シンプラル法律事務所
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勉強会(判例時報2021前半)

判例時報の勉強会用の資料です(随時更新)

                   
                    
       
       
       
       
2468・2469   
  民事p5
東京高裁H31.4.17  
  区分所有建物の管理組合法人の役員である理事及び監事の選任に係る管理規約の規定の効力・解釈。
  事案 マンションの区分所有者であるXらが管理組合法人の役員であるYらに対して損害賠償請求をした事案。 
管理組合の管理規約では、管理組合の役員である理事及び監事は、総会で選任することとされていた。
but
平成27年6月14日に開催された臨時総会の総会決議により、
「立候補者が役員候補者として選出されるためには、理事会承認を必要とする」旨の条項が管理規約に新設。
Xらは、同年7月23日、第36期の役員となるための立候補⇒管理組合の理事会は、第35期の理事であったYら全員の賛成により、Xらを役員候補者として承認しない旨の決定。

Xらは、Yらに対し、Xらを役員の立候補者として承認しない旨の本件決定をしたことにより、役員立候補権が侵害された⇒共同不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起。
  争点 本件決定が、Xらの法的利益を侵害する違法なものであったか? 
  判断 管理規約は、区分所有者間の利害の衡平が図られるようにさだめなければならず(区分所有法30条3項)、これを害するような規約は無効である。

本件改正条項は、特定の立候補者について理事会のみの判断によって立候補を認めず、集会の決議によって役員としての適格性が判断される機会も与えられない事態が起こり得る⇒同項に反するといえる⇒成年被後見人等やこれに準ずる者のように客観的にみて理事としての適格性に欠ける者について、承認しないことができるという趣旨の限度で有効。

Xらに客観的に明らかに理事としての適格性を欠いていたと認めるに足りる証拠はない⇒本件決定は、裁量権の範囲を逸脱するものとして、Xらの当該立候補者が有する人格的利益を侵害するものとして、違法。
but
Yらは、本件改正条項に従って理事会を運営すべき義務を負っていた
but
承認について基準が明示されず、
理事会の裁量を制限する定めもなく、
さらに本件決定の時点では、本件改正条項の趣旨が裁判等によって明らかにされていたものではない
等の事情

理事会には実際に与えられたものより広範な裁量権が与えられて欠格事由が存在しなくとも承認しないことができると考えたことはやむを得ない⇒Yらに過失があるということはできない。
  解説 建物の区分所有の管理組合法人における理事又は監事については、
区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によって、選任することができると定められ(法49条8項、50条4項、25条1項)、
規約によって別段の定めをすることができるが、同規約は、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない(法30条3項)。
区分所有者間に較差を生じさせる規約は、区分所有者間の利害の衡平を害することになる⇒無効(東京地裁H27.12.17)。 
  民事p15
東京高裁R2.8.28  
  建設作業従事者の石綿粉じんばく露の事案で、民法719条1項後段を類推適用して共同不法行為責任が認められた事例
  事案 本件元建築作業従事者又はその承継人である原告らは、
本件元建築作業従事者44名が建築現場において石綿含有建材を加工・使用して建物を建築・改修し、又は石綿含有建材を含む建物を解体する業務等に従事した過程において、
同建材から発生する石綿粉じんにばく露し、石綿関連疾患(石綿肺、肺がん、中皮腫等)にり患

①被告国に対しては、労働大臣、建設大臣、内閣等が石綿関連疾患の発症又はその増悪を防止するために旧労基法、労働安全衛生法、労災法又は建基法に基づく規制権限を適時かつ適切に行使しなかったことが違法⇒国賠法1条1項に基づき
②被告企業ら43社に対しては、被告企業らがその製造・販売する建材が石綿を含有すること、石綿にばく露した場合、石綿肺、肺がん、中皮腫等の重篤な疾病に罹患する危険があり、これを回避するために呼吸用保護具を着用すべきこと等を警告すべき義務を負い、また、その製造・販売する建材に石綿を使用しない義務を負っていたにもかかわらず、これらの義務を怠った⇒不法行為(民法709条、719条)又は製造物責任(製造物責任法3条、6条、民法719条)に基づき、
本件元建築作業従事者1人辺り3850万円(慰謝料3500万円と弁護士費用350万円との合計)並びにこれに対する不法行為の後の日である本件元建築作業従事者の最後の石綿関連疾患の認定日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた。
  控訴審での被告らの主張 被告国:
①石綿関連疾患のり患の可能性について被告国が認定可能であった時期に関する判断が誤っており、
②被告国において、明示的な呼吸用保護具着用の義務付け並びに石綿含有建材の外装・包装への警告表示及び建築作業場における警告掲示に関する規制権限を行使しなかったことが著しく合理性を欠くとはいえない

被告企業ら:
①建築工事では、石綿含有建材を使用していない
②石綿含有建材は、施工後は、他の建材と一体となって建築物の構成部分となり、建築から改修・解体までの期間が長期にわたるため、出荷時の警告によって改修・解体工事に従事する作業者に実効性ある警告をするのは困難 
  判断  国又は公共団体の公務員による規制権限不行使の違法性の一般的判断基準については、
国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国賠法1条1項の適用上違法となる。

原判決の判断を維持。 
  共同不法行為における共同不法行為者の範囲と因果関係について、注目すべき判示 
まず、通説に従い、
民法719条1項後段(加害者不明の共同不法行為)における共同行為者の範囲について、いわゆる択一的競合の場合を想定
⇒共同行為者の範囲が特定され、かつ、その特定された共同行為者以外の者によって結果が惹起された可能性はないことが証明される必要があるとして、民法719条1項後段の適用を否定。
but
石綿粉じんのばく露の蓄積に寄与した者全員を特定することやその寄与の程度を証明することの困難性を考慮して、民法719条1項後段の類推適用して、当該行為者の行為と因果(石綿関連疾患の発症)との間の因果関係を推定し、
他方、行為者の行為が結果の全部又は一部との間に因果関係がないことの証明があれば、寄与度に基づく責任の減免が認められる旨判示。
当該行為が石綿粉じんばく露の蓄積に寄与したというためには、当該被害者が建築作業に従事した建築現場に当該行為者の製造・販売した建築現場に当該行為者の製造・販売した石綿含有建材が到達したことの証明が必要であるとしている反面、
民法719条1項後段の類推適用においては、その適用の場合とは異なり、他に当該結果の発生に影響を及ぼした者がいないことの証明は不要であるとしている。
  解説 民法719条1項前段には「関連共同性」が必要であるが、
後段は、関連共同性を欠く複数の加害行為により損害が生じ、その損害が当該複数の者の行為によって生じたことは明らかであるけれども、誰の行為が損害を生じさせたか不明(いわゆる「択一的競合」)の場合にも、その複数の者全員に連帯責任を負わせるもの。

「加害者不明の共同不法行為」は、択一的関係があれば足り、
異時的行為や異種的行為の間にも成立。
but
加害者の範囲の特定責任を原告(被害者)に負わせることについては、大気汚染事例等において被害者の救済を困難にするといて批判も強い。
本判決:
加害者全員を特定することができず、加害の程度が不明の場合にも、加害者不明の場合を規定する民法719条1項後段を類推適用することを認めた。

加害者不明と加害程度不明とを区別することに合理性がないとする学説。

「加害者不明の共同不法行為」について、被害者の救済の範囲を拡大。
  民事p110
福岡高裁R2.3.19  
   
  事案 交通事故の被害者であるXが、加害者であるYに、損害賠償請求した事案。
過失割合はXが30%、Yが70%。

Xは、加入する人身傷害補償保険会社(「人傷社」)に対し、保険金を請求。
その際、対人賠償保険金の請求に関して自賠責保険金相当額との「一括払」により保険金を受領した場合、自賠法に基づく保険金の請求得受領に関する一切の権限を人傷社に意にない、Xが人身傷害保険金(「人傷保険金」)を受領した場合は、支払われた保険金額を限度としてXが有する賠償義務者(Y)に対する損害賠償請求権及び自賠法に基づく損害賠償額の請求受領権が人傷社に移転することの説明を受け、これを承諾。
  争点 人傷社が自賠責保険から回収した金銭がYによるXへの弁済に当たるか 
  判断 本件事故によりXがこうむった損害のうち弁護士費用を除く総額は、341万1398円
そのうちXの過失部分(30%)に当たる金額は102万3419円
Xと人傷社は、本件事故によるYへの損害賠償請求権は自賠責保険への請求権を含めて人傷保険金の限度で人傷社に移転するとの合意で、Xは人傷社から111万181円を受領し、人傷社は、自賠責保険から83万5110円を受領。
①Xと人傷社との間での合意は、その文言からすればXから人傷社に対して自賠責保険金の受領権限が委任されたと解するほかない
②自賠責保険金は受領権限を有する人傷社に支払われた
⇒加害者であるYの過失部分に対する弁済に当たると解すべきであり、自賠責保険からの受領部分についてもYの損害賠償債務から控除すべき。
  解説 人身傷害補償保険は、加害者の過失の有無及びその割合に関係なく、保険会社から約款所定の損害賠償算定基準に基づいて積算された損害額相当の保険金の支払を受けることができるという保険であり、
被害者に過失がある場合に人傷保険金を支払った保険会社が代位取得する損害賠償請求権の範囲:
裁判基準差額説(最高裁H24.2.20)

人身傷害補償保険制度の趣旨からして人傷保険金はまず被害者の過失部分に充てられるべきであることを前提とするもの。
but
人傷社が被害者に対して人証保険金を支払った後に自賠責保険金を回収した本判決の事例のような場合、支払った人傷保険金のうち自賠責保険金相当額については加害者の過失部分に関する弁済に当たるとして損益相殺が認められるのか、それとも、人傷保険金として支払った以上、同保険金は、自賠責保険金相当額も含め、まず被害者の過失部分に充てられるべきであって、自賠責保険金相当額が当然に損益相殺の対象となものではないのか?

A:全部控除説
人傷社が自賠責保険金を回収していなければ、自賠責保険金は全て加害者負担分にてん補されるもの⇒人傷社による自賠責保険からの回収額全てを控除すべき

B:不当利得認容説
①人傷社による自賠責保険金の回収を被害者本人への支払と同視することはできない
②人傷社が自賠責保険金を回収したという被害者自身の事情ではな事柄により結論が異なることとなるのは受け入れにくい

人傷社が回収した自賠責保険金の全部又は一部は人傷社の不当利得となる
本件の事例では、被害者であるXは、人傷社からX自身で自賠責保険に対して直接請求することもできるとの選択肢を示されていたにもかかわらず、人傷社による自賠責保険を含む一括払いを承諾した場合には、自賠責保険金の請求受領に関する一切の権限を人傷社に委任する合意⇒受領権限の委任が明確に表示。
⇒A説、B説の選択ではない。
前記受領権限の合意は、これをすることによって被害者に生じる可能性のある不利益を十分に説明した上でなされたものではない可能性がある
but
この点は、人身傷害補償保険の契約当事者間の問題というべき⇒これを理由として直ちに不当利得容認説のような結論を導くことは相当ではない。
  民事p120
東京地裁R2.1.23  
  肝臓の病態を把握するための経皮的肝生検⇒担当医師の穿刺で肺を傷つけられ、右脳梗塞(空気塞栓症)による後遺症が生じた事案
  事案 Yが開設、運営する本件病院においてA医師(被告補助参加人)によるエコーガイド下での経皮的肝生検を受けたX1につき、本件肝生検で肺を誤穿刺されて血液中に混入した気泡により脳空気塞栓症となり左片麻痺の後遺障害

Xらが、A医師においては、
①X1に対する肝生検はCTガイド又は腹腔鏡で実施すべきであったのに、エコーガイドしたでこれを実施した注意義務違反
②本件肝生検ではエコーで肺臓等の臓器を十分に描出できない状況⇒そのまま盲目的に穿刺をしてはならなかったのにこれをした注意義務違反

Yに対し、
X1においては、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求として2億1490万4648円
X2らにおいては、不法行為に基づく損害賠償として、
夫であるX2につき550万円
子であるX3,X4につき各110万円
及びこれらに対する遅延損害金の支払を求めた事案。
  争点 上記①②の注意義務違反があるか 
  判断  A医師は、本件肝生検におけるエコー画像では、X1の肝臓その他の臓器を十分に描出、確認できる状態ではななかったにもかかわらず、穿刺を繰り返した。
A医師による本件肝生検には、X1の肝臓の位置が適切に確認できないにもかかわらず強行した注意義務があった。
①肺を誤穿刺すれば血管中に空気が入り込んで空気塞栓症が生じ得ること、
②その空気が血管内を循環し脳に至ることもあり得ること
は、医学的に明らか

X1の後遺障害は本件肝生検においてX1の右肺が穿刺されたことにより生じた
⇒本件肝生検とX1の後遺障害との間に相当因果関係がある。

X1について1億2799万円余、
X2について110万円、
X3、X4について各55万円
の損害賠償請求を認めた。
  解説 患者の肝臓その他の臓器を十分に描出、確認できる状態ではなかったにもかかわらず、穿刺を繰り返せば事故も起きると思われる。 
本件は、本来は肝臓の組織を採取しようとして、間違って肺を穿刺したという点で手技上の過失という位置づけも可能。
  民事p135
京都地裁R2.2.20  
  会社従業員の行なった違法な会員権販売と会社及び代表取締役個人の不法行為責任(肯定事例)
  事案 別荘地に所在する土地及び建物(共有持分)(固定資産税評価額の合計は14万8715円「本件各不動産」)を所有していたXが、リゾート会員権の販売等を目的とする株式会社であるY1社の従業員であった販売担当者Aから勧誘を受け、Y1社の販売するリゾート会員権(「本件会員権」)を129万6000円で購入する契約を締結し、その代金のうち50万円は本件各不動産を下取りして充当することにして、残金79万6000円を支払った。

主位的に、Aの勧誘行為は詐欺に該当すると主張して、
①Y1社に対し、不法行為(民法715条又は民法709条)に基づく損害賠償として、
②Y1社の代表取締役であるY2に対し、不法行為(民法709条)又は会社法429条に基づく損害賠償として、いずれも109万5600円(前記支払済みの代金79万6000円、慰謝料20万円及び弁護士費用9万9600円の合計額)及びこれに対する不法行為日から支払済みまでnの遅延損害金の連帯支払を求め、
予備的に、Y1に対し、本件会員権契約の無効等を原因とする原状回復請求も行なった。 
  判断  ●Y1社の責任 
Aが、真実は、本件会員権は5年経過しなければ転売することはできず、Y1社が転売の仲介をすることもなかったにもかかわらず、
本件会員権は1年後にはY1社の仲介により80万円ないし90万円程度で転売することが可能である旨の虚偽の事実を告げ、
Xをして、本件各不動産を下取りに出して本件会員権を購入し、1年後に本件会員権を転売すれば処分費用を負担することなく本件各不動産を処分できると信じさせて本件会員権契約を締結させた

Aの勧誘行為は詐欺に該当し、Y1社は、使用者責任(民法715条)に基づく責任を負う。
本件会員権の内容や販売状況等に照らしても、Y1社が虚偽の事実を述べて会員権を売りつける詐欺的商法を組織的に行っていたと認めるに足りる証拠はない
⇒Y1社は、自らの不法行為責任(民法709条)に基づく責任は負わない。
  ●Y2の責任
・・・・
Y2は、Y1社の販売担当者の中にはAがしたような虚偽の説明をして契約を取り付けようとする者が出てくるおそれがあること及び顧客も当該虚偽の説明を信用して契約締結に至ってしまう可能性が高いことを少なくとも容易に認識することができたというべきであるにもかかわらず、Y1社の代表取締役として、販売担当者らに対して指導を徹底するなどの措置を講じることなく放置した

Y2は、過失による不法行為(民法709条)に基づく責任を負う。
  ●損害 
Xは、Aの違法な勧誘行為によって、本件会員権契約の代金の一部として79万6000円を支払った⇒同額の損害を被った。
but
本件会員権の客観的価値に相当する額は損益相殺の対象となるところ、本件会員権の内容等を総合すれば10万円を損益相殺すべき。

Xの請求は、Y1社及びY2に対し
76万6000円(弁護士費用7万円を含む)と代金支払日以降の遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。
  民事p142
熊本地裁R2.3.18  
   
  事案 平成24年7月に発生した豪雨の際、原告の経営するゴルフ練習場の建物に外壁破損
⇒同被害は被告(熊本市)が管理する用水路及び余水吐(「本件用水路等」)からの流入水が原因であって、被告の管理する本件用水路等及びその上流に設置された転倒堰に設置又は保存の瑕疵が認められる⇒国賠法2条1項に基づき、損害賠償金等の支払を求めた。
被告の管理する本件用水路等は、いわゆる普通河川(河川法指定を受けておらず、河川法の適用・準用のない河川)であり、本件建物の敷地は、本件用水路等、A川(一級河川)及び熊本県の管理する水路に隣接している。
  争点 ①本件建物外壁の破損等の原因が、被告の管理する本件用水路等からの流入水によるものと認められるか
②本件用水路等や本件転倒堰に設置・管理の瑕疵が認められるか 
  判断 争点①について:
原告提出の意見書の内容は十分に説得力がある一方、被告提出の意見書の内容は合理性に疑問がある⇒本件用水路等からの流入水によって、本件建物外壁の破損が生じた。 
争点②について:
本件転倒堰が完全に倒伏するような状況になった場合に、本件用水路等から排水を十分減勢することができずに、排水が勢いよくあふれ出す構造となっていたことは、同種規模の河川の管理の一般的水準及び社会通念に照らして是認し得る安全性を備えていなかった
⇒本件用水路等の設置又は保存の瑕疵を肯定
  解説 河川管理の瑕疵に係る判断枠組み:
①河川における治水事業については、議会が決定した予算の下で必要性、緊急性の高いものから逐次改修を実施していくほかないという財政的制約
②長い工期を要するという時間的制約、
③総合的な調査検討を経てから行われるなどの技術的制約
④流域の開発等による雨水流出機構の変化や治水用地の取得難などの社会的制約
が内在するところ、
河川法の適用のない、いわゆる普通河川の管理についての瑕疵の有無は、
過去に発生した水害の規模、発生の頻度、発生原因、被害の性質、降雨状況、流域の地形その他の自然的条件、土地の利用状況、その他の社会的条件、改修を要する緊急性の有無及びその程度等の諸般の事情を総合的に考慮し、上記諸制約の下での同種規模の河川の管理の一般的水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断すべき。
(最高裁判例を踏襲)
争点②について:
①本件転倒堰が完全に倒伏するような状況が生じた場合には、本件用水路等からの流入水が、周囲の建物等に被害を与える危険性があり、このことは本件用水路等の構造上の問題(流入水のエネルギーを落差工で減勢しようとする構造であった点など)が原因であった
②改修にあたっての用地買収や河川改修の順番に係る制約等は、通常の河川に比して乏しい
③改修に殊更過大な費用を要するとは考え難い等

本件転倒堰が倒伏した場合、排水が勢いよく溢れ出す構造となっていた点について、同種規模の河川の管理の一般的水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていなかったと判断。
  民事p160
山口地裁下関支部R2.5;19
   
  刑事p167
東京高裁R2.4.2
   
  刑事p172
横浜地裁R1.11.20
   
  刑事p185
さいたま地裁R1.10.31
   
2467   
  行政p3
最高裁R2.3.24  
  取引相場のない株式の譲渡に係る所得税法59条1項所定の「その時における価額」が問題となった事案
  事案 法人に対する株式の譲渡につき、譲渡人の相続人である被上告人らが、当該譲渡に係る譲渡所得の収入金額を譲渡代金額(1株当たり75円)と同額として所得税の申告⇒当該代金額が所得税法59条1項2号に定める著しく低い価額の対価に当たるとして更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分⇒これらの各処分の取消し(更生処分については修正申告又は先行する更正処分の金額を超える部分)を求めた。
  争点 当該株式の当該譲渡の時における価額であり、
上告人(国)はいわゆる類似業種比準方式によって算定した1株2505円
非上告人らはいわゆる配当還元方式によって算定した1株当たり75円
を主張 
  法令 等 ●所得税法及び所得税法施行令 
所得税法59条1項は、同項各号に掲げる事由により譲渡所得の起因となる資産の移転があった場合には、譲渡所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなす旨規定。

2号において、著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る「低額譲渡」)を掲げる。
所得税法施行令169条は、前記政令で定める額は、所得税法59条1項に規定する譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の2分の1に満たない金額とする旨を規定。
  ●所得税基本通達 
所得税基本通達は、所得税法59条1項の規定の適用における取引相場のない株式の価額の算定方法につき、評価通達における算定方法の例によるとして、これをいわば借用する形。
  ●評価通達 
相続税及び贈与税の課税価格計算の基礎となる財産の評価に関する基本的な取扱いをさだめたものであるところ、
取引相場のない株式の評価について、
原則的な評価方法を定める一方で、
株式の議決権の割合が小さい一定の株主については、例外的な評価方法を定めている。
  事実関係  A株式会社の代表取締役であったBは、平成19年8月1日、有限会社Cに対し、所有していたAの株式のうち72万5000株を、代金額を配当完全方式により算定した1株当たり75円、合計5437万5000円として譲渡。 
Aは、評価通達上の大会社に、
その株式は、取引相場のない株式に
該当する。
本件株式譲渡の直前におけるAの株式が有する議決権の割合:
Bが単独で15.88%
Bとその同族関係者を合計すると22.79%

本件株式譲渡⇒議決権の割合は、
Bが単独で8%
Bとその同族関係者を合計すると14.91%
Cが7.88%

本件株式譲渡の前後を通じて、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が議決権総数の30%以上となる株主、いわゆる評価通達188の(1)にいう同族株主にあたる株主はいなかった。
  争点 被上告人ら:
評価通達188条の(1)~(4)の少数株主のうち、所得税基本通達59ー6(1)において触れられていない評価通達188の(2)~(4)の少数株主に該当するか否かの判定は、株式の取得者の取得後の議決権の割合により行なうべき⇒Cは評価通達188条の(3)の少数株主に当たる⇒本件株式譲渡時における本件株式の価額につき、配当還元方式により算定した額を主張。
上告人:
譲渡所得に対する課税の場面において、評価通達188の(1)~(4)の少数株主に当たるか否かの判定は、株式の譲渡人の譲渡直前の議決権の割合により行なうべき⇒Bは少数株主に当たらない⇒本件株式譲渡時における本件株式の価額につき、原則的な評価方法である類似業種比準方式により算定した額を主張。
  解説  ●譲渡所得とみなし譲渡
譲渡所得:
資産の譲渡による所得であるが、
譲渡所得に対する嘉永は、キャピタル・ゲインすなわち資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、その所有期間中の増加益を清算して課税しようとするもの。
所得税法は、キャピタル・ゲインに対する無限の課税繰延を防止するという目的から、未実現のキャピタル・ゲインに対する無限の課税繰延を防止するという目的から、未実現のキャピタル・ゲインに対する課税を行っており、これが同法59条1項のみなし譲渡の制度。
  ●評価通達における取引相場のない株式の評価方法 
所得税基本通達59-6は、取引相場のない株式の評価につき、評価通達の例によることとしている。
評価通達:
原則的評価方法を定め、
大会社については類似業種比準方式を採用し、
他方で、例外的に少数株主が取得した株式については配当還元方式を採用。

①大会社は上場株式や気配相場等のある株式の発行会社に匹敵するような規模の会社であって、その株式が通常取引きされるとすれば上場株式等の取引価格に準じた価額が付されることが想定される⇒現s実に流通市場において価格形成が行なわれている株式の価額に比準して評価することが合理的。
②少数株主については、会社支配力に乏しく、単に配当を期待するにとどまるという実情がある⇒評価手続の簡便性をも考慮して、配当還元方式を相当としたもの。

保有する株主によって価額が異なる。
純粋資産価額>類似業種比準価額>配当還元価額
  ●少数株主該当性の判断方法 
株式譲渡に係る譲渡所得の計算のためにその譲渡時の価額を算定するに当たり、
当該株式の株主が少数株主に該当するか否かの判断を、
譲渡直前における譲渡人である株主について行なうべきか(「譲渡人基準」)
譲渡直後における譲受人である株牛で行なうべきか(「譲受人基準」)
が問題となった。
  判断  取引相場のない株式の譲渡に係る所得税法59条1項所定の「その時における価額」につき、当該株式の譲受人が評価通達においてその株主が取得した株式は配当還元価額によって評価するものとされている株主に該当することを理由として、配当還元価額によって評価した 額であるとした原審の判断には、同項の解釈適用を誤った違法がある。
⇒原審に差し戻し。
  本判決:譲渡人基準を採用。 
これまでの最高裁判例に沿って、増加益清算課税説をとることを示し、
所得税法59条1項は、同項各号に掲げる事由により譲渡所得の基因となる資産緒移転があった場合に当該資産についてその時点において生じている増加益の全部又は一部に対して課税できなくなる事態を防止するため、「その時における価額」に相当する金額により資産の譲渡があったものとみなすこととした。
所得税基本通達59-6が参照する評価通達が、取引相場のない株式の評価方法について、原則的な評価方法を定める一方、例外的に配当還元方式による場合を定めるのは、事業経営への影響の少ない同族会社の一部や従業員株主等においては、会社への支配力が乏しく、単に配当を期待するにとどまるという実情があることに基づくもの。
評価通達が少数株主の判定方法につき譲受人基準を採るのは、相続税や贈与税は、相続等により財産を取得した者に対し、取得した財産の価額を課税価格として課されるもの⇒株式を取得した株主の会社への支配力に着目したもの。
but
譲渡所得に対する課税においては、当該譲渡における譲受人の会社への支配力の程度は、譲渡人の下に生じている増加益の額に影響を及ぼすものではない
⇒譲渡所得に対する課税の趣旨に照らせば、譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきものと解される
⇒譲渡所得に対する課税の場面においては、相続税や贈与税の課税の場面を前提とする評価通達の定めをそのまま用いることはできず、所得税法の趣旨に則し、その差異に応じた取扱いがされるべき。
所得税基本通達59-6が、少数株主に該当するか否かの判断の前提となる「同族株主」に該当するかどうかは株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲受又は贈与直前の議決権の数により判定すること等を条件に、評価通達の例により算定した価額とする旨を定めているところ、
この定めは、前記のとおり、譲渡所得に対する課税と相続税等との性質の際に応じた取扱いをすることとし、少数株主に該当するか否かについても譲渡人基準により判断すべきをいう趣旨のもの。
  解説  原審:通達の「文理」を重視すべきものとした。
vs.
通達は法規命令ではなく、裁判所を拘束するものではない
⇒ある取扱い(本件では譲受人基準により配当還元方式により評価すること)が法規命令に適合するか否かの判断は、飽くまで当該法規命令の解釈を行った結果、当該取扱いがそれに適合するか否かによるべきであって、通達の文言に左右されるものではない。 
宇賀裁判官の補足意見:
所得税基本通達59-6が評価通達の「例により」算定する旨を規定
⇒本判決が指摘したような読替えを行うべきことは、所得税基本通達59-6の文理自体にも反しているとはいえないとの指摘。
  ①本件株式譲渡時における本件株式の価額は最終的には事実認定の問題
②通達は法規命令ではない

被上告人らが所得税基本通達59-6による評価方法以外の方法が本件には適切であるなどとして、通達が定める方法以外の方法により本件株式の価額が1株当たり75円であると主張すること自体は可能。
  民事p27
仙台高裁R2.3.12  
  原発事故の慰謝料
  事案 東北地方太平洋沖地震の津波により発生した東京電力福島第1原発の爆発事故後、放射性物質の拡散による被害から非難した者が提起した集団訴訟の最初の高裁判決。 
東京電力に対し原子力損害賠償損害賠償紛争審査会(原賠審)の中間指針を超える慰謝料の請求を認めたもの。
被告は、本件事故により放射性物質が拡散したことにより生じた原子力損害について、過失の有無に関わりなく、原賠法3条1項に基づく損害賠償責任がある。
被告は、原賠審が、原賠法18条2項2号に基づき本件事故による原子力損害の範囲の判定等に関して策定した中間指針に従い、避難生活に伴う慰謝料、財物損害、その他の費目について賠償金を支払っている。
  主張 原告は、主位的に民法709条、予備的に原賠法3条1項に基づき、損害賠償を請求。
請求額:
各原告につき、
①避難生活に伴う慰謝料、
②ふるさと喪失慰謝料、
更に1部の原告につき、
③財物損害(住宅・家財)
の賠償を加えた合計から既払金を控除して弁護士費用を加えた額。
  判断  原判決が原告の主位的請求を棄却した部分についての原告の控訴を棄却。
原判決が予備的請求を一部認容した部分について、は、慰謝料について、
原判決の認容額と同じ帰還困難区域については原告・被告双方の控訴を棄却し、
居住制限区域又は避難指示解除準備区域、緊急時避難準備区域については、原告の控訴に基づき認容額を増額し、被告の控訴を棄却。
(1)帰還困難区域1600万円
①避難を余儀なくされた慰謝料150万円
②避難生活の継続による慰謝料850万円
(月額10万円×平成23年3月から平成30年3月までの85か月、期間中に死亡した者も同額)
③故郷の喪失による慰謝料600万円

(2)居住制限区域又は避難指示解除準備区域1100万円
①150万円
②850万円
③故郷の変容による慰謝料100万円

(3)緊急時避難準備区域
①70万円
②180万円
③50万円
  被告が原賠審の中間指針に従った賠償義務を認めている

被告の賠償基準により評価できる損害と評価し尽くせない損害とを区分して検討するのが合理的。 
被告は、避難指示の程度に応じて相当の避難期間を定め、その期間について1任月額10万円の割合による避難生活に伴う慰謝料を支払っている

相当の避難期間に応じた慰謝料を算定するとともに、
それでは評価し尽くせない損害についての慰謝料として、被害の実情を勘案し、避難を余儀なくさせた慰謝料、故郷の喪失又は変容による慰謝料を算定。
故郷の喪失又は変容による慰謝料又は変容による慰謝料を算定するにあたり、
地域における住民の生活基盤としての自然環境的条件と社会環境的条件の総体について、これを一応「故郷」と呼ぶこととし、法的反故に値する利益と評価した上で、避難を余儀なくされた慰謝料や避難生活の継続による慰謝料を算定しただけでは評価し尽くされない損害について、むしろ地域社会全体が突然非難を余儀なくされて容易に帰還できず、仮に帰還できたとしても、地域社会が大きく変容してしまったという本件の被害の実態に即した損害の評価の在り方として適切であると判断。
  民事p61
東京地裁R1.11.28  
  自動降下シャッターと車両の接触事故
  事案 X所有のビルの地下駐車場出入口にY所有のトラックが侵入する際、自動で降下していた本件出入口のシャッターにトラックが接触。 
本訴:Xが、トラックの運転手の使用者であるYに対し、民法715条に基づきシャッターの修理費用等の損害賠償を請求。
反訴:Yが、Xに対し、民法709条、715条又は716条に基づき、トラックの修理費用等の損害賠償を請求。
  争点 ①トラックの運転手の過失の有無
②シャッターの安全装置が不十分であることなどを理由とするX従業員の過失の有無又はシャッターの設置管理の過失の有無
③双方の過失割合
  判断 ●争点① 
①シャッターが降下を開始する5秒前から降下予告ブザーが鳴っており、トラックの運転手は、ブザーに気付くことができた
②シャッターに近づく途中で降下っするシャッターの下部を視認することができた

シャッターの降下を予見し、シャッターの下を通過する前に停止すべきであったのにそれを怠った⇒運転手の過失を肯定。
  ●争点② 
シャッターの設置管理に関しては、
①降下予告ブザーと赤色回転灯は設置されていたものの、シャッターの製造業者がオプションとして設置を推奨していた「シャッターが閉まります。」などとアナウンスする装置の設定がないこと、
②一般に、駐車場出入口には入出庫を知らせるブザーや回転灯が設置されることが多い

前記ブザーと回転灯だけではシャッターの降下を知らせるのには不十分。
シャッターの手前1メートルの車両をセンサーが感知した場合にシャッターが降下を停止し、その後上昇する装置が設置
but
同装置は進行速度が比較的低速の車両との接触を回避するのに不十分であり、そのことがシャッターの取扱説明書に記載され、本件事故発生までの約5年間にシャッターと車両との接触事故が9件発生
⇒Xの従業員の予見可能性もあった。
シャッターと車両との接触を未然に防ぐためには、
シャッター降下を明瞭に知らせる警告装置を設置するか、
本件出入口手前で車両に一旦停止を求めるなどしてセンサーによる降下停止措置を有効にするべき
注意義務があったのに、これを怠った。
  ●争点③ 
警告音に気付いてシャッターの降下を視認することができたのに漫然とトラックを進行させた運転手の過失が大きく、
X従業員の過失は、一定の警告装置を設置して警告していたことから比較的小さい

Y70%、X30%。
  解説 運転手の過失について、
シャッター及び赤色回転灯の位置、
トラックの走行経路を具体的に認定した上で、
予見可能性を認定。
自動で降下するシャッターの設置管理者の過失の判断に当たり、
シャッターの位置・形状、安全装置の機能及びシャッターの取扱説明書等における安全基準などを踏まえて、
警告措置の設置又は安全装置の有効性を図るべき注意義務を認め、
シャッター設置管理者の過失を認定。
類似事例の裁判例。
  民事p67
横浜地裁横須賀支部R2.5.25  
   
  事案  
  主張 Xは、Y(横須賀市の家庭保育福祉員) と横須賀市に対し、損害賠償を求める訴えを提起し、
A(生後4か月)が死亡したのは、Yが睡眠中のAの状態を確認する注意義務に違反したためであり、また、
横須賀市の職員には家庭保育福祉員であるYに対する適切な助言指導を行なう義務を怠った過失がある。
  判断 Aの死因:吐乳吸引による窒息死であると認定。 
YにはAの睡眠時チェックを怠った過失があり、
横須賀市には家庭保育福祉員指導研修を実施すべき義務を怠った過失がある

両者に5256万9717円の支払を命じた。
  解説 乳幼児突然死症候群が原因である可能性が高いとされた事案⇒保育者側の注意義務を確定することができない⇒棄却されるケースが多い。 
本判決:
本件事故当時の医学的知見は、0歳児については5分から少なくとも10分に1回、定期的に呼吸の確認をし、同時に体にも触れて乳児が生きていることを確認して刺激をするというものであったと認定

横須賀市に、本件事故当時までの乳児の吐乳ないし窒息に係る医学的知見に疎jくして家庭保育福祉員であるYに乳児の睡眠時チェックを行なうよう指導する研修を実施すべき義務に違反した違法な公権力の行使があったと認めた。 
Yは、ミルクを与えたAが入眠した後、寝返りを打つことができない状態においたままにした⇒Aが吐乳して呼吸を妨げられる状況にあるのを認識しており、Aが吐乳して呼吸を妨げられて窒息死するのを予見し得た。
Yは、Aに対して約15分間隔での睡眠チェックしか行なわず、Aが吐乳吸引に起因する気道狭窄により呼吸状態が悪化したことに気付かず、Aの窒息死という結果を招いた⇒Yには、Aの睡眠時チェックを行う義務を怠った注意義務違反によりAを死亡させた責任があると判断。
  民事p86
仙台地裁R2.10.28  
   
  事案 被告は、・・・石炭火力発電所である仙台パワーステーション発電所を建設し、平成29年10月1日から営業運転を開始。

本件発電所周辺に居住する原告ら124名が、本件発電所の運転により、原告らの平穏に日常生活を送る権利(「平穏生活権」)が侵害されている⇒被告に対し、平穏生活権に基づき、本件発電所の運転差止めを求めた。 
主張等  原告ら:大気汚染モデルや疫学知見を用いて環境影響を分析した科学論文(「本件論文」)を提出し、これを主たる根拠として平穏生活権侵害を主張。
本件論文の信用性を検討するため、専門的な知見に基づく説明を聴くこととし、専門委員として内山京大名誉教授が選任され、公開の法定等においてテレビ会議の方法により同専門委員が参加するなどして、争点整理が行なわれた。
  判断  ●平穏生活権侵害の判断基準
①人格権は、人の生命、身体という極めて重大な法益を保護するものであり、物権の場合と同様に排他性を有する権利(最高裁:北方ジャーナル判決参照)
②環境汚染による不安を抱くことなく日常生活を送るという法益は、生命、身体に係る法益に密接に関連するものであり、環境汚染による人の健康被害を防止することは、国民が健康で文化的な生活を営むためにも不可欠なもの。

環境汚染による不安を抱くことなく日常生活を送る権利(平穏生活権)は、憲法13条及び25条の法意に照らし、人格権に由来するものとして保障されるべきもの。
他方で、環境の保全とこれに伴う規制は、第1次的には、民主的手続により定められた行政法規、刑罰法規等によってなされることが予定されている⇒社会公共の利益に鑑み、前記不安を受任すべき場合もある。

環境を汚染する行為は、
①行政法規、刑罰法規等に違反し、
②公序良俗違反や権利の濫用に該当し、
③環境汚染の態様や程度が特別顕著なものであるなど、
環境汚染の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くといえる場合に、平穏生活権を侵害するものとして、違法となると解するのが相当。
  ●平穏生活権侵害の成否 
・・・・少なくとも現時点においては、本件発電所の運転による環境汚染の態様や程度が特別顕著なものであると認めることはできない⇒平穏生活権侵害の成立を否定。
被告は、平成28年3月2日、仙塩地域7自治体との間で、本件発電所について、公害防止に関する協定を締結し、環境情報の公表や本件発電所の公開その他の地域住民に対する環境コミュニケーションを積極的に推進することに合意。
but
それらを履行せず、本協定に違反している。
他方、少なくとも現時点においては、本件発電所の運転により排出される大気汚染物質等の実測値は、環境基準等をいずれも下回るものであり、本件発電所の周辺地域における大気汚染物質等の実測値は、本件発電所の運転前と比較しても通常の変動の範囲内で推移。
⇒上記結論
  解説  ●平穏生活権侵害
◎   ◎人格権という法概念の体系と展開 
人格権:
個人の尊厳を保障する憲法13条の法意に照らし、判例法理上形成された権利。
人格権が権利概念ではなく、不法行為法で保護される法的利益にとどまる時代。

名誉権等の伝統的な人格的利益が排他的な性質を有する権利であるとされ、これに差止請求権が承認された時代。

人格権の一部が知的財産権としての性質を有する時代。
  ◎私生活の平穏という法概念 
最高裁H1.12.21:「ビラ配布事件判決」
ビラの配布行為は名誉毀損を構成するとはいえないものの、当該教師らの社会的地位及び当時の状況等に鑑みると、前記攻撃を受けた当該教師らの精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度内にあるということはできず、前記ビラの配布行為に起因して私生活の平穏などの人格的利益が違法に侵害された
⇒ビラの配布行為が名誉毀損とは別個の不法行為を構成。
最高裁H22.6.29:「目隠しフェンス事件」
平穏に日常誠意喝を送るという利益が人格的利益として認められることを前提・・・。 
本判決:
憲法13条及び25条の法意に照らし、判例法理条上形成されていた「私生活の平穏」という精神的価値を保護する人格的利益を更に推し進め、環境汚染という場面に限定し、前記にいう排他性を有する権利として、平穏生活権を承認。
  ◎違法性の判断基準 
人格的利益をめるぐる不法行為の成否に関する判断基準としては、学説上は、
被侵害利益の性質と侵害行為の態様との相関関係において総合的に判断するという相関関係説が通説。
受忍限度論:
人格的利益ないし人格権を侵害する行為の違法性の判断基準として、前記相関関係説を基礎として発展したもの。
その内容は、事案の諸要素を比較検討して総合的に判断し、一般社会生活上受忍すべき限度を超えるものかどうかによって違法性を判断するもの。
伝統的には、受忍限度論は、
騒音等による被害その他の生命・身体的価値が損なわれる姓アk津妨害の領域で展開していたものであるが、
私生活の平穏という精神的価値を保護する人格的利益についても、ビラ配布事件判決及び目隠しフェンス事件判決は、受忍限度論を採用。
本判決:
違法性の判断基準の理由付けとして、社会公共の利益に鑑み環境汚染による不安を受忍すべき場合もある旨説示⇒前記受忍限度論を採用。
but
環境の保全とこれに伴う規制は第一次摘的には民主的手段により定められた行政法規等によってなされることが予定されているものであるとして、国立マンション事件判決(最高裁H18.3.30)と同種の説示

本判決は、基本的には、平穏生活権侵害に基づく営業の規制等は、民主的裏付けを持つ公法的規制に判断の基準を求めることができると解したものと考えられ、
平穏生活権侵害となる場面につき、環境汚染の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くといえる場合という極めて例外的な場合に限定する立場を採用。
  ◎違法性の判断における考慮事情 
目隠しフェンス事件判決:
受忍限度を判断するに当たり、建物に居住する者の精神的苦痛のほかに、葬儀場運営会社による地域住民に対する配慮についても判断を左右する重要な事情として考慮すべきものとして解したといえる。
本判決も、目隠しフェンス事件判決を踏まえ、被告による地域住民に対する配慮についても、環境汚染の態様の1要素として判断を左右する重要な事情として考慮したものと思われる。
  ●本件論文の信用性 
①本件算定式による大気汚染物質の数値が実測値とは異なる
②本件計算式は、宮城県外の死亡者数が東北地方の死亡者数の4分の1以上を占めるとう結果を示すものの、このような結果は現実にはあり得ない
③本件算定式において私用されている相対危険の数値は、欧米の疫学調査から算定されたもの⇒直ちに日本に当てはめることができない
④・・・本件算定式が採用する前記数値は、日本の死亡構造とは大きく異なる

本件算定式は、本件発電所の運転による環境汚染の現実を正しく反映するものとはいえず、少なくとも原告らの現実の権利侵害を立証するものとしては、信用性を欠く。
  民事p99
奈良地裁R2.3.10  
   
  事案 刑務所内で受刑者が金属製のバール及び玄能(ハンマー)を用いて抜釘作業中に左眼に異物があたり視力低下の障害⇒国賠請求。 
  争点 本件刑務所の職員にxが本件作業を行なうに当たり、保護眼鏡を着用させるべき注意義務があったのにこれを怠った過失があるか? 
  判断 Yは本件作業時に保護眼鏡を着用させる注意義務を負っていた。 
①市販のバールや玄能には、使用時に保護眼鏡を着用することを指示する能書があるものが存在
②受刑者らに貸与する器具を選定していたのはP2技官であり、P2技官はその器具をホームセンターで市販品を見るなどして決定
③器具の更新が毎年行なわれていた⇒本件刑務所における器具の選定を委ねられていたP2技官が、市販品のバールや玄能の能書を目にしていないことは考えられない。
④P2技官自身も、バールや玄能を用いた作業を行なう際には強く叩かないよう指導
⇒仮に強く叩いた場合には、器具や木材の破片の飛散を含む危険な事態が生じることを十分に認識

器具の選定に携わらない受刑者らに器具を貸与する本件刑務所の職員においては、貸与する器具に応じた安全配慮義務を尽くすることが要請されるのであり、本件作業字において使用されたバール及び玄能の一般的な使用上の注意に応じて、保護眼鏡を着用するよう指示すべき職務上の注意義務があり、この義務を怠った。
①Xは、P2技官から明示的にXが本件作業時に行なっていた方法は不適切であるとの指導を受けていなかったものの、P2技官から口頭で指導された釘抜き方法以外の方法により本件作業に従事
②X自身、主観的にはバールを玄能で強く叩いた旨供述

X自身の適切とはいえない行為も本件事故の原因ともないっている

3割の過失相殺を認め、1831万859円及び遅延損害金の支払を認容し、その余の請求を棄却。
  解説 類似事案の裁判例 
  民事p107
高松地裁R2.5.22  
   
  事案 Y3市(高松市)が設置管理する中学校に通っていた当時中学2年生であったXが、本件中学校内において、同級生であるY1(当時13歳)が振り回していた水筒がXの目に当たり負傷

Yらに対し、
①Y1については、民法709条に基づき、
②Y1の母親であるY2については、民法714条1項又は民法709条に基づき、
③Y3市については、国賠法1条1項に基づき、
損害額合計1813万円及び遅延損害金の支払を求めた。
  規定 民法 第七一四条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。
  判断    ●争点1:本件事故の態様
X:Y1が振りまわしていた本件水筒が右目に当たった
Y1・Y2:Y1が上半身を捻って右後方に振り向いた際に、右手に持っていた本件水筒が遠心力で浮き上がってXの顔面に当たった偶発的な事故。
判断:
本家事故は、Y1が後方を振り返った際に、肩と腰の間くらいに右手で持っていた本件水筒が遠心力で同人の顎辺りまで浮き上がったことにより生じたもの。
  ●争点2:Y1の責任の有無
本判決:
Y1の責任能力があることを認めた上で、
①Y1は事故当時Xが自分の後方にいるという認識を有していたこと、
②本件水筒を遠心力が生じる程度の勢いで肩の高さまで振り上げながら広報を振り返った場合、他人に本件水筒がぶつかり、傷害結果が生じることについて予見可能であった

漫然とそのような行動をとったY1に過失がある。
  ●争点3:Y1の母であるY2の責任 
Y1に責任能力あり⇒Y2は民法714条1項に基づく監督責任を負わない。
Y2はY1が本件事故を起こすような行動をとることを具体的に予見し得たとはいえない⇒民法709条の責任も否定。
  ●争点4:Y3市の責任j
Y3市には責任はない。
   
Y1に対し1011万7765円の支払を明示、Y2、Y3市に対する請求は棄却。
  解説 生徒の責任能力については、一般的には、小学校卒業程度の年齢に達していれば責任能力があるとされる。
12歳で責任能力否定事例
13歳で責任能力肯定事例
責任ののある生徒の加害行為⇒親は民法714条1項の監督責任を負わない。
but
場合によっては、民法709条の責任を負う。
  知財p116
大阪高裁R1.7.25  
  コンタクトレンズ販売店の販売宣伝用チラシの著作物性が否定された事例
  事案 いずれもコンタクトレンズ販売店の経営等を行なうXとYの間の損害賠償請求の事案。
Yからコンタクトレンズ販売店の運営を委託されていたXが、運営委託に価格契約終了後に近徳とレンズ販売店を開店したYに対し、Yの配布しているチラシは、前記契約終了前からXが販売宣伝のために作成・配布していたチラシに依拠して作成⇒Xの著作権(複製権及び翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害⇒不法行為に基づく損害賠償請求等を請求。
  争点 ①本件チラシの著作物性
②本件チラシに係る著作権・著作者人格権の帰属
③侵害の成否
④損害 
  Xの主張 本件チラシの表現のうち、
①「検査時間、受診代金(各文言の上に×印)」「検査なし スグ買える!」という宣伝文句(キャッチフレーズ)
②「コンタクトレンズの買い方比較」という表
③「なぜj検査なしで購入できるの?」の箇所における説明文言
の3点が、
それぞれ独立に創作性があり、また、これら①ないし③及びイラストの組合せに創作性がある
⇒本件チラシに著作物性が認められると主張。 
  原審  ①について、いずれもありふれた表現方法にすぎない
②のマトリックスの表形式は、表現方法としては他の方法も存するところではあるが、販売宣伝のためのチラシという性質上、表現方法の選択の幅はそれほど広いとはいえず、文字で表現しようと思えばできる事項を表形式で表現することは通常行われることであり、その具体的なまとめ方もありふれた手法にすぎない
③著作権法による保護の対象となるわけではないビジネスモデルの方針や背景をそのまま記述したにすぎず、文章表現自体に特段の工夫があるとはいえない

①ないし③の組合せによる著作物性について、
何かを強調し、分かりやすく伝えるために、説明文とキャッチフレーズと表形式のものを組み合わせることそれ自体は、特徴的な手法とは認められない。

Xの請求を棄却。
Xの追加主張 本件チラシが著作物と認められないとしても、Xが多大な時間と労力を費やした成果を冒用し、Xの営業上保護された法的利益を侵害⇒不法行為を構成するとの請求原因を追加。 
  判断 原審同様、本件チラシの著作物性を否定。 
Xが追加した請求原因については、
費やした労力の具体的な内容をXは説明しておらず、
Yの配布したチラシの集客効果に関しても明らかではない

Xの主張はいずれも不法行為が成立する根拠としての事実の裏付けを欠くとして排斥。
  解説   著作権法2条1項1号:
「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることを著作物であるための要件としており、このうち創作性要件:
伝統的な裁判例および通説:
高度の学術性、芸術性や、客観的に他者の表現と異なる独創性を要求するものではなく、
表現に作成者の何らかの個性が現れていれば足りる 
個性がなく創作性が否定される場合:
①ごく短いものであったり、表現形式に制約があるため、他の表現が想定できない場合
②表現が平凡かつありふれたものである場合

ありふれた表現であるか否か:
(a)用語の選択、全体の構成の工夫、特徴的な言い回しの有無等の当該作品の表現形式
(b)当該作品が表現しようとする内容・目的に照らし、それに伴う表現上の制約の有無や程度、
(c)当該表現方法が、同様の内容・目的を記述するため一般的に又は日常的に用いられる表現か否か
といった点が総合的に判断される。
知財高裁H22.7.14:
特定の思想を表現する方法に多数の選択肢があるとしても、その選択された表現事態がありふれたものであれば、これに創作性を認めることができない

知財高裁H24.2.29:
プログラムに著作物性があるというためには、選択の幅が十分にあり、かつ、それがありふれた表現でないことを要する
  本件のようなデッドコピーに近い事案においては、本件Xの主張に見られるように、各個別の具体的表現部分の創作性とともに、「組合せ」や「選択又は配列」の創作性が主張されることがある。
肯定例もあるが、
多くの事例においては「組合せ」等はアイデアまたはありふれた表現に過ぎないとして著作物性が否定される傾向にある。 
  最高裁H23.12.8:
著作権法が「規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情」が存在する場合は、不法行為が成立する余地があることを明示。
著作物性が否定された情報の利用に関する一般不法行為の成立が認められた代表的な裁判例:
知財高裁H17.10.6:
記事見出しが原告の多大な労力・投資が結実したものであり、それ自体でも有料の取引対象となっていることを理由としている。
   刑事p127
名古屋高裁R2.3.12
  親の子(当時19歳)に対する準強制性交等罪の事案で抗拒不能が問題となった事案 
  規定 刑法 第一七八条(準強制わいせつ及び準強制性交等)
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。
  一審 Aの同意がなかったことは認めたが、Aが抗拒不能であったことについては、合理的疑いが残る。

①本件以前の被告人による暴行の程度が強度のものではなく、抵抗を続けた結果として性交を拒むことができたという経験を有していた
②日常生活全般において被告人の意向に反する行動を取れていた
③本件事件以前に被告人から暴行を受けた際、弟らの協力を得て性的虐待を回避することができた期間もあった 
  判断  ●抗拒不能要件の解釈 
一審判決は、刑法178条2項の心理的抗拒不能について
「相手方において性交を許否するなど性交を承諾・認容する以外の行為を期待することが著しく困難な心理状態にある場合」
としている点では正当。
but
抗拒不能該当性の判断の箇所では、
「逆らうことが全くできない状態」
「人格の完全支配」
「服従・盲従せざるを得ないような強い支配従属関係」
というように先の要件解釈とは異なるより厳しい成立範囲を設定⇒一貫性に欠ける。
  ●抗拒不能該当性の認定・評価について 
暴行の強度の評価にも問題があるが、
仮に頻度が少なく執拗生が弱くても、それは被告人の反復継続的な性的虐待によってAの抵抗が弱まるなどした結果とも評価できる
⇒一審判決は、被告人のAに対する暴行が反復継続して行なわれた性的虐待の一環であることを軽視。
性的虐待が行われる一方で普通の日常生活が展開されているということは虐待のある家庭では普通のこと(各医師の証言)
⇒一審判決が指摘する日常生活におけるAの行動は抗拒不能判断の事情とはならない。
過去に性的虐待を回避できた経験があったとしても、その後、以前より被告人の性的虐待の頻度が増した
⇒それはAの無力感増強の理由にこそなれ、抗拒不能状態を否定する事情とはいえない。

性交を回避するための策をためらっていたことについても、その事情は抗拒不能の事実の推認を強めるものではあっても、妨げるものではない。
    ⇒有罪を認定し、求刑どおり懲役10年。 
  解説 本件行為が、父親が実の子に対し継続的に行った性的虐待の一環であるという実態を一審判決が十分に評価していないという点が強調され、
一審判決が抗拒不能状態を否定する事情として挙げた諸点は、いずれも抗拒不能状態を否定する事情とはなり得ないばかりか、むしろこれを肯定する事情となり得るとしたもの。 
2465・2466   
  行政p5
最高裁R2.7.14  
  複数の公務員が国賠法1条2項による求償債務を負う場合の関係
  事案 大分県教育委委員会の職員らは、教員採用試験において受検者の得点を操作するなどの不正を行ない、大分県は、これにより不合格となった受検者らに対して損害賠償金を支払った。 
本件:県の住民である原告らが、被告県知事を相手に、地自法242条の2第1項4号に基づく請求として、本件不正に関与したAらに対する求償権に基づく金員の支払を請求すること等を求めた住民訴訟。
  第1次第2審 本件不正が発覚する前に退職していたAが本件不正発覚後に退職手当返納命令を受けて退職手当全額を返納していたところ、
これに相応する額についてAらに対する求償権を行使しないことを違法とは評価できない。 
  第1次上告審 第1次第2審の判断には法令の違反がある
⇒求償権の行使が制限されるべきか否かについて更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻した。
  第2次第2審 求償権の行使は制限されない。
but
不正に関与し公務員らの間でそれぞれの職責及び関与の態様等を考慮した分割債務になる⇒Aに対し、求償義務全体の4割に相当する金額の支払を請求すべきもの。 
AはF及びEと共同して、その職務を行うについて、平成19年度試験に係る本件不正を故意に行った⇒本来合格していたにもかかわらず不合格となった受検者に対しては前記両名と連帯して賠償責任を負う。
but
国賠法1条1項は代位責任の性質を有する⇒同条2項に基づく求償権は実質的には不当利得的な性格を有し、求償の相手方が複数である場合には分割債務となる⇒前記3名は県に対し分割債務を負担すると解するのが相当。
  判断 第2次第2審は、国家賠償責任を代位責任であると解した⇒国又は公共団体は、公務員が本来被害者に対して負うべき法的責任に基づいて求償することができ、公務員が被害者に対して本来共同不法行為責任を負う場合には、求償権に係る債務は分割されず、不真正連帯責任になると解すべき。
第2次第2審には、そのように解さなかった法令違反がある。
国又は公共団体の公権力の行使に当たる複数の公務員が、その職務を行うについて、共同して故意によって違法に他人に加えた損害につき、国又は公共団体がこれを賠償した場合においては、当該公務員らは、国又は公共団体に対し、連帯して国賠法1条2項による求償債務を負う。

このような場合には、当該公務員らが、国又は公共団体に対する関係においても一体を成すものというべきであり、当該他人に支払われた損害賠償金に係る求償債務につき、当該公務員らのうち一部の者が無視力等により弁済することができないとしても、国又は公共団体と当該公務員らとの間では、当該公務員らにおいてその危険を負担すべき者とすることが公平の見地から相当。

公務員が共同して故意によって違法に他人に損害を加えた場合についての判示。
  規定 国賠法 第1条〔公務員の不法行為と賠償責任、求償権〕
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
②前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
  解説 ●国家賠償責任の性質論 
A:公務員個人の責任を国又は公共団体が代位する代位責任説(通説)
B:賠償責任が国又は公共団体に直接成立すると解する自己責任説
判例は明確に判示していない。
  ●国賠法1条2項の求償権の成立要件 
国賠法1条2項の求償権

①これを認めることによる違法行為の抑止機能が公務執行の適正に資する一方で、
②重い個人責任を課すこととなると公務執行の円滑を損なうおそれが生じる
要件:
①国又は公共団体が被害者に対して現実に損害賠償金を支払ったこと
②公務員に故意又は重過失があること
③国又は公共団体の賠償責任の成立
国賠法1条2項の求償権の性質:
A:代位責任説⇒本来公務員自身が損害賠償責任を負っているのであるから、これに代わって支払った国又は公共団体が公務員に補償を求め得るのは当然であり、求償関係は不当利得返還請求に類似するものとなる。
B:自己責任説⇒公務員は国又は公共団体に対し職務上の義務違反としてその責任を負担すべき地位にあるから、公務員が求償権の行使を受けるのは当然であり、この場合の求償関係は債務不履行に類似するものとなる。
but
求償権行使の要件等の具体的な問題に直接影響するものではなく、余り実益は認められないとされている。
  ●求償権に係る債務が分割債務となるか不真正連帯債務となるか 
不真正連帯債務⇒各公務員との関係での求償権の講師の制限を考慮しなければ、国又は公共団体は、いずれの加害公務員に対しての全額求償することができ、その語、加害公務員間での更なる求償の問題が生じる。
使用者責任の場合(民法715条3項)について、複数の被用者に対して求償をするという事例についての最高裁判例は見当たらない。

使用者の被用者に対する求償につき、
「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し・・・求償の請求をすることができるものと解すべきである」(最高裁)

使用者責任と共同不法行為責任が交錯する場面においては、
「被用者が使用者の事実の執行につき第三者との共同不法行為により他人に損害を加えた場合には、使用者と被用者とは一体をなすものとみて、右第三者との関係においても、使用者は被用者と同じ責任を負うべき」(最高裁)
  行政p13
名古屋地裁R2.6.4  
  同性の共同生活者について犯給法5条1項1号にいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に当たらないとされた事例
  事案 X(男性)と 共同生活を継続していた男性が、Xと交際していた別の男性に殺害された

Xが、犯罪被害者等の支援に関する法律(「犯給法」)5条1項1号にいう「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」として同号所定の「配偶者」に該当⇒遺族給付金(犯給法4条1号)の子宮の裁定を申請⇒愛知県公安委員会から「配偶者」とは認められないとして、遺族給付金の支給をしない旨の裁定⇒Y(愛知県)を相手にその取消しを求めた。
  争点 同性の犯罪被害者(犯給法2条2項及び3項)と共同生活関係にあった者が、「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当し得るか? 
  主張 X:同性間の共同生活にあった者についても犯給法の趣旨が実質的に妥当する⇒「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当し得る。
Y:「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」は内縁関係にあった者と同義であり、内縁関係は異性間の関係のみを予定する以上、同性間の共同生活関係にあった者が含まれる余地はない。 
  判断 犯給法の目的が、社会連帯共助の精神に基づいて、租税を財源として遺族等に一定の給付金を支給し、国の法制度全般に対する国民の信頼を確保することにある⇒犯給法による保護の範囲は社会通念により決するのが合理的。

同性の犯罪被害者と共同生活関係にあった者が「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当するためには、同性間の共同生活関係が婚姻関係と同視し得るものであるとの社会通念が形成されていることを要する。
そのような社会通念が形成されているか否かについて、以下のとおり、本件処分当時の状況に照らして判断した上で、同性の犯罪被害者と共同生活関係にあった者が「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に当たると認めることはできない。
①多数の地方公共団体が、同性パートナーシップに関する公的認証制度を創設し、同性間の共同生活関係に関する証明を行なう制度を設けている上、
公営住宅の入居や職員の対偶等の局面において同性パートナーを配偶者と同様に取り扱う地方公共団体が存する
②民間企業においても、同性パートナーを配偶者と同様に取り扱う動きが進んでいること等

本件処分当時の我が国において、一部の地方公共団体が性的少数者の人権保障に向けた各種の施策を実施ししたことなどを契機として、同性間の共同生活関係についての社会一般の理解がい相当程度進んでおり、差別や偏見の解消に向けた動きが進んでいるものと評価できる。
but
同性パートナーシップが社会生活において、その性的思考を理由に様々な不利益を受けている状況にあったjことから、性的少数者に対する差別や偏見を是正することにより、その人権が尊重されるようにすることを目的として創設されたものであり、民間企業における取組等も同様の目的に基づくものであると認定。
あわせて、公的認証制度の内容としても、配偶者特別控除等の直接的な法的効果は付与されておらず、婚姻関係を男女間の関係とする婚姻法の規律に影響を及ぼすような制度設計がされるには至っていない。
諸外国における同性婚の導入の経過等

同性間の共同生活関係に関する社会制度の形成は、
①婚姻とは別の生活パートナーとしての登録あるいは共同生活のための契約の登録を認め、婚姻に近似した法律関係を保障する⇒
②事実婚としての法的保障を及ぼす⇒
③同性婚そのものを法制化する
といった段階を経て徐々に進むことが想定されるところ、
我が国の状況は、①の段階より前のもの。
①同性婚の法制化が実現する具体的な目処が立つに至っているとまではいえない、
②同性婚に関する意識調査においても賛成意見と反対意見はなお拮抗していると評価し得る

本件処分当時の我が国において同性間の共同生活関係を婚姻関係と同視し得るとの社会通念が形成されていたということはできない。
  解説 近時、同性間の交際をめぐって、
同性の事実婚の関係にあった者による不貞行為に係る慰謝料請求を認容した判決。
遺族年金等に関して、犯給法と同様の文言により定義された「配偶者」の意義をめぐって
①事実上の離婚状態にある者を含まないとした最高裁昭和58.4.14
②民法734条1項により婚姻が禁止された近親者同士の内縁関係にあった者を含み得るとした最高裁H19.3.8
があるところ、
これらの判例は「配偶者」の意義につき遺族給付金特有の解釈を示している。
  行政p25
金沢地裁R2.9.18  
  市庁舎前広場の使用許可申請に対する不許可処分と国賠請求(否定)
  事案 日本国憲法の改悪に反対し、憲法を守ることを目的として設立された権利能力なき社団とその代表委員らが、金沢市庁舎前広場(本件広場)において憲法施行70周年周年を開催することを目的として金沢市長に対し許可申請⇒金沢市長が、金沢市庁舎等管理規則(本件規則)に定める禁止事項に該当するとして、申請に対する不許可処分(本件不許可処分)⇒職務上の義務に反してなされた違憲、違法な行為であるとして、国賠請求。
平成26年にも同様の訴訟を提起。
  判断 本件不許可処分が金沢市長の裁量権の逸脱、濫用により違法であるとは認められない
⇒請求棄却。 
  解説 憲法21条1項が集会の自由を保障

公の施設における集会の開催を制限することが許されるか、
許されるとすればどのような要件の下に許されるのか。 
最高裁:
①「一般公衆の共同使用に供することを主たる目的とする道路や公民館等の施設」と
②「特定の目的のために使用すべきものとして設置され、それ以外の目的に使用することを基本的に制限されている施設」とを区別し、
①については、「公の施設」の利用を拒否することが許容されるのは、「人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険の発生が具体的に予見される場合」「警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情がある場合」に限られるのに対し、
②については、「目的外使用の許否の判断が、原則として、管理者の裁量にゆだねられている」
と解している。(最高裁H7.3.7)
平成26年訴訟の1審判決:
判決理由において、
①本件広場が本来的に金沢市庁舎建物のを訪れる来庁者及び被告職員の通行に利用されることが予定された金沢市庁舎の一部を構成
⇒地自法244条にいう「公の施設」に該当するとは認められず、本件広場にはパブリックフォーラムの法理が適用されるとは認められない。
②本件集会が本件広場において開催された場合には、被告が原告らの立場に賛同し、協力しているかのような外観を呈することとなり、地方公共団体である被告の中立性に疑問を抱かれる可能性があり、本件集会の当日やその前後のみならず、将来にわたって、被告の事務又は事業の執行が妨げられるおそれがあること
等を指摘。
対①
本件広場が実際に様々な表現行為の場として用いられ、かつ、人通りの多い道路に面した、表現活動に適した場所であったという機能面をより重視すべきであった

対②
このような理由による規制が憲法上容認されるためには、市民に市が集会の主張に賛同していると受け止められ、その結果、市の事務・事業の遂行が著しく備われる相当の蓋然性が必要であるところ、本件集会の開催を認めた場合、市の事務・事業の遂行を著しく損なう蓋然性があるとは言い難い。
  民事p46
大阪高裁R2.1.16  
  未成年者の祖母が、未成年者の母及び養父に対し、未成年者の監護者指定を求めた事案
  事案 未成年者を事実上監護している祖母が、未成年者の実母及び未成年者と養子縁組をした養父を相手方として、未成年者の監護者を祖母と指定することを求めた。
  規定 民法 第七六六条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

2前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
  論点 ①事実上の監護者である祖父母等は、監護者指定の申立権を有するか
②有するとして、どのような場合に祖父母等を監護者として指定し得るか 
  判断 1審は、祖母を未成年者の監護者と指定する旨の審判をし、本決定は、実母及び養父の抗告を棄却する旨の決定。 
  解説・判断  ●論点①
現在の家裁実務においては、民法766条を用いて、父母以外の者を子の監護者に指定することが可能であるとするのが一般的であるとの指摘。
本決定:
民法766条1項の法意を根拠とする。
(民法766条の文言に照らし、これを類推適用することは適当ではないとの考えに基づく。)
  ●論点② 
本決定:
祖父母等を監護者と指定するためには、親権者の親権の行使に重大な制約を伴うこととなったとしても、子の福祉の観点からやむを得ないと認められる場合であること、
具体的には、親権者の親権の行使が不適当であることなどにより、親権者に子を監護させると、子が心身の健康を害するなど子の健全な成長を阻害するおそれが認められることなどを要する。
東京高裁昭和52.12.9決定:
家庭裁判所が親権者の意思に反して子の親でない第三者を監護者と定めることは、親権者が親権をその本来の趣旨に沿って行使するのに著しく欠けるところがあり、親権者にそのまま親権を行使させると子の福祉を不当に阻害することになると認められるようなという特段の事情がある場合に限って許される。
(←民法834条の親権喪失の審判の事由を意識?)
vs.
子の福祉を全うするためには、同決定の要件ではやや狭すぎる。
この点、監護権と同じく親権の一部である監護権の喪失の審判を求める民法835条
「父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」は家裁は管理権喪失の審判をすることができると規定。

本決定:
祖父等を監護者と定めることは親権者の親権の行使に重大な制約を伴うこととなる
⇒親権者に子を監護させると、子が心身の健康を害するなど子の健全な成長を阻害するおそれがあることなどを要件としている。
  本件の論点は、事実上の監護者である祖父母等の監護者指定の問題にとどまらず、
例えば、祖父母等が、親権者に対し、孫との面会交流を求める申立てをすることができるのかなど相当程度の広がりを有する問題。
  民事p52
仙台地裁R2.7.1  
  公立高校教員の自殺についてパワハラが認められ、国賠請求が一部認容された事例
  事案 公立高校の教員Aは、Bから度重なる注意⇒6月27日うつ状態の診断⇒7月28日自殺 
  主張 Xら(Aの両親)が、Aの業務が過重化していたこと及びBによるパワー・ハラスメントにより、Aは精神的に追い詰められて自殺
⇒本件高校の校長及び教頭(「校長ら」)は、労働環境を整備するという安全配慮義務に違反したと主張
⇒B及び校長らの行為について、国賠法1条1項に基づき、損害賠償を求めた事案。
Y:
Bの行為は業務上必要かつ相当な範囲内のものであってパワー・ハラスメントには該当しない。
Aの自殺の原因は元来の不安を感じやすいAの性格によるもの。
  争点 ①Bの行為のパワー・ハラスメント該当性
②校長らの安全配慮義務違反の成否
③素因減額の可否 
  解説・判断   女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律は、令和1年5月29日に可決・成立、
同改正法のうち、労度施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(「労働施策総合推進法」)は、パワー・ハラスメント防止のための事業主の雇用管理上の措置義務等を新設。
労働施策総合推認法30条の2は、
事業主は、職場において行なわれる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
同規定によれば、職場におけるパワー・ハラスメントとは、
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるもの
をいうところ、
業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであるか否かの判断に当たっては、
当該言動の目的、
当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、
業種・業態、
業務の内容・性質、
当該言動の態様・頻度・継続性、
労働者の属性や心身の状況、
行為者との「関係性
等を総合的に考慮することが適当であるとされている。
(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示5号))
  本判決:
労働施策総合推進法30条の2及び前記指針と同趣旨の規範を採用。

BのAに対する執拗な注意が継続する中にあって、少なくともAがうつ病であると診断された後には、
当該注意の内容が基本的には生徒指導の姿勢に関するものであったとしても、
未だ勤務経験2年余りにすぎないAにとっては教師として生きてゆく自信を喪失させるものであり、
Aが一旦自殺未遂をした後においても継続的に行われたなどという事情の下においては、
パワー・ハラスメントが成立すると判断。

Bの一連の注意のうちパワー・ハラスメント該当性を一部肯定したもの。 
  本判決:
使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、
業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うとするのが相当であり、
使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、
使用者の前記注意義務の内容に従ってその権限を行使すべき。
(最高裁H12.3.24、電通事件)

使用者がパワー・ハラスメントを防止する義務を負うことを当然の前提とするものといえ、
労働施策総合推進法30条の2と同趣旨をいうものと解される。
同条の射程範囲を超えて、パワー・ハラスメントに該当しない場合であっても、使用者が安全配慮義務を負う場合があるという立場を採用するかどうかは、直接説示するものではない。
本判決:
安全配慮義務違反を認定するに当たり、
①教頭が、未だ勤務経験2年余りにすぎないAから、Bから注意を受けることにつき度々相談を受け、平成27年6月26日には、Aから、教師として生きてゆく自信を喪失させるような注意をBから受けたことについて相談を受けていたこと、
②教師が、Aから、心療内科を受診する旨告げられ、同月29日には、Aから、心療内科においてAがうつ状態であると診断された旨報告をうけていたこと、
③それにもかかわらず、校長らは、Aに対し、休暇を勧めたり、Aの相談に乗ったりするなどにとどまり、Aのうつ状態の原因である当のBに対しては、Aのうつ状態の原因が教師として生きてゆく自信を喪失させるようなBの度重なる注意にあることを自覚させ、未だ勤務経験2年余りにすぎないAが教師として生きてゆく自信を喪失させないように、Aにこれ以上の注意をしないよう自制を促すことをしなかったこと。
以上の各事情を安全配慮義務違反の成否を判断するに当たり考慮すべき個別事情として掲げている。
  民事p67
大阪地裁堺支部R1.12.27  
  グーグルへの投稿の口コミ削除を求めた削除仮処分申立て(却下)
  事案 X:口コミ投稿の内容が真実に反しXの名誉権を侵害する⇒Y(グーグル)に同投稿の削除仮処分を申立てた。 
Y:
①口コミ投稿サイトは、利用者の知る権利に資するという公共性がある
②否定的内容の口コミに対しては反論することが可能
③口コミ投稿サイトの一般的な閲覧者は口コミが個人の感想や主観的評価を多分に含むことを十分に認識している⇒否定的な口コミが直ちに口コミ対象者の社会的評価を低下させるものではない
④削除の可否を判断する基準となる権利侵害の明白性がない

却下を求めた。
  判断 ・・・Xの社会的評価を低下させ得る記載があることを一応認めながら、
具体的根拠事実や検証可能な方法等の記載がない
⇒一般の閲覧者は本件口コミ記事の全体の印象や別人の口コミも参照し、本件口コミ記事のみによってXの評価等を判断するわけではない

社会的評価毀損性について消極 
①本件口コミ記事は歯科医師の治療行為等の評価に関わる事柄⇒公共の利害に関する事実に当たると推認され、誹謗中傷にわたるようなものとは認められない
②助手にレントゲン撮影を補助させていたことをいうものとすれば全く根拠のないことでなく、
③認定医であることは検索方法次第で検索できないこともある⇒真実性を欠くともいえない

削除仮処分申立てを却下
  解説 本判決:
Yの主張①を利益衡量要素として言及していない。
主張②を違法性阻却要素として論じていない。
名誉・信用等毀損に当たるか、世間の噂話や情報交換として許容される範囲かの分岐点は、口コミ投稿サイトにおける開示情報の伝播範囲が広く、持続性が長いことも考えると微妙

口コミ対象者の被害の実情と、世間に与える社会的な利益効果との利益衡量によるしかなく、当該情報の流布する国や社会一般の良識や経験則に照らして判断するしかない。
口コミ利用の悪弊
⇒特定の口コミの公益的有益性と口コミ対象者の不利益等を比較判断する場合、当該口コミの投稿者の推認や投稿された口コミの内容の客観的根拠開示の有無や程度、口コミ対象者の被害の実情や推定判断について、裁判官が判断困難な状況に直面することも予想される。
本決定:
本件口コミ記事について、本件歯科クリニックの受診経験者が自己の認識・感想を記載したもので評価点も同人が下したとの認定を前提。
but
記載5(助手にレントゲンを撮らせている)、8(認定医で検索してもでてこない)は、一般市民が容易に認識したり、検索調査するレベルの事柄であるのか疑問もあり得、口コミ対象者の評判を落とす意図が窺えなくもない。

もしそうなら、本件口コミ記事の利益衡量判断は異なることも予想される。
本件審理において「認定医」であることが明らかになった⇒一般の閲覧者が「認定医」でないと誤解するおそれがある部分の削除を命ずる余地があった。
このような世間の評判に関わる口コミについて、公益的効用と口コミ対象者の被害との利益衡量に当たっては、口コミの内容自体の公益性と口コミ対象者の被害の実態が社会的に許容できない水準のものであることのみが検討されるべき。
Yの主張①は、公益的効用として評価上斟酌すべきではない
主張②の反論可能性の抗弁(マス・メディア相互間の名誉・信用侵害紛争事案でよく主張される、いわゆる「対抗言論の抗弁」)も、インターネット・メディアによる場合は、侵害情報の拡散h内や事実関係確認の困難性等⇒これによって名誉等を回復することは困難⇒口コミ対象者の被害を消極的に評価する要因とか違法性阻却要因としてはならない。
特に、特定の口コミに対する反論可能性については、反論すればますます激しい再反論・反発や攻撃の口コミにさらされるリスクもある⇒インターネット・メディアにおける反論可能性の理論は妥当性に疑問。
口コミ投稿サイトの一般的閲覧者は口コミが個人の感想や主観的評価を多分に含むことを十分に認識しているでの、否定的な口コミが直ちに口コミ対象者の社会的地位を低下させるものではないとの主張。
vs.
口コミ投稿サイトの運営事業者が社会的インフラであるインターネット・メディアを営利広告事業のために口コミの投稿者や閲覧者を利用し利益を得ながら、当該口込みの社会的公益性や誠実性・信頼性の確保に関心を払わず、全くその努力もしようとしない姿勢を示すことにも繋がるもので疑問。
  民事p75
①②  
  ①事件:横浜地裁R1.9.26
②事件:名古屋地裁R1.12.27
  事案 行政手続における特定の個人を識別するための番号の付番を受けたXらが、番号利用法及び同法に基づく個人番号の収集、保存、利用及び提供等の制度(「番号制度」)について、憲法13条がプライバシー権ないし自己情報コントロール権の一内容として保障する個人に関する情報を情報ネットワークシステムに接続されない自由を侵害するものであり、違憲であると主張⇒Y(国)に対し、前記プライバシー権等に基づき、個人番号の削除を求めるとともに、前記権利の侵害を理由に国家賠償を求めた。 
  判断 ①事件、➁事件:
憲法13条は、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を保障している。
かかる自由には、個人に関する情報について、その収集、保有、管理、利用等の過程でみだりに第三者に開示又は公表されない自由が含まれている。
①事件判決:
番号制度が前記憲法13条によって保障される権利を侵害するか否かは、
(1)番号制度における個人番号の利用及び特定個人情報の提供が、法令又は条例の根拠に基づき、正当な行政目的の範囲内で行なわれているか否か、
(2)番号制度にシステム技術上又は法制度上の不備があり、そのために個人番号及び特定個人情報が法令若しくは条例の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているといえるか否かという判断の要素を示し、

(1)の点について、
①番号利用法の掲げる目的は、いずれも正当であり、
②個人番号の利用や特定個人情報の提供の範囲は、番号利用法に具体的に列挙されており、白紙委任ではない
⇒法令又は条例の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱しているということはできない。

(2)の点について
①個人番号の利用及び特定個人情報の提供等の制限、
個人情報保護委員会による監視、
広汎な罰則規定の制定等、
法制度上の仕組みが多重的に設けられるとともに、
②インターネットからの隔離、通信等の暗号化及びアクセス制限等、不正悪性を防止するためのシステム上の安全措置が多重的にとられている

個人番号及び特定個人情報が法令若しくは条例の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているとはいえない

番号利用法及び番号制度は、前記権利を侵害するものではなく、合憲。
②事件判決:
番号制度で扱われる情報には、いわゆる基本4情報(氏名、生年月日、性別及び住所)と比較して、所得情報や社会保障の受給歴等の秘匿性の高い情報が含まれている

番号制度が全体として個人に関する情報の利用等について、必要かつ合理的な範囲にとどまることが担保されている仕組となっているかという観点から憲法適合性の検討を行うべき。

具体的な憲法適合性の検討に当たっては、
①法令等の根拠の有無及び行政目的の相当性、
②情報漏えい、目的外利用等の具体的な危険の有無
の2つのファクターに照らして検討を加え、
概ね①事件と同様の事情を指摘して、
番号制度がXらの権利又は法律上保護されるべき利用を侵害するものではない。
  解説 本件の主要な争点は、番号利用法及び番号制度の憲法適合性。
①憲法13条の保障する権利
②憲法適合性の判断枠組み
③具体的な憲法適合性
の3点が主に争われた。
先例として、住民基本台帳ネットワークシステムの憲法適合性に係る最高裁判決(H20.3.6)

①事件判決、②事件判決とも、
憲法13条の保障する権利について、
情報化社会の進展を踏まえ、個人に関する情報の収集、保管の場面も含めて、憲法13条による保護が及ぶことを明らかに。
but
憲法13条が、自己の意思に基づかずに情報ネットワークシステムに接続されない自由を保障しているとの見解は採用せず。
●  憲法13条の保障する権利の侵害の合憲性の判断について、
①事件判決:
①個人情報は、住民票コードを変換して得られる数字であり、それ自体にプライバシー情報を含まない
②個人番号と結び付けて利用される特定個人情報は、新たに番号制度によって取得されるものではない

番号制度による前記権利の侵害は制度運用の過程での不正や過誤等による漏えいによる侵害の危険という間接的なものにとどまる⇒住基ネット判決と同様の判断要素により判断すべきとした上で、番号制度を合憲と判断。
②事件判決:
番号制度で取り扱われる情報には、いわゆる基本4情報と比較して秘匿性の高い情報が含まれることを指摘して、
番号制度が全体として個人に関する情報の利用等について、必要かつ合理的な範囲にとどまることが担保されている仕組みとなっているかという観点から憲法適合性の検討を行なっており、住基ネット判決の事案との違いを強調して合憲性判定基準を示している。

両判決の違いは、番号制度において取り扱われる情報の秘匿性及びプライバシー侵害の潜在的な危険性への評価の差異によるもの。
これらの点を、
①番号制度自体の合憲性の審査基準自体に問われる問題とみるか、
②番号制度の運用の過程で生ずる不正や違法の問題とみるか
によるものではないかと思われる。
①事件判決と②事件判決では、
憲法適合性の審査基準への言及の仕方に違い。
but
具体的な憲法適合性の判断においては、いずれの判決も、
住基ネット判決と同様の判断要素、
①法令又は条例の根拠の存在
②行政目的の相当性
③個人情報の利用等が行政目的の範囲内で行なわれること、
④法制度上又はシステム上の不備による情報漏えい等の具体的な危険性の有無
という観点から検討を加え、
同様の事情を指摘して憲法適合性を肯定。
  民事p117
千葉地裁松戸支部R2.5.14  
  夫婦の一方の各本国法を適用⇒嫡出の推定が重複⇒民法773条の方法で父を確定することができるとされた事例
  事案 A(日本国籍)の配偶者であるX(ナイジェリア国籍)が、Aの善配偶者であるY(ナイジェリア国籍)を被告として、Aの子であることの確定を求めた父を定めることを目的とする訴え(民法773条)を提起。 
  規定 法適用通則法 第二八条(嫡出である子の親子関係の成立)
夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべきときは、その子は、嫡出である子とする。
2夫が子の出生前に死亡したときは、その死亡の当時における夫の本国法を前項の夫の本国法とみなす。
民法 第七三三条(再婚禁止期間)
女は、前婚の解消又は取消しの日から起算して百日を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
2前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 女が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合
二 女が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合
民法 第七七二条(嫡出の推定)
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
民法 第七七三条(父を定めることを目的とする訴え)
第七百三十三条第一項の規定に違反して再婚をした女が出産した場合において、前条の規定によりその子の父を定めることができないときは、裁判所が、これを定める。
  判断 Bの嫡出性の取得につき、法適用通則法28条1項により、その出生当時における夫婦の一方の本国法を適用すべき。 
前婚(AとYとの婚姻関係)についてみると、Aの本国法である民法772条2項、1項により、BはYの子と推定。
他方で、後婚(Aと「Xとの婚姻関係)についてみると、Xの本国法であるナイジェリア法(コモンロー、慣習法)により、BはXの子と推定。
⇒推定の重複が生じる。
渉外的な親子関係の成立の場面において、夫婦の各本国法を適用した結果、嫡出の推定が重複⇒父の確定の判断は条理に従ってするほかない。
この場合の利益状況は再婚禁止期間に違反して嫡出推定が重複した場合と共通。

民法773条を類推適用することにより、父を定める訴えことを目的とする訴えの方法により、子の父を確定することが許される。

本件訴えを適法とした上で、DNA父子鑑定の結果等に基づき、XがBの父であることを鑑定。
  解説 民法773条は、民法733条1項の再婚禁止期間に違反して再婚がされ、このために出生した子につき嫡出推定の重複が生じ、民法772条の規定によって父を定めることができないときに、裁判所の判決により推定の重複を解消させることを目的とする訴え。
  刑事p119
東京高裁R1.7.31  
  三鷹事件第2次再審請求事件
  事案 昭和24年7月に、旧国鉄三鷹駅で、運行を終了して待機電線に停車していた7両編成の無人電車が暴走して6人が死亡。
Aは再審請求中に死亡。本件請求人はAの長男。
  確定判決 証拠構造:
Aの共犯供述及び検察官調書における供述(自白)が主要なもの
それを裏付けるものとして、
事件当夜にAを目撃したとするB1の公判供述と、
自白に沿う現場の状況(パンタグラフが1つだけ上がっていたことやコントローラー・ハンドルの固定状況など) 
  再審請求 理由の骨子:

新証拠⇒
①犯人は八社の段階で、本件電車の第2車両のパンタグラフを上昇させた
②犯人は本件電車の最後尾である第7車両の手ブレーキを緩解した
③犯人は第7車両の前照灯を転倒させた
④犯人は第7車両の扉(戸閉)連動スイッチを非連動にした

犯人は複数いて、第1、第2、第7各車両に侵入して操作を行なったことが明らかになった

本件車両の発車方法に関するAの単独犯行である旨の自白の根幹部分が否定された。

新証拠⇒B1の目撃供述の信用性が否定された。

新証拠⇒Aのアリバイが成立することが明らかになった。 
  決定 これらの新証拠は、Aの自白の根幹部分に重大な疑義を生じさせ、かつ確定判決の事実認定について合理的な疑いを抱かせてその認定を覆すに足る蓋然性のある証拠とはいえない⇒請求を棄却 
  解説 本件の証拠構造は、犯人性を認定する直接証拠はAの自白のみで、物的証拠や目撃供述はそれのみで主要事実を認定できない。
その自白は、単独犯行、共同犯行、否認という内容で7回にわたり不自然な変遷を繰り返している。
このような証拠構造において自白を信用できるとするためには、それを裏付ける相当強固な物的証拠が必要。 
弁護人が提出した新証拠は、単独犯行の自白に沿うとされた物的証拠や目撃証拠を弾劾するものとして提出。
そのうちパンタグラフの損傷に関する新証拠は、旧証拠を完全に弾劾するとまではいえないとしても相当程度の弾劾力な持っていると思われ、その他の新証拠を総合すると、もともと強固とはいえない自白の信用性に合理的疑いを生じさせる可能性がないか否か、なお疑問が残る。
2464   
  民事p3
最高裁R2.3.6   
  なりすましと司法書士の注意義務違反(否定)
  事案 甲野⇒C1⇒X⇒C2の3つの売買で、
その登記として、Xを省略し、
甲野・C1間の前件登記、C1・C2間のいわゆる中間省略登記である後件登記
をする旨の合意。
甲野・C1間の登記の申請(前件申請)は弁護士が受任、その委任状には甲野が人違いでない旨の公証人の認証が付されていた。
Y2はC1及びC2から後件登記の申請(後件申請)の委任を受けた(報酬13万円)。
Y2は、甲野の本人性について申請人となるべき者による申請であるか否かの確認等の依頼は受けていなかった。
 Y2は、前記売買の決済に先立ち、前件申請及び後件申請に用いるべき初年の確認等が予定されている会合に、Xの代表者、Xから3000万円余の仲介料で依頼された仲介業者、C2らと共に出席したが、その場で甲野の印鑑証明書として提示された2通の書面に記載されて生年に食違いがあること等の問題点が発覚。
その後、前記各売買契約の決済は予定どおりに行なわれ、Y2は登記所で依頼どおりに前件登記の申請と後件登記の申請を不登規則67条の連件申請として同時に行った。
後日、甲野の印鑑証明書が偽造と判明⇒前件申請が申請の権限を有しない者による申請であることが判明⇒後件申請が取下げられた。
  判断 Y2が、前件申請及び後件申請に用いるべき書面の確認等が予定されている会合に出席し、甲野の印鑑証明書として提示された2通の書面に記載された年数に食違いがあること等の問題点を認識していたとしても、
①Y2が後件申請の委任を受けた当時、前記各売買契約や各登記の内容等は既に決定され、
②Y2は、甲野本人の申請であるかの調査等をする具体的な委任は受けていなかった、
③前件申請については弁護士が委任を受けており、委任状には、甲野が人違いでないことを証明させた旨の公証人による認証が付され、
④Xは不動産業者であり、不動産仲介業者等とともに前記問題点を確認していた
等の事情

Xとの関係においてY2に正当に期待されていた役割の内容や関与の程度等について十分に審理することなく、直ちにY2に前記注意義務違反があるとした原審の判断には違法がある。

原審に差し戻し。
  解説  本判決:
司法書士の本人性の調査確認義務につき、登記申請代理を受任した司法書士は、その職務の公益性や専門性等から、当該登記申請に用いるべき書面相互の整合性の形式的な確認等の過程において当該登記申請が申請人となるべき者以外の者による申請であることを疑うべき相当な事由が存在する場合には、注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務を負うことがある。

前記義務を負うかどうかについて司法書士の役割に応じた適切な判断がされるための考慮要素として、委任契約がある場合は、
委任の経緯の他、
取引への関与の有無及び程度、
委任者の不動産取引に関する知識や経験の程度、
他の資格者代理人や不動産仲介業者等の関与の有無、
疑いの程度等
という要素を具体的に列挙。
  本件におけるXは、直接の登記申請代理の委任者ではなく、不法行為責任を問う事案
⇒別途の考慮が必要。
but
Xは第三者とはいえ、第2売買の買主でかつ第3売買の売主であり、Y2が受任していた後件登記との関係でも、実体としてはいわゆる中間省略登記の中間者という立場で、取引きに深く関与。

原審:
このようなXにつき「登記の実現につき当事者に準ずる重大な利害関係を持っていたといえる」等として、委任のある場合に課せられる注意義務と同様の注意義務を不法行為上の過失を基礎付けるものとした。
vs.
専門家の、委任関係にある者に対する責任と、委任関係にない者に対する責任とでは自ずと程度や内容に違いがあるはず⇒「当事者に準ずる重大な利害関係」があるだけで、同等の注意義務を負うとはいえない。

本判決:
委任関係になくいても責任を負うべき第三者の範囲を、特に
「当該登記にかかる権利の得喪又は移転について重要かつ客観的な利害を有し、このことが当該司法書士に認識可能な場合において、当該第三者が当該司法書士から一定の注意喚起等を受けられるという正当な期待を有しているとき」と限定。
本判決も、実体として本件のようなXのような立場にある者は「当該登記に係る権利の得喪又は移転について重要かつ客観的な利害を有し」ていることを前提にしている。
本判決:一律の調査確認義務ではなく、事案に応じ、注意喚起等で足りる場合もあり得ることを示している。
  印鑑証明書の齟齬の問題は重大
but
①Y2が委任を受けた当該売買契約や登記の内容は既に決定され、
②Y2は前件申請が真正な申請であるか否かについての調査等をする具体的な委任は受けておらず、
③前件申請については弁護士が委任を受けており、その委任状には公証人による認証が付されていた上、
④Xは不動産業者であり不動産仲介業者等と共に前記問題点等を確認していた等の事情

この状況で依頼者等から新たな指示等もなかったとすると、当時のY2の立場で祖語の事実を指摘する以上に何をすべきであったといえるかについては、なお具体的事実に照らして慎重な検討が必要。

本判決は、前記の事情について更に審理し、
Y2が本件の取引全体の中でどのような役割を果たすことが期待されていたのかという観点から、当該司法書士の役割の内容や関与の程度等に応じてY2の責任を検討すべきとした。 
  民事p21
札幌高裁R2.8.21  
  議員が別の議員に対する問責決議を提案した行為についての国賠請求・不法行為請求(否定)
  事案 Y5市の市議会議員だったXが、Xが発行した議員活動報告の記載を理由に同市議会で2度の「問責決議を受けた⇒Y1~Y4が本件問責決議の議案を提出した行為によってXの名誉が毀損⇒Y1議員らに民法709条、719条に基づき、Y5市に対し国賠法1条1項、4条、民法719条に基づき、慰謝料等の支払を求めた。 
  原審 本件訴えは法律上の争訟に当たる。
本件各提案行為はY5議会の内部規律の問題にとどまり、その適否について議会の自立的な判断を尊重すべき⇒Xの請求を棄却。
  判断  本件訴えの適法性を前提に、本件各問責決議及び本件各掲載決定が違法な行為と認められるか検討した上で本件各提案行為の違法性について判断し、これを認めず、控訴棄却。
  本件各問責決議:
議員活動報告の発行というXの議員としての活動ないしこれに密接する活動に対し、Y5議会の規則に基づき提出された議案を決議した市議会としての措置で、何らの法的効力を有しない。

本件各問責決議はY5議会の内部規律の問題にとどまり、国賠法1条1項所定の違法な行為だとは認められない。
  本件各掲載決定:
Y5議会の規程に沿うものであり、Xを含む広報編集委員会の全員の同意によって決定されたもので、掲載方法等についても殊更にXの社会的評価を低下させようとするものだったとは認め難い⇒国賠法1条
1項所定の違法な行為とは認められない。
  本件各提案行為:
①Y1議員らの議員としての職務にほかならず、議員がいかなる議案を提出するかについては議会所定の手続に従う限り広範な裁量に委ねられる。
②本件各提案行為は本件各問責決議と密接に関連する先行行為but本件各問責決議及び本件各掲載決定が国賠法1条1項所定の違法な行為に当たるとはいえない。
③Y1議員らが違法または不当な目的に基づいて議案を提出したとか、あえて虚偽の内容を含む議案を提出したなど、議員に与えられた権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認め得るような事実もうかがわれない⇒本件各問責決議に先行する本件各提案行為のみに特に違法と評価すべき事情も見当たらない。

本件各提案行為が同項所定の違法な行為とは認められない。
本件各提案行為は公権力の行使⇒Y1議員らが個人責任を負うことはない。
本件各提案行為がXに対する不法行為とも認められない。
  解説 判例(最高裁H31.2.14):
普通地方公共団体の議会の議員に対する懲罰その他の措置(「議会の措置」)が当該議員の私法上の権利利益を侵害することを理由とする国賠請求の当否を判断するに当たっては、
当該措置が議会の内部規律の問題にとどまる限り、
議会の自律的な判断を尊重し、これを前提として請求の当否を判断すべき。
平成31年判例は、内部規律性の判断に際し、
①当該措置が議員としての行為に対する議会の措置であり、
②議会の要綱に基づくもので特段の法的効力を有さず、
③殊更に社会的評価を低下させるなどの態様、方法によって公表されていない
との事情を指摘。
  民事p31
東京地裁H31.2.21  
  原賃貸借の終了について、債務不履行解除の形式がとられているが、転借人との関係では合意解除と評価⇒原賃貸借の賃貸人が転貸借契約の賃貸人の地位を承継とされた事案
  事件 第1事件:
株式会社X(精算中)が、その所有する本件建物部分3室(「本件3室」)を亡Aに賃貸していたところ、A及びAの死亡により賃借人の地位を承継した妻Y1が賃料の支払を怠った⇒賃貸借契約を解除したとし、
①Y1に対し、本件3室賃貸借契約の終了に基づき、本件3室の明渡しを求めるとともに、未払賃料等の支払を求め、
②A及びY1から本件3室のうち2室(「本件転貸部分」)を転借した株式会社Y2に対し、所有権に基づき、本件転借部分の明け渡しを求めた。 
第2事件:
第1事件に係るXのY1に対する訴訟がY2を詐害する馴れあい訴訟であるとして、民訴法47条1項前段により独立当事者参加をし、
X及びY1に対し、
③本件3室につきY1のXに対する賃料債務が存在しないこと及び
④Y2が本件転借部分の賃貸借(転貸借)契約に係る賃借権を有すること
ぼ確認を求めた。
第3事件:
Y2が、
⑤主位的には、X代表清算人Z及びY1が共謀して、Y2の賃借権(転借権)を消滅させるため、X・Y1間の本件3室賃貸借契約をY1の債務不履行により解除したとの虚偽の法律構成に仮託して、Xをして不当な第1事件に係る訴訟を提起させ、Y2に対し応訴に係る弁護位費用相当額の損害を与えたとして、
Z及びY1に対しては未納709条、719条に基づき、
Xに対しては会社法350条に基づいて
その賠償を求め
⑥予備的には、第1事件におけるXのY2に対する本件転借部分の明渡請求(請求②)が認められることを条件として、Y1に対し、本件転借部分の賃貸借契約に係るY1の債務不履行に基づき、Y2が喪失する本件転借部分の賃借権相当額等の支払を求めた。
  事案 Xは、Aの父Bを代表者として設立され、Bの甥でありZの父であるCの

昭和49年に建築されて以来 
  争点 ①X・A(Y1)間の本件3室賃貸借契約が存在し、その債務不履行が認められるか
②XのY2に対する本件転借部分の明渡請求が認められるか 
  判断   ●争点① 
本件3室賃貸借契約の存在について、契約書は作成されていないものの、
①少なくとも平成20年4月1日以降、Xにおいて継続的にAからの賃料収入が計上されており、Xは賃料収入のみを運転資金として運営され、税金等の支払もしていた
②Y2は本件建物の所有権を有しないAとの間で本件転借部分賃貸借契約を締結して本件転借部分を占有⇒Y2の占有権原を法的に根拠付けるために本件3室賃貸借契約も締結されていたとみるのが支援

Xは、平成8年に、Aとの間で本件3室賃貸借契約を締結したものと認められる。
争点①のうちA及びY1の債務不履行の存否について、
XがAからの「居住部分」の賃料収入として毎年計上している額は、Xが本件で主張する本件3室賃貸借契約の1年分の賃料額と一致する上、賃料未収入金として計上されている額もその算定根拠が不明であること等

本件3室賃貸借契約についてA及びY1による賃料不払があったかについては疑問を差し挟まざるを得ない。
but
XとY1との間で未払賃料の存在及び額並びに本件3室賃貸借契約が解除されたことには争いがない

XのY1に対する請求(請求①)を棄却すべき理由はない。
Y2の請求③については、
①他人間の権利関係の存否の確認を求めるものであり、
②当該権利関係を確認することがY2とX・Y1との間の法的紛争を解決するために必要とは認められない
⇒訴えの利益があるとはいえない。
  ●争点② 
①本件3室賃貸借契約についてA及びY1による賃料不払いがあったことについては疑問を差し挟まざるを得ない
②仮に賃料不払があったとしても、Xは、平成20年4月以降、多額の賃料未収入金が累積していたにもかかわらず、その回収をほとんどしていない
③Xが賃借人であるAらを株主とする同族企業であった

XはAに対して賃料の支払いを猶予していたことが優に推察される。
①Y1には、本件3室賃貸借契約についてXによる債務不履行解除の効力を争うべき理由が大いにあったと認められるにもかかわらず、Y1は第1事件について当初からXの主張を争っていない
②Y1は、Xによる解除の意思表示の1年以上前にX代表者であるZを代理人としてY2に対して本件転借部分賃貸借契約の解約を申し入れていた上、Zは、この頃本件3室賃貸借契約について賃料の滞納がある旨をY2には述べていなかったこと等

Xは、当初、本件3室賃貸借契約及び本件転借部分賃貸借契約の合意解約を希望しており、Y1もXの意向に同調していたことを示すもの。

本件のXによる本件3室賃貸借契約の解除は、債務不履行解除の形式がとられているものの、転借人であるY2との関係では、XとY1との合意による解除と評価すべき。
以上の点および
Xは本件転借部分をY2に転貸することを承諾していたと認めるのが相当

本件3室賃貸借契約の解除によっても、Y2の本件転借部分賃貸借契約に係る賃借権は消滅せず、XのY2に対する本件転借部分の明渡請求(請求②)には理由がない。
Xは本件転借部分賃貸借契約の賃貸人の地位を承継すると解するのが相当であり、Y2はXに対し、本件転借部分賃貸借契約に係る賃借権を有することが認められる(請求④)。
  請求⑤については、Xによる第1事件に係る訴訟が不当訴訟とはいえない⇒請求棄却。 
  民事p39
東京地裁R2.7.1  
  司法書士賠償責任保険契約での故意免責が肯定された事例
  事案 Xが、千葉司法書士会において損害保険会社Yとの間でZを被保険者として締結していた賠償責任保険に基づく保険金請求権(2億円と1000万円のもの)を差し押さえ、転付命令を得たと主張⇒Yに対し、各保険金請求権に基づき、2億1000万円及び遅延損害金の支払を求めた。 
Y:賠償責任普通保険約款の「故意免責条項」を主張して争った。
  争点 ZのXに対する損害賠償責任はZの故意によって生じたものか。
Zにおいて自称Bが成りすましであることを認識していたか。 
  判断・解説 判決要旨:
①司法書士が土地売買契約における複数の不自然さにつき疑念を抱くことなく所有権移転登記手続を進めている事実
②別件の地面師詐欺事件で逮捕起訴され公判手続が進行している事実
③別件の詐欺事件で共犯者として起訴され実刑判決を受けた者が供述した司法書士は地面師グループの一員であった旨の証言がありそれを信用することができる⇒司法書士が、本件においても「自称売主会社代表者が成りすましであることを認識していたこと」、すなわち「損害賠償責任が司法書士の故意によって生じたこと」を推認することができる

「故意免責条項」により司法書士賠償責任保険契約に基づく保険金請求は免責される。
本件Xの司法書士Zに対する損害賠償請求訴訟の東京高裁H29.12.13は、
司法書士Zにおいて、Bの成りすましを疑うに足りる事情(過失の評価根拠事実)があると認め、こういした疑念性が肯定される以上、不登規則72条に定める方法による本人確認では足りず、さらに調査すべき義務があるのにもかかわらず、これを怠った過失があると判示。
本判決:
(1)重要な間接事実について
上記の過失の評価根拠事実は、故意を推認させる間接事実にあたると判示しつつ、
①A社は本件土地を抵当権のない状態の所有し、駐車場として収益を上げているにもかかわらず、自称Bが休眠会社であると述べた事実
②売買代金振込先口座としてゆうちょ銀行のB個人名義を指定したことは、代表者個人が会社財産を横領する可能性が想起され、通常想定される鹿児島県内の地方銀行等でないのは極めてまれである事実
③自称 Bが売買残代金5000万円の送金を確認しないまま、登記申請書類をZに交付したことは、土地の真の所有者であれば避けるのが自然である事実
を、Zの故意を推認させる間接事実であると整理。

また、別件の地面師詐欺事件で逮捕起訴され公判手続が進行している事実も同様の間接事実となる。
(2)その他の証拠(別件の詐欺刑事事件で共犯者として基礎されたFの証言)に対する証拠評価
①証言の時期(既に実刑有罪判決が確定している時期)
②証言の真否(虚偽を述べてあえてZを引き込む合理的理由なし)
③証言の具体性、無矛盾性
④地面師詐欺における司法書士(役)の重要性
⑤Zの懲戒処分歴
等の客観的事実を勘案し、信用できると判断。

Zが地面師グループの一員であったとすると、別件の後の出来事である本件土地取引について、自称Bが成りすましであった事実をZが認識してないかったとは到底考えられない
⇒Zはこの事実を認識していたことが強く推認される。

経験則上故意を推認することのできる重要な間接事実と
その他の証拠に対する証拠評価
に基づく認定判断。
  民事p45
札幌地裁R2.1.20  
  陸上自衛隊に所属していた申立人の勤務成績が記載された文書の一部についての文書提出命令(肯定)
  事案 陸上自衛隊に勤務していたXが、Xに対する懲戒免職処分及び退職手当支給制限処分の取消請求並びに当該懲戒免職処分に当たってXが受けた精神的苦痛に対する慰謝料を求める国賠請求をした基本事件において、
Y(国)がXの勤務成績に関する部分をマスキングした文書を証拠提出⇒Xが、民訴法220条1号及び4号について文書提出命令の申立てをした。 
  争点 ①本件マスキング部分を証拠として取り調べる必要があるか
②本件マスキング部分が民訴法220条1号所定の「当事者が訴訟において引用した文書」(「引用文書」)に該当するか
③本件マスキング部分が民訴法220条4号ロ所定の「公務員の職務上の秘密に関する文書」に該当し、かつ、これを開示することにより、「公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」と認められるか。
  判断 ●争点① 
基本事件において、処分行政庁が本件各処分に当たり、裁量権を逸脱濫用したかが争点の1つとなっているところ、その判断においてはk、Xの勤務成績を含めた広範な事情が総合的に考慮される上、規律違反者の平素の勤務態度が優良な場合には懲戒処分を軽減できるとする懲戒処分等の基準に関する達16条2項4号の規定
⇒Xの勤務成績は、前記争点の判断に資するといえ、本件マスキング部分の証拠調べの必要がある。
  ●争点② 
基本事件において、本件マスキング部分を自己の主張を基礎付けるために引用しているとは認められない⇒本件マスキング部分は引用文書には該当しない。
  ●争点③
本件マスキング部分は、自衛隊の組織内部に所属する公務員が職務上知りえた非公知の事項で、一般に開示される性格のものではなく、「公務員の職務上の秘密に関する文書」に該当。
but
個別具体的な成績評価項目に関する記述や評定者の具体的な評価結果を含むものではなく、将来における適正な勤務評定の実現やこれを通じた人事管理に支障が生じるとは認められず、本件マスキング部分の開示により、「公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」とは認められない。
  解説 ●争点① 
証拠調べの必要性は、
①その立証主題の当該事件における適切性
②対象文書と立証主題との関連性
③他の証拠による証明の可否
という要素から成る。
  ●争点② 
引用文書について文書提出義務が認められた趣旨

①一方当事者が自己の主張の裏付けとして積極的に文書の存在又は内容を引用した以上、相手方との関係で当該文書に関する秘密保持の利益を放棄したものと認められる。
②相手方に対し、文書の存在と内容を確認及び検討させるのが公平。
  ●争点③ 
「公務員の職務上の秘密に関する文書」該当性は、
公務員が職務上知りえた非公知の事項であって、実質的にもそれを秘密として保護に値すると認められるか否かで判断される。
「公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」と言えるかについて、
単に文書の性格から公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずる抽象的なおそれがあることが認められるだけでは足りず、その文書の記載内容からみてそのおそれの存在することが具体的に認められることが必要であると解すべき
(最高裁H17.l10.14)
公務秘密の性格を
①公務員の所掌事務に属する秘密と
②公務員が職務を遂行するうえで知ることができた私人の秘密
に分類し、
②の秘密が記載された文書との関係では、関係者との信頼やその協力の取得の阻害等を具体的に検討して判断。

その際、当該文書の性質、法的根拠、インカメラ手続によって把握された当該文書の記載内容や記載方法、公にされた場合の弊害の有無、内容、程度等の考慮が必要。
①の秘密の公益侵害性要件該当性を扱った本決定は、
自衛隊員の勤務成績が非公開とされている根拠、
本件マスキング部分の記載内容、
その開示による弊害等
の各要素を踏まえ、
その開示により行政の自由な意思形成が阻害されるかを具体的に検討し、
公益侵害性要件該当性を判断。
  民事p51
徳島地裁R2.2.17  
  YouTube上の動画の削除請求と発信者情報開示請求(いずれも認容)
  事案 LEDの製造販売等を行なう株式会社であるX1及びその従業員でるX2が、インターネット上の動画投稿サイト「YouTube」に投稿された4本の動画、そのタイトル及び紹介記事(「本件各動画等」)により名誉・信用を毀損された⇒胴サイトを運営する米国法人であるYに対し、人格権としての名誉権に基づく本件各動画等の削除請求並びに特定電気通信役務提供者の損害倍法責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(「プロバイダ責任制限法」)4条1項に基づく動画投稿者の発信者情報開示請求をした事案。 
  争点 ①人格権に基づく本件書く動画等の削除請求の可否
②権利性の明白性(プロバイダ責任制限法4条1項1号)の有無 
  判断 Xらの削除請求を全部認容し、発信者情報開示請求については、投稿者が動画サイト上で使用していたユーザーネームの開示を求める部分を除き認容。 
  ●争点① 
人格権としての名誉権に基づき、当該動画等の削除を請求できる。
but
①投稿動画等の削除は、一旦投稿された動画等を事後的に削除する点で事前差止めの場合とは異なるものの、削除後の当該動画等による情報の流通が社団される点で投稿者の表現の自由や閲覧者の知る自由を相当程度制約
②当該動画等の内容には関知していない動画投稿サイトの管理者が違法性阻却事由を立証するのは困難を伴う

動画投稿サイト管理者に対する削除請求が認められるのは、
①それが専ら公益を図る目的のものでないことが明らかであるか、当該動画等によって摘示された事実が真実ではないことが明らかであって、かつ、
②被害者が重大にして回復困難な損害を被るおそれがあると認められる場合
に限られる。
①の要件について、
本件各動画等の内容が公共の利害に一定の関わりを有するものであることを認め、それにより公益目的について一定程度推認されるとしつつ
・・・・Xらに対する嫌がらせ、復讐等を主たる目的とするものであるとして、公益目的性を否定。
②の要件について、
X1の取引先企業の他社への乗り換えや就業希望者の減少といった悪影響が想定され、
一度拡散したマイナスイメージの払しょくは容易でない
X2がパワーハラスメント行為を行ったなどの情報がインターネットを通じて拡散されると、X2の平穏な日常生活や社会生活に困難を来す

Xらの被害者の重大性や回復困難性を肯定。

結論として、Xらの削除請求を認容。
  ●争点②について
①本件各動画等の内容がXらの名誉・信用を毀損するものであることが明らか
②公益目的性が認められず、違法性阻却事由も存在しない

権利侵害の明白性を肯定し、Xらの発信者情報開示請求を一部認容。
  解説 名誉毀損の被害者は、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対して、現に行われている侵害行為を排除し、または将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができ(最高裁昭和61.6.11)、インターネット上のウェブサイトに投稿された記事等によって名誉を毀損された者が、かかる人格権に基づく妨害排除請求権を根拠に、当該投稿記事等の削除を求めた裁判例は多い。
記事の投稿者ではなくプロバイダに対する削除請求が認容された裁判例。
東京高裁H30.8.23:
人格権としての名誉権に基づき、検察事業者に対して検索結果の削除が求められた事案について、
①検察結果の削除が検索事業者による表現行為の制約であるとともに、インターネット上の情報流通の基盤としての役割に対する制約でもあること
②検察結果の提供の差止めが事前抑制であること
等を指摘し
表現行為が専ら公益を図る目的のものでないことが明らかであるか、又は、摘示事実が真実でないことが明らかであって、かつ、
被害者が重大にして回復困難な損害を被るおそれがあると認められる場合に限り、
検索結果の削除請求がみとめられる。
  知財p61
知財高裁R2.2.28
  特許権者の製品において、特許発明の特徴部分がその一部分にすぎない場合の特許法102条1項(令和1年改正前のもの)所定の損害額の算定
  事案 発明の名称を「美容器」とする2つの特許権(本件特許権1、2)を有するXが、Yに対し、Yが被告製品の販売等をすることは、前記各特許権を侵害すると主張⇒その差止め、廃棄及び令和1年法律第3号による改正前の特許法102条1項の損害金5億円(一部請求)の支払を求めた。 
  判断    ●侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額 
  ◎侵害行為がなければ販売することができた物
「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、
①侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りる
②原告製品は、本件発明2の実施品
⇒それに当たることは明らか。
  ◎単位量当たりの利益の額 
102条1項所定の「単位量当たりの利益の額」:
特許権者等の製品の売上高から、特許権者等において前記製品を製造販売することによりその製品販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、その主張立証責任は特許権者側にある。
・・・・特許発明を実施した特許権者の製品において、特許発明の特徴部分がその一部分にすぎない場合であっても、特許権者の製品の販売によって得られる限界利益の全額が特許権者の逸失利益となることが事実上推定されるというべき。
・・・本件特許部分が原告製品の販売による利益の全てに貢献しているとはいえないから、原告製品の販売によって得られる限界利益の全額を原告の逸失利益と認めるのは相当ではない⇒原告製品においては、前記の事実上の推定が一部覆滅されるというべき。

前記の本件特徴部分の原告製品においける位置付け、原告製品が本件特徴部分以外に備えている特徴やその顧客誘引力など本件に現れた事情を総合考慮
⇒同覆滅がされる程度は、全体の約6割であると認めるのが相当。
  ●実施の能力に応じた額 
102条1項の「実施の能力」:
潜在的能力で足り、生産委託等の方法により、侵害品の販売数量に対応する数量の製品を供給することが可能な場合も実施の能力があるものと解すべきであり、
その主張立証責任は特許権者側にある。
Xは、毎月の販売個数に対し、約3万個の余剰製品供給能力を有していたと推認できる
⇒この余剰能力の範囲内で月に平均2万個程度の数量の原告製品を追加して販売する能力を有していたと認めるのが相当。
  ●販売することがでいないとする事情 
102条1項ただし書の「販売することがでいないとする事情」は、
侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情をいい、
例えば、
①特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存在すること(市場の非同一性)、
②市場における競合品の存在
③侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)
④侵害品及び特許権者の製品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在することなどの事情
がこれに該当。 
Yは、販売できない事情として、
①原告製品と被告製品の価格の差異や販売店舗の差異
②競合品が多数存在すること
③被告製品における軸受けの製造費用は全体の製造費用の僅かな部分を占めるにすぎないこと
④軸受けの部分は外見上認識することができず、代替技術が存すること
⑤原告製品は、微弱電流を発生する機構を有しているが、被告製品はそのような機構を有していないこと
⑥Yの営業努力
を主張。
判断:
①について、価格の際を販売できない事情と認めることができるが、販売態様の差異は、販売できない事情として認めることはできない。
②について、本件侵害期間に、市場において、原告製品と競合関係に立つ製品が販売されていたと認めるに足りない。
③について、すでに原告製品の単位数量当たりの利益の額の算定に当たって考慮している。
④について、被告製品及び原告製品のいずれにも当てはまる事情。
⑤について、被告製品は、原告製品に比べ顧客吸引力が劣ることを意味。
⑥について、Yに、販売できない事情と認めるに足る程度の営業努力があったとは認められない。

①についての事情を考慮⇒販売できない事情に相当する数量は、全体の約5割。
  ●本件発明2の寄与度を考慮した損害額の減額の可否 
否定。
  解説 ●特許発明を実施した部分が製品の一部のみである場合の減額の方法
特許発明を実施した部分が製品の一部のみである場合の102条1項による損害額の算定方法
A:侵害品や権利者製品のうち特許発明を実施した部分が一部であるという事情は、102条1項ただし書の事情に当たる⇒1項ただし書を適用して減額すべき
B:権利者製品の限界利益の算定において、権利者製品のうち特許発明を実施した部分に相当する金額を算出
C:侵害品のうち特許発明を実施した部分が一部であることを、1項ただし書以外の減額事由となる
(この他に、理論構成を示さず、寄与度により減額している裁判例もある。)
本判決:
権利者製品において、特許発明の特徴部分がその一部にすぎない場合であっても、権利者製品の販売によって得られる限界利益の全額が権利者の逸失利益となることが事実上推定されると判示。

特許発明を実施している製品は、通常、当該特許発明に係る部材のみから構成されることはなく、それ以外の各種部材が付加されているものであるが、そのような場合でも、当該製品の販売によって得られる限界利益の全額が権利者の逸失利益となるものと理解されており、本判決は、同理解を前提に判断したものと思われる。
  ●102条1項ただし書の事情 
「販売することができないとする事情」の意義:
通説:侵害行為と権利者の製品の販売減少との相当因果関係を阻害するものと解しており、本判決も同様。
本判決:
侵害者が、販売できない事情として認められる各種の事情及び同事情に相当する数量に応じた額を主張立証した場合には、102条1項本文により認定された損害額から前記数量に応じた額が控除されると判示。

侵害者において
①102条1項ただし書の事情を基礎付ける個々の事実及び
②同事実により、侵害品の譲渡数量のうち権利者が権利者製品を販売することができなくなる数量
を主張立証する必要があることになり、
裁判所としては、侵害者から主張された1項ただし書の事情を基礎付ける個々の事実について、その存在の有無と同事実に相当する権利者製品の販売数量を認定。
2463   
  民事p3静岡地裁R1.11.7       
  事案  
  争点 ①本件訴えの適法性(訴権の濫用等)
②本件懲戒請求の不法行為該当性
③損害の有無及び数額 
  判断 ●争点① 
Y:本件訴訟は懲戒請求を萎縮させ抑止する目的に基づいて提起された違法又は不当なものであり、訴訟提起が訴権の濫用に当たるとして訴えの却下を求めた。
vs.
①懲戒請求の不法行為該当性について判断した最高裁H19.4.24に基づき、相応の根拠を示した上で提起されたもの
②本件懲戒請求が民族的出身に対する差別意識の発現として行なわれたと認められる

Yの主張を排斥。
  ●争点② 
平成19年最高裁判決の判断基準を採用。
本件懲戒請求の当時、東京弁護士会の役員でも、本件会長声明の発出主体でもなかったXが懲戒請求の対象とされた理由は、もっぱらその氏を手掛かりとした民族的出身に着目したもの⇒民族的出身に対する差別意識の発現ともいうべき行為。
Yが本件懲戒請求を行なうに至った経緯、本件訴訟におけるYの主張立証の内容や応訴態度等⇒本件懲戒請求の時点においてYがXに懲戒事由が存すると考えるにつき相当な根拠の調査、検討をしたとは解されない⇒本件懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を有すると信ずべき合理的理由はなかった。

Yはそれを欠くことを知っていたか又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに、あえて本件懲戒請求を行った。

本件懲戒請求がXに対する不法行為。
  ●争点③ 
①Yが本件懲戒請求を行った経緯や意図、
②差別意識の発現である本件懲戒請求が弁護士としての活動に与える影響、
③本件懲戒請求に係る手続の経過
④Xによる対応の要否
⑤弁護士法58条1項が広く何人に対しても懲戒請求権を認めた趣旨
などの事情

損害額は11万円。
(原告は55万円を主張。)
  民事p11
宇都宮地裁R2.6.3  
  認可外保育施設で幼児が熱中症で死亡⇒施設と市の責任(肯定)
  事案 Y1会社が経営する認可外保育施設で、A(事故当時9か月)脱水症等により死亡。

Aの両親であるX1及びX2が、
①Y1会社に対しては保育委託契約上の債務不履行又は不法行為に基づき、
②Y1会社の取締役であり本件託児所の園長であるY2、本件託児所に勤務していたY2の実母Y4,Y2の長女Y5、Y2の二男Y6、Y1会社の運営報告上「代表者」と記載されていたY2の実父Y3に対しては民法709条(又はY3については会社法429条)の不法行為に基づき、
③Y7市(宇都宮市)に対しては市長が認可保育施設に対する規制権限等の適正な行使を怠ったなどとして国賠法1条1項に基づき、
連帯してそれぞれ5601万1153円及び遅延損害金の支払を求め、
X1及びX2は、Y2に対し、Xらの名誉を棄損したと主張してそれぞれ110万円の損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた。
  判断  ●Y1会社ないしY6の責任 
Y1会社及びその取締役であり本件託児所の園長であるY2の責任を肯定。
Y3ないしY6の責任は否定。
Aの死因:暑熱環境下の脱水による熱中症死

Y2:
Y1会社の保育業務に従事していたものであるところ、
託児初日の平成26年7月23日から3日間、生後9か月の乳幼児であるAを暑熱環境下に起き続け、
同月25日の正午頃には体温が38度を超え、熱中症の症状を呈していることを認識

遅くとも、その頃までにAに対し、水分補給等の熱中症の緩和措置を講じるとともに、医師の診断、治療を受けさせる義務を負っていたのにこれを怠り、漫然とAを本件託児所の乳児室に放置し死亡に至らせた。

Y2及びその使用者であるY1会社の責任を肯定し、
X1、X2それぞれに対し3100万8696円及び遅延損害金の支払を命じた(合計約6200万円)
Y3ないしY6:
Aが託児3日目の正午頃から体温38度を超え、熱中症の症状を呈していたことを黙示的にも認識していたと推認することはできず、
認識予見すべきであったともいえない

責任を否定。
  ●Y7市の責任
認可外保育施設の指導基準については、
厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知「認可外保育施設に対する指導監督の実施について」(平成13年通達)があり、
これを受けて効果的な指導監督を図る観点等から「認可外保育施設指導監督の指針」(平成13年指針)及び
「認可外保育施設設置監督基準」(平成13年基準。平成13年指針と併せて「平成13年指針等」という。)
Y7市の市長は、本件各通報からうかがわれる本件託児所の保育状況等に関する疑義や虐待的託児業務の有無を明らかにするため、
平成13年指針等に基づき、
本件託児所の設置者又は保育従事者等に対し
a「特別の報告」を徴求し、保育従事者等からの事情聴取を行なうとともに、
b「特別の立入調査」を実施するなどして、平成13年度基準違反の有無を調査、確認すべき職務上の注意義務があったのにこれを怠った責任がある。
Y7市の賠償の対象となる損害:
Aの死亡という不可分の1個の結果から生じたものとしてY1会社及びY2のそれと同一⇒不真正連帯債務の関係に立つ。
損害額について:
Y7市の市長は調査・指導監督権限を全く行使しなかったものではなく、暫定的であってかつ不十分なものとはいえ一応立入調査を実施している
⇒損害の公平な分担の観点から全損害の3分の1の限度での賠償を命じた。
(X1、X2それぞれに1033万6232円及び遅延損害金、ただし、Y1及びY2との不真正連帯債務)
  名誉毀損:
Y2がX1及びX2の名誉を毀損⇒Y2に対し、それぞれ55万円及び遅延損害金の支払を命じた。 
  解説 学校等で生徒等が熱中症に罹患した場合の責任の有無
①大阪地裁H29.6.23:水泳教室に参加した練習生が熱中症に罹患して死亡⇒指導者の責任を肯定
②大阪高裁H28.12.22:市立中学校の生徒がバドミントン部の練習中に熱中症に罹患して脳梗塞を発症⇒学校側の責任を肯定 
本件は、市に対し通報があり、その直後の事故⇒市の責任を肯定へ
  知財p44
知財高裁R2.2.12  
  位置商標の商標登録出願について商標法3条2項に該当しないとされた事例
  事案 「3つの略輪状の炎の立体的形状」(「本願形状」)を、石油ストーブの燃焼筒内の中心部の上方に付した位置商標(「本願商標」)の登録出願についての拒絶査定の不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟。 
  審決 本願商標の本願形状は、機能又は美感上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のもの⇒本願商標は、商標法3条1項3号に該当し、また本願商標は、需要者において、商品の出所を表示するものとして、又は自他商品を識別するための標識として認識されるに至っているとはい難い⇒商標法3条2項の商標に該当しない。 
  判断 ●取消事由1(商標法3条1項3号該当性) 
本願商標は、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標であると認められる⇒本件商標は商標法3条1項3号の商標に該当。
  ●取消事由2(商標法3条2項該当性)
①・・・需要者は全く同一ではないものの、かなりの程度重なり合う・・・
②・・・シェア・・・
③原告使用商品の出荷台数・・
④・・・テレビでの広告
⑤・・・・新聞や雑誌等での紹介
⑥・・・ウェブサイト

原告使用商品が約30年もの長期間販売されており、OEM商品を除いて本願形状を有する他の商品は存在しないこと、
本願形状は、比較的特徴的であること等を考慮しても、
本願商標について原告の事業に係る商品であることを認識することができるとまで認めることはできない。

本願商標は商標法3条2項の商標に該当しないとした審決の判断に誤りはない。
  解説 位置商標:
商標に係る標章(文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合に限る。)を付する位置が特定される商標(商標法施行規則4条の6)であり、平成26年法律第36号により改正によって新たに保護対象となった。 
商標法3条1項3号:
同号に列挙された商品の産地や品質などを普通に用いられる方法で表示する標識のみからなる商標は、取引上一般的に使用されており、多くの場合、自他商品・役務識別力がなく、また、そのような商標は、同種の商品等に関与数r者が使用することを欲するものであり特定人に独占を認めることは妥当でない⇒商標登録を受けることができない。

同条2項:
同条1項3号から5号に該当する商標であっても、使用により自他商品・役務識別力を獲得した場合は、商標登録を受けることができる。
  刑事p60
福岡高裁R1.9.13  
  少年院仮退院者の戻し収容申請事件で期間を明示⇒違法とされた事案
  事案 少年院仮退院者の戻し収容申請事件において、審判当時15歳の少年に対し、審判日から1年後である「令和2年〇月〇日まで代1種少年院に戻して収容する」旨の主文を言い渡した原決定を重大な違法があるとして取り消したもの。 
  解説  少年院仮退院者の戻し収容申請事件において、20歳を超えて少年院に収容する必要がある場合は、収容期間を定めることができ(更生保護法72条2項前段)、その者が既に20歳に達しているときは収容期間を定めなければならない(同条2項後段、3項)。 
20歳に満たない者に対し、20歳に満たない収容期間を定めることができるかについては、1審の裁判例が分かれているとされてきたが、
本決定は、収容期間を定めることができないという法解釈。 
同法72条2項は、対象者を20歳を超えて少年院に収容する必要がある場合に限って収容期間を定めることを規定⇒20歳に満たない収容期間を定めることは違法。

仮にこのような収容期間を定めた場合、少年院への収容期間を原則20歳までとする少年処遇の基本構造(少年院法137条1項参照)に反することとなり、収容継続申請の対象ともならない(少年院法138条)から矯正の成果の有無にかかわらず退院を許さざるを得ず、退院後は保護観察の対象ともならない(更生保護法48条2号)という、法の予定しない事態が生じる。
  少年保護事件の抗告審においては、自判制度が存在しない⇒原決定取消の謙抑的な運用が求められる。
but
本事案においては、収容期間を定めた主文が違法⇒原決定には「決定に影響を及ぼす法令の違反」(少年法32条1項)があると言わざるを得ない。 
原決定:
その理由中において、主文で示した期間は法定の収容期間を変更するものではなく処遇関係機関の裁量を妨げない旨説示。
vs.
①決定の主文は、審判において少年に告知される(少年審判規則3条1項、更生保護法72条5項)、理由中の説示は朗読されるわけではない。
②処遇上の意見表明は、本来、処遇勧告によるべきであり、そのような実務が既に定着している。
③更生保護法の下においては、原決定の主文は、収容期間を定めたかのような誤解を招く⇒これを少年に告知した点には審判手続の違法があるといえる。
少年保護事件の主文の誤りに関する裁判例:
「少年を初等少年院(一般短期)に処する。」という主文について、処遇勧告を主文ですべきでないと指摘しつつ、原決定を取り消す違法にまでは当たらないとしたもの。
「中等少年院に送致する」と言い渡した後、「初等少年院」と更正決定して決定書を作成した手続を違法としたもの。 
  刑事p62
①②  
  GPS機器装着による位置情報探索のストーカー規制法上のストーカー行為該当性(否定)
    ①福岡高裁H30.9.20
②福岡高裁H30.9.21 
  事案 ストーカー規制法2条1項1号(本規定)は、「ストーカー行為」を構成する「つきまとい等」の一形態として、「住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(住居等)の付近における見張り」を挙げている。
被告人が、相手方が使用する自動車にGPS機器を装着して位置情報を探索することが、この「住居等の付近における見張り」に該当するかが問題となった事案。 
  ①事件 事案 被告人は、別居中の当時の妻が使用する自動車を駐車するために賃借していた駐車場において、同車にGPS機器を密かに取り付け、その後多数回にわたって同社の位置情報を探索して取得することにより妻の動静を把握する方法で「住居等の付近における見張り」を「したとして起訴 
  原審 有罪←


③GPS機器を自動車に取り付ける行為は、それ事態に妻の動静把握の性質がある上、その後に予定している位置情報探索取得行為と強い関連性・一体性がある⇒単なる準備行為と捉えるのは妥当ではなく、妻の通常所在する場所である駐車場でなされた取り付け行為と一体のものとしてみれば、全体として場所的要件も充足する。 
  判断 原判決には法令適用の誤りがあるとして、原判決を破棄し自判

①「見張り」の語義は本来的に感覚器官を用いた観察行為を指し、これと異なる機序による動静把握行為は、当然には「見張りに」含まれない
②本規定における「見張り」には場所的要件による限定が付されている⇒観察行為自体に感覚器官が用いられることは当然の前提
③刑罰法規の解釈は、保護法益等も踏まえて合目的的になされる必要があるが、あくまで法文の文言の枠内で理解できる範囲に限られ、これと乖離して処罰範囲を拡張することは許されないところ、「視覚等の感覚器官を用いた」という点は「見張り」の文言の基本的で重要な要素というべきであり、動静把握行為一般が「見張り」に該当するとした場合には、概念の辺縁が不明確となり、予測可能性が確保し難い
④原審理由③の解釈は、場所的要件を実質的に無意味化するもので許されない。 
  最高裁 「住居等の付記において見張り」をする行為に該当するためには、機器等を用いる場合であっても、「住居等」の付近という一定の場所において同所における特定の者等の動静を観察する行為が行われることを要する⇒本判決の結論は正当として是認できる。 
  ②事件 判断 (有罪とした)原判決を破棄。
but
本件公訴事実には、被告人が相手方の自動車にGPS機器を取り付ける際に、付近に相手方がいないかどうか確認するなどして動静を観察する行為が含まれていると解する余地がある⇒これは「住居等の付記における見張り」に該当する余地があるとして、差戻し。 
  解説 刑罰法規の解釈において、言葉の字義による限定をどこまで厳格に守るべきか、
社会の変化による処罰の必要性の要請にどこまで柔軟に対応すべきか
という困難な問題の1つの例。 
  刑事p74
●  
  ①大阪地裁R1.5.22
②大阪地裁R1.5.30 
    低血糖症による意識障害に起因する交通事故の事案
  解説 運転開始時点で正常な運転に支障が生じる状態でなくても、その後の走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態が生じており、そのことを認識した上で運転を開始して、意識障害の状態に陥り、自己を起こして人を死傷させる行為類型について、自動車死傷法3上が制定(平成26年5月施行)。
運転開始に際して、その後の走行中に低血糖による意識障害に陥るかもしれないことを予見し、低血糖状態に陥らないための防止策をとるまでは運転を開始してはならない注意義務を課し、これに違反して運転し、意識障害に陥って自己を起こし、人を死傷させた場合を過失運転致死傷罪(自動車死傷法5条)に問うことも考えられる。
低血糖症で意識障害に陥ったことに起因する交通事故について危険運転致死傷罪として起訴することができるようになったが、実務上、これを主位的訴因、過失運転致死傷罪を予備的素因として構成するケースがあり、①事案、②事案ともそれ。
  解説・判断   ●運転中に意識障害に陥る可能性の認識と予見 
  ◎①事件 
被告人が、運転開始前に、低血糖症の前兆を感じておらず、運転中に低血糖症により意識障害になる具体的なおそれを認識していたとはいえない⇒主位的訴因を排斥。

意識障害に至る可能性を予見することができたはずで、血糖値の安定を確認した上で発進・走行する義務を怠った⇒予備的訴因を認定。
  ◎②事件 
被告人が、運転開始時に、低血糖症の初期症状を感じていたとしても、糖分入りのコーヒーを飲むなどして適切な血糖値管理を行なっているとの認識がある場合には正常な運転に支障が生じるおそれがある状態であるとの認識を認めることはできない⇒主位的訴因を排斥。

自己の経験に基づく対処で血糖値が回復できないどころか、症状の悪化を確認した上で他の対処を考える余裕もない事態を予見できたとも言い難く、運転を差し控える注意義務を課すことはできない⇒予備的訴因も排斥。
  ●主位的訴因と予備的訴因の関係 
    ①事件の差戻前控訴審:
被告人が運転開始時に低血糖症の前兆を感じていたとしてもその事実だけから運転中に意識障害に陥るおそれを具体的に認識していたとはいえないとする一方、
前兆を感じていたのでなければ意識障害に陥ることを予見する可能性を認めることは困難

第一審における主位的訴因と予備的訴因についての検察官の理解と予備的訴因の構成を批判し、被告人が運転開始時以後に低血糖症の前兆を感じていたと認められる場合の過失の有無を審理すべきであるとして、原判決を破棄し、差し戻した。

原審が釈明を求め争点を顕在化して当事者に主張立証を促すべきであったとして、事実誤認は争点整理が不十分であったことに起因すると指摘。
  ●主位的訴因が攻防の対象から外れたか? 
    ①事件の差戻前第一審は主位的訴因を認定せず、予備的訴因を認定して有罪判決
このような場合に、控訴以降の手続において主位的訴因が攻防の対象から外れるか?
差戻審:
主位的訴因と予備的訴因の本質的な違いは「正常な運転に支障が生じるおそれがあるとの認識の有無」であって、
①前者が成立する場合は後者は成立せず、
➁主位的訴因を設定するかどうかは検察官の裁量による

・・・・主位的訴因の訴訟行為を断念したものと解して、攻防の対象から外れたものと判断し、審理の対象とはしなかった。
    本位的訴因と予備的訴因とで過失の内容を変えた事案で、
「検察官が本位的訴因の訴訟行為を断念して、本位的訴因が当事者間の攻撃防御の対象から外れたとみる余地はない」として、本位的訴因を認定して有罪判決をした差戻後第1審の判決に違法はないとした最高裁H1.5.1。
本位的訴因(賭博開帳図利の共同正犯)を認定せず、予備的訴因(幇助犯)を認定した有罪判決に検察官が公訴しなかった事案について、「検察官は、その時点で本位的訴因につき訴訟追行を断念し、控訴審の時点で既に攻防の対象から外されていた」⇒控訴審が職権により本位的訴因について調査を加えて有罪の自判をしたことは職権の発動として許される程度を超えて違法とした最高裁H25.3.5。
検察官が本位的訴因の訴訟追行を断念したとは認められないとして控訴審が職権調査を行ったものに、高松高裁H28.7.21。
  ●控訴審の破棄判決の拘束力 
①事件:差戻審で検察官が訴因を変更して、被告人は運転開始前に前駆症状を自覚していたとの主張に転じ、過失の判断構造が異なったものになった⇒差戻審の判断に拘束力が及ばないと判断。
    ●運転避止義務の設定 
①事件:
糖尿病の専門医(1人は被告人の主治医)の証人尋問などの証拠調べ。
被告人は発進前に低血糖症の前駆症状を自覚していた一方、
糖分を摂取し血糖値を上げる措置をとったものであると認定。
インスリンの効き具合によっては糖分を摂取しても血糖値を回復できない可能性があることを予見できたはず⇒発進前に血糖値を測定して低血糖の状態にないことを確認しない限り運転を差し控える義務があり、被告人はこれに違反し運転⇒有罪。
被告人が、運転開始時において、自分の身体の状態をみて、①その後の運転中に意識障害になる具体的なおそれがある状態であることを認識していたこと、あるいは、②意識障害に陥るかもしれないことを予見しえたことが立証対象。
but
客観的証拠としては本人によって測定された血糖値などしかなく、被告人が自分の体調をどう認識していたかは本人の供述に依拠。
治療歴や、医師の指導、本人の血糖管理などの点からの検討も必要。
2462   
  民事p6
最高裁R2.4.7  
  民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目についての不法行為に基づく損害賠償請求(否定) 
  事案 X(被上告人)は、Yら(上告人ら)に対し、Xの所有する建物の一部の明渡しを命ずる仮執行の宣言を付した判決を取得し、同判決に基づく強制執行を実施。その際民執法42条1項に規定する強制執行の費用で必要なものに当たる費用を支出。

Xが、本件執行費用はYらによる本件建物部分の占有に係る共同不法行為による損害であるとして、Yらに対し、不法行為に基づき、本件執行費用及びその弁護士費用相当額並びに遅延損害金の連帯支払等を請求。 
  争点 民執法42条1項の「費用」の範囲は、民訴費用法2条各号に列挙されたものに限定されるところ、強制執行の申立てをした債権者が、当該強制執行における債務者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において、前記「費用」に該当する本件執行費用を損害として主張することができるか。 
  原審 執行費用の請求について認容。
  判断 強制執行の申立てをした債権者が、当該強制執行における債務者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において、当該強制執行に要した費用のうち民訴費用法2条各号に掲げられた費用のものを損害として主張することは許されない。 
  解説 民執法は、強制執行の費用で必要なもの(「執行費用」)を債務者の負担とする旨を定め(42条1項)、このうち同条2項の規定により執行手続において同時に取り立てられたもの以外の費用については、その額を定める執行裁判所の裁判所書記官の処分を経て、強制執行により取立得ることとしている(同条4項ないし8項、22条4号の2)。

民執法は、執行費用の負担者を一律債務者と定め、強制執行をせざるを得なかった責任の所在が任意に履行しなかった債務者にあるか否か等の事情にかかわらず、強制執行が行われ、その執行に必要であった以上常に債務者の負担とすることを明言したもの。 
  強制執行の申立人である債権者は、強制執行をするに当たり、先に執行費用を予納(民執法14条)⇒予納した執行費用を、債務者から事後的に取り立てる必要。
①金銭執行の場合はその手続内での同時取立ての方法により(42条2項)
②非金銭執行の執行費用や金銭執行で①の方法で取り立てられたもの以外については、執行裁判所の裁判所書記官による執行費用額確定処分を申し立てる方法(同条4項~9項)によるべきことを規定し、
執行費用額確定処分はそれ自体が債務名義になることとしている(22条4号の2)。
  民訴費用法2条各号に限定列挙された訴訟費用について不法行為等に基づく損害賠償請求が許されるか
学説:
A:否定説
B:肯定説
b1:制限的肯定説: 費用負担の裁判を受けるまで、あるいは費用額確定処分を受けるまでに限りこれを肯定

①民執法や民訴法は、費用額確定手続を設けているものの別訴での請求を禁止する趣旨の定めはない。
②費用償還請求権と民法上の賠償請求権とでは発生原因が異なり、訴訟物が異なる⇒当然に訴えの利益が否定されるものではない。
③費用額確定手続が簡易迅速であるとしても、簡易迅速性は権利者側の便宜のためのものであるから、権利者自身があえて訴訟による請求を選択することを禁止する理由にはならない。
(ex.支払督促(民訴法382条)や少額訴訟(民訴法368条)について、債権者はあえてこれらの手続によらず通常訴訟を提起することも任意に選択できる。)
vs.
費用額確定処分は、民訴費法2条所定の「費用」についての額の確定や取立てを認めた制度であるところ、同条では、前記「費用」を、訴訟等において一般に必要とされ、かつ当事者にとって公平な費用に限定する趣旨で、その「範囲」を同条各号において費目を掲げ、その「額」を同条各号において定めているものと解され、これを強行規定とした。

民訴費法が民事訴訟等の費用を費目や額をもって限定し、費用の負担者の側にとっても予測可能で公平な額とし、また、その算定も記録から容易に可能なものとすることにより、民事訴訟等の手続がその当事者双方にとって利用しやすく、公平なものとなることをその目的としている。

本判決:
①民訴費法2条の趣旨を、
当該手続の当事者等に予測できな負担が生ずること等を防ぐとともに、当該票の額を容易に確定することを可能とし、民事執行法等が費用額確定処分等により当該費用を簡易迅速に取立得るものしていることとあいまって、適正な司法制度の維持と公平かつ円滑なその利用という公益目的を達成する趣旨に出たもの
②強制執行に要した費用のうち、民訴費用2条各号に掲げられた費目のものを不法行為に基づく損害として主張し得るとすることによって、前記の趣旨が損なわれることがあってはならない

否定説。
  民訴費法の趣旨から導かれる⇒民訴費法に定められた民事訴訟費用についても同様のことが妥当。
本判決は、強制執行の申立てをした債権者と債務者との間の規律を述べている⇒当事者以外の者に負担を求める場合にまで射程がおよぶものではない。
宇賀克也裁判官の補足意見:
登録免許税法31条2項の過誤納金の還付制度を例に挙げ、
法が特別な手続を定められている場合でも、それが専ら権利者の便宜のためのものであれば債権者の任意の手続選択が認められるが、
公益性が認められる場合には手続の排他性が認められ得る旨を述べる。
  民事p14
東京高裁R2.6.29  
  ツイッター社を被告として原告の逮捕歴を記載したツイッター上の投稿記事の削除を請求(否定)
  事案 Xが、人格権等に基づき、インターネット事業者であるY(ツイッター・インク)に対して、Xの逮捕歴に関するYのユーザーの投稿の削除を請求。
  判断 公表されない法的利益と、情報を一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量し、公表されない法的利益が「優越することが明らか」な場合に削除請求が可能。
(H29.1.31最高裁決定(グーグル検索結果削除請求事件許可抗告決定の判断基準を踏襲)) 
①被疑事実(女湯への建造物侵入)は軽微な犯罪ではない
②ツイッター検索の利用頻度はグーグル検索ほどではなく、Xの逮捕に関するインターネット上の報道記事は既に削除され、Xが被害を被る可能性が低下している

逮捕から約8年経過したことを考慮しても、公表されない法的利益が「優越することが明らか」とはいえない。
  解説 上記平成29年最高裁判決:
当該事実を公表されない法的利益(当該事実の性質及び内容、検索により当該事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、記事等の目的や意義、記事など掲載時の社会的状況とその後の変化、記事等において当該事実を記載する必要性など)と、検索結果を提供する理由に関する諸事情を比較衡量し、公表されない法的利益が「優越することが明らか」な場合に削除請求が可能。

プライバシーの保護の要請と、
検索事業が情報流通の基盤として果たす大きな役割及び検索結果の提供が検索事業者による表現行為側面を有することなどを勘案した上での結論。
当該事案の下では、
①逮捕事実(児童買春)が社会的に強い非難の対象であり、
②検索結果の伝達範囲がある程度限られていることなどの諸事情

その後の犯罪歴がなく5年前後経過したことを考慮しても、公表されない法的利益が「優越することが明らか」であるとはえいない
と判断。
  民事p22
東京地裁R1.12.11  
  区分所有法10条に基づく区分所有権の売渡請求権を行使することができるとされた事例
  事案 2筆の土地にまたがって建てられた1棟のマンションについて、これらの敷地のうちの1筆の所有者であるXが、本件マンションの専有部分の区分所有者であるYに対し、区分所有法10条に基づく区分所有権の売渡請求権を行使することができるかが争われた。 
  規定 区分所有法 第一〇条(区分所有権売渡請求権)
敷地利用権を有しない区分所有者があるときは、その専有部分の収去を請求する権利を有する者は、その区分所有者に対し、区分所有権を時価で売り渡すべきことを請求することができる。
争点 ①Yが土地2について借地権を有するか
②2筆の土地にまたがって建てられたマンションについて、その専有部分の区分所有者がこれらの土地の1筆についてのみ借地権を有する場合に、借地権が設定されていない他の敷地の所有者が、当該区分所有者に対し、法10条に基づく区分所有権の売渡請求権を行使できるか。 
判断 争点①を肯定 
争点②について、
XはYに対して法10条に基づく売渡請求権を行使することができる。
⇒Xの請求を、本件専有部分の売渡請求権高支持の時価での売渡を求める範囲で認容。
解説 東京高裁H2.3.27:
1筆の土地上に建てられたマンションのa室の区分所有権を取得した際には敷地利用権を取得していなかったが、後に当該マンションのb室の区分所有権を取得した際に当該敷地の共有持分を取得した区分所有者に対し、当該敷地の共有持分を有する他の区分所有から、a室につき法10条に基づく売渡請求がされた⇒請求棄却。
区分所有者が、区分所有建物の敷地である土地の全部につき共有持分を有する場合は、共有の性質上、当該土地の全体につきその持分に応じた使用をすることができる(民法249条)⇒当該区分所有者に対して他の敷地の土地の共有者が法10条に基づく売渡請求をなし得ない。 
本判決:
争点②について、
法10条に基づく区分所有権売渡請求権につき、区分所有者が敷地利用権を有しない場合には、その敷地の権利者は、区分所有者に対してその専有部分の収去を請求できるのが原則であるところ、現実には、1棟の建物の専有部分のみを収去することは物理的にも社会通念上も不可能に近い⇒前記収去請求権を有する者が敷地に対する権利を実現する手段として位置付け。
Xは、土地1について敷地利用権たる転借権の無断譲渡を受けたにすぎないYに対して、土地1の所有権に基づき、本件専有部分の収去を請求することができるべき地位にある。

Yは、Xとの関係で、法10条にいう「敷地利用権を有しない区分所有者」に当たり、Xは、Yに対し、法10条に基づく売渡請求をすることができると判断。
  民事p29
千葉地裁R2.6.30  
  同一の被害者参加人のために各事件の国選被害者参加弁護士に選任された場合の「同一の事件」と不当利得返還請求(否定)
  事案 被告:共犯者3名による刑事事件の被害者参加人のために国選被害者参加弁護士として業務を行なった。
被告人A及びBは、同時に起訴されたが、被告人Aは公訴事実を自白、被告人Bは公訴事実を否認⇒弁論が分離。
被告人Cは未成年で、家裁送致と逆送決定を経て公訴提起⇒被告人Aらとは別事件として起訴
日本司法支援センターは、A事件(①)とC事件(②)の各国選被害者参加弁護報酬を別々に算定
but
国選被害者参加弁護士の事務に関する契約約款14条が別紙として定める報酬及び費用の算定基準5条1項の「同一の事件」に該当すると解すべき
⇒不当利得に基づく利得金の返還等を求めた。
  争点 ①と②が算定基準5条1項の「同一の事件」に該当し、1つの事件として報酬を算定するケースに該当するか?
  判断 ①と②が算定基準5条1項の「同一の事件」に該当するとういことはできない⇒①と②につき別個の事件として国選被害者参加弁護報酬として支払いを受けた被告の利得が民法703条の「法律上の原因」のない利得であるということはできない。
⇒請求棄却。 

①算定基準5条1項にいう「事件」とは、刑訴法316条の33第1項に定める被害者参加の対象となる事件⇒同項の被告事件をいうと解するのが相当⇒「同一の事件」というのは、被告事件として同一の事件であることをいうと解すべき。
②そのような解釈は、契約約款及び算定基準の他の条鋼の同一文言とも整合的。
③実質的相当性
  民事p41
大阪地裁R1.12.20  
  車両販売についての立替金等債権を有している信販会社の、破産者への不足額の通知が破産法162条1項の「債務の消滅に関する行為」に該当するとされた事例
  事案 破産者が自動車販売会社から購入した自動車の代金を立替払いして、破産者に対する立替金等債権を有していたYが、本件自動車について留保した所有権に基づいて(代理人の受任通知前に)破産者から本件自動車の引渡しを受けて、本件自動車を査定し、破産者に不足額を通知して清算⇒破産者の破産管財人Xが、前記一連の行為又は不足額の通知による清算行為が破産法162条1項1号に該当すると主張⇒Yに対し、否認権を行使して、本件自動車の返還に変わる価額償還等を求めた。
  判断 破産者とYとの間の立替払契約においては、Yは、立替金等債務を担保するために留保された所有権を有するにすぎず、同担保部分を除くと、本件自動車の実質的な所有権は破産者が有していた。
①Yが破産者の代理人にした不足額の通知により、破産者が実質的な所有権を有する本件自動車の評価額等をもって、立替金等債務の弁済に充当されたことになり、
②この不足額の通知は、立替払契約により予定された行為であり破産者の行為と同視することができる

不足額の通知は、破産法162条1項の「債務の消滅に関する行為」に該当し、その他の要件も充足する。
否認権の行使により、本件自動車の実質的な所有権が破産財団に帰属することになり、Xが、その管理処分権限を有するため、Yに対し本件自動車の返還を請求することができる。
but
Yは、既に本件自動車を売却し、返還できない⇒Xに対して、本件自動車の返還に変わる価額償還義務を負う。
Yは、本件自動車の本体価格本体価額、リサイクル料預託金相当額については価額償還義務を負う。
but
仮に否認権行使により本件自動車が返還されて破産財団に帰属し、Xがこれを換価しても、消費税相当分が最終的に破産財団に帰属することはない⇒消費税相当額については価額償還義務を負わない。
⇒一部認容。
  解説 最高裁H22.6.4:
自動車の売買代金の立替払をした者が、販売会社に留保されていた当該自動車の所有権の移転を受けたが、購入者に係る再生手続が開始した時点で当該自動車につき所有者としてに登録を受けていない⇒立替金等債権を担保するために留保した所有権を別除権として行使することは許されない。 
最高裁H29.12.7:
自動車の購入者と販売会社との間で当該自動車の所有権が売買代金債権を担保するために販売会社に留保される旨の合意がされ、売買代金債務の保証人が販売会社に対し保証債務の履行として売買代金残額を支払った後、購入者の破産手続が開始した場合において、その開始の時点で当該自動車につき販売会社を所有者とする登録がされているときは、保証人は、前記合意に基づき留保された所有権を別除権として行使することができる。
平成22年判決は、販売会社、信販会社及び購入者の三者間において、販売会社に売買代金残額の立替払をした信販会社が、販売会社に留保された自動車の所有権について、売買代金残額相当の立替金債権に加えて手数料債権を担保するため、販売会社から代位によらずに移転を受け、これを留保する旨の合意がされたと解される場合に関して判断したもの⇒平成29年判決の事案とは事案を異にする。
本件の留保所有権が、販売会社、信販会社及び購入者の三者間の合意により、売買代金残額相当の立替金債権に加えて手数料債権を担保するために新たに設定されたもの⇒その合意内容は法定代位と相容れない。 

信販会社は、平成22年判決を受けて約款を改め、法定代位構成を明確にすることによって対応を試みているが、本件は、改定前の約款に基づく対応が問題となった事案。 
  刑事p47
①②  
  ①大阪高裁H25.3.13:
公判前整理手続における主張の変更と事実認定に関する説示を含む裁判例
②東京高裁H28.4.20:
公判前整理手続における争点整理と事実認定に関する説示を含む裁判例
  ◆①事件:
被告人が、以前から確執があった隣人に対し、殺意をもって、木槌でその頭部を殴り、頭蓋骨陥没骨折等の傷害を負わせたという殺人未遂の事案
  争点 ①殺意の有無
②過剰防衛の成否 
  一審 殺意を認定し、過剰防衛の成立を否定 
被告人の公判供述の信用性を否定

被告人は、公判前整理手続の段階では、本件木槌を振り降ろしたと主張していたと認められるのであって、本件木槌の振り方について、明らかにその主張等を変遷させている。(「本件説示」)
  判断 公判前整理手続における1審弁護人の主張を被告人の主張が変遷したことを示す証拠として用いた1審裁判所の措置は、違法ないし著しく相当性を欠く
but
被告人の一審公判供述は、被害者の頭部の挫創や骨折の状況とそぐわないなど、客観的な証拠に反する⇒客観的な証拠に反するものであって、公判前整理手続における主張からの変遷の有無を取り上げるまでもなく、到底信用できない
⇒1審裁判所の訴訟手続に、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるとはいえない。 
  解説 ×A:刑訴法316条の31の「公判前整理手続の結果」については、弁論の全趣旨または裁判所に顕著な事実としての一部として、補強証拠となり得る。
vs.
①裁判員にとって顕著ではない「弁論の全趣旨または裁判所に顕著な事実という例外的な概念」を用いて、主張や供述の信用性を判断するのは、裁判員制度が導入された今日、望ましいことではない。
②この見解を採ると、公判前整理手続において、具体的な主張を明らかにすることを渋ることにもなりかねない。
③検察官としては、弁論の全趣旨等の例外的な概念を用いるのではなく、必要があれば、被告人自身に対し、変遷する理由を端的にただし、被告人供述の信用性を争えば足りる。

弁護人の立場から:
弁護人が特定の主張を撤回すると、被告人質問等で特定の主張が撤回された事実をあたかも自己矛盾供述であるかのような反対尋問をする検察官がいることの指摘。

司法研究報告書:
予定主張は、弁護人が法律家の観点から明示しているものであって、被告人の供述と連動しているわけではなく、被告人の供述の信用性を弾劾する事情にはなり得ない。
刑訴法316条の31の「公判前整理手続の結果」には、刑訴法316条の24にいう「事件の争点及び証拠の成立の結果」とは異なり、
①争点及び証拠の成立の結果だけでなく、
②整理の過程も含まれるとされているが、
ほとんどの場合は、①のみを検出すれば足りるであろう。
    ◆②事件:
被告人が、同棲相手が借りていたマンションの居室内で、床の上に置かれた衣類にライターで点火して火を放ち、その火を同室の床等に燃え移らせて、同室を焼損しようとしたが、通報によって臨場した警察官が消化したため、床面の一部をくん焼したにとどまったとされる現住建造物等放火未遂の事案。
  争点 被告人がライターで衣類に火をつけたか否か
  主張 一審の公判前整理手続における争点整理の結果では、もっぱらたばこの火により本件火災が発生した客観的可能性があるか否かが争点とされており、
①「本件火災当時の被告人の言動」は全く争点とされなかった
②本件フィルターの発見場所に関する事実は、争点整理の結果に記載されておらず、公判整理手続において、検察官も主張しなかった事実であり、
③本件フィルターには火を消すためにつぶしたような跡があるとの形状の特徴に関する事実は、争点整理の結果に記載されていないだけでなく、検察官が公判前整理手続のみならず、公判における冒頭陳述、論告においても主張していなかった事実

これらの事実の認定は、被告人にとって完全な不意打ち認定であり、被告人の防御権を不当に侵害するものであり、訴訟指揮権(刑訴法294条)の裁量を逸脱し、弁護人が証拠の証明力を争う機会を奪い(刑訴法308条)、証拠裁判主義(刑訴法317条)にも違反
⇒訴訟手続の法令違反がある。
①~③の事実は、一審判決が有罪認定をする上で重要な役割を果たした事実
⇒一審がこれらの事実を認定する以上、この点を争点として顕在化して当事者双方の主張立証を尽くさせるための釈明義務があり、
③の事実は、検察官が請求した証拠から認定できる事実で、弁護人の主張の根幹にかかわりながら、論告で全く言及されていない事態が生じた場合には、裁判所は審理の段階にかかわらず、当事者に証拠の趣旨の釈明を求め、必要に応じて補充立証を促すなどの義務がある
一審は、釈明義務違反がある。
  判断 ①の主張について:
公判前整理手続の経緯⇒裁判所は、本件火災の出火原因に関する当事者双方の主張が鋭く対立し、それが本件の主要な争点となっていたことから、その主張の対立点を分かりやすく整理するため、本件の争点のうち、特に火災の出火原因に関する当事者の主張を取り上げ、主張整理案を示したにすぎず、主張整理案に挙げられていない事実については、これを争点としない趣旨で提示した訳でないことが明らかである。
②の主張について:
公判前整理手続の目的な明確な審理計画を策定することにあり、そのためには、当該事件の審理のポイントが分かればよい⇒検察官の提出すべき証明予定事実記載書には、犯罪事実の存否及び量刑判断に必要不可欠なものを記載すればよく、それ以上に詳細なものは不要なだけでなく、むしろ弊害の方が大きい。
検察官請求証拠の内容や立証の詳細については、検察官から開示を受けた請求証拠や類型証拠を検討することによって知ることができる⇒これにより防御権の行使にも何ら支障は生じない。
③の主張について:
裁判所が、証拠調べの結果明らかとなった本件フィルターの形状から、どのような事実を推認するかは、裁判所の自由心証の問題。
原審弁護人は、本件フィルターについて十分防御の機会が与えられており、また、その形状からどのような事実を推認できるかは、弁護人として当然検討すべき事柄⇒検察官が冒頭陳述や論告で触れていないとしても、裁判所が補充立証を促すなどの措置を取る必要はなく、それにより弁護人の反証の機会を奪うことにもならない。
  刑事p64
大阪地裁R2.2.19   
  森友学園補助金詐欺事件
  事案  
  争点  ①補助金等不正受交付罪を定める補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金適正化法)29条1項(法定刑は懲役5年以下若しくは罰金100万円以下又は併科)は、詐欺罪を定める刑法246条1項の特別規定であって、欺罔行為による補助金等の詐取については補助金等不正受交付財が問われるべきとの弁護人の主張の当否
②サステナブル補助金事件における被告人両名の詐欺の故意及びK1(設計業者で森友学園代理人会社の取締役)との共謀の成否
③経常費補助金事件における被告人X2の詐欺の故意及び共謀の成否
④特別支援教育費事件における被告人X1の各欺罔行為の有無並びに被告人X2の格差偽の故意及び共謀の成否
  判断   ●争点① 
①両罪は構成要件及び法定刑のいずれの面でも一方が他方を包摂する関係にない
②両罪の保護法益が同一でない
③補助金適正化法の対象とならない地方公共団体の補助金を詐取した場合に処罰内容に大きな不均衡が生じる
⇒弁護人の主張を排斥。
  ●争点②サステナブル補助金事件
サステナブル補助金事件における被告人両名の詐欺の故意及びK1との共謀の成否について
①資金が足りない分は補助金で補おうと考えていた被告両名が、K1に対して「国からぼったくる」などと本来より多額の補助金を得たいという趣旨の話しをしていたところ、K1から工事費額が少ないと補助金額も少なくなるなどといった補助金額決定の仕組の説明を受けてこれを理解したこと、その後、・・・工事代金額及び設計報酬額について当初の交付決定額どおりの補助金の作成に了承を与えたこと
②被告人両名は、・・・・K1の説明から、本来は、既に実施設計に着手しているため補助金を受給できないが、その着手時期を偽れば受給できる可能性があると知ったこと、その着手時期を偽った契約書に被告人X1が署名し、その際、被告人X2の同席したこと等
⇒被告人両名の詐欺の故意を認定できる。

・・・被告人両名がK1ら関係者の犯罪を手助けしたのではなく、事業主等として多額の補助金を得たいという強い意向を示したことから、K1ら関係者が補助金に関する実務を担当するものとしてやむなく手続をすす埋めたもの⇒被告人両名とK1との間に共謀が成立。
  ●争点③(経常費補助金事件):
いずれも認定できない⇒無罪。
  ●争点④(特別支援教育費事件)
被告人X1の各欺罔行為は認定できるが、
被告人X2については、一部について詐欺の故意は認定できるものの、被告人X1との間で不正受給についての意思連絡(共謀)は認定できない⇒無罪。
  弁護人は、検察官は、首相(当時)の妻と親しくしていた被告任両名を標的として起訴するため、争点①で被告人両名と共謀したとされる設計業者の取締役K1を違法な司法取引により協力させた⇒控訴棄却及び関係証拠の違法収集証拠排除を求めたが、排除された。 
   
被告人X1について懲役5年
被告人X2について懲役3年執行猶予5年
  解説 補助金等不正受交付罪と詐欺罪の成否
A:前者は後者の特別規定⇒補助金等不正受交付罪が優先的に適用される
B:そのような関係にない
最高裁H21.9.15:
補助金等不正受交付罪の成立範囲については、詐欺罪の場合と異なる旨の判断。 
2461   
  行政p3
最高裁R2.3.19   
  固定資産評価基準により隣接する2筆以上の宅地を1画地として認定して画地計算法を適用する場合の算定方法
  事案 境地の共有分割により分筆後の土地に係る他の共有者の持分を取得したX1が、Y(大阪府)の府税事務所長から不動産取得税賦課決定処分を受けた⇒X1から訴訟を承継したX2が、前記の取得に対しては地税法(「法」)73条の7第2号の3の規定により不動産取得税を課することはできず、本件処分は違法⇒Yを相手に、その取り消しを求めた。
  法の概要 法73条の7第2号の3:
共有物の分割による不動産の取得に対しては、当該不動産の取得者の分割前の当該共有物に係る持分の割合を超える部分(「持分超過部分」)の取得を除き、不動産取得税を課することができないと規定。
法73条の21第2項:
道府県知事は、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産については、法388条1項の固定資産評価基準によって、不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものと規定。
固定資産評価基準:
第1章第3節において、
主として市街地的形態を形成する地域における宅地については、
市街地宅地評価法によって各筆の宅地について評点数を付設し、これを評点1点当たりの価額に乗じて、各筆の宅地の価額を求めるものとしている。

市街地宅地評価法:標準宅地の単位地積当たりの適正な時価に基づいて付設した路線価を基礎として、画地計算法(評価基準別表第3)を適用して各筆の宅地の評点数を付設するもの、
  事実 X1及びその弟であるX2は、土地の持分各2分の1の割合により共有。
領有物分割⇒同土地を本件土地1(617㎡)及び本件土地2(566㎡)に分筆する登記。
本件土地1をX1が取得、本件土地2をX2が取得。
本件各土地は、連続して舗装されるなどして、全体が駐車場として一体的に利用。 
本件土地1が本件取得時において固定資産税課税台帳に価格が登録されていない不動産⇒法73条の21第2項に基づき、評価基準により本件土地1の価格を算定⇒同価格は分筆前の土地の価格の2分の1相当額を超えている⇒持分超過部分の取得が含まれる⇒本件処分。
本件土地1の価格は、
①本件各土地につき、その形状、利用状況等からみて一体を成している⇒1画地と認定
②これと接する街路の路線価を基礎に画地計算法を適用して、本件各土地の1㎡当たりの評点数を算出
③これに本件各土地の地積及び評点1点当たりの価額を乗じて、本件各土地の評価額を算出、
④これに本件土地1と本件各土地との地積比を乗ずることにより、算定。
  判断 評価基準により隣接する2筆以上の宅地を1画地として認定して画地計算法を適用する場合において、各筆の宅地の評点数は、画地計算法の適用により算出された当該画地の単位地積当たりの評点数に、各筆の宅地の地積を乗ずることによって算出される。
持分超過部分の有無及び額を判断する場合であってもこれと別異に解する理由はない。 
  民事p14
東京地裁R1.9.5  
  再転相続人による相続放棄が問題となった事例
  事案 A銀行がBに貸し付けた住宅ローン債権を譲り受けたXが、同債権についての連帯保証人C(Bの妻)の再転相続人であるYに対して、保証債務履行請求権に基づき債権残額を請求。 
  事実 ①H10.12.7:本件住宅ローン貸付及びCによる連帯保証
②H15.1.5:C死亡、法定相続人はB並びにD及びE(Cの父母)
③H16.12.3:D死亡。法定相続人はE及びY(Dの子、Cの弟)
④H25.8.27:本件住宅ローン債務につき期限の利益喪失
⑤H27.9.7:本件債権譲渡
⑥H30.1.16:E死亡、法定相続人はY
⑦同年6.1:本件債権譲渡通知がYに到達
⑧同年8.29:Yによる被相続人をCとする相続放棄の申述
⑨同年9.20:本件相続放棄の申述受理 
  争点 再転相続人であるYの相続放棄の有効性。
①Cの相続人であるD及びEが相続の承認又は放棄をしないで死亡したか否かについて、相続放棄の申述に関する熟慮期間の起算点
②D及びEが相続の承認又は放棄をしないで死亡したと認められる場合におけるCの再転相続に係るYの熟慮期間の起算点
  判断  ●争点①について
最高裁を引用し、
①相続人が相続開始原因事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知ったときから3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、
②被相続人の生活歴、被相続人と相続人間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、
③相続人においてそのように信ずるについて相当な理由があると認められる時には、
熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識し得べき時から起算。
①Cの相続財産は本件保証債務以外に見当たらず、D及びEが本件保証債務の存在を意識していたのであれば、速やかに相続放棄を行うのが通常であり、本件保証債務の存在を知りながら敢てこれを相続する意思を有していたのだとすれば、Dの死後にEとYが行なったDの遺産分割協議において本件保証債務の負担について取り決めるのが通常
but
D及びEが相続放棄を行っておらず、Dの遺産分割協議において本件補償保証債務について取り決めがない。

D及びEがCについて相続財産がないものと信じていたことが強く推認される。

②主債務者による弁済が継続していれば保証人が直ちに弁済の負担あるいは債権者からの請求を受けるものではなく、保証債務の負担を知らない相続人がこれを認知しないことも多い
③A銀行及びXのいずれもD及びEに対して本件保証債務に関する通知をしていない

E及びEがCについて相続財産がないものと信じていたために相続放棄をしなかったこと及びそのように信じたことについて相当な理由があると認められる。
D及びEは、Cの相続についていずれも熟慮期間の起算点を迎えないまま死亡⇒相続の承認及び放棄をしないで死亡。
  ●争点②について 
再転相続人が、相続の諸運又は放棄をしないで死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を自己が承継した事実を知った場合(民法916条)であっても、
①再転相続人が同事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、
②信じたことについて前記の相当の理由がある場合には、
熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識し得べき時から起算。
①YがCの弟であり、平成1年以降は東京都において妻子と居住し、C(和歌山県在住)と同居していなかった
②A銀行及びXがYに対して通知を送付したのは、・・・が初めてであった

Cんぼ両親であるD及びEが認識していなかった本件保証債務の存在をYが認識していたとは考え難く、かつ、再転相続人であるYに相続財産の有無を調査することを期待するのは著しく困難。
  Cの相続について、相続人であるD及びEについて熟慮期間は経過していなかった。
再転相続人であるYについて熟慮期間の起算点は平成30年6月1日⇒同日から所定の熟慮期間内にされた本件相続放棄の申述は有効なもの。
  民事p20
さいたま地裁R1.12.11  
  県公安委員会がした運転免許取消処分について、国賠請求が認められた事例
  事案 運送会社X2の取締役であり、Y(埼玉県)公安委員会から原付免許・中型一種免許の交付を受けていたX1が、平成23年10月25日、訴外Aに自車を接触させ死亡させる事故を起こした⇒神奈川県警はX1を現行犯逮捕し、自動車運転過失致死の疑いで横浜地方検察庁に送致。
Y公安委員会は、平成24年3月末日までに神奈川県警から捜査資料の写しの送付を受け、同年4月11日、X1に対する意見聴取を行った上で、X1に対し、道交法70条所定の安全運転義務違反があった⇒運転免許を取消し、運転免許取得欠格期間を1年(平成25年4月10日まで)とする処分。
横浜地方検察庁:平成24年7月10日、X1を不起訴処分に。
X1は、平成25年2月19日、本件処分の取り消しを求める訴えを提起⇒平成28年2月25日、X1の請求を認容する判決が確定。
X1及びX2が、本件処分が国賠法上違法であり、同処分により損害を受けた⇒Yに対し、損害賠償請求。
  判断 ●国賠法上の違法について
国賠法上の違法性について、職務行為基準説を採用した最高裁H5.3.11を採用し、
公安委員会ののする免許取消処分は、後にその処分が取り消されたとしても、そのことから直ちに国賠法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、公安委員会が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすることなく漫然と処分をしたと認め得るような事情がある場合に限り、違法になる。
本件処分に際してY公安委員会が判断の基礎とした資料からX1の安全配慮義務違反を合理的に認定することできないのに本件処分が行われたとすれば、その処分には「公安委員会が職務上尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と処分をしたと認め得るような事情」があるといえ、国賠法上違法となる。
本件基礎資料の範囲を確定した上、同資料を子細に検討して判断代置的に審査⇒同資料からは事故態様を明らかにすることができず、安全配慮義務違反の前提となる結果回避可能性を認めることができない。
その他、X1の安全運転配慮義務違反を認定するに足りる的確な資料は認められない。

本件処分は国賠法上違法。
●X1の損害
Xは本件処分による欠格期間満了後の平成25年6月に普通免許を取得。
Y:運転免許再取得費用は本件処分による運転免許の喪失状態を回復するために必然的に要する費用とはいえない。
判決:社会通念に従って判断し、本件処分との相当因果関係を肯定。
最高裁昭和44.3.6を参照の上、
その遂行のため支出を余儀なくされた弁護士費用のうち相当と認められる範囲内の費用は、本件処分と相当因果関係に達立つ損害。

本件処分との相当因果関係を認めた。
自動車を運転できないことによる日常生活上の不便に対して相当な慰謝料額を算定。
●X2の損害 
X2:本件処分によりX1が運送業務に就けなくなった後も役員報酬を支払い続けた⇒間接損害の中でもいわゆる反射損害を主張。
本判決:本件処分によるX1の労務提供の質的量的減少並びにX2における逸失利益及び経費の増大は認められない⇒損害の発生を否定。
  知財p30
知財高裁R2.6.17  
  当該発明には当該発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著な効果が認められる⇒進歩性肯定事例
  事案 発明の名称を「アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物」とする特許(「本件特許」)の審決取消訴訟について、
最高裁からの差戻審判決。 
  差戻前上告審 原審は・・・本件各発明の効果、取り分けその程度が、予測できない顕著なものであるかについて、優先日当時本件各発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものか否か、当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点から十分に検討することなく、本件化合物を本件各発明に係る用途に適用することを容易に想到することができたことを前提として、
本件化合物と同等の効果を有する塩酸プロカテロール、ケトチフェン、クロモグリク酸ナトリウム及びぺミロラストカリウム(「本件他の各化合物」)が存在することが優先日当日知られていたということのみから直ちに、 本件各発明の効果が予測できない顕著なものであることを否定して第3次審決を取り消したものとみるほかなく、このような原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。
  判断 (1)本件明細書の記載⇒本件発明1における本件化合物の効果として、ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害率は、30uM~2000uMの間で濃度依存的に上昇し、最大値92.6%となっており、この濃度の間では、クロモリンナトリウムやナドクロミルナトリウムと異なり、阻害率が最大値に達した用量(濃度)より高用量(濃度)にすると、阻害率がかえって低下するという現象が生じていない。 
(2)本件優先日当時、本件化合物について、前記(1)が明らかであったことを認めることができる証拠はない。また、甲1の記載に接した当業者が、ケトチフェンの効果から、本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する効果について、前記(1)のような効果を有することを予測することができたということはできないし、本件他の各化合物のスギ花粉症に対する効果に関する文献があったとしても、本件化合物のヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害について前記(1)のような効果を有することを予測することができたということはできない。

本件発明1の効果は、当該発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであると認められる⇒当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。
  解説 ●「予測できない顕著な効果」について
多くの裁判例で、進歩性判断において予測できない顕著な効果を考慮することが肯定されてきたし、特許庁の審査基準も顕著な効果があることが、進歩性を肯定する事情になるとする。
「効果の顕著性」の進歩性判断における位置付け
A:独立要件説:
相違点に至る構成が容易に想到できるとしても、当該発明の効果が当業者が予測し得ない顕著なものである場合には、進歩性を認める。

B:総合考慮説(二次的考慮説、間接事実説、評価障害事実説等といわれることもある):
進歩性の判断では「予測できない顕著な効果」も含め、全判断要素が総合的に考慮される。

本判決:
発明の構成自体は容易想到であることを前提としたうえで、顕著な効果の有無を判断⇒独立要件説に親和的。
何と比較して顕著な効果があるといえるのか?
A:主引用発明比較説:
対象発明の奏する効果と主引用発明の奏する効果のみと比較して、顕著で、かつ、予測できないことをいう

〇B:対象発明比較説(本件差戻前最判):
対象発明が奏する効果を、当業者が進歩性判断基準時当時に対象発明の構成が奏するであろうと予測できる効果と比較して、顕著で、かつ、予測できないことをいう

C:技術水準比較説:
対象発明が奏する効果を、進歩性判断基準時の技術水準において達成されていた同種の効果と比較して、顕著で、かつ、予測できないことをいう
●前訴判決の拘束力 
最高裁H4.4.28:
「判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断」に拘束力が生ずる

本判決:前訴判決について、本件各発明の構成に至る動機付けがあるとの判断のみに拘束力が生じると認定判断した上で、「予測できない顕著な効果」の有無については、前訴判決の拘束力は及ばない。
  労働p53
札幌高裁R2.2.27  
  嘱託契約(有期労働契約)の更新の申込があったとは認められないとされた事例
  事案 Xは、Yを定年退職した後、Yとの間で、期間を1年間とする嘱託契約を締結⇒タクシー乗務員として勤務。
Xの主張:
契約期間満了に際して契約の更新の申込みを拒絶されたが、これは、Yと労働組合との間で締結された協定の内容を変更して新しい賃金体系を導入しようとしたYが、これに反対する労働組合の執行委員長であるXをYから排除し、労働組合の弱体化を図ることを目的としてしたもの⇒前記拒絶は不当労働行為⇒労契法19条2号に基づき、Yが前記申込みを承諾したとみなされ、Yによる前記拒絶につき不法行為が成立。

Xが、Yに対し、嘱託契約上の権利を有する地位にあることの確認と、不法行為に基づき賃金相当額の損害賠償を認めた。
  判断 嘱託契約の期間満了に際して、X及び労働組合とYとの間でされたやりとりの経過を認定⇒Xが契約の更新の申込みをしたとは認められない。 
「労働契約法の施行について」を指摘し、それを踏まえても更新の申込みがあったとはいえない。
  解説 労契法19条2項が適用されるための要件:
①有期労働契約が更新されると期待することにつき合理的理由があること、
②労働者がその更新の申込みをしたこと、
③使用者がこれを拒絶したこと、
④この拒絶が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないこと
②の要件は、事実認定の問題であり、本判決はこれを否定。
現実の雇止めは、
まず使用者から不更新(雇止め)の通知⇒それに対して労働者に異議がある場合に、雇止め法理の適用の有無が問題となるのが通常。

前記通達は、この要件を緩やかにとらえ、「更新の申込み」は要式行為ではなく、使用者による雇止めの意思表示に対して、労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わるものでよい、としているとの指摘。
労働者が少なくとも同一労働条件での更新がされない事態に対して労働者の不満の意思表示が認定できる限りは、労働者による更新の申込みの認定が可能であり、
このような更新の申込みに対して、使用者が従前よりも不利な労働条件での更新を提案したいということは、新たな労働条件の提案を行なうことにより労働者による更新の申込みを拒絶したと解することができるとの指摘もなされている。
本件:
既に新しい賃金体系が適用されており、労働組合が新しい賃金体系に応じることはYにとって不可欠の要件ではなく、
応じなければ更新をしない方針をYがとっていたとは認められない

労働組合として新しい賃金体系に応じない意向を表明していたことをもって更新の申込みがあったとはいえない。
  労働p62
東京地裁R1.9.4  
  劇団員の労働基準法上の労働者該当性が問題となった事例
  事案 原告は、被告が運営する劇団との間で入団契約を締結し、公演への出演や、音響照明、大道具、小道具等の業務を行っていたほか、被告が運営するカフェで店員として勤務。
被告は、原告に対し、劇団業務に関して毎月6万円を支給し、カフェでの業務に対しては1会の勤務(午後4時から午前0時、又は午前0時から午前5時)に対して5000円の支給。
  主張 自身の手帳に記載された勤務予定を実労働時間に関する主たる証拠とした上で、
①法定労働時間に対する最賃法による賃金及び時間外労働に対する労基法所定の割増賃金並びに付加金等の請求。
②被告が原告に休日を与えず長時間労働させたこと及び被告従業員による暴言や脅迫が不法行為に該当⇒不法行為に基づく損害賠償等を求めた。
  争点 ①原告の労働法上の労働者性
②実労働時間
③不法行為の成否
  判断   ●労働者性 
労基法上の労働者性について、
契約の名称や形式に関わらず、一方当事者が他方当事者の指揮命令下にあり、
労務の提供に対して賃金を支払われる関係にあったか
により決せられ、
指揮命令下にあったかどうかは、
業務に対する諾否の自由の有無
業務の時間的、場所的拘束性、
労務提供に対する対価の有無等
を検討すべき。
劇団が、稽古10日間、本番6日間の公演を年間90本行っており、劇団員を小道具課、大道具課などの「課」に所属させて業務を行わせ、公演に滞りが生じないようにしていたほか、
公演のセット入替え作業は、劇団員で賄えるようスケジュール調整が行なわれ、
音響照明は、劇団員に割り振られた担当公演の機関に不都合がある場合は、劇団員自ら交代できる者を探して交代していた
⇒これらの業務を担当しないことを選択する自由はなく、業務を行うには時間的場所的拘束があった。
原告が所属していた小道具課では、原告を含む2名で全公演の小道具を担当し、マニュアルに従った作業を行うほか、演出担当者の指示に従う必要があった
⇒原告には小道具の業務を行わないことを選択する自由はなく、劇団の指揮命令に従う必要があった。
劇団は、原告ら劇団員が劇団業務とアルバイトの両立が出来なくなっていたことなどから月額6万円を支給するようになり、最近では、音響所運命やセット入替え作業にアルバイト従業員を使用している
⇒劇団員に毎月支払われていた金銭は、小道具や音響照明、セット入替え作業等の業務に対する対価であったと評価するのが相当。

原告において諾否の自由を有していた公演への出演及びそれに伴う稽古等を除いて、労働者性が認められる。
  ●実労働時間
実労働時間に関する客観的証拠がない⇒原告が劇団の裏方業務に従事していた時間を算出するため、原告の手帳の記載や、劇団員が共有していたスケジュールの記載等をもとに、謙抑的に労働時間を認定。 
公演の出演には諾否の自由があり、出演は指揮命令下における労務の提供ではない⇒出演及び稽古に割いた時間は労働時間とは認められなかった。
●不法行為 
休日がとれなかったことを原因とする損害賠償請求:
原告の劇団員における活動は、稽古等の自身の出演に伴う活動にも相当の時間が割かれていた⇒認めず。
暴行や脅迫を理由とする損害賠償請求は、的確な証拠なし⇒棄却。
  解説 労基法上の労働者性に関する最高裁:
傭車運転手(車持ち込み運転手)の労働者性を否定(最高裁H8.11.28)
研修医の労働者性を肯定(最高裁H17.6.3)
大工の一人親方の労働者性を否定(最高裁H19.6.28)
but
いずれも事例判断で、労基法上の労働者性に関する一般論は示されていない。
下級審:
吹奏楽団員の労働者性を肯定
オペラ合唱団員の労働者性を否定

自営業者と労働者との区別が問題となったものとして、
フリーの映画撮影技師の労働者性を肯定
NHKの集金等業務受託者の労働者性を否定
バイシクルメッセンジャーの労働者性を否定
の裁判例あり。
  刑事p115
大阪高裁R2.3.16  
  死刑判決に対する控訴取下げの無効が問題とされた事案
  事案 一審死刑⇒一審弁護人は即日、被告人は平成30年12月31日、それぞれ控訴を申立て、被告人は、令和1年5月18日、大阪拘置所において同所長に対し控訴取下書を提出⇒弁護人らは係属部に対し、同月30日、本件控訴取下げが無効であるとして審理継続を求める申入書を提出し、後日、同取下げ前後の経緯に関する被告人からの聴取報告書や精神科医作成の意見書等の資料を提出。 
  原決定 本件控訴取下げを無効と認め、控訴審訴訟手続を再開・続行する旨原決定をした。

①本件控訴取下げの経緯をみると、死刑判決を確定させるという極めて重大な効果に照らして余りと言えば余りの軽率さであり、被告人が法的帰結を明確に意識していなかった疑いを生じさせる
②本件が死刑判決に対する控訴の取下げである点を十分に考慮する必要があり、死刑判決等に対する上訴放棄ができない旨の刑訴法360条の2の存在も参考になる。
    検察官が、異議を申し立てると共に最高裁に特別抗告を行った。
  異議審での決定等 ●不服申立ての方法
本決定:
高等裁判所が控訴取下げを無効と認め、控訴院訴訟手続を再開・続行する旨の決定⇒同決定に対し、不服のある者は3日以内に異議の申立てをすることができる。
検察官は、原決定に対し、論理的には矛盾する異議と特別抗告の両方の申立てを行った。
原決定に対する特別抗告⇒最高裁で不適法として棄却。
本決定に対する特別抗告⇒最高裁で棄却。
⇒本決定が維持された。

控訴取下げを無効として訴訟手続を再開・続行する旨の決定に対する不服申立ては異議申立てによるべきことで、判例上決着。
●本決定 
原決定が述べる前記理由に関し、
①本件控訴取下げが軽率になされた点を強調し、被告人が法的効果を明確に意識していなかった疑いが同取下げの効力に一定の疑念を生じさせるという点につき、合理的根拠を示しておらず、
②上訴取下げと上訴放棄とは局面が違う⇒刑訴法360条の2が根拠になると解し得ない。
意思表示や訴訟行為の無効事由がある場合には控訴取下げが無効となると解される。
but
原決定が述べる理由で無効を認めることは法解釈の枠を超える。
精神科医2名作成の意見書や証拠能力に関する証拠を精査しても、被告人の本件控訴取下げ時点における訴訟行為能力についての資料が甚だ不十分である⇒原決定の判断には誤りがあるとして取り消した。
①被告人の本件控訴取下げ時点での訴訟行為能力につき極めて慎重な検討が必要であるが判断資料が不足している
②さらなる事実の取調べは自判が原則(刑訴法428条3項、426条2項)の異議審裁判所の性格にそぐわず、自判に馴染まない事情がある。

原裁判所への差戻しを選択。