シンプラル法律事務所
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論点整理(公序良俗論論の再構成(山本))

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)


山本敬三 公序良俗論
公序良俗論の再構成
種類 ●  ●契約自由制限の「主体」による分類
A:法令型公序良俗:立法が法令を通じて契約自由を制限するという決定を行っている場合
B:裁判型公序良俗:裁判所が独自に契約自由を制限するという決定を行う場合
●  ●「どのような実質的理由に基づき」契約自由を制限するかという視点 
C:基本権の保護
D:政策目的の実現
種類 @裁判型・・政策実現型 公序良俗
A裁判型・・基本権保護型 公序良俗
B法令型・・政策実現型 公序良俗
C法令型・・基本権保護型 公序良俗
■      ■裁判型・・基本権保護型公序良俗 
●  ●意義と射程 
当事者の基本権を侵害する契約について、裁判所がこれを公序良俗違反として無効だとする場合。
=憲法の私人間適用が問題となる場合。
●憲法の私人間適用の基本構成 
間接適用説:
法律の概括的条項、とくに、公序良俗に反する法律行為は無効であると定める民法90条のような私法の一般条項を、憲法の趣旨をとりこんで解釈・適用し、間接的に私人間の行為を規律していこうとする見解。
国家の基本的義務:
第三者による侵害から個人の基本権を保護するために、国家は積極的な措置をとらなければならないという義務。
(←国家が必要とされるのは、市民相互間の平和的共存を確保するため)

市民Aの基本権が他の市民Bによって侵害されている場合には、国家はAをBによる侵害から保護しなければならない。
but
それによりBの基本権を過度に侵害することは許されない。

@国家はAに対して少なくとも憲法上要請される最低限の保護を与えなければならない
Aこの保護を与えることによって、国家はその相手方であるBの基本権に対して過度に介入することになってはならない
この@過少保護の禁止とA過剰介入の禁止にしたが、双方の基本権を衡量して解決をみちびくというのが、私人間適用の基本構成。
  ●契約関係における憲法の私人間適用と裁判型・・基本権保護型公序良俗の構成 
◎契約関係における憲法の私人間適用の構成 
基本権に対して事実的な加害行為が行われる場合
ex.Aのプライバシーにかかわる事柄をBが無断で公表するような場合

保護のための手段は、基本的に、不法行為違法・・損害賠償だけでなく、差止めの可能性もふくめて・・によって用意されている。
契約関係において私人間適用が問題となる場合:
〜以上のような@事実的行為によって基本権が侵害されるわけではなく、ここで行われるのはA基本権の制限を内容とした契約の締結。
同意あり⇒その対象が基本権の制限であったとしても、それは基本権の「行使」であって、「侵害」ではない。
ex.AがBと雇用契約を締結する際に、Bのところをやめるときには競業行為をしない旨の特約に同意。
Aの職業の自由という基本権の制限を内容とする契約。
but
Aがこの契約を自発的に守り、競業行為を行わないと決めている限り、それはあくまでもAの職業選択の自由の「行使」でありAの基本権に対する「侵害」ではない。
Aが後にこの同意を与えることを拒み、契約の解消を求めた場合、Aがこの契約に拘束されるとすると、あは自己の職業を自由に選ぶことができなくなる。(=Aの基本権は契約に拘束されることにより「侵害」される。)

「基本権侵害」が契約への拘束によって発生することが、契約関係における私人間適用の特徴。

問題設定は「ここでの契約の拘束を認めることがAの基本権に対する『侵害』を帰結し、過少保護の禁止に反することにならないかどうか」である。
後になってAがこの契約の遵守を拒否すると、この契約を前提として形成されている、ないしは形成される予定のBの生活が侵害
⇒Bの私的自治に対する侵害。(Bの基本権は、究極的には「私的自治」)
〇2つの問題設定
契約関係における私人間適用は、次の2つの問題から構成:
@Bによる契約の承認・実現請求を認めることがAの基本権に対する「侵害」を帰結し、過少保護の禁止に反することにならないか
Aそこで保護を与えることが、Bの私的自治ないしその個別的なあらわれとしての「基本権」に対して過剰介入にならないか
この2つの問題設定に即して、保護を与えるべきか、与えるとすればどのような保護手段を認めるべきかが判定される。
〇保護手段 
A:契約の実現請求のみを否定ないし限定する方法

契約を有効としたうえで、強制執行を排除したり、契約不履行による損害賠償の範囲を信頼利益に限る等の方法。
B:契約の承認請求までも否定ないし限定する方法

公序良俗規範の適用。
@全部無効とA一部無効
◎裁判型・・基本権保護型公序良俗とリベラリズム
裁判型・・基本権保護型公序良俗が認められるのは、以上の2つの問題設定の枠内で、契約の実現請求だけでなく、承認請求まで否定することが正当化される場合
リベラリズムの思想:それぞれの個人がみずから「善い」と信ずる生き方を等しく追求できることを要請。
価値観の多様性⇒特定の「善い生」の構想は、他者にそれを強制する理由にはならない。
but
どのよな「善き生」の構想であれ、それを追求するためにはどうしてもなくてはならない基礎的な価値が存在する。
ex.生命・身体・健康の保障や人間の尊厳・自己決定権など。
そのような基盤が等しく保障されていてはじめて、各人はそれぞれの「善き生」の構想を追求できる。

個人がみずから「善い」と信ずる生き方を等しくできるようにするためには、そのような基盤を破壊するような行動だけは許すわけにはいかない。
このような行為が、契約の承認請求すら否定すべき場合
=裁判型・・基本権保護型公序良俗にあたる場合。
●      ●契約自由侵害型の特殊性 
◎契約自由侵害型の二重の性格 
あくまでもAがいったん当該契約に同意をあたえたことを前提
Aの同意自体に問題があればどうなるか?
@Aはまったく同意を与えていないのに、Bが同意の存在を潜称する場合
ex.契約の偽造
〜Aの同意がない以上、Bによる契約の承認・実現請求が認められる前提を欠く。
AAの同意に瑕疵があった場合
成立の瑕疵の問題に属し、意思欠缺や意思表示の瑕疵として論じられてきた問題。
Aの意思決定に対して不当な干渉がくわえられるケースでは、まさにAの契約自由が侵害されているとみることができる(=基本権保護型公序良俗の1つとしてとらえる可能性)。
契約自由の侵害の二重の性格 
@自由に意思決定を行う機会の剥奪

契約自由に対する事実的な加害行為
A本来ならばするはずのない契約に拘束される可能性の創出

Aは、@契約時に事実的な加害行為を受けただけでなく、Aそれによってさらに契約制度を媒介とした「侵害」をも受ける可能性がある。
◎契約自由侵害に対する2つの保護手段 
侵害における二重の性格

その保護も、
@事実的な加害行為に対する保護(=自由な意思決定を行う機会の回復)と、
A制約制度を媒介とした「侵害」からの保護(=するはずのない契約への拘束からの解放)
という2つの側面 
Aは、契約の承認・実現請求の否定という保護手段によって実現することができる。
〜契約関係における私人間適用の構成が妥当。
but
契約自由が侵害される場合は、同意自体に瑕疵があるため、
「Aはいったん契約に同意をあたえたのだから、それを遵守しないと、この契約を前提としていとなんでいるBの私的自治を害することになる」と簡単にいえななくなる。
この場合に存在するのは、せいぜいAの瑕疵なき同意の外観。

Bはそれを本当に瑕疵亡き同意と信じたのか、また信じてよかったのかということが問題となる。
まさに、こうした問題が、Bの「基本権」に対して過剰介入になるかどうかというところで考慮される。
Bが意図的にAの意思決定を阻害しているような場合には、そもそもこうした信頼が存在しない以上、契約の承認・実現請求が否定されてもBの「基本権」を過度に侵害することにはならない。
契約自由についても、国家は憲法上の保護義務を負っている

民法96条に直接あたらないことを理由として保護を否定するならば、それは、国家が憲法上みずからに課せられた基本権保護義務を果たさないことを意味する。 
かりに民法典が「詐欺」「強迫」の場合に保護を限定する趣旨であったとしても、それを拡張する方向で法創造することが憲法上要請される。
公序良俗規範は、まさにそうした法創造のよりどころとして考えられる。
事実的な加害行為に対する保護という側面は、まさに不法行為法にもとづく損害賠償責任がカバーする領域。 
ここでも侵害の二重の性格に対応して、「損害賠償」にも2つの意味がありうる。
@不当な干渉を受けずに決定をおこなう機会を奪われたことに対する損害の賠償(=機会補償的損害賠償)
Aするはずのなかった契約に拘束された結果こうむった損害の賠償(=原状回復的損害賠償)
Aは契約の解消という保護手段と実質的に競合する。
but
それがAの保護に役立つかぎり、やはり原状回復的損害賠償も可能な保護手段ついて承認すべき。
(←この原状回復型損害賠償を認めたからといって、Bに過大な不利益がおよぶわけではない。)

この場合、Aは、公序良俗違反を理由として契約の解消を求めるか、それとも不法行為を理由としtえ原状回復請求権をもとめるかを自由に選択できる。
Aが契約の解消を求めている以上、かりに原状回復的損害賠償を認めるのであれば、すでにその契約の解消そのものを認めるべき。

@契約の解消を認めるべきかという問題と、A当該契約に拘束された結果こうむった損害の賠償を認めるべきかという問題は、するはずのない契約への拘束という「侵害」からの回復という点で重なっている。 
例外的に契約を有効としつつ、原状回復的損害賠償を認めるべき場合があるとすれば、それは、契約を無効とすると第三者との取引関係の清算が錯綜することになるなどの政策的理由がくわわる場合だけ。
◎契約自由侵害による基本権侵害 
実際には、契約自由が侵害される場合には、それによって締結される契約の内容も基本権の制限を内容としていることが多い。 
基本権の制限を内容とするような契約に対して自発的な同意が得られることは、通常ありえあい。⇒そのような契約をするには、Aの契約自由を侵害するしかない。

「契約自由侵害による基本権侵害」が問題となっている。
〜契約を用いた不法行為というにふさわしい⇒原状回復的損害賠償が認められる。
@契約自由の侵害の程度と、Aそれを通して侵害される基本権の侵害の程度とのあいだに相補性を認めていいか?
それぞれ単独では契約の解放を認めるに足りる程度の侵害ではないときに、他方の侵害の程度を考慮することによって最終的に契約からの解放を認めていいか? 
肯定していい。

両者はいずれも、契約への拘束を認めることがAの私的自治の侵害を帰結するという点で共通の性格をもつ。
(どのような場合にこの相補性にもとづいて契約からの解放を認めるべきかということは、衡量問題の課題)
     

取引関係における公法的規制と私法の役割・・・取締法規論の再検討(山本、再構成239頁〜)
  ◆第一節 はじめに 

  ◆第二節 法律行為法における取締法規論 
■T 従来の議論状況 
●一 通説および判例の立場
●二 新たな動向
■U 法律行為法における取締法規論の基本構成 
●一 公法・・私法関係の再検討 
●二 憲法システムにおける国家の役割 
国家は憲法上3つの責務を負う。
@介入禁止、A基本権保護義務、B基本権支援義務
@介入禁止:国家は、それを正当化するだけの十分な理由がないかぎり、個人の基本権を侵害してはならない。「国家からの自由」に対応。
A基本権保護義務:国家は、個人の基本権を他人による侵害から保護するために、積極的な措置を取らなければならないという義務。
ex.基本権を保護法益とした各種の刑罰法規や行政上の保護法規、さらには詐欺・強迫や不法行為に関する民法の規定など。
立法が十分な保護手段を用意していない⇒裁判所が立法の不備をおぎない、法形成のかたちでみずから保護をあたえる憲法上の責務。
B基本権支援義務:個人の基本権がよりよく実現されるよう、積極的な措置をとらなければならないという義務。
●三 取締法規論の再構成 
■V 法令型公序良俗における衡量基準 
◆      ◆第三節 不法行為法における取締法規論 
■T 従来の議論状況 
■U 不法行為法の基本構成と判断の枠組み
■V 取締法規と不法行為責任 
  ◆第四節 取締法規をめぐる法律行為法と不法行為法の制度間調整(山本、再構成284頁〜)
■T 問題の所在 
2つの問題:
@法律行為法と不法行為法とを同じ性質をもつものとみていいかどうか。
〜双方とも基本権をその侵害から保護するための制度としての性格をもつものとみていいか。
A法律行為法が基本権をその侵害から保護するための制度でもあるとすると、この法律行為法と不法行為法をどのように調整すべきか
■U 法律行為法による基本権の保護
●一 法律行為による基本権の侵害の可能性 
@一方当事者の基本権の制約を内容とした契約が締結される場合
ex.雇用契約の締結ないし終了に際して、競業禁止特約が締結される場合
A契約締結段階において、意思決定に対し不当な干渉がくわえられる場合
●二 基本権保護型公序良俗の可能性 
●三 基本権保護型公序良俗における取締法規の役割 
■V 法律行為法による保護と不法行為法による保護の関係 
●一 問題設定 
●二 契約を有効としつつ不法行為責任を肯定する可能性 
不当な投資勧誘のケースを中心として、委託契約自体は有効としながら、不法行為に基づく損害賠償を肯定する裁判例。
vs.
@契約が有効に成立しているのに、その契約を成立させた者の行為が不法行為になるというのはどういうことか?
Aそこで認められる賠償が、結果として、契約を無効としたときに不当利得として返還が認められるものと重なっており、このような「原状回復的損害賠償」を認めることは、契約自体を有効とすることと矛盾するのではないか?
B不当勧誘が問題となるようなケースでは、法令型公序良俗だけでなく、基本権保護型公序良俗も問題となる。この基本権保護型公序良俗を認めるべきかという問題と、不法行為法上の「違法性」なり「過失」なりを認めるべきかどうかという問題は、いずれも基本権をその侵害から保護すべきかどうかが問題となっている⇒その保護の内容が同じである限り、両者で判断を異にすることは許されない。
不法行為に基づく処理の利点:
@契約当事者たる企業以外に、その代表者や従業員に対しても責任を追及できる
A過失相殺により割合的処理が可能になる
vs.
@は契約当事者間で契約の無効を問題とすること自体を否定する理由にはならない
A一部無効や信義則による履行請求の縮減、さらには加害者側に契約締結上の過失等を理由とした損害賠償請求などを認めることによって、法律行為法でも割合的処理を行うことが可能。
●三 無効主張をしないで不法行為責任を追及する可能性 
A:契約の無効が認められる以上、その無効主張をすべきであって、それをしない者に損害賠償請求を認める必要はない
〜法律行為法が不法行為に優先するという考え方。
but
こうした損害賠償請求を認めたからといって、これで加害者側に過大な不利益がおよぶわけではない。
B:こうした請求も、それ自体としては被害者の基本権の保護に役立つ以上、その可能性を閉ざすべきではない。
Bの場合の損害の内容:
不当な投資勧誘の例でいうと、その結果行われた取引による差損金と委託手数料の支払義務を負担したこと自体を損害とみる裁判例が多い。
〜委託契約自体は有効という前提に立ったうえで、不法行為責任を認めようとする考え方。
vs.
ここで問題となる不法行為とは、まさに意思決定に不当な介入がおこなわれ、本来ならば意図せざる金銭の出損を強いられたことにほかならない
名目はともあれ、実際に出損させられた金銭を損害とみるべき
◆第五節 終わりに 
かつて:公法・私法二分論
今日:両社は相互依存の関係に立つものとしてとらえなおすべき。
@もともとは秩序維持のための法規範であっても、それが権利実現のために役立ちうるものであるならば、必ずしもその援用を拒む必要はない。つまり、法令は個人の権利実現を援護するものとなりうる。
A法秩序の実現のためには、個人の権利を左右するということが必要なこともある。つまり、個人の利益が法令の目的実現に奉仕するということがあってもよい。

公序秩序が私法秩序を「支援」し、また、私法秩序が公序秩序を「補強」するという関係に立つ。
公法も私法も、国家が憲法上みずからに課せられた責務を果たすために定められた法としての性格をもつ。
憲法が個人の基本権を承認⇒国家は、それに対する介入禁止のほかに、基本権をその侵害から保護する義務と、基本権がよりよく実現されるよう支援する義務を負う。
公法も私法も、そうした義務を国家が果たすために利用しうる保護手段および支援手段。