シンプラル法律事務所
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子の監護・引渡しをめぐる紛争の審理及び判断に関する研究(法曹会)

はしがき
  ◆1 本司法研究の目的
  多くの裁判例では、子の監護に関する諸事情を総合考慮することを基礎としつつ、総合考慮に当たっては、(子の出生以来の)「主たる監護者」などいくつかの考慮要素を事案に応じて適宜組み合わせて斟酌しているが、どのような場合にどの考慮様子を斟酌すべきか、複数ある考慮要素のいずれを優先するかなど、総合考慮の内容は必ずしも明らかとはいえない。
「主たる監護者」が明らかである事案が減少
    考慮要素の本質を抽出して再構成し、「主たる監護者」という評価結果を内包する考慮要素を用いることなく、父母の監護の評価を可能にするポイント(着眼点)について検討

父母の監護の評価について
@従前の監護状況
A監護態勢
B子との関係性
C他方の親と子の関係に対する姿勢
という4つのポイントに整理
     
  ◆2 各章の概要 
  ◇(1) 子の監護者指定の判断枠組み(第1章) 
     
    行動科学の知見等に基づく家裁調査官による研究
「子の利益」
「子のニーズ」
     
  ◇(2) 審判前の保全処分(第2章)
     
     
  ◇(3) 子の監護者指定事件(保全事件を含む。)の手続運営の在り方
     
  ◆3 おわりに 
     
★第1章 子の監護者指定の判断枠組み  
☆第1 本章の構成  
     
☆第2 子の監護者指定等事件の特質 (p3)
     
    1:家裁が、子の利益の観点から、裁量により合目的的に権利関係を形成(=子の監護者を指定)
    2:将来予測を伴う
行動科学の知見等を踏まえた判断 
    3:他方親と協力
子の監護者の指定に当たっては、子の利益が最優先の考慮要素とされ(民法766条1項)
父母のいずれの監護下で子を監護することがより子の利益にかなうかが争われ、判断される。
     
☆第3 子の監護者指定の判断枠組みをめぐる従前の議論の状況  
  ◆1 本項の目的 
     
  ◆2 先行文献における議論の状況 
  ◇(1) 先行文献における裁判所の分析の状況 
    子の監護者指定の判断における最優先の考慮要素が子の利益であることを前提に、
「従前の監護状況、現在の監護状況や父母の監護能力(健康状態、経済状況、居住・教育環境、監護意欲や子への愛情の程度、監護補助者による援助の可能性等)、子の年齢、心身の発育状況、従来の環境への適応状況、環境の変化への適応性、父又は母との親和性、子の意思等、父母の事情や子の事情を実質的に比較考慮して父母のいずれが監護者として適格であるか」との基準が、子の監護者指定の具体的判断基準とされてきたと指摘。 
    @主たる監護者
A監護環境の継続性
B子の意思の尊重
Cきょうだい不分離
D監護開始の違法性
E面会交流の許容性
F婚姻関係破綻
     
  ◇(2) 各考慮要素の意義等(p6) 
  ■ア 主たる監護者 
    ・・・
主たる監護者と子の間に精神的なつながりが形成されていることが、主たる監護者を監護者として指定すべき実質的根拠とされている。
  ■イ 監護環境の継続性 
     
  ■ウ 子の意思の尊重 
    家事事件手続法:
子の監護者指定等の侵犯事件について、家裁は、適切な方法により子の意思を把握するように務め、審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない(65条)
子が15歳以上である場合は、その成熟性に照らし、子の陳述聴取を義務付けている(152条2項)
  ■エ きょうだい不分離 
     
  ■オ 監護開始の違法性 
     
  ■カ 面会交流の許容性 
     
  ■キ 婚姻関係破綻の有責性 
     
  ◆3 小括 
     
☆第4 指定研究の概要  
  ◆1 本項の目的 
     
  ◆2 子のニーズの概念 
     
  ◆3 子のニーズの分析・整理 
  ◇(1) 子のニーズの特徴 
  指定研究:
子のニーズは、子の利益にかなう監護を明らかにするという目的で把握するものであり、具体的に、父母の紛争が子に及ぼす望ましくない影響を最小限にとどめ、子が人権を守られ、かつ身体的、心理的及び社会的に十分な発育・発達をし、自立していくために必要となる保護や世話、状態などのことを指すもの。
  ■ア ニーズの主観面と客観面 
     
  ■イ ニーズの階層性 
     
  ■ウ ニーズの主観面・客観面とニーズの階層性の関係 
     
  ■エ ニーズの可変性 
     
  ◇(2) 子のニーズの観点の抽出・整理 
    @子の声明や健康の維持に関する「安全のニーズ」
A発達段階に応じた成長支援に関する「発達のニーズ」
B子が親の紛争下に置かれたことに伴う「親の紛争下にある子のニーズ」
  ■ア 「安全ニーズ」に関する側面 
    「安全ニーズ」に関する側面は、子の声明や健康の維持に関わるものであり、現状が子の心身に重大な影響を及ぼしている又はそのおそれが高い場合には、危険性を緊急性を判断して、速やかに対応する必要。 
    「安全のニーズ」は「発達のニーズ」を支える必要不可欠な前提となるもの⇒父母による子の安全面に対する対応や配慮は、将来にわたって極めて重要性が高く、最優先かつ常に検討する必要がある。 
  ■イ 「発達ニーズ」に関する側面 
    「発達ニーズ」に関する側面は、子の発達を確保するために、子がどのような発達段階にあり、どのような発達課題を持っており、どのような親の関わりを必要としているかに着目するもの。
  ■ウ 「親の紛争下にある子のニーズ」に関する側面 
     
    指定研究121〜125頁によれば、親の紛争下にある子のニーズについては、情緒的安定の回復が最も優先されるべきとされており、このことによれば、「親の紛争下にある子のニーズ」は、親の紛争下における情緒的安定のニーズと理解することができよう。
   
  ◇(3) 子の年代ごとのニーズの整理 
    別紙2ー1〜「子のニーズの観点表」(年代別。指定研究96〜101頁)
乳児期(0〜3歳頃)
幼児期(4歳〜就学前頃)
児童期前期:小学校低学年(小学1〜3年頃)
児童期後期:小学校高学年(小学4〜6年頃)
中学生頃
高校生頃
     
  ■ア 全ての年代において重要なニーズ 
     
  ■イ 乳児期及び幼児期における重要なニーズ 
     
  ■ウ 児童期における重要なニーズ 
     
  ■エ 中学生、高校生における重要なニーズ 
     
  ◇(4) 子のニーズの把握及び監護の評価のプロセス 
  ■ア 調査官による関連事実の収集 
     
  ■イ 調査及び監護の評価のプロセス 
     
  ◆4 小括 
     
     
☆第5 諸外国の制度とその運用の状況 (p21)
  ◆1 本項の目的 
     
  ◆2 米国の状況 
  ◇(1) 親子の権利関係に関する法体系 
     
  ◇(2) 子の監護方法の決定手続(p22)
    単に共同監護か単独監護か、単独監護として単独監護者が父母のいずれかのみを決めるのではなく、
養育計画(parenting plan)によって、具体的に監護権をどのように分担するかが定められる。
養育計画では、
@監護権行使の態様(監護権をどこまでシェアするか)
Aペアレンティング・スケジュール(子が親と過ごすスケジュール)
B休日・休暇、その他誕生日等の特別な日のスケジュール
C子の受渡しのアレンジ
Dその他の命令等
詳細かつ具体的な取決めをすることが要求されている。
  ◇(3) 子の監護方法の決定基準 
  ■ア 共同監護の決定基準 
    学説上、共同監護が付与されるための基準として、
@両親とも適格であること
A両親とも子育てに積極的にかかわり続けていることを希望していること
B両親とも子の最善の利益に関し共に相当の決定を行っていくことができること
C共同監護の方が、別の監護権よりも親子関係を壊さないこと
の4つの基準
  ■イ 単独監護の決定基準 
    単独監護の決定基準について、
母親優先の原則⇒子の最善の利益基準。
    子の最善の利益の考慮要素:
@子の生活環境の継続性
Aきょうだい不分離
Bフレンドリーペアレントルール
C子の意思
D親のDV
E片親疎外
F親としての適切さ
何が子の最善の利益であるかは裁判官の自由裁量に委ねられている。(p24)
    主たる養育者優先の推定原則は、
@主たる養育者は親としての適格性を備えていることを要する
A主たる養育者よりも子の選好を優先することがある
B両親とも主たる養育者の場合は適用しない
など適用に例外が多い

比較衡量の中の1つの要素として採用。(p25)
     
  ◆3 イギリスの状況 
  ◇(1) 親子の権利関係に関する法体系 
     
  ◇(2) 子の監護方法の決定続 
     
  ◇(3) 子の監護方法の決定基準 
     
    近年は、子の意思の聴取が重視されてきており、特に年長の子については、子を手続に参加させて裁判官が子の意見を聴くことが推奨されている。(p28)
     
  ◆3 ドイツの状況 
  ◇(1) 親子の権利関係に関する法体系 
  ■ア 親権の内容 
     
  ■イ 両親の別居又は離婚後の親権 
     
  ◇(2) 子の監護方法の決定手続 
     
     
     
  ◇(3) 子の監護方法の決定基準 
  ■ア 共同親権から単独親権への移行基準 
     
  ■イ 申立人への単独親権の付与 
  □(ア) 支援の原則 (p32)
     
    親が、他方の親と子との交流を積極的に促進する資質と能力を持つこと(フレンドリー・ペアレント)は、その親が親権者として子を支援する意思と能力を持つことの最も重要な考慮要素の一つである。ただし、他方の親による面会交流が妨げられていても、その理由が、子が同居親との緊密性から否定的な評価をしていることにあれば、同居親を単独親権者とすることに支障はない。(p33)
     
  □(イ) 継続性の原則 
     
  □(ウ) 子の密接な結び付き 
     
    「きょうだい不分離の原則」
子の年齢が離れている場合や、子の一方の親との結びつきが明らかに強い場合には、兄弟姉妹の結びつきの重要度は下がることとなる。(p35)
  □(エ) 子の意思  
     
    子の意思は、子の親や第三者との結びつきを示す口頭の表現であるとともに、ドイツ憲法(基本法)条保障された子の自己決定権の表れでもある。
子がより年齢が高く、成熟しているほど、後者の機能が前面に出てくる。
11歳(ほぼ12歳)であっても、明確かつ一貫して自らの意思を示した場合には、決定的重要性を持つとされた例もある。
    両親による監護養育の資質が同等である場合には、子の意思が決定的重要性を持ち得る。(p35)
     
  ◆5 フランスの状況(p35) 
  ◇(1) 親子の権利関係に関する法体系 
  ■ア フランス法改正の経緯 
     
  ■イ 親権の内容 
     
  ■ウ 父母の別居・離婚後の親権 
  □(ア) 共同行使の原則 
     
  □(イ) 共同行使の実効性の担保 
     
  □(ウ) 例外としての単独行使 
     
  ◇(2) 子の監護方法の決定続 
  ■ア 親権の単独行使への移行手続 
     
  ■イ 共同親権の行使における対立調整の手続 
     
  ◇(3) 子の監護方法の決定基準 
  ■ア 単独行使への移行基準 
     
  ■イ 親権行使の態様の裁判の考慮要素
    裁判官が親権の行使の態様について決定する際の考慮要素(フランス民法典373−2−11条):
@両親が以前に行っていた慣行、又は両親が以前に締結し得た協定
Aフランス民法典388ー1条により定められる条件の下に、未成年者の子によって表明された感情
B両親の各々の、その義務を引き受け、又は他方の権利を尊重することに対する適性
C特に子の年齢を考慮して、場合によって実行される鑑定の結果
Dフランス民法典373ー2−12条に定められる、場合によっては可能性のある社会的調査及び反対調査によって収集された情報
E両親の一方から他方の身上により行使される肉体的あるいは精神的な性質を有する抑圧又は暴力
(p40)
     
  ■ウ 子の意思の尊重 
    一般的に、子に関する決定について子の意思を尊重すべきことを規定(p40)
     
  ◆6 小括 
    紹介したいずれの国においても、子の監護に関する裁判をするに当たって、子の利益ないし子の福祉が最も重要な考慮要素とされており、この点は我が国の制度とその運用とも共通している。
    いずれの国においても、父母の別居・離婚後も、父母双方が可能な限り子の養育に関与することが子の利益に資するとの理念が、制度及び運用の両面で貫かれているといえる。(p41)
     
☆第6 子の利益の観点からの判断枠組みの提唱
・・・四つのポイント(着眼点)による父母の監護の評価(p42)
  ◆1 はじめに 
    子の監護者指定の判断の在り方については、行動科学の知見等を踏まえつつ、子の利益を中心に据えた体系的な整理が必要。
  ◆2 子の監護者指定の判断枠組み 
  ◇(1) 四つのポイント(着眼点)による父母の監護の評価 
    子の利益が最優先の考慮要素とされ(民法766条1項)、
子の監護者指定は、子の利益の観点から父母それぞれの監護を評価し、今後、子が父母のいずれの監護下で生活することがより子の利益にかなうかという基準で判断すべき。

父母それぞれの監護をどのように評価すべきかが問題。
    子の利益を中心に据え、父母の監護を評価する際のポイント(着眼点)として、
@子が従前どのように監護養育されてきたか(従前の監護状況)
A子が今後どのような監護養育を受けられるか(監護態勢)
B子が親とどのような関係を築いているか(子との関係性)
C子が親から他方の親との関係を維持するために必要な配慮を受けられるか(他方の親と子の関係に対する姿勢)
の4点を提唱。(p42)
    子の利益の中でも特に重要である子の生命又は心身の安全に問題があるケースについては、子の安全を最優先に検討すべきであり、後記3(1)において改めて論じることとする。
  ◇(2) 各ポイント(着眼点)の説明 
  ■ア 従前の監護状況の評価
    子の監護者指定の判断は、今後子に提供される監護態勢等を将来予測も交えて評価した上、子が父母のうちいずれの監護下で生活することがより子の利益にかなうかを判断するもの。
     
    従前の監護状況は、今後提供される監護(監護態勢)の安定性・信頼性及び父母と子の関係性を推し量るために評価するもの⇒従前の監護状況の評価が、そのまま子の監護者指定の判断に結び付くものではないことに留意すべき。
    父母それぞれが、子の出生以来、子の監護(子の日常の世話、しつけ、学校等との連絡を含む学習支援のほか、子の病気や障害等への対応など)をどの程度担ってきたのかといった監護の量の面を検討するとともに、
父母のそれぞれが子の監護についてどのような検討・計画をしていたか、子の関わり方や日常の世話の方法はどのようであったか、子の発達状況や課題に対応した監護ができていたかといった監護の質の面においても検討した上で、
父母それぞれが、どのように子の利益に配慮し、当該子にふさわしい適切な監護をどの程度担ってきたのか、そして、そのような監護を通じて、愛着関係を含め、どのような親子関係が形成されたかを評価する必要。
愛着(アタッチメント)は、指定研究110頁では、子がストレスや不安、不快、危機感などを感じたときに養育者など特定の相手に近寄り、身体的な近接を図ろうとする傾向であり、その近接と相手からの保護によって、安心・安全の感覚を取り戻そうとする行動制御システムを指す。
恐れや不安が発動されている状態において、自分が誰かから一貫して「保護してもらえることに対する信頼感(confidence in protection)」こそがアタッチメントの本質的要素であり、それが人間の健常な心身発達を支える核になる。
親子関係の評価においては、こうした情動の調整と安心感の回復の経験が積み重ねられることで、養育者との間に形成される関係性を見ていく必要があり、本研究における「愛着関係」とはこうした関係性を指す。
    別居前と別居後では、子の監護の在り方が大きく変わる⇒別居前と別居後に分けて監護状況を評価するのが通常。
従前の監護状況は、今後の監護態勢の安定性・信頼性や父母と子の関係性を推し量るために評価するもの⇒従前の監護状況を評価するに当たって考慮すべき事情(どこまで時間的に遡るか、どの程度詳細に検討するかなど)については、評価の目的を達成するために必要な限度で取り上げればよく、必ずしも子の監護に関する過去の事実経過を全て詳細に取り上げる必要はない。
     
  ■イ 監護態勢の評価(p45) 
    「今後、親に期待できる養育行動及び親が提供可能な養育環境」=「監護態勢」
監護者指定は、今後、子が父母のうちいずれの監護下で生活することがより子の利益にかなうかを判断するもの。
監護態勢の評価は、子の監護者指定の判断に与える影響が最も大きい。
    親に期待できる養育行動を評価するに当たっては、
従前の監護状況のほか、親の心身の状況、子の監護に充てられる時間や監護意欲などを考慮した上、
今後、どの程度適切かつ十分な養育行動を期待できるかを検討。
子の利益に対する配慮の姿勢(他方の親と子の関係に対する姿勢については、後記エで、独立のポイントとして整理)も検討する必要があり、
例えば、別居(単独監護)開始の際に、子を強制的に奪取するなど、子の心身への配慮を欠く行為があった場合には、監護態勢の評価に関して、消極的な評価を受けることになる。
他方で、それが子に対する虐待や父母の一方から他方への暴力からの避難に当たる場合もあり、丁寧な検討を要する。
虐待:
育児放棄(「児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置」児童虐待防止法2条3号)や心理的虐待(「児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、(中略)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動」同条4号)を含む。なお、父母間の暴力等も子に対する心理的虐待に当たり得る行為であり(同条4号参照)、そうした事情があった場合には、それが子に与えている影響の有無・程度等も慎重に検討する必要がある。
    親が提供可能な養育環境を評価するに当たっては、
親の住環境及び経済状況、監護補助者の有無及び期待できる監護補助の内容、親と子の関係性、きょうだいなど同居する親族と子の関係性、子の通学・通園先等の教育環境、子の交友関係などに照らし、養育環境が子の利益にどの程度かなうものであるかを検討する。
その際、監護者として父母のいずれを指定するに際して子の転居など生活環境の変化を伴う場合は、子が生活環境に変化にどの程度適応できるかについても検討する必要がある。
    以上の評価においては、父母の別居によって子を単独で監護するなど親の生活も変化する中で、親が主張する今後の監護態勢がどれだけ現実的なものか、子や親自身にとって無理がないものかという視点からの検討も必要。
     
  ■ウ 子との関係性の評価 
    子が、愛着関係を形成し、良好な関係にある親の下で生活することは、子の情緒の安定や発達にとって重要であり、
指定研究においても、同居親との愛着関係又は良好な関係の形成は、全ての年代の子にとって重要なニーズとされている。
子との関係性は、単に、監護態勢の評価に当たって考慮されるだけではなく、事案によっては、その重要性から、父母の監護態勢の評価にかかわらず、子との関係性がより良好な親を子の監護者に指定すべき場合もある。
ex.監護態勢の比較において他方の親に及ばない親であっても、子の安全や発達のニーズの基本的な充足に問題がないことを前提として、子が当該親とのより強固で健全な愛着関係をよりどころとして父母の別離や環境変化を乗り越えていることが期待できる場合や、比較的年齢の高い子が、自らの体験を踏まえ、当該親との関係により強い安心感や心地よさ等を示している場合等。

子との関係性を父母の監護の評価のポイントとして整理。
    子との関係性の評価に当たっては、現在の親子関係がどのようなものかを検討するとともに、今後親子関係が変化する可能性があるか(良好な関係が安定的なものか、良好ではないとして、今後改善していく可能性があるか等)についても検討する必要がある。
現在の親子関係が良好なものであるといえるとしても、過去の親子関係に問題があった場合には、良好な関係が安定的なものといえない可能性もある⇒過去の親子関係がどのようなものであったかを見極める必要がある。
   
従前の監護状況のほか、調査官による子の意向・身上の調査や親子の交流場面観察の調査等によって、過去から現在に至る親子関係の状況・推移を把握した上で、現在の親子関係や今後変化する可能性を評価することになる。
     
  ■エ 他方の親と子の関係に対する姿勢の評価 (p47)
    父母の別居・離婚後も、父母が子にとってかけがえのない親であることに変わりはなく、子が父母双方と関係を維持し愛情を受けられる状況を創ることは、家族関係の変化に伴う子の精神的負担を軽減し、子の利益にかなう。
諸外国においても、この理念が制度及びその運用の両面で貫かれている。
これを父母の養育行動の側面からいうと、父母には、父母間の紛争や感情的対立にかかわらず、子の利益を実現するため、互いに、他方の親と子の関係を尊重し、その維持に努めることが求められている。

子の利益の観点から父母の監護を評価するに当たっては、父母がそれぞれ他方の親と子の関係をどの程度尊重できているかについても評価すべき。
他方の親と子の関係への配慮は、親に求められる養育行動の一つとして、本来、監護態勢(あるいは関連する従前の監護状況)の評価においてその有無や程度が考慮されるべきといえるが、
他の養育行動と異なり、子の利益の実現のために子に対してとる行動のみならず、父母間において必要な協力関係を維持・形成するための行動や態度に着目
⇒監護態勢の評価とは独立して、他方の親と子の関係についての姿勢を整理。
    現在どのような姿勢であり、今後変化する可能性があるかを検討することが必要。
but
過去から現在に至る一連の事情(別居(単独監護)開始に至る経緯、別居開始の態様、別居後の面会交流の実施状況、面会交流に関する姿勢、父母間の協力関係を阻害する言動の有無・程度、他方の親と子の関係を阻害する言動の有無・程度など)を総合的に検討して評価すべきであり、限られたエピソードのみに依拠して行うべきではない。
    同居親が、別居親と子の面会交流に積極的に応じるなどして、別居親と子の関係の維持に努めている場合⇒積極的な評価。
同居親が正当な理由なく別居親と子の面会交流を拒否している場合や、同居親が別居親についての悪印象を殊更植え付けるなどしている場合、反対に別居親が面会交流等の機械に同居親の悪口を言うなどしている場合⇒消極的な評価。
別居親など単独監護の開始の経緯に関し、一方の親が他方の親に対して何ら説明なく無断で子を連れ出すなどして子の単独監護を開始⇒他方の親と子の関係に対する姿勢に関して、消極的な評価。
 
親が子に対して、監護親として自信を希望するよう働きかけるなど、他方の親と子の関係を阻害する言動⇒消極的な評価。
     
  ■オ 小括 (p49〜)
    監護態勢:子の監護者指定の判断に与える影響が最も大きい。
    子との関係性:単に監護態勢の評価に当たって考慮されるだけではなく、判断を直接左右する場合もある。
    従前の監護状況:過去の事実関係に基づいて父母がそれぞれどのように子の監護に関与してきたか、どのような親子関係を形成してきたかを分析し、評価するためのポイント。

現在及び将来の監護態勢の安全性・信頼性を推し量るために評価するものであると同時に、
子との関係性を推し量るために評価するもの。
    他方の親と子の関係に対する姿勢:
過去から現在に至る一連の事情を総合的に検討し、現在どのような姿勢であり、今後変化する可能性があるかを評価することが必要。
     
     
  ◇(3) 評価・判断の方法 
     
  ◆3 事案の特性に応じた判断の在り方 
     
  ◇(1) 子の安全に問題があるケース(p54)
    親が子に対する虐待に及ぶおそれがあるなど、一方の親の監護につき子の生命又は心身の安全に問題がある事案では、子の安全確保が最優先と考えられる
⇒監護態勢の評価において子の安全確保の面で問題がない親を、子の監護者に指定すべき。

子の生命及び心身の安全に関するニーズを、全ての年代の子において最優先に検討すべきものとしている指定研究の内容とも整合。(p54)
  ◇(2) 子に障害や発達上の特性があるケース 
     
  ◇(3) 子の年代ごとの判断の在り方(p55)
  ■ア 乳幼児期 
    生活の全てを大人に依存⇒養育者から基本的な世話を受けながら規則的な生活パターンを築く中で、健康的な身体的発育・発達を遂げることが重要。
子の情緒的安定⇒身近な養育者との安定的な愛着関係の形成と維持が重要。

従前の監護状況、監護態勢及び子との関係性を検討した上、子に対して量および質を兼ね備えた日常の世話を安定的に提供でき、かつ、子との間でより安定した愛着関係を形成している親の監護下に置くことを重視すべき。
    父母双方との間で愛着関係を形成することも重要
⇒他方の親と子との関係に対する姿勢についての評価も踏まえた判断が必要。
    【22】
  ■イ 学童期 (おおむね小学生頃)
    乳幼児の子と比べて生活面及び精神面の自立は進んでいるものの、いまだ不十分であって、なお、
親から細やかな日常の世話を受けること(食事、就寝時間などの管理、学習支援や学校活動の補助など)や
親との安定した愛着関係の中で情緒の安定を保つことが重要。
     
    子の理解力や言語表現力の発達に応じて子の意思を尊重する必要性も高まる。
but
親の紛争の影響を受けやすい年代
⇒子が監護の在り方について意思を表明している場合は、当該意思をそのまま結論に反映すべきかについて、子の発達状況や子の客観的な利益に照らしつつ、検討する必要。
     
  ■ウ 年長(おおむね中学生以降)
     
  ◇(4) 子にきょうだいがいいるケース 
     
  ◆4 新たな判断枠組みにおける従前の考慮要素の位置付け(p59)
     
  ◇(1) 主たる監護者(p59)
    上記2の判断枠組みに沿って分析すると、この考慮要素は、従前の監護状況及び子との関係性の評価において、一方の親が中心となって子を適切に監護してきており、子との間で愛着関係が形成されていると認められた場合は、当該親を主たる監護者と認定した上、特に乳幼児期の子について、当該親による監護の継続性を重視する考え方といえ、従前の監護状況及び子との関係性の評価の一要素と位置付けることができる。
    留意点
第1:主たる監護者の認定は、従前の監護状況及び子との関係性についての評価にとどまる⇒今後の監護態勢及び他方の親と子の関係に対する姿勢についても評価した上、多角的に検討する必要がある。
第2:
主たる監護者の判断に当たっては、子との接触時間の長短や家事の多寡等の量的側面だけではなく、監護の内容や子との関わり方について考慮する必要
従前の監護状況については、監護の量および質の両面に加えて、監護を通じて形成された親子関係をもとに評価する必要があり、また、従前の監護状況だけでなく、子との関係性についても評価する必要。 
第3:
父母が子の監護養育を協力して行っており、従前の監護の量や室について父母に大きな差があると言えない場合には、父母のいずれが主たる監護者であるかを認定することは困難。

このような場合、父母共に子にとって主要な愛着対象といえる可能性がある

子の監護者指定の判断に当たって、従前の監護状況の評価のみを理由に、いずれか一方の親による監護の継続を重視することはできない
一方の親を主たる監護者と認定することにより、無用な争点を増やすことになりかねない。 
    上記2の判断枠組みにおいては、父母それぞれ従前の監護状況等について、監護の量および質や監護を通じて形成された親子関係等をもとに事案に即して評価すれば足りるのであって、一方の親をあえて主たる監護者と認定する必要はない。
     
  ◇(2) 監護環境の継続性 
     
  ◇(3) 子の意思の尊重 
     
  ◇(4) きょうだい不分離 
     
  ◇(5) 監護開始の違法性 
     
  ◇(6) 面会交流の許容性 
     
  ◇(7) 婚姻関係破綻の有責性 
     
  ◇(8) 小括 
     
  ◆5 まとめ 
     
★第2章 審判前の保全処分(p65)
☆第1 本章の構成  
     
☆第2 審判前の保全処分の概要  
  ◆1 審判前の保全処分 
     
  ◆2 審判前の保全処分の要件 
     
  ◆3 審判前の保全処分の性質・効力等 
     
     
☆第3 審判前の保全処分の判断枠組み(p69)
  ◆1 はじめに 
     
  ◆2 本案認容の蓋然性の判断枠組み 
     
  ◆3 保全の必要性の判断枠組み 
  ◇(1) 基本的な考え方 
    家事事件手続法157条1項は、家庭裁判所は、「子の急迫の危険を防止するため必要があるとき」に子の監護者指定等の保全処分を命ずることができると規定。
保全処分が発令された場合には、直ちに強制執行ができる⇒保全の必要性の判断においては、本案の確定を待たずに直ちに保全処分により子の引渡しを実現すべき必要性及び緊急性があるかという観点から検討。
    「子の急迫の危険」とは、子の利益が侵害される急迫の危険をいうところ、子の利益は、子のニーズが適切に充足されることを通じて実現されるもの

子の利益が侵害される急迫の危険があるか否かを検討するに当たっては、当該子の具体的なニーズな何か、それらの各ニーズがどの程度充足されているか、その結果総体としての子のニーズがどの程度充足されているかということを検討する必要。
ニーズの階層性を意識することが重要。
     
  ◇(2) 同居親の監護に問題がある場合 
  ■ア 子の安全に問題がある場合 
    同居親による虐待等、子の生命及び心身の安全が脅かされている場合、最優先に充足されるべき子の安全のニーズが満たされていない⇒当該状況を解消すべき必要性及び緊急性は高い。
     
  ■イ 子の特性に応じた配慮がされない場合 
     
  ■ウ 子の学習の機会等が侵害されている場合 
     
  ◇(3) 子の生活環境の変化に問題がある場合 
  ■ア 環境の変化による子の負担が大きい場合 
     
  ■イ 監護開始の態様に問題がある場合 
     
  ◇(4) 子と別居親との分離の継続に問題がある場合 (p74)
  ■ア 総論 
    親との安定下愛情関係や信頼関係に基づく情緒的な安定性は、全ての発達段階で充足されるべき重要なニーズ。

別居親との分離に起因して、子に情緒不安定が生じている場合、情緒不安定の程度が高まれば高まるほど、これを解消すべき必要性及び緊急性が高まり、保全の必要性を肯定する方向に働く。
  ■イ 乳幼児が子との間でより安定した愛着関係を形成している親と分離されている場合 
     
  ■ウ 子と別居親の関わりの断絶・減少 
     
    別居親が子との間でより安定した愛着関係を形成している場合や、父母双方が同程度の子との間で安定した愛着関係を形成している場合には、別居後の面会交流が断絶すると、子の利益に反する程度が大きくなり、保全の必要性を肯定する方向に働く事情となる。
    また、同居親(その監護補助者を含む。)が、子と別居親との交流を断絶させた上、子に対して直接又は間接に当該別居親に対する否定的な感情を強く生じさせるような言動をしている場合には、子の情緒不安定を招く危険性が高いだけでなく、別居親との関係性を大きく損なうものであり、当該状況を解消すべき必要性及び緊急性が高まる。 
    子の利益にかなった面会交流(間接交流を含む。)が頻度、内容とも適切に実施されている場合には、別居に伴う子の不利益は一定程度軽減されている。
⇒同居親の下で監護されている状況を解消すべき必要性及び緊急性は低減するといえよう。
     
  ■エ 子と監護者となるべき者の分離が続くことによる不利益 
     
  ◇(5) 小括 
     
  ◇(6) その他 
     
  ◆4 子の監護者の仮の指定のみの申立てがされた場合における保全の必要性の判断の枠組み
     
☆第4 保全事件の審理の在り方(p81)
  ◆1 本案認容の蓋然性と保全の必要性の審理の重なり合い 
     
  ◆2 保全事件の審理の在り方 
     
  ◆3 当事者として留意すべきこと 
     
  ◆4 裁判例の状況 
     
★第3章 子の監護者指定事件(保全事件を含む。)の手続運営の在り方  
☆第1 本章の構成  
     
☆第2 子の監護者指定等事件の手続における当事者及び裁判所の活動の概要  
     
     
☆第3 段階に応じた具体的な手続運営  
     
     
     
☆第4 保全事件が申し立てられた場合の手続運営  
     
     
★別紙  
☆1 子のニーズの観点表(枠組み)  
     
☆2ー1〜6 子のニーズの観点表(年代別)  
     
     
☆3 考慮要素表  
     
☆4 対応目安表  
     
     
☆5 子の監護者指定に関する裁判例  
     
     
☆6 審判前の保全処分に関する裁判例