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勉強会(判例時報2022後半)

判例時報の勉強会用の資料です(随時更新)

       
       
       
       
       
       
2519   
  行政p5
東京高裁R3.4.21  
  普通河川の敷地の占有に関する不許可処分の取消請求(肯定事例)
  事案 X:太陽光エネルギーによる発電事業等を目的とする合同会社。
Y:静岡県伊東市
Xは、本件事業の中で、伊東市普通河川条例4条1項2号の規定に基づきYが管理する普通河川について敷地の占用の許可を求める2つの申請⇒Yの市長が2つの申請を許可しない旨の処分

本件各不許可処分は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してされたものであり、所要の処分の理由も提示されていない⇒本件各不許可処分の取消しを求めた。
  判断  ●裁量権の範囲の逸脱又は裁量権の濫用について 
Yの定める普通河川条例には、河川の敷地の占有を行うにはY市長の許可を受けるべき旨が定められているが、普通河川条例及びこれによる委任の受けたYの定めには、許可の要件又は基準について定められたものはなかった。
普通河川が公共用物⇒その管理権の作用として特定人のために当該敷地を排他的・独占的に継続して使用する権利を特に設定する行為であるという前記の許可については、Y市長の裁量に委ねる趣旨によるものと解され、
前記の許可を求める申請に係る占有が当該普通河川についての災害の発生の防止や流水の正常な機能の維持に妨げにならない場合であっても、Y市長は必ず占用の許可をしなければならないものではなく、
普通河川条例及びこれと以上のような趣旨を共通にするものと解される河川法の目的等を勘案した裁量判断として占有を許可しないことが相当であれば、占有の許可をしないことができる。
Y市長はその許否の判断に当たり、伊東市行政手続条例の規定に従い、許可の判断についての審査基準に関して準用するとされている静岡県河川占用使用許可等事務取扱要領に定められている種々の考慮要素を考慮することも妨げられず、
そこに定められている、占用することで実現しようとする事業の公共性又は公益性の有無又はそれらの程度の評価に係る事情の1つとして当該事業に係る行為が法令又は条例の規定やこれらに基づいてされた処分等に適合するものであるか否かなども考慮することになる。
本件河川の敷地の占用の許否の判断につき、前記考慮要素に従って、Xが本件事業を遂行するために活動を始めてから本件各不許可処分がされるまでの間に生じた事実を詳細に認定し、Y市長が本件各不許可処分をしたことは裁量権の範囲の逸脱又はこれを濫用した違法はない。
  ●本件各不許可処分に当たってされた理由の提示
Yの定める行政手続条例には、行手法と同様の文言で、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合には、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならないと規定。

行手法38条の規定の趣旨にのっとり定められたことが明らかにされるなどの規定ぶり⇒行手法の解釈を参考にすることができる。
理由の提示についても、いかなる事実関係に基づきいかなる法規等を適用して当該許認可等が許否されたかを申請者においてその記載自体から了知し得るものでなければならない。
本件各不許可処分においては、審査基準として準用される本件要領に定められた要素の1つに該当しないと判断した旨を説明した旨を説明したにとどまるが、
この審査基準は概括的、抽象的なものであるため、
申請者において求めた許可を拒否する基因となった事実関係を知ることはできず、また、判断の基礎となった事実関係を当然に知り得るような場合に当たるとも認め難い。
⇒理由の提示がされたものとは認め難い。
Xは、不許可に至る経緯となる事実関係自体は把握していると思われる。
but

事実を把握していることと
許認可を拒否する処分がされるに当たりその判断の基礎となった事実関係が前記の経過の中のどの事実により、かつどのように評価されたかを知ることは別個の事柄であり、
②行政手続き条例において「同時に」とされている

後の不服申立ての手続において説明が補足されても当然に治癒されるものではない。
  行政p39
名古屋高裁R3.2.26  
  ガソリンスタンドへの車両乗入口の傾斜⇒車体底部が路面に接触⇒通常有すべき安全性が争われた(否定事例)
  請求 主位的に、
Y1(名古屋市)に対しては本家乗入口の管理の瑕疵があったとして国賠法2条1項に基づき、
Y2(本件ガソリンスタンドの所有者)に対しては不法行為に基づき、
予備的に、
Y2に対しては債務不履行(民法415条)に基づき、
物的損害賠償金(69万5595円)及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。 
・・・車両が本件道路から本件乗入口に正面から侵入する際には車両前部がいったん下がった後に急勾配のすりつけ部を超えなければならないため車両底面が接触してしまう構造になっている⇒本件乗入口は、車両侵入口として通常有すべき安全性を欠いている。
  解説 ・判断 本件乗入口のような土地の工作物が通常有すべき安全性を欠いているために損害が発生した場合において、損害賠償責任を追求する根拠:
道路等の営造物⇒その設置又は管理の瑕疵を理由とする国賠法2条1項に基づく損害賠償
公の営造物以外⇒土地の工作物の設置又は保存の瑕疵を理由とする民法717条に基づく損害賠償請求
国賠法2条1項の「瑕疵」と民法717条1項の「瑕疵」は、通常有すべき安全性を欠いていることを意味する点で同じ。
本件乗入口は、Y2が設置(工事)したが、設置後は道路(歩道)の一部となる⇒本件事故当時、Y2は本件乗入口の占有者又は所有者ではないという考え?
本判決:Y2の不法行為責任の根拠条文を709条とし、瑕疵ある乗入口を設置したことについての過失責任を問うものと整理。
  道路の設置又は管理に関する法令:道路法、道路法石膏令、道路構造令等
道路の設置又は管理の瑕疵の有無は、道路管理者がこれらの法令を遵守していたか否かによって決められるものではないが、一応の基準とはなり得るとされる。
X:本件乗入口の勾配が本件承認の条件において従うこととされていた構造図を3.3%以上上回っていた⇒通常有すべき安全性を欠く。
vs.
本判決が是認する原判決:
同構造図が依拠したY1の指針及び国土交通省の通知の趣旨は歩行者等の安全、とりわけ高齢者や身体障害者の安全への配慮⇒基準を3.3%上回ることのみから本件乗入口を通行する車両にとって直ちに通常有すべき安全性を欠くものとは認められない。

道路の構造等に関して一定の基準を定める法規あるいは行政規則(指針、通知等)は、それぞれ基準を定めた趣旨・目的がある⇒道路の構造が形式的に当該基準に反していることのみを根拠として瑕疵があるとはいえない。
  本判決(及び原判決):
本件乗入口が車種、走行条件によっては車体底部が道路に接触し得る構造であることは否定していない。
公の営造物ないし土地の工作物に安全確保のための基準違反があるとはいえない場合に、瑕疵の有無を判断する手法として同様の事故が起こる頻度や生じる損害の程度を考慮するという方法を採用したものと思われる。
①本件乗入口は、それまで相当な期間にわたり様々な車種の車両が侵入・退出したが、本件のX車両以外に同様の事故が生じたことを示す証拠は提出されていない
②Y1への同様の苦情があったという事実も認められない
③本件のX車両の事故は車両底部に擦過痕を生じさせる程度の軽微なもの
⇒本件乗入口の瑕疵は認定されなかった。
  原審:多くの車両運転者は相応の注意を払って本件のような事故を回避している
X:不可能な注意義務を課すものと批判
本判決:本件乗入口への侵入に際し道交法上の注意義務(=車両運転者は、本件乗入口から歩道を横断して本件スタンドに侵入する際、本件乗入口に入る直前で一時停止した上で当該車両のハンドル等を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じて他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならないという義務(道交法じ17条2項、70条))を適切に履行すれば車体の接触が回避可能 
本件乗入口が車種、走行等の条件によっては車体が接触し得る構造⇒その意味でそこに欠陥があったことを完全には否定できない。
but
それにより生ずることがある損害は軽微なものでしかなく、かつ、
多くの運転者が道交法乗の注意義務を適切に履行して、そういう損害の発生を回避できている

全体として瑕疵が否定される。
  民事p49
大阪高裁R3.3.30  
  民法811条6項の死後離縁緒申立ての許可の要件
  事案 抗告人(原審申立人)が亡Eと婚姻
亡Iが抗告人及び亡Eとの間の長女Fと婚姻
その後に抗告人及び亡Eが亡Iと養子縁組
抗告人及び及び亡Eとの間の二女Gの子である利害関係人参加人が親権者父母の代諾により、亡I及びFと養子縁組
その後に亡Iが死亡し、更に亡Eが死亡 
抗告人が利害関係参加人を抗告人の推定代襲相続人の地位にとどめたくないとの意思⇒抗告人と亡Iとの養子縁組の解消を求めて、死後離縁を申立てた。
  原審 本件申立ては、推定相続人廃除の手続によらずに利害関係参加人から推定代襲相続にンの地位を失わしめる目的、すなわち推定相続に廃除の手続を潜脱する目的でなされた恣意的なもの
⇒死後離縁を認めなかった。 
  判断 養子縁組は、養親と養子の個人的関係を中核とするもの⇒家裁は、死後離縁の申立てが生存養親又は養子の真意に基づくものである限り、原則としてこれを許可すべきであるが、
離縁により養子の未成年の子が養親から扶養を受けられず生活に困窮することとなるなど、当該申立てについて社会通念上容認し得ない事情がある場合には、これを許可すべきではない。
本件申立ては、抗告人の真意に基づくものと認められる⇒社会通念上認容し得ない事情があるかについて検討。
①利害関係相続人は、既に大学を卒業して就労実績もある上、亡I及び亡Eから多額の遺産を相続している⇒抗告人の代襲相続人の地位を喪失することとなったとしても、生活に困窮するんどの事情はおよそ認められない。
②抗告人と利害関係参加人との関係は著しく悪化している。

利害関係参加人が抗告人の代襲相続人の地位を失うこととなることを踏まえても、本件申立てについて、社会通念上容認し得ない事情があるということはできない。
  解説  死後離縁の法的性質:
A:離縁説
B:当事者の死亡によって本来解消しないはずの法的血族関係を一方的に解消さえsる意思表示と解する「法定血族関係説」
現行法はB説に依拠。 
離縁の前提となる普通養子縁組の意思表示:
A:形式的意思説:縁組意思を創設的身分行為における届出意思ととらえた解釈論

縁組の意思の具体的内容は、個々の縁組における当事者の目的、生活関係などによって異なり、一義的に定められるものではなく、縁組の意思の存否について判断基準を定めることが困難。
B:実質的意思説(最高裁)
専ら節税のための養子縁組と民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」について最高裁H29.1.31:
養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るもの。
相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならない⇒相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得る
⇒専ら相続税の節税のため養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。
民法 第八〇二条(縁組の無効)
縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
一 人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき。
二 当事者が縁組の届出をしないとき。ただし、その届出が第七百九十九条において準用する第七百三十九条第二項に定める方式を欠くだけであるときは、縁組は、そのためにその効力を妨げられない。
  民事p52
東京地裁R3.1.21  
  法定更新の場合の更新事務手数料と消費者契約法10条違反(否定事例)
  事案 本件賃貸借は、平成26年11月22日から始まり、期間は2年で更新することができ、平成28年、平成30年に更新。
平成30年の更新は法定更新で、契約書は作成されず。
契約書には、更新の際の更新料は新賃料の1か月分、更新事務手数料は0.5か月分。
Xは、Yに対し、賃貸借契約に基づき原状回復費用および賃貸借契約更新の際に発生した約定の更新事務手数料3万9500円の支払を求めた。
  原審 原状回復費用として2万6248円を認めたが、
法定更新の場合の更新事務手数料の条項は消費者契約法10条により無効。 

法定更新の場合、合意が成立せず、更新契約書も作成されないから、更新事務手数料を支払う合理的理由がない。
  判断 原状回復費用を2万2980円とし、
更新事務手数料の条項は法10条に違反せず有効。 

①本件賃貸借契約を締結した際、X及びYは、合意更新であるか法定更新であるかを問わず、本件賃貸借契約を更新する場合には更新料及び更新事務手数料を支払う旨を、一義的かつ具体的に記載された契約を取り交わすことにより合意したものと認められ、そのことは、その後に合意更新した際にも同様。
②更新料および更新事務手数料の額について、いずれも本件賃貸借契約の賃料額や賃貸借契約が更新される期間に照らして高額に過ぎるという事情は認められない、。
  解説  ●更新料条項についての裁判例:
法10条の該当を肯定する例と否定する例があった。 
最高裁H23.7.15:
更新料条項の法10条後段該当性について、
賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借駅訳が更新される期間等に照らして高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、法10条に該当するものではない。

賃貸借における敷引特約についての法10条後段該当性について、敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、法10条により無効であるとはいえないとする最高裁H23.3.24の判断枠組みと同じ。
上記更新料判決:
更新料が、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有する・・・。更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され、賃借人と賃貸人との間に、更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について、看過し得ないほどの格差が存すると見ることもできない。
  ●法定更新の場合の更新料・更新事務手数料 
  民事p60
東京家裁R3.5.31  
  相手方が子を連れて海外渡航の事案での子らの監護者指定と引渡しを求めた事案
  事案 申立人(日本国籍・母)が、夫である相手方(F国籍・父)に対し、いずれも日本国籍を有する未成年者ら(C、D、E)の監護者を申立人と定めることを求めるとともに、相手方が未成年者C及びDを連れ去った上、無断で日本国外に出国した⇒未成年者両名の引渡しを求めた。 
  判断 申立人の各申立てを認容。
  規定 民法 第七六六条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
  解説  ●子の監護者の指定及び引渡しの判断の際の考慮要素 
家裁は、民法766条1項の「子の監護について必要な事項」として、子の監護者の指定のほか、子の引渡し等も定めることができ、この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
子の監護者の指定及び引渡しの事案で、子の利益に合致するかを判断する際の考慮要素:
①乳幼児期における「主たる監護者」
②監護環境の変化
③子の意思
④面会交流の許容性
⑤きょうだい不分離
⑥監護開始の態様等
審判例:
過去の監護実績をまず確定し、現在の監護状況や子の意思、互いの監護能力や監護態勢等をも考慮し、子の福祉の観点から、父母のいずれを監護者とするのが適当かという検討がされる傾向。
主たる監護者との継続性の判断:
育児にかけた時間や世話の料だけを問題とするのであなく、
子と主たる監護者との精神的な親和関係が形成されていることが前提となっており、
子の発達状況や監護者との精神的な関係性を個別の事案に応じて具体的に検討することが必要。
監護開始の態様:
法律や社会規範を無視するような態様で監護が開始されたことは、監護者としての適格性に疑義を生じさせる一要素となり得るもの⇒そのような要素も踏まえて判断される。
  ●本審判について
本審判は日本国内において効力を有するが、未成年者C及びDは日本国外にいる⇒申立人のとり得る家事事件等の手続としては、
未成年者両名が所在する国において、本審判を外国裁判として承認を求めて執行することや、
未成年者両名が所在する国が国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)の締約国であれば、ハーグ条約に基づく子の返還申立手続をとって、未成年者両名の日本への返還を受けた上で、本審判を執行。
  知財p66
知財高裁R3.8.30  
  音楽的要素と「マツモトキヨシ」からなる音商標について「他人の氏名」を含む商標に当たらないとされた事例
  事案 五線譜に表された音楽的要素及び「マツモトキヨシ」のカタカナで記載された歌詞の言語的要素からなる音商標の商標登録出願⇒商標法4条1項8号の「他人の氏名」を含む商標にあたるとして拒絶査定⇒拒絶査定不服審判の請求でも請求不成立の審判⇒Xがその取消しを求めた審判取消訴訟。 
  規定 商標法 第四条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。

八 他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)
商標法 第二条(定義等)
 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
  解説 ●商標法4条1項8号について
商標登録を受けるためには、商標は、
①自己の業務に係る商品・役務について使用する商標であること(3条1項柱書)
②自己の商品・役務と他人の商品・役務とを識別することができるものであること(同項各号)
③商標法4条1項各号に該当しないこと
が必要。
法4条1項は、その各号において、公益的又は私益的な理由から商標登録を受けることができない商標を規定。
同項8号の「氏名」とは、自然人の氏姓及び名前、すなわちフルネームをいう。
同項8号の趣旨は、人は見ずkらの承諾なしにその氏名、名称等を商標に使われることがないという人格的利益を保護することにある(最高裁)。
  判断 ①音商標を構成する音と同一の呼称の氏名の者が存在するとしても、取引の実状に照らし、商標登録出願時において、音商標に接した者が、普通は、音商標を構成する音から人の氏名を連想、想起するものと認められないときは、当該音は一般に人の氏名を指し示すものとして認識されるものとはいえない
②本願商標について認められる取引の実情の下においては、本願商標の登録出願当時、本願商標に接した者が、本願商標の構成中の「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音から、通常、容易に連想、想起するのは、ドラッグストアの店名としての「マツモトキヨシ」、企業名としての株式会社マツモトキヨシなどであって、普通は、「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」、「松本潔」、「松本清司」等の人の氏名を連想、想起するものとは認められない。

本願商標は、「他人の氏名」を含む商標に当たるものと認めることはできない。 
  解説 本判決は、商標法4条1項8号の規定が出願人の商標登録を受ける利益と人格的利益の保護との調整を図る趣旨を含んだものであることを明示し、同号の該当性について柔軟な判断の可能性を示した点において、規範的意義がある。 
  知財p73
知財高裁R3.3.18  
  音楽教室での演奏と(著作権法上の)演奏権
  事案 教室又は生徒の居宅において音楽の基本や学期の演奏技術等を教授する音楽教室を運営するXらが、著作権管理事業者であるYに対し、Yが本件口頭弁論終結時に管理する全楽曲に関して、各Xが生徒との間で締結した音楽の教授及び演奏技術の教授に係る契約に基づき行われるレッスンにおける、Xらの教室又は生徒の居宅内においてした被告管理楽曲の演奏について、本件口頭弁論終結時、YがXらに対して著作権侵害に基づく損害賠償請求権又は著作物利用相当額の不当利得返還請求権をいずれも有していないことの確認を求めた。 
主位的請求:
教師から生徒に対して演奏技術等の教授が行われる所定の時間で区切られたレッスンを単位として、当該レッスンの実施により、音楽教室事業者である各XのYに対する損害賠償債務又は不当利得返還債務が生じていないことの確認を求める
予備的請求:
レッスン中における個々の演奏行為を単位として、当該演奏行為により音楽教室事業者である各XのYに対しる損害賠償債務又は不当利得返還債務が生じていないことの確認を求める
  争点 ①音楽教室のレッスンにおける音楽著作物の利用主体(演奏主体)
②演奏主体と認定された者の演奏行為が、著作権法22条の「公衆に直接・・・聞かせることを目的として・・・演奏する」との要件に該当し、演奏県の行使(侵害行為)となるか
③音楽著作物を楽譜や録音物に複製することを許諾したことによって演奏権が消尽し、YがXらに対して演奏権を行使することができるか
  判断 音楽教室における教師の演奏行為の演奏主体は音が宇教室事業者であり、
教師の演奏行為はXら音楽教室事業者による演奏権の行使にあたり
演奏権は消尽していない
音楽教室における生徒の演奏行為の演奏主体は生徒であり、生徒の演奏行為はXら音楽教室事業者による演奏権の行使にはあたらない。
  規定 著作権法 第二二条(上演権及び演奏権)
著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。
著作権法 第二条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
5 この法律にいう「公衆」には、特定かつ多数の者を含むものとする。
  解説  ●侵害主体論 
クラブキャッツアイ事件最高裁判決(昭和63.3.15)、ビデオメイツ事件最高裁判決(H13.3.2)の説示内容

①Aによる著作物利用行為またはA自身に対するBの管理・支配と
②Aの著作物利用行為によるBへの法律上または事実上の利益の帰属
の2要件をもって、Bを著作権の利用(侵害)主体とする「カラオケ法理」
ロクラクⅡ最高裁判決(H23.1.20):
放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスの提供者を複製の主体であると解したが、
複製の主体の判断に当たっては、
「複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素を考慮して、誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当」とした上で、
サービス提供者が、単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず、その管理、支配下において、放送を受信して複製危機に対して放送番組等に係る情報を入力するという、複製危機を用いた放送番組等複製の実現における枢要な行為をして」いる等
⇒同サービス提供者を複製の主体と判断しており、
前記のカラオケ法理を一般的な判断基準として用いることには否定的な態度をとっている。
ロクラクⅡ事件最高裁判決後、諸要素を考慮し、
「演奏の実現にとって枢要な行為がその管理・支配下において行われているか否か」との基準によって侵害主体を判断すべきとする判決(知財高裁H28.10.19)。
  ●演奏権の行使について 
演奏権の行使:
「公衆」に直接聞かせることを目的として演奏することを要し、
「公衆」には「特定かつ多数」を含む⇒「特定かつ少数」を除く者が著作権法上の「公衆」
「特定」とは、演奏者との間に個人的結合関係がある場合を指す。
演奏主体を物理的、自然的な観察から演奏行為を行っている者以外の者⇒物理的、自然的な観察の下における演奏行為者と法的評価から導かれる者がずれる⇒そのどちらを基準にどの時点のどの範囲のどの者を基準として「公衆」の認定を行うのか?
送信可能化権に関するまねきTV事件最高裁判決(H23.1.18):
まず主体を確定し、その主体との関係で聴衆の「公衆」性の有無を決めるという判断構造を前提。
but
例えばカラオケボックスの場合、聴衆が誰なのか?
  「(公衆に直接)聞かせることを目的として」
A:物理的な意味での演奏(音波)を公衆に届かせる目的が演奏者側にあったか否かの要件
B:演奏内容を加味して一定の質以上の演奏を聞かせることを求める要件 
  演奏権の消尽:
著作権法は、譲渡権(著作権法26条の2)についてのみ消尽を認めているが、その余の支分権について消尽が認められないとする趣旨ではない。
中古ゲームソフト事件最高裁判決(H14.4.25)は、頒布権(著作権法26条)について消尽を認めている。 
  本判決:
音楽教室における演奏の主体の判断に当たっては、演奏の対象、方法、演奏への関与の内容、程度等の諸要素を考慮し、誰た当該音楽著作物の演奏をしているかを判断するのが相当。
~「枢要な行為」が侵害主体になるための必要な要件ではない。

教師の演奏行為については、Xら音楽教室事業者が演奏主体
生徒の演奏行為については、生徒自体が演奏主体

教師の演奏は、音楽教室事業者を演奏主体とする不特定の生徒に対して「聞かせることを目的」とした演奏⇒Xらは演奏権を行使している。

複製権の行使による演奏権の消尽を否定。 
  労働p120
大阪高裁R3・3・25  
  レストランでの弔辞化労働⇒劇症型心筋炎を発症して死亡した事例での因果関係(肯定)
  事案 Y1社(代表者Y2)が経営していたレストランの調理師P1は、約1年にわたり時間外労働が1箇月当たり約250時間に及ぶ長時間労働に従事、睡眠時間が毎日5時間未満⇒体力・免疫力低下⇒ウイルス性急性心筋炎を発症し、その悪化により劇症型急性心筋炎を発症し、手術で補助人工心臓を装着したが、最終的に脳出血により死亡。
P1の相続人であるXらが、
①Y1対しては会社法350条又は安全配慮義務違反(債務不履行)に基づき、
②Y2に対しては不法行為又は会社法429条1項に基づき、
治療費、逸失利益、慰謝料及び弁護士費用等の損害賠償請求。
  争点 Y2の注意ぎう違反とP1の長時間労働、ウイルス性急性心筋炎は症、劇症化、死亡という一連の経過についての事実的因果関係の有無 
  原審 判例時報2452号 
  判断   Y2は、Y1社の労働者であるP1に対し、業務の遂行に伴う疲労等の過度の蓄積により、その心身の健康を損なうことがないように注意する義務があるところ、
P1の長時間労働・睡眠不足の状態を認識しながら、それらにまったく関心を払わず、P1の負担を軽減させるための措置を一切講じないなど注意義務違反があることは明らか。
  P1は、
(1)約1年間における1箇月の平均時間外労働時間が約250時間に及び、睡眠時間は定休日以外の日は1日当たり5時間以下であり、継続的に長時間労働と睡眠不足の状態にあり
(2)口内炎が約1箇月も治癒せず、ウイルス感染症を発症し、ウイルス性心筋炎の前駆症状を呈していたが、
(3)前記の長時間労働・睡眠不足により体力意を奪われ、生体防御能を低下させ、
(4)ウイルスの増殖を食い止めることができず、急性心筋炎を発症及び劇症化させ、
(5)その影響で最終的には死亡するに至ったもの

一連の経過から、
①継続的な長期労働・睡眠不足の事実と②P1の死亡との間には、①が②を将来したことについて高度の蓋然性があることが証明されたと評価することができる。 
  解説 本件は、労災における業務起因性の認定との関係でも訴訟に。
P1の生前の配偶者(本件のX1)は、労働基準監督署に対して遺族補償年金等不支給処分取消訴訟を提起。
大阪高裁R2.10.1(判例時報2493号)は、業務起因性を否定:
X1による、過重業務が原因で免疫力が低下し、その結果劇症型心筋炎を発症し、P1が死亡した旨の主張については、
①過重業務による免疫力の低下が心筋炎を発症させるウイルス感染を生じさせた事情の1つとなった可能性は否定できないが、その他の事情を総合すると、P1の免疫力が低下していたものとまでは認め難い。
②過剰業務によりウイルス性心筋炎を発症し劇症化するとの経験則が存在するとも認めることができない
⇒業務起因性が認められるとする主張は採用できない。

過剰業務により治療機会を喪失したために劇症型心筋炎を発症し、死亡した旨の主張については、
そもそも治療機会を喪失したとは認められないし、
より早い時期に治療が開始されたとしても、劇症型心筋炎の発症を防ぎ得たと認めることはできない
⇒業務起因性が認められるとする主張は認められない。
労災法に基づく労災認定と使用者に対する不法行為等に基づく損害賠償請求とでは、法制度の趣旨が異なる⇒業務起因性の判断と相当因果関係の判断を直ちに同視することには問題。

因果関係の存否は、労災認定においては、業務に内在する危険が現実化したか否かという、いわゆる「業務起因性」の枠組みの中で問題となるもの。
but
本件で結論を異にする正当性?
  刑事p126
東京高裁R3・9・6
   
2518   
  行政p5
大阪地裁R3.5.17  
  障害基礎年金の支給停止処分が違法とされた事案
  事案 Xら8名は、Ⅰ型糖尿病にり患し、国年法30条2項による委任を受けた国年法施行令別表の定める障害等級2級に該当する程度の障害の状態にある⇒障害基礎年金の裁定を受けてこれを受給⇒厚生労働大臣から、国年法36条2項本文の規定に基づく障害基礎年金の支給停止処分。 
X9・・・・厚生労働大臣から支給停止処分⇒厚生労働大臣に対し、国年法施行規則35条1項本文に基づき、支給停止の解除の申請⇒支給停止を解除しない旨の処分。

Xら8名は、前記各支給停止処分の取消しを
X9は前件不解除処分の取消し及び支給停止を解除する処分の義務付けを
それぞれ求めて訴訟提起。
大阪地裁、
X8らの請求:行手法14条1項本文の理由提示の要件を欠き、違法⇒前件各支給停止処分を取り消し。
X9:前件不解除処分は行手法8条1項本文の定める理由提示の要件を欠き、違法⇒前件不解除処分を取り消す。

厚労大臣は、再度、Xら8名に対し、支給停止処分をするとともに、X9に対し、支給停止を解除しない旨の処分
本件:
X9:支給停止を解除する処分の義務付けを求めるとともに、支給停止解除事由があるなどの理由により、本件不解除処分は違法⇒行訴法19条に基づき、本件不解除処分の取消しを求める訴えを、前記の義務付けの訴えに追加的に併合定期
Xら8名:本件各支給停止処分は支給停止事由を欠く⇒その取消しを求める事案。
  判断  ●支給停止処分の要件 
国年法36条2項本文:
「障害基礎年金は、受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったときは、その障害の状態に該当しない間、その支給を停止する。」
支給停止処分をするためには、一定の時点において、受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しないことを要し、かつこれで足りる。
  ●  ●糖尿病による障害が2級に該当する程度の障害に該当するか否かの判断方法
国民年金・厚生年金保険障害認定基準(障害認定基準)

受給権者の糖尿病による障害が2級に該当する程度の障害の状態に該当するか否かを判断するに当たっては、当該障害が少なくとも3級に該当する程度の障害の状態であることを確認した上で、症状、検査成績及び具体的な日常生活状況を中心に、その他合併症の有無及びその程度、代謝のコントロール状態、治療及び症状の経過等を総合考慮して、受給権者の身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものであり、換言すれば、必ずしも他人の助けを借りる必要はないものの、独力での日常生活が極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度のものに当たるか否かを認定判断すべきであるものと解される。
受給権者が従事し得る労働の内容及び程度には幅がある⇒
「労働により収入を得ることができない」というのは、文字通り心身が労働に耐えられない場合に限定して解釈することは妥当ではない。
就労条件等に特段の配慮がされたことによって労働することができたといえる場合や、病状等に照らして労働を差し控えるのが相当であると考えられるのに就労しているとみられるような場合など、例外的な事情がある場合まで形式的に除外することは相当とは考え難い。
  ●Xらについての検討
X5の障害の状態は、2級に該当する程度に至っていなかったものとは認められない。
その余のX:2急に該当する程度の障害の状態にあるとは認められない。
  民事p35
大阪高裁R2.1.31  
  前訴での判断と異なる主張が信義側上許されないとされた事例
  事案 交差点内の自動車同士の衝突事故の加害者Aとの間で自動車保険契約及び自動車損害賠償責任保険契約を締結していた保険会社Xは、被害者Y1の後遺障害が自賠法施行令別表第2の3級3号に該当すると査定⇒Y1に対し、対人賠償保険金合計1702万3890円を、被害者請求に応じて自動車損害賠償責任保険の保険金(自賠責保険金)2219万円を、それぞれ支払った(両保険金を「本件保険金」という。合計3921万3890円)。
その後提起された前件訴訟の控訴審判決で、Y1の後遺障害が9級10号に該当すると認定された上、50%の訴因減額⇒Y1の損害額が2313万6000円と認定され、既に損害額以上の支払いを受けているとして、Y1らの請求が全部棄却され、同判決は確定。

Xは、甲事件主位的請求として
①Y1及びその夫であるY2に対し、Y1及びY2が共謀の上、Y1の後遺障害が1級1号に該当すると偽った被害者請求をして、自賠責保険金を詐取したとして、共同不法行為に基づき、損害金1773万円(自賠責保険金2219万円から9級10号相応の616万円を控除した残額1603万円と弁護士費用170万円の合計額)の連帯支払を求め、
②Y1に対し、Y1が、本件保険金の合計3921万3890園から前件控訴審判決において認定された損害額2313万6000円を控除した差額1607万7890円を法律上の原因なく利得したとして、悪意の不当利得に基づき、利得額から①で賠償されるべき自賠責保険金残額相当の賠償額1603万円を控除した残額4万7890円の支払を求めた。

①の共同不法行為が認められない場合の予備的請求として、
③Y1に対し、悪意の不当利得に基づき、本件保険金の合計3921万3890園から前件控訴審判決において認定された損害額2313万6000円を控除した差額1607万7890円の支払を求めた。
  争点 Y1の後遺障害の有無・内容・程度及び損害額について、前件控訴審判決における認定・判断に反する主張をすることが許されるか? 
  原審 前件訴訟の控訴審の口頭弁論においてXがY1の行動調査に関する報告書及びDVDを提出し、その期日において弁論が終結され、判決が言い渡されており、前記行動調査の評価についてY1らにおいて攻防を尽くしたとはいえない。
⇒Y1らが少なくとも前記行動調査の評価を争いY1の後遺障害の有無・内容・程度及び損害額を争うことが信義に反し許されないとはいえない。
再度の事実認定⇒Y1の後遺障害は5級2号に該当

共同不法行為を否定し、Y1の損害は50%の訴因減額を行っても本件保険金の合計金額を超えている⇒請求棄却。
  判断 訴訟物が異なる⇒前件訴訟の既判力は本件に及ばない。
but
①前件訴訟と同じく、Y1の後遺障害の有無・内容・程度及び損害額についての争いを中核とするもの
② 交通損害賠償請求事件における被害者の後遺障害の有無・内容・程度及び損害額の争点についての判断は、加害者、被害者、保険会社、自賠責保険や任意保険の保険契約者といった多くの関係者間における法律関係を規律するため、法的安定性の要請が高い。

信義則に基づき、前件控訴審判決における認定・判断は最大限尊重されるべきであって、特段の事情もないのにこれを蒸し返すことは許されるべきではない。
①・・・Y1らは前件控訴審判決言渡し当時にはY1の行動調査に関する事実認定を強く争っていたものとは認められない
②証拠によっても、前件控訴審判決に事実誤認があるとは認められない
⇒前記特段の事情があるとは認められない⇒前件控訴審判決における認定・判断に反する主張は、信義則上許されない。
前件控訴審判決の事実認定及び判断を左右すべき的確な証拠もない。
共同不法行為の成否:
ア:Y1が後遺障害について虚偽の申告を行い、検査においても作為をしたこと
イ:Y2がY1の日常生活状況につき内容虚偽の日常生活状況報告表を作成したこと
を違法行為として認定。
but
これらの違法行為と、
アを踏まえてされた意思による自賠責後遺障害診断書の作成、
イを踏まえてされた代理人弁護士による意見書の作江氏、
その後の被害者請求を受けて、損害保険料率算出機構のはんだを前提としてされたXによる後遺障害3級3号該当との判断及びこれによる自賠責保険金の支払との間にはm、相当因果関係が認められない
⇒共同不法行為に基づく損害賠償請求を棄却。
but
Y1の悪意の不当利得は認め、Y1に対して1607万7890円の支払を求める甲事件予備的請求を認容。
  解説 判決の理由中の判断に既判力を認めないのが判例・通説。
既判力類似の効力についても、最高裁はこれを否定。
but
実質的に前件の蒸し返しである後訴の請求や主張は信義則上許されないとする裁判例が存在。 
本件:
交通損害賠償請求事件では関係者が多く法的安定性を図る要請が高いことを要素として指摘した点、信義則を根拠に主張を排斥しつつ、改めに証拠に照らして検討し、前件控訴審判決における認定・判断によるべきとした点に特色。
  民事p72
大阪高裁R3.8.2  
  調停調書に基づく面会交流について間接強制が認められなかった事例
  事案 面会交流調停:
毎月第3土曜日の午前10時から午後6時まで相手方と面会交流させることを内容とする調停成立。その後、間接強制の申立て。 
  原審 相手方と未成年者らを面会交流させるよう命じるとともに、
その不履行につき未成年者1人当たり1回4万円を支払うよう命じる決定。
  解説 ●面会交流と間接強制について 
・・・調停調書に面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、未成年者の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がなすべき給付の特定に欠けるところがない⇒間接強制を許さない旨の合意が存在するなどの特段の事情がない限り、前記調停調書に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができる(最高裁)。
●執行裁判所における判断 
民執法は、執行の円滑かつ迅速な進行のため、強制執行手続を判決手続等から組織的に分離し、執行機関は、原則として強制執行を不当ならしめる実態法上の事由の有無については判断しない。
最高裁:
面会交流に関する審判等の債務名義が、子の心情等を踏まえて作成されている⇒その後に子が面会交流を拒絶する意思を示すなどの異なった状況が生じた場合であっても、これにより新たな面会交流条項を定めるための再調停や審判の申立てをすることはともかく、当該債務名義に基づく間接強制決定をすることを妨げない。
but
執行裁判所は、過酷な執行申立てについては、強制執行請求権の濫用(民法1条3項)として却下できると解されている。
間接強制について、債務名義を心理的に圧迫して給付を実現させるもの⇒債務者の人格尊重の理念に反するおそれがある。
履行不能等の事由があっても、債務者から請求異議の訴えや再調停・審判においてしかこれを主張することができないとすると、執行停止が認められない限りは、間接強制金が累積し、過酷な執行となりかねず、こうした金銭的負担は、債務者の生計を圧迫し、子の利益を害するおそれもある。 

面会交流させることを命じる内容の債務名義に基づく間接強制の申立てを受理した執行裁判所においては、当事者の提出する資料等から過酷な執行申立てに当たると判断することができる場合には、当該申立を却下すべき。
  判断  調停成立後に当事者間で行われた未成年者らと相手方との面会交流の状況やその経緯につき詳細に認定。
①新型コロナウイルス感染症の拡大がみられた社会情勢のもとにおいて当事者の合意により本件条項の定めるところから実施日時の変更やビデオ通話の方法に切り替えることなどによって適宜に面会交流が実施されてきており、本件条項に基づく面会交流が何ら実施されなかったと認められるのは令和3年4月分の1回のみ
②債務者が本件条項に定める以外にも未成年者らと相手方との直接的面会交流の場を設けてきたこと、相手方による間接強制決定の申立て後にも当事者間で未成年者らと相手方との面会交流が実施されていること等
③本件条項が面会交流の実施方法の変更につき当事者が誠実に協議する旨を定めているにもかかわらず、面会交流の実施日時や方法の変更についての相手方の対応がその趣旨に合致したものとはいえないものであった。

相手方による間接強制決定の申立てが過酷な執行申立てで、権利の濫用に当たると判断し、これを却下。
  解説 平成25年最決以降の、面会交流の間接強制についての裁判例。
①~⑦
尚、子の引渡しを命じる審判を債務名義とする間接強制の申立てが権利の濫用に当たると判断された最高裁H31.4.26。 
  民事p78
横浜地裁R2.12.18  
  セクハラ被害の大学設置者への申告に対する損害賠償請求(否定)
  事案 補助参加人Zの設置する大学の男性教授であったXが、本件大学の女子学生であったYに対し、Yは、Xからキャンパス・ハラスメントを受けたとして、虚偽の内容又は誇張した内容の被害申告をZに対して行い、同時にされた他の学生9名による同様の内容の被害申告を首謀又は主導し、その結果、ZがXを教授から准教授に降格するとの懲戒処分⇒不法行為に基づく損害賠償請求。
  争点 ①Yは虚偽の内容又は誇張した内容の被害申告を行い、同時にされた本件大学の他の学生9名による同様の内容の被害申告を首謀又は主導したか
②Yの行為と本件降格処分との間に相当因果関係があるか
③Xの損害 
  判断 Yによる被害申告について、虚偽又は誇張した申告をしたり、他の学生による同様の被害申告を首謀又は主導したりしたとは認められず、
本件降格処分の理由とされたXの非違行為はYの被害申告に係るもの以外にも多数に及び、Yの行為とXが受けた本件降格処分との間には相当因果関係を肯定することもできない。 
  民事p84
名古屋地裁R3.3.30   
  幼稚園の日照について配慮すべき義務を怠った⇒マンション建築についての損害賠償請求が肯定された事例
  事案 宗教法人である原告教会、原告教会が運営する本件幼稚園の園児らである原告園児ら14名並びに本件幼稚園の園長及び教諭である原告園長ら4名らが、本件幼稚園の園庭の南側に隣接する本件土地に地上15階建ての本件マンションを建築したY1、Y1から建築工事を請け負った会社Y2を被告として、日照阻害等を主張して、本件マンションの一部の取壊し及び損害賠償を求めた。 
原告らは、本件マンションの建築工事続行禁止の仮処分の申立て⇒受忍限度を超える侵害を生じさせるものではないとして、平成30年9月26日、その申立てを却下している。
(1)原告教会、原告園児らのうち9名及び原告園長らは、日照阻害等により人格権(子どもの権利)侵害が生じている⇒人格権に基づく妨害排除請求として、Y1に対し、本件マンション5階から15階までの取壊しを求め、l
(2)原告園児ら及び原告園長らは、日照阻害等による人格権侵害が生じているとして、不法行為に基づき、Y1及びY2に対し、慰謝料及び弁護士費用として1名当たり110万円ずつの損害賠償を求め、
(3)原告教会は、不法行為に基づき、Y1及びY2に対し、日照阻害を緩和するために園庭の牧師館を解体・撤去した費用相当額である259万2000円の損害賠償を求めた。
  判断     上記(3)の一部を認容し、原告らのその余の請求をいずれも棄却した。 
  ●原告園児らの建物取壊請求及び損害賠償請求(上記(1)(2)) 
①本件マンションの建築に当たりY1が行った本件幼稚園の関係者との協議は、名古屋市中高層建築物の建築に係る紛争の予防及び調整等に関する条例の趣旨に沿わないものであったこと、
②Y1が行った日照阻害の緩和策によっても、本件幼稚園における午後のクラス活動(園庭における外遊びが1番多く設定されていた)について、少なくとも半年程度は園庭全体が日影の影響で保育を実施せざるを得ない状態となり、園児らが園庭において伸び伸びと遊べる環境を著しく阻害したこと
を認めた。
but
牧師館の解体・撤去により午前中の日照時間がかなり確保され、園児らが本件幼稚園にいて過ごす1日を通じてみれば、園児らが園庭において日差しの下で保育を受ける環境が何とか確保されていると評価できる⇒本件マンションの建築による日影阻害は受忍限度を超えるものとまでは評価できない。
本件マンションの建築による風害、圧迫感等、幼稚園の一時移転による権利侵害、本件マンションの建築工事による権利侵害、プライバシー権の侵害についての原告らの主張は、受忍限度を超えない、あるいは権利侵害自体が認められない。
⇒いずれも斥けた。
原告園長ら及び原告教会の建物取壊請求と原告園長の損害賠償請求については、園児らが受忍限度を超える権利侵害を受けていることを前提とする請求
⇒その前提が認められない以上、理由がない。
  ●原告教会の損害賠償請求(上記(3)) 
①Y1は、日照阻害が園児らに与える影響を園児らの立場に立って最も考えることができる原告園長らの意見を聴くなどして、本件幼稚園における保育のカリキュラムに与える影響度合いなどの検討を十分にすることなく本件マンションを建築することを決めた
~本件幼稚園の日照について配慮すべき義務を十分に尽くすことを怠った。
②それにより原告教会に牧師館の解体・撤去の費用を負担させるという損害を被らせた。

Y1に対する損害賠償請求を認容。
Y1が設計した本件マンションの建築を請け負っただけであるY2に対する損害賠償請求は、理由がない。
  解説 原告園児らの建物取壊請求及び損害賠償請求に関する部分については、児童権利条約、児福法及び学教法の関連規定の趣旨等を、日照阻害等が受忍限度を超えるか否かの判断に際して考慮事項とすべきとしている。
保育園での日照被害を理由とする保育園児による損害賠償請求の認容裁判例(判時:832)
保育所での日照被害を理由とする保育所児童らによるマンション建築工事中止仮処分申立てが一部認容された裁判例(判時:1448)
中高層建築物の建築主等は、幼稚園等の教育施設や児童福祉施設に日影となる部分を生じさせる場合には、日影の影響について特に配慮し、当該中高層建築物の建築の計画について、当該施設の設置者と協議しなければならないと規定する中高層建築物紛争予防条例7条の規定。
  民事p101
神戸地裁R3.6.25  
   
  事案 K字型変形交差点で発生したX2運転の自動車(原告所有)とY2所有、Y3運転の自動車(被告車)との間の事故に関し、X2及びその妻のX3が、本件交差点に接続する2つの道路の対面信号機が共に一定時間青色表示となるように設定されていた⇒本件信号機の設置・管理に瑕疵がある⇒Y1(兵庫県)に対し、国賠法2条に基づき、損害賠償を請求すると共に、
Y3について民法709条、Y2について自賠法3条に基づいて、損害賠償を請求。
(なお、X2に療養補償給付を支給した地方公務員災害補償基金であるX1の代位取得した損害賠償請求権に基づく、損害賠償請求訴訟が併合されている。)
  判断・解説  ●本件信号機の設置・管理の瑕疵 
地方公共団体であるY1に属する県公安委員会が設置・管理する信号機については、公の営造物に該当。
営造物の設置又は管理の瑕疵:営造物が通常有すべき安全性を欠いていること。
その存否については、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して個別具体的に判断すべき。
(最高裁)
  判断:
道路、特に交差点において信号機が設置されている意義:道路交通の安全と円滑を図るため
信号機が通常有すべき安全性の存否:通常人の一般的な感覚に沿う形で判断するのが相当
本件交差点に設置された本件信号機における、左折可青矢印表示と青色表示が同時に生ずる状態(青々状態)、本件信号機の規制に従った自動車の走行経路が交差する事態を招くことの危険性⇒通常有すべき安全性を欠いている。
Y1の主張:信号機の設置・管理については考案委員会に一定の裁量権があり、これを前提とし、本件交差点の形状等を考慮すれば、本件信号機には、許容されないほどの安全性の欠如(瑕疵)はない。
  ●X2の後遺障害 
X2の右下肢についての複合性局所疼痛症候群(CRPS)の発症の有無:
明白な骨萎縮が認められない⇒CRPSの発症を否定
but
CRPSとする医師の診断も踏まえ、X2の右下肢には関節拘縮や、皮膚の変化などの他覚的所見が存する⇒局部に頑固な神経症状を残すものとして、後遺障害等級12級13号に該当。
争いのない左下肢の後遺障害(7条4号)と併合し、併合6級と判断。
  民事p120
東京家裁R3.1.4  
  出生届未了の子が母(フィリピン国籍)の元夫である相手方(日本国籍)に対して申立て嫡出否認の調停⇒合意に相当する審判の事例。
  事案 申立人の母:フィリピン国籍
相手方:日本国籍
  規定 法適用通則法 第二八条(嫡出である子の親子関係の成立)
夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべきときは、その子は、嫡出である子とする。
2夫が子の出生前に死亡したときは、その死亡の当時における夫の本国法を前項の夫の本国法とみなす。
  判断・解説   ●嫡出否認調停を子の側から申し立てることの可否
申立人は、相手方の本国法である日本法において、民法772条によって相手方の子と推定される。
日本法では、嫡出であることを否認できるのは、父のみであり(民法774条)、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによってなされる(民法775条)。
嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなくてはならない(民法777条)。
but
子からの申立てによる嫡出否認の調停において合意に相当する審判をすることを肯定した裁判例(札幌家裁)があり、学説上も、子又は親権を行う母にも申立権を認める見解。
本審判:「合意に相当する審判は当事者間に申立ての趣旨のとおりの審判を受けることについて合意が成立していることが要件とされており(家事事件手続法27条1項1号)、人事訴訟において嫡出否認が大なわれる場合とは異なって、相手方においても嫡出否認を求める意向を有していなければ行えないものである」と説示し、子からの嫡出否認を認める札幌家裁と同様の結論。
  ●フィリピン法における嫡出否認 
  ◎フィリピン法の概要 
  ◎フィリピン法における嫡出否認訴訟の否認権者、否認権行使期間 
法適用通則法28条は、嫡出否認の問題にも適用されるとされており、嫡出の否認が許されるか否か、否認権者、嫡出否認の方法、否認権の喪失、否認権の行使期間などは、いずれも同条が定める準拠法による。
⇒否認権者や否認権行使期間についても検討すべき。
  ◎フィリピン法で出訴権者とされていない子から夫への嫡出否認調停の可否 
一般に渉外的な実親子関係の成立に関する事件について、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められる場合には、合意に相当する審判の可否は手続上の問題ととらえ、「手続は法廷地法による」の原則により、法廷地法である日本法に基づいて調停において合意に相当する審判ができると解されている。
外国法が準拠法となる事案において、当該準拠法が嫡出否認の否認権者を夫に限定している場合において、日本法と同様に、子から夫に対して申し立てられた嫡出否認の調停において合意に相当する審判を行えるか?
これを肯定したもの(東京家裁)
本審判:
フィリピン法上否認権者とされていない子からの申立てであることについて、「手続は法廷地法による」との国際私法上の原則により、相手方において申立人が嫡出子であることを否認することを希望する意思を示している本件では、この要件も満たされているというべき。
  労働p122
宇都宮地裁R3.3.31  
  高体連の主宰する講習会の講師としての業務中の災害と公務遂行性(肯定事例)
  事案 Xは、本件災害は、地方公務員災害補償法1条所定の「公務上の災害」に当たる⇒同法に基づく公務災害認定請求⇒公務外認定処分⇒審査請求を経由した上、その取消しを求めた。
  主張 Y(地方公務員災害補償基金):高体連が主宰する業務は公務でないことを前提に、公務追行中の災害ではない。 
  判断  地方公務員の「負傷、疾病、傷害又は死亡」が地方公務員災害補償法に基づく公務災害に関する補償の対象となるためには、それが「公務上」のものであることを要し、
そのための要件の1つとして、当該地方公務員が任命権者の支配管理下にある状態において当該災害で発生したこと(公務遂行性)が必要。 
⇒本件においてXが関与した高体連関連業務は、XをA高等学校登山部顧問に任命したA高等学校長によって、「特に勤務することを命じられた」業務に当たるかが問題。
  ・・・あくまで登山部顧問への就任を命じるものにとどまり、高体連関連業務への従事ないし関与を「特に勤務」として命じたものとは解されない。
Xが行った高体連関連業務は・・・明示的に「特に勤務」を命ずることによって行われたものであるとはいえないが、このことは黙示的な職務命令によって非公務である高体連関連業務が行われる場合があることを排除するものとは解されない。
  ●  ①本件講習会を主宰、主管する高体連の登山専門部の役員は、高体連の加盟校の学校長及び当該山岳部の顧問が努めており、本件講習会当時、A高等学校長及びXは役員であった
②本件講習会に生徒を引率した教員は、行使をすることが予定され、経験豊富な教員が、経験の少ない教員が引率する他行の生徒の指導に当たることで、全体として安全を確保する指導体制がとられており、他校の生徒だけを指導することも予定されていた
③4月及び5月に登山を予定している高体連加盟校は3月に開催される春山安全登山講習会を受講することが慣例化していた
④A高等学校長は前記慣例に従って、自校の生徒を本件講習会に参加させるために、顧問であるXに対して前記旅行命令を発出したこと

本件講習会は、公務としての部活動ではないものの、A高等学校の登山部の部活動の一環ないし延長線上の活動として実施されたもの。
Xは、職務命令権者であるA高等学校長から前記旅行命令を受けたのを機に、単にA高等学校と全部の生徒を引率するだけでなく、公務としてのA高等学校登山部の部活動に密接に関連する本件講習会に講師として参加し、他校の生徒に対しても当然に指導を行うことにつき、黙示的な職務命令を受けていたものと認めるのが相当。
⇒公務遂行性及び公務起因性の要件を満たし、公務外認定処分は違法であるとして、本件請求を認容。
     
2517   
  行政p5
大阪高裁R3.4.8  
  刑事施設に収容中にうけた診療に関する個人情報開示(肯定)
  事案 大阪刑務所収容中のXは、自己の健康状態を知るため、行政個人情報保護法に基づき、大阪矯正管区長に対し、収容中にXが受けた診療録に記載されている保有個人情報の開示を請求。
⇒大阪矯正管区長が、本件情報は同法45条1項により開示請求の対象から除外されているとして、その全部を開示しない旨の決定(「本件決定」)⇒XがY(国)を相手として、本件決定の取消しを求めた。
  一審 行政個人情報保護法45条1項が、同項所定の保有個人情報につき同法第4章の規定を適用しないこととしたのは、当該保有個人情報が、個人の前科、逮捕歴、勾留歴等を示す情報を含んでおり、開示請求の対象とすると、例えば、雇用主が採用予定者の前科の有無等をチェックする目的で採用予定者本人に開示請求をさせること等により前科等が明らかになる危険があるなど、本人の社会復帰の妨げとなるなどの弊害が生じることにある
⇒本件情報は同法45条1項により開示請求の対象外。
  判断 本件情報は、形式的には行政個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に該当する。
but
その立法趣旨を達成するために診療に関する情報という有用かつ必要な情報を開示請求の対象から除外することは、規制目的と規制手段との合理的均衡を欠き、個人情報保護法制の基本理念と整合しない。
⇒本件情報には同項が適用されないと解釈すべき。
  解説 R3.6.15最高裁判決:
刑事施設に収容されている者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報について、行政個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たらず、開示請求の対象となる。

立法経緯。
行政個人情報保護法45条1項は、行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律の全部改正によって設けられた規定。
旧法13条1項は、個人情報の開示を原則としつつ、例外として、同項ただし書で、
①学校における成績の評価等
②病院等における診療に関する事項
③刑事事件や刑の執行等に関する事項
につき開示請求の対象から除外。
but
行政個人情報保護法45条1項は、
刑事裁判等関係事項を開示請求の対象から除外したが、
診療関係事項については開示請求の対象から除外する旨の規定を設けなかった。

(1)行政機関が保有する個人情報の開示を受ける国民の利益の重要性に鑑み、開示の範囲を可能な限り広げる観点から、医療行為に関するインフォームド・コンセントの理念等の浸透を背景とする国民の意見、要望等を踏まえ、診療関係事項の保有個人情報を開示請求の対象とすることにある。
(2)同法45条1項の制定過程でも、被収容者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報について、同法第4章の規定を適用しないものとすることが具体的に検討されたことはうかがわれない。

被収容者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報は、同法45条1項所定の保有個人情報に当たらない。 
  行政p18
神戸地裁R3.1.22  
  交差点での街灯が点灯せず視認性が低下⇒営造物の設置・管理の瑕疵と事故との因果関係肯定事例
  事案 普通乗用自動車を運転していたXが、Y(兵庫県西宮市)管理の市道交差点を左折した際、中央分離帯に乗り上げて衝突した事故につき、本件交差点及び本件中央分離帯の設置・管理に瑕疵があった⇒XがYに対し、国賠法2条1項に基づき損害賠償を求めた。
  判断 本件中央分離帯は、その設置について関係法令に違反していることは認められず、本件事故の原因は本件交差点の視認性の低下にある⇒瑕疵はない。
本件街灯については、本件事故当時、いわゆる球切れの状態で点灯しておらず、その設置の場所から本件交差点内を照らして夜間の視認性を向上させる機能を有すべきものであるところ、本件事故当時、この通常有すべき機能・安全性を有していなかった。
⇒本件街灯の設置・管理に瑕疵があると判断し、この瑕疵と本件事故との因果関係を認め、X7割、Y3割で過失相殺をした上、Xの請求を一部認容。
(←自動車の前照灯を点灯させていれば一定程度の照度を確保することができたと思われ、Xが前方注視義務等を尽くしていれば、事故を避け得た)
  解説 国賠法2条1項の「瑕疵」:
国賠法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、当該営造物の使用に関連して事故が発生し、被害が生じた場合において、当該営造物の設置又は管理に瑕疵があったとみられるかどうかは、その事故当時における当該営造物の構造、用法、場所的環境、利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべき。
中央分離帯の設置について、道路構造令に規定。
but反射材取付けに関する規定はない。
街灯の設置に関しては、国土交通省が定める道路照明施設設置基準に基づいて設置されている。
同基準では、「交差点の照明は、道路照明の一般的効果に加えて、これに接近してくる自動車の運転者に対してその存在を示し、交差点内および交差点付近の状況がわかるようにするものとする。」と規定(同基準第4章局部照明4-2交差点)。

交差点内を照らす街灯等は、交差点内および付近の状況を自動車の運転者が把握できる機能を有すべきものとされる。
尚、ここで問題とされる「通常有すべき安全性」とは交差点としての安全性であり、瑕疵を云々する営造物は、街灯を含めたところの交差点全体と捉えるべきでないかという疑問。 
照明に係る設置・管理(未設置も含める)の瑕疵が問題となった最近の下級審の裁判例。 
  民事p23
大阪高裁R3.4.28    
  事業用大型貨物自動車の走行中にエンジンから出火⇒製造物責任を肯定した事例。
  事案 運送会社であるX1が、Y1の製造した事業用大型貨物自動車(本件車両)を、Y2から購入して使用⇒本件車両走行中にそのエンジンから出火し、本件車両及び積み荷が全焼するという事故(本件事故)が発生。

X1が、
Y1に対しては、不法行為責任又は製造物責任に基づき、
Y2に対しては、瑕疵担保責任又は債務不履行責任に基づき、
損害賠償金の支払を求め、
X2が、X1との間の共済契約に基づきX1のYらに対する損害賠償請求権を保険代位により取得⇒Yらに対し支払済みの保険金相当額の支払を請求。
  1審 本件車両に欠陥があったとは認められない⇒Xらの請求をいずれも棄却 
  判断 ①自動車のエンジンについては、使用者に、エンジンオイルが不足・劣化することのないよう日常的な点検整備や定期的な部品の交換等が求められるが、それを超えて、エンジンを解体してその内部まで点検整備することまでは予定されていない。
②エンジンから発生する車両火災は、一般的には、点検整備の未実施によるエンジンオイルの劣化に起因するものが多いと考えられるとされる一方で、その原因の特定に至らない場合も多いとされており、その中には設計・製造上の欠陥によるものも含まれていると考えられる
③事業用大型貨物自動車は、その特性からして、相当程度長期間にわたり高度の安全性が確保されることが求められるというべき
④車両のエンジンは、多数の部品から構成され、科学的・技術的に高度で複雑な構造を有するものであること

エンジンから発生した車両火災である本件事故においては、Xらにおいて、X1が本件車両の納車から本件事故の発生までの間、通常予想される形態で本件車両を使用しており、また、その間の本件車両の点検整備にも、本件事故の原因となる程度のエンジンオイルの不足・劣化が生じるような不備がなかったことを主張・立証した場合には、本件車両に欠陥があったものと推定され、それ以上に、Xらにおいてエンジンの中の欠陥の部位やその態様等を特定した上で、事故が発生するに至った科学的機序まで主張立証する必要はないと解するのが、製造物の欠陥に起因する事故について、被害者の保護を図ろうとした製造物責任法の趣旨・目的に沿う。 
X1の使用形態や、日常の点検整備の状況を詳細に認定
これらに問題があったとするYらの主張を検討

X1は本件車両の納車から本件事故の発生までの間、通常予想される形態で本件車両を使用しており、また、その間の本件車両の点検整備に、本件事故の原因となる程度のエンジンオイルの不足・劣化が生じるような不備がなかったと認められる

本件車両には欠陥があったものと推定される。

Yらによって、これを覆すに足りる立証がされているということはできない

本件車両に欠陥があったものと認定し、製造業者であるY1は製造物責任法3条に基づく賠償責任を負う。
XのY2に対する請求:
製造物責任法の適用がない⇒前記のような推定が及ばない。
本件において、Xの主張するコンロッドの強度不足という瑕疵があったこと、又は、Y2に債務不履行があったことの立証がされたとは認められない。 
  解説 製造物の欠陥:
製造物が通常有すべき安全性を欠いていること

欠陥の有無の判断について:
当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して判断されるべき。
(法2条2項) 
欠陥の存在については、被害者側が主張・立証を負う
but
当該製造物のどの部分ないし部品にどのような欠陥があったかや、事故発生に至る科学的機序までを特定して主張・立証する必要はない。(通説・裁判例)
走行中の自動車のエンジンから出火する事故については、日常的な点検整備の不備が原因で発生することも少なくないとされており、そのような出火事故につき、自動車の欠陥を認めた裁判例は過去には見当たらないよう。
  民事p59
大阪高裁R3.3.12  
  家事事件手続法279条1項本文の利害関係人
  事案 異議対象審判事件の申立人である子(「本件子」)が、本件審判事件の相手方である戸籍上の父を相手として、大阪家裁に対し、本件子と本件父との間に親子関係が存在しないことを確認することを求める調停を申立てた⇒家事手続法277条に基づき、本件子と本件父との間に親子関係が存在しないことを確認する旨の審判⇒Xが、家事手続法279条1項本文に基づき、本件審判の利害関係人として、本件審判に対して異議を申し立てた⇒原審裁判所は、Xは家事手続法279条1項本文所定の利害関係人には当たらないとして、当該意義の申立てを却下する旨の審判⇒即時抗告。
  判断 家事手続法279条1項本文の利害関係人とは、法律上の利害関係を有する者をいうと解されるが、
家事手続法277条に基づく審判が対世効を有する⇒審判により直接民分関係に何らかの変動が生ずる者に限られず、当該審判によって変動する身分関係を前提として、自らの身分関係に変動を生ずる蓋然性のある者も含まれる。
①母には、本件父とX以外に、平成28年当時性交渉をした男性がいる事実は認められない
②本件子と本件父との間に父子関係がある確率は0%である旨の鑑定書が存在
③本件合意書(本件父との間で不貞行為を認めた合意書)を作成したり、母から認知及び養育費の支払に係る法的手続を申し立てる旨の予告を受けている
⇒本件審判が確定することにより、Xは、母から認知請求を受け、本件子との親子関係が形成され、さらには、母から養育費の請求を受け、養育費の支払義務が形成される蓋然性がある。

Xは、本件審判に関し、法律上の利害関係を有すると認めることが相当。
  解説 合意に相当する審判:
家事調停の申立てに始まり、家事調停の手続を進めつつ、必要な合意と事実の調査を経て、最終的に審判の形式でされるが、異議の申立てにより原則としてその効力を失う。 
  民事p61
横浜地裁R3.3.26  
  精肉作業での事故⇒安全配慮義務違反(肯定)
  事案 Yの向上で就労する派遣労働者であるXが、食品加工用切断機(本件切断機)を使用した精肉業務に従事中、左環指切断などの後遺障害を負った事故(本件事故)に関し、Yに対し、安全配慮義務違反の債務不履行に基づく損害賠償を求めた事案。
  争点 ①Yの安全配慮義務違反の有無
②損害の額
③過失相殺の成否及び過失割合 
  判断 Yの安全配慮義務違反を肯定し、Xの請求を一部認容。 
●  本件切断機について、管理責任者であるAが、本件切断機を用いた特定の精肉作業(角切り作業)が行われた際、本件事態により同機の覆い(点検口カバー)が突発的に外れるなどして、内部に格納された稼働中の本件回転刃に作業中非熟練労働者が容易に触れ得る状況にあるなどの本件切断機の危険性を容易に認識し得た場合において、Y(使用者)が、労働安全衛生法等の関係法令等において要求される安全ガード等を本件切断機に設置しないまま、X(非熟練労働者)に対し、前記作業に従事させた⇒安全配慮義務違反を肯定。
・・本件切断機を使用するにあたっての事故防止策について、抽象的な危険を指摘するにとどまり、前記作業(本件事態)を踏まえた具体的な安全衛生教育を怠った⇒安全配慮義務違反を肯定。
Y(使用者)による十分な安全衛生教育を受けたとは言えないX(非熟練労働者)において、本件事故を回避することは困難
他方で、Xにおいても本件切断機の危険性を認識し得た

双方の具体的な過失割合について、Yを8割、Xを2割と認めた。
  解説 安全配慮義務違反の有無の検討において、物的組織編制(設備の設置、機械等への安全装置の設置等)、人的組織編成(人員配置、教育体制等)の各観点からの検討が有益。 
本判決:
本件切断機を使用した特定の精肉作業(角切り作業)について、
X(非熟練労働者)が従事する具体的作業内容(回収作業)やその際の姿勢、それに伴う危険性及び使用者の認識を踏まえ、前記いずれの観点からみてもYには安全配慮義務違反が肯定されるものと判断し、とりわけ、その教育体制について、Yにおいて、本件切断機についての抽象的な危険を指摘するにとどまらず、特定の精肉作業における本件事態を踏まえた具体的な安全指導を行うべきであったと判断。
  民事p73
神戸地裁尼崎支部R3.8.2  
  受給年金等の振込先口座の差押えで、不当利得返還義務が認められた事案
  事案 Xが、金融業者であるYの申立てにより、2回にわたり、年金等の振込先口座の預金債権の差押えを受け、2回目の差押えについては、民執法153条に基づく差押禁止債権の範囲変更の申立てにより差押命令の取消決定を得た。
but
1回目の差押えについては取立が完了

1回目の差押えについては、取立金の不当利得返還及び民法704条前段所定の利息の支払請求を、
2回目の差押えについては、不法行為に基づき、差押命令の取消しに要した弁護士費用の損害賠償請求を行った。 
  判断 いずれの差押えも、預金残高がごくわずかであったところに年金等が振り込まれた直後というタイミングで、その効力が発生し、ほぼ年金等の振込額のみによって構成されている状態の預金債権の全額を差し押さえる結果となったもの⇒そのような結果は、実質的に、年金等の受給権自体を差し押さえたに等しく、差押禁止の趣旨に反する違法なもの。
⇒1回目の差押えに係る取立金の受領は法律上の原因を欠いている。
Yが、各差押えを申立て時点で、前記のような差押禁止債権の属性承継に関わる事情を知っていた、あるいは、知り得たと認めるに足りる証拠はない

1回目の差押えについての悪意の受益者該当性、
2回目の差押えについての不法行為該当性
は否定。
  解説 最高裁H10.2.10:
金融機関による、預金者に対する債権と、国民年金等が振り込まれた口座の預金債権との相殺の可否について、振り込まれた年金等jは受給者の一般財産に混入し、年金等として識別できなくなっており、預金債権は差押等禁止債権の属性を承継していない
⇒相殺は許されるものとした第1審及び控訴審の判断を是認。
  東京地裁H15.6.28:
①債権者が、債務者が年金を預け入れた口座の貯金債権を差し押さえた事案において、預貯金の原資が年金であることの識別・特定が可能であるときは年金自体に対する差押えと同視すべき
②年金受給者が別の財産を費消して生計を立てていると推認し得る証拠がない⇒差押えが許されるということもできない。

不当利得返還請求を認め、
債権者が悪意の受益者に当たるのは訴訟提起日以後に限られる。
大阪地裁H10.9.20:
①年金受給権の給付目的を承継しない貯金債権まで差押禁止債権とすることは、法の明文の規定なく責任財産から除外される財産を認めることになり、取引の安全を害する。
②年金を原資とした貯金債権であっても、受給者が年金以外に財産を所有して生計を立てている場合などには差押えを禁止する必要はない。

不当利得返還請求及び不法行為に基づく損害賠償請求を否定。
  知財p76
大阪地裁R3.6.24  
  時計原画の著作物性(否定事例)
  事案 原画の著作権を有するXが、時計製品(「Y製品」)を販売するYに対して、Y製品の販売行為は本件原画に係るXの著作権を侵害⇒Y製品の頒布差止め及び廃棄、並びに著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償等を請求した事案。 
Xは、本件原画を時計として商品化して販売している(「X製品」)。
  争点 ①本件原画の著作物性
②Y製品の複製該当性
③損害の発生及び損害額 
  規定 著作権法 第二条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
  判断  ●応用美術のの著作物性について:
本件原画は、一般向けの販売を目的とする時計のデザインを記載した原画であり、それ自体の鑑賞を目的としたものではなく、現に、Xは、本件原画に基づき商品化されたX製品を量産して販売している。
⇒本件原画は、実用に供する目的で制作されたものであり、いわゆる応用美術に当たる。
応用美術のうち、美術工芸品に当たらないものが「美術の著作物」に該当するかどうかについては、明文の規定はない。
but
法2条1項1号の「著作物」の定義によれば、「美術の著作物」は、実用目的を有しない純粋美術及び美術工芸品に限定されるべきものではない。
すなわち、実用目的で量産される応用美術であっても、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては、純粋美術の著作物と客観的に同一なものとみることができる。
⇒当該部分は美術の著作物として保護されるべき。
他方で、
実用目的の応用美術のうち、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないものについては、純粋美術の著作物と客観的に同一なものとみることはできない。
⇒美術の著作物として保護されない。
●本件原画が著作物と認められるか 
否定
各数字の外周側に円弧上の枠が設けられていない部分は、デザインの観点から目を引く部分と見ることも可能。
but
・・・・上記枠の設けられていない部分に他の部分と同様に枠を設けた場合、10の桁を示す「1」の部分がそれぞれ円弧上の枠と干渉して数字を読み取り難くなり、時間の把握という時計の実用目的を部分的にであれ損なうことになる
⇒当該部分のデザインについても、時計の実用目的に必要な構成と分離して美的鑑賞の対象となるような美的特性を備えている部分として把握することはできない。
  検討   ●  本件原画は、一般向けの販売を目的とする時計のデザインを記載した原画⇒原画のいかなる側面に著作権性を認めるかが問題。
❶原画の有する絵画的な表現形式における著作物性
❷学術的な性質を有する図画の著作物としての著作物性
❸観念的に存在している描画対象物の著作物性 
本件:原画に表現された時計の形態が検討対象⇒❸の観念的に存在している描画対象物の著作物性が問題。
❶について問題となった例:
「子どもの知能を発展させる練習用著」と称する白黒のデザイン画につき、絵画的な表現形式に基づき創作性がある旨の原告の主張に関して、幼児用著である被告各商品からは「表現形式上の本質的特徴は感得することができない」として裁判例。l
❷については、いわゆる「設計図」の著作物性に関しての議論。
描画対象物が大量生産される実用品であって著作物に当たらないことを前提に、工業製品の設計図としての表現方法に創作性が認められないことから、什器等の設計図の著作物性を否定した裁判例。

機械・工業製品の設計図の著作物性判断においては作図方法における表現上の創作性のみを対象とすることを明らかにしたといえ、現在に至る規範を示した。
  「応用美術」の論点 
応用美術(著作権法にはない):実用に供され、あるいは、産業用利用される美的な創作物
応用美術の著作物性を肯定するには、「実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できる」ことを求める立場(知財高裁H27.4.14)が有力。
~「分離可能性」説

「実用目的」や「(それ)に必要な構成」をどのように把握するのかが問題。
広く把握⇒著作物性が否定されやすくなる。
本判決は、実用目的として、
「針の位置により時間を表示する」(時計の把握)
「数字の見易さ及び時計としての使用に耐える一定の強度の実現」
に言及
⇒抽象的に描画対象物が「時計」であるとするにとどまらず、より具体的に使用目的をとらえている。
「各数字の外周側に円弧状の枠が設けられていない部分」について「時計の把握という時計の実用目的を部分的にであれ損なうことになる」としているが、
デザイン上目を惹く部分であり、実用目的に「必要な構成」といえるかどうかについては異なる立場も考えられる。
「使用されている数字のフォントや円盤上部の大きさ」についても実用目的に「必要な構成」だえるとしているが、むしろ「創作的」かどうか(ありふれた表現かどうか)という観点からの判断もあり得たと思われる。
知財高裁R3.12.8は、滑り台のタコの頭部を模した部分のうち天蓋部分につき、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して把握できるとしたうえで、ありふれたものとして著作物性を否定した。
  刑事p82
最高裁R3.6.23  
  詐欺罪と補助金等不正受交付罪との関係
  事案 人を欺いて補助金等又は間接補助金等の交付を受けた旨の事実について詐欺罪で公訴が提起⇒当該行為が補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律29条1項違反の罪に該当するときに、刑法246条1項を適用することの可否が問題。
  解説 補助金等適正化法29条1項:
「偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受け、又は間接補助金等の交付若しくは融通を受けた者は、五年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」
同法32条には両罰規定。
補助金等不正受交付罪の対象となるのは国庫金を財源とする給付に限られており、未遂犯の処罰規定はない。
補助金等不正受交付罪は不正の手段と因果関係のある受交付額について成立。
  一審・原審 (1)補助金等不正受交付罪は、
①「偽りその他不正の手段」の範囲が詐欺罪の欺く行為より広く、
②相手方の錯誤も不要とされている一方、
③犯罪が成立する受交付金額の範囲は不正の手段と因果関係にあるものに限定されており、
両罪の構成要件は一方が他方を包摂する関係にない。 
(2)補助金等不正受交付罪の立法経緯等を踏まえても、詐欺罪の構成要件を充足する場合に、重い詐欺罪の適用を否定する趣旨まで含まれているとは解されない、
(3)仮に補助金等不正受交付罪を詐欺罪の特別規定と解すると、国の補助金を不正に受給する行為は、補助金等不正受交付罪の対象とならない地方公共団体の給付金の不正受給よりも軽く処罰され、未遂罪も処罰されないことになるが、この不均衡を合理的に説明することは困難。

最高裁と同旨。
  判断 人を欺いて補助金等又は間接補助金等の交付を受けた旨の事実について詐欺罪で公訴が提起された場合、当該行為が補助金等不正受交付罪に該当するとしても、裁判所は当該事実について刑法246条1項を適用することができる旨職権判示。
  解説 A:立案担当者:
補助金等不正受交付罪は詐欺罪の特別規定(減刑類型)であり、詐欺罪の規定に優先して適用される

①補助金等不正受交付罪は補助金に関して詐欺罪の構成要件を包摂している
②「刑法に正条があるときは、刑法による」旨のただし書が置かれていない
③詐欺罪の要件を満たす場合であっても、罰金刑を選択し、両罰規定を適用できるようにする必要がある
④構成要件や保護法益の類似する租税犯罪と同様に考えるべき
vs.
①補助金について詐欺罪が適用できないとすれば、地方公共団体独自の財源による給付金について詐欺罪が適用され、未遂犯が成立し得ることと均衡を失する
②補助金等不正受交付罪と詐欺罪の構成要件は一方が他方を包摂する関係になく、一部が重なり合うにとどまっている
③行政刑罰法規に 「刑法に正条があるときは、刑法による」旨の規定がない場合であっても刑法が適用される場合はある
④詐欺罪を適用することができる一方、補助金等不正受交付罪を適用することもできると解すればよく、罰金刑選択や両罰規定適用の余地を残しておくために両罪を特別関係と解する必要はない
⑤ほ脱犯等の租税犯罪について詐欺罪が成立しない理由は、租税の性格、租税法固有の体系や仕組みにある

B:詐欺罪の適用は排除されない。
  刑事p84
福岡地裁R3.8.24    
   
  事案 暴力団員の序列1位、2位の最上位者である被告人両名(X、Y)が、配下組員らと共謀の上、
①漁協の元組合員を殺害したほか、
②元警察官(②事件)、③看護師(③事件)及び④歯科医師(④事件)をそれぞれ殺害することになってもやむを得ないと考え、団体の活動として組織によりこれらの人を殺害しようとしたが、いずれも殺害するに至らなかった。 
②事件では、けん銃の発射罪及び加重所持罪が認定され、
④事件では不正権益維持・拡大目的での殺人未遂罪も認定されている。
  判断・解説      ●共謀共同正犯の成否について 
  ●量刑判断について 
  ●その他の判断について 
  ◎発射銃器の異同識別鑑定について
  ◎通信傍受について
2516   
  行政p26
仙台高裁R3.5.27  
  マイナンバー制度の憲法違反が問題なった事案
  事案 国のマイナンバー制度により憲法13条の保障するプライバシー権が侵害される⇒プライバシー権に基づく妨害排除又は妨害予防請求として個人番号の収集、保存、利用及び提供の差止めと個人番号の削除を求めるとともに、国賠法1条1項に基づき慰謝料10万円と弁護士費用の損害賠償を求めた。
  判断 マイナンバー制度によって、Xらが、憲法13条によって保障された「個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」を侵害され、又はその自由が侵害される具体的な危険があるとは認められない⇒国がマイナンバー制度によりXらの個人番号及び特定個人情報を収集、保存、利用及び提供する行為が違法であるとは認められない。
マイナンバー制度により、個人番号や得意亭個人情報が情報システムで管理及び利用されることにより、個人情報が集積、集約されて個人の人物像を勝手に形成されるデータマッチングの危険性や個人情報が漏えいする危険性を一概に否定はできない。
but
制度の運用に伴う個人情報の不正な利用や情報漏洩の危険を防ぐため、個人番号や特定個人情報の提供が、法令の根拠に基づき正当な行政目的の範囲内で行われ、かつ、個人番号や特定の個人情報が目的外に提供され、システム技術上の不備によって漏えいしないように法制度上及びシステム技術上の措置が講じれれている。

個人情報の不正な利用や情報漏洩の危険性が一般的抽象的には認められるとしても、国がマイナンバー制度の運用によりXらの個人番号及び特定個人情報を収集、保存、利用及び提供することが、Xらの個人情報がみだりに第三者に開示又は公表されるという具体的な危険を生じさせる行為とはいえない。
自己情報コントロール権については、同意なく個人番号や特定個人情報を第三者に提供することが、すべて自己情報コントロール権の侵害となり、憲法13条の保障するプライんばしー権の侵害にあたるという趣旨の主張であるとすれば、そのような意味内容を有する自己情報コントロール権は、憲法13条の保証するプライバシー権としては認められない。
  解説 住民基本台帳ネットワークシステムにより行政機関が住民の本人確認情報を収集、管理又は利用する行為は、当該住民がこれに同意していないとしても、憲法13条が保障する個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を侵害するものではないと判断した最高裁H20.3.6。 
自己情報コントロール権について、
情報化社会において「プライバシーの権利」を「自己に関する情報をコントロールする権利」として把握すべきであると主張した佐藤幸治教授も、
「コントロール権」はあまりに広汎で曖昧にすぎるという批判については考慮すべき重要な問題が含まれていると述べている。
自己情報コントロール権が提唱される趣旨は、判例にいう「個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」の解釈として考慮できる一方、その概念が個別の結論に直結するとはいえないであろう。
本判決:
特定個人情報が提供される場合を規定する番号利用法19条14号(現15号)の委任規定にいう「その他政令で定める公益上の必要があるとき」とは、
同号列挙の手続に準ずるような審理判断のための事実の調査や情報収集の手続として重要性を有する公益上の必要がある場合であって、その事実の調査や情報収集が法令に基づいて行われるものに限定して政令に規定を委任したものと解している。