シンプラル法律事務所
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不法行為法(旧版)潮見

★★第2部 不法行為損害賠償責任の要件(旧版p47)
★第1章 権利侵害
       
       
    ◆第6節 人格的侵害・プライバシーの侵害 
    ◇T 人格的利益の侵害 
    ◇U 補論・・・人格的利益の侵害と損害賠償(p92) 
人格的利益の侵害があった場合の損害賠償

侵害された権利・利益の性質からして精神的損害の賠償

財産的損害の賠償が問題となる局面以上に、数値に直結するような賠償額算定基準を掲げるのは困難。

@人格的利益侵害の場合には、損害賠償の持つ填補面が表面的には機能せず
A慰謝料については、諸般の事情を考慮して裁判官が裁量的にその額を創造することができるとされている。
     
    第8節 取引上の利益(経済的損失)(潮見不法行為法旧版p116〜)
    ◇T 経済的損失の意義
    ◇U 経済的損失が問題となる局面(第7節で触れたものを除く)
    ◇V 経済的損失の賠償理論に対する評価 (p120)
  □1 原状回復的損害賠償に対する評価
取引的不法行為に属する裁判例の多くにあっては、一方で契約が有効に成立したものと肯定的に評価しながら(あるいは、契約の効力になんら言及することなく)、他方で、契約締結行為を不法行為のレベルで違法と否定的に評価して、金銭的損害賠償の方法により契約がなかったのと同様の価値的状態の回復を認めるということがなされている。
vs.私的自治・自己決定権の保護という共通の基盤(私法秩序)の上に展開される取引の世界で、何を違法と評価するかという点につき、私法秩序の構想する評価間に矛盾は存在すべきではない。

契約の有効性を抜きにして当事者の行為に対する無価値評価(違法評価)を前提とした原状回復的損害賠償を語ることには限界がある。
問題となる局面では、契約の一部無効による処理あるいは信義則による契約内容(とりわけ履行請求権)の縮減を視野に入れた上で、契約の有効性を否定すべきかどうか、あるいは当該契約内容の減縮を図ることが正当化されるかどうかという点を正面から議論すべき
原状回復的損害賠償での処理を行う利点:
@損害賠償という技術を用いることにより、過失相殺をはさんで当事者間の利益衡量を弾力的に行える
A問題の局面では経済法令に対する違反は契約の私法上の効力を必ずしも否定するものではない
vs.
対@:
「原状回復的損害賠償+過失相殺」での弾力的処理がされる際の衡量事由および衡量過程とおなじことは、契約の一部無効による処理あるいは信義則による契約内容の縮減を考えるときにも観念できる。
対A:
当事者、とくに消費者の権利の保護・実現が経済の維持を図るべく国家が一定の対市場政策を選択している場合には、経済法令に対する違反は当該取引の効力の否認を帰結するものと考えるべきであるがゆえに、決定的でない。 
判例の傾向に従い、ここでの経済的損失の原状回復的調整を不法行為の損害賠償請求によって図るとしても、問題となるのは、どのような場合に「契約締結による出損をなさしめたこと」ないしは「契約締結へと誘導したこと」をもって不法行為と評価できるか

問題の核心は、被侵害利益面にあると言うよりは、むしろ、一方当事者に行為義務を課すことの当否、すなわち過失レベルにある。 
「当該取引にとって必要な情報は各自が自己の責任において収集し、かつ取引の危険性ならびに準備交渉費用が無駄になることの不利益は各自が負担すべき」(=自己責任の原則)というのが原則。
but
契約当事者間の情報格差、一方当事者の専門性、他方当事者の資産状態、取引目的、当該取引に関する経験と理解等を考慮することにより、信義則に照らし、一方当事者の側に、
@
A
B
C
の義務が課される。
   
  □2 財産的利益保護義務違反を理由とする損害賠償に対する評価 
  □3 関連問題・・・競走法秩序と不法行為法 
       
★第2章 行為と権利との間の因果関係
    ◆第1節 事実的因果関係 
    ◇T 事実的因果関係の意義・・・・過去に生じた事実の復元
事実的因果関係といっても、そこでは、単に過去の事実関係を復元するにとどまらず、その基礎の上に事後的・回顧的視点で評価したときに、権利侵害結果と行為者の行為との間を連結することができるかどうかが問われている。

事実的因果関係とはいえ、必然的に法的評価が伴う。
but
危険実現面での結果と行為の連結のみを想定した評価⇒相当因果関係説とは異なる。
不法行為が権利侵害の危険を回避することとの関連で違法と評価される⇒因果関係面での法的評価に当たり考慮されるべきは、あくまでも、危険実現可能性の観点からのものにとどめられるべき。 
@b事実的因果関係判断において下される結果と行為の連結という・・・しかも事後的・回顧的な・・・法的評価(規範的価値判断)が、A故意・過失に代表される帰責事由判断において下される行為への法的評価(規範的価値判断)・・・・規範の保護目的・義務射程につながる事前的な法的評価・・・とは異質なものであることの確認こそが重要。
ex.ある疾病の治療にとって有効であると考えられており、診療当時の医療水準をも形成していた医薬品の投与を、治療にあたった医師が行わず、患者が重篤な障害を遺した事件で、問題の疾病に対する当該医薬品の効能が後日の研究で完全に否定。
〜過失ありで、因果関係なし。
実際の裁判例においても、不可欠条件公式から因果関係を肯定するとうい単純な事実認定がされているものでもない。
むしろ、当該具体的事件において、どのような事態の経緯をたどって最終的な権利侵害の結果に至ったのかを、個別的な介在事情をも位置づけながら積極的に確定するのに、因果関係を論ずる意義がある(合法則的結合公式)。
発生した具体的な結果からさかのぼっていって帰責対象たる行為に到達することができる場合に因果関係が肯定されるという点こそが重要。
@因果関係を判断する際、その存在が認められるためには、当該事件において帰責対象たる行為から具体的権利侵害が発生したという関係が認められれば足りる。
結果発生への寄与度とか、結果からの距離といったことは、因果関係にとって意味をなさない。
A因果関係判断に際しては、当該具体的な事実を離れて因果関係の存否判断をしてはならない。とりわけ、実際には存在しなかった仮定的原因を付加して判断してはならない。
Bこのような因果関係判断は、評価時の科学技術・学問の水準を基準としてされる。過失判断が行為時の科学技術・学問の水準によるのとは対照的。
←因果関係判断は事実の復元を目的としているところ、事態の推移をできるだけ正確に確定するためには、利用しうる範囲でもっとも進んだ水準をもってすることに躊躇する理由がない(⇒過失はあっても因果関係がないというケースがでてくる。)。
    ◇U 不作為の因果関係 
通説:不作為の不法行為における因果関係判断の特徴として、作為不法行為の因果関係と異なり、まず法的な作為義務を先行させ、「作為義務を尽くした行為がなされたならば問題の結果が生じなかったであろう」場合に因果関係が肯定される。
そこでの作為義務は、先行行為、契約、事務管理から生じる。
先行行為そのものが不法行為に当たる場合には、あえて後続の行為を不作為不法行為と評価することはない。この場合に、先行行為を不法行為と捉えたなら、後続の行為から発生した結果については、その先行行為に結び付けられた行為規範の保護範囲(義務射程)内に当該結果が入るかどうかを吟味することになる。
but
好意と権利侵害との間の因果関係が問題となるときに法的・規範的判断が先行するということは、何も不作為不法行為に限られたものではなく、作為不法行為を含めたすべての不法行為に該当すること。
    ◇V 自然力の関与と因果関係 
    ●加害者の行為と並んで自然力が権利侵害に寄与した場合に、問題となる点。
(1)加害者の行為と権利侵害との間の事実的因果関係を認めることができるか?
人間の営み・存在が周囲の環境と全く切り離して捉えることができない⇒自然力が権利侵害に寄与したからといって、当然のごとくそれが事実的因果関係を切断して損害賠償責任の成否に影響を及ぼすということにはならない。
責任設定レベルで自然力が問題となるとすれば、それは、事実的因果関係の存否判断を経た次の段階での規範的評価、すなわち、問題の権利侵害が加害者の不法行為を抑止しようとする行為規範の射程外(義務射程外ないしは保護範囲外)に置かれるべきものであるとの評価を下すに当たって。

伝統的な判例理論によれば、因果関係の「相当性」判断に属する問題。
ここでは、発生した具体的な権利侵害が、不法行為規範により回避が予定された典型的危険の実現であるかどうかという点から、規範の保護目的が斟酌される。
この点は、規範の保護目的論(義務射程論)一般に関する問題であり、ここで自然力を特別扱いする必要はない。
(2)権利侵害に自然力が寄与しているということが、損害賠償の範囲を画定するに際しても影響を及ぼすか? 
飛騨川バス転落事故第1審判決(名古屋地裁昭和48.3.30):
「賠償の範囲は、事故発生の諸原因のうち、不可抗力と目すべき原因が寄与している部分を除いたものに制限されると解するのが相当」。本件では不可抗力部分が4割と認定され、6割についてのみ国の損害賠償責任が認められた。

寄与度に基づく割合的因果関係の判断が採用。
(高裁判決が損害全額の賠償を認容し、これが確定)
大気汚染防止法25条の3は、「第25条1項に規定する損害の発生に関して、天災その他の不可抗力が競合したときは、裁判所は、損害賠償の責任及び額を定めるについて、これをしんしゃくすることができる」とする。
水質汚濁防止法20条の2にも、同様の規定。
ここでも、問題となっているのは、因果関係の確定という事実認定レベルで自然力の寄与度に関する判断(=自然科学的知見に基づく客観的判断)ではなく、法的評価レベルでの減免責に関する規範的価値判断
⇒事実的因果関係のレベルの問題ではない。
    ◇W 不法行為の競合(競合的不法行為)と因果関係 
    「あれなければこれなし」という不可欠条件公式を基礎に権利侵害の結果から原因行為へと到達するという手法は、加害行為となる複数の行為が重複する場合に、説明に窮する。
ex.2人がともに致死量の青酸カリをグラスの中のワインに入れたところ飲んだ被害者が死亡(重畳的競合における因果関係) 
通説:重畳的競合における因果関係判断にあってあh、例外的に不可欠条件公式が妥当しない。
潮見:問題とされるひとつの行為が権利侵害の結果を法則的に決定づけることが可能⇒事実的因果関係を肯定できる。
「日本不法行為法リステイトメント」 
(1) 原因の競合・・・原因の共働
複数の事実が重なった結果、それらの事実との間に条件関係あり⇒それぞれの事実と損害との間には因果関係あり。
(2) 原因の競合・・・原因の重複
複数の事実のうち、それのみによって当該損害を発生せしめうる事実があるときは、他の事実と損害との間の因果関係いかんにかかわらず、当該事実と損害との間には因果関係あり。
but
ある事実によって損害が生ずる前に、他の事実によって当該損害が生じた⇒前の事実と損害との間には因果関係なし。
(3)原因の競合・・・付加的原因
(1)に定める事実と同種の他の事実が損害の発生にかかわっている⇒他の事実がなくても損害が生じうる場合であっても、他の事実と損害との間に因果関係あり。
    ◆第2節 因果関係の証明責任 
    ◇T 高度の蓋然性
    ◇U 因果関係の証明責任の緩和・軽減 
★第3章 帰責事由   
    ◆第1節 緒論 
    ◆第2節 故意 
    ◆第3節 過失 
    ◆第4節 失火責任法の特別規定 
       
       
★第4章 「規範の保護目的」による責任成立範囲の確定(旧版p175〜)
    ◆第1節 相当因果関係とその問題性 
      因果関係(条件関係)が存在すれば足りるというのでは、帰責の範囲が著しく広がる⇒責任成立範囲を「因果関係のレベル」で限定するために登場してきたのが、相当因果関係の理論。
  相当因果関係の理論とは、「その行為が、権利侵害(結果)にとって法的に相当と見られる条件である」場合に、権利侵害と不法行為との間の「法的因果関係」を肯定し、損害賠償責任を導いていく考え方。

帰責の問題を考えるときに、すべての原因が結果の発生にとって等価値のものではないという理解を基礎にして、結果発生にとって重要な原因を、重要でない原因から分離する試みの一環としてなされたもの。
結果が発生するのが経験上通常であると言える場合にのみ、法的意味での因果関係を肯定。
相当因果関係による責任成立範囲の限定が問題となる局面 
(1) 行為当時に特殊な事情が存在したために権利侵害の結果が発生した場合 
相当性の判断に当たってどのような事情を基礎とすべきかをめぐり、行為時に一般人が認識しまたは認識できた事情および行為者がとくに認識していた事情を基礎として判断すべき。
特殊な事情として、第三者の行為、自然現象、被害者の特異体質など
(2) 行為の後に特殊な事情が介入して結果発生に至った場合 

@介在してきた特殊事情の予見可能性(異常性)と、A結果発生に対するこの特殊事情の影響力(=先行する不法行為の危険性が結果へと実現したかどうか)を基準に、因果関係の相当性を問う。
交通事故によって軽微な障害を負った被害者が、事故の後に精神的疲労等が重なり、ついに自殺するに至ったケース:
交通事故と自殺との間に相当因果関係があるとしたうえで、被害者の心的要因(素因)が自殺に寄与している点にかんがみて賠償額を減額するという技巧を用いた原審判断を是認した最高裁判決(最高裁H5.9.9)。
交通事故による負傷の後に、被害者を治療した医師の過失により人身被害が拡大した場合にも、交通事故につき責任を負う加害者等が、医師の過失(医療過誤)により拡大した結果についても責任を負うか?
裁判例は、拡大結果についての交通事故加害者等の責任を考える際に、相当因果関係の概念を用いて処理するものが多い。
  vs.
規範的価値判断に関する相当性の問題を事実認定に関する因果関係の次元で捉えるべきではなく、相当性判断の規範的側面を理論的にふさわしい場所で論ずべきであるとの主張。 
    ◆第2節 規範の保護目的説 
      規範の保護目的ないし義務射程説:
「およそ、あらゆる義務と規範は一定の利益領域を保護対象として内包しているのであって、行為者は、この保護された範囲内の利益侵害についてのみ責任を負えば足りる」

違反された行為規範によって保護された範囲内に具体的侵害結果が帰属する場合にのみ損害賠償義務の成立が正当化される。

「発生した権利侵害の結果が、規範の保護目的に入るか否か」という規範的価値判断に焦点が当てられる。
従来の相当因果関係論で「相当性」として論じられていたことは、この規範的価値判断の基準を定立する作業。
実現された権利侵害の結果が、法規範により防止されようとした危険の実現であると評価できるときに、当該権利侵害は、規範の保護目的の範囲内にあるものとして、行為者に帰せられることになる。
(結果を基点とし、かつ評価時における科学記述の水準をもとにした事後的・回顧的評価視点に立ってなされる因果関係判断の場合と異なり、ここでは、規範的価値判断がなされるとしても、あくまでも、侵害行為(故意行為・過失行為)を基点とし、かつ行為時における科学技術の水準をもとにした事前的評価視点から、侵害行為を具体的侵害結果へと関連づける作業がなされている。)

規範の保護目的の範囲内化どうかを判断するに当たっては、
@どのような権利が侵害されたのかという点
A帰責事由に関連づけられた行為者の行為への規範的要請がどのようなものであるかという点
Bその行為規範が遵守されたとすれば事態はどのような展開をみせたかであろうかという点
に関する評価が重要。
    ◆第3節 権利侵害の連鎖と危険性関連 
    ◇T 第1次侵害と規範の保護目的・・・故意・過失からの義務射程 
      ある者の行為により他人の権利が侵害(第1次侵害)され、さらにこの権利侵害を契機として別の権利が侵害(後続侵害(第2次権利侵害))されるという権利侵害の連鎖状況。
第1次侵害については、過失責任の原則に従って、故意・過失が帰責事由として要求される。
(1) 故意⇒加害者は権利侵害を意欲ないし認容して行為⇒この行為がもたらした第1時侵害結果については、「異常な事態の介入」の結果として生じたものを除き、加害者が引き受けるべき。 
国際海上物品運送法13条の2
「運送人は、運送品に関する損害が、自己の故意により、又は損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為により生じたものであるときは、・・・・・一切の損害を賠償する責めを負う。」

国際海上運送にも、運送にも、取引(契約)にも限定されない故意損害帰責の一般理論が表現されている。
故意の対象は第1次侵害結果⇒後続侵害については、別途(危険性関連の観点から)規範の保護目的を考える必要。
but
故意損害帰責の視点は、危険性関連に基づく加害者の損害引受けの方向での判断を容易にする
(2) 過失について
第1次侵害の帰責のうち、過失における行為義務(事前的視点のもとで確定される)の遵守がいかなる潜在的侵害結果を想定して法秩序により要請されているのかが決定的
法秩序の命令・禁止が具体化した行為義務の射程範囲に入る侵害結果については、過失で行為した者の負担となるが、そうでないものについては、たとえ事実的因果関係が認められたとしても、行為者の負担となるものではない。
後続侵害を行為者に帰責するかどうかについては、過失における行為義務違反の射程範囲からは直接には導かれない。
    ◇U 後続侵害と規範の保護目的・・・危険性関連 
    第1次侵害の結果について行為者が責任を負うべきであるという評価の中には、「行為者へのさらなる独立の行為要請(命令・禁止)を待つまでもなく、第1次侵害によって作り出された特別の危険が通常の経過をたどって展開して権利侵害の範囲を連鎖的に拡大していった結果についても、第1次侵害の行為が引き受けるべきである」との帰責へ向けての評価(価値判断)を組み込むことができる。

ある後続侵害が第1次侵害により生じた特別の危険の実現であれば、この後続侵害について行為者に帰責することができる。
この意味で関連付けることのできない侵害については、独立に第1次侵害としてとらえ、改めて帰責事由の存否判断を加えるしかない。
「特別の危険」であることを要する

日常生活の中で一般的に生ずる危険(日常生活危険、一般生活上の危険)については、それが違法と評価される行為(あるいは事態)により惹起されたのでないかぎり、被害者が負担すべきであるとの考慮。
後続侵害の例 
@交通事故の被害者の近親者が外国に滞在している際に、この者が被害者の看護のために往復するのに要した旅費相当額について、被害者が自己の被った損害として賠償請求した事件で、それが社会通念上相当であり、かつ被害者がこの近親者に償還すべきものである場合には、通常生ずべき損害にあたる(最高裁昭和49.4.25)。
A−1:
不動産の仮差押の申立ておよびその執行が債務者に対する不法行為になる場合に、債務者が仮差押解放金を供託してその執行の取消しを求めるため、金融機関から資金を借り入れ、あるいは自己の資金をもってこれに充てることを余儀なくされた⇒仮差押解放金の供託期間中に債務者が支払った右借入金に対する通常予想しうる範囲の利息および右自己資金に対する法定利率の割合に相当する金額が、不法行為により債務者に通常生ずる損害に当たるとしたもの。

後続の経済的損失(エコノミック・ロス。この事件では借入金相当額ほか)を後続侵害として捉えることができる。
不当な仮差押申立ておよび執行が第1次侵害であり、これにより生じた危険の特別の実現であるかどうかが問われるべき。
A−2:
売買契約の目的物に対する仮差押の申立てが不法行為になる場合において、売主がこの仮差押により売買契約を履行することができず、買主に違約金を支払ったために1000万円相当の損害を被った場合において、この損害を債権者が予見することができたとした事例。
B交通事故で負傷した者が、運び込まれた病院・診療所での医師の過失により死亡したり後遺障害が拡大したりした場合に、後続侵害につき、第1次侵害である損害との間の相当因果関係を認めて、交通事故加害者側に・・・病院側と連帯して・・・死亡による損害の賠償責任を負わせたもの。
C人身事故による負傷後に被害者が自殺した場合。
    ◇V 間接被害者の損害賠償請求・・・・直接被害者以外の者に生じた損害とその賠償の可能性
  □1 問題の所在 
自らは権利を侵害されていないものの、直接被害者への加害行為により間接的に不利益を被っている者を、間接被害者という。
間接被害者に生じた損害について
A:規範の保護目的・義務射程もしくは賠償されるべき損害の範囲に関する問題として捉えるか、または損害の金銭的評価に関する問題として捉えれば足り、間接被害者として特別扱いする必要はないとの見解
B:権利を直接に侵害されていない人が不法行為を理由に賠償請求権を取得するという観点から独立の項目を立てて論ずる見解
が拮抗。
  □2 肩代り損害(反射損害、不真正間接被害者) 
人身事故で入院した被害者の親族が入院費・治療費等を支払った場合に、この親族が、みずからの支出した費用相当額を損害として、加害者に対し賠償請求することができるか?

同じ出捐を直接被害者がしたならば、これを自己の損害として請求することが可能であった。
間接被害者からの賠償請求を認めるべきであるとした点に異論はない。
理論構成:
判例の中には相当因果関係の問題とするものが多い。
but
出捐者の「肩代り損害」を直接被害者に置き換えて当該「肩代り損害」に相当する費目としたうえで、金銭で評価し、この直接被害者の損害を出捐者が補填したものと捉え、民法422条の賠償者代位制度の類推適用により処理するのが適切。
間接被害者という抽象的・包括的概念で問題を捉えるよりも、問題の本質が損害の金銭的評価+賠償者代位の可否にあると見て、こうした本質面を重視した体系構築を試みる方が適切。
民法 第422条(損害賠償による代位)
債権者が、損害賠償として、その債権の目的である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは、債務者は、その物又は権利について当然に債権者に代位する。
  □3 定型的付随損害 
直接被害者に対する権利侵害を契機として、直接被害者以外の者に随伴的に財産的損害もしくは精神的損害が生じる場合。
ex.
家族が事故にあったために急遽海外から帰国した近親者の航空運賃相当額の損害
扶養義務者が死亡または重篤な障害を被ったために近親者に生じた不要請求権相当額の損害。
家族が死亡または重篤な障害を被ったことにより配偶者・父母・子に生じた精神的苦痛の慰藉を内容とする損害。

後続侵害(第2次権利侵害)が直接被害者と異なる主体に生じたもの。
いわば、権利主体を異にする場面での保護範囲の問題
もとより、問題の後続侵害(損害)発生について故意・過失は問題とならず、直接被害者に生じた第1次侵害とは危険性関連を問題とすれば足りる
  □4 企業損害 
ゲームソフト会社の商品開発のメンバーが人身事故にあい長期休業⇒会社自身が、従業員の休職により営業収入が減少したことを理由に、みずからも間接被害者として、加害者に対して逸失利益の賠償を請求することができるか?
企業損害の賠償を一般的に認めるのは、損害賠償請求権者の範囲を拡大しすぎるばかりか、加害者の予測ないし計算可能性を超える損害を加害者に負わせることになり相当でない。
かかる企業リスクについては、営業活動を行う企業が自己のリスクとして回避措置を講ずべき。
こうした観点にもとでなされる衡量に当たっては、企業損害(営業利益、営業活動上の利益)の保護を目的とした加害者の行為義務(結果回避義務)とその違反(過失)、さらに、結果発生の予見可能性に関する判断が決定的。

このコンテクストにおいて観念されている企業損害は、端的に、企業自体の被った直接侵害(権利侵害)、つまり営業利益侵害ないし経済的損失を理由とした、企業自身を直接被害者とする損害賠償請求の問題(=第1次財産損害の賠償問題)として捉えるのが適切。

問題の核心が、@企業の営業利益・経済的利益が法的保護に値するかどうかと、A不法行為規範の保護目的内にあるかどうかの規範的価値判断にある点が明確になる。
  会社が法人とは名ばかりの個人会社である場合:
会社の実権が代表者個人に集中し、この者に会社の機関としての代替性がなく、かつ代表者と会社とが経済的に一体をなす関係にある
⇒ 「受傷した代表者が個人としての逸失利益を請求した場合と、個人企業の固有損害で請求した場合とで、原則として差があってはならない」点にかんがんみ、企業損害の賠償を認めてよい(最高裁昭和43.11.15)。
but
これも、直接被害者から区別される間接被害者の損害賠償としての独自性を強調するにふさわしい問題とはいえない。
損害賠償請求の次元での法人格否認・形骸化の問題として扱えば足りる。
     

  ★★第4部 損害の確定と金銭的評価(旧版p213〜)
★第1章 損害総論
    ◆第1節 差額説と批判理論 
    ◇T 伝統的理解・・・差額説 
    □1 差額説の意義と特徴 
差額説:
損害とは、@不法行為がなければ被害者が現在有しているであろう仮定的利益状態と、A不法行為がなされたために被害者が現在有している現実の利益状態との間の「差額」である。
差額説の特徴: 
@総「額」の差として損害が定義⇒損害自体が一定の数字をもって表現される計数上のものとして観念される。
A損害そのものの確定(=事実認定の問題)と損害の金銭的評価の間に概念分離がない。しかも、両者が一体のものとして、相当因果関係による制限に服している。
B金銭的評価の問題をも損害概念の中に取り込んで観念するものであるところ、こういした損害の「算定」を支配する考え方として、具体的損害計算、個別損害項目積算方式が採用されている。
C損害の発生を基礎付ける事実についての証明責任を被害者側に課す⇒差額説では権利侵害によって 生じた不利益な状態のみならず、金銭評価を基礎付づける事実についての証明責任まで被害者側に負担させられる。
    □2 判例による差額説の部分的修正 
    判例では、差額説を基調としつつ、これを貫いたときに不都合が生じる場合にはその修正を図るという方法。
被害者の損失回避努力や職業活動の特殊性が考慮に入れられている。
現在および将来の所得の減少が認められない場合であっても、例外的に、特段の事情があれば、後遺症に起因する労働能力低下に基づく財産上の損害の賠償が認められる。
ex.
@自己の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであって、かかる要因がなければ収入の減少を来していると認められる場合
A労働能力喪失の程度が軽微であっても、本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、とくに昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合
    □3 差額説に対する批判 
    ●差額説に対する批判 
@精神的損害についての説明に窮する
←財産的損害と異なり、精神的損害にあっては、計数上の差を観念することができない。
A損害算定原理ないし個々の算定方法の問題性に対する批判
B差額説の立場からの損害の定義〜損害算定の結果を記述する以上の意味に出るものではなく、それだけでは損害の定義を行う必要性がない。
むしろ、どういう判断を経てそのような差額計算に至ったのか、さらに、その前提として、現実の利益状態や仮定的利益状態をどうやって確定するのかという点の正当化こそが、差額説の支持者に求められるところ。
C被害者に不利益が発生したという事実状態の問題と、これを金銭面でどのように評価するかという問題の次元の違いが意識されていない。 
    ◇U 損害事実説(+保護範囲論+損害の金銭的評価) 
    損害事実説:
「損害」は法的評価の対象たるべき権利侵害の事実そのもの(人の死亡・負傷、物の滅失・毀損、名誉毀損等)

損害そのものを、その後になされる規範的評価の対象たる事実としてとらえることで、
@事実確定の問題とA規範的評価の問題、さらにはBその後になされる金銭的算定の問題を峻別して段階的に判定できる。
規範的評価からは無職の事実として損害を捉える点にこそ、損害論の意義が見出される。

@損害事実の確定の問題に「事実的因果関係」の確定を結びつけ
A不法行為と事実的因果関係に立つ損害事実のうちでどれを賠償されるべき損害と判断すべきかという規範的評価の問題に「保護範囲」(規範の保護目的)の判定を結びつけ
B金銭的評価に裁判官の裁量を結び付ける
注目すべき点:
@
A原状回復の理念とか、損害把握における規範的評価といった点は、
第2段階の保護範囲に割り当てられ、
そのうえでなお第3段階の損害の金銭的評価のおいて裁判官の裁量に当たっての指針として機能。

第2段階の保護範囲論で扱われているのは、不法行為と被害法益との関連づけ。
B
    ◇V 人身侵害についての死傷損害説と稼働能力喪失説 
    ◆第2節 損害論の体系 
    ◇T 損害事実の確定と金銭的評価の分離 
       
    ◇U 本書における損害論の体系 
    不法行為を理由とする損害賠償責任の成立要件・・・責任阻却事由を除く・・・として
@被害者の権利侵害
A加害者の故意または過失(帰責事由)
B加害者の故意・過失ある行為と被害者の権利侵害との間の因果関係(事実的因果関係)
C権利侵害が故意・過失規範の保護目的内に位置づけられること・・・後続損害については、第1次侵害との危険性関連
が必要。
平井のいう「保護範囲」の問題は、責任成立要件レベルで、Cの要件となる。
上記の成立要件が肯定⇒権利侵害によって被害者に生じた不利益な事実状態(「損害事実」)の確定が必要。 
伝統的差額説から金額という要素を取り去った、事実状態の比較をもって確定される。
どのような法的観点から事実状態を捉え、比較を行うかという点で、規範的評価がなされる。
上記で確定された損害事実を金銭化する作業(損害の金銭的評価)。 
金銭化のための実体的規範のための基本的視点
@原状回復の理念
A被害者相互の平等取扱いの原則
B有責性の原理
など
最後に、賠償額の減額事由とされる
過失相殺、損益相殺その他これに類似する減額事由 
★第2章 損害事実  
◆      ◆第1節 損害事実の確定・・規範的損害論
  ◇T 損害事実の確定と原状回復の理念 
「加害者は、不法行為なかりし状態を回復することによって被害者の損失を填補し、その権利を金銭的に回復しなければならない」
「被害者は本来的には原状回復を請求できるところ、原状回復のために金銭賠償による外ない場合には、せめて被害者を少なくとも事故以前の客観的状態と価値的に同じ状態に置くべきであるという思想」
あくまでも、損害の確定は私法上の規整目的に従ってなされるのであり、「不法行為がなかったならばあるであろう状態」をどのようなものとして捉えるかという点において、すでに法的・規範的評価が介在。
⇒規範的評価を支える視点が必要。
  ◇U 損害賠償請求権の権利追求機能 
  ◇V 「損害の被害主体関連性」のドグマとその限界 
「損害賠償の目的は被害者個人に生じた実損害の填補にあるから、被害者の個人的事情を斟酌しなければならない」とのドグマ(「損害の被害主体関連性のドグマ」)
最高裁H9.1.28:
「損害の填補、すなわち、あるべき状態への回復という損害賠償の目的からして、右算定は、被害者個々人の具体的事情を考慮して行うのが相当である」
  ◇W 小括(p226) 
不法行為による侵害からの被害者の原状回復が、損害賠償法の基点に据えられるべき。
but
原状回復と言っても、それは、社会的に見て被害者に現実に生じている「被害」がすべて金銭的に回復されるということを意味するのではなく、あくまで、損害の確定は司法上の規制目的に従ってなされる。
「不法行為がなかったならばあるであろう状態」・・・これは、「侵害行為がなければ存在するであろう仮定的事実状態と、侵害行為の結果としての現在あるところの現実的事実状態との差」として観念される・・・をどのようなものにして捉えるかという、法秩序により刻印された規範的色彩を帯びる(規範的損害概念)。
この意味での規範的評価を支える視点として、
「損害賠償請求権は、本来の権利の価値代替物としての性質を有する」という点に注目(権利追求機能)。
@私法秩序における権利の保護要請
A憲法の保障する平等原則
⇒平均人に帰属する権利の客観的価値については、少なくとも、あらゆる場合に損害ありと認められるべきことが正当化される(「最小限の損害」)。
これによって填補されない当該被害主体の個人的事情にでる部分(具体的損害計算がなされる場面)について、
「最低限の損害」への加算要素として、
不法行為がなければ平均的価値を超える価値が自己に帰属したこと(したがって、金銭により原状回復されるべき損害であること)の被害者による証明を経て、賠償されるべき損害として認められるのが適当。
    ◆第2節 賠償範囲・金銭的評価面での相当因果関係論の問題性・・・不法行為を理由とする損害賠償と民法416条 
通説・判例:
不法行為を理由として賠償されるべき損害の範囲を確定するに当たり、金銭評価の点をも含めて相当因果関係論を採用した上で、民法416条を類推適用することにより、相当性判断を行っている。
@賠償されるべき損害は、加害行為と相当因果関係にある損害であるところ
A416条は相当因果関係を定めた規定である
⇒不法行為による損害賠償についても416条が準用(もしくは類推適用)される。
vs.
@民法416条は契約違反の場合を対象とした規定であり、不法行為についてこれを妥当させようとするのはおかしい。
A債務不履行の場合には、当事者は合理的計算に基づいて締結された契約により結合されているから、債務不履行による損害について予見可能性を問題とする意味があるが、無関係な者の間で突発する不法行為においては、故意の場合はともかく過失による場合には、損害の予見可能性がほとんど問題となり得ない。
Bにもかかわらず416条を類推適用すると、特別損害の賠償が困難となり、その不都合を回避するために、通常損害や予見可能性を擬制せざるを得ない
Cそもそも416条は相当因果関係という発想を採用したものではない上に、相当因果関係の理論は完全賠償原則を前提として展開されたものであるところ、日本民法はこうした主義を採用していないから、賠償範囲決定準則として相当因果関係の理論を持ち出すこと自体がすでに失当。
    ◆第3節 損害事実の証明問題
規範的損害の要件事実は規範的要件事実⇒権利侵害とか過失といったような他の規範的要件事実と同様、規範的評価を根拠づける具体的事実(評価根拠事実、以下「損害事実」と称する)が、主張・証明責任の対象となる主要事実を構成。
そのような評価根拠事実としては、個別損害項目積算方式で展開されるような各種の損害項目が観念される。
仮定的総財産額と現実の総財産額との間の「金額」上の差をもって損害と捉える差額説を論理的に貫徹するなら、
@各個の損害項目は間接事実にすぎないし、その結果、
Aどの損害項目に対応するものか判然としない金額が生じても問題にはないことになるうえ、
B当事者が主張した損害額の枠内で相互流用することも可能になる。
精神的損害(慰謝料)について、裁判官の裁量を肯定し、被害者の主張責任・証明責任を緩和するとともに、財産的損害に対する補完的機能をも認める。
       
★第3章 損害の金銭的評価(p230)
    ◆第1節 金銭評価規範総論・・・「全額評価原則」と「有責性の原理」 
      〇A:全額賠償の原則を基礎に据える立場。
「加害者は、被害者のすべてを受け入れなくてはならない」との格言とも調和。
「保護範囲によって画定された損害についての金銭的評価は、被害者に対し可及的に不法行為前の財産状態を回復させることを基本として行われるべきである」として、全額評価の原則を損害賠償制度一般に内在する基本的要請としたり(平井)
被害者をできるだけ不法行為がなかったと同じ状態に戻すという不法行為における損害賠償の理念が基礎に置かれるべきである」とする原状回復の理念を強調(吉村)。
B:加害者の側での帰責性・非難可能性の量的割合を考慮に入れた金銭的評価規範を積極的に定立していこうとする立場。
「被害者の行為態様や素行、さらには加害者と被害者の人間関係といったファクターが、加害者の帰責性(過失・違法性・寄与度等の表現で表現される。有るか無いかではなく量的概念である)の程度に影響し、それが賠償額の縮減を要請するということである。より広くいえば、加害者はその損害に対する帰責性の度合いに応じて賠償義務を負うということであり、いわゆる保護範囲に入るとされた損害についても、加害者の帰責性を減ずる要素があると、最終的な賠償額の算定においても斟酌されるのである(帰責性の原理と呼ぶことにしよう)。これは、いわば当然のことではあるが、民法の規定上は正面からは定められていないため、その法原理のひとつの表現である過失相殺の法理が援用されているのである」
両者は、被害者の過失(被害者の損害拡大抑止義務違反を含む。以下同じ)以外の事由を賠償減額事由として認めるかどうかで、大きな違いを見せる。
    ◆第2節 損害額の証明問題 
    ◇T 総論・・・損害額の証明と裁判官の裁量 
A(通説):損害賠償請求訴訟においては、損害額も主張および証明の対象とされ、これについて原告被害者側が主張責任および証明責任を負う。
B(平井):損害の金銭的評価は因果関係のような事実認定レベルの問題に還元されるものではなく、あくまでも法的評価の問題であることを指摘した上で、こうした金銭評価については裁判官の裁量に委ねるべき。
vs.
原告は裁判所が相当と判断する金額をもってよしとする意思であっても、相手方にとっては攻撃防御の対象が定まらないことになり、著しく不公平であるとの批判。
but
平井の主張は、通説の立場ではなんらかの技巧を付して実体法的に正当化しようと試みられてきた問題(ex.幼児・主婦・無職者・外国人の逸失利益の算定、さらには公平の見地からする賠償額の減額として枠づけられる問題)に対して、事実認定レベルの問題として証明度の軽減の衣をまとってなされている裁判実務での金銭評価・・・・その実は、逆説的ながら、金銭的評価のための実体規範(金銭評価規範)を定立することへと向かっている・・・・に適切な位置づけを与えるものと評価できる。
    ◇U 平成8年改正の民訴法248条 
    □1 規定の意義
    民訴法 第248条(損害額の認定)
損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。

従前の裁判実務が腐心してきた損害の金銭的評価につき、裁判所が「相当な損害額」を認定することを正面から肯定したもの。
ドイツ民訴法287条に類似するが、いくつかの主要な点で異なる。
ドイツ民訴法287条:「損害が発生したか否か、及び損害額又は賠償すべき利益の額がいくらかについて当事者間で争いがあるときは、裁判所は、これについてすべての事情を評価して、自由な心証により裁判する」

損害額のみならず、損害発生の有無についても裁判所による認定を認めている。
財産上の争いにおいて当事者間に債権額について争いがある場合にも同種の規定を設けている。
ドイツ民訴法287条では、
債権額について争いがある場合には、「それについて基準になる一切の事情を完全に解明しようとすると、債権の争われている部分の価値に比べて不相当な困難さを伴う場合」という限定を付しているのに対して、
損害の発生および額につき争いがある場合に関してはこのような文言上の限定を付していない。
but
民訴法248条では、「損害の性質上その額を立証することが極めて困難である」ことという条件が充足されたときにはじめて、裁判所による「相当な損害額の認定」を許している。
民訴法248条の規定は、
@伝統的な立場に立ったとしても損害額に関しては高度な蓋然性の証明になじまないのではないかという点への配慮、つまり、個々の損害項目に割り付けられる金額の算定について、いかに蓋然性評価によって繕おうとしても、仮定的・不確定要素に左右されることが少なくないという点への考慮。
A損害額の算定は伝統的な立場の説くような事実認定の問題ではなく、裁判官による裁量的判断の問題として捉えるべきではないかという観点から発想の転換を行うべき旨を主張する最近の動きに呼応。
but
民訴法248条jは、平井の見解と比較すると、あくまでも「損害額の認定」という事実レベルでの証明度の軽減を正当化することに規定の目的がとどめられている。 
実体法の観点からも重要な意義を有する民訴法248条の枠組み 
第1:
金銭評価を基礎づける事実の認定レベルで、被害者の「立証上の負担」を軽減することを目的とするもの。
こうした見方からすれば、248条が適用されるのは、取引的不法行為の場での経済的損害の賠償に代表されるように、損害事実は明確に認められるものの、その金額の証明が困難な場合にほぼ限定されるように思われる(節税目的の等価交換方式によるマンション建設の勧誘について契約締結上の過失があるとされた事例で、同条を適用して相当な損害額を認定した東京高裁H10.4.22)
第2:その反面として、次のような場面を守備範囲に置くものではない
@248条は、幼児や専業主婦、外国人の逸失利益の算定に見られるような、抽象的損害計算に裏付けられた実体的金銭評価規範に基づく評価が問題となる局面で作用するものではない。

こうした場面では、具体的損害計算を本則としたうえで「控え目な算定」の名のもとに証明度を軽減しているのではない。そこでなされているのは、実態規範を獲得する・・・そして、その規範命題を具体化する・・・作業である。
賠償金額の算定は事実認定の問題ではなく、裁判官の創造的作用に属するものだとの指摘は、金銭評価における裁判官の裁量性を説いたものとしてのみ理解されるが、
その背後において、まさに、
かかる実体的金銭評価規範の探求および獲得の必要性を強調したものとして受け取ることができるし、むしろそう理解すべき。
but
最高裁は、「控え目な算定」の名のもとに、幼児や専業主婦の逸失利益につき、賃金センサスの平均余命という客観的・抽象的基準をもとにその賠償を肯定する方向へ。

一連の最高裁判例ならびに下級審裁判例で「控え目な算定」が用いられる場合に想定しているのは、あくまでも、(差学説を基礎としたうえで)当該被害者個人を対象とした具体的損害計算。
ただ、そのもとでの損害額の認定・・・額算定の基礎となるべき事実の認定・・・面で、証明度の緩和ないしは裁判官の心証形成面で原告被害者側に有利な計らいをすべく、平均賃金等を基準とした抽象的・客観的・抽象的数値の挙示で足りるとしたもの。
but
こうした裁判例の蓄積
⇒民法学説は、金銭的評価のための実体規範を見るようになった。
「幼児の逸失利益」「専業主婦の逸失利益」「高齢者の逸失利益」といった人身損害や、
車両・家屋といったような物損について、
客観的・抽象的損害計算を基調とした損害論(その実は金銭評価理論)を築き上げていった。

裁判実務での蓄積が、民法学説レベルでは、形をかえて、金銭的評価のための実体的規範を探求する方向を接合。
A慰謝料について:
慰謝料の算定は、裁判官の裁量的・創造的活動に委ねられている。
248条は、法的評価にかかわる裁判官の裁量判断を扱うものではない⇒同条の守備範囲の1つとして慰謝料の算定の場面を挙げるのは、適切ではない。
but
慰謝料には財産的損害を損害を補完する作用がある。
財産的損害につきこれを基礎づける事実に関する厳格な証明を求めると、その証明困難性から賠償が否定されるような局面で、これによる不都合を慰謝料の名目のもとで裁判官の裁量的判断により調整することが実務上でなされ、学説でも承認されてきた。
この「補完部分」については、もはや「無形損害」構成を含め、慰謝料への逃避を待つまでもなく、248条を介して端的に「財産的損害」としての賠償請求を求める可能性が開かれた。
B「損害事実の発生」そのものについて、同条の適用の余地はない。
but
取引き的不法行為におけるいわゆる第1次財産損害(経済的損失。エコノミック・ロス)については、「損害事実」と「損害額」とを明確に区分することは困難
⇒ここでは、損害事実の発生も含めて248条でカバーされているものと見るのが適切。
(石油元売り業者の違法な価格協定の実施(元売仕切価格の引下げ)により損害を被ったことを理由に消費者が提起した損害賠償請求訴訟では、価格協定が実施されなかったとすれば現実の小売価格が形成されていたことを消費者が主張・立証すべきだとされていた(最高裁H1.12.8)。)
第3に、「損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとこ」
証明度の軽減の要件を参考にしながら、
原則的な証明を要求した場合に、
@原告にとって不当に不利益になり、
A損害賠償法の規範的目的にそぐわない結果を生ずること、及び
B損害額を立証するために本条による以外に代替的な手段がない場合
がこれに当たる。
第4:
相当額認定の基礎とした諸事情と、その諸事情をド尿に考慮したかという点について、
加害者・被害者双方による追試が可能となるように判決理由中に記載されているのが望ましい。 
    ◇V 損害額の擬制・推定 
    特許法102条、実用新案法39条、商標法38条には、権利保護者の得べかりし利益について、損害額の推定規定および擬制規定が設けられている。

民法709条の一般理論による賠償が認められるのは、権利者が問題の市場を独占している場合のほかは困難であろうという指摘。
規定 特許法 第102条(損害の額の推定等)
特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

2 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。

3 特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる

4 前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、特許権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる
特許法102条2項:権利侵害者が侵害行為によって受けた利益(侵害者利益)(純利益)の額をもって、特許権者または専用実施権者が受けた損害額であるtの推定。 

推定規定⇒侵害者からの反証の余地。
反証としてとくに重要なのは、権利侵害者のもとで生じた利益に対する被侵害技術の寄与率。
but
反証以前の問題として、
@特許権者の側で侵害者利益の証明が困難。
A権利者が特許権を実施していない場合には、この規定をもとに賠償を求めることができない。
3項は「特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」(通常実施権の実施料相当額)をもって、特許権者または専用実施権者が受けた損害額であるとの擬制。

請求しうる賠償額の最低限度を法定氏、権利保護の容易化を図ったもの。
4項は、「前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない」として、抽象的損害計算にかかる金額を超える損害の賠償を妨げない旨規定。

同時に、「この場合において、特許権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる」として、具体的損害計算により算出された金額に対する裁判所による裁量減額の可能性を残している(軽過失参酌規定)。

あらかじめ権利侵害の有無を確認することは権利侵害者を含む競業者一般にとって必ずしも容易なことではない。
⇒賠償額をなるべき実施料相当額に近い範囲にとどめ、あやまって権利を侵害した者(たとえば、特許侵害物の譲渡行為者)の負担を軽減しようという趣旨にでた規定。
⇒裁量減額がされる場合にも、賠償額を3項で擬制された実施料相当以下に軽減することはできない。
逸失利益の賠償額を引き上げることをねらって、平成10年に特許法の改正
⇒102条第1項
「特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。」

逸失利益の証明困難を回避するための方策としての推定規定という意味で、同条2項と共通の基盤。

原則として、「侵害者の」譲渡数量に「権利者の」単位あたりの利益額を乗じて金額を算定したうえで(=この点を基礎づける事実については特許権者側に証明責任を負担させる)
例外的に、特許権者が侵害者と同数を販売できないことを減額事由とし(=侵害者側に証明させる)
という方法を採用。
以上と同種の規定は、
著作権法114条において、著作権者、出版権者または著作隣接権者が侵害による受けた損害の額について設けられ
不正競争防止法5条において、「営業上の利益を侵害された者が受けた損害の額」について設けられている。
    ◇W 将来の損害 
  □1 将来の損害 
従来の民事訴訟理論:
将来発生すべき請求権であっても、
@現在すでに請求の基礎たる事実関係が存在し、かつ
A請求内容が明確である場合において、
Bあらかじめ請求をする必要性のあるときに限って、
将来の給付の訴えを提起することが許される。
大阪空港公害訴訟最高裁判決:
@の内容に絞りをかけ、
Bの内容に、「判決後の事情変動のリスクを債務者に負担させるのが不当でないこと」という価値判断(不当性に関する価値判断)を盛り込んで、
次のように判示。
「たとえ同一態様の行為が将来も継続することが予測される場合であっても、それが現在と同様に不法行為を構成するか否か及び賠償すべき損害の範囲いかん等が流動性をもつ今後の複雑な事実関係の展開とそれらに対する法的評価に左右されるなど、損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができ」ない場合であって、かつ、「事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生ととらえてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものについては」、将来の給付の訴えにおける請求権としての適格性を欠く⇒その請求は却下されるべき。

将来の給付の訴えが許されるのは、
既に権利発生の基礎をなす事実上および法律上の関係が存在し、
ただ、これに基づく具体的な給付義務の成立が将来における一定の時期の到来や債権者において立証を必要としないか又は容易に立証しるう別の一定の事実の発生にかかっているにすぎず、
将来具体的な給付義務が成立したときに改めて訴訟により右請求権成立のすべての要件の存在を立証することを必要としないと考えられるようなもの
についてということになる。

ex.不動産の不法占有者に対して明渡義務の履行が完了するまでの賃料相当額の損害金を支払うように請求する場合
不当性の要因について較量されているのは、
@債権者側の、あらかじめ給付判決を得ておいて履行期が到来すれば直ちに強制執行ができるという利益と、
A債務者側の、判決後における給付義務の変更・消滅を主張するために自分の方から請求異議の訴えを提起して強制執行を防がなければならないという不利益
  □2 将来損害項目と事情変更 
  判決確定後に被害者をめぐる事情が判決時に予想していたのとは異なる経緯をたどった場合
  ●@判決確定後の後遺症の発症 
硫酸によるやけどによる損害賠償請求訴訟の認容判決確定後に、後遺症による追加請求の事案で、
最高裁昭和42.7.18:
@明示の一部請求についての確定判決の既判力は残部の請求に及ばない
A本件での追加請求は、前訴の最終口頭弁論期日後に生じた経緯で再手術を受けることを余儀なくされるに至ったことからこれに要した費用を損害として賠償請求するもの

所論の前訴と本件訴訟とはそれぞれ訴訟物を異にするから、前訴の確定判決の既判力は本件訴訟に及ばない。

一部請求論に依拠した上で訴訟物の違いに注目したもの。

ここで問題となっている損害は「現在の損害」として捉えられている⇒既判力の時間的限界の理論では処理できない。
第1次的損害と後遺症による損害とは訴訟物が違うという理論でも対応できない(損害賠償請求は1本)。

一部請求理論を介して追加請求を認めざるを得なかった。
  ●A不動産の継続的不法占有 
所有者が土地の不法占拠を理由に土地明渡までの賃料相当額の賠償請求をし、判決が確定した後に土地の価格が急騰し、公租公課が増加。
最高裁昭和61.7.17は
「土地明渡に至るまで継続的に発生すべき一定の割合による将来の賃料相当損害金についての所有者の請求は、当事者間の合理的意思並びに借地法12条(現行借地借家法11条)の趣旨とするところに徴すると、土地明渡が近い将来に履行されるであることを予定して、それに至るまでの右の割合による損害金の支払を求めるとともに、将来、不法占拠者の妨害等により明渡が長期にわたって実現されず、事実審口頭弁論終結後の前記のような諸事情により認容額が適正賃料額に比して不相当となるに至った場合に生ずべきその差額に相当する損害金については、主張立証することが不可能であり、これを請求から除外する趣旨のものであることが明らかであるとみるべきであり、これに対する判決もまたそのような趣旨のもとに右請求について判断をしたものというべき」⇒「その後前記のような事情によりその認容額が不相当となるに至った場合には、その請求は一部請求であったことに帰し、右判決の既判力は、右の差額に相当する損害金の請求には及ばず、所有者が不法占拠者に対して新たに訴えを提起してその支払を求めることを妨げるべきものではない」
  両判決とも、予見できなかった将来損害が具体化した時点で解雇的に前訴請求を明示の一部請求だったと評価して、後発損害の賠償の残部請求を肯定。
     
    ◆第3節 金銭評価規範持論(1)・・・人身損害における逸失利益の算定(旧版p246) 
    ◇T 「控え目な算定」と抽象的損害計算 
  □1 緒論 
  □2 無職者 
  □3 幼児 
  □4 主婦 
  □5 一時滞在外国人 
  □6 年金・恩給受給者 
  □7 中間利息控除方法との関係での「控え目な算定」 
  □8 インフレによる物価上昇・賃金上昇(将来の昇給・ベースアップの可能性) 
    ◇U  休業損害と逸失利益
被害者が傷害を負った場合の逸失利益については、
休業損害と逸失利益とを分ける分岐点として症状固定という概念を立て、
所得の喪失につき、
この時点までは休業損害(積極損害)として捉え
この時点以降については後遺障害による得べかりし利益(逸失利益)の喪失
ととらえている。
    ◇V 事故による負傷した者が事実審口頭弁論終結時までに死亡した場合の逸失利益
    第1事故で受傷後、第2の交通事故の結果として、被害者が死亡(事故競合型)
第1事故で受傷後、被害者が自殺(事故後自殺型)
のように、事故により傷害を負った者が事実審口頭弁論終結時までに別の原因で死亡した場合の逸失利益をどのように把握するか? 
問題は:
@第1事故についての責任主体が第2事故・自殺による死亡の結果についても責任を負担し、第1事故を責任原因とする「死亡による逸失利益」の賠償をしなければならないか
A第2事故についての責任主体が単独被告とされた場合に、この者は第1事故の結果についても責任を負担しなければならないか
B第1事故・自殺につき第1事故の責任主体に責任がない場合、すなわち、前記@が否定的回答が場合、第1事故について責任主体が賠償しなければならない損害(とくに「傷害による逸失利益」)を確定するに当たり、事実審口頭弁論終結前に発生した第2事故・自殺により被害者が死亡したという事実を斟酌すべきか?
□@について 
学説と下級審裁判例の大勢:
第1事故と自殺との間の事実的因果関係を認めた上で、
第1事故の責任主体にとって自殺を予見し得たかどうかを基準に相当因果関係の有無・・・あるいは、第1事故に関する結果回避義務の保護範囲内にあること・・・を判断し、これが肯定される場合には、自殺に被害者の心因的要因も寄与しているときに相応の減額をするという傾向。(最高裁H5.9.9)
事故競合型:
第2事故の危険が第1事故におけると同様な定型的な危険であるとすれば、第1事故の加害者にそこから生じる損害を回避する義務が課せられるとう理解。
被害者が第1事故の結果として不可避的に第2事故の場に置かれたものと認められるような関係⇒加害行為間の関連共同性が肯定される傾向。
□Aについて 
被害者が第2事故によって死亡した場合、この第2事故が第三者の不法行為によるものであっても、この第三者の負担すべき賠償額は第1事故に基づく後遺障害により低下した被害者の労働能力を前提として算定すべき(最高裁H8.5.31)。
but
実務家サイドからは、
被害者が、事故証明書、診断書、後遺障害診断書、診療報酬明細書、休業証明書、源泉徴収票等の収入証明書などにより立証
⇒被告の行為と全損害との因果関係が事実上推定
⇒被告において、全損害のうち第1事故により発生した部分を分別するか、あるいは第1事故による症状が残存しておりそのために損害が拡大したことおよびその影響の度合いを明らかにしなければ、減責は認められない
との指摘。
   
    ◆第4節 金銭評価規範持論(2)・・・交通事故と治療費相当額の賠償 
     
      自由診療契約における相当な診療報酬額:
@健康保険法の診療報酬体系を一応の基準とし、
Aこれに突発的な傷病に適切に対応しなければならない交通事故の特殊性や患者の症状、治療経過等のほか、
B労災診療費算定基準では、診療単価は1点12円とされていること、
C自由診療の場合、社会保険診療のような税法上の特別措置の適用がみとめられていなこと等の諸般の事情を勘案して決定すべき。
       
    ◆第5節 金銭評価規範持論(3)・・・慰謝料の選定 (旧版p260)
    判例・学説の到達点
慰謝料は、最低限、精神的・肉体的苦痛を癒すことを目的としてる(精神的損害填補機能)。
but
判例は、法人への名誉毀損が問題となった事件で、財産的損害に包摂されない「金銭評価の可能な無形損害」が発生した場合にこれを金銭で賠償させることができる旨を判示(最高裁昭和39.1.28)。
but
このような非財産的損害の賠償を認める必要があるか疑問(潮見)。
営利法人についてはもとより、非営利法人についても、より適切かつ効果的な723条の名誉回復方法によるべく、根拠の示されない無形損害を認めるべきではない。
判例:
@精神的・肉体的苦痛に対する慰謝料の算定にあたって、裁判官は、その額を認定するに至った根拠を示す必要がなく、算定の際に考慮した事実をいちいち説示する必要もなく、また、原告が請求額の証明をしていなくても、裁判所は、諸般の事情を斟酌して慰謝料の賠償を命じることができる。(最高裁昭和47.6.22)
Aその際、斟酌すべき事情に制限がない⇒被害者の地位・職業等はもとより、加害者の社会的地位や財産状態も斟酌することができる。
B1個の不法行為に基づく財産的損害の賠償請求権と非財産的損害の賠償請求権とは、1個の訴訟物を構成⇒原告被害者の請求額の範囲内であれば、裁判所は、原告が提示した内訳に拘束されない。
原告の請求額を超えない範囲であれば、原告の提示した慰謝料額を超えて慰謝料を認容してもよい。
C補完的機能。
      制裁的機能は否定。
最高裁H9.7.11:
わが国の不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするもの
⇒加害者に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止、すなわち一般予防を目的とするものではない。

不法行為の当事者間において、被害者が加害者から、実際に生じた損害の賠償に加えて、制裁及び一般予防を目的とする賠償金の支払を受け得るとすることは、右に見た我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相いれないものであると認められる。
      私人に対する刑罰兼を国家のみに委ねた現行憲法⇒私人に懲罰・制裁権能を委譲することになる結果を法的に保障することは、。明文の根拠なくしては形式論理として許されるものではない。
but
このことは、慰謝料に損害填補あるいは補完的機能以外の意義を見出すことができないということを意味するものではない。
判例が加害者の社会的地位や財産状態を斟酌
⇒そこには、損害填補とも財産的損害の補完とも質的に異なる要素を認めることが可能。

加害者に対する被害者の特別の人的関係の中で、加害者が金銭の給付によって被害者との関係で改悛の態度を表わし、これを受けることによって被害者が満足を感じ留飲を下げるという機能。
加害者の側からみれば「贖罪的機能」
被害者の側からみれば「満足的機能」

慰謝料が精神的・肉体的苦痛の填補を目的とする⇒それに当然に随伴するものと考えられてよい。
    ◆第6節 金銭評価規範持論(4)・・・物損事故と損害額の算定(p264)
    □車両損害について、修理費用相当額が賠償の対象となるか、買替費用相当額が賠償の対象となるか? 
原則として修理によって原状回復をすべきであり、これに要する費用相当額と、修理に要する相当期間の代車使用料相当額が賠償。
買替えすることが社会通念上相当な場合⇒事故前後の時価の差額相当額を賠償請求できる。
修理についても、代車使用料についても、相当の範囲内に限る。
but
修理によって完全に修復し得ない客観的価値低下としての「格落ち損」があれば、その賠償も認められる。
    □被害者量が全損した場合: 
事故時の被害車両の時価相当額と全損車両の売却価格との差額。
時価相当額については、特段の事情のない限り、中古車市場で同等の車両を購入するに要する金額(客観的交換価値)が規準となる。
    ◆第7節 金銭評価規範持論(5)・・・弁護士費用
       
    ◆第8節 損害賠償請求権と遅延利息 
       
       
       
       
   

★★第5部 損害賠償請求権の行使(P271)
   
   
   
       
★第4章 損害賠償請求権の消滅時効・除斥期間   
    ◆第1節 緒論 
       
◆      ◆第2節 民法724条前段の期間制限 
    ◇T 期間制限の意味と法的性質 
    ◇U 「損害および加害者を知りたる時」の意味(p286)
    ■1 緒論 
      民法724条前段にいう「損害および加害者を知りたる」とは
加害者の行為によって損害が発生したという単なる歴史的事実を知ったことでは足りず、加害者の権利侵害行為によって被った損害について加害者に対し不法行為に基づいて損害賠償請求権をなしうることを知ることまでも要する。
      学説:消滅時効全般に妥当する議論として、消滅時効の起算点につき、債権者の職業・地位・教育などから、権利を行使することを債権者に期待ないし要求できる時期と捉える立場が主張され、支持を得ていた。
      判例:
一般の消滅時効に関し、民法166条1項の解釈として、「権利を行使することを得る」とは、単にその権利の行使について法律上の障害がないというだけではなく、さらに、権利の性質上、その権利行使が現実に期待できるものであることを要する。
724条前段についても、724条に言う「加害者を知りたる時」とは、「同条で時効の起算点に関する特則を設けた趣旨にかんがみれば、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味するものと解するのが相当」
「損害を知りたる時」についても、同様の衡量がされている。
離婚するかどうかをめぐり夫婦間で争いがある事例で、有責配偶者に対して一方が取得する慰謝料請求権の消滅時効の起算点につき、相手方が有責と判断されて離婚を命じる判決が確定するなど離婚が成立した時にはじめて、相手の行為が不法行為であることと損害の発生を知ったことになる。
      民法724条前段についても、被害者の権利行使の期待可能性を重視して、起算点と時効期間の満了の有無を確定した上で、具体的状況下で加害者側の具体的事情が時効の援用を不相当とするときには、時効援用権の濫用または信義則により時効の主張を封じ込めればよい。
       
       
       
       
       
       
       
       

★★第6部 賠償額の減額事由
★第1章 過失相殺・被害者側の過失・素因減額(旧版p303)
    ◆第1節 緒論 
    ◆第2節 過失相殺(潮見旧版p306〜)  
    ◇T 過失相殺の意義と性質 
    ◆1 意義 
    ◆2 法的性質 
    □2−1 伝統的立場 
    □2−2 被害者の過失と責任能力制度の分離 
加藤一郎:
加害者の過失が注意義務違反であるのに対して、ここでの被害者の過失は「単なる不注意」
それは不注意によって損害の発生を助けたということを意味するにすぎず、被害者が社会共同生活上なすべき注意を払わなかったという信義則上の注意義務違反が必要であるにしても、その程度は加害者の過失よりも軽いものでよい。
その前提となる能力も、加害者の過失の場合と異なり責任能力は必要でなく、これより低い能力(=損害の発生を避けるのに必要な能力)をもって足りる。
最高裁昭和39.6.24

@過失面でのパラレル構造とA能力面でのパラレル構造の崩壊が、最高裁で採用。
「過失相殺を行うための被害者の能力としては、事理弁識能力(=6歳程度が目安)で足りる」
    □2−3 学説の新たな到達点 
@被害者の主観的事情を離れ、行為の外形から「被害者の過失」を客観的に把握
A(「責任能力は、過失とは関係なく政策的観点から加害行為者保護のために加害行為者の責任を阻却する制度」との理解⇒)過失相殺において責任能力は不要
過失相殺においては
@損害分配機能を重視するか、それとも
A損害抑止機能(被害者の客観的行為義務違反、あるいは危険回避行為の期待可能性)を重視するかについて議論。
    □2−4 因果関係相殺の考え方 
結果発生に対する非会社の行為の持つ原因力を考慮にいれた「因果関係相殺」的発想。
被害者側の過失を結果発生の「部分原因」として捉え、被害者に負担させる。
vs.
@加害者の行為も被害者の行為もともに損害全体に対し事実的因果関係を持っているのであり、その一部分について分割できるような因果関係を持っているのではない
A結果発生に対する非会社の行為の客観的原因力のみでは賠償額減額という評価を法的に正当化できないし、そうすべきではない。
    □2−5 社会的非難可能性を基礎にした過失相殺理解 
各種事情の総合的衡量に基礎を置く「違法性相殺」的発想。
A:客観的に判断される非難可能性の大小に応じて賠償額に差をつける立場(=加害者側の非難可能性を減少させるための手段としての「被害者の過失」)
B:加害者の行為の違法性を図る前提として被害者の年齢、具体的行動を考慮に入れ、なすべきであった対応から現実になした対応が欠けていた程度に応じて加害者の責任を軽減する立場
C:被害者の行為態様や素因、さらには加害者と被害者の人間関係といったファクターが、加害者の帰責性(過失・違法性・寄与度等の表現で表現される。有るか無いかではなく量的概念である)の程度に影響し、それが賠償額の縮減を要請する
〜たとえば、反倫理性や反道徳性、社会的節操などといった(後述する行為義務・自己危殆化回避義務違反的な過失相殺理解からは、過失相殺の枠組からはみだすような)要素も、過失相殺の考慮事由となる可能性がある。
    □2−6 損害抑止機能からみた過失相殺(潮見説) 
端的に、加害行為の違法性ないし客観化された過失(行為義務違反)の衡量に注目する立場。
被害者の客観的行為義務違反としての「被害者の過失」(しかも、過失の前提として、行為適格としての事理弁識能力を要求)。
過失は客観的行為義務違反⇒「加害者の過失」と「被害者の過失」のパラレル構造をとり、過失と責任能力を論理的に分離して、「被害者の過失」では責任能力を不要とする見解(過失ある行為を前提⇒「自己の行為の支配能力」が必要)。
被害者に課される行為規範の違反のみを過失相殺(違法性相殺)において考慮するが、そうでない事由については斟酌しないというように、徹底した行為義務化を図る。
    ◆U 故意不法行為と過失相殺 
A:故意の場合には過失相殺が行われるべきではない(平井説)
B:
加害者が故意の暴力行為をなした場合、
@被害者が加害者の不法行為を挑発しているか、あるいは、A被害者の行為自体が不法行為(双方的不法行為)を形成していることを理由として、過失相殺できる。
〜自分自身の生命・身体・財産等に向けられた注意を怠ったという(通常の過失相殺においてなされる)評価とはやや異質な視点。
詐欺的取引が問題となる局面では、故意不法行為者に対する関係では、過失相殺を排除する傾向。
←「加害者のj故意」が「被害者の過失」を導くことに向けられている。
マルチ商法のように被害者も組織的違法行為に加担している場合は、別の処理。
    ◇V 危険責任と過失相殺 
@危険責任の原則に基づき無過失責任を採用
Aその背後に被害者保護の視点がある

A:危険責任においては過失相殺を抑制すべきであるとの考え方へのつながりやすい。
vs.
@たとえば国・公共団体の営造物責任(国会賠償法2条1項)が問われる転落事故のように、被害者の過失が問題となりやすい性格を有しているものもある
A証券取引法上の目論見書責任が問題となる場面でも、投資決定に至る過程であらわれた投資者の判断の誤りにつき、投資者自身の過失が問われてしkるべき場合もある。

B:みずからの判断・意思決定および行動について損害回避行動をとる義務は、責任原理が何であろうと変わらない。
加害者の帰責原因に対する質的な分析との相関的考慮のもと、加害者の負担すべき危険割当領域の確定が必要。
    ◇W 自動車損害賠償責任における重過失減額 
□  自動車損害賠償保障法に基づく運行供用者責任においても過失相殺が行われる。
but
@同法が、被害者救済を第一義とし、証明責任の転換という形を借りて実質的に無過失責任主義をとっている
A大量事件の迅速かつ公平な処理の要請

自賠責保険の実務上は、過失相殺の厳格な運用はさなれていない。
自賠責保険損害査定要綱と支払基準内規によれば、
被害者に重過失がある場合(過失割合70%程度以上のもの)にのみ保険金額を縮減するというにとどめている(重過失による減額)。
重過失がある場合にはじめて、過失の程度により、保険金自体に5割、3割、2割をかけて減額するにとどめ、それ以外の過失相殺を認めない。)
重過失減額:
T被害者が無責を主張できない程度(過失割合95%程度以上)に至った⇒50%減額
U総損害に過失割合を乗じて算出するのではなく、原則として保険金額自体に過失割合を乗じる
V減額適用の範囲:
A:「死亡による損害」と「後遺障害による損害」:
積算した損害額<保険金額⇒積算した損害額から、
積算した損害額>保険金額⇒保険金額から
20%、30%または50%を減額。
B:「傷害による損害」と「死亡に至るまでの傷害による損害」:
20%の減額のみ。

厳密にいえば民法上の過失相殺とは異質な重過失減額。
因果関係に関しても、死亡と自己との因果関係の認定が困難⇒50%を減額のうえ認定するという方法。
任意保険⇒軽過失の場合も「過失相殺」が行われる。
自賠責本件でも、いったん訴訟が継続すると、自動車保険料算定会は裁判所の司法判断を優先させるため、被害者に有利な扱いをしないことが多い。
but
被害者にできるだけ被害全部の救済を得させるという意味で社会保障的性格を兼ね備えている自賠責保険の性格⇒強制保険の部分については本来の意味での過失相殺をしない(=重過失減額にとどめる)という自算会の査定実務の基底に置かれている評価に有意性が見いだされるべき。
強制保険金からの給付部分については、過失相殺の対象からはずされるのが適切(=重過失についてのみ斟酌)。
    ◆第3節 被害者側の過失  
    ◇T 意義と射程 
  通説・判例:
被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失
    ◇U 被害者側の過失の正当化
□被用者の過失が問題となる場合 
請求者の被用者に損害の発生ないし拡大につき過失があればこれを斟酌すべき点についてほぼ異論はない。

使用者が責任主体となる民法715条において、被用者が業務の執行につき加えた損害を使用者が賠償しなければならないとされており、被用者の業務執行行為について使用者が帰責されることとの均衡から、過失相殺の局面においても、業務執行につきなされた被用者の過失行為について使用者に帰責するのが相当。
□親族関係における過失 
親族の行為について被害者自身が支配・コントロールすることができたであろう場合⇒被害者「自身」の過失として減額の方向で考慮できる。
その余の場合について、人身事故の際の入院費・治療費に典型的に現れているように、
ある損害を被害者「側」とされる者の損害として構成することも、被害者自身の損害として構成することも、どちらも論理的に可能であるという一体関係が存在しているときに限って、親が請求するか子が請求するかという構成上の相違が賠償額の相違となって現れないようにする意味で、親子関係にある者の過失を被害者側の過失として斟酌する必要があると言うべき(填補清算の同一性)。
こうした填補清算の同一性が考慮できない場合は、親族の過失を「被害者側の過失」として被害者に負担させるべきではない。

親族の過失をもって被害者の取得する損害賠償額の減額事由とすべきでなく、加害者と問題の親族との間でなされる求償関係の中で処理するのが相当
but
学説の大勢は、判例が「身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係」と述べていることもあり、扶養義務関係ないし被害者「側」とされる者の被害者に対する監督義務の存在をもって、親族の過失を斟酌することの正当化根拠とする。
□夫婦関係および内縁関係における他方配偶者の過失 
他方配偶者の過失の理由として賠償額を減額することには慎重であることを要する。
   
    ◇V 共同不法行為の場面における「被害者側の過失」 
被害者A、被害者「側」B、加害者C
B・C間に共同不法行為が成立。
A・B間に親族関係が存在。
ex.夫Bが妻Aを同乗させて運転する自動車とCの運転する自動車とが、BとCの両者の過失により衝突し、Aが負傷。
Aの過失:1割
Bの過失:3割
Cの過失:5割
同乗者である妻に対しても運転者である夫の損害賠償責任が成立(「妻は他人」は寝k津。最高裁昭和47.5.30)。
ここで、被害者側の過失としてBの過失を斟酌して、CのAに対する損害賠償額を4割減額

本来ならば共同不法行為者であるB・C間の内部的負担割合であるはずのものを被害者Aに対するCの対外的責任に反映させ、これにより「加害者が、いったん被害者である妻に対して全損害を賠償した後、夫にその過失に応じた負担部分を求償するという求償関係を一挙に解決し、紛争を1回で処理することができるという合理性」に担われている。
本来は加害者であるはずのBを「被害者(A)側」にシフトすることでCの対外的責任をの縮減を実現するのが、ここで「被害者側の過失」理論が果たしている機能。
but
それを正当なものとして評価するには、Bから全損害の3割を回収するのが不能である場合のリスクを(Cではなく)Aに負担させることを合理的とする状況が存在していなえければならない。

「経済的一体性」の認定には慎重を期する必要がある。
       
       
       
★第2章 損益相殺・重複填補問題 (旧版p326〜)
    ◆第1節 問題の所在 
    ◆第2節 損益相殺の対象 
@不法行為を原因として被害者に生じた利益(積極的増加のみならず、不法行為がなければ生ずるはずであった財産の減少が抑えられたという消極的増加も含む)であること
Aその利益が損害と同質性を有すること
所得税相当額は控除しない

@被害者が納税義務を負わされるかどうかということは国家政策上の事柄であり、損失(所得喪失という逸失利益)と利益(侵害賠償金が非課税所得とされていることによる納税額の節約)との間に同質性がない。
A逸失利益からの税額の控除を認めるとすると、逸失利益を非課税所得とする所得税法9条1項の趣旨を没却することになる。
B税法は頻繁に改正されることから、将来における税額の把握は困難であるか、きわめて不確実なものとなる。
年少者が死亡した場合において、この者が就労可能年齢に達するまで要したであろう養育費は控除しない。

損失(所得喪失という逸失利益)と利益(養育費の節約)との間には同質性がない。
香典や見舞金も、損益相殺の対象となrなあい。
    ◆第3節 重複填補・損益相殺的調整
       
★★第8部 特殊な不法行為(その1)・・・複数関与者の不法行為と損害賠償
   
       
       
       
       
       
       
★第4章 競合的不法行為(p433)   
    ◆第1節 緒論 
       
    ◆第2節 択一的競合・加害者不明の不法行為 
       
    ◆第3節 寄与度に応じた割合的責任 
    ◇T 序論 
    ◇U 学説の傾向 
    ■1 寄与度不明の場合 
      「個別行為への帰責を前提とした複数行為者の連帯責任」という基本構想・・・規範の保護目的・義務射程と金額の重なる限度での連帯賠償責任・・・のレベルでなされている。
      「寄与度に基づく減免責の抗弁」は、規範の保護目的・義務射程および損害の金銭的評価に位置づけられるべき問題。
       
    ■2 寄与度が明らかとなった場合の処理(p443)
      損害が1つだから理論的に連帯責任になるとは必ずしもいえないのであり、損害は金銭賠償としては分割可能なのであり、各人に賠償させようという政策が正しい場合にのみ、連帯責任と解するのが適当。
      競合的不法行為では、これを連帯責任とする必要性がとくに高いと言えない限り分割責任と解すべき。
      but
大塚自身:
@複数原因が互いに引き金となって損害が発生した場合、すなわち、どの原因がなくても損害が発生しなかった場合⇒全部連帯責任

A複数の原因が同質であり、かつ寄与度の割当てが単純に可能な場合(=分割責任が原則とされる場合)であっても、
(a)被告の行為が結果の発生に対して全部惹起力がある場合(重畳的競合のような場合)には、全部責任を課すべきであり、
(b)被告の一部が自己の寄与度を立証して推定を覆し寄与度に基づく減責を求めることができる。