シンプラル法律事務所
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勉強会(ウィーン売買条約(CISG))

ウィーン売買条約(最終回)
約款の位置付け

口頭で一旦契約が成立した後に確認のために送付され、合意内容とは異なる条項や追加的な条項を含んでいる「確認書」(ユニドロワ国際商事契約原則第2.1.12条参照)。

確認書の効力 ユニドロワ原則の利用

本約款が契約の一部を構成するか否かは、
@本約款の規定が契約の一部をなすとする当事者間交渉や確立した取引慣行⇒8条や9条で契約となる可能性あり。
A第7(2)の一般原則にユニドロワ国際商事け約原則第2.1.12条を読み込む解釈をとれば実質的変更がない限り契約となる。そう解釈されない⇒契約とはならない。

自分が送った確認書の法的位置づけを明確化するために、ユニドロワ国際商事契約原則第2.1.12条(合理的期間内に送付された確認書は実質的な変更がなければ契約の一部をなすという趣旨)に明示的に準拠することが考えられる。

ユニドロワ国際商事契約原則第2.1.12条(確認書の規定):
契約締結後の合理的期間内に送付された、契約の確認のための書面が、追加的なまたは契約内容と異なる条項を含むときは、それらの条項は契約の一部となる。
ただし、それらの条項が契約を実質的に変更するとき、またはその受取人が不当に遅延することなくその齟齬について異議を述べたときはこの限りではない。

CISGをそのまま適用すると、第19条経由でラスト・ショット・ルールが適用される可能性があるが、売り約款と買い約款の齟齬の調整に役立つてるため必要と判断すれば、書式合戦に関するユニドロワ国際商事契約原則第2.1.22条の規定(売主と買主の標準約款の内容が異なる場合には、その共通部分を合意内容とするノックアウト・ルールを規定)に準拠することも考えられる。

ユニドロワ国際商事契約原則第2.1.22条(ノックアウト・ルール):
当事者双方が定型条項を使用し、これらの定型条項以外について合意に達したときには、契約は、その合意された内容および定型条項のうち内容的に共通する事項に基づいて締結されたものとする。ただし、当事者の一方がそのような契約に拘束される意思のない旨を予め明確に示し、または事後に不当に遅延することなく相手方に伝えたときにはこの限りではない。

対策

A:売り約款と買い約款で内容が異なる⇒19条(書式合戦に関する規定)を適用して反対申込みと解し、相手方の同意がないことを理由に約款を無効とする裁判例(Clout No.203
B:第29条(契約の変更に関する規定)を適用した上で、相手方確認書に署名して返送しない限り約款の内容は無効とする裁判例(Cloout No.193

@第19条対策で、取引のあらゆる書類に約款を張り付けて相手の履行による承諾を狙う(ラスト・ショット・ルールの適用)か
A第29条対策で、確認書に相手方が署名する可能性は低いことから第29条の適用回避を企図して本約款をOrder Confirmation として使う。

あるいは、準拠法規定の中で、本条約の19条や29条の適用を排除し、ユニドロワ国際商事契約原則などに明示的に準拠する対策。
but
準拠法合意が得られず、当事者間で確認書のやりとりが慣行化されている事態が認められない状況下では、結局有効な対応策はない。

日本法

日本法でも状況はかわらない。
日本法は、商人には受領した確認書を吟味し、必要があれば何らかの意見表明をなすことが誠実な商人として要請されている。
⇒異議申し立てを行わずに沈黙すれば同意の外観を生ぜしめ、善意の確認書送付者はこれを信頼することができ、受領者はこれに拘束される。
もっとも、確認書の内容が口頭合意内容を非常に変更していて相手方が予測し得ない場合は、異議申立てがなくても確認書の創設的効力は生じない。

商法 第509条(契約の申込みを受けた者の諾否通知義務) 
商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。
2 商人が前項の通知を発することを怠ったときは、その商人は、同項の契約の申込みを承諾したものとみなす

526条(買主による目的物の検査及び通知) 
商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が六箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする。
3 前項の規定は、売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない。

標準売り約款 標準買い約款
表面 1.契約締結する営業所所在地を明記(準拠法・裁判管轄・印紙税に影響)
2.裏面が契約の一部を構成することを明記
3.ユニドロワ国際商事契約原則2.1.12条に準拠することを明示
4.裏面の内容を理解し承諾したことを明確にする
5.用語の統一
船積み又は引渡し 7.所有権移転時期を明記
8.代金受領時点まで所有権留保 
42.買主の履行停止権の明記
43.買主の履行停止権の消滅後の新たな履行期を合理的な期間内とする
支払 9.売主の履行停止権を明記(履行停止できる義務の範囲拡大)
10.(売主の)履行停止権の消滅後の新たな履行期を合理的な期間内とする
不可抗力 11.(不可抗力条項について)障害が不履行の原因の一部を構成するに過ぎない場合も含むとする  
12.売主の仕入先における不可抗力事由を、売主自身の不可抗力事由として扱う
13.労働争議を明記
14.経済情勢の変動(いわゆるhardship)も不可抗力に入ることを明記
15.「故意不履行又は過失を原因としない」無過失の場合に責任を負わされることを排除
16.「かかる不可抗力が本契約の前に存在したかどうかにかかわらず」原始的障害(契約前に存在した障害)を含むかどうかの議論を排除
17.「かかる影響又は妨害を考慮、回避又は克服できたであろうかどうかにかかわらず」79条において、債務者は相当な費用を負担してでも障害を克服しなければならないことに対応
18.損害賠償の予定及び違約罰等も免責対象に入ることを明記し、79(5)における議論を排除
19. 79(4)の通知義務を排除
20.55.相手方は解除権を行使できない旨を明記
21.56.(こちら側の)契約解除権
22.買主を代金支払債務が免責されないことを記載
不履行 23.解除権の要件としての通知を規定
24. 第26条にかかわらず、倒産の場合は自動終了として、解除通知不要
25. 88(2)の緊急売却義務は負わない旨規定
26. 64(1)(a)が要求する fundamental breach である必要なし 58.第49条(1)(b)によれば、付加期間の徒過及び付加期間内に引渡しをしない旨の売主の宣告が解除の要件として必要。第47条によれば、買主は付加期間を設定することができ非fundamental breach をfundamental breach に格上げできるが、そもそも解除の要件からfundamental breach を外すことで対応。
59. 第48条に規定する売主の治癒権を封じる。
60. 第88条(2)による緊急売却の義務を免れる。
61. 第88条(3)(自動売却の代金から保管費用及び売却費用の控除を認める)をカバーして、さらに他の債権までカバーできる。
62. 適切な担保が提供されなかった場合の解除権の明記。
63. 第49条(1)(a)によれば、買主の契約解除権は売主によるfundamental breachが要件とされているが、これを回避する。
64. 売主の契約違反の類型を、従前のものにさらに追加する必要があるか検討の余地あり。
65. 第46条(2)(3)が規定する程度要件(fundamental breach)と時間的要件(in conjunction with notice or within a reasonable time thereafter)を除外する。
66. 買主が返金を受けられる場合をtermination 以外にも拡大し、第84条(1)によれば不明確な適用金利を明確にする。
過剰引渡 67. 第52条(2)にて全体拒絶が認められるか不明の点をクリアにするもの。
検査 27.   検査期間:売主の立場からは、可能であればより明確に規定すべきか(例えば15日以内)
クレーム 28.   売主の主観にかかわらず、買主の通知義務がある旨を規定
29.   合理的理由の有無にかかわらず、契約不適合・追奪担保にかかる通知懈怠への救済を排除
30.   買主の検査義務違反により増加した損害について、売主は責任を負わない旨規定
知的財産権 31.   知的財産権に関する第42条(知的財産権に基づく第三者の権利又は請求)の適用範囲は不明確⇒明示的に適用排除すべき。
保証 32.物品が契約に定めた仕様にのみ合致すればよく、35(2)に定められた契約的合成の義務が適用されないことを規定
33.第三者の請求(知的財産権に関するものも含む)についての追奪担保責任の範囲を法的根拠のある請求に限定。
34.契約が第三者の権利又は請求の対象となっていることにつき、契約締結時おいて買主が知り又は知らなかったはずはない場合に売主を免責する旨の規定。[ ]内の後者は買主の善意無過失につき買主に立証責任を負わせるものであり、売主にはそちらの方が有利。
45.物品が契約不適合品の場合、それが重大な契約違反に該当するか否かを問わずに受領拒否できるようにする規定。
46.ドイツやオーストリアでは本条約38条、39条の買主の検査義務を大変厳しく解する裁判例があるため明示的に適用排除する。
取引条件と準拠法 35.   条文の個別排除の記載方法。日本民商法が本条約のかわりに適用される可能性が残る。⇒本条約を優先的に用い、本条約が規定しない部分はに日本法で補充することを明確化したい場合は、「・・・in accordance with the United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods 1980, but not expressly settled by the Convention are to be determined with the Jpananese domestic laws.
権利放棄 69. 第三者の権利又は請求の対象となっている物品の受領等が「買主の同意」とみなされることの防止
通知 36.   通知は英語での書面による