シンプラル法律事務所
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論点整理(損害賠償・平井説)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

★★第1章 序説
★第1節 不法行為及び不法行為法の意義・存在理由・機能
      ◆一 不法行為の意義 
      ◆二 不法行為の存在理由 
      ◆三 不法行為違法の機能 
      ■(1) 不法行為法の機能に対する考え方 
    ●(ア) 損害填補的機能 
    ●(イ) 予防的機能 
    ●(ウ) 制裁的機能 
      ■(2) 不法行為法の現実の機能と本書の立場
★第2節 不法行為理論再構成のための視点    
      ◆一 総説 
(判例の)準則を明らかにする前提として、膨大な判決例を整理し、全体の中に位置づけ、それらの相互関係を明らかにし、体系化して一つの統一的な不法行為法像を構成する必要。
〜学説の役割。
      ◆二 不法行為法におけるドイツ民法学説の影響 
基本的にはフランス民法を継受した旧民法財産編の規定を基礎として起草
but
ドイツ民法草案を始めとする各種の立法例がかなりの程度参酌
明治後期以降一般に民法学者がドイツ民法学の影響を強く受けた
      ◆三 ドイツ不法行為法とフランス不法行為法との差異 
      ■(1) 不法行為要件における差異 
ドイツ民法:不法行為の要件が個別化
フランス民法:1382条がすべての不法行為に関する一般的要件であり、これを充たすかぎり、不法行為法上の保護が与えられる
      ■(2) 損害賠償の範囲における差異 
ドイツ民法:生じた損害は、賠償責任の原因となった事実と因果関係のあるかぎり、すべて賠償されるべきという原則(完全賠償の原則)
フランス不法行為法:賠償の範囲を制限するという考え方(制限賠償主義)に立脚。
契約不履行に関する1150条を類推して不法行為において賠償されるべき損害をフォートの「直近かつ直接の結果」に限ると解する。
      ■(3) 損害概念の把握における差異 
ドイツ民法:完全賠償の原則のコロラリー⇒「責任原因が存在しなければあたtであろう財産状態と責任原因発生後の現在の財産状態の差額」(差額説的損害概念)
フランス民法:損害概念それ自体が論じれることはきわめて稀。

@制限賠償主義⇒損害概念がドイツにおけるような法技術的意味をもつ必要がない
A損害額の賠償が実体法上裁判官の自由裁量⇒損害概念でこれを拘束する必要がない
B精神的損害がすべての場合に認められている⇒ドイツのようにもっぱら財産的損害を念頭におく必要がない
      ■(4) 精神的損害の賠償における差異 
ドイツ:原則として認められず、特別の規定の存する場合にのみ認められる。
フランス:すべての場合に認められるのが原則。
      ■(5) 客観的要件と主観的要件との分化におかる差異
ドイツ:明確に分離して説明
フランス:両者は未分化。
重要な要件フォートがドイツ民法における違法性と過失を包含する概念であると異論なく解されている。
損害賠償を定めるにあたっては、フォートの大きさとともに精神的損害が常に賠償されるという事情のために、広く非難可能性が大きな役割を演じている。
      ■(6) 民事責任・刑事責任の分化における差異
        ドイツ民法:民事責任と刑事責任の分化は協調
法技術的にも、完全賠償の原則および差額説的損害概念は、侵害行為の態様が賠償範囲に影響を与えることを拒絶し、生じた損害のみに着目してその填補を意図。
フランス民法:両責任は十分分化していない。
フォートの程度や非難可能性が大きな程度において斟酌。
制度的にも、不法行為が犯罪を構成する場合には刑事裁判所に対して賠償責任の提起を可能とする私訴の制度が認められている。
      ◆四 不法行為法の比較法的地位と理論的着眼点 
規程のドイツ不法行為法的外観にもかかわらず、フランス不法行為法の系譜に属する。
@709条以外に不法行為の要件を一般的に定めた規定なし⇒統一的要件主義
A710条は、精神的損害の賠償が一般的に認められていることを示す
B損害賠償の範囲について、現在の判例・学説とも、制限賠償主義に立脚して解釈
★第3節 不法行為の分類と本書の構成    
      ◆一 不法行為の分類 
      ■(1) 伝統的分類
      ■(2) 基本的不法行為・複合型不法行為 
      ■(3) 工作物責任の位置づけ 
      ◆二 本書の構成 
★★第2章 基本的不法行為(1)・・・要件 (p19〜)
★第1節 総説 
      ◆一 709条の要件論に関する理論的視点
統一的要件主義によって、@「故意過失」およびA「権利侵害」の要件が
制限賠償主義によってB「因果関係」の要件が
差額説的損害概念の再定式化によってC「損害」の要件が
それぞれ説明される。
      ◆二 「権利侵害」および「故意過失」の要件と統一的要件主義との関係 
      ■(1) 「権利侵害」の要件の趣旨 
「権利」とは広い意味。
      ■(2) 判例理論と伝統的不法行為理論 
初期の判例:「権利」を狭く解した。
大学湯事件は、広汎な意味とした。
「709条は故意過失によりて法規違反の行為に出て以て他人を侵害したる者はこれによりて生じたる損害を賠償する責に任ずというが如き広範なる意味に他ならず」
学説:権利侵害がなくても違法な行為には不法行為を認めるべき。
〜「権利侵害から違法性へ」
 
      ■(3) 伝的不法行為理論の問題点 
判例上「過失」概念は「違法性」と区別された「主観的要件」という意味で用いられているわけではなく、法律上の行為義務に違反する行為という意味で用いられている。

「違法性」が法規違反行為であるなら「過失」もそれと等しくなる。
⇒「違法性」と「過失」とを区別する意味は存在しなくなる。
      ■(4) 「違法性」概念の機能とその機能喪失の原因
      ■(5) 要件論の再構成 
         
★第2節 過失 (p25)  
      ◆一 過失の意義 
      ■(1) 過失概念の定式化の前提 
       
      (イ) 従来の判例の過失認定の定式:
@当該訴訟の具体的事実関係における被告たる加害行為者の行った具体的行為の特定(事実認定)
A右事実関係において結果ないし損害の発生を回避するためにとるべき行為(規範的判断)の特定
B@とAとの間に食い違いがあれば、過失と判断されるべきもの。 
      ■(2) 過失の再定式化 
      ●(ア) 日本の709条における過失に関するかぎりは、規範的判断に重点をおいて定式化されるべき。

@統一的要件主義を採用する709条には、違法性と過失を峻別する理論的基礎が欠けており、過失を心理状態と規定する理論的必然性が存しない
A心理状態と定義しないことにより被侵害利益への顧慮の必要性を理論的に正当化できる
B現在の判例の準則と呼ぶべきものにも合致し、判例の現実を説明できる 

過失とは、
@損害の発生を回避すべき行為義務に反する行為として定式化されるべき。次に
A右行為義務を課すには、
      ◆二 過失の要件 (p28)
過失の要件:行為義務に反する行為が存在すること、につきる。
(1)加害行為の存在
(2)行為義務の存在(=(ア)予見義務に裏づけられた予見可能性の存在、(イ)損害回避義務の存在)
(3)右の(1)が(2)によって特定された規範的な行為態様と食い違うこと。
      ■(1) 行為の存在 
      ■(2) 行為義務の存在 
過失は行為義務(予見義務および損害回避義務)に違反する行為⇒その前提たる行為義務の存在が「過失」の第2の要件。
英米法においてはnegligenceは、故意不法行為および厳格責任にもとづく不法行為以外のすべての不法行為を含む概念。
3つの因子
@過失ありと主張されている行為から生じる結果(損害)発生の蓋然性(危険)
A右行為によって侵害されるであろう利益(被侵害利益)の重大さ
B右@およびAの因子と行為義務を課すことによって犠牲にされる利益との比較衡量
      ●(ア)結果(損害)発生の蓋然性(危険)のある行為(p31)
         
         



★平井説
■(2) 行為義務の存在(p29)
総論
(ア)
(ア) 結果(損害)発生の蓋然性(危険)のある行為              説明 2つの場合に応じて分化すべき。
@行為それ自体が損害発生の蓋然性を有する場合(ex.自動車の運転)
A行為それ自体は@のごときものではないが、損害発生の危険を創出し、その危険を継続させ、またはその危険の支配管理に従事する行為の場合(ex.道路工事現場の管理)
@⇒単純に行為そのものを行わない義務または当該損害の発生を回避する義務が発生
A⇒もっと多様かつ複雑な行為義務。たとえば、危険の存在を指示し遠ざかるよう警告する義務、その性質・内容を説明する義務、危険に対する安全措置を講ずる義務およびそのための検査・調査・回収・問診義務、その性質・内容を説明する義務、危険に対する安全措置を講ずる義務およびそのための検査・調査・回収・問診義務、危険を減少させるよう管理・組織・専任・監督する義務等が生じる。
(a)それ自体危険な行為
 (a)それ自体危険な行為        (i)自動車その他の交通機関を運転する行為
・横断歩道に歩行者がいる場合の徐行義務ないし一時停止・通行不妨害の義務
・先行車との間の車間距離を保持する義務
・運転中の前方中止義務および交差点を通過する際の徐行義務・警音器吹鳴義務
・優先通行権のない道路から交差点に先入した時の停車義務
・右折車が対向車の進行を妨害しない義務
・駐車禁止区域に駐車をしない義務
・ワンマンバス運転手が乗客の昇降に安全な場所に停車して安全確認の上開扉する義務
道交法は、自動車等の通行方法について詳細な規定をおいているが、判決例の多くは、同時にそれらを自動車運転者の行為義務の根拠として扱っている。
⇒判例理論上道交法の規定は同時に自動車の運転行為に関する不法行為法上の行為義務の根拠ないしその存否の判断基準となっている。
  (ii)損害発生の蓋然性の高い機械・設備等を操作する行為 
爆発・感電等の危険のあるガス・電気等の設備あるいは機械を操作する行為も、この類型に含まれる。
・高圧の石油液化ガスを許容以上に過充填する行為
・発破作業において装薬量や装填の不適切なために予想外の爆発や予想外の場所に岩石を飛散させた行為
・周囲の安全を確かめることなく、電気自動鉋機を始動させる行為
・クレーンにスイッチを入れる行為
〜行為それ自体を観察して過失を判断されるべき。
  (iii)手術・注射等の施術を行う行為 
・施術者は、ガーゼ等の異物を手術創内に残留させない義務
・注射行為に際しては、施術者は、注射部位・器具・手指の消毒を完全にする義務
・適切な注射量・注射薬・注射部位を選定する義務
・腰椎穿刺の施術(ルンバール)においては、施術者は右の消毒義務のほか、とくに針が安全に当該部位に達するように患者を適切に保持固定する義務を負う
・レントゲン照射について、過照射による皮膚障害を起こさないように分割照射により施療する義務
・薬剤投与について、副作用の有無の内容・程度を把握し、危険時には中止すべき義務
  (iv)スポーツ中の競技者の行為 
それ自体危険な行為の1類型⇒競技の行われる状況や競技の特質に従って他の競技者ないし人に危害を及ぼすべきでないように、行為義務が特定されるべき。
・ゴルフの後行競技者は先行競技者に対して危険を及ぼすことのないよう配慮すべき注意義務を負う
・猟銃を使用する者は、人の存在の有無をたしかめて命中しないよう注意を払う義務
・混雑しているプールで飛び込みをしようとする者は、遊泳者の有無を確認する義務
(b) 行為それ自体は右(a)のごときものではないが、損害発生の危険を創出し、その危険継続させ、またはその危険の支配管理に従事する行為
 (b)   (i)人の交通が予想される場所(往来)に危険を生じさせる行為 
これらの行為を行った者は、危険を除去すべき義務または少なくとも危険に接近する人に警告する義務を負う。
・道路に面した軒先に材木を立て掛けた者は材木の倒れるのを防ぐ方法を講じる義務
・タイヤを公道においた者は固定するなどの措置をとる義務
・冬期に自宅前の私道に撒水する者は凍結により転倒する者のないよう撒水を差し控える義務
・道路工事をする者は道路の危険を指示する立看板および危険防止のための防護柵を設置する義務
・工事により道路に穴ないし陥没を生じさせた者は危険を示すための照明をする義務
・側溝工事をする者は集水開口部に落ちる危険を防止する義務
・干拓工事により障害物を生じさせた者は航行者にその存在を知らせる標識を設ける義務
  (ii)危険の発生源を流通におく行為 
往来におけるのと同様、不特定多数人に関わる危険を生ぜしめる行為⇒(i)と同様に、危険の発生に対する防止措置を講じる(安全性を確保する)義務、危険の存在を指示警告する義務を生じさせる。
いわゆる製造物責任。
商品の「欠陥」には、@設計・デザイン上のもの、A製造工程上のもの、B指示警告上のものの3つがあると考えられているが、@のもの、すなわち設計・企画段階における安全性確保義務の違反が多数人に危険を及ぼす蓋然性が最も大きい⇒@であれば最も容易に過失を肯定できる。
 製造物が食品・薬品のようにとくに重大な被侵害利益(生命・身体)を伴う場合には、右行為義務の存在は一層容易に認められる。
・医薬品の製造業者は、危険を及ぼす副作用の存在を調査研究すべき義務およびその危険を指示警告すべき義務、さらに当該医薬品を回収すべき義務を負う。
  (iii)人を来集させる場所ないし施設を提供し人またはそれらを組織・管理・支配する行為 
人を来集させることは、その数が増大すればそれだけ危険発生の蓋然性を高める。⇒このような意味での危険源を組織・支配・管理する者は、生じうべき危険を防止すべき義務を負う。
・多数の観衆の来集した演奏会の公演責任者は、警備員を配置したり通路に防止策等を設置することにより観客を安全に観覧させる義務を負う。
・自習授業中の鉛筆の取合いによる事故について、その場にいた担当教師の過失。
・小学校の遠足中のけんかによる事故についての引率教師の過失。
・病院の管理者は、病院内における伝染病疾患の感染を防止するために早期に疾患を発見し患者隔離等をなすべき義務。
・陣痛を訴えて入院した妊婦を監視する体制を整える義務
・入院中の精神障害者の動静に注意する義務
  (iv)それ自体危険な行為を創出・組織・支配・管理する行為 
(i)〜(iii)と異なり、多数人に対して危険源を創出・組織・支配・管理する行為ではないけれども、それ自体、損害発生の蓋然性をもたらす危険な行為を創出・組織・支配・管理する行為は、そのような危険の発生を回避すべき行為義務を発生させる。
危険な行為をもたらす自動車について支配・管理する者は、危険な行為の発生を防止する義務を負う。
・自動車のドアに鍵をかけずにエンジンキーを差し込んだまま駐車させる等の状況においたとき
危険な機械設備等を設置すること等により危険源の創出等の行為をする者も、同様な行為義務を負う。
・ガス器具を設置し供給する行為についての検査・点検義務
・旅館の客室におけるガス中毒事故において旅館には自動安全装置のある元栓にとりかえる行為義務
・換気設備等を欠いたガス風呂釜の設置されたアパートを賃貸に供した者の、安全な浴槽を提供すべき義務
・排水溝で水中ポンプを使用する者の漏電防止のための検査や接地線を設けるべき義務
手術等の施術によって危険を創出する行為は、危険の実現を調査すべき義務(問診義務)を生じさせ、その危険に接近する者に対して危険の内容・性質を説明すべき義務。
・注射する意思の、禁忌者を識別するために具体的かつ的確な応答を可能ならしめるような質問をする義務
・患者のアレルギー反応を念頭において問診する義務
・副作用を予知して説明する義務

手術等の施術によって危険を創出し、それを支配・管理する者は、その危険から生ずる損害を防止すべき義務を負う。(術後管理の義務)
・開腹手術を行った医師は患者に急激な体動を与えることによる悪影響を回避すべき義務
・術後の出血の有無を予測し調査して対応すべき義務
・十分な術後観察を行うべき義務
・麻酔医の当該手術が完了するまでは患者の全身状態を監視する義務
・幼児の入場を認めているプールの監視員の、幼児の遊泳による危険に備える義務
・大人用プールに接近するのを発見・防止する義務
・海水浴場の監視員の、遊泳区域内への危険物の侵入を防ぎ水難者を救助する義務
・スキューバダイビングの講習の指導者の受講者の位置動静に気を配って危険の有無を確認する義務
(イ)被侵害利益の重大さ(過失すなわち行為義務違反行為の存否を決定する第2の因子)(p39)
(イ)被侵害利益の重大さ(過失すなわち行為義務違反行為の存否を決定する第2の因子) (a) (i)生命・身体・自由・所有権のような人間の生存に直接関わる時利益が最も重大であることは疑いない。
(ii)名誉・プライバシー、日照・通風・眺望を享受する利益、「適正ない病名ないし病状を早期に知るという利益」、「氏名を正確に呼称される利益」、「静謐な宗教的環境の下で進行生活を送るべき利益」「私生活の平穏」などについて、右(i)におけると同程度に重大だと直ちに断じることはできない。
被侵害利益の重大さに応じて過失の前提たる注意義務の程度が異なる。
(b)  被侵害利益の重大さの程度が高い⇒判例は「権利侵害すなわち被侵害利益」の要件を問題としない。
損害が発生し、かつ過失ありと判断したら、直ちに損害の金銭的評価という次の段階に入って損害額を算定する作業を行う。

理論的には、権利侵害の要件は損害の発生の要件の中に解消され、独立の地位を失ってしまった。
権利侵害の要件は損害の要件事実の主張・立証でカバーされている。
@「権利侵害」の要件が拡大され、不法行為成立の限定的機能を失った。
A被侵害利益の重大さの程度が高いときは不法行為法上の保護の本来的機能が発揮されるべき場合。
(c)  被侵害利益をどの程度にまで重大視すべきであるか否かにつき議論が分かれる場合が存在

@生命・財産への支配権のように最も基本的なものとして保護されてきた利益に比べ歴史が浅く、かつ新たに保護を求めて主張されるに至った利益(ex.日照・通風を享受する利益)
Aこれらの利益の保護が他の基本的利益、とくに現代社会存立の基礎をなす言論の自由・所有権の自由・取引活動の自由というような利益の保護と相対立する関係にあるために(名誉毀損・プライバシーの保護と表現の自由、日照通風妨害と所有権の行使、第三者の債権侵害、営業妨害と取引活動の自由など)、不法行為の成立を認めるべきか否かは簡単に決しがたい。

(ii)の場合において不法行為の成立を認めるには、当該加害行為がなされた具体的状況における各種の事情が顧慮される必要

それらの顧慮を表現する語として過失で十分でないと感ぜられるとき、別の表現(「違法性」「受忍限度」)が選ばれることがある。
これらは、各種事情を顧慮した結果、不法項責任を認めるべきだという判断に到達した場合においてその判断を表現するための語に過ぎず、法技術的意味を欠いている。
「権利侵害」の要件は、判例上は過失の要件の1つまたは損害の発生の要件に吸収されてしまったものと考えるべき。
(d)           (i) (i)生命・身体・自由
生命・身体は社会の存立および不法行為法制度の根幹をなす最も重要な利益。
身体を動かす自由も同様。
重要さにおいてそれと劣らない意思決定の自由も含まれる(詐欺強迫は意思決定の自由を害する(大判昭和8.6.8))。
(ii)    (ii)所有権その他の物権
●不動産の二重売買
●占有権
●抵当権侵害
(iii)      (iii)債権
債権は「絶対権」でないからその侵害には特別の加重された要件を要するという基本姿勢から脱却して、契約関係の保護という観点に立つべき。
●対抗力を備えた不動産賃借権〜被侵害利益の重大さは大⇒物権に準じて扱うべき
●債務者の生命・身体・自由を侵害した結果として、その者の負う行為義務を侵害⇒その侵害は過失不法行為における損害賠償の範囲の問題として扱われるべきで、特別な要件を課すべきではない。
●右以外の方法で行為債務を侵害:
不法行為が成立するには、その行為債務の発生原因である契約の存在についての認識、すなわち行為義務違反を問う前提たる予見可能性の存在を要する。

外部から認識でいない観念的存在たる債権の侵害には、このような要件を課さなくてはならない。

契約の存在が予見可能⇒その契約を尊重し、取引を破壊するような行為を回避すべき行為義務が生じ、その義務違反が過失と境されるべき。
●引渡債務の侵害:
右と同様の理由により、その債務に関しての何らかの契約関係の存在についての認識すなわち予見可能性のあったことを要する。
(iv)        (iv)右(i)〜(iii)以外の被侵害利益
「権利侵害」の有する不法行為に成立を限定する機能は失われた⇒
どのような被侵害利益であっても、判例上特別の要件が形成されていない限り、行為義務違反があれば後述(ウ)の基準への考慮の下に、不法行為の成立が肯定されるべき。
特に、故意による侵害の場合には、被侵害利益の重大さは問題とならない
ex.
「私生活の平穏」を被侵害利益とした最高裁H1.12.21。
サラ金の取立に関する新潟地裁昭和57.7.29。
詐欺的先物取引の勧誘に関する札幌地裁昭和59.5.24。
●日照・通風・眺望侵害の場合
判例の準則は被害が「社会生活上一般的に被害者において忍容するを相当とする程度(受忍限度)を超えたと認められるとき」に不法行為の成立を認めている(最高裁昭和47.6.27)。
右受忍限度の判断にあたっては、侵害の程度、侵害行為の態様、地域性(係争地域が商業地位であるか否か等)、行為の法規違反性(建築基準法違反の有無等)、社会的評価、侵害者の防止措置の有無等の多数の要素が考慮されるべきものと解するのが判決例の態度。

これらの利益の保護は所有権の自由または所有権者の権利行使と衝突せざるをえず、それとの調整をするためにこのような考慮が加えられる。

709条によって不法行為の成立を認める以上、理論的には、これらの要素は行為義務の程度を判断すべき事情として斟酌されていると解するほかなく、行為義務違反すなわち過失の成否に関わるものとして位置づけられるべきもの。
●名誉の侵害
民法 第710条(財産以外の損害の賠償)
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
刑法 第230条(名誉毀損) 
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
刑法 第230条の2(公共の利害に関する場合の特例)
前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
●「公正な論評」の法理
●プライバシーの利益または権利
(e)    (イ)の因子(被侵害利益の重大さ)は(ア)の因子(結果(損害)発生の蓋然性(危険)のある行為)と相関関係にあり、行為義務の存在(および程度)は、その相関関係によって決せられている。
(i) @損害発生の蓋然性が高くかつA被侵害利益の重大さが大である程度が高い。
⇒損害を回避すべき行為義務の存在および程度は、容易に肯定され、かつ高度なものとなる。
@それ自体危険であり、A生命・身体への侵害をもたらす医師の行為義務について、その存在がきわめて容易に肯定されるべきであり、かつ高度であるべき。
「いやしくも人の生命及び健康を管理すべき業務(医業)に従事する者は、その業務の性質に照らし、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求される。」
医薬品・食品を供給する者も「医薬品は人間の生命・身体という最高の価値に関わるもの」であるから「医薬品製造業者に対して安全性について最も深い配慮を払うべき義務」、すなわち「科学として最高の水準で調査研究をして安全性を確保する注意義務を負っている」
(ii)  損害発生の蓋然性の小さい行為であっても、被侵害利益が重大
⇒高度の行為義務が認められるべき。
不動産売買の仲介行為は取引行為であるが、損害回避義務の存在は容易に肯定されかつ高度であり、仲介行為を業とする者は、仲介物件の権利関係についての高度の調査義務および説明義務を負うと解すべき。
重要事項説明義務に関する等、仲介業務に関する宅地建物取引業法の規定(35条等)は、道交法と同じく、私法上の行為義務の根拠でもある。
(iii) @損害発生の蓋然性が小さく、かつA被侵害利益の重大さの程度も小さい
〜特段の理由がないかぎり、原則として行為義務の存在は否定。 
(ウ)(ア)の損害発生の危険の因子および(イ)の被侵害利益の重大さの因子と行為義務を負わせることによって犠牲にされた利益との比較衡量
(ウ)(ア)の損害発生の危険の因子および(イ)の被侵害利益の重大さの因子と行為義務を負わせることによって犠牲にされた利益との比較衡量 根拠  @過失不法行為に関する709条の要件が現実には過失・因果関係・損害の発生の3つに帰着している結果、過失の概念は不法行為の成否を決定する役割を担うに至っている。
A危険かつ重大な被侵害利益をもたる行為であっても、その社会的有用性(医療行為・医薬品供給行為その他市場の要求に応じる行為のうちある種のもの)のゆえに、それが大の場合には、過失を否定しなければならないことがある。
B同等に危険な行為が競合して行われる場合(ア)の行為の危険性の因子だけでは過失の存否を判断できず、したがって危険の配分のための規範を定立し、その規範を守って行為したものについては過失を否定する必要が生じる。そのような規範の定立にあたっては、この第三の因子を手掛かりとせざるを得ない。
判例の準則  (ア)および(イ)の因子と行為の社会的有用性とを最も高度にあわせ備えた医療行為について、過失と主張されている行為(たとえば水虫治療のためのレントゲン照射)とその行為が侵害した利益(皮膚癌発生による両下腿切断)とを比較して、後者の利益が大であるなら過失と認める。
同様な性質をもつ医薬品の供給行為の過失の判断にあたっては、薬剤の治療上の価値と副作用の危険とを比較衡量して決すべきことをくり返し明らかにしている。
危険の配分に関する具体的な規範の定立 ・優先通行権がある場合に徐行義務を否定する判決
・他車が交通法規に違反することまでも予想して運転行為を行う義務はないとするいわゆる信頼の原則

いずれも行為の価値と行為義務を課すことによって犠牲にされる利益(回避のための費用)とを比較衡量し、後者が大なるが故に、(ア)(イ)の因子によって過失とされる場合であっても、なお過失が否定されることを示したもの。


★平井説
★不法行為の要件
★不法行為の要件 「違法性」の機能喪失 「違法性」概念は、
@709条の「権利」の要件を拡大するという機能
A同地民法におけると同様に過失と対比された客観的要件としての機能
の2つを担った。
「権利侵害から違法性へ」の命題が定着するとともに、@の機能を担った「違法性」概念はその役割を果たし終わった。
不法行為の成立を限定する機能の大部分は「権利侵害」ではなく、「過失」の要件に求められることとなった。
⇒「過失」は単なる心理状態ないし主観的要件ではなくなり、不法行為が成立したかどうかという判断一般を含む高度に法的かつ規範的概念に転化。
@Aの機能をともに喪失した「違法性」概念は判例上用いられることが少ない。
社会における危険の広範化・高度化が進展し、その結果生じた損害に対する不法行為法上の保護の拡大の要請が増大⇒「権利侵害」の要件の制限的解釈は修正されるべき運命に。
⇒「過失」概念が不法行為に成立における規範的判断の中核となるに至った。
要件 日本の不法行為法の構造に理論的にも適合し、かつ判例の現実を説明できる要件:
@「過失」行為または、A「故意」行為の存在
B「損害」の発生
C@またはAとBとの間の因果関係
★@過失
★@過失 意義 判例が過失を認定する際の定式:
@当該訴訟の具体的事実関係における被告たる加害行為者の行った具体的行為の特定(事実認定)
A右事実関係において結果ないし損害の発生を回避するためにとるべき行為(規範的判断)の特定、を行い、
B@とAとの間に食い違いがあれば、過失と判断されるべきものと解する。

心理状態と定義しないことにより被侵害利益への顧慮の必要性を理論的に正当化できる。
過失とは、まず、
@損害の発生を回避すべき行為義務に反する行為として定式化されるべき
A右行為義務を課すには、加害行為者が損害発生の危険を予見しえたこと(予見可能性)が論理的な前提となる。
(←予見がおよそ不可能な場合には、それを回避することを期待すべくもない。)
この「予見可能性」は、予見すべきであったのに予見できなかった、という規範的要素を含むもの⇒予見義務を基礎とする予見可能性というべきもの。
「民法709条所定の「過失」とは、その終局において、結果回避義務の違反をいうのであり、かつ、具体的状況のものにおいて、適正な回避措置を期待しうる前提として、予見義務に裏付けられた予見可能性の存在を必要とするものと解する」
(東京地裁昭和53.8.3東京スモン訴訟)
要件 過失の要件 過失の要件は行為義務に反する行為が存在すること、につきる。
(1)加害行為の存在
(2)行為義務の存在
(3)右の(1)が(2)によって特定された規範的な行為態様と食い違うこと。
(2)の要件を分化させれば、(ア)予見義務に裏付けられた予見可能性の存在、(イ)損害回避義務の存在、になる。
■(1)行為の存在
■(1)行為の存在 独立の要件として行為を掲げる意味は、必ずしも大きくない。

@行為としての評価を受けえない人の挙動の多くは心神喪失または判断能力ないし精神能力の未発達故と考えられる⇒責任能力の問題として処理される。

A行為は不作為を含むが、不作為に対して不法行為責任が課されるのは、作為すべき義務が存在する場合⇒行為義務の存否という規範的判断の問題に帰着する。⇒過失の要件としての行為とは、外界に対して何らかの変化をもたらした人の挙動というに帰着する。
■(2) 行為義務の存在⇒別表
■(3) 行為義務によって特定された(あるべき)行為と現実に行われた行為との間の食い違い
■(3)食い違い ●特定の程度
@行為義務があらかじめ特定されている程度の高いとき(たとえば道交法・宅建業法の規定による)⇒現実の加害行為がそれに違反したことを示せば足りる⇒加害行為のその側面を特定すれば十分であり、本要件の存否に基づく過失の判断は比較的単純。
A故意義務があらかじめ特定されている程度の低いとき(ex.医師の診療行為の行為義務)〜
現実の加害行為が実際にたどった経過に即して細分化され、その1つ1つがそれに対応する個別的な行為義務に違反している、という形で訴訟上主張されるのが通常。

個別的な行為義務の特定に多くの努力が費やされ、本要件に基づく過失の判断は複雑化することが少なくない。
(ex.未熟児網膜症に関する裁判では、酸素供給を管理すべき義務、薬物療法を試みる義務、定期的眼底検査をすべき義務、光凝固法という治療方法について説明指導義務、それらを受けられるよう転医転院を指示すべき義務、専門医の診療を受けられる医療機関を教示すべき義務等が争われている」)
★A故意
★A故意 意義 故意又は故意不法行為とは「損害を加えようとする意思(加害の意思)またはそのような意思を以って損害を生じさせる行為」として、単純に定式化されるべき。
通説:故意とは「一定の結果(違法な侵害)の発生を認識しながらそれを容認して行為するという心理状態」と定式化
vs.
@通説は、「違法」な侵害または「違法性の意識」について語るが、過失と区別された意味における「違法性」はわが国の不法行為法においては理論的位置づけを与えられない
A「違法な侵害」は、現実には「過失」または「損害の発生」の要件に解消されていると解すべき
B故意と過失の性質が異なるという認識に立てば、故意は明確に「意思」の一態様として規定されるべき。
解釈論上の帰結   @ 損害賠償を請求する者が故意の存在のみを主張する場合でも、過失を認めるに足る事実が訴訟上顕出されるならば過失を認定することが許されるけれども、加害の意思しか認定できな場合で過失にもとづく予備的主張もされない場合には、過失に基づく不法行為を認めることはできない。 

故意が意思に基づく責任であるならば、過失不法行為とはその帰責の根拠を異にする。
 A 故意の存在が認められるならば、損害の発生および因果関係の存在の要件が充たされている以上、行為の危険性または被侵害利益の重大さの程度如何を問わず、常に不法行為が成立すると解すべき。
重過失との区別 重過失は、過失概念の要素足る予見義務を専ら意思の緊張を欠くために予見できなかったことによって怠ったこと、と考えるべき。
予見義務は、損害回避義務と同じく、規範的判断によって生じるものであるが、客観的な行動の逸脱によってこの義務に違反したと判断されるべきではなく、意思の緊張を欠いたことによる怠りという点で、通常の過失とは性質を異にし、故意に近くなるが、加害の意思ではないという点で、故意とも異なっている。
★第4節 損害の発生 (p74〜)
    ◆一 損害の意義 
      ■(1) 通説における意義 
日本民法では、損害を定義する法技術的意味に乏しく、損害賠償の内容に解消される。
      ■(2) 損害概念の再定式化
 ★C損害の発生 規程 第722条(損害賠償の方法及び過失相殺)
第四百十七条の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。
2 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
第417条(損害賠償の方法)
損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。
賠償請求するにあたり、被害者は、金銭賠償の原則(722条1項)の帰結として、「金何円を支払え」という形で自己の被った不利益を表示し、かつ、その基礎たる「不利益を構成する事実」を主張しなければならず、裁判所は、これに応じて金額で表示されたものを、それに対応する「不利益を構成する事実」の存在を認めた上で、損害賠償として与えなくてはならない。

損害とは、@金銭で表示されたものなのか、Aその基礎である、蒙った不利益だとして主張された事実なのか、という問題が生じる。
@の「損害=金銭」説(A説・判例)
「損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を填補することを目的とするものであるから、労働能力の喪失・減退にもかかわらず損害が発生しなかった場合には、それを理由とする賠償請求ができないことはいうまもない」(最高裁昭和42.11.10)
but
交通事故に関する下級審判決例の圧倒的多数は、これに反対している。

A説「損害=事実」説(B説)

損害を金銭で表す作業が過去に生じた事実上の訴訟上の単なる再現ではなく、裁判所の行う裁量的・創造的・評価的要素が介入せざるをえない性質を有する。
「抵当目的物の毀損」という事実それがどれだけ減価したかという評価とは性質を異にする。
「損害=事実」説を採用したところで賠償すべき「損害」が一義的に決まるわけではない。それを決めるのは規範的判断であり、損害賠償の範囲の問題。
◎A説とB説の違い 
@金銭評価という概念化:
A説⇒事実を金銭に評価するという概念・手続・その性質如何とうい問題は生まれない。B説⇒それが生まれる。とくに損害額の立証責任の問題は、B説によってはじめて明確に把握される。
A損害額算定の基準時:
A説⇒損害自体が増減すると観念されるので、基準時は実体法適用の問題として賠償範囲論の中で論じられる
B説⇒実体法の適用問題だけではなく、評価の時点はいつか、という問題として訴訟法上の観点を含んで扱うという視覚が生まれてくる。
B損害賠償請求権者範囲:
A説⇒金銭を支出した近親者は請求権者となる
B説⇒それを認めるのに否定的
C遅延損害金の発生時期:
A説⇒少なくとも理論的には、個々の金銭の支出時(入院費の支払いなど)から遅延損害金を付すべきことになる
B説⇒金銭評価の介在をまって考えれば足りる
      ◆二 損害の種類 
      ■(1) 財産的損害と精神的損害 
      ■(2) 積極的損害と消極的損害 
         
第5節 行為と損害との間の因果関係(p79〜)
      ◆一 因果関係概念の理論的意義 
      ■(1) 因果関係概念の多様性
@行為が侵害を現実に(このことは事実の立証および認定により明らかにできる)惹起した関係(=事実的因果関係)
Aある者がある結果に対して広く法律上の責任を負うという関係一般
B「相当因果関係」と同じ意味で用いられる場合
「相当因果関係」が
(i)右Aの意味で用いられる場合
(ii)民法416条と同じ意味に用いられる場合
(iii)すでに定まった賠償額の範囲を理由づけるものとしてのみ用いられる場合
      ■(2) 事実的因果関係の概念の必要性
「相当因果関係」のが稲は、ドイツ民法の下では、完全賠償のコロラリー(当然の結果)として法技術的意味を有する。
ドイツ民法は、直接損害・間接損害の区別・予見可能性など、フランス民法にみられるような賠償範囲を制限する規定を一切排除し、損害との間の因果関係(=行為が損害を現実に惹起した関係)のみを要件として要求。
⇒賠償範囲が拡がりすぎるという理論上および実務上の要請⇒因果関係を法的観点から限定するという発想の下に「相当因果関係」概念が導入。
民法 第416条(損害賠償の範囲)
債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
●  最高裁は、民法416条を不法行為に準用するのが判例の立場
⇒判例の立場を前提とする限り、損害賠償の範囲については416条の解釈のみを論じれば足り、「相当因果関係」への言及は不要。
判例の準則を支持しない立場に立つとしても、416条が存在する以上、不法行為においても制限賠償主義を念頭においた解釈論を主張しなければならない。
⇒「相当因果関係」概念を用いることは不要。

因果関係の概念が日本民法上法技術的意味をもつのは、(1)@の意味(
=事実的因果関係)においてのみ。

制限賠償主義の下では、右の意味の因果関係に立つ損害のうちでいかなるものが賠償の範囲に入ると解すべきか否か、その範囲を制限する基準はどうあるべきかという規範的判断を問うことが問題であって、因果関係のみを賠償されるべき損害の要件とする完全賠償の原則の前提を採る必要はない。
      ◆二 事実的因果関係の意義と認定基準 
      ■(1) 基本的公式 
事実的因果関係:
当該具体的加害者の行為(C)が当該被害者の損害(D)を現実に惹起した、という事実の平面における関係。
●要件 
(ア)事実の平面における問題⇒事実によって立証可能なものであってはじめて判断の対象となる。
不作為の因果関係として判例上論じられたものは、作為義務すなわち過失の程度または範囲の問題として考えれば足りる。
Dも事実(限界の変化)であること、すなわち損害=事実説における損害たることを要する。
(イ)(ア)のようなCとDとの間に、「もしCがなかったならば、Dは生じなかったであろう(「あれなければこれなし」公式)」という関係が存在すると認められる⇒原則として事実的因果関係は存在。
「もし過失がなかったならば損害が生じなかったであろう」と問うことは、過失が規範的概念である以上、事実的因果関係の問題ではなく、過失(行為義務)の程度の問題。
(ウ)「あれなければこれなし」の関係の存否は訴訟上顕出された事実のみにもとづいて判断されるべきであるが、DはCのみを唯一の原因として生じたという心証を得られることを要しない。
他の事実と競合したとしても、CとDとの間に右の関係が肯認できれば、それをもって足りる。
(エ)事実的因果関係の問題は、@立証責任の観念を容れうること、A事実問題であって法律問題ではないこと。
but
事実的因果関係といっても、広い意味で責任を負わせるべきか否かという法律的な判断が介入せざるを得ない問題。
      ■(2) 基本的公式の適用に関する問題
      ●(ア)DがC以外の原因(U)と競合して生じた場合 
(a) CもUも単独でDを生じさせると認定できる場合
(b) C及びUを原因としてDが生じたけど、C及びU単独ではDが生じない場合
(c) 現実にDを生じさせたCと、CがなくてもDを生じさせたであろうUとが競合した場合
      ●(イ)割合的因果関係 
問題は、事実的因果関係の平面ではなくして、金銭的評価の平面で扱われるべき。
      ●(ウ)認定が困難な場合 
(a) 
(b) 人の自由意思による行為が介在する場合
ex.
加害行為の後に被害者が自殺した場合
受傷して入院中治療で死亡した場合
人の行為であっても、当該具体的事実関係の下でそのような損害を生じる行為を選択するしかなかったという関係が認められれば(=認めるに足る心証が得られれば)、事実的因果関係の存在は肯定。
最高裁:教師の懲戒行為と懲戒を受けた生徒の自殺に関し、自殺の決意を予見することが困難であった点を理由に、右2つの行為の間には「相当因果関係」がないと判示(最高裁昭和52.10.25)
but
予見可能かどうかは規範的判断の問題

本件の争点は、まず事実的因果関係の平面で処理されるべきことを要し、
事実認定としてそれが肯定されてはじめて予見可能か否かを要素の1つとする規範的判断を行うべき。
 
         
         
      ◆三 事実的因果関係の立証 
         
         
         
第三章 基本的不法行為(2)・・・・効果
★第1節 総説  
      ◆一 原則 
      ◆二 金銭賠償以外の効果 
         
★第2節 損害賠償の範囲 
      ◆一 総説 
      ◆二 保護範囲(p111〜) 
      ■(1) 立法趣旨
      ■(2) その後の判例・学説 
      規定 民法 第416条(損害賠償の範囲)
債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
      ●富喜丸事件大判大15.5.22
富喜丸が他の商船と衝突して沈没したので、船主から相手方商船の船主に対し、損害賠償を請求。
大審院は、沈没当時の船価の賠償のみを認め、第三者に傭船してあったことにより得られる傭船料請求を否定した。
民法416条の規定は共同生活の関係において人の行動とその結果との間に存する相当因果関係の範囲を明らかにしたものに過ぎずして独り債務不履行の場合にのみ限定せらるべきものに非ざるをもって不法行為に基づく損害賠償の範囲を定めるについても同情の規定を類推してその因果律を定べきものとす」。そして、物の通常の使用収益によって得べかりし利益は沈没当時の価格の賠償に含まれるから、特殊の使用収益を請求する場合には、債務者が416条2項の事情を予見しまたは予見し得べかりしことの主張立証を要する。(以上、第1準則)
      ■(3) 学説・判例の現況 
      ●  ●判例
      ◎富喜丸事件の第1準則の意義:
@ドイツにおける相当因果関係概念は、完全賠償の原則に立脚⇒責任原因が充足されればそこから生じた損害賠償は、すべて賠償されなければならない(責任原因と賠償範囲とは切断される)。
but
416条2項は、特別事情について当事者が予見しまたは予見し得べかりしこと(「予見可能性」)を要求⇒制限賠償取に立つ。
(予見可能か否かの判断は責任原因を構成する事実如何によって決定される⇒責任原因と賠償責任とは結合される)

ドイツ民法的相当因果関係論概念に依拠して賠償責任一般を観念するのは理論的意味を有しない。
A右第1準則は、416条が「相当因果関係」の範囲を明らかにしたものだと述べるが、そうだとすると損害賠償の範囲はすべて416条の解釈問題に帰着⇒「相当因果関係」の概念を用いる必要も意味もない。

第1準則が日本民法の解釈論上真に意味を有するのは、416条を不法行為に類推適用したという点のみ。
      最高裁は富喜丸事件の第1準則を踏襲し、確立した判例準則となっている。 
最高裁昭和48.6.7:
東京へ進出するため所有する土地を担保に融資を受ける計画でいた業者が、被保全権利がないのに右土地に対し処分禁止の仮処分を受け、その結果、融資を受けられなくなり、東京での営業が遅れたという事案で、不当執行をした者に対する右遅れた期間の得べかりし利益の賠償請求につき
「不法行為による損害賠償についても、民法416条が類推適用され、特別の事情によって生じた損害については、加害者において、右事情を予見または予見することを得べかりしときにかぎり、これを賠償する責を負うものと解すべきであることは、判旨の趣旨とするところであり、・・・いまただちにこれを変更する要をみない」
右業者の主張する損害は特別の事情によるものであり、不当執行者が本件仮処分申請当時においてそれを予見可能であったと認められないとした原審の判断を容れて請求を棄却
最高裁昭和49.4.2:
交通事故によって負傷した被害者の近親者が看護のために外国を往復した旅費を通常生ずべき損害にあたると判示。
      but裁判例は混乱。
「相当因果関係」の語を用いながら事実的因果関係の問題を扱ったと解すべきもの:
@「あれなければこれなし」公式の適用によって解決すべきbut416条の予見可能性の存否によって決定しようとしてる⇒対象・有無の判断基準は明確さを欠く。
(ex.懲戒と自殺とのあいだの「相当因果関係」を否定した最高裁昭和52.10.25(事実認定としてとらえていないので、過失との境界線も不明確)、交通事故と自殺との事実的因果関係を扱った多くの下級審判決例。)
A相当因果関係を416と切り離して用いる(事実的因果関係として扱えば理論的にはそうならざるをえない)。
⇒416条の解釈問題に立ち入っていない。
事実、「相当」の語を冠せずに単に因果関係とのみ表現する判決例も多い。
416条と別個の基準(理由を付さないままに、または予見可能性ではなくして「相当な範囲」等の理由により)で損害を算定し、その結果を「相当因果関係」と表現している下級審判決例(交通事故における入院費、治療費等に関して多数ある)も多い。
弁護士費用に関しては、このようなものが判例の準則になっている。
⇒判決例を素材として、不法行為における損害賠償に関し416条の解釈に資するような手掛かりは得られない。
⇒判決例を素材として、不法行為における損害賠償に関し416条の規定を構成する各文言についての具体的な解釈論を展開するのは困難。
      ●学説 
富喜丸事件の第1準則が416条の不法行為への類推適用にあったことを承認しつつ、類推適用の可否について議論。
      ◎類推適用否定説(有力) 
←債権債務関係に立っていない当事者間に生じる損害賠償の範囲を制限する基準として予見可能性を用いるのは適切ではない。
416条に代わる保護範囲(賠償範囲)の新たな決定基準を提唱する必要が生じる。
      A:注意義務との関連で決定基準を提示する説:
保護範囲の決定基準は「行為者の過失を構成する基準となる注意義務(損害回避義務)の範囲と一致する」
but故意の場合については言及されていない。
B:損害概念を分化させることによって決定基準を提示する説
416条の類推的に反対する根拠は、@予見可能性を用いるのが不法行為にあっては適切ではないということと、A特別事情による損害について加害者側に予見可能性が存しなければ何のつみとがもない被害者がその損害を自ら負担することになるが、これは不公平である。

予見可能性によらない画定基準の定立を試みる。
      C:決定基準を定立すること自体に懐疑的な説
    ■    ■(4) 評価
    ◎学説に対する評価(p117) 
        ■(5) 判例の問題点(p120) 
416条は賠償範囲(保護範囲の意味における)を当事者の予見可能性に限定する趣旨と解さなければならない
but
判例は、416条を類推適用する旨を表明しながら、実際に類推適用の意味を失わしめている傾向にある。
判例が「相当」と見尾t目られる範囲のものにかぎり、「相当因果関係に立つ」損害だとか、「通常生ずべき損害」と解する、とかいうように同語反復的法律論を述べるにとどまる場合が少なくない。
予見可能性をもって決定基準とする判決にあっては、それはもはや「当事者」の予見可能性ではなくして「通常人」の「予見可能性」になっていると認むべきものがきわめて多い。
「予見可能性」が「通常人が予見し、または予見し得べかりしこと」という性格を帯びるとと次の問題が生じる。
結論:416条とは別に決定基準の定立が要求される。
      ■(6) 決定基準の定立 (p122〜)
      ●(ア)
制限賠償主義の構造を前提とすれば、賠償範囲を責任原因と結合させることが賠償範囲の決定基準を考える際の基本的な理論的視覚でなければならない。

不法行為を成立させる要件の解釈として賠償範囲が決せられなくてはならない。

@基本型不法行為の賠償範囲は709条の要件の解釈によって決せられ、
A複合型不法行為の賠償範囲は「関連共同性」の解釈として、監督義務の義務射程の及ぶ範囲として、「職務執行性」の解釈として、安全性具備義務の義務射程の及ぶ範囲として、それぞれ決せられる。
      ●(イ)
709条の要件のうち
@損害の発生、A事実的因果関係の存在
〜賠償責任を論じる前提⇒決定基準の問題からは除外。
B権利侵害の要件は実際には意味を有しない。
残るは
C故意またはD過失であり、決定基準はこの2つの要件の解釈に帰着する。
      ◎(a)過失不法行為の賠償範囲の決定基準 
過失の存否を判断する基準である行為義務(損害回避義務とその前提をなす予見可能性に裏付けられた予見義務)の及ぶ範囲(これを行為義務の及ぶ射程距離という意味で「義務射程」と呼ぶ)によって定められる。
損害回避義務の存否および程度を決定する3要素:
@過失ありと主張されている行為から生じる結果(損害)発生の蓋然性(危険)
A右行為によって侵害されるであろう利益(被侵害利益)の重大さ
B@及びAの因子と行為義務を課すことによって犠牲にされる利益との比較衡量
Bは、損害回避義務の存否を決定し、程度は@Aによって決定される。

@Aの要素により、損害回避義務の違反(過失)があると判断された場合において、賠償請求する者および賠償の請求の対象となっている当該損害に対し、加害者の違反した損害回避義務は、具体的請求権者および当該損害をその義務射程内に含むべきか否か(規範的判断)を問い、肯定されるならば保護範囲に含まれると解すべき。
被侵害利益の重大さ(A)の程度が大であればあるほど、また、行為から生ずる危険の程度(@)が大であればあるほど、損害回避義務は重くなるが、同時に義務射程の及ぶ範囲も、損害および人の範囲の双方について大となる。
何が「重大」であるか、いかなるものが当該行為からの「危険が大」と考えるかは、過失と同じく規範的判断。
予見可能性は、理論摘には損害回避義務の前提をなす予見可能性(予見義務)としての地位のみを与えられるべき。
義務射程が問題となるのは、同一人に生じた損害の場合ばかりでなく、別人に及んだ場合でも同じで、その者が義務射程に含まれるか否かという形で問題となる。
(請求権者ごとに賠償範囲を分断するという考え方は採らないことが前提となっている。)
      ◎(b)故意不法行為の保護範囲の決定基準
故意不法行為については、過失不法行為のように保護範囲の決定基準を制限する必要はなく、予見可能性を要求すべきではない。
⇒故意不法行為と事実的因果関係に立つ損害は原則としてすべて賠償されるべき。
but
「加害の意思」と著しく食い違った結果については負わせるべきではない。
法律論「ただし異常な事態の介入の結果生じた損害についてはこの限りではない」という言明を付加。
      ◎(c) 
      ◎(d)過失不法行為の保護範囲を判断するプロセス
@原告の主張立証した事実から被告の(加害)行為・損害(損害の事実)およびこの二者との間の事実因果関係を認定する。
A行為に過失があったか否かの法律的(規範的)判断を加える。
B過失ありとされたならば、右@によって認定された損害の事実に対して規範的判断を加え、賠償の対象となるべき「損害」を構成する。
C右Bによって構成された「損害」が義務射程に含まれるか否かの規範的判断を加える。
含まれれば、それについての賠償請求は可能になる。
D最後に、義務射程に含まれる損害について金銭的評価を加える。
      ◆三 損害の金銭的評価(p129〜) 
      ■(1) 総説 
      ●(ア)意義および性質
      事実認定という作業によって確定できるのは、損害の事実のみ。
金銭への評価は、事実の確定ではないという意味において、何らかの評価作用。
〜事実的因果関係とは異なる性質を有する。 
but保護範囲の確定におけるような法律論の定立・適用という規範的判断とも異なる。
裁判官が金銭的評価を行うにあたって
@諸般の事情を参酌して算定でき、その算定は事実審裁判官の専権に属する
A算定の根拠を示すことを要せず
B事実認定ではなく評価⇒立証責任の観点を容れる余地がない。
      精神的損害:
慰謝料のついては、@〜Bの性質をすべて認める。 
財産的損害:判例は@〜Bに従わない
財産的損害の算定に関する準則が判例上形成されているばかりでなく、「損害賠償を請求する者は損害の発生の事実だけでなく、損害の数額をも立証すべき責任を負う」(判例)

@については、右準則に従って損害額を算定すべき
Aについては、算定の根拠を具体的に挙示すべき
Bについては、損害額の立証のない場合には請求棄却
         
      ●(イ)判例理論及び下級審の実務(p134) 
      ●(ウ)実務のもたらす問題点 
      ●(エ)評価 
    ■    ■(2)金銭的評価に関する準則 
      (ア) 基本原則 
「保護範囲によって画定された損害についての金銭的評価は、被害者に対し可及的に不法行為前の財産状態を回復させることを基本として行われるべきである」という命題(全額評価の原則)が基本原則。
      (イ) 被侵害利益と評価の準則 (p139〜)
      ◎ (a) 生命侵害
      〇逸失利益:
@死者本人につき年間収入額を認定
A生活費を判断し、それを@から控除
B死者の就労可能年数を判断
CAとBの積(将来の純逸失利益)から中間利息を控除 
      〇積極的損害
      〇  〇慰謝料 
      (b) 身体障害 
      ◎  (c) 物の滅失・毀損 
      ○滅失の場合
滅失の場合、滅失当時の交換価値(時価または市場価格)によって算定するのが原則(最高裁昭和32.1.3)。
それ以降、交換価値の変動がある場合にどのように算定すべきかは、金銭評価基準時の問題。
流通市場が形成されていない場合において同種の物がある場合、その物(中古品の滅失であれば中古品の)を取得するのに必要な代金額。
それでも明らかでない場合、、鑑定等を基礎として諸般の事情により評価するほかない(会計学上の減価償却による等)。
建物については、同種のものが何かについて判断するのは困難であろうが、新しい物を取得した費用をそのまま算定すべきではない(所有者が居住し続ける事情の下では、滅失した旧建物の耐用年数に対する経過耐用年数の割合額を控除するとした東京地裁昭和43.3.21)。
立木を育成して伐採収穫する者がその立木の不法伐採により受けた損害額は、適正伐採期における立木の価額によって算定すべき(最高裁昭和39.6.23)。
      ○毀損の場合
損害額は修理代相当額および物を利用しえなかったことによる逸失利益または代物の借賃。
代品を購入せざるを得なくなったときは購入代金と毀損した物との価格の差額。
      ◎(d)物の不法占拠・不法占有
土地・建物の不法占拠による損害額:その期間の賃料相当額。
社宅の不法占拠による損害額〜社宅としてしか使用しえないものなら、社宅使用料相当額
家屋の賃借人が賃貸借契約終了後不法に占有を継続⇒従前の賃料相当額が損害額
      ◎(e)その他の権利の侵害の例
      抵当権の目的たる不動産に対する侵害:
抵当権者は不法行為者に対し直接、賠償請求権を有し(物上代位(372条、304条))、その損害額は価格が低下し弁済を受けられなかった額。
競売の結果を待つ必要はなく、実行前でも弁済期後であるなら請求できる。
      賃借権の侵害に関し、借地権を失わせたことによる損害額は、その交換価格。
借地権の流通は一般的ではない⇒交換価格の判断の困難を生じる場合が多い。
借地権の不法占拠の場合は(d)と同様
      ◎  ◎ 弁護士費用:
訴訟の追行を弁護士に委任した場合には、「事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額」(最高裁昭和44.2.27)をもって賠償額を算定。(p142)
弁護士費用は、損害発生の危険と無関係⇒司法制度利用のため負担すべき費用であって損害賠償の問題ではないと考えるべき。
(←右の準則が、不法行為と無関係な諸事情を考慮して算定すべきものとしている)
      ●(ウ) 金銭評価の時点 
      物の滅失・毀損による損害額:滅失・毀損時の交換価値によると解するの原則
but
交換価値が変動した場合にどの時点の交換価値によるべきか?
      富喜丸事件:
@不法行為によって物を滅失・毀損された者はその当時の交換価格の賠償を請求しうる
A滅失・毀損した物の価額が後に高騰してもそれによって逸失利益の賠償を求めるには、不法行為がなければ騰貴した価額により処分する等その価額に相当する利益を確実に取得した特別の事情があり、その事情が不法行為当時加害者において予見しまたは予見し得べかりしことを要し、
賠償を請求する者は@Aを立証しなければならない。
vs.
@損害概念との理論的関係が不明
A人身損害についての判例の準則は、416条によらずに口頭弁論終結時までの事情を考慮して金銭的評価をしているが、その差異の根拠が不明
B416条の類推適用の問題
      平井説:
@基準時は義務射程によって確定された損害の事実についての金銭的評価の問題に還元される
A人身損害におけると同様に、原則どおり、口頭弁論終結時までどの時点をも考慮できる。
利益の取得が蓋然性があると認められるかぎり、裁判官は金銭的評価の一般的性格に従ってその蓋然性のある時点を選択できる。 

基準時は、実体法上一定時点に固定されるべきものと考える必要はない。
強いて一般的に基準時を定めなければならないとしたら、顧慮できる時点を最大限に選択しうる口頭弁論終結時。
      ■(3) 減額事由(p144〜) 
      ●(ア)総説 
@損益相殺
A過失相殺
B仮定的因果関係・割合的因果関係
@ABは、結局において金銭的評価額を減額させるという点において同一であり、被告から抗弁として実務上主張されることが多い。
本書の立場:
@は独立の地位を有さず
Aは「過失」の問題ではない点にいて、裁判官の自由裁量による損害の金銭的評価と同じ平面に属する問題
B事実的因果関係の問題と位置づけるべきではく、Aと同様の性質を有する問題
      ●(イ)損益相殺 
      ◎(a)意義
ある不法行為の被害者がそれと同一の不法行為により損害とともに利益を受ける場合に賠償されるべき損害の範囲からその利益を控除すること。
      ◎(b)内容 
      損益相殺の例として挙げられるのは、生活費または養育費の控除
butこれらは生命損害の金銭的評価の準則そのものの内容をなしており、損益相殺として掲げる法技術的意味は乏しい。
       
     
控除すべきか否かはそれぞれの給付の発生原因を定めた法律上の規定の趣旨または目的の解釈に帰着
⇒これらは損益相殺のカテゴリーから除かれるべきもの。 
      逸失利益が被害者の収入額を基準として算定されるならば、収入に課せられるはずの税金を賠償額から控除すべきという考えが生じるが、所得税については最高裁は控除を否定。
〜所得税法の解釈として処理されるべき問題。
      法律の規定の解釈として問題が登場しない場合において、一般的にどのようなものが控除されるべきかを決するのは、困難な解釈問題。
@控除されるべき旨主張されている利益が当該不法行為と事実的因果関係にあること、
Aその利益を発生させた個々の法律関係の趣旨および目的を解釈して、当該利益を給付させることの趣旨および目的と損害賠償のそれとが「同質的かつ相互補完的」(最高裁昭和62.7.10)であるか否かを判断すること
(香典・見舞金は死傷事故と事実的因果関係にはあるが、死傷者への贈与であって控除すべきではない(最高裁昭和43.10.3))
B損害賠償者の代位に関する規定(422条)が類推適用されるべきものか否かを考慮すること
によって決すべき。
Bにおける代位は、損益相殺とは別個の制度(ひとまず賠償を支払わせることにより賠償請求権者を保護する)として発達したものではあるが、賠償請求者の保護を通じて、究極的には代位の対象となる利益を請求者に保持させないという考え方にもとづくものであって、損益相殺の考え方と無縁ではない。
⇒「当然債権者に代位する」(民法422条)という関係にあるか否かを判断し、それによって決すべき。

損益相殺の問題は、@損害額算定の基準の適用またはA個別の法律関係の解釈のいずれかに還元される。
         
      ●(ウ) 過失相殺(p148) 
◎(a) 意義および立法趣旨 
  民法 第722条(損害賠償の方法及び過失相殺)
2 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
  賠償されるべき損害額を定めるにあたって、被害者の「過失」を考慮するというにとどまる。
損害額を減額することができる旨の規定としては過失相殺に関するものしかない⇒金銭的評価の裁量的性格を発揮させるには、この規定は理論的にも実務的にも重要な役割を果たしている。
      ◎(b) 理論的性質 
A:過失相殺を因果関係の一局面と位置付ける考え方

B:過失相殺を加害行為の非難可能性または違法性の程度に応じて損害賠償額を減額すべきことの反映として位置づける考え方
〇C:過失相殺は損害の金銭的評価の問題
判例の準則によれば、
@裁判所は過失相殺をするにあたり、諸般の事情を考慮し自由な裁量によって過失をしん酌し、公平の観念に基づき損害額を定めれば足り、理由を挙げる必要はなく
A斟酌するかしないかも事実審裁判所の自由裁量に属し
B過失相殺の主張をまたずに、訴訟に現れた資料にもとづき過失ありと認める場合には職権で行うことができる。
これらは、損害の金銭的評価の特質を直截に表現したもの。
      ◎(c) 要件 
      (i)被害者の「過失」が存在すること 
 故意不法行為の場合には、過失相殺が行われるべきではない。
←過失相殺の法理は、「自らの過失により損害を蒙ればその者は損害を蒙った者とは解されない」の法理(=過失ある被害者は賠償請求する権利を一切有しなかった(故意による不法行為の場合は別))の厳格さを緩和するために生まれたものであるが、過失不法行為についてまず緩和が問題とされたという経緯をもち、これを反映して、故意不法行為の場合については被害者に過失があっても斟酌は認めるべきでないというのが比較法上支持される解釈。
被害者の「過失」は民法709条における「過失」とは異なる。
⇒被害者が責任能力を有することを要せず、事理弁識能力(5歳であり)をもって足りる
a:他人に損害が生じるのを回避する義務を被害者が負わず、単に自己の利益または安全をまもることをしなかったにとどまる場合⇒この場合は義務違反ではなく事理弁識能力を有しない。(ex.酔って道路に寝ていた場合。)
外形的・客観的に観察して、自己の利益または安全を危険に曝す行為と解されるような態様であったか否かを判断すれば足りる。
b:被害者が他人に対し損害回避義務を負う場合は、被害者の過失として減額事由となるべきであり、この場合は被害者は責任能力を有する(ex.監護者が監護義務を怠った場合につき、父母の固有の慰謝料請求につき監護者の過失の斟酌を認めた事例)。
c:自己の安全または利益を危険に曝す被害者の行為が同時に他人への損害回避義務に違反⇒abの中間⇒bより低い判断能力をもって足り、判例準則の事理弁識能力で足りる。
      〇  (ii)「被害者の過失が存在すること 
         

        ◆三 生命侵害以外の場合における損害賠償請求権者の範囲(p181〜)
  一般理論  請求権者の範囲を画定する一般理論
A:Aに対する加害行為の結果、Bに損害が生じたと解し、損害賠償の範囲に関する一般理論の応用として考える立場(「賠償範囲説」)
B: 損害賠償の範囲の問題ではなく請求権者の範囲の問題であるから別個に考えるべきものとする立場(「請求権主体説」)。
判例 第1類型 第1の類型:
生命・身体に侵害を受けた者の近親者がそのために支出した治療費、付添看護費、葬儀費用、墓碑建設費、仏壇購入費、葬儀のため帰国した旅費等を「相当因果関係」または416条の適用問題として扱う。
第2類型 第2の類型:
生命侵害・身体に傷害を受けた者を雇用する企業が、そのために支出した治療費、生活費、入院費、付添看護費、労働基準法上または労働契約上の療養等補償費、葬儀費、遺体引取費、香典または被用者の休職による減収分(逸失利益)を請求できるか?(一般に「企業損害」と呼ばれる。)
逸失利益について
被害者が唯一の取締役かつ代表取締役であり、税金対策のために設立した有限会社が、被害者の受傷・休業による逸失利益の賠償を請求した事案で、
「被上告会社は法人とは名ばかりの俗にいう個人会社であり、その実権は・・・(被害者)個人に集中して同人には被上告会社の機関としての代替性がなく、経済的に同人と被上告会社とは一体をなす関係にあるものと認められるのであって、かかる原審認定の事実関係のもとにおいては、原審が、・・・(被害者)に対する加害行為同人の受傷による被上告会社の利益の逸失との間に相当因果関係の存することを認め、形式上間接の被害者たる被上告会社の本訴請求を認容しうべきものとした判断は正当である」(最高裁昭和43.11.1)
これ以降の下級審判決の大勢は、個人会社であれば肯定し、そうでない企業からの請求は「請求権の範囲を拡大しすぎ予測ないし計算可能性を超える」等の理由で否定する傾向。
学説  (a) 近親者または企業の受けた損害が、被害者本人が請求していれば当然認められるはずのものであれば(近親者または企業の支出した治療費、付添費、労災給付等)、それらは加害者が究極的に負担すべきもの
⇒これらの者(不真正間接被害者)に請求権者たる地位を認める。
そのための法律論は、賠償者の代位(法422条の類推)、代償請求権(法536条2項類推)、代位弁済(法499条、500条)等のいずれかの類推による。
(b) 右(a)を除く場合における間接被害者の範囲画定の一般理論に関しては、判例理論に反対する立場が有力。 
「相当因果関係」の概念は、特定の請求権者に関する損害賠償の範囲画定に関するものであって、請求権者の範囲画定の問題ではなく、かつ「相当」の概念によって請求権者の範囲まで決定しようとすれば不明確かつ恣意的になる。
被用者の死傷による企業の逸失利益、付添看護・不就労の結果により近親者に生じた逸失利益について企業または近親者を請求者と認めることは、加害者の予測ないし計算可能性を超えて、企業の計算に織り込むべき損害を負担させるものであり(企業損害の場合)、法律上の根拠に欠ける(近親者の場合)。
ただし、いわゆる個人企業または夫婦の経済的同一性および故意による債権侵害がある場合には、例外として請求権者たる地位を肯定すべき。
評価 (ア)  いわゆる「不真正間接被害者」は理論的には「損害」の概念に吸収して解釈されるべき。
身体障害の場合における付添費、治療費等は、身体障害という規範的「損害」に包摂されるべき損害の事実であり、身体傷害を受けた者が自ら請求すれば当然に認められるべき「損害」

@受傷者と近親者・企業(不真正間接被害者)とがともに請求している場合は、加害者は受傷者のみ請求権者として扱えば足りる。
A受傷者が請求せず、あるいは請求権の放棄、請求の認諾、和解等をした場合には、「不真正間接被害者」は自己の関知しない事由によって究極的には加害者が負担すべき損害を負わしめられたことになる⇒この場合に限り学説の挙げる各種の規定の類推適用によって請求権を有すると解すべき。
「不真正間接被害者」が法律上あるいは契約上費用を支出する義務(扶養義務、労災法、就業規則上)を負う場合には、とくに代位の類推適用によって解決すべき。
(最高裁昭和43.11.15についても、被上告会社の損害が「相当因果関係」にあたるか否かを「予見可能性」等を基準に判断しているのではなく、個人会社等の事実があれば「相当因果関係」にあるというもので、賠償請求できることの同語反復にすぎない。)
(イ) 請求権者の範囲に関する一般理論に関しては、「賠償範囲説」に従うべき。

「請求権主体説」が原則として請求権者を直接の被害者に限定するドイツの損害賠償法の基本構造と親近性を持つもつものであり、このような限定をおかないフランス民法に由来する709条の解釈論としては「賠償範囲説」のほうが民法の構造に適していると考えられる。
but「相当因果関係」概念が保護範囲画定基準とはなりえない。
●間接被害者等に損害を与えることを意図し、その手段として直接の被害者に損害を与えるような場合には、故意不法行為における保護範囲は拡大するという一般理論の応用
⇒間接被害者に請求者たる地位を認めるべき。
●過失不法行為の場合、間接被害者が「義務射程」に入る者ならば、すなわち損害回避義務が間接被害者たる請求権者に生じた損害の回復義務をも含むならば、その者は賠償範囲に含まれると解すべき。
自動車事故における損害回避義務は、当該自動車によって生じる定型的危険に曝される者に限られ、被害者の勤務する企業には及ばないと解すべき。
●個人会社の賠償請求は、実質的には直接の被害者の請求そのものと考えるべき。
⇒法人格という外形にとらわれることなく、請求権者たる地位を認めることになる。
(賠償額を算定するのは個人についてであって、企業の逸失利益は、それを認定するための、資料にすぎない。)
以上、「賠償責任説」によるとすれば「間接被害者」という概念は、法技術概念としては不要であり、その概念によって扱われる問題は、理論的には保護範囲画定の一般理論の扱う一局面にすぎない。