シンプラル法律事務所
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その他判例

★裁判所の義務違反
  広島高裁H16.6.13 判決言い渡しの遅延の違法性
  判断 国賠法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定。

裁判官の職務行為が国賠法上違法であるというためには、当該職務行為が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背するものであることが前提となる。
  ●  民事訴訟における権利・義務の確定は、判決の確定によって初めて実現するもので、一審のみならず控訴審、上告審においても、迅速な判決の言渡しなくしては、当事者の権利保護の実現が困難となることはいうまでもない。
迅速な判決の言渡しは、公平で適正な審理とともに、裁判所に課せられた重要な責務であって、法がその2条において、「裁判所は、民事訴訟が公正かつ迅速に行われるよう努め」なければならない旨定めているのも、このような趣旨で理解されるべきものである。
受訴裁判所が判決言渡可能な訴訟状態になったと判断して口頭弁論を終結した後は、判決言渡しまでの間に原則として当事者の訴訟行為は介在せず、また、判決言渡しまでの間に原則として当事者の訴訟行為は介在せず、また、判決言渡期日の指定のあり方に対し、当事者に不服申立てを認める明文の規定も存しない⇒裁判所は、これらの点も考慮の上、できる限り迅速に判決言渡しをするように務めなければならないことは当然である。
 
民事事件の審理を担当する裁判官は、すべての事件について2か月以内に判決を言い渡すべき法的義務を負うものではないが、
法2条の趣旨に違背することないよう、できる限り迅速に判決言渡しをするように努めなければならなず、事件が複雑である場合その他特別の事情がある場合でも、裁判官の客観的良心ないしは職業倫理に従い、誠実に職務権限を行使しなければならないのであって、その判決言渡しについて、当該裁判官が違法又は不当な目的をもってこれを遅延したなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認め得るような特別の事情がある場合には、当該裁判官の職務行為は、国賠法上違法の評価を受けるものというべきである。
●  判決言渡しの遅延については、当事者に不服申し立ての方途などが認められていない。
⇒訴訟手続内で不服申立制度が確立している裁判内容や手続に関する違法や過誤を理由として国家賠償を求める場面とはいささか場面を異にする。
but
判決書の完成の時期を左右する要素としては、当事者の主張や証拠評価の難易(記録や論点の多寡を含む)、判例・参考文献等の調査・入手の難易、他事件の審理・判決との時間調整の難易、合議の難易(合議事件の場合)等が考えられるところ、これらのうちのいかなる要素が判決書の早期作成に障害となったかの点w訴、国家賠償請求の可否を審理する裁判所が、証拠によって、あるいは当該事件の受訴裁判所を構成する裁判官の証人尋問によって明らかにするというようなことは裁判官の自由な心証や合議の秘密を害するおそれがあり、許容されない。
⇒判決言渡しの遅延を理由とする国家賠償請求においても、裁判内容の過誤等を理由とする国家賠償請求と同様、国家賠償責任が肯定されるためには、「当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判したなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とする」との、極めて例外的、かつ、裁判官の自由心証や合議の秘密を離れても立証可能な明確な基準によらざるを得ないと考えられる。


★因果関係
  東京地裁H19.4.20
判例タイムズ1278号
老人保健施設に入所していた高齢者が施設内で下肢を骨折し、褥瘡を生じたことにつき、施設の運営者に過失あり。
but
上記骨折及び褥瘡とその両下肢機能障害及び死亡との間の因果関係は否定。
  事案 老人保健施設に入所していたAが、
左下肢骨折、右大腿骨骨折、左大転子部褥瘡及び仙骨部褥瘡の傷害を負い、
両下肢機能障害の後遺症を生じ、死亡

Aの上記各傷害、後遺症及び死亡は、Yが同施設内においてAの管理及び治療を怠ったことが原因
⇒債務不履行ないし不法行為に基づき、Aの治療費、介護費用、後遺症及び死亡による慰謝料等の損害の賠償を請求。
平成11年8月31日 入所 自力で歩行できない状態
平成11年9月13日 左下肢に内出血
平成11年11月4日 右大たい骨骨折が判明
平成13年5月24日 死亡
  判断 @Aは、健康状態が悪かった
A以前にも褥瘡が発生していた
B十分な栄養を採ることが困難
C寝たきりで、移動する時も車いすに乗っていた

褥瘡が発生しやすい要因を有しており、そのことはYも認識していた
Yの過失による骨折が褥瘡の悪化に影響を与えている

YはAに対してより早く適切な措置を採るべき
  Aの骨折及び褥瘡についてYの過失を肯定。
@Aは入所前から歩行ができなかったこと、
A診断書に両下肢機能障害の原因は脳梗塞であると記載されていること
BAには脳血管障害等の症状があったこと
⇒Aの両下肢機能障害の原因は脳梗塞
@Aが褥瘡感染症を発症してことを示す検査結果やデータがない
AAにはほかの複数の病状が見られる
⇒死因が褥瘡感染症によるものとは認められない。
⇒両下肢機能障害及び死亡についてYの過失との因果関係を否定。
  東京地裁八王子支部H17.1.31
判例タイムズ1228 
  心不全及び肺炎により入院していた恒例の患者が痰詰まりによる呼吸不全により死亡。
褥瘡に対する治療方法にうちての過失を肯定。but上記過失と患者の死亡との間に因果関係は認められない。
⇒200万円の慰謝料のみ肯定。
  判断 Y2においては、褥瘡を生じたAに対する栄養管理の方法、褥瘡に由来する感染症に対する治療方法について注意義務違反があった。 
心不全と気道感染による喀痰の増加による呼吸不全により死亡したものであるが、緑膿菌、MRSAが喀痰及び褥瘡部から検出
⇒気道感染の原因については、褥瘡が影響していると推認される。
⇒上記注意義務違反がAの死因に対して影響を与えていることは否定できない。
Aは、B病院に入院する以前から、心不全の既往があり、喀痰量が多い上、高齢による免疫機能の低下による傷病治療が遅延となり、抗生物質の投与が制限されるため褥瘡の改善の傾向が認められず、また、発熱が持続し、漸次栄養状態が悪化したという臨床の経過

Aの死亡を回避できたことについて高度の蓋然性があったとは認められない。
⇒Y2ないしY1の注意義務違反とAの志望との間には相当因果関係があるとはいえない。
 
Yらに対して、慰謝料200万円と弁護士費用30万円の支払を認める限度で、Xの本訴請求を認容。
  解説  褥瘡は、長時間の局所圧迫による阻血性壊死に起因する皮膚潰瘍であり、長期臨床や神経障害による自発的体換の欠如により、体圧の集中する骨突起部に好発する。 
その治療としては、保存的治療と外科的治療とがあり、Aに対しては、双方の治療が行われたが、それが治癒しなかった
⇒褥瘡の発症とともに褥瘡に対する治療方法に注意義務違反があったとした本判決の判断は相当。
  医師に治療上の過失が認められるがその過失と患者の死亡との間に因果関係が認められない場合:
最高裁H12.9.22:
生命とは別に、「生存していた相当程度の可能性」という保護法益を認め、その保護法益の侵害に対する慰謝料を認めるべき。 
  横浜地裁H24.3.23
判例時報2160
  平成18年1月4日入所した87歳の男性が褥瘡悪化し細菌感染による敗血症を発症して同月21日に死亡⇒損害賠償肯定。 
判断 Aの褥瘡はAがB病院に救急搬送された時点で表面が1.5センチ×2.0センチ程度の大きさよりは倍以上に拡大し、その内部においては、同月18日時点の状態又はこれに準じる状態にまで拡大、悪化し、細菌感染を起こしたいたものと認めるのが相当。 
本件施設は、介護付き老人ホームとして前記特定施設入所者生活介護利用契約等に基づき、Aに対して介護、健康管理、治療への協力等のサービスを提供する義務を負っていた⇒本件施設はサービス提供義務の具体的内容として、Aについて2時間ごとの体位変換による除圧、患部の洗浄等による清潔の保持その他の適切な褥瘡管理を行い、保険褥瘡を悪化させないよう注意すべき義務を負っていたというべき。
Aは本件褥瘡からの細菌感染が原因で敗血症を発症し、それにより全身状態の悪化を来し、死亡したと認めることができる。
敗血症を発症するほどの本件褥瘡の悪化は、本件施設の債務不履行、注意義務違反により生じたと認めることができる。
⇒Xらの請求を一部認容。


★内縁関係
  判例時報
2108号
2123号
大阪高裁H22.10.21
内縁の妻が死亡するまで同人に無償で使用させる旨の使用貸借契約が黙示的に成立していた⇒内縁の夫を相続した子から内縁の妻に対する建物の明渡請求が棄却
  事案 内縁の夫の長女であり相続人である控訴人(X)が、内縁の妻である被控訴人(Y)に対し、AとYとが同居していたA所有の建物について、所有権に基づき、建物明渡しを求めるとともに、明渡済みまでの賃料相当損害金の支払を求めた事案。
  争点 @本件建物の使用貸借の正否
A建物明渡請求が権利濫用該当性
  一審 AがYに対し本件建物の使用借権を設定することは、円満な内縁関係にある当事者間においては、通常想定されることではない
⇒本件使用貸借家役の成立を否定 
建物明渡請求を認容すると、Aが望んでいたYの生活利益を大きく損なうのに対し、これを認容しないとしても、Xの受ける不利益は大きくない
⇒建物明渡請求は権利の濫用に当たる
  判断 @YがAの愛人、内縁の妻として40年もの長さにわたりAに尽くし、十分な経済的基盤も有しない状態⇒AがYの行く末を案じ住居を確保してやりたいと考えることは極めて自然
AAは、平成16年ころXをわざわざ本件建物に呼び出し、同行したXの夫やY及びYの兄夫婦の前で、Xに対し、Aにもしものjことがあったら、Yに本件建物をやり、そこに死ぬまでそのままに住まわせて、1500万円を渡してほしい旨申し渡している

AがYを死ぬまで無償で本件建物に住み続けさせる意思を有していたものと優に認めることができる。 
Yにおいても、そのようなAの意向を拒否する理由は全くないと認められる。

本件申渡しのあった平成16年ころに、AとYとの間で、黙示的に、Yが死亡するまで本件建物を無償で使用させる旨の本件使用貸借が成立したものと認めるのが相当。

建物明渡請求及び賃料相当損害金請求をいずれも棄却すべきもの。
  解説
@
最高裁は、権利濫用説に立つものと理解されている。
(ただし、昭和39年最高裁判決は、居住権説、使用権説を積極的に否定したものとまではいえないように思われる)
権利濫用性⇒賃料相当損害金請求の問題は別に残り、同請求までが直ちに権利濫用として否定されるものではない。
学説上、所有権に基づく妨害排除請求が権利濫用であるとされた場合も、これによって所有者の所有権が否定されるわけではなく、妨害行為者の占有が以後適法な権原に基づくものになるわけでもない
⇒所有者は、無権原で占有を続ける者に対して、民法703条や民法709条の要件を満たす限り、不当利得返還請求や損害賠償請求ができる。
解説A 民法890条(配偶者の相続権)の配偶者は法律婚の配偶者を指し、生存内縁配偶者には死亡内縁配偶者の相続権は認められない。 
離婚時の財産分与に関する民法768条の内縁への類推適用についても、判例は、内縁当事者生存中の離別については肯定するものの、内縁の死別解消の場合への類推適用を否定。
法律婚の手続を経ていない内縁夫婦については、共有や不当利得等財産法の法理によって処理すればよく、また、遺贈や死因贈与を活用することで生存内縁配偶者の財産的保護については対応可能?
but
裁判例で一方の内縁配偶者名義の不動産につき他方の内縁配偶者との共有関係が認められるのは、当該不動産の取得・維持に関して内縁夫婦の双方が実質的に経済的出損に相当する寄与を行ったいた場合に限られているとの私的。

もっぱら生計を内縁の夫に頼ってきたいわゆる専業主婦型の生存内縁配偶者について、共有法理によってその財産的保護を図ることは難しい。
生存内縁配偶者の居住の保護に関する法律構成:
A:具体的事案における事実関係に基づき生前贈与や死因贈与等当事者間での居住建物の所有権移転に関する契約の成立を認めることができる場合⇒内縁の妻は内縁の夫死亡後も所有者として当該建物への居住が可能に。
B:内縁の準婚的性格⇒
@「内縁から生ずる準親族間の共助の精神」の尊重という考え方から、民法730条にも言及し、内縁の妻の居住は保護されるべきとするもの
A
C:他者の所有建物に対する使用権原という点により着目し財産法的視点からの理由付けをしようとするもの
@居住権説⇒借家権の相続に関して展開されてきた居住権の考え方の内縁の夫の所有建物にも妥当
A使用貸借説


★ 行政
  判例時報2080
行政p24
最高裁H22.3.23 
政務調査費について
  判断 購入された物品がパソコンやビデオカメラなどの比較的高額な物品であるからといって直ちに調査研究のための必要性を欠くものとはいい難い。
but
@任期中の最後の議会の会期後を含む任期満了1ないし4か月半前に本件物品が購入されていること、A本件議員らは任期満了による選挙に立候補することなく市議会議員としての人気を終えていることに加え、B本件議員らは10年から20年以上にわたる議員としての経歴を有するところ、このような手元に残る物品を在職中
  解説 政務調査費の支出が使途基準に適合したものであるか否かについての実体要件については、
A:裁量説
B:合理的解釈説

会合等への出席や視察のための旅費であれば、当該会合の目的や視察の対象と市政との関連性ないし支出の必要性についてはこれを比較的緩やかに認めることができようが、使途の費目によっては、それほど緩やかに解されないものもある

個別具体的な事案における使途ごとに検討するほかなく、裁量説が一般的に広く裁量性を認めるのであるとすれば、相当とはいえない。

物品の品目自体と市政との関連性ないし支出の必要性につき、議員の側に広範な裁量権があるとすることは困難。
他方で、当該物品の具体的な用途という面から見れば、議員の側にある程度の裁量的判断の余地が生じる場面も考えられる。
不当利得返還請求の主張立証責任の配分:
○A:請求原因説(実務)
B:抗弁説
政務調査費の返還請求をすべきことを求める住民訴訟における使途基準適合性に関する主張立証責任:
○A:一般的・外形的な事実説:
B:立証責任転換説
C:その他

Aは、比較的多くの高裁レベルの判例が依拠している見解であり、不当利得返還請求に係る実務の要件事実的な考え方に忠実であって、現実の立証問題への配慮もある。
主張立証責任で決着が付く事例は少なく、裁判例の多くが、主張立証責任についての一般論を提示すると否とにかかわらず、具体的な用途を認定した上で、政務調査費としての必要性の有無等について詳細な判断をしているのが実情。

★消費者契約
  判時2075
最高裁H22.3.30 
金の商品先物取引の委託契約において将来の金の価格は消費者契約法4条2項本文にいう「重要事項」に当たるか
  事案 Xが、商品取引員であるYに金の商品先物取引の委託(買注文)⇒相場の暴落により損害⇒Xが、Yの外交員の違法な勧誘行為を理由に消費者契約法に基づき買注文を取り消したと主張し、Yに対し、委託証拠金の返還等を求める。 
Yの外務員は、平成17年12月7日及び同月10日、Xに対し、東京市場における金の価格が上昇傾向にあることを告げたうえ、この傾向は年内は続くとの事故の相場予測を伝え、金を購入すれば利益を得られる旨説明本件説明(
  規定 第4条(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認
2 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。

4 第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。
一 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件
5 第一項から第三項までの規定による消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しは、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
  原審 @本件説明が断定的判断の提供に当たるとはいえず、消費者契約法4条1項2号による取消しの主張は理由がない
A金の相場、すなわち将来における価格の上下は、本件契約の「目的となるものの質」(同情4項1号)にあたり、同情2項にいう「重要事項」に当たる。
⇒本件取消しを認め、Xの不当利得返還請求を全部認容。
  判断 消費者契約法4条2項本文にいう「重要事項」とは、同条4項において、当該消費者契約の目的となるものの「質、用途その他の内容」又は「対価その他の取引条件」をいうものと定義されているのであって、同条1項2号では断定的判断の提供の対象となる事項につき「将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項」と明示されいるのはとは異なり、同条2項、4項では商品先物取引の委託契約に係る将来における当該商品の価格など将来における変動が不確実な事項を含意するような文言は用いられていない

本件契約において、将来における金の価格は「重要事項」に当たらないと解するのが相当であって、上告人が、被上告人に対し、将来における金の価格が暴落する可能性を示す・・ような事実を告げなかったからといって、同条2項本文により本件契約の申込みの意思表示を取り消すことはできない。
  解説  「重要事項」とは、消費者契約の目的となるものの「質、用途その他の内容」又は「対価その他の取引条件」であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすものをいうと定義。
消費者契約法が「重要事項」についてこうした限定をした趣旨:
@取消権という重大な司法上の権利を付与する以上は、これらの行為の対象となる事項をそれにふさわしい適切な範囲に限定する必要があることや、
A取消が認められる範囲についての予見可能性を高める必要があることなど。
消費者契約を締結する動機にかかわる事項や前提事実に該当する事項が「重要事項」に当たるか否かについては、消費者契約法4条4項各号が「消費者契約の目的となるもの」との限定を付している⇒消極説と積極説がある。
商品先物取引の委託契約は、商品取引員が自己の名をもって顧客のために商品の売買売買に係る先物取引を行うことを内容とする役務を目的とするもの
⇒通常、契約を締結する動機に当たる⇒消極説の立場からは、これが契約の目的となるものの「質」等に当たると解しない限りは、「重要事項」に当たらない。
「質」とは「品質や性質をいう。例えば物品の質として、性能・機能・効能、構造・装置、成分・原材料、品位、デザイン、重量・大きさ、耐用度、安全性、衛星性、鮮度。役務の質として、効果・効能・機能、安全性、事業者・担当者の資格、使用機器、回数・時間・時期・有効期間、場所」をいうと説明。

消費者契約の目的となるものの「属性」を指し示す概念。
⇒商品先物取引における当該商品の将来の価格を「質」とうことには。文言上無理がある。


★ 知財
営業秘密   
  商標・意匠
・不正競争
百選94
東京地裁H12.11.13 
事案 墓石販売業者であるX(原告)の従業員であったY2〜Y4が、Xの保有管理する顧客名簿等の営業資料を社外に持ち出し、Y2・Y3が自ら設立した同種目的の会社であるY1会社(被告)で営業に使用したとして、XがY1〜Y4に対し、不正競争防止法、民法415条・709条に基づき、損害賠償を求めた。
Xが保護対象と主張する営業資料は、@暫定顧客名簿(電話帳抜粋)、Aお客様情報、B(予約)聖地使用契約書、C来山者名簿、D加工品・パース及びE墓石原価表
  規定 不正競争防止法 第2条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

四 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「不正取得行為」という。)又は不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含む。以下同じ。)
五 その営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為.

6 この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
  判断   上記各営業資料の営業秘密性について、すべてにつき秘密管理性・有用性を肯定。
@〜Cのみ非公知性を肯定したうえ、Y2〜Y4に不正競争防止法2条1項4号、Y1に同項5号の不正競争行為がある。
Y1〜Y4の共同不法行為を認定⇒630万円の限度で損害賠償請求を認容。
  ●争点1:本件営業資料の営業秘密性 
  ◎秘密管理性 
  ◎有用性 
  ◎非公知性 
  ●争点2:Yらの不正競争行為について
   
  解説 営業秘密とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。」(法2条6項)

要件は
@秘密管理性、A有用性、B非公知性
上記秘密管理性の要件には、
(a)当該情報にアクセスできるものが制限されていること(アクセス制限の存在)および
(b)当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるようにされていること(客観的認識可能性の存在)
が必要。
  本判決:
@「営業秘密管理性」について、Xが営業資料に関して営業外使用を禁止し、その旨を周知徹底させていたこと等を認定したうえ、いずれの営業資料も秘密管理性があるとし、
A「有用性」については、とくに、「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」、「お客様情報」、「来山者名簿」および「(予約)聖地使用契約書」には、墓に高い関心を持つ、成約に至る可能性の高い顧客の情報が記載されていること、Xでは無差別的な電話帳による顧客勧誘も営業活動方法の一つとして実施されているが、それとの対比で上記営業資料に記載された情報は、成約率を高めるための有効な情報であること等
⇒いずれの資料も有用性あり。
B「非公知性」については、「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」、「お客様情報」、「来山者名簿」および「(予約)聖地使用契約書」には、Xの独自の営業活動によって得られた時効が記載されていることやその管理状況に照らし、非公知性をk、追う帝。
その他の資料は非公知性を否定。

★忠実義務
利益相反
 
判例時報
1987
商事p134
東京地裁H19.9.27
 
企業買収において買収者側の表明保証責任等が否決された事例
  事案 X:東証第2部上場会社
Y1:マザーズ上場 
XはYらの行為によって16億円余りの損害を被ったと主張し
(1)Y1社に対し、本件各提携契約締結前において本件粉飾決算等を告知する義務があったのにこれを怠り、本件各提携契約締結後においては信義則上X社の損害が顕在化ないし拡大化しないようにすべき義務があったのにこれを怠ったと主張し、債務不履行に基づき、
(2)Y2ら3名に対し、
@Y1の取締役して上記各義務履行しなかった任務懈怠があると主張して、平成17年法律第87号による改正前の商法266条の3に基づき、また、
AX社の取締役として本件各提携契約を解消するなどの義務があったのにこれを怠ったと主張して、善管注意義務又は忠実義務の債務不履行、旧商法266条1項5号及び不法行為に基づき、
各自損害金16億円余及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
  判断  ●各提携契約締結前に、Xに対し、本件粉飾決算等の事実を告知する義務(表明保証責任)を負っていたか
企業買収において、資本・業務提携契約が締結される場合、企業は相互に対等な当事者として契約を締結するのが通常であるから、私的自治の原則が適用され、特段の事情がない限り、上記の原則を修正して相手方当事者に情報提供義務や説明義務を負わせることはできないと解するのが相当。
・・本件各提携契約を締結するに当たっての情報収集や武ねs機は、X社及びY1社のそれぞれの責任において行うべきであった。
仮にY1社に本件粉飾決算等の事実があったとしても、Yらは、本件各締結契約締結前に、X社に対し、当該事実を告知しなければならないとする特段の事情は存在しない。
⇒Yらの本件各提携契約締結前の義務違反を否定。
  ●本件各提携契約締結後に、信義則上、Xの損害が顕在化ないし拡大化しないようにすべき義務を負っていたか
@契約書にY1社の財務状況における表明保証責任の定めがされていない
AX社の主張するYらの申告義務は本件各提携契約締結前の告知義務と同一内容であるところ、締結前の告知義務は否定
⇒義務違反を否定
  解説 企業買収(M&A)において、契約当事者は、どの範囲で自己の財務内容等を表明保証する責任があるか?
私的自治の原則から、必要な情報は自己の責任において収集し、分析するのが原則であるとされている。


★忠実義務
営業秘密   
 
判例時報1921
商事p136
東京地裁H17.6.14 
1.民事再生手続が開始された百貨店経営会社の元会長ら旧取締役の善管注意義務・忠実義務違反を理由とする損害賠償査定決定が認可された事例
2.民事再生手続が開始された百貨店経営会社が元会長のプライベートカンパニーというべき関連会社に売買を仮装して融資し、回収不能になった場合において、元会長ら旧取締役には、善管注意義務・忠実義務違反があるとされた事例
・・・そうごう元会長損害賠償査定異議訴訟判決
  事案 民事再生手続において、大手百貨店であるYの旧取締役Xらに対する損害賠償請求権の査定がされた、いわゆる「そごう元会長損害賠償請求事件」の異議審の判決。
  判断 株式会社Aは、X1のプライベートカンパニーというべきものであるところ、本件取引は、A社の経営危機に資金援助するために行われたものであり、関連会社間の取引という意味でYの利益を損なう可能性が高く、売買取引を仮装した融資取引⇒適正な業務執行ではない。
本件取引を融資取引であるという実態を前提に検討しても、与信額が過大であり、無担保でこうした与信を行うことは許されない。
X2は、Yの代表取締役副社長であり、本件取引がYに損害を生じさせる危険が高いことに留意して、取引を中止して損害を防止する義務があった⇒漫然放置したことは、善管注意義務・忠実義務に違反したもの。
X1は、Y及びそのグループを統括する立場であり、取引が適切に行われているかどうかは常に監督すべきであった⇒本件取引についてYへの損害発生の危険性にかんがみ、これを正常な取引とするか中止するか適切な措置をとる義務があった。
but
漫然放置した⇒善管注意義務・忠実義務に違反。
  解説 取締役の善管注意義務・忠実義務違反の有無の判断については、いわゆる経営判断の原則によるものがある。
but
本判決は、取引相手の会社と取締役の関係、その形式と実質の乖離、回収不能となるリスクなどから、それ以前の問題として、取締役の善管注意義務・忠実義務違反が肯定されたもの。
原文 (6) 以上整理すれば、本件取引は、原告甲野のプライベートカンパニーと言うべき超音波の経営危機に資金援助をするために行われたものであり、関連会社間の取引という意味で被告の利益を損なう可能性が高く、売買取引を仮装した融資取引であり、本来あるべき諸手続を回避した点でも、適正な業務執行ではなかったと言うべきである。
(3) 本件取引による被告の超音波に対する上記の与信残高は、被告と超音波との取引の実体から著しくかけ離れた事態となっており、太田昭和監査法人が指摘するように、会計上適切な表記をしなければならなかったことは言うまでもない。これを売買取引としての債権管理に委ねることは相当とは言えない。また、その与信残高は三〇億円ないし四〇億円に達しており、超音波の泥水処理部門における年商を上回っている上、超音波の総資産の四割を超える多額に上っている。これだけの与信(無担保)を行うことは貸金としても、過大である。まして、架空取引による売買形式の与信行為を行うことは許容範囲を超えていると言うべきである
(4) したがって、本件取引をその融資取引であるという実態を前提に検討してみても、その与信額が過大であり、無担保でこのような与信を行うことは許されない
亡乙山は、本件取引について被告において直接の決裁を行う立場にあったわけではなく、超音波においても実務を行っていたのは副社長の丙川であったが、被告の総合事業部担当役員としての地位にあり、本件取引がその所管事項であったし、超音波においても会長兼社長として、職制上は丙川を指揮監督する立場にあった。そして、亡乙山は、それぞれの経営のトップグループとして、部下からの報告を求めることができる立場にあったし、決算書類上それぞれの会社の事業の実情を把握できる立場にあった。亡乙山は、会社経営者として長年の経験を積んだ者であり、決算書類(附属明細書を含む。)を見ることによって、その取引上の問題点は把握できた。特に、超音波の再建は亡乙山にとって重大関心事であったのであるから、平成二年以降の超音波の被告への支払手形の残高の増大について把握し、検討していたものと推認できる。原告乙山相続財産が、太田昭和監査法人の監査報告書の記載を信頼していたと主張しているところからみても、亡乙山がその監査報告書を閲読する立場にあったものと推認でき、前記認定の被告と超音波との本件取引における問題点は把握していたものと言える。
 したがって、被告の代表取締役副社長であり、総合事業部の担当役員の立場にあった亡乙山は、本件取引が被告に損害を生じさせる危険が高いことに留意して、取引を中止し、被告の損害を防止する義務があったと言うべきである。亡乙山は、それにもかかわらず、これを漫然放置した点において、善管注意義務(商法二五四条三項、民法六四四条)、忠実義務(商法二五四条の三)に違反したものと言うべきである。
原告甲野は、被告及びそごうグループ全体を統括する立場にあったから、業務執行については、各担当の取締役に委ねることは当然のことである。しかし、取引が適切に行われているかどうかは、常に監督すべき立場にあった。被告の最高責任者として、被告の決算書類に当然目を通し、太田昭和監査法人の監査報告書にも目を通して、被告の各事業部門の取引が適正に行われていたかどうかを把握できる立場にあった。また、超音波との取引については、超音波の取締役として、取締役会に出席する権限と義務があり、また、毎年の決算書類からその経営の実情を把握することができたはずである。したがって、事業の実情の細部まで知らないとしても、決算書類上から把握できる問題点については、会社経営者として把握し、必要な措置をとる条件、能力、権限は十分にあったと言うべきである。
 本件取引の問題は、前記のとおり経営危機にあった超音波に対する資金援助のために売買取引を仮装した過剰な融資を行ったという問題である。亡乙山が、超音波の社長として、超音波の再建のために本件取引のシステムを構築するに当たり、超音波の支配株主であり、また、被告の社長であった原告甲野の了解を得ていなかったとは考えられない。
 また、前記認定のとおり、昭和六二年以降、太田昭和監査法人が超音波との取引を含めて総合事業部における会計上の問題点を指摘し、原告甲野がこれを了知していたのであるから、担当者の適切な業務執行に期待するということは許されない。
 したがって、原告甲野は、本件取引について、被告への損害発生の危険性にかんがみ、それを正常な取引とするか中止をするか適切な措置をとる義務があったと言うべきである。原告甲野は、それにもかかわらず、これを漫然放置した点において、善管注意義務(商法二五四条三項、民法六四四条)、忠実義務(商法二五四条の三)に違反したものと言うべきである。




★取締役の対第三者責任
要旨
  東京高裁H7.10.24 争点 4被控訴人春美は、被控訴人会社の取締役であり、被控訴人会社の実質的な経営者(代表者)であるが、
(1)ナルトとの間でA契約を締結しながら、無断で右一の2の根抵当権を設定してその登記を経由したこと、
(2)その後、これを抹消登記手続をする努力をしないまま放置したため、平成四年九月株式会社千葉銀行の申立てにより本件土地が競売に付されて、差押登記がされ、右1の売買契約に基づく被控訴人会社の債務の履行を不能にさせたこと、
(3)また、右契約により境界同意書、排水同意書、開発同意書の取得を約束しながらそれに必要な業務を一切せず、本件土地の宅地造成開発につき千葉県条例に基づく知事の設計確認及び町の指導要綱に基づく町長との事前協議の各申請を不能にさせたこと、被控訴人会社を倒産に至らしめたことなどによって、ナルトからタヒミクを経て買主となった控訴人に対し、取締役として第三者である控訴人に対し責任を負うか。
  判断  四 争点4について
第二の一の1、2、5のとおり、被控訴人春美は、被控訴人会社の取締役であって、その実質的な経営者(代表者)であり、被控訴人会社の業務の執行としてナルトとの間でA契約(ナルトへの不動産売買契約)を締結後、株式会社千葉銀行に対し、本件土地につき平成二年七月一九日付けで極度額一億八七五〇万円の根抵当権を設定し、同年九月五日受付でその旨の登記を経由したものであるところ、控訴人は、被控訴人春美が被控訴人会社の経営者(代表者)として右根抵当権を設定したこと、及び、その後これを抹消しないまま存続させたことが不法行為に当たると主張する。

しかし、右根抵当権の極度額とA契約の売買代金から手付金及び中間金を除いた残代金額(一億七六〇〇万五〇〇〇円)とはほぼ見合う金額であるから(第二の一の2)、このことからすれば、被控訴人会社は、右残金を受領する際に、約定のとおり右登記を抹消するつもりでこれを設定し、登記手続をしたものであると推認されないではないこと、そして、右残金支払時期が到来する前の同年一二月末ころ、被控訴人会社はタヒミクとの間でB契約を締結したが(第二の一の3)、右登記はそのまま存続することとなり、平成三年二月一八日両者は、右登記の抹消登記手続は被控訴人会社の荒造成工事完了後、タヒミクが行い、それまでの被担保債権の金利は両者が折半して支払う(ただし、タヒミク支払分はB契約の代金の内金とする。)旨の合意をしたこと(甲一三、乙三、被相続人春美本人の原審供述)、被控訴人会社が控訴人との間で本件売買契約を締結した後も右登記はそのまま存続したこと(第二の2)、右一のとおり、本件売買契約後、右登記か存続しているまま、控訴人が被控訴人会社に対し更に中間金合計五〇〇〇万円を支払っており、これにより残代金額と右極度額とが見合わなくなっているが、これは控訴人がこれを容認しながら右中間金を支払ったものであることが推認できないではないことなどといった事情が存在する。これらによれば、控訴人は、被控訴人春美が被控訴人会社の経営者(代表者)として右根抵当権を設定したこと、及び、その後これを抹消しないまま存続させたことを容認していたものとみることができないわけではないから、右のことを捉えて被控訴人春美に責任を問うことはできない
 
 しかしながら、右一の2、三に、第二の一の5の事実、証拠(甲一五の1ないし5、二一、一三、乙四、原審証人加賀谷幸男の証言、被控訴人春美の原審供述)を合わせ考えれば、被控訴人会社は、A契約締結後の平成二年九月二五日付けで本件土地の宅地造成開発についての町長との事前協議の前段階の手続である町との内協議の申し出をし、町からのそれに対する回答も得ていたが、B契約締結後の平成三年四月一七日付けで近接の土地所有者との間で排水に関する話合いがつかないことを理由として右内協議の申し出を取下げ、それ以降、知事の設計確認及び町長との事前協議の各手続を全く進めず、また、本件土地について造成に関しても、荒造成工事に着手しこれをある程度進捗させただけであること、
その後の同年一一月ころ控訴人との間で本件売買契約を締結し、被控訴人会社は本件土地の土を入れ替え、埋立造成を完了して本件土地を買主に引き渡すこと、被控訴人会社が平成四年六月末日(その後同年七月末日に変更)までに本件土地の宅地造成開発につき千葉県条例に基づく知事の設計確認及び町の指導要綱に基づく町長との事前協議を経る義務を負い、この義務を履行できない場合は本件売買契約は当然解約となり、控訴人に対し手付金の倍額及び中間金(内金を含む。)を一〇年以内に返還する旨の約定をしたにもかかわらず、被控訴人会社は、それ以降、埋立造成を行わず、また、知事の設計確認及び町長との事前協議を経ようと試みもせず、期限までに右の設計確認及び事前協議を経なかったこと
そして、以上の被控訴人会社の行為は、すべて被控訴人春美が被控訴人会社の経営者ないし事実上の代表者として(法的にはその代理人として)行ったものであることからすると、

被控訴人春美が被控訴人会社の事実上の代表者として行った右一連の行為は、控訴人に対する故意又は過失に基づく違法な行為であるとともに、被控訴人会社の取締役で事実上の代表取締役としての任務を悪意又は重大な過失により怠った行為であるということができるから、被控訴人春美は民法七〇九条及び商法二六六条の三第一項に基づきこれによって控訴人が被った損害を賠償する責任があるというべきである。

 そして、第二の一の5によると、被控訴人会社は、平成四年七月、事実上倒産しているから、控訴人は、被控訴人春美の右行為によって手付金及び中間金(内金を含む。)相当の損害を被ったものと解される

  この点につき、控訴人は、手付金につき倍額の損害を主張しているが、控訴人が手付金に関し、手付金額を超える損害を被ったことを具体的に根拠づけるだけの主張、立証はなく、また、被控訴人会社の倒産が被控訴人春美の悪意又は重大な過失による任務懈怠に基づくものであることを認めるに足りる証拠もないから、右主張は採り難い。なお、民法七〇九条ないし商法二六六条の三第一項の債務の遅延損害金の利率は民法所定の年五分にとどまるものと解される。
 そうすると、控訴人の被控訴人春美に対する本訴請求は手付金額及び中間金(内金を含む。)並びにこれらに対する本件訴状送達の日の翌日である平成四年七月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求は失当である。
  東京高裁昭和56.5.27
判時1009号125頁
  会社取締役Yが他社所有商品をXに転売し代金を収受したのに他社からその所有権を取得することを怠り、他社からこれを搬出売却し、もつて会社はXに対し債務不履行におちいり損害を加えたときYに商法266条の3で責任を負わせた例
  事案 ニホン工業鰍ヘヤマテ工業鰹蒲L、占有の建築用仮設ビームを被控訴人に売り渡したが、被控訴人に対する商品引渡義務以降不能となった。

すでに代金を完済していた被控訴人は、ニホン工業の代表取締役と同社の常務取締役(控訴人)に対し、商法266条の3に基づく損害賠償請求の本訴を提起。 
  判断 三 そこですすんで、ニホン工業の被控訴人に対する履行不能に基づく填補賠償債務の負担、ひいては被控訴人の損害の発生について八木覚哉に代表取締役としての、控訴人に取締役としての職務執行につき故意又は重大な過失が存するか否かについて判断するに、前記二の(二)に認定した事実及び〈証拠〉によれば、ニホン工業は役員と従業員の双方を含めて一〇名足らずの小規模の会社であるところ、八木覚哉はその代表取締役、控訴人は常務取締役であつて(八木がニホン工業の代表取締役、控訴人が取締役であることは当事者間に争いがない。)、控訴人は欠勤し勝ちな八木と並んで同社の実権を握り采配を振つていたものであり、かつ八木、控訴人ともに、前記ヤマテ工業及び被控訴人間の各取引に直接関与し、特に被控訴人代表者森本浩をして、本件ビームがニホン工業の所有、占有するものと誤信させて、本件売買契約を締結させており、その間の事情を熟知していたものであるから、八木は代表取締役、控訴人は代表取締役の職務執行を監視すべき取締役として、本件売買契約に関し、会社(ニホン工業)に損害をかけぬようそれぞれの立場で適切な措置を執るべきであるのに、前記のように漫然放置し、その結果会社に履行不能による損害賠償債務を負担させ、しかもその頃会社は事実上倒産し資産なきに至つていることが認められるから右八木にニホン工業の代表取締役としての、控訴人に取締役としての職務の執行につき少なくとも重大な過失の存することは否定できない。〈証拠判断略〉。 
四 そうだとすれば、控訴人に対し、商法二六六条の三に基づき前記損害額金四二七五万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和五二年一〇月一五日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める被控訴人の本件請求はすべて理由がある。


★旅費交通費関係等
要旨
  神戸地裁尼崎支部
H20.2.28 
判時2027
p75〜
  出張旅費を不正受給したとして懲戒解雇された元従業員の会社に対する懲戒解雇処分の無効確認及び退職金の支払請求が棄却され、会社の右元従業員に対する出張旅費の不当利得返還、解雇後の会社の名誉等を毀損する文書の送付行為を違法とする損害賠償及び会社内部資料返還の各請求が認容された事例 
  判断 そもそも出張旅費とは、従業員が実際に業務上の出張を行うことに伴って発生する費用は会社が負担すべきものであることから、従業員に対して事前又は事後に支給されるものであり、出張旅費請求の内容に沿った出張事実が存在しないにもかかわらず、当該出張旅費請求の内容に基づく出張旅費を受給することは、法律上の原因がないものというべきである。
  福井地裁H18.12.27
判時1966
p40〜  
  県職員のカラ出張について、県知事に指揮監督上の義務違反があったとして、その損害賠償責任が認められた事例
  判断 県の調査委員は、平成6年度から平成9年12月までの事務処理上不適切な支出が21億6203万1155円と認定し、そのうち不適正な支出であると指摘された4億6396万393円については職員らが県へ返還したが、本判決は、平成9年4月から同年12月までのいわゆる「カラ出張」に係る旅費の支出は、総額2億5836万5093円であると認定。
本件の「カラ出張」は、全庁的に長年いわたって行われた構造的組織的な不正支出。
Yが平成9年初めころに全庁的な調査を命じれいれば、同年8月17日から同年12月までの旅費の不正支出を防止することができた。
それにもかかわらず、平成9年12月まで県職員の旅費の支出の実情の調査を命ずることなく、各部局に対して、厳正かつ効率的な予算執行に努めるよう指示したにとどまる。

Yには、専決権者が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、過失により専決権者の財務会計上の違法行為を阻止することなく、自ら財務会計上の違法行為を行ったと評価できる。

県に対して損害賠償責任を負う。

Yに対して、県に対して1億983万907円の支払を求める限度で、本訴請求を認容。
  解説 最高裁H5.2.16:
長が、財務会計上の行為を職員に委任した場合、右職員が財務会計上の違法行為を阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときには、地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負う。 
最高裁H3.12.20:
地方公営企業の監理者の権限に属する財務会計上の行為を補助職員が専決により処理した場合は、管理者は、右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し故意又は過失により右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負う。
  【判例番号】 L05330567
損害賠償請求(甲事件)、損害賠償等請求(乙事件)事件
【事件番号】 東京地方裁判所判決/平成8年(ワ)第2064号、平成8年(ワ)第17347号
【判決日付】 平成10年12月25日
【掲載誌】  労働判例759号52頁
要旨 【判示事項】
1 賃金の騙取の不法行為が成立するためには、被用者に実際に労務を提供していないにもかかわらず労務を提供しているように装う欺罔行為がなければならず、ある期間の賃金をすべて騙取したというためには、当該期間中右欺罔行為が継続していることが必要であるとされた例

2 仮に懲戒解雇事由があったとしても、実際に解雇していない以上、雇用契約は終了せず、その後被用者が労務を提供すれば、使用者は賃金を支払う義務があり、支払った賃金等の全額を被用者が騙取したとは認められないとされた例

3 営業課長が、複数起票した受注納品伝票の中にいくつか架空のものがあったことは、同人が労務を提供していなかったことを推測させる重要な事実とはなり得るものの、その事実のみで足りるものではなく、同人の職務全般についての検討が必要であるとして、同人が労務を提供していると見せかけて会社を誤信させ、賃金等を騙取したとは認められないとされた例

4 営業職についての労務提供の有無の判断の対象が営業成績、すなわち粗利獲得金額のみであるとする会社側主張が、就業規則等の具体的根拠が明確ではないとして退けられた例

5 右課長が虚偽の売上事実を申告したため会社が過分に納税したとは認められず、また同人による架空の受注納品伝票の起票等の調査をしたため、会社の信用が失墜したとは認められないとされた例

6 右課長が、雇用契約上会社に売上を上げて利益をもたらす義務、給与の5倍の粗利を会社にもたらす義務を負うとは認められないとして、同人の債務不履行責任が否定された例

7 右課長の1年半以上にわたる労務の提供をすべて否定し、詐欺(賃金等の騙取)という犯罪行為ともなる行為があったと主張して損害賠償等を求める会社の訴えの提起は、著しく相当性を欠き違法であり、同人に対する不法行為に当たるとして、慰謝料20万円の支払いが命じられた例
    【判例番号】 L05931554
損害賠償請求事件
【事件番号】 東京地方裁判所判決/平成14年(ワ)第12563号
【判決日付】 平成16年3月31日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載
  要旨 【判示事項】
X1会社及びX2会社が,両社の元代表取締役であった被告に対し,在任中に善管注意義務等に違反する行為があったとして損害賠償を求めた事案で,被告は自己の利益を図る目的で,X1会社に必要のない不動産(旧自宅)を買取らせた行為は,取締役としての善管注意義務等に違反し,商法266条1項5号に基づき損害賠償責任が成立するが,旧自宅買取に関する損害賠償請求権は時効により消滅しているため,X1会社の被告に対する請求は理由がない。被告がX2会社から架空の出張費名下に受領した金員についてはXらの業務との関連性は認められないとして同金員の受領は商法266条1項5号に基づき損害賠償する義務があるとした事例
  ★    【判例番号】 L06133970
地位確認等請求
【事件番号】 東京地方裁判所判決/平成17年(ワ)第15095号
【判決日付】 平成18年9月29日
【掲載誌】  労働判例930号56頁
       LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 労働法学研究会報58巻18号26頁
  要旨 【判示事項】
(1) 年俸制の営業部部長に対する退職勧奨後の給与減額が無効とされ,その後の解雇も解雇権濫用に当たるとされた例

(2) 使用者の人事権は労働契約によって労働者から付託された相当の裁量権の範囲内で行使され,濫用にわたるものは許されないし,契約更改時の賃金決定に際しても新たな労働契約の条件として労使間で合意が交わされることが予定されているものというべきとされた例

(3) 退職勧奨後に部長から係長に降格し,給与を半額に減額した措置は,当人の同意がなく,その経緯からみても合理性,必要性が基礎づけられず,人事権濫用に当たるとされた例

(4) 原告労働者が架空の経費請求を繰り返したと推認するには足りず,部下に領収証を作成させたとしても,不正行為とされる対象は,業務遂行上の経費として内規で認められた範疇の金銭であり,架空請求しているわけではないことなどからすると,参加メンバーの申告に関する不正があったとしても,解雇に相当性があると評価できるか疑問であるとして,経費の不正請求を主たる理由とする解雇が解雇権濫用に当たるとされた例

(5) 使用者の一連の行為に対する慰謝料請求について,人件費削減のための退職勧奨であったことや交渉の経緯等からみて不当とはいえず,差額賃金等の支給による救済を得られるのであるから,不法行為を構成するほど悪質とはいえないとして棄却された例

(6) 原告労働者の給与は年俸制であり,賞与は被告の査定評価を経ることなく確定金額として毎年の労働条件更改時に成立しているものと考えられ,他にインセンティブ・ボーナスが支給されている実態にあることからすると,減額賃金差額請求である毎月の差額分のほかに年2回の賞与分も原告の労務の提供があれば同人の年収として支給が保障されて然るべきであるとされ,減額前の年俸額1500万円を基準とした解雇までの差額賃金の支払い,および本判決確定までの毎月18分の1相当額,年2回各18分の3相当額の支払いが命じられた例
  ★    【判例番号】 L06450024
損害賠償請求(差戻)事件
【事件番号】 佐賀地方裁判所判決/平成17年(行ウ)第7号
【判決日付】 平成21年1月30日
【参照条文】 地方自治法(平14法4号改正前)242の2−1
【掲載誌】  判例タイムズ1318号131頁
LLI/DB 判例秘書登載
  要旨 【判示事項】
本件の事実関係の下では,当時の県知事には,「ゼロ精算」目的で行われた複写機使用料名下の不正支出(いわゆる裏金の創出)について具体的な予見可能性があり,指揮監督上の義務として,不正支出の有無を調査すべき義務があり,調査していれば不正支出を防げたにもかかわらず,これを怠ったとして,当時の県知事の県に対する損害賠償責任が認められた事例

★ 移送関係
  判時1052
東京高裁S57.7.2
  
事案 宗教法人甲の管長らが、丙ら11名に対し、僧侶の地位を剥奪する処分。
丙らは、右処分は無効であるとし、甲を被告として丙らが甲の教師資格を有する僧侶の地位にあることの確認を求める請求(前請求)と、丙ら11名のうち丙を含む10名が右処分緒無効を前提として、甲の末寺である乙その他の10宗教法人に対し、丙ら10名のその役員たる地位にあることの確認を求める請求(後請求)を併合して共同訴訟としてA裁判所(静岡地裁)に提起。
乙その他10宗教法人は、丙ら10名を被告とし、前記処分によって丙らは当該宗教法人の役員たる地位を失ったにもかかわらず右末寺の所有建物を権原なく占有している⇒建物の明け渡し請求訴訟を、それぞれの普通裁判籍がある管轄裁判所に提起。
A裁判所は、著しい損害及び遅滞を避ける必要があるとして、後請求をそれぞれ前記明渡訴訟の係属する各裁判所に移送する決定。

丙は即時抗告。 
  判断 (1)A裁判所で丙が共同訴訟を提起した前請求と後請求を併合審理すると、地位剥奪処分の効力につき、審理の重複と判断の抵触を避けられる。
(2)
@後請求はそれだけをとってみれば本来A裁判所の管轄に属しない。
A後請求を移送することにより損害及び遅滞が避けられる。
BB裁判所に係属している明渡訴訟との間の審理の重複と判断抵触が避けられる。

多に当事者及び裁判所にとって不都合・不合理な結果を招来すると考えられる特段の事情が認められない⇒後請求につき裁量移送する必要があると認められる。
⇒原決定を相当であるとし、抗告を棄却。 

★意思能力関係  
判時2192
民事p92
京都地裁H25.4.11

 
  認知症の高齢者による会社の発行済みの全株式を含む数億円の全財産を会社の一時期の顧問弁護士に遺贈する内容の秘密証書遺言、自筆証書遺言が意思能力を欠くとして無効とされた事例 
事案 Xは、Aの妹の養女であり、代襲相続人(姪)であるが、本件遺言時にAの遺言能力がなかったこと、本件遺言が公序良俗に反する等と主張し、Yに対して本件遺言の無効確認を請求し、E(遺言執行者)がYに補助参加したもの。 
判断 ●遺言能力の相対性について
民法は,近代法の大原則とされる「私的自治」を採用し,個人が自分の意思により(単独の意思表示又は相手方との合致した意思表示−契約により),法律関係の発生・変更・消滅を具体的に規律することを認めるものであるが,それは,あくまで,正常な意思活動に基づく行動(意思表示)がされたことを前提とする。
   認知障害を負う者は,私的自治の理念に適った行動ができないのであるから,その者の財産が私的自治の名の下に散逸してしまう危険まで民法が容認しているとは到底解されないからである。
   したがって,民法には明示的な規定を欠くものの,意思表示がその本来の効果(表示された意思のとおりに法律関係が発生・変更・消滅するとの効果)を生ずるためには,その意思表示がもたらす結果を正しく理解する精神能力を有する者によってされる必要があり,その精神能力を欠く者がした意思表示は無効であると解されている。   
すなわち,20歳以上の者であれば誰でも有効に契約を締結することができるわけではないし,15歳以上の者であれば誰でも有効に遺言ができるわけではない。意思表示を有効に行うための精神能力は「意思能力」と呼ばれ,遺言を行うのに要求される精神能力は特に「遺言能力」とも呼ばれる。   
意思表示が,どの程度の精神能力がある者によってされなければならないかは,当然のことながら,画一的に決めることはできず,意思表示の種別や内容によって異ならざるをえない(意思能力の相対性)。
単純な権利変動しかもたらさない意思表示の場合(日常の買い物など),小学校高学年程度の精神能力がある者が行えば有効であろうが,複雑あるいは重大な権利変動をもたらす意思表示の場合,当該意思表示がもたらす利害得失を理解するのにもう少し高度な精神能力が要求されるから,小学校高学年程度の精神能力しかない者が行った場合,意思能力の欠如を理由に意思表示が無効とされることが多いものと思われる。
●公証人への申述(平成17年10月3日)当時の遺言能力について
(1) 前記第3の4に認定の事実(西陣病院入院時のA1の状態),第3の6に認定の事実(2回目の京都第一赤十字病院入院時のA1の状況),前記第4の3に認定の事実(在宅介護の指示書の内容)に加え,前記第5の医学的知見を総合すれば,本件遺言書が自己の遺言書である旨を青野公証人に申述した平成17年10月3日の時点までに,A1には,認知症の中核的な症状が非常に顕著に現れていたことが明らかである。
医療従事者や在宅介護従事者によって観察されたA1の認知症の症状に照らせば,A1には,小学校高学年の児童程度の精神能力があったとも到底考えられない
(2) 実際にも,秘密証書遺言手続がされた前後2年ほど(平成17年2月18日から平成18年12月25日)までの間,A1の預金が6000万円以上も払戻しがされているのに,その事実に関するA1の態度(被告,V1,訴外会社の人間に預金の状況を尋ねた,あるいは定期的に報告させていた,あるいは預金が大きく減少した理由を問い質した等)がどの証拠からも伝わって来ないことは,平成17年10月当時,A1が既に,財産を管理したり費消しようとする精神能力を欠いていたことをうかがわせるところである。
(3) また,A1の認知症の症状は脳の病変に基づくものであるから,自分の立場,自分の置かれた状況,自分と周囲の者との関係性が正常に理解できないといったA1の精神状態(医療従事者や在宅介護従事者が観察していたA1の状態)は,落ち着いているように見える場合であっても変わりはないと考えざるをえない。
(4) したがって,仮に,秘密遺言証書封紙に自署し,本件遺言書が自己の遺言書である旨並びに自己の氏名及び住所を述べることができたとしても,平成17年10月3日当時,A1に遺言能力がなかったものと認めるのが相当であり,本件遺言書は,秘密証書遺言としては無効である。
判断
(要約)
Aの人間関係、状態の変化、AとYのかかわり、本件遺言書の作成、Dとの話し合い、Aの預金口座からの多額の払戻し、秘密遺言証書封紙の作成、遺産の額、Aの心身の状態、認知症等に関する医学的知見等の経緯を認定した上、意思表示が本来の効果を生ずるためには、その意思表示がもたらす結果を正しく理解する精神能力が必要であり、どの程度の精神能力が必要であるかは、画一的に決めることはできず、意思表示の種別や内容によって異なるとし、公証人への申述当時においては、Aに認知症の中核的な症状が非常に顕著に顕れていたことが明らかであるとし、遺言能力がなかった。
⇒本件遺言所は秘密証書遺言としては無効。 
本件遺言作成当時においては、初期認知症の段階にあり、本件遺言が文面こそ単純であるものの、数億円の財産を無償で他人に移転させるものであり、本件遺言がもたらす結果が重大であること、Cの経営にもたらす影響がかなり複雑であること、本件遺言内容がAの生活歴からしていかにも奇異なこと等の事情を指摘し、本件遺言がもたらす結果を理解する遺言能力に欠けていた
⇒自筆証書遺言としても無効。
解説 会社の元経営者で、認知症の症状が出ていた高齢者が会社の全株式を含む多額の財産の全てを特定の者(会社の顧問弁護士)に遺贈する内容の本件遺言の効力が争われた事案について、遺言能力を含む意思能力を相対的に判断すべきであり、本件遺言の内容に照らし、本件遺言のような遺言を有効に行うためには、ある程度の(重大な結果に見合う程度)の精神能力が必要であるとの見解の下、高齢者の症状、人間関係、本件遺言の内容、作成の経緯等を考慮し、秘密証書遺言の作成時においても、自筆証書遺言の作成時においても意思能力(遺言能力)を欠き、無効と判断した。

従来の裁判例の動向に沿ったもの。 


★公序良俗(意思能力)関係
  判時2073
大阪高裁H21.8.25

  
主張 ●被控訴人の主張
@ 前記のとおり、本件売買は、その価格が著しく低廉であり、かつ、控訴人が短期間に巨額の転売利益を得るという、暴利行為である。
また、控訴人は、仲介業者(の従業員)と通謀して、被控訴人が事理弁識能力が著しく低いことにつけ込み、かつ、家族、保佐人など被控訴人の権利と利益を保護する者がいないことに乗じて、本件売買契約を締結している。
A 以上を総合すれば、本件売買は、公序良俗に反して、無効というべきである。
●控訴人の主張
@ 本件売買が暴利行為に該当しないこと、被控訴人が意思無能力でないことは、前記のとおりである。
なお、本件土地の転売価格からする粗利益率は、全国の平均をむしろ下回るものであって、控訴人が暴利を得たということはない。
A 本件では、被控訴人の判断能力の低下に乗じる行為はない。
本件売買には、それに先行する二つの土地の売買と一連のものである。いずれも、収益が上がらず、かつ売却困難というものであった。そして、被控訴人は、先行する二つの売買の効力は争っていない。このことからも、被控訴人の判断能力の低下に乗じる行為がなかったことが裏付けられる。
また、被控訴人は、極めて自尊心の強い人物である。判断能力の低下につけ込まれて、他人の言いなりになるようなことはない。
  判断 前記一に判示した前提事実を総合すれば、被控訴人は、本件売買契約当時、平成一五年ないし一七年ころに発症したとみられる認知症と妹の死をきっかけとする長期間の不安状態のために事理弁識能力が著しく低下しており、かつ、被控訴人に受容的な態度を取る他人から言われるがままに、自己に有利不利を問わず、迎合的に行動する傾向があり、周囲から孤立しがちな生活状況の中で、戊田らから親切にされ、同人らに迎合的な対応をする状態にあったこと、

戊田らは、これらのことを知悉して十分に利用しながら、被控訴人を本件売買締結に誘い込んだこと、

控訴人代表者は、被控訴人がそのような事理弁識能力に限界がある状態であったことを、本件売買契約が行われた際の被控訴人の風体、様子から目の前で確認して認識していたと推認することができる。
その上、控訴人は、昭和六〇年に設立され、以来数え切れないほどの物件を手がけた不動産業を営む会社であり、戊田は、控訴人の従業員でこそないものの、控訴人と仕事上の関係が一五年以上あって本件土地の売買話しを持ち込んできたので、控訴人代表者は、本件土地をすぐに転売する目的で購入することとし、坪当たりで、その更地価格を七〇万円ないし八〇万円と見立てた上で、本件売買直後の転売価格を二〇万円ないし二五万円と目論み、その二分の一以下に相当する本件売買における坪単価一〇万円も戊田の言い値をそのまま採用し、本件土地に係る借地権の内容も戊田から説明を受け、自分では同社に直接確認しなかったことも明らかにされている。これらの事実に鑑みれば、戊田は、控訴人と極めて密接な関係にあり、少なくともこと本件土地の売買に関する限り戊田を実質的に控訴人の被用者として活用していたということができ、控訴人代表者は、被控訴人に関する事実について、戊田から逐一報告を受け、戊田と全く同一の認識を有していたと推認することもできる
また、本件土地の収益性、被控訴人の客観的な経済状態(賃料収入、年金収入及び本件売買に先立つ土地の売却金)からは、被控訴人にとって本件売買をする必要性・合理性は全くなかっただけでなく、それは、客観的に適正に鑑定された本件土地の価格の六割にも満たない売買価格の点で、被控訴人に一方的に不利なものであったこと、長年にわたり不動産業を営む控訴人代表者は、それらのことを十分に認識し尽くし、上記のとおりただちに転売して確実に大きな差益を獲得することができると踏んだ上で本件売買を締結したと推認することもできる(なお、控訴人は、丙山自動車に賃料の滞納があったことを理由に、収益性が期待できなかったから、被控訴人がそれほど高い価格によらなくても本件土地を売却することは不合理でなかったと主張する。仮に、売買しようとする土地の借地権者が賃料の滞納を続けている事実があるとすれば、地主が債務不履行により賃貸借を解除する機会があることにつながり、土地を買おうとする側から見れば、巨額の借地権価格相当分を労せずして得る可能性があることを示すため、売買時の交渉において、抽象的には、売買代金を引き上げるベき理由にこそなれ、代金を低い水準に抑制すべき理由とはなり得ないのであるから、そもそも、この主張は失当というべきである。)。
このような事情を総合考慮すれば、本件売買は、被控訴人の判断能力の低い状態に乗じてなされた、被控訴人にとって客観的な必要性の全くない(むしろ被控訴人に不利かつ有害な)取引といえるから、公序良俗に反し無効であるというべきである。
●  なお、控訴人は、本件売買には、先行する二つの土地売買があり、被控訴人がそれらの効力を争っていないことからも、控訴人が被控訴人の判断能力の低下に乗じたとはいえないと主張する。
 しかしながら、先行売買が無効であるかどうかと本件売買が無効であるかどうかは、元来独立した別個の問題であることは自明であるし、何よりも、先行売買の結果、本件売買直前には被控訴人の預金口座に一億円を超える預金があったため、客観的に被控訴人に本件売買の必要性がなかったことは明らかであり、前記のとおり、戊田から被控訴人に関する事実を逐一報告を受けていたと推認される控訴人は、被控訴人の判断能力の低さに乗じて本件売買を締結したと言われてもやむを得ないから、控訴人の主張は理由がない。
  神戸地裁尼崎支部
H22.1.21 
事案   甲事件は,別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の所有者である原告が,平成18年11月19日,被告Y1との間で,代金1億0500万円で同土地の売買契約を締結したが,その当時,原告は統合失調症により意思無能力者であったから同売買契約は無効であるとして,同被告に対し,所有権に基づき,別紙登記目録1記載の所有権移転登記の抹消登記手続を求めるとともに,同被告から本件土地を買い受けた被告Y2に対しても,所有権に基づき,同目録記載2の所有権移転登記の抹消登記手続を求めた事案である。なお,被告Y1は,前記売買契約当時,有限会社であったが,平成18年12月21日,商号を株式会社Y1に変更した。   
乙事件は,被告Y3と被告Y4が共謀して,原告が統合失調症により意思無能力であることを利用して本件土地を被告Y1に代金1億0500万円で売却させ,その代金を不正に取得したとして,同被告ら2名に対し,不法行為(民法709条,719条1項)に基づき,同額の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求め,かつ,被告Y3が,原告の生命保険契約を解約させ,その解約返戻金を被告銀行芦屋駅前支店に新たに開設させた原告名義の預金口座に振り込ませた上,原告に成年後見が開始された後,原告にこれを引き出させて不正に取得したとして,同被告に対し,不法行為(民法709条)に基づき,同額の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるとともに,被告銀行に対しては,前記預金口座からの預金引き出し行為を,原告成年後見人が意思無能力を理由に取り消したとして,同預金の支払及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
  判断 ●争点(1)「本件売買契約締結当時,原告は意思無能力であったか」について
以上のところから,本件売買契約は有効と認められるから,原告の意思無能力を理由とする原告の被告Y1及び被告Y2に対する各請求は,いずれも理由がないといわざるを得ない。
●争点(5)「被告Y3らに不法行為が成立するか」について
 (2) 以上のアからチの事実経緯からすれば,被告Y3は,原告に対し,×××において衣料品を「つけ」で売却していたところ,原告が自宅放火事件を起こし,成年後見申立てがされたことを知り,Fの原告に対する未払売買代金回収を契機として,統合失調症によりEに対する被害妄想から抜けきれないでいた当時の原告の精神状態につけいって同被告や被告Y4を信用するように申し向け,成年後見人が選任された後では原告の財産を自由に処分することが困難になることから,原告に本件土地の売却処分を急がせて被告Y1に売却させ,原告のために管理することを口実として原告や成年後見人に売買代金を引き渡さずに不正に取得し,また同様に,成年後見人に知られないよう新しく本件口座を原告に開設させ,生命保険契約を解約させて解約返戻金を同口座に振り込ませ,これを自ら引き出し,あるいは原告に払戻しをさせた上で,原告や伊賀後見人に引き渡さず,これを不正に取得したものであると認められる。
    
また,前記ツについても,その時期が,原告が被告Y3と知り合って間もなく行われているところから推測して,同被告の影響下に行われたものである可能性が否定できないというべきである。
    
そして,被告Y3の実父であり,同被告とFの共同経営者として,原告とも接触のあった被告Y4も,当然,この間の事情及び被告Y3の前記各行為を知っていたものと認めるのが相当である。  
(3) そうすると,被告Y3は,本件売買契約に関して原告が被った損害につき,不法行為に基づく賠償責任を免れないというべきである。また,被告Y4もこのことについての共同不法行為責任を負うことはいうまでもないところである。さらに,被告Y3は,本件各払戻金について原告が被った損害についても不法行為責任を免れない。