シンプラル法律事務所
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論点整理(役員等の責任)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

★取締役の義務
★取締役の義務  一般的な義務 会社と取締役との法律関係は委任の規定が適用される(法330)→
その職務を遂行するにつき、善良な管理者としての注意義務を負う。(民法644)
その注意義務の水準は、その地位・状況にある者に通常期待される程度のものとされ、特に専門的能力を買われて取締役に選任された者については、期待される水準は高くなる。 
忠実義務    会社法 第355条(忠実義務)
取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。
A:同質説:本条の忠実義務は、法330条・民法644条にいう善管注意義務と基本的に同じ内容の義務
B:異質説:異なる義務
忠実義務(法355)につき、会社法330条、民法644条に定める「善管義務を敷衍し、かつ一層明確にしたにとどまり、通常の委任関係に伴う善管義務とは別個の高度な義務を規定したものではない」(最高裁昭和45.6.24)
いずれの説によっても、忠実義務の内容として、取締役は一般に、会社の利益を犠牲にして自己または第三者の利益を図ってはならないという義務を負うと解される(同質説によれば、それは善管注意義務の内容でもある。)。
英米 アメリカの州判例法上の取締役の忠実義務の法理は、取締役は信託財産(会)の受託者であるという観念

@会社の最善の利益との間の利害対立が疑われる状況に取締役が身をおけば責任を免れ難いという要件面の厳格性
A義務違反が生じた場合は単なる債務不履行ではなく信託違反として法定信託の設定等重い責任を追及されるという効果面の厳格性
(江頭第4版p405)
@注意義務では義務を負う者の過失の有無が問題となるが、忠実義務ではそれは問題とならず、無過失責任。
A違反があった場合の義務を負う者の責任の範囲は、注意義務の場合には被害者が受けた損害の賠償であるが、 忠実義務の場合は義務を負う者が得た利益の吐出し。
(神田第16版p222)
●    ●取締役の義務の基本的内容 
◎株主利益最大化の原則 
取締役は、株式会社のため忠実に、善良な管理者の注意をもって職務を行うべき。
@会社は営利を目的とする法人⇒「会社のため」とは、基本的には、「会社の利益」をなるべく大きくすることを意味する。
A「会社の利益」は、剰余金の配当や残余財産の分配等を通じ、最終的に株主に分配されるもの。

取締役の義務は、基本的には、株主の利益をなるべく大きくするように、善良な管理者の注意をもってその職務を行うことにあると解してよい。
(=株主利益最大化の原則)
@残余財産である株主の利益を増加させる決定は、社会全体の利益を増加させる決定と一致する傾向がある。
A株主利益以外の目的の追求を取締役に認めることは、結果として、経営に対する規律を弱め効率性を損なうおそれがある。
⇒株主利益最大化の原則が支持されるべき。
◎「会社(株主)の利益」の意味 
取締役は、会社が将来得ると期待される利益(フリー・キャッシュ・フロー)の割引現在価値の最大化を図るべき。
◎原則の制限・修正 
@取締役の法令遵守義務(法355条)は、会社・株主の利益の優先する。
A株主有限責任⇒取締役は会社債権者の犠牲の下に過度にリスキーな投資をするなど、非効率な経営をする危険がある(モラル・ハザード)。
取締役が悪意・重過失によりそうした行為をした場合、会社債権者に対し損害賠償責任を負う(法429条1項)。
B会社が相当な範囲で社会的に期待される行為を行うことは、たとえ株主利益の最大化につながらないとしても、許容されると解すべき。
◎株主の共同の利益を図る義務 
一定の場合には、取締役の職務は、会社の利益を通さず、直接に、株主の利益に影響を与えることがある。
そのような場合には、取締役は、株主の共同の利益を図るように、その職務を行わなければならないと解すべき。
  ●報告義務 
  取締役が、株式会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を監査機関(会社の種類に応じ、監査役、監査役会または監査等委員会。監査機関がない会社では、株主)に報告しなければならない(法357条)。
会社法 第三五七条(取締役の報告義務)
 取締役は、株式会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を株主(監査役設置会社にあっては、監査役)に報告しなければならない。
2監査役会設置会社における前項の規定の適用については、同項中「株主(監査役設置会社にあっては、監査役)」とあるのは、「監査役会」とする。
3監査等委員会設置会社における第一項の規定の適用については、同項中「株主(監査役設置会社にあっては、監査役)」とあるのは、「監査等委員会」とする。
■利益相反行為の規制 ■利益相反行為の規制
  取締役が自己(または第三者)の利益をはかって会社の利益を害するおそれがあるため、特別な規制がある。
規定 会社法 第356条(競業及び利益相反取引の制限)
取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき
2 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号の取引については、適用しない。
会社法 第365条(競業及び取締役会設置会社との取引等の制限)
取締役会設置会社における第三百五十六条の規定の適用については、同条第一項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。
2 取締役会設置会社においては、第三百五十六条第一項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。
会社法 第四二八条(取締役が自己のためにした取引に関する特則)
 第三百五十六条第一項第二号(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引(自己のためにした取引に限る。)をした取締役又は執行役の第四百二十三条第一項の責任は、任務を怠ったことが当該取締役又は執行役の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができない
2前三条の規定は、前項の責任については、適用しない。
会社法 第四二三条(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
2取締役又は執行役が第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。
3第三百五十六条第一項第二号又は第三号(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。
一 第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役
二 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役
三 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(指名委員会等設置会社においては、当該取引が指名委員会等設置会社と取締役との間の取引又は指名委員会等設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)

4前項の規定は、第三百五十六条第一項第二号又は第三号に掲げる場合において、同項の取締役(監査等委員であるものを除く。)が当該取引につき監査等委員会の承認を受けたときは、適用しない。
●競業取引    ●競業取引
一般規制 取締役の競業は会社のノウハウ、顧客情報等を奪う形で歌詞派の利益を害する危険が高い⇒予防的・形式的に規制を加えたもの。
「競業」の要件に当たらなくても、取締役が営業秘密を利用して私利を図る等同規定が守ろうとしている法益を害する形で会社に現実に損害を生じさせた場合には、取締役の忠実義務違反の責任生ずることがあり得る。(江頭p408)
自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をする場合(法356@(1))
←会社の取引先を奪うなど会社の利益を害するおそれが大きい。
その取引について重要な事実を開示して取締役会の事前の承認を得なければならない。(法356@(1)、365@)
承認を受けたかどうかにかかわらず、競業取引をした取締役は、遅滞なくその取引について重要な事実を取締役会に報告する。(法365A)
違反の場合
@会社に対して損害賠償責任を負い(法423@A)
A取締役解任の正当事由となり得る(法339)
会社の機会を奪う行為(ex.会社が取得予定の土地を取締役が個人で買う。)は、競業をしない限り法356@(1)の対象とならないが、一般的に忠実義務違反(法355)となり得る。
機会の奪取 取締役が個人の資格で得た情報等をどこまで会社に提供せねばならないか?
上場会社等の公開型のタイプの会社の場合、個人の資格で得た情報等も会社に提供する義務がある。

広く業務展開をする力があり、特に常勤の取締役は自己の能力すべてを会社に捧げるべき。(江頭Bp407)
将来の保障が必ずしもない中小企業の非同族(従業員出身)の取締役にそこまでの会社への忠実を期待することは無理。(江頭Bp407)
従業員の引き抜き 退任後に会社と同一または類似の事業を開始することを企図する取締役が、在任中に部下に対し退職して自己の事業に参加するよう勧誘することが、取締役の忠実義務違反となることがある。
×A:在任中に部下に対し退職勧誘をすれば義務違反になる
vs.従業員を会社の財産としか見ない見解であり、妥当でない。
○B:取締役と当該部下との従来の関係等諸般の事情を考慮の上不当な態様のもののみが義務違反となる。(江頭Bp408)
退任後の競業避止特約 取締役の退任後の競業は、原則として自由。
(退任後でも、在任中に会社から示された(在職中に自ら開発したのものものでない)営業秘密)を利用して行う競業は、不正競争防止法違反となる。(不正競争2条1項7号、6項)
退任後の競業を禁止する取締役・会社間の特約は、取締役の職業選択の自由に関わるので、@取締役の社内での地位、A営業秘密・得意先維持等の必要性、B地域・期間などの制限内容、C代替措置等の諸要素を考慮し、必要・相当性が認められる限りにおいて公序良俗に反せず有効。
●利益相反取引(取締役・会社間の取引) ●利益相反取引(取締役・会社間の取引)
◎コラム(田中274) 
会社法制定前:
利益相反取引をした取締役だけでなく、取締役会で取引を承認したにすぎない取締役も、会社に対して無過失責任を負うものとされていた。
vs.
会社が取締役と取引をすることは、会社の利益にもなり得る
⇒結果的に会社に損害が生じたからといって当然に取締役に責任を課すことは、その種の取引を萎縮させ、必ずしも望ましくない。
会社法制定:
取締役は注意を怠らなかったことを証明すれば責任を免れるものとし、
ただ、自己のために会社と取引をした取締役については、自己の利益のために会社に損害を与えながら無過失を理由に責任を免れることは妥当ではないことから、無過失責任を維持。
but
自己のために取引をした取締役は、帰責事由の不存在を主張、立証することによって責任を免れることはできないものの(法428条1項)、任務懈怠の不存在を主張、立証することにより、責任を免れることができるような規定ぶりとなっている(法423条3項参照)。
この点について、
利益相反取引における取締役の「任務」とは、客観的に公正な条件・内容で取引を行うことを意味すると解し、取締役は、取引の公正さを主張、立証できなければ、任務懈怠とされると解すべきである。
そのうえで、自己のために直接取引をした取締役以外の取締役は、取引が公正な内容でなかったことにつき帰責事由(故意または過失)がないことを主張、立証すれば、責任は免れるが(たとえば、担当取締役・使用人や専門家の意見を信頼した場合等)、自己のために直接取引をした取締役は、そのような理由では責任を免れることはできない(法423条1項)。
直接取引(法356条1項2号):
取締役が自ら当事者として(=自己のため)又は他人の代理人・代表者等として(=第三者のため)会社と取引をする場合(ex.会社から財産を譲受け、金銭の貸付を受け、会社に財産を譲渡する等)

取締役が(相手方の)前面に出る場合
間接取引(法365条1項3号):
株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき
その取引について重要な事実を開示して取締役会の事前の承認を得なければならない。(法356@(2)(3)、365@)
承認を受けたかどうかにかかわらず、遅滞なくその取引につき重要な事実を取締役会に報告する。(法365A)
  〜危険性に鑑み予防的・形式的に設けられたもの⇒それ以外の取引についても、会社を代表する取締役が会社の犠牲において相手方の利益を図る行為をすれば、忠実義務違反の責任が生じ得る
(江頭第6版p439)
◎対象   ◎対象 
該当 会社から取締役への約束手形の振出(最高裁昭和46.10.13)
←原因関係上の債務より一層厳格な支払義務
会社が自社の取締役が代表取締役となっている他の会社に約束手形を振り出すこと(最高裁昭和46.12.23)。
そのような他の会社に約束手形を振り出すこと(最高裁昭和46.12.23)。
取締役が妻の債務につき個人としてとともに会社を代表して連帯保証すること(東京高裁昭和48.4.26)
代表取締役が個人で買い受けた土地の代金支払確保のため個人と会社と共同で約束手形を振り出すこと(東京高裁昭和48.7.16)
代表取締役を被保険者、会社を保険金受取人とする生命保険で、保険契約者を会社から代表取締役個人に、保険金受取人を会社からその代表取締役の配偶者に変更(仙台高裁H9.7.25)
AB両会社の代表取締役を兼ねている者がA会社の債務につきB会社を代表してする保証⇒A会社の利益にして、B会社に不利益を及ぼす行為⇒取締役が第三者のためにする取引にあたる(最高裁昭和45.4.23)。
A社からB社への不動産の譲渡(最高裁H12.10.20)
該当せず 普通取引約款による運送契約・預金契約や債務の履行、相殺など、性質上そのようなおそれがない行為
←規制の趣旨から、裁量によって会社の利益を害するおそれがある行為に限られる。
債務の履行
取締役の会社に対する負担なしの贈与
取締役の会社に対する無利息・無担保の金銭貸付
取締役が手形金額と同額の金銭を交付して会社から手形の裏書譲渡を受けること
競売手続による競落
会社のために保証する目的で会社振出の手形の受取人となって裏書すること
第三者を介しての関連会社への融資につき、会社が平成17年改正前商法265条1項(会社法356条1項2号)の適用を回避する目的で第三者を介在させた等の特段の事情がない限り、平成17年改正前商法265条1項前段(会社法365条1項2号)の取引には該当しない(大阪地裁H14.1.30)。
取締役が会社の全株式を所有し(一人会社)、会社の事業が実質上その取締役の個人経営のものにすぎないとき(最高裁昭和45.8.20)。
取締役と会社間の取引につき株主全員の合意があるとき(最高裁昭和49.9.26)
◎取引の効力 ◎取引の効力 
取締役会の承認を得ないで利益相反取引が行われていた場合の取引の効力

一般に、その取引は無効(ただし追認されれば効力を生じる)。
取締役の側から無効を主張することはできない。
(←会社の利益を保護する趣旨)
会社が第三者に対して無効を主張するのには、その者の悪意を立証しなければならない(相対的無効)。
◎責任   ◎責任
規定 会社法 第423条(役員等の株式会社に対する損害賠償責任) 
取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
2 取締役又は執行役が第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。
3 第三百五十六条第一項第二号又は第三号(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。
一 第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役
二 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役
三 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(委員会設置会社においては、当該取引が委員会設置会社と取締役との間の取引又は委員会設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)
会社法 第428条(取締役が自己のためにした取引に関する特則)
第三百五十六条第一項第二号(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引(自己のためにした取引に限る。)をした取締役又は執行役の第四百二十三条第一項の責任は、任務を怠ったことが当該取締役又は執行役の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができない。
2 前三条の規定は、前項の責任については、適用しない。
会社法 第339条(解任) 
役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
2 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
説明 会社法356条1項2号3号の利益相反取引により(取締役会の承認の有無を問わない)会社に損害が生じた場合
⇒その取締役は会社に対して損害賠償責任を負う(法432条1項。3項(任務懈怠の推定)に注意)(過失責任)。
自己のために直接取引をした取締役は、「任務を怠ったことが当該取締役の責めに帰することができない事由によるもの」であったときでも損害賠償責任を負う(法428条1項)(無過失責任)。
尚、取締役解任の正当事由となり得る(法339)
上記の規制は、危険性に鑑み予防的・形式的に設けられたものであり、それ以外の取引についても、会社を代表する取締役が会社の犠牲において相手方の利益を図る行為をすれば、忠実義務違反の責任が生じ得る。
刑事責任 特別背任罪(会社法960条)
★会社に対する損害賠償責任(会社法423条)
★会社に対する損害賠償責任(会社法423条) (1)任務懈怠 責任主体  役員等=役員(取締役・会計参与・監査役)・執行役・会計監査人
責任内容 その任務を怠った時は、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(法423@) 
法令・定款に違反する行為は、任務懈怠となる。
「取締役がその職務遂行に際して会社を名あて人とする法令を遵守することも、取締役の会社に対する職務上の義務に属する」(最高裁H12.7.7)
損害額の推定 競業取引をした場合には、それにより取締役等がえた利益の額は会社に生じた損害の額と推定される。(法423A) 
任務懈怠の推定 利益相反取引をした場合は、取締役等について任務懈怠が推定される。(法423B) 
無過失責任 自己のために利益相反取引の直接取引をした取締役(執行役も同じ)の責任は、無過失責任。(法428@)
(2)利益供与 利益供与に関与した取締役(執行役も同じ)の責任も同様。
利益供与行為をした取締役(執行役も同じ)は無過失責任。(法120C)
(3)違法な剰余金分配 分配可能額を超えて剰余金分配がなされた場合には、業務執行者(取締役等)は、分配された額を会社に支払う義務を負う。
無過失を立証したときは、義務を免れる。(法462@A) 
責任を負う者 @その行為をした取締役等自身
Aその行為が取締役会決議に基づいてなされた場合には、その決議に賛成した者も、それについて任務懈怠がある場合には、同一の責任を負う。
利益相反取引の場合は、決議に賛成した取締役は、任務懈怠が推定される。(法423B(3))(過失の立証責任の転換)
決議に参加した取締役等は議事録に異議をとどめておかないと決議に賛成したものと推定される。(法369D)
責任の態様 責任を負う取締役等が複数いる場合には連帯責任となる。 
★責任の免除と軽減
★責任の免除と軽減  ■責任の免除 総株主(議決権を有しない株主も含む)の同意があれば、上記(1)(2)(3)の役員等の責任を免除できる。(法424、120D、462B)
違法分配の場合、会社債権者保護のため免除できるのは分配可能額までの額に限られる。
■責任の軽減
■責任の軽減 (ア)
株主総会決議による事後の軽減
423@に基づく役員等の会社に対する責任(428@の場合を除く)は、その役員等に「職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないとき」は、賠償責任を負うべき額から次の金額の合計額(「最低責任限度額」)を控除した額を限度として、株主総会の特別決議で、免除することができる。(法425@、309A(8)) 

@その役員等がその在職中に会社から職務執行の対価として受け、または受けるべき財産上の利益の1年間当たりの額に相当する額として法務省令で定める方法により算定される額(規則113)について、
代表取締役または代表執行役の場合は6年分、
代表取締役以外の取締役(社外取締役を除く)または代表執行役以外の執行役の場合は4年分、
社外取締役、会計参与、監査役または会計監査人の場合は2年分。

Aその役員等が当該株式会社の新株予約権を引き受けた場合(法238Bの場合(有利な条件または有利な金額)に限る)におけるその新株予約権に関する財産上の利益に相当する額として法務省令で定める方法により算定される額(規則114)
上記の責任軽減の議案を株主総会に提出するには、監査役(委員会設置会社では監査委員会)全員の同意を得なければならない。(法425B)
責任軽減の決議をする株主総会では、次の事項を開示する必要(法425A)。
@責任の原因となった事実及び賠償の責任を負う額
A責任免除をすることができる額の限度およびその算定の根拠
B責任を免除すべき理由及び免除額
責任軽減の決議があった場合、会社が決議後にその役員等に対し、退職慰労金その他の法務省令で定める財産上の利益(規則115)を与えるときは、株主総会の承認が必要であり、その役員等が決議後に新株予約権の行使・譲渡をするときも同様。(法425C)
役員等が新株予約権証券を所持するときは、会社に遅滞な預託しなければならず、その譲渡のため返還を求めるには上記の譲渡を承認する株主総会決議が必要。(法425D)
免除(イ)
定款規定+取締役会決議に基づく軽減
取締役2名以上の監査役設置会社と委員会設置会社は、(ア)の場合と同じ責任について(ア)の場合と同じ主観的要件・軽減の限度で、定款において、取締役会決議(取締役会設置会社以外では責任を負う取締役以外の取締役の過半数の同意)により責任の軽減をすることができる旨を定めることができるが、「責任の原因となった事実の内容、当該役員等の職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認めるとき」に限られる(法426@)
この定款の規定は登記する。(法911B(23))
監査役(委員会設置会社では監査委員会)全員の同意は、
定款を変更して上記の定めを設ける議案を株主総会に提出する場合および
責任の免除に関する議案を取締役会に提出する場合の両方に必要。(法426A) 
上記の定款の定めに基づき取締役会が責任の免除の決議を行ったときは遅滞なく、
@責任の原因となった事実及び賠償の責任を負う額
A責任免除をすることができる額の限度およびその算定の根拠
B責任を免除すべき理由及び免除額
の事項および免除に異議があれば一定の期間内(1か月以上)に述べるべき旨を公告し、また株主に通知しなければならない。(法426B)
上記期間内に総株主(責任免除の対象となる役員等を除く)の議決権の100分の3以上(定款で軽減可)を有する株主が異義を述べたときは、会社は責任免除をすることができない。
免除後の退職慰労金のl支給等の規制は、(ア)の場合と同様。
(ウ)
定款規定+責任限定契約に基づく事前の軽減 
規定 会社法 第427条(責任限定契約)
第四百二十四条の規定にかかわらず、株式会社は、社外取締役、会計参与、社外監査役又は会計監査人(以下この条において「社外取締役等」という。)の第四百二十三条第一項の責任について、当該社外取締役等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、定款で定めた額の範囲内であらかじめ株式会社が定めた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を限度とする旨の契約を社外取締役等と締結することができる旨を定款で定めることができる。
2 前項の契約を締結した社外取締役等が当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人に就任したときは、当該契約は、将来に向かってその効力を失う。
3 第四百二十五条第三項の規定は、定款を変更して第一項の規定による定款の定め(社外取締役(監査委員であるものを除く。)と契約を締結することができる旨の定めに限る。)を設ける議案を株主総会に提出する場合について準用する。
4 第一項の契約を締結した株式会社が、当該契約の相手方である社外取締役等が任務を怠ったことにより損害を受けたことを知ったときは、その後最初に招集される株主総会において次に掲げる事項を開示しなければならない。
一 第四百二十五条第二項第一号及び第二号に掲げる事項
二 当該契約の内容及び当該契約を締結した理由
三 第四百二十三条第一項の損害のうち、当該社外取締役等が賠償する責任を負わないとされた額
5 第四百二十五条第四項及び第五項の規定は、社外取締役等が第一項の契約によって同項に規定する限度を超える部分について損害を賠償する責任を負わないとされた場合について準用する。
会社法 第425条(責任の一部免除)
前条の規定にかかわらず、第四百二十三条第一項の責任は、当該役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、賠償の責任を負う額から次に掲げる額の合計額(第四百二十七条第一項において「最低責任限度額」という。)を控除して得た額を限度として、株主総会の決議によって免除することができる。
一 当該役員等がその在職中に株式会社から職務執行の対価として受け、又は受けるべき財産上の利益の一年間当たりの額に相当する額として法務省令で定める方法により算定される額に、次のイからハまでに掲げる役員等の区分に応じ、当該イからハまでに定める数を乗じて得た額
イ 代表取締役又は代表執行役 六
ロ 代表取締役以外の取締役(社外取締役を除く。)又は代表執行役以外の執行役 四
ハ 社外取締役、会計参与、監査役又は会計監査人 二
二 当該役員等が当該株式会社の新株予約権を引き受けた場合(第二百三十八条第三項各号に掲げる場合に限る。)における当該新株予約権に関する財産上の利益に相当する額として法務省令で定める方法により算定される額
2 前項の場合には、取締役は、同項の株主総会において次に掲げる事項を開示しなければならない。
一 責任の原因となった事実及び賠償の責任を負う額
二 前項の規定により免除することができる額の限度及びその算定の根拠
三 責任を免除すべき理由及び免除額
3 監査役設置会社又は委員会設置会社においては、取締役は、第四百二十三条第一項の責任の免除(取締役(監査委員であるものを除く。)及び執行役の責任の免除に限る。)に関する議案を株主総会に提出するには、次の各号に掲げる株式会社の区分に応じ、当該各号に定める者の同意を得なければならない。
一 監査役設置会社 監査役(監査役が二人以上ある場合にあっては、各監査役)
二 委員会設置会社 各監査委員
4 第一項の決議があった場合において、株式会社が当該決議後に同項の役員等に対し退職慰労金その他の法務省令で定める財産上の利益を与えるときは、株主総会の承認を受けなければならない。当該役員等が同項第二号の新株予約権を当該決議後に行使し、又は譲渡するときも同様とする。
5 第一項の決議があった場合において、当該役員等が前項の新株予約権を表示する新株予約権証券を所持するときは、当該役員等は、遅滞なく、当該新株予約権証券を株式会社に対し預託しなければならない。この場合において、当該役員等は、同項の譲渡について同項の承認を受けた後でなければ、当該新株予約権証券の返還を求めることができない。
規則 第113条(報酬等の額の算定方法)
法第四百二十五条第一項第一号に規定する法務省令で定める方法により算定される額は、次に掲げる額の合計額とする。
一 役員等がその在職中に報酬、賞与その他の職務執行の対価(当該役員等が当該株式会社の取締役、執行役又は支配人その他の使用人を兼ねている場合における当該取締役、執行役又は支配人その他の使用人の報酬、賞与その他の職務執行の対価を含む。)として株式会社から受け、又は受けるべき財産上の利益(次号に定めるものを除く。)の額の事業年度(次のイからハまでに掲げる場合の区分に応じ、当該イからハまでに定める日を含む事業年度及びその前の各事業年度に限る。)ごとの合計額(当該事業年度の期間が一年でない場合にあっては、当該合計額を一年当たりの額に換算した額)のうち最も高い額
イ 法第四百二十五条第一項の株主総会の決議を行った場合 当該株主総会の決議の日
ロ 法第四百二十六条第一項の規定による定款の定めに基づいて責任を免除する旨の同意(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議。ロにおいて同じ。)を行った場合 当該同意のあった日
ハ 法第四百二十七条第一項の契約を締結した場合 責任の原因となる事実が生じた日(二以上の日がある場合にあっては、最も遅い日)
二 イに掲げる額をロに掲げる数で除して得た額
イ 次に掲げる額の合計額
(1) 当該役員等が当該株式会社から受けた退職慰労金の額
(2) 当該役員等が当該株式会社の取締役、執行役又は支配人その他の使用人を兼ねていた場合における当該取締役若しくは執行役としての退職慰労金又は支配人その他の使用人としての退職手当のうち当該役員等を兼ねていた期間の職務執行の対価である部分の額
(3) (1)又は(2)に掲げるものの性質を有する財産上の利益の額
ロ 当該役員等がその職に就いていた年数(当該役員等が次に掲げるものに該当する場合における次に定める数が当該年数を超えている場合にあっては、当該数)
(1) 代表取締役又は代表執行役 六
(2) 代表取締役以外の取締役(社外取締役を除く。)又は代表執行役以外の執行役 四
(3) 社外取締役、会計参与、監査役又は会計監査人 二
説明  社外取締役・会計参与・社外監査役・会計監査人については、(ア)(イ)の場合と同じ責任について(ア)の場合と同じ主観的要件・軽減の限度で、定款で定めた額の範囲内であらかじめ会社が定めた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を限度とする旨の契約を会社はこれらの社外取締役等と締結することができる旨を定款で定めることができる。(法427@)
この定款の規定と社外取締役・社外監査役は登記する(法911B(24)(25)(26))
契約を締結した社外取締役等がその会社またはその子会社の業務執行取締役・執行役・支配人その他の使用人に就任したときは、その契約は、将来に向かってその効力を失う。(法427A)
監査役(委員会設置会社では監査委員)全員の同意は、定款を変更した上記の定めを設ける議案を株主総会に提出する場合に必要(法427B)
責任限定契約をした会社がその社外取締役の任務懈怠により損害を受けたことを知ったときは、その後最初に招集された株主総会について、次の事項を開示しなければならない(法)427C。
@責任の原因となった事実及び賠償の責任を負う額
A責任免除をすることができる額の限度およびその算定の根拠
B責任を免除すべき理由及び免除額
C責任限定契約の内容とその契約を締結した理由
D社外取締役等が賠償する責任を負わないとされた額
項以後の退職慰労金の支給等の規制は、(ア)(イ)の場合と同様(法427D)
★第三者に対する責任 
★第三者に対する責任  規定 会社法 第429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
2 次の各号に掲げる者が、当該各号に定める行為をしたときも、前項と同様とする。ただし、その者が当該行為をすることについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。
一 取締役及び執行役 次に掲げる行為
イ 株式、新株予約権、社債若しくは新株予約権付社債を引き受ける者の募集をする際に通知しなければならない重要な事項についての虚偽の通知又は当該募集のための当該株式会社の事業その他の事項に関する説明に用いた資料についての虚偽の記載若しくは記録
ロ 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書並びに臨時計算書類に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
ハ 虚偽の登記
ニ 虚偽の公告(第四百四十条第三項に規定する措置を含む。)
二 会計参与 計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類並びに会計参与報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
三 監査役及び監査委員 監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
四 会計監査人 会計監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
会社法 第430条(役員等の連帯責任)
役員等が株式会社又は第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合において、他の役員等も当該損害を賠償する責任を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。
責任を負う者 役員等(=役員(取締役・会計参与・監査役)・執行役・会計監査人) (法429@A)
責任を負うべきものが複数いる場合は連帯責任となる(法430条)。
責任を負う場合 @役員等に職務を行うついて悪意または重大な過失があった場合(軽過失の場合を除く)(法429条@) 
A特定の書類や登記・公告等に虚偽の記載・記録があった場合には、虚偽記載等の行為をした次の者は、その無過失を立証しない限り(立証責任転換)、この責任を負う(法429A)
制度趣旨等 通説・判例:
取締役等の任務は会社に対するものにすぎないので、第三者に対しては不法故意の要件(民法709条)をんみたさないかぎり責任を負わないはずであるが、第三者保護のため、会社に対する任務違反について悪意または重過失があれば(軽過失を除く)、第三者に対する権利侵害や故意過失を問題にしないで、損害賠償責任を負うことにした(特別の法定責任)。 
最高裁昭和44.11.26:
@取締役は、会社に対する善管注意義務ないし忠実義務に違反して第三者に損害を被らせても第三者に対して当然に損害賠償責任を負うものではないが、266条の3第1項、第三者保護の立場から、取締役が直接に第三者に対して責任を負うことを定めた。
A取締役の任務懈怠と第三者の損害との間に相当因果関係があるかぎり、会社が損害を被った結果ひいて第三者に損害が生じた場合か(間接損害)、直接第三者が損害を被った場合(直接損害)かを問わず、取締役はその賠償責任を負う。
B同条1項の責任と一般不法行為責任とは競合する。
C第三者は、任務懈怠につき取締役の悪意・重過失を立証すれば、自己に対する加害についての故意・過失を立証しなくても、同条1項の責任を追及できる。
D同条1項の責任を追及できるのは、取締役の加害行為について会社全体が損害賠償責任を負う場合にかぎられない。
E代表取締役が、他の代表取締役その他の者に会社業務の一切を任せきり、それらの者の不法行為ないし任務懈怠を看過した場合には、自らもまた悪意・重過失により任務を怠ったものとして同条1項の責任を負う(監視義務違反に基づく責任)
その後、Eについては代表取締役でない取締役にも適用があるとされた。
取締役の任務懈怠    類型Tp329〜
●任務懈怠行為 
会社に対するものであれば足り、具体的には、取締役が会社に対し法令違反を含む善管注意義務違反の行為をした場合をいう。
@間接侵害の場合:取締役の行為⇒会社に損害⇒その結果として第三者にも損害
A直接侵害の場合:直接的に第三者に損害を与える場合
1つの任務懈怠行為が、同時に双方の侵害行為に該当する同時侵害型の行為であることもあり得る。
直接に直接侵害又は間接侵害となる侵害行為を担う場合であると監視義務に違反し他の取締役による侵害行為を抑止しなかった場合であるとを問わす任務懈怠となる。
●直接侵害の類型
会社の損害の有無を問わず、第三者に損害を与える行為
◎例
取締役において、買掛けないし借入れといった取引を行うに際し、会社財産により当該取引に係る手形決済等の債務の弁済が不可能であるkとを世王位に予見することできたにもかかわらず当該取引を行ったため、会社債権者において当該取引に係る弁済を受けることができず取引額相当の損害を被った場合(最高裁昭和44.11.26)。
会社の資産・能力を顧慮しないで調査不十分の事業に多額の投資をして会社の破綻を招いた事業における手形借入につき与信者の被った与信額相当の損害(最高裁昭和41.4.15)。
経営難であることを承知していた得意先から受取手形だけに依存して、その得意先の事業に対する調査や倒産に備えた対策を講ずることなく、無責任な資金繰りを続けていた会社経営者の末期段階における原材料仕入れに係る手形取引による損害(最高裁昭和51.6.3)。
このような決済ないし返済の見込みのない借入れ等が何故会社に対する任務懈怠を構成するのか:
A:会社の信用を傷つける点に任務懈怠を見出す見解
B:取締役には会社債権者の損害拡大を阻止すべく再建可能性、倒産処理等を検討すべき義務が善管注意義務として課されており、その任務懈怠となるとする見解
C:実害の発生に限らず広く損害金支払前でも損害賠償義務の発生という抽象的損害を発生させる危険を含む行為をすることが任務懈怠となるという見解 
寄託物を損壊しその返還債務を履行不能としたり、特定の債務の履行を意図的に遅滞するなどした場合も直接損害の例に挙げられる。 
●間接損害の類型 
会社財産の減少を介して、間接的に第三者に損害を与える行為
債権者を第差者とする場合には、債権回収の不能化に伴う損害
⇒会社の債務超過化、すなわち倒産が前提となる。 
ex.
杜撰な与信行為を行うなどの放漫経営による一般担保の減少行為(最高裁昭和47.6.15)、見せ金等による資本充実の侵害・阻害、会社財産の横領や不当な廉価処分といった行為。
貸付先の返済不能により自社の資産状態を極端に悪化させるに至るべきことを予見し又は予見することができたにもかかわらず、貸付けを漫然と継続させた結果自社を倒産させ、債権者に対する弁済を不可能にした場合(最高裁昭和53.12.12)。
放漫経営を認定するについては、貸倒れが予見できたか、自社の能力を超える金額の貸付であったを認定しないままに放漫経営であったことを決めつけることはできないし(最高裁昭和53.12.12)、取引先の信用度や取引慣行等と無関係に、担保を取らなかったことを直ちに非難することもできない。
間接侵害における損害額(間接損害)については、会社財産の減少を介しての債権価値の減少額⇒与信額から現実の回収可能性のある額を控除した差額を圭す的に明らかにする必要がある。 
●監視義務違反の類型 
◎取締役会設置会社
取締役会設置会社においては、取締役は、取締役会の招集権限(会社法366条)や代表取締役の選定・解職及び支配人の選任・解任をする権限(会社法362条2項3号、4項3号)を有している
⇒取締役会の審議ないし決議を通じて代表取締役、支配人らの業務の執行を監視すべき権利義務を有する(最高裁昭和37.8.28)。

その監視義務は、取締役会に上程された事柄に限られず、代表取締役の業務執行一般に及び、必要があれば、取締役会を自ら招集し、あるいは招集することを求めて、取締役会を通じて尽くさなければならない(最高裁昭和48.5.22)。 
会社法 第366条(招集権者)
取締役会は、各取締役が招集する。ただし、取締役会を招集する取締役を定款又は取締役会で定めたときは、その取締役が招集する。
2 前項ただし書に規定する場合には、同項ただし書の規定により定められた取締役(以下この章において「招集権者」という。)以外の取締役は、招集権者に対し、取締役会の目的である事項を示して、取締役会の招集を請求することができる。
3 前項の規定による請求があった日から五日以内に、その請求があった日から二週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合には、その請求をした取締役は、取締役会を招集することができる。
会社法 第362条(取締役会の権限等) 
取締役会は、すべての取締役で組織する。
2 取締役会は、次に掲げる職務を行う。
三 代表取締役の選定及び解職
4 取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
◎取締役会を設置していない会社(「取締役会非設置会社」)
代表取締役を定めない場合の各取締役が有する業務執行権限(会社法348条1項)や複数の取締役を設置する場合には取締役の過半数をもって業務執行の意思決定がされる(会社法348条2項)

取締役会設置会社における同様に、代表取締役その他の取締役の業務執行が適正に行われるよう監督是正すべき責任を負う。
直接損害の例
(江頭p472)
@会社債務の不履行
A建物の不法占拠
B内部統制システム不整備による名誉毀損の惹起
C株主総会決議に反する退任取締役への退職慰労金不支給等
株主も「第三者」に該当し得る。
(違法な株券の不発行による損害、取締役が自己の利益のみを図るMBOを実施することによる損害等)
虚偽の事実を告げる投資勧誘もこの責任を認めた例が多い。
but明白な詐欺は、会社に対する任務懈怠の責任を課するより、取締役の不法行為と構成するのが適切。
返済見込みのない金銭借入等と取締役の責任  債務超過またはそれに近い状態の株式会社は、株主が有限責任の結果失うものがないためイチかバチかの投機に走りやすいこと、および、営業を継続すれば取締役への報酬等の支払等により会社の財務状況はますます悪化すること等から、会社債権者の損害拡大を阻止するため取締役には再建可能性・倒産処理等を検討すべき義務が善管注意義務として課されており、その任務懈怠が問題となる。(江頭 株式会社法p455) 
会社の経営状況が逼迫した状態での取締役の借入行為も、それがもっぱら会社の利益を図る目的でなされ、その方法が不合理と認められず、かつ、違法な手段を用いたものでない限り、会社に対する任務懈怠にあたらない。(東京地裁昭和53年3月2日判決) 
名目取締役の責任  原則:責任肯定 取締役の代表者が、要請により会社の株式を引き受けるとともに非常勤のいわゆる社外重役として名目的に取締役に就任した場合において、1度も出社せず、代表取締役の独断専行に任せてその業務執行を監視せず、同代表取締役に対し取締役会の招集を求めたり自らこれを招集したりすることもなかった事例で、この代表取締役が代金支払の見込もないのに商品を買い入れ、その代金を支払うことができなくなり売主に対し代金相当額の損害を与えたときに、上記名目的取締役は、会社の業務執行を監視するという職責を尽くさなかったので改正前商法266ノ3@(=429@)に基づく損害賠償責任を負う。(最高裁昭和55.3.18)
責任否定
(類型Tp324)
下級審 報酬も一切受けない等の名目的取締役には重過失による任務懈怠があるとはいえないとして責任を否定。(東京高裁昭和57.4.13、仙台高裁昭和63.6.26、東京地裁H2.1.31、東京地裁H3.2.27)
中小企業の名目的取締役がたとい監督(監視)義務を尽くしてもワンマン社長の業務執行を是正するのは不可能であったとの理由で任務懈怠と第三者の損害との間の因果関係を否定。(大阪地裁昭和59.8.1、東京地裁H6.7.2、東京地裁H8.6.1)
背景:会社法制定前、小規模なものも含め株式会社すべてにつき3人以上の取締役を要求していた法制が名目的取締役を生んでいるとの認識。
構成 A:監視義務違反がない(了知可能性・阻止可能性)
B:重過失がない(職責履行困難)
C:相当因果関係がない
×D:名目的取締役であるが故に一般の取締役に比して責任が軽減される
vs.いわゆる社外重役として名目的に就任した取締役の責任も本来の取締役と同一の基準により判定すべき(最高裁昭和55.3.18)。
責任の存在を前提にその範囲を限定する法的構成として、損益相殺・過失相殺(又はこれらの類推適用)、寄与度による因果関係の限定が考え得る。
要素 ×@職務免除の特約
vs.会社機関の権限・組織に関する強行規定に反し無効。

A無報酬又は過少な報酬、出資の欠如
B就任期間の長短
C取締役会の不開催
D他の仕事の兼業
E遠隔地居住
F病気・老齢
G専門的知識の欠如
H事実上の影響力の欠如
A以下の事由は、ABCの構成の中で、
監視が有効かつ可能であるという作為義務の存在を肯定し又は否定する事由
著しい作為義務違反としての重過失の存在を肯定し又は否定する事由
相当因果関係中の条件公式の存在を肯定し又はこれを否定する事由
となりうるかという観点から整理。
Aの無報酬又は過少な報酬〜名目性を基礎づける事情であって、A作為義務、B重過失、C因果関係のいずれの存在を否定する事由ともならない。
出資の欠如は、Hの事実上の影響力を判断するための1つの要素。
Bの就任機関の長短:監視の前提となる予見可能性を判断する要素。
Cの取締役の不開催:基本的に監視を尽くすべきことを基礎付ける事情。
同時にHの事実上の影響力の欠如を判断する要素。
Dの他の仕事の兼業及びEの遠隔地居住は、義務の履行を困難にしている事情であるが、それは取締役の主観的な事情であってABCの作為義務・重過失・因果関係のいずれの存在を否定する事由となるものではなく、かえって任務の懈怠を基礎づけるもの。
but
就任後の一時的な病気のために一時的に監視義務を尽くせなかったというような場合には、任務懈怠を否定する事由となる。
Gの専門的知識の欠如は、その専門的知識が当該企業の取締役にとって一般的に備えられるべき知見であるか否かにより働く方向が変わる。
会社の属する業界の取締役として当然に備えるべき知識を当該取締役において欠いていたことは、責任否定の理由とはならない。
Hの事実上の影響力の欠如は、ABCの作為義務・重過失・因果関係といったものの存在を否定する事由となるとする裁判例があるが、基本的にはC(相当因果関係)の存在を否定する事由の問題。

因果関係における阻止可能性は、代表取締役の支配力の強さや取締役会の形骸化の実情そのものをいうのではなく、取締役が取締役として期待される通常の監視義務を果たしても事前に他の取締役の任務懈怠を発見し損害の発生を阻止することができないことを指し、また、過失における結果回避義務違反を論ずるについては、取締役の地位が名目的であることは考慮すべきでないから、名目的でない通常の誠実な取締役一般の注意義務を基準として判断すべき。

取締役において正当に監視を尽くしてなお影響力を及ぼすることができなかったというには、それなりの努力を尽くしたという事情が不可欠ではないまでも、安易な認定をすることはすべきではない。
損害賠償請求権の行使 消滅時効は10年。(最高裁昭和49.12.17判決)
遅延損害金の利率は年5分。(最高裁平成1.9.21判決)
第三者にも過失があるときは、過失相殺をなし得る。(最高裁昭和59.10.4判決)