シンプラル法律事務所
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アメリカにおける離婚後の親権制度(山口亮子)

アメリカにおける離婚後の親権制度
はじめに
  ◆2 制定後の法改正の経緯と概要
 T アメリカの社会及び家族事情・概説  
  ◆1 子どもの環境
     
  ◆2 家族間と家族の多様性
     
  ◆3 法制度
    家族法は州法。
     
  ◆4 連邦制 
    児童虐待と親の権利終了及び養子縁組に関して規定する
Adaption and Safe Families Act (ASFA):養子縁組と安全な家族法
子の奪取について
Parental Kidnapping Prevention Act(PKPA):親による子奪取防止法
社会保障関係の子の扶養に関し
Temporafy Assistance for Needy Families(TANF):貧困家庭への一時扶助法
    統一法(Uniform Act):
州知事あるいは議会の承認により選出された裁判官、弁護士、研究者等で構成される「統一州法委員会全国会議」による制定。
家族法関係では、
Uniform Parentage Act(UPA):統一子監護事件管轄法(1968年成立)
が50州及びコロンビア特別区で採択。
2002年に改正されたUPAについては、採択州は必ずしも多くない
⇒州ごとに立法・判例は統一されていない。
Uniform Child Custody Jurisdiction and Enforcement Act(UCCJEA):監護権の管轄と執行に関する統一法
は2009年時点で、48州が採用。
Uniform Marriage and Divorce Act(UMDA):統一婚姻・離婚法
Uniform Interstate Family Support Act(UIFSA):統一州際間家族扶養法:
    アメリカ法律家協会(American Bar Association)の出すガイドライン:
Standards of Practice for Lawyers Representing Children in Custody Cases 2003:監護事件における子の代理人の基準
Standards of Practice for Lawyers Who Represent Children in Abuse and Neglect Cases 1996:子の虐待・ネグレクト事件で子を代理する弁護士の実務基準
    アメリカ法協会(American Law Institute(ALI)):
Principles of the Law of Family Dissolution:Analysis and Recommendations 2002:家族解消の法原則:その分析と提案
    各州の判例及び合衆国最高裁判所による州家族法規定の違憲訴訟等により、各州は互いに影響しあっている。⇒アメリカ国内で一定の方向性。
     
U 監護権  
  ◆1 監護権(custody)の内容
  ◇(1) 監護権の意義 
    custodial responsibility:監護責任
decision-making responsibility:決定責任
parenting time:親の養育時間
parenting responsibility:監護責任
    ALI:caretaking function:親の養育の機能:について

  ◇(2) 監護権の決定要件 
    子の監護権は裁判所を通して決定される。
その際、多くの週では、父母間の協議に基づいて一定の書面を裁判所に提出することを求めている。
全て裁判所が関与。
今日では、法的共同監護を選択する場合が多い。
but
高葛藤⇒単独監護権を争う場合もある。
その際、立法及び裁判所による子の監護者指定において考慮されるのは、子の最善の利益(best interests of the child)。

各種要件を比較考量することで相対的に監護者として有力な親を測っている。
  ■(i) 母性優先の原則 
    1981年アラバマ州最高裁判例:ジェンダーに基づいた差別を生じさせるものであり、憲法違反。
  ■(ii) 主たる養育者の原則 
    1981年のウエストヴァージニア州最高裁で採用。
婚姻中からの監護の継続が重要〜どちらの親がこれまで主たる養育を行ってきたかの要件を監護者決定の唯一の判断としたもの。
but
現在各州では、これは考慮要件の1つとしたり、監護者決定に推定される要件。
  ■(iii) 監護環境  
     
  ■(iv) きょうだい分離 
     
  ■(v) 友好的な親 
     
  ■(vi) 子の意思 
     
  ■(vii) 親のDV 
     
  ■(viii) 片親疎外 
     
    2000年ノースダコタ州最高裁判例:
裁判所が「合衆国歴史上差最悪の親子訴外症候群」と指摘したほど、監護親の母が非監護親と子どもとの関係を悪化させた事例において、父親に監護権が変更された。
事実審では母親に1年間の面会交流禁止が出されていたが、州最高裁では面会交流は単に非監護親の特権ではなく、子どもの権利である⇒面会交流が拒否されるのは子どもの身体的あるいは心理的健康に有害であるときのみであるとして、母親に監護付きの面会交流を認めた。
  ■(ix) 親としての適切さ 
     
  ◆2 共同監護(p95)
    共同監護
←単独監護権が得られない父親たちの運動。
共同監護を1つの選択肢として挙げていた。
but
カリフォルニア州:
離婚後も子が親と頻繁かつ継続して会うことを州の基本政策として取り入れた。
共同監護を定義づけた。
付与基準について詳細な規定を挙げた。

1980年代に全米へ。
    共同監護の定義:
次の3つのパターンが想定されている。
@両親が子の身上、精神又は道徳の成長に対し、等しい責任を持つ
A両親が、子に直接影響する決定について権利を共有(share)する
B子が両親と実質的かつ継続的交流を持つ
その付与基準の3つのタイプ:
@共同監護が子の最善の利益にかなうという推定則(presumption):12州
A父母が合意していれば子の利益にかなうと推定する州:5州(カリフォルニア州)
B単独監護との優劣の差(preference)を設けないというレベル:その他。
but
いずれであっても面会交流等を通して親子の交流は強く勧められている。
  ◇(1) 法的共同監護(joint legal custody)
    定義は州によって多岐にわたる。
カリフォルニア州法:
法的共同監護:
双方の親が、「子の健康、教育及び福祉に関する決定に対し権利と責任を持つこと」
身上強度看護:
それぞれの親が「身上監護のかなりの期間を持つこと。身上共同監護は子が双方の親と頻繁かつ継続して交流することを確保するような方法で親により共有されなければならない」
ミシシッピ州:法的・身上共同監護のいずれにおいても、両親は情報を交換する義務があることを規定。
    法的共同監護:子に関する決定権を離婚後も双方が持ち続けること⇒子に関する法的な主要な決定については、双方が情報交換を行わなければならない。

両親の意思が対立した場合:
実際の共同監護の取決めの家庭で最終決定者をあらかじめ決められる場合があ多い。
あるいは、最終的には和解や調停で紛争を解決するかの手続についてもあらかじめ決めている
     
  ◇(2) 身上共同監護(joint physical custody)
    50/50であることだけが身上共同監護ではない。
重要なことは、子が充実した頻繁かつ係属した、あるいは実質的に等しい期間双方の親から養育されること。
身上単独監護にして、かなりの期間の面会交流をつけている場合もあるし、3割程度子の住居の交代を行っている場合もあり、その内容は父母の住居や子どもの年齢、州の裁判所の方針等により、かなり多様性に富む。
    1992年に公表されたカリフォルニア州による調査:
85〜89年の間、カリフォルニア州では、
75.6%が法的共同監護
離婚時に法的共同監護を望む母親:60%、父親:75%
身上共同監護は20.2%
母が身上共同監護を望み、父が自分に単独身上監護を望む⇒身上共同監護は43%
母が単独身上監護を望み、父が身上共同監護を望む⇒身上共同監護は28%
双方とも単独身上監護を望む⇒身上監護は36%
身上監護権者/法的監護後権者
母/共同:48.6%
共同/共同:20.2%
母/母:18.6%
父/共同:6.8%
父/父:1.8%
    1989年、90年に19州の離婚後の監護権を調査:
母親への単独監護:72%
身上共同監護:16%
父への単独監護権:9%
2007年ネブラスカ州ダグラス郡:
法定共同監護権:53%
身上共同監護17%
2002年ノースカロライナ州の調査:
法定共同監護:69.7%
身上共同監護権:16.7%
母親の多くは身上単独監護を望んでいた。
  ◇(3) 共同監護合意のチェックリスト 
     
    子を連れての無断の旅行・転居が制限

子は双方の親と交流を持ち続けるべきであり、双方の親も子に対する権利と責任を有する。
子を連れての転居は子の奪取事件を誘発してしまう。
  ◇(4) 共同監護の基準 
    共同監護が付与される4つの基準:
@両親とも適格(fit)である
A両親とも子育てに積極にかかわり続けていく希望を持っている
B両親とも子の最善の利益に関し共に相当の決定を行っていくことができる
C共同監護の方が、別の監護権よりも親子関係を壊さない
立法・判例において、共同監護が子の最善の利益にかなうことがその要件とされている。
    州の規定は様々かつ大部:
共同監護の有効性を直接明示している州
共同監護にとらわれず、親子の交流を子の利益であると規定したり、無断の転居の制限により親子の交流の充実を図る州 
判例法

優先基準の区別にはかかわらず父母間で子の養育を共同・分担することが全米の動き。

親が配偶者と離婚しても子と離別するわけではなく、子の生活にかかわり続けるべきという社会の理解と承認。
but
他方で、子どもには安定性が必要

立法と裁判所が親のかかわりと行き詰まりとのバランスをうまくとるよう続けている。
     
  ◆3 監護決定手続 
    事前に両親間の合意に基づき、裁判所がそれをチェックすることになっていて、高葛藤により裁判手続に移行するのはそれほど多くはない。
紛争性のない離婚:50.4%
争いはあったが解決したもの:29.3%
メディエーションで解決:11.1%
調査後解決:5.2%
裁判中解決:2.2%
裁判官による判決:1.5%
    協議する取七用は、監護権をいかに分担するか。
養育計画としてここ具体的に取決めていく。
今日ほとんどの子は双方の親との交流を続けている。
  ◇(1) 養育計画(parenting plan) 
    ALIによると、
parenting plan:
子どもに関する監護の責任と決定責任の分担について、及び両親間の将来の紛争の解決についての取決め規定
    ニューメキシコ州法
別居時には暫定的な養育計画書が
離婚時には最終的な養育計画書を
両親が協議して作成し、裁判所へ提出。
     
    親は離婚しても、子との関係は別のものであり、親が不適格でない限り、多くの親は養育計画において双方が親としての権利と義務を保持し続ける計画書を作成。
子が両親と交流することは子の権利であり利益であるという観念は浸透しており、相当な面会交流が認められている。
必ずしも身上共同監護でなくても、十分な親子の交流は確保されており、協議にて作成する養育計画のほとんどは、法的共同監護と頻繁な面会交流。
    but
紛争性が高い⇒次の司法手続へ進む。
  ◇(2) 裁判手続 
    対審構造
双方弁護士
鑑定人(evaluator):心理学者や精神医学者が担当。
子の代理人
州の推定則⇒共同監護が子の利益にかなうかいなかの証明。
  ◇(3) 子の代理人 
    多くの州は、裁判官の裁量に任せられている。
対立の激しいケースでは、裁判官の44%が子どもに弁護士をつけ、58%が訴訟後見人(guardian ad litem(GAL))をつけ、85%が監護評価(custody evaluation)をつけている。
    各州が規定する代理人には様々なタイプがあり、弁護士を選任することを規定する州もあれば、訴訟後見人の専任を求める州もある。
弁護士:子どもの代理人であり、子どもの意思を代弁する者
GAL:子どもの最善の利益を代理すべき者。
    2003年に発表されたアメリカ法律家協会(ABA)の子どもの代理人基準:
ABAが挙げる子どもの法律家の2つのタイプ:
A:子どもの代理人:
監護権紛争において何が起こっているかを子どもに説明し、子どもの主張を代理しなくてはならない。
・・・基本的に子どもの表明した目的を追求すべき。
子どもが意思を表明しない⇒子どもの意思を判断するよう誠実に努力。
子どもの意思を表明できない⇒子供の法的利益を代理。
「法的利益」:子どもの目的及び「最善の利益」とは異なり、適切な教育、医療、あるいは精神保健サービスに参加する子どもの権利に関する特別な必要性、子どもに必要な住居を確保すること、子どもの養育費あるいは他の経済的利益、きょうだい、家族又は子どもが会いたい人との交流、子どもの他の手続上の権利やデュー・プロセスなど。
but
最終的に子どもの表明する意見が子どもの亜自然の利益に適わないと判断
⇒別に子どもの利益の代理人を選任してもらうか、あるいは代理人が子どもの最善の利益と子どもの意見を一致させるよう子どもに助言を与えたり、あドバイするを行う必要。
B:最善の利益の代理人:
各種資料に当たったり、関係者にインタビューして子どもの利益の調査を行う。
子どもの希望は決定要因の1つ。
     
V 養育費
    別居・離婚後⇒当然に、双方の親に子の養育費支払が生じ、
婚姻を経ずに子が生まれた場合⇒当然に、生物学上の親に子の養育費支払の責任。
    1975:「養育費履行強制制度(Child Support Enforcement Program)」
1996:「社会保障の「貧困家庭への一時的扶助(Temporary Assistance for Needy Families:TANF)」
    2009年の国勢調査:
養育費の決定率:
母子家庭:54.9%
←母子世帯になっているのが離婚(=全件裁判利離婚)だけではない。
決定を得ない理由:
他方親の代わりに提供者がいた:34.4%
法的に取り決める必要を感じなかった:32.1%
他方親が経済的に支払えなかった:29.2%
他方親に支払ってもらいたくなかった:21.1%
子が他方親と部分的に生活している:17.7%
他方親の居住場所が分からない:16.8%
他方親と接触ととりたくなかった:16.7%
共同監護か頻繁な面会交流がある⇒8割以上は受給している。
カリフォルニア州の調査:
法的共同監護⇒97%が裁判所から養育費支払命令を受けている。
     
W 面会交流  
  ◆1 親子の交流の原則 
  ◇(1) 面会交流の権利性 
     
  ◇(2) 決定基準
  ■(i) 両親間の関係 
     
  ■(ii) 子の意思 
     
  ◇(3) 面会交流執行・・監護親による面会交流の妨害に対する法的対応
  ■(i) 裁判所侮辱罪(contempt) 
     
  ■(ii) 監護権変更 
     
  ■(iii) 養育費の停止 
     
  ■(iv) その他 
     
  ◆2 親子の交流の例外・・・面会交流の制限(p113) 
◇    ◇(1) 立法による制限 
     
  ◇(2) 判例 
■    ■(i) 性的虐待 
     
  ■(ii) DV 
     
  ◇(3) 監護付きの面会交流(supervised visitation) 
     
     
X 子の奪い合い紛争  
  ◆1 子の引渡請求 
  ◇(1) 別居中の父母間における子どもの奪取・・・暫定的監護命令 
     
  ◇(2) 裁判所侮辱罪 
     
  ◇(3) 家庭裁判所による監護命令の執行 
     
  ◇(4) 人身保護手続(habeas corpus) 
     
  ◇(5) 検察官による監護命令の執行…カリフォルニア州 
     
  ◆2 監護権の転居の制限(relocation) 
  ◇(1) 判例 
     
  ◇(2) 規定 
     
     
Y ドメスティック・バイオレンス(DV)への対応  
  ◆1 保護命令 
     
  ◆2 監護権とDV 
     
  ◆3 社会のDVへの対応 
     
おわりに