シンプラル法律事務所
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会社法制(企業統治等関係)の見直し

要綱案  
  ◆Ⅰ はじめに 
    「会社法制(企業統治等関係) の見直しに関する要細案(2019 年1 月16 日、法制審議会会社法制(企業統治等関係) 部会) 」。
・ 法制審議会総会(2019年2月14 日) で承認 →「要綱」。
・ 成立・ 施行の時期は未定。
法務大臣から会社法制見直しに関する諮問(2017 年2 月9 日)。
「近年における社会経済情勢の変イヒ等に鑑み、株主総会に関する手続の合理化や、役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備、社債の管理の在り方の見直し、社外取締役を置くことの義務付けなど、企業統治等に関する規律の見直しの要否を検討の上、 当該規律の見直しを要する場合にはその要細を示されたい」 。
会社法制見直しの諮問がされた背景。
・2014年改正法施行(2015 年5 月1日) 後の動き。
社外取締役設置の普及、監査等委員会設置会社制度の利用拡大など。
コーポレートガバナンス・ コード十 スチュワードシップ・コード。
コーポレート・ ガバナンス関係の報告書、株主総会電子化に関する報告書など。
・2014 年改正法附則一施行後2 年を経過した段階で、「社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し」、必要があれば「社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずる」ものとする(25条)。
 「会社法研究会」(商事法務研究会に設置) における準備作業。
・2016 年1 月~2017 年3 月まで14 回の会合。
・ 審議結果一 「会社法研究会報告書」(2017年3 月2日、商事法務2129 号4 頁)
会社法制(企業統治等関係) 部会での審議・・・全19 回。
・ 議事録
・ 「会社法制(企業統治等関係) の見直しに関する中間試案(2018年2月l4日、法制審議会会社法制(企業統治等関係) 部会) 」公表、バプリックコメントの手続
第1 部「株主総会に関する規律の見直し」
第2部「取締役等に関する規律の見直し」 ・
第3部 「その他」
  ◆Ⅱ 株主総会に関する規律の見直し(第1部) 
  ◇1 株主総会資料の電子提供制度(第1)
    ●株主総会資料について、 新たな電子提供の制度を創設する。
  ■1-1 見直しの趣旨
    「『日本再興戦略』改訂2015」(2015 年6 月30 日閣議決定)。
→ 「株主総会プロセスの電子化促進等に関する研究会」 の提言 ( 「株主総会の招集通知関連の電子提供の促進- 拡大に向けた提言~企業と株主- 投資家との対話を促進するための制度整備~」(2016 年4 月21 日))。
現行の制度は、株主の個別の承諾を要するなど、利用しにくく、利用は進んでいない。
・ ウェブ開示の制度も、個別注記表と連結注記表にしか利用していない会社が多い。
電子提供。
・ 会社側の費用削減だけでなく、株主への情報提供がより充実し、株主にとっての検討期間が拡大し、また会社と株主とのコミュニケーションの充実を図ることができる。
  ■1-2 基本的な仕組み
    招集に際して株主に提供すべき資料 ( 「株主総会資料」) をすべてインターネットー上のウェブサイトに掲載し、株主に対する書面による招集通知には、当該ウェブサイトのアドレス等の基本的な事項のみを記載する(第1 の1 )。
・株主総会資料=株主総会参考書類、議決権行使書面、計算書類、事業報告、連結計算書類。
  ■1-3 株主総会資料のウェブサイトへの掲載
     ウェブサイトへの掲載期間の開始日 。
・ 株主総会の目の3 週間前(第1 の2 ①)。
←一印刷・ 郵送に要する期間分は早期に掲載可。 株主の考慮期間を長く確保。
・ 附帯決議=3週間より.も前にウェブサイトへの掲載を開始する努力義務を上場会社に負わせる旨の規律を上場規則で定めるよう、証券取引所に求める。 ’
ウェブサイトへの掲載期間の末日。
・ 株主総会の日以後3 か月を経過する日 (第1の2 ①)。
←決議取消しの訴えの提訴期間(831条1項)。
ウェブサイトに掲載した事項についでの修正。
・ その旨およびその事項を.ウェブサイトに掲載できる (第1 の2 ①キ)。
・ 修正事項の重要性等を考慮し、修正が招集手続の著しい不公正に当たることあり 。
ED I NETの利用。
・ 電子提供すべき事項を含む有価証券報告書を掲載期間開始日までにE D I N E Tを使用して金融商品取引法に基づいて開示する場合には、電子提供措置をとったのと同じ扱いを受けることができる (第1 の2 ③)。
  ■1-4 ウェブサイトのアドレス等の書面による通知
    ウェブサイトのアドレスなどの基本的事項は、従来どおり原則として書面で通知。
書面による通知の記載事項。
・ ウェブサイトのアドレスのほか、株主総会の日時・ 場所・ 議題などの基本的事項だけ(第1の3②)。
・ 会社が任意に追加の事項を書面で提供することは禁じられない。
∋議決権行使書面の同封。
書面による通知の発送期限。
・ 株主総会の日の2週間前(第1の3①)。
  ■1-5 書面交付請求権
    株主に書面交付請求権を保障(第1 の4 ①)。
・書面交付請求権=株主がウェブサイトに掲載された事項を記載した書面を自らに交付するよう請求することのできる権利。
・ 電子化の意味が乏しくなることから、当初これを否定する意見もあった。
・ しかしデジタルデバイドの弱者にとっては、書面での交付をなくすと実質的に議決権行使が制限されるおそれ。
・ 定款の定めによっても排除できない。
書面の交付は招集通知(株主総会の日の2 週間前まで) に際して行わなければならない。
書面交付請求権の行使期限。 ・
・ 株主総会ごとに株主に交付請求するかどうかを選択させると、会社側の事務処理の負担が大きくなるおそれ。
・ 基準日までに基準日株主に書面交付請求をさせる(第1 の4 ②)。
いったん行使すれば、その後のすべての株主総会について書面の交付を受けることができる 。
・ 会社が電子提供制度を利用するには、定款の定めを要する(第1 の1 )。
←会社が電子提供制度を利用するかどうかを株主は早期に知る必要あり 。
振替株式についての書面交付請求の方法。
・ 銘極ごとに請求でき、口座管理機関を経由して請求してもよいし、名簿上の株主であれば株主名簿管理人に対して直接に請求することもできる (第1 の4 ① (注2) )。
書面交付請求をした株主が累積する問題への対処。
・ 請求後1 年経過すれば、会社は、書面交付請求をした株主に対し請求を失効させてよいか異議があれば述べるよう催告することができ、異議がなければ請求は失効(第1 の4 ④)。
現在のウェブ開示によるみなし提供制度も実質的に残る。
・ 書面交付請求を受けて提供すべき書面を、 みなし提供制度の対象でないものに限る旨を
定款で定めることができる(第1の4③)。
  ■1-6 電子提供制度の採用
    電子提供の制度を利用できる会社の範囲は限定しない。
上場会社については、電子提供制度の利用を義務付け(第1 の1 (注1) )。
←制度のわかりやすさ、株主への情報提供の促進。 . ・ 上場会社については、定款変更がされたとみなすこととする(第1 の1 (注2) )。
  ■1-7 ウェブサイトへの掲載の中断
    掲載の中断が生じた場合でも、一定の要件を満たせば、電子提供の効力に影響を及ぼさないものとする (第l の5 )。
・ サーバーのダウン等やハッカーやウイルス感染等による改ざん等が生じた場合、常に電子提供が無効になると、会社に酷であり、また株主の混乱を招く 。
・ 現行法上の電子公告制度(940条3 項) と同様。
調査機関による調査の制度は設けない。
←調査のシステム構築が困難。
←中断が救済規定の要件を充足していることを会社が独自に立証できなくはない。
     
  ◇2 株主提案権
    株主提案権の濫用的な行使に対処するため、提案できる議案の数と目的等の両面から制限を設ける。
  ■2-1 濫用的な行使への制限の必要性
    株主提案権の濫用的な行使事例。
・ 内容面・・・著しく些末な提案の事例、または個人的目的もしくは会社を困惑させる目的
で行使されたと見られる事例。
・ 議案の数・・・1 人の株主が膨大な数の議案を提案した事例。
現行の拒絶事由=議案が法令・ 定款に違反する場合、または最近3年以内に10%未満の賛成しか得られなかった議案と実質的に同一である場合 (304 条但書・305 条4 項)。
= 昭和56 年改正当時、総会屋による、程i用的な行使を念頭において定められた拒絶事由。

・ 株主提案権が株主たることと関係のない利益のために行使され、これにより会社の利益が侵害される場合には、株主権の濫用として、権利行使を拒むことができる。
=権利濫用とされた事例(東京高判平成27 年5 月19 日金融・ 商事判例1473 号26 頁)。
・ しかし、株主権濫用に当たることの立証責任は会社側が負担。 「権利濫用」 という要件では、提案を拒絶するのは現実には困難。
  ■2-2 . 提案できる議案の数の制限
    1 人の株主があまりに多数の議案を提案することは、審議の時間を無駄に割くことになり、株主総会の意思決定機関としての機能が害されるおそれあり。また、会社側での検討に要するコスト、招集通知の印刷等に要するコストも不当に大きくなるおそれあり 。
10個に制限(第2 の1)。
・ あまりに多いと商題の解決にならず、他方あまりに少ないと正当な提案権行使を妨げてしまう。
議題提案権(303 条)
・ 議場での議案提案権.(304 条) には個数制限を及ぼさない。
 役員選任議案・ 解任議案の数え方。
・ 役員の選任議案・ 解任議案は1 候補1 議案(通説)。
・ 役員選任議案 ・ 解任議案は、議案の数にかかわらず1 議案とみなす(第2 の1 ①~③)。
定款変更議案の数え方。
・ 当該2 以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該能決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合には、これらを1 個の議案とみなす(第2 の1 ④)。
・ ex. 「監査等委員会の設置」と「監査役の廃止」は併せて1個と数える。
10を超える部分について、議案の通知請求権の規定(305 条1 項) の適用がないという形で規定。 ・ 会社が拒絶できるのは10 を超える部分だけ。
・ 個数制限は拒絶事由を定める趣旨。 10 を超えていても会社側からは認めてよい。
10個の選び方。
・ 原則として取締役が決めるこどができるが、株主側が特に議案の優先順位を定めていれば、取締役はその優先順位に従って選定しなければならない(第二1 の1 (注) )。
  ■2-3 目的等による議案の提案の制限
    類型的に権利濫用に当たることが明確なものを具体的に例示。
・ 次の場合に会社は提案を拒絶できるものとする (第2 の2 )。
一専ら人の名誉を侵害し、人を侮辱し、若しくは困惑させ、または当該株主もしくは第三者の不正な利益を図ることを目的とする場合。
一株主総会の適切な運営が著しく妨げられ、株主の共同の利益が害されるおそれがあると認められる場合。
議題提案権(303 条) には制限を及ぼさない。
拒絶事由1 つ目の「専ら」 の要件・・・ 明確に権利濫用と認められる場合を手当て。
     
  ◆Ⅲ 取締役等に関する規律の見直し
  ◇1 取締役等への適切なインセンティブの付与
  ■1-1 取締役の報酬
    ●取締役の報酬等が取締役に対するインセンティブ付与または監督として積極的に機能するよう、報酬規制について見直しを行う 。
  □1-1-1 見直しの趣旨
    会社法361 条の規定の趣旨= お手盛り防止。
・ 報酬規制は、むしろ取締役に対する動機付けまたは監督として積極的に機能すべきであるという考え方が近時有力。
  □ 1-1-2 報酬等の決定方針(第1の1(1))
    一定範囲の会社は、株主総会決議・ 定款で取締役報酬を決定した場合には、個人別報酬まで定めたときを除き、報酬内容についての決定方針を取締役会決議により決定しなければならない。

・ 決定方針 →法務省令。
報酬の種類ごとの比率に係る決定方針。
業績連動報酬の有無および内容に係る決定方針。
各取結役への配分の決定方法の方針(ex代表取締役に一任)、など。

・ 対象となる会社。
公開会社でありかつ大会社である監査役会設置会社であって株式についての有価証券報告書提出会社である会社。
監査等委員会設置会社 ( 監査等委員以外の取締役のみ)。
cf.指名委員会等設置会社一409 条1 項参照。
株主総会で取締役が決定方針の説明義務を負う旨の規定を設ける案は採用されず。
・ 代わりに、確定額報酬についても、株主総会でそれを相当とする理由(361 条4 項参照)
を説明しなければならないものとした(第1 の1(1) (注1))。
  □1-1-3 金銭でない報酬等に係る株主総会の決議による定め(第1の1(2))
    金銭報酬を付与することとし、取締役が取得した金銭報酬債権を現物出資するという方法。
・ 現行法のもとでは、金銭報酬としての規制(361 条1 項l 号の規制) のみ。
・ 報酬の「具体的な内容」(361 条1 項3 号) として、株式の上限の数、交付の条件などを定め、それを相当とする理由を株主総会で説明しなければならないこととする。
報酬として株式を交付する場合(1-1-4) にも、株式の上限の数などを報酬の「具体的な内容」(361 条1 項3 号) として定めなければならない。
  □1-1-4 取締役の報酬等である株式および新株予約権に関する特則(第1の1(3))
    現行法上、会社が取締役に報酬として株式を付与するのは不便。
=募集株式の発行は無償では行えない規定の仕方(199 条1 項2 号)。 しかも株式について労務出資は認められないと解するのが伝統的な通説。
→金銭の形で報i酬を付与することとし、金銭報酬債権を現物出資するという方法。
→業績連動報酬であることが株主にはわからない。
報酬として株式を交付できるものとする (株式報酬)。
=募集株式と引換えに金銭の払込みを要しないことができるようにする。
・ 新株予約権の「行使」に当たっても、金銭の払込みを要しないことができるようにする。 ・ 濫用の危険があるとの指摘 →利用できるのは上場会社に限定。
  □1-1-5 情報開示の充実(第1 の1 (4))
    現行法=総額を事業報告の内容として開示すれば足りる(435 条2 項、会社則121 条4号)。 →動機付・けまたは監督の手段とはなりにくい。
・ 公開会社では、事業報告における報酬に関する開示を充実。
決定方針に関する事項。
株主総会決議に関する事項。
・ 株主総会決議の日、決議の内容など。
配分の決定の再一任に関する事項。
・ 株主総会決議で定めた報酬総額の上限の範囲内での各取締役への配分額の決定を、 取結
役会が代表取締役に再一任することが行われている。
→監督という観点からは、監督を受けるべき代表取締役が配分額を決めるのは問題。
・ 中間試案では、公開会社では、再一任することをあらかじ、め株主総会決議で定めておかなければならないとする案 →採用されず。 .
・ .事業報告での開示を要することとした。 誰に何を再一任しているかなど。
業績連動報酬に関する事項。
・ 何を指標にして何をどれだけ付与するかなど。
報酬として交付された株式・ 新株予約権に関する事項。
・ 株式の内容の概要等(新株予約権は会社則123 条1 項)。 さらに交付した株式・ 新株
予約権の保有状況。
種類ごとの総額。
・ 基本報酬、業績連動など報酬の種類の内訳と、種類ごとの総額。
一定の取締役(上位3名、代表取締役、または報酬l 億円以上の取締役など) についての個人別報酬の内容の開示は見送り 。
  ■1-2 補償契約(第1 の2)
    ●会社補償についての規定を整備する。
  □1-2-1 見直しの趣旨
    会社補償=第三者または会社が役員に対して資任追及をし、その結果役員が要した防御費用、暗償金を会社が当該役員に対して負担すること。
・ 現行法には会社補償に関する規定が存在せず、解釈は定まっていない。
・ 役員の人材確保、適正な職務執行へのインセンティブ付与という意義あり 。
現行法のもとでも、取締役が第三者または会社との訴訟で勝訴した場合、民法の委任の規定(民650 条3 項) に基づいて役員は会社に防御費用を請求できる (通説)。
・ 今回の改正は、この解釈を否定しない。 役員と会社との間で事前に補償契約を締結。
  □1-2-2 補償契約が認められる範囲
    防御費用 。
・ 役員が責任追及を受けることで要する防御費用(弁護士費用など) について、相当と認
められる範囲で、会社が補償することを約する契約 (補償契約) を会社が役員と締結することを認める(第1 の2①・ ②ア)。
・ 役員の善意無重過失は要件でない。
・ 会社が (または株主代表訴訟で株主が) 役員の責任追及をしている場合も対象。
←一広く補償を認めても職務執行の適正を害するおそれは小さい。
・ ただし;、役員が自己または第三者の不正な利益を図り、または会社に損害を加える目的
で職務を執行していることを会社が知つたときは、当該役員に対し、補償した額の返還を請求することができる(第1 の2 ③)。
賠償金。
役員が第三者に損害賠償責任を負う場合に、善意・ 無重過失であれば、当該役員が賠償することで受ける損失(和解を含む) について、補償契約の締結を認める(第l の2①イ)。
役員が善意・ 無重過失である場合だけが対象(第1 の2 ②ウ)。
←悪意・ 重過失がある場合まで対象にすると、職務執行の適正を害するおそれが高い。 役員が会社に対して損害賠償責任を負う場合は対象外。
←実質的な責任免除になる 。
・会社も当該第三者に損害賠償責任を負い、会社が賠償すれば会社が当該役員に求償できる部分は、補償の対象から除外(第1 の2②イ)。 .
ex代表取締役が第三者に不法行為責任を負い、会社も当該第三者に損害賠償責任を負
う場合(350 条)、会社は、第三者に賠償すれば当該代表取締役に対して423 条1 項
の損害賠償請求権を持つはず。 この責任に係る部分は対象外。
←実質的な責任免.除になる 。
・ 会社が賠償金を補償できる場面は相当に限定される。
  □1-2-3 手続・ 開示規制
    補償契約の内容の決定には、 取締役会決議 ( 取締役会設置会社以外では株主総会決議)を要するが、利益相反取引規制は適用しない (第1 の2 ⑤⑥)。
・ 手当てがなければ補償契約は利益相反取引に該当するはず。
←任務懈怠の推定規定(423 条3 項) 、無過失責任の規定(428 条1 項)、責任の一部免
除を認めない規定(428 条2 項) を適用すると、補償契約を利用しにくくなる。
開示=公開会社では、補償契約の内容の概要などを事業報告の内容として開示(第1 の2 (2 の注))。
     
  ■1-3 役員等のために締結される保険契約(第1 の3)
    ●役員等賠償責任保険契約についての規定を整備する。
  □1-3-1 見直しの趣旨
    役員等賠償責任保険= 会社役員に対して損害賠償請求がされることで会社役員が受ける
損書を填補する責任保険。 ・ 会社役員が負担する損害賠償金や防御費用などを填補。 会社が保険契約者、会社役員が
被保険者。
会社が保険料を負担してよいか。
・2016 年以前の実務=約款を基本契約(役員勝訴の場合の防御費用を填補) と特約条項
(役員敗訴の場合の損害賠償金・ 防御費用を填補) に分け、特約部分の保険料は役員報酬扱い (実質的に会社役員負担)。
・20115 年以降、役員敗訴の場合の損害賠償金を填補する部分についても、一定の要件の
下で会社が保険料を負担できる扱いに変更。
役員等賠償責任保険の制度は、現行法に規定がなく、法的に不安定な状況。
・ 役員の人材確保、適正な職務執行へのインセンティブ付与という意義あり。
  □1-3-2 規律の適用範囲
    形の上では、生産物賠償責任保険( P L保険) ・ 自動車賠償責任な ども対象となりうる。 ・ これらは、役員の職務執行の適正性を著しく損なうおそれが定型的に小 さい。・
→一定範囲の保険については、法務省令で役員等賠償黄任保険の定義からはずす。
  □1-3-3 手続- 開不規制
    役員等賠償責任f果険契約の内容の決定には、 取締役会決議 ( 取締役会設置会社以外では
株主総会決議) を要するが、利益相反取引規制は適用しない(第1 の3 )。
・ 手当てがなければ賠償責任保険は間接取引に該当するはず。
←任務懈怠の推定規定(423 条3 項) を適用すると、この制度を利用しにくくなる。
開示=役員等賠償責任保険に関する事項を事業報告の内容として開示(第1 の3 (3 の注))。
・ 具体的には、 被保険者、契約内容の概要を開示。
・ 保険金額、保険料、または契約に基づいて行われた保険給付の金額についての開示は見
送り。
     
  ◇2 社外取締役の活用等(第2)
  ■2-1 業務執行の社外取締役への委託(第2 の1 )
    ●一定の要件の下で、取締役会は、社外取締役に業務を執行することの委託をすることができる旨の規定を新設する。
    現行法=社外取締役の資格要件として、子会社も含めて代表取締役・ 業務担当取締役・ 使用人でないことに加え、「株式会社の業務を執行した」 取締役でないことが含まれる
(2条15号イ)。
・ 社外取締役への期待の高まり、社外取締役の活動の機会の拡大。
→「業務を執行した」 ことになると社外取締役の要件を欠いてしまうという問題。
ex.M B 0 の際に会社のために買収者と交渉。
「業務を執行した」とは、取締役が継続的に業務に関与し、または代表取締役らに従属
的な立場で業務に関与した場合だけという解釈も有力。 しかし解釈が分かれる可能性。
・社外取締役はどこまでのことができるかを明確にすべき 。
会社と取締役との利益が相反する状況にある場合その他取締役が業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがある場合には、会社はそのつど、取締役会決議により、業務を執行することを社外取締役に委託することができる旨の規定を設ける (第2 の
1)。
・ セーフハーバーとして機能。 .
  ■2-2 社外取結役を置くことの義務付け (第2 の2 )
    ●公開会社でありかつ大会社である監査役会設置会社であって、株式についての有価証券報告書提出会社である会社は、社外取結役を置かなければならないものとする。
2014 年改正では設置義務付けを見送り、開示規制にとどめた。
= - 定範囲の監査役会設置会社が社外取締役を置いていない場合、 取締役は、 社外取締役
を置くことが相当でない理由を定時株主総会で説明しなければならない (327 条の2)2014 年改正法の附則で、必要があれば見直すべき事項として「社外取締役の設置義務
付け」が例示。
・ 上場会社では社外取締役の設置がさらに増加。
一選任比率は、2018 年7 月13 日時点で東京証券取引所の全上場会社の97.7 % (市場一
部では99.7 %)。
中間試案までは、普及状況から、設置義務付けは必要ないという意見が支配的。
・ しかしその後、義務付けの環境が整ったとの意見が有力に。
    法律で義務付けをすると、社外取締役を欠いてされた取締役会決議の効力が問題。
・ 取締役会決議の効力に影響はないという見解あり (立案担当者)。
←資格要件を欠く取締役で取締役会決議をして決議に瑕疵がないと言えるか。
     
  ◆Ⅳ その他(第3部)
  ◇1 社債の管理(第1)
  ■1-1 社債管理補助者(第1 の1 )
    ●社債管理者を設置することを要しない社債について、会社が社債管理補助者を定め、社債管理者による管理よりも限定された管理を委託できる制度を創設する(第1 の1 (1) )。
現行法=原則として社債管理者設置を要するが、大口の発行または少人数への発行について例外あり (702 条、会社則169 条)。
・ 実際上、社債の多くは、例外規定に基づき社債管理者が設置されていない。
←社債管理者の義務・ 責任・ 資格要件が厳格で、法定権限が広範であることから、社債
管理者設置のコストが大きい。
←-社債管理者となる者を確保することが困難。

・社債管理者が設置されていない社債について債務の不履行が発生した事例。 社債管理者
が設置されていない社債の管理のあり方が議論。
・ 現行法の枠組みの中では、任意の管理者は期待された役割 (破産債権の届出など) を果
たすことができない。
社債管理補助者の資格(第1 の1 (2) )。
・ 社債管理者(703 条) より広い範囲を法務省令で定める ヨ弁護士・ 弁護士法人。
社債管理補助者の権限(第1 のl (4) ) 一過大な負担とならないよう非常に限定的に。 ・ 最低限、破産債権等の届出をする権限を有するものとしたうえで、委託契約で定める範
囲で、弁済を受ける権限、支払猶予など一定の権限を有する。 P
一委託契約に基づいて付与する権限のうち、支払猶予など、社債管理Fの裁量の余地が
乏しいと言えない行為については、社債権者集会の決議によらなければならない。
社債権者集会の招集(第1 の1 (13)①)。
・ 原則として一定割合の社債権者(少数社債権者) から招集の通知を受けた場合だけ、社
債権者集会を招集することができる。
←裁量的な判断で責任が生じないよう 。
  ■1-2 社債権者集会(第1 の2)
    ●社債権者集会の特別決議により、社債の元本・ 利息の全部・ 一部の免除をすることができる旨の規定を設ける・(第1 の2 (1))。
・ 現行法= 「和解」 (706 条1項1号)としてできるという説が有力。
    ●社債権者全員.が害面 ・ 電磁的記録により同意をした場合には、 社債権者集会の決議を省略することができるようにする (第1 の2 (2) )。
・ 株主総会決議(319条) と同様の決議の省略。
この場合には、. 裁判所の認可を要することなく、社債権者集会の決議の効力が発生することとする(第1の2 (2)②)。
・ 現行法=社債権者集会の決議は裁判所の認可によってその効力を生ずる (734 条)。
←裁判所の強い後見的機能による社債権者の保護。
     
  ◇ 2 株式交付(第2)
    ●株式を対価とする買収を円滑に行えるよう、「株式交付」の制度を新設する。
  ■2-1 株式交付の意義(第2の1)
    買収会社 P 社が対象会社Q社の株式を大量に取得する場合に、取得対価を金銭でなく P社株式としたい場合あり。 . ・
・ Q社株主から Q社株式の現物出資を受けることとなり、現物出資規制がかかる。
=原則として検査役調査必要(207 条)。 財産価格填補責任(213 条)。 ・
株式交換の制度(2条31 号) はあるが、完全子会社にまでする必要のない場合あり。
P社がQ社を子会社としようとする場合に、 Q社株主から Q社株式を譲り受ける対価として、199 条1 項の新株発行・ . 自己株式処分の手続によらずにP社株式をQ社株主に交付できることとする=現物出資規制を受けない。
・ Q社株式の過大評価の危険から P社の株主・ 債権者を保護するため、 P社側には株式交
換と同様の規律の適用があるものとする。
  ■2-2 買収会社側に適用される規律
    P社は、株式交付計画において、対価に関する事項、譲り受ける Q社株式の数の下限、効力発生日などを定める。 下限は、 P社がQ社の議決権の過半数を有することとなるように定めなければならない (第2 の2 )。
P社は、 Q社株式の讓渡の申込みをしようとする Q社株主に対して、 P社の商号および株式交付計画の内容を通知しなければならない (第2 の3 ①)。
P社は、株式交付計画について株主総会の特別決議により承認を受けなければならない。
反対株主には株式買取請求権が与えられる (第2 の5 ②④)。
その他、株式交換と同様に、 P社が P社株式以外の対価を交付する場合には、 P社財産
が減少するので債権者異議手続が必要。 事前・ 事後の開示が必要。 株式交付差止めの制度、株式交付無効の訴えの制度も設けられる 。
これら P社側でとるべき手続は、株式交換とパラレル。
株式交換とは異なり、対象会社Q社側には特に規制は設けられない。
 
  ◇ 3 その他(第3)
  ■ 3-1 責任追及等の訴えにおける和解(第3 の1 )
0会社が取締役(監査等委員・ 監査委員を除く) ・ 執行役の責任を追及する訴えに係る訴
訟において和解をするには、各監査役(または各監査等委員・ 各監査委員) の同意を必要とする。
  ■ 3-2 識決権行使書面の閲覧等 (第3 の2 )
0議決権行使書面の閲覧謄写請求権の濫用的な行使に対処できるよう、株主が閲覧謄写請
求をするには請求の理由を明らかにすることを求め、明文で拒絶事由を定める。
  ■3-3 株式の併合等に関する事前開示事項(第3 の3 )
0株式併合または全部取得条項付種類株式の取得の方法を利用するキャッシュアウトについて、情報開不をさらに充実させる。
  ■3-4 会社の登記に関する見直し (第3 の4 ) 0新株予約権に関する登記。
・「払込金額又はその算定方法」(911 条3 項12 号ニ・238 条1 項3 号) について、登記までに払込金額が確定していれば、払込金額だけを登記すればよいことにする。
0会社の支店の所在地における登記の廃止。
・930条~932 条の削除。
  ■3-5 取締役等の欠格条項の削除およびこれに伴う規律の整備 (第3 の5 )
0成年後見制度見直しの一環として、取締役等の欠格条項(331 条1 項2 号等) を削除。 ・ 成年被後見人等が取結役等に就任する場合に一 定の手続を要求。