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コーポレートガバナンス・コード原案

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

 コーポレートガバナンス・コード原案
〜会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために〜
コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議
平成26 年12 月12 日
■コーポレートガバナンス・コードについて
本コード(原案)において、「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。

本コード(原案)は、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものであり、これらが適切に実践されることは、それぞれの会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られることを通じて、会社、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することとなるものと考えられる。
●経緯及び背景
1. 我が国におけるコーポレートガバナンスを巡る取組みは、近年、大きく加速している。
2. 平成25 年6月に閣議決定された「日本再興戦略」においては、「機関投資家が、対話を通じて企業の中長期的な成長を促すなど、受託者責任を果たすための原則(日本版スチュワードシップ・コード)について検討し、取りまとめる」との施策が盛り込まれた。これを受けて、平成25 年8月、金融庁に設置された「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」において検討が開始され、平成26 年2月に「『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」(以下、序文において「スチュワードシップ・コード」という。)が策定・公表され、実施に移されている。
また、法務省法制審議会は、平成24 年9月に「会社法制の見直しに関する要綱」を採択したが、その後、社外取締役を選任しない場合における説明義務に関する規定なども盛り込んだ上で、会社法改正案が国会に提出され、平成26 年6月に可決・成立している。
3. 更に、上記の「日本再興戦略」においては、「国内の証券取引所に対し、上場基準における社外取締役の位置付けや、収益性や経営面での評価が高い銘柄のインデックスの設定など、コーポレートガバナンスの強化につながる取組を働きかける」との施策も盛り込まれていたが、これを受けて、日本取引所グループにおいて「資本の効率的活用や投資者を意識した経営観点など、グローバルな投資基準に求められる諸要件を満たした、『投資者にとって投資魅力の高い会社』で構成される新しい株価指数」である「JPX 日経インデックス400」が設定され、平成26 年1月6日より算出が開始されている。
4. こうした中、平成26 年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』 改訂2014」において、「東京証券取引所と金融庁を共同事務局とする有識者会議において、秋頃までを目途に基本的な考え方を取りまとめ、東京証券取引所が、来年の株主総会のシーズンに間に合うよう新たに「コーポレートガバナンス・コード」を策定することを支援する」との施策が盛り込まれた。これを受けて、平成26 年8月、金融庁・東京証券取引所を共同事務局とする「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」(以下、「本有識者会議」という。)が設置された。

本有識者会議は、8月から計8回にわたり議論を重ね、今般、コーポレートガバナンス・コードの策定
に関する基本的な考え方を「コーポレートガバナンス・コード(原案)」(以下、「本コード(原案)」という。)の形で取りまとめた。なお、「『日本再興戦略』 改訂2014」において、コードの策定に当たっては「OECD コーポレート・ガバナンス原則」を踏まえるものとすると明記されたことを受けて、本有識者会議は同原則の内容に沿って議論を行ってきており、本コード(原案)の内容は同原則の趣旨を踏まえたものとなっている。
5. 今後、本コード(原案)は、国内外に広くパブリック・コメントに付すことを予定しており、その後、東京証券取引所において、「『日本再興戦略』 改訂2014」を踏まえ、関連する上場規則等の改正を行うとともに、本コード(原案)をその内容とする「コーポレートガバナンス・コード」を制定することが期待される。
●本コード(原案)の目的
6. 本コード(原案)は、「『日本再興戦略』 改訂2014」に基づき、我が国の成長戦略の一環として策定されるものである。冒頭に掲げたように、本コード(原案)において、「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味しており、こうした認識の下、本コード(原案)には、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を盛り込んでいる。
7. 会社は、株主から経営を付託された者としての責任(受託者責任)をはじめ、様々なステークホルダーに対する責務を負っていることを認識して運営されることが重要である。本コード(原案)は、こうした責務に関する説明責任を果たすことを含め会社の意思決定の透明性・公正性を担保しつつ、これを前提とした会社の迅速・果断な意思決定を促すことを通じて、いわば「攻めのガバナンス」の実現を目指すものである。本コード(原案)では、会社におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止といった側面を過度に強調するのではなく、むしろ健全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることに主眼を置いている。

本コード(原案)には、株主に対する受託者責任やステークホルダーに対する責務を踏まえ、一定の規律を求める記載が含まれているが、これらを会社の事業活動に対する制約と捉えることは適切ではない。むしろ、仮に、会社においてガバナンスに関する機能が十分に働かないような状況が生じれば、経営の意思決定過程の合理性が確保されなくなり、経営陣が、結果責任を問われることを懸念して、自ずとリスク回避的な方向に偏るおそれもある。こうした状況の発生こそが会社としての果断な意思決定や事業活動に対する阻害要因となるものであり、本コード(原案)では、会社に対してガバナンスに関する適切な規律を求めることにより、経営陣をこうした制約から解放し、健全な企業家精神を発揮しつつ経営手腕を振るえるような環境を整えることを狙いとしている。
8. 本コード(原案)は、市場における短期主義的な投資行動の強まりを懸念する声が聞かれる中、中長期の投資を促す効果をもたらすことをも期待している。市場においてコーポレートガバナンスの改善を最も強く期待しているのは、通常、ガバナンスの改善が実を結ぶまで待つことができる中長期保有の株主であり、こうした株主は、市場の短期主義化が懸念される昨今においても、会社にとって重要なパートナーとなり得る存在である。本コード(原案)は、会社が、各原則の趣旨・精神を踏まえ、自らのガバナンス上の課題の有無を検討し、自律的に対応することを求めるものであるが、このような会社の取組みは、スチュワードシップ・コードに基づくこうした株主(機関投資家)と会社との間の建設的な「目的を持った対話」によって、更なる充実を図ることが可能である。その意味において、本コード(原案)とスチュワードシップ・コードとは、いわば「車の両輪」であり、両者が適切に相まって実効的なコーポレートガバナンスが実現されることが期待される。
●「プリンシプルベース・アプローチ」及び「コンプライ・オア・エクスプレイン」
9. 本コード(原案)において示される規範は、基本原則、原則、補充原則から構成されているが、それらの履行の態様は、例えば、会社の業種、規模、事業特性、機関設計、会社を取り巻く環境等によって様々に異なり得る。本コード(原案)に定める各原則の適用の仕方は、それぞれの会社が自らの置かれた状況に応じて工夫すべきものである。
10. こうした点に鑑み、本コード(原案)は、会社が取るべき行動について詳細に規定する「ルールベース・アプローチ」(細則主義)ではなく、会社が各々の置かれた状況に応じて、実効的なコーポレートガバナンスを実現することができるよう、いわゆる「プリンシプルベース・アプローチ」(原則主義)を採用している。
「プリンシプルベース・アプローチ」は、スチュワードシップ・コードにおいて既に採用されているものであるが、その意義は、一見、抽象的で大掴みな原則(プリンシプル)について、関係者がその趣旨・精神を確認し、互いに共有した上で、各自、自らの活動が、形式的な文言・記載ではなく、その趣旨・精神に照らして真に適切か否かを判断することにある。このため、本コード(原案)で使用されている用語についても、法令のように厳格な定義を置くのではなく、まずは株主等のステークホルダーに対する説明責任等を負うそれぞれの会社が、本コード(原案)の趣旨・精神に照らして、適切に解釈することが想定されている。
株主等のステークホルダーが、会社との間で対話を行うに当たっても、この「プリンシプルベース・アプローチ」の意義を十分に踏まえることが望まれる。
11. また、本コード(原案)は、法令とは異なり法的拘束力を有する規範ではなく、その実施に当たっては、いわゆる「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明するか)の手法を採用している。
すなわち、本コード(原案)の各原則(基本原則・原則・補充原則)の中に、自らの個別事情に照らして実施することが適切でないと考える原則があれば、それを「実施しない理由」を十分に説明することにより、一部の原則を実施しないことも想定している。
12. こうした「コンプライ・オア・エクスプレイン」の手法も、スチュワードシップ・コードにおいて既に採用されているものの、我が国では、いまだ馴染みの薄い面があると考えられる。本コード(原案)の対象とする会社が、全ての原則を一律に実施しなければならない訳ではないことには十分な留意が必要であり、会社側のみならず、株主等のステークホルダーの側においても、当該手法の趣旨を理解し、会社の個別の状況を十分に尊重することが求められる。特に、本コード(原案)の各原則の文言・記載を表面的に捉え、その一部を実施していないことのみをもって、実効的なコーポレートガバナンスが実現されていない、と機械的に評価することは適切ではない。一方、会社としては、当然のことながら、「実施しない理由」の説明を行う際には、実施しない原則に係る自らの対応について、株主等のステークホルダーの理解が十分に得られるよう工夫すべきであり、「ひな型」的な表現により表層的な説明に終始することは「コンプライ・オア・エクスプレイン」の趣旨に反するものである。
●本コード(原案)の適用
13. 本コード(原案)は、我が国取引所に上場する会社を適用対象とするものである1。
その際、本則市場(市場第一部及び市場第二部)以外の市場に上場する会社に対する本コード(原案)の適用に当たっては、例えば体制整備や開示などに係る項目の適用について、こうした会社の規模・特性等を踏まえた一定の考慮が必要となる可能性があり得る。この点に関しては、今後、東京証券取引所において、本コード(原案)のどの部分に、どのような形での考慮が必要かについて整理がなされることを期待する。
1 我が国取引所に上場する外国会社については、一般に、そのガバナンスに関して別途適用を受ける本国の規制が存在し、その内容が本コード(原案)と異なり得るため、本コード(原案)の内容をそのままの形で適用することが適切でない場合も想定される。このため、その取扱いに関しては、今後、東京証券取引所において整理がなされることを期待する。
14. 我が国の上場会社は、通常、監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社のいずれかの機関設計を選択することとされている。本コード(原案)は、もとよりいずれかの機関設計を慫慂するものではなく、いずれの機関設計を採用する会社にも当てはまる、コーポレートガバナンスにおける主要な原則を示すものである。

我が国の上場会社の多くは監査役会設置会社であることを踏まえ、本コード(原案)には、監査役会設置会社を想定した幾つかの原則(監査役または監査役会について記述した原則)が置かれているが、こうした原則については、監査役会設置会社以外の上場会社は、自らの機関設計に応じて所要の読替えを行った上で適用を行うことが想定される。
15. 本コード(原案)は、東京証券取引所において必要な制度整備を行った上で、平成27 年6月1日から適用することを想定している。
なお、本コード(原案)の幾つかの原則については、例えば体制整備に関するもの等を中心に、各会社の置かれた状況によっては、その意思があっても適用当初から完全に実施することが難しいことも考えられる。その場合において、上場会社が、まずは上記の適用開始に向けて真摯な検討や準備作業を行った上で、なお完全な実施が難しい場合に、今後の取組み予定や実施時期の目途を明確に説明(エクスプレイン)することにより、対応を行う可能性は排除されるべきではない。
また、本コード(原案)には、会社が「エクスプレイン」を行う場合を含め、幾つかの開示や説明を求める旨の記載があるが、これらのうちには、特定の枠組み(例えば、コーポレート・ガバナンスに関する報告書)の中で統一的に開示・説明を行うことが望ましいものもあると考えられることから、この点については、今後、東京証券取引所において整理がなされることを期待する。
●本コード(原案)の将来の見直し
16. 上述のとおり、本コード(原案)は、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものであるが、不変のものではない。目まぐるしく変化する経済・社会情勢の下で、本コード(原案)がその目的を果たし続けることを確保するため、本有識者会議は、本コード(原案)が定期的に見直しの検討に付されることを期待する。
★CGコード 
■基本原則
【株主の権利・平等性の確保】
1. 上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。
また、上場会社は、株主の実質的な平等性を確保すべきである。
少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。
【株主以外のステークホルダーとの適切な協働】
2. 上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。
取締役会・経営陣は、これらのステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。
【適切な情報開示と透明性の確保】
3. 上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。
その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。
【取締役会等の責務】
4. 上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、
(1) 企業戦略等の大きな方向性を示すこと
(2) 経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
(3) 独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと
をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。

こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うこととなる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、等しく適切に果たされるべきである。
【株主との対話】
5. 上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。
経営陣幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主に分かりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行い、株主を含むステークホルダーの立場に関するバランスのとれた理解と、そうした理解を踏まえた適切な対応に努めるべきである。
■第1 章 株主の権利・平等性の確保
■【基本原則1】
上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。
また、上場会社は、株主の実質的な平等性を確保すべきである。
少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。
考え方
上場会社には、株主を含む多様なステークホルダーが存在しており、こうしたステークホルダーとの適切な協働を欠いては、その持続的な成長を実現することは困難である。その際、資本提供者は重要な要であり、株主はコーポレートガバナンスの規律における主要な起点でもある。上場会社には、株主が有する様々な権利が実質的に確保されるよう、その円滑な行使に配慮することにより、株主との適切な協働を確保し、持続的な成長に向けた取組みに邁進することが求められる。
また、上場会社は、自らの株主を、その有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱う会社法上の義務を負っているところ、この点を実質的にも確保していることについて広く株主から信認を得ることは、資本提供者からの支持の基盤を強化することにも資するものである。
●【原則1−1.株主の権利の確保】
上場会社は、株主総会における議決権をはじめとする株主の権利が実質的に確保されるよう、適切な対応を行うべきである。
◎補充原則
1−1@ 取締役会は、株主総会において可決には至ったものの相当数の反対票が投じられた会社提案議案があったと認めるときは、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話その他の対応の要否について検討を行うべきである。
1−1A 上場会社は、総会決議事項の一部を取締役会に委任するよう株主総会に提案するに当たっては、自らの取締役会においてコーポレートガバナンスに関する役割・責務を十分に果たし得るような体制が整っているか否かを考慮すべきである。他方で、上場会社において、そうした体制がしっかりと整っていると判断する場合には、上記の提案を行うことが、経営判断の機動性・専門性の確保の観点から望ましい場合があることを考慮に入れるべきである。
〔背景説明〕
一般に我が国の上場会社は、他国の上場会社に比して幅広い事項を株主総会にかけているとされる。しかしながら、上場会社に係る重要な意思決定については、これをすべからく株主の直接投票で決することが常に望ましいわけではなく、株主に対する受託者責任を十分に果たし得る取締役会が存在する場合には、会社法が認める選択肢の中でその意思決定の一部を取締役会に委任することは、経営判断に求められる機動性・専門性を確保する観点から合理的な場合がある。このような委任が適切であるか否かは、取締役会においてコーポレートガバナンスに関する役割・責務を十分に果たし得るような体制が整っているか否かに左右される部分が大きいと考えられる。
1−1B 上場会社は、株主の権利の重要性を踏まえ、その権利行使を事実上妨げることのないよう配慮すべきである。とりわけ、少数株主にも認められている上場会社及びその役員に対する特別な権利(違法行為の差止めや代表訴訟提起に係る権利等)については、その権利行使の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。
● 【原則1−2.株主総会における権利行使】
上場会社は、株主総会が株主との建設的な対話の場であることを認識し、株主の視点に立って、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備を行うべきである。
◎補充原則
1−2@ 上場会社は、株主総会において株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる情報については、必要に応じ適確に提供すべきである。
1−2A 上場会社は、株主が総会議案の十分な検討期間を確保することができるよう、招集通知に記載する情報の正確性を担保しつつその早期発送に努めるべきであり、また、招集通知に記載する情報は、株主総会の招集に係る取締役会決議から招集通知を発送するまでの間に、TDnet や自社のウェブサイトにより電子的に公表すべきである。
1−2B 上場会社は、株主との建設的な対話の充実や、そのための正確な情報提供等の観点を考慮し、株主総会開催日をはじめとする株主総会関連の日程の適切な設定を行うべきである。
〔背景説明〕
株主総会開催手続きについては、本有識者会議において、以下の議論があった。
・ 基準日から株主総会開催日までの期間は、ガバナンスの実効性を確保する観点から、できるだけ短いことが望ましい(英国では、2日間以内)。
・ 招集通知から株主総会開催日までの期間は、熟慮のため、できるだけ長いことが望ましい(英国では、約4週間以上)。
・ 決算期末から、会計監査証明までの期間は、不正リスクに対応した実効性ある会計監査確保の観点から、一定の期間を確保する必要がある。
・ 以上に対応するため、必要があれば、株主総会開催日を7月(3 月期決算の会社の場合)にすることも検討されることが考えられるが、業績評価に基づく株主総会の意思決定との観点から、決算期末から株主総会開催日までの期間が長くなりすぎることは避ける必要がある。

なお、以上の方向で考える場合、(監査済財務情報の提供時期や株主総会の開催時期が後倒しになることが考えられることから、)決算短信によるタイムリーな情報提供が一層重要となることや、例外的な事象が生じた場合も視野に入れた他の制度との整合性の検討が必要となることなどにも留意が必要である。
本問題については、本コード(原案)に寄せられるパブリック・コメント等の内容も踏まえつつ、必要に応じ、本有識者会議において引き続き議論を行い、東京証券取引所における最終的なコードの策定に反映される必要があるか否かを検討することとする。
1−2C 上場会社は、自社の株主における機関投資家や海外投資家の比率等も踏まえ、議決権の電子行使を可能とするための環境作り(議決権電子行使プラットフォームの利用等)や招集通知の英訳を進めるべきである。
1−2D 信託銀行等の名義で株式を保有する機関投資家等が、株主総会において、信託銀行等に代わって自ら議決権の行使等を行うことをあらかじめ希望する場合に対応するため、上場会社は、信託銀行等と協議しつつ検討を行うべきである。
●【原則1−3.資本政策の基本的な方針】
上場会社は、資本政策の動向が株主の利益に重要な影響を与え得ることを踏まえ、資本政策の基本的な方針について説明を行うべきである。
●【原則1−4.いわゆる政策保有株式】
上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。
上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべきである。
● 【原則1−5.いわゆる買収防衛策】
買収防衛の効果をもたらすことを企図してとられる方策は、経営陣・取締役会の保身を目的とするものであってはならない。その導入・運用については、取締役会・監査役は、株主に対する受託者責任を全うする観点から、その必要性・合理性をしっかりと検討し、適正な手続を確保するとともに、株主に十分な説明を行うべきである。
◎補充原則
1−5@ 上場会社は、自社の株式が公開買付けに付された場合には、取締役会としての考え方(対抗提案があればその内容を含む)を明確に説明すべきであり、また、株主が公開買付けに応じて株式を手放す権利を不当に妨げる措置を講じるべきではない。
●【原則1−6.株主の利益を害する可能性のある資本政策】
支配権の変動や大規模な希釈化をもたらす資本政策(増資、MBO等を含む)については、既存株主を不当に害することのないよう、取締役会・監査役は、株主に対する受託者責任を全うする観点から、その必要性・合理性をしっかりと検討し、適正な手続を確保するとともに、株主に十分な説明を行うべきである。
●【原則1−7.関連当事者間の取引】
上場会社がその役員や主要株主等との取引(関連当事者間の取引)を行う場合には、そうした取引が会社及び株主共同の利益を害することのないよう、また、そうした懸念を惹起することのないよう、取締役会は、あらかじめ、取引の重要性やその性質に応じた適切な手続を定めてその枠組みを開示するとともに、その手続を踏まえた監視(取引の承認を含む)を行うべきである。
■第2章 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
■【基本原則2】
上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。
取締役会・経営陣は、これらのステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。
考え方
上場会社には、株主以外にも重要なステークホルダーが数多く存在する。これらのステークホルダーには、従業員をはじめとする社内の関係者や、顧客・取引先・債権者等の社外の関係者、更には、地域社会のように会社の存続・活動の基盤をなす主体が含まれる。上場会社は、自らの持続的な成長と中長期的な企業価値の創出を達成するためには、これらのステークホルダーとの適切な協働が不可欠であることを十分に認識すべきである。また、近時のグローバルな社会・環境問題等に対する関心の高まりを踏まえれば、いわゆるESG(環境、社会、統治)問題への積極的・能動的な対応をこれらに含めることも考えられる。
上場会社が、こうした認識を踏まえて適切な対応を行うことは、社会・経済全体に利益を及ぼすとともに、その結果として、会社自身にも更に利益がもたらされる、という好循環の実現に資するものである。
●【原則2−1.中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定】
上場会社は、自らが担う社会的な責任についての考え方を踏まえ、様々なステークホルダーへの価値創造に配慮した経営を行いつつ中長期的な企業価値向上を図るべきであり、こうした活動の基礎となる経営理念を策定すべきである。
● 【原則2−2.会社の行動準則の策定・実践】
上場会社は、ステークホルダーとの適切な協働やその利益の尊重、健全な事業活動
倫理などについて、会社としての価値観を示しその構成員が従うべき行動準則を定め、
実践すべきである。取締役会は、行動準則の策定・改訂の責務を担い、これが国内外
の事業活動の第一線にまで広く浸透し、遵守されるようにすべきである。
◎補充原則
2−2@ 取締役会は、行動準則が広く実践されているか否かについて、適宜または定期的にレビューを行うべきである。その際には、実質的に行動準則の趣旨・精神を尊重する企業文化・風土が存在するか否かに重点を置くべきであり、形式的な遵守確認に終始すべきではない。
〔背景説明〕
上記の行動準則は、倫理基準、行動規範等と呼称されることもある。
●【原則2−3.社会・環境問題をはじめとするサステナビリティーを巡る課題】
上場会社は、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティー(持続可能性)を巡る課題について、適切な対応を行うべきである。
◎補充原則
2−3@ 取締役会は、サステナビリティー(持続可能性)を巡る課題への対応は重要なリスク管理の一部であると認識し、適確に対処するとともに、近時、こうした課題に対する要請・関心が大きく高まりつつあることを勘案し、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討すべきである。
●【原則2−4.女性の活用を含む社内の多様性の確保】
上場会社は、社内に異なる経験・技能・属性を反映した多様な視点や価値観が存在することは、会社の持続的な成長を確保する上での強みとなり得る、との認識に立ち、社内における女性の活用を含む多様性の確保を推進すべきである。
●【原則2−5.内部通報】
上場会社は、その従業員等が、不利益を被る危険を懸念することなく、違法または不適切な行為・情報開示に関する情報や真摯な疑念を伝えることができるよう、また、伝えられた情報や疑念が客観的に検証され適切に活用されるよう、内部通報に係る適切な体制整備を行うべきである。取締役会は、こうした体制整備を実現する責務を負うとともに、その運用状況を監督すべきである。
◎補充原則
2−5@ 上場会社は、内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の設置(例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべきであり、また、情報提供者の秘匿と不利益取扱の禁止に関する規律を整備すべきである。
■第3章 適切な情報開示と透明性の確保
■【基本原則3】
上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。
その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。
考え方
上場会社には、様々な情報を開示することが求められている。これらの情報が法令に基づき適時適切に開示されることは、投資家保護や資本市場の信頼性確保の観点から不可欠の要請であり、取締役会・監査役・監査役会・外部会計監査人は、この点に関し財務情報に係る内部統制体制の適切な整備をはじめとする重要な責務を負っている。

また、上場会社は、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。
更に、我が国の上場会社による情報開示は、計表等については、様式・作成要領などが詳細に定められており比較可能性に優れている一方で、定性的な説明等のいわゆる非財務情報を巡っては、ひな型的な記述や具体性を欠く記述となっており付加価値に乏しい場合が少なくない、との指摘もある。取締役会は、こうした情報を含め、開示・提供される情報が可能な限り利用者にとって有益な記載となるよう積極的に関与を行う必要がある。
法令に基づく開示であれそれ以外の場合であれ、適切な情報の開示・提供は、上場会社の外側にいて情報の非対称性の下におかれている株主等のステークホルダーと認識を共有し、その理解を得るための有力な手段となり得るものであり、「『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」を踏まえた建設的な対話にも資するものである。
●【原則3−1.情報開示の充実】
上場会社は、法令に基づく開示を適切に行うことに加え、会社の意思決定の透明性・公正性を確保し、実効的なコーポレートガバナンスを実現するとの観点から、(本コード(原案)の各原則において開示を求めている事項のほか、)以下の事項について開示・公表し、主体的な情報発信を行うべきである。
(@)会社の目指すところ(経営理念等)や経営戦略、経営計画
(A)本コード(原案)のそれぞれの原則を踏まえた、コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針
(B)取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続
(C)取締役会が経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続
(D)取締役会が上記(C)を踏まえて経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選任・指名についての説明
◎補充原則
3−1@ 上記の情報の開示に当たっても、取締役会は、ひな型的な記述や具体性を欠く記述を避け、利用者にとって付加価値の高い記載となるようにすべきである。
3−1A 上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである。
● 【原則3−2.外部会計監査人】
外部会計監査人及び上場会社は、外部会計監査人が株主・投資家に対して責務を負っていることを認識し、適正な監査の確保に向けて適切な対応を行うべきである。
◎補充原則
3−2@ 監査役会は、少なくとも下記の対応を行うべきである。
(@) 外部会計監査人候補を適切に選定し外部会計監査人を適切に評価するための基準の策定
(A) 外部会計監査人に求められる独立性と専門性を有しているか否かについての確認

3−2A 取締役会及び監査役会は、少なくとも下記の対応を行うべきである。
(@) 高品質な監査を可能とする十分な監査時間の確保
(A) 外部会計監査人からCEO・CFO等の経営陣幹部へのアクセス(面談等)の確保
(B) 外部会計監査人と監査役(監査役会への出席を含む)、内部監査部門や社外取締役との十分な連携の確保
(C) 外部会計監査人が不正を発見し適切な対応を求めた場合や、不備・問題点を指摘した場合の会社側の対応体制の確立
■第4章 取締役会等の責務
■【基本原則4】
上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、
(1) 企業戦略等の大きな方向性を示すこと
(2) 経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
(3) 独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと
をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。
こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うこととなる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、等しく適切に果たされるべきである。
考え方
上場会社は、通常、会社法(平成26 年改正後)が規定する機関設計のうち主要な3種類(監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社)のいずれかを選択することとされている。前者(監査役会設置会社)は、取締役会と監査役・監査役会に統治機能を担わせる我が国独自の制度である。その制度では、監査役は、取締役・経営陣等の職務執行の監査を行うこととされており、法律に基づく調査権限が付与されている。また、独立性と高度な情報収集能力の双方を確保すべく、監査役(株主総会で選任)の半数以上は社外監査役とし、かつ常勤の監査役を置くこととされている。後者の2つは、取締役会に委員会を設置して一定の役割を担わせることにより監督機能の強化を目指すものであるという点において、諸外国にも類例が見られる制度である。上記の3種類の機関設計のいずれを採用する場合でも、重要なことは、創意工夫を施すことによりそれぞれの機関の機能を実質的かつ十分に発揮させることである。
また、本コード(原案)を策定する大きな目的の一つは、上場会社による透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を促すことにあるが、上場会社の意思決定のうちには、外部環境の変化その他の事情により、結果として会社に損害を生じさせることとなるものが無いとは言い切れない。その場合、経営陣・取締役が損害賠償責任を負うか否かの判断に際しては、一般的に、その意思決定の時点における意思決定過程の合理性が重要な考慮要素の一つとなるものと考えられるが、本コード(原案)には、ここでいう意思決定過程の合理性を担保することに寄与すると考えられる内容が含まれており、本コード(原案)は、上場会社の透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を促す効果を持つこととなるものと期待している。
●【原則4−1.取締役会の役割・責務(1)】
取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)を確立し、戦略的な方向付けを行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、具体的な経営戦略や経営計画等について建設的な議論を行うべきであり、重要な業務執行の決定を行う場合には、上記の戦略的な方向付けを踏まえるべきである。
◎補充原則
4−1@ 取締役会は、取締役会自身として何を判断・決定し、何を経営陣に委ねるのかに関連して、経営陣に対する委任の範囲を明確に定め、その概要を開示すべきである。

4−1A 取締役会・経営陣幹部は、中期経営計画も株主に対するコミットメントの一つであるとの認識に立ち、その実現に向けて最善の努力を行うべきである。仮に、中期経営計画が目標未達に終わった場合には、その原因や自社が行った対応の内容を十分に分析し、株主に説明を行うとともに、その分析を次期以降の計画に反映させるべきである。

4−1B 取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者等の後継者の計画(プランニング)について適切に監督を行うべきである。
● 【原則4−2.取締役会の役割・責務(2)】
取締役会は、経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、経営陣からの健全な企業家精神に基づく提案を歓迎しつつ、説明責任の確保に向けて、そうした提案について独立した客観的な立場において多角的かつ十分な検討を行うとともに、承認した提案が実行される際には、経営陣幹部の迅速・果断な意思決定を支援すべきである。
また、経営陣の報酬については、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべきである。
◎ 補充原則
4−2@ 経営陣の報酬は、持続的な成長に向けた健全なインセンティブの一つとして機能するよう、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである。
● 【原則4−3.取締役会の役割・責務(3)】
取締役会は、独立した客観的な立場から、経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、適切に会社の業績等の評価を行い、その評価を経営陣幹部の人事に適切に反映すべきである。
また、取締役会は、適時かつ正確な情報開示が行われるよう監督を行うとともに、内部統制やリスク管理体制を適切に整備すべきである。
更に、取締役会は、経営陣・支配株主等の関連当事者と会社との間に生じ得る利益相反を適切に管理すべきである。
◎補充原則
4−3@ 取締役会は、経営陣幹部の選任や解任について、会社の業績等の評価を踏まえ、公正かつ透明性の高い手続に従い、適切に実行すべきである。

4−3A コンプライアンスや財務報告に係る内部統制や先を見越したリスク管理体制の整備は、適切なリスクテイクの裏付けとなり得るものであるが、取締役会は、これらの体制の適切な構築や、その運用が有効に行われているか否かの監督に重点を置くべきであり、個別の業務執行に係るコンプライアンスの審査に終始すべきではない。
● 【原則4−4.監査役及び監査役会の役割・責務】
監査役及び監査役会は、取締役の職務の執行の監査、外部会計監査人の選解任や監査報酬に係る権限の行使などの役割・責務を果たすに当たって、株主に対する受託者責任を踏まえ、独立した客観的な立場において適切な判断を行うべきである。
また、監査役及び監査役会に期待される重要な役割・責務には、業務監査・会計監査をはじめとするいわば「守りの機能」があるが、こうした機能を含め、その役割・責務を十分に果たすためには、自らの守備範囲を過度に狭く捉えることは適切でなく、能動的・積極的に権限を行使し、取締役会においてあるいは経営陣に対して適切に意見を述べるべきである。
◎ 補充原則
4−4@ 監査役会は、会社法により、その半数以上を社外監査役とすること及び常勤の監査役を置くことの双方が求められていることを踏まえ、その役割・責務を十分に果たすとの観点から、前者に由来する強固な独立性と、後者が保有する高度な情報収集力とを有機的に組み合わせて実効性を高めるべきである。また、監査役または監査役会は、社外取締役が、その独立性に影響を受けることなく情報収集力の強化を図ることができるよう、社外取締役との連携を確保すべきである。
● 【原則4−5.取締役・監査役等の受託者責任】
上場会社の取締役・監査役及び経営陣は、それぞれの株主に対する受託者責任を認識し、ステークホルダーとの適切な協働を確保しつつ、会社及び株主共同の利益のために行動すべきである。
● 【原則4−6.経営の監督と執行】
上場会社は、取締役会による独立かつ客観的な経営の監督の実効性を確保すべく、業務の執行には携わらない、業務の執行と一定の距離を置く取締役の活用について検討すべきである。
●【原則4−7.独立社外取締役の役割・責務
上場会社は、独立社外取締役には、特に以下の役割・責務を果たすことが期待されることに留意しつつ、その有効な活用を図るべきである。
(@)経営の方針や経営改善について、自らの知見に基づき、会社の持続的な成長を促し中長期的な企業価値の向上を図る、との観点からの助言を行うこと
(A)経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行うこと
(B)会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督すること
(C)経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させること
● 【原則4−8.独立社外取締役の有効な活用】
独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである。
また、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、自主的な判断により、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、そのための取組み方針を開示すべきである。
〔背景説明〕
独立社外取締役を巡っては様々な議論があるが、単にこれを設置しさえすれば会社の成長が図られる、という捉え方は適切ではない。独立社外取締役を置く場合には、その期待される役割・責務に照らし、その存在を活かすような対応がとられるか否かが成否の重要な鍵となると考えられる。(独立)社外取締役については、既に会社法(平成26年改正後)や上場規則が1名以上の設置に関連する規定を置いており、実務上もこれに沿った対応が見られるが、本コード(原案)では、独立社外取締役を複数名設置すればその存在が十分に活かされる可能性が大きく高まる、という観点から、「少なくとも2名以上」との記載を行っている。
なお、本有識者会議において、関係団体の中には、独立役員の円滑な選任を促進する観点から、その候補に関する情報の蓄積・更新・提供をするなどの取組みを行っている団体もあり、今後、こうした取組みが更に広範に進められていくことが期待される、との指摘があった。
◎ 4−8@ 独立社外取締役は、取締役会における議論に積極的に貢献するとの観点から例えば、独立社外者のみを構成員とする会合を定期的に開催するなど、独立した客観的な立場に基づく情報交換・認識共有を図るべきである。

〔背景説明〕
独立社外者のみを構成員とする会合については、その構成員を独立社外取締役のみとすることや、これに独立社外監査役を加えることが考えられる。

4−8A 独立社外取締役は、例えば、互選により「筆頭独立社外取締役」を決定することなどにより、経営陣との連絡・調整や監査役または監査役会との連携に係る体制整備を図るべきである。
● 【原則4−9.独立社外取締役の独立性判断基準及び資質】
取締役会は、金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準を策定・公表すべきである。また、取締役会は、取締役会における率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できる人物を独立社外取締役の候補者として選定するよう努めるべきである。
〔背景説明〕
金融商品取引所が定める独立性基準やこれに関連する開示基準については、その内容が抽象的で解釈に幅を生じさせる余地があるとの見方がある。これについては、適用における柔軟性が確保されているとの評価がある一方で、機関投資家や議決権行使助言会社による解釈が様々に行われる結果、上場会社が保守的な適用を行うという弊害が生じているとの指摘もある。また、これらの基準には、幾つかの点において、諸外国の基準との差異も存在するところである。本有識者会議としては、今後の状況の進展等を踏まえつつ、金融商品取引所において、必要に応じ、適切な検討が行われることを期待する。
● 【原則4−10.任意の仕組みの活用】
上場会社は、会社法が定める会社の機関設計のうち会社の特性に応じて最も適切な形態を採用するに当たり、必要に応じて任意の仕組みを活用することにより、統治機能の更なる充実を図るべきである。
◎ 補充原則
4−10@ 上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。

〔背景説明〕
取締役会に期待される説明責任の確保や実効性の高い監督といった役割・責務に関しては、監査や指名・報酬に係る機能の重要性が指摘されている。また、諸外国では、こうした機能に関しては特に独立した客観的な立場からの判断を求めている例も多い。こうした機能(監査役会・監査等委員会が関与する監査を除く)の独立性・客観性を強化する手法としては、例えば、任意の諮問委員会を活用することや、監査等委員会設置会社である場合には、取締役の指名・報酬について株主総会における意見陳述権が付与されている監査等委員会を活用することなどが考えられる。その際には、コーポレートガバナンスに関連する様々な事項(例えば、関連当事者間の取引に関する事項や監査役の指名に関する事項等)をこうした委員会に併せて検討させるなど、会社の実情に応じた多様な対応を行うことが考えられる。
● 【原則4−11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】
取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。また、監査役には、財務・会計に関する適切な知見を有している者が1名以上選任されるべきである。
取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである。
◎補充原則
4−11@ 取締役会は、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。

4−11A 社外取締役・社外監査役をはじめ、取締役・監査役は、その役割・責務を適切に果たすために必要となる時間・労力を取締役・監査役の業務に振り向けるべきである。こうした観点から、例えば、取締役・監査役が他の上場会社の役員を兼任する場合には、その数は合理的な範囲にとどめるべきであり、上場会社は、その兼任状況を毎年開示すべきである。

4−11B 取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。
● 【原則4−12.取締役会における審議の活性化】
取締役会は、社外取締役による問題提起を含め自由闊達で建設的な議論・意見交換を尊ぶ気風の醸成に努めるべきである。
◎ 補充原則
4−12@ 取締役会は、会議運営に関する下記の取扱いを確保しつつ、その審議の活性化を図るべきである。
(@) 取締役会の資料が、会日に十分に先立って配布されるようにすること
(A) 取締役会の資料以外にも、必要に応じ、会社から取締役に対して十分な情報が(適切な場合には、要点を把握しやすいように整理・分析された形で)提供されるようにすること
(B) 年間の取締役会開催スケジュールや予想される審議事項について決定しておくこと
(C) 審議項目数や開催頻度を適切に設定すること
(D) 審議時間を十分に確保すること
● 【原則4−13.情報入手と支援体制】
取締役・監査役は、その役割・責務を実効的に果たすために、能動的に情報を入手すべきであり、必要に応じ、会社に対して追加の情報提供を求めるべきである。
また、上場会社は、人員面を含む取締役・監査役の支援体制を整えるべきである。
取締役会・監査役会は、各取締役・監査役が求める情報の円滑な提供が確保されているかどうかを確認すべきである
◎補充原則
4−13@ 社外取締役を含む取締役は、透明・公正かつ迅速・果断な会社の意思決定に資するとの観点から、必要と考える場合には、会社に対して追加の情報提供を求めるべきである。また、社外監査役を含む監査役は、法令に基づく調査権限を行使することを含め、適切に情報入手を行うべきである。

4−13A 取締役・監査役は、必要と考える場合には、会社の費用において外部の専門家の助言を得ることも考慮すべきである。

4−13B 上場会社は、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきである。また、上場会社は、例えば、社外取締役・社外監査役の指示を受けて会社の情報を適確に提供できるよう社内との連絡・調整にあたる者の選任など、社外取締役や社外監査役に必要な情報を適確に提供するための工夫を行うべきである。
● 【原則4−14.取締役・監査役のトレーニング】
新任者をはじめとする取締役・監査役は、上場会社の重要な統治機関の一翼を担う者として期待される役割・責務を適切に果たすため、その役割・責務に係る理解を深めるとともに、必要な知識の習得や適切な更新等の研鑽に努めるべきである。このため、上場会社は、個々の取締役・監査役に適合したトレーニングの機会の提供・斡旋やその費用の支援を行うべきであり、取締役会は、こうした対応が適切にとられているか否かを確認すべきである。
◎ 補充原則
4−14@ 社外取締役・社外監査役を含む取締役・監査役は、就任の際には、会社の事業・財務・組織等に関する必要な知識を取得し、取締役・監査役に求められる役割と責務(法的責任を含む)を十分に理解する機会を得るべきであり、就任後においても、必要に応じ、これらを継続的に更新する機会を得るべきである。

4−14A 上場会社は、取締役・監査役に対するトレーニングの方針について開示を行うべきである。
■第5章 株主との対話
■ 【基本原則5】
上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。
経営陣幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主に分かりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行い、株主を含むステークホルダーの立場に関するバランスのとれた理解と、そうした理解を踏まえた適切な対応に努めるべきである。
考え方
「『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」の策定を受け、機関投資家には、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)を行うことが求められている。
上場会社にとっても、株主と平素から対話を行い、具体的な経営戦略や経営計画などに対する理解を得るとともに懸念があれば適切に対応を講じることは、経営の正統性の基盤を強化し、持続的な成長に向けた取組みに邁進する上で極めて有益である。
また、一般に、上場会社の経営陣・取締役は、従業員・取引先・金融機関とは日常的に接触し、その意見に触れる機会には恵まれているが、これらはいずれも賃金債権、貸付債権等の債権者であり、株主と接する機会は限られている。経営陣幹部・取締役が、株主との対話を通じてその声に耳を傾けることは、資本提供者の目線からの経営分析や意見を吸収し、持続的な成長に向けた健全な企業家精神を喚起する機会を得る、ということも意味する。
● 【原則5−1.株主との建設的な対話に関する方針】
上場会社は、株主からの対話(面談)の申込みに対しては、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するよう、合理的な範囲で前向きに対応すべきである。取締役会は、株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針を検討・承認し、公表すべきである。
◎ 補充原則
5−1@ 株主との実際の対話(面談)の対応者については、株主の希望と面談の主な関心事項も踏まえた上で、合理的な範囲で、経営陣幹部または取締役(社外取締役を含む)が面談に臨むことを基本とすべきである。

5−1A 株主との建設的な対話を促進するための方針には、少なくとも以下の点を記載すべきである。
(@) 株主との対話全般について、下記(A)〜(D)に記載する事項を含めその統括を行い、建設的な対話が実現するように目配りを行う経営陣または取締役の指定
(A) 対話を補助する社内のIR担当、経営企画、総務、財務、経理、法務部門等の有機的な連携のための方策
(B) 個別面談以外の対話の手段(例えば、投資家説明会やIR活動)の充実に関する取組み
(C) 対話において把握された株主の意見・懸念の経営陣幹部や取締役会に対する適切かつ効果的なフィードバックのための方策
(D) 対話に際してのインサイダー情報の管理に関する方策

5−1B 上場会社は、必要に応じ、自らの株主構造の把握に努めるべきであり、株主も、こうした把握作業にできる限り協力することが望ましい。
● 【原則5−2.経営戦略や経営計画の策定・公表】
経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。