シンプラル法律事務所
〒530-0047 大阪市北区西天満2丁目6番8号 堂島ビルヂング823号室 【地図】
TEL(06)6363-1860 mail:kawamura@simpral.com 


勉強会(判例時報2021後半)

判例時報の勉強会用の資料です(随時更新)

       
       
       
       
       
       
2498   
  民事p50
最高裁R3.1.18  
  自筆遺言証書に成立した日と相違する日付が記載されている場合の効力
  事案 亡Aの妻らであるXらが、本件遺言書に本件遺言が成立した日と相違する日の日付が記載⇒亡Aの内縁の妻らであるYらに対し、本件遺言が無効であることの確認等を求めた。 
  原審 本件遺言は、本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているという方式違反により無効⇒本訴請求を認容。
  判断 遺言者が、入院中の日に自筆証書による遺言の前文、同日の日に日付及び氏名を自書し、退院して9日後(全文等の自書日から27日後)に押印⇒同自筆証書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに同自筆証書による遺言が無効となるものではない。

本件遺言のその余の無効事由についてさらに審理を尽くさせるため、原審に差し戻し。
  解説 自筆遺言証書において日付の記載を要するとした趣旨:
①遺言能力の有無の判断基準時
②複数の遺言証書がある場合の作成の先後
を明らかにする。

自筆遺言証書に記載すべき日付は「真実遺言が成立した日」の日付(判例・通説)。 
本件のように、自筆遺言証書の作成の着手から完成までが2日以上にわたった場合、遺言成立日がいつか?
〇A:遺言における要式行為性を重視⇒方式全部を具備した日
B:意思表示を重視し、全文自書した日
vs.
自筆証書遺言の方式が定められた趣旨、すなわち、遺言が遺言者の死亡後に効力を生ずるという性質上、遺言者の真意に基づいてされたことを判断するのに適した方式を定めておき、これを充たすもののみを有効とすることで、遺言者の真意を確保するという趣旨。
必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは、かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがある。
本判決:
遺言成立の日は方式全部を充たした日であり、遺言書には同日の日付を記載すべき。
but
遺言成立日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに当該遺言が無効となるものではないとされた一事例。
  民事p52
最高裁R3.5.17   
  建設現場での石綿粉じんの件で、厚労大臣の労働安全衛生法に基づく規制権限の不行使を理由とする国賠請求(否定)
  事案 建設作業に従事し、石綿粉じんにばく露したことにより石綿関連疾患にり患したと主張する者(「被災者」)又はその承継人であるXらが、Y1(国)に対し、石綿含有建材に関する規制権限の不行使が国賠法1条1項の適用上違法であった⇒同項でに基づく損害賠償を求めるとともに、
Y2ら(建材メーカー)に対し、石綿含有建材に関する警告表示義務の違反があった⇒不法行為に基づく損害賠償請求
  論点 ①Y1が平成13年~平成16年9月30日(「本件期間1」)に屋外の建設現場における石綿含有建材の切断、設置等の作業(「屋外建設作業」)に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていることを認識することができたか否か
②Y2らが平成13年~平成15年12月31日(「本件期間2」)に屋外建設作業に従事する者に前記危険が生じていることを認識することができたか 
  原審 本件期間1及び2までに公表等がされていた屋外建設作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果には、日本産業衛生学会が平成13年に勧告した過剰発がん障がいリスクレベル10のー03乗に対応する評価値としての0.15本/mlを上回るものが複数あった⇒Y1及びY2らは前記危険が生じていることを認識することが可能であったといえる⇒屋外建設作業に従事した被災者Aの承継人であるXらのY1及びY2らに対する請求を一部認容。 
  判断 Y1及びY2らは前記危険が生じていることを認識することができたとはいえない⇒請求棄却。 
  解説 公務員による規制権限の不行使が国賠法上違法であるというためには、
規制権限の不行使により損害を受けた国民との関係で、当該公務員が規制権限を行使すべき作為義務を負っており、
その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる必要があるところ、
その作為義務を肯定するためには、
㋐規制権限を定めた法が保護する利益の内容及び性質、
㋑被害の重大性及び切迫性
㋒予見可能性
㋓結果回避可能性等
の諸事情を総合的に検討すべき。 
当該公務員が危険を予見することができない⇒作為義務を課すことができない
⇒予見可能性は、作為義務を肯定するために不可欠。
予見可能性の有無の手がかりになるのは、
主に、就業場所における石綿粉じん濃度に係る本件期間1及び2当時の国の規制値等や、
本件期間1及び2までに公表等がされていた石綿含有建材を使用する作業時における石綿粉じん濃度の測定結果等。
  日本産業衛生学会は、石綿粉じんの許容濃度として、
昭和40年:2mg/㎥(=33本/㎤)
昭和49年:2本/㎤
をそれぞれ勧告し、
平成13年には許容濃度に変えて評価値の概念を導入し、
過剰発がん傷害リスクレベル10のー3乗に対応する評価値として0.15本/mlを勧告するなど、
石綿の危険性が明らかになっていくのに応じて勧告に係る濃度を引き下げてきた。
労働省(厚労省):
石綿粉じん濃度の規制値として、
昭和46年の告示:抑制濃度2mg/㎥(=33本/㎤)
昭和48年の通達及び昭和50年の告示:抑制濃度5本/㎤
昭和51年の通達、昭和59年の通達及び昭和63年の告示:抑制濃度又は管理濃度2本/㎤
平成16年告示:管理濃度0.15本/㎤
を定めてきた。

日本産業衛生学会の勧告の影響を受けてきた。

原判決:
本件期間1及び2までに公開等がされていた石綿粉じん濃度の測定結果の中に、日本産業衛生学会の勧告した前記評価値としての0.15本/mlを上回るものが複数ある⇒危険を認識することができた。
vs.

前記の危険の認識の前提となる石綿粉じん濃度の評価基準としては、通常は、法令上の規制値として定められた管理濃度を用いるのが相当。
評価基準として管理濃度が不合理となっており、前記評価値を基準とすべきであれば別論。
but
原判決は、本件期間1及び2の当時、そのようにいえる状況にあったことを説明していない⇒問題。

前記評価値の意味は、労働者が1日8時価、週40時間程度、50時間にわたり0.15本/mlの石綿粉じんにばく露したときに、1000人に1人、過剰発がんリスクが発生するというもの
⇒前記濃度以上の石綿粉じんに短時間ばく露することにより直ちに前記の過剰発がんリスクが発生するというものではない。

原判決の指摘する石綿粉じん濃度の測定結果は、主に石綿含有建材の切断作業をする者につきその作業をする限られた時間の個人ばく露濃度を測定したもの⇒それらの測定結果をもって、屋外建設作業に従事する者が就業時間を通じて当該濃度の石綿粉じんにばく露していたということはできない。

本判決:
本件期間1及び2に、Y1及びY2らが、屋外建設作業に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていることを認識することができたとはいえない。
  民事p58
福岡高裁R2.6.25  
  洗顔石けんの製造物責任の事案
  事案 Xらは、洗顔石けん(商品名「茶のしずく石鹸」)を使用⇒アレルギーにり患し、アレルギー症状を発症⇒製造物責任法に基づき、本件石けんを製造したY1・Y2及び原材料を製造したY3に対して、損害賠償請求訴訟を提起。
  争点 ①本件石けんの欠陥の有無
②本件石けんの原材料(グルパール19S)の欠陥の有無 
③開発危険の抗弁の成否
④Xらの損害
  原審 Xらの請求を一部認容




⑤支払われた見舞金について、Xらに支払われた見舞金の額はさまざまで、その金額に照らしても儀礼的に支払われたものとはいい難いものが含まれているところ、同見舞金は、Xらに生じた精神的苦痛を含む損害を補てんする趣旨の仮払いとして支払われた⇒損害との損益相殺の対象となる。
⑥ 
  判断 原判決の大筋を維持しつつ、Y3が負う損害賠償額を減額する変更をし、Xらの控訴を棄却。 
①本件アレルギー被害は、
本件石けんについて通常想定される使用者が、その通常の使用方法に従って使用したことによって生じ、
その被害の内容及び程度は、洗顔石けんの使用によって生じ得るものとして通常想定される被害の程度及び発生の割合を大きく上回るもので、
当時の科学・技術の水準を前提としても、本件アレルギーの原因であるグルパール19Sを配合せず、本件アレルギー被害のような被害が生じない代替設計によって、本件石けんと同等の効用を有する洗顔石けんを製造することは可能であり、
本件石けん販売期間においても、本件アレルギー被害は、洗顔石けんである本件石けんによって生じ得るアレルギー被害として社会通念上許容される限度を超えるものであった
⇒洗顔石けんとして通常有すべき安全性を欠いていた。
②グルパール19S自体の効用や有用性を考慮しても、本件アレルギー被害は、洗顔石けんの原材料によって生じるアレルギー被害として社会通念上許容される限度を超えており、本件アレルギー被害発生以前の原材料としての使用状況及び安全性試験の実施状況等にかかわらず、平成16年3月当時、洗顔石けんに配合、添加される原材料として、通常有すべき安全性を欠いていた。
③本件石けん販売期間よりも前の時点で存在した知見を総合すれば、本件石けん中のグルパール19Sにより、経皮的又は経粘膜的に感作が生じ、さらに、経口摂取した小麦製品との交叉反応が起こって、本件アレルギー被害のような被害が惹起されることを認識することができなかったとはいえない
⇒開発危険の抗弁は認められない。
  解説 製造物責任の欠陥の判定については、最高裁H25.4.12(イレッサ薬害訴訟上告審判決)が総合的な判定によるべきことを示唆⇒本判決も総合的な判定を試みている。 
  民事p110
広島高裁H31.2.20  
  性風俗店の経営者らに対する襲撃等につき指定暴力団の会長の使用者責任を肯定した事例
  事案 無店舗型性風俗特殊営業である派遣型ファッションヘルス店の経営者Xらは、暴力団組員から、それぞれ、
㋐X1がみかじめ料の要求、車両の襲撃、金員の喝取など一連の脅迫行為を、
㋑X3社(代表者X2)がみかじめ料の要求、車両の襲撃など一連の脅迫行為を、
㋒X4がみかじめ料の要求、車両・事務所の襲撃など一連の脅迫行為を受けた。

Xらは、
前記㋐㋑につき、
指定暴力団の参加暴力団の各組長であるY2・Y3と構成員であるY4の共謀による共同不法行為に基づき、
共謀が認められない場合にY2・Y3の使用者責任に基づき、
前記㋒につき、
Y3・Y4の共謀による共同不法行為に基づき、共謀が認められない場合にY3の使用者責任に基づき、
前記㋐から㋒までにつき、
最上位に当たる指定暴力団(A会)の会長であるY1の使用者責任又は暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(「暴対法」)31条の2所定の責任を主張して、損害賠償請求。
  1審 本件行為は、暴力団組員が、指定暴力団A会又はその傘下の暴力団による上位者の指示ないし了解に基づいて行動していたと推認できる。
⇒参加暴力団の組長Y2・Y3及び組員Y4の不法行為責並びにA会会長Y1の使用者責任を認め、請求を一部認容。 
  判断 一審判決を引用し基本的にこれを維持
  暴対法31条の2の趣旨:
指定暴力団の指定暴力団員による威力利用資金獲得行為が行われた場合に、当該指定暴力団の代表者等に損害賠償責任を負わせ、被害者の救済を図ることにある。 
使用者責任を追及する場合:使用者性を具体的に主張立証する必要がある
暴対法31条の2の責任を追及:
責任追及の相手方が指定暴力団を代表する者又はその運営を支配する地位にある者であることを主張立証すれば足りる一方
責任追及の場面が威力利用資金獲得行為(暴対法31条においては、当該指定暴力団による暴力行為)に限定され、また、他人の生命、身体又は財産を侵害したときに限定されている点などで、使用者責任追及場面と要件を異にする。

暴対法31条の2によって民法715条1項の適用が排除されるとは解されない。
  解説 最高裁H16.11.12:
①階層的に構成されている暴力団の下部組織における対立抗争においてその構成員がした殺傷行為は、同暴力団が、その威力をその暴力団員に利用させることなどを実質上の目的とし、下部組織の構成員に対しても同暴力団の威力を利用して資金獲得活動をすることを容認し、その資金獲得活動に伴い発生する対立抗争における暴力行為を賞揚していたなどの事情の下では、暴力団の最上位の組長と下部組織の構成員との間には、暴力団の威力を利用して資金獲得活動を行うという事業について、民法715条1項の使用関係が成立している。
②階層的に構成されている暴力団の下部組織同士の対立抗争においてその構成員がした殺傷行為は、暴力団の「事業の執行」についてされたものに当たる。
本件:
本件行為は性風俗店の経営者に対し、その意思に反してみかじめ料を徴収し又は徴収しようとする過程で襲撃を行った⇒A会及びその傘下組織の威力を利用した資金獲得活動であるA会会長Y1の事業の執行として行われたこと(事業執行性)を肯定

A会会長が逮捕拘留中であったにもかかわらず、指揮監督関係を認めた点に特色がある。
  商事p116
福岡高裁R3.2.4
  「航海の用に供する船舶」とは、社会通念上海上とされる水域を航行する船舶をいうとされた事例
  事案 平成30年台風21号の暴風により、関西空港連絡橋に衝突する事故を起こしたタンカーの所有会社が、当該事故によって生じた物の損害に関する債権について、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(「責任制限法」)に基づく責任制限手続開始決定を受けた
⇒ 債権者が即時抗告
  解説等  ●責任制限法の沿革・趣旨 
責任制限制度は、船舶所有者等の責任の程度を緩和する反面、債権者の権利を制限するもの。
but
憲法29条1項及び2項に違反しない(最高裁)。
最高裁昭和48.2.16:
昭和50年改正前の商法690条について、
船長その他の船員の職務の特殊性に鑑み、民法715条に対する特則を定めたものであって、船舶所有者の責任の範囲について有限責任を規定する反面で、その帰責事由については船舶所有者の過失の有無を問わないこととしたものと解すべき。
  ●「航海の用に供する船舶」の意義 
海商法(商法第3編)が適用される船舶について、商法684条は商行為をする目的で「航海の用に供する船舶」と定義
責任制限法2条1項1号にも同様の定義規定

「航海のように供する船舶」に該当するか否かが、海商法及び責任制限法の適用の可否を画するメルクマール。
  ●  本決定:
①平成30年改正を受けて、商法684条及び責任制限法2条1項1号の「航海の用に供する船舶」の意義について、平成30年改正前の通説とは異なり、平成30年改正の趣旨を踏まえて近時再評価されるに至った見解に沿った解釈を採用して敵よっぷ
②昭和50年改正後の商法690条、民法715条及び責任制限法の位置づけを整理し
③責任制限法3条3項の責任阻却事由についての一般的な解釈に沿ってこれを適用した事例。 
2497   
  行政p3
東京高裁R2.7.10  
  形式的には別法人であっても、当該法人と実質的に同一体というべき法人の役職員の行為についての課徴金納付命令
  事案 外国法人であるXが、本邦の株式市場で相場操縦違反行為をしたとして、金商法により金融庁長官から課徴金納付命令を受けた⇒その取消を求めた。
  対象行為 Xが、その属する法人グループの別法人であるAに資産運用を委ねていたところ、Aが雇用する複数のトレーダーが、Xの資産運用にあたって意思を連絡して行ったとされた一連の行為。 
トレーダーらはXの計算で株式取引。
XとAとは姉妹会社(同一の信託が両者の全株式を保有)の関係にあるが別法人。
トレーダーとXとの間には直接の雇用関係や指揮監督関係はなし。
Xの代表者は、Aの唯一の取締役であり、両会社の全株式を保有する信託の唯一の受益者でもあった。
  争点 ①Xが金商法174条の2第1項の違反者となりえるか。
②処分緒対象となった行為が複数のトレーダーらにより、金商法159条2項1号にいう「一連の」ものとして行われたものか
③処分の対象となった行為が同号にいう「相場を変動させるべき」行為であるか
④処分の対象となった行為が同項柱書にいう「取りh気を誘引する目的をもって」行われたか 
  原審 争点①について:
法人が金商法174条の2第2項の違反者となるためには、当該法人の役員、従業員もしくは当該法人による指揮監督、雇用管理等によりこれらと同視し得る者又は当該法人から具体的な指示を受けた者が、当該法人の計算で相場操縦違反行為を行ったことを要する。 
Xがトレーダーらを指揮監督したり、トレーダーらをXの従業員と同視することはできない
⇒Xは同項の違反者とはならない⇒Xの請求を認容。
  判断  ●争点① 
ある法人と形式的には別法人であっても、当該法人と実質的に同一体というべき法人の役職員が、当該法人のために金商法159条2項が禁止する行為をした場合には、当該法人が金商法174条の2第1項の違反者となる。
①AはXが属する法人グループの資産運用としての有価証券取引のみを行っており、その雇用するトレーダーらの監督もXの完全子会社が行っているという実態を認定、
②Aの運営はそれ自体独立して行われているのではなく、法人グループ全体で一括して行われている
⇒XとAとは実質的に同一体である
⇒トレーダーの行為について、Xが同項の違反者となる。
  争点②~④も、Yの主張を認め、処分に違法はない。 
  解説  金商法174条の2第1項は、金商法159条2項1号に違反する相場操縦違反行為をした者(違反者)に対し、課徴金を課すことを定める。
法人であっても「違反者」となりえる。
問題:実際に行為を行った自然人と当該法人との関係がどのような場合に、当該法人を「違反者」と認めるべきか? 
原審と本件で考えが分かれた事案。
本件:Aは、その属する法人グループ外の者の資産運用は行っておらず、いわば閉じた法人グループ内の関係⇒XとAとが実質的に同一体であるとの認定が容易であった。
but
資産運用を行う法人が、その属する法人グループ外の者の資産運用も行っているような場合には、資産運用を委ねた法人と実質的に同一体であるとはいえないこともあり得る。
  民事p17
最高裁R3.5.17  
   
  事案 建設作業に従事し、石綿粉じんにばく露したことにより石綿関連疾患にり患したと主張する者(「被災者」)又はその承継人であるXらが、Y1(国)に対し、石綿含有建材に関する規制権限の不行使が国賠法1条1項の適用上違法であったなどと主張⇒同項に基づく損害賠償を求めるととに、Y2ら(建材メーカー)に対し、石綿含有建材に関する警告表示義務の違反があったなどと主張して不法行為に基づく損害賠償を求めた。
  論点 XらのY2らに対する請求について、Xらの採っ立証方法により、特定の建材メーカーの製造販売した石綿含有建材が特定の建設作業従事者の作業する建設現場に相当回数にわたり到達したという事実(「建材現場到達事実」)が立証され得るか否か。 
  Xらの立証方法 (1):国土交通省及び経済産業省により公表されているデータベースに掲載されるなどした石綿含有建材を複数の種別に分類⇒建設作業従事者らの職種ごとに、直接取り扱う頻度が高く、取り扱う時間も長く、取り扱う際に多量の石綿粉じんにばく露するといえる種別を選定。
(2):(1)で選定された種別に属する石綿含有建材のうち、前記建設作業従事者らが建設作業に従事していた地域での販売量が僅かであるもの等を除外し、さらに、前記建設作業従事者ごとに、建設作業に従事した期間とその建材の製造期間との重なりが1年未満である可能性のあるもの等を除外。
(3):(1)(2)により前記建設作業従事者ごとに特定した石綿含有建材のうち、同種の建材の中での市場占有率がおおむね10%以上であるものは、その市場占有率を用いた確率計算を考慮して、前記建設作業従事者の作業する建設現場に到達した蓋然性が高いものとする。
(4):前記建設作業従事者がその取り扱った石綿含有建材の名称、製造者等につき具体的な記憶に基づいて供述等⇒その供述等により前記建設作業従事者の作業する建設現場に到達した石綿含有建材を特定することを検討。
(5):建材メーカーらから、自社の石綿含有建材につき販売量が少なかったこと等が具体的な根拠に基づいて指摘⇒その建材を前記(1)~(4)までにより特定したものから除外することを検討。
  原審 建材メーカーらが共同不法行為責任を負うというためには、建材現場到達事実が立証されることが必要。
but本件立証方法により建材現場到達事実が立証さら得るとはいえない。
⇒XらのY2らに対する請求を棄却。 
  判断 本件立証方法には相応の合理性があり、これにより建材現場到達事実が立証され得るといえるのに、それを一律に否定した原審の判断には経験則又は採証法則の違反がある
⇒請求を棄却した部分を破棄して、差し戻した。 
  解説  建設アスベスト訴訟における被災者の建材メーカーに対する責任追及の困難性:
①被災者は、長期間にわたり多数の建設現場で建設作業に従事してきた
②建材には多種多様のものがあり、建設現場ごとに使用建材が異なるのが通常
③石綿関連疾患は石綿粉じんばく露から数十年の潜伏期間を経て発症
④被災者らのうち多数が死亡している

各被災者がどの建材メーカーの石綿含有建材を使用して石綿粉じんにばく露したかを特定するのが難しい。 
  建材メーカーらが共同不法行為責任を負うために、
A:建材現場到達事実の立証を必要とする見解(内田)
B:建材現場到達事実についての「相当程度の可能性」等が認められれば足りるとする見解 
最高裁:Aに親和的
but
結論を分けるのは、具体的にどのような立証がされれば各要件を満たすといえるかという点にある。
  ●  シェアに基づく基づく確率計算を考慮した到達の推認の点:
原審:建材がどの現場に到達するかは流通経路、販売地域、用途等の個別的要因に左右される⇒確率計算の前提となる「全国の建設現場において、ある建材がそのシェアどおりの確率で出現する」という条件を欠く⇒前記推認の合理性を否定
vs.
前記要因の影響の相当部分は、本件立証手法のうち(1)(2)の段階で考慮されている⇒前記の前提条件を欠くとまではいえない。
その上で大局的にみれば、、建材のシェアが高いほど、また、被災者が作業をした現場の数が多いほど、建材現場到達事実が認められる蓋然性が高くなることは経験則上明らか。
Xらの確率計算はその経験則を補完・補強するもの。 
その確率計算とは、
例えば、特定の建材が各建設現場で用いられる確率が10%、特定の被災者が作業した現場の数が20箇所又は30箇所⇒当該建材が当該被災者の作業する現場に1回でも到達する確率は訳88%又は約96%となる。
Xらは、各被災者が作業した現場の数につきおおむね数十箇所以上、多い場合で1000箇所以上と主張⇒仮にその主張どおりの数が認められるのであれば、前記推認ができる場合は十分にあるといえる。
  民事p23
大阪高裁R2.12.17  
  減胎手術での過失が認められた事例
  事案 X1はYの開設する医院において、A医師から妊娠していた5胎の胎児の一部を減胎する2回の手術を受けたが、その後、別のマタニティクリニックにおいて残した2胎児の人工妊娠中絶手術を受けることを余儀なくされ(本件人工流産)、前記胎児らを1児も出産するに至らなかった。

X1及びその夫であるX2は、X1が本件人工流産をしなければならなくなったのは、本件手術を執刀したA医師が注意義務に違反して手術の際に太い穿刺針を使い多数回の穿刺を行い、感染症対策を怠り、又は減胎対象外の胎児を穿刺するなどしたことによるもので、これにより精神的苦痛を受けた⇒民法715条1項による使用者責任又は診療契約上の債務不履行に基づき損害賠償請求。
  原審 Xらの請求をいずれも棄却。 
  争点 ①A医師の過失(注意義務違反の有無)
②相当因果関係の有無
③損害額 
  判断 A医師の過失を認め、一部認容 
仮にXらの主張する本件手術等におけるA医師の過失が認められるとしても、その過失のX1が本件人工流産に至ったことによる損害との間に相当因果関係が認められない⇒2胎児の生命維持の相当程度の可能性があったと認められない。
Yは、X1との間で、妊娠した胎児の管理及び減胎手術等に関する診療契約を締結
⇒Yの履行補助者であるA医師は、同診療契約に基づき、人の声明及び健康を管理する業務に従事する者として、危険防止のために経験上必要とされる最善の注意義務を尽くしてX1診療に当たる義務を負担。
A医師は、手術Ⅱに当たり、技術的困難性のゆえにやむを得ず穿刺回数が多数に及ぶことが想定されたにもかかわらず、当時広く使われていた穿刺針よりも太い穿刺針を用いた上、約30回にわたりX1の腹部を穿刺した点において、X1の母体に対する危険防止のために経験上必要とされる最善の注意を尽くす義務に違反。

55万円の損害賠償を認めた。
  民事p33
大阪高裁R2.11.27  
  子をもうけることについての自己決定権の侵害(肯定)
  事案 Y1は、不妊治療を受けていた診療所に、当時の夫であったXの精子で体外受精させた卵子を培養した胚を凍結保存しておき、別居した後に本件クリニックにおいてその胚を融解して移植を受ける方法で妊娠し、出産。
Xは、Y1は、Xの同意書を偽造して融解胚移植(本件移植)を受け、本件クリニックを経営する医療法人Y2及びその代表者である医師Y3は、Xの意思を確認せずに本件移植を行い、Xの自己決定権を侵害⇒Y1、Y2、Y3に対し、共同不法行為に基づき、損害賠償請求。
  争点 ①Y1は、元夫であるXの同意がないことを認識したうえで、同意書を本件クリニックに提出して本件移植を受け、Xの自己決定権を侵害したか
②Y2・Y3は、Xが本件移植に同意しているかの意思確認義務があったとにそれを怠ったことにより、Y1の不法行為に加担したか(Y2・Y3の共同不法行為の成否) 
  原審 争点①:
Y1の不法行為の成立を認め、Y1に対しる請求を一部認容(慰謝料800万円、弁護士費用80万円)
争点②:
Y2・Y3は本件移植に際しXに対し直接の意思確認義務はない⇒Y2・Y3の責任を否定。 
  判断 Y1の控訴を認め(不法行為の成立を認め、慰謝料500万円・別件人事訴訟のDNA鑑定費用・弁護士費用について一部認容)
Xの控訴・拡張請求等は棄却 
個人は、人格権の一内容を構成するものとして、子をもうけるか否か、もうけるとして、いつ、誰との間でもうけるかを自分で決めることのできる権利、すなわち子をもうけることについての自己決定権を有する。
夫婦において、子をもうけることは各人のその後の人生にかかわる重大事項
⇒別居以降、子をもうけることについてXが積極的な態度を示していなかった経緯を踏まえれば、Y1は本件移植を受けるに先立ち、改めてXの同意を得る必要があった。
but
Xの意思を確認することなく、無断で同意書に署名(夫の氏名欄にもY1が記入)をして本件クリニックに提出し、本件移植を受けた行為は、Xの自己決定権を侵害する不法行為に当たる。
Xは、子をもうけることについての自己決定権を侵害され、この結果、子との間に親子関係が発生し、本件不法行為が婚姻を破綻させる決定的な要因として離婚を余儀なくされた⇒本件不法行為によって多大な精神的苦痛を受けた。
①XはY1とともに体外受精の手術を進め、自ら精子を提供しており、凍結保存受精卵(胚)の移植によりY1が妊娠する蓋然性のあることを認識
②精子提供の直後にY1と別居したが、Y1がその後、不妊や流産になり得る要因を除去するために支給の手術を受けるなど、移植に向けた積極的な姿勢を堅持していることを認識
③移植の時期の見込みについて具体的なスケジュールまでY1から告げられていた
④にもかかわらず、XはY1に対し、移植を拒否する意思を表明しておらず、本件クリニックに対する問い合わせすらしていない

慰謝料は500万円とするのが相当。 
  解説 子をもうけることについて自己決定権を肯定し、生殖補助医療の施術に関連して自己決定権侵害となる場合の事例を明らかにしたもの。 
  民事p38
福岡高裁R2.12.8  
   719条1項後段の類推のための被害者の死亡原因についての立証責任
  事案 死亡交通事故事案
自転車で車道を通行していた被害者が、まず、中型貨物自動車(Y1車)に背後から衝突⇒28.1メートル先まで跳ね飛ばされた後に道路上に転倒、その8~9分後に前記転倒場所に通りかかった別の中型貨物自動車(Y2車)に頭部を轢過。 
被害者の相続人であるXが、Y1車とY2車双方の運転者や車両所有者らに対し、連帯して損害賠償金(被害者死亡に伴う逸失利益・慰謝料等)の支払を請求。
  争点 民法719条1項後段の共同不法行為の成否:
仮に、第2事故の前に被害者が死亡していない⇒Y1車の衝突とY2社の轢過のいずれが被害者の死亡の原因であるかが不明⇒Y2車の運転者らに同条項の(類推)適用により共同不法行為が成立する余地。
⇒第2事故と死亡との因果関係の存否に関する立証責任の所在が問題。 
  原審 第2事故発生時に被害者が生存していた可能性があると認めることができない⇒共同不法行為の成立を否定。 
  控訴 X主張:
民法719条1項後段の(類推)適用に関しては、「第2事故発生時までに被害者が死亡していたこと(第2事故と死亡の因果関係がないこと)」についてY2車の運転者らが立証責任を負担することを前提に、
第2事故により轢過される前に被害者が死亡していたと断定できない⇒同条項の(類推)適用により、共同不法行為が成立。 
  判断 本件はY1車の運転者が損害全部につき責任を負う⇒加害者不明とはいえず、民法719条1項後段の本来的な適用場面ではない。
but
被害者保護の観点から、同条項を類推適用することによって、Y2車の運転者に対し共同不法行為が成立する可能性がある。 
類推適用をするための要件として、
「被害者が第2事故(Y2車の轢過)によって死亡した可能性があること」の立証責任が請求者(控訴人であるX)にある。
but
本件の証拠関係からは、被害者が第2事故によって死亡した可能性があるとは認められない。
⇒共同不法行為の成立を否定。
  民事p52
広島地裁R2.12.8  
  再審請求弁護人が精神科医とともに死刑確定者と面会する場合の規律
  事案  死刑確定者として広島拘置所に収容されているX1の再審請求手続の弁護人として選任されていたX2及びX3は、X1の刑事責任能力の判断についての助力を得るため、精神科医であるAをX1との面会に同行する予定
その面会をするに際して、広島拘置所長に対し、職員の立会いのない面会を認めるとともに、3時間の面会を認めること、ICレコーダーを使用した面会内容の録音を認めることを求めた。
but
①職員の立会いのない面会を許さず
②面会時間を1時間に制限
③ICレコーダーの使用を許さず
⇒Xらは、①~③の各措置が違法であると主張して、Y(国)に対して国賠請求。 
  判断  ●上記①について
  死刑確定者は、再審請求前の打合わせの段階であっても、刑事収用法121条ただし書にいう「正当な利益」として、再審請求弁護人と秘密面会をする利益を有しており、秘密面会の利益は、再審請求弁護人からいえばその固有の利益(最高裁H25.12.10)。

刑事施設の長は、死刑確定者と再審請求弁護人との面会に、再審請求弁護人ではない者が同席する場合であっても、死刑確定者及び再審請求弁護人に前記の秘密面会の利益が認められるか否かを慎重に検討する必要。 
本件面会では、
Xらには、面会の際の発言の内容を職員に知られないことに正当な利益があり、
本件面会の際に不適切な行為や発現がされることが想定され、これを制止する必要性があったとか、X1の心情などを把握する必要性があったなどということはできない。

職員の立会いのない面会を許さなかった広島拘置所長の措置は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してXらの秘密面会の利益を侵害⇒国賠法1条1項の適用上違法。
  ●上記②について 
本件面会についてXらには秘密面会の利益があった⇒広島拘置所長は、申出に係る3時間の面会について、その時間を制限することにより、Xらが十分な打合せをすることができなくならないかどうかを慎重に検討する必要。
but
同拘置所長は、本件面会に再審請求弁護人ではないAが同席するという理由のみから、漫然と、面会時間を1時間に制限。

同拘置所長の措置は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してXらの面会の利益を侵害。
  ●上記③について 
ICレコーダーを用いて面会の内容を録音をした場合には、再審請求弁護人が意図しない音声(死刑確定者の第三者に対する秘密の合図等)まで録音されてしまう危険性や、その音源(電磁的記録)が再審請求弁護人の意図しない形で外部に流出し、その回収が不可能となってしまう危険性が否定できない。
広島拘置所長は、ICレコーダーの危険性を踏まえ、その使用を許さなかった
ものであり、このような同拘置所長の措置が不必要・不合理な庁舎管理権の行使であったなどということはできない。

同拘置所長の措置は、その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認めることはできず、国賠法1条1項の適用上違法ではない。
  解説 平成25年最判:死刑確定者と再審の打合せを目的とする面会につき、秘密面会の申出がされた場合
大阪高裁H29.12.1:
死刑確定者と再審請求弁護人との間の再審の打合せを目的とする面会について、面会時間を制限した刑事施設の長の措置を違法と判断。
また、パソコンの使用を許さなかった刑事施設の長の措置が違法と判断。 
死刑確定者と再審請求弁護人との間の再審の打合せを目的とする面会に第三者が立ち会った場合の秘密面会の利益の有無等を判断した初めての裁判例。
  民事p73
水戸地裁R2.11.4  
  名誉毀損で発信者特定のための調査費用が損害として肯定した事例
  事案 町議会議員であるX(投稿当時は議長)が、インターネット上のサイトに開設された掲示板にYが投稿した記事によって名誉を毀損された⇒Yに対し、不法行為に基づき、
①慰謝料200万円、
②発信者情報の取得に要した弁護士費用64万8000円
③弁護士費用20万円
の合計284万8000円と遅延損害金の支払を求めた。
  判断 本件各投稿の通信にかかるIPアドレスの割り当てを受けた電気通信回線の契約者がY⇒本件各投稿をしたのはY。
最高裁S31.7.20を引用し、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件各投稿の内容は、当時の町議会議長であるXについて暴力団とのつながりを有しているとうい事実を適示するものであって、Xの社会的評価を低下させるもの⇒Xの名誉権を侵害するもの。 
本件各投稿の内容、インターネット掲示板における匿名での投稿であること等の事情を認定し、
慰謝料100万円、発信者情報の調査費用32万4000円及び弁護士費用13万円の合計145万4000円の損害について賠償請求を認めた。
  解説 インターネットの掲示板における匿名での投稿⇒掲示板の投稿により名誉を毀損されたと主張する者は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律に基づき、発信者情報の開示を請求し、投稿の発信者を特定する必要。
but
携帯電話やタブレット端末等から投稿された場合、電気通信回線の契約者と投稿者が必ずしも一致しているとは限らず、同法の手続きよる情報のみでは、投稿者が特定されたとはいえない場合もあり得る。 
投稿者の特定に関する裁判例:

第三者も無線LANを利用できるとの契約者の主張について、時間帯や場所等に鑑み、その可能性は抽象的なものにすぎないとした裁判例。

会社の取締役が自己名義の無線LANを社内利用に提供しているところ、当該取締役以外の物が投稿することができないことを裏付ける証拠はない⇒当該取締役が関与している可能性は否定することがでないものの、これを認めるに足りる証拠があるとまではいえないとした裁判例。
名誉毀損による損害について加害者が被害者に支払うべき慰謝料の額:
事実審の口頭弁論終結時までに生じた諸般の事情を斟酌して裁判所が裁量よって算定(最高裁H9.5.27)

慰謝料の算定に当たっては、加害者側の事情:
①動機・目的
②名誉毀損事実の内容
③名誉毀損事実の真実性・相当性の程度
④事実の流布の範囲・情報伝搬力

被害者側の事情:
⑤年齢・職業・経歴
⑥被害者の社会的評価
⑦被害者が被った経済活動や社会生活における不利益
が考慮される。
本判決:
慰謝料の算定に当たって考慮した事情について、本件投稿がインターネットの掲示板における匿名での投稿であることを踏まえて認定した上で、慰謝料を算定。
インターネットの掲示板における匿名での投稿は、発信者を特定するために、通信記録が消去されるまでの短時間のうちに必要な保全処分を行い、発信者情報開示請求訴訟を提起することが必要。
発信者情報取得のために要した費用について、社会通念上相当な範囲で、名誉毀損と因果関係のある損害に当たるとした裁判例として、インターネットのウェブサイトにおける書き込みが不法行為に当たる場合に、書き込みの発信者の調査費用を損害として認めた東京地裁H24.1.31等。
  民事p77
名古屋家裁R1.5.15  
  児童福祉法28条1項に基づく、障害児入所施設への入所又は里親委託の承認申立(認容)
  事案 愛護手帳3度相当の軽度知的障がいの認定を受けている未成年者について、児童相談所長が、児福法28条1項に基づいて、未成年者を障害児入所施設に入所させること又は里親に委託することの承認を求めた事案 
  判断  以下の判示で承認 
(1)未成年者は愛護手帳3度相当の軽度知的障がいの認定を受けているが、親権者父は、かねてから未成年者の通学する中学校とトラブルを起こしては、未成年者の登校を禁止するなどして、授業日数全体の約6割もの日数を欠席させ、親権者母も親権者父の意向に逆らえなかった
⇒未成年者にとって極めて重要な学習権(成長発達権)を中核とする教育を受ける権利(憲法26条1項)を積極的に妨げていた。
(2)未成年者は、中学校卒業後、特別支援学校高等部に通学。
親権者父は・・・学校との間でトラブルを生じさせ、これをこじらせた挙げ句、未成年者に対し、学校と話をつけるまで帰ってくるな、などと怒鳴りつけ、自らが引き起こしたトラブルの解決を未成年者に押し付けるかのような言動をして、未成年者を家から追い出した⇒その行為自体がネグレクトそのものであり、未成年者の意思に反することを強要して未成年者に過度の精神的ストレスを与えた。
(3)未成年者は、家から追い出されてバス停で途方に暮れて座り込んでいたところを発見されて警察官に保護され、警察署長からネグレクト児童として通告を受けた児童相談所による一時保護が開始。
その後の平成29年7月7日(一時保護開始の1週間後)から現在に至るまで、障害児入所施設において生活しており、日常生活に必要なことは自分ですることができ、学校生活にもて適応して、毎日付き添いなしで登校することができ、意欲的に物事に取り組んでいる。
(4)親権者父母は、未成年者の引き取りを長らく拒んだ末、1年半近くもの間未成年者と面会せず、学校のみならず児童相談所の職員の日をも言い募ってこれらを一方的に攻め立て他罰的な対応に対応に終始し、児相との交信まで拒むようになり、未成年者の将来を見据えた教育にとって必要不可欠な協力連携関係の構築とは真逆の態度を取り続けている。
(5)親権者父母は、にわかに未成年者の引き取りを希望しているが、相変わらず児相職員を非難することに終始しており、未成年者とのこれまでの溝をどのようにして埋め、学校や関係機関とどのように連携して未成年者の将来的な自立を図っていくのかの具体的な考えを示していない。
(6)未成年者は、現在17歳となっており、現在の施設での生活が安定して楽しく登校することができ、自分の時間が持てること等から、家に帰りたくないとの意向を示すようになり、施設入所か里親の下での生活により、高等部への通学を続けていきたいと希望。
(7)現時点において未成年者を現状のまま親権者父母の下に帰らせて未成年者の監護養育を委ねることは、未成年者の意向に反し、安定した日常生活の下で学校教育を受ける機会を再び奪うことに直結するものであって、未成年者の福祉を著しく害するこになる。

児相所長である申立人が未成年者を障害児入所施設に入所させる措置を取ること又は里親に委託する措置を取ることは、未成年者のために必要かつ相当。
  解説 最近の審判例:

大阪高裁H29.12.15:
事件本人が負った急性硬膜下血腫等の傷害について、事件本に親権者父及び同母による揺さぶり行為等が強く疑われ、父母は揺さぶり行為等の外力を否認し、あるいは存在自体を軽視し、自らの監護養育環境における問題点に真摯に向き合い危険の再発防止のための具体的な方策を講じることができていない。⇒父母に事件本人を監護させることは著しく事件本人の福祉を害する⇒抗告人の申立てを却下した原審判を取り消し、抗告人が事件本人を乳児院又は児童養護施設に入所させることを承認。

水戸家裁H30.5.28:
利害関係参加人である実父及び義母による虐待は認められないものの、
①実父の事件本人に対する強圧的な接し方により、自閉症スペクトラムの傾向がある事件本人が実父に著しい恐怖を抱き心的外傷を負っている
②利害関係参加人らがこの点を理解しないまま事件本人に接する可能性が極めて高い

利害関係参加人らがこの点を理解しないまま事件本人を監護させることは著しく事件本人の福祉を害する⇒児童心理治療施設に入所させることを承認。 
  労働p81
福岡高裁R2.9.29  
  じん肺管理区分3ロ⇒10年以上療養⇒慢性呼吸不全急性増悪(Ⅱ型)で死亡した場合の業務起因性(肯定)
  事案 Aは、38年間、セメント製造等の粉じん作業に従事した後、じん肺を発症。
平成13年8月24日に、じん肺法に基づく管理区分が「管理3ロ」であるけい肺及び続発性気管支炎(「本件疾病」)を傷病の部位及び状態とする療養補償年金を支給する旨の決定⇒Aは、定期的に検査等を受けながら療養を継続⇒平成27年1月に、じん肺症、感染増悪等で入院し、同年3月19日に死亡。
死亡診断書の直接死因は「慢性呼吸不全急性増悪(Ⅱ型)」とされ、その原因は「じん肺症」とされた。
Aの妻であるXが、Aの死亡は業務上の疾病である本件疾病によるものであると主張⇒労災法に基づき遺族補償年金及び葬祭料の支給を求めた⇒処分行政庁が本件疾病と死亡との間に相当因果関係がないとして不支給決定⇒Y(国)に対して当該処分の取消しを求めた。
  争点 本件疾病とAの死亡との間に相当因果関係(業務起因性)が認められるか否か。
  判断 Aの直接死因は慢性呼吸器不全急性増悪(Ⅱ型)であるところ、本件疾病による肺気腫及び呼吸機能を含む全身状態の悪化が相まって前記直接死因の原因となった可能性が高い。
他に有力な原因がない限り、本件疾病とAの死亡との間に相当因果関係があると認められるというべき。
Y:Aには本件疾病以外に左心不全、誤嚥性肺炎、腎不全及び低アルビミン血症といった疾病が死因原因としてあり得る。
vs.
左心不全及び腎不全については、いずれもAの死亡の原因となるほど重篤なものではない。
誤嚥性肺炎及び低アルブミン血症については、本件疾病の危険性として内在するものであり本件疾病と別個独立した死因原因ということはできない。

本件疾病とAの死因との間の相当因果関係を認めて、Xの請求を認容。
誤嚥性肺炎については、
Aの肺機能障害の直接の原因であった可能性が高く、直接死因である慢性呼吸不全急性増悪(Ⅱ型)発症の直接の原因となっている可能性がある。
but
長期間にわたる本件疾病が嚥下力を含むAの全身症状を悪化させるものであって、本件疾病による易感染症も考慮すれば、誤嚥性肺炎を繰り返し発症させ、重症化させた原因は本件疾病であるというべき。
こうした長期の療養過程における本件疾病と誤嚥性肺炎との関係
⇒誤嚥性肺炎を本件疾病から独立した死因原因として位置づけられるべきではない。
  解説 相当因果関係
当該傷病等な当該業務に内在する危険の現実化として発生したと認められるか否かによって判断するのが相当。 
複数の原因が競合して疾病を発症させた場合:
「業務に内在する危険の現実化」の有無は、業務上の有害因子による疾病の発症への寄与がどの程度大きければ当該疾病が「業務に内在する危険の現実化」として発症したと認められるかを基準に判断。
〇A:相対的有力原因説:業務が、傷病等の発生という結果に対し、他の原因と比較して、相対的に有力な原因となっている関係が認められることが必要

B:共働原因説:業務の遂行が他の事由と共働の原因となって、傷病等の発生という結果を招いたと認められれば足りる。
vs.
共働原因説が、業務が疾病の発症に有力に寄与したことを必要とせず、何らかの寄与をしたことをもって足りるとするのであれば、条件関係の存在のみで因果関係を認めたに等しいことになりかねず、危険責任の法理の趣旨にそぐわない。
危険責任の法理⇒業務に内在する危険の現実化を労災補償の根拠とする⇒Aが相当。
裁判例。
  刑事p102
最高裁R2.1.27  
  「児童ポルノ」の意義等
  事案 被告人が、不特定又は多数の者に提供する目的で、児童の姿態が撮影された写真の画像データを素材とし、画像編集ソフトを用いて、コンピュータグラフィックスである画像データ(CG)を作成した上、これをハードディスクに記憶、蔵置させ、前記CGをインターネットを通じて不特定又は多数の者に販売したという、児童買春・ポルノ法違反の事案。 
  判断 児童買春・ポルノ法2条3項にいう「児童ポルノ」とは、写真、電磁記録に係る記録媒体その他の物であって、同項各号のいずれかに掲げる実在する児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいい、実在しない児童の姿態を描写したものは含まない。 
児童買春・ポルノ法7条5項の児童ポルノ製造罪が成立するためには、同条4項に掲げる行為の目的で、2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した物を製造すれば足り、当該物に描写されている人物がその製造時点において18歳未満であることを要しない。
  刑事p105
最高裁R2.9.16
  タトゥー施術行為の医師法違反(否定)
  事案 医師でない被告人が、タトゥー施術行為として、業として、針を取り付けた施術用具を用いて客の皮膚に色素を注入した行為について、医師法17条違反に問われた事案。 
  規定 第一七条[医師以外の者の医業禁止]
医師でなければ、医業をなしてはならない。
  原審 医行為とは、「医療及び保健指導に属する行為の中、保健衛生上危険な行為」をいうと解し、
被告人の行為は医療及び保健指導に属する行為とはいえない
⇒医行為に当たらない⇒無罪。 
  判断 医行為の意義について、 「医療及び保健指導に属する行為の中、保健衛生上危険な行為」をいうと解するのが相当。
~原審の判断を是認。
行政:保健衛生上危険な行為は、治療目的か否かを問わず医行為に当たる旨の解釈。
検察官:医行為該当性を判断するに当たっては、保険衛生上の危険性に着目すべきであり、当該行為の目的を問わず、その方法や作用によって判断すべき。 
本決定:
①医師法17条の趣旨⇒医行為に当たるか否かは、行為の危険性の指標となる方法や作用を中心に検討することになる。
but
方法や作用が同じ行為でも、その目的、行為者と相手方との関係、当該行為が行われる際の具体的な状況等によって、医療及び保健指導に属する行為か否かや、保健衛生上危害を生ずるおそれがあるか否かが異なりえる
②医師法17条は、医師に医行為を独占させるという方法によって保健衛生上の危険を防止しようとする規定⇒医師が独占して行うことの可否や当否等を判断するため、当該行為の実情や社会における受け止め方等をも考慮する必要がある。

医行為の判断方法について、当該行為の方法や作用のみならず、
その目的、行為者と相手方との関係、当該行為が行われる際の具体的な状況等をも考慮して、社会通念に照らして判断するのが相当。
タトゥー施術行為の歴史的経緯も踏まえて、その性質、社会における実情や受け止め方等を考慮し、被告人の行為は、社会通念に照らして医療及び保健指導に属する行為とは認め難く、医行為に当たらない。
2496   
  民事p3
最高裁R3.1.22  
  売買契約に基づく債務の履行を求めるための訴訟提起等のための弁護士報酬の損害賠償としての請求(否定)
  事案 不動産業者Aが営業を停止して代表者が行方不明⇒その債権者であるXが、Aと土地の売買契約を締結していた飼い主のYらに対し、差し押さえた売買代金債権に基づき、合計2500万円余りの支払を求めた。 
Yら:Aが売買契約上の債務の履行を怠り、その履行を求めるための訴訟の提起等の事務を弁護士に依頼したことによる弁護士報酬その他の費用を負担⇒Aに対して損害賠償債権を有しており、同債権との相殺により売買代金債権は全て消滅したと主張。

Aから土地を代金9200万円で買い付ける旨の売買契約を締結し、手付金500万円を支払った。
土地に設定していた担保権等の抹消費用、土地の測量費用等として7727万円余りの負担をした。
弁護士に、土地の処分禁止の仮処分の申立て、所有権移転登記請求訴訟の提起、建物収去土地明渡訴訟の提起、代替執行の申立て等の事務を行い、その結果、Yらは、土地の引渡し及び所有権移転登記を得た。
  原審 Aに対する訴訟提起等の弁護士報酬について、債務不履行に基づく損害賠償債権がある。
同弁護士報酬の額は972万8600円を下らず、相殺により売買代金債権はすべて消滅した⇒Xの請求を棄却。
  判断 土地の売買契約の買主は、当該売買契約において売主が負う土地の引渡しや所有権移転登記手続をすべき債務の履行を求めるための訴訟の提起・追行又は保全命令若しくは強制執行の申立てに関する事務弁護士に委任した場合であっても、売主に対し、これらの事務に係る弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできない。

合計972万8600円の支払を求める限度でXの請求を認容。 
  解説   不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の追行のための弁護士費用は、不法行為と相当因果関係に立つ損害であるとして、実務上、認容額の1割程度の弁護士費用を認める運用。 
債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟の追行のための弁護士費用の賠償請求の可否の問題:
その一類型である労働契約上の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求に関して、その訴訟追行のための弁護士費用は労働契約上の安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害。
(最高裁H24.2.24)
~損害賠償請求訴訟の追行のための弁護士費用についての判例。
  本件:契約上の債務の履行を求める訴訟の追行等のための弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することの可否が問題。 
金銭消費貸借契約上の貸金債務の履行を求める訴訟の追行のための弁護士費用その他の取立費用については、これを債務不履行に基づく損害賠償として請求できない(最高裁)。

民法419条が金銭債務の不履行による損害賠償の額は法定利率によって定めると規定しており、それ以上の損害賠償は請求できない。
~金銭債務以外の場合について述べるものではなかった。
  本件:土地の売買契約上の売主が負う引渡債務及び所有権移転登記手続債務の履行を求めるための訴訟の提起・追行に係る弁護士報酬について債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできない。

(1)
①それにより得ようとするものがいわゆる給付利益であって、損害の補填を求める不法行為の場合等とは異なる。
②不履行の可能性を考慮して契約内容を検討したり、契約締結をするかどうかを決定することができる。 

不法行為に基づく損害賠償等の場合は、自らの意思に関係なく権利利益が侵害された被害者が損害の填補を求めるもの⇒被害回復の観点から弁護士費用の賠償をも認める必要性が高い。
契約上の債務の履行請求の場合は、弁護士報酬は給付利益を得るための取立費用にすぎないともいえ、また、契約上の手当てや契約しないとの選択も可能⇒不法行為の場合等とはおよそ状況が異なる。
(2)土地の売買契約上の引渡債務ないし所有権移転登記手続債務に関する固有の理由:
これらの債務は売買契約から一義的に確定するものであり、その履行請求権は売買契約の成立という客観的事実により基礎づけられる。

買主は、前記債務の履行を求める場合に主張立証すべき事実は、契約の成立という客観的事実であり、その訴訟追行に必ずしも弁護士の専門知識を要するとはいえない。
  尚、強制執行に要した費用のうち民訴費用法2条各号に掲げられた費用のものを不法行為による損害として主張することはできない(最高裁R2.4.7)。 
  民事p9
東京高裁R3.4.28  
  再保険契約について、運命共同体原則の商慣習法(否定)
  事案 2010年4月20日のメキシコ湾原油流出事故に関し、控訴人(原告:三井住友海上火災)が、元受被保険者である三井物産子会社(MOEX)に対して、元受保険金を支払ったとして、再保険契約に基づき、被控訴人ら(被告ら)に対して、再保険金の支払を求めた訴訟。 
英国のエネルギー関連企業の米国子会社であるBP社がオペレーターとして開発する石油掘削事業で起こったもので、MOEXがBP社らの操業協定を締結し、ノンオペレーターとして、10%の権益をもって、前記事業に参加。
  解説 「運命共同体原則」(follow the settlement あるいは follow the fortune):
再保険契約において、再保険者は、元受保険契約上の保険金の支払が合理的に行われている限り、被再保険契約者(元受保険者)に対し再保険金を支払わなければならず、元受保険契約上の保険金支払義務に関して、被再保険者(元受保険者)の判断を争うことはできないこと(follow the settelement)、あるいは、元受け保険者のコントロールを超える事象について、再保険者は、元受保険者と運命を共にすること(follow the fortune)をいうもの。
主張 控訴人(原告):
(1)再保険契約の目的や契約当事者の効率的な業務運営のため、運命共同体原則が一般に受け入れられている。
(2)本件再保険契約において運命共同体原則の趣旨を示す規定がある反面、これを排除する規定が存在しない。
⇒運命共同体原則が導かれる。
被控訴人(被告ら):
再保険は、元受保険金の支払義務のもととなる元受保険者の損害賠償義務の存在なくして、再保険金の支払義務が発生することはない契約。
  判断  ●控訴人主張(1)について
元受業者は、元受保険契約におけるリスクを転嫁するために再保険契約を締結⇒元受保険契約において保険事故が発生し、保険金支払責任が生じた場合、再保険契約に運命共同体原則の適用があれば再保険金支払請求に要する負担を軽くし、迅速に再保険金を支払ってもらえることとなるので、メリットとなる。
but
再保険者にとっては・・・・必ずしもメリットとはならない。
⇒再保険契約の性質から、運命共同体原則が商慣習として受け入れやすいものとはいえない。
大審院判決の原審は、いわゆるローン・フォームを商慣習であると判示し、大審院もこれを是認
but
原告の指摘する「追随の義務なるもの」は、ローン・フォームを商慣習であると判示するにあたって言及されたものにすぎず、「追随の義務なるもの」を商慣習であるとは述べていないし、この点について、大審院も何ら判断していない。
⇒運命共同体原則が商慣習であるということはできない。
英国において、再保険契約にfollow the settlement 条項が挿入されていない場合には、元受保険者は、元受保険契約上の要件を充足していることを主張立証しなければならない⇒英国において運命共同体原則が商慣習となっているとはいえない。
また、英国でも、元受保険業者が元受保険契約上の要件充足性の主張立証を免れようとして契約上に規定を設けても、再保険者が当然にはこれを受け入れない様子が顕れている⇒再保険契約の性質をもって、運命共同体原則が商慣習となっているということはできない。

再保険契約の性質から、運命共同体原則が、商慣習法となって、保険契約上の合意内容や民訴法上の規定に優先することになるとは認められていない。
  ●控訴人主張(2)について
原告が主張するいずれの規定も、再保険契約者が、元受保険者のした保険金の支払につき、元受保険契約上の要件充足性について主張立証がなくても従うことを含意したものであるとはいえない。
⇒各規定が、運命共同体原則の趣旨を表したものであるとはいえない。
   
本件再保険契約につき運命共同体原則が適用されるとはいえず、原告は、本件保険金の支払が、本件アンブレラ保険契約における保険金支払要件を満たすことを主張立証しなければならない。
  民事p21
名古屋高裁R2.11.11  
  家庭用火災保険契約の保険約款の「不測かつ突発的な事故」
  事案 Xが、損害保険会社であるYに対して、保険対象建物の床の汚損等という保険事故が発生⇒家庭用火災保険契約に基づき29万1520円と遅延損害金を請求。 
  原審 X・Y間の家庭用火災保険契約の普通保険約款3条が、保険金を支払う事故として、破損、汚損等を挙げ、これは不測かつ突発的な事故をいうと定めていることを前提に、
急激に生じるのではなく、一定の時間の経過に伴って生じる事故については、本件保険約款3条所定の汚損等に係る不測かつ突発的な事故に当たらないと解するのを相当とする

Xが主張する保険対象建物の洗面台の床のシミ状の変色は、これに当たらない⇒Xの控訴を棄却。 
  判断 原審の「突発的」の解釈について、急激に生じるのではなく、一定の時間の経過に伴って生じる事象は「突発的」には該当しないとの解釈を支持。 
  解説 否定事案の裁判例:
台風の影響による大雨その他不測かつ突発的な事故により事故の所有する建物に黒色物質が生じて損傷と主張した事案で、
建物が建てられて以降事故が確認されるまでの約3年間にわたり保険契約者は同建物をほぼ継続的に使用管理⇒「不測かつ突発的な事故」とはいえない。

肯定事案の裁判例:
火災保険契約の保険対象物が火災により焼失した事案。
  民事p29
広島高裁R2.9.30  
  公正証書遺言の効力(意思能力)が争われた事案
  事案 平成9年遺言公正証書
平成13年遺言公正証書(「本件遺言公正証書」)
  XがY1に対し、本件遺言公正証書が遺言能力の欠如及び要式違反により無効であるとして、本件遺言公正証書によるAの遺言が無効であることの確認を求めるとともに、
平成9年遺言により本件土地の所有権を取得
⇒本件土地の持分移転登記を経由していたY1及びY2(Y1の妻)に対し、前記登記の移転登記を求めた。
  争点 本件遺言公正証書作成当時のAの遺言能力の有無
  原審 Aは遺言能力を欠いていた⇒遺言無効 
  判断 Aは遺言能力を有しており、要式にも欠けるところはない⇒Xの請求を認容。 
  解説 一般的な事理弁識能力があることについての医学的判断を前提としながら、
それとは区別されるところの法的判断として、当該遺言内容について遺言者が理解していたか否かを検討し、主として、
①遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度
②遺言内容それ自体の複雑性
③遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等の諸事情を総合考慮。
~通常採用されているもの。 
双方当事者から、複数の意見書が証拠として提出。
2つの遺言の内容が異なり、XとY1との間では、Aの生前から訴訟手続を含めた紛争が生じていた。
原審:
①Xが提出したAの生前の医療記録を基にした意思の意見書のアルツハイマー型認知症の進行状況
②有効性に争いのない平成9年遺言から窺われるAの意思
③Y1がAの預金をおろした経緯があったこと
⇒本件公正証書遺言は無効。
本判決:
①前記医師の意見書についてAの当時の生活状況を踏まえて再検討
②Aと同居していたYらによる介護の状況を踏まえて、本件遺言公正証書が作成されるに至った経緯についても踏み込んで検討
⇒遺言能力、更には推察されるAの意思について異なる判断。
本事案:
①遺言者であるAが、当時、ほぼ自律した生活を送っており
②本件遺言公正証書が作成された際、公正役場にも出向いていた
③本件遺言公正証書の自署が平成9年遺言のそれと比較してほぼ同一で、乱れなし
④内容は、本件土地をY1に相続させるというものであって複雑ではない
⑤本件土地上にはY1の自宅建物(経営する医院も開設されていた)⇒これと異なる内容の平成9年遺言を取消、Xと対立関係にあったY1に本件土地を相続させる遺言をすることについても合理性があった。

遺言公正証書の有効性が争われる事例の中では、無効と判断することが難しい類型に属する。
but
Aのアルツハイマー型認知症が中等度まで進行していたことが窺われるとする医学的知見
公証人の供述と本件遺言公正証書の作成の際に付き添ったBの供述との不一致等
  民事p45
東京地裁R2.6.22  
  保険法20条の重複保険⇒同条2項による求償の事案
  事案 ①加害者は、被害者所有の普通乗用自動車を運転中、交通事故を起こし同乗していた被害者を死亡させた。
②加害者に、被害者の相続人に対して損害賠償金を支払うよう命ずる確定判決が存在。
③共済事業を行う原告は、加害者との間で自動車共済契約を締結していた(原告共済)ところ、確定判決に基づき、被害者の相続人に対し、損害賠償金を支払った。
④被告は、共済事業を行うものであるが、加害者の父であり加害者と同居していた者との間で自動車共済契約を締結(被告共済)。
⑤いずれの自動車共済契約にも、記名被共済者、その配偶者又は記名被共済者の同居の親族等が運転中の他の自動車についても、当該自動車を被共済自動車とみなして賠償責任条項を適用するという他車運転特約が付されていた。
原告が、原告共済と被告共済は保険法20条の重複保険に該当すると主張し、被告に対し、同条2項に基づき、自らの負担部分を超える部分として支払った賠償金の2分の1の求償をした。
  判断 本件事故による損害については、原告共済と被告共済の他車運転特約がいずれも適用され、両契約において本件損害賠償債務をてん補することになる⇒保険法20条の重複保険の規定が適用され、原告の負担部分を超える部分については、原告は被告に求償することができる。 
損害保険契約とは、保険法2条6号によれば、保険者が一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約するもの⇒損害賠償保険もこれに含まれる。
保険法20条の適用にあたって、被保険者の同意を要するという定めなし⇒同意がいるという被告の主張は独自の見解。
被告:原告共済の他車運転特約には他の自動車の共済契約等に優先して損害に対して共済金を支払う旨の優先払特約(本件優先払特約)がある⇒原告による本件損害賠償債務の支払は原告の負担部分を超える保険給付とはいえず、原告は被告に対し保険法20条2項により求償することができない。
vs.
本件優先払特約は、文言上は本件に適用されるとする解釈と適用されないとする解釈の両説が成り立つ。
but
優先払特約が置かれた趣旨:
同特約は「他の自動車」を借りて運転中に事故を発生させた場合に、運転者が加入している保険の他車運転特約に基づく支払を被保険自動車として加入された保険よりも優先して支払うことで、「他の自動車」の所有者に等級低下等の不利益を負わせないようにすることを狙った規定。

本件優先払特約が、他車運転特約同士が重複する場合に、常に原告共済が優先的に適用されることを定めた規定であるというべき制度趣旨上の根拠はなく、損害の公平な分担を図るという点からしても、そう解するのは相当ではない。
自動車保険において保険証20条2項を適用しないとする商慣習が成立しているという証拠はない。
原告による求償権の行使の範囲に関して、本件事故によって生じた損害については、原告共済と被告共済とでてん補すべき範囲に差がないというべき⇒負担割合は2分の1となる。 
保険法20条の「てん補すべき損害」とは、保険事故と因果関係が認められる損害をいうところ、
被告が確定判決に基づいて被害者の相続人から本件損害賠償義務の支払を求められた場合には、損害額元本のほか遅延損害金を支払わざるを得なかった⇒本件事故と因果関係が認められる損害としては損害額元本のほか遅延損害金も含まれる。
  解説  保険法は、20条に重複保険に関する規律。
重複保険:同一の目的物につき非保険利益、保険事故、保険期間が重なる複数の損害保険契約が存在し、各契約の保険金額の合計が保険価額を超える場合をいう。 
各保険者がてん補すべき損害の額は、各損害保険契約に基づき当該保険者がてん補すべき損害の全額とし(同条1項)、保険者の1人が事故の負担部分を超えて損害をてん補したときは、他の保険者に対して各自の負担部分について求償できる(同条2項)
~保険者間の公平を図るもの。
保険法20条は任意規定⇒同条1項と異なる規定は可能。
  民事p53
大阪地裁R2.6.5  
  看護師・医師の過失(否定)
  事案 亡A(当時44歳)が救急搬送⇒入院⇒翌日に急変し死亡 
亡Aの相続人(両親)であるXらが、本件病院の担当看護師らに亡Aの呼吸状態を継続的に管理すべき注意義務違反等、担当医師らに気管挿管や外科的気道確保をすべき注意義務違反等があった⇒不法行為(使用者責任)に基づき、損害の賠償を求めた。
  判断 注意義務違反を否定し、請求棄却。 
亡Aの死因(医学的機序)について、解剖が行われていないため解明には限界。
亡Aの精神疾患や心臓疾患が影響した可能性を否定することはできないものの、(完全又は不完全な気道閉塞による)窒息である可能性が高いと認められる。
その原因としては、睡眠時無呼吸症候群や喀痰の影響のほか、元々の疾患その他を含む複合的な要因によるものである可能性が高い。
X主張:本件病院の担当看護師らに、平成27年11月5日午前5時30分の時点で、少なくともパルスオキシメーター等で亡Aの呼吸状態を継続的に管理すべき注意義務違反あり(争点①)
vs.
・・・SpO2を常に看視しなければならないほど気道が閉塞しやすい状況にあったなどということはできない⇒前記注意義務を負っていたとはいえない。 
X主張:本件病院の担当看護師らは、同日午前5時30分から同日午前6時30分の間、亡Aの状態を確認すべき注意義務を負っていたにもかかわらず、亡Aを漫然と放置し、前記注意義務に違反あり(争点②)
vs.
・・・・前記注意義務に違反したとはいえない。
X主張:
本件病院の担当医師らに遅くとも同日午前7時までに若しくは午前7時20分までに気管挿管や外科的気道確保をすべき注意義務違反あり(争点③④)
担当医師らに気管挿管の際に気道等を傷つけないようにすべき注意義務違反あり(争点⑤)
vs.
その時点で気管挿管やや外科的気道確保の必要性が高かったとはいえない。
気管挿管の際に亡Aの気道等を傷つけて多量の出血があったとは認められない。
  解説 看護師には、患者の容態を適切に看視し、患者の愁訴をよく聞きその容態を冷静に観察してその状態を判断した上、必要に応じて医師に報告すべき義務がある。
この義務を尽くしたといえるかについては、当該患者の疾病の種類、病状、年齢、容体が急変する危険性の程度等を考慮して判断する必要があるとされている。
  民事p70
金沢地裁R2.8.31  
  無症状の腰椎分離症が交通事故により有症化したことを認めた事案
  事案 X運転の自動車とY運転の自動車との間で発生した交通事故につき、Xが、Yに対し、自賠法3条に基づく損害賠償を請求。
Xは、前記交通事故により腰椎捻挫等の障害を負い、腰部痛、臀部痛等のため通院治療⇒第5腰椎分離症が判明し、腰椎後方固定術を受けた。
第5腰椎の分離は、事故前から存在but事故前には症状がなく、事故から1年以上経過して初めて認識。
  争点 腰部に関する事故と相当因果関係のある治療・後遺障害につき、Xの腰椎分離症が事故により有症化したか。 
X主張:事故により第5腰椎の分離が有症化し、腰椎後方固定術を要して「脊椎に変形を残すもの」(自賠法施行令別表第2第11級7号)に当たる後遺障害を生じたと主張。
  判断 ①Xが事故直後から1年4か月にわたって事故前にはなかった腰痛等を一貫して継続的に訴えていた
②その部位や特徴が腰椎分離症と合致
③その継続的な訴えに合致するXの腰部周囲の症状を評価⇒腰椎後方固定術を行った病院の判断に疑いを差し挟むべき理由がない
④その経過は腰椎分離症がなんら関与しない単なる打撲によるものとしてはおよそ説明がつかない

骨折等の明らかな外傷性の所見がないことを踏まえても、事故の大きな衝撃により、腰椎分離症が関与する腰椎等が生じて遷延化し、腰椎後方固定術により軽減してもなお一定の症状が残存したと捉えるのが自然かつ合理的である。
・・・詳らかな医学的機序までは解明できないにせよ、本件の経過を経験則に照らしてみれば、Xの腰椎等は、事故により腰椎分離症が関与する痛みが引き起こされ、遷延化したものと認めるのが相当である。
腰椎後方固定術後のXの腰部の状態について、固定の影響を含めて事故と相当因果関係のある後遺障害と認め「脊柱に変形を残すもの」(自賠法施行令別表第2第11級7号)に相当。
Xに事故後の減収がない一方、主に残存する痛みに伴う業務上の支障があること等を踏まえ、労働能力喪失率を14パーセントとする逸失利益等の損害を認めつつ、
既往の腰椎分離症の寄与が大きいことも否定できない⇒30パーセントの素因減額。
  民事p82
静岡家裁浜松支部R2.1.14  
  国外での代理懐胎により出生した子について、代理懐胎を依頼した夫婦の特別養子縁組の許可の申立て
  事案 日本人夫婦である申立人ら間の体外受精で生じた胚を、ウクライナ人女性(「本件代理母」)に移植し、本件代理母がウクライナ国内で出産した子について、特別養子縁組の許可を求める申立て。 
  判断 申立人らのうち夫は、本件子の母を本件代理母として胎児認知し、本件申立てに先立って、本件代理母との協議により本件子の親権者を申立人夫と定め、申立人らは、本件子の出生直後にウクライナ国内で本件子を引き取り、本件子を日本国内で適切に監護養育し、
他方、本件代理母は、ウクライナ家族法に従って、本件子の出生届に申立人らが父母として記載されることに同意している。
申立人らの養親としての適格性、申立人らとの未成年者らとの適合性に問題はない。
本件代理母が本件子を監護養育することは著しく困難で、本件子らを申し会って人らの特別養子とすることが、その利益のために特に必要があるといえ、本件代理母の同意もある。
⇒本件子を申立人らの養子とすることを認めた。
  解説 最高裁:
アメリカでの代理懐胎で出生した子について、依頼者夫婦の子とするアメリカの州裁判所の裁判は我が国の身分法秩序の基本原則なしい基本理念と相いれない⇒当該子を懐胎し出産した女性が母であるとの判断(最高裁H19.3.23)。
生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律9条(令和3年12月11日施行)も、子を懐胎出産した女性をその子の母とする旨を定めている。
A:海外での代理懐胎により出生した子と依頼者夫婦との特別養子縁組を認めることは、代理出産助長する結果という理由で否定する立場。

B:上記最高裁の補足意見
相手方ら(=依頼者夫婦)が夫婦が本件子らを自らの子として養育したいという希望は尊重されるべきであり、そのためには法的に親子関係が成立することが重要なところ、現行法においてもAら(代理母とその夫)が、自らが親として養育する意思がなく、相手方らを親とすることに同意する旨を、外国の裁判所ではあっても裁判所に対し明確に表明しているなどの事情を考慮すれば、特別養子縁組を成立させる余地は十分にあると考える。

子の福祉と代理懐胎禁止公序のバランスをとる観点から、代理出産を選択した経緯、動機、代理出産契約の内容等が代理母の尊厳を損なうものでないこと等も勘案し、当該具体的事情の下で、特別養子縁組の成立に必要な「子の利益のための特別の必要性」(民法817条の7)が認められるものとして、特別養子縁組の成立を認める見解。
特別養子縁組の成立には、父母の同意(民法817条の6)が要件となっており、日本においては、代理母が代理懐胎により出生した子の母とされる
⇒代理母の同意が必要。 
代理母の同意を確認する方法について、令和1年による改正前の家事手続法164条3項は、原則として、実父母の陳述聴取をしなければならない旨を規定。
but
陳述の聴取の方法に法律上の制限があるわけではない
(同改正後の164条の2第5項、239条2項は、養子となるべき子の出生の日から2か月を経過した後になされ、かつ、家庭裁判所調査官による事実の調査を経た上で家庭裁判所に書面を提出してなされた同意に限り、同意の撤回を制限する効果を認めているが、同条項所定の同意以外に、同意の効力を認めないものではない(68条参照)。
代理懐胎による出生した子の特別養子縁組の場合には、代理懐胎を実施した国の法制度や代理母による養育の実績、その可能性等に応じた適切な陳述の聴取の方法を選択すれば足りる。)
  刑事p84
東京高裁R2.9.8   
  実子に対する保護責任者遺棄致死の事案
  事案 被害児童(当時5歳)の実母である被告人が、夫で、被害児童の養父である共犯者と共謀の上、十分な食事を与えず衰弱させ、夫による身体的虐待を知りながらそれを容認し、被害児童が極度に衰弱するのを認めながらも医師の診察等を受けさせないまま、肺炎に基づく敗血症により死亡させた。
  原審 弁護人:責任能力を含む公訴事実を争わない。
本件当時の被告人の心理状態等を鑑定事項とする裁判員法50条1項の鑑定(50条観点)を請求⇒却下。
弁護人:精神科医であるB(B医師)の尋問を請求し、責任能力等に疑いを生じさせる尋問・証言を控え、公判に現れた事実につき一般的知見に基づいて解説する(判断の基礎とする事実)という形で証言することを求める一審裁判長の発言を受け、その立証趣旨を「心理的DVがあった場合の心理状態及びそれが行動に与える影響」と変更。
一審裁判所は、B医師の尋問を採用し、夫による心理的支配の程度が被告人の非難可能性に与える影響を、争点の1つとして設定。 
一審裁判所により、B医師の証言範囲は、前記判断の基礎とする事実の範囲内に制限された。
  解説 証言の制限:
裁判長は、証人等の尋問・陳述が相当でない場合、本質的権利を害しない限り、これを制限できる(刑訴法295条1項)。。 
  判断 弁護人:
50条鑑定請求の却下、及びB医師の証言範囲の制限について、訴訟手続の法令違反を主張。 
判断:
一審の公判前整理手続において、責任能力を含む公訴事実は争点となっていない。
弁護人が、証人(B医師)につき、夫の心理的DVの影響による本件当時の被告人の心理状態やそれが本件に与えた影響を立証趣旨とし、裁判所もその限りで尋問の必要性を認めて採用するとともに、それに沿った争点確認、証言範囲の制限を行い、一審判決も同争点につき具体的に判断。
⇒争点・証拠の整理は適切に行われた。
  解説  心理的DVの量刑上の考慮:
量刑判断における刑の可罰性の程度:
①処罰の根拠となる処罰対象そのものの要素
②当該行為の意思決定への非難の程度に影響する要素
からなる。
①②を総合的に考慮して刑事責任の分量が決まる⇒責任非難の程度次第で最終的な刑事責任の分量は大きく異なり得る。
本件:
結婚直後より夫から心理的DVを受け、本件当時も夫からの心理的影響を強く受けていたことを認定。
最終的には被告人が自らの意思で夫の指示を受け入れていた⇒心理的に強固に支配されていたとまではいえず、特に被害児童が要保護状態に陥ってからの状況からすれば心理的影響を乗り越えて被害児童を助ける契機があった。
量刑上の判断において、精神科医の証言以外の方法論として、情状鑑定等も考えられる。
  刑事p92
大阪高裁R3.4.19
   
  事案 被告人両名による、実子である被害者に対する、保護責任者遺棄致死の事案。 
  原審 公訴事実どおりの各罪の成立を認めた。 
  控訴 訴訟手続きの法令違反
事実誤認
量刑不当等
  解説・判断  ●遺体写真の必要性、法的関連性、取調方法 
遺体写真等の刺激証拠については、裁判員の精神的負担に配慮しその軽減を図る見地から、裁判所において、公判前整理手続で両当事者の意見を取し、要証事実との関係で証拠の必要不可欠性を検討し、裁判員に過度の精神的負担を与えず適正な判断が可能かを吟味し、代替手段の有無等も含めて採否を慎重に検討するといった運用。
行為責任の観点からの当該証拠の必要性
当該証拠が判断者による証明力の評価を誤らせる危険を有していないかという法律的関連性
の各吟味。

これが肯定

事案に応じ、写真のサイズ調整(縮小)、白黒化等の色調整、マスキング、イラスト化などの裁判員の負担を軽減する方法を工夫。
  ●要保護状況の認識 
被害者の日々の様子を把握⇒るい瘦状態等の変化に気づきにくくなることが想定できる。
尚「ミオパチー事件」最高裁H30.3.19
  ●量刑 
1審判決:本件の社会的類型を実子等に対する保護責任者遺棄致死事案⇒その量刑傾向中で上限に位置付けられる⇒懲役13年。
弁護人:精神疾患にり患した家族に対する不保護の事案に類似し、同情できる⇒量刑不当を主張。
vs.
判断:本件が被害者の尊厳を著しく損なう犯行で、結果も重大であるところ、被告人両名の責任避難を低下させる事情はない。
2495   
  行政p5
最高裁R3.3.2  
  違法行為の転換を認めた事案
  事案 Y:国
X:栃木県 
Xは、宇都宮市に対し、市は事業実施事業者に対し、補助金2億6113万8000円を交付し、同事業者は同補助金を主要な財源とし堆肥化施設を整備。
Y(農林水産大臣から権限の委任を受けた農林水産省関東農政局長)の原告に対する補助金の交付決定には、交付事業者であるXは「間接交付事業者に対し事業により取得し、又は効用の増加した財産の処分についての承認をしようとするときは、あらかじめ関東農政局長の承認を受けなければならない」との条件(「本件交付決定条件」)が附されていた。
申請を受けて、
関東農政局長⇒X、X⇒市に対し、
市長が事業実施事業者に対し、本件施設に対する担保権の設定を承認し、担保権が設定された。

さらに、申請を受けて、順次同様に、
本件施設につき、担保権事項に際しての承認がされ、担保権実行により売却がされた。
その際、Xは、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(「法」)22条に基づき、承認を申請⇒関東農政局長は、国庫補助金相当額の納付を条件(本件約款)として承認(本件承認)し、その後、原告は、関東農政局長の国庫補助金相当額1億9659万956円の納付の求めに応じ、同金額の納付(本件返納)をした。
X:本件承認は法令上の根拠を欠き、本件附款も法的効力が認められない⇒Yは本件返納により法律上の原因なく前記金額を利得下⇒Yに対し、不当利得返還請求権に基づき、同額の支払を求めた。
  争点 本件承認の対象が何か、いわゆる違法行為の転換が認められるか 
  関連訴訟 ❶栃木県が宇都宮市に対して補助金相当額の返還を求めた訴訟
❷本件返納が違法であることを理由として栃木県知事が県知事個人に対して損害賠償請求を求めた住民訴訟 
  ❶訴訟 県の市に対する交付決定においては、事業実施業者による財産処分に際して県の承認を要する旨の条件が附されておらず、また、Xの補助金等交付規則は事業実施事業者による財産処分に適用されない⇒県の市に対する承認には法令上の根拠がなく、その附款を根拠に補助金相当額の返還を求めることはできない⇒県の請求を棄却。
上告受理申立ても、不受理決定。 
  ❷訴訟 第1審:
本件承認は法22条に基づいてされているが、同条に基づいてすることはできず、また、担保権実行の際に同条に基づく承認は必要ない
⇒本件承認には法令上の根拠がなく、その附款として附された本件附款にも効力を認めることはできない⇒本件返納は違法であり、県知事は責任を負う。 
控訴審:
本件返納は違法but県知事には過失はない。
上告及び上告受理申立ては、棄却兼不受理決定。

原判決に民訴法312条1項及び2項所定の上告理由がなく、また、
民訴法318条1項所定の法令の解釈に関する重要な事項を含むとはいえない
などとされたもので、控訴審判決の判断内容自体について、最高裁として、本件返納が違法である旨を判断したものではない。
  1審 本件承認は法的に不存在であり、その附款である本件附款を根拠とする納付の求めも法的に不存在⇒原告の請求を認容。
本件承認は、法22条に基づいてなされたものであるところ、同条は、間接補助事業者等である事業実施事業者のする本件施設の財産処分には適用されない⇒本件承認には根拠法を誤った過失がある。
but
本件承認は、いわゆる違法行為の転換により、法7条3項を根拠にされたものと読み替えることができ、これに附された本件附款が、法の趣旨に照らして違法・無効とはいえない。
but
本件承認は、本件施設の担保権実行による所有権の移転を対象としてされたものであり、担保権実行についての承認は不必要⇒承認としての法的意味が認められない⇒法的に不存在なものと評価。
  原審 1審と結論同じ。
いわゆる違法行為の転換の理論により、本件承認が法7条3項による本件交付決定条件を根拠としてされたものとして法的根拠のある行政行為とすることはできない。
本件交付決定条件において、担保権設定者の意思が介在しない担保権の実行は承認の対象とならないと解されることろ、本件承認は本件施設の担保権の実行による所有権移転を対象としてされた法的根拠を欠く無効なものであって、これに附された本件附款も無効
⇒本件返納は法律上の原因なくされたもの。
  上告受理申立 ①本件承認は本件施設の目的外使用を対象としてされたものbutその対象を本件施設の担保権実行による所有権移転であるとした⇒原判決には、本件承認という行政行為の解釈の誤りがある。
②本件承認については、いわゆる違法行為の転換により、その根拠を法22条から法7条3項による本件交付決定条件と読み替えることができ、有効と考えられるのにそのように解さなかった原判決には、違法行為の転換に係る法令解釈の誤りがある。 
  判断   本件承認の対象は、本件施設の目的外使用であるとした上で、本件承認は法7条3項による本件交付決定条件に基づいてされたものとして適法⇒原判決を破棄し、第1審判決を取り消して原告の請求を棄却。(違法行為の転換を認めたもの) 
  法22条に基づくものとして各省各庁の長から権限の委任を受けた機関により補助事業者等に対してされた補助金相当額の納付を条件とする間接補助事業等により取得された財産の処分の承認は、次の(1)~(3)など判示の事情の下では、補助事業者等は間接補助事業者等に対し事業により取得した財産の処分についての承認をしようとするときはあらかじめ前記機関の承認を受けなければならない旨の法7条3項による条件に基づいてされたものとして適法である。 
(1)
法22条に基づく承認は、これを得ることなく補助事業等により取得された財産が処分され、補助事業者等により補助金等の交付の目的に沿って使用されなくなる事態に至ることを防止することを目的とするところ、法7条3項による前記条件に基づく承認も、これを得ることなく補助金の交付の目的が達成し得なくなる事態に至ることを防止することを目的とする。
(2)
法22条に基づく承認を得た上での財産の処分であれば、法17条1項により補助金等の交付の決定が取り消されることはないのと同様に、法7条3項による前記条件に基づく承認を得た上での財産の処分も、これにより補助金の交付の決定が取り消されることはない上、法22条に基づく承認に際しては、補助事業者等において補助金等の全部又は一部に相当する金員を納付する旨の条件を附することができるのと同様に、法7条3項による前記条件に基づく承認に際しても、補助事業者等において交付された補助金の範囲内の金額を納付する旨の条件を附することができる。
(3)
法22条に基づくものとして前記の財産の処分の承認をした機関において、仮に同条に基づき当該承認をすることができないという認識であった場合に、法7条3項による前記条件に基づき承認をしなかったであろうことをうかがわせる事情は見当たらない。 
  解説  ●  ●本来されるべきであった本件承認の根拠等 
法は、国が直接交付する「補助金等」などと、補助金等を財源とするが国が直接交付するものではない「間接補助金等」などを別のものとして定義している(2条)。

本件承認は、法22条を根拠としてされている
but
同条は、「補助事業者等」、「補助事業等」、「補助金等」についての規定⇒「間接補助事業者等」である本件の事業実施事業者がする財産処分については適用されない。
but
本件交付決定には、交付事業者である原告が「間接交付事業者に対し事業により取得し、又は効用の増加した財産の処分についての承認をしようとするときは、あらかじめ関東農政局長の承認を受けなければならない」との法7条3項による本件交付決定条件が附されている
⇒関東農政局長は、市が事業実施事業者による財産処分を承認することについて承認を求められたXに対しては、本件交付決定条件に基づこ承認すべきであったといえる。
法22条の趣旨は、補助金等により形成された財産の処分について一定の規制を行い、もって補助金等の交付の目的が完全に達成されるよう特に配慮したもの。
同条における各省各庁の長の承認は、禁止の解除の効果を持つ独立の行政行為であり、講学上の許可に相当するところ、「補助金等の全部又は一部に相当する金額を国に納付すること」等の条件を附すことも可能。
補助金事業者等が同条の規定に違反して補助目的外の処分を行ったときには、法11条1項の事業遂行義務に対応して定められた法17条1項および3項の規定に基づき、交付決定が取り消されることとなる。
法22条は、国と補助事業者等との関係についての規定であるが、これと実質的に同一の規制を及ぼす必要があり、そのためには、補助事業者等が間接補助事業者等に間接補助金等の交付決定をする際に、「間接補助事業社等により取得し、又は効用の増加する財産の処分については、補助事業者等の承認を受けるべき」旨の間接補助条件を附さなければならないとうい補助条件を附すことが必要であるとされている。
・・・
  ●本件承認の対象 
本件承認は、処分区分を「目的外使用(補助事業を中止する場合)」としてされた申請に対してされたもの⇒本件施設の目的外使用を対象としてされたものと解される。
原審:法22条の解釈を踏まえ、担保権実行に伴う所有権移転であるとした
本判決:単なる事実認定ではなく、行政行為の解釈の問題であるという認識の下に、目的外使用であると判断。
担保権設定者の意思に基づく財産の処分に民事上の効果を発生させるために、法22条に基づく承認が要求⇒担保権実行に伴う所有権移転については、担保権設定者の意思に基づくものではないから、承認の対象とならないという立場。
vs.
法22条に基づく承認は、補助金等により取得等された財産について、各省各庁の長の承認を得ることなくその処分がされることを防止し、もって補助金等の交付の目的が完全に達成されるよう特に配慮したものであるところ、本件交付決定条件に基づく承認も同様の趣旨によるものと解される。

いわば事業実施事業者の善管注意義務を解除する効果を持つものであって、これは補助金等又は間接補助金等により取得等された財産の処分の民事上の効果の有無に関わるものではない。
  ●違法行為の転換 
当初、Aとしてされた行政行為が、Aとして必要な要件を欠いているためにAとしては違法であるが、Bの行政行為の要件は充足している場合、これをBとして存続させること。
違法行為の転換が認められるには、行政行為の内容に関して、
①転換前の行政行為と転換後の行政行為の具体的な目的が同一であること、
②転換後の行政行為の法的効果が転換前の行政行為の法効果より、関係人に不利益に働くことにならないこと、
③行政庁が仮に転換前の行政行為の瑕疵を知ったとしても、その代わりに転換後の行政行為を行わなかったであろうと考えられる場合でないこと
を挙げる学説。
本判決:
①法22条に基づく承認と法7条3項による本件交付決定条件に基づく承認は、目的を共通にすること、
②法22条に基づいてされた本件承認を法7条3項による本件交付決定条件に基づいてされたものとすることは、原告にとって不利益にならないこと、
③関東農政局長が法22条に基づいて本件承認をすることができないという認識であった場合に、法7条3項による本件交付決定条件に基づく承認をしなかったであろうとはいえないこと
を指摘した上で、本件承認は、法7条3項による本件交付決定条件に基づいてされたものとして適法であるとした。
宇賀補足意見:
①~③の要件は、違法行為の転換が認められるための必要条件であるが、それが必要十分条件であるわけでは必ずしもない。
ex.
・いわゆる行政審判手続において審理されなかった事実を訴訟手続において審理されなかった事実を訴訟手続において違法行為を転換することは、行政審判手続を採用した趣旨に反し、かかる場合に訴訟手続において違法行為の転換を認めることの可否は慎重に検討すべき。
・処分の相手方のみならず、第三者にも効果が及ぶいわゆる二重効果的行政処分の場合、違法行為の転換を認めることにより、第三者の権利利益を侵害することにならないかを検討する必要。

本件においては、違法行為の転換を否定すべき特段の事情の存在は認められず、その点について論ずる必要はない。
  行政p14
大阪地裁R3.4.22   
  地方団体が国に対して特別交付税の額の決定の取消しを求める訴えと「法律上の争訟」(肯定)
  事案 地方交付税2条2号の地方団体(都道府県及び市町村)である原告(大阪府泉佐野市)が、総務大臣から受けた令和元年度の特別交付税の額の決定(本件各決定)は、いわゆるふるさと納税として多額の寄付金を集めたことをもって特別交付税の額を減額する旨を規定する「特別交付税に関する省令」附則(本件各特例規定)に基づいてその額を算定
but
本件各特例規定は違法
⇒本件各決定は違法
であるなどと主張して、
被告(国)に対し、本件各決定の取り消しを求めたもの(行訴法3条2項の「処分の取消しの訴え」として提起) 
  主張 被告:原告は一般私人が立ち得ない行政機関特有の立場である「固有の資格」で本件訴えを提起⇒本件訴えは裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないため却下されるべき。 
  解説 地方交付税:地方団体間の財政力格差を調整し、全ての地方団体が一定の水準を維持し得るよう財源を保障する見地から、国税収入の一定割合を財源に、国が地方団体に配分するもの。 
  特別交付税の額の決定は、地自法245条柱書きの「国・・・の普通地方公共団体に対する支出金の交付・・・に係るもの」に当たり、同条の「国・・・の関与」の定義から除かれる⇒同法251条の5の「国の関与に関する訴え」の対象にはならないと解される。 
  解説  ●裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」について
わが国の裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権(憲法76条1項)を行う権限であるところ、裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」、すなわち、
①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であり、かつ、
②それが法令の適用により終局的に解決することができるもの
に限られる(最高裁昭和56.4.7)。
他方で、行政訴訟の「法律上の争訟」性については、主観訴訟と客観訴訟の二分論をとるのが伝統的な通説。
主観訴訟(抗告訴訟と当事者訴訟)は、個人的な権利利益の保護救済を目的とする訴訟であって、「法律上の争訟」に当たる。
客観訴訟(現行制度としては民衆訴訟と機関訴訟)は、専ら客観的な法秩序の維持を目的とする訴訟であって、「法律上の争訟」に当たらず、法律に特定の定めがある場合(裁判所法3条1項後段参照)に限り提起することが許される。
異なる行政主体(又はその機関)相互間の訴訟については、伝統的通説が「法律上の争訟」に当たらないとする機関訴訟(行訴法6条)の対象となる訴訟ではないか?
・那覇市長が情報公開条例に基づいてした自衛隊基地に係る建築工事計画通知書の公開決定に対して、国がその取消しを求める訴えについて、当該訴えにおいて国は建物の所有者として有する固有の利益が侵害されることをも理由としてその取消しを求めていると理解することができる⇒「法律上の争訟」に当たる。(最高裁H13.7.13)
・杉並区が東京都に対して、住民基本台帳法に基づく杉並区長の本人確認情報の送信に対応する東京都知事の受信義務の確認を求める訴えは、同法の適用の適正ないし住民基本台帳事務の適正な実施を求めるものにほかならず、専ら行政権の主体として訴訟を提起しているもの⇒「法律上の争訟」に当たらないとして原審に対する上告・上告受理申立てを棄却・不受理とした最高裁H20.7.8。

・宝塚市が、宝塚市パチンコ店等、ゲームセンター及びラブホテルの建築等の規制に関する条例に基づき宝塚市長が発した建築工事の中止命令の名宛人である私人に対し、同工事を続行してはならない旨の裁判を求める訴えは、不適法とされたもの(宝塚市パチンコ店条例事件最高裁判決)。

「国または地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、・・・不適法である。」

その後の下級審において、行政主体(又はその機関)相互間の訴訟にもその射程ないし趣旨が及ぶと解される傾向。
異なる行政主体(又はその機関)相互間の訴訟の「法律上の争訟」性に関する学説:
地方公共団体が国に対してその権限の行使を不服として提起する訴訟に限定すれば、一定の場合に地方公共団体の出訴を肯定する見解が多数。
A:国の地方公共団体に対する監督権の違法な行使は地方公共団体の自治権の侵害にあたる⇒抗告訴訟の提起を肯定(塩野)
B:地方公共団体や国立大学の自治権のように、分節化等された行政の主体の権限が憲法に基礎を置く場合、その権限を行政機関が終局的に判断するのは基本的には憲法の趣旨に沿わない⇒原則として訴権を認める。
  民事p25
最高裁R3.1.26  
  利息制限法1条の社債への適用(否定)
  事案 社債を発行した会社の破産管財人であるXが、社債権者であるYに対し、利息制限法1条所定の制限利率を越えて支払われた社債の利息について、いわゆる過払金の返還を求めた。 
利息制限法1条は、利息を制限する対象を「金銭を目的とする消費貸借」と規定するのみで、その主体や契約類型に特段の限定はない⇒社債の適用が問題。
  原審 ①社債は消費貸借契約とは法的性質を異にする
②利息制限法の趣旨は経済的弱者の保護にあるところ、社債の債務者はである会社は類型的に経済的弱者とは認められない
③このことは債権者が1人であるなどの事情によってんも異なることはない

事実関係のいかんにかかわらず、利息制限法1条の規定は適用されない。
  判断 債権者が会社に金銭を貸し付けるに際し、社債の発行に仮託して、不当に高利を得る目的で会社に働きかけて社債を発行させるなど、社債の発行の目的、会社法676条各号に掲げる事項の内容、その決定の経緯に照らし、当該社債の発行が利息制限法の規制を潜脱することを企図して行われたものと認められるなどの特段の事情がある場合を除き、社債には同法1条の規定は適用されない。
⇒上告棄却。
社債への利息制限法の適用否定

①利息は当事者間の契約によって自由に定められるものであるところ、社債は、発行会社が事業資金を調達するため自らの経営判断により条件を定めた募集することが想定されるなど一般に想定されているような金銭消費貸借とは異なる。
②利息制限法は、主に経済的弱者である債務者に不当な高利の貸付けが行われることを防止する趣旨で利息を制限したものと解されるところ、社債にはこのような趣旨が直ちに当てはまるものではない。
③今日、様々な社債が会社の資金調達に重要な役割を果たしていることからすると社債の利息を制限することは、このような社債制度の趣旨に反することとなる。
  民事p30
最高裁R2.10.9  
  家裁調査官の論文とプライバシー侵害
  事案 家裁調査官であったY1が、Xに対する少年保護事件を題材とした論文を精神医学関係者向けの雑誌及び書籍に掲載して公表⇒Xが、この公表により、プライバシーを侵害されたなどと主張して、Y1、前記雑誌の出版社であるY2、前記書籍の出版差hであるY3に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた。
  1審 (1)名誉毀損による不法行為の成否:
本件各公表における事実の摘示は、公益目的によるものであり、本件論文の内容は真実であるか、少なくともY1において真実と信じるについて相当の理由があった
(2)プライバシー侵害による不法行為の成否:
本件各公表によってXのプライバシーに関する事実を公表されない利益がこれを公表する理由に優越するとはいえない
(3)本件書籍等の交付による不法行為の性につき、Xが慰謝料に値するほどの精神的苦痛を被ったとは認められない
⇒Xの請求をいずれも棄却。
  原審  本件公表につき、
(1)名誉毀損による不法行為は成立しない
(2)本件各公表によってXのプライバシーに関する事実を公表する利益はこれを公表されない利益に優越しない⇒プライバシー侵害による不法行為(Yらによる共同不法行為)が成立
(3)本件書籍等の交付による不法行為の成否にっついて、本件書籍の交付は、自己に知らされるべきでないと考える情報をみだりに知らされない利益等を侵害するものであり、Y1の不法行為が成立

Xの請求を一部認容。 
  判断 家庭裁判所調査官による調査内容を対外的に公表することは原則として予定されておらず、
本件保護事件における調査によって取得された本件プライバシー情報の秘匿性は極めて高い。
(1)本件論文は、社会の関心を集めつつあった本件疾患の特性が非行事例でどのように現れるのか等を明らかにするという目的で執筆された
(2)本件各公表は、医療関係者や研究者等を読者とする専門誌や専門書籍に掲載する方法で行われた
(3)本件論文には、対象少年やその関係者を直接特定した記載部分や事実関係の時期を特定した記載部分はなかった

本件プライバシー情報に係る事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するとまではいえず、本件各公表がXのプライバシーを侵害したものとして不法行為法上違法であるということはできない。
(Y1による上告受理申立ては、本件書籍の交付を理由とする損害賠償請求を認容した部分も対象としていたが、本判決は、その理由を記載した書面を提出しなかった⇒当該部分に係る上告は却下。)
  解説 表現行為を理由に損害賠償等を命ずることは、表現の自由に対する制約となり得る⇒プライバシーと表現の自由との調整が必要。 
最高裁H15.3.14:
少年の犯罪を実名報道した記事によるプライバシー侵害が問題となった事案において、
プライバシーの侵害については、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立。

プライバシーに係る事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由に関する諸事情を比較衡量し、プライバシー侵害の違法性を判断。
諸事情:
①プライバシー情報の帰属主体の属性等
②プライバシー情報の性質・内容
③プライバシー情報が開示されることによる不利益の有無・程度
④プライバシー侵害に当たる表現を行った者の属性等
⑤当該表現の趣旨・目的
⑥当該表現の方法
⑦その他の事情
本件論文に記載された具体的な出来事等を知る者が本件論文を読んだ場合、その知識と照合することによって、対象少年をXと同定し得る可能性があった⇒本件各公表は、Xのプライバシーの侵害を生じる。
少年審判は非公開(少年法22条2項)、家庭裁判所調査官の行う社会調査(少年法8条2項、9条、少年審判規則11条等)は、少年の家族関係、成育歴その他高度のプライバシーに属する情報を取り扱うもの。
本件論文は、本件保護事件の調査結果に基づき執筆されたものであり、Xは、本件公表当時、19歳の少年。

本件プライバシー情報は、帰属主体の属性や当該情報の性質・内容といった観点からしても、その秘匿性は極めて高いものであった。
各公表の目的は重要な公益を図ることになった
Xを直接特定し得る情報を記載せず、本件保護事件の時期等も明らかにしていなかった⇒Xのプライバシーに相応の配慮をしていた。

本件論文に記載されたXに関する情報を複数知る者が、これらの情報を組み合わせることにより、対象少年をXと同定し得る可能性は否定できない。
but本件保護事件が軽微な事案であり、臨床精神医学の専門誌等である本件掲載誌及び本件書籍の読者層が限られている。
⇒そのような者が本件論文を読み、本件論文の対象少年をXと同定し、当該者が知らなかったXのプライバシー情報を把握するという事態が生ずる可能性は相当低いものであったと考えられる。

本件プライバシー情報に係る事実を公表されない法的利益≦公表する理由
と判断。
  民事p36
福岡高裁R2.7.14  
県立高校でのいじめ自殺での学校側の責任(一部認容)
  事案 Y(熊本県)が設置する高等学校の1年に材さくしていたAが本件高校在学中に自殺してたのは、同学年の寮生Bからのいじめを受けていた亡Aに対する本件高校の教職員(亡Aの学級担任及び寮の舎監長である教諭ら)の安全配慮義務違反行為によるもの⇒亡AがYに対して国賠法1条1項に基づく損害賠償請求権を取得し、亡Aの相続人であるXらがこれを相続⇒Yに対して損害賠償を求めた。 
  原審 Yに対する請求について
寮の舎監長である教諭には安全配慮義務違反なし
亡Aの学級担任である教諭が学校で実施された生徒の心理テストの結果を確認せず、これを舎監長に伝えなかった点に安全配慮義務違反あり。
but
自殺の具体的予見可能性がなく相当因果関係を否定
⇒棄却。 
  Xらが控訴
控訴審で、仮に前記因果関係が認められないとしても、亡Aは、学級担任及び舎監長のBのいじめに対する不適切な対応によって生前に精神的苦痛を被っておりYに対して国賠法1条1項に基づく慰謝料等の損害賠償請求権を取得⇒Yに対して前記慰謝料等の賠償を求める請求を予備的に追加。 
  争点 ①県立の高校学校設置者としてのY(その履行補助者としての舎監長及び学級担任)の安全配慮義務違反の有無 
②Yの案縁配慮義務違反と自殺との間の相当因果関係の有無
③Yの安全配慮義務違反行為により亡Aが生前に受けた精神的苦痛に対する慰謝料請求の可否
  判断    ●争点① 
原審同様、学級担任の安全配慮義務違反を認めた。
舎監長についても、いじめへの対応として不適切であり、安全配慮銀無違反を肯定。
寮の開設者であるYには、寮生間のいじめなど特定の寮生が寮生活を継続することを困難とさせるよな深刻な事態が生じた場合、その保護者がその寮生に寮生活を継続させるかどうかの意思決定を適切に行うことができるよう、それに関する情報を的確に保護者に伝えるべき義務がある。
舎監長:トラブルが解決したとして亡Aの両親に誤った情報を提供した点に、
学級担任:心理テストの結果を亡Aの両親に適切に提供しなかった点に、
それぞれ安全配慮義務違反がある。
  ●争点② 
学校側には亡Aの自殺につき具体的予見可能性があったとは言い難い
⇒学級担任及び舎監長の対応と亡Aの死亡との相当因果関係を認めない。 
  ●争点③ 
亡Aは、舎監長と学級担任の安全配慮義務違反行為により、
①トラブルの背景事情について真摯に傾聴してもらえず、
②けんかの当事者として問い詰められ、
③秘密を遵守されず、学校側に申告したいじめ行為の内容をBに開示され、
④亡AとBとその友人のみによる話し合いをさせられ、Bらから謝罪の要求や誹謗中傷を受けたことにより、
精神的苦痛を受けたとして、慰謝料200万円の限度で請求を認容。
  解説 学校での児童生徒間のいじめは、往々にして人目につきにくい状況の下で、客観的証拠が残りにくい形で行われる⇒その有無や態様の認定に当たっては、証拠の綿密な評価といじめに関する知見を踏まえた的確な経験則の適用が求められる。 
  民事p63
広島高裁R2.8.3  
  保佐人選任審判⇒抗告審継続中に任意後見契約を締結⇒法10条1項の「本人の利益のため特に必要がある」が問題となった事案
  事案 Zの妻Xは、令和1年9月30日、Zを本人とする保佐開始及び保佐人に対する代理権付与の各申立てをしたが、令和2年1月9日、保佐人に対する代理権付与の申立てを取り下げ。
令和2年1月:Zについて保佐を開始し、保佐人としてZ・Xの二女であるP1を選任。

Zが抗告。
抗告提起後の令和2年5月7日、Zを本人(任意後見委任者)、Zの実兄P2を任意後見受任者とする任意後見契約を締結し、その旨の公正証書が作成、同任意後見契約は同月11日登記。
Z:任意後見法10条1項によれば、法定後見である保佐開始よりも同任意後見契約が優先されるべき⇒P1を保佐人に選任した原審判を取消し、Xの求めたZに対する保佐開始の申立てを却下すべきと主張。 
  規定  任意後見法 第一〇条(後見、保佐及び補助との関係)
任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。
  判断 Zの精神状態:
鑑定書によれば、双極性感情障害にり患し、支援を受けなければ、契約などの意味・内容を自ら理解し、判断することができない状態にある⇒精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分。
抗告人の精神状態、すなわち激しい躁状態を呈した際に浪費と契約を重ね、経済的不利益を受けるおそれのある状態に鑑み、Zについては民法13条1項各号所定の行為について同意権・取消権による保護が必要⇒本件では「本人の利益のため特に必要がある」と認められる。
Z:仮にZが保佐開始の要件を満たす場合であっても、保佐人は親族以外の第三者から選任されるべきであると主張。
vs.
審判に対しては特別の定めがある場合に限り即時抗告をすることができるところ(家事手続法85条1項)、保佐人選任の審判に対し即時抗告をすることができる旨の規定はない⇒保佐人選任の不当を抗告理由とすることはできない。
⇒Zの抗告を棄却。
  解説  法10条の「本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り」についての裁判例。
  民事p66
大阪地裁R3.1.14  
  購入した土地の土壌汚染⇒瑕疵担保責任・相当因果関係のある損害が問題とされた事案
  事案 新キャンパスを開設するために購入した土地の土壌の土壌汚染対策法に基づく規制の対象となる物質が基準値を超えて存在し、本件土地の地下に新校舎の建設等の工事の障害となるコンクリート等が存在⇒本件土地の飼い主である学校法人Xが、売買契約上の瑕疵担保責任、債務不履行責任等に基づき、土地の売り主である学校法人Yに対して11億円を超える損害賠償を請求。 
本件売買契約には、特約条項として、Yが引渡しまでに本件土地の土壌汚染調査を実施し、土壌改良が必要な場合にはYの費用で改良を行う旨、
既存建物の建築エリアについては既存建物解体後にXが調査を実施し、土壌改良が必要な場合は、Yの費用でXが改良を行う旨の記載。
  争点 ①本件土地の土壌に基準値を超える鉛及び砒素が含まれていたこと、本件土地の地中に地中障害物が存在していたことが、(改正前)民法570条の「隠れた瑕疵」に当たるか
②Yがどの範囲でXに生じた損害を賠償する責任を負うか 
  判断 本件土地に
①土壌汚染対策法による規制の対象となっている鉛及び砒素が基準値を超えて含まれていたこと
②本件土地の地中に取引上要求される一般的な注意では発見できない地中障害物が存在していたことは、いずれも民法570条の「隠れた瑕疵に当たる」
本件売買契約においては、Xが新キャンパスを開設するに当たり土壌汚染対策法に基づく汚染の除去等の措置を義務付けられないことが本件土地の品質・性能として予定されていたものの、本件土地に一切の土壌汚染が存在しないことが本件売買契約において予定されていたとは認められない

Yに対し、
①土壌汚染の調査費用4909万4754円
②土壌汚染部分についての封じ込め工事の施工費用144万1681円
③地中障害物の撤去費用536万150円
の支払を命じたが、
土壌汚染部分の」掘削除去等に要した費用については、本件土地の瑕疵と相当因果関係のある損害とは認めなかった。
  解説   民法570条の「瑕疵」:
目的物に何らかの欠陥があることをいい、何が欠陥かは、当該目的物が通常備えるべき品質・性能が基準になるほか、契約の趣旨によっても決まる
⇒契約当事者がどのような品質・性能を予定しているかが重要な基準を提供。
最高裁H22.6.1:
ふっ素が土地の売買契約締結後に健康被害を生ずるおそれのある有害物質として法令に基づく規制の対象となった⇒売買契約当時の取引観念上、ふっ素が土壌に含まれていることに起因して人の健康に係る被害を生じさせるおそれがあるとは認識されていなかった⇒ふっ素が土壌に含まれていたことは、民法570条にいう「瑕疵」には当たらない。
  規制対象区域の分類等によって講ずべき措置内容の明確化等を図ることなどを概要とする「土地汚染対策法の一部を改正する法律」が成立(平成21年)。 
  ●  東京高裁H30.6.28:
売買契約において予定されていた土地の品質・性能とは直接関係がない土壌の撤去・処分に要した費用を売買契約上の「瑕疵」と相当因果関係のある損害ということはできない。 
本判決:
本件売買契約においては、Xが新キャンパスを開設にするに当たり土壌汚染対策法に基づく汚染の除去等の措置を義務づけられないことが本件土地の品質・性能として予定されていたと認定しつつ、
平成20年当時、一般的には、掘削除去に比べて舗装や封じ込めの方が低廉なコストで施行可能であったと認められる⇒掘削の除去に要した費用を本件土地の瑕疵と相当因果関係のある損害としては認めなかった。
  民事p88
奈良家裁R2.9.18  
  直接交流は相当でなく、間接交流を認めた事案
  事案 未成年者らの父である申立人Xが、母である相手方Yに対し、未成年者ら(長女(小5)、二女(小3))との面会交流について、段階的な面会交流を希望し、最終的には月1回の直接的な交流の実施を認めた⇒合意成立せず⇒審判の事案。
Y:面会交流の方法として、Xに対し、未成年者らの写真を送付したり、Xから手紙や贈物を送付するなどの間接交流によるのが限度という主張。
  判断 ①未成年者らで同じ内容の面会交流の実施要領を定めるのが相当
②長女は、同居中の頃のXの言動に恐怖心を抱いており、直接の交流では、その場でXに叱責されたり、その末に暴力をふるわれるかもしれないとの不安
さらに、母であるYが、離婚後もXに恐怖心を抱く姿を見て、ますます不安を強めており
長女の発達特性から、非常に強い恐怖心や不安感を抱いている。
③二女も、直接の交流には否定的であり、長女と一緒でなければ無理と述べている。

令和4年3月までの期間内に直接の交流の実施を開始するのは相当ではなく、まずは、電話や手紙等による間接交流の実施を重ね、未成年者らの不安や葛藤を低減していくことが相当である⇒令和4年4月以降の面会交流については、当事者間で誠実に協議することが相当。 
  解説 民法766条1項「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」としている⇒子の権利性に親和性。 
監護親の立ち合い
←非監護親による子の連れ去りへの懸念の解消など
vs.
監護親の立会いは、監視されているとの意識を持つことから、未成年者との自由な交流の妨げになる。
間接的な面会交流(直接面会せず、メール等のやり取りをする方法)
監護親の立会いの下での面会
第三者機関の関与の下での面会
●近時の裁判例 
監護親の立ち合い:
別居中の夫婦間で、夫が妻に、未成年者との面会交流を求めた。

千葉家裁松戸支部:
従前子の引渡し審判により未成年者の引渡しを命ぜられた申立人が任意に相手方⇒申立人が面会交流の際に子を連れ去るおそれがあるとは認められないとして、相手方の立ち合いなしでの面会交流を認めた。

東京高裁:
相手方による未成年者の連れ去りのおそれがあるとする抗告人の懸念は是認でき、この懸念について十分配慮する必要がある⇒原審を変更して、抗告人の立会いを認める面会交流を命じた。
第三者機関の関与:
東京高裁:
・・・非監護親である相手方(夫)には自己中心的で他者への配慮に欠けるところがあり、監護親の非監護親に対する信頼が失われている⇒面会交流を円滑かつ継続的に実施していくためには、1年6か月(18回分)の間は、面会交流の支援を手がける第三者機関にその支援を依頼し、同機関の職員等が未成年者らと相手方との面会交流に立ち会うこととし、時間をかけて未成年者らと相手方との面会交流の充実を図っていくのが相当。
⇒原審判決の内容を一部変更。
間接的面会交流:
名古屋高裁:
一部実施した面会交流において、未成年者と父との面会交流をこれ以上実施させることの心理的、医学的弊害が明らかとなったものと認められ、それが子の福祉に反することが明白になったというべき。
⇒それ以降の直接的面会交流をさせるべきでないことが明らかとなったものということができる。
but
非監護親が父親として未成年者のために手紙や品物を送ることまでを否定する理由はない⇒この点については従前の取扱いを変更する必要はないとして、
直接的面会交流を認めた原審判を変更。
  刑事p93
最高裁R1.9.27  
   
  事案 現金送付型の特殊詐欺において、氏名不詳者らと共謀の上、Aから2回にわたって現金合計350万円をだまし取り(詐欺既遂事件)、その後、Cから現金をだまし取ろうとしたが、その目的を遂げなかった(詐欺未遂事件)た。
  1審 各事件について有罪。 
  原審 第1審判決が詐欺未遂事件について詐欺の故意及び共謀を認定した点に事実誤認はない
but
詐欺既遂事件につちえ詐欺の故意及び共謀を認定した点に事実誤認がある
⇒詐欺既遂事件について無罪。 
  判断  詐欺既遂事件について被告人に詐欺の故意が認められないとした原判決は重大な事実誤認をしたというべき⇒原判決を破棄し、被告人の控訴を棄却。 
①被告人は、依頼を受け、他人の郵便受けの投入口から不在連絡票を取り出すという著しく不自然な方法を用いて、宅配ボックスから荷物を取り出したうえ、これを回収役に引き渡しており、
②本件マンションの居住者が、第三者である被告人に対し、宅配ボックスから荷物を受け取ることを依頼し、しかも、オートロックの解錠方法や郵便受けの開け方等を教えることなどすることもなく、①のような方法で荷物を受け取らせることは考え難い

③被告人は、依頼者が本件マンションの居住者ではないにもかかわらず、居住者を名宛人として送付された荷物を受け取ろうとしていることを認識していたと合理的に推認できる。

④被告人は、送り主は本件マンションに居住する名宛人が荷物を受け取るなどと誤信して荷物を送付したものであって、自己が受け取る荷物を送付したものである可能性を認識していたことも推認できる、。

「名宛人から荷物の受取を依頼された」旨の被告人の供述は信用できず、それ以外に前記の詐欺の可能性の認識を排除するような事情も見当たらない。

被告人は、自己の行為が詐欺に関与するものかもしれないと認識しながら本件各荷物を取り出して受領したものと認められる⇒詐欺の故意に欠けるところはなく、共犯者らとの共謀も認められる。
  解説 最高裁H30.12.11、最高裁H30.12.14:
いずれも現金送付型特殊詐欺の事案において、
被告人が指示や依頼を受けて、配達される荷物を名宛人になりすまして受け取り、回収役に渡す行為を複数回繰り返し報酬を得ていたなどの事実は、
荷物が詐欺を含む犯罪に基づき送付されたことを十分に想起させるもの
⇒被告人は自己の行為が詐欺に当たる可能性を認識していたことを強く推認させる。
詐欺の可能性があるとの認識が排除されたことをうかがわせる事情も見当たらない。

詐欺の故意及び共謀を認め、これを否定した各原判決を破棄。 
   刑事p96
大阪高裁R2.3.10
  刑訴法321条1項2号後段で請求された検察官調書の却下が訴訟手続の法令違反とされた事案
  原審 本件犯行は被告人以外の人物が共犯者に指示したことによって行われたものである可能性が否定できないと判断し、被告人と共犯者らとの共謀を否定。
  控訴趣意 事実誤認:
間接事実①~⑥によれば、被告人と共犯者らとの間に本件犯行の共謀があったことが推認できる⇒これを認めなかった原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある。 
訴訟手続の法令違反:
間接事実④(被告人が共犯者の1名に対して本件犯行に用いられた催涙スプレーを送っていること)を立証するために、原審検察官が、刑訴法321条1項2号後段に該当するとして証拠請求したZの検察官調書謄本につき、これを却下した原審裁判所の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある。
  規定 刑訴法 第三二一条[被告人以外の者の供述書面の証拠能力]

被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。

二 検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異つた供述をしたとき。但し、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。
  判断 Zの原審公判供述と本件検察官調書は、その一部において、互いに相反していること(相反性)が認められ、かつ、本件検察官調書の本件相反部分は、Zの原審公判供述よりも信用すべき特別の情況(相対的特信性)が認められる。
⇒本件検察官調書の証拠請求を却下した原判決には訴訟手続の法令違反がある。
  解説  本判決は、相対的特信性を認めた理由につき詳細に判示し、その中で、Zの原審公判での供述状況のみならず、疎明資料として提出されたDVDを使って、Zの捜査段階の供述状況について詳しく分析。 
  ●取調べの記録媒体を相対的特信性判断の資料に用いたこと 
原審では本件検察官調書の証拠請求自体が却下。
⇒控訴審は、その証拠能力判断のために、改めて本件検察官調書の提示を命じ、本件DVDもそれに合わせて控訴審に提出されたものと思われる。

記録媒体である本件DVDを、刑訴法321条1項2号後段書面の要件である相対的特信性の判断に使用していいか?
記録媒体を法廷審理に使用できるかという問題:
ア:被害者の取調べの記録媒体を、刑訴法が本来その目的としている場合のほかに、当該被疑者本人の供述調書(自白調書など)の信用性判断に補助的証拠として用いる場合、
イ:実質証拠として用いる場合
を中心に検討されており、
本件のように、第三者の供述調書を伝聞例外として証拠とする場合の判断に用いるというような場合は想定されていなかった。
①補助的証拠として採用しても、それ自体が実質証拠として機能してしまう可能性が高く、これを阻止することが困難であること、
②視覚による影響は極めて強く、総合的に行われるべき信用性判断が偏った形で行われる可能性が高い

これらの議論において、その使用を否定的に捉える重要なファクター。

単なる手続き関連の補助的証拠であるからなどといって、安易に使用することは許されない。
特に①は最も警戒すべき点。
本判決:
「証拠能力の判断は、原審裁判体を構成する裁判官3名の合議によって行うべきものであり、本件検察官調書の相対的特信性を疎明する資料として提出された本件DVDの内容も、原審裁判体を構成する裁判官3名のみが視聴すればよい⇒それを資料とすることによって、原審裁判体を構成する裁判員の判断に不当な影響を与えることはない。」と付記
vs.
裁判員のみならず裁判官であってもその影響を排除するのは難しく、この説明だけで、問題が解決しているとは言い難い。
  ●公判中心主義のもとでの相対的特信性判断の在り方 
裁判員裁判⇒刑訴法本来の直接主義、公判中心主義に立ち返ることが標ぼう。
⇒刑訴法321条1項2号後段の解釈、運用についても、見直しを迫るものであるはず。
2494   
  行政p3
福岡高裁R2.9.25  
  小学校の教諭が脳幹部出血を発症して後遺障害が残った事案での、公務との間の相当因果関係(肯定事案)
  事案  公立の小学校教諭であったX(発症時44歳)は、勤務先から帰宅後に意識を消失し救急搬送⇒後遺障害が残った。
Xは、地方公務員災害補償法に基づき公務災害認定請求⇒Y(地方公務員災害補償基金)熊本県支部長から公務外認定処分⇒審査請求及び再審査請求⇒棄却⇒公務外認定処分の取消しを求めた。 
  ・・・・Xのパソkンに残っていたログや、文書ファイルの作成・更新時刻の記録⇒Xが本件発症に近接した時期に、自宅で夜間や早朝に関連する文書の作成をした場合もあったことが認められるものの、公務に関する文書の作成作業を行った正確な時間は不明。
  1審 ①本件発症前の6か月間におけるXの勤務先での時間外労働時間を認定
②本件発症前1か月について自宅でもパソコンを用いて公務に当たる作業を行ったと認め、自宅での作業時間を一定のすいて方法を用いて認定し、
本件発症前6か月の各月のXの時間外労働時間を認定。 
①本件発症前1か月間の時間外労働の時間が月100時間に達していない
②本件発症前6か月間の月平均労働時間が80時間に達していない
③本件発症前のXの公務の内容が、他の教諭に比して著しく過重であったとはン認められない

公務による負荷が、医学的経験則に照らし、脳血管疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷であったとは認められない

本件発症と公務との間に相当因果関係が認められない。
  判断 自宅における時間外労働時間の認定について、・・・Xが本件発症前2か月目において自宅で公務を行ったものと認めた上で、
①Xの個々の業務が過重であったとまではいえないものの、Xは複数の業務を並行して処理⇒業務上の負荷については業務を全体として評価する必要がある
②本件発症前1か月間の時間外労働時間は、月100時間には達していないものの、これに近い時間となっている
③本件発症前2週間の時間外労働がいずれも週当たり25時間を超えている
④本件発症前2か月目から6か月目については、月平均80時間を超える時間外労働をしたと認められる期間はないものの、本件発症前6か月目の校内時間外労働時間がほぼ80時間であるなど、長期間にわたって恒常的に長時間の時間外労働をしていたといえる、
⑤職場での時間外労働で終わらせることのできなかった文書等の作成業務を自宅で行い、その結果睡眠時間が減ったものと認められる、
⑥休日に部活動の試合の引率を担当することがあり、睡眠時間及び休日の休息の時間を減少させ、疲労の回復を遅らせる要因となったといえる

Xの本件発症前における業務は、その身体的及び精神的負荷により、脳血管疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて増悪させ得ることが客観的に認められる負荷であった。 
本件発症の時点で、Xの基礎疾患により、血管病変等が自然経過の中で本件発症を生じさせる寸前の状態にまで増悪していたとは認められない
⇒Xの本件発症前の過重な業務による身体的及び精神的負荷がXの血管病変等をその自然経過を超えて増悪させ、本件発症に至ったと認められる

本件発症と公務との間の相当因果関係を認め、原判決を取り消し、Xに対する公務外認定処分を取り消した。
  解説  脳・心臓疾患の公務(業務)起因性の判断 
最高裁は、(公務と当該傷病等との)相当因果関係の判断基準に関する一般論を示しておらず、傷病等の公務(業務)起因性が問題となった個々の具体的事案に即して、当該傷病等が業務に内在する危険が現実化したものであると評価することができるか否かによって判断。

脳・心臓疾患の公務(業務)起因性が問題となった事案において、労働者又は公務員の基礎疾患が業務上の精神的、身体的な過重負荷によりその自然的経過を超えて増悪して脳・心臓疾患が発症したと認められる場合、業務に内在する危険が現実化したものとして、業務と脳・心臓疾患との相当因果関係の存在を肯定する判断。
  1審:・・・負荷が、脳血管疾患の発症の基礎となる血管病変等を超えて「著しく」増悪させ得ることが客観的に認められる負荷といえることが必要。

本判決:
「著しく」増悪させ得るものであることを必要としていない。
本件発症前1か月間の時間外労働時間が月100時間に達していない事実を重視しなかった
Xの公務の質的過重性について全体的な負担を評価
  民事p42
最高裁R2.12.22  
  主幹事会社の責任が認められた事例
  事案 架空売上げの計上による虚偽記載のある有価証券届出書を提出して東証マザーズに上場された㈱エフオーアイの株式の取得者又はその承継人であるXらが、本件会社と元引受契約を締結していた金融商品取引業者のうち主幹事会社であったY(みずほ証券㈱)に対し、前記株式のうち募集又は売出しに応じて取得したものにつき金商法21条1項4号に基づく損害賠償を請求。
  事実 粉飾決算の手法:
平成16年3月期以降、架空売上げの計上による粉飾決算。
注文書等を偽造し、出荷を装って実際に装置を倉庫から搬出⇒当該装置の納入書類等を偽造して架空売上を計上⇒ペーパーカンパニーへの仕入代金を装った送金により簿外資金を作出して本件会社に還流させ、預金通帳の印字を改ざんして売掛金の回収を装う。
売上げを偽装した取引先に協力者を確保。
会計士は証ひょう類の写しの提示を受けても原本の提示を求めなかった⇒偽造されたものが含まれたことに気が付かなかttあ。
  原審 ①金商法21条2項3号につき、有価証券の募集に係る発行者等と元引受契約を締結した金融商品取引業者等は、有価証券届出書の金商法193条の2第1項に規定する財務計算に関する書類に係る部分に虚偽記載等があった場合、このことを知らなかったことさえ証明すれば、金商法21条1項4号の損害賠償責任につき、同条2項3号による免責を受けることができる
②Yは本件有価証券届出書の虚偽記載の事実を知らなかった
⇒Yの同号による免責を認めた。
本件会社は、平成16年以降、計算書類等ぬいおいて、売上高の急増、売上の計上時期の偏り、売掛金期末残高の著しい増加、売上債権回転期間の顕著な長期化、営業活動によるキャッシュ・フローのマイナスの連続計上等、売上高の粉飾の典型的な兆候といえる事象が継続してみられる状況にあった。
Y及び東京証券取引所は、本件会社の最初の上場申請後である平成20年2月、本件会社の粉飾決算を指摘する詳細かつ具体的な内容の匿名投書(「第1投書」)を受領。
本件会社の3度目の上場申請後である平成21年10月にも、ほぼ同内容の匿名投書を受領。

Yは、追加調査等の結果、本件各投書には信ぴょう性がなく、本件会社の上場手続を進めることに問題はないと判断。
  判断 金商法21条2項3号につき、
有価証券届出書の財務計算部分に虚偽記載等があった場合、
元引受業者が引受審査に際して財務計算に関する書類につき監査証明を行った公認会計士又は監査法人の監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接していたときには、
当該元引受業者は、当該疑義の内容等に応じて、当該監査が信頼性の基礎を欠くものではないことにつき調査確認を行ったものでなければ、金商法21条1項4号の損害賠償責任につき、同条2項3号による免責を受けることはできない。 
●  本件各投書がYの把握していた事実関係等とよく符合する詳細かつ具体的なもの
⇒Yはこれを受領したことにより本件会社の財務諸表等についての本件会計士による監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接したものというべき。
①Yが本件会社の主幹事会社として引受審査に当たってきた
②Yの第1投書の受領後の対応が不適切であり、本件各投書の信ぴょう性の評価を大きく誤ったと思われる、
③Yは、本件会計士から本件会社につき実施した監査手続について聴取しているものの、原本確認がされたか否かすら確認しておらず、前記監査手続が本件各投書の指摘する手法による粉飾決算の可能性を否定するに足りるものか否かを確認したとはいえない
④Yが引受審査において実施した調査も証ひょう類の写しの相互に矛盾がないことの確認等にとどまる⇒前記手法による粉飾決算の可能性を否定するに足りるものとはいえない。

本件会計士の監査がその信頼性を欠くものではないことにつき本件各投書による疑義の内容等に応じて調査確認を行ったとはいえない。

Yの金商法21条1項4号による損害賠償責任につき、同条2項3号による免責を否定し、
募集等に応じて取得された株式についての損害賠償責任を棄却した部分を破棄し、損害額について更に審理を尽くさせるため、前記部分を原審に差し戻した。
  規定  金商法 第二一条(虚偽記載のある届出書の提出会社の役員等の賠償責任)
有価証券届出書のうちに重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているときは、次に掲げる者は、当該有価証券を募集又は売出しに応じて取得した者に対し、記載が虚偽であり又は欠けていることにより生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、当該有価証券を取得した者がその取得の申込みの際記載が虚偽であり、又は欠けていることを知つていたときは、この限りでない。

四 当該募集に係る有価証券の発行者又は第二号に掲げる者のいずれかと元引受契約を締結した金融商品取引業者又は登録金融機関

2前項の場合において、次の各号に掲げる者は、当該各号に掲げる事項を証明したときは、同項に規定する賠償の責めに任じない。

三 前項第四号に掲げる者 記載が虚偽であり又は欠けていることを知らず、かつ、第百九十三条の二第一項に規定する財務計算に関する書類に係る部分以外の部分については、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかつたこと。
  解説   ●  ●金商法21条2項3号の解釈について 
改正当初は、財務計算部分に虚偽記載等がある場合の元引受業者の免責事由に関し、元引受業者は財務計算部分については審査義務を負わず、財務計算部分の虚偽記載等について単に主観的に善意であれば免責されると解する見解。
vs.
①前記見解によれば、引受審査に当たる元引受業者は、有価証券届出書における開示情報の信頼性の確保のため果たすべき役割の重大性にもかかわらず、財務計算部分については監査証明が付されていることさえ確認すれば足りることになり、審査姿勢の消極化を招きかねない。
②単なるセリング・グループすら目論見書使用者として財務計算部分につき「相当な注意」を用いるべき義務を負う(金商法17条ただし書)との整合性。
A:
B:金商法21条2項3号については文言どおりに解釈しつつ、金商法17条の目論見書使用者としての審査義務の援用により引受審査による元引受業者の審査義務が保管される。(多数説・原審)
vs.
目論見書使用者としての責任をもって引受審査における注意義務を根拠付けることの理由付けが困難。

C:

D:元引受業者と公認会計士等との相互の役割分担への信頼を前提とする規定であって、その前提条件が満たされない場合(すなわち、公認会計士等の監査結果に対する信頼性についての疑義が強い場合)には、元引受業者が、そのゲートキーパ^としての役割に照らし、開示情報の正確性についての調査義務を果たすべきであるとする見解
本判決:
財務計算部分に虚偽記載等がある場合についての金商法21条の規定は、財務計算部分につき、重い責任の下で監査証明を行うこととされている公認会計士等と引受審査委を行う元引受業者との合理的な役割分担
⇒元引受業者において公認会計士等による監査を信頼して引受審査を行うことを許容。

元引受業者が財務計算部分につき同条に基づき積極的審査義務を負うことについて否定。
but
原審とは異なり、
財務計算部分に虚偽記載等がある場合、
元引受業者は、引受審査に際して前記監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接していた⇒その疑義の内容等に応じて前記監査が信頼性の基礎を欠くものではないことにつき調査確認を行ったものでなければ金商法21条2項3号の免責を受けることはできない。

同条が元引受業者に有価証券届出書における開示情報の信頼性を担保させる趣旨でその損害賠償責任について定めたものであることを重視したもの。
上記D説と親和的な立場。
but
本判決は、
あくまで、公認会計士等の監査証明に対する信頼性の基礎に重大な疑義が生ずるという例外的な状況の下における元引受業者の調査確認義務を肯定したものにとどまる上、
前記調査確認義務の内容を「前記疑義の内容等に応じ」て、「前記監査が信頼性の基礎を欠くものではない」ことについての調査確認を行うという消極的義務に限定。
  ●本件についての当てはめ 
本判決:
本件各投書が本件会社の上場申請の最近事業年度及び直近事業年度の財務諸表の売上高欄の記載の大半が虚偽であることを相当の信ぴょう性をもって指摘するもの⇒本件各投書は「監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報」に当たる。

前記情報に当たりえるものとしては、
監査結果自体に疑義を生じされるもののほか、
監査証明を付した公認会計士等の監査体制、監査手法等に疑義を生じさせるもの
などが考えられ得る。
but
これらに関する情報が、「監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる」と言い得るか否かは、これらにより生ずる疑義の定性的、定量的な重大性の程度や信ぴょう性の程度等を、その内容や客観的状況との整合性の有無等から検討して判断することになると思われる。
本判決:
本件各投書に対するYの調査について、
①本件各投書自体への対応(本件各投書の信ぴょう性の確認・評価)の点
②本件会計士の実施した監査手続の確認・評価の点
③Yが自ら実施した調査の内容等の点
の3点から分析
⇒Yが本件各投書による疑義の内容等に応じた調査確認を行ったとはいえないとの結論。
  民事p51
大阪地裁R3.2.16  
   
  事案 公立高校の第2学年に在籍していた女子生徒Xが、頭髪指導⇒黒染めを強要⇒教室で授業を受けること等を禁止されて不登校となり、第3学年に進級後には生徒名簿から氏名を削除され教室から座席を撤去されるなどの不適切な措置⇒大阪府に対し国賠法1条1項に基づく損害賠償請求。
  争点 ①染髪等を禁止する校則及び生徒指導方針の違法性
②Xに対する一連の頭髪指導の違法性
③Xが不登校となった後のA高校の措置の違法性 
  判断   ●争点①
2つの高校の合併によってA高校が開校した際に問題行動をとる生徒が多かった⇒A高校が生徒指導に注力してきたという経緯等

本件校則は、生徒の関心を学習等に向けて非行を防止する目的の規定であり、染髪、脱色及び特異な髪型を規制するにとどまる
⇒学教法等に照らして正当な目的のための社会通念上の合理的な規制。

頭髪指導にかかる生徒指導方針について、
染め戻した頭髪が色落ちし、それが看過できない場合に再度頭髪指導を行うこととしている点を含め、本件校則の目的を達成するための合理的なもの⇒本件校則及び生徒指導方針は規則制定権の裁量の範囲を逸脱していない適法なもの。
  ●争点② 
教員らはXの頭髪の根元を確認し、Xの出身中学校での頭髪指導の状況を聴き取るなどXの頭髪の色を確認したうえで頭髪指導を行っている。
⇒指導の態様も原告の態度や姿勢に応じた柔軟なもの。
①Xは、夏休みに頭髪を明るく染髪し、その後教員から頭髪指導を受けたにもかかわらず、十分な染め戻しをすることなく登校し、繰り返し行われた頭髪指導を拒絶し続けた。
②Xの母親も指導に非協力的であった。

教員らがXに対して概ね4日ごとに頭髪指導を繰り返し、さらに強制力の強い別室指導を選択したことに合理性がないとはいえない。

教員らの頭髪指導に裁量の範囲の逸脱はない。
  ●争点③ 
①A高校は教室からXの座席を撤去し、生徒名簿に氏名を掲載しなかった
②Xが抗議した後も教育庁から指導を受けるまで約5か月にわたりXに指導を受けるまで約5か月にわたりXに理由を説明しないまま継続

前記措置はXの教育環境を整える目的でされたものではなく、Xの登校を困難にする措置であって合理性はない。

A高校には教育環境に配慮する義務における裁量の範囲を逸脱した違法がある。
  解説 高等学校における校則の適法性:
教育目的に基づくものか、
同目的達成のために社会通念上合理性があるか
といった観点から規則制定権に関する裁量の逸脱、濫用があるかという点で判断。 
教員による個別の生徒指導:
指導の目的や態様等の諸条件を勘案し、教員の生徒に対する教育的指導の範囲を逸脱しているかという視点で判断(最高裁H21.4.28)。
  労働p70
最高裁R2.10.15  
  労働条件の相違と労契法20条(最高裁)
  事案 Y(日本郵便㈱)との期間の定めのある労働契約(「有期労働契約」)を締結して勤務し、又は勤務していた時給制契約社員又は月給制契約社員であり、郵便の業務を担当していたXらが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者とXらとの間で、種々の労働条件に相違があったことは労契法20条違反⇒Yに対し、不法行為に基づき、損害賠償請求を求めるなどの請求をした事案。
  解説・判断  最高裁H30.6.1(ハマキョウレックス事件):
労契法20条にいう「不合理と認められるもの」とは、
有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることを意味する。 

最高裁H30.6.1(長澤運輸事件):
有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき。

賃金項目ごとにその趣旨を異にするのが通常であり、当該賃金項目の趣旨により、前記の判断に当たって考慮すべき事情等が異なることを理由に、前記のように解するのが相当
⇒賃金以外の労働条件の相違についても、同様に個々の労働条件の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当。
  私傷病による病気休暇(②事件判決)、扶養手当(③事件判決)について、
「継続的な雇用を確保するという目的」を有するとし、
継続的な勤務が見込まれる労働者に当該労働条件を適用することが、使用者の経営判断として尊重し得る。
本件契約社員は「相応に継続的な勤務が見込まれている」⇒当該労働条件の相違が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たる。

前記の労働条件が一般に労働者の生活保障や福利厚生の趣旨を有し、当該労働条件を適用することにより労働者の継続的な雇用を期待し得るものといえる
⇒使用者において、長期雇用を前提とする労働者のみに適用するという制度設計をすることが一概に不合理とはいえない。
but
有期契約労働者であるからといって直ちに継続的な勤務をすることが期待されていないというものではなく、相応に継続的な勤務が見込まれ、継続的な勤務が期待される有期契約労働者に対して当該労働条件を適用しないとすれば、この点に関する無期契約労働者との間の相違は不合理と評価することができる。
②事件、③事件:
Yにおける本件契約社員について継続的な勤務が期待される

契約期間が6か月いない(又は1年以内)とされており、Xらのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。
but
一般的には、「相応に継続的な勤務が見込まれているといえる」かどうかは、事案ごとの個別事情に即して検討。
当該雇用管理の区分における有期契約労働者の契約期間
有期労働契約の更新に係る就業規則の定め等の内容
当該使用者における人員計画の内容
有期労働契約の更新を希望するものにつき実際に契約が更新される割合
通算して勤務する期間の平均値や中央値
等の様々な事情に照らして判断。
夏期冬季休暇(①事件)、年始期間(②事件)における祝日休について、
それぞれの趣旨について述べた上で、
本件契約社員は「繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれている」⇒当該労働条件の相違が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たる。

前記の各労働条件が、ごく短期間の勤務が見込まれる労働者に対して適用することが予定されるものとはいい難い一方で、
それ以外の労働者であればその趣旨は妥当するものと考えられる
⇒業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれている有期契約労働者に対して当該労働条件を適用しないとすれば、無期契約労働者との間の相違は不合理と評価することができるとの理解を示したもの。

本件契約社員が、その契約期間hが6か月以内又は1年以内とされている⇒業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれているとされたもの。
年末年始勤務手当(②事件、③事件):
勤務の継続性に言及することなく、当該労働条件の相違が労契法20条にいう不合理と認められるものにあたる。

その支給要件や支給金額からんみて、労働の対価の趣旨が強いものといえ、継続的な勤務が見込まれるかどうかによってその支給の有無を分けることが相当でないとの理解。
  短時間・有期雇用労働法8条 
  経済p82
東京地裁R3.3.30  
  風営法の規制実現のための独禁法違反(共同の取引拒絶)が争われた事例
  事案 パチンコホールの経営者であるXらは、パチンコ遊技機及びパチスロ遊技機の販売業者の事業団体であるYらが、組合員であるZ(販売業者)に対し、風営法施行規則の遊技機の出玉基準の改正により営業所に設置できないことになった遊技機を改正規則の付則で認められた経過措置期間経過前に撤去するというYらを含む業界関係団体の計画に従わないXらに対してパチンコホール営業者が中古遊戯機の設置に係る許認可の際に必要となる保証書作成等の業務の依頼を拒否するよう要請した行為が、独禁法8条5号が定める不公正な取引方法(独禁法2条9項1号イ所定の共同の取引拒絶)の勧奨行為に当たる⇒独禁法24条に基づき、当該行為の差し止めを求めた。
  判断 (1)経過措置期間中の旧規則機の撤去に関してされた行為であっても、経過措置期間中は、旧規則機の設置は風営法上違法と評価されるものではない⇒独禁法の適用は否定されない。
(2)ZがXに対して保証書作成及び打刻申請の対応をあらかじめ拒絶するという本件措置は、独禁法2条9項1号の「供給を拒絶」する行為に該当
(3)本件措置は、Zと他の遊技機販売業者との間で意思の連絡があるといえる⇒独禁法2条9項1号にいう「競争者と共同して」行っているものに当たる
(4)共同の取引拒絶においても、
①当該取引拒絶行為の目的の正当性及び
②当該取引拒絶行為の手段としての相当性
を総合的に考慮して「正当な理由」があるときは、「不公正な取引方法」に該当しない。 
①について:

法令上の設置期限より早く撤去させる本件撤去計画の推進は、合理的であり、本件措置が達成しようとする事項の公益性、重要性に照らせば、本件措置の目的には正当性がある。

②について:
本件措置は目的を達成するために必要かつ合理的な範囲にとどまるものであれば、手段としての相当性が認められると解されるところ、

・・・・
手段としての相当性も認められる。


不公正な取引法方法に当たらない。
(5)著しい損害(独禁法24条)及び
(6)保全の必要性も否定。
  解説 風営法が客の射幸心を著しくそそるとして営業所に設置が許されなくなった旧規則機につき、Yらを含む業界関係団体が、経過措置期間経過前にこれを計画的に撤去するという計画(本件撤去計画)を立て、かつ、それに従わないパチンコホール営業所に設置するために風営法に基づく営業許可又は変更承認の申請をするのに必要となる保証書の作成等をしないように、傘下の組合員であるZに勧奨したことが独禁法上問題とされた。
●独禁法の適用の有無 
独禁法と風営法(=自由な競争を否定)は、同じレベルにある法律で、両法が実質的に矛盾する結果をもたらすことのないように、両法を全体として合理的・整合的に解釈する必要。
本決定:
経過措置期間中は、旧規則機の設置は風営法上違法と評価されるものではない⇒独禁法の適用は否定されない。
●本件措置が風営法の法益実現を図るものであるという点を独禁法の適用の場面でどう位置付けるか? 
独禁法2条9項1号イ所定の取引拒絶行為に該当する場合でも、正当な理由があるときは、「不公正な取引方法」に該当しないとして、
目的の正当性、手段の相当性(=目的を達成するために必要かつ合理的な範囲にとどまる)を審査。
経過措置期間経過後は設置が許されなくなる⇒経過措置期間経過後大量に廃棄を迫られるという風営法上の問題を考慮し、目的の正当性、手段の相当性を肯定。
エアソフトガンについて安全性を目的に自主基準を設定し、自主基準を遵守しないアウトサイダーを共同の取引拒絶により排除したことが問題とされた事案で、自主基準の目的の正当性、内容の合理性は認めたが、実施方法の相当性を否定した裁判例。

道路運送法上刑罰をもって禁止されている低い料金になっていた状況において、事業者団体が適法な認可料金に近づけるために行われた運賃引き上げカルテルについて違法阻却が認められた公取委員会の審決例。
  刑事p96
東京高裁R2.11.20  
  保護観察処分が正当とされた事例
  事案 少年、路上において、被害者に対し、メリケンサックを装着した右手拳でその左側頭部を殴打し、被害者に全治10日間を要する左側頭部挫創の傷害を負わせた。
  原決定 少年の非行の態様及び性格等⇒相当期間保護観察に付することが少年の健全な育成を期するために必要。 
  判断 ①・・・報復感情を暴力によって満足させようとした少年の行動は社会的に許容し難く、
②・・・少年の性向にも、思い込みが強く、対人関係を上下関係で考えるなどの問題性が認められ、
③・・・本件非行の態様は危険で、けがの程度も軽微とはいえず、
④・・・少年は、審判期日において、事実を認めながら被害者に悪いとは一切思っていないとも述べており
このような本件非行の原因や少年の抱える問題性

客観的な視点が持てるように専門家から指導を受ける必要がある
⇒少年を保護観察に付することが必要かつ相当である
という原決定の判断は正当。 
  解説 家裁が荘園を保護処分(少年法24条1項)に付するための要件:
①審判条件が具備されていること
②非行事実
③要保護性
が必要。
本件は、③の問題
要保護性:
①犯罪的危険性
②矯正可能性
③保護相当性
の3つの要素からなる。
本決定:
動機、経緯等を含めた非行事実の内容及び少年の性格等の事実関係を把握した上で、非行の態様等の非行の内容に加え、
非行の原因となった少年の性向や問題性等を考慮して、
原決定が処遇選択における合理的裁量を逸脱していないかを審査し、非行の態様及び少年の性格等を考慮して少年を保護観察に付した原決定を是認。
 
   刑事p98
京都地裁R2.6.25
  署名偽造といえないとされた事案 
  事案 自宅で宅配荷物を受領する際、配達票の受取印欄に仮名で署名した行為⇒作成者と名義人の人格の同一性に齟齬をきたすものとはいえない⇒署名偽造に当たらない。
  判断 署名の作成者が、自己を示す呼称として本名とは異なる呼称を用いて署名をした場合の私印(署名)偽造罪の成否については、本名を用いて署名しないことによって、社会通念上、作成者と名義人の人格の同一性に齟齬が来すか否かによって判断すべき。
①本件において、被告人Aからの「B」名義の物品の注文及び配達の依頼に基づき、H1店は、被告人方に居住する「B」宛てに当該物品を配送するよう宅配便業者に依頼⇒少なくとも宅配便の依頼者と受取人との間では「B」名の人格の同一性に齟齬はない。
②配達員は、基本的には注文者の指定する住所をもとに、そこに居住する人物に当該荷物を届けて受取人の押印ないし署名を求め、署名作成者に身分証明を求めておらおらず、単に注文者の指定する人物であることが確認されればよい⇒その立場は依頼者であるH1店と同様に解してよいと認められる。

宅配便業者の配達員、依頼者と受取人の間では、「B」名の人格の同一性に齟齬はない。

本件において、被告人Aが「B」と配達票の受取印欄に署名し、本名を用いなかったことにより、社会通念上、作成者と名義人の人格の同一性に齟齬を来すものとはいえず、被告人が、刑法167条1項にいう「他人の署名を偽造した」とはいえない。
署名が偽造でない⇒偽造した署名を「使用」したともいえない。
  解説 印章や署名は文書の作成に際して使用され、印章や署名の偽造も文書偽造の手段としてなされることが多く、その偽造は文書偽造に吸収される。
形態的には印章のようでも、極度に省略された文書として扱われることも多い。

署名の「偽造」についても、文書の「偽造」についての議論が妥当。 
「偽造」の異議は、
A:作成名義の冒用
〇B:人格の同一性を偽る

通称や偽名を使用した場合、同姓同名の他人になりすました場合、肩書や資格を冒用した場合などの事例が問題。
本判決:
宅配荷物の配達票の受取印欄に記載される署名につき、本名に限定しないと関係者不利益が生ずることは考え難く、人格の同一性に齟齬が生ずるとはいえないと判断。

尚、警察官の取調べを受けた際に作成される供述調書の被疑者署名部分に、本名以外の名称を記載した場合に、偽造の成立を認める裁判例。
2493   
  行政p3
岐阜地裁R2.9.4  
   免許取消処分と欠格期間指定処分で後者が違法とされた事案
  事案 普通免許は有するが、準中型自動車免許を有していないにもかかわらず、勤務先会社(本件被告)の代表者が所有する準中型貨物自動車(本件車両)を運転したという無免許運転行為(本件違反行為)を理由に、公安委員会から運転免許の取消処分(本件取消処分)及び2年間を運転免許を受けることができない欠格期間として指定する処分(本件指定処分)を受けた原告が、
本件各処分は重きに失し、裁量権の範囲を逸脱・濫用した違法がある
⇒その取消しを求めた。 
  判断  ●本件取り消し処分 
裁量権の逸脱・濫用の違法があるとはいえない。
道交法103条1項は、運転免許を受けた者が、同項各号のいずれかに該当することになったときには、公安委員会は、その者の運転免許を取り消すことができる旨規定。

取消は公安委員会の合理的裁量に委ねられており、個別具体的な事情に照らして、道交法施行令の基準に従った処分をすることが処分を受ける者の運転者としての危険性の度合いに比して著しく重きに失し、社会観念上著しく妥当を欠くと認められる場合には、運転免許取消処分は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法と評価されることがあり得る。
but
・・・
前記の個別具体的な事情は、まず欠格期間を定める際に考慮されるべき事情であり、欠格期間の短縮のみでは、処分を受ける者の運転者としての危険性に比してなお重きに失するといえる場合に初めて、運転免許取消処分は、社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱・濫用したものとして違法になる。
・・・・
  ●本件指定処分 
欠格期間の指定に関する処分量定基準を踏まえた処分の軽減をすることなく、1年間を超えて欠格期間を指定する部分は、裁量権を逸脱・濫用したものとして違法。
欠格期間の指定に関する処分量定基準である「運転免許の効力の停止等の処分量定基準の改正について」には、「運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情」が認められる場合において、道交法施行令38条6項の規定による欠格期間に応じて当該期間から1年を減じた期間に軽減することができると規定。

この特段の事情があると認められるにもかかわらず欠格期間の短縮をしなかった場合には、当該処分は、裁量権を逸脱・濫用したもので違法。
・・・・原告が普通免許で本件車両を運転できるという認識でいたことにはやむを得ない面もあったといえる。
・・・・原告が招来した道路交通上の危険の程度は、無免許運転一般の中では比較的軽微なものであった。

原告には「運転者としての危険がより低いと評価すべき特段の事情」が認められるというべきであり、本件指定処分のうち、本件処分基準を踏まえた処分の軽減をすることなく、1年間を超えて欠格期間を指定する部分は、裁量権を逸脱・濫用したものとして違法。
  解説 道交法103条1項5号:
免許を受けた者が自動車等の運転に関しこの法律に違反したときは、公安委員会は、政令で定める基準に従い、その者の免許を取り消すことができる。
同条7項は、免許を取り消したときは、政令で定める基準に従い、1年以上5年を超えない範囲内で当該処分を受けた者が免許を受けることができない期間(欠格期間)を指定する。
①免許取消処分と②欠格期間指定処分は2個の処分⇒①は適法だが②は違法という判断があり得る。
but
①が取り消されれば、当然に②も取り消される関係にある(なお、行訴法33条)。
免許取り消しに係る「政令で定める基準」である道交法施行令38条5項1号イは、
一般違反行為(無免許運転はこれに含まれる)に係る累積点数が一定点数に該当⇒免許を取り消すものとすると規定。
but
政令で定める基準に該当する場合でも、免許を取り消すか否かについては、行政庁には裁量(いわゆる効果裁量)があると解されている。
道交法施行令38条6項2号は、一般違反行為をしたことを理由として運転免許を取り消したときの欠格期間の基準(処分基準)を定めるとし・・・。
警察庁交通局長は、本件処分基準を発している。

裁量基準⇒裁量基準に合理的理由なく従わないと、裁量権の逸脱・濫用を構成する。
  民事p10
東京地裁R2.6.19  
  仲裁合意の準拠法とその解釈
  事案 X:外国製自動車の売買、輸入販売等を目的とする株式会社
A社:イングランド法に基づき設立された法人
Y1:A社の完全子会社
Y2:A社の職務執行者
Y3:A社のアジア・パシフィック地域においてA社を代表する者 
XとA社は、平成15年、A社が製造する自動車の販売に関するディーラー契約を締結し、その後も契約が更新され、平成25年、XとA社は、東京における販売・サービスについてのディーラー契約(本件ディーラー契約)を締結。
その中に仲裁合意(「本件仲裁合意」):
仲裁の対象となる紛争について、本件ディーラー契約及び同契約から生じ又は関連する、いかなる紛争、見解の不一致又は請求(同契約の存在、有効性、不履行及び終了、又は同契約の向こうから生ずる結果に関する紛争を含む。)は当事者間の交渉により解決されるものとし、
交渉により解決できないときは当事者一方が相手方に書面により通知した場合に、当該紛争は英国ロンドンに所在のロンドン国際仲裁裁判所(LCIA)の仲裁に付託され、当該仲裁が開始された日の時点で有効なLCIA規則に従い当該仲裁によって最終的に解決されるものとされる。
Xは、
主位的請求として、
A社とYらは、共同して、Xが事業投資をすればA社と新たなディーラー契約を締結できるかのような言動をとってXに事業投資をさせたにもかかわらず、結局新たなディーラー契約を締結せず、Xに損害を与えたとし、共同不法行為等に基づく損害賠償を求め、
予備的に、
YらはA社がXとの間で新たなディーラー契約を締結する意思を有しないことを知りながらA社にその意思があるなどのように装ってXに費用を支出させたとして共同不法行為に基づく損害賠償を求めた。
  規定 法適用通則法 第七条(当事者による準拠法の選択)
法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。
  判断 本件仲裁合意の準拠法:
法適用通則法7条により、第1次的には当事者の意思に従って定められるべき。
本件仲裁合意には準拠法についての明示の合意はない
but
本件ディーラー契約において、同契約並びに同契約から生じ又は同契約に関連するいかなる紛争及び請求(契約に基づかない紛争及び請求を含む。)はイングランド及びウェールズ法(「英国法」)に準拠する旨が規定⇒本件仲裁合意の準拠法を英国法とする黙示の合意があった。
本件仲裁合意の準拠法は英国法
⇒本件仲裁合意の効力の及ぶ範囲についても英国法に従って判断すべき。

英国貴族院の判例:
仲裁合意の解釈は、特定の問題を仲裁人の管轄事項から除外することを目的とする明確な文言が存在しない限り、当該仲裁合意の当事者が合理的なビジネスマンとして、当該当事者間に生じ又は生じようとしている関係から生じる一切の紛争を同一の裁判所に解決することを意図したとの推定を前提として行うべきとの解釈が示されている。
・・・・本件仲裁合意の当事者であるXとA社は、当該紛争も同一の裁判所(ロンドン国際仲裁裁判所)により解決することを意図していたと推定される。
本件仲裁合意の効力の主観的範囲につき、
英国高等法院及び英国控訴院の判例から、
親会社による完全子会社に対する完全な支配関係が認められる場合において、相手方の親会社に対する請求とその完全子会社に対する請求がとがそれぞれ、重複手続、判断相違の可能性の回避による統一的判断が必要なほどに相互に密接に関連するときは、その完全子会社は、相手方の請求について、相手方の親会社に対する請求を対象とする相手方と親会社との仲裁合意を主張することができるという法理を導くことができる。
・・・・

Yらは、Xに対し、XとA社との間の本件仲裁合意の効力が、XとYらとの間の本件各請求に係る紛争に及ぶことを主張できる。

本件訴えを、仲裁法14条1項に基づき却下すべき。
  解説 仲裁合意が主たる契約(本件ではディーラー契約)に付随する形をとっていたとしても、法律的には、仲裁合意の効力は主たる契約から分離して別個独立に判断されるべきと解されている(最高裁)。

本判決もそれを前提に、本件ディーラー契約と本件仲裁合意を別個のものとした上で、本件仲裁合意には準拠法の定めが明示されていないが、本件ディーラー契約において同契約から生じ又は同契約に関連するいかなる紛争及び請求は英国法に準拠する旨が規定。
⇒第1次的には当事者の意思に従って準拠法が定められるべきであるという最高裁判例に従い、XとA社との間で本件仲裁合意の準拠法を英国法とする旨の黙示の合意がされたと判断。
仲裁合意の客観的範囲:
仲裁合意の効力の主観的範囲:
主に諸外国の裁判例において、
代理の法理、第三受益者の法理、禁反言の法理、グループ会社の法理等、その効力を拡張して解釈するもの等。

本件:
本件仲裁合意の当事者であるXとA社との間の本件ディーラー契約の終了に伴う新たなディーラー契約締結に向けた交渉過程で生じた紛争においてA社の責任の有無の判断と、Yらの責任の有無の判断とは争点がほぼ同一であり、相互に密接に関連する⇒効力の拡張を求めた。
  民事p17
大阪地裁R2.12.10  
  納骨壇使用契約の法的性質
  事案 原告が、集合納骨施設を運営する宗教法人の被告に対し、
納骨壇使用契約(「本契約」)に基づき支払った永代使用料及び永代供養料について、不当利得を理由に返還を求めた事案。 
  判断 本契約で納骨壇の使用に係る管理規約が規定。
その内容
⇒本契約の法的性質を、場所や容量に応じて料金設定された納骨壇から予め選定された納骨壇の使用の独占を確保し、遺骨預り願いを受けた遺骨又は遺品を当該納骨壇で半永久的に保管することを約し、その対価としての永代使用料の支払を約することを内容とする有償の諾成的寄託契約の性質と、遺骨又は遺品を保管する限り当該故人のために供養を行うという役務提供を約し、その対価としての永代供養料の支払を約することを内容とする準委任契約の性質が混合した契約。

納骨壇の使用者は、民法(平成29年改正前のもの)662条、651条により本契約の解約の申し入れをすることができる⇒原告の解約の申し入れにより終了。
本契約の本質は、
a:遺骨又は遺品の保管を得て、当該故人のための供養を半永久的に受けることにあるが、
b:そのような地位を取得することにも対価的性質がある

永代使用料及び永代供養料として支払われた金員のうち
7割がaの対価
3割がbの対価
に相当。

aについては、遺骨又は遺品の保管並びに当該故人のための供養は開始しておらず、債務の既履行部分はない⇒契約による返還請求権の発生を認め、
bについては、地位付与の債務は履行済みで、返還請求権は生じない。

請求の一部を認容。
納付した永代使用料及び永代供養料については一切返還しない旨の規定
~消費者契約法9条1号所定の平均的な損害は損しない⇒同規定は全て無効。
  解説 墓地や納骨壇の使用及び供養を受けることの対価の支払を約する契約に関する裁判例:
①墓地使用料前納金返還請求において、墓地使用契約を、賃借権又は使用借権のように一定期間の使用権を設定するものではなく、永続的ないし永代的使用権を設定するものであるとした上で、前納金は使用期間に対応した使用の対価とはいえず、墓地使用権の設定に対する対価⇒返還請求を棄却(京都地裁)。

墓地の使用に関する規則が定められており、契約及び規則の内容から、契約の性質を、墓地に対する永続的ないし永代的な使用権の設定ととらえ、前納金をその対価と解したもの。
契約の意義を墓地使用権の設定においた。

②永代供養料等返還請求において、納骨壇使用契約を、納骨壇という場所の利用に係る建物賃貸借契約の性質を中心としつつ、集合形式法要行事(定例法要会)を行うことが義務付けられるとの準委任契約の性質を合わせ有する混合契約であるとした上で、申込金を納骨壇の半永久的な使用の対価であるとした事例(東京地裁)。 

永代供養契約と納骨壇使用契約とが別個に締結された事案であり、後者につき、納骨壇の使用関係についての細則、利用規約等がみられない⇒民法上の典型契約の混合契約として性質決定。
  民事p23
名古屋地裁R2.12.17  
  国立大学での指導教員からのパワハラの事案 
  事案 Xは、A大学医学系研究科(大学院)の博士課程に在学。
Xは、Xの指導教員を務めていたY2が、
①研究プランや博士論文の作成方針について具体的で明確な指示説明をしなかったこと、
②研究に関する質問に適切に回答しなかったこと、
③Xが満期退学した後もXに日中のカンファレンスへの参加を催促したこと、
④Xが実験に寄与した本件論文の共著者からXを除外したこと
がハラスメント行為に当たる

A大学のハラスメント防止対策委員会(ハラスメント委員会)に救済申し立て。

①~③については明確にハラスメントとは認定できないが、
④はハラスメントがあったと認定。
⇒Y2に対する総長名での厳重注意処分。

Xは、指導教員であるY2からいわゆるアカデミックハラスメントに該当する不適切な指導等をされたことにより精神的苦痛を被ったと主張し、A大学を設置運営する国立大学法人であるY1及びY2に対し、国賠法又は民法の規定に基づく損害賠償を求めて提訴。
  判断 いわゆるアカデミックハラスメントとは、研究及び教育機関における教員等の優位な立場にある者から学生等の劣位な立場にある者に対してされるハラスメント行為の1つ。
教員等の学生等に対する言動が不法行為法上の違法行為に該当するかは、
両当事者の立場及びその優劣の程度のほか、
当該行為の目的や動機経緯、
立場ないし職務権限等の濫用の有無、方法及び程度、
当該行為の内容及び態様並びに
相手方の侵害された権利利益の種類や性質、侵害の内容及び程度等の諸事情を考慮して、
当該行為が教員等の学生等に対する研究教育上の指導として合理的な範囲を超えて社会的相当性を欠く行為といえるかどうかにより判断するのが相当。 
Xが指摘するY2の違法行為、(1)~(6)のうち
(3)Xが実験を行い、その作成に貢献した本件論文の発表に当たり、草稿段階ではXを共著者に加えていたのに、最終稿では共著者からXを除外したこと
のにを違法行為として認定⇒国賠法1条1項に基づき、Y1に対して、損害賠償金として11万円の支払を命じた。
  解説 多くの理系の研究者が激しい競争状況の下に置かれており、そのプレッシャーから𠮟責が行われやすい、
理系の学生や研究者は、複数の人が関わって実験や観測を重ね、それをチームの研究成果として発表していくというスタイル⇒「その研究に貢献したのは誰か」「内容に責任を持つのは誰か」などの共著論文のオーサーシップの問題がハラスメントの原因になりやすい、との指摘。 
公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うにつき故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、国又は公共団体が被害者に対して賠償責任を負い、公務員個人は賠償責任を負わない(最高裁)。
本件でも、Y2の個人責任を否定。
  民事p39
広島地裁R2.12.22  
  胸腔鏡下拡大胸腺摘出術の過失が認められた事案
  事案 Yが運営する本件病院において、胸腔鏡下拡大胸腺摘出術を受け、その後死亡したZの相続人であるXらが、亡Zの死亡は、手術中の本件病院の医師P2の過失により起因
⇒Yに対し、使用者責任に基づく損害賠償請求を行った。
本件反訴:亡Zの未払診療費等をYがXらに対して請求。 
     
  労働p49
大阪高裁R2.10.1  
  長時間労働等と劇症型心筋炎との間の因果関係(否定)
  事案 亡P2の配偶者であった被控訴人が、亡P2が発症した劇症型心筋炎は、長時間労働が原因であって業務上の事由がある⇒遺族補償年金等の支給を申請⇒不支給⇒各不支給処分の取消を求めた。
  原審 業務起因性を肯定 
  判断 長時間労働と劇症型心筋炎との因果関係を否定。
控訴審で追加された治療機械喪失により劇症型心筋炎を発症した旨の主張も認められない。
⇒本件各処分を取り消した原判決を取り消し、被控訴人の請求をいずれも棄却。 
  解説等  ●相当因果関係(最高裁昭和51.11.12) 
原審:
①亡P2が長時間労働及び睡眠不足⇒免疫力の低下、異常が生じていた(←経験則から認定)
②免疫力の低下、異常により、劇症型心筋症を発症する(←医学文献・医師の意見)
本判決:
①について:長時間労働が免疫力の低下を推認させる事実であることは肯定し、その上で、外に免疫力が低下していなかったことを推認させる事実もある⇒免疫力が低下していたものとは認められない。
②について:免疫力低下と劇症型心筋症の因果関係を肯定できる医学的知見が認められない。
本判決:
ルンバール事件判決にいう「経験則」の理解について、
本件において判断されている事実的因果関係は、
「機序の解明までは求められないところの不法行為法上の法的評価としての因果関係と同様であり、その判定は通常人を基準とする」が、
「法的判断として医学的知見と相容れない因果関係を認める判断が許されるわけではないから、ここで参照すべき経験則とは、医学的知見に照らしても首肯し得る経験則であることが必要」である。

劇症的心筋炎についての医学的知見を網羅的に認定し、被控訴人主張に係る経験則が劇症型心筋炎の発症に適用されないことを明らかにして、結論を異にした。
  ●治療機会喪失の争点(最高裁H8.1.3等)
本判決:
一般論として治療機会喪失が業務に内在する危険であるとして業務起因性を肯定する判断枠組み自体は肯定。
but
治療機会の喪失と疾病が自然経過を超えて著しく増悪したこととの間の因果関係の存否の判断も、ルンバール事件判決に従って判断されるべきもの⇒経験則に照らして統計資料その他の医学的知見に関するものを含む全証拠を総合的に検討し、治療機会の喪失、すなわち治療を受けられなかった結果、疾病が増悪したこと、換言すると、治療機会があれば治療を受けることによって疾病の増悪が回避できたことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば、治療機会の喪失と疾病の増悪との間の因果関係は肯定される。
最高裁H11.2.25:
検査懈怠によりがんの発見治療が遅れて死亡したと主張する遺族が起こした事案につき、医師の検査懈怠という不作為と患者の死亡との因果関係の存否が問題となったものであるが、
治療機会喪失という消極的事実と劇症型心筋炎発症との因果関係の判断構造も同様に考えることができる。
本判決:
①治療機会を喪失した事実は認められない⇒治療機会喪失の法理を適用する前提に欠ける
②亡P2についてより早い段階で治療が開始されたとしても劇症型心筋炎の発症を防ぎ得たと認めることはでkない⇒治療機械喪失によって結果が生じたといえない

因果関係を否定。
  労働p64
大阪地裁R3.2.25  
  有期派遣労働者と労契法20条(改正前)
  事案 人材派遣事業等を業とする株式会社である被告との間で、派遣等による就労の都度、有期労働契約を締結し、派遣先事業所等において業務に従事⇒被告の無機労働契約社員と原告との間で、通勤手当の支給の有無についての労働条件の相違があることは労契法20条(平成30年改正前)違反⇒被告に対して、不法行為に基づき、通勤手当相当額の損害賠償を求めた。
  争点 ①本件相違に関して労契法20条が適用されるか
②本件通勤手当の性質及び趣旨・目的
③本件相違が期間の定めるのがあることによるものか
④本件相違が不合理と認められるものか
⑤本件相違に係る不法行為の成否
⑥損害の有無及びその額 
  解説・判断  ●有期派遣労働契約における労契法20条の適用 
派遣労働者の労働条件ないし待遇に関する格差の是正ないし規制は、派遣先の労働者との均衡等を考慮した待遇について規律する労働者派遣法による不合理な待遇ないし格差の是正が中心となると解されることに言及しつつ、
有期派遣労働者についても労契法20条の適用が除外されるものではない。
  ●「期間の定めがあることによ」る相違か 
被告:
被告における通勤手当の支給の有無は、
①有期・無期を問わず配転命令の対象となるか否かによる相違であって、
②原告が自ら選択して従事したJOB等に係る相違でもあり、
③基本給が平均的通勤交通費相当額を勘案して設定されていたか否かによる相違でもあり、
いずれも期間の定めの有無とは関係ない。
判断:
「この通勤手当は、通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給されるもの」とされたハマキョウレックス事件最高裁判決とは、通勤手当の趣旨・目的についての認定が異なるが、
それを踏まえても、依然、期間の定めによる相違の要素があることも否定できない⇒期間の定めがあることと労働条件の相違との因果関係を緩やかに認め、その関連性の程度は、労働条件の相違が不合理と認められるものに当たるか否かの判断に当たって考慮すれば足りるとする、ハマキョウレックス判決に沿ったもの。
  ●「不合理と認められるもの」に当たるか 
派遣スタッフ等である原告とR職員につき、
①職務の内容並びに当該職務の内容及び八の変更の範囲は大きく異なる
その他の事情として、
②派遣先における均衡待遇等に係る労働者派遣法の規律や労働者による就労条件(時給額と通勤交通費支給の有無等)の選択可能性等の派遣就労の特殊性、
③原告い地震は派遣就労ごとに就労条件を吟味し決定していたこと
④原告に支給されていた時給額が通勤交通費を自己負担するのに不足はなかったこと


本件相違は労契法20条の「不合理と認められるもの」と評価することはできず、
民法709条の損害賠償請求を基礎づける程の違法性があったことを基礎づけるような事情もない。
  労働p103
東京地裁R2.9.28  
  試用期間延長の効力等
  事案 XがYとの間で試用期間(3か月)のある労働契約を締結していて、複数回延長された試用期間中に本採用を拒否(解雇)された
⇒その延長がいずれも無効であるとともに解雇が客観的合理的理由を欠き社会通念上も相当でなく無効であり、退職勧奨が不法行為に当たる

労働契約上の権利を有する地位確認
本採用拒否後判決確定日までの賃金月額19万4300円
慰謝料等
遅延損害金
を求めた。 
  判断  ●試用期間延長の効力
就業規則の規定等⇒X・Y間の雇用契約が解約権留保付き。
就業規則のほか労働者の同意も根拠に当たり、就業規則の最低基準効に反しない限り使用者が労働者の同意を得た上で試用期間を延長することは許され、
就業規則に試用期間延長の可能性及び期間が定められていない場合であっても、職務能力や適格性について調査を尽くして解約権行使を検討すべき程度の問題があるとの判断に至ったものの労働者労働者の利益のため更に調査を尽くして職務能力や適格性を見出すことができるかを見極める必要がある場合等のやむを得ない事情があると認められる場合に、そのような調査を尽くす目的から、労働者の同意を得た上で必要最小限度の期間を設定して試用期間を延長することを就業規則が禁止しているとは解されない。
but
本件では、そうい事情が認められない
⇒1回目の延長が就業規則の最低基準効に反するから無効で、これを前提とする2回目及び3回目の延長も無効。

試用期間(3か月)の満了日の経過により解約権留保のない労働契約に移行。
解雇事由の存否及びその有効性を検討して解雇無効。
  ●退職勧奨の不法行為該当性 
Xから退職勧奨に応じない旨明確に回答された後に再検討を促すことを繰り返したこと自体は直ちに社会通念上相当と認められる範囲を逸脱したものとはいえない。
but
Yの従業員らが、試用期間の1回目の延長以降、Xが精神的苦痛に耐えられないで退職を申し出ることを期待して会議室で主に自習させることを継続させ、侮辱的表現を用いた言動は、その手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱して不法行為に当たり、Yは使用者責任を負い、Xの抑うつ状態発症との因果関係までは認められない。
慰謝料50万円、弁護士費用5万円が相当。
  解説  労働契約における試用期間の合意の法的性質:
就業規則の文言等から検討される。
一般的には、使用者が労働者に対する解約権を留保するとの特約と解され、
留保解約権に基づく解雇は、通常の解雇よりも広い範囲における解雇の自由が認められる(最高裁)。

試用期間の延長が労働者の不安定な地位を継続させる点で労働者にとって不利益⇒使用者が一方的に延長することは許されず、就業規則等で延長の可能性およびその事由、期間等が明定されていない限り、労働者の利益のために原則として認めるべきでない。
but
本採用を拒否できる場合にそれを猶予する延長は認められ得るという考え方が有力。

試用期間満了時に一応職務不適格と判断された者について直ちに解雇の措置をとるのではなく更に職務適格性を見出すために試用期間を引き続き一定の期間延長することも許されるとした裁判例もある。
but
就業規則に延長の根拠規定がない場合に労働者の同意ないしこれを含む労働契約を根拠として延長することが許されるか?
許され得るとして就業規則の最低基準効(労契法12条)との関係をどう考えるのか?
本判決:
労働者の同意を根拠として試用期間を延長し得ることを認めつつ、
就業規則の最低基準効との関係について労働者の利益と不利益の両側面を踏まえた考え方を示した。
  刑事p120
横浜地裁R2.3.19
  心神喪失で無罪の事案 
  事案  妄想型統合失調症にり患していた被告人が、
①実母に包丁を振り下ろして傷害を負わせ、
②実父の腹部を包丁で突き刺して障害を負わせて死亡させた
という傷害、傷害致死の事案。 
  解説・判断  ●責任能力の判断手法について
統合失調症の事案で、
犯行と関係のある明確な幻覚・妄想が現れていた類型として、迫害などを受けているとの幻覚・妄想から、迫害者と考えるものを排除又は報復するという犯行への直接の動機が認められる場合に、心神喪失と判断した裁判例もいくつかある。
また、統合失調症の影響により責任能力が争われている事案では、裁判所において、犯行の動機が妄想に直接支配されていたか否かという点が最も重視されているという指摘。
責任能力の判断におぴて、7つの着眼点という手法が整理。
but
各項目の重要度は同等ではなく、その比重は事例ごとに異なり、当該事案の具体的な事情を踏まえた判断を行う必要。
精神鑑定医が鑑定を行うにあたり、動機の了解可能性・不能性については、他に比べて総合評価における比重が大きくなることが多いという指摘。
~精神障害が犯行に与えた影響の程度を検討するという目的からは、自然。
  ●本件事案における精神障害と動機の関係性 
本件各犯行の動機を認定した上で妄想との関係性を検討。
被告人を攻撃している者たちの仲間になっていた実父が、警察が来るので見られたら困るような盗撮用のカメラが仕掛けられた火災報知機を洗面台に隠しているのではないかと考え、実父に何をしているのか言わせたいと思い、実父に対する行為に及んだ。

盗聴器を隠していると被告人が考えたことが統合失調症による妄想の影響であり、実父に対する行為は正に妄想が直接の原因であると評価。
実母に対する行為についても、雨戸の開閉について指摘されたことが発端となっている。
but
実母が被告人を攻撃している者たちと一緒になって被告人を裏切ったと考え、その点を実母にきちんと認めたほしいと思って行為に及んだと認定。

実母に対して感じた怒りというのは、長年抱いてきた妄想と密接に関連していると評価。

本件各犯行に及んだ動機について、妄想の影響を受けた了解不能なものであるとして、責任能力を否定する方向に傾く事実として位置付けている。
7つの着眼点の手法を用いながら、妄想と動機との関係性を踏まえ、その他の事情をも考慮して心神喪失の結論を導いている。
検察官:怒りと妄想とを分断し、前者のみを本件犯行に至った動機と位置付けた上で、動機が了解可能であると主張。
vs.
感情のみを殊更に強調し、怒りが生じた原因となる妄想との関連性を適切に把握していないと指摘。
2492   
  行政p5
最高裁R2.7.2  
  過払債務と法人税における公正妥当と認められる会計処理
  事案 平成24年に破産した貸金業者の破産管財人が、破産手続において過払金返還訴訟が確定⇒当該債務の発生原因となった制限超過利息等につき、これを受領した時(平成7年度~平成20年度及び平成12年度~平成17年度の各事業年度)に遡って、その所得がなかったものとして計算すると、申告した益金の額が過大であった⇒後発的事由に基づく法人税の更正の請求⇒所轄税務署長から更正をしない旨の処分(本件各通知処分)⇒
国に対し、
①本件各通知書分の一部の取消を求める(主位的請求)とともに、
②国は前記各事業年度につき前記貸金業者が納付した法人税相当額(合計約66億円)を不当に利得⇒不当利得返還請求権に基づき、そのうち2億5000万円の返還を求めた(予備的請求)
  制度 法人税:
法人の事業年度ごとに益金と損金の額を計算し、これを差し引きした金額(所得)を課税標準として、法人税を課税。
益金と損金の額の決定方法:
法人税法は、個別の規定がないものについては、
「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(公正処理基準)に従って計算すべきである旨規定(法人税法22条4項)。

昭和42年の法人税法改正における法人税課税の簡素化の一環として、法人税課税をできる限り法人企業会計と整合的に行うために設けられたもの。 
判例:
利息制限法所定の制限を超過した私法上無効な違法利得

未収分については収益実現の蓋然性がない⇒被課税所得を構成しない。
既収分については経済的利益が担税力を認め得る程度に支配享受された状態に達したものとして課税対象となる。

貸金業者が受領した過払金は法人税課税においては益金として申告するのが正当な税務処理。
企業会計においては、一般に、事業年度ごとに区切って収益や損失を計算し、監査や承認等を経て確定した上、配当等の利益分配を事業年度ごとに確定的に行う。
⇒企業から財産が流出した(あるいは流出することが確定した)事業年度の損失として計上。
~前期損益修正
そのような一般的な会計処理と異なり、実際に過年度の企業会計をやり直した場合、過年度の益金を減額することも法人税法22条4項にいう公正処理基準に合致した計算方法に当たるといえるか?

本件では、税通法23条1項、2項に基づく後発的事由に基づく更正の請求の可否として、争われた。
  判断 法人が受領した制限超過利息等を益金の額に参入して法人税の申告をし、その後の事業年度に当該制限超過利息等についての不当利得返還請求権に係る破産債権が破産手続により確定した場合において、当該制限超過利息等の受領の日が属する事業年度の益金の額を減額する計算をすることは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったものとはいえない。

本件のような場合に過年度の益金の額が減額されることを前提とした更正の請求はそもそも理由がない。

時に遡って益金を減額するのではなく、当該確定額を当該返還義務が確定した事業年度の損失とすべき(前期損益修正)であり、これは法人が破産した場合でも異ならない⇒本件各通知処分が違法であるとはいえない。 

①企業会計が損益計算を事業年度に区切って行い、過去の損益計算を遡ることを予定していない。
法人税もこれを前提に法人税を課税している。
⇒前期損益修正が公正処理基準に合致する計算方法。
②法人税法は事業年度を跨いだ課税の調整を特別に定められた要件と手続の下においてのみ行っている。
③前記のような課税の調整の在り方は法人が破産した場合でも同様であり、本件のような場合に事業年度を跨いだ課税の調整を行う旨の規定はない。
④企業会計上、過年度の収益を減額させる計算をすることが公正妥当な会計慣行として確立されているとはいえない。
  行政p10
東京高裁R1.5.21  
  行政不服審査法上の瑕疵が認められた事例
  事案 Y:土地改良法に基づき設立された土地改良区
X:Yの組合員 
Xは、Yから受けた賦課金に係る督促処分の取消を求め、Yに対し、土地改良法46条1項並びに行審法(行政不服審査法)2条及び4条1号に基づき審査請求⇒
Yは棄却する旨の採決をしたが、その審査手続きにおいて、
①審査請求人であるXに対し審理員の指名を通知せず、
②審理員も処分庁であるYに弁明書を作成させてこれをXに送付することをせず、
③Xに対し反論書の提出をする機会や口頭意見陳述の機会を与えていなかった。

Yは、第1裁決には手続的な違法あったとして、同年2月17日付けで第1裁決を取り消し、改めて、同年4月11日付けで本件審査請求を棄却する旨の裁決。

Xが、第1裁決及び第2裁決は違法であると主張し、それらの消しを求めた。
  争点 ①Yによってすでに取り消されている第1裁決の取消しを求める訴えについて訴えの利益があるか
②第2裁決が手続上の瑕疵により違法であるか 
  判断  争点① :
第1裁決の取消しを求める部分は、訴えの利益を欠き、不適法。
原審を引用。
原審:第1裁決は、行審法の定める審理手続のうち重要なものが履践されないままにされたものであり、同瑕疵は重大かつ明白であるから無効⇒裁決の自己拘束力を肯定する基礎を欠き、Yにより適法に取り消されている⇒第1裁決の取消しを求める訴えは訴えの利益を欠く。
  争点② 
①審理員として指名されたBは本件督促処分を決議したYの理事会に総括幹事として出席⇒行審法9条2項1号所定の除斥事由に該当し審理員の資格を欠いている
②第2裁決は審査庁であるYにおいてBの審理員意見書を参酌することなくされたもの⇒その審理過程は、審理員を挟んだ審査請求人と処分庁の対審的審理構造ではなく、審理員と処分庁が審査請求人と対立する形となっていた⇒審査庁による公正な審理に反するものであった

第2裁決には①②のとおり行審の趣旨に反する重大な手続上の瑕疵があり、違法もの⇒第2審決を取消し。
  解説 行審法:
平成26年改正で全面改正され、
審理手続における公正性・透明性を高めるため、
審査庁が原処分に関与しない等一定の要件を満たす職員を審理員に指名し、
審理員が審理手続を主宰し、審理の結果を審査庁がすべき裁決に関する意見書(審理員意見書)としてまとめ、
事件記録とともに審理庁に提出する審理員制度が導入。

同制度の下では、
審査請求人と処分庁等が主張及び証拠の提出を行う対審的な審理構造が採用された。
行審法9条2項は、審理員の除斥事由を規定。
1号「審理請求に係る処分・・・に関与した者」

本判決:審理請求に係る処分を行うか否かの判断に関する事務を実質的に行った者や、当該事務を直接又は間接に指揮監督した者をいうと解すべき。
Bは、Yの総括幹事であるところ、幹事は、Yの理事会に出席し、具体的な審議において理事の権限行使(決議)に問題があれば、それを指摘する義務を負い(土地改良法19条の4)、任務懈怠についてYに対し連帯して損害賠償責任を負う可能性がある(同法19条の5第2項)。

自らの出席した理事会で決議された処分について、予断を抱くおそれや、当該処分を弁護しようとする意識が働くおそれが類型的に高い

本件督促処分を決定した理事会に出席していたBは「審査請求に係る処分・・・に関与した者」に該当すると判断。
  民事p24
名古屋高裁R1.12.20  
  商品先物取引の受託会社従業員の不法行為(肯定)
  事案 Xは、Y1の従業員Y8及びY9が適合性原則、説明義務、実質的一任勘定の禁止、無意味な反復取引や特定売買等の禁止、利益相反取引行為の禁止、情報提供義務、新規委託者保護義務に違反し、取引上の 損失等を被ったとして、
Y1に対し、債務不履行、不法行為、使用者責任、一般法人法78条、会社法350条に基づき、その余のY2ないしY7に対し不法行為、会社法429条1項に基づき、損害賠償を求めた。
  原判決 請求棄却。 
  判断   実質的一任取引禁止違反及び無意味な反復的取引等禁止違反を認め、
当該勧誘行為を行った従業員Y9と会社であるY1に対する不法行為、使用者責任に基づく損害賠償請求の一部を認めた。 
  ●実質的一任取引禁止違反
①・・・・短時間応対することができたにすぎない。
②・・・・前記の短時間の電話対応では、・・・Xが的確に理解して、当該取引をするかどうかを自由な意思に基づいて判断できたとは推認し難い。
③・・・損害賠償を請求することは考えていなかったとの供述は、XがY9を信頼してY9による第2取引に係る各取引を無批判に承認していたことを裏付ける。
⇒実質的一任取引であった。
  ●無意味な反復取引等禁止違反
特定売買は、相場の状況やその変動予測、委託者の取引状況、取引方針等に応じて、一定の合理性を有することがある売買手法であるということができるところ、第2取引については、手数料化率は約29%でさほど高率ではないものの、特定売買比率は約185%と異常な数値⇒すべての特定売買が一定の合理性を有する売買手法であったとは考え難い⇒274回と多数回に及び第2取引の特定売買には、Y9が相場の変動状況等を整合せず、必要性・合理性のない無意味な売買を繰り返させて、Xの損失においてY1に手数料を獲得させる意図で勧誘した取引が含まれていると推認するのが合理的。
一般大豆及びNG大豆の取引は、客観的な相場状況及びXの損益状況に反する不合理な取引であり、Y9は、無意味な売買を頻回に繰り返させて、Xの損失においてY1の手数料獲得を意図して前記取引を勧誘したとみるべき⇒その勧誘行為は、社会的相当性を逸脱する違法なもの。
・・・・。
    ⇒Y9には、第2取引に係る勧誘行為に実質的一任取引禁止違反、無意味な反復取引等禁止違反の違法がある。
  ・・・第2取引よる損失の発生・拡大に係る控訴人の過失割合は6割。 
Xは第2取引終了当時、第2取引には違法があり損害賠償請求が可能であると認識しておらず、そののち代理人弁護士を通じてY1から委託者別先物取引勘定元帳及び委託者別証拠金等現在高帳の写しの送付を受けた以降に、第2取引が違法であり、損害賠償請求が可能であると認識
⇒訴え提起時には消滅時効が完成していない。
  解説 実質的一任取引の禁止について:

原審:
Xの職場の環境を認定した上、
①XがY9の相場観を尊重してそれに従ったこと、
②第2取引が終了した時点でXはY1に損害賠償を請求することは考えていなかったこと
③Xは勤務中にY1の従業員と連絡をとって説明を受けて売買を行った

実質的一任取引に当たらない。

控訴審:
①Xの作業場所の狭さ等⇒・・・電話で説明を受けたとしても短時間にすぎなかった
②特定売買の手法が多数回にわたって駆使⇒短時間の電話対応では、相場状況や相場の変動予測等の情報をXが的確に理解していたとはいい難い
③XがY9の相場観を尊重したことや第2取引終了にY1に損害賠償請求をすることを考えていなかった⇒XがY9による第2取引を無非難に承認していたもの⇒実質的一任取引であったことと整合する。

Y1の従業員を信頼して取引をすることの是非はともかく、信頼の基礎となる情報の取得が十分にされていたかに着目し、これが十分でなかった本件では、XはY1の従業員に任せたものとみて、実質的一任取引を認定。
無意味な反復取引等違反について:

原審:
①XがY1の従業員の説明を受けながら自身の判断で、各取引を行ったもの
②商品の需要が逼迫していた状況であったとしても、相場の変動要はそれだけに限られない
⇒Xが行った取引につき直ちに合理性を欠くものであるとは認められない。

控訴審:
①特定売買比率が異常に高い
②相場の傾向に反する取引を繰り返し行っている
⇒社会的相当性を逸脱する違法な勧誘行為。
  民事p55
仙台高裁R3.2.10  
  教師の自殺と、指導によるパワハラ、校長らの安全配慮義務
  事案 Xらの子であるAがY(北海道) の設置する高校の教員となった後に自殺。
Xら:
Aは先輩教諭のBによるパワハラ行為等により精神的に落ち詰められて自殺⇒同校の校長及び教頭は労働環境を整備するという安全配慮義務に違反した⇒国賠法1条1項に基づき、損害賠償を求めた。
  原審 Bの行為の不法行為該当性を前提とするYの責任は否定。
but
校長らがAのうつ状態を認識しながらBによる度重なる注意を防止する措置を講じなかったことは安全配慮義務に違反。

Aの自殺はBの注意とAの不安を感じやすい性格が共に原因となって発生⇒6割の素因減額。 
  判断   Yの控訴を棄却。
Yの国賠法上の責任を認める理由について、
校長らの安全配慮義務違反のみならず、
原判決とは異なり、
Bについても自殺の約1か月前にAがBbの「注意」直後に心療内科を受診したことを教頭から聞かされてAに謝罪⇒さらなる「注意」によりAが自殺等に及ぶことの予見可能性があった⇒Bの行為の不法行為該当性を認めた。
  解説 本判決:
先輩教諭が生徒指導に関して後輩教諭を注意するという、一般的には社会通念上許容されることが多いと思われる行為について、これが業務上必要かつ相当と認められる範囲を超えたものであるとして不法行為法上違法なパワハラ行為に当たるとしたもの。
うつ状態という廟的心理の特徴や、患者の診療に当たる医師と職場のパワハラ行為を防止すべき学校管理者との立場の相違に意を用いている。
  民事p64
東京家裁R2.9.10  
  申立人(日本国籍)が、妻(ルーマニア国籍)と自身との間の子として出生届を提出した子について、親子関係不存在の確認を求めた事案
  事案 夫(日本国籍)である申立人が、妻(ルーマニア国籍)との婚姻後200日経過以前に妻から出生した子に対して、親子関係不存在確認を求める調停を申し立てた。 
  判断 親子関係の不存在を確認する合意に相当する審判。 
  規定 法適用通則法 第二八条(嫡出である子の親子関係の成立)
夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべきときは、その子は、嫡出である子とする。
法適用通則法 第二九条(嫡出でない子の親子関係の成立)
嫡出でない子の親子関係の成立は、父との間の親子関係については子の出生の当時における父の本国法により、母との間の親子関係についてはその当時における母の本国法による。この場合において、子の認知による親子関係の成立については、認知の当時における子の本国法によればその子又は第三者の承諾又は同意があることが認知の要件であるときは、その要件をも備えなければならない。
2子の認知は、前項前段の規定により適用すべき法によるほか、認知の当時における認知する者又は子の本国法による。この場合において、認知する者の本国法によるときは、同項後段の規定を準用する。
法適用通則法 第四一条(反致)
当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。ただし、第二十五条(第二十六条第一項及び第二十七条において準用する場合を含む。)又は第三十二条の規定により当事者の本国法によるべき場合は、この限りでない。
民法 第七七二条(嫡出の推定)
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
  解説  ●  ●親子関係不存在確認の準拠法 
まず、法適用通則法28条によって定まる準拠法によって嫡出親子関係の成立を判断。
そこで嫡出子とされない⇒29条によって定まる準拠法によりさらに社駆出でない親子関係の成立を判断。
  ●嫡出親子関係について 
法適用通則法28条1項~選択的な連結点を指定。
夫の本国法である日本法:
民法772条
but
「推定を受けない嫡出子」⇒父とされる者との嫡出親子関係の否定は、出訴者や出訴機関が厳格に定められている嫡出否認の訴えではなく、親子関係不存在確認の訴えによって解決すべきものとされている。
妻の本国法であるルーマニア法:
「婚姻から出生した子の親子関係は、その出生時に婚姻の効力を規律する法律によって確認。」
「婚姻の一般的効力は、夫婦の共通常居所地法、又は、それがないときは、夫婦の共通国籍国法へ服する。夫婦の共通国籍がないときは、婚姻が挙行されている領域が帰属する国家の法律が適用」

反致(法適用通則法41条)により、夫婦の共通常居所地法である日本法が適用。
本件における嫡出親子関係については、父母いずれの本国法によっても日本法に従って検討。
日本法においては、嫡出推定が及んでいない⇒DNA鑑定などによって生物学的親子関係がないことが確認できれば、嫡出親子関係を否定。
  ●  ●非嫡出親子関係 
法適用通則法29条において連結点が規定。
父から、嫡出でない子について嫡出子とする出生届がされ、戸籍事務管掌者によって受理⇒認知届としての効力を有する(最高裁)⇒夫は、認知をしていると扱われることになる。
but
不実の認知は無効⇒夫と子との間の生物学的親子関係が存在していなければ、この認知は無効。
子の本国法の認定:
法29条2項は、認知による非嫡出親子関係の成立については、認知の当時における子の本国法によることもできる。

非嫡出親子関係の不存在を検討する際には、認知の当時における子の本国法を確定する必要。

本審判:
子が日本国籍及びルーマニア国籍の二重国籍であるとした上で、夫との間の嫡出親子関係の不存在が確認できる⇒日本国籍の取得を否定し、子がルーマニア国籍のみ有していると判断。

国籍法2条1号は、出生の時に父又は母が日本国民⇒子は日本国籍を取得。
嫡出推定が及ばず、胎児認知もされていないことにより、出生時において日本国民との間に親子関係が認めらられない⇒子は日本国籍を取得することはできない。
ルーマニア法における認知:
「認知について子の本国法による」
but
子が日本国籍を有しない⇒日本法への反致はない。

ルーマニア法上の認知に該当する事情は認められない。
  民事p67
東京家裁R2.4.17  
  申立人夫(日本国籍)と申立人妻(フィリピン国籍)の後者の子との養子縁組の許可の事案
  事案 申立人夫(日本国籍)と申立人妻(フィリピン国籍)による、申立人妻と申立人外男性との間の非嫡出子である未成年者(フィリピン国籍)との養子縁組を許可した事案。
  解説   ●準拠法 
養子縁組における準拠法は、法適用通則法31条1項前段⇒
養親となるべき者の本国法。
養子となるべき者の本国法のうちの保護要件も備えなければならない。

申立人夫については、日本法に加えてフィリンピン法上の保護要件を満たす必要。
申立人妻については、フィリピン法の要件を満たす必要。
  ●  ●フィリピン法 
フィリピン国内養子縁組法
  ◎養子となる者の実親の同意 
  ◎  ◎省の免許を交付されたソーシャルワーカー等による養子、その実親及び養親のケーススタディ並びにそのソーシャルワーカー等による報告と問題に関する勧告の裁判所への提出 
  ●  ●主文の在り方 
フィリピン国内養子縁組法では、養子縁組は裁判所の決定により成立。
申立人妻との関係で「未成年者を申立人妻の養子とする。」との主文とし
申立人夫との関係でで養子縁組を許可する
⇒養子縁組の成立にタイムラグが生じ、
フィリピン国内養子縁組法3条7項2号や申立人夫の準拠法である日本民法795条本文における夫婦共同縁組の要件との関係で問題。

養子決定の裁判を養子縁組の実質的要件に関わるものとして
裁判所等公的機関の関与を必要とする部分と、
養子縁組を創設させる部分
とに分解し、
実質的成立要件の審査部分については家庭裁判所の許可という形で代行させ、
縁組の形式的成立要件については法的用通則法34条2項によって行為地法である日本法によるべきであるといういわゆる「分解理論」。
  民事p69
前橋地裁R2.10.1  
  安保違憲訴訟
  事案 平和安全法制関連2法の立法行為等が憲法前文、9条、13条、96条1項に違反し違憲、違法であり、Xらの平和的生存権、人格権、国民投票権(憲法改正・決定権)、安定した立憲民主制に生きる権利ないし法的利益及び第三者の権利である自衛官の権利が侵害された⇒国賠法1条1項による損害賠償請求権に基づき、慰謝料として1人10万円の支払を求めた。
  解説 最高裁が判示する付随的違憲審査制を前提に、
Xらの主張する権利ないし法的利益のうち、
①平和的生存権、国民投票権(憲法改正・決定権) 、
安定した立憲民主制に生きる権利ないし法的利益は、
いずれも、国賠法上保護されるべき権利ないし法的利益であると認められない。
人格権のうち、Xらの生命、身体及び平穏な生活という人格的利益については、
戦争とテロ行為に直面する危険が現実化しているとはいえない⇒侵害されていない。
精神的苦痛について、様々な意見や考え、感受性を持つ人々が生きる現代社会において、自らの意見や考えと異なる事態が生起したためにストレス等の主観的な感情や感想を抱くに至ったからといって、直ちに法的に保護すべきものであるとはいえず、その意味では、社会通念上、そうした心理状態は受忍しなければならない。
自衛官の権利は、Xらの請求を基礎づけるものではない。

請求棄却。
  刑事p82
東京地裁R2.3.18  
   
  事案 ①大麻、コカイン及びLSD所持と
②コカイン施用の訴因について
①に係る各薬物とその鑑定書
②に係る尿の鑑定書が、
いずれも違法収集証拠であるとして証拠能力否定⇒無罪の事案。 
  判断 (1)所持品検査に抵抗する被告人を2人がかりで壁に押し付けたり、地面に投げ倒したりしたことは、行動の自由を著しく奪う強度の有形力の行使であり違法。
(2)その後約1時間40分間(職務質問開始から約2時間)、被告人を取り囲み、壁から背を離すことを許さず、ズボンをつかみ続けた留め置き行為は、過度に行動の自由を制限するもので違法。
 (3)警察官らは不法残留と大麻所持の嫌疑を持ち、両方の捜査を並行して進めていたが、
① ズボン等に不法残留の証拠物を隠匿しているとは考えにくい
②直ちに逮捕しなければならない緊急性は認められない
⇒不法残留の捜査のために現行犯人逮捕し、着衣等の創作をしなければならない必要性は小さかった。
大麻所持については、ズボン内に大麻を隠匿している嫌疑は高まっており、その捜査のために着衣等を創作する必要性は高かった。

当該捜索は、専ら大麻所持の証拠の発見、収集を意図していたと認められ、当該捜索により大麻を発見し、後に差し押さえたことは違法。
大麻を捜索するに当たり、裁判官の審査を経ることよりも迅速に捜査を行うことを優先し、捜索差押許可状の請求を撤回して、不法残留による現行犯人逮捕に伴う捜索をすることとした経緯は、警察官らが令状を取得することを軽視したと解されてもやむを得ず、警察官らの一連の違法性は、令状主義の精神を没却するような重大なもの⇒違法収集証拠として証拠能力を否定。
  解説  本件:別件捜索差押えの違法性を認定。
別件差押えについては、最高裁が、令状に基づく差押えにつき、
「捜査機関が専ら別罪の証拠に利用する目的で差押許可状に明示された物を差し押さえることも禁止される」と判示。
A:別件捜索差押の問題性を指摘する考え(but重大な違法性を認めたものはなかった)
B:無令状捜索の過程で発見された物件が法禁物であるときは、所持罪の現行犯逮捕ができることから、その現行犯逮捕に伴う無令状捜索差押えが可能となる・・・捜査機関の事前の意図のみを理由にこれを違法とすることはできない(酒巻)
     
  刑事p90
福岡地裁R2.10.26  
   
  事案 被告人が、被告人車両を運転して、前方道路上に仰臥していた被害者を前輪で轢過して傷害を負わせ、運送先の病院で死亡させた過失運転致死と、救護義務・報告義務違反。
  争点 ①被害者轢過の有無(犯人性)
②過失の有無
③被害者轢過の認識 
  判断 ①の轢過を認定するには合理的な疑いを差し挟む余地がある⇒全部無罪。 
2491   
  民事p3
東京高裁R1.6.28  
  児童相談所長による親権停止の申立
  事案 親権者D
抗告人A(平成20年生まれ)
親権者Cは、親権者Dと婚姻するとともに、抗告人Aと養子縁組の申し出。 
親権者Dの実母は、親権者Dが抗告人Aらの養育ができていないと児相に相談⇒一時保護の措置、乳児院への入所措置、児童養護施設への入所措置。
平成29年8月、抗告人Aらにつき児童養護施設への入所措置が解除
but
その後、親権者らは虐待行為。

平成29年12月、一時保護の措置。
抗告人Bは、平成30年4月、原審に対し、親権者らの抗告人Aに対する親権を2年間停止することを求める審判の申立て。
抗告人Aは、利害関係人参加をした。
  規定 民法 第八三四条の二(親権停止の審判)
 父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる。
2家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、二年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める。
  原審 抗告人Aにつき平成29年12月に一時保護の措置がとられるまでの親権者らの親権の行使は不適当であり、抗告人Aの利益を害するもの。
but
抗告人Aにつき一時保護の措置がとられている現時点においては「子の利益を害する」との要件(民法834条の2第1項)を満たすとはいえない。

抗告人Bの申立てをいずれも却下する。
  判断 ①親権者らが抗告人Aに対して重大な虐待行為を繰り返した
②親権者らに抗告人Aの養育実績はほとんどなく、親権者らが今後抗告人Aを適切に養育できると期待することはできない
③親権者らに対して強い恐怖心を抱いている抗告人Aの今後の健全な成長のためには、親権者らの影響が心理的にも及ばないと抗告人Aが明確に自覚し得るような環境が必須
④抗告人Aが親権者らの親権の停止を希望している
⑤抗告人Aと親権者らが親子として再統合を果たす可能性がきわめて小さい

親権者らによる親権の行使は不適当であり、そのことにより抗告人Aの利益を害することが明らか
⇒原審判を取り消して親権者らの抗告人Aに対する親権を2年停止。
  解説 原審:抗告人Aにつき一時保護の措置が取られている現時点においては親権停止の要件がない

本決定も、親権を停止るためには現時点において民法834条の2第1項の要件を満たす必要があることを前提に

親権者らの今後の養育能力、抗告人Aにとっての親権停止の必要性、抗告人Aの意向及び抗告人Aと親権者らの再統合の可能性を考慮。 
  民事p10
東京高裁R2.7.22  
  国際裁判管轄の合意
  事案 XがYに不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求⇒
Y:本邦裁判所に管轄がない旨の本案前の主張。
XY間の基本契約における本件条項に、
カリフォルニア州に所在する連邦又は州の裁判所を専属的管轄裁判所とする旨の合意。
「紛争について別の書面による契約が適用されない限り、紛争が本契約に起因もしくは関連して生じているかどうかにかかわらず、本条の条件が適用される。」との規定。
  原審 中間判決において、
国際裁判管轄の合意について、平成23年法律第36号施行前であっても、条理上、一定の法律関係に関して定められたものである必要がある。
本件条項の国際裁判管轄の合意が、その対象とする訴えについて、当事者間の訴えであるというほかに何らの限定も付しておらず、一定の法律関係に基づく訴えについて定められたものと認められない。
⇒無効であり、Yの本案前の主張には理由がない。
  判断 本件訴えは不適法⇒訴えを却下。 
①国際裁判管轄の合意は、一定の法律関係に基づく訴えとして特定されなければ、無効。
②契約は、当事者の予測可能性を踏まえながら合理的な意思を尊重して解釈すべきであり、必要性がある限度で合意を無効としたり改変して解釈することができる。
③本件条項は、少なくとも基本契約に起因して又は関連して生じた紛争については、カリフォルニア州の裁判所に専属的合意管轄を定めるものと解釈することは、当事者の意思に反するものではない
⇒その旨の合意は、一定の要件を満たし、有効である。
  解説 国際裁判管轄の合意について
ある訴訟事件についてのわが国の裁判権を排除し、特定の外国の裁判所だけを第一審の管轄裁判所と指定する旨の国際的専属的裁判管轄の合意は、
①当該事件がわが国の裁判権に専属的に服するものではなく、
②指定された外国の裁判所が、その外国法上、当該事件につき管轄権を有すること
の2個の要件をみたす限り、わが国の国際民訴法上、原則として有効。
(最高裁昭和50.11.28) 
平成23年法律第36号による改正後の民訴法3条の7第2項:
第三条の七(管轄権に関する合意)
当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかについて定めることができる。
2 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。
管轄合意については、管轄を新たに設定するもの⇒一定の法律関係に基づく訴えとして特定される必要がある。
本件では広汎な定めとなっていて、必ずしも「一定の法律関係に基づく訴え」に関する条項とは言い難い。
but
本判決:
当事者の合理的意思を尊重して解釈すべき⇒基本契約に起因又は関連して生じた紛争については、一定性の要件を充たすとして、国際裁判管轄の合意を有効とした。
  民事p32
知財高裁R2.8.3  
  弁護士職務基本規程57条違反と訴訟行為
  事案 X1及びX2とYとの間で、東京地裁に特許権侵害訴訟が係属(基本事件)。
Xら:Yの訴訟代理人である弁護士らが所属するE弁護士事務所に、かつてX1の社内弁護士であったC弁護士が在籍(後に、C弁護士は、本件申立てを受けて、本件事務所を退所)しており、A弁護士らが基本事件の訴訟行為を行うことは弁護士職務規程57条に反する⇒A弁護士らの訴訟行為の排除を申し立てた。 
  争点 ①Xらが弁護士職務規程57条違反を理由とする訴訟行為の排除の裁判の申立権を有するか
②A弁護士らの訴訟行為が弁護士職務基本規程57条に違反するか 
  原決定 ①肯定
②否定 
  本決定 ①②肯定
⇒原決定を取り消して、Xらの申立てを認めた。 
  規程  弁護士法 第二五条(職務を行い得ない事件)
 弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
・・・・
弁護士職務規程
 (職務を行い得ない事件)
第五十七条 所属弁護士は、他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む)が、第二十七条又は第二十八条の規定により職務を行い 得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。
弁護士職務規程 
(職務を行い得ない事件)

第二十七条 弁護士は、次の各号のいずれかに該当する事件については、その職務を行ってはならない。ただし、第三号に 掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
四 公務員として職務上取り扱った事件
五 仲裁、調停、和解斡旋その他の裁判外紛争解決手続機関の手続実施者として取り扱った事件
  解説   弁護士法25条1号に違反する訴訟行為について、同号に違反することを理由として相手方から訴訟行為を排除する旨の裁判を求める申立権を有することが認められた事例(最高裁H29.10.5等)。 
弁護士法25条1号に違反する訴訟行為の効果:
A:有効説
B:絶対的無効説
C:追認説
D:異議説(通説)
相手方である当事者は、弁護士法25条1号違反の訴訟行為について異議を述べ、裁判所に対してその行為の排除を求めることができる。
  ●争点①について 
①弁護士職務規程57条も、弁護士法25条1項の趣旨と同様に、当事者の利益保護をも目的とするもの
②弁護士職務規程は単なる内規ではなく弁護士法が遵守を求められる会規

弁護士法25条1項の趣旨解釈として、弁護士職務規程57条に反することを理由とする場合であっても、訴訟行為排除の申立権がある。
  ●争点②について 
C弁護士がX1に在職中に基本事件について賛助した⇒C弁護士は弁護士法25条1項、弁護士職務基本規程27条に反する⇒C弁護士と同じく共同事務所に所属するA弁護士らは弁護士職務規程57条に違反する。
弁護士職務基本規程57条ただし書が規程する「職務の公正を保ち得る事由」:
本判決:
所属弁護士が、他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)が弁護士職務基本規程27条1号により職務を行い得ない事件について職務を行ったとしても、客観的及び実質的にみて、依頼者の信頼が損なわれるおそれがなく、かつ、先に他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)を信頼して協議又は依頼をした当事者にとって所属弁護士の職務の公正らしさが保持されているものと認められる事由をいうものとするのが相当である。
  but
本件の許可抗告審である最高裁R3.4.14は、
弁護士職務基本規程57条に違反する訴訟行為について、相手方である当事者は、同条違反を理由として、これに異議を述べ、裁判所に対し、その行為の排除を求めることはできない。
⇒本決定を取り消した。 
  民事p47
東京地裁R2.6.30  
  「犯罪利用預金口座等」の該当性
  事案 原告が、被告に対し、原告名義の普通預金口座について、被告がした犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律3条1項に基づく取引停止措置は認められない⇒預金契約に基づき、本件口座残高123万5231円及び商事法定利率の遅延損害金の支払を求めた。 
  争点 ①本件口座に法3条1項に基づく取引停止措置を講ずることの適否
②本件口座に普通預金規定に基づく取引停止を講じることの適否
③本件口座に係る預金の払戻請求権が認めらる場合に、その遅延損害金が生じ法定利率によるべきか 
  判断  ●  ●法3条1項に基づく取引停止措置の適否
無登録での投資助言業務及び第1種金融商品取引業が常に振込利用犯罪行為に当たるとは直ちには解せず、
A社らの行為は振込利用犯罪行為に該当すると疑うに足りる相当な理由はあると認められるが、原告・A社間に前記契約がある⇒本件口座からA社らに対する送金が、A社らの前記行為に係る資金を移転する目的で利用されたとは直ちに認めがたく、
仮に被告が本件口座に振り込まれた前記の金員がA社らの前記行為により被害を受けた者からの振込みに当たると疑っていたとしても、その支払態様等からすれば、前記資金移転目的などとは認められず、これを疑うに足りる相当な理由があるとも認められない。
仮に被告が本件口座の取引停止措置をとった時点では相当な理由があったとしても、前記措置がとられてから既に2年以上経過しているのに、A社らの行為を理由とした請求や差押手続等がされたとは認められない⇒現時点で前記措置を継続する必要性があるとは認め難い。
  ●普通預金規定に基づく取引停止の適否
被告主張:本件口座については、普通預金規定により、預金が法令や公序良俗に反する行為に利用され、またはそのおそれがあると認められる場合に当たる⇒取引停止にできる。
vs.
預金が預金契約に基づいて預けられる⇒被告が前記の取引停止措置をとるには相当な理由を要する。
本件では、本件口座に係る預金が法令や公序良俗に反する行為に利用され、またはそのおそれがあるとは認め難く、相当な理由は認められない。
  ●遅延損害金
商事法定利率による。
①預金払戻請求権が期限の定めのないもの
②原告が払戻しを請求した時点から被告は遅滞の責任を負う

判決言渡日までの遅延損害金の請求は認容されるべきではないとの被告の主張を排斥。
  解説  預金口座等が振り込め詐欺等の犯罪に用いられている疑いがあるときに、金融機関が当該預金口座に係る取引を停止する措置をとり、預金保険機構による公告を経て当該預金口座等を消滅させ、これを原資として被害回復分配金の支払を行う。

金融機関は、
「犯罪利用預金口座等である疑いがあると認めるとき」は、当該預金口座等に係る取引の停止等の措置を適切に講じ(法3条1項)、また、
「犯罪利用預金口座等であると疑うに足りる相当な理由があると認めるとき」は、速やかに、当該預金口座等について現に取引の停止等の措置が講じられていない場合においては当該措置を講ずるとともに、預金保険機構に対し、当該預金口座等に係る預金等に係る債権にいて、当該債権の消滅手続の開始に係る公告をすることを求めなければならない(法4条)。 
  民事p54
東京地裁R2.10.8  
  遺言書が無効とされた事案
  事案 Xは、本件遺言書の無効の確認を求めた。
  判断   ● 自筆証書遺言の形式的要件の主張立証責任
自筆証書遺言が有効であるためには、その有効性を主張する当事者(本件ではY)において、各要件の充足性を主張立証しなければならない。
遺言書には日付の記載が要求されているが、実際には遺言書の作成された日が正しく記載されていることが必要⇒真実の作成日と合致しない日付は無効。
有効な日付が記載されていることの主張立証責任は、Yが負う。
遺言の内容が記載された複数枚の紙面が1通の一体性のある遺言書を構成していることは、自筆証書遺言に要求される他の要件と相まって、遺言者の意思表示の内容を正確に把握するための不可欠の全体をなす
⇒遺言書が一体性のある書面であることの主張立証責任は、遺言の有効性を主張する当事者(Y)が負う。
  ●本件遺言書の切断 
遺言書は、高度に厳粛な性格を帯びる非常に重要な文書
遺言者自身が複数枚にわたる遺言書の特定の頁の一部だけを物理的に切断した上、一部切断の物理的痕跡のある不揃いの紙面が混在する複数面の紙面で構成された遺言書を遺言者の最終意思を反映した完成文書として残そうとすることは、極めて不自然かつ奇抜な発送。
⇒A以外の第三者が本件遺言書の1面目の便箋の左半分を切断した可能性が高く、遺言書の一体性を否定する考慮要素の1つとなる。
  ●遺言書の一体性の疑問
①1枚目の便箋と、2枚目・3枚目の便箋との間に形式面での相違(文字の間隔、漢字の送り仮名、漢数字の記載)
②本件遺言書の作成日付として表示されている平成8年10月6日の時点では、対象不動産はAの夫Bが所有しており、Aの所有する財産ではなかった⇒1枚目の便箋がBの死亡日である平成16年2月17日以降に作成された可能性
③本件遺言書は、Aの死亡から約11か月経過した平成30年8月15日頃Yによって発見。butYはAから金庫の鍵を預かっていた⇒客観的にはより早期の段階で金庫内の遺品を調査して、本件遺言書を発見する機会が十分にあった⇒発見時期が遅すぎる点においてYの説明は明らかにおかしい。

Aは作成時期が明らかに異なる2種類の遺言書の外観を呈する書面を作成してた可能性があり、本件遺言書は、それぞれ別の遺言書の外観を呈する書面の一部または全部を構成していた1枚目の便箋と2枚目・3枚目の便箋とを組み合わせた形式で作成されたという合理的な疑いを否定できない。
作成した者が第三者である場合は、遺言書の一体性を欠き、
遺言者(A)である場合には、本件遺言書に記載された作成日付が有効であるとは認められず、
本件遺言書は、有効な自筆証書遺言の有効要件を具備しておらず、無効。
  知財p69
大阪高裁R3.3.11  
  銘菓の創業の表示等の不正競争防止法
  事案 Xが、Yに対し、Yの表示等が、商品の品質を誤認させている⇒その差止め、廃棄及び損害賠償を求めた。
  争点 ①不正競争法2条1項14号(平成30年改正前のもの)(現20号)の規制対象の範囲
②Yの創業年や来歴に関する表示が、品質等誤認表示といえるか
③営業上の利益の侵害の有無並びにXに生じた損害の有無及び額
  規定  第二条(定義)
 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
二十 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為
  判断  ●争点①について 
一審判決を一部引用し、立法過程における議論や、不正競争防止法違反が刑事罰の対象にもなる⇒安易な拡張解釈は相当でない⇒20号の列挙は限定列挙。
20号の定める「品質」「内容」に、これらの事項を間接的に示唆する表示が含まれる場合がありうるにしても、そのような表示については、具体的な取引の実情の下において、需要者が当該表示を商品の品質や内容等に関わるものと明確に認識し、それによって、20号所定の本来的な品質等表示と同程度に商品選択の重要な基準となるものである場合に、20号所定の規制の対象となる。
  ●争点②について
品質や内容の誤認を生じさせるためには、客観的事実として異なる品質や内容を需要者に認識させる必要があり、誤認の対象は客観的に真偽を検証、確定することが可能な事実であることが想定されている。
本件で問題とされた創業年や来歴については、客観的に真偽を検証、確定することが困難で、品質等を誤認させるとは認められない。
  ●争点③については、判断せず。 
  解説 類似の裁判例:
東京高裁H16.10.19:
ヤマダ電機対コジマ事件:価格に関する表示につき不正競争と認めなかった。 
  労働p83
横浜地裁R2.6.25  
  始業時間・アルバイトと正社員の格差等
  事案 Y1:引越関連事業を行う株式会社
Y2:Y1の企業内労働組合
Xら:Y1との間で雇用契約を締結し、引越作業員として勤務していた者。
X1、X3は正社員、X2はアルバイト
Y1においては、通勤手当支給規程が存在し、正社員であるX1はその支給対象であったが、受給申請の手続を実践していなかった。
Y1の非正規従業員給与規程においては、「アルバイトに対しては通期手当を、支給しないこととする」と規定。
Y1とY2との間では、いわゆるチェック・オフ協定が締結され、Xらは、Y1に在籍中、「組合費」として毎月の賃金から1000円が控除。
Xらが、Y1に対し、
①未払時間外割増賃金等の支払
②引越事故責任賠償金名目で負担させられた金員についての不当利得の返還等、
③未払通勤手当等の支払(X1、X2のみ。X2は、アルバイトに通勤手当を支給しない旨の規定が労契法(平成30年改正前のもの)20条に違反すると主張し、主位的には雇用契約に基づく賃金請求として、予備的に不法行為に基づく損害賠償として通勤手当相当額の支払)
④個人で契約して業務のためだけに使用していた携帯電話料金につちえの不当利得の返還等(X3のみ)、
⑤労基法114条に基づく付加金等の支払
⑥いわゆるチェック・オフにより賃金から控除された組合費について未払賃金等の支払
を求め、不当利得の返還等を求めた。
  争点 ①始業時刻
②通勤手当又は同相当額の請求の可否
③労働組合費の控除に関する賃金全額払請求ないし不当利得返還請求の可否 
  判断  ●争点① 
①Y1においては、制服を着用することが義務付けられ、朝礼の前に着替えを済ませることになっていたところ、着替えの時間及び朝礼の時間以降は、Y1の指揮命令下に置かれたものと評価することができる⇒これに要する時間は、それが社会通念上相当と認められる限り、労基法上の労働時間に該当。
②着替えの時間及び朝礼場所への移動時間等
⇒午前7時10分を標準的な始業時刻に
but
ラジオ体操の時間は、参加が義務付けられていた朝礼に含めることはできず、Y1の指揮命令下に置かれたものと評価することはできない。
  ●争点② 
正社員であるX1:
X1が通勤手当の受給申請をしておらず、支給漏れがあった場合の遡及可能期間も徒過
⇒理由がない。
アルバイトであるX2:
雇用契約に基づく賃金請求について、
旧労契法20条の規定は私法上の効力を有する。
but
有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者と同一のものとなるものではない⇒請求を認めず。
予備的請求として位置付ける、旧労契法20条違反を理由とする不法行為に基づく損害賠償支払い請求:
①Y1における正社員とアルバイトであるX2との間における通勤手当に係る労働条件の相違は、同条にいう不合理と認められるものに当たる。
②このような通勤手当制度に基づく通勤手当の不支給は、X2に対する不法行為を構成する。
⇒正社員であれば受給できたはずの通勤手当相当額の損害賠償を肯定。
  ●  ●争点③ 
X:Y2は「自主的に」運営されたものではない⇒労組法上の労働組合とは認められない
vs.
形式的に労組法5条2項6号にういう総会の開催が行われないとしても、実質的にはこれに代わる民主的な意思決定が行われていたものと評価することができる。
X:「加入申込書」を作成しておらず、Y2に加入する意思表示をしていない。
vs.
Xらは、・・・少なくとも一種の社団としてY2に加入しているという認識は有していたものと認めるのが相当。
そのような認識がありながら、これらを脱退するなどの意思表示をしていない⇒Y2に加入する黙示の意思表示があったものと認めるのが相当。
Y2の規約によれば、組合費の支払はチェック・オフにより行う旨の規定があり、Y2の組合員であるXらは、この規約に従うことを当然に受容している
⇒特段の事情がない限り、チェック・オフ協定とは別に、Y1が原告ら個々の組合員から、賃金から控除した組合費相当分をY2に支払うことにつき委任を受けることが、有効なチェック・オフを行うために必要であるとは解されない。
  解説  最高裁H12.3.9:
労基法の労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」
労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業者内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされた⇒当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労基法上の労働時間に該当する。
  最高裁H30.6.1(ハマキョウレックス(差戻審):
①通勤手当は、通勤に要する交通費を補償する趣旨で支給されるものであるところ、労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるものではない。
②職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは、通勤に要する費用の多寡とは直接関連するものではない。
③通勤手当に差異を設けることが不合理でるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない。

通勤手当の金額が異なるという労働条件の相違は、旧労契法20条にいう不合理と認められるものに当たる。
旧労契法20条⇒有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条へ
  チェック・オフの有効性について
最高裁H5.3.25:
使用者と労働組合との間に右協定(労働協約)が締結されている場合であっても、使用者が有効なチェック・オフを行うためには、右協定の外に、使用者が個々の組合員から、賃金から控除した組合費相当分を労働組合に支払うことにつき委任を受けることが必要であって、
右委任が存しないときには、使用者は当該組合員の賃金からチェック・オフをすることはできない。
  刑事p99
岐阜地裁R2.9.25  
  幼児の揺さぶりによる傷害⇒無罪の事例
  事案 生後約3か月の実子に対する揺さぶり⇒急性硬膜下血腫等の傷害 
  主張 検察官:被害児には本件直後、急性硬膜下血腫、脳実質損傷、びまん性脳浮腫、網膜出血⇒この傷害は被告人の揺さぶり行為等によって生じた。
弁護人:被告人は揺さぶり行為等をしておらず、被害時児の傷害はソファーからの落下によって生じた可能性がある。 
  判断 検察官が揺さぶり行為等の有力な根拠とした急性硬膜下血腫、脳実質損傷は認められない。
びまん性脳浮腫、網膜出血は揺さぶり行為等を原因とするものとは言いきれず、ソファーからの落下によって脳深部静脈血栓症を発症し、それを原因として生じた可能性を否定できない。 
  解説 SBS仮説:
典型的には、 急性硬膜下血腫、脳浮腫、網膜出血の3つの症状が揃っており、その原因となり得る高位落下等の事情がなければSBSと診断できるとするもの。
  複数の専門家証言がある場合の判断の仕方:
各専門家の説明を正確に理解し、相反する説明の分岐点を見極め、信用性を適正に判断しなければならない。 
  公判前整理手続終了後に検察官が請求した証拠の採否について:
検察官は、専門家証人2名の尋問終了後、新たに鑑定書2通(①脳神経外科の専門医、②工学専門家各作成)、①の専門医の証人尋問を請求。
刑訴法316条の32第1項は、公判前整理手続等における争点及び証拠の整理の実効性を担保するため、公判前整理手続等終了後の証拠調べ請求を原則として禁止し、
例外として「やむを得ない事由」がある場合に証拠調べ請求ができるとした。
「やむを得ない事由」:
公判前整理手続等で提出できなかった合理的理由。
公判前整理手続等終了前に証拠調べ請求が可能だった場合でも、公判前整理手続等における相手方の主張や証拠関係等からその必要がないと考え、そう判断するについて十分な理由があったと考えられる場合等は、新たな証拠調べ請求ができる。
その場合、
①公判前整理手続等で証拠調べ請求をしないとの判断をした意思形成に相手方当事者の訴訟行為が寄与していたか否かといった、新たな証拠調べ請求が必要となった理由及びその理由に対する当事者双方それぞれの帰責性、
②新たな証拠が証明しようとする事実が事件の結論に与える影響の程度や当該証拠がその事実の立証に果たす役割、
③新たな証拠調べ請求が相手方当事者や審理予定に与える影響
といった諸要素を総合的に考慮して、「やむを得ない事由」の有無を判断。
本件:
当該証拠の立証趣旨、
公判前整理手続終了前の請求可能性、
結論に与える影響の程度、
審理経過、
新たな証拠請求時の審理の進行状況(基礎から最後の公判前整理手続期日までに2年以上が経過しており、検察官の新たな証拠請求は立証趣旨に関連する検察官・弁護人請求の専門家証人の尋問終了後になされた)等
⇒「やむを得ない事由」がないと判断された。
2490   
  民事p3
最高裁R3.1.12  
  債権仮差押えと債務者・第三債務者間の示談
  事案 XがYに対し、Yが起こした交通事故について損害賠償を求めた事案。 
X:本件事故で死亡したBの相続人らに対して債権を有しており、これを請求債権として、本件相続人らが相続により取得した被害者BのYに対する損害賠償請求権を仮に差し押さえた上、その後に差押命令及び転付命令を得て、同損害賠償請求権を取得。
Y:仮差押えを受けた後、本件相続人らとの間で、
①Yが本件相続人らに対し、本件事故による一切の損害賠償金として4063万円余りの支払義務があることを認めること、
②Yと本件相続人らとの間には、本示談で定めるほか、何ら債権債務のないjことを相互に確認すること等を内容とする示談

XがYに対して、本件示談金額を超える額の請求をすることができるか?
  原審 本件示談が仮差押えにより禁止される債権者(X)を害する処分であるということは認められない⇒XがYに対して本件示談金額を超える額の請求をすることはできない。 
  判断 債権仮差押命令の第三債務者であるYは、仮差押債権者であるXを害する限度において、本件示談にをもってXに対抗することはできないというべきであり、原判決の指摘する事情はこの判断を左右するものではない⇒原判決には法令解釈の誤りがある。
  解説 債権仮差押命令:
仮差押債務者に対して債権の取立てその他の処分を禁ずる効力(処分禁止効)を有しており、
債権の仮差押えによって仮差押債権者を害する一切の処分が禁止され、
仮差押えの後に仮差押債務者がした処分は、仮差押債権者を害する限度において、仮差押債権者に対抗することができない。
本件示談は、Xが仮に差し押さえた損害賠償請求権の金額が本件示談金額を超えないことを確認する趣旨を含む
⇒Xが仮に差し押さえた損害賠償請求権の実際の金額が本件示談金額を上回るときであっても、XがYに対して本件示談金額を超える額の支払を請求することはできない⇒本件示談がXを害し得るものであることは明らか。
  民事p11
東京高裁R2.12.10   
  心房細動の判断についての医療過誤(肯定)
  事案 心房細動に対するカテーテルアブレーション手術を実施中に急性心タンポナーデを発症した結果、低酸素脳症を起こして遷延性意識障害⇒入院治療継続したものの死亡。

配偶者Xが、本件病院を開設する医療法人Yに対し、本件手術に適合性がないのに実施した過失あがるとして
主位的に不法行為に基づき
予備的に診療契約上の債務不履行に基づき
損害賠償請求を求めた。
  主たる争点 Z医師が本件患者には心房細動と診断できる所見がないのもかかわらず、本件手術を実施した過失があるか? 
  原審 請求を棄却。 
  判断 心房細動の確定判断が不適切であったかどうかについて鑑定⇒Z医師が、本件患者には心房細動と診断できる所見がないにもかかわらず、本件手術を実施したことに過失が認められる⇒Xの請求を一部認容。
①心房細動診断について、平成22年当時の医療水準としては、自然に発生した発作時における心電図を記録して心房細動を確認することが原則であったのに、
②Z医師が、このような確認しないままに心房細動であるとの確定判断
⇒平成22年当時の医療水準に反したものであって、過失があった。
  解説 医師の注意義務の基準:
最高裁昭和36.2.16:「最善の注意義務」と指摘。
その後の多数の判例:
「最善の注意義務」として、診療当時の臨床医学の実践における医療水準であることが示された。
近時の判例:
「新規の治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており、当該医療機関において右知見を有することを期待することが相当と認められる場合には、特段の事情が存しない限り、右知見は右医療機関にとっての医療水準」(最高裁H7.6.9)

医師が医薬品を使用するに当たって右文書(能書)に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生⇒これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定される。(最高裁H8.1.23) 
  民事p35
広島高裁R2.2.21  
  船主責任制限法が問題となった事案
  事案 Xが所有し、Xと裸傭船契約を締結したAが運航させていた船舶が、山口県大畠瀬戸海域を航行中、・・・大島大橋の下を通過し・・・損傷を与えた。
⇒Xが、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(「船主責任制限法」)の規定に基づき、責任制限手続開始の申立てをした。 
  一審 責任制限手続開始決定 
    傭船者らであるY1ないしY5は、即時抗告。
主張:
①本件事故による損害は、Xによる船主責任制限法3条3項所定の損害発生のおそれがあることを認識しながら自己の無謀な行為によって生じたもの⇒無謀な行為が存在しないことについてXが立証責任を負う。
②Y1(山口県)に生じた損害のうち橋梁復旧関連費用は、道路法58条1項所定の原因者負担金に該当する公法上の債権⇒船主責任制限法による責任制限の対象にならない⇒本件事故による制限債権の額が責任限度額を超えないことが明らかで、Xの申立てには船主責任制限法25条2号所定の棄却事由がある。
  判断 船主責任制限法3条3項所定の責任制限阻却事由の存在の立証責任は債権者であるYらが負う。
Xに同項所定の無謀な行為があったとは認められない。 
道路法58条1項に基づく公法上の債権にも船主責任制限法の適用がある。
  解説 船主責任制限法:
海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約(「旧条約」)を国内法化したもの。
その後、1976年の海事債権についての責任の制限に関する条約(「新条約」)の批准及び旧条約の廃棄⇒新条約に 依拠して改正。
責任制限阻却事由:
旧条約⇒船舶所有者についてんは、故意又は過失がある場合、その者に責任制限を認めない。
立証責任は、法廷地法の定めに委ねられた。

責任限度額の引き上げを伴う責任制限制度合理化⇒責任制限阻却事由を限定する必要。
新条約⇒船舶所有者の責任制限阻却事由を故意または無謀な行為によって損失が生じた場合に限定。
その立証責任は債権者が負う。
責任制限の主体は、船主責任制限法2条1項2号、2号の2,3号所定の船舶所有者等及び救助者並びにその被用者等。
船舶所有者等又はその被用者等のうち1人が船主責任制限法で定めるところによりその責任を制限すると、これらの責任制限の主体たりうる者全員につき責任制限の効果が生じる(6条1項)。
これらの者の責任制限阻却事由は共通であるが、阻却事由の有無は、個々の主体ごとに判断され、被用者等に阻却事由があることは、その使用者である船舶所有者等の責任制限の可否に影響を及ぼさない。
法3条所定の責任制限阻却事由の立証責任は、改正前から債権者にあるとされていた。
責任を制限することができる債権:
船主責任制限法3条1項及び2項の各号に掲げられ、各号中に反対の趣旨の明示がない限り、責任制限の対象になる。
  民事p44
水戸家裁R2.3.9  
  任意後見契約に関する法律10条1項の「本人の利益のために特に必要があると認めるとき」に該当するとされた事案
  事案 事件本人Cの養子Aから後見開始の申立て(甲事件)⇒成年後見人に選任。
その後、事件本人Cと任意後見契約を締結した弁護士Bから任意後見監督人選任の申立て(乙事件)がされた。 
①CとE(Cの妻)はAと養子縁組。
②Cは、F(Cの弟)の子I・Gと養子縁組。
③乙事件申立人Bは、Cの申立代理人として、Eの後見開始の審判の申立て⇒Eの成年後見人に。
④CとBの間で任意後見契約締結⇒任意後見登記。
⑤Cは、Bと同じ事務所の弁護士に訴訟委任し、BはEの成年後見人として、Aを被告として離縁の訴え。
⑥Aは、水戸家裁に、BをEの後見人から解任するよう申し立てた⇒Bは水戸家裁の勧めにより辞任の申立て⇒水戸家裁はそれを許可し、J弁護士及びK社会福祉士をEの成年後見人に。
⑦Aは甲事件申立て、その後Bは乙事件の申立て。
乙事件での診断書では、Cについて「自己の財産を管理・処分することができない。(後見相当)」にチェック。
⑧Cは、F及びGとの間で、1000万円をGに、500万円をFに帰宅する契約を締結。
⑦の診断書の日付け以降、GはCの預金口座から1500万円を引き出しているほか、合計360万円を引き出す等している。
  規定 任意後見法 第一〇条(後見、保佐及び補助との関係)
 任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。
  判断 ・・・

①Bが任意後見人になることにより、その権限を濫用される具体的ななおそれまではみとめられないものの、公平らしさという点で問題が残る。
②Cを保護するためには、同意権、取消権のない任意後見制度では、Cの保護の万全を期することができるかについて問題がある。

後見を開始することが「本人の利益のために特に必要がある」というべきであり、成年後見人としては中立的な第三者である弁護士を選任することが相当である。

甲事件の申立てを認容し、
乙事件は却下。
  解説 任意後見法10条1項:
立法担当者:
特別養子縁組の要件に関する民法817条の7に規定する「子の利益のため特に必要があると認めるとき」と同様、特別の必要性を要件とする趣旨の規定。
具体例:
①本人が任意後見人に委託した代理権を行うべき事務の範囲が狭すぎる上、本人の精神の状況が任意の授権の困難な状態⇒他の法律行為について法定の代理権の付与が必要な場合
②本人についての同意見・取消権による保護が必要な場合
本審判:
任意後見制度優先の原則を厳格に考える立場を前提に、②の本人についての同意権・取消権による保護が必要な場合に該当。
  知財p47
大阪高裁R2.7.31  
  登録意匠の要部の認定と、出願後の公知意匠の参照
  事案 トレーニング機器の意匠(「本件意匠」)に係る意匠権を有するXが、Yによるトレーニング機器の製造・販売は本件意匠権の侵害⇒Y商品の製造・販売の差止め等を求めた。 
  争点 Y商品に係る意匠(「Y意匠」)との類否。 
  原審 Y意匠は本件意匠に類似しない⇒Xの請求を棄却。 
  経緯 Y意匠については、 Yにより意匠登録。
Y意匠は本件意匠に類似するから意匠法3条1項3号により意匠登録を受けることができないとしてXにより無効審判請求⇒Y意匠は本件意匠に類似しないとして請求不成立審決がされ、審決取消訴訟を経て確定。
原審判決において、Y意匠が本件意匠に類似しないことを理由に、被告意匠の登録の有効が確定。
Y意匠は、本件意匠又はこれに類似する意匠利用するものではなく(意匠法26条1項)、被告商品は、登録されたY意匠そのものの実施であって、Yが業としてY商品を製造等することは、Yが専有する登録意匠の実施権(同法23条)の範囲内の行為。
  判断 原審判決は相当。 
  解説 ●意匠の類似判断の枠組 
意匠権侵害訴訟における意匠の類似判断の枠組について「意匠を全体として観察することを要するが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して、需要者の最も注意をひきやすい部分を意匠の要部として把握し、登録意匠と相手方意匠が、意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを観察することが必要」(近時のほとんどの裁判例で採用されている)

公知意匠を参酌

意匠の新規性(意匠法3条1項)及び創作非容易性(同条2項)という創作性の登録要件を充足して登録された意匠の範囲については、その意匠の美感をもたらす意匠的形態の創作の実質的価値に相応するものとして考えなければならず、公知意匠を参酌して、登録意匠が備える創作性の幅を検討する必要がある
  ●要部を把握する意匠 
ほとんどの裁判例は、被疑侵害意匠の要部のみを把握して両意匠の類否判断。

「登録意匠と被疑侵害意匠とが類似するか」という両意匠を等値した観点からではなく、
「被疑侵害意匠が登録意匠に類似するか」という観点、
すなわち登録された意匠の範囲内に被疑侵害意匠が含まれているかという観点からなされている。
  ●参酌する公知意匠について 
前記枠組みにおいて参酌する公知意匠は登録意匠の出願前のもの。
but
本判決:登録意匠の要部を認定するに当たり、出願後の公知意匠を観察することによってもの、当該登録意匠に含まれる当該形態が、需要者の注意を引くかどうかを判断することができると考える

本件意匠に先行、後行する公知意匠を総合しても、本件意匠のパッド片の形状等がありふれたものであるとか、需要者の注意を引くものではない。

①ヒット商品こそ往々にして模倣品が表れる⇒登録意匠を真似た後行意匠が多数出現したという出現後の事情を参酌することにより、その登録意匠のそれが出願された時点の要部が事後的に明確になることもあろう。
②登録意匠に先行、後行する意匠を参酌しても登録意匠に含まれる特定の形状等がありふれたものとはいえない⇒登録意匠に先行する意匠のみを参酌した場合は理論上なおさらその形状等はありふれたものとはいえない。
  商標と同様、登録意匠と別の登録意匠が類似することは本来ないという考え方がある。

先行登録意匠Aと後行登録意匠Bについて、
Aを引用意匠とするBに係る意匠登録無効審判と
Bを被疑侵害意匠とするAに係る意匠権侵害訴訟
とで類否判断の結論が異なってはならない

前者でAの出願後かつBの出願前に公知となった意匠が参酌されるのであれば、その意匠はこの意匠権侵害訴訟においても参酌されることになる。
その場合、Aを真似た後行意匠を多数参酌することにより、Aのそれが出願された時点の要部が事後的にあり触れたものであるとされることがあり得る。
  労働p67
最高裁R2.10.13  
 
  ①事件  事案 Y1と機関の定める労働契約を締結して東京地下鉄㈱の駅構内の直営売店における販売業務に従事していたX1およびX2が、Y1と期間の定めのない労働契約を締結している労働者のうち売店業務に従事している者とX1らとの間で、退職金等に相違があったことは労契法20条に違反⇒Y1に対し、不法行為等に基づき、前記相違に係る退職金に相当する損害賠償等を求めた。 
  原審 X1らの締結した契約が原則として更新され、実際にX1らが10年前後の長期間にわたって勤務⇒少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金、具体的には正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら一切支給しないことは不合理
⇒X1らのような長期間勤務を継続した「契約社員B」に全くの退職金の支給を認めない点において、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たる⇒退職金に関する不法行為に基づく損害賠償請求の一部を認容。 
判断 X1らの退職金に関する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない⇒棄却されるべき。
  ②事件   事案 Y2(学校法人大阪医科薬科大学)と有期労働契約を締結し、教室事務を担当するフルタイムのアルバイト職員として勤務したX3が、無機労働契約を締結している正社員とX3との間で、賞与等に相違があったことは労契法20条に違反⇒Y2に対し、不法行為に基づき、前記相違に係る賃金に相当する額等の損害賠償を求めた。
Y2において、正社員には年2回の賞与が支給され、その支給額は通年で基本給4.6か月分が一応の基準。
アルバイト職員には賞与なし。
  原審 Y2の正社員に対する賞与は、正職員としてその算定期間に在籍し、就労していたことの対価としての性質を有する⇒同期間に在籍し、就労していたフルタイムのアルバイト職員に対し、賞与を全く支給しないことは不合理。
X3につき、同時期に新規採用された正社員と比較し、その支給基準の60%を下回る部分の相違は不合理⇒賞与に関する不法行為に基づく損害賠償請求の一部を認容。 
  判断 X3らの賞与に関する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない⇒棄却されるべき。
  解説    労契法20条(平成30年改正前のもの):
有期契約労働者の労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者の無期契約労働者の労働条件と相違する場合において、
当該労働条件の相違は、
①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)
②当該職務の内容及び配置の変更の範囲
③その他の事情
を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

有期契約労働者と無期契約労働者との相違に応じた均衡のとれた処遇を求める規定(最高裁H30.6.1)。 
最高裁:
労契法20条に違反するか否かにかかる判断の枠組みについて、
労契法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいう。

労契法20条にいう「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう。

有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき。
  ①事件判決:
①Y1における退職金につき、正社員に対する退職一時金制度によるもの
②退職金規定により支給基準等が定められ、本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものとされている
③支給対象となる正社員は、Y1の本社の各部署や事業本部が所管する事業者等に配置され、業務の必要により配置転換等を命ぜられることもあった
④退職金の算定基礎となる本給は年齢によって定められる部分と職務遂行能力に応じた資格及び号俸により定められる職能給の性質を有する部分から成るものとされていた

前記退職金は、労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、
Y1は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたもの。
②事件判決:
Y2における賞与につき、その支給基準や支給実績に加え、正職員の基本給が職能給の性格を有するものといえることや、おおむね、業務の内容の難度や責任の程度が高く、人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていた

前記賞与は、労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものであり、Y2は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から賞与を支給することとしたものと言える。
①事件判決と②事件判決は、
Yらにおいて退職金や賞与を無期契約労働者のみに支給することが、使用者の経営・人事制度条の施策として一定の合理性があることを含意しているものと考えられるが、
有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違について、長期雇用のインセンティブ論をもってその不合理を否定する事情とみることを一般的に肯定しているものではなく、
個別の事情を踏まえて判断された退職金や賞与の趣旨に照らし、前記のような制度設計をすること自体が合理性を欠くものとはいい難い。
①事件判決:
Y1における退職金の趣旨を踏まえて、売店業務に従事する正社員と「契約社員B」の職務の内容等を考慮し、両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。

その検討に当たっては、
労契法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲につき、売店業務に従事する正社員と「契約社員B」との間に一定の相違があったことが否定できない。
同条所定の「その他の事情」として、
売店業務に従事する正社員と他の多数の正社員との間に職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲について相違があること
売店業務に従事する正社員は、過去に行われた関連会社等の再編成によりY1に採用されることとなった者と「契約社員B」から登用された者が約半数ずつでほぼ全体を占めるなど、
その採用の経緯や職務経験等に照らし、賃金水準を変更したり、他の部署に配置転換等をしたりすることが困難な事情があった
Y1において契約社員が正社員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたという事情のも指摘され、これらが総合的に考慮。
  使用者は、労働条件を設定する際には、同一の労働条件を設定しようとする労働者全体の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲を考慮することが通常
⇒比較の対象を有期契約労働者と同様の業務に従事する無期契約労働者のみに限定するとしても、当該無期契約労働者が、同じ労働条件の適用を受ける無期契約労働者全体においてどのように位置づけられるのかについて、労契法20条所定の「その他の事情」として考慮することができる。
  「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条に短時間労働者及び有期雇用労働者bの基本給、賞与その他の待遇について通常の労働者の待遇との間の不合理な相違を設けることを禁止する旨の定めを置く。 
  労働p79
宇都宮地裁R2.10.21  
  退職勧奨が不法行為とされた事例
  事案 バス会社Y1の正社員であるXが、上司であるY2ないしY5から退職強要等を受けた⇒Y2ないしY5に対し共同不法行為に基づき、Y1に対して使用者責任に基づき、慰謝料等の損害賠償を求めた。 
  争点 Y2らの発言が不法行為に当たるか
  判断 Xが主張する退職強要行為のうち、途中で原告が辞めたくないと述べたにもかかわらず、Y2らが3日間にわたり、
①Y1には要らない
②他の会社に行け
③退職願を書け
等という発言をし、
その発言の態様は、複数人の上司であるY2らからX1人に対してされたもので、
その時間も長いものであった。
その後Xがうつ状態に至った。

Xの非難に値する接客態度が発覚したことを踏まえても、Xの自由な意思決定を促す行為として許される程度を逸脱する⇒不法行為に当たる。
その余の行為のうち、人格否定については、
Xの接客態度に問題があったことを踏まえ、社会通念上許容される範囲を超えた違法なもの。
Xを「チンピラ」「雑魚」と呼称した行為は、指導との関連性が希薄で、社会通念上許容される指導を超え、不法行為に当たる。
過小な要求については、同種の読書と文書の作成を1か月以上にわたり繰り返し指示

退職勧奨の違法性等の事情を総合して、不法行為に当たる。
  解説 退職勧奨:
辞職を勧める使用者の行為、又は使用者による合意解約の申込みに対する承諾を勧める行為。

それが労働者の退職の意思表示を促す事実行為に留まる限り、解雇とは性質が異なる⇒解雇権濫用法理の適用はない。
社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な退職勧奨⇒労働者は使用者に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求することができる。

違法性の一般的判断基準:
労働者が自発的な退職意思を形成するために社会通念上相当と認められる程度を超えたか否かという基準(東京高裁H24.10.31)。
具体例:
労働者が退職しない旨を表明しているにもかかわらず長時間・長期間にわたり退職勧奨を繰り返した事案(最高裁)
無意味な仕事の割当てによる孤立化等の嫌がらせを伴って退職勧奨が行われた事案(東京地裁)
その名誉感情を不当に害する屈辱的な言辞を用いて繰り返し執拗に退職勧奨が行われた事案

社会通念上相当と認められる範囲を超えた違法な退職勧奨がされたと認定。
本判決:
詳細な事実認定をした上で、
Xの自由な意思決定を促す行為として許される限度を逸脱するか
という判断基準に照らして検討。
   刑事p94
東京高裁R2.7.13
  医師の準強制わいせつ事件
  原審 無罪
Aは麻酔覚醒時のせん妄の影響を受けていた可能性がある⇒A証言の信用性には疑問がを差し挟むことができる。
アミラーゼ鑑定及びDNA定量検査も信用性に疑義があり、信用性があるとしてもその証明力は十分なものとはいえない⇒A証言の信用性を補強できないし、それ自体から被告人の犯行を推認させるものともいえない。

合理的な疑いが残る。
  判断 有罪
A証言は信用できる。
原審:Aが麻酔覚醒時に暴言や見当識を失っているような発言
vs.
カルテに記載されておらず、その認定には疑問がある。
Aは上司にメッセージを送信⇒せん妄による意識障害があったことと相容れない。
Aがせん妄⇒直ちに性的幻覚を体験した可能性があることにはならない。
Aが訴える内容は、単に具体的であるにとどまらず、揺れ動く心理状態を反映する生々しいものである上、記憶の欠損がなく、一貫している。
⇒せん妄による幻覚として説明することは困難。
控訴審における証人(医師)の証言によれば、Aはせん妄による幻覚を見たという可能性はなく、A証言の信用性に問題はない。
アミラーゼ鑑定、DNA型鑑定、DNA定量検査は、A証言の信用性を支え、これと相まってわいせつ被害を立証するものであれば足りる。
アミラーゼ鑑定で陽性反応を得られたというR証言の信用性を否定すべき理由はない。
陽性反応についての客観的資料がないことから直ちにR証言の信用性が失われるとはいえない。
唾液は他の体液よりもアミラーゼの濃度が高く、DNA定量検査の結果⇒Aの左乳首には唾液が付いていた可能性が高い。
DNA定量検査についても、検査過程の資料が保存されていない
but
検証可能性がかけているからといって、検査の信用性が直ちに損なわれることにはならない。
原審:本件付着物から被告人のDNA型のみ検出されたことについて、100倍法則からではなく、他の原因による可能性があるとする。
but
V(弁護人請求の専門家証人)による実験の際の付着物の採取方法が本件付着物の採取方法と同視できるかは明らかではない。
本件付着物の採取方法からはAのDNAが付着しなかったとは考え難い。
Vによる実験のうち触診実験⇒女性の乳頭から採取されたDNAの量は、最大でも本件付着物から採取された量の18.5分の1にとどまる。
⇒触診により付着した汗等の体液から被告人のDNAが付着した可能性はきわめて低い
⇒アミラーゼ鑑定の陽性反応が汗等の体液による可能性を否定できないとした原判決の説示は、論理則、経験則等に照らして不合理。
会話による飛沫がDNA定量検査の結果をもたらした可能性。
vs.
Aの左側に立っていたEの方がAの左胸に近かったにもかかわらず、EのDNA型は検出されていない。
Vによる実験のうち飛沫実験で採取された飛沫唾液の最大DNA量と比較して、本件付着物のDNA量は約642倍。
⇒A証言の信用性を補強する証明力を十分有している。

A証言+鑑定等の証拠を総合⇒合理的な疑いを容れない立証がある。
  解説 原判決:Aが麻酔覚醒時に暴言や見当識を失っているような発言をしたという事実を認定し、それを1つの根拠として、Aは幻覚を見ていた可能性があると判断。
本判決:カルテに記載なし⇒原審の認定には疑問があると指摘。
but
それらの発言が存在しなかったとの判断は示されておらず、最終判断に至らない程度の疑問を前提に原判決の認定を非難することの当否は問題。 
捜査段階の鑑定等において、残された資料の廃棄など、鑑定結果の事後的検証可能性を失わせる手法。
原判決:それらを理由に鑑定等の信用性を否定することを示唆(原判決は、その判断は留保して、仮に信用性が肯定できるとしても、必要な高い証明力がないと判断。)。
本判決:科学的厳密さを損なうことにはなるが、直ちに鑑定等の信用性が失われるとはいえないとして、鑑定等の証明力を検討し、A証言の補強としての価値を認めた。
2488・2489   
  特報p5
最高裁R3.2.24   
  那覇孔子廟訴訟上告審判決
  事案 那覇市の管理する都市公園内に儒教の祖である孔子などを祀った施設を設置することをZに許可した上で、その敷地の使用料の全額を免除した当時の市長の行為は、憲法の定める政教分離原則に違反し、無効⇒YがZに対して平成26年4月1日から同年7月24日までの間の公園使用料181万7063円を請求しないことが違法に財産の管理を怠るもの⇒市の住民であるXが、Yを相手に、地自法242条の2第1項3号に基づき前記怠る事実の違法確認を求めた住民訴訟。 
  判断 最高裁H22.1.20と同様の判断枠組みに依拠した上で、本件免除を違憲と判断。
地自法231条の3第1項、240条、地方自治法施行令171条の2から171条の7まで等の規定⇒客観的に存在する使用料に係る債権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず、YがZに対して本件使用料の全額を請求しないことは違法。
市長が市の管理する都市公園内の国公有地上に孔子等を祀った施設を所有する一般社団法人に対して前記施設の敷地の使用料の全額を免除した行為は、次の(1)~(5)など判示の事情の下では、前記施設の観光資源等としての意義や歴史的価値を考慮しても、一般人の目から見て、市が前記法人の前記施設における活動に係る特定の宗教に対して特別の便益を提供し、これを援助していると評価されたもやむを得ない⇒憲法20条3項に違反する。
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
  規定 憲法 第20条〔信教の自由、国の宗教活動の禁止〕
信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
②何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
③国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
憲法 第89条〔公の財産の支出利用の制限〕
公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
  解説 判例:
政教分離原則の基礎となり、その解釈の指導原理となる政教分離原則は、国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが、国家が宗教との関わり合い持つことをを全く許されないとするものではなく、
宗教との関わり合いをもたらす行為の目的及び効果に鑑み、
その関わり合いが社会的、文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするもの。

目的効果基準。
ある行為が憲法20条3項により禁止される「宗教的活動」に該当するか否かを検討するに当たっては、当該行為の主催者が宗教家であるかどうか、その順序作法(式次第)が宗教の定める方式にのっとったものであるかどうかなど、当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく、当該行為の行なわれる場所、当該行為に対する一般人の宗教的評価、当該行為者が当該行為を行なうについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程度、当該行為の一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し、社会通念に従って、客観的に判断しなければならないとされ、
憲法89条により禁止される「公金その他の公の財産・・・を支出し、又はその利用に供し」(「公金支出行為等」)に該当するか否かについても、
前記の政教分離原則の意義に照らして、当該公金支出行為等による国家と宗教との関わり合いが前記の相当とされる限度を超えるものをいうものと解すべきであり、これに該当するかどうかを検討するに当たっては、憲法20条3項と同様の基準によって判断しなければならないとされていた。
  特報p16
広島地裁R2.7.29  
  「黒い雨」訴訟1審判決
  事案 Xらが、原爆投下後に降ったいわゆる「黒い雨」に遭った⇒原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律1条3号にいう「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当
⇒被爆者健康手帳交付申請却下処分の取消し及び同交付の義務付け等を求めた。 
  判断  ●承継人らにおける訴訟承継の成否 
最高裁H29.12.18:
申請者が被爆者健康手帳行為付及び健康管理手当認定の各申請をしている場合に、各申請却下処分の取消しを求めるとともに、被爆者健康手帳の交付の義務付けを求める事案:
健康管理手当の受給権が、当該申請者の一身に専属する権利ではなく、相続の対象となるもの⇒訴訟係属中に申請者が死亡した場合には、その相続人が当該訴訟を承継。
本件:健康管理手当認定申請却下処分の取消し等を求めていない
but
①被爆者健康手帳の交付処分の効力を申請日に遡らせる取扱いが既に確立した行政実務となっている。

被爆者健康手帳交付の法的効果は、広く被爆者援護法が規定する諸手当の受給権等との関係で、交付申請日に遡って生じるのが相当
②被爆者健康手帳が交付された場合に遡って発生しる一般疾病医療費(被爆者援護法18条)の受給権が、当該申請者の一身に専属する権利ではなく、相続の対象となる
③申請者が被爆者であるとすれば、葬祭料(被爆者援護法32条)の支給を受け得る者について、行政処分の効力を排除するために訴訟承継を肯定すべき

承継人らによる訴訟承継を認めた。
  ●被爆者援護法1条3号にいう「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」ことの意義 
①被爆者援護法の制定に至る経緯等
②原爆医療法が、原爆投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害(被爆による健康上の障害の特異性と重大性)に着目して、国家補償的配慮等に基づき被爆者援護のための諸制度を規定(最高裁)

「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の基にあった」とは原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったことをいう。
  ●Xらが、被爆者援護法1条3号にいう「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当するか 
  ◎「黒い雨」降雨域について 
「黒い雨」降雨域を的確に示す気象記録や残留放射能の調査結果などの客観的証拠はないない。
but
本判決:
各研究結果の調査手法や基礎資料の数、内容等に加え、その他資料との整合性を詳細に検討⇒多数の住民が揃って内容虚偽の回答をしたとは考え難い⇒「黒い雨」降雨域は宇田雨域にとどまるものでなく、より広範囲に「黒い雨」が降った事実を確実に認めることができる。
⇒増田雨域は有力な資料として位置付けられ、大瀧雨域も相応に斟酌すべき。
「黒い雨」降雨域の全体像を明らかにすることは困難。
Xらが所在した場所と宇田雨域、増田雨域及び大瀧雨域が位置関係を手掛かりに、「黒い雨」が降った蓋然性について検討し、Xらの「黒い雨」に遭ったという供述等の内容が合理的であるかを吟味すべき。
  ◎「黒い雨」体験者の被爆者援護法1条3号該当性(総論)について 
 
①原爆が投下された際及びその後において、「黒い雨」を直接浴びるなどしたり、「黒い雨」降雨域で生活したりしていたこと、
②健康管理手当の支給対象となる11種類の障害を伴う疾病に罹患したこと
を要件として、
「黒い雨」体験者は、被爆者援護法1条3号の「被爆者」と認定すべき
⇒第1種健康診断特例区域の外に所在した者についても「被爆者」と認定され得る。
  解説 402号通達の取扱いの被爆者援護法に照らした合理性を是認した上で、これを一歩進め、「黒い雨」体験者を同様の枠組みで被爆者と認定すべきと判断。
通達による取扱いが通達の取扱いが、直ちに法律の解釈に結び付くわけではない。
but
①被爆者援護法に照らした402号通達の合理性を検討の上、これが確固たる制度として永年にわたり整備、拡充が続けられてきたもので、法令上の根拠等に係る疑義が指摘されるなどしたことはないなどといった事情
②法律による行政の原理

402号通達による取扱いを被爆者援護法1条3号の解釈に取り入れている。
十分な科学的根拠なく、第1種健康診断特例区域内外で「被爆者」の認定を別にしてきた被爆者援護行政の不合理を指摘。
内部被ばくの危険性は、既に確立した判断となっている。
第1種健康診断特例区域指定の適法性等についても争点
but
被爆者健康手帳に関するXらの請求を全部認容⇒Xらが予備的請求と位置付けたこの点の判断はしていない。
  行政p145
奈良地裁R2.7.21  
  高額での土地購入が市長の裁量権の範囲を逸脱したもので、違法とされた事例
  事案 奈良市の住民であるXら及びZら(共同訴訟参加人)が、
奈良市長であるAが新たな火葬場を建設するために、地権者であるBらとの間で、土地の売買契約を締結したことについて、
①代金額が高額に過ぎるなどの違法
②火葬場の建設工事契約の中に本件買収地に投棄されている産業廃棄物の撤去費用等を含めて奈良市が負担することは違法

奈良市の執行機関であるYに対し、
(1)
①主位的に、本件売買契約を締結したA及びBらに対して、民法709条及び719条に基づく損害賠償請求として、本件売買契約の代金額相当額の返還を請求することを求め
②予備的に、本件売買契約が無効である旨主張して、民法703条に基づく不当利得返還請求として、本件売買契約の代金額相当額の返還を請求することを求めるとともに、
(2)
本件請負契約の代金のうち、産業廃棄物の撤去費用等の支出の差止めを求めた。
  判断 ①・・・・本件売買を締結する必要性や交渉の経緯を踏まえても、産業廃棄物の処理費用を考慮すると、本件買収地は実質的には無価値
②産業廃棄物の存在を価格形成要因から除外した鑑定額の3倍以上である本件売買契約の代金額は余りにも高額に過ぎる
③奈良市において、土地収用法に基づく用地取得について検討した形跡が窺われない

本件売買契約の締結行為は、Aの市長としての裁量権の範囲を逸脱したものであり、違法。 
本件買収地は実質的に無価値⇒本件売買契約の締結により、本件売買契約における代金額相当額の損害が奈良市に生じた。
Bらについては、一般に契約締結の過程で、一方当事者が自己に有利な条件を提示、要望するのは当然というべき⇒不法行為は成立しない。
本件売買契約の締結は、Aの市長としての裁量権を著しく逸脱し、又は濫用したものとまでは認め難い⇒本件売買契約が私法上無効であると認めることはできない。

Aの不法行為責任を肯定し、Aに対して、本件売買契約の代金額と同額の支払を請求sるうよう求める限度で、Xら及びZらの請求を認容。
  解説 地方公共団体の長がその代表者として不動産の売買契約を締結することは、当該不動産を取得する目的やその必要性、契約の締結に至る経緯、契約内容に影響を及ぼす社会的、経済的要因やその他諸般の事情を総合考慮した合理的な裁量に委ねられている。

当該契約に定められた売買代金額が鑑定評価等において適正とされた売買代金額を超える場合であっても、前記のような諸般の事情を考慮した上でなお、地方公共団体の長の判断が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものと評価されるときでなければ、当該契約に定められた売買代金額をもって直ちに当該契約の締結が地自法2条14項等に反し違法となるものではないと解されている。
(最高裁H25.3.28) 
  行政p157
札幌地裁R2.8.24 
  行手法14条1項本文の理由提示の要件を満たさない⇒運転免許取消処分を取り消し
  事案 北海道公安委員会から、運転免許を取り消し、取消しの日から1年間を免許を受けることができない期間として指定する処分を受けた⇒本件処分の理由とされた交通事故についてXに安全配慮義務違反はなく、また、本件処分には理由提示の不備の違法がある⇒Y(北海道)を相手方に本件処分の取消しを求めた。
  争点 ①本件事故に係るXの過失の有無
②本件処分に係る理由提示の違法性 
  判断  ●争点① 
①本件道路に歩行者が存在することは予見可能
②本件事故時の視界の状況⇒Xには、歩行者と安全にすれ違うために徐行するか、徐行によっても歩行者の安全を確保できない場合には、一時停止して視界の回復を待つ義務があった

Xが本件車両を一時停止又は直ちに停止することができる速度まで減速させることなく進行させ、本件事故を発生させたことについて、進路の安全を十分に確認することなく、道路及び交通の状況に応じて、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転することを怠ったとうい安全配慮義務違反があった。
  ●争点② 
最高裁H23.6.7を引用し、
行手法14条1項本文の理由提示の適法性は、
当該処分の根拠法令の規定内容、
当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、
当該処分の性質及び内容、
当該処分尾原因となる事実関係の内容
等を総合考慮してこれを決定すべき。
本件処分書は、
原告の運転行為に安全運転義務違反(道交法70条違反)があるとした場合の処分の根拠法令とその適用関係は網羅している
but
同条が同法各条に規定する具体的な義務規定を補う趣旨で設けられた抽象的な規定であり、安全運転義務違反となる場合を定める具体的基準等が見当たらない

個別具体的な事実関係によっては、同条違反であることが示されるだけでは、処分の名宛人である運転者において、自己にどのような運転をすべき義務が生じており、又は、どのような運転行為が安全運転義務違反とされるのかを認識することが困難な場合があり、
そのような場合に処分理由が同条違反であるとのみ示されたとしても、処分の名宛人に対して不服申立ての便宜が与えられたとはいい難く、
また、処分をする行政庁においても、具体的な義務内容とその義務違反に当たる行為を認識しないまま処分に至るおそれがあり、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制する趣旨に反することにもなる

前記の場合において、処分理由として、同条違反であるとしか示されなかったときは、行手法14条1項本分が定める理由の提示としては不足する。
本件事故に係る事実関係の下においては、処分理由とされ得る具体的な安全運転義務違反行為が複数あり得、しかも、それら複数の義務違反行為は両立し得ない
⇒前記の場合に当たる

処分理由として、道交法70条違反であるとしか示さなかった本件処分における理由の提示には行手法14条1項本分に反する違法がある。

本件処分を取り消した。
  規定  行政手続法 第一四条(不利益処分の理由の提示)
行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。
道路交通法 第七〇条(安全運転の義務)
 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。
  解説  行手法14条1項本文の理由提示の適法性:
上記平成23年最判 
その判断の前提となる理由提示の趣旨及び理由提示が備えるべき要件:
①不利益処分に理由提示を要するのは、行政庁の判断の慎重、合理性を担保して、その恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせることにより、相手方の不服申立てに便宜を与えることにある。
その理由の記載を欠く⇒当該処分自体がい違法となり、原則として取消事由となる。
②理由提示の程度:
処分の性質、理由提示を命じた法律の趣旨・目的に照らして決せられる。
③処分理由:
その記載自体から明らかでなければならなず、単なる根拠法規(根拠法条)の摘示は、理由記載には当たらない。
④理由提示:
相手方がその理由を推知できるか否かにかかわらず、その記載自体からその処分理由が明らかとなるものでなければならない。
  本件処分の根拠法条とされている道交法70条:
車両、道路等の状況によって、運転者に課される運転義務には様々な形態があり、同法各条が規定する具体的な義務規定のみではまかないきれない⇒それを補う趣旨で設けられた抽象的な規定。

個別具体的な事実関係に照らし、安全運転義務違反と記載するのみでは、処分の名宛人が負っていた義務の内容や義務違反行為の内容を認識することが困難な場合があり、このような場合には、前記③④の観点から理由提示としては不十分。 
本件事故の態様
⇒名宛人であるXにとって、安全運転義務違反と記載されるのみでは、Xの負っていた義務の内容や義務違反行為の内容を一義的に特定することは困難

本件の事実関係の下では、本件処分における理由提示が不適法と判断。
  民事p167
東京家裁R2.9.7  
  特別養子の準拠法が問題となった事案
  事案 カナダ国籍の申立人と日本国籍の申立人妻が、日本国籍の未成年者との特別養子縁組を申し立てた事案。 
  判断 申立てを認容し、未成年者を申立人らの特別養子とする旨の審判。 
  解説   特別養子縁組制度について、民法の一部を改正する法律(令和1年法律第34号)で改正。
施行期日:令和2年4月1日。
but
施行時に裁判所に係属している事件には適用されない。

本件は改正前の法律が適用。
  ●隠れた反致について 
養子縁組における準拠法:
養親となるべき者の本国法(法適用通則法31条1項前段)

同項後段:
養子となるべき者の本国法によればその者若しくは第三者の承諾若しくは同意又は公的機関の許可その他の処分(「保護要件」)があることが養子縁組の成立要件⇒その要件も備えなければならない。


カナダ国籍の申立人夫との関係では、カナダ法及び子の本国法である日本法における保護要件が、
日本国籍である申立人妻との関係では、日本法が
それぞれ適用。
法適用通則法41条本文:
「当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。」という反致についての規定。

反致については、本国の国際私法に直接の抵触規定がなくとも、その国際私法全体から総合的に判断して日本法に準拠すべきものと認められる場合には、成立を認めるべきとされている。
その外国では国際民事訴訟法上自国に裁判管轄権のある場合には常に自国実質法を適用しているという場合に、その外国の国際私法全体として、もし日本の裁判所に管轄権があれば日本法を準拠法にするという態度をとっているものとして反致を認めるという考え方がある。(=隠れた反致)
  ●カナダ法における隠れた反致 
カナダについては、
カナダ一般の国際私法の明文の規定は見当たらず、一般にケベック州を除くカナダの諸州の法大系は英国のコモンローを継受⇒人の身分に関する国際私法についても英国の国際私法と同様の原則がとられているものと解される。

養子縁組は養親のドミサイルがありかつ養親と養子が居住している地の法律によるべきもの
という裁判例あり。

養親となるべき者のドミサイルの認定が必要。
ドミサイル(=そこを本拠とする意思(永住意思)をもって居住する地域):
法域ごとに異なるところがある。

カナダ:
まず、出生により、ドミサイルを取得が、
当事者の選択によって新たにドミサイルを取得することができる。

選択によるドミサイル取得:
①現実に居住をしていること
②そこに永住する意思
の2つの要件が必要。
  ●本件
①申立人夫が平成30年から日本で生活し、今後も相当期間にわたって日本に居住する予定
②申立人夫が日本への永住も希望

申立人夫のドミサイルが日本にある⇒反致の適用を肯定。
  刑事p170
大阪高裁H31.3.27  
  覚せい剤使用につき、解離性同一性障害の影響による心神耗弱を認めた事例
  事案 覚せい剤事犯(自己使用と所持)のうちの使用について、解離性同一性障害の影響による心神耗弱⇒同種自判による執行猶予中(自己使用2回で、懲役2年、執行猶予4年)の犯行でありながら、再度の全部執行猶予を付した事案。 
  一審 被告人が解離性同一性障害に罹患していることは認めた。
but
①それが不完全型であって、別人格が出現しても元来の人格も併存
②動機が十分了解可能

完全責任能力を肯定。 
懲役1年2月、その刑の一部である懲役4月の執行を2年間猶予。
  判断 A医師の見解をより他覚的に検討し、
犯行の2か月前頃から、「おっちゃん」の人格が被告人に憑依し、覚醒剤を買えとか使えと指示し、また、「おっちゃん」に殴られたり蹴られたりという体感幻覚
もともとあった希死念慮も強くなり、
抵抗できなくなって覚醒剤使用に至ったという、A医師の見解を基本的に採用。

使用について心神耗弱を認めた。 
  解説  一審と控訴審の違い:
解離性同一性障害の症状が犯行時どの程度深刻であったかの認定の違いによる。 
①被告人には以前から別人格が出現することがあったこと
②かつて交際相手から、覚醒剤の使用や暴力的性行為を強いられるなど相当辛い目に遭わされており、「おっちゃん」はその者の人格が影響したものと考えられる
③犯行当時は、「おっちゃん」に殴る蹴るなどされるという体感幻覚まであった
ことなど、
被告人や親族の供述とA医師の鑑定意見を基礎に認定

これが心神耗弱という判断に結びついた。
  解離性同一性障害(多重人格)により、責任能力への影響が認められた例は極めて少ない。 
詐病と診断
鑑定が前提とした被告人の公判供述が信用できない⇒鑑定も信用できない
解離性同一性障害に罹患していると認められても、責任能力をどのように考えるか?
A:多重人格のうち、副人格の状態で行なった行為につき、行為時の人格を問題にし、完全な責任能力を問えるという立場(行為者人格アプローチ)
B:主人格と行為時の人格との関連を問題にするという立場(グローバルアプローチ)
本件:
憑依型という特殊性もあるが、元来の人格(主人格)と副人格が併存する中で、副人格の主人格への働きかけの内容、程度等を検討し、責任能力(行為制御能力)の著しく減退した状態であった疑いを排斥できないとしたもの。
また、弁護人の私的鑑定意見が判決に採用された例として参考に。
2487   
  札幌地裁R3.3.17   
  同性婚と国賠請求 
  事案 米国最高裁:2015年6月26日、5対4の評決で、同性のカップルの婚姻を認めない州法(州憲法を含む。)の規定は合衆国憲法のデュー・プロセス条項及び平等保護条項(いずれも修正14条)に違反すると判断。
ドイツでも、立法により、2017年10月1日から同性カップルの婚姻が認められる。
日本でも、平成27年10月以降、同性のカップルの関係を公的に認めるパートナーシップ制度を導入する自治体が次第に増加。
平成31年2月に、同性カップル13組26人が、各地裁に、同性婚を認めない民法、戸籍法は、憲法13条、14条1項、24条に違反⇒国が必要な立法措置を講じていないことは国賠法1条1項の適用上違法⇒国賠請求訴訟。
  争点 ①同性婚を認めていない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定が憲法13条、14条1項、24条に違反するか否か
②同性婚を認めていない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定を改廃しないことが国賠法上違法の評価を受けるか否か
  判断   ●憲法24条、13条と同性婚 
憲法24条の制定経緯に加え、同条が「両性」、「夫婦」という異性同士である男女を想起させる文言を用いている⇒同条は、異性婚について定めたもので、同性婚について定めるものではない⇒民法及び戸籍法の諸規定が同性婚を認めていないことが、憲法24条に違反すると解することはできない。
具体的な制度の構築を国会の合理的な立法措置に委ねる憲法24条2項や、包括的な人権規定である憲法13条によって、同性婚を含む同性間の婚姻及び家族に関する特定の制度を求める権利が保障されていると解するのは困難。
  ●憲法14条と同性婚 
・・・・
⇒民法及び戸籍法の諸規定が、異性愛者に対しては婚姻という制度を利用する機会を提供しているにもかかわらず、同性愛者に対しては、婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは、立法府の裁量権の範囲を超えたもの⇒合理的根拠を欠く差別的取扱いに当たる。
  争点② 
・・・・
民法や戸籍法の諸規定が憲法14条1項に反する状態に至っていたことについて国会において直ちに認識することは容易ではない。

現在まで国会が同性婚を制約する民法及び戸籍法の諸規定を改廃していないことが国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。
  民事p23
最高裁R2.12.15   
  一部弁済と債務の承認による時効中断
  事案 Xが、Yに対し、平成16年(貸付け①)、平成17年(貸付け②)及び平成18年(貸付け③)に貸し付けられた貸金の返還を求めた事案。
Yは、平成20年に弁済を充当すべき債務を指定することなく一部弁済⇒この一部弁済により、平成17年及び平成18年の各貸付について、消滅時効が中断するか。 
  原審 本件弁済は法定充当(民法489条)により本件貸付①に係る債務に充当⇒Yは、本件弁済により、本件弁済が充当される債務についてのみ承認をした⇒本件債務②及び③について消滅時効は中断せず、時効消滅。
  判断 同一の当事者間に数個の金銭消費貸借契約に基づく各元本債務が存在する場合において、借主が弁済を充当すべき債務を指定することなく前債務を完済にするのに足りない額の弁済⇒当該弁済は特段の事情のない限り、上記各元本債務の承認(民法147条3号)として消滅時効を中断する効力を有する。
本件弁済が、本件債務②③の承認としての効力を有しないと解すべき特段の事情はうかがわれず、本件弁済は、本件債務②③の承認として消滅時効を中断する効力を有する。
  解説 時効中断事由である「承認」とは、
時効の利益を受ける当事者が、時効によって権利を失う者に対して、その権利の存在することを知っている旨を表示すること。
承認が時効中断とされた理由:
①相手方が権利存在の認識を表示したことを信頼⇒権利行使を怠ったことにならない(実体法的見方)。
②時効利益を受けるべき者が権利存在の認識を表示したことは権利存在の証拠になる(訴訟法的見方)。

承認の法律上の性質は、いわゆる観念の通知であって法律行為ではなく、中断しようとする効果意思は必要ない。
法律上方式は要求されていない⇒法律行為の解釈に準じて、債務者の一定の態度が承認なるかどうかが決せられるべきことになる。
大判昭和13.6.25
借主の態度をどのように評価するか(各元本債務の存在することを知っている旨を表示するものといえるか。)という問題であり、弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも弁済の充当の指定をしないときに、どの債務に弁済を充当するかという法定充当の問題とは別個の事柄。
債務の承認が認められる債務と法定充当により充当される債務とは当然に一致するものとはいえず、本件の原審にように、法定充当により充当される債務についてのみ承認するものと解することはできない。
  ★    ★上告受理申立て理由書 
    結論
1 原判決の概要
2 原判決の問題点
3 債務の承認の範囲
4 債務の承認と法定充当との関係
  民事p28
最高裁R2.11.27  
  公認会計士協会による決定の開示の差止請求の事例
  事案 公認会計士であるXらは、新たにン当時上場会社であったZと監査契約を締結⇒Y(日本公認会計士協会)の設置する品質管理委員会(「本件委員会」)に対して上場会社監査事務所名簿への登録を申請⇒本件委員会は、Xらに対して品質管理レビューを実施し、XらがZについて実施した監査につき、
「・・・財務諸表を作成することの適切性に関する監査証拠が十分に入手されていない」との限定事項を付した結論を表明した上で、前記限定時効はXらの表明した監査意見妥当性 に重大な疑念の商事させる⇒前記登録を認めない旨の決定(「本件決定」)

X等が、本件決定がYのウェブサイトで開示されるとX等の名誉又は信用が毀損されるなどと主張し、Yに対し、人格権に基づき前記の開示の差止め等を求めた。
  1審 請求棄却 
  原審 Yの表明した限定事項付き結論はXらにつき監査の基準に適合しない事実がないのに当該事実が見受けられるとしてされたもの⇒本件決定はその前提となる事実を欠く⇒請求認容。 
  判断 原判決中の敗訴部分を破棄し、同部分を原審に差し戻した
  解説 Yは、その会則等において、品質管理レビュー制度を設けるとともに、上場会社と監査契約を締結している公認会計士又は監査法人の監査の品質管理の充実強化を図るため、上場会社監査事務所登録制度を導入し、品質管理レビュー制度に組み込んで運用。 
  品質管理レビューで、
XらがZの平成26年3月期の監査で現金勘定の出入金記録の確認のための現金元帳と通帳及び領収書等との突合を監査対象期間の一部につき実施しないまま無限定適正意見を表明⇒基準不適合事実が見つけられる⇒限定事項付き結論。
but
原審:
前記突合を監査対象期間の全部につき実施すること等が「品質管理の基準」において必要とされているものではなく、Xらに基準不適合事実に該当する事実はない⇒本件決定は前提となる事実を欠く判断。
  監査の基準においては、いわゆるリスク・アプローチの考え方が採用:
重要な虚偽の表示が行なわれる可能性が高い事項につき重点的に監査の人員等を充てることで監査を効果的かつ効率的なものとする監査手法。
①Zには、Xらによる前記の監査の以前から、営業損失の連続計上等の財政状態の悪化、多額の現金保有の状態かといった事象。
②同監査において、Zが期末の現金実査を拒否したため、実査の遅延が生じていた。

Yの公表する監査実施指針(監査基準委員会報告書等)において、
不正な財務報告若しくは資産の流用につながり得るもの(不正な財務報告の動機・プレッシャーないし資産流用の機会)又はこれらの兆候を示すもの(不正な財務報告の姿勢・正当化)として、典型的なリスク要因として位置付けられている。

Zの監査におけるリスク(とりわけ、現金預金に関して財務諸表における重要な虚偽表示が生ずるリスク)は相当高いものであった

Xらは、Zの監査人として、前記リスクを適切に評価した上で、これに個別に対応した監査手続を実施し、監査意見の形成に足りる十分かつ適切な監査証拠を入手することが求められていた。
現金元帳と通帳及び領収書等との突合は、口座から出金された金員の現金勘定への入金記録を、当該出入金に係る証ひょう類と現金元帳との突合により網羅的に確かめることのできる実証手続⇒現金預金についての前記リスクに対応した監査証拠を入手し得る。

Xらが前記突合を監査対象期間の一部に限定して実施したこと等が前記リスクとの関係で十分かつ適切なものであったといえるか否かの点を、
前記の限定の理由や、Zの内部統制の整備状況の調査結果等を勘案して検討しなければ、Xらにつき基準不適合事実がないとはいい難い。
  三浦補足意見:
・・・上場会社監査事務所登録制度が、公認会計士の監査業務の専門性及び独立性を踏まえ、公認会計士等によって組織される上告人の制度として運用される趣旨等⇒上記事実があるとした場合はには、これを前提としてされた品質管理委員会の決定については、その専門性、独立性を踏まえた知見に基づく判断として、その合理的な裁量が尊重されるべき。
    ★上告受理申立理由書
  第1 はじめに
第2 前提事実
第3 最高裁判所の判例と相反する判断があること
第4 民訴法247条の解釈に関する重要な事項を含む(経験則違反)こと
第5 結語
  民事p75
新潟地裁R2.4.9  
  宗教法人に対する訴訟と「法律上の訴訟」
  事案 宗教法人であるY3会衆の前身団体に所属していたxが、平成18年7月にY3会衆から排斥の決定を受け約10年間にわたり復帰嘆願や排斥措置取消しの申出が認められなかったことにより精神的苦痛を被った

排斥措置に関与したY2,Y4、Y5に対して民法709条に基づき、
宗教法人であるY1協会及びY3会衆に対して民法715条に基づき、
損害金の支払を求めるとともに、
Yらに対し、人格権に基づき、本件排斥措置の中止(差止め)措置として、本件排斥措置がなされた信者として扱うことを禁止するよう求めた 
  争点 Xの各請求が法律上の争訟に当たるか 
  解説 宗教法人等に関する「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)について
最高裁H1.9.8:
「当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係に関する争訟であっても、
①宗教団体内部においてされた懲戒処分の効力が請求の当否を決する前提問題となっており、
②その効力の有無が当事者間の紛争の本質的争点をなすとともに
③それが宗教上の教義、信仰の内容に深くかかわっているため、右教義、信仰の内容
に立ち入ることなくしてその効力の有無を判断することができず、 しかも
④その判断が訴訟の帰趨を左右する必要不可欠なもの

右訴訟は、その実質において法令の適用による終局的解決に適しないものとして、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に当たらない。
  判断 本件排除措置の当否を判断するに当たり、
①「重大な罪」を犯したこと
②その罪を「悔い改め」ないこと
という排斥措置の実体的な要件の充足を検討する必要。 
これらの要件の充足については正に教義、信仰の内容に立ち入ることなく判断することはできない。
本件における「重大な罪」の内容としてYらが主張した「意図的に悪意のある嘘をつくこと」及び「中傷」についても、同様の理由から教義、信仰の内容に立ち入ることなく判断することはできない。

Xがかかる罪を犯したかどうか
さらに、排斥措置に相当するほどの「重大な罪」に当たるか(罪の重さ)の判断のいずれについても、やはり教義、信仰の内容に立ち入ることなく判断することはできない。
X:本件排斥措置の理由の説明もなく、適切な弁明の機会も与えられなかった⇒本件排斥措置は手続的にも違法
vs.
本件排斥措置の前後の事情を検討し、
本件排斥措置の実体的な要件に関する判断が不要であるといえるほどに重大な手続上の瑕疵あったとは認められない。

本件排斥措置の当否については、宗教上の教義、信仰の内容に立ち入らなければ判断ができない⇒Xの請求はいずれも「法律上の争訟」に当たらない。
  民事p83
大阪地裁H30.8.29  
  別れさせ工作委託契約と公序良俗違反(否定)
  事案 本訴:
別れさせ工作委託契約に基づき、残金70万円及び遅延損害金支払を求めた。
反訴:
本件契約及びこれに附随する調査委託契約が公序良俗に反し無効⇒不当利得返還請求権に基づき、本件契約等に基づいてYが支払った60万8000円及び遅延損害金の支払を求めた。 
本件契約の関係者は、いずれも独身で、本件契約の目的を達成するために関係者の意思に反して肉体関係を持つことが提示されたことはなく、実際に肉体関係が結ばれたこともなかった。
  判断 本件契約等が公序良俗に反するか否かについて、本件契約等の目的達成のために想定されていた方法は、人倫に反し関係者らの人格、尊厳を傷付ける方法や、関係者の意思に反してでも接触を図るような方法であったとは認められず、また、
実際に実行された方法も、工作員女性が対象男性と食事をするなどというものであった

本件契約等においては、関係者らの自由な意思決定の範囲で行うことが想定されていたといえ、契約締結時の状況に照らしても、本件契約等が公序良俗に反するとまではいえない。
  解説 判例:
人倫に反する行為、例えば、婚姻秩序・性道徳に反する行為は無効。
but
個別事案に無効か否かの線引きは微妙な場合もある。
ex.
配偶者のある者の婚姻予約及びその維持を目的とする扶養料給付の契約が無効とされた事例。
不倫関係にある女性に対する包括遺贈が一定の事情の下で無効でないとされた事例。 
近時の学説:
憲法の規定の趣旨を踏まえながら、公序の内容を類型的に考察する傾向にある。
本件:委任契約の目的となっている「別れさせ工作」が、交際に関する個人の自由(人格的自由、生命・身体の自由等)を不当に害しないかが問題。

個々の契約内容・契約締結過程に即して具体的に検討されるべき問題。 
改正後の民法90条:
「事項を目的とする」が削除。

法律行為の内容だけでなく法律行為が行われる過程その他の事情も広く考慮して無効とするか否かが判断されるという裁判実務の判断枠組みを明らかにしたもの。
  労働p88
東京地裁R2.8.28   
  執行役員退任⇒賃金減額が争われた事例
  事案 Xは、株式会社Yの常務執行役員で月額120万円の報酬⇒執行役員退任で、基本給月額34万1000円、役職を部長として、役職手当11万円を支給する旨の人事上の措置(本件措置①)⇒専任部長とされ、役職手当11万円をなくす措置(本件措置②)

Xは、本件各措置は不当な降格・降給であって無効⇒雇用契約上の地位として、本件各措置前の労働条件の確認を求めるとともに、差額賃金と遅延損害金の支払を求めた。 
  判断 執行役員としてのXの地位が雇用契約に基づくものであることは当事者間に争いがない。
Yにおける就業規則や給与規程及び執行役員規程の内容を子細に検討⇒
Yにおいては、従業員に対し、広く就業規則や給与規程が適用されるものとされており、その直接的な適用を受けない者は執行役員ほか就業規則所定の者に限られ、これらの者については別途規定が設けられることとされている。
執行役員規程が執行役委員に係る前記別途規程に該当し、同規程は、執行役員に就任した場合における、その間の労働条件を規程したもの。
①各規定間の位置付け
②執行役員規程が執行役員の就業条件(報酬を含む。)について別途の規定を置いた趣旨

執行役員在任中になされた特別待遇も退任に伴い終了し、執行役員就任時における旧来の労働条件に復することとなるとみるのがこれらの規程の趣旨に叶う。
Xに対して支払われていた常務執行役員当時の月額120万円は、Xが役付執行役員に就任していたことに基づくもの⇒このような対偶は執行役員の退任により終了し、旧来の労働条件が復することとなったとみるべき。
本件措置①:
①復することとなるべき旧来の労働条件よりも多額の給与による労働条件を保障
②執行役員退任後は、執行役員就任前における旧来の労働条件に復することとなる旨が各規定により根拠付けられている⇒Xにおいてもその旨予見すべきもの

人事上の濫用があったとはいえず、有効。
本件措置②:
役職定年制度規程に基づき、Xが役職定年となって選任部長とされたことにより役職定年の支給がなくなった⇒有効。
  解説  執行役員制度:一般的に取締役会が決定した基本方針に従ってその監督の下で業務執行にあたる代表取締役以下の業務執行機能を強化するために、取締役会によって選任される執行役員が、代表取締役から権限委譲を受けて業務執行を分担し、それぞれが担当する領域において代表取締役を補佐する制度。
執行役員は、会社法によって設けられた執行役とは異なり、会社の機関ではなく、その法的性質については、委任契約説、雇用契約説、両者の混合契約説。

本件:Xの執行役員としての地位が雇用契約に基づくものであることは争いのない事実とされている。
  人事上の措置としての役職・職位の降格に伴い賃金減額が行なわれた場合、
これが労働契約上予定されているもの
⇒就業規則に定められた賃金体系や基準に従っている限り、賃金減額も認めることができ、その場合、労働者の不利益の程度等によっては権利濫用となる場合もある。 
  執行役員についての、裁判例・文献等。 
  労働p97
大阪地裁R2.11.25   
  無期転換後の労働者に適用される就業規則が別途定められている場合
  事案 Xらは、Yと有期労働契約を締結し、トラック運転手として配送業務に従事しながら、以後更新を重ねた。 
前訴で、無事故手当、作業手当、給食手当て、皆勤手当及び平成25年12月以前の通勤手当の支給の相違は労契法20条に違反し不法行為を構成するとの判決⇒Yは、平成30年10月1日以降、無事故手当、作業手当、食事手当て及び皆勤手当(同手当は同年12月1日以降)を月間所定時間で女子て時給換算した金額を処遇改善費としてXらの賃金に組み入れ。
Xらは、平成30年4月1日、Yに対し、労契法18条1項に基づき、Xらが締結している有期労働契約の契約機関が満了する同年9月30日の翌日である同年10月1日を始期とする無期労働契約の締結を申し込み、Yは、同項に基づき、これを承諾したものとみなされた。
Yには、正社員就業規則とは別に、有期労働契約を締結している労働者に適用される就業規則があったところ、Yは、平成29年10月1日付けで、契約社員就業規則に無期転換に関する規定を追加し、
「無期転換後の労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件とする。」と規定。
  主張 Xら:
労契法18条1項に基づき無期転換した後の労働条件について、雇用当初から無期労働刑悪を締結している正社員に適用される就業規則によるべき

Yに対し、
①正社員就業規則に基づく権利を有する地位にあることの確認を求める
②労働契約に基づく賃金請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権として、無期転換後の平成30年10月分の賃金について正社員との賃金差額の支払を求めた。 
  判断 無期転換後の労働条件に関し、正社員就業規則を適用することはできない⇒請求を棄却。 
Yにおいて、有期労働契約者と正社員とで、職務の内容に違いはないものの、職務の内容及び配置の変更の範囲に関して違いがあり、無期転換後のxらと正社員との間にも同様の違いがあるところ、
無期転換後のXらと正社員との労働条件の相違も、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲等の就業の実態に応じた均衡が保たれている限り、労契法7条の合理性の要件を満たす。
仮に、無期転換後のXらと正社員との労働条件の相違が両者の就業実態と均衡を欠き労契法7条に違反⇒契約社員就業規則の該当部分がXらに適用されないというにすぎず、正社員就業規則と契約社員就業規則が別個独立のものとして作成されている以上、労契法7条の効力としてXらに正社員就業規則が適用されることになるものではない。
労契法18条は、有期労働契約者の雇用の安定化を図るべく、無期転換により契約期間の定めをなくすることができる旨を定めたものであって、無期転換後の契約内容を正社員と同一にすることを当然に想定したものではない。
無期転換規定は、労契法18条1項第2文と同旨であり、無期転換後のxらに契約社員就業規則が適用されることによって、無期転換の前後を通じて期間の定めを除きXらの労働条件に変わりはない⇒無期転換規定の追加は不利益変更に当たらない。
  解説 無期転換後の労働条件(期間の定めを除く)は、別段の定めがない限り、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件と同一(労契法18条1項第2文)。 
①無期転換後の労働者に適用される就業規則が存在しない場合に、正社員用の就業規則が適用されるか、
②無期転換後の労働者に適用される就業規則が整備された結果、労働条件が転換前後で変更される場合について、変更後の労働条件を定める新就業規則の規定が「別段の定め」として労働契約を規律するにあたっての労契法上の適用条文は7条か、9条か、10条かという問題。
  刑事p105
東京高裁R2.7.16  
  少年の複数での民家に侵入しての強盗致傷の事案
  事案 複数での民家に侵入しての強盗致傷の事案
  原決定 ・・・
少年を一定期間少年院に収容して矯正教育を施す必要⇒第1種少年院に送致するのが相当。
少年に強い自律性を身につけさせる必要がある⇒その処遇については、相応の時間をかけて行なうべきであり、短期の処遇勧告を付することは相当でない。 
  判断 原決定の収容処遇の判断を是認し、抗告を棄却。
but
収容期間については、その判断は合理性に欠けるとして、一般短期処遇が相当。

①少年の保護処分歴
②少年の非行性の程度
③少年緒反省、更生への意欲
④保護環境(両親との関係、両親の監護意欲)
  解説 原決定: 少年に強い自律性を身につけさせる必要がある⇒その処遇については、相応の時間をかけて行なうべきであり、短期の処遇勧告を付することは相当でない。 
vs.
長期処遇が相当であることの根拠としては若干抽象的で説得力に欠け、
鑑別結果の処遇意見と異なる処遇選択をする場合には、鑑別結果の根拠が不十分であることを相応に示す必要がある。
処遇選択に当たっては、少年の健全育成を図るため少年の可塑性を踏まえた将来予測を伴うものであり、収容処遇の場合には少年の自由を拘束する側面があることは否定できない
⇒実務上、謙抑的な運用が行なわれている。
社会内処遇か収容処遇かの選択・判断に当たっては、事案の重大性や態様の悪質性等の非行事実の評価、資質、能力、性格・行動傾向等少年の資質上の問題のほか、
保護処分歴の有無・内容、
少年の反省・更生の意欲、
保護環境、
社会的資源等の中に、少年の改善更生に結び付く要素がある場合には、直ちに収容処遇とはせずに、そうした要素を生かすことができないか
家裁調査官による試験観察を始め、関係諸機関による指導監督等に期待することが可能かを十分に考慮すべきである
という基本的な発想があるように思われる。
家庭裁判所が一般短期の処遇勧告を付さなかったことが「処分の著しい不当」(少年法32条)に当たるかについては争いがある。

A:肯定し、少年院の指定に準じるものとして抗告を認める
B:否定(多数説)

①短期処遇は運用上の処遇過程にすぎない
②矯正機関が処遇勧告に従うといっても、それは事実上のものにすぎず、分類権限は矯正機関にある
but
実務上は、少年院送致自体に対する不服申立てを解釈した上で、それを適法として扱い、審理の結果、短期処遇が相当との判断に達した場合には、抗告を棄却した上で、理由中で短期処遇が相当である旨の判断を示す。
抗告審が審査の結果、抗告に理由があると判断⇒決定をもって、原決定を取り消して、事件を原審裁判所に差し戻さなければならない。(少年法33条2項)

少年に対して最終的にいかなる処分をすべきかは、家庭裁判所がその専門的判断に基づいて決定すべき。 
処遇勧告についても同様であり、実務上は、抗告審が直接収容先に処遇勧告をするのではなく、短期処遇が相当と判断した旨の少年院長宛ての通知書を発するとともに、その旨の通知を行なったことを原裁判所にも通知し、原裁判所はこれを受けて改めて処遇勧告を行なう例が多い。
2486   
  行政p5
広島高裁R2.1.22   
  電力会社からの工事竣功期間伸長等の許可申請に対する許否の留保の違法性
  事案 原子力発電所(R原発)の建設を計画し、公有水面の埋立て等により発電所の敷地を確保するために、山口県知事から公有水面埋立法(「公水法」)2条1項に基づく埋立免許を受けたZ(中国電力)は、同免許において、埋立工事に着手した日から3年以内に工事を竣工しなければならないとの指定 ⇒24年10月、当時の山口県知事Eに対し、公水法13条の2第1項に基づいて、同免許に係る工事竣功期間を平成27年10月6日まで伸長することなどの許可を求める許可申請⇒E及びその後任の山口県知事であるYは、Zに対し、7回にわたり補足説明を求め、審査を継続して判断を留保し、Yは、平成28年8月に本件許可申請を許可。
山口県の住民Xらが、住民訴訟により、
①Eが本件許可申請に対する許否の判断を、審査に要する合理的期間が経過するまでにすべきであったにもかかわらず、これを行なわなかったことは違法⇒前記の判断留保中に、これを前提として行なわれた公金の支出も違法であり、そのため、山口県が損害を被った⇒Eの相続人であるAらに対する損害賠償の支払を請求することなどを求め、
②Yが本件許可申請についての判断を直ちにできる状態にあったのに、これを行なわなかったことは違法⇒前記の判断留保中にされた公金の支出も違法であり、山口県が損害を被った⇒Yに対する損害賠償の支払を請求することなどを求めた。
  Yの主張 ①竣功期間は再度伸長することもできる、
②本件許可申請を行ったZ自身が、政府の検討結果を松必要があるという姿勢を公表して、E及びYからの求説明に対応し、判断留保に異議を唱えていない
③標準処理期間の定めは訓示規定に過ぎない

E及びYによる判断留保は違法ではない。
  一審 Eが平成25年3月に、Zに対し約1年後を回答期限とする補足説明を求めた(第5回目の補足説明の依頼)時点で、本件許可申請に係る期間の終期までに埋立が竣功する可能性があることが合理的に認められるとはいえない
⇒これ以降の、Zに補足説明を求めるために支出した郵送費は違法な公金の支出に当たる⇒請求を一部認容。 
  判断 以下のとおり、公金の各支出は、その前提となる本件許可申請に対する判断留保の違法性が認められず、また、他にこれを違法とする事情も認められない
⇒違法な財務会計上の行為であるということはできない⇒Yの敗訴部分を取り消し、Xらの請求をいずれも棄却。 
①公水面埋立工事に係る竣功期間尾伸長の要件である「正当の自由」(公水法13条の2)の存否について、都道府県知事がこれを審査すべき期間についての規定はなく、また、その判断には専門的・技術的知見が必要
⇒都道府県知事に裁量が認められ、その審査期間についてもその裁量が及ぶ。
②Xらの指摘する標準処理期間は、申請者の利益を主に考慮したもの
⇒申請者が処分の留保につき任意に同意している場合には、その同意が継続している限りにおいては、特段の事情が認められる場合を除き、処分の留保は裁量権緒範囲の逸脱、濫用にあたらず、違法ではない。
Zは、判断留保に任意に同意していた。
③福島第一原子力発電の事後の事情・・・

R原発についてなされた重要電源開発地点指定が解除される可能性を考えて、Zに対し、同視邸に関する情報提供を求めること、
これに影響を及ぼすと思われるR原発の位置付け等について説明を求めることは「正当の事由」の存否を判断する上で重要な事項。
回答期間の約1年はやや長すぎるが、
①Zが判断留保に任意に同意している
②前記の政治・社会情勢の変化
③指定期間の再度の伸長が禁じられていない
⇒前記の特段の事情に該当するとまではいえない。
  解説   公水法13条の2第1項に基づく埋立期間の伸長等の許可申請がなされた場合に、
①免許権者が合理的な期間内に許否の判断を行うべき義務を負うこと
②標準処理期間を経過した場合に直ちに判断の留保が違法となるものではないこと
は1審も本判決も共通。 
  行政処分の申請があった場合に、これを受けた行政機関は、
合理的な期間内に当該申請に対する判断を行うことが要請され(行手法7条)
行政庁は、これを担保するための標準処理期間を定めるべきこととされている(行手法6条)。

当該申請を行なった者において、速やかに許可・認可等の処分をしてくれることを期待し、また、仮に申請に対する許否処分であっても、今後の対応を考える必要性等から、そのことを早く知ることを期待するという、申請者の利益を主に考慮したもの。

行手法の前記規定が直接適用されない地方公共団体の機関の処分についても、同様に当てはまるものと解される。

申請者が処分の留保につき任意に同意している場合には、その同意が継続している限りにおいて、当該申請に対する判断を留保することが正当化されるというべき。(行手法32条、33条参照)

これらの規定は、判断留保及び行政指導に関する判例法理をもとに立法化
⇒その趣旨は、行手法の規定が直接適用されない地方公共団体の機関の処分にも当てはまる。
  行政p31
大阪地裁R2.6.3  
   
  事案 Xは、平成17年4月19日にメンタルクリニックにおいて適応障害(抑うつ病)の診断(本件初診日)
初診日の1年6月後である障害認定日(国年法30条1項、厚年法47条1項)は平成18年10月19日(本件障害認定日)
Xは、平成17年11月5日に現住建造物放火の被疑事実で逮捕⇒平成24年5月24日の仮釈放まで、刑事施設に収容。
Xは、厚生労働大臣に対し、本件障害認定日を受給権の発生日とする障害基礎年金及び障害厚生年金の給付の裁定の請求⇒厚生労働大臣は、3級の障害厚生年金を支給する処分・一部の期間の年金につき時効消滅

Xは、社会保険審査官に審査請求。

社会保険審査官は、年金の時効消滅は否定したが、その余の原告の請求を棄却。

本件訴訟を提起。
  争点 本件障害認定日におけるXの障害の状態が障害等級2級に当たるか 
  判断 Xの本件障害認定日における障害の程度が障害等級2級に該当。
・・・
Xの日常生活能力の判定を検討し、
①適切な食事、②身辺の清潔保持、③金銭管理と買い物、④通院と服薬、⑤他人との意思伝達及び対人関係、⑥身辺の安全保持及び危機対応、⑦社会性
を考慮すると、Xの障害の状態は障害等級2急に該当。
  解説 国民年金・厚生年金保険精神の障害に係る等級判定ガイドラインは、
精神障害及び知的障害の認定において地域さによる不公平が生じないよう、
障害等級の判定時に用いる目安や考慮すべき事項の例等を示し、
これによって当該認定が「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」に基づき適正に行なわれるよう改善を図ることを目的として、公正労働省により策定されたもので、平成28年9月1日から実施。 
Xの本件障害認定日及び裁定請求の後に同ガイドラインが定められた
but
同ガイドラインが新規請求時のみならず、
再認定時及び請求者から額の改定請求がなされたとき等にも用いられる

同ガイドラインに沿って総合的認定をするのが相当。
精神鑑定書、医師Nの意見書等をもとに同ガイドラインに沿って、「日常生活能力の判定」及び「日常生活能力の程度」を判定
⇒Xの障害等級を2級と判断。
  民事p44
東京高裁R2.7.10  
  人格権に基づくパブリシティ権の事案
  事案 音楽事務所であるYとの間でマネージメント専属契約を締結した上で、本件専属契約に定められたグループ名で実演活動を行なっていたXらが、Yは、本件専属契約の終了後、本件グループ名を使用することを妨害する言動をしていると主張し、本件グループ名を使用する権利に基づき、Yに対して使用妨害行為の禁止を求めて仮処分命令を申し立てた。 
  規定 本専属契約:
「Yは、本件契約期間中、広告・宣言及び販売促進のため、Xらの芸名・・・その他の人格的利益を、Yの判断により自由に無償で利用開発することができる。」
「本契約期間内に制作された原盤及び原版等に係るXらの著作権上の一切の権利・・・ならびに、Xらに関する商標権、知的財産権、及び商品化権を含む一切の権利はすべてYに帰属する。」 
  原審 本件専属契約の条項について、本件グループ名の使用に関する権利の帰属に直接言及していないものの、一切の権利がYに帰属すると定めている⇒本件グループ名の使用権も同条項の対象となっている⇒Xらの申立てを却下。
  判断 Xらは、本件グループ名の使用権を有する⇒使用妨害行為の禁止を認めた。
理由は以下のとおり。 
実演活動上のグループ名についても、人物の集合体の識別情報としてその構成員を容易に想定し得るような場合には、当該グループの構成員各人に人格権に基づくパブリシティ権が認められる
②Xらは、各自が個別に実演活動をするだけでなく、グループとして共同して、実演活動を継続し、本件グループ名には一定の顧客吸引力が生じ、本件グループ名を通じてその構成員であるXら各自をも想起させ、識別させるものとなっている。
③本件専属契約において定められた条項には、芸名や本件グループ名等についての記載はなく、人格的権利についての制約はない
⇒本件専属契約が終了した時点では、Yにおいて本件グループ名を利用する権利はなく、Xらは本件グループ名を使用する人格的厭離を制約なく行使することができる。
④本件専属契約の終了にあたりYに損害が発生していたとしても、Xらが本件グループ名の使用を妨げることを正当化できない。
  解説 パブリシティ権について、ピンク・レディー事件において、
肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくもの上記人格権に由来する一内容を構成する。 
  民事p50
東京高裁R2.7.15  
  事故の偶然性の要件
  事案 株式会社Xの代表取締役を務めていたA(当時79歳)が、自家用車ごと岸壁から海中に転落した事故で死亡。 
Xが、保険会社Y1に対し、Aを被保険者として締結した保険契約(本件保険契約)に基づく死亡保険金1億5000万円及びAが本家事故に遭ったと推定される平成25年8月1日以降の商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を請求。
一般財団法人Y2に対し、Aを被共済者として締結した共済契約(本件共済契約)に基づく死亡保障費2000万円及び前同日以降の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
本件保険契約の保険約款(本件保険契約約款)には、被保険者が就業中に急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に被った傷害に対して保険金を支払う旨の、

本件共済契約に適用される規約(本件規約)には、会員の定めた被共済者に災害が発生したときは、当該会員に補償費を支払うとした上で、この規約の災害とは、「急激かつ偶然の外来の事故で身体に傷害を受けたもの」という旨の定め

本件保険契約約款には「故意または重大な過失」によって、本件規約は「故意」によって生じた傷害をそれぞれ免責事由と定める規定が存在
  争点 本件事故の偶然性
これとの関連で、本件車両の損傷状況やXの経営状態をどう見るかが激しく争われた 
  主張 X:
擦過痕は本件車両の後方から前方に向けて印象
海中から引き揚げられた際に本件車両のシフトレバーがR(後退)に入っていた

本件車両はハンドル角度を左約30度に切った状態で交替して海中に転落。

Xの経営状態に問題はなく、Aに自殺の原因となるほどの事実が見当たらない。

本件事故の態様は、日中に瑕疵愛された同窓会でカメラを忘れて現場へ探しに行ったAが本件岸壁をUターンするため、ハンドルを左に切り返して本件車両を後退させて発進するに当たって運転操作を誤った結果、海中に転落

本件事故は偶然に生じた。 
Yら:
本件車両の擦過痕は前方から後方に向けて印象⇒本件車両は海に向かって真っすぐ前進して転落
シフトレバーは転落後に動いた可能性
本件事故当時、Xは経営状態が苦しく、Aはこれを立て直すため保険金等を入手しようとして本件事故を起こす動機があった
深夜に真っ暗な本件岸壁にカメラを探しに行くこと事態が不自然不合理

本件事故は偶然性の要件を満たさない
  一審 Xの請求をいずれも棄却 
    予備的主張:
Xは、新たに本件車両と同型の車両を実際に本件岸壁から前進及び後退させて転落させる実験を実施⇒それによってX主張の事故態様が裏付けられた
仮に本件車両が前進して転落したものであったとしても、転落時の時速は約10キロメートルと推認されてアクセルを踏まない状態で転落
but
故意に自殺するのであれば確実に界面に転落する速度を出すはず
⇒何らかの過失で転落した。
  判断  一審維持
  解説  最高裁H13.4.20:
生命保険契約に付加された災害割増特約における災害死亡保険金の支払事由を不慮の事故による死亡とする約款に基づき、保険者に対して災害死亡保険金の支払を請求する者は、発生した事故が偶発的な事故であることについて主張、立証する責任を負う。
前記約款中の被保険者の故意により支払事由に該当したときは災害死亡保険金を支払わない旨の定めは災害死亡保険金が支払われない場合を確認的注意的に規定したものにとどまる。
最高裁H13.4.30は、普通傷害保険契約における死亡保険金の支払事由を急激かつ偶然な外来の事故による死亡とする約款に基づく死亡保険金の支払請求についても同旨。

約款において保険事故に偶発性が取り込まれた傷害保険については、保険事故そのものが不慮の事故とされていることやモラルリスクの特に高い保険類型で不正請求の防止の必要性が強いといった実際的見地
⇒保険金請求者が保険事故の偶発性の主張立証責任を負うことを明らかにしたもの。
  but
保険金請求者が側で事故が被保険者の意思に基づかない偶然なものであるといった消極的事実を立証することは困難。
⇒平成13年判決は、立証の程度の問題について保険金請求者側の負担を軽減する判断手法を用いることを否定するものではない。 
具体的には、保険金請求者側が外形的に見て事故であることを立証⇒事故が偶然であることが事実上推定⇒保険者において事故の偶然性を真に疑わせる事情を立証する必要。
保険者がその立証⇒保険金請求者側でこの疑念を反駁するに足りる程度の立証ができなければ偶然性の立証がされなかったことになる
という見解。
(1審、本判決もこのような見解に立っている。)
  平成22年4月1日保険法施行:
傷害や疾病に基づいて保険給付を行う保険につき、
A:生じた損害を填補する傷害疾病損害保険契約(2条7号)
B:生じた損害に関係なく一定額の保険給付を行なう障害疾病定額保険契約(2条9号)
という契約類型。
Aについて:
損害保険契約の一種

保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過失によって生じた損害を填補する責任を負わないとする損害保険一般に関する規定(17条)を基本的に準用しつつ、
被保険者の死亡による損害を填補するものにつき、同法17条に被保険者の相続人の故意又は重大な過失を加える旨の読替規定を置いた(35条)。

Bについて:
損害保険とも生命保険とも異なる契約類型として新たに独立の章(第4章)を設け、
被保険者、保険蹴薬者又は保険金受取人が故意又は重大な過失により給付事由を発生させたときを免責事由として定めた(同法80条1号)。
保険法の免責事由に関する定めは任意規定(26条、82条参照)⇒約款で保険法の規定と異なる免責事由が定められた場合には、事故の偶発性に関する立証責任は、保険法の規定を踏まえつつも当該約款の規定の解釈によって判断される。
  従前の裁判例で事故の偶然性が争点となった事案で検討された項目:
①事故の客観的状況(事故態様、事故現場の状況など)
②被保険者等の動機、属性等(被保険者の経済状態、同種の事故歴など)
③被保険者等の事故前後の言動等(事故直前の不断と異なる不審な行動、事故の発生ないし死をほのめかすような言動など)
④保険契約に関する事情(保険契約締結の経緯や時期、保険契約締結時の経済状況、保険料や保険金額と被保険者等の収入の均衡その他の保険契約の内容)
が上げられている。
  民事p60
広島高裁R2.9.16  
  夫婦別姓と国賠請求
  事案 控訴人は、夫と共に、夫婦それぞれの氏を称する旨を記載した婚姻届を提出したが、民法750条及び戸籍法74条1号(以下「本件各規定」)に違反することを理由に受理されなかった。

本件各規定は憲法14条1項、24条、人権B規約(自由権規約)、女子差別撤廃条約に違反しており、
これを改廃して夫婦別氏制という選択肢を新たに設けない立法不作為は国賠法の適用上違法の評価を受ける。
⇒被控訴人(国)に対し、慰謝料50万円の支払を求めた。
民法750条については、最高裁H27.12.16が憲法14条1項及び24条に違反しないとの判断。
but
控訴人:平成27年最高裁判例において考慮されていない観点や同判決後の事情がある旨主張。
  規定 民法 第750条(夫婦の氏)
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
戸籍法 第74条〔婚姻届〕
婚姻をしようとする者は、左の事項を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。
一 夫婦が称する氏
二 その他法務省令で定める事項
憲法 第24条〔家族生活における個人の尊厳と両性の平等〕
婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
②配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。.
  主張 控訴人は、平成27年最高裁判決に現れていない新たな観点として、
①本件各規定が憲法14条1に違反しないというためには、
夫婦同氏制を原則とすることに合理性が認められるだけでは足りず、、さらに進んで、夫婦同氏に例外を許容せず、夫婦同氏を一律に強制することの合理性が認められなければならない。
②本件各規定は、夫婦同氏を希望する考え方を有するか夫婦別氏を希望する考え方を有するかにより、法的な差別的取り扱いをするもの⇒憲法14条1項に違反
  判断  ●主張①について 
憲法24条2項が婚姻及び家族に関する具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ね、具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定が国会の多方面にわたる検討と判断に委ねられている

婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が憲法24条に適合するといえるか否かは、当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し、当該規定が個人緒尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものと見ざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべき。
本件各規定が憲法24条や14条1項に違反するか否かについても、このような観点から判断すべき⇒控訴人の主張は採らない。
  ●主張②について 
①夫婦同氏制が長く我が国の社会に定着してきたものであり、選択的夫婦別氏制度を導入するに当たっては、子の氏の問題等多方面にわたる慎重な検討が必要であって、夫婦同氏制を個々の当事者の多様な意思に沿って変容させることに対しては慎重に考える必要がある
②氏には家族という1つの集団を構成する一員であることを対外的に公示し、識別する機能を有しており、嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組を確保することにも一定の意義がある
③本件各規定の定める夫婦同氏制それ事態には男女間の形式的な不平等が存在せず、夫婦がいずれの氏を称するかは、夫婦となろうとする者の間の教義による自由な選択に委ねられている

本件各規定が、婚姻を事実上不当に制約するものであるとまではいえず、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であると認めることはできない。

憲法24条に違反するとはいえない。
夫婦別氏を希望する夫婦が法律婚をすることができない結果として、夫婦同氏を選択肢法律婚をした夫婦と比較して様々な利益を教授できないとしても、憲法14条1項に違反するものということもできあに。
  女子差別撤廃委員会が我が国に対し本件各規定の改廃を行うよう度々勧告していることは重く受け止めるべきであり、憲法24条2甲によって婚姻及び家族に関する法制度の構築を国民から委ねられている国会には、選択的夫婦別氏制の導入等について真摯な議論を行うことが期待されている。 
  民事p74
東京地裁R2.6.4  
  看護師の過失(生体情報モニタのアラーム設定の確認不十分)が肯定された事案
  主張 亡Aの相続人であるX1及びX2が、亡Aがいわゆる植物状態となり死亡するに至ったのは、本件病院の医療従事者(医師又は看護師)に
①生体情報モニタのアラーム設定を誤り、これを見落とした過失
②鎮静剤を不適切かつ過剰に投与した過失

生体情報モニタ及び管理システムの製造・販売したY2及びY3に、
③製造物責任法における試用設計上の欠陥ないし不法行為における過失、
④製造物責任法における指示・警告上の欠陥ないし不法行為における過失
があった


Y1に対しては債務不履行又は不法行為に基づき、
Y2及びY3に対しては製造物責任又は不法行為に基づき
損害賠償を求めた。 
  判断    ●生体情報のモニタのアラーム設定を誤り、これを見落とした過失(前記①) 
①亡Aの病態自体、再出血をきたすなどして容体が急変する危険性があった
②投与されていた鎮静剤の副作用として呼吸抑制などが挙げられている

本件病院の医療従事者には亡Aの血圧同項のみならず、呼吸状態にも気を配り、それらの急激な悪化がみられたときには、それを察知できるよう監視をすべき義務があった。
バイタルサインの把握について、
看護師による見回りや目視による確認には限界⇒医療機器に頼らざるを得ない場合がある
but
その設定がきちんと維持されているかについては継続的に確認すべき注意義務。
①・・・その後の電子カルテ上の転床操作によって再度それらのアラーム設定がオフになったことを看過し、
②・・・亡Aの容体が急変するまでの約5日間にわたって誰もアラーム設定がオフになっていたことに気が付かなかった

本件病院の看護師には前記義務に違反した過失がある。
  ●鎮静剤を不適切かつ過剰に投与した過失(前記②) 
・・・・
鎮静剤の投与方法には過失はない。
  ●管理システム及びセントラルモニタの機能が、製造物責任法における仕様設計上又は指示・警告上の欠陥ないしは不法行為における過失に当たるか(前記③④)
・・・そのような設計思想に不合理な点はなく、安全性を欠くと認めるべき点もない。
管理システム及びセントラルモニタの取扱説明書を併せて読めば、前記機能を読み取ることはさして難解ではない

仕様設計上及び指示・警告上の欠陥ないし不法行為上の過失いずれも認められない。
  労働p89
東京地裁R2.3.11  
  取締役の従業員(労働者)該当性
  事案 原告は、原告の祖父が創業した被告に平成6年に入社し、平成20年に被告の取締役に就任し、平成25年10月18日、取締役を退任。
原告は、
主位的に、
取締役就任後も従業員としての地位を失っていないことを前提として、雇用契約に基づき、入社から平成25年11月26日までを在籍期間とする退職金規定による退職金及びこれに対する遅延損害金を、
予備的に、
取締役就任時に従業員としての地位を失ったとしても、平成20年4月頃、被告との間で従業員退職金の支払期日を取締役退任日とする合意をしたと主張して、
入社から取締役就任時までを在籍期間とする退職金規定による退職金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
  争点 ①取締役就任後も従業員としての地位を有していたか
②平成20年3月の退職金支払期日の合意の有無
③退職金額算定の前提となる基本給額等 
  判断  ●従業員該当性 
①被告の就業規則に取締役就任に当たり従業員の地位を失う旨の定めがない
②原告の取締役就任時に退職届の提出や退職金の支払といった従業員の地位の清算に関する手続が行なわれなかった
③原告の業務内容は取締役就任の前後で変わることがなく、当時の代表取締役であった原告の父の指揮監督の下で業務を行っていた

取締役就任後も従業員としての地位を失っていなかったことが強く推認される。
報酬の増額:原告が取締役就任時に事業部長に就任⇒従業員と役員を兼ねることに対する増額と考えても矛盾はない。
雇用保険加入の有無:それのみで従業員性が決定づけられるものではない。
  ●退職金額の算定 
取締役就任直前の給与の基本給である45万5560円を基本給と認めるのが相当。
原告が取締役退任後、従業員としての地位を被告に主張し、
被告がこれを否定する通知を送付
が解雇と同視できる

退職事由のうち「やむを得ない業務上の都合による解雇」と認め、退職金額を算定。
支払時期についても退職金規定により認定。
  解説 合資会社の有限責任社員の職務を代行していた者について従業員性を認めたもの(最高裁H7.2.9)はあるが、考慮要素等について具体的に判示したものはない。 
下級審裁判例:
取締役への就任経緯、
取締役としての権限や業務執行の状況(法令や定款上の定め、代表取締役の指揮監督の有無、提供する労務内容等)、
社会保険上の取扱い等
が考慮要素とされていると言われる。
本件:
特に、
①取締役就任に当たり退職届の提出や退職金支払等の従業員の地位の清算が行われなかったこと、
②取締役就任前後で業務内容がかわらなかったこと
が重視され、
③取締役会が開催されないなど、原告が会社の意思決定に参加していないことをうかがわせる事情も考慮して、
原告の従業員性を肯定。

税務処理方法の違いが従業員性を決定づけるものと考えることは不相当であることや、
雇用保険の被保険者資格は当事者の思惑で操作されることも多い
⇒重視すべき要素ではないと判断されたものと考えられる。
従業員部分の賃金額:
従業員兼務取締役が役員報酬のみ子宮されている場合には、
取締役就任直前の賃金額が目安とされることが多い。
本件もそう。
  刑事p95
東京高裁H31.4.24  
  殺人被告事件について、心神耗弱(原審)⇒心神喪失による無罪(控訴審)の事案 
  解説 精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力(=事理弁識能力)がなく、又はその弁識に従って行動する能力(=制御能力)がない状態⇒心神喪失
その能力を欠如するには至らないが著しく減退した状態⇒心神耗弱 
  判決 行動制御能力の意味を明確に指摘し、その意味に従って検討すると、原判決の判断に疑問がある⇒心神耗弱を認定した原判決を破棄し、自判(心身喪失による無罪)した。
原判決:
犯行発覚防止行為⇒
①被害者の返り血を浴びないように毛染め用のガウンを羽織る
②被害者の血が付いたり自分の指紋が付いたりするのを防ぐために両手にビニール手袋をはめる
③足跡を残さないように靴の上からビニール袋を履きゴムで留める
などの行動をとったと公判廷で供述

正常心理に基づいて自己の保身に思いを巡らせた上、その判断に基づいてそれなりに合理的な反抗発覚防止のための行動を的確にとることができた。
vs.
行動制御能力の本質は、自らが行なおうとする行為(犯行)が悪であることは判断できている場合に、その行為を行わないでいることができる能力であって、犯行ないしその準備行為を行うに当たって合理的に行動を制御する能力ではない。
◎  犯行や準備行為の行動の合理性を、行動制御能力や事理弁識能力を判断するに当たって判断要素とすることができるのは当然。
but
①行動制御能力の判断においては、前記本質を踏まえつつ判断の一要素にとどめる必要がある。
②本件においては、犯行発覚防止行為が幻聴の命令に従って犯行を決意した後に行われている⇒反抗発覚防止行為の合理性を、行為制御能力を肯定する方向で評価することには慎重でなければならない。

行動制御能力≠犯行遂行能力
一見、犯行遂行の過程が合理的であっても、たとえば、犯行の動機において、妄想や幻聴の影響を強く受けている⇒犯行遂行過程の行為はその影響の下にある行為として評価すべき。
vs.
そのような身なりは、はたからみれば極めて異様で、その姿で廊下を歩けば、人目に付きやすい。

原判決は、被告人との供述から、犯行発覚防止のための行為として、その目的との関係だけに目を奪われ、その行為自体が、当時の状況、朝の7時半頃に、アパートの廊下を歩いて隣室に行く状況からみて、客観的には異様ないでたちであったことを看過したもの。 
  解説 本件の被告人の精神疾患:覚醒剤精神病。
心神喪失や心神上津役が認められやすいのは、統合失調症や双極性障害の事例で、
本件のような物質関連障害の事例ではあまり認められていない。
しかし、最近では、変化あり(8ステップの考え方)。

責任能力を判断する上では、精神障害が犯行に与えた影響の機序が重視される⇒疾病診断(病名の特定)の持つ意味が相対的に低下

統合失調症にり患していても、完全責任能力との判断や
これまであまり責任能力に大きな影響を及ぼすとは判断されていなかった物質関連障害(覚醒剤精神病)や、窃盗症(クレプトマニア)などについても責任能力の減免を認めた裁判例も散見。
2485   
  民事p6
最高裁R2.9.11  
  本訴・反訴の関係にある請負代金債権と目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の相殺
  事案 本件本訴:
Yから自宅建物の増築工事を請け負ったXが、Yに対し、請負代金及び遅延損害金の支払等を求めた事案。
本件反訴:
Yが、Xに対し、自宅建物の増築部分に瑕疵があるなどと主張し、瑕疵修補に代わる損害賠償金及び遅延損害金の支払等を求めた。
Xは、平成26年3月、本件本訴を提起
Yは、同年6月、本件反訴を提起。
Xは、同年8月の第1審口頭弁論期日において、Yに対し、本訴請求に係る請負代金債権を自働債権とし、反訴請求に係る瑕疵修補に代わる損害賠償請求権を受働債権として、対当額で相殺する旨の意思表示(「本件相殺」)。
  原審 原審:
係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは許されないところ、本訴原告が、反訴において、本訴における請求債権を自働債権として相殺の抗弁を主張する場合であっても、本訴と反訴の弁論を分離することは禁止されていないから同様に許されない。

本訴原告であるXが本件相殺の抗弁を主張することは、重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反し、許されない。 
  判断 請負契約に基づく請負代金債権と同契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の一方を本訴請求債権とし、他方を反訴請求債権とする本訴及び反訴が係属中に、本訴原告が、反訴において、前記本訴請求債権を自働債権とし、前記反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁を主張することは許される。 
  解説  ●重複起訴禁止と相殺の抗弁 
抗弁先行型と抗弁後行型(本件)
抗弁後行型における相殺の抗弁
A:許容説
B:不許説
but
本件のように本訴反訴として審理されている場合や
別訴提起されたとしてもその後併合審理されているような場合
(同一手続型)の場合
審理及び判断が同一の受訴裁判所によって一体として行なわれる⇒審理の重複や判断の抵触のおそれがなく、重複訴訟の問題が生じない
⇒相殺の抗弁は許容されるとする見解が支配的。
  最高裁H3.12.17:
係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは許されないと解するのが相当である。

相殺の抗弁について旧民訴法231条(現行民訴法142条(重複する訴えの提起の禁止)に対応)を類推適用し、抗弁後行型における相殺の主張を許さないものとした。

控訴審段階で初めて別訴と本訴が併合され、相殺の抗弁が主張され、その後判決前に両事件が分離されるに至っていたというもの。
but
相殺の「抗弁が控訴審の段階で初めて主張され、両事件が併合審理された場合についても同様」に許されないと判示⇒その射程については、本件のような同一手続型にも及ぶとみる余地。
(高橋は同部分を傍論とする。)
同一手続型である本訴反訴の事案において、平成3年最判を引用しつつも、
「反訴原告において異なる意思表示をしない限り、反訴は、反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分については反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更されることになる」とし、「このように解すれば、重複起訴の問題は生じないことになる」として、相殺の抗弁を許容する判断(最高裁H18.4.14
vs.
①予備的反訴への変更という構成については、「平成3年最判を意識しすぎて、無益な技巧を凝らした」もの。
②反対の場面である本訴側からの相殺が認められないとすると「そのような帰結は不均衡」
  本件の本訴請求権と反訴請求権:
同一の請負契約に基づく請負代金債権と瑕疵修補に代わる損害賠償債権であって、
実体法上、同時履行の関係にある上、相殺により精算的調整を図ることが想定された特殊な関係にある。 
前記両債権は同時履行の関係に立つ⇒相手方から履行の提供を受けるまでは履行遅滞の責任を負わないが、
相殺の意思表示がされれば、相殺後の残債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負う。

このように相殺の担保的機能が強く発揮されるべき場面であるにもかかわらず、その一方からの相殺の抗弁の主張や許容されるも、他方からの主張が封じられ、結果として訴訟上の地位に差異が生じ、かつ、実体法上も履行遅滞責任を負わないという差異が生じることについては、著しく均衡を欠く。
本訴反訴として適法に併合されている請求について、弁論の分離を命ずるかどうかは裁判所の裁量に委ねられているが、その裁量も全くの自由裁量ではない。
学説上、特に関連性の強い本訴と反訴のような場合には弁論の分離が制限されるとする見解が有力
本件のように本訴請求債権と反訴請求債権とが特殊な関係にあり、
両者の相殺の抗弁が主張されている場合については、
本訴反訴を分離してしまうと、その結果、審理の重複や判決の矛盾抵触が生じてしまう
⇒1つの訴訟手続で審理・判決することが強く要さされている
⇒弁論の分離が禁止され、その反面として相殺の抗弁が許容されるとの解釈を採ることができる。
  本判決は本訴反訴の事案を前提

その直接の射程は、別訴が提起され、その後本訴と別訴の弁論が併合された場合には及ばない。
but
両債権の関係性を理由に相殺の抗弁を許容⇒少なくとも請負事案における前記両債権の相殺の抗弁については、弁論の併合場面においても同様の理由で許容されると解することができる。
本判決は、弁論の分離が許されないと判示するにとどまるが、
一部判決をすることも同様に許されないものと解される。
  民事p12
東京高裁R1.10.30  
  温泉権
  事案 Yが所有する本件土地には、2つの温泉が存在。
これらの温泉について温泉権を有していると主張するXが、Yに対し、Xが本件各温泉権を有することの確認を求めるとともに、Yによる温泉の無断使用を理由とする不法行為に基づき、損害賠償を求めた。 
  原審  Xの本件各温泉権取得の対抗要件(明認方法)とYの本件土地所有権取得の対抗要件(移転登記)の具備の有無及び先後の問題から検討⇒Xの対抗要件具備の事実が認められない(併せてYは配信的悪意者には当たらない)⇒Xの請求を棄却。
  判断 Xが主張する温泉権は、土地所有権とは別の独立した物権として成立していない
⇒対抗要件の具備の有無及びその先後の争点については判断するまでもなく、Xの請求は全部棄却。 
  解説  温泉権(温泉を支配する権利):
①温泉を湯口から直接採取する場合~温泉専用権、湯口権、源泉権
②湯口から引湯する場合~分湯権、引湯権
温泉権:民法典に規定がなく、慣習を法源とする慣習法上の権利。
湯口権が温泉地所有権とは独立した地方慣習法による物権的権利(最高裁)
  本判決:
温泉権が慣習法上の物権として認められる場合があることは肯定しつつ、
そのような慣習法上の物権が認められてきたのは、明治時代の民法施行前から利用されてきた歴史の古い温泉について、社会経済の実態に即した紛争解決を図るための緊急避難的な措置であったと位置付け。
近代的な高度技術を用いて何十メートルも地下を掘削して新たに湧出させた温泉については、原則として慣習法上の物権としての温泉権が成立することを否定。
←債権的法律関係として構成すれば足りる。
  温泉権については、土地所有権とは別個独立の物権であるとするが、
人工掘削によって成立する近代法的な温泉権に関しては、その権利性を認める根拠について、慣習法ではなく、温泉掘削に多額の資本が投下され、温泉自体に高額の商品価値が認められることなど、その経済的価値から必然的に発生する物権であるとする見解(川島等)。
     
  民事p27
東京高裁R2.8.13  
   
  事案 別居親の面会交流を実質的に保障する立法をしなかったことが違法であると主張して、国に対して国家賠償を求めた事案。 
  規定 民法 第七六六条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
  原審      ●別居親の面会交流権を保障する立法をしなかったという立法不作為の違法性について 
①立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、
②国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国家が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、
例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべき。
  ●憲法26条に基づく主張について 
  旭川学テ最高裁判決:
「子どもの教育は、その最も始源的かつ基本的な形態としては、親が子との自然的関係に基づいて子に対して行う養育、監護としてあらわれる」と判示する部分があることを指摘。
but
同部分は子の教育の最も基本的な形態が親の監護としてあらわれるという社会的事実を指摘しているにすぎず、それ以上に憲法上の権利として監護権や面会交流権を保障されていることを判示する趣旨とは認められない。
  ●児童の権利に関する条約及び憲法98条2項に基づく主張について 
  最高裁H17判決の趣旨⇒仮に立法不作為が条約の規定に違反するものであるとしても、それゆえに国会議員の立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。
but
条約が、直接締約国の個々の国民に対し具体的な権利を保障するものである場合に、その権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠るときには、例外的に国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものと解する余地もある。
特定の条約が、国内法による補完ないし具体化といった措置を執ることなく、直接個人の所属国にン対する権利を保障するものとして、国内の裁判所において適用可能であるというためには、当該条約によって保障される個人の権利内容が条約上具体的で明白かつ確定的に定められており、かつ、条文の文言及び趣旨等から解釈して、個人の権利を定めようという締約国の意思が確認できることが必要。
条約9条3項:
「・・・・直接の接触を維持する権利を尊重する。」と規定

あくまで児童の別居親との面会交流の権利を尊重する旨を定めているにすぎず、
別居親に対して直接権利を保障する旨の文言はなく、
児童に与えられる権利の内容も具体的で明白とはいえない

同条約が、国内法による補完ないし具体化といった措置を執ることなく国内において適用可能なものとはいえず、あくまで子の面会交流の権利を尊重する旨約したものにすぎない。

児童の権利に関する条約が、我が国の個々の国民に対し、面会交流について直接権利を付与するものとはいえず、面会交流権を保障するものであるともいえない

児童の権利に関する条約及び憲法98条2項を根拠として、別居親の面会交流権が憲法上保障された権利であるということはできない。
  ●憲法14条1項に基づく主張について 
  法14条1項:
事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のもの(最高裁)。
原告ら:
「平穏な婚姻関係状態にある父母の下で育つ子」と比較して、
「別居あるいは離婚した父母の下で育つ子」
が父母の双方と日常的に交流する機会が少なくなっていることが憲法14条1項に違反。
vs.
交流機会の差異は、本質的には、社会的事象としての両親の別居により生じるものであり、面会交流に関する立法の不作為によって親子の交流の機会に不平等が生じたものとみることはできない
⇒その差異を法的な差別的取扱いとみることは困難。
  憲法14条1項が実質的平等までを直接保障した規定とは解することはできない(最高裁)。
  ⇒別居親の面会交流権における現行法の規定が、憲法14条1項に違反するものとはいえない。
  ●憲法13条に基づく主張について 
二宮教授:
面会交流を子の権利として捉えるとともに親の権利であるともとらえる複合的権利説を前提として、別居親の面会交流も、親としてのアイデンティティを確立するという人格的利益を保障するものであり、面会交流の権利は別居親の人格的生存にとって不可欠のこと⇒憲法で保障される人格権と解釈することができる可能性を指摘。
vs.
他の学説。
①面会交流の問題は、・・・・問題であり、現行法・・・の規定が、別居親による面会交流を直接阻害するという関係にあるとはいえない。
②・・・当該子及び両親の具体的な状況等によって異なり、特に、子の利益(民法766条1項)又は福祉が優先して検討されるべきであり、その観点から、面会交流を全面的に制限すべき場合も存する・・・。

別居親において、面会交流について人格的な利益を有することを前提として、その具体的な内容を特定することは困難。

別居親において、子の養育に関して人格的な利益を有するとしても、これを憲法13条により保障された権利と解することは困難なものというほかない。
  ●憲法24条2項に基づく主張について 
憲法24条2項は、離婚や家族に関する事項について、具体的な制度の構築を第1次的に国会の合理的な立法裁量にゆだねるとともに、その立法に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画したもの(最高裁)。
  判断  別居親の面会交流権が憲法上保障されており、その権利行使のために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であって、それが明白であるとは認められない⇒別居親の面会交流権についての立法不作為は、国賠法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものとはいえない。
  婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が憲法13条、14条1項に違反しない場合に、更に憲法24条にも適合するものとして是認されるか否かは、当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し、当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべき(最高裁H27.12.16)。
別居親と子の面会交流については、民法766条により、子の監護に関する事項として、子の利益を最も優先して考慮して父母の協議で定めるものとされる一方で、
協議により定めることができないときは、家庭裁判所がこれを定めることとされており、・・・・間接強制をすることができるものとされている

面会交流に関する以上の法制度は、別居親と子との面会交流が不当に制約されることがないようにされているものといえ、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠くものとはいえない。
  民事p36
東京地裁R2.7.13  
  遺言書と条件不成就
  事案 被相続人Aは、平成31年3月に死亡。
Aの妻Bは、Aの生前である平成30年9月に死亡。
AB夫婦には、長女X及びその兄Zがいる。 
Aの遺言書の封筒の裏面に、
「◎私がBより先に死亡した場合の遺言書」との記載(「本件封筒文言」)
  判断 ①本件封筒文言はAにより本件封筒の裏面に記載されていたこと、本件封筒は遺言書本分が封かんされ、Aによる表題記載等がなされ、封印がされたもの
⇒封筒と遺言書本分は一体のものとして作成されたと認められ、本件封筒文言は遺言本体の記載と同様に本件遺言に含まれる
②Aは、自身の死後においてもBが生存してしている場合に限って、XからBに対する生活援助を継続してもらう必要性があるために、遺言書本分は、Xに一方的に有利な内容⇒本件封筒文言は、Aが死亡した際にBが生存していることを本件遺言全部の停止条件とする趣旨の条項であると認めるのが相当。

BがAの生前に死亡したことにより条件が成就しないことが確定したことによって、本件遺言は効力を失った。
  民事p41
大阪地裁堺支部R2.7.30  
  刑事事件におけるあおり運転による殺人罪での損害賠償命令に対する異議申立て⇒民事事件でも未必の故意認定
  事案 Yの運転する自動車がAの運転する自動二輪車に衝突し、Aが死亡。 
Yは、Aに対する殺人を公訴事実として起訴された。
Aの相続人であるXが、本件刑事事件の第1審において、Yを相手方として、不法行為に基づく損害賠償等の支払を求める損害賠償命令の申立て(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に不随する措置に関する法律23条)をし、同第1審が、Xの同申立てを認容する旨の裁判⇒Yが意義の申立て⇒同法34条1項より、訴えの提起があったものとみなされた事案。
Xは、本件刑事損害賠償命令後に、自賠責保険金の支払を受けた⇒本件訴訟において請求額を一部減縮。
  刑事事件 Yは、Aに対する殺人の公訴事実により起訴。
Yは、過失運転致死罪が成立するにとどまる旨主張して殺意を争ったが、
YのAに対する殺人の未必の故意を認定し、懲役16年の有罪判決。
その後、控訴棄却、上告棄却。 
  民事事件 争点は、本件衝突についてYに未必の故意が認められるか?
Xは、Yの過失による不法行為は主張しなかった。 
判断:
不法行為における故意とは、自己の行為により一定の結果が発生すべきことを認識しながら、その結果の発生を認容し、その行為をあえて行なうことをいう。
本件衝突に係るYの走行態様等、
①Yが、後方から進路前方にA車両が割り込んできた後、ハイビームを複数回照射し、立て続けにクラクションを鳴らしたこと
②Yが、A車両が急加速した後にそれを追跡するように急加速し、A車両と同様のルートで車線変更したこと、
③A車両との車間距離が約10メートルになった地点に至って初めてブレーキをかけたが、ブレーキの程度は緩やかであったこと、
④本件衝突後、Yが軽い口調で「はい、終わりー。」と言ったこと

Yは、A車両に後方から追い抜かれてY車両の前方に割り込まれたことなどに立腹してA車両を高速で追跡し、Y車両をA車両と衝突させることを意図していたと認定し、本件衝突及びAの死亡の結果に対する未必の故意が認められると判断。
  民事p47
福岡地裁R2.9.16  
  石綿粉じんばく露による死亡と雇用主のビルメンテナンス会社の責任(肯定)
  事案 Aは・・・北九州市立総合体育館の設備の管理業務に従事⇒平成17年に肺がんにり患して肺の一部を切除し、平成25年に細菌性肺炎を原因とするARDSにより死亡。
  Aの相続人であるXらが、Aは本件体育館の石綿含有建材から発生した石綿粉じんにばく露し、じん肺(石綿肺)及び肺がんにり患したことにyり死亡

Y1(北九州市)に対しては国賠法1条1項又は2条1項に基づき、
Y2(会社)に対しては民法415条又は709条に基づき、
損害賠償を請求。
  主張 石綿粉じんばく露とAの死亡との間の因果関係を争うほか、
Y1:本件体育館に営造物の設置又は管理の瑕疵がない
Y2: 安全配慮義務違反がない
  判断   ●本件体育館の設置又は管理に係る瑕疵
国賠法2条1項における営造物の設置又は管理の瑕疵:
民法717条1項の土地工作物責任に係る最高裁H25.7.12を引用し、
吹付石綿を含む石綿の粉じんにばく露することによる健康被害の危険性に関する科学的な知見及び一般人の認識並びに様々な場面に応じた法令上の規制の在り方を含む行政的な対応等は時と共に変化⇒Y1が本件体育館の所有者又は管理者として国賠法2条1項に基づく営造物責任を負うか否かは、人がその中で勤務する本件体育館のような建築物の壁面に石綿含有吹付け材が露出していることをもって、当該建築物が通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになった時点からであると解するのが相当。
①新聞報道
②石綿の除去工事
③文部省が発出した通知
④建設省の通知
⑤建設省による
⑥環境庁・厚生省が
⑦Y1が
⑧北九州市アスベスト対策連絡会議

遅くともAが本件体育館における勤務を開始した平成2年5月頃までには、建築物の石綿含有吹付け材(石綿含有率5%以上の吹付けロックウールを含む。)のばく露による健康被害の危険性及びそのような石綿の除去等の対策の必要性が広く世間一般に認識されるようになり、同時点で、本件体育館は通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになった。

Y1の国賠法2条1項に基づく責任を認めた。
  ●Y2の安全配慮義務違反の有無
安全配慮義務(民法709条)に係る予見可能性について、
使用者が認識すべき予見義務の内容は、
生命、健康という被害法益の重大性⇒安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り、必ずしも生命・健康に対する障害の性質、程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はない。
少なくとも同月(平成2年5月)頃までには、上記吹付けロックウールが使用されている建築物の保守・管理等を依頼されている建築物の保守・管理等を依頼されたビルメンテナンス業者は、石綿粉じんにばく露することにより、そこで作業に従事する従業員の安全性に疑念を抱かせる程度の危険性を認識することは十分可能であった。

Y2の安全配慮義務違反の前提となる予見可能性を肯定し、Y2の安全配慮義務違反を肯定。
  解説 国賠法2条にいう設置・保存の瑕疵とは、民法717条に定める設置・保存の瑕疵と同義とされている。
最高裁H25.7.12の差戻審である大阪高裁H26.2.27では、遅くとも昭和63年2月の時点では、吹付け石綿が施された建物について、通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになった旨判示。
  本判決は、石綿の製造や吹付け、撤去等の作業とは異なり、石綿を直接扱うことが予定されていないビルメンテナンス業務の運営会社に対し、従業員が石綿粉じんにばく露したことにつき、安全配慮義務違反を認めた。
  民事p80
那覇地裁R2.8.5  
  ドキュメンタリー映画の制作会社の報道の自由等
  事案 ドキュメンタリー映画の制作会社であるXが、平成29年7月14日開催の沖縄県議会本会議を傍聴する際に、同議会議長に対して本件本会議の撮影の許可を求めたところ、不許可とする処分

①沖縄県議会本会議の撮影につき許可制を定める沖縄県議会傍聴規則15条(本件規則)は、憲法94条、地自法115条に反し、報道の自由、取材の自由を侵害するもので憲法21条に違反⇒本件規則に基づく本件不許可処分は違法。
②本件規則が合憲であるとしても、本件不許可処分は、議長に与えられた裁量権を逸脱または裁量権を濫用するもの⇒憲法14条1項、21条1項に反する。
③沖縄県議会事務局がXに対し、撮影許可を得るために必要な資料等の教示をしなかったことは違法。

Y(沖縄県)に対し、50万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
  争点 ①Xが報道の自由・取材の自由を有するか
②本件規則の地自法115条違反の有無、憲法94条、21条適合性
③本件不許可処分の憲法14条、21条適合性
④Y(議会事務局)の教示による不法行為の成否
  規定 地自法 第一一五条[議事公開の原則・秘密会]
普通地方公共団体の議会の会議は、これを公開する。但し、議長又は議員三人以上の発議により、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
②前項但書の議長又は議員の発議は、討論を行わないでその可否を決しなければならない。
地自法 第一三〇条[傍聴人の取締り]
傍聴人が公然と可否を表明し、又は騒ぎ立てる等会議を妨害するときは、普通地方公共団体の議会の議長は、これを制止し、その命令に従わないときは、これを退場させ、必要がある場合においては、これを当該警察官に引き渡すことができる。
②傍聴席が騒がしいときは、議長は、すべての傍聴人を退場させることができる。
③前二項に定めるものを除くほか、議長は、会議の傍聴に関し必要な規則を設けなければならない。
憲法 第94条〔地方公共団体の権能〕
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
  判断   ●争点① 
①ドキュメンタリーと報道を厳密に区別することは困難であって、ドキュメンタリーも事実に基づく表現手段である以上、報道の要素をも含み、国民の知る権利に奉仕する機能を有する
②Xの代表者のこれまでの取材活動
⇒ドキュメンタリー映画を製作するXに対して、憲法21条により報道の自由が認められ、取材の自由も尊重されるべき。
  ●争点② 
地自法115条1項の「公開」の趣旨や報道の自由の重要性
⇒報道の正確性を担保する目的を達成するため、会議の撮影が尊重されるべき。
but
①地自法115条1項が会議の撮影について定めず、
②地自法130条の定め
⇒地方議会の会議における撮影につき、各地方公共団体の実情に応じて、各地方議会の議長が会議の撮影の在り方を定めることが許容されていると解される

本件規則が地自法115条1項に反せず、また、憲法94条、地自法14条1項に違反しない。
本件規則の目的:
議会の秩序維持、公正かつ十分な審議の確保、議会の議事内容の正確な伝達の確保。
これらは合理的なものといえ、目的達成のための手段につき、傍聴人による会議の撮影を一律禁止とし、合理的な理由に基づき、傍聴人による会議の撮影を認めたとしても各要請を満たすとの判断ができる場合において、議長の許可により撮影を認めることは、前記目的を達成するために合理的かつ必要な措置
⇒憲法21条に違反しない。
  ●争点③ 
違反しない。
  ●争点④ 
議会事務局が行うべき教示内容について、
①本会議の撮影のために議長の許可が必要であること(Xが求めるのであればさらにその根拠となる本件規則の存在・内容)
②許可申請書作成に必要な記載事項
にとどまり、それ以上の個別具体的な事項について、議会事務局に教示義務があると解する格別の根拠はない。
⇒不法行為には当たらない。
  刑事p98
東京高裁R2.2.5  
  窃盗未遂の被害者の名前を別の者に変更する訴因変更が問題となった事案
  事案 「被告人は、Aが右肩から掛けていたショルダーバッグ内に左手を差し入れ、在中品を抜き取ろうとした」との公訴事実で起訴
⇒AとBは、被害人物を入れ替えて捜査に応じていた
⇒「被告人は、Bが右肩から掛けていたショルダーバッグ内に左手を差し入れ、在中品を抜き取ろうとした」との公訴事実(新訴因)に変更することとし、第1回公判期日でその許可を求めた。
弁護人:
防犯カメラの映像では被告人がAとBの両方のバッグに手を伸ばしているように見える⇒Aに対する窃盗未遂とBに対する窃盗未遂は両立し得る⇒訴因変更に反対
  1審 訴因変更の許否を判断するため、防犯カメラ映像について事実取調べを行なった上で、公訴事実の同一性を害する⇒訴因変更を許さず、旧訴因について審理を続け、犯罪の証明がないとして無罪。 

公訴事実の同一性のうち、とりわけ単一性の判断は各訴因のみを基準として比較対照して行なうべきであるところ、本件の旧訴因と新訴因の記載を比較対照すると、被告人が同一の場所にいたAとBに対しそれぞれのショルダーバッグに順次手を入れて各在中品を摂取しようとしたことが成り立ちうる⇒旧訴因と新訴因とは両立する関係にある。
  判断 公訴事実の同一性については、新旧両訴因の記載を比較し、基本的事実関係の同一性、新旧両訴因の非両立性を判断すべき。
その比較だけで判断できない⇒検察官釈明した内容、証拠調べによって認定できる事実も加えて判断できる。
本件では新旧両訴因の日時場所等がほぼ同一⇒訴因のみを比較しても公訴事実の同一性は判断できず、検察官の釈明や関係証拠も加えた判断すべき。
本件は、両立する事実について、一罪として1回で処理すべきか、数罪として別々に処理すべきかといった、公訴事実の単一性が問題となる事案ではない。
検察官は、「被告人が(自分の隣にいた女性)が肩から掛けていたショルダーバッグに手を入れて在中品を抜き取ろうとした行為」を訴追する趣旨で、旧訴因を特定して起訴したものの、起訴後に、その人物の特定を誤ったことに気づき、新訴因に変更しようとした。

新旧両訴因は基本的事実関係が同一。
検察官は、旧訴因で、前記ショルダーバッグとは別の「Aが所持していたバッグ」に手を差し入れた行為を起訴したのではない。旧訴因と新訴因は、ショルダーバッグを肩に掛けていた者の特定に誤りがあったにすぎず、両立しない。

原審が訴因変更を許可しなかったのは訴訟手続きの法令違反⇒原判決を破棄して差戻、差戻審において訴因変更を許可し、変更された新訴因について審理を行うことを指示。
  解説  ●公訴事実の同一性の判断 
1つの犯罪事象については、1回の刑事手続きで、1個の刑罰権が発動されることが予定されている。
審理が進められて実体判決がなされ確定⇒その刑罰兼発動の範囲に含まれていた事実に対して別の刑罰権を発動することはできない。
その範囲を超える事実に対しては、別個の刑罰権の発動として、新たな公訴提起をすべき。
  ●公訴事実の単一性の判断 
第1審:他院逸世の判断は各訴因のみを基準として比較対象することにより行なうべき
控訴審:本件は公訴事実の単一性が問題となる事案ではない
最高裁H15.10.7:
単純窃盗罪で起訴されて有罪が確定した後、余罪に当たる単純窃盗罪で起訴された事案について、
弁護人:両者を含めて常習特殊窃盗罪を構成する⇒前訴確定判決の一事不再理効が後訴に及ぶと主張。

判断:
常習特殊窃盗罪の性質⇒前訴の訴因と後訴の訴因との間の行使事実の単一性についての判断は、基本的には、前訴及び後訴の各訴因のみを基準としてこれらを比較対照することにより行なうのが相当。
前訴と後訴がいずれも単純窃盗罪であって、訴因には常習性の発露の面は出てこない⇒常習特殊窃盗罪による一罪であるという観点を持ち込むべきではない⇒一事不再理効が及ぶことを否定。
but
前訴が常習窃盗罪で後訴が単純窃盗罪の場合やその逆の場合には、訴因の記載の比較のみからでも両訴因が常習窃盗罪の一部であると窺われる⇒単純窃盗罪が常習性の発露として行なわれたかについて附随的に心証形成をし、公訴事実の単一性の判断をすべき。
最高裁H22.2.17:
前訴が建造物侵入・窃盗の訴因で有罪判決を受けて確定後、
後訴が同じ日に同じ建物に法かした非現住建造物等放火の訴因で起訴
弁護人:前訴の建造物侵入と後訴の放火とが牽連関係に立つ

判断:
公訴事実の単一性を判断するために証拠構造に踏み込み、
初回に浸入して現金等を持ち出し、施錠して退去した後、2回目に侵入して放火した事実を認定し、2回目の侵入は新たな範囲によるものである
⇒初回と2回目の各侵入行為を包括一罪と評価すべきものではなく、牽連関係は否定される
⇒一事不再理効は及ばない。
平成15年最高裁の事案は、常習窃盗罪という特殊な構成要件に関するものであって、一般に、公訴事実の単一性について訴因の記載のみにう基づいて判断されるべきだということにはならないものと思われる。
2484   
  仙台高裁令和2年9月30日判決の損害論 ◆  ◆第1 仙台高裁令和2年9月30日判決の損害論(総論)
  ◇1 本判決の判断手法及び損害判断の在り方・考慮要素
     
  ◇2 一審原告らの主張する被侵害利益の捉え方
  ◇3 損害の有無及び額を判断するための考慮要素 
  ◇  ◇4 本判決における損害論総論の評価
  ◆第2 本判決における損害論(各論)
  ◇1 全中間指針の位置付け
  ◇2 全中間指針の位置付けの評価
  ◇3 相当因果款j系(総論)
  ◇4 相当因果関係(総論)の評価
  ◆第3 本判決の意義
  仙台高裁R2.9.30
判例特報 
  東電福島第一原発事故避難者訴訟(福島県・隣接県)
  ◆1 事案の概要
  ◆  ◆2 原判決の要旨
  ◆     ◆3 本判決の概要 
  ◇(1) 現状回復請求 
  ◇(2) 東電の損害賠償責任
  ◇(3) 国の損害賠償責任
  ■(ア) 規制権限不行使の違法性
  ■(イ) 国の損害賠償責任の範囲 
  ◇(4) 損害 
  ■(ア) 本判決の判断手法
  ■  ■(イ) 損害判断の在り方。考慮要素 
    地域的に9つのグループに分類した上で、
'i) 本件事故により侵害された事柄(基本的な社会インフラ・生活の糧を取得する手段、家庭・地域コミュニティを育む物理的・社会的諸要素、周囲の環境・自然、帰るべき地・心の拠り所となる地・想い出の地等としのて「ふるさと」等)、
(ii) 侵害態様(本件における1審被告東電の義務違反の程度は決して軽微とはいえない程度であったこと)・程度(前記(i)に掲げた事柄が、本件事故により、どの程度放射能汚染されたか(空間線量率等)又は侵害されたか)、
(iii) 本件事故後の経緯・現状等
を考慮要素とし、
放射線に関する知見、本件事故と放射線物質の放出、低線量被ばくに関する知見等に係る認定事実に加えて、1審原告らの旧居住地なしい居住地の状況等に係る認定事実等を基にして、
①~⑨のグループごとに本件事故と相当因果関係のある損害の有無及び額を判断することとし、
それぞれ認定した額が「中間指針等による損害額」を超える額が認容額の基本となる額とした。
  ◇(5) 最終的な認容額
  ◇(6) 相互の保証 
  ◇(7) 二重訴訟1審原告らについて
  ◇(8) 結論
  ◆     ◆4 解説 
  ◇(1) 本判決の位置付け
  ◇(2) 争点
    責任論:
❶一般不法行為(民法709条)に基づく請求の可否(東電)
❷予見可能性の対象(東電及び国)
❸予見可能性の有無及びその時期(東電及び国)
❹規制権限(技術基準適合命令)不行使の違法性の判断枠組み(国)
❺結果回避可能性の主張立証責任(東電及び国)
❻結果回避可能性の有無(東電及び国)
❼国の責任の範囲(国)

損害論:
❽原賠審による中間指針の位置付け
❾損害の考え方(損害額)

特有のもの
❿原状回復請求の可否
⓫追加賠償項目に係る弁済の抗弁の成否
⓬世帯内融通に係る弁済の抗弁の可否
⓭精神的損害とそれ意外の損害との間の費目間融通と弁済の抗弁の成否
⓮相互保証の有無(韓国、中国、フィリピン、ウクライナ)
⓯二重訴訟と訴えの適法性
  ■(ア) 責任論
    ❶:否定
←特則である原賠法3条1項(無過失責任)が適用される。
but
①慰謝料の算定に際しての考慮要素として
②国の規制権限不行使と違法性を判断する前提として、
東電の義務違反(予見可能性等)についても検討し説示。
    ❷予見可能性の対象:
A:福島第一原発の主要建屋敷地高さ(10m)を超える津波
B:実際に到来した本件津波
Aを採用。
    ❸予見可能性の有無及びその時期:
予見可能性の有無:ほとんど全ての裁判例が東電(無過失責任のため判断していない裁判例もある)及び国の予見可能性を肯定。
予見可能性の時期:
裁判例によって結論がわかれる。

東電の予見可能性:
平成14年中(平成14年7月31日(長期評価の公表日)から数か月後、平成14年末頃又は「長期評価が公表された頃以降」とする裁判例)が大勢

国の予見可能性:
A:平成14年中
B:遅くとも平成18年5月
C:遅くとも平成18年末頃
C:平成21年9月(「平成21年報告」がされた頃)

「長期評価」に加えて、これに基づき東電が平成20年4月に行なった平成20年試算のようなシミュレーションをしなければ、福島第一原発の主要建屋敷地高さ(10m)を超える津波が到来することが具体的に分からなかったという事情をどのように評価するかについて、考え方が分かれている。
本判決:
上記Aの見解を採用して平成14年頃。

「長期評価」の見解が、国自らが文部科学省に設置した組織である地震本部から発表された見解⇒経済産業大臣としては、津波や津波地震に係る知見、溢水事故の危険性とその対策等に係る知見が積み重ねられていた中で「長期評価」の内容を認識した以上、これを踏まえたシミュレーションを、東電に対して指示するなり自らするなどしていりえば、平成20年試算と同様の結果が得られたはずであるとの理
but
違法と認められる時期については、総合考慮をして、遅くとも平成18年末。
    ❹規制権限(技術基準適合命令)不行使の違法性の判断枠組み(国):
本件で問題となっている技術基準適合命令は、経済産業大臣に専門技術的裁量が認められることを前提としたもの
⇒宅建業者訴訟上告審判決等を参照すべき。
(i)規制権限が定めた法が保護する利益の内容及び性質
(ii)被害の重大性及び切迫性
(iii)結果発生の予見可能性
(iv)結果回避可能性
(v)現実に実施された措置の合理性
(vi)規制権限行使以外の手段による結果回避困難性(被害者による結果回避可能性)
(vii)規制権限行使における専門性、裁量性
などの諸事情を総合的に検討して、具体的な事情の下において、その不行使がその許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときに初めてその不行使が被害を受けた者との関係において国賠法1条1項の適用上違法となる。
    ❺結果回避可能性の主張立証責任(東電及び国):
同種事案に係る裁判例の大半:住民側に主張立証責任がある
本判決:
当事者間の衡平の観点⇒少なくとも住民側が一定程度具体的に特定して結果回避措置について主張立証した場合には、東電ないし国において、その措置が実施できなかったこと又はその措置を講じていても本件事故が回避不可能であったこと等の結果回避可能性を否定すべき事実を主張立証すべき。

主張立証責任の(事実上の)転換をいうのか、間接反証をいうものかなどについてはっきりとしないが、いずれにせよ、
①福島第一原発の詳細構造及び本件事故の詳細な経緯等に係る資料は原子力事業者である東電及びその安全規制者である国が専らほじしている⇒結果回避措置の合理性ひいては結果回避可能性について、住民側が細部まで厳密に主張立証することはそもそも不可能に近いこと
②伊方原発訴訟上告審判決を参照して、原子力発電所という高度に専門性がある最先端の知見に基づいて管理運用されるべき設備の瑕疵により損害を被った者が、その賠償を設備の設置・管理者に対して求めるという訴訟類型における主張立証責任の分配については、当事者間の衡平の観点に特に留意する必要が高いこと
が重視されたものと思われる。
同様の判断は同種の裁判例では稀であるが、
国の予見可能性は認めつつも、結果回避可能性があることについての立証がされていないとして国の責任を否定する裁判例も散見される⇒高裁がこのような判断をしたことの影響はそれなりにある。
    ❻結果回避可能性の有無(東電及び国):
同種事案に係る裁判例:
結果回避措置としてはは、
(a)ドライサイトを維持するための防潮堤等の措置と
(b)ドライサイトが維持できない場合を想定した電源設備等の水密化や電源設備の高所配置等その他の措置の、
大きく分ければ2つが住民から主張され、それぞれについて判断がされている。
(a)の措置については、
①予見可能性の時期との関係で、防潮堤等の設備措置が本件津波に間に合うのか、
②仮に間に合ったとして、本件津波を防ぐことができたか
等が、
ドライサイトを維持できない場合を想定した(b)の各措置については、
防潮堤の設置ほど時間や費用がかからない可能性があるとしても、果たして、当時の知見からそのような措置が現実的であったといえるのか
等が争点となり、
最終的に、この点の考え方如何が、国の責任を認めるか否かの結論を左右している。
結果回避可能性の主張律書責任が住民側
この結果回避可能性が認められるハードルは高くなり、結果的に国の責任が否定されることとなりやすい。
当時としては、(a)のドライサイトを維持する方法しか考えられなかったとした上に、❸の予見可能氏について平成18年以降と判断
⇒平成23年の本件津波到来までに工事が間に合わないとの結論になりやすい。

他にも、東電の資源等は有限であり他に優先事項(地震対策)があったことも勘案して結果回避可能性を否定する裁判例や、
平成20年試算による想定津波と実際に到来した本件津波とでは方角や規模等が異なる⇒想定津波に合わせて防潮堤を設置したとしても本件津波を防ぐことはできなかった可能性あがるとして結果可能性を否定する裁判例。
本判決は、結果回避可能性の主張立証責任を、東電、国いずれの場合でも事実上転換⇒当時合理的に考えられた措置を講じても本件事故という結果を回避することが不可能であったことについて東電や国が具体的な主張立証をしていない⇒結果回避可能性を認めている。
    ❼国の責任の範囲(国):

一審被告国:仮に国が責任を負うとしても、国の規制権限不行使の責任は2次的かつ補完的なものにとどまる⇒1審被告国の損害賠償責任は1審被告東電のそれよりも限定されるべき。

原判決:
水俣病関西訴訟控訴審判決において国の賠償責任が企業の4分の1とされたこと(大阪高裁)、筑豊じん肺訴訟控訴審判決において国の賠償責任がじん肺による全損害の3分の1とされたこと(福岡高裁)等を参照し、1審被告国の賠償責任を1審被告東電の賠償額の2分の1程度とした。
vs.
いずれも、国による規制権限不行使が違法と判断された時点以前にも有害物質ないし粉じんによる被害が発生していた(この部分について企業には責任が認められた)事案であるのに対し、
本件では、国による規制権限不行使が違法と判断された時点よりも後の1回的な本件事故によって被害が発生した事案。


本判決:
損害を被った者との対外的な関係において1審被告国の立場が2次的・保管的であることを根拠としてその責任の範囲を一部に限定することは相当ではなく、1審被告東電及び1審被告国は1審原告らに係る損害全体につついての損害賠償義務を負う。
  ■(イ) 損害論 
    本件では精神的損害のみが請求されているところ(多くの同種の集団訴訟において同じ。)、❽原賠審による中間指針の位置付けが問題となる。
裁判例:
中間指針は裁判規範ではないという前提に立つ点で共通。
but
中間指針等の位置付けを重く見て判断をしていると思われる裁判例
中間指針等の基準はあくまでも参考程度にとどめ、これを超える損害が認定できるとして中間指針等の基準よりも相当程度多額の賠償を命じる裁判例。
中間指針は、個々の損害及び額についての細目の主張・立証に関する被害者側のコストを考え、当時の事後予測を踏まえつつ、最低限間違いがないと思われる部分に限って控えめに損害及びその額を捉えて損害の填補を行うという観点から政策的に策定されたもの⇒仮にそれが訴訟の場にもスライドして実質的に参考にされると、私法の観点からの精査を受けることなく損害及びその額に対する評価がされてしまうおそれや、中間指針等策定時の将来予測と現実のズレが反映されないおそれ(現に一部の裁判例を除き反映されていないとされる。)があるとの指摘(潮見)
本判決:
中間指針が定められた議論の経緯等⇒指針で定められた額は、指針策定当時までの事情を基に、日常生活の阻害や故郷の喪失による精神的損害に対する損害賠償額を、簡易迅速な損害回復を旨とするため東電も納得し支払を拒否しないような金額として妥当な額を基準として打ち出したもの⇒本件で、口頭弁論終結時までの事情を基に本件事故と相当因果関係のある損害額を定める場合に、中間指針等の基準額よりも高い額となることはむしろ自然であるとして損害額を認定。
    ❾損害の考え方(損害額):
平穏生活権侵害が主張されているところ、これがどのような権利とみて、どのような要素を加味して損害額を算定するかについては、裁判例によって様々。
平穏生活権に支えられた「包括的生活利益」とう枠組みを基礎に据えていながら、損害論に至るや権利・法益レベルでの個別かを再度図った上でそれに対応sる損害とその額を判断⇒損害評価において一部の要素が落ち、平穏生活権侵害の損害が矮小化されている裁判例が散見されるとの指摘(潮見)。
本判決:
丙孫生活権侵害における損害を判断するに当たり、まず、損害論(総論)において、いわゆる「受忍限度論」による判断枠組みは妥当せず、端的に本件事故と相当因果関係がある損害の有無及び額を認定。
損害の判断において考慮すべき要素として、前記3(4)(イ)の(i)~(iii)を挙げ、これらはそぞぞれが独立したものではなく有機的に一体の事柄を形成する関係にあることを前提に損害額を認定。
損害論(各論)においては、
①避難そのものに係る精神的損害
②避難生活に係る精神的損害
③一部の一審原告については、「ふるさと喪失」に係る損害
の3種類に分けて、グループごとに損害を評価するという手法。

前記損害論(総論)の記載や、損害論(各論)における一審原告らの旧居住地ないし居住地の状況等に係る子細な認定部分等
⇒平穏生活権侵害という包括的な生活利益の喪失を損害賠償により填補するという視座をもって損害評価がされたものと思われる。

本件事故により侵害された権利又は法律上保護される利益の内実がどのようなものであると考えるべきなのか、
それについて受忍限度論が適用されるべき場面なのか否か
等については、なお議論の余地がある、。
  ■(ウ) その他、本件に特有の論点
  ◇(3) 結語 
     
2483   
  行政p3
横浜地裁R2.3.18  
   
  事案 人工呼吸器による呼吸管理等の医療的ケアが必要な児童である原告Aにつき、県教育委員会が、地域の小学校の特別支援学級への就学を求める父母の原告B及びCの意向に反して原告Aを就学させるべき学校として神奈川県立Z用語学校(特別支援学校)を指定して通知⇒原告A及び原告父母の3名が、被告県(神奈川県)に対し、
県教委の前記処分が違法である旨主張し、
①当該処分の取消しを求める訴訟を提起するとともに(行訴法3条2項)、
②被告市(川崎市)に対して、市教育委員会(「市教委」)において、原告Aを就学させるべき学校としてD小学校又はE小学校を指定するように求める非申請型義務付けの訴え(行訴法3条6項1号)を提起
  法令 学校教育法:
16条
17条1項
学校法施行令:
5条1項
11条1項
14条1項、2項
18条の2j 
障害者基本法
4条1項
2項
16条1項、2項、3項、4項
障害を理由とする差別の解消に関する法律
7条1項、2項
  判断   ●訴訟要件充足の有無 
県教委が行なった本件就学通知(施行令14条)について、
県教委が行なう就学通知は、公権力の主体である県教委が、
施行令14条に基づき、
原告Aが就学すべき学校を指定し、その旨の通知を保護者にするもの

そのことによって、原告Aの教育を受ける権利を直接形成し、保護者である原告父母に原告Aに対する就学義務(法17条1項)を具体的に形成するもの
⇒処分性(行訴法3条2項)を認めた。
市教委が行なう就学先指定・・・・処分性を認めた。
原告適格も肯定。
義務付けの訴えの要件である「重大な損害を生ずるおそれ」及び「その損害を避けるため他に適当な方法がないとき」(行訴法37条の2第1項)についても、要件を具備していると判断。
  ●本件就学通知の適法性 
①手続上の適法要件と
②実体上の適法要件
に分けて検討し、すべて充足。
③裁量権の逸脱濫用の有無を検討し、それも否定。
  ◎手続上の適法要件 
本件就学通知が施行令14条1項で定める時期()翌学年の初めから2月前まで)より遅れたことについて、
本件就学通知に至るまでの一連の手続の中で、県教委は、三者の合意形成のため時間を要してその通知の時間の定めを遵守することができなかったものであると認められる⇒その期間不遵守にはやむを得ない理由があるものと認められ、このようなやむを得ない理由のある本件において、県教委が本件就学通知をするに当たって、施行令14条1項所定の期間を遵守していなかったとしても、そのことは、本件就学通知の手続的瑕疵とはならない。
  ◎実体上の適法要件 
  ◎裁量権の逸脱濫用について 
市町村の教育委員会は、その所管する教育行政に関して一定の裁量権を有しているものと認められる。
認定特別支援学校就学者の審査については、対象児童の基礎資料の収集・調査を経て、専門家で構成される支援会議の審議を経て最終的な決定に至るものと認められる⇒
①このような定型的な行政の判断過程において、考慮すべき事情を考慮しないことを含めて、基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、
②事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと等により、その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合
に限り、裁量権の範囲を逸脱又はこれを濫用したものとして違法となる。
①市教委は、県教委の関与の下、原告父母との間で合意形成に努め、結局合意形成に至らなかった⇒合意形成に対する手続に瑕疵があるとはまでは認められない。
②原告Aの主治医に病状を照会したり、通園していた幼稚園のその状況を照会したりしていないとしても、そのことは本件就学通知に至る判断過程の瑕疵を基礎付けるものではないし、そのことをもって障害者に対する合理的配慮を欠くということはできない。
③被告市が医療的ケア支援事業の適用範囲を人工呼吸器使用児にまで拡大しなかったとしても、被告市の運用が不合理であるとはいえない。

結論として、
①就学先指定の判断過程において考慮すべき事情を考慮しないこと、
②その基礎とされた重要な事実に誤認があること、
③事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと
等の看過し難い過誤や欠落があったとは認められず、また、その判断内容も著しく不当であるとは認められない
⇒裁量権の逸脱又は濫用の違法があるとはいえない。
  解説  従前:障害児は原則として特別支援学校に入学
平成25年施行令改正:障害児も原則小学校または中学校に就学し、特別に認定された場合にのみ特別支援学校に在籍。 
  わが国はは、平成19年に障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)に署名し、同条約批准に向け、国内の障害者に関する制度改革をを進めるべく、
障害者基本法の改正、障害者差別解消法の制定等、障害児・障害者をめぐる法を大きく転換。
障害者権利条約24条:
人間の尊厳や人権、多様性の尊重を強化させ、
障害者が精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること等の目的の下、
「学問的及び社会的な発達を最大にする環境において、完全な包容という目標に合致する効果的で個別化された支援措置がとられること」
「個人に必要とされる合理的配慮が提供されること」
等が求められる。

障害のある子どもが障害のない子どもとと共に教育を受けるというインクルーシブ教育の理念を打ち出したもの。
  取消しを求める県教委の処分と義務付けを求める市教委の処分との関係:
県教委の処分が取り消されない以上、市教委の処分の義務付けは命じ得ないのではないか(矛盾する2つの処分の平地はありえない。市教委の処分の義務付けは、県教委の処分の取消しが前提となる。)?
県教委の処分の取消しが、市教委の認定特別支援学校就学者の認定が違法であるという理由で認められる⇒その理由の拘束力によって(行訴法33条)、市教委は、当然に施行令5条1項、2項の処分をすることになる⇒義務付けの訴えは訴えの利益がないのではないか?といった点の検討が必要では? 
本判決:本件で原告が義務付けを求めている市教委の就学先指定処分を施行令5条2項、11条に基づくものであると捉えた上で処分性を論じている。
vs.
本件で義務付けを求めている処分は単純に施行令5条1項、2項に基づくものであり、処分性があることは明らかでは?
市教委が県教委に対して通知すr就学先指定(施行令11条)を、保護者には通知されず、内部的なものにすぎないのではないか?
これが行政処分⇒県教委のする就学先指定処分において、この市教委の就学先指定の違法が承継されるか否かの検討を要するのでは?
本判決:
「県教委は、県専門委員会の意見を踏まえ、・・・市教委に対し、原告Aを特別支援学校就学予定者として承認する旨の通知を発した」という事実を認定。
vs.
「県教委の承認」は法的根拠があるのか?
市教委の認定特別支援学校就学者の認定との関係はどうなるのか?
  民事p30
名古屋高裁R1.8.30  
  確定測量図の交付義務について争われた事例
  事案 土地の売主であるXが買主であるYに対し、Yの残代金不払いの債務不履行によって売買契約が解除⇒違約金(既払いの手付金を控除した残額)の支払を求めた(本訴請求)。
YがXに対して、約定の確定測量図を交付しないXの債務不履行又は瑕疵担保責任によって売買契約が解除されたことを主張⇒契約解除による原状回復義務に基づき、手付金の返還を求めた(反訴請求)。
  事実 「売主は、買主に対し、残代金支払日までにその責任と負担において、隣地所有者等の立ち合いを得て、資格ある者の測量によって作成された本物件の確定測量図を交付する」などの約定 
南側の隣地所有者Aのにが境界立会図等への署名押印を拒んだ。
Xは、測量事務所から、
①本件土地の境界については、平成27年作成の確定測量図が市役所土木課に保管されている
②法務局担当者からAの署名押印を得られない状態でも分筆登記が可能であるとの確認が得られた
⇒Aの書面による承諾がない場合でも確定測量図として支障がないとの報告を受けたため、Yに対し、残代金の支払を求めた。
  争点 境界についてAの書面による承諾がない状態で作成された確定測量図の交付によって、Xが本件約定の義務を履行したといえるか。 
  判断 ①本件約定の文言
⇒本件約定における確定測量図は、実際に隣地所有者の立会いを経て作成されたものを指すと解すべき。
②買主が、隣地所有者の立会いやその結果境界を承認している事実を確認することは容易ではない。

「隣地所有者等の立会いを得て」とは、立合いの結果確定された境界につき、書面による承諾を得る義務を課す趣旨であると解すべき⇒Aからそのような書面の承諾を得ていないXは、本件約定の義務について履行の提供をしたとはいえない。
平成27年作成の確定測量図が存在しているため、分筆登記等が可能とのXの主張
but
Xが、売買契約時に特段の留保を付すことなく本件約定の義務をを負うことをYに約し、測量事務所からAの書面による承諾が得られないとしても確定測量図として支障がない旨の報告があるまで、Aの書面による承諾の取得に向けて行動し、Yとの間で確定測量図の交付期限とされた残代金支払日を延期する旨の合意
⇒Xは、Yに対し、改めて、売買契約当時の隣地所有者の立ち合いを得て作成された確定測量図を交付する義務を負ったと解するのが当事者の合理的意思に合致。
過去に旧隣地所有者との間で境界を確定した経緯があっても、境界について現在の隣地所有者の書面による承諾を得た上で策壊死された確定測量図を交付できないという事態が、当該土地の減価要因となると考えられる
⇒価額低下のリスクを回避するために、買主において、改めて、現在の隣地所有者の立会いによる確定測量図の作成を求めることは必ずしも不合理ではない。
  民事p38
福岡高裁R2.7.6  
  既存障害と新たに生じた障害とが、日本スポーツ振興センターが行なう災害救済給付制度における「同一部位についての障害」に該当するとされ、障害見舞金の支払請求が棄却された事案
  事案 Y2:独立行政法人日本スポーツ振興センターであり、独立行政法人
X1は、先天性の脳性まひにより身体障碍者福祉法別表第1級の認定を受け、特別支援学校に在籍。
給食介助中、誤嚥窒息に陥り、低酸素脳症に由来する重篤な脳障害を後遺。
X1の母であるX2は、Y2に対し、障害見舞金の子宮を請求⇒Y2は本件省令21条5項を根拠に不支給決定をし、不服審査請求に対しても同様の回答。

X2は、
①本件省令21条5項が、第1級の既存障害を持つ者とそうでない者を合理的な理由なく差別するもの⇒憲法14条1項に違反し、また、センター法が定める障害見舞金の支給目的とも整合せず、センター法の委任の範囲を逸脱する違法なもの⇒本件省令21条5項の無効を主張
②その救済措置として、憲法13条及び29条の直接適用により、第1級相当の障害見舞金の支払を求め、

更に、本件省令21条5項が無効でないとしても、既存障害と本件事故による後遺障害は「同一の部位」の障害には当たらないと主張。
  解説 独立行政法人日本スポーツ振興センター法16条2項は、災害共済給付の給付基準等の策定を政令に委任⇒施行令3条1項2号は、障害見舞金の額について文科省令で定める額⇒省令21条1項は、障害見舞金の額を別表で規定。
別表は、労基法施行規則別表第2及び労災法施行規則別表第1の身体傷害等級表(「労災別表」)に倣って策定。
  労災別表について:
既に身体障害がある者が、負傷又は疾病によって同一部位について障害の程度を加重した場合には、その加重された障害の該当する障害補償の金額より、既にあった障害の該当する障害補償の金額を差し引いた金額の障害補償が行なわれる(労基法施行規則40条5項、労災法施行規則14条5項も同様)。
「同一部位」とは「同一の系列」の範囲内をいうとされ、同一部位に新たな障害が加わったとしても、その結果、労災別表上、既存の障害よりも現存する障害が重くならなければ「加重」に該当しないとされている。 
本件省令21条5項もまた、労基法施行規則40条5項等と同様、
「既に障害のある児童生徒等が・・・同一部位についての障害の程度を加重した場合の傷害見舞金の額は、加重後の障害の等級に応ずる障害見舞金の額から加重前の障害の等級に応ずる障害見舞金の額を差し引いた額」と規定。

既存障害として「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」(第1級3号)に該当する脳障害を有する児童生徒等が、学校事故により更に重篤な脳障害を負うに至ったとしても、既存障害と後遺障害は「同一の系列」の範囲内にある障害であり、かつ、既存障害である第1級より重い等級は存在しない⇒障害見舞金を受け得ない。
自賠責保険の分野では、労基法施行規則40条5項等と同様の規定である自賠法施行令2条2項の解釈について、同項の「同一の部位」とは、「損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位」をいうと解すべきであるとして、脊髄損傷により体幹と両下肢の機能を全廃する既存障害(中枢神経の障害)を有していた者が、交通事故により頚部痛及び両上肢の痛み・しびれの後遺障害(末梢神経の障害)の発生を主張した事案において、胸椎と頚椎とは異なる神経の支配領域を有し、それぞれ独自の運動機能、知覚機能に影響を与えるもの⇒既存障害と事故によって生じた障害は、「同一の部位」には当たらないとした裁判例(東京高裁)がある。
  判断 災害救済給付制度が、被災児童生徒の迅速な救済を図るために、互助共済の理念に基づいて創設された、保険や損害賠償とは異なる特殊な制度。
その具体的な給付内容は、制度の目的及び理念を踏まえながら、学校災害の傾向や状況、給付財源、他の社会保障制度との関係等をも考慮した上で、最終的には立法者による政策的な判断によって定めざるを得ない。

本件施行令や本件省令が委任の趣旨を逸脱して違法となり得るのは、その内容が著しく合理性を欠き、およそ被害児童生徒の迅速な救済に資するものでないと認められる場合に限られるというべきであり、憲法違反の問題も、基本的にはその限度で生じるにすぎない。
・・・・本件省令21条5項については、その趣旨が、障害のない状態から一定の障害を残存した場合と、既存障害が加重されて現在の障害に至った場合との均衡ないし公平を確保することにある⇒その調整方法として一定の合理性がある。
  解説 自賠法の下では、保険会社が支払うべき保険金の額は後遺障害等級表によって定められているものの、自賠法16条1項に基づく被害者の保険会社に対する直接請求権は、損害賠償請求権であって保険金請求権ではない(最高裁)⇒「同一の部位」に当たるかどうかは、損害として一体性があるかどうかを基準とすべきであるという解釈が可能に。 
  民事p89
横浜地裁R2.6.11  
  税理士法人の損害賠償責任が認められ、その責任制限条項が消費者契約法10条後段に反し無効とされた事案
  事案 亡Aの相続税申告に関する税務代理を税理士法人であるYに依頼したXらが、Yには、前記業務に際し、租特法69条の4に定める小規模宅地等の特例の適用の可否を検討せず、その適用をしなかった過失があり、その結果、本件特例適用時より相続税額が高額に⇒Yに対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を求めた。 
本件委任契約には、Yの委任事務処理上の過失によりXらに損害が生じた場合の賠償額を上限をXらの支払った報酬額(約350万円)とする旨の責任制限条項。
  争点 ①本件土地における特定同族会社事業用宅地等としての本件特例の適用対象該当性
➁本件責任制限条項の有効性 
争点①については、本件特例の要件のうち、亡Aの死亡時、本件土地がいわゆる「準事業」、すなわち「事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの」(租特法施行令40条の2第1項)の用に供されていたといえるか。
  判断  ●争点①: 
不動産の貸付け等が準事業に当たるためには、当該不動産の貸付けが、相当の対価が定められ、かつ、相当程度の期間継続することを予定した賃貸借契約に基づいて行なわれていることが必要であるが、相続の開始前に、賃料外支払われたことを必須の要件とするものではない。
本件賃貸借契約:
相当な対価といえる賃料が定められ、
更新条項が定められるなど、相当の期間継続することを予定していたものと認められる

本件特例の適用を肯定。
  ●争点② 
判例(最高裁H23.7.15)を引用した上で、
①相続税申告の税務代理という本件委任契約の性質上、Xらにおいて契約締結前に本件責任制限条項によって生ずるリスクの程度を見積もるのが困難
➁一般の消費者と税理士法人との間の契約であり、契約締結過程における双方の情報料や交渉力には、大きな差がある
③実際の契約締結過程において、YがXらに対し、Xが負担することとなる具体的なリスクの程度を推測可能な情報を提供しなかった

本件責任制限条項は消費者契約法10条後段に反するものであり無効。
⇒慰謝料等を除いた損害全額の賠償を命じた。 
  解説  ●争点①
課税要件の明確性の要請⇒課税額の減少に係る特例の適用について、明文のない要件を設けることには慎重であるべき。
事業用土地について本件特例が設けられている趣旨:
事業が雇用の場であるとともに取引先等と密接に関連している等事業主以外の多くの者の社会的基盤としてその処分等に制約を受けることにj鑑み、これに課税上特別の配慮をしたもの。
かかるとち処分の制約は、継続的に行うことを予定した賃貸借契約等が締結され、土地の利用が開始された時点で生じ得るもので、相続開始時点で初回賃料が支払われていたか否かによって必ずしも左右されない。
  ●争点② 
消費者契約法 第一〇条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
本件責任制限条項が法10条後段にいう
「法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限」する条項に当たることは明らか

「民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に当たるかが問題。
平成23年判例:
消費者契約法の趣旨、目的に照らし、
当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、
消費者と事業者との間に存する情報の質及び量
並びに
交渉力の格差
その他諸般の事情を総合考慮して判断すべき。

これらの事情のうち、消費者と事業者との間の情報及び交渉力の格差の有無並びにその程度に特に留意すべきとの指摘(最判解説)
  労働p99
東京地裁R2.1.29  
  銀行の行内通達等の情報漏えい⇒懲戒解雇・退職金不支給の事案
  事案  原告は、対外秘である行内通達等を無断で多数持ち出し、出版社等に内容を漏えい⇒懲戒解雇処分を受け、退職金約1200万円を不支給とされた。
被告の退職金規定には「懲戒処分を受けた者に対する退職金は減額又は不支給となることがある」との規定。、 
  訴訟 本訴:原告が被告に対し、
主位的に、
懲戒解雇が無効であるとして、雇用契約上の地位確認並びに未払賃金及びこれに対する遅延損害金及びの支払を求め
予備的に
懲戒解雇が有効であったとしても退職金の不支給は不合理であるとして、退職金及びこれに対する遅延損害金の支払等を求め
反訴」
被告が原告に対し、原告の居住する社宅の明渡し及び賃料相当損害金の支払等を求めた
  争点 ①懲戒解雇の有効性
②退職金支給の適法性 
  判断  ●争点① 
意図的な4件の情報資産の持ち出し及び15件の情報漏えいを認定
これらは被告の就業規則に定める懲戒事由に該当。
懲戒解雇の相当性について、
①銀行として国内外における金融サービスを提供するという業務の性質上、情報資産の適切な保護と利用が極めて重要⇒被告は職員に対し情報セキュリティ対策の徹底を図っていた
but
原告は常習的に前記情報漏えい等を行なったもので、このような原告の行為は、情報資産の適切な保護と利用を重要視する被告の企業秩序に対する重大な違反行為である。
②原告の情報漏えいに基づき多数の記事が執筆されたことを推認され、これにより被告の情報管理体制に対する疑念を世間に生じさせ、被告の社会的評価を相応に低下させたといえる
③過去のけん責処分による反省もみられなかった

原告と被告との間の信頼関係の破壊の程度は著しく、将来的に信頼関係の回復を期待することができる状況もなく、懲戒解雇を選択することやむを得なかった。

懲戒解雇は客観的に合理的な理由があり社会通念上相当である。
  ●争点② 
職員が懲戒処分を受けた場合に退職金を不支給とすることができるのは、労働者が使用者に採用されて以降の永年の勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為がある場合に限られると解するのが相当。
原告の行為は、被告の企業秩序に対する重大な違反行為であり、被告の社会的評価を相応に低下させたものといえる
but
被告のサービスに混乱を生じさせたり、被告に具体的な経済的損失を発生させたりするものではなかったこと等
⇒被告の約30年にわたる勤続の功を完全に抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為であったとまでは評価することは困難
⇒退職金の不支給は、7割を不支給とする限度で合理性を有する。
  解説  ●懲戒解雇の有効性 
懲戒解雇は懲戒として最も重い処分であり、被処分者の再就職の障害にもなる

当該行為の性質、態様、被処分者の勤務歴、その他の情状をしんしゃくし、解雇とするには重すぎるときは、懲戒解雇は無効とされている。
本件:
高度の情報管理が求められる銀行において意図的かつ常習的に情報を漏えいさせたという行為の性質⇒懲戒解雇の有効性。
  ●退職金不支給 
退職金が賃金の後払い的性格を有しており、労基法上の賃金に該当
⇒退職金を不支給又は減額支給とすることができるのは、労働者の勤続の功を「抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合に限られる。
  刑事p113
東京高裁R1.12.13  
   
  事案 当時会社の代表取締役であった被告人が、共犯者らと共謀の上、被告人の総報酬欄等に虚偽の記載(過少記載)のある有価証券報告書を関東財務局長に提出⇒金融商品取引法違反の罪に問われている事案。
  主張 検察官:B・Cの供述調書等と、検察官B・C並びに同人らの弁護人を作成者とする刑訴法350条の2第1項の合意の内容を刑訴法350条の3第2項に従って記載した書面(「合意内容書面」)を証拠請求 
弁護人:検察官、B・C又は同人らの弁護士が協議・合意に関して作成した一切の文書(「協議・合意関係文書」)は合意内容文書の証明力を判断するのに重要な証拠であり、刑訴法316条の15第1項5号ロ又は6号に該当するなどとして、類型証拠開示を求めた。
  判断 合意内容書面の証拠請求は、犯罪事実を積極的に立証するためではなく、刑訴法350条の8前段の証拠請求義務を果たすためのもの。 
刑訴法が合意内容書面の証拠請求義務を定めている趣旨は、合意に基づく供述が、他人を巻き込んだ虚偽の供述であるおそれがある⇒その供述の信用性に関連し得る合意の存在及び内容を関係者に明らかにするためのもの。
合意の存在や内容を踏まえた供述の信用性立証が実質的に行われる限り、合意の存在や内容それ自体についての詳細な立証が求めらっることはない。
事案によっては、合意の経緯等が、供述の信用性判断に影響する場合がないとはいえないが、それは被告人側の具体的主張等を踏まえて検討されるべき問題。
合意内容書面は、その内容の信用性判断が当然に予定されている証拠とはいえない⇒協議・合意関係文書は、合意内容書面の信用性判断のために重要な証拠といえず、
刑訴法316条の15第1項柱書の「特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要な証拠」に該当しない。
  解説  ●協議・合意制度
他人の刑事事件の捜査・公判に協力することを合意する捜査・公判協力が他の競技・合意制度。
当該被告人の弁護人の同意が必要(350条の3第1項)
←巻き込みの危険を防止。
合意の内容は、検察官、被疑者又は被告人及び弁護人が連署した合意内容書面によって明らかにしなければならず(同条2項)、
合意に基づく供述録取書等が他人の刑事事件において証拠とされる場合には、合意内容書面の取調べを請求することが義務付け(350条の8)
vs.
当該被告人の弁護人による信用性の担保には限界がある

当該他人(標的被告人)の弁護人による証拠開示及び反対尋問の重要性が指摘されている。
●協議・合意関係文書の類型証拠該当性
刑訴法316条の15の類型証拠開示は、特定の検察官証拠請求の証明力を判断するために重要な一定類型の証拠開示を定めている。
本決定:類型証拠開示を否定

合意内容書面は、刑訴法350条の8に基づき合意の存在及び内容を明らかにするために請求されているものに過ぎず、その内容の信用性判断が予定されている証拠ではない。
but
「供述の信用性判断に影響する場合がないとはいえないが、それは被告人側の具体的主張等を踏まえて検討されるべき問題である」と指摘

類型証拠開示を一律に否定する趣旨ではないと思われる。
B・Cの供述証拠が証拠請求されている⇒供述調書の内容の信用性判断のための類型証拠開示が認められる余地はあると思われる。
2482   
  民事p3
最高裁R2.9.3  
  ①選挙の取消しを求める訴え+②後任理事又は監事を選出する後行の選挙の効力を争う訴えで①の訴えの利益
  事案 Y:中小企業等協同組合法に基づき設立された事業協同組合
平成28年5月のYの通常総会で理事を選出する選挙(「本件選挙1」)及び幹事を選出する選挙(「本件選挙2」)

本件選挙1で選出された理事によって構成される理事会がした招集決定に基づき、同理事会で選出された代表理事である理事長が招集して、平成30年5月、Yの通常総会が開催。同窓会で本件選挙1及び2で選出された理事及び幹事全員が任期満了で退任したとして理事を選出する選挙(「本件選挙3」)及び幹事を選出する選挙(「本件選挙4」)。 
Yの組合員であるXが、Yに対し、
①本件選挙1及び2の各取消しを求めるとともに、
②本件選挙1を取り消す旨の判決の確定を条件に、本件選挙3及び4の各不存在確認を求めた。
  原審 本件選挙1及び2の各取消しの訴えの係属中に、役員全員が任期の満了により退任し、その後に行なわれた本件選挙3及び4で役員が新たに選出⇒特別の事情のない限り、取消しの訴えの利益は消滅。 
取消請求の認容判決確定まで本件選挙1は有効とされ、事実審の口頭弁論終結時において本件選挙3及び4は適法であった⇒本件選挙1の取消しの訴えの利益があるとはいえない。
前記特別の事情もない⇒本件選挙1及び2の各取消しの訴えは不適法。
本件選挙3及び4の各不存在確認の訴えは、過去の法律関係の不存在について停止条件付きで確認を求める訴え⇒不適法。
    Xが上告受理申立て
  判断 事業協同組合の理事を選出する選挙の取消しを求める訴えに、同選挙が取り消されるべきものであることを理由として後任理事又は監事を選出する後行の選挙の効力を争う訴えが併合されている場合には、後行の選挙がいわゆる全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り、先行の選挙の取消しを求める訴えの利益は消滅しない。

原判決を破棄し、本件選挙1の取消事由の存否等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻し。
  解説  選挙の瑕疵を争う訴えには、会社法の株主総会決議の瑕疵を争う訴えの規定が準用されると解される。
役員選任の株主総会決議の瑕疵を争う訴えの利益にについて、
①事後的な事情の変化と役員選任の株主総会決議取消しの訴えの利益の存否に関する最高裁昭和45.4.2と
②株主総会決議の瑕疵の連鎖と役員選任の株主総会決議不存在確認の訴えの利益の存否に関する最高裁H11.3.25
昭和45年最判:
株主総会決議取消しの訴えのような形成の訴えについては、法律に規定する要件を充足する限り、訴えの利益を有するのが通常。
but
後の事情の変化によりその利益を欠く場合がある。

役員選任の株主総会決議取消しの訴えが係属中、その決議に基づいて選任された取締役ら役員がすべて任期満了により退任し、その後の株主総会決議によって取締役ら役員が新たに選任され、その結果、取消しを求める選任決議に基づく取締役ら役員が現存しなくなった⇒特別の事情のない限り、決議取消しの訴えの実益がなくなり、訴えの利益を欠くに至る。

決議後の事情の変化と決議取消の訴えの利益の有無は、決議の取消しを求める「実益」があるか否かという観点から判断すべきとするもの。
平成11年最判:
先行の取締役選任の株主総会決議の不存在委の瑕疵が後行の取締役選任の株主総会担ぎの不存在の瑕疵をもたらす(瑕疵が連鎖する)との最高裁H2.4.17の考え方を踏襲しつつ、
役員選任の株主総会決議後の事情の返還と決議不存在確認の利益の有無について、
先行の取締役選任の株主総会決議の不存在の瑕疵が後行の役員選任の株主総会決議に継続する事情の下で、そのような瑕疵の継続が主張されている場合においては、後行決議の存否を決するためには、先行決議の存否が先決問題となり、先行決議の不存在確認を求める訴えに後行決議の不存在確認を求める訴えが併合されているときは、前者の訴えにも確認の利益がある。
  先行の理事選挙の取消しの瑕疵が後行の役員選挙に連鎖するとして先行の理事選挙の取消しの訴えが提起⇒不存在確認の訴えと同様、先行選挙の取消しの訴えの利益が認められるか?
〇A:肯定説:
株主総会取消しの判決には遡及効がある(民法121条、なお、会社法839条参照)⇒判決の確定により決議は当初から無効⇒先行決議の取り消しの場合も、不存在の場合と同様、瑕疵の連鎖を認める。
B:否定説
肯定説でも、
対外的には、不実登記の効力に関する規定(会社法908条2項)や表見代理の規定(民法109条等)等により保護されると解することは可能であるし、
取消しの訴えの場合には裁量棄却の規定(会社法831条2項)もある。
⇒妥当な結論を導くことができる。
  民事p7
東京高裁R2.1.21  
  実施法が問題⇒重大な危険の返還拒否事由あり(原審)⇒同事由なし(控訴審)の事案
  事案 子Cの父であるA(抗告人)が母であるB(相手方)に対し、Bによる留置によりCに対する監護の権利が侵害された⇒国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関sるう法律(「実施法」)に基づき、Cを常居所地国であるアメリカ合衆国に返還することを求めた。
  原審 Aの申立てを却下 
    Aが即時抗告
  争点 いわゆる重大な危険の返還拒否事由の有無(実施法28条1項4号) 
  主張 重大な危険を基礎付ける事情として、Bは、
①Aによる大麻の使用
②Aによる過去の継続的・恒常的な暴力の事実
③Aは薬物依存等のため適切な監護を期待することができず、また、Bも常居所地国において刑事訴追を受けることが不可避の状況である⇒AもBも常居所地国において子を監護することは困難
④本件子(C)の返還申立事件の継続中に、Bが睡眠改善薬等を過剰摂取する方法で自殺を企図⇒仮にCだけを常居所地国に返還した場合は、自殺再企図の可能性が高まり、Bが自殺した場合には、Cを耐え難い状態に置くことは明らか 
  判断・解説 ●争点① 
①AがCの面前において大麻を使用していたことを的確に認めるに足りる証拠はない
②仮にAが違法に大麻を使用したとしても、それがCの心身に有害な影響を及ぼすに至ることを認めるに足りる具体的な証拠はない
③Aが今後、医療的な観点から大麻を使用する必要性があるとしても、適正に使用していく意向であることを示している

Aによる大麻の使用が、実施法28条2項1号に規定された「心身に有害な影響を及ぼす言動」に該当するとまではいえない。 
  実施法28条1項4号の返還拒否事由は、LBT(Left Behind Parent)とTP(Taking Parent)のいずれが監護者として適格であるかを問題とするものではない
⇒仮にLBPに子の監護者として不適格な事情があったとしても、それによって子の監護に具体的な危険が生じていない以上は、返還拒否事由に該当することは困難。
  ●争点② 
  かつてAがBに対して暴力を振るったことがあることが推認される
but
Bの供述によっても最後に暴力を受けたのは平成29年1月であり、その後、約2年間にわたって、AとBとには多数の接触の機会があったにもかかわらず暴力が振るわれたことはないといった経緯

BがAから心理的外傷を与えることとなる暴力等を受けるおそれがあるとはいえないという原審の判断を維持。
  過去に暴力があった場合であっても、暴力が継続的なものでない場合には、返還拒否事由としては認められない傾向にあるとされる。
but
単発の暴行であっても、その行為態様の悪質性及び結果の重大性などを総合考慮して、4号該当性を肯定した裁判例もある。 
  ●争点③ 
  Bが本件E州内に立ち入った場合は、Cの監護ができなくなる可能性がある
but
①Aが実際に養育計画に沿って監護をしていた
②B自身、養育計画に応じている
③Bが日本に入国する前にはAにCの監護を依頼して勤務していた

AにおいてCの監護を行なうことができないということはない。
  ●争点④ 
  原審:
①Cの米国への返還が命じられた場合には、Bにおいて再度自殺を企図する可能性が高い
②そのような事態は、Cを母親との死別という耐え難い状況に置くことになる

子を常居所地国に返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険がある。
  判断:
原審での審理経過や原審第2回審尋期日後のBの行動等を詳細に認定

①Bの自殺未遂は発作的なものであり、救急搬送先の病院から退院した後のBの精神状態に不安定なところはみられず、再度入院することもなく、通院の頻度は2週間に1回程度にとどまっている
②Bの親族等が自殺予防の措置を講じている様子うかがわれず、B自身もネイルサロンで働き続けることが可能な状態にあること
などの爾後の経過

Bの希死念慮はさほど重大かつ切迫したものとは認め難い。

Bの自殺衝動や希死念慮の高まりは、一時的な現実検討能力及び判断力低下によるものであり、本来、精神科医による治療行為等や親族等による自殺予防の措置等により回避されるべきものであり、そのような自殺予防のために必要かつ有効な措置等が
高じられる限り、Cが米国への返還を命じられることによって、Bにおいて自殺をする可能性が高いとはいえない。
  TPの自殺は、子とTPの永遠の別離を招く⇒「子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険」を生じさせるものということができる。
オーストラリアでも、子が返還された場合に母親が自殺をする重大な危険があり、それにより、子が精神的な害悪を被る重大な危険があるとして、返還拒否事由が認められた事案がある。 
  民事p17
東京高裁R2.6.12  
  実施法での常居所地国の判断
  事案 子(C)の母である相手方(B)が父である抗告人(A)に対し、抗告人による留置によりCに対する監護の権利が侵害された⇒実施法に基づき、Cを常居所地国であるアメリカ合衆国に返還することを求めた。 
  争点 当事者が米国と日本の間を行き来⇒Cの常居所地国が米国であるかが主たる争点
  原決定 常居所とは、人が常時居住する場所で、単なる居所とは異なり、相当長期間にわたって居住する場所をいう。
その認定に当たっては、居住年数、居住目的、居住状況等を総合的に考慮して判断するべきであるが、
子が5歳とまだ幼い⇒子の常居所の獲得については、当該居所の定住に向けた両親の意図を考慮して判断するのが相当。 



⇒本件渡米は、米国で投資等の事業を成功させるまでの相当長期間にわたって居住する目的で行われていたものというべき。


⇒Cは相当長期間米国で安定的に生活していたと認められ、その状況が2月来日やその後の抗告人と相手方との関係悪化に伴って失われたとは認められない。
⇒Cの常居所地国は米国。
  判断 常居所地国は米国。
  民事p25
大阪高裁R1.10.3  
  区分所有建物の管理組合の理事会規則(理事排除条項)が無効とされた事案
  事案 Xらは大型商業用ビルである本件ビルの区分所有者で、
Y1は、本件ビルの区分所有者全員で構成された団体(区分所有法3条)である管理組合であり、
Y2は、本件ビルの区分所有者集会において区分所有法上の管理者に選任された者
Xらが、Yらに対し、
①「理事が管理組合に対し、原告又は被告になったとき」に理事の資格を失うことを定めた理事会規則の無効確認を求め、併せて、
②本件ビルの改修工事の差止め、及び、
③同工事に係る1審判決添付の別紙議案目録記載の議案を可決した区分所有者集会決議の無効確認を求めた。
Y1の理事会規則には、「理事が管理組合に対し、原告又は被告となったときは、その日をもって理事の資格を失い、理事会規則4条1項の任期中は復帰しないものとする」との理事排除条項が存在。
平成25年5月に開催された理事会で承認され、理事会規則の一部となった。
  主張  本件理事排除条項について、Xらは、
①理事である区分所有者の選挙権及び被選挙権を制限し、又は、Y1の理事が有する裁判を受ける権利を侵害⇒公序良俗に反する
②本件管理規約による授権がなく、又は、授権の範囲を逸脱
③本件理事排除条項を定めたY1の理事会決議が決議要件を満たしていない⇒無効又は不存在
であるなどと主張し、無効確認を求めた。 
  一審 ①理事の資格喪失事由については、本件管理規約において、「理事会について必要な事項」として、理事会の決議によって定められる理事会規則に委任しているものと解される。
⇒本件理事排除条項は本件管理規約に違反しない。
②本件理事排除条項の承認に係る議案の理事会決議においては、理事会規則によって委任状の提出により出席したものとみなされる理事らの議決権を賛成票に加算すべき。
⇒Y1に対する本件理事排除条項の無効確認請求を棄却。
  判断 ①本件管理規約においては、原則として全ての区分所有者に理事となる被選挙権が与えられ、例外的に被選挙権が制限されることが定められており、本件管理規約に定める場合を超えて役員の資格喪失事由を定めることを理事会規則に委任する旨の規定は存在しない。
②理事の資格制限事由を理事会で決めるには、本件管理規約による明文の委任が必要であると解されるところ、「役員及び理事会について必要な事項」は理事会の決議に基づいて定めることを理事会に委任したものと解することはできない。

本件管理規約による委任の範囲を逸脱した無効なもの。
Yらの主張:
本件理事排除条項の承認に係る議案を決議した理事会において、
理事会規則の規定により議決権を行使する権限を当日の議長に授与すること、及び代理による議決権の意思表示は「棄権」に限定することを記載した委任状を提出した理事らの意思は、理事会に現に出席した理事の過半数を得た決定に従うという趣旨。
vs.
委任状を提出した理事らが、本件理事排除条項の承認に係る議決案について「棄権」の意思表示⇒同議案の理事会決議は、出席理事の過半数という理事会規則の決議要件を満たしていないため無効。
⇒本件理事排除条項の無効確認を認容。 
  民事p45
大阪地裁R2.3.13  
  巨大児として出生した胎児の後遺障害が残った事故と医療過誤(否定)
  事案 平成25年に巨大児として出生し右上肢肩肘機能全廃の後遺障害が残ったXが、Yが開設・運営する病院(本件病院)の担当医師であるA医師に、帝王切開すべき注意義務違反、帝王切開へと分娩術を変更できるような態勢を構築すべき注意義務違反があった⇒Yに対し、不法行為(使用者責任)に基づき、後遺障害逸失利益等の損害賠償金(4764万1018円)及び遅延損害金の支払を求めた。 
  争点 A医師が、
①帝王切開をすべき注意義務
②帝王切開へと分娩術を変更できるような態勢を構築すべき注意義務
を負っていたか。
  判断  ●争点①:帝王切開すべき注意義務の有無 






仮に、胎児(X)が巨大児で、かつ、肩甲難産が発生し得る可能性があり、この場合に胎児(X)に生じ得る後遺障害が重大なものとなり得ることを考慮しても、なお帝王切開をした場合の危険性が高かったと言わざるを得ない
⇒A医師が、平成25年9月25日午前9時頃当時、帝王切開すべき注意義務を負っていたとまではいえない。
  ●争点②:帝王切開へと分娩術を変更できるような態勢を構築すべき注意義務の有無




仮にCの出産において、肩甲難産が生じたとしても、帝王切開へと分娩術を変更すべきであったとはいえない。

本件において、選択的帝王切開と緊急帝王切開のいずれも実施することが想定されない状況であった以上、A医師が同年9月24日午前9時頃当時、帝王切開へと分娩術を変更できるような態勢を構築すべき注意義務を負っていたとはいえない。
  解説   巨大児(奇景等の肉眼的異常がなく、出生体重4000グラム以上の児)について、産婦人科診療ガイドラインは、その診断方法、分娩の危険性、巨大児が疑われる児について記述しており、
巨大児が疑われる児について分娩遷延・停止となった場合、帝王切開術を考慮する(推奨レベルC:実施すること等が考慮される。)
児の方が娩出されない(肩甲難産)児には、人員を確保するとともに、会陰切開・マックロバーツ体位・恥骨上縁圧迫法等により娩出を図る、子宮底部の圧迫(クリステレル圧出法)は行なわない(推奨レベルC:実施すること等が考慮される。)などとしていた。
裁判例は、ガイドラインとほぼ同様の判断枠組みの下で個別事案に即して注意義務違反の有無を判断し、
その上で注意義務違反を肯定したものと
否定したものに分かれる。
     
  労働p57
東京地裁R2.1.30  
  使用者が開催条件に固執⇒団体交渉が開催されず⇒不当労働行為(労組法7条2号)の成立を肯定
  事案  Xの従業員を組合員とする労働組合であるZが、Xが不合理な開催条件にう固執してZとの団体交渉を正当な理由なく拒否⇒都道府県労働委員会(埼玉県労働委員会)に対し救済を申し立てた⇒申立てを認容⇒Xが中央労働委員会に再審査の申立て⇒同委員会がこれを棄却する命令⇒Xが同命令の取消しを求めた。 
Xは、
①団体交渉に関する一切の情報を正当な理由なく第三者に開示又は漏えいえしない
②団体交渉において録音及び撮影を行わない
③団対交渉当日はX代理人であるA弁護士の議事進行に従う
を団体交渉の開催条件として提示。
  争点 Xが本件各団体交渉を「正当な理由」(労組法7条2号)なく拒否したか否か 
  判断  団体交渉の開催条件等の労使間合意により決定するのが本来の在り方
but
一方当事者が自己の開催条件に固執した結果として団体交渉が解されなかった場合には、団体交渉を拒否したとみられることもあり得る。 
この場合の団体交渉拒否に「正当な理由」があるか否かは、従前の労使関係や団体交渉等の経過を踏まえ、労働条件等を含む労使関係について労使対等の立場で合意により形成するという団体交渉の目的に照らし、一方当事者が求める開催条件等の内容に必要性が認められるか否か、その内容が円滑な団体交渉実施等の観点に照らして合理的か否か、他方当事者の利益を不当に害するものか否かなどの事情を総合して判断すべき。
  守秘義務条件:
①団体交渉の内容等は、労働組合の目的達成のため公表の必要な場合がある
②必ずしも秘密として保護すべき必要性がたかくないものも含まれる

労使の合意がないにもかかわらず団体交渉に関する一切の情報について守秘義務への同意を開催条件とすることが合理的であるということはできず、本件各団体交渉の議事事項をみても、守秘義務条件の必要性及び合理性は認められない。 
録音撮影禁止条件:
①団体交渉の内容の正確な記録は労使双方にとって必要がある
②企業秘密に当たる情報に言及する際は録音を停止するなどの個別対応も可能

少なくとも団体交渉の全過程における録音を一律に禁止することに当然に必要性及び合理性があるということはできない。

本件においても、A弁護士が従前のやりとり記録していなかったとも思われる発言

録音撮影禁止条件の必要性及び合理性は認められない。
議事進行条件:
団体交渉における議事進行は、団体交渉の帰すうを左右し得るもの
⇒労使対等の立場で行うべきであり、使用者代理人が一方的に議事進行を行うことが当然に合理的であるとまではいえない。
・・・

議事進行条件の合理性を認めることはできない。
 
本件において団交3条件の具備を要求する必要性及び合理性を認めることはできず、団交3条件への不同意を理由とする団体交渉拒否には「正当な理由」がない。 
  解説 使用者が開催条件に固執したことによる団体交渉の不実施が「正当な理由」のない団体交渉拒否に当たるか否か:
条件の合理性を中心として使用者の態度の妥当性が判定される(菅野 )
  労働p74
盛岡地裁R2.6.5  
  公務起因性が肯定された事案
  事案 Xが、Xの夫であり市の設置運営する診療所所長を務めていた医師Aが双極性感情障害(「本件疾患」)を発症して自殺したことは、Aが唯一の常勤医師として休日出勤やほぼ毎日の宅直を伴う診療業務を行なったこと、診療所所長として入院患者虐待問題及び病床廃止計画への対処を迫られたことなどにより、強度の精神的及び肉体的負荷を受けたためであって、公務に起因するもの⇒
Y(地方公務員の災害補償基金)に対し、
①本件災害を公務外災害と認定した処分の取消し及び
②本件災害を公務災害と認定することの義務付けをそれぞれ求めた。 
  判断 公務起因性が認められるためには公務と災害との間に相当因果関係が必要であり、
精神疾患発症の公務起因性については、公務が他の原因と協働して精神疾患を発症させ又は増悪させただけでは足りず、当該公務自体に社会通念上客観的に当該精神疾患を発症させ若しくは増悪させる一定程度以上の危険性が内在し又は随伴し、当該危険性が点実化したことにより当該疾患を発症したこと、すなわち、当該公務がその精神疾患の主因又は有力な要因となりうる程度のものであることが必要。 
精神疾患等の公務起因性についての判断方法や業務における強度の精神的又は肉体的負荷を与える事象を列挙している「精神疾患等の公務災害の認定について」(平成24年3月16日地基補第61号)につき、裁判所の判断を限界付けるものではなく、複数の事象がそれぞれ単独では当該規定に該当しない場合であっても、裁判所は、各事象を個別的に捉えるのではなく、それらの相互作用も考慮して総合的にみて、公務起因性を判断すべき。
①業務内容⇒強い精神的又は肉体的負荷をもたらすもの。
②診療所における入院患者虐待問題について一手に対応⇒精神的負荷は極めて大きかった。
③市当局の見解に従わない者に対する見せしめと捉えられても致し方ない対応を受ける⇒強い精神的負荷を受けた。
⇒平成25年1月以降、特に同年11月頃からの公務による精神的及び肉体的な負荷は本件疾患を発症させるほど客観的に過重であると認められる。
Aが以前抗うつ薬を服用していた⇒本件疾患の発症にAの個体側要因が全く影響しなかったと直ちにいうことはできない。
but
①前記の業務の客観的過重性に加え、
②それとAの様子に変化が生じた時期との関係を指摘

個体側要因によって発症したというよりは、過重な業務によって発症したと考えるのが自然⇒本件疾患の発症に個体側要因が作用したとのYの主張を排斥。
  解説 本判決は、本件災害発生前の複数の事象を総合的に検討。

本件疾患発症前の6か月間におけるAのタイムカード上の時間外労働時間が約30時間から50時間弱の間で推移⇒個々の事象は、「精神疾患等の公務災害の認定について」上、公務起因性を認めるに足りるものではない。
but
各事象相互関係が見受けられることを考慮。
Aの時間外労働時間数そのものには重点を置いていない
~業務の特徴に即した判断を行った結果。
  刑事p105
横浜地裁R2.3.16
  相模原殺傷事件
  事案  死亡した被害者:19名、負傷にとどまった被害者:24名 
  争点  責任能力の有無及び程度 
  争点に関し、
裁判所が選任した鑑定人(K医師。50条鑑定人)と
弁護人が請求した専門家証人(L医師。私的鑑定人)
の尋問が実施。
  判断 証拠上、本件犯行に相応の影響を及ぼした可能性があるといえる精神障害は、L医師が指摘する動因逸脱症候群(持続した高揚気分あるいは意欲の異常亢進等能動性が逸脱した状態)を伴う大麻精神病のみ
⇒主にL鑑定が排斥されるかどうかという観点から検討を加えている。 
①犯行動機の中核である被告人の意思疎通ができないと自己が考える障害者に関する考えは、被告人自身の本件障害者施設での勤務経験を基礎とし、感心を持った世界情勢に関する話題を踏まえて生じたものとして思考の形成過程に病的な飛躍はなく、了解可能。
②L鑑定が動因逸脱症候群の症状(能動性の逸脱)が元も顕著に表現された場面とした本件犯行において、被告人は、前記の犯行動機を逸脱した不合理な言動をとっておらず、その他の場面の含めて能動性が逸脱した状態は認められない
⇒L鑑定は採用できない。
①犯行動機の形成過程に照らして動機が了解可能
②本件犯行が計画的に敢行されたものであり、動機との関係で一貫した合目的的なものである
③被告人が本件犯行を違法であると認識していた

結論として大麻又はこれに関係する何らかの精神障害が本件犯行に影響を与えたとは考えられない。

完全責任能力を肯定。
2481
  民事p9
最高裁R2.10.23  
  参院選(比例代表選出)議員の選挙についていわゆる特定枠制度を定める公選法の規定の合憲性 
  事案 令和1年7月21日に施行された参院選(比例代表選出)議員選挙に係る選挙無効請求事件
特定枠制度位:参院選(選挙区選出)議員選挙における合区により候補者を擁立できなかった県の候補者を特定枠によって当選させることを目的として設けられたもの⇒選挙人の意思と関係なく議員が選ばれているに等しく、選出された議員は「全国民の代表者」(憲法43条1項)に該当しないと主張。
  判断 平成30年改正後の参議院(比例代表選出)議員の選挙制度は、政党等にあらかじめ候補者の指名及び特定枠の候補者を定める場合にはその指名等を記載した名簿を届け出させた上、選挙人が名簿登載者又は政党等を選択肢て投票を行い、各政党等の得票数に基づきその当選人数を決定した上、各政党等の名簿の記載された特定枠の順位及び各候補者の得票数の多寡に応じて当選人を決定する選挙制度

投票の結果すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点において、選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異なるところはない。
特定枠制度を定める平成30年改正後の公選法の規定は、憲法43条1項等に違反するものではない。
  解説 憲法 第15条〔公務員の選定罷免権、公務員の性質、普通選挙・秘密投票の保障〕
公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
③公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
憲法 第44条〔議員及び選挙人の資格〕
両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。
  憲法は、国政選挙については直接選挙を明記していない。
but
15条1項、3項、44条等に照らせば、国政選挙についても直接選挙を保障する趣旨。 
直接選挙と間接選挙との差異は、選挙人の意思と選挙の結果(当選人の決定)との間に他の意思が介在するかどうかにある。
特定枠制度においても、当選の決定に選挙人以外の意思は介在しない。
  民事p13
大阪地裁R2.9.17  
  預金口座に対する差押命令の一部取消しが認められた事例
  事案 YがXの第三債務者に対する預金債権(本件預金債権)を差し押さえた

XがYに対し、本件預金債権は、
Xが社会福祉法人法坂府社会福祉協議会から貸付けを受けた生活福祉資金及び勤務先からの給与を原資とするもの⇒民執法152条1項1号及び2号所定ないし性質上の差押禁止債権異当たる
本件預金債権が差し押さえられると申立人の生活が著しく困窮する

民執法153条1項に基づいて、本件預金債権に係る債権差押命令(本件差押命令)の取消しを求めた。 
  判断 本件預金債権のうち1万6897円を超える部分に対する差押命令を取り消した。 
差押え当時の本件預金債権の原資が、本件貸付金と債務者に支払われた給与であると認定した上で、債務者が学習塾に支払った金額を控除して、差押禁止部分を特定。
  解説   差押禁止債権である年金や労災保険金が受給者の預金口座に振り込まれると、受給者の金融機関に対する預金債権に転化してその一般財産となり、もはや差押禁止債権としての属性は失われ、年金や労災保険金が入金された預金債権に対する差押えは可能。
一方、民執法153条1項は、執行裁判所は、「債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して」差押命令の全部若しくは一部を取り消すことを認めている。
裁判所:差押禁止債権が認められる趣旨が債務者の生活保障を確保するため⇒債務者側と債権者側の個別事情のバランスを考慮して範囲変更の可否を決する。
差押禁止制度が債務者の生活保障、生活維持のための保護規定⇒民執法153条1項において考慮されるべき債務者の生活状況とは、
「現在の一般的な生活水準に比較して、債務者が差押えによって著しい支障を生じない程度の生活水準を確保し得るか否か」ということ。
  認めた裁判例:
・債務者の生計費が統計上の生計費よりかなり低額⇒債務者が生計費を浪費しているとはいえない
・ 請求債権が債務者の父親の負った債務であり、相続放棄の効力について係争中であること、差押えが禁止される範囲が拡張された後も、債権者は債務者の給与から高額の返済を受けることができる
・年金を原資とするものと認めるのが相当
棄却した裁判例:
・扶養義務を負う子らがあり、債務者が年金と長男の援助により生計を立てているbut債権者の債権回収の前に債務者が預金口座から230万円を引出している⇒債務者に誠実性や任意履行の意思が欠如している。
・債務者が差押え時の約2週間前に預金口座から100万円を引き出し、生計に関係しない費用に相当額を支出した
  令和2年4月1日に施行された令和1年法律第2号による改正後の民執法:
・裁判所書記官が、差押命令を送達する際に、債務者に、差押金歳債権の範囲変更の申立てをすることができること等を教示(145条4項)
・差押債権が給与等の債権⇒取立権の発生までの期間が、債務者に差押命令が送達されてから原則4週間に伸長(155条2項)
本件:
前記改正後の民執法が施行された後に申し立てられた差押禁止債権の範囲変更(取消)事件について、合議体でされた決定。
  民事p17
京都地裁R2.6.17  
  市が、土地を売却する際の、浸水被害状況等について情報開示・説明義務違反(肯定)
  事案 被告(京都府福知山市)を事業主体とする土地区画整理事業又は非農用地造成事業により造成された土地を購入し、地上建物を建築等⇒台風の影響による降雨により自宅の床上浸水等の被害⇒被告に対し、土地の売主としての説明義務違反、地方公共団体としての情報提供義務違反があった⇒損害賠償を請求。
  判断 被告から直接土地を買い受けた3名の原告らについて、
被告が当該土地を売却する際に、本件各土地に関するハザードマップの内容について説明し、被告が把握していた本件各土地に関する近時の浸水被害状況や今後浸水被害が発生する可能性に関sるう情報について開示し、説明すべき義務を怠った⇒請求を一部認容。 
①宅地を購入しようとする者にとっては100年単位の情報だけではなく、近接した時期に発生した浸水被害の状況に関する情報も契約締結の可否を決定する上で重要な情報であるということができる
②買主の原告らは、いずれも自宅を建築する目的で本件各土地の購入を検討していた⇒本件各土地の安全性には強い関心を有しており、そのことは被告においても十分認識可能
③原告らが過去の水害の際の本件各土地の浸水状況を認識していれば、本件各土地を購入しない選択をした可能性も相当程度あったといえる上、購入するにしても、土地のかさ上げや水害に対応する保険への加入など、相応の浸水被害対策を高じる可能性が高かった

本件各土地の売主である被告には、本件各土地の売買契約に附随する信義則上の義務として、本件各土地を売却する際に、本件各土地に関する本件ハザードマップの内容について説明するのみならず、被告において把握していた本件各土地に関する近時の浸水被害状況や今後浸水被害が発生する可能性に関する情報について開示し、説明すべき義務を負っていた。

平成16年の台風による浸水被害の状況や、平成16年の台風と同程度の降雨の際に本件各土地で浸水被害が発生する可能性について原告らに説明しなかった被告に、本件各土地の売買契約に附随する信義則上の義務違反があった。
but
X4については、被告の担当者から本件ハザードマップを示され、3~5メートルの浸水被害が生じる恐れがあるとされる地区にあることを認識しながら、それ以上、質問をしたり、自ら調査したりすることなく売買契約を締結したことなどの落ち度が認められる。
⇒3割の過失相殺。
  解説 最高裁:契約事者の一方当事者が当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かの判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、前記一方当事者は、相手方が当該契約を締結したことによって被った損害につき、不法行為による賠償責任を負うことがある。(最高裁H23.4.22等)
  知財p43
最高裁R2.9.7  
  特許権の通常実施権者による訴訟が確認の利益を欠くとされた事例
  事案 本件各特許(日本特許と米国特許)の通常実施権者であったXが、特許権者であったYを相手取り、YのA(補助参加人)に対する本件各特許権の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権が存在しないことの確認を求めた。
  争点 本件確認訴訟に確認の利益があるか 
  原審 確認の利益を肯定

①YのAに対する本件損害賠償請求権の行使によりAが損害を被った場合、
XはAに対し本件補償合意に基づき同損害を補償しなければならず、
Xはその補償額についてYに対し本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求をすることになるところ、
②この請求権の存否の判断に要する主要事実に係る認定判断は、本件損害賠償請求権の存否の判断に要する主要事実に係る認定判断と重なる。 
  判断 原審が指摘する事実があるとしても、
Xが、Yを被告として、YのAに対する前記不法行為に基づく損害賠償請求権が存在しないことの確認を求める訴えは、確認の利益を欠く

原判決中本件確認請求に関する部分を破棄し、同部分に関するXの控訴を棄却。 
  解説   確認の訴え:
給付の訴えと異なり、確認の対象となり得るものが形式的には無限定⇒訴えの利益(確認の利益)によってそれが許容される場合を限定する必要が大きい。 
確認の利益:
確認判決を求める法律上の利益であり、原告の権利又は法的地位に危険・不安が現存し、かつ、これを除去する方法として原・被告間で当該訴訟物について確認する判決をすることが有効適切である場合に認められる。
確認の利益は、
①方法選択の適否(給付訴訟や形成訴訟でなく確認訴訟による必要性)、
②確認対象の適否、
③即時確定の利益
の各観点から判断されるところ、
③即時確定の利益とは、原告の権利又は法的地位に現実的な危険・不安が生じており、これを除去するために確認判決を得ることが必要かつ適切であること。
  本件確認請求:Y(被告)とA(第三者)との間の権利関係の確認を求める訴訟。
即時確定の利益があれば、第三者との間の権利関係の確認を求める訴えも適法。 
当事者の一方と第三者との間の権利関係の確認の訴えで確認の利益が認められる例:
①第三者のためにする契約について、当該第三者が当事者となった、契約の存在又は不存在を前提とする権利又は法律関係の確認の訴え、
②2番抵当権者が、1番抵当権者に対し、1番抵当権又はその被担保債権の不存在の確認を求める訴え
③債権者代位訴訟において第三債務者(被告)が債権者(原告)の債務者に対する被保全債権を争う場合に債権者が提起した、同債権の存在確認の訴え
④土地の転借人が、土地所有者から別個に当該土地の使用権を取得したと主張する者に対し、自己の土地使用権の確認を求める訴え
⑤自称債権者同士の争いで、自己が第三者(債務者)に対する債権を有することの確認を求める訴え
①~⑤の類型は、
原告の権利と被告の権利が競合していたり、原告の権利の直接の発生原因である基本的な法律関係に係る確認を求めているなどのケース。
  本件:A(第三者)のY(被告)に対する債務の不存在確認を求めるもの⇒どのような意味で「原告の権利又は法的地位に危険・不安」が基礎付けられるか?
XがAに対し本件補償合意に基づき保障債務を負う危険
vs.
本件確認請求を認容する判決が確定したとしても、その既判力がY・A間には及ばない⇒YのAに対する本件損害賠償請求権の行使を法的に抑制することはできず、XがAに対する補償債務を負う危険を除去できない。
Yによる本件損害賠償請求権の行使を事実上抑制することができ、かつ、これをもって即時確定の利益を基礎付けられるといえるかも疑問。(Y・A間には別件米国判決のような本件損害賠償請求権の認容判決がある)
原審:XのYに対する本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権に係る紛争が生じる可能性があることにより基礎付けようとした。

別件米国判決のようなYのAに対する本件損害賠償請求権の認容する判決が確定した場合にXがAにその損害賠償請求金を補償しなければならない分についての将来のXのYに対する前記債務不履行に基づく損害賠償請求権を念頭に置いている
vs.
YがAに対して本件損害賠償請求権を行使したとしても、X自身同請求権が存在しないといっていたこともあり、
(1)それを認容する判決が確定するか否かは全く不確実
(2)そのよう認容判決が確定したとしても、
①AがYに対し同判決どおりの損害賠償金を支払わない(Aに対する強制執行も奏功しない)可能性や、
②XがAに対し同判決通りの損害賠償金を支払わない可能性がある
⇒Xに損害が発生するか否かは、なおも不確実。
以上:
①実際にAが損害を被り、これに対する補償を通じてXに損害が発生するかは、事前には(損害が発生する前の段階では)不確実⇒Xが事実上の期待のレベルを超えて保護に値するほど具体化された権利又は法的地位を有するとはいえない。
②他方で、Xに現実に損害が発生した段階では、Xは、Yに対して前記債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟を提起すれば足りる。

本件確認請求が、Xの権利又は法的地位への危険又は不安を除去するために必要かつ適切であるということはできない。
  知財p48
大阪地裁R2.5.28  
  均等侵害の成否の判断、特許法101条2号関係
  事案 クランプアーム、スイングクランプ、流量調整弁から構成され、名称を「クランプ装置」とする特許発明を有するXが、・・・「本件製品群1~8」 の製造販売等は本件特許権の間接侵害である⇒本件製品群1~8の製造販売等の差止め、同製品及びその半製品の廃棄並びに損害賠償を請求。
  説明 スイングクランプとスピードコントロールバルブとのセット(「本件製品群1~3」)
リンククランプとスピードコントロールバルブとのセット(「同4~6」)
スピードコントロールバルブ(「同7、8」) 
  争点 ①間接侵害の成否
②差止請求の成否
③特許法102条2項に基づく推定の覆滅 
  解説 ●争点①について 
◎本件製品群4~5について 
〇  特許権の均等侵害については、ボールスプライン軸受事件最高裁判決(H10.2.24)において、均等侵害が成立する5つの要件のうち、第5要件として、
「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない」という要件が判示されている。
マキサカシトール事件最高裁判決(H29.3.24):
出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において、客観的、外形的にみて、対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたもにに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。
①本件製品群4~6にクランプアームを組み合わせるとリンククランプを有するクランプ装置となる。
②本件発明に係る特許出願時の特許請求の範囲にはリンククランプを有するクランプ装置が含まれていた

マキサカルシトール事件最高裁が判示する「出願人が、特許出願時に・・・対象製品等に係る構成を・・・特許請求の犯にに記載しなかった場合」に該当するわけではない。 
同判決以前から、本件におけるリンククランプを有するクランプ装置のように補正前は特許請求の範囲に含まれていたが補正により特許請求の範囲から除外されたものはボールスプライン軸判決にいう、「特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたもの」に当たる⇒そのものについては第5要件を充足しないとされる場合が多かった。
but
本判決は、マキサカルシトール判決の判示を引用した上、
その判示は特許請求の範囲につき複数回行なわれた前後の補正の経緯を検討する場合においても同様であるとして本件を処理。

特許請求の範囲に含まれていたものが補正により特許請求の範囲から除外された場合についても第5要件を客観的、外形的に判断すべき旨を強調。
  ◎本姓製品群7及び8について 
非専用品形間接侵害の主観的要件のうち「その物が発明の実施に用いられること」:
A:著作権侵害幇助刑事事件であるWinny事件最高裁判決(H23.12.19)の判示を参考に、部品等の供給者において、その部品等が例外的とはいえない範囲の者によって特許発明に係る物の生産に用いられる蓋然性が高いことを認識していれば足りると緩やかに解する考え方
B:部品等の供給者において、その部品等が特定の者によって特許発明に係る物の生産に現実に用いられていることを認識していることを要すると厳格に考える考え方
本判決:
当該部品等の性質、その客観的利用状況、提供方法等に照らし、当該部品等を購入等する者のうち例外的とはいえない範囲の者が当該製品を特許権侵害に利用する蓋然性が高い状況が現に存在し、部品等の生産、譲渡等をする者において、そのことを認識、認容していることを要し、またそれで足りる。

Winny事件最高裁判決と同様の判示。
幇助事件における考え方より緩やかなわけではないという意味で、同最高裁判決との不整合は来していない。
  ●争点②について 
非専用品型間接侵害における非専用品の差止の範囲:
A:同部品を製造、販売する行為について間接侵害が成立するとみて、間接侵害行為と目される当該行為について限定なく差止めを認める
B:具体的な商品名を掲げて当該商品の製造販売の差止を命ずる判決や、当該部材等を専ら侵害用途に使用している顧客の名称を掲げた上で当該顧客への販売の差止めを命ずる判決は許されるが、無条件に当該部材を対象に掲げただけの差止判決を発することは許されない

学説は非専用品の差止めの範囲を適切に画することが必要であるとする考え方が多数派。
but
裁判所は、個々の範囲を限定しない差止請求を認めている。
  ●争点③について 
  特許法 第一〇二条(損害の額の推定等)
 
2特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。
  特許法102条2項の損害の額の推定規定について:

紙おむつの処理容器事件知財高裁第合議判決(H25.2.1)
「特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、特許法102条2項の適用が認められる。」

二酸化炭素含有粘性組成物事件知財高裁第合議判決(R1.6.7)
「特許法102条2項・・・所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額とは、原則として、侵害者が得た利益全額であると解するのが相当であって、このような利益全額について同項による推定が及ぶ」
その推定の覆滅について:
二酸化炭素含有粘性組成物事件知財高裁第合議判決:
侵害者が主張立証責任を負うものであり、
侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たる。
例えば、
①特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性)
②市場における競合品の存在
③侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)
④侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)
などの事情について、・・これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができる。

特許発明が侵害品の部分のみに実施されている場合においても、推定覆滅の事情として考慮することができる。
but
特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅が認められるでのではなく、特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置付け、当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相当。
◎  間接侵害に特許法102条2項が適用されるか:
A:肯定説(多数派)
but
その要件については、
特許権者が特許発明を実施していることや間接侵害品と競合する製品を販売等していることは不要であると穏やかに解する考え方や、
特許権者が間接侵害品と競合する製品を販売等していることを要すると厳格に解する考え方

非専用品型間接侵害に特許法102条2項が適用される場合の推定の覆滅について:
非専用品のうち特許発明に係る物の生産以外の用途に用いられている分は推定を覆滅する事情であるとした裁判例
本件製品群7及び8のうち適法な用途に用いられている分が
「Xの損害の額=Yらが受けた利益の額」という推定を覆滅する事情とされた

適法な用途に用いられている分も含めた本件製品群7及び8の製造販売等の全体が侵害行為であることを前提としている。
  紙おむつ処理容器事件知財高裁大合議判決において、
特許法102条2項を提供するための要件である
「特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合」の「利益」は特許発明の実施による利益に限らない旨が判示。

一般的に特許権者の事業が侵害者の非専用品の製造販売等それ自体と競合することもあり得る

非専用品の製造販売等の全体が侵害行為であるとする場合、そのうち特許発明に係る物の生産以外の用途に用いられている分を常に同項に基づく推定を覆滅する事情としてよいかどうかについては、議論が生じよう。
学説には、事案によっては非専用品を個別具体的に把握して特許発明に係る物の生産に用いられる者の製造販売等のみを侵害行為であるとすべきとの考え方

前述の競合の有無にかかわらず、非専用品のうち特許発明に係る物の生産以外の用途に用いられる分はすいての覆滅の段階ではなく侵害行為により侵害者が受けた利益の額を算定する段階で考慮されることになる。
  労働p75
横浜地裁R2.3.24   
  個人面談における上司による従業員に対する退職勧奨が違法⇒慰謝料20万円の事例
  事案 総合電機メーカーであるYにおいて勤務しているXが、Yに対し、
①Yから違法な退職勧奨及びパワーハラスメントを受けたと主張⇒不法行為に基づき、慰謝料100万円及び遅延損害金の支払を求め
②YによりXに対する違法かつ無効な査定が行なわれ、賃金が減額⇒雇用契約に基づく賃金支払請求権又は不法行為に基づき、違法勝無効な査定がなかった場合との差額の賃金及び賞与並びに遅延損害金の支払を求めた 
  争点 ①Xに対する違法な退職勧奨・パワハラの有無及び慰謝料額
②Xに対する査定の違法性 
  判断  ●争点①
①Aが行なった退職勧奨は、Xが明確に退職を拒否した後も、複数回の面談の場で行なわれている、
②各面談における干渉の態様自体も相当程度執拗である
③Xの自尊心を殊更傷付け困惑させる言動に及んでいる

労働者であるXの意思を不当に抑圧して精神的苦痛を与えるものといわざるを得ず、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した違法なもの
⇒慰謝料20万円を認容。
X主張:面談による退職勧奨とは別に、Xの会議運営に関する叱責のメールをAが会議出席者約30名にも同時送信したことなどが、違法なパワハラに当たる。
vs.
本判決:
部下を多数人の面前で叱責することにも類し、部下に対する指導に際しての冷静さや配慮が十分でない。
but
この事実だけで、Xに対する慰謝料の支払を要するほどの精神的苦痛が生じたとまでは認められない。
  ●争点② 
①評価基準に主観的な要素が含まれているからといって、直ちにこれを不公正で違法なものということはできない。
②上長1名のみによる恣意的な評価を許容するものであるとも認められない。

GPM評価制度そのものを不公正かつ違法な制度であるということはできない。
Xに対するGPM評価:
Yの裁量権を逸脱した違法な点は見当たらず、基本的にこのGPM評価に基づいてなされたものと考えられるXに対する査定にも、違法性を認めることはできない。
  解説  使用者が従業員に対し退職勧奨を行うこと:
その手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り、使用者による正当な業務行為であり、不法行為を構成するものではない。 
一旦退職に応じない旨を示した従業員に対して説得を続けること自体もOK。
その際、使用者から見た当該従業員の能力に対する評価や、引き続き在職した場合の処遇の見通し等について言及することは、それが当該従業員にとって好ましくないものであったとしても、直ちには退職勧奨の違法性を基礎付けるものではない。
but
退職を説得する行為の態様や表現方法等によっては違法と判断されることもある。
  査定は、人事考課制度の枠内における使用者の裁量的判断に委ねられており、その裁量権を濫用したという場合でなければ、違法とはならないと解されている。 
  刑事p88
名古屋高裁R1.10.24  
  弁護人の裁定請求が棄却された事例
  事案 基本事件:自動車内にけん銃1丁を適合実包12発とともに保管して所持したというもの。 
弁護人:警察官に対し、前回事件の捜査の端緒となった、本件とも前回事件とも異なる被疑事実(Aに対する銃刀法違反、前々回事件)でのB方等に対する捜索差押許可状の発付に係る各捜索差押許可状請求書及びその疎明資料(本件各証拠)につき、刑訴法316条の20に基づき開示請求⇒検察官は、開示対象該当性、関連性、必要性及び開示の弊害を争い、これを開示しなかった⇒裁定請求
  規定 刑訴法 第三一六条の二〇[主張関連証拠の開示]
1 検察官は、第三百十六条の十四第一項並びに第三百十六条の十五第一項及び第二項の規定による開示をした証拠以外の証拠であつて、第三百十六条の十七第一項の主張に関連すると認められるものについて、被告人又は弁護人から開示の請求があつた場合において、その関連性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該開示をすることの必要性の程度並びに当該開示によつて生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるときは、速やかに、第三百十六条の十四第一項第一号に定める方法による開示をしなければならない。この場合において、検察官は、必要と認めるときは、開示の時期若しくは方法を指定し、又は条件を付することができる。
  原審 弁護人に対する非開示条件(A又は第三者に対し、本件各証拠の内容を明らかにしてはならない)を付して、検察官に各証拠の開示を命じた。 
    双方、即時抗告
  判断 原決定を取り消し、弁護人の本件裁定請求を棄却。
①刑訴法316条の26第1項の証拠開示命令の対象となる証拠は、必ずしも検察官が現に保管している証拠に限らないものの、当該事件の捜査の過程で作成・入手した書面等であって、公務員が職務上現に保管し、かつ、検察官において入手が容易なものを含むと解されているところ(最高裁H19.12.25)
②実質的に考えても、原決定の解釈によれば、当該事件の捜査の過程で作成・入手した証拠でなくとも、弁護人の主張次第で開示対象はいかようにでも広げられることになるが、このような帰結を法が想定しているとは思われない。

検察官の即時抗告は理由がある。
  解説 最高裁H19.12.25:
検察官が現に保管するものに限られず、捜査官が作成した取調べメモや捜査メモも証拠開示の対象となり得る。
but
「当該事件の捜査の過程で」という文言
⇒別事件の捜査において作成・入手した証拠は開示対象に含まれないのかという問題。 
裁判例:積極に解するものが多い。
・「別事件の証拠であることから直ちに本件の証拠開示請求の対象にならないとされているわけではない」
・検察官が、別事件の証拠が本件に関連すると考えた場合に行う、謄本を作成して本件の一件記録に編綴するという運用への言及
・「形式的に本件の捜査過程で作成されたものに当たらないとはいえ・・・その際に作成された文書に記載された内容が、捜査の端緒やその後の捜査に密接に関連する情報として捜査機関内で共有されることが想定される⇒当該文書の作成が捜査の開始前か後かという形式的な基準で証拠開示の対象に含まれるか否かを判断すべきではない」
本決定は、上記裁判例の中では、やや異質。
  刑事p93
熊本地裁H31.3.28  
  松橋事件再審無罪判決
  事案 平成24年、Xの成年後見人が、再審請求⇒平成28年6月30日、・・・新証拠によれば自白の重要部分に客観的事実との矛盾があるとの疑義が生じ、自白に有罪認定を維持し得るほどの信用性を認めることができなくなったとして再審開始決定⇒検察官即時抗告⇒福岡高裁が即時抗告を棄却⇒検察官の特別抗告も棄却⇒再審開始が確定。 
  審理と判断  平成31年2月に初公判、即日結審、第2回公判で判決が言い渡された。 
検察官:Xの自白を含め、確定審で取調べ済みの証拠及び再審請求審で提出された証拠から数多くの証拠を、本件再審公判でも請求。
but
Xの自白については、
再審請求審における数年にわたる審理の中で、確定審が認めた自白の任意性、信用性の弾劾を目的とする詳細な弁護人の主張を踏まえ、多くの事実取調べの結果、自白の重要部分に客観的事実との矛盾があるとの疑義が生じた⇒その信用性が否定。
検察官:本件につきXが有罪である旨の新たな立証は行わないと宣言。
Xの自白を、他の証拠等と共に採用し、相当の時間をかけてその信用性を検討したとしても、検察官による新たな立証がされない⇒客観的事実と矛盾する疑いがあることを根拠とする再審請求審の判断と異なる結論に至ることは想定し得ない。
Xの自白等を採用して改めて検討を加える必要性があるとは考えられず、可能な限り速やかに判決を言い渡すことが最も適当⇒検察官が請求したXの自白などを却下。
犯罪の証明がない⇒Xを無罪に。
本件と併合罪関係にあるため形式的に審理の対象となった別件(けん銃と実包所持)につき、確定判決が認定した事実を前提として、懲役1年(未決勾留日数を満つるまで算入)、けん銃等の没収を言い渡した。
  解説  刑訴法:再審公判について、基本的に審級に従った審理を行うとしか規定していない(同法451条1項)。
⇒ 確定審で取り調べた証拠をどう取り扱うかとうい問題を中心にその性質が議論。
A:覆審説:確定審とは全く別個のものとして新たにやり直す
B:続審説:上訴審による破棄差戻しの手続に準じて公判手続の更新と同様の手続による
近時の著名再審事件では、②続審的に運用されたものが多いと分析。
but
いずれの見解によるとしても、確定審で取り調べた証拠、さらに再審請求審で提出された証拠をどのように取り扱うかという点を中心として、再審開始に至った経緯に十分考慮しながら、再審公判の目的に沿って合理的な審理を行なう必要。
  本件再審公判は、検察官が確定審で取調べ済みの証拠を再度証拠請求⇒①覆審説に沿った運用。 
  松橋事件:確定判決が依拠したXの自白と矛盾することが明らかな証拠(布切れ)が、検察官手持ちの未提出証拠の中にあることが発見⇒再審開始、無罪判決につながった。
~再審における証拠開示の重要性。 
   
  民事p3
東京高裁R2.3.4  
  実父の養育費支払義務が未成年者の養子縁組により無くなる場合の始期
  事案 未成年者らの実父である申立人Xが、未成年者らの実母である相手方Yに対し、未成年者らがYの再婚した夫である利害関係参加人Zと養子縁組⇒未成年者らの扶養義務は第1次的には実母と養父が負うべき⇒離婚時に合意された養育費の支払免除の調停申立て⇒不成立⇒審判に。 
  原審 ①未成年者が親権者の再婚相手と養子縁組⇒未成年者らの扶養義務は、第1時的には親権者及び養親となった再婚相手が負う
②Y及びZにおいて未成年者らを養育することができず、Xにおいて第一次的に扶養する状況にあるとはいえない⇒XがYに支払うべき養育費は0とすべき
③養子縁組によってZが未成年者らの養育を引き受けたという事情の変更は、専らY側に生じた事由⇒始期については、Zが未成年者らと養子縁組した平成27年12月15日とするのが相当。 
  判断 始期について、
①既に支払われ費消された過去の養育費は合計720万円に上るうえ、その法的根拠を失わせて多額の返還義務を生じさせることはY及びZに不足の損害を被らせる
②Xが、Yの再婚や未成年者らの養子縁組の可能性を認識しながら3年以上にわたって合計720万円の養育費を支払い続けた⇒Xは養子縁組の成立時期等について重きを置いていたわけではなく、未成年者らの福祉の充実の観点から養育費を支払い続けたものと評価することも可能

支払義務がないとする時期を本件調停の申立時として、原審判を変更。
  解説  ●養育費の減額 
養育費の調停・審判がなされた後、事情の変更が生じたときは、家裁は、審判の変更をすることができる。
「事情の変更」:協議又は審判の際に考慮され、あるいはその前提とされた事情に変更が生じた結果、調停や審判が実情に適さなくなったこと。

前協議又は審判の際に予見されなかった事情であり、かつ、前協議又は審判を維持することが困難な程度に事情の変更が顕著であることを要する。
←法的安定性の要請。
  ●始期 
減額の変更の始期についてはは、原則として事情変更時に遡及
権利者のと義務者のいずれの側に生じた事由であるかなどの諸事情を総合考慮して、変更の遡及効を制限すべき事由が認められるかを判断する枠組み。