シンプラル法律事務所
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損害賠償請求における不法行為の時効(酒井)

★第1章 民法724条の適用範囲(p1)
 
 
     
     
★第2章 民法724条前段の短期消滅時効・・・総論(p15)
     
     
★第3章 3年の短期時効の起算点(p34)
  ◆1 民法166条1項との比較・検討 
◇    ◇(1) 客観丁起算点の採用 
    民法  第一六六条 
消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
権利者において権利行使が事実上はできなくても権利が発生して法律上権利行使ができる場合は時効が進行する。
     
  ◇(2) 主観的起算点の採用うの理由(p35)
    「損害及び加害者を知った時から」・・・権利者の主観を起算点

①その時から損害賠償請求権の行使を合理的に期待し得るから(四宮)
②違法行為をした者に被害者の主観的認識を立証する負担が課せられても不当ではない(最判解説)
その認識の対象:
①加害者を知る
②損害を知る
③不法行為を構成することを知る
④因果関係を知る
     
  ◆2 時効期間との関係 
     
  ◆3 主観的事情を起算点とした理由(p38)
  ◇(1) 判例による説明 
    最高裁昭和45.6.19
客観的には不法行為により損害賠償請求権が発生しても、直ちに被害者が損害の発生および加害者を知り得ないため、右請求権を行使することができない場合があることを考慮
最高裁H14.1.29:
被害者が、損害の発生を現実に認識していない場合には、被害者が加害者に対して損害賠償請求に及ぶことを期待することができない・・
他方、損害の発生や加害者を現実に認識していれば、消滅時効の進行を認めても、被害者の権利を不当に侵害することにはならない
     
  ◆4 知りたる時(p40) 
    最高裁昭和48.11.16:
民法724条で時効の起算点をに関する特則を設けた趣旨
⇒①加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、②その可能な程度に③これを知った時を意味する
     
  ◆知りたる程度(p41) 
  ◇(1) 確信又は確定判決の要否 
    ・・・あらゆる点で不法行為を成立させるに十分なものであることにつき被害者が確信に達する時又は確定判決で後見的に確定される時まで時効は進行しないというふうに一般化されてはならない
←そのように理解しないと、いつまでたっても消滅時効期間が進行せず、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効制度は実際上ほとんど無意味になる。
     
  ◇(4) 裁判上の請求が可能な程度の具体的内容 
     
  ■オ 最高裁判例の理解(p45)
    最高裁H23.4.22(信用組合関西興銀事件):
信用協同組合が自ら経営破たんの危険を説明すべき義務に違反して出資の勧誘をしたことを理由とする出資者の信用協同組合に対する損害賠償請求権の消滅時効が、遅くとも同種の集団訴訟が提起された時点から進行すると判示。

認識の程度として確実な証拠を基に勝訴見込みが立つ程度までに知る必要はない。

判文中の「勧誘が行われた当時の上告人の代表理事らの具体的認識に関する証拠となる資料を現実には得ていなかったとしても」の説示
     
  ◆6 知る主体・・・一般人か被害者本人か 
     
  ◇(2) 一般人基準説
     
  ◇(3) 被害者基準説(p47) 
   
   
①被害者の損害賠償請求権を時間の経過という理由だけで消滅させる効果を生じさせるもの⇒被害者が現実に権利行使ができたのにという状況が生じたことが必要条件
②「被害者又はその法定代理人が・・・知った時から」という民法724条の前段の文言
  ■イ 現実認識か認識可能か 
     
  ◇(4) 判例の立場 
    最高裁H14.1.29:
被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解すべき
    裸あるいはそれに近い事実認識の領域ではあくまでも被害者の現実認識を前提とし、
それを踏まえた上で、損害賠償請求が可能かどうかの基準から、時効の起算点としての知ったという規範としての法的判断については一般人を標準にしたもの
     
  ◆7 立証責任 
     
★第4章 関連裁判の確定の起算点 (p51)
     
     
★第5章 権利行使の事実上の可能性(p62)
     
     
★第6章 起算点・・・知る主体(p80)
     
  ◆4 被害者が国の場合
    大判昭13.9.10:
国有の汽船衝突による損害賠償請求について、船舶事故の調査権限を持つ築港事務所長が知れば足り、同所長において賠償請求の法的処理をなす権限を行使するについて、北海道長官の許可を受ける立場にあることは左右しない
青森地裁昭和33.9.3:
国(海軍省)が買い受けた土地の二重譲渡の対抗関係で負けて、被害者となったというケースで、二重譲渡による登記を登記官が知っただけでは足らず、国有財産を管理する機関(財務局)が知ることを要する。
←登記機関において該登記の事実を知ったとしても、それが不法行為を形成すべきことを知る由がない。
    損害を知るとは、損害を現実に知りそれが不法行為によることを知ることであり、事故や損害を調査する国の機関や、国有財産を管理する期間が知ることを要する。
  ◆被害者が法人の場合(p83)
  ◇(1) 職務担当者の知 
    被害者が法人である場合に、加害者及び損害を知るとは、法人の代表者が知る事。
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代表機関が知らないでも当該事件の実際の職務担当者が知れば足りる。
  ◇(2) 代表者自身の加害行為の場合 
    福岡高裁昭和62.12.10:
代表者の背任による場合、知る主体について、法人の利益を正当に保全する権限のある当該代表者以外の役員又は従業員⇒当該代表者が背任罪として起訴された時点を起算点とした。
     
     
★第7章 起算点・・・加害者を知る(p85)
     
     
★第8章 使用者責任(民法715条)  
     
     
★第9章 不法行為を知る(p100)
  ◆1 時効の起算点としての要件 
  ◇(1) 判例の立場 
    判例:時効が進行するためには、不法行為であることの認識も必要
     
  ◇(2) 要件とする根拠 
    ①損害賠償を請求し得る余地はないと思っている間は、時効の進行を認むべき理由がない
②不法行為性の認識がなければ、現実的提訴可能性もない
     
  ◆2 不法行為を構成することを知ることの内容(p102)
  ◇(1) 認識対象と判断主体 
    違法であると判断するに足りる事実の認識で足りるのか、あるいは法的評価まで含むのか、
被害者本人の具体的あるいは現実の認識を基準にするのか一般人の判断を基準にするのか
    (被害者に不利)ア、イ、ウ(被害者に有利)
  ■ア 事実認識は被害者本人、法的評価は一般人(当該被害者が属する職業、地位等にふさわしい一般人)を基準 
     
  ■イ 被害者の違法という評価は必要なく、一般人が当該加害行為が不法行為と評価するに足る事実を被害者が知ること 
    最高裁H23.4.22:
一般的な規範を判示していない事例判断をしているにすぎないものであるが、
一般人であれば当該加害行為が違法であると判断するに足りる事実を被害者において認識していれば足りる。

判時コメント:
確実な証拠を基に勝訴の見込みが立つ程度にまで知る必要はないという考え方であり、
被害者が用意にそのような事実を知り得る状況に置かれていることが認められれば足りるという方向性を示していると解説。
     
  ■ウ 事実の認識と法的認識(法的評価ではない) のいずれも被害者本人を基準にする
     
  ◇(2) 知る程度 
    ・・・・あらゆる点で不法行為を成立させるに充分なものであることにつき被害者が確信を持ったときとする理解はされていない。

被害者の確信を必要とすると不法行為による損害賠償請求権についての消滅時効制度が機能しない結果になる。
    不法行為であるか否かは複雑かつ微妙の判断を要する事項であり、かつ時効期間が3年というあまりにも短時間⇒一般論としては訴訟を維持・遂行できる程度に知ることを要するとの見解を採用すべき。
  ◇(3) 法の不知 
     
★第10章 因果関係を知る(p113)
     
     
     
★第11章 損害を知る(p117)
  ◆1 不法行為における損害の意味 
  ◇(1) 損害=金銭説と損害事実説 
     
  ◇(2) 起算点としての損害の意味 
  ■ア 具体的な数額
    時効の起算点としての「損害を知る」とは、何らかの損害を知ることであり、具体的な数額までも知る必要はない。

ここでの損害とは、統一せる一体としての単一不可分のものであって、連絡なき個々独立の損害が嵩んされたものではないとの認識を前提。
     
     
  ◆5 現実認識の要・不要 
     
  ◇(3) 最高裁H14.1.29(ロス疑惑関連事件) 
    原審:被害者に現実の認識が欠けていても、その立場、知識、能力などから、わずかな努力によって損害や加害者を容易に認識し得るような状況にある場合には、その段階で損害及び加害者を知ったものと解すべき。
    最高裁:現実認識必要説。
同条にいう被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解すべきである。
・・・
Xが、損害の発生を現実に認識していない場合には、XがYらに対して損害賠償請求に及ぶことを期待することができないが、このような場合にまで、Xが損害の発生を容易に認識し得ることを理由に消滅時効の進行を認めることにすると、Xは、自己に対する不法行為が存在する可能性のあることを知った時点において、自己の権利を消滅させないために、損害の発生の有無を調査せざるを得なくなるが、不法行為によって損害を被った者に対し、このような負担を課することは不当である。
他方、損害の発生やYを現実に認識していれば、消滅時効の進行を認めても、Xの権利を不当に侵害することになはならない。

民法724条の短期消滅時効の趣旨は、損害賠償の請求を受けるかどうか、いかなる範囲まで賠償義務を負うか等が不明である結果、極めて不安定な立場に置かれる加害者の法的地位を安定させ、加害者を保護することにあるが、
それも、飽くまで被害者が不法行為による損害の発生及び加害者を現実に認識しながら3年間も放置していた場合に加害者の法的地位の安定を図ろうとしているものにすぎず、それ以上に加害者を保護しようという趣旨ではないというべきである。