シンプラル法律事務所
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交通事故判例

★自殺との因果関係 
  百選4版
p56
最高裁
H5.9.9
  ◆自殺との相当因果関係の成否
  規定 第722条(損害賠償の方法及び過失相殺)
2 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
  原審 本件事故と自殺との相当因果関係を認めたうえで、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、自殺に対するAの心因的要因の寄与を8割として、これを損害額から減額
判断 上告棄却 
本件事故によりAが被った傷害は、身体に重大な器質的障害を伴う後遺症を残すようなものでなかった。
but
本件事故の態様がAに大きな精神的衝撃を与え、しかもその衝撃が長い年月にわたって残るようなものであったこと、その後の補償交渉が円滑に進行しなかったことなどが原因となって、Aが災害神経症上に陥り、更にその状態から抜け出せないままうつ病になり、その改善をみないまま自殺に至った。
自らに責任のない事故で傷害を受けた場合には災害神経症状態を経てうつ病に発展しやすく、うつ病にり患した者の自殺率は全人口の自殺率と比較してはるかに高いなど原審の適法に確定した事実関係。

本件事故とAの自殺との間に相当因果関係があるとした上、自殺には同人の心因的要因も寄与しているとして相応の減額をして死亡による損害額を定めた原審の判断は正当として是認できる。
解説 交通事故によって身体に傷害を負った被害者が事故から3年6か月後に自殺した事案につき、最高裁としてはじめて交通事故と被害者の自殺との間に相当因果関係を認めたうえで、自殺についての被害者の心因的要因の寄与による損害賠償額の減額を認めたもの。
通常、事故と被害者の死亡との間に、条件関係ないし事実的因果関係は認められるものの、両者の間には被害者の自殺という意思的選択行為が介在し、このことが問題の解決を困難にしている。
初期の判例:
不法行為責任責任一般に関する相当因果関係説(最高裁昭和48.6.7)をそのまま適用。
事故による受傷又は後遺症を通常損害、自殺による損害を特別損害とし、
通常損害については、加害者の予見の有無を問題にしないが
特別損害については、自殺という特別事情についての予見可能性が必要であるとする。

予見可能性がないとして加害者の責任を否定するものが多かった。
最高裁も、脳挫傷を負った被害者が1年後に自殺した事案につき、事故と自殺との間に条件関係はあるが、予見可能性は認められないとして加害者の責任を否定(最高裁昭和50.10.3)。
他方、事故により外傷性てんかん等脳に器質的な障害が生じ、右障害に基づく精神発作等により自殺するに至った事案では、自由意思による自殺とはいい難いとして相当因果関係を肯定。
その後、下級審において、加害者の責任を部分的に認める裁判例:
A:事故と自殺の因果関係をあるかないかし判断するのではなく、被害者の自殺に対して事故が寄与した割合に応じて賠償責任を認めるもの(寄与度構成)。
a1:因果関係の割合的認定を明言するもの
a2:事故と自殺との間に事実的因果関係があれば、寄与度に応じた責任を認めるもの
B:自己と自殺との因果関係を認めたうえで、民法722条2項の過失相殺の法理を類推し、被害者の自由意思の関与の程度を斟酌して損害額を減ずるもの(過失相殺構成)。
b1:事故と自殺との事実的因果関係を認めたうえで、自殺に至る事情を斟酌して過失相殺するもの
b2:事故と自殺との相当因果関係を認めたうえで、被害者の自殺に対する自由意思の関与の程度を斟酌して過失相殺を類推適用するもの
b3:事故と自殺との相当因果金意を認めたうえで、被害者の自殺を事故後の拡大損害ととらえて過失相殺を類推適用するもの
判例・学説は、理論構成は様々であるが、責任のすべてか無という選択肢を前提にした厳格な責任要件を用いる立場から、責任要件を緩和する代わりに当事者の利害を減責によって調整する方向に推移。
★損害賠償額の認定   
  百選4版
48
最高裁S62.10.30
◆低速度追突事故における受傷の有無と因果関係の判断 
事案 X1は、頸椎捻挫、腰部挫傷の診断で入通院
X2、X3は、頸椎捻挫、腰部捻挫の診断で通院。
X4は、頸椎捻挫、腰部捻挫、顔面打撲傷、左肩打撲傷の診断で入通院。
X1〜X4は、後遺障害等級14級の認定。

X1〜X4は治療費、休業損害、慰謝料等を
X5は、自動車修理代金を請求。
一審 @原告らの症状を裏付ける他覚的所見を認めうる証拠がない
A鑑定人の鑑定結果によると、時速5キロメートル程度の追突では一般的に被追突車の乗員に影響がないと解されている
⇒X5の修理代金請求を除いて、X1〜X4の請求を棄却。 
原審 控訴棄却。
前記M病院の診断結果と後遺症の認定は、いずれも専らX1の愁訴に基づく診断・認定であると推認できる。
⇒被害者の症状との因果関係を否定。 
判断 上告棄却。 
解説 判例としての意義は、
一般的に低速度の衝突事故ではむち打ち症が生じない場合があること、
受傷や後遺障害の存否の判断につき、鑑定の評価・鑑定の要否は、裁判所の自由な判断によることを確認。 
受傷肯定例も多くみられる。
受傷否定例では、法医学あるいは工学鑑定を重視。
例えば、時速7.54キロメートル程度の屈曲トルクは、無傷レベルの約8分の1でしかないとする。
否定例では、小下く加速度が小さく無傷限界値以下であれば受傷が生じないということを経験則としてとらえている。
肯定例では、加害者側の工学的鑑定の問題点を指摘。
・現時点での工学鑑定の手法の限界は裁判所に顕著である。
・実験数や統計法則の妥当性の担保に疑問。
・当該官邸の資料不備。
事実的因果関係のレベルでは、
@事故前には無症状であった被害者が、A事故後に発症したという場合には、別途反証のない限り、「一応の推定」を受ける。
臨床医学的に合理的に症状が説明できれば、「一応の推定」を受け、反証では、詐病が問題となる。
心因的要因などの関与による損害の拡大は、治療期間等につきどこまで保護範囲内とするか、金銭的評価における減額事由とするのかという次元で問題。
  百選4版
52
最高裁S50.7.3  
   
  事案 Yは事故当時主婦として家事に従事。
受傷のため入院期間中は前日、通院期間中は少なくとも半日、家事労働に従事できず。
⇒右家事労働不能期間は通算6.75か月相当期間。 
一審 主婦の家事労働は、その性質上賃金等の対価はないが、主婦が身体事故で家事労働に従事不能の場合は、その機関その労働能力を家政婦等の代替労働者を雇う場合に要する賃金相当額を主婦自身の得べかりし利益の喪失に準じて評価すべき。

家政婦の賃金により低い家事手伝者の平均賃金を参考として、Yの主張を肯定。
  二審 主婦の家事労働者家庭生活中、無償労働として対価が支払われなくても、有用な労働であり、財産的な価値を有する。 
家事労働に従事していた場合に、事故が原因で従事不能のときは財産的価値の減少がある。
その価値の評価方法があれば、金額的に評価して損害とすべき。
評価方法としては、同種の労働に従事する有償労働者である家政婦の家事代替労働者の平均賃金を参考として見積もり評価することも合理的な方法の1つである。

一審を支持。
  判断 二審の判断は正当。 
  解説 最高裁昭和49.7.19:
金銭的に評価することが困難な場合が少なくないことは予想されうるところであるが、かかる場合には、現在の社会情勢等にかんがみ、家事労働に専念する妻は、平均的労働不能年齢に達するまで、女子雇用労働者の平均賃金に相当する財産上の収益を挙げるものと推定するのが適当である。

家事労働の財産的利益の算定基準を明らかにしている。
  百選4版
49
@最高裁H8.4.25
A最高裁H8.5.31
  ◆第1事故と第2事故との関係による損害額の算定
事案 @事件(貝採事件)
Aは交通事故(昭和63年1月10日)で、脳挫傷、頭蓋骨骨折、肋骨及び左下腿骨折等⇒入通院し、平成 元年6月28日、知能低下、左腓骨神経麻痺、複視等の後遺障害を残して症状固定⇒症状固定から6日後の平成元年7月4日、貝採り注、海中で心臓麻痺で死亡。
⇒Y1(使用者)、Y2(運転者)、及びY3(Y1と契約していた保険会社)を相手に、損害賠償請求の訴え。
主位的に、Aの死亡に対する損害賠償
予備的に、Aの死亡に対する逸失利益が認められないときは、Aの後遺障害に対する逸失利益の賠償
A事件
Aは、交通事故で、左膝と右手指を骨折し、労働能力喪失率14%、高卒後10年間存続の後遺障害を残した。
この事故から1年8か月後、症状固定から約3か月後に別件の交通事故でAは死亡。
判断 後遺障害逸失利益の労働能力喪失期間は死亡時までに限られない。
  百選4版
56
最高裁S43.11.15
◆逸失利益(5) ・・・会社代表者が受傷した場合
事案 Aは個人で薬局を営んでいたが、納税上個人経営は不利であるということから、事故当時、有限会社形態のX会社を設立して経営に当たっていたが、社員はAと妻の両名のみで、Aが唯一の取締役であるとともに代表取締役であり、妻は名目上の社員であるにとどまり取締役ではなく、X会社にA以外に薬剤師はおらず、X会社は有限会社であるもののAの個人企業であった。

Aは、Yに対し、治療費と慰謝料の賠償請求をなすとともに、唯一の薬剤師であるAの負傷により、X会社の営業利益が減少したとして営業上の逸失利益の賠償をYに求めた。
原審 ある人に対し直接加えられた加害行為の結果、その人以外の第三者に損害が生じたい場合でも、加害行為とこの損害との間に相当因果関係が存する限り、不法行為者は第三者について生じた損害を賠償しなければならない。
Yが直接Aに加えた不法行為によってXは得べかりし利益を喪失して損害を被むり、この損害はYの不法行為と相当因果関係があるものと解するのが相当
⇒YはXについて生じた損害を賠償すべき。
判断 Xは法人とは名ばかりの、俗にいう個人会社であり、その実権は従前同様A個人に集中して、同人にはXの機関としての代替性がなく、経済的にAとXとは一体をなす関係にあるものと認められるのであって、・・・・、原審が、YのAに対する加害行為と同人の受傷によるXの利益の逸失との間に相当因果関係の存することを認め、形式上関の被害者たるXの本訴請求を認容しうべきものとした判断は、正当である。
解説 企業による固有損害の賠償請求の可否:
A:相当因果関係説:損害が第三者に生じた場合でも、加害行為との間に相当因果関係が存するときは、第三者に損害賠償請求権があるとする説。 
  百選4版
57
最高裁S43.8.2
◆逸失利益(6): 個人企業主(卸小売商)の場合
原審 個人企業は会社企業等と異なり、経営者個人を離れて別個独立の存在を持つものではなく、あくまでも経営者個人に従属するもの
⇒経営者個人がその企業を通じて挙げ得る利益は全て経営者個人に帰属し、将来の得べかりし利益の喪失についてもその理を異にしない。

5年間の平均営業収益を算出し、これをそのままAの逸失年間営業収益とした。 
判断 企業主が生命もしくは身体を侵害されたため、その企業に従事することができなくなったことによって生ずる財産上の損害額は、原則として、企業収益中に占める企業主の労務その他企業に対する個人的寄与に基づく収益部分の割合によって算定すべきであり、企業主の死亡により廃業のやむなきに至った場合等特段の事情の存しないかぎり、企業主生存中の従前の収益の全部が企業主の右労務等によってのみ取得されていたと見ることはできない。したがって、企業主の死亡にかかわらず企業そのものが存続し、収益をあげているときは、従前の収益の全部が企業主の右労務等によってのみ取得されたものではないと推定するのが相当である。 
ところで・・・Aの営業収益額は昭和27年から同31年までの5年間の平均で年間978,044円であり、同人死亡後その営業を承継したXらがあげた同33年度の営業収益は208,318円である。⇒Xらのあげた同34年度以降の営業収益が右同33年度の営業収益と同額であるとすれば、特段の事情のないかぎり、右説示に照らして、Aが生命を侵害された企業に従事することができなくなったことによって生ずる庄和33年度以降の1年あたりの財産上の損害額は右978,044円から208,318円を差し引いた額であると推定するのが相当。
しかるに、原判決が、「右損害額の算定の基準として、なんら特段の事情を示すことなく、Aが従前取得していた収益全額をもってすべきものとしている」のは、法令の違背、審理を尽くさない違法がある。
解説 本判決は、生命侵害による財産上の損害額につき、被害者が個人企業主である場合には、特段の事情のないかぎり、企業収益中に占める企業主の労務その他企業に対する個人的寄与に基づく収益部分の割合によって算定すべきである旨を判示。
学説も労務価値説:
「被害者が営業に従事していた場合、賠償を求め得るのは、これによって喪った労務の価額であって、営業上の利益ではない。営業上の収益が被害者の人的労務の結果からのみ生ずる場合には、その週得kの喪失が直ちに損害といえよう。しかし多くの場合営業上の利益の中には、被害者の個人的労務の外に、資本の利子、老舗、特許権、商標権、免許などによる収益が含まれている。これは生命身体侵害により直ちに侵害せられたとは言えないから、営業上の全収益を直ちに損害額とすることはできない」
  百選4版
58
最高裁S44.12.23 
  ◆無職で勤労意欲の乏しい者の場合
原審 Aの得べかりし利益の喪失はない 
判断 訴外Aは本件事故死の当時同人自身の生活費として1か月に少なくとも金8,250円を要したものであるところ、同人は病弱にして勤労意欲に乏しく、かつ、昼間から飲酒にふくえることもあって、同人の右事故死の当時の収入額は右生活費の金額にも満たなかった。
右事実関係のもとにおいて、右Aが右事故死の結果喪失した将来得べかりし利益の存在ないし金額はたやすく認定することができない、とした原審の判断は、正当として是認することができないわけではない。
  解説 本件判例は、成人男子(47歳)であっても病弱で勤労意欲も乏しく死亡当時生計を上回る収入額もない者についての逸失利益は、将来においてその者の収入が増加する可能性が立証されないかぎり認められない、ということを明示したもの。 
判例の2つの傾向:
@死者の損害賠償額の算出について死者の逸失利益を中心とした財産的損害として把握していこうとする傾向。
A逸失利益の算出が困難か、または認められない幼児、主婦らについても得べかりし利益を認めることによって賠償額を均一化しようとする傾向。
★過失相殺   
  百選4版
74
最高裁H1.4.11
◆過失相殺と損益相殺の先後関係
判断 労災保険法に基づく保険給付の原因となった事故が第三者の行為により惹起され、第三者が右行為によって生じた損害につき賠償責任を負う場合において、右事故により被害を受けた労働者に過失があるため損害賠償額を定めるにつきこれを一定の割合で斟酌すべきときは、保険給付の原因となった事由と同一の事由による損害の賠償額を算定するには、
@右損害の額から過失割合による減額をし、
Aその残額から右保険給付の価額を控除する方法
によるのが相当である。
  百選4版
75
最高裁H1.4.11
  ◆一部請求における過失相殺の方法
Yの主張 @慰謝料と逸失利益は別個の訴訟物⇒慰謝料の認容されなかった額について、請求額である150万円を超えて逸失利益を認容することは合計額が善請求額の範囲内であっても現行民訴法246条に違反。
A
判断 本件のような同一事故により生じた同一の身体障害を理由とする財産上の損害と精神上の損害とは、原因事実および被侵害利益を共通にするもの
⇒その賠償の請求権は1個であり、その両者の賠償を訴訟上あわせて請求する場合にも、訴訟物は1個であると解すべきである。
1個の損害賠償請求権のうちの一部が訴訟上請求されている場合に、過失相殺するにあたっては、損害の全額から過失割合による減額をし、その残額が請求額をこえるときは請求の全額を認容することができるものと解すべき。
このように解することが一部請求をする当事者の通常の意思にもそうものというべきである。
  百選4版
76
最高裁S39.6.24
◆幼児の過失相殺
事案 当時8歳2か月と8歳1か月 
規定 第722条(損害賠償の方法及び過失相殺)
第四百十七条の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。
2 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
判断 民法722条2項の過失相殺の問題は、不法行為に対し積極的に損害賠償責任を負わせる問題とは趣を異にし、不法行為者が責任を負うべき損害賠償の額を定めるにつき、公平の見地から、損害発生についての被害者の不注意をいかにしんしゃくするかの問題に過ぎない

被害者たる未成年者の過失をしんしゃkする場合においても、未成年者に事理を弁識するに足る知能が具わっていれば足り、未成年者に対し不法行為責任を負わせる場合のごとく、行為の責任を弁識するに足る知能が具わっていることを要しない。