シンプラル法律事務所
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勉強会(判例時報2021前半)

判例時報の勉強会用の資料です(随時更新)

                   
                    
                                          
2480   
  民事p3
東京高裁R2.3.4  
  実父の養育費支払義務が未成年者の養子縁組により無くなる場合の始期
  事案 未成年者らの実父である申立人Xが、未成年者らの実母である相手方Yに対し、未成年者らがYの再婚した夫である利害関係参加人Zと養子縁組⇒未成年者らの扶養義務は第1次的には実母と養父が負うべき⇒離婚時に合意された養育費の支払免除の調停申立て⇒不成立⇒審判に。 
  原審 ①未成年者が親権者の再婚相手と養子縁組⇒未成年者らの扶養義務は、第1時的には親権者及び養親となった再婚相手が負う
②Y及びZにおいて未成年者らを養育することができず、Xにおいて第一次的に扶養する状況にあるとはいえない⇒XがYに支払うべき養育費は0とすべき
③養子縁組によってZが未成年者らの養育を引き受けたという事情の変更は、専らY側に生じた事由⇒始期については、Zが未成年者らと養子縁組した平成27年12月15日とするのが相当。 
  判断 始期について、
①既に支払われ費消された過去の養育費は合計720万円に上るうえ、その法的根拠を失わせて多額の返還義務を生じさせることはY及びZに不足の損害を被らせる
②Xが、Yの再婚や未成年者らの養子縁組の可能性を認識しながら3年以上にわたって合計720万円の養育費を支払い続けた⇒Xは養子縁組の成立時期等について重きを置いていたわけではなく、未成年者らの福祉の充実の観点から養育費を支払い続けたものと評価することも可能

支払義務がないとする時期を本件調停の申立時として、原審判を変更。
  解説  ●養育費の減額 
養育費の調停・審判がなされた後、事情の変更が生じたときは、家裁は、審判の変更をすることができる。
「事情の変更」:協議又は審判の際に考慮され、あるいはその前提とされた事情に変更が生じた結果、調停や審判が実情に適さなくなったこと。

前協議又は審判の際に予見されなかった事情であり、かつ、前協議又は審判を維持することが困難な程度に事情の変更が顕著であることを要する。
←法的安定性の要請。
  ●始期 
減額の変更の始期についてはは、原則として事情変更時に遡及
権利者のと義務者のいずれの側に生じた事由であるかなどの諸事情を総合考慮して、変更の遡及効を制限すべき事由が認められるかを判断する枠組み。
  民事p7
東京高裁R2.2.21  
  事故車両(都営バス)のドライブレコーダー映像が民訴法220条2号の準文書に該当⇒文書提出命令を肯定
  事案 相手方(被告・東京都)が保有する車両(相手方車両)がAに衝突した交通事故(本件事故)に関して、Aの相続人である申立人(原告)が損害賠償を請求する事件。 
申立人は、相手方に対し、民訴法220条2号、3号後段及び4号に基づき、本件ドライブレコーダー映像の提出を求めている。
  規定 第二二〇条(文書提出義務)
 次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。
一 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。
二 挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。
三 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。

イ 文書の所持者又は文書の所持者と第百九十六条各号に掲げる関係を有する者についての同条に規定する事項が記載されている文書

ロ 公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの

ハ 第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書

ニ 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)

ホ 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書
民訴法 第二二一条(文書提出命令の申立て)
2前条第四号に掲げる場合であることを文書の提出義務の原因とする文書提出命令の申立ては、書証の申出を文書提出命令の申立てによってする必要がある場合でなければ、することができない。
  原審  東京都情報公開条例によれば、
「個人に関する情報で特定の個人を識別することができるもの」(個人識別情報)に該当する情報が記載されている文書については、相手方は開示義務を負わないことが規定(同条例7条2号)。
  ①本件ドライブレコーダー映像は、相手方車両の前方の状況を撮影したものであって、道路を通行する車両や歩行者の容貌が記載されたもの⇒個人識別情報に該当⇒東京都情報公開条例に基づいて申立人が開示請求権を有するもとのは認められない⇒民訴法220条2号の準文書には該当しない。
②本件ドライブレコーダー映像は、原則として外部に提供しないことを前提として記録されたもの⇒そこに本件事故の状況が記録されているからといって、申立人と相手方との法律関係を明らかにするために作成されたものであるということはできない⇒民訴法220条3号後段の準文書には該当しない。
③相手方は、本件ドライブレコーダー映像につき、申立人から文書送付嘱託の申立てがあればこれに応じる旨回答⇒文書提出命令の申立てによって書証の申出をする必要はなく、民訴法220条4号を理由とする申立てをすることはできない。(民訴法221条2項)
  判断 文書提出命令を命じた 

申立人は、相手方に対し、東京都情報公開条例に基づき、本件ドライブレコーダー映像の引渡し又は閲覧を求めることができると解すべきであり、本件ドライブレコーダー映像は民訴法220条2号に該当。
東京都情報公開条例:
何人も実施機関に対して公文書の開示を請求することができることを規定。
実施機関は、開示請求にかかる公文書に非開示情報が記録されている場合を除き、開示請求者に対して当該公文書を開示しなければならないこととされている。
非開示情報として「個人に関する情報で特定の個人を識別することができるもの」(個人識別情報)を定めている。
but
その例外として、「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」を挙げている。

特定の情報が公開の対象となるか否かは、当該情報の開示により個人情報が開示されることによる不利益の程度と、当該情報の開示により保護される人の生命、健康、生活又は財産の重要性を比較衡量して判断すべきものと解するのが相当。
①本件ドライブレコーダー映像は、走行中の都営バスにおいて記録された約2分間の短時間の映像
②開示の目的が交通事故による損害賠償請求にかかる民事訴訟の証拠として使用するため

仮に本件ドライブレコーダー映像に特定の個人を識別できる情報が含まれているとしても、基本事件の訴訟中においてこれが開示されることによる不利益は非常に小さいものであることは容易に推知しうる。
基本事件は死亡事故にかかる損害賠償請求訴訟であり、過失相殺が争点

本件ドライブレコーダー映像の開示により過失割合に関する裁判所の判断が変動し、認容される損害賠償額が大きく変わる可能性は十分にある
⇒本件ドライブレコーダー映像の開示により保護される可能性がある財産的利益は、相当程度大きなものであるということができる。
⇒申立人が閲覧等請求権を有することを肯定。
  民事p16
大阪高裁R2.2.27  
  被相続人の夫について推定相続人廃除が申し立てられた事案
  事案 被相続人のが遺言公正証書においてその夫である抗告人を廃除する意志を表示⇒遺言執行者が、抗告人につき推定相続人廃除を申し立てた。 
  規定 民法 第八九二条(推定相続人の廃除)
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
  原審 ・・・一連の抗告人の行動が被相続人に対す虐待及び重大な侮辱に当たると判断⇒抗告人を被相続人の推定相続人から廃除。 
  判断 推定相続人の廃除事由である被相続人に対する虐待や重大な侮辱、その他の著しい非行は、被相続人との人的信頼関係を破壊し、推定相続人の遺留分を否定することが相当であると評価できる程度に重大なものでなければならず、夫婦関係にある推定相続人の場合には、離婚原因である「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)と同程度の非行が必要。
①離婚訴訟におては、被相続人が前記重大な事由はないと主張して抗告人の離婚請求を争い、その判決におても同事由の存在が認められなかったこと
②被相続人と抗告人との間に紛争があったものの、被相続人が抗告人と共に約44年にわたって事業を営んできており、被相続人の遺産が当該事業を通じて形成されたもの
③両者間の紛争は当該事業に関して生じたものであってその期間も約5年にすぎず、抗告人の被相続への遺産形成への寄与が大きい

抗告人の被相続人に対する言動がその遺留分までも否定することを正当と評価できる程度に重大なものとは認められず、廃除事由に該当しない。
  解説 廃除に相続権を有する推定相続人から遺留分を否定して相続権を完全にに剥奪するという強い効果が認められる⇒推定相続人に相続的協働関係を破壊する程度のものであることを必要とするアプローチにより、夫婦又は養親子関係にあった者の場合には、婚姻又は縁組を継続し難い重大な事由とその趣旨を同じくするとの理解のもとに、離婚又は離縁が認められるであろうと考えられる程度の非行の有無が一応の基準となるとの立場が一般的。 
  民事p21
大阪高裁R1.10.16  
  子の常居所地国が争われた事案
  事案 子(C)の父である抗告人(A)が母である相手方(B)に対し、相手方による留置によりCに対する監護の権利が侵害された⇒国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(「実施法」)に基づき、Cを常居所地国であるスリランカ民主社会主義共和国に返還することを求めた 
  判断 常居所とは、人が常時居住する場所で、単なる居所とは異なり、相当長期間にわたって居住とする場所をいうものとされ、居住年数、居住目的、居住状況等を総合的に勘案して認定すべきもの。
特に子が低年齢である場合には、子の常居所の獲得については、以前の常居所を放棄し新たな居所に定住するとの両親の共通の意思を重視すべき。、
本件の事実関係⇒Cについて、日本における常居所を放棄し、スリランカに定住するという抗告人と相手方の共通の意思は形成されていない。
・・・・本件留置時において、Cの社会的結びつきも、スリランカよりも日本の方が強かったということができる。
  解説 諸外国の裁判例:
子の常居所地国の認定に際して考慮すべき事情につき、
A:両親の意思を重視するモデル、
B:子に関する事情を重視するモデル
C:子に関する事情を中心としつつ両親の意思も踏まえて検討すべきとして両者の統合を試みるモデル
などがある。
EU諸国や米国においては、近年、ハイブリッド・モデルが採用されているものと評価。 
日本の裁判例:
多くの決定例では、居住期間、居住目的、居住に至った経緯、居住状況等の諸要素が総合的に考慮され、事案に応じて個別具体的な判断がされている。

子が幼少である場合は、
定住に向けた両親又は監護hさの意思を基準にする例が多いが、
子の客観的な滞在状況を基準とした例もあり、
判断は分かれているとされている。
本件:
期間としてはスリランカでの生活の方が長かった
but
抗告人及び相手方においては、子(C)について、日本で日本人として暮らすという監護方針があり、日本に帰化申請をしていた事案
  民事p28
福岡高裁R2.5.28  
  保険法施行後に締結された人身傷害補償保険契約の死亡保険金部分の帰属
  事案 平成28年1月2日に自動車運転中の自損事故により死亡した亡Aの妻子であるXらが、亡Aと損害保険会社Yとの間で平成26年12月12日に締結された新総合自動車保険契約の人身傷害補償条項「本件人傷条項」に基づき、
亡Aの死亡に係る保険金請求権を保険金受取人として取得し、またはこれを取得した亡Aから相続⇒Yに対し、それぞれの法定相続分に応じた保険金の支払を求めた。 
  主張 Y:
故意重過失免責
請求権は亡Aに帰属し、Xらが亡Aの相続を放棄⇒亡Aの取得した保険金請求権を相続していない。 
本件では、被保険者を保険金請求権者とする定めに付された
「被保険者が死亡した場合は、その法定相続人とします。」との注記の趣旨が問題。
  判断 被保険者死亡の場合には、本件人傷条項に基づく保険金請求権がいったん被保険者に帰属し、その法定相続人がこれを相続する趣旨。
Xらのうち、相続放棄の前に本件の事故車両を売却した亡Aの妻X1には法定単純承認が成立⇒X1の請求のみを認容。 
  解説  ●人身傷害補償保険
被保険者が身体に傷害を被ることによって被保険者等が被る損害に対して、約定された損害賠償算定基準(人身傷害条項損害算定基準)に基づき積算された損害額が填補される保険契約。 
①被保険者が被保険車両や他車両に搭乗中に、自動車の運行に起因する急激かつ偶発な外来の事故により身体に傷害を被ることによって、被保険者またはその父母、配偶者もしくは子が被る損害に対して保険金を支払うことを目的とし、当該事故の直接の結果としての被保険者の傷害、後遺障害、死亡による損害を保険の対象とすること
②支払保険金額は、当該保険会社の定める基準により決定
③損害賠償金等により損害がてん補された場合は、その額が保険金から控除
④保険金支払により保険者は損害賠償請求権を代位取得
するといった基本構造。
  ●死亡保険金請求権の帰属 
平成22年4月1日に施行された保険法

旧商法と異なり、
損害保険契約(保険法2条6号)及び生命保険契約(同条8号)のほかに、
傷害傷病保険契約についての規定を設け、
そのうち傷害疾病損害保険契約(同条7号)を損害保険契約の一類型とする一方、
傷害疾病定額保険契約(同条9号)を損害保険契約及び生命保険契約とは異なる契約類型として位置付け。
人傷保険の約款においては、被保険者死亡の場合、その法定相続人が保険金請求者になるものとされており、この点の約款文言には、保険法制定の前後を通じて変更がない。
保険法の下において、人傷保険の死亡保険金部分が傷害疾病損害保険契約もしくは傷害疾病定額保険契約のいずれの契約類型に位置づけられるのか、またはこれらと異なる非典型契約と解されるのかが問題。
  学説: 
保険法施行後に締結された人身保険の死亡保険金部分の法的性質とその請求権の帰属について
A:傷害疾病損害保険契約であり、死亡保険金請求権は、被保険者によって原資取得される
B:傷害疾病定額保険契約であり、保険金請求権は、法定相続人によって原資取得される
C:非典型契約としての不定額給付型傷害保険契約であり、死亡保険金請求権は、第三者のためにする契約により固有権として法定相続人に帰属する
  本判決:
本件人傷条項に基づく死亡保険金請求権は、被保険者である亡Aが取得

①本件人傷条項は、この保険が被保険者に生じた損害をてん補することを目的とし、保険金額が生じた損害の額に即して定めるものとしている⇒それに基づく保険金請求権は、てん補すべき損害が生じた主体である被保険者に帰属するものと解するのが自然
②保険法上、そのような保険契約は、「損害保険契約のうち、保険者が人の傷害疾病によって生ずることのある損害(当該傷害疾病が生じた者が受け取るものに限る。)をてん補することを約するもの」である傷害疾病損害保険契約」の存在を前提として、同契約に対する損害保険の規定の適用に係る読み替え規定(同法35条)を置いており、同法上、損害保険契約において、被保険者以外の者が保険金請求権者となることは想定されていない
③ 人傷保険の死亡保険金請求権が被保険者に帰属すると解することが、保険契約者および被保険者の合理的意思に合致し、自ら損害を被ることがない被保険者の相続人が直接保険金請求権者となることは、本件人損条項の保険金請求権者の定義規定(同条項1条)の文言に照らして無理がある
  民事p54
東京家裁R2.3.23  
  カリフォルニア州法が準拠法⇒協議離婚は無効
  事案 アメリカ合衆国国籍を有し日本に居住する原告Xが、検察官を被告として、平成11年11月23日付け在サンフランシスコ日本国総領事に対する届出によってなされた、アメリカ合衆国国籍を有し(日本からアメリカ合衆国に帰化)同国で死亡した亡夫との協議離婚(本件離婚) について方式の違法ないし離婚意思の欠缺により無効⇒その確認を求めた。
亡夫は日本からアメリカ合衆国に帰化した米国在住の女性Zと再婚し、同女が被告を補助するため訴訟参加。
X夫婦は、国籍離脱届未了⇒同夫婦の日本の戸籍に協議離婚の記載がなされた。
  主張 X:
本件離婚の準拠法は、カリフォルニア州法であり、同法は協議離婚の方法による離婚を認めていない⇒本件離婚は無効。
Xの 離婚意思を欠いた無効なもの。
Z:
本件離婚届が提出された当時、Xのドミサイルは日本にあったといえる⇒日本の方式でなされた本件離婚は有効であり、Xには離婚意思があった。
Xの主張は、生存配偶者としての法定相続権を実質的に主張するもの⇒エストッペル(禁反言)によって制限される。
  過去の判断 差戻前第1審判決:
人訴法(平成30年法律第20号による改正前のもの)が適用される本件について、
Xは亡夫に遺棄されたとは認められない⇒わが国の国際裁判管轄を否定して訴えを却下。 
差戻前控訴審:
・・・わが国の国際裁判管轄を肯定し、訴えの利益も認められるとして、本件を東京家裁に差し戻した。
  判断  ●準拠法
離婚の準拠法:
法適用通則法附則2条により同法27条が準用する同法25条の適用により、
夫婦の「本国法」が同一であるときはその法によるとされる。
but
X及び亡夫は、本件離婚届出提出時にアメリカ合衆国国籍を有していたところ、アメリカ合衆国は同法38条3項にいう「地域により法を異にする国」に該当し、当事者の本国法は、「その国の規則に従い指定される法」になるが、米国にはその規則がない。

「当事者に最も密接な関係がある地域の法」が問題となるが、
亡夫は昭和54年以降死亡するまでカリフォルニア州に居住しており、本件離婚届提出時における最も密接な関係があるアメリカ合衆国の地域はカリフォルニア州
⇒カリフォルニア州法が亡夫の本国法となる。
Xの本国法もカリフォルニア州法となる。

カリフォルニア州法が本件離婚の準拠法。
離婚の方式の準拠法も、法適用通則法34条1項によりカリフォルニア州法。
  ●本件離婚の方式の違法性
カリフォルニア州家族法310条によれば、離婚関係の解消の方式は原則として裁判所による判決のみであって、当事者間の協議の方式による離婚は認められていない。
⇒方式において違法であり無効。
  ●エストッペル法理(禁反言の法理)
本件離婚の無効を前提とする権利義務ないし法律関係を主張するときに同法里の適用があり得るとしても、本件離婚の無効確認の主張そのものが同法里によって違法となると解することはできない。
  民事p58
大阪家裁R2.3.6  
 
  事案 児童福祉法28条1項に基づく、児童心理治療施設等への入所措置の承認申立ての事案 
  判断 母及び継父に児童を監護させることは児福法28条1項所定の「保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合」に該当
⇒児福法28条1項1号、27条1項3号に基づき、児童を児童心理治療施設又は児童養護施設に入所させて安定的な生活環境を与えることが必要⇒同施設への入所を承認。 
  解説 大阪高裁H29.12.15:
①事件本人が負った急性硬膜化血腫等の傷害について、事件本人親権者父及び同母による揺さぶり行為等が強く疑われ、父母は揺さぶり行為等の外力を否認し、あるいは存在自体を軽視し、自らの監護養育環境における問題点に真摯に向き合い危険の再発防止のための具体的な方策を講じることができていない

父母に事件本人を監護させることは著しく事件本人の福祉を害するといわざるを得ない

抗告人の申立てを却下し、原審判を取り消し、抗告人が事件本人を乳児院又は児童養護施設に入所させることを承認。 
水戸家裁H30.5.28:
①利害関係参加人である実父及び義母による虐待は認められない
but
②実父の事件本人に対する強圧的な接し方により、自閉症スペクトラムの傾向がある事件本人が実父に著しい恐怖を抱き心的外傷を負っていること、利害関係参加人らがこの点を理解しないまま事件本人接する可能性が極めて高い

利害関係参加人らに事件本人を監護させることは著しく事件本人の福祉を害する

申立てを認容して児童心理治療施設に入所させることを承認。
  民事p62
札幌地裁R3.1.15
  優生保護法と憲法違反
  事案 改正前の優生保護法に基づいて優生手術を強制されたとする原告が、
①被告(国)において旧優生保護法を制定し、これを平成8年まで改廃しなかったこと、
②平成8年に旧優生保護法を改廃した後も救済措置等を採らなかったこと
などに違法がある⇒国賠法1条1項に基づき、損害賠償を求めた。 
  判断 旧優生保護法の本件各規定は、憲法13条、14条1項及び24条2項に違反すると判断。
国会議員において、旧優生保護法を制定し、これに本件各規定を設けたことは、国賠法1条1項の適用上違法。
平成8年の旧優生保護法改正後に国会議員が被害者救済のための立法措置を採らなかったことは、国賠法1条1項の適用上違法とはいえない。
損害賠償請求権は、国賠法4条、民法(平成29年改正前のもの)724条後段に基づき、優生手術時から20年後の昭和55年頃の経過をもって消滅。
  解説  ●憲法13条 
最高裁昭和44.12.25(京都府学連でも事件判決):
個人の私生活上の自由が公権力の行使に対して保護されるべきことを規定。
本判決:
子を産み育てるか否かを自らの意思で決定する自由は、個人の尊厳に直結する、人格的な生存に不可欠なものとして、私生活上の自由の中でも特に保護される権利の1つというべき。
旧優生保護法の本件各規定は、子を産み育てるか否かについての意思決定の自由を直接的に侵害するものであり、その立法目的には合理性がおよそ認められない
⇒憲法13条に違反。
  ●憲法14条1項
法の下の平等を定めたものであり、後段の列挙事由は例示的なものであって、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨(最高裁昭和39.5.27)。
本判決:
旧優生保護法の本件各規定は、精神病等の特定の疾患を有する者に対し、本人の同意を要件とせずに優生手術を行う旨定めたものであり、法的な差別的取扱いをするものであって、これを正当化する合理的な根拠はおよそ見出し難い
⇒憲法14条1項に違反。
   ● ●憲法24条2項 
最高裁H27.12.16(再婚禁止期間訴訟判決)、最高裁H27.12.16(夫婦別姓訴訟判決):
婚姻及び家族に関する事項につき、具体的な制度の構築を第1次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画したもの。
本判決:
子を産み育てるか否かというのは家族の構成に関する事項でもあるところ、旧優生保護法の本件各規定は子を産み育てるか否かについての意思決定をする自由を侵害していたものであって、このような規定が個人の尊厳に立脚したものということはできないのであり、その合理的な根拠もおよそ見出し難い。
旧優生保護法の本件各規定は、国会の合理的な立法裁量の限界を逸脱したものであって、憲法24条2項に違反。
  ●旧優生保護法の制定と国賠法1条の1項の違法性 
国会議員の立法行為・立法不作為の違法性:
最高裁H17.9.14(在外日本人選挙権訴訟判決)及び前掲再婚禁止期間訴訟判決:
立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を採ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国賠法1条1項の既定の適用上、違法の評価を受ける。
本判決:
旧優生保護法の本件各規定は憲法13条、14条1項及び24条2項に違反するものであり、その内容は国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白⇒国会議員において、旧優生保護法を制定し、これに本件各規定を設けたことは、国賠法1条1項の適用上、違法の評価を受ける。
  ●被害者救済のための立法措置を採らなかったことと国賠法1条1項の違法性 
国民に憲法上保障されている権利である国家賠償請求権(憲法17条)の行使の機会を確保するための立法としては、既に昭和22年制定に係る国賠法が存在。
同法に加えて、旧優生保護法による優生手術を受けた者が国賠請求権を行使する機会を確保するための更なる立法措置を採ることが必要不可欠であったとか、それが明白であったなどということは困難。
原告のいう補償請求権が憲法上の権利として憲法13条、24条、25条により直ちに認められているとか、その趣旨から導き出されるとはにわかに断じ難く、結局のところ、旧優生保護法による優生手術を受けた者に対して補償給付を行うのか、仮に行うとしてどのような要件・手続によりどのような内容の補償給付を行うのかというのは、国会に委ねられた立法裁量の問題。
  ●除斥期間(民法724条) 
除斥期間について
①民法724条後段の規定は、消滅時効を定めたものではなく、除斥期間を定めたもの(最高裁H1.12.21)
②同規定の趣旨は、被害者側の認識のいかんを問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため、請求権の存続期間を画一的に定めたもの(最高裁)
③除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用であるという主張は、主張自体失当であると解すべき(最高裁)
④民法724条後段の効果が生じないとした裁判例は、判断の根拠となる規定(民法158条、160条)が存在していたものであって、本件とは事案を異にする。
2478   
  行政p24
名古屋地裁R2.8.19  
  障害者差別解消法と教育現場における合理的な配慮のあり方が問題となった事案
  事案 気管カニューレ等を挿管しているX1(判決時中1)並びにその両親であるX2及びX3が、
(1)X1が教育を受けるためには喀痰吸引器具が必要であり、Y(地方公共団体)には障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(「障害者差別解消法」)7条2項にいう合理的な配慮として、X1のために喀痰吸引器具を取得し、これを保管するなどの義務がある

行訴法4条後段の当事者訴訟として、障害者差別解消法7条2項に基づき、喀痰吸引器具の取得及び保管等を請求するとともに(争点①)
(2)X1がA小学校に在学中
ア:B町教育委員会がX1の登校の条件として、喀痰吸引器具の準備及びその費用をX2ないしX3の負担とするとともに、父母にX1の登校日に喀痰吸引器具等を持参するよう義務付けたこと(争点②)
イ:A小学校の校長らが、X2の校外学習に父母の付添いを求めたこと(争点③)
ウ:A小学校の校長らが、X1が父母の付添いなく地域の通学団に参加することができるよう、通学団の児童の保護者に適切な働きかけをしなかったこと(争点④)
エ:A小学校の校長らが、X1を水泳の受業に参加させず、又は水泳の授業に高学年用プールを使用しなかったこと(争点5)が
いずれも国賠法上違法
⇒Yに対し、それぞれ、損害賠償金(慰謝料等)110万円及び遅延損害金の支払を求める事案。 
  判断  ●争点① 
障害者差別解消法7条2項は、個々の障害者に対して合理的な配慮を求める請求権を付与する趣旨の規定ではない⇒Xらが、Yに対し、同項に基づいて喀痰吸引器具の取得及び保管等を請求することはできない。
  ●争点② 
町教委がX1の登校の条件として喀痰吸引器具の取得並びに父母による同器具及び連絡票の持参を義務付けたことは、次の①~③などの事情の元においては、障害者差別解消法7条等に違反するものではなく、町教委の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用は認められない⇒国賠法上違法であるとはいえない。


  ●争点③ 
A小学校の校長らが、X1の校外学習に父母の付添を求めたことは、次の①~③などの事情に下においては、障害者差別解消法7条に違反するものではなく、校長らの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用は認められない⇒国賠法上違法であるとはいえない。


  ●争点④ 
A小学校の校長らにおいてX1が父母の付添いなく地域の通学団に参加することができるような働き掛けをしなかったことは、次の①②などの事情の下においては、通学団の児童の保護者がX1が通学団に参加する際に父母の付添いを求めるなどしたことには正当な理由がないとはいえない⇒国賠法上違法であるとはいえない。

  ●争点⑤ 
A小学校の校長らが、X1を1年次から3年次まで水泳の授業に参加させず、4年次の当初からX1の受業に高学年用プールを使用しなかったことは、次の①②などの事情の下においては、障害者差別解消法7条等に違反するものではなく、校長らの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用は認められない⇒国賠法上違法であるとはいえない。

  解説 障害者差別解消法が平成28年4月1日に施行され、同法7条により、行政機関等において障害者に対する合理的な配慮を行うこと及び不当な差別的取扱いを行なわないことが法的義務として明確に位置付けられた。
but
教育現場における合理的な配慮の在り方等が正面から争点となった民事訴訟はこれまであまり見当たらない。 
本件の事実関係に即した判断が示されているにとどまり、特に合理的な配慮ないし不当な差別的取扱いに関する一般的な規範が定立されているわけではない。
  民事p45
東京高裁R1.11.27  
  普通地方公共団体による国賠法1条2項に基づく求償金等請求が認容された事例
  事案 X(茨城県古河市)が、建設業者であるA及びBから、指名競争入札において違法に指名を回避された⇒国賠請求訴訟を提起され、損害の賠償を命じる判決が確定したことに伴い、その賠償金をAらに支払ったことについて、当時の首長であったY1及び指名業者を選定する委員会の長又は職務代理等であるY2、Y3,Y4に対し、国賠法1条2項に基づく求償金及びXに生じたその余の損害(本件国賠請求訴訟における弁護士費用及び本件国賠請求訴訟後に設置された調査委員会費用等)の損害金の連帯支払を求めた事案。
  別訴 本件国賠請求訴訟判決:
指名競争入札においてAらを排除した本件指名回避の違法性について、
本件指名回避は、AらがY1の対立候補を指示したことを契機とするものといわざるを得ず、Y1の指示によるものか担当者らがY1の指示なくその意向を汲んでしたものであるかにかかわらず、入札参加者として指名する業者の選定についてX等に恣意的な権限行使があったといえ、裁量権の逸脱又は濫用に該当し、違法である。 
  原審 棄却。
  判断 Y1に対する請求の全部を認容し、Y2ないしY4に対する請求に関しては各担当期間に生じた損害金の限度で一部認容。
  解説  本件指名回避におけるY1らの関与についての事実認定の差
一審判決:
Y1が、報復のために、明示又は黙示の指示をして本件指名回避を行なわせていた可能性もあるが、管財課の職員が、Y1の意向を忖度して、勝手に本件指名回避を行った可能性も否定できない。
⇒Yらの故意責任を認定することに対して消極的。
本判決:
「本件指名回避は、偶然の結果ではなく、本件各選挙において対立候補を指示した業者を公共工事入札等で冷遇するというY1の意向が反映されたものである。」との認定を前提とした上で、
「本件指名回避は、Xの主管課である契約検査課等が作成しる指名業者推薦書の原案を指名委員会等に提出する前に行なわれる委員長又は委員長代理による事前協議の際に、Y2ないしY4が、契約検査課等が策壊死汁指名業者推薦書の原案を指名委員会等に提出する前に行なわれる委員長又は委員長代理による事前協議の際に、Y2ないしY4が、契約検査課等の課長に対し、指名業者推薦書の推薦業者名にAらを記載しないように働きかけることにより行なわれた」との事実を認定し、
本件指名回避に関するY2ないしY4の具体的行為を認定し、
更に、Y1の故意重過失に関しては、推認に基づき、「一貫した強固な明示又は黙示の指示」を認定。
  民事訴訟における事実認定は:
裁判官(裁判体)の自由な心証に基づいて行われるが、ある法律効果を発生させるのに必要十分な要件事実は、法律上の推定規定によって証明責任が転換されない限り、法律効果を求める側が証明責任を負い、
要証事実に関する証明の程度は裁判官の確信を抱かせる程度に達することが必要。
要件事実に該当する具体的事実は、裁判官の自由心証に基づきながらも、厳格に認定されることが必要である。
but
要件事実に該当する具体的事実が直接的に認定できない場合であっても、証明責任を負う当事者の過剰な負担による不衡平を回避する手段として、
裁判官の自由心証形成の範疇に含まれる経験則の適用としての「事実上の推定」や「一応の推定」などと呼ばれる認定手法を用いることが判例実務上認められる。
医療過誤訴訟や公害訴訟、行政訴訟等、原告にとって立証のための資料の入手が困難な訴訟の分野⇒証明責任を負う当事者の証明責任自体を軽減する法理として、
「証明責任の分担」、「証明度の軽減」、「立証軽減の法理」、「証明責任の転換」
but
議論は錯綜。
本判決:
Xの指名競争入札においてAらが指名業者推薦書から削除されて違法な本件指名回避が実行されるに至った経緯を詳細に認定。
その実行は、指名業者推薦書原案を作成する「契約検査課等の職員ではなく、Y2ないしY4であると解するほうが自然である」と認定⇒違法行為の実行者を特定。
Y1の故意重過失に関しては、「一貫した強固な明示又は黙示の指示があったと推認する方が自然である」との判断。

一審判決における「管財課の職員が、Y1の意向を忖度して、勝手に本件指名回避を行なった可能性」もあるとする認定上の疑念を否定。
本判決においける「自然な認定」「自然な推認」が如何なる認定手法を表現したものかは必ずしも明確にはなされていない
but
裁判官の自由心証形成の範疇に含まれる経験則の適用としての「事実上の推定」や「一応の推定」などと呼ばれる認定手法に属するものであると解するのが相当、
  本件は、地方公共団体自身が積極的に国賠法1条2項に基づく求償権を行使し、これが高裁におい認容され、最高裁でも維持された1事例。 
  民事p70
高松高裁R1.12.13  
  後見開始の審判の申立て(後に、申立ての趣旨を、補佐開始及び代理権付与の審判の申立てに変更)⇒任意貢献契約締結の事案
  事案 抗告人(本人)は、ケアハウスに居住。
抗告人の二女である原審申立人は、抗告人につき後見開始の審判の申立て(後に、申立ての趣旨を、補佐開始及び代理権付与の審判の申立てに変更)。
家裁調査官が、抗告人の亡長女の子Dに対し、抗告人につき後見を開始することの意見照会⇒Dは、後見開始に反対。
抗告人とDは、弁護士と相談の上、令和1年5月15日、委任契約及び任意後見契約を締結し、同月20日、本件任意後見契約に関する登記がされた。 
  判断 「本人の利益のために特に必要があるとき」とは、
①任意後見人の法的権限が不十分な場合、
②任意後見人の不当な高額報酬の設定など任意後見契約の内容が不当な場合、
③任意後見法4条1項3号に該当するように受任者に不適格な事由がある場合、
④任意後見契約の有効性に客観的な疑念のある場合、
⑤本人が法定後見制度を選択する意志を有している場合
など、任意後見蹴薬によることが本人保護に欠ける結果となる場合をいうものと解するのが相当。 
詳細な事実認定⇒本件では、本件任意後見契約によることが本人である抗告人の保護に欠けるえっかとなるとは到底認められず、本件で補佐開始をすることが本人である抗告人の利益のために特に必要があるとは認められない。
  解説 任意後見と法定後見との関係の調整:
任意後見法10条1項が、「任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認める時に限り、後見開始の審判等をすることができる。」と規定。

任意後見制度による保護を選択した本人の自己決定を尊重する観点から、原則として任意後見が優先。
but
実務上は、本件のように、法定後見開始申立て後に結ばれる即効型任意後見契約には、何らかの親族間紛争を前提とした、他の親族による法定後見開始申立てへの対抗措置的な色彩が濃いことが多い上、契約締結時に本人の判断能力が既に低下しているため、内容に関する本人の真意性に疑義が生じる蓋然性も高い等、任意後見の濫用を疑わせる場合が少なくない。
  知財p74
大阪地裁H30.12.13  
  特許法101条2号の「その発明が特許発明であること・・・を知りながら」「その物がその発明の実施に用いられることを知りながら」の要件がもんだいとなった事案。
  規定 特許法 第一〇一条(侵害とみなす行為)
次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。

二 特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
  解説  ●「課題の解決に不可欠なもの」の要件 
従来の裁判例:
従来技術の問題点を解決するための方法として、当該発明が新たに開示する、従来技術に見られない特徴的技術手段について、当該手段を特徴付けている特有の構成ないし成分を直接もたらす、特徴的な部材、原料、道具等がこれに該当するものと解するのが相当
で、本判決もこれを踏襲。
  ●特許請求の範囲の訂正が行われた場合の、「その発明が特許発明であること・・・を知りながら」要件の判断時期。 
Y:特許法101条2号の文言上、主観的要件は譲渡等の行為時に具備されていなければならず、訂正前の行為についてこれを具備することはありえない
⇒訂正後の特許請求の範囲に係る発明を知った時に、この要件を満たすことになる。
本判決:
「特許請求の範囲の訂正が認められる場合が・・・限定されていること」等を理由として、訂正前の特許請求の範囲に係る特許発明を知っていれば足りる。
かつそれは、特許法101条2号が主観的要件を要求する趣旨に反しない。
  ●「その物がその発明の実施に用いられることを知りながら」要件における認識の程度 
A:厳格説
「自己の供給する部材等が、他人緒特許発明に係る物の生産又は方法の使用に用いられ得るという、一般的な利用可能性の認識では足りず、現実に当該部材等が特定の者によって特許発明の実施に用いられている事実を認識していることを要するというべき」(三村量一)
「半会社において例外とはいえない範囲の者が部品等を違法用途に利用する蓋然性が高いことを認識していたとしても、幇助の過失責任が問われる場合はあるものの、主観的要件を充足しない。条文の文言上、あえて「過失」を除くこととした既定の趣旨からすれば、特許権の効力の不当な拡張にならないよう、主観的要件については厳格に解するのが相当」(高部眞規子)

B:緩和説
①部品等を違法用途に使用している購入者が特定している場合については、販売者において、当該購入者が部品等を違法用途に使用していることを認識しているときは、悪意が認められ、当該購入者に対する販売する行為および販売のための製造行為について間接侵害が成立し、
②部品等を違法用途に使用している購入者が特定していない場合については、販売者において、部品等が違法用途に使用される一般的可能性があることを認識ていたとしても、悪意は認められず、間接侵害は成立しないが、部品等の性質、その客観的利用状況、提供方法などに照らし、販売者において、部品等を入手する者のうち例外とはいえない範囲の者がその部品等を特許権品議に利用する蓋然性が高いことを認識しているときは、悪意が認められ、同部品を製造、販売する行為について間接侵害が成立するとみて、間接侵害行為と目される当該行為について限定なく差止めを認めるという考え方も成り立つであろう。
本判決は、緩和説を採用。
  刑事p144
最高裁R2.9.30  
  後行者が途中から共謀加担した場合と刑法207条
  事案 先行者が暴行を加えた後、これと同一の機会に後行者である被告人が共謀加担したが、共謀成立後の暴行と被害者の負った傷害との間の因果関係の証明がない場合における刑法207条の同時傷害の特例の適用の可否(「本論点」)が問題となった事案。 
  規定  第207条(同時傷害の特例)
二人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても、共犯の例による。
  1審 A及びBが被害者に対する暴行を開始した後、途中から被告人との現場共謀が成立。
本論点につき積極説に立ち、
被害者の負った傷害のうち、共謀成立後の暴行との因果関係の証明はないものの、同暴行によって生じた具体的可能性のある傷害について、
共謀成立の前後にわたる同一機会における暴行により生じたものであり、共謀成立前のAらの暴行によって生じたものか、共謀成立後の被告人ら3名の共同正犯の暴行によるものかを知ることができないときに当たる⇒同時傷害の特例の適用により、被告人も刑責を負う。
  原審 第1審の解釈を是認。
  判断 刑法207条が適用できるのは、傷害が先行者の暴行によるものか後行者である被告人の暴行によるものかを知ることができない場合であり、後行者が当該傷害を生じさせ得る危険性のある暴行を加えている必要があるとの解釈を示し、
原判決は、共謀成立前の先行者の暴行と共謀成立後の共同暴行との間に適用できるとした点で、同条の解釈適用を誤った法令違反があるが、判決に影響を及ぼさない。
⇒上告を棄却。 
  解説  ●判例の動向 
最高裁H24.11.6:
他の者が被害者に暴行を加えて傷害を負わせた後に、被告人が共謀加担した上、更に暴行を加えて被害者の障害を相当程度重篤化させた場合、被告人は、被告人の共謀及びそれに基づく行為と因果関係を有しない共謀加担前に既に生じていた傷害結果については、傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはない。

共謀成立後の暴行と被害者の負った傷害との間の因果関係の証明がない⇒後行者に対し、刑法60条により当該傷害についての責任を問うことはできない。
刑法207条に関する判断は示していない。
最高裁H28.3.24:
共犯関係にない2人以上が暴行を加えた事案における刑法207条の適用について、
検察官が、各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況において行なわれたこと、すなわち、同一の機会に行われたものであることを証明
⇒各行為者は、自己の関与した暴行がその傷害を生じさせていないことを立証しない限り、傷害についての責任を免れない。
  ●学説 
〇A:積極説

B:消極説:
刑法207条が個人責任主義や利益原則の例外規定であることを強調⇒傷害結果について誰も責任を負わなくなる場合のみについての規定
  本決定:
最高裁として初めて積極説を採用するとともに、
刑法207条の適用の前提となる事実関係は、先行者の暴行と後行者(被告人)の暴行との間に証明される必要があり、
同条を適用するためには、後行者が当該傷害を生じさせ得る危険性のある暴行を加えている必要があるとの解釈を示した。 
  刑事p149
最高裁R2.7.30  
  ストーカー行為等の規制等に関する法律の「住居等の付近における見張り」とGPS機器による位置情報取得
  事案 被告人が、別居中の当事の妻Aが使用する自動車(A車)にGPS機器をひそかに取り付け、その後多数回にわたってA社の位置情報を探索して取得した行為がストーカー規制法2条1項1号所定の「住居等の付近において見張り」をする行為に該当するかが問題。 
  判断 ストーカー規制法2条1項1号にいう「住居等の付近において見張り」をする行為に該当するためにば、機器等を用いる場合であっても、好意の感情等を抱いている対象である特定の者又はその者と社会生活において密接な関係を有する者の「住居等」の付近という一定の場所において同所における前記特定の者等の動静を観察する行為が行われることを要する。
本件位置情報取得行為は、Aが賃借していた駐車場の付近で行われたものではなく、また、同駐車場付記におけるAの動静に関する情報とはいえず、被告人の行為は前記の要件を満たさない
⇒「住居等の付近において見張り」をする行為に該当しない。
  解説 ストーカー規制法2条1項1号は、対象者に対し、「住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(住居等)の付近において見張り」をする行為を規制の対象として規定。 
本判決は、「住居等の付近において」という場所的要件について、
①対象者の動静を観察する行為(「見張り」の実行行為)が対象者の「住居等の付近において」行なわれること、
②観察される対象者の動静はその「住居等の付近」におけるものであることの
2つが必要である旨説示したものと解される。
2477   
  民事p40最高裁R2.9.18  
  不動産競売手続における先取特権を有する債権者による配当要求と時効中断
  事案 マンションの団地管理組合法人であるX(上告人)が、マンションの専有部分(「本件建物部分」という。)を担保不動産競売で取得したY(被上告人)に対し、本件建物部分の前の共有者が滞納していた管理費等の支払義務をYが承継した⇒その管理費等の支払を求めた。
 平成23年4月、本件建物部分の共有持分について強制競売の開始決定⇒Xは、同年6月、滞納管理費等の債権について、区分所有法66条で準用される同法7条1項の先取特権(同条2項、民法306条により、その効力については一般の先取特権とみなされる)を有する⇒民執法51条1項に基づく配当要求⇒当該強制競売の申立ては同年7月に取下げ⇒Yは、担保不動産競売により、本件建物を取得。
  原審 マンションの管理費等につき先取特権を有するとしてされた配当要求について消滅時効の中断の効力を認めるためには、債務者が配当異議の申出等をすることなく売買代金の配当又は弁済金の交付が実施されるに至ったことを要する
⇒本件では消滅時効の中断効を否定。 
  判断 不動産競売手続において区分所有法66条で準用される同法7条1項の先取特権を有する債権者が配当要求をしたことにより、前記配当要求における配当要求債権について、差押え(平成29年法律第44号による改正前の民法147条2号)に準ずるものとして消滅時効の中断の効力が生ずるためには、民執法181条1項各号に掲げる文書により前記債権者が前記先取特権を有することが前記手続において証明されれば足り、債務者が前記配当要求債権についての配当異議の申出等をすることなく売買代金の配当又は弁済金の交付が実施されるに至ったことを要しない。

原判決中、本件配当要求による時効中断の効力を認めずにXの請求を棄却した部分を破棄し、更に審理を尽くさせるため、同部分につき本件を原審に差し戻し、Xのその余の上告を却下。 
  解説 時効中断の制度の根拠に関する学説:
A:権利者の権利行使に時効中断の根拠を求める立場(実体法説・・・権利行使説)
B:権利の存在が公に確認されることに時効中断の根拠を求める立場(訴訟法説・・・権利確定説)
C:権利行使と権利確定の両者が含まれると捉える立場(多元説) 
学説:
一般論として、配当要求は、明確な権利の実行行使であり、債務者に対する通知もされる⇒差押えに準ずるものとして、時効中断の効力を肯定するものが多数。
判例:
担保権の実行の場面における「差押え」に関しては、権利行使の側面を重視しているようにみえる。

最高裁H11.4.27:
不動産競売手続において執行力のある債務名義の正本を有する債権者がする配当要求は、差押えに準ずるものとして、配当要求に係る債権につき時効中断の効力を生ずる
but
この判例の事案は、債務名義が存するものであり、権利の存在は既に公的に確認されている⇒権利確定の側面を厳格に要求する必要はなかった。
一般の先取特権を有する債権者は、担保不動産競売の申立てを行うことができ(民執法180条、181条1項)、競売開始決定が債務者に送達された場合に、民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)147条2号の差押えとしてその被担保債権につき時効中断の効力が生じることに異論はない。
一般の先取特権を有する債権者は、既に第三者の申立てによって強制競売又は担保不動産競売の開始決定がされている場合、
自ら担保不動作競売の申立てをして二重開始決定(民執法47条1項、188条)を得ることも、配当要求(民執法51条1項、188条)をすることもでき、配当要求は債務者に通知(民執規則27条)がされる

一般の先取特権を有する債権者がする配当要求も、一般の先取特権に基づいて能動提起にその権利を実現しようとしている点では、担保不動産競売の申立てと異ならない。
民執法181条1項は、同項各号所定の法定文書、すなわち、担保権の存在を証する文書の提出だけで担保不動産競売の開始を許容しており、その後に被担保債権の存否を確定することを予定していないが、担保不動産競売の申立てには時効中断の効力が認められている。

時効中断事由としての「差押え」について権利確定の要素が必要と考るとしても、一般の先取特権を有する債権者がする配当要求については、執行裁判所が、一般の先取特権の存在を証する法定文書の存在を認め、当該配当要求を却下せず、適式な配当要求があるものとして、差押債権者及び債務者にその通知をするなど、強制競売手続又は担保不動産競売手続が進められるという結果、あるいは、執行裁判所にそのような法定文書が提出されたという結果が、権利を明確にしたとみることができ、権利確定の要素としてはこれもって足りると解することができる。
  民事p46
東京高裁R2.6.26  
  危急時遺言の民法976条5項の真意に適うとの心証が争点となった事案
  事案 深刻な病状で入院中の遺言者がした危急時遺言について、その証人となった者が、民法976条4項に基づき、家裁に遺言の確認を求めた事案。 
  規定 民法 第976条(死亡の危急に迫った者の遺言) 
疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第一項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前三項の規定によりした遺言は、遺言の日から二十日以内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
  原審 診療録に顕れた遺言者の意識状態の推移嫌本件遺言の4日後に実子された認知機能検査の結果のほか、同じ日に行なわれた家裁調査官との面談
⇒本件遺言時の遺言者が、遺言の趣旨や効果を理解した上で口授することができたというには疑義が残り、本件遺言が遺言者の真意に出たものとは認められない
⇒本件申立てを却下。 
    原審申立人(本件遺言者の証人)と利害関係人(遺言者の長男)が即時抗告
  判断 家庭裁判所による遺言の確認には既判力がなく、他方でこの確認を得なければ当該遺言は効力を生じないことに確定してしまう。

遺言者の真意につき家庭裁判所が得るべき心証の程度については、確信の程度にまで及ぶ必要はなく、当該遺言が一応遺言者の真意に適うと判断される程度のもので足りると解するのが相当。 
①いずれも行政書士である3人の証人が供述する本件遺言の際の証人と遺言者とのやりとりの内容からは、遺言者が遺言の趣旨を理解した上でこれを口授していることがうかがわれる。
②全ての遺産を長男に相続させるとうい本件遺言の内容は、遺言者が長男宅に引き取られるに至った経緯等からみて合理性を有する。

本件遺言は遺言者の真意に適うものと考えられる。
(1)認識脳検査の結果
vs.
検査時の遺言者の応答等を詳しくみれば、長男に全ての財産を相続させるという程度の単純な遺言の内容についてまでおよそ理解し得ない状態であったかは明らかではない。

(2)家裁調査官との面談結果
その内容のみをみれば、遺言者の能力に疑義が生じることは否定できない。
but
入院中の遺言者の状況には日によって変動が見受けられる
⇒その日の遺言者の状態がたまたま悪かったということも考えられる。


いずれも遺言者の本件遺言の趣旨を理解し得る能力がなかったとする決め手にはならない。

本件遺言については、それが一応遺言者の真意にかなうと判断される程度の心証は得ることができる。
  民事p50
大阪高裁R2.2.20  
  婚姻費用分担金の減額申立ての事案
  事案 夫である抗告人が、妻である相手方に対し、前件審判で定められた月額6万円の婚姻費用の分担金の減額を求めた申立て。 
  主張 前件審判後に抑うつ状態となり、それまでの勤務先を退職し、再就職も困難。 
  原審 事情変更を認め減額。
  判断 ①抗告人の退職が自らの意思によるものであった
②退職直前の給与額が前件審判時の給与額と大差ないものだった
③退職後の行動からすると抑うつ状態のために就労困難であるとは認め難い

退職後現在に至るまで前件審判時と同程度の収入を得る稼働能力を有していると認めるのが相当であり、婚姻費用分担額を変更すべき事情の変更があったとは認められない
⇒原審判を取消し、抗告人の減額申立てを却下。 
  解説 事情変更⇒民法880条類推適用により婚姻費用分担額を変更できる。 
事情の変更:
以前の合意・調停又は審判の際に考慮され、あるいは基礎とされていた事情が、その後変更となった結果、以前の合意・調停又は審判が実情に適さなくなったこと。
予見し得た事情がその後現実化したに過ぎない場合は、原則として事情の変更があったとみることはできない。
事情変更の有無についての一般的判断基準:
①以前の合意・調停又は審判の前提となっていた客観的事情に変更が生じたこと
②その事情変更を当事者が予見できなかったこと
③事情変更が当事者の責めに帰すべからざる事由によって生じたこと
④以前の合意・調停又は審判のとおり履行させることが当事者間の公平に反する結果となる場合であること
と整理。
本判決:
抗告人についてうつ状態の持続から一般就労は困難であるとする医師の診断書が提出。
but
その後の抗告人の行動から就労困難が状態にあるとは認められない⇒以前と同程度の収入を得る稼働能力があると認定。
  民事p54
仙台高裁R2.8.6  
  所有権留保をした建設機械について、即時取得が否定された事案
  事案 建設機械の割賦販売業者Xは、所有権を留保した割賦販売により、A及びその関連会社Bに対し、大型建設機械である油圧ショベル1台とジョークラッシャー1台を引き渡した。
Y1は、Aが民事再生手続開始の申立てをする直前の時期に、この2台の建設機械をAから買い受けたと主張⇒Y1が1台を占有し、もう1台を関連会社Y2がY1から賃借したととして占有。
Xは、所有権に基づき、Y1とY2に各自が占有する建設機械の引渡しを求めた。
  主張 Yら:
AとY1は、ジョークラッシャー1台、ショベル2台、ショベル用アタッチメント1基の売買契約を代金9650万円で締結し、Y1はAに売買代金のうち8000万円を支払った。
Aから目的物を引き渡すことができなくなったから同種の物に変更してほしいと連絡⇒AとY1は、目的物のうちジョークラッシャー1台とショベル1台を本件各物件に変更。
残るショベル1台は追って別のショベル1台を引き渡すことに合意。
その後Aから、本件各物件についてA作成の重機譲渡証明書兼誓約書が交付され、本件各物件とアタッチメント1基がY1に引き渡された。 
  原審 Y1の即時取得を認め、請求を棄却。 
  判断 Y1がAに本件各物件の所有権があると信ずるについて過失あり⇒Y1が即時取得することはない⇒Xの引渡請求をいずれも認容。
①建設機械は、価格が高額で、売買は所有権留保の割賦販売の方法によることが取引の通例⇒占有者が所有権を確定的に取得していないことが多い
②建設機械を入手しようとする者は、転売目的の販売業者・ブローカー・自己使用目的の建設業者・担保目的の古物商・質商・金融業者などが主。
これらの者は、専門業者として建設機械の売買は所有権留保の割賦販売方式によるのが通例であることを当然了知。
⇒製造業者や指定販売会社以外の者から買い受けるにあたっては、売主がその所有者であるか否かについて調査確認をなすべき義務を負う。
③Y1は、日常的に建設機械を取り扱う建設業者⇒Aから譲渡を受けるに当たり、見るからに高価な建設機械について、Aの所有権取得の経緯や割賦販売である場合にはその債務が完済されているか否かについて、割賦販売契約書、代金領収書等の裏付資料の有無、その内容を自ら調査するほか、統一譲渡証明書の発行の有無についても確認し、Aの前主である日本キャタピラーやXに対してAの残債の有無を確認するなどの調査確認義務があるのは、取引き社会の常識に照らし明白。
①シリアル番号まで目的物が具体的に特定されているのに、アタッチメント以外の3台もの建設機械が都合により引き渡すことができなったというのは極めて不自然であり、メーカーが異なるなど性能や昨日に相違があり、5000万円を超える建設機械を購入するのに、そうした点に配慮しないまま購入対象となる建設機械の変更に応じるとは考え難い
②見積書を発行した建設機械を用意できないのであれば、売買契約を一旦破棄し、新たに売買契約を締結すれば足りるところ、新たな見積書も発行されず、売買契約書も取り交わされないまま、当初購入予定の建設機械3台の引渡しが不能となったという取引上の信用が疑われるAから1億円近い建設機械を買うといったハイリスクの取引をすることは考えられない。
③引渡しも受けず、しかもAを信用した基礎の1つとするA作成の重機譲渡証明書兼誓約書も受領しないうちに、当初予定の建設機械を引き渡せなくなったAに8000万円もの代金を振り込んで支払うとは到底考えられない。
Y1が主張するAとの取引は、建設機械についてはリースや割賦販売によることが大半であるとされる中にあってほぼ新品に近い建設機械2台を1億円近い代金を支払って購入するという異例なものであるうえ、取引の経緯も不自然かつ不合理な点が多く、Y1が取引き行為により本件各物件の引渡しを受けたとは思われない
⇒Y1は、Aが譲渡権限を有しないことを知っていたか、これを有すると信じたことについて重大な過失があったと判断。
  解説 本件では、債権者にも債務者にも使用を許さない執行官保管の仮処分がされたよう。
but
維持管理に手間と費用がかかる一方で、短期のレンタル市場も充実している建設機械の特性

債権者の視力信用に問題がなければ、引渡断行の仮処分をして迅速に本案の審理をする方が、賃料相当損害金の拡大を防ぎ、双方にとって紛争解決コストが低減されると思われる。
  民事p65
神戸地裁R1.10.8  
  条例に基づく倫理審査請求書の不受理・返却⇒国賠請求(肯定)
  事案 A(兵庫県三木市市長)の本件飲食及びその後の対応等は、被告(兵庫県三木市)の定める三木市長等倫理条例3条に定める倫理基準に違反する疑いがある⇒署名活動を行った上、Aに対し、市長等倫理条例4条1項に基づく審査請求⇒Aは、本件審査請求時点で、既に自らの言動が市長等倫理条例に違反することを認めて謝罪し、給料減額処分を行なっていることから、三木市長等倫理審査委員会に審査を求める必要はないと判断し、市職員は、原告らに、審査請求書等の書類を返却。

原告らが、被告に対し、Aが、本件審査請求につき、審査かいに審査を求めず、本件返却を行ったことが国賠法上違法であるとして、同法1条1項に基づく損害賠償を求めた。
  争点 ①本件返却等の措置が、国賠法上違法な行為といえるか
②Aの故意又は過失の有無
③原告らの損害の有無 
  判断・解説 ●本件返却等の措置の違法性 
国賠法1条1項にいう「違法」:
公務員が、個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背すること(最高裁)

国賠法上の違法性が認められるためには、当該国民の権利又は法律上保護される利益が侵害されたことが必要であるとされ、
当該国民の主張する利益が、法規の適正な運用によって実現される公益の保護を通じてもたらされる反射的利益に過ぎない場合には、そのような利益が侵害されたとしても、国賠法上の違法性は認められない。

ex.
犯罪の被害者又は告訴人が捜査又は控訴提起によって受ける利益につき、公益上の見地に立って行なわれる捜査又は公訴の提起によって反射的にもたらされる事実上の利益に過ぎない(最高裁H2.2.20)。
市長等倫理条例は、市長等の倫理の保持に資するため必要な措置を講ずることにより、市政に対する市民の信頼を確保することを目的とし(1条)、これを達するため、市長等が遵守すべき倫理基準を定める(3条)ほか、地自法所定の選挙権を有する者は、市長等が前記倫理基準に違反する疑いがあると認めるときは、一定数以上の連署をもって、市長に震災を請求することができる(4条)

市長等倫理条例は、基本的には、市長等の倫理の保持や、市政に対する市民の信頼の確保といった公益の保護をその目的としていると解される。
but
①審査請求を受けた市長・・・
②審査会・・・
③審査請求の行使要件・・・

市長等倫理条例に基づく審査請求は、単なる公益保護を目的とする手続の端緒というのみならず、住民が行政過程に関与し、行政を監視する性格を有する手続として位置づけられる。

市長等倫理条例は、倫理審査会や市長に、審査請求代表者に対し、審査期間の延長及びその理由や、審査会による報告書の内容を通知することを義務付けており、審査請求を行なった者に手続上の配慮を行う趣旨の規定を置いている。
⇒市長等倫理条例に基づく適法な審査請求を行なった市民には、当該審査請求が、前記各規定に基づいて、適正に取り扱われることへの合理的期待が生じていると解され、かかる利益は、国賠法上も保護されるべき利益として位置づけることが十分に可能。

適法な審査請求が行なわれることによって、審査請求人に生じる手続上の利益の観点から、国賠法上の保護利益性を肯定。
  ①市長等倫理条例4条1項に基づく審査請求を受けた市長は、その手続の適法性に問題がない場合には、直ちに審査会に審査を求めなければならない
②市長に審査請求の内容的要件審査権限がなく、審査請求に対して、これを行なった市民らの法的地位に変動を及ぼす処分がなされることが予定されていない

前記審査請求に係る請求書の提出は、届出の性質を有しており、被告の定める行政手続条例によれば、届出については、(行手法と同様)到達主義が採用され、受理の概念自体が否定されている。

市長は、前記審査請求を受けたときは、(当該審査請求を行なった市民との関係でも)直ちに請求書等の形式的審査を行い、これに不備がない場合には、審査会に審査を求めるべき職務上の法的義務を負うというべき

本件においてAが行なった本件返却等の措置が、前記義務に違反する国賠法上の違法な措置といえることは明らか。 
  ●損害 
本件返却等の措置によって、原告らに適正な手続を受けることへの合理的期待が裏切られたことによる精神的苦痛を内容とする損害が生じた。
  民事p76
津地裁四日市支部R2.8.31  
  インプラント施術の治療契約が消費者契約法10条により無効とされた事案
  事案 Aと医療法人であるYとの間で、インプラントの施術を内容とする治療契約(「本件契約」)が締結され、患者都合による治療中断の場合には治療費の返還はしない旨の条項
but
インプラント施術前にAが死亡したことにより本件契約が終了
⇒Aの相続人であるXらが、本件不返還条項は消費者契約法10条により無効⇒Yに対し不当路得返還請求権に基づき、支払済みの治療費の返還を求めた。 
  規定 消費者契約法 第一〇条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
  判断 本件契約は消費者契約にあたる。
本件不返還条項は、本件契約の履行の中途で終了したとしても、治療費の全額を返還しないとするもの⇒履行の割合に応じて報酬を請求することができるとする民法656条、648条3項(平成29年法律第44号による改正前のもの)に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項⇒消費者契約法10条前段の要件を満たす。 
本件不返還条項が、民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか(消費者契約法10条後段)は、消費者契約法の趣旨、目的に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考慮して判断されるべき(最高裁H23.7.15)。
①本件不返還条項は、インプラント埋入手術等が行なわれることな終了しても、治療費全額の返還をしないというもの⇒治療費の対価性を損なう条項
②本件治療は患者の意思に基づくものでなければならないところ、本件不返還条項によって、患者が治療を中断したり、転院する機会を制限し得るもの
③本件不返還条項は、Yにおける自費治療の契約の際の承諾書に定型的に記載されたもので、AとYとの間で個別に交渉され合意されたものとはいえず
④Aが約3か月ぶりにYを受診し、Yの代表者がAをはじめて担当してインプラント治療が検討されたその日のうちに本件契約に至った
⑤A及び同行したX1はいずれも80歳を超える高齢

本件不返還条項は、民法1条2高の規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるといえ、消費者契約法10条後段の要件を満たす

本件不返還条項は、消費者契約法10条により無効。
本件契約は平成30年9月15日にAが死亡したことにより終了したところ、YがAから受領した治療費の内、既にした履行の対価分を超える分については、法律上の原因のない利得といえる。
見積り上、既履行部分である仮義歯の設置は0円(サービス)とされている。
but
①仮義歯作成及び調整や口腔内の観察も、治療において必要な手順。
②前記見積りは、YがAから治療費全額の支払を受けられることを想定した見積りであると考えられること。
③仮義歯作成の実費が発生。

形式的に本件見積しを適用することはせず、本件契約代金額等も考慮し、本件契約による治療の4分の1程度は、既に履行されていたものとして、治療費264万6000円の4分の3にあたる198万4500円の不当利得返還請求権の存在を認め、Xらの各相続分に応じて、請求を一部認容。
  解説  インプラントの施術を内容とする治療契約は、準委任契約(民法656条)であると解されるところ、民法656条、648条3高は、当該契約が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは、受任者は既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができると規定⇒本件不返還条項は、法令中の公の秩序に関しない規定(任意規定)の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重するものであることも明らか。 
本件では、本件不返還条項が民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか(法10条後段)が主たる争点。
  知財p81
知財高裁R2.7.2  
  特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件を充足するための要件
  事案 Y(A事件被告)は、本件特許につき無効審判を請求し、無効理由として、進歩性欠如及びサポート要件非充足を主張。 
審決:
進歩性欠如の無効理由については、本件化合物発明及び本件製法発明のいずれも理由なし(請求不成立)
サポート要件非充足の無効理由については、本件化合物発明につき理由なし(請求不成立)
審決において特許無効とされた部分についてXが、請求不成立とされた部分についてYが、それぞれ審決取消訴訟を提起し(前者が「A事件」、後者が「B事件」)、知財高裁はこれらを併合審理。
  争点 中心的な争点:本件化合物発明のサポート要件 
  判断  ●サポート要件充足性の判断手法 
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、
特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、
特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断。
サポート要件を充足するには、明細書に接した当業者が、特許請求された発明が明細書に記載されていると合理的に認識できれば足り、また、課題の解決についても、当業者において、技術常識も踏まえて課題が解決できるであろうとの合理的な期待が得られる程度の記載があれば足りるのであって、厳密な科学的な証明に達する程度の記載までは不要。

①サポート要件は、発明の公開の代償として特許権を与えるという特許制度の本質に由来するものであるから、明細書に接した当業者が当該発明の追試や分析をすることによって更なる技術の発展に資することができれば、サポート要件を課したことの目的は一応達せられる。
②明細書が、先願主義の元での時間的制約もある中で作成されるもの⇒その記載内容が、科学論文において要求されることまで要求するのは相当ではない。
  ・・・・
  解説 平成15年の特許審査基準の改定⇒明細書のサポート要件が「実質化」され、特許請求の範囲に記載された発明が、明細書の記載により実質的に裏付けられている必要がある。 
本件は、明細書による裏付けがどの程度の確からしさを要するかという点について、一般論を明確に述べたもの。
  刑事p95
広島高裁R2.9.1  
   
  事案 長女を包丁で突き刺した行為について、原審殺人未遂⇒控訴審で心身喪失で無罪 
  原審 殺意をもって本件刺突行為に及んだとする被告人の捜査段階の供述の信用性に疑いを入れる余地はない⇒作為体験の存在を否定。
行為当時に作為体験が出現していたとする精神鑑定は前提条件を異にするものであって採用できない。

完全責任能力状態での殺人未遂
懲役2年6月(執行猶予4年)
  判断 公判前整理手続の経過⇒本件の実質的争点は行為当時に作為体験が出現していたかどうか。
この点が(裁判員法)50条鑑定の鑑定事項において検討されるべき主題となっていたことは明らか。
行為当時の主観面(作為体験の存否)について、捜査段階と起訴後とで供述に変遷があり、鑑定にあたり、その信用性をどう評価するかは、事実認定における証拠評価と実質的に共通する作業。
but
その場合、鑑定人としては、対象者が精神症状があったかのように装う供述をする可能性が在ることも考慮し、一件資料のほか、鑑定面接、諸検査等により得られた幅広い情報を基礎にし、専門的知見に基づき、対象者の供述する内心等の状態が精神症状の現れと見て精神医学的に矛盾はないか等の観点から供述の信用性を慎重に吟味する必要があり、その検討作業は正に鑑定の本分に属することである。
その際に、鑑定人が検討の基礎に置くべき資料を考慮せず、供述の信用性評価の前提となる事実関係の認識に誤りがあったというようなj場合には、鑑定の合理性が否定されることはあり得るが、そのような事情がなく、判断過程に不合理な点がない限り、鑑定は基本的に尊重されるべきもの。
本件の精神鑑定の判断過程に不合理な点は見当たらない。
・・・・行為時に作為体験があったとする精神鑑定及び起訴後の供述の信用性を排斥できない。
  解説  責任能力判断の前提となる精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度について、精神医学者の鑑定意見等が証拠となっている場合における裁判所の判断の在り方:最高裁H20.4.25:
生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度については、その診断が臨床精神医学の本分であることにかんがみれば、専門家たる精神医学者の違憲が鑑定等として証拠となっている場合には、鑑定人の公正や能力に疑いが生じたり、鑑定の前提条件に問題があったりするなど、これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り、その意見を十分に尊重して認定すべきものというべきである。

「その意見を十分に尊重して認定すべき」事項の範囲については、
①被告人の精神障害の有無・内容
②精神障害が犯行に与えた影響の有無・程度、影響の仕方(機序)
とされている。
2476   
  判例特報p5
最高裁R2.11.25  
   
  事案 岩沼市議会の議員であった原告(控訴人・被上告人)が、市議会から科された23日間の出席停止の懲罰(「本件処分」)が違憲、違法⇒被告(被控訴人・上告人)(宮城県岩沼市)を相手に、その取消しを求めるとともに、議員報酬のうち本件処分による減額分の支払を求めた。 
  原審 最高裁S35.10.19を参照し、議員報酬の減額を伴う場合にはその適否は司法審査の対象となる⇒本件処分の取消し及び議員報酬の支払いを求める訴えを適法とし、これを不適法とした一審判決を取消し、差戻し。
    被告が上告及び上告受理申立て
  判断 上告⇒棄却
上告受理 
普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は、司法審査の対象となる。
これと異なる趣旨をいう、昭和35年最大判その他の最高裁の判例を変更。
原審の判断は結論において妥当。
  解説 昭和35年最大判:
地方議会の議員に対する出席停止の懲罰について、
司法裁判権が、憲法又は他の法律によってその権限に属するものとされているものの外、一切の法律上の争訟に及ぶことは、裁判所法3条の明定するところ。
ここに一切の法律上の争訟とはあらゆる法律上の係争という意味ではない。
一口に法律上の係争といっても、その範囲は広汎であり、その中には事柄の特質上司法裁判権の対象の外におくを相当とするものがある。

自律的な法規範もつ社会ないし団体に在っては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ、必ずしも、裁判にまつを適当としないものがある。
本件における出席停止の如き懲罰はまさにそれに該当する。

傍論で、除名の懲罰については、議員の身分の喪失に関する重大事項で、単なる内部規律の問題にとどまらず、本件における議員の出席停止のごとく議員の権利行使の一時的制限にすぎないものとは趣を異にしている⇒司法裁判の権限内の事項。
  昭和35年最大判について、
一般に、地方議会の懲罰議決について、除名は司法審査の対象となるとしつつ、それ以外は司法審査の対象とならないものと理解。 
宇賀裁判官補足意見:
①地方議会の議員に対する出席停止の懲罰が法律上の争訟に当たり、それにもかかわらず外在的制約があるとして司法審査の対象外とされるのは、例外を正当化する憲法上の根拠がある場合に限定される必要がある。
②憲法上、地方議会は国会ほどの自律性を認められていない。
③地方議会の自律性の根拠地方自治の本旨以外にはないところ、議員に対する出席停止の懲罰はその核心部分の1つである住民自治を阻害するものであり、地方自治の本旨を根拠に司法審査の対象外とすることはできない。
④出席停止の懲罰の実体判断については議会の裁量が認められ、角に地方議会の自律性を阻害することにはならない。
  民事p18
最高裁R2.9.8  
  注文者の破産者に対する違約金債権の取得と破産法72条2項2号の「前に生じた原因」に基づく場合
  事案 Y(福岡県)とAは、Yを注文者、Aを請負人として、ア~エまでの各請負契約を締結。
Aは、ア、イ、エの工事について、未完成のまま支払を停止⇒破産手続開始決定。
X(破産管財人)がYに対し、アからウまでに基づく各報酬等の支払を求めた。
  主張 Y:破産手続開始前に、本件各未完成契約に共通して定められた各定め
(①Aの責めに帰すべき事由により工期内に工事が完成しないときはYが当該請負契約を解除することができる
②前記①により当該請負契約が解除されたときはYが一定額の違約金債権を取得する
(「本件条項」))
に基づき各違約金債権を取得⇒本件各違約金債権等を自働債権とする相殺を主張し請求棄却を求めた。 
  争点 破産法:破産者に対して債務を負担する者は破産者の支払停止を知って取得した破産債権による相殺をすることができない(72条1項3号)が、
その破産債権の取得が支払の停止を知った時より「前に生じた原因」に基づく場合には同号の既定は適用しないとする(同条2項2号)

本件各違約金債権を自働債権とする相殺が許されるか? 
  判断 本件各違約金債権は、YがAの支払の停止を知った後に本件条項に基づいて本件各未完成契約を解除したことによって現実に取得するに至ったもの⇒破産法72条1項3豪の破産債権に該当する。
but
本件条項の内容
⇒YとAは、Aが支払の停止に陥った際には本件条項に基づく違約金債権を自働債権とし、Aが有する報酬債権等を受働債権として一括清算することを予定していた

Yは、本件各未完成契約の締結時点において、本件各違約金債権をもってする相殺の担保的機能に対して合理的な期待を有し、この相殺を許すことは、破産手続の趣旨に反するものとはいえない。

本件各違約金債権の取得は、同条2項2号にいう「前に生じた原因」に基づく場合に当たり、本件相殺は、自働債権と受働債権とが同一の請負契約に基づくものであるか否かにかかわらず、許される。
  解説 倒産法:
債権者間の公平・平等な扱いを基本原則とする倒産制度の趣旨が没却されることのないよう、
一定の場合に相殺を禁止する一方で、
相殺の担保的機能を期待して行なわれる取引の安全を保護する必要がある場合には、相殺を禁止しないこととし、
破産法72条2項2号。 
破産法72条2項2号等にいう「前に生じた原因」の該当性:
学説:相殺への合理的期待を直接かつ具体的に基礎づける程度の事由の存在を要求する見解が支配的。
本判決も、「前に生じた原因」に相当する特定の法律関係時点における相殺の担保的機能に対する合理的な期待の有無を判断。
相殺の担保的機能に対する合理的な期待の有無を判断する際の考慮要素:
①前に生じた原因に相当する当該特定の法律関係の具体的な内容、
②当該特定の法律関係と受働債権発生との結びつきの程度、
③自働債権と受働債権との牽連性等
が挙げられる
(平成26年最判調査官解説)
民法511条2項本文は、自働債権が差押後に取得されたものであっても、それが「差押え前の原因に基づいて生じた」場合の相殺を許容するところ、
「前の原因」について、自働債権と受働債権の発生原因の同一性を重要な考慮様とするする見解(潮見、新債権総論Ⅱ313頁以下)
vs.
①そもそも相殺は、同一当事者間に同種債権の対立があるときに対当額の範囲で債権を消滅させるものであり(民法505条1項本文)、相殺の担保的機能に対する期待も同種債権の対立に向けられている。
②破産法をはじめとする倒産法は、自働債権と受働債権の牽連性等に着目した規定を置いていない

上記調査官解説の③の考慮要素は、相殺の担保的機能に対する合理的な期待を否定した平成26年最判の事例のように、①②の考慮要素によっては相殺の担保定期機能に対する期待が合理的といい難い場合において、自働債権と受働債権との牽連性等の存在によりこれを肯定する余地を残したもの。

自働債権と受働債権との牽連性等がないことをもって相殺の担保的機能に対する合理的な期待を否定することは、慎重に検討する必要がある。
  民事p26
最高裁R2.8.6  
  家事事件手続法154条2項の給付命令の解釈
  事案 X(抗告人)が、離婚した妻であるY(相手方)に対し、財産分与の審判を申し立てた。
財産分与の対象財産として、X名義の建物等の財産が存在したが、本件建物はYが単独で占有している。 
  家事手続法154条2項:
家庭裁判所は、同項各号に掲げる審判において、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる旨を規定(「給付命令」)。
4号は財産分与の審判を掲げる。
本件:
財産分与の審判において、本件建物がYに分与されない場合(財産分与の前後で名義に変動がない場合)であっても、家裁が、Yに対し、給付命令により本件建物をXに明け渡すよう命ずることができるか?
  原審 X名義の本件建物をYに分与しないものと判断がされた場合、名義人であるXのYに対する本件建物の明渡請求は、所有権に基づく請求として民事訴訟の手続において審理判断されるべきものであり、家裁が家事審判の手続において命ずることはできない。
    Xが抗告許可を申立て、原審がこれを許可。
  判断 家庭裁判所は、財産分与の審判において、当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の不動産であって他方当事者が占有するものにつき、当該他方当事者に分与しないものと判断した場合、その判断に沿った権利関係を実現するために必要と認めるときは、家事手続法154条2項4号に基づき、当該他方当事者に対し、当該一方当事者にこれを明け渡すよう命ずることができる。

原決定を破棄し、原審に差戻し。 
  解説  給付命令制度:
家事手続法154条2項は、家事審判における形成処分のうち一定の類型のものについて、職権で給付を命ずることを認め、これに執行力を与えている(同法75条)。
●財産分与と夫婦財産制の関係 
民法762条は夫婦別産制の原則を規定
夫婦別産制と生産的財産分与との関係:
A:完全別産制説
B:潜在的持分による修正説
C:実質的共有説
C説:
財産分与において名義人が名義どおりに財産を取得することとなった財産でも、当該名義人は非名義人である相手方の有する実質的共有持分の移転を受けていることになる⇒権利変動を観念できる⇒財産の「分与」があったとして給付命令が発令されることも当然の帰結。

A説:
一方名義で取得された財産は当初から名義人の完全な所有物⇒名義人が名義どおりに財産を取得する場合には権利変動は観念できず、財産「分与」とは当然にはいえない。
①完全別財産制説
②給付命令は財産分与において命じられた権利変動に対応した給付しか発令できない
⇒本件のような場合には給付命令の対象ではない。
●本決定
夫婦別産制の関係に立ち入ることなく、給付命令の制度趣旨から本件の結論を導いた。
①給付命令の趣旨:財産分与の審判が分与の内容を定めるにとどまるものとすると、当事者は、財産分与の審判の内容に沿った権利関係を実現するため、審判後に改めて給付を求める訴えを提起する等の手続をとらなければならない⇒このような迂遠な手続を避け、財産分与の審判を実効的なものとする趣旨
②条文上の制限もない
③給付命令は必ずしも財産分与で命じられる権利変動そのものに直接対応しているものに限定されるわけでもない

家裁は、財産分与の審判において、当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の財産につき、他方当事者に分与する場合はもとより、分与しないものと判断した場合であっても、言い換えれば、財産分与の審判の結果、名義が変動する財産はもちろん、名義に変動のない財産についても、給付命令の対象となり得ることを明らかに。
  家事手続法154条2項柱書は給付命令の内容として「金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付」と規定
文理上例示列挙⇒この中に明渡しも含まれていることを当然の前提。 
離婚訴訟の附帯処分としての財産分与の裁判においても、人訴法32条2項に同様の規定。⇒同様の解釈。
  民事p30
東京地裁R2.8.6  
  消費者庁からの通知⇒金融機関が預金取引停止措置が適法とされた事案
  事案 銀行である被告が、犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律3条1項に基づき高じた取引停止措置の適法性が争点となった事案。
  経緯 消費者庁
①本件注意喚起情報として原告名を明示した情報を、消費者安全法38条1項に基づき同庁のホームページ上に公表
②同条2項に基づく情報提供として、本件注意喚起情報の事実及び本件預金口座が本件注意喚起情報に係る消費者被害を生じさせた事業者の口座であるとの内容を記載した書面を被告に送付

被告は、本件注意喚起情報の内容や本件預金口座の入出金履歴等が同情報と整合していること等を踏まえ、直ちに法3条1項に基づき本件預金口座について取引停止措置。

原告は、残高7460万2782円の出勤を含む預金取引を行なうことができなくなった

本件訴訟を提起し、
消費者庁による本件注意喚起情報には事実誤認があり不実告知に該当する事実は存在せず、
仮に不実告知に該当する事実が存在したとしても、本件預金口座は法2条4項に定義される「犯罪利用預金口座等」に該当しないため、本件取引停止措置は法的根拠を欠く

本件預金口座に係る預金の払戻しを求めた。
  判断 本件取引停止措置の適法性を是認。 
①振り込め詐欺救済法は、預金口座等への振込みを利用した詐欺等の犯罪行為による財産的被害の迅速な回復などに資することを目的とするもの
②法3条1項に定める取引停止等の措置は、被害者の被害j回復の実効性確保のための保全措置。

金融機関が犯罪利用預金口座等である疑いがあると判断した場合には、その判断に合理性がある限り、当該金融機関は取引停止等の措置を講ずる法的義務を負い、当該預金口座等の預金者からの払戻しの請求を拒絶することができると解するのが相当。
①本件注意喚起情報及び本件通知は、消費者問題を所管する行政庁によって法律上の根拠に基づいて行われたものであり、本件注意喚起情報の内容が詳細かつ具体的
⇒被告人おいてその記載内容を信用することは十分な合理性がある。
②本件注意喚起情報において指摘されている不実の告知は、消費者からの財産交付という処分行為に向けられた欺罔行為と評価する余地がある。

被告において、本件預金口座が、法2条4項にいう「犯罪利用預金口座等」であるとの疑いを持ったことには合理性がある。
原告の反論の不十分性
消費者庁が本件注意喚起情報を撤回、修正をしていない。
原告が、国に対して訴訟告知を行ったのみで損害賠償請求などの積極的な法的措置を講じていない。

本件預金口座が犯罪利用預金口座等であるとの被告の疑いは、今なお合理的なもの。

被告は、本件預金口座に係る預金の払戻しを拒絶することができる。
  解説 ●振り込め詐欺救済法の立法経緯
各種の立法措置(「金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正利用の防止に関する法律」の改正)
銀行取引約款の普通預金規定(ひな型)の改正
⇒預金が法令や公序良俗に反する行為に利用されたと認められる場合ないしそのおそれがあると認められる場合に、普通預金取引を銀行が停止することができる。
平成8年最高裁判例(H8.4.25):
振込依頼人から受取人の銀行の普通預金口座に振込み⇒振込依頼人と受取人との間に振込の原因となる法律関係が存在するか否かにかかわらず、受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立。

振込依頼人と受取人との間に原因関係が存在しない場合でも、受取人は普通預金債権を取得し、振込依頼人は、受取人に対し不当利得返還請求権を取得するにすぎない。
but
平成20年最高裁判例(H20.10.10):
受取人の普通預金口座への振込みを依頼した振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在しない場合において、受取人が当該振込みにかかる預金の払戻しを受けることについては、
払戻しを受けることが当該振込みに係る金員を不正に取得するための行為であって、詐欺罪等の犯行の一環を成す場合であるなど、これを認めることが著しく正義に反するような特段の事情があるときは、権利の濫用に当たるとしても、
受取人が振込依頼人に対して不当利得返還義務を負担しているというだけでは、権利の濫用に当たるということはできない。

この特段の事情は、払戻請求訴訟において、抗弁事由として、被告(金融機関)が主張立証責任を負う。
取引停止した普通預金口座につき、一定期間中に口座名義人などから異議申立てなし⇒口座に関する法的権利が失われたとして、残金を被害分配金として被害者に支払うことなどを内容とする振り込め詐欺救済法(H20.6.21施行)。
  ●振り込め詐欺救済法の概要 
2つの手続:
①・・・・疑いがある預金口座につき、取引停止措置をとるという手続
②・・・預金保険機構による公告から始まる当該預金口座に係る預金債権の消滅手続及び被害金分配金支払手続をとるという手続。
but
預金口座の名義人から権利行使がされたり、名義人ないし犯罪被害者の訴訟提起等⇒訴訟等の既存の法制度により解決を図る。

犯罪被害者の提起する訴訟:
口座名義人の払戻し請求権を債権者代位に基づき代位行使する
債務名義を得た上で、預金の払戻請求権を差押えて、取立て訴訟を提起する
  本判決:
取引停止措置の根拠を法3条に求め
金融機関が「疑いがある」と判断したことに合理性があれば、当該預金口座の預金者等からの払戻請求を拒絶できるとし、
口座名義人等からの払戻請求により支払停止措置が当然終了するという解釈を採らなかった。 
  民事p44
熊本地裁R2.2.26  
  ハンセン病患者の刑事事件と再審事由と国賠請求(否定)
  事案 国立ハンセン病療養所の入所者・元入所者である原告らが、昭和27年に熊本県菊池郡で発生した殺人事件(菊池事件)に関し
①同事件の被告人(「本件被告人」)がハンセン病患者であることを理由に裁判所法69条2項に基づき裁判所庁舎以外のハンセン病療養所等の施設内(いわゆる特別法廷)で審理が行なわれた⇒ハンセン病患者であることを理由とする差別に当たり本件被告人の人格権を侵害するものとして憲法14条1項、13条に違反し、裁判の公開原則を定めた憲法37条1項、82条1項に違反するなど、刑事訴訟法上の再審事由がある
②検察官が再審請求権限を行使しなかったことがハンセン病病歴者に対する被害回復義務を怠ったものとして、原告らとの関係で違法

被告(国)に対し、国賠法1条1項に基づき、慰謝料を請求。
  事実 原告らが所属する全国ハンセン病療養所入所者協議会、ハンセン病意見国賠訴訟全国原告団協議会及び国立療養所菊池恵楓園入所者自治会は、平成24年11月、最高検察庁に対し、菊池事件の確定判決に対して再審請求するよう要請⇒熊本地方検察庁は、平成29年3月、菊池事件について再審請求を行わない旨を明らかに⇒同年8月本件訴訟が提起。 
  争点 (1)検察官の再審請求権限の不行使が国賠法上違法となるか
(2)原告らの損害 
  判断 争点(1)について、原告らは、
①菊池事件の真理に憲法違反があり、それが刑事訴訟法上の再審事由に当たること、
②そのような憲法違反の先行行為に基づく被害回復義務として検察官が再審請求事件を負うこと
を主張の中核

菊池事件の審理の憲法違反の有無、再審事由の有無を検討し、その上で、検察官の再審請求権限不行使が国賠法上違法であるかを判断。
①菊池事件における開廷場所指定が裁判所法69条2項に違反。
②同開廷場所の指定及びこれに基づく審理が、本件被告人がハンセン病にり患していることを理由に合理性を欠く差別をし、本件被告人の人格権を侵害

憲法14条1項、13条に違反。
刑事手続に憲法違反がある場合に再審により救済すべき場合がああり得るとしても、当該憲法違反が有罪判決に影響を及ぼすか否かという観点から慎重に検討されなければならない。
菊池事件の審理が憲法14条1項に違反し、憲法82条1項に違反する疑いがあるとしても、これらの憲法違反は直ちに刑事裁判における事実認定に影響を及ぼす手続違反ということはできない⇒前記憲法違反のみで再審事由があると認めることはできない。
検察官が再審請求権限を行使するか否かは一定の裁量が認められるというべきであり、
その権限を定めた法令の趣旨、目的や権限の性質等に照らし、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときでない限り、国賠法上違法とならない。
・・・・
本件では違法性なし。
原告らについて、
再審制度により救済を図られるべき有罪の言渡しを受けた者ではなく、再審請求権を有する親族等でもない
⇒菊池事件の再審請求がされることについて権利又は法律上保護される利益があるとは認められない⇒国賠法上の違法性を否定。
  民事p69
大阪高裁R1.9.5  
  部分意匠の類似性が問題となった事案
  事案 意匠に係る物品を検査用照明器具とする意匠権を有するXが、検査用照明器具であってXの有する意匠権に係る部分意匠と類似する意匠を備える各製品(「Y各製品」)を製造、販売するYに対し、
Xの有する意匠権を侵害したとして、
Y各製品の製造、販売等の差止、Y各製品の廃棄、及び意匠権侵害の不法行為に基づく損害賠償等を請求。 
  争点 ①Y各製品の意匠が本意匠に類似するか
②本件意匠は意匠登録無効審判により無効とされるべきか
③YがXの有する意匠権を侵害するおそれがあるか
④Xの損害額、Xの損失・Yの利得の額 
  判断  ●争点② 
◎   ◎無効理由1(乙8意匠に基づく新規性欠如) 
公知意匠である乙8意匠は、「代表的ヒートシンクの形状」として図示されている「タワー型」の意匠であって、意匠に係る物品は、電子機器用の部品であり、本体である電子機器を放熱により冷却する用途、機能を有しているところ、乙8意匠にかかる物品は、電子機器の放熱用部品⇒本件意匠とは意匠に係る物品は同一又は類似であると認められない。
but
本件実戦部分が検査用照明器具の放熱部
⇒更に本件意匠と乙8意匠とを対比することとする。
・・・共通性を凌駕し美感が異なる⇒新規性欠如を認めなかった。
  ◎無効理由2及び6(乙7等意匠・乙12意匠に基づく新規性欠如) 
新規性欠如を認めず。
  ●争点① 
Y各製品のうち、イ号ないしハ号物件の意匠⇒本件意匠に類似
ニ号ないしヘ号物件の意匠⇒本件意匠に類似しない。
登録意匠と対比すべき意匠とが類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行なう(意匠法24条2項)ものとされており、意匠を全体として観察することを要する。
but
この場合、意匠に係る物品の性質、用途及び使用態様、並びに公知意匠にはない新規な捜索部分の存否等を参酌して、取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、登録意匠と対比すべき意匠とが、意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを重視して観察を行うべき。
本件意匠は・・・検査用照明器具の放熱部材の表面積の大小や部材相互の空隙の大小から放熱性能の高低を推し量るという観点から、放熱部材であるフィン構造体の発光部との位置関係、フィンの形状、数、大きさ(支持軸体の径との関係)、配置(フィン相互の間隔)に注目。
・・・・
  ●争点③ 
イ号物件ないしハ号物件の製造、販売の差止請求に理由があるとする一方で、
廃棄請求には理由がないとした、
原審の判断を維持。
  ●争点④ 
意匠法39条2項に基づく損害額の算定において、
寄与度ないし推定覆滅事由として、イ号物件ないしハ号物件において本件意匠に対応する部分の占める面積比、製造原価、需要者の購買動機に結び付く度合いを考慮した原審の判断を維持。
  解説 意匠:
物品(物品の部分を含む、以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合・・・であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの(意匠法2条1項)
意匠法上の類似概念は、意匠権の効力を画する概念(法23条)であるだけでなく、新規性判断においても、公知意匠に類似する意匠は新規性を欠く(法3条1項3号)⇒登録の場面でも重要。
後者は無効事由(法48条1項1号)。
侵害訴訟では、意匠が意匠登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときには権利行使が阻止される(法41条が準用する特許法104条の3)。
意匠が類似するためには、その意匠にかかる物品も同一又は類似である必要。
but
部分意匠においてもこの理が妥当するか?
  刑事p102
大阪高裁R2.7.3  
  控訴審で自白調書の信用性を否定⇒危険運転致死罪(一審)から過失運転致死罪(控訴審)へ
  事案 被告人が、自動車を運転して交差点入口の停止線から約31.5メートルの地点で進行方向の対面信号機が赤色であることを確認し、直ちに制動措置を講ずれば停止線手前で停止できたにもかかわらず、殊更に無視し、重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約35~38kmで運転し、横断歩道上を進行してきた被害者運転の自転車に衝突させ、被害者を路上に転倒させて脳挫傷の傷害を負わせて死亡させた。
  争点 被告人が赤信号を殊更無視したか否か
~直接的な証拠は被告人の捜査段階の自白のみ 
  原審 裁判員裁判
自白の任意性と信用性が争われ、任意性判断に関しては公判前整理手続の段階で捜査官の証人尋問等⇒裁判官3名の合議体により任意性が肯定。

公判では被告人調書3通(警察官調書2通、検察官調書1通)の信用性が問題。

被告人の取り調べの経過が重点的に検討され、「被告人調書は被告人の自発的な供述を録取したものと認められる⇒被告人調書の信用性も認められる」 
  判断 被告人の走行状況と自白調書の内容を比較検討⇒自白調書の内容には重要な部分で不合理又は少なくとも不自然な点が存在し、自白調書の作成経緯を検討しても、その内容的な不合理さや不自然さを解消できるほど信用性を担保する事情はなく、かえって被告人の捜査官に対する迎合的な傾向がうかがえる。

一審判決には論理則、経験則に照らして不合理で是認できない誤りがある。
被告人は本件事故直後に現行犯逮捕され、翌々日に釈放され(勾留されず)、以後、在宅で捜査を受けた。
危険運転致死罪で起訴されたのは本件事故から9か月以上経過した後。
起訴後に至って私選弁護人を選任。
自白調書3通を含む一連の捜査供述は、弁護人が選任されていない状況でされたもの。
当初は過失運転致傷(致死)の容疑で捜査がされ、途中で危険運転致死の容疑に変更。
自白調書3通は危険運転致死罪を被疑事実として作成されているが、そのうち警察官調書2通については、供述を録取した際の録音・録画がされていない。
①危険運転致死罪という重大事件として基礎がされるまでの捜査の全過程を通じ、弁護人が選任されていない
②被告人の安定しない供述経過や供述内容には、被告人にうかがわれる投げやりな気持ちに基づく迎合的な供述傾向の影響があり、
③自白調書の信用性判断においても、このことが大きく影を落とすることは避けられない。
  解説  裁判員裁判における自白の証拠能力(任意性)の審理:
①公判前整理手続で自白の証拠能力の事実の取調べを行い、採否を決する
②公判において構成裁判官だけで審理し判断(裁判員法6条3項後段、54条2項、68条1項)
③公判で裁判員の立ち合いを許して審理し、裁判員の意見を聴取して判断(裁判員法60条、68条3項)
の3つが考えられる。 
①過失運転致死の訴因も原審段階で予備的訴因として掲げられている
②原審で取り調べた証拠により直ちに判決できる
③執行猶予が見込まれる

差し戻すことなく自判(刑訴法400条)。
  刑事p110
①②   
  「揺さぶられっこ症候群」で高裁で無罪とされた事案
    ①事件:大阪高裁R1.10.25
②事件:大阪高裁R2.2.6
  解説 乳幼児の頭部が前後に激しく揺さぶられるなどして回転性の外力が加わることにより、脳の中などに損傷が生じて発症する同症候群について、その特徴的な症状とされる
①硬膜下血腫
②網膜出血
③脳浮腫
の3兆候
⇒暴力的な揺さぶり行為(虐待)があったと認め得るという考え方(SBS理論)
but
SBS理論に依拠した医師の診断を基礎に控訴提起⇒複数の無罪判決。
本件の2つの高裁判決:
3兆候の存在そのものが立証されているか疑問を呈するとともに、
①事件:内因性の疾患
②事件:低位落下等
の可能性が否定でいきない

SBS理論を単純に適用することに内在する危険性について問題提起。
  ①事件   ●公訴事実の要旨:
被告人(当時66際の女性は、…娘の次女である孫娘のB(当時生後2か月)の頭部に強い衝撃を与える何らかの暴行を加え、Bに急性硬膜下血腫、くも膜下出血、眼底出血等の傷害を負わせ・・・・前記傷害に起因する脳機能不全により死亡させた。 
  原審 公判前整理手続の結果、
Bが前記障害により死亡したこと
Bの受傷原因が外力によるものであること
は争いのない事実と整理され、
犯人性のみが争点とされた。
法医学の教授であるD医師の証言に依拠
⇒Bの受傷内容を、
急性硬膜下血腫、多発性のくも膜下出血、びまん性脳損傷に続発した脳浮腫、両目の広範囲にわたる多発多層性網膜出血等と認定、
Bにこれらの硬膜下血腫、脳浮腫、網膜出血が生じた機序は、頭部を揺さぶられる等して回転性の外力が加わることにより生じた、いわゆるSBSであるとした。
犯人は被告人しかいない⇒懲役5年6月。
  控訴審 弁護人:
Bが死亡するに至った原因は、外力ではなく内因性の疾患、すなわち脳静脈洞血栓症とこれによって引き起こされたDICによるものであり、少なくともその合理的な疑いが残るにもかかわらず、SBS理論に依拠したD1医師、D2医師の証言のみを根拠に、被告人による揺さぶりが原因であると断定⇒事実誤認がある。 
事実の取調べとして、
弁護士人が請求した、脳神経外科を専門とする医師2名(D3,D4)、脳神経内科を専門とする医師1名(D5)の証人尋問、
検察官が請求した、小児科を専門とする医師D1の再度の承認尋問等。
Bの
①病院搬送直後の血液検査のデータ、
②頭部CT画像
③症状
からすれば、Bの症状が外力によるものでななく、内因性の脳静脈洞血栓症とDICによるものであるという合理的な可能性が認められ、とりわけ、血液データは、どちらかといえば、Bの症状が外力によるものであるとすると矛盾する方向にあることも否定できない。
3兆候につき、
①原審が揺さぶりによによる外力が原因であると判断したことの重要な前提となっていた、架橋静脈の断裂により通常生じるとされる硬膜下血腫は、その存在を確定できない
②網膜出血及び③脳浮腫については、その兆候を認めるとしても、別原因を考え得ることが明らかになった。
・・・被告人がBに暴行を加えると推認できるような事情もなく、社会的な事実として、被告人がBに対し、揺さぶりなど頭部に強い衝撃を与える何らかの暴行に及んだとすることは多大な疑問があるとも指摘。
  ②事件  ●公訴事実の要旨:
被告人(当時33歳の女性)は、・・・自宅において、実子である被害児(当時生後約1か月半)に対し、その身体を揺さぶるなどの方法によるり、頭部に衝撃を与える暴行を加え、回復見込みのない遷延性意識障害を伴う急性硬膜下血腫などの傷害を負わせた。 
  原審 小児科医であるD1医師、法医学の指導医であるD2医師の証言
⇒被害時は、複数の急性硬膜下血腫に加えて広範囲の一事性脳実質損傷が生じたことにより心配停止状態に至った。
急性硬膜下血腫とともに一事性脳実質損傷が生じ、続いて二次性脳損傷が生じて心肺停止に至り、低酸素脳症が生じた結果、 遷延性意識障害を来したと推認。
このような傷害機序⇒成人による激しい揺さぶり行為による回転性外力が被害児の頭部に加わったことが推認できる。

被告人及び弁護人が主張する、被告人の長男(被害児の兄、当時2歳6か月)による低位落下の可能性等を排斥。
  判断 事実の取調べとして、
弁護人が請求した、脳神経外科を専門とする医師2名(D7、D8)の証人尋問、
検察官が請求した、小児科を専門とする医師(D1)の再度の証人尋問 
原審は推認を重ねる手法。
判断者は、推認に推認を重ねていくとうい誤りが介在しやすい構造の事実認定を迫られていることに鑑み、そのような事情を想定することが不合理であるとして排斥できるかどうかを慎重に検討する必要がある。
有罪を導く推認の根拠となるべき医師の見解は、その推認を妨げる事情の存在を説得的に否定できる証拠内容を伴っていなければならない。
被害児の心肺停止及び脳浮腫が、事前に誤嚥等に基づく窒息が介在して生じた可能性について、そのような可能性を示す証拠内容が多数認められ、いずれも容易に排斥できないのに、十分に吟味しないまま、抽象的な可能性をいうものにすぎないとして排斥した原判決の判断は不合理⇒脳浮腫に先行して窒息が介在した可能性は否定されるとの検察官の主張を採用した点に誤りがある
⇒びまん性軸索損傷の存在を推認することはできない。
控訴審での脳神経外科医の証言
⇒急性硬膜下血腫の数そのものが、原審で前提とされていたものと異なる可能性のほか、出血源が架橋静脈の剪断ではなかった可能性。
原判決が依拠する小児科医の再尋問による証言内容は、強い回転性外力が加わったことの根拠としていた小脳テント付近の急性硬膜下血腫について、原審での証言内容を撤回するなど大きく後退
⇒架橋静脈の同時多発的な剪断を理由として、被害児の頭部に強い回転性外力が加わったとする推認は、その根拠が大きく揺らいでおり、推認を及ぼす力が相当程度縮小した。
2474   
  行政p3
名古屋地裁R2.6.25  
  生活扶助基準の改定と生活保護法違反(否定)
  事案 生活保護法に基づく生活扶助の支給を受けているXらが、生活保護法による保護の基準における生活扶助の基準を改定する厚生労働省告示ないし同告示に引き続いて保護基準における生活扶助基準を改定する厚生労働省告示により生活扶助基準が改定⇒各処分行政庁から各保護変更決定処分を受け、基準額を減額される

本件各処分は、生活扶助を健康で文化的な最低限度の生活を維持するに足りない水準とするものであるなどの理由から違法であるとして、
本件各処分の取消しを求めるとともに、
本件各処分の根拠となった本件各告示による生活扶助基準の改定が国賠法上違法であるとして、国に対し、損害賠償金等の支払を求めた。
  争点 本件各告示による生活扶助基準の改定が生活保護法3条又は8条に違反するか否か。 
  判断  ゆがみ調整及びデフレ調整を内容とする生活扶助基準の改定は、
(1)厚生労働大臣の判断に、最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続における過誤、欠落の有無等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合、あるいは、
(2)生活扶助基準の改定に際し激変緩和等の措置を執るか否かについての方針及びこれを採る場合において現に選択した措置が相当であるとした同大臣の判断に被保護者の生活への影響の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に、
生活保護法3条及び8条2項に違反し、違法となるものというべき。 
  ●ゆがみ調整について 
    Xら:
ア:ゆがみ調整が、第Ⅰー10分位という非常に所得の低い世帯を比較対象として行なわれた点、
イ:増額方向の調整について、規準部会が示した調整幅の2分の1の限度でしか行なわれなかった点
を問題とした。
    アの点について:
(1)の観点(判断の過程及び手続における過誤、欠落の有無等の観点)から検討し、
生活扶助基準における展開部分と一般低所得世帯の消費実態とのかい離を検証するとの目的

比較対象となる一般低所得世帯は、最低限度の生活水準になる世帯とをすることが合理的。
・・・基準部会の検証において比較対象が第Ⅰー10分位の世帯とされたことが不合理とはいえない。
    イの点について:
(2)の観点(被保護者の生活への影響の観点)から検討し、
①基準部会において、検証結果をそのまま生活扶助基準に反映させた場合には子どものいる世帯について大幅な減額となることが指摘されたことに加え、
②基準部会の検証結果を部分的に生活扶助基準に反映させる場合には、ゆがみ調整による影響の内容・程度にかかわらず一定の割合でこれを反映させることがゆがみ調整の目的に沿うことを指摘した上で、
合理的な措置。
  ●デフレ調整について 
    Xら:
ア:デフレ調整の必要性自体について争うほか、
イ:専門家による検証を欠く点、
ウ:平成22年の指標を100とし、同年のウエイトを参照した点、
エ:家計調査を用いることで、生活保護受給生体ではなく一般世帯のウエイトを参照した点
を問題とした。
    いずれの違法事由についても(1)の観点(判断の過程及び手続における過誤、欠落の有無等の観点)から検討し、
アの点:
平成19年当時、生活扶助基準を引き下げる必要があり
平成20年以降、物価が下落する状況が継続
⇒生活扶助基準額が実質的に増加したと評価し得る状況が生じていた⇒デフレ調整を行う必要があると判断が不合理とはいえない。
イの点:
厚生労働大臣が生活扶助基準を改定するに当たっては社会保障審議会等の専門家の検討を経ることが通例
but
そのような検討を経ることは法令上要求されていない
⇒専門家による検証がされていないことをもって、直ちに違法とはいえない。
    ウ:・・・・不合理とはいえない。
エ:・・・・著しく不合理とはいえない。
  解説 生活保護に係る老齢加算の廃止に関する最高裁H24.2.28:
本判決も依拠した判断過程審査の枠組み採られた。

本判決は、加算の廃止などとは異なる態様の保護基準の改定についても、同様の判断過程審査を用いるべきことを示した。 
判断過程審査

厚生労働大臣が保護基準を改定するに当たって検討した具体的な過程に沿って裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無を判断⇒場合によっては、計算過程の相当細かな部分にも立ち入った審査を行なう必要。
but
これは審査の対象事項の問題であり、

その事項に関してどの程度幅広い裁量が認められるかは別論。
多方面にわたる複雑多様で高度に専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断が必要とされること等⇒広汎な裁量を前提に、厚生労働大臣の判断に明らかに不合理な点があったか否かという観点からの審査がされるのが一般的。
上記最高裁判決の調査官解説:
行政庁側の論証過程の追試的な検証を離れて、多種多様な相対立する利益の中から法の裏付けのないまま優先させるべき利益を自ら選びだすような思考を採ることは、判断過程審査として適切性を欠く。
  民事p46
最高裁R2.3.24   
  文書提出命令についての最高裁決定
  事案  文書提出命令申立て事案 
  本案:
A社の開設する病院の看護師の過失によりXの父Bが転倒して頭部を床面に強打したため死亡⇒A社に対し、使用者責任に基づく損害賠償を求める。
当該訴訟の控訴審において、Xが両事件に係る文書提出命令の申立てをした。
  ①事件:Bの死体についていわゆる司法解剖を行なった医師が作成した鑑定書やその写し等(「本件鑑定書等」)について、これを所持するY1(北海道大学)に対し、民訴法220条2号及び4号に基づいて文書提出命令の申立てをした事案
②事件:当該解剖の写真(「本件写真」)について、当該解剖を医師に嘱託した警察官が所属する地方公共団体であって本件写真を所持するY2(北海道)に対し、民訴法220条3号後段に基づいて文書提出命令の申立てをした事案
  規定 民訴法 第二二〇条(文書提出義務)
次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。
一 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。
二 挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。
三 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。

イ 文書の所持者又は文書の所持者と第百九十六条各号に掲げる関係を有する者についての同条に規定する事項が記載されている文書

ロ 公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの

ハ 第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書

ニ 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)

ホ 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書
  原審 ①事件について:
本件鑑定書等は民訴法220条4号ホにおいて同号の文書提出義務の対象外とされた刑事事件に係る訴訟に関する書類又は刑事事件において押収されている文書(「刑事事件関係書類」)に該当しない⇒同号に基づいてY1にその提出を命じた。
②事件について:
本件写真は民訴法220条3号後段において文書提出義務の対象とされた「挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成された」文書(「法律関係文書」)に該当⇒Y2にその提出を命じた。
    許可抗告の申立て⇒原審はいずれも許可
  判断 ①事件について:
本件鑑定等は刑事事件関係書類に該当⇒民訴法220条4号の文書提出義務の対象とならない⇒同条2号に基づく申立ての審理のため事件を原審に差し戻し。 
②事件について:
本件写真が法律関係文書に該当するとした原審の判断は正当⇒Y2の抗告を棄却。
  解説   医療過誤事件における医療行為と患者の死亡との間の因果関係等の検討においては、死因の解明が出発点
死体の解剖が行われている場合には、その結果等が記載された文書が重要な証拠。
but
犯罪捜査のために司法解剖が行なわれたが不起訴となった場合、その結果等が記載された鑑定書等は、不起訴事件の記録として、刑訴法47条により、原則として公開の開廷前に公にすることが禁止。
⇒開始請求の方法により謄写等が認められない場合に、これを民事訴訟法において文書提出命令の対象とすることができるか? 
  ●刑事事件関係書類(220条4号ホ)
原決定:
民訴法220条4号ホが刑事事件関係書類を一般的な文書提出義務の対象外とした趣旨は、これが民事訴訟において裁判所に提出されると、関係者の名誉及びプライバシーが侵害されたり、捜査及び刑事裁判が不当な影響を受けるおそれがあるということにある⇒このようなおそれがない文書は刑事事件関係書類に該当しない。
本件鑑定書等についてはそのようなおそれはない。
vs.
①開示により前記の弊害を生ずる場合には同号ロに該当する可能性が類型的に高いにもかかわらず、重ねて同号ホが設けられた趣旨は、同号ロに該当することを基礎づける具体的事情は監督官庁において述べる必要があるところ(民訴法223条3項)、監督官庁は捜査の秘密等との関係から詳細な事情を述べられない場合がある
②前記の弊害を生ずるか否かを的確に判断するには捜査情報を広く検討する必要があり、文書提出命令の申立てを受けた裁判所がインカメラ手続により対象文書を閲覧するだけでは不十分

民訴法220条4号ロに該当すると認められた場合だけを個別に文書提出義務の対象外とするだけでは前記の弊害の防止に万全を期することができない
⇒刑事事件関係書類の開示・不開示を刑事手続上の開示制度に委ねる趣旨で、これらを同号の一般的な文書提出義務の対象から一律に除外することにある。
③民訴法の条文においても、インカメラ手続の対象から刑事事件関係書類が除外されている(223条6項)。

最高裁:
本件鑑定書等は刑事事件関係書類に該当。

宇賀・林裁判官補足意見:
民訴法220条4号ホに掲げる文書の範囲を限定することについて立法論として再検討されることが望ましい
  ●法律関係文書 
◎  民訴法220条4号ホの刑事事件関係書類に該当する文書は、同号の文書提出義務の対象とならないものの、同条1号ないし3号の場合に該当すれば、これら各号の文書提出義務が否定されるものではない。
but
刑訴法47条は「訴訟に関する書類」を公判の開廷前に公にしてはならない旨を規定。
これには不起訴記録を含むと解される。
最高裁H16.5.25:
刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」に該当する文書について文書提出命令の申立てがされた場合であっても、当該文書が民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当し、かつ、当該文書の保管者によるその提出の拒否が、民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無、程度、当該文書が開示されることによる被告人、被疑者等の名誉、プライバシーの侵害等の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし、当該保管者の有する裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用するものであるときは、裁判所は、その提出を命ずることできる。

最高裁H17.7.22、最高裁H19.12.12:
平成16年最決の判断枠組みに沿って、法律関係文書に該当する文書について、刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」に当たる⇒その提出を拒否した保管者の判断に裁量権の逸脱又は濫用があるとして、その提出を命じている。
原決定:
本件写真が刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」に該当する旨のY2の主張に対し、本案訴訟においてこれを取り調べる必要性が在り、その開示により捜査や公判に悪影響を及ぼすおそれや関係者のプライバシーが侵害される具体的なおそれはない
⇒Y2が同条に基づきその提出を拒否することは裁量権の範囲を逸脱し又は濫用するものであって許されない。
  ◎本件写真が法律関係文書に該当するか?
原決定:
本件写真はBの司法解剖の写真であって司法解剖に基づく鑑定書の一部⇒Bの遺族であるXの解剖をされない自由を制約して解剖を受忍させるというY2(捜査機関)とXとの間の法律関係を肯定することができる⇒法律関係文書に該当。
平成17年最決、平成19年最決:
捜索差押許可状及び勾留状について、自由を制約してこれを受忍させるという法律関係を生じさせる文書であるとして法律関係文書に該当するとしたほか、
これらの発付を求めるために法令上作成を要することとされている請求書や法令に従って裁判官に提供された資料についても法律関係文書に該当
平成17年最決調査官解説:
刑事関係書類といっても種々多様⇒
法律関係文書に該当するかどうかは、文書提出命令申立人と所持者との関係、当該書類の作成目的、作成時期、内容等を勘案して判断する必要
本件最高裁決定:
法律関係文書に該当するかについては文書の記載内容やその作成経緯及び目的等を斟酌して判断すべき。
本件写真がBの死体についての司法解剖を内容とするものであり、Xは父であるBの死体が礼を失する態様によるなどして不当に傷付けられなことについて法的な利益を有し、
司法解剖が刑訴法所定の手続にのっとって行なわれるとしても、Bの死体に対する侵襲の範囲や態様によってはXの前記利益が侵害され得るものであるところ、
本件写真は司法解剖の経過や結果を正確に記録するために撮影されたものであり、犯罪捜査のための資料になるとともに、
司法解剖によるBの死体に対する侵襲の範囲や態様を明らかにすることによってこれが適正に行なわれたことを示す資料にもなると解される

司法解剖によるXの前記利益の侵害の有無等に係る法律関係を明らかにする面もある。

本件写真はY2とXとの間において法律関係文書に該当。
  民事p54
大阪高裁R2.2.27  
  いじめ行為による自殺で通常損害として相当因果関係が認められた事例
  事案 自殺した亡Z(中学2年生)の両親であるXらが、亡Zの自殺の原因は、同学年の生徒であったA1・B1及び少年C1(「加害生徒ら」)からう受けたいじめにある⇒A1・B1に対し、共同不法行為に基づき、亡Zから相続した志望逸失利益及び慰謝料等を含む損害金1929万9289円及び遅延損害金の連帯支払をそれぞれ求めた。 
  原審    ●争点 
①加害生徒らによるいじめの有無、態様等及び共同不法行為の成否(争点①)
②加害生徒らの行為と亡Zの自殺との因果関係の有無
③損害額(争点③)
  ●争点① 
こかし合い、首絞め、ズボンずらし、肩パン、顔面の殴打、足蹴り、顔面への落書き、頸部の踏みつけ、筆箱等の汚損、漫画本や時計の持ち去り等の
A1・B1による一連の行為の積み重ねは、亡Zに対し、希死念慮を抱かせるに足りる程度の孤立感・無価値感を形成させ、さらに、A1・B1との関係からの離脱が困難であるとの無力感・絶望感を形成させるに十分なものであった
⇒これらの一連の行為が、一体として、亡Zが自殺するという生命侵害との関係において、違法な権利侵害行為に当たる。

A1・B1は、お互いの亡Zに対する行為の主要部分を十分に認識していた
⇒これらの行為を相互の意思関与の下に共同したということもできる。

共同不法行為の成立が認められる。
  ●争点② 
前記のような希死念慮を抱かせるに足りる程度の孤立感・無価値感・無力感・絶望感を形成するような心理状態に至った者が自殺におよぶことは、一般的に予見可能な事態⇒亡Zの自殺は通常損害に含まれる⇒A1・B1の加害行為と亡Zの自殺との間には相当因果関係が認められる。
  ●争点③ 
Xらの主張にほぼ沿った3298万4231円の損害(弁護士費用を除く)を認め、そこからXらが受け取っていた損害の補てん分を控除するなどすると、Xらの請求は、各自、A1・B1に対し、合計1878万8684円及び遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。
  控訴審   新たに過失相殺の規定の適用及び類推適用の当否(争点④)が争点に 
  争点①について
原審同様、
A1・B1によるいじめ行為を認め、共同不法行為の成立を認めた。 
  ●争点②について 
以下のとおり判示し、事実的因果関係及び相当因果関係を肯定。
①A1・B1は、・・・いじめ行為により、自殺に追い込まれる人に共通する心理である孤立感、無価値観を亡Zに抱かせ、亡Zは、祖母や学習塾の友人に希死念慮を吐露するなどしていた
②自殺3日前のB1と少年C1のZ宅への訪問によりA1・B1との関係からの離脱が容易ではないとの無力感、閉塞感を亡Zに抱かせ、3連休明けの登校時刻に亡きZは自殺

A1・B1のいじめ行為と亡Zの自殺との間には事実的因果関係が認められる。
①A1・B1のいじめの態様、頻度等
②その行為当時、いじめにより被害者が自殺に至る可能性があることについて学術的にも一般的知見として確立し、いじめによってその被害生徒が自殺することもあり得ることは報道等により社会一般に広く認知されていた

前記いじめ行為を受けた中学2年の生徒が自殺に及ぶことは、社会通念に照らしても、一般的にあり得ることというべき

亡Zの自殺に係る損害は通常生ずべき損害に当たる

A1・B1のいじめ行為と亡Zの自殺に係る損害との間には相当因果関係が認められる。
  争点③について原審同様。 
  ●争点④ 
亡Zには、
①自らの意思で自殺を選択した上、素因としての漸弱性がうかがわれるなどの点で、また、
②Xらには、家庭環境を適切に整えることができず、亡Zを精神的に支えられなかった点で、
③X1においては、体罰により亡Zの反発心を招くなど、同居する監護親として期待される役割を適切に果たし得なかった点で、
それぞれ過失相殺の適用ないし類推適用を基礎付ける事情があり、
Xらの損害賠償債権額について、4割の減額を認めることが相当。
  解説  ●いじめと自殺との相当因果関係
(自殺に係る損害の通常損害該当性) 
「通常生ずべき損害」について、
「当該の不法行為の行なわれる場合に通常生ずるであろうと想像される範囲の損害」(我妻)
but
「通常生ずる」という文言が当該行為により損害が発生するという可能性の程度をどのようなものと想定しているかは必ずしも明らかではない。
論者の中には、「損害の通常性については、一般的、抽象的には、当該不法行為によってそのような損害が発生したということが通常人にとって意外であると考えられるような例外的なものでない限り、通常性を肯定することができるとすべきである」と論ずる者もいる。
原判決:
専らA1・B1によるいじめの内容(態様・態度)に係る損害に着目し、亡Zの自殺に係る損害について通常損害該当性を肯定。

本判決:
いじめの内容だけでなく、
行為当時、いじめにより被害者が自殺に至る可能性があることについて学術的にも一般的知見として確立し、いじめによってその被害生徒が自殺することもあり得ることは報道等により社会一般に広く認知されていたこと等にも言及し、
通常損害該当性を認めた。
  民事p106
広島高裁H31.3.14  
  遺留分減殺請求がされた場合について遺言執行者の所有権移転登記手続が包括受遺者との関係で不法行為となった事案
  事案 Aは、その有する財産全部を甥X1に包括遺贈し、司法書士Yを遺言執行者に指定するなどとする遺言をした後、死亡。
Aの唯一の法定相続人である養子Bは、遺留分減殺請求をした。
Yは、B及びX1(弁護士X2はその代理人)が留保を求めたが、Aの生前の財産から登録免許税を支出して同財産中の不動産につき遺贈を原因とするX1への所有権移転登記手続をし、Aの財産全てをX1が取得したとの内容でX1名義の相続税の申告書を作成・提出し同財産からその相続税を納付。 
X1が、Yによる前記移転登記手続及び相続税の申告等につきX1及びBに対する不法行為が成立し、BのYに対する損害賠償請求権を譲り受けたと主張⇒Yに対し、前記登録免許税額及び相続税の申告書の再提出のために要した税理士の報酬額等を損害として、Yの遺言執行者の報酬債権と相殺した残額の賠償を請求。
X2が、Yによる懲戒請求及び告訴につきX2に対する不法行為の成立を主張して、Yに対し慰謝料等を請求。
  判断  ●X1の請求 
遺言執行者が、遺留分権利者や受遺者の意向、執行の方法等の事情に照らし、これらの者の利益を不当に侵害し、社会的相当性を逸脱するような執行を行ったときは、相続人や包括受遺者との関係で負う善管注意義務に違反した違法な職務行為として不法行為を構成するというべき。
Yによる所有権移転登記手続について、X1との関係では、X1に当該手続をする意思がないのにあると偽って当該申請をしたなどの認定事実を踏まえて不法行為の成立を肯定。
Bとの関係では、当該不動産につきいったんX1への所有権移転登記を経ることは、権利の変動の過程等を反映したもので、Bの当該不動産の共有持分が侵害されたとまではいえず、当時の登記実務や文献等を踏まえても、Bに直接所有権移転登記をすることができなかった可能性を否定できない。
⇒不法行為の成立を否定。
YによるX1の相続税の申告等について、X1との関係では、遺言執行者の権限に含まれず、X1のン名義を冒用したなどの認定事実⇒不法行為上違法。
but
税理士の報酬の半額相当額は相当因果関係のある損害に当たらない⇒不法行為の成立を否定。
  懲戒請求について:
平成19年最高裁判決に即して検討:
X2の言動は、Yに不当な圧力を加えるなどの違法、不当なものとも、遺言の執行を妨害するものともいえない⇒不法行為の成立を肯定。
告訴について:
告訴人が被告訴人に犯罪の嫌疑をかけることを相当とする客観的根拠を確認すべき義務を怠った場合には違法な告訴として不法行為を構成する。
X2の言動は強要未遂罪に当たらず、Yは告訴に当たり前記義務を怠ったとして不法行為の成立を認めた。
  解説 遺言執行者には、相続人や包括受遺者の代理人としての地位があり(改正前民法1015条、民法990条)、これらの「物との関係で善管注意義務を負う(改正前民法1012条2項、民法644条)
⇒遺言執行者による遺言の執行が包括受遺者等に対する前記義務の違反と評価されることがあり得る。
but
法が、遺言執行者の権利義務を定めた改正前民法1012条1項や遺言の執行の妨害行為の禁止を定めた改正前民法1013条といった、遺言執行者に遺言者の意思を尊重し遺言の公正な実現を図らせるための規定を設けていること(最高裁昭和62.4.23)
⇒遺言の執行は、遺留分権利者と受遺者の利害に反することをもって、直ちに違法な職務執行に当たるとは解されない。 
  民事p122
千葉地裁R2.3.27  
  妊婦の死亡⇒損害賠償請求(肯定)
  事案 妊娠23週の妊婦であったAが、Z病院で診察を受けた5日後に死亡⇒Aの相続人であるXらが、Z病院のB医師には、診察時の検査義務違反があったと主張し、損害賠償請求。 
  主張 X:
①Aの死因は肺血栓塞栓症であり、Z病院受診時には、既に肺血栓塞栓症を発症していた。B医師は、その診断時に現に肺血栓塞栓症を疑った⇒その確定診断に向けた検査をすべきであったのに、それをしなかった。
②仮にAの死因が肺血栓塞栓症でなかったとしても、B医師は、その診察時に心不全も疑っていた⇒その鑑別のための検査を実施すべきであったのに、それをしなかった。
Y:
Aの死因は肺血栓塞栓症ではなく、肺動脈性肺高血圧症。
B医師の診断時の処置に不適切な点はなかった。
  判断 Aの死因については、 肺血栓塞栓症か肺動脈性肺高血圧症のいずれかであるとは認められるものの、Xの主張の肺血栓塞栓症が死因であったと高度の蓋然性をもって認めることまではできない。
Aの死因がいずれにしても、B医師の過失及び過失とAの死亡結果との間の因果関係が認められる。
損害額の算定にあたっては、逸失利益算定時に問題となる就労可能期間が、死因が肺血栓塞栓症の場合よりも肺動脈性肺高血圧症の場合の方が短い⇒死因が後者であることを前提とした場合の損害額を認める。
  解説 肺動脈性肺高血圧症の生存データ等を踏まえて、逸失利益の算定に関する就労可能期間(余命)を、67歳までの28年間ではなく、7年間に限定。
他方で、死因慰謝料については、本件で認定された慰謝料額(遺族固有の分を含む。)を見ると、余命が限られていることを減額事由として考慮したものではないと思われる。
  民事p131
大津地裁R2.5.26  
  ハウスクリーニング事業を行うことを内容とするフランチャイズ加盟店契約が業務提供誘引販売契約にあたるとされた事案
  事案 被告との間で、ハウスクリーニング事業を行なうことを内容とするフランチャイズ加盟店契約を締結した原告が、本件契約に係る取引は特定商取引法51条の業務提供誘引販売取引に当たるところ、同法58条1項に基づき、本件契約を書面により解除した⇒被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、本件契約において被告に交付した219万8000円及びその遅延損害金の支払を求めるとともに、
本件契約に際し、説明内容に虚偽又は過大に誇張された表現が含まれる詐欺的勧誘をしたことが原告に対する不法行為を構成⇒被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、55万円及び遅延損害金の支払を求めた。
  争点 本件契約に係る取引の業務提供誘引販売取引該当性 
  判断 業務提供誘引販売取引:
物品の販売又は有償で行なう役務の提供の事業であって、
その販売の目的物たる物品又はその提供される役務を利用する業務に従事することにより得られる利益を収受し得ることをもって相手方を誘引し、
その者と特定負担を伴うその商品の販売若しくはそのあっせん又はその役務の提供若しくはそのあっせんに係る取引をいう。
(特定商取引法51条1項)
本件契約に係る取引:
(1)被告は、ハウスクリーニング事業に必要な「機材・消耗品等」を販売し、また、開業前研修・開業支援等の役務の提供を有償で行なう事業であって、その販売の目的物たる物品又はその提供される役務を利用する、被告が提供し、あっせんするハウスクリーニング業務に従事することにより得られる利益(業務提供利益)を、収益モデルを提示するなどして、収受し得ることをもって原告を誘引していること、
(2)原告ら加盟店が、フランチャイズ開業初期費用として、
①研修費、研修参加費、②工具・機材消耗品費一式、③加盟金、④保証金、⑤開業支援金、⑥販促ツール代、⑦事務手数料の合計219万8000円を支払うなどの金銭的負担(特定負担)を伴う、前記業務のあっせんに係る取引をすることを業として営んでいたこと、
(3)原告は、被告から提供・あっせんされた「業務」を、肩書住所地の自宅(マンションの一室)で行なうことになっている⇒本件契約は、「事業所その他これに類似する施設によらないで行なう個人との契約」に該当

本件契約に係る取引は、特定商取引法の業務提供誘引販売取引に該当する。
被告は、特定負担である開業初期費用等を支払うことを条件に、ハウスクリーニング事業のフランチャイズとする業務提供誘引販売契約を締結したにもかかわらず、原告に対し、特定商取引法所定の契約の解除(クーリング・オフ)に関する事項が記載されていない書面を交付

原告が被告に対し本件契約の解除の通知を発した時点において、契約書面を受領した日から起算して20日が経過しているとは認められない。
原告は、被告に対して、本件契約を書面により解除⇒不当利得返還請求権に基づき、本件契約において被告に交付した219万8000円及び遅延損害金の支払を求めることができる。
  解説 業務提供誘引販売取引:
主に、
① 業務提供利益を収受し得ることをもって顧客を誘引し、
②特定負担を伴う、
③商品の販売又は役務の提供(そのあっせんを含む)に係る取引
である必要。
本件では、原告は、被告から提供・あっせんされた「業務」を、肩書住所地の自宅(マンションの一室)で行なうこととされていた⇒消費者性について肯定。
  刑事p136
大阪高裁R2.10.27  
  裁判員対象事件からの除外
  事案 検察官は基本事件につき、裁判員法3条1項の要件があると主張し、対象事件からの除外を請求⇒神戸地裁はこれを却下⇒検察官即時抗告
  規程 裁判員法 第三条(対象事件からの除外)
地方裁判所は、前条第一項各号に掲げる事件について、被告人の言動、被告人がその構成員である団体の主張若しくは当該団体の他の構成員の言動又は現に裁判員候補者若しくは裁判員に対する加害若しくはその告知が行われたことその他の事情により、裁判員候補者、裁判員若しくは裁判員であった者若しくはその親族若しくはこれに準ずる者の生命、身体若しくは財産に危害が加えられるおそれ又はこれらの者の生活の平穏が著しく侵害されるおそれがあり、そのため裁判員候補者又は裁判員が畏怖し、裁判員候補者の出頭を確保することが困難な状況にあり又は裁判員の職務の遂行ができずこれに代わる裁判員の選任も困難であると認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、これを裁判官の合議体で取り扱う決定をしなければならない。 
  判断 「おそれ」が具体的なものであることを要し、何らかの具体的事情により認められる必要があるといわれているのは、裁判員等に過度の負担を求めることとならない一般的・抽象的な懸念にとどまる場合にまで、これに当たるとされなようにする趣旨である。 
①基本事件前後の両組の構成員等が関係する抗争事件の発生状況及び基本事件の位置付け、
②警戒区域外で関係者の会合や両組間の紛争と見られる事件が発生していること等
⇒基本事件後に両組の構想状態が激化したことを疑わざるを得ない。

抗争の現状につき原判決と異なる評価。
両組はいずれも神戸市に本拠を置く大規模な暴力団組織で、傘下組織も含めた構成員、周辺者の数は極めて多数に及ぶ上に相互の反目等の感情が強く、個々の者らの基本事件の裁判等の捉え方や行動は予想し難く全員が統制のとれた合理的行動をとる前提に立てない⇒両組の構成員等が基本事件の公判傍聴の機会に接近すること等でいさかいを生じさせたり、市中において裁判員等に接近して働きかけを行なったりする危険を拭い去ることはできない。

原決定が、基本事件において有利な判断を得るために構成員等が裁判員等に働きかける強い動機はないなどとしていたのと異なる評価。

前記危険は具体的根拠に基づいた軽視できないもので、裁判所敷地内及びその周辺にとどまらず、裁判員等の普段の生活の場においても現実化し得るもの⇒裁判所が裁判員等の安全確保のために考え得る最大限の措置を講じることを当然の前提としつつも、これらの措置によっても前記危険を完全に除去することは困難
⇒裁判員法3条1項所定の要件を充足。
  刑事p139
大阪高裁R2.10.2  
  死体血鑑定等
  事案 被告人が、被害者を何らかの方法により殺害した上、その死体を切断して複数個所に遺棄し、さらに、被害者死亡後に同人の預金を払い戻して窃取したとされた事案。
  争点 被害者が何者かの加害行為によって死亡したか、加害行為、死体損壊・遺棄に係る被告人の犯人性、殺意の有無。 
  判断・解説  ●死体血鑑定について 
  足利事件最高裁決定(H12.7.17):
科学的証拠を用いるためには、
①科学的原理の理論的正確性と
②当該具体的実施方法の科学的信頼性の充足
が必要。
本件:
血液鑑定として、採取血痕につき、付着したのが死体血かを鑑別する新たな鑑定方法(死体血鑑定)の信用性が重要な争点に。
死体血鑑定について、上記①②の各合理性を肯定し、被告人車両内に被害者の死体血が付着していたと認められる⇒被告人が被害者の死体を車両で運搬したとの間接事実を認定。
  ●死体損壊を伴い遺棄が加害行為の存在に及ぼす推認力 
死体の損壊・遺棄状況が、被害者の死因が他人の加害行為であることを推認させる重要な間接事実と判断。
経験則は事案に応じた事実関係の下で適用すべきであり、その蓋然性の程度も事実関係に即して多様
but
本件のおような損壊を伴う死体遺棄の場合、他人の加害行為を推認させる力は強い。
①死体を多数の部位に切断し、複数個所に遺棄するとうい本件具体的態様
②特段の事情がない(死体に病死、事故死の痕跡がなく、かつ、被害者が自殺に至る事情がない)

死因が加害行為であることは優に推認できる。
死体遺棄に関与したものの、加害行為がない又は被告人がこれに関与していない事案の類型:

加害行為の痕跡がない場合:
①親族の年金受給の継続等を動機とする金銭取得類型
②葬儀や死亡届出等をせずに放置する死後対応煩瑣類型
③母親による嬰児遺棄類型

加害行為は実在するが被告人がこれに関与していないもの:
④加害行為の犯人肥後のために遺棄に関与する加害犯人肥後類型
⑤事故が人の死に関与した嫌疑を受けるなどの後難避けるため死体を遺棄する受嫌疑忌避類型
2473   
  行政p3
最高裁R2.6.26   
  地方公共団体の徴収金の相続人に対する通知と消滅時効の中断
  事案 Y(埼玉県加須市)の市長Y市長が、国民健康保険税及びその延滞金の滞納処分として、Xの預金払戻請求権を差押え、さらに配当処分をした⇒Xがその取消し等を求めた。 
  争点 国民健康保険税に係る債権の消滅時効の成否(時効中断事由の有無) 
  解説 地方税の徴収権は5年の消滅時効。
その中断事由:
地税法18条の2第1項において納付又は納入に関する告知(1号)、督促(2号)等が規定
同法18条3項により民法の規定が準用⇒差押え及び承認も租税債権についてうい中断事由となる。 
  1審 平成23年1月の督促及び平成29年1月の本件差押処分が中断事由に当たることは争いがない。
but
その間に約6年が経過。

Y:平成24年納付が承認に当たり時効中断を主張
vs.
Xが本件各決定に係る税額を一貫して争っていた⇒Xが平成24年納付の際に納付しなかった部分につき債務を承認したものと認めることは困難。

時効消滅を認め、配当処分の取消請求を認容。
  原審 平成24年納付は承認に当たらない。
but
本件承継通知(平成24年10月、Y市長がXに対しAの滞納金を相続人として同年11月16日までに納付するよう求める旨通知)は納付の告知(地方税法13条)に当たり、時効中断効が認められる。 
  判断 被相続人に対して既に納付又は納入の告知がされた地方団体の徴収金につき、納期限等を定めてその納付等を求める旨の相続人に対する通知は、これに係る地方税の徴収権について、地税法18条の2第1項1号に基づく消滅時効の中断の効力を有しない。

配当処分の取消請求を認容
  解説 ●国民健康保険税の賦課徴収に関する手続 
地税法13条1項:
文書により納付又は納入の告知で、納付又は納入の期限等を記載
⇒納期限までに国民健康保険税に係る地方団体の徴収金を完納しない場合には、徴収吏員は、督促状を発し、督促状を発した日から10日を経過した日までに完納しないときは、滞納者の財産を差押えなければならない。
  ●納付又は納入に関する告知による時効中断 
「納税に関する告知」「納入の告知」が時効中断校を有する

法令の規定により一定の手続と形式を要し、かつ公正慎重に行なわれるものであるから十分に確実性がのある者であり、私人が行う催告のような非形式的請求とは異なり、裁判上の手続に比べて必ずしも軽視できない公の手続行為であることに基づく。
再度の納付の告知に時効中断校が認められるか?
会計法上の納入の告知に関しては、1会限り行ない得るものであり、2度以上の納入の告知は、単なる催告にすぎず、それ自体では時効中断の効力は生じないと一般に解されている。
本判決:
地税法18条の2第1項1豪に基づく時効中断効は最初に行なわれたものについてのみ生ずる。

①地税法が、地方団体の徴収金の徴収に関して段階的な手続を定めており、納付又は納入の告知が繰り返されることを予定していない
②同告知の性質に照らして特別に時効中断を付与したものと解される
  行政p7
最高裁R2.2.25   
  経過観察と被爆者援護法の「現に医療を要する状態にある」
  事案 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(「被爆者援護法」)1条に規定する被爆者である原告らが、被爆者援護法11条1項に基づく認定の申請⇒処分行政庁からこれを却下する処分⇒その取消しと国家賠償を求めた。
上告審では、経過観察を受けている原告らが被爆者援護法10条1項にいう「現に医療を要する状態にある」と認められるか否かが問題。
  判断 経過観察を受けている被爆者が被爆者援護法10条1項所定の「現に医療を要する状態にある」と認められるためには、当該経過観察自体が治療行為を目的とする現実的な必要性に基づいて行われているといえること、すなわち、経過観察の対象とされている疾病が、類型的に悪化又は再発のおそれが高くその悪化又は再発の状況に応じて的確に治療行為をする必要があることから当該経過観察が行なわれているなど、経過観察自体が、当該疾病を治療するために必要不可欠な行為であり、かつ、積極的治療行為(治療適応時期を見極めるためにの行為や疾病に対する一般的な予防行為を超える治療行為)の一環と評価できる特別の事情があることを要する」とした上で、
そのような特別の事情があるといえるか否かは
「経過観察の対象とされている疾病の悪化又は再発の医学的蓋然性の程度や悪化又は再発による結果の重大性、経過観察の目的、頻度及び態様、医師の指示内容その他の医学的にみて当該経過観察を必要とすべき事情を総合考慮して、個別具体的に判断すべきである」 
①事件について:
次の(a)~(d)など判示の事情の下においては、被爆者援護法10条1項所定の「現に医療を要する状態にある」と認められるとはいえない。
(a)慢性甲状腺炎が続発症である甲状腺機能低下症に至る割合は全体の10%に満たないとされている上、これに至ったとしても、直ちに重篤な結果が生ずることが一般的であるとまではうかがわれない。
(b)当該被爆者につき甲状腺機能低下症の診断における有力な検査所見で異常値が示されることはなく、その状態が慢性甲状腺炎の診断から被爆者援護法11条1項に基づく認定の申請までの約16年継続していた。
(c)慢性甲状腺炎については、根本的かつ永続的に治療する確実な手段はまだないとされており、一般に、1年に1回程度の定期検査で経過観察を行い、甲状腺機能が低下した場合に初めて甲状腺ホルモンの補充両方を行うとされているところ、当該被爆者の慢性甲状腺炎については、おおむね3か月に1回の経過観察が行なわれていたものの、その態様は、問診や触診による甲状腺の様子の観察を行い、必要に応じて、血液検査やエコー検査を行なうというものにすぎず、その結果、前記(b)の慢性甲状腺炎の診断から申請までの間に投薬治療が必要とされることもなかった。
(d)当該被爆者の慢性甲状腺炎については、主治医が何らかの合併症や続発症の具体的な前兆を把握した上で積極的治療行為を行っていたものとはいい難い状況が継続していた。
②事件について:
①放射線白内障についてカリーユニ点眼液の処方を伴う経過観察を受けている被爆者は、放射線白内障の多くは進展せず、一度手術適応があると判断されても多くは日帰り手術で視力を回復することができるとされていること、
②前記経過観察は手術適応の有無を判断することを目的とするものであるところ、当該手術適応の有無の判断においては日常生活における支障があるか否かという患者の主観的な側面が重視されていること、
③カリーユニ点眼液は老人性白内障の成因について特定の考え方を採ることを前提としてその進行を抑止する効果があるだけであり、放射線白内障の治療は手術以外にはないこと
など判示の事情の下においては、
被爆者援護法10条1項所定の「現に医療を要する状態にある」と認められるとはいえない。
  行政p18
東京地裁R2.9.3  
  過小資本税制の適用が問題となった裁判例
  事案  内国法人(本社または主たる事務所が日本国内にある法人)である株式会社Xが、かつてインサイダー取引規制違反により有罪判決を受けたこともある著名なアクティビスト投資家であってシンガポールに居住する非居住者であるAから、年利14.5%で合計164億円を借入れ、これに対する支払利子を、その課税所得計算上損金に算入して法人税の確定申告

課税庁から、Xは、その事業活動に必要とされる資金の相当部分を非居住者であるAから借りれによって調達⇒AはXにとって「国外支配株主等」に該当し、過小資本税制が適用される
⇒前記支払利子の一部である約14億6250万円について損金算入を否認する旨の法人税等の更正処分等を受けた。
X:本件借入れが実行された時点では}Aは住所地をシンガポールに移転しておらず、非居住者ではなかった⇒本件借入れに係る利子は、過小資本税制の適用対象となる「国外支配株主等に支払う負債の利子等」に該当しない⇒本件課税処分の取消しを求めて争った。
  判断 Aは、平成23年7月4日に東京都渋谷区からシンガポールに住所地を移転
同月5日に非居住者になった。
Xは、Aから同年6月30日から同年7月4日にかけて合計164億円にの上る本件借入れをし、Aが非居住者となった同年7月5日から本件借入れが完済された平成24年3月7日までの期間にAに対して当該期間に対応する利子を支払った
⇒かかる支払利子は「国外支配株主等に支払う負債の利子等」に当たる。
Xの主張
vs.
①貸付け後に貸主が住所地を日本国外に移転した場合には過小資本税制の規定が適用されないことになれば、内国法人が国外支配株主等から過大な貸付を受けることによる租税回避を防止する趣旨が容易に潜脱される
②同号ロの文言上も、貸主が貸付けの実行時において非居住者である場合に限定する旨の定めはない

同号ロの要件が満たされている旨認定するためには、損金算入の可否が問題となっている利子との関係で、「当該内国法人がその事業活動に必要とされる資金の相当部分を当該非居住者等からの借入れにより調達している」と認められれば足り、貸付けの実行時において貸主が非居住者であることを要しないと解するのが相当。
・・・・
  行政p42
大阪地裁R2.3.5  
  厚生年金保険の被保険者であった養父と内縁関係にあった養子が遺族厚生年金の支給を受ける配偶者に当たるとされた事案
  事案 厚生年金保険の被保険者であった養父との間で内縁関係にあった養子が、厚年法に基づき遺族厚生年金の支給を受けることのできる配偶者に当たるかが争われた事案。
  判断 養親子間で婚姻が禁止されるのは、社会倫理的考慮すなわち性愛の秩序と親子の秩序の混同防止という公益的要請を理由とするもの

当該養親子間の内縁関係の反倫理性、反公共性が婚姻法秩序維持等の観点から問題とする必要がない程度に著しく低いと認められる場合には、前記近親者間における婚姻を禁止すべき公益的要請よりも遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという厚年法の目的を優先させるべき特段の事情があるものというべきであり、
このような事情が認められる場合、前記内縁関係の当事者は厚年法3条2項にいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に該当すると解するのが相当。
XとAの内縁関係は、養子縁組をする以前から夫婦としての共同生活の実体を融資、その開始当初において何等の反倫理性、反公共性が認められず、
同じ氏を名乗って夫婦として生活したかったなどの理由から養子縁組をしてからも、その実体的な関係に何らの変化を生じることはなく、
周囲からも夫婦と認識されていた。

XとAの内縁関係にありながら養親子関係にあったという反倫理性、反公共性は、婚姻法秩序維持等の観点から問題とする必要がない程度に著しく低いと認められる。
  解説 関連(最高裁)判例 
  民事p47
東京高裁R2.3.4  
  同性カップル(米国で婚姻登録証明書取得)での不貞行為での損害賠償請求(肯定)
  事案 Xが、Xと同性の事実婚関係にあったY及びその事実婚関係の継続中にYと性的関係を持ったZに対して、Y及びZの不貞行為により、同性の事実婚が破綻⇒共同不法行為に基づき、婚姻関係の解消に伴う費用等相当額及び慰謝料を請求。 
  事実 XとYは、21年3月から交際を始め、平成22年2月から同居、平成26年12月29日には、米国ニューヨーク州法に基づく婚姻として婚姻登録証明書を取得、平成27年5月10日には、日本で結婚式を挙げ、披露宴を開催。 
Xは、平成28年12月、将来的に子をもうけ、育てるための場所としてマンションの購入契約を締結。
Yは、Xではなく、精子提供者であるZを選択。
Xは、平成29年、婚姻外関係解消調停を申立て、同年12月26日、Yとの間で、ニューヨーク州においてされた婚姻を解消することを合意し、相互に必要な協力をして解消の手続を採用するものとする旨の調停に代わる審判がされて、平成30年1月31日に確定。
Yは、平成30年8月9日、Zとの子を出産し、同月15日にZと婚姻。
Zは、性別適合手術を受けて、戸籍上の性別も変更。
  原審 同性の事実婚であっても、不法行為法上の保護を受け得る。
←同性の事実婚の実態に着目して男女間の内縁関係と同視できる生活関係にあるものについては、内縁関係に準じた法的保護に値する利益が認められる。
but
法律婚や男女間の内縁関係において認められる利益の程度とは差異がある
⇒慰謝料100万円を認めた。
but
Zに対する離婚に伴う慰謝料の請求については、
ZがX及びYの関係を破綻させることを意図していたとは認められない⇒棄却。
  判断 本件の事実関係に照らすと、X及びYは、できる限り社会観念上夫婦と同様であると認められる関係を形成しようとしていたのであり、男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合としての婚姻に準ずる関係にあったということができる。

原審維持。
  解説 内縁関係について:
最高裁昭和33.4.11:
法律上の婚姻に準ずる関係と認めて、不当に破棄された場合には、損害賠償を求めることができる。
  民事p59
東京高裁R1.11.14  
  割賦代金債権を第三者に譲渡することをあらかじめ異議をとどめないで承諾すると定められた条項の効力(否定)
  事案 A~Cに美容品一式を割賦販売した販売店から、当該割賦販売に係る売買代金債権を譲り受けたXが、A~Cに対して、同債権に基づく支払を求めた事案。
  判断 締結した割賦販売契約が訪問販売に当たると認めたCについて、本件承諾条項が改正前民法468条1項の異議をとどめない承諾としての効力を有しない。

①本件承諾条項は、18か条から成る契約条項の1か条であり、Cは、あらかじめ十分な説明を受けていたとはいえず、債権が譲渡されることを想定して承諾をしたとしても、本件承諾条項に格別の注意を払っていたとも考え難く、また、譲渡先が一切記載されていなかったことからすれば、顧客に、二重弁済その他の不足の損害を及ぼすおそれがある。
②Xは、本件承諾条項の存在により、Cの販売店に対する抗弁が存在しないことを信頼して譲渡を受けたといった関係にあるわけではなく、販売店の顧客に対する与信をする趣旨で債権譲渡を用いるスキームを構築し、割賦販売契約の締結を実施させていた⇒経済的には、本件債権譲渡は、割販法が規制の対象とする個別信用購入あっせんに極めて類似する機能を果たしていた。
③これらの事情を総合考慮すれば、Xの利益を保護すべき必要性は低く、本件承諾条項により抗弁切断の効果を認めることは、Cの利益保護の要請との均衡を欠く。
Cの側にも一定の落ち度が認められる⇒信義則上、5割の限度のみ対抗することができる。
  解説 異議をとどめない承諾⇒債務者は、譲渡人に対抗することができた事由をもって譲受人に対抗することはできない。
but
異議をとどめない承諾をした債務者の保護に関し、
最高裁昭和42.10.27:
未完成仕事部分に関する請負報酬債権の譲渡について、債務者の異議をとどめない承諾がされても、譲受人が右債権が未完成仕事部分に関する請負報酬債権であることを知っていた場合には、債務者は、見日債権の譲渡後に生じた仕事完成義務不履行を事由とする当該請負契約の解除をもって譲受人に対抗することができる
⇒悪意の譲受人に対しては保護を与えないものとした。

最高裁H27.6.1:
債務者が異議をとどめないで指名債権譲渡の承諾をした場合において譲渡人に対抗することができた事由の存在を譲受人が知らなかったとしても、このことについて譲受人に過失があるときには、債務者は、当該事由をもって譲受人に対抗すrことができると解するのが相当
⇒過失がある譲受人に対しても同様の判断
本判決:
契約書にあらかじめ記載されている承諾条項による承諾の効力について、上記最高裁判決が示す趣旨が譲受人の保護にあることを重視して、譲受人と債務者との利益保護の必要性の程度を較量して結論を導いているが、その判断過程は是認してよい。
信義則によって、過失相殺に準じる扱いをしていることも注目される。
平成29年債権法改正:
「債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。」となり、異議をとどめない承諾制度は廃止されることとなった
⇒抗弁の切断は、債務者による抗弁の放棄の意思表示を要するから、意思表示一般の検討を要することになる。
  民事p88
東京高裁R2.2.18  
  監護者指定の事案(東京高裁)
  事案 別居中の夫婦において、
父であるXが長女
母であるYが二女及び三女を
それぞれ監護。
X、Yの双方が、未成年者らの監護権者を自らと指定することと、他方の監護している未成年者の引渡しを求めた。 
  原審 3人の子らの監護者をいずれもXと定めて、二女及び三女をXに引き渡すようYに命じると共に、Yの申立てを却下。 

①長女について、Yとの同居を拒否する意向を尊重することがその福祉に適う
②二女及び三女については、長女と分離させず、共に生活させることが望ましい
  判断 長女の監護者をXと、
二女及び三女の監護者をYと
それぞれ定めて、双方の引渡しの申立てはいずれも却下。 

①長女については、Xを監護者と定めるのが相当。
②二女と三女については、同居中からYが主として監護を担当しており、別居後もYと同居して生活して生活し、その監護状況に特段の問題点は認められず、長女とは異なり、Yの関係性も良好⇒従前ないし現在の監護環境を維持することが最も子の福祉に合致
  解説 民法766条1項:
子の監護者を定める上で、子の利益を最も優先して考慮

「子の利益」に合致するか否かを具体的に判断するに当たっては、
①乳幼児期における主たる監護者
②監護環境の変化
③子の意思
④面会交流の許容性
⑤きょうだい不分離
⑥監護開始の態様
といった考慮要素。

⑤については、必ずしも原則として適用されていものではなく、監護状況及びその態様、子の年齢や意思等の総合考慮の中であくまで一要素として判断されるものと指摘。 
本決定:
・同様の観点から、父母のいずれを監護者と定めるのが子の福祉に合致するのかについては、個々の未成年者ごとに個別具体的に検討すべき
・二女及び三女については、主たる監護者の監護実績や監護の継続性の観点をより重視して監護者を決定
・長女と二女及び三女で監護者を子とならせたとしても、長女と次女・三女間の交流が相当頻繁に行なわれるであろうこと
・実際上の問題として、父親であるXが、長女1人を監護している現状と比較して、いまだ幼い二女や三女も引き取って日常的に監護する場合の負担が格別に大きくなる

長女との関係では
・従前の主たる監護者はYであったものの、長女が自らYの下を離れてX宅に戻り、その後、2年弱もの間、Xが長女を監護しているといった事情を重視すべき
・長女の年齢(11歳?)⇒Yとの同居生活を拒否する長女の意向は一定程度尊重すべき

・「当審において提出を求めた資料を精査した」⇒抗告審で、未成年者らの直近の監護状態に関する資料の提出を求めた⇒長女の監護態勢に具体的な問題は見当たらない

・不貞関係を特段重視していない⇒異性関係それ自体が監護者としての適格性に疑問を抱かせるものではなく、当該異性関係のために子の監護に具体的な悪影響を生じている場合に初めて、監護者としての適格性を左右するという考え方
  民事p93
那覇地裁R2.6.10  
  憲法53条後段に基づく内閣の臨時会の召集決定についての司法審査(肯定)と国賠請求(否定)
  事案 国会議員であるXらが、その他の国会議員とともに、平成29年6月22日、内閣に対し、憲法53条後段に基づき、本件召集要求⇒それから98日が経過した同年9月28日まで臨時会が召集されなかったことについて、内閣は合理的な期間内に臨時会を召集すべき義務があるのに、これを怠り、その結果、Xらが臨時会において国会議員としての権能を行使する機会を奪われた⇒国賠法1条1項に基づき、Y(国)に対し、Xらそれぞれにつき損害金である100万円の一部請求として1万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
  争点 ①内閣による臨時国会召集決定が憲法53条後段違反かどうかについて司法審査権が及ぶか
②本件召集要求に基づく内閣の召集決定が、本件召集要求をした個々の国会議員との関係で国賠法1条1項の適用上、違法と評価される余地があるか
③本件召集が実質的に本件召集要求に基づく臨時会の召集とはいえず、または本件召集が合理的期間内に行なわれたものではないとして、憲法53条後段に違反するか 
  判断  ●争点①について 
憲法53条後段の規定に基づく内閣による臨時会の召集決定が、最高裁昭和35.6.8(苫米地事件判決)にいう「直接国会統治の基本に関する高度に政治性のある国会行為」又はそれに準じるものとして司法審査の対象外といえるかが問題となる。
憲法53条に基づく内閣の臨時会の召集は、政治状況等を勘案して召集⇒高度の政治性を有する。
but
①憲法53条後段に基づく内閣の臨時会の召集は、憲法上明文をもって規定された法的義務であり、かつ、内閣に対して合理的期間内に臨時会を召集すべきことを義務づけるもの。
②内閣が臨時会の召集を合理的期間内に行なったかどうかは、合理的期間の解釈である⇒
法律上の争訟として裁判所が判断することが可能。

憲法53条後段に基づく内閣の臨時会の召集決定は、苫米地事件判決にいう「直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国会行為」又はそれに準じるものとはいえず、司法審査の対象外であるとはいえない。
  ●争点②について 
最高裁昭和39.7.1(在宅投票制度廃止事件判決)の判断枠組みを踏まえると、内閣の憲法53条後段に基づく臨時会の召集行為が国賠法1条1項の適用上違法となるには、議員の総議員の4分の1以上の召集要求があったにもかかわらず、内閣が臨時会を一定期間召集しなかった行為が、個別の国民(本件では国会議員)に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められる必要。
①内閣は憲法53条後段に基づく召集要求を受けた場合、臨時会を召集すべき憲法上の義務があるものの、これが臨時会召集の要求を行った個々の国会議員に対する憲法上の義務であるか否かについては、憲法53条後段の文言上は明らかではない
②憲法上の他の規定では国会議員としての具体的権利と定めるものがあるが、憲法53条後段はそのような規定ではない
③憲法53条後段は内閣が臨時会の召集をしなかった場合の具体的効果を規定しておらず、ほかに内閣に臨時会の召集を強制できる旨をうかがわせる規定もない
④憲法53条後段違反の場合に召集要求をした国会議員のみに国賠法1条1項に基づく損害賠償を認めることは、召集要求をしなかった国会議員との関係で不自然さが残ること、
⑤臨時会が召集されなかったことに基づき召集要求をした国会議員が侵害される利益は私益(国会議員の個人的な利益)ではなく公益(国民全体の為の利益)であって、その侵害は金銭賠償によりてん補されるものではなく、損害賠償を認めることが国賠法1条1項の制度の趣旨に必ずしも沿うものとはいえない

憲法53条後段に基づく臨時会の召集要求に対する内閣の召集決定については、国賠法1条1項の適用上、違法と評価する余地はない。
  ⇒請求棄却。
  刑事p105
東京高裁R2.4.3  
  第1種少年院送致の決定が抗告審で取り消された事例
  事案 少年が
①共犯少年と共謀の上、スーパーの文房具売場において、シャープペンシル3本ほか115点を窃盗し、
②図書館において、同館のタブレット端末1台を摂取し、
③放置された盗難自転車1台を自己が使用する目的で持ち去り、
④コンビニエンスストアで、同店の現金10万円を窃取
  原審 社会内処遇による更生は困難かつ不相当。
  判断 原決定を取り消した。 
①本件各非行は、基本的には窃盗の範疇に限定されており、非行の広がりは見られない
②少年には怠学傾向はなく、深夜はいかいによる補導歴は1回であること
③これらの事情は、非行性の程度を検討する上で、十分踏まえる必要があること、
④これまで事件が家裁に係属したこともなかったのであって、調査・審判の過程における保護的措置や、保護観察における指導・監督を受けたにもかかわらず、非行を繰り返していたわけではない⇒直ちに施設内における矯正教育が必要であるといえるほど、少年の非行性が深化しているとはいえない
⑤ADHDの存在は、あくまで可能性レベルの指摘にとどまるとされているが、原決定では、そういった点も踏まえた考察はされていない
⑥仮に、ADHDが本件各非行に何らかの影響を与えているとしても、少年に対して、医療的措置を含む適切な指導等がされてこなかったという事情がある⇒少年の資質上の問題性が大きく、これが本件各非行に直接的に現れているとすることには疑問がある
⑦親子関係を巡る状況が変化しており、この点は、処遇選択をする上で看過することができず、
⑧少年は高校への復学が可能⇒社会的資源の存在も認められる

少年の非行性や問題性に関する原決定の評価には誤りがあり、試験観察に付することを含め、社会内処遇の可能性を十分に検討することなく、少年を第1種少年院に送致した原決定の処分は、著しく不当。
  解説 保護処分決定をする際、
その種類は、
非行事実及び要保護性の程度、内容によって選択。
原決定と本決定で結論を異にした分岐点が、
非行性の深化の程度に対する評価。

非行事実について、少年の非行が窃盗から恐喝、強盗等罪質そのものが重大な犯罪へと拡大しているといった事情はみられない。
窃盗や占有離脱物横領の非行を重ねているからといって、少年の非行性が相当程度進んでいるという原決定の評価が合理的であるとは直ちにいえない。
少年の資質上の問題:
原決定:知的能力の制約やADHDの問題が根深いことを重視
vs.
①ADHDの存在を指摘する少年鑑別所での精神科の受診結果は、あくまで可能性レベルの指摘にとどまる上、必要な考察がなされていない⇒ADHDと少年の非行性の結び付きの程度等は明らかになっていない。
②仮に、少年がADHDであると確定的に判断され、これが本件各非行に何らかの影響を与えているとしても、少年に対して、そのようんば特性を踏まえた、医療的措置を含む適切な指導等がされてこなかったという点については、原決定は説示していない。

原決定には審理不尽ともいうべき問題点があった。
学校や保護者という保護環境等について、十分に考慮する必要があった。
殺人、強盗、放火等の重い罪名の非行でない限り、段階的処遇の観点を重視して処遇選択すべきであって、特に少年院送致の場合などに段階的処遇の観点によらない場合には、相応の合理的理由が必要とされると言われている。
2472   
  行政p3
最高裁R2.7.6  
  市立中学校の柔道部顧問である教諭に対する停職6月の懲戒処分の違法性が争われた事案
  事案 市立中学の教諭(X)は、同校柔道部の顧問を務めていたが、
Ⅰ部員間で生じた暴力行為を伴ういじめの事実を把握しながら、受傷した被害生徒に対し、受診に際して医師に自招事故による旨の虚偽の説明をするよう指示したこと、
Ⅱ当該いじめの加害生徒を柔道の大会に出場させることを禁止する旨の校長の職務命令に従わず同生徒を出場させてこと、及び
Ⅲ柔道部のために卒業生等から寄贈され校内に設置されていた物品につき、校長からの繰り返しの撤去指示に長期間応じなかったこと
を理由として、
兵庫県教育委員会から定職6月の懲戒処分を受けた。

Xが、本件処分は重きに失するなどと主張して、Y(兵庫県)を相手に、その取消しを求めるとともに、国賠法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案。 
  原審 ①本件非違行為Ⅰにより被害生徒が適切な治療を受けられなかったという事情は認められず、これにより本件中学校としての組織的対応に支障を来す結果ももたらされなかった⇒その悪質性の程度はそれほど高いとはいい難い。
➁本件非違行為ⅡⅢについては、校長の対応にも問題がある

Xにも酌むべき事情がある。
本件処分の量定を決めた方法も合理的とはいい難い。

Xに対する処分として停職を選択すること自体、裁量権の範囲を逸脱⇒本件処分の取消請求を認容するとともに、国賠請求を55万円の限度で認容。
  判断 ①本件非違行為Ⅰは、被害生徒の心情への配慮を欠くものであって、いじめを受けている生徒の心配や不安、苦痛を取り除くことを最優先として適切かつ迅速に対処すること等を求めるいじめ防止対策推進法や兵庫県いじめ防止基本方針等に反するほか、
重い傷害を負った被害生徒に対し誤った診断や不適切な治療を行われるおそれを生じさせるもの
②一連の各非違行為はその経緯や態様等において強い非難に値する
③原判決がXのために酌むべき事情として指摘する点は、必ずしもそのように評価できるものではなく、これを殊更に重視することは相当でない。
④一連の各非違行為の非違の程度等を踏まえると、停職6月という量定を選択したことが裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとはいえない。

原判決を破棄し、Xの控訴を棄却。
  解説 公務員に懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選ぶべきかを決定することは、懲戒権者の裁量に任されており、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合に限り違法となる。
懲戒権者の裁量判断の適否に関する司法審査の方法については、裁判所が懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではない⇒いわゆる判断代置型の判断は許されない。
  行政p15
最高裁R2.8.26  
  裁判官のフェイスブックでの投稿⇒戒告処分の事例
  事案 裁判官である被申立人が、フェイスブック上の自己のアカウントにおいて、強盗殺人及び強盗強姦未遂事件の被害者遺族から訴追請求を受けていることに言及する投稿をした際、本件遺族が被申立人を非難するよう東京高裁事務局及び毎日新聞に洗脳されている旨の表現を用いて本件遺族を侮辱⇒裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」に当たるとして、裁判官分限法に基づき懲戒申立てがされた事案。 
  解説 裁判官は「職務上の義務に違反し、若しくは職務を怠り」又は「品位を辱める行状がったとき」に裁判により懲戒されるものとされている(裁判所法49条)。 
最高裁H30.10.17:
「品位を辱める行状」の意義について、
「職務上の行為であると、純然たる私的行為であるとを問わず、および裁判官に対する国民の信頼を損ね、又は裁判所の公正を疑わせるような言動をいう」と判示。

被申立人の本件投稿をした行為が「裁判官に対する国民の信頼を損ねる言動」として「品位を辱める行状」に当たるか否かが問題。
  判断・解説 被申立人は、
裁判官であることが他者から認識することができる状態で、
自己の実名が付されたツイッターアカウントにおいて、
本件刑事事件の判決を閲覧することができる裁判所ウェブサイトのURLと共に、
「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男」
などといった短文を掲載する投稿(「前回投稿」)を行ない、
本件遺族から、被害者の尊厳に対する配慮が全くなく、本件刑事事件を軽視し茶化していると感じさせる書き込みであるとして抗議等がされていた。

このような経緯の下で、被申立人は、本件遺族について、
本件刑事判決を裁判所ウェブサイトに掲載した東京高裁を非難するのではなく、リンクを貼った被申立人を非難するようにと東京高裁事務局に洗脳されてしまい、いまだにそれを続けている旨の本件投稿をした。 
前回投稿について:
①本件刑事事件に含まれる論点に言及していない
②被告人の異常な性癖や犯行の猟奇性に着目した表現で本件刑事事件を紹介するもの

刑法上の重要論点を含む本件刑事判決を法律家に周知するためのものとみることはできず、閲覧者の性的好奇心に訴え掛けて、興味本位で本件刑事判決を閲覧するよう誘導しようとするものというほかない。

前回投稿を目にした者によってそれがどのように受け止められるものであるかについて客観的な評価を示したもの。
「我が子が性犯罪の被害に遭って殺害され、甚大な精神的苦痛を受けている遺族において、事件が好奇の目にさらされて被害者の尊厳がこれ以上傷つけられることのないよう願うのが当然」
「本件遺族は、裁判官である被申立人によって前回投稿がされたことについて被害者の尊厳や遺族の心情に対する配慮を欠くものであるとして抗議等をするに至った」

本決定は、前回投稿の問題点を指摘しているが、前回投稿をした行為そのものを懲戒の対象としたものでないことは判文上明らか。
●  本家投稿の表現は、「あたかも本件遺族が自ら判断する能力がなく、東京高裁事務局等の思惑どおりに不合理な非難を続けている人物であるかのような印象を与える侮辱的なもの」

被申立人の行為は、
「被申立人による前回投稿によって心情を害されて抗議等をするに至った本件遺族の心情を更に傷つけるものであり、犯罪被害者遺族の副次的な被害を拡大させるものである」

「副次的な被害」:
犯罪等による直接的な被害の後、様々な場面で犯罪被害者又はその遺族がその権利利益や平穏な生活を害されることを指すもの(犯罪被害者等基本法前文参照)
被申立人が自ら裁判官であることを示しつつ多数の者に向けて本件投稿をした行為は、犯罪被害者やその遺族の心情を理解し、配慮することのできない裁判官ではないかとの疑念を広く抱かせるに足りるものであり、
「裁判官に対する国民の信頼を損ねる言動」であるとして「品位を辱める行状」に当たると判断。
被申立人:本件遺族による抗議や訴追請求に対する自らの見解を表明するための表現行為として本件投稿をした
vs.
そうであるとしても、本件遺族を侮辱するような上記表現を用いることが許されるものではない。

本決定は被申立人が本件遺族からの抗議や訴追請求に対して自らの見解を表明したこと自体を懲戒事由としたものではなく、侮辱的な表現を用いたことを懲戒事由としたもの。
  民事p18
東京高裁R2.8.19  
  死亡との因果関係は認められないが、生存の相当程度の可能性を肯定して慰謝料を認めた事例。
  事案 特別養護老人ホームに入所中、Aが朝食時に離床したものの反応がなく、肩呼吸をしていたので検査すると、血圧は54/31、脈拍は38、酸素飽和度は70%⇒Bの職員は、Z病院に緊急往診を要請⇒Y2医師がAを診察すると、Aは微弱な心音でり、痛覚反応、知覚反応もなく、動脈の脈が非常に弱く微弱であったが、BにAのカルテがなく、それを見ないまま診察を終えた。
Y2医師は、Bの職員にAの容態に変化があると家族に伝えるよう指示し、Z病院の当直録に簡略な記載を残しただけで、Aのカルテには何らの記載もせず、他の医師に引継ぎもしないまま、Z病院から帰宅。
当時のことを記録したケース記録には「カルテがなく適切な診断ができない為様子見とのこと」との記載がある。 
  原審 Aは老衰により心臓の機能を含めた全身の状態が不可逆的に著しく悪化し、Y2医師の診察を受けた時点においては、死亡直前の状態であったと認めるのが相当。
そうした状態のAに対して酸素療法等も含めて何らかの治療をしても改善が見込まれることは基本的になく、延命措置を希望していない患者に対してこれらの措置を実施することは患者にとって苦痛になる。

Y2医師がAを診察した時点において、Aに対して行なうべき何らかの医療措置をとる義務を負っていたと認めることはできない。

請求棄却。 
  判断 Y2医師が入手した情報と診察結果

少なくともAのカルテを閲覧して従前の診断及び治療の経過を確認するとともに、バイタルサインの数値等に基づき、必要に応じて酸素吸入等の応急処置を行い、心電図等検査の要否を含む病態の把握と疾病の診断、疾病に応じた治療について検討し、自身の対応が困難であれば隣接するZ病院にストレッチャーで移送して他の医師に迅速な引継ぎをおkない、対応をを依頼するなど、適切な医療処置を施すべき義務があったところ・・・「カルテがなく適切な診断ができない為様子見」としたにとどまる⇒Y2医師において適切な医療処置を施すべき義務違反した過失。 
①Aの死因は急性心筋梗塞と診断され、発症から死亡までの期間が約2時間とされている
②C医師も、Aの救命の可能性については肯定的でない

Y2医師がAに対して適切な医療措置を行なった場合にAを救命し得たであろう高度の蓋然性まで認めることは困難。
but
Y2医師においても、診察時のAの病態について、医療処置による延命の可能性を否定していない

適切な医療処置が行なわれていたならばAがその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性はあったと認められる。

慰謝料の一部の限度で損害賠償請求を一部認容。
  解説 最高裁H12.9.22:
医師が過失により医療水準にかなった医療を行わなかったことと患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、前記医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合には、医師は、患者が前記可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負う。 
  民事p31
広島高裁R2.3.25  
  いわゆるフィリピン残留2世の就籍許可申立て(認容)
  事案 フィリピン共和国に居住し、フィリピンの政府から無国籍者と認定されている一方で、わが国の戸籍には記載されていない抗告人が、自身は日本人である父とフィリピン人である母との間に出生した日本人であるが、本籍を有しないと主張
⇒戸籍法110条に基づき、就籍の許可を求めた。 
  原審 抗告人の父Aが日本人であったとは認められない⇒却下。 
  判断 抗告人が
(1)その父Aが日本人であり、
(2)Aの嫡出子である場合、
出生により日本国籍を取得したものである。
(旧国籍法1条、平成18年法律第78号による廃止前の法例(旧法例)17条、13条1項以下) 
●(1)について 
①フィリピンにおけるAと抗告人の母との遅延登録(出生や婚姻等の事実から相当期間が経過した後に受け付け登録する制度)による婚姻証明書(有効性及び信用性を肯定)にAの国籍として「日本」と記載されていること
②Aの呼称は日本人の姓又は名であり得ること
③Aは、家庭内で抗告人の母及び異父姉に自らを「トウサン」と呼ばせ、抗告人の母との間の長男の名は日本人の長男に付けられる名の1つであり、抗告人の名も日本人の名の1つであるなど、日本の過程における習慣を有していたこと
④Aが、Q地において日本人との親交があり、関係者から日本人であると認識され、家庭以外において日本人として社会生活を送っていたこと、

Aが日本人であるというべき積極事情。
Aについては、Q地に至った経緯は判然とせず、戦争末期かつ外国であるフィリピンにおいて行方不明となってから既に75年も経過

出生地やわが国在住の存続派明らかでないことや当時の外交旅券下付表にAと年齢等が整合する者の記録が確認されないことを重視するのは相当でない。
⇒Aは、少なくとも抗告人の母の挙式や抗告人の出生の当時、日本人であったと認定。
●(2)について 
旧法例17条、13条1項を踏まえ、認定事実に基づき、Aと抗告人の母との婚姻の成立要件の充足を検討。
・・・抗告人はAの嫡出子である(旧法例17条、旧民法820条1項)と認定。
  ⇒原審判を取り消し、抗告人の申立てを認容。
  解説 就籍:日本国籍を有するが本籍を有しない者が、家庭裁判所の許可を得て就籍の届出をすることによって戸籍を編纂すること(戸籍法110条1項)。 
  民事p37
神戸地裁R2.2.20  
  鉄道高架下土地の賃貸借契約の借地法の適用(否定)
  事案 鉄道高架下の各土地を目的物とする欠く賃貸借契約について、賃貸人である原告が、賃借人である被告らに対し、賃貸借契約の期間満了を理由として、それぞれ前記各土地の明渡し及び期間満了日の後の日から明渡し済みまでの賃料相当損害金の支払を求めた事案。 
  争点 本件各賃貸借契約に借地法の適用があるか、
借地法の適用あり⇒原告による更新拒絶に正当事由が認められるか 
  判断 ①本件各土地につき鉄道高架下土地であるがゆえの物理的な制約がある、
②本件各賃貸借契約においても原告が営む鉄道事業の公共性に伴い一般的な建物所有目的の土地賃貸借契約には見られない種々の制約が定められ、これに則った管理が行われており、賃料も前記各制約を反映して相当賃料に比して低廉な額となっている
③目的物の性質状ないし本件各賃貸借契約上、一般の土地賃貸借契約には見られない種々の制約がある

いずれも建物所有目的の土地の賃貸借契約ではなく、一般の土地賃貸借契約とは異なる特殊な契約であり、借地法は適用されない。 

①・・・・本件各土地の物理的ないし客観的状況からすると、本件各賃貸借契約に基づき利用することのできる空間は極めて限定的
②・・・原告は、その営む鉄道事業に支障が生じないよう賃借人の本件各土地の私用につき、種々の制約を加えて、かつ、実際にも原告がこれに則った管理を行っている
③本件各賃貸借契約の賃料は、本件各土地の性質上ないし本件各賃貸借契約上の種々の制約を反映して相当賃料に比して半額ないしその5分の1程度という低廉な額となっている 
本件各賃貸借契約にかかる契約書にには、いずれも土地(高架下)賃貸借契約との表題が記載され、かつ、その用途についても堅固な建物設置、契約期間も30年間である旨の定めがある
vs.
①表題については、あえて高架下との記載もされている⇒表題の記載をもって本件各賃貸借契約が一般の賃貸借契約であるとまではいえない
②目的物の用途及び契約期間についても、一般の土地賃貸借契約を共通することは否定できないが、・・・前記判示を左右するものではない。
  解説 同じく一般の土地の賃貸借契約とは異なった特殊な契約であるとして借地法の適用を否定した東京地裁H19.9.28:
①賃貸借契約の目的物である土地について賃貸借等に供することができる部分は地表並びにその地表と鉄道高架及び柱に囲まれた部分に限定され
②鉄道高架橋を公共性の高い鉄道が走っており、鉄道事業に支障が生じないように使用すべき制約がある、
③契約書においても、目的物田効果橋下設備、期間も3年間、以後1年ごとの更新とするなど一般的な土地の賃貸借契約にはおいては見られない種々の制約がさd目られていた

当該賃貸借契約は、一般の土地の賃貸借契約とは異なった特殊な契約。
その他裁判例。
  知財p47
最高裁R2.7.21  
  著作権侵害による発信者情報開示請求事件
  事案 写真家であるXが、自己の著作物であるスズランの写真の複製画像が掲載されたツイッター上の投稿(リツイート等)によって著作権及び著作者人格権が侵害された⇒Y(ツイッター社)に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者上場の開示に関する法律(「プロバイダ責任制限法」)4条1項に基づき、本件各リツイート者等の発信者情報の開示を求めた。
  争点 本件各リツイート記事では写真画像がトリミングされた形で表示され、当該著作者名の表示が消えている⇒
本件各リツイートによる氏名表示権侵害の成否、発信者情報開示請求の「発信者」等の要件充足の有無などが争点に。 
  判断  本件各リツイートによる氏名表示権侵害及び発信者情報開示請求の要件の充足を認めた。 
  著作権法19条1項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」は、同法21条から27条までに規定する権利に係る著作物の利用によることを要しない。 
インターネット上の情報ネットワークにおいてされた他人の著作物である写真の画像の掲載を含む投稿により、同画像が、著作者名の表示の付された部分が切除された形で同投稿に係るウェブページの閲覧者の端末に表示された場合において、
同閲覧者が当該表示された画像をクリックすれば、前記著作者名の表示がある元の画像を見ることができるとしても、次の(ア)(イ)など判示の事情の下では、同投稿をしたものが著作者名を表示したことにはならない。
(ア)前記作者名の表示がある元の画像は、前記ウェブページとは別個のウェブページで見ることができるにとどまる。
(イ)前記閲覧者が当該表示された画像を通常クリックするといえるような事情はうかがわれない。
プロバイダ責任制限法4条1項に基づく発信者情報の開示請求をする者が、インターネット上の情報ネットワークにおいてされた同人の著作物である写真の画像の掲載を含む投稿により、同写真に係る氏名表示権を侵害された場合において、同投稿により、動画像ファイルへのリンク及びその画像表示の仕方の指定に係るHTML等のデータが特定電子通信設備の記録媒体に記録されて同投稿に係るウェブページの閲覧者の端末に送信さ、これにより、リンク先のサーバーから同端末に動画像のデータが送信された上、同端末において前記指定に従って動画像の一部切除された形で表示された結果、動画像に付された著作者名が表示されなくなり、前記氏名表示権の侵害がもたらされたという事情の下では、同投稿をした者は、同項の「侵害情報の発信者」に該当し、かつ、同項1号の「侵害情報の流通によって」前記開示請求をする者の権利を侵害したものといえる。
  説明 ●問題の所在
本件各リツイート者の発信者情報の開示を求めるXの請求が認められるためには、
①「侵害情報の流通によって」Xの「権利が侵害された」ことが明らかであること(プロバイダ責任制限法4条1項1号)、
②本件各リツイート者が「侵害情報の発信者」に当たること(同号括弧書)
が必要。
要件①の権利侵害について、原審は、
氏名表示権侵害及び同一性保持権侵害を認めた。
but
同一の発信者情報の開示請求について、氏名表示権侵害の主張と同一性保持権侵害の主張とは選択的な関係

いずれか一方を認める場合には、必ずしも他方について判断する必要はない。
⇒本判決は前者を認める判断を示したのみ。
本件氏名表示権侵害については、
①著作権侵害となる著作物の利用がない場合に氏名表示権侵害を肯定し得るか
②本件において本件各リツイート者が著作者名を表示したといえるか
が問題。
  ●リンクと著作権の問題 
画像ファイルをサーバーに記録したのは元ツイート者⇒リンク設定者であるリツイート者が著作権(公衆送信権、複製権)を侵害したとは認められないというのが一般的な理解。
尚、公衆送信権侵害の幇助については、別途議論の余地がある。
本件では、画像がトリミングされた形で表示され、その結果氏名表示部分が消えてしまった⇒原審は、本件各リツイート者が同一性保持権及び氏名表示権を侵害したものと認めた。
  ●氏名表示権侵害の成否 
本件各リツイート者は著作権侵害となる著作物の利用をしていない⇒著作権法19条1項の「著作物の公衆への提供若しくは提供に際し」という要件を満たさない。
vs.
〇支分権該当行為がなくても前記要件を欠くことにはならず氏名表示権侵害は成立し得る(多数説・本判決)。

①著作権法19条1項は、同法18条2項1号こは異なり、文理上、「提供若しくは指示」を、著作権の行使(支分権該当行為)を伴う態様のものに限定していない
②氏名表示権は著作者と著作物との結び付きに係る人格的利益を保護する趣旨の権利であり、この点は支分権該当行為を伴うと否とで異ならない。
本判決:
本件各リツイート者が、本件各リツイートによって、支分権侵害となる著作物の利用をしていなくても、本件各ウェブページを閲覧するユーザーの端末の画面上に著作物である本件各表示画面を表示したことは、著作権法19上1項の「著作物の公衆への・・・提示」に当たる旨判示。
  プロバイダ責任制限法4条1項の要件との関係で
①「侵害情報の流通によって」その権利侵害がされたといえるか
②本件各リツイート者が「侵害情報の発信者」に該当するか
が問題。
本判決:
本件リンク画像表示データを「侵害情報」と捉えた上で、プロバイダ責任制限法4条1項1号の「侵害情報の流通によって」の要件の充足を認めた。
「侵害情報」をそのように捉えた

本件各リツイート者は、もとより本件リンク画像表示データを特定電気通信設備の記録媒体に記録した⇒画像データをサーバーに記録等していなくても、「侵害情報の発信者」(同法2条4号、4条1項柱書)に該当。
  知財p68
東京地裁H31.3.7  
  Y2が特許権侵害となるOEM製品を国内で製造して輸出⇒Y1、Y2、Y3には国内での製造・輸出に関して共同不法行為が成立するとして、特許法102条2項の推定を肯定
  事案 発明の名称を「磁気記録媒体、磁器信号再生システムおよび磁器信号再生方法」とする特許第4459248号に係る特許権(「本件特許権1」)及び発明の名称を「磁気記録再生システム及び磁気記録再生方法」とする特許第3818581号に係る特許権(「本件特許権2」)を有するXが、Yらによるデータカートリッジの製造・販売等が本件特許権1・2を侵害すると主張⇒Yらに対し、自社製品の製造・販売等の差止め、廃棄並びに製造設備の除却を求めるとともに、Y製品に係る総額約51億4670万円の損害賠償を求めた。 
  判断 Y製品による本件特許権1の侵害を認める一方、
本件特許権2に係る特許については、進歩性欠如の無効理由がある。 
特許法102条2項に係る「輸出を伴う取引形態における利益の範囲」について、
OEM製品は、その性質上、Yらが、OEM供給先の発注を受けて製造し、OEM供給先に対してのみ販売することが予定されたもの

Y2がOEM製品を日本国内で製造して海外に輸出し、Y1やY3に販売し、さらにY1やY3がこれを顧客(OEM供給先)に販売するという一連の行為が行われた際には、その前提として、当然、当該製品の内容、数量等について、YらとOEM供給先との密接な意思疎通があり、それに基づいてY2による日本国内での製造と輸出やその後におけるYらによる販売が行われたことを優に推認することができる。

前記一連の行為の一部が形式的にはOEM製品の輸出後に行なわれたとしても、前記一連の行為の意思決定は実質的にはOEM製品が製造される時点で既に日本国内で行なわれていたと評価することができる。
少なくとも、本件特許権1の侵害行為であるOEM製品の国内での製造及び輸出がYらによる共同不法行為であると認められる
⇒Yらによる販売行為が、全てY2がOEM製品を海外に輸出した後に行なわれたものであるとしても、Yらの販売行為による利益は、Yらによる国内における前記共同不法行為(OEM製品の国内での製造及び輸出)と相当因果関係のある利益(原告にとっての損害)ということができ、侵害行為により受けた利益といえる。
当該取引形態によってYらが得た利益についても、特許法102条2項の推定が及ぶと解すべきであり、このように解しても、わが国の特許権の効力をわが国の領域外において認めるものではない⇒属地主義の原則とは整合する。
  解説 特許権における属地主義の原則:
最高裁:
「各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味する。」

後段については、特許権の効力は特許権が成立した国以外に及ばないという特許権の効力についての実質上の原則を定めたもの。
本判決:
①Yらが製造から販売までを行なうグループ会社であること
②OEM製品が、その性質上、発注・製造時点で供給先への販売までが予定されているという特殊性

国内での製造・輸出から海外での供給先への販売までの一連の行為の意思決定が実質的には国内での製造時点で既に国内で行なわれていたと評価でき、海外での販売を前提としたYらの国内での製造・輸出が共同不法行為に当たる

特許法102条2項の適用について、海外での販売による利益をその「行為による利益」と捉えることができる。
前記のほか、本判決は、
特許法102条2項の適用において、
特許権者が発明を実施していないことは適用を妨げる事情ではないと判示。

同条項のいわゆる推定覆滅事由の存在について、推定覆滅事由として認められるためには、特許権侵害がなかったとしても、侵害品(Y製品)の販売等による利益(の一部)は特許権者(X)に向かわなかったであろう事由の存在が必要⇒侵害品の顧客の購入動機が単に本件発明の作用効果に着目していなかったというのでは足りず、侵害品の顧客の購入動機が、侵害品の独自の技術や性能に着目したものであったことを具体的に主張立証する必要がある⇒その存在を認めなかった。
  刑事p152
最高裁R2.2.25  
  控訴取下げを無効と認め訴訟手続を再開・続行する決定に対する不服申立て
  事案 殺人被告事件で一審で死刑判決⇒控訴⇒控訴取下げ⇒控訴取下げは無効であるとして控訴審の審理続行を求めた⇒控訴審が、控訴取下げを無効と認め訴訟手続を再開・続行する旨の決定

検察官が、高裁に対して即時抗告に代わる異議申立てをするとともに、最高裁に対して特別抗告を申し立てた。 
  判断 高等裁判所がした控訴取下げを無効と認め訴訟手続を再開・続行する旨の決定に対しては、その高等裁判所に異議申立てをすることができる⇒原決定は、刑訴法433条1項にいう「この法律により不服を申し立てることができない決定」に当たらない⇒本件特別抗告は不適法。
  解説  上訴取下げ⇒訴訟は終了。
被告人が、裁判所に対し、上訴取下げは無効であるとして審理の続行を求める
~ 職権発動を促すものにすぎない。
but
上訴取下げが有効と認められる場合は、上訴取下げにより訴訟が終了していることを明らかにし、その後の執行等に際して問題が生じないようにするため、決定で訴訟終了宣言をすることが判例上認められ、実務の通例。
訴訟終了宣言決定に対する不服申立て:
最高裁昭和61年決定:
①訴訟終了宣言決定が、訴訟の終結に係る裁判であるという実質に着目し、
②訴訟追行に関する形式的裁判という点で性質を同じくする控訴棄却決定に対して即時抗告が認められていること(刑訴法339条、375条)や、実質において近似する上訴権回復請求棄却決定に対して即時抗告が認められていること(刑訴法364条)等

訴訟終了宣言の決定は、その性質上、即時抗告をすることができる旨の規定がある決定として取り扱うべきものと解して、不服申立ての途を創設。
  裁判所において上訴取下げが無効であると判断⇒通常の手続に従って審理が続行される。
これにより上訴取下げが無効であることが外部的にも明らか⇒無効決定をする必要はない。
but
原審は、事案の重大性に鑑みて明示の無効決定をした。
本決定:
無効決定についても、性質上、即時抗告をすることができると解するのが相当であると判断し、刑訴法433条1項にいう「この法律により不服を申し立てることができない決定」に当たらない⇒本件特別抗告を不適法とした。
2471   
  行政p3
最高裁R2.6.30  
  大阪府泉佐野市のふるさと納税の問題
  事案 Y(総務大臣)が、大阪府泉佐野市につき、いわゆるふるさと納税を受け入れる地方団体としての指定をしない旨の決定(「本件不指定」)をした⇒X(泉佐野市長)が、本件不指定は違法は国の関与に当たると主張して、地自法251条の5第1項に基づき、Yを相手に、本件不指定の取消しを求めた。 
  事実の概要 ふるさと納税制度:
個人住民税の納税義務者の地方団体に対する寄付金のうち一定額を超える額について、所得税の所得控除及び10%相当額の個人住民税の税額控除に加えて、個人住民税の税額控除の金額に所定の上限額の範囲内で特例控除額の加算(「特別控除」)をするという制度。

前記上限額の範囲内であれば、寄付金のうち前記一定額を超える部分の全額が、所得税及び個人住民税から控除される。
地方団体が寄付金の受領に伴い提供する物品、役務等(「返礼品」)について特に定める法令上の規制なし⇒返礼品提供競争の過熱⇒総務大臣は、平成29年及び同30年、地方団体に対する地自法245条の4第1項の技術的な助言として、返礼品について返戻割合を3割以下とすること及び地場産品に限ることを求めたが、複数の地方団体は従わず。
平成31年法律第2号(平成31年3月27日成立)による地税法の一部改正
⇒特例控除の対象となる寄付金について、所定の基準に適合する地方団体として総務大臣が指定するものに対するものに限られるという制度(「本件指定制度」)導入。
同導入等を内容とする地税法37条の2及び314条の7の改正規定は、令和1年6月1日から施行。
地税法37条の2は、指定の基準として、「寄付金の募集の適正な実施に係る基準として総務大臣が定める基準」に適合すること及び返礼品等を提供する場合には返戻割合が3割以下かつ地場産品であることを規定。
総務大臣は、平成31年4月1日、
地税法37条の2第2項に基づき、募集適正基準等を定める告示を発し
2条3号は、募集適正基準の1つとして、平成30年11月1日から指定の申出書を提出する日までの間に、ふるさと納税制度の趣旨に反する方法により他の地方団体に多大な影響を及ぼすような寄附金の募集を行い、当該趣旨に沿った方法による寄附金の募集を行う他の地方団体に比して著しく多額の寄附金を受領した地方団体でないことと定めていた。
・・・・Yは、泉佐野市について、
①申し出書及び添付資料の内容が指定の基準に適合していることを証するとは認められないこと(不指定理由①)
②本件告示2条3号に該当しないこと(不指定理由②)
③法定返礼品基準に適合するとは認められないこと(不指定基準③)
を理由に、本件不指定。

Xは、本件不指定に不服があるとして、地自法250条の13第1項に基づき、国地方係争処理委員会に対し、審査の申出

同委員会は、同法250条の14第1項に基づき、Yに対して、不指定理由①及び②は不指定の根拠とならず、不指定理由③については更に検討を要する状況にあるとして、本件指定申出について再度の検討を行うことを勧告

Yは、Xに対し、再度の検討を行った結果、
不指定理由①については独立した理由として扱わず
不指定理由②及び③については判断を維持

Xは、このYの措置に不服があるとして、地自法251条の5第1項2号に基づき、本件訴えを提起。
  争点 本件告示2条3号の規定の適法性
特に、同号が保険改正規定の施行前の期間における寄附金の募集及び受領を指定の基準として定める⇒地税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱するものか? 
  判断 本件告示2条3号の規定のうち本件改正規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分は、
地税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効。
不指定理由②を不指定の理由とすることはできない
不指定理由③を不指定の理由とすることもできない

不指定理由②③を理由とする本件不指定は違法であり、原判決を破棄し、本件不指定を取り消す旨の自判。 
  解説    ●本件告示の法的性質等 
行政機関が法条の形式をもって定めを置く場合、
当該定めは、
①法規命令(行政主体と国民の関係の権利・義務に関する一般的規律を定めるもの)と
②行政規則(行政機関相互を拘束するが、国民の権利・義務に直接関係しないもの)
とに分類され、このうち法規命令の策定には法律の授権(委任)が必要であるとされている。
but
①地税法37条2項は、指定の基準のうち募集適正基準の策定を総務大臣に委ねており、同大臣は、この委任に基づいて、募集適正基準の1つとして本件告示2条3号を定めたもの。
②地自法245条の2は、いわゆる関与の法定主義を規定するところ、本件告示2条3号は、普通地方公共団体に対する国の関与に当たる指定の基準を定めるもの⇒関与の法定主義に鑑みても、その策定には法律上の根拠を要する。

本判決:
本件告示2条3号の規定が地自法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱するものである場合には、その逸脱する部分は違法なものとして効力を有しない⇒その委任の範囲が問題。
  ●委任の範囲に関する判断枠組み
委任命令が委任をした法律(授権法)の委任の範囲を逸脱するものか否かが問題となった最高裁判決においては、その判断要素として、
①授権規定の文理
②授権法が下位法令に委任した趣旨
③授権法の趣旨、目的及び仕組みとの整合性
④委任命令によって制限される権利ないし利益の性質等
が考慮されており、
必要に応じて授権規定の立法過程における議論等も検討の対象とされている。

これらの諸要素を総合的に考慮した結果、当該委任命令の規定が授権法の委任の範囲を逸脱
⇒当該規定は違法であり無効。
  ●本件告示2条3号の適否 
これまでに授権法の委任の範囲を比較的厳格に解した最高裁判決は、
国民の憲法上の権利等を制約する委任命令に係るもの。

本件告示によって直接制約されるのは地方団体の地位ないし利益
but
本判決:
本件告示2条3号につき、
本件改正規定の施行前における募集実績事態を理由に指定を受けられないこととする趣旨のものであり、
実質的には総務大臣による地自法245条の4第1項の技術的な助言に従わなかったことを理由とする不利益な取り扱いを定める側面がある

普通地方公共団体が国の行政機関が行なった助言等に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いを禁止する同法247条3項の趣旨も考慮すると、
本件告示2条3号が地税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱したものではないというためには、前記趣旨の基準の策定を委任する授権の趣旨が、同法の規定等から明確に読み取れることを要する。
授権法の法文の文理を検討し
募集適正基準とは、指定対象期間における寄附金の募集の態様に係る基準と解するのが自然であって、本件改正規定の施行前における募集実績自体をもって指定を受ける適格性を欠くものとすることを予定していると解するのは困難。
委任の趣旨について検討し、
地税法が募集適正基準等の内容の策定を総務大臣に委ねた趣旨(同大臣の専門技術的な裁量に委ねるのが適当であること、柔軟性を確保する必要があること)が、本件告示2条3号のような内容の基準の策定についてまで妥当するとはいえない。
本件改正規定に係る法律案の作成の経緯及び国会における審議の過程を検討し、
同法律案につき、国会において、募集適正基準が本件改正規定の施行前における適格性を欠くものとする趣旨を含むことが明確にされた上で審議され、その前提において可決されたものということはできない。

本件告示2条3号の規定のうち、本件改正規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分は、地税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効。
⇒不指定理由②を不指定の理由とすることはできない。
  ●不指定理由③の適否 
  民事p49
最高裁R2.7.9  
  交通事故の被害者の後遺障害による逸失利益についての定期金による賠償(肯定)
  事案 交通事故の被害者であるXが、加害車両の運転者Y1、保有者Y2及び同人と対人賠償責任保険契約を締結していた保険会社であるY3に対し、不法行為に基づく損害賠償等を請求。 
事実 平成19年2月、X(当時4歳)は、道路を横断中に、Y1が運転する大型貨物自動車に衝突される⇒脳挫傷、びまん性軸索損傷等の傷害を負った⇒平成24年12月症状固定but高次脳機能障害の後遺障害が残り、労働能力を全部喪失。
Xは、Yらに対して本件訴訟を提起し、損害のうち後遺障害逸失利益について、Xの就労可能期間の始期である18歳になる月の翌月から就労可能期間の終期である67歳になる月までの間毎月、Xが各月に取得すべき収入相当額(賃金センサスによる平均賃金を基礎収入額とし、これを12分した金額)を定期金として支払うよう求めた。
  判断 交通事故の被害者が後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、不法行為に基づく損害賠償制度の目的及び理念に照らして相当と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となる。
交通事故に起因する後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずるに当たっては、事故の時点で、被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要しない。
交通事故の被害者が後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、同人が事故当時4歳の幼児で高次脳機能障害という後遺障害のため労働能力を全部喪失し、同逸失利益の現実化が将来の長期間にわたるなど判示の事情の下では、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となる。
    ●後遺障害逸失利益が定期金による賠償の対象となるか?
  解説 A:肯定説:
①将来の毎期の収入減を填補すべき賠償請求権は各期末に発生⇒後遺障害逸失利益の損害の性質から将来給付の訴えとして定期金賠償が導かれるのが自然
②定期金賠償の実際上の利点
③平成8年法律第109号による民訴法改正において、定期金賠償を命じた判決について著しい事情変更があった場合に確定判決の内容を事後的に修正するための手続規定(民訴法117条)が新設。その立案担当者の解説においても、定期金賠償判決の典型例として、人身損害における逸失利益が挙げられていた。

B:否定説
「交通事故の被害者が、その後口頭弁論終結時までに死亡したとしても、特段の事情がない限り同死亡の事実は後遺障害逸失利益の損害額の算定上考慮しない」とするH8.4.25最高裁判決。

後遺障害逸失利益は将来継続的に発生すべき損害とはいえないから、そのような損害を対象とし、被害者の死亡により支払が打ち切られるべき方式である定期金賠償の対象とはならない。」
本判決:
後遺障害逸失利益の定期金賠償の可否については、
交通事故の被害者が定期金賠償を求めている場合に、
「不法行為に基づく損害賠償制度の目的及び理念に照らして相当と認められるとき」
との要件の下で、
後遺障害逸失利益が定期金賠償の対象となる旨判示し、肯定説を採ることを明らかにした。
不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者が被った不利益を補填して、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とし、また、損害の公平な分担を理念とするもの(最高裁)。

身体障害による労働能力喪失により将来取得すべき利益を喪失したという損害の性質⇒後遺障害逸失利益の補填は、一時金ではなく、将来において当該利益の喪失が現実化する都度これに対応する時期にその利益に対応する学の金員を支払うという賠償方法によることが、原状回復の観点から相当な場合がある。

逸失利益の算定の基礎となる後遺障害の程度や賃金水準等は、想到長期にわたる将来予測等に基づく場合もあるところ、定期金による賠償であれば、将来、これらの事情が著しく変動し、予測した損害額と現実化した損害額との間に大きなかい離が生ずるような場合であっても、民訴法117条によってその是正を図り、実質的な損害の公平をな分担を実現することも可能に。


後遺障害逸失利益の定期金賠償が認められる。
×A:定期金賠償が、将来発生する損害についての将来給付の訴えとしてのみ認められることを前提とする考え。
vs.
①民訴法117条は、その文言上、「口頭弁論終結前に生じた損害」という既発生の損害につき定期金賠償が命ぜられることを明らかに
②本判決も、同一の身体傷害を理由とする不法行為に基づく損害は全て不法行為時に発生するという確立した判例の立場を前提

〇B:定期金賠償は、既発生の損害を対象として認められ得るものであり、一時金賠償とは同一の損害を対象とする異なる損害賠償の方法であるとの理解
●定期人賠償を命じる場合の賠償の終期 
本判決:継続説
●本件における定期金賠償の可否 
①Xが交通事故当時4歳の幼児であったこと
②重度の後遺障害のため労働能力を全部喪失した
ことなどの事情を総合考慮

Xの後遺障害逸失利益逸失利益を定期金賠償の対象とすることは「不法行為に基づく損害賠償制度の目的及び理念に照らして相当と認められる」としてこれを肯定。
  民事p68
東京高裁R1.12.19  
  婚姻費用分担額の減額事例
  事案 平成29年8月にxが家を出て別居状態にあるところ、平成30年3月12日に、Yが申し立てた婚姻費用分担調停でXがYに対し同月から離婚又は別居解消に至るまで毎月末日限り月額20万円を支払う旨の合意が成立。
Xは、同年6月28日、同月に勤務先を再雇用になるなどして減収⇒婚姻費用の減額を求める調停⇒不調⇒審判。
  原審 再雇用先を退職した平成31年3月以降は配当収入(給与収入に換算)のみが収入

Xが本件調停の申立てをした月の翌月である平成30年7月以降、XがYに対し、婚姻費用として、
①同月から平成31年3月までは月額15万2000円を
②同年4月から離婚又は別居解消に至るまでは月額3万2000円
を支払うとういものに変更。 
  判断 Xが年金受給資格を有しながら、70歳まで年金を受給しないことについて、同居する夫婦の間では、年金収入はその共同生活の糧とするのが通常

これを相手方の独自の判断で受給しないこととしたからといって、その収入がないものとして婚姻費用の算定をするのは相当とはいえない。

65歳で年金の受給を開始していれば得られた年金額を給与収入に換算した額を前提に、平成31年4月以降の婚姻費用について原審判を改めて月額9万2000円とした。 
(尚、今後Xが年金の受給を開始し、受給関係時期との関係で年金額が高額になっても、その高額な年金の受給に基づいて婚姻費用の算定をすることはできず、婚姻費用を変更すべき事情に当たらない。)
  解説 夫婦間の扶養義務は、生活扶助義務ではなく、生活保持義務
⇒自己と同程度の生活を保持させるというもの。 
婚姻費用の算定の前提となる当事者の収入算定に際しては、必ずしも実績によることなく、当事者の稼働能力を考慮して賃金センサスを用いるなどして算定することもあり、本件も、そうした1事例。
  民事p74
①②  
  ①事件:福岡高裁R2.5.29
②事件:高松高裁R2.9.16
  ①事件 一審判決言い渡し期日の調書に言渡しを行った主体(裁判長)の記載なし⇒控訴審において、適式な判決の言渡しはされなかったとして取り消しを免れない⇒控訴棄却。
  ②事件 一審の審理中に裁判体を構成する裁判官の一部(2名)に交替があったにもかかわらず、口頭弁論調書に弁論の更新がされた旨の記載がされないまま、交代後の裁判体によって原判決が言い渡された⇒控訴審において「第一審の判決の手続が法律に違反したとき」に当たる⇒原判決を取り消して差し戻した。 
  解説 口頭弁論の方式に関する規定を遵守したことは調書によってのみ証明することができ、証拠によって証明することはできない(民訴法160条3項)。
口頭弁論の方式に関する記載(民訴規則66条1項で規定):
立ち会った裁判官及び裁判所書記官・検察官・当事者・代理人・保佐人・通訳人・弁論の公開の有無、弁論の日時及び場所等のほか、
その他法律で規定している口頭弁論の方式(例えば、判決書原本に基づいて言い渡したこと、弁論の更新の場合の従前の口頭弁論の結果の陳述がされたこと)も含まれる。

①判決言渡期日の調書に言渡しを行った主体(裁判長)の記載がない場合
②口頭弁論調書に弁弁論の更新がされた旨の記載がない場合
にはこれを証明することができない。

①は適式な判決の言渡しはされなかったことになり、
②は弁論の更新のないまま交代後の裁判体によって原判決が言い渡されたことになり、
いずれも一審の判決が法律に違反したと評価される。

原判決を取り消さなければならない(民訴法306条)。
原審に差し戻すかどうかは、更に弁論をする必要の有無によって判定。
  労働p105
大阪地裁R2.7.20  
  性同一性障害の労働者の化粧⇒就労拒否⇒使用者の責めに帰すべき労務提供の不能
  事案 タクシー乗務員であるXが、雇用主であるYによる不当な就労拒否があった⇒民法536条2項により、不就労期間について、賃金支払いの仮処分を求めた。
Xは、生物学的性別は男性であるが、性自認が女性で、医師により性同一性障害の診断を受けている。
Xは、顔に化粧を施して乗務を行なっていた。
  争点 生物学的男性であるXが化粧を施した上で業務を行うことをもって、YがXの就労を拒否した場合に、Xの就労が「債権者(本決定における債務者Y)の責めに帰すべき事由」によって不能となったか否か。 
  判断 YがXの就労を拒否したことを前提として、就労拒否が「債権者(本件ではY)の責めに帰すべき事由」によるものであると判断。
Yの就業規則には、従業員が、その身だしなみを、乗客に対して不快感や違和感を与えるものとしてはならない旨の規定がある。
その規定目的自体は正当性を是認できる
but
従業員の身だしなみに対する制約は、業務上の必要性に基づく、合理的な内容の限度に止めなければならない。
Yは、男性であるXが化粧して乗務すること自体を禁止していたものと認められるところ、
他方で、女性乗務員に対しては化粧を施すことを認めていた

化粧につき、生物学的な性別に基づいて異なる取扱いをした
⇒上記の必要性や合理性の存否は慎重に検討される必要がある。
男性に対してのみ化粧を禁止することは、一般論として、必要性や合理性が否定されるものではない。
but
性同一性障害を抱える者にとっては、外見を性自認条の性別に近づけることが「自然かつ当然の欲求」であって、性自認が女性であるXに対しては、女性乗務員と同等に化粧を施すことを認める必要がある。
Xに対して化粧を施すことを認めることによって、Yに経済的損失等が生じるとも限らない

Xに対して化粧して乗務すること自体を禁止することは、上記の必要性も合理性も認められない。
  解説 関連裁判例:
・人事考課において、原告らがひげを生やしていたことを主要な考慮要素として低評価としたことを国賠法上違法と判断した例
・トランスジェンダーである原告に対する、女性用トイレの使用制限が国賠法上違法と判断された例
・性同一性障害による性別変更を理由にゴルフクラブへの入会を拒否したことが違法であると判断した事例
2020年6月15日に出された米国連邦最高裁判所判決において、
同性愛やトランスジェンダーであることを理由とする取扱いの差異が、法の禁止する性別に基づく差別であると判断。
本決定:
男性のみ化粧を禁止することを一般論として許容しながら、
性同一性障害を抱える者の臨床的特徴に照らしつつ、生物学上の性別と性自認とが一致する人格との比較の視点から、生物学上男性でありながら性自認が女性である人格についてまで、一律に男性に分類し、化粧を禁止することにひついては必要性も合理性もなく、
Xに女性乗務員と同等の化粧を施すことを認める必要があると判断。
  刑事p113
東京高裁R1.12.5  
  熊谷6年殺害事件で死刑(一審)⇒控訴審(無期懲役)となった事案 
  事案 3日間にわたり、3世帯の住人6人が被告人により殺害され、金品が奪われた。
事実 被告人に各犯行当時の記憶がない
⇒責任能力の判断の前提となる事実関係を、犯行現場の客観的状況及び事件前の被告人の言動等から推認して、次のとおり認定。





平成27年12月から翌年5月まで鑑定留置が実施され、起訴前鑑定の結果、責任能力は問えるとの判断⇒被告人を起訴。
平成29年4月から8月まで、裁判員法50条に基づく精神鑑定が岡田幸之教授により実施(岡田鑑定)⇒被告人は統合失調症にり患していることが判明。
  争点 被告人には犯行時の記憶がない⇒精神障害が犯行に与えた影響の機序につき被告人が説明することはできないうえ、被告人と弁護人との間の意思疎通も統合失調症のゆえに事実上困難⇒責任能力判断の前に、被告人の訴訟能力の有無が問題。 
被告人の精神的能力や意思疎通能力が相当程度毀損していたことを認めたものの、全く失われた状況ではなかった
⇒弁護人及び裁判所の後見的役割をも加味すれば訴訟能力は失われていなかったと判断。

被告人による説明が不可能な場合に精神障害が犯行に与えた影響の機序をどのように判断するかという困難な問題をめぐって、責任能力判断の前提となる精神の障害とそれが犯行に影響を及ぼした機序に関する事実認定が最大の争点。
  判断等   責任能力の判断の枠組み:
①被告人の精神障害(生物学的要素)の有無と内容に関する事実認定
②精神障害の症状等が犯行に及ぼした影響の仕方(機序)に関する事実認定
を踏まえて
③弁識能力・制御能力(心理学的要素)に関する法的評価をし、
責任能力の有無という法的判断を行う。 
①②の事実認定:
法律家による法律判断の前提であると同時に精神医学的な事実の認定でもある

裁判所は、基本的には専門家たる精神医学者が鑑定人として認定した事実を尊重すべき。
③の最終的な法律判断:
裁判所が他の証拠から認められる事実をも含めて総合的に判断⇒精神医学者の意見には拘束されない。

確立された判例の立場
  責任能力判断における精神医学者と法律家の役割分担について、
岡田教授の提唱にかかる「8ステップモデル」が裁判実務に浸透。
これによれば「ステップ④」にあたる精神症状等が犯行に及ぼした影響の仕方(機序)が「鑑定書の核」として最も重要とされる。

幻覚、幻聴、妄想等の精神症状が犯行に影響を及ぼしたと考えられる具体的な前提事実の認定が重要とされる。 
  ●原判決:
被告人が統合失調症に罹患して被害妄想及び追跡妄想があり、それらが行動の全般にわたって影響を及ぼした蓋然性が高いとする岡田鑑定を採用しながらも、
妄想は現実的に基盤に基づいており、各犯行が統合失調症による病的体験に直接支配されたとは見られない⇒精神障害の影響は、背景的、間接的なものにとどまっていた⇒完全責任能力を認めた。 
金銭に給した被告人が現実的な欲求に基づき強盗の犯行を決意したものであり、被害者らの殺害も金品入手のための妨害排除の行為とんみられる⇒被告人の行動は病的体験を前提としなくとも了解可能
⇒岡田鑑定の精神症状等が犯行に及ぼした影響、すなわち機序の部分を採用しなかった。
  ●本判決:
被告人に「金品入手の目的」があったと認定することに誤りはない。
but
原判決が、被告人の動機や目的を推認するにあたり、岡田鑑定により認定できる犯行当時の精神状態を十分に検討せず、妄想のみを前提とするにとどまり動機の形成過程を捨象した点は判断枠組みとして不合理。

岡田鑑定:
被告人は、犯行当時、統合失調症の影響により、前記妄想を有していたほか、「精神的な不穏状態」、すなわち「状況を誤って被害的に確信し、その誤った確信によって衝動的で突発的な行動をする状態」にあったと認められる

各犯行現場への侵入が妄想上の追跡者から身を隠す目的であった可能性を否定できず、
被害者らの殺害も被害者に対して誤った意味づけをして殺害した可能性を否定できない。 
原判決による岡田鑑定の証拠評価には看過し難い誤りがある
⇒被告人の行動が了解可能な動機に基づく合理的な行動と評価することはできず、完全責任能力を認めた原判決の判断は、論理則、経験則に照らして不合理⇒原判決を破棄。
被告人は統合失調症に影響されてはいたが、自発的意思に戻づく部分も一定程度残されていた⇒弁護人の心身喪失の主張を退け、被告人は犯行当時心神耗弱の状態にあった。
  解説 本判決:
原判決が精神障害の犯行を及ぼした影響の機序を認定するうえで、鑑定人の意見から認められる前提事実のうち妄想のみに着目して「精神的な不穏状態」が動機形成に与えた影響を十分に考慮しなかった点を、判断枠組み及び証拠評価の両面から不合理としたもの。
  刑事p129
東京高裁R2.7.28  
   
  事案 特別養護老人ホーム(本件施設)に入所していた被害者(当時85歳)が、間食として提供されたドーナツを摂取して窒息し、死亡⇒准看護師に業務上過失致死罪が問われた。
  過失 主位的:
被告人において、被害者の食事中の動静を中止して食物による窒息事故を未然に防止すべき業務上の注意義務があったのに、これを怠った過失がある。
予備的:
被告人において、各利用者に提供すべき間食の形態を確認した上、これに応じた形態の間食を利用者に配膳して提供し、窒息等の事故を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、ゼリー系の間食を提供するとされていた被害者に本件ドーナツを配膳して提供した過失がある。
  原審 被害者の死亡の機序:
本件ドーナツが喉頭ないし気管内を閉塞したため窒息が生じ、被害者はこの窒息により心肺停止状態に陥り、これに起因する低酸素脳症等により死亡。
主位的訴因に係る過失は認められない。
予備的訴因に係る過失について:
本件施設の利用者に間食の形態を誤って提供した場合、特にゼリー系の間食を配膳することとされている利用者に常菜系の間食を提供した場合、誤嚥、窒息等により、利用者に死亡の結果が生じることは十分に予見できたとして、予見可能性を肯定、
被告人は、当日、日勤の看護業務の間、介護士による間食の解除を手伝うために食堂に来たもので、被害者に対する間食の形態がゼリー系のものに変更されていたこと(本件形態変更)は伝えられていなかったが、介護士作成の資料を遡って確認するか、間食介助の現場において介護士に確認する義務があり、これを怠った過失がある。
⇒罰金20万円。
  判断  原判決の予見可能性について、
特別養護老人ホームには身体機能等にどのようなリスクを抱えた利用者がいるか分からない⇒「ゼリー系の指示に反して常菜系の間食を提供すれば、利用者の死亡という結果が起きる可能性がある」というところにまで予見可能性を広げたものと言わざるを得ない。
but
具体的な法令等による義務(法令ないしこれが委任する命令等による義務)の存在を認識しながらその履行を怠ったなどの事情のない本件事実関係

原判決のような広範かつ抽象的な予見可能性では、刑法上の注意義務としての本件結果回避義務を課すことはできず、被害者に対する本件ドーナツによる窒息の危険性ないしこれによる死亡の結果に対する具体的な予見可能性を検討すべき。
原判決は、このような予見可能性を検討せず、本件施設における被告人の立場等についても実質的な検討をしないまま過失を肯定したもので、是認することはできない。
  被告人が介護資料を遡って確認すべき職務上の義務があったとはいえない。 
①本件ドーナツによる窒息の危険性
②本件形態変更の経緯及び目的
③本件施設における看護職と介護職が利用者の健康情報等を共有する仕組み
④被告人が事前に本件形態変更を把握していなかった事情
⑤本件当日の状況

本件ドーナツで被害者が窒息する危険性ないしこれによる死亡の結果の予見可能性は相当に低かった。
食品提供行為が持つ意味踏まえた上で、被告人において、自ら被害者に提供すべき間食の形態を確認した上、これに応じた形態の間食を被害者に提供し、本件ドーナツによる被害者の窒息等の事故を未然に防止する注意義務があったということはできない⇒過失を否定。
  解説 予見可能性の対象、程度について、
判例:
結果及び因果関係の基本的部分を予見の対象とする具体的予見可能性説を採用
but
ホテルの経営者が防火防災対策の不備を認識していた以上、いったん火災が起きれば、初期消火の失敗等により本格的な火災に発展し、宿泊客らに死傷の危険の及ぶおそれがあることを容易に予見できたとする最高裁H2.11.16(川治プリンスホテル火災事件)、同H5.11.25(ホテルニュージャパン火災事件)のように、厳格な具体的予見可能性を要求しないものもみられる。 
判例の具体的予見可能性の捉え方に幅があることについて、
判例上、注意義務を構成する結果回避義務の内容は発生根拠等によって要求される内容・程度が異なる得ることが示唆されており(最高裁H29.6.12:福知山線脱線転覆事故強制基礎事件)、本判決も同様の考え方に基づき、
法令等による義務の懈怠の認識のない本件の事案の下では、被害者に対する本件ドーナツによる窒息の危険性ないしこれによる死亡の結果に対する具体的な予見可能性を検討すべきとした。
ドーナツは被害者がこれまで問題なく食べていた食品であり、ドーナツで被害者が窒息する危険性は低かった⇒ゼリーとドーナツの取り違えの予見可能性から、直ちに結果の予見可能性を導くことはできない。

患者を取り違えて手術をした医療事故における麻酔科医の同一性確認義務を認めた最高裁H19.3.26(横浜市大病院患者取り違え事件)において、取り違え手術により確実に患者の身体に対する許されない侵襲が生じるため、当該患者について取り違えの予見可能性が肯定されれば、当然に結果の予見可能性も肯定されるのと異なる。
2470   
  行政p3
東京地裁R2.2.27  
   
  事案 東京都内の幹線道路の整備に関する都市計画事業の認可の適法性が争われた取消訴訟の事案。 
国土交通大臣から権限の委任を受けた関東地方整備局長が、Z(東京都)の申請に基づき事業認可をしたところ、事業地内に現に居住していたXら18人が、Y(国)を相手に、事業認可の違法を主張してその取り消しを求めた。
  解説 都市計画事業は、都市計画に基づいて実施される⇒事業の内容が都市計画に適合することが認可の要件とされている(都市計画法61条1号)。

認可の取消訴訟においては、認可の前提となる都市計画の適法性が争われることが多い。
  争点 ①都市計画決定の手続き上の適法性に関し、旧都計法の特例を定める許可認可等臨時措置法が都市計画決定当時有効に存在していたか
②事業認可の適法性に関し、 その前提となる都市計画決定の適法性の判断基準時をいかに解するか(都市計画決定後の事情の変化により事業認可が違法となる余地があるか)
  解説・判断   ●臨時措置法の有効性について 
臨時措置法:
太平洋戦争中の昭和18年に立法された、3項からなる法律。
臨時措置法1項:
「大東亜戦争に際し行政簡素化のため必要あるときは勅令の定める所に依り法律に依り許可、認可・・・等を要する事項」について、これを「要せざることとすること」ができると規定

臨時措置法の委任を受けた都市計画法及び同法施行令臨時特例2条は、
「都市計画法第3条の規定による内閣の認可」(旧都計法3条が手続要件として定める内閣の許可)について、「これを受くるを要せず」と規定。

本件都市計画決定は、これらの規定に基づき旧都計法3条所定の内閣の認可を受けていない。
Xら:臨時措置法1項の「大東亜戦争に際し」との文言⇒臨時措置法は、太平洋戦争(大東亜戦争)遂行のための戦時国内体制確立を目的として立法されたものであって、同戦争終結と同時失効している⇒戦後に行われた本件都市計画決定に適用される余地はない

政府:臨時措置法が平成3年に廃止されるまでの間、一貫して、「大東亜戦争に際し」との文言は法制定の動機にすぎず、臨時措置法の目的は今もなお重要であるとして、その有効性を肯定する見解。
判断:
①臨時措置法の目的である行政手続簡素化の要請は、戦争終了時までに限られるものではなく、戦後の復興の過程においても継続することが容易に想定される。
②臨時措置法がその有効期間について特段の規定を設けていない⇒その効力廃止の時期をいつとするかは、国会及び内閣の裁量に委ねられているものと解するのが相当。

臨時措置法は、廃止されるまで有効に存続していた。
  臨時措置法は許認可制の変更判断を勅令(現行憲法施行後は政令)に全面的に委任⇒委任命令の限界を超え憲法41条、73条6号に反するのではないか。 
but
本判決では触れられていない。
  ●都市計画決定の適法性の判断基準時 
A:都市計画決定時
B:都市計画事業の認可時
C:A説の理解を前提としつつ、様々が法律構成により、都市計画決定後の事情の変化が事業認可の適法性に影響を及ぼす余地を肯定するもの。
本判決:
都市計画決定後の事情の変化が直ちにその適法性に影響を及ぼすものではない。
but
都市計画決定後に相当の長期間を経過し、当該都市計画の基礎とされた社会・経済情勢に著しい変化があったこと等により、当該都市計画の必要性や合理性がおよそ失われ、都計法21条1項に基づき当該都市計画を変更すべきことが明白であるといえる事情が存するにもかかわらず、これが変更されないまま事業認可申請に至ったものであることが一見にして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限り、
事業認可が違法となる。
都市計画事業者の認可権者:
事業の内容が都市計画に適合していることを審査すれば足りるのであって(都計法61条1号)、他の都市計画との整合性等を見る以外に、都市計画の内容を審査することまでは想定されていない。
かえって、都市計画事業の認可権者が都市計画の具体的な内容によって審査を行うことは、都市計画の決定権者たる地方自治体への不当な干渉となりかねない。
but
都市計画を変更すべきことが一見して明白な場合(ex.大規模な自然災害等によって、都市の実体や機能が大きく変容している場合。)
都市計画事業の前提となる都市計画はもはや無効ないし不存在というべき⇒認可権者においては事業の申請を却下すべきであり、このことを看過してされた都市計画事業認可は違法の瑕疵を帯びるものと解される。
  行政p32
東京地裁R1.12.19  
  夫の暴力から逃れるため約13年別居し、住民票の住所を移していた妻について、生計同一要件が認められた事例
  事案 Xが夫Aの死亡後、遺族厚生年金の裁定請求⇒厚生労働大臣(処分行政庁)から、厚年法59条1項所定の「被保険者の配偶者であって、被保険者の死亡の当時、その者によって生計を維持したもの」(「生計維持要件」)に該当しない⇒遺族厚生年金を支給しない旨の処分⇒Y(国)を相手に、本件不支給処分の取消しを求めるとともに、厚生労働大臣が本件裁定請求に係る遺族厚生年金の支給裁定をすることの義務付けを求めた。
  解説  厚年法59条4項:生計維持要件の認定に関し必要な事項は政令で定める。
同法施行令3条の10:
生計維持要件を満たす配偶者等について、
被保険者の死亡当時、「その者と生計を同じくしていた者」(「生計同一要件」)であって、
厚生労働大臣の定める金額以上の収入を招来にわたって有すると認められる者以外のもの(「収入要件」)
その他これに準ずる者として厚生労働大臣の定める者とすると規定。 
本件では、Xについて生計同一要件を満たすかどうかが争われた。
  生計維持要件の認定:
厚生労働省年金局長の通知(H23.3.23発0323第1号「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて」)により認定基準が規定。 
配偶者の生計同一要件に関してては、同認定基準によれば、
①住民票上同一世帯に属しているとき
②住民票上世帯を異にしているが、住所が住民票上同一であるとき
③住所が住民票上異なっているが、現に起居を共にし、かつ、消費生活上の家計を一つにしていると認められるとき
のいずれかに該当⇒生計同一要件を満たす。

これらの場合に当たらなくても、
④単身赴任、就学又は病気療養等のやむを得ない事情により別居しているが、生活費、医療費等の経済的な援助が行なわれていることや、定期的に音信、訪問が行なわれていることといった事情が認められ、その事情が消滅したときには、起居を共にし、消費生活上の家計を1つにすると認められるときは、生計同一要件を満たす。

同認定基準のただし書において
これにより生計維持関係の認定を行うことが実態と著しく懸け離れたものとなり、かつ、社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には、同認定基準の定めによらずに認定することが定められている。
  判断   検討の前提として、
厚年法59条4項を受けた同法施行令3上の10の定めは、
被保険者 と生計を同じくし、かつ一定の収入以下である配偶者は、通常、被保険者等の収入によって生計を維持していたものと推認することができることを前提に、
被保険者等の収入の具体的金額や、それが当該配偶者の生計を維持する上でどの程度の割合を占めていたか等を問わず、生活保障の必要性があるものとして生計維持要件該当性を認める趣旨。
前記認定基準に定めのある④の場合は、①ないし③に該当しない場合でも生計同一要件を満たすと評価できる典型的な場合について定めたものというべきであって、
夫婦の在り方にも様々なものがあり得ることに照らせば、生計同一要件を満たすと評価される場合を前記認定基準に定める場合に限定するのは相当ではない。
前記認定基準総論ただし書はこのような考え方と同旨。
  ①XがAとの別居を開始kしたことはやむを得ない事情によるものであり、別居が長期間に及んだことも、Aが反省の態度を全く見せていなかったこと、Xが弁護士に相談した際、別居して身を守ることを優先すべきである旨の助言を受けたこと、Aが第三者への暴行を繰り返して逮捕され刑務所で服役していたこと等、相応の理由に基づくものといえる。
②別居中のXの生計を維持するには、Xの年金収入及び長男や長女等による経済的援助だけでは足りず、Aの収入から得られた財産(同居時に現金で貯蓄していた金銭及び別居時に持ち出した金銭等)を用いることが不可欠であり、Xが持出すなどした金銭を生活費に充てることについてはAも黙認していたこと
③長期間に及ぶ別居にもかかわらず、X又はAのいずれからも離婚に向けた働き掛けがされたことはなく、そのほかの両名の行動に照らしても、XとAとの婚姻が形骸化し、婚姻が解消されたのと同様の状態にあったとは評価することができない。

Xは、別居中もAとの婚姻関係を基礎として、Aの収入によって生計を維持していたものということができる
⇒生計同一要件を満たすものと評価するのが相当。
本件の事実関係の下においては、XがAの死亡当時Aと生計を同じくしていたと評価することが、生活保障を必要とする被保険者等の配偶者を保護しようとする厚年法59条1項の趣旨に沿うものということができる。
Xが住民法上の住所を移した理由は、Aが健康保険に加入せず、医療費の全額を支払わなければならない状態にあったためであり、このような状態になければ、別居後もAと住民票上の世帯を同じくしていた可能性が否定できない。

本件について前記認定基準に基づき生計同一要件の認定を行うことは、実態と著しくかけ離れたものとなり、社会通念上妥当性を欠くことになる

本件は前記認定基準総論ただし書の場合に当たるものということができる。

本件不支給処分は違法であり、取り消されるべき。
本件義務付け請求は、行訴法37条の3第5項の要件を満たし、厚生労働大臣に対し本件裁定をすべき旨を命ずるのが相当。
  民事p43
最高裁
R2.9.8  
  担保不動産競売の手続で、最高価買受申出人が受けた売却許可決定に対し他の買受申出人が売却不許可事由を主張して執行抗告(否定)
  事案 担保不動産競売事件の期間入札において、最高価格買受申出人と定められたAに次いで高額の買受けの申出をしたXが、民執法71条4号イ(法188条において準用するもの)に掲げる売却不許可事由を主張して、Aの受けた売却許可決定に対して執行抗告をした。
  経緯 福井地裁は、平成31年2月、福井市内の複数の不動産につき担保不動産競売の開始決定。
前記不動産の中には、鉄道会社であるAが所有者から賃借してい利用している部分が含まれており、Aは、Xに対アして前記不動産を競落して前記部分をAに売却するよう依頼し、Xはこれを承諾して、Aとの間で、前記部分につき、競落による所有家に天統姫を停止条件とする売買契約を締結。
同売買契約に係る代金額の交渉において、Aは、Xから入札予定額の範囲の開示を受けていた。
Aは、Xにあらかじめ告知することなく、Xから開示を受けていた入札予定額を上回る額で入札⇒執行官は、改札期日においてAを最高価買受申出をした者として改札期日調書に記載。
執行裁判所は、売却決定期日においてAに対する売却許可決定をし、Xは、Aが前記の担保不動産競売事件において売却の適正な実施を妨げる行為をした者(法71条4号イ、65条1号)に該当すると主張して執行抗告をした。
  判断 担保不動産競売の手続において、最高価買受申出人が受けた売却許可決定に対し、他の買受申出人は、特段の事情のない限り、法188条において準用する法71条4号イに掲げる売却不許可事由を主張して執行抗告をすることはできない。
Xに特段音事情が認められないことは明らか。

原決定を破棄し、Xの執行抗告を却下。 
  解説  法74条は、1項において、不動産競売手続における売却の許可又は不許可の決定に対してはその決定により自己の権利が害されることを主張するときに限り執行抗告ができる旨定めるとともに、
2項において、売却許可決定に対する執行抗告は法71条各号に掲げる事由があること等を理由としなければならない旨規定。

不動産競売手続の適正及び迅速性を確保する趣旨から売却許可決定に対する執行抗告の利益を主観的範囲及び客観的範囲から限定したものであり、
「自己の権利が害されることを主張する」者(法74条1項)に当たるというためには、売却許可決定により自己の法律上の権利・利益が害されることとなることを要し、売却許可決定により事実上の影響・損失があるというだけでは執行抗告の利益は否定されると解されている。 
不動産競売事件において売却不許可事由にあるにもかかわらず最高価買い受け申出人に対する売却許可決定がされ、これが確定したとしても、この場合に他の買受人が受ける影響は原則として事実上のものにとどまるとの理解。
他方で、最高裁は、入札書の記載の不備を理由に無効とされた者が、当該入札は有効であり、自らが最高の価額で入札をした旨主張し、令和1年法律第2号による改正前の法71条7号(同改正後の同条8号)に掲げる売却不許可事由を主張して執行抗告をした事案につき、当該執行抗告を(却下ではなく)棄却した原決定を是認。
最高の価額で入札をしたにもかかわらず執行官の誤りにより当該入札が無効と判断されたため買請人となることができなかった旨主張する者が前記売却不許可事由を主張してした執行抗告につき、執行抗告の利益が認められる旨判断。
 
最高裁は、
不動産競売事件いおいて最高価買受申出人と定められた者が受けた売却許可決定に対して他の買受申出人が売却不許可事由の存在を主張してする執行抗告に関し、原則として執行抗告の利益を否定。
but
他の買受申出人の保護の必要性が高い場合につき、これを修正する立場。
そして、売却許可決定に対する執行抗告の利益の有無は、その主張に係る売却不許可事由との相対的関係で検討されるべきもの。 
  民事p47
東京地裁R2.3.24  
  給与ファクタリング業者の労働者への請求(棄却)
  事案 給与債権の譲受人である原告が、給与労働者であって原告に対する給与債権の譲渡人である被告に対し、被告が原告に譲渡した給与債権について、被告がその額面額で買い戻す旨の合意が成立したにもかかわらず、被告が買戻代金を支払わないなどと主張して、当該買戻合意に基づく代金の支払等を請求した事案。 
  争点 いわゆる給与ファクタリング取引が金銭消費貸借契約と同様の機能を有する取引であって貸金業法や出資法にいう「金銭の貸付け」にあたり、同取引により譲渡された債権の譲渡価格と額面額との差額が「利息」に相当するところ、その年利率が貸金業法の定める上限を大幅に超過⇒公序良俗に反して無効といえるか? 
  判断 給与ファクタリング取引は、給与ファクタリング業者が資金を必要とする労働者に対し、債権の売買代金名目で金銭を貸し付けて、一定期間利用後に、債権譲渡に供された債権の額面額に相当する額の返済を、債権譲渡に供された債権の債務者である使用者ではなく債権の譲受人である労働者から受けることを約して資金の融通をすることを主目的とする取引きであると認められる。
⇒経済的には両者間の金銭の貸付け及び返済の約束と同様の機能を有する契約。
貸金業法や出資法に照らしたとき、本件ファクタリング取引で被告が支払うべき「利息」、すなわち、債権の譲渡価格と額面額との差額について、これを年利に換算すると、法律に定める年利上限を大幅に超過
⇒当該ファクタリング取引は無効であり、かつ、刑事罰にもなり得るほどの著しい高利率

当該ファクタリング取引上の買戻合意に基づく代金支払請求又は不当利得に基づく返還請求は、そのいずれについても公序良俗に反する取引を前提とするものであり、同取引の有効性を前提とする請求は、その前提を欠くものとして認められない。
  解説 貸金業法や出資法は、高金利を取り締まって健全な金融秩序の保持に資すること等をその立法目的としており、「手形の割引、売渡担保その他これに類する方法」を「金銭の貸付け」に含めて、規制対象としている。

これらの法律は、取引の形式面のみにとらわれることなく、実質的に「金銭の貸付け」と同一の効果を持つ取引については、その立法目的達成のため、これを規制対象としている

形式的にはファクタリング取引であっても、その取引の実態が「金銭の貸付け」と同一の効果を持つのであれば、当該取引は、これらの法律の規制対象に含まれる。 
「ファクタリング取引」と呼ばれる取引:
弁済期未到来の債権を第三者に売却(譲渡)することにより、債権を早期に現金化し、短期的な資金需要に応えることを目的とする取引。

債権の譲渡人の資金需要に応じて譲受人が金銭を支払う⇒金銭消費貸借に類似
but
譲受人は譲渡を受けた債権の弁済を受けることによって満足を得ることになる⇒金銭消費貸借とは異なる取引
給与ファクタリング取引:債権譲渡に供される債権が給与債権。
一般的なファクタリング

債権の譲渡人は、債権譲渡通知以降、債務者に対して当該債権に基づく権利主張はできなくなり、債務者が譲渡に譲渡人に対して弁済した場合でも、原則として当該弁済は譲受人との間では効力を持たず、譲受人に改めて弁済しなければならない。
but
給与ファクタリング

譲渡人である当該労働者からその旨の通知があったとしても、法律上、譲渡人である労働者に対して当該債権に基づく金銭(賃金)を支払わなければならず、譲受人が給与債権の支払を求めることはできない。

譲受人が、当該債権譲渡に供された債権に基づく金銭の支払を受けようとすれば、その法的構成を不当利得とするか、買戻合意とするかはともかく、請求の相手方は常に譲渡人となる。
また、譲渡対象とされる給与債権は、その金額が確実に労働者の手に渡るようにするために様々な制度が構築されている⇒債務者の支払不能リスクが譲受人の負担の下で顕在化することは、極めて稀。

給与ファクタリング取引の取引実態は、給与ファクタリング業者と労働者の二者間における金銭消費貸借と、なんら異ならない。
あえて取引実態に反してその法的性質を債権の売買契約と捉え、譲受人において貸金業法や出資法に定める利率の上限を上回るような利益を得ることを正当化する根拠を見出すことはできない。
  民事p53
千葉地裁R1.12.3  
  人格権に基づき、債務者(グーグル)に対して検索結果の削除を求めた仮処分申立事件
  事案 債務者(グーグル)は、世界的な規模でウェブサイト検索サービス(本件サービス)を運営する会社であり、債権者は、M&Aアドバイザリー業務、経営コンサルティング業務、有価証券の保有、運用投資業務などを営むA社の代表者。 
債権者の氏名による検索⇒債権者が詐欺を行っているかのような検索結果記事が表示⇒削除を求めた。
  判断 「A社はポンジスキーム(ねずみ講のこと)をしているようです」などの検索結果はA社及びその代表者である債権者の社会的評価を低下させる
but
インターネット上のウェブサイト検索サービスに記載される検索結果について、名誉毀損による人格権の侵害を理由として削除を求めるためには、
検索エンジンが公益的な役割を果たしていること、
その検索結果を削除することは表現の自由や知る権利を制約することになることに加え、表現者に手続保障がされず、適切な反論の機会がないことに鑑み、
名誉毀損における違法阻却事由が欠けること、
すなわち、検索結果が、
①公共の利害に関する事実に係るものでないこと、
②専ら公益を図る目的にでたものでないこと、
③摘示された事実が真実でないこと
のいずれかに当たることに加え、
これらが明らかであること、
被害が重大で回復し難い損害を被るおそれがあること
が疎明されなければならないと解すべきである。
出資法ないし金商法に違反する投資スキームの多くが、新たな出資者からの投資を、先行する投資者への利息配当に回すという自転車操業を行ない、破綻したという経験則
⇒「ねずみ講をしているようです」という表現もそのような意味で用いられていると解する余地がある。
広い意味での詐欺を働いているという意味とそれほど変わらずに使われている以上、真実に反する旨の疎明がされたとはいえない。
  解説 検索事業者に対するウェブサイト上の検索結果の削除請求に関しては、
債権者のプライバシー権侵害を理由とするもの(最高裁H29.1.31)
but
名誉権侵害を理由とするものについては、いまだ最高裁の判断が示されていない。
最高裁平成29年決定:
検索事業者が、ある者に関する条件による検索の求めに応じ、その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検査結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは、
当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、
その者の社会的地位や影響力、
上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、
上記記事等において当該事実を記載する必要性など、
当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、
その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、
検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができる。
従前、出版物の発行等についてプライバシー権侵害を理由として差止を求める事案においては、
対象とされる者のプライバシー権と
出版等をする者の表現の自由の
両者の利益衡量をすることで解決が図られてきた。
but
ウェブサイト上の検索結果に関しては、現代社会において、検索事業者による検索結果の提供が、インターネット上の情報流通基盤として大きな役割を果たしている
⇒削除の可否に関する判断に際しては慎重な検討が必要であるとの指摘。

最高裁H29決定は、
これらの指摘を踏まえ、
プライバシーに属する事実を公表されない利益の優越が「明らか」なことを要件とするものと解されている。

名誉権侵害に関する事案においても、従前の出版物の発行等について名誉権侵害を理由として差止めを求める場合の判断基準をより厳格化したものが用いられるべき。
名誉権侵害を理由として出版物等の差止を求める事案において、
名誉毀損の違法性阻却事由のいずれかが欠けることが疎明される必要。
最高裁昭和61.6.11:
その表現内容が真実でないか又は専ら公益を計る目的のものでないことが明白であって、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときに限り、例外的に許される。

事前差止を命ずる仮処分に関するもの
⇒検索結果の削除を含む爾後の差止めに関する事案においては、もう少し緩やかな基準が用いられるべきものと解されていた。
それに何らかの要件か加重されるべきことになる。
近時の裁判例:
検索により摘示された事実が、
①公共の利害に関する事実に係るものでないこと、
②専ら公益を図る目的に出たものでないこと、
③摘示された事実の重要な部分が真実でないこと
のいずれかが認められることが明らかであることが疎明されることが必要とするものが多い。
(東京高裁H30.8.23等)
本決定:
以上の①②③のいずれかに当たることに加え、
これらが明らかであること、
被害が重大で回復し難い損害を被るおそれがあること
が疎明されなければならない。
  知財p62
大阪地裁R1.10.3  
  中心は特許権の実施許諾契約で技術情報の提供はこれに附随⇒特許権の存続期間経過による消滅に伴い、ロイヤルティ支払義務も消滅とされた事案
  事案 XとYらとの間で、一定の構造のコイルボビンを使用したコイルボビン式巻鉄心変圧器(WBトランス)に関する設計、製造技術情報供与に関する契約(本件各基本契約。一部を除いてXが訴外Aから契約上の地位を承継したもの)を締結。
XがYらに対し、本件各基本契約に基づく未払ロイヤルティの支払と、不正競争防止法2条1項7号に基づいて本件各基本契約によって開示された技術情報(本件技術情報)を利用して契約終了後に変圧器を製造、販売することの差止め及び製造された変圧器の廃棄を求めた。 
本件各基本契約は、Xが共有持分権を有する特許権(本件各特許権)に関係するものであったところ、本件各特許権が存続期間満了により消滅⇒Yらが本件各基本契約の介助通知を行い、その後のロイヤルティ支払を拒んだ。
その後、XもYらの債務不履行を理由に本件各基本契約を解除する旨を通知。
  争点 ①本件各基本契約の性質(本件各特許権の実施許諾契約か、ノウハウライセンス契約か)
②本件各特許権の消滅によりロイヤルティの支払義務は消滅したか
③YらがWBトランスを製造、販売することが不正競争行為に当たるか
④未払ロイヤルティの額 
  判断・解説  ●争点①②について(本件各基本契約の性質とロイヤルティ支払義務)
◎  契約上のロイヤルティとしては、
契約締結時に支払うイニシャルフィー(イニシャルロイヤルティ)と、
Yらが第三者へWBトランスを販売した場合にその実績に基づいて支払うランニングロイヤルティとが定められており、本訴で請求された未払ロイヤルティは後者のもの。
本件各基本契約にかかる契約書には、
WBトランスの製造・販売について非独占的実施権を許諾する規定(第2条)
技術情報の開示・提供と技術援助についての規定(第3条)
特許権の通常実施権(出願中のものについては非独占的実施権)を許諾する規定(第7条)
が存在し、
イニシャルフィー及びランニングロイヤルティは第2条の実施許諾及び第3条の技術援助等の対価として支払われる。
判断:
①本件技術情報がWBトランスの製造につき必須のものとまでは言えない
②WBトランスの製造、販売に当たってはこれが本件各特許権の権利範囲に含まれることからその権利者の許諾を得る必要があった
③本件各基本契約締結時に本件各契約が特許の実施許諾であることを前提とした説明がAからなされていた
④本件技術情報の提供はその多くが契約締結当初の段階でなされていた
⑤AからXに契約上の地位が承継された際にイニシャルフィーが承継されていない

本件各基本契約の中心となるのは本件各特許権の実施許諾であり、本件技術情報の提供等はこれに附随するものであって、ランニングロイヤルティは当該実施許諾の対価である(本件技術情報の提供及び技術援助の対価となるのはイニシャルフィーである)と判示。

第2条にいう「実施特許」に特許権の実施許諾も含まれる。

本件各特許権は存続期間満了により既に消滅⇒その実施許諾の対価であるランニングロイヤルティの支払義務も当然に終了。
←特許権消滅後にその対価の支払を義務付けることは特許権の本質に反する。
解説:

ライセンス契約の締結に当たって、特許権の実施許諾と、これに関連するノウハウの開示・使用許諾の両者が契約の内容とされた場合、当該特許権消滅後にロイヤルティ支払義務の帰趨が問題となることの指摘。

本件:
契約条項の解釈として、特許権消滅後のロイヤルティ支払義務を否定。
契約の解釈の場面で、特許権と、その権利範囲に含まれない関連技術の利用との関係が問題となった事例

特許出願中に締結された契約による不作為義務が、補正により当該特許権の権利範囲が減縮されたことにより権利範囲がはずれた技術には及ばないとされたもの
(最高裁H5.10.19)

特許出願中に特許請求の範囲とは別にノウハウの利用を制限する内容が含まれていたという事案で、契約内容の合理性を認めて同契約が独禁法に違反せず公序良俗違反にもならないとしたもの(大阪地裁H18.4.27)
公正取引委員会による「知的財産の利用に関する独占禁止法条の指針」第4の5(3)では、
権利消滅後にライセンス料の支払義務を課す行為は独禁法上の不公正な取引方法(一般指定12項)に該当し得る。
  ●争点③(不正競争行為の賛否) 
本件技術情報に一定の有用性があることを認めた上で、
本件技術情報にはAやXの行為によって既に公知となっているものがあるほか、
Yらが本件各基本契約に基づいて製造、販売したWBトランスをリバースエンジニアリングすることで取得可能
⇒いずれも非公知性が満たされないとして、不正競争法に基づくXの請求を斥けた。

契約書第12条には契約終了後にYらがWBトランスを製造、販売することを禁じる規定があるが、その適用も否定。
市場に出回った製品のリバースエンジニアリングを行なうことで知り得る情報について、なお不正競争法上の営業秘密の要件である非公知性(2条6項)が満たされるか?
近時の裁判例は、市場で流通している製品から当該情報を用意に取得することができるか否かという観点からこれを判断。
  商事p84
東京高裁
R2.1.22  
  株主間の取締役選任合意の効力
  事案 X1の父でX2の祖父であるAとYの父Bは、Cと共に、株式会社の株主。
昭和47年に、本件会社の取締役について、A、B及びC(その指名されたものを含む。)を互選する旨の取締役選任合意をした。
その後X1及びXは、Aから本件会社発行の株式を相続等により承継し、Yは、Bから本件会社発行の株式の信託合意を受けた。
Xらは、Yに対し、昭和47年合意に基づき、YがAの地位を承継したX1を本件会社の取締役に選任するよう議決権を行使する義務を負っていると主張⇒今後開催する株主総会においてX1を取締役に選任する議案が提供された場合に、同義案に賛成する旨の意思表示をすることを求めた。
  争点 株主間でされた取締役選任の合意について、議決権行使の履行強制をすることができるほどの法的効力を有するか。 
  判断 株主間契約の効力の判断方法については、
個別の株主間契約ごとに、
会社法その他の関係法令の趣旨を考慮に入れて、
契約当事者の属性、契約内容、契約締結の動機目的、契約当事者の有する株式の種類や議決権の総株主に占める割合の各要素を検討の上で契約当事者たる株主の合理的意思を探求し、
当事者双方が法的効力を発生させる意思を有していたか、法的効力を発生させる意思を有していた場合における効力の内容・程度について契約当事者の意思を事実認定する必要がある。
昭和47年合意は、契約当事者に法的効力を付与するものではなく、仮に何らかの法的効力を付与する意思があったとしても、強い法的効力(契約に沿った議決権行使の履行強制をすることができる)を付与する意思があたっとはいえず、また、仮に昭和47年合意に何らかの法的効力を「付与する意思があったとしても、特定人たる取締役候補者及び自然人たる契約当事者に相続が発生した場合においては、法的効力が消滅する合意

特定人たる取締役候補者及び自然人たる契約当事者の全員が死亡し、相続が発生していることから、合意の法的効力はすでに失われている。
考慮された事情:
①昭和23年合意及び昭和47年合意において、合意の内容はあいまいな点(特に、特定人たる取締役候補者が死亡した場合の取扱い)が残る
②特定の自然人を取締役候補者や契約当事者とする株主間契約は、法的効力をあまり意識していないものが多く、仮に法的効力を付与する意思があったとしても、短期間に限り契約に沿った議決権行使の履行強制ができる効力を付与する意思で契約を締結したにすぎない場合が多い
③F家やG家も、CやCの指名する者の取締役選任に複数回反対したこと
④昭和47年合意において、本件会社の運営に関する事項に特化した文書が作成しないこと
⑤昭和47年合意が締結されたことは、会社法実務や下級裁判所の裁判実務は、なお、議決権行使契約無効説や、当事者間では有効であるが、強い法的効力(議決権行使の履行強制や契約違反の議決権行使の株主総会決議取消事由該当性)は否定されるという前提で動いていた。
  解説 学説:
現在はその効力を原則として認めるのが通説的見解。

同契約に基づく議決権行使の強制履行:
これを認める見解と
認めない見解
とが存在。 
株主間契約を離れて、契約一般について判断するときは、債務の性質がこれを許さない限り履行強制をできることは原則であり、このことは株主間契約についても妥当すると解される(田中)。
本判決:
株主間契約についても、一般の契約と同様に、合理的意思解釈の原則により判断。
契約当事者に強い法的効力を付与する意思があったことを基礎づける間接事実が乏しいこと、
他方、それがなかったことを基礎づける間接事実が豊富であったことを基礎づける間接事実が豊富であったこと
を理由に、これを否定。
  刑事p101
東京高裁R1.12.6  
  公判前整理手続きでの、裁判所の訴訟手続きの違法
  事案 被告人が、高速道路上で被害者車両に著しく接近するなどのあおり運転を繰り返して同車両を停止させ、その約1分58秒後に後続の大型貨物自動車が被害者料の後部に衝突した結果、同車両の乗員2名を死亡させ、その子2名に傷害を負わせて危険運転致死傷罪等に問われた事案。 
  争点 ①被害車両の直前で自車を停止させた行為が「重大な交通の危険を生じさせる速度」を要件とする同罪の実行行為に該当するか
②前記停止行為より前のあおり運転と被害者らの死傷結果との間の因果関係の有無 
  原審 本件因果関係を否定し危険運転致死傷罪が成立しないとの見解を示した書面を公判前整理手続で訴訟当事者に示した
but
裁判員裁判による公判審理及び評議を経ると前記見解を変更し、原判決で前記因果関係を肯定して危険運転致死傷罪の成立を認め、被告人を懲役18年に処した。 
  弁護人 因果関係を認めた原判決の法令の適用の誤りや、
公判前整理手続で予め表明した前記見解の変更を一切当事者に告げず原判決で因果関係を肯定した原裁判所が、不意打ちを与え防御の機会を失わせてとして、訴訟手続の法令違反を主張。 
  判断 公判前整理手続段階で因果関係を否定した原裁判所の見解は、具体的な事実関係を前提とする法令の適用⇒構成裁判官(裁判員の参加する合議体を構成する裁判官)及び裁判員の合議によって判断すべき事項について、構成裁判官のみの合議により断定的かつ明示的に示した見解⇒裁判員法の規定に反する越権行為である上、訴訟当事者のその後の訴訟追行に事実上の影響を及ぼすもの。
原裁判所が見解の変更を前提とした訴訟手続き上の手当てを講じることなく、見解を変更して有罪判決を宣告したことは被告人及び原審弁護人に対する不意打ちとなる

原判決を破棄し原裁判所に差し戻した。
  解説 裁判員法6条:
事実の認定、法令の適用及び刑の量定は構成裁判官及び裁判員の合議により(同条1項) 、
法令の解釈等については構成裁判官の合議による(同条2項)。
本判決:
本件因果関係の有無は本件の具体的な事実関係を前提として初めて判断が可能なものと考えた。
公判前整理手続において、当事者の主張や証拠を整理していく過程で、検察官に訴因変更を促し、あるいは訴訟当事者に主張の追加、撤回または変更を促すなどする必要性

その前提として、法令解釈や事実認定上の問題点について、裁判所が暫定的に一定の見解を示すことが直ちに違法となるものではなく、争点や証拠の整理に資する有益な訴訟指揮となることもあり得る。
本判決:
訴訟手続の法令違反を理由に原判決を破棄。
but
原審で争われた法令適用の誤りについても一定の見解を示している。

原判決破棄の理由とはされていない⇒傍論的に判断を示したもの⇒差戻を受けた原裁判所の判断を拘束するものではない。 
法令の適用の誤りは訴訟手続が適法に行われ、かつそのような適法な訴訟手続の下における事実認定に誤りのないことを論理的前提としている。
⇒訴訟手続の法令違反の主張は法令適用の誤りの主張の論理的に先行する。
2468・2469   
  民事p5
東京高裁H31.4.17  
  区分所有建物の管理組合法人の役員である理事及び監事の選任に係る管理規約の規定の効力・解釈。
  事案 マンションの区分所有者であるXらが管理組合法人の役員であるYらに対して損害賠償請求をした事案。 
管理組合の管理規約では、管理組合の役員である理事及び監事は、総会で選任することとされていた。
but
平成27年6月14日に開催された臨時総会の総会決議により、
「立候補者が役員候補者として選出されるためには、理事会承認を必要とする」旨の条項が管理規約に新設。
Xらは、同年7月23日、第36期の役員となるための立候補⇒管理組合の理事会は、第35期の理事であったYら全員の賛成により、Xらを役員候補者として承認しない旨の決定。

Xらは、Yらに対し、Xらを役員の立候補者として承認しない旨の本件決定をしたことにより、役員立候補権が侵害された⇒共同不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起。
  争点 本件決定が、Xらの法的利益を侵害する違法なものであったか? 
  判断 管理規約は、区分所有者間の利害の衡平が図られるようにさだめなければならず(区分所有法30条3項)、これを害するような規約は無効である。

本件改正条項は、特定の立候補者について理事会のみの判断によって立候補を認めず、集会の決議によって役員としての適格性が判断される機会も与えられない事態が起こり得る⇒同項に反するといえる⇒成年被後見人等やこれに準ずる者のように客観的にみて理事としての適格性に欠ける者について、承認しないことができるという趣旨の限度で有効。

Xらに客観的に明らかに理事としての適格性を欠いていたと認めるに足りる証拠はない⇒本件決定は、裁量権の範囲を逸脱するものとして、Xらの当該立候補者が有する人格的利益を侵害するものとして、違法。
but
Yらは、本件改正条項に従って理事会を運営すべき義務を負っていた
but
承認について基準が明示されず、
理事会の裁量を制限する定めもなく、
さらに本件決定の時点では、本件改正条項の趣旨が裁判等によって明らかにされていたものではない
等の事情

理事会には実際に与えられたものより広範な裁量権が与えられて欠格事由が存在しなくとも承認しないことができると考えたことはやむを得ない⇒Yらに過失があるということはできない。
  解説 建物の区分所有の管理組合法人における理事又は監事については、
区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によって、選任することができると定められ(法49条8項、50条4項、25条1項)、
規約によって別段の定めをすることができるが、同規約は、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない(法30条3項)。
区分所有者間に較差を生じさせる規約は、区分所有者間の利害の衡平を害することになる⇒無効(東京地裁H27.12.17)。 
  民事p15
東京高裁R2.8.28  
  建設作業従事者の石綿粉じんばく露の事案で、民法719条1項後段を類推適用して共同不法行為責任が認められた事例
  事案 本件元建築作業従事者又はその承継人である原告らは、
本件元建築作業従事者44名が建築現場において石綿含有建材を加工・使用して建物を建築・改修し、又は石綿含有建材を含む建物を解体する業務等に従事した過程において、
同建材から発生する石綿粉じんにばく露し、石綿関連疾患(石綿肺、肺がん、中皮腫等)にり患

①被告国に対しては、労働大臣、建設大臣、内閣等が石綿関連疾患の発症又はその増悪を防止するために旧労基法、労働安全衛生法、労災法又は建基法に基づく規制権限を適時かつ適切に行使しなかったことが違法⇒国賠法1条1項に基づき
②被告企業ら43社に対しては、被告企業らがその製造・販売する建材が石綿を含有すること、石綿にばく露した場合、石綿肺、肺がん、中皮腫等の重篤な疾病に罹患する危険があり、これを回避するために呼吸用保護具を着用すべきこと等を警告すべき義務を負い、また、その製造・販売する建材に石綿を使用しない義務を負っていたにもかかわらず、これらの義務を怠った⇒不法行為(民法709条、719条)又は製造物責任(製造物責任法3条、6条、民法719条)に基づき、
本件元建築作業従事者1人当たり3850万円(慰謝料3500万円と弁護士費用350万円との合計)並びにこれに対する不法行為の後の日である本件元建築作業従事者の最後の石綿関連疾患の認定日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた。
  控訴審での被告らの主張 被告国:
①石綿関連疾患のり患の可能性について被告国が認定可能であった時期に関する判断が誤っており、
②被告国において、明示的な呼吸用保護具着用の義務付け並びに石綿含有建材の外装・包装への警告表示及び建築作業場における警告掲示に関する規制権限を行使しなかったことが著しく合理性を欠くとはいえない

被告企業ら:
①建築工事では、石綿含有建材を使用していない
②石綿含有建材は、施工後は、他の建材と一体となって建築物の構成部分となり、建築から改修・解体までの期間が長期にわたるため、出荷時の警告によって改修・解体工事に従事する作業者に実効性ある警告をするのは困難 
  判断  国又は公共団体の公務員による規制権限不行使の違法性の一般的判断基準については、
国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国賠法1条1項の適用上違法となる。

原判決の判断を維持。 
  共同不法行為における共同不法行為者の範囲と因果関係について、注目すべき判示 
まず、通説に従い、
民法719条1項後段(加害者不明の共同不法行為)における共同行為者の範囲について、いわゆる択一的競合の場合を想定
⇒共同行為者の範囲が特定され、かつ、その特定された共同行為者以外の者によって結果が惹起された可能性はないことが証明される必要があるとして、民法719条1項後段の適用を否定。
but
石綿粉じんのばく露の蓄積に寄与した者全員を特定することやその寄与の程度を証明することの困難性を考慮して、民法719条1項後段の類推適用して、当該行為者の行為と因果(石綿関連疾患の発症)との間の因果関係を推定し、
他方、行為者の行為が結果の全部又は一部との間に因果関係がないことの証明があれば、寄与度に基づく責任の減免が認められる旨判示。
当該行為が石綿粉じんばく露の蓄積に寄与したというためには、当該被害者が建築作業に従事した建築現場に当該行為者の製造・販売した建築現場に当該行為者の製造・販売した石綿含有建材が到達したことの証明が必要であるとしている反面、
民法719条1項後段の類推適用においては、その適用の場合とは異なり、他に当該結果の発生に影響を及ぼした者がいないことの証明は不要であるとしている。
  解説 民法719条1項前段には「関連共同性」が必要であるが、
後段は、関連共同性を欠く複数の加害行為により損害が生じ、その損害が当該複数の者の行為によって生じたことは明らかであるけれども、誰の行為が損害を生じさせたか不明(いわゆる「択一的競合」)の場合にも、その複数の者全員に連帯責任を負わせるもの。

「加害者不明の共同不法行為」は、択一的関係があれば足り、
異時的行為や異種的行為の間にも成立。
but
加害者の範囲の特定責任を原告(被害者)に負わせることについては、大気汚染事例等において被害者の救済を困難にするといて批判も強い。
本判決:
加害者全員を特定することができず、加害の程度が不明の場合にも、加害者不明の場合を規定する民法719条1項後段を類推適用することを認めた。

加害者不明と加害程度不明とを区別することに合理性がないとする学説。

「加害者不明の共同不法行為」について、被害者の救済の範囲を拡大。
  民事p110
福岡高裁R2.3.19  
  人身傷害補償保険会社が、被害者の同意をえて加害者の加入する自賠責保険を回収が、加害者の被害者に対する弁済に当たるとされた事例
  事案 交通事故の被害者であるXが、加害者であるYに、損害賠償請求した事案。
過失割合はXが30%、Yが70%。

Xは、加入する人身傷害補償保険会社(「人傷社」)に対し、保険金を請求。
その際、対人賠償保険金の請求に関して自賠責保険金相当額との「一括払」により保険金を受領した場合、自賠法に基づく保険金の請求得受領に関する一切の権限を人傷社に意にない、Xが人身傷害保険金(「人傷保険金」)を受領した場合は、支払われた保険金額を限度としてXが有する賠償義務者(Y)に対する損害賠償請求権及び自賠法に基づく損害賠償額の請求受領権が人傷社に移転することの説明を受け、これを承諾。
  争点 人傷社が自賠責保険から回収した金銭がYによるXへの弁済に当たるか 
  判断 本件事故によりXがこうむった損害のうち弁護士費用を除く総額は、341万1398円
そのうちXの過失部分(30%)に当たる金額は102万3419円
Xと人傷社は、本件事故によるYへの損害賠償請求権は自賠責保険への請求権を含めて人傷保険金の限度で人傷社に移転するとの合意で、Xは人傷社から111万181円を受領し、人傷社は、自賠責保険から83万5110円を受領。
①Xと人傷社との間での合意は、その文言からすればXから人傷社に対して自賠責保険金の受領権限が委任されたと解するほかない
②自賠責保険金は受領権限を有する人傷社に支払われた
⇒加害者であるYの過失部分に対する弁済に当たると解すべきであり、自賠責保険からの受領部分についてもYの損害賠償債務から控除すべき。
  解説 人身傷害補償保険は、加害者の過失の有無及びその割合に関係なく、保険会社から約款所定の損害賠償算定基準に基づいて積算された損害額相当の保険金の支払を受けることができるという保険であり、
被害者に過失がある場合に人傷保険金を支払った保険会社が代位取得する損害賠償請求権の範囲:
裁判基準差額説(最高裁H24.2.20)

人身傷害補償保険制度の趣旨からして人傷保険金はまず被害者の過失部分に充てられるべきであることを前提とするもの。
but
人傷社が被害者に対して人証保険金を支払った後に自賠責保険金を回収した本判決の事例のような場合、支払った人傷保険金のうち自賠責保険金相当額については加害者の過失部分に関する弁済に当たるとして損益相殺が認められるのか、それとも、人傷保険金として支払った以上、同保険金は、自賠責保険金相当額も含め、まず被害者の過失部分に充てられるべきであって、自賠責保険金相当額が当然に損益相殺の対象となものではないのか?

A:全部控除説
人傷社が自賠責保険金を回収していなければ、自賠責保険金は全て加害者負担分にてん補されるもの⇒人傷社による自賠責保険からの回収額全てを控除すべき

B:不当利得認容説
①人傷社による自賠責保険金の回収を被害者本人への支払と同視することはできない
②人傷社が自賠責保険金を回収したという被害者自身の事情ではな事柄により結論が異なることとなるのは受け入れにくい

人傷社が回収した自賠責保険金の全部又は一部は人傷社の不当利得となる
本件の事例では、被害者であるXは、人傷社からX自身で自賠責保険に対して直接請求することもできるとの選択肢を示されていたにもかかわらず、人傷社による自賠責保険を含む一括払いを承諾した場合には、自賠責保険金の請求受領に関する一切の権限を人傷社に委任する合意⇒受領権限の委任が明確に表示。
⇒A説、B説の選択ではない。
前記受領権限の合意は、これをすることによって被害者に生じる可能性のある不利益を十分に説明した上でなされたものではない可能性がある
but
この点は、人身傷害補償保険の契約当事者間の問題というべき⇒これを理由として直ちに不当利得容認説のような結論を導くことは相当ではない。
  民事p120
東京地裁R2.1.23  
  肝臓の病態を把握するための経皮的肝生検⇒担当医師の穿刺で肺を傷つけられ、右脳梗塞(空気塞栓症)による後遺症が生じた事案
  事案 Yが開設、運営する本件病院においてA医師(被告補助参加人)によるエコーガイド下での経皮的肝生検を受けたX1につき、本件肝生検で肺を誤穿刺されて血液中に混入した気泡により脳空気塞栓症となり左片麻痺の後遺障害

Xらが、A医師においては、
①X1に対する肝生検はCTガイド又は腹腔鏡で実施すべきであったのに、エコーガイドしたでこれを実施した注意義務違反
②本件肝生検ではエコーで肺臓等の臓器を十分に描出できない状況⇒そのまま盲目的に穿刺をしてはならなかったのにこれをした注意義務違反

Yに対し、
X1においては、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求として2億1490万4648円
X2らにおいては、不法行為に基づく損害賠償として、
夫であるX2につき550万円
子であるX3,X4につき各110万円
及びこれらに対する遅延損害金の支払を求めた事案。
  争点 上記①②の注意義務違反があるか 
  判断  A医師は、本件肝生検におけるエコー画像では、X1の肝臓その他の臓器を十分に描出、確認できる状態ではななかったにもかかわらず、穿刺を繰り返した。
A医師による本件肝生検には、X1の肝臓の位置が適切に確認できないにもかかわらず強行した注意義務があった。
①肺を誤穿刺すれば血管中に空気が入り込んで空気塞栓症が生じ得ること、
②その空気が血管内を循環し脳に至ることもあり得ること
は、医学的に明らか

X1の後遺障害は本件肝生検においてX1の右肺が穿刺されたことにより生じた
⇒本件肝生検とX1の後遺障害との間に相当因果関係がある。

X1について1億2799万円余、
X2について110万円、
X3、X4について各55万円
の損害賠償請求を認めた。
  解説 患者の肝臓その他の臓器を十分に描出、確認できる状態ではなかったにもかかわらず、穿刺を繰り返せば事故も起きると思われる。 
本件は、本来は肝臓の組織を採取しようとして、間違って肺を穿刺したという点で手技上の過失という位置づけも可能。
  民事p135
京都地裁R2.2.20  
  会社従業員の行なった違法な会員権販売と会社及び代表取締役個人の不法行為責任(肯定事例)
  事案 別荘地に所在する土地及び建物(共有持分)(固定資産税評価額の合計は14万8715円「本件各不動産」)を所有していたXが、リゾート会員権の販売等を目的とする株式会社であるY1社の従業員であった販売担当者Aから勧誘を受け、Y1社の販売するリゾート会員権(「本件会員権」)を129万6000円で購入する契約を締結し、その代金のうち50万円は本件各不動産を下取りして充当することにして、残金79万6000円を支払った。

主位的に、Aの勧誘行為は詐欺に該当すると主張して、
①Y1社に対し、不法行為(民法715条又は民法709条)に基づく損害賠償として、
②Y1社の代表取締役であるY2に対し、不法行為(民法709条)又は会社法429条に基づく損害賠償として、いずれも109万5600円(前記支払済みの代金79万6000円、慰謝料20万円及び弁護士費用9万9600円の合計額)及びこれに対する不法行為日から支払済みまでnの遅延損害金の連帯支払を求め、
予備的に、Y1に対し、本件会員権契約の無効等を原因とする原状回復請求も行なった。 
  判断  ●Y1社の責任 
Aが、真実は、本件会員権は5年経過しなければ転売することはできず、Y1社が転売の仲介をすることもなかったにもかかわらず、
本件会員権は1年後にはY1社の仲介により80万円ないし90万円程度で転売することが可能である旨の虚偽の事実を告げ、
Xをして、本件各不動産を下取りに出して本件会員権を購入し、1年後に本件会員権を転売すれば処分費用を負担することなく本件各不動産を処分できると信じさせて本件会員権契約を締結させた

Aの勧誘行為は詐欺に該当し、Y1社は、使用者責任(民法715条)に基づく責任を負う。
本件会員権の内容や販売状況等に照らしても、Y1社が虚偽の事実を述べて会員権を売りつける詐欺的商法を組織的に行っていたと認めるに足りる証拠はない
⇒Y1社は、自らの不法行為責任(民法709条)に基づく責任は負わない。
  ●Y2の責任
・・・・
Y2は、Y1社の販売担当者の中にはAがしたような虚偽の説明をして契約を取り付けようとする者が出てくるおそれがあること及び顧客も当該虚偽の説明を信用して契約締結に至ってしまう可能性が高いことを少なくとも容易に認識することができたというべきであるにもかかわらず、Y1社の代表取締役として、販売担当者らに対して指導を徹底するなどの措置を講じることなく放置した

Y2は、過失による不法行為(民法709条)に基づく責任を負う。
  ●損害 
Xは、Aの違法な勧誘行為によって、本件会員権契約の代金の一部として79万6000円を支払った⇒同額の損害を被った。
but
本件会員権の客観的価値に相当する額は損益相殺の対象となるところ、本件会員権の内容等を総合すれば10万円を損益相殺すべき。

Xの請求は、Y1社及びY2に対し
76万6000円(弁護士費用7万円を含む)と代金支払日以降の遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。
  民事p142
熊本地裁R2.3.18  
  普通河川からの流入水によって被害⇒普通河川管理の瑕疵が肯定された事例
  事案 平成24年7月に発生した豪雨の際、原告の経営するゴルフ練習場の建物に外壁破損
⇒同被害は被告(熊本市)が管理する用水路及び余水吐(「本件用水路等」)からの流入水が原因であって、被告の管理する本件用水路等及びその上流に設置された転倒堰に設置又は保存の瑕疵が認められる⇒国賠法2条1項に基づき、損害賠償金等の支払を求めた。
被告の管理する本件用水路等は、いわゆる普通河川(河川法指定を受けておらず、河川法の適用・準用のない河川)であり、本件建物の敷地は、本件用水路等、A川(一級河川)及び熊本県の管理する水路に隣接している。
  争点 ①本件建物外壁の破損等の原因が、被告の管理する本件用水路等からの流入水によるものと認められるか
②本件用水路等や本件転倒堰に設置・管理の瑕疵が認められるか 
  判断 争点①について:
原告提出の意見書の内容は十分に説得力がある一方、被告提出の意見書の内容は合理性に疑問がある⇒本件用水路等からの流入水によって、本件建物外壁の破損が生じた。 
争点②について:
本件転倒堰が完全に倒伏するような状況になった場合に、本件用水路等から排水を十分減勢することができずに、排水が勢いよくあふれ出す構造となっていたことは、同種規模の河川の管理の一般的水準及び社会通念に照らして是認し得る安全性を備えていなかった
⇒本件用水路等の設置又は保存の瑕疵を肯定
  解説 河川管理の瑕疵に係る判断枠組み:
①河川における治水事業については、議会が決定した予算の下で必要性、緊急性の高いものから逐次改修を実施していくほかないという財政的制約
②長い工期を要するという時間的制約、
③総合的な調査検討を経てから行われるなどの技術的制約
④流域の開発等による雨水流出機構の変化や治水用地の取得難などの社会的制約
が内在するところ、
河川法の適用のない、いわゆる普通河川の管理についての瑕疵の有無は、
過去に発生した水害の規模、発生の頻度、発生原因、被害の性質、降雨状況、流域の地形その他の自然的条件、土地の利用状況、その他の社会的条件、改修を要する緊急性の有無及びその程度等の諸般の事情を総合的に考慮し、上記諸制約の下での同種規模の河川の管理の一般的水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断すべき。
(最高裁判例を踏襲)
争点②について:
①本件転倒堰が完全に倒伏するような状況が生じた場合には、本件用水路等からの流入水が、周囲の建物等に被害を与える危険性があり、このことは本件用水路等の構造上の問題(流入水のエネルギーを落差工で減勢しようとする構造であった点など)が原因であった
②改修にあたっての用地買収や河川改修の順番に係る制約等は、通常の河川に比して乏しい
③改修に殊更過大な費用を要するとは考え難い等

本件転倒堰が倒伏した場合、排水が勢いよく溢れ出す構造となっていた点について、同種規模の河川の管理の一般的水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていなかったと判断。
  民事p160
山口地裁下関支部R2.5;19  
   
  事案 前訴での鑑定人を被告として損害賠償請求。 
被告:
本件訴えは、鑑定過誤により前訴の判決が誤った判決になったことを理由とするもので、再審の方法によらず確定判決に対する不服申立てをするもの⇒民訴法の定めを逸脱するもので、不適法。
  判断 本件訴えにおける請求の当否を判断する場合、実質的に前訴における訴訟物である損害賠償請求権の存否についての判断を内包することにならざるを得ない⇒本件訴えは、確定判決に対する不服申立てを再審に限定する民訴法の立法趣旨と抵触する部分がある。
but
前訴とは当事者が異なる⇒本件訴えに訴えの利益がないということはできない。 
・・・前訴の判決の成立過程に関与した者の不法行為を理由として、確定判決の既判力判断と実質的に矛盾する損害賠償請求を無制限に認めるとすれば、裁判所の確定判決に不服のある者は、判決成立過程に関与した者に対して責任を追及する方法で被告を交換することによって、同一の訴訟物に対する裁判所の判断を繰り返し求め得ることになってしまい、実質的に判決の既判力を無視し、既判力の法的安定性を著しく害する結果となり、再審制度を無意義なものとしてしまう。

このような後訴請求は、
①再審に関する民訴法338条2項所定の事由に準ずるような場合か、
②前訴の判決成立過程に関与した者の行為が、一方当事者の権利を害する意図の下に、作為若しくは不作為によって一方当事者が訴訟手続に関与することを妨げ、あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔するなどの不正な行為を行い、その結果、あり得べからざる内容の確定判決が言い渡されて確定するなど、その行為が著しく正義に反し、確定は寝k津の既判力による法的安定性の要請を考慮しても容認し得ないような特別の事情がある場合に限って、許される。
結果として、請求棄却。
  解説  仮に原告が前訴の被告を被告として、鑑定が誤っていたことを理由として、前訴で請求を棄却された部分を再度請求する訴訟提起⇒確定判決の既判力が及ぶから、実質審理に入ることなく請求棄却。
既判力の作用は、本案判決をすることを妨げるものではない⇒前訴で棄却された部分を再度請求する後訴は、訴えの利益がないとして門前払いになるのではなく、請求棄却の判決になる。
既判力の作用により請求が棄却されないためには、確定判決の既判力を消滅させる必要があり、それは再審の手続によるほかないとするのが、本来の制度設計。 
  最高裁昭和44.7.8:
判決の成立過程において、訴訟当事者が、相手方の権利を害する意図のもとに、作為または不作為によって相手方が訴訟手続に関与することを妨げ、あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔する等の不正な行為を行い、その結果本来ありうべからざる内容の確定判決を取得し、かつ、それ執行した場合においては、
右判決が確定したからといって、そのような当事者の不正が直ちに問責しえなくなるいわれはなく、これによって損害を被った相手方は、かりにそれが右確定判決に対する再審事由を構成し、別に再審の訴えを提起し得る場合であっても、なお独立の訴えによって右不法行為による損害の賠償を請求することを妨げられない。 
最高裁H10.9.10:
前記に「その行為が著しく正義に反し、確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特段の事情がある場合に限って、許される」という文言を付加。

例外的ではあるが、再審のルートを経ることなくいきなり不法行為による損害倍法を請求するルートを認めたもの。
  本判決は、上記最高裁を直接引用していないが、
既判力が及ぶ当事者間に関する最高裁判例がとる考え方を、既判力が直接及ばない本件のような事案にも推し及ぼしたもの。 
  刑事p167
東京高裁R2.4.2  
  第1種少年院送致決定をした原決定が取り消された事案
  事案 少年が、当時の交際相手である被害者(当時22歳)方居室において、被害者に対し、「俺がお前をぶっ殺すぞ」と言って、持っていた包丁(刃体の長さ約15.7㎝)を示して脅迫した事案 
  判断  第1種少年院送致決定をした原決定を、
その処分は著しく不当であるとして、これを取り消した。 
  ●非行事実の軽重(悪質性) 
相応に悪質であるという原決定の評価が誤りとはいえない。
but
少年と被害者との間に、これまで繰り返されてきたのと同様のいさかいを生じて両者が相互に感情を高ぶらせ、被害者が何度も「死ね」と言ったことに少年が逆上して本件に及んだと見られる⇒4歳年上の成人である被害者の対応にも問題点が少なからずあった
⇒動機や経緯に酌量の余地がないとはいえない。

①少年と被害者との位置関係、
②少年が包丁を持ち出した意図、
③本件が少年と被害者とのやり取りの中で衝動的に行われたといえる

態度が極めて悪質なものとはいえない。
  ●要保護性 
原決定:
①少年の非行性が十分改善されないまま、非行の範囲が暴力的な行動にまで広がった
②少年が一方的に憤りを感じて安易に刃物を持ち出し、性格、行動傾向上の問題点が現実化した
③内省が十分深まっていない
④家庭に適切な指導を期待できない
⑤みるべき外的資源はない

少年の要保護性は相当に高い。
少年を社会内で処遇すれば、対人関係で葛藤や強いストレスを感じた際等に再非行に及ぶ危険性が高い。
本決定:
①少年の家裁係属歴(これまで窃盗のみ)
②処分の経緯(初回の窃盗で短期保護観察であったが、前件の窃盗については、少年に健全な生活志向が確立されている)
③本件の経緯や動機
④被害者との交際開始前に少年に粗暴癖がうかがえないこと
⑤鑑別結果通知書や少年調査票の粗暴性の認定に根拠が乏しい

原決定①は相当ではない。
少年の粗暴性の原因や評価、再非行の可能性等に関し
(1)鑑別結果通知書の「安定した異性関係を築けずに同種再非行に及び、子への虐待に及び危険性がある」、「独り善がりな女性観」があり、「暴力支配的な異性関係になじみつつある」、「交際相手や配偶者、子への一方的な暴力(虐待)に及ぶおそれがある」
などの指摘
(2)少年調査票の「交際相手や女性との間で苛立ちや葛藤を抱えたときに暴力や暴言に及び、家庭を持ったときにDVや虐待に及ぶ危険性がある」、「被害者の発言に苛立つと暴言が止まらない」、「ストレスを感じると一方的に暴言を吐いたり、身体に危害を加えたりするなどの感情の赴くままに攻撃する」、「交際相手や家族等の親密な間柄」に対し、「感情が昂ると衝動的に行動する点が問題である」、「家族や親友等の親密な人に傍若無人に振る舞う」、「親密な対人関係においてその問題性が現れた」などの指摘

vs.
その根拠が不明であるか十分でない
根拠とされる事実から当該指摘や評価ができるか疑問
記録上、少年の粗暴性や暴力支配的異性関係等を裏付ける事実等はうかがわれない

本件の経緯等からもしても本件非行がこれらの指摘に該当するようなものとはみられない。
  解説 家裁の決定が非行事実及び要保護性の前提事実を正しくとらえていないとする抗告理由は多いが、原決定の理由付けのみに着目するものが多く、その根拠となる少年調査票や鑑別結果通知書の内容についての問題点を指摘するものは多くない。
but
要保護性判断の重要な資料となる少年調査票や鑑別結果通知書に、認定の根拠が十分でない事実やそれに基づく評価、あるいは評価として不相当な内容が含まれていれば、要保護性の判断に疑問が生じるのは当然。
  刑事p172
横浜地裁R1.11.20  
  身柄引受人が来なければ帰ることができない旨虚偽の説明により、令状執行まで3時間余り留め置き⇒尿の鑑定書の証拠能力否定で無罪の事案
  事案 銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)違反の嫌疑で警察署に任意同行され取り調べを受けた⇒取り調べ終了後警察署に留め置いたうえ、矯正採尿令状に基づいて採取した尿から覚せい剤検出の覚せい剤自己使用の事案。
  主張 弁護人:採尿に至るまでの捜査に違法がある⇒被告人の尿の鑑定書(本件鑑定書)は違法収集証拠として排除されるべき。 
  判断 所持品検査及び任意同行は適法であるが、
銃刀法違反の取調べ後の留め置きは違法⇒本件鑑定書は証拠能力がないとして証拠から排除。
自白に補強証拠がない⇒無罪。
AやCは、被告人に対し、身柄引受人がいなければ帰ることができないという虚偽の説明⇒被告人は、銃刀法違反の嫌疑がある以上、自由に警察署から退去できないと誤信⇒警察署に留まった。
被告人には覚せい剤使用の高度の嫌疑があり、留め置きのための説得行為の一環として、一定の限度において、有形力を行使したり、心理的な圧力を加えたりすること自体は許される状況にあった。
but
①被告人に対し警察署に留まるよう説得することに何ら支障はなく、虚偽を申し向ける必要性も緊急性もなかった
②留め置いた時間は短くなく、
③虚偽の説明は、被告人の退去の自由を直接に侵害する悪質性の高いもの

警察官らが被告人に携帯電話の使用、喫煙、飲料の購入等を許していることを踏まえても、任意捜査の許容限度から逸脱した程度は大きい。
①警察官らは説得の手間を省き、真意に基づくことなく警察署に留め置くため、意図的に虚偽の事実を申し向けたと考えられる
②その意図は組織的に共有されていた
③警察官らが明らかに不合理な虚偽の証言をしていること
⇒警察官らには令状主義の諸規定を潜脱する意図があったと言わざるを得ず、本件留め置きの違法の程度は、令状主義の精神を没却するような重大なもの。
被告人の採尿手続は、
本件留め置きによってもたらされた状態を直接利用し、かつ、覚せい剤使用の嫌疑のある被告人の尿の獲得という同一目的に向けられたもの
⇒本件強制採尿令状発付手続や採尿手続固有の違法がないことを踏まえても、本件鑑定書は、本件留め置きと密接に関連する証拠であり、これを許容することは将来における違法捜査抑制の見地からも相当でない⇒証拠能力を否定。
  解説  留め置き等は、職務質問や任意捜査として行なわれるものであるところ、
判例:
留め置き等の適法性は、
①強制処分に該当するかどうか、
②これに至らないとしても、必要性、緊急性等を考慮し、具体的状況の下で相当と認められるかどうか
という基準によって判断されるべきもの。 
最高裁H6.9.16:
積雪により滑りやすい状態にあった道路で自動車を運転していた覚せい剤使用の嫌疑のある被疑者が、警察署への任意同行に応じなかった⇒エンジンキーを取り上げるなどして、身体に対する捜索差押許可状の執行まで約6時間半にわたり、職務質問の現場に留め置いた
~任意捜査として許容される限度を逸脱し違法。
東京高裁H21.7.1:
①強制採尿令状請求準備までの段階(純粋任意捜査段階)
②その準備を開始した以降の段階(強制手続への移行段階)
に区分し、後者については、強制採尿令状執行のため被疑者の所在を確保する必要が高まっている⇒相当程度強く被疑者にその場に留まることを求めることができる。
(二分論)
vs.
犯罪の嫌疑の程度は協壊死採尿令状の請求準備を開始するか否かという警察官の判断により直ちに左右されるものではないなどとしてこれに反対する裁判例も。
現在の実務:
留め置きの時間、留め置きの態様、令状主義潜脱の意図の有無等を総合して、留め置きの適法性について判断し、
強制採尿令状の請求段階に入ったかどうかは必要性、緊急性を基礎付ける一事情と位置付け。
  警察官の発言を考慮した裁判例:
・警察官が令状発付の事実を確認していないのに発付されていると返答⇒違法の程度を判断する際に考慮(大阪地裁)
・警察官の威迫的発言を違法とする判断する理由の1つとする(広島地裁)
but
警察官の虚偽説明を中核的理由として留め置きを違法としたものではない。 
本件:
留め置き時間が3時間余りという、適法違法のいずれもあり得た事案について、
警察官らが被告人の意思を制圧したとはいえないとしながら、
警察官らが積極的に虚偽の説明をし、被告人をその真意に基づかずに留め置いたことを理由に、留め置きを違法としたもの。
  違法に収集された証拠物の証拠能力:
判例:
証拠物の押収等の手続に令状主義の精神に没却するような重大な違法があり、
これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合
⇒証拠能力が否定される。

最高裁H15.2.14では、違法収集証拠であることを理由に尿の鑑定書の証拠能力が否定。 
先行する手続に違法がある場合の後行の証拠収集手続の違法:
最高裁昭和61.4.25:
当該証拠収集手続の前の一連の手続における違法の有無、程度をも十分に考慮して判断すべき。

違法の承継を認めるもの。
but
最終的に獲得された証拠の証拠能力を判断するには、端的に、当該違法行為と因果関係を有する証拠がどのような場合にその証拠能力を否定されるかを検討すればよく、違法性の承継を論じる必要はないという見解も。
本判決:
違法の程度が令状主義の精神を没却するほど重大

①被告人を誤信させて警察署に留め置くという目的で、被告人の退去の自由を直接に侵害する悪質性の高い虚偽の説明を行なっている
②その意図が組織的に共有されていたことを重視

本件鑑定書を証拠として許容することは、将来における違法捜査抑制の見地からも相当ではない
⇒証拠能力を否定。
  刑事p185
さいたま地裁R1.10.31  
  現住建造物等放火、殺人、同未遂罪で起訴、火災実験で無罪⇒控訴審で差戻し⇒差戻審で有罪
  事案 被告人が妻子を殺害しようと企て、中2階踊り場付近に何らかの方法で火を放った⇒被告人を現住建造物放火、殺人、同未遂罪で起訴。
  差戻前第1審 出火元について、2階南側六畳間が含まれる可能性がある⇒中2階踊り場付近に限定することはできない⇒公訴事実は証明不十分。

・・・推定される着火行為終了時刻では被告人はすでに外出していて放火は不可能であるか、又は可能であっても着火後燃え広がるのと確認してから外出したとすると不自然になる。

被告人が外出した時刻(最も被告人に有利なもの)から着火終了推定時刻までの6分間に、解離性障害の影響下で睡眠薬の副作用により衝動的な自傷行為として放火した可能性がある⇒被告人が放火したことについて合理的な疑いが残る。

無罪
  控訴審 原審が燃焼実験で得られた数値を基に着火終了時刻を推定した手法を批判。
①本件の燃焼実験には設定条件(窓の開放・助燃剤の使用等)の問題⇒着火終了から煙の流出迄の時間について 秒単位の再現性があるとは認められない。
②原審は煙の流れについて単に煙が風速で進むことを前提としたが、家裁によって熱せられた煙は建物から流出した後、上昇しながら風下にたなびいていき、冷えて下降して周辺に立ち込めるはす

原審が推定した着火終了時刻と被告人の外出時刻を対比した手法は不合理。
燃焼実験の各局面と、防犯カメラの映像や近隣住民の目撃から認定できる火災の専門家の証言を採り、その時刻に被告人が本件建物内にいて放火したとの推認を妨げない。
妻が放火した可能性・・・認め難いとし、
原審が被告人が放火したことに合理的な疑いが残るとしたのは論理則経験則に照らして不合理。
原審が指摘した2南側六畳間も出火元である可能性については、その正誤を断定できず、燃焼実験にもかかわった前記の専門家を再度尋問して吟味すべき⇒事件を第一審に差し戻した。
  差戻審 出火元については、専門家の証言に依拠⇒2階南側六畳間の可能性も完全には否定できない。
被告人の外出と煙の発生が時間的に近接⇒出火時刻に被告人が本件建物内にいて放火したことが相当疑われる。

妻Aは睡眠導入剤の影響で眠っていたと考えられる。
眠っていなかったとしても、本件で想定される放火行為には、被告人が外出してから防犯カメラに煙が映り始めるまでの7分間に、中2階踊り場付近に可燃物を配置するなどの準備をした上で着火し、臨機応変に可燃物を追加するなどの工夫が必要であり、そのような行動をすることは一般人には極めて難しい。
精神科医師の証言⇒Aの病状が重くなかった場合には自殺するために放火した可能性は考え難いし、他方、病状が重かったとすれば、的確な状況把握・判断ができず、試行錯誤や創意工夫を要する行為はできないはず。
⇒Aが本件で想定される放火行為をした具体的可能性はない。

妻子を殺害する動機もあった
⇒被告人が放火
  解説 控訴審は差戻しに当たって出火元を確定するための審理を支持し、差戻審も火災の専門家を再度尋問⇒結局、2階南側六畳間から出火した可能性も否定できないとの結論にとどまった。
but
控訴審が原判決を破棄した上で事件を差し戻したのは、被告人が有罪であれば量刑評議を裁判員を含む裁判体が行なう機会を保障する狙いもあった。 
本件では、焼け跡の調査に加え、煙の動きや被告人の行動が映った防犯カメラの映像があり、捜査官は専門家の関与を得て燃焼実験を行なった。
Aの行動については、精神疾患の治療歴や精神症状に関する医師の見解が得られていた。

これらの証拠に基づいて、火災発生の時期・機序を推定して放火行為を想定するとともに、その時期における被告人の行動とAの行動を推定することになった。
2467   
  行政p3
最高裁R2.3.24  
  取引相場のない株式の譲渡に係る所得税法59条1項所定の「その時における価額」が問題となった事案
  事案 法人に対する株式の譲渡につき、譲渡人の相続人である被上告人らが、当該譲渡に係る譲渡所得の収入金額を譲渡代金額(1株当たり75円)と同額として所得税の申告⇒当該代金額が所得税法59条1項2号に定める著しく低い価額の対価に当たるとして更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分⇒これらの各処分の取消し(更生処分については修正申告又は先行する更正処分の金額を超える部分)を求めた。
  争点 当該株式の当該譲渡の時における価額であり、
上告人(国)はいわゆる類似業種比準方式によって算定した1株2505円
非上告人らはいわゆる配当還元方式によって算定した1株当たり75円
を主張 
  法令 等 ●所得税法及び所得税法施行令 
所得税法59条1項は、同項各号に掲げる事由により譲渡所得の起因となる資産の移転があった場合には、譲渡所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなす旨規定。

2号において、著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る「低額譲渡」)を掲げる。
所得税法施行令169条は、前記政令で定める額は、所得税法59条1項に規定する譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の2分の1に満たない金額とする旨を規定。
  ●所得税基本通達 
所得税基本通達は、所得税法59条1項の規定の適用における取引相場のない株式の価額の算定方法につき、評価通達における算定方法の例によるとして、これをいわば借用する形。
  ●評価通達 
相続税及び贈与税の課税価格計算の基礎となる財産の評価に関する基本的な取扱いを定めたものであるところ、
取引相場のない株式の評価について、
原則的な評価方法を定める一方で、
株式の議決権の割合が小さい一定の株主については、例外的な評価方法を定めている。
  事実関係  A株式会社の代表取締役であったBは、平成19年8月1日、有限会社Cに対し、所有していたAの株式のうち72万5000株を、代金額を配当完全方式により算定した1株当たり75円、合計5437万5000円として譲渡。 
Aは、評価通達上の大会社に、
その株式は、取引相場のない株式に
該当する。
本件株式譲渡の直前におけるAの株式が有する議決権の割合:
Bが単独で15.88%
Bとその同族関係者を合計すると22.79%

本件株式譲渡⇒議決権の割合は、
Bが単独で8%
Bとその同族関係者を合計すると14.91%
Cが7.88%

本件株式譲渡の前後を通じて、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が議決権総数の30%以上となる株主、いわゆる評価通達188の(1)にいう同族株主にあたる株主はいなかった。
  争点 被上告人ら:
評価通達188条の(1)~(4)の少数株主のうち、所得税基本通達59ー6(1)において触れられていない評価通達188の(2)~(4)の少数株主に該当するか否かの判定は、株式の取得者の取得後の議決権の割合により行なうべき⇒Cは評価通達188条の(3)の少数株主に当たる⇒本件株式譲渡時における本件株式の価額につき、配当還元方式により算定した額を主張。
上告人:
譲渡所得に対する課税の場面において、評価通達188の(1)~(4)の少数株主に当たるか否かの判定は、株式の譲渡人の譲渡直前の議決権の割合により行なうべき⇒Bは少数株主に当たらない⇒本件株式譲渡時における本件株式の価額につき、原則的な評価方法である類似業種比準方式により算定した額を主張。
  解説  ●譲渡所得とみなし譲渡
譲渡所得:
資産の譲渡による所得であるが、
譲渡所得に対する課税は、キャピタル・ゲインすなわち資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、その所有期間中の増加益を清算して課税しようとするもの。
所得税法は、キャピタル・ゲインに対する無限の課税繰延を防止するという目的から、未実現のキャピタル・ゲインに対する無限の課税繰延を防止するという目的から、未実現のキャピタル・ゲインに対する課税を行っており、これが同法59条1項のみなし譲渡の制度。
  ●評価通達における取引相場のない株式の評価方法 
所得税基本通達59-6は、取引相場のない株式の評価につき、評価通達の例によることとしている。
評価通達:
原則的評価方法を定め、
大会社については類似業種比準方式を採用し、
他方で、例外的に少数株主が取得した株式については配当還元方式を採用。

①大会社は上場株式や気配相場等のある株式の発行会社に匹敵するような規模の会社であって、その株式が通常取引きされるとすれば上場株式等の取引価格に準じた価額が付されることが想定される⇒現実に流通市場において価格形成が行なわれている株式の価額に比準して評価することが合理的。
②少数株主については、会社支配力に乏しく、単に配当を期待するにとどまるという実情がある⇒評価手続の簡便性をも考慮して、配当還元方式を相当としたもの。

保有する株主によって価額が異なる。
純粋資産価額>類似業種比準価額>配当還元価額
  ●少数株主該当性の判断方法 
株式譲渡に係る譲渡所得の計算のためにその譲渡時の価額を算定するに当たり、
当該株式の株主が少数株主に該当するか否かの判断を、
譲渡直前における譲渡人である株主について行なうべきか(「譲渡人基準」)
譲渡直後における譲受人である株主で行なうべきか(「譲受人基準」)
が問題となった。
  判断  取引相場のない株式の譲渡に係る所得税法59条1項所定の「その時における価額」につき、当該株式の譲受人が評価通達においてその株主が取得した株式は配当還元価額によって評価するものとされている株主に該当することを理由として、配当還元価額によって評価した 額であるとした原審の判断には、同項の解釈適用を誤った違法がある。
⇒原審に差し戻し。
  本判決:譲渡人基準を採用。 
これまでの最高裁判例に沿って、増加益清算課税説をとることを示し、
所得税法59条1項は、同項各号に掲げる事由により譲渡所得の基因となる資産緒移転があった場合に当該資産についてその時点において生じている増加益の全部又は一部に対して課税できなくなる事態を防止するため、「その時における価額」に相当する金額により資産の譲渡があったものとみなすこととした。
所得税基本通達59-6が参照する評価通達が、取引相場のない株式の評価方法について、原則的な評価方法を定める一方、例外的に配当還元方式による場合を定めるのは、事業経営への影響の少ない同族会社の一部や従業員株主等においては、会社への支配力が乏しく、単に配当を期待するにとどまるという実情があることに基づくもの。
評価通達が少数株主の判定方法につき譲受人基準を採るのは、相続税や贈与税は、相続等により財産を取得した者に対し、取得した財産の価額を課税価格として課されるもの⇒株式を取得した株主の会社への支配力に着目したもの。
but
譲渡所得に対する課税においては、当該譲渡における譲受人の会社への支配力の程度は、譲渡人の下に生じている増加益の額に影響を及ぼすものではない
⇒譲渡所得に対する課税の趣旨に照らせば、譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきものと解される
⇒譲渡所得に対する課税の場面においては、相続税や贈与税の課税の場面を前提とする評価通達の定めをそのまま用いることはできず、所得税法の趣旨に則し、その差異に応じた取扱いがされるべき。
所得税基本通達59-6が、少数株主に該当するか否かの判断の前提となる「同族株主」に該当するかどうかは株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲受又は贈与直前の議決権の数により判定すること等を条件に、評価通達の例により算定した価額とする旨を定めているところ、
この定めは、前記のとおり、譲渡所得に対する課税と相続税等との性質の際に応じた取扱いをすることとし、少数株主に該当するか否かについても譲渡人基準により判断すべきをいう趣旨のもの。
  解説  原審:通達の「文理」を重視すべきものとした。
vs.
通達は法規命令ではなく、裁判所を拘束するものではない
⇒ある取扱い(本件では譲受人基準により配当還元方式により評価すること)が法規命令に適合するか否かの判断は、飽くまで当該法規命令の解釈を行った結果、当該取扱いがそれに適合するか否かによるべきであって、通達の文言に左右されるものではない。 
宇賀裁判官の補足意見:
所得税基本通達59-6が評価通達の「例により」算定する旨を規定
⇒本判決が指摘したような読替えを行うべきことは、所得税基本通達59-6の文理自体にも反しているとはいえないとの指摘。
  ①本件株式譲渡時における本件株式の価額は最終的には事実認定の問題
②通達は法規命令ではない

被上告人らが所得税基本通達59-6による評価方法以外の方法が本件には適切であるなどとして、通達が定める方法以外の方法により本件株式の価額が1株当たり75円であると主張すること自体は可能。
  民事p27
仙台高裁R2.3.12  
  原発事故の慰謝料
  事案 東北地方太平洋沖地震の津波により発生した東京電力福島第1原発の爆発事故後、放射性物質の拡散による被害から非難した者が提起した集団訴訟の最初の高裁判決。 
東京電力に対し原子力損害賠償損害賠償紛争審査会(原賠審)の中間指針を超える慰謝料の請求を認めたもの。
被告は、本件事故により放射性物質が拡散したことにより生じた原子力損害について、過失の有無に関わりなく、原賠法3条1項に基づく損害賠償責任がある。
被告は、原賠審が、原賠法18条2項2号に基づき本件事故による原子力損害の範囲の判定等に関して策定した中間指針に従い、避難生活に伴う慰謝料、財物損害、その他の費目について賠償金を支払っている。
  主張 原告は、主位的に民法709条、予備的に原賠法3条1項に基づき、損害賠償を請求。
請求額:
各原告につき、
①避難生活に伴う慰謝料、
②ふるさと喪失慰謝料、
更に1部の原告につき、
③財物損害(住宅・家財)
の賠償を加えた合計から既払金を控除して弁護士費用を加えた額。
  判断  原判決が原告の主位的請求を棄却した部分についての原告の控訴を棄却。
原判決が予備的請求を一部認容した部分について、は、慰謝料について、
原判決の認容額と同じ帰還困難区域については原告・被告双方の控訴を棄却し、
居住制限区域又は避難指示解除準備区域、緊急時避難準備区域については、原告の控訴に基づき認容額を増額し、被告の控訴を棄却。
(1)帰還困難区域1600万円
①避難を余儀なくされた慰謝料150万円
②避難生活の継続による慰謝料850万円
(月額10万円×平成23年3月から平成30年3月までの85か月、期間中に死亡した者も同額)
③故郷の喪失による慰謝料600万円

(2)居住制限区域又は避難指示解除準備区域1100万円
①150万円
②850万円
③故郷の変容による慰謝料100万円

(3)緊急時避難準備区域
①70万円
②180万円
③50万円
  被告が原賠審の中間指針に従った賠償義務を認めている

被告の賠償基準により評価できる損害と評価し尽くせない損害とを区分して検討するのが合理的。 
被告は、避難指示の程度に応じて相当の避難期間を定め、その期間について1人月額10万円の割合による避難生活に伴う慰謝料を支払っている

相当の避難期間に応じた慰謝料を算定するとともに、
それでは評価し尽くせない損害についての慰謝料として、被害の実情を勘案し、避難を余儀なくさせた慰謝料、故郷の喪失又は変容による慰謝料を算定。
故郷の喪失又は変容による慰謝料又は変容による慰謝料を算定するにあたり、
地域における住民の生活基盤としての自然環境的条件と社会環境的条件の総体について、これを一応「故郷」と呼ぶこととし、法的保護に値する利益と評価した上で、避難を余儀なくされた慰謝料や避難生活の継続による慰謝料を算定しただけでは評価し尽くされない損害について、むしろ地域社会全体が突然避難を余儀なくされて容易に帰還できず、仮に帰還できたとしても、地域社会が大きく変容してしまったという本件の被害の実態に即した損害の評価の在り方として適切であると判断。
  民事p61
東京地裁R1.11.28  
  自動降下シャッターと車両の接触事故
  事案 X所有のビルの地下駐車場出入口にY所有のトラックが侵入する際、自動で降下していた本件出入口のシャッターにトラックが接触。 
本訴:Xが、トラックの運転手の使用者であるYに対し、民法715条に基づきシャッターの修理費用等の損害賠償を請求。
反訴:Yが、Xに対し、民法709条、715条又は716条に基づき、トラックの修理費用等の損害賠償を請求。
  争点 ①トラックの運転手の過失の有無
②シャッターの安全装置が不十分であることなどを理由とするX従業員の過失の有無又はシャッターの設置管理の過失の有無
③双方の過失割合
  判断 ●争点① 
①シャッターが降下を開始する5秒前から降下予告ブザーが鳴っており、トラックの運転手は、ブザーに気付くことができた
②シャッターに近づく途中で降下っするシャッターの下部を視認することができた

シャッターの降下を予見し、シャッターの下を通過する前に停止すべきであったのにそれを怠った⇒運転手の過失を肯定。
  ●争点② 
シャッターの設置管理に関しては、
①降下予告ブザーと赤色回転灯は設置されていたものの、シャッターの製造業者がオプションとして設置を推奨していた「シャッターが閉まります。」などとアナウンスする装置の設定がないこと、
②一般に、駐車場出入口には入出庫を知らせるブザーや回転灯が設置されることが多い

前記ブザーと回転灯だけではシャッターの降下を知らせるのには不十分。
シャッターの手前1メートルの車両をセンサーが感知した場合にシャッターが降下を停止し、その後上昇する装置が設置
but
同装置は進行速度が比較的低速の車両との接触を回避するのに不十分であり、そのことがシャッターの取扱説明書に記載され、本件事故発生までの約5年間にシャッターと車両との接触事故が9件発生
⇒Xの従業員の予見可能性もあった。
シャッターと車両との接触を未然に防ぐためには、
シャッター降下を明瞭に知らせる警告装置を設置するか、
本件出入口手前で車両に一旦停止を求めるなどしてセンサーによる降下停止措置を有効にするべき
注意義務があったのに、これを怠った。
  ●争点③ 
警告音に気付いてシャッターの降下を視認することができたのに漫然とトラックを進行させた運転手の過失が大きく、
X従業員の過失は、一定の警告装置を設置して警告していたことから比較的小さい

Y70%、X30%。
  解説 運転手の過失について、
シャッター及び赤色回転灯の位置、
トラックの走行経路を具体的に認定した上で、
予見可能性を認定。
自動で降下するシャッターの設置管理者の過失の判断に当たり、
シャッターの位置・形状、安全装置の機能及びシャッターの取扱説明書等における安全基準などを踏まえて、
警告措置の設置又は安全装置の有効性を図るべき注意義務を認め、
シャッター設置管理者の過失を認定。
類似事例の裁判例。
  民事p67
横浜地裁横須賀支部R2.5.25  
   
  事案  
  主張 Xは、Y(横須賀市の家庭保育福祉員) と横須賀市に対し、損害賠償を求める訴えを提起し、
A(生後4か月)が死亡したのは、Yが睡眠中のAの状態を確認する注意義務に違反したためであり、また、
横須賀市の職員には家庭保育福祉員であるYに対する適切な助言指導を行なう義務を怠った過失がある。
  判断 Aの死因:吐乳吸引による窒息死であると認定。 
YにはAの睡眠時チェックを怠った過失があり、
横須賀市には家庭保育福祉員指導研修を実施すべき義務を怠った過失がある

両者に5256万9717円の支払を命じた。
  解説 乳幼児突然死症候群が原因である可能性が高いとされた事案⇒保育者側の注意義務を確定することができない⇒棄却されるケースが多い。 
本判決:
本件事故当時の医学的知見は、0歳児については5分から少なくとも10分に1回、定期的に呼吸の確認をし、同時に体にも触れて乳児が生きていることを確認して刺激をするというものであったと認定

横須賀市に、本件事故当時までの乳児の吐乳ないし窒息に係る医学的知見に即して家庭保育福祉員であるYに乳児の睡眠時チェックを行なうよう指導する研修を実施すべき義務に違反した違法な公権力の行使があったと認めた。 
Yは、ミルクを与えたAが入眠した後、寝返りを打つことができない状態においたままにした⇒Aが吐乳して呼吸を妨げられる状況にあるのを認識しており、Aが吐乳して呼吸を妨げられて窒息死するのを予見し得た。
Yは、Aに対して約15分間隔での睡眠チェックしか行なわず、Aが吐乳吸引に起因する気道狭窄により呼吸状態が悪化したことに気付かず、Aの窒息死という結果を招いた⇒Yには、Aの睡眠時チェックを行う義務を怠った注意義務違反によりAを死亡させた責任があると判断。
  民事p86
仙台地裁R2.10.28  
   
  事案 被告は、・・・石炭火力発電所である仙台パワーステーション発電所を建設し、平成29年10月1日から営業運転を開始。

本件発電所周辺に居住する原告ら124名が、本件発電所の運転により、原告らの平穏に日常生活を送る権利(「平穏生活権」)が侵害されている⇒被告に対し、平穏生活権に基づき、本件発電所の運転差止めを求めた。 
主張等  原告ら:大気汚染モデルや疫学知見を用いて環境影響を分析した科学論文(「本件論文」)を提出し、これを主たる根拠として平穏生活権侵害を主張。
本件論文の信用性を検討するため、専門的な知見に基づく説明を聴くこととし、専門委員として内山京大名誉教授が選任され、公開の法定等においてテレビ会議の方法により同専門委員が参加するなどして、争点整理が行なわれた。
  判断  ●平穏生活権侵害の判断基準
①人格権は、人の生命、身体という極めて重大な法益を保護するものであり、物権の場合と同様に排他性を有する権利(最高裁:北方ジャーナル判決参照)
②環境汚染による不安を抱くことなく日常生活を送るという法益は、生命、身体に係る法益に密接に関連するものであり、環境汚染による人の健康被害を防止することは、国民が健康で文化的な生活を営むためにも不可欠なもの。

環境汚染による不安を抱くことなく日常生活を送る権利(平穏生活権)は、憲法13条及び25条の法意に照らし、人格権に由来するものとして保障されるべきもの。
他方で、環境の保全とこれに伴う規制は、第1次的には、民主的手続により定められた行政法規、刑罰法規等によってなされることが予定されている⇒社会公共の利益に鑑み、前記不安を受任すべき場合もある。

環境を汚染する行為は、
①行政法規、刑罰法規等に違反し、
②公序良俗違反や権利の濫用に該当し、
③環境汚染の態様や程度が特別顕著なものであるなど、
環境汚染の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くといえる場合に、平穏生活権を侵害するものとして、違法となると解するのが相当。
  ●平穏生活権侵害の成否 
・・・・少なくとも現時点においては、本件発電所の運転による環境汚染の態様や程度が特別顕著なものであると認めることはできない⇒平穏生活権侵害の成立を否定。
被告は、平成28年3月2日、仙塩地域7自治体との間で、本件発電所について、公害防止に関する協定を締結し、環境情報の公表や本件発電所の公開その他の地域住民に対する環境コミュニケーションを積極的に推進することに合意。
but
それらを履行せず、本協定に違反している。
他方、少なくとも現時点においては、本件発電所の運転により排出される大気汚染物質等の実測値は、環境基準等をいずれも下回るものであり、本件発電所の周辺地域における大気汚染物質等の実測値は、本件発電所の運転前と比較しても通常の変動の範囲内で推移。
⇒上記結論
  解説  ●平穏生活権侵害
◎   ◎人格権という法概念の体系と展開 
人格権:
個人の尊厳を保障する憲法13条の法意に照らし、判例法理上形成された権利。
人格権が権利概念ではなく、不法行為法で保護される法的利益にとどまる時代。

名誉権等の伝統的な人格的利益が排他的な性質を有する権利であるとされ、これに差止請求権が承認された時代。

人格権の一部が知的財産権としての性質を有する時代。
  ◎私生活の平穏という法概念 
最高裁H1.12.21:「ビラ配布事件判決」
ビラの配布行為は名誉毀損を構成するとはいえないものの、当該教師らの社会的地位及び当時の状況等に鑑みると、前記攻撃を受けた当該教師らの精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度内にあるということはできず、前記ビラの配布行為に起因して私生活の平穏などの人格的利益が違法に侵害された
⇒ビラの配布行為が名誉毀損とは別個の不法行為を構成。
最高裁H22.6.29:「目隠しフェンス事件」
平穏に日常生活を送るという利益が人格的利益として認められることを前提・・・。 
本判決:
憲法13条及び25条の法意に照らし、判例法理条上形成されていた「私生活の平穏」という精神的価値を保護する人格的利益を更に推し進め、環境汚染という場面に限定し、前記にいう排他性を有する権利として、平穏生活権を承認。
  ◎違法性の判断基準 
人格的利益をめるぐる不法行為の成否に関する判断基準としては、学説上は、
被侵害利益の性質と侵害行為の態様との相関関係において総合的に判断するという相関関係説が通説。
受忍限度論:
人格的利益ないし人格権を侵害する行為の違法性の判断基準として、前記相関関係説を基礎として発展したもの。
その内容は、事案の諸要素を比較検討して総合的に判断し、一般社会生活上受忍すべき限度を超えるものかどうかによって違法性を判断するもの。
伝統的には、受忍限度論は、
騒音等による被害その他の生命・身体的価値が損なわれる姓アk津妨害の領域で展開していたものであるが、
私生活の平穏という精神的価値を保護する人格的利益についても、ビラ配布事件判決及び目隠しフェンス事件判決は、受忍限度論を採用。
本判決:
違法性の判断基準の理由付けとして、社会公共の利益に鑑み環境汚染による不安を受忍すべき場合もある旨説示⇒前記受忍限度論を採用。
but
環境の保全とこれに伴う規制は第一次摘的には民主的手段により定められた行政法規等によってなされることが予定されているものであるとして、国立マンション事件判決(最高裁H18.3.30)と同種の説示

本判決は、基本的には、平穏生活権侵害に基づく営業の規制等は、民主的裏付けを持つ公法的規制に判断の基準を求めることができると解したものと考えられ、
平穏生活権侵害となる場面につき、環境汚染の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くといえる場合という極めて例外的な場合に限定する立場を採用。
  ◎違法性の判断における考慮事情 
目隠しフェンス事件判決:
受忍限度を判断するに当たり、建物に居住する者の精神的苦痛のほかに、葬儀場運営会社による地域住民に対する配慮についても判断を左右する重要な事情として考慮すべきものとして解したといえる。
本判決も、目隠しフェンス事件判決を踏まえ、被告による地域住民に対する配慮についても、環境汚染の態様の1要素として判断を左右する重要な事情として考慮したものと思われる。
  ●本件論文の信用性 
①本件算定式による大気汚染物質の数値が実測値とは異なる
②本件計算式は、宮城県外の死亡者数が東北地方の死亡者数の4分の1以上を占めるとう結果を示すものの、このような結果は現実にはあり得ない
③本件算定式において私用されている相対危険の数値は、欧米の疫学調査から算定されたもの⇒直ちに日本に当てはめることができない
④・・・本件算定式が採用する前記数値は、日本の死亡構造とは大きく異なる

本件算定式は、本件発電所の運転による環境汚染の現実を正しく反映するものとはいえず、少なくとも原告らの現実の権利侵害を立証するものとしては、信用性を欠く。
  民事p99
奈良地裁R2.3.10  
   
  事案 刑務所内で受刑者が金属製のバール及び玄能(ハンマー)を用いて抜釘作業中に左眼に異物があたり視力低下の障害⇒国賠請求。 
  争点 本件刑務所の職員にxが本件作業を行なうに当たり、保護眼鏡を着用させるべき注意義務があったのにこれを怠った過失があるか? 
  判断 Yは本件作業時に保護眼鏡を着用させる注意義務を負っていた。 
①市販のバールや玄能には、使用時に保護眼鏡を着用することを指示する能書があるものが存在
②受刑者らに貸与する器具を選定していたのはP2技官であり、P2技官はその器具をホームセンターで市販品を見るなどして決定
③器具の更新が毎年行なわれていた⇒本件刑務所における器具の選定を委ねられていたP2技官が、市販品のバールや玄能の能書を目にしていないことは考えられない。
④P2技官自身も、バールや玄能を用いた作業を行なう際には強く叩かないよう指導
⇒仮に強く叩いた場合には、器具や木材の破片の飛散を含む危険な事態が生じることを十分に認識

器具の選定に携わらない受刑者らに器具を貸与する本件刑務所の職員においては、貸与する器具に応じた安全配慮義務を尽くすることが要請されるのであり、本件作業字において使用されたバール及び玄能の一般的な使用上の注意に応じて、保護眼鏡を着用するよう指示すべき職務上の注意義務があり、この義務を怠った。
①Xは、P2技官から明示的にXが本件作業時に行なっていた方法は不適切であるとの指導を受けていなかったものの、P2技官から口頭で指導された釘抜き方法以外の方法により本件作業に従事
②X自身、主観的にはバールを玄能で強く叩いた旨供述

X自身の適切とはいえない行為も本件事故の原因ともなっている

3割の過失相殺を認め、1831万859円及び遅延損害金の支払を認容し、その余の請求を棄却。
  解説 類似事案の裁判例 
  民事p107
高松地裁R2.5.22  
  中学2年(13歳)の不法行為責任を認めた事例
  事案 Y3市(高松市)が設置管理する中学校に通っていた当時中学2年生であったXが、本件中学校内において、同級生であるY1(当時13歳)が振り回していた水筒がXの目に当たり負傷

Yらに対し、
①Y1については、民法709条に基づき、
②Y1の母親であるY2については、民法714条1項又は民法709条に基づき、
③Y3市については、国賠法1条1項に基づき、
損害額合計1813万円及び遅延損害金の支払を求めた。
  規定 民法 第七一四条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。
  判断    ●争点1:本件事故の態様
X:Y1が振りまわしていた本件水筒が右目に当たった
Y1・Y2:Y1が上半身を捻って右後方に振り向いた際に、右手に持っていた本件水筒が遠心力で浮き上がってXの顔面に当たった偶発的な事故。
判断:
本家事故は、Y1が後方を振り返った際に、肩と腰の間くらいに右手で持っていた本件水筒が遠心力で同人の顎辺りまで浮き上がったことにより生じたもの。
  ●争点2:Y1の責任の有無
本判決:
Y1の責任能力があることを認めた上で、
①Y1は事故当時Xが自分の後方にいるという認識を有していたこと、
②本件水筒を遠心力が生じる程度の勢いで肩の高さまで振り上げながら広報を振り返った場合、他人に本件水筒がぶつかり、傷害結果が生じることについて予見可能であった

漫然とそのような行動をとったY1に過失がある。
  ●争点3:Y1の母であるY2の責任 
Y1に責任能力あり⇒Y2は民法714条1項に基づく監督責任を負わない。
Y2はY1が本件事故を起こすような行動をとることを具体的に予見し得たとはいえない⇒民法709条の責任も否定。
  ●争点4:Y3市の責任j
Y3市には責任はない。
   
Y1に対し1011万7765円の支払を明示、Y2、Y3市に対する請求は棄却。
  解説 生徒の責任能力については、一般的には、小学校卒業程度の年齢に達していれば責任能力があるとされる。
12歳で責任能力否定事例
13歳で責任能力肯定事例
責任ののある生徒の加害行為⇒親は民法714条1項の監督責任を負わない。
but
場合によっては、民法709条の責任を負う。
  知財p116
大阪高裁R1.7.25  
  コンタクトレンズ販売店の販売宣伝用チラシの著作物性が否定された事例
  事案 いずれもコンタクトレンズ販売店の経営等を行なうXとYの間の損害賠償請求の事案。
Yからコンタクトレンズ販売店の運営を委託されていたXが、運営委託に価格契約終了後に近徳とレンズ販売店を開店したYに対し、Yの配布しているチラシは、前記契約終了前からXが販売宣伝のために作成・配布していたチラシに依拠して作成⇒Xの著作権(複製権及び翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害⇒不法行為に基づく損害賠償請求等を請求。
  争点 ①本件チラシの著作物性
②本件チラシに係る著作権・著作者人格権の帰属
③侵害の成否
④損害 
  Xの主張 本件チラシの表現のうち、
①「検査時間、受診代金(各文言の上に×印)」「検査なし スグ買える!」という宣伝文句(キャッチフレーズ)
②「コンタクトレンズの買い方比較」という表
③「なぜj検査なしで購入できるの?」の箇所における説明文言
の3点が、
それぞれ独立に創作性があり、また、これら①ないし③及びイラストの組合せに創作性がある
⇒本件チラシに著作物性が認められると主張。 
  原審  ①について、いずれもありふれた表現方法にすぎない
②のマトリックスの表形式は、表現方法としては他の方法も存するところではあるが、販売宣伝のためのチラシという性質上、表現方法の選択の幅はそれほど広いとはいえず、文字で表現しようと思えばできる事項を表形式で表現することは通常行われることであり、その具体的なまとめ方もありふれた手法にすぎない
③著作権法による保護の対象となるわけではないビジネスモデルの方針や背景をそのまま記述したにすぎず、文章表現自体に特段の工夫があるとはいえない

①ないし③の組合せによる著作物性について、
何かを強調し、分かりやすく伝えるために、説明文とキャッチフレーズと表形式のものを組み合わせることそれ自体は、特徴的な手法とは認められない。

Xの請求を棄却。
Xの追加主張 本件チラシが著作物と認められないとしても、Xが多大な時間と労力を費やした成果を冒用し、Xの営業上保護された法的利益を侵害⇒不法行為を構成するとの請求原因を追加。 
  判断 原審同様、本件チラシの著作物性を否定。 
Xが追加した請求原因については、
費やした労力の具体的な内容をXは説明しておらず、
Yの配布したチラシの集客効果に関しても明らかではない

Xの主張はいずれも不法行為が成立する根拠としての事実の裏付けを欠くとして排斥。
  解説   著作権法2条1項1号:
「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることを著作物であるための要件としており、このうち創作性要件:
伝統的な裁判例および通説:
高度の学術性、芸術性や、客観的に他者の表現と異なる独創性を要求するものではなく、
表現に作成者の何らかの個性が現れていれば足りる 
個性がなく創作性が否定される場合:
①ごく短いものであったり、表現形式に制約があるため、他の表現が想定できない場合
②表現が平凡かつありふれたものである場合

ありふれた表現であるか否か:
(a)用語の選択、全体の構成の工夫、特徴的な言い回しの有無等の当該作品の表現形式
(b)当該作品が表現しようとする内容・目的に照らし、それに伴う表現上の制約の有無や程度、
(c)当該表現方法が、同様の内容・目的を記述するため一般的に又は日常的に用いられる表現か否か
といった点が総合的に判断される。
知財高裁H22.7.14:
特定の思想を表現する方法に多数の選択肢があるとしても、その選択された表現事態がありふれたものであれば、これに創作性を認めることができない

知財高裁H24.2.29:
プログラムに著作物性があるというためには、選択の幅が十分にあり、かつ、それがありふれた表現でないことを要する
  本件のようなデッドコピーに近い事案においては、本件Xの主張に見られるように、各個別の具体的表現部分の創作性とともに、「組合せ」や「選択又は配列」の創作性が主張されることがある。
肯定例もあるが、
多くの事例においては「組合せ」等はアイデアまたはありふれた表現に過ぎないとして著作物性が否定される傾向にある。 
  最高裁H23.12.8:
著作権法が「規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情」が存在する場合は、不法行為が成立する余地があることを明示。
著作物性が否定された情報の利用に関する一般不法行為の成立が認められた代表的な裁判例:
知財高裁H17.10.6:
記事見出しが原告の多大な労力・投資が結実したものであり、それ自体でも有料の取引対象となっていることを理由としている。
   刑事p127
名古屋高裁R2.3.12
  親の子(当時19歳)に対する準強制性交等罪の事案で抗拒不能が問題となった事案 
  規定 刑法 第一七八条(準強制わいせつ及び準強制性交等)
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。
  一審 Aの同意がなかったことは認めたが、Aが抗拒不能であったことについては、合理的疑いが残る。

①本件以前の被告人による暴行の程度が強度のものではなく、抵抗を続けた結果として性交を拒むことができたという経験を有していた
②日常生活全般において被告人の意向に反する行動を取れていた
③本件事件以前に被告人から暴行を受けた際、弟らの協力を得て性的虐待を回避することができた期間もあった 
  判断  ●抗拒不能要件の解釈 
一審判決は、刑法178条2項の心理的抗拒不能について
「相手方において性交を許否するなど性交を承諾・認容する以外の行為を期待することが著しく困難な心理状態にある場合」
としている点では正当。
but
抗拒不能該当性の判断の箇所では、
「逆らうことが全くできない状態」
「人格の完全支配」
「服従・盲従せざるを得ないような強い支配従属関係」
というように先の要件解釈とは異なるより厳しい成立範囲を設定⇒一貫性に欠ける。
  ●抗拒不能該当性の認定・評価について 
暴行の強度の評価にも問題があるが、
仮に頻度が少なく執拗生が弱くても、それは被告人の反復継続的な性的虐待によってAの抵抗が弱まるなどした結果とも評価できる
⇒一審判決は、被告人のAに対する暴行が反復継続して行なわれた性的虐待の一環であることを軽視。
性的虐待が行われる一方で普通の日常生活が展開されているということは虐待のある家庭では普通のこと(各医師の証言)
⇒一審判決が指摘する日常生活におけるAの行動は抗拒不能判断の事情とはならない。
過去に性的虐待を回避できた経験があったとしても、その後、以前より被告人の性的虐待の頻度が増した
⇒それはAの無力感増強の理由にこそなれ、抗拒不能状態を否定する事情とはいえない。

性交を回避するための策をためらっていたことについても、その事情は抗拒不能の事実の推認を強めるものではあっても、妨げるものではない。
    ⇒有罪を認定し、求刑どおり懲役10年。 
  解説 本件行為が、父親が実の子に対し継続的に行った性的虐待の一環であるという実態を一審判決が十分に評価していないという点が強調され、
一審判決が抗拒不能状態を否定する事情として挙げた諸点は、いずれも抗拒不能状態を否定する事情とはなり得ないばかりか、むしろこれを肯定する事情となり得るとしたもの。 
2465・2466   
  行政p5
最高裁R2.7.14  
  複数の公務員が国賠法1条2項による求償債務を負う場合の関係
  事案 大分県教育委委員会の職員らは、教員採用試験において受検者の得点を操作するなどの不正を行ない、大分県は、これにより不合格となった受検者らに対して損害賠償金を支払った。 
本件:県の住民である原告らが、被告県知事を相手に、地自法242条の2第1項4号に基づく請求として、本件不正に関与したAらに対する求償権に基づく金員の支払を請求すること等を求めた住民訴訟。
  第1次第2審 本件不正が発覚する前に退職していたAが本件不正発覚後に退職手当返納命令を受けて退職手当全額を返納していたところ、
これに相応する額についてAらに対する求償権を行使しないことを違法とは評価できない。 
  第1次上告審 第1次第2審の判断には法令の違反がある
⇒求償権の行使が制限されるべきか否かについて更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻した。
  第2次第2審 求償権の行使は制限されない。
but
不正に関与し公務員らの間でそれぞれの職責及び関与の態様等を考慮した分割債務になる⇒Aに対し、求償義務全体の4割に相当する金額の支払を請求すべきもの。 
AはF及びEと共同して、その職務を行うについて、平成19年度試験に係る本件不正を故意に行った⇒本来合格していたにもかかわらず不合格となった受検者に対しては前記両名と連帯して賠償責任を負う。
but
国賠法1条1項は代位責任の性質を有する⇒同条2項に基づく求償権は実質的には不当利得的な性格を有し、求償の相手方が複数である場合には分割債務となる⇒前記3名は県に対し分割債務を負担すると解するのが相当。
  判断 第2次第2審は、国家賠償責任を代位責任であると解した⇒国又は公共団体は、公務員が本来被害者に対して負うべき法的責任に基づいて求償することができ、公務員が被害者に対して本来共同不法行為責任を負う場合には、求償権に係る債務は分割されず、不真正連帯責任になると解すべき。
第2次第2審には、そのように解さなかった法令違反がある。
国又は公共団体の公権力の行使に当たる複数の公務員が、その職務を行うについて、共同して故意によって違法に他人に加えた損害につき、国又は公共団体がこれを賠償した場合においては、当該公務員らは、国又は公共団体に対し、連帯して国賠法1条2項による求償債務を負う。

このような場合には、当該公務員らが、国又は公共団体に対する関係においても一体を成すものというべきであり、当該他人に支払われた損害賠償金に係る求償債務につき、当該公務員らのうち一部の者が無視力等により弁済することができないとしても、国又は公共団体と当該公務員らとの間では、当該公務員らにおいてその危険を負担すべき者とすることが公平の見地から相当。

公務員が共同して故意によって違法に他人に損害を加えた場合についての判示。
  規定 国賠法 第1条〔公務員の不法行為と賠償責任、求償権〕
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
②前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
  解説 ●国家賠償責任の性質論 
A:公務員個人の責任を国又は公共団体が代位する代位責任説(通説)
B:賠償責任が国又は公共団体に直接成立すると解する自己責任説
判例は明確に判示していない。
  ●国賠法1条2項の求償権の成立要件 
国賠法1条2項の求償権

①これを認めることによる違法行為の抑止機能が公務執行の適正に資する一方で、
②重い個人責任を課すこととなると公務執行の円滑を損なうおそれが生じる
要件:
①国又は公共団体が被害者に対して現実に損害賠償金を支払ったこと
②公務員に故意又は重過失があること
③国又は公共団体の賠償責任の成立
国賠法1条2項の求償権の性質:
A:代位責任説⇒本来公務員自身が損害賠償責任を負っているのであるから、これに代わって支払った国又は公共団体が公務員に補償を求め得るのは当然であり、求償関係は不当利得返還請求に類似するものとなる。
B:自己責任説⇒公務員は国又は公共団体に対し職務上の義務違反としてその責任を負担すべき地位にあるから、公務員が求償権の行使を受けるのは当然であり、この場合の求償関係は債務不履行に類似するものとなる。
but
求償権行使の要件等の具体的な問題に直接影響するものではなく、余り実益は認められないとされている。
  ●求償権に係る債務が分割債務となるか不真正連帯債務となるか 
不真正連帯債務⇒各公務員との関係での求償権の講師の制限を考慮しなければ、国又は公共団体は、いずれの加害公務員に対しての全額求償することができ、その語、加害公務員間での更なる求償の問題が生じる。
使用者責任の場合(民法715条3項)について、複数の被用者に対して求償をするという事例についての最高裁判例は見当たらない。

使用者の被用者に対する求償につき、
「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し・・・求償の請求をすることができるものと解すべきである」(最高裁)

使用者責任と共同不法行為責任が交錯する場面においては、
「被用者が使用者の事実の執行につき第三者との共同不法行為により他人に損害を加えた場合には、使用者と被用者とは一体をなすものとみて、右第三者との関係においても、使用者は被用者と同じ責任を負うべき」(最高裁)
  行政p13
名古屋地裁R2.6.4  
  同性の共同生活者について犯給法5条1項1号にいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に当たらないとされた事例
  事案 X(男性)と 共同生活を継続していた男性が、Xと交際していた別の男性に殺害された

Xが、犯罪被害者等の支援に関する法律(「犯給法」)5条1項1号にいう「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」として同号所定の「配偶者」に該当⇒遺族給付金(犯給法4条1号)の子宮の裁定を申請⇒愛知県公安委員会から「配偶者」とは認められないとして、遺族給付金の支給をしない旨の裁定⇒Y(愛知県)を相手にその取消しを求めた。
  争点 同性の犯罪被害者(犯給法2条2項及び3項)と共同生活関係にあった者が、「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当し得るか? 
  主張 X:同性間の共同生活にあった者についても犯給法の趣旨が実質的に妥当する⇒「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当し得る。
Y:「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」は内縁関係にあった者と同義であり、内縁関係は異性間の関係のみを予定する以上、同性間の共同生活関係にあった者が含まれる余地はない。 
  判断 犯給法の目的が、社会連帯共助の精神に基づいて、租税を財源として遺族等に一定の給付金を支給し、国の法制度全般に対する国民の信頼を確保することにある⇒犯給法による保護の範囲は社会通念により決するのが合理的。

同性の犯罪被害者と共同生活関係にあった者が「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当するためには、同性間の共同生活関係が婚姻関係と同視し得るものであるとの社会通念が形成されていることを要する。
そのような社会通念が形成されているか否かについて、以下のとおり、本件処分当時の状況に照らして判断した上で、同性の犯罪被害者と共同生活関係にあった者が「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に当たると認めることはできない。
①多数の地方公共団体が、同性パートナーシップに関する公的認証制度を創設し、同性間の共同生活関係に関する証明を行なう制度を設けている上、
公営住宅の入居や職員の対偶等の局面において同性パートナーを配偶者と同様に取り扱う地方公共団体が存する
②民間企業においても、同性パートナーを配偶者と同様に取り扱う動きが進んでいること等

本件処分当時の我が国において、一部の地方公共団体が性的少数者の人権保障に向けた各種の施策を実施ししたことなどを契機として、同性間の共同生活関係についての社会一般の理解がい相当程度進んでおり、差別や偏見の解消に向けた動きが進んでいるものと評価できる。
but
同性パートナーシップが社会生活において、その性的思考を理由に様々な不利益を受けている状況にあったjことから、性的少数者に対する差別や偏見を是正することにより、その人権が尊重されるようにすることを目的として創設されたものであり、民間企業における取組等も同様の目的に基づくものであると認定。
あわせて、公的認証制度の内容としても、配偶者特別控除等の直接的な法的効果は付与されておらず、婚姻関係を男女間の関係とする婚姻法の規律に影響を及ぼすような制度設計がされるには至っていない。
諸外国における同性婚の導入の経過等

同性間の共同生活関係に関する社会制度の形成は、
①婚姻とは別の生活パートナーとしての登録あるいは共同生活のための契約の登録を認め、婚姻に近似した法律関係を保障する⇒
②事実婚としての法的保障を及ぼす⇒
③同性婚そのものを法制化する
といった段階を経て徐々に進むことが想定されるところ、
我が国の状況は、①の段階より前のもの。
①同性婚の法制化が実現する具体的な目処が立つに至っているとまではいえない、
②同性婚に関する意識調査においても賛成意見と反対意見はなお拮抗していると評価し得る

本件処分当時の我が国において同性間の共同生活関係を婚姻関係と同視し得るとの社会通念が形成されていたということはできない。
  解説 近時、同性間の交際をめぐって、
同性の事実婚の関係にあった者による不貞行為に係る慰謝料請求を認容した判決。
遺族年金等に関して、犯給法と同様の文言により定義された「配偶者」の意義をめぐって
①事実上の離婚状態にある者を含まないとした最高裁昭和58.4.14
②民法734条1項により婚姻が禁止された近親者同士の内縁関係にあった者を含み得るとした最高裁H19.3.8
があるところ、
これらの判例は「配偶者」の意義につき遺族給付金特有の解釈を示している。
  行政p25
金沢地裁R2.9.18  
  市庁舎前広場の使用許可申請に対する不許可処分と国賠請求(否定)
  事案 日本国憲法の改悪に反対し、憲法を守ることを目的として設立された権利能力なき社団とその代表委員らが、金沢市庁舎前広場(本件広場)において憲法施行70周年周年を開催することを目的として金沢市長に対し許可申請⇒金沢市長が、金沢市庁舎等管理規則(本件規則)に定める禁止事項に該当するとして、申請に対する不許可処分(本件不許可処分)⇒職務上の義務に反してなされた違憲、違法な行為であるとして、国賠請求。
平成26年にも同様の訴訟を提起。
  判断 本件不許可処分が金沢市長の裁量権の逸脱、濫用により違法であるとは認められない
⇒請求棄却。 
  解説 憲法21条1項が集会の自由を保障

公の施設における集会の開催を制限することが許されるか、
許されるとすればどのような要件の下に許されるのか。 
最高裁:
①「一般公衆の共同使用に供することを主たる目的とする道路や公民館等の施設」と
②「特定の目的のために使用すべきものとして設置され、それ以外の目的に使用することを基本的に制限されている施設」とを区別し、
①については、「公の施設」の利用を拒否することが許容されるのは、「人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険の発生が具体的に予見される場合」「警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情がある場合」に限られるのに対し、
②については、「目的外使用の許否の判断が、原則として、管理者の裁量にゆだねられている」
と解している。(最高裁H7.3.7)
平成26年訴訟の1審判決:
判決理由において、
①本件広場が本来的に金沢市庁舎建物のを訪れる来庁者及び被告職員の通行に利用されることが予定された金沢市庁舎の一部を構成
⇒地自法244条にいう「公の施設」に該当するとは認められず、本件広場にはパブリックフォーラムの法理が適用されるとは認められない。
②本件集会が本件広場において開催された場合には、被告が原告らの立場に賛同し、協力しているかのような外観を呈することとなり、地方公共団体である被告の中立性に疑問を抱かれる可能性があり、本件集会の当日やその前後のみならず、将来にわたって、被告の事務又は事業の執行が妨げられるおそれがあること
等を指摘。
対①
本件広場が実際に様々な表現行為の場として用いられ、かつ、人通りの多い道路に面した、表現活動に適した場所であったという機能面をより重視すべきであった

対②
このような理由による規制が憲法上容認されるためには、市民に市が集会の主張に賛同していると受け止められ、その結果、市の事務・事業の遂行が著しく備われる相当の蓋然性が必要であるところ、本件集会の開催を認めた場合、市の事務・事業の遂行を著しく損なう蓋然性があるとは言い難い。
  民事p46
大阪高裁R2.1.16  
  未成年者の祖母が、未成年者の母及び養父に対し、未成年者の監護者指定を求めた事案
  事案 未成年者を事実上監護している祖母が、未成年者の実母及び未成年者と養子縁組をした養父を相手方として、未成年者の監護者を祖母と指定することを求めた。
  規定 民法 第七六六条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

2前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
  論点 ①事実上の監護者である祖父母等は、監護者指定の申立権を有するか
②有するとして、どのような場合に祖父母等を監護者として指定し得るか 
  判断 1審は、祖母を未成年者の監護者と指定する旨の審判をし、本決定は、実母及び養父の抗告を棄却する旨の決定。 
  解説・判断  ●論点①
現在の家裁実務においては、民法766条を用いて、父母以外の者を子の監護者に指定することが可能であるとするのが一般的であるとの指摘。
本決定:
民法766条1項の法意を根拠とする。
(民法766条の文言に照らし、これを類推適用することは適当ではないとの考えに基づく。)
  ●論点② 
本決定:
祖父母等を監護者と指定するためには、親権者の親権の行使に重大な制約を伴うこととなったとしても、子の福祉の観点からやむを得ないと認められる場合であること、
具体的には、親権者の親権の行使が不適当であることなどにより、親権者に子を監護させると、子が心身の健康を害するなど子の健全な成長を阻害するおそれが認められることなどを要する。
東京高裁昭和52.12.9決定:
家庭裁判所が親権者の意思に反して子の親でない第三者を監護者と定めることは、親権者が親権をその本来の趣旨に沿って行使するのに著しく欠けるところがあり、親権者にそのまま親権を行使させると子の福祉を不当に阻害することになると認められるようなという特段の事情がある場合に限って許される。
(←民法834条の親権喪失の審判の事由を意識?)
vs.
子の福祉を全うするためには、同決定の要件ではやや狭すぎる。
この点、監護権と同じく親権の一部である監護権の喪失の審判を求める民法835条
「父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」は家裁は管理権喪失の審判をすることができると規定。

本決定:
祖父等を監護者と定めることは親権者の親権の行使に重大な制約を伴うこととなる
⇒親権者に子を監護させると、子が心身の健康を害するなど子の健全な成長を阻害するおそれがあることなどを要件としている。
  本件の論点は、事実上の監護者である祖父母等の監護者指定の問題にとどまらず、
例えば、祖父母等が、親権者に対し、孫との面会交流を求める申立てをすることができるのかなど相当程度の広がりを有する問題。
  民事p52
仙台地裁R2.7.1  
  公立高校教員の自殺についてパワハラが認められ、国賠請求が一部認容された事例
  事案 公立高校の教員Aは、Bから度重なる注意⇒6月27日うつ状態の診断⇒7月28日自殺 
  主張 Xら(Aの両親)が、Aの業務が過重化していたこと及びBによるパワー・ハラスメントにより、Aは精神的に追い詰められて自殺
⇒本件高校の校長及び教頭(「校長ら」)は、労働環境を整備するという安全配慮義務に違反したと主張
⇒B及び校長らの行為について、国賠法1条1項に基づき、損害賠償を求めた事案。
Y:
Bの行為は業務上必要かつ相当な範囲内のものであってパワー・ハラスメントには該当しない。
Aの自殺の原因は元来の不安を感じやすいAの性格によるもの。
  争点 ①Bの行為のパワー・ハラスメント該当性
②校長らの安全配慮義務違反の成否
③素因減額の可否 
  解説・判断   女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律は、令和1年5月29日に可決・成立、
同改正法のうち、労度施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(「労働施策総合推進法」)は、パワー・ハラスメント防止のための事業主の雇用管理上の措置義務等を新設。
労働施策総合推認法30条の2は、
事業主は、職場において行なわれる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
同規定によれば、職場におけるパワー・ハラスメントとは、
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるもの
をいうところ、
業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであるか否かの判断に当たっては、
当該言動の目的、
当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、
業種・業態、
業務の内容・性質、
当該言動の態様・頻度・継続性、
労働者の属性や心身の状況、
行為者との「関係性
等を総合的に考慮することが適当であるとされている。
(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示5号))
  本判決:
労働施策総合推進法30条の2及び前記指針と同趣旨の規範を採用。

BのAに対する執拗な注意が継続する中にあって、少なくともAがうつ病であると診断された後には、
当該注意の内容が基本的には生徒指導の姿勢に関するものであったとしても、
未だ勤務経験2年余りにすぎないAにとっては教師として生きてゆく自信を喪失させるものであり、
Aが一旦自殺未遂をした後においても継続的に行われたなどという事情の下においては、
パワー・ハラスメントが成立すると判断。

Bの一連の注意のうちパワー・ハラスメント該当性を一部肯定したもの。 
  本判決:
使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、
業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うとするのが相当であり、
使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、
使用者の前記注意義務の内容に従ってその権限を行使すべき。
(最高裁H12.3.24、電通事件)

使用者がパワー・ハラスメントを防止する義務を負うことを当然の前提とするものといえ、
労働施策総合推進法30条の2と同趣旨をいうものと解される。
同条の射程範囲を超えて、パワー・ハラスメントに該当しない場合であっても、使用者が安全配慮義務を負う場合があるという立場を採用するかどうかは、直接説示するものではない。
本判決:
安全配慮義務違反を認定するに当たり、
①教頭が、未だ勤務経験2年余りにすぎないAから、Bから注意を受けることにつき度々相談を受け、平成27年6月26日には、Aから、教師として生きてゆく自信を喪失させるような注意をBから受けたことについて相談を受けていたこと、
②教師が、Aから、心療内科を受診する旨告げられ、同月29日には、Aから、心療内科においてAがうつ状態であると診断された旨報告をうけていたこと、
③それにもかかわらず、校長らは、Aに対し、休暇を勧めたり、Aの相談に乗ったりするなどにとどまり、Aのうつ状態の原因である当のBに対しては、Aのうつ状態の原因が教師として生きてゆく自信を喪失させるようなBの度重なる注意にあることを自覚させ、未だ勤務経験2年余りにすぎないAが教師として生きてゆく自信を喪失させないように、Aにこれ以上の注意をしないよう自制を促すことをしなかったこと。
以上の各事情を安全配慮義務違反の成否を判断するに当たり考慮すべき個別事情として掲げている。
  民事p67
大阪地裁堺支部R1.12.27  
  グーグルへの投稿の口コミ削除を求めた削除仮処分申立て(却下)
  事案 X:口コミ投稿の内容が真実に反しXの名誉権を侵害する⇒Y(グーグル)に同投稿の削除仮処分を申立てた。 
Y:
①口コミ投稿サイトは、利用者の知る権利に資するという公共性がある
②否定的内容の口コミに対しては反論することが可能
③口コミ投稿サイトの一般的な閲覧者は口コミが個人の感想や主観的評価を多分に含むことを十分に認識している⇒否定的な口コミが直ちに口コミ対象者の社会的評価を低下させるものではない
④削除の可否を判断する基準となる権利侵害の明白性がない

却下を求めた。
  判断 ・・・Xの社会的評価を低下させ得る記載があることを一応認めながら、
具体的根拠事実や検証可能な方法等の記載がない
⇒一般の閲覧者は本件口コミ記事の全体の印象や別人の口コミも参照し、本件口コミ記事のみによってXの評価等を判断するわけではない

社会的評価毀損性について消極 
①本件口コミ記事は歯科医師の治療行為等の評価に関わる事柄⇒公共の利害に関する事実に当たると推認され、誹謗中傷にわたるようなものとは認められない
②助手にレントゲン撮影を補助させていたことをいうものとすれば全く根拠のないことでなく、
③認定医であることは検索方法次第で検索できないこともある⇒真実性を欠くともいえない

削除仮処分申立てを却下
  解説 本判決:
Yの主張①を利益衡量要素として言及していない。
主張②を違法性阻却要素として論じていない。
名誉・信用等毀損に当たるか、世間の噂話や情報交換として許容される範囲かの分岐点は、口コミ投稿サイトにおける開示情報の伝播範囲が広く、持続性が長いことも考えると微妙

口コミ対象者の被害の実情と、世間に与える社会的な利益効果との利益衡量によるしかなく、当該情報の流布する国や社会一般の良識や経験則に照らして判断するしかない。
口コミ利用の悪弊
⇒特定の口コミの公益的有益性と口コミ対象者の不利益等を比較判断する場合、当該口コミの投稿者の推認や投稿された口コミの内容の客観的根拠開示の有無や程度、口コミ対象者の被害の実情や推定判断について、裁判官が判断困難な状況に直面することも予想される。
本決定:
本件口コミ記事について、本件歯科クリニックの受診経験者が自己の認識・感想を記載したもので評価点も同人が下したとの認定を前提。
but
記載5(助手にレントゲンを撮らせている)、8(認定医で検索してもでてこない)は、一般市民が容易に認識したり、検索調査するレベルの事柄であるのか疑問もあり得、口コミ対象者の評判を落とす意図が窺えなくもない。

もしそうなら、本件口コミ記事の利益衡量判断は異なることも予想される。
本件審理において「認定医」であることが明らかになった⇒一般の閲覧者が「認定医」でないと誤解するおそれがある部分の削除を命ずる余地があった。
このような世間の評判に関わる口コミについて、公益的効用と口コミ対象者の被害との利益衡量に当たっては、口コミの内容自体の公益性と口コミ対象者の被害の実態が社会的に許容できない水準のものであることのみが検討されるべき。
Yの主張①は、公益的効用として評価上斟酌すべきではない
主張②の反論可能性の抗弁(マス・メディア相互間の名誉・信用侵害紛争事案でよく主張される、いわゆる「対抗言論の抗弁」)も、インターネット・メディアによる場合は、侵害情報の拡散h内や事実関係確認の困難性等⇒これによって名誉等を回復することは困難⇒口コミ対象者の被害を消極的に評価する要因とか違法性阻却要因としてはならない。
特に、特定の口コミに対する反論可能性については、反論すればますます激しい再反論・反発や攻撃の口コミにさらされるリスクもある⇒インターネット・メディアにおける反論可能性の理論は妥当性に疑問。
口コミ投稿サイトの一般的閲覧者は口コミが個人の感想や主観的評価を多分に含むことを十分に認識しているでの、否定的な口コミが直ちに口コミ対象者の社会的地位を低下させるものではないとの主張。
vs.
口コミ投稿サイトの運営事業者が社会的インフラであるインターネット・メディアを営利広告事業のために口コミの投稿者や閲覧者を利用し利益を得ながら、当該口込みの社会的公益性や誠実性・信頼性の確保に関心を払わず、全くその努力もしようとしない姿勢を示すことにも繋がるもので疑問。
  民事p75
①②  
  ①事件:横浜地裁R1.9.26
②事件:名古屋地裁R1.12.27
  事案 行政手続における特定の個人を識別するための番号の付番を受けたXらが、番号利用法及び同法に基づく個人番号の収集、保存、利用及び提供等の制度(「番号制度」)について、憲法13条がプライバシー権ないし自己情報コントロール権の一内容として保障する個人に関する情報を情報ネットワークシステムに接続されない自由を侵害するものであり、違憲であると主張⇒Y(国)に対し、前記プライバシー権等に基づき、個人番号の削除を求めるとともに、前記権利の侵害を理由に国家賠償を求めた。 
  判断 ①事件、➁事件:
憲法13条は、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を保障している。
かかる自由には、個人に関する情報について、その収集、保有、管理、利用等の過程でみだりに第三者に開示又は公表されない自由が含まれている。
①事件判決:
番号制度が前記憲法13条によって保障される権利を侵害するか否かは、
(1)番号制度における個人番号の利用及び特定個人情報の提供が、法令又は条例の根拠に基づき、正当な行政目的の範囲内で行なわれているか否か、
(2)番号制度にシステム技術上又は法制度上の不備があり、そのために個人番号及び特定個人情報が法令若しくは条例の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているといえるか否かという判断の要素を示し、

(1)の点について、
①番号利用法の掲げる目的は、いずれも正当であり、
②個人番号の利用や特定個人情報の提供の範囲は、番号利用法に具体的に列挙されており、白紙委任ではない
⇒法令又は条例の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱しているということはできない。

(2)の点について
①個人番号の利用及び特定個人情報の提供等の制限、
個人情報保護委員会による監視、
広汎な罰則規定の制定等、
法制度上の仕組みが多重的に設けられるとともに、
②インターネットからの隔離、通信等の暗号化及びアクセス制限等、不正悪性を防止するためのシステム上の安全措置が多重的にとられている

個人番号及び特定個人情報が法令若しくは条例の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているとはいえない

番号利用法及び番号制度は、前記権利を侵害するものではなく、合憲。
②事件判決:
番号制度で扱われる情報には、いわゆる基本4情報(氏名、生年月日、性別及び住所)と比較して、所得情報や社会保障の受給歴等の秘匿性の高い情報が含まれている

番号制度が全体として個人に関する情報の利用等について、必要かつ合理的な範囲にとどまることが担保されている仕組となっているかという観点から憲法適合性の検討を行うべき。

具体的な憲法適合性の検討に当たっては、
①法令等の根拠の有無及び行政目的の相当性、
②情報漏えい、目的外利用等の具体的な危険の有無
の2つのファクターに照らして検討を加え、
概ね①事件と同様の事情を指摘して、
番号制度がXらの権利又は法律上保護されるべき利用を侵害するものではない。
  解説 本件の主要な争点は、番号利用法及び番号制度の憲法適合性。
①憲法13条の保障する権利
②憲法適合性の判断枠組み
③具体的な憲法適合性
の3点が主に争われた。
先例として、住民基本台帳ネットワークシステムの憲法適合性に係る最高裁判決(H20.3.6)

①事件判決、②事件判決とも、
憲法13条の保障する権利について、
情報化社会の進展を踏まえ、個人に関する情報の収集、保管の場面も含めて、憲法13条による保護が及ぶことを明らかに。
but
憲法13条が、自己の意思に基づかずに情報ネットワークシステムに接続されない自由を保障しているとの見解は採用せず。
●  憲法13条の保障する権利の侵害の合憲性の判断について、
①事件判決:
①個人情報は、住民票コードを変換して得られる数字であり、それ自体にプライバシー情報を含まない
②個人番号と結び付けて利用される特定個人情報は、新たに番号制度によって取得されるものではない

番号制度による前記権利の侵害は制度運用の過程での不正や過誤等による漏えいによる侵害の危険という間接的なものにとどまる⇒住基ネット判決と同様の判断要素により判断すべきとした上で、番号制度を合憲と判断。
②事件判決:
番号制度で取り扱われる情報には、いわゆる基本4情報と比較して秘匿性の高い情報が含まれることを指摘して、
番号制度が全体として個人に関する情報の利用等について、必要かつ合理的な範囲にとどまることが担保されている仕組みとなっているかという観点から憲法適合性の検討を行なっており、住基ネット判決の事案との違いを強調して合憲性判定基準を示している。

両判決の違いは、番号制度において取り扱われる情報の秘匿性及びプライバシー侵害の潜在的な危険性への評価の差異によるもの。
これらの点を、
①番号制度自体の合憲性の審査基準自体に問われる問題とみるか、
②番号制度の運用の過程で生ずる不正や違法の問題とみるか
によるものではないかと思われる。
①事件判決と②事件判決では、
憲法適合性の審査基準への言及の仕方に違い。
but
具体的な憲法適合性の判断においては、いずれの判決も、
住基ネット判決と同様の判断要素、
①法令又は条例の根拠の存在
②行政目的の相当性
③個人情報の利用等が行政目的の範囲内で行なわれること、
④法制度上又はシステム上の不備による情報漏えい等の具体的な危険性の有無
という観点から検討を加え、
同様の事情を指摘して憲法適合性を肯定。
  民事p117
千葉地裁松戸支部R2.5.14  
  夫婦の一方の各本国法を適用⇒嫡出の推定が重複⇒民法773条の方法で父を確定することができるとされた事例
  事案 A(日本国籍)の配偶者であるX(ナイジェリア国籍)が、Aの善配偶者であるY(ナイジェリア国籍)を被告として、Aの子であることの確定を求めた父を定めることを目的とする訴え(民法773条)を提起。 
  規定 法適用通則法 第二八条(嫡出である子の親子関係の成立)
夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべきときは、その子は、嫡出である子とする。
2夫が子の出生前に死亡したときは、その死亡の当時における夫の本国法を前項の夫の本国法とみなす。
民法 第七三三条(再婚禁止期間)
女は、前婚の解消又は取消しの日から起算して百日を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
2前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 女が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合
二 女が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合
民法 第七七二条(嫡出の推定)
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
民法 第七七三条(父を定めることを目的とする訴え)
第七百三十三条第一項の規定に違反して再婚をした女が出産した場合において、前条の規定によりその子の父を定めることができないときは、裁判所が、これを定める。
  判断 Bの嫡出性の取得につき、法適用通則法28条1項により、その出生当時における夫婦の一方の本国法を適用すべき。 
前婚(AとYとの婚姻関係)についてみると、Aの本国法である民法772条2項、1項により、BはYの子と推定。
他方で、後婚(Aと「Xとの婚姻関係)についてみると、Xの本国法であるナイジェリア法(コモンロー、慣習法)により、BはXの子と推定。
⇒推定の重複が生じる。
渉外的な親子関係の成立の場面において、夫婦の各本国法を適用した結果、嫡出の推定が重複⇒父の確定の判断は条理に従ってするほかない。
この場合の利益状況は再婚禁止期間に違反して嫡出推定が重複した場合と共通。

民法773条を類推適用することにより、父を定める訴えことを目的とする訴えの方法により、子の父を確定することが許される。

本件訴えを適法とした上で、DNA父子鑑定の結果等に基づき、XがBの父であることを鑑定。
  解説 民法773条は、民法733条1項の再婚禁止期間に違反して再婚がされ、このために出生した子につき嫡出推定の重複が生じ、民法772条の規定によって父を定めることができないときに、裁判所の判決により推定の重複を解消させることを目的とする訴え。
  刑事p119
東京高裁R1.7.31  
  三鷹事件第2次再審請求事件
  事案 昭和24年7月に、旧国鉄三鷹駅で、運行を終了して待機電線に停車していた7両編成の無人電車が暴走して6人が死亡。
Aは再審請求中に死亡。本件請求人はAの長男。
  確定判決 証拠構造:
Aの共犯供述及び検察官調書における供述(自白)が主要なもの
それを裏付けるものとして、
事件当夜にAを目撃したとするB1の公判供述と、
自白に沿う現場の状況(パンタグラフが1つだけ上がっていたことやコントローラー・ハンドルの固定状況など) 
  再審請求 理由の骨子:

新証拠⇒
①犯人は八社の段階で、本件電車の第2車両のパンタグラフを上昇させた
②犯人は本件電車の最後尾である第7車両の手ブレーキを緩解した
③犯人は第7車両の前照灯を転倒させた
④犯人は第7車両の扉(戸閉)連動スイッチを非連動にした

犯人は複数いて、第1、第2、第7各車両に侵入して操作を行なったことが明らかになった

本件車両の発車方法に関するAの単独犯行である旨の自白の根幹部分が否定された。

新証拠⇒B1の目撃供述の信用性が否定された。

新証拠⇒Aのアリバイが成立することが明らかになった。 
  決定 これらの新証拠は、Aの自白の根幹部分に重大な疑義を生じさせ、かつ確定判決の事実認定について合理的な疑いを抱かせてその認定を覆すに足る蓋然性のある証拠とはいえない⇒請求を棄却 
  解説 本件の証拠構造は、犯人性を認定する直接証拠はAの自白のみで、物的証拠や目撃供述はそれのみで主要事実を認定できない。
その自白は、単独犯行、共同犯行、否認という内容で7回にわたり不自然な変遷を繰り返している。
このような証拠構造において自白を信用できるとするためには、それを裏付ける相当強固な物的証拠が必要。 
弁護人が提出した新証拠は、単独犯行の自白に沿うとされた物的証拠や目撃証拠を弾劾するものとして提出。
そのうちパンタグラフの損傷に関する新証拠は、旧証拠を完全に弾劾するとまではいえないとしても相当程度の弾劾力な持っていると思われ、その他の新証拠を総合すると、もともと強固とはいえない自白の信用性に合理的疑いを生じさせる可能性がないか否か、なお疑問が残る。
2464   
  民事p3
最高裁R2.3.6   
  なりすましと司法書士の注意義務違反(否定)
  事案 甲野⇒C1⇒X⇒C2の3つの売買で、
その登記として、Xを省略し、
甲野・C1間の前件登記、C1・C2間のいわゆる中間省略登記である後件登記
をする旨の合意。
甲野・C1間の登記の申請(前件申請)は弁護士が受任、その委任状には甲野が人違いでない旨の公証人の認証が付されていた。
Y2はC1及びC2から後件登記の申請(後件申請)の委任を受けた(報酬13万円)。
Y2は、甲野の本人性について申請人となるべき者による申請であるか否かの確認等の依頼は受けていなかった。
 Y2は、前記売買の決済に先立ち、前件申請及び後件申請に用いるべき初年の確認等が予定されている会合に、Xの代表者、Xから3000万円余の仲介料で依頼された仲介業者、C2らと共に出席したが、その場で甲野の印鑑証明書として提示された2通の書面に記載されて生年に食違いがあること等の問題点が発覚。
その後、前記各売買契約の決済は予定どおりに行なわれ、Y2は登記所で依頼どおりに前件登記の申請と後件登記の申請を不登規則67条の連件申請として同時に行った。
後日、甲野の印鑑証明書が偽造と判明⇒前件申請が申請の権限を有しない者による申請であることが判明⇒後件申請が取下げられた。
  判断 Y2が、前件申請及び後件申請に用いるべき書面の確認等が予定されている会合に出席し、甲野の印鑑証明書として提示された2通の書面に記載された年数に食違いがあること等の問題点を認識していたとしても、
①Y2が後件申請の委任を受けた当時、前記各売買契約や各登記の内容等は既に決定され、
②Y2は、甲野本人の申請であるかの調査等をする具体的な委任は受けていなかった、
③前件申請については弁護士が委任を受けており、委任状には、甲野が人違いでないことを証明させた旨の公証人による認証が付され、
④Xは不動産業者であり、不動産仲介業者等とともに前記問題点を確認していた
等の事情

Xとの関係においてY2に正当に期待されていた役割の内容や関与の程度等について十分に審理することなく、直ちにY2に前記注意義務違反があるとした原審の判断には違法がある。

原審に差し戻し。
  解説  本判決:
司法書士の本人性の調査確認義務につき、登記申請代理を受任した司法書士は、その職務の公益性や専門性等から、当該登記申請に用いるべき書面相互の整合性の形式的な確認等の過程において当該登記申請が申請人となるべき者以外の者による申請であることを疑うべき相当な事由が存在する場合には、注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務を負うことがある。

前記義務を負うかどうかについて司法書士の役割に応じた適切な判断がされるための考慮要素として、委任契約がある場合は、
委任の経緯の他、
取引への関与の有無及び程度、
委任者の不動産取引に関する知識や経験の程度、
他の資格者代理人や不動産仲介業者等の関与の有無、
疑いの程度等
という要素を具体的に列挙。
  本件におけるXは、直接の登記申請代理の委任者ではなく、不法行為責任を問う事案
⇒別途の考慮が必要。
but
Xは第三者とはいえ、第2売買の買主でかつ第3売買の売主であり、Y2が受任していた後件登記との関係でも、実体としてはいわゆる中間省略登記の中間者という立場で、取引きに深く関与。

原審:
このようなXにつき「登記の実現につき当事者に準ずる重大な利害関係を持っていたといえる」等として、委任のある場合に課せられる注意義務と同様の注意義務を不法行為上の過失を基礎付けるものとした。
vs.
専門家の、委任関係にある者に対する責任と、委任関係にない者に対する責任とでは自ずと程度や内容に違いがあるはず⇒「当事者に準ずる重大な利害関係」があるだけで、同等の注意義務を負うとはいえない。

本判決:
委任関係になくいても責任を負うべき第三者の範囲を、特に
「当該登記にかかる権利の得喪又は移転について重要かつ客観的な利害を有し、このことが当該司法書士に認識可能な場合において、当該第三者が当該司法書士から一定の注意喚起等を受けられるという正当な期待を有しているとき」と限定。
本判決も、実体として本件のようなXのような立場にある者は「当該登記に係る権利の得喪又は移転について重要かつ客観的な利害を有し」ていることを前提にしている。
本判決:一律の調査確認義務ではなく、事案に応じ、注意喚起等で足りる場合もあり得ることを示している。
  印鑑証明書の齟齬の問題は重大
but
①Y2が委任を受けた当該売買契約や登記の内容は既に決定され、
②Y2は前件申請が真正な申請であるか否かについての調査等をする具体的な委任は受けておらず、
③前件申請については弁護士が委任を受けており、その委任状には公証人による認証が付されていた上、
④Xは不動産業者であり不動産仲介業者等と共に前記問題点等を確認していた等の事情

この状況で依頼者等から新たな指示等もなかったとすると、当時のY2の立場で祖語の事実を指摘する以上に何をすべきであったといえるかについては、なお具体的事実に照らして慎重な検討が必要。

本判決は、前記の事情について更に審理し、
Y2が本件の取引全体の中でどのような役割を果たすことが期待されていたのかという観点から、当該司法書士の役割の内容や関与の程度等に応じてY2の責任を検討すべきとした。 
  民事p21
札幌高裁R2.8.21  
  議員が別の議員に対する問責決議を提案した行為についての国賠請求・不法行為請求(否定)
  事案 Y5市の市議会議員だったXが、Xが発行した議員活動報告の記載を理由に同市議会で2度の「問責決議を受けた⇒Y1~Y4が本件問責決議の議案を提出した行為によってXの名誉が毀損⇒Y1議員らに民法709条、719条に基づき、Y5市に対し国賠法1条1項、4条、民法719条に基づき、慰謝料等の支払を求めた。 
  原審 本件訴えは法律上の争訟に当たる。
本件各提案行為はY5議会の内部規律の問題にとどまり、その適否について議会の自立的な判断を尊重すべき⇒Xの請求を棄却。
  判断  本件訴えの適法性を前提に、本件各問責決議及び本件各掲載決定が違法な行為と認められるか検討した上で本件各提案行為の違法性について判断し、これを認めず、控訴棄却。
  本件各問責決議:
議員活動報告の発行というXの議員としての活動ないしこれに密接する活動に対し、Y5議会の規則に基づき提出された議案を決議した市議会としての措置で、何らの法的効力を有しない。

本件各問責決議はY5議会の内部規律の問題にとどまり、国賠法1条1項所定の違法な行為だとは認められない。
  本件各掲載決定:
Y5議会の規程に沿うものであり、Xを含む広報編集委員会の全員の同意によって決定されたもので、掲載方法等についても殊更にXの社会的評価を低下させようとするものだったとは認め難い⇒国賠法1条
1項所定の違法な行為とは認められない。
  本件各提案行為:
①Y1議員らの議員としての職務にほかならず、議員がいかなる議案を提出するかについては議会所定の手続に従う限り広範な裁量に委ねられる。
②本件各提案行為は本件各問責決議と密接に関連する先行行為but本件各問責決議及び本件各掲載決定が国賠法1条1項所定の違法な行為に当たるとはいえない。
③Y1議員らが違法または不当な目的に基づいて議案を提出したとか、あえて虚偽の内容を含む議案を提出したなど、議員に与えられた権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認め得るような事実もうかがわれない⇒本件各問責決議に先行する本件各提案行為のみに特に違法と評価すべき事情も見当たらない。

本件各提案行為が同項所定の違法な行為とは認められない。
本件各提案行為は公権力の行使⇒Y1議員らが個人責任を負うことはない。
本件各提案行為がXに対する不法行為とも認められない。
  解説 判例(最高裁H31.2.14):
普通地方公共団体の議会の議員に対する懲罰その他の措置(「議会の措置」)が当該議員の私法上の権利利益を侵害することを理由とする国賠請求の当否を判断するに当たっては、
当該措置が議会の内部規律の問題にとどまる限り、
議会の自律的な判断を尊重し、これを前提として請求の当否を判断すべき。
平成31年判例は、内部規律性の判断に際し、
①当該措置が議員としての行為に対する議会の措置であり、
②議会の要綱に基づくもので特段の法的効力を有さず、
③殊更に社会的評価を低下させるなどの態様、方法によって公表されていない
との事情を指摘。
  民事p31
東京地裁H31.2.21  
  原賃貸借の終了について、債務不履行解除の形式がとられているが、転借人との関係では合意解除と評価⇒原賃貸借の賃貸人が転貸借契約の賃貸人の地位を承継とされた事案
  事件 第1事件:
株式会社X(精算中)が、その所有する本件建物部分3室(「本件3室」)を亡Aに賃貸していたところ、A及びAの死亡により賃借人の地位を承継した妻Y1が賃料の支払を怠った⇒賃貸借契約を解除したとし、
①Y1に対し、本件3室賃貸借契約の終了に基づき、本件3室の明渡しを求めるとともに、未払賃料等の支払を求め、
②A及びY1から本件3室のうち2室(「本件転貸部分」)を転借した株式会社Y2に対し、所有権に基づき、本件転借部分の明け渡しを求めた。 
第2事件:
第1事件に係るXのY1に対する訴訟がY2を詐害する馴れあい訴訟であるとして、民訴法47条1項前段により独立当事者参加をし、
X及びY1に対し、
③本件3室につきY1のXに対する賃料債務が存在しないこと及び
④Y2が本件転借部分の賃貸借(転貸借)契約に係る賃借権を有すること
ぼ確認を求めた。
第3事件:
Y2が、
⑤主位的には、X代表清算人Z及びY1が共謀して、Y2の賃借権(転借権)を消滅させるため、X・Y1間の本件3室賃貸借契約をY1の債務不履行により解除したとの虚偽の法律構成に仮託して、Xをして不当な第1事件に係る訴訟を提起させ、Y2に対し応訴に係る弁護位費用相当額の損害を与えたとして、
Z及びY1に対しては未納709条、719条に基づき、
Xに対しては会社法350条に基づいて
その賠償を求め
⑥予備的には、第1事件におけるXのY2に対する本件転借部分の明渡請求(請求②)が認められることを条件として、Y1に対し、本件転借部分の賃貸借契約に係るY1の債務不履行に基づき、Y2が喪失する本件転借部分の賃借権相当額等の支払を求めた。
  事案 Xは、Aの父Bを代表者として設立され、Bの甥でありZの父であるCの

昭和49年に建築されて以来 
  争点 ①X・A(Y1)間の本件3室賃貸借契約が存在し、その債務不履行が認められるか
②XのY2に対する本件転借部分の明渡請求が認められるか 
  判断   ●争点① 
本件3室賃貸借契約の存在について、契約書は作成されていないものの、
①少なくとも平成20年4月1日以降、Xにおいて継続的にAからの賃料収入が計上されており、Xは賃料収入のみを運転資金として運営され、税金等の支払もしていた
②Y2は本件建物の所有権を有しないAとの間で本件転借部分賃貸借契約を締結して本件転借部分を占有⇒Y2の占有権原を法的に根拠付けるために本件3室賃貸借契約も締結されていたとみるのが支援

Xは、平成8年に、Aとの間で本件3室賃貸借契約を締結したものと認められる。
争点①のうちA及びY1の債務不履行の存否について、
XがAからの「居住部分」の賃料収入として毎年計上している額は、Xが本件で主張する本件3室賃貸借契約の1年分の賃料額と一致する上、賃料未収入金として計上されている額もその算定根拠が不明であること等

本件3室賃貸借契約についてA及びY1による賃料不払があったかについては疑問を差し挟まざるを得ない。
but
XとY1との間で未払賃料の存在及び額並びに本件3室賃貸借契約が解除されたことには争いがない

XのY1に対する請求(請求①)を棄却すべき理由はない。
Y2の請求③については、
①他人間の権利関係の存否の確認を求めるものであり、
②当該権利関係を確認することがY2とX・Y1との間の法的紛争を解決するために必要とは認められない
⇒訴えの利益があるとはいえない。
  ●争点② 
①本件3室賃貸借契約についてA及びY1による賃料不払いがあったことについては疑問を差し挟まざるを得ない
②仮に賃料不払があったとしても、Xは、平成20年4月以降、多額の賃料未収入金が累積していたにもかかわらず、その回収をほとんどしていない
③Xが賃借人であるAらを株主とする同族企業であった

XはAに対して賃料の支払いを猶予していたことが優に推察される。
①Y1には、本件3室賃貸借契約についてXによる債務不履行解除の効力を争うべき理由が大いにあったと認められるにもかかわらず、Y1は第1事件について当初からXの主張を争っていない
②Y1は、Xによる解除の意思表示の1年以上前にX代表者であるZを代理人としてY2に対して本件転借部分賃貸借契約の解約を申し入れていた上、Zは、この頃本件3室賃貸借契約について賃料の滞納がある旨をY2には述べていなかったこと等

Xは、当初、本件3室賃貸借契約及び本件転借部分賃貸借契約の合意解約を希望しており、Y1もXの意向に同調していたことを示すもの。

本件のXによる本件3室賃貸借契約の解除は、債務不履行解除の形式がとられているものの、転借人であるY2との関係では、XとY1との合意による解除と評価すべき。
以上の点および
Xは本件転借部分をY2に転貸することを承諾していたと認めるのが相当

本件3室賃貸借契約の解除によっても、Y2の本件転借部分賃貸借契約に係る賃借権は消滅せず、XのY2に対する本件転借部分の明渡請求(請求②)には理由がない。
Xは本件転借部分賃貸借契約の賃貸人の地位を承継すると解するのが相当であり、Y2はXに対し、本件転借部分賃貸借契約に係る賃借権を有することが認められる(請求④)。
  請求⑤については、Xによる第1事件に係る訴訟が不当訴訟とはいえない⇒請求棄却。 
  民事p39
東京地裁R2.7.1  
  司法書士賠償責任保険契約での故意免責が肯定された事例
  事案 Xが、千葉司法書士会において損害保険会社Yとの間でZを被保険者として締結していた賠償責任保険に基づく保険金請求権(2億円と1000万円のもの)を差し押さえ、転付命令を得たと主張⇒Yに対し、各保険金請求権に基づき、2億1000万円及び遅延損害金の支払を求めた。 
Y:賠償責任普通保険約款の「故意免責条項」を主張して争った。
  争点 ZのXに対する損害賠償責任はZの故意によって生じたものか。
Zにおいて自称Bが成りすましであることを認識していたか。 
  判断・解説 判決要旨:
①司法書士が土地売買契約における複数の不自然さにつき疑念を抱くことなく所有権移転登記手続を進めている事実
②別件の地面師詐欺事件で逮捕起訴され公判手続が進行している事実
③別件の詐欺事件で共犯者として起訴され実刑判決を受けた者が供述した司法書士は地面師グループの一員であった旨の証言がありそれを信用することができる⇒司法書士が、本件においても「自称売主会社代表者が成りすましであることを認識していたこと」、すなわち「損害賠償責任が司法書士の故意によって生じたこと」を推認することができる

「故意免責条項」により司法書士賠償責任保険契約に基づく保険金請求は免責される。
本件Xの司法書士Zに対する損害賠償請求訴訟の東京高裁H29.12.13は、
司法書士Zにおいて、Bの成りすましを疑うに足りる事情(過失の評価根拠事実)があると認め、こういした疑念性が肯定される以上、不登規則72条に定める方法による本人確認では足りず、さらに調査すべき義務があるのにもかかわらず、これを怠った過失があると判示。
本判決:
(1)重要な間接事実について
上記の過失の評価根拠事実は、故意を推認させる間接事実にあたると判示しつつ、
①A社は本件土地を抵当権のない状態の所有し、駐車場として収益を上げているにもかかわらず、自称Bが休眠会社であると述べた事実
②売買代金振込先口座としてゆうちょ銀行のB個人名義を指定したことは、代表者個人が会社財産を横領する可能性が想起され、通常想定される鹿児島県内の地方銀行等でないのは極めてまれである事実
③自称 Bが売買残代金5000万円の送金を確認しないまま、登記申請書類をZに交付したことは、土地の真の所有者であれば避けるのが自然である事実
を、Zの故意を推認させる間接事実であると整理。

また、別件の地面師詐欺事件で逮捕起訴され公判手続が進行している事実も同様の間接事実となる。
(2)その他の証拠(別件の詐欺刑事事件で共犯者として基礎されたFの証言)に対する証拠評価
①証言の時期(既に実刑有罪判決が確定している時期)
②証言の真否(虚偽を述べてあえてZを引き込む合理的理由なし)
③証言の具体性、無矛盾性
④地面師詐欺における司法書士(役)の重要性
⑤Zの懲戒処分歴
等の客観的事実を勘案し、信用できると判断。

Zが地面師グループの一員であったとすると、別件の後の出来事である本件土地取引について、自称Bが成りすましであった事実をZが認識してないかったとは到底考えられない
⇒Zはこの事実を認識していたことが強く推認される。

経験則上故意を推認することのできる重要な間接事実と
その他の証拠に対する証拠評価
に基づく認定判断。
  民事p45
札幌地裁R2.1.20  
  陸上自衛隊に所属していた申立人の勤務成績が記載された文書の一部についての文書提出命令(肯定)
  事案 陸上自衛隊に勤務していたXが、Xに対する懲戒免職処分及び退職手当支給制限処分の取消請求並びに当該懲戒免職処分に当たってXが受けた精神的苦痛に対する慰謝料を求める国賠請求をした基本事件において、
Y(国)がXの勤務成績に関する部分をマスキングした文書を証拠提出⇒Xが、民訴法220条1号及び4号について文書提出命令の申立てをした。 
  争点 ①本件マスキング部分を証拠として取り調べる必要があるか
②本件マスキング部分が民訴法220条1号所定の「当事者が訴訟において引用した文書」(「引用文書」)に該当するか
③本件マスキング部分が民訴法220条4号ロ所定の「公務員の職務上の秘密に関する文書」に該当し、かつ、これを開示することにより、「公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」と認められるか。
  判断 ●争点① 
基本事件において、処分行政庁が本件各処分に当たり、裁量権を逸脱濫用したかが争点の1つとなっているところ、その判断においてはk、Xの勤務成績を含めた広範な事情が総合的に考慮される上、規律違反者の平素の勤務態度が優良な場合には懲戒処分を軽減できるとする懲戒処分等の基準に関する達16条2項4号の規定
⇒Xの勤務成績は、前記争点の判断に資するといえ、本件マスキング部分の証拠調べの必要がある。
  ●争点② 
基本事件において、本件マスキング部分を自己の主張を基礎付けるために引用しているとは認められない⇒本件マスキング部分は引用文書には該当しない。
  ●争点③
本件マスキング部分は、自衛隊の組織内部に所属する公務員が職務上知りえた非公知の事項で、一般に開示される性格のものではなく、「公務員の職務上の秘密に関する文書」に該当。
but
個別具体的な成績評価項目に関する記述や評定者の具体的な評価結果を含むものではなく、将来における適正な勤務評定の実現やこれを通じた人事管理に支障が生じるとは認められず、本件マスキング部分の開示により、「公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」とは認められない。
  解説 ●争点① 
証拠調べの必要性は、
①その立証主題の当該事件における適切性
②対象文書と立証主題との関連性
③他の証拠による証明の可否
という要素から成る。
  ●争点② 
引用文書について文書提出義務が認められた趣旨

①一方当事者が自己の主張の裏付けとして積極的に文書の存在又は内容を引用した以上、相手方との関係で当該文書に関する秘密保持の利益を放棄したものと認められる。
②相手方に対し、文書の存在と内容を確認及び検討させるのが公平。
  ●争点③ 
「公務員の職務上の秘密に関する文書」該当性は、
公務員が職務上知りえた非公知の事項であって、実質的にもそれを秘密として保護に値すると認められるか否かで判断される。
「公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」と言えるかについて、
単に文書の性格から公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずる抽象的なおそれがあることが認められるだけでは足りず、その文書の記載内容からみてそのおそれの存在することが具体的に認められることが必要であると解すべき
(最高裁H17.l10.14)
公務秘密の性格を
①公務員の所掌事務に属する秘密と
②公務員が職務を遂行するうえで知ることができた私人の秘密
に分類し、
②の秘密が記載された文書との関係では、関係者との信頼やその協力の取得の阻害等を具体的に検討して判断。

その際、当該文書の性質、法的根拠、インカメラ手続によって把握された当該文書の記載内容や記載方法、公にされた場合の弊害の有無、内容、程度等の考慮が必要。
①の秘密の公益侵害性要件該当性を扱った本決定は、
自衛隊員の勤務成績が非公開とされている根拠、
本件マスキング部分の記載内容、
その開示による弊害等
の各要素を踏まえ、
その開示により行政の自由な意思形成が阻害されるかを具体的に検討し、
公益侵害性要件該当性を判断。
  民事p51
徳島地裁R2.2.17  
  YouTube上の動画の削除請求と発信者情報開示請求(いずれも認容)
  事案 LEDの製造販売等を行なう株式会社であるX1及びその従業員でるX2が、インターネット上の動画投稿サイト「YouTube」に投稿された4本の動画、そのタイトル及び紹介記事(「本件各動画等」)により名誉・信用を毀損された⇒胴サイトを運営する米国法人であるYに対し、人格権としての名誉権に基づく本件各動画等の削除請求並びに特定電気通信役務提供者の損害倍法責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(「プロバイダ責任制限法」)4条1項に基づく動画投稿者の発信者情報開示請求をした事案。 
  争点 ①人格権に基づく本件書く動画等の削除請求の可否
②権利性の明白性(プロバイダ責任制限法4条1項1号)の有無 
  判断 Xらの削除請求を全部認容し、発信者情報開示請求については、投稿者が動画サイト上で使用していたユーザーネームの開示を求める部分を除き認容。 
  ●争点① 
人格権としての名誉権に基づき、当該動画等の削除を請求できる。
but
①投稿動画等の削除は、一旦投稿された動画等を事後的に削除する点で事前差止めの場合とは異なるものの、削除後の当該動画等による情報の流通が社団される点で投稿者の表現の自由や閲覧者の知る自由を相当程度制約
②当該動画等の内容には関知していない動画投稿サイトの管理者が違法性阻却事由を立証するのは困難を伴う

動画投稿サイト管理者に対する削除請求が認められるのは、
①それが専ら公益を図る目的のものでないことが明らかであるか、当該動画等によって摘示された事実が真実ではないことが明らかであって、かつ、
②被害者が重大にして回復困難な損害を被るおそれがあると認められる場合
に限られる。
①の要件について、
本件各動画等の内容が公共の利害に一定の関わりを有するものであることを認め、それにより公益目的について一定程度推認されるとしつつ
・・・・Xらに対する嫌がらせ、復讐等を主たる目的とするものであるとして、公益目的性を否定。
②の要件について、
X1の取引先企業の他社への乗り換えや就業希望者の減少といった悪影響が想定され、
一度拡散したマイナスイメージの払しょくは容易でない
X2がパワーハラスメント行為を行ったなどの情報がインターネットを通じて拡散されると、X2の平穏な日常生活や社会生活に困難を来す

Xらの被害者の重大性や回復困難性を肯定。

結論として、Xらの削除請求を認容。
  ●争点②について
①本件各動画等の内容がXらの名誉・信用を毀損するものであることが明らか
②公益目的性が認められず、違法性阻却事由も存在しない

権利侵害の明白性を肯定し、Xらの発信者情報開示請求を一部認容。
  解説 名誉毀損の被害者は、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対して、現に行われている侵害行為を排除し、または将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができ(最高裁昭和61.6.11)、インターネット上のウェブサイトに投稿された記事等によって名誉を毀損された者が、かかる人格権に基づく妨害排除請求権を根拠に、当該投稿記事等の削除を求めた裁判例は多い。
記事の投稿者ではなくプロバイダに対する削除請求が認容された裁判例。
東京高裁H30.8.23:
人格権としての名誉権に基づき、検察事業者に対して検索結果の削除が求められた事案について、
①検察結果の削除が検索事業者による表現行為の制約であるとともに、インターネット上の情報流通の基盤としての役割に対する制約でもあること
②検察結果の提供の差止めが事前抑制であること
等を指摘し
表現行為が専ら公益を図る目的のものでないことが明らかであるか、又は、摘示事実が真実でないことが明らかであって、かつ、
被害者が重大にして回復困難な損害を被るおそれがあると認められる場合に限り、
検索結果の削除請求がみとめられる。
  知財p61
知財高裁R2.2.28
  特許権者の製品において、特許発明の特徴部分がその一部分にすぎない場合の特許法102条1項(令和1年改正前のもの)所定の損害額の算定
  事案 発明の名称を「美容器」とする2つの特許権(本件特許権1、2)を有するXが、Yに対し、Yが被告製品の販売等をすることは、前記各特許権を侵害すると主張⇒その差止め、廃棄及び令和1年法律第3号による改正前の特許法102条1項の損害金5億円(一部請求)の支払を求めた。 
  判断    ●侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額 
  ◎侵害行為がなければ販売することができた物
「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、
①侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りる
②原告製品は、本件発明2の実施品
⇒それに当たることは明らか。
  ◎単位量当たりの利益の額 
102条1項所定の「単位量当たりの利益の額」:
特許権者等の製品の売上高から、特許権者等において前記製品を製造販売することによりその製品販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、その主張立証責任は特許権者側にある。
・・・・特許発明を実施した特許権者の製品において、特許発明の特徴部分がその一部分にすぎない場合であっても、特許権者の製品の販売によって得られる限界利益の全額が特許権者の逸失利益となることが事実上推定されるというべき。
・・・本件特許部分が原告製品の販売による利益の全てに貢献しているとはいえないから、原告製品の販売によって得られる限界利益の全額を原告の逸失利益と認めるのは相当ではない⇒原告製品においては、前記の事実上の推定が一部覆滅されるというべき。

前記の本件特徴部分の原告製品においける位置付け、原告製品が本件特徴部分以外に備えている特徴やその顧客誘引力など本件に現れた事情を総合考慮
⇒同覆滅がされる程度は、全体の約6割であると認めるのが相当。
  ●実施の能力に応じた額 
102条1項の「実施の能力」:
潜在的能力で足り、生産委託等の方法により、侵害品の販売数量に対応する数量の製品を供給することが可能な場合も実施の能力があるものと解すべきであり、
その主張立証責任は特許権者側にある。
Xは、毎月の販売個数に対し、約3万個の余剰製品供給能力を有していたと推認できる
⇒この余剰能力の範囲内で月に平均2万個程度の数量の原告製品を追加して販売する能力を有していたと認めるのが相当。
  ●販売することがでいないとする事情 
102条1項ただし書の「販売することがでいないとする事情」は、
侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情をいい、
例えば、
①特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存在すること(市場の非同一性)、
②市場における競合品の存在
③侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)
④侵害品及び特許権者の製品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在することなどの事情
がこれに該当。 
Yは、販売できない事情として、
①原告製品と被告製品の価格の差異や販売店舗の差異
②競合品が多数存在すること
③被告製品における軸受けの製造費用は全体の製造費用の僅かな部分を占めるにすぎないこと
④軸受けの部分は外見上認識することができず、代替技術が存すること
⑤原告製品は、微弱電流を発生する機構を有しているが、被告製品はそのような機構を有していないこと
⑥Yの営業努力
を主張。
判断:
①について、価格の際を販売できない事情と認めることができるが、販売態様の差異は、販売できない事情として認めることはできない。
②について、本件侵害期間に、市場において、原告製品と競合関係に立つ製品が販売されていたと認めるに足りない。
③について、すでに原告製品の単位数量当たりの利益の額の算定に当たって考慮している。
④について、被告製品及び原告製品のいずれにも当てはまる事情。
⑤について、被告製品は、原告製品に比べ顧客吸引力が劣ることを意味。
⑥について、Yに、販売できない事情と認めるに足る程度の営業努力があったとは認められない。

①についての事情を考慮⇒販売できない事情に相当する数量は、全体の約5割。
  ●本件発明2の寄与度を考慮した損害額の減額の可否 
否定。
  解説 ●特許発明を実施した部分が製品の一部のみである場合の減額の方法
特許発明を実施した部分が製品の一部のみである場合の102条1項による損害額の算定方法
A:侵害品や権利者製品のうち特許発明を実施した部分が一部であるという事情は、102条1項ただし書の事情に当たる⇒1項ただし書を適用して減額すべき
B:権利者製品の限界利益の算定において、権利者製品のうち特許発明を実施した部分に相当する金額を算出
C:侵害品のうち特許発明を実施した部分が一部であることを、1項ただし書以外の減額事由となる
(この他に、理論構成を示さず、寄与度により減額している裁判例もある。)
本判決:
権利者製品において、特許発明の特徴部分がその一部にすぎない場合であっても、権利者製品の販売によって得られる限界利益の全額が権利者の逸失利益となることが事実上推定されると判示。

特許発明を実施している製品は、通常、当該特許発明に係る部材のみから構成されることはなく、それ以外の各種部材が付加されているものであるが、そのような場合でも、当該製品の販売によって得られる限界利益の全額が権利者の逸失利益となるものと理解されており、本判決は、同理解を前提に判断したものと思われる。
  ●102条1項ただし書の事情 
「販売することができないとする事情」の意義:
通説:侵害行為と権利者の製品の販売減少との相当因果関係を阻害するものと解しており、本判決も同様。
本判決:
侵害者が、販売できない事情として認められる各種の事情及び同事情に相当する数量に応じた額を主張立証した場合には、102条1項本文により認定された損害額から前記数量に応じた額が控除されると判示。

侵害者において
①102条1項ただし書の事情を基礎付ける個々の事実及び
②同事実により、侵害品の譲渡数量のうち権利者が権利者製品を販売することができなくなる数量
を主張立証する必要があることになり、
裁判所としては、侵害者から主張された1項ただし書の事情を基礎付ける個々の事実について、その存在の有無と同事実に相当する権利者製品の販売数量を認定。
2463   
  民事p3静岡地裁R1.11.7       
  事案  
  争点 ①本件訴えの適法性(訴権の濫用等)
②本件懲戒請求の不法行為該当性
③損害の有無及び数額 
  判断 ●争点① 
Y:本件訴訟は懲戒請求を萎縮させ抑止する目的に基づいて提起された違法又は不当なものであり、訴訟提起が訴権の濫用に当たるとして訴えの却下を求めた。
vs.
①懲戒請求の不法行為該当性について判断した最高裁H19.4.24に基づき、相応の根拠を示した上で提起されたもの
②本件懲戒請求が民族的出身に対する差別意識の発現として行なわれたと認められる

Yの主張を排斥。
  ●争点② 
平成19年最高裁判決の判断基準を採用。
本件懲戒請求の当時、東京弁護士会の役員でも、本件会長声明の発出主体でもなかったXが懲戒請求の対象とされた理由は、もっぱらその氏を手掛かりとした民族的出身に着目したもの⇒民族的出身に対する差別意識の発現ともいうべき行為。
Yが本件懲戒請求を行なうに至った経緯、本件訴訟におけるYの主張立証の内容や応訴態度等⇒本件懲戒請求の時点においてYがXに懲戒事由が存すると考えるにつき相当な根拠の調査、検討をしたとは解されない⇒本件懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を有すると信ずべき合理的理由はなかった。

Yはそれを欠くことを知っていたか又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに、あえて本件懲戒請求を行った。

本件懲戒請求がXに対する不法行為。
  ●争点③ 
①Yが本件懲戒請求を行った経緯や意図、
②差別意識の発現である本件懲戒請求が弁護士としての活動に与える影響、
③本件懲戒請求に係る手続の経過
④Xによる対応の要否
⑤弁護士法58条1項が広く何人に対しても懲戒請求権を認めた趣旨
などの事情

損害額は11万円。
(原告は55万円を主張。)
  民事p11
宇都宮地裁R2.6.3  
  認可外保育施設で幼児が熱中症で死亡⇒施設と市の責任(肯定)
  事案 Y1会社が経営する認可外保育施設で、A(事故当時9か月)脱水症等により死亡。

Aの両親であるX1及びX2が、
①Y1会社に対しては保育委託契約上の債務不履行又は不法行為に基づき、
②Y1会社の取締役であり本件託児所の園長であるY2、本件託児所に勤務していたY2の実母Y4,Y2の長女Y5、Y2の二男Y6、Y1会社の運営報告上「代表者」と記載されていたY2の実父Y3に対しては民法709条(又はY3については会社法429条)の不法行為に基づき、
③Y7市(宇都宮市)に対しては市長が認可保育施設に対する規制権限等の適正な行使を怠ったなどとして国賠法1条1項に基づき、
連帯してそれぞれ5601万1153円及び遅延損害金の支払を求め、
X1及びX2は、Y2に対し、Xらの名誉を棄損したと主張してそれぞれ110万円の損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた。
  判断  ●Y1会社ないしY6の責任 
Y1会社及びその取締役であり本件託児所の園長であるY2の責任を肯定。
Y3ないしY6の責任は否定。
Aの死因:暑熱環境下の脱水による熱中症死

Y2:
Y1会社の保育業務に従事していたものであるところ、
託児初日の平成26年7月23日から3日間、生後9か月の乳幼児であるAを暑熱環境下に起き続け、
同月25日の正午頃には体温が38度を超え、熱中症の症状を呈していることを認識

遅くとも、その頃までにAに対し、水分補給等の熱中症の緩和措置を講じるとともに、医師の診断、治療を受けさせる義務を負っていたのにこれを怠り、漫然とAを本件託児所の乳児室に放置し死亡に至らせた。

Y2及びその使用者であるY1会社の責任を肯定し、
X1、X2それぞれに対し3100万8696円及び遅延損害金の支払を命じた(合計約6200万円)
Y3ないしY6:
Aが託児3日目の正午頃から体温38度を超え、熱中症の症状を呈していたことを黙示的にも認識していたと推認することはできず、
認識予見すべきであったともいえない

責任を否定。
  ●Y7市の責任
認可外保育施設の指導基準については、
厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知「認可外保育施設に対する指導監督の実施について」(平成13年通達)があり、
これを受けて効果的な指導監督を図る観点等から「認可外保育施設指導監督の指針」(平成13年指針)及び
「認可外保育施設設置監督基準」(平成13年基準。平成13年指針と併せて「平成13年指針等」という。)
Y7市の市長は、本件各通報からうかがわれる本件託児所の保育状況等に関する疑義や虐待的託児業務の有無を明らかにするため、
平成13年指針等に基づき、
本件託児所の設置者又は保育従事者等に対し
a「特別の報告」を徴求し、保育従事者等からの事情聴取を行なうとともに、
b「特別の立入調査」を実施するなどして、平成13年度基準違反の有無を調査、確認すべき職務上の注意義務があったのにこれを怠った責任がある。
Y7市の賠償の対象となる損害:
Aの死亡という不可分の1個の結果から生じたものとしてY1会社及びY2のそれと同一⇒不真正連帯債務の関係に立つ。
損害額について:
Y7市の市長は調査・指導監督権限を全く行使しなかったものではなく、暫定的であってかつ不十分なものとはいえ一応立入調査を実施している
⇒損害の公平な分担の観点から全損害の3分の1の限度での賠償を命じた。
(X1、X2それぞれに1033万6232円及び遅延損害金、ただし、Y1及びY2との不真正連帯債務)
  名誉毀損:
Y2がX1及びX2の名誉を毀損⇒Y2に対し、それぞれ55万円及び遅延損害金の支払を命じた。 
  解説 学校等で生徒等が熱中症に罹患した場合の責任の有無
①大阪地裁H29.6.23:水泳教室に参加した練習生が熱中症に罹患して死亡⇒指導者の責任を肯定
②大阪高裁H28.12.22:市立中学校の生徒がバドミントン部の練習中に熱中症に罹患して脳梗塞を発症⇒学校側の責任を肯定 
本件は、市に対し通報があり、その直後の事故⇒市の責任を肯定へ
  知財p44
知財高裁R2.2.12  
  位置商標の商標登録出願について商標法3条2項に該当しないとされた事例
  事案 「3つの略輪状の炎の立体的形状」(「本願形状」)を、石油ストーブの燃焼筒内の中心部の上方に付した位置商標(「本願商標」)の登録出願についての拒絶査定の不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟。 
  審決 本願商標の本願形状は、機能又は美感上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のもの⇒本願商標は、商標法3条1項3号に該当し、また本願商標は、需要者において、商品の出所を表示するものとして、又は自他商品を識別するための標識として認識されるに至っているとはい難い⇒商標法3条2項の商標に該当しない。 
  判断 ●取消事由1(商標法3条1項3号該当性) 
本願商標は、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標であると認められる⇒本件商標は商標法3条1項3号の商標に該当。
  ●取消事由2(商標法3条2項該当性)
①・・・需要者は全く同一ではないものの、かなりの程度重なり合う・・・
②・・・シェア・・・
③原告使用商品の出荷台数・・
④・・・テレビでの広告
⑤・・・・新聞や雑誌等での紹介
⑥・・・ウェブサイト

原告使用商品が約30年もの長期間販売されており、OEM商品を除いて本願形状を有する他の商品は存在しないこと、
本願形状は、比較的特徴的であること等を考慮しても、
本願商標について原告の事業に係る商品であることを認識することができるとまで認めることはできない。

本願商標は商標法3条2項の商標に該当しないとした審決の判断に誤りはない。
  解説 位置商標:
商標に係る標章(文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合に限る。)を付する位置が特定される商標(商標法施行規則4条の6)であり、平成26年法律第36号により改正によって新たに保護対象となった。 
商標法3条1項3号:
同号に列挙された商品の産地や品質などを普通に用いられる方法で表示する標識のみからなる商標は、取引上一般的に使用されており、多くの場合、自他商品・役務識別力がなく、また、そのような商標は、同種の商品等に関与数r者が使用することを欲するものであり特定人に独占を認めることは妥当でない⇒商標登録を受けることができない。

同条2項:
同条1項3号から5号に該当する商標であっても、使用により自他商品・役務識別力を獲得した場合は、商標登録を受けることができる。
  刑事p60
福岡高裁R1.9.13  
  少年院仮退院者の戻し収容申請事件で期間を明示⇒違法とされた事案
  事案 少年院仮退院者の戻し収容申請事件において、審判当時15歳の少年に対し、審判日から1年後である「令和2年〇月〇日まで代1種少年院に戻して収容する」旨の主文を言い渡した原決定を重大な違法があるとして取り消したもの。 
  解説  少年院仮退院者の戻し収容申請事件において、20歳を超えて少年院に収容する必要がある場合は、収容期間を定めることができ(更生保護法72条2項前段)、その者が既に20歳に達しているときは収容期間を定めなければならない(同条2項後段、3項)。 
20歳に満たない者に対し、20歳に満たない収容期間を定めることができるかについては、1審の裁判例が分かれているとされてきたが、
本決定は、収容期間を定めることができないという法解釈。 
同法72条2項は、対象者を20歳を超えて少年院に収容する必要がある場合に限って収容期間を定めることを規定⇒20歳に満たない収容期間を定めることは違法。

仮にこのような収容期間を定めた場合、少年院への収容期間を原則20歳までとする少年処遇の基本構造(少年院法137条1項参照)に反することとなり、収容継続申請の対象ともならない(少年院法138条)から矯正の成果の有無にかかわらず退院を許さざるを得ず、退院後は保護観察の対象ともならない(更生保護法48条2号)という、法の予定しない事態が生じる。
  少年保護事件の抗告審においては、自判制度が存在しない⇒原決定取消の謙抑的な運用が求められる。
but
本事案においては、収容期間を定めた主文が違法⇒原決定には「決定に影響を及ぼす法令の違反」(少年法32条1項)があると言わざるを得ない。 
原決定:
その理由中において、主文で示した期間は法定の収容期間を変更するものではなく処遇関係機関の裁量を妨げない旨説示。
vs.
①決定の主文は、審判において少年に告知される(少年審判規則3条1項、更生保護法72条5項)、理由中の説示は朗読されるわけではない。
②処遇上の意見表明は、本来、処遇勧告によるべきであり、そのような実務が既に定着している。
③更生保護法の下においては、原決定の主文は、収容期間を定めたかのような誤解を招く⇒これを少年に告知した点には審判手続の違法があるといえる。
少年保護事件の主文の誤りに関する裁判例:
「少年を初等少年院(一般短期)に処する。」という主文について、処遇勧告を主文ですべきでないと指摘しつつ、原決定を取り消す違法にまでは当たらないとしたもの。
「中等少年院に送致する」と言い渡した後、「初等少年院」と更正決定して決定書を作成した手続を違法としたもの。 
  刑事p62
①②  
  GPS機器装着による位置情報探索のストーカー規制法上のストーカー行為該当性(否定)
    ①福岡高裁H30.9.20
②福岡高裁H30.9.21 
  事案 ストーカー規制法2条1項1号(本規定)は、「ストーカー行為」を構成する「つきまとい等」の一形態として、「住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(住居等)の付近における見張り」を挙げている。
被告人が、相手方が使用する自動車にGPS機器を装着して位置情報を探索することが、この「住居等の付近における見張り」に該当するかが問題となった事案。 
  ①事件 事案 被告人は、別居中の当時の妻が使用する自動車を駐車するために賃借していた駐車場において、同車にGPS機器を密かに取り付け、その後多数回にわたって同社の位置情報を探索して取得することにより妻の動静を把握する方法で「住居等の付近における見張り」を「したとして起訴 
  原審 有罪←


③GPS機器を自動車に取り付ける行為は、それ事態に妻の動静把握の性質がある上、その後に予定している位置情報探索取得行為と強い関連性・一体性がある⇒単なる準備行為と捉えるのは妥当ではなく、妻の通常所在する場所である駐車場でなされた取り付け行為と一体のものとしてみれば、全体として場所的要件も充足する。 
  判断 原判決には法令適用の誤りがあるとして、原判決を破棄し自判

①「見張り」の語義は本来的に感覚器官を用いた観察行為を指し、これと異なる機序による動静把握行為は、当然には「見張りに」含まれない
②本規定における「見張り」には場所的要件による限定が付されている⇒観察行為自体に感覚器官が用いられることは当然の前提
③刑罰法規の解釈は、保護法益等も踏まえて合目的的になされる必要があるが、あくまで法文の文言の枠内で理解できる範囲に限られ、これと乖離して処罰範囲を拡張することは許されないところ、「視覚等の感覚器官を用いた」という点は「見張り」の文言の基本的で重要な要素というべきであり、動静把握行為一般が「見張り」に該当するとした場合には、概念の辺縁が不明確となり、予測可能性が確保し難い
④原審理由③の解釈は、場所的要件を実質的に無意味化するもので許されない。 
  最高裁 「住居等の付記において見張り」をする行為に該当するためには、機器等を用いる場合であっても、「住居等」の付近という一定の場所において同所における特定の者等の動静を観察する行為が行われることを要する⇒本判決の結論は正当として是認できる。 
  ②事件 判断 (有罪とした)原判決を破棄。
but
本件公訴事実には、被告人が相手方の自動車にGPS機器を取り付ける際に、付近に相手方がいないかどうか確認するなどして動静を観察する行為が含まれていると解する余地がある⇒これは「住居等の付記における見張り」に該当する余地があるとして、差戻し。 
  解説 刑罰法規の解釈において、言葉の字義による限定をどこまで厳格に守るべきか、
社会の変化による処罰の必要性の要請にどこまで柔軟に対応すべきか
という困難な問題の1つの例。 
  刑事p74
●  
  ①大阪地裁R1.5.22
②大阪地裁R1.5.30 
    低血糖症による意識障害に起因する交通事故の事案
  解説 運転開始時点で正常な運転に支障が生じる状態でなくても、その後の走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態が生じており、そのことを認識した上で運転を開始して、意識障害の状態に陥り、自己を起こして人を死傷させる行為類型について、自動車死傷法3上が制定(平成26年5月施行)。
運転開始に際して、その後の走行中に低血糖による意識障害に陥るかもしれないことを予見し、低血糖状態に陥らないための防止策をとるまでは運転を開始してはならない注意義務を課し、これに違反して運転し、意識障害に陥って自己を起こし、人を死傷させた場合を過失運転致死傷罪(自動車死傷法5条)に問うことも考えられる。
低血糖症で意識障害に陥ったことに起因する交通事故について危険運転致死傷罪として起訴することができるようになったが、実務上、これを主位的訴因、過失運転致死傷罪を予備的素因として構成するケースがあり、①事案、②事案ともそれ。
  解説・判断   ●運転中に意識障害に陥る可能性の認識と予見 
  ◎①事件 
被告人が、運転開始前に、低血糖症の前兆を感じておらず、運転中に低血糖症により意識障害になる具体的なおそれを認識していたとはいえない⇒主位的訴因を排斥。

意識障害に至る可能性を予見することができたはずで、血糖値の安定を確認した上で発進・走行する義務を怠った⇒予備的訴因を認定。
  ◎②事件 
被告人が、運転開始時に、低血糖症の初期症状を感じていたとしても、糖分入りのコーヒーを飲むなどして適切な血糖値管理を行なっているとの認識がある場合には正常な運転に支障が生じるおそれがある状態であるとの認識を認めることはできない⇒主位的訴因を排斥。

自己の経験に基づく対処で血糖値が回復できないどころか、症状の悪化を確認した上で他の対処を考える余裕もない事態を予見できたとも言い難く、運転を差し控える注意義務を課すことはできない⇒予備的訴因も排斥。
  ●主位的訴因と予備的訴因の関係 
    ①事件の差戻前控訴審:
被告人が運転開始時に低血糖症の前兆を感じていたとしてもその事実だけから運転中に意識障害に陥るおそれを具体的に認識していたとはいえないとする一方、
前兆を感じていたのでなければ意識障害に陥ることを予見する可能性を認めることは困難

第一審における主位的訴因と予備的訴因についての検察官の理解と予備的訴因の構成を批判し、被告人が運転開始時以後に低血糖症の前兆を感じていたと認められる場合の過失の有無を審理すべきであるとして、原判決を破棄し、差し戻した。

原審が釈明を求め争点を顕在化して当事者に主張立証を促すべきであったとして、事実誤認は争点整理が不十分であったことに起因すると指摘。
  ●主位的訴因が攻防の対象から外れたか? 
    ①事件の差戻前第一審は主位的訴因を認定せず、予備的訴因を認定して有罪判決
このような場合に、控訴以降の手続において主位的訴因が攻防の対象から外れるか?
差戻審:
主位的訴因と予備的訴因の本質的な違いは「正常な運転に支障が生じるおそれがあるとの認識の有無」であって、
①前者が成立する場合は後者は成立せず、
➁主位的訴因を設定するかどうかは検察官の裁量による

・・・・主位的訴因の訴訟行為を断念したものと解して、攻防の対象から外れたものと判断し、審理の対象とはしなかった。
    本位的訴因と予備的訴因とで過失の内容を変えた事案で、
「検察官が本位的訴因の訴訟行為を断念して、本位的訴因が当事者間の攻撃防御の対象から外れたとみる余地はない」として、本位的訴因を認定して有罪判決をした差戻後第1審の判決に違法はないとした最高裁H1.5.1。
本位的訴因(賭博開帳図利の共同正犯)を認定せず、予備的訴因(幇助犯)を認定した有罪判決に検察官が公訴しなかった事案について、「検察官は、その時点で本位的訴因につき訴訟追行を断念し、控訴審の時点で既に攻防の対象から外されていた」⇒控訴審が職権により本位的訴因について調査を加えて有罪の自判をしたことは職権の発動として許される程度を超えて違法とした最高裁H25.3.5。
検察官が本位的訴因の訴訟追行を断念したとは認められないとして控訴審が職権調査を行ったものに、高松高裁H28.7.21。
  ●控訴審の破棄判決の拘束力 
①事件:差戻審で検察官が訴因を変更して、被告人は運転開始前に前駆症状を自覚していたとの主張に転じ、過失の判断構造が異なったものになった⇒差戻審の判断に拘束力が及ばないと判断。
    ●運転避止義務の設定 
①事件:
糖尿病の専門医(1人は被告人の主治医)の証人尋問などの証拠調べ。
被告人は発進前に低血糖症の前駆症状を自覚していた一方、
糖分を摂取し血糖値を上げる措置をとったものであると認定。
インスリンの効き具合によっては糖分を摂取しても血糖値を回復できない可能性があることを予見できたはず⇒発進前に血糖値を測定して低血糖の状態にないことを確認しない限り運転を差し控える義務があり、被告人はこれに違反し運転⇒有罪。
被告人が、運転開始時において、自分の身体の状態をみて、①その後の運転中に意識障害になる具体的なおそれがある状態であることを認識していたこと、あるいは、②意識障害に陥るかもしれないことを予見しえたことが立証対象。
but
客観的証拠としては本人によって測定された血糖値などしかなく、被告人が自分の体調をどう認識していたかは本人の供述に依拠。
治療歴や、医師の指導、本人の血糖管理などの点からの検討も必要。
2462   
  民事p6
最高裁R2.4.7  
  民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目についての不法行為に基づく損害賠償請求(否定) 
  事案 X(被上告人)は、Yら(上告人ら)に対し、Xの所有する建物の一部の明渡しを命ずる仮執行の宣言を付した判決を取得し、同判決に基づく強制執行を実施。その際民執法42条1項に規定する強制執行の費用で必要なものに当たる費用を支出。

Xが、本件執行費用はYらによる本件建物部分の占有に係る共同不法行為による損害であるとして、Yらに対し、不法行為に基づき、本件執行費用及びその弁護士費用相当額並びに遅延損害金の連帯支払等を請求。 
  争点 民執法42条1項の「費用」の範囲は、民訴費用法2条各号に列挙されたものに限定されるところ、強制執行の申立てをした債権者が、当該強制執行における債務者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において、前記「費用」に該当する本件執行費用を損害として主張することができるか。 
  原審 執行費用の請求について認容。
  判断 強制執行の申立てをした債権者が、当該強制執行における債務者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において、当該強制執行に要した費用のうち民訴費用法2条各号に掲げられた費用のものを損害として主張することは許されない。 
  解説 民執法は、強制執行の費用で必要なもの(「執行費用」)を債務者の負担とする旨を定め(42条1項)、このうち同条2項の規定により執行手続において同時に取り立てられたもの以外の費用については、その額を定める執行裁判所の裁判所書記官の処分を経て、強制執行により取立得ることとしている(同条4項ないし8項、22条4号の2)。

民執法は、執行費用の負担者を一律債務者と定め、強制執行をせざるを得なかった責任の所在が任意に履行しなかった債務者にあるか否か等の事情にかかわらず、強制執行が行われ、その執行に必要であった以上常に債務者の負担とすることを明言したもの。 
  強制執行の申立人である債権者は、強制執行をするに当たり、先に執行費用を予納(民執法14条)⇒予納した執行費用を、債務者から事後的に取り立てる必要。
①金銭執行の場合はその手続内での同時取立ての方法により(42条2項)
②非金銭執行の執行費用や金銭執行で①の方法で取り立てられたもの以外については、執行裁判所の裁判所書記官による執行費用額確定処分を申し立てる方法(同条4項~9項)によるべきことを規定し、
執行費用額確定処分はそれ自体が債務名義になることとしている(22条4号の2)。
  民訴費用法2条各号に限定列挙された訴訟費用について不法行為等に基づく損害賠償請求が許されるか
学説:
A:否定説
B:肯定説
b1:制限的肯定説: 費用負担の裁判を受けるまで、あるいは費用額確定処分を受けるまでに限りこれを肯定

①民執法や民訴法は、費用額確定手続を設けているものの別訴での請求を禁止する趣旨の定めはない。
②費用償還請求権と民法上の賠償請求権とでは発生原因が異なり、訴訟物が異なる⇒当然に訴えの利益が否定されるものではない。
③費用額確定手続が簡易迅速であるとしても、簡易迅速性は権利者側の便宜のためのものであるから、権利者自身があえて訴訟による請求を選択することを禁止する理由にはならない。
(ex.支払督促(民訴法382条)や少額訴訟(民訴法368条)について、債権者はあえてこれらの手続によらず通常訴訟を提起することも任意に選択できる。)
vs.
費用額確定処分は、民訴費法2条所定の「費用」についての額の確定や取立てを認めた制度であるところ、同条では、前記「費用」を、訴訟等において一般に必要とされ、かつ当事者にとって公平な費用に限定する趣旨で、その「範囲」を同条各号において費目を掲げ、その「額」を同条各号において定めているものと解され、これを強行規定とした。

民訴費法が民事訴訟等の費用を費目や額をもって限定し、費用の負担者の側にとっても予測可能で公平な額とし、また、その算定も記録から容易に可能なものとすることにより、民事訴訟等の手続がその当事者双方にとって利用しやすく、公平なものとなることをその目的としている。

本判決:
①民訴費法2条の趣旨を、
当該手続の当事者等に予測できな負担が生ずること等を防ぐとともに、当該票の額を容易に確定することを可能とし、民事執行法等が費用額確定処分等により当該費用を簡易迅速に取立得るものしていることとあいまって、適正な司法制度の維持と公平かつ円滑なその利用という公益目的を達成する趣旨に出たもの
②強制執行に要した費用のうち、民訴費用2条各号に掲げられた費目のものを不法行為に基づく損害として主張し得るとすることによって、前記の趣旨が損なわれることがあってはならない

否定説。
  民訴費法の趣旨から導かれる⇒民訴費法に定められた民事訴訟費用についても同様のことが妥当。
本判決は、強制執行の申立てをした債権者と債務者との間の規律を述べている⇒当事者以外の者に負担を求める場合にまで射程がおよぶものではない。
宇賀克也裁判官の補足意見:
登録免許税法31条2項の過誤納金の還付制度を例に挙げ、
法が特別な手続を定められている場合でも、それが専ら権利者の便宜のためのものであれば債権者の任意の手続選択が認められるが、
公益性が認められる場合には手続の排他性が認められ得る旨を述べる。
  民事p14
東京高裁R2.6.29  
  ツイッター社を被告として原告の逮捕歴を記載したツイッター上の投稿記事の削除を請求(否定)
  事案 Xが、人格権等に基づき、インターネット事業者であるY(ツイッター・インク)に対して、Xの逮捕歴に関するYのユーザーの投稿の削除を請求。
  判断 公表されない法的利益と、情報を一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量し、公表されない法的利益が「優越することが明らか」な場合に削除請求が可能。
(H29.1.31最高裁決定(グーグル検索結果削除請求事件許可抗告決定の判断基準を踏襲)) 
①被疑事実(女湯への建造物侵入)は軽微な犯罪ではない
②ツイッター検索の利用頻度はグーグル検索ほどではなく、Xの逮捕に関するインターネット上の報道記事は既に削除され、Xが被害を被る可能性が低下している

逮捕から約8年経過したことを考慮しても、公表されない法的利益が「優越することが明らか」とはいえない。
  解説 上記平成29年最高裁判決:
当該事実を公表されない法的利益(当該事実の性質及び内容、検索により当該事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、記事等の目的や意義、記事など掲載時の社会的状況とその後の変化、記事等において当該事実を記載する必要性など)と、検索結果を提供する理由に関する諸事情を比較衡量し、公表されない法的利益が「優越することが明らか」な場合に削除請求が可能。

プライバシーの保護の要請と、
検索事業が情報流通の基盤として果たす大きな役割及び検索結果の提供が検索事業者による表現行為側面を有することなどを勘案した上での結論。
当該事案の下では、
①逮捕事実(児童買春)が社会的に強い非難の対象であり、
②検索結果の伝達範囲がある程度限られていることなどの諸事情

その後の犯罪歴がなく5年前後経過したことを考慮しても、公表されない法的利益が「優越することが明らか」であるとはえいない
と判断。
  民事p22
東京地裁R1.12.11  
  区分所有法10条に基づく区分所有権の売渡請求権を行使することができるとされた事例
  事案 2筆の土地にまたがって建てられた1棟のマンションについて、これらの敷地のうちの1筆の所有者であるXが、本件マンションの専有部分の区分所有者であるYに対し、区分所有法10条に基づく区分所有権の売渡請求権を行使することができるかが争われた。 
  規定 区分所有法 第一〇条(区分所有権売渡請求権)
敷地利用権を有しない区分所有者があるときは、その専有部分の収去を請求する権利を有する者は、その区分所有者に対し、区分所有権を時価で売り渡すべきことを請求することができる。
争点 ①Yが土地2について借地権を有するか
②2筆の土地にまたがって建てられたマンションについて、その専有部分の区分所有者がこれらの土地の1筆についてのみ借地権を有する場合に、借地権が設定されていない他の敷地の所有者が、当該区分所有者に対し、法10条に基づく区分所有権の売渡請求権を行使できるか。 
判断 争点①を肯定 
争点②について、
XはYに対して法10条に基づく売渡請求権を行使することができる。
⇒Xの請求を、本件専有部分の売渡請求権高支持の時価での売渡を求める範囲で認容。
解説 東京高裁H2.3.27:
1筆の土地上に建てられたマンションのa室の区分所有権を取得した際には敷地利用権を取得していなかったが、後に当該マンションのb室の区分所有権を取得した際に当該敷地の共有持分を取得した区分所有者に対し、当該敷地の共有持分を有する他の区分所有から、a室につき法10条に基づく売渡請求がされた⇒請求棄却。
区分所有者が、区分所有建物の敷地である土地の全部につき共有持分を有する場合は、共有の性質上、当該土地の全体につきその持分に応じた使用をすることができる(民法249条)⇒当該区分所有者に対して他の敷地の土地の共有者が法10条に基づく売渡請求をなし得ない。 
本判決:
争点②について、
法10条に基づく区分所有権売渡請求権につき、区分所有者が敷地利用権を有しない場合には、その敷地の権利者は、区分所有者に対してその専有部分の収去を請求できるのが原則であるところ、現実には、1棟の建物の専有部分のみを収去することは物理的にも社会通念上も不可能に近い⇒前記収去請求権を有する者が敷地に対する権利を実現する手段として位置付け。
Xは、土地1について敷地利用権たる転借権の無断譲渡を受けたにすぎないYに対して、土地1の所有権に基づき、本件専有部分の収去を請求することができるべき地位にある。

Yは、Xとの関係で、法10条にいう「敷地利用権を有しない区分所有者」に当たり、Xは、Yに対し、法10条に基づく売渡請求をすることができると判断。
  民事p29
千葉地裁R2.6.30  
  同一の被害者参加人のために各事件の国選被害者参加弁護士に選任された場合の「同一の事件」と不当利得返還請求(否定)
  事案 被告:共犯者3名による刑事事件の被害者参加人のために国選被害者参加弁護士として業務を行なった。
被告人A及びBは、同時に起訴されたが、被告人Aは公訴事実を自白、被告人Bは公訴事実を否認⇒弁論が分離。
被告人Cは未成年で、家裁送致と逆送決定を経て公訴提起⇒被告人Aらとは別事件として起訴
日本司法支援センターは、A事件(①)とC事件(②)の各国選被害者参加弁護報酬を別々に算定
but
国選被害者参加弁護士の事務に関する契約約款14条が別紙として定める報酬及び費用の算定基準5条1項の「同一の事件」に該当すると解すべき
⇒不当利得に基づく利得金の返還等を求めた。
  争点 ①と②が算定基準5条1項の「同一の事件」に該当し、1つの事件として報酬を算定するケースに該当するか?
  判断 ①と②が算定基準5条1項の「同一の事件」に該当するとういことはできない⇒①と②につき別個の事件として国選被害者参加弁護報酬として支払いを受けた被告の利得が民法703条の「法律上の原因」のない利得であるということはできない。
⇒請求棄却。 

①算定基準5条1項にいう「事件」とは、刑訴法316条の33第1項に定める被害者参加の対象となる事件⇒同項の被告事件をいうと解するのが相当⇒「同一の事件」というのは、被告事件として同一の事件であることをいうと解すべき。
②そのような解釈は、契約約款及び算定基準の他の条鋼の同一文言とも整合的。
③実質的相当性
  民事p41
大阪地裁R1.12.20  
  車両販売についての立替金等債権を有している信販会社の、破産者への不足額の通知が破産法162条1項の「債務の消滅に関する行為」に該当するとされた事例
  事案 破産者が自動車販売会社から購入した自動車の代金を立替払いして、破産者に対する立替金等債権を有していたYが、本件自動車について留保した所有権に基づいて(代理人の受任通知前に)破産者から本件自動車の引渡しを受けて、本件自動車を査定し、破産者に不足額を通知して清算⇒破産者の破産管財人Xが、前記一連の行為又は不足額の通知による清算行為が破産法162条1項1号に該当すると主張⇒Yに対し、否認権を行使して、本件自動車の返還に変わる価額償還等を求めた。
  判断 破産者とYとの間の立替払契約においては、Yは、立替金等債務を担保するために留保された所有権を有するにすぎず、同担保部分を除くと、本件自動車の実質的な所有権は破産者が有していた。
①Yが破産者の代理人にした不足額の通知により、破産者が実質的な所有権を有する本件自動車の評価額等をもって、立替金等債務の弁済に充当されたことになり、
②この不足額の通知は、立替払契約により予定された行為であり破産者の行為と同視することができる

不足額の通知は、破産法162条1項の「債務の消滅に関する行為」に該当し、その他の要件も充足する。
否認権の行使により、本件自動車の実質的な所有権が破産財団に帰属することになり、Xが、その管理処分権限を有するため、Yに対し本件自動車の返還を請求することができる。
but
Yは、既に本件自動車を売却し、返還できない⇒Xに対して、本件自動車の返還に変わる価額償還義務を負う。
Yは、本件自動車の本体価格本体価額、リサイクル料預託金相当額については価額償還義務を負う。
but
仮に否認権行使により本件自動車が返還されて破産財団に帰属し、Xがこれを換価しても、消費税相当分が最終的に破産財団に帰属することはない⇒消費税相当額については価額償還義務を負わない。
⇒一部認容。
  解説 最高裁H22.6.4:
自動車の売買代金の立替払をした者が、販売会社に留保されていた当該自動車の所有権の移転を受けたが、購入者に係る再生手続が開始した時点で当該自動車につき所有者としてに登録を受けていない⇒立替金等債権を担保するために留保した所有権を別除権として行使することは許されない。 
最高裁H29.12.7:
自動車の購入者と販売会社との間で当該自動車の所有権が売買代金債権を担保するために販売会社に留保される旨の合意がされ、売買代金債務の保証人が販売会社に対し保証債務の履行として売買代金残額を支払った後、購入者の破産手続が開始した場合において、その開始の時点で当該自動車につき販売会社を所有者とする登録がされているときは、保証人は、前記合意に基づき留保された所有権を別除権として行使することができる。
平成22年判決は、販売会社、信販会社及び購入者の三者間において、販売会社に売買代金残額の立替払をした信販会社が、販売会社に留保された自動車の所有権について、売買代金残額相当の立替金債権に加えて手数料債権を担保するため、販売会社から代位によらずに移転を受け、これを留保する旨の合意がされたと解される場合に関して判断したもの⇒平成29年判決の事案とは事案を異にする。
本件の留保所有権が、販売会社、信販会社及び購入者の三者間の合意により、売買代金残額相当の立替金債権に加えて手数料債権を担保するために新たに設定されたもの⇒その合意内容は法定代位と相容れない。 

信販会社は、平成22年判決を受けて約款を改め、法定代位構成を明確にすることによって対応を試みているが、本件は、改定前の約款に基づく対応が問題となった事案。 
  刑事p47
①②  
  ①大阪高裁H25.3.13:
公判前整理手続における主張の変更と事実認定に関する説示を含む裁判例
②東京高裁H28.4.20:
公判前整理手続における争点整理と事実認定に関する説示を含む裁判例
  ◆①事件:
被告人が、以前から確執があった隣人に対し、殺意をもって、木槌でその頭部を殴り、頭蓋骨陥没骨折等の傷害を負わせたという殺人未遂の事案
  争点 ①殺意の有無
②過剰防衛の成否 
  一審 殺意を認定し、過剰防衛の成立を否定 
被告人の公判供述の信用性を否定

被告人は、公判前整理手続の段階では、本件木槌を振り降ろしたと主張していたと認められるのであって、本件木槌の振り方について、明らかにその主張等を変遷させている。(「本件説示」)
  判断 公判前整理手続における1審弁護人の主張を被告人の主張が変遷したことを示す証拠として用いた1審裁判所の措置は、違法ないし著しく相当性を欠く
but
被告人の一審公判供述は、被害者の頭部の挫創や骨折の状況とそぐわないなど、客観的な証拠に反する⇒客観的な証拠に反するものであって、公判前整理手続における主張からの変遷の有無を取り上げるまでもなく、到底信用できない
⇒1審裁判所の訴訟手続に、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるとはいえない。 
  解説 ×A:刑訴法316条の31の「公判前整理手続の結果」については、弁論の全趣旨または裁判所に顕著な事実としての一部として、補強証拠となり得る。
vs.
①裁判員にとって顕著ではない「弁論の全趣旨または裁判所に顕著な事実という例外的な概念」を用いて、主張や供述の信用性を判断するのは、裁判員制度が導入された今日、望ましいことではない。
②この見解を採ると、公判前整理手続において、具体的な主張を明らかにすることを渋ることにもなりかねない。
③検察官としては、弁論の全趣旨等の例外的な概念を用いるのではなく、必要があれば、被告人自身に対し、変遷する理由を端的にただし、被告人供述の信用性を争えば足りる。

弁護人の立場から:
弁護人が特定の主張を撤回すると、被告人質問等で特定の主張が撤回された事実をあたかも自己矛盾供述であるかのような反対尋問をする検察官がいることの指摘。

司法研究報告書:
予定主張は、弁護人が法律家の観点から明示しているものであって、被告人の供述と連動しているわけではなく、被告人の供述の信用性を弾劾する事情にはなり得ない。
刑訴法316条の31の「公判前整理手続の結果」には、刑訴法316条の24にいう「事件の争点及び証拠の成立の結果」とは異なり、
①争点及び証拠の成立の結果だけでなく、
②整理の過程も含まれるとされているが、
ほとんどの場合は、①のみを検出すれば足りるであろう。
    ◆②事件:
被告人が、同棲相手が借りていたマンションの居室内で、床の上に置かれた衣類にライターで点火して火を放ち、その火を同室の床等に燃え移らせて、同室を焼損しようとしたが、通報によって臨場した警察官が消化したため、床面の一部をくん焼したにとどまったとされる現住建造物等放火未遂の事案。
  争点 被告人がライターで衣類に火をつけたか否か
  主張 一審の公判前整理手続における争点整理の結果では、もっぱらたばこの火により本件火災が発生した客観的可能性があるか否かが争点とされており、
①「本件火災当時の被告人の言動」は全く争点とされなかった
②本件フィルターの発見場所に関する事実は、争点整理の結果に記載されておらず、公判整理手続において、検察官も主張しなかった事実であり、
③本件フィルターには火を消すためにつぶしたような跡があるとの形状の特徴に関する事実は、争点整理の結果に記載されていないだけでなく、検察官が公判前整理手続のみならず、公判における冒頭陳述、論告においても主張していなかった事実

これらの事実の認定は、被告人にとって完全な不意打ち認定であり、被告人の防御権を不当に侵害するものであり、訴訟指揮権(刑訴法294条)の裁量を逸脱し、弁護人が証拠の証明力を争う機会を奪い(刑訴法308条)、証拠裁判主義(刑訴法317条)にも違反
⇒訴訟手続の法令違反がある。
①~③の事実は、一審判決が有罪認定をする上で重要な役割を果たした事実
⇒一審がこれらの事実を認定する以上、この点を争点として顕在化して当事者双方の主張立証を尽くさせるための釈明義務があり、
③の事実は、検察官が請求した証拠から認定できる事実で、弁護人の主張の根幹にかかわりながら、論告で全く言及されていない事態が生じた場合には、裁判所は審理の段階にかかわらず、当事者に証拠の趣旨の釈明を求め、必要に応じて補充立証を促すなどの義務がある
一審は、釈明義務違反がある。
  判断 ①の主張について:
公判前整理手続の経緯⇒裁判所は、本件火災の出火原因に関する当事者双方の主張が鋭く対立し、それが本件の主要な争点となっていたことから、その主張の対立点を分かりやすく整理するため、本件の争点のうち、特に火災の出火原因に関する当事者の主張を取り上げ、主張整理案を示したにすぎず、主張整理案に挙げられていない事実については、これを争点としない趣旨で提示した訳でないことが明らかである。
②の主張について:
公判前整理手続の目的な明確な審理計画を策定することにあり、そのためには、当該事件の審理のポイントが分かればよい⇒検察官の提出すべき証明予定事実記載書には、犯罪事実の存否及び量刑判断に必要不可欠なものを記載すればよく、それ以上に詳細なものは不要なだけでなく、むしろ弊害の方が大きい。
検察官請求証拠の内容や立証の詳細については、検察官から開示を受けた請求証拠や類型証拠を検討することによって知ることができる⇒これにより防御権の行使にも何ら支障は生じない。
③の主張について:
裁判所が、証拠調べの結果明らかとなった本件フィルターの形状から、どのような事実を推認するかは、裁判所の自由心証の問題。
原審弁護人は、本件フィルターについて十分防御の機会が与えられており、また、その形状からどのような事実を推認できるかは、弁護人として当然検討すべき事柄⇒検察官が冒頭陳述や論告で触れていないとしても、裁判所が補充立証を促すなどの措置を取る必要はなく、それにより弁護人の反証の機会を奪うことにもならない。
  刑事p64
大阪地裁R2.2.19   
  森友学園補助金詐欺事件
  事案  
  争点  ①補助金等不正受交付罪を定める補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金適正化法)29条1項(法定刑は懲役5年以下若しくは罰金100万円以下又は併科)は、詐欺罪を定める刑法246条1項の特別規定であって、欺罔行為による補助金等の詐取については補助金等不正受交付財が問われるべきとの弁護人の主張の当否
②サステナブル補助金事件における被告人両名の詐欺の故意及びK1(設計業者で森友学園代理人会社の取締役)との共謀の成否
③経常費補助金事件における被告人X2の詐欺の故意及び共謀の成否
④特別支援教育費事件における被告人X1の各欺罔行為の有無並びに被告人X2の格差偽の故意及び共謀の成否
  判断   ●争点① 
①両罪は構成要件及び法定刑のいずれの面でも一方が他方を包摂する関係にない
②両罪の保護法益が同一でない
③補助金適正化法の対象とならない地方公共団体の補助金を詐取した場合に処罰内容に大きな不均衡が生じる
⇒弁護人の主張を排斥。
  ●争点②サステナブル補助金事件
サステナブル補助金事件における被告人両名の詐欺の故意及びK1との共謀の成否について
①資金が足りない分は補助金で補おうと考えていた被告両名が、K1に対して「国からぼったくる」などと本来より多額の補助金を得たいという趣旨の話しをしていたところ、K1から工事費額が少ないと補助金額も少なくなるなどといった補助金額決定の仕組の説明を受けてこれを理解したこと、その後、・・・工事代金額及び設計報酬額について当初の交付決定額どおりの補助金の作成に了承を与えたこと
②被告人両名は、・・・・K1の説明から、本来は、既に実施設計に着手しているため補助金を受給できないが、その着手時期を偽れば受給できる可能性があると知ったこと、その着手時期を偽った契約書に被告人X1が署名し、その際、被告人X2の同席したこと等
⇒被告人両名の詐欺の故意を認定できる。

・・・被告人両名がK1ら関係者の犯罪を手助けしたのではなく、事業主等として多額の補助金を得たいという強い意向を示したことから、K1ら関係者が補助金に関する実務を担当するものとしてやむなく手続をすす埋めたもの⇒被告人両名とK1との間に共謀が成立。
  ●争点③(経常費補助金事件):
いずれも認定できない⇒無罪。
  ●争点④(特別支援教育費事件)
被告人X1の各欺罔行為は認定できるが、
被告人X2については、一部について詐欺の故意は認定できるものの、被告人X1との間で不正受給についての意思連絡(共謀)は認定できない⇒無罪。
  弁護人は、検察官は、首相(当時)の妻と親しくしていた被告任両名を標的として起訴するため、争点①で被告人両名と共謀したとされる設計業者の取締役K1を違法な司法取引により協力させた⇒控訴棄却及び関係証拠の違法収集証拠排除を求めたが、排除された。 
   
被告人X1について懲役5年
被告人X2について懲役3年執行猶予5年
  解説 補助金等不正受交付罪と詐欺罪の成否
A:前者は後者の特別規定⇒補助金等不正受交付罪が優先的に適用される
B:そのような関係にない
最高裁H21.9.15:
補助金等不正受交付罪の成立範囲については、詐欺罪の場合と異なる旨の判断。 
2461   
  行政p3
最高裁R2.3.19   
  固定資産評価基準により隣接する2筆以上の宅地を1画地として認定して画地計算法を適用する場合の算定方法
  事案 境地の共有分割により分筆後の土地に係る他の共有者の持分を取得したX1が、Y(大阪府)の府税事務所長から不動産取得税賦課決定処分を受けた⇒X1から訴訟を承継したX2が、前記の取得に対しては地税法(「法」)73条の7第2号の3の規定により不動産取得税を課することはできず、本件処分は違法⇒Yを相手に、その取り消しを求めた。
  法の概要 法73条の7第2号の3:
共有物の分割による不動産の取得に対しては、当該不動産の取得者の分割前の当該共有物に係る持分の割合を超える部分(「持分超過部分」)の取得を除き、不動産取得税を課することができないと規定。
法73条の21第2項:
道府県知事は、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産については、法388条1項の固定資産評価基準によって、不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものと規定。
固定資産評価基準:
第1章第3節において、
主として市街地的形態を形成する地域における宅地については、
市街地宅地評価法によって各筆の宅地について評点数を付設し、これを評点1点当たりの価額に乗じて、各筆の宅地の価額を求めるものとしている。

市街地宅地評価法:標準宅地の単位地積当たりの適正な時価に基づいて付設した路線価を基礎として、画地計算法(評価基準別表第3)を適用して各筆の宅地の評点数を付設するもの、
  事実 X1及びその弟であるX2は、土地の持分各2分の1の割合により共有。
領有物分割⇒同土地を本件土地1(617㎡)及び本件土地2(566㎡)に分筆する登記。
本件土地1をX1が取得、本件土地2をX2が取得。
本件各土地は、連続して舗装されるなどして、全体が駐車場として一体的に利用。 
本件土地1が本件取得時において固定資産税課税台帳に価格が登録されていない不動産⇒法73条の21第2項に基づき、評価基準により本件土地1の価格を算定⇒同価格は分筆前の土地の価格の2分の1相当額を超えている⇒持分超過部分の取得が含まれる⇒本件処分。
本件土地1の価格は、
①本件各土地につき、その形状、利用状況等からみて一体を成している⇒1画地と認定
②これと接する街路の路線価を基礎に画地計算法を適用して、本件各土地の1㎡当たりの評点数を算出
③これに本件各土地の地積及び評点1点当たりの価額を乗じて、本件各土地の評価額を算出、
④これに本件土地1と本件各土地との地積比を乗ずることにより、算定。
  判断 評価基準により隣接する2筆以上の宅地を1画地として認定して画地計算法を適用する場合において、各筆の宅地の評点数は、画地計算法の適用により算出された当該画地の単位地積当たりの評点数に、各筆の宅地の地積を乗ずることによって算出される。
持分超過部分の有無及び額を判断する場合であってもこれと別異に解する理由はない。 
  民事p14
東京地裁R1.9.5  
  再転相続人による相続放棄が問題となった事例
  事案 A銀行がBに貸し付けた住宅ローン債権を譲り受けたXが、同債権についての連帯保証人C(Bの妻)の再転相続人であるYに対して、保証債務履行請求権に基づき債権残額を請求。 
  事実 ①H10.12.7:本件住宅ローン貸付及びCによる連帯保証
②H15.1.5:C死亡、法定相続人はB並びにD及びE(Cの父母)
③H16.12.3:D死亡。法定相続人はE及びY(Dの子、Cの弟)
④H25.8.27:本件住宅ローン債務につき期限の利益喪失
⑤H27.9.7:本件債権譲渡
⑥H30.1.16:E死亡、法定相続人はY
⑦同年6.1:本件債権譲渡通知がYに到達
⑧同年8.29:Yによる被相続人をCとする相続放棄の申述
⑨同年9.20:本件相続放棄の申述受理 
  争点 再転相続人であるYの相続放棄の有効性。
①Cの相続人であるD及びEが相続の承認又は放棄をしないで死亡したか否かについて、相続放棄の申述に関する熟慮期間の起算点
②D及びEが相続の承認又は放棄をしないで死亡したと認められる場合におけるCの再転相続に係るYの熟慮期間の起算点
  判断  ●争点①について
最高裁を引用し、
①相続人が相続開始原因事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知ったときから3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、
②被相続人の生活歴、被相続人と相続人間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、
③相続人においてそのように信ずるについて相当な理由があると認められる時には、
熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識し得べき時から起算。
①Cの相続財産は本件保証債務以外に見当たらず、D及びEが本件保証債務の存在を意識していたのであれば、速やかに相続放棄を行うのが通常であり、本件保証債務の存在を知りながら敢てこれを相続する意思を有していたのだとすれば、Dの死後にEとYが行なったDの遺産分割協議において本件保証債務の負担について取り決めるのが通常
but
D及びEが相続放棄を行っておらず、Dの遺産分割協議において本件補償保証債務について取り決めがない。

D及びEがCについて相続財産がないものと信じていたことが強く推認される。

②主債務者による弁済が継続していれば保証人が直ちに弁済の負担あるいは債権者からの請求を受けるものではなく、保証債務の負担を知らない相続人がこれを認知しないことも多い
③A銀行及びXのいずれもD及びEに対して本件保証債務に関する通知をしていない

E及びEがCについて相続財産がないものと信じていたために相続放棄をしなかったこと及びそのように信じたことについて相当な理由があると認められる。
D及びEは、Cの相続についていずれも熟慮期間の起算点を迎えないまま死亡⇒相続の承認及び放棄をしないで死亡。
  ●争点②について 
再転相続人が、相続の諸運又は放棄をしないで死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を自己が承継した事実を知った場合(民法916条)であっても、
①再転相続人が同事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、
②信じたことについて前記の相当の理由がある場合には、
熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識し得べき時から起算。
①YがCの弟であり、平成1年以降は東京都において妻子と居住し、C(和歌山県在住)と同居していなかった
②A銀行及びXがYに対して通知を送付したのは、・・・が初めてであった

Cんぼ両親であるD及びEが認識していなかった本件保証債務の存在をYが認識していたとは考え難く、かつ、再転相続人であるYに相続財産の有無を調査することを期待するのは著しく困難。
  Cの相続について、相続人であるD及びEについて熟慮期間は経過していなかった。
再転相続人であるYについて熟慮期間の起算点は平成30年6月1日⇒同日から所定の熟慮期間内にされた本件相続放棄の申述は有効なもの。
  民事p20
さいたま地裁R1.12.11  
  県公安委員会がした運転免許取消処分について、国賠請求が認められた事例
  事案 運送会社X2の取締役であり、Y(埼玉県)公安委員会から原付免許・中型一種免許の交付を受けていたX1が、平成23年10月25日、訴外Aに自車を接触させ死亡させる事故を起こした⇒神奈川県警はX1を現行犯逮捕し、自動車運転過失致死の疑いで横浜地方検察庁に送致。
Y公安委員会は、平成24年3月末日までに神奈川県警から捜査資料の写しの送付を受け、同年4月11日、X1に対する意見聴取を行った上で、X1に対し、道交法70条所定の安全運転義務違反があった⇒運転免許を取消し、運転免許取得欠格期間を1年(平成25年4月10日まで)とする処分。
横浜地方検察庁:平成24年7月10日、X1を不起訴処分に。
X1は、平成25年2月19日、本件処分の取り消しを求める訴えを提起⇒平成28年2月25日、X1の請求を認容する判決が確定。
X1及びX2が、本件処分が国賠法上違法であり、同処分により損害を受けた⇒Yに対し、損害賠償請求。
  判断 ●国賠法上の違法について
国賠法上の違法性について、職務行為基準説を採用した最高裁H5.3.11を採用し、
公安委員会ののする免許取消処分は、後にその処分が取り消されたとしても、そのことから直ちに国賠法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、公安委員会が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすることなく漫然と処分をしたと認め得るような事情がある場合に限り、違法になる。
本件処分に際してY公安委員会が判断の基礎とした資料からX1の安全配慮義務違反を合理的に認定することできないのに本件処分が行われたとすれば、その処分には「公安委員会が職務上尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と処分をしたと認め得るような事情」があるといえ、国賠法上違法となる。
本件基礎資料の範囲を確定した上、同資料を子細に検討して判断代置的に審査⇒同資料からは事故態様を明らかにすることができず、安全配慮義務違反の前提となる結果回避可能性を認めることができない。
その他、X1の安全運転配慮義務違反を認定するに足りる的確な資料は認められない。

本件処分は国賠法上違法。
●X1の損害
Xは本件処分による欠格期間満了後の平成25年6月に普通免許を取得。
Y:運転免許再取得費用は本件処分による運転免許の喪失状態を回復するために必然的に要する費用とはいえない。
判決:社会通念に従って判断し、本件処分との相当因果関係を肯定。
最高裁昭和44.3.6を参照の上、
その遂行のため支出を余儀なくされた弁護士費用のうち相当と認められる範囲内の費用は、本件処分と相当因果関係に達立つ損害。

本件処分との相当因果関係を認めた。
自動車を運転できないことによる日常生活上の不便に対して相当な慰謝料額を算定。
●X2の損害 
X2:本件処分によりX1が運送業務に就けなくなった後も役員報酬を支払い続けた⇒間接損害の中でもいわゆる反射損害を主張。
本判決:本件処分によるX1の労務提供の質的量的減少並びにX2における逸失利益及び経費の増大は認められない⇒損害の発生を否定。
  知財p30
知財高裁R2.6.17  
  当該発明には当該発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著な効果が認められる⇒進歩性肯定事例
  事案 発明の名称を「アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物」とする特許(「本件特許」)の審決取消訴訟について、
最高裁からの差戻審判決。 
  差戻前上告審 原審は・・・本件各発明の効果、取り分けその程度が、予測できない顕著なものであるかについて、優先日当時本件各発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものか否か、当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点から十分に検討することなく、本件化合物を本件各発明に係る用途に適用することを容易に想到することができたことを前提として、
本件化合物と同等の効果を有する塩酸プロカテロール、ケトチフェン、クロモグリク酸ナトリウム及びぺミロラストカリウム(「本件他の各化合物」)が存在することが優先日当日知られていたということのみから直ちに、 本件各発明の効果が予測できない顕著なものであることを否定して第3次審決を取り消したものとみるほかなく、このような原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。
  判断 (1)本件明細書の記載⇒本件発明1における本件化合物の効果として、ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害率は、30uM~2000uMの間で濃度依存的に上昇し、最大値92.6%となっており、この濃度の間では、クロモリンナトリウムやナドクロミルナトリウムと異なり、阻害率が最大値に達した用量(濃度)より高用量(濃度)にすると、阻害率がかえって低下するという現象が生じていない。 
(2)本件優先日当時、本件化合物について、前記(1)が明らかであったことを認めることができる証拠はない。また、甲1の記載に接した当業者が、ケトチフェンの効果から、本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する効果について、前記(1)のような効果を有することを予測することができたということはできないし、本件他の各化合物のスギ花粉症に対する効果に関する文献があったとしても、本件化合物のヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害について前記(1)のような効果を有することを予測することができたということはできない。

本件発明1の効果は、当該発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであると認められる⇒当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。
  解説 ●「予測できない顕著な効果」について
多くの裁判例で、進歩性判断において予測できない顕著な効果を考慮することが肯定されてきたし、特許庁の審査基準も顕著な効果があることが、進歩性を肯定する事情になるとする。
「効果の顕著性」の進歩性判断における位置付け
A:独立要件説:
相違点に至る構成が容易に想到できるとしても、当該発明の効果が当業者が予測し得ない顕著なものである場合には、進歩性を認める。

B:総合考慮説(二次的考慮説、間接事実説、評価障害事実説等といわれることもある):
進歩性の判断では「予測できない顕著な効果」も含め、全判断要素が総合的に考慮される。

本判決:
発明の構成自体は容易想到であることを前提としたうえで、顕著な効果の有無を判断⇒独立要件説に親和的。
何と比較して顕著な効果があるといえるのか?
A:主引用発明比較説:
対象発明の奏する効果と主引用発明の奏する効果のみと比較して、顕著で、かつ、予測できないことをいう

〇B:対象発明比較説(本件差戻前最判):
対象発明が奏する効果を、当業者が進歩性判断基準時当時に対象発明の構成が奏するであろうと予測できる効果と比較して、顕著で、かつ、予測できないことをいう

C:技術水準比較説:
対象発明が奏する効果を、進歩性判断基準時の技術水準において達成されていた同種の効果と比較して、顕著で、かつ、予測できないことをいう
●前訴判決の拘束力 
最高裁H4.4.28:
「判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断」に拘束力が生ずる

本判決:前訴判決について、本件各発明の構成に至る動機付けがあるとの判断のみに拘束力が生じると認定判断した上で、「予測できない顕著な効果」の有無については、前訴判決の拘束力は及ばない。
  労働p53
札幌高裁R2.2.27  
  嘱託契約(有期労働契約)の更新の申込があったとは認められないとされた事例
  事案 Xは、Yを定年退職した後、Yとの間で、期間を1年間とする嘱託契約を締結⇒タクシー乗務員として勤務。
Xの主張:
契約期間満了に際して契約の更新の申込みを拒絶されたが、これは、Yと労働組合との間で締結された協定の内容を変更して新しい賃金体系を導入しようとしたYが、これに反対する労働組合の執行委員長であるXをYから排除し、労働組合の弱体化を図ることを目的としてしたもの⇒前記拒絶は不当労働行為⇒労契法19条2号に基づき、Yが前記申込みを承諾したとみなされ、Yによる前記拒絶につき不法行為が成立。

Xが、Yに対し、嘱託契約上の権利を有する地位にあることの確認と、不法行為に基づき賃金相当額の損害賠償を認めた。
  判断 嘱託契約の期間満了に際して、X及び労働組合とYとの間でされたやりとりの経過を認定⇒Xが契約の更新の申込みをしたとは認められない。 
「労働契約法の施行について」を指摘し、それを踏まえても更新の申込みがあったとはいえない。
  解説 労契法19条2項が適用されるための要件:
①有期労働契約が更新されると期待することにつき合理的理由があること、
②労働者がその更新の申込みをしたこと、
③使用者がこれを拒絶したこと、
④この拒絶が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないこと
②の要件は、事実認定の問題であり、本判決はこれを否定。
現実の雇止めは、
まず使用者から不更新(雇止め)の通知⇒それに対して労働者に異議がある場合に、雇止め法理の適用の有無が問題となるのが通常。

前記通達は、この要件を緩やかにとらえ、「更新の申込み」は要式行為ではなく、使用者による雇止めの意思表示に対して、労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わるものでよい、としているとの指摘。
労働者が少なくとも同一労働条件での更新がされない事態に対して労働者の不満の意思表示が認定できる限りは、労働者による更新の申込みの認定が可能であり、
このような更新の申込みに対して、使用者が従前よりも不利な労働条件での更新を提案したいということは、新たな労働条件の提案を行なうことにより労働者による更新の申込みを拒絶したと解することができるとの指摘もなされている。
本件:
既に新しい賃金体系が適用されており、労働組合が新しい賃金体系に応じることはYにとって不可欠の要件ではなく、
応じなければ更新をしない方針をYがとっていたとは認められない

労働組合として新しい賃金体系に応じない意向を表明していたことをもって更新の申込みがあったとはいえない。
  労働p62
東京地裁R1.9.4  
  劇団員の労働基準法上の労働者該当性が問題となった事例
  事案 原告は、被告が運営する劇団との間で入団契約を締結し、公演への出演や、音響照明、大道具、小道具等の業務を行っていたほか、被告が運営するカフェで店員として勤務。
被告は、原告に対し、劇団業務に関して毎月6万円を支給し、カフェでの業務に対しては1会の勤務(午後4時から午前0時、又は午前0時から午前5時)に対して5000円の支給。
  主張 自身の手帳に記載された勤務予定を実労働時間に関する主たる証拠とした上で、
①法定労働時間に対する最賃法による賃金及び時間外労働に対する労基法所定の割増賃金並びに付加金等の請求。
②被告が原告に休日を与えず長時間労働させたこと及び被告従業員による暴言や脅迫が不法行為に該当⇒不法行為に基づく損害賠償等を求めた。
  争点 ①原告の労働法上の労働者性
②実労働時間
③不法行為の成否
  判断   ●労働者性 
労基法上の労働者性について、
契約の名称や形式に関わらず、一方当事者が他方当事者の指揮命令下にあり、
労務の提供に対して賃金を支払われる関係にあったか
により決せられ、
指揮命令下にあったかどうかは、
業務に対する諾否の自由の有無
業務の時間的、場所的拘束性、
労務提供に対する対価の有無等
を検討すべき。
劇団が、稽古10日間、本番6日間の公演を年間90本行っており、劇団員を小道具課、大道具課などの「課」に所属させて業務を行わせ、公演に滞りが生じないようにしていたほか、
公演のセット入替え作業は、劇団員で賄えるようスケジュール調整が行なわれ、
音響照明は、劇団員に割り振られた担当公演の機関に不都合がある場合は、劇団員自ら交代できる者を探して交代していた
⇒これらの業務を担当しないことを選択する自由はなく、業務を行うには時間的場所的拘束があった。
原告が所属していた小道具課では、原告を含む2名で全公演の小道具を担当し、マニュアルに従った作業を行うほか、演出担当者の指示に従う必要があった
⇒原告には小道具の業務を行わないことを選択する自由はなく、劇団の指揮命令に従う必要があった。
劇団は、原告ら劇団員が劇団業務とアルバイトの両立が出来なくなっていたことなどから月額6万円を支給するようになり、最近では、音響所運命やセット入替え作業にアルバイト従業員を使用している
⇒劇団員に毎月支払われていた金銭は、小道具や音響照明、セット入替え作業等の業務に対する対価であったと評価するのが相当。

原告において諾否の自由を有していた公演への出演及びそれに伴う稽古等を除いて、労働者性が認められる。
  ●実労働時間
実労働時間に関する客観的証拠がない⇒原告が劇団の裏方業務に従事していた時間を算出するため、原告の手帳の記載や、劇団員が共有していたスケジュールの記載等をもとに、謙抑的に労働時間を認定。 
公演の出演には諾否の自由があり、出演は指揮命令下における労務の提供ではない⇒出演及び稽古に割いた時間は労働時間とは認められなかった。
●不法行為 
休日がとれなかったことを原因とする損害賠償請求:
原告の劇団員における活動は、稽古等の自身の出演に伴う活動にも相当の時間が割かれていた⇒認めず。
暴行や脅迫を理由とする損害賠償請求は、的確な証拠なし⇒棄却。
  解説 労基法上の労働者性に関する最高裁:
傭車運転手(車持ち込み運転手)の労働者性を否定(最高裁H8.11.28)
研修医の労働者性を肯定(最高裁H17.6.3)
大工の一人親方の労働者性を否定(最高裁H19.6.28)
but
いずれも事例判断で、労基法上の労働者性に関する一般論は示されていない。
下級審:
吹奏楽団員の労働者性を肯定
オペラ合唱団員の労働者性を否定

自営業者と労働者との区別が問題となったものとして、
フリーの映画撮影技師の労働者性を肯定
NHKの集金等業務受託者の労働者性を否定
バイシクルメッセンジャーの労働者性を否定
の裁判例あり。
  刑事p115
大阪高裁R2.3.16  
  死刑判決に対する控訴取下げの無効が問題とされた事案
  事案 一審死刑⇒一審弁護人は即日、被告人は平成30年12月31日、それぞれ控訴を申立て、被告人は、令和1年5月18日、大阪拘置所において同所長に対し控訴取下書を提出⇒弁護人らは係属部に対し、同月30日、本件控訴取下げが無効であるとして審理継続を求める申入書を提出し、後日、同取下げ前後の経緯に関する被告人からの聴取報告書や精神科医作成の意見書等の資料を提出。 
  原決定 本件控訴取下げを無効と認め、控訴審訴訟手続を再開・続行する旨原決定をした。

①本件控訴取下げの経緯をみると、死刑判決を確定させるという極めて重大な効果に照らして余りと言えば余りの軽率さであり、被告人が法的帰結を明確に意識していなかった疑いを生じさせる
②本件が死刑判決に対する控訴の取下げである点を十分に考慮する必要があり、死刑判決等に対する上訴放棄ができない旨の刑訴法360条の2の存在も参考になる。
    検察官が、異議を申し立てると共に最高裁に特別抗告を行った。
  異議審での決定等 ●不服申立ての方法
本決定:
高等裁判所が控訴取下げを無効と認め、控訴院訴訟手続を再開・続行する旨の決定⇒同決定に対し、不服のある者は3日以内に異議の申立てをすることができる。
検察官は、原決定に対し、論理的には矛盾する異議と特別抗告の両方の申立てを行った。
原決定に対する特別抗告⇒最高裁で不適法として棄却。
本決定に対する特別抗告⇒最高裁で棄却。
⇒本決定が維持された。

控訴取下げを無効として訴訟手続を再開・続行する旨の決定に対する不服申立ては異議申立てによるべきことで、判例上決着。
●本決定 
原決定が述べる前記理由に関し、
①本件控訴取下げが軽率になされた点を強調し、被告人が法的効果を明確に意識していなかった疑いが同取下げの効力に一定の疑念を生じさせるという点につき、合理的根拠を示しておらず、
②上訴取下げと上訴放棄とは局面が違う⇒刑訴法360条の2が根拠になると解し得ない。
意思表示や訴訟行為の無効事由がある場合には控訴取下げが無効となると解される。
but
原決定が述べる理由で無効を認めることは法解釈の枠を超える。
精神科医2名作成の意見書や証拠能力に関する証拠を精査しても、被告人の本件控訴取下げ時点における訴訟行為能力についての資料が甚だ不十分である⇒原決定の判断には誤りがあるとして取り消した。
①被告人の本件控訴取下げ時点での訴訟行為能力につき極めて慎重な検討が必要であるが判断資料が不足している
②さらなる事実の取調べは自判が原則(刑訴法428条3項、426条2項)の異議審裁判所の性格にそぐわず、自判に馴染まない事情がある。

原裁判所への差戻しを選択。