シンプラル法律事務所
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債権各論U(不法行為法)(潮見)

第1章 不法行為制度
  ◆1.1 不法行為制度といは、どのような制度か? 
  ◆1.2 不法行為制度のもとでの救済・・・損害賠償が原則 
  ◆1.3 損害賠償の基本原理・・・どのような場合に損害賠償が認められるのか? 
  ◆1.4 過失責任の原則が採用された理由・・・過失責任を支える基本的考え方
  ◆1.5 過失責任の原則の例外・・・無過失責任 
  ◆1.6 無過失責任を支える基本的考え方
  ◆1.7 過失責任の枠内での修正へのインセンティブ・・・過失の主張・立証責任 
  ◆1.8 「過失責任の原則」の修正(p7) 
  ◇1.8.1 過失における注意義務の高度化 
  ◇1.8.2 過失についての「事実上の推定」 
※     ※事実上の推定と間接反証 
  過失についての「事実上の推定」が用いられる場面では、あくまでも「過失があったとの評価を根拠づける具体的事実については、被害者が主張・立証責任を負う」
⇒「加害者に過失があたとの評価を根拠づける具体的事実があったのかどうかわからない場合には、被害者に不利な判断がされる」という原則が維持。
主張・立証責任の対象となる事実(=過失があったとの評価を根拠づける具体的事実)ではなく、それに関する事実(間接事実)から、裁判官が経験則を適用して「過失があったとの評価を根拠づける具体的事実があった」との心証を形成⇒その事件は過失について「真偽不明」の事件ではなくなった。
  加害者:
「過失があったとの評価を根拠付ける事実があったのかどうかわからない」という「真偽不明」の状態に持ち込みさえすれば(間接反証という)、「過失があった」との裁判官の心証形成が遮断される⇒加害者に過失があったことを認めるに足りる証拠はない⇒被害者側の請求が棄却。

加害者としては裁判官の心証を動揺させ、「真偽不明」の状態に持ち込めばいい。
   
  ◇1.8.3 過失についての「法律上の推定」(立証責任の転換) 
    特許法103条
     
第2章 権利侵害  
     
     
     
     
     
  ◆2.8 「権利」論の再生
・・「権利侵害」要件の再評価 
    1990年代後半以降、
@法秩序によって保障された他人の権利を侵害する行為に対し救済を与えるのが不法行為法の目的
Aこの不法行為法での権利保護を、憲法を基点とする法秩序全体の見地から、現代社会の中で憲法により保証された個人の権利が何かを考え、それを基点として、709条にいう「権利」としての要保護性を決定していくべき。
     
  ◆2.9 再び平成16年改正後の条文文言へ
    民法 第709条(不法行為による損害賠償) 
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
     
  ※夫婦の一方の不貞行為の相手方に対する他方配偶者の損害賠償請求 
    夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰謝すべき義務がある。
(最高裁昭和54.3.30)
    夫婦の一方が第三者と肉体関係をもった場合であっても、婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、この第三者は他方の配偶者に対して不法行為責任を負わない。(最高裁H8.3.26)

@第三者が夫婦の一方と肉体関係を持つことが他方配偶者に対する不法行為となるのは、それが他方配偶者の「婚姻共同生活上の平和の維持という権利又は法益保護に値する利益」を侵害する行為と言うことができるから
A婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、他方配偶者にこのような「権利又は法的保護に値する利益」があるとは言えない。
     
第3章 故意・過失  
     
     
     
     
  ◆3.5 過失の遮断基準(その1)
・・・誰の能力を基準とするか? 
     
    過失の判断基準として要求される注意の程度は、
平均人(合理人)を基準とする「抽象的過失」であるとは言え、
職業・地位・地域性・経験などにより相対化・類型化されたもの。
     
  ◆3.6 過失の判断基準(その2)
・・・いつの時点での能力を規準とするか?
     
  ◆3.7 過失の判断基準(その3)
…科卒判断の前提としての具体的危険・予見可能性 
     
  ◆3.8 過失の判断基準(その4)
・・・行為義務違反の判断因子 
    不法行為時点で行為者に過失(行為義務違反)があったかどうかを判断する際に考慮されるべき因子:
    ハンドの公式:
@損害発生の蓋然性(P)
A被侵害利益の重大性(L)
B損害回避義務を負わせることによって犠牲にされる利益(B)
「P×L>B」⇒行為者に過失あり。
     
     
  ◆3.9 過失の主張・立証責任
・・・規範的要件としての「過失」 
    「過失があったかどうか」は法的な評価。
    過失があったことについては、被害者が主張・立証責任を負う:
過失があったとの評価を根拠づける具体的な事実については、被害者が主張・立証責任を負う。
   
被害者が主張してきた「過失があったとの評価を根拠づける具体的事実」(=評価根拠事実)のそれぞれが、被告である加害者の認否の対象。
加害者は「過失があったとの評価を妨げる具体的事実」(=評価障害事実)を、被害者からの損害賠償請求に対する抗弁として主張・立証することができる。
     
  ※「規範的要件」としての過失(p36) 
     
     
     
     
     
     
     
     
     
第4章 因果関係 (p41)
  ◆4.1 「何」と「何」との因果関係?
    A:「加害行為(故意・過失がある行為)」と「損害」との因果関係
    B:
@「加害行為(故意・過失がある行為)」と「権利侵害」との間の因果関係と
A「権利侵害」と「損害」との間の因果関係

@:「権利侵害」の結果を加害行為に帰することができるかという意味で、「責任を設定する」という目的のためにその前提として要求。
A:「権利侵害」から派生する不利益のうちどこまでを賠償範囲に組み入れるかという意味で、「賠償範囲を画定する」という目的のため、その前提として要求。
  ※「責任設定の因果関係」・「賠償範囲の因果関係」
A:
@加害行為と「第一次侵害」との間の因果関係を「責任設定の因果関係」として捉え
A「第一次侵害」と「損害」との間の因果関係および「第一次侵害」と「後続侵害」との間の因果関係を「責任充足の因果関係」として捉える見方。
vs.
加害行為と第一次侵害との因果関係は、加害者・被害者の権利・自由のレベルで被害者の行動自由と被害者の権利のそれぞれに関する保護と制約の許否・程度が問われる点において同質
その一方
第一次侵害と損害との間の因果関係は、第一次侵害と後続侵害との間の因果関係とは質的に異なる問題、すなわち、侵害された権利の価値がどのように評価されるのか(民法416条の条文見出しの表現を使えば「損害賠償の範囲」)を扱うもの

両者をまとめて扱うことには疑問。
  ◆4.2 責任設定の因果関係の判断構造 
    A:因果関係=法的因果関係(=条件関係+相当性)
B:因果関係=事実的因果関係
法的・規範的にみたときに被害者に生じた権利侵害を加害の故意・過失行為に帰するに値するかどうかの判断は、因果関係の問題ではなく、これとは別の、規範の保護目的(または保護範囲)のレベルで捉えられる。

@加害者の行為を故意・過失のあるものと評価する際の基礎になった禁止規範・命令規範が、侵害された被害者の権利を保護の目的(射程)に入れていたかどうか(義務射程内の権利侵害か否か)にとどまらず、
A禁止規範・命令規範が保護の目的とした被害者の権利が加害者の行為によって侵害されたこと(第一次侵害)の結果として具体化した「特別の危険」(一般的な生活危険(これは各人が負担すべきもの)の域を超えるもの)が、さらなる被害者の権利の侵害(後続侵害)を引き起こしたかどうか(危険性関連とも言われることがある)が判断される。
C:因果関係で問題となるのは、もっぱら、法的・規範的にみたときに被害者に生じた権利侵害を加害者の故意・過失行為に帰するに値するかどうかの判断であるとする考え方。
(因果関係=評価的因果関係=帰責相当性)

責任設定の因果関係において、事実レベルでの条件関係・事実的因果関係が認められることは、もはや不可欠でも決定的でもない。
  ◆4.3 因果関係判断の起訴・・・条件関係(事実的因果関係) 
  ◆4.4 不可欠条件公式による条件関係の判断の限界 
不作為の因果関係/原因の重畳的競合
  ◆4.5 因果関係の判断基準時 
  ◆4.6 因果関係の主張・立証責任・・・被害者側 
  ◆4.7 因果関係の証明度・・・「高度の蓋然性」 
     
  ◆4.8 因果関係の立証の緩和
因果関係についての主張・立証責任の転換(法律上の事実推定)/因果関係の事実上の推定 
  ◇4.8.1 因果関係についての主張・立証責任の転換(法律上の事実推定) 
    因果関係の立証面での被害者の負担回避⇒因果関係が真偽不明である場合に、その不利益を加害者が負担する(因果関係が存在するものとして処理される)
    民法719条1項後段:
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。
共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。

加害者不明の共同不法行為(あるいは、択一的競合不法行為)
宅配業者であるA・B・Cそれぞれの配送員が別々の時間帯に荷物を配送するためX宅を訪れ、荷物を配送したところ、この間に、X宅の門から玄関までに至る庭に置かれていた石灯篭が破損されていた場合:
XがA・B・Cの全員もしくはそのうち1人ないし2人を被告として損害賠償請求⇒Xとしては、侵害行為を特定する必要はあるが、(たとえば、Aを被告とするときに)「Aの行為とX所有の石灯篭の破損との間に因果関係があること」を主張・立証する必要はない。
Xとしては、A・B・Cそれぞれの配送員の行為が択一的競合関係にあること、つまり、加害者がA・B・Cの配送員のうち誰かであること(私見によれば、さらに、A・B・Cのほかに行為者はないこと)さえ主張・立証すれば足りる。

原告Xの請求に対する抗弁として、被告とされたA・B・Cそれぞれの側が、「自分のところの配送員の行為と、石灯篭の破損との間には、因果関係がないこと」(因果関係の不存在)について主張・立証責任を負う。

因果関係の存在が「真偽不明」のときには、その不利益は加害者側が負担。
  ◇4.8.2 因果関係の事実上の推定 
    「因果関係についての主張・立証責任は、被害者にある」という点は原則どおりに維持しつつ、因果関係についての事実上の推定がされることがある。
因果関係に因果関係の存否判断を与える事実(間接事実)があれば、その事実をもとに、経験的に、裁判官が「加害行為と結果との間には因果関係があった」という心証を抱く場合がある。

その事件は因果関係の存否について「真偽不明」の事件ではなくなり、(他の要件事実が充たされれば)加害者に対する被害者の損害賠償請求が認められる。
     
◆    ◆4.9 「相当因果関係」の理論について
責任設定レベルでの相当因果関係/相当因果関係理論に対する批判/事実的因果関係説における相当性判断のゆくえ 
  ◇4.9.1 責任設定レベルでの相当因果関係 
    我が国の伝統的学説の実務:
民法のいても条件関係だけでは因果関係を認めることはできないとし、「因果関係とは、相当因果関係である」という考え方を採用。

「加害行為と結果との間に因果関係がある」とされるためには、
@条件関係が認められることに加えて、
Aその行為が結果発生にとって相当性を有することが、
必要とされている。

「相当性」はその結果をその行為に帰するのが法的にみて相当であると評価されるということを意味するもの⇒「相当性」の判断は規範的評価を伴う。
    相当因果関係説:
相当性は、行為時に当該行為者が予見していた事情および予見できた事情を基礎として、発生した結果を行為者に負担させるのが適切か否かという観点から判断。

問題となり得るのは、
不法行為の当時に特殊な事情が存在したため権利侵害の結果が発生した場合や、
不法行為の後に特殊な事情が介入して結果の拡大を招いたような場合
(ex.事故後に精神的疲労が重なり、被害者が自殺した場合や、交通事故被害者が搬送先病院で医療ミスで死亡した場合)
    A:「相当因果関係」の考え方を採用しつつ、4.1で述べた因果関係を1個のものとして考える立場(加害行為と「損害」との間の因果関係とする立場)
⇒因果関係の要件は「加害行為と相当因果関係のある損害のみが、賠償される」
〜相当因果関係の要件は、損害賠償の範囲を画するための基準として機能。
B:「相当因果関係」の考えを採用しつつ、4.1で述べた因果関係を2個のものとして考える立場(加害行為と「権利侵害」との間の因果関係と、「権利侵害」と「損害」との間の因果関係の2つに分ける立場)
⇒因果関係の要件は、
@責任設定の因果関係としては、「権利侵害は、加害行為からの相当の結果でなければならない」という、ちょうど刑法の相当因果関係と同じ意味で捉えられ、
A賠償範囲の因果関係は、上記の見解と同様、「権利侵害と相当因果関係のある損害のみが、賠償される」という意義。
  ※相当因果関係論・・・責任設定の因果関係と民法416条の類推適用 
伝統的学説の相当因果関係説を支持する立場でも、416条が類推適用されるのは、あくまで賠償範囲の因果関係についてだけで、これを責任設定の因果関係の場面に類推することはできない。

責任設定の因果関係において相当因果関係説を支持するのであれば、そこでの相当性判断をどのようにしておこなうかは、416条を離れて考えなければならない。

そこでは、刑法における相当性判断の枠組みや、規範の保護目的説・保護範囲論がおこなっている法的・規範的評価の手法などが参考になる。
  ◇4.9.2 相当因果関係の理論に対する批判 
  ◇4.9.3 事実的因果関係説における相当性判断のゆくえ 
    A:「因果関係とは、事実的因果関係である」との考え方を採用しつつ、4.1で述べた因果関係を1個のものとして考える立場(加害行為と「損害」との間の因果関係とする立場)
⇒相当因果関係の理論が相当性判断で問題としているような規範的評価は、因果関係とは別の、保護範囲(5.9で説明)という要件のもとで行われる。
B:因果関係とは、事実的因果関係であるとの考え方を採用しつつ、4.1で述べた因果関係を2個のものとして考える立場

@責任設定の因果関係のところで相当因果関係論が相当性判断で問題としているような規範的評価は、因果関係とは別の、規範の保護目的(および危険性関連)という要件のもとで行われる。(4.2のB説)

「法秩序が禁止規範・命令規範を立てることによって保護しようとした権利・法益の中に、侵害された被害者の権利・法益が含まれるか」という規範的判断が、この要件のもとで行われる。

被害者の権利・法益に対する侵害が、ある権利・法益に対する侵害から派生したもの(後続侵害)であるとき⇒さらに、「侵害された被害者の権利・法益は、禁止規範・命令規範によって保護されている権利・法益への侵害(第一次侵害)から生じた特別の危険が現実化した結果であると言えるか」という規範的判断(危険性判断)が必要となる。

A賠償範囲の因果関係のところで相当因果関係論が相当性判断で問題としておいるような規範的評価は、これまた因果関係要件とは別の、「損害」要件のもとで行なわれることになるとするのが素直。(規範的損害の考え方)
     
第5章 損害 (p57)
  ◆5.1 差額説 
    差額説:
不法行為がなければ被害者が置かれているであろう財産状態と、不法行為があったために被害者が置かれている財産状態との差額が損害
     
  ※損害事実説
    差額説
vs.
「事実の確定・評価」に関する問題と「金銭評価」に関する問題とを峻別せず議論している
    損害事実説:
損害とは、不法行為によって被害者に生じた不利益な事実
何を不利益な事実と見るか?
A:個別の損害項目(金額を割りつけられる以前のもの)
B:各種の個別項目を系統立てたときに「最上位」に来る事実
  「権利侵害」=「損害」

C(潮見):
不法行為がなければ被害者が置かれているであろう事実状態と、不法杭があったために被害者が置かれている事実状態との間に差が生じていること
(事実状態比較説)
   
  ◆5.2 金額差額説・・・個別客体差額説と総体財産差額説 
    差額説が説く損害:
不法行為がなかったということを仮定した場合の被害者の財産状態と、不法行為があったための被害者が置かれている財産状態の差を金銭であらわしたもの。

@損害とは財産状態の差であり、
Aそれが金銭のサとして示される
点に特徴がある。

「事実としての損害」と「損害の額」を区別しないことを含意。
    財産状態の差をどのような観点から捉えるか?
権利侵害を受けた対象(客体)の価値に注目する場合(個別客体差額説)と
権利侵害を受けた被害者の財産の全体に注目する場合(総体財産差額説)
不法行為が生じる前の状態を金銭で回復するか(原状回復的損害賠償)
不法行為がなければ推移したであろう事態を想定して、この場合に現在あったであろう状態を金銭で実現するか
  ※権利保全費用の賠償請求権 
    @侵害された権利・法益の価値の金銭的保障を得ることや
A権利・法益侵害がなかった状態の金銭による原状回復(原状回復的損害賠償)を受けることができるだけでなく、
B他人による権利・法益侵害からみずからの権利・法益を保全し、侵害により生じ得る損害を回避するための措置に要した費用(権利保全費用)に相当する額の損害賠償も、
その措置が権利者みずからの負担すべき一般的な生活危険を超える危険に対応するためにされたものである場合に(通説の表現によると、相当因果関係の範囲内で)、侵害者側に対して請求することができる。
     
  ◆5.3 差額説の限界 
判例は、差額説を基礎に据えつつも、交通事故による人身侵害事例で、差額説を貫いた場合に生じる不都合を考慮した修正を加えている。
事故の前後を通じて現在および将来の所得の減少が認められなくても、
@それが労働能力低下による収入の減少を回避するための被害者本人の特別の努力など事故以外の要因によるものであって、このような要因がなければ収入の減少が生じているであろう場合や、
A本人が現に従事し、または将来従事すべき職業の性質に照らし、得意に昇給・昇任・転職等に際して不利益な取扱いを受けるおそれがあると認められる場合

財産上の損害の賠償を肯定。
  「不法行為によって被害者に生じた不利益な事実」を「損害」と捉えたうえで、これに続けて、この意味での損害を金銭評価する(=損害額を算定する)際に現実の事実状態と仮定的状態との間の差を金銭で評価し、差額計算をしているというように見られる場合:
有価証券報告書に虚偽記載のある株式をつかまされたために虚偽記載が発覚後に株価が下落し、投資家が損失を受けたという場合に、その株式を取得させられたこと自体が「損害」であるとしたうえで、虚偽記載と「相と因果関係」のある「損害の額」を差額計算によって算定した一群の裁判例。 
  民訴法248条で、「損害」の証明があたものの、「損害額」について「損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとき」は、裁判所は、口頭弁論の全趣旨および証拠調べの結果に基づき、「相当な損害」を認定することができる。

「損害」と金銭評価と切り離して捉える立場(損害事実説)がその基礎に捉えられている。 
     
  ◆5.4 個別損害項目積上げ方式による差額計算
     
    非財産的損害:
主たるものは、精神的苦痛を内容とする慰謝料、
自然人でない法人が被害者の場合には、信用失墜による事業運営の打撃を内容とする無形損害が考えられる。
     
  ※包括一括請求 
     
     
  ◆5.5 具体的損害計算の原則と抽象的損害計算 
    個別損害項目を積算しながら差額計算をしていく際に、
「損害項目として何を選定するか」という点と、
「その損害項目にどのような金額をあてるか」という点
について
@権利侵害を受けた当該具体的な被害者を基準に決定していくか(=具体的損害計算)、それとも、
A社会生活においてその被害者が属するグループの平均的な人を基準にしていくか(=抽象的損害計算)
という問題。
    通説・判例:
具体的損害計算を原則として、差額計算をしている。

損害賠償の目的は被害者個人に生じた実損額の填補にある⇒被害者の個人的事情を斟酌しなければならない。(最高裁H9.1.28)
    特別法の中では、被害者に具体的な損失として生じたか否かに関係なく、抽象的損害計算のもとで「損害」を算定することが認められている場合。
ex.
特許法102条3項や著作権法114条3項:
無断で他人の特許権や著作権を利用⇒特許権者・著作権者が実施料・使用料に相当する額を賠償請求できる。
     
  ※抽象的損害計算とそれを支える理念・思想 
具体的被害者についての損害項目・金額が確定できないにもかかわらず、なぜ抽象的損害計算の手法を用いて被害者の賠償請求を認めることが正当化されるのか?
憲法の定める平等原則のもとに成り立っている私法秩序

国家によって保障された権利の価値は、それが誰に属するかに関係なく共通であり、
権利に割り当てられる価値の代替物である損害賠償請求権についても、私法秩序がその権利にどれだけの金銭的な価値を与えたかを個々の被害者から離れて確定し、少なくともそうした確定された金額については、被害者が誰であれ最低限賠償してやるべき(そうでなければ、権利を権利として国家が保障した意味がなくなる)、とう理念・理想。

@損害賠償に際しては「抽象的損害計算」が原則とされるべきであり、少なくとも権利の客観的価値に相当する金額については、最小限の損害として賠償を認めるべき。
Aこれによって填補されないない当該具体的被害者の個人的事情に出る部分については、個人的事情に由来する損害項目もしくは金額を当該被害者が具体的に主張・立証sるうことに成功してはじめて、賠償を認めるべき
  ※交通事故損害賠償実務における定額化・定型化の方向 
     
     
     
  ◆5.7 物損の場合 
    物に損傷がなかったとしたらあるであろう状態をどのように把握し、それをどのように金銭的に評価するのかという観点から捉えられている。
3つのアプローチ:
  第1:物の完全性を回復すために必要な費用(原状回復費用相当額の賠償)を被害者に与える 
修理費用の賠償。
  第2:物の交換価値を金銭で填補するにふさわしい価額を被害者に与える 
等価物としての金額の支払を目的とした損害賠償
  @原状回復費用相当額の賠償とA交換価値の賠償との間は、二者択一の関係。
@の方向での金銭賠償を選択するか、Aの賠償の方向で金銭賠償を選択するかは被害者の自由であるのが基本。 
but
車両損害に関する判例は、
@修理が可能⇒修理するよりも買い替えたほうが安く済む場合を除き、原則として、修理によって原状回復すべき
A修理が物理的または経済的に不可能⇒その物と同種・同等の物を市場で調達するのに要する価格相当額が賠償の対象。
  第3:利用価値の賠償 
@被害者が物を完全な状態で利用することができたにもかかわらず、その使用収益の権限(利用権限)を行使してその物を利用することができなかったために、被害者の総体財産に損害が生じたこと
(ex.加害車両にタクシーが衝突されたことによる代車・休業損害)、
または、
Aその物を完全な状態で利用するこいとができたのと同等の利用可能状態を調達(確保)するために費用を投下したことにより、被害者の総体財産に損害が生じたことを理由に、その填補をする
(ex.加害車両に自家用車が衝突されたことによる修理中の代車賃借料相当額の損害)
という観点からのアプローチ。
    A:交換価値の賠償と利用価値の賠償では、後者は前者に包摂されるのではないか
vs.

利用価値の賠償といわれているものの内実は、
(a)「その物の所有権が帰属する権利主体は、その物の所有者として自己に与えられた使用収益の権限を行使して、権利の客体である物を用いてみずからの行動を展開しることにより得ることができた利益を保障すべきである」という観点から、客体としての物の交換価値とは異質な利益としてその賠償が認められるべきものであるか、または
(b)「所有権に由来する使用収益の権限またはその権限を行使することによって得られる利益を保全するために投下した費用は権利主体にその回復を認められるべきである」という観点から、これまた、客体としての物の交換価値とは異質な利益としてその賠償が認められるべきものである。
     
  ◆5.8 損害の主張・立証責任 
    被害者が被った損害のうちで、財産的損害については、被害者が主張・立証責任を負う。
    通説・判例のように「差額説」

被害者は、「損害が生じたこと」という要件事実のもとで、損害の項目のほか、損害の金額についてまで主張・立証しなければならない。
     
     
  ◆5.9 慰謝料の算定・・・慰謝料の果たす機能 
    慰謝料について、判例は、
@その算定にあたっては、裁判官はその額を認定するに至った根拠をいちいち示す必要がなく、
A被害者が慰謝料額の証明をしていなくても諸般の事情を斟酌して慰謝料の賠償を命じることができ、
Bその際に斟酌すべき事情に制限はなく、被害者の地位・職業等はもとより、加害者の社会的地位や財産状態も斟酌することができる

慰謝料をいくらと認定するかについては裁判官の裁量的・創造的役割に全面的に委ねられている、
     
  ※損害賠償請求と訴訟物の個数 
    「同一の事故」による「同一の法益への侵害」を理由とする財産的損害と非財産的損害の賠償請求権の訴訟物は1個

裁判所は、被害者の請求額の範囲内であれば、被害者が提示した内訳に拘束されることなく、被害者の提示した慰謝料額を超えて慰謝料を認定してもよい。
     
     
  ◆5.10 損害賠償請求のほうほう 
  ◇5.10.1 「一時金」方式と「定期金」方式 
     
  ◇5.10.2 一時金賠償と中間利息の控除 
    逸失利益とか将来予想される介護費用に相当する額を不法行為時に生じた損害として一時金で被害者に取得させると、これを元本として運用した利息分を被害者が利得することになる。

中間利息分をあらかじめ控除して一時金を支払わせるという処理。
     
    @将来において取得すべき利益(たとえば、人身侵害による逸失利益)についての損害賠償の額を定める場合において、その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率による。

ヒュ法行為を理由とする損害賠償義務では不法行為の時点、安全配慮義務違反を理由とする損害賠償債務では義務違反の時点が、法定利率の基準時。
     
     
     
     
     
  ◆5.11 賠償されるべき損害の確定・・・加害行為(・権利侵害)と損害との相当因果関係、さらに民法416条の類推適用論、相当因果関係論、相当因果関係論批判 
  ◇5.11.1 相当因果関係論 
    不法行為の加害者は、加害行為から生じた被害者の財産的・非財産的損失のうちのどこまでを賠償しなければならないか?
2つの問い:
@どこまでの損害項目が損害賠償の範囲に取り込まれることになるか
A差額の算定にあたって、どの金額で評価することになるのか
    通説・判例:
不法行為を理由として賠償されるべき損害の範囲を確定するにあたり、金銭評価の点をも含めて相当因果関係論を採用したうえで、民法416条を類推適用することにより、相当性判断を行う。
@416条1項は「通常生ずべき損害」(通常損害)を賠償すべきだとすることで「相当因果関係」の考え方を採用しているところ、不法行為の場合も、当該不法行為により「通常生ずべき損害」の賠償が求められるべき
A同条2項は「特別の事情によって生じた損害」(特別損害)であっても、当事者(=債務者)がこの特別事情を予見し、または予見すべきであったときには賠償が認められる。
⇒不法行為の場合も、被害者としては特別事情を加害者が予見していたこと、または予見すべきであったことを主張・立証することで特別損害が賠償の範囲に入ってくる。

通説・判例からは、ここにいう「損害」には「金額」も入る
⇒上記のことは、金銭評価についても当てはまる。
     
  ◇5.11.2 相当因果関係論批判(p78)
    批判@:

民法416条は契約違反の場合を対象とした規定⇒不法行為についてこれを妥当させようとするのはおかしい。

債務不履行の場合、当事者は合理的計算に基づいて締結された契約により結合
⇒債務不履行による損害について予見可能性を問題とする意味がある。
but
無関係な者の間で突発する不法行為においては、故意の場合はともかく過失による場合には、損害の予見可能性がほとんど問題となり得ない。
にもかかわらず、416条を類推適用
特別損害の賠償が困難となり、その不都合を回避するために、通常損害や予見可能性を擬制せざるを得なくなる。
    批判A:

相当因果関係の理論は完全賠償原則を前提としてドイツで展開されたものであるところ、
わが国の民法416条は完全賠償責任を採用していない(イギリスの判例を基礎とした制限賠償原則を採用)

416条と相当因果関係の理論を結合すること自体が既に失当。
    批判B:

「相当因果関係」判断の中に異質の作業が混在している。

「賠償されるべき損害は、加害行為(もしくは権利侵害)と相当因果関係のある損害に限られる」という中には、
@加害行為と損害との間の事実的因果関係を確定する作業(過去の事実の復元という事実認定に関する作業)
A加害行為と事実的因果関係にある損害のうち、どこまでの範囲のものを賠償対象とすべきかという規範的価値判断の作業(「保護範囲」を確定する作業)
B賠償されるべき損害をどのように金銭評価するかという作業
の3つが含まれている。

それぞれ区別すべき。

「賠償されるべき損害の範囲」については、
@故意不法行為の場合⇒原則として全損害
A過失不法行為の場合⇒過失の評価規範としての損害回避義務の射程範囲内にある損害
が賠償されるべきとされる。
     
  ◆5.12 弁護士費用の賠償 
  ◆5.13 遅延損害金(遅延利息) 
  ◇5.13.1 遅延損害金の起算点 
    加害者が被害者に対して負担する不法行為に下づ損害賠償債務は、「履行期の定めのない債務」⇒遅延損害金については民法412条3項が適用され、被害者からの催告(請求)を待って遅滞に陥る(=遅延損害金は損害賠償を請求した日の翌日から起算される(初日不算入の原則。民法140条本文))ことになりそう。
    but
判例は、一貫して、「不法行為に基づく損害賠償債務は、なんらの催告を要することなく、損害の発生と同時に遅滞に陥る」(初日不算入の原則も妥当しない。)
  ※弁護士費用相当の損害についての遅延損害金の起算点
その損害は不法行為時に発生し、かつ、それと同時に履行遅滞に陥る(判例)
     
  ◇5.13.2 遅延損害金の算定利率 
     
  ※補論・・・相当因果関係についての筆者の考え方 
  責任設定の因果関係と賠償範囲の因果関係を分ける立場
  ●責任設定の因果関係:
合法則条件公式のもとで捉えられる事実的因果関係と解すべき。
責任設定の相当因果関係が問題となる場面において、相当性の考慮でおこなわれているのは、故意・過失ありとされた行為(禁止規範・命令規範に違反する行為)と、具体的に発生した権利侵害の結果とを関連づけることが法的に正当化されるかどうかの評価
⇒この法的評価を過去の事実の復元という意味での因果関係の確定作業から切り離して判断するのが、異質の判断過程を混合しない点で論理的に優れている。
責任設定レベルで相当性の判断と言われているものは、事前的に判断された作為義務に違反した行為と、具体的に発生した権利侵害とを関連づける規範的価値判断であると考えるのが適切。

その規範的価値判断において、
@「侵害された具体的権利が、法秩序が命令規範・禁止規範により保護しようとした権利の中に含まれる」ときには、「その権利侵害は、禁止規範・命令規範の保護目的内のものである」という評価がされ、その権利侵害(第一次侵害)は行為者に対して帰責される。(「規範の保護目的説」と呼ばれる考え方)
A「侵害された具体的権利が、法秩序が禁止規範・命令規範により保護しようとした権利には入っていない(したがって、義務射程は当該権利には及ばない)ものの、その権利侵害は、故意・過失による行為により生じた結果から特別に高められた危険が実現したことにより生じたものである」(第一次侵害との危険性関連を有している)ときにも、その権利侵害(後続侵害)は行為者に対して帰責される。
  ●賠償範囲の因果関係: 
損害事実の確定という点では、「損害があったかどうか」の判断の中に組み込まれる

金銭評価の部分を除いた賠償範囲の因果関係の問題は、「不法行為がなければ置かれたであろう事実状態(仮定的事実状態)と、不法行為がされたために置かれている事実状態(実際の事実状態)の差」を「損害」として把握する際に、同時に考慮されている。
不法行為損害賠償制度の目的:侵害された被害者の権利について被害者に割り当てられた価値を金銭で保障することにある(損害賠償請求権の権利追求機能に立脚した規範的損害論)
⇒この事実状態の差は、権利・法益の主体である被害者に割り当てられた価値を金銭で保障する方向で填補されなければならない。(権利の主体に割り当てられた価値の金銭による実現)

決定的なのは、責任設定の因果関係および規範の保護目的該当性の判断により故意・過失行為と関連づけられることとなった被侵害権利の主体に割り当てられ、保障された価値がいくらのものであるかであって、被害者の損失が禁止規範・命令規範の射程(義務射程)に入っているかどうかではない。
@権利侵害の結果として生じた事実状態の差を踏まえて、権利の主体である被害者に割り当てられた価値を金銭で保障するという観点⇒5.5のコラムで述べたように、抽象的損害計算のもとで算定される金額については、最小限の損害としての賠償が認められるべき。
(これへの上積みを図る方向での具体的損害計算も認められるべき)
A権利侵害の結果として生じた事実状態の差を踏まえて、権利の主体である被害者に割り当てられた価値を金銭で保障する場合に、損害賠償の方向は、
(a)権利侵害がなければ被害者が置かれるべき状態を金銭により実現するという前向きの方向での損害賠償と、
(b)権利侵害がされる前の状態を金銭により復元するという逆戻りの方向での損害賠償(原状回復的損害賠償)の2つのものを観念することができる。
いずれを選択するかは、被害者の自由。
B上記(a)については、
(i) 権利の客体それ自体の価値を被害者に保持させることを目的とした賠償(権利の客体それ自体の価値賠償)と、
(ii) 被害者が社会生活の中で権利の客体を用いて人格を自由に展開すること(人格権・自己決定権に由来する人格の展開の自由。財産管理・処分の自由を含むもの)によって享受することができた財産状態を被害者に実現することを目的とした賠償(人格の展開の自由が侵害されたことにより、被害者の総体財産に生じた損害の賠償)
を観念することができる。 
  潮見説による民法709条の要件事実
@Xの権利が侵害されたこと
AYが行為をするにあたり、Yに故意があったこと。または、Yが行為をするにあたり、Yに過失があったとの評価を根拠づける具体的事実。
B@の権利侵害とAの行為との間に因果関係(事実的因果関係)があること
C@の権利侵害がAの命令規範・禁止規範の保護目的内のものであったこと(を根拠づける具体的事実)。後続侵害の場合には、第一次侵害との危険性関連(を根拠付ける具体的事実)
D損害の発生(を根拠づける具体的事実)
E損害の金額
     
第6章 損害賠償請求権の主体  
     
     
第7章 損害賠償請求に対する抗弁(1)  
     
     
第8章 損害賠償請求に対する抗弁(2)
     
     
第9章 使用者の責任・注文者の責任
     
     
第10章 物による権利侵害・・・・工作物席ん・営造物席ん・製造物責任・動物占有者の責任  
     
     
第11章 共同不法行為・競合的不法行為  
     
  ◆11.1 競合的不法行為と共同不法行為 
    複数の人の行為がされた結果として被害者の権利が侵害された場合の2つのアプローチ:
    第1:
Aの不法行為を理由とするYのAに対する損害賠償請求権
Bの不法行為を理由とするYのBに対する損害賠償請求権
Cの不法行為を理由とするYのCに対する損害賠償請求権
を、それぞれ別個に捉えて評価し、
個別的に損害賠償請求が認められるかどうかを認定・判断しているアプローチ。

この個別的な判断の結果として、それぞれの損害賠償請求権で賠償されるべきものとされた損害(額)が重なり合う限りで、各行為者の不法行為責任が重なり合う(競合する)ことになる(連帯債務)。

重なり合う損害(額)の部分については、競合する賠償義務者の誰かが支払えば、他の者に対する損害賠償請求権も、その限りで消滅する。

競合的不法行為。
    第2:
A・B・Cの行為が関連しあっている点に着目して、Xの被った損害について、A・B・Cに連帯して責任(損害賠償義務)を負担することにさせるというアプローチ。

「共同不法行為」のアプローチ。
     
  ◆11.2 競合的不法行為(不法行為責任の競合) 
    競合的不法行為が問題となる場面では、個別の不法行為責任が競合⇒被害者の個々の加害者に対する損害賠償責任を考える上で、要件事実面で特有の問題は、基本的にない。

せいぜい、因果関係(事実的因果関係および相当性)を認定・判断する際に、他の行為者の行為が権利侵害(・損害発生)の原因となっている・・・原因競合・・・という観点から斟酌されることがあるところ。
     
  ◆11.3 共同不法行為の基本的な仕組み(その1)
伝統的考え方による場合 
  ◆11.4 共同不法行為の基本的な仕組み(その2)
最近の考え方による場合 
  ◆11.5 関連共同性の意味 
   
  ※最近の考え方のまとめ・・・・大東水害訴訟第1審判決 
    「一般に、共同不法行為が成立するためには、各人の行為がそれぞれ独立して不法行為の要件(故意・過失、権利侵害(違法性)、損害の発生、因果関係、責任能力)を備えていること及び行為者の間に客観的な関連共同性が存在することが必要である。しかし、右要件のうち、各人の行為と結果発生との間の因果関係については、共同行為と結果発生との間の因果関係の存在をもって足りると考えるべきである。けだし、各人の行為と結果発生との間の個別的因果関係の存在を必要とするときは、その立証がなされた場合は各人は当然に民法709条による責任を負うことになり、行為の関連共同性という要件を附加するところの共同不法行為の規定は無用のものとなるからである」。
  ◆11.6 共同不法行為の効果 
  ◇11.6.1 全額連帯責任とその緩和(p182)
    民法719条1項前段:
「賠償されるべきであるとされた損害総額」について、行為者各自が全額賠償責任を負う。

共同行為者が原因力の大小等を問題とせずに全額につき連帯関係に立つことが共同不法行為の特色。
    but
共同不法行為の成立にほんのわずかだけしか関与していないのに、全額の賠償責任を負わせるのは酷にすぎるのでないかという問題提起

「加害者側の原因の与え方に大小の差がある以上、各自の与えた原因が共通する限度で連帯責任を認め、残りは、より多く原因を与えた者の個人的賠償義務とすべきである」との理論。
(一部連帯の理論)
    結果発生に弱い関連共同性しかない者には、その者の結果発生への関与が少量ならば、全部責任を負担させられることとなる不合理を避けるため、分割責任の抗弁が認められる可能性。
A:割合的因果関係の理論

B:寄与度減責の理論:
因果関係という事実認定レベルではなく、規範的価値判断レベルでの賠償額限定基準として「寄与度」を捉えるもの(評価的寄与度)。
  ◇11.6.2 「弱い関連共同性」と寄与度減責の抗弁 
    共同不法行為のすべての場合に寄与度を考慮して責任の減額を認めたのでは、民法が設けた共同不法行為制度が崩壊

共同不法行為の中には、
@寄与度減責が認められない共同不法行為と、
A寄与度減責が認められる共同不法行為
の2種類がある。

@強い関連共同性あり⇒寄与度減額の抗弁は認めない
A弱い関連共同性しかない⇒寄与度減額の抗弁を認める
    西淀川第2次〜第4次訴訟第1審判決(大阪地裁H7.7.5):

共同行為に客観的関連性が認められ、加えて、
共同行為者間に主観的な要素(共謀、教唆、幇助のほか、他人の行為を認識しつつ、自己の行為とあわさって被害を生じることを認容している場合等)が存在したり、
結果に対し質的にかかわり、その関与の程度が高い場合や、
量的な関与であっても自己の行為のみによっても全部又は主要な結果を惹起する場合など
(=強い共同関係)

共同行為の結果生じた損害の全部に対し責任を負わせることは相当であり、共同行為者各自の寄与の程度に対応して責任の分割を認める必要はないし、被害者保護の点からも許されない

そうでない場合、すなわち、
右のような主観的な要素が存在しないか、希薄であり、共同行為への関与が低く、自己の行為のみでは結果発生の危険が少ないなど、
共同行為への参加の態様、そこにおける帰責性の強弱、結果への寄与の程度等を総合的に判断して、
連帯して損害賠償義務を負担させることが具体的妥当性を欠く場合
(=弱い共同関係)

各人の寄与の程度を合理的に分割することができる限り、責任の分割を認めるのが相当
  ※「強い関連共同性」・「弱い関連共同性」の峻別と条文上の根拠 
     
  ◇11.6.3 共同不法行為制度の根幹・・・全額連帯責任 
  ■(1) 共同不法行為・・・・全額連帯責任 
    共同不法行為は、個別行為を理由とする反論を許さないほどに強力な連帯責任を効果を共同行為者間に作り出す制度

各人の行為が社会観念上一体をなすと認められるべき程度にまで関連づけられていて、かつ、その一体的行為と損害との間の因果関係が認められればそれだけで共同不法行為が成立し、どの部分について因果関係や個別の寄与が存在するかについて被告の反証による減額も許さないと考えるのが一貫する。
個別的因果関係や個別的行為の寄与度・割合等を持ち出して、これをもとに減免責を認めることは、民法719条1項の趣旨に反する。
    最高裁H13.3.13:
交通事故と医療過誤の連鎖した事例(交通事故に遭って搬送された患者が医師の過失により死亡したという事件)
「共同不法行為」としつつ過失相殺割合算定にあたって損害額を共同行為者間で寄与度に従い割り付けるのを否定した文脈で
本件交通事故における運転行為と本件医療事故における医療行為とは民法719条所定の共同不法行為に当たる⇒各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯して責任を負うべき。
本件のようにそれぞれ独立して成立する複数の不法行為が順次競合した共同不法行為においても別異に解する理由はない⇒被害者との関係においては、各不法行為者の結果発生に対する寄与の割合をもって被害者の被った損害の額を案分し、各不法行為者において責任を負うべき損害額を限定することは許されないと解するのが相当。

共同不法行為によって被害者の被った損害は、各不法行為者の行為のいずれとの関係でも相当因果関係に立つものとして、各不法行為者はその全額を負担すべきものであり、
各不法行為者が賠償すべき損害額を案分、限定することは連帯関係を免除することとなり、
共同不法行為者のいずれからも全額の損害賠償を受けられるとしている民法719条の明文に反し、これにより被害者保護を図る同条の趣旨を没却することとなり、
損害の負担について公平の理念に反することとなる。
  ■(2) 寄与度減額類型・・・競合的不法行為の中の特殊類型 
    寄与度減額が認められるとされている「弱い関連共同性しかない共同不法行為」と言われているものは、民法719条の共同不法行為ではなく、単に民法709条の不法行為責任が競合しているにすぎないのであって、それぞれ個別の不法行為責任が損害(額)の面で競合している限りで連帯しあっている競合的不法行為の1場合。
    被害者保護という政策的観点⇒全額連帯責任と構成したうえで、
一定の場合に寄与度に関する主張・立証責任が転換された競合的不法行為
として捉えるべき。
    寄与度に関する主張・立証責任の転換を正当化するためには、
被害者保護の必要性を語るだけでは足りず、
民法719条1項後段なみの関連共同性を各自の行為の間に要求すべき。

←寄与度減責の抗弁は個別的因果関係不存在の抗弁の延長線上で考えられている。
  ※累積的競合(または重合的競合・加算的競合) 
    複数の行為が関与して結果が発生した場面であるものの、「強い関連共同性」が認められない場面であり、また、複数原因の択一的競合(4.8.1、11.2)や重畳的競合(それぞれの行為に結果全部の惹起力がある場合。4.4.2)にも当たらない場面。):
個々の行為だけでは・・・結果の一部を惹起させることができても・・・全部の結果を惹起させる可能性がなく、いくつかの行為が積み重なってはじめて全部の結果を惹起させることができる場面(全部惹起力のない複数原因が累積して1つの損害が発生した場面)を、累積的競合(または重合的競合・加算的競合)と称する見解が、一部で有力に主張。

この場合、
@全部の結果に対する各行為者の寄与度が明らか⇒A・B・Cはそれぞれ自己の寄与度に応じた分割責任を負担。
A各行為者の寄与度が不明⇒100の結果につき、A・B・Cは連帯して被害者に対し損害賠償責任を負い、他方、A・B・Cは、抗弁として、みずからの寄与度を主張・立証することにより、自己の責任を減額することができる。
vs.
Aについて、このことを定める明示の規定がないにもかかわらず、解釈論として肯定することができるのか、疑問。
    潮見:
ここで想定されているのは、「弱い関連共同性しかない共同不法行為」の1場面であるところ、
そこでは、被害者を保護するとの政策的理由から、寄与度に関する主張・立証責任が転換された競合的不法行為が問題となっている。

単に寄与度不明を理由に主張・立証責任の転換を認めるのは相当ではない。

各自の全額賠償責任を原則とする以上、寄与度が不明と言えるほどに複数行為者の行為が一体として把握されるものであることが要求されるべき。
⇒時間的・場所的近接性は最低限必要。
ここで、民法719条1項後段の法意を類推
⇒同項後段の場合と同様、
累積した一体としての行為に関与した主体の特定、すなわち「行為者として考えられるのがA・B・Cであること」と「A・B・Cのほかに行為者はいないこと」の主張・立証は必要。
(複数行為者の行為の一体性+行為者の人的範囲の特定)

また、累積的競合であること、すなわち、各自の行為から結果の一部が発生していること(各自の行為が結果(の一部)を惹起したこと。「到達の因果関係」と呼ばれるもの)の主張・立証は必要。
     
     
     
第12章 差止請求と損害賠償  
     
     
第13章 名誉毀損および人格権・プライバシー侵害  
  ◆13.1 名誉毀損と人格権・プライバシー侵害 
     
  ◆13.2 名誉と名誉毀損の意義 
    名誉:人がその品性、徳行、名声、信用その他の人格的利益について社会から受ける客観的評価
    名誉毀損:「被害者の社会的評価」が保護法益。
    主観的な名誉感情(自分自身の人格的価値についてみずからが有する主観的な評価)の侵害だけでは、いまだ名誉毀損とはならない。
but
「人格権侵害」を理由とする救済の可能性はある。
   
※新聞記事・テレビ報道による名誉毀損と社会的評価の低下
    他人の社会的評価を低下させるかどうかについては
当該記事についての「一般の読者の普通の注意と読み方」、
当該報道についての「一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方」
を基準として判断すべき。
     
  ◆13.3 名誉毀損の免責法理
・・・・真実性の抗弁と相当性の抗弁 
   
  ※名誉毀損の免責法理と基本権相互の均衡問題 
    名誉毀損の免責事由(違法性阻却事由)が語られる際に問題となっているのは、
@「自己に対する社会的評価」につき被害者が有している人格的利益と、
A名誉毀損をおこなったとされる行為者が有している言論・報道の自由や思想・信条の自由との間で、どのような較量をおこなうかという基本権レベルでの調整。
  ◇13.3.1 真実性の抗弁
    行為者が、
@摘示された事実が真実であること、
A適示された事実が公益の利害に関する事実にかかるものであること
B事実摘示がもっぱら公益を図る目的にえでたこと
を主張・立証したときには、その行為には「違法性」がない。
(最高裁)
   
(a)「真実の事実の摘示といえでも、一般的には人の社会的地位を低下させるものは名誉毀損を構成する」と考えたうえで
(b)「公表事項の公共性」と「公益目的での公表」という2つの要件を満たした場合にのみ、
例外的に不法行為責任を阻却する。
     
  ◇13.3.2 真実と信じたことについての無過失の抗弁(相当性の抗弁) 
    行為者は、適示された事実が真実であることを立証できなくて、
「行為者において、その事実を真実と信じるについて相当の理由がったことを根拠づける具体的事実」を主張・立証することで、名誉毀損の理由とする責任を免れることができる。

故意・過失がなかったとされる。
    「適示された事実が周知のものとなっていた」という事実(周知性)を主張・立証するだけでは足らない。
←周知性は、その事実が真実であるということへの信頼を基礎づけない。

@信頼すべきところから材料を入手したことと、
Aその真実性について合理的な注意を尽くして調査検討したこと
が不可欠。
    配信サービスの抗弁:
アメリカ法において展開された理論をもとにしたもので、
掲載記事中で配信元が明確にされているという場合には、
「取材のための人的物的体制が整備され、一般的にその報道内容に一定の信頼性を有しているとされる通信社からの配信に基づく記事については、裏づけ取材をしなくても、真実を伝えるものであると信じるについて相当の理由がある」というもの
vs.
判例:
信頼性のある通信社から配信されて掲載した記事が
「私人の犯罪行為やスキャンダルないしこれに関連する事実を内容とするものである場合」に、このような配信サービスの抗弁を認めていない。

最高裁H23.4.28:
新聞社が通信社からの配信に基づき新聞に記事を掲載した場合において、両者が報道主体としての一体性を有すると評価することができるときは、通信社が配信記事に摘示された事実を真実と信じるについて相当の理由があるときは、通信社が配信記事に摘示された事実を真実と信じるについて相当の理由があれば、特段の事情のない限り、新聞社が自己の掲載した記事に摘示された事実を真実と信じるについても相当の理由がある。
行為者が刑事第1審の判決を資料としてその認定事実と同一性のある事実を真実と信じて適示したという場合には、特段の事情がない限り、摘示した事実を真実と信じるについて相当の理由がある。(最高裁H11.10.26)
     
     
  ◆13.4 意見・論評による名誉毀損 
    意見(論評も同じ)には意見で対抗すべきであって、意見によって名誉が毀損されても、裁判所に法的救済を求めることは許されるべきでない。

そう考えないと、憲法の保障する思想・信条の自由が保障されなくなってしまう。
意見の表明によって社会的評価が下落したとしても、それが人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない限り、その意見・論評が合理的か不合理かを問わず、およそ不法行為責任の成立が否定される。

このように解することで、基本権としての意見・論評を表明する自由が手厚く保護されている。
    行為者が意見ないし論評として表明した事柄が「法的な見解の表明」であって、裁判所が判決等によって判断を示すことができるものであったとしても、異ならない。
    「意見の表明」による社会的評価の体かを理由⇒名誉毀損を理由とする不法行為責任が成立しない。
「意見の表明」がされたことで社会的評価が低下したときに、「意見や論評をする際の基礎ないし前提となった事実」の摘示により社会的評価が低下した点を捉えて、名誉毀損の不法行為責任を追及していく可能性はあり。
判例:
ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、
@その行為が公共の利害に関する関する事実にかかり、かつ、その目的がもっぱら公益を図ることにあった場合に、
A意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、
人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、その行為は違法性を欠く(真実性の抗弁)。

B意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、行為者においてその事実を真実と信じるについて相当の理由があれば、その故意または過失が否定される(相当性の抗弁)。
(最高裁H9.9.9)
     
第14章 医療過誤・説明義務違反  
     
     
     
  ◆14.3 因果関係 
     
    「医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば、医師の右不作為と患者の死亡との間の因果関係は肯定される」(最高裁H11.2.25) 
「患者が右時点の後いかほどの期間生存し得たかは、主に得べかりし利益その他の損害の額の算定に当たって考慮されるべき事由であり、前記因果関係の存否に関する判断を直ちに左右するものではない」
    「権利侵害」の箇所での述べた「生存可能性(延命利益)」が独立の権利・法益になる場合との関係:
民法709条の「権利」として「生存可能性(延命利益)」が問題となるのは、診療上の過失と「生命」侵害との間での「高度の蓋然性」が認められないときに、せめて「生存可能性(延命利益)」を権利・法益として逸失利益賠償に到達したいという考慮が働く場合。
「生存可能性(延命利益)」について言及した判決(最高裁H12.9.22):
疾病のため死亡した患者の診療に当たった医師の医療行為が、その過失により、当時の医療水準にかなったものでなかった場合において、
右医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、
医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者に対し、不法行為による損害を賠償する責任を負うものと解するのが相当。
ここでは、
@権利・法益該当性に関する判断、すなわち、患者が生存していた相当程度の可能性に関する判断と、
A責任設定の因果関係に関する判断、すなわち、「医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性」があることの判断が、
同時に行われているものと見ることができる。

Aにおいては、因果関係の証明度が高度の蓋然性から相当程度の可能性へと緩和されているものと見ることが素直。
     
     
     
     
     
第15章 自動車損害賠償保障法条の運行供用者責任