シンプラル法律事務所
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マネジメント(P.F.ドラッカー)

マネジメント(P.F.ドラッカー)
☆序説、まえがき
日本の読者へ 日本では企業も政府機関も、構造、機能、戦略に関して、転換期にある。
そのような転換期にあって重要なことは、変わらざるもの、すなわち基本と原則を確認すること。
そして、本書が論じているもの、主題としているもの、目的としているものが、それら変わらざるものでる。
@マネジメントには基本とすべきもの、原則とすべきものがある。
Aそれらの基本と原則は、それぞれの企業、政府機関、NPOの置かれた国、文化状況に応じて適用していかなければならない。
B基本と原則に反するものは、例外なく時を経ず破綻する。
基本と原則は、状況に応じて適用すべきものではあっても、断じて破棄してはならないものである。
国として、発展途上国なる国は存在せず、存在するのはマネジメントが発展途上段階にある国だけ。
まえがき・・なぜ組織が必要か 成果をあげる責任あるマネジメントこそ全体主義に代わるものであり、われわれを全体主義から守る唯一の手立てである。
本書は
@マネジメントの使命、目的、役割から入る。
マネジメントを外から見、その課題にいかなる次元があり、それぞれの次元において何が要求されるかを見る。
Aしかる後に、マネジメントの組織と仕事を見る。
Bさらにトップマネジメントと戦略を見る。
本書の動機と目的は、今日と明日のマネジメントをして成果をあげさせること。
序・・新たな挑戦  ●現代社会の命運を握るもの

今日の市民の典型は被用者である。
彼らは、組織を通じて働き、組織に生計をの資を依存し、組織に機会を求める。
自己実現とともに、社会における位置づけと役割を組織に求める。
20世紀の初めには、「お仕事は何ですか」と聞いたが、今日では「お勤めはどこですか」と聞く。
●マネジメントなしに組織はない

@マネジメントは、組織に特有の機関。
組織が機能するには、マネジメントが成果をあげなければならない。
組織がなければマネジメントもない。
マネジメントがなければ組織もない。

Aマネジメントは、所有権、階級、権力から独立した存在でなければならない。
マネジメントは、成果に対する責任に由来する客観的な機能。
●マネジメントは企業だけのものではない
●マネジメント・ブームの終わり

マネジメントのブームが終わった。
最大の原因は、マネジメントが万能薬ではなく、挑戦であり仕事であること、いかに洗練されようとも魔法の杖ではないことがわかったから。
●新しいニーズの出現

@起業家的な活動やイノベーション
A企業以外の組織のマネジメント
Bこれからの課題は知識の生産性を高めること(肉体労働者は過去のもの)
Cグローバルに行う必要
国境を越え、生産資源、市場機会、人的資源を最適化すべくグローバル化することは、必然的かつ正常な対応。
Dもっとも重大な変化は、社会の願望、価値、存続そのものが、マネジメントの成果、能力、意志、価値観に依存するようになったこと。
☆T マネジメントの使命
☆T マネジメントの使命 ■1 マネジメントの役割
■1 マネジメントの役割 ●マネジメントの3つの役割

組織:
自らの機能を果たすことにより、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためのもの。
目的ではなく手段⇒問題は、「その組織は何か」ではなく「その組織は何をなすべきか。機能は何か」

マネジメント:
組織の中核の機関。

マネジメントの3つの役割:
@ 当該組織に特有の使命・目的を果たす。
A 仕事を通じて働く人たちを生かす
←組織こそ、個人にとって、生活の糧、社会的地位、コミュニティとの絆を手にし、自己実現を図る手段。
B 自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題の解決に貢献する。
●時間という要素(第4の次元)

マネジメントのあらゆる問題、決定、行動に、複雑な要素(=「時間」)が介在する。
マネジメントは、常に現在と未来短期と長期を見ていかなければならない。
未知への跳躍を大きくしようとするほど、基礎をしっかりさせなければならない。
●管理活動と起業家的活動

管理すると同時に起業家とならなければならない。
管理:既に存在し、知られているものを管理する。
起業家:既に存在し、知られているものを陳腐化し、明日を創造

成果をあげること、人を生かすこと、社会に及ぼす影響を処理するとともに社会に貢献すること、これらの課題のすべてを今日と明日のバランスのもとに果たすことが社会の関心事。
そのためにマネジメントが何をするかは、社会の関心事ではない。
社会が関心をもつのは結果

マネジメントの仕事と組織は、「果たすべき役割」によって決定されるべきもの。
★第1章 企業の成果
★第1章

企業の成果
■2 企業とは何か
■2 企業とは何か ●企業=営利組織ではない

「利益」は、企業や企業活動にとって、目的ではなく条件(必要なもの)である。
〜企業活動や企業の意思決定にとって、原因や理由や根拠ではなく、その妥当性の判定基準となるもの。

「利潤動機」は、的はずれであるだけでなく、害を与えている。
この観念ゆえに、利益の本質に対する誤解と、利益に対する根深い敵意が生じている。
but
企業は、高い利益をあげて、初めて社会貢献を果たすことができる。
●企業の目的

企業の目的は、それぞれの企業の外にある。
企業は社会の機関であり、その目的は社会にある

企業の目的の定義は1つしかない・・・顧客(=市場)を創造すること

(潜在的欲求が)有効需要に代えられて、初めて顧客と市場が誕生する。
企業とは何かをきめるのは顧客。
(←顧客だけが、経済資源を富に、モノを財貨に変える。)
顧客が価値を認め購入するものは、財やサービスそのものではなく、それが提供するもの(=効用)。

企業の目的の定義は1つしかない・・・顧客(=市場)を創造すること

企業は2つの、そして2つだけの基本的な機能をもつ。
@マーケティング
Aイノベーション
●マーケティング・・顧客の欲求からスタートする

真のマーケティングは顧客からスタートする。
顧客の欲求、現実、価値からスタートする。

○「顧客は何を買いたいか」 
×「われわれは何を売りたいか」

○「顧客が価値ありとし、必要とし、求めている満足がこれである」 
×「われわれの製品やサービスにできることはこれである」

マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、製品とサービスを顧客に合わせおのずから売れるようにすること。
●イノベーション・・新しい満足を生み出す

企業が存在し得るのは、「静的な経済」ではなく、成長する経済のみ。
企業こそ、成長と変化のための機関。

企業の第2の機能は、イノベーション、すなわち新しい満足を生み出すこと。
企業そのものは、より大きくなる必要はないが、常によりよくならなければならない。

× 価格の低下をもたらすもの。
○ 価格の低下のみでなく、よりよい製品より多くの便利さより大きな欲求の満足既存の製品の新しい用途を見つけることもイノベーション(ex.イヌイットに対して凍結防止のため冷蔵庫を売る(=新市場の開拓であり新製品の創造))

× 発明 技術のみに関するコンセプト
○ 経済にかかわること経済的イノベーション社会的イノベーション

× 1つの職能(技術や研究)
○ 企業のあらゆる部門、職能、活動に及ぶ。製造業だけでなく流通業にも及ぶ。

イノベーションとは、人的資源や物的資源に対し、より大きな富を生み出す新しい能力を生み出すこと。
●生産性に影響を与える要因

資源を生産的に使用する必要がある。(=企業の管理的機能
この機能の経済的側面が「生産性」

必要なのは(目に見えないものも含め)成果に結びつくあらゆる活動を含む生産性のコンセプト
生産性に重大な影響を与えるが、目に見えない要因。

@ 知識:
正しく適用したとき最も生産的な資源となる。
間違って適用すると、最も高価でありながら、全く生産的でない資源となる。

A 時間:
もっとも消えやすい資源。
人や機械をフルに使ったときと、人や機械を半分しか使わないときでは、生産性に大きな差。

B 製品の組合せ(プロダクト・ミックス):
製品の組み合わせ=資源の組み合わせ

C プロセスの組合せ(プロセス・ミックス):
購入と生産、組み立ての内製と外製、流通業にまかせ彼らのブランド使わせるのと自らの販売網を使い自らのブランドを使うのの、いずれが生産的か。

D 自らの強み:
いかなるマネジメントにも能力と限界がある
⇒それぞれの企業とそのマネジメントに特有の能力を活用し、特有の限界をわきまえる

E 組織構造の適切さ、および活動間のバランス
× トップマネジメントが、マーケティングに関心をよせるべきであるにもかかわらず、技術にしか関心を示さない。

以上は、労働、資本、原材料など、会計学や経済学のいう生産的要因に追加すべき要因。
●利益の持つ機能とは何か

利益は原因ではなく結果
⇒それ自体致命的に重要な経済的機能を果たす。

@ 成果の判定基準
A 不確定性というリスクに対する保険
B よりよい労働環境を生むための原資
C 医療、国防、教育、オペラなど社会的なサービスと満足をもたらす原資

社会及び経済にとって必要不可欠なものとしての利益については弁解など無用
企業人が罪を感じ弁解の必要性を感じるべきは、経済活動や社会活動の遂行が困難になる(=利益を生むことができなくなる)こと。
■3 事業とは何か
■3 事業とは何か ●自社をいかに定義するか

あらゆる組織において、共通のものの見方、理解、方向づけ、努力を実現するには、「われわれの事業は何か。何であるべきか。」と定義することが不可欠。
●われわれの事業は何か

わかりきった答えが正しいことはほとんどない。
×鉄鋼会社は鉄を作り、鉄道会社は貨物と乗客運び、保険会社火災の危険を引き受け、銀行は金を貸す
成功を収めている企業の成功は、「われわれの事業は何か」を問い、その問いに対する答えを考え、明確にすることによってもたらされている。

企業の目的と使命を定義するとき、出発点は1つしかない・・顧客
事業は、「顧客が財やサービスを購入することによって満足させようとする欲求」によって定義される。
顧客を満足させることこそ、企業の使命であり、目的。

「われわれの事業は何か」との問いは、企業を外部すなわち顧客と市場の観点から見て、初めて答えることができる。

顧客にとっての関心は、彼らにとっての価値、欲求、現実⇒顧客の価値、欲求、期待、現実、状況、行動からスタート
●顧客は誰か

やさしい問いではない。答えのわかりきった問いではない。
この問いに対する答えによって、企業が自らをどう定義するかがほぼ決まってくる。

顧客は常に1種類ではない。顧客によって、期待や価値観は異なる。買うものも異なる。

ほとんどの事業が少なくとも2種類の顧客をもつ。
ex.
カーペット産業⇒建築業者と住宅購入者
生活用品のメーカー⇒主婦、小売店
●顧客はどこにいるか、何を買うか

●「顧客はどこにいるか」
シアーズが成功した秘密の1つは、顧客がそれまでとは違う場所にいることを発見したこと。
農民は自動車を持ち、町で買い物をするようになっていた。

●「顧客は何を買うか」
「われわれの競争相手はダイヤモンドやミンクのコートだ。顧客が購入するのは、輸送手段ではなくステータスだ」⇒破産寸前のキャデラックを救った。
わずか2、3年のうちに、大恐慌時にもかかわらず、キャでラックは成長事業へと変身した。
●いつ問うべきか

苦境に陥ったときに「われわれの事業は何か」を問わなければならない。(そのようなときに問いかけるならば、目ざましい成果をあげ、回復不能と見える衰退すら好転させることができる。)
but
常に問わなけれならない。
「われわれの事業は何か」を真剣に問うべきは、むしろ成功しているとき。
成功は常に、その成功をもたらした行動を陳腐化する。新しい現実をつくりだす。
新しい問題をつくりだす。

「そうして幸せに暮らしました」で終わるのはおとぎ話だけ。
●われわれの事業は何になるか

企業に関わる定義は、せいぜい10年が限度。

我々の事業は何になるか。我々の事業のもつ性格、使命、目的に影響を与え得る環境の変化は認められるか。」
「それらの予測を、事業ついての定義、即ち事業の目的、戦略、仕事の中に、現時点でいかに組み込むか。」
を考える必要。

@ 人口構造の変化
人口構造だけが未来に関する唯一の予測可能な事象

A 経済構造、流行と意識、競争状態の変化によってもたらされる市場構造の変化
競争状態(直接の競争だけでなく間接の競争も含む)については、顧客の製品観やサービス観に従って明らかにする必要。

B 「今日の財やサービスで満たされていない欲求は何か
この問いを発し、正しく答える能力を持つことが、波に乗るだけの企業と成長企業との差になる。(波に乗っているだけの企業は波とともに衰退。)
●われわれの事業は何であるべきか

現在の事業を全く別の事業に変えることによって、新しい機会を開拓し、創造することができるかもしれない。
(この問いを発しない企業は、重大な機会を逃す)

考慮すべき要因は、社会、経済、市場の変化であり、イノベーション(自らによるイノベーションと他者によるイノベーション)。
●われわれの事業のうち何を捨てるか
企業の使命に合わなくなり、顧客に満足を与えなくなり、業績に貢献しなくなったものの体系的廃棄。

「それらのものは、今日も有効か、明日も有効か」「今日顧客に価値を与えているか、明日も顧客に価値を与えるか」「今日の人口、市場、技術、経済の実態に合っているか。合っていないならばいかにして廃棄するか、あるいは少なくとも、いかにしてそれらに資源や努力を投ずることを中止するか」

事業の定義があってはじめて、目標を設定し、戦略を発展させ、資源を集中し、活動を開拓することができる。
業績をあげるべくマネジメントすることができる。
■4 事業の目標
■4 事業の目標 事業の定義は目標に具体化しなくてはならない。

そのままでは、いかによくできた定義であっても、優れた洞察、よき意図、よき警告にすぎない。

目標設定においても、中心となるのはマーケティングイノベーション
←顧客が代価を支払うのは、この2つの分野における成果と貢献に対して。
●マーケティングの目標
〜1つではなく、複数存在する。
@ 既存の製品についての目標
A 既存の製品の廃棄についての目標
B 既存の市場における新製品についての目標
C 新市場についての目標
D 流通チャネルについての目標
E アフターサービスについての目標
F 信用供与についての目標

目標設定の前提となる2つの基本的意思決定
@ 集中の目標:
(アルキメデスは、「立つ場所を与えてくれれば世界を持ちあげてみせる」と行った。アルキメデスの言う「立つ場所」が、集中すべき分野。集中することによって、初めて世界を持ち上げることができる。⇒集中の目標は、基本中の基本というべき重大な意思決定。)
集中についての目標があって初めて、「われわれの事業は何か」との問いに対する答えも意味のある行動に換えることができる。

A 市場地位の目標:
最大ではなく最適

市場シェアは企業にとって致命的に重要。
(限界的な存在になるということは、長期的に見たとき企業の存続にとってきわめて危険)

他方、独禁法がなくても、それ以上大きくなると賢明ではないという上限もある。
(惰眠、自己満足、革新への抵抗、変化への適応困難)
新市場、特に大きな新市場は、供給者が1社よりも複数であるほうが、はるかに速く拡大する傾向がある。
供給者が複数⇒1社では想像もできない市場や用途が発見され、開発され、拡大する)

ex.デュポン:開発コストを回収するまで独占的供給者の地位を維持し、その後は、特許の使用権を与えて競争相手をつくる。→多くの企業が市場や用途を開発する。
●イノベーションの目標
我々の事業は何であるべきか」との問いに対する答えを具体的な行動に移すためのもの。

3種類のイノベーション
@ 製品とサービスにおけるイノベーション
A 市場におけるイノベーションと消費者の行動や価値観におけるイノベーション
B 製品を市場へもっていくまでの間におけるイノベーション
●経営資源の目標
経済活動に必要な3つの資源
@ 物的資源(土地)
A 人材
cf.産業の衰退の最初の徴候は、有能でやる気のある人間に訴えるものを失うこと。
B 資金

良質の人材と資金を引き寄せることができなければ、企業は永続できない。

人材と資金の獲得に関しては、マーケティングの考え方が必要
「われわれが必要とする種類の人材を引きつけ、かつ引き止めておくには、わが社の仕事をいかなるものとしなければならないか。」「獲得できるのは、いかなる種類の人材か。それらの人材を引き付けるには何をしなくてはならないか。」
「銀行借入れ、社債、株式など我が社への資金の投入を、いかに魅力あるものにしなければならないか。」

経営資源に係わる目標は2つの方向において設定しなくてはならない。
@経営資源に対する自らの需要:
自らの需要を市場の状況との関連において検討。

A市場:
市場の状況を、自らの構造、方向、計画との関連において見ていく。
●生産性の目標

経営資源を生産的なものにすることが課題。
@ 「3つの経営資源について」生産性の目標を設定するとともに
A 「生産性全体について」目標を設定

企業間のマネジメントを比較するうえで、最良の尺度が生産性。
生産性の向上は、マネジメントにとって重要な仕事の1つだが、困難な仕事の1つ。
生産性
とは各種の要因間のバランスをとること
(人材の生産性の向上が他の経営資源の生産性の低下によってもたらされたのであれば、全体の生産性は低下し得る。)
●社会的責任の目標

企業は、社会と経済のなかに存在する被創造物。
社会や経済が、その企業が有用かつ生産的な仕事をしていると見なすかぎりにおいて、その存続を許されているにすぎない。

マネジメントはまさに企業に対して責任を負っているから、社会性の目標が必要となる。
●費用としての利益

以上の基本領域における目標の検討と設定⇒利益の必要額が算定できる。
「利益」は、企業存続の条件であり、未来の費用、事業を続けるための費用。
× 利益の極大化についての計画
○ 利益の必要額についての計画
ただし、その「必要額」は、多くの企業が実際にあげている利益はもちろん、その目標としている極大額をも大きく上回る。
●目標設定に必要なバランス

目標設定には3種類のバランスが必要。(トレードオフ)
@ 利益とのバランス
A 近い将来と遠い将来との間のバランス
B 他の目標とのバランス。(目標間のトレードオフ関係)

何もかもできる組織はない。
優先順位が必要
まちがった優先順位でも、ないよりはまし。
あらゆることを少しづつ手がけるのは最悪。
実行に移す

検討の結果もたらされるべきものは、具体的な目標、期限、計画であり、具体的な仕事の割当て。
目標は、実行に移さなければ目標ではない。
夢にすぎない。
■5 戦略計画
■5 戦略計画 ●戦略計画でないものを知る

必要なものは、長期計画ではなく戦略計画。

戦略計画とはいえないものを知る。
@ 戦略計画は、魔法の箱や手法ではない。
思考であり、資源を行動に結びつけるもの。

「われわれの事業は何か」「何であるべきか」に対する答えは、データやプログラムではない。
思考分析想像判断を適用すること。
手法ではなく責任

A 戦略計画は予測ではない。
未来は予測できない。だからこそ戦略計画が必要となる。

起業家にとっての関心は、可能性そのものを変える出来事
企業が利益によって報われる唯一の貢献、すなわち起業家的な貢献とは、経済、社会、政治の状況を変えるイノベーション、真にユニークな出来事を起こすこと。

B 戦略計画は未来の意思決定に関わるものではない。
意思決定が存在しうるのは、現在においてのみ。
問題は明日何をすべきかではなく、「不確実な明日のために今日何をすべきか
「現在の考え方や行動にいかなる種類の未来を折り込むか、どの程度の先を考えるか」、そしてそこから「いかにしていま合理的な意思決定を行うか」。

何も決定しないという決定はもちろん、便宜的かつ日和見主義的な決定も、きわめて長期にわたって我々を拘束する。

C 戦略計画はリスクをなくすためのものでも、最小にするためのものでもない。
経済活動とは、現在の資源を未来に、すなわち不確実な期待に賭けること。
経済活動の本質はリスクを冒すこと

戦略計画に成功するとは、より大きなリスクを負担できるようにすること。
より大きなリスクを負担できるようにすることこそ、起業家としての成果を向上させる唯一の方法。
●戦略計画とは何か

@リスクを伴う起業家的意思決定を行い、
Aその実行に必要な活動を体系的に組織し、
Bそれらの活動の成果を期待したものと比較測定する
という連続したプロセス。

まず、あらゆる種類の活動、製品、工程、市場について、「もし今日これを行っていなかったとしたら、改めて行おうとするか」を問わなければならない。
答えが否であれば、「それではいかにして1日も早く止めるか」を問う。
さらに、「何をいつ行うか」を問う。

最善の戦略計画でも、仕事として具体化しなければ、「よき意図」にすぎない。
「今日この仕事のために、最高の部下のうち誰を任命するか」を問うことが不可欠。

マネジメントは、その責務からして必ず意思決定を行う。
違いは、責任を持って行うか、無責任に行うか。
成果と成功についての妥当な可能性を考慮に入れつつ行うか、でたらめに行うか。

マネジメントの判断力、指導力、ビジョンは、戦略計画という仕事を体系的に組織化し、そこに知識を適用することによって強化される。
★第2章 公的機関の成果
★第2章

公的機関の成果
■6 多元社会の到来
■6 多元社会の到来 ●現代社会の成長部門

公的機関こそ現在社会の成長部門。
社会は企業社会ではなく、多元社会(政府機関、軍、学校、研究所、病院、労働組合等)
企業内でも、成長部門はサービス部門。
●サービス機関が成果をあげる方法

与えられた選択肢は、サービス機関は成果をあげるための方法を学ぶことしかなく、成果をあげるべくマネジメントすることは可能である。
■7 公的機関不振の原因
■7 公的機関不振の原因 ●3つの誤解

公的機関不振についての3つの誤解
@ 企業のようにマネジメントしていない(=企業と同じようにマネジメントすれば成果をあげられる。)
vs.
公的機関に欠けているものは、「成果」であって「効率」ではない。
(「効率」によって「成果」を手にすることはできない。)
公的機関の問題は、なすべきことをしていないところにある。

A 人材がいない
vs.企業の人間が公的機関のマネジメントに任命されたとき、官僚よりうまくやれると信ずべき理由は無い。彼らがただちに官僚になる。

B 公的機関の「目的」と「成果」が具体的でない
vs.
事業の定義は、企業の場合も、抽象的ならざるをえない。
「一般家庭のためのバイヤーになる」(シアーズ・ローバック)「階層を破壊する。」(マークス・アンド・スペンサー)
目的や成果は具体化(測定可能化)できる。
ex.学校の「全人格の発達」→「若い人を惹きつける」「小学3年までに本を読めるようにする」
●公的機関と企業は何が違うか

基本的違いは支払の受け方にある。
企業:顧客が欲しているもの、代価を払う気のあるものを生み出したときにのみ支払いを受ける。
顧客の満足が成果と業績を保証。

公的機関/企業内サービス部門:
予算によって運営される。(成果や業績によって支払を受けるのではない。)
→成果とはより多くの予算獲得。
予算は、その性格からして、貢献ではなく目論見に関わる。
●成果をあげるなかれ

予算型組織
・ 効率やコスト管理は美徳ではない。予算を使い切らなければ、次の年度に減らされる。
・ 関係当事者間の対立回避⇒「我々の事業は何か」との問いを回避
・ 予算に依存⇒優先順位をつけられない⇒陳腐化したものの廃棄を難しくする⇒非生産的な仕事に関わりをもつ者を多く抱える。
・ 顧客によるテストを受けない。「既に行っていることは高潔であり、公益に合致するに決まっている」

今日、あらゆるサービス機関が守るべき原則は「現在行っていることは、かなり近いうちに廃棄すべきものである」。

人は報われ方に応じて行動する。⇒予算型組織も、その支払の受け方のゆえに、貢献ではなく「予算を生み出すもの」こそ成果であり業績であると誤解する。

予算への依拠が好ましい例
・ 軍(シビリアン・コントロールと軍事費の予算化は、「戦争の自由企業」をなくすためのもの。」)

公的機関と同じように、企業内サービス部門も予算に頼らざるを得ない。
企業内研究所にとっては、予算こそ唯一の望ましい資金源。
but
予算で支払を受けることは、それが必要であり、望ましくとも、誤った方向づけにならざるを得ない。それを少なくし、対策を講じてかなりの程度中和することはできる。
■8 公的機関成功の条件
■8 公的機関成功の条件 ●6つの規律

あらゆる公的機関が次の6つの規律を自らに課す必要がある:
@ 「事業は何か、何であるべきか」を定義する。
目的に関わる定義を公にし、それらを徹底的に検討する。
A その目的に関わる定義に従い、明確な目標を導き出す。
B 活動の優先順位を決める。
(目標を定め、成果の基準を規定し、期限を設定し、成果をあげるべく仕事をし、責任を明らかにするため。)
C 成果の尺度を定める。
D それらの尺度を用いて、自らの成果についてフィードバックを行う。
成果による自己管理を確立。
E 目標に照らして成果を監査する。
意味のなくなった成功は、失敗より害が大きい。
●公的機関の種類

公的機関が成果をあげる上で必要なのは、偉大な人物ではなく、「仕組み」
その適用は、公的機関の種類によって違う

公的機関の種類
@ 自然的独占事業(ex.電話、電力、企業内研究所)
独占⇒成果に対して支払いを受けているのではない。
必要なことは、組織構造を単純化すること。
企業が行っていること(効率、サービス、ニーズ等)を意識的に体系的に行う必要
⇒国有化するよりも民間のものとし、規制のもとに置く方がよい。

A 予算から支払を受けて事業を行う公的機関(ex.学校、病院、企業内サービス部門)
それぞれにおいて、目的や目的達成のための方法は多様。
目標の優先順も多様。

・ 所有は社会化するが、競争は行わせる。(社会主義的競争)
・ 顧客は、本当の意味での顧客ではなく、むしろ拠出者。
・ 生み出すものは、欲求の充足ではなく、「必要の充足」(=誰もが持つべきもの、持たなければならないものを供給)。
成果について最低限の基準を設定
監督や規制が必要であっても、マネジメントは独立した機関が行う。
・ 顧客は複数のサービス機関から選択できることが望ましい。
(←水準以上の成果をあげるには競争が必要)
●行政組織

B 目的と同じように手段が意味を持ち、「手段の統一性」が不可欠な公的機関。(ex.行政機関)
国防や司法に関わる政府機関、伝統的な政治学における行政組織のほとんど。
公共財ではなく、「統治」を提供する。

・ 独立したマネジメントはあり得ない。
・ 競争は、可能だとしても、好ましくない。
・ 政府のもとにおき、政府の直接の運営にゆだねる。
・ 目標、優先順位、成果の測定は必要。⇒存立の目的と成果について独立した監査が必要。(←成果からのフィードバックを行う手立てがない。)
唯一の規律は、分析と監査。(支出を監査し、不正、不法、非効率を明らかにするための機関が当然。)
・ 「目的は現実的か、達成可能か、言葉だけか。ニーズに応えているか。」「目標は正しいか。優先順位は検討しているか。成果は公約や期待に合致しているか。」を問わなくてはならない。
・ 新しい活動、機関、計画は、期間を限り、その間の成果によって目的と手段の健全さが証明された場合にのみ、延長を認める。

公的機関に必要なのは、企業のものまねではない
何よりもまず、病院らしく、行政組織らしく、政府らしくなければならない。
自らに特有の使命、目的、機能について徹底的に検討しなくてはならない。
★第3章 仕事と人間
★第3章

仕事と人間
マネジメントの第2の役割:
生産的な仕事を通じて、働く人たちに成果をあげさせること。
■9 新しい現実
■9 新しい現実 ●肉体労働者から知識労働者へ

・ 「被用者社会」へ(←一家での労働から組織での労働へ)
・ 肉体労働者から「知識労働者」へ(必ずしも高学歴は必要ない。)
●肉体労働者の危機

経済的保障は確立されていく。
but「社会的地位」「身分」が急速に失われつつある。
肉体労働者の組織である労働組合を危機に陥れる。

マネジメントを相手にして労働者を代表すべき機関は、労働者にとってばかりでなく社会にとっても必要。
マネジメントは1つの力であり、労働組合こそ、マネジメントの力に対する拮抗力。
(労働組合の弱さが、マネジメントの強さを意味するなどと考えることは、完全な錯覚)
●新しい挑戦

仕事と人のマネジメントについて直面する3つの挑戦
@ 被用者社会の到来
A 肉体労働者の心理的、社会的地位の変化
B 脱工業化社会における経済的、社会的センターとしての知識労働と知識労働者の台頭
■10 仕事と労働
■10 仕事と労働 ●仕事と労働

マネジメントは、生産的な仕事を通じて、働く人たちに成果をあげさせなければならない。

「仕事」と「労働(働くこと)」は根本的に違う。
仕事の生産性をあげるうえで必要とされるものと、人が生き生きと働くうえで必要とされるものは違う。
⇒「仕事の論理」と「労働の力学」の双方に従ってマネジメントしなければならない。
●仕事とは何か

仕事とは、一般的かつ客観的な存在。「課題」であり「存在するもの」。⇒モノに対するアプローチをそのまま適用できる。
そこには、論理があり、「分析」と「総合」と「管理」の対象となる。
@ 分析:
基本的な作業を明らかにし、論理的な順序に並べる。

A プロセスへの総合:
個々の作業を1人ひとりの仕事に、1人ひとりの仕事を生産プロセスに組立てる。

B 管理のための手段を組み込む:
予期せざる偏差を知り、プロセスの変更の必要を知り、必要な水準にプロセスを維持するためのフィードバックの仕組み。
●労働における5つの次元

働くこと、即ち「労働」は「人の活動」であり、「人間の本性」でもある。
論理ではなく、「力学」。
労働の5つの次元:

@ 生理的な次元:
1つの動作しかさせられないと著しく疲労する。
単一の作業より、いくつかの作業を組み合わせた方がよく働ける。
スピードとリズムを変えるとき、よく働ける。
スピード、リズム、持続力は、人によって違う。

仕事は均一に設計しなくてはならないが、労働には多様性を持たせなくてはならない。(スピード、リズム、持続時間を変える余地。仕事の手順も頻繁に変える。)

A 心理的な次元:
働くことは重荷であるとともに本性
呪いであるとともに祝福
労働は人格の延長である、自己実現である。
自らを定義し、自らの価値を測り、自らの人間性を知るための手段

B 社会的な次元:

組織社会では、働くことが人と社会をつなぐ主たる絆となり、社会における位置づけまで決める。

C 経済的な次元:
生計の資であり、存在の経済的な基盤

労働→
@「経済活動のための資本部分」とA「賃金部分」。
@Aは競合するが、双方とも必要である。

D 政治的な次元:
権力関係を伴う(誰かが職務を設計し、組み立て、割り当てる。昇進の有無。)
誰かが権力を行使する。

これまでのアプローチの誤りは、これらの次元の1つだけを唯一のものとしたこと。
■11 仕事の生産性
■11 仕事の生産性 ●生産性向上の条件

仕事を生産的にするための4つの要素
@ 分析:仕事に必要な作業と手順と道具を知る。
A 総合:作業を集めプロセスとして編成。
B 管理:仕事のプロセスの中に、方向づけ、質と量、基準と例外についての管理手段を組み込む。
C 道具
●成果を中心に考える

成果すなわち仕事からのアウトプットを中心に考える。
いかなる道具を、いつ何のために使うかは、アウトプットにより規定される。
作業の組み立て、管理手段の設計、道具の仕様など必要な作業を決めるのは成果。

発明や研究など新知識を生み出すための活動にも、肉体労働についての体系的な方法論を適用できる。
cf.エジソンは、
@欲する製品の定義⇒A発明のプロセスを分解して相互関係と順序を明らかに⇒Bプロセスの中のキー・ポイントごとに管理手段を設定し基準を決めた。

作家としての具体的な仕事は方法論の枠内にあるとしても、ビジョンは方法論の枠外にある。
but
科学上、もしくは産業上の新知識を求めるための組織的な探求の活動のほとんどは、そのような方法論の枠内に収まるはず。
■12 人と労働のマネジメント
■12 人と労働のマネジメント ●X理論とY理論

ダグラス・マグレガ−の理論
X理論:人は怠惰で仕事を嫌う。
Y理論:人は欲求を持ち、仕事を通じて自己実現と責任を欲する。
●アメとムチ

X理論によるマネジメントは有効ではない。
マネジメントの手に、もはやムチはなく、アメさへ人を動かす誘因とはなり得なくなった。

新しい現実にあったアメとムチとは?
●心理的支配

×
産業心理学は、そのほとんどがY理論への忠誠を称する。
自己実現、創造性、人格をいう。
しかし、その中身は心理操作による支配であり、前提は、X理論のもの。
人は弱く、病み、自らの面倒を見られない。
⇒疎外の恐れや安定への希求によって支配されなければならない。

vs.
支配する側に万能の天才を必要とする。

仕事のうえの人間関係は、尊敬に基礎をおかなければならないが、心理的支配は、根本において人をばかにしている。
(マネジメントだけが正しく、他の者はすべてばかであるとする。)
●有効な方法は何か

×マクレガーのY理論

vs.
人は機会さえ与えられれば、成果をあげるべく働くなどと仮定することはできない。
強者に対してさえ、責任の重荷を背負わせるには多くのものが必要。
アメにもムチにも依存することはできない。

一般に、働くことと働く者の歴史は、とりたてて幸福なものではなかった。
例外:
働くことが成果と自己実現を意味した時期や組織=国家存亡の時
自らが大儀に貢献していることを自覚。
働くことから得られる充実感があった。

but
これらは国に重大な危機が訪れなくても起こし得ること。
●日本企業での成功

1920年代から30年代にかけ大組織向けに開発されたもの。

@ 仕事の研究や分析のためには、欧米と同じ方法、道具、技法を使う。
but職務の設計は行わない。仕事の内容を明らかにした段階で職場に任せる。

A あらゆる人が研鑚を日常の課題とする。
B 終身雇用制。
C 福利厚生の重視。
D 若い者の面倒を見、育てることが、マネジメントの第1の責任とされる。
←終身雇用制・最初の25年はもっぱら年功序列で昇進させられる。

E 組織のあらゆる階層において、意思決定が何を意味するか考え、責任を分担することが期待される。
(意思決定のプロセスそのものへの参加ではなく、意思決定を考えることへの参加。権限による参加ではなく、責任による参加。)
●ツァイス方式の秘密

光学ガラスをガラスを製造し精密レンズに加工するうえで必要なプロセスを分析し、この2つのプロセスを統合した。

職務を編成する責任を実際に仕事をする人たちに負わせた
(理論と技能を説明し、彼ら自身で職務を編成することを求めた。)

機械と工具の開発に取り組ませた。ツァイスが長年の間世界的な独占を享受した裏には、働く者たち自身が設計し、あるいは改良した機械と工具があった。

体系的な訓練講座を開き、在職中ずっと参加させた。
研究集会も開かせた。

働く者自身が、自らの仕事を管理しなければならないと繰り返し言っていた。

業績をあげることを学び意欲のあることを示しさえすれば、景気変動に関わりなく雇用を保証していた。
●IBMの試行錯誤

<第1のイノベーション>
@ 個々の作業を可能な限り単純に設計し、誰でもそれらの作業をこなせるよう訓練。
A それらの作業のうち少なくとも1つは、熟練技能や判断力を必要とするものにした。
B 複数の作業を行わせることによって、仕事のリズムに変化を持たせた。

働く者が職務に誇りを持つようになり、生産性は大幅に向上。

監督はおらず、実際に働く者が仕事を理解し、そのための道具を使えるようにするための現場アシスタント(ボスではない)がいる。

<第2のイノベーション>
需要増に追いつくためエンジニアリングが終わらないうちに生産を開始する必要⇒生産現場で技術者と技能者が協力してエンジニアリングを行った⇒極めて優れたエンジニアリング⇒安く、速く生産できるようになっただけでなく、エンジニアリングに参加した者たちが生産性の高い優れた仕事ぶりを示した。

従来の理論は「権限」の組織化に焦点を合わせてきたが、日本企業、ツァイス、IBMは、働くことのマネジメントの基礎として「責任」の組織化を行った。
■13 責任と保障
■13 責任と保障 ●仕事に焦点を合わせる

およそ人が責任という重荷を負うためには何が必要か?
いかなる手立て、誘因、保障が必要か?
責任に応じてもらうために、企業はマネジメントは何をしなければならないか?

焦点は、仕事に合わせなければならない。
(ソースがまずければ、最高の肉も台なしになる。だが、そもそも仕事そのものにやりがいがなければ、どうにもならない。)
仕事そのもののやりがいが必要。

これまでの理論は、仕事以外の要素に焦点をあわせた。
ex.
マルクス主義:所有関係
家族的マネジメント:在宅や医療などの福利
ドイツの労働組合が要求している共同決定方式:労働組合の代表を取締役会やトップマネジメントに送り込みはしても、働く者の仕事ぶりにはなんら関係が無い。
●3つの条件

働きがいを与えるには、仕事そのものに責任を持たせなくてはならない。
そのためには、@生産的な仕事、Aフィードバック情報、B継続学習が必要。l

@ 生産的な仕事
仕事を分析せず、プロセスを総合せず、管理手段と基準を検討せず、道具や情報を設計せずに、仕事に責任を持たせようとしても無駄。
独創性といえども、基礎的な道具があって初めて力を発揮する。
正しい仕事の構成は直感的に知りうる代物ではない

A (成果についての)フィードバック情報
成果についてのフィードバック情報を与える。
←自己管理のためには、自らの成果についての情報が不可欠。

B 継続学習
他の専門分野の経験、問題、ニーズに接し、かつ自らの知識と情報を他の分野に適用できるようにしなくてはならない。
知識労働に携わる作業者集団は、学習集団とならなければならない。

以上の3つの条件は、働く者が自らの仕事、集団、成果について責任を持つための、いわば基盤。⇒マネジメントの責任であり成果。

以上3つの条件すべてについて、実際に仕事をする者自身が始めから参画しなくてはならない。
彼らの知識、経験、欲求が、仕事のあらゆる段階において貴重な資源とならなければならない。

仕事をいかに行うべきかを検討することは、働く者とその集団の責任。
仕事の仕方や成果の量や質は、彼らの責任。

自らや作業者集団の職務の設計に責任を持たせることが成功するのは、彼等が唯一の専門家である分野において、彼等の知識と経験が生かされるから。
●職場コミュニティにおける責任

働くものに仕事の成果をあげさせるには、職場コミュニティに実質的な責任を与える必要がある。(ex.従業員食堂、休暇の調整、レクリエーション活動等)

マネジメントが職場コミュニティに関わる問題について意思決定を行うことは、職場コミュニティにとっては重要であっても、マネジメントにとっては重要でない問題をマネジメントが背負い込むことを意味する。⇒うまくいかない。

重要なことは、職場コミュニティの問題は自治でなければならないということ。
意思決定の責任は、その意思決定の影響に直接関わるところに与えなければならない。
●誰もがマネジメントである

今後も、マネジメントの権限と権力、意思決定と命令、所得の格差、上司と部下という現実は残る。これらのものは存在し続ける。
しかし、誰もが自らをマネジメントの一員と見なす組織をつくりあげるという課題がある。
●身分の保障

責任の重荷を負うためには、仕事と収入の保証が必要。
←仕事と収入を失う恐れがある中で、仕事や集団、成果に責任をもつことはできない。

必要なのは、仕事と収入に関わる法律上あるいは契約上の保証ではない。
責任をもたせるために必要な保証とは、約束ではなく実行

給与を払い続けても、現実に仕事を与えなくては失業と同じ不安を与える。
必要なのは収入の保証だけではない。積極的かつ体系的に仕事を与える仕組み、すなわち働く者を社会の生産的な一員にする仕組みである。
■14 「人は最大の資産である」
■14 「人は最大の資産である」 ●なぜ成功例に学ばないのか

実際に行動に移したマネジメントはそれほど多くない。
●誤解と恐れ

働く者に主体的に成果をあげさせるという課題を直視しない主たる原因は、権限と権力の混同。

マネジメントはもともと権力をもたず、責任をもつだけ
その責任を果たすために権限を必要とし、現実に権限をもつ

トップマネジメントの権限は、分権化によって増大する。

働く者に主体的に成果をあげさせることにより、マネジメントの権限を強化することができる。
←マネジメントは、部下に成果をあげさせることによって、自らの仕事に専念できる。
(マネジメントの仕事でない活動、マネジメントでは貧弱な成果しかあげられない活動、時間場からとられる活動から解放される。)

自らの仕事に責任を持つ者は、マネジメントが報酬にふさわしい仕事をすることを要求する。

人のマネジメントとは、人の強みを発揮させること。
人が雇われるのは強みのゆえであり、能力のゆえである。
組織の目的は、人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することにある。
●人こそ最大の資産

「人こそ最大の資産である」「組織の違いは人の働きだけである」

マネジメントのほとんどが、あらゆる資源のうち人がもっとも活用されず、その潜在能力も開発されていないことを知っている。
現実には、人のマネジメントに関する従来のアプローチのほとんどが、人を資源としてではなく、問題、雑事、費用、脅威として扱っている。
●実行

必要なことは、実際に行うこと。
それは、ビジョンや態度を変えるよりやさしいはず。

@ 仕事と職場に対して、成果と責任を組み込む。
A 共に働く人たちを生かすべきものとして捉える。
B 強みが成果に結びつくよう人を配置する。

ユートピアをつくりはしないが、それは組織を業績に向かわせる
退屈な仕事や人を面白く楽しいものにはしないが、楽しいはずの仕事や人を退屈なものにするのを防ぐうえで大きな働きをする。
人を問題、雑事、費用、脅威として見る従来のアプローチを不要にするわけではないが、マネジメントとマネジャーを人事管理から真のリーダーシップへと進ませる。
★第4章 社会的責任
★第4章 社会的責任 ●社会的責任の遂行は、マネジメントにとっての第3の役割
自らの生み出す副産物について、即ち自らの活動が人、環境、社会に与える影響について責任を持つ。
社会的な問題の発生を予期し解決することを期待される。
■15 マネジメントと社会
■15 マネジメントと社会 ●「企業の社会的責任」の意味が変わった

<かつて>
@ 私的な倫理と公的な倫理との関係に関わる問題
A 働く者に対する責任に関わる問題
B 地域社会への貢献
●重要なのは、いかなる貢献ができるか

<今日>
社会の問題に取り組み解決するために、企業は何を行い、何を行うべきか。
人種差別をはじめとする社会問題や環境問題の解決について、行い得る貢献に重点。

60年代のニューヨーク市長ジョン・リンゼイの声明:
ニューヨークの大企業に対して、黒人居住区の面倒を見、住民が生計の資を得、教育を受け、職を得ることができるようにしてほしいと要請。
黒人家族の夫や父が、家族とともに住めるようにしてほしいと訴えた。
●マネジメントに対する過信

過大な期待を生んだものは、企業に対する敵意ではなく、企業の実績(成功の代償)
期待の根底にあるのは、権威に対する敵意ではなく、マネジメントに対する過信
●政府に対する幻滅

政府に対する幻滅、社会の問題を解決する能力への不信が強まっている。

リーダー的な階層としてのマネジメントの台頭、政府への幻滅の増大、生活の量から質への重点の移行⇒企業活動の中心に社会への関心を据えることを要求する声が大きくなった。

<かつて>
社会の価値と信条、個人とその自由、よき社会を損なうことなく、いかにして自動車や靴をつくるかが問題。

<新しい要求>
企業こそ社会の価値と信条を形成し、個人の自由を実現し、よき社会をつくれという。
⇒マネジメントが新しい考えを持ち行動することを不可欠にする。
●3つの物語

社会的責任の問題は、無責任、貪欲、無能の問題ではない。
よき意図、尊敬すべき行動、高度の責任感さえ、ときとして問題を起こしえる。
●ウェストバージニア州ビエナの町

高失業地域への工場建設→その社会的責任を称賛→10年後、環境問題の高まりとともに灰や煙の苦情→10年後、ビエナ工場の悪名はアメリカ全土に喧伝。
●スウィフト・デ・アルヘンティーナの悲劇

失業率の高い地域における雇用維持のため工場を維持→収益力回復せず→工場の閉鎖と長期分割による債務の返済を提案(親会社への返済は最後)し86%の同意→裁判所は同意を無効とし破産宣告
●公民権とクエーカーの良心

新たな人員配置(熟練の黒人をいくつかの地位に任命)→組合が反対し実行できず→人員配置を破棄→数年後人種問題についてリーダーシップをとらなかったとして激しく攻撃された。
●社会的責任をマネジメントする

マネジメント以外にリーダー的階層が存在しない→社会的責任を回避できない。
あらゆる企業にとって、社会的責任は、自らの役割を徹底的に検討し、目標を設定し、成果をあげるべき重大な問題。社会的責任はマネジメントしなければならない。
■16 社会的影響と社会の問題
■16 社会的影響と社会の問題 ●社会的責任はどこに生まれるか

企業、病院、大学にとって、2つの領域から生まれる。

@ 自らの活動が社会に対して与える影響から生じる:
組織が社会に対して行ったことに関わるもの

A 自らの活動とは関わりなく社会自体の問題として生じる:
組織が社会のために行えることに関わるもの

組織が社会に対して与える影響は、それぞれが自らの存在理由とする社会に対する貢献にとどまることがない。
←組織は、それぞれの分野において社会に貢献するために存在する。社会の中に存在する。地域の中に存在する。隣人として存在する。そして社会の中で活動する。そのために人を雇う。

社会の問題は組織にとって重大な関心事たらざるをえない。
←健全な企業、健全な大学、健全な病院は、不健全な社会では機能し得ない。(社会の健康はマネジメントにとって必要)
●自らが社会に与える影響への責任

自らが社会に与える影響について責任がある。
遅かれ早かれ、社会は、そのような影響を社会の秩序に対する攻撃と見なす。
そのような影響を除き、問題を解決するために責任ある行動をとらなかったものに対し、高い代価を払わせる。

ex.1950年頃フォードがシートベルトつきの車を売り出す→売れない→安全車の考えを捨てた→安全性の欠如について攻撃→メーカーを罰することに熱心な法が次から次へと作られた。
●社会に対する影響をいかに処理するか

第1:影響の原因となっている活動そのものを中止して影響をなくすことができるならば、それが最善の答えであり、唯一の優れた解決。

第2:影響の除去をそのまま収益事業にする。(影響の除去を常に事業上の機会とすべく試みる。)

ex.
ダウ・ケミカル:
工場からの汚染をゼロにすることを決定。
除去した汚染物質から新製品を開発し、用途と市場を体系的に創造していった。

デュポン:
有害物質が含まれていることを問題視⇒工業用毒物研究所
幅広い顧客のために毒性をテストし、無毒性原材料の開発を行っている。

影響は事業上の機会に変えることによって除去された。

but、影響の除去を事業上の機会とすることが不可能な場合
⇒同業他社が同じルールを受け入れない限り競争上不利⇒政府規制が必要。

第3:最小のコストで最大の効果をもたらす規制手段を検討し、自ら成案を用意し、正しい規制の立法化を図る。

第4: 費用と効果とのバランスを得るための意思決定が必要。
←ある程度以上影響を除去しようとすると、得られる効果に対して累積的に、エネルギー、資金が必要となる。

社会的影響に対する責任は、マネジメントの責任。
それは、社会に対する責任ではなく、自らの組織に対する責任
●社会の問題が機会の源泉である

社会の問題は、社会の機能不全であり、社会を退化させる病。
組織、特に企業のマネジメントにとっての挑戦であり、機会の源泉
社会の問題の解決を事業上の機会に転換することによって自らの利益とすることこそ、企業の機能であり、企業以外の組織の機能。

変化をイノベーション、すなわち新事業に転換することは、組織の機能。

社会の問題を事業上の機会に転換するための最大の機会は、新技術、新製品、新サービスではなく、社会の問題の解決すなわち社会的なイノベーションにある。

ex.
フォードは、当時の平均の2倍から3倍にあたる日当5ドルを保証。
⇒辞めていく者がほとんどいなくなり、コストの節減は大きく、その後数年にわたって続いた原材料価格の上昇にもかかわらずT型車の価格を下げ、かつ1台当たりの利益を増大させることができた。
同社が市場を支配できたのは、この思い切った賃金の引き上げが生んだ総労働コストの節減
アメリカの労働者は、中産階級として確立された。


企業の健康はマネジメントの責任であり、企業の健康は社会の病気と両立しない。

企業やその他の組織は、自らが及ぼした影響によって生じた問題ではなく、また自らの目的に沿った事業上の機会に転換することができない問題について、どの程度まで責任をとることを許されるべきか?
黒人居住区の問題をマネジメントの社会的責任にすることはできるのか?
それとも社会的責任にも限界はあるのか?
その限界はどこにあるのか?
■17 社会的責任の限界
■17 社会的責任の限界 本来の機能を遂行する

マネジメントは召使い。
主人は、彼らがマネジメントする組織。
⇒マネジメントにとって最大の役割は、自らの組織に対するもの。
組織を機能させ、その目的とする貢献を果たさせること。

組織がそれぞれに特有の使命を果たすことは、社会が関心を持ち、必要としていること。

自らの組織に特有の機能を危うくしては、いかに高尚な動機であっても無責任。

マネジメントは、マスコミの人気を得るために報酬をもらっているのではない。業績をあげ、
責任を果たすために報酬を得ている。
●能力と価値観による限界

自らに能力のない仕事を引き受けることは無責任。期待を持たせたあげく失望させる。

「自らが及ぼす社会的影響」について責任を果たす上で必要な能力は、全て身につけておかなくてはならない。
but
「それ以外の社会的責任の分野」における限界:
@ 自らの固有の能力
A 自らの価値体系:自らの価値体系に合致しない課題には取り組まない。
価値観を変えることはできない。重要と思っていない分野で優れた活動のできるものはいない。

企業は一般的に、定量化できない分野での能力が欠如。
but
そのような分野でも、問題によっては、目標を明確かつ測定可能な形において設定することは可能⇒企業の能力と価値体系に合致する仕事に転換できる。
ex.10代の黒人少年に対する職業訓練は、明確な形で把握し、定義することができる。目標を設定し、成果を測定できる。⇒企業も成果を上げることができる。
●権限の限界

社会的責任に関する最も重要な限界。

責任と権限は、同一のものの両面
(権限を持つ者は責任を負う。責任を負う者は権限を要求する。)

@自らのもたらす社会的影響は権限の行使の結果⇒自動的に責任が生じる。
A社会の問題や病気についての社会的責任⇒「権限をもっているか、持つべきか」を自問⇒権限を持たず、また持つべきでないなら、責任を負うことの是非に疑いを持つべき。それに対してあえて責任をもつのは、権力欲の現れにすぎない。

最大の社会的責任とは、自らに特有の機能を果たすこと。
最大の無責任とは、能力を超えた課題に取り組み、あるいは社会的責任の名のもとに他から権限を奪うことによって、自らに特有の機能を遂行するための能力を損なうこと。
■18 企業と政府
■18 企業と政府 ●政府との関係をどう考えるか

政府との関係は、企業のマネジメントにとって、社会的責任に関わる重大な問題の1つ。
butマネジメントの社会的責任が論じられるとき、触れられることすらない。

政府と企業の関係について応えを出す段階にはいたっていない。
butケース・バイ・ケースであっても、問題の考え方や基準を手にしておなかければならない。
●歴史上のモデル

自由放任(レセ・フェール)は、
@経済理論のモデルであり、政治理論や政治活動のモデルではない。
A経済についても、イギリスで19世紀中ごろのごく短い期間に行われたにすぎなかった。

政府と企業の関係を律してきたのは、自由放任ではなく、2つの政治モデル。
・・・重商主義(マーカンティリズム)と立憲主義(コンスティテューショナリズム)

A:重商主義モデル:
「経済」は国の主権、特に軍事力の基盤。
企業人は官僚に比べ社会的に劣る。
行政に携わる者の任務は、企業を支配し、強化し、奨励すること。
特に輸出を支援し奨励すること。

B:立憲主義モデル:
政府と企業は対立関係にある。
両者の関係は、行政によってではなく、法律によって規制されるべき。
重商主義が企業を指導、誘導、補助するのに対して、立憲主義は企業に「何々するなかれ」と言う。反トラスト法、規制機関、刑事告発を行使。

以上の2つのモデルは、政府と企業の関係を決定づけることはできなかったが、政府と企業の関係に関わる問題を、その都度解決するうえでは役に立った。
●新しい問題

立憲主義も重商主義も陳腐化し、もはや、いずれも政府や企業に指針を与えなくなった。

@混合経済の進展、Aグローバル企業の発展、B社会の多元化、Cマネジメントの台頭

@ 混合経済の進展:
重商主義も立憲主義も、政府と企業の活動とが絡み合い、しかも両者が競合関係にあるという混合経済では役に立たない。

A グローバル企業の発展:
政治主権と国家経済が離婚した結果生まれたもの。
「国家経済」を定義することはできなくなっている。
but政治主権はいまだに完全に国家的である。

B 社会の多元化:
政府はそれぞれ特有の目的を持つ無数の組織の1つにすぎない。
⇒政府以外の組織のリーダー、特に企業のマネジメントに社会的責任が生じる。
(政府の地位や役割に独自性がなくなった。)

C マネジメントの台頭:
伝統的な2つのモデルは、いずれもオーナーたる企業人を一方の主役とする。
but現実は、マネジメント。

出身、教育、背景、価値観において、政府の人間と酷似したグループとしての企業のマネジメント。
政府省庁の人間もまた、他のあらゆる組織の指導者と同じように、マネジメントとなりつつある。
⇒政府と企業の間の昔からの境界線をなくし、政府と企業の区分さえ形骸化した。

オーナー兼企業家に代わるものとしてのマネジメントの台頭。
●解決策を判断する基準

とりあえず必要なものは、
具体的な問題に対する中間的かつ一時的な解決策の良否を判定するための基準。
国、政府、経済、企業にとって基本的かつ長期的観点から必要とされるものを強化し、あるいは少なくとも守っていくための指針。

今日期待できるのは、個々の問題に対する一時的な答えだけ。
それらの答えは、4つの最低限の基準を満たさなければならない。
@ 企業とそのマネジメントを、自立した責任ある存在としなければならない。
A 変化を可能とする自由で柔軟な社会を守らなければならない。
B グローバル経済と国家の政治主権とを調和させなければならない。
C 機能を果たす強力な政府を維持強化しなくてはならない。
■19 プロフェッショナルの倫理・・知りながら害をするな
■19 プロフェッショナルの倫理・・知りながら害をなすな ●企業倫理以前の問題

これまで、企業倫理や企業人の倫理について説かれてきたことのほとんどは、なんら企業と関係なく、倫理ともほとんど関係のないこと。

@ 単純な日常の正直さ(ex.ごまかさない、嘘をつかない、贈賄しない)

企業人のみならず、誰もがしてはならないこと
必要なことは、企業の重役であれ誰であれ、誘惑に負けたものを厳しく罰すること。

A 潔癖さ。(ex.顧客をもてなすためコールガールを雇う。)

倫理の問題ではなく、人間としての美意識の問題
髭を剃りながら、鏡の中にポン引きの顔を見たいかどうか。
歴史上、この潔癖さが、指導者、画家や人文学者、インテリの間に、一般的な資質として広まったことはない。

B 地域社会において積極的かつ建設的な役割を果たす倫理的な責任(自らの時間を地域社会の活動に使う倫理的な責任)。

強制されるべきものではない。
企業内で賞されることがあってはならない。

倫理とも、責任とも関係ない。
隣人として、1市民としての資格における個人の貢献の問題
仕事の外にあるもの、マネジメントに関わる責任の外にあること。
●リーダー的地位にある者の責任

マネジメントの人間に特有の倫理の問題は、彼等がリーダー的地位にあるという事実から派生してくる。
リーダー的地位にあるグループの一員である=本質的にはプロフェッショナルであるということ⇒プロフェッショナルの倫理(=責任の倫理)が要求される。
●「知りながら害をするな」

プロフェッショナルの責任:「知りながら害をするな。」(2500年前、ギリシャの名医ヒポクラテスの誓いの中に表現されている。)

プロたるものは、医師、弁護士、マネジャーのいずれであろうと、顧客に対して、必ずよい結果をもたらすと約束することはできない。
最善を尽くすことしかできない。
しかし、知りながら害をなすことはしないとの約束はしなければならない。

プロたるものは自立性を持たなければならない。顧客によって、支配、監督、指揮されてはならない。

自らの知識と判断が自らの決定となって表れるという意味においては、私的な存在でなければならない。

同時に、自らの私的な利害によってではなく、公的な利害によって動くことこそ、彼に与えられる自立性の基礎であり根拠である。


プロたるものは、自立した存在として政治やイデオロギーの支配に従わないという意味において、私的である。
しかし、その言動が、依頼人の利害によって制限されているという意味において、公的である。
そして、プロの倫理の基本、すなわち公的責任の倫理の基本が、「知りながら害をなすな」である。
●アメリカの社会的病い

格差増大の錯覚⇒あらゆるものを腐らせる。
ともに生き、ともに働くべき異なるグループ間の人間の信頼関係を破壊する。
社会心理的には「知りながら害をしている」。

この平凡さが、「知りながら害をなすな」の原則を、マネジメントの倫理すなわち責任の倫理にとってふさわしいものとする。
☆U マネジメントの方法
■20 マネジメントの必要性
☆U マネジメントの方法 ■20 マネジメントの必要性 マネジメントがいかにマネジメントするかによって、組織の目的が達成されるか否かが決まる。
●フォードの場合

ヘンリー・フォードは、オーナー兼企業家とその助手で十分と信じた。
1944年に同社を継いだ26歳のヘンリー・フォード2世が、祖父の取り巻きを追放し、新しいマネジメント・チームを導入して会社を救った。
●シーメンスの場合

1870年代後半まで目覚ましく成長したが、方向性を失いマネジメント不能→ゲオルグ・シーメンスがマネジメントのための組織とマネジメントの導入→活力を取り戻す。
●三菱の場合

岩崎弥太郎も、オーナー兼企業家だけが権限と責任を持つべきものと考えた。→その死後組織改革を行い、日本で最も強力にして、最も専門的、かつ最も自立的マネジメント・チームを作り上げた。
●GMの場合

スローンはGMの事業が何で、組織構造はいかなるものでなければならないかを考え、規律の無い封建領主たちを1つのトップマネジメント・チームに組織
⇒5年後にはアメリカ自動車産業においてトップの地位に
●質の変化

堅い皮膚で支えられた昆虫は、ある一定の大きさと複雑さ以上には成長できない。
それ以上成長するには骨格が必要。
マネジメント・チームという骨格が、オーナー兼企業という皮膚と交替。
複数の人間が協力して、意志を疎通させつつ多様な課題を同時に遂行する必要がでてきたとき、組織はマネジメントを必要とする。
★第5章 マネジャー
★第5章 マネジャー マネジャー ■21 マネジャーとは何か
■21 マネジャーとは何か ●組織の成果に責任を持つ者

× 人の仕事に責任を持つ者
○ 組織の成果に責任を持つ者
今日組織においてもっとも急速に増えているのは、専門家として組織に貢献している人たち。
補佐や秘書はついていても、基本的に1人で仕事をしている。
しかも、組織の富を生み出す力や、事業の方向や、業績に重大な影響を与えている。
●新しい定義

マネジャーを見分ける基準:
× 命令する権限
○ 貢献する責任
●専門家の課題

自らの知識と能力を全体の成果に結び付けることこそ、専門家にとっての最大の問題。
自らのアウトプットが他の者のインプットにならないかぎり、成果はあがらない。
⇒理解してもらってこそ初めて有効な存在となる。

マネジャー:
専門家が自らのアウトプットを他の人間の仕事と統合する上で頼りにすべき者
専門家のボスではなく、道具、ガイド、マーケティング・エージェント

専門家の仕事は、自らの属するマネジメントを導き、新しい機会、分野、基準を示すこと⇒マネジャーよりも高い地位に立つ。
●専門家の機能と地位

× より高い地位と報酬を得るにはマネジャーになる必要があった。

機能(ex.コミュニケーション専門家)と地位(ex.少佐)は切り離さなければならない。

真の専門家、つまり特定の分野については組織内でリーダーと見なされている専門家(ex.花形セールスマン)は、マネジャー(ex.地域担当販売部長)より多くの報酬を受け取り得る。

マネジャーであれ、専門家であれ、マネジメントの一員であり、彼らに対する要求に差はない。
マネジャーと専門家の違いは、その責任と活動ににおいて、マネジャーの方が1つだけ余分な側面を持っていることにある。
50人の部下を持つ市場調査担当マネジャーと、1人の部下も持たずに同じ仕事をする市場調査専門家との違いは、機能でも調査でもなく、手段にある。
■22 マネジャーの仕事
■22 マネジャーの仕事 ●2つの役割

(1) 部分の和よりも大きな全体、即ち投入した資源の総和よりも大きなものを生み出す生産体を創造する。

マネジメントの一員として、@事業のマネジメント、A人と仕事のマネジメント、B社会的責任の遂行という3つの役割を果たさなくてはならない。あらゆる決定と行動は、3つの役割全てにとって適切でなくてはならない。

(2) あらゆる決定と行動において、ただちに必要とされているものと遠い将来に必要とされるものを調和させる。
今日のために明日犠牲となるものについて、あるいは明日のために今日犠牲となるものについて計算。
●マネジャーの仕事

あらゆるマネジャーに共通の仕事
@ 目標を設定する。
A 組織する。
B 動機づけコミュニケーションを図る。
C 評価測定をする。
D 人材を開発する。
●マネジャーの資質

始めから身につけていなければならない資質:真摯さ

× 愛想、人づきあい、人を助ける能力
vs.とっつきにくく気難しいが、しばしば誰よりも多くの人を育て、尊敬を集めるボスがいる。(一流の仕事を要求し、自らにも要求する。基準を高く定め、それを守ることを期待する。何が正しいかだけを考え、誰が正しいかを考えない。真摯さよりも知的な能力を評価したりしない。)
●最大の貢献

インド総督府:特に頭がよいわけでもない1000人を超えない20代の若者が、特別の訓練も経験もなしに、インドを支配。←広くかつ挑戦に満ちた仕事の存在

マネジャーは組織の最終成果に直接の責任を持ち貢献を行う人間→その仕事は、常に最大の責任と最大の挑戦を伴い、最大の貢献を可能にするものでなくてはならない。
●職務設計のまちがい

マネジャーの仕事に関して、正しい職務設計を保証する公式はない。
butマネジャーの働きを妨げるような間違いを知り、それを避けることはできる。

@ 職務を狭く設計し、優れた者でも成長できなくすることは間違い。
マネジャーの仕事は、その職にある限り、学び、育つことのできるものにする。

A 補佐役という職務は有害。
自ら貢献できなければならず、責任ある存在とならなければならない。

B 調整役ではなく、自らも仕事をするプレーイングマネジャーでなければならない。
←マネジメントは、マネジャーが専念しなくてはならないほど時間を要する仕事ではない。

C 彼1人あるいはその直接の部下を使うだけで遂行できるものにしなくてはならない。
×会議や調整が必要な職務 ×頻繁に出張しなくてはならない職務
←仕事と会議、仕事と旅行は同時にできない。

D マネジャーの仕事の不足をポストで補ってはならない。
←肩書きは地位と責任を意味する。

E 「後家づくり」の仕事は設計し直す。
←仕事自体はよく構成され、こなせないはずはないが、実際にこなせない場合がある。
●マネジメント限界の法則

× マネジメント限界の法則:1人が監督できる部下の数には限界がある。
vs.マネジメントの階層を積み重ね、コミュニケーションと協力が妨げられる。

重要なのは、人間の数ではなく関係の数
●職務設計の視点

マネジャーの仕事は4つの視点から設計する必要。

@ マネジャー本来の機能:マネジャーの仕事そのもの。
ex.市場調査部長や製造部長

A 割当てる仕事:個々のマネジャーに対し、組織や上司が設定する責任。
この貢献の責任が、職務規定に示したものを超えていることが、優れた成果をあげる者の印。

B マネジャーの仕事は、上、下、横との関係によって規定される。

C マネジャーの仕事は、必要とする情報とその情報の流れにおける彼の地位によって規定される。

・ 仕事に必要な情報が何であり、どこから手に入れるかを常に考える。
・ それらの情報を提供してくれる者に対して、必要とする情報の内容のみならず、その理由も理解してもらわなければならない。
・ 上、下、横の誰が、いかなる情報を自分に頼っているかについても考えなくてはらない。

個々のマネジャーに期待すべきことは、
@ 自らの職務を書き表し、
A 彼自身ならびに彼の部門が責任を負うべき成果と貢献について提案し、
B 他との関係を列挙し、
C 必要とする情報他に貢献できる情報を明らかにすること。
■23 マネジメント開発
■23 マネジメント開発 ●体系的に取り組む

未来を予測することは不可能⇒明日のマネジメントを行う者を試し、選び、育てて、初めて今日の意思決定を責任あるものとすることができる。
←マネジャーは育つべきもので、生まれつきのものではない。
●マネジメント開発にあらざるもの

@ セミナーに参加することではない。
いかなる種類のセミナーよりも、実際の仕事、上司、組織内のプログラム、1人ひとりの自己啓発プログラムの方が大きな意味を持つ。

A 人事計画やエリート探しではない。
最悪は、エリートを育成すべく、他の者を放っておくこと。

10年後、仕事の8割は放っておかれた人が行い、彼等は軽んじられたことを覚えている。
選ばれたエリートの半分は、40代にもなれば、口がうまいだけだったことが明らかになる。

B 人の性格を変え、改造するためのものではない。
成果をあげさせるためのもの。強みを存分に発揮させるためのもの
自分のやり方によって存分に活動できるようにするためのもの。

雇用関係は、特定の成果を要求する契約に過ぎない。それ以外のいかなる試みも人権の侵害。要求されるのは成果だけ。
■24 自己管理による目標管理
■24 自己管理による目標管理 ●4つの阻害要因

組織の中での貢献は、共通の目標に向けられなければならない。

人を間違った方向へ持って行く4つの要因

@ 技能の分化
←専門化により技能自体が目的となってしまう危険性。
技能の重要性は強調されるべきであるが、それは組織全体のニーズとの関連において

A 組織の階級化
全員の目を仕事が要求するものに向けさせる組織構造が必要。

B 階層の分離
階層によって仕事と関心に違い→「共通の言葉と共通の理解」の欠如。

C 報酬の意味付け
いかなる報酬も、報酬システムが持っているさまざまな意味合いの妥協にすぎない。
かなりよいといえる報酬システムさえつくるのは難しい。
できることは、まちがった行動を褒めたり、まちがった成果を強調したり、共通の利益に反するまちがった方向へ導くことのないよう監視することぐらい。
●目標管理

マネジャーたるものは、上は社長から下は職長や事務主任にいたるまで、明確な目標を必要とする。
@自らの率いる部門があげるべき成果を明らかにする。
A他部門の目標達成の助けとなるべき貢献を明らかにする。
B他部門に期待できる貢献を明らかにする。

・ 目標は、常に組織全体の目標から引き出す必要。
・ 短期的視点とともに長期的視点から規定
・ 有形の経済的な目標のみならず、無形の目標(ex.マネジャーの組織化と育成、部下の仕事ぶりと態度、社会に対する責任についての目標)を含む必要。
・ 目標間のバランスを図る。(1つの側面だけを強調し、他の側面を犠牲にしない。)
・ 目標は組織への貢献によって規定。(ex.プロジェクト・エンジニアの目標は、技術部門に果たすべき貢献により規定。事業部長の目標は、組織全体に対して果たすべき貢献によって規定。)
・ 自らの目標を規定することも、自らの属する組織の目標の設定に参画することも、1人ひとりの責任。
●自己管理

目標管理の最大の利点
自らの仕事ぶりをマネジメント(自己管理)できるようになる⇒強い動機づけをもたらす。

自己管理
@自らの目標を知る
A目標に照らして、自らの仕事ぶりと成果を評価
Bそのための情報入手
それらの情報は、彼等自身に伝えるべきで、上司に伝えるべきではない。
←情報は、自己管理のための道具であり、上司が部下を管理するための道具ではない。

自己管理による目標管理は、人が責任、貢献、成果を欲する存在であることを前提とする。
自己管理による目標管理は、スローガン、手段、方針に終わってはならず、原則としなくてはならない。
それは、マネジメントの哲学たるべきもの。
■25 ミドルマネジメント
■25 ミドルマネジメント ●人員過剰の問題

ミドルマネジメントについても、過剰ほど害の大きなものはない⇒経済を超えた害を与える。成果と意欲に害を与える。

「給与はよく、待遇もよい。だが、仕事、挑戦、機会がなかった。仕事ではなく、互いに作用し合うことに忙しかった。⇒有能な若者が、「仕事があるから」と言って、就職先として中小企業を選ぶ。」

「本当にしなければならないことは何か」を検討し、「必要のないこと、削減したり廃止すべきことは何か」を考えなければならない。
その増加を方向づけ、管理し、マネジメントする必要がある。
●新種のミドルマネジメント

伝統的なミドル(工場長、セールスマネジャー、銀行の支店長):
下に向かって、即ち自分に報告する人間に対して「権限」を持つ。

新種のミドル(製品、製造、工程、税務、市場調査、マーケティング、広告の専門家):
上や横に向かって、即ち自分が命令できない人に対して「責任」を持つ
彼らの決定と行動が、組織の方向と能力に直接影響を与える。

P&Gのプロダクトマネジャー、品質管理担当の技術者、税務担当の専門家は、地位、報酬、職務はトップマネジメントでなくても、P&Gに与える影響に関してはトップマネジメントと同じ責任を持つ。

知識専門家は、知識を仕事に適用し、かつ知識を基礎として、組織全体の能力、成果、方向に影響を与える意思決定を行う者。
これらの新種のミドルの知識専門家を効果的な存在とし、成果をあげさせることが、新しい課題。
■26 組織の精神
■26 組織の精神 ●天才をあてにするな

組織の目的は、凡人をして非凡なことを行わせることにある。
組織の役目は、人の弱みを無意味にすること。
その良否は、成果中心の精神があるか否かによって決まる。

@ 組織の焦点は、成果に合わせなければならない。
A 組織の焦点は、問題ではなく機会に合わせなければならない。
B 配置、昇給、昇進、降級、解雇など人事に関わる意思決定は、組織の信条と価値観に沿って行わなければならない。これらの決定こそ、真の管理手段。
C 人事に関わる決定は、真摯さこそ唯一絶対の条件であり、すでに身につけていなければならない資質であることを明らかにするものでなければならない。
●成果を中心に考える

事なかれ主義の誘惑。
but
組織の健全さとは、高度の基準の要求
目標管理が必要とされるのも、高度の基準が必要だから。

成果とは打率
弱みがないことを評価してはならない。
←人は、優れているほど多くの間違いをおかし、新しいことを試みる。

長年真摯に働いてきたがもはや貢献できなくなった者の処遇。
・ 担当役員にしておくべきではない。←彼の無能は組織を危うくし、士気を低下させ、マネジメントへの不信を生む。
・ 首にするのはまちがい。←正義と礼節にもとり、マネジメントの真摯さを疑わせる。
組織の精神というものを大切にするマネジメントは、この種の問題を慎重に扱う。
●機会に集中する

組織は、問題ではなく機会に目を向けることで、その精神を高く維持することができる。
組織は機会にエネルギーを集中するとき、興奮、挑戦、満足感に満ちる。

問題中心の組織は守りの組織。
それは、いつになっても、昨日を黄金時代と考える組織。(悪くさえならなければ成果をあげていると考えている組織。)
●人事に関わる意思決定

人事に関わる意思決定こそ最大の管理手段。
組織の中の人間に対して、マネジメントが本当に欲し、重視し、報いようとしているものが何であるかを知らせる。
●真摯さなくして組織なし

真摯さを絶対視して、初めてまともな組織といえる。

マネジャーとして失格とすべき真摯さの欠如。
@ 強みより弱みに目を向ける者。
A 何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心を持つ者。
B 真摯さよりも、頭のよさを重視する者。
C 部下に脅威を感じる者。
D 自らの仕事に高い基準を設定しない者。
★第6章 マネジメントの技能
マネジメントは1つの仕事⇒それには特有の技能が必要。
マネジャーたるものは、それらの技能が何であり、いかに役立ち、何を要求するかを理解しなければならない。
特に基本的な技能についての基礎知識を持たなければならない。
★第6章 マネジメントの技能 ■27 意思決定
■27 意思決定 ●意思決定の力点をどこに置くか

日本:合意(コンセンサス)によって意思決定を行っている。
欧米:意思決定の力点は、問題に対する答えに置く。
日本:意思決定で重要なことは問題を明らかにすること。
(そもそも意思決定は必要か、そもそも何についての意思決定かを明らかにすることが重要とされる。この段階でのコンセンサスの形成に努力を惜しまない。この段階にこそ、意思決定の核心があるとする。)

日本では、契約の必要を検討する段階で、契約締結後に関わりを持つことになる人たちを巻き込んでおく。関係者全員が意思決定の必要を認めたとき、初めて決定が行われる。このとき、ようやく交渉が始まる。その後の日本側の行動は迅速。

欧米が決定と呼ぶ段階に達したときは、日本では行動の段階に達したという。日本では、この段階で意思決定の責任を「しかるべき人間」に任せてしまう。

日本流意思決定のエッセンス。
@ 何についての意思決定かを決めることに重点をおく。(答えではなく問題を明らかにすることに重点を置く。)
A 反対意見を出やすくする。(コンセンサスを得るまでの間、答えについての論議は行わない。あらゆる見方とアプローチを検討の対象にする。)
B 当然の解決策より複数の解決案を問題にする。
C いかなる地位の誰が決定すべきかを問題にする。
D 決定後の関係者への売込みを不要にする。(意思決定のプロセスのなかに実施の方策を組み込む。)
●問題を明確にする
答えの違いの多くは、何についての意思決定かについての認識の違いから生ずる。
⇒どのような認識の仕方があるかを明らかにすることが、効果的な意思決定の第一歩となる。
間違った問題に対する正しい答えほど、実りがないだけでなく害を与えるものはない。

意思決定は見解からスタートしなければならない。異なる見解を奨励しなければならない。同時に、見解を出す者に対し、その妥当性について徹底的に考えることを求めなければならない。
●意見の対立を促す

マネジメントの行う意思決定は、全会一致によってなされるようなものではない。
対立する見解が衝突し、異なる見解が対話し、いくつかの判断のなかから選択が行われて初めて行うことができる。

意見の対立を見ないときには決定を行わない。

意見の対立を促す

@ 不完全であったり、まちがったりしている意見によってだまされることを防げる。
A 代案を手にできる。
B 想像力を引き出せる。
●意見の相違を重視する

なぜ他の者は意見が違うのかを明らかにすることからスタートする。
明らかにまちがった結論に達していいる者がいても、それは、何か自分と違う現実を見、自分と違う問題に関心を持っているからに違いないと考えなければならない。
●行動すべきか否か

常に「意思決定は必要か」を検討しなければならない。
何もしないことを決定するのも、1つの決定。

何もしないとどうなるか?
@事態が悪化⇒意思決定を行う必要
A大切な機会を失う⇒行動する必要
Bうまくいく⇒手をつけてはならない
C多少頭痛の種ではあるが、たいした問題でない⇒手をつけない。

行動すべきか否かを決める指針:
@ 行動によって得られるものが、コストやリスクよりも大きい⇒行動する。
A 行動するかしないかいずれかにする。二股をかけたり妥協したりしてはならない。
●意思決定の実行

効果的な意思決定とは、行動と成果に対するコミット
(決定を行った後でその決定を売り込む必要があるのでは、行動は起こされないし、成果も得られない。)

意思決定の実行を効果的なものにするには:
@決定を実行するうえでなんらかの行動を起こすべき者、逆に言えば決定の実行を妨げることのできる者全員を、決定前の論議のなかに責任をもたせて参画させておく
(民主主義ではなく、セールスマンシップ)
A 意思決定のなかに実行の手順や責任を組み込んでおく。(具体的な実行の手順が仕事として割当てられ、責任として割当てられないことは、決定はないに等しい。)

決定を実行に移すために必要な問い:
「この決定を知らなければならないのは誰か」
「とるべき行動は何か」
「それはなぜか」
「行動をとるべき者が行動できるためには、その行動はいかなるものでなければならないか」
●フィードバックの仕組み
意思決定の前提となった予測を現実に照らして検証していくうえで必要なフィードバックの仕組み

決定後の状況が、想定したとおりに進展することは少ない
@最善の意思決定さえ思わず障害にぶつかり、あらゆる種類の意外な事態に出会う。
Aもっともすぐれた意思決定さえ結局は陳腐化する。

実行の成果からのフィードバックがないかぎり、期待する成果を手に入れ続けることはできない。

@意思決定の前提となった予測をはっきりさせておく。(書面をもって明らかにしておく。)
A決定の結果について体系的にフィードバックする。
B フィードバックの仕組みを、決定を実行する前につくりあげておく
意思決定は機械的な仕事ではない。リスクを伴う仕事。判断力に対する挑戦。
大事なのは、問題への答えではなく、問題についての理解。
意思決定とは、効果的な行動をもたらすために、ビジョン、エネルギー、資源を総動員すること。
■28 コミュニケーション
■28 コミュニケーション ●4つの原理
コミュニケーションについて4つの基本:
コミュニケーションとは
@知覚であり、
A期待であり、
B要求であり、
C情報ではない。
(コミュニケーションと情報は相反する。しかし、両者は依存関係にある。)
●@コミュニケーションは知覚である

「誰も聞かなければ、音はない」

コミュニケーションを成立させるのは受け手(コミュニケーターは発するだけ)
聞く者がいなければ、コミュニケーションは成立しない(意味のない音波しかない)。

受け手の言葉を使わなければ成立しない。
受け手の経験に基づいた言葉を使わなければならない。
「受け手の知覚能力の範囲内か、受け手は受けとめることができるか」を考える必要がある。

あらゆる事物に複数の側面がある⇒相手が自分と違う側面を見るかぎり、自分とは違い世界を理解せざるを得ない。
コミュニケーションを成立させるには、受け手が何を見ているかを知らなければならない。その理由を知らなければならない。
●Aコミュニケーションは期待である

人は期待しているものだけを知覚する。
期待しているものを見、期待しているものを聞く。
期待していないものは受けつけられることさえない。

受け手が期待しているものを知ることなく、コミュニケーションを行うことはできない。
期待するものを知って、初めてその期待を利用することができる。
受け手の期待を破壊し、予期せぬことが起こりつつあることを強引に認めさせるためのショックの必要を知ることができる。
●B コミュニケーションは要求である

新聞では、紙面の余白を埋めるための、ニュースにならない些事を埋め草に使うが、それがよく読まれ、記憶される。
←それらの豆記事は何も要求せず、読者の関心と関係がない。

コミュニケーションは受け手に何か(何かになること、何かをすること、何かを信じること)を要求する。
それが受け手の価値観、欲求、目的に合致するとき強力となり、それらのものに合致しないとき、まったく受けつけられないか抵抗される。
(コミュニケーションが力を発揮し、受け手の心を転向させることは、人の存在に関わる問題であるが故にまれ)

キリストさえ、迫害者サウロを使徒パウロとするには、サウロをひとたび盲目にする必要があった。
受け手の心を転向させるkとを目的とするコミュニケーションは、受け手に全面降伏を要求する。
●C コミュニケーションは情報ではない

コミュニケーションは情報とは別物。ただし依存関係がある。

コミュニケーション:知覚の対象
情報:論理の対象

情報:
形式であり、それ自体に意味はない。
情報に人はいない。
感情、価値、期待、知覚といった人間的な属性を除去するほど、有効となり信頼度も高まる。

コミュニケーションは、必ずしも情報を必要としない。
実際いかなる論理の裏づけもなしに経験を共有することこそ、完全なコミュにケーションをもたらす。
コミュニケーションにとって重要なのは、知覚であって、情報ではない。
●上から下へ、下から上へ

これまで、コミュニケーションを上から下へ試みてきた(=コミュニケーションを成立させる者は発し手であると前提にしている。「何を言いたいか」に焦点を合わせている)が、それではコミュニケーションは成立しない。

どのように話すかという問題は、何を話すかという問題が解決されて初めて意味を持つ。
(どのように上手に話しても、一方的に話したのでは話は通じない。)

エルトン・メイヨー:
上に立つ者は下の者が言わんとすることに耳を傾けなければならない。
部下に理解させたいことからではなく、部下が知りたがっていること、興味を持っていること、すなわち知覚する用意があることから着手しなければならない。

耳を傾けることは重要だが、それがすべてではない。スタートに過ぎない。

情報が多くなるほど、効果的かつ機能的なコミュニケーションが必要になる。
情報が多くなるほど、コミュニケーション・ギャップは縮小するどころか、かえって拡大する。
●コミュニケーションの前提となるもの

目標管理こそコミュニケーションの前提となる。
目標管理において、部下は上司に向かい、「企業もしくは自らの部門に対して、いかなる貢献を行うべきであると考えているか」を明らかしなければならない。
それが上司の期待どおりであることはまれ。
目標管理の最大の目的は、上司と部下の知覚の仕方の違いを明らかにすること。

同じ事実を違ったように見ていることを互いに知ること自体が、コミュニケーション。

部下は、その経験から上司の抱える問題(意思決定の実体、優先順位の問題、なしたいこととなすべきこととの間の選択、意思決定の責任等)に接する。
⇒上司の立場の複雑さを理解する。その複雑さこそマネジャーの立場に固有のものであり、何も上司が好き好んでつくりだしているものではないことを理解する。

コミュニケーションが成立するには、経験の共有が不可欠。

組織において、コミュニケーションは単なる手段ではない。それは組織のあり方。
(これこそが、コミュニケーションを考えていくうえでもっとも重要な基本とすべき結論)
■29 管理
■29 管理 ●管理手段の特性

管理手段の設計能力の向上を、管理能力そのものの向上に結びつけるには、何が必要とされるか。

組織における管理手段の3つの特性:
@ 管理手段は純客観的でも純中立的でもありえない。
複雑な知覚の世界においては、測定という行為は客観的でも中立的でもありえない。
主観的な行為であり、何がしかの偏りをもたざるを得ない。
測定の対象を変えるのみならず、測定者をも変える。
(測定することによって、新たな知覚を得るわけでなくとも、知覚の経験が大きく変わる。)

測定される対象も、測定のために取りだされ注目されるという事実のために、新たな価値が加えられる。

測定される対象も測定する者も変化する。
測定の対象は新たな意味と新たな価値を賦与される。
管理に関わる根本問題は、いかに管理するかではなく何を測定するかにある。

A 管理手段は成果に焦点を合わせなければならない。
組織は、社会、経済、個々の人間に対して、なんらかの貢献を行うために存在。
活動の成果は組織の外に現れる。社会、経済、個々の人間に対する成果として表れる。
企業の利益も、それを生み出すのは顧客。
内部にあるのはコストセンターにすぎない。

管理的な活動の対象となっているのはコストにすぎない。
組織の成果は起業家的な活動の対象。

効率すなわち努力を記録し、これを定量的に把握することは容易であるが、成果すなわち外の世界に表れるものを記録し、定量的に把握する手段はほとんどない。
but
いかに効率的でも、馬車のムチだけをつくっている企業はつぶれる運命にある。

B 管理手段は、測定可能な事象のみならず、測定不能な事象に対しても適用しなければならない。

測定できるものは、すでに発生した事実、過去のもの。
未来についての事実はない。
しかも、測定できるのは、ほとんどが外部ではなく内部の事象。

外部に発生する重要な事象(ex.馬車のムチをつくる産業が衰退していく原因、IBMが大企業に成長した理由、キューバにあるアメリカ系企業が没収されるにいたった経緯)は、少なくともそれらのことについて何かできた時期においては、変化を測定することは不可能だった。

測定と定量化に成功するほど、定量化したものに注目する⇒よく管理されていると見えるほど、それだけ管理していない危険がある。
●管理手段の要件

あらゆる管理手段が7つの要件を満たさなければならない。

@ 管理手段は効率的でなければならない。
必要とする労力が少ないほど優れた管理。
管理手段が少ないほど管理は効果的。
管理システムの設計と利用にあたってまず検討すべきは、管理のために最小限必要な情報は何か。

A 管理手段は意味あるものでなければならない。
管理の対象として測定するものは、重要なものに限らなければならない。
成果に影響を与える事象だけを対象とすることによって、初めて本当の管理が可能となる。
意味のない事象の管理=本当の管理を放棄すること。

B 管理手段測定の対象に適していなければならない。
ex.従業員からの苦情数を管理butその部門の特定が行われていない。
その部門が工場の全製品が必ず通らなければならない最終組立部門であって、それらの苦情を無視すればストライキが起きかねない⇒企業そのものがつぶれることさえあり得る。

C 管理手段の精度測定の対象に適していなければならない。
誤差20%でしか言えないことについて、少数6位まで測定しても正確にならない。
正確な測定が困難であり、幅をもってしか評価できないという情報こそ重要。

一見根拠のがあるかのごとき細かな数字こそ不正確。

D 管理手段は、時間間隔が測定の対象に適していなければならない。
頻繁な報告がよりよい管理を意味するわけではない。かえって管理を無効にする。
多くの場合、研究開発活動に間断なく評価を加えることも成果に悪い影響を与える。

E 管理手段は単純でなければならない。
管理手段は、複雑であっては機能しない。事態を混乱させるだけ。
肝心の管理の対象ではなく、管理の方法の方に関心が移る。

F 管理手段は行動に焦点を合わせなくてはならない。
管理の目的は情報収集ではなく行動(=検討や分析であることもある)
⇒報告、調査結果、数字など管理手段となるものは全て、行動を起こすことのできる者に到達しなくてはならない。
●真の管理とは何か

管理手段には基本的かつ根源的な制約がある。
←組織というものが@それ自体実体であると同時に、A人間社会の擬制にすぎない。

@実体としての組織:
それ自体の目的を持ち、活動を行い、それ自体の成果をあげる。

A人の集合としての組織:
人にはそれぞれの理想、目的、欲求、ニーズがある⇒メンバーの欲求やニーズを満たさなければならない。
それが、賞や罰、各種の奨励策、抑止策。
給与のように定量的なものもあるが、個人の欲求に応えるための環境そのものは定量的ではない。

賞罰こそ、組織の目的、価値観、そして自らの位置付けと役割を教えるもの。
■30 経営科学
■30 経営科学 ●経営科学への期待

経営科学は大きな貢献を果たしうる道具。
マネジャー自ら経営科学者である必要は無い。
(医者が血液化学者や細菌学者である必要がないのと同じ。)
but
経営科学に何を期待できいかにそれを使いこなすかは知らなくてはならない。

今日、経営科学は期待を裏切っている。
●経営科学誕生の経緯

あらゆる学問:
@学問の定義からスタート、その後
Aその対象の研究に必要なコンセプトと方法論を生む。
but
経営科学は、他の学問が開発したコンセプトと方法論(物質を研究するための数学的な手法)を借用することからスタート。

家を建てるとか、釘を打つということではなく、道具としての金槌に関心を払ってきた。

×科学的であるということは定量化すること。
○科学的であるためには、その対象とする領域を定義し、包括的かつ一貫した公準を形成することを必要とする。(科学的な方法論を適用する前に行わなければならない。)

その定義には、企業とは、人から成るシステムであるとの理解が含まれる。

現実のマネジメントの前提、目的、考え、あるいはまちがいまでが、基本的な事実とならなければならない。
それらの事実の研究と分析こそが、経営科学が意義ある成果をあげるために、まず取り組むべきこと。
●経営科学が公準とすべきもの

経営科学が行うべきことは、自らの公準とすべきものを確定すること。

その公準には次の5つが含まれる。

@企業は、最強最大のものであってさえ、社会や経済の力によって容易に消滅させられる存在(社会の下僕)。最弱最小であっても、社会や経済に直接の影響を与える。
企業とは、社会的、経済的な生態システムの一員である。

A企業は、人が価値ありと認めるものを生み出す存在。
見事に設計した機械でも、顧客の役に立たなければ廃物。

B企業は、測定の尺度として特有のシンボル、すなわちを使う。
抽象的であるとともに、驚くほど具体的な尺度。

C経済的活動とは、現在の資源を不確かな未来に投入すること。
企業にとって、リスクは本源的なものであり、リスクを冒すことこそ基本的な機能。

D企業の内外で後戻りできない変化が常に起こっていると同時に、企業は産業社会における変化の主体
新しい状況に適合する進化の能力を持つと同時に、周囲の状況に変化をもたらす革新の能力を持つ。
●科学としての姿勢

経営科学は、最終目標としてリスクをなくすことや最小とすることに力を入れる。
but
企業活動からリスクをなくそうとしても無駄(現在の資源を未来の期待に投入することには必然的にリスクが伴う。)。
経済的な進歩とは、リスクを負う能力の増大。

リスクを非合理的で避けるべきものとする考えは、最大のリスクすなわち硬直化のリスクを冒している。

経営科学の主な目的は、正しい種類のリスクを冒せるようにすること。
マネジメントのために、いかなるリスクがあり、それらのリスクを冒したときに何が起こり得るかを明らかにしなければならない。
●マネジャーの責任

マネジャーは、経営科学や経営科学者が必要としているものを与えることができ、しかも与えなければならないにもかかわらず、それを与えていない。
but
マネジャーは経営科学の仕組みを知る必要はない。
道具の使用者は、その道具がよくできてさえいれば、道具の仕組みなど知る必要はないし、かえって知ってはならない。

経営科学を生産的にするための4つの要求
@ 仮定を検証する
A 正しい問題を明らかにする
B 答えではなく代替案を示す
C 問題に対する公式ではなく理解に焦点を合わせる

経営科学の目的は、あくまで診断を助けることにある。
経営科学は分析の道具であり、問題に対する洞察である。

マネジャーは、経営科学とは何であり、何をなしうるかを理解しておかなければならない。
★第7章 マネジメントの組織
■31 新しいニーズ
★第7章 マネジメントの組織 ■31 新しいニーズ ●高まる期待

フェヨールの職能別組織:中小のメーカーにとって最高の組織構造
スローンの分権組織:多様な製品を抱える大企業にとって最高の組織構造
but
今日、職能別組織や分権組織では間に合わないニーズが出ている。
⇒今日再び新しいアプローチが必要とされている。
●学んだこと

@ 組織構造はおのずから進化していくものではない。

A 組織構造の設計は最後に手をつけるべきもの。
(最初に手をつけるべきは、組織の基本単位を明らかにすること。)

B 構造は戦略に従う。
(組織構造は組織が目的を達成するための手段。)
組織づくりの最悪のまちがいは、いわゆる理想モデルや万能モデルを生きた組織に機械的に当てはめるところから生じている。

戦略とは、「われわれの事業は何か、何になるか、何であるべきか」との問いへの答。
組織構造を決めるのはこの戦略。
優れた組織構造とは、それらの基本活動が成果をあげる構造にほかならない。
●忘れるべきこと(無意味な論争)

@組織構造を課題中心に設計すべきか、人間中心に設計すべきか。
「組織構造や個々の職務の設計」⇒課題中心に行う。
「実際の仕事の割当て」⇒人と状況に合わせて行う。

A階層型であるべきか自由型であるべきか。
一方が厳格な組織を意味し、他方が自由な組織を意味するという考え方が間違い。

階層型組織(カトリックの教会法):
自由を与える。
割当てられた職務を遂行する限り、それ以上の責任は無い。

自由型組織:
特定の課題のための組織、特に小規模グループ。
チームのメンバーに対して厳しく自己規律を要求する。
全員がチームの仕事をする。
チーム全体の成果に責任をもつ。

階層はあらゆる組織に必要。
最終決定を下す者がいなければ、組織は単なる議論の場と化す。
危機に見舞われたとき、明確な命令権が1人の人間に与えられていなければ組織全体が滅びる。

B唯一絶対の組織構造が存在するという信念。
組織の中の人間が成果をあげ貢献できるようにする組織構造は、全て正しい答。
←人のエネルギーを解き放ち、それを動員することが組織の目的。成果こそ組織の目標であり、その良否の判定基準。
■32 組織の基本単位
■32 組織の基本単位 ●4つの課題

組織の研究が始まって以来、答えなければならない問題:
@ 何を組織の単位とするか
A 何を一緒にするか。何を分離するか。
B いかなる大きさと形にするか。
C いかなる位置づけを行い、いかなる関係を持たせるか。
●活動分析

知らなければならないのは、組織の重荷を担う部分、すなわち組織の基本活動。

@ 組織構造の設計は、「組織の目的を達成するには、いかなる分野において卓越性が必要か」との問いに答えることから始まる。

A同時に 「いかなる分野において成果があがらないとき、致命的な損害を被るか。いかなる分野に最大の弱点を見るか」との問いに答えることも必要。

B最後に 「本当に重要な価値は何か」との問いに応えることも必要。
ex.製品や工程の安全性。品質。ディーラーのサービス。
それに必要な活動について組織的な裏づけを行わなければならない。
責任を負う組織をつくらなければならない。

それらの基本活動が組織の重荷を担う部分、すなわち組織の基本単位となる。
まず関心を向けるべきは、組織の目標の達成と組織の戦略に欠くことのできない活動に対して。
この基本活動こそ、まず識別し、規定し、組織し、中心に据えるべきもの。

目標と戦略からスタートした基本活動についての活動分析だけが、組織が真に必要とする組織構造を教える。
戦略の変更⇒基本活動についての新たな分析⇒それら基本活動に対応する組織構造の採用。(逆にいえば、戦略の変更なしに行う組織改革は間違い。)
●貢献分析

「どの活動を一緒にするか、それとも分離するか」
A:工務と商務⇒B:ライン(現業)とスタッフ(非現業)⇒
C:職能による分類(アンリ・フェヨール)
職能を関連技能の集まりとして狭く定義。

今日必要とされているのはさらに深い分析。
D:貢献の種類によって分類。
企業内の活動は、その貢献の種類によって大きく4つに分類できる。

@ 成果活動:
組織全体の成果に直接あるいは間接の関わりを持つ測定可能な成果を生む活動。

A 支援活動:
必要不可欠であるが、自らは成果を生むことなく、アウトプットが他の組織単位によって利用されて、初めて成果を生む活動。

B 家事活動:
組織全体の成果とは間接的にも関わりのない活動。付随的活動。

C トップ活動
●成果活動

@ 直接収入をもたらす収入活動:
(ex.病院や学校の公的機関の場合、治療や学習を生み出す活動。マーケティングとイノベーションの活動。財務活動(資金の調達や管理))

A 成果貢献活動:
自らは収入を生み出さないが、企業全体の成果や主要な部分の成果に直接かかわりを持つ活動。(ex.典型が製造。求人活動、教育訓練、購買、輸送、エンジニアリング、労務)

B 情報活動:
組織内のあらゆる者が必要とするアウトプットを生むが、それだけではいかなる収入も生み出さない。
●支援活動
自らはいかなる種類の成果も生まず、他の活動に対してインプットとなる活動。

@ 良識活動:
組織にとって卓越することが必須とされている分野において、基準を設定しビジョンを描く活動。
いかなる組織といえども、ビジョン、価値、基準、監査を必要とする。

マネジャーの中で尊敬されている者が行うべき仕事。
(いかなる分野の専門家の仕事でもない。)

企業の成功と存続に中心的かつ致命的な意味を持つ限られた分野(人事、マーケティング、環境に対する影響、社会的責任に関わる問題、地域社会との関係、イノベーション)においてのみ行われる。

人事、マーケティングも対象。
企業活動の環境に対する影響、社会的責任に関わる問題、地域社会との関係も対象となる。
イノベーションと名がつくものも、すべて良識活動の対象。

組織が行うべきことで行っていないことを知るための活動。
日々の現実に対し、理想をもって戦うことであり、安易なものを排し、人気のないものを擁護すること。

A 伝統的なスタッフ活動:
助言活動と教育活動が属する。

その果たすべき貢献は、他の活動に対していかなる貢献をなすべきか。

極力小さくしなければならない。
基本活動についてのみ設けなければならない。
秘訣は重点主義。

他の人に手柄を立てさせることを欲する気質が必要。
自らは手を出さず、人が学びとるまで待たなければならない。

成長の過程において一時的に就くべき仕事。

権限なしに効果をあげる能力を身につけるうえで優れた訓練となり経験となる。
トップになる者にとおっては必ず持つべき経験であるが、一定の期間を超えてはならない経験。

B 各種の渉外活動
法律スタッフ、特許部の活動
●家事活動
健康管理、清掃、食堂、年金や退職基金の管理、政府指定の記録類の管理等
直接成果に貢献するものではないが、組織に害を与え得る活動。
(←法的な義務、働く人たちの勤労意欲、社会的責任に関わる活動)

組織全体の成果と間接的にさえ関連をもたないところに生じる。

それぞれの活動の位置づけを規定するのは、貢献の種類。
⇒果たすべき貢献の種類の違う活動は、それぞれ別個に扱わなければならない。

同一の貢献を果たす活動は、技術的な専門分野のいかんにかかわらず、同一の部門にまとめ、同一のマネジャーの下に置く。(同一の貢献を果たさない活動を一緒にしてはならない。)
●決定分析
「成果を手にするには、いかなる種類の意思決定が必要か。」「意思決定をいかなるレベルで行うか。」「いかなる活動がそれらの意思決定によって影響を受けるか。」「いかなる部門のマネジャーが、いかなる意思決定に参加し、相談を受け、あるいは意思決定の結果を知らなければならないか。」⇒組織における仕事の位置付けを左右。

×制作的な意思決定と実施上の意思決定という通常の分類
×金額による分類
〜無意味

意思決定を4つの観点から分類する必要
@ 影響する時間の長さによる分類:
その意思決定によって、将来どの程度の期間にわたって行動を束縛されるか。どの程度すみやかに修正できるか。

ex.シアーズの買付け担当者は金額に制限が無いが、ある商品の取扱いの開始/中止については総責任者(シアーズのナンバー2か3)の承認が必要。

A 他の部門や他の分野、あるいは組織全体に与える影響の度合いによる分類:
影響が部門内にとどまる意思決定⇒低いレベルで行う
他の部門に影響を与える意思決定⇒一段高いレベルか、影響を受ける部門との協議
(1つの職能/分野における最適化を他の職能/分野での犠牲により達成しようとしてはならない。それは望ましくない部分最適。)

ex.創立間もないころのデュポンの原料購買部門の自由裁量⇒安く原料を手に入れるbut巨額の在庫。原料コストでの競争力が、金利コストによって相殺された。手元資金の慢性的な欠乏。⇒原料コストと資金コスト、流動資金の3者のバランスを取ることをトップマネジメントが行うべき意思決定とした。

B 考慮に入れるべき定性的要素の数による分類
価値観の問題が入る→意思決定を高度のレベルにおいて行う。

C 問題が繰り返し出てくるか、まれにしか出てこないかによる分類
繰り返しでてくる問題→高いレベルで原則を決定し、実際の適用は低いレベルに委ねる。
意思決定の原則
@ 可能な限り低いレベル、行動に近いところで行う。
A それによって影響を受ける活動全体を見通せるだけの高いレベルで行う。
→意思決定に参画すべき者や、その結果を知らされるべき者の範囲が明らかになる。
●関係分析
活動相互間の関係の分析→組織単位の位置付けを決定できる。
「どこの誰と協力してはたらかなければならないか」
「どこの誰に対して、いかなる種類の貢献を行わなければならないか。」
「どこの誰から、いかなる種類の貢献を受けることができるか。」

@ 活動間の関係を最小限、重要な意味あるものだけに絞る。
× 生産に関するプランニングをひろく「プランニング部門」に組入れる。
○ 生産に関するプランニング活動は生産部門に入れなくてはならない。
→プランニング担当者を工場のマネジャーや現場の監督たちに近い場所に位置付けることができる。

A 関係分析による活動の位置付けは決定分析による活動の位置付けに優先する。
悪い組織
@ マネジメントの階層の増加
→組織内の相互理解と協同歩調を困難にする。目標を混乱させ、まちがった方向に注意を向けさせる。マネジャー養成への重大な障害(←最上層に達するために要する年月を増大し、その間にマネジャーよりも専門家を養成してしまう。)。
組織の原則は、階層を少なくして指揮系統を短くすること。
ex.カトリック教会では、ローマ法王と最下層の教会司祭の間には、権限と責任に関わる階層は1つだけ。

A 組織構造に関わる問題が頻発。
→その解決は、正しい分析(活動分析、貢献分析、決定分析、関係分析)のみ。

B 要となる者の注意を重要でない問題や的外れの問題に向けさせる。
組織構造は、重要な問題、基本活動、成果、業績に関心を向けさせるものであるべき。
× 就業態度、礼儀作法、手続き、縄張りに関心。

C 大勢の人間を集める会議を頻繁に開かざるを得ない。
←取締役会等の審議機関以外の会議は全て組織上の欠落を補うためのもの。
理想的な組織は、会議なしに動く組織

D 人の感情や好き嫌いに気を使う。
←このような組織は、だいたいが人員過剰。(←十分な空間があればぶつからない。)

E 調整役や補佐役など実際の仕事をしない人たちを必要とする。
←活動や仕事が細分化されすぎているか、活動や仕事が成果に焦点を合わせることなく、あまりにいろいろなことを期待されているか、活動の種類が貢献の種類や仕事全体の流れではなく職能の種類によって分類されている。

F 組織中が組織構造を気にし、常にどこかで組織改革を行う。
組織改革を手軽に行わない。完全無欠の組織はなく、ある程度の摩擦、不調和、混乱は覚悟しておく。
■33 組織の条件
■33 組織の条件 組織構造の種類
@ 仕事中心:職能別組織とチーム型組織
A 成果中心:分権組織と擬似分権組織
B 関係中心:システム型組織
C 意思決定中心
組織の条件
組織としての条件
@ 明快さ
組織マニュアルの助けなしに、自らの所属や行くべきところ、自らの位置がわからない組織構造は、無用の摩擦、時間の浪費、論争や不満、意思決定の遅れをもたらす。

A 経済性
人を成果に向けて動かすために必要なものは少なければ少ないほど良い。
優れた組織構造は、自らをマネジメントし、自らを動機づけられる組織

B 方向づけの容易さ
人や組織単位の関心を、努力ではなく成果に向けさせなければならない。
成果や業績によって評価される者の数を可能な限り増やさなければならない。

C 理解の容易さ
・ 自らに与えられた仕事を容易にできる。(仕事の具体化、個別化、明確な定義、何をなすべきかがおのずと明らかな仕事)
・ 組織全体の仕事を理解できる。(自らの仕事が組織全体のどこに位置し、逆に全体の仕事が自らの仕事、貢献、努力にとって何を意味しているかを理解できる)
・ 組織内のコミュニケーションを助ける。

D 意思決定の容易さ
・ 正しいレベルで意思決定を行い、実際の仕事に移し、成果に結びつける。
・ 意思決定のプロセスを強化。

E 安定性と適応性
・ 自分の知っている人、自分を知っている人がおり、他の人との関係が定着しているコミュニティが必要。
・ 新しい状況、条件、顔、性格への適応能力。

F 永続性と新陳代謝
・ 明日のリーダーを内部から調達→有能な者が存分に働ける若さのうちにトップマネジメントに近い階層への到達可能性。
・ 継続学習(組織内の人材が仕事を通じて学び、成長していくことを助ける。)
トレードオフとバランス
組織構造に関わる条件は、あらゆる組織に適用され、組織内の3種類の活動に適用
組織内の3種類の活動
@ 今日の仕事を行い、今日の成果に責任を持つ活動。
A 明日に責任を持ち革新する活動。
B 今日と明日の活動に方向付けを行い、ビジョンを与え、とるべき方向を決定するトップマネジメントの活動。

以上の条件のすべてをかなりの程度満足させる必要→
・ トレードオフとバランスが必要
・ いくつかの組織構造を同時に適用する必要→5つの組織構造全てについて内容、要求、限界、適性について理解することが不可欠。
■34 5つの組織構造
■34 5つの組織構造 仕事を組織する方法
仕事を組織する3通りの方法
@ 仕事を段階的に組織(ex.基礎→骨組みと屋根→内部の仕上げ)
A 仕事を技能別に組織(人は動かず、仕事が動く。)
B 仕事自体は動かさず、異なる技能や道具を持つ人たちが1つのチームとして動く。
職能別組織
長所:・明快さ ・安定性
限界:
・ 組織全体の目的を理解し、各人の仕事をそれに結びつけることが難しい。
・ 硬直的であり適応性に欠ける。
・ 明日を担う者を育て、訓練し、テストするにも適していない。
・ 新しいアイデアや新しい方法を受け入れる気風に欠ける。

@ うまくいっているときには高度の経済性
組織化、コミュニケーション、調整、斡旋に時間を割くトップは少なくてよい。

A うまくいかないときは非常な不経済。
・ 規模と複雑さの拡大→組織の細分化→調整役、委員会、会議、問題解決の専門家、など必要とするが、だいたい問題解決に役立たない。
・ 自らの職能の強化を図る→他の職能を犠牲にする。
・ 本当の意思決定ができるのは組織全体のトップのみ。その決定もあらゆるところで間違って解釈される→意思決定は満足に実施されない。
・ マネジメントに適さない人間を作る。(←成果よりも技能に重点を置く。)
職能別組織の適用範囲
現業の仕事に限られる。

イノベーションのための仕事を職能別に組織することは不可能。
←イノベーションも専門能力を必要とするが、それをいつ、どこで必要とし、いかなる程度、量を必要とするかは誰も知らない。
チーム型組織
異なる技能、知識、背景をもつ人、しかも本来異なる分野に属しながら、特定の仕事を果たすためにともに働く人の集まり。
実際にチームを指揮する者は、仕事の段階や要求によって変わっていく。上司も部下もない。
チーム型組織の長所と限界
長所
・ 全員、チーム全体の仕事が何であり、自分の責任が何であるかを知っている。
・ 新しい方法やアイデアも受け入れられ、事態の変化にも容易に適応できる。

限界
・ 明快さや安定性に欠ける。
・ 経済性も悪い。
・ 人間関係、仕事の割当て、会議、コミュニケーションなど内部管理に気を配る必要。
・ 規模の限界(メンバーが多いと有効に働かない。)

トップマネジメントの仕事に関しては唯一の組織構造。
イノベーションのための仕事にも最適。
but
現業の活動については、職能別組織を有効に動かすうえで必要となる補完的な組織構造。

知識組織においては、職能別組織(組織の中の人間の拠点)とチーム(仕事の場)の双方を使い分ける必要。
知識が進む→専門分化→専門分化した知識は、それだけでは何ら用をなさない断片にすぎない。他の人の知識と結合するとき、初めて生産的になる。→高度の知識が成果に結びつくのはチーム型組織において。
連邦分権組織
いくつかの自立した事業部門に分割→各事業部門の業績と組織全体への貢献に責任を持つ。
各事業部門の内部は、職能別組織によって組織。

職能別組織やチーム型組織:仕事からスタート
連邦分権組織:成果からスタート→市場において成果をあげるうえで最適な事業部門をつくる→その内部にいかなる仕事、課題、活動が必要か考える。
連邦分権組織の利点
今日、連邦分権組織が最高の組織構造。
・ 明快かつ経済的。
・ 自らや自らの属する事業部門の課題を容易に理解できる。
・ 高度な安定と適応力。
・ マネジャーの目と力を直接、事業の業績と成果に向けさせる。
・ 間接費によって現実の姿を曖昧にし、売上高によって現実の姿を隠すこともなくなる。
・ 明日を担うマネジャーを育成し、テストできる。
トップの役割
事業部門は、本社のトップマネジメントから独立した自治的な存在。
事業部門のマネジメントの責任
・ 本社のトップマネジメントが本来の仕事をできるようにすること。
・ 市場、製品、潜在力、機会、問題について、トップマネジメントに何を知らせるかを考える。
・ 大幅な自治を与えられているがゆえに、自らが全体の一員であることを自覚する必要。
擬似分権組織
事業でないものを事業であるかのように組織。
分権化した組織単位に可能なかぎり自治権を与え、独自のマネジメントを持たせ、少なくとも擬似的な損益について責任を持たせる。
←事業ごとに分割することが不可能な組織。(ex.化学産業、材料産業)
擬似分権組織の問題点
多くの点で不満足な組織構造。
・ 成果に焦点を合わせることが困難
・ 1人ひとりが自らの仕事の意味を理解することも困難。
・ 組織全体の仕事を理解することも困難。
・ 成果は、組織内部の意思決定(ex.帳簿価格や費用配分の仕方)によって左右される。
擬似分権組織適用の原則
擬似分権組織は最後の手段。
小さい組織→職能別組織とチーム型組織の組合せ。
大きい組織→連邦分権組織
but各部門間の連携が必要でありながら分離して責任を持たせなければならない時、擬似分権組織が有効。
システム型組織の登場
60年代のアメリカの宇宙開発のための組織構造として発展。

ex.チェース・マンハッタン銀行:中規模のしっかりした現地の銀行に若干の出資を行うことにより世界中に事業展開。所有も支配もせずに、それらの銀行を自らのシステムに組み込んでいる。
システム型組織の問題点
厳しい条件が必要。
@ 組織の目的の明確性。「自分たちの事業は何か、何であるべきか」を十二分に検討したときに限り、システム型組織は有効に機能する。
A コミュニケーションについて、組織の構成単位の全てが責任を持つ。
システム全体の基本的な目的、目標、戦略が全員に理解されるよう最大の注意を払う。
あらゆる種類の疑問とアイデアが受けつけられ、注意して聞かれ、重視され、検討され、理解され、結論を出されなければならない。
B 組織の構成単位の全てが、自らの目標以外のことにも責任を持たなければならない。
全構成単位がマネジメントの責任を果たす。
責任を伴う高度の裁量権、イノベーションを行う機会、計画を変更する権限をもつ。
システム全体で何が行われているかを知るために不断の努力をする。
■35 組織構造についての結論
■35 組織構造についての結論 組織構造は道具。道具自身によい悪いはなく、適切に使うか使わないかだけ

単純でありながら現実に合った組織構造を手にするには
@ 重要な成果を生むために必要な基本活動に焦点を合わせる。
A その後、その基本活動を可能な限り単純に組み立てる。
B 重要なのは、組織の目的を常に念頭に置くこと。

組織の健康を判定する基準は、構造の美しさ、明快さ、完全さではなく、成果である。
☆V マネジメントの戦略
☆V マネジメントの戦略 ■36 ドイツ銀行物語
■36 ドイツ銀行物語 トップマネジメントの仕事と組織
ゲオルク・シーメンス
@ ドイツ銀行の活動を分析し、それぞれの活動についてトップマネジメントのメンバーに責任を持たせた。
・ 特定の活動(ex.債券発行の引受け)や関係(ex.投資先との関係)については、それを担当する者が直接かつ最高の責任を持って意思決定を行う。
・ 各地の支店長は、それぞれの地域において、取引先との関係について全責任を負う。
A 役員室の創設
少数の専門スタッフからなる役員室を持ち、トップマネジメントのメンバー全員に他のメンバーの行った意思決定と活動を周知徹底させ、銀行全体の将来ビジョンの素案を作らせ、主な投資すべてについてフォローさせた。
教訓
@ トップマネジメントの課題(←事業全体を見ることができ、事業全体を考えて意思決定できる者のみが果たしうる課題。)
A トップマネジメントは、独自の組織構造を必要とする。
B トップマネジメントには、独自のインプット機関(刺激と情報、思考を供給すべき独自の機関)が必要。
トップマネジメントへの情報
組織に氾濫する情報のほとんどは現業のためのもの。
現在ではなく将来に、部分ではなく全体に関わりをもつ存在→現業と異なるニーズ。

「われわれの事業は何か、何であるべきか」の問いに対しては、現在の目標、組織、課題、情報とは異なる視覚から事業を眺めなくてはならない。
→思考、刺激、疑問、知識、情報を提供すべき機関を必要とする。

最も組織化することが難しいのがトップマネジメントの仕事であるが、それは最も組織することの必要な仕事。
★第8章 トップマネジメント
★第8章 トップマネジメント ■37 トップマネジメントの役割
■37 トップマネジメントの役割 多元的な役割
@ 事業の目的(「我々の事業は何か。何であるべきか。」)を考える。→目標設定、戦略計画の作成、明日のための意思決定という役割が派生。
A 組織全体の規範を定める。(主たる活動分野において、ビジョンと価値基準を設定。)
B 組織をつくりあげ、それを維持する。(明日のための人材、トップマネジメントの育成、組織の精神の創造、組織構造の設計)
C 渉外(顧客、取引先、金融機関、労働組合、政府機関との関係)の役割→環境問題、社会問題、雇用、立法に対する姿勢についての決定や行動が影響を受ける。
D 儀礼的な役割(行事や夕食会への出席など)
E 重大な危機に際して自ら出動する。

「組織の成功と存続に致命的に重要な意味を持ち、かつトップマネジメントだけが行いえる仕事は何か。」の視点。
トップマネジメントの役割の特徴
必要な4種類の性格
@ 考える人
A 行動する人
B 人間的な人
C 表に立つ人
■38 トップマネジメントの構造
■38 トップマネジメントの構造 チームで行うべき仕事
1人ではなくチームによる仕事。

@ その役割が要求するさまざまな体質を1人で合わせ持つのは不可能。
A 1人ではこなしきれない量の仕事。
役割の分担
トップマネジメントの役割の1つひとつを、トップマネジメントのメンバーに直接かつ優先的に割当てる。→チームを装った独裁の危険を防ぐ。

× 事業部グループを担当するトップマネジメントのメンバー。
vs.日常の仕事に忙しすぎ、トップマネジメントとしての貢献ができなくなる。
トップのための組織の条件
@仕事の分析→A各仕事を特定の人に割当て→Bその者が直接かつ全面的に責任を負う。
単純で小規模な企業を除き、トップマネジメントとしての責任を負う者は、トップマネジメント以外の仕事をしてはならない。
チームワーク
チームとして機能するための条件
@ メンバーは、それぞれの担当分野において最終的な決定権を持つ。
A メンバーは、自らの担当以外の分野について意思決定を行なわない。
B メンバーは攻撃しあってはならない。褒めあうこともしない方が良い。
C チーム→キャプテン(リーダー)が必要。
キャプテンは、危機に陥ったときには、他のメンバーの責任を一手に引受ける意欲、能力、権限を持たなくてはならない。(←危機に対しては一貫した命令系統が不可欠。)
D メンバーは、自らの担当分野で意思決定を行なう。butチームとしてのみ判断し得る意思決定(ex.事業の定義、既存の製品ラインの廃止、新たな製品ラインへの進出、巨額の資本支出を伴う決定、主要な人事)は留保する。
E 意思の疎通に精力的に取り組む必要。
←各メンバーが担当する分野で最大限の自立性を持って行動しなければならず、そのような自立性は、自らの考えと行動を周知徹底させている時にのみ許される。
■39 取締役会
■39 取締役会 あらゆる国の取締役会は機能していない。
企業の統治機関である取締役会は、企業の破局に際して、問題の発生を常に最後に知らされる存在。

@ 取締役会は所有者を代表しない。(←先進国の大企業の所有権は、少数の金持ちではなく大衆の手にある。)
⇒メンバーの選出方法が正当性を失う。(有名、取引銀行、顧問弁護士、他の企業のトップ等)
・ 取締役をしている企業に利害関係をもたない。
・ 多くの時間を割くべき理由も無い。
・ 取引関係があるなら、都合の悪い質問もしない。

A 統治機関たり得ない。
(←統治とは常勤の職務。非常勤ではざっと目を通すだけで精一杯。)

B トップマネジメントは意味ある取締役会を望まない。
←意味ある取締役会はトップマネジメントに成果と業績を要求し、それらをあげないトップマネジメントを排除する。(トップマネジメントにとって、束縛、制約、大権の侵害)
完全な社内取締役会なら、取締役会は消滅したと同じ。
社会の要求
トップマネジメントが意味ある取締役会を育てないなら、社会から不適切な取締役会を押しつけられる。
ex.取締役会にあらゆる種類の利害集団、黒人、女性、貧困者等の代表を任命せよとの圧力。but取締役会のメンバーとしては機能しない。
(←彼等の忠誠は、企業に対してではなく、自らの属する集団や階層に対してのもの
取締役会の3つの機能(取締役会が必要とされる3つの理由。)

@ 審査のための機関:トップマネジメントに助言し、忠告し、相談相手となる機関
(トップマネジメントの役に立つだけでなく、危機にあって英知と決断を持って行動する機関。)

A 成果をあげられないトップマネジメントを交替させる機関
トップマネジメント自らが、無能なトップマネジメントを除去できるだけの取締役会をつくらないときは、政府がそれを作るか、乗っ取りが起きる。
(←乗っ取り屋が狙うのは、苦境にある企業ではなく、潜在能力を生かしきっていない企業)

B 渉外のための機関(←企業は諸々の利害当事者と直接接触しなくてはならない。)
株主(彼らは所有者ではなく投資家)、従業員、地域社会、消費者、取引先、流通チャネル
★第9章  マネジメントの戦略
★第9章  マネジメントの戦略 ■40 規模のマネジメント
■40 規模のマネジメント 規模と複雑さ
組織の拡大⇒中身の大部分が外部環境から遠ざかる⇒組織の生命に不可欠な栄養素を供給すべき内部機関が複雑になる
規模と戦略
小さな組織は、大きな組織にはできないことができる。
小さな組織〜小さいだけでなく単純。反応が早く機敏。資源を重点的に投入できる。
産業別、市場別に、「最小規模の限界」と「最大規模の限界」が存在。
規模とは何か
規模の適切さを示す1つの基準:
小企業:社長は中心的な成果に責任を持つ者(中心的な人間は12人〜15人を超えない)が誰かわかる。
中企業:社長は重要な人間全員(中心的な人間は40人〜50人)を識別できない→そのため3〜4人の人間が必要。
大企業:組織図等を見ないと決定的に重要な人間が誰でありどこにいるかがわからない。
小企業のマネジメント
@ 小企業は大企業とは択一的ではなく、補完的な存在。(×小企業は大企業に飲み込まれる。)

A 本社スタッフは必要ないし、込み入った手続きや手法も必要ない。
but大企業以上に組織的かつ体系的なマネジメントを必要とする。

B 際立った存在となるための戦略を必要とし、ニッチを見つけなくてはならない。
←限界的な存在にされる危険が常にある。

実際、ほとんどの小企業は戦略を持たず、機会中心でなく問題中心。→問題に追われて日を送る。→その多くが成功できない。

小企業のマネジメントに必要なこと
@ 常に「我々の事業は何か、何であるべきか」を問い、答える
A トップマネジメントの役割を組織化する。
中企業のマネジメント
多くの点で理想的な規模
@ 大企業と小企業双方の利点に恵まれる。
A 誰もがお互いを知っており、容易に協力できる。(チームワーク)
B 誰もが、自らの仕事が何であり、期待されている貢献が何であるかを知っている。
C 資源は十分ある→基本的な活動を継続することも、卓越性が必要な分野で他に秀でることもできる。
D 規模の経済を手にするだけの大きさもある。
E マネジメントすることが最も容易な規模。

特定の重要な分野においてリーダー的な地位にある企業。
持てる資源の全てをあげて、成功の基盤となっている分野を確保し、そうでない分野では、抑制と禁欲が要求される。
大企業のマネジメント
@ フォーマルな組織構造を適切につくりあげる。
A 組織構造は明快でなければならない。
B 全員が目標、優先順位、戦略を知らなければならない。
C 組織内における自らの位置と、他の人間との関係を知らなければならない。

原則として、成功しても中ぐらいの事業にさえ育ちそうにないものは手を出さない。
←大企業は機動性を欠き、小さな事業に必要な感覚がない。(→まちがった決定を行う。)
but革新を行うには冒険的な事業には手をつけなければならない。
←新しいものは、常に小さなものから始まる。
己を知る
多くの企業は、適切な規模を知らず、また規模にふさわしい戦略や構造についてはさらに知らない。
・ 多くの小企業が、成果と業績に関係のない分野で、費用のかかるスタッフを抱える。
・ 多くの中企業が、あまり意味のない活動、製品、市場に資源を投入。

企業は自らの規模を知ると同時に、その規模が適切か不適切かを知らなければならない。
不適切な規模

×小鉄鋼会社
×大規模出版社
×中規模国内航空

不適切さの徴候
・ 肥大化した分野、活動、機能の存在。
・ 著しい努力や多額の費用も必要としながら、成果をあげられない分野の存在。
不適切な規模への対策
3つの戦略

@ 事業の性格を変え、何らかの特徴を身につける・・実りは大きいが実行困難
(不適切な規模の組織は、存続と繁栄に必要なニッチを持たない企業。)

「成功の見込みはどのくらいか」
「成功は答えになるか、事態を悪化させるだけか、真に永続的な特徴を与えてくれるか」
を問う。

ex.アメリカンモーターズのコンパクトカー発表→利益→butビッグスリーの設計・技術能力・生産設備・ディーラー網に適していた→一時的勝利に終わる

A 合併と買収・・それほど危険でない
規模の不適切さは、合併と買収の検討が必要となる数少ないケース。

量を狙わない(不適切な基盤の上に量を加えることは、さらに問題を求めること。)。
手持ちのものと合わせて完全な全体となるような相手を見つけ出す=逆の理由で規模の不適切さに悩んでいる企業を見つける。

まずは、規模の不適切さの原因を知ることが前提。

B 売却、切り捨て、縮小
マネジメントにとって好ましくない戦略butあらゆる点で最も成功しやすい戦略。
可能なときには常に採用すべき戦略。

リーダー的地位という強固で安定した基盤から多くの分野へ進出した末に規模の不適切さに悩んでいるのであれば、この戦略を採用すべき。

規模の大きさではなくその「適切さ」が成功や成果の指標。
最大規模と最適規模
それ以上大きくなると成果をあげる能力が低下するという「最適規模」が存在。
「最適規模」は「最大規模」よりかなり下にある。
このような企業は自らを分割すべき。
規模と地域社会
規模についての最大の問題は、組織の内部にも、マネジメントの限界にあるのでもない。
最大の問題は、地域社会に比較して大きすぎること。
・ 地域社会との関係で行動の自由が制約されるため、必要な意思決定ができない。
・ 地域社会に対する懸念から、自らとその事業にとって害を与えることが明らかなことを行わなくてはならない。

企業の不適切さは、トップマネジメントの直面する問題のうちもっとも困難。
解決には、勇気、真摯さ、熱意、行動を必要とする。
■41 多角化のマネジメント
■41 多角化のマネジメント 多角化は万能薬ではない
多角化成功の条件
@ 市場
A 技術
B 価値観の一致

多角化していないほどマネジメントしやすい。
単純であれば明快

「何かがうまくいかなくなると、すべてがうまくいかなくなる。しかも同時に。」

マネジメントできなくなる複雑さの限界:
トップマネジメントが現実の姿、そこに働く人、経営環境、顧客、技術を自らの目で見、知り、理解することができなくなり、報告、数字、データなど抽象的なものに依拠するようになったとき、組織は複雑になりすぎている。
多角化の内的な要因

@ 欲求
いかなる組織といえども、柔軟性を保ち、新しいことを試みるべき。さもなくば変化の能力が委縮し、小さな変化さえできなくなる。
集中→過度の専門化→昨日の専門化した組織は消滅の危機に瀕する。

A 規模の不適切さ⇒経済連鎖における後方(原材料方向)への一貫化、又は前方(市場方向)への一貫化。
いずれの一貫化も規模の不適切さへの対策として行われる場合にのみ効果がある
but複雑さの増大と活動の多様化。新しい技術を必要とし、リスクをおかす。
〜収入と費用との不均衡を是正して初めて正当化できる。

B コストセンターの収益化
ex.イギリスのJ.リヨン社のランドリー部門。
多角化の外的な要因

@ 一国の経済規模
国が小さい→企業も小規模→外国資本が現地企業と組む→現地企業の多角化
but経済発展に伴い、このような多角化は姿を消す

A 市場の論理
グローバル企業

B 技術
技術はその本質からして分岐する傾向。
技術が技術を生み、事業の多角化がそれに従う。

C 現代の税制
投資家への資本の還元よりも、事業への再投資を優遇。
(資本の還元は返済とはされず、利益の分配と見なされ課税される。)
⇒余った資本を還元せず、それを使って多角化した方が得。

D 2つの市場の出現
大衆市場としての資本市場と大衆市場としての人材市場が多角化を高く評価。
多角化の調和
適切な多角化:単一市場や単一技術の企業に劣らない業績をもたらす。
不適切な多角化:不適切な事業に特化した単一市場や単一技術の企業なみの業績。

集中→過度の専門化に陥る→多角化との調和が必要。
多角化→分裂と分散に陥る→集中が必要。

多角化を調和させ、一体性を保つための方法
@ 共通の市場のもとに、事業、技術、製品、製品系列、活動を統合。
A 共通の技術のもとに、事業、市場、製品、製品ライン、活動を統合。

@の方が成功しやすい。
共通の市場
市場による統合において注意すべき点:
@ 市場が何であるかを決めるのは、生産者ではなく顧客。
ex.ラジオやレコードプレーヤーのRCAがレンジや冷蔵庫に進出but失敗。
(←顧客である主婦にとって、台所と居間は別の世界。)
A 多角化が成功するのは、戦略(自らの事業に含めるものを明らかにするもの)が有効な場合に限られる。
共通の技術
共通の市場を軸に技術の多角化を図るより困難。
守るべき5つの原則
@ 技術は現実のもの(理論でなく技能)でなければならない。
×通信や輸送といった一般的コンセプト
A 技術は特有の卓越したもの(市場においてリーダーの地位を与えるもの)でなければならない。
B 技術は付随的ではなく中核的でなければならない。
C 戦略がなければならない。
「最善の活用方法は何か」→「製品、サービス、市場に適用するうえで必要となる付随的技術は何か」を明らかにする。
D マーケティングについての知識と戦略が必要。

技術一家は競争上の利点を失いつつある。それらの企業の周辺には、それらの技術の1つのみに集中することによって業績をあげ、市場シェアを高めている企業がいくつもある。
無効な多角化:
@ 共通の市場による多角化と共通の技術による多角化を同時に行うこと。
vs.異なる思考、姿勢、戦略を必要とする。
トップマネジメントを2つに分けるか、一方の軸を軽視する必要。
A 事業は異なる周期をもち、相補うはずとの考え。
vs.下げ幅の大きな下降期においては、同じ反応を示す。
B 資金需要の大きな事業を資金余裕のある事業に組み合わせるための多角化。
vs.成長する企業が長期にわたって資金余裕をもつことはめったにない。
C 業績や成長のためではなく、多角化のための多角化。
D 新事業への進出によって既存事業の弱さを補うという多角化。
vs.今の事業をマネジメントする力がないから、よく知らない別の事業に進出しようとの考えは誤り。
性格の一致
事業、製品、市場、技術が価値的に調和する必要。

ex.製薬会社による化粧品や香水への多角化の失敗。
(←化粧品や香水を心底大事なものと思っていない。)
多角化のマネジメント
多角化のための手段:
@ 自力開発
A 買収
全く異質→それらをともに行う組織はあまりない。→買収がうまくいったことのない企業は買収を考えてはならない。(適切に買収に伴う些細な問題を処理する用意がない。)
自力開発がうまくいかない企業(自己開発に伴う問題を理解できない。イノベーションの能力がない。)

ex.
GM:自力ではほとんど何も開発していない。butうまくいっている企業を買収し、花形事業に育て上げる。
GE:買収ではあまり成果をあげていない。but自力で新しい事業を成功させることでは優れた歴史がある。

不健全な多角化を正すための手段:
@ 分離(←そのままでは資源を消耗し、マネジメントを押しつぶす。)
分離に際して検討すべき問題:
× いくらで売りたいか
○ 誰にとって価値があるか

A 合弁
最も柔軟な手段であり、今後ますます重要になる。
but最も難しい手段であり、最も理解されていない手段。

合弁事業の失敗→2つの親会社の利害も一致(最小の損失で手を引きたい。)する。
合弁事業の成功→親会社間の利害が一致していないことが突如明らかになる。
@ 3組(親会社2社と合弁会社)の目標をあらかじめ明らかにする。
A 意見が対立し、問題が暗礁に乗り上げたときの対処の方策をあらかじめ定めておく。(ex.両者が尊重する第3者をあらかじめ仲裁者に決めておく。)
B 合弁会社に自立性を与える。独立性を保持し、独自の使命、事業、目標、戦略、方針を発展させる。(←合弁の理由は、事業、製品、市場、活動がいずれの親会社の構造にも適していないから。)
C 合弁が成功したとき、親会社のいずれからも分離して独立させる。
←資金を自ら賄える体制でなければ、事業そのものの成長が阻害される。
 ■42 グローバル化のマネジメント
■42 グローバル化のマネジメント 経済と国家主権の分離
国境、文化、イデオロギーを超越するグローバル市場の出現→グローバル企業の増加
国境は、必然性のない制約要因、阻害要因、複雑化要因でしかない。
× 国家が人間組織の自然単位。
× あらゆる組織が、国民国家の統治機関たる政府からその存在の法的基盤と合法性を得なければならない。
グローバル企業と国家
政治と経済の衝突において、いつも負けるのは経済の方。
グローバル企業は、その意思決定が経済の合理性に基づいており、政治的な主権の意思から絶縁しているために問題とされる。
国際的取り決め
緊張関係の解決には、国際的取り決めグローバル企業の非政治化が必要。

途上国にとって、グローバル企業以上に大事なものはない。
←資本、技術、余剰資源たる肉体労働力が生み出す製品のための技能(生産のための技能、マネジメントのための技能、事業のための技能)を移転。

グローバル企業の重要性
・ グローバル経済という新しい現実を反映した存在
資源の最適化の最も有効な機関
 ■43 成長のマネジメント
■43 成長のマネジメント 成長には戦略が必要
成長は、事業の成功によって、自動的にもたらされるものではない。
戦略、準備、なりたいと思うことに焦点を合わせた行動が必要。
成長は不連続→ある段階で自らを変えなくてはならない
成長そのものを目標にするな
あまりに急速な成長は組織を脆弱化し、マネジメントを不可能にする。
緊張、弱点、欠陥をもたらし、ちょっとしたつまずきが致命傷となる。
→今日の成長企業は明日の問題児になる。

目標:
× 大きくなること。
○ よい企業になること
必要な成長とは何か
@ 必要とされる成長の最小点について検討。
←生命を維持できるだけの地位を確保しなければ、限界的な存在になる。
成長:成果の面での成長(×規模)→企業は業績に貢献しない活動を切り捨てることにより成長できる。
A 成長の最適点について検討。
最適点:それ以上成長しようとすると資源の生産性が犠牲になる点。収益性を高めようとすると、リスクが急激に増大する点。
成長は、最適点以下でなくてはならない。
成長への準備
準備ができていなければ、機会は去り、他所へ行く。
成長するには、トップ自らの役割、行動、他者との関係を変える意志と能力をもつ必要。
変化すべき人は、多くの場合功績のあった人たち。
←成功を収めたまさにそのとき、その成功をもたらした行動を捨て、それまでの習慣を捨てるよう要求される。

成長のための準備:
@ 基本活動を明らかにし、それらの活動に取り組むべきトップマネジメント・チームを編成する。
A 変化すべき時を知るため、方針と行動の変化を要求する徴候に注意。
B 心底変化を望んでいるかを正直に判断する。

既存のマネジメントや組織構造では不適切なほど成長したことを教えてくれる徴候:
部下を自慢しながら、どの部下も準備ができていないと感じるようになること。

成長が必要であるとの結論に達しながら、自らの行動を変えることを欲していない→組織を窒息させ、いじけさせ、抑圧することになる→唯一の道は身を引くこと。
 ■44 イノベーション
■44 イノベーション イノベーションの歴史
多くの組織にとって、結果はイノベーションではなく改善にすぎなかった。

・ イノベーションは単独の仕事と考えられていた。
・ マネジメントが進歩した1920年から50年にかけては、技術的にも社会的にも変化の時代ではなかった。
明日のイノベーション
既存のもののためだけでなく、イノベーションのために自らを組織する能力が必要。

イノベーションは、技術用語ではなく、経済用語であり社会用語。
イノベーションたらしめるのは、科学や技術ではなく、経済や社会にもたらす変化
イノベーションが生み出すのは、単なる知識ではなく、新たな価値、富、行動
イノベーションのできない組織は、やがて衰退し、消滅すべく運命づけられる。

イノベーションを行う組織の共通の特徴:
@ イノベーションの意味を知っている。
A イノベーションの力学を知っている。
B イノベーションの戦略を知っている。
C 管理的な目標・基準とは別に、イノベーションのための目標と基準が必要であることを知っている。
D トップマネジメントの果たす役割と姿勢が違う。
E イノベーションのための活動を、管理的な活動のための組織から独立して組織。
イノベーションの意味
イノベーションとは
@ 科学や技術そのものではなく価値
A 組織の中ではなく、組織の外にもたらす変化その尺度は外の世界への影響であり、常に市場に焦点を合わせる。×製品に焦点。
ex.医薬品メーカーは、医療そのものを変える新薬を生み出すことを目指す。研究ではなく、医療の視点からイノベーションを定義

顧客のニーズから出発することこそ、明日の科学、知識、技術の姿を明確にし、発明発見のための体系的な活動を組織するうえで、もっとも直裁な道となる。
イノベーションの力学
需要の増大にかかわらず収益が伸びない→工程、製品、流通チャネル、顧客のニーズを変えるイノベーションが大きな成果を生む。
すでに発生しながら、その経済的な衝撃度がまだ現れていない変化(ex.人口構造の変化、知識の変化、意識の変化、ビジョンの変化、期待の変化)が、イノベーションの機会

世界の動きそのものを変える予測不能なイノベーション:
起業家が何事かを起こそうとして試みるイノベーションであり、真に重要なイノベーション。
それは、ほとんど生起不能に近いところにある。

型にはまらないイノベーションが存在し、それがきわめて重要→常に目を光らせていることが重要。

初めに、確率分布に載る種類のイノベーションに焦点を合わせ、それを利用するための戦略を持つ。
その過程において、例外的に真に偉大な歴史的イノベーションに対する感覚を育て、その種のイノベーションを早く認識し活用する体制をつくっておく。
イノベーションの戦略
「われわれの事業は何か。何であるべきか。」との問いから始まる。

既存事業の戦略:
現在の製品、サービス、市場、流通チャネル、技術、工程は継続するものと仮定。
その指針は、より良くより多くのもの。

イノベーションの戦略:
既存のものはすべて陳腐化すると仮定。
その指針は、より新しくより違ったもの。

古いもの、死につつあるもの、陳腐化したものを計画的かつ体系的に捨てることが、イノベーションの戦略の一歩。
←昨日を捨ててこそ、資源、特に人材と言う貴重な資源を新しいもののために解放できる。

目標を高く設定する。←イノベーションの成功率はせいぜい10%。
イノベーションの目標と基準
既存事業:
「この活動は必要か。なくてもすむか。」→必要→「必要最小限の支援はどれだけか。」

イノベーション:
「これは正しい機会か」→しかり→「この段階において注ぎ込むことのできる最大限の優れた人材と資源はどれだけあるか」

重要なことは、期待するものを検討し、書き表しておくこと。
イノベーションが製品、工程、事業を生み出したとき、それらの期待と比較する。

結果が期待を下回る→「手を引くべきか。どのように手を引くか。」
イノベーションの姿勢
×変化に対する抵抗に焦点をあわせる。
変化が例外でなく規範であり、脅威でなく機会であるという真に革新的な風土の醸成
イノベーションとは、姿勢であり行動である。

トップマネジメントは、アイデアを正面からとりあげることをその職務とする。(優れたアイデアは、常に非現実的。)

@ アイデアを奨励する
A 出てきたアイデアを「実際的、現実的、効果的なものにするには、いかなる形のものにしなければならないか」を問い続ける。

組織全体に継続学習の風土が不可欠。

変化を機会としてとらえたとき、初めて不安は消える。
イノベーションのための組織
既存事業の管理とは切り離して組織。
新しいものを創造する取組み既存のものの面倒を見ることは、同時には行えない。

イノベーションは、機能としてではなく事業として組織する必要。
←伝統的な職能の時系列的な配列(研究→開発→製造→マーケティング)は、イノベーションのための仕事には適用されない。職能別の技能をいつ、いかに使うかは、時間によってではなく状況によって決定される。

新しいことに取り組むことを決定→プロジェクトマネジャーを任命→彼は、始めからあらゆる種類の職能を利用できなければならない。

既存事業:いまいる場所から行こうとする場所へと仕事を組織
イノベーション:行こうとする場所からいましなければならないことへと仕事を組織。
 ■45 マネジメントの正統性
■45 マネジメントの正統性 2つの発展
@ 組織社会(社会の主な課題はすべて組織によって遂行。)
A 知識社会(自らの知識を仕事に適用することによって生計をたてる。)
マネジメントは、この2つの発展の原因であり結果。
テクノクラシーの限界
マネジメントの役割
@ 組織本来の使命を果たすべくマネジメントすること。
A 生産的な仕事を通じて人に成果をあげさせること。
B 社会と個人に生活の質を提供すること。
ABの役割は、テクノクラシーをはるかに超える課題。
結論

企業の役割:
社会のニーズを企業の事業場の機会に転換すること。
市場の個人のニーズ、すなわち消費者と従業員のニーズについて、予期し、識別し、満足させることは、マネジメントの役割。

マネジメントの正当性の根拠は1つしかない:
人の強みを生産的なものにすること。

組織の目的⇒マネジメントの権限の基盤となる正当性。

組織の基礎となる原理は、「個人の強みは社会のためになる」
これが、マネジメントの正当性の根拠であり、マネジメントの権限の基盤となりうる理念的原理。
   ☆W マネジメントのパラダイムが変わった
☆W マネジメントのパラダイムが変わった ●前提とされてきたもの

これまでパラダイムとされてきた前提

組織運営上の問題
@ マネジメントは企業のためのものである。
A 唯一絶対の組織構造がある。
B 唯一絶対の人のマネジメント方法がある。

事業経営上の前提
@ 技術と市場のニーズはワンセットである。
A マネジメントの範囲は法的に規定される。
B マネジメントの対象は国内にかぎられる。
C マネジメントの領域は組織の内部にある。
●マネジメントは企業のためのものか

マネジメントはあらゆる種類の組織にとっての体系であり機関である。
マネジメントの仕方は組織によって違う。
←使命が戦略を定め、戦略が組織を定める。
●唯一絶対の組織構造はあるか

存在し得るのは、それぞれが特有の強みと弱みを持ち、その場面ごとに適用されるべき組織構造。
組織は、ともに働く人たちの生産性を高めるための道具

× 階層の終わり
vs.
あらゆる組織が、最高権威としてのボスを必要とする。
危機に瀕したときに命運を決するのは明確な命令の有無。

組織構造の多様性:
外国為替の管理→完全な集権化が必要。
ハイテク製品の顧客サービスでは分権化を徹底→各顧客担当者の指示に全組織が従う。
ある種の研究開発活動→個々の専門家がそれぞれの役割を果たすという職能別組織
医薬品開発→早い段階で意思決定が必要→最初からチーム型組織がふさわしい→2つの組織構造を同じ研究所の中で併存させる必要。

組織が守るべきいくつかの原則:
@ 透明性
A 最終的意思決定者の存在。
B 権限には責任が伴なう。
C 誰にとっても上司は1人。
D 階層の数は少なくすべき。
←情報の中継点は雑音を倍化しメッセージを半減させる。

個々の人間が、同時にいくつかの組織構造の中で働く。
@ ある仕事のためにはチームの一員として
A ある仕事のためには指揮命令系統の中で
B 自分の組織ではボスだが、他の組織とは提携、少数株式保有、合弁の形で参加。
組織はあくまで道具にすぎない。

今日必要なのは、唯一絶対の組織構造の探求ではなく、それぞれの仕事に合った組織構造の探求であり、発展であり、評価である。
唯一絶対の人のマネジメントの仕方はあるか
マネジメントの仕方は、その対象によって変わるべき。

対象の変化:
働く者は
フルタイムの従業員。組織において誰かの部下。とれたてて能力もなく、言われたことをするだけの存在

パートタイム、派遣社員、アウトソーシング。
知識労働者の増加。
誰よりも詳しいことこそ、知識労働者の知識労働者たるゆえん。

これからは、ボランティアのようにマネジメントすべき。
←有給であっても、彼等は知識という生産手段をもっており、組織を移る力があり、実際に辞めることができる。

ボランティア→報酬を手にしない→仕事そのものから満足を得なければならない。
・ 挑戦の機会。
・ 組織の使命を知り、それを最高のものとして献身。
・ よりよい仕事のための訓練。
・ 成果を理解。

仕事上のパートナーとしてマネジメント→対等の関係。

人について行うべきは、マネジメントすることではなく、リードすること。
その目的は、1人ひとりの人間の強みと知識を生かすこと
技術と市場とニーズはワンセットか

技術と市場のニーズは不可分との前提→企業内研究所
but
今日、自らの産業や企業に最も大きな影響をもたらす技術は、外からもたらされる技術
ex.医薬品メーカーは遺伝子工学、微生物学、分子生物学、エレクトロニクスの技術に頼らざるを得なくなった。

聞いたことのない技術が突然、産業と技術にイノベーションを起こす。
→新しいことを学び、手に入れ、使い、さらにはものの考え方まで変える必要。

あらゆる最終需要がその手段と分離を始めた。
確定的なものはニーズ側(ex.情報入手)であり、ニーズを充足させるための手段は何でもあり得る。(ex.新聞、ラジオ,テレビ、電子メディア、インターネット)

今日の基本的資源:情報
情報は売っても残る→他の資源と異なり、希少性の原理には従わず、潤沢性の原理(大勢が持つほど価値が上がる)に従う。
情報は特定の産業や企業が独占できない。
情報の使い道は1つではない。
使い道のほうも特定の情報にこだわることはない。依存しきることはない。

あらゆる知識が、あらゆる産業にとって重要であり、重大な関わりを持つ。
いかなる財やサービスも、使い道は1つではなく、逆にいかなる使い道も財やサービスに縛られない。

@ 顧客でない人たち(ノンカスタマー)が、顧客以上に重要になった。
ノンカスタマーについての情報を持つ者はまれ。
自分たちにとってのノンカスタマーが、なぜノンカスタマーのままでいるのかを知る者はさらに少ない。
but
変化は常に、ノンカスタマーから起こる

A もはや自らの製品やサービスを中心においてはならない。
中心とすべきは、顧客にとっての価値であり、支出配分における顧客の意思決定
←顧客にとっての価値は、供給者にとっての価値や質と異なる。

B 技術や用途は制約条件にすぎない。
マネジメントの範囲は法的に規定されるか
× マネジメントの範囲は法的に規定される。
vs.系列の存在

× 指揮命令権がマネジメントの基礎との考えによるデュラント(GM)による部品事業部の買収
vs.車種別事業部の賃金上昇→部品事業部に波及→高コスト構造

○ シアーズ・ローバック
供給業者をグループ化し、企画、開発、設計、コスト管理に共同であたる。
提携の象徴としての限度での少数株式保有。
提携の具体的内容は、全て契約による。

○ マークス・アンド・スペンサー
少数株式の保有さえなしに、契約による供給業者の系列化

法的な支配の範囲に限定することなく、経済的なプロセス全体を統合した系列をもつ企業は、25%から30%のコスト削減を実現→産業と市場の支配権を手にする。

従来の系列は、調達側が圧倒的な大きな力を有する。
今日、経済連鎖のコンセプトのもとに、対等な力と独立性を持つ者との間に真のパートナーシップが生まれる。(新技術を持つパートナーは通常小規模。but成功の鍵となる技術を持っているのは彼等の方。)
ex.医薬品メーカーと大学の生物学科。化学品メーカーや医薬品メーカーと遺伝子工学、分子生物学、医療用エレクトロニクスの専門ベンチャー。

マネジメントの範囲は、法的にではなく実体的(企業においては、経済的プロセスの全体)に規定される。
マネジメントの対象は国内に限定されるか

国境を越えて研究開発、設計、エンジニアリング、試験、生産、マーケティングを行うグローバルなシステムとしてマネジメント。
ex.ある大手医薬品メーカーは、研究所を7カ国に有するが、その研究開発部門は本社の研究開発本部長のもとで1つにまとめてマネジメント。
11カ国に工場を有し、世界中でマーケティングと販売。

国はコストセンターであり、経済単位ではなく、制約条件にすぎない。
現実のマネジメントを規定するのは、政治ではなく、経済の実体である。
マネジメントの世界は組織の内部にあるか

起業家精神は、組織の外に始まり、組織の外に焦点を合わせる。

組織の内部に存在するのは努力だけであり、内部で発生するのはコストだけ
成果は組織の外部にしかありえない。
マネジメントは、組織の外部において成果をあげるためのもの。→成果を明らかにし、次にそれを実現するために手にする資源を組織

マネジメントは、組織に成果を挙げさせるための道具、機能、機関であり、成果と仕事にかかわることすべてに責任を負う。