する自宅建物(本件建物)およびその内部にあった家財を目的とする火災共済契約(本件共済契約)を締結⇒破産開始決定後に本件共済契約が自動更新された後も、自らの資産をもって、本件共済契約の共済掛金の支払を継続。その後、本件建物において火災(本件火災)が発生。
Y:本件火災を共済契約所定の共済事故として、本件共済契約に基づき、本件火災による損害に係る火災共済金の支払請求⇒Zは、火災等共済金等につき評価した額について、被供託者をY又はX、供託原因を債権者不確知として、供託。
X:Yに対して、供託金の還付請求権について、火災等共済金請求権(本件共済金請求権)は、破産財団に帰属⇒Xが有することの確認を求める訴えを提起。
Y:Zに対して、本件共済金請求権について、Yの新得財産であるとして、共済金の支払を求める訴えを提起。
  争点 本件共済金請求権が破産財団に属するか、それとも破産者Yの新得財産になるか。 
  判断 ①火災等共済金請求権は、共済事故の発生前であっても、一般的な財産権の性質を有するもの⇒破産法34条2項にいう「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権」に該当し、破産財団に属する。
②当該共済契約が破産手続開始決定後に自動更新されている場合において、更新前後の共済契約が別個の契約であったとしても、更新自体が更新前の共済契約所定の定めに基づき、何らの手続を要することなく行われ、更新前の契約と全く同一内容の契約が継続されたもの⇒その更新自体が、破産管財人に属していた管理処分権に基づいて行われたものということができる。
③Yが破産手続開始決定後に共済金の支払を継続していたとしても、Xがこれを追認したもの。
④本件共済契約の共済期間中にYが破産手続開始決定を受けたことにより、本件共済契約は、双方未履行の双務契約として破産法53条以下の規定に従った処理がなされるところ、Xは本件共済契約の履行を選択したものと認められる。

本件共済金請求権は新得財産とは認められず、破産財団に属する。
  解説 ①破産手続き開始決定後に当該共済契約が自動更新されたこと
②その後も、破産者自らが共済掛金の支払を継続したこと
に特殊性がある。 
生命保険契約に基づく死亡保険金請求権H28.4.28:
破産手続開始前に成立した第三者のためにする生命保険契約に基づき破産者である死亡保険金受取人が有する死亡保険金請求権は、破産法34条2項にいう「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行なうことがある将来の請求権」に該当するものとして、上記死亡保険金受取人の破産財団に属すると解するのが相当である。
具体化事由発生前の保険金請求権である抽象的保険金請求権であっても、保険契約の効力発生と同時に死亡保険金受取人の固有財産になる(最高裁)。
⇒共済金請求権についても「将来の請求権」として破産財団となる。
  民事p31
①東京高裁R1.12.25
②東京高裁R2.1.20  
  職権により成年後見人を追加して選任する審判及び成年後見人の事務を分掌してその権限を行使すべきことを定める審判に対する即時抗告等
  事案 Aについての成年後見開始申立事件に係る申立人であり、当該事件でAの後見人に選任されたX(抗告人)が、東京家裁の職権による成年後見人を追加して選任する旨の審判及び複数の成年後見人が事務を分掌してその権限を行使すべきことを定める旨の審判に対して即時抗告をし(①事件)、また、別途、前記成年後見事件等の記録の閲覧謄写の許可の申立てをしたが、その申立てを一部却下する旨の決定がされたことから、これに対して即時抗告をし(②事件)、いずれの即時抗告についても不適法であるとして原審においていわゆる原審却下の決定⇒各決定に対してそれぞれ即時抗告。 
  ①事件  判断 家庭裁判所による成年後見人の使選任の審判及び数人の成年後見人の間における事務分掌を定めた審判に対して即時抗告をすることはできず、Xの即時抗告には理由がない。 
  解説 家事手続き法:
審判に対しては、特別の定めがある場合に限り、即時抗告をすることができる(85条)。
後見人選任の審判及び数人の成年後見人の間における事務分掌を定めた審判は、即時抗告の対象となる審判として定められていない(123条1項)。 
成年後見人の解任の審判は即時抗告の対象となる(123条1項4号)。
  ②事件  判断 Xは、前記B弁護士の後見監督人の辞任許可申立事件並びに職権によりB弁護士をAの後見人として追加して選任した事件及びXと B弁護士の事務の分掌等を定めた事件のj当事者ではなく、
前記各事件の記録の閲覧謄写の許可の申立てを一部却下した部分に対して即時抗告をすることは できない(家事手続法47条8項、3項)

当該部分に対するxの即時抗告は不適法でその不備を補正することができなことが明らか(102条、87条3項)。
but
Aについての成年後見開始申立事件において後見監督人が提出した報告書等の書類の閲覧謄写を却下した部分に対する即時抗告は、当該事件の当事者(申立人)であるXによるものであって適法なもの

原決定のうち、これを不適法なものとして却下した部分は相当ではないとして、これを取り消し、当該部分について、東京家裁に差し戻した。

差戻した部分について、即時抗告を不適法として却下した判断が相当ではないとしたにすぎず、Xが本件後見開始事件の記録中における閲覧謄写を求める後見監督人の報告書の存否や、Xによる閲覧謄写の許可の相当性(同法47条4項)については何ら判断していない。
  解説 家事手続法:
当事者又は利害関係を疎明した第三者は、家庭裁判所の許可を得て、裁判所書記官に対し、家事審判事件の記録の閲覧や謄写を請求することができる(47条1項)。
当事者からの記録の閲覧等の許可の申立てについては、これを却下した裁判に対して即時抗告をすることができる(同条3項、8項)。
but
第三者による記録の閲覧等の許可の申立てについては同様の定めなし⇒事件の第三者は当該申立てを却下する裁判に対して即時抗告をすることはできない(99条)。

当事者については、家事審判事件における主体的な手続遂行のため、家事審判記録の閲覧等の機会を保障する必要がある。
but
第三者については、原則として非公開の手続である家事審判の手続において(同法33条)、同様の保障をする必要がない。
X:家事事件手続法は、後見人は他の者の申立てや職権によって手続が開始した家事審判事件について手続行為をすることができるとしている(同法17条2項)⇒Xは、本件において、Aの成年後見人に選任された者として、前記のB弁護士の後見監督人の時に許可申立事件並びに職権によりB弁護士をAの後見人として追加して選任した事件及びXとB弁護士の事務の分掌等を定めた事件の記録の閲覧謄写をすることができる。
vs.
同項は、他の者がした家事審判事件又は家事調停の申立て(職権により手続が開始された場合も同様)又は抗告について手続行為をするために、成年後見人が後見監督人同意その他の授権を要しないことを規定するだけであって、成年後見人について、審判事件の記録の閲覧謄写の許可の申立てにおける「当事者」(同法47条)の地位を認めたものとは解されない。
利害関係参加人(同法42条7項)は、家事審判事件の記録の閲覧等においても当事者と同様の地位にあるものと解されるが、Xは・・・利害関係参加人として参加しているわけではない⇒利害関係参加人として即時抗告をすることはできない。
  民事p42
京都地裁R1.11.5   
  研究者が科研費等の補助金を、正規の手続によらずに支出し、預け金として預託⇒業者が倒産⇒研究者の大学への損害賠償義務(肯定)
  事案 国立大学法人Xが、その設置・運営するZ大学の教授であったYを被告として、Yが、Xの預金を、架空の取引による代金名目で1憶5195万6610円支出させた⇒同額の損害を被った⇒同額の賠償を求めた。 
Yは平成14年、Z大学の教授となった。以降、Yの研究のために、国(文科省)や独立行政法人日本学術振興会から科研費が支給。

これらは、適正な管理のため、研究者が所属する研究機関が管理し(本件ではXの学長名義の預金口座で保管)、所定の手続きを経て支出することが、支給の要件。 
but
Yは、預け金を行い、業者に架空取引を指示し、契約した物品が納入されていないのに納入されたなどとして代金を支払い、その支払金が当該業者に管理させる。⇒業者が平成23年に民事再生。
  争点 ①Yがした預け金の期間及び額
②違法性の有無
③因果関係、損害の有無及びその額
④過失相殺 
  Yの主張 科研費等、本件の預け金の原資となった研究費は、会計上もXの収入とは扱われず、XではなくYに帰属するほか、実際に研究費に用いられた⇒支出にルール違反があったとしても、不法行為としての違法性も損害もない。 
  判断 Yは、本件預け金により、Xが管理する口座から、合計1億5195万6610円を支出させた⇒Xは同額の損害を被った。
  ①本件の預け金の原資となった研究費は、科研費及びそれ以外の補助金を問わず、いったんXに帰属するほか、本件では、業者が倒産して約1億8000万円の預け金が事実上回収不能。
②Xは、科研費を預ける機関として、国及び学振会から多額の返還要求を受け、これに応じた。

Xに(実質的にも)損害があり、Yの行為に違法性がある。
科研費のうち、直接経費は、研究者を支給されるが、研究機関が管理することが交付の要件⇒研究者は、研究機関に対し、適正な手続を経て研究機関が管理する預金から払い出しを受ける権利及び他の目的に流用されない権利を有するが、架空の売上げによる払出し等、ルールに従わない払出しを受ける権利はない⇒その意味で研究者個人に当然に帰属するものではない。
Xは、Y及び業者に対し、平成20年9月ころ、預け金等不正な処理がないかを確認する旨の調査を行ったが、Yも業者も不正はないと回答。
Xには、それ以上の調査権限がない⇒Xには過失相殺の対象となる過失はない。
  民事p55
札幌地裁R2.1.22  
  執刀医の胸腔ドレナージを実施すべき注意義務が問題となった事案(否定)
  事案 亡Aが、内縁関係にあったBから左頸部を果物ナイフで刺され、Y(北海道)が開設、運営していた病院(H1病院)において、止血のための緊急手術⇒死亡⇒相続人であるXらが、Yに対し、債務不履行に基づく損害賠償金の支払を求めた。
  Xらの主張 本件医師らによる注意義務(胸腔ドレナージの実施義務、胸腔ドレナージを実施できないのであればこれを実施できる病院への転送義務及び麻酔医に係る胸腔ドレナージ実施に係る進言義務)違反により死亡。 
  争点 ①亡Aは緊張性決気胸による呼吸、循環不全により死亡したか
②本件医師らの過失の有無 
  判断   ●本件手術終了時までに緊急性血気胸が生じていたか?
X:本件執刀医らが、血気胸の状態にある亡Aに対し、胸腔ドレナージを行わずに強制陽圧喚起を実施するという禁忌行為をしたため、亡Aに緊急性血気胸が生じたと主張。
・・・・少なくとも本件手術終了時までの間、亡Aについて緊急性気胸と診断すべき兆候はなかった⇒同時点までに緊急性血気胸が生じていたとは認められない。
  ●本件手術終了後に緊急性血気胸が生じたか? 
亡Aについて緊急性気胸と診断すべき兆候はなかった⇒同時点までに緊急性血気胸が生じていたとは認められない。
  ●本件執刀医らは、胸腔ドレナージを実施すべきであったか?
否定。
  解説  血気胸の患者に対して胸腔ドレナージを 実施しない状態で強制陽圧喚起を行うことは、緊急性血気胸を生じさせ、患者を死に至らしめる可能性があるところ、
本件は、頚部の刺創により血気胸を発症していた患者に対し、胸腔ドレナージを実施することなく、強制陽圧喚起下での外科手術を行い、その後も、止血を優先するためにあえて胸腔ドレナージを実施しなかったという臨床医の判断が問題となった事案。
本判決:
診断基準に照らし、緊張性血気胸が生じた結果、患者が死亡したとは認められないとした上で、注意義務違反の有無につき、患者の創部の形状、患者の出血状態、当時の具体的な治療経過やH1病院における医療体制をふまえてこれを否定。
  商事p64
東京高裁R1.7.17  
  転換社債型新株予約権付社債の発行と取締役としての善管注意義務違反(否定)
  事案 東証1部上場企業Zの株主Xが、Zの取締役会において転換社債型新株予約権付社債の発行が決議されたことにつき、取締役であったYら13人に対し、会社法429条1項又は民法709条、719条に基づき、同社債の発行に起因する株価の下落等による88億145万3344円の損害の賠償を請求。
  Xの主張 (1)本件発行が株主総会特別決議等所要の手続を経ずにされた有利発行である
(2)xの保有議決権比率を稀釈化するという不当な目的をもってされた著しく不公正な方法による発行
(3)本件発行の公表により株価が大きく下落するなどの状況⇒これを踏まえて本件発行を再検討して適切な措置を講ずべきであるのにこれを怠った 
  判断  ●有利発行について 
公募により新株予約権付社債を発行するに際し、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行条件が決定⇒特段の事情のない限り、有利発行には当たらない。
but
上場株式について新株予約権付社債の場合は、実質的な対価と理論上算定される価値との比較において、前者が後者を大きく下回るような事情がある場合には特段の事情がある。
本件において共同主幹事引受会社を通じてブックビルディンがが行われたことについて、ブックビルディングが、専門性を有し、短期間で必要な需要調査を終えることができるものであり、一般的な実務慣行として、日本証券業協会の定める規則等の定める内容と相違ない手続で実施されており、その方法が特に不相当なものであるとはいえない
⇒客観的資料に基づき一応合理的な算定方法によって発行条件が決定されたということができる。
その他特段の事情があるとは認められない。

有利発行にあたらない。
  ●不公正発行について
現経営陣が、支配権を争う特定の株主の持ち株比率を低下させ、もって自らの支配権を維持、確保することなどを主要な目的として新株予約権を発行するときは、不当な目的を達成する手段として行われる場合に当たる。
but
本件発行は、
①第2次中期事業計画に掲げた施策実現のための資金調達を目的として行われたもの
②他の資金調達手段との比較における新株予約権付き社債発行の優位性を確認している
③本件新株予約権付社債は、不特定の機関投資家に対して発行され、株式の市場価格が転換価額を上回らなければ転換されず、株式募集とは異なり、Xの持株比率を直ちに低下させるものではない
④本件発行の割当先は、ZやYらの意思とは無関係に決定される
⑤経営支配権をまぐる差し迫った状況にあるとはいえない

Xの持株比率を低下させることを主要目的として行われたとまでは認められない。
  ●善管注意義務違反 
(1)経営判断について、その判断過程、内容に著しく不合理な点があるなど、取締役に与えられている裁量の範囲を超えていると認められる場合に善管注意義務違反がある。
(2)本件発行の公表後に一時的に市場株価が下落することは一般的にあり得る現象と認識されており、このことのみから、善管注意義務に反するものということはできないものの、Xの指摘に基づいて、本件新株予約権付社債が、実際に有利発行に当たらないか、既存株主を不当に害するものでないか、Xから提案された資金調達方法によって資金需要を賄うことができないかなど、十分に検討せず、本件発行を強行した判断には、適切さを欠く面があった。
but
①Xからの提案を直ちに判断することは困難であったこと
②本件発行を撤回すれば、共同主幹事証券会社から損害賠償請求を受けるなどして、市場の信用を失うなど悪影響が商事ることもあり得たこと等

Yらの判断が、その過程、内容に著しく不合理であったまではいえない。
  刑事p94
大阪高裁R1.7.30  
  刑法96条のと官製談合防止法8条の「公正を害すべき行為」が問題とされた事例
  事案 ソフトウェアの開発等を目的とするC社の代表者であった被告人Aと、国立の高度専門医療研究センターの情報システム関連部署の部長職にあった被告人Bが、同センターの情報システムの運用保守業務の入札に関し、偽計を用いる等して公の入札等の妨害等をしたとされる事案。 
入札②は一般競争入札(最低価格落札方式) として実施されたもの。
被告人Bが、入札の仕様書案の作成にあたり、C社以外の業者の参入が困難になり得る条項(本件2条項。システムの機能追加等を求める「管理システム条項」と、医療機関である仮想化構築につき一定以上の経験を有する複数の技術者の従事を求める「仮想化構築実績条項」とからなる。)と盛り込み、これを入札の用に供された。
入札③は公募型企画競争(企画提案書及びプレゼンテーションの評価による技術点と見積額から算出される価格点とを総合評価するもの)として実施。
当初、参加の意向を示したのはC社のみであり、発注者側の依頼を受けたC社が受注意思のない他の業者1社を参加させた(お付き合い入札)との経緯。
  条文 刑法96条の6及び入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律8条 
刑法 第九六条の六(公契約関係競売等妨害)
偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者も、前項と同様とする。
入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律 第八条(職員による入札等の妨害)
職員が、その所属する国等が入札等により行う売買、貸借、請負その他の契約の締結に関し、その職務に反し、事業者その他の者に談合を唆すこと、事業者その他の者に予定価格その他の入札等に関する秘密を教示すること又はその他の方法により、当該入札等の公正を害すべき行為を行ったときは、五年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金に処する。
  解説 ●「公正を害すべき行為」 
刑法96条の「公正を害すべき行為」と官製談合防止法8条の「公正を害すべき行為」は同義と解されており、
公の競売、入札等に不当な影響を及ぼすべき行為をいい、公の競売、入札が公正に実施されていることに対し、疑問を抱かせる行為ないし正当でない影響を与える行為をいうものと解するのが一般。
vs.
構成要件が明確でない嫌いがあるとの指摘。
処罰範囲を限界づけるために一定程度の解釈の指針を提供する必要がある。
保護法益:
A:公務侵害説
〇B:競争侵害説:自由な価値形成のメカニズム(競争原理それ自体)が保護
C:施行者等利益侵害説
判断  ・解説 ①本件2条項がC社以外の業者の参入を困難にし得るものであった
②これを盛り込んだ目的は、C社に有利に、最も現実的な競争相手であった他の業者等に不利にするためである。
弁護人:本件2条項は調達の目的にとり必要であった
vs.
1審:
①特定の業者にとって当該入札を有利にし、又は不利にする目的で、
②現にそのような効果を生じさせ得る仕様書の条項が作成されたのであれば、
③当該条項が調達の目的に不可欠であるという事情のない限り、「公正を害すべき行為」に当たる
との枠組みを示した上で、
本件2条項は不可欠といえない。
控訴審:
最低価格落札方式による入札であっても、より高度でより良いものの獲得を可能にする仕様書の条項を設定することは当然に許される。
but
可能な限り自由な競争を確保することが求められる。

特定の業者を有利にする目的や排除する目的で、参入障壁となる条項を設定することは「公正を害すべき行為」に当たるとした上で、
1審判決も同様の理解に立っており、
前記③は社会的相当性がある場合に違法性が阻却されることを示すもので、正当である。
  入札③について、
被告人Aの主張:そもそも妨害の対象となるべき公正な競争が存在しない
被告人Bの主張:一社応札の場合に手続を中止するルールがなかったから、落札意思のない業者が入札に参加しても競争に影響を及ぼさず、助言・指導によって結果の違いは生じない
判断:お付き合い入札を一種の談合ととらえ、発注者側がこれに手を貸す行為は、たとえ元から自由競争が形骸化していても、自由な競争は見せかけにすぎないとの印象を一般に与え、入札等の公正さに対する信頼を損ない、入札への参加意思を削ぐことが明らか
⇒自由競争の原理に対する具体的危険の発生を肯定できる。

競争侵害説に立ったとしても、入札制度に対する信頼感は自由競争原理をささえるものとして保護に値するとの理解。
当該入札の具体的帰結に違いがなければ、同説にいう「競争」が存在しないと解すべき理由はないとの理解を示すもの。
独禁法上の「不当な取引制限」に関する判断であるが、入札の運用が形骸化していても競争の存在を肯定できるとする最高裁H17.11.21.
  刑事p124
大津地裁R1.9.27  
  特殊詐欺の無罪事案
  事案 被告人が、共犯者らと共謀の上、被害者に対し、親族が至急現金を必要としているなどとうそを言い、現金の交付を受けてこれをだまし取ったもの。
同様の特殊詐欺4件が併合審理された事案。 
被告人が本件に関与していたことを証明する客観証拠は存在せず、共謀等を証明する証拠は、共犯者A、Bの各証言という証拠構造。
  争点 被告人の故意及び共謀 
  判断  A、Bの概ね整合する証拠に関し、
①各供述経過を踏まえると、Aが自らの刑責を軽減するために虚偽供述をし、捜査機関を通じてAの供述を知らされたBがそれに合わせて虚偽供述をした具体的可能性がある
②A、B証言のうち、被告人の本件への関与を示す中核部分につき、客観的に裏づけに乏しいばかりか、客観証拠と齟齬がある、
③A、Bが共通して複数のエピソードを証言したものの重要な点について一部食い違いがある

A、Bの証言はいずれも信用できず、他に、被告人の本件への関与を認めるに足りる証拠はない⇒全公訴事実につき被告人は無罪。
  解説  ●共犯者供述の信用性の基礎 
共犯者供述の信用性判断は、一般的に、
客観的証拠等との整合性や、
迫真性、具体性、一貫性等のいわゆる注意則のほか、
共犯者という属性ゆえの虚偽供述の動機の可能性を念頭に置いて慎重に検討する必要(最高裁昭和43.10.25)。
本件:
捜査段階でAが当初供述していなかった被告人の関与を供述し始めたのは、検察官から、このままでは詐欺グループ内の末端ではないことになるなどと言われ、上位者としての刑責を回避したい意図が生じた結果であることが強くうかがわれる(Aが、真の上位者を被告人に置き換えて供述することが容易であるとの説示もある。)。
Bは、少年であり、供述弱者の要素があったと解されるところ、当初は被告人の関与を供述しておらず、検察官が、Aの前記変遷後の供述内容を「詳細に教示」した上でBを誘導し、「最終的に、これに迎合するBの供述を引き出し」たと認定。
捜査段階の供述は、
①弁護人の立会いのない密室で、取調官による一方的な質問を受けてなされる供述であり、
②捜査と異なる立場からの批判的検証にさらされていない。
このような取調べ環境の下で、年齢、知的能力・精神障害、性格等の観点から、自己の言い分を十分に表現できない、いわゆる「供述弱者」の存在が知られるようになってきている。
供述弱者に共通する特性:
見込み捜査等に基づく供述の押し付けや執拗な誘導に十分に対抗することができず、「取調官の期待」する供述調書が作成されてしまう危険。
取調官の期待:
①取調官の直接的な誘導や押し付けがされる場合のみならず、
②供述者が、取調べの苛烈さから逃れるなどのために、自白して捜査機関と協調する心境となり、取調官と供述者の間で、正解到達に向かう無意識な相互作用を生じた場合(取調官とのコミュニケーションの影響に起因する類型)を、意識して分析的に検討する必要があり、①②の混合型が想定できる。
  ●被告人供述の信用性に関する判断の要否 
被告人のした弁解が一部不合理であった場合でも、不合理弁解には誰かをかばうなどの種々の動機が想定できる。

基本的に、被告人の不合理弁解には、当該供述部分が信用できないと捉えるのが近時の有力な考え方。
   2453
  行政p3
名古屋高裁金沢支部R1.10.29  
  平成30年法律第75号によって改正された公選法14条、別表第3の参議院議員の議員定数配分規定の合憲性が争われた選挙無効訴訟 
  事案
     
  民事p13
東京高裁R1.11.7  
  共同被告の1人について弁論を分離して終結・判決⇒訴訟手続に法律違反又これに準ずる不当な取扱いありとされた事案
  事案 歩道橋補修工事に従事していたXらが、その作業中に危険な薬剤が衣類や身体等に付着したため化学熱傷を負った⇒雇用主Aの元請けであるY、その元請けB及び更にその元請けCに対し、安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求をした。 
  原審 B及びCは、責任の存在を争う旨、また、追って請求原因に対する認否を行う旨を記載した答弁書を提出⇒第1回口頭弁論期日で陳述擬制。
but
Yは答弁書提出せず⇒Yに関する手続を分離して終結し、第2回口頭弁論期日で請求を認容。
  判断 原審の訴訟手続には法律違反又はこれに準ずる不当な取扱いがある⇒原判決を取り消し、本件を差し戻した。 
①訴状等の送達の不奏功は、所在不明によるもので、送達がされたのは、第1回口頭弁論期日の27日前であり、
②Yは、Xらの雇用主Aの直接上位に位置する請負会社であって、事案解明のカギを握る存在となることが容易に想定され、相被告であるB及びCが損害賠償責任等を争う姿勢を示しいてる⇒1度の呼出しに応じなかったことのみを理由に早々に分離した上で終結する必要があったか疑問
③XらのYに対する判決の言渡しによって、訴訟が別々に進行することになれば、訴訟不経済であるばかりでなく、事案解明や和解による紛争解決の妨げになる

Yの手続的権利に対する配慮に著しく欠け、審級の利益を実質的に害し、訴訟全体の適切な進行からも問題がある。
  解説 第1回口頭弁論期日で準備書面を提出せずに出頭しない⇒弁論の全趣旨から事実を争ったものと認められない限り、自白が擬制される(民訴法159条1項、3項)⇒裁判をするのに熟したときといえる⇒裁判所は終局判決をすることができる(民訴法243条)。 
  民事p23
大阪高裁R1.12.25  
  高額な天珠と称する商品の販売と不法行為(肯定)
  事案 Xが、Yの従業員の勧誘に応じて、平成28年8月8日から同年10月26日までの間に、Yとの間で6回にわたり天珠を買い受ける旨の契約を締結し代金合計300万8880円を支払った

主位的請求:
これらの契約はYの従業員による詐欺などの不法行為に当たる社会的相当性を欠いた販売方法により締結されたもの⇒不法行為(Yの法人としての固有の不法行為責任ないしは従業員の不法行為についての使用者責任)による損害賠償請求権に基づき、前記支払額+弁護士費用30万888円並びに遅延損害金

予備的請求:
本件契約2ないし6の5回の契約について、Xは契約締結後によるクーリングオフにより解除⇒不当利得返還請求に基づき、これらの契約に関する利得金額合計291万6000円及び法定利息の支払を求めた。
  原審 本件契約1:
詐欺などの社会的相当性を欠いた勧誘行為がされたとは認められない⇒不法行為を否定。

本件契約2:
①同契約の商品の時価は契約代金の10分の1を下回る
②Yの従業員は、本件契約1の本件商品1とは別の高額な天珠の購入を勧誘する目的を秘して、本件商品1につき浄化を受けるために再来店するように勧誘(目的隠匿勧誘)、これに応じたXに対し、108万円という高額な本件商品2を購入させるために、数時間にわたって勧誘を続けて契約

Yが組織的に反復継続して実行している天珠の販売方法の1つであり社会的相当性を欠く。
⇒不法行為を肯定

本件契約3ないし6についても、同様に社会的相当性を欠く
⇒不法行為を肯定 
  判断 本件契約2について、Yの従業員による勧誘行為が、詐欺などによる社会的相当性を欠いた不法行為であるとは認められない。

①Yが当時販売していた天珠の原価率を認定したうえで、Xによる天珠の購入目的が、転売目的などの商品の財産的価値が高いことを重要なものとするものであったとは認められず、その商品の性質上、前記程度の原価率であることをもって直ちに暴利行為として社会的相当性を欠く販売行為とは認め難い
②Xは正常な判断能力を持って職業を有する者で、Yの従業員は、本件商品2の購入意思を有してはいたものの高額であったために契約を躊躇しているXに対して、支払方法の算段をする中で、勧誘行為が長時間に及んだというものであり、本件商品2の購入意思を有しないXに対して執拗かつ社会的相当性を欠く対応で勧誘行為を行ったという事実は認められない
③Yの従業員において、当時のXの収入から、本件商品2の代金の支払をすることが困難であることを認識しながらクレジットカードによる支払を申し込ませるなどしたものだえるとは認められない
④本件契約2に特定商取引法の適用はなく、Yにおいて目的隠匿勧誘行為をしたともいえない
本件契約3ないし6:
①その当時のXの就業及び経済状態、Xが本件契約2の際に、数種類のクレジットカードによる支払を組み合わせて、なんとか代金の支払が可能となる状態であったことをYの従業員は認識
②更なる高額な天珠の購入をすることがXの生活を圧迫し、支払不能の状態にまで悪化させてしまうことを容易に認識しえる状況において、さらに高額の天珠を、社会的相当性を欠く態様で勧誘し、クレジットカードを利用して商品を購入させている
③このような販売方法は、詐欺に当たるか、そうでないとしてもXの軽率又は稚拙な判断能力の低下に乗じた社会的相当性を欠く販売方法

不法行為に該当する。
  解説 本件:
取引き能力を有する一般消費者が、天珠と称する高額な商品に対して強い関心を有していたことにより、自己の支払能力についての判断能力が低下していることに乗じて、販売店が勧めるクレジットカードを利用して商品を購入させることを繰り返し、既に代金の支払能力を超える債務を負っていることを認識しながら、その後も社会的相当性を欠く販売方法で商品取引を行ったことを違法として不法行為責任を認めた。
消費者契約法や特定商取引法等の各法律の規定に違反しない態様で行われた取引においても、勧誘行為等が暴利行為などの社会的相当性を欠く場合には不法行為として違法となる場合がある。
本件は、一般消費者に対し、必ずしも生活上必要のない高額な商品を、支払い能力の範囲を超えることを認識しながら、短期間に多数回購入させた行為について、暴利行為的な要素など取引内容を全体として評価したうえで、
それが社会的相当性を欠くものとした事例。
東京地裁H23.11.28:
執拗な勧誘により、不必要な健康器具等を強引に販売した訪問販売業者の販売行為が著しく不当な過量販売⇒不法行為責任を認定した事例。
  民事p30
大阪高裁H31.3.11  
  仲裁法18条4項の開示義務違反(否定)
  事案 米国法人X1・X2と日本法人Y1(日本法人C社の完全子会社)、シンガポール法人Y2との間の一般社団法人日本商事仲裁協会(JCAA)の仲裁事件において、3人の仲裁人の合議体である仲裁廷がした仲裁判断につき、
Xらが、仲裁人と同じ法律事務所に所属する弁護士が本件仲裁事件の当事者の関連会社の訴訟代理人を務めていたことを仲裁人が開示しなかった⇒仲裁法44条1項4号、6号及び8号に佐田ネル取消事由がある⇒その取消しの申立てをした。
本件仲裁事件の仲裁人の1人であるF(I法律事務所シンガポールオフィスに所属する弁護士)が、Fと同じ法律事務所のサンフランシスコオフィスに所属する別の弁護士Jが、米国連邦地方裁判所におけるクラスアクション(別件訴訟)において本件仲裁事件の当事者だえるY1の関連会社であるC’社(Y1と同じくC社を完全親会社とする米国法人)の訴訟代理人を務めている事実を開示しなかった⇒本件事実は法18条4項にいう開示すべき事実といえるか(争点①)、それが肯定される場合、Fの開示義務違反があるか(争点②)。
  最高裁  仲裁人が本件表明書によって当事者に対して法18条4項の事実が存在する可能性があることを抽象的に述べたことは、同項にいう「既に開示した」ことには当たらないと解するのが相当。
原審の判断は、これと同旨をいうものとして是認。 
  ①仲裁人は、当事者に対し、法18条4項の事実の有無に関する合理的な範囲の調査により通常判明し得るものをも開示すべき義務を負う。
②仲裁人は、仲裁手続が終了するまでの間、当事者からの要求の有無にかかわらず同義務を負う。

③仲裁人が、当事者に対して法18条4項の事実を開示しなかったことについて、同項所定の開示すべき義務に違反したというためには、仲裁手続が終了するまでの間に、仲裁人が当該事実を認識していたか、仲裁人が合理的な範囲の調査を行うことによって当該事実が通常判明し得たことが必要。 
原審決定が、
①本件仲裁判断がされるまでにFが本件事実を認識していたか否か、
②I法律事務所じおいて本件事実が認識されていたか否か、
③I法律事務所において、所属する弁護士間の利益相反関係の有無を確認する体制がいかなるものであったか、について確定することなく、Fが本件事実を開示すべき義務に違反したものと判断した点は、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
  判断 仲裁人の所属する法律事務所が一般的な水準のコンフリクト・チェックシステムを構築しているる場合、仲裁人は同チェックシステムの存在を前提に、同チェックシステムで必要とされる行動をしている限り、合理的な範囲の調査を継続的に行ったものと評価すべき。
本件事実は、J弁護士の辞任通知漏れに起因する移籍先事務所への申告漏れという例外的事象によって生じたもの
⇒合理的な範囲の調査を行っても通常判明し得るものとは認め難い⇒Fの方18条4項の開示義務違反を否定。 
  解説 本決定:
①仲裁人と同じ法律事務所に所属する別の弁護士が、別件訴訟において仲裁事件当事者の関連会社の訴訟代理人の地位を有していたとの事実は、法18条4項の開示事実に該当する。
②仲裁人の所属する法律事務所が一般的な水準のコンフリクト・チェックシステムを構築している場合、仲裁人は同チェックシステムの存在を前提に、同チェックシステムで必要とされている行動をしている限り、合理的な反にの調査を継続的に行ったものと評価すべきである。 
本件最高裁決定が説示した開示義務違反の要件そのものはm、一般論としては概ね相当と解されている。
問題は、その具体化。
本決定:
本件最高裁決定を受けて、その具体化につとめ、仲裁人の所属する法律事務所のコンフリクト・チェックシステムがどのような体制にあり、仲裁人が同態勢の下でどのような行動をとっていれば、合理的な範囲の調査をしたといえるかについて判断。
本決定:
仲裁人が合理的な範囲の調査をしたかの判断に当たり、仲裁人の所属法律事務所のコンフリクト・チェックシステムの質(標準性)について認定。
当事者が、一般的な水準のコンフリクト・チェックシステムを構築していない法律事務所に属する弁護士を仲裁人に選任⇒仲裁裁判後であっても法18条4項に該当する事実が判明すると、仲裁判断に不満を持つ当事者からの仲裁判断の取消し申立て(法44条)を誘発するリスクにつながりかねない。
仲裁人の法18条4項の開示義務違反が肯定された場合、当然に法44条1
項6号の仲裁判断の取消事由に該当するとして裁量棄却が許されるか?
本決定は、仲裁人の開示義務違反自体を否定⇒判断は示されておらず、今後に残された解釈論の課題。
  民事p47
前橋地裁R1.5.15  
  一般自動車保険契約に附帯された運転者年齢条件(26歳以上補償)特約における「業務に従事中の使用人」に該当⇒保険金請求否定の事例
  事案  A(当時22歳)は、X1の所有する自動車を運転中、交通事故(本件事故)により死亡。
X1は、保険会社Yとの間で、同車を被保険自動車、記名被保険者をX1として一般自動車保険契約を締結

X1及びX2(Aの母)が、Yに対して、同保険の人身傷害条項に基づき、Aの死亡による保険金各2316万8882円の支払を求めた。 
  X1とYとの間の保険契約には、同居中の26歳未満の記名被保険者の親族、又は記名被保険者本人若しくは記名被保険者の業務に従事中の使用人が被保険自動車を運転している間に生じた事故による損害又は傷害に対しては、保険金を支払わない旨の規定。
  Yの主張 本件事故がX1の営む運転代行業務従事中に発生⇒Aが運転者年齢条件を充たさず、かつ、記名保険者の業務に従事中の使用人⇒免責される。 
  争点 保険金支払の免責事由の有無、すなわちAがX1の「業務に従事中の使用人」に該当するか? 
  判断 「業務に従事中の使用人」は、契約関係が形式的に雇用契約を締結している労働者に限定されるものではなく、実質的に支配従属関係のにおける労務の提供を行っている者も含む。
前記の判断にあたっては、記名被保険者等による業務指示等に対する諾否の自由の有無、時間的及び場所的拘束性の有無・程度、業務遂行上の指揮監督関係の存否・内容、報酬の有無、その他諸般の事情を総合的に考慮して判断するのが相当。
Aは、業務に従事するかの諾否の自由に制限があり、時間的及び場所的に拘束されていて、X1から具体的な指示を受ける立場にあり、業務に従事したことに対する相当の報酬も得ていた

X1との支配従属関係の下に運転代行業務に従事し、労務を提供していたと認めるのが相当。

Aは、記名被保険者であるX1の「業務に従事中の使用人」に該当。
  解説 「業務に従事中の使用人」の解釈:
A:労基法9条の「労働者」と同旨と解する説
B:労基法9条の労働者に加え、仮に無償であっても業務に従事中で、かつ、指揮監督、命令支配関係が存在すればよい
C:被保険者との間に直接の雇用関係が存在する者に限る 
東京高裁H11.10.27:
本件免責約款が定められた趣旨は、使用者と使用人との間には通常の第3者との関係以上の密接な社会的、経済的関係があることから、交通事故により損害賠償についても労災保険制度等を使用してなるべく雇用関係の枠内で処理をさせ、併せて不当な保険金請求を防止することにしたもの。

「使用人」とは、必ずしも被保険者と形式的な雇用関係を締結している労働者のみに限られるものではない。
大阪高裁昭和56.7.15:
本件免責条項の趣旨は、自動車が業務に使用される場合、その運行によって業務に従事する使用人が被災する危険度が一般に高い⇒使用者と使用人という密接な関係に着目して、その危険を定型的に自動車保険の対象から除外し、このような企業内の事故については、労災責任ないし労災保険の分野に委ね、併せて不当な保険金請求を防止することとした。

同条項にいう「使用人」とは、必ずしも被保険者の形式的な雇用契約(労働契約)を締結している当事者たる労働者に限られるものではなく、形式上の契約関係のいかんにかかわらず、事実上ないし実質上、被保険者との間に労働契約(支配従属関係)が存在している労働者をも含む。
  民事p54
山口地裁宇部支部R2.2.12  
  私立高校の学生の退学処分が違法とされた事案
  事案 学校法人Yが運営する私立高校(本件高校)の1年生の男子学生であるXに対してされた校長による退学処分が違法か否かが争われた。 
令和元年11月14日に事件⇒校長は、同月22日、Xに対して進路変更処分(Xが自主的な退学又は転学の申出をしない場合には退学処分とする処分)を通知、令和2年1月22日付でXに対して退学処分(本件退学処分)を通知

Xは、Yを相手取り、同月16日に授業を受けることの妨害の禁止を求める仮処分を、同月23日に生徒の地位にあることを仮に定めることを求める仮処分を申し立てた。
  判断 ①Aの負傷が軽傷にとどまったこと、
②XとAとの間に、従前目立ったトラブルはなく、本件も突発的に発生した事案であるといえること、
③Xは喫煙による停学処分を1度受けたことがあるのみで、暴行による懲戒処分を受けたことはないこと、
④Xが自宅待機を支持されてから本決定時までに2か月以上が経過しており、本件高校において過去に発生した暴力行為を理由に懲戒処分がされた事案を比較しても、XのAに対する暴行を理由として本件退学処分をおkナウことは社会観念上著しく妥当を欠くものだえること、
⑤Xが、授業や他の生徒の学習を積極的に妨害した等の事情までは認められないこと、
⑥親権者間で関係修復に向けた動きが見られること等

本件退学処分を、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされた違法なもの。 
Xが授業を受けることの妨害の禁止を求める仮処分については、被保全権利も保全の必要性も認められる。
but
Xが本件高校の生徒の地位にあることを仮に定める仮処分については、授業を受ける権利のほかに、特別に保全すべき権利ないし利益は見いだし難く、保全の必要性は認められない。

Xが授業を受けることの妨害の禁止を命ずる仮処分命令のみを発令。
  解説  学校における懲戒処分の効力が裁判で争われたケース: 
最高裁昭和29.7.30(京都府立医大退学処分事件):
大学の学生に対する懲戒処分は、教育施設としての大学の内部規律を維持し教育目的を達成するために認められる自浄作用にほかならず、懲戒権者たる学長が学生の行為に対し懲戒処分を発動するかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶかを決定することは、その決定が全く事実上の根拠に基づかないと認められる場合であるか、もしくは社会観念上著しく妥当を欠き懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えるものと認められる場合を除き、懲戒権者の裁量に任されているものと解するのが相当。
最高裁昭和49.7.19:
政治活動を行った私立大学の学生に対する退学処分の効力が争われた:
特に私立大学においては、建学の精神に基づく独自の伝統ないし校風と教育方針によって社会的存在意義が認められ、学生もそのような伝統ないし校風と教育方針のもとで教育を受けることを希望して当該大学に入学するものと考えられる
⇒学内及び学外における学生の政治的活動につきかなり広範な規律を及ぼすこととしても、これをもって直ちに社会通念上学生の自由に対する不合理な制限であるということはできない。
最高裁H8.3.8:
信仰上の理由により剣道実技の履修を拒否した市立高等専門学校の学生に対する原級留置処分及び退学処分について、信仰上の理由による剣道実技の履修拒否を、正当な理由の内履修拒否と区別することなく、代替措置が不可能というわけでもないのに、代替措置について何ら検討することもなくされたこれらの処分は、社会観念上著しく妥当性を欠き、校長の裁量権を超えた違法なものといわざるをえない。
  想定される本案訴訟の主文における給付義務が具体的明確性を欠き、債務名義性を承認することが困難で、債務者の任意履行に期待せざるを得ない仮処分の許否に関しては、従来から議論があるが、
保全の必要性を慎重に吟味すべきであるとする見解が有力。 
  商事p59
名古屋高裁R1.8.22  
  先物取引受託会社役員の職務執行上の重過失が肯定された事例
  事案 Xは、商品先のの取引を受託する株式会社Y1の担当従業員であるY4から勧誘⇒平成24年7月26日から同年11月26日まで、Y1に委託して、金、とうもろこし、白金の商品先物取引⇒1698万3780円の差損金。
Xが、
①本件取引において、Y1の従業員Y4ほか(Y1従業員ら)による不招請勧誘禁止違反、適合性原則違反、説明義務違反、新規委託者保護義務違反、実質的一任売買、過当取引、指導・助言義務違反、信任・誠実公正義務違反等の一連の違法行為が存在⇒Y1従業員らに対しては、不法行為又は債務不履行責任に基づき、
②Y1により教育指導体制等の内部統制システム整備・運営義務違反があった⇒Y1の代表取締役であったY2及びY3(Y1役員ら)に対しては、会社法429条1項に基づき、損害賠償請求。
  判断 ①Y1従業員らの新規委託者保護義務違反、指導・助言義務違反、信任・誠実公正義務違反及びY1の使用者責任
②Y1役員らの法令等遵守及び内部管理体制を確立・整備し、適正な勧誘・受託の履行を確保すべき義務違反(重過失)を認め、
Xの過失割合を4割。
  解説   ●会社役員等の損害賠償責任 
会社法429条1項は、役員等の第三者に対する損害賠償責任について、
「職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは」損害賠償責任を負う、としており、
役員等の会社に対する義務(善管注意義務・忠実義務)違反があり、第三者に損害を被らせた場合にも、当然に前記義務違反に基づく損害賠償義務を負うことはない。
本判決:Y1役員らの重過失を肯定。
本件取引に先立つ平成20年1月11日にY1に対する行政処分について、
①適合性の原則に関し、顧客の財産の状況及び投資可能資金額の確認を十分に行わないまま取引を受託、
②取引開始後1か月しか経過していない顧客に対し、両建てに関する理解がなされているかどうかの確認を十分しないまま受注し建玉していたことが処分理由とされていたのであるから、Y1においては、顧客の財産や投資可能資金額、両建てに関する理解について、十分な審査体制を整える等の再発防止策をとるべきであり、それはY1において容易に行うことが可能であった
but
①Xの財産状況や投資可能資金を十分に調査確認せず、投資可能資金額を、Xの投資意向500万円程度をはるかに超える、Y1が定める審査規定の定めの上限である1750万円に設定させ、
②取引開始からわずか4日後に、Xに、Xが両建て等の説明を受け証拠金の仕組みについても理解しており両建てを指示する旨のY4の指示通りの指示書を提出させ(Y1においては指示書さえ提出されれば新規委託者からでも両建てを受託できた。)Xから両建てを受託する等、前回行政処分後も、従業員による同種の法令違反行為が繰り返されており、Y1役員らが、従業員が適正な勧誘・受託を行うよう教育し、違法行為を防止すべく内部管理体制を確保する義務を尽くしていたとはいえず、義務違反の程度は重大。

Y1が以前にも行政処分を受けており、再発防止策がとられたものの全く不十分であったことを重視。
  商品先物取引事例において、会社法429条1項に基づく会社役員の責任を認めた裁判例:
名古屋高裁H25.3.15:
同判決は、問題となった取引に先立ち、控訴人会社は、何度も従業員の違法行為を認める判決を受け、従業員の違法行為を認める判決を受け、行政当局や商品先物取引協会から業務の改善を求められ制裁を科されていたにもかかわらず、役員らは、従業員の上位が違法であると認識しておらず、従業員への指導も不足していた。 
  刑事p96
大阪高裁H30.10.31   
  殺人について控訴審で無罪とされた事例
  事案 控訴審において、交際相手の女性Aの頚部を絞めつけて窒息死させたとして殺人を認定した原判決を事実誤認の理由で破棄し、無罪を言い渡した事案。
  争点 ①被告人の行為の実行行為該当性
②死亡との因果関係の有無
③殺意の有無
④正当行為該当性
  経緯 弁護人は、当初、被告人の行為とAの死亡との因果関係は争わず、傷害致死の構成要件に該当することは認め、殺意はなく、過剰防衛が成立すると主張。
but
後日Aの死因を争うことになった。

裁判員裁判の公判期日の指定を取り消し、さらに公判前整理手続きを進め、公判整理手続に要した期間が2年以上となっている。 
  原審 死因について、
検察官が証人申請した法医学者B⇒死因は頚部圧迫による窒息死。
弁護人が請求した薬学者D⇒Aの胸腔内液から危険ドラッグと呼ばれる有害な薬物の成分が複数検出⇒薬物の影響により死亡した可能性を否定できない。
Bの証言は、豊富な解剖経験に基づくものであって信用できる。
Dの指摘する窒息以外の死因の可能性は、抽象的な的なレベルにとどまる。
⇒窒息が死因。

殺人罪が成立。
  控訴審  原判決が死因を窒息と認定したことから、いわば演繹的に他の争点についても結論を導いたと分析。
(たとえば、動機は明らかでないといしつつも、窒息死するほど頚部を圧迫し続けた⇒未必の殺意を認めた。) 
死因について、再度本格的な事実の取調べを行っている。

原判決の死因の認定に対する控訴趣意書中の批判が、原審記録を検討しても、簡単に排斥することができないか又は簡単に排斥することは相当でないと判断されたため。

近時、控訴審が事後審であることが強調され(特に原審が裁判員裁判であるとより強いように思われる。)⇒控訴審における事実の取調べ(刑訴法393条)は制限的とされる。
その中で、どのような状況があれば事実の取調べをすべきかを考える上で参考になる。
  法医学者2名の証人尋問
原審以来のB
弁護人が新たに請求した医師F 
B証言が、かなり一般的な話に終始
F証言は、具体的な観察に基づいた考察を重ねた感。
  Aの死因が窒息であると判断する証拠はなく、原判決の事実認定自体が大きく揺らいでいる。
他の死因の可能性をも検討し、薬物中毒死又はこれを身体拘束を受けたことによる突然死の可能性を肯定。 
薬物使用の影響を肯定⇒被告人が供述するAの不自然な行動(突然被告人の手をAの口に入れて噛んできた)の可能性⇒被告人の供述の信用性も肯定(排斥できない)
  原判決:死因が窒息であると認定⇒そこからいわば演繹的に他の争点について判断。
死因が窒息でない⇒必然的に他の争点の判断にも影響を及ぼす。

被告人の供述(弁解)は排斥でjきず、これによれば、殺害の実行行為性も、殺意も認めることができず、被告人の行為に暴行や傷害の実行行為性を認めるきおとができても、正当防衛が成立。 
  解説 死因について、医学的・客観的に判定できるものと考えられがち
but
そのような事柄であっても深刻な争いになる場合がある。
それを誤ると重大な事実誤認を招くことがある。
ex.
湖東記念病院事件
大崎事件
このような場合、法医学等の専門的知見に頼ることになるが、専門家の間でも、遺体の所見1つとっても見解が分かれることがある。
(本件でも、遺体の顔面に鬱血があるという点で意見は分かれた)
また、総合判断である死因の判定には多くの推定、推論が入る。
1つの証拠を絶対視することなく、他の関連する証拠はなるべく多く取調べられる必要がある。
また、状況的な証拠との検討も必要。
  刑事p113
岐阜地裁R1.5.10
  不許可処分が刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律に反して違法とされた事案
  事案 岐阜刑務所に収容中の受刑者であるXが、Y(国)に対し、岐阜刑務所長が原告に対して行った、
①カラーレンズ付き眼鏡等を使用不許可等とした処分、
②新聞紙、雑誌及びXが作成した見取り図等の宅下げ等を不許可とした処分
はいずれも違法

各処分をいずれも取り消すこと、ならびに、岐阜刑務所長がXに対して各物品の使用や宅下げ等を許可することを義務付けることを求めるとともに、
国賠法1条1項に基づき、慰謝料等の支払を求めた。 
  判断  ●Xが使用不許可処分の取消し等を求めた白内障対応カラーレンズ付き眼鏡について:
岐阜刑務所の内規のうち、眼鏡のレンズは原則として無色透明のものに限るとした上、医療上等の理由で着色レンズの使用の必要性が認められる者については例外を認める内規及び眼鏡の所持数量について、原則として種類ごとに1本と定めた内規について、
いずれも相当なものと判断。
but
医療上の必要性について、網膜色素変性症の場合に限るものと定めた内規については、・・・・刑事収容法42条1項柱書の趣旨に反する過度の制約であり、この内規に従ってカラーレンズ付き眼鏡1本を使用不許可とした岐阜刑務所長の処分は、その裁量を逸脱した違法な処分。

その使用不許可処分を取り消し、その使用を許可することを義務付けることとして、慰謝料の支払いを肯定。
  ●Xが求めた雑誌及び新聞紙の宅下げについて:
刑事収容法50条1号又は2号に該当するような事情が存在すると認めるに足りる証拠はなく、宅下げの前提行為となる新聞記事の切取り及び所持についても、これを不許可とすることは、原則として、受刑者である被収容者による保管私物お宅下げを許容している同条の趣旨を没却する可能性がある。

これらを不許可とした岐阜刑務所長の処分は、いずれも違法。
Y:閲覧後の新聞紙及び雑誌について、被収容者があらかじめ廃棄することに同意している場合は、宅下げの対象外となり、例外的に宅下げの対象とするには、宅下げの対象とすることを認めてもやむを得ない程度の相当の理由を要するべきであると主張。
vs.
被収容者があらかじめ閲覧後の新聞紙又は雑誌に係る個別の同意の撤回を求めないという取扱いは、あらかじめ廃棄に同意した被収容者の合理的な意思解釈に反するものであって、法的根拠に基づかず、被収容者の財産権を不当に制約するもの

宅下げ不許可処分を取り消し、宅下げを許可することを義務付け、慰謝料の支払も認めた。
Xが求めた他の眼鏡、眼鏡関連物品、X代理人弁護士が刺し入れようとした用紙、Xが作成した見取図等に係る処分については、刑事収容法に反しない。
  解説  刑事収容法42条1項1号は、眼鏡その他の補正器具については、被収容者には原則として自弁のものを使用させるものとされている。

本判決:
かかる規定を受けて刑務所内で定められた内規の適法性について判断⇒眼鏡の使用不許可処分の適法性を判断。 
  被収容者の保管私物の宅下げについては、刑事収容法50条による規律。
同条各号に該当する事由がなければこれを許す。
but
被収容者が自費で購入するなどした雑誌及び新聞紙については、法務大臣訓令等により、被収容者の同意を得た上で閲覧後に廃棄させることを原則とし、その同意は包括的に得ることも差し支えないとされている。

岐阜刑務所においては、かかる訓令等を受けて、雑誌及び新聞紙の宅下げについては、相当の理由があるときのみこれを許可するという運用。
本判決:
前記訓令等については刑事収容法50条に抵触するものではないと判断する一方で、前記の岐阜刑務所内における運用については、被収容者の財産権を不当に制約する者と判断。
2452    
  行政p18
最高裁R1.7.22   
  将来の不利益処分の予防を目的として当該処分の前提となる公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟の要件
  事案 陸上自衛官であるX(控訴人・被申立人)が、我が国と密接な関係にある他国に対する武力行使が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態(「存立危機事態」)に際して内閣総理大臣が自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる旨を規定する自衛隊法76条1項2号の規定は憲法に違反する⇒Y(国)を相手に、Xが同号の規定による防衛出動命令に服従する義務がないことの確認を求めた。 
  1審 現に、Xの有する権利又は法律的地位に危険や不安が存在するとは認められない⇒本件訴えは確認の利益を欠き不適法であるとして、本件訴えを却下。 
  原審 Xは、本件訴えは、Xが本件防衛出動命令に従わなかった場合に受けることとなる懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟である旨の釈明。 
本件訴えは、実質的には、本件職務命令への不服従を理由とする懲戒処分の差止めの訴えを本件職務命令ひいては本件防衛出動命令に服従する義務がないことの確認を求める訴えの形式に引き直したもの

本件訴えが適法な無名抗告訴訟とみとめられるためには、差止めの訴えの訴訟要件である重大な損害の要件及び補充性の要件を満たすことが必要。
本件訴えは、いずれの要件も満たすから、適法な無名抗告訴訟⇒1審判決を取り消し、1審に差し戻す。
  判断 上告受理申立てを受理し、
将来の不利益処分の予防を目的として当該処分の前提となる甲的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟は、差止の訴えの訴訟要件である「行政によって一定の処分がされる蓋然性があること」を満たさない場合には、不適法である。

原判決を破棄して事件を原審に差し戻した。 
  解説  処分(本件では懲戒処分)の前提となる公法上の法律関係の不存在の確認を求める訴えは、当該処分を差し止める機能を有するもの。
前記訴えは、
A:処分の差止めの訴えと同様に、行訴法3条1項にいう「行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟」(抗告訴訟)に当たり、無名抗告訴訟と位置付けられるのか、
B:行訴法4条後段が定める「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」、すなわち、実質的当事者訴訟に当たるのかが問題。
最高裁H24.2.9:国旗国歌訴訟最判:
公立高等学校等の教職員らが、東京都に対し、校長の職務命令に基づいて卒業式等の式典における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱し又はピアノ伴奏をする義務がないことの確認を求めた訴えにつき、

行政処分に関する不服を内容とする訴訟として構成⇒将来の不利益処分たる懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟として位置付けられるべき、

その違反が懲戒処分の処分事由との評価を受けることに伴い、勤務成績の評価を通じた昇給等に係る不利益という行政処分以外の処遇上の不利益・・・の予防を目的とする訴訟として構成⇒公法上の当事者訴訟の一類型である公法上の法律関係に関する確認の訴え(行訴法4錠)として位置付けることができる。

処分の前提となる法律関係の不存在の確認を求める訴えにつき、当該訴えが処分による不利益の予防を目的とするものであるか、処分以外の不利益の予防を目的おとするものであるかによって、無名抗告訴訟であるか実質的当事者訴訟であるかを区別。
  一般に、行訴法3条の規定は、無名抗告訴訟が適法な抗告訴訟として許容される可能性を否定するものではないと解されているが、いかなる場合に適法な無名抗告訴訟を提起することができるのかが問題。 
長野勤評事件最判(最高裁昭和47.11.30):
処分を受けてからこれに関する訴訟のなかで事後的に義務の存否を争ったのでは回復しがたい重大な損害を被るおそれがある等、事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がある場合でない限り、処分の前提となる義務の存否の確定を求める法律上の利益を認めることはできない。

but
その後、差止めの訴えを法定した「行政事件訴訟法の一部を改正する法律」による行訴訟の改正
⇒平成16年改正後においては、同じく処分の予防を目的とする抗告訴訟である差止めの訴えの訴訟要件との関係において検討すべき。
国旗国歌訴訟最判:
差止の訴えと同様に補充性の要件を満たすことが必要
特に法定抗告訴訟である差止めの訴えとの関係で事前救済の争訟方法としての補充性の要件を満たすか否かが問題。

当該事案においては、法定抗告訴訟として職務命令違反を理由としてされる懲戒処分の差止めの訴えを適法に提起することができる⇒前記確認の訴えについては補充性の要件を欠き、不適法。
本判決:
予防的無名抗告訴訟は、
①当該処分に係る差止めの訴えと目的が同じ
②その効力についても、請求が認容されたときには行政庁が当該処分をすることが許されなくなるという点で差止めの訴えと異ならない
③確認の訴えを形式で差止めの訴えに係る本案要件の該当性を審理の対象とするものということができる

行訴法の下において、差止めの訴えよりも緩やかな訴訟要件により、これが許容されているものとは許されない。

予防的無名抗告訴訟は、差止めの訴えの訴訟要件の1つである蓋然性の要件(行政庁によって一定の処分がされる蓋然性があること)を満たさない場合には不適法となる。
  ①重大な損害の要件
②補充性の要件
③蓋然性の要件 
  民事p35
最高裁R1.8.9  
  再転相続の場合の熟慮期間の起算点(民法916条)
  事案 Aに対する判決に基づき、Aの法定相続人(再転相続人)であるXに強制執行するための承継執行文の付与⇒Xが、相続放棄を異議の事由として、強制執行を許さないことを求める執行文付与に対する異議の訴え。
  争点 甲が死亡し、その相続人である乙が甲からの相続について承認又は放棄をしないで死亡、丙が乙の相続人となったいわゆる再転相続。
民法916条は、同法915条1項の規定する相続の承認又は放棄をすべき3か月の期間(熟慮期間)は、「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」から起算する旨を規定。

本件では、Aからの相続に係るXの熟慮期間がいつから起算されるか。
  事実 M銀行は、Aほか4名に対し、貸金等に係る連帯保証債務の履行として各8000万円の支払を求める訴訟を提起し、平成24年6月7日、いずれも認容する判決が、同日確定。 
Aは、平成24年6月30日死亡。
Aの妻と2名の子は相続放棄の申述が受理⇒Aの兄弟等がAの相続人に。これらのうち、B(Aの弟)ほか1名を除く9名による相続放棄の申述が受理。
B:平成24年10月19日、自己がAの相続人となったことを知らないまま死亡。
Bの相続人Xは、同日頃、XがBの相続人となったことを知った。
●  M銀行:平成27年6月、Yに対し、本件確定判決に係る債権を譲渡。
Y:同年11月2日、本件確定判決の正本に基づき、M銀行の承継人であるYが、Aの承継人であるXに対して、本件債務名義に係る請求書につき32分の1の額の範囲で強制執行することができる旨の承継執行文の付与を受けた。
Xは、同年11月11日、本件債務名義、前記承継執行文の謄本等の送達を受けた。
⇒BがAの相続人であり、XがBからAの相続人としての地位を承継していた事実を知った。
Xは、平成28年2月5日、Aからの相続人ついて相続放棄の申述をし、同月12日、前記申述が受理された。
  判断  民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである。
本件に同条が適用されないとした原審の判断には、同条の解釈を誤った違法があるが、本件相続放棄が熟慮期間内にされたものとして有効であるとした原審の判断は、結論において是認することができる。
  規定 民法 第九一五条(相続の承認又は放棄をすべき期間)
 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
  民法 第九一六条
相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
  解説  民法915条1項本文にいう「自己のために相続の開始があったことを知った時」の意義:
相続開始の原因たる事実の発生を知っただけでは足りず、
それによって自己が相続人となったことを覚知した時をいう。 
  民法916条の趣旨:
丙は、乙の地位を引き継ぐ⇒本来、乙の熟慮期間内(例えば、この熟慮期間が2か月経過していた場合には、残りの1か月内)に承認・放棄をしなければならないことになる。
but
これでは、丙にとって、極めて短期間で、第一次相続について承認・放棄の判断を強いられることになり不当

丙が「自己の為に相続の開始があったことを知った時」から起算することとした。 
再転相続において、丙は、第1次相続及び第2次相続のそれぞれについて承認・放棄の選択権を行使することができるところ、
最高裁昭和63.6.21:
民法916条について、
丙の再転相続人たる地位そのものに基づき、甲の相続と乙の相続のそれぞれにつき承認又は放棄の選択に関して、格別に熟慮し、かつ、承認又は放棄をする機会を保障する趣旨をも有するものと解すべき。
  第1次相続(甲からの相続)に係る熟慮期間の起算点 である「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」:
A:第2次相続基準説:
丙が自分のために第2次相続(乙からの相続)の開始があったことを知った時

〇B:第1次相続基準説:
丙が乙のために第1次相続(甲からの相続)の開始があったことを知った時

①丙が自己のために乙の相続が開始したことを知ってさえいれば熟慮期間が進行するというのでは、再転相続について承認・放棄の選択権を独自に行使できるという丙の地位が実際上確保されないこととなる
②この選択権を行使するのは丙⇒主観的事情は丙について考慮すべき
③第1次相続人である乙自身についてすら、自らが相続人である事実(本件では、先順位者の放棄があったこと)を知らなければ、第1次相続に係る相続財産の調査義務を負わない(熟慮期間は開始しない)のであり、第2次相続が開始したからといって、第2次相続人である丙(甲との関係は、乙よりも薄いのが通常であろう。)に対し、その認識していない第1次相続に係る相続財産の調査義務を負わせる(熟慮期間を開始する)とするのは、丙に対して過度の負担を負わせるもの

民法916条は、第1次相続人(乙)が第1次相続に対する承認・放棄をしないまま死亡したという再転相続の場面における第1次相続についての熟慮期間の起算点を想定したものであり、
これを前提に同条を合理的に解釈すれば、
同条は、再転相続における熟慮期間につき、第1次相続人の地位を包括承継した第2次相続人(「その者の相続人」)が、第1次相続人(ただし、その地位は第2次相続人が包括承継している。)のために第1次相続が開始したこと(「自己のために相続の開始があったこと」)を知った時から起算する旨を定めたもの。

同条にいう「相続の開始」とは、第1次相続を意味するものと解する。
  民事p39
大阪高裁R1.9.4  
  鑑定に対する協力が得られない⇒後見開始相当の常況にあるか否かの判断が争われた事案
  原審 Bについて鑑定を実施できない以上、Bが精神上の傷害により事理を弁識する能力を欠く常況にあると認めることはできない⇒後見開始の審判をすることができない⇒A(長男)の申立てを却下。 
  判断   本件診断書の内容を検討し、
①Bが老人性認知症にり患し、HDS-Rの結果が11点
②自己の年齢や日時、場所すら回答できない

記憶力、見当識が著しく低下し、理解・判断力もほとんど喪失していると判断。
本件診断書には、発語不能にチェックがある一方、意思疎通は可能とのチェック。
but
F医師は自らBから聴取し、その発語を確認したはず⇒前記チェックは誤記とみるのが相当であり、本件診断書の信用性を損なわせるものではない。
  Bはグループホームに入所中の87歳という高齢であるのに、
リスクの高いマンション経営を新たに計画し、そのために駐車場の賃貸借契約を解約して、安定した賃料収入を失い、グループホームの施設費を賄えない状況に陥っているが、
このような行動は、Bの生活状況からみておよそ経済的な合理性を欠く。

Bが自署した書面に、

「ガレージよりマンションの方がよいと思う」
「成年後見人を付けることはいやです」
などの記載があるとしても、Bがその意思に基づいて自己の財産状況や後見制度の趣旨を理解した上で記載したものか極めて疑わしい
⇒これらの書面は、後見開始の判断を左右しない。
  後見の開始に当たっては、公正中立にBの財産を管理する専門職の成年後見人を選任する必要⇒この点について審理を尽くさせるため原審判を取り消し、本件を原審に差し戻した。 
  解説 家裁は、成年被後見人となるべき者の精神の状況につき鑑定をしなければ後見開始の審判をすrことができない。(家事手続法119条1項)
but
明らかにその必要がないと認めるときは、この限りでない(同項ただし書)。
問題は、親族や本人が強硬に鑑定を拒む場合。
緊急性がある場合には、診断書あるいはこれに類する書面を準備して、審判前保全処分を検討することが考えられる(法126条)。
家裁は、必要に応じて財産管理人を選任してその協力を得、家裁調査官の調査を利用するなどして、鑑定の円滑は実施に向けて働きかけることも考えられる。
  民事p43
大阪高裁R1.5.24  
  人格権に基づく、インターネット検索結果削除請求(否定事例)
  事案 X(会社経営者)の氏名で検索⇒Xが有名企業の副社長を恐喝した事件に関与していたこと、同和利権問題を起こした団体の理事であったこと、元暴力団構成員であったことを示す検索結果。
XはYに対し、
①人格権としての名誉権に基づき、本件恐喝事件及び同和利権問題に関する検索結果の削除を求め、
②人格権としてのプライバシー権に基づき、元暴力団構成員であったことに関する検索結果の削除を求め、
③検索結果の削除をYが違法に拒絶したため損害を被ったとして、不法行為に基づき、2000万円の支払を求めた、
  判断   ●人格権としてのプライバシー権に基づく検索結果の削除請求:
当該事実を公表されない法的利益と検索結果を提供する諸事情を比較衡量し、
前者が優越することが明らかな場合に請求することができる。 
  ●人格権としての名誉権に基づく検索結果の削除請求:
①検索事業者による検索結果の提供は、利用者がインターネットを通じて情報発信・情報収集することを支援するものであり、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤としての役割を果たしている
②検索事業者による検索結果の提供が違法とされ、その削除を穂木なくされることとなれば、検索結果の提供を通じて果たされている前記役割に対する制約となる

事前差止めの場合に準じて、検索結果の提供が専ら公益を図るものではないことが明らかであるか、当該検察結果に係る事実が真実ではないことが明らかであって、かつ、被害者が重大にして回復困難な損害を被るおそれがあると認められる場合に限られるべきであり、
その主張及び立証の責任は被害者が負う。
  ●元暴力団構成員であったことに関する検索結果(プライバシー権に基づく請求):





元暴力団構成員であったとの事実を公表されない法的利益が、その旨の検索結果を提供する理由に優越することが明らかであるとまではいえない。 
  ●本件恐喝事件及び同和利権問題に関する検索結果(名誉権に基づく請求):
どちらも公共の利害に関し、社会的な関心も高いが、
その公表によって重大にして回復困難な損害を被るおそれがあるとは認められない
⇒削除を請求する得ことができない。 
  解説   人格権としてのプライバシー権に基づく検索結果の削除請求については、検索事業者に対し、自己の逮捕歴に係る検索結果を仮に削除するよう求めたケースにおいて、
最高裁H29.1.31:
検索事業者による検索結果の提供は検索事業者の表現行為という側面を有し、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしていることを前提として、
当該事実の性質及び内容、当該検察結果が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその物が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、記事等の目的や意義、記事等掲載時の社会的状況とその変化、当該事実記載の必要性など、
当該事実を公表されない法的利益と当該検索結果を提供する理由に関する諸事情を比較衡量し、
前者が優越することが明らかな場合に検索結果の削除請求をすることができる。
本判決:
Xが暴力団構成員であったのが約50年前であったが、なお社会の関心が薄れていない⇒直ちに公表の必要性が失われているとまではいえないと判断。
  人格権としての名誉権に基づく削除請求について
最高裁昭和61.6.11(北方ジャーナル事件):
公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関する出版物の事前差止めは原則として許されないとしつつ、
(1)表現内容が真実ではなく、又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ、
(2)被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるときに限り許される。 
  本件削除請求との関係について、
A:平成29年最決は、対立する憲法上の利益の調整としてされる比較衡量を具体化し、受忍限度(違法性)の判定を行うという従前の判断枠組みを根底から覆すものではなく、
他方でインターネット表現の削除は事後的な差止⇒昭和61年最判を援用することは相当ではない
B:検索結果の削除請求は、既に公表されている検索結果の削除を求めるものであり、事前差止めとは異なるが、以後の情報流通を一切差し止めるという点では事前差止めと大差ない⇒事前差止めと同様の要件をもって判断するのが相当とする見解 
  本件の一審判決:
名誉毀損を根拠とする検索結果の削除に関しても平成29年最決の趣旨を及ぼして同旨の枠組みをもって判断すべき

本判決:
プライバシー権と名誉権の違いに着目し、
検索結果の削除請求は、事後的な差止めではあるが、今後は同様の内容の検索結果を得られなくなるという点で表現行為に対する強い制約になる
⇒名誉権に基づく差止めに関する昭和61年最判に準じて判断すべき。
but
本件恐喝問題及び同和利権問題により重大な損害を被るとは言えない⇒削除請求を棄却。 
  民事p59
大阪地裁R2.2.21  
  長時間労働に従事していた調理師が、劇症型心筋炎⇒死亡で、長時間労働による過労状態と死亡との相当因果関係が肯定された事例
  事案 被告会社が経営していたレストランの調理師が、長期にわたり長時間労働に従事⇒過労等によって免疫力が低下し急性心筋炎を発症し、それが劇症化したために補助人工心臓を装着⇒脳出血で死亡。

故人の相続人である原告らが、
被告会社に対しては会社法350条又は安全配慮義務違反(債務不履行)に基づき、
被告会社の代表者に対しては不法行為又は会社法429条1項に基づき、
治療費、逸失利益、慰謝料及び弁護士費用等の損害倍法を求めた。 
  争点 個人を過労状態に至らしめたことについての被告会社の代表者の注意義務違反と、それが劇症化して死亡するに至ったこととの間に、因果関係が認められるか。 
  原告主張 ・・・・このような長時間労働による免疫力の低下がなければ、故人が心筋炎を発症することはなかったと考えられるし、また、心筋炎が劇症化して死亡することもなかったということができる
⇒過労状態とウイルスへの感染や心筋炎の発症・劇症化との間に因果関係を認めることができる。 
本件レストランにおける業務が多忙⇒休業して治療・休養する機会を得ることができなかった。
早期に病院を受診し、治療を受けて休養する機会が与えられていれば、死亡に至るまでの病状の進展を未然に防止することが可能であった
⇒この点からも長時間労働と死亡との間には相当因果関係がある。
  判断  故人が心筋炎を発症した当時、著しい長時間労働とこれに伴う睡眠不足によって、過労の状態にあった上、急性心筋炎の前駆症状が現れた後も、ほぼ従前どおりの過酷な長時間労働を継続しており、そのことによって更に体力を奪われ、極めて疲弊した状態に陥っていた。 
①心筋炎、ウイルス感染症及び免疫機構に関する現在の医学的知見の状況
⇒過労の状態や睡眠不足が、ウイルス等の病原体に対する生体防御機能を低下させる要因の1つとなっている
②当時、故人は、過労や睡眠不足によって、生体防御機能が低下した状態にあり、体内に侵入したウイルスが増殖して感染を成立させ、感染症を発症しやすい状況にあったといえるし、また、急性心筋炎の前駆症状が現れた後も、従前どおりの過酷な長時間労働を継続していたことが、その急性心筋炎の症状をより悪化させる要因になったことは否定し難い。

被告会社の代表者の注意義務と、故人がウイルスに感染して心筋炎を発症したことやその症状が悪化したこととの間の因果関係を肯定。
  被告らの主張のうち、個体側要因の関与につて、
心筋炎の症状の進行(劇症化)には、患者個体の何らかの遺伝的・自己免疫的素因等が関与している可能性がある。
but
過労状態による生体防御機能の低下によりウイルスの増殖を食い止めることができずに心筋炎を発症するに至った場合には、一定の遺伝的・自己免疫的素因等を有する者において、心筋炎が劇症化することは、因果の流れとして一般に想定されるものであった⇒被告会社の代表者の前記注意義務違反と、故人の心筋炎が劇症化して重症心不全によるショック状態に陥ったこととの因果関係を肯定。
尚、故人はこれによって補助人工心臓を植え込むことになり、その重篤な合併症である脳出血によって死亡⇒前記注意義務違反と個人の死亡との間の因果関係も肯定。 
  解説 相続人の生前の配偶者は、労基署に対し、遺族補償年金等の支給を請求⇒不支給⇒審査請求及び再審査請求⇒いずれも棄却⇒国を被告として、前記の各処分の取消しを求める訴えを提起⇒取り消す旨の判決⇒国が控訴。 
労災認定の場面では、因果関係の問題は、業務に内在する危険が現実化した否かという、いわゆる「業務起因性」の枠組みの中で問題。
but
労災法に基づく労災認定と使用者等に対する不法行為等に基づく損害賠償請求とでは、法制度の趣旨が異なる
⇒業務起因性の判断と相当因果関係の判断を直ちに同視することには問題があると指摘⇒必ずしも両者の判断が重なり合うものではない。
  労働p74
東京高裁R1.10.9  
  法定年次有給休暇の日数を超える有給休暇が与えられている場合と、法定年次有給休暇の部分かそれ以外の部分かを区別しない時季の指定の効力
  事案 Xは、英会話スクールを経営するY社との間で、期間を1年とする労働契約を締結し、講師として稼働。
Xの法定年時有給休暇の日数は、年間10日ないし11日であったところ、Y社の就業規則には、年間20日間の有給休暇を与えるが、そのうちの5日を超える有給休暇(15日間)については、その時季をY社が指定するとの規定。 
しかし、労基法39条6項(一定の要件を満たす労働組合等との協定があれば、法廷年次有給休暇のうち5日を超える部分について使用者がその時季を定めることができる旨の規定)の要件を満たす労使協定はなく、Xは、Y社が指定した日以外の日に、法定年次有給休暇の日数を超えて、有給休暇を取得するとして勤務しなかった。
Y社がXとの契約更新を拒絶⇒Xは、労契法19条により労働契約が更新されたものとみなされると主張し、労働契約上の地位の確認等を求めた。
  原審 労基法39条6項の要件を満たす協定はなかった⇒法定年次有給休暇については、年間5日を超える部分であっても、使用者がその時季を指定することはできない。
but
就業規則で定められた有給休暇のうち法定年次有給休暇の日数を超える部分(「会社有給休暇」)については、使用者がその時季を定めることができる。

Y社が指定した日以外の日に法定年次有給休暇の日数を超えて勤務しなかったXは、理由のない欠勤をしたことになる。

本件雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとはいえない。
  判断 会社有給休暇については、使用者がその時季を指定することができると考えられる。
but
Y社は、法定年次有給休暇と会社有給休暇を区別することなく、年間の有給休暇20にちのうちの15日分について時季を指定しており、そのうちのどの日が会社有給休暇に関する指定であるかを特定することができない。

時季の指定は全体として無効

年間20日の有給休暇の全てについて、Xがその時期を自由に指定できるとし、Xに理由がない欠勤があったとは認められない。
  解説 法定年次有給休暇については、使用者は、原則として、労働者の請求する時季に与えなければならない。(労基法39条5項)
but
法定年次有給休暇の日数を超えて与えられる有給休暇については、そのような規定はなく、使用者が時季を指定することができる。 
本判決:
指定が有効な部分を特定することができない⇒時季の指定は全体として無効と判断。
  刑事p83
最高裁H30.3.19  
  刑法218条の不保護による保護責任者遺棄罪の事案で高裁判決を破棄して無罪とされた事案
  事案 乳児重症型先天性ミオパチーと診断されていた当時3歳の幼児Aを実母として監護していた当時19歳の被告人が、Aを共に監護していた夫(Aの養父)と共謀の上、Aの生存に必要な保護をせずに、低栄養に基づく衰弱により死亡させたとして起訴された保護責任者遺棄致死の事案。
  1審 裁判員裁判で無罪 
  原審 有罪 
  判断 刑法218条の不保護による保護責任者遺棄罪の実行行為は、老年者、幼年者、身体障害者又は病者につきその生存のために特定の保護行為を必要とする状況(要保護状況)が存在することを前提として、その者の生存に必要な保護行為として行うことが刑法上期待される特定の行為をしなかったことを意味。
・・・被告人を無罪とした第1審判決に事実誤認があるとした原判決は、第1審判決の評価が不合理であるとする説得的な論拠を示しているとはいい難く、第1審判決とは別の見方もあり得ることを示したことに留まっていて、第1審判決が論理則、経験則等に照らして不合理であることを十分に示したものとはいえない⇒刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があり、同法411条1号により破棄を免れない。
・・・第1審裁判所としては、検察官に対して、前記のような求釈明によって事実上訴因変更を促したことによりその訴訟法上の義務を尽くしたものというべきであり、更に進んで、検察官に対し、訴因変更を命じ又はこれを積極的に促すべき義務を有するものではない。
  規定 刑法 第二一八条(保護責任者遺棄等)
老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、三月以上五年以下の懲役に処する。
  解説   ●刑法218条の不保護による保護責任者遺棄罪の実行行為
不保護による保護責任者遺棄罪を含む広義の遺棄罪は、抽象的危険犯とされ、その保護法益には生命のみならず身体も含まれる。

申請不作為犯である不保護罪の実行行為である不保護行為の解釈を的確に行わなければ処罰範囲が著しく広がってしまう

実質的危険性の判断が不可欠。
刑法上の不作為は、何もしないことではなく、刑法上期待された行為をしないこと

一定の不作為が不保護行為(実行行為)に該当するか否かを判断する際には、
刑法218条の実体法解釈に基づき、
刑法上期待される行為として何をなすべきであったのかという義務の内容や、
その義務懈怠(不作為)の程度を検討する必要があり、
義務内容となるべき保護行為が具体的に特定されていなければ、それが刑法上期待される行為といえるかどうかを評価することができない。
刑法218条の文言や趣旨
⇒不保護罪が成立するためには、要扶助者につき、その生存のために一定の保護行為を必要とする要保護状況が存在していることが前提。

ある行為が刑法218条により期待される保護行為であるといえるためには、要扶助者の置かれた個々の状況に照らして、その行為を必要とする具体的な要保護状況が存在していることが当然の前提。
  第1審:
ミオパチーにり患している等のAの特性に関する前提知識がある者がAを見た場合にどのように認識され得るのかという観点からみる⇒Aの体格等の変化や痩せ方ぬい関する事実のみでは、被告人の弁解を排斥できず、Aが本件保護行為を必要とする状態にあったと認識していたと合理的疑いなく推認できない⇒被告人を無罪。
本判決:
1審判決に事実誤認があるとした原判決の判断について、
「Aの体格等の変化や痩せ方の異常性の程度について被告人が誤解していた可能性を認める余地があるとした第1審判決の評価が不合理であるとするだけの説得的な論拠を示しているとはいい難い」
「・・・・原判決の判断は、第1審判決とは別の見方もあり得ることを示したにとどまっていて」「第1審判決の判断が不合理であることを十分に示したものとはいえない」
⇒原判決には刑訴法382条の解釈適用を誤った違法がある。
  訴因変更命令等の義務の有無について、
殺人罪の訴因から重過失致死罪に訴因変更すれば有罪であることが明らかな場合に、例外的に訴因変更を促し又はこれを命ずる義務がある(最高裁昭和43.11.26)
傷害致死被告事件において現場共謀から事前共謀の素因に変更することにより共謀共同正犯として罪責を問いうる余地があるとされた事案について、検察官の釈明状況など諸般の事情に照らし、訴因変更命令等の義務がないとした最高裁昭和58.9.6。
本件は、公判整理手続を経た裁判員裁判の事例。
公判整理手続が導入された趣旨及び裁判員裁判において当事者が果たすべき訴訟上の責任

裁判所は、判断者に徹することが一層求められており、裁判所が検察官に対して訴訟上の求釈明義務を負うと解されるような場面自体が例外的なものとなっている現在の実務⇒訴因変更の勧告又は命令が裁判所に義務付けられるような事態はほとんど想定し難い。
  刑事p90
最高裁H30.3.22  
  特殊詐欺の事案での詐欺罪の実行の着手が認められた事例
  原審 共犯者らが被害者に述べた文言は、被害者に対し財物の交付へ向けた準備行為を促すものではあるが、現金交付まで求めるものではない⇒その行為は、詐欺罪の人を欺く行為とはいえず、詐欺被害の現実的・具体的な危険を発生させる行為とも認められない⇒無罪
  判断 本件事実関係の下においては、被害者に現金の交付を求める文言を述べていないとしても、詐欺罪の実行の着手があったと認められる⇒原判決を破棄して控訴棄却の自判。 
  解説   本件において詐欺未遂罪が成立するか否かを判断するには、
理論的にみれば、
①本件嘘を述べた行為が刑法246条1項の構成要件である「人を欺く行為」に当たるかという刑法各論解釈上の問題と、
②本件嘘を述べた行為が人を欺く行為には該当しないと解されたとしても、実行の着手があったといえるかという刑法総論解釈上の問題
がある。 
詐欺罪にいう「人を欺く行為」は、人による物・利益の交付行為に向けられたものでなければならない。
  ●  実行の着手:
A:基本的構成要件に該当する行為(実行行為)の開始が実行の着手(形式的客観説)
B:法益侵害の危険性を実質的に判断して実行の着手時期を定める実質的客観説
  現在:形式的基準と実質的基準の両者の観点から実行の着手を検討することが通説的見解

財物交付要求文言のない本件嘘を述べる行為をもって、構成要件該当行為に密接で、法益侵害の客観的危険性が認められるといえるかを検討する必要。
  本判決:
詐欺未遂罪の成立が認められるためには、必ずしも財物交付要求行為が必要ないことを明らかに。
⇒詐欺未遂罪の成立する限界をどのように考えていくべきか?
本判決:
①本件嘘を述べた行為は、あらかじめ現金を被害者宅に移動させた上で、後に被害者宅を訪問して警察官を装って現金尾交付を求める予定であった被告人に、現金を交付させるための計画の一環として行われたもの
②本件嘘の内容が、被害者が現金を交付するか否かを判断する前提となるよう予定された事項に係る重要なものであった
③段階を踏んで嘘を重ねながら現金を交付させるための犯行計画の下において述べられた本件嘘には、被害者に現金の交付を求める行為に直接つながる嘘が含まれている
④被害者に本件嘘を真実であると誤信させることは、被害者において、間もなく被害者方を訪問しようとしていた被告人の求めに応じて即座に現金を交付してしまう危険性を著しく高めるものといえる

このような事実関係の下においては、本件嘘を一連のものとして被害者に対して述べた段階において、被害者に現金の交付を求める文言を述べていないとしても、詐欺罪の実行の着手があったと認められる。
  山口厚裁判官補足意見: 
詐欺罪の実行行為である「人を欺く行為」が認められるためには、財物等を交付させる目的で、交付の判断の基礎となる重要な事項について欺くことが必要。
詐欺未遂罪はこのような「人を欺く行為」に着手すれば成立し得る。
but
そうでなければ成立し得ないわけではない。
最高裁H16.3.22:
犯罪の実行行為自体ではなくとも、実行行為に密接であって、被害を生じさせる客観的な危険性が認められる行為に着手することによっても未遂罪は成立し得る。

財物の交付を求める行為が行われていないということは、詐欺の実行行為である「人を欺く行為」自体への着手がいまで認められていないとはいえても、
詐欺未遂罪が成立しないということを必ずしも意味するものではない。
未遂罪の成否において問題となるのは、実行行為に「密接」で「客観的な危険性」が認められる行為への着手が認められるかであり、この判断に当たっては「密接」性と「客観的な危険性」とを、相互に関連させながらも、それらが重畳的に求められている趣旨を踏まえて検討することが必要。

得に重要なのは、無限定な未遂罪処罰を避け、処罰範囲を適切かつ明確に画定するという観点から、上記「密接」性を判断すること。
本件では、警察官になりすました被告人が被害者宅において現金の交付を求めることが計画され、その段階で詐欺の実行行為としての「人を欺く行為」がなされることが予定されているが、警察官の訪問を予告する上記2回目の電話によりいち、その行為に「密接」な行為が行われていると解することができる。
前日詐欺被害にあった被害者が本件の一連の嘘により欺かれて現金を交付する危険性は、上記2回目の電話により著しく高まったものと認められる。
  刑事p93
大阪高裁R1.9.12  
  少年の窃盗保護事件における、立件されていない大麻使用に関する事情の考慮が許容される限度を超えたものとして、違法とされた事例
  判断  本件において家裁に審判に付すべき事由として送致された事実は2件の窃盗のみであるところ、原決定は、処遇の理由の説示において、審判に付すべき事由として送致等がなされていない大麻の使用に関する事情を、2件の窃盗の事実とほぼ並列的に掲げて少年の要保護性を検討。
but
少年の大麻の使用に関する事情は、あくまで審判に付すべき事由として送致等はなされておらず、立件されたことのないもの。
少年の大麻の使用に関する事情は、窃盗の直接の動機になっているものではなく、本件の非行事実である窃盗とは性質が大きく異なる上、仮に立件されるならば、本件の非行事実である窃盗に劣らない程度に重大なものと評価される。

原決定の処遇の理由における説示は、非行事実ではないが処分に実質的に大きな影響を与える可能性のある大麻の使用に関する事情を、本件の要保護性の判断として許容される限度を超えて、あたかも非行事実であったかのように扱って処分を導き出していると解される⇒法令違反がある。
  法令違反の決定に及ぼす影響について、
①原決定に至るまでの家庭裁判所における手続等に特に違法な点や調査等が不足しているような事情はない
②原決定は、大麻の使用に関する事情の部分を除いても、少年を少年院に送致する必要がある理由を一応示している

原決定の違法は決定に影響を及ぼすとまではいえない。 
  解説  少年保護事件ぬいおける審判の対象は、(1)非行事実と(2)要保護性の双方。
要保護性:①犯罪的危険性、②矯正可能性、③保護相当性の3つの要素で構成。
その中核をなすのが、①犯罪的危険性。

送致された審判に付すべき事由を要保護性の判断においてどのように扱いべきか?が問題となる、。 
少年保護手続が再非行の危険性の解消を目的とする⇒再非行の可能性に関係する事情は、可能な限り多くを考慮の対象とすることが望ましい。
余罪は、非行事実の動機、常習性などに関係し、非行事実に基づく再非行の予測に影響することもある⇒要保護性判断における考慮対象とすべき必要性はある。
but
非行事実も要保護性と並ぶ審判の対象

余罪を、非行事実と同様に実質的に処断する目的で考慮したり、非行事実の審理に関する手続保障や証拠法則等を潜脱する方法で認定したりすることなどは許されない。
  少年法32条の法令違反について要求される「決定に影響を及ぼす」とは、
法令違反がなかったならば原決定は異なった主文になっていたであろうという意味で、法理違反と原決定の主文との間に具体的な因果関係が認められることが必要であり、理由に影響するだけでは当たらない。
特に本件のように、少年が少年院送致となり収容されている場合には、仮に原決定を取り消して差戻し又は移送をしても再度同じ保護処分に付されるならば、少年に対する矯正教育を一時中断するだけとなり、弊害は軽視できない。
  刑事p97
広島高裁R1.8.28  
  ゲーム依存状態の少年の住居侵入保護事件で、児童自立支援施設送致の原決定が取り消された事案
  経緯 原決定:少年を児童自立支援施設に送致。
判断:原決定の処分が著しく不当⇒原決定を取り消して本件を原裁判所に差戻し。 
差戻審:3か月余りに及ぶ在宅試験観察の後、高校受験を待たずに少年を一次短期保護観察に付する。
  解説    本決定:
原決定の処分が著しく不当であることの理由:
社会内処遇の可能性を十分に調査・考慮することなく、収容処遇である児童自立支援施設装置を選択 した点。
取消決定:
①他の処分相当型
②審理不尽型
で②に属する。
  処遇選択に当たり、収容処遇によって少年が受ける不利益の程度を考慮する必要があることは、いわゆる「収容処遇の謙抑性」という観点で、実務上、1つの共通認識といえる。
少年の資質、学力、進学への意欲等から、高校進学が1年遅れる、という点は、少年の健全育成の観点からは負の要因ともなりかねない⇒本件では、収容処遇には、それを正当化するに足りる程度の要保護性があるかどうかを慎重に見定める必要があるとした。
  原決定:
少年がゲーム依存状態にあり、これまでえゲーム関係品の窃盗や、家出のための邸宅侵入等の触法事件を繰り返し、診療クリニックへの入院や児童相談所における指導等の介入措置を経ても非行性が解消されずに本件に至っている。
⇒少年の非行性は大。 
本決定:
学校生活等において特段の問題行動はなく、不良親和性も不良交友もない少年の生活状況等
⇒少年の非行性はゲームに関連した限局的なものにとどまり、深刻化しているとまでは言い難い。

原決定が重視する介入措置の点⇒家裁における措置とは異なる。
  本決定:
付添人が原決定後に提出した資料を明示的に判断資料に加えている。

保護処分決定に対する抗告審は事後審とされ、原決定後の資料を判断資料とすることの可否、当否については争いがあるが、積極説が有力。
処遇選択においては、
収容処遇の謙抑性や段階処遇の合理性が指摘される一方、
時機を逃さぬ姿勢も重要。
2450、2451    
  民事p5
東京高裁R1.11.25  
  相続放棄の申述受理の事案
  事案 平成29年に死亡した被相続人の法定相続人である抗告人らが相続放棄の申述をした事案。 
抗告人らは、平成31年2月下旬頃、被相続人の固定資産税に関する市役所からの文書を受領⇒被相続人の死亡と法定相続人であることを知ったが、
3か月以上経過後に申述。
  原審 本件各申述は相続放棄の熟慮期間を経過してなされた⇒却下。 
  判断 本件各申述を受理すべき。 
  解説   最高裁:
熟慮期間は、原則として、相続人が相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から起算すべき。
but
相続人かこれらの事実を知った場合であっても、3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合
⇒熟慮期間は、相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時又は通常これを認識することのできる時から起算すべきである。 
but
熟慮期間の起算点の繰下げが例外的に認められるのが、
A:相続人が被相続人に相続財産が全く存在しないと信じた場合に限られるのか、それとも、
B:一部の相続財産の存在は知っていたが、通常人がその存在を知っていれば当然相続放棄をしたであろう債務が存在しないと信じた場合も含まれるのか?
を巡り、見解が分かれる状況。
  本件:
市役所から受領した本件文書の内容により、
①被相続人が不動産を所有していたことや、
②これに関する固定資産税が発生していること
を認識し得た。
but
起算点を繰り下げて本件各申述を受理すべきとした

①抗告人らが、生前、被相続人と全く疎遠な間柄であった上、本件文書には、被相続人の資産や負債に関する具体的な情報は何ら記載されていなかった
⇒本件文書を突然受領したからといって、高齢の抗告人らにおいて、被相続人を相続すべきか否かを適切に判断することは期待し得なかった。

昭和59年最高裁判決との関係でいえば、相続財産の認識可能性を形式的・画一的に判断するのではなく、相続人の属性にも鑑みて、限定承認や相続放棄の必要性を認識することが期待できるだけの具体的な認識があったと言えるか否かを問題とすべき場合があることを示した。

②抗告人らが、本件文書を受領してから3か月以内に相続放棄の申述を行わなかったのは、抗告人らの兄弟に当たるCが代表者として全員について相続放棄の申述を行うことによって、相続放棄の手続が完了したと信じた。

相続放棄が遅れた一因が、相続財産についての認識の有無とは別に、法的な手続の誤解にもあったというものであって、このような事実が起算点を遅らせることを一般的に許容する趣旨ではないが、相続人の帰責性の有無・程度を検討する上での考慮事情として重視。
  相続放棄の申述受理は、家事審判事項
but
非訟手続⇒それによって、相続関係及びこれに関連する権利義務が最終的に確定するわけではない。

相続放棄が効力を生じるためには、相続放棄の受理審判がなされた上で、法定単純承認の有無、熟慮期間の経過の有無等の実施的要件が具備されることが必要。
  複数の高裁決定:
熟慮期間の要否の存否について、家庭裁判所が実質的に審理を行うにしても、一応の審理で足り、その結果、要件の欠缺が明白である場合にのみ申述を却下すべきであるとの考え。
  不受理審判が当事者にもたらす効果が大きい⇒判断の微妙な事案については、家事手続き法別表第1の家事審判事項としてではなく、民事訴訟における当事者間の対立構造の中で、最終的な事実の確定を行う方が適切。 
  民事p9
福岡高裁R1.10.29  
  別居中の妻である相手方が監護者指定・子の引渡しを求めたが高裁で却下された事例
  事案 相手方(妻)は、抗告人(夫)が子らを連れて父方実家に帰ることに強い抵抗を示さなかったが、別居後j間もなく、監護者の指定と子の引渡しを求める審判を申し立てた 。
別居の原因は相手方の男性関係。
  原審 家裁調査官による子らの監護状況及び心情に関する調査

子らの信条としては、長女が相手方と暮らしたいと発言するなど、相手方により強い行為や精神的結びつきを示している⇒相手方の申立てを認容。 
  判断 原審判後に二女が就学するなど、生活環境に変化
⇒再度、調査官による調査を実施。
相手方の申立てをいずれも却下。
①子らが相手方に対する相対的な親和性の強さ
but子らは抗告人ともよく親和。 
②物心ついた頃から同じ地域で生活し、原審判後には二女も長女と同じ小学校に入学するととおもに、同じクラブにも入り、いずれもよく適応している。
③抗告人は、相手方との別居後、子らの生活や学習の細部にわたって配慮し、その心身の安定に寄与しており、抗告人の監護能力と子らとの関係に問題は見受けられない。
④現在は、相手方との宿泊付きの面会交流も安定的に実施されている状況にある。
⑤就学後の子らについて監護者を定めるに当たっては、従前からの安定した監護環境ないし生活環境を維持することによる利益を十分配慮する必要があり、乳幼児期の主たる監護者であった相手方との親和性を直ちに優先すべきとまではいえない。
⑥長女は、相手方との面会交流時には、相手方と暮らしたいと繰り返し発言しているが、担任教諭に対しては、小学校や友人と離別することへの強い不安を訴えている⇒相手方への発言が長女の相手方への思慕を示す表現であるとしても、監護者指定における位置付けについては慎重に評価・判断する必要がある。

子らにとっては、現状の生活環境を維持した上で、相手方との面会交流の充実を図ることが最もその利益に適うというべき。
  解説  民法766条1項:
子の監護について必要な事項は、子の利益を最も優先して考慮することを要求。
一般に、子の監護者を定める上での考慮要素:
従前の監護状況、現在の監護状況や父母の監護能力(健康状態、経済状況、居住・教育環境、監護意欲や子への愛情の程度、監護補助者による援助の可能性等)、
子の年齢、心身の発育状況、従前の環境への適応状況、環境の変化への適応性、
父又は母との親和性、
子の意思等
具体的な事案の中で、

主たる監護者が父母のいずれであったか、
その者による従前の監護はどうであったか、
他方の監護状況はどうであったか、
父母以外の者による監護補助の状況はどうであったか
など
過去の監護状況をまず確定し、

現在の監護状況や子の意思、互いの監護能力や監護態勢等をも検討

子の福祉の観点から、父母のいずれを監護者とするのが適当かという検討。
一般に、幼児期や小学校低学年の発達段階では、自己の置かれた客観的な状況を把握し、生活環境の変化をも想定して意向を述べることは困難

母と暮らしたいという長女の発言も、愛情表現の一種にとどまり、父との生活や学校といった現在の環境から離れることを具体的に想定したものではなかった可能性がある。 
  民事p19
東京地裁R1.8.29  
  死産となったことについての医療過誤訴訟(否定)
  事案 死産⇒妊婦から担当医師、看護師、病院を開設している医療法人に対して提起された損害賠償請求事件。 
死産となったことについて、診察治療を担当し本件病院のY2医師、Y3医師、看護を担当したY4看護師に注意義務違反があった

Y2ないしY4に対しては不法行為に基づき、
医療法人Y1に対しては不法行為(民法715条)ないし債務不履行に基づき、
胎児死亡による損害金等3300万円及び遅延損害金の支払を求めた。
Y4看護師に対し、Xの訴えに耳を傾けず暴言を述べ、Xに精神的苦痛を与えた⇒Y4看護師に対して不法行為に基づき、医療法人Y1に対して不法行為(民法715条)ないし債務不履行に基づき損害賠償として1100万円及び遅延損害金の支払を求めた。
  判断   ●Y2医師について 
主張:
Y2医師は、Xの腹腔鏡下子宮筋腫核手術(「LM」)の既往歴について問診を行わず、診療録も確認しなかった⇒その腹痛が通常の陣痛様の痛みと思い込み、至急破裂による激しい痛みと認識できず、腹部の圧痛の有無や痛みの部位等の確認をしなかったという注意義務違反等がある。
判断:
①Y2医師は、Xを診察するに際し、XにLMの既往があること認識している
②Y2医師がXを診察した時点では、Xにおいて、腹腔内出血やLMの瘢痕部の子宮筋層の菲薄化した部位が避けていることを示す所見が得られていたとは認められない

Y2医師の注意義務違反を否定。
  ●Y3医師について
①Y3医師は、診察時にXの腹部を触診し腹膜刺激症状がないことを確認している
②救急外来への診察依頼がされ、その後、少なくとも24日午前零時50分頃までは腹膜刺激症状その他の緊急性をうかがわせる所見が認められていなかった経緯

仮にY3医師がXのLMの既往を同日午前2時30分頃よりう前の時点で知ったとしても、症状としては著変のない同時点で改めて何らかの検査をすべきであったとは認められない
⇒過失を否定。
  Y4看護師の言動も、不適切な言動とまではいえない。 
  民事p34
東京地裁R1.6.7  
  東北地方太平洋沖地震⇒建物車路スロープが崩落⇒不法行為責任と民法717条3項の求償が問題となった事案
  事案 東北地方太平洋沖地震により大型商業店舗の車路スロープが崩落し2名が死亡

企業財物総合保険契約の保険者X1が、店舗の所有・運営会社Aの店舗設計者らに対する共同不法行為に基づく損害賠償請求権を、
損害賠償責任保険契約の保険者X2が、Aの同設計者らに対する民法717条3項に基づく求償権を、
それぞれ保険代位により取得

店舗の意匠設計及び監理の統括会社Y1、設計変更前の構造設計及び構造管理の一部の担当会社Y2、設計変更後の構造設計及び構造管理の一部の担当会社Y3(及びその代表者Y4)並びに施行会社Y5に対し、
前記の各請求権に基づき各金員の支払を請求。
  判断  事実認定と、証拠提出された構造解析の結果や民事調停手続における施文か調停委員の意見を踏まえ、
変位差の増大と接合部の脆弱性がともに本件事故発生に寄与しており、複数の原因が競合(重複)している

ある行為等が変位差の増大又は結合部の脆弱化に相当程度寄与していれば個別の条件関係がなくとも因果関係が認められる。
変位差が増大した状態でY3が考えるように接合部を床スラブで繋いでも車路スロープの崩落が生じたと認められる⇒その限りで変位差の増大が主たる事故原因。
  ●X1の損害賠償請求について
  Y3(設計変更後の構造設計及び構造監理の一部の担当会社)につき、
・・ほか、接合部の脆弱性に関し工事監理における役割分担と確認を怠った点に過失を認め、

Y2(設計変更前の構造設計及び構造監理の一部の担当会社)につき、
双方の事故原因に関し、設計変更前の構造設計内容の情報伝達、設計変更後の接合方法確認及び工事管理の点に過失を認め、

Y1(店舗の意匠設計及び監理の統括会社)につき、
双方の事故原因に関し、設計の齟齬や工事監理の範囲等の調整を怠った点の過失を認めた。

Y5(施工会社)につき、
施工者の立場で設計の齟齬や接合部の脆弱性の認識は困難⇒不法行為責任を否定。
Aの店舗建設担当者が事故の発端を作り、Y1らが注意義務違反を犯しやすい環境を作った⇒4割の過失相殺。
  ●X2の民法717条3項に基づく求償請求について
土地工作物責任者の過失が競合する場合、土地工作物責任者と損害の原因につき他に責任を負う者との間の求償関係が、共同不法行為者間の求償関係に類似し、不当利得返還請求権に準ずる性質を有する
⇒各責任者の負担部分の限度で求償権を行使することができる。
Aを4割、Y3を2割5分、Y2を2割、Y1を1割5分の負担割合とした。
消滅時効:
損害賠償を現実に行った時又は他に責任を負うべき者が明らかになった時のいずれか遅い時点から10年とし、時効完成を否定。
  解説  ●複数原因が競合(重複)する場合の因果関係 
複数の原因が競合した場合には各行為と権利・法益侵害との間の条件関係は不要であると解するのが相当。(内田他)
本判決:
変位差の増大及び接合部の脆弱性の双方の原因が競合して本件事故が発生したところ、各原因が事故発生に相当程度寄与する行為等であれば因果関係を認めるのが相当。
  ●意匠設計者・施行者・施主の役割等 
意匠設計者が設計全般を統括し、構造設計や設備設計を外注
⇒意匠設計者は、構造設計の誤りについていわゆる履行補助者の過失として債務不履行責任を負うことが多い。
but
不法行為責任を当然に負うものではない。
本判決:
構造設計の誤りをもって直ちにY1の過失を認めたものではなく、具体的な関与に即し、設計の齟齬や工事管理の範囲等の調整を怠った点に過失を認めた。
本判決:
施行主の不法行為責任を否定。 
建築の実務では、建築確認段階の設計図書は、そのまま施行が可能な程度に具体的であることは少なく、施行者が作成する施工図を講じ管理者が承認する過程を重ねて建築が進められるのが一般的。
この過程で施行者が設計上の問題点等を把握したときは通知等が求められようが、問題点等を把握する法的義務を広く認めるのは、施行者の役割に照らし困難。

尚、民間連合協定工事請負契約約款16条(平成28年3月改正)は、受注者が設計の不備を発見した場合の通知義務を定めるが、
設計の不備を調査・探査する義務がないことを前提にする。
  本判決:
施主に4割の過失相殺を認めた。
施主は法的責任を負わないのが一般的。
but
①Aの担当者が建築の専門知識と経験を有し、Y3からの接合部の設計内容に関する質問に自ら回答・指示するなどして具体的に関与
②AがY3を設計に参画させながら契約関係の整理を行わず、その結果、設計監理の各担当者の役割が曖昧なまま進められるに至った
ことなど、本件特有の事情を重視して、過失相殺を肯定。
  ●民法717条3項の求償権 
本判決:
X2の民法717j法3項に基づく求償請求について、共同不法行為者間の求償権行使に類似するものとみて、
被告らが不真正連帯債務を負うとのX2の主張、
3年の消滅時効にかかるとのY1及びY2の主張
を否定。
  民事p78
東京地裁R1.8;9  
  受刑者死亡⇒国賠請求の事案(否定)
  事案 東京拘置所に懲役受刑者として収容されていた亡Aの相続人であるXが、Y(国)の公務員である同拘置所の医師らが亡Aがり患していた慢性骨髄性白血病について適切な薬剤を投与する注意義務に違反したことで死亡⇒国賠法1条1項に基づき、慰謝料2500万円及び遅延損害金の支払を求めた。 
  争点 拘置所医師が、遅くとも平成25年8月26日の時点において、亡Aに投与する薬剤をグリベックからニロチニブ又はダサチニブに変更する注意義務があったか? 
  判断 ①薬剤の変更を検討する要素に関して、平成25年8月19日の血液検査において亡Aの白血球数が29万5900/ulと大幅に増加したことを受け、亡Aが、拘置所医師の指示に従い、同月21日から同月23日までグリベックを服用したところ、同月30日の血液検査では白血球数が1万3200/ulまで激減⇒亡Aについて、グリベックに対する治療反応性が不良であったとはいえない。
②亡Aが本件収容中に訴えていたグリベックの副作用は主として関節痛であり、グリベックの投薬治療の継続が困難なほどの重篤な副作用が生じていたとはいえない。
③亡Aにおいて、グリベックの服用を一旦は拒否したことがあったものの、その後、自ら服用を再開する意思を示した⇒服用を継続することは可能であったと考えられるから、亡Aがグリベックについて不耐容であったということもできない。
④当時の医学的知見によれば、第2世代チロシンキナーゼ阻害薬が、グリベックと比較して生存期間の有意な延長を得られるか明らかではなく、また、グリベックとは異なる副作用があり、重篤な副作用が生じる可能性もあるとされていた。

拘置所医師において、亡Aに投与する薬剤をグリベックから第2世代チロシンキナーゼ阻害薬であるニロチニブ又はダサチニブに変更する注意義務があったということはできない。 
  民事p85
①東京地裁立川支部R1.11.14
②広島地裁R1.11.19  
  夫婦同氏制度の維持を理由とする国賠請求(否定)
  事案 原告ら:
本件各規定(夫婦が婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称すると定める民法750条の規定及び夫婦が称する氏を婚姻届の必要的記載事項と定める戸籍法74条1項の規定)は、憲法14条1項、24条及び人権B規約(自由権規約)、女子差別撤廃条約に違反するものであることが明白であり、そにれもかかわらず、国家が正当な理由なく、長期にわたってその改廃等の立法措置を怠っている

国賠法1条1項の適用上違法⇒被告国に対し、それぞれ精神的損害の賠償金50万円の支払を求めた。
  経緯 最高裁:
平成27年12月16日、先例となる事件において、民法750条は、憲法13条、14条1項及び24条のいずれにも違反するものではなく、民法750条を改廃する立法措置をとらない立法不作為は国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないと判断。 
  主張  ①民法750条のんみでなく戸籍法74条1号も問題としている
②憲法13条に違反する旨の主張をしていない
③憲法14条1のうち性別による差別でなく信条による差別であると主張
④人権B規約に違反すると主張している
点において、平成27年最高裁判決における原告らの主張と異なる。
  ①判決  本件各規定は、原告らの主張する憲法14条1項、24条、人権B規約及び女子差別撤廃条約の各規定に違反するものであることが明白であるとは認められず、
国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合に当たるとも認められない

本件各規定の改廃を行わない立法不作為は、国賠法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けるものではない⇒請求棄却。
  ●  ●憲法14条1項
  「信条」は、宗教上の信仰のみならず、広く思想上・政治上の信念や主義を含むと解される⇒夫婦別氏を希望する考え方も、「信条」に該当する。
本件各規定は、
夫婦同氏を希望する者、夫婦別氏を希望する者のいずれにも適用されるのであって、その文言上、信条に基づく法的な差別的取扱いを定めているわけではなく、本件各規定の定める夫婦同氏制それ自体に信条による形式的な不平等が存在するわけではない
⇒憲法14条1項に違反することが明白であるとは認められない。
  ●  ●憲法24条 
  平成27年最高裁判決を踏襲した上で、
戸籍法74条1号について、同規定も、民法750条を受けて、婚姻をする夫婦により定められた夫婦の称する氏を戸籍に反映させるための手続的規定
⇒婚姻の際に夫婦が称する氏を選択しなければ婚姻届が受理されず、その結果婚姻をすることができないとしても、このことにより直ちに、本件各規定が憲法24条1項の趣旨に沿わない制約を課したものと評価することはできない。

本件各規定の存在により、夫婦別氏を望む者が婚姻をすることが事実上制約される状態となっていることは、本件各規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たって考慮すべき事情の1つにとどまる。
平成27年最高裁判決後の事情変更:
通称使用をする者の中には、婚姻前の氏に人格的価値を見出している者のみならず、夫婦同氏制を肯定しながら仕事上の便宜などのために通称を用いる者も存在していることを否定できない⇒通称使用の広がりが見られることをもって、直ちに婚姻前の氏を維持することの重要性についての社会的認識・人格的価値が確立したと評価することはできず、・・・選択的夫婦別氏制を導入すべきとの意見が大勢を占めているとは認められない。
国会や国民全体において、前記調査結果等を踏まえた議論がなされることが望ましく、これらが憲法適合性の判断結果を直ちに左右するものではない。

・・・・憲法24条に違反することが明白であるとは認められない。
  ●人権B規約(自由権規約)
事件B規約2条1項、3項(b)、3条、23条4項は、締約国相互間において国内法制度の整備等を通じて権利を確保する旨約したものというべきであり、我が国の個々の国民に対し、直接、権利を保障するものということはできない。
人権B規約17条1項及び同23条1項ないし3項は、前記各規定と比較して、その権利性をより進んで認めた趣旨とも解されるが、各配偶者の婚姻前の姓の使用の保持に直接言及した規定は存在せず、各配偶者が婚姻前の姓の使用を保持する権利が保障されているとは認められない。
  ②判決   請求棄却。 
  民事p111
名古屋家裁R1.11.8  
  遺産全部の分割を2年間禁止する旨の審判がされた事例
  事案 被相続人Aは、姪に当たるYと養子縁組をした上で、Yに対して全財産を相続させる旨の自筆証書遺言(「第1遺言」)。
but
その後、Aは、長男であるBに対して全財産を相続させる旨の自筆証書遺言(「第2遺言」)をし、さらに、Bの子であるX1及びX2、X1の妻であるX3並びにX2の妻であるCと養子縁組。
その後、Aが死亡して相続開始。その時点でB及びCは既に死亡。 
X1~X3は、Yを相手方として遺産分割の審判を申立て。
審判申立後にYが自己の相続分の一部をその夫Zに譲渡し、Zが当事者参加。
  主張 Xら:
第1遺言は、これと抵触する第2遺言により撤回
第2遺言は、BがAより先に死亡した場合には、Bの代襲者であるX1及びX2に全財産を相続させる趣旨の遺言

Aの遺産は、X1及びX2が相続。 
Y及びZ:
第2遺言は、全遺産をそうぞくさせるものとされたBがAより前に死亡したことで効力を失い、その結果、第1遺言は撤回させることなく効力を維持。
Xらは、第1遺言の無効確認等を求める民事訴訟を提起する意向を表明。
  判断 X1~X3が提起予定の別訴の結論が確定するまでは、Aの遺産の全部についてその分割をすべきではない事情がある⇒向こう2年間にわたり、遺産全部の分割を禁止する旨の審判。 
  解説  家裁は、共同相続人から遺産分割の請求⇒何らかの形でその分割をしなければならないのが原則。
but
特別の事由があるときは、期間を定めて、遺産の全部又は一部の分割を禁止することもできる(民法907条2項、3項)。
「特別の事由」に該当する類型:
①相続人資格の有無や重要な財産の遺産帰属性など、遺産分割の前提となる権利又は法律関係(いわゆる前提問題)に争いがあり、その解決を待つ必要性がある場合
②遺産の状態が債務を整理した後でないと分割に適しないとか、即時に遺産を分割するとその価値に著しい損害を及ぼすなど、遺産の即時分割を避けることが共同相続人全体の利益に資する場合等
  本件の場合、家庭裁判所が遺産分割審判をしようとすれば、その前提として、第1遺言及び第2遺言の効力等に係る争いに対して法的判断を下し、遺産を取得させる相続人の範囲及びその相続分を確定しなければならない
but
このような前提問題に対する審判中の判断には既判力がなく、当事者が別途民事訴訟において争うことが可能であり、かつ、審判中の判断と別訴における判断とが抵触した場合には、審判がその限度で失効。

別訴において、第1遺言及び第2遺言の効力等に対する判断が行われ、これによって遺産を取得する相続人の範囲及び各自の相続分が確定するのを待たなければ、適切な遺産分割を行い難い

本件審判。
  民事p113
山形地裁R1.12.17  
  原子力委員会と経済産業大臣の規制権限の不行使と国賠請求(否定)
  事案 東北地方太平洋沖地震及びそれに引き続く福島第一原子力発電所から放射性物質が外部に放出された事故の発生時に福島県内に居住等していたXらが、
本件原発を運営していたY1(東京電力)に対して、
主位的に不法行為の損害賠償請求権に基づき、
予備的に原賠法3条1項に基づき、
また
Y2(国)に対して、国賠法1条1項に基づき、
本件事故によって被った損害(慰謝料)は各X(口頭弁論終結時に死亡していた者を含む)についてそれぞれ2000万円になるとして、
そのうち1000万円および弁護士費用110万円の連帯支払等を求めた。
  争点 Y2(原子力委員会及び経済産業大臣)が地震及び津波対策並びにシビア・アクシデント(SA)及びステーションブラックアウト(SBO(全電源喪失状態))対策に関して規制権限を行使しなかったことが違法か。 
  判断  ●規制権限不行使の違法性について
①経済産業大臣には、地震及び津波対策並びにSA及びSBO対策としてXらが主張する措置を実施するように電気事業法39条1項に基づく技術基準に関する省令を変更し、同法40条に基づく技術基準適合命令を発出する権限があった
②電気事業法39条及び40条の規定は、行政庁の専門技術的裁量を許容しているといえ、前記各規定による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下においてその不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において国賠法1条1項の適用上違法となり、
将来発生する被害の予測に基づいて行使されるべき規制権限の不行使が問題になる場合、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くかどうかの判断においては、
規制権限を定めた法が保護する利益の内容及び性質等、被害の重大性及び切迫性、予見可能性、結果回避可能性、現実に実施された措置の合理性、規制権限行使以外の手段による結果回避の困難性(被害者による結果回避可能性)、規制権限行使における専門性、裁量性等の規制権限の講師が問題となる当時の具体的事情の一切を考慮すべきである。
③地震及び津波対策に係る規制権限不行使の違法性について、前記②で列挙された各事情をそれぞれ検討したうえで、経済産業大臣が地震及び津波対策に関して規制権限を行使しなかったことが許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとまで認めることはできない。
④SA及びSBO対策に係る規制権限の不行使の違法性についても、経済産業大臣が規制権限を行使しなかったことが許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとまで認めることはできない。

結論として、Y2の規制権限の不行使が違法であるとはいえない。
  解説 ●国の規制権限不行使の違法性について 
最高裁H26.10.9を参照引用した上で、
その調査官解説を参考にしたものと考えられる。
地震及び津波対策に係る規制権限の不行使について:
本判決:
Y2は平成14年頃の時点において本件原発の敷地高さ以上の高さ以上の高さの津波が本件原発に到来することを予見することが可能であった
また、行使すべき規制権限の根拠法規(電気事業法)の保護法益に照らし、適時かつ適切な規制権限の講師が規定されていた。
but
本件原発で重大な事故が発生する危険の切迫性はそこまでのものではなく、Y2は何らかの対応自体はしてきており、要急性の程度に照らしてその対応は不合理とはいえない。
結果回避可能性について、
Xらが措定する結果回避措置を執るように規制権限を行使していたとしても本件事故の発生を防止することができた可能性は否定できないという程度にとどまる。

Y2が規制権限を行使しなかったことが許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとんまで認めることはできない。
SA及びSBO対策に係る規制権限の不行使について、
地震及び津波対策に係る規制権限の不行使が違法とはいえない

より抽象度の高いSA及びSBO対策に係る規制権限の不行使につちえも許容さされる限度を逸脱して著しく合理性を欠くとまで認めることはできない。
2448    
  民事p3
大阪高裁R1.9.18 
  性同一性障害と戸籍上の名の変更
  事案 Aは戸籍上の性別は男であるが、平成17年ころに性同一性障害と診断。
Aは、大阪家裁に、性同一性障害を理由に、名の変更の許可申立てをした。 
  原審 Aが求める変更後の名Cは、その使用実績をみてもAの通称として永年使用され社会的に定着しているとまでは認められず、
Aの病歴、受診歴、現在の通院治療の状況等を併せて考えると、
現時点で、Aの名を変更することにつき戸籍法107条の2所定の「正当な事由」があるとはいえない。
⇒Aの申立てを却下。 
  判断 Aは、
①性同一性障害について医師2名による診断ガイドラインに沿った診断を受けている、
②そのような下で、生物学的な性と心理的・社会的な性意識としての性が一致せず、その不一致に悩み、生活上の不便が生じている
③その不便を解消するため、心理的な性に合わせた通称名Cの使用を平成28年6月から開始し、Aの通称は、社会的、経済的な関係において継続的に使用されている

Aの申立てには「正当な事由」を認めることができる。 
  解説 戸籍法107条の2所定の「正当な事由」の判断に当たって、その判断基準として、一般的には、通称名の永年使用による実績と社会的経済的な定着が許否の要素として重視される。
大阪高裁H21.11.10:
性同一性障害である抗告人が、社会生活上、自己が認識している性別とは異なる男性として振る舞わなければならず、男性であることを表す戸籍上の名を使用することに精神的苦痛を感じており、抗告人に戸籍上の名の使用を強いることは社会通念上不当であると認められる一方、
名の変更によって職業や社会生活に混乱が生じるような事情も見当たらない

変更後の名の使用実績が少ないとして、抗告人の名を変更することには正当な事由がある。
  民事p5
大阪高裁R1.7.19  
  タイヤ製造工程でのアスベスト曝露⇒肺がん・中皮腫発症⇒損害賠償請求(肯定)
  事案 タイヤ製造業者であるYの従業員7名が、タイヤ製造工程において使用されるアスベスト粉じん又はタルク粉じんに曝露⇒アスベストにより肺がんや中皮腫を発症⇒存命従業員及び死亡従業員らの相続人らが、
使用者であるYに対し、
当該従業員らに対する安全配慮義務違反又は不法行為に基づき、損害賠償請求。
  争点 ①当該従業員らの疾病とタルク粉じんへの曝露との間の因果関係の有無
②使用者であるYの当該従業員らに対する安全配慮義務違反の有無
③消滅時効の援用の可否
  原審 ①従業員のうち2名はアスベストに大量に曝露されたとえいえず、疾病との間に因果関係は認められないが、その余の従業員はアスベストに大量に曝露された⇒疾病との間に因果関係がある。
②昭和35年にじん肺法が施行⇒使用者には粉じんの発生を防止するなどの義務があったのに、Yはこれを怠った⇒安全配慮義務違反がある
③Yは当該従業員らによる原因究明の要求に誠実に対応しなかった⇒損害賠償債務につき消滅時効を援用することは権利濫用に該当する

5名との間で損害賠償請求を一部認容。
  判断 ①原判決が因果関係を否定した2名についても、アスベストに大量に曝露されたと認め、原発性肺がんとの間に因果関係を肯定
②③は原審と同じ
④原判決よりも慰謝料額を増額し、他方で喫煙による減額を1割の限度でのみ認めるにとどまった。 
  アスベスト粉じんの飛散状況について、昭和24年に県が大学の協力を得てYに実施した調査の結果報告書⇒控訴審で因果関係肯定。
昭和35年、他のタイヤ製造業者の附属病院に所属する医師が、タルクには、不純物としてトレモライトやアンソフィライトが含まれているとの論文を執筆⇒安全配慮義務違反肯定にプラス。 
  解説 中皮腫と胸膜プラーク:アスベスト粉じんへの曝露以外の発症原因がない
じん肺や原発性肺がん:他の原因でも発症し得る⇒寄与危険度割合が5割以上(相対的リスクが2倍以上)の場合にアスベストが発症原因と認定するのが医学的に妥当とされている。
最高裁:昭和33年当時、石綿肺に関する医学的知見が確立し、国もアスベスト粉じんによる被害の深刻さを認識⇒国が石綿製品の製造等を行う工場等に局所排気装置を設置することを義務づけなかったことが国賠法上違法と判断。

遅くとも昭和35年のじん肺法施行時に、使用者に予見義務を認め、その結果回避をしないことをもって安全配慮義務違反を認めるのは合理的。
  民事p28
大阪高裁R1.11.20  
  情報漏えい⇒共同不法行為⇒慰謝料(肯定)
  事案 Xは、通信教育等を目的とするY社において管理していたXの個人情報を過失によって外部に漏えい⇒精神的苦痛を被ったと主張しY社に対し、不法行為に基づき慰謝料請求。 
  Yの主張 個人情報(Xの氏名)の漏えいの事実は認めたが、漏えい事故対象者はA(Xの子)でありXではない。
個人情報というだけでは法律上保護されるべき権利利益とはいえない。
過失の存在を争う。 
  1審 Xの氏名の情報漏えいがY社の過失によるものであることを基礎づけるに足りる具体的事情の主張立証がない⇒請求棄却 
  原審 控訴棄却。 
  上告審 原審判決を破棄し、本件漏えいについてのY社の過失の有無、Xの精神的損害の有無及びその程度等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻した。 
  本件個人情報は、Xのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべき
but
本件事実関係によれば、本件漏えいによっては、Xは、そのプライバシーを侵害されたといえる。
原審は、前記のプライバシーの侵害によるXの精神的損害の有無及びその程度等について十分に審理することなく、不快感等を超える損害の発生について主張、立証がされていないということのみから直ちにXの請求を棄却

原審の判断には、不法行為における損害に関する法令の解釈適用を誤った結果、前記の点について審理を尽くさなかった違法がある。
 
原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原判決は破棄を免れない。
  判断 Y社の責任を肯定。
Y社及びD社(Y社のシステムの開発、運用、保守等の業務を行っていた)の本権漏えいの予見可能性について、・・・執務室内で個人情報にアクセスし得る業務に従事する従業員が、セキュリティソフトによって書出し制御の措置をとっていたMTP対応スマートフォンを執務室内に持ち込んで業務用PCのUSBポートに接続することにより個人情報を不正に取得される可能性があることを認識し得た⇒そのリスクの有無を日常的に調査確認することで、そのリスクのあること及びこれを防止する措置を講ずる必要性があることを認識できた。

D社は、MTP対応スマートフォンを前記の執務室内に持ち込んで、本件個人情報に接することのないようにするなど適切な措置を採るべき注意義務を負っていたというべきであり、これを怠ったことについて過失がある。
Y社:
個人情報提供者から提供を受けた個人情報を適切に管理すべき立場にある
but
D社と同様に本件漏えいリスクを予見できたのに、Y社の管理する当該個人情報の利用を認めたD社に対する適切な監督義務に違反した結果、Bによる本件漏えいを生じさせた⇒Xに対し、これによって生じた損害について不法行為責任を負う。
Y社とD社の不法行為(及びBの本件漏えいによる不法行為)は、Y社が保有し、その管理をD社に委託して管理させていた本件個人情報の漏えいに関するもの⇒客観的に関連するもの⇒共同不法行為に当たる(民法719条1項前段)。
Bは、故意にXの承諾もないまま本件個人情報を回収不能なほどに流出させたもので、これは一般人の感受性を基準にしてもその私生活上の平穏を害する態様の侵害行為であるといえ、本件に顕われた一切の事情を総合考慮
⇒Xの精神的苦痛を慰謝するためには、1000円の慰謝料が相当。
  解説 過失論:
①情報管理義務違反を不法行為の過失と構成する考え方と、
②従業員Bの使用者責任で構成する考え方とがある
と解されていたが、本件は①を採用 
損害(被侵害利益)をどのように捉えることが相当かについては、
Xにおいて、
①不快感や不安を抱くだけでは、損害と評価されないのか、
②迷惑行為を受けた、財産的な損害を被ったという不快感や不安を超える損害でなければならないのか
という点が問題。
本判決:個人情報を回収不能なほどに流出させたもの⇒一般人の感受性を基準にしてもその私生活上の平穏を害する態様の侵害行為⇒精神的損害を肯定。 
  民事p55
仙台高裁H31.3.15  
  利水ダムの設置者にダム設置当時の河床の高さまで浚渫する義務はないとされた事案
  事案 只見川の洪水で被害⇒流域住民のXらが、ダム及びその調整池を管理するYらに対し、Y1(東北電力)は調整池を浚渫すべきところ、これを怠った過失があり、Y2(電源開発㈱)は調整池の浚渫用作業船が流下することがないようにこれを係留すべきところ、これを怠った過失があり、その結果只見川の洪水位が上昇して被害が増大⇒民法709条、719条1項(共同不法行為)に基づき、損害賠償を求めた。 
  原審 Y1は調整池につき少なくとも昭和44年当時の河床の高さまで浚渫すべき義務があり、これを怠った。
but
これを履行していればXらが浸水被害を受けなかったとは認められない。
Y2については、流失したバックホウ船の残骸により調整池の水位が上昇したとは認められない。
⇒各請求を棄却。
  判断 Y1について、浚渫義務違反は認められない。
Y2について、バックホウ船の残骸により推移が上昇したとは認められない。

各請求を棄却。
  解説  Y1の浚渫義務違反について 
原審:
利水ダムの設置者としては、当該河川の従前の機能を維持するために、河床の堆砂により流域住民に浸水被害のおそれがある場合には、河床の浚渫等の措置を行う義務を負っている。
控訴審:
ダム設置者は、設置当時のダムの機能を維持することが求められるものの、その管理権限が及ぶのはダムにとどまり、河川にまで及ぶものではない⇒河川の従前の機能を維持する義務を負うものではなく、河川法44条1項に基づく河川管理者の指示があった場合に、その指示内容の限度で注意義務を負担することになる。
河川法:
一級河川の管理者:国土交通大臣
二級河川の管理者:都道府県知事
ダム設置者は「当該ダムの設置により河川の状態が変化し、洪水時における従前の当該河川の機能が減殺されることとなる場合においては、河川管理者の指示に従い、当該機能を維持するために必要な施設を設け、又はこれに代わるべき措置をとらなければならない」(44条1項)

河川管理者でないY1が河川の従前の機能を維持するための注意義務を当然に負うものと解することはできず、河川管理者のY1に対する河川法44条1項に基づく指示も認められない本件において、「当該河川の従前の機能を維持するため」の注意義務をY1に負担させることは難しいように思われる。
  控訴審:
ダム管理者は設置当時のダムの機能を維持する注意義務があり、浚渫作業もそのための方策⇒その限度での浚渫義務を肯定。
but 
浸食等により土砂の堆積が進み河道や河床の状況は変化⇒Y1の元河床高まで浚渫すべき注意義務を否定。
  民事p69
高松高裁H31.2.28  
   
  事案 被相続人亡Aの相続に係る遺産分割協議は訴訟により無効が確定⇒その後、改めてされた遺産分割審判が確定。 
亡Aの相続人であるXが、
①共同相続人であるYらに対し、亡Aの相続に係る遺産分割審判が確定したところ、相続開始から遺産分割までの間、相続財産に属する不動産から生じた賃料債権は、各相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、後にされた遺産分割の影響を受けないのに、Xが取得していた賃料債権についてYらが法律上の権限なく、弁済を受けていた
⇒民法190条または不法行為に基づく損害賠償請求権(選択的)として、各自、合計525万円余および遅延損害金の支払を(本訴請求①)、
②Y2に対し、Xの損害会社Zに対しる金銭消費貸借契約に基づく500万円の返還債務が存在しないことの確認を(本訴請求②)、
それぞれ求めた。
本件反訴請求:
YらがXに対し、
①X及びYらを含む亡Aの相続人6命において、相続税の申告書を作成することにより、各人が納付すべき相続税の納付および支払に関する合意(本件合意)が成立したにもかかわらず、亡Aの相続に係る遺産分割協議が無効とする判決が確定した後も、Yらが本件合意に基づくXの相続税を事実上立て替えて支払った部分をYらに支払わない⇒本件合意に基づく損害賠償として、
(a)Y1とY3は、Xが納付すべき相続税の5分の1相当額および遅延損害金の支払を(反訴請求①)、
(b)(①と選択的に)Yらは、本件合意に基づきXが支払うべき相続税を支払ったところ、亡Aの相続に係る遺産分割協議が無効となり、かつ、Xは無効であることをどう遺産分割協議の時点で知っていた⇒Xは法律上の現認なく、Yらが支払ったXが本来負担すべき相続税相当額の利得があり、Yらは同額の損害があったとして不当利得返還請求権およびその遅延損害金として、①と同額を支払を(反訴請求②)、
③遺産分割協議に基づき、Xが亡Aの預金債権344万円余を取得しその支払を受けたところ、不当利得返還請求として、Yらの法定相続分および遅延損害金の支払を(反訴請求③)
それぞれ求めた。
  規定 民法 第190条(悪意の占有者による果実の返還等)
悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。
  1審 本訴請求①を認容、同②を却下、
反訴請求①~③をいずれも棄却 
  判断  1審判決を維持 
●本訴請求① 
民法190条1項の「悪意」とは、果実収取権能のある本権のないjことを知り、またこのような本権の有無につき疑いを持っていることをいう。
Yらは、当初の遺産分割協議が無効と判断される原因となった事実について同協議の時点で知っており、果実収取権能のある本件の有無について少なくとも疑いを持っていた
⇒悪意の占有者に該当。

Xには、Yらが相続開始から遺産分割までの間相続不動産から生じた賃料(果実)を収取したものにつき、悪意の占有者として法的相続分に応じた返還請求権が認められる。
●反訴請求② 
①本権合意は、その書面自体が相続税の申告書であり、合意であった根拠とはできない。
②後の相続税についての清算を前提とするものであるが、当初の遺産分割協議が有効であれば、清算を前提とする合意をする必要がなく、合理性に欠ける

本件合意は認められない。
Yらの過納は、主としてYの行為を原因とするもの
⇒Yらの過納部分を損失、Xが本件納付すべき税額と実際納付した税額の差額を利得ととらえることを前提としても、これらの間に因果関係を肯定することは困難

自らの行為を原因として過納部分を生じさせたYらが、更正の請求をすることもなく、Xに前記差額の支払いを請求することは信義則に反する。
  解説 賃料債権について、最高裁H17.9.8:
相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、その帰属は後にされた遺産分割の影響を受けない。
but
共同相続人全員の合意により遺産異含めて遺産分割協議の対象とすることは妨げない。

原則として、相続開始に伴い、確定的に欠く相続人の相続分に従ってその賃料債権が分割帰属することとなる。

これを超えて共同相続人の一部が賃料を取得した場合には、不当利得に基づき、他の相続人の相続分に応じた部分を返還する義務を負う。

本件本訴請求①の論拠。 
●当初の遺産分割協議を前提とした相続税の納付に係る不当利得の成否についての先例: 
大阪地裁H6.5.11:
遺産分割調停を前提とする相続税の申告にあたり、調停によって各自が取得ないし負担した遺産の項目を調整し、実際には原告が負担した債務について原告の申告から除外し、これを被告が負担したかのように事実と異なる申告⇒原告は正当な申告をした場合と比較して損失額以上の利得を得た⇒不当利得の返還を求めた事案:

不当利得の制度は、法の技術的な適用によって生じた財産的価値の移動を公平の原理に基づいて調整しようとするものであるが、本件申告による原告の損失は、仮装内容の申告の結果本来納めるべき税額を越えた相続税を国に納めたことによって国に対する関係で生じているものに過ぎず、
他方、被告の「利得」も、本来国に治めるべき相続税を納めていないことによって国との関係で生じているものであって、原告の被告の間で社会通念に照らし何らかの財産的価値の移動が行われた結果生じたものではない。

右の不公平は、本来、国との関係においてそれぞれ調整されれば足りるものであって、これを原告と被告の間において公平の理念に基づいて直接調整しなければならないとするいわれはない。

不当利得における因果関係は認められない。
  民事p86
東京地裁R1.8.29
● 
  ベッドから転落等⇒病院の注意義務違反(否定)
  事案 高齢の入院患者Aがベッドから転落して急性硬膜下血腫等を受傷⇒脳外科手術⇒寝たきり状態⇒事故から約2年後に心不全で死亡

Aの子であるX1、X2が、転落事故のあった本件病院を開設していたYに対し、担当医師らに体幹抑制ベルトの装着継続や常時見守りを怠った過失及び頭部CT検査等の遅延の過誤がある⇒それぞれ1985万6428円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。 
  争点 ①本件病院の医療従事者に、ベッドからの転落を防止すべき義務違反(過失①)があったか、
②本件病院の医師らに、本件事故直後、Aに対し頭部レントゲン検査又はCT検査を実施すべき義務違反(過失②)があったか 
  判断  ●過失①について: 
入院患者の身体の拘束は、患者本人の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いか(切迫性)、身体の拘束を行う以外に代替する方法がないか(非代替性)等の諸事情を総合考慮して、患者の受傷を防止するなどのために必要やむを得ないと認められる事情がある場合に限り許容されるべき。
前記の場合に当たるとして身体の拘束を開始した患者についても拘束による弊害等を考慮⇒出来る限り速やかにこれを解除することが望ましく、身体の拘束を継続することが前記の必要やむを得ない事情がある場合に該当するか否かを常時検討することが求められている。
Aに対して7月20日から行われていた体幹抑制ベルトによる身体の拘束について、8月10日以降は、Aの生命または身体が危険にさらされる可能性が高かったとはいえず、他にベッドから転落することを防ぐ措置(4点柵の設置)が講ぜられていた⇒これを継続すべき必要性がある状況は解消されたというべきであり、Yにおいて8月10日以降もAに対する体幹抑制ベルト装着を継続すべき義務があったと認めることはできない。

過失①を否定。
  ●過失②について: 
本件事故直後のAの状況は、外傷初期診療ガイドラインにおいて外傷患者の初期診断時に確認すべきとされている(ABCDEアプローチの)
気道(A)、呼吸(B)、循環(C)及び体温(E)に異常があったとは認められない
中枢神経障害(D)の有無についてAは声掛けに返答があり、発語があるなど意識レベルの低下はなく、瞳孔所見に異常もなく、四肢に麻痺もみられなかった

本件事故直後に頭部CT検査を実施すべき義務があったとはいえない。

過失②を否定
  解説 入院患者がベッドから転落して負傷したとして医療施設の管理責任が追及される場合の判断枠組み:
①転落事故が発生することの予見可能性の有無と
②結果を回避するために適切な措置を講じていたか
によって決せられる。 
最高裁H22.1.26:
入院患者の身体を抑制することはその患者の受傷を防止するなどのために必要やむを得ないと認められる事情がある場合にのみ許容される。
  民事p93
東京地裁R1.10.1  
  不当提訴・刑事告訴等と代理人弁護士の責任(結論否定)
  事案 弁護士であるXが、自身の所属する法律事務所のブログにおいて、訴外会社2社(A社とB社)の事業には実体がないから、資金提供を持ちかけられてもそれが詐欺話であるなどと指摘する記事を投稿したことについて、
①弁護士であるY1において、A社の代理人として捜査機関にXに対する告訴状を提出した上、Xに対して損害賠償請求訴訟を提起した行為(「別件訴訟」)がいずれも不法行為に該当
⇒Y1に対し、不法行為縫い基づき150万円の損害賠償等を請求するとともに、
②弁護士であるY2ないしY4において、B社の代理人としてXを刑事告訴した行為が不法行為に該当する旨主張し、Y2らに対し、不法行為に基づき300万円の損害賠償等を請求。
別件訴訟の第1審判決:
A社は事業に実体がないことを認識しながら投資勧誘を行った⇒A社の本訴請求を棄却
A社による別件訴訟の提起等はいずれも違法⇒Xの反訴請求を一部認容
  解説 訴えの提起が違法となる場合:
最高裁昭和63.1.26:
提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起ししたなど、
訴えの提起か裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる

提訴者において、自己の主張しようとする権利等の事実的、法律的根拠につき、高度の調査、検討が要壊死されるものと解するならば、裁判制度の自由な利用が著しく阻害される結果となり妥当でない。 
告訴・告発が違法な行為となる場合:
最高裁の判断は示されていない。

大阪高裁:
他人に刑罰又は懲戒処分を受けさせる目的で虚偽の事実につき不当な告発⇒それが告発人の故意過失によりなされたと認められる限り不法行為による損害賠償義務が生じる。

東京地裁:
告訴をしようとする者は、事実関係を十分調査し、証拠を検討して犯罪の嫌疑をかけることを相当とする客観的根拠を確認した上で告訴すべき注意義務を負う


捜査機関に対する告訴・告発は、相手方の名誉を毀損することなどが当然に想定される⇒相手方に対して犯罪の嫌疑をかけることを相当とする一定の注意義務を告訴人・告発人に負わせている。
  判断  ●訴えの提起について
上記最高裁昭和63.1.26を引用し、その判断基準は弁護士が提訴者の代理人として訴えを提起した場合における当該弁護士にも妥当する。
but
A社の事業に係る契約書や協定書等を受領していたY1について、事業に実体がないことを見抜くことができなかったとしてもやむを得なかった

Y1がA社の代理人として別件訴訟を提起したことが不法行為を構成するとは認められない。
  ●告訴・告訴状の提出について 
弁護士は法律の専門家として当該告訴に主体的に関わり、事実関係を十分調査し、証拠を検討した上で告訴の当否を第1次的に検討する立場⇒犯罪の嫌疑をかけることを相当とする客観的根拠を自ら確認した上で告訴状を提出すべき注意義務を負う。
but
Y1やY2らにおいて、Xに犯罪の嫌疑をかけることを相当とする客観的根拠の有無を確認すべき注意義務を怠った過失は認められない。
  民事p99
大阪地裁R1.6.21  
  住宅等の賃貸借契約に基づく賃料等債務に係る保証委託契約の規定と消費者契約法
  事案 適格消費者団体である原告が、いわゆる家賃債務保証業を営む株式会社である被告に対し、被告が住宅等の賃貸借契約(原契約)の当事者である原契約賃貸人や原契約賃借人との間で締結する家賃債務保証契約(本件契約)に含まれる複数の条項について、消費者契約法8条1項3号又は10条に規定する条項に該当⇒同法12条3項に基づく意思表示の差止めを請求。 
  差止を求める条項 (1)原契約の当事者でない被告に対し原契約を無催告解除する権限を付与する条項
(2)被告が原契約の無催告解除権を行使することについて原契約賃借人に異議がない旨確認する条項
(3)被告が原契約賃借人に対して事前に通知することなく保証債務を履行できるものとする条項
(4)被告が原契約賃借人に対して事後求償権を行使するのに対し、原契約賃借人及びその連帯保証人において原契約賃貸人に対する抗弁をもって被告の請求を拒絶できないものとする条項
(5)一定の要件(①原契約賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠り、②被告において合理的な手段を尽くしても原契約賃借人本人と連絡がとれない状況の下、③電気・がス・水道の利用状況や郵便物の状況等から賃借物件を相当期間利用していないものと認められ、かつ、④賃借物件を再び占有利用しない原契約賃借人の医師が客観的に看取できる事情が存するとき。(以下「4要件」))をいずれも満たす場合に、原契約賃借人の明示的な意義がない限り、原契約賃借人からの賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限を被告に付与する条項
  判断   ●本件条項(5)について 
原契約後に賃借人明渡し後に賃借物件内に存する動産類を原契約賃貸人及び被告が任意に搬出・保管することに賃借人が異議を述べない旨をいう点で、消費者契約法8条1項3号にいう「当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項に該当⇒同条項を含む消費者契約に係る意思表示の差止め等を命じた。
  本件条項(1)~(4)について 
消費者契約法8条1項3号及び10条にいずれも該当しない
⇒請求棄却。
  本件契約の法的性質:
原契約賃貸人と原契約賃借人との間の賃貸借契約(原契約)及び
原契約賃貸人と個人保証人との間の連帯保証契約を前提として、
家賃債務保証業者と原契約賃貸人との間の連帯保証契約、
原契約賃借人との間の保証委託契約
を内容とする複合契約であり、かつ、
原契約の特約に位置づけられる内容も含まれる。 
  規定  消費者契約法 第一〇条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
  解説 ●本件条項(5) 
本件契約18条2項2号は、同条3項及び19条1項の内容と相まって、
原契約が終了しておらず、原契約賃借人が未だ賃借物件の占有を失っていない場合であっても被告等に自力で賃借物件の占有を取得させることを認めるものに他ならず、
これは自力救済行為として原則として不法行為に該当
but
原契約賃借人に対し、同行為を理由とする被告に対する損害賠償請求権を放棄させる内容を含む
⇒消費者契約歩8条1項3号に該当。
  ●本件条項(1) 
原契約賃借人が滞納賃料等及び変動費の合計額が賃料3か月分以上に達し、これがため原契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められない事情が存する場合に限り被告に無催告解除権を付与する条項と解し(最高裁昭和43.11.21)、消費者契約法10条前段の該当性を肯定。
本件契約の締結により、原契約賃貸人が被告からの原契約賃借人による賃料等不払いの填補を受け賃料等不払いのリスクが低減する一方、
被告が変わって原契約賃借人による求償債務不払いのリスクを負担することとなるところ、
このような原契約賃貸人と被告との間の利害関係の修正に伴い、原契約賃借人の一時的でない賃料不払いが発生したときに原契約を継続させるか否かの判断および決定権限を、原契約賃貸人だけでなく被告に付与することは格別不合理なことではない。
本件契約j13条1項の要件に係る前記解釈に照らし、原契約賃借人への不利益は限定的。

消費者契約法10条後段の該当性を否定。
  ●本件条項(2)
これに対応する本件契約13条1項に係る前記の要件解釈に照らすと、
同条項が、被告の有効な無催告解除権の行使について原契約賃借人に異議がないことを確認させる内容のものにすぎず、原契約賃借人の被告に対する損害賠償請求権を放棄させたり、無催告解除の効力を争う権利を放棄させたりするものとはいえない
⇒消費者契約法8条1項3号及び10条前段の該当性をいずれも否定。
  ●本件条項(3)(4)
本件条項(3)に対応する本件契約14条1項について、
被告の原契約賃借人に対する事後求償権の行使に対し、原契約賃借人が「債権者に対抗することができる事由」(民法463条1項、443条1項)を抗弁として主張するのを予め妨げる効力、かつ、
保証人が事前通知なくして民法463条2項、443条2項に基づき自己の弁済を有効とみなすことを可能とする効力(民法上は保証人が事前通知を懈怠して保証債務を弁済した場合、主債務者が事後通知を懈怠したことを理由として自己の弁済を有効とみなすことはできないと解されている、民法463条2項、443条2項、最高裁昭和57.12.17)を有する条項と解釈。
本件条項(4)に対応する本件契約14条4項について、
被告が原契約賃貸人に対して有効な保証債務の履行をしたときにおいて、原契約賃借人が、原契約賃貸人に対して主張できる事由をもって、被告に対抗することが出来なくなる効力を有する条項と解釈。
 
     
2447    
  民事p5
大阪高裁R1.11.8   
  直接交流(前件調停)⇒間接交流(原審判)⇒直接交流(抗告審)
  原審 当面は、AをC、Dと直接面会交流させることは相当ではない⇒前件調停における実施要領(直接交流)を、間接交流に変更した。 
  判断 AをC、Dと直接面会交流をさせることが相当である。
⇒原審判を変更し、前件調停における実施要領と同様、直接交流を認めた。 
(1)AとC、Dとの父子関係は良好であり、平成27年2月に成立した前件調停後も平成30年6月ころまでは、宿泊や2度にわたり家族でハワイ旅行をするなどAとC、Dとは、実施要領にとらわれず柔軟かつ円滑に直接交流が実施されていた。
その際、AにC、Dに対する不適切な言動も窺われない。
(2)C、Dは、現在もAを慕っており、直接交流の再開を望んでいる。
(3)長女のCはAに会いたいと思う一方で、Bの心中を慮って会うことを躊躇するという忠誠葛藤に陥っており、このような状態が続けば、過度の精神的な負担を強いることになるなどの事情。
(4)Bは自らの心身の不調を理由に間接交流を止めるべきであると主張。
vs.
①平成30年9月には復職しており、直接交流に応じることで健康状態が悪化し、C、Dの監護に支障が生じたり、C、Dに不安を抱かせる状況にあるとはいえない。
②C(9歳)、D(6歳)の心身の発達状態⇒目の届く範囲でAとBが直接対面せずに、受け渡しを実施することもできる
⇒心身の不調は直接交流を制限すべき事由にはならない。
BのAに対する感情的な反発が強い現状⇒事前の協議は困難⇒前件調停の実施要領を変更して、面会交流の内容を具体的に定める。
学校行事への参列については、その実績がなく、C、Dの意向も確認されていない⇒実施要領からは除かれた。
  解説 面会交流は、子の健全な育成にとって有益なものであり、その許否は、子の福祉、子の利益を最も優先して決せられる(民法766条1項後段)。 
実務:
子の心理状態、面会交流に対する子の態度、子の監護状況、非監護親の子に対する態度や愛情、面会交流に対する姿勢、監護親の意向などを考慮した上、
面会交流が子の福祉に反する場合でなければ、原則としてこれを認めてきた。
具体的には、
非監護親の子に対する自然の情愛の尊重、
子との情緒的交流の維持、
両親からの愛情により得られる人格の健全な育成と円満な発達などの
プラス面と

子の連れ去りリスク、
DV、暴力、虐待リスク、
父母間の紛争激化による子の精神的動揺や緊張、
情緒不安定からくる学業や生活態度への悪影響、
子の安定した生活環境の破壊などの
マイナス面
とを総合考慮し、

面会交流を禁止、制限しなければ子の福祉を害するような場合を除いて、
面会交流の方法、態様、条件などを工夫し、これを認める方向で考えられてきた。
  民事p11
東京地裁R1.12.11    
  プロバイダ責任制限法4条1項によるSMS用電子メールアドレス開示請求の可否(肯定)
  事案 インターネット上の投稿サイトに氏名不詳者がした投稿によって権利を侵害された⇒当該投稿をした者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権等を行使するため、当該投稿の発信者がその発信のために利用した経由プロバイダである被告に対し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、当該投稿の発信者に係る情報の開示を求めた。
原告らは
①氏名又は名称、
②住所、
③電子メールアドレス(SMTP)
④SMS用電子メールアドレス
を、開示を求める発信者情報の対象とした。

SMS(ショートメッセージサービス):
携帯電話やPHS動詞絵で文章をやり取りするサービスであり、SMSの送受信においては、電話番号が送受信先の電子メールアドレスとして機能
  争点 プロバイダ責任制限法4条1項によって開示の対象とする発信者情報に、SMS用電子メールアドレスが含まれるか。 
  解説 条文構造⇒特定電子メール法及び公選法の定義を引用しているプロバイダ責任制限法3条の2第2号の「電子メールアドレス等」にSMS用電子メールアドレスが含まれることは文理上明確であるが、プロバイダ責任制限法4条1項の「発信者情報」にSMS用電子メールアドレスが含まれるか否かは、同項が引用する平成14年総務省令の解釈による。
  主張 被告:
①SMS用電子メールアドレスの開示は電話番号の開示と道義であり、これを認めることは、平成14年総務省令の制定及び改正の経緯や立案担当者の意思に反する
②プロバイダ責任制限法3条の2の趣旨と、同法4条1項及び平成14年総務省令の趣旨が異なる

平成14年総務省令の定める「電子メールアドレス」にSMS用電子メールアドレスが含まれるとは解釈できない。 
  判断 SMS用電子メールアドレスが平成14年総務省令3号の「電子メールアドレス」に該当すると解するのが相当。

①法解釈の予測可能性や法的安定性等の観点に照らせば、同一の法律内における同一の用語の意義は、別段の定めがない限り、統一的に解釈するのが原則。
②電話番号が発信者情報として開示の対象となるのは、あくまでもSMS用電子メールアドレスとして利用される限りにおいてであって、電話番号が一般的に開示の対象となると解釈されるわけではない⇒SMS用電子メールアドレスの開示を認めることが、平成14年総務省令が発信者情報を限定列挙した趣旨に反するとはいえない
③ 通常の電子メールアドレス(SMTP電子メールアドレス)は開示の対象となるが、SMS用電子メールアドレスとして利用され得る電話番号について開示対象外であるとする実質的な根拠は乏しく、総務省の立案担当者の意思に照らしても実質的な根拠が乏しいとの結論を左右するものではない上、SMS用電子メールアドレスとして利用され得る電話番号に関してはSMTP電子メールアドレスよりもプライバシー及び通信の保護の要請が高いということもできない。
  民事p41
静岡地裁H31.1.23
  急激かつ偶然な事故とは認められないとされた事例
  事案 本件保険契約に適用される約款(本件保険契約約款)及び本件共済契約に適用される規約(本件規約)には、保険金又は死亡保障費の支払事由を、被保険者が「急激かつ偶然な外来の事故」により身体に傷害を被ったことと定めた規定が存し、
本件保険契約約款には「故意または重大な過失」、本件規約には「故意」によって生じた傷害を免責事由と定める規定が存在。
  争点 本件事故の偶然性 
  判断   ①Xの経営状態及び他の保険金の受領状況
②本件事故現場の状況等
③Aの健康上の問題及び本件事故前後の経過等
④本件事故態様(ペダルの踏み間違えによる急発進の可能性など)
⑤その他本件車両の前進による転落の可能性
等について検討

本件事故を偶然の事故であるとするには、なお合理的な疑いが残ると言わざるを得ない⇒Xの請求を棄却。 
  ●Xの経営状態及び他の保険金の受領状況
①Xの金融機関からの多額の借入と厳しい経営状態
②他の保険金と合計すると、Xの負債総額とほぼ同額の保険金を取得できる
③本件共済契約は、本件事故の1か月ほど前に、被保険者を従業員だけから従業員及び役員に変更

自殺の動機がなかったとはいえない。
  ●本件事故現場の状況等




本件事故が偶然生じたものとして不自然な発生状況
  ●Aの健康上の問題及び本件事故前後の経過等

・・・夜間に外灯等もない漁港に行ってカメラを探していたこと自害、不自然、不合理であって、Xの主張は採用できない。
  ●本件事故態様(ペダルの踏み間違えによる急発進の可能性など)

①・・・仮に、Xの主張どおりだとすれば、Aは車両からの脱出を試みるはずであったのに、Aはシートベルトを外しておらず、脱出を試みた痕跡が残されていなかった
②むしろ海中から引き揚げられた時のAの状態は、ハンドルを握りしめるような恰好を取っていた⇒Aが自己の意思でハンドルを固く握りしめていたことをうかがわせる。

Xの主張は採用できない。
  ●その他本件車両の前進による転落の可能性
・・・。
  解説  本判決では、
保険約款等において「急激かつ偶然な外来の事故」による傷害を被ったことが支払条件として定められている⇒保険金請求者側において、発生した事故が急激かつ偶然な外来の事故であることの主張立証責任を負う。
but
保険金請求者側において、外形的にみて事故であることが立証できれば、事故が偶然であることが事実上推定される⇒
保険者が、事故の偶然性を争う自殺を疑わせる事項を立証し、さらに
保険金請求者側でこの疑念を反駁するに足りる程度の立証をし、
これが出来ない場合、偶然性の立証はされなかったとする見解。
本件事故の偶然性の判断:
自殺の動機と言った面から決定的なものは見当たらなかった
but
種々の事情を掲げ、自殺の動機がなかったとはいえないとした。
海中から引き揚げられたときの本件車両の客観的状況や本件事故現場の状況
⇒本件車両が岸壁から港に前進し、海中に転落した。
脱出を試みた形跡がないこと等
⇒Aが意図的に海中へ浸入したものと推認し、偶然性の推定が揺らいだ。
本件車両に残された客観的な損傷状況をどのように評価するか、XとYらの主張が対立し、それぞれから専門家による鑑定意見が出され、証人尋問が行われた。
but
本判決:
それぞれの鑑定意見やソフトを用いたシミュレーションによる本件事故態様については、その前提条件等からの制約がある⇒他の状況等を詳細に検討した上で、前記結論を出した。
  民事p22
東京地裁R1.5.30  
  鍼施術⇒脊髄損傷⇒後遺障害(肯定事例)
  事案 原告が、被告の開設する鍼灸院において被告から頚部の鍼施術⇒頚髄損傷⇒右胸部から下の痛覚以上、右手の触覚低下、右下肢の温痛覚障害、排尿障害等の後遺障害⇒債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求。 
  争点 ①注意義務違反の有無
②原告の後遺障害との間の因果関係 
  判断   ●注意義務違反 
①本件鍼施術によって頚髄損傷が生じる可能性があった
②原告には本件鍼施術を受けた直後からそれまでにはなかった頚髄損傷を示唆する複数の症状が出現していた
③既往症を含め、原告には前記症状を引き起こす他の疾患の存在は確認されない
④本件鍼施術後に受けたMRI検査等の画面上、原告には頚髄損傷を一定程度示唆する所見があった

本件鍼施術によって原告の頚髄が損傷されたとの事実を認定。

被告には、鍼の刺入の深さ等を適切に選択し慎重に鍼を刺入して施術を行うべき注意義務の違反があった。
  ●因果関係 
右胸部から下の痛覚以上、右手の触覚低下、右下肢の温痛覚障害、排尿障害:因果関係を肯定。

右手の触覚低下:
原告の既往症から生じている可能性も相当にある⇒因果関係を否定

排尿障害等:
入通院を経て改善傾向にあった⇒症状固定時において後遺障害と評価すべき状態であったとまではいえない。
  解説 手技上の過失については、
①操作部位と損傷部位との場所的近接性
②当該手技と症状発生との時間的接着性
③当該手技が当該損傷を発生させる危険性の程度
④当該損傷に附随すべき事情の有無
⑤他の原因による症状発生の有無
などの事情が判断要素として挙げられる。
脳神経減圧手術とその後の脳内血腫発生との関連性を肯定した最高裁H11.3.23(判例時報1677号)
本判決でもこれらの要素が考慮:
①本件鍼施術に用いられた鍼の長さや材質、鍼の刺入部位から頚髄までの距離、その間にある人体の組織(筋肉、靭帯、硬膜など)の存在等を踏まえても、本件鍼施術によって頚髄損傷が起こり得るのか
②本件鍼施術の直後から原告に生じていた症状(感覚障害、運動障害、排尿障害など)は頚髄損傷によって生じ得るのか
③前記症状は、原告の既往症等、本件鍼施術以外の原因から生じた可能性はないのか
④本件鍼施術後に撮影されたMRI画像等の検査画像をどのように評価すべきか
なとの点を検討⇒本件鍼施術によって原告の頚髄が損傷されたとの事実を認定。
当事者双方から複数の協力医の意見書が提出されているほか
3名の鑑定人による鑑定意見が出されている。
(東京地裁の医療集中部では、原則として3名の医師が鑑定人として指定され、これらの鑑定人がラウンド法廷で口頭により鑑定意見を述べる「カンファレンス鑑定」が実施。)

本判決:
前記検討の過程で、こえらの意見を比較検討し、他の証拠から認定される医学的知見や具体的事実に照らして、いずれの意見が合理性を有するかという観点からその評価を行っている。

複数の医学的意見が出された場合の評価の在り方について、
最高裁H18.11.14(判例時報1956号):
一方の意見書を根拠に担当医の過失や因果関係を否定した原審の判断に採証法則の違法があるとした事例
  労働p64
札幌地裁R1.6.9  
  障害者が自殺⇒その雇用管理が問題となった事案
  事案 食品会社Yにおける勤務開始当初からうつ病にり患していた亡Aは、Yでの在職中に自殺。
X1(亡Aの母)及びX2(亡Aの妹)は、亡Aの上司であったCの発言及び亡Aの要望に応じて業務量を増加させなかったことによって亡Aが極度に強い心理的負荷を受けてうつ病の程度を増悪させたことが亡Aの自殺の理由⇒損害賠償請求。 
  主張 ①主位的には使用者責任、予備的には安全配慮義務違反を根拠とする債務不履行責任に基づく亡AのYに対する損害賠償請求権をX1が相続したこと、
②亡Aの死亡により、Xらが精神的苦痛を被った 
  争点 ①Cの亡Aに対する注意義務違反の有無
②Cの注意義務違反と亡Aの自殺との間の因果関係
③Xらの損害及びその額
  判断 ●争点① 
◎Cの亡Aに対する「障害者の雇用率を達成するため」に亡Aを雇用したとの発言(「本件発言」)が、亡Aに心理的負荷を与えないようにすべき注意義務に違反するか
Cが本件発言をしたと認定し、
①うつ病にり患している者は心理的負荷に対する脆弱性が高まっており、ささいな心理的負荷にも過大に反応する傾向
②Cは、亡AがYに雇用される前から亡Aがうつ病位にり患していることを認識していた

Cには、業務上、亡Aがうつ病にり患していることを前提に、心理的負荷を与える言動をしないようにする注意義務を負っていた。
本件発言は、自己のYにおける存在価値について悩んでいた亡Aに対する配慮を欠き、亡Aに心理的負荷を与えるもの
⇒注意義務違反を肯定。
◎Cが、亡Aから業務量に関する合理的配慮を求める旨の申出があった場合に、具体的な措置の内容を検討し、当該措置を実施し、又は、当該措置を実施できないときにはその旨を理由と共に伝えるべき注意義務
Cは、亡Aから業務量に関する申出があった場合には、現在の業務量による心理的負荷の有無、程度を検討し、対応が不可能であれば、そのことを説明すべき注意義務を負っていた。
but
Cは、亡Aの申出を放置せず、具体的な解決策を検討して事項しており、その後も、亡Aの申出に対応することが不可能な状況ではなかった

注意義務違反を否定
●争点② 
亡Aは、Yに在職中にうつ病の程度を悪化させた。
but
争点①の注意義務違反にyるうつ病の程度の悪化及び自殺の因果関係につき、本件発言後に業務量の増加を検討する説明したCの対応に対する亡Aの反応及び認識を踏まえ、
本件発言による心理的負荷が継続していたとはいえない
⇒本件発言と亡Aの自殺との因果関係を否定。
  解説  精神障害を有しない労働者との関係では心理的負荷を与えない言動であっても、うつ病にり患している労働者との関係では心理的負荷を与えるものがあり得ることを含意。 
業務量が過少であったためにうつ病が悪化したことが問題となった事案。
一般に、使用者は、労働者に対してどの程度の業務量を割り当てるかについての裁量権を有している。
but
当該労働者の能力とは大きくかい離した程度の低い業務量しか割り当てなかった場合、それが当該労働者に屈辱感等を与え、心理的負荷を与えることはあり得る。
本判決は、この点を踏まえた上で、障害者の雇用における雇用管理の要請(障害者基本法19条2項)、精神障害を有する者の心理的負荷に対する反応の仕方を踏まえて、Cの注意義務を設定。
but
ここでの判断対象は、
亡Aが担当していた業務量がどの程度であり、それが亡Aの能力に見合ったものであったかという点ではなく、
亡Aからの申出に対してCがしかるべき対応を取ったかという点。
  本判決:
Cの注意義務違反による心理的負荷が継続している場合には、当該注意義務違反と亡Aの自殺との間の因果関係が認められることを前提に、本件ではそのような心理的負荷が継続していたとはいえない⇒因果関係を否定。 
  刑事p77
仙台高裁H31.3.14  
  自らの意思で覚せい剤を摂取したと推認することはできない⇒覚せい剤使用について無罪、(検察官の)求釈明義務違反の主張を否定した事案。
  事案 被告人は、覚せい剤の共同所持で現行犯逮捕⇒逮捕の3日後に強制採尿の結果差押えられた被告人の尿から覚せい剤が検出⇒覚せい剤使用の罪で起訴 
  経過 公判当初:
覚せい剤が被告人の尿に混入されたか、すり替えられたという、捜査段階での問題を指摘。

最終陳述:
任意採尿を促されることなく、逮捕3日後になって強制採尿されたことに疑問が残るなどと被告人が述べた

原審は強制採尿に至る経緯等について追加の証拠調べをするとして職権で弁論を再開

警察官の証人尋問や被告人質問が行われ、2度目の最終陳述いおいて、被告人は、覚せい剤が溶けた水をそれと知らずに飲んだ可能性があると述べ、審理は終結。

原審の陪席裁判官が検察官に電話をかけ、一定のやりとり

再度弁論が再開されたが、被告人質問等はなく、検察官は補充論告をし、弁護人の弁論、被告人の最終陳述を経て終結し、判決宣告期日に無罪を言い渡し。
原審の無罪の理由:
尿のすり替え、尿への覚せい剤への混入、逮捕後警察官による被告人の飲食物への覚せい剤の混入などの主張は排斥。
but
被告人が捜索差押えの際に飲んだペットボトルの水の中に覚せい剤が混入していた可能性は否定できない。
  判断・解説  ●訴訟手続の法令違反について
検察官:
原審において、2度目の最終陳述で初めてなされた被告人の弁解について疑義があれば、裁判所には検察官に対し反論(追加立証)を促す義務がある⇒それをしなかったことが訴訟手続の法令違反。
当事者主義をとる現行刑訴法⇒当事者の主張・立証の不備に対し裁判所が後見的に釈明を求め、補充立証させる義務はない。
刑訴法294条(訴訟指揮権)、これを受けた刑訴規則208条(裁判所の釈明権)も、裁判所の権限であって義務ではない。
but
実務上、当事者が勘違いや法律解釈を誤っているのではないかと疑われる場合に、裁判所は釈明を求めることは決して珍しいことではない。
原審は、検察官に対し具体的な反論の検討を促している⇒検察官は、再開された公判期日で、追加立証はせず補充論告のみを希望⇒原審は検察官に十分に主張・立証の機会を与えたのであるから、それ以上に立証を促す義務はない。
  ●事実誤認について
覚せい剤使用の故意が争われることは多い。
but
被告人の尿から覚せい剤が検出されている場合は、使用の故意が認定されるのがほとんど。

通常の社会生活の過程で偶然の事情により人の体内に摂取されることは通常あり得ない⇒被告人の対内から覚せい剤が検出されれば、特段の事情のない限り、自己の意思で何らかの方法により覚せい剤を体内に摂取したものと合理的に推認できるという推認法則が実務上確立。
「特段の事情」として、ペットボトルの中の水に覚せい剤が混入されていた可能性。
本来:検察官としては、水を飲んだ状況を明らかにし、そのような摂取の仕方であっても、尿から覚せい剤が検出されるものであるかを検討し、立証。
but
検察官は、追加立証をせずに、補充論告の中で経験則を用いて排斥できると主張。
覚せい剤の溶けた水を飲めば、飲んだ者が何らかの異変を感じるとか、もし異変を感じなければ、覚せい剤が含まれていたとしてもその量は微量であり、3日後に採取された尿から覚せい剤が検出されることはないなどという経験則。
vs.
微量であれば、3日後の尿からは検出されないというのは本来鑑定事項。
本判決:
原審検察官が経験則であるという事項が正しいかどうかは定かでないとして疑義を呈し、
検察官が立証の機会を与えられながらも、尿中の覚せい剤濃度等の立証を行わなかった上での証拠構造を踏まえ、
本件の事実関係の下では、検察官の主張は前提に失当であるとしたこと、すなわち、被告人の弁解を排斥できないとの結論において是認した。
  検察官は、控訴審になって、被告人の尿中の覚せい剤濃度等に関する事実の取調べの請求をしたが、控訴審はこれを認めなかった。 
原審で立証の機会を与えられていた⇒刑訴法382条の2第3項の「やむを得ない事由」がないとの判断は当然。
のみならず、刑訴法393条1項本文により職権で取り調べる必要性も認められない。
←事後的に救済する必要はないとの判断。
尚、尿から覚せい剤が検出された被告人の弁解につき、弁護人がこの弁解と関係する者の証人調べを請求⇒必要性なしとして却下

なすべき審理を尽くしたとはいえないとして、訴訟手続の法令違反、事実誤認を理由に破棄し、差し戻した事例(福岡高裁)。 
  刑事p85
東京家裁R1.9.12  
  13歳の少年について、第1種少年院に送致した事例
  事案 当時13歳の少年が、覚せい剤及び大麻を友人と共に密売人から譲り受け、これを単独で所持。 
  判断 少年の薬物使用歴や使用状況、交友関係や学校等での生活状況などを詳細に認定⇒事案の重大性や少年の薬物への依存性の深刻さ、資質及び行動傾向上の問題の根深さとその改善の困難さ、保護関係などを分析評価

少年が現在13歳であり、これまで保護処分歴がないことや、本件を受けての保護者の指導監護に向けた意欲の高まりなどを考慮しても、少年に対しては、系統的で強固な枠組みの下、時間をかけてその資質面の問題に即した地道な指導を行うことにより、薬物との断絶を果たすと共に、健全な対人関係を形成する能力や社会性、規範意識を身に付けさせることが必要不可欠であり、少年を少年院に収容することが特に必要。 
  解説  14歳に満たない年少少年は、環境的な要因の影響を受けやすく、そのため非行に及んでしまったりする一方、
情操保護の必要性が高い

少年法は、非行に及んだ年少少年については、より開放的で福祉的な児童福祉機関の措置に委ね、同機関が相当と判断した場合に限って家裁の審判に付することが出来るという児童福祉機関先議の原則(少年法3条2項、児福法27条1項4号)。 
従前の少年院法2条は、こうした児童福祉機関先議の原則の理念⇒初等少年院及び医療少年院の収容可能年齢を14歳以上と定めていた
⇒触法少年及びぐ犯少年で処遇決定時14歳未満の者に関しては、前記各少年院に送致することはできなかった。
vs.
(1)14歳未満であっても、性格に深刻・複雑な問題があり、それが原因で殺人等の凶悪重大な非行に及んだ少年や、年少の頃から非行を繰り返し、何度施設に入所してもなお非行に及ぶなど非行性の極めて進んだ少年等、深刻な問題を抱える者に対しては、早期に矯正教育を施すことが、本人の改善更生を図るうえで必要かつ相当と認められる場合がある。
(2)解放処遇を原則として、家庭的な雰囲気の中で生活指導を行う児童福祉施設では、
①無断外出を繰り返したり
②暴力的な言動を行なったり
③医療的措置が必要であるなど、対応が困難と考えられる場合もある。

平成19年の少年法等の一部改正により、少年院法が改正され、
少年院に収容することができる者の年齢が「おおむね12歳以上」に引下げられる(少年院法4条1項)と共に、
「決定の時に14歳に満たない少年に係る事件については、特に必要と認める場合に限り、第3号の保護処分をすることができる」という少年法24条1項ただし書が新たに加えられた。
  本決定は、明示的に指摘してはいないものの、
児童自立支援施設等では薬物依存に対応した処遇を十分になしえず、
医療的措置の必要性あるいは薬物離脱に向けた専門的処遇の必要性をも重視したもの。
2446    
  民事p3
東京高裁R1.11.20  
  マンション管理組合理事長の善管注意義務違反(肯定)
  事案 大規模修繕工事が実施され、マンション管理組合は、修繕積立金及び金融機関借入金から工事代金を支出。
当時の管理組合の理事長であったXは、その後、事実上更迭され、新たな役員で構成される管理組合から、工事代金等の返還を請求⇒Xが、管理組合Y1に対し、債務不存在確認を求め訴えを提起。 
  1審 大規模修繕工事は管理組合の総会承認を得て実施された⇒理事長Xには、理事長としての注意義務違反行為は認められない。 
  判断  管理組合Y1に対する委任契約上の善管注意義務違反が理事長Xには認められ、工事代金支出分につき管理組合Y1が被った損害額は約715万円として、一部認容・一部棄却。 
  管理組合の役員と管理組合の法律関係:
一般に、役員と管理組合との間には委任関係が成立⇒役員は委任の本旨に従い善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負う。 
株式会社とその取締役との間の関係と同様に、管理組合の理事長が私的利益を目的として職務を遂行することは、管理組合の総会又は理事会の決議に基づくものであったとしても、善管注意義務違反になる。
大規模修繕工事の実施に関するXの理事長としての職務遂行は、総組合員の利益を目的とすることを装いつつ、その実はXの私利私益、すなわち将来の総組合員の利益を犠牲にした上での自己所有住戸の高値転売を図ったものと推認⇒理事長Xには、管理組合Y1に対する委任契約上の善管注意義務違反がある。
  大規模修繕工事代金全額(約1627万円)を損害と認めた上で、
有用性が肯定される防水工事費を損益相殺の対象とし、
さらに大規模修繕工事の実施により将来あるかもしれない修繕工事費用の支出の一部を免れたことなどを考慮して損益相殺

理事長Xは約715万円の限度で善管注意義務違反による損害賠償責任を負う。 
理事長Xが善管注意義務に違反して大規模修繕工事を行わなければ、工事代金の一部を有しでまかなう必要もなかった⇒借入金保証料及び返済利息等についても、理事長Xの善管注意義務違反と相当因果関係にある損害に当たる。 
  規定  区分所有法 第二八条(委任の規定の準用)
 この法律及び規約に定めるもののほか、管理者の権利義務は、委任に関する規定に従う。
  解説   管理組合の役員と管理組合との間には委任契約が成立⇒役員は管理組合に対し職務遂行について善管注意義務を負う(区分所有法28条、民法644条)。 
●  役員が負う善管注意義務の具体的内容:
違反の典型:
理事長が管理組合の総会決議等を得ることなく、その権限を逸脱して職務を遂行
本件:
形式的に総会決議等が存在し、理事長の職務遂行が同決議等に基づくものであった場合だえっても、それが私的利益を目的とする職務遂行⇒管理組合に対する善管注意義務違反に当たる。
株式会社の取締役:
善管注意義務の一部として、その地位を利用し会社の犠牲において自己の利益を図ってはならない忠実義務を負い、忠実義務違反の肯否は株主総会決議や取締役会決議に基づく職務遂行か否かで直ちに左右されるものではない。
  管理組合の理事長の職務遂行が私的利益を目的とするものであったか否かの認定判断:
本判決:
①大規模修繕工事の内容
②大規模修繕工事を実施する必要性
③大規模修繕工事実施を承認する理事会決議や総会決議に至る過程
④大規模修繕工事を実施した場合における理事長Xの利害状況等

理事長Xの職務遂行は、総組合員の利益を目的とすることを装いつつ、その実は、将来の総組合員の利益を犠牲にして、大規模修繕が施された自己所有住戸を高値転売するというXの私的利益を図ったものと認定判断。
  損害算定 
本判決:
大規模修繕工事代金全額を損害と認めた上で、損益相殺により損害額を減額。
善管注意義務に違反した取締役が会社に賠償すべき額:
取締役の行為によって会社が被った損害額全額であり、
それにより会社が同時に利益を受けたときは損益相殺がされる。
  民事p28
大阪高裁R1.7.17  

追加済み
  遺産分割協議後に発見された遺産の分割
  事案 抗告人(原審申立人)Aが、相手方(原審相手方)Bに対し、遺産分割協議成立後に発見された遺産の分割を求めた事案。 
  事実 平成11年:被相続人Cが死亡し、相続開始。
相続人:妻(亡D)、子であるAとB
平成12年:A、B及び亡Dは、当時判明していたCの遺産である自宅、農地、農機具、預貯金及び現金を対象とした遺産分割協議を成立。
この先行協議に基づき、
亡Dが自宅と預貯金183万円余り及び現金100万円を、
Bが農地及び農機具を、
Aが現金200万円を取得。
平成13年に亡Dが死亡し、平成14年に亡Dの相続人であるAとBとの間で、遺産分割調停が成立。
but
平成16年頃:C名義の預貯金口座(残高合計1300万円余り)が発見⇒AがBを相手として、遺産分割審判を申し立てた。 
  主張 A:Aが先行協議において取得した遺産は200万円にすぎず、Bが取得した遺産は相続税評価額でも3355万円余り、時価では1億円余りであって、著しい不均衡が生じている⇒これを一切の事情として考慮すべきであって、本件遺産(1300万円余りのC名義の預金口座)はAが全て取得すべき。 
B:Bが先行協議により取得したのは市街化調整区域内にある農地であって、実際の価額は相続税評価額よりも著しく低く、Bは葬儀費用を全額負担⇒先行協議においてBが取得した財産の価額はAは取得した200万円とくらべて有意な差があるとはいえない。
  原審 本件遺産について、法廷相続分により遺産分割をする旨の審判をした。 
  判断 先行協議の際、相続人らは、各人の取得する遺産の価額に差異があったとしても、そのことを是認していたというべきであり、その後の清算は予定されていなかった⇒原審を是認し、抗告を棄却。
解説 遺産分割における一部分割の可否
一部分割後の残余財産の遺産分割の方法:
A:残余遺産のみを法定相続分に従って分割することで足りる
B: 一部分割における不均衡を残余遺産の分配において修正し、遺産全部について法定相続分に従った分割をすべき
東京家裁昭和47.11.15:
残余財産の分割において、遺産全体の総合的配分の公平を実現するために、残余遺産についてのみ法定相続分に従った分割で足りるか、一部分割における不均衡を残余遺産の分配ににおいて修正し、遺産全部について法的相続分に従う分割を行うべきかが問題となる。
この点については一部分割の際の当事者の意思表示の解釈により定まり、
共同相続人が一部分割の不均衡をそのままにし、すなわち一部分割における自己の法定相続分に不足する部分については各当事者が持分放棄あるいは譲渡の意思で一部分割を行うとき⇒残余遺産につき前者の方法によることを承認したものと似られる。
このような特段の意思表示がないとき⇒残余財産につき後者の方法によることを承認したものと推認すべきもの。
本件:遺産分割協議後に遺産が判明⇒結果として一部分割が先行した事案において、先行協議の意思解釈により残余遺産のみを法定相続分に従って分割することで足りると判断した事例。
  民事p32
大阪高裁R1.9.25  
  事業遂行中の交通事故⇒企業に生じた損害と相当因果関係(否定事例)
  事案 高速道路警備業務を遂行中の警備会社の作業員ら及び作業車両にトラックが衝突し、警備会社の多数の従業員が死傷⇒当該高速道路警備業務を請け負っていた法人である事業者Xが、衝突事故を起こしたトラック運転手Y1及びその使用者であるトラック会社Y2に対し、Xの企業としての逸失利益について損害賠償を請求。 
  主張 X:本件事故現場での警備業務が中断したことによる逸失利益のみならず、他の現場での事業遂行が困難になったことについての逸失利益も主張。
Y:本件は企業損害の事案であって最高裁判例に照らしても請求が認められる事案ではない。
  原判決 最高裁判決とは事案が異なるとして、本件事故現場に係る警備業務によって得られたはずの2か月分の逸失利益の限度で損害を認めた。 
  判断 最高裁判決との関係には触れず、本件事故後、Xにおいて業務遂行が困難になった経緯を詳細に認定し、本件事故とX主張に係る損害との間の因果関係が認められない⇒Xの請求を棄却。 
  解説   最高裁昭和43.11.15:
個人会社において会社代表者が負傷した事案について、
被上告会社は法人とは名ばかりの、俗にいう個人会社であり、その実権は従前同様A個人に集中して、同人には被上告会社の機関としての代替性がなく、経済的に同人と被上告会社とは一体をなす関係にある⇒かかる原審認定の事実関係のもとにおいては、個人会社であるとの事実関係に着目して損害賠償を肯定。

法人格否認の法理の裏返しとの比喩。
最高裁昭和54.12.13:
代替性のない従業員が業務について、相当因果関係の通常予見できない損害であることを否定した高裁判決を受けて、原審を維持したもの。

最高裁判例として何らかの先例を示した判例と理解するには疑問。
  学説
A:会社はあくまで間接損害者であるとしつつ、企業損害に対する賠償は相当因果関係の問題として把握すればよい(星野)
B:存賠償請求権利者の問題として把握すべきであり、企業損害が問題となる場面で相当因果関係を論ずるのは適切ではない(好美)
C:債権侵害の問題として捉える考え方 
裁判例:
上記最高裁で示された「経済的同一性」の基準を手掛かりに損害賠償の可否を判断し、実際に損害賠償を認めた事例は少数にとどまっている。
  原審・本判決とも、相当因果関係の問題として捉えていることは共通。 
原審:
本件事故⇒本件事故現場における警備業務の遂行に中断
~因果関係のある事実
but
合意解除により契約終了⇒それまでの期間について因果関係のある損害と認めている。
控訴審:
Xの警備業務の遂行に中断が生じた原因は、
本件事故を契機としてXの従業員らの多数が危険性のある高速道路警備業務につくことを嫌悪し、退職ないし異同を希望⇒余裕があったはずのXにおける警備業務態勢が崩壊したという特別事情。
その様な事情がなければXは本件事故当時であっても他の従業員らによって事業の継続が可能。

本件事故と警備業務遂行の中断との間に因果関係を認めなかったものと理解。
判断の違いは、
本件事故の被害者ではなく、そのため本件事故現場での業務遂行が可能であったはずのXの他の従業員らに対する本件事故の及ぼした心理的影響を、相当因果関係の判断において、どう評価するかにかかわるものということができる。
  知財p37
最高裁R1.8.27  
  当該特許発明の効果が予測できない顕著なものであることを否定した判断に違法があるとされた事案
  事案 Xが、ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための点眼剤に係る特許につき特許無効審判を請求
⇒請求不成立の審決⇒同審決の取消しを求めた。 
  争点 本件特許に係る発明の進歩性(特許法29条1項各号記載の発明からの非容易想到性)の有無に関し、当該発明が「予測できない顕著な効果」を有するか否か。 
  事実 本件特許は、公知の特定の化合物(「本件化合物」)を、ヒト結膜肥満細胞安定化の用途に適用する薬剤に関するもの。 
特許庁:
平成25年1月、本件特許に係る発明の「ヒト結膜の肥満細胞安定化」という発明特定事項は引用例1等から動機付けられたものとはいえない⇒請求不成立の請求不成立。
but
知財高裁:
審決の前記の判断は誤り⇒同審決を取り消す旨の判決。
特許庁:
平成28年12月、本件特許請求の範囲の請求項1及び請求項5に係る発明(「本件各発明」)の前記発明特定事項等は引用例1等から当業者が容易に想到することができたものであるが、
本件化合物の効果は、引用例1、引用例2及び優先日当時の技術常識から当業者が予測し得ない格別顕著な効果であり、本件各発明は当業者が容易に発明できたものとはいえない。
⇒請求不成立の審決(「本件審決」)。
本件特許の明細書に接した当業者が認識する本件化合物の効果:
同明細書記載の実験において、ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制率が、一定の濃度範囲内において濃度の増加とともに上昇し、1000uMで66.7%、その2倍の濃度でも92.6%を維持。

一方、本件特許の優先日前に頒布された刊行物には、本件化合物の中にも、人体への点眼によるアレルギー反応誘発試験において、高いヒスタミン有利抑制率を広い濃度範囲にわたって維持するものがあることが開示。
  原審 ①前訴判決によれば、引用例1に係る化合物をヒト結膜肥満細胞安定化剤の用途に適用することは容易に想到することができた⇒本件化合物がヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制作用という効果を有すること自体は、当業者にとって予測し難い顕著なものということはできない。
②当該効果の程度についても、優先日における技術水準として、高いヒスタミン有利抑制率を広い濃度範囲にわたって維持する本件他の各化合物の存在が知られていたことなどの諸事情⇒予想できない顕著なものであることは否定される。
  Yら:
原審には予測できない顕著な効果の有無の判断方法を誤った違法がある⇒上告受理申立て 
  判断 化合物の医学用途に係る特許発明の効果が、その進歩性の有無の判断基準時当時、当該特許発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものか否か、当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点から十分に検討することなく、
当該化合物を当該特許発明に係る用途に適用することを容易に想到することができたことを前提に、当該化合物と同等の効果を有する他の複数の化合物の存在が前記基準当時知られていたということのみから、直ちに、当該特許発明の効果が予測できない顕著なものであることを否定した原審の判断には、違法がある。

原判決を破棄し、本件を原審に差し戻した。 
  解説  審理の対象となる特許発明(「対象発明」)に予測できない顕著な効果があることは、一般的に、進歩性を肯定する方向の事情として考慮(知財高裁H30.4.13等)。 
予測できない顕著な効果の有無の判断方法:
A:対象発明が奏する効果を、主引用発明の奏する効果のみと比較して、顕著で、かつ、予測できないことをいうと解する件かい(主引用発明比較説)

〇B:対象発明が奏する効果を、当業者が(進歩性判断基準当時に)対象発明の構成が奏するであろうと予測できる効果と比較して、顕著で、かつ、予測できないことをいうと解する見解(対象発明比較説)

C:対象発明が奏する効果を、進歩性判断基準時の技術水準において達成されていた(対象発明とは異なる構成を有する発明が奏するものも含めた)同種の効果を比較して、顕著で、かつ、予測できないことをいうとする見解(技術水準比較説)
予測できない顕著な効果の進歩性判断における理論的な位置付けについては、大別して二次的考慮説と独立要件説の見解の対立があるが、
当該効果の有無の判断方法については、いずれの見解を前提とするかを問わず、対象発明比較説が多数。
  本判決:
本件各発明の効果が、予測できない顕著なものであるかについて、
「優先日当時本件各発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものか否か、当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点」から検討すべき旨判示。

対象発明比較説の考え方を前提としたものと解される。 
また、当該効果の有無については(本件各発明の構成から)
「当業者が予測することができなかったものか否か」(非予測性)と
「当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否か」(顕著性)との双方の観点から検討すべき旨を判示。
原判決:
優先日当日、高いヒスタミン遊離抑制効果を有する本件化合物とは構造の異なる本件他の各化合物が存在したということ以外には、本件化合物の効果の程度について、それが予測できない顕著なものであることが否定されるとする諸事情や、その程度を推認できるとする事情等を明らかにしていない。

実質的には技術水準比較説と同様に、当時の技術水準において存在が明らかにされていた、対象発明の化合物とは異なる他の化合物の同種の効果の程度との比較のみを理由として、これと同等であれば対象発明が予測できない顕著な効果を有することが否定されるとの判断をしたことになる。

そのような判断には違法がある。
  商事p41
東京地裁R2.2.14  
  元受保険契約に基づき元受保険金を支払った者による再保険契約に基づく再保険金の支払請求
  事案 2010年4月22日に発生したメキシコ湾原油流出事故に関し、原告が元受保険契約に基づき、元受被保険者である三井物産子会社に対して、元受保険金を支払った⇒再保険契約に基づき、被告らに対して、再保険金の支払を求めた。 
前記事故は、メキシコ湾のミシシッピ・キャニオン252区画において、英国のエネルギー関連企業の米国子会社であるBP社がオペレーターとして開発する石油掘削事業で起こったもので、前記元受け被保険者であるMOEXが、BP社らと操業協定を締結し、ノンオペレーターとして、10%の権益をもって、前記事業に参加。
  主たる争点 ①再保険契約の準拠法である日本法に、商慣習法として、運命共同体原則があるか
②再保険及び元受保険の保険約款で保険金の支払条件として定められた元受被保険者の損害賠償義務があるか 
  判断・解説  ●争点①
「運命共同体原則」:
再保険契約において、再保険者は、元受保険契約上の保険金の支払いが合理的に行われている限り、被再保険者(元受保険者)に対し再保険金を支払わなければならず、元受保険契約上の保険き支払義務に関して、被再保険者(元受保険者)の判断を争うことはできないというもの。
原告:大判昭15.2.21の原審判決を指摘。
被告:
同裁判例は運命共同体原則について述べたものではない。
再保険は、元受保険金の支払義務のもととなる元受被保険者損害賠償義務の存在なくして、再保険金の支払義務が発生することはない契約であって、再保険法の分野でも世界の標準となる英国判例法をみれば、英国の裁判所は、このことを踏まえて判断している。
実務上、再保険契約にフォローザセトルメント条項が多く用いられているが、これは運命共同体原則が慣習法とはなっていないから。
本判決:
運命共同体原則が商慣習法として存在するとは認められない。
仮に運命共同体原則が存在するとしても、元受保険の保険者は、被保険者の損害賠償義務の有無について調査確認し、必要に応じて法的助言を得るべきところ(英国判例法と同じ原則)、原告は、準拠法の異なる地域の法律事務所の助言を得ているに過ぎない⇒運命共同体原則は適用されない。
東京地裁H31.1.25:
follow the settlement 条項として、「この再保険は、・・・元受保険者が行った一切の保険金支払額の決定に従う。・・・但し、保険金支払義務がないことを知りながら行う支払い及び保険金支払義務があることを認めずに行う支払いを除く。」
との条項がある場合に、保険約款の適用が微妙であるときは、当該保険約款の適用について裁判所が先行的に判断して、その判断の結果を、前記条項の適用除外の有無の判断基準としている。
保険の填補対象となるか否かについて、判断が分かれ得る場合に、再保険の契約当事者の間で、一方の見解が他方に優先するとしたのでは、公平な法的解決を実現することができない⇒運命共同体原則という一方の判断が優先するという考え方には、おのずから限界がある。
本判決も東京地裁H31.1.25も、共通した理解に立っているものと思われる。
  ●争点② 
再保険の保険約款で保険金の支払条件として定められた元受被保険者の損害賠償義務について、本件では、元受被保険者であるMOEXなどが、流出した原油の清掃費用に関して、法的な支払義務を負ったかが問題。
原告:
MOEXなどが、流出原油の清掃費用について、アメリカ政府や州などBP社以外の第三者に対して、支払義務を負った⇒それが元受保険の填補対象となる。
but
本判決::
前記第三者に支払義務を負う額が判決や和解によって確定していることを必要とする約款が元受保険契約にあるが、前記の額は確定していない。
原告:
MOEXなどがBP社との操業協定により清掃費用の支払義務を負った。
vs.
BP社に、油濁損害の発生について、gross negligence or willful misconduct(重過失又は故意)がある場合には、操業協定上の分担義務をMOEXが負わない旨、前記操業協定の22.5条に規定がある。

本判決:
BP社に、油濁損害の発生について、gross negligence or willful misconduct があったと認定⇒BP社との操業協定上の支払義務を否定。
2014年に、BP社の米国水質汚濁防止法違反に関して、米国ルイジアナ東部地区地方裁判所が出した判決も、BP社のgross negligence or willful misconductを肯定する判断を示している。
原告:
BP社が第三者に対して、清掃費用を支払い、その求償義務をMOEXが負担した旨主張。

本判決:
この求償義務について、前記操業協定の第22.5条の規定が適用される旨判断⇒BP社に、gross negligence or willful misconduct がある本事例では、MOEXの求償義務も否定される。
  刑事p71
東京高裁R2.2.7  
  コインハイブ事件(有罪)
  事案 自己の運営するインターネット上のウェブサイト(音楽情報共有サイトA)の閲覧者が使用する電子計算機をもってその同意を得ることなく仮装通貨の採掘作業(マイニング)を実行させるコインハイブというプログラムコード(スクリプト本体)が蔵置された海外のサーバーコンピュータにアクセスさせ同プログラムコードを取得させて国内のサーバーコンピュータ上のAを構成するファイル内に同プログラムコードの呼出しタグ(「本件プログラムコード」)を蔵置させ保管した被告人の行為につき、不正指令電磁的記録保管罪(刑法168条の3)に該当するとして起訴。 
  原審 反意図性は認めたものの、不正性を満たさない⇒無罪 
  判断 原判決を破棄して有罪 
  主張 弁護人:
①アクセス制御機能によって管理されていない他人の計算資源を使用することは、現行法においても何ら禁止されていない(不正アクセス法2条4項)
検察官はコインハイブによる閲覧者の電子計算機への「使用権」の侵害が不正性の根拠と強弁するが、「使用権」の「侵害」なるものがいかなる法理に基づき本罪の評価に影響するのか判然としない。
②検察官は、特定の動作が使用者に不利益に働く余地がある場合には使用者の同意を要するというのがユーザー保護あるいはプログラムの信頼確保のための当然の原則。but法務省のウェブサイトでもそれは遵守されていない。
③検察官は、不正性の判断において専らウェブサイト閲覧者の利益損失を重くみて設置者の利益損失は考慮に値しないとの独自の価値観を力説。
but
インターネットは互恵的に情報共有するための媒体。
④検察官は、呼出しタグを本件プログラムコードとするが、マイニングを実施するスクリプト本体を本件プログラムコードを捉えているかのよう⇒被告人は当該スクリプトを保管しておらず、無罪。
   規定 刑法 第一六八条の二(不正指令電磁的記録作成等)
 正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
2正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
3前項の罪の未遂は、罰する。

刑法 第一六八条の三(不正指令電磁的記録取得等)
 正当な理由がないのに、前条第一項の目的で、同項各号に掲げる電磁的記録その他の記録を取得し、又は保管した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
  解説 電子計算機(コンピュータ)による情報処理はプログラムによって行われるところ、そのプログラムは、容易に広範囲の電子計算機に拡散する上、その機能全てを使用者が認識するのは困難

電子計算機のプログラムが使用者にとって信頼に値するといえるためには、電子計算機による適正かつ円滑な情報処理ひいては電子計算機の社会的機能を確保することが不可欠。

使用者の意図に反し不正な電子計算機のプログラムの作成、提供、供用、取得及び保管といった各段階の行為を処罰することにより、電子計算機のプログラムが電子計算機の使用者の「意図に沿うべき動作をせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令」を与えるものではないという社会一般の信頼(社会的信頼)を保護し、電子計算機による適正かつ円滑な情報処理ひいては電子計算機の社会的機能を確保するため、刑法168条の2以下に係る不正指令電磁的記録に関する罪が新設された。 
刑法168条の2以下の規定の趣旨
⇒プログラムに対する社会的信頼の保護と電子計算機による適正円滑な情報処理の確保という観点から当該プログラムの社会的許容性を判断。

反意図性:当該プログラム使用者からみて許容し得るかという視点で許容不可とされた場合に不正性(社会的許容性)が問題視される建付

不正性の場面では使用者以外のより広い視点から当該プログラムを許容し得るかどうかを判断するとの選択もあり得る。

電子計算機による適正円滑な情報処理力確保の点をより広い意味合いで捉えると社会基盤としての役割を担うに至ったコンピュータとインターネットの社会的機能を持続発展させるとの視点から本件プログラムコードの不正性を論ずることも考えられる。
コインハイブのスクリプト本体が蔵置されたサーバーコンピュータにリンクされる呼出しタグ(HTMLコード)はそれ自体マイニングの能力を持たずスクリプト本体がないとその機能を発揮し得ない⇒この呼出しタグをスクリプト本体と同等のものと当然視してよいか?
    2445
  p3
大津地裁R2.3.31  
  湖東記念病院再審請求事件無罪判決
  経緯  確定判決(1審判決、控訴・上告は棄却で確定)の理由の骨子:
①解剖医Cの鑑定及び証言によって、患者の死因が意図的な酸素供給途絶による低酸素状態に起因する急性心停止と認定できる
②同酸素供給途絶の原因として考えられるのは、人工呼吸器の誤作動、何者かの過失行為又は故意による加害行為であるところ、関係証拠から、故意による殺害以外の可能性は否定される一方で、被告人には犯行の機会及び人工呼吸器に関する知識があった⇒被告人の自白供述に信用性が認められる。 
  第一次再審請求
第二次再審請求⇒即時抗告審で再審開始決定(「後藤決定」)⇒検察官の特別抗告棄却⇒再審公判 
  解説  ●再審公判の審理方法 
刑訴法451条1項:「裁判所は、再審開始の決定が確定した事件については・・・その審級に従い、更に審判をしなければならない」
本件:確定判決の審級が第1審

再審公判は、人定質問、起訴状朗読から始まり、証拠調べを経て、論告、弁論、被告人の最終陳述に至るまで、起訴状謄本の送達が不要であることや起訴状一本主義の適用がないことなどの例外を除き、通常第1審の公判手続に従って新たに審理が行われる。
刑訴法にはそれ以上に特別の規定なし。
A:確定審と関係なく新たに行われるべき(覆審説)
B(実務):破棄差戻し審に準じて公判手続と同様の手続によるべき(続審説)

再審が、誤って有罪判決を下された可能性がある場合に新たに審理して判決を言い渡す手続であるので、基本的に確定審の証拠調べも踏襲した上で、新たな証拠調べを行うべきと考えられる。
本件:続審説
松橋事件の再審無罪判決では覆審説
  争点と主張  再審公判における検察官の態度:
A:有罪主張を維持するもの
B:無罪論告をするもの
C:有罪主張はしないものの、無罪論告もせず、適切な判決を求めるとするもの
本件:
取調済みの証拠に基づき適切な判断を求めると述べ、新たな立証を行わなかった。
検察官は確定審でおkなった主張の撤回をしていない⇒実質的には、なお当事者間の主張に争いのある事件。
争点:
①患者の死因
②被告人の捜査段階の自白供述の任意性、信用性
  判断  ●争点①(死因)についての判断
確定判決において高い信用性が認められた解剖医Cの鑑定書及び公判供述のうち死因の判断部分について、
①解剖時の検査結果によっても、形態学的な変化をもたらさない機能性疾患により死亡した可能性は排斥されず、
②仮に酸素供給欠乏による窒息死であると判断し得たとしても、解剖所見等による裏付けがなければ人工呼吸器の管の外れと判断することはできない。

確定判決と真逆の評価。
解剖医の示した結論が、警察官から提供された、真偽が疑わしい解剖所見外の情報に依拠して導かれた疑いがある(後藤決定で判示)
異常発見時の患者の顔面は蒼白であった⇒同事実は患者の死因が酸素供給遮断による窒息死であることとそぐわない。
(本判決は、解剖医Cが、救命措置施行前の患者の顔面に係る客観的事実を警察官から情報提供されていなかったと認定)
後藤決定以前に提出されていた山本医師、小出医師の各意見書に加え、再審開始決定確定後に作成された、法医学を専門とする吉田医師及び重症患者管理を専門とする福家医師の各意見書が弁護人から証拠請求⇒採用。

解剖医Cが検討していない患者の入院期間中(本件発生前の約8か月間)の検査記録を含む診療経過を踏まえ、C鑑定で示された客観的な解剖所見をも前提として合理的に導かれた内容。

C鑑定等の信用性に疑いがあり、かつ、酸素供給遮断以外に具体的に想定できる死因が複数認められるが、本件では被告人の自白供述がある。
仮にこの信用性が肯定できるのであれば、C鑑定等を補強証拠として、事件性及び被告人の犯人性が肯定できる可能性がある。
  ●争点②(自白供述の任意性、信用性) についての判断
◎検討の論理的順序及び信用性に関する判断
①自白の任意性、信用性の検討順序について、証拠能力の問題である任意性を先行させるのが論理的。
②一般に、自白に至っている被告人であっても、多少なりとも自己の刑事責任の軽減を図り、あるいは不都合な事実を隠蔽するなどの動機から、一部につき不合理な弁解をすることや、葛藤の中で供述が小出しになったり変遷することも実務上見られる。
⇒自白の任意性と信用性とは必ずしもリンクするものではない。
but
本判決:
本件の特質から、任意性と信用性の判断要素が相当程度重複する⇒信用性の判断を先行。

後記任意性に関する判断内容に照らすと合理的なものであったといえ、精緻な検討を可能にするための工夫と評価することが可能。
本判決:
①被告人の自白はめまぐるしく変遷しているが、特に、管の抜去による殺害を認めながら、人工呼吸器の消音状態維持機能を知った時期・方法については激しく変遷する動機は想定できない。
~後記任意性の判断にも強く関連する事情となる。

②死に瀕した患者が、病状に照らして医学上あり得ない多様な表情変化をさせたと述べる点で、被告人の自白は客観的証拠と矛盾している。

被告人の自白単独でも、これにC鑑定等を併せてみても、患者が酸素供給遮断状態を生じたために死亡したと認め得るほどの自白の信用性はない。
  ◎任意性に関する判断 
〇  自白が「任意にされたものでない疑」(刑訴法319条1項、322条1項)があるといえるか否かにつき、これまで判例は、事案に応じた個別性の高い判断を示してきた。
・暴行・脅迫によるもの
・不当に長時間にわたる取調べによるもの
・起訴猶予にするという約束に基づく自白
・切り違い尋問による自白
・糧食差入れ禁止中及び禁止後の自白等
について、任意性に疑いがあると判断された事例がある。
任意性のない自白を排除

①虚偽廃除
②人権擁護
③違法排除
の各観点
  〇規範定立
  本判決:
任意性のない自白の証拠能力が証拠能力が否定される根拠に立ち返り、
捜査手続の違法・不当性及び被疑者の人権侵害の有無を中心に据えた上、
虚偽供述である可能性の点も付加して総合的に検討すべきであるとし、
その供述がなされる過程における
①人権侵害の有無・程度
②捜査手続きの違法・不当性の有無・程度
③当該自白供述に与えた影響の有無・程度(因果性)
④それらの事情による虚偽供述誘発のおそれ等
を総合考慮して判断するのが相当であり、
その際には、
⑤供述者側の事情(例えば、年齢、精神障害等の有無・内容)も考慮しつつ、実質的・具体的に判断すべきものであるとし、
任意性に関する規範を定立。

「実質的」

外形上自発的に供述しているかのように見える場合でも、違法・不当な捜査手続等によって誘発された実態がある場合には、任意性を否定し得る。 
捜査の違法・不当性及び人権侵害の有無を考慮要素の中心に据えている。

虚偽排除の観点は、被疑者が、拷問により真実を自白した場合を説明できず、単体で中心に据えるには疑問。
検討要素を列挙した上での「総合考慮」
vs.
①ミランダ判決以前の、事情の総合説ないし事情の総体的アプローチによる事後的規制への回帰するもので不当
②個々の事情の持つ法的意味が明らかにならず、判断が不明確
③許容される取調べの限界を明示する機能を有さず、取調べ実務を有効に規制できない
④取調べ手続に違法があっても総合判断の一要素に過ぎなくなる
vs.
①本判決は、規範定立に至る部分において、捜査の違法・不当性及び人権侵害の有無を考慮要素の中心に据えることを前提として、自白排除の判断に際しいかなる要素がどのような意味を有しているかの点につき位置付けを明示
②あてはめ部分においても、取調警察官による不当な誘導や、被疑者の秘密接見交通権、弁護人による弁護を受ける権利の実質的侵害といえるかの点を中心に据え、規範として示した位置付けに従って検討

本判決は、基本的には我が国の判例の流れ(3つの観点を踏まえ、当該事案において重視すべき観点を違えながら事例判断をする)の中に位置付けられる。

本判決がこれまで任意性判断において考慮されることの少なかった供述者側の事情(年齢や精神障害等の有無・内容)を考慮要素として明示している点は非常に重要。

そもそも取調べ空間が捜査機関の支配・影響下にあるという点に十分留意する必要。
  〇あてはめ 
①F警察官は、被告人の迎合的な供述態度や自らに対する恋愛感情等を熟知しつつ、これを利用して被告人の供述をコントロールする意図の下、弁護人との信頼関係を損なうような言動をするなどして、被告人に対し、強い影響力を独占的に行使し得る立場を確立した上、捜査情報を教示しつつ、これと整合的な自白を獲得するために誘導
②このような操作は、被告人の秘密接見交通権や弁護人による弁護を受ける権利を実質的に侵害するものと言えるうえ、
知的障害等や愛着障害から迎合的な供述をする傾向が顕著である被告人に対し、前記のような誘導的な取り調べを行うことは、虚偽供述を誘発するおそれが高く不当。
③被告人が、弁護人と接見する度に否認に転じていた⇒F警察官の言動により被告人・弁護人間の信頼関係が揺らぐことがなければ、F警察官が被告人大使、強い影響力を独占的に行使し続けることは困難⇒本件自白供述は、F警察官の取調べによって誘発された。
④捜査機関側の事情に加え、知的障害等・愛着障害の特性から、通常であれば想定しがたい状況と考えられる取調警察官に恋愛感情を抱いたという被告人側の事情も含めて総合考慮

自白供述は、実質的にみて、自発的になされたものではなく、防御権侵害や捜査手続の不当によって誘発された疑いが強く、「任意にされたものでない疑」がある⇒証拠排除。
本判決:
証拠採用された精神保健指定医小出作成に係る意見書に信用性を認め、被告人が知的・発達障害及び性格的特徴としての愛着障害を有していたこと、さらにF警察官がこれらの実質を認識した上で、これを利用して自白を獲得したという一連の経過を認定。
  民事p35
名古屋高裁R1.5.17  
  大学院の学費、留学費用等と特別受益(否定)
  事案 XとY1は亡AとY2との間の子
Y2は亡Aの妻
Y3は亡Aと前妻との間の子 
亡Aは平成26年3月に死亡し、相続開始。
XがYらに対し亡あの遺産分割を求めて申し立てた調停が不成立⇒審判の事案。
XとY1は、相手方の特別受益を主張し、
Xの大学院生活及び留学生活に対する費用負担が特別受益に当たるかが争われた。
  判断 学費、留学費用等の教育費については、被相続人の生前の資産状況、社会的地位に照らし、被相続人の子である相続人に高等教育を受けさせることが扶養の一部であると認められる場合には、特別受益には当たらない。
本件においては、亡A一家の教育水準等に照らして、Xの大学院の学費、留学費用は特別受益に該当するものではなく、仮に特別受益に該当するとしても、亡Aの明示又は黙示による持戻免除の意思表示があったものと認められる。
  解説 高等教育、留学等のために、被相続人が支出した費用、相続人に贈与した金員は、被相続人の生前の資産状況、社会的地位、他の相続人との比較等に照らし、被相続人の子である相続人に高等教育を受けさせることが扶養の一部であると認められる場合には、特別受益には当たらないと解するのが相当。
本件:
亡A一家は、経済的に豊かな家庭で、教育水準が高い

亡Aにおいては、子らに、その能力に応じて4年生大学等の高等教育を受けさせることは当然に予定していたものと推測。
but
大学院への進学、仏、英、米の各国での10年に及ぶ留学⇒問題。
①亡Aが、Xが学者、通訳者又は翻訳者として成長するための時間と費用を費やすことを許容
②亡AがY1やY1の妻に対しても高額な時計、宝飾品、金銭等を贈与
③Y1も国立大学に進学していたこと等

亡Aが支出した費用の額、亡Aの遺産の規模等に照らせば、Xの大学院の学費、留学費用は特別受益に該当するものではなく、仮に特別受益に該当するとしても持戻し免除の意思表示があったと認めるのが相当。

Xのみならず、Y1も亡Aから多大な援助を受けており、Xの学費について特別受益該当性を否定しても、相続人間の公平を失わせることはないと判断。
  民事p53
東京高裁H31.2.28  
  実施法により子の常居所地国(ロシア)への返還を求めた事例で、ロシア国内の裁判所での判断の影響
  事案 子Cの父であるBが、母であるAに対し、Aによる連れ去り(本件連れ去り)により子Cに対する監護の権利が侵害されたと主張して、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(実施法)に基づき、子Cを常居所地国であるロシアに返還することを求めた事案。 
抗告審係属中に、ロシアの(H州)I市裁判所が、
BのAに対する本訴請求(子Cの居住地をBの下とすることや子Cとの面会交流について求めるもの等)及び
AのBに対する反訴請求(子Cの居住地をAの下とすることやロシアからの出国禁止命令の撤回を求めるもの)
につきそれぞれ審理の上、本訴請求を棄却し、反訴請求を認容。
子Cの居住地をAの下とするとともに、
Aが子Cを連れてロシアから日本へ出国することを許可することを禁止する命令を撤回し、Bの承諾なく、Aが子Cを連れてロシアから日本へ出国することを許可。
  規定 実施法 第二八条(子の返還拒否事由等)
3裁判所は、日本国において子の監護に関する裁判があったこと又は外国においてされた子の監護に関する裁判が日本国で効力を有する可能性があることのみを理由として、子の返還の申立てを却下する裁判をしてはならない。ただし、これらの子の監護に関する裁判の理由を子の返還の申立てについての裁判において考慮することを妨げない。
  争点 A:抗告審において
①前記決定が確定すれば、「常居所地国の法令によれば、当該連れ去り又は留置が申立人の有する子についての監護の権利を侵害するもの」(実施法27条3号)という要件を欠くことになるし(争点①)、
②子の監護をめぐる争いにつき常居所地国で裁判所による決定がされたにもかかわらず、敢て子を返還することは条約及び実施法の趣旨に合致しない(争点②)
と主張。
  判断  ●ロシアのI市裁判所の決定理由が返還事由に与える影響(争点①) 
実施法28条3項本文⇒同決定が日本国で効力を有する可能性があることのみを理由として、本件申立てを却下することはできない。
同決定の理由の本件における子の返還事由の判断への影響:
・・・・
ロシア法によれば、本件連れ去りはBの監護権を侵害するものであったと認められる。
  ●ロシアのI市裁判所の決定理由が返還拒否事由に与える影響 
I市裁判所の決定は、子CがBの下に居住することは子Cの精神状態に極めて有害な影響を及ぼすと考えられる旨説示
but
ロシアへの子の返還とBへの子Cの引渡しは同義ではなく、I市裁判所の決定はAがロシアで子Cを監護することを妨げるものではない。
・・・・

本件において子Cの返還拒否事由が認められないという判断は妨げられない。
  ●常居所地国で裁判所による決定がされた後に、子を返還することの可否 
むしろ子Cを迅速にロシアに返還し、I市裁判所の決定の上訴審での審理を含めて、その監護に関する紛争の解決を図ることがむしろ条約の趣旨にかなう。
  Aの主張:
常居所地国で同居親を監護者とする裁判所の判断が確定した場合であっても返還命令を出すことは、子の人権を侵害するものである。
vs.
①I市裁判所の決定がそのような趣旨の判断であるかはにわかに判断することができない
②仮にそうであったとしても、子の返還を命ずる終局決定が確定した後に事情の変更によりその決定を維持することが不当と認められるに至ったときは、子の返還を命ずる終局決定を変更することもできると解される(実施法117条、118条)

I市裁判所の決定の確定を待つことなく子Cの返還を命じたとしても子Cの人権を侵害することにはならない。 
  解説 子が連れ去られた先の国において、その国で子の監護に関する裁判がされたことや他の国においてされた子の監護に関する裁判がその国で効力を有する可能性があることを理由に子の返還が拒否されてしまうと、子が国境を超えて不法に連れ去られ、又は留置された場合の子の監護に関する紛争については子の常居所地国で会得k津されるのが望ましいという条約の考え方に反することになりかねない。
but
これらの子の監護に関する裁判においては、親及び子の生活状況、親子の関係性等がその理由として考慮されていることもあり、有用な場合もある。

実施法28条3項の規定。
  民事p63
福岡高裁那覇支部R1.10.7  
  刑特法の適用にあたり国賠が認められた事案、刑特法の憲法違反は否定
  事案 Xは、沖縄県名護市辺野古沿岸の米軍基地建設に対する抗議活動等として、日米安保条約により米軍の使用が許され、一般人の立入りが常時禁止されている同沿岸区域に浸入し、その身柄を米軍に拘束された。 
海上保安官は、Xの身柄拘束から約8時間経過後に米軍施設内において米軍からXの身柄の引渡しを受け、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法(刑特法)12条2項の定める緊急逮捕類似の手続によって、事前の逮捕状の発付なく、Xが制限区域に侵入して米軍の退去警告に応じず退去しなかったことを被疑事実として、その身柄の拘束を続けることとした(本件緊急逮捕的身柄拘束)。
海上保安官は、その後直ちに身柄拘束に係る逮捕状の発付を受け、Xに、検察官に送致された後、釈放された。
Xが、Y(国)に対し、
(1)米軍に拘束されてから海上保安官に引き渡されるまで約8時間要したことについて、
①海上保安官が、直ちにXの身柄を引き受けなかったこと、
②米軍が、直ちにXの身柄を引き渡さなかったことなどが、
それぞれ憲法33条等の趣旨に反して違法である
⇒国賠証1条1項等に基づき、慰謝料等60蔓延及びこれに対する遅延損害金の支払を求め
(2)引き続き本件緊急逮捕的身柄拘束されたことについて、
①刑特法12条2項の定める緊急逮捕類似の手続は、対象犯罪を限定せずに現行犯以外での無令状体を認めるもので憲法33条、31条に違反⇒これを立法し、改廃しなかった国会の行為は違法
②本件緊急逮捕的身柄拘束は、刑特法12条2項に従って行うものとしても、同項の趣旨等に違反して違法

国賠法1条1項に基づき、慰謝料等60万円およびこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
  原審 (1)①及び(2)②の各行為は国賠法上違法⇒各行為によりXが被った損害をそれぞれ4万円(慰謝料3万円、弁護士費用1万円)ずつ⇒Xの請求を、合計8蔓延及びこれに対する遅延損害金の支払を命じる限度で認容。
Xの身柄の引受けの遅延((1)①)について:
①憲法33条の趣旨や、この場合における逮捕の制限時間や起算点が米軍による身柄拘束時ではなく司法警察員等による身柄の引受時とされていること(刑特法12条4項)等⇒米軍から身柄を引き渡す旨の通知を受けた志保警察員等は、職務上直ちにその身柄を引き受けるべき高度の注意義務を負い、米軍からの身柄拘束の原因の聴取りや、身柄の引渡しを受けるのに不可欠な事務上の手続に要する時間を超えて、身柄の引受を遅延することは許されない。
②海上保安官は、Xを引き渡す旨の通知を受けてから遅くとも2時間以内には、米軍から身柄拘束の原因を聴き取り、身柄の引渡しを受けるのに不可欠な事務上の手続を行なうことが可能

同通知から約8時間経過後にXの身柄を引き受けた海上保安官の行為には国賠法上の違法がある。
海上保安官によるXの身柄の引受けの遅延が違法⇒これに引き続いてされた本件緊急逮捕的身柄拘束についても国賠法上の違法がある。
  判断 ●国賠請求について原審維持。
  ●  ●刑特法12条2項の合憲性について: 
  憲法33条の令状主義の下で、事後審査に基づく身柄拘束が許容されるためには、刑訴法210条の緊急逮捕と同様に逮捕の必要性・緊急性が高いといえる一定の事情があることが必要であり、
そのような事情としては逮捕の対象犯罪が一定の法定刑以上のものである場合に限られないものの、刑特法12条2項はその対象犯罪という面のみからみればいささか広きに失している感は否めない。
Xは、日米地位協定等の規定により現行犯として身柄拘束(現行犯的身柄拘束)された者であるところ、憲法33条は、現行犯逮捕について、犯罪と被逮捕者の結びつきが明白で、司法審査を経なくても誤認逮捕のおそれがなく、その状況自体から逮捕の必要性・緊急性が高いといえることから、令状主義の例外として許容⇒これを受けて刑訴法も、対象となる罪種自体は制限することなく無令状での逮捕を認める。
米軍による現行犯的身柄拘束も、誤認逮捕のおそれがなく、その状況自体から逮捕の必要性・緊急性が高いといえる点は刑訴法上の現行犯逮捕と同様⇒刑特法12条2項は、少なくとも米軍により現行犯的身柄拘束されたXの引渡しに適用される限りにおいては、憲法33条の趣旨に反するものではない。
同項は、少なくとも現行犯的身柄拘束されたXの引渡しに適用される限りにおいては、何ら明確性に欠けるところはなく、憲法31条に反するものではない。
  解説 憲法33条は、何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ逮捕されないとして、いわゆる令状主義を規定。 
刑特法12条2項と同様に、一定の要件の下、事前の令状の発付を得ずに逮捕を許容している刑訴法210条と憲法33条の関係:
最高裁昭和30.12.14:
法定の厳格な制約の下に、罪状の重い一定の犯罪のみについて、緊急やむを得ない場合に限り、逮捕後直ちに裁判官の審査を受けて逮捕状の発行を求めることは、憲法33条の規定の趣旨に反するものではない。
  民事p67
山形地裁R1.8.6  
  自白の撤回・時期に後れた攻撃防御方法
  事案 重要文化財に指定されている3本の日本刀を所有していたと主張するXが、盗難で所在不明となっていた本件各刀剣をYが買い取り占有しているとして、所有権に基づき本件各刀剣の引渡し及び本件各刀剣の引渡しが不能であった場合に備えた代償金の支払を求めるとともに、Yによる自白の撤回について不法行為に基づき損害賠償金の支払を求めた。 
訴訟の開始当時:
Yは、Xが本件各刀剣の所有者であることとYが本件各刀剣を自身の金庫で保管し占有していることを認めていた。
but
その後、Yが購入し保管している刀剣は本件各刀剣の偽物であると判明⇒本件各刀剣をYが保有していることなどに係る自白を撤回。
X:
自白の撤回自体を争うとともに、
当該自白の撤回は、訴訟提起後2年以上経過し、裁判所による争点整理案が作成され、証人等の尋問期日が指定されるなど相当程度訴訟が進行した時点でなされている⇒時期に遅れた攻撃防御方法であるとして却下されるべき。
  解説  ●自白の撤回の可否 
民訴法9条:
自白が成立⇒証明が不要であり、この証明不要効により裁判所及び当事者に対する拘束力が生じる。
自白が成立⇒それを前提として訴訟行為が行われることから、その撤回が安易に許されれば審理の混乱、遅延を招き、相手方に不利益を与える
⇒自白の撤回は、一定の要件を満たした場合を除き認められない。
相手方の同意がある場合や、自白が相手方または第三者の詐欺・強迫その他刑事上罰すべき他人の行為によって自白するに至った場合を除くと、
判例では、自白が真実に合致しておらず、かつ錯誤に基づいてされたことが証明されたとき、自白の撤回ができる。
反真実が証明⇒錯誤を否定すべき特段の事情がない限り、錯誤に基づいてなされたと認められる。
判例は、過失の有無は問題としていない。
  ●時期に遅れた攻撃防御方法 
自白の撤回自体も攻撃防御方法⇒自白の撤回の主張が、撤回の可否の検討とは別に、時期に遅れた攻撃防御方法(157条1項)として却下されることはあり得る。
法157条1項:
①時期に遅れて提出した攻撃又は防御の方法であること
②それが当事者の故意又は過失に基づくものであること
③当該提出により訴訟の完結を遅延させることになること
の要件。

①については、
各事件の具体的な進行状況や当該攻撃防御方法の性質に即して、個別具体的に当該提出時期よりも早期に提出することが期待できる客観的な事情があったかで判断。
  判断 ●自白の撤回 
Yの本件各刀剣の占有に係る自白について、
①Yが本件各刀剣であると考え仲介人から購入した刀剣3本は、本件各刀剣とは同一の刀剣ではないと認められる
②Yが本件各刀剣を占有していたことに関する錯誤が認められない特段の事情もない

自白の撤回を肯定。
●時期に遅れた攻撃防御方法 
Yは訴訟係属当初に適切な調査を行っておらず、軽率な面が認められる
but
①Yが購入した各刀剣が本件各刀剣とは異なると判明したのは裁判所に対する報告を求められたことがきっかけ
②弁論準備手続終結前という主張の時期
③自白に至った経緯
④当該自白の内容であるYが本件各刀剣を占有しているという事実は、引渡し請求を基礎付ける内容であり、真実発見の要請も大きい

自白の撤回の主張それ自体が時期に遅れて提出されたとまではいえない。
  刑事p78
東京地裁立川支部H30.5.7  
   
  事案 駅の改札口において、駅員に対して不満を述べていた被告人が脅迫罪で起訴⇒無罪の事案。 
  争点  被告人が、駅員に対して、着衣んの袖をまくり上げるなどして腕の入れ墨を見せつけ「なんでこの野郎」と怒鳴りながら、足で駅員の身体を蹴りつける仕草をするなどの行為の有無。 
  判断・解説  ●防犯カメラの検討 
まず防犯カメラの映像を十分検討するところから始めている。

見せつけ行為も蹴りつけ行為も、映像上認めることはできない。
  ●関係者の供述の信用性 
検察官が立証の柱としていた駅員と警察官(P2)の各証人尋問は2回行われた。
それぞれ1回目の証言内容が防犯カメラの映像と齟齬⇒再尋問⇒供述の信用性にかなり致命的な打撃。
駅員:
1回目は訴因に沿うような証言。
2回目:見せつけ行為について、現行犯逮捕した警察官のもう1名(P1)の事件後ほどなく実施された被害再現捜査の際の言動から、警察官P1がいうのならそのとおりであろうと思って1回目の証言をした。
⇒2回目の被告人の行為に関する証言もP1の言動に影響されている可能性が相当程度あると判断。

蹴りつけ行為についても、1回目の証言内容はP1の再現したものと同じ⇒P1言動の影響は否定できない。
P2:
1回目の尋問では、見せつけ行為及び蹴りつけ行為を具体的に証言していながら、
それが防犯カメラ映像と齟齬することが明らかになった後に実施された2回目の尋問では、見せつけ行為も蹴りつけ行為も見ておらず、自分が見ていた場面と他の警察官から聞いた話を混同したと思うと証言。

訴因を認めるための証拠とはなり得ない。
P1の証言は、警察官として現場に臨場して状況をうかがった上で被告人を現行犯逮捕⇒逮捕の理由たる被疑事実について正確に認識しているはず
but
事件当日における認識dえすら被告人の見せつけ行為の場面に関し、防犯カメラ映像と齟齬

他の点についても、状況を正確に把握していたといえるか疑問であるとして信用性を否定。
  検察官が立証の柱としていた証人2人が、1度は自らの記憶ではない可能性を認識しつつ、事実と異なることを平然と証言していた。
ある者の認識や証言が、他の関係者に不当な影響を与え得ることはつとに指摘されている。 
2444    
  民事p3
横浜地裁R1.10.30  
  競売手続で建物共有者に交付された剰余金についての不当利得返還請求
  事案 XとYは親子。
X単独所有の土地の上にX・Y共有(Xの持分100分の1、Yの持分100分の99)の建物が存在し、Yの実体法上の土地利用権は使用借権。 
前記土地建物が一括競売された担保不動産競売手続において、実体法上は法廷地上権が成立しないが、競売の評価上は法定地上権が成立すると扱われて売却基準価額が定められ、同売却基準価額に応じて売買代金を按分する売却代金交付計算書に基づいて剰余金がXとYとに分配⇒同分配により、Xが損失を受け、YがXの損失により利得しているとして、XがYに対し、不当利得返還請求を行った。
  説明 土地が単独所有で建物が共有であり、土地及び建物全部に抵当権が設定され土地建物全部が競売される場合、法定地上権は成立するものの、買受人が土地建物の所有権を取得⇒現実の利用権としての法定地上権は発生しないが、執行実務上、競売手続の評価上は法定地上権が成立するものとして評価が行われる。 
本件も、売買基準価額の前提となっている評価書においては、建物に法定地上権が成立することを前提に、土地利用権等割合は0.65とされており、その結果、売買基準価額は、土地が2542万円、建物が5790万円とされ、弁済金交付手続においては、この売買基準価額に応じて剰余金が按分され、Xに対し2971万2758円、Yに対し6550万8866円交付された。
他方で、実体法上の土地利用権は使用借権であるところ、こてを前提に、土地利用権等割合を0.1とすると、売却基準価額は、土地が6535万円、建物が1796万円となり、この売却基準価額に応じて剰余金が按分されると、Xに対し7489万9448円、Yに対し2032万2176円交付されるべきこととなる。
  争点 不当利得返還請求の要件である、①Yの利得、②Xの損失、③利得と損失の因果関係、④法律上の原因がないことのうち、
①②④が認められるか。 
  判断  ①②④を肯定し、不当利得返還請求を認容。 
  ①②:
剰余金は、担保不動産の所有権の価値代替物⇒複数の担保不動産の所有者に対して剰余金が分配される場合、各所有者は、各自が担保不動産の上に有していた実体法上の権利の価値に応じ、剰余金を受領する実体法上の権利を有する。
所有者のうちに、弁済金交付手続において交付された剰余金が、実体法上の権利の価値よりも低いと評価できるものがいる場合には、損失があるといえる。
  ④:
配当期日において配当異議の申出がされることなく配当表が作成され、この配当表に従って配当が実施された場合において、同配当の実施は係争配当金の帰属を確定するものではない。
弁済金交付手続は、期日の指定を必要としないなど、配当手続よりも簡易な手続であって、なおのこと係争弁済金、剰余金の帰属を実体法上確定することを目的とするものではない。
執行裁判所が弁済金交付手続きによって剰余金を保持する実体法上の権利を取得することにはならず、同剰余金の受領に法律上の原因があるということはできない。
  解説  不動産競売事件の配当期日において、配当異議の申出等をしなかった債権者が、配当実施後に、債権又は優先権を有しないにもかかわらず配当を受けた者に対し、不当利得返還請求ができるか?
最高裁(H3.3.22)は、抵当権者についてこれを肯定

①抵当権者は抵当権の効力として抵当不動産の代金から優先弁済を受ける権利を有しており、他の債権者が債権又は優先権を有しないにもかかわらず配当を受けたときは、同優先弁済を受ける権利が害されることとなり、この場合には、同債権者は同抵当権者の取得すべき財産によって利益を受け、同抵当権者に損失を及ぼしたものとなる。
②配当期日に配当表に従って実施された配当は、係争配当金の帰属を確定するものではなく、これをもって利得に法律上の原因があるとすることはできない。
配当期日に配当異議の申出をしなかった一般債権者が配当を受けた他の債権者に対して不当利得返還請求ができるかについては、最高裁は、これを否定(最高裁H10.3.26)。

抵当権者は執行目的物の上に有する実体法上の優先弁済権を害されたことによる損失があるといえるのに対し、一般債権者は執行目的物の上に実体法上の権利を有するものではないから損失があるといえない。
競売によって所有権を失った者(執行債務者)は、債権又は被担保債権を有しないのに配当を受けた債権者に対して、配当を受けた分について不当利得返還請求をすることができる。
(最高裁)
  本件は、配当手続ではなく、弁済金交付手続と不当利得返還請求権に関するものであるが、Xが執行目的物の上に有する実体法上の権利を害されたことよる損失を認め、弁済金交付手続は剰余金の帰属を実体法上確定することを目的とするものではないとして法律上の原因を否定したもの。 
  民事p13
東京高裁H31.3.27  
  常居所地国であるブラジルへの子の返還が認められた事例
  事案 子Cの父であるBが母であるAに対し、Aによる連れ去りによりBの子Cに対する監護の権利が侵害されたと主張⇒国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(「実施法」)に基づき、子を常居所地国であるブラジルに返還することを求めた。 
  争点 ①子の常居所地国
②いわゆる連れ去りの同意又は承諾の返還拒否事由の有無(実施法28条1項3号)
③いわゆる重大な危険の返還拒否事由の有無(同項4号) 
  判断・解説   ●常居所地国(争点①) 
  原決定・本決定:
「常居所」とは、人が常時居住する場所で、単なる居所とは異なり、相当長期間にわたって居住する場所をいう。
その認定に際しては、居住年数、居住目的、居住常況等子の生活実態に関する諸般の事情を総合的に考慮して、個別的に判断するのが相当。 
①子Cが日本に入国するまで1年8か月にわたってブラジルにおいて居住していた
②ブラジルを出国するまで1年以上にわたってブラジルの保育園に通園して家庭以外の社会と交流を持っていた
③ブラジル国民に付与される個人識別番号(総合登録番号)やブラジル旅券を取得するなどブラジル国民として生活する上で必要の各種の手続をとっていた
④Aはブラジルにおいて一時期仕事をしており、一定期間ブラジルに定住する意図を有していたことが窺われる

子Cの常居所地はブラジル。
依田論文:
状居地国の認定について、
「個別性が強く、定型的な判断に馴染まない面がある⇒常居所地国の認定基準を定式化することは難しい」
but
多くの決定例では、居住期間、居住目的、居住に至った経緯、居住状況等の諸要素が総合的に考慮され、事案に応じて個別的な判断がなされている。 
  ●連れ去りの同意又は承諾の有無(争点②)
  原決定・本決定:
実施法28条1項3号に規定する子の連れ去りの同意又は承諾とは、子が相当長期間にわたって日本に居住し続けることについて同意又は承諾を指し、子の返還を求める権利を放棄したと評価できる程度のものであることを要する。 
Bが旅券発行の申請手続に協力した事実について包括的に同意したと認めることはできず、子Cの返還請求権を放棄したと評価することはできない。
  依田論文:
実施法28条1項3号の返還拒否事由が認められるためには、「LBPにおいて、子が一時的に日本に滞在するにとどまらず、その後も日本に相当長期間にわたって居住し続けることまで同意又は承認し、もはや子の返還を求める権利を放棄したといえることが必要であるとする例が多い」 
  ●重大な危険(争点③) 
Aは、Bがブラジルにおいて昼間から酒を飲んだり、大麻を使用したりしており、子Cがブラジルに返還された場合、子Cがブラジルに返還された場合、子Cが大麻に触れたり、Bが子Cの面前で暴言を繰り返すなどして子Cの面前で暴言を繰り返すなどして子Cの心身に害悪が生じる重大な危険があると主張。 
原決定・本決定:
Bには従前から飲酒や薬物使用の問題があり、それが双方の間に懸念となっていたことや、Bがこれまでそれらの問題を改善できずにいることを認定しつつ、
Bの飲酒や薬物使用により子Cの監護んいおて具体的な危険が生じたことを認めるに足りる資料はない

子Cをブラジルに返還することにより、Bの飲酒や薬物使用に係る問題で子Cの心身に害悪を及ぼすことその他子Cを耐え難い状況に置くことになる重大な危険があるとは認めることはできない。
  重大な危険は、子の返還申立事件においてしばしば主張される返還事由。 
本件では、Aは、Bの飲酒や薬物使用の問題を指摘
but
実施法28条1項4号の返還拒否事由は、LBPとTPのいずれが監護権者として適格であるかを問題とするものではない
⇒仮にLBPに子の監護者として不適格な事情があったとしても、それによって子の監護に具体的な危険が生じていない以上は、返還拒否事由に該当すると認めることは困難。
  民事p20
大阪高裁R1.5.30  
  自動車保険契約における酒気帯び免責条項の解釈
  事案 損害保険会社であるX(被控訴人)が、Y(控訴人)との間で締結したYを被保険者とする個人総合自動車保険契約(「本件契約」)に基づき、Yが当事者となった交通事故について、Yに保険金を支払った⇒本件事故はYが酒気帯び運転をしていた際に発生したものであり、保険約款上の免責事由に該当⇒Yに対し、不当利得返還請求権に基づき、既払の保険金相当額の返還等を求め(本訴)、他方、Yが、Xに対し、本件契約に基づき、本件契約に基づき、本件事故によってYに生じた人的損害に係る人身傷害保険金のうち未払分等の支払を求めた(反訴)。
本件契約には、人身傷害保険契約のほか、車両保険契約、運搬・搬送費用特約が含まれているところ、本件契約に適用される普通保険約款・特約には、被保険者が道交法65条(酒気帯び運転等の禁止)1項に定める「酒気帯び運転またはこれに相当する状態」で被保険自動車を運転している場合に生じた損害に対しては、保険金を支払わない旨の定め。
  判断 酒気帯び免責条項の適用を認めて、Xの本訴請求を認容し、Yの反訴請求を棄却した原審を維持。 
  解説 酒気帯び免責条項が引用する道交法65条1項にいう「酒気を帯びて」とは、およそ社会通念上酒気を帯びているといわれている状態をいうものであって、身体にその者が通常保有する程度以上にアルコールを保有していることが外観上(顔色、呼気等)認知できる状態にあることをいい、酒に酔った状態であることや、運転への影響が外観上認知できることは必要とされていない。 
酒気帯び免責条項の解釈:
A:道交法65条1項と同様の酒気を帯びた状態での運転中の事故についての免責を定めたものであり、事故発生との因果関係も問わないという状態免責(字義どおりに解釈する厳格説)
B:何らかの制限的解釈をする制限説
本判決:
酒気帯び運転が許されないということは社会全般の共通認識であって公序を形成しており、酒気帯び免責条項は、この点を踏まえて定められたものと推認される⇒酒気帯び免責条項の解釈について厳格説の見解。
but
酒気帯び免責条項を適用する場合には、被保険者は交通事故による損失を一切填補されないこととなる
⇒酒気帯び運転をしたことについて、社会通念上当該運転者の責めに帰すことができない事由があるなどの特段の事情がある場合には、酒気帯び免責条項は適用されない。
  民事p28
東京地裁H31.3.28  
  レーシック手術と医療過誤・説明義務違反(否定)
  事案 レーシック手術ないしレーゼック手術を受けた患者Xらから、受診した眼科病院を開設していた医療法人Y1、同法人の理事長であるY2、治療に当たった医師Y3ないしY5に対して医療ミス、説明義務違反があった等⇒損害賠償請求。 
  説明 レーシック手術:エキシマレーザーを用いた屈折矯正手術の1つであり、角膜実質層を含む角膜表面近くを薄く切って蓋状のフラップを作成し、フラップを開けて、角膜実質にエキシマレーザーを照射して、角膜の形状を変化させることで、屈折を矯正し、網膜に焦点が合うように調整する手術。
角膜上皮のみをフラップとする手術をレーゼック手術という。 
  主張 Xらは、
①Yらには屈折矯正量が10Dを超えるレーシック等を行った過失
②Xらのインフォームド・コンセントなく屈折矯正率が6Dを超えるレーシック等を行った過失
があり、
③術後の合併症等についての説明を怠った等の過失がある。
  判断  ●主張①について 
①平成21年とその前の平成16年の日本眼科学会のガイドラインでは、エキシマレーザーによる屈折矯正手術につき10Dを限度と定めている。
but
その医学的根拠が必ずしも明らかではなく、
②10Dを限度とする合理的理由と考えられる角膜拡張症の防止について、本件眼科の医師らにはその発生を防止する措置が講ぜられており、
③コントラスト感度の低下を考慮して平成21年ガイドライン等が作成されたとするまで認めるに足りる証拠はない
④大学病院においても10Dを超えるレーシック手術をしており、米国では10Dを超えるレーシック手術が承認されている

Yらに10Dを超えるレーシック等を行ってはならない義務はない。
  ●主張②③について 
①平成21年ガイドライン等には、屈折矯正量が6Dを超えるレーシック等は、日常生活にとって極めて重要なコントラスト感度の有意な低下をもたらすと記載されているわけではない
②6Dを超えるとコントラスト感度が低下したことが認められ症例があることが記載された文献が存在するが、これから直ちに6Dを超えるとコントラスト感度が有意に低下すると説明する義務があるとまでは認められない

YらにはXらに説明する義務があるとまでは認められない。
その余の説明義務違反も否定。
  民事p44
福岡地裁R1.9.26  
  名誉毀損否定、名誉感情侵害肯定の事案。
  事案 Xは、C公立大学(福岡女子大学)に入学願書を提出⇒Xが男子であることを理由にXの出願を不受理に⇒本件不受理処分が憲法14条に違反する等と主張し、本件不受理処分の無効確認や損害賠償金支払等を求める訴訟(別件訴訟)を提起。
Y1(新潮社)は、Y2が編集・発行人を務める週刊誌に、「女子大に入りたい男」との表題で、Xによる別件訴訟について、「バカじゃないかしら。」「平等バカ」「そんなに小遣いが欲しいなら歌舞伎役者みたいに体を売ればいいじゃない。」等とする本件記事を掲載。
Xは、Y1及びY2に対し、本件記事が名誉毀損・名誉感情侵害に当たると主張⇒不法行為に基づき、損害賠償金220万円及び遅延損害金を請求。
  争点 ①名誉毀損について、同定可能性の存否、事実摘示及び社会的評価の低下の有無、違法性阻却事由の有無等
②名誉感情侵害について、同定可能性の要否及び存否、社会通念上許容される限度を超える侮辱行為の有無等 
  判断  ●名誉毀損について
①公立の教育機関において男女別学を維持することの是非など、社会的な関心が高く議論がある事柄⇒多様な意見が述べられることが当然に予定されており、記事の対象となる者の主張に対して批判的な意見や論評が述べられた場合であっても、そのことから直ちに、同人の当該主張が誤りであることが導かれるわけではなく、その社会的評価が低下するものとはいえない。
②本件記事は別件訴訟提起に対する批判の理論的な根拠等を示しておらず、読者は当該批判を(執筆者の)主観的なものと受け取るにすぎない。

社会的評価の低下を否定。
  ●名誉感情侵害について
①名誉感情侵害において、一般の読者を基準とした同定可能性は不法行為成立の要件ではなく、社会通念上許容される限度を超える侮辱行為か否かの考慮要素に過ぎない。
②本件記事の一部は、別件訴訟を提起することにより教育分野における逆差別を議論の俎上に載せようとしたXの意向を殊更に無視し、Xが到底受け入れられない提案(売春)をあえてすることによってXを攻撃するものであり、本件雑誌の社会的影響力や本件では同定可能性が肯定されること等⇒社会通念上許容される限度を超える侮辱行為に当たる⇒不法行為の成立を認め、55万円および遅延損害金の限度で請求を一部認容。
  解説 本判決:名誉感情侵害(侮辱)において、一般の読者における対象者の同定可能性が不法行為成立の要件ではない旨判示。
社会通念上許容される限度を超える侮辱行為によって名誉感情侵害が成立し得る(最高裁)。
名誉感情侵害は、表現の対象者が自分自身の人格的価値について有する主観的評価(主観的名誉)を保護法益とする⇒対象者が自己に関する表現であると認識できることは必要。
but
主観的評価に関与した一般の読者における同定可能性まで必要とはいえない。
名誉感情侵害は、名誉毀損と異なり公然性は不要であって、対象者のみに対する発言等によっても成立。⇒そもそも名誉毀損で問題となる「一般の読者」が観念できない場合であっても、不法行為は成立し得る。
本判決は、社会通念上許容される限度を超える侮辱行為か否かの検討を通じて一般人の捉え方を取り込むことはなお可能であり、不法行為成立の範囲を合理的に限定することができる⇒要件性を否定。
  民事p53
東京家裁H30.12.11  
  実施法28条1項1号(新たな環境への適応)の返還拒否事由があるとされた事案
  事案 子Cの養父であるとともに、子D、Eの父であるAが、母であるBに対し、Bの採れ去りにより子らに対する監護の権利が侵害された⇒国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づき、子らを常居所地国であるスペインに返還することを求めた。 
  規定 実施法 第二八条(子の返還拒否事由等)
裁判所は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる。

一 子の返還の申立てが当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時から一年を経過した後にされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応していること。

四 常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。

五 子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。
  争点 ①留置の開始時期といわゆる新たな環境への適応の返還拒否事由の有無(実施法28条1項1号)
②いわゆる重大な危険の返還拒否事由の有無(同項4号)
③いわゆる子の異議の返還拒否事由の有無(同項5号) 
  判断 ・解説 本件申立ては留置の開始から1年を経過した後にされたものであり、子らはいずれも新たな環境に適応している⇒Aの申立てを却下。
  ●留置の開始時期 
A主張:Bが子らをスペインに返還しない旨の意思を客観的に示したのは、Aが弁護士会の紛争解決センターに申し立てたADRでの協議が決裂した平成30年8月
本決定:
①Bが帰国予定日であった平成29年9月5日以降、子らをスペインに帰国させることなく日本に滞在させたままの状態に置いている
②Aにおいても、同日の経過を待って、スペインの中央当局に対し、子らの返還に関する援助申請をしており、子らの返還に向けた手続の必要性を認識している

遅くとも同日の経過をもって、Bは子らをスペインに返還しないことを明確に示し、AもBによる子らの留置を明確に認識したというべき
⇒平成29年9月5日に開始。
依田論文:
留置の開始時期については、TPが子を状居所地国に返還しない意思を示したと客観的に判断できる時点で認められる傾向にあり、
子の帰国に関する当事者間の交渉が決裂したため、TPが袋の航空券を失効させ、子を常居所地国に帰国させない旨をLBPにメール等で告知した時点等で留置の開始を認める例が多い。
  ●新環境への適応について 
3人の子のそれぞれにつき、学校や保育園における活動状況や地域社会とのつながりについての詳細な認定⇒新たな環境への適応を認めた。
①子C及び子Dについては、いずれも、来日後、目立った欠席をすることなく日本の小学校に通っており、校内活動においても周囲の児童を積極的に関わることができている
②子Cにおいては、音楽界の指揮者や代表委員になり、子Dについても他の児童をリードして遊ぶなど、集団生活の中で自らの役割を見出し、その役割を積極的に果たそうとしている
③子Eについては、継続的に日本の保育園に通園しており、当初は保育園での生活に慣れない様子も見られたが、現在では自ら話しかけることができるようになり、保育士との関係も良好であることや、日本語による言語能力も問題なく発達
④子らはいずれも、地域で行われる祭りや子供会の活動に参加しており、学校や保育園を越えて地域住民と関わることで、地域社会とのつながりを持つことができている
⑤子C及び子Dは、日本での生活を肯定的に受け止めている、子Eは、言語能力を含め心身共に順調に成長しているとうかがわれている

新環境である日本での生活に適応した。
  解説 金子1問1答国際的な子の連れ去りへの制度的対応:
子が新た環境に適応しているか否かを判断する際の考慮要素として、
「子の就学状況、課外活動への参加状況、子の友人関係といった子を取り巻く周囲の状況、子の心身の状況、子の言語能力といった子自身の生活状況等が考えられる」 
  労働p60
東京高裁H31.2.13  
  有期再雇用契約の成立を否定したが、別件訴訟を提起されたことを主な動機として再雇用契約の拒否・更新拒絶(雇止め)について不法行為が認められた事案
  事案 Y1:タクシー会社
Y2及びY3:Y1の代表取締役の地位にあった者
X1:Y1の従業員で組織される労働組合
X2ないしX13(個人原告ら):X1の組合員でY1との間で雇用契約を締結していた者
①個人原告らが、Y1に対し、Y1が個人原告らとの間で定年後の再雇用契約を締結せず又は更新拒絶(雇止め)をしたことにつき、客観的合理的理由が存在せず無効⇒雇用契約上の地位の確認を求めるとともに、前記地位にあることを前提として、雇用契約に基づく賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める請求
②Xらが、Yらに対し(Y2及びY3については、それぞれが代表取締役であった期間に再雇用拒否又は雇止めされたXらとの関係で)、Y1が、Y1に対して別件訴訟(未払賃金支払請求訴訟)を提起したX1の組合員ら(個人原告らを含む。)に対して同訴訟を取り下げるよう働きかけるなどしたことが不法行為に当たる⇒損害賠償(慰謝料)請求をした。
  判断  ●地位確認請求及び賃金支払請求について 
Y1においては、定年年齢が65歳とされ、定年後の再雇用については1年間の有期雇用契約を締結されていたが、平成26年17日以降はY1とX1との間で労働供給契約が締結され、X1は、Y1の申込みに応じて組合員を供給。
定年後にY1との間で有期雇用契約を締結した個人原告らについては、勤怠、健康状態等について問題がない限り75歳まで契約更新が可能となる限度において有期雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由(労契法19条2号)がある⇒雇止めの時点で75歳未満の者については、従前と同一の労働条件で有期雇用契約が更新されたとみなし(ただし、X3については、個別事情(勤務状況)を考慮すると、Y1において更新拒絶(雇止め)をすることについて客観的に合理的な理由があったものと評価できるとして契約の更新を否定)、雇用契約上の地位確認請求及び賃金支払請求を(一部)認めた。
but
雇止めの時点で75歳以上であった個人原告らについては、前記の合理的期待を認めることができない⇒契約更新を認めなかった。
再雇用契約の締結を拒否された原告ら:
労契法19条を類推適用することはできない。
but
無期雇用契約が定年により終了した場合であっても、労働者からの申込みがあれば、それに応じて有期再雇用契約を締結することが就業規則等で明定され、又は確立した慣行となっていて、かつ、その場合の契約内容が特定されている場合には、労働者において雇用契約の定年による終了後も再雇用契約により雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由がある。

使用者が再雇用契約を締結しない行為が権利濫用に該当し、その場合に、労契法19条、解雇権濫用法理の趣旨ないし信義則に照らして、無期雇用契約が定年により終了した後、前記の特定された契約内容による有期雇用契約が成立するとみる余地はある。
but
本件では、前記のような慣行等があったとまでは認め難く、また、成立するとみなされる契約内容が特定できない。
⇒有期雇用契約の成立を否定。
  ●不法行為に基づく請求 
YらのXら全員に対する不法行為の成立を認めた上、
再雇用契約の締結を拒否された者については、前記のとおり定年到達とともに雇用関係が終了したと言わざるを得ないものの、労働条件はともかく再雇用契約が締結される相当程度の可能性はあったものというべき
⇒Y1の再雇用契約拒否によってこれが侵害されたことについて精神的損害を求めることができる。
⇒請求額通りの100万円の慰謝料を肯定。
  解説 本判決は、
Y1による再雇用拒否又は雇止めの主要な動機が、個人原告らがY1に対して残業代の支払を求めて別件訴訟を提起したことにある⇒これらの行為及びそれを相前後する一連の働きかけが不法行為に該当。
この事情は、地位確認請求及び賃金支払請求に関して、Y1に個人原告らとの雇用契約の更新拒絶(雇止め)をする「客観的に合理的な理由」(労契法19条)があるか否かの判断に当たっても重視されている。 
   刑事p98
東京高裁R1.7.29
  軽微な非行事実については第1種少年院送致とされた事案
  事案 少年(当時18歳)が、仮眠中の交際相手の女性に対し、首をつかんで無理矢理起こし、あごを手でつかむ暴行を加えた。 
  原決定 本件非行につき、その態度自体から、相手に配慮することなく暴力を用いてまで自分の要求を押し通そうとする自己本位な態度がうかがわれる。
①少年が同種非行により保護観察処分を受けた後も母親に対する暴力的な言動が絶えなかったこと、
②少年は、母親は交際相手など親密な相手に対しては、一方的に依存して自己の過大な期待を押し付け、それがかなわないとなると、一転して暴力的な言動に出るという傾向が顕著であるという資質上の問題があり、その問題性は前件後に高まっている、
③母親が家を出た後、保護観察所や福祉担当者が少年に対する指導を行ったのに、少年が指導を受け入れる姿勢を見せなかったこと

少年の要保護性は極めて高い
⇒少年を第1種少年院に送致。
  決定 原決定の判断は相当。 
  解説 非行事実の軽重と要保護性との関係:
大半の事件では非行事実の軽重と要保護性の程度は対応・相関する。
A:非行事実が軽微な場合には、要保護性が高いことのみを理由に少年院送致のような重大な自由な制約を伴う保護処分を言い渡すことはできない。
B:刑罰における罪刑均衡と同様な意味での非行事実と保護処分の均衡は要求されない。
←少年保護手続の目的
いずれの見解でも、
非行事実の軽重は、単に行動と結果だけではなく、非行に至る経緯や動機、常習性、組織性、計画性等の事情も加味して判断される

一見すると、非行事実は警備であるのに収容保護など重い処分を決定したとみられる裁判例についても、非行事実の行為と結果だけをみれば軽微といえなくはないものの、比較的近い時期に同種の非行歴、保護観察処分があるなど、背景事情も含めて検討した場合、軽微な非行と評価するのは相当でない事案が多いとの指摘。
本件:
比較的近い時期になされた同種非行について保護観察処分を受けてから本件非行に至るまでの少年の行動など、原決定や本決定で検討されている事情は、常習性の有無など本件非行事実の軽重や少年の要保護性の態度を判断する上で重要な事情。
2443    
  行政p3
福岡高裁那覇支部R1.10.23   
  公有水面埋立法42条1項に基づく埋立ての承認取消処分と「固有の資格」
  事案 沖縄防衛局は、沖縄県宜野湾市所在の普天間飛行場の代替施設を同県名護市辺野古沿岸に建設するための公有水面の埋立てについて、当時の県知事Aから公有水面埋立法(公水法)42条1項の承認を受けていたが(本件承認処分)、本件承認処分は前県知事Bの死亡に伴う知事職務代行者であるC副知事からの委任を受けたD副知事の名義で取り消された(本件承認取消処分)。

沖縄防衛局が、行審法2条、地自法255条の2第1項1号に基づき、公水法を所管するY(国土交通大臣)に対し審査請求(本件審査請求)⇒Yは本件承認取消処分を取り消す旨の裁決(本件裁決)。 
X(沖縄県知事)は、本件裁決が違法な「国の関与」に当たる⇒地自法250条の13第1項に基づき、国地方係争処理委員会に対し審査の申出⇒同委員会は、本件裁決が「国の関与」に当たらず、同委員会の審査の対象にならないとして、同申出を却下する旨の決定。

Xは、前記決定に不服があるとして、地自法251条の5第1項に基づき、Yを相手に本件裁決の取消しを求めて本件訴えを提起。 
  争点 地自法251条の5第1項の訴えの対象は「国の関与」とされているところ、地自法245条は、「国の関与」について、国の行政機関が一定の行政目的を実現するため普通地方公共団体に対して具体的かつ個別的に関わる行為などと定めつつ、そこから「審査請求その他の不服申立てに対する裁決、決定その他の行為」を除外する(同条3号)。
行審法に基づく裁決は前記「裁決」に当たる⇒本件裁決が「国の関与」といえるかが問題となる。
  主張 本件裁決には、
(1)本件承認取消処分が、沖縄防衛局がその「固有の資格」において相手方となり、行審法が適用されない処分であるにもかかわらず(行審法7条2項)、これを対象としてされたという違法
(2)本件承認取消処分に係る「処分庁」(行審法4条)はD副知事であり、本件承認取消処分は「都道府県知事の処分」(地自法255条の2第1項1号)に当たらず、Yが審査庁になり得ないにもかかわらず、Yによってされたという違法
(3)Yによりその権限等を著しく濫用して裁決されたという違法
がある
⇒本件裁決は、これらの違法を理由に前記「裁決」に当たらず、「国の関与」に含まれる。 
  判断  本件裁決が「国の関与」に当たるとはいえない⇒却下 
  ●(1)について 
国の機関がその「固有の資格」において相手方となり、行審法の適用がない処分について審査請求がされ、同じく国の機関である審査庁の裁決により当該処分の取消が命じられた場合、裁決の形式が採られていたても、実質的には裁決以外の方法による「国の関与」が行われたと同視でき「裁決」に当たらない。
but
埋立ての承認は国の機関がその「固有の資格」において相手方となる処分ではない。
この点は埋立承認を取り消す処分(本件承認取消処分)も同様。
  ●(2)について 
審査請求時にはその委任(副知事への委任)が終了し、Xがその権限を有し、D副知事の「処分庁」としての立場も承継⇒本件承認取消処分は法定受託事務に関する「都道府県知事の処分」に当たり、公水法の所管大臣であるYが審査請求すべき行政庁となる(地自法255条の2第1項1号)
  解説  ●「固有の資格」に関する判断について 
◎  行審法7条2項は、国の機関等に対する処分で、当該機関等に対する処分で、当該機関等がその「固有の資格」において相手方となるものには、行審法の規定は適用しないとする。
この「固有の資格」は、一般人では立ち得ず、国の機関等であるからこそ立ち得る特有の立場などと定義。
一般には、処分の名宛人が国の機関等に限定されている場合や、名宛人が限定されていなくても国の機関等が事業等の原則的な担い手として想定⇒「固有の資格」で受ける処分とされている。
but
形式的には国の機関等のみ異なる取扱いがされているとしても、それが単に規制の特例にすぎず、国の機関等が実質的に私人と同様の立場に立つと解される場合⇒「固有の資格」で受けるものではない。
  本判決:
埋立の承認は、国の機関のみを名宛人とするものの、一般私人を名宛人とする埋立の免許とその性質・効果や要件が共通⇒これと本質的に異なるものではなく、「固有の資格」において相手方となるものではない。 
両処分には、処分後の埋立ての監督や所有権成立の手続に関する相違があるが、「固有の資格」性は特定の処分につき行審法の救済を認めるか否かに関する基準であり、処分自体の性質・効果を中心に判断されるべき⇒処分後の手続に関する前記相違は「固有の資格」該当性に関する判断を左右するものではない。
  ●「処分庁」に関する判断 
行審法に基づく審査請求:
一定の場合を除き、「処分庁」(処分をした行政庁)の最上級行政庁に対してするとされているが(行審法4条4号)、
これに対する特例として、法定受託事務に係る「都道府県知事の処分」等を対象とする場合は、当該処分に係る事務を規定する法律等の所管大臣に対してするとされている(地自法255条の2第1項1号)。
本件審査請求時には、処分をした行政庁の処分権限が消滅し、県知事がその権限を有してた⇒そのような場合において「処分庁」及び「都道府県知事の処分」をいかに解するかが問題。
本判決:
行審法46条1項及び52条2項などの規定⇒行審法は行政不服審査手続において「処分庁」が現に当該処分異関する権限を有していることを想定している。
処分をした行政庁の処分権限が審査請求時までに消滅等⇒現に処分権限を有する行政庁が「処分庁」としての立場を承継していると判断。
  民事p16
東京高裁R1.8.19  
  取り決められた養育費の額が住宅ローンの支払に関する合意と不可分一体のものとなっている場合の、養育費の減額請求の事案
  事案 未成年者ら3名の父であるXが母であるYに対し、平成28年の離婚時に作成された離婚給付等契約公正証書によりXがYに支払うべきものとされた未成年者らの養育費の額(1人につき月額5万円)を1人につき月額3万円に変更することを求める申立てをした事案。 
本件公正証書には:
①養育費の支払いに関する条項に加えて、
②Xは、Yに対し、Yは未成年者が暮らす住宅の住宅ローン月額10万円を完済まで支払うことを約する条項や、
③Xが同ローンを支払っている場合には、その支払額を養育費から差し引く条項(「本件差引条項」)等
が存在。
  原審 公正証書作成後の事情変更を認める。

本件差引条項等について:
養育費とは別に、住宅ローンの支払と養育費の支払いを清算する方法を定めたもの⇒その清算の在り方について当事者が別途合意した内容に変更を加えることは相当でない⇒標準算定方式に基づき前記養育費の額を未成年者1人につき月額2万6000円に変更する旨の審判。 
  判断 第一審審判を取り消し、Xの申立てを却下。 
本件公正証書は、Yが主張するとおり、単に養育費の額を定めるにとどまらず、離婚に伴う様々な事項に関する取り決めをした複雑なものであるし、そもそも、前記養育費の額は、原審判が採用している標準算定方式に基づき定められているわけではない。
未成年者らの養育費を月額5万円ずつ(3人分合計で月額15万円)と定める条項と本件差引条項は不可分一体のものとなっていると解するのが相当。

本件公正証書による合意の真の意味は、未成年者らの養育監護に使用される実際の養育費としては、住宅ローン月額10万円相当額を除いた、月額5万円を抗告人に支払うことを約するものと解するのが相当。

不可分一体というべき前記各条項につき、住宅ローンの支払に関する条項については、本来、家事審判事項とはいえず、本件において変更することは許されない。
養育費の月額のみを一方的に変更することは不当な結果を導くことになり、相当でない。
本件公正証書において合意された実際の養育費は、未成年者3名で合計月額5万円であったと解した場合でも、Xの主張する事情の変更を前提にして標準最低方式に基づき試算した養育費の額は、未成年者3名で合計月額7万8000円⇒養育費の減額が認められる余地はない。

本件においては、本件公正証書において定められた養育費の額を変更し、減額するに足りる事情を認めることはできない。
  解説 養育費:いったん合意や審判等でその額が定められた場合であっても、従前の婚姻費用の合意額を維持することが不相当と評価すべき事情の変更⇒その変更が認められる。

変更事案の場合にも、専ら標準算定方式による試算額によって新たな養育費の額が決せられるものではなく、従前の養育費額が決められた際の経緯等の関係諸事情を総合勘案した上で、最終的に適切な額が決定されるのが通常。⇒
本件のように、当初から標準算定方式に基づくものではなく、様々な思惑の下で、複雑な取決めがされているような場合には、慎重な検討が必要。 
  民事p20
東京高裁H30.5.18  
  実施法28条1項3号(留置についての同意又は承諾)及び同項4号(重大な危険)の各返還拒否事由が肯定された事案
  事案  子Cの父であるAが母であるBに対し、Bによる留置により子Cに対する監護の権利が侵害された⇒国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(実施法)に基づき、子Cを常居所地国であるシンガポールに返還することを求めた。 
Aは、B及び子Cとともに日本に滞在中、ホテルの一室で、Bの顔面等を殴り、Bに全治2週間を要する両眼球打撲傷等の傷害

AとBとの間で示談書。
①AとBが別居すること
②Bと子Cが日本に居住し、Bが子Cを監護養育する
③夫婦の在り方については代理人を通じて協議する
その後、Aは、Bと子Cを日本に残して常居所地国であるシンガポールに帰国。
  争点 ①留置の同意の返還拒否事由の有無(実施法28条1項3号)
②いわゆる重大な危険の返還拒否事由の有無(実施法28条1項4号) 
  争点① 原決定・本決定:
①本件示談書上、別居期間やBと子Cが日本に居住することにつき期限は特段定められていない
②婚姻費用は当事者双方の収入資料に基づき日本法に従って定めることとされており、Bが相当期間日本に居住することを前提としている
③本件示談の成立後、当事者双方の夫婦関係の在り方については協議を開始する旨定められているのに対し、今後の協議事項に子Cの監護については本件示談により解決をみたものとみるのが相当
④本件示談成立後も、Aは、子Cがシンガポールで通っていた幼稚園の退園手続をしたり、日用品を日本に送ったりしている⇒A自身、子Cが日本に相当程度の期間居住することを前提とする行為をとっている

本件示談において、子Cの監護について一時的、暫定的な取り決めをしたものということはできず、本件示談の成立により、Aは子CがBとともに日本に居住することを同意したものと判断。 
依田「ハーグ条約実施法に基づく子の返還申立事件の終局決定令の傾向について」家庭の方と裁判12.27:
実施法28条1項3号の返還拒否事由が認められるためには、
「LBP(Left Behind Parent)において、子が一時的に日本に滞在するにとどまらず、その後も日本に相当長期間にわたって居住し続けることまで同意又は承認し、もはや子の返還を求める権利を放棄したといえることが必要であるとする例が多い」 
本件:
示談書の内容及びその後の当事者の行動に照らし、当該合意が暫定的・一時的なものではないことを認定した上で実施法28条1項3号の返還拒否事由の存在を認めたもの。
  争点②  原決定・本決定:
婚姻期間中にAがBに対し傷害を伴うような暴行をしていたとは認められない。
but
①本件傷害事件が子Cの面前で行われていること
②暴行の態様もBの顔面を複数回にわたり拳で殴打するんど危険で悪質な態様
③経緯につきBに落ち度はなく、日常的によく見られる些細な出来事をきっかけとするもの

Bが子Cとともにシンガポールに入国した場合、子Cに心理的な外傷を与えることとなる暴力等をAから受けるおそれがある。 
原決定:
シンガポールにおける配偶者に対する暴力の支援等の枠組みが明らかでない⇒Bは子CがAと少なからず接触する機会がある

本決定:
仮に支援等の枠組みが整っていたとしても、Bが子CがAからの経済的な支援等を受けるに当たってAと接触する蓋然性が存する
  重大な危険の例外は、子の返還申立事件においてしばしば主張される返還拒否事由。
依田論文:
重大な危険の例外の適用に当たっては、LBPによる暴力等のおそれの有無が重要な要素の1つであり、そして、LBPによる暴力等があったといえるには、一定の強度の暴力等が継続的又は恒常的に行われていたことが必要とされる傾向にある。
本件:
Aが常居所地国において日常的にBに対し暴行をしていたとは認められない事案ではあるが、
①Aが子の面前で暴行に及んだという事実や
②それによってBに生じた傷害結果が明白であるという特殊性

原決定及び本決定は、いずれも、暴行行為の態様の悪質性や結果の重大性を重視し、実施法28条1項4号の返還拒否事由の存在を認めた。
  民事p27
大阪高裁H31.4.12  
  低血糖⇒胃出血⇒出血性ショック⇒低酸素性虚血性脳症⇒脳性麻痺の事実的因果関係を肯定し、医療過誤での因果関係が肯定された事案。
  事案 Xは、医療法人の運営する産婦人科医院において自然分娩で出生し、入院。 
Xの主張:
①Yの代表であり本件医院の担当医であったP3(担当医)がXの血糖値を測定する注意義務を怠り、Xが低血糖であることを看過⇒Xが低血糖に起因する胃出血により出血性ショックに陥り前記後遺症が残った。
②担当医がXを迅速に新生児集中治療室に搬送すべき注意義務を怠ったために前記後遺症が残った

主位的に不法行為、予備的に債務不履行に基づき損害賠償を求めた。

因果関係について、
①Xは本件医院入院中から低血糖であった、
②低血糖に起因して急性胃粘膜病変(AGML)が生じ、大量の吐血をし、
③出血性ショックに陥り、
④循環動態が悪化して低酸素性虚血性脳症を発症し、脳症麻痺の後遺障害が残った
  原審 担当医にxの血糖値測定義務があった
but
因果関係は、②以下を認めず、義務違反とXの後遺障害との間の因果関係を認めるに足りないとした。
また、転院義務も否定。
  判断   担当医の義務違反とXの後遺障害との間に因果関係を認め、原判決を変更しXの請求を一部認容。
  ●低血糖であった時期 
①IUGR児には低血糖症が高頻度に認められる
②B病院で低血糖に対する治療を受けても容易には回復しておらず、出血性ショックによる一時的なものではない
③ショックによって血糖値が低下する証拠はない

Xは本件医院に入院しているときから低血糖状態であった。
Xの本件医院入院時における血糖値を推知する根拠となるデータは必ずしも十分なものがあるとはいえない。
but
それは血糖値を測定しなかったという医師の注意義務の懈怠により生じたもの⇒血糖値の推移の不明確を当の医師にではなく患者の不利益に帰することは条理にも反する。
  ●胃出血の原因 
①Xは、B病院入院時、胃破裂を疑わせるほどの胃出血を起こして、出血性ショックに陥っている
②本件医院において低血糖状態であったのであり、低血糖はAGMLの1つの原因
⇒Xの低血糖は胃出血の発生の原因であった。
  ●分娩のストレスによるAGML発症の可能性
正常な分娩もAGMLの原因であるストレスとなり得る
but
出生直後の状態に異常がない
⇒出生後72時間以上経過していたXについて、分娩自体のストレスがAGMLの主たるストレスになったとは考えにくい。
Xは過長臍帯で、消化管その他の臓器の発達が未熟であった可能性があり胃のストレス耐性が低かったことが胃出血の原因となった可能性も否定できない。
but
Xに対しては、過長臍帯でIUGR児であったから臓器の発育が未熟である可能性を前提に治療に当たるべきであったのに血糖値測定などが行われていなかった⇒因果関係の判断に当たり前記可能性を重視することは相当でない。
  ●出血性ショックの発症 
①B病院の医師は一貫して出血性ショックと診断してた
②小児は血液量が体重の19分の1と少なく、少ない出血量でもショックを起こし、新生児では30mlの出血でも生命に関わることがあるとされており赤血球の輸血がされなかったことから出血性ショックを否定することはできない。
  ●高カリウム血症 
①高カリウム血症の原因の1つとして消化管出血が挙げられる
②カリウム値は時間の経過とそもに低下しており一時的なものと考えられる

高カリウム値は出血性ショックを原因とするものとみられる。
Y提出の医師の意見書は、消化管出血では致死的不整脈が起こりえるところまで上昇しにくいとする。
but
可能性を否定する趣旨とは解されない⇒前記判断を覆すに足りない。
  ●まとめ 
Xの脳の虚血性障害は、胃出血による出血性ショックのために循環動態が不安定になったことが原因。

Xは、本件医院において低血糖状態であり、それがストレスとなりAGMLを発症し、出血性ショックに陥り、循環動態が不安定になり、低酸素性虚血性脳症を発症。
これに加え、B病院で孔脳症の原因として低血糖による中枢神経障害が指摘。
低血糖の存在が神経障害の程度を高めた可能性があるとのX提出の医師の意見書における指摘

担当医の血糖値測定義務違反とXの後遺症との間には因果関係がある。
  解説  民事訴訟における訴訟上の因果関係の証明の意義:
最高裁昭和50.10.24:
訴訟上の因果関係の立証は、一転の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑い差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りる」 

因果関係は、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明すること。
  因果関係認定の考慮要素:
①医療行為の不手際の存在
②医療行為と結果との時間的関係
③同種の医療行為によって同種の結果が発生する可能性の一般的・統計的統計
④医療行為の量・内容と結果発生率との関係
⑤医療行為と生体反応の生物学的関連(診療行為から結果発生に至る作用機序についての説明の可否)
⑥患者の特異体質
⑦他原因の介入の有無・程度
⑧ 不可抗力(結果回避の可能性の有無)
を挙げる見解(遠藤先生)
vs.
①加害行為
⑧過失評価にかかわる事項
②ないし⑦:
因果の流れ自体を意味するものではなく、主要事実とみることは相当ではない
but
患者側の主張する事実的因果関係における因果の流れを証明するための経験則とみることができ、因果を構成する個別事実を推認するための間接事実であるとし、
因果関係認定にプラスに左右するものは、
③(同種の医療行為によって同種の結果が発生する可能性の一般的・統計的統計)
⑤(医療行為と生体反応の生物学的関連(診療行為から結果発生に至る作用機序についての説明の可否))
であり、
④(医療行為の量・内容と結果発生率との関係)
がそれを支えるものと論評する見解。
不作為との結果の因果関係の判断は、「仮に作為義務に従った治療がなされていれば」という仮定的な判断であり、実際には生じなかった事実経過を推定するもの⇒判断の対象が評価的、観念的、価値的にならざるを得ず、その判断に困難を伴うことが多い。
  民事p50
大阪高裁R1.8.21  
  被相続人の遺言に基づき、長男を推定相続人から廃除(肯定)
  事案 被相続人の遺言執行者であるAが、被相続人の遺言に基づき、被相続人の長男Bを推定相続人から廃除することを求めた事案。 
  規定 民法 第八九二条(推定相続人の廃除)
 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる
  原審 被相続人の言動が暴行を誘発した可能性⇒Bから相続権を剥奪するのが社会通念上相当であると認めることはできない⇒推定相続人廃除の申立てを却下。 
  判断 暴行の経緯に関するBの陳述の信用性を否定。 
たとえ被相続人の言動にBが立腹するような事情があるとしても、60歳を優に超えた被相続人に対する暴力は許されるものではなく、しかも、平成22年4月の暴行は、被相続人に全治3週間を要する左側肋骨骨折や左外傷性気胸の傷害を負わせ、入院治療を要するなど結果も重大で、一連の暴行は厳しい非難に値する

原審判を取り消し、Bを推定相続人から廃除。
  解説   推定相続人の廃除の根拠:
推定相続人に相続的協同関係ないし親族的信頼関係を破壊した行為があった
そのような評価がされるためには、被相続人が主観的にその関係を破壊されたと判断したのみでは足りず、
客観的にみても、その関係が破壊されたと認定されることが必要。
推定相続人の排除に対する判例の基本的態度は慎重であるといわれ、
老齢の親の左腕にかみついて負傷させたり、突き飛ばしたことがあったとしても、推定相続人の一時の激情による場合などは、廃除すべき事由があるとはいえない(最高裁)し、
被相続人に挑発的態度がなかったかどうかという点も考慮。
被相続人が遺言で推定相続人の廃除を求めた場合、遺言執行者が家庭裁判所に推定相続人の廃除を請求するのは被相続人の死亡後(民法893条)
⇒当該推定相続人を廃除すべき具体的な事実を認定するだけの資料を収拾することが困難な場合も多い。
  被相続人に対する虐待や侮辱を理由として、廃除を認めた裁判例:

・被相続人が末期がんで自宅療養中であったのに、療養に極めて不適切な環境を作出したり、死んでも構わないなどと述べたことが虐待に当たるとした裁判例。

・被相続人に対して継続的に暴力を加えたほか、精神障害ないし人格異常があるとの主張を繰り返したり、被相続人に無断で3500万円を超える貯金を払い戻したことが虐待、重大な侮辱及び著しい非行に当たるとした裁判例。

・被相続人に対して湯の入ったやかんを投げつけたり、「早く死ね。80まで生きれば十分だ」などと罵倒したことなどが、重大な侮辱に当たるとした裁判例。 
  民事p53
大阪高裁R1.8.21  
  婚姻後約9年間同居し、婚姻から約44年後離婚⇒年金分割の按分割合を0.5とされた事例
  事案 抗告人(原審申立人)と相手方(原審相手方)が、昭和49年に婚姻後約9年間同居した後別居し、婚姻から約44年後に離婚⇒抗告人が年金分割を求めた。 
  原審 婚姻期間に比して同居期間が短く、年金の保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような特別の事情がある⇒按分割合を0.35とする審判。
  判断 夫婦の扶助義務は別居した場合も基本的に異ならず、老後のための所得保障についても同等に形成されるべき⇒本件では特別の事情があるとはいえない⇒按分割合を0.5とするのが相当。
  解説 年金分割は、被用者年金が夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的機能を有する制度⇒対象期間中の保険料納付に対する寄与の程度は、特別の事情がない限り、互いに同等とみて、年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるのが相当。
その趣旨は、夫婦の一方が被扶養配偶者である場合についても厚年法78条の13(いわゆる3号分割)に現れているのであって、そうでない場合であっても、基本的には変わるものではないと解すべき。
前記特例の事情については、保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情がある場合に限られる。
(大阪高裁H21.9.4) 
前記按分割合については、離婚後の審判では、0.5としたものがほとんどであるとの指摘があるが、0.5より低い割合としたものも散見される。
前記「特別の事情」をどのように捉えるかが判断の分かれ目となるが、
どのような事情があれば、前記「特別の事情」があるかについては、一律の基準があるわけではない。
  民事p55
東京地裁R1.10.2  
  夫婦別姓訴訟
  事案 婚姻後の夫婦の氏として、夫婦それぞれの氏を称する旨を記載した婚姻届を提出⇒ 民法750条及び戸籍法74条1号を根拠に不受理

Xらが、本件各規定が憲法14条1項、24条、女子差別撤廃条約及び人権B規約(自由権規約)に違反するものであり、正当な理由なくその改廃等を怠っている立法不作為は国賠法1条1項の適用上違法の評価を受ける⇒Y(国)に対し、慰謝料各50万円の支払をもとめた。
  規定 民法 第750条(夫婦の氏)
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
  判断 ●憲法14条1項及び24条との関係 
民法750条の規定は、婚姻の効力の1つを定めたものであり、 婚姻をすることについての直接の制約を定めたものではなく、また、同規定は、すべての者に対して一律に、夫婦の氏の選択について、夫婦の協議に委ねるという均等の取扱いをしており、夫婦同氏を希望する者と夫婦別氏を希望する者との間でその信条の違いに着目した法的な差別的取り扱いを定めているものではない
⇒憲法14条1項に違反しない。
民法750条の採用した夫婦同氏制が、直ちに個人の尊厳と同性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認めることはできない⇒国会の立法裁量の範囲を超えるものと見ざるを得ないような場合には該当せず、本件各規定は憲法24条に違反しない。
最高裁H27.12.16が示した民法750条の憲法14条1項適合性及び憲法24条適合性に関する憲法判断は、公正・平等の原理、法的安定性の観点から、後に同種の事案を取り扱う裁判所に対する先例としての拘束性をもつ。
・・・これらの変化は、平成27年最大判の当時と比較して判例変更を正当化しうるほどの変化とまでは認められない⇒平成27年最大判の正当性を失わせるほどの事情変更があったとは認められない。
  ●女子差別撤廃条約違反との関係 
我が国において、ある条約の規定が、その名様を具体化するための国内法上の措置を執ることなく、個々の国民に権利を保障するものとして、直接に適用されて裁判規範性を有するためには、
主観的要件として、条約の内容をその公布により個々の国民の権利義務を直接に定めるものとするという締約国の意思が確認できること(要件①)、
客観的要件として、条約の規定において個々の国民の権利義務が明確かつ完全に定められていて、その内容を補完し、具体化する法令を待つまでもない内容となっていること(要件②)
が必要。
女子差別撤廃条約の文言及び同条約の発効の経過における国会答弁の内容⇒要件①を満たさない。
同条約定の規定により保障される権利の具体的内容は一義的に明確ではない上、同条項の執行に必要な機関や手続の定めを欠く⇒要件②を満たさない。

Xら主張の各権利が、同条約により直接に個々の国民に保障されているとは認められない。
  ●人権B規約(自由権規約)との関係 
自由権規約委員会の一般的意見は、我が国の裁判所による条約解釈を法的に拘束する効力を有しない。
①人権B規約23条4項の文理上、同項が婚姻する各配偶者が婚姻前の氏の使用を保持する権利を具体的に保障しているものと解釈するのは困難
②一般的意見19条及び同28条は、同権利が必ず保障されるべきことを求めるものではないと解する~がある

人権B規約23条4項により同権利が保障されると一義的に解釈することはできない。

人権B規約のその他の規定により同権利が保障されることが具体的に定められているとはいい難い。

本件各規定が人権B規約の前記各規定に違反していることが明白であるとは言い難い。
  民事p72
東京地裁R1.11.27  
  社会保険労務士法人の設立が法人格を濫用したとされた事例
  事案 社会保険労務士であるAに対して間接強制金及び損害賠償金に係る債務名義を有するXが、社会保険労務士法人Y1に対しては、Y1はAが強制執行を免れる目的で設立したものでありY1の法人格を濫用するものであるからこれを否定すべきである(法人格否認の法理)ことなどを理由として、間接強制金、損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、
不法行為による損害賠償請求権に基づき回収が遅延したことによる損害等の支払を求め、
Y1の社員であるY2に対しては、Y1の財産をもって前記債務を完済することができないとして、社会保険労務士法25条の15の3第1項、又はY1との共同不法行為に基づき、Y1と連帯して、Y1の前記債務の支払を求めた。 
  争点 ①法人格否認の法理の適否
②Y2の社員としての弁済責任
  判断  ●争点① 
Y1は信義則上Aと別異の法人格であることを否認し、間接強制金、損害賠償金等の支払を認めた。
but
回収が遅延したことによる不法行為に基づく請求は否定。
  ●争点② 
Y2は、Y1の社員として、社労士法25条の15の3に基づき、Y1と連帯して、Y1の前記債務の支払義務を負う。
  解説   法人格避妊の法理が適用される場合:
①法人格が全くの形骸にすぎない場合(法人格の形骸化)
②法人格が法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合(法人格の濫用)
法人格の濫用:
法人の背後にある者が違法又は不当な目的のために法人格を利用すること。

最高裁昭和48.10.26:
被上告人から賃貸借契約解除の通知を受けた旧会社の代表者が、旧会社の前商号を現商号に変更し、旧会社の前商号と同一の商号の新会社を設立

新会社の実質は旧会社と同一であり、新会社の設立は旧会社の債務の免脱を目的としてされた会社制度の濫用⇒上告人は新会社と旧会社が別異の法人格であることを主張できない。
  本判決:
①Aが大部分を出資したY1は、Aの社労士業務上の商号であるBと類似した名称を用いており、連絡先や所在地も同一
②Aが従前にBとして行っていた事業のほとんどをY1に引き継がせていた
③Aは当初、社労士法人の設立が不要であるとの認識であったにもかかわらず、自信の財産に対して差押えの危険が生じると知るや、早急にY1を設立し、自らの責任財産を減少させることを意図して顧問先をY1に移転させた

Y1が、形式的にはA個人とは別個の法人の形態をとってはいるものの、その実質はAと同一であり、Y1の設立は、Aが自身に対する強制執行を免れる目的をもってされた社労士法人制度を濫用するもの⇒信義則上、Y1はAと別個の法人であることは主張できない。

Y1とAの実質が同一である事実、及び
Y1の設に係るAの目的を認定した上で、
Y1の設立が法人格の濫用に該当すると判断。
  民事p78
大分地裁R1.8.22  
  加害行為を行った責任無能力者の両親の民法714条1項の監督義務者の責任(否定)
  事案 責任無能力者であったAが、居住するマンションの非常階段で、マンション管理人をしていたBを突き飛ばして転落し⇒Bの相続人であるXらが、Aの両親であるYらにおいて、民法714条1項の法定の監督義務者又はそれに準ずべき者として負う監督義務の違反があった⇒Yらに対して、同項(適用又は類推適用)に基づき、損害賠償を請求。
  規定 民法 第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
・・・
  争点 ①YらがAの法定の監督義務者に当たるか
②YらがAの法定の監督義務者に準ずべき者に当たるか 
  Xらの主張 争点①について:
①Xらは、Y1(Aの父親)が精神福祉法(平成25年改正前のもの)20条の保護者
②Yらが、Aと共同生活をしていたためにAが危険な行為をしないよう見守る義務を負い、Aの行動について責任を負うとの意思を対外的に明示
⇒Yらが法定の監督義務者に当たる。 
争点②について:
①精神科の保護院への入退院を繰り返していたAの退院に当たり、Y2(Aの母親)が前記保護院の医師から障害者支援施設への入所の提案を受けたもののこれを拒否して自らAを監督する旨前記医師に告げた
②YらがAと共同生活をする住居のドアチェーンに南京錠を設置していた
⇒Yらが法定の監督義務者に準ずべき者に当たる。
  判断  ●争点①について 
精神福祉法上の自傷他害防止監督義務が平成11年法律第65号により廃止され、保護者制度そのものも平成25年法律第47号により廃止
⇒Y1がかつてAの保護者であったことをもって、Aの法定の監督義務に当たるということはできない。
YらがAと共同生活を行っていたことについて、
Xらが主張するような見守る法定義務が発生するとはいえない。
Y2が、施設への入所を勧める医師の提案を拒否し、Aの帰宅を希望したことによって、Yらが民法714条1項に規定する監督義務者に当たると解すべき根拠はない。
  ●争点②について 
①Aが保護院への入退院を繰り返した経緯ないし経過、
②Aによる本件マンションでの問題行動
③本件当日のAの様子など

Aの行動について、Aが住居で暴れたり、Yらに対して暴力を振るったりしたことがあった一方で、
Yら以外の者に対しての暴力は認められない

Xらが主張する、AがBに対する突発的な暴力行為に出る可能性は抽象的なものにすぎない。
AがYら以外の者に対する加害行為を行っていなかった

Y2が医師の障害者施設への入所の勧めを拒否して自らAを監督する旨述べたこと、Yらの希望でAが保護院を退院していることをもって、Yらが第三者に対する加害行為の防止に向けてAの監督を引き受けたとはいえない。
YらがAと住む住居のドアチェーンに南京錠を設置していたこと
~本件マンションにおけるAの迷惑行為を防止することを念頭に置いたもの

この行動をもって、監督の引受けがあったとはいえない。
そのほか、YらがAと共同生活をしていたことなどのXらが主張する事情を踏まえても、YらがAの監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められない。
  解説 本判決は、責任無能力者の加害行為に係るその両親の監督責任の有無について、最高裁H28.3.1を踏まえて判断を示したもの。 
  刑事p84
東京高裁R2.1.23  
  殺人について犯人性が否定された事案
  事案 公訴事実の要旨:
被告人が、夜間、路上において、面識のない被害者に対し、殺意をもって、持っていた刃物で被害者の胸部、腹部を突き刺すなどして殺害した。
  争点 被告人の犯人性 
  検察官 被告人の犯人性を推認させる間接事実として、
(1)被告人の眼鏡とたばこの箱が現場に落ちていた【現場遺留物】
(2)被告人居住アパートの駐車場に、被害者の血液が付着した自転車(被告人の所有物ではない)があった【被害者血付着自転車】
(3)被告人が当夜(本件犯行日の夜から翌日未明まで)に外出し、帰宅後すぐに衣服を捨てた
(4)被告人の年齢、体格等が犯人のそれと矛盾しない【体格等】
  原審 間接事実(1)(2)(4)は認定できる。
(2)については、被害者の血液が本件犯行時に自転車に付着した事実も認定。
間接事実(3)は認定できない。 
(1)現場遺留物:
①関係証拠から認められる遺留時間帯は約6時間と幅がある
②本件現場は被告人の生活圏
⇒眼鏡と犯行とを結びつける証拠がない以上、被告人が酒に酔って転倒し、眼鏡を遺留して立ち去ったなどの反対仮説が成り立ち得る
⇒推認力はそれなりに強い程度に止まる。
(2)被害者血付着自転車:
駐車場の位置や施錠状況⇒アパート住人や近隣住民が犯人である可能性が高い。
自転車所有者の体格及び外見も犯人像と矛盾しない
but
アパートに入居したばかりで愛用の自転車を所有する被告人が、他の者と比べて被害者血付着自転車を使用した可能性が高いとはいえない
⇒推認力は低い。
(4)体格等:
目撃者が語る特徴はありふれたもので、これと矛盾しないとしても、被告人の犯人性を推認させる力は弱い。

総合評価しても、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない、あるいは少なくとも説明が極めて困難であるとはいえず、被告人の犯人性は立証されていない。
  判断 原判決には原審証拠及び論理則、経験則等に照らして不合理な点はない
⇒検察官の控訴を棄却。
  解説 犯人性を争点とする間接事実型の事案について、大阪母子殺害放火事件最判(H22.4.27) 
検察官:眼鏡等の慰留に関する被告人弁解の不合理性について判断を示すべきであると主張。
判断:仮に被告人弁解が不合理であったとしても、同弁解が信用できないことを意味するにすぎず、眼鏡等と犯行の結びつきが強まるわけではない。
自己の刑事責任を否定する被告人の弁解は、基本的に、反対仮説の可能性ないしこれに繋がるものと位置付けるのが一般的な考え方であるところ、本判決もこれと同様の立場に立つもの。