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シンプラル法律事務所
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勉強会(判例時報2020前半)

判例時報の勉強会用の資料です(随時更新)

     
     
       
       
2426   
  行政p3
最高裁H30.11.16  
  収支報告書上の支出の一部が実際には存在しないものであっても、当該政務活動費等の交付を受けた会派又は議員が不当利得返還義務を負わない場合
  争点 収支報告書に記載された支出のうち一部は実際に存在しない架空のもの。
but
本件会派の収支報告書上の支出総額が、政務活動費等の交付額を大きく上回っており、支出総額から架空のものとされた支出を差し引いても、なお支出総額が交付額を上回っていた⇒このような場合も不当利得が成立するか?
  判断 政務活動等につき、具体的な使途を個別に特定した上で政務活動費等を負う付すべきものとは定めておらず、年度ごとに行われる決定に基づき月ごとに一定額を交付し、年度ごとに収支報告を行うこととされ、
その返還に関して当該年度における交付額から使途基準に適合した支出の総額を控除して残余がある場合にこれを返還しなければならない旨の定めがある新旧条例に基づいて交付された政務活動費等について、
その収支報告書上の支出の一部が実際には存在しないものであっても、当該年度において、収支報告書上の支出の総額から実際に存在しないもの及び使途基準に適合しないものの額を控除した額が政務活動費等の交付額を下回ることとならない場合には、当該政務活動費等の交付を受けた会派又は議員は、県に対する不当利得返還義務を負わない。 
本件会派の本件各年度における各収支報告書上の支出の総額から本件各支出を控除した額は、それぞれの年度における政務活動費等の交付額を下回ることとはならない⇒本件会派が不当利得返還義務を負うものとはいえない。
  解説 ●政務活動費等に関する条例の定め 
政務活動費について、地自法は、わずかに、
①議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として政務活動費を交付することができ、その経費の範囲は条例で定めること、
②収入及び支出の報告書を議長に提出すること、
③議長は使途は透明性の確保に努めること
のみを定めており、
交付、収支報告、清算の具体的な手続は各地方公共団体の条例に委ねられている。
神奈川県の新旧条例:比較的オーソドックスなもの
年度ごとに行われる交付決定に基づいて、一定期間ごとに一定額を交付し、年度末に収支報告、清算を行った上で、交付額から適法な支出額を控除して残余がある場合に返還義務が生ずるというもの。

具体的な支出に対応させてその都度交付されるのではなく、いわゆる概算払い方式がとられている。
民法703条の不当利得返還請求権の成立要件:
①損失
②利得
③損失と利得の間の因果関係
④利得が法律上の原因に基づかないこと
政務活動費等法律上の根拠:
政務活動費等は、地自法及び条例上、その使途を限定して交付されるものであり、使途基準に適合する支出を行った結果残余が生じた場合には当然に返還すべき性質のもの

「交付を受けた政務活動費等のうち、使途基準に適合する支出に充てていない部分がある」場合には、その部分については、④法律上の原因に基づかない利得となろう。

本件返還規定は、これを返還すべきことを明確にしたもの。
所定の支出が実際には存在しないにもかかわらず架空の領収証を提出したような場合には、これが違法な支出のために政務活動費等を取得するものであり、そのように取得された政務活動費等は前記④法律上の原因に基づかない利得であるとの評価が可能であるか?
政務活動費等の交付にあたって具体的な使途を個別に特定することなく、概算払いをして、年度ごとにまとめて生産することにより透明性を確保⇒年度末に虚偽内容の領収証を提出したとしても、交付の段階で「架空の支出のために政務活動費等を取得した」と評価することは困難。
政務活動費等に関する条例に、本件返還規定のように残余について返還義務があることをいう規定とは別に、違法な支出が認められた場合等に返還義務を定める規程が存在する場合等には、異なる結論となる可能性は否定できない。 
  行政p11
静岡地裁H31.2.15
   
  民事p32
東京高裁H30.9.12  
  褥瘡の発生を防止すべき義務及び褥瘡を適切に治療すべき義務を怠った過失が肯定された事案
  争点 Yの過失の有無 
  原審 ①Aは褥瘡発生のリスクが高い患者であり、本件病院の医療従事者が褥瘡発生防止のための対策を行なうべき一般的な義務がある
②本件病院の医療従事者は、Aに対し、体位交換を最低2時間ごとに実施し、体圧分散寝具を使用し、皮膚に異常がないか観察すべき義務を負う。
③本件病院では、2時間を空けない体位交換がルーティンワークとして実施されず、通常のマットレスを使用
⇒Aの褥瘡発生を防止すべき義務を怠った。
④本件病院では、褥瘡認識後も通常のマットレスを使用し、褥瘡診断以降に細菌検査を行わず、黒色壊死や一部肉芽があるのに壊死組織の除去を実施しなかった⇒適切な治療を行うべき義務を怠った。
前記過失がなければ、Aに褥瘡が発生しⅣ度まで悪化する事態も他院での治療を受けるなどの事態も避けることができた高度の蓋然性がある。
⇒過失と損害発生との間に因果関係がある。

⑤その損害は、本件病院、他院での治療関係費及び慰謝料等合計668万2956円。
  判断 原審の判断は相当。 
  民事p47
名古屋地裁H31.4.16  
  投資名目で行われた美容機器付音響機器等の連鎖販売取引等
  事案 株式会社であるY1との間で、平成23年9月18日から同年12月17日にかけて4回にわたり、連鎖販売取引の一環として美容機器付音響機器等の売買契約を締結したXが、Y1、Y2(Y1の代取)及びY3(Y1の元取締役であり、Y1の会長を名乗っていた者)に対し、
主位的には不法行為又は会社法429条1項に基づき、
予備的には不当利得(特定商取引法(法)40条1項に基づくクーリング・オフによる解除、詐欺、錯誤)又は使用者責任に基づき、
売買代金相当額及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。 
  主張
Y1の事業(連鎖販売取引)が無限連鎖講の防止に関する法律で禁止されている無限連鎖講に当たる⇒4回の取引はいずれも無効
3回目及び4回目の取引は、Y1の従業員らからY1に対する党である旨の説明を受け、出資のつもりで行ったもの⇒違法

各取引の際に交付された書面には不備があり、法37条2項に規定する書面が交付されたとはいえない⇒クーリング・オフによる解除が認められる。
  判断 ●①について 
本件で行われた連鎖販売取引自体は公序良俗に反しない
but
投資名目で行われた取引については、真実は連鎖販売取引(したがって、Xは新規会員を勧誘しなければ支出した金額を回収することができないこととなる)
⇒これをY1に対する投資であるとして、あたかも毎月分配金が得られるかのように事実と異なる説明をし、Xを誤信させた点については違法。
このような勧誘行為は会社ぐるみで行われていた⇒Y1については民法709条、Y2及びY3については共同不法行為の責任を認めた。
  ●②について 
クーリング・オフ制度の趣旨を踏まえ、契約書面には、連鎖販売取引の仕組みの基本である特定負担や特定利益について、最大もらさずすべての記載を尽くすことはもちろん、新規加入者においてその内容が理解できるように記載されていることが必要。
本件では、各取引の際に交付された書面には記載されていない特定利益が発生していたり、源泉所得税と事務手数料が控除されていたりするなど、
特定利益の内容をとして必要な事項が記載されていない上、
特定利益を計算するための前提である会員の資格取得方法に関する記載が不十分であるなど、
その記載から特定利益の内容を加入者が理解することは著しく困難であり、重大な不備に当たる

実質的に契約書面と評価できず、法40条1項の定めるクーリング・オフ期間が経過していない⇒クーリング・オフによる解除が認められる。
  ●損害額 
Y1からXに支払われた金員を損益相殺として損害額から控除することは民法708条の趣旨に反し許されない。
but
前記①で違法とは評価されなかった取引(2回目の取引)によってY1からXに支払われた金員(2万円)については、その分をXの損害額から控除するのが相当。
  解説  ●契約書面(法37条2項)における特定利益の記載の程度 
特定利益:
「その商品の再販売、受託販売若しくは販売のあっせんをする他の者又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあっせんをする他の者が提供する取引料その他の主務省令で定める要件に該当する利益の全部又は一部」(法33①)
契約書面においては、特定利益に関する事項、具体的には、
①特定利益の計算の方法、
②前記①のほか、特定利益の全部または一部が支払われないこととなる場合があるときは、その条件、
③前記①②のほか、特定利益の支払の時期及びその方法その他の特定利益の支払の条件
をきさいしなければならない。
(特定商取引法施行規則29条5号、30条1項7号)
  知財p57
東京地裁H31.4.16
   
  商事p66
東京地裁H30.3.29
   
  労働p77
東京高裁H30.12.13
   
  労働p90
東京地裁H30.7.5
   
  刑事p105
東京地裁H31.2.20
  手術後の準強制わいせつ被告事件が無罪とされた事案
  判断 Aに対して麻酔薬が投与された時刻、投与された麻酔薬の種類及び量、手術終了後のAの言動等を認定し、2名の専門家の証言に基づいて
①Aに対する手術は述語せん妄の危険因子とされる乳房手術であった
②Aには通常より多量の麻酔剤が当ヨされた
③Aは手術に起因する疼痛を感じ、かつ、Aに対する鎮痛剤の投与は通常より少量であった

Aはせん妄状態に陥りやすい状態であった。

麻酔覚醒時のAの動静等
⇒Aがせん妄状態に陥り、性的幻覚を体験していた可能性が相応にある。

このような幻覚は鮮明であって、訂正しがたい確信を持っているとされている
⇒Aの証言が具体的で迫真性に富み、Aが一貫した供述をしていることをもっていしても、Aの証言の信用性に疑義を差し挟む余地が広がる。
Pの鑑定手法:
①Pはアミラーゼ試験の陽性反応の結果やリアルタイムPCRによるDNA定量検査の結果をワークシートに手書き記載しているところ、同ワークシートには消しゴムで消して上書きした痕や消しゴムで何らかの記載を消した痕が残されている。
②実験結果の検証可能性確保や刑事裁判に向けた証拠についての紛糾を避けるためにも鉛筆での記載はふさわしくない。
③ワークシートの記載の中には、日時が前後して記載されたことがうかがわれるものがある。
④Pは、鑑定時に本件付着物からDNAを抽出した液の残余を、検察官からDNA定量検査の結果が重要であることを知らされた後に廃棄しているところ、この行為は、DNA定量検査の結果の妥当性を端的に検証する手段を失わせたもの。

検査者としてのPの誠実さには疑念がある。
Pが採用した方法はアミラーゼが微量でも含まれれば陽性反応を示す点で鋭敏度が高いとする専門家証言⇒唾液以外の体液に由来するアミラーゼにより陽性反応がもたらされる可能性も否定できない。
本件付着物から被告人1人分のみのDNA型が検出。
検察官請求の専門家証人:2名の混合DNA量の比率が100対1以上の場合⇒すべてのアレルにおいて1名分のDNA型しか顕出されない。

弁護人請求の専門家証人による実験⇒陰性コントロール対照資料である、なめられた理しなかった女性の乳首から採取した試料から女性のDNA型が検出されない場合もあった⇒本件付着物に含まれる被告人のDNA量にかかわらずAのDNA型が検出されなかった可能性は残る。
本件付着物に含まれる被告人のDNA量が多量であるという点:
検察官請求の専門証人:
本件付着物中の唾液の量が多量であり、それは会話による唾液の飛沫の付着などでは説明できない。

弁護人請求の専門家証人:
唾液の量ではなく口腔内の細胞がどのくらい含まれているを考慮しなければならない。
口腔内細胞の塊が唾液の飛沫に含まれることはある。


口腔内細胞が含まれた唾液が会話により飛沫し、本件DNA定量検査の結果をもたらした可能性があることを排除することはできない。

被告人は無罪
2425   
  民事p10
最高裁H31.4.26  
  子の引渡しを命ずる審判を債務名義とする間接強制の申立てが権利の濫用とされた事案
  事案 Xが、その夫Yに対し、両名の長男Aの引渡しを命ずる審判を債務名義として、間接強制の申立てをした事案。 
  経緯 Xの申立てにより、子らの監護者をXと指定し、Yに対し子らの引渡しを命ずる審判が確定。 
子らの引渡執行⇒3人の子のうち1人(A)は引き渡されることを拒絶し、泣きじゃくり、呼吸困難に陥りそうになった⇒執行官は、執行を続けるとAの心身に重大な悪影響を及ぼすおそれがあると判断⇒Aの引渡執行を不能として終了。
XがY等(Y及びその両親)を拘束者、Aを被拘束者とする人身保護請求⇒AはY等のもとで生活を続けたい旨の陳述。
同請求は、Aが十分な判断能力に基づいてY等のもとで生活したいという強固な意思を明確に表示しており、その意思はY等からの影響によるものではなく、Aが自由意思に基づいてY等のもとにとどまっていると認められ、Y等によるAの監護は拘束に当たらない⇒棄却。
  経緯2 Xが本件審判を債務名義としてAの引渡しについて間接強制の申立て⇒原々審はYに対し、AをXに引き渡すよう命ずるとともに、これを履行しないときは1日につき1万円の割合による金員をXに支払うよう命ずる間接強制決定。

Yが執行抗告

原審(大阪高裁)はYの抗告を棄却

Yが許可抗告の申立て(原審は許可) 
  判断 婚姻中の父母のうち父Yに対して長男A、二男B及び長女Cを母Xに引き渡すよう命ずる本件審判を債務名義とするAの引渡しについての間接強制の申立ては、
次の①②など判示の事情の下では、権利の濫用に当たる。 
①本件審判を債務名義とする引渡執行の際、B及びCがXに引き渡されたにもかくぁらず、A(当時9歳3箇月)については、引き渡されることを拒絶して呼吸困難に陥りそうになったため、執行を続けるとその心身に重大な悪影響を及ぼすおそれがあるとして執行不能とされた。
②Y等を拘束者、Aを被拘束者とする人身保護請求事件の審問期日において、A(当時9歳7箇月)は、Xに引き渡されることを拒絶する意思を明確に表示し、その人身保護請求は、AがY等の影響を受けたものではなく自由意思に基づいてY等のもとにとどまっているとして棄却された。
  解説  子の引渡しを命ずる審判は、家裁が、子の年齢及び発達の程度に応じてその意思を考慮した上で(家事手続法65条)、子を引き渡すことが当該子の利益にかなうと判断してされるもの

子が引き渡されることを拒絶する意思を表明しているというだけで、直ちに強制執行を妨げる理由になるとはいえない。 
審判後の経過により当該審判時と異なる事情が生じたとしても、民執法が、執行の迅速かつ円滑な進行のため、強制執行手続を判決手続等から組織的に分離し、執行機関は原則として強制執行を不当ならしめる実体上の事由の有無については判断しないものとしている。
⇒このような事情は、原則として当該審判を債務名義とする強制執行を妨げる理由とならず、再度の審判・調停など執行手続外で検討されるべきもの。 
  間接強制は、金銭の支払義務を課すことにより債務者を心理的に圧迫して給付を実現させる⇒債務者に対する不当な圧迫となり人格尊重の理念に反するおそれがある。 
直接強制決定:
執行に着手しても不能⇒終了
間接強制決定:
①これにより直ちに金銭支払義務を生じ、履行の不能等の事由があっても債務者の方から請求異議の訴えを提起するなどしなければならず、
②執行停止が認められない限り、その審理の間も金銭支払義務が累積
⇒過酷な執行となりかねない。
ドイツ法:非代替的作為義務の強制執行について強制金を課す要件として「その行為が排他的に債務者の意思に係っている」ことを求めているのと異なり、
日本法には明治の規定はないものの、一般的な法原則として、債務者にとって債務の履行が社会通念上不可能な場合には、これを強制すべきではないと考えられており、そのような場合には、請求異議事由が認められ得るだけでなく、過酷執行禁止とうい執行法上の原則に基づき間接強制決定の障害事由にもなり得ると解してよい。(山本和彦)
過酷な執行の申立てについては、強制執行請求権の濫用(民法1条3項)として却下され得るものと解されている。
  民執法が強制執行手続等から分離⇒強制執行が権利の濫用に当たると認めることには慎重であるべき。 
最高裁昭和62.7.16:
強制執行が権利濫用に当たるとして請求異議事由が認められるには、
債務名義の性質、これにより確定された権利の性質・内容、その成立の経緯及び成立後の事情、強制執行が当事者に及ぼす影響等諸般の事情を総合して、
債権者の強制執行が、著しく信義誠実の原則に反し、正当な権利行使の名に値しないほど不当なものと認められる場合であることを要する。
本決定:
①本件審判の命ずる子の引渡しが、子の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ履行しなければならないという特殊な性質を有する義務
②判示の事実経過の下においては、Aの心身に有害な影響を及ぼすことの内容に配慮しつつAの引渡しを実現するために合理的に必要と考えられる行為をYにおいて想定することが困難であり、それにもかかわらず間接強制によってYに心理的圧迫を加えてAの引渡しを図ることは過酷な執行として許されない。

本件の具体的事情の下における子の引渡義務の間接強制が過酷な執行となるとしたものであって、強制執行が権利濫用に当たるとして請求異議事由を認めたものではない。

間接強制以外の強制執行が当然にy否定されるものではないし、
前提とされた状況に変化があれば間接強制が認められるに至る余地も否定されない。
  間接強制の要件:
現行法に明文の規定はないものの、「債務者の意思のみに係る債務」であるとの要件が必要であると解されている(大決昭5.11.5)。
←前記要件を欠く場合には、債務者に圧迫強制を加えても、単に債務者を苦しませるだけで、その行為をさせることは期待できないからであると説明。
  民事p20
東京高裁H30.11.28   
  約款の変更条項と消費者契約法10条
  事案 消費者契約法13条1項所定の内閣総理大臣の認定を受けた適格消費者団体であるXが、法12条3項に基づき、携帯電話の利用に係る通信サービス契約を提供するYに対し、本件各契約における約款の変更条項につき、法10条に規定する消費者契約の条項に該当すると主張⇒
本件変更条項を含む契約の申込み又は承諾の意思表示の停止を求めるとともに、
これらの行為の停止または予防に必要な措置を求めた。 
  規定  第一〇条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
  争点 Yの準備する「当社は、この約款を変更することがあります。この場合には、料金その他の提供条件は、変更後の約款になります。」との本件変更条項が、法10条に該当するか否か。 
  判断 以下の理由で、請求を認めず。 
①本件各契約は、不特定多数の相手方に対して均一な内容の給付をすることを目的とするもの⇒
個別内容の変更のために個別同意を必要とすれば、多大な時間とコストを要することとなり、
個別同意を得なくとも契約内容を変更することを認めることで不特定多数の相手方の利益にも資する。
②既存顧客との個別合意がなくとも、既存の契約に変更の効力をおよぼすことがでいる場合があることが裁判例で認められている。
③改正民法548条の4第1項によれば、一定の要件の下に定型約款の変更により個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更し得ることを定める規定が設けられている。

本件各契約約款は、一定の合理的な範囲で変更できると解した上で、
本件変更条項は、一定の合理的な範囲においてのみ変更が許される趣旨と現定期に解すべき⇒消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する条項であるとは認められない。
本件変更条項自体は、価値中立的なものであって、消費者の権利義務に関するか否かは変更される条項の内容次第⇒法10条該当性も、変更後の内容につき判断されるべき。
  解説 最高裁昭和45.12.24:
船舶海上保険の約款の変更につき、「変更された条項が強行法規や公序良俗に違反しあるいは特に不合理なものでない限り、変更後の約款に従った契約もその効力を有する」 
福岡高裁H28.10.4:
預金契約における暴力団排除条項の有効性等に触れたうえ
「既存顧客との個別の合意がなくとも、既存の契約に変更の効力を及ぼすことがでいると解するのが相当」
最高裁H5.7.19
銀行の免責約款の有効性について、合理的な範囲において変更することが予定され、変更後の約款は当事者を拘束することを示したもの。
  民事p32
東京地裁H30.5.18
  成年後見人の不正⇒家事審判官の責任にる国賠請求(否定)
  事案 亡Aの養子であるXが、Aの妹でその成年後見人であったBが、Aの判断能力が減退していることを奇貨として、成年後見人選任の前後を通じて、Aの財産を不正に流出させた⇒
Bに対し、不法行為による損害賠償等を求めるとともに
家裁の家事審判官が、
①Bが成年後見人として極めて不適任であることを看過し、Aの養子であるXの意見を聞く機会を設けず、また、後見監督人を選任することもなく、BをAの成年後見人として選任したこと、
②成年後見開始後に、Bによる資産管理に不正があることを知り又は知り得たのに、特段の措置を執らずにこれを見過ごしたことは、
家事審判官に与えられた職務権限を逸脱し、著しく合理性を欠くもの
⇒国賠法1条1項に基づく国賠請求。
Bは訴え提起後に死亡し、子であるY1及びY2が訴訟承継。
  判断   Y1及びY2に対する請求を一部認容。 
適用されるべき国賠法上の違法性の判断基準に関し、
裁判官がした争訟の裁判について国のsン買い賠償責任が肯定される要件を示した最高裁昭和57.3.12は家事審判官が行なう成年後見人の選任及び後見事務の監督についても妥当。

家事審判官が違法又は不当な目的をもって権限を行使したり、その監督権の行使が権限の範囲を著しく逸脱したり、又は家事審判官の権限の行使の方法が甚だしく不当であるなど、家事審判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情が認められる場合に限り、当該家事審判官に職務上の義務違反があったものと認められる。
  後見人選任に係るXの主張: 





直ちに、BにAの資産の的確な維持管理や事務処理を期待することができないとか、AとBの利益が相反しており、BがAの資産を不正に費消領得する危険性が極めて大きかったとはいえず、後見開始当時のAの財産の内容を見ても、専門職後見人を選任すべきであったとはいえない。



Xに対して意見照会をしなかったことが不合理であるとも断定し難い。
以上を踏まえると、後見監督人を選任すべきであったともいえない。

Aの成年後見人選任の判断について、前記特別の事情があるとは認められず、家事審判官の権限の行使に関し国賠法上違法である点は認められない。
  成年後見人Bに対する監督権の行使または不行使に係る主張:



家事審判官が前記認定に係る不正支出について、これが不正なものであると具体的に認識し又は認識し得たとまでは認められない。

Bの後見事務に対する家事審判官の監督権の行使に関しても、前記特別の事情があるとまでは認められず、国賠法上違法である点は認められない。
  民事p46
名古屋地裁H30.3.6  
  冬季に凍結していた道路で大型トレーラーが滑走したため発生した交通事故⇒道路の設置又は管理の瑕疵が争われた事案
  事案 X1(運送会社)の従業員が運転していた大型牽引貨物自動車(大型トレーラー)が、Y(滋賀県)の管理する国道を走行中、凍結路面で滑走し、道路を塞ぐ格好で停車⇒後続車両6台が次々に衝突

X1が、Yに対し、道路の設置、管理に瑕疵があったと主張し、国賠法2条1項に基づき損害賠償を請求。 
  主張 X1:
本件道路の設置又は管理に瑕疵⇒
主に
①本件装置の誤作動(降雪のない状態で散水を続けた)
②本件道路の排水能力の欠如
③グルーピング舗装は凍結防止策として不十分
  判断 最高裁判決等⇒
国賠法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠き、他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいう。
道路管理者は、自動車運転者に社会通念上要求される一般的な運行態度を前提として、予見し得る道路の危険性の有無や程度に応じた管理を行なえば足り、それにもかかわらず発生した危険については、管理者に設置又は管理上の瑕疵について責任を問うことはできない。
本件融雪装置:
本件装置が誤作動することは考えにくいというYの主張を容れ、
①本件事故現場付近において降雪がない状態で本件装置が誤作動したとは認められない
②本件装置が、降雪が止んだ後も気温が1度になるまで散水を継続する点についても、路面凍結を防ぐため合理的なもの

本件装置の設置及び作動によって、本件道路が通常有すべき安全性を欠いているとはいえない。
本件道路の排水能力:
①本件道路の排水能力は、本件装置による散水量よりも多量となる降雨流入量を想定して設置されている
②本件道路の傾斜度、水抜き穴の排水量、道路脇に設置されている排水路の排水能力について検討

排水能力の点でも本件道路は通常有すべき安全性を欠いていない。 
グルービング舗装等:
降雪があった場合に本件装置が作動して散水すると、水分が付着して、道路の凍結状態を生ずるおそれがある
but
Yは、それを防止するため、排水機能を備えたグルービング舗装を行い、凍結防止剤を散布するなどの種々の対策を講じている
⇒事故防止対策は十分機能しており、グルービング舗装が劣化しているとはいえない。 
①冬季に平均気温が氷点下になる地域においても除雪方法として散水融雪装置によることも排除されていない
②本件道路では路面凍結による事故の頻度が高いとは言えない
③他にも散水融雪装置の設置より高額の費用を要するロードヒーティングを本件事故現場付近に優先して設置しなければならないほど、凍結による事故発生の危険が本件道路にあるとは認められない

ロードヒーティングによる凍結防止策をとっていないことをもって、本件道路が通常有すべき安全性を欠くものではない。
  解説 国賠法2条1項の「瑕疵」について
最高裁:
国賠法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、
当該営造物の使用に関連して事故は発生し、被害が生じた場合において、当該営造物の設置又は管理に瑕疵があったとみられるかどうかは、その事故当時における当該営造物の構造、用法、場所的環境、利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべき。
被害者の行動との関係における設置管理者の責任のあり方:
当該事故が営造物の通常の用法に即しない行動の結果生じた場合において、その営造物として本来具有すべき安全性に欠けることなく、前記行動が設置管理者において通常予測することのできないものであるとき
⇒当該事故は営造物の設置管理の瑕疵によるものであると言うことはできない。
最高裁H22.3.2:
道路の設置又は管理の瑕疵を判断する場面において、「そのような対策を講ずるためには多額の費用を要することは明らかであり」と判示
~予算的制約面も考慮要素とすることを肯定。
  民事p58
福島地裁H31.2.19  
 
  事案 私立高校の柔道部に所属するXが、同部に所属する同級生であるYらから、継続的かつ執拗にいじめを受けていた⇒うつ状態等になった⇒Yらに対し、共同不法行為に基づき、眼鏡買替費用、通院交通費用、診断書費用及び慰謝料及び逸失利益等の損害賠償を求めた。 
  判断 Xの供述は、客観的証拠及びYらの供述等から認定できる事実と概ね整合し、信用することができる。
⇒Yらが、平成26年7月頃から平成28年12月12日までの間、Xに対し、継続的かつ執拗に嫌がらせ等の言動をしていたことが認められる。 
Yらによる前記言動は、一般的に被害者に恐怖感や嫌悪感を抱かせたり、人格を否定するものであった上、単発ではなく1年以上にわたって継続的かつ執拗に行われていた
⇒悪ふざけの限度を超えたいじめに該当するものであり、不法行為を構成する違法なもの。
Yらは必ずしもすべての行為を共に行っているわけではない
but
Yらがいずれも柔道部に所属し、他の者のいじめ行為に対してXが抵抗できないでいる状況を相互に認識した上で、そのような状況を踏まえて自らもXに対するいじめ行為に加担
⇒Yらは、一連のいじめ行為を共同して行っていたものと認めるのが相当。
損害について:
眼鏡買替費用、通院交通費用、診断書費用及び慰謝料(150万円程度)は、前記不法行為により生じたものと認められる。

逸失利益:
Xのいじめ告白後の通学・進学状況や生活状況など
⇒Yらの前記いじめ行為によるうつ状態等によってXの就職が遅れたとはいえず、前記不法行為により生じたものとは認められない。
  民事p70
福岡地裁小倉支部H31.3.12  
  アスベスト国賠訴訟での遅延損害金の起算点
  事案 アスベスト国賠訴訟については、国が、泉南アスベスト第2陣訴訟の最高裁判決の判断に従って、訴訟上の和解の方法により被害者に対し損害賠償を負う旨表明。
争点は、遅延損害金の起算点。
  解説 不法行為に基づく損害賠償請求債務は、損害の発生と同時に何らの催告を要することなく遅延に陥る。
このことは、国賠法に基づき国が損害賠償義務を負う場合についても同様。

本件における問題は、石綿由来の肺がんについて、その損害発生の時期を何時と認めることができるか。 
  判断 じん肺が粉じんの灰組織への貯留等により肺の固化などが生じる疾病であって、進行程度が予測困難とされている
but
石綿由来の灰がんは、その診断に石綿肺の存在を前提としないことや、石綿そのものが悪性腫瘍の原因となることが指摘されている

石綿由来の肺がんがじん肺と同様に進行程度が予測困難である疾病であると認めることはできない

管理区分決定や労災認定といった行政上の決定がなくとも、その診断日において肺がん発症という損害発生を認定することができる。

診断日を起算点とする遅延損害金の支払を命じた。
  民事p75
那覇地裁H30.12.11  
  元県副知事による県職員採用試験における合格口利きの疑惑と、それについての名誉毀損が問題とされた事案
  事案 元県副知事であるXによる教員及び学校事務職員採用試験における合格口利きの疑惑について、
X:Y(元県教育長)に対し、Yが本件口利きの事実を記載した内容虚偽の文書を作成して県に提出するとともに、当該事実に係る情報を新聞社に提供するなどしたために、自身の名誉が毀損された⇒不法行為に基づく損害賠償を求めた。 
Y:反訴として、Xが前記文書の内容が虚偽であるなどとする記者会見⇒自身の名誉が毀損された⇒不法行為に基づく損害賠償及び謝罪広告を求める。
前記文書の内容が虚偽であるとして本訴事件を提起し、Yを名誉毀損罪で告訴したXの各行為は、いずれも不法行為に当たる⇒不法行為に基づく損害賠償を求めた。
  争点 ①本件口利きの事実の真実性の有無
②X及びYによる名誉毀損行為の有無
③謝罪広告の要否
④Xによる本訴事件提起と告訴の違法性 
  判断 本件口利きの事実は真実
Xの記者会見によってYの名誉が毀損⇒Xの不法行為責任を認める
but謝罪広告の必要性は否定
Xによる本訴事件の提起と告訴についても、著しく相当性を欠き違法⇒不法行為の成立を肯定 
  解説 本件口利きの事実の有無については、当事者であるX及びYの他にはこれを直接見聞きしたとされている者はいない
⇒本件口利きについての直接証拠であるYの供述の信用性を子細に検討し、結論としてその信用性を肯定。 
  ●Xによる名誉毀損の有無 
Xは記者会見の場において、本件口利きの事実を記載したY作成の文書を虚偽であるとして、「Yの説明は真実ではなく作り話である」旨述べている。
本判決:
Xの言論の自由にも一定の配慮を示したものの、結論として、Xの行為は、一般人をしてYの品行・徳性について疑念を抱かせ得るものであり、違法な名誉毀損行為。
判例:
自己の正当な利益を擁護するために、やむを得ず他人の名誉・信用を毀損した場合でも、かかる行為は、その他人の行った言動に対比して、その方法・内容において適当と認められる限度を超えない限りは違法性を欠くとされている。
  ●謝罪広告の要否 
Yの謝罪広告の請求は棄却。
民法723条の趣旨が、金銭による損害賠償のみではてん補できない、毀損された人格的価値に対する社会的、客観的評価を回復することを可能ならしめる点にある(最高裁)

謝罪広告の請求を認めるには、金銭による損害賠償のみではてん補できない程度に名誉が毀損されていることが必要。
but
本件ではその程度に至るまでの名誉毀損は認められないとしたものと思われる。
  ●Xによる本訴事件提起及び告訴の違法性の有無 
判例上:
訴えの提起については、提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときには、不法行為を構成。
本判決は、同最判の趣旨を本訴事件提起のみならず告訴にも及ぼしたもの。
  知財p88
知財高裁H31.1.24  
   
  事案 X(控訴人・一審原告)が、Y(被控訴人・一審被告)の販売するサックスる用ストラップが、Xの販売するサックス用ストラップの形態模倣に該当⇒Yに対し、不正競争法3条に基づき、被告商品の販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、同法4条、5条2項に基づき、880万円の損害賠償を求めた。 
  原審 原告商品の形態のうち不正競争法2条1項3号の保護を受けるのは、モデルチェンジ前の商品の形態を実質的に変更した部分に基礎を置く部分に限られる。
前記部分と被告商品のうち前記部分に対応する部分とは、実質的に同一であるとはいえず、被告商品が原告商品に依拠したということもできない。

Xの請求をいずれも棄却。 
  解説 ・判断 不正競争法2条1項3号:
個別の知的財産権の有無にかかわらず、他人が商品化のために資金・労力を投下した成果を他に選択肢があるにもかかわらずことさら完全に模倣して、何らの改変を加えることなく自らの商品として市場に提供し、その他人と競争する行為を「不正競争」と位置づける。

①先行者が資金・労力を投下して商品化した成果にフリーライドすることが競争上不正と観念される。
②模倣を禁止するのは先行者の投資回収の期間に限定することが適切。

日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品については、不正競争法2条1項3号の保護は及ばない(同法19条1項5号イ)。 
  本件:
被告商品の販売開始日:
原告商品が最初に販売された日から3年以内であったが、
原告商品のモデルチェンジ前の商品である旧原告商品が最初に販売された日から3年以上が経過。
⇒原告商品の販売日と旧原告商品の販売日のいずれが保護期間の基準時となるか? 
本判決:
原告商品と旧原告商品を対比すると、需要者が注意を引きやすい特徴的部分であるV型プレートの形態が相違
⇒原告商品から受け取る商品全体としての印象と旧原告商品から受ける商品全体としての印象は異なる
⇒原告商品の形態は、商品全体の形態としても、旧原告商品の形態とは実質的に同一のものではなく、別個の形態
⇒原告商品の販売日が保護期間の基準時。
  不正競争法2条1項3号によって保護される商品形態は、いかなる範囲か? 
原判決:商品の形態において実質的に変更された部分に基礎を置く部分に限られる。
本判決:不正競争防止法2条1項3号によって保護される「商品の形態」とは、商品全体の形態をいう。
原告商品の形態と被告商品の形態とを対比すると、商品全体としての印象が共通し、その形態は実質的に同一。
  モデルチェンジの前後で実質的に同一とはいえない⇒
①保護期間の起算点は、モデルチェンジ後の商品の販売時となるし、
②保護される範囲は、商品全体 
不正競争法2条1項3号については、商品の一部のみ保護対象となることはないとの解釈が一般的。
   刑事p111
東京高裁H30.7.30
   
  事案 干物店の元従業員であった被告人が、その干物店内において、経営者Aと従業員Bを殺害し、現金約32万円を強取したという強盗殺人の事案。 
事件当日に再就職依頼のために干物店を訪れたことは認めた。
自白なし。
検察官が主張した情況証拠:
事件直後に被告人が所持していた金員の禁酒と金額が被害者の金種と金額に類似
防犯カメラとタクシーのドライブレコーダーによって認められる被告人所有車両の現場の駐車時間が犯行時間帯と合致
  原審 有罪認定で
死刑判決
  判断・解説 犯人性等についての弁護人の主張を排斥
量刑不当の主張も排斥 
「その認定・判断の中核的な部分には、論理則、経験則等に照らして概ね不合理な点はなく、当裁判所としてのその結論は是認できる」
●殺害犯人と被告人との同一性 
駐車していた車両について、控訴審で供述を変更。
(原審において被告人は弁護人にはその旨の説明をしていたが防御方針として敢えてその主張はしなかった)
●量刑不当 
「本件のような死刑選択の当否が問題となる重大事案においては、極刑からだけは逃れたいとの強い欲求から虚偽の弁解をすることは被告人の心情としてはある程度やむを得ないところであって、非難を強める事由としてこの点を重視するのは相当ではないが、結果として反省の情が認められず、犯行後の事情に何ら有利に斟酌すべき点がないという限度では、当然考慮すべき事情となるといえる」
     
2424   
  行政p11
東京地裁H30.3.28   
  原子力発電所事故当時発電所長の地位にあった者から事故当時の事情を聴取した調書中の個人識別記述等を不開示とした部分開示決定の一部取消しを求めた事案
  事案 内閣官房に設置された事故調査・検証委員会(政府事故調)が、本件事故当時の福島第一原発所長から事情を聴取した聴取結果調書(本件各調書)について、Xらが、行政情報公開法に基づき、開示の請求⇒処分行政庁により当初その全部を開示しない旨の行政処分不開示決定、その後、状況の変化を踏まえ、個人に関する情報等が記録されている部分を除いて開示する旨の変更決定。
Xら:なお不開示とされた一部(本件各記述)について、
①東京電力のグループマネージャー(GM)以上の職位にある個人の氏名又は職名(氏名等)は公表慣行がある⇒法5条1号ただし書イの公領域情報に該当
②本件各記述を公にすることにより害されるおそれがある個人の権利利益よりも、同種の過酷事故予防策の構築に必要な事故原因の究明という人の生命、健康等を保護するための必要性が上回る⇒同号ただし書ロの生命等保護情報に該当し、同号所定の不開示情報には当たらない。

本件各記述を不開示とした部分の取消しを求めた。
  規定 行政情報公開法 第5条(行政文書の開示義務)
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。
一 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
イ 法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報
ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報
・・・
  判断  ●①の公開情報該当性
本件各記述は、その前後の文章の内容と相まって、個人の行動等を記録した情報(行動情報)としての有意な方法(本件各行動情報)を構成しており、本件各行動情報に係る本件各記述以外の部分が既に開示されている
⇒本件各記述が開示されると本件各行動情報の全部が明らかになる関係にあることを踏まえた上で、公領域情報該当性は、有意といえる最小の情報のまとまりの全体について、法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されているか否かを吟味すべきもの。
①本件各調書の作成目的や性質に鑑み、本件各記述に係る個人識別記述等のみをもっては有意の情報であるとは解することができず、
②本件各行動情報全体について、本件各変更決定時に公領域情報に該当したことをうかがわせる事情は見当たらない

本件各記述を含む本件各行動情報は、法5条1号ただし書イの公領域情報として不開示情報から除外されない。
  ●➁の生命等保護情報該当性 
行政文書を
①保護される人の生命、健康、生活又は財産の利益と
➁これを公にすることによって個人の権利利益が害されるおそれ
とを比較衡量して、前者が後者に優越すると認められることを要する。
①本件各記述部分が開示されることによって、政府事故調による調査及びその結果が公表されていることによっては実現できないような人の生命、健康、生活又は財産の利益の保護が図られることになる蓋然性が高いとまでは認められない一方、
➁本件各記述部分が公にされることによって本件各記述対象者の権利利益が害されるおそれは無視し得る程度に低いものとはいえない

本件各記述は、法5条1号ただし書ロの生命等保護情報として不開示情報から除外されるものであったとはいえない。
  解説 ●①の公開情報該当性
本判決:
公表慣行があるといえるためには、公表主体が行政機関であるべきとするYの主張を退け、
事実上の慣行として公にされ、又は公にすることが予定されていれば足りる。
but
①一時的に公にされただけで爾後も反復継続的に公にされることが見込まれる状況になく、また、
➁類似の情報が公にされていても、情報としての性格が同種の情報についてのものでなかったり、
③個別的な事情に基づいて公にされたりしているにとどまれば、
公表慣行があるとはいえない。

結論として、過酷事故の一次資料についての公表慣行を認めることはできない。
●➁の生命等保護情報該当性 
本判決の比較衡量の枠組み自体は一般的なもの。
①学識経験者等によって構成される政府事故調が、多数の関係者からのヒアリング結果等の一次資料を基にして中立的な立場から再発防止策を提言する報告書を作成してこれが公表されるとともに、
➁調査・検証によって明らかになった事実関係が検証・批判可能な形で公にされている

不開示とされた本件各記述部分が開示されることにより、過酷事故の再発防止という生命等の保護が一層図られることになる蓋然性が客観的にみて高いとまではいえず、不開示により保護される利益に優越するとまでは認められないと判断。

他の関連情報等の公表状況を勘案した上での事例判断。
  行政p61
奈良地裁H31.2.21  
  滞納処分(差押処分)が超過差押えに該当して違法とされた事案
  事案 Xは、市税である市県民税及び固定資産税を滞納⇒滞納処分として土地建物についてのXの持分の差押⇒Xは、処分行政庁の所属するY(奈良県大和郡山市)に対し、本件処分は、地税法が準用する税徴法が禁止している超過差押え(同法48条1項)及び無益な差押え(同条2項)に当たる⇒①本件処分の一部取消しを求めるとともに、本件処分によりXが精神的苦痛を被ったと主張し、②国賠法1条1項に基づき10万円及び遅延損害金の支払を求めた。
  判断  ●請求①
本件処分は無益な差押えには該当しない。
超過差押え該当性について:
差押処分時に財産価値を正確に把握するのは困難⇒徴収職員が差し押さえる財産に裁量権を認めた。
but
その裁量権の行使に当たっては、滞納者の生活への支障や財産の可分性等を考慮して判断すべき。
本件不動産は経済的用法に従っても6つに分けられ、そのうち4つはそれだけで滞納税額を上回るにもかかわらず、滞納税額の約10倍もの価値を有する本件不動産全てを圧死押さえたことは、前記裁量権の逸脱・濫用⇒本件処分全体が違法⇒処分権主義に従い、Xが取消しを求める限度で請求を認容。
  請求② 
国賠法1条1項の違法性につき、行政処分の取消訴訟の違法性とは異なるとする違法性相対説。
その判断基準として職務行為基準説(最高裁H5.3.11)
税収職員には税の滞納があれば滞納処分をする義務があり、差押処分時に財産価値を正確に把握するのは困難
⇒滞納処分における徴収職員の財産の選択にかかる裁量権は広範なもの。

①本件不動産は市場性減価が一定程度見込まれる市街化調整区域内にある⇒直ちに価値を把握するのは困難。
②Xの納税意思がないまま、数年にわたって滞納が継続していたなどの本件の具体的事情。

Yの徴収職職員が職務上の注意義務を尽くすことなく漫然と本件処分を行ったとは認められない⇒前記違法性を否定。
  解説 滞納税額を超える財産の差押えに関する裁判例:
①滞納税額に対し、実質価格で60~70倍、購買価額で30~40倍という超過額の著しい差押えにつき、他に財産がないことなどから有効とした事案(最高裁昭和46.6.25)
②滞納税額の約4倍に相当する複数の預金債権の差押えを超過差押えに該当するとして違法とした事案(那覇地裁H8.12.17)
③滞納処分後になされる公売処分に関する事案であるが、滞納税額の10倍近い公売処分につき、滞納税額に達する唯一の財産であったことなどから適法とした事案(京都地裁昭和35.6.22)
滞納処分が超過差押えに該当する場合であっても、差押えの一部解除等により超過差押えでなくなったときは、その違法性は治癒される。
  民事p69
最高裁
H31.3.5  
  高圧一括受電方式導入のため、団地建物所有者等に対して個別に締結されている電力供給契約の解約申入れを義づける旨の集会決議等の効力
  事案 高圧一括受電方式の導入を希望していた団地建物所有者が、その導入に反対していた団地建物所有者が個別契約の解約申入れをしなかったことによりその導入ができなかった⇒同団地建物所有者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求を求めた。
本件マンションの団地管理組合法人の集会において、専有部分の電気料金を削減するため、団地管理組合法人が一括して電力会社との間で電力の供給契約を締結する方式(「本件高圧受電方式」)に変更し、その変更をするために、電力の供給に用いられる電気設備に関する団地共用部分につき規約を変更する旨等の「決議(「本件決議」)がされた。
本件高圧受電方式への変更をするためには、個別契約を締結している者の全員が、その解約をすることが必要
⇒本件決議は、本件高圧受電方式以外の方式で電力の供給を受けてはならない旨の規約細則(「本件細則」)を設定することなどにより、団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付けるもの。
  争点 本件決議又は本件細則が団地建物所有者等に前記解約申し入れを義務付けるものとして効力を有しなければ、Yらが前記解約申入れをしないことが不法行為を構成する余地はない
⇒本件決議又は本件細則が区分所有法に基づき前記の効力を有するか否か
  原審・1審 本件決議は団地共用部分の変更またはその管理に関する事項を決するなどして本件高圧受電方式への変更をすることとしたものであって、その変更のためには個別契約の解約が必要⇒団地建物所有者等にその解約申入れを義務付けるなどした本件決議は区分所有法66条において準用する17条1項又は18条1項の決議として効力を有する。
Yらがその専有部分について個別契約の解約申入れをしないことは本件決議に基づく義務に反する⇒Xに対する不法行為を構成する。
  判断 本件決議のうち団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は専有部分の使用に関する事項を決するものであって法66条において準用する法17条1項又は18条1項の決議として効力を有するものとはいえない。 
本件細則のうち前記解約申入れを義務付ける部分は法66条において準用する法30条1項の「団地建物所有者相互間の事項」を定めたものではなく、前記部分は同項の規約として効力を有するものとはいえない。

Yらが本件決議又は本件細則に基づき前記解約申入れをする義務をおうことを否定し、原判決を破棄し、Xの請求をいずれも棄却。
  解説  区分所有法は、区分建物いおいて、
共用部分の変更及び管理については集会決議で決することができるとする一方(法17条1項、18条1項)、
建物等の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は規約で定めることができるとする(法30条1項)。

共用部分の管理・変更については規約を待つまでもなく当然に集会決議で決することができるとする一方、
専有部分の使用については、「区分所有者相互間の事項」に限り、規約によってのみ規制することができるものとしたもので、
これらの事項以外の事項につき決議し、又は規約を設定したとしても、当該決議又は規約は区分所有法に基づく効力を有しない。
本件マンションについては団地管理関係が成立している(法65条)
⇒本件決議及び本件細則の効力の検討は法66条において読替えの上で準用される法17条1項、18条1項及び30条1項により行うべきこととなり、前記読替えにより、法17条1項及び18条1項は、団地内の区分建物(法68条1項により団地管理の対象とされたもの)の共用部分の変更・管理については団地管理組合法人の集会決議で決することができる旨などを、
法30条1項は前記区分建物の管理又は使用に関する団地建物所有者相互間の事項は団地管理規約で定める旨などをそれぞれ定めたものとなるが、
これらの文言の解釈等は、読替え前の条文における文言の解釈に準じて考えることができるものと解される。
  本件決議は団地共用部分の範囲の変更等を決する部分がある⇒本件決議中に、団地共用部分の変更又は管理に関する事項を決する部分が含まれることは明らか。
but
専有部分において使用する電力の供給契約の選択は、専有部分の使用に関する事項⇒本件決議のうち、団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は専有部分の使用を制約するものに当たるというべきで、「共用部分の変更」(共用部分の形状又は効用を確定的に変えること)又は「共用部分の管理」(共用部分の維持のため必要又は有益な行為)に該当するものとは解し難い。

専有部分の使用を「区分所有者相互間の事項」に限り規約によってのみ制約し得るものとした法30条1項の趣旨に沿わず、相当でない。

本件決議のうち団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は団地共用部分の変更またはその管理に関する事項を決するものではないとして、法66条において準用する法17条1項又は18条1項の決議として効力を有しない。
  法66条において準用する法30j法1項の規約としての本件細則の効力の有無について、
法30条1項の「区分所有者相互間の事項」は
「建物等の管理や使用が区分所有者全体に影響を及ぼすような事項」ないし 
「区分所有者相互間において専有部分の管理又は使用を調整するために必要な事項」などと説明されるものの、
その具体的範囲ないし外延は必ずしも明確ではない。
区分所有法の趣旨が、専有部分が1棟の建物の一部を構成するという区分建物の特性に鑑み、区分所有者相互間における専有部分の使用関係を調整し、共用部分を含めた区分建物の管理の適正化を図ることあり、独立の所有権の対象である専有部分の管理又は使用を規約によって制約し得る根拠はこの点に求めることができると解されている。

専有部分の使用を制約する内容の規約が法30条1項の範囲内のものとして効力を有するか否かについては、
①当該制約の対象となる事項が、その性質上、他の区分所有者等による専有部分の使用又は共用部分等の管理に影響を及ぼすものであるか否かという点や
②当該制約が、区分所有者相互間による専有部分の使用関係の調整又は共用部分等の適正な管理のために必要なものであるか否かという点などを考慮して検討。
本件:
①専有部分において使用する電力の供給契約の選択は、本来、当該専有部分の区分所有者に委ねられるべき事項であり、かつ、通常は前記選択が他の専有部分や団地共用部分等に何らかの影響を及ぼすものではないと考えられ、専有部分の個別契約を解約するか否かは、その性質上、それのみによって他の団地建物所有者等による専有部分の使用又は団地共用部分等の管理に影響を及ぼすものとは解されない。
②本件において、本件高圧受電方式への変更は専有部分の当面の電気料金を削減しようとするものにすぎないとされており、本件高圧受電方式への変更がされないことにより専有部分の使用に支障が生じるような事情や、団地共用部分等の適正な管理が妨げられることとなる事情はうかがわれない。
  民事p73
東京高裁H30.10.18  
  法廷での反対尋問での発言が証人の名誉を毀損するとされた事例
  事案  懲戒解雇無効確認等請求事件において、会社の証人として尋問を受けたXが、被解雇者の訴訟代理人弁護士Yから反対尋問を受けた際のYの発言
「Xが会社を辞めたことに関して、横領して辞めたのではないか、自己の意思に反して会社に有利に証言しなければならない立場にあるのではないか」
⇒名誉を毀損されたとして、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料300万円を請求。
  原審 ①本件各発言は、事件との関連性があり、正当な訴訟活動であると認識・判断した上でされたものであり、
②証人に証言拒否権があるこも勘案すれば
相当性を欠くとはいえない。

請求棄却。 
  判断 原判決を変更し、請求を100万円の範囲で認容。 
①本件各発言は横領という犯罪事実を公開の法廷で摘示するものであり、Xの社会的評価を低下させるもの
②正当な訴訟活動として違法性が阻却されるか否かの判断は、当該質問によって毀損される名誉の内容や程度、質問の必要性、当該質問において摘示した事実の真実性、又は真実であると信じた相応の根拠の有無、質問の表現方法や態様の相当性を総合考慮するのが相当
③Yによる本件各発言は、それによってXの証言の信用性が減殺されるとは言い難いこと、相応の根拠のないこと、執拗かつ不適切な態様であったこと

正当な訴訟活動として違法性が阻却されるものとは認められない。
  解説 証人に対する反対尋問は、
「主尋問に現れた事項及びこれに関連する事項並びに証言の信用性に関する事項」について行う。(民訴規則114条1項2号) 
この場合において、証言の信用性に関する事項の質問も無制限に許されるわけではなく、相応の根拠をもってされなければならないのであって、証人を侮辱する質問は許されない。(民訴規則115条2項1号)
法廷における訴訟活動は、裁判の役割からみて、できるだけ尊重しなければならない(最高裁昭和60.5.17)のであって、正当性に係る評価は慎重でなければならない。
  民事p82
大津地裁H31.3.14  
  少年らの共同不法行為(肯定)、親権者らの責任(否定)が争われた事案
  事案 琵琶湖のヨットハーバーの突堤(「本件現場」)から湖面に突き落とされて死亡したV(当時16歳)について、突き落とす行為に参加した少年ら及びその親権者らに対する損害賠償請求の可否が問題となった事案。 
刑事では、B1、C1らは、A1と共謀した事実はない⇒不起訴処分
  判断  ●少年達の共同不法行為の成否
  ①B1、C1は、A1によるVを琵琶湖に落とそうという提案について、反対することなく了解したことが認められる
②C1は、本件現場で遊ぶ場合には、友人を突き落としたり突き落とされたりすることがあることを十分に認識
②B1においても、本件現場では琵琶湖への飛び込みをして遊ぶしかない場所であることのほか、人によってはふざけて友人を琵琶湖に落としたりする可能性があることを認識していた
③A1、B1、C1は、突然突き落とされておぼれている様子であったVを、しばらくの間、笑いながら見ていた
⇒3名の少年の間にVを不意に琵琶湖に突き落とすことについて、主観的な意思の連絡があたと認められ、主観的共同性が認められる
⇒共同不法行為が成立。
  ●親権者らの監護義務違反
  未成年者が責任能力を有する場合であっても、その監督義務者に監督義務違反があり、これを未成年者の不法行為によって生じた損害との間に相当因果関係を認め得るときには、監督義務者は、民法709条に基づき損害賠償責任を負う。 
監督義務違反尾検討に当たっては、具体的結果との関係における予見可能性及び結果回避可能性を踏まえて判断するのが相当。
①本件事件は飛び込み遊びの延長線上にある友人間の悪ふざけとして行われたものであり、Vの死亡という結果はA1、B1、C1ら少年にとっても意外で不本意なものであった

①3名の少年に非行傾向があったからといって、同少年らが本件事件のような事態を引き起こすことを、その親権者らが具体的に予見することができたとはいえない。
②その親権者らが監護指導を尽くしていたとしても本件事件の発生を防止することができたとも言い難い

親権者の責任を否定。
  民事p92
札幌地裁H31.1.22  
  意思能力を欠く常況にある区分所有者に対する弁明の機会
  事案 マンションAの管理組合の管理者である原告が、本件マンションの区分所有者である被告に、本件マンションの管理規約に定める管理費等の長期間にわたる滞納があり、このことが本件マンションの区分所有者の共同の利益に反し、区分所有法59条1項の定める要件を満たす程度に至っている
⇒同管理規約に基づき、前記滞納管理費等の支払を求めるとともに、同項に基づき、本件マンションの被告の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求。
  経緯 ①原告が区分所有法59条2項の準用する同法58条3項の弁明の機会を与えるべく被告に対して通知を送付した時点で、被告は意思能力を欠く常況にあったが、成年後見人は選任されていなかった。
②本件マンションの集会における特別決議を経て提起された本件訴えの訴訟手続において、被告のために選任された特別代理人に対し、改めて弁明の機会を付与するための手続が執られ、再度、本件マンションの集会において、本件訴えに係る訴訟手続を継続する旨の特別決議がされた。
  主張 原告:
①区分所有法58条3項に定める弁明の機会の付与とは文字どおりその機会を付与する外形的事実があれば足り、その機会を付与される区分所有者に意思能力があるかどかは問題とはならない
②仮に、当該区分所有者に意思能力が必要であるとしても、特別代理人に対して弁明の機会が付与され、改めて本件集会がされた⇒その瑕疵は治癒 
被告:
①意思能力を欠いた常況⇒弁明の機会が付与されたということはできない
②特別代人には同法59条2項の準用する同法58条3項の弁明の機会の付与を受ける権限を有しない
  判断 原告主張①は否定
原告主張②を認め、本件マンションの被告の区分所有権及び敷地利用権の競売の請求を認容。 
  規定 区分所有法 第五九条(区分所有権の競売の請求)
第五十七条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。
2第五十七条第三項の規定は前項の訴えの提起に、前条第二項及び第三項の規定は前項の決議に準用する。
区分所有法 第五八条(使用禁止の請求)
前条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、前条第一項に規定する請求によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、相当の期間の当該行為に係る区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求することができる。
2前項の決議は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数でする。
3第一項の決議をするには、あらかじめ、当該区分所有者に対し、弁明する機会を与えなければならない。
  説明  ●区分所有法59条1項に基づく競売の請求 
区分所有建物の区分所有者が、区分所有法6条1項に定めるいわゆる共同利益背反行為をし又はそれをするおそれがあり、その行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難である場合
⇒他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。
前項の請求をするためには、
区分所有者及び議決権の4分の3以上の集会における特別決議に基づくことを要し(法59条2項、58条2項)、
その決議をするに当たっては、当該行為に係る区分所有者に対し、あらかじめ、弁明の機会を付与しなければならない。
(同法59条2項、58条3項)
  ●競売の請求における弁明の機会の付与 

競売によって当該区分所有者の区分所有権に重大な影響が生じることから、その者に確実に反論させる機会を提供。

弁明の機会を付与する旨の通知によって弁明の機会が付与されたというためには、その通知の内容を了解する能力を当該区分所有者が備えていることを要すると解するのが相当。
  ●特別代理人に対する弁明の機会の付与と総会決議の瑕疵の治癒 
①民訴法上の特別代理人は選任された事件については法定代理人であり、法定代理人と同一の権限を有する。
②弁明の機会の付与は、競売の請求に係る訴えを提起するための手続要件。
③民訴法35条の規定は、代理に親しまない離婚訴訟には適用されないとされている(最高裁昭和33.7.25)が、区分所有法に基づく競売の請求に係る訴えはあくまで民事訴訟であり、同判例の射程は及ばない。

本判決:特別代理人は弁明の機会を付与されること(さらには弁明すること)についての権限を有していると解した。
  民事p99
高松地裁丸亀支部
H30.12.19  
  加害者が契約している自動車保険の保険会社が被害者に金員を支払ったが本来保険給付の対象でなかった場合の不当利得返還請求。
  事案 Y1が運転する自動車が歩行中のAに衝突し、Aに傷害を負わせた(本件事故)。 
Y1との間で他社運転危険補償特約(本件特約)月の自動車保険契約をを締結していた保険会社であるY3(被告・反訴原告)は、
Aの入院した病院に1231万1122円、
Aが利用したタクシー会社に1満7360円、
Aに1175万6376円をそれぞれ支払った。
but
本件事故時にY1が運転していた車両(本件事故車両)は本件特約対象から除外される「記名被保険者(Y1)が所有する自動車」ないし「記名保険者(Y1)が常時使用する自動車」に該当するから、本件特約は適用されず、本件は保険金支払いの対象でなかった。

Y3が、反訴請求として、(事故後死亡した)Aの相続人であるXらに対し、前記の病院及びタクシー会社に支払った金員並びにAに支払った金員について返還を求めた。
  規定 民法 第707条(他人の債務の弁済)
債務者でない者が錯誤によって債務の弁済をした場合において、債権者が善意で証書を滅失させ若しくは損傷し、担保を放棄し、又は時効によってその債権を失ったときは、その弁済をした者は、返還の請求をすることができない。
2 前項の規定は、弁済をした者から債務者に対する求償権の行使を妨げない。
民法 第500条(法定代位)
弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する。
  主張 ●Aに対する支払についての返還 
Y3:
この支払は、Aを債権者、Y1を債務者とする債権につき、Y3が本件特約の適用があると誤信して第三者弁済をした⇒民法707条1項の類推適用により弁済は無効。
X:
①Y3によるAに対する支払は、AがY1から損害賠償債務の弁済を受けたもので、法律上の原因がある。
・・:・保険会社から被害者に金銭の交付がされることがあるが、これは加害者からの支払指図によるものであり、被害者に対する損害賠償債務を弁済するのが加害者であることに変わりはない。
②仮に本件事故車両に本件特約の適用がないとしても、それはY3とY1との間の原因関係に瑕疵があるにとどまり、Y1とAとの原因関係に影響することはない。
  ●医療機関等に支払った金員の返還
Y3:
医療機関及びタクシー会社を債権者、Aを債務者とする債務に対する第三者弁済⇒Y3は、民法707条2項、500条の適用又は類推適用により、Aに対して求償権を有する。
X:
Y3による医療機関等への支払は、Y1のAに対する損害賠償債務についての弁済を、医療機関及びタクシー会社に対して個別にしたものに過ぎない。
  判断 本件事故車両の所有者はY1⇒本件特約の適用除外事由がある。
  ●Y3がAに支払った金員
①この支払は、本件事故を起こしたY1がY3に本件事故を申告して本件特約に基づく保険金の支払を求め、これに応じてY3がAに支払をしたもの。
②Y3によるAへの支払は、Y1のAに対する損害賠償債務の履行として、保険契約者であるY1の指示によりY3が行ったものというべき。

Y3の支払は、自己の名による弁済とはいえず、Y3による第三者弁済には該当しない。
前記支払はAが本件事故の損害賠償としてY1から弁済を受けたもの⇒法律上の原因がないとはいえず、Y3がXらに対して不当利得返還請求をすることはできない。
  ●Y3が医療機関等に支払った金員
①この支払は、本件事故を起こしたY1がY3に本件事故を申告して本件特約に基づく保険金の支払を求め、これに応じてY3かが医療機関等に支払をしたもの。
②Y3による医療機関等への支払は、Y1のAに対する損害賠償債務の履行として、保険契約者であるY1の指示によりY3が支払ったもの。

Y3の支払は、自己の名による弁済とはいえず、Y3による第三者弁済には該当しない。
民法500条を適用または類推適用する余地はなく、Y3は、医療機関等に支払った金員について、Xらに対し、求償することはできない。
  解説 講学上三角関係の不当利得として議論されている問題。
保険会社⇒A(被害者)に支払:

外見上:本件会社の給付(金銭支払)による利益は直接には支払を受けたAに発生し、Y1(加害者)は利益を受けないように見える。
but
当該給付によりY1はAに負う損害賠償債務がその限度で弁済されたことになって消滅するという利益を得ている。
②AはY1との関係で損害賠償債務の弁済を受けるという法律上の原因がある。

本件で不当利得返還請求の相手となるのはY1であって、Aではないというべき。
(本来のルートである、保険会社が本件給付をY1に行い、他方、Y1がA等に損害賠償債務の支払いをしたというケースとの対比からしても、そう言える)
最高裁H10.5.26:
消費貸借契約の借主甲が貸主乙に対して貸付金を第三者丙に給付するよう求め、乙がこれに従って丙に対して給付を行った後甲が本契約を取り消した場合、
乙からの不当利得返還請求に関しては、甲は、特段の事由のない限り、乙の丙に対する右給付により、その価額に相当する利益を受けたものとみるのが相当。

補償関係が取消しにより消滅した事案について、補償関係の当事者間(本件でいうと保険会社とY1の間)で不当利得が成立すると判断。
but
補償関係と対価関係の双方が欠けている場合、すなわち、本件でいうと、対価関係である損害賠償債務も不存在であるという場合については、
保険会社の金員の給付でY1の損害賠償債務が消滅するという利得がY1に生じたと評価できないことになる
⇒Aとの間で不当利得の関係が成立。
保険会社が病院に治療費相当額の金員を支払ったが、その治療が不必要で過剰、あるいは過大な単価のものであったという場合について、保険会社は病院に対して不当利得返還請求ができるとした東京地裁H23.5.31.

補償関係と対価関係の双方が欠けていた場合について判示したもの。
本は決:
保険会社によるAへの支払は、Y1によるAの損害賠償の履行として保険契約者Y1の指図により保険会社が行ったものというべき
⇒自己の名による弁済とはいえず、本件会社による第三者弁済には該当しない
⇒前記支払はAが本件事故の損害賠償としてY1から弁済を受けたものというべきであり、法律上の原因がないとはいえない。 
金員の給付を債務者意外の者がする場合、
A:これを第三者(本件では保険会社)が自己の名で他人の債務(Y1の債務)を他人の債務として弁済するという第三者弁済として捉える場合と、
B:債務者(Y1)が履行補助者(保険会社)を使用して自己の名で弁済をなすと捉える場合
があり得る。

but
第三者弁済として捉えたとしても、これをY1の委託に基づきなされたものと捉えられ、Y1の指図により履行補助者として保険会社が弁済をしたと捉える場合とその利益状況は同じであり、結論は変わらない。
医療関係等に支払った金員:
保険会社はY1との間に保険金の給付という補償関係がある
⇒Y1の指示で(Aにより損害賠償債務の支払先として指示された)病院等に金員を給付したものと捉えられる。
この金員の給付により、Y1はAに対する損害賠償債務をその限度で免れるという利益を得る⇒不当利得関係はY1との間で成立し、Aとの間では成立しない。
  知財p117
知財高裁
H31.2.6  
  商標が国際信義に反するとして、商標法4条1項7号に該当するとされた事案
  事案 原告は、「envie CHAMPAGNE GRAY」の欧文字と「アンヴィ シャンパングレイ」のカタカナを上下2段に書してなり、第9類「眼鏡」等を指定商品として設定登録された本件商標の商標権者。
  被告は、本件商標登録の無効審判を請求⇒特許庁は、本件商標が商標法4条1項7号に該当するとして、無効審決⇒原告が、本件審決には同号の判断誤りの違法があると主張し、その取消しを求めた。 
  規定 商標法 第四条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。

七 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標
  判断 ・・・・
以上のような本件商標の文字の構成、指定商品の内容、本件商標のうちの「CHAMPAGNE」、「シャンパン」の文字がフランスにおいて有する意義や重要性、日本における周知著名性等を総合的に考慮

本件商標をその指定商品に使用することは、フランスのシャンパーニュ地方におけるぶどう酒製造業者の利益を代表する被告のみならず、法令により「CHAMPAGNE(シャンパン)」の名声、信用ないし評判を保護してきたフランス国民の国民感情を害し、日本とフランスとの友好関係にも好ましくない影響を及ぼしかねないものであり、国際信義に反し、両国の公益を損なうおそれが高いといわざるをえない。
⇒本件商標は、商標法4条1項7号に該当。
  解説 特許庁の商標審査基準第3六:
①その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字または図形である場合、
②当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般道徳観念に反する場合
③他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合
④特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合
⑤当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合等
についても、商標法4条1項7号に該当するものとして運用。 
本件は、特定の国の国民の国民感情を害することを理由に国際信義に反するものとして商標法4条1項7号に該当することを認めた事例。
  労働p126
最高裁
H31.4.25   
  使用者と労働組合との間の合意により労働者の未払賃金に係る債権が放棄されたということはできないとされた事案 
  事案 Yに雇用されていたXが、Yに対し、労働協約により減額して支払うものとされていた賃金につき、当該減額分の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払等を求めた事案。
  経緯  Yは、Xの所属するA労組等との間で、平成25年8月28日、同月支給分の賃金から12カ月、年間一時金を含む20%の「賃金カット」をし、Yがカット分賃金の全てをロ同債券として確認する旨の労働協約(第1協約) 
Yは、Xに対し、平成25年8月から同26年7月までの月例賃金、賞与について20%相当額を減額して支給。(減額による未払賃金を「本件未払賃金1」)
Yは、A労組等との間で、平成26年9月3日、対象の期間を同年8月支給分の賃金から12カ月とうるほかは、第1協約と同旨の労働協約(第2協約)を締結。
平成27年8月10日、対象の期間を同月支給分の賃金から12か月とするほかは、第2協約と同旨の労働協約(第3協約)を締結。
Yは、Xに対し、平成26年8月から同年11月までの支給分の月例賃金について20%相当額を減額して支給。(減額による未払賃金を「本件未払賃金2」)
Yの生コンクリート運送業務を行う部門は、平成28年12月31日をもって閉鎖され、Xが所属していたA労組に所属する組合員2名がYを退職。
YとA労組は、第1協約、第2協約によって賃金カットの対象とされた賃金を放棄する旨の合意。(「本件合意」)
  原審 本件合意による賃金債権の放棄を認め、債権消滅。 
  判断 使用者と労働組合との間の当該労働組合に所属する労働者の未払賃金に係る債権を放棄する旨の合意につき、当該労働組合が当該労働者を代理して当該合意をしたなど、その効果が当該労働者に帰属することを基礎付ける事情はうかがわれないという事実関係の下においては、これによる当該債権が放棄されたということはできない。
①第1協約の締結前及び第2協約の締結前にそれぞれ具体的に発生していた賃金請求権の額、
②第1協約及び第2協約が締結された際のXによる特別の授権の有無、
③平成28年7月末日以降、YとA労組等との間で支払が猶予されていた賃金についての協議の有無等
が認定されていないため、本件各未払賃金の弁済期を確定することはできない。
but
遅くとも同年12月31日には弁済期が到来していたというべき

本件各未払賃金の元本については請求を認容する自判をし、
遅延損害金については原審に差し戻す。
  解説   労働組合と使用者との間で、当該労働組合の組合員の労働条件に関し、何らかの合意がされたとしても、組合員は当該合意の当事者ではなく第三者
⇒当然に当該合意で定められた労働条件が組合員と使用者との間の労働契約の内容となるものではない。 
労働組合と使用者との合意が、当該労働組合の組合員と使用者との間の個別の労働契約の内容となるためには、
①前記合意に労働契約としての規範的効力が生ずるか
②合意の内容、その成立状況などに即して、労働組合が組合員である労働者個人を代理して前記合意をした、又はそれが労働契約の当事者の合理的意思であるということができる必要がある。
(最高裁H13.3.13)
  労働協約中の「労働条件その他労働者の待遇に関する基準」は、個々の労働契約を直接規律する規範的効力を与えられているが、規範的効力を付与するには、書面に作成され、かつ、両当事者がこれに署名し又は記名押印する必要がある。
組合員個々人の具体的に発生した賃金請求権など既に発生している権利の処分又は変更は、労働組合の一般的な労働協約締結権限の範囲外であり、当該個々人の特別の授権を得ることが必要となると解されている。(最高裁)
  遅延損害金の請求⇒弁済期の検討 
第1協約と第2協約:
それぞれ対象となる期間の賃金の支払いを猶予するもの。
but
協約中で対象とされたものの全てについて支払の猶予の効果が生ずるかについては、①賃金請求権の発生時期と、②労働組合の一般的な労働協約締結権限の範囲との関係が問題。
◎  第1協約:
平成25年8月支給分の賃金から12カ月を対象としているところ、これは同月28に締結。
それ以前の労働日に係る賃金が第1協約締結前に具体的に発生⇒その支払を猶予することは、既に発生した権利の処分又は変更に当たる⇒特別の授権なくして労働協約により支払を猶予することはできない。
同年7月21日から同年8月20日までの労働に係る賃金が同月末日に支払うものとされ、
同月21日から同年9月20日までの労働に係る賃金が同月末日に支払うものとされている

同年7月21日から第1協約締結前である同年8月27日又は28日までの労働に係る賃金について、同月28日時点で具体的に発生していたか?
民法 第624条(報酬の支払時期)
労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。
2 期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。
民法624条は報酬の支払時期を定めるところ、
「期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。」と定める同情2項について、 
A:支払時期だけに関するもの⇒労働日ごとに賃金債権は発生しているが期間の経過までは弁済期が到来していない。
B:賃金債権が期間経過後に発生⇒期間の経過前には労働日ごとに賃が院債権が発生するものではない。
民法624条は任意規定⇒当事者がこれと異なる合意をすることを妨げない。
第1協約締結日である平成25年8月28日時点でそれ以前の労働日に係る賃金債権が具体的に発生

①同年7月21日から同年8g圧20日までの労働に係る賃金は1か月分の賃金
②同月21日から同月27日又は28日までの労働に係る賃金は原審確定事実からはその額は定まらない。
第2協約:
平成26年8月支給分の賃金から12カ月を対象としているところ、
これは同年9月3日に締結 
  本判決:
第1協約及び第2協約により支払が猶予された賃金請求権については、
第3協約の期間の末である平成28年7月末日の経過後、 
支払が猶予された賃金のその後の取扱いについて、協議をするのに通常必要な機関を超えて協議が行われなかったとき、又はその期間内に協議が開始されても合理的期間内に合意に至らなかったときには、弁済期が到来。
本判決:
①第1協約、第2協約及び第3協約は、Yの経営を改善するために締結。
②平成28年12月31日にYの生コンクリート運送業務を行う部門が閉鎖された以上、賃金の支払を猶予する理由は失われた。

遅くとも同日には第3協約が締結されたことにより弁済期が到来していなかったXの賃金についても弁済期が到来。
本件各未払賃金のうち、第1協約及び第2協約により支払の猶予の効果が生じないこととなるもの⇒本来の支払日に弁済期が到来。

前記の検討と併せ、本件各未払賃金の全てについて、原審口頭弁論終結時において弁済期が到来していた。
  刑事p131
東京高裁H30.9.5   
  マンションのゴミステーションに出されたごみ袋の領置の適法性
  事案 建造物侵入・窃盗とバールの隠匿携帯の事案
公訴事実の要旨:
平成28年5月15日頃、さいたま市内の短期大学に侵入し、現金を窃取
被告人:
犯行を否認
被告人と犯行とを結びつける証拠は、被告人が居住するマンションのゴミステーションに出したごみ袋から発見された、被害短期大学の事務員が前記現金を金庫に収納する際現金と一緒に束ねていた券種、枚数等を記載した紙片(本件紙片)だけ。
被告人は、本件紙片は違法収集証拠であるとして、その証拠能力を争った。
  判断 本件マンションの居住者等は、回収・搬出してもらいために不要物としてごみを各階のゴミステーションに捨てているのであり、当該ごみの占有は、遅くとも清掃会社が各階のゴミステーションから回収した時点で、ごみを捨てた者から、管理組合、管理会社及び清掃会社に移転し、これらが重畳的に占有しているものと解される。
本件ごみ袋4袋は、所有者が任意に提出した物を警察が領置したものであり、警察が本件ごみ袋4袋を開封してその内容物を確認した行為は、領置した物の占有継続の要否を判断するためにされた必要な処分。
本件当時、被告人に対して会社事務所等をねらって多発していた侵入窃盗の嫌疑が高まっていた⇒本件のようなごみの捜査を行う必要性は高い。
被告人が捨てたごみの中にその証拠品等が混ざっている可能性があった⇒ごみ捜査の合理性がある。
被告人は検挙を免れるための行動をとっていると推測される状況にあた⇒ある程度期間ごみ捜査をすることもやむを得なかった。
警察は、確認の対象を、被告人の居住する18階のごみのうち、外観から被告人の出したごみの可能性のあるごみ袋に絞り込むという配慮もしている⇒捜査の方法も相当。
マンションの居住者等が捨てたごみの内容をみだりに他人にみられることはないという期待を有していることを踏まえても、本件捜査は、その必要性があり、方法も相当なものであった⇒適法。
  解説   人がごみとして出した物を捜査官がその者の同意を得ずに捜査する場面:
①被疑者が公道上等公のごみ集積所に出したごみについての捜査
②マンションに居住する被疑者がマンションのごみ集積所に出したごみについての捜査
③被疑者が門のすぐ内側など自宅敷地内の所定の場所に出したごみについての捜査など 
①の場面に関して、
最高裁H20.4.15:
被告人に強盗殺人等の合理的な疑いがある場合に、被告人及びその妻が公道上のごみ集積所に出したごみ袋を回収し、その中身を確認して、事件関係者が着用していたものと類似するダウンベスト等を領置。
「被告人及びその妻は、これらを入れたごみ袋を不要物として公道上のごみ集積所に排出し、その占有を放棄していたものであって、排出されたごみについては、通常、そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待があるとしても、捜査の必要がある場合には、刑訴法221条により、これを遺留物として領置することができる」として適法性を肯定。
書類上の領置手続は、ごみ袋の中味を見分して、証拠になりそうなものが発見された段階で行われている。
but
その実質に着目し、ごみ袋を回収したことを領置、その後の中味の確認行為を留置継続の必要性を判断するための押収物についての必要な処分と位置づけた上、上記の判断。

占有を放棄した物について、プライバシー保護の必要性は捜査の必要性の背後に退く。
  米国連邦最高裁:
被疑者がごみ収集のため自宅前に置いたごみ袋の無令状捜索が問題となったグリーンウッド事件で、公道上に出したごみ袋についてはプライバシーへの合理的期待は認められないとの判断。 
but
その後も、州裁判所においては、州憲法の下で、特に不透明なごみバケツ・ごみ袋内のごみについて、収集のため公道上に排出されてもなお令状等によらぬ限り保護されるであると判断される例が続いていると指摘。
  刑訴法 第221条〔領置〕
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物は、これを領置することができる。
所持者:自己のために当該物件を占有する者
保管者:他人のために当該物件を占有する者
  平成20年最決の事案:
被疑事実は特定の被害者に対する強盗殺人等という特定されたもの。
ごみ袋の領置方法も、被疑者やその妻がごみ集積場に出したものを確認特定して回収。

本件事案:
被疑事実:平成25年10月頃から警視庁管内で多発している会社事務所等をねらった侵入窃盗という概括的不特定のもの。
ごみ袋の領地方法:被害者が居住する階のゴミステーションに出された物を対象とするもので、被疑事件とは全く関係ない者のプライバシーを長期間公権力にさらしかねないもの。

被疑者以外の者に対する捜索は押収すべき物の存在を認めるに足りる状況がある場合に限る(刑訴法222条1項、192条2項)という法の趣旨からも問題。 
東京高裁H29.8.3:
警察官が市の清掃事務所に分別して回収することを依頼し任意提出を受け領置したことを適法とする。