シンプラル法律事務所
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論点整理(会社法改正関係)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

 会社法制の見直しに関する要綱案(案)
第1部 企業統治の在り方 
  第1部 企業統治の在り方
 第1 取締役会の監督機能             1 監査・監督委員会設置会社制度(仮称)            株式会社の機関設計として,「監査・監督委員会設置会社(仮称)」を新設するものとする。

@監査役会設置会社については、少なくとも2人の社外監査役の選任が義務付けられている(会社法335条)
→社外監査役に加えて社外取締役も選任することの重複感・負担感から、社外取締役の機能の活用という観点からは、必ずしも利用しやすい機関設計となっていない。
A委員会設置会社については、指名委員会及び報酬委員会を置くことへの抵抗感等から、広く利用されるには至っていない。

社外取締役の機能を活用するための方策として、新たな機関設計を認めるもの。
(社外取締役は議決権行使を通じてその監督機能を果たすことにより、経営の監督の実効性が確保される?)
(1) 監査・監督委員会の設置  ■(1) 監査・監督委員会の設置
@ 株式会社は,定款の定めによって,監査・監督委員会を置くことができるものとする(監査・監督委員会を置く株式会社を,以下「監査・監督委員会設置会社」という。)。
A 監査・監督委員会設置会社には,取締役会及び会計監査人を置かなければならないものとする。
B 監査・監督委員会設置会社は,監査役を置いてはならないものとする。
C 委員会設置会社は,監査・監督委員会を置いてはならないものとする。
D 第363条第1項各号に掲げる取締役が監査・監督委員会設置会社の業務を執行するものとする。
●会計監査人が必要

内部統制システムを利用した組織的な監査を行うものとしているところ、内部統制システムの構築に当たって、計算書類の適正性・信頼性確保の観点から会計監査人が重要な役割を果たす。
●C
〜委員会設置会社⇒監査・監督委員会を設けることができない。
監査・監督委員会設置会社⇒指名委員会・監査委員会・報酬委員会を置くこともできない。
but
任意の委員会としてこれらを設けることは可。
(2) 監査・監督委員の選任・解任及び報酬等の決定の手続等 ■(2) 監査・監督委員の選任・解任及び報酬等の決定の手続等
@ 監査・監督委員会の委員(以下「監査・監督委員」という。)である取締役は,それ以外の取締役とは区別して,株主総会の決議によって選任するものとする。
A 取締役は,監査・監督委員会がある場合において,監査・監督委員である取締役の選任に関する議案を株主総会に提出するには,監査・監督委員会の同意を得なければならないものとする。
B 監査・監督委員会は,取締役に対し,監査・監督委員である取締役の選任を株主総会の目的とすること又は監査・監督委員である取締役の選任に関する議案を株主総会に提出することを請求することができるものとする。
C 監査・監督委員である取締役の解任は,株主総会の特別決議によるものとする。
D 各監査・監督委員は,株主総会において,監査・監督委員である取締役の選任若しくは解任又は辞任について意見を述べることができるものとする。
E 監査・監督委員である取締役を辞任した者は,辞任後最初に招集される株主総会に出席して,辞任した旨及びその理由を述べることができるものとする。
F 監査・監督委員である取締役の任期は,選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとするものとし,定款又は株主総会の決議によって,その任期を短縮することはできないものとする。監査・監督委員以外の取締役の任期は,選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとするものとし,定款又は株主総会の決議によって,その任期を短縮することは妨げないものとする。
G 監査・監督委員である取締役の報酬等は,それ以外の取締役の報酬等とは区別して,定款又は株主総会の決議によって定めるものとし,監査・監督委員である取締役の個人別の報酬等について定款の定め又は株主総会の決議がないときは,当該報酬等は,定款又は株主総会の決議によって定められた報酬等の総額の範囲内において,監査・監督委員である取締役の協議によって定めるものとする。また,各監査・監督委員は,株主総会において,監査・監督委員である取締役の報酬等について意見を述べることができるものとする。
(3) 監査・監督委員会の構成 ■(3) 監査・監督委員会の構成
@ 監査・監督委員会は,監査・監督委員3人以上で組織するものとする。
A 監査・監督委員は,取締役でなければならず,かつ,その過半数は,社外取締役でなければならないものとする。
B 監査・監督委員は,監査・監督委員会設置会社若しくはその子会社の業務執行取締役若しくは支配人その他の使用人又は当該子会社の会計参与若しくは執行役を兼ねることができないものとする。
●常勤の監査・監督委員の選定の義務付けはなし

@監査・監督委員会は、監査役のように自ら実査を行うことにより監査を行うものではなく、委員会設置会社における監査委員会と同様、会社の内部統制システムを利用して監査を行うことを、その基本的な機能とする。
A監査・監督委員にも常勤者を要求することは、監査役のように自ら実査を行うことを前提とするようでもあり、監査・監督委員会の基本的な性格付けに反することになる。
●監査・監督委員会が任意に常勤の監査・監督委員会を選定した場合、その理由および当該常勤の監査・監督委員に関する事項を、また、常勤の監査・監督委員を選定していない場合にあっては、その理由を、それぞれ事業報告の記載事項とすることが、法務省令で予定。
(4) 監査・監督委員会の権限 ■(4) 監査・監督委員会の権限
@ 監査・監督委員会は,次に掲げる職務を行うものとする。
ア 取締役及び会計参与の職務の執行の監査及び監査報告の作成
イ 株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容の決定
A 監査・監督委員会が選定する監査・監督委員は,いつでも,取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対し,その職務の執行に関する事項の報告を求め,又は監査・監督委員会設置会社の業務及び財産の状況の調査をすることができるものとする。当該監査・監督委員は,当該報告の徴収又は調査に関する事項についての監査・監督委員会の決議があるときは,これに従わなければならないものとする。
B 監査・監督委員は,取締役による法令違反等があると認めるときは,遅滞なく,その旨を取締役会に報告しなければならないものとする。
C 監査・監督委員は,取締役が株主総会に提出しようとする議案,書類その他法務省令で定めるものについて法令違反等があると認めるときは,その旨を株主総会に報告しなければならないものとする。
D 監査・監督委員は,取締役が法令違反等の行為をする場合等において,当該行為によって当該監査・監督委員会設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは,当該取締役に対し,当該行為をやめることを請求することができるものとする。
E @からDまでに掲げるもののほか,監査・監督委員会及び各監査・監督委員は,それぞれ,委員会設置会社の監査委員会及び各監査委員が有する権限と同様の権限を有するものとする。
F 監査・監督委員会が選定する監査・監督委員は,株主総会において,監査・監督委員である取締役以外の取締役の選任若しくは解任又は辞任について監査・監督委員会の意見を述べることができるものとする。
G 監査・監督委員会が選定する監査・監督委員は,株主総会において,監査・監督委員である取締役以外の取締役の報酬等について監査・監督委員会の意見を述べることができるものとする。
H 取締役(監査・監督委員である取締役を除く。)との利益相反取引について,監査・監督委員会が事前に承認した場合には,取締役の任務懈怠の推定規定(第423条第3項)を適用しないものとする。
●Cは委員会設置会社の監査委員にはなく、監査役につき規定されている権限(会社法384条)。

@委員会設置会社の場合、監査委員は取締役であり、会社提案の株主総会議案の決定は取締役会において行われ(会社法298条4項)、取締役が法令違反等の議案や書類を株主総会に提出しようとするときは、監査委員は当該取締役会等において提出の差止め等をすべきであり、株主総会に報告する必要はない。
but
A監査・監督委員会制度においては、委員会設置会社と比較すると、指名委員会、報酬委員会がなく、取締役会の会社経営者からの独立性が十分ではないことから、取締役会における株主総会提出議案や書類の違法性チェック機能だけでに依存することができず、監査役に倣って、監査監督委員が株主総会へ直接報告する制度を設けることとした。
●FGは、監査・監督委員である取締役以外の取締役の選解任および報酬等について監査・監督委員会としての意見を述べることができるとする。

監査・監督委委員自身の独立性のためではなく、彼ら以外の取締役の選解任や報酬についての意見陳述権を与えるものであり、監査・監督委員以外の取締役の選解任や報酬についても、社外取締役が過半数を占める監査・監督委員会が影響を及ぼし得るよう工夫したもの。
(委員会設置会社における指名委員会や報酬委員会のような決定権までは有しないものの、株主総会における意見陳述権という形を通して、社外取締役が過半数を占める監査・監督委員会が、指名委員会や報酬委員会に準じる機能を有することを期待したもの)
●Hについて

@委員会設置会社の監査委員会には監督機能まではなく監査・監督委員会とは性格が異なる
A推定規定をはずすだけであれば、裁判所による監査委員会判断の信頼性や取締役の任務懈怠の認定に関する判断を信頼できる
B監査・監督委員会制度の利用促進という政策的観点から、監査・監督委員会による事前の承認があった場合に限って、任務懈怠の推定をはずすことにした。
(5) 監査・監督委員会の運営等 ■(5) 監査・監督委員会の運営等
@ 監査・監督委員会は,各監査・監督委員が招集するものとする。
A 監査・監督委員会の決議は,議決に加わることができる監査・監督委員の過半数が出席し,その過半数をもって行うものとする。
B Aの決議について特別の利害関係を有する監査・監督委員は,議決に加わることができないものとする。
C 取締役及び会計参与は,監査・監督委員会の要求があったときは,監査・監督委員会に出席し,監査・監督委員会が求めた事項について説明をしなければならないものとする。
D 監査・監督委員会設置会社においては,第366条第1項ただし書の規定により取締役会を招集する取締役が定められた場合であっても,監査・監督委員会が選定する監査・監督委員は,取締役会を招集することができるものとする。
(注) 上記のほか,監査・監督委員会の運営等について,所要の規定を整備するものとする。
●@〜Bは、委員会設置会社の運営(会社法410条、412条1項、2項)に倣ったもの。
Cは監査役や監査役の調査権に類するもの。
Dは委員会設置会社における委員会が選定した委員による取締役会招集権に倣ったもの。
(6) 監査・監督委員会設置会社の取締役会の権限 ■(6) 監査・監督委員会設置会社の取締役会の権限
@ 監査・監督委員会設置会社の取締役会は,第362条の規定にかかわらず,次に掲げる職務を行うものとする。
ア 次に掲げる事項その他監査・監督委員会設置会社の業務執行の決定
(ア) 経営の基本方針
(イ) 監査・監督委員会の職務の執行のため必要なものとして法務省令で定める事項
(ウ) 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
イ 取締役の職務の執行の監督
ウ 代表取締役の選定及び解職
A 監査・監督委員会設置会社の取締役会は,@ア(ア)から(ウ)までに掲げる事項を決定しなければならないものとする。
B 監査・監督委員会設置会社の取締役会は,取締役(監査・監督委員である取締役を除く。)の中から代表取締役を選定しなければならないものとする。
C 監査・監督委員会設置会社の取締役会は,第362条第4項各号に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができないものとする。
D Cにかかわらず,監査・監督委員会設置会社の取締役の過半数が社外取締役である場合には,当該監査・監督委員会設置会社の取締役会は,その決議によって,重要な業務執行(委員会設置会社において,執行役に決定の委任をすることができないものとされている事項を除く。)の決定を取締役に委任することができるものとする。
E C及びDにかかわらず,監査・監督委員会設置会社は,取締役会の決議によって重要な業務執行(委員会設置会社において,執行役に決定の委任をすることができないものとされている事項を除く。)の全部又は一部の決定を取締役に委任することができる旨を定款で定めることができるものとする。

C監査役設置会社における取締役会から取締役に対する決定の委任が認められる範囲(法362条4項)と同様の範囲で委任が認められる。
D監査・監督委員会設置会社の取締役の過半数が社外取締役である場合につき、Eは定款で定めた場合につき、委員会設置会社において執行役に決定の委任をすることができないものとされている事項を除き、取締役会決議によって重要な業務執行の全部または一部の決定を取締役に委任することができることとする。

委員会設置会社における取締役会決議による執行役への業務執行の委任と同じ範囲の委任を可能としている(代表取締役への代表執行者同様の権限委任を認めることとした)。

@委員以外の取締役の選解任・辞任・報酬につき株主総会における意見陳述権を有する
A監査・監督委員以外の取締役の任期は1年として毎年株主総会のチェックを受ける
B監査・監督委員会制度が理念とするモニタリング・モデルからすると、取締役会はこまごまとしたことを決めるのではなく、業務執行の監督や代表者の選解任等に専念すべき
(7) 監査・監督委員会設置会社の登記 ■(7) 監査・監督委員会設置会社の登記
監査・監督委員会設置会社は,次に掲げる事項を登記しなければならないものとする。
@ 監査・監督委員会設置会社である旨
A 監査・監督委員である取締役及びそれ以外の取締役の氏名
B 取締役のうち社外取締役であるものについて,社外取締役である旨
C (6)Eによる重要な業務執行の決定の取締役への委任についての定
款の定めがあるときは,その旨
●委員会設置会社の登記や特別取締役制度の登記に倣って、監査・監督委員会設置会社の登記を定めるもの。
2 社外取締役及び社外監査役に関する規律              ■ 2 社外取締役及び社外監査役に関する規律
  (前注) 監査役会設置会社(公開会社であり,かつ,大会社であるものに限る。)のうち,金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を提出しなければならない株式会社において,社外取締役が存しない場合には,社外取締役を置くことが相当でない理由を事業報告の内容とするものとする。
●附帯決議として、
「1 社外取締役に関する規律については、これまでの議論及び社外取締役の選任に係る現状等に照らし、現時点における対応として、本要綱案に定めるもののほか、金融商品取引所の規則において、上場会社は取締役である独立役員を一人以上確保するよう努める旨の規律を設ける必要がある
2 1の規律の円滑かつ迅速な制定のための金融商品取引所での手続において、関係各界の真摯な協力がされることを要望する」
●社外取締役の存する上場会社の割合は全体の54.2%。
●「社外取締役を置かない理由」ではなく「社外取締役を置くことが相当でない理由」

イギリスの証券取引所のThe UK Governance Code のように「comply or explain(遵守するか、遵守しないときは説明せよ)」が求められるルールの一種として機能。
●公開会社かつ大会社である監査役設置会社のうち、「金融商品取引法第24条第1項の規定によるその発行する株式について有価証券報告書を提出しなければならない株式会社」

上場会社とは範囲が異なる。
(発行する社債についてのみ有価証券報告書提出義務のある株式会社は、このような事業報告の記載は要求されない)
(1) 社外取締役等の要件における親会社等の関係者等の取扱い  ■(1) 社外取締役等の要件における親会社等の関係者等の取扱い
@ 親会社等の関係者の取扱い
社外取締役の要件に,株式会社の親会社等又はその取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないことを追加するものとする。
社外監査役の要件に,株式会社の親会社等又はその取締役,監査役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないことを追加するものとする。
(注) 本要綱において,「親会社等」とは,株式会社の親会社その他の当該株式会社の経営を支配している者として法務省令で定めるものをいうものとする。
A 兄弟会社の関係者の取扱い
社外取締役及び社外監査役の要件に,それぞれ,株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人でないことを追加するものとする。
(注) 本要綱において,「子会社等」とは,ある者がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該者がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいうものとする。
B 株式会社の関係者の近親者の取扱い
社外取締役の要件に,株式会社の取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は2親等内の親族でないことを追加するものとする。
社外監査役の要件に,株式会社の取締役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は2親等内の親族でないことを追加するものとする。
●親会社関係者は親子会社間の利益相反について実効的な監督を期待できない⇒親会社関係者を社外取締役や社外監査役から除く
●「親会社等」〜親会社でなくても(たとえば、自然人または会社以外の法人等)、親会社同様に議決権を背景として株式会社の経営を支配する者自身またはその関係者は、社外取締役等の要件を満たさないこととした。
●兄弟会社の関係者は、親会社からの独立性が疑われる⇒親会社等からの関係者と同様に取り扱うべき
●社外取締役が経営者を厳しく監督すると、社外取締役の近親者である使用人に厳しく経営者が当たる可能性があるとの指摘もあった。
but
結局「重要な使用人」に限定
●取引関係を原因とする経営者への取引先への影響を無視できないこと、経営者が取引先の選択を通じて重要な取引先の関係者に影響を及ぼすこと等を理由に重要な取引先の関係者でないことを社外性の要件として追加することに賛成する意見が多かった。
vs.
一義的な基準を明確にすることは困難で、法的安定性を損なうおそれがある。
(2) 社外取締役等の要件に係る対象期間の限定 ■(2) 社外取締役等の要件に係る対象期間の限定
@ 社外取締役の要件に係る対象期間についての規律を,次のとおり改めるものとする。
ア その就任の前10年間株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないことを要するものとする。
イ その就任の前10年内のいずれかの時において,株式会社又はその子会社の取締役(業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人であるものを除く。),会計参与又は監査役であったことがあるものにあっては,当該取締役,会計参与又は監査役への就任の前10年間当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないことを要するものとする。
A 社外監査役の要件に係る対象期間についての規律を,次のとおり改めるものとする。
ア その就任の前10年間株式会社又はその子会社の取締役,会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないことを要するものとする。
イ その就任の前10年内のいずれかの時において,株式会社又はその子会社の監査役であったことがあるものにあっては,当該監査役への就任の前10年間当該株式会社又はその子会社の取締役,会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないことを要するものとする。
●対象期間を現行法の無期限から10年に短縮。
●イは、退任後にアの過去要件に該当しない地位につき、10年以上経過した後に社外取締役等になるという、趣旨を損なうような運用を規制
(3) 取締役及び監査役の責任の一部免除 ■ (3) 取締役及び監査役の責任の一部免除
@ 株式会社は,取締役(業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人であるものを除く。),会計参与,監査役又は会計監査人との間で,第427条第1項に定める契約(責任限定契約)を締結することができるものとする。
A 最低責任限度額(第425条第1項)の算定に際して,職務執行の対価として受ける財産上の利益の額に乗ずべき数は,次のアからウまでに掲げる役員等の区分に応じ,当該アからウまでに定める数とするものとする(同項第1号参照)。
ア 代表取締役又は代表執行役 6
イ 代表取締役以外の取締役(業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人であるものに限る。)又は代表執行役以外の執行役 4
ウ 取締役(ア又はイに掲げるものを除く。),会計参与,監査役又は会計監査人 2
B 第911条第3項第25号及び第26号を削除するものとする。
●会社法911条3項25号および26号は、責任限定契約について定款に定めがあり、それが社外取締役または社外監査役に関するものであるときは、取締役のうち社外取締役であるものまたは監査役のうち社外監査役であるものについて、それぞれ、社外取締役である旨、または社外監査役である旨を登記事項として規定。
but
@により、責任限定契約を締結することのできる取締役または監査役は、社外取締役または社外監査役に限定されないことになる。
⇒登記事項としてそれらの事実を公示する必要がなくなった⇒Bは同条3項25号および26号を削除。
  (第1の後注) 株式会社の業務の適正を確保するために必要な体制について,監査を支える体制や監査役による使用人からの情報収集に関する体制に係る規定の充実・具体化を図るとともに,その運用状況の概要を事業報告の内容に追加するものとする。
●株式会社の業務の適正を確保するために必要な体制(内部統制システム)の構築義務をさらに実効的なものにするために、監査を支える体制や監査役による使用人からの情報収集に関する体制に係る会社法施行規則等の規定の充実・具体化を図るとともに、内部統制システムの運用状況の概要を事業報告の内容に追加する会社法施行規則の改正を行う。
●現行法は、その適切な運用を実現することを確保することまでの定めは十分ではなく、内部統制システムの運用状況は事業報告の内容とされていない。
また、使用人から監査役への情報提供等の体制が十分かつ実効的とは言い難い。
第2 会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定   ■第2 会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定  
監査役(監査役会設置会社にあっては,監査役会)は,株主総会に提出
する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容についての決定権を有するものとする。
●現行会社法
会計監査人の選解任・不再任の株主総会議案の決定には監査役の過半数(監査役会)の同意が必要。
監査役(監査役会)は取締役に対しこれらの議案の株主総会への提出請求権を有する(会社法344条)。
会計監査人の報酬は取締役が決定。but監査役の過半数(監査役会)の同意が必要。(法399@A)

委員会設置会社においては、会計監査人の選解任・不再任の株主総会議案の決定権は、監査委員会にある(同法404条2項2号)。
会計監査人の報酬の決定については、監査役(会)と同様、監査委員会には同意見だけがある(法399B)。

報酬については従来通り同意権のみ

@報酬等の決定は、財務にかかわる経営判断と密接に関連。
A現行法において監査役に認められる権限との均衡を考慮
B報酬等の決定に関しては監査役等がその職務として当該同意見を適切に行使することにより会計監査人の独立性を確保することができる
  第3 資金調達の場面における企業統治の在り方        ■第3 資金調達の場面における企業統治の在り方  
 1 支配株主の異動を伴う募集株式の発行等    ■1 支配株主の異動を伴う募集株式の発行等
(1) 公開会社における募集株式の割当て等の特則 ■(1) 公開会社における募集株式の割当て等の特則
@ 公開会社は,募集株式の引受人について,アに掲げる数のイに掲げる数に対する割合が2分の1を超える場合には,第199条第1項第4号の期日(同号の期間を定めた場合にあっては,その期間の初日)の2週間前までに,株主に対し,当該引受人(以下(1)において「特定引受人」という。)の氏名又は名称及び住所,当該特定引受人についてのアに掲げる数その他の法務省令で定める事項を通知しなければならないものとする。ただし,当該特定引受人が当該公開会社の親会社等である場合又は第202条の規定により株主に株式の割当てを受ける権利を与えた場合は,この限りでないものとする。

ア 次に掲げる数の合計数
(ア) 当該引受人がその引き受けた募集株式の株主となった場合に有することとなる議決権の数
(イ) 当該引受人の子会社等が有する議決権の数

イ 当該募集株式の引受人の全員がその引き受けた募集株式の株主となった場合における総株主の議決権の数

A @による通知は,公告をもってこれに代えることができるものとする。

B @にかかわらず,公開会社が@の事項について@の期日の2週間前までに金融商品取引法第4条第1項から第3項までの届出をしている場合その他の株主の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合には,@による通知は,することを要しないものとする。

C 総株主(Cの株主総会において議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の10分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合)以上の議決権を有する株主が@による通知の日又はAの公告の日(Bの場合にあっては,法務省令で定める日)から2週間以内に特定引受人による募集株式の引受けに反対する旨を公開会社に対し通知したときは,当該公開会社は,@の期日の前日までに,株主総会の決議によって,当該特定引受人に対する募集株式の割当て又は当該特定引受人との間の第205条の契約の承認を受けなければならないものとする。ただし,当該公開会社の財産の状況が著しく悪化している場合において,当該公開会社の存立を維持するため緊急の必要があるときは,この限りでないものとする。

D 第309条第1項の規定にかかわらず,Cの株主総会の決議は,議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては,その割合以上)を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合以上)をもって行わなければならないものとする。
●第三者割当による新株発行は、既存株主の会社持分(割合)を低下させてその利益を大きく毀損し得るのにもかかわらず従来の会社法においては、有利発行に該当しない限り、公開会社においては取締役会決議のみによって行うことができた(会社法201条1項、199条3項)
vs.
会社の支配権の決定は経営者ではなく株主が行うべきものであって、会社支配権の移転を生じるような大規模な第三者割当による新株発行は、合併や株主交換に準じるような会社の基礎的変更というべき行為として、株主総会による承認を必要とすべきではないかという批判。
●@引受人がすでに親会社等である場合およびA会社法202条の規定により株主割当てを受ける権利を株主が有している場合は、改めて株主総会決議を要求する必要がない。
●募集株式の公募に際して買取引受けを行う引受証券会社についても本文に関する例外を認めるべきという意見。
vs.
@公募の場合でも、支配権の異動に利用されないことが担保されているとまで言い難い。
A規律の対象を画する議決権割合を過半数と設定すれば、本文の規律が公募の実務を不当に阻害するとはいえない。
●必要性・緊急性が客観的に認められた以上は、取締役会の責任で募集株式の発行を行うことができ、その客観的要件が満たされていたか否かは、株主等により差止訴訟(仮処分)の中で裁判所が判断。
●必要性・緊急性が認められない場合であっても、ほとんどの株主は異論を唱えていない場合は、常に株主総会決議を必要とすることもない。
⇒10分の1以上(定款でより低い要件を定め得る)の議決権を有する株主が反対の通知を行った場合に限り、株主総会決議が必要となる。
but
株主所有の分散した大会社等にいてはかなり重い⇒関係会社や機関投資家等の有力な株主の間に強い反対があるような場合でないと、要件を満たすことは容易ではない(当初は3%の要件が提案)。
●株主総会決議要件は、役員選任決議と同じく、定足数を定款により3分の1未満とすることはできない普通決議としている(会社法309条1項、341条)。

支配株主の異動を伴う募集株式の発行等は、会社の経営を支配する者を決定するという点で、取締役の選任の決議と類似する面がある。
●試案のパブリックコメントでは、決議要件を特別決議をすべきという意見もあった
(←特定引受人が議決権の3分の2以上を取得するような募集株式の発行であれば、当該特定引受人は定款変更や組織再編等を自らの議決権だけで決定できることになり、会社の基礎的変更をもたらし得る)
(要綱案が一律に普通決議と定めたkとについては、会社の資金調達が少数派株主の反対によって制約されることはそもそも望ましくないという理由もあるのではないかという指摘。)
(2) 公開会社における募集新株予約権の割当て等の特則 ■(2) 公開会社における募集新株予約権の割当て等の特則
@ 公開会社は,募集新株予約権の割当てを受けた申込者又は第244条第1項の契約により募集新株予約権の総数を引き受けた者(以下@において「引受人」という。)について,アに掲げる数のイに掲げる数に対する割合が2分の1を超える場合には,割当日の2週間前までに,株主に対し,当該引受人(以下(2)において「特定引受人」という。)の氏名又は名称及び住所,当該特定引受人についてのアに掲げる数その他の法務省令で定める事項を通知しなければならないものとする。ただし,当該特定引受人が当該公開会社の親会社等である場合又は第241条の規定により株主に新株予約権の割当てを受ける権利を与えた場合は,この限りでないものとする。

ア 次に掲げる数の合計数
(ア) 当該引受人がその引き受けた募集新株予約権に係る交付株式の株主となった場合に有することとなる議決権の数のうち最も多い数

(イ) 当該引受人の子会社等が有する議決権の数

イ ア(ア)の場合における総株主の議決権の数のうち最も多い数

A @の「交付株式」とは,募集新株予約権の目的である株式,募集新株予約権の内容として第236条第1項第7号ニに掲げる事項についての定めがある場合における同号ニの株式その他募集新株予約権の新株予約権者が交付を受ける株式として法務省令で定める株式をいうものとする。

B @による通知は,公告をもってこれに代えることができるものとする。

C @にかかわらず,公開会社が@の事項について割当日の2週間前までに金融商品取引法第4条第1項から第3項までの届出をしている場合その他の株主の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合には,@による通知は,することを要しないものとする。

D 総株主(Dの株主総会において議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の10分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合)以上の議決権を有する株主が@による通知の日又はBの公告の日(Cの場合にあっては,法務省令で定める日)から2週間以内に特定引受人による募集新株予約権の引受けに反対する旨を公開会社に対し通知したときは,当該公開会社は,割当日の前日までに,株主総会の決議によって,当該特定引受人に対する募集新株予約権の割当て又は当該特定引受人との間の第244条第1項の契約の承認を受けなければならないものとする。ただし,当該公開会社の財産の状況が著しく悪化している場合において,当該公開会社の存立を維持するため緊急の必要があるときは,この限りでないものとする。

E 第309条第1項の規定にかかわらず,Dの株主総会の決議は,議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては,その割合以上)を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合以上)をもって行わなければならないものとする。
募集新株予約権の割当て等に関し、募集株式の発行等に関するのと同様の定め。

募集新株予約権の割当てによっても、募集株式の発行等の場合と同様に、支配株主の異動の問題が生じる。
●取得請求権付株式や取得条件付株式についても、その発行の結果、支配株主の異動の可能性が生じ得る。
but
その発行のためには定款の定めを要し、株主総会の特別決議を要する(会社法107条2項2号・3号、108条2項5号・6号、466条、309条2項11号)、募集株式の発行等に関する規律の潜脱には利用されにくい。

募集株式の発行等に関する規律の対象とはしなかった。
●交付を受ける株式を「交付株式」という概念で表しており、たとえば、募集新株予約権に株式を対価とする取得条項が付されている場合には、新株予約権の行使によって交付されている株式のほかに、取得条項による取得の対価として交付される株式も交付株式に該当。

交付株式が複数存在することになり、その複数の交付株式が交付された場合を想定して、その結果、引受人が有することとなる議決権の最大数を分子とすることになる。
この他、募集新株予約権に新株予約権を対価とする取得条項がふされている場合や、交付株式の数が算定方式により定められている場合等

「交付株式」につき、法務省令で定めることにしている。
●分母については、当該問題となる特定引受人自身に係る交付株式のみを計算に入れ、他の引受人に係る交付株式は、計算に入れないことにしている。

他の引受人が新株引受権を行使しない可能性がある。
2 仮装払込みによる募集株式の発行等  ■2 仮装払込みによる募集株式の発行等
@ 募集株式の引受人は,次のア又はイに掲げる場合には,株式会社に対し,当該ア又はイに定める行為をしなければならないものとする。
ア 募集株式の払込金額の払込みを仮装した場合 払込みを仮装した払込金額の全額の支払
イ 現物出資財産の給付を仮装した場合 当該現物出資財産の給付(株式会社が当該給付に代えて当該現物出資財産の価額に相当する金銭の支払を請求した場合にあっては,当該金銭の全額の支払)

(注) @の義務は,第847条第1項の責任追及等の訴えの対象とするものとする。

A @により募集株式の引受人の負う義務は,総株主の同意がなければ,免除することができないものとする。

B @ア又はイに掲げる場合には,出資の履行を仮装することに関与した取締役(委員会設置会社にあっては,執行役を含む。)として法務省令で定める者は,株式会社に対し,@アの払込金額又は同イの金銭の全額に相当する金額を支払う義務を負うものとする。ただし,その者(当該出資の履行を仮装したものを除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は,この限りでないものとする。

C 募集株式の引受人は,@ア又はイに掲げる場合には,@の支払若しくは給付又はBによる支払がされた後でなければ,出資の履行を仮装した募集株式について,株主の権利を行使することができないものとする。

D Cの募集株式を譲り受けた者は,当該募集株式についての株主の権利を行使することができるものとする。ただし,その者に悪意又は重大な過失があるときは,この限りでないものとする。

(注) 発起人が設立時発行株式についての出資の履行を仮装した場合,設立時募集株式の引受人が払込金額の払込みを仮装した場合並びに募集新株予約権の払込金額の払込み(当該払込みに代えてする金銭以外の財産の給付を含む。)が仮装された場合及び新株予約権の行使に際してする金銭の払込み又は金銭以外の財産の給付が仮装された場合についても,同様の規律を設けるものとする。
●募集株式の発行等において、払込みを仮装して株式を発行するいわゆるう見せ金による払込みの問題につき手当したもの。
●最近では、平成17年会社法が払込金保管証明の制度を発起設立や新株発行の場合に廃止したことを利用して(会社法64条、商業登記法47条2項5号、56条2号参照)、会社が経営者の関係者等に第三者割当による新株発行を行い、新株の払込金を会社の銀行口座に入金したという預金通帳の写し等により増資の登記を行い、その旨をTDnetにより公表すると、ただちに入金した払込金を引き出し、当該新株を市場で売却して利益を得るといった、不公正ファイナンスの事件が連続していた。
●判例(最高裁昭和38.12.6、H3.2.28)は、見せ金によっては実質的に会社の資金が確保されたとはいえない⇒払込みとしての効力を否定。
●払込みとしての効力否定⇒募集株式の発行等の場合、当該引受人は、払込期日または払込期間経過後は、新株引受権を失権(会社法208条5項)⇒新株につき払込みをなす義務も消滅。

@新株発行が無効とされたり、不存在(弥生)
⇒発行された新株の株式取引の安全を害するおそれがあるし、増資の登記が無効となること等により、それを信じた会社債権者が害されるおそれもある。

A募集株式の発行は有効(江頭)
⇒現行会社法上は、引受人の失権により新株につき払込義務を負う者がいなくなるため、会社に新株の資金は確保されず、増資の登記を信頼した債権者が害される恐れ。
発行済株式数の増加だけが生じて、そもそも誰が新株の株主なのかという問題が生じるほか、希釈化により他の株主を害するおそれ。
3 新株予約権無償割当てに関する割当通知  ■3 新株予約権無償割当てに関する割当通知 
株式会社は,第278条第1項第3号の日後遅滞なく,かつ,同項第1号の新株予約権についての第236条第1項第4号の期間の末日の2週間前までに,株主(種類株式発行会社にあっては,第278条第1項第4号の種類の種類株主)及びその登録株式質権者に対し,当該株主が割当てを受けた新株予約権の内容及び数(第278条第1項第2号に規定する場合にあっては,当該株主が割当てを受けた社債の種類及び各社債の金額の合計額を含む。)を通知しなければならないものとする。
 第2部 親子会社に関する規律
 第1 親会社株主の保護等     ■第1 親会社株主の保護等
1 多重代表訴訟 ■1 多重代表訴訟
@ 株式会社の最終完全親会社の総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は当該最終完全親会社の発行済株式の100分の1以上の数の株式を有する株主は,当該株式会社に対し,発起人,設立時取締役,設立時監査役,取締役,会計参与,監査役,執行役,会計監査人又は清算人(以下「取締役等」という。)の責任を追及する訴えの提起を請求することができるものとする。ただし,次に掲げる場合は,この限りでないものとする。

ア 当該訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社若しくは当該最終完全親会社に損害を加えることを目的とする場合
イ 当該訴えに係る責任の原因となった事実によって当該最終完全親会社に損害が生じていない場合

A @の最終完全親会社とは,株式会社の完全親法人である株式会社であって,その完全親法人(株式会社であるものに限る。)がないものをいうものとする。
(注) 完全親法人には,株式会社の発行済株式の全部を直接有する法人のみならず,これを間接的に有する法人も含まれるものとする。

B 最終完全親会社が公開会社である場合には,@による請求をすることができる当該最終完全親会社の株主は,6か月前から引き続き@に定める割合以上の当該最終完全親会社の議決権又は株式を有するものに限るものとする。

C 株式会社の取締役等の責任は,その原因となった事実が生じた日において,当該株式会社の最終完全親会社が有する当該株式会社の株式の帳簿価額(当該最終完全親会社の完全子法人が有する当該株式会社の株式の帳簿価額を含む。)が当該最終完全親会社の総資産額の5分の1を超える場合に限り,@による請求の対象とすることができるものとする。
(注) 完全子法人には,最終完全親会社がその株式又は持分の全部を直接有する法人のみならず,これを間接的に有する法人も含まれるものとする。

D 株式会社が@による請求の日から60日以内に@の訴えを提起しないときは,当該請求をしたその最終完全親会社の株主は,当該株式会社のために,@の訴えを提起することができるものとする。

E 株式会社に最終完全親会社がある場合には,当該株式会社の取締役等の責任(@による請求の対象とすることができるものに限る。)は,当該最終完全親会社の総株主の同意がなければ,免除することができないものとする。

(注) 株式会社に最終完全親会社がある場合における当該株式会社の取締役等の責任(@による請求の対象とすることができるものに限る。)の一部免除に関する規律(第425条等参照)についても,所要の規定を整備するものとする。

F 株式会社に最終完全親会社がある場合には,当該株式会社又はその株主のほか,当該最終完全親会社の株主は,共同訴訟人として,又は当事者の一方を補助するため,@の訴えに係る訴訟に参加することができるものとし,また,当該最終完全親会社は,当事者の一方を補助するため,当該訴訟に参加することができるものとする。また,その機会を確保するため,次のような仕組みを設けるものとする。

ア 株式会社の最終完全親会社の株主は,@の訴えを提起したときは,遅滞なく,当該株式会社に対し,訴訟告知をしなければならないものとする。
株式会社は,@の訴えを提起したとき,又はアの訴訟告知を受けたときは,遅滞なく,その旨をその最終完全親会社に通知しなければならないものとする。
ウ イによる通知を受けた最終完全親会社は,遅滞なく,その旨を公告し,又は当該最終完全親会社の株主に通知しなければならないものとする。

(注) 上記のほか,不提訴理由通知,担保提供,和解,費用等の請求,再審の訴え等の訴訟手続等に係る事項について,所要の規定を整備するものとする。

(1の後注) 株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制(第362条第4項第6号等)の内容に,当該株式会社及びその子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制が含まれる旨を会社法に定めるものとする。
●企業結合について従来の問題関心の中心は、親会社が、子会社と不公正取引条件で取引をする等、子会社を搾取するようなことから、子会社の少数株主や債権者を保護すること。
●最近は、親会社(持株会社)株主の子会社からの保護。

@平成9年独占禁止法改正による持株会社の解禁、A平成11年商法改正による株式交換・株式移転制度の創設の結果、持株会社が急速広まった中で、持株会社グループの業務や経営の中心が子会社にあり、持ち株会社による子会社の経営の監督が効いていない例が多いのではないかという問題。
(完全子会社などでは、実質的に株主がいるのは持株会社のほうだけ))
●@100分の1という、最も低い数字の少数株主権。
●A
最終完全親会社:親子会社関係の頂点に立つ完全親会社
最終完全親会社の株主に限定

子会社に少数株主が存在する場合、当該少数株主に、子会社の取締役等の責任の追及を委ねることができる。
●「1の後注」は、現行法上は、会社法362条4項6号に基づく会社法施行規則100条1項5号、および会社法416条1項1号ホに基づく会社法施行規則112条2項5号において定められている、株式会社およびその子会社から成る企業集団においえる業務の適正を確保するための体制の整備が当該株式会社の取締役会の職務に含まれることを、会社法本体に定めることとしている。
2 株式会社が株式交換等をした場合における株主代表訴訟 ■2 株式会社が株式交換等をした場合における株主代表訴訟
@ 株主は,株式会社の株主でなくなった場合であっても,次に掲げるときは,第847条第1項の責任追及等の訴えの提起を請求することができるものとする。
ア 当該株式会社の株式交換又は株式移転により当該株式会社の完全親会社の株式を取得し,引き続き当該株式を有するとき。
イ 当該株式会社が吸収合併により消滅する会社となる吸収合併により,吸収合併後存続する株式会社の完全親会社の株式を取得し,引き続き当該株式を有するとき。

A @による請求は,次に掲げる株式会社(以下「株式交換完全子会社等」という。)に対して行うものとする。
ア @アの株式交換又は株式移転の場合 株式交換完全子会社又は株式移転完全子会社
イ @イの吸収合併の場合 吸収合併存続株式会社

B @アの株式交換若しくは株式移転又は同イの吸収合併(以下「株式交換等」という。)の効力が生じた日において株式会社が公開会社である場合にあっては,@による請求をすることができる@の株主は,当該日の6か月前から当該日まで当該株式会社の株式を有するものに限るものとする。

C @による請求は,株式交換等がその効力を生じた時までにその原因となった事実が生じたものに係る責任追及等の訴えに限り,その対象とすることができるものとする。

D 株式交換完全子会社等が@による請求の日から60日以内に@の責任追及等の訴えを提起しないときは,当該請求をした@の株主は,当該株式交換完全子会社等のために,当該訴えを提起することができるものとする。

E @の株主がある場合には,@による請求の対象とすることができる責任(その免除について総株主の同意が必要とされているものに限る。)は,株式交換完全子会社等の総株主の同意に加えて,@の株主の全員の同意がなければ,免除することができないものとする。

F @の株主は,共同訴訟人として,又は当事者の一方を補助するため,@の責任追及等の訴えに係る訴訟に参加することができるものとし,また,@ア及びイの完全親会社は,当事者の一方を補助するため,当該訴訟に参加することができるものとする。

(注) 上記のほか,不提訴理由通知,担保提供,訴訟告知(Fによる参加の機会を確保するための仕組みを含む。),和解,費用等の請求,再審の訴え等の訴訟手続等に係る事項について,所要の規定を整備するものとする。
●株式交換等により株主資格を失った者の株主代表訴訟提訴資格を例外的に認容する会社法851条の定めを拡張することを認めたもの。
●会社法851条は、株主代表訴訟を提起または訴訟参加した株主が、代表訴訟係属中に株式交換・株式移転・合併により被告取締役等の会社の株主資格を喪失しても、これらの会社の行為の結果、完全親会社の株式や新設合併会社や合併存続会社の株式を取得した場合には、当該代表訴訟を継続して遂行することができることを規定。

要綱案では、株式交換等が効力を生じる以前に原因たる事実が生じた責任に係る株主代表訴訟であれば、株式交換等の効力発生以前に提訴していない場合であっても、株式交換等によって株主資格を失った者が、株式交換等により完全親会社の株式を取得し所有し続けているときは、株主代表訴訟を提起できるよう、提訴資格を拡張。
●理論上、新設会社や存続会社は合併とうい包括承継によって消滅会社の当該取締役に対する請求権も承継しているのであり、新設会社(存続会社)株主となった元の消滅会社株主は、消滅会社株主と同等に扱われ、原告適格を失わない。
3 親会社による子会社の株式等の譲渡 ■3 親会社による子会社の株式等の譲渡
株式会社は,その子会社の株式又は持分の全部又は一部の譲渡をする場合であって,次のいずれにも該当しないときは,当該譲渡がその効力を生ずる日(以下3において「効力発生日」という。)の前日までに,株主総会の特別決議によって,当該譲渡に係る契約の承認を受けなければならないものとする。

@ 当該譲渡により譲り渡す株式又は持分の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の5分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合)を超えないとき。

A 当該株式会社が,効力発生日に,当該子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有するとき。

(注) 本文の場合には,上記のほか,事業譲渡等に関する規律(第467条から第470条まで)の適用があるものとする。

(第1の後注) 子会社少数株主の保護の観点から,個別注記表等に表示された親会社等との利益相反取引に関し,株式会社の利益を害さないように留意した事項,当該取引が株式会社の利益を害さないかどうかについての取締役(会)の判断及びその理由等を事業報告の内容とし,これらについての意見を監査役(会)等の監査報告の内容とするものとする。
●親会社が、子会社の株式または持分の全部又は一部を譲渡することにより、当該子会社の議決権の総数の過半数の保有を失い、当該子会社の事業に対する支配を失う場合、事業譲渡と実質的に異ならない影響が親会社に及ぶ。

親会社の株主総会の特別決議による当該譲渡に係る契約の承認を必要とするほか、反対株主の株式買取請求権制度、略式事業譲渡等、事業譲渡等に関する規律(会社法467条〜470条)の適用があるとした。
簡易事業譲渡の場合に準じ、譲渡する株式または持分の帳簿価額が当該株式会社の総資産額の5分の1を超えないときは、株主総会による承認は不要。
●親子会社間の利益相反取引は、定型的に子会社に不利益を及ぼすおそれがあると考えられることから、子会社少数株主の保護のための法的規律を充実させ、子会社に対する合理的な投資インセンティブを確保するとうい観点からの議論。
第2 キャッシュ・アウト      ■第2 キャッシュ・アウト 
 1 特別支配株主の株式等売渡請求     ■1 特別支配株主の株式等売渡請求
規定 会社法 第171条(全部取得条項付種類株式の取得に関する決定)
全部取得条項付種類株式(第百八条第一項第七号に掲げる事項についての定めがある種類の株式をいう。以下この款において同じ。)を発行した種類株式発行会社は、株主総会の決議によって、全部取得条項付種類株式の全部を取得することができる。この場合においては、当該株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 全部取得条項付種類株式を取得するのと引換えに金銭等を交付するときは、当該金銭等(以下この条において「取得対価」という。)についての次に掲げる事項
イ 当該取得対価が当該株式会社の株式であるときは、当該株式の種類及び種類ごとの数又はその数の算定方法
ロ 当該取得対価が当該株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
ハ 当該取得対価が当該株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
ニ 当該取得対価が当該株式会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのロに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのハに規定する事項
ホ 当該取得対価が当該株式会社の株式等以外の財産であるときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
二 前号に規定する場合には、全部取得条項付種類株式の株主に対する取得対価の割当てに関する事項
三 株式会社が全部取得条項付種類株式を取得する日(以下この款において「取得日」という。)
会社法 第309条(株主総会の決議)
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
三 第百七十一条第一項及び第百七十五条第一項の株主総会
会社法 第108条(異なる種類の株式)
2 株式会社は、次の各号に掲げる事項について内容の異なる二以上の種類の株式を発行する場合には、当該各号に定める事項及び発行可能種類株式総数を定款で定めなければならない。

七 当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること 次に掲げる事項
イ 第百七十一条第一項第一号に規定する取得対価の価額の決定の方法
ロ 当該株主総会の決議をすることができるか否かについての条件を定めるときは、その条件
会社法 第466条 
株式会社は、その成立後、株主総会の決議によって、定款を変更することができる。
会社法 第309条(株主総会の決議)
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
十一 第六章から第八章までの規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会
十二 第五編の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会
会社法 第783条(吸収合併契約等の承認等)
消滅株式会社等は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約等の承認を受けなければならない。
会社法 第784条(吸収合併契約等の承認を要しない場合)
前条第一項の規定は、吸収合併存続会社、吸収分割承継会社又は株式交換完全親会社(以下この目において「存続会社等」という。)が消滅株式会社等の特別支配会社である場合には、適用しない。ただし、吸収合併又は株式交換における合併対価等の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合であって、消滅株式会社等が公開会社であり、かつ、種類株式発行会社でないときは、この限りでない。
会社法 第468条(事業譲渡等の承認を要しない場合)
前条の規定は、同条第一項第一号から第四号までに掲げる行為(以下この章において「事業譲渡等」という。)に係る契約の相手方が当該事業譲渡等をする株式会社の特別支配会社(ある株式会社の総株主の議決権の十分の九(これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)以上を他の会社及び当該他の会社が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人が有している場合における当該他の会社をいう。以下同じ。)である場合には、適用しない。
会社法 第831条(株主総会等の決議の取消しの訴え)
次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより取締役、監査役又は清算人(当該決議が株主総会又は種類株主総会の決議である場合にあっては第三百四十六条第一項(第四百七十九条第四項において準用する場合を含む。)の規定により取締役、監査役又は清算人としての権利義務を有する者を含み、当該決議が創立総会又は種類創立総会の決議である場合にあっては設立時取締役又は設立時監査役を含む。)となる者も、同様とする。
一 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。
二 株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき。
三 株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき
●解説   ●現金を対価とする少数株主の締出しは、@長期的な視野に立った柔軟な経営の実現、株主総会に係る手続を省略できることによる意思決定の迅速化、株主管理コストや株主総会等に係るコストの削減等を実現すること等に意義。
but
締め出される少数株主の利益も図る必要。
●現行法上、キャッシュ・アウトを行う手法として最も用いられるのは、税制上の理由から、
@株式を対価とする全部取得条項付種類株式の取得により少数株主の有する株式を端数株式とした後、
A端数の処理により当該端数株式の売却代金を少数株主に交付するという手法。

常にキャッシュ・アウトの対象となる株式を発行している会社(対象会社)の株主総会の特別決議が必要。(会社法171条1項、309条2項3号)。
特に、事後的な定款変更により全部取得条項付種類株式とした上でキャッシュ・アウトを行う場合、定款変更のための株主総会の特別決議も必要(会社法108条2項7号、466条、309条2項11号)。 
●産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法21条の3により、既に認定事業者が認定計画に従って株式を買い集め、対象会社の総株主の議決権の90%以上を保有するに至った場合に、一定の要件の下、定款変更の株主総会決議や種類株主総会決議や全部取得条項付種類株式の取得にかかる株主総会決議を不要にしている。
but
産業政策的見地から経済産業大臣による認定を得たことを理由に、株主の利益を守るための株主総会を不要とすることは、疑問。
●それ以外の手法として、金銭を対価とする組織再編もあり得る。
その場合も、原則として対象会社の株主総会の特別決議を要する(同法783条1項、309条2項12号)、キャッシュ・アウトを行う株主が対象会社の総株主の議決権の10分お9以上を有していれば、略式組織再編の手続により、対象会社における株主総会の決議を要せずにキャッシュ・アウトを行うことができる(同法784条1項)。
●原則として株主総会の特別決議がないとキャッシュ・アウトが行えないとすると、キャッシュ・アウトの完了までに長い間がかかり、手続的コストも大きい。

キャッシュ・アウトに先行して公開買付けが行われる多くの場合に、そのような長時間かかるキャッシュ・アウト手続せは公開買付けに応じない株主が不安定な立場に立たされ、公開買付けに心ならずも応じざるを得なくなる可能性が高まるという指摘。
●以上のような現行法のキャッシュ・アウト手続の問題を解消するため、会社法468条1項が定めるのとほぼ同様に、対象会社の総株主の議決権の10分の9以上を有する株主(当該株主の完全子会社等の保有分を含めて算出するが、これを上回る割合を定款で定めることがでこる。このような株主を「特別支配株主」と呼ぶ)が、対象会社の株主総会決議を要することなく、キャッシュ・アウトを行うことができる新たな手続として、特別支配株主による株式売渡請求の制度を創設。
(株主総会決議が必要とされれば、承認決議がとk部悦利害関係を有する多数派株主による著しく不当な決議とされて(会社法831条3号)、決議を取消され得るという意味はあった。)
●特別支配株主による株式売渡制度の創設は、そのような株主総会決議取消訴訟という形で少数株主がキャッシュ・アウトを争う可能性をなくしたことに意義がある。

キャッシュ・アウトすることの目的の会社法的見地からみての妥当性が問われなくなる。
●その代わりの少数株主保護の制度として、差止請求や売渡株式の取得の無効の訴えの制度を設けることにしている。
●本制度が立法化されても、全部取得条項付種類株式や略式組織再編等、他の手法によるキャッシュ・アウトに変更をもたらすものではなく、税制上の理由等から、全部取得条項付種類株式等の手法が今後とも使い続けられる可能性はある。
(1) 株式等売渡請求の内容 ■(1) 株式等売渡請求の内容
@ 株式会社の特別支配株主は,当該株式会社の株主(当該株式会社及び当該特別支配株主を除く。)の全員に対し,その有する当該株式会社の株式の全部を当該特別支配株主に売り渡すことを請求することができるものとする。

(注) 本要綱において,「特別支配株主」とは,ある株式会社の総株主の議決権の10分の9(これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては,その割合)以上をある者及び当該者が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人(以下「特別支配株主完全子法人」という。)が有している場合における当該者をいうものとする。

A 特別支配株主は,@による請求(以下「株式売渡請求」という。)をするときは,併せて,@の株式会社(以下「対象会社」という。)の新株予約権の新株予約権者(対象会社及び当該特別支配株主を除く。)の全員に対し,その有する対象会社の新株予約権の全部を当該特別支配株主に売り渡すことを請求することができるものとする。

B 特別支配株主は,新株予約権付社債に付された新株予約権について新株予約権売渡請求(Aによる請求をいう。以下同じ。)をするときは,併せて,新株予約権付社債についての社債の全部を当該特別支配株主に売り渡すことを請求しなければならないものとする。ただし,当該新株予約権付社債に付された新株予約権について別段の定めがある場合は,この限りでないものとする。

(注) 特別支配株主は,特別支配株主完全子法人に対して株式売渡請求又は新株予約権売渡請求をしないこととすることができるものとする。
●全株式譲渡制限会社も特別支配株主の売渡請求制度の対象とすることとされた。
●新株予約権付社債において社債部分まで売渡請求の対象とされている。

社債部分は基本的に新株予約権と分離して譲渡することができないとされている。
but
新株予約権付社債の募集要項において新株予約権部分のみが売渡請求の対象となるなど、新株予約権付社債に付された新株予約権について別段の定めがある場合、当該定めに従うものとされる。
(2) 株式等売渡請求の手続等 ■(2) 株式等売渡請求の手続等
@ 株式売渡請求は,次に掲げる事項を明らかにしてしなければならないものとする。

ア 特別支配株主完全子法人に対して株式売渡請求をしないこととするときは,その旨及び当該特別支配株主完全子法人の名称

イ 対象会社の株主(対象会社,特別支配株主及びアの特別支配株主完全子法人を除く。以下「売渡株主」という。)に対して,その有する対象会社の株式(以下「売渡株式」という。)に代えて交付する金銭の額又はその算定方法

ウ 売渡株主に対するイの金銭の割当てに関する事項

エ 株式売渡請求に併せて新株予約権売渡請求((1)Bによる請求を含む。以下同じ。)をするときは,その旨及び次に掲げる事項

(ア) 特別支配株主完全子法人に対して新株予約権売渡請求をしないこととするときは,その旨及び当該特別支配株主完全子法人の名称

(イ) 対象会社の新株予約権者(対象会社,特別支配株主及び(ア)の特別支配株主完全子法人を除く。以下「売渡新株予約権者」という。)に対して,その有する対象会社の新株予約権((1)Bによる請求をするときは,新株予約権付社債についての社債を含む。以下「売渡新株予約権」という。)に代えて交付する金銭の額又はその算定方法

(ウ) 売渡新株予約権者に対する(イ)の金銭の割当てに関する事項

オ 特別支配株主が売渡株式及び売渡新株予約権を取得する日(以下1において「取得日」という。)

カ アからオまでに掲げるもののほか,法務省令で定める事項

(注) ウに掲げる事項についての定めは,売渡株主の有する売渡株式の数(売渡株式の種類ごとに異なる取扱いを行う旨の定めがある場合にあっては,各種類の売渡株式の数)に応じて金銭を交付することを内容とするものでなければならないものとする。

A 特別支配株主は,株式売渡請求(株式売渡請求に併せて新株予約権売渡請求をするときは,株式売渡請求及び新株予約権売渡請求。以下「株式等売渡請求」という。)をしようとするときは,対象会社に対し,その旨及び@アからカまでに掲げる事項を通知し,対象会社の承認を受けなければならないものとする。

(注1) 対象会社は,株式売渡請求に併せて新株予約権売渡請求がされたときは,新株予約権売渡請求のみを承認することはできないものとする。

(注2) 取締役会設置会社がAの承認をするか否かの決定をするには,取締役会の決議によらなければならないものとする。

(注3) 対象会社がAの承認をする場合において,ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは,Aの承認は,当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ,その効力を生じないものとする(第322条第1項参照)。

B 対象会社は,Aの承認をしたときは,取得日の20日前までに,次のア及びイに掲げる者に対し,当該ア及びイに定める事項を通知しなければならないものとする。
ア 売渡株主及び売渡新株予約権者(以下「売渡株主等」という。) 当該承認をした旨,特別支配株主の氏名又は名称及び住所,@アからオまでに掲げる事項その他法務省令で定める事項

イ 売渡株式の登録株式質権者及び売渡新株予約権の登録新株予約権
質権者 当該承認をした旨

(注1) Bによる通知(売渡株主に対してするものを除く。)は,公告をもってこれに代えることができるものとする。

(注2) 振替株式を発行している対象会社は,振替株式である売渡株式の株主又はその登録株式質権者に対するBによる通知に代えて,当該通知をすべき事項を公告しなければならないものとする(社債,株式等の振替に関する法律第161条第2項参照)。

(注3) 上記の通知又は公告の費用は,特別支配株主の負担とするものとする。

C 対象会社がBの通知又は公告をしたときは,特別支配株主から売渡株主等に対し,株式等売渡請求がされたものとみなすものとする。

D 対象会社は,Bの通知(売渡株主等に対するものに限る。)又は公告の日のいずれか早い日から取得日後6か月(対象会社が公開会社でない場合にあっては,取得日後1年)を経過する日までの間,次に掲げる事項を記載し,又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならないものとする。売渡株主等は,対象会社に対して,その営業時間内は,いつでも,当該書面等の閲覧等の請求をすることができるものとする。
ア Aの承認をした旨
イ 特別支配株主の氏名又は名称及び住所
ウ @アからカまでに掲げる事項
エ アからウまでに掲げるもののほか,法務省令で定める事項

E 特別支配株主は,Aの承認を受けた後は,取得日の前日までに対象会社の承諾を得た場合に限り,株式等売渡請求を撤回することができるものとする。

(注1) 取締役会設置会社がEの承諾をするか否かの決定をするには,取締役会の決議によらなければならないものとする。

(注2) 対象会社は,Eの承諾をしたときは,遅滞なく,当該承諾をした旨を売渡株主等に対して通知し,又は公告しなければならないものとする。
当該通知又は公告の費用は,特別支配株主の負担とするものとする。

(注3) 株式売渡請求に併せて新株予約権売渡請求がされた場合には,株式売渡請求のみを撤回することはできないものとする。また,新株予約権売渡請求のみを撤回する場合については,上記と同様の規律を設けるものとする。

F 株式等売渡請求をした特別支配株主は,取得日に,売渡株式等の全部を取得するものとする。

G 対象会社は,取得日後遅滞なく,株式等売渡請求により特別支配株主が取得した売渡株式等の数その他の株式等売渡請求による売渡株式等の取得に関する事項として法務省令で定める事項を記載し,又は記録した書面又は電磁的記録を作成し,取得日から6か月間(対象会社が公開会社でない場合にあっては,取得日から1年間),当該書面等をその本店に備え置かなければならないものとする。取得日に売渡株主等であった者は,対象会社に対して,その営業時間内は,いつでも,当該書面等の閲覧等の請求をすることができるものとする。

(注) 上記のほか,株式の質入れの効果(第151条等),株券の提出に関する手続(第219条等)その他株式等売渡請求に関する手続等について,所要の規定を整備するものとする。
●第二部第二1(2)Aは、特別支配株主が同(1)の株式等売渡請求を行おうとするときは、対象会社にその旨等を通知し、対象会社の承認を受けなければならないとした。(対象会社が取締役会設置会社の場合は、取締役会の決議によらなければならない。)

取締役・取締役会が、売渡株主(少数株主)の利益を保護するために、キャッシュ・アウトの条件が適正なものか、対価の交付の見込み等の判断を行うことを期待。

キャッシュ・アウトの場面における少数株主の利益を守る義務内容を示すことになる。
●対象会社が種類株式発行会社である場合、対価の割当てについての株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこと等が必要となり得る
⇒会社法322条1項の種類株主総会の決議事項に、株式等売渡請求を加えることとされた。
●第二部第二1(2)Bは、同Aによって特別支配株主から株式等売渡請求の通知を受けた対象会社が、売渡株主等に対し、当該株式等売渡請求を承認した旨等を、取得日の20日前までに通知しなければならない旨を規定(売渡株主以外には公告をもって代えることができる(B注1))。
振替株式発行会社においては、通知に代えて公告を行わなければならない(B注2)。
●通知または公告⇒特別支配株主から売渡株式等に対し、株式売渡請求がなされたものとみなされる(同C)。
●対象会社は、Bの売渡株主等に対する通知または抗告の日のいずれか早い日から取得後6か月(対象会社が全株式譲渡制限会社の場合は1年)を経過する日までの間、Aの承認をした旨や特別支配株主の氏名または名称および住所等を記載または記録した書面または電磁的記録を本店に備え置き、売渡株主等の請求があれば閲覧をさせなければならない(同D))
●売渡株主等は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対し、その有する売渡株式等の売買価格の決定の申立てをすることができる(第二部第二1(3)A)。
●結局、売渡請求を受ける少数株主がその株式について格別の利益を有していて単なる市場価格以上の意義を有し得るのは中小会社において。

公開会社であっても、振替株式以外については、売渡株主に対しては公告による代替を認めず個別通知を有する(売渡株主に対する個別の意思表示に代わる機能も持ち得る)。
振替株式発行会社については、公告による。

@振替株式については、株主名簿の記載はその時点における真の株主とは必ずしも一致せず、株主名簿に木足された株主に通知を行う意味が乏しいことから、社債、株式等の振替に関する法律161条2項において、振替株式発行会社の一定の通知については公告による代替が義務付けられている。
A振替株式の発行会社は上場会社であって、公告による周知がかなりできる。
Bキャッシュ・アウト制度が使われる場合、二段階買収において初めに公開買付けを行って、二段階目の取引でキャッシュ・アウトを利用することが考えられることから、すでに初めの公開買付けがなされた時点において、その会社の株主にはキャッシュ・アウトがなされるであろうことはある程度わかっている。
●第二部第二1(2)B(注3)は、同(2)Bの通知または公告の費用は、特別支配株主が負担するものとしている。

@対象会社による株式等売渡請求の通知または公告は、特別支配株主による意思表示を代替する機能を有している。
A通知または公告の費用を対処会社に生ぜしめたのは特別支配株主。
●第二部第二1(2)Eは、株式等売渡請求につき対象会社による承認を受けた後は、取得日の前日までに対象会社の承諾を得た場合に限り(対象会社が取締役会設置会社の場合は取締役会決議による。同(2)E(注1))、株式等売渡請求を撤回できる。

@特別支配株主の財務状況が悪化し、対価の交付あg困難になったような場合等において、株式等売渡請求の撤回の余地をまったく認めないことは、不合理な結果につながる。
A特別支配株主による一方的な撤回を無条件に認めることは、売渡株主等の予測可能性を害する等、売渡株主等の利益を損なうおそれがある。
B対象会社の取締役(会)には、株式等売渡請求を承認する際に売渡株主等の利恵kを守る役割が期待されており、その撤回についても承諾を要求することによっ、売渡株主等の利益を守ろうとした。
●売渡請求の撤回は、原則的に個々の株主にとっては不利益

特別支配株主が対価を支払えなくなったような場合や、特別支配株主の想定を超える数量の売渡株式について価格決定の申立てがされた場合等にのみ、例外的に対象会社(取締役(会))は撤回を承諾してもよいと理解されている。
●撤回の承諾をした対象会社は、遅滞なく当該承諾をした旨を売渡株主等に対して通知し、また公告。
その費用は特別支配株主が負担。
●株式売渡請求に併せて新株予約権売渡請求がされた場合、株式売渡請求のみの撤回を行うことはできない。
新株予約権売渡請求のみの撤回を行う場合は株式売渡請求の撤回の規律に準じる(第二部第二1(2)E(注3))。
●株式売渡請求をした特別支配株主は、取得日に、売渡株式等の全部を取得(要綱案第二部第二1(2)F)。
対価の支払いの確保は、売渡請求を行う際の特別支配株主による開示と、対象会社による承認によって確保される。
●特別支配株主の株式等売渡請求による取得後、対象会社はそれに関する書類または電磁的記録を取得日から6か月間(対象会社が全株式譲渡制限会社である場合にあっては1年間)、その本店に備え置き、売渡株主等による閲覧等請求に応じる義務。

(3)Bの取得無効の訴え等を可能にするためのもの。
 (3) 売渡株主等による差止請求等 @ 次に掲げる場合において,売渡株主が不利益を受けるおそれがあるときは,売渡株主は,特別支配株主に対し,株式等売渡請求による売渡株式等の全部の取得をやめることを請求することができるものとする。

ア 株式売渡請求が法令に違反する場合
イ 対象会社が(2)B(売渡株主に対する通知に係る部分に限る。)又は同Dに違反した場合
ウ (2)@イ又はウに掲げる事項が対象会社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当である場合
(注) 売渡新株予約権者についても,同様の規律を設けるものとする。

A 株式等売渡請求があった場合には,売渡株主等は,取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に,裁判所に対し,その有する売渡株式等((2)@エ(イ)又は(ウ)に掲げる事項についての定めが新株予約権の内容として定められた条件に合致する売渡新株予約権を除く。)の売買価格の決定の申立てをすることができるものとする。

(注1) 特別支配株主は,裁判所の決定した売買価格に対する取得日後の年6分の利率により算定した利息をも支払わなければならないものとする。
(注2) 特別支配株主は,売渡株主等に対し,売渡株式等の売買価格の決定がされる前に,当該特別支配株主が公正な売買価格と認める額を支払うことができるものとする。

B 株式等売渡請求による売渡株式等の全部の取得の無効は,取得日から6か月以内(対象会社が公開会社でない場合にあっては,取得日から1年以内)に,訴えをもってのみ主張することができるものとする。

C Bの訴え(以下「売渡株式等の取得の無効の訴え」という。)は,次に掲げる者に限り,提起することができるものとする。
ア 取得日において売渡株主又は売渡新株予約権者であった者
イ 取得日において対象会社の取締役,監査役若しくは執行役であった者又は対象会社の取締役,監査役,執行役若しくは清算人
D 売渡株式等の取得の無効の訴えについては,特別支配株主を被告とするものとする。
E 売渡株式等の取得の無効の訴えは,対象会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属するものとする。
F 売渡株式等の取得の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定したときは,株式等売渡請求による売渡株式等の全部の取得は,将来に向かってその効力を失うものとする。当該判決は,第三者に対してもその効力を有するものとする。
(注) 上記のほか,売渡株式等の売買価格の決定の申立て及び売渡株式等の取得の無効の訴えの手続等について,所要の規定を整備するものとする。
●売渡株主を救済するための制度として、株式等売渡請求差止請求(@)、価格決定の申立て(A)、売渡株式等の取得無効の訴え(B)が規定。
●@の差止請求

株式等売渡請求によるキャッシュ・アウトは全部取得条項付種類株式や組織再編による少数株主の締出しの場合と比較して、株主総会決議を経ずに行われる→対象会社の株主総会決議が著しく不公正な決議であるとして株主総会決議取消訴訟による争う手段が存在しない。
●売渡株式全部の取得を一体として差止めの対象とした

株式売渡請求はすべての売渡株主の有する売渡株式を一括して取得するものであるから、その差止めも一括してなされるべき。
●売渡株式の取得の無効は、対世効を有するBの売渡株式の取得無効の訴えで主張

株式売渡請求による売渡株式の取得は、多数の株主の利害に影響を及ぼす。
●@の売渡株主による株式等売渡請求の差止請求は
@株式売渡請求の法令違反、A売渡株主に対する通知または、B書面・電磁的記録の備置きや閲覧違反、および売渡株主への対価が対象会社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当である場合に差止請求が認められる。

差止請求の要件は略式組織再編の差止請求制度(会社法784条2項)に基本的に倣っている。
●Aの価格決定申立ての手続は、全部取得条項付種類株式における価格決定手続(会社法172条)に倣ったもの。
会社法172条2項に倣って、裁判所が決定した売買価格に対する所得日からの年6分という法定利率を支払わなければならない
⇒組織再編における株式買取請求の場合と同様、特別支配株主は、売渡株主等に対し、売渡株式の売買価格の決定がなされる前に、当該特別支配株主が公正な売買価格と認める額を支払うことができるとしている。
●Bの売渡株式等の取得無効の訴えについて、無効事由が定められていない。

募集株式の発行無効や組織再編の無効に関する会社法の規定と同様であり、解釈に委ねられている。
●現行会社法上、現金対価でキャッシュ・アウトを行った場合は、対価が著しく不当で、特別利害関係株主の議決権行使により著しく不当な決議が行われたと評価されるのであれば、組織再編を承認する株主総会決議に取消し事由があることになり(会社法831条1項3号)、組織再編によるキャッシュ・アウトの効力が生じた後は、組織再編無効の訴えおいて無効事由として争うことができると考えられている。
●Bの株式等売渡請求による売渡株式等の全部取得の無効の訴えの提訴期間を、対象会社が全株式譲渡制限会社である場合については、6か月から1年へと伸長。
●閉鎖型のタイプの会社である全株式譲渡制限会社においては、各株主が持株比率の維持への関心が高い⇒それ以外の会社と異なって、募集株式の発行に株主総会の特別決議が必要とされている(会社法199条2項、309条2項)。
●募集株式等の発行無効の訴えは、通常、閉鎖型タイプの会社において、株主が効力発生日当時に当該行為に気づかず、差止めの機会を逃したような場合に提訴の必要が生じる⇒平成17年会社法制定時に、全株式譲渡制限会社については提訴期間を1年間に伸長。
キャッシュ・アウトでも同様の問題。
●Bの売渡株式等の取得無効の訴えは、訴えをもってのみ主張することができる形成訴訟。
〜募集株式の発行無効の訴えや組織再編の無効の訴え等と同じ。
●株式等売渡請求に基づく株式等の全部の取得はjこの無効の訴えをもってしか主張できないが、個別の売渡株主等による個別解除は妨げられないとするのが、組織再編等の無効の訴えの判例の流れ。
←無効事由と個別解除は区別して考えることができる。
●対象会社の取締役は、株式等売渡請求を承認する際に、その条件の適正さを検討する等、売渡株主の利益に配慮すべき義務を負う⇒提訴権者とされた。
●パブリックコメント⇒対象会社の監査役、執行役、精算人についても、売渡株主の利益確保のために提訴権を認めることにした⇒一定の義務が生じる。
●組織再編と異なり、被告は特別支配株主

@組織再編とは異なり売買という法形式になる
A判決の結果に一番強い利害関係を持つのは特別支配株主

特別支配株主を被告とすることによって、判決に対世効を与えることが正当化される。
2 全部取得条項付種類株式の取得  @ 全部取得条項付種類株式を取得する株式会社は,次に掲げる日のいずれか早い日から取得日後6か月を経過する日までの間,第171条第1項各号に掲げる事項その他法務省令で定める事項を記載し,又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならないものとする。当該株式会社の株主は,当該株式会社に対して,その営業時間内は,いつでも,当該書面等の閲覧等の請求をすることができるものとする。
ア 第171条第1項の株主総会の日の2週間前の日
イ Bの通知又は公告の日のいずれか早い日

A 全部取得条項付種類株式の取得が法令又は定款に違反する場合において,株主が不利益を受けるおそれがあるときは,株主は,株式会社に対し,当該全部取得条項付種類株式の取得をやめることを請求することができるものとする。

B 株式会社は,取得日の20日前までに,全部取得条項付種類株式の株主に対し,当該全部取得条項付種類株式の全部を取得する旨を通知しなければならないものとする。当該通知は,公告をもってこれに代えることができるものとする。

C 全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定の申立ては,取得日の20日前の日から取得日の前日までの間にしなければならないものとする。

D Cの申立てをした株主は,第171条第1項の株主総会の決議により定められた取得対価の交付を受けないものとする。

(注) 株式会社は,株主に対し,全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定がされる前に,当該株式会社が公正な価格と認める額を支払うことができるものとする。
E 株式会社は,取得日後遅滞なく,株式会社が取得した全部取得条項付種類株式の数その他の全部取得条項付種類株式の取得に関する事項として法務省令で定める事項を記載し,又は記録した書面又は電磁的記録を作成し,取得日から6か月間,当該書面等をその本店に備え置かなければならないものとする。当該株式会社の株主又は取得日に全部取得条項付種類株式の株主であった者は,当該株式会社に対して,その営業時間内は,いつでも,当該書面等の閲覧等の請求をすることができるものとする。
●全部取得条項付種類株式の取得に際しても、組織再編の場合と同様の事前開示手続が設けられる(@)。
●全部取得条項付種類株式のの取得価格決定の申立期間は取得の株主総会決議の日から20日以内。

申立期間の満了前に取得日が到来して、複雑な法律関係が生じる恐れがあることから、組織再編等における株式買取請求の場合(会社法785条3項〜5項)を参考に、取得日の20日前まで全部取得条項付種類株式の株主に取得する旨を通知または公告しなければならないものとし、取得価格決定の申立期間を取得日の20日前から取得日までとしている。
●事後開示手続として、書面または電磁的記録の本店備置きと株主および取得日に全部取得条項付種類株式の株主であった者によるその閲覧も定められた。
●会社法173条2項によれば、全部取得条項付種類株式の株主は、取得の対価を取得日に取得するものとされている(取得の対価が同法171条1項1号イ〜ニの場合)。
but
取得価格決定の申立てがなされている場合にまで一律にそのような効果を発生させることは合理的ではない
⇒同申立てを行った株主については、同法171条1項の株主総会決議で定められた取得対価は交付されないこととした(D)。
売渡株主による売渡株式等の売買価格決定の申立てがなされた場合と同様、取得価格決定の申立てを受けた株式会社は、価格決定がなされる前に、当該株式会社が公正な価格と認める額を支払うことができる。
3 株式の併合により端数となる株式の買取請求 @ 株式の併合(単元株式数を定款で定めている場合にあっては,当該単元株式数に併合の割合を乗じて得た数が整数となるものを除く。以下第2部において同じ。)をする株式会社は,次に掲げる日のいずれか早い日から株式の併合がその効力を生ずる日(以下3において「効力発生日」という。)後6か月を経過する日までの間,第180条第2項各号に掲げる事項その他法務省令で定める事項を記載し,又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならないものとする。当該株式会社の株主は,当該株式会社に対して,その営業時間内は,いつでも,当該書面等の閲覧等の請求をすることができるものとする。
ア 第180条第2項の株主総会の日の2週間前の日
イ Cの通知又は公告の日のいずれか早い日
A 株式の併合が法令又は定款に違反する場合において,株主が不利益を受けるおそれがあるときは,株主は,株式会社に対し,当該株式の併合をやめることを請求することができるものとする。
B 株式会社が株式の併合をすることにより株式の数に一株に満たない端数が生ずる場合には,反対株主は,当該株式会社に対し,自己の有する株式のうち一株に満たない端数となるものの全部を公正な価格で買い取ることを請求することができるものとする。
(注) 「反対株主」とは,次に掲げる株主をいうものとする。

ア 第180条第2項の株主総会に先立って当該株式の併合に反対する旨を当該株式会社に対し通知し,かつ,当該株主総会において当該株式の併合に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)

イ 当該株主総会において議決権を行使することができない株主

C 株式の併合をしようとする株式会社は,効力発生日の20日前までに,その株主に対し,株式の併合をする旨を通知しなければならないものとする。当該通知は,公告をもってこれに代えることができるものとする。

D Bによる請求(以下3において「株式買取請求」という。)は,効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に,その株式買取請求に係る株式の数を明らかにしてしなければならないものとする。

E 株式買取請求をした株主は,株式会社の承諾を得た場合に限り,その株式買取請求を撤回することができるものとする。

F 株式買取請求があった場合において,株式の価格の決定について,株主と株式会社との間に協議が調ったときは,株式会社は,効力発生日から60日以内にその支払をしなければならないものとする。

G 株式の価格の決定について,効力発生日から30日以内に協議が調わないときは,株主又は株式会社は,その期間の満了の日後30日以内に,裁判所に対し,価格の決定の申立てをすることができるものとする。

(注1) 株式会社は,裁判所の決定した価格に対するFの期間の満了の日後の年6分の利率により算定した利息をも支払わなければならないものとする。

(注2) 株式会社は,株主に対し,株式の価格の決定がされる前に,当該株式会社が公正な価格と認める額を支払うことができるものとする。

H 株式買取請求に係る株式の買取りは,効力発生日に,その効力を生ずるものとする。
I 株式の併合をした株式会社は,効力発生日後遅滞なく,株式の併合が効力を生じた時における発行済株式の総数その他の株式の併合に関する事項として法務省令で定める事項を記載し,又は記録した書面又は電磁的記録を作成し,効力発生日から6か月間,当該書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならないものとする。当該株式会社の株主及び効力発生日に当該株式会社の株主であった者は,当該株式会社に対して,その営業時間内は,いつでも,当該書面等の閲覧等の請求をすることができるものとする。

J 株式会社が株式買取請求に応じて株式を取得する場合には,自己株式の取得財源に関する規制(第461条第1項)は適用されないものとする。この場合において,当該請求をした株主に対して支払った金銭の額が当該支払の日における分配可能額を超えるときは,当該株式の取得に関する職務を行った業務執行者は,当該株式会社に対し,連帯して,その超過額を支払う義務を負うものとする。ただし,その者がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は,この限りでないものとする。
(注) 上記のほか,株式の併合に関する手続等について,所要の規定を整備するものとする。
●濫用的な株式併合による少数株主の締出し(キャッシュ・アウト)事件の発生は、我が国の資本市場が株主・投資家の利益を軽視し、経営者側の事情を優先させる不公正な市場であるkとの象徴として、海外投資家等からの批判を招き、会社法制の見直しのきっかけとなった。

株式併合に関する開示の強化(@CI)
不利益を受けるおそれのある株主による法令・定款違反の株式併合の差止請求の認容(A)
株式併合によって1株未満の端数を有することとなる株主を保護するために、株主が株式併合によって端数となる株式を買い取ることを株式会社に請求できる制度(BD〜HJ)等が認められた。
●端数の処理に際して適切な対価が交付されないおそれがあると考える株主は、それを理由に株式の併合に反対することも可能
⇒株式の併合に反対しなかった株主にまで株式買取請求権を認めることは適切ではない⇒反対株主に限って株式買取請求権を有する。
●単元株式数の定めが定款にある場合において、当該単元株式数に併合の割合を乗じて得た数が整数となるもののみを例外とすることとした。
●端数となる株式のうち買取請求の対象とならなかったり、買取請求がなされなかったものは、会社法235条に定める金銭交付による端数の処理によることになる。
●株式買取請求は、買取請求を行う株主が有する端数となるもの全部について行う必要。
←端数処理を複雑化しないため。
4 株主総会等の決議の取消しの訴えの原告適格 株主総会等の決議の取消しにより株主となる者も,訴えをもって当該決
議の取消しを請求することができるものとする。
第3 組織再編における株式買取請求等    1 買取口座の創設 @ 振替株式の発行者は,第116条第1項各号の行為,株式の併合,事業譲渡等又は組織再編(吸収合併等又は新設合併等をいう。以下同じ。)をしようとする場合には,振替機関等に対して,株式買取請求に係る振替株式の振替を行うための口座(以下「買取口座」という。)の開設の申出をしなければならないものとする。
A 発行者が,社債,株式等の振替に関する法律第161条第2項の規定による公告をするときは,併せて,買取口座を公告しなければならないものとする。
B 振替株式の株主が株式買取請求をしようとする場合には,当該株主は,当該振替株式について買取口座を振替先口座とする振替の申請をしなければならないものとする。
C 発行者は,第116条第1項各号の行為,株式の併合,事業譲渡等又は組織再編がその効力を生ずる日までは,Bの申請により買取口座に記載され,又は記録された振替株式について,自己の口座を振替先口座とする振替の申請をすることができないものとする。
D 発行者は,Bの申請をした株主による株式買取請求の撤回を承諾したときは,遅滞なく,Bの申請により買取口座に記載され,又は記録された振替株式について,当該株主の口座を振替先口座とする振替の申請をしなければならないものとする。
(注1) 上記のほか,買取口座に係る事項等について,所要の規定を整備するものとする。
(注2) 新株予約権買取請求についても,同様の規律を設けるものとする。
●株式買取請求の撤回の制限をより実効的なものにするため、株式買取請求の撤回に係る株式が、社債、株式等の振替に関する法律上の振替株式である場合について以下のような制度を設ける。
@振替株式の発行者は、会社法116条1項各号の行為、株式の併合、事業譲渡または組織再編(吸収合併等または新設合併等をいう)等、反対株主に株式買取請求権が発生する行為をしようとする場合には、振替機関等に対して、株式買取請求に係る振替株式の振替を行うための口座の開設の申出をする。
A発行者が振替法161条2項の規定による公告をするときは、併せて、買取口座を公告しなければならない。
B反対株主は、買取請求をしようとする場合には、当該株主は、当該請求に係る振替株式について、買取口座を振替先口座とする振替の申請をする。
●反対株主が株式買取請求に係る振替株式について右振替の申請をしなかった場合、当該請求はその効力を生じないことが想定。⇒反対株主は株式買請求を行うと当該株式を市場において処分することができなくなる。
●当該振替株式の買取りの効力が生じていないにもかかわらず、会社の自己の口座への振替がされることを防止するために、発行者は、会社法116条1項各号の行為、株式の併合、事業譲渡等または組織再編がその効力を生じ、その結果、株式買取請求に係る株式の買取りの効力が生じる日までは、Bの申請により買取口座に記載され、または記録された振替株式について、自己の口座を振替先口座とする振替の申請をすることができない。
●Bの買取口座を振替先口座とする振替の申請をした株主による株式買取請求の撤回を承諾した発行者は、遅滞なく、Bの申請により買取口座に記載され、または記録された振替株式について、当該株主の口座を振替先口座とする振替の申請をしなければならない。
←撤回を承諾した以上、当該請求に係る振替株式について買取口座に記載または記録させるべき理由がなくなる。
2 株式等の買取りの効力が生ずる時 @ 第116条第1項各号の行為をする株式会社,事業譲渡等をする株式会社,存続株式会社等,吸収分割株式会社又は新設分割株式会社に対する株式買取請求についても,当該請求に係る株式の買取りは,これらの行為がその効力を生ずる日に,その効力を生ずるものとする。
A 株券が発行されている株式について株式買取請求をしようとするときは,株主は,株券発行会社に対し,当該株式に係る株券の提出をしなければならないものとする。
B 第133条の規定は,株式買取請求に係る株式については,適用しないものとする。
(注) 新株予約権買取請求についても,同様の規律を設けるものとする。
●第116条(反対株主の株式買取請求)
次の各号に掲げる場合には、反対株主は、株式会社に対し、自己の有する当該各号に定める株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
・・・
●会社法は、反対株主による株式買取請求による株式の買取りの効力が生じる時点を、
@会社法116条1項各号の行為をする株式会社、事業譲渡等をする株式会社、存続株式会社等、吸収分割株式会社または新設分割株式会社に対する株式買取請求については、当該株式の代金支払いのときと定めるが、
A吸収合併または株式交換における吸収合併消滅会社または株式交換完全子会社に対する株式買取請求については、当該吸収合併または株式交換の効力発生日と定め
B新設合併または株式移転における新設合併消滅株式会社または株式移転完全子会社の株式については、設立会社の成立の日と定める。
●but株式買取請求に係る株式等について、裁判所に価格決定の申立てがなされる場合には、これら株式買取請求を受ける株式会社等は、裁判所の決定した価格に対する同法116条1項各号の行為、事業譲渡等、組織再編等の項ryく発生日から60日の期間満了の日後年6分の利息を支払う義務がある。
他方、現行会社法には、反対株主が株式買取請求をしたk後、株式買取の効力が生じるまでの間、当該株式に係る剰余金配当受領権および議決権を有するかについて規定がない。
●反対株主が株式買取請求をすることは、会社から退出するという意思表示を行ったことになる⇒後は対価の決定の問題が残るだけという理解。

株式が反対している会社の行為が効力を生ずる日に、株式の買取りの効力が生じることにした。
●Aについて、株券が発行されている株式について株式買取請求がなされた場合にも、株式買取請求の撤回制限の実効化を図るために、株主は、株式買取請求をしようとするときは、株券発行会社に対し、当該株式に係る株券を提出しなければならない。
●Bについて、株券不発行会社においては、株式買取請求に係る株式について、意思表示のみによりそれを譲渡することができる。
⇒株式買取請求の撤回制限の実効化を図るため、株式買取請求に係る株式を譲り受けた者が、株主名簿の名簿書換請求をすることができないようにするもの。
3 株式買取請求に係る株式等に係る価格決定前の支払制度 第116条第1項各号の行為をする株式会社,全部取得条項付種類株式を取得する株式会社,株式売渡請求をする特別支配株主,株式の併合をする株式会社,事業譲渡等をする株式会社,消滅株式会社等又は存続株式会社等は,株式買取請求又は価格決定の申立てをした株主に対し,株式の価格の決定がされる前に,公正な価格と認める額を支払うことができるもの
とする。
(注) 新株予約権買取請求等についても,同様の規律を設けるものとする。
●反対株主が会社による価格決定前の支払いを受け取らない場合は、会社は弁済供託を行うことができる。
価格決定前の支払いまたは弁済供託を行えば、会社法「786条4項にかかわらざう、会社は当該支払いを行った金額に関しては、当該支払後の利息支払義務を負わないこととなろう。
4 簡易組織再編,略式組織再編等における株式買取請求 @ 存続株式会社等において簡易組織再編の要件を満たす場合及び譲受会社において簡易事業譲渡の要件を満たす場合には,反対株主は,株式買取請求権を有しないものとする。
A 略式組織再編又は略式事業譲渡の要件を満たす場合には,特別支配会社は,株式買取請求権を有しないものとし,株式買取請求に関する通知の対象である株主から特別支配会社を除くものとする。
●特別支配会社は、略式組織再編または略式事業譲渡における株式買取請求権を有しない。
←そのような場合に特別支配株主を保護する必要性が存しない。
●適正価格でない条件で組織再編が行われようとしているときに、反対票を固めるために株式を購入して、株主総会で反対し、株式買取請求権を行使することは不当ではない。
第4 組織再編等の差止請求   次に掲げる行為が法令又は定款に違反する場合において,株主が不利益を受けるおそれがあるときは,株主は,株式会社に対し,当該行為をやめることを請求することができるものとする。
@ 全部取得条項付種類株式の取得
A 株式の併合
B 略式組織再編以外の組織再編(簡易組織再編の要件を満たす場合を除く。)
(注) 略式組織再編の差止請求(第784条第2項及び第796条第2項)については,現行法の規律を維持するものとする。
●現行会社法は、略式組織再編についてのみ、法令もしくは定款に違反する場合または当該略式組織再編の対価が当該会社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当である場合であって、株主が不利益を受けるおそれがあるときに、株主に略式組織再編をやめることを請求する権利を与えている(会社法784条2項、796条2項)。
それ以外の組織再編については、株主による差止請求に係る規定は設けられていない。
●現行法の解釈として、組織再編を承認する株主総会決議において、特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がなされた場合は、株主は、株主総会決議取消しの訴え(会社法831条1項3号)を本案とする仮処分を申し立てることによって、組織再編の差止めを請求することができrという裁判例・学説もあるが、その場合の本案となる実体法上の差止請求権が明らかでなく、被保全権利の存在が認められないとして、仮処分を認めない考えもある。
⇒立法によって一般的な組織再編の差止請求制度を導入しようとした。
第5 会社分割等における債権者の保護  1 詐害的な会社分割等における債権者の保護 @ 吸収分割会社又は新設分割会社(以下「分割会社」という。)が吸収分割承継会社又は新設分割設立会社(以下「承継会社等」という。)に承継されない債務の債権者(以下「残存債権者」という。)を害することを知って会社分割をした場合には,残存債権者は,承継会社等に対して,承継した財産の価額を限度として,当該債務の履行を請求することができるものとする。ただし,吸収分割の場合であって,吸収分割承継会社が吸収分割の効力が生じた時において残存債権者を害すべき事実を知らなかったときは,この限りでないものとする。
(注) 株式会社である分割会社が吸収分割の効力が生ずる日又は新設分割設立会社の成立の日に全部取得条項付種類株式の取得又は剰余金の配当(取得対価又は配当財産が承継会社等の株式又は持分のみであるものに限る。)をする場合(第758条第8号等)には,上記の規律を適用しないものとする。

A @の債務を履行する責任は,分割会社が残存債権者を害することを知って会社分割をしたことを知った時から2年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては,その期間を経過した時に消滅するものとする。会社分割の効力が生じた日から20年を経過したときも,同様とするものとする。

(注1) @の請求権は,分割会社について破産手続開始の決定,再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定がされたときは,行使することができないものとする。

(注2) 事業譲渡及び営業譲渡(商法第16条以下参照)についても,上記と同様の規律を設けるものとする。
●「承継した財産の価額」は、承継した積極財産の総額であり、そこから承継した債務の価額を差し引いた価額ではない。
●「承継した財産の価額を限度として」という限定は、訴訟実務においては、相続財産の限定承認の場合と同様に、承継した財産の限度でいくらを支払えという判決主文になる。
●破産、民事再生、会社更生といった倒産手続が開始された語は、残存債権者の権利の行使は認められずm、流出資産の回収はもっぱら管財人(民事再生においては原則は再生債務者)による否認権の行使に委ねられるものとされた。

倒産手続開始後は残存債権者の個別の権利行使は認めないことにして、分割会社の債権者間の平等を図るため。
●倒産手続開始前に複数の残存債権者の請求が重なって承継財産の価額を超える場合、差押えが競合すれば債権者の額に応じて按分することになるし、差押えに至っていない場合は承継会社が任意の判断により支払いを行うことになるとの指摘。
●詐害的な会社分割が行われた場合において残存債権者を保護する必要があるのと同様の問題が、詐害的な事業譲渡や商人間の営業譲渡においても生じ得る。⇒同様の規律を設ける。
2 分割会社に知れていない債権者の保護 @ 会社分割に異議を述べることができる分割会社の債権者であって,各別の催告(第789条第2項等)を受けなかったもの(分割会社が官報公告に加え日刊新聞紙に掲載する方法又は電子公告による公告を行う場合(第789条第3項等)にあっては,不法行為によって生じた債務の債権者であるものに限る。Aにおいて同じ。)は,吸収分割契約又は新設分割計画において会社分割後に分割会社に対して債務の履行を請求することができないものとされているときであっても,分割会社に対して,分割会社が会社分割の効力が生じた日に有していた財産の価額を限度として,当該債務の履行を請求することができるものとする。

A 会社分割に異議を述べることができる分割会社の債権者であって,各別の催告を受けなかったものは,吸収分割契約又は新設分割計画において会社分割後に承継会社等に対して債務の履行を請求することができないものとされているときであっても,承継会社等に対して,承継した財産の価額を限度として,当該債務の履行を請求することができるものとする。
●現行会社法の文言は、会社分割に異議を述べることができる分割会社債権者であっても、分割会社に知れていない者に対しては、分割会社は格別の催告を要しないものとされ、このような者は分割契約または分割計画に従い、分割会社または承継会社等のいずれか一方に対してのみ債務の履行を請求できることになっている(会社法759条2項、789条2項等)。
同法789条2項、3項等の文言は、会社分割について異議を述べることができる不法行為債権者であって、分割会社に知れていないものに対しては、格別の催告を要しないように読める⇒このような不法行為債権者も、分割会社または承継会社等の一方に対してのみ債務の履行を請求できるだけのようにも考え得る。
●会社分割について異議を述べることのできる不法行為債権者は、分割会社に知れていなくても、吸収分割等の効力発生日に分割会社が有していた財産の価額または承継会社等が承継した財産の価額を限度に、分割契約や分割計画上は請求できないとされている分割会社や承継会社等に対しても、債務の履行を請求できることを明らかにすべきだということを提案。
●分割会社に知れているか否かにかかわらず、会社分割に異議をのベルことができる分割会社債権者は(分割会社が官報公告に加え日刊新聞紙に掲載するか電子公告による公告を行う場合には不法行為債権者に限る)、格別の催告を受けなかった以上、分割会社に対しては分割の効力が生じた日に有していた財産の価額を限度として、承継会社等に対しては承継した財産の価額を限度として、分割契約または分割計画上は請求できないとされている分割会社や承継会社等に対しても、債務の履行の請求を行えることを明文でもって明らかにすることをされた。
第3部 その他  
第1 金融商品取引法上の規制に違反した者による議決権行使の差止請求  @ 株主は,他の株主が次に掲げる規制に違反した場合において,その違反する事実が重大であるときは,当該他の株主に対し,これにより取得した株式について議決権の行使をやめることを請求することができるものとする。
ア 公開買付けを強制する規制(金融商品取引法第27条の2第1項)のうち株券等所有割合が3分の1を超えることとなる株券等の買付け等に係るもの
イ 公開買付者に全部買付義務(応募株券等の全部について買付け等に係る受渡しその他の決済を行う義務)を課す規制(同法第27条の13第4項)
ウ 公開買付者に強制的全部勧誘義務(買付け等をする株券等の発行者が発行する全ての株券等について買付け等の申込み又は売付け等の申込みの勧誘を行う義務)を課す規制(同法第27条の2第5項,金融商品取引法施行令第8条第5項第3号参照)

A @による請求は,@の事実が生じた日から1年以内に,その理由を明らかにしてしなければならないものとする。

B 株主は,@による請求をするときは,併せて,株式会社に対してその旨及びその理由を通知しなければならないものとする。

C @の他の株主は,@による請求を受けたときは,@の株式について議決権を行使することができないものとする。

D Cにかかわらず,株式会社は,@の他の株主がBによる通知の日から2週間以内の日を株主総会の日とする株主総会において議決権を行使することを認めることができるものとする。

(注) 種類株主総会における議決権の行使についても,上記と同様の差止請求を認めるものとする。
●@ア(株券等保有割合が3分の1を超えることとなる株券等の買付けに係る公開買付強制規制(金融商品取引法27条の2第1項))
@イ(公開買付者の全部買付義務規制(同法27条の13第4項))
@ウ(公開買付者の強制的全部勧誘義務規制(同法27条の2第5項、同法施行令8条5項3号))に違反した場合に、違反する事実が重大であるときは、違反をした株主に対しm、当該違反により取得した株式について議決権の行使をやめることを、他の株主が請求することができる。
●これらの公開買付規制の趣旨として、@アには、対象会社の株主に情報に基づく熟慮の機会を与えるとか、売付けの機会を保障しプレミアムの株主間での平等な分配を可能にするといった、対象会社株主を保護する会社法的な意義が含まれている。
@イウには、公開買付を利用した二段階買収による「公開買付けの強圧性」から少数株主を保護するといった、少数株主保護の会社法的な意義も指摘されている。
●金商法上、これらの規制違反に対して、刑事罰(金商法197条の2第5号、207条1項2号)、課徴金(同法172条の5、172条の6第2号)、緊急差止命令(同法192条1項)等の適用があり得る。
●公開買付規制違反があったことをもって一律に売買契約を無効と解することは、取引の安全を損なうおそれがあるとして、無効とすることに否定的な意見が強い。
●金融商品取引法上の規制であって、株式の取得、保有、議決権行使等にかかわる者として、公開買付規制違反のほかにも、大量保有報告書規制、委任状勧誘規制等の違反があるが、問題としたのは公開買付規制違反のみ。

@@アイウの公開買付けに係る規制は、株式会社の支配関係に大きな変動を生ずることから、株主にその有する株式を売却する機会を与えることにより株式を保護する必要がある。
Aこれらの規制に違反してj株券等の買付けがなされた場合に、違反者による議決権行使を差し止めることは、違反者による支配の取得を防ぐことを通じて、株主の利益の保護に直接結びつき得ると考えられる。
●大量保有報告書規制
@その適用範囲が会社の支配関係に大きな変動を生ずる場合に限られているわけではない。
A会社支配の取得について、情報開示の義務を超える実体的な制約を課すものではなく、公開買付規制に比べると株主の私的利益との関係が薄い。
B議決権行使を認めないものとする仕組みの実効性も乏しい。
⇒規定せず。
●委任状勧誘規制違反
@委任の撤回が可能であるため、議決権行使の差止めのような制度による保護の必要性は高くない。
A委任状勧誘規制の違反があればただちに決議の公正が害されるといえるのか問題があり得る。
B株主総会の決議の公正という利益は、決議方法が著しく不公正であることなどを理由とする株主総会決議の取消しの訴えにより保護される余地がある。
C書面による議決権行使に関し株主総会参考書類に虚偽の記載がされた場合でも株主総会決議の取消しの訴えの対象となり得るにとどまることの平仄。
⇒議決権行使の差止めのような制度を創設する必要性は高くない。 
●規制に違反して取得した株式のみが対象。
違反行為後に違反株主の保有株式数が増減した場合、違反株主の合理的な意思解釈からは、議決権行使の差止請求の対象となる株式から先に売却したものと取り扱うことが相当という見解。
●株主のみに差止請求権を認める。
(会社にも認めると、株主からの差止請求との関係につき困難な問題が生じる)
●D株式会社は、たとえBの差止請求の通知を受けても、、Bによる通知の日から二週間以内に開催される株主総会において、差止請求を受けた株主に議決権を行使することを任意に認めることができる。

Bの通知を受けた株式会社に、差止請求の理由の存否等を確認し、株式会社における対応を検討するための時間的余裕を与え、議決権を行使させたことが株主総会の決議取消事由とならないようにするための制度。

Dの二週間以内の株主総会における議決権行使の差止めを求められた株主に議決権行使を認めるか任意に判断できるものであって、会社と当該株主が共謀して重大な公開買付規制違反を行ったようなよほど背信的な場合を除き、議決権の行使を認めたことにつき全管注意義務違反を問われることはない。
●株主総会より二週間を超える以前に差止権が行使される場合は、会社はDの保護は受けられないが、二週間あればだいたい仮処分をとるであろうから、それだけの時間的余裕を与えれば、事実上紛争は少なくなることが期待される。
●Aは@の事実が生じた日から1年以内に、その理由を明らかにして差止請求をしなければならないという、期間制限を設けている。

規制違反によって株式が取得された後、一定期間が経過すると、違反株主による株式および議決権の取得を前提として、さまざまな法律関係が形成されることから、その後に議決権行使の差止請求がよって支配関係の変動を争う余地を認めることは、法的安定性の観点から適切でない。
●差止請求の効果が及ぶ期間は限定されない
←期間の経過によって規制違反の状態が治癒されることにはならない
●議決権行使が差し止められた議決権の数は、定足数には算入しない。

自ら重大な規制違反を行った違反株主は、定足数の分母にそのような議決権の数が算入されないことによって、その他の株主のみにより株式会社の基本事項に関する意思決定がなされたとしても、そのような不利益を甘受すべきだという考えがとられる。
第2 株主名簿等の閲覧等の請求の拒絶事由  第125条第3項第3号及び第252条第3項第3号を削るものとする。
●会社法 第125条(株主名簿の備置き及び閲覧等)
2 株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
一 株主名簿が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
二 株主名簿が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
3 株式会社は、前項の請求があったときは、次のいずれかに該当する場合を除き、これを拒むことができない。
一 当該請求を行う株主又は債権者(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
二 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
三 請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。
●会社法 第252条(新株予約権原簿の備置き及び閲覧等)
2 株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
一 新株予約権原簿が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
二 新株予約権原簿が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
3 株式会社は、前項の請求があったときは、次のいずれかに該当する場合を除き、これを拒むことができない。
一 当該請求を行う株主又は債権者(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
二 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
三 請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。
●125条3項や252条3項1号2号は、会計帳簿閲覧の拒絶事由と同じ文言を採用
→その解釈論にひきずられ、平成17年会社法立法までは、株主等は濫用的な場合を除いては原則閲覧等が可能という発想だったのが、同立法後は積極的に株主の権利に裏づけられ、支えられた請求以外は射止めるべきではないという運用の可能性が出ている。
他方、1号・2号は、株主の個人情報保護への配慮が弱い

会社法125条3項、252条3項の規定の仕方を根本から考え直すべきことが主張。
but
見直しはされなかった。
第3 その他     1 募集株式が譲渡制限株式である場合等の総数引受契約 募集株式を引き受けようとする者がその総数の引受けを行う契約を締結する場合(第205条)であって,当該募集株式が譲渡制限株式であるときは,株式会社は,株主総会の特別決議(取締役会設置会社にあっては,取締役会の決議)によって,当該契約の承認を受けなければならないものとする。ただし,定款に別段の定めがある場合は,この限りでないものとする。
(注) 募集新株予約権を引き受けようとする者がその総数の引受けを行う契約を締結する場合(第244条第1項)であって,当該募集新株予約権が譲渡制限新株予約権であるとき等についても,同様の規律を設けるものとする。
2 監査役の監査の範囲に関する登記 監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社について,当該定款の定めを登記事項に追加するものとする。
3 いわゆる人的分割における準備金の計上 吸収分割株式会社又は新設分割株式会社が吸収分割の効力が生ずる日又は新設分割設立会社の成立の日に剰余金の配当(配当財産が吸収分割承継会社又は新設分割設立会社の株式又は持分のみであるものに限る。)をする場合には,第445条第4項の規定による準備金の計上は要しないものとする。
4 発行可能株式総数に関する規律 @ 株式の併合をする場合における発行可能株式総数についての規律を,次のとおり改めるものとする。
ア 株式会社が株式の併合をしようとするときに株主総会の決議によって定めなければならない事項(第180条第2項)に,株式の併合がその効力を生ずる日(以下「効力発生日」という。)における発行可能株式総数を追加するものとする。
イ アの発行可能株式総数は,効力発生日における発行済株式の総数の4倍を超えることができないものとする。ただし,株式会社が公開会社でない場合は,この限りでないものとする。
ウ 株式の併合をする株式会社は,効力発生日に,アによる定めに従い,発行可能株式総数に係る定款の変更をしたものとみなすものとする。

A 公開会社でない株式会社が定款を変更して公開会社となる場合には,当該定款の変更後の発行可能株式総数は,当該定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数の4倍を超えることができないものとする。

B 新設合併等における設立株式会社(第814条第1項)の設立時発行株式の総数は,発行可能株式総数の4分の1を下ることができないものとする。ただし,設立株式会社が公開会社でない場合は,この限りでないものとする。
5 特別口座の移管 @ 特別口座に記載又は記録がされた振替株式について,当該振替株式の発行者は,一括して,当該特別口座を開設した振替機関等以外の振替機関等に当該特別口座の加入者のために開設された当該振替株式の振替を行うための口座(以下「移管先特別口座」という。)を振替先口座とする振替の申請をすることができるものとする。
A @の申請をした発行者は,特別口座の加入者に対し,移管先特別口座を開設した振替機関等の氏名又は名称及び住所を通知しなければならないものとする。
(注1) 上記のほか,移管先特別口座に係る事項等について,所要の規定を整備するものとする。
(注2) 振替社債,振替新株予約権及び振替新株予約権付社債についても,同様の規律を設けるものとする。
●上場会社間で組織再編した場合において、同一の銘柄の振替株式について複数の振替機関等に特別口座(振替法141条1項3号・3項)が解説されることとなったとき、これら特別口座を1つの振替機関等に集約するための根拠規定が振替法に存在しない。

特別口座に記載または記録がなされた振替株式について、当該株式の発行者は、一括して当該特別口座を開設した振替機関等以外の振替機関等に、当該特別口座の加入者のために開設された当該振替株式の振替を行うための口座を振替先口座とする振替の申請をすることができる。

特別口座の加入者は、特別口座がどの振替機関等において開設されるかにつき、特段の利害関係を有しないと考えられる。