シンプラル法律事務所
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真の再生のために(個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP−トップ |
T 公法 | |||||
(1) 統治構造 | |||||
◆ 1 |
◆違憲立法審査制の成立 | ||||
解説 | 司法審査について明文の規定を欠く合衆国憲法に関し、第4第合衆国最高裁判所主席裁判官マーシャルが、合衆国憲法と連邦議会の制定法が抵触する場合には後者が無効であり、その判断に際し、司法権に合衆国憲法の解釈権があると宣言した画期的な事件。 | ||||
◆ 2 |
◆州立法に対する連邦最高裁の司法審査 | ||||
解説 | 1事件⇒連邦法に対する連邦司法部による違憲審査が確立。 それでは州法についてはどうか? |
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本件は、そのことを前提として、連邦最高裁が実際に週立法を連邦憲法に基づいて明示的に違憲無効とした実質的に初めての判決。 | |||||
◆ 3 |
◆州法に対する連邦法の優越 | ||||
解説 | アメリカは連邦国家。 州が基本的にすべての統治権限をもち、連邦政府に憲法に限定列挙された権限を委ねている。 but この限定列挙された権限内で連邦議会が制定した法律は、州法に優越する。 |
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◆ 4 |
◆連邦議会の立法権限 | ||||
事案 | |||||
RFRAが連邦議会によって制定されるに先立って、 合衆国最高裁(最高裁)は、スミス事件(29事件)において、宗教活動に影響を及ぼしているものの、宗教に中立的で、一般的に適用される法律は、やむにやまれぬ政府利益の用語を目的としていなくとも合衆国憲法修正1条に違反しない。 |
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この最高裁判決に対応することを目的に定められたのがRFRA: その内容は、スミス事件での4裁判官の反対意見を参考に、 一般的な適用される法律であったとしても、 @やむにやまれぬ政府利益を促進し Aその利益を促進するために最も制限的ではない手段が用いられていることが証明されない限りは、 個人の宗教活動への相当程度の制約を課すことは許されない。 |
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RFRAは、合衆国のみならず、各州およびローカル地区すべてに適用されるが、その根拠は、修正14条第5節の執行条項。 | |||||
修正14条第1節:いかなる州も、合衆国市民が享受する人権(修正1条が保障する宗教活動の自由を含む)を侵害してはならない。 同条第5節:連邦議会は、適切な立法により、この条文の規定を執行する権限を有するものとする。 ⇒ 連邦議会が、RFRAにより州等の行為を規制することは、「執行条項」によって認められている権限を超えているかどうか? 「執行」は実体的権利への侵害を救済または防止することに限定されるのか、 それともこれを超えて、実体的権利の内容を定めることまで認められるのか? |
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判断 | 連邦議会がRFRAを立法することは「執行条項」において認められている権限を逸脱しており、本件を支配するのは当裁判所の先例でありRFRAではない。 | ||||
解説 | |||||
◆ 5 |
◆議会の議席配分と「一人一票」原則 | ||||
◆ 6 |
◆大統領権限と国際法の効力 | ||||
◆ 7 |
◆大統領の戦時権限 | ||||
(2) 連邦制 | |||||
◆ 19 |
◆連邦裁判所の適用する法(1) | ||||
解説 | 本判決⇒ 連邦裁判所が合衆国憲法、条約、連邦制定法以外に適用する実体法は、 地域法(local law)の分野(不動産の権利関係が典型)では州裁判所の判例が支配するものの、 一般法(general law)ないし一般コモン・ロー(general common law)の分野(商事法が典型)では、州の制定法がない限り、連邦裁判所独自に判例法を形成できることが確立。 but このコモン・ローの考え方は、20事件で全面的に否定され判例変更される。 |
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◆ 20 |
◆連邦裁判所の適用する法(2) | ||||
解説 | 本判決⇒ 連邦裁判所の適用する実体法は、 合衆国憲法、条約、連邦制定法以外には、原則として州の制定法および判例法に限られる。 Swift判決(1842年)(19)で承認された超主権的な一般コモン・ロー(general common law)の存在は全面的に否定された。 |
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◆ 21 |
◆先鋒裁判所の適用する手続法 | ||||
(3) 人権の保護 | |||||
U 刑事法 | |||||
V 裁判過程 | |||||
◆ 67 ● |
◆会社における弁護士・依頼者秘匿特権 Upjohn Co. v. United States |
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控訴審 | 弁護士と、その法的助言に従って会社の方針を決定できる立場にあるコントロールグループの間の通信のみが秘匿特権によって保護されるというコントロールグループテストを採用。 ⇒ 弁護士とコントロールグループ以外との従業員との間の通信に関しては、弁護士・依頼者間の通信とは認められないから、秘匿特権の適用はない。 |
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争点 | 会社の弁護士と、会社のコントロールグループ以外の従業員との間の通信に秘匿特権の適用を認めるか? | ||||
判断 | ● | @弁護士が依頼者に対して十分な法的助言や弁護を行うことは、法の遵守や正義の実現といった公共の利益に資する。 Aこのような助言や弁護は、弁護士が依頼者から全部の情報を得ることによって可能になる。 ⇒ 弁護士と依頼者との間の全面的で率直な通信を保護することが秘匿特権の目的。 |
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● | 秘匿特権は、 @弁護士が専門的な助言をすることを保護するだけでなく、弁護士が法的助言をするために必要な情報を収集することをも保護するためのもの。 A会社関係においては、弁護士が必要とする情報を持っているのは、コントロールグループではなく中級以下の従業員であることも多い。⇒そうした従業員との通信が保護されなければ、弁護士が会社に対して法的助言をするにあたって必要な情報を十分に収集することができなくなる。 ⇒ コントロールグループテストは、秘匿特権の目的を妨げるもの。 |
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コントロールグループテストは、依頼者たる会社の方針を実行に移す非コントロールグループの従業員に対して、全面的で率直な法的助言を伝えることを難しくする。 | |||||
現代の企業が直面する複雑で広範な規制 ⇒会社は個人と異なり、何らかの法的問題が起きたときだけでなく、日常業務において法令を遵守するためにも不断に弁護士に相談する必要。 ⇒コントロールグループテストを採用し、秘匿特権の範囲を狭く解釈することは、会社の弁護士が、依頼者たる会社に対して確実に法令を遵守させるために有益な活動を行うことを制限することにつながる。 |
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コントロールグループテストは、適用される者の範囲が不明確で、弁護士と依頼者が、自分たちの間の議論が保護されるかどうか予見することが困難。 | |||||
⇒ コントロールグループテストを採用せず、秘匿特権の適用範囲はケースバイケースで判断されるべき。 |
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● | 本件会社の従業員と弁護士との間の通信が、 @従業員が、会社の上層部の指示に従って行ったものであること、 A法令遵守や、訴訟の可能性を考慮した法的助言のために必要であったこと、 B会社における従業員の職務の範囲に属する事項に関するものであること、 C法的な目的で行うことが明示されており、従業員もそれを認識していたこと、 D秘密扱いとされていたこと ⇒ 本件の従業員と弁護士の間の通信は秘匿特権によって保護されるべき。 |
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● | 秘匿特権によって開示から保護されるのは通信に限られ、弁護士と通信を行った者が、その前提となる事実について開示することを妨げるものではない。 ⇒ 本件のような通信に秘匿特権を適用しなかったとしても、紛争の相手方にとっては通信自体がなされなかった場合と同じ状況になるに過ぎない。 |
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本件においても、IRSは法務部長や外部の弁護士と通信を行った従業員に対して、本件会社の提供したリストに基づいて、自由に質問をすることができる。 実際にIRSはそのうち25名に対して面接調査を行っている。 |
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● | @従業員と弁護士の間の通信のみならず、 A法務部長が法的助言や訴訟の準備のために作成したメモ等に対してもIRSから提出命令 〜 職務活動の成果の法理(work product doctrine)の適否が問題。 |
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会社:これらの文書は訴訟準備のために弁護士が作成した職務活動の成果(work product)に該当するとして開示を拒む。 判断: @IRSの提出命令に対しても職務活動の成果の法理の適用がある。 A証人の供述に基づくメモは弁護士の思考過程を明らかにする職務活動の成果として、特別な保護が与えられるべき。 |
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⇒ 控訴審判決を破棄し、職務活動の成果の法理についてさらに審理の必要があるとして、控訴裁判所に差し戻した。 |
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◆ 69 |
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W 不法行為法 | |||||
◆ 85 |
注意義務の範囲・相当因果関係 | ||||
事案 | 乗客Aが既に動き始めた列車に乗り込もうとし、プラットフォーム上の駅員がAを後ろから押した⇒Aが抱えていた包み(爆竹)が線路上に落下⇒爆竹が落下で爆発⇒何フィートも離れたプラットフォームの反対側にあったはかりが倒され、Xに当たって傷害⇒XからY会社に損害賠償請求。 | ||||
ニューヨーク州事実審裁判所:陪審の評決に基づき6000ドルの賠償を認める原告勝訴 控訴審裁判所:この結論を維持 Y会社の上訴⇒同州最高裁判所(Court of Appeal)は4対3で原審判決を破棄しXの請求を棄却。 |
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判断 | ● | ●Cardozo裁判官による法廷意見 | |||
被告の行為は、包みの保有者との関係では誤りであったとしても、遠く離れた原告との関係では誤りではなく、原告との相対的な関係での過失は全くなかった。 この状況では、包みがこのように離れた人に危害を加える可能性を示すものはなかった。 |
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法的に保護された権利の侵害、すなわち権利侵害がない限り、過失による訴えを提起することはできない。 | |||||
「過失とは、その状況における注意の欠如をいう。 原告は、身体の安全への故意の侵害に対しては保護を請求できるかもしれない。 合理人にとっては故意の侵害をもたらす不当な危険を内包する行為による侵害に対して、それが故意でなかったとしても、保護を請求できるかもしれない。 法の観点からは、いくつかのまれな例外を除き、これらが彼女の保護の限界。 |
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通常の観察者の目から明らかな危険がないのであれば、原告に対する関係で少なくとも外観上無害な行為は、明らかに身体への危険を内包してはいないものの他の者に対する関係でたまたま誤りであったという理由で、不法行為と性質決定されることはない。 | |||||
原告が示す必要があるのは、彼女に対する「不法(a wrong)」すなわち彼女自身の権利の侵害であり、単に他の誰かに対する不法でもなければ、反社会的ゆえに「不法な(wrongful)」ものであるかが誰に対しても「不法」とはならない行為でもない。 | |||||
合理的に認識されるべき危険(risk)が遵守されるべき義務を規定するのであり、危険は関連性を内包する。危険とは、認知の範囲内での他者に対する危険である。 | |||||
もちろん、このことは、破壊的な力を用いた者が、予期せぬ経過をたどった場合に常に免責されることを意味しない。 「通常の思慮深い目から事故の可能性が明らかな場合には、被告が事故を起こす特定の方式を認識していたことは必要でない」 |
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危険と同様、過失は関係性を表す用語である。 身体の安全は、すべての形式の脅威や攻撃に対して保護されるのではなく、その一部に対してのみである。 法の救済を求める者は、自身に対する損害の存在の立証のみで訴えの要件をみたすことはできない。加害が意図的でない場合は、意図的でないにもかかわらずその行為に対して保護されることを正当化しうるよう、その行為が原告にとって多くの明確な危険の可能性を有することを示さなければならない。 |
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。 |
近接性(remote or proximate)に関する因果関係の法は、本件では無関係。 責任の問題は、常に、責任に伴う結果の評価の問題に先行する。 第帝はしないが、概括的ないし抽象的な過失ではなく、その原告に対する関係でも過失があれば、いかに奇妙で異常な結果であってもすべての結果に対する責任が発生する。 |
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解説 | ● | 過失不法行為の成立には、過失・損害・因果関係(事実的因果関係および近因)の各要件の充足が必要。 過失と因果関係の判断事項をどのように区別するか? |
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● | A:過失を現実に発生した特定人の特定の損害との関係でのみ捉える理解(法定意見)はアメリカでは有力であり、本判決の後、不法行為法理ステイトメントにも採用された。 ⇒ どの被害者が賠償請求をなしうるかを含む賠償範囲の画定は、すべて過失判断(特に予見可能性)の中で行われることになり、 予見不可能な原告は原則として賠償請求をなしえない。 〜 平井の不法行為理論の基礎。 |
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B:過失を相対的に捉える見解への異論: @過失は一般的行為義務違反として定式化され現実の損害との関連性は要求されない一方、 A賠償範囲の画定は近因(法定因果関係)の問題として過失と別に判断される。 〜 大陸法系諸国ではこのような理解が一般的。 |
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● | 以上は単なる法律構成の問題ではない。 | ||||
過失⇒法律問題⇒裁判官が判断 近因⇒事実問題⇒陪審 |
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過失と近因では判断内容が異なる。 いずれの判断でも伝統的には予見可能性が重視される。 but 実際には 過失判断⇒種々の類型的・政策的考慮を含む結果回避義務違反の判断。 近因の判断⇒複合的な考慮がなされうる。 |
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◆ 91 |
◆損害賠償の認定と陪審の権限 | ||||
上訴理由 | @Linke(被害者1の主治医)の数値の幅は、将来の経済成長と利率がそれぞれ異なる想定によるものだが、陪審に現在の現金評価の計算を示す場合には、中立的な数値を用いるべきところ不適切である。 ALinkeが示した上限額を超えて陪審により認められている将来の医療費は、証拠による根拠がなく、その他の名目の損害賠償金も過大である BMcGregor(被害者2)に対して陪審が裁定した損害賠償金は過大である。 |
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判断 | ● | ●上訴理由@について | |||
● | ●上訴理由Aについて | ||||
● | ●上訴理由Bについて | ||||
解説 | 英米法域では、第一審(trial)においてのみ事実認定 上級審では、下級審における事実認定を前提に法適用の誤りが審査の対象。 |
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第一審が陪審による場合も同様であり、 被告の責任の有無のみならず、とりわけ不法行為訴訟においては、損害賠償金の裁定も陪審による。 |
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◆ 92 |
◆懲罰賠償とデュープロセス | ||||
判断 | 当裁判所が長きにわたって明らかにしてきたのは、 「違法な行為を処罰し、その再発を抑止するという州の合法的な利益を促進すべく懲罰賠償を適切に課すことができる」こと。 but 同時に、 陪審の裁量的権限を制御する適切な基準を州が要求しない限りは、懲罰賠償が被告から「州が課しうる制裁の過酷さに関する・・・公正な告知」を奪う可能性があり、賠償額が十分に大きな場合には、ある州(または陪審)の「政策上の選択」を「近隣の州」に押し付ける可能性もでてくる。 |
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⇒ 当裁判所は、懲罰賠償を課す手続面とともに、「過大」であるとして禁止される賠償額という実体面についても、憲法上の一定の制限がある。 Honda Motor Co. v. Oberg(1994):懲罰賠償額は裁判官による審査に服する Cooper Industries, Inc. v. Leatherman Tool Group, Inc.(2001):審査は副審的 |
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◆ 93 |
◆契約の成立 | ||||
◆ 94 |
◆約因の法理(1) | ||||
◆ 95 |
◆約因の法理(2) | ||||
Z ビジネス法 | |||||
◆118 ● |
◆取締役の義務・・・注意義務と経営判断原則 | ||||
Smith v. Van Gorkom 488 A.2d 858(Del.1985) | |||||
事案 | 多額の投資控除に見合う課税所得を挙げることが困難な状況⇒Trans Union社は、退任間近であったCEOのVan Gorkomを通じて、企業買収かPritzkerとの間で自社の買収交渉⇒Trans Union社の取締役会は、2時間にわたる検討の末、Pritzkerとの合併契約の締結を承認。 | ||||
Trans Union社の大半の取締役は、Pritzkerとの合併契約の承認が同日の取締役会の議題であることを事前に知らされておらず、主にVan
Gorkomの口頭での20分間の説明に基づいて本件合併契約を承認。 投資銀行などの外部の専門家によって合併対価の公正さに関する意見が示されることはなかった。 |
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Pritzerとの合併契約では、合併対価としてTrans Union社の株式1株あたり55ドルの現金が支払われることとされていたが、この買収価格(当時のTrans
Union社の株価に約50%のプレミアムを上乗せした価格)は、Van GorkomからPritzkerに対して提案されたもので、Trans Union社の企業価値に基づいて算出された金額というわけではなく、LBO(買収者が買収対象会社の資産を担保に買収資金を借り入れる買収手法)の実現可能性という観点のみに基づいて算出された金額。 合併契約では、Trans Union社は契約の締結後90日間は競合する買収提案を受け入れることができる(ただし同社から積極的に買収の勧誘をすることはできない)ことや、取引保護条項として、PritzerがLBOのための融資を受けられることを条件に、Trans Union社の株式100万株を1株あたり38ドルで取得するオプションがPritzkerに与えられることなどが定められた。 Trans Union社の取締役会は、本件の合併契約が締結されても90日間は競合する買収提案を受け入れることができることから、マーケット・テストを通じて、Pritzkerが提案した買収価格の妥当性を確認できると考えていた。 |
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以上を内容とする本件合併契約は、1981年2月10日に開かれたTrans Union社の株主総会で、発行済株式の69.9%の賛成をもって承認された(反対派7.25%)。 | |||||
Trans Union社の株主は、信認義務違反を理由に同社の取締役に対して損害賠償を求めるクラス・アクションを提起。 | |||||
判断 | Pritzkerによる現金を対価とした合併の申込みに応じて、会社を一株あたり55ドルで売却することを決めた1980年9月20日の取締役会の経営判断は、十分に情報を得た上でなされたものではない・・・・取締役は、Van Gorkomが会社の売却を推し進め、一株あたりの買収価格を算定するにあたって果たした役割につき十分な情報を得ておらず、また、会社の真の経済的価値について情報を得ていなかった。・・・取締役が、危機による緊急事態や非常事態でないにもかかわらず、事前に通知を受けることなく、2時間の検討基づいて会社を売却することを承認した点において、少なくとも重過失が認められる。 | ||||
企業価値に関する他の適切な情報がない中で、プレミアムの存在だけでは、提案された買収価格の公正さを評価するための十分な根拠とはならない。 取締役は、記録をみる限り、マーケット・テストが実現できると期待する相当な根拠を何ら有していなかったと言わざるを得ない。 |
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⇒Trans Union社の取締役には株主に対する信認義務違反が認められる ⇒取締役の責任を否定した衡平法裁判所の判決を破棄して、株主が被った損害の額を算定するために必要となる同社の株式の公正な価格を算定するために、衡平法裁判所に差し戻した。 ⇒ 差戻し後衡平法裁判所において、取締役から株主に合計2350万ドルを支払うことで最終的に和解が成立。 |
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解説 | ● | 経営判断原則: 特定の例外事由に該当しない限り、取締役の経営判断は、裁判所や株主によって争われたり覆されたりすることはなく、取締役は、たとえ明らかに誤りであったと思われる判断であっても、経営判断の結果に対して責任を問われることはないという内容の審査基準。 |
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経営判断の内容に対する審査: 経営判断原則の4つの条件( @取締役は経営判断をしなければならない、 A取締役は、経営判断にあたり、当該状況の下で、適当であると合理的に信じるに足る程度の情報を得ていなければならない、 B経営判断は誠実になされなければならない、 C取締役は経営判断の対象に経済的な利害関係を有してはならない )が満たされることを前提に、相当性(rationality)を基準とした審査が行われる。 |
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経営判断の過程に対する審査: 上位4つの条件(特にAの条件)が満たされるか否かを判断する中で審査され、そこでは重過失(gross negligence)の有無が基準となる。 この意味での重過失が認められるためには無謀(recklessness)とも評価できるような取締役の注意義務に対する無頓着または無関心が要求される。 |
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● | 文言上は、経営判断の過程における重過失の有無を問題とした。 but 事案を詳細に検討すれば、Trans Union社の取締役に、経営判断の場面において従来基準とされてきたような内容の重過失が認められるとは考えにくい。 ← @Trans Union社の取締役に不適切な動機が存在したとは認められない A彼らは十分な経営判断能力を有していた B取引に経済的な合理性が認められる C短時間で結論を出したのは買収者の求めに応じたため D株主に支払われたプレミアムが高額 E株主の圧倒的多数の賛成を得ている |
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● | デラウェア州では、1986年に立法府によって、デラウェア一般会社法102条(b)項(7)号が制定。 〜 株主の同意を得て会社の定款に定めることを設けることを条件に、取締役が信認義務に違反することによって会社または株主に対して負う損害賠償責任を、一定の適用除外事由に該当しない限りは、事前に免除することを認めるもの。 ⇒ 今日のデラウェア州の大半の会社で導入。 ⇒ 今日では、会社の損害に基づく株主代表訴訟であれ、株主の損害に基づく株主による直接訴訟であれ、株主が注意義務違反を理由に取締役に対して損害賠償責任を追及する場合には、当該訴えは、被告である取締役の申立てに応じて、事実審理に移行することなく裁判所によって却下。 ⇒ 今日では、取締役の行為の差止めが問題となる場面はさておき、取締役の責任が問題となる場面では、本判決の法理に基づく判断が示される余地は著しく限定。 |
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◆119 ● |
◆取締役の義務・・・敵対的買収に対する防衛策(1) | ||||
Unocal Corp. v. mesa Petroleum Co. 493 a.2d 946(Del.1985) | |||||
事案 | Unocal の約13%の株式を保有するMesaは、約37%の株式について1株あたり54ドルの価格で公開買付を開始。 Mesaは、公開付け完了後、UnocalをMesaの関連会社と合併させて、54ドルを大きく下回る価値しかないジャンク・ボンドなどの証券を対価として残存株主の追い出しを行う「2段階買収」を予定。 |
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Unocal の取締役会は、上記買収に対する防衛手段として、Mesaを除く株主を対象として、Mesaの申出価格よりも高値(1株あたり72ドル)で自己株式の49%を取得する公開買付けを行うことを決議し、開始。 | |||||
Mesaは、Unocalによる自己株式公開買付けの効力を争う訴訟をデラウェア衡平法裁判所に提起。 ⇒ 衡平法裁判所の副長官は、Mesaを対象に含めなければ自己株式公開買付けをしてはならないとする緊急差止命令を発令。 ⇒ Unocalがデラウェア最高裁判所への中間上訴⇒副長官は、法定の要件を満たさないとして却下 ⇒最高裁判所は、法定の要件を満たすと判断。 副長官は、審尋を踏まえて差止仮処分を発令⇒衡平裁判所は、中間上訴を最高裁判所に移送⇒最高裁判所は受理。 |
|||||
Mの主張 | 自己株式公開買付けに際しMesaが保有する株式を公開買付けの対象外とする差別的な自己株式取得については、株主である取締役会メンバー自身が自らかかる自己株式公開買付けに応じて一部の株主(Mesa)が享受し得ない経済的便益を得ることができる⇒経営判断原則は適用されない⇒取締役会が本件の差別的な自己株式取得を行うことは、信認義務違反にあたり許されない。 | ||||
特定の株主について、このような形で差別することは許されない。 | |||||
Uの主張 | Mesaに対して「公正」であるべき義務を負わない。 ←Unocalの取締役会は、合理的かつ誠実にMesaによる買収が強圧的かつ不適当だと結論付けており、Mesa自身がかかる買収を行うことにより差別的取扱いを求めたと言える。 |
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Unocalの取締役会による自己株式公開買付けの決定は、誠実に、十分な情報に基づき、かつ相当の注意を払って行われており、Mesaの有害な戦略から会社と株主を守るための防衛手段として適当。 | |||||
争点 | (1)防衛目的の自己株式公開買付けに関する取締役会の権限 (2)経営判断原則の意義 (3)経営判断原則の適用にあたっての制約 (4)差別的自己株式取得の可否 |
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判断 | ● | ●(1)(防衛目的の自己株式公開買付けに関する取締役会の権限)について | |||
デラウェア会社法141条(a)項が取締役に事業及び業務に関する権能を付与しており、同法第160条(a)項が取締役会に自己株式の取引についての広範な権能を認めている ⇒自らの保身を唯一または主たる目的とする場合を除き、デラウェア州法人は、自己株式取得に際して株主毎に異なる取り扱いをすることができる。 |
|||||
かかる取締役会の権限は、株主を含む会社企業体を合理的に予見できる害悪から守るという根源的な義務から導き出される。 | |||||
● | ●(2)(経営判断原則の意義)について | ||||
経営判断原則:業務上の判断を行うに際し、会社の取締役は、十分な情報に基づき誠意を持って、かつ最も会社の利益に資するとの考えに基づいて行動したとの推定を意味し(Aronson v. Lewis(Del.1984))、取締役会の判断が合理的な業務上の目的に帰するものと言えれば、裁判所は、取締役会の判断に代えて自らの判断を適用することはできないというもの(Sinclair Oil Corp. v. Levien (Del.1971))。 | |||||
自己株式取得の場合、利益相反の懸念がある⇒同原則の適用を受けるには、取締役は、ある者による株式保有が会社方針および効率性に危険を及ぼしていると信ずるに足りる合理的な根拠を示さなければならず、この立証にあたっては、誠実かつ合理的な調査を行ったことを示せば足りる。 過半数が社外取締役からなる取締役会の承認があれば、上記の立証を補強することになる。 |
|||||
● | ●(3)(経営判断原則の適用にあたっての制約)について | ||||
取締役は、会社の株主の最大の利益にかなうように行動すべき信認義務を負っており、また、取締役の善管注意義務は、予見される害悪から会社および株主を守ることをも含むもの。 | |||||
一定の制約: @自らの保身を唯一または主たる目的として自己株式の買戻しを行ってはならない。 取締役は、公開買付けに対抗する防衛手段が会社および株主の利益を詐欺や不正行為なくして誠実に慮った上で講じられていることを立証する必要。 A講じられた防衛手段は、直面する脅威の程度に応じて合理的なものでなければならないという制約。 防衛手段が脅威の程度との関係で合理的かどうかを判断するにあたっては、買付価格の不当性、買付けの性質・タイミング、違法性の問題、株主以外の構成員(債権者・従業員等)への影響、買付け不成就のリスク、交換する証券の内容等を勘案する必要。 |
|||||
Mesa を排除したUnocal の差別的自己株式公開買付けは、Mesaがグリーンメーラーとして有名であることをも加味すると、直面する脅威に対応して合理的な関連性を有するもの。 Unocalの取締役のかかる判断は、公開買付制度の基礎となっている公平性の概念とも整合的であり、少数株主が自らの所有する株式についてその価値に見合う対価を受け取れるようにする取締役の義務にも沿うもの。 |
|||||
● | (4) (差別的自己株式取得の可否)について | ||||
今回の自己株式公開買付けは、株主ごとに異なる取扱いをするもの。 but 会社が直面している脅威に鑑みれば、取締役会が中立であり、誠実にかつ善管注意義務を尽くして行動していれば、裁量権の濫用がない限り、その判断は、経営判断の適切な行使として支持される。 |
|||||
取締役が会社による自己株式公開買付けに応募して経済的利益を得ることができる点は、経営判断原則の適用を妨げるものではない。 | |||||
取締役は、敵対的公開買付けを行った株主に対しても忠実義務を負うが、会社に対する破壊的脅威に直面したときには、同時に会社および他の株主を防衛する義務をも負う。 Mesaの公開買付けが不適切なものであるとの誠実な信念に基づいてUnocalの取締役会が判断を下していることを衡平裁判所が認定⇒Unocalの取締役会は、その立証責任を十分に尽くしているというべき。 |
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取締役の判断が、主として、取締役自身の保身目的または詐欺、不誠実、情報の欠如などの信認義務違反に基づくものであることが立証されない限り、取締役の行為には経営判断原則が適用され、是認されるべき。 ⇒原決定を破棄し、差止仮処分命令を取り消した。 |
|||||
解説 | 従来、主要目的ルールと経営判断の原則の枠組みによって判断。 vs. @取締役の利益相反問題との調整に難。 A敵対的買収の正に、正の面(経営者への規律づけ、企業価値の増加など)以外に負の面(2段階公開買付けによる株主の合理的判断の機会の喪失、企業解体や従業員の大量失業、過重債務による経営破綻など)⇒新たな判断枠組みの必要性が高まる。 |
||||
本決定は、利益相反問題に配慮しつつ、適切な判断手続を経ることを要求するなど、従前よりも厳格な条件の下で経営判断原則を適用する判断枠組みを提示。 | |||||
防衛手段としての差別的な自己株式公開買付けは、その後証券取引委員会(SEC)による規則変更により禁止されるが、ユノカルルールの枠組みは、その後に防衛手段として一般化するライツ・プラン(ポイゾン・ピル)に関する判断においても利用されている。 | |||||
◆120 ● |
◆取締役の義務・・・敵対的買収に対する防衛策(2) | ||||
Revlon, Inc. v. MacAndrews & Forbes Holdings, Inc. 506 A.2d 173 (Del.1986) | |||||
事案 | 6月、P社はR社(Revlon)を話し合いにより1株40〜50ドルで買収しようとしたが拒絶。 P社による敵対的公開買付に備え、R社取締役会は、防衛策として、 @社外株式約3000万株のうち500株の買い戻しと、 AR社株式の20%以上の取得者が現れた場合に1株を額面65ドル・金利12%の1年債と交換する権利を当該取得者以外の各株主に与えるというライツプラン(ポイズンピル)の導入を採択。 |
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8月23日、P社は、1株47.5ドルで、R社の全株式を対象に、最初の現金対価公開買付を開始。 R社取締役会は、株主に対してその買付けに応じないよう呼びかけ。 8月29日、防衛策として、額面47.5ドル、金利11.75%、満期1995年の上位劣後債(Notes)等を対価として、自社株式1000万か分の自己買付。 このNotesには、独立取締役の承認がない限り、R社による新たな債務負担、資産売却および配当支払が制限されるとの制限条項が付されていた。 ⇒(買収後の資産売却等を制限するので)P社による買収を困難にした。 |
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9月24日、R社取締役会は、(自己防衛を断念し、友好的第三者(ホワイトナイト)の助けを得るために)経営陣に対し、R社の買収に興味を持つ第三者と交渉する権限を与えた。 その後もP社は現金対価公開買付を継続し、9月27日に50ドル、10月1日に53ドルまで買付価格を引き上げた。 |
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R社は、(LBO(対象会社の資産等を担保にした借入金を用いて買収し、買収後対象会社の資産売却や収益により当該借入金を返済する方法)の専門会社である)F等と交渉を進め、10月3日、R社取締役会は、Fが、LBOによりR社を1株56ドルの現金対価で買収する契約に同意。 買収を促進するために、R社の複数の事業部門が、合計12.4億ドルで売却される計画になっており、また買収契約の中に、(買収後の資産売薬等を容易にするために)Notesに付された制限条項を破棄する旨の合意が含まれていた。 ⇒ 当該合併内容が公表されると、制限条項が破棄される(と追加債務負担等によりR社の信用が下がる)との懸念から、Notesの市場価格の額面の100%前後から87.5%にまで下落。 ⇒ Notes所持者から怒りの電話が殺到し、Notes所持者による訴訟提起のおそれが新聞に報じられた。 |
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P社は、10月7日に買付価格を56.25ドルに引き上げ、対抗して10月12日、Fは、R社に対して、次の条件を付して、57.25ドルでの買収を提案 @F以外の者がR社株式の40%を取得した場合、FはR社の重要な2事業部門を、評価額より1億〜1.75億ドル下回る5.25億ドルで取得できる((クラウン・ジュエル・)ロックアップ条項)。 AR社は、Fとの間でのみ買収交渉を行う(ノーショップ条項)。 Bこの合意内容が実現されなかったり、R社株式の19.9%を超える取得者が現れた場合、R社は、キャンセル料として、Fに2500万ドルを支払う。 CライツプランおよびNotesの制限条項は、10月3日の合意どおり破棄する。 一方、Fは、新たな社債を交換することにより、下落したNotesの市場価格を額面に維持するようサポートすることに合意。 R社取締役会は、Fのこの買収提案を承認。 |
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P社の支配株主であるM社は、これらの合意が実行に移されることを阻止すべく、暫定的差止命令を求めた。 10月22日、P社は、ロックアップ条項の差止め等を条件に、買収価格を58ドルに引き上げた。 ⇒ 第1審のデラウェア州衡平法裁判所が @ロックアップ条項、Aノーショップ条項およびBキャンセル料につき差止めを認めた。 ⇒ R社が上訴。 |
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判断 | ● | 暫定的差止命令が認められるためには、原告は、 @本案勝訴が合理的に見込みうること、および A差止められない場合に回復できない損害が発生すること を証明する必要。 くわえて、 B裁判所は両当事者の利害を衡量する必要。 |
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本判決は、最初に@について検討。 | |||||
● | R社取締役のとった防衛策のうち、ライツプランの導入およびNotes等を対価とする自己買付については、ユノカル基準を適用し、適法であると判断。 | ||||
but一定の条件下では取締役の義務が大きく変わる。 P社が1株50ドル、次いで53ドルにまで買付価格を引き上げたとき、会社の解体が避けられないことは誰の目にも明らかになった。 R社の取締役会が、経営陣に対して、第三者との間で合併または買収について交渉する権限を与えたということは、会社を売りに出したと認識したということ。 ⇒ これにより、取締役会の義務は、企業体としてのR社を維持するkとから、株主の利益のために会社売却に当たって企業価値を最大化することに変化した。 ⇒ 買収防衛策に関する議論は当てはまらなくなった。 取締役の役割は、会社という砦の防衛者から、会社の売却に際して、株主のために最善の価格を獲得するという責任を負う競売人に変化。 |
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● | ロックアップ条項について検討: R社取締役会が、FによるNotes価格のサポートをFとの取引の不可欠な内容としたのは、Notes価格の下落による損失に対してNotes所持者から訴訟により責任を問われることを恐れたから。 株主のために最高価格を取得する義務を負う取締役が、Notes所持者の利益を優先したことは、株主対する忠実義務違反。 |
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「取締役会が自らの責任を果たすに当たりさまざま利害関係者に配慮することは、それにより合理的に関連する利益が株主に生じる場合には許される。しかし、積極的な買収者の間で会社に対するオークションが進行中であり、目的がもはや会社という企業体を守りまたは維持することではなく、最高価格をつけた者に会社を売却することであるときには、株主以外の者の利益に対する配慮は不適切である」 ロックアップ条項はそれ自体が違法というわけではないが、本件のように、活発なオークションを終わらせて株主の利益を害するものは認められない。 |
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ノーショップ条項も、それ自体は違法ではないが、取締役会が競売人として最高価格で会社を売却する義務を負うという局面では、容認できない。 | |||||
キャンセル手数料についても、P社の努力を阻害する計画の一部であったので、差止めの対象になる。 | |||||
⇒衡平法裁判所の結論を支持。 | |||||
解説 | 敵対的買収における攻防の一定時点までは、取締役の防衛行為の審査にユノカル基準をそのまま適用できるが、会社の解体(事業の分割売却等により会社の分解)が避けられないことが明らかになったとき、または、会社を売りに出したときには、取締役が競売人としての義務、すなわち、株主の利益のために会社売却に当たって企業価値を最大化する義務(レブロン義務)を果たしたか否かが争点となる。 | ||||
デラウェア州最高裁判所は、1994年の判決(Arnold v. Society for Savings Bancorp, Inc.)において、レブロン義務は少なくとも以下のいずれかの場合には適用されると整理。 (1)会社が、会社の売却かまたは会社の明らかな解体を伴う事業再編を求めて、能動的な買付競争を開始させる場合 (2)買付者の申出に対抗して、対象会社が長期的戦略を放棄し、会社の解体を伴う代替取引を求める場合 (3)ある取引を承認することにより、会社支配権の売却または変更を帰結する場合。 |
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2009年のLyondell Chemical Co. v. Ryan は、レブロン義務は、対象会社の取締役が静観している間は適用されず、会社支配権の変更をもたらす取引に着手した段階で初めて適用されるとした。 | |||||
◆ 121 |
◆「市場に対する詐欺理論」による信頼の推定 | ||||
Basic, Inc. v. Levinson 485U.S.224,108S.Ct.978,99L.Ed.2d194(1988) | |||||