シンプラル法律事務所
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労働法の諸問題(2005年)

  ◆1 制定の経緯
  ◆2 制定後の法改正の経緯と概要
     
     
     
★U 使用者側からみた解雇・退職をめぐる実務上の留意点  
     
     
第4 雇用関係確認等請求事件における争点  
  ◆1 勤務成績、勤務態度、的確性の欠如等の不良等を理由とする解雇 
     
     
     
  ◆4 整理解雇(p109)
    整理解雇:労働者の責めに帰すべきでない事由による解雇、あるいは経営上の理由に基づく解雇
    4要件説
@人員削減のh津要請
A解雇回避義務
B被解雇者選定の合理性
C解雇手続に至る手続の相当性
    従来の4要件説からいわゆる総合考慮説に移行
  ナショナル・ウエストミンスター銀行事件(東京地裁H12.1.21):
いわゆる整理解雇の4要件は整理解雇の範疇に属すると考えられる解雇について解雇権の濫用に当たるかどうかを判断する際の考慮要素を類型化したものであって、各々の要件が存在しなければ法律効果が発生しないという意味での法律要件ではなく、解雇権の濫用の判断は本来事案ごとの個別具体的な事情を総合考慮して行うほかないものであるから、債権者主張の方法論は採用しない。
  @要件の人員削減の必要性
従来:採算を向上させるための解雇とか利益を増加させるための解雇については、整理解雇の必要性は認められない
同裁判例:採算を向上させるため、あるいは利益を増加させるための解雇であっても必要性を認めうる
  A解雇回避努力:
ナカミチ事件:解雇回避義務についてはするかしないか、どういうものをするかは個別具体的に検討されるべきもの。
現実には希望退職募集をしなくても構わないという結論。
  B人選基準の合理性:
シンガポール・ディベロプメント銀行事件:
1つの部署、1つの営業所を廃止することに伴う整理解雇に際して、
従来は原則として全企業的観点から人選をしなければいけないという考え方が強かった
but
他部署に配置転換の可能性がないのであれば閉鎖事業所の従業員が解雇の対象となりうる。
  C手続きの相当性:
明治書院事件:
組合が整理解雇を前提とした団体交渉には応じられないとして、使用者の再三の団体交渉申入れを許否⇒十分な団体交渉を行わないまま整理解雇を実施しても有効。
  Dその他:
従来の4要件とは別にもう1つ整理解雇を有効ならしめるために、使用者としてこれを実子していればプラス要素として斟酌してもらえる事項があるのではないかという問題。
外資系企業ではセベランス・パッケージ(=特別退職金)といわれるものを提供。
相当額のパッケージを提供した場合には、退職に伴う苦痛の激変緩和という意味では十分に斟酌してくれる。
師就職支援プログラム、いわゆるアウトプレースメントのサービス、あるいは解雇する企業の側で実施するあっせんの問題。
   
     
  ◆6 労働条件変更のための解雇・雇止め(p116)
  ◇(1) 変更解約告知
    変更解雇告知:新たな労働条件での新契約の締結の申込みを伴う従来の労働契約の解約
1整理解雇型:解雇を回避するために労働条件の変更を求め、これに応じない労働者を解雇
2労働条件変更型:解雇を正当化する事情はないが、正当な理由に基づいて労働条件の変更を求め、これに応じないことを理由に解雇
ex.職種を限定した雇用契約を締結している労働者についてその職種が技術革新のためにまったく不要となってしまった場合に、職種限定契約であるため使用者が一方的に他の職種に配置換えできない、そのため当初の契約外の職種への切替えに同意を求め労働者がこれに同意しないなら解雇。
    労働者が応じる⇒争いにならない

労働者が応じない場合、解雇の効力が「通常とは異なる基準で判断されるのかどうか」
肯定例:スカンジナビア航空事件(菅野も肯定的)
否定例:大阪労働衛生センター第一病院事件
     
  ◇(2) 新条件を受諾しなかったことを理由とする雇止めの可否 
    労働条件を変更した新たな雇用契約の申込みをし、これに応じなかった者を期間満了を理由として雇止めすることは、その労働条件の変更に合理的な理由があり、当事者間の雇用契約の実態、労働条件変更の程度、雇止めの経緯等の事情によれば、有効とされることがある。
    @日本ヒルトン事件
ホテルが配膳人として、長期間にわたり、日々雇用していた原告らに対して、経営状況の悪化を理由として労働条件の一部を変更した新たな雇用契約の申込み

179名のうち、170名は同意but原告らは異議留保付承諾「争う権利を留保しつつ、会社の示した労働条件の下で就労することを承諾します」という意思表示
⇒会社は応じなかった
判断:原告とホテルとの雇用関係は、ある程度の雇用継続が期待されていたものであり、・・・この期待は法的保護に値し、・・・雇止めについては、解雇に関する法理が類推され、社会通念上相当と認められる合理的な理由がなければ雇止めは許されない。
最終的に雇止めを正当と認めた。
尚、異議留保付承諾の意思表示について
借家法32条のような特別の立法がない以上、「合意は成立していないとして後日に争うことを明確に示すものであり、申し込みを拒絶したものといわざるをえない」
    A岩倉自動車教習所事件:契約書の内容を確認しようとしたことに異議を停めた期間雇用者についての雇止めはできるとした事案
契約の更新期に、契約上の権利義務を明確にし、作業量の調整の有無についての疑問を解消する趣旨で、「業務の閑散期における作業量調整については被告の指示に従う」旨の条項を付加した契約書を提出するよう求めたにもかかわらず、これを許否した一部のパート労働者との契約の更新を拒んだ。
判断:・・・・いわゆる解雇法理が類推されることを認めた。
but
被告にしてみれば、今後は、作業量に応じることに抵抗するかのような発言を繰り返し、本来の契約期間満了日から25日経った平成6年4月16日に至っても、その態度を変えようとしなかったものであるから、被告が原告らは被告の申出た条件による契約変更に応じる意志がないものと判断し、原告らからの作業量調整に関する条項のない契約書による本件労働契約の更新申入れに応じることはできないとしたのもやむを得なかったというべきである
被告が作業量調整に関する条項のない契約書による本件労働契約の更新申入れに応じることはできないとしてのもやむを得なかったというべき。
被告が作業量調整に関する条項を契約に明記しようとしたことは合理的な理由があり、原告らの態度からして被告が話し合いを内か切ったことはやむを得ない。

使用者の求めた合理的な条項の付加に応じようとしなかった有期契約者を全て雇止めとした措置を是認した。
 
     
     
第6 解雇の手続について  
  解雇理由書の作成・交付

解雇を予告した日以降に、労働者からの請求⇒解雇事由を記載した文書を交付しなければならない。

解雇する時点でその解雇事由について説明しなければならない。
     
●    発令後に新たな非違行為が判明⇒それを懲戒事由として訴訟で追加することができるか?
最高裁:否定

使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反を理由として、一種の秩序罰を課するものである・・・したがって、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の事由とされたものでないことが明らか⇒その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできない。
富士見交通事件の東京高裁:
懲戒当時に使用者が認識していた非違行為については、それがたとえ、懲戒解雇の際に告知されていなかったとしても、告知された非違行為と実質的に同一性を有し、あるいは同種若しくは同じ類型に属すると認められるもの、又は密接な関連性を有するものである場合には、それをもって当該懲戒解雇の有効性を基礎づけることができると解するのが相当である。

認識してなかったものは後で追加できないけれども、認識さえしていれば後で追加することができる事由がありうる。
  懲戒解雇の場合は後で理由を追加できない⇒解雇するときに説明した解雇事由と、裁判となったときに主張する解雇事由に齟齬が生じるとあらぬ誤解を招く。
  普通解雇の場合は、懲戒解雇と違い、新たにわかった事情があれば根拠付けるために裁判で主張することができる。 
     
     
★V 労基法改正と解雇・リストラをめぐる紛争への対処  
     
     
     
     
第4 労働条件の引下げ(p207)
  ◆1 就業規則の不利益変更 
  ◇(1) 変更解約告知 
    大阪衛生事件:
日本の法の枠組みの中では変更解約告知なんていう使用者側にtってあまりにも有利な制度を認めるような理由はどこにもない。
  ◇(2) 個別具体的な同意 
    労働条件を変更する法的な根拠:
@個別の同意に基づく変更
A就業規則の変更
B労働協約による変更
     
  ◇(3) 就業規則の変更 
    就業規則を定める、あるいは変更する:
最終的に使用者が勝ってんできる。
労働者代表の意見を聴く義務はあるが、労働者代表と協議する義務も、同意をもらう義務もない。

就業規則を変更してみても労働条件を切り下げることは原則として認めない。
例外として、そのような労働条件の変更すべき必要性と合理性があるときに限って変更された就業規則は労働者を拘束する。(最高裁)
but
必要性も合理性もファジーで、裁判官に左右される。
     
  ◇(4) 成果型賃金制度への変更 
    ハクスイテック事件:労働者負け
キョーイクソフト:労働者勝ち
ノイズ研究所事件:労働者勝ち
ハイステック事件:
従来:人の部分の賃金が8割、業績の部分が2割⇒
能力・成果8割、人的要素は2割に
     
  ◆2 労働協約による不利益変更(p212)
  ◇(1) 規範的効力 
    労働協約:その企業の中に労働組合があり、その労働組合と会社側の交渉協議の結果まとまったものが労働協約となって、その中身によると従前の労働条件が切り下げられる。
    労働組合が協約として定めた労働条件の内容は、その内容の如何にかかわらず当該組合員の労働条件を当然に規律をする。
当該の労働組合員でない人についても労働協約の効力が及ぶ場合がある。
    労組法 第一七条(一般的拘束力)
一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至つたときは、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるものとする。
     
  ◇(2) 一般的拘束力の限界 
    日本の通常の労働組合は、それなりのレベル以上のかんりしょくはそもそも組合員の対象としていない。
中高年の管理職と中堅以下の組合員の利害が対立。
    朝日火災海上事件の高田事件:
非組合員である高田さんについては、退職金の切り下げのケースで、組合内の議論の参画できる余地が全くない。退職金が200万円ぐらい下がるケースで、内容もかなり重たい。
⇒そのような人については、一般的拘束力を及ぼす合理性がない⇒差額の退職金請求を認める判決。
     
  ◇(3) 規範的効力の規制 
    会社と組合が協約を結んで、賃金原資は変えずに53際以上の組合員の給料を削ってそれを若手に回す協約を作った⇒53歳以上の組合員が怒って会社を訴えた。
この協約を結ぶについて53際以上の組合員の意見を十分に組合執行部は聞く努力をしていなかったという事情も含め、東京地裁・高裁は、そのよな¥うな労働協約に規範的効力を認めることはできないという判断。
鞆鉄道事件でも同様の判断。

労働組合といえども構成員の公正な立場を反映しない手続や態度をとった場合、ないしは内容があまりにも不合理な場合にはその法的な効力を認めるわけにはいかないという判断。
     
  ◆3 個別の不利益変更・・・労働審判での解決