シンプラル法律事務所
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勉強会(判例時報2023後半)

判例時報の勉強会用の資料です(随時更新)

       
       
       
       
       
       
       
       
   2560
  行政p5
最高裁R4.12.8  
   
  事案 普天間飛行場の代替施設を沖縄県名護市辺野古沿岸域に設置するための公有水面の埋立てをめぐる国と沖縄県との間の紛争に関し、最高裁が判決を言い渡した4件目の事案。 
経緯 沖縄県知事は、沖縄防衛局がした本件埋立事業の承認を求める出願につき、公有水面埋立法(「公水法」)4条1項各号の要件に適合すると判断し、公水法42条1項に基づく承認。
同項の規定により都道府県が処理することとされている事務は法定受託事務(公水法51条1号、地自法2条9項1号)。
沖縄県副知事は、沖縄県知事の職務代理者(地自法152条1項)から地自法153条1項に基づく委任を受け、X(沖縄県)の執行機関として、沖縄防衛局に対し、前記承認の後に判明した事情によれば本件埋立事業は公水法4条1項1号及び2号の各要件に適合していない⇒前記承認の取消し。
沖縄防衛局は、本件取消しに不服があるとして、地自法255条の2第1項1号の規定(「本件規定」)により、公水法を所管する国土交通大臣に対して審査請求⇒同大臣は、本件承認取消しは違法かつ不当であるとして、これを取り消す裁決をした。
本件:Xが、国土交通大臣の所属する行政主体であるY(国)を相手に、本件裁決の取消しを求めた事案であり、行政主体であるXが提起した抗告訴訟(行訴法3条3項所定の裁決の取消しの訴え)。
沖縄県知事は、本件訴えの提起に先立ち、国土交通大臣を相手に、地自法251条の5第1項の訴え(国の関与に関する訴え)として、本件裁決の取消しを求めていたところ、本判決言渡しの時点で、この訴えについて、本件裁決は同項の訴えの対象にはならない旨の理由により、訴え却下の判決が確定。
  1審 本件訴えは地方公共団体であるXが公水法の適用ないし一般公益の保護を目的とするもの⇒本件訴えは法律上の争訟(裁判所法3条1項)に当たらず、Xは本件裁決の取消しを求める原告適格(行訴法9条1項)を有しない⇒却下 
  原審 行訴法9条1項にいう「法律上の利益」は私人が裁判により救済を認められるべき権利利益と同等の性格のものである必要があるが、Xが主張する自治権及び公物管理権はこれに当たらない
⇒Xは本件裁決の取消しを求める原告適格を有しない⇒却下すべき。
    Xが上告受理の申立て⇒受理
  判断 本件規定による審査請求に対する裁決について、原処分をした執行機関の所属する行政主体である都道府県は、取消訴訟を提起する適格を有しない
⇒ 本件訴えを却下すべきものとした原審の判断は結論において是認することができる。
  解説  ●裁定的関与を争う訴訟の適否 
A:出訴を肯定
←違法な国の裁定的関与は地方公共団体の自治権を侵害⇒地方公共団体は救済を求めるために抗告訴訟を提起することができる(塩野)。
B:出訴を否定
←審査請求や抗告訴訟はあくまでも国民(私人)の権利利益を保護するための制度であって、公権力を行使した側からの出訴を認めることは当該制度の基本構造や趣旨に反する(藤田)
最高裁(昭和49年):
国民健康保険の保険者(市町村)は、自らがした保険給付等に関する処分を取り消した国民健康保険審査会(都道府県知事の附属機関)の裁定につき、取消訴訟を提起する適格を有しない。

(1)前記保険者は、国保法の規定に基づき、本来国の事務である国民健康保険事業(当時)を担当する行政主体であって、前記処分の審査請求に関する限り、前記審査会の下級行政庁と同様の関係に立つ。
(2)前記裁決に対して保険者の出訴を認めると、前記処分の相手方の権利救済を遅延させるおそれがある。

審査請求がされた行政庁(「審査庁」)と処分庁とが異なる行政主体に属する場面について、当該審査請求に係る制度の趣旨を踏まえて判断したもの。
  ●本件規定による審査請求に対する各大臣の裁決を争う抗告訴訟の適否 
  地自法 第二五五条の二[審査請求]
法定受託事務に係る次の各号に掲げる処分及びその不作為についての審査請求は、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、当該各号に定める者に対してするものとする。この場合において、不作為についての審査請求は、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、当該各号に定める者に代えて、当該不作為に係る執行機関に対してすることもできる。
一 都道府県知事その他の都道府県の執行機関の処分 当該処分に係る事務を規定する法律又はこれに基づく政令を所管する各大臣
 
法定受託事務に係る都道府県の執行機関の処分についての審査請求をすべき行政庁に関し、行審法4条の特則を定めたもの(同条にいう「特別の定め」に当たる)

その趣旨は、都道府県の法定受託事務に係る処分については、当該事務が「国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるもの」という性質を有する(地自法2条9項1号)⇒審査請求を国の行政庁である各大臣に対してすべきものとすることにより、当該事務に係る判断の全国的な統一を図るとともに、より公正な判断がされることに対する処分の相手方の期待を保護することにある。
本件規定による審査請求に対する裁決は、地自法245条3号括弧書により、国と普通地方公共団体との間の紛争処理(地自法251条の5第1項の訴えを含む)の対象にはならないものとされている。

処分緒相手方と処分庁との紛争を簡易迅速に解決する審査請求の手続における最終的な判断である裁決について、これを更に前記紛争処理の対象とすることにより、相手方を不安定な状態に置き、当該紛争の迅速な解決が困難となる事態を防ぐ。
but
このような事態は、処分庁の所属する都道府県が審査請求に対する裁決を不服として抗告訴訟を提起することを認めた場合にも生ずるもの。
  法定受託事務に係る都道府県の執行機関の処分についての審査請求に関し、行審法及び地自法には当該都道府県が裁決の適法性を争うことができる旨の規定が置かれていない。
 
これらの法律は、当該処分の相手方の権利利益の簡易迅速かつ実効的な救済を図るとともに、当該事務の適正な処理を確保するため(行審法1条参照)、処分庁(原処分をした執行機関)の所属する行政主体である都道府県が抗告訴訟により審査庁(各大臣)の裁決の適法性を争うことを認めていない。
  ●憲法との関係等について 
◎    憲法第8章の地方自治は、地方公共団体の基本権ではなく公法上の制度を保障したものであり、国の法律をもってしても侵すことのできない制度の核心が「地方自治の本旨」(憲法92条)であると理解するのが伝統的な通説及び判例(佐藤p597)。
ア:裁決の適否を裁判上争う手段が確保されるという都道府県の利益と
イ:裁決により簡易迅速かつ実効的な救済を受けられるという私人(原処分の相手方)の利益
とが対立
⇒アをイに優先して保護することが「地方自治の本旨」の内容を成すか否かが問題。
but
前記場面では、法定受託事務の性質上、原処分を行う本来的な権限が裁決をした各大臣の所属する国にあると解される
⇒アがイに当然に優越すると解すべき憲法上の根拠があるとまではいい難く、アの優先的な保護が「地方自治の本旨」の内容を成すとまではいい難い。
昭和49年最判:保険者の特別な地位に鑑みると、保険者に出訴を認めないとしても、その裁判を受ける権利が侵害されたとはいえない。
⇒前記場面におてい都道府県が取消訴訟を提起することができないと解したとしても、憲法に違反するとはいえない。
本件裁定:
Xがした本件承認取消しの効力を覆すものであり、その対象である水域に対するXの管理権を侵害するとも評価し得る。
Xが「法律上の死利益」として公物管理権を有する旨をいうXの主張は、この点に関係する。
判例上、市の道路管理権に基づく工作物撤去等の請求が認容(最高裁)等⇒一般的には、公物管理権は、それ自体を単独でみれば、取消訴訟の原告適格を基礎づける「法律上の利益」に該当し得ると解する余地がある。
but
都道府県知事が公水法42条1項に基づく承認の取消しをした場面については、仮に当該取消しがその対象である水域に対する管理権の行使に該当すると評価し得るとしても、当該管理権の内実は、あくまでも当該取消に係る権限そのものに他ならないというべき。

本件裁決については、仮にこれにより本件埋立事業の対象である水域に対するXの管理権が侵害されるとの評価が成り立つとしても、Xが原処分である本件承認取消しをした執行機関の所属する行絵師主体である限り、Xにおいて取消訴訟を提起することは許されないという結論は左右されない。
  行政p25
高松地裁R3.12.24  
   
  事案 香川県の住民らである原告らが、本件各派遣決定は違法であり、本件各派遣決定に基づく本件各旅行費用の支出も違法⇒香川県は前記議員らに対する不当利得返還請求権を有しているのにそれを行使しないことは財産管理を怠る事実⇒香川県の執行機関である香川県知事に対し、前記議員らに不当利得返還請求をするよう求めた事案。 
本件各派遣決定に基づき旅行会社に対してした本件各海外旅行のための各委託料の支出は、普通地方公共団体(香川県)の長(知事)であるWが県職員に対する指揮監督義務を怠った結果行われたもので、香川県がWに対して有する不法行為に基づく損害賠償請求権についても同様の主張をするもの。
  判断 本件各海外旅行につき、いずれも、本件各派遣決定における派遣目的決定における派遣目的は合理性がないとまではいえないが、各派遣計画のうちには前記派遣目的に資するとはいえない部分があり、または実際に実施された本件各海外旅行の内容に照らしても、議員としての職務の遂行とはいえない部分がある

これらにつき、前記議員ら(V1~V20)が、派遣による職務を行うために要した費用の弁償として支給を受けた旅費(本件各旅行費用)の一部につき、法律上原因なくして利得下ことになる⇒不当利得に基づく返還を命じた。
Wに指揮監督上の義務違反があるとは認められない⇒Wが損害賠償義務を負うことはない。
  解説   ●地方議会の決議について 
地方議会は、各種の案件を議決する議事機関であり、議員派遣あるいは調査権限が認められており、議案の審査又は当該仏地方公共団体の事務に関する調査のためその他議会が必要と認めるときは、会議規則によって議員を派遣することができる(地自法100条13項)。
普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の議決機関としてその権能を果たすために必要な限度で広範な権能を有しており、合理的な必要がある場合には、その裁量により、議員を海外に派遣することができる(最高裁)。
but
当該派遣を決定した議会の議決(派遣決定)及びこれに基づく議長の旅行命令が、議会の権能を果たすために必要でなかった、すなわち、派遣目的に合理性を欠く場合や派遣計画が派遣目的におよそ資するものでなかった場合には、前記裁量権の行使に逸脱や濫用がある
⇒前記の議決は違法となるほか、議長の旅行命令に基づく当該旅行も議員としての職務でなかったことになる⇒法律上の原因なくして旅費を利得したことになり、不当利得返還義務を負う(最高裁)。
元々も議決には含まれていない派遣目的や派遣場所についても派遣が実施されたとして加えられた部分については議会の議決に裁量権の逸脱濫用があったとされた裁判例。
  ●議員の職務について 
議員は、議会の議決に従って議長がした旅行命令に基づき、派遣による職務を行うために要した費用の弁償として旅費の支給を受けることができる(地自法203条)。
派遣目的や派遣計画は抽象的包括的とならざるを得ないし、議員の職務は性質上、高度の裁量に基づくもの
but
具体的な派遣計画の実施状況、遂行状況に照らし、それが派遣目的に資するものでない場合には、議会の権能を果たすために必要でないものとして、およそ職務の遂行とはいえない場合があり得る。
野球大会への議員の派遣につき、野球大会の行事内容日程等を通じて、スポーツの親交普及を図り、議員相互の交流により地方自治の発展に役立つ知識経験を得ることが必要ないとまでいうことはできない。
but
野球大会の具体的な行事内容や日程等
・意見交換や相互交流の機会は設けられていない
・視察参加議員による競技施設の視察等は予定されていないか、参加者が極めて少数
などの時j地ウ関係

当該日程内容は単なるリクレーションの域を出ないとして、議長のした旅行命令には裁量権逸脱濫用の違法があるとした原審(高松高裁)を是認。
海外派遣の裁判例:
近年のものとして
・派遣目的との関連性がなく、実質的に単なる観光目的の訪問であった部分を違憲とした判決(仙台高裁)
・実質的に海外研修に名を借りた観光中心の私的旅行というべきもので、議員としての職務を行うものとはいえないとした判決(東京高裁)
本件の4件の旅行のうち2件:
派遣目的が観光政策や取組状況を視察するというもの

議員の職務遂行状況によっては、単なる観光に堕するものとなる場合から、当該所管地域の観光施策のあり方等を高度に考察するものとなる場合まで、幅広くなる可能性

当該視察がどのような実施状況であったか、あるいは各議員がそれらを施策に反映するためどのように見識を深め、地域の施策への応用についてどのような認識を抱いたかによって、議員としての職務遂行といえるものであったかが異なってくる。
今後の事案において中心的な争点とされるのは、派遣目的に資する計画であったといえるか、また、広範な裁量に基づく議員の職務行為がその実質を有していたといえるかということになるとみられ、これらを職務行為状況に関する個別の事実関係に基づき判断。
  民事p51
東京高裁R4.8.19  
 
  事案 凍結保存精子を用いた生殖補助医療により出生した子であるX1及びX2(控訴人)が、当該精子を提供した者で、性別の取扱いの変更の審判を受けた者であるY(被控訴人)に対して、認知を求めた事案。 
Y:性自認が女性で、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(「特例法」)に基づき性別の取扱いの変更の審判を受けるため、準備を進め、名を変更。
YはZ(女性)と交際⇒Zは、Yの凍結保存精子を用いた生殖補助医療により、長女X1を出産。
Yは、X1の出生の事実を家裁に申告しないまま、特例法3条に基づき、女性への性別の取扱いの変更の審判を受け、確定。
Zは、Yの凍結保存精子を用いた生殖補助医療により、二女のX2を出産。
Yは、父をY、認知される子をX1及びX2とする認知の届出⇒不受理。
  規定 民法 第七七九条(認知)
嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。
民法 第七八七条(認知の訴え)
子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。ただし、父又は母の死亡の日から三年を経過したときは、この限りでない。
  原審 (1)民法779条が規定する「父」は男性を、「母」は女性を意味し、特例法4条1項により法律上女性とみなされる者が、民法779条が規定する「父」に当たるとするのは現行法制度と整合しない。
(2)子を懐胎、出産していない女性との間には、母子関係の成立を認めることはできないと解される⇒特例法4条1項により法律上女性とみなされる者が、民法779条が規定する「母」に当たるとするのは現行法制度と整合しない

XらとYとの間で法律上の親子関係を形成することを認めるべき根拠は見当たらない
⇒Xらの請求を棄却
  判断 X1については請求を認めたが、X2については請求を棄却。 
(1)民法787条の認知請求権について、同条の「子」についていえば、生殖補助医療により出生した子であっても、凍結保存精子を提供した生物学的な父子関係を有する男性を「父」として、民法上の認知請求権を行使し得る法的地位を有するものと解すべき。
(2)同条の相手方となる「父」についていえば、生殖機能を有する生物学的な意味における男性であると解される
(3)特例法4条2項において、性別の取扱いの変更の審判が確定したとしても、同審判前に生じた「身分関係」に影響を及ぼすものではないと規定⇒特例法の制定によっても、民法の前記解釈が変更されない

X1については、その出生時から認知請求権を行使し得る法的地位を有していたものであって、現時点においても、その出生時に取得した生物学的な父子関係を有するYに対する認知請求権を行使し得法的地位を有する。
X2については、その出生時において、Yにつき性別の取扱いの変更の審判の確定で民法の規定の適用において法律上の性別が「女性」に変更⇒民法787条の「父」であるとは認められない
⇒認知請求権を行使し得る法的地位を取得したものであるとは認められない。
  解説 控訴審の論理の展開:
法律上の実親子関係は、社会生活上の関係における基礎となるもので、公益にも深くか関わるとともにこの福祉にも重大な影響がある
⇒その規範の基準は、一義的に明確でなければならず、その存否はその基準によって一律に決せられるべきであり、これまでも法的取扱いを立法手続によることなく解釈で変更することは許されない。 
民法779条及び787条の規定の解釈として、父子関係については、生物学的な男性にしか認められないことを前提として規定されているのであり、認知請求権について、特例法との関係について、特例法が民法の前記解釈を前提として制定
⇒特例法によって前記解釈が変更された物とは解されない。
  民事p61
大阪地裁R4.9.13  
   
  事案 亡Aは、Y大学が設置する病院において、頸椎後方固定術(「第1手術」)⇒第1手術で挿入したスクリューの抜去・再挿入術(「第2手術」)⇒四肢麻痺となり、転院先の病院で心不全で死亡。
相続人であるXが、診療契約上の債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づき、損害賠償を求めた。 
  判断 X:第1手術の際にスクリューの刺入方向を謝ったとのXの主張:
第1手術において挿入されたスクリューのうち、C4の左右及びC5の左に挿入された各外側塊スクリューは、いずれもスクリューの大部分が脊柱管内に逸脱し、骨への固定性が得られておらず、挿入のし直しを要するものであり、外側塊スクリューは、一般的には外側塊の中央を挿入ポイントとするところ、第1手術でC4とC5に挿入されたスクリューは、いずれも明らかに挿入ポイントが内側で、かつ挿入確度も明らかに内側に向いていて、大きな逸脱であり、基本主技に従っていない⇒執刀医の過失を認めた。
第1手術においてC4の左右及びC5の左の各外側塊スクリューの刺入方向を誤らなければ、第2手術が行われることはなく、第2手術によるC5推体の過矯正及びC5椎弓の前方への押しにより脊柱管狭窄及び脊髄圧迫を生じさせることもなかった⇒前記過失と本件患者の四肢麻痺との因果関係を認めた。
     
  民事p74
大阪地裁R4.9.26
   
  労働p78
東京高裁R4.1.26
   
2559   
  民事p5
大阪高裁R3.12.16   
  医療過誤の肯定事例
  事案 医療法人であるYが開設する本件病院において平成22年に出生したX1及びその両親であるX2・X3が、Yに対し、X3(母親)がX1を出産した際、X1が重症新生児仮死及び低酸素性虚血性脳症による脳性麻痺・体幹機能障害の後遺症を負ったのは、
本件病院の医師が、分娩監視装置による胎児心拍数モニタリング検査結果に従って、帝王切開の実施を決定して胎児を娩出すべき注意義務を怠った過失によるもの

不法行為 (使用者責任)に基づき、損害賠償の支払いを求めた。
損害賠償請求額:
X1につき1億9039万4550園
X2・X3につき各550万円
及びこれらに対する遅延損害金。
  判断   ●医療水準 
Y側の意見書:日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会が編集・監修する「産婦人科診療ガイドライン産科編2008」にはCTG(胎児心拍数陣痛図。胎児心拍数と子宮収縮圧を経時的に記録したもの)の評価法について記載がない。
but
このことから、平成22年当時CTG所見に照らした分娩管理措置について医療水準とみるべきものがなかったことを意味するものではない。
Y側の提出の文献(平成10年発行)からも、胎児心拍数基線細変動の消失を伴って繰り返す胎児心拍数一過性徐脈が認められる場合に、仮死の危険性が高く、帝王切開の適応となることは以前から文献等で指摘されていた。
「産婦人科診療ガイドライン産科編2011」では、これらの見解を踏まえ、分娩管理措置について形成されてきた医療水準を検証するなどして発表⇒本件分娩については、2011年版ガイドラインが指標となる。
  ●注意義務違反 
①7月16日午後8時51分からの1回目の検査において、胎児心拍数基線細変動は消失か、ほぼ消失に近い状態
②午後9時、9時6分と軽度遅発一過性徐脈が発生し、以後も頻発
⇒遅くとも午後9時6分頃には、2011年版ガイドラインに基づくレベル5か、ほぼレベル5に相当する状態

本件病院の医師は、午後9時30分頃には帝王切開の実施を決定すべき注意義務があった。
仮に、午後9時6分の胎児の状況がレベル3ないし4であったとしても、遅くとも2回目の検査のCTG所見・・・⇒遅くとも7月17日午前2時40分までには帝王切開の実施を決定すべき注意義務があった。
  本件病院の意思が前記注意義務を果たしていれば、X1の低酸素性虚血性脳症が不可逆的レベルに達する前に娩出し、適切な治療を行う行うことによって重篤な脳障害を残すことを避け得た高度の蓋然性があった。
損害額:
一審の認容額から、一審口頭弁論終結後に支払われた補償金240真似んを損害の填補として控除した額を認容。
  解説  X1が出生したのは平成22年であり、2011年版ガイドラインが公表される前年
⇒ 平成22年当時でも、2011年版ガイドラインに示された分類、対応方法が医療水準といえたかどうか?
  民事p27
名古屋高裁R4.2.15  
  被疑者ノートに関する国賠請求(肯定事例)
  事案 強盗致傷罪の被疑事実でY(愛知県)の設置するA警察署に勾留されていた外国籍の被疑者の国選弁護人に選任された弁護士であるXが、
A警察署の留置施設の留置担当官の行為により、Xの秘密交通権、接見交通権又は弁護権が違法に侵害された⇒Yに対し、国賠法1条1項に基づき、慰謝料を請求。 
  主張 留置担当官の違法行為:
①Xが表紙に「弁護人との接見用」と記入して本件被疑者に差し入れたノート(本件ノート)の内容を複数回にわたり確認した(本件各確認)
②本件被疑者に対し、本件ノートに英語でメモすることを禁止したこと(本件英語禁止告知)
③本件ノートの英語での書き込みについて、日本語のローマ字表記に転記させた上、英語による書き込み部分を黒塗りにするか、破棄するよう求めた(本件破棄要請)。
X:
(1)本件各確認:
弁護人等から受ける信書の検査については、特別な事情がない限り、当該信書に該当することを確認するために必要な限度において行うものとすると定める刑事収容法222条3項の規定の趣旨及び本件ノートの性質
⇒少なくとも、同項にいう「特別の事情」がない限り、本件ノートの検査は外形的なものにとどめなければならず、本件各確認は、本件ノートの内容に目を通すものであったから、違法。
(2)本件英語禁止告知:
実効的な接見を不可能又は著しく困難にする⇒Xの接見交通権を侵害し、違法
(3)本件破棄要請:
本件ノートを用いた効率的かつ実効的な接見を不可能にする⇒Xの接見交通権を侵害し、違法
Y:
(1)本件各確認:
刑事収容法212条1項の規定に基づく被留置者の所持品検査であり、適法
(2)本件英語禁止告知:
強制を伴わない上、刑事収容法212条に基づき被留置者の所持品たる文書図画への回込みの内容を確認するために必要かつ相当な行為であり、適法
(3)本件破棄要請:
強制を伴わず、接見交通の実効性を失わせるものではなく、適法
  原審 本件各確認はXの秘密交通権の侵害に
本件破棄要請はXの接見交通権の侵害に
それぞれ当たる。
but
本件英語禁止告知は、Xの接見交通権の侵害に当たるとはいえない。
⇒ 
3度の本件ノートの内容確認及び本件破棄要請のそれぞれにつき5万円、合計20万円の慰謝料。
    Yが控訴
Xが附帯控訴
  規定 刑事収容法 第二一二条(身体の検査等)
留置担当官は、留置施設の規律及び秩序を維持するため必要がある場合には、被留置者について、その身体、着衣、所持品及び居室を検査し、並びにその所持品を取り上げて一時保管することができる。
2第百八十一条第二項の規定は、前項の規定による女子の被留置者の身体及び着衣の検査について準用する。
3留置担当官は、留置施設の規律及び秩序を維持するため必要がある場合には、留置施設内において、被留置者以外の者(弁護人等を除く。)の着衣及び携帯品を検査し、並びにその者の携帯品を取り上げて一時保管することができる。
4前項の検査は、文書図画の内容の検査に及んではならない。
  判断  ●(1)本件各確認 
刑事収容法212条1項の解釈:
被留置者の所持品が文書である場合には、
留置担当者は、被留置者以外の者の所持品に対する検査とは異なり、文書の内容の検査、すなわち、留置施設の規律及び秩序を害する行為の徴表tなる記載(例えば、他の被留置者の連絡先、逃走・暴動の計画に関する記載等)の有無の検査を行うことも許される(同項3項、4項参照)。
but
憲法34条の保障に由来し刑訴法39条1項が定める接見交通権及び秘密交通権の重要性、被疑者ノート(本件ノートのように、被疑者である被留置者が弁護人等との接見に備えて取調べの内容や疑問点、意見等を記載し、あるいは接見の内容を記載した文書をいう。)の性質

所持品検査の対象が被疑者ノートである場合には、被疑者ノートの秘密を保護し、接見交通権及び秘密交通権を侵害することがないよう可能な限りの配慮をすることが、被疑者である被留置者との関係のみならず弁護人等との関係においても義務付けられている。
被疑者ノートの内容の検査がどの程度許容されるかは、留置施設の規律及び秩序維持の必要性と、秘密交通権の保障の必要性とが衝突する場面
⇒留置施設の規律及び秩序を維持するための必要性の程度と、侵害される利益の内容・程度等とを比較衡量して決することが相当。
比較衡量による検討の結果、
被留置者の所持品が被疑者ノートである場合には、被疑者ノートに対する刑事収容法212条1項の検査は、原則として検査対象文書が被疑者被疑者ノートに該当するかどうかを外形的に確認する限度で許容されるものであり、外形上、被疑者ノートに該当することが確認された場合には、被留置者の言動等から、留置施設の規律及び秩序を害する行為の徴表となる事項が記載されるおそれがあり、留置施設の規律及び秩序を維持するための高度の必要性が認められるなどの特段の事情がない限り、内容の検査を行うことは国家賠償法1条1項の適用上違法となると解するのが相当。
本件では、前記のような特段の事情があったとは認められない⇒国賠法上違法。
故意過失がないとの主張は排斥。
  ●本件英語禁止告知 
被留置者が所持品に外国語による記載をすることを禁じる法的根拠がないのにこれを禁じたもの
⇒本件被疑者との関係において職務上の法的義務に違反するものであり、また、本件ノートを本件被疑者との接見用として差し入れたXとの関係においても、被疑者ノートの秘密を保護し、接見交通権及び秘密交通権を侵害することがないよう可能な限りの配慮をする職務上の法的義務に違反
⇒国賠法1条1項の適用上違法。
任意の協力を求めたものにすぎないとのYの主張は排斥。
  ●本件破棄要請 
本件ノートの内容を検査して、その一部の破棄を求めたもの
⇒本件被疑者及びXに対する職務上の法的義務に違反したものであり、国賠法条違法。
任意の協力を求めたものにすぎないとのYの主張は排斥。
  ●損害額 
Xが留置担当官に対し本件ノートの確認と本件破棄要請について抗議したにもかかわらず、その後に2度の本件ノートの内容確認が行われた

本件各確認のうちこれらの2度の内容確認について慰謝料をそれぞれ10万円に増額し
本件英語禁止告知についても5万円の慰謝料を認め、
その余の行為については原判決同様それぞれ5万円の慰謝料を認め
合計35万円の慰謝料を認めた。
  民事p39
東京地裁R4.3.23  
  敷地所有者に対する承諾請求・妨害禁止請求の事案
  事案 宅地及び本件各土地上の各建物をそれぞれ所有するX及び参加人Z1が、本件各土地から公道につながる唯一の道路である土地を含む土地を所有するYらに対し、本件土地部分につき、
①建基法42条1項5号所定の道路位置指定に伴う反射的利益としての通行権に基づき、本件各建物を解体撤去し新建物を建築することを目的とする工事(「本件工事1」)に係る工事車両及び工事関係者の通行のための使用に対する将来の妨害行為の禁止
②下水道11条及び民法209条以下の相隣関係の趣旨の類推に基づき、既存ガス管の撤去及び新設、既存街灯柱の撤去を目的とする工事(「本件工事2」)に対する将来の妨害行為の禁止
③民法209条以下の相隣関係の趣旨の類推に基づき、本件各土地上へ新設電柱を設置し架線架替をすることを目的として、電力会社であるAが既存の電柱を撤去することにうちての承諾及びAがどう撤去に係る工事(「本件工事3」)を行うことに対する将来の妨害行為の禁止
をそれぞれ求めた事案。
  規定 建基法 第四二条(道路の定義)
この章の規定において「道路」とは、次の各号のいずれかに該当する幅員四メートル(特定行政庁がその地方の気候若しくは風土の特殊性又は土地の状況により必要と認めて都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内においては、六メートル。次項及び第三項において同じ。)以上のもの(地下におけるものを除く。)をいう。

五 土地を建築物の敷地として利用するため、道路法、都市計画法、土地区画整理法、都市再開発法、新都市基盤整備法、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法又は密集市街地整備法によらないで築造する政令で定める基準に適合する道で、これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けたもの
民法 第二二〇条(排水のための低地の通水)
高地の所有者は、その高地が浸水した場合にこれを乾かすため、又は自家用若しくは農工業用の余水を排出するため、公の水流又は下水道に至るまで、低地に水を通過させることができる。この場合においては、低地のために損害が最も少ない場所及び方法を選ばなければならない。
民法 第二二一条(通水用工作物の使用)
土地の所有者は、その所有地の水を通過させるため、高地又は低地の所有者が設けた工作物を使用することができる。
2前項の場合には、他人の工作物を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、工作物の設置及び保存の費用を分担しなければならない。
  判断    Xらの請求を認容 
  ●本件工事1に係る工事車両等の通行のための本件土地部分の使用に対する妨害禁止請求の可否 
建基法42条1項5号の規定による位置の指定(道路位置指定)を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、同道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者がどう通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して同妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有する(最高裁)。
①本件各建物は、耐震性に深刻な問題があり、Xらの居住継続のためには立替が必須
②本件各建物の敷地である本件各土地は、いずれも公道に通じない袋地であって、本件土地部分が公道につながる唯一の道路であるため、建替え工事の遂行には、工事車両等が本件土地部分を通行のために使用することが不可欠
⇒Xらは、同使用につき、日常生活上不可欠の利益を有する。
本件工事1の工期や工事内容・規模など
⇒Yらにおいて、同使用の受忍により、同使用による利益を上回る著しい損害を被るとはいえない。
⇒Xらは、Yらに対し、同使用に対する妨害禁止を請求する人格的利益を有する。
  ●本件工事2に対する妨害禁止請求の可否 
民法220条及び221条の趣旨の類推⇒日常生活上不可欠なライフラインであるガスの導管設置のために、同設置場所を他人所有の隣地とすることも含め隣地使用をすることができる権利(導管設置権)が認められる。 
but
導管設置権は、当該隣地の所有権の制限を伴う

①当該他人所有の隣地に導管を設置しなければガスの供給を受けることができないこと
②導管を設置する場所及び方法は、導管の設置のために必要かつ合理的であり、当該他人所有の隣地のために損害が最も少ないものであること
が要件となる。
本件:
①・・・Yら所有の本件土地部分に導管を設置しなければ、本件各建物においてガスの供給を受けられない。
②本件工事2は、掘削範囲が限定されており、予定工期も1日という比較的短期間にとどまる⇒本件土地部分のために損害が最も少ないものと推認できる。

Xらは、民法220条及び221条の趣旨の類推により導管設置権を有する。
  ●本件電柱の撤去の承諾請求及び同撤去のための本件工事3に対する妨害禁止請求の可否
①本件電柱は、その電線等が本件各建物の立替え工事である本件工事1に係る孤児車両の通行や作業に支障を生じさせる。
②本件電柱は、本件各建物の解体後に新築する予定の建物の出入口付近に当たる場所に現存しており、そのままでは同建物への出入りの妨げとなり得る
⇒撤去の必要性が認められる。
①Xらが、本件工事1に係る工事車両等が本件土地部分を通行のために使用することにつき、Yらに対する同使用に対する妨害禁止を請求する人格的利益を有している
②民法209条以下の相隣関係の規定の趣旨

Xらは、Yらに対し、信義則を根拠として、Aによる本件電柱の撤去の承諾、また、同撤去のための本件工事3の実施に対する妨害禁止を請求することができる。
  解説 ●位置指定道路の通行妨害に対する妨害予防・妨害排除請求権
  最高裁:
建基法42条1項5号の規定による位置の指定(道路市指定)を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、同道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が同通行を受任することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して同妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格的権利)を有する。 
本判決:
①Xらが建替え工事につき前記の人格的権利を有すること
②民法209条以下の相隣関係の趣旨
⇒信義則を根拠に、前記の承諾請求及び妨害禁止請求を認めている。
●導管設置権 
最高裁H5.9.24:
権利の濫用の成否の前提としてではあるが、一般的に、下水道について導管設置権の存在を認める考え方を前提。
最高裁H14.10.15:
民法220条、221条を類推適用し、宅地の所有者が他人の設置した給排水設備を当該宅地の給排水のために使用することを認めている。
  刑事p55
最高裁R4.4.21  
   
  事案 被告人が、交際相手Cの双子の男児A及びB(当時7歳)に対する傷害等の各事案で起訴された事案。 
第1審で、被告人は、Aに対する暴行及びBに対する傷害の各事実は認めたが、Aに対する傷害については、Aに対して暴行(本件暴行)を加えておらず無罪である旨主張。
  一審 Aに対する暴行及びBに対する傷害の各事実を認定し、
Aについての傷害も認定し、被告人を懲役3年に処した。
    被告人が控訴し、訴訟手続の法令違反、事実誤認、量刑不当を主張。
  原審 Aに対する傷害について本件暴行を認定することはできない
⇒第1審判決を事実誤認を理由に破棄し、被告人に対し、Aに対する暴行及びBに対する傷害の各事実につき懲役1年6月、4年間の執行猶予を言渡し、Aに対する傷害の事実につき無罪。
    双方上告。
検察官:
原判決がAに対する傷害の事実を認めて有罪とした第1審判決を破棄して無罪とした点に関し、判例違反、法令(刑訴法382条)違反、事実誤認を主張、
弁護人:
Aに対する暴行及びBに対する傷害の各事実についても無罪であるとして、憲法(37条)違反、法令(刑訴法30条)違反、事実誤認を主張。
  判断 いずれも適法な上告理由に当たらないとしつつ、
検察官の上告趣意に鑑み、職権をもって、原判決を刑訴法382条の解釈適用の誤りにより破棄し、本件を東京高裁に差し戻した。
  規定 刑訴法 第三八二条[控訴理由━事実誤認]
事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
  解説    Aに対する傷害について、本件時間帯に本件公園内においてAの頭部に外力が加わって架橋静脈が破断したことは、第一審判決及び原判決が認定し、本判決も是認。
このように限られた時間・場所で被告人と一緒にいたAに加わった外力の原因が本件暴行であると認定できるか?
第1審:Aの傷害に関する医師の意見のみからAの頭部にA以外の者の行為による強い外力が加わった事実を認定。
この事実に加えてAが受傷した当時の状況やAの受傷状況に関する被告人の言動を考慮して、本件暴行を認定。
原判決:
Aの傷害に関する医師の意見⇒第1審判決が本件暴行の認定の根拠としたAの頭部にA以外の者の行為による強い外力が加わった事実を認定することはできない⇒第1審判決の認定は前提を欠く。
Aの受傷状況に関する被告人の供述が信用できないからといって本件暴行を認定することはできない。

本件暴行を認定した第1審判決に判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある。
  刑訴法382条の事実誤認:
第1審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であるこいとをいい、控訴審が第1審判決に事実誤認があるというためには、第1審判決の事実認定が論理則、経験側等に照らして不合理であることを具体的に示す必要(判例)。
控訴審が、事実誤認により第1審を破棄するには、事実誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを要する(法382条)。
「判決」には、主文だけでなく、理由中で犯罪に対する構成要件的評価に直接又は間接に関係する部分(「罪となるべき事実(犯罪事実)」)も含まれている。

有罪の第1審判決が明示した証拠説明(証拠の取捨選択に関する判断や、証拠から犯罪事実を認定した心証形成の過程等。判決書の「事実認定の補足説明」等の部分)は、論理則、経験則等に照らして不合理であるが、第1審で取り調べた証拠の証明力評価を適切に行えば第1審判決同様の犯罪事実を認定することができる場合には、破棄事由である「判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認」は認められない。

控訴審が、有罪の第1審判決を事実誤認により破棄するためには、理論上は、
①第1審判決が明示した証拠説明が不合理であることを具体的に示すだけでなく、
②第1審で取り調べた証拠から第1審判示の犯罪事実を認定することが不合理であることを具体的に示す必要がある。
①の説示のみでは、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があることの説示として足りない場合:
検察官:間接事実ABCを主張
第1審:ABを総合して犯罪事実を認定
控訴審:Bは認定できず、Aだけでは犯罪事実を認定することはできない。
but
証拠上間接事実Cが認められるときは、ACを総合しても犯罪事実を認定することができないことについても判断を示す必要がある。
  本判決:
Aの傷害に関する医師の意見から認められる外力の態様に加え、Aが受傷した当時の状況、Aの受傷状況に関する被告人の言動を総合して、本件暴行を認定することができるか、言い換えれば、A自身の行為等の本件暴行以外の原因による受傷の具体的可能性を否定することができるかを検討しなければ、これらの間接事実から本件暴行を認定した第1審判決に判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるか否かを判断することはできない。
原判決は、上記の必要な検討を経た判断を示しているものと評価することはできない。

刑訴法382条の解釈適用を誤った違法がある。 
  刑事p60
大阪高裁R2.6.17  
   
  事案 国立大学(大阪大学)の教授が大学の定める正規の手続を踏まずに無届けで民間企業から共同研究を受け入れた上、同企業から支払われた研究費用を個人的に領得する一方で大学からも研究費の支給を受けながら必要な清算をしなかったことについて、大学に対する背任罪として問責されるとともに、
共同研究と並行して行われていた同企業との私的な技術指導に関する報酬の授受が賄賂罪として問題とされたという一連の事件において、
わいろ罪に関し、同企業の責任者が贈賄罪に問われた事案。
  主張  検察官:
Z1社からCに対する本件技術指導料の支払を賄賂の供与に当たるとして、A及びBを起訴。

Z1社の製品開発に関する技術指導契約の締結とこれに基づく助言・指導そのものは本来Cの国立大学教授としての職務に属するものではない(公務外指導)を前提として承認。
but
共同研究の実施期間中における助言・指導はCの大学教授としての職務である共同研究と「不可分一体」であったとの理由により、同期間中に支払われた本件技術指導料は、Cの大学教授としての職務である共同研究の受入れ及び実施等に関する謝礼等の趣旨
⇒賄賂性を基礎づけた。
被告人ら:
本件技術指導料はCのZ1社に対する公務外指導に対する正当な報酬として社会通念上相当と認められる額を定めt支払ったもの⇒共同研究受入れ等に対する謝礼等の趣旨によるものではないとして、賄賂性を争った。
  一審 前記期間中に支払われた本件技術指導料は、その相当部分は公務外指導に対する対価であったとしつつも、なお共同研究の受入れ、実施等に関する謝礼等の趣旨をも含む⇒賄賂性を肯定。 
  判断 賄賂性に関する事実誤認の主張を容れ、本件技術指導料に賄賂性は認められないとして原判決尾を破棄し、無罪とした。
実験をめぐるCの諸々の指導には、技術指導契約に基づくZ1社に対する私的な助言・指導と、C研究室に所属し共同研究のテーマを自身ンお卒論テーマにしていた大学院生らに対する大学教授としての指導とが併存していたとみるのが自然と言える上、訴因で特定されたCの職務(共同研究の受入れ及び実施)とここでいう実験に関する助言・指導との関係も明らかではない。
大学教授をはじめとする研究職公務員が、民間企業の以来を受けてその製品開発に関し自らの専門的知識を活かして助言・指導するなどして協力することは、本来、国立大学教授あるいは同口座専任教授の職務のいずれにも属さない⇒その労に報いるのに相当と認められる金額を報酬・対価として授受することは、賄賂の問題を直ちに生じない。
仮にそのような助言・指導が大学における研究の一環として行われるなどして、何らかの形で職務と報酬との間の対価性を否定できないと考えられる場合であっても、研究職公務員の職務の特殊性に照らせば、そこから直ちに賄賂と認めるべきではなく、その報酬の「不正」を基礎付ける事情が職務との対価関係とは別に必要と解すべきであるが、
本件では、助言・指導の目的・経過・報酬額その他の諸事情を検討しても、そのような不正を基礎づける事情は認められない。
  解説 賄賂:公務員の職務に対する不正な報酬であり、「不正」すなわち社会通念上受領することが許されない性質の報酬であることが必要。
but
公務員がその職務の対価を受領することは原則として許容されない⇒一般的には、民間人が公務員に対しその職務と対価関係のある利益を供与すれば、不正の利益、すなわち賄賂になると解されている。
他方、国立大学の教授が、民間企業の依頼を受けて、その製品開発に関し、自らの専門的知識を活かし助言・指導するなどして協力することは、国立大学教授あるいは同講座選任教授の職務のいずれにも属さず、その労に報いるのに相当と認められる金額を報酬・対価として授受することは、直ちに賄賂の問題を生じない。
本件も、その後の所属大学における共同研究の受入れ・実施がなかったならば、本件技術指導料の支払が賄賂の問題とされることはなかった。
2558   
  行政p5
東京地裁R4.2.24  
  地方公務員法46条の措置要求の事案
  事案 X:東京都の特別区の地方公務員。
Xが、特別区人事委員会に対し、地公法46条に基づき、勤務条件に関する行政措置の要求⇒特別区人事委員会は、本件措置要求はいずれも認めることができない旨の判定

本件判定の一部が違法であると主張して、Y(特別区人事・厚生事務組合)に対し、本件判定の一部について取消しを求めた。
  規定 地公法 第四六条(勤務条件に関する措置の要求)
 職員は、給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、人事委員会又は公平委員会に対して、地方公共団体の当局により適当な措置が執られるべきことを要求することができる。
  判断 地公法46条に規定する勤務条件:
給与、勤務時間、職場での安全衛生、執務環境など、職員の勤務の提供に関連した待遇
措置要求の対象となる勤務条件:
当該職員に関する勤務条件について直接かつ具体的に維持、改善を求めるものであることを要する
「これまで喫煙問題に関し、要求者(原告)に不当な扱いをしてきたこと、違法行為(裏金・サービス残業等)の指摘したことに対して、地方公務員法13条違反の不当な対応をしていることを区長等責任者が事実を認め、相応の対応を取り、待遇を改善すること」を内容とする要求事項5:
Xの主張をふまえると、Xの給与が当該区の職員の平均給与よりも低いことなどが不当に低い評価によるものであり、地公法13条の定める平等原則に従い待遇を改善するよう求めるもの

かかる要求事項5は給与に関して平等原則に従った待遇改善を求めるもの⇒勤務条件につき直接かつ具体的に改善を求めるということができる⇒措置要求の対象となる。
「待遇のあり方について反省し、職員教育を徹底すること」を内容とする要求事項8及び概ね同旨の要求事項16:
Xの主張を踏まえると、Xが上位の階級の職員から暴言を吐かれたことについて、職員教育等の安全配慮義務を尽くすことを求めるものと理解することができる。
仮にXの主張する事実が認められる場合には、区は、パワーハラスメント防止の対応をとらなければ安産配慮義務違反の責任を問われる可能性があるといえるもの⇒このように地方自治体が公務員に対し適切な対応を義務付けられるような執務環境については、地公法46条の定める勤務条件として措置要求の対象となる。
「当局が、職員の職場の歓送迎会などについて、禁煙の飲食店を選択し、会場は禁煙とするように指針を示すこと」を内容とする要求事項15など3項目については、
措置要求の対象たる勤務条件には当たらない⇒本件判定の判断に違法はない。 
「窓口当番などの名目でサービス残業を前提に組まれている業務を改め、全庁的にきちんと残業管理をすること」を内容とする要求事項:
Xの主張からすると、Xは過去に在籍した職場における昼当番等について具体的な主張をしていた
このようにXから具体的な事実の主張があるにもかかわらず、本件判定が、要求を基礎づける具体的な事実が示されていないためこれを認めることができない旨判断したことは裁量権を逸脱したもの⇒職員の勤務条件につき人事委員会の適法な裁量権の範囲内の判定を要求する権利又は法的利益を侵害したものであって違法。
  解説 地公法46条:
地公法が職員に対し労組法の適用を排除し、団体協約を締結する権利を認めず、また争議行為を禁止し、労働委員会に対する救済申立ての途を閉ざしたことに対応し、職員の勤務条件を確保するために、職員の勤務条件につき人事委員会又は公平委員会の適法な判定を要求し得ることを職員の権利ないし法的利益として保障する趣旨(最高裁)。 
措置要求の対象となる「勤務条件」:
職員団体の交渉の対象となる勤務条件(地公法55条1項)と同義とされ、
給与、旅費、勤務時間、休日、休暇、部分休業等をはじめ、執務環境、福利厚生、安全衛生など広い範囲のものが対象になると解されている。
裁判例:
・措置要求に係る判定を措置要求書の受理日から4か月以内に判定することなどを求める措置要求について、職員が勤務を提供等するかどうかの判断に当たり一般的に当然考慮の対象となるべき利害関係事項には当たらず、勤務条件には当たらない(東京地裁)
・県費負担教職員の市費移譲に伴う給与表の切替えによって学校事務職員の給与に生じた不均衡の是正を求める措置要求が、給与に関する事項として勤務条件に該当するとされた事例(横浜地裁)
・措置要求を電子申請の方法に対応させることを求める措置要求について、措置要求の方式やその利便性は、職員が自らの勤務の提供等につき判断をするに当たって一般的に当然考慮の対象となるべき利害関係事項とはいい難いとして、措置要求の対象とはならない(東京地裁)
  民事p16
最高裁R4.12.12  
  消費者契約法10条に規定する、消費者契約の条項該当性
  事案 消費者契約法2条4項の適格消費者団体であるXが、家賃債務保証業者であるYに対し、Yが用いている契約書中の各条項が法10条に規定する消費者の利益を一方的に害する消費者契約の条項に当たる⇒法12条3項本文に基づき、前記各条項を含む消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の各差止め、前記各条項が記載された契約書ひな形が印刷された契約書用紙の廃棄等を求めた。
  条項 ①Yは、賃借人が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3か月分以上に達したときは、無催告にて原契約を解除することができる(13条1項前段)。
②Yは、賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠り、Yが合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡がとれない情況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められ、かつ本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときは、賃借人が明示的に異議を述べない限り、これをもって本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる(18条2項2号)。 
  原審 いずれも法10条に規定する消費者契約の条項には当たらない⇒Xの請求をいずれも棄却。 
  判断 上記規定は、法10条に規定する消費者契約の条項に当たるとし、
原判決中、前記各条項を含む契約の申込み又はその承諾の意思表示の差止め及び前記各条項が記載された契約書ひな形が印刷された契約書用紙の廃棄を求める請求に関する部分を破棄し、これらの請求を認容する旨の自判。 
  規定 消費者契約法 第一〇条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
  解説    ●法12条3項本文に基づく差止訴訟 
法12条:
少額でありながら高度な法的問題をはらむ紛争が散発的に多発するという消費者取引の特性に鑑み、・・・適格消費者団体が事業者による不当な行為を差し止めることができる旨を規定。
  ●法10条の規定する消費者の利益を一方的に害する条項 
「法令中の公の秩序に関しない規定」:いわゆる任意規定のことを指し、明文の規定のみならず、一般的な法理等も含まれる(最高裁)。
後段要件:
「民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」

「消費者の利益を一方的に害する」:
消費者と事業者との間にある情報・交渉力の格差を背景として、当該条項により、任意規定によって消費者が本来有しているはずの利益を、信義則に反する程度に両当事者の衡平をを損なう形で侵害することを指すなどと説明。

最高裁:個別訴訟の事案において、
当該条項が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは、消費者契約法の趣旨、目的(同法1条)に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の較差その他諸般の事情を総合考慮して判断されるべき。
but
差止訴訟においては、個別事情をしんしゃくすることができない⇒考慮できる要素は個別訴訟との間で差異が生じる。
  ●本契約13条1項前段 
最高裁昭和43年:
賃貸人が無催告で賃貸借契約を解除することができる旨を定めた特約条項について
賃料が約条の期日に支払われず、これがため契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合には、無催告で解除権を行使することが許される旨を定めた約定であると解するのが相当。
~限定解釈。

原審:同様に限定して解釈し、このような解釈をすれば、同項前段による賃借人の不利益は限定的なもの⇒同項前段は法10条に規定する消費者契約の条項には当たらない。
 契約条項の解釈:
(1)契約当事者の意思を明らかにする本来的解釈
(2)その意思に関わりなく行われる規範的解釈

信義則、条理等を考慮して、合意通どおりに権利義務の成立を承認するのは適切でないと判断されるときに、裁判官による規範の定立として行われるもの。
個別訴訟:一方当事者の利益が害されることを避けるため、規範的解釈として、契約条項の文言を補う限定解釈
差止め訴訟における限定解釈については、誤解を招く透明度の低い表現を持つ契約条項が引き続き使用され、かえって消費者の利益を損なうおそれがある⇒慎重又は否定的に解する学説が多数。
  ◎  本判決:
解除権行使の主体が(賃貸人ではなく)賃料債務等の連帯保証人(Y)であり、賃料債務等につき連宅保証債務が履行された場合にも適用される点で、昭和43年最判が判示した無催告解除条項とはおよろかけ離れた内容のもの。
差止請求の制度の趣旨等⇒限定解釈をすることは相当でない。
  一般に、賃借人に賃料等の支払の遅滞⇒原契約の解除権を行使することができるのは賃貸人であり、その行使には、原則として、履行の催告を要する(民法541条本文、542条1項)。
連帯保証債務の履行⇒賃貸人との関係においては賃借人の賃料債務等が消滅⇒賃貸人は、賃料等の支払の遅滞を理由に原契約を解除することはできず、信頼関係の破壊がある場合に解除することができるにとどまる。
but
本契約13条1項前段:
所定の賃料等の支払の遅滞が生じさえすれば、原契約の当事者でもないYがその一存で何らの限定なく原契約につき無催告で解除権を行使することができる。⇒生活基盤を失う

本契約13条1項前段は、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の権利を制限するものであり、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもの⇒法10条に規定する消費者契約の条項に当たる。 
  ●本契約18条2号 
  原判決:
本契約18条2項2号について、賃貸借契約(原契約)が継続している場合には、これを終了させる権限をYに付与する趣旨の条項。
このような解釈をすれば、(同号の要件を満たす場合=賃借人が既に本件建物の使用を終了して本件建物に対する占有権が消滅しているものと認められる場合)、賃借人は、通常、原契約に係る法律関係の解消を希望し、又は予期しているものと考えられ、むしろ、本件建物の現実の明渡義務や賃料等の更なる支払義務を免れるという利益を受ける⇒同号は法10条に規定する消費者契約の条項には当たらない。
~原契約が終了していない場合においても、本契約18条2項2号の適用があることを前提とするものであるといえるところ、本判決も、同号はその旨の条項と判断。
他方、Yは原契約の当事者ではなく、本契約18条2項2号には、原契約の解除や終了という重要な事項を規律する文言が存しない。
⇒本判決:同号の文言に照らし、同号について、賃貸借契約(原契約)が継続している場合には、これを終了させる権限をYに付与する趣旨の条項であると解することはできない。
  一般に、賃借人の建物明渡義務は、賃貸借契約が終了した場合に発生。
Yが、原契約が終了していない場合に、本件契約18条2項2号に基づいて本件建物の明渡しがあったものとみなしたときは、賃借人は、本件建物に足する使用収益権が消滅していないのに、原契約の当事者でもないYの一存で、その使用収益権が一方的に制限されることになる上、本件建物の明渡義務を負っていないにもかかわらず、賃貸人が賃借人に対して本件建物の明渡請求権を有し、これが法律に定める手続によることなく実現されたのと同様の状態に置かれる。

本契約18条2項2号は、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の権利を制限するものであり、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもの⇒法10条に規定する消費者契約の条項に当たる。
  民事p42
名古屋高裁R4.2.24  
  証券会社の従業員による説明義務ないし情報提供義務違反、実質的一任売買の違法(肯定)
  事案 Aが自ら及びその子であるXの取引代理人として、証券会社Y1の従業員であるY2から勧誘されて金融商品取引を行ったことに関し、Xが
① 適合性原則違反
②説明義務違反又は情報提供義務違反
③過当取引
④実質的一任売買
⑤指導・助言義務違反
の違法があったなどと主張して、Y1及びY2に損害賠償請求。
  原審 Xの請求をいずれも棄却
  判断  ●説明義務違反又は情報提供義務違反 
 
説明義務ないし情報提供義務違反があり、その程度は社会的相当性を逸脱するもの⇒本件取引の勧誘行為はその全体として不法行為法上違法
  ●実質的一任売買 
 
Y2の勧誘は、実質的一任売買に当たり、その勧誘の態様等を総合考慮すれば、社会的相当性を逸脱するもので、不法行為法上違法である。
  ●損害 
①本件各取引の全体が違法
②Y2の退職時において評価損を抱えていたことなど
⇒Y2の退職後に株式を売却したことで損失が確定したとしても、Y2の違法な勧誘行為と相当因果関係を肯定すべき。
AはY2の違法な勧誘によって買い付けた株式につき新株予約権を付与されて、この売却によって利益を得ているところ、
本件各取引が全体として違法であるとして、Y2の退職後に損失額が確定したものも含めて損害額を算定

新株予約権の売却による利益も控除して損失額を算定するのが相当。
新株予約権の付与及びその売却益は、Aが不法行為によって損害を被ると同時に同一の原因によって利益を受けたもので、損害と利益との間に同質性がある⇒公平の見地から、損益相殺的な調整を図るのが相当。
  ●過失相殺 
7割の過失相殺 
  解説 原審:
Aの投資経験等⇒金融商品の現物取引に関する十分な知識・経験を備えていたとしてYらの責任を否定。
本判決:
AとY2との取引に関するやり取りを詳細に分析し、Aが証券取引には習熟しておらず、Y2の提案に盲従していたと認定⇒説明義務ないし情報提供義務違反、実質的一任売買の違法があると判断。
  民事p76
大阪地裁R4.9.8  
  法定管轄裁判所での訴訟提起⇒管轄違いを理由とする専属的合意管轄裁判所への移送申立(否定)
  事案 相手方(基本事件原告)は、緊急事態宣言等の影響緩和に係る一時支援金等給付規程に基づき月次支援金の給付の申請⇒中小企業庁長官から不支給決定
⇒実質当事者訴訟として、申立人(国)を相手に、相手方が1か月分の月次支援金(10万円)の給付を受けることができる地位にあることの確認を求める訴えを、法定管轄裁判所である大阪地裁に提起。 
申立人:申立人と相手方との間には、月次支援金に関する争訟について東京地裁を第1審の専属的合意管轄裁判所とする旨の合意がされている⇒行訴法7条、民訴法16条1項に基づき、本件を東京地裁に移送することを求める移送の申立て。
  規定 行訴法 第七条(この法律に定めがない事項)
行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例による。
民訴法 第一六条(管轄違いの場合の取扱い)
裁判所は、訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、これを管轄裁判所に移送する。
民訴法 第一七条(遅滞を避ける等のための移送)
第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる。
第二〇条(専属管轄の場合の移送の制限)
前三条の規定は、訴訟がその係属する裁判所の専属管轄(当事者が第十一条の規定により合意で定めたものを除く。)に属する場合には、適用しない。
  争点 ①専属的管轄合意の成否及び有効性
②自庁処理の許否 
  判断  専属的管轄合意が有効に成立。 
  行訴法7条、民訴法17条、20条1項の趣旨⇒ある当事者が他の当事者との間の専属的管轄合意に係る裁判所とは異なる法定管轄裁判所に訴えを提起し、被告から専属的管轄合意に係る裁判所への移送の申立てがされた場合であっても、当該法定管轄裁判所は、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、訴訟の全部又は一部を専属的管轄合意に係る裁判所に移送することなく、自ら審理及び裁判をすること(自庁処理)ができると解すべき。
本件にかかる事情⇒
訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため、本件訴訟について、自庁処理するのが相当。
事情:
(1)相手方の住所もその訴訟代理人の事務所の所在地も大阪市
(2)申請者にとっては、事実上、専属的管轄合意をしないという選択をする余地がないという意味で、申請者と国との間の合意であるとはいえるものの、国により一方的に定められたものであるという面があり、しかも、月次支援金の制度上、申請者は、全国各地に存在し得ることが当然の前提⇒申請者の個々の事情を一切考慮することなく、東京地方裁判所のみを専属的合意管轄裁判所とするのは、やや不均衡な面があることも否定することができない
(3)本件規程に係る月次支援金は、公的な性質を有し、根拠となる法律を制定して、中小企業庁長官による月次支援金尾支給を行政処分として構築する子とも可能なものであり、そうであれば、その不支給処分取消訴訟は特定管轄裁判所にも提起することができる(行訴法12条4項)⇒このような場合と比較しても、東京地裁のみを専属的合意管轄裁判所とするのは、やや不均衡な面があるといい得る。
(4)本件訴訟についていえば、訴訟の目的の価額は10万円であるところ、本件訴訟を東京地裁で審理する場合には、相手方ないし相手方の訴訟代理人が東京地裁に現実に出頭する必要が生じれば、前記価額に比してみると相当多額の出費を免れないことが推認され、相手方側の出頭の便宜上、不都合がある。
(5)もう一方の当事者である申立人の所在地は、東京都であるが、申立人は、国であり、その代表者である法務大臣は、全国に8つある法務局の訟務部所属の職員等を、本件訴訟を行わせる職員に指定することができ、実際、本件においても、大阪法務局訟務部所属の職員等を前記職員に指定しているところ、月次支援金の制度に精通した行政庁担当者が裁判所に現実に出頭しなくても、法務局訟務部所属の指定代理人が、前記行政担当者と十分に打合せをした上で、期日等に対応することは可能⇒申立人側の出頭の便宜上、、不都合が大きいとはいえない。
行訴法 第一二条(管轄)
4国又は独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人若しくは別表に掲げる法人を被告とする取消訴訟は、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所(次項において「特定管轄裁判所」という。)にも、提起することができる。
  解説 専属的合意管轄裁判所に訴えが提起され、法定管轄裁判所への移送申立:
当該訴えを提起された裁判所は、民訴法17条に基づき、当該訴訟を当該法定管轄裁判所に移送できる。
but
専属的管轄合意に反し、法定管轄裁判所に訴えが提起され、管轄違いを理由とする専属的合意管轄裁判所への移送の申立てがされた場合:
当該訴えを提起された裁判所が、当該移送の申立てを却下し、当該訴訟について自ら審理及び裁判をする(自庁処理をする)ことができる旨の明文の規定がない。 

裁判所は、民訴法17条等の類推適用により、管轄違いの移送の申立てを却下し、当該訴訟について自ら審理及び判断をする(自庁処理をする)ことができると解されている。

行政事件訴訟でも、そのまま妥当するといえる。
本決定:
民訴法17条所定の考慮要素を踏まえ、当事者の住所等のほか、本件訴訟の事案の内容(とりわけ、月次支援金の給付という事業の公益性、他の給付行政との均衡等)、専属的管轄合意の趣旨(行政庁の負担軽減)や形成過程(本件規程であらかじめ定められたものに申請者が同意するというもの)、実際に想定される審理の内容やこれに伴う当事者の負担等を考慮して判断。
  労働p82
東京高裁R3.10.13  
  従業員に対する不利益取扱いにつき、不当労働行為意思を認め、理由の競合を認めなかった事例
  事案 特定非営利活動法人であるX(控訴人)が、その運営するA福祉作業所において、主任支援員が別の法人に出向するのに伴い作業指導員Cを主任代行に任命して役職手当の支給を開始し、前記の主任支援員が出向先から復帰した後もCに役職手当を続けた⇒3年4か月後にCを主任代行から降職させるとともに役職手当の支給を停止⇒Cの加入する合同労働組合であるZが、東京都労働委員会にに対し
①本件役職手当不支給等は労組法7条1号前段の、また、
②本件役職手当不支給等に関する団体交渉におけるXの対応は同条2号の各不当労働行為に、
それぞれ該当する。
として労組法27条1項に基づき、救済命令の申し立て

都労委が、本件役職手当不支給等及び本件団交におけるXの対応の一部が不当労働行為に該当するとして、役職手当等の支給、本件組合への文書交付及び都労委への救済命令を発した

Xが、労組法27条の19第1項に基づき、Y(東京都)に対して、本件救済命令の取消しを求めた。
  規程  第七条(不当労働行為)
 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
  原審 Xの主張:
(1)本件役職手当不支給は、Xの人事権の行使である本件降職に伴うものであり、本件降職についてXに裁量権の逸脱濫用はなく適法⇒Xには反組合的意図ないし動機は認められない
(2)本件団交において、Xは誠実に対応していた
(1)について:
労組法7条1号前段所定の不当労働行為の成立には、労働者に対する不利益取扱いが不当労働行為意思に基づくものであることが必要であり、それで足りる。
本件では
①Xと本件組合の間で対立が先鋭化していたこと
②Cは本件組合側の中心人物の1人でありXとの関係も良好ではなかったこと
③CはXから役職手当の不支給に関する書面に署名することを求められたがこれを拒んだ

Xには不当労働行為意思が認められる。
・・・本件役職手当不支給は正当な人事権の行使に伴ってされたものとは評価できない。
(2) 本件団交におけるXの対応につき誠実に交渉に当たるべき義務に違反。
  控訴  X:(1)について、
Xに不当労働行為意思はなく、労働者に対する不利益取扱いが使用者の裁量の範囲内の行為として適法である場合に、使用者に反組合的意図を認めるには特段の事情が必要であるところ、人事権の行使については使用者に広範な裁量が認められるべき。 
  判断 ①Xと本件組合は、なお双方の対立関係が必ずしも解消されたとはいえない状況にあり、XとCの関係も通常の労使の関係程度に修復されたともいえなかった
②Xは本件組合が不当労働行為の対象として強く救済を求めた人物の1人
③XがCに署名を求めた本件書面もXの内部で正規の意思決定を経ずに作成された文書
⇒Xには不当労働行為の意思が認められる。
仮に、Xの主張の枠組みによったとしても、本件降職は正当な人事権の行使とは認められない。
  解説 不当労働行為のうち労組法7条1号所定の不利益取扱いには、
①労働契約関係上の地位の変動にかかわるもの(解雇、雇止め等)
②人事上の処遇にかかわるもの(配転、出向、転籍、降格等)
③経済的な不利益処遇(賃金差別、査定差別等)
④職場の人間関係上いじめ・嫌がらせ(職場での無視等)など様々な態様があるとされている。
不当労働行為意思
A:必要説:
不当労働行為意思とは反組合的な意思ないし動機であり、このような意図ないし動機は、間接事実(諸般の事情)から認められる推定意思で足りる。
B:不要説:
組合員であること又は正当な組合活動をしたことと不利益取扱いとの間に客観的な結びつき(因果関係)が認められば足りる。

実質的には両者の差はほとんどない。
使用者に、不当労働行為についての動機が認められるが、他方で、不利益取扱いについての正当化理由も同時に存在する場合
A:組合所属又は組合活動と正当化理由のいずれが不利益取扱いの決定的(優越的)動機となったか(決定的動機説)(判例)
B:組合所属又は組合活動がなかったならば当該取扱いがされなかったであろうと認められれば不当労働行為が成立する(相当因果関係説)
   刑事p97
神戸家裁尼崎支部R4.12.8
  特定少年の大麻取締法違反で、刑事処分を相当と認めて検察官送致とした事例
  事案 19際の特定少年であるAが、いずれも営利目的で、譲受少年に乾燥大麻約20gを代金7万円で譲渡するとともに、乾燥大麻101g余を後日所持した大麻取締法違反の事案。
  判断 本件犯情を、原則検察官送致対象事件にこそ該当しないものの相当重いものと位置づけ、次いで、本件に至る経緯や動機等、Aの資質・特性上の問題点、過去の保護処分における指導教育の内容とその浸透状況、犯行後の情況、Aの年令や生活状況等
⇒保護不能とまでは断じ難いものの保護不当に至っている
⇒刑事処分を相当と認めて検察官送致とした。 
  規定  (検察官への送致についての特例)
第六十二条 家庭裁判所は、特定少年(十八歳以上の少年をいう。以下同じ。)に係る事件については、第二十条の規定にかかわらず、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。
 (検察官への送致)
第二十条 家庭裁判所は、死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件について、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。
  解説   ●特定少年の検察官送致をめぐる規律 
令和3年法律47号による改正:
少年法に特定少年に対する様々な特則。
刑事処分相当を理由とする検察官送致についても特則:
特例少年に係る事件については法20条の適用が除外され、罰金以下の刑に当たる罪の事件についても検察官送致の対象(62条1項)
原則検送事件の範囲が拡大:
犯行時16歳以上の少年が故意の犯罪行為により被害者を死亡させた事件(同条2項1号)に加え、
犯行時特定少年が犯した死刑または無期若しくは短期1年以上の懲役モスクは禁錮に当たる罪の事件(同項2号)もこれに含まれる。。
  ●原則検送事件以外の事件の検察官送致の要件 
法20条1項
「調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるとき」と規定。
①保護処分によっては矯正改善の見込みがない場合(保護不能類型)
②保護不能ではないが、事案の性質、社会感情、被害感情等から保護処分で対処するのが不相当な場合(保護不適類型)
③少年の改善更生のために刑事処分が保護処分よりも有効である場合(刑事処分有効類型)
もこれに含まれる。
特定少年:自律的主体という位置づけとなり、特定少年による犯罪行為全体について評価替えがされたとみることができる⇒原則検送事件以外の事件でも、その程度はともかく、検察官送致となる割合は増えるとの見解。
  本決定:
特定少年に係る原則検送事件以外の事件について、法62条1項により検察官送致とした。 
本件の罪質:
各罪に係る個別具体的な犯情事実及び少年の同種又は関連の保護処分歴
⇒その犯情は相当重い。。

本件の情状:
本件に至る経過や動機等⇒Aの資質・特性上の問題点、過去の保護処分における指導教育の内容とその浸透状況、犯行後の情況、Aの年令や生活状況等に言及⇒本件情状として、法62条2項ただし書に挙げられた考慮事情を意識した検討を行った上で、保護不能ではないが保護不適であり、刑事処分が相当。
  ●検察官送致後の展開
中間処分である検察官送致決定については、不服申し立てが認められない(法32条本文)。
刑事処分相当の検察官送致⇒いわゆる起訴強制が働き、刑事事件の特例の下で成人と同様の刑事裁判を受ける。
特定少年については、同特例も原則として適用が除外(法67条)。
  近時の事例 
2557   
  行政p5
最高裁R4.12.13   
  健康保険組合による被保険者の親族等が被扶養者に該当しない旨の通知の、法189条1項の処分該当性(肯定)
  事案 健康保険組合であるAは、組合員Xの妻Bを、健保法(「法」)3条7項1号所定の被扶養者に該当するとしていたが、Bの収入がAの定める基準を満たさなくなったことを理由として、被扶養者に該当しない旨の通知。 
法189条1項は、被保険者の資格、標準報酬又は保険給付に関する処分に不服がある者は社会保険審査官に対して再審査請求をすることができる旨を規定
⇒Xは、同項に基づくものとして、本件通知についての審査請求
⇒近畿厚生局社会保険審査官が、本件通知には処分性が認められないことを理由に、本件審査請求を却下する決定⇒Xが再審査請求⇒社会保険審査会は、本件決定と同様の理由により、本件再審査請求を却下する裁決。
本件:Xが
①Aの権利義務を承継した健康保険組合であるY1を相手に、本件通知の取消しを求めるとともに、
②Y2(国)を相手に、本件裁決の取消し及び国賠法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案
  1審・原審 法はいわゆる生計維持要件の判断について各保険者(健康保険組合等)の合理的な裁量判断に委ねている⇒本件通知の取消請求を棄却 
本件通知については、処分性は認められるが、法189条1項所定の被保険者の資格に関する処分には該当しない⇒同項に基づく不服申立てをすることはできない。
  判断 本件裁決の取り消し請求及び損害賠償請求につき、
本件通知は法189条1項所定の被保険者の資格に関する処分に該当
⇒原審の判断には同項の解釈適用を誤った違法がある。
but
本件審査請求は社会保険審査官及び社会い保険審査会法4条1項所定の審査請求期間を徒過してされた不適法なもの⇒本件裁決の取消請求を棄却すべきものとした原審の判断は結論において是認できる。 
本件通知の取消請求につき職権による検討を行い、
本件審査請求が不適法⇒本件通知の取消請求に係る訴えは不服申立ての前置を規定する法192条の要件を満たさない不適法な訴え
⇒同請求につき本案の判断をした原判決は失当。
  解説   健康保険組合が行う被扶養者に該当しない旨の通知が法189条1項所定の被保険者の資格に関する処分に該当するというためには、その前提として、被扶養者非該当通知にいわゆる処分性が認められる必要がある。
行政庁の行為に処分性が認められるためには、
①その行為が公権力性を有することと、
②その行為によって生ずる効果が国民の法律上の地位に影響を与えること
が必要(最高裁)。
公権力性は法律によって与えられるもの⇒処分性が認められるためには当該行為が法律に根拠のあるものである必要がある。
法律や他の行政行為によって既に発生した効果を確認するにすぎない行為(観念の通知)等は、国民の法律上の地位に影響を与えるものではない⇒通常は処分性を有しない。
but
法律に当該行為の直接の根拠となるべき具体的な規定がない場合や、当該行為が観念の通知としての性質を有する場合等であっても、国民の実効的な権利救済等の観点から、法律が特に当該行為に処分性を付与していると解釈される場合がある。
最高裁の判例にも、前記のような観点から、柔軟に処分性を認めたものが少なくない。
ex.
・労災就学援護費を支給しない旨の決定
・食品衛生法に違反する旨の通知
・病院開設中止の勧告
  ●被扶養者非該当通知の処分性 
◎   被保険者資格の得喪について、法39条1項本文:
健康保険組合等による確認によってその効力を生ずる旨を規定
but
被扶養者該当性については、健康保険組合等がその認定判断をして被保険者に通知するといった明文の規定は設けられていない。
法3条7項の規定内容等⇒被扶養者に該当するかどうかは、法所定の要件(生計維持要件等)を満たすかどうかによって決せられるものと解され、被扶養者非該当通知は観念の通知としての性質

被扶養者非該当通知の処分性を否定する見解も理由がないものではない。
but
被保険者の親族等が被扶養者に該当するか否かによって当該親族等に適用される医療保険の種類が決せられる(国保法5条、6条5号参照)
被保険者の親族等は、被保険者証が交付されないと、適時に適切な診療を受けられないなど生活上の相当の不利益を受けることになる

被扶養者該当性についての健康保険組合の判断は、被保険者及びその親族等の法律上の地位を規律する。
このような医療保険制度全体の仕組みの下における被扶養者であることの法的な意味合いや、国民皆保険の下での被保険者証の機能等

被扶養者非該当通知に処分性を認め、この段階で、被扶養者に該当するか否かを確定することが、適正公平な保険給付の実現や実効的な権利救済等に資する。
仮に、被扶養者非該当通知の処分性を否定⇒被扶養者に該当しないとの認定判断に不服があっても、医療機関を受診する際には医療費の全額を自己負担した上で、事後に健康保険組合に保険給付を求め、これを拒否する処分を受けた段階で、法189条1項所定の保険給付に関する処分として審査請求等をすることになる。
vs.
健康保険等を利用しないで医療機関を受診する者はほとんどいないという実情⇒このような争訟方法は権利救済の方法として実効的でない。 
処分性を否定しつつ、被扶養者非該当通知を受けた段階で、被扶養者に該当することの確認等を求める実質的当事者訴訟の提起。
vs.
一般的に確認の利益が認められるのかという理論的な問題が残る
いきなり裁判所に訴えを提起するしかないというのでは、本件のような被扶養者該当性をめぐる紛争における権利救済の方法としては、実効性を欠く面が否定できない。
  被扶養者について以上に述べたところは、被保険者と共通する面がある。
法は、被保険者の資格の得喪については、確認という行政処分によってその効力を生ずるとして、適正公平な保険給付の実現や実効的な権利救済等を図っている。
健保法施行規則は、被扶養者届や被扶養者に係る定期的な確認について規定。

法が被扶養者該当性にかかる認定判断の通知に処分性を付与しているとの解釈の手がかりとなる。 
    ⇒被扶養者非該当通知の処分性を認めた。
  ●法189条1項所定の「被保険者の資格」に関する処分に該当するか? 
法189条1項が被保険者の資格等に関する処分について特別の不服申立ての制度を設けた趣旨は、これらの処分が多数の被保険者等の生活に影響するところが大きいこと等に鑑み、専門の不服審査機関による簡易迅速な手続によって、被保険者等の権利利益の救済を図ることにある。
・・・趣旨は被扶養者非該当通知にも妥当
⇒被保険者歯科気宇の得喪の確認と異なる取扱いとする合理的な理由は見いだし難い。
被扶養非該当通知は法189条1項所定の被保険者の資格に関する処分に該当し、当該所定の不服申立ての対象となるものと判断。
  宇賀反対意見:
本件通知において不服申し立てについての教示がされていなかったこと等を理由に、本件審査請求については審査会法4条1項ただし書の「正当な事由」が認められるとするほか、
本件通知の取消請求を棄却した原審の本案判断について、各保険者に被扶養該当性についての要件裁量は認められないことを指摘。

本件裁決の取消請求は認容すべきであり、その余の部分については本件を原審に差し戻すべき。 
  民事p14
名古屋高裁R3.2.18  
  医療過誤(ダブルセットアップを怠った過失)の事案(否定)
  事案 X3(母親)が、X1を吸引分娩により出産したた際、X1が低酸素性虚血性脳症による脳性麻痺の後遺障害を負ったのは、本件病院の医師らが吸引分娩実施前に帝王切開術に移行するためのダブルセットアップを怠った過失による⇒債務不履行または不法行為(使用者責任)に基づき、損害賠償の支払を求めた。 
  報告書 公益財団法人日本医療機能評価機構の産科医療補償制度原因分析委員会による原因分析報告 
本件の脳性麻痺発症の原因については、
①クリステレル胎児圧出法を併用した合計9回、総牽引時間25分間の吸引分娩が子宮環境及び胎児胎盤循環を悪化させたことで、胎児が低酸素・酸血症となったと考えられ、②出生後43分間低酸素・酸血症が持続したことは脳性麻痺の症状の増悪因子となったと推測される。

臨床経過に関する医学的評価について、
③吸引分娩は一度の牽引で確実に娩出できるとは限らない⇒滑脱した場合には適切なタイミングで帝王切開に移行できるよう分娩計画を考えておくことが一般的であり、滑脱を繰り返しながら吸引分娩を係属することは一般的ではなく、
④予想される胎児の状態への対応として、蘇生担当の小児科医への連絡のタイミングは一般的ではない。
  争点 主たる争点:
本件原因分析報告書の記載に照らし、担当医らに吸引分娩実施前のダブルセットアップを怠った過失があるか?
Xら:
吸引分娩は総牽引時間20分以内ルール、吸引回数5回以内ルールという厳格なルールが定められている上、クリステレル胎児圧出法を併用した吸引分娩は、娩出が難渋した場合、子宮及び胎児の循環環境を悪化させるリスクを伴っていた⇒帝王切開への切り替えが可能なように、本件病院の実情に合わせて1時間ないし1時間半前に麻酔科医を呼ぶなどの準備を整えるいわゆるダブルセットアップをすべき。
  判断 以下の理由より、麻酔科医等のスタッフを確保することを含むダブルセットアップは一般的な理解を超える水準を求めるもの⇒本件病院の医師らの過失を否定した原判決は相当。 
①アメリカのガイドラインとは異なり、日本のガイドラインでは、帝王切開へ移行できる準備を整えることを条件とはしていない。
同ガイドラインによれば、クリステレル胎児圧出法は胎盤環境の悪化などの副作用も報告されているが、吸引術の娩出力補完に有効であって、その功罪についてはエビデンスが乏しいのが原状であり今後検討されるべき課題とされている。

クリステレル胎児圧出法を併用する吸引分娩を実施する際に麻酔科医等のスタッフの確保を含むダブルセットアップを行う義務があったということはできない。
本件原因分析報告書は「今後どうすれば脳性麻痺の発症を防止することができるのかという視点に立ち・・・考えられる方策を提言するものである」というものであり、その記載内容は直ちに本件病院の医師の過失を裏付けるものではない。 
  解説 裁判例: 
TOLACにおいては緊急帝王切開の準備をしておくことが推奨されていること自体は認められる一方で、行われるかどうか分からない緊急帝王切開に備えて、深夜に執刀医や助手、麻酔科医や小児科医、看護師その他のスタッフを待機させ、器械等を整えておくことが容易なことではないことは明らかであり、当時の医療水準に照らして注意義務違反はない。
  民事p35
宮崎地裁R4.3.22  
  不動産売買の仲介業者の説明義務違反(肯定)
  事案 不動産売買の仲介等を業とするX1及びその代表者であるX2が、不動産売買仲介契約及び事業用定期借地権設定仲介契約(「本件仲介契約」)に基づいて、それぞれYに対し、合意された報酬金額のうちの未払分の支払を求めた(第1事件、第2事件)。
Yが、Xらに対し、債務不履行に基づく損害賠償及び前記不動産売買仲介契約の解除に伴う原状回復を請求(第3事件)。
  判断  YとX2との間で、平成30年12月から平成31年1月にかけて、本件土地ACの売買の仲介及び本件土地ACのDに対する賃貸借の仲介契約が締結されている。 
  ●第3事件 
YとDとの賃貸借の仲介契約においては、Yが第三者から本件土地ACを購入することが前提とされており、事業用定期借地権設定契約に基づいて得られる地代により本件土地ACの購入費用を回収し収益を上げる投資スキームが予定されている。
YとDとの本件合意で、賃貸借期間が営業開始日から20年間とされていたことに照らしても、土地の購入費用の返済原資となるDの地代の支払開始日は、 事業用定期借地権設定毛役の締約に当たり、特に重要な要素であったとういことができる。

X2には、準委任契約である仲介契約に基づく善管注意義務の一環として、Yに対しDの地代支払開始日について正確な情報を提供すべき義務がある。
Yの代表者であったP3は、・・・と一貫して供述しているところ、同供述は、他の証拠とも整合し信用することができる。、

X2は、Dの地代支払開始日について正確な情報を提供すべき義務に違反してYに対して誤った情報を提供したものと認められる⇒本件仲介契約の債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。
  ●第1事件、第2事件
・・・X2が、これらの金額を超えてYに対して本件土地ACの売買についての仲介報酬を請求する権利を有することを認めるに足りない。
事業用定期借地権設定仲介報酬請求については、最終的にYとDとの間において事業用定期借地権設定契約の締結にはいたらなかった⇒理由がない。
X1は、平成31年4月3日に設定されたものであり、本件仲介契約が成立したとされる頃には設立されていなかった⇒本件仲介契約に基づく報酬請求は理由がない。 
  解説 宅地や建物の買主、借主が、契約後に思わぬ疎なぎを被る事態を回避するため、宅地建物取引業法35条は、宅地建物取引業者に対し、取引の相手方等に対し、一定の重要な事項について、事前に説明を行うことを義務付けている。
「少なくとも」これだけは説明しなければならないという業者の最小限の義務として規定⇒これらのほかにも説明すべき重要な事項はあり得る。
説明義務違反が認定された裁判例:
・マンションの専有部分の販売を行っていた宅地建物取引業者による、防火戸の操作方法についての買主の説明の懈怠(最高裁) 
・中古住宅の売買契約の仲介業者による、隣人が著しい迷惑行為を行う可能性が高いことについての説明の懈怠
・不動産売買の仲介業者による、境界標の有無、隣地への越境の有無、隣地との境界の確定見込み等についての説明の誤り
・不動産の売買契約を仲介した業者による、建物について締結されていた賃貸借契約の内容についての説明の誤り
・土地の売買契約と同時に締結される先行売買における有効な権利取得の可否等についての説明の懈怠
・建物の賃貸借契約を仲介した業者による、借主が当該建物において焼肉店を営業することが事実上不可能であることの説明の懈怠
  労働p45
釧路地裁R4.3.15  
  新人看護師が精神障害を発病して自殺⇒業務起因性(否定事案)
  事案 A(看護師)が自死⇒Aの相続人(父母)であるXらが、Aが自死したのは、職場の上司からのパワハラなどの業務上の心理的負荷を受けて精神障害を発病したことによるもの⇒Y(国)に対し、
Aの父であるX1は、同人が請求した労災法に基づく遺族補償給付及び葬祭料について釧路労働基準監督署長が行った不支給決定の取消しを、
Aの母であるX2は、同人が請求した労災法に基づく遺族補償給付について処分行政庁が行った不支給決定の取消しを
それぞれ求めた。
  判断   Aが平成23年6月中旬頃に適応障害を発病⇒行政通達に照らし、業務起因性を否定。
  業務起因性の判断枠組み 
労災法に基づく保険給付は、労働者の業務上の疾病等につき行われるものであり(業務起因性)、それが認められるためには、業務と疾病等との間に相当因果関係が認められることが必要。
かかる相当因果関係が認められるためには、当該疾病等の結果が、労働者の従事していた業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要。
いわゆる「ストレスー脆弱性理論」に依拠した、「心理的負荷による精神障害の認定基準について」に依拠し、業務起因性を判断。
認定基準:
業務により精神障害を発症した者が自殺を図った場合には、業務起因性が推定される。
当該労働者と同種の平均的労働者、すなわち、何らかの個体側の脆弱性を有しながらも、当該労働者と職種、職場における立場、経験等の社会通念上合理的な属性と認められる諸要素の点で同種の者であって、特段の勤務軽減まで必要とせずに通常業務を遂行することができる者を基準として、当該労働者の置かれた具体的状況における心理的負荷が一般に精神障害を発病させる危険性を有するか検討し、当該業務による負荷が当該精神障害を発病させたと認められるかどうかを基準とする。
  ●当てはめ 
Aが平成23年6月中旬頃に適応障害を発病したと認定
X:同年8月末から同年9がつ15日までの間に精神病症状を伴わない重症うつエピソードを発病した
vs.
Aが自死直前までB病院において通常の勤務を続けていたことなどが「患者はごく限られた範囲のものを除いて、社会的、職業的あるいは家庭的な活動を続けることがほとんどできない」とする診断基準と整合しない⇒排斥。
適応障害の発病(平成23年6月中旬頃)前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められるかどうかにより業務起因性の判断を行う
⇒Xらの主張に従い、a:仕事上のミス、b:嫌がらせ、いじめ、c:上司とのトラブルの観点から検討。
a:仕事上のミス:
・・・その平均的な心理的負荷の強度はⅢ
その具体的内容に照らしてその心理的負荷の強度の総合評価は「中」にとどまり、
その他の仕事上のミスについて考慮しても、仕事上のミスについての心理的負荷の総合評価は「中」
b:嫌がらせ、いじめ
c:上司とのトラブル
医師からのパワハラに関する主張
vs.
同医師らととAとの関係性等からそもそも認めることができない。
Aの指導を行っていた先輩看護師との関係:
・・・その具体キ゚内容からすると、その心理的負荷の総合評価は「弱」にとどまる。
⇒業務起因性を否定
  解説 認定基準は労災保険の実務を行う行政通達にすぎないもので裁判所を拘束するものではない。
⇒これに該当しないことをもって直ちに業務起因性が否定されるものではない。
本判決:
認定基準に従った判断を行いつつも、最終的には、必ずしも適応障害の発病前6か月以内であるとは認定できていない出来事も取り上げて検討したり、認定基準から離れて検討。
  知財p70
東京地裁R4.12.23  
  不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」該当性
  事案 原告:原告製品(ガスバルブ)の形態は周知な商品等表示に該当し、被告が被告製品を製造又は販売する行為は、前記商品等表示と類似の商品等表示を使用するもの⇒不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当⇒不正競争法3条1項及び2項に基づき、被告製品の製造等の差止め並びに被告製品及びその製造に用いられる金型その他の製造器具の廃棄を求めた 
  争点 原告製品の形態が不正競争法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するか否か
  規定 不正競争法 第二条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
  判断  法2条1項1号:
周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するという観点から、周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止し、事業者間の公正な競争等を確保するもの。
商品の形態は・・・商標等とは異なり、本来的には商品の出所表示機能を有するものではない⇒その形態が商標等と同程度に不正競争法による保護に値する出所表示機能を発揮するような特段の事情がない限り、商品等表示には該当しない。

商品の形態は、
①客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴(「特別顕著性」)を有しており、
②特定の事業者によって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知であると認められる特段の事情がない限り、不正競争法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当。
法2条1項1号の趣旨目的
⇒商品の形態が、取引の際に出所表示機能を有するものではないと認められる場合には、特定の出所を表示するものとして特別顕著性又は周知性があるとはいえず、前記商品の形態は、同号にいう商品等表示に該当しない。
  ①・・国内における需要者は、ガスボイラーメーカーやガスバーナーメーカーの専門業者約30社
②・・製品の安全性、信頼性を重視
③・・検討のためには、製品内部の動作や構造についても詳細な情報を要求するのが通例
④・・・被告製品自体は・・・原告製品の互換性として開発
⑤・・双方製品とも約50万円と高額
⑥・・宣伝広告に当たって、原告製品の形態上の特徴それ事態を強調しておらず、被告においても、被告製品の形態をセールスポイントとすものではない

本件施肥にの需要者は、約30社の専門業者に限られるのであり、当該専門業者は、長期間費やし製品をテストするなどして、専ら安全性、信頼性の観点から本件製品を購入⇒当該専門業者(需要者)は、取引の際にもそもそも製品の形態自体に着目して本件製品を購入するものとはいえない。

原告製品の形態は・・・出所表示機能を有するものではなく、不正競争法2条1項1号にいう商品等表示に該当しない。
 ・・当該専門業者において原告製品と被告製品の誤認混同が生じないことは明らか。
⇒不正競争法2条1項1号の不正競争行為に該当するものとは認められない。
  解説  裁判例:
東京高裁H6.3.23:
・・・同法条が目的とする出所の混同を排除することを超えて、商品そのものの独占的、排他的支配を招来し、自由競争のもたらす公衆の利益を阻害するおそれが大きい。
・・・不正競争防止法が帆とする商品表示主体の正当な利益を害しない限度において競業行為を許容し、公衆が期待する自由競争により利益を維持するために必要な要件の検討をいうのであり、この要件は、機能的周知商品形態の持つ自他商品識別力の強弱を、競業者が採っている自他商品の混同防止手段との相関のうちにおいて観察し、後者が混同を防止するために適切な手段を誠実に採り、前者の自他商品識別力を減殺して、混同のおそれを解消する場合において具備するものと解するのが相当。
商標や商品名が持つ本来的な商品識別機能は・・・・・考慮に入れても、マットの種類を示す特徴としての本件商品形態の商品識別力に勝ると認められる。
  商品の形態につき、その技術的な機能及び効用という観点から商品等表示該当性を考慮した裁判例:知財高裁H28.7.27:
商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来する場合、 そのような商品の形態自体が「商品等表示」に当たるとすると、当該形態を有する商品の販売が一切禁止されることになり、結果的に、特許権等の工業所有権制度によることなく、当該形態によって実現される商品の販売を特定の事業者に独占させることにつながり、しかも、不正競争行為の禁止には期間制限が設けられていないことから、上記独占状態が事実上永続することになる。
・・・

商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来する場合には「商品等表示」に該当しないと解するのが相当。
  刑事p80
名古屋高裁金沢R4.3.24  
  強盗殺人罪否定で殺人罪と窃盗罪⇒事実誤認による破棄の事案
  事案 奥田交番襲撃事件 
  争点 E殺害時、被告人に拳銃強取の意思があったか否か?
  原審 強取目的を否定⇒殺人罪と窃盗罪を認定。 
①被告人が、交番襲撃を考え始めてから実行まで短時間であり、交番襲撃前に襲撃後の具体的な行動を計画していたことを示す客観的証拠は見当たらない
②襲撃後の行動も半ば行き当たりばったりで、事前の計画に沿った行動とは解されない
③弁護人による逮捕前の事情聴取時の被告人の発言は、E殺害後に拳銃をとる意思が生じたとする趣旨と理解され、客観的な行動とも矛盾しない。
④捜査段階の供述調書のうち、逮捕当日のものは曖昧で揺れており、その後の調書は強取意思を明確に供述したとはいえず、これらの調書より強取目的は認められない

E殺害後に拳銃を取る意思が生じた可能性を排斥できない。
  判断 強盗殺人罪の成立を前提に審理等を尽くすのが相当として、本件を富山地裁に差し戻し。
原判決の反対仮説は、客観的な被告人の行動と矛盾するとはいえないが、不自然な見方。

被告人は、強固な決意の下、多数の警察官を殺して回ろうとするかのような行動に及んでおり、取調べでも一貫してその意図を認めている。
警察官と戦い続けるために拳銃を奪うことを当初から意図していたとみることは極めて自然な見方。

原審弁護人による逮捕時の事情聴取は、いつから拳銃の強取意思を有していたかを明確には聞いておらず、被告人も最初からその意思を有していたことを否定していない。
その後の被告人の供述⇒前記事情聴取時の供述は、被告人の内心を正確に反映していないと解するのが自然。
原判決は、そのことを看過又は不当に軽視し、前記事情聴取時の供述の信用性を高く評価している。

捜査段階の供述調書について、原判決はあいまいで揺れていると評価するが、その原因や供述の趣旨について十分な考察をしていない。
警察官を殺し、拳銃を奪うつもりであったと述べているのに、強取意思を認めることはできないと不自然な評価をしている。

原判決の判断は、本件の事実経過及び被告人の供述等の信用性を総合的、整合的に判断しておらず、論理則・経験則に照らして不合理。
  解説  捜査段階では一時これを認めるような供述⇒自白が存在。
自白の信用性が問題となる場合、まずは自白を除く証拠を検討し、それらにより認定できた事実に照らし、自白の信用性を検討するのが一般的。 
原審:反対仮説が成立する余地があるかという点から検討。

裁判員裁判の評議においては、裁判員の多様な感覚や視点を活かすことが重要⇒審理の結果、裁判員を含む裁判体の関心がまず反対仮説に向いたのであれば、そこから評議を始めることも十分に考えられる。
  評価を分けたのは、被告人の供述に対する評価そのもの 
控訴審が第1審判決に事実誤認があるとするには、当該事実認定が「論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要」(最高裁)
供述の信用性が問題となる事例を前提とすると、
①客観的な証拠や事実との関係で明らかに不合理である場合や、
②これと同程度に判断内容が明らかに不合理である場合
が典型例。
but
事案に応じた具体的な判断には、難しい場合がある。
本件:
①の場合には該当せず、そのような見方が自然か否かといういわば主観が作用する部分で評価を分けたといえる。
このような判断には「許容幅」があるとされ、1つの見方を不合理と判断するには、その結論に相応の説得性が求められる。
本判決:
一連の事実経過や供述調書の記載にとどまらず、被供述者と被告人とのやり取りにまで遡り、供述の意味合いを検討するなど具体的な検討をして、不合理との結論を導いたもの。
  刑事p90
広島地裁R4.3.23  
  被告人の人格権・被告人及び弁護人の接見交通権侵害で国賠法上違法(肯定)
  事案 起訴後勾留による身体の拘束を受けている被告人であったX1並びにX1の弁護人であったX2及びX3が、警察官がX1から任意捜査としてDNA型試料を採取しようとした際、
①留置担当の警察官が、X1に対し、取調室への出頭が拒否できることなどを告知せず、取調室に行くよう勧めたこと、
②捜査担当の警察官らが、X1が取調室からの退去を求めたのに、これに応じずに取調室に滞留させ続け、X1が複数回接見要請をしたのに、弁護人ら(X2及びX3)への連絡をしなかったことは、Xらの接見交通権を侵害し、X1の人格権を侵害
⇒Y(広島県)に対し、国賠法1条1項に基づく損害賠償として、
X1につき220万円、X2及びX3につき各110万円の支払を求めた。
  争点 留置担当の警察官の言動及び捜査担当の警察官らの言動について、国賠法1条1項の適用上違法な点があるか
  判断 留置担当の警察官には、被留置者に対し、取調室への出頭義務や取調受忍義務がないことを告知すべき義務はない⇒これを明示的に説明しなかった点に職務上の義務違反はなく、留置施設から出場するまでのX1の態度を総合的にみれば、X1の出場を中止すべき職務上の義務もなかった
⇒留置担当の警察官の言動には国賠法1条1項の適用上違法な点はない。
●捜査担当の警察官らの言動
接見交通権の点:
警察官が、接見要請を受けながら、直ちに弁護人らに連絡をせず、被告人としての防御権に影響を与える可能性がある働きかけと評価できるX1へのDNA試料の採取に向けた説得を続けたことは、その時間が10分程度であることを踏まえても、捜査員としての職務上の義務に違反しており、接見交通権の侵害に当たり、国賠法1条1項の適用上違法。

X1への説得を打ち切った時点以後に弁護人らに連絡しなかったことについては、違反の程度が軽微⇒国賠法上の違法は認められない。
人格権侵害の点:
起訴後においても、捜査官はその公判を維持するために必要な取り調べを行うことができ、操作の必要性・緊急性を考慮し、相当と認められる方法による場合には、任意捜査として許容される。
当時のX1の供述状況等⇒X1のDNA型試料を採取する必要性も緊急性も認められず、その方法も相当性を欠いていた⇒起訴後被告人の立場にあったX1に対しDNA型試料採取に向けた説得をしたことは国賠法1条1項の適用上違法。 
  解説 刑訴法39条1項が規定する弁護人等との接見交通権は、身体の拘束を受けている被告人又は被疑者が弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障している刑事手続上最も重要な基本的権利に属するものであるとともに、弁護人の固有権の最も重要なものの1つとされている。 
起訴後の被告人に対する取調べについては、被告人の当事者たる地位に鑑み、捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならないが、起訴後においても、捜査官がその公判を維持するために必要な取調べを行うことは許容される(最高裁)が、
その範囲は任意捜査として適法な限度に留まる。
本判決:
操作の内容等を踏まえると、警察官らのX1への説得行為は適法な任意捜査の域を超えている⇒国賠法1条1項の適用上、違法と判断。
  刑事p98
大阪家裁R5.8.5  
  少年法62条2号該当事件で、検察官送致とされた事案
  事案 少年が、共犯者らと共謀の上、被害者を逮捕監禁するとともに営利目的で略取し、傷害を負わせた事案を含む、逮捕監禁致傷、営利略取、営利略取未遂、傷害保護事件。
18歳以上で、短期1年以上の懲役に当たる罪の事件が含まれている⇒原則検察官送致対象事件(少年法62条2項2号) 
  決定 報酬を得る目的で見ず知らずの人間を犯罪の標的にするもの
少年が加えた暴行等の態様や結果
⇒本件非行について、相当に悪質。 
少年の資質や生育環境等の問題性~本件に関与する一因になった。
少年の反省状況等⇒犯行後の情況に酌むべきところがあり、少年の性格・環境等にも考慮に値する点が認められる。
but
前記の事案の評価⇒少年を保護処分に付するのが相当とは認められず、事案を検察官に送致。
  規定 少年法 第二〇条(検察官への送致)
家庭裁判所は、死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件について、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。
2前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて、その罪を犯すとき十六歳以上の少年に係るものについては、同項の決定をしなければならない。ただし、調査の結果、犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。
 (検察官への送致についての特例)
第六十二条 家庭裁判所は、特定少年(十八歳以上の少年をいう。以下同じ。)に係る事件については、第二十条の規定にかかわらず、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、特定少年に係る次に掲げる事件については、同項の決定をしなければならない。ただし、調査の結果、犯行の動機、態様及び結果、犯行後の情況、特定少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。
一 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて、その罪を犯すとき十六歳以上の少年に係るもの
二 死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件であつて、その罪を犯すとき特定少年に係るもの(前号に該当するものを除く。)
  解説 法20条:
同項本文該当の事件については、その罪質及び情状の類型的な重さから保護不適であるとの推定が働くことを規定⇒家庭裁判所が同項ただし書を適用して保護処分を選択するには、保護処分の方が矯正改善に適しているというだけではなく、保護不適の推定を破るに足る「特段の事情」が必要になるとされる。
法62条2項:
原則検察官送致対象事件は、法20条2項と同一のもの(本項1号)のほか、死刑または無期若しくは短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪の事件であって、その罪を犯すとき特定少年に係るもの(本項2号)とされ、その範囲が拡大。
本項ただし書:対象事件の範囲の拡大に伴って「犯行の結果」に様々なものが含まれる⇒考慮事情として「犯行の結果」が明記されたが、法20条2項ただし書と同趣旨のもの。
対象事件拡大の趣旨:
公選法や民法の改正等により、18歳及び19歳の者が責任ある主体と位置付けられた
⇒これらの者が重大な犯罪に及んだ場合には、18歳未満の者よりも広く刑事責任を負うべきものとするのが、その立場に照らして適当であり、また、刑事司法に対する被害者を含む国民の理解・信頼の確保という観点からも必要
⇒一定の重大犯罪に及んだ場合に刑事処分が適切になされることを制度的に担保するものであるとの説明。

法62条2項にあっても、法20条2項と同様、本項各号該当の事件については保護不適が推定され、本項ただし書を適用して保護処分を選択するには、保護不適の推定を破る「特段の事情」が必要になるものと解される。
2556   
  行政p5
最高裁R5.1.25  
  衆議院小選挙区選出議員の選挙区割りの合憲性
  事案 令和3年10月31日施行の衆議院議員総選挙について、東京都第5区等の選挙人である上告人ら(一審原告)が、衆議院小選挙区議員の選挙の選挙区割りに関する公選法の規定は憲法に違反し無効⇒これに基づき行われた本件選挙の前記各選挙区における選挙も無効⇒選挙無効訴訟 
  事実関係   衆議院議員の選挙制度:
小選挙区選挙比例代表並列制 
  平成24年法律第95号による改正前
最高裁H23.3.23:
①選挙区間の投票価値の較差が拡大していたのは1人別枠方式がその主要な要因となっていたことは明らか
②人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮等の視点から導入された1人別枠方式は既に立法時の合理性が失われていた

旧区割り基準のうち1人別枠方式に係る部分及び同選挙時の選挙区割りは、憲法の投票価値の平等の要請に反する状態(「違憲状態」)に至っていたが、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず区割規定は合憲(違憲状態・合憲判決)
  ・・・
    本件選挙当日における各選挙区の選挙人数の最大格差が2.079倍となる。
  原審 本件選挙区割りは本件選挙時において違憲状態に至ったとまではいえない
⇒Xらの請求を棄却
  判断 本件選挙当時において、公選法13条1項、別表第1の定める衆議院小選挙区選出議員の選挙区割りは、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできず、前記規定が憲法14条1項等に違反するものということはできない。 
  解説  ●本判決の考え方 
  ◎基本的判断枠組み 
憲法は投票価値の平等を要求している
but
投票価値の平等は選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的等との関係において調和的に実現されるべきであり、全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される場合、具体的な選挙区を定めるに当たっては、行政区画等を基本的な単位として、諸要素を考慮しつつ、国勢遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められる。
このような選挙制度の合憲性は、諸事情を総合的に考慮した上でなお、国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断される。
この判断に当たっては、
①定数配分又は選挙区割りが違憲状態に至っているか否か
②違憲状態に至っている場合には、憲法上要求される合理的期間内に是正がされなかったとして定数配分規定又は区割規定が憲法の規定に違反するに至っているか否か
③当該規定が憲法の規定に違反するに至っている場合には、選挙を無効とすることなく選挙の違法を宣言するにとどめるか否か
が検討。
本件では①が主たる争点。
  ◎本件区割規定の合憲性
平成29年選挙時の本件選挙区割りを合憲状態と判断した平成30年大法廷判決につき、選挙区間の投票価値の較差を相当程度縮小させその状態が安定的に持続するよう新区割り制度が設けられた上、
0増6減の措置を前提に次回の大規模国勢調査が行われるまでの5年間を通じて選挙区間の人口の較差が2倍未満となるような本件選挙区割りが定められ、
これにより平成29年選挙時における選挙区間の選挙人数の最大格差が縮小したことをもって、
投票価値の平等を確保するという要請に応えつつ選挙制度の安定性を確保する観点から漸進的な是正を図ったもの。
このように新区割り制度及び本件選挙区割りから成る合理的な選挙制度の整備が既に実現されていた⇒従前の違憲状態は解消されたものと評価することができる。
  ◎本件選挙時の較差の評価 
本件選挙時:選挙区間の選挙人数の最大格差が2.079倍になる
新区割制度は、選挙区の改定をしてもその後の人口異動により選挙区間の投票価値の較差が拡大し得ることを当然の前提としつつ、選挙制度の安定性も考慮して、10年ごとに各都道府県への定数配分をアダムズ方式により行うこと等によってこれを是正することとしており、新区割制度と一体的な関係にある本件選挙区割りの下で拡大した較差も、新区割制度の枠組みの中で是正されることが予定されている。
このような制度に合理性が認められることは平成30年大法廷判決が判示するとおりであり、本件選挙区割りの下で格差が拡大したとしても、原則として、違憲状態に至ったものということはできない。
but
ア:当該較差が憲法の投票価値の平等の要求と相いれない新たな要因によるものというべき事情や、
イ:較差の拡大の程度が当該制度の合理性を失わせるほど著しいものであるといった事情
がある場合を例外として留保する。

これらの事情がある場合には、新区割制度の合理性によって較差を是正することができない。
本件選挙時における選挙区間の投票価値の較差は、自然的な人口異動以外の要因によって拡大したものというべき事情は窺われないし、
その程度も著しい物とは言えない
⇒前記の較差の拡大をもって、本件選挙区割りが帆ねん選挙時において違憲状態に至っていたものということはできない。
  行政p24
大阪地裁R5.3.15  
   ウガンダ共和国国籍で、レズであることを理由に迫害を受けるおそれ⇒難民認定(肯定)
  事案 原告:ウガンダ共和国国籍を有する外国人であり、入管法61条の2第1項に基づく難民認定の申請⇒法務大臣から順次権限を委任を受けた大阪出入国在留管理局長から、難民の認定をしない旨の処分を受けるとともに、入管法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨の処分⇒大阪出入国在留管理局主任審査官から、退去強制令書の発布処分を受けた。

原告が、前記処分は、原告が難民であるにもかかわらず、これを看過した違法なもの⇒被告(国)に対し、前記処分の取消しを求めるとともに、難民の認定の義務付けを求めた事案。
  争点 原告の難民該当性 
  判断 本件不認定処分を取り消し、原告に対して難民の認定をすべき旨を命ずべき 
ア:ウガンダでは、ウガンダ刑法145条が、自然の理に反する人間同士の性交を行う者は、罪を犯しているとして、終身刑を科す旨を規定
・・・同性愛者に対して同条その他の法令を適用して恣意的な身柄拘束をする可能性があり、現在においてもこの点に大きな変化はない。
イ:レズビアンであることを理由に警察官に逮捕、勾留され、暴行を受けたとする原告の供述・・・の信用性を減殺する事情はない。

原告がレズビアンであることを理由に、警察官に逮捕、勾留され、棒で殴られるなどの暴行を受け、相当な傷害を負った。
ウガンダに帰国すれば、同様に、原告がレズビアンであることを理由に警察官に逮捕、勾留され、暴行を受けるおそれがあるといえる。

迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するものであると認めることができる。

原告が難民に該当しないことを前提としてされた本件在特不許可処分は違法
原告を迫害のおそれがある国に向けて送還しようとする本件退令発布処分も違法
⇒これらは取り消されるべき。
  解説 本判決:
原告の身体の傷痕や医療記録等の客観的証拠との対比、ウガンダの一般情勢との整合性、本邦に上陸した後の各手続における原告の供述の内容や経過などを踏まえつつ、相当詳細な検討を加え、客観的証拠に裏付けられた限度においては、被告による弾劾主張を踏まえても、その供述は信用性を有すると判断。
裁判例①:
本国(イラン・イスラム共和国)の刑法上、男性間の性行為を行った者に対し、石打ち刑による死刑に処することが認められるとしつつ、同性間の性行為もこれを公然と行われるのでない限り、それだけで刑事訴追を受ける危険性は相当低い状況にあり、かつ、本国当局が原告が同性愛者であると認識していたとはいえない⇒難民該当性を否定。

裁判例②:
原告が同性愛者であるとは認められない⇒難民該当性を否定。
  民事p51
大阪地裁R4.6.23   
  コンビニのフランチャイズオーナーと本部の争い
  事案 コンビニストアのフランチャイズ加盟店のオーナー(Y)は、そのフランチャイザー(X)から、Yの経営する店舗での異常な接客対応やSNS上でのXへの誹謗中傷を理由に、加盟店契約を解除された。 
第1事件:XがYに対し、店舗の引渡し及び約定の損害賠償の支払等を求めた
第2事件:YがXに対し、本件契約解除はYが時短営業を強行したことに対する意趣返しであり、独禁法上の優越的地位の濫用に当たり無効⇒加盟店の地位の確認及びXの取引拒絶の排除等を求めた
加盟店契約:各加盟店に共通した一定の店舗のイメージが加盟店全体の信用を支えており、これらのイメージを毀損することその他重大な不信行為が契約解除事由に当たる旨定められていた
  争点 加盟店契約の解除の有効性 
①:Yの接客対応やSNSへの投稿が契約の解除事由に当たるか
②:前記①の行為により当事者間の信頼関係が破壊されたか
③:YがXの催告に応じたといえるか
④:本件契約解除が権利の濫用又は優越的地位の濫用に当たるか
  判断 争点①:
Yが利用客に頭突きをしたり車を蹴るなどの暴力的行為や、利用客の人格を否定する暴言などをくりかえしており、また、Xへの誹謗中傷をSNSに投稿
⇒全国的に統一的なサービスを提供することで保たれるX及び加盟店全体のブランドイメージを毀損するものであり、SNSへの投稿を含めて契約解除事由に該当 
争点②③:
Yは、Xの店舗担当者から繰り返し接客対応に関する注意を受け、その後書面で接客対応の改善を求められたにもかかわらず、自らの接客対応の顧みずに利用客に責任転嫁し、その後も接客対応を改めなかった

Yの一連の対応は当事者間の信頼関係を破壊するものであり(SNSへの投稿も同様)また、催告期間に信頼関係を回復する適切な措置を講じなかった
⇒契約解除は有効
争点④:
Xは、当初はYの時短営業を理由として契約解除することについても検討
but
その後は時短営業を前提とする契約に変更するためにはたらきかけるなど
⇒契約解除が時短営業を理由にされたものではない。
  解説 約定解除事由に基づくもの
but
継続的契約であるフランチャイズ契約の性質

解除条項の解釈・適用に当たっては、軽微な義務違反では足りず、一定程度の重大な義務違反が解除事由に該当すると解すべきであり、
さらに、それが当事者間の信頼関係を破壊するものであることが必要。
コンビニのフランチャイズ:
店舗の外観、商品の品ぞろえ、サービス等を統一して全国的なブランドイメージを維持
~加盟店契約の重要な内容
信頼関係の破壊:義務違反が一定期間継続しているなどの事情が必要
本件:不適切な接客対応が長期間繰り返され、X側の注意や書面での是正要求にも応じず、むしろ不適切な接客対応をエスカレートさせたなどの一連の経緯⇒信頼関係破壊が認められる
催告期間の措置について、
接客対応及びそれに対する是正措置に応じなかったことを解除事由とする場合、破壊された信頼関係を回復するためには、形式的に接客対応を改善するとの意向を示すだけでは足らない。
公正取引委員会:
令和3年4月には、従前のフランチャイズガイドラインを改訂し、時短営業を希望する加盟店に対し、正当な理由なく協議を拒絶すること等が優越的地位の濫用に当たりえるとの見解。
  民事p85
福岡地裁久留米支部R4.6.24  
  小学校での児童の死亡事故の事案
  事案 フットサルゴールポストが転倒⇒児童Aがその下敷きになり死亡
Aの両親である原告らが、

主位的に:本件小学校の教員らには前記ゴールポストを適切に固定しなかったなどの安全配慮義務違反がある⇒国賠法1条1項に基づき、
予備的に:前記ゴールポストには設置又は管理の瑕疵がある⇒国賠法2条1項に基づき
損害賠償を求める。

在学契約関係条の付随義務として、本件事故について十分に調査を行い、その結果を原告らに報告し、調査に関して原告らの意向を確認し配慮する義務を怠った
⇒国賠法1条1項に基づき損害賠償を求めた。
  争点 ①ゴールポストの固定等に関する安全配慮義務違反の有無
②過失相殺の要否
③調査報告義務違反の有無 
被告は、ゴールポストの設置又は管理に瑕疵があったこと自体は認めている。
  判断  ●安全配慮義務違反 
①本件事故前から、ゴールポストが転倒しないよう配慮すること、固定状況について点検を実施すること、本件と同様の死亡事故が生じていることを文部科学省が通知
②本件小学校の校長はこの通知を認識
⇒本件事故の発生っは容易に予見できた
⇒ゴールポストの固定状況について点検し、ロープで結ぶなどして固定しておくべき注意義務があった。
  ●過失相殺
Aがゴールポストにぶら下がったことは通常の使用方法を逸脱したもの。
but
本件小学校の校長を除く教員らには、ゴールポストが危険で不安定であるという認識がなく、危険性をAを含む児童らに指導することもなかった
⇒Aがゴールポストの危険性を認識することはできず、このような教員らとの関係で過失相殺を認めることは公平を欠く。 
…小学校4年生の児童についてそもそも非難し得る程度の低いものである一方、ゴールポストが固定されていないことを見逃した被告の重大性⇒過失をしん酌すべきとはいえない。
  ●調査報告義務違反
文科省作成の「学校事故対応に関する指針」に触れつつ、同指針は、学校、学校の設置者及び地方公共団体が、それぞれの実情に応じて、事故後の適切な対応に取り組むに当たり参考となるものとして作成されたもので、事故後の調査に関し、直ちに義務の内容となるものではない。
事故の遺族でありAの保護者である原告らも、当該事故の利害間権者の1人⇒第三者委員会である調査委員会が公平性・中立性を確保しつつ、専門的見地から事故に至る仮定や原因について調査する以上、保護者の意向に配慮したり、適宜保護者と協議したりすることには限界がある。

学校設置者である地方公共団体は、学校内での事故について十分な調査を行い、その結果を報告する義務があるものの、調査委員会の委員の人選や、調査委員会による具体的な調査の内容及び方法等については、事故の内容や調査の目的、学校及び地方公共団体の実情等に応じて、学校設置者や専門的知識及び経験を有する医院によって構成される調査委員会の判断に委ねられる。
調査に関して保護者の意向を確認し、調査内容及び方法等について保護者と競技する義務や、必要かつ相当な調査が尽くされているかどうかについて保護者の意向を確認し、調査内容及び方法等について保護者と協議する義務や、必要かつ相当な調査が尽くされているかどうかについて保護者の意向を確認し対応すべき義務はいずれも認められない。
調査委員会の人選について公平性・中立性が確保されていないとはいえない。
被告は、原告らの要望等に配慮しつつ、本件事故について調査委員会による調査を実施し、その結果を報告書として取りまとめて原告らに説明して報告しており、調査報告義務違反があったとはいえない。
  解説 学校事故での過失相殺は、被害児童、生徒が指示に従わず、あえて危険な行為に出たことにも原因があるとして、過失相殺が認められる事例が多い。
本件は、過失相殺を否定。
学校内での事故について、学校設置者等が事故について調査し、その内容を報告する義務があることを認めた上で、
具体的な調査の内容や方法等に関して、文科省の作成する指針が直ちに義務内容となるわけではなく、調査内容及び方法について保護者の意向に配慮し、保護者と協議をする義務までは認められない。
企業や学校等の団体内部の事故、不祥事に関し、第三者委員会による調査、検証が実施されることが多いが、その中で、第三者委員会の調査や判断そのものが問題となる事例も散見される。
本件:学校内での事故に関し、第三者委員会による調査、報告について、保護者との間で義務違反が認められないとの判断を示した事例。
  刑事p98
千葉家裁R4.6.24  
  特定少年の薬物所持・使用の事案⇒第1種少年院送致で、収容期間3年とされた事案
  事案 特定少年である少年が、
①覚醒剤を含有する錠剤を飲み込んだが、同錠剤についていわゆるMDMAであると誤認し、麻薬施用の犯意を有するにとどまっていた
②少量の大麻を所持した
という事案。 
  判断 第1種少年院に送致
少年院に収容する期間を最大限3年 
  解説  ●犯情による保護処分の制約
  令和3年法律第47号による少年法改正⇒18歳及び19歳の少年は「特定少年」とされ、特定少年に対する保護処分は「犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において」しなければならない(少年法64条1項)。
刑罰が保護処分よりも一般的・類型的に不利益な処分
⇒刑事裁判であれば執行猶予付きの懲役又は禁錮を科すことが通常想定されるような事案であっても、それにより直ちに少年院送致を選択できないことにはならない。
  本件事案:
覚醒剤の自己使用1件と大麻の所持1件
but
本件各犯行が約4年間にわたる常習的犯罪の一環として行われ、少年の違法薬物に対する依存性が強く、規範意識が希薄であるなどの事情⇒要保護性に応じた処遇選択。 
  ●少年院に収容する期間
家庭裁判所は「犯情の軽重を考慮」して少年院に収容する期間を定めなければならない(少年法64条3項)。

家庭裁判所においては、収集さらた証拠に基づき、犯罪事実を認定した上で、犯した罪の責任に照らして許容される限度を上回らない範囲内で、できるだけ長く、少年院に収容する期間を設定すべきことになると考えられる。
少年に対する矯正教育が順調に推移し、出院後の帰住先の調整にも問題なし⇒処遇勧告が付されていない場合、約11か月で仮退院。
but
内省の深まりに欠け、少年院内でも犯則行為を繰り返すなどしたため進級が遅れるような場合⇒11か月で仮退院できない事態が生じる。
現在の実務:少年院の収容期間について、2年か3年とする令が多い。
本決定:収容期間を最大限3年間
~犯情の上限からすると3年間の期間が許容されるという理解を前提に、必要かつ十分な矯正教育や保護観察期間を確保することが望ましいと考えたのではないかと推測。
2555   
  民事p5
東京高裁R4.8.18  
  間接交流とするのが相当とする原審の判断が不当とされた事例
  事案 別居中の夫婦の妻である抗告人が、夫である相手方に対し、前件調停で定められた未成年者ら(長女及び二女)との面会交流に関する条項の変更を求めた。
  原審 未成年者らが母である抗告人を慕い、抗告人との交流を望んでいることや、長女が精神的において成長し、安定傾向にあること、抗告人が未成年者らに対して愛情や関心を有していることを感じることのできる機会を設けることがのぞましいこと
⇒抗告人と未成年者らとの交流を認めることが相当。
but
①面会交流の実施に際しては父母間の連絡及び協力体制が必要となるところ、父母間では高葛藤状態が続いている
②長女は精神的に改善の兆しが見えてきた段階にあり、現段階では十分に安定しているとは言い難い状況にある
③二女については、父母の葛藤状態に巻き込まれた場合の心理的影響が大きい
④これまでの面会交流の経過及び長女の反応

まずは双方向の間接交流を実施し、段階を踏みながら将来的な直接交流に向けての信頼関係・協力関係を構築していくことが相当
⇒抗告人と未成年者らとの面会交流を間接交流とするのが相当。
  判断 抗告人が二女を出産後、精神的に不安定になり、数か月間医療保護入院となったこと
長女が抗告人との関係で精神的に不安定な状況になったこと
長女の主治医が、直接交流は刺激が強いため間接交流から段階的に始めていくことが望ましい旨の意見を述べていること等

相手方が抗告人と長女との直接交流に消極的な態度を示していることは一定程度理解できる。
but
ア:抗告人の精神状態は回復し安定した状態が続いており、抗告人が未成年者らの健全な成長に悪影響を及ぼすような言動をするおそれがあるとはいえないこと
イ:長女の精神状態は安定してきており、間接交流を通じて抗告人と接触した後も精神的に不安定な状態に陥ることはなく、安定した状態が続いて位いること、
ウ:長女は、従前から抗告人に対して思慕の念を抱き続け、抗告人との直接交流を強く望んでいたこと、
エ:二女については、抗告人との直接交流を禁止・制限すべき事情がないことなど、
直接交流を速やかに検討するべき諸事情が認められるのに、原審は前記ア~エの事情を適切に考慮していない点において取消しは免れない。
a:家庭裁判所調査官が令和2年2月に長女の意向・身上調査をしたのを最後に長女に対する調査が長期間実子されておらず、再度、家庭裁判所調査官による調査を実施して、長女の意思を適切に把握する必要がある
b:抗告人との未成年者らとの間では、令和3年11月以降、間接交流が継続的に実施されており、間接交流後の長女の状況や心情等についても家庭裁判所調査官による調査を実施する必要がある
c:ニ女については、平成31年3月まで抗告人との面会交流が実施されていたことや、令和3年11月以降、間接交流が継続的に実施されていること、現在6歳であり、自己の身上を表明することが可能な年令であること等⇒二女についても家庭裁判所調査官による調査を実施して、その心情や間接交流の状況等を調査する必要がある。
d:その上で、これらの調査結果を踏まえて、試行的面会交流の実施を積極的に検討し、その結果をも踏まえて直接交流の可否や面会交流の具体的方法、頻度、内容等を検討して定める必要がある。
⇒原審は前記a~dにつき審理不尽があって、原審判を取り消して、本件を東京家裁に差し戻す。
  解説  父母が離婚又は別居しても、子にとっては親であることに変わりはなく、一般的に、非監護親からの愛情も感じられることが子の健全な成長のために重要。
我が国及び海外における心理的の諸研究においても、非監護親との交流を継続することは子が精神的な健康を保ち、心理的・社会的な適応を完全するために重要(文献)。
面会交流について夫婦間の協議が整わないとき又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が定める(民法766条2項参照)。
家庭裁判所は、面会交流について定めるに当たっては、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」(同条1項参照)とされるとともに、
「子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官によるその調査その他適切な方法により、子の意思を把握するように務め、審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない」(家事手続法65条)

家庭裁判所における面会交流調停・審判においては、面会交流の禁止・制限事由(虐待や連れ去りのおそれ等)の有無や、別居に至る経緯、従前の親子関係、別居後の子の状況、子の年齢や発達状況、子の意向・心情、両親の葛藤常況等を総合考慮して、子の最善の利益の観点から面会交流の方法を定める必要。
審理に当たっては、家庭裁判所調査官による調査等の適切な方法により、子の意思を把握するように務め、必要に応じて試行的面会交流(家庭裁判所調査官の関与の下、非監護親が子と試行的に面会交流すること)を実施することも検討し、その結果をも踏まえて、直接交流の可否や、面会交流の具体的方法、頻度、内容等について判断する必要。
一般に非監護親との交流は、子の健全な成長のために重要⇒面会交流調停・審判は、適切かつ速やかに実施する必要があり、また、子の成長や子を取り巻く諸状況等に応じて子の意向・心情も変化する場合がある⇒子の意向・心情調査を含む子の調査は、適時適切に実施する必要がある。
  本決定:
面会交流審判において考慮すべき諸事情を詳細に認定して、直接交流を実施することの消極事情及び積極事情について丹念に検討するとともに、
原審では直接交流を速やかに実現すべき積極事情が適切に考慮されていないことに加え、家庭裁判所調査官による調査が適示適切に行われていない等の審理不尽がある

試行的面会交流の実施を積極的に検討して、その結果をも踏まえて直接交流の可否や面会交流の具体的方法、頻度、内容等を検討して定める必要があるとして、本件を東京家庭裁判所に差し戻す旨の決定をした。 
  民事p15
東京地裁R4.10.28  
  路上で原告が逮捕された状況を撮影した動画をYoutubeに投稿⇒肖像権侵害で不法行為とされた事例
  事案 本訴:名誉権、肖像権及びプライバシー権を侵害⇒不法行為に基づき、60万円及び遅延損害金の支払を求めた。 
反訴:著作権(複製権及び公衆送信権)、著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)又はプライバシー権を侵害された⇒不法行為に基づき438万7900円及び遅延損害金の支払を求めた。、
  争点 被告による名誉毀損及び肖像権侵害、原告による著作権又は著作者人格権侵害の各成否。 
  判断   ●名誉毀損の成否 
・・・名誉毀損の有無につき、一般の視聴者の通常の注意と視聴の仕方を基準とすれば、本件逮捕動画は、原告が警察官によって白昼路上で逮捕されて手錠をかけられたなどという事実を摘示することであり、これをYouTubeに投稿することが、原告の人の品性、徳行、名声、信用等の自覚的価値について社会から受ける客観的評価を低下させることは明らか。
本件逮捕動画は、・・・白昼路上で逮捕された容疑者と警察官とのやり取りを、テロップを付す等して面白おかしく編集して嘲笑の対象とするもの⇒専ら公益を図る目的に出たものとはいえず、違法性を欠くものと認めることはできない。
  ●肖像権侵害 
人の肖像を無断で使用する行為が肖像権を侵害するものとして不法行為法上違法となる場合につき、最高裁判例の流れを踏まえ、3類型に整理して判断基準を示した。
肖像:個人の人格の象徴⇒当該個人は、人格権に由来するものとして、みだりに自己の容ぼう等を撮影等される、又は事故の容ぼう等を撮影等された写真等をみだりに公表されない権利を有する。
他方、人の容ぼう等の撮影、公表が正当な表現行為、創作行為等として許されるべき場合もある。

肖像等を無断で撮影、公表等する行為は、
(1)撮影等された者の私的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公共の利害に関する事項ではないとき、
(2)公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するものであるとき、
(3)公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公表されることによって社会通念上受忍すべき限度を超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるとき等、
被撮影者の被る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超える場合に限り、肖像権を侵害するものとして不法行為法上違法となる。
本件:
白昼路上において原告の容ぼう等が撮影されたもの⇒公的領域において撮影されたもの(2)(3)。
・・・原告と警察官が押し問答となり、原告が警察官による片手に手錠を掛けられ、原告が複数の警察官に取り囲まれるなどという現行犯逮捕の状況等を撮影⇒本件逮捕動画の内容が社会通念上受忍すべき限度を超えて原告を侮辱するものであることは明らか(2)。
●著作権侵害の成否 
本件逮捕動画等を下に作成した原告の動画をYouTubeに投稿する行為は著作権侵害を構成する。
but
引用(著作権法32条1項)の各要件に本件の事実関係を当てはめて、YouTubeその他の動画共有プラットフォームにおける表現活動等を保護する重要性⇒本件の事案の限度ではいずれも引用の抗弁が成立して著作権を侵害しない。
  ●著作者人格権侵害の成否 
同一性保持権の侵害について、
原告が投稿した動画に引用された本件逮捕動画の内容は、原告の名誉権及び肖像権を侵害⇒原告の容ぼうにモザイク処理を施したり、音声加工を施したりして改変することは、前記の各権利が繰り返し侵害されることを回避するために必要な措置

著作権法20条2項4号にいう「やむを得ないと認められる改変」に該当
⇒同一性保持権侵害は成立しない。
氏名表示権の侵害:
・・・
原告の前記動画では、本件逮捕動画の著作権が被告であることが明示されている⇒本件逮捕動画に係る氏名表示権が侵害されたものとはいえない。
  解説 肖像権をめぐる法的問題についての判例法理の展開及び肖像権侵害に関する判断基準における受忍限度論の展開や限界
⇒判例時報2552号45~47参照 
第3類型該当性については、直接判示するものではない。
←被告がそれを主張していたとはうかがわれない。
最高裁(教師批判ビラ配布事件)の事案:
教師らの氏名・住所・電話番号等を個別的に記載したビラが大量に配布され、電話、葉書等による嫌がらせや非難攻撃を繰り返し受けたというもの。
本件:本件逮捕動画がYouTubeにアップされたとしても、名誉又は名誉感情が害されるのは格別、前記のような結果まで直ちに生ずるものとはいえず、その余の特段の事情がない限り、第3類型該当性を肯定することはできないように思われる。 
本判決:
仮に原告が肖像権とは別途のプライバシー侵害を主張するとしても、原告の肖像とは紐づけられないような、これとは別途のプライバシー侵害して特定して主張するものではないから、主張自体失当。
原告の主張を前提としても、そもそも白昼路上という公的領域において撮影されている⇒プライバシー侵害を認めることはできないと補足。

肖像権とは、肖像に紐づけられたプライバシー、名誉感情、平穏に日常生活を送る利益を、それぞれ保護する権利⇒原告のプライバシーに関する主張は、肖像権侵害の主張に包含されるものと整理したものと解される。 
  労働p31
大阪地裁R4.3.30  
  二重の労働者供給(二重派遣)の状態にあった事案
  事案  Y1(ゼネコン)⇒Y2⇒Y3と再委託。
Y3の従業員であったX:
前記委託契約及び再委託はいわゆる偽装請負であり、
Y1との間に対しては黙示の労働契約が成立したか、労働者派遣法40条の6所定の労働契約申込みみなし制度に基づき労働契約が成立
Y2に対しては同条に基づき労働契約が成立
Y3に対しては前記偽装請負について労働局に是正申告したところ解雇されたのは無効な解雇に当たる(Y3は退職合意を主張)

Yらのそれぞれに対して地位確認並びに賃金(1か月37万円)及び遅延損害金の請求をするとともに(同時審判の申出あり)、前記偽装請負につきYらの共同不法行為が成立
⇒Yらに対して慰謝料等220真ねん及び遅延損害金の連帯支払を求めた。
  争点 ①XとY1との間の黙示の労働契約の成否
②Y1、Y2に対する労働者派遣法40条の6第1項5号の該当性
③Y3・X間の退職合意の有無ないしY3による解雇の有効性
④Yらによる不法行為の成否
  判断  ●争点① 
Y1の担当課長からXに具体的な指示命令が行われ、これに従ってXが業務に従事⇒Y1とXとの間に事実上の使用従属関係をうかがわせる事情はある
but
①Y3はY1の新築工事の作業所での業務の話題が出る前にXの採用内定をしていた
②XとY3の契約形態は期限の定めのない労働契約であって、期限のあるY1での業務にのみ従事させることが予定されていたわけではない
③Y3は、Xの業務について、業務の予定と実績、労働時間及び実費を把握し、これを基にXの賃金を計算して支給

XとY1との間の労働契約と相いれないXとY3の労働契約関係があり、契約締結に至る経緯や契約の内容、賃金支払事務処理の状況等からも、XとY3との労働契約が形骸化していたとはいえず、XとY1との間に事実上の使用従属関係や賃金支払関係等が成立していたとも認めることはできない
⇒黙示の労働契約の成立を否定。
  ●Y1に対する労働者派遣法40条の61項5号の該当性(争点②) 
Xの就労について、形式的には、
Y1がY2に施工図作成業務を委託し
Y2がY3に同業務を再委託し
Y3が自らの労働者であるXを同業者に就かせるという二重請負(業務委託)の状態。
①Xに対する業務の遂行方法に関する指示は専らY1から行われていたという就労実態や
②労務の提供に対する側面が強い対価の決め方

実質的にはY1が前記の二重請負の契約を経て、Y3の労働者であるXに直接指揮命令を行い、Xの労働の提供を受けるという二重の労働者供給(二重派遣)の状態であった。
Y1に対するみなし制度の適否について、労働者派遣法40条の6が対象としているのは、「労働者派遣の役務の提供を受ける者」であるところ、Y1の契約の相手方であるY2はXと雇用関係にはない⇒Y1とY2は労働者派遣法2条1号所定の「労働者派遣」の関係にない。
⇒Y1はみなし制度の対象には当たらない。
X:このような場合にも労働者派遣法40条の6が適用又は準用されるべき
vs.
労働者派遣法は、労働者派遣事業を職安法所定の労働者供給事業から除外した上で、派遣元及び派遣先に対して規制を講じており、同条もまたその規制の1つとして違法派遣を受け入れたものに対する契約締結の強制という民事的制裁を定めているという規制の仕組み
⇒労働者派遣法所定の労働者派遣に当てはまらない労働者供給に準用又は類推することは予定されていない。
  ●Y2に対する労働者派遣法40条の61項5号の該当性(争点②)
Xの就労のうち、Y1からの委託に係る業務が開始するまでの間については、Y2の支店におけるXの就労の実質は請負であり、労働者派遣には当たらない。
①仮に労働者派遣に該当するとしても、Y2の業務指示は積極性に乏しいものといえる上、その期間も1週間に満たない、
②Y2が以前にも労働局から同様の是正指導を受けながら同様の契約を繰り返していたといった事実は認められない
⇒Y2に労働者派遣法40条の6第1項5号所定の「労働者派遣法の規定の適用を免れる目的」(偽装請負等の目的)を見出すことはできない。
Xの就労のうち、Y1からの委託に係る業務開始後については、Y1がY3に雇用されている労働者であるXに直接指揮命令を行い、労働者派遣に必要な事項を定めることなくXの労務の提供を受けるという二重の労働者供給(二重派遣)の状態にあり、その場合、Y2は職安法4条7項(現8項)の労働者供給をY1に対して行ったものとして職安法44条に違反するものの、労働者派遣法40条の6第1項の「労働者派遣の役務の提供を受ける者」ではない⇒みなし制度の対象には該当しない。
  規定  労働者派遣法 第四〇条の六
 労働者派遣の役務の提供を受ける者(国(行政執行法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第四項に規定する行政執行法人をいう。)を含む。次条において同じ。)及び地方公共団体(特定地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第二項に規定する特定地方独立行政法人をいう。)を含む。次条において同じ。)の機関を除く。以下この条において同じ。)が次の各号のいずれかに該当する行為を行つた場合には、その時点において、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす。ただし、労働者派遣の役務の提供を受ける者が、その行つた行為が次の各号のいずれかの行為に該当することを知らず、かつ、知らなかつたことにつき過失がなかつたときは、この限りでない。
一 第四条第三項の規定に違反して派遣労働者を同条第一項各号のいずれかに該当する業務に従事させること。
二 第二十四条の二の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること。
三 第四十条の二第一項の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること(同条第四項に規定する意見の聴取の手続のうち厚生労働省令で定めるものが行われないことにより同条第一項の規定に違反することとなつたときを除く。)。
四 第四十条の三の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること。
五 この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第二十六条第一項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること。
  解説   ●社外労働者と受入企業との間の黙示の労働契約の成否 
社外労働者と受入企業との間の黙示の労働契約の成否:
裁判例は、一般に、
使用従属関係の有無をはじめ、業務内容、勤務の実態、賃金採用形態等を検討して社外労働者と受入企業との間で労働契約を目次に合意したと評価し得るか否かを判断。
指揮命令関係があるというだけでは黙示の労働契約外成立すると評価するには不十分との指摘。
本件:
一定の使用従属関係をうかがわせる事情はあるものの、
受入企業ではないY3との間の労働契約締結に至る経緯や契約の内容、賃金支払事務処理の状況等から受入企業Y1との労働駅訳の締結を否定。
~これまでの裁判例の傾向に沿った判断。
  ●多重請負の形態で偽装請負等の状態となっている場合におけるみなし制度の適否 
注文主への適用を肯定する見解(菅野)もあるが、
①労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を講ずるものであるという労働者派遣法の基本的な位置付け
②労働者派遣法40条の6は、違法派遣を受け入れたものに対して契約を締結を強制するという民事的制裁をもって、規制の実効性を確保しようとするもの
⇒みなし制度の対象もまた労働者派遣事業を行う者と解すべきであり、労働者派遣の定義に当てはまらない労働者供給にまで準用ないし類推することは避けるべきとの判断。
労働者供給に該当する元受人(Y2)もまた「労働者派遣の役務の提供を受ける者」に当たらない

①職安法4条7項(現8項)は、「労働者供給」には労働者派遣法2条1号所定の「労働者派遣」に該当するものを含まない旨を定めて両者を峻別
②労働者供給に該当することによる規制等を受ける上に労働者派遣法上の措置を重ねて受けることは不合理
⇒結論において妥当。
  ●偽装請負等の目的の有無 
  ●受入企業の不法行為責任 
受入企業による社外労働者の取扱いが動議的に問題と考えられる場合には、不法行為責任を認めて慰謝料請求を一定限度で認容する傾向(菅野)
but
本件では不法行為責任は否定。

Xが、労働局に偽装請負の申告をする一方で、自ら積極的に注文主(Y1)の担当課長に業務指示を仰ぐなどして積極的に業務上の指示関係が形成されるような言動を行うなどして違法な事実作出するなどの態度に出ていた(他方で、多数回にわたり行政機関に告訴などをしていた。)といった本件の具体的な事実関係を踏まえたもの。
  刑事p55
最高裁R2.12.7  
  自首は成立しないとされた事案
  事案 被告人が、自宅で知人女性を絞殺した殺人等の事案。 
殺害したのはその嘱託を受けたことによるものであるなどとして、嘱託殺人罪が成立するにとどまると主張するとともに、捜査機関に発覚する前に、嘱託を受けて被害者を殺害したと捜査機関に申告→刑法42条1項の自首が成立すると主張。
  争点 申告内容に虚偽が含まれていた場合の自首の成否 
  判断 被告人が、自宅で、被害者をその嘱託を受けることなく殺害した後、嘱託を受けて被害者を殺害した旨の虚偽の事実を記載したメモを遺体のそばに置いた状態で、自宅の外から警察署に電話をかけ、自宅に遺体があり、そのそばにあるメモを見れあ経緯が分かる旨を伝えるとともに、自宅の住所を告げ、その後、警察署において、司法警察員に対し、嘱託を受けて被害者を殺害した旨の虚偽の供述

被告人は、嘱託を受けた事実がないのに、嘱託を受けて被害者を殺害したとの事実を偽って申告しており、自己の犯罪事実を申告したものということはできない
⇒刑法42条1項の自首は成立しない。
  規定 刑法 第四二条(自首等)
罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。
2告訴がなければ公訴を提起することができない罪について、告訴をすることができる者に対して自己の犯罪事実を告げ、その措置にゆだねたときも、前項と同様とする。
  解説   自首:犯人が捜査機関に対し自発的に自己の犯罪事実を申告し、その訴追を含む処分を認める(委ねる)こと
任意的減軽

①犯罪の捜査及び犯人の処罰を容易にする
②改心により非難が減少する(副次的理由)
  ●申告内容に虚偽が含まれていた場合
判例:
(1)運転を誤って自動車を海中に転落させ同乗者を負傷させる事故を起こした者が、警察官の取調べに対し、いったんは、同乗者がいなかったと嘘をつき、自己に嫌疑が及ぶことを妨げた
but
警官に発覚する前に自ら進んで警察官に申告⇒自首が成立。
(2)拳銃を適合実包と共に携帯して所持し発射した者が、捜査機関に発覚する前に、これらの犯行に及んだことを捜査機関に申告
使用した拳銃について虚偽の事実を述べるなどしたとしても、自首が成立。

捜査機関に発覚していない犯罪事実を申告する前(自首の前)に嘘を言った事例(1)
犯罪事実に属しない事実について虚偽があるが犯罪事実(犯罪構成要件を充足する事実)自体は申告していた事例(2)
⇒犯罪成立要件の一部を否認する申告をした場合等に、どの範囲で自首が成立するかは課題として残された。
多くの実務家の見解は、犯罪事実の「重要な部分」の申告を要するという基準に基本的に依拠しており、これを具体化する類型的な検討が積み重ねられている。
  本件:
自己の成立を否定

自己の犯罪事実を申告したものということはできない。
~自首の成立要件に該当しないことを端的に判断している。
~法律上、自首の成立要件該当性の判断と刑の任意的軽減の当否の判断とを2段階で行うことが規定⇒まずは自首の成立要件該当性の判断を行う必要。
自己の犯罪事実を申告したということができない
←嘱託を受けた事実がないのに、嘱託を受けて被害者を殺害したと事実を偽って申告
①成立する犯罪類型に影響する事実を偽って申告⇒殺人罪の犯罪事実を申告したということはできない
②殺人が嘱託を受けたものであるかそうでないかでは、社会的実体として重要な部分に違いがあるということもできる
  刑事p58
大津地裁R3.12.21  
  自動車死傷法3条の危険運転致死傷罪の成立を認めた事案
  解説 自動車死傷法3条の危険運転致死傷罪は、自動車死傷法の制定により新たに設けられた。

平成13年法律第138号による刑法の改正により創設された危険運転致死傷罪(現自動車死傷法2条)の適用が困難とされた事案の存在。

従来の危険運転致死傷罪の適用は困難ではあるが、酒気帯び運転と自動車運転過失致死傷罪(現過失運転致死傷罪)を適用するだけではその当罰性を十分に評価し得ないような悪質・危険な運転行為に起因する死傷事故事案に対応する目的で新設された、中間類型、。 
  主張 検察官:被告人は、運転開始前に飲んだ酒の影響により、前方注視及び正常な運転操作に支障が生じるおそれがある状態で被告人車両を運転し、もってアルコールの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で被告人車両を運転し、よって、そのアルコールの影響により前方注視及び正常な運転操作が困難な状態に陥って被告人車両を対向車線に進出させ、本件事故を惹起⇒自動車死傷法3条1項の危険運転致死罪により被告人を起訴。
弁護人:被告人は、連日の長時間勤務による疲労と睡眠不足等によって眠気を催したものであり、アルコールの影響により、前方注視及び正常な運転操作が困難な状態にあった者ではない⇒無罪を主張。 
  争点・手続
公判前整理手続

①被告人が、アルコールの影響により、その走行中に正常な運転に支障を生じるおそれがある状態で自動車を運転したか
②本件事故時において、被告人が、アルコールの影響により前方注視及び正常な運転操作が困難な状態に陥っていたか 

証拠調べ手続において、まず、前提となる事実関係(本件事故前の飲酒状況)に関する証人尋問等
⇒期日間整理手続によおける更なる争点・証拠の整理
⇒前記の争点につき、アルコール医学の専門家の証人尋問や被告人質問等
職権により、被告人を含む当事者立会の下、本件事故現場付近の道路状況に関する検証が実施。

酒気帯び運転及び過失運転致死の訴因が予備的に追加。
  規定 自動車死傷法 第三条
アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。
  判断等  本件事故前の飲酒状況、被告人の体内のアルコール保有量、本件事故前の運転状況
⇒これらを総合して、被告人は、
①アルコールの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し
②アルコールの影響により正常な運転が困難な状態に陥って本件事故を惹起

ア・・・正常な運転能力ないし思考・判断能力に影響を与える程度のアルコールを体内に保有
イ・・・被告人の逆走開始時及び逆走開始後の異常運転は、仮睡状態や意識朦朧状態でできるものではなく、被告人が覚醒状態で意識的に行ったものと認められる。
覚醒状態下で、道路状況を誤認することなく、対向車線に出る必要もない中、対向車線と衝突して死傷結果を伴う事故を惹起する危険のある運転行為を選択する判断は明らかに不合理⇒その原因については、アルコールによる思考・判断能力の低下の影響によるものとみるとのが自然である一方、強い眠気によるものと考えることは困難
ウ逆走開始後の異常運転と、強い眠気による意識レベルの低下を原因とすると考えられる逆走開始前の異常運転(ふらつき、急減速等)とは、外形的な運転態様や被告人の意識レベル等において異質
but
時間的・場所的に連続しており、共通の原因によるものとみるのが自然。
共通する原因としては、運転開始前の飲酒によるアルコールの影響意外には考え難い。

運転開始前の飲酒の影響に加え、連日の長時間勤務による疲労の蓄積と睡眠不足等の事情が相まって強い眠気⇒左右へのふらつきや急な減速等の異常運転
⇒その後、強い眠気が解消・軽減して覚醒状態になったものの、以前として体内に保有するアルコールの影響下で明らかに不合理な判断⇒対向車線に進出するなどの異常運転。

専ら疲労の蓄積や睡眠不足等に起因する強い眠気によるもの⇒逆走開始後の異常運転について合理的に説明することは困難。
  過労等の他の原因が「正常な運転が困難な状態」となったことに影響を与えている場合には、それでもなお「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」に陥った場合と認められるか?
条文解釈:他の原因のみでは「正常な運転が困難な状態」に至るとまではいえないが、飲酒の事情と相まってこのような状態に至った場合には前記場合に該当するものと一般に解される。
but
具体的な事例における当てはめは必ずしも容易ではない。
本判決:
ア:本件事故を惹起した直接の原因となる異常運転(逆走運転)そのものに焦点を当てて検討
イ:時系列を遡り、逆走開始後の異常運転及びこれに先行する異質な異常運転という一連の運転行為全体に着目した検討も行った上で、
前記疲労や眠気等、他の原因が併存してはいるものの、飲酒行為がなければ「正常な運転が困難な状態」に陥ることは無かった
⇒自動車死傷法3条の危険運転致死罪の成立を認めた。
  解説  ●公判前及び期日間整理手続の弾力的な運用 
公判前整理手続きにより大枠での争点・証拠整理⇒前提となる事実関係に関する証拠調べ⇒期日間整理手続⇒実施済みの証拠調べの結果をも踏まえた更なる争点・証拠整理⇒専門家商人の尋問等の証拠調べ。

争点・証拠整理と証拠調べを段階的に行うことで、審理の充実及び迅速化を実現する意図。
裁判員対象事件では実施困難である上、公判前整理手続を終了した場合には、証拠調べ請求の制限効(刑訴法316条の32第1項)が生じる。
裁判員非対象事件においては、選択し得る審理運営上の工夫として参考になる。
  ●事故現場における検証 
争点を判断する上で必要となる事故現場及びその付近の道路状況の認識・把握は、客観的な図面によって賄うことができる部分もある一方、図面上では正確に把握するいことのできない湾曲や傾斜、勾配等の道路状況につき、裁判官の五官により確認する必要⇒職権で検証。
弁護人の主張を踏まえ、仮睡状態でも本件事故現場に至るまでの道路をその形状に沿って進行できるかを確認する目的で、
3種類の走行実験。

最高裁(海の中道事件)が、控訴審判決の依拠した実験結果について、「本件事故等の被告人運転車両の走行状況と前提条件が同じであるといい難い」と指摘してその証拠価値に対する消極評価。
  ●体内アルコール保有量の認定 
体内アルコール保有量は、当事者間で主張が激しく対立。
本判決:
専門家の意見のうち、専門的知見として尊重すべき事項と、前提条件に合理性を欠くことから依拠すべきでない事項を区別した上、算定に用いるべき複数の変数を慎重に認定、選択しつつ、きめ細かく体内アルコール保有量を算定。
  ●量刑 
自動車死傷法3条の危険運転致死罪の裁判連は限られており、明確な量刑傾向が形成されるだけの事例の蓄積もない。
本判決:
同罪の過去の裁判例を参照するとともに、
罪質において類似性、共通性のある自動車死傷法2条1号の危険運転致死事案及び酒気帯び運転を伴う過失運転致死事案の量刑傾向をも参照して被告人に対する刑を量定。
2554   
  民事p5
最高裁R4.10.6  
  マンション立替事業の施行者の補償金の供託義務に対する複数の差押命令がなされた場合の供託
  事案 Y:被上告人:マンション建替法のマンション建替事業を施行する施行者。
本件マンションの区分所有者であったAは、Yに対し、マンション建替法75条1項に基づく補償金の支払請求権を有していた。
本件:本件債権を差し押さえたX(上告人)が、Yに対し、本件補償金を供託の方法により支払うことを求める取立訴訟。
争点 施行者は、区分所有者の所有する専有部分について先取特権、質権又は抵当権が設定される場合、抵当権者等を有する者の全てから供託をしなくてもよい旨の申出がない限り、補償金を供託しなければならず(マンション立替法76条3項)、抵当権者等は、当該供託された補償金に対して物上代位権を行使することができる(マンション立替法77条)。
Yは、Xによる差押えの後、本件保証金について、Aを被供託者とし、マンション建替法76条3項を根拠法条とする供託(「本件供託」)をしている⇒本件供託による本件債権の消滅をXに対抗することができるか?
  事実 ①Aの所有する専有部分について抵当権及び根抵当権の設定並びにその旨の各登記
②Aの本家債権の取得
③本件債権についてXによる差押え
④本件債権について抵当権者及び根抵当権者による複数の差押え
⑤本件供託

本件供託当時、本件債権について、差押えの競合が生じていた。
本件債権の額は、前記抵当権及び根抵当権の被担保債権の合計額を上回っていた。
  原審 施行者がマンション建替法76条3項に基づく補償金債権に対して複数の差押命令が発せられ、差押えの競合が生じたとしても、施行者は、マンション建替法76条3項のみを根拠法条とする供託をするほかない⇒これをもって差押債権者らに対抗することができる⇒Xの請求を棄却。 
  判断 施行者がマンション建替法76条3項に基づく補償金の供託義務を負う場合において、補償金債権に対して複数の差押命令が発せられ、差押えの競合が生じたときは、施行者は、補償金について、マンション建替法76条3項に基づく供託義務に加え、民執法156条2項に基づく供託義務を負い、マンション建替法76条3項及び民執法156条2項を根拠法条とする混合供託をしなければならない
⇒Yは、本件供託をもってXに対抗することができない。
⇒原判決を破棄し、第1審判決を取り消してXの請求を認容。
  解説 施行者がマンション建替法76条3項に基づく補償金の供託義務を負う場合において、補償金債権に対する差押命令が発せられ、差押えの競合が生じたときに、施行者がいかに供託をすべきであるのかが問題。
マンション建替法76条3項は、特別法によって抵当権等の目的物の消滅に伴う抵当権者等の物上代意見の保護を図ることを目的とするもの。
第1審・原審が参照する、区画整理法112条1項を根拠法条とする供託についての最高裁昭58.12.8:

区画整理法の換地処分に伴う清算金債権に対する差押・転付命令を得たものが、その後に清算金について区画整理法112条1項を根拠法条とする供託をした施行者に対して、清算金の支払を請求した事案において、抵当権が設定されている宅地の所有者は、施行者に対し直接清算金の支払を請求することができず、単に施行者に対し清算金を供託すべきことを請求し得るにすぎないものと解される⇒抵当権が設定されている宅地についての清算金債権に対し差押・転付命令を得たものは、供託不要の申出がない限り、施行者に対し清算金の支払を請求することができない旨を判示。

差押・転付命令と区画整理法112条1項の供託の関係というよりも、所有者の施行者に対する直接の支払請求の可否から前記の結論を導いたものであり、当該事案における供託の効力や施行者がすべき供託について何らかの判断を示したものではない。
補償金債権に対する差押えは、抵当権者等の保護の要請に直ちに影響するものとはいえない⇒その差押えの有無が施行者のマンション建替法76条3項に基づく供託義務の有無に影響するとはいい難い。
民執法156条2項は、1個のの債権に対する差押えの競合が生じた場合に第三債務者がその債権全額を供託する義務を負う旨を規定するところ、マンション建替法その他関係法令において、マンション建替法76条3項に基づく供託義務と民執法156条2項に基づく供託義務の関係を調整する規定は存しない。

施行者がマンション建替法76条3項に基づく補償金の供託義務を負う場合において、補償金債権に対する複数の差押命令が発せられ、差押えの競合が生じたときは、施行者は、マンション建替法76条3項に基づく供託義務及び民執法156条2項に基づく供託義務の双方を負うというのが素直な解釈
⇒本件混合供託をしなければならない。
供託実務では、第三債務者が複数の供託義務を負い、これら各供託義務を調整する規定がない点で本件に類似する「対抗要件を具備した質権の目的債権について一般債権者の差押えが競合した場合に、未だ被担保債権の弁済期前で直接の取立てをできない債権者が、第三債務者に対し、民法366条3項に基づき、前記目的債権に係る金員を供託するように請求する事案」においては、第三債務者は、民法366条3項及び民執法156条2項を根拠法条とする混合供託をしなければならない旨の取扱い。 
施行者が本件混合供託をした場合、抵当権者等は、物上代位権を行使することによって、差押債権者らに優先して供託金の払渡を受けることができる(マンション建替法77条)。
抵当権者等が供託金から払渡を受けた後に剰余あり⇒差押債権者らは、執行手続において、その残額について配当等を受けることができる。

マンション建替法76条3項の前記趣旨に合致し、また、抵当権等の目的物に係る補償金債権を差押えた債権者においても、その期待に沿った債権の回収が可能となるものであり、利害関係人の利益状況にも合致。
仮に、施行者は、本件混合供託をすることができず、マンション建替法76条3項の供託においては区分所有者を被供託者とするものとされている⇒抵当権者等が物上代位権を行使して供託金から払渡を受けた後に剰余があったとしても、供託手続において補償金債権に対する差押えの事実は考慮されることはなく、差押債権者が改めて供託金の払渡請求権に対する差押命令を取得しない限り、被供託者である区分所有者が、供託金払渡手続によって、その剰余金の払渡を受けることができることになる。
他方で、供託不法の申出があった場合には区分所有者は施行者に対して補償金の支払を請求することができることとなる。
区分所有者の一般債権者は、供託不要の申出があったか否かを当然に知る立場にない
⇒区分所有者に補償金が支払われないようにするためには補償金債権を予め差し押さえる必要がある。

区分所有者の一般債権者(差押債権者)は、自己の債権を確実に保全するためには、補償金債権を差し押さえ、さらに補償金について供託がされた後に供託金の払渡請求権を再度差し押さえることが必要となり、二重の差押手続を要求することとなる。
vs.
このような差押債権者の犠牲、負担の下で区分所有者が利得を得る不合理な状況は、マンション建替法76条3項の前記趣旨から説明できるものではない。
  民事p12
東京高裁R4.3.11  
   
  事案 優生保護法に基づいて強制不妊手術を受けられたと主張⇒国に対し、国賠法1条1項に基づいて損害賠償請求等を求めた。 
  主張 主位的:Y(国)に対し、主位的に、 本件優生手術が憲法13条、14条1項、36条に違反する違憲・違法なものであるにもかかわらず、所管大臣等において、これを漫然と実施させた違法がある
予備的:Xを含む優生手術の被害者の被害回復を図るための施策として、被害回復を図るための金銭賠償等に係る特別立法をすべきであったのに、国会議員において長期にわたりこれを怠った不作為の違法がある

慰謝料及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、併せて謝罪広告を求めた。
  争点 旧民法724条後段の規定の適用 
  原審 旧民法724条後段を適用して排斥 
予備的請求について、立法措置が必要不可欠であり、かつ、そのことが明白であったとはいえない。
  解説   ●除斥期間と起算点
  旧民法724条後段:
被害者の認識のいかんを問わず一定の経過によって法律関係を確立させるため請求権の存続期間を画一的に定めたものであり、除斥期間(最高裁)。

起算点をいつの時点と考えるべきかが争われてきた。
最高裁:じん肺事件につき、「身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害や、一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害のように、当該不法行為により発生する損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には、当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となる」
  ●期間経過による効果の制限 
最高裁:
不法行為の被害者が不法行為の時から20年を経過する前6か月内において右不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において、その後当該被害者が禁治産宣告を受け、後見人に就職した者がその時から6か月内に右損害賠償請求権を行使したなどの特段の事情
⇒民法158条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じない。
最高裁:
被害者を殺害した加害者が、被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し、そのために相続人はその事実を知ることができず、相続人が確定しないまま上記殺害の時から20年が経過した場合に、その後相続人が確定した時から6か月内に相続人が上記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権を行使したなど特段の事情⇒民法160条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じない。
  ●旧優生保護法に関する同種事案
本判決:
時効の感性を延期する時効停止の規定を参照することなく、Yにおいて被害者が情報を入手できる制度を整備することを怠ってきたこと等⇒除斥期間の経過によって被害者の権利を消滅させることは、被害の重大性に照らして、著しく正義・公平の理念に反する特段の事情がある。
自己の受けた被害がYによる不法行為であることを客観的に認識し得た時から相当期間が経過するまで、旧民法724条後段の効果は生じない。
⇒一時金支給法の施行日である平成31年4月24日から5年間について、旧民法724条後段の効果は生じない。
大阪高裁R4.2.22:
被害者が訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境にあり、そのまま除斥期間の適用を認めると、正義・公平の理念に著しく反する。
・・・訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境が解消されてから6か月を経過するまでの間、除斥期間の適用が制限されるものと解するのが相当。
  民事p81
東京地裁R4.3.25  
  弁護士が非親権者に子を連れ去り別居指導⇒親権者に対する不法行為(肯定)
  事案  X(元夫)とY1(元妻)は、(平成27年1月)子らの親権者をXと定める離婚届を提出して協議離婚⇒Xと子らはいったん3人で共同生活を解し⇒Y3は再婚せずに(平成27年5月から)X及び子らと同居を再開 ⇒平成28年1月、弁護士であるY1及びY2から個らを連れて別居することを肯定する助言を受けて、子らを連れてXと別居し、実家でY3の母であるY4と同居を開始。
  ⇒Xが、Y3が子らをXの下から連れ去ったこと、Y1及びY2がY3の前記連れ去りを唆したこと、Y4がY3に住居を提供するなどして前記連れ去りに協力したことが共同不法行為に当たる⇒Yらに対し慰謝料等を連帯して支払うよう求めた。
  判断 ●Y3が子らを連れて本件別居をしたこと 
①XとY3の協議離婚はY3の自発的意思に基づくものであり、本件別居時、子らはXの単独親権下にあった、
②親権を有しない親であるY3が親権者であるXの下から子らを連れ出すことは、Xにおいて単独で子らを監護することが明らかに子らの幸福に反する事情が存しない限り、不法行為法上違法となる
③子らはXに親和的な態度を一貫して示しており、Xの単独監護状況に問題は認められない
⇒前記事情は認められない
⇒不法行為の成立を肯定。
  ●本件助言 
①自力救済が原則として違法となる⇒裁判外での実力行使を助言することについては慎重な検討を要する
②裁判を経ることなく親権者の下から子らを連れ出すという実力行使に及ぶことが人身保護上原則として違法となることは判例上確立しており、本件助言が前提とする法解釈はこれと整合しない
③Y1及びY2は、Y3から聴取した事情等からすと、Y3が子らを残して単独で別居することが直ちに子らの福祉を害するものではなく、子らを連れ出す緊急の必要性が認められないことを認識していたか容易に認識し得た。

Y1及びY2がY3による子らの連れ出しという違法な実力行使を肯定する本件助言をしたことは不法行為法上違法であり、過失がある
⇒Y3ともに共同不法行為責任を負う。
  Y4の共同不法行為責任については、不法行為を構成するほどの関与があったとは認められない。 
  解説   ●本件別居
判例:
意思能力なき幼児の監護が、
意思能力がある幼児であってもその自由意思に基づいて監護者の下にとどまっているわけではない場合の監護が、
それぞれ人身保護法条の拘束に当たる。
親権者が、親権を有しない親に対し、人身保護法により親権に服すべき意思能力なき幼児の引渡しを求める場合には、請求者(親権者)に幼児を引き渡すことが明らかにその幸福に反するものでない限り、拘束者(親権を有しない親)の監護が平穏に開始され、かつ、現在の監護の方法が一応妥当なものであっても拘束者による拘束はなお顕著な違法性を失わない。
  本判決:
東京地裁H14.10.23などと異なり、被侵害利益につき、親権又は監護権ではなく、「子らと不法に引き離されることのないというXの法律上保護される利益」と判示。

近年の議論においては、親権につき、専ら子の監護や保護に向けた義務としての側面を強調する考え方に変わってきており、権利としての側面が希薄化してきている面もあることから、被侵害利益をより具体的にとらえて前記判示に及んだものと解される。
  単独監護が明らかに子らの幸福に反する事情の有無:
本件別居後に係属した子らについての複数の家事事件における家裁調査官による調査や、Xが申し立てた人身保護請求事件における子らの代理人の報告等で、子らはXに対し一貫して親和的な姿勢を示しており、Xによる子らの単独の監護状況にも特段の問題が認められないとされているところに特徴がある。 
  ●本件助言
弁護士は依頼者の利益を図る義務がある⇒確立した法解釈がない分野について代理人として活動し、事後的に前提とした法解釈が誤りであるとされた場合は、依頼者の利益のために確立した判例と反する法解釈に基づき代理人として活動することにつき直ちに弁護士の責任を肯定すると、弁護士が入り者の利益を図るために活動することに消極的となり、ひいては依頼者の利益が図られない結果となりかねない。
⇒これらの弁護士としての活動が裁判上される場合は、裁判を受ける権利の保護の観点からも尊重されるべき。
but
違法行為と知りつつこれを教唆、幇助するような助言が許されるものではなく(助言による強制執行妨害罪の幇助犯の成立を認めた例)、自力救済が原則として違法となる⇒弁護士が裁判外の実力行使を肯定する助言をすることについては慎重に検討すべき。
  共同親権下の子を片方の親が連れ出した場合には別途の考慮が必要となるものと解される。 
  知財p92
東京地裁R4.10.28   
  通知書の交付が不正競争行為に該当するとされた事例
  事案 原告が、被告らが原告の取引先10社に対して、原告の製造又は販売する製品は被告A(被告会社の取締役)が共有する特許権を侵害している旨の通知書を送付した行為が、不正競争防止法2条1項21号にいう不正競争行為及び共同不法行為を構成⇒被告らに対し、不正競争防止法3条1項に基づき同行為の差止めを求めるとともに、同行為により原告に損害が生じた

被告らに対し、不正競争法4条及び民法719条1項に基づき損害賠償金1000万円及び遅延損害金の支払を求めた。
  争点 ①本件告知内容の虚偽事実該当性
②本件告知の違法性
③損害額 
  規定 不正競争防止法 第二条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
二十一 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為
  判断   ●争点① 
本件法的見解の告知は不正競争法2条1項21号にいう虚偽事実の告知に含まれる⇒本件告知内容が虚偽事実に該当
競争間関係にある者が、競業者の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し又は流布する行為は、競業者を不利な立場に置き、自ら競争上有利な立場に立とうとするもの⇒公正な競争を阻害。
このような結果を防止し、事業者間の公正な競争を確保する観点から、不正競争法2条1項21号は、前記行為と不正競争の一類型と定めるもの。
・・・・法的な見解の表明それ自体は、意見ないし論評の表明に当たるものであるとしても、前記行為は、不正競争法2条1項21号の前記の趣旨に鑑み、不正競争の一類型に含まれると解するのが相当。

競争関係にある者が、裁判所が知的財産権侵害に係る判断を示す前に当該判断とは異なる法的な見解を事前に告知し又は流布する場合には、当該見解は、不正競争法2条1項21号にいう「虚偽の事実」に含まれるものと解するのが相当。
  キャタピラン+等は、裁判所が本件特許権を侵害すると判断したキャタピラン等を設計変更したものであり、少なくともキャタピラン+等については裁判所が本件特許権を侵害するものではないと判断するにもかかわらず、本件通知書には、キャタピラン+等は本件特許権を侵害していると考えているなどと記載~
本件告知内容は、裁判所においてキャタピラン+等が本件特許権を侵害しない旨の判断を新雌前に当該判断とは異なる法的な見解を事前に告知するものとして、不正競争防止法2条1項21号にいう「虚偽の事実」を含む。 
  ●争点② 
競業者が知的財産権を侵害していないにもかかわらず、その権利者のいて当該競業者が当該知的財産権を侵害する旨告知し又は流布する行為は、不正競争法2条1項21号に定める不正競争に該当する。
もっとも、前記行為が知的財産権の正当な権利行使の一環としてなされたものと認められる場合には、知的財産権の重要性に鑑み、違法性を欠く。
  本件告知行為は、前訴において裁判所による本件特許権を侵害する旨の判断が確定したキャタピラン等の存在を奇貨として、本件特許権を侵害しないように改良されたキャタピラン+等についても、裁判所による判断がされる前に、本件特許権を侵害する趣旨を告知し、原告の取引先に対する信用を毀損することによってキャタピラン+等を早期に「結ばない靴紐」の市場から排斥し、競業する事業者間の競争において優位に立つことを目的としてされたものであることが認められ、その態様は悪質。
⇒本件特許権の正当な権利行使の一環としてなされたものであると認めることはできず、違法性を欠くものということはできない。 
  ●本件告知行為の主体 
本件通知書には通知人が被告会社の代表取締役である旨の肩書も付されている上、
本件通知書の内容が実現されれば、「結ばない靴紐」の市場において優位に立つのは被告会社であることは自明
⇒一般の読み手の普通の注意と読み方とを基準として判断すれば「結ばない靴紐」製品を販売していない被告Aのみならず、同製品を販売して原告と市場で競業する被告会社についても、本件告知行為の主体であると容易に認識されるものといえる

被告会社も被告Aと共同で本件通知書により本件告知行為をした者と認めた。
  ●損害額(争点③)
①・・・当該改良品までもがキャタピラン等と同様に本件特許権を侵害するものである旨の虚偽の事実を取引先に告知されている。
本件通知書の内容、本件通知書が送付された取引先の数、キャタピラン+等の取引を停止した取引先の数、その後の原告の取引先に対する対応その他の本件に現れた一切の事情を総合考慮して、本件告知行為により原告の営業上の信用が毀損された無形損害の額を算定

無形損害の額であっても少なくとも100万円をくだらない。
  解説  ●  ●告知内容の認定 
一般の読み手の普通の注意と読み方を基準として判断すべき。
「信用」:「名誉の経済面」と称されるように、不正競争防止法2条1項21号の規定は、人の品性、徳行、名声、信用等の毀損行為を規律の対象とする名誉権と同種の法益を保護するもの。
⇒前記の理は、不正競争行為に関する告知内容の認定についても、同様に当てはまる。
最高裁H16.7.15:
表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は事実摘示。
証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や論議などは、意見論評の表明。

法的な見解の表明は、判決等により裁判所が判断を示すことができる事項に係るものであっても、法的な見解の正当性それ自体は証明の対象とはなり得ないものであり、法的な見解の表明が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項ということができないことは明らか
⇒法的な見解の表明は、事実を摘示するものではなく、意見論評の表明に当たる。
  ●不正競争法2条1項21号にいう「虚偽の事実」該当性 
知的財産権侵害に係る法的な見解の表明は、意見論評の表明に当たる
⇒意見論評の表明が、不正競争法2条1項21号にいう「事実」に該当するかどうかが問題。
本判決:
競争関係にある者において、裁判所が知的財産権侵害に係る判断を示す前に当該判断とは異なる法的な見解を事前に告知し又は流布する行為は、知的財産権侵害の結果の重大性に鑑みると、競業者の営業上の信用を害することによって公正な競争を訴外することは明らか

法的な見解の表明それ自体は違憲ないし論評の表明に当たるものであるとしても、前記行為は、不正競争法2条1項21号の趣旨目的に鑑み、不正競争の一類型に含まれる。
  ●違法性の存否 
競業者が知的財産権を侵害していないにもかかわらず、その権利者において当該競業者が当該知的財産権を侵害する旨告知又は流布する行為は、不正競争法2条1項21号に定める不正競争に該当するものの、前記行為が知的財産権の正当な権利行使の一環としてなされるものと認められる場合には、知的財産権の重要性に鑑み、違法性を欠く。
  刑事p111
東京地裁R4.6.7  
  自首の成立が否定された事案
  事案 ①A市内での侵入窃盗、②B区内でのキャッシュカードすり替え窃盗、③同カードを使用したATMからの現金窃盗等の事案。 
被告人方で職務質問⇒②事件を自供した後、①事件を自発的に自供。
それに先立ち、A警察署の警察官は、①事件の被害事実を認知した上、その犯人使用車両の登録使用者が被告人であることを割り出していた。
  規定 刑法 第四二条(自首等)
罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。
  判断 捜査機関全体としてみた場合、職務質問開始前(自供前)の時点において、被告人が①事件の際に甲車を運転した犯人であると相当高い確度で絞り込む程度に捜査活動が進捗⇒①事件については、自供前に犯人点を含めて捜査機関に発覚⇒自首の要件を満たさない。 
  解説  ●自首の要件である「捜査機関に発覚する前」
A:捜査機関は、全体としてのそれを指す⇒たまたま申告の相手が犯罪事実を知らなくても、捜査官のだれかが知っておれば、自首軽減にはならない
本件:捜査機関を全体としてみるという解釈について、個々の捜査官・捜査機関が有している情報を個別に検討するのでは被告人を犯人と特定することはできなくても、複数の捜査官・捜査機関が有している情報を総合して検討すれば被告人を犯人と特定できる場合には、自首の要件を満たさない。
  ●犯人使用車両の登録使用者が発覚していたことについて 
東京高裁:
ひき逃げ事故の犯人が加害車両の所有者である場合にあっては、特段の事情のないかぎり、右所有者の氏名が官に判明した時点において、犯人が官に発覚したものと解するのが相当であり、更に進んで官が加害車両の現実の運転者を確知することまでを要するとの所論の見解には左袒できない
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広島地裁:
捜査機関に、本件自動車の所有者(正確には所有名義人)が判明したとしても、その所有者が運転している犯人であるとは限らないし、本件自動車が盗難車かもしれない。
捜査機関としては、本件自動車やその運転者の行方を捜すとともに、本件自動車の所有名義人である被告人やその関係者から事情聴取するなどの捜査を尽くして初めて犯人が被告人であることが発覚