シンプラル法律事務所
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詳解労働法(水野)

★★第1編総論
★第1章 労働法の歴史  
  ◆1 制定の経緯
  ◆2 制定後の法改正の経緯と概要
     
     
★第2章 労働者  
     
     
★第3章 使用者  
     
     
★第4章 強行法規
     
     
★第5章 労働契約  
     
     
★第6章 就業規則  
     
     
★第7章 労働契約  
     
     
★★第2編 個別労働関係法  
★第8章 労働者の人権保障  
     
     
     
     
     
     
★第17章 懲戒(p544)  
  ☆第1節 服務規律と「企業秩序」論(p544) 
  ◆1 服務規律 
  ◆2 判例の「企業秩序」論
    広範に及ぶ使用者の企業秩序定立権の理論的根拠:
A:契約説
B:固有権説(判例):
使用者は企業の存立と事業の円滑な運営と言う企業経営上の必要性からそのような権利をもち、労働者は雇用されることにより当然そのような義務を負う。
←企業秩序・経営秩序を不可欠とする企業および労働契約の性質上、企業秩序遵守義務は労働契約関係に当然の義務として内包されている。
vs.
判例の述べる「企業秩序」は漠然としかつ広範にわたる概念
⇒これを企業経営上の必要性から労働契約上の権利義務として当然に導き出すことには理論的に無理がある(法的な権利義務は社会的な必要性から当然に導きだされるわけではない)。
C:判例が企業秩序定立権として述べているような権利義務(労働者が服務規律を遵守すべき義務を含む)は、労働協約、就業規則または個別労働契約(労働者と使用者間の明示または黙示の合意、労働契約上の信義則等を含む)によって根拠づけられることによって、法的な権利義務として成立。
  ◆3 企業秩序定立権の限界 
    職場規律等について就業規則等が規定を定めている場合に、企業秩序の維持という趣旨・目的に照らし、その射程が限定的に解釈されることがある。
     
  ☆第2節 懲戒の意義と根拠 
  ◆1 懲戒処分の意義 
  ◆2 懲戒権の根拠 
    A:固有建設
B:契約説
     
  ☆第3説 懲戒権の法的規制の枠組み(p552) 
    労働契約法 第一五条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、
当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合は、
その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
  ◆1 契約上の根拠 
    懲戒権の根拠として、契約説の立場

懲戒処分が有効になされるためには、労働協約、就業規則または個別労働契約上、懲戒処分の根拠となる定めがあることが必要。
@いかなる場合に懲戒処分が行われるうるかを示す懲戒の事由と
Aどのような種類の懲戒処分がありうるかを示す懲戒の種別
を明確に定めておく必要。

根拠規定が就業規則⇒当該規定が周知され、その内容に合理性があることが求められる(労契法7条)。
懲戒処分について定めた就業規則規定の合理性:
企業秩序維持という観点からそのような規定を定める必要性があり、
それが労働者の権利・利益を不当に制限するものではない
⇒広く合理性が肯定されうる。

労働者の権利・利益を不当に制限するもの:
ex.兼業を全面的に禁止する規定(労働者の職業選択の自由等を不相当に制限する可能性がある)
    労契法15条が、懲戒権濫用の判断の前提として、
「使用者が労働者を懲戒することができる場合において」

「懲戒権を基礎付ける契約上の根拠が存在し、労働者の杭がそこに定められた懲戒事由に該当すると判断される場合」を意味する。 
  ◆2 懲戒権の濫用など(強行法規違反) 
  ◇(1) 懲戒権濫用の要件 
    ダイハツ工業事件判決:
客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当として是認することができない懲戒処分は懲戒権の乱用として無効。
その判断要素として、
@労働者の行為の性質、態様、結果及び情状並びに
Aこれに対する(使用者の)対応等
に照らして権利濫用性を判断。
労契法15条は、この判例法理を明文化したもの。
  労働者の行為の「性質」:
懲戒事由となった労働者の行為そのものの内容

「態様」:その行為がなされた状況や悪質さの程度

懲戒権濫用の判断では、この労働者の行為の内容・悪質性の程度と処分の重さとのバランス(行為の悪質性の程度に比し処分が重すぎないか)が中心的な考慮点。
  「その他の事情」:
労働者の行為の結果(企業秩序に対しどのような影響があったか)
労働者側の情状(過去の処分・非違行為歴、反省の有無・態度など)
使用者側の対応(他の労働者の処分との均衡、行為から処分の期間など)
などが含まれる。
労働者側の情状:
ex.園外保育において園児を見失った保母につき、ミスの原因を分析し反省の言葉を記載した報告書をミスの翌日に提出⇒7日間の出勤停止処分を無効

使用者側の対応:
同等の非違行為については同等の処分がなされるべきとの原則(平等取扱原則)
企業秩序の維持回復を目的とする懲戒処分の趣旨⇒問題となる行為が明らかになった時点で時機を失することなく処分がなされるべき。
ダイハツ工業事件判決:
労働者の行為の悪質さ、反省のなさ、執拗な反発、再三にわたる職場の混乱など
⇒懲戒解雇も権利の濫用にならない。

ネスレ日本(諭旨退職):
7年前の職場での管理職への暴行行為等を考慮し、処分時点でこのような重い処分をする合理的な理由はない⇒懲戒権の濫用にあたる。
   
  ◇(2) 懲戒権濫用の主張・立証責任 
    懲戒処分の権利濫用性(「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないこと」)は、いわゆる規範的要件

権利濫用を主張する労働者側が権利濫用という評価を基礎づける具体的事実(評価根拠事実)について主張立証責任を負い、
使用者側が、その評価を妨げる具体的事実(評価障害事実)について主張立証責任を負う。
実務では、それぞれの判断要素(例えば労働者の行為の態様)につちえ、
一方で、労働者側はそれほど悪質ではなかったことを基礎づける事実を主張・立証し、
他方、使用者側はそれが悪質であったと評価できる事実を主張・立証するなど、
双方の立場からさまざまな事実を主張立証し、それらをもとに裁判官が権利濫用の有無について法的判断を下す。
  ◇(3) 懲戒権濫用の効果 
    労契法15条:
懲戒権の濫用にあたる場合の法的効果:当該懲戒は無効。

労働者は懲戒権濫用を主張して、
懲戒処分の無効確認請求や懲戒処分の付着しない労働契約上の権利を有する地位確認請求等を行う。

権利濫用一般の効果と同じもの。
    処分の無効確認請求に加えて、不法行為(民法709条)として損害賠償請求が認められることがある。
最高裁:
懲戒処分によって労働者に損害が発生

@使用者が当該措置をとったことを相当とすべき根拠事実の存在が証明されるか
A使用者にそのような事実があると判断したことに相津男の理由があると認められる場合
でなければ、不法行為が成立。
but
不法行為については、使用者の故意・過失、労働者の利益侵害(違法性)、損害の発生等の成立要件の有無を吟味する必要
⇒懲戒権の濫用と不法行為が直結するわけではない。
     
  ◆3 罪刑法定主義類似の諸原則 
     
    使用者が懲戒処分当時認識していなかった(または認識していたが理由として表示しなかった)非違行為は、当該懲戒処分の理由とされたものではない⇒特段の事情がない限り、事後的に懲戒処分の理由として追加主張することはできない。
but
処分理由とされた非違行為と密接に関連した同種の非違行為や
使用者が処分に認識していたが処分の理由として表示しなかった事実について労働者側が使用者側の認識を十分知り得た場合については、
「特段の事情」ありとして追加主張も許容される。
     
    懲戒処分を行うにあたっては適正な手続きを踏むことが必要。
これらの手続のなかで最も重要なのは、労働者(被処分者)に弁明の機会を与えること。
被処分者に懲戒事由を告知して弁明の機会を与えることは、就業規則等にその旨の規定がない場合でも、事実関係が明白で疑いの余地がないなど特段の事情がない限り、懲戒処分の有効要件であると解される。
     
  ☆第4節 懲戒の種類 
     
     
     
  ◆6 懲戒解雇(p565) 
    退職金の全部または一部が支給されず、また、解雇予告(またはそれに代わる解雇予告手当)を伴わないで即時解雇されるのが通例。
    退職金の不支給が適法か、予告なしの解雇は適法かという問題は、懲戒解雇の有効性とは理論的に別の問題として検討される。
     
☆    ☆第5節 懲戒の事由(p568) 
  ◆1 経歴詐称
     
     
     
     
     
  ◆4 職場規律違反 
     
    横領・背任、不正経理、収賄などの不正行為については、労働者の役職・職務内容と企業運営に与える影響(他の従業員や会社の信用等に与える影響の重大さ)等を考慮して、横領・着服等の金額が低い場合であっても、懲戒解雇を含む重い処分がされることが少なくない。
バス乗務員の運賃1100円の着服を理由とする懲戒解雇
タクシー乗務員のメーター不倒j行為を理由とする懲戒解雇
取引先への顧客紹介に対する謝礼の受領や取引先へのバックマージンの要求とその収受を理由とする懲戒解雇
学校法人の事務局次長による不正な経理処理等を理由とする懲戒免職
がそれぞれ有効とされている。
but
これらの不正行為を理由とする懲戒処分においては、その事実の確認が重要な前提
⇒事実の存在を裏付ける確たる証拠がない場合には懲戒処分は無効となる。
     
  ◆5 会社物品の私用 
     
   
    社内のパソコンを利用して業務注意極めて多数回・長時間にわたり行われたチャットは、単なる私的利用にとどまらず、顧客情報、信用毀損、誹謗中傷、セクハラに及び職場秩序を乱すものと認められるものとして、当該労働者の懲戒解雇を有効としたもの。 
   
     
★第18章 賃金(p582) 
  ☆第1節 賃金の形態と法制度 
     
  ☆第2節 賃金請求権 
  ◆1 賃金請求権の発生 
     
  ◇(4) 退職金請求権 
  ■(i) 日本の退職金の特徴・性格 
  ■(ii) 退職金請求権の発生 
     
    会社の取締役が、定款や株主総会の決議によって定められる退職慰労金(会社法361条)とは別に、一般の従業員に支払われる退職金の支払いを請求できるか?

退職金請求権の根拠となる就業規則(退職金規程)の適用対象たる「従業員」にあたるか否かの問題として判断されている。
     
  ■(iii) 退職金減額・不支給条項の効力 
    @退職金請求権は、それを根拠付ける計算・支払方法等を定める規定とこの減額・不支給条項とがあいまって確定的に発生
A賃金全額払原則はここで有効に発生した後の退職金請求権等に適用

減額・不支給条項が適切に適用されている限り、賃金全額払原則の抵触の問題は生じない。
    同条項の合理性(就業規則規定としての有効性)およびその適用の当否
判例・裁判例:
一般に、退職金は賃金後払的性格をもつと同時に功労報償的性格をもあわせもつ

@功労の抹消に応じた減額・不支給条項も合理性がないとはいえない
A同条項の適用において、その趣旨・目的に照らし、背信性など過去の功労の抹消の程度に応じた限定解釈を行う
ものが多い。
労働者が懲戒解雇された事例:
懲戒解雇が有効(それに相当する背信行為がある)⇒退職金請求権を否定する裁判例
過去の功労を失わせるほどの重大な背信行為があったとはいえない⇒退職金全額の支払いを命じたもの
過去の功労を失わせるほどの重大な背信行為があったとはいえない⇒退職金全額の支払いを命じたもの。
過去の功労を一切抹消させるほどの背信行為ではない⇒退職金の6割に限り減額を認めたもの。
非違行為(痴漢行為)による懲戒解雇は有効としつつ、それまでの真面目な勤務態度、同社における過去の支給事例等を考慮し、退職金の3割の支払を命じたもの。

退職金の全額不支給が適法と認められるのは、
退職金に衡量報償的な性格が認められるという前提の下、当該決定(懲戒解雇等)に至った経緯、当該労働者の過去の勤務態度、同社における過去の功労をすべて抹消するほど重大なものであった場合に限定されるもの。
    近年増加している賃金後払的性格の強い退職金(ex.基本給に直結する職能資格ポイントを積算するポイント制退職金や退職金前払いとの選択制で前払賃金相当額を積立てて算定する退職時積立払金)については、過去の功労の抹消によってこれを減額・不支給とすることにが合理性がなく、その旨を定める就業規則規定は無効であると解されている。
   
  労働者が在職中に非違行為を行っていたことが退職後に判明した場合、使用者が退職金の支払いを取りやめ、あるいは、既に支払った退職金の返還を求めることができるか? 
裁判例:
重大な非違行為を行った労働者からの退職金請求は権利の濫用として許されないとするもの
既に支給された退職金について使用者からの返還請求を認めたもの
vs.
既に賃金として確定的に発生したものを減額・不支給とすることは賃金全額払原則(労基法24条1項)に反するためできない。
既払分の返還条項も同原則に反し無効。
退職金請求権が発生した後に重大な背信行為が判明
⇒退職金の減額や返還ではなく、労働者の故意や重過失に基づく不法行為(または債務不履行)として損害賠償請求により対応すべき。
このような事態を防ぐため、重大な非違行為を行った可能性があるなど特段の事情がある場合には退職金請求権の発生そのものを一定期間(例えば事実調査に必要な3か月間)留保するという規定を就業規則上予め設けておく。
     
     
     
     
     
     
     
     
★第29章 労働関係の終了(p919)
  ☆第1節 解雇 
  ◆1 民法上の「解雇の自由」(p920) 
     
  ◆2 労基法上の解雇予告義務(労基法20条) 
  ◇(1) 解雇予告期間・解雇予告手当の原則 
    労基法 第二〇条(解雇の予告)

 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
     
  ◇(2) 解雇予告義務の除外自由 
     
  ◇(3) 予告義務違反の解雇の効力 
     
  ◇(4) 短期労働契約への適用の有無 
     
  ◆3 一定期間中の解雇の禁止(労基法19条) 
  ◇(1) 解雇禁止の趣旨と内容 
     
  ◇(2) 解雇禁止の例外 
     
  ◆4 一定事由による解雇の禁止(法令による制限) 
     
  ◆5 労働協約・就業規則による解雇の制限 
 
   
     
  ◆6 解雇権濫用法理(労契法16条) 
    労契法 第一六条(解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
  ◇(1) 判例法理の形成と法文化 
  ◇(2) 要件と主張立証責任 
     
  ◇(3) 解雇理由の類型と内容(p935) 
   
     
   
     
  ■(iii) 経営上の必要性を理由とする解雇(整理解雇) 
  □(a) 整理解雇法理の形成 
  □(b) 法理の内容・・・4要件(要素)(p943) 
  ●(ア) 人員削減の必要性 
  ●(イ) 解雇回避努力 
  ●(ウ) 人選の合理性 
  ●(エ) 手続の妥当性 
     
  □(c) 理論的位置づけと主張立証責任 
     
  □(d) 企業倒産(再建型手続)と整理解雇法理
     
  ◇(4) 変更解雇告知の法理 
     
  ◇(5) 解雇権濫用の法的効果 
  ■(i) 解雇の無効
  ■(ii) 解雇期間中の賃金 
  ■(iii) 解雇と不法行為 
     
     
  ◆7 解雇理由の証明書(労基法22条2項) 
     
     
★★ 第3編 集団労働関係法 
★第31章 労働組合