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離婚した父母と子どもとの法的関係(井上武史教授)

離婚した父母と子どもとの法律関係
(夫婦の別れは親子の別れなのか?) 
★1 問題状況  
  離婚後の親子関係をめぐる憲法訴訟
@離婚後の単独親権
A面会交流をめぐる問題
B子の連れ去りの問題
  @面会交流の頻度が少ない⇒親権取得の必要
A監護の継続性の原則

子の取り合いや子の連れ去り
    2020年2月:
フランス上院が「日本人親による連れ去りによってフランス人親とのあらゆる関係を断たれた日仏間の子どもに関する決議」を全会一致で採択
同年7月:
欧州議会が「国境を越えた親による子の連れ去りおよび日本国内での親による欧州人の子の連れ去りに関する決議」が採択
2019年2月:
国連子どもの権利委員会は、日本に対し、離婚後も父母に子の共同養育を認めるよう法改正を勧告。
    日本:
法務省は、24か国を調査した報告書「父母の離婚後の子の養育に関する海外法制について」(2020年)を公表
関係省庁が参加する家族法研究会(公益社団法人商事法務研究会が主催)では、父母の離婚後の子の養育のあり方が幅広く検討されている。
    離婚後に親が子の養育に関わることができないことや、親子交流の頻度が極めて少ないことは、
子の権利に関わる人権問題。
★2 離婚後単独親権の憲法上の問題点  
  ◆(1) 問題の所在
    民法819条
    山口亮子民法教授:
「夫婦間の問題で親が離婚する場合、一方の親が自動的に親権を失い、子に対する権利義務を失うことを法的にどのように正当化できるであろうか」
親子の剥奪が国家によってもたらされる⇒離婚後単独親権は、公法学的・憲法学的にも正当化できるかの検討が必要。
     
  ◆(2) 離婚によってなぜ親権が剥奪されるのか 
    親権剥奪が憲法上許されるといえるためには、
@親権又は親権者が憲法の保護範囲に含まれているか
A含まれているとすれば親権剥奪という国家介入が正当化できるか
が問題。 
    親権:
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
(民法820条)
  ●親の子に対する監護や養育憲法で保護されていると言えるか?
◎  鉛筆1本でも財産権として憲法の保護⇒均衡??
米国:
親が自らの子どもを世話し、監護し、監督する利益が、憲法第14修正に基づく「基本的な自由の利益」にあたるとし、子を養育する親の権利が憲法上の権利として保護されることが確立している。
日本の最高裁:旭川学力テスト事件判決:
「子どもの教育は、その最も始源的かつ基本的な形態としては、親が子との自然的関係に基づいて子に対して行う養育、監護の作用の一環としてあらわれる」

親の子に対する監護や養教育は、憲法以前の関係として当然に保護されるべきものと考えているよう。??
  竹中勲教授:
親が子をもうけたいという自己決定を尊重する観点から、
親による子どもの養教育が公権力によって妨げられないという意味での「親の子どもを養教育する自由」が、憲法13条によって保障されるという見解。

離婚後単独親権では、父母の一方は公権力によって子どもの養教育が妨げられることになる⇒憲法で保護された上記自由が制限されると評価される。
憲法学説:
家族の形成・維持やリプロダクションにかかわる事柄は「個人が自己の人生を築いていくうえで基本的重要性をもつと考える事柄」として憲法13条の自己決定権として保護される。

夫婦関係とならぶ家族の根幹である親子関係にもあてはまる。
     
  ●離婚を理由として、国家が一方の親から親権を剥奪することに合理性が認められるか? 
    民法 第834条(親権喪失の審判) 
父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、
家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる。ただし、二年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、この限りでない。

児童虐待があった場合など、父母に親権者として不適格な行為が認められた場合であり、
その場合でも、親権喪失になるのは、その重大な効果に照らして、子の利益を「著しく害する」ときに限定。
     
    単独親権⇒適格性を有している親の監護・養育を受けられなくなる点で、子の利益にも反する。
山口亮子教授:
単独親権者は、必ずしも子の利益を理解しうる唯一の者であるわけではない⇒子の養育の権利や責任を一方が抱え込むより、双方で分担する方が、子どもが持つ危機感も分散されるであろう。
     
  ◆(3) 離婚後はなぜ父母の一方しか親権者になれないのか・・・なぜ共同親権でないのか? 
    憲法の平等原則⇒離婚後の親子関係法制の設計にあたっては、父母が対等であることが出発点。
  フランス民法:
「両親の離別は、親権行使の帰属に関する準則に影響を及ぼさない」
「父母は各々、子との人格的関係を維持し、他方の親と子との関係を尊重しなければならない」

離婚後も子に対しては父母が対等な地位にあることが原則。
フルシロン教授:
フランス民法では、親権の共同性の原則と男女の平等の原則を確認し尊重して、子の権利の推進の観点から、親権は共同行使を原則とし、単独親権行使を例外的なものとして位置付けた。 
  大村敦志教授「今日において、単独監護・単独親権を積極的に擁護する理由は乏しい。父母の権利・子どもの権利の双方の観点から、立法論としては、共同監護・共同親権を原則とすべきであろう」 
     
★3 面会交流の問題  
  ◆(1) 問題状況 
    父母が面会交流について合意できない場合、裁判所の命じるのはせいぜい月1回数時間が限度。
履行確保の仕組みが不十分⇒親権者である同居親の一方的拒絶によって反故にされることも多い。 
    2019年:
日本は国連子どもの権利委員会から
「非同居親との人格的な関係及び直接の接触を維持するための子どもの権利が定期的に行使できることを確保する」ために必要な措置をとるべきとの勧告を受けた。
     
  ◆(2) 面会交流の権利性 
    諸外国では訪問権と呼ばれ、親の権利として確立している。
フランス:
双方の親との関係を維持することが子の利益に適うという理念が、離婚家庭の子どもの問題に関わる人々の間で広く共有されるようになった。
面会交流権を、親の権利としてだけでなく、子の権利として定める例(ドイツ、韓国)もある。
but
日本の家族法学
「非監護親との面会交流を認めることが子の利益に合致するという前提が、どれほど確立したものなのか、客観的にも論証された前提なのかという点が問題として残されている」
  ●憲法上保護されている別居親と子との面会交流権の権利行使の機会を確保するために必要な措置がとられていないとする立法不作為が問題
東京地裁:
「別居親において、面会交流について人格的な利益を有することを前提としても、その具体的な内容を特定することは困難」としたうえで、「これを憲法13条により保障された権利と解することは困難なもの」とした。
東京高裁:
面会交流の法的性質や権利性自体について議論があり、別居親が面会交流の権利を有していることが明らかであるとは認められない」⇒「別居親の面会交流圏が憲法上の権利として保障されているとはいえない」と判断。
vs.
面会交流権は、実現内容・方法に具体的な形式が必要なだけで、例えば環境権のように具体的に何を求める権利なのかが明確でないというものではない。(櫻井智章教授)
     
  ◆(3) 面会交流権の憲法上の位置づけ 
    竹内勲(憲法学):
親子の面会交流権は親子の親交権の一内容をなすとして、憲法13条で保障される
    二宮周平(民法学説):
面会交流権を憲法13条の個人の尊重および幸福追求権で保護される人格権として構成。

面会交流は子にとっても、非監護親にとっても人格的利益がある。
@子にとっては、親を知ることを通じて、自己のアイデンティティを確立するという人格的利益
A非監護親にとっても、親としてのアイデンティティを確立するという人格的利益
二宮教授:
親権者が拒絶すれば面会交流が実現しない現状
⇒そのような「強力な親権」に対抗するために、「面会交流の権利性を肯定し、子と非監護親の人格的利益を保障するために、監護親が反対しても面会交流を実現する方向」を目指す。

面会交流の権利性の論証に加えて、同権利が国によって実効的に保障されることも課題に。
     
  ◆(4) 欧州人権裁判所の考え方 
    欧州人権裁判所:
面会交流権を「家族生活の尊重を受ける権利」(欧州人権条約8条)に含まれる権利であると認めている。
    欧州人権裁判所:
「父母が葛藤状態にある場合であっても、国は、親と子が再統合するための措置をとらなければならない。この国家の義務は、子が親と合流すること又は親又は親と連絡をとることへの配慮に限定されず、そのような結果に至るための準備的措置に及ぶ。さらに、子と親を再統合する措置が十全になるためには、それらの措置は迅速に実施されなければならない。というのも、時の経過によって、子と非同居親との関係は取り返しのつかない結果になるかもしれないからである。」
「申立人(父)は、2006年以来、息子との接触を試みたが、訪問権(面会交流権)を認めた裁判所の判決にもかかわらず、母親の強い反対によって極めて限られた方法でしか訪問権を行使することができなかった。」「離婚した父母に協力関係がないことは、家族関係を維持するあらゆる手段を講じなければなない国の責任を免除しない。」「国は、申立人の訪問権を実現するために必要かつ十分な努力をしておらず、当事者の家族生活を尊重される権利を侵害している。以上から、欧州人権条約8条違反が認められる。」

@面会交流権の行使のために国は積極的措置を講じる義務を負う
A時の経過が親子関係に取り返しのつかない結果をもたらす⇒国は迅速な措置が求められる
     
  ◆(5) 祖父母の面会交流権 
   
    フランス民法:
「子は、その直系尊属と人格的な関係を維持する権利を有する。子の利益のみが、この権利の行使を妨げることができる」として、祖父母の訪問権を明記。

憲法学者の概説書:
子どもは祖父母を知る権利、とくに祖父母との関係を維持する正当な権利をもっている。
両親と祖父母の不和は、原則として、子どもと祖父母とのあらゆる関係を切断する正当な理由にはならない。 
    欧州人権裁判所:
@「家族生活の尊重を受ける権利」は、親子だけでなく、祖父母と孫との関係にも及ぶ
A国家は面会交流を実施するために必要な措置をとる積極的な義務を負う
ことを確認し、
@祖父母が約12年も孫娘と会えていないこと
A祖父母が関係当局の指示に従って行動してきた
Bそれにもかかわらず祖父母と孫娘との家族関係を再構築する措置が取られてこなかった

国の当局が祖父母と孫娘との家族関係を維持するために適切かつ十分な努力を怠ったことが祖父母らの家族生活の尊重を受ける権利を侵害するとして、条約違反にあたる。
     
★4 おわりに  
     

2019年2月:
国連子どもの権利委員会は、日本に対し、離婚後も父母に子の共同養育を認めるよう法改正を勧告。
2020年2月:
フランス上院が「日本人親による連れ去りによってフランス人親とのあらゆる関係を断たれた日仏間の子どもに関する決議」を全会一致で採択
同年7月:
欧州議会が「国境を越えた親による子の連れ去りおよび日本国内での親による欧州人の子の連れ去りに関する決議」が採択