シンプラル法律事務所
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論点整理(契約書関係論文)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

Continuing Contracts(オリバー・ハート)
 オリバー・ハート教授が契約理論でノーベル賞を受賞されたということで、「Continuing Contracts」の論文を読んでみたので、理解したことをまとめておく。
数式の部分はすっとばしたし、誤解しているかもしれません。

日本でも、契約条項の本はあるが、(A)長期契約、(B)短期契約、(C)継続的契約、(D)正当理由契約、(E)更新可能契約の優劣を論じたものは初めて見た。日本では、こういう研究は進んでいないのかもしれない。


長期契約(A)(long-term contract)にも短期契約(B)(short-term contract)にも欠点がある。
長期契約(A)だと、期間途中で当事者の関係が非効率となった場合に、再交渉をしないといけなくなり、それは(交渉コストが)高くつく。
短期契約(B)だと、期間経過後も当事者の関係(=取引)が有効な場合に、ゼロから交渉する必要がある。

それらの欠点を補うのが、継続契約(C)(continuing contract)である。
継続的契約(C)は、第1の期間について規定し、関係の継続が予定されるが、第2の期間の取引条件はオープンであり、契約からの離脱も自由である。
そのメリットは、第1期間での取引条件を参照ポイント(reference point)として使用することで、第2期間での取引条件を交渉し、そのため、交渉コストが削減されること。

例えば、第1期間で売り手のコストは10、買い手にとっての価値(例えば、転売価値)は20、契約価格が15とする。それが、第2期間では、買い手にとっての価値が(20から)24に増加。
とすると、継続契約での第2期間では、余剰の4を売り手と買い手の間でどう分けるか(価格を15〜19のどれにするか)を交渉すればいい。
短期契約(B)だとゼロから交渉するとすれば、議論は余剰の14をどう分けるか(=価格を10から24のどれにするか)を議論することになる。

継続契約(C)にも欠点はある。
外部のオプションがある場合(それを考慮することは、第1期間の契約を参照ポイントとする継続契約では誠実なものとみなされないため)取引に失敗する。

例えば、上記の例で、売り手が21で売る売り先(=売り手にとっては21の価格が合理的)があった場合、上記の15〜19のレンジに入らず、第1期間での条件を前提としての「誠実な交渉」とはならない。そこで、契約からの離脱が選択されるが、買い手は21でも3の利益を得ることができた。

つまり継続契約(C)においては、外部オプションが考慮されるべき時に、それが考慮されないために、取引に失敗する。
その非効率性を回避するためのものが正当理由契約(D)("for-cause" contract)(=正当理由がある場合のみ終了でき、当事者の契約からの離脱を離脱を困難にする)である。

正当理由契約(D)の典型は、雇用契約である。

更新可能契約(E)(renewable contract)(=更新される場合の条件は事前に決まっている)もある。
継続契約(C)は、新たな状況に応じて、条件が調整される。そして、状況によっては、何かを規定する(=更新可能契約(E))より、何も規定しない(=継続契約(C))方がいい。

尚、外部要因が内部要因となれば、それは「誠実な交渉」の範囲に入ってくる。
また、短期契約(B)でも、継続的契約的(=公正かつ誠実であるべき義務の創造)が認められる場合もある。