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勉強会(判例時報2023前半)

判例時報の勉強会用の資料です(随時更新)

       
       
       
       
       
       
2553   
  行政p5
最高裁R4.10.31  
  東京都議会議員の議員定数配分の合憲性等
  事案 東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の定数に関する条例に基づき、令和3年7月4日に行われた東京都議会議員一般選挙について、選挙人であるXが、
本件選挙当時、本件条例のうち、
①・・・合わせて1選挙区(島部選挙区)とする規定が公選法271条、憲法14条1項等に違反するとともに、
②各選挙区において占拠する議員の数を定める規定(「本件定数配分規定」)が公選法15条8項、憲法14条1項等に違反する
⇒Y(東京都選挙管理委員会)に対し、本件選挙の江東区選挙区における選挙を無効とすること等を求めた。
  原審 令和2年の国勢調査の速報値の公示が本件選挙の告示日にされた⇒本件選挙の施行までに同速報値に基づいて本件定数配分規定を改正することは事実上不可能。
平成27年の国勢調査による人口に基づいて計算した最大格差等を考慮し、いずれも適法・合憲
⇒Xの請求を棄却。 
  判断 本件選挙の直近に行われた令和2年の国勢調査による人口に基づいて計算し、いずれも適法・合憲。 
  解説  都道府県議会の議員の定数:地自法において、条例で定める(地自法90条1項)
公選法が規定する原則的な選挙区割り及び定数配分の仕組みによっても、議員1人当たりの人口に一定の格差が生ずることがあり得る。
都道府県政が市町村行政を補完するという役割を有することに鑑み、都道府県において、市町村が抱える行政需要を補完し、長期的展望に立った近郊のとれた行政施策を行うための地域代表を確保することを可能にすることにある。
   ● 本件条例2条:東京都議会議員の選挙区を規定
同条3項:島部選挙区を特例選挙区として存置する規定
3条:各選挙区において選挙すべき議員の数を規定 
  特例選挙区が設置されている場合における都道府県議会議員の定数配分規定等の適法性:
最高裁判例:
特例選挙区の設置の適法性(選挙区割りの適法性)について判断し
(適法と判断された)各選挙区について配分された定数の適法性について判断。
①について:
その設置についての都道府県議会の判断が、当該都道府県の行政施策の遂行上当該地域からの代表を確保する必要性の有無・程度、隣接する他の市町村の区域との合区の困難性の有無・程度等に照らし、当該都道府県全体の調和ある発展を図るなどの観点からする裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決すべき
②について:
条例の定める定数配分が公選法15条8項の規定に適合するかどうかについて、都道府県議会の具体的に定めるところが、公選法等の定める選挙制度の下における裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決せられるべきもの。
ア:選挙区間の最大格差
イ:人口比定数と条例定数の隔たりの程度
ウ:逆転現象
が考慮。
定数配分規定等の合憲性の判断に当たって検討すべき事項は、実質的には、公選法適合性の判断に当たって検討すべき事項と重なる。
  定数配分規定等は、
ア:公選法に違反する状態に至り、
イ:公選法上要求される合理的期間内にその是正があれなかった場合に
違法となる。
原審が指摘する選挙試行までに改正することが可能であるか否かという点は、
イの問題であると考えられ、
アを判断するに当たっては、本件選挙の直近に行われた令和2年の国勢調査による人口に基づいて計算した最大格差等を考慮することが相当。
⇒本判決は、令和2年の国勢調査(確定値)による人口に基づいて計算した最大格差等を考慮。
  民事p9
最高裁R4.8.16  
  刑事収容法が規定する作業報奨金んの支給を受ける権利に対する強制執行の可否(否定)
  事案 Xが、Yに対する金銭債権を表示した債務名義による強制執行として、受刑者であるYが第三債務者である国に対して有する、刑務所に服役後出所するに至るまでに行った作業に対する作業報奨金支払請求権につき、債権差押命令を申し立てた事案。
  原決定 ①受刑者の作業報奨金請求権は、釈放時に初めて発生する権利であり、釈放前の受刑者は、釈放の際に作業報奨金の支給を受けることができるという期待権を有するにすぎず、作業報奨金請求権という債権を有してはいない⇒Xが求める作業報奨金請求権は差押えの対象とはならない。
②受刑者の釈放後の当座の生活資金を確保し、所持金がないために再犯に及ぶ事態を防止するといった作業報奨金制度の趣旨・目的に照らしても、前記の結論が相当。
③X:医師の健康保険組合からの報酬と同様に、作業報奨金についても将来発生する債権として差し押さえることは妨げられない。
vs.
作業報奨金は、発生するか否かを事前に予測することができず、債権発生の確実性を欠く⇒Xの指摘する将来債権と同列に論ずることはできない。 
④作業報奨金について差押えを禁止する規定がないのは、作業報奨金請求権の発生時期とその支給時期が一致し、同請求権の差押えを観念する余地がないから。

差押禁止規定がないことをもって差押えが可能であると解することもできない。
    Xが抗告許可の申立て⇒これを許可
  判断  ①作業を行った受刑者以外の者が作業報奨金を受領したのでは、作業報奨金の支給について定める刑事収容法98条の目的を達することができないことが明らか
②同条の定める作業報奨金の支給を受ける権利は、その性質上、他に譲渡することがゆるされず、強制執行の対象にもならないと解するのが相当
⇒前記権利に対して強制執行をすることはできない。 
  解説  ●  監獄法:「作業賞与金を支給することを得」(27条2項)
刑事収容法:「報奨金計算額に相当する金額の作業報奨金を支給するものとする」(98条1項)

釈放の際に受刑者に作業報奨金を支給するかどうか及び支給額について、基本的には刑事施設の長に裁量はない。
釈放の際の作業報奨金の支給に関する処分に不服のある受刑者は、刑事収容法が定める不服申立て(審査の申請)をすることができる(157条1項8号)。

刑事収容法の下では、法律自体によって作業報奨制度の基本的枠組みが定められており、そこでは、報奨金計算額が毎月必ず加算せれなければならず、釈放の際には報奨金計算額に相当する金額の作業報奨金が必ず支払われなければならない。不服申立ても認められている。
⇒作業報奨金は、監獄法下の作業賞与金と比較して、格段にその権利性が高められている。

刑事収容法の下においては、受刑者は、国に対し、遅くとも釈放の際までに、報奨金計算額に相当する金額の作業報奨金の支給請求権を取得するものと解するのが相当。
  刑事収容法の立案担当者:
作業報奨金について、受刑者の釈放の際に初めて具体的な権利(作業報奨金支払請求権)として発生する法的性質を有する⇒釈放前の受刑者にとって、作業報奨金の支給を受ける権利は、未発生の将来の債権。 
but
将来の債権であっても、発生の基礎となる法律関係が既に存在し、近い将来の発生が相当の蓋然性をもって見込まれるため財産価値を有するものであれば、強制執行の対象になる(中野)。
  法律により差押えが禁止されていなくても、その権利の性質に照らして差し押さえことのできない債権があるとされている。
その1つの類型として、他人の給付受領によっては目的を達し得ない権利。 
刑事収容法98条は、作業を奨励して受刑者の勤労意欲を高めるとともに受刑者の釈放後の当座の生活費等に充てる資金を確保すること等を通じて、受刑者の釈放後の改善更生及び円滑な社会復帰に資することを目的とするもの。
⇒作業を行った受刑者以外の者が作業報奨金を受領したのでは、この目的を達することができないことは明らか。
作業報奨金の目的⇒国は、作業報奨金が受刑者本人に支払われることに対して極めて強い利害を有しており、受刑者の債権者がした強制執行によって、第三債務者である国の利益が害されるべきものではない。

作業報奨金の支給を受ける権利は、他人の給付受領によっては目的を達し得ない債権として、その性質上、他に譲渡することが許されず、強制執行の対象にもならないと解するのが相当。
  ●  刑事収容法:同法100条の手当金(受刑者が作業場負傷し、身体に障害が残った場合の障害手当金等)については、その差押えを禁止する規定(102条1項)をおいている。
but
受刑者の作業報奨金については、明文の差押禁止規定を置いていない。 

手当金は、労基法による災害補償に相当するものであるところ、同法の補償を受ける権利については、明文で差押えが禁止されており(同法83条2項)、労災法及び国家公務員災害補償法などにも同様の差押禁止規定が置かれている
⇒前記手当金の差押禁止規定は、前記の各法令を踏まえた法制上の整合性という観点から置かれたものとみることができる。
but
受刑者の作業報奨金については、同種の受給権やその差押禁止を定めた法令がなく、法制上の整合性という観点を考慮する必要はない⇒差押禁止規定が置かれなかった。

明文の差押禁止規定を欠くことは、作業報奨金の支給を受ける権利が強制執行の対象にならないと解することの妨げにはならない。
  民事p12
東京高裁R4.7.6  
  末期がん患者に対して自由診療として免疫療法を行う際の説明義務違反及び検査義務違反(肯定)
  事案 遠位胆管がんにり患したAが、医療法人Y1の被用者であるB医師から、本件自家がんワクチン療法を受けたことにつき、Aの相続人であるXが、B医師及びY2の説明義務違反及び検査義務違反を主張して、Y1及びY2に対し、不法行為に基づき損害賠償金等の支払を請求。
  主張 X:
①説明義務違反:本件自家がんワクチン療法が胆管がんや最末期のがんに対しては効果がないことを説明する義務の違反等
②検査義務違反:本件自家がんワクチン療法実施に関わる血液検査等の検査を行い義務の違反等
③暴利行為:控訴審において追加された予備的主張 
  原審 説明義務違反を認め
検査義務違反は否定 
  判断   ●説明義務違反 
医師は、患者の疾患の治療のために特定の療法を実施するに当たっては、特別の事情のない限り、患者に対し、当該疾患の診断(病名及び病状)、実施予定の療法の内容、これに付随する危険性、当該両方を受けた場合と受けない場合の利害得失、予後等について説明する義務があり、
特に、当該療法の安全性や有効性が未確立であり自由診療として実施される場合には、患者が、当該両方を受けるか否かにつき熟慮の上判断し得るように、当該両方に付随する危険性、これを受けた場合と受けない場合の利害得失、予後等について分かりやすく説明する義務を負う。
B医師の説明は、Aに対して、Aの病状がいかなるものであるかを正確に説明することなく、本件自家がんワクチン療法について、説明の時点においてほぼ唯一の選択肢であるかのような誤った印象を与えたもの⇒Aの病状及び本件自家がんワクチン療法について正確に伝えなかったという説明義務違反が認められる(Y2との共謀は否定)。
  ●検査義務違反 
B医師は、Aが末期がん患者であること、最末期のがんには本件自家がんワクチン療法も対応しきれないことがあることを知りながら、本件自家がんワクチン療法を行う前に、Aに本件自家がんワクチン療法の適法があるか否かを判断するために血液検査や画像検査などを行わなかったことについて、過失(=検査義務違反)あり(Y2との共謀は否定)。
  損議論:
所定の検査が行われていれば本件自家がんワクチン療法の適応がないと判明した高度の蓋然性が認められる。

検査義務違反と本件自家がんワクチン療法を受けたことにより被った損害との間に相当因果関係がある

治療費と同額の145万4760円の損害及び
精神的損害(慰謝料30万円)
を認めた。
説明義務違反による自己決定権の侵害による精神的損害(慰謝料70万円)を認め、弁護士費用25万円を加え、Y1に対し、合計270万円の損害賠償を命じた。
  解説 医療水準が未確立の医療行為は、試行的医療とも証される(ほかに、実験的医療、先端的医療、先駆的医療などと称されることがある。)
試行的医療には、実験的側面があり、効果や副作用について不確実性がある⇒それを実施するに際して患者の同意を得るために医師に求められる説明義務については、一般的に果たすべきとされる説明義務よりも厳格な検討を要する。 
裁判例も、特定の療法が医療水準として未確立であり自由診療として実施される場合には、一般的な場合の説明義務よりも加重した説明義務を負うと判示。
   経済p28
知財高裁R4.3.29
   
  事案 Xは、プリンタやプリンタに使用するトナーカートリッジを製造販売する会社であり、名称を「情報記憶装置」 とする本件特許の特許権者。
Yは、トナーカートリッジのリサイクル事業者。
Xは、Y電子部品が本件特許発明の技術的範囲に属し、Yの行為派本件特許権の侵害に当たる⇒Y製品の販売等の差止め及び廃棄並びにY電子部品の廃棄(特許法100条1項、2項)を求めるとともに、損害賠償(特許法102条2項、3項)を請求。
  争点 特許権侵害の成否に関して、Y電子部品の本件特許発明の技術的範囲への属否、無効の抗弁の成否、消尽の成否。 
本件書換制限措置をとることが競争者に対する取引妨害として独禁法19条、2条9項6号、不公正な取引方法(「一般指定」)14項に抵触することなどから、XがY電子部品について本件特許権を行使することが権利濫用に当たるか。 
  原審 Y電子部品が本件特許発明の技術的範囲に属し、消尽は成立しない。
but
本件書換制限措置をとることなどは独禁法に抵触⇒ Xの本件特許の行使は権利濫用に当たる⇒Xの請求を棄却。
  判断  Y電子部品が本件特許発明の技術的範囲に属し、無効の抗弁は成立せず、消尽は成立しない。
本件書換措置をとることなどは独禁法に抵触せず、Xの本件特許権の行使は権利濫用に当たらない。
  権利濫用が成立しないことについて 
(1)仮定再生品が装着されたX製プリンタでは、トナー残量表示に「?」と表示されて残量が表示されない点で純正品が装着された場合と異なる。
but
印刷機能に支障をきたすものではなく、・・・仮定再生品を選択するユーザーも存在する。
(2)本件特許発明の技術的範囲に属さない電子部品を製造し、残量を表示させることは技術的に可能⇒X製プリンタ用のトナーカートリッジの市場において、本件書換制限措置によりリサイクル事業者が受ける競争制限効果の程度は小さい。
(3)Xが本件書換制限措置を講じたことには相応の合理性がある⇒使用済みの純正品に付け替えたY電子部品について本件特許権を行使することは、純正品のリサイクル品をもっぱら市場から排除する目的によるものとは認められない。
(4)
①本件書換制限措置によりリサイクル事業者が受ける競争制限効果の程度は小さい
②Xが本件書換制限措置を講じたことには相応の合理性があり、XによるY電子部品に対する本件特許権の公私がもっぱら純正品のリサイクル品を市場から排除する目的にものとは認められない

Xが、本件書換制限措置という合理性及び必要性のない行為により、Yが純正品に搭載されたXの電子部品を取り外してY電子部品に取り換えることを余儀なくさせ、消尽の成立を妨げたものと認めることはできない。

Xが、Yに対し、Y電子部品について本件特許権に基づく差止請求権及び損害賠償請求権を行使することは、競争者に対する取引妨害として、独禁法19条、2条9項6号、一般指定14項に抵触するものということはできないし、
特許法の目的である「産業の発達」を阻害し又は特許制度の趣旨を逸脱するものであるということはできない。

権利の濫用に当たるものと認めることはできない。
  解説 本判決:
Xが消尽の成立を妨げたと認めることができないという事情が、独禁法に抵触しないことを裏付ける事情として考慮されている。

取引妨害との関係では、消尽により特許権侵害とならない手段によって再生品を製造販売するというリサイクル業者の取引が、本件書換制限措置により妨げられたといえない⇒本件書換制限措置をとることは取引妨害とならず、独禁法に反することはないという趣旨で考慮されている。
特許権の公私が独禁法19条、2条9項6号、一般指定14項に抵触するか否かについて判断したのは、本事案が初めて。
2552   
  行政p5
宇都宮地裁R4.1.27  
  サッカースタジアムの固定資産税及び公園使用料免除⇒違法の事例
  事案 栃木市と本件会社は、本件会社がサッカー専用スタジアム等から構成される本件運動施設を建設することを前提に、栃木市が本件運動施設に対して課す固定資産税を免除すること、本件公園の使用料を免除することを内容とする本件覚書を作成し、使用料については、実際に3年間の免除がなされた。
  原告ら(栃木市に居住する住民)は、被告(栃木市長) による本件覚書に係る固定資産税の免除及び使用料の免除が違法⇒固定資産税については免除の差止めを、使用料については被告がその請求をしないことが違法であることの確認を求める訴えを提起。
  主張  被告:
①本件運動施設の設置により、栃木市内が賑わい、栃木市の知名度が上がり、栃木市の経済の発展につながる。
②・・・栃木市民の生活上の福祉が向上する。

栃木市税h条例71条1項4号所定の「特別の事由」があるとして、使用料の免除については、栃木市公園条例22条所定の「公益上その他特別の理由がある」として、その適法性を主張。 
  判断 ●固定資産税の免除 
・・・
①本件運動施設はAのホームスタジアムや練習場として使用されておりAを運営する本件会社の子会社の営業のための施設⇒担税力を生み出さないような用途に使用されているとは認められない。
②経済効果の観点からみても栃木市内の他の固定資産と比較して固定資産税の減免を相当とする程度の強い公益性はない。
⇒栃木市税条例71条4号所定の「特別の事由があるもの」には該当せず、被告は固定資産税を免除することはできない。
  ●  ●使用料の免除 
  被告主張の①②を否定。
公園の使用料は本来的には条例によって定められるべきもの⇒その例外として市長が使用料の減免をすることはできる場合である栃木市公園条例22条の「公益上その他特別の理由」については限定的に理解されるべき。
当該理由が肯定されるためには、その目的自体が固定資産税減免の場合と異なり公益性の高いものに限られないとしても、少なくとも、客観的な根拠のある事実を基礎とした合理的な将来予測に裏付けられてなければならないのは当然のこと。

本件について、同条所定の「公益上その他特別の理由」があるとは認められない。
  解説 ●  本件は、条例の改正を伴わない、市長による免除の場合⇒市長による免除が許容される場合を定めた条例の規定の解釈が問題。
  ●  固定資産税の免除: 
地税法367条は、固定資産税の減免について、市長村長は、天災その他特別の事情がある場合において固定資産税の減免を必要と認める者、貧困に因り生活のため公私の扶助を受ける者その他特別の事情がある者に限り、当該市町村の条例の定めるところにより、固定資産税を減免することあgできることを規定。
各市町村は、固定資産税の減免についての条例を定めており、各条例の解釈に際しては、同条の規定の解釈が参酌されるべき。
同条の規定する減免は、固定資産税の徴収の猶予、納期限の延長等によっても到底納税が困難であると認められるような担税力の薄弱なものに対する個別的な救済措置であると解され、また、条例の容易な拡大解釈については、現に慎まなければならないとされている。
固定資産税の減免を認めなかった事例。
  公園使用料の免除: 
本判決:
市長による公園の使用料免除が許されるのは、その目的自体が固定資産税減免の場合と異なり公益性の強いものに限られないとしながらも、
客観的な根拠のある事実を基礎とした合理的な将来予測に裏付けられている場合でなければならない。
本来的に公園使用量は条例で定められる⇒市長によるその減免については、強い公益性までな必要ないとしても、その完全な裁量によるものではなく、これを許容するためには一定程度の合理性が必要。
  民事p16
最高裁R4.10.6  
  財産開示手続の実施決定に対する執行抗告において請求債権の不存在又は消滅を執行抗告の理由とできるか(否定)
  事案 債権者である元妻Xが、執行力のある債務名義である公証証書記載の養育費債権を請求債権として、民執法197条1項2号に基づき、債務者である元夫のYについて、財産開示手続の実施を申立てた。
  原審 ①請求債権が弁済によって消滅した場合には、もはや法197条1項2号に該当する事由があるとはいえなくなる
②財産開示手続に強制執行及び担保権の実行に関する規定を準用する法203条は、請求異議の訴えについて規定する法35条を準用していない
⇒法197条1項2号に該当する事由があるとしてされた財産開示手続の実施決定に対する執行抗告おいては、請求債権の不存在又は消滅を執行抗告の理由とすることができると判断した上で、
請求債権のうち確定期限が到来しているものは弁済による消滅
⇒Xの申立てを却下。
  判断 ①執行裁判所が強制執行の手続において請求債権の存否を考慮することは予定されておらず、このことは、強制執行の準備として行われる財産開示手続においても異ならない
②法203条が法35条を準用していないことは、法197条1項2号に該当する事由があるとしてされた財産開示手続の実施決定に対する執行抗告において、債務者が請求債権の不存在又は消滅を主張することができる根拠となるものではない。

前記 執行抗告においては、請求債権の不存在又は消滅を執行抗告の理由とすることはできない

これと異なる見解に立つ原決定を破棄して、原審に差し戻した。
  規定 民事執行法 第一九七条(実施決定)
 執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当するときは、執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者の申立てにより、債務者について、財産開示手続を実施する旨の決定をしなければならない。ただし、当該執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができないときは、この限りでない
一 強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より六月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかつたとき。
二 知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があつたとき。
民事執行法 第二〇三条(強制執行及び担保権の実行の規定の準用)
第三十九条及び第四十条の規定は執行力のある債務名義の正本に基づく財産開示手続について、第四十二条(第二項を除く。)の規定は財産開示手続について、第百八十二条及び第百八十三条の規定は一般の先取特権に基づく財産開示手続について準用する。
  解説   権利判定機関と権利実現機関の分離
⇒債務名義の存在を前提とする強制執行手続においては、一般に、効率的かつ迅速な手続運営を図るため、請求債権の存在等の実体上の事由を審査せずに執行手続きを行う

執行抗告においても、手続的違法のみを審査するものとされている。
執行抗告の理由となり得るのは、執行裁判所が裁判をするに当たり自ら調査・判断すべき事項の欠缺であり、原則として、原裁判を違法ならしめる手続的事由に限られる。
執行抗告の手続において、債務名義に係る請求債権の不存在又は消滅、執行対象財産の帰属等の実体上の事由は、執行裁判所が調査・判断すべき事項ではない⇒執行抗告の理由とすることはできず、確定期限の到来などの執行開始の要件となる事由(法30条1項、31条、151条の2第1項参照)等の存否がその例外になるにとどまる。
請求債権が実体法上存在しないという不当執行に対する救済方法については、請求異議の訴え(法35条)等の手続が設けられている。
違法執行⇒執行抗告
不当執行⇒請求異議の訴え
等において救済を図る。
  執行力のある債務名義の正本を有する件戦債権の債権者が財産開示手続の申立てを行い、その実施決定がされた場合において、弁済による請求債権の消滅を執行抗告の理由とすることができるか否かは、法197条1項2号の要件について、執行裁判所が請求債権の存否を自ら調査・判断することが予定されているかにかかわる。 
  法197条1項は、財産開示手続の申立ての申立権者を「執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者」と定め(同項本文)、権利の存在を高度の蓋然性をもって証明する証書たる債務名義が存在することを前提とし、
執行開始の要件を備えていることも「要件としている(同項ただし書)

強制執行の準備行為たる財産開示手続実施の場面においても、同項2号の要件につき、敢えて請求債権の存否という実体上の事由を執行裁判所の調査・判断の対象とする必要はなく、むしろ、同号は請求債権の存否を前提に財産開示の必要性を審査させる趣旨の規定。
①請求債権の「存否という実体上の事由(弁済、相殺の抗弁等)は、当事者間で激しく争われ得るもの⇒法197条1項2号の要件について、これを執行抗告の理由とすることができると解すると、迅速かつ適正な財産開示手続の実施を阻害。
②財産開示手続の実施決定は、確定しなければその効力を生じない(同条6項)⇒財産開示手続の実施を引き延ばすための濫用的な執行抗告がされるおそれもある。
法203条が法39条(強制執行の停止)及び法40条(強制執行の取消し)を準用

財産開示手続においても、請求債権の存否という実体条の事由について不服がある場合には、強制執行そのものの不許又は停止を求める方法(請求異議の訴えや執行停止の裁判の手続)によって争い、法39条1項1号、7号等に掲げる文書を執行裁判所に提出することにより、財産ん開示手続の停止又は取消しを求めることが想定されている。
法203条が法35条を準用していない
←強制執行の不許は求めずに財産開示手続の不許のみを求めるという独自の制度を設ける必要はない(立案担当者)。
⇒法203条が法35条を準用していない点について、債務者が財産開示手続の実施決定に対する執行抗告委において請求債権の不存在又は消滅を主張することができるとする根拠となるものではない。
  民事p21
大阪高裁R4.3.29  
  医療過誤による犬死亡の事案
  事案 飼育者のX1において、Y1が設置し、主治医である獣医師Y2が勤務する動物病院に入院⇒本件犬がDICを直接の死因として死亡

Y1との間で診療契約を締結したX1が治療費等の損害を受けるとともに、
Xら(X1~X5。X2,X3:X1と同居する娘夫婦で同じく飼育者。X4、X5:X1の娘)がいずれも精神的苦痛を受けた

Y2に対しては不法行為に基づき、
Y1に対しては、X1については診療契約上の債務不履行又は使用者責任に基づき、X1を除くその余のXらについて使用者責任に基づき、損害賠償を求めた事案。
  原審 Xら:本件犬は急性膵炎にり患しており、Y2においてこれを認識して同疾病に対する医療水準に適った治療を行うべき注意義務があったとにこれを怠った過失(過失①)があると主張し、DICの発症はいわば因果の流れとして独立の過失の根拠としては主張していなかった。
vs.
本件犬が急性膵炎にり患していたと認めるには足りない⇒Xらの請求をいずれも棄却。 
  控訴審 Xらは、獣医師(国立大学の獣医学部所属の準教授)の意見書を提出して、Y2は、本件犬の血液凝固系検査等によりDICを発症していることを認識し、又は認識することができた⇒これに対する医療水準に適った治療を行うべき注意義務がある(過失②)(請求原因の追加主張)。
過失①は否定
過失②:
獣医療におけるDICの診療項目、人のDICの病型分類に基づく治療法の選択が犬のDICについても用いられていた等の本件当時の獣医療水準に関わる事実を認定して、本件では、入院した翌朝の本件犬の血液凝固系検査等の結果、当時、本件犬は肝臓の血管肉腫を基礎疾患とするプレDICのの状態であり、Y2はそのことを認識することができたというべき。
but
Y2は、DICの病型分類と治療法選択のための追加の血液凝固系検査やこれを踏まえた治療を行ったことをうかがうことはできない⇒この点でY2には本件犬の治療に関し過失があった
⇒Y1の不法行為責任、Y2の使用者であるY1の使用者責任が成立。
Y2の過失行為と本件犬の死亡との間に因果関係があるとは認められない。
but
獣医療の水準に適った医療が行われていたならば診療に係る飼育動物がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されれば、獣医師には、その飼育者が前記可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負うと解するのが相当。
本件では、血管肉腫に対する抗がん剤治療の効果、本件犬が受けた抗ガン化学療法で治療した犬の生存期間等の諸事情⇒本件犬は、Y2が適切な検査・治療を行っていなければ、死亡日の時点においてなお生存していた相当程度の可能性が存在

本件犬の飼育者であるX1、X2及びX3について慰謝料及び弁護士費用の合計各22万円と遅延損害金の限度で請求を一部認容し、飼育者ではなくX4及びX5の請求をいずれも棄却。
  解説 獣医師の過失と飼育動物の死亡の結果との因果関係が認められない場合に、人と同様に、飼育動物の生命維持の相当程度の可能性の侵害による慰謝料請求を一部認容。
判例:医師の過失ある医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されていないが、医療水準に適った医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合には、医師は、患者が前記可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負う場合がある。

生命を維持することは人にとって最も基本的な利益であって、右の可能性は法によって保護されるべき利益であり、医師が過失により医療水準にかなった医療を行わないことによって患者の法益が侵害されたものということができる。
  民事p39
東京地裁R4.3.28
  妻に離婚意思がないのに夫が離婚届を提出⇒損害賠償の事案
  事案 妻であるXが、別居中の夫であるYに対し、YがXに離婚意思がないのに離婚届を提出し、子らを連れ去り、Xと子らとの面会交流を妨げた⇒YのXに対する不法行為に当たる⇒慰謝料等の損害賠償を求めた。
  事実関係 Xは、Yとの口論の末、Yが用意した離婚届用紙に署名押印し、これを受け取ったYが、そのまま自宅を出て戻らず、3日後に同離婚届用紙を用いて離婚の届出。
XがYを相手に、当該届出に係る離婚は無効無効であるとしてその無効確認の家事調停を申し立て、さらには無効確認の訴訟を提起⇒当該届出がされた時点でXには離婚の意思がなかったとして当該離婚の無効を確認する旨の判決が家裁で言い渡され、確定。
Xが、Yを相手に面会交流調停申立て⇒調停申立てから約3年後に調停不成立となり、家裁により、第三者機関の援助の下での月1回の面会交流等を命じる審判。
  判断  ①X(妻)が離婚届用紙に署名押印したのは、当日の口論の勢いの赴くままに激情に駆られてのことであり、そのため、Xは、Yとの間で事後の具体的な生活についての話し合いもせずに、離婚届で用紙に署名押印
②翌日の電話での会話の中でも、XがYに対し、早く帰ってくるようにとおいう、離婚の意思とはおよそ矛盾する言葉を発していた

YにおいてXに離婚の意思がないことに気付く契機は与えられていた。
Yは、Xの真意を確認することなく離婚の届出をした⇒無効な離婚の届出をしたことについて過失があるとし、この過失により、Xの妻としての地位を不安定な状態に置くことによってこれを侵害。 
当該離婚がXの離婚意思を欠いて無効⇒Yが子らをXの下から連れ去ったこともまた法的な根拠を失う⇒Yは、前記の過失により、Xの子らに対する親権も侵害。
XとYとの別居状態を所与のものとした場合、YがXと子らとの面会交流を違法に妨げたとは認められない⇒この点についてのYによるXの権利侵害は認めなかった。
  前記2つの権利侵害(①妻としての地位の侵害、②親権の侵害)によってXが被った損害として、Xが10回以上の全身麻酔を伴う不妊治療を経て子らを出産したことなどの諸般の事情を総合考慮して、200万円の慰謝料が相当。
Xが面会交流調停や離婚無効確認訴訟のために支出した弁護士費用93万8000円についてもこれを相当因果関係のある損害と認めた。
but
①Xの側にも、離婚用紙に署名押印してYに交付した過失
②自宅を出たYと連絡がとれたにもかかわず離婚意思のないことを明確に伝えなかった過失
⇒50%の過失相殺が相当。

146万9000円及び本件訴えの弁護士費用14万6900円の賠償を求める限度でXの請求を認容。
  知財p44
東京地裁R4.7.19  
  肖像権侵害が不法行為とされる場合の判断基準等
  事案 Xが、Y(出版社)に対し、本件記事は、Xの社会的評価を低下させる事実を公然と適示したものであるから、本件記事は名誉毀損に当たり、
本件写真は、いずれも、Xの容ぼうが写っており、Xが著作権を有するものであるから、本件写真の掲載は、Xの肖像権及び著作権を侵害するとして、不法行為に基づき、損害賠償等を求めた。
  判断 ●肖像権侵害についての判断基準 
肖像は、個人の人格の象徴⇒当該個人は、人格権に由来するものとして、みだりに自己の容ぼう等を撮影等されず、又は自己の容ぼう等を撮影等された写真等をみだりに公表されない権利を有すると解するのが相当(最高裁)。
他方で、人の容ぼう等の撮影、公表が正当な表現行為、創作行為等として許されるべき場合もある。

肖像等を無断で撮影、公表等する行為は、
①撮影等された者の私的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公共の利害に関する事項ではないとき、
公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するものであるとき、
公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公表されることによって社会通念上受忍すべき限度を超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるときなど、
被撮影者の被る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超える場合に限り、肖像権を侵害するものとして、不法行為上違法となる。
本件写真は、元プロテニス選手で当時社会的地位もあったXが、いずれも、著名人と並んで笑顔で握手等するしている場面を撮影したもの
⇒公的領域において撮影されたものと認めるのが相当(前記②③)。
本件写真は、Xを侮辱するものではなく(②)、Xのブログで公開されていた写真であったという事情
⇒平穏に日常生活を送るXの利益を害するものともいえない(③)。
仮に本件写真が私的領域において撮影されたものと認定⇒本件写真は、Xと著名人との親交を示すものであり、AをしてXが億単位の出資をするに足りる人物であると思わせて、AがXに出資する理由の1つとなったもの
⇒本件写真は、Xが社会的に強い非難の対象とされる行為を犯した旨を適示する本件記事を補足するものであり、公共の利害に関する事項である(①)。
⇒Yが本件写真をXに無断で本件雑誌に掲載する行為は、肖像権を侵害するものとして不法行為上違法であるということはできない。
  解説  ●  肖像権は、人格権に由来する権利として、肖像が有する精神的価値を保護するものとして判例法理上形成された法概念であって、同判決において同じく人格権に由来する権利であるとされたパブリシティ権と共に権利概念として確立された。
肖像権は、人格権に由来するという点でパブリシティ権と一致する。
but
肖像の精神的価値を保護法益とするもの
パブリシティ権:肖像の商業的価値を保護法益とする。
  最高裁の経緯:
第1段階:
「個人の私生活上の自由の1つとして、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を法的利益として承認(京都府学連デモ事件判決)

第2段階:
「氏名を正確に呼称される利益」を肯定する前提問題において、人格権に由来する権利として、「氏名を他人に冒用されない権利」としての氏名権を承認するまでの段階。
氏名権が事実上承認⇒同じく人格の象徴である肖像を保護するいわゆる肖像権についても、伝統的なプライバシーの一環として位置付けるのではなく、肖像自体に着目してこれに関する利益一般を保護し得る法概念として、これを再構成しようとする潮流。

第3段階:
氏名権が事実上承認された新たな潮流を踏まえ、法廷内隠し撮り事件判決が、肖像に関する法的利益の1つとして、みだりに自己の容ぼう等を撮影されたり又は撮影された写真をみだりに公表されたりしない人格的利益を承認した上で、その違法性の判断基準を示すまでの段階。

第4段階:
ピンク・レディー事件判決が肖像権を排他的権利として初めて承認。
住基ネット事件判決は、判例法理上のプライバシーという法概念が伝統的プライバシーを保護するものにとどまることを事実上示した⇒肖像をプライバシーの一環として保護する試みが判例法理上途絶えた。
ピンク・レディー事件判決:
肖像その他の人物識別情報の商業的価値を保護するパブリシティ権を承認するとともに、肖像に関する精神的価値を保護する法的利益を氏名権と同様に権利概念に昇格させたもの。
  ●  ●肖像権侵害に関する判断基準 
  ◎受忍限度論の展開 
人格的利益をめぐる不法行為の成否に関する判断基準として、学説上、被侵害利益の性質と侵害行為の態様との相関関係において総合的に判断する相関関係説が通説。
受忍限度論は、人格的利益ないし人格権を侵害する行為の違法性の判断基準として、前記相関関係説を基礎として発展。
受忍限度論:事案の諸要素を比較検討して総合的に判断し、一般社会通念上受忍すべき限度を超える場合に、初めて違法とするもの。
伝統的に、生活妨害の領域で展開⇒その後人格的利益と対立する利益が兵家行為である場合にも適用。
教員批判ビラ配布事件判決:
・・・ビラの配布行為は名誉毀損を構成するとは「いえない
but
当該教師らの社会的地位及び当時の状況等に鑑みると、前記攻撃を受けた当該教師らの社会的地位及び当時の状況等に鑑みると、前記攻撃を受けた当該教師らの精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度内にあるということはできず、前記ビラの配布行為に起因して私生活の平穏などの人格的利益が違法に侵害された⇒ビラの配布行為が名誉毀損とは別個の不法行為を構成する。
法廷内隠し撮り事件判決:
肖像の撮影行為又は撮影に係る当該肖像の写真の公表行為が不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべき。
  ●受忍限度論の進展 
パブリシティ権が法的権利性を認められずに法的利益に止まっていた時代⇒その違法性の判断基準につき、事案の諸要素を総合的に判断する手法を採用する裁判例が多い。
but
ピンク・レディー事件判決は、パブリシティ権を権利概念に昇格させるとともに、違法性判断基準につき、総合考慮をするのではなく、これを類型化して受忍限度論を進展させている。

パブリシティ権の外延では、表現の自由、創作の自由等という社会の根幹に関わり、社会の発展を支える価値との抵触が常に問題となる⇒その権利の外延を明確にして、表現行為、創作行為等に対する萎縮効果を防ぐため。

肖像権についても、パブリシティ権と同様に、表現の自由等の重要に鑑み、受忍限度論の趣旨を踏まえつつも、総合考慮による判断ではなく、違法性が認められる要件を定義した上、定義付け衡量によって他の法益との調整を図るべき。
本判決:
肖像権の保護法益につき、
①個人の私生活上の自由から派生するプライバシーに係る法的利益(第1類型)
②名誉感情(第2類型)
③平穏に日常生活を送る利益(第3類型)
にそれぞれ区分した上、当該区分に応じて形成された判例法理を踏まえ、違法性の判断手法を具体的に示すもの。
  商事p55
東京地裁R3.10.29   
  インサイダー取引が否定され課徴金納付命令が取り消された事例
  事案 ㈱C1の従業員Xがインサイダー取引での課徴金納付命令⇒取消しを求めてY(国)に対して訴えを提起
  争点 ・・・業務提携に関するやりとのの過程で、平成27年8月4日、C1の部長が、同日の打ち合わせにおいてC2との秘密保持契約の締結手続が完了したこと、次回から具体的な技術に関する協議に進むことなどをP1(代表取締役)に報告し、P1がこれに対し「分かりました」と答えたことが、「業務上の提携」を「行うことについての決定」に該当するか?
  判断 P1は金商法166条2項1号柱書にいう「業務執行を決定する機関」に該当。
同号柱書きにいう「業務上の提携」を「行うことについての決定をした」というためには「業務執行を決定する機関」において当該「業務上の提携」の実現を意図して行ったことを要するが、当該「業務上の提携」が確実に実行されるとの予測が成り立つことを要せず(最高裁)、当該「業務上の提携」の実現可能性があることが具体的に認められることも要しない(最高裁)。
上場会社等の会社関係者が一般投資家の知り得ない内部情報を不当に利用して当該上場会社等の特有有価証券等の売買取引をすることを防止すると言うインサイダー取引規制の趣旨⇒「業務上の提携」を「行うことについての決定」は、それが一般投資家の投資判断に影響を及ぼすべきものであるという観点から、ある程度具体的な内容を持つものでなければならないと解するのが相当。
・・・・提携内容は、ディープラーニングによる画像認識技術の車載機器への適用に関する基礎的研究等に関する業務提携とともにC1がC2に普通株式の第三者割当増資をすることで資本提携を行うというもの。
この資本業務提携は、その内容に照らすと、同年9月11日の打合せ後の会食においてC2からC1に対してされた資本提携の申出が具体化したもの。
C1の代表取締役であるP1がC1として同資本提携の申出を了承する旨の決定をしたのは、同月18日の打合せの時であり、C1において前記資本業務提携に係る「業務上の提携」を「行うことについての決定」がされたのは、平成27年9月18日。
平成27年8月4日の打合せの段階:
①C1・C2間の検討・交渉等の内容は、いまだ営業活動の域を出ない成熟度の低いものであったというべきであり、一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度の具体的内容を持った「業務上の提携」に当たるものではない。
②同日のP1に対する報告は、秘密保持契約が無事に締結されたこと、C2との今後の協議が技術者同士で技術面に関し話し合うことになったという事実経過を報告することを主眼としたものであって、P1の本件回答は報告された事実経過を了承する趣旨の発言であったと評価するのが相当であり、それ以上に何らかの意思決定を含むものであったと認めることはできない。
③仮に、同日におけるやりとりによってC1・C2間の検討・交渉等の内容が「業務上の提携」に当たるとみる余地があったとしても、P1の本件回答が「業務上の提携」に向けた作業等を秋者の業務として「行うことについての決定」に当たるとはいえず、本件について「決定」がされたのは、同年9月18日の打合せ時点であるところ、Xによる本件買付けは同決定より前の同月17日からされたもの。
⇒本件課徴金納付命令は処分要件を欠き違法。
  経済p75
東京地裁R3.8.5  
  価格カルテルに係る課徴金納付命令の算定基礎となった対象商品からの除外の可否
  事案  不当な取引制限(価格カルテル)に係る課徴金28億9781万円の納付を命ずる課徴金納付命令⇒本件課徴金納付命令は課徴金算定の対象とならない商品の対価を含めて課徴金の額を算定したものであり、その対象とならない売上額を控除して算定した課徴金の額は18億3417万円⇒同額を超える部分については違法に命じられたものであり、当該部分の取消しを求めた。 
  Xが課徴金算定の対象とならない、すなわち独禁法7条の2第1項に定める「当該商品」に含まれないと主張したのは、次の5種類:
競争が存在しない地域又は競争の実質的制限が生じていない地域に存在する4工場が販売したアスファルト合材
同業者取引(自社の各工場からアスファルト合材を供給することができる地理的範囲には制約があるため、需要者への納入場所の付近にある同業他社の工場からアスファルト合材の供給を受ける取引)においてXが同業他社から委託を受けて製造及び供給をしたアスファルト合材
Xの全額出資子会社に販売したアスファルト合材
本件9社以外の合材メーカーがスポンサーである6工場が販売したアスファルト合材
JVを結成して設立した合材工場が、当該JVの構成員に対し、同構成員以外の需要者に販売する際の価格(顧客価格)とは異なる価格(協定価格)で販売したアスファルト合材
  判断 Xの請求を棄却 
●  独禁法の定める課徴金制度は、カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるようにしたものであり、実行期間のカルテル対象商品又は役務の売上額に一定率を乗ずる方法により課徴金の額が算定されることとなっているのは、課徴金制度が行政上の措置であるため、算定基準も明確なものであることが望ましく、また、制度の積極的かつ効率的な運営により抑止効果を確保するためには算定が容易であることが必要であるからであって、個々の事案ごとに経済的利益を算定することは適切ではない⇒そのような算定方式が採用され維持されている。
このような算定基準の明確性や算定の容易性という趣旨
⇒独禁法7条の2第1項にいう「当該商品」とは、違反行為である相互拘束の対象である商品、すなわち、違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって、違反行為による拘束を受けたものをいう。
違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については、一定の商品につき、違反行為を行った事業者又は事業者団体が、明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外するなど当該商品が違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り、違反行為による拘束が及んでいるものと推定し、課徴金算定の対象となる当該商品に該当するものとして課徴金の算定対象に含めるのが相当。
本件において、本件9社が共有していたのは日本全国におけるアスファルト合材の製造数量等であり、本件9社の各会合においても、特定の種類、地域及び流通経路に限定したり、特定の種類、地域及び流通経路を除外したりすることなく、アスファルト合材一般について話し合いがされた⇒日本国内において販売される全てのアスファルト合材が本件合意の対象に含まれるものであり、本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属するものと認められる。 
①~⑤について、本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとは認められない⇒本件課徴金納付命令は適法。
③については、全額出資子会社に対する商品の販売が同一企業内における製造部門から施工部門への資材の移動と同視し得るような事情が存在する場合には、当該全額出資子会社へ販売した商品の売上額が医犯行による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとして課徴金算定の対象から除外される余地はある。
but
本件においては、前記のような事情があるとは認められない。
  解説 特金法の課徴金制度:
価格カルテル等を行った事業者から違反行為による経済的利得を課徴金として国庫に納付させることにより、違反行為者による不当な利得を保持させず、価格カルテル等の禁止の実効性を確保するための行政上の措置。
平成17年改正による算定率の引上げ⇒不当利得相当額以上の金銭を徴収する仕組みとすることで行政上の制裁としての機能をより強めた。
最高裁「課徴金の額はカルテルによって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないもではないというべきである」 
以上の制度趣旨

課徴金算定基準の明確性及び容易性が要求される。
課徴金算定の基礎となる売上額等の対象商品(独禁法7条の2第1項の「当該商品」)については、違反行為を行った事業者が明示的又は黙示的に対象からあえてえ除外したこと、あるいは、これを同視し得る理由によって当該商品が違反行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情がない限り、拘束を受けたものと推認されるべ等の解釈は確立。
   労働p92
東京高裁R4.8.19
  社員同士の争いについての退職の意思表示等(否定)
  事案 不動産業を営む有限会社Yとの間で労働契約を締結した社員X(女性)が、Yに対し、Yが主張する令和1年10月4日に退職する旨の意思表示はしていないとして
①労働契約上の地位の確認
②同年11月以降の賃金月額27万円及び毎年12月期・7月期の賞与各16万円の支払
③職場内でXが社員A(女性)から受けた暴行が不法行為に該当しYに使用者責任があり、また、YがXを退職扱いにした行為などが不法行為に該当⇒慰謝料100万円及び弁護士費用相当損害金10万円の支払
④YがXについて一定期間厚生年金の加入手続(被保険者資格の取得の届出)をしていなかったことが不法行為又は債務不履行に当たる⇒これにより生じた財産的損害(将来の年金受給額の逸失利益)47万2780円並びに慰謝料100万円及び弁護士費用相当損害金10万円
をそれぞれ求めた。 
  原審 ①②の請求(賞与は13万5000円の認定額の限度)を認容。 
③の請求:
AがXの両腕を掴んだ行為は、社会通念上当然に多大な恐怖心を抱かせるものとはいえず、不法行為上違法と評価されるとまではいえない。
YがXの言動等からXを退職扱いしたことなどにも不法行為上違法と評価されるとまではいえない。
⇒棄却
④の請求:
Yの不法故意責任は肯定されるが、全証拠によっても、Xに生じた具体的な経済的損害を認定するに足りず、また、Xに金銭をもって慰藉すべき精神的苦痛が生じたとも認められない
⇒棄却。
    Yが控訴
Xが附帯控訴:
②の賃金請求につき毎年7月に1万円昇給する合意があった⇒令和2年7月以降の請求を月額28万円に
⑤の財産的損害額に1割の弁護士費用を追加する請求の拡張。
  判断  ① ・・・・9月24日のAがXの両腕を掴んで押さえつけた行為の当事は、Xは、興奮しており、Xの前記発言は衝動的な発言であって退職の意思表示を確定的にしたものとは評価することができず、
②実際にも、Xは同月末に辞めることなく10月4日まで出勤し、前記発言が真意に基づくものではないことを明らかにしたものと認められる
③同日には、上司Cから一方的に本日で辞めてもらうという発言があり、Xに対して退職届を書くよう求めたが、Xがこれを拒絶
⇒AがXの両腕を掴んで押さえた行為の当日から最終の出勤日の当日までの間においても、XがYを退職する意思表示を確定したことはない
⇒請求①②について原審維持
請求③について:
・・・・Xが止めるよう何度も要求しているのに、Xの明示の意思に反して一定時間継続⇒Xの身体の自由を侵害する違法な有形力の行使として暴行に該当し、かつ、Xの身体の自由を侵害するものとして、不法行為に該当。
but
Yの使用者責任については否定。

YのXへの暴行は、プライベートな友人関係に関する私的な会話の中で行われ、Yの業務との関連性が極めて低いもの⇒Yの事業の執行行為を契機として、これと密接に関連を有する行為に該当して民法715条1項所定の「事業の執行について」の要件に該当するものとは認めることができない。 
  請求④について:
YがXの入社した平成25年7月から平成28年3月まで厚生年金の加入手続をしなかった不法行為責任を肯定する原判決を引用 
具体的な財産的損害(経済的損害)額を認定するに足りる立証は、本件における上記の年金保険に係る諸事情及び将来の厚生年金受給額が現時点において確定し得ず、将来支給額が年金制度の改変等の結果増減額される可能性もある⇒著しく困難⇒民訴法248条を適用し、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な額の損害額を認定すべきことになる。
⇒22万円の限度でXの請求を認容。
  解説 ●  会社退職(従業員の地位の喪失)という重大な法的効果が発生することが是認される法律要件としての退職の意思表示が確定的にされたと評価し得るか否かという法的評価ないし法的価値判断の成否に係る認定判断が問題となる。
裁判実務上、一般的に退職届等の書面の作成及び提出のない、口頭の退職の意思表示が確定的にされたか否かについては、事実経緯を踏まえて慎重に判断すべきであると解されている。 
  最高裁:
「事業の執行について」の要件の解釈に関し、
「社員が、使用者の事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為をすることによって当該損害が生じたものである」旨を判示して使用者責任を肯定。 
これまでの最高裁判決に共通する考慮要素:
①客観的に事業の執行と評価できる行為と暴行傷害との時間的場所的な関連性、
②暴行傷害が生じた原因と事業執行との関連性(事業執行行為を契機とするかどうか)
の2つを挙げる。
本件における社員Aの暴行:
職場内の勤務時間内での行為⇒前記①を満たす
but
他の社員Xとの間のプライベートの話題を契機として生じた私的行動として暴行に及んだ⇒②を満たさない。
  事業主には、厚年法27条に基づく被保険者資格の届出義務⇒その手続を怠ったために将来年金受給時の算定に当たり当該期間分が算入されないために逸失利益が生じていると認められる場合には、私法上の義務(労働契約又はこれに付随する義務)の違反を求め、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償責任が肯定。 
最高裁H20.6.10:
・・・これをせず(民訴法248条を適用せず)損害賠償請求を棄却することは、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反となり、破棄される。

①同一の採石場において原告の採石権を侵害する被告による違法な採石量と、原告と和解が成立した後の適法な採石量とを、量的に明確に区別することができず、損害の立証が著しく困難な事案であり、(その損害の発生が仮定的事象として観念的・想定的であるために、不確定な要素が避けられず、具体的・客観的・現実的な立証がもともと困難な性質・種類に係る損害の立証ではなく、それと比較して)加害者の現実の財物の侵害行為によって被害者に既に発生している積極的損害の立証という一般的には立証が容易であるといえる場合(例えば交通事故による被害者量の損傷による修理代相当の損害)であっても、(前記のような事案の特殊性がある場合に)民訴法248条を適用して前記のとおり判示
②同条の定める「損害の性質上」といった損害固有の性質・種類に関わる要件の該当性に係る説示がない

「損害の性質上」とは、損害が生じたことが認められる「当該事案における損害の性質上」その額を立証することが著しく困難であること、すなわち、立証責任のある原告の主観ではなく、「客観的に損害の額を立証することが著しく困難であること」を意味することを判示。
もともと損害論における損害額の立証は、責任論における高度の蓋然性の証明ではなく、蓋然性の立証という証明度の軽減がされ、裁判所の裁量的な判断が許容されてきており、上記判例によれば、民訴法248条はこれを更に拡充するものといえる旨の解説。
本件の損害は、将来の年金受給額の逸失利益という高齢社会の今後の更なる進展に伴う厚生年金関係法令の改正可能性等を踏まえると、一般的にも、その額の立証が著しく困難な場合のの典型例⇒原審は言っ区に対して民訴法248条の適用を求釈明して争点化する必要(法的観点指摘義務)があったと考えられる。
2551   
  行政p5
最高裁R4.6.14 
  地方公共団体職員の停職6月の懲戒処分を違法とした原審の判断が違法とされた事案
  事案 普通地方公共団体であるY(富山県氷見市)の消防職員であったXは、任命権者であった氷見市消防長から、上司及び部下に対する暴行等を理由とする停職2月の懲戒処分(「第1処分」)、さらに、その停職期間中に正当な理由なく前記暴行の被害者である部下に対して面会を求めたこと等を理由とする定食6月ほ懲戒処分(「第2処分」)
⇒Xが、Yを相手に、第1処分及び第2処分の各取消しを求めるとともに、国賠法1条1項に基づく損害賠償を求めた。 
  一審 Xの請求をいずれも棄却。 
  原審 第2処分の取り消し請求を認容し、損害賠償請求の一部を認容。

第1処分の停職期間を大きく上回り、かつ、最長の期間である6月の停職とした第2処分は、重きに失するもので社会通念上著しく妥当性を欠いており、消防長に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なもの。 
    Y:第2処分についての原審の判断を不服として上告受理申立て
X:第1処分についての原審の判断を不服として附帯上告受理申立て
  判断 ・・・原判決中Y敗訴部分を破棄し、第2処分に関するその他の違法事由の有無等について更に審理を尽くさせるため、前記部分につき本件を原審に差し戻した。 
・・・
①各働きかけは、いずれも、懲戒の制度の適正な運用を妨げ、審査請求手続の公正を害する行為というほかなく、「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」(地公法29条1項3号)に明らかに該当することはもとより、その非難の程度が相当に高いと評価することが不合理であるとはいえない。
②前記各働きかけは、上司及び部下に対する暴行等を背景としたものとして、第1処分の対象となった非違行為と同質性があるということができる。
③前記各働きかけが第1処分の停職期間中にされたものであり、Xが前記非違行為について何ら反省していないことをうかがわせる

Xが業務に復帰した後に、前記非違行為と同種の行為が反復される危険性があると評価することも不合理であるとはいえない。

停職6月という第2処分の量定をした消防長の判断は、懲戒の種類についてはもとより、停職期間の長さについても社会観念上著しく妥当を欠くものであるとはいえず、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。
  解説  判例:
公務員に対する懲戒処分について、懲戒権者は、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をするか否か、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択するかを決定する裁量権を有しており、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となる。 
懲戒権者の裁量判断の適否に関する司法審査の方法について、裁判所が「懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではない

いわゆる判断代置型の判断の仕方は誤り。
判例
懲戒処分を受けた職員が、調査に協力したと思われる同僚に対して事後に報復を示唆することや、被害者である部下と直接面会することを求め、その上、面会を断られて報復を示唆するメールを送信することについて、懲戒処分の量定上厳格に対処されないとすれば、懲戒の制度の適正な運用や審査請求手続の高壊死の前提となる事実関係の正確な把握の妨げとなることが明らかであるし、被害者や証人の保護ももとる。 
  民事p11
最高裁R4.6.20  
  保佐開始の審判事件を本案とする保全処分の事件記録の範囲
  事案 保佐開始の審判事件を本案とする財産の管理者の選任等の保全処分を申し立てたXが、前記保全処分の事件において選任された財産の管理者から家庭裁判所に提出された書面の当社の許可を申立てた事案。 
  経緯 謄写の許可の申立てを却下⇒原々審と原審は、Xは当事者に該当せず、第三者からされた記録の謄写の許可の申立てを却下した裁判に対しては即時抗告をすることができない⇒前記即時抗告は不適法でその不備を補正することができないことが明らかである⇒却下。
⇒ 抗告許可の申立て
X:保佐開始の審判事件を本案とする保全処分緒事件において選任された財産の管理者が家庭裁判所に提出した書面は、前記保全処分の事件の記録に当たる⇒前記保全処分の申立人は、当事者としてその謄写等の許可を申立てることあgでき、これを却下した裁判に対しては適法に即時抗告をすることができる。
  判断 保佐開始の審判事件を本案とする保全処分の事件において選任された財産の管理者が家庭裁判所に提出したその管理すべき財産の目録及び財産の状況についての報告書は、前記保全処分の事件の記録には当たらない。
本件申立ての対象となる書面は、Xを当事者としない別個の手続の資料として提出されたもの⇒これを却下した裁判に対する即時抗告は不適法。
  解説 記録:一定の事件に関し裁判所及び当事者にとって共通の資料として利用される裁判所に保管される書面の総体。
審判前の保全処分も家事審判事件の一種であるところ、家事手続法は、家事審判事件の記録の閲覧等について、当事者からの申立てと利害関係を疎明した第三者からの申し立てとで異なった規律。
当事者:主体的な手続追行の機会を保障するため、裁判所は原則として閲覧等を許可するが、一定の場合には例外的に許可しないことができる(家事手続法47条3項、4項)。
利害関係を疎明した第三者:裁判所が相当と認めるときは許可することができる(同条5項)。
当事者からの申立てを却下した裁判⇒即時抗告できる。
第三者からの申立てを却下した裁判⇒即時抗告できない
家事審判事件の記録の閲覧等の場面における当事者:
申立てによる事件については、申立人、相手方及び参加人(当事者参加人、利害関係参加人)が該当し、職権による事件については利害関係参加人がこれに該当。
一連の手続のどこまでを1つの事件ないし手続を構成するものとして捉えるかについては、方の定め方や手続の目的の同一性が判断基準になる。 
保佐開始の審判事件を本案とする保全処分:
①財産の管理者の選任等
②保佐命令
があるが、
これらは、保佐開始の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、暫定的に法律関係を形成し、もって被保佐人となるべき物の保護を図ることを目的とするもの。
⇒前記保全処分を命ずる審判があったときは、財産の管理者による財産の管理及び代理権や取消権の行使等を通じて、被保佐人となるべき者の保護が図られる⇒前記保全処分の事件は目的を達して(当該審級においては)終局することになる。
その後、財産の管理者は・・・・財産管理事務の適正を期する目的で職権により行われる別個の手続の資料として提出されるもの。
  経済p14
東京高裁R3.3.3  
  大手スーパー業者による優越的地位濫用の事例
  事案 Y(公取)は、Xが・・・88社のうち53社に従業員等の派遣をさせ、54社にオープンセール協賛金を、86社に創業祭協賛金をそれぞれ提出させ、18社の従業員等にイージーオーダーまたは既製品の紳士用スーツ等を購入させていたのは、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に当該取引に係る商品以外の商品を購入させ、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させていたものであり、これらは独禁法2条9項5号イ及びロに該当し、独禁法19条の規定に違反するものであり、かつ、特に排除措置を命ずる必要があるとして、独禁法20条2項、7条2項1号に基づき、排除措置命令をするとともに、・・・・課徴金12億8713万円の課徴金納付命令
⇒Xは、本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令の取消しを求める審判請求
⇒YはXの各審査請求をいずれも棄却する旨の審決
⇒東京高裁に本件審決の取消しを求める本訴を提起
  判断   独禁法2条9項5号にいう「自己の取引上の地位が相手方に優越していること」(優越的地位):
相手方にとって行為者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来たすため、行為者が相手方にとって著しく不利益な要請を行っても、相手方がこれを受け入れざるを得ない場合も考えられるから、行為者が、市場支配的な地位またはそれに準ずる絶対的に優越した地位ばかりではなく、当該取引の相手方との関係で相対的に優越した地位である場合も含まれるものと解するのが相当。
そうした優越的地位の有無を判断するにあたっては、
①行為者の市場における地位や、
②当該取引の相手方の行為者に対する取引依存度、
③当該取引の相手方にとっての取引先変更の可能性、
④その他行為者と取引することの必要性、重要性を示す具体的なじじつなどを
総合的に考慮することが相当。
・・・88社において、一般的にはXと取引することが重要かつ必要であったことがことが窺われる。
88社とXとの関係を具体的に検討し、88社にとって、Xとの取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来たすため、Xが著しく不利益な要請等を行っても、これを受け入れざるを得ない場合に該当⇒Xの取引上の地位が88社に対して優越していたと認めるのが相当。
  本件各行為について、独禁法2条9項5号の趣旨を踏まえ、
①従業員等派遣の要請に関して、従業員等を派遣する条件等が不明確で、相手方にあらかじめ計算できない不利益を与える場合はもとより、従業員等を派遣する条件等があらかじめ明確であっても、その派遣等を通じて相手方が得る直接の利益等を勘案して合理的と認められる範囲を超えた負担となり、相手方に不利益を与えることとなる場合、
②協賛金等の要請に関して、協賛金等の負担額、算出根拠、使途等が分明確で、相手方にあらかじめ計算できない不利益を与える場合はもとより、協賛金等の負担の条件があらかじめ明確であっても、相手方が得る直接の利益等を勘案して合理的と認められる範囲を超えた負担となり、相手方に不利益を与えることとなる場合、・・・・
③商品等の購入要請に関して、相手方が、その事業の遂行上必要としない商品等であり、または、その購入を希望しなくても、今後の取引に与える影響を懸念して、当該養成を受け入れざるを得ない場合などが、
自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して正常な商慣習に照らして不当な行為に当たる。 
・・・本件各行為が法2条9項5号の所定の不利益行為に該当する。
  違反行為期間について、
最高裁H17.9.13を参照し、
本件では、Xは、・・・継続的にXの役員等の指示に基づき組織的、計画的に、一連の行為として取引相手である88社に対して行ってきた
⇒全体として優越的地位の濫用行為がされたものと認められるから、1個の違反行為として違反行為期間を検討し、88社の納入業者のうちいずれかに対して最初に当該行為をした日を違反行為期間の始期である「当該行為をした日」と認め、88社の全ての入業者に対して当該行為が行われなくなった日を違反行為期間の終期である「当該行為がなくなる日」とそれぞれ認めることとなると判示。 
本件では、違反行為違反行為に該当する行為を止める決定をした後に協賛金の振込みがされていることもあって、その終期をXにおいて被疑行為に係る行為の取り止め等を社内に周知し、納入業者に対しても通知した日の前日である平成24年3月13日とした。
    ⇒Xの請求を棄却。
  解説  平成21年改正法により、独禁法に優越的地位の濫用行為を規制しする2条9項5号が規定され、濫用行為を行った業者に課徴金を課す20条の6が設けられて、本判決までに、4つの審決。
本判決が実体的判断に及んだ最初の優越的地位の濫用に関する審決取消訴訟についての判決。
優越的地位について:
公取が「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」「・・・ガイドライン」
考慮要素として、
①行為者の市場における地位、
②取引相手方の行為者に対する取引依存度
③取引相手方にとっての取引変更の可能性
④その他行為者と取引することの必要性・重要性
を示す事実を挙げる。
but
本件審決及びその後のエディオン事件及びダイレックス事件の審決:
不利益行為を受け入れるに至った経緯等を考慮。

本判決:
4つの考慮要素を指摘するほか、不利益行為を受け入れるに至った経緯や態様等も踏まえて、優越的地位該当性を判断。
本判決:88社を4つのグループに分けて優越的地位の該当性を判断。
Xとの取引を主に担当する特定の営業拠点が納入業者にとって重要であることに着目する判断。
Xの買い手としての力:
市場は購入市場(買付市場)であって、小売市場ではないとの批判。
but
本判決:売付市場(小売市場)におけるXの地位からXと取引することの重要性及び必要性が高まる⇒優越的地位の判断に当たり、必ずしも買付市場のみを考慮しなければならないものとはいえないとして排斥。
不利益行為該当性の判断:
公正競争阻害性をもたらす
ア:従業員等派遣の条件等が不明確で納入業者にあらかじめ計算できないような不利益を与える場合、
イ:納入業者が得る直接の利益の合理的な範囲を超える不利益を負わせる場合
という要件を満たせば不利益行為に当たるという分かりやすいシンプルな判断基準を提示。
  刑事p131
最高裁R4.2.25  
  金商法167条1項6号の「その者の職務に関し知ったとき」
  事案 インサイダー取引に係る情報伝達の事案。 
  争点 被告人が本件公開買付けの実施に関する事実を知ったことが、「その者の職務に関し知ったとき」という要件に該当するか。 
  一審・原審 第一審⇒肯定し、懲役2年及び罰金200万円、懲役刑につき3年間執行猶予
原審⇒それを是認 
  判断 F部に所属するA社の従業員であった被告人は、その立場の者がアクセスできる本件一覧表に社名が特定されないように記入された情報と、F部の「担当業務に関するBの不注意による発言を組み合わせることにより、C社の業務執行を決定する機関がその上場子会社の株券の公開買付けを行うことについての決定をしたことまで知った上、C社の有価証券報告書を閲覧して上記子会社はD社であると特定し、本件公開買付けの実施に関する事実を知るに至ったもの。
このような事実関係の下では、自らの調査により上記子会社を特定したとしても、証券市場の公正性、健全性に対する一般投資家の信頼を確保するという金融商品取引法の目的に照らし、被告人において本件公開買付けの実施に関する事実を知ったことが同法167条1項6号にいう「その者の職務に関し知ったとき」に当たるのは明らか。 
  解説   情報伝達・取引推奨規制(金商法167条の2)は、、いわゆる公募増資インサイダー事件等を受け、創設されたもの。 
  「公開買付けの実施に関する事実」:
公開買付者が、公開買付けを行うことについての決定をしたこと(金商法167条2項)。
「行うことについての決定」:投資者の投資判断に影響を及ぼすべきものであるという観点⇒ある程度具体的な内容を持つものでなければならず、対象会社は具体的に明確になっていることを要する。
  「職務に関し知ったとき」

(1)職務に関しというためにはどのような経緯で情報を得る必要があるのかという問題と
(2)職務に関しどのような情報を得る必要があるのかという問題
が含まれている。 
(1)について:
職務行為自体により知った場合のほか、職務と密接に関連する行為により知った場合を含み、誰から聞いたかなど知った方法は問わないという見解等

金商法166条1項5号、167条1項6号は、法人の他の役員等が契約の締結等に関し重要事実等を知った場合に、当該法人の内部において職務に関し重要事実等を知った役員等に対して適用される規定。
~当該法人の業務を分担しているという立場にあることから、当該法人と一体のものとして捉え、第一次情報受領者としてではなく、準内部者として取り扱うこととしたなどと解説。
この場合の「職務に関し知ったとき」の意義については、より限定的に解し、
金商法が情報の第二次受領者をインサイダー取引の規制対象としておらず、同一法人内で職務上重要事項等が伝達されていくとたやすく規制対象外になってしまうため、法人内部で職務上重要事実等の伝達を受けた者について設けられたものであり、法人内で他の役員等が知った重要事実等が、同一法人内で何らかの形で伝わってそれを知るに至ったという事情が必要との見解。
⇒伝達する側に伝達意思が認められる必要。
(2)について、投資者の投資判断に影響を及ぼすべき当該事実の内容の一部を知った者を含むとする見解。
     
2550   
  行政p5
東京高裁R3.4.14  
  適格現物出資と認められた事例
  事案 Xは、米国所在の法人との間で、医薬品用化合物の共同開発等を行うJVを形成する契約を締結し、同契約に基づき英国領ケイマン諸島において、特例有限責任パートナーシップ法(ELPS法)に準拠して特例有限責任パートナーシップであるAを設立し、その持分(本件持分)を保有。
その後本件JVの枠組みの変更に伴い、平成24年10月31日、本件持分全部をXの英国完全子会社に対し、現物出資(本件現物出資)により移転。 
X:本件現物出資が適格現物出資に該当し、その譲渡益の計上が繰り延べられることを前提に確定申告
所轄税務署長:本件現物出資が適格現物出資に該当しない⇒平成25年3月期の法人税等について各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分等

Xは、本件現物出資は、法人税施行令4条の3第9項に規定する「国内にある事務所に属する資産」を外国法人に移転するものではなく、適格現物出資に該当⇒Y(国)に対して前記各処分の取消しを求めた。
  一審   ●  ●適格現物出資制度の概要 
内国法人が法人に対して行う資産の現物出資は、法人税法は資産の譲渡として扱われ、現物出資の時点で当該資産の時価による譲渡があったものとして法人税の課税対象となるのが原則(法22条)。
but
その現物出資が適格現物出資に該当⇒それによる譲渡損益の繰延べが認められる(法62条の4第1項)。

法人税の負担が現物出資による企業再編の阻害要因となることを防止し、企業再編を容易にするため。
法2条12号の14の括弧書き:
「外国法人に国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債の移転を伴うもの」が適格現物出資から除外。
施行令4条の3第9項:
国内にある資産又は負債として、
「国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利・・・その他国内にある事業所に属する資産又は負債」と規定。

国内にある含み益のある資産を外国法人に移転することでその含み益に対する課税が行われなくなることを規制し、我が国の課税権を確保しようとする趣旨。
  ●「国内にある事業所に属する資産」の判断基準 
法人税基本通達1-4-12:
「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かは、原則として、当該資産が国内にある事業所又は国外にある事業所のいずれかの事業所の帳簿に記載されているかにより判定するが、
実質的に国内にある事業所において経済的な管理が行われていたと認められる資産については、国内にある事業所に属する資産に該当。
  ●本件現物出資の対象資産について 
対象資産は本件持分。
Aの事業用財産の共有持分と切り離されたパートナーとしての契約上の地位のみが他に移転することは想定されていない⇒法人における株式の移転とは根本的に異なる点がある。
その内実は、Aの事業用財産の共有持分とLP(リミテッド・パートナー)としての契約上の地位とが不可分に結合されたもの。
  ●現物出資の対象資産としての本件持分の管理が行われていた事業所について 
本件持分は、Aの事業用財産の共有持分とLPとしての契約上の地位とが不可分に結合された資産
⇒個々の事業用財産の持分やパートナーシップ契約上の個々の権利等が全て結合された1個の資産とみてその管理が行われていた事業所を特定するのが相当。
①パートナーがAの事業に参加する目的は、その出資に由来する事業用財産の運用により利益を得ること
②パートナーとしての契約上の地位は、その運用のための手段と位置付けられる

Aのパートナーシップ持分の価値の源泉はAの事業用財産の共有持分になる。
当該共有持分と当該地位との関係は、主物と従たる関係にあるものと捉えることが可能
⇒経常的な管理が行われていた事業所は、Aの事業用財産の主要なものの経常的な管理が行われていた事業所とみるのが相当。
 
本件持分は、その主たる構成要素であるAの事業用財産のうち主要なものの経常的な管理が国内にある事業所ではない事業所において行われていた
⇒「国内にある事業所に属する資産」には該当せず、本件現物出資は、適格現物出資に該当。
  判断 一審判決を追認し、控訴を棄却。 
  解説 特例有限責任パートナーシップは法人格を有しない(最高裁) 
本判決:
Aは民法上の組合に類するものとされている。
法人税法上、組合に関する課税についての規定はなく、組合の持分を現物出資した場合の取扱いについても規定はない。
参考となるのは、民法の組合に関する解釈。
民法上、組合員の持分には、個々の組合財産上の共有持分や組合員としての契約上の地位が含まれているが、組合員の持分を譲渡する場合には、その具体的な組合財産の共有持分と切り離された組合員たる地位のみが他に移転するとは想定されていない(我妻)。
本判決:この組合に関する解釈をもとに本件持分の現物出資が株式の移転とは根本的に異なると指摘。
  民事p30
東京高裁R4.10.13  
  自動車保険での「常時使用する自動車」に当たるとされた事例
  事案 Xは、保険会社であるYとの間に、Xの子が所有し同人及びXが運行のように供する自動車(「本件契約車両」)につき、総合自動車保険契約を締結。 
Xは事故⇒知り合いの損害Aに本件契約車両の修理を依頼し・・・訴外Aから別の中古車を購入するまでを借用期間として、本件契約車両とは異なる自動車(「本件車両」)を無償で借りた。
Xは、本件車両を運転中事故⇒Yに対し、本件契約の他車運転危険補償特約に基づき、保険事故に係る損害の補填を求めて保険金を請求。
Y :本件車両は同特約が定める除外事由(Xが「常時使用する自動車」)に当たるとして支払拒絶。
  争点 自動車保険の他車運転危険補償特約:被保険者やその家族が被保険自動車(保険契約車両)以外の自動車(「他車」)を臨時に他人から借りて運転中に起こした事故について、当該他車を被保険自動車とみなして補償の対象とするもので、通常、自動車保険に自動的に付帯。
but
補償の対象となる他車から、①記名被保険者、その配偶者又はこれらの同居の親族若しくは別居の未婚の子が所有する自動車又は②常時使用する自動車が除外。
本件では、②に当たるかが争点。
  原審 ②に該当⇒請求棄却。 
・・同特約は、本来は車両ごとに付保されるべき自動車保険について、その例外として被保険者や交通事故被害者の保護等の観点から一定の合理的範囲に保障の対象を拡張するもの。
「常時使用する自動車」が同特約の対象外とされたのは、車両ごとに付保するとの原則に立ち返り、別途当該車両について保険契約を締結して危険を担保すべきであるとの理由に基づく。

同特約における「常時使用する自動車」に当たるか否かについては、当該車両の使用期間、使用回数、使用目的、使用場所、使用についての裁量の程度等を総合的に考慮し、当該自動車の使用が被保険自動車の使用について予想される危険の範囲を逸脱したものと評価されるか否かにより判断すべき。
・・・・本件車両は、返却時期に確定的な期限は設けておらず、その間Xが特段の制約もなく自由に利用することができ、現に継続的かつ日常的に使用していたもの
⇒被保険自動車である本件契約車両との関係において一時的・臨時的に使用していたものとはいえず、本件車両の使用は、被保険自動車である本件契約車両の使用について予想される危険の範囲を逸脱したものと評価される。
  判断 「常時使用する自動車」が他車運転危険補償特約による補償の対象外とされた趣旨について、
被保険者がたまたま被保険自動車に代えて他の自動車を運転した場合に、その使用が被保険自動車の使用と同一視できるようなもので、事故発生の危険性が被保険自動車について想定された危険の範囲内にとどまるような場合について一定の合理的範囲に補償の対象を拡張する趣旨と解されるところ、被保険者が常時使用する自動車は上記の範囲を超えるため同契約の対象外とされている。
で、概ね原審の判断を是認⇒控訴棄却。
  解説 「常時使用する自動車」は必ずしも明確でない⇒その該当性をめぐって多くの裁判例。 
主流:
他車運転危険補償特約の趣旨を、被保険者がたまたま(臨時的・一時的に)被保険自動車に代えて他車を運転した場合、その使用が被保険自動車の使用と同一視できるようなもので、事故発生の危険性が被保険自動車について想定された危険の範囲内にとどまる限度において、他車による危険も担保しようとするもの。
他車をある程度の期間、あるいは頻度で、通勤、買物、遊び等に利用し、使用目的に特段の限定がなく、返還期限も明確でもなかった場合には、「常時使用」に当たると判断したものが多い。
「常時使用」に当たらないとされた裁判例は、他車の使用目的・使用期間が特定されていたもの、自車が何らかの事情で利用できなかったため、たまたま他車を利用したものなど、他車の使用が臨時的・一時的なことが明確なものに限られている。
他車が、被保険自動車が事故により損傷し、又は故障したためこれを修理する期間借り受けるいわゆる代車であることが認められれば、通常「常時使用」に当たらないとされている。
  民事p37
広島高裁R4.1.28  
  財産分与の申立てで相手方が権利者となる場合
  事案 離婚したX(元妻)(第1事件)とY(元夫)(第2事件)がそれぞれ財産分与の審判を申立てた。
  原審 ①当事者間に既に財産分与に関する合意が成立
②審理終結の時点でXに財産分与を求める意思がない
⇒各申立てをいずれも却下。
⇒Yが即時抗告
  差戻前抗告審 第1事件に係る部分を却下

第1事件はXのYに対する財産分与請求権の具体的財産内容を形成する手続であり、Xの申立てを却下する旨の原審判部分は第1事件においてYが受ける最も有利な内容⇒Yに同部分に対する不服申立ての利益があるとは認められず、不適法。
第2事件に係る部分:
民法768条2項ただし書所定の期間の経過を理由に申立てを却下すべき⇒抗告を棄却。
    Yが抗告許可の申立て⇒広島高裁は許可。 
  最高裁 差戻前抗告審決定中第1事件に係る部分を破棄⇒更に審理を尽くさせるため、同部分を広島高裁に差し戻す。
第2事件に係る部分は、判断は正当⇒抗告棄却。 

家事事件手続法156条5号は、財産分与の審判及びその申立てを却下する審判に対しては、夫又は妻であった者が即時抗告をすることができる。
これは、財産分与の審判及びその申立てを却下する審判に対しては、当該審判の内容等の具体的な事情のいかんにかかわらず、夫又は妻であった者はいずれも当然に抗告の利益を有するものとして、これらの者に即時抗告権を付与したもの。
    差戻後抗告審:財産分与の審判の申立てに対し、裁判所の財産分与の申立人から申立てをしていない相手方への財産分与を命ずる審判をすることができるか? 
  判断 ①財産分与に関する処分の審判事件においては、分与を求める額及び方法を特定して申立てをすることを要するものではなく、単に抽象的に財産の分与の申立てをすれば足り
②裁判所は申立人の主張に拘束されることなく自らその正当と認めるところに従って分与の有無、その額及び方法を定めるべきもの
③当該審判事件の審理の対象が、基本的に離婚の際の夫婦共有財産の清算であって、当事者の一方から他方に対する分与の是非並びに分与の額及び方法は、裁判所が当該清算の結果等一切の事情を考慮してこれを定めることとされている

裁判所において、財産分与に関する処分の審判の申立人が給付を受けるべき権利者となるように財産分与の内容を定めるか、そうでなければ当該審判の申立てを却下しなければならないものと解すべき理由はなく、相手方が給付を受けるべき権利者となるような財産分与を定めることも可能。
財産分与の処分に関する審判の手続において・・・審理の結果、申立人が給付を受けるべき権利者であるとは認められず、かえってその相手方が給付を受けるべき権利者であると認められる場合において、少なくとも相手方が、当該審判の手続において、自らが給付を受けるべき権利者であり、申立人に対して給付を求める旨を主張しているときは、審判の申立てを却下するのではなく、申立人に対して相手方への給付を命じることができる。

Yの主張をふまえ、Xに対しYへの給付を命じるべきか否かという点について更に審理を尽くさせるため、原審判中第1事件に係る申立てを却下した部分を取り消し、同部分を広島家裁に差し戻した。
  解説 財産分与の審判の申立てに対し、裁判所が財産分与の申立人から申立てをしていない相手方への財産分与を命じる審判をすることができるか?
最高裁の補足意見で肯定説が展開。
学説:
肯定説
否定説
裁判例で、申立人の持ち出した額が分与相当額を上回る⇒単に申立人の申立てを退けるに止まらず、申立てをしていない相手方への分与を認めた。
  実務的には否定的に解するものが多い
vs.
①そもそも財産分与は離婚訴訟に附帯する場合でもその性質は非訟事件であり当事者の申立てには拘束力がない(通説・判例)
②通常の民事事件においても例えば債務者ないし損害賠償額の確定訴訟や債務不存在確認の訴えが認められ債務者側からの紛争解決の道が開かれている
③そもそも非訟事件については実体法上の権利者と手続上の申立人が同一人とは限らず、財産分与の実体法上の権利者と手続法の申立人が一致しない場合が起こり得る
  民事p43
広島高裁R4.4.21  
  警察官に対する退職勧奨と降格勧奨等が違法⇒国賠請求(肯定事例)
  事案 Xが、警察本部の監察官等から退職強要、降格強要及び私生活への違法な介入を受けた⇒Y(山口県)に対し、国賠法1条1項に基づき、慰謝料等を請求。 
  争点 ①違法な公権力の行使の有無(不法行為該当性)
②損害の額 
  判断 争点①を肯定し、争点②について80万円の損害を認めた原判決を変更し、150万円の損害を認めた。 
  争点① 
退職勧奨及び降格勧奨は、対象とされた者の自発的な退職又は降格申請を求める説得活動⇒
対象とされた者の自発的な退職あるいは降格意思の決定を促すために相当と認められる限度を超えて、対象とされた者に対して不当な心理的圧迫を加えたり、その名誉感情を害するような言動を用いたりすることによって、その自由な意思決定を困難にすることは許されず、相当と認められる限度を超えた退職勧奨や降格勧奨及びそれらの手段としてもちいられた私生活への介入は、違法な権利利益の侵害として不法行為を構成。
原審:
Xが退職強要、降格強要及び私生活への違法な介入と主張した事実について、個別にXの権利又は法律上保護される利益を違法に侵害するものかどうかを検討して、一部の事実について、違法な公権力の行使と判断。
本判決:
Yの関係者らは、Xの女性問題及び借金問題は、指導監督の対象となり、懲戒処分の対象ともなり得るものであるが、これらを理由としてXを懲戒免職とすることはできないと認識していたものの、Xを警察組織に残留させた場合、Xが同様の問題を起こすおそれが高いと考え、Xが誠実に職務に従事するとおよそ期待し得ない状況であると判断

Xが自主退職するのが望ましいと考えていたが、Xが自主退職しないことも想定していた

Xがに対する一連の退職勧奨及びそれに向けての降格勧奨等の行為は、あくまでも自主退職を拒み、警察組織への残留を望んだXを自主退職に追い込もうと企図し、ときには、それがXのためであるかのように装い、ときには、強い口調でXを心理的に追い込もうとして、執ようにいわば組織的に行った違法なものであり、その行為の悪質性は高い。

原審が違法な公権力の行使と認めなかった事実についても、Xを自主退職に追い込むための一連の行為に含まれるものとして、違法なものと判断。
  ●  原審:違法な退職勧奨及び降格勧奨によって、継続的かつ執ように不当な心理的圧迫を受け、多大な絶望感や屈辱感等の精神的苦痛を被った⇒慰謝料80万円
判断:悪質性の高い一連の違法行為によって、前記と同様の精神的苦痛を被った⇒慰謝料150万円。 
  民事p59
東京地裁R4.3.2  
  テニス大会での事故と教員らの注意義務違反(肯定)
  事案 Y(東京都)の設置運営する中等教育学校の第4学年に在籍するXが、課外のクラブ活動でのテニス大会で試合中(大会はB校で行われた)にコンクリート壁に衝突して傷害を負った⇒
①Yの履行補助者である本件テニス大会の実行委員会の教員、B校の教員及びB校が運営する加害のクラブ活動であるテニス部の顧問、並びにA校のテニス部の顧問及び副顧問が、本件テニスコートを事故防止のための措置が講じられていない状態で使用させ、またXに対し必要な注意喚起を怠ったという在学契約類似の法律関係上の安全配慮義務違反があったため前記事故が発生⇒民法415条に基づき、損害賠償を請求
②Y及びYの教育委員会等に所属する前記事故に係る損害賠償請求事件を担当し関わった者らが書面による回答及び本件訴訟において意図的に虚偽の主張をしたことにより精神的苦痛を被った

Yに対し、使用者責任又は国賠法1条1項に基づき、損害賠償を請求。
  判断  教育活動の一環として行われる学校の課外のクラブ活動において、担当教諭は、できる限り生徒の安全にかかわる事故の危険性を具体的に予見し、その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止する措置を執り、クラブ活動中の生徒を保護すべき注意義務を負う⇒
生徒がクラブ活動の一環として公式試合に出場する場合には、公式試合の主宰者は、クラブ活動の担当教員と連携して、できる限り生徒の安全に関わる事故の発生の危険性を具体的に予見し、その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止する措置を執り、試合に出場する生徒を保護すべき注意義務を負う。
  本件テニス大会を主催する本件実行委員会の教員:
本件テニス大会の会場であるB校のテニス部の担当教員(顧問、副顧問等)
A校のテニス部の担当教委員(顧問・副顧問等)
  公式試合に使用するテニスコートにつき定められれ太規格の範囲で選手がボールを追いかけて動き回ることが想定されていることや、本件テニスコート周辺の地面の素材などの状況、本件壁等の位置など
⇒試合中に選手が本件壁に衝突することにつき、クラブ活動のテニス部の担当教員や公式のテニス大会の主催者であれば、具体的に予見可能であって、また、試合に出場した生徒が、緩衝性のない硬いコンクリートでできた本件壁に衝突すれば、生徒が重大な傷害の結果を負う危険性が高いことを容易に予見できた。
 
本件実行委員会の教員は、本家テニスコートの使用を回避するか、又は少なくとも本件壁に緩衝性のある防護マットを設置する措置を執るべき注意義務を負う。
会場であるB校のテニス部顧問は、本件実行委員会の教員に対し、本件テニスコートをの使用を回避するか、又は少なくとも本件壁に緩衝性のある防護マットを設置する措置を執るよう働きかけるべき注意義務を負う。
A校の顧問及び副顧問は、本件テニスコートの安全性を点検し、その危険性について認識した上で、本件実行委員会の教員に対し・・・・働きかけるべき注意ぎうを負う。
  解説 教育活動の一環として行われる学校の課外のクラブ活動において、担当教諭は、できる限り生徒の安全にかかわる事故の危険性を具体的に予見し、その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止する措置を執り、クラブ活動中の生徒を保護すべき注意義務を負う(最高裁)。
クラブ活動中の施設の利用方法に関連する事例
裁判例:
県立高校の野球部員のフリーバッティングの打球が、同一グランドでコートのライン引きをしていたハンドボール部員の頭部に当たって負傷
野球部の練習がなされた場合に打球が再三にわたり練習中の他のクラブの生徒の身体に当たっていたなどの事情⇒事故発生の危険性を具体的にかつ容易に予見できた⇒校長の過失を認めた

市立中学校の野球部員が並列してトスバッティングをしていた際に、打球が斜め前方の投手に当たって負傷:
打球が隣の投手の身体に強く当たる可能性は極めて小さく、練習体形自体は危険性を有するものではない⇒指導教諭の過失を否定
  民事p69
東京地裁R4.4.15  
  消防団の民訴上の当事者能力(否定)
  事案 Yの消防団員であるXは、Yの分団内での他の消防団員からハラスメント行為を受けた⇒Yを相手方とし、Yの安全配慮義務違反を理由として相当額の金銭の支払を求める申立て⇒Yは出頭せず⇒調停不成立⇒XがYに対し、Yが正当な事由なく前記調停期日に出頭しなかったことが違法であると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、慰謝料及びXの交通費等の損害金の支払等を求めた。
  争点 Yが権利能力なき社団に該当して、当事者能力を有するか? 
  規定  民訴法 第二九条(法人でない社団等の当事者能力)
法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる。
  判断 消防組織法及び関係する東京都条例の定めを踏まえ
①消防団であるYについて、消防という公益目的の組織として、消防組織法及び東京都条例に基づき設けられたものであり、消防団員の身分事項も法令で定められ、指揮監督に関する定めも置かれている等
②Yの沿革等は明らかではないが、少なくともYにおいて東京都の管理外の収入や財産を有しているとは認められない

Yは、地方公共団体である東京都の行政組織の一部にすぎず、東京都を離れて独自の法主体性を認める理由ないし必要性も認め難い⇒権利能力なき社団として団体としての組織を備えているとは認められず、当事者能力を有しない⇒訴えを却下。
  解説 権利能力なき社団に該当するかについて
①団体としての組織を備えること
②多数決の原則が行われること
③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続すること
④その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していること
の判断基準(判例)。
尚、④の財産の管理に関して、必ずしも固定資産ないし基本的財産を有することは不可欠の要件ではなく、団体として、内部的に運営され、対外的に活動するのに必要な収入を得る仕組みが確保されかつ、その収入を管理する体制が備わっている等の諸事情も合わせた総合的判断によって、権利能力なき社団に該当し得る旨を判示(最高裁)。 
上記①に関して、他の団体からの独立性の有無とうい観点から問題となった事例:
肯定例:
ゴルフクラブ
都の特別区単位の行政書士会支部
寺の護持会
市の消防団の分団(仙台高裁)
否定例:
政党の都道府県単位の組織
外国の公共放送局の東アジア支局
消防団:
消防組織法18条1項及び2項並びにこれを受けた市町村条例等に基づき設置される機関
仙台高裁判決:
市の消防団の分団が原告(控訴人)となり、かつて分団の番屋の敷地として利用され、複数の団員の共有名義として登記された土地について、分団の構成員に総有的に帰属すると主張して、一部の持分の登記名義人の相続人に対して分団代表者個人名義への持分移転登記手続を求めた事案において、当該分団について権利能力なき社団に該当すると判断。

当該分団が江戸時代から民間の消防団として存続しその後市民の一組織に取り込まれた経緯が詳細に認定されていることを踏まえ、当該分団固有の特殊な歴史的経緯に加え、現に私人名義となっている不動産の権利関係を明確化する必要性をも考慮した判断。
このような事情のない場合にまで地方公共団体の一組織を権利能力亡き社団とみるのは相当でないとの指摘。
本判決:Yについての東京都の一組織にすぎないと判断。
  商事p73
東京地裁R4.3.28  
  独禁法違反を理由とする株主代表訴訟
  事案 同業他社8社との間で共同してアスファルト合材の販売価格の引き上げを行っていく旨を合意することにより、合材の販売分野における競争を実質的に制限⇒独禁法2条6項所定の不当な取引制限に該当するなどとして、公正取引委員会から排除措置命令及び課徴金納付命令⇒当時の取締役(Y2~Y4)及び代表取締役(Y1)に善管注意義務があった⇒会社法423条1項に基づく損害賠償として、A社が本件課徴金納付命令に基づき納付した課徴金の額の全部又は一部及びこれに対する遅延損害金を、Yら各人の責任金額の限度で連帯してA社に支払うよう求めた株主代表訴訟の事案。
  争点 ①Y1~Y4が本件合意について取締役の善管注意義務(Y2~Y4につき法令遵守義務、Y1につき同義務又は内部統制システム構築義務)に違反したか
②損害の有無及び金額
  判断 ●  ●争点① 
   次のア・イの下では、Y1~Y4は、事業者であるA社を名宛人としてA社が遵守すべき独禁法3条(独禁法2条6項所定の不当な取引制限の禁止)に違反させる行為⇒本件合意について取締役としての法令遵守義務に違反。
ア:少なくとも本件違反行為開始以来、本件合意の存在及び内容を認識していた
イ:
①Y4:A社の合材事業を担当する製品事業部に在籍し、その後同事業部長となったY4は、本件合意に従って、A社において合材の販売価格の引き上げを行うか否か、行う場合にはその引上げ時期や引上げ幅についての方針を決定し、同方針に従って作成された社内通達の発出について事業推進本部長及び同副本部長の決裁を経た上で、社内通達等を通じてこれを指示
②A社の製品事業部の上位部署である事業推進本部の本部長Y2、副本部長Y3及び代表取締役Y1は、製品事業部が本件合意に従って同方針を決定し、同方針をA社の指示内容とすることを妨げず、
③Y2及びY3は、同方針を記載した通達の発出を承認。
  ●  ●争点② 
  Y1~Y4の法令遵守義務違反とA社の本件自認課徴金額の納付tの間に相当因果関係があり、各取締役在任時期と本件課徴金納付命令に係る課徴金額の算定の基礎となる期間の重なりを考慮すると、Y1~Y4は各請求額の損害を賠償する義務を負う。
  規定  会社法 第三五五条(忠実義務)
取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。
  解説  ●  ●争点①
会社法355条:取締役が法令を遵守してその職務を行う義務(法令遵守義務)を負う。
 「法令」には、取締役を名宛人としてその職務遂行に際して遵守すべき義務を個別に定める規定だけでなく、会社を名宛人とし、会社がその業務を行うに際して遵守すべき全ての規定も含まれ、取締役が会社をして前記規定に違反させることとなる行為をしたときは、前記「法令」に違反する行為をしたと解される(最高裁)。
Y1~Y4がA社をして、事業者(会社)を名宛人として不当な取引制限を禁止する独禁法3条に違反させる行為をした⇒法令遵守義務違反。
本判決:
A社の社内体制等及び合材の販売価格の決定過程等を認定した上で、A社における合材事業の経営上の位置付け、Y1~Y4の職務内容、前記決定過程への関与の仕方等を踏まえて、Y1~Y4の本件合意の存在及び内容に係る認識を認定。
その上で、Y1~Y4の行為が、A社をして独禁法3条に違反させる行為といえる⇒Y1~Y4の法令遵守義務違反を認めた。
  ●争点② 
会社に対する課徴金又は罰金を取締役の善管注意義務違反による損害とすることの可否:
肯定する裁判例がある。
東京高裁H29.6.15は
会社の粉飾を手助けしたコンサルティング会社経営者の不法行為責任が問われた事案で課徴金相当額を損害と認めなかったが、
「違法行為について、当該法人が、実際の実行行為者である役員や従業員に対して、所属する当該法人に財産的存損害を与えたものとして、当該法人との委任契約や雇用契約等の義務違反として当該法人の内部において損害賠償責任を追及することはやむを得ない」とした。
被告取締役らの認識時期や社内での地位を考慮し、損害額の一定程度についてのみ任務懈怠との相当因果関係を認めた裁判例(大阪高裁)も存在。
  刑事p84
名古屋高裁R4.3.3  
  名張毒ぶどう酒殺人事件第10次再審請求異議審決定
  事案 刑訴法435条6号の証拠の明白性が認められないとして再審請求を棄却した原決定が異議審においても維持され、異議が棄却された事例。 
  争点 ①毒物の特定に関するもの
②封緘紙の糊に関するもの
③自白の信用性に関するもの
④犯行の場所と機会に関するもの 
  判断 ● 封緘紙の糊
主張:
本件確定判決の認定:毒物は、公民館の囲炉裏の間で初めて開栓された瓶詰めぶどう酒に取入され、その際に封緘紙が切れてその場に落ち、それが証拠物として収集された⇒同封緘紙には製造段階で付けられた糊だけが付着しているはず。
but
鑑定の結果、別の成分を持つ糊が検出⇒囲炉裏の間で初めて前記瓶詰めぶどう酒が開栓されて毒物が投入されたとする本件確定判決の事実認定に合理的疑いが生じた。
判断:
新証拠である鑑定につき、同封緘紙にPVAが付着している証拠としたスペクトル図の特定箇所のピークについて、それが成分判定の根拠となる「ピーク」といえるか疑問⇒「専門的知見に基づく科学的根拠を有する合理的なものということができない」
●毒物の特定
主張:
確定判決の認定では毒物は農薬ニッカリンであるとされ、ニッカリンTからはある特定物質が検出されるはず。
ぶどう酒に市販のニッカリンTを入れた検体からはTriEPPが検出されたとの新証拠提出。
⇒毒物がニッカリンTであるとする本件確定判決の事実認定に合理的疑いが生じた。
第7次最新請求審:
(1)本件飲み残しぶどう酒からTriEPPが検出されなかったから毒物がニッカリンTでない疑いが生じたことを1つの根拠として再審開始決定。
but
(2)異議審は、当時の三重県衛生研究所の試験によってはTriEPPが検出できなかったことも考えられる。他の新旧証拠を総合して、決定を取り消して再審請求を棄却。
(3)特別抗告審:
他の成分が検出されている⇒TriEPPのみが検出されなかったことの説明が不十分
⇒事件検体と禁じの条件でペーパークロマトグラフ試験を実施する等の鑑定を行うなど、更に審理を尽くす必要がある⇒決定を取り消して名古屋高裁に差し戻し。
(4)差戻後異議審
(5)差戻後特別抗告審
「近似の条件での鑑定」は行わなかったが
ア:当時の三重県衛生研究所のペーパークロマトグラフ試験で行われたエーテル抽出ではTriEPPは抽出されない。同試験では「塩析」と言う操作も行われなかった⇒本件の飲み残しぶどう酒からTriEPPが検出されなくてもおかしくない。
イ:・・・・両者を区別する理由とはならない。
主張:
実験条件を調整することによってTriEPPは必ず検出でき、TriEPPが検出されないということはあり得ないとの新証拠⇒「PETP由来説」の誤りが実証できた。
判断:
「PETP由来説」は科学的根拠を有する説明であり、この説を否定するためには当時と完全に同一の条件での実験で実証するか、それが不可能であれば結果に影響を及ぼし得る条件を一致させた上での実験で実証する必要があるところ、新証拠はそのような条件を満たしていない⇒明白性を否定。
2549   
  民事p5
東京地裁R4.2.14  
  土地売買の中間業者の詐欺行為・転付命令の不当利得(肯定事案)
  事案 X:Aの所有する土地を取得するに当たり、中間業者であるY1の代表者Y2が、実際はその一部を自己が費消する目的があるにもかかわらず、Xから受領した売買代金はAに全て支払うなどの虚偽の説明をし、Xに売買代金の一部(手付金)を支払われた⇒
Y1に対し会社法350条に基づき、
Y2に対し不法行為に基づき
支払金分の損害の賠償を求めた。
X:Y3はXが前記手付金をY1から取り戻すことを妨害する目的で、貸付けの実態がないにもかかわらず、Y3がY1に金員を貸し付けたとの虚偽の公正証書を作成し、Xが前記手付金を振り込んだY1名義の預金口座の預金債権を差し押さえて転付命令の発令を受け、法律上の原因なく利得を得た
⇒Y3に対し不当利得に基づき、利得の返還を求めた。
Y1:Xは詐欺事件をでっち上げて本件口座を凍結⇒売買契約の違約金条項に基づき違約金の支払を求めるとともに、不法行為に基づき損害賠償を求めた。
  争点 ①Y2のXに対する不法行為(詐欺行為)の有無
② XのY3に対する不当利得返還請求権の存否
  判断 ●争点① 
・・・本件土地の所有者であるAがいくらで本件土地を売却する意思があり、Aにいくら支払えば本件土地を入手できるかなど本件土地の価格に関わる重要な事項で、Xが本件土地を10億円で購入することを決め、手付金1億円を支払う前提となる事項であるところ、Y2はこれらの点についてXを欺いた。
Y2により欺罔行為がなければXは本件土地を10億円で購入する旨の意思表示をしなかった。

Y1及びY2が主張するようにXが10億円で本件土地を購入できる可能性が実際にあったとしても、Y2の行為は不法行為(詐欺行為)に該当。
  ●争点② 
①Y3が本件差し押さえ及び転付命令により取得した本件口座の預金債権は、XがY2に騙取された手付金1億円の残金であり、社会通念上Xの金銭でY3の利益を図ったと認められるだけの連結がある。
②Y3のY2に対する債権は実態がなく、Y3による本件差押え及び転付命令はXが手付金を取り戻すことを妨害するために行われた、本件口座の預金債権がXからの騙取金であると知っていた

Xの損失とY3の利得には不当利得の成立に必要な因果関係がある⇒不当利得の成立を肯定。
  解説 最高裁:
不当利得の制度は、ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に、法律が、公平の観念に基づいて、利得者にその利得の返還義務を負担させるもの。
いま甲が、乙から金銭を騙取又は横領して、その金銭で自己の債権者丙に対する債務を弁済した場合に、乙の丙に対する不当利得返還請求権が認められるかどうかについて考えるに、
騙取又は横領された金銭の所有権が丙に移転するまでの間そのまま乙の手中にとどまる場合にだけ、乙の損失と丙の利得との間に因果関係があるとなすべきではなく、甲が騙取又は横領した金銭をそのまま丙の利益に使用しようと、あるいはこれを自己の金銭と混同させ又両替し、あるいは銀行に預入れ、あるいはその一部を他の目的のため費消した後その費消した分を別途工面した金銭によって補填する等してから、丙のために使用しようと、社会通念上乙の金銭で丙の利益をはかったと認められるだけの連結がある場合には、なお不当利得の成立に必要な因果関係があるものと解すべき。
丙が甲から右の金銭を受領するにつき悪意又は重大な過失がある場合は、丙の右金銭の取得は被騙取者又は被横領者たる乙にたいする関係においては、法律上の原因がなく、不当利得となるものと解するのが相当。
  民事p14
東京地裁R4.2.25  
  破産申立代理人の財産散逸防止義務違反(否定)
  争点 Yが本件委任契約を締結した期日から、Aとミュージカル公演開催のための業務を分担していたB会社の預金口座からの最終出金日、又はAの「友の会」の貯金口座からの最終出金日までの各期間における、本件委任契約上のYの財産散逸義務違反の有無、及びYの財産散逸銀無違反によって生じたAの損害額。
  判断 Xの請求を棄却。 
債務者(破産者)の申立代理人は、偏頗弁済や詐害行為等の債権者の公平性を損なうような行為を避ける義務を第1次的に負う債務者の代理人として、破産申立てに係る法律事務を遂行にするにとどまり、債務者がそのような行為に及んで破産財団を構成すべき財産が散逸したとしてしても、その一事をもって、債務者との間の委任契約上の善管注意義務違反としての財産散逸義務防止義務違反の責任を負うと解するのは相当といえない。
申立代理人が、
①債務者に対して破産制度上課された義務に関して誤った指導及び助言をしたとき、
②債務者から委託を受けて保管していた財産を法的根拠に基づくことなく散逸させたとき、
③債務者が偏頗弁済や詐害行為等、明らかに破産法の規定に反するような財産の処分行為をしようとしていることを認識し又は容易に認識し得たにもかかわらず、漫然とこれを放置したようなときなど、
自ら破産財団を構成すべき財産を散逸させてその結果として債務者が破産制度を円滑に利用することのできない結果を招いたと評価されるような場合には、前記責任を負う余地があり、
具体的には、事案の内容及び性質、破産手続の具体的状況及びその段階、債務者の説明状況及び協力態度、債務者による財産散逸行為に関する申立代理人の認識可能性を踏まえ、これらの要素を客観的・総合的に勘案して個別具体的に判断すべき。
・・・・義務違反は認められない。
  解説   ●申立代理人の財産散逸防止義務の法的根拠 
破産制度の趣旨に照らし、破産財団を構成すべき債務者の財産が、破産管財人に引き継がれるまでの間、債務者により不当に減少したり散逸したりしないように指導・助言する法的義務(財産散逸防止義務)を追い、これに違反した場合には損害賠償責任を負う。
本判決:
破産財団を構成すべき財産の散逸を防止する1次的な義務を追うのは債務者であって(破産法160条以下、265条以下参照)、
申立代理人は、債務者によるこれらの行為を防止するすべく法的指導や助言すべき義務を負うにすぎず、申立代理人による債務者の財産状況等の調査は、債務者の任意の協力を前提とせざるを得ない

申立代理人は、上記①~③のような場合には債務不履行責任を負うことがある。
  ●申立代理人の義務違反行為 
裁判例
学説:
申立代理人は、破産申立て事件の受任から調査を経て債務整理の方針決定までの段階においては、債務者の財産管理に十分な助言を与えるなどの注意を払った場合には、債務者がこれに従わなかった場合であっても損害賠償責任を負わないとする見解’(伊藤眞)。
  民事p29
さいたま地裁R3.12.15  
  いじめで教諭らと市教育委員会の対応が国賠法上違法とされた事案
  事案 所属するサッカー部の生徒からいじめ⇒不登校⇒同中学校の教諭ら及び市教育委員会の対応が不適切であり、これが後続のいじめの発生や不登校の長期化を招いた⇒国賠法1条1項に基づき、被告(埼玉県川口市)に対し慰謝料等の支払を求めた。 
  判断 自宅学習について指導する際に教諭が原告の頭をたたくなどしたことについて、原告に対し少なからぬ程度の有形力を行使したもの⇒指導方法として必要・相当といえない⇒違法性を肯定。 
教諭らが他の保護者らに対し原告のいじめの訴えが事実でないかのように伝えたことについて、原告に対する周囲の反感を強め、原告の登校を更に困難にする行為⇒違法性を肯定。
①教諭ら及び市教育委員会がいじめ防止対策推進法28条1項の重大事態に関する調査を怠った
②教諭らの同調査につき市教育委員会の指導義務違反も認められる
被告:教諭ら及び市教育委員会が重大事態は発生していないと判断したことの合理性を主張
vs.
その判断を合理的に基礎づけ得る事情はない。
重大事態を認知すべきときに重大事態を認知しない裁量が教諭ら及び市教育委員会にあるとは解されない。
慰謝料50万円、弁護士費用5万円を認定。
  解説 裁判例・文献 
  知財p44
東京地裁R4.7.29  
  (脚本の)映画試写会での公表(否定)とその後の週刊誌での掲載による公表権の侵害(肯定)
  事案 X1:映画の監督、脚本等を担当
X2:脚本を担当
Xらが、本件映画に関する記事を週刊誌に掲載したY1のほか、本件映画を制作、配給等するY2及びY3に対し以下の請求。

(1)Xらの請求Y1に対する請求:
(ア)・・記事の開催内容がXらの名誉を毀損⇒不法行為に基づく損害賠償請求
(イ)Y1が本件記事に本件脚本を無断で引用し、Xらの著作者人格権(公表権)を侵害⇒不法行為に基づく損害賠償請求
(ウ)・・・民法723条に基づく謝罪広告の掲載

(2)X1の請求
(ア)Y1及びY2に対する請求
名誉毀損についての共同不法行為に基づく損害賠償請求。
(イ)Y2らに対する請求
(a)Y2らが本件映画の公開を中止⇒本件映画が公開され、観客により視聴されることに対するX1の期待権が侵害⇒不法行為に基づく損害賠償請求
(b)Y2らが本件映画に係る完成作品及びその他一切の映像素材のデータを廃棄したことがX1の人格権を侵害⇒不法行為に基づく損害賠償請求。
(ウ)Y3に対する請求
X1が本件映画の著作権を有するうことの確認請求。
  規定 第四条(著作物の公表)
3二次的著作物である翻訳物が、第二十八条の規定により第二十二条から第二十四条までに規定する権利と同一の権利を有する者若しくはその許諾を得た者によつて上演、演奏、上映、公衆送信若しくは口述の方法で公衆に提示され、又は第二十八条の規定により第二十三条第一項に規定する権利と同一の権利を有する者若しくはその許諾を得た者によつて送信可能化された場合には、その原著作物は、公表されたものとみなす。
  著作権法2条
7この法律において、「上演」、「演奏」又は「口述」には、著作物の上演、演奏又は口述で録音され、又は録画されたものを再生すること(公衆送信又は上映に該当するものを除く。)及び著作物の上演、演奏又は口述を電気通信設備を用いて伝達すること(公衆送信に該当するものを除く。)を含むものとする。
  判断  ●本件脚本に係る公表権侵害の成否 
  Y1:Xらが本件脚本の著作権を有していたとしても、本件映画が映倫試写会で公開された際に、本件脚本も同時に公衆に提供されていた⇒その後、本件脚本が週刊誌に掲載されても、公表権を侵害しない。
  判断:
著作権法4条3項:
翻訳物の公衆への提示等を原著作物への公衆への提示等と同視して、翻訳物が公表された場合には、原著作物も公表されたものとみなす旨規定。
but
本案物は、翻訳物よりも、原著作物からの創作的表現の幅が広い⇒脚本の本案物である映画が、当該脚本の著作者又はその許諾を得た者によって上映の方法で公衆に提示等された場合であっても、当該脚本が公表されたものとみなすのは相当ではない。
著作権法2条7項:
上演、演奏又は口述には、著作物の上演、演奏又は口述で録音され又は録画されたものを再生することなども含む旨規定。
脚本の本案物である映画が上映⇒当該脚本に係る実演が映写されるとともにその音が再生⇒著作物の公表という観点からすると、脚本の上演で録音され又は録画されたものを再生するものと実質的には異なるところはない。

脚本の本案物である映画が、当該脚本の著作者又はその許諾を得た者によって上映の方法で公衆に提示された場合には、当該脚本は、公表されたものと解するのが相当。
・・・本件映画は、少数かつ特定の者に対し上映されたにとどまる⇒本件試写会で本件映画を上映する行為は、公衆に提示されたものとはいえない。

本件脚本をXらに無断で本件週刊誌に掲載する行為は、Xらの本件脚本に係る公表権を侵害するもの。
Y1:X1は本件試写会において本件脚本を一般公開する意図の下、本件試写会を実施⇒本件脚本後その後公表されることに同意していた。
vs.
著作者は、その著作物でまだ公表されていないものを公表するか否かを決定する公表権(法18条)を有するところ、その著作物には著作者の人格的価値を左右する側面がある
⇒公表権には、公表の時期、方法及び態様を決定する権利も含まれる。
X1が公表につき同意したのは、あくまで、本件試写会におけるものにとどまると認めるのが相当であり、それを超えて、本件脚本がその後本件週刊誌に掲載されることにまで同意していたことを認めるに足りる客観的な証拠はない。
公表された本件脚本の内容、性質、分量等
本件映画を不敬映画と評する本件記事の中で紹介された公表の態様
本件脚本が公表された本件週刊誌の内容、性質、社会に対する影響力
その他本件の事実関係

Xらが本件脚本に係る公表権を侵害されたことによる精神的苦痛に対する慰謝料としては、Xらにつき各30万円を認めるのが相当。
  ●名誉毀損 
本件記事のうち、
①本件映画が昭和天皇をモデルとしたピンク映画であるという事実を摘示した上で、その事実を前提に、
②本件映画は不敬な映画であり、このような本件映画を制作すること自体、社会的に許されるものではない旨の意見ないし論評を表明した部分
に限り、X1の社会的評価を低下させるものであるとした。
その上で、
公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的で掲載
重要な部分について真実
人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものとはいえない

本件記載1を掲載する行為は、違法性を欠く。
  ●期待権侵害 
Y3は、207万3000円を支払って、X1から、本件映画に係る著作権を譲り受けた

X1が本件映画の公開を期待していたとしても、自らの判断で本件映画の著作権を譲渡している以上、本件映画を利用できるのは著作権者又はその許諾を得たものに限られる

X1の期待は、事実上のものにすぎず、法律上保護される利益であるとまで認めることはできない。
  商事p66
名古屋地裁R4.4.19  
  社債の私募の取扱いをした証券会社の損害賠償義務(肯定)
  事案 Xらが、OPM社及びMTL社が本件各社債の発行により調達した資金の大部分を診療報酬債権等の買取以外の目的に流用⇒本件各社債の元利金の支払を受けられなくなり、本件各社債の取得金額相当額等の損害を被った
⇒Yら(①Y1及びその役員等、②OPM社やMTL社との間で管理契約を締結していた会計事務所2社及びその役員等、③OPM社及びMTL社と業務委託契約を締結して、本件各社債の販売支援を行っていた証券会社(アーツ証券)の元役員)に対し、損害賠償を求めた。 
  争点 Y1について、本件各社債の私募の取扱いをするに当たり、アーツ証券等から追加資料の提供を受けるなどして、本件各社債が真実診療報酬債権を裏付けとするものであるといえるかを調査すべき義務(調査義務)を負っていたと言えるか? 
  判断  金商法は、一般投資家が有価証券について合理的な投資判断をすることができるように、有価証券の発行者等に対し、有価証券に関する投資判断に必要な重要情報の開示を要求。
but
50名未満の者を相手方として社債券の取得勧誘を行う場合で、一定の要件を満たす場合は「有価証券の私募」であって、当該有価証券の発行者は、いわゆる開示規制の適用を受けない。

当該有価証券の発行規模が小さく、また、この場合の取得勧誘の相手方は、投資判断に必要な情報を当該有価証券の発行者から直接入手することが容易⇒投資判断に必要と考えられる情報を広く市場に開示することを法令によって義務付ける必要性は低い。 
本件各社債:
いずれも、発行体ごとに、Y1を含む販売証券会社ごとにシリーズ番号を付して、1つのシリーズ当たりの取得者が50名未満となるよう発行されたもので、償還期間がいずれも1年未満
⇒本件各社債の取得勧誘は「有価証券の私募」に該当。
but
本件各社債は、不特定多数の者に取得勧誘がされた。
その発行規模が大きく、また、取得勧誘の相手方が投資判断に必要な情報をその有価証券の発行者から直接入手することが容易でない
⇒「有価証券の私募」に係る有価証券の発行者がいわゆる開示規制の適用を受けない趣旨が実質的に妥当しない⇒投資判断に必要な情報を本件各社債の取得者に開示すべき必要性が高い。
  ①Y1は・・・、遅くとも平成26年1月23日の時点で、本件各社債が真実診療報酬債権を裏付けとするものであるといえるかについて疑念を抱いてしかるべきであった。
②本件各社債については、投資判断の必要な情報を本件各社債の取得者に開示すべき必要性が高いにもかかわらず、本件各社債の発行者は、いわゆる開示規制の適用を受けない。

その取得勧誘をする金融商品取引業者は、金商法の開示規制の趣旨に照らして、投資判断に必要な情報が本件各社債の取得者に開示されないことにより取得者が不測の損害を被ることのないように適切な措置を講ずることが期待されているものというべきである。
  解説 本判決:
①いわゆる流動化債権において裏付資産の実在性が極めて重要
②本件各社債の私募の取扱いをした証券会社であるY1が、本件各社債の裏付資産が不足していること及びその不足が一過性のものではないことをうかがわせる事実を認識していた
③Y1が、顧客に対して本件各社債を安全性の高い商品であると説明して取得勧誘をし、Y1が私募の取扱いをした本件各社債の発行残高が合計45億6700万円と多額に上り、今後、これらの発行済みの社債の取得者が、償還額を払込金額に充てて新たな本件各社債を取得するかが問題となることが予想されたという顧客に対するY1の先行行為の存在等
⇒Y1が調査義務を信義則上負う。
この判断に当たっては、④金商法のいわゆる開示規制の趣旨が重要な役割を果たしていると考えられる。(Xらは、本件各社債の取得勧誘は「有価証券の私募」ではなく「有価証券の募集」に該当し、開示規制が適用される旨を主張したが、本判決はそのような見解を採用せず。)
会計事務所2社が、本件各社債の実質的な発行者の不法行為(本件各社債等によって調達した資金に見合うだけの診療報酬債権を購入せず、その資金を流出させて行為)を幇助した(民法719条2項)として、Xらの2社に対する請求を(一部)認容。
会計事務所についての裁判例。
  刑事p104
東京家裁R4.6.15  
  保護観察中の特定少年の特殊詐欺の受け子としてのキャッシュカード窃取で第1種少年院送致(期間3年)の事案
  事案 特殊詐欺に受け子として関与⇒保護観察⇒同処分の継続中に、再び特殊詐欺に受け子として関与⇒審判時19歳の特定少年を第1種少年院に送致 
  判断 ●犯罪の軽重 
①特殊詐欺という事案の悪質さ
②共犯者間においては少年の立場が末端で従属的なものであったことを踏まえても、少年の責任は軽視できない
③同種事案である前件の保護観察中に本件に及んでいる

犯情は重く、少年院送致が許容される。
  ●要保護性 
①・・・・保護観察処分を経ても少年の問題性はほとんど改善されていない
②自身の就労状況をありのままに報告していなかったなどの保護観察状況や少年の資質上の問題が本件に至る経緯等に与えた影響等

少年の問題性を社会内で改善することが困難
⇒少年を第Ⅰ種少年院に送致することが必要不可欠。
  ●上記犯情⇒少年院に収容する期間を3年。 
  解説 ●特定少年に対する処遇判断
◎  令和3年少年法改正⇒18歳及び19歳の少年を「特定少年」とし、特定少年に対して保護処分をする場合には、犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において、保護処分の内容を選択(64条1項)。
特定少年を少年院送致とする場合には、その決定と同時に、3年以下の範囲内において犯情の軽重を考慮して少年院に収容する期間を定めなければならない(同条3項)。

特定少年に対して保護処分をする場合には、
①認定した非行事実の犯情の軽重を評価し、その行為責任の幅を上回らない限度において選択し得る保護処分の範囲はどこまでか(最も重い処分は何か)を把握
②その把握した選択し得る保護処分の範囲内において、要保護性の程度に応じて、具体的な保護処分の内容を選択
③少年院送致の場合、犯情の軽重を考慮して収容期間を定める
刑事裁判においては一般情状として考慮されることが一般的である前歴について、同種事案の再非行等の具体的な事案によっては、犯情として考慮できる前歴もある。 
上記①について、
犯情の評価として、刑事事件において執行猶予付きの自由刑が想定される事案であっても少年院送致を許容し得る。
上記③について、
刑事裁判における量刑傾向が一定程度参考になる。
●要保護性の判断のあり方 
特に末端である受け子や出し子として特殊詐欺に関与した少年の要保護性は、その犯情の悪質さに必ずしも比例しない。
家庭環境
2548   
  民事p5
福岡高裁R4.3.25  
  共同漁業権から派生する漁業行使権に基づく諫早湾干拓地潮受堤防排水門の開門請求を認容する確定判決に対する請求異議訴訟
  事案 X(国)が・・・諫早湾干拓地潮受堤防の排水門の開放を求める請求権が認容されたYらに対し、本件各確定判決による強制執行の不許を求めた請求異議訴訟の差戻後控訴審 
  経緯  Yらは、Xに対し、漁業権又は漁業を営む権利による妨害予防・妨害排除請求権等に基づき、主位的に本件潮受堤防の撤去、予備的に本件各排水門の常時開放を求める訴え(前訴)を佐賀地裁に提訴
⇒Yらの一部の者につき、漁業権行使権による妨害排除請求権に基づく予備的請求を一部認容し、Xは、前記Yらに対する関係で「判決確定の被から3年を経過する日までに、防災上やむを得ない場合を除き、本件各排水門を開放し、以後5年間にわたって本件各排水門の開放を継続せよ」と命ずる判決⇒控訴も棄却され確定。 

Xは、
①本件各確定判決の口頭弁論終結後に生じた事実関係の変動が請求異議事由に当たる
②当該事実関係の変動を踏まえると、本件各確定判決に基づく強制執行が権利濫用に当たり、信義則に反し許されない
③一部のYらは、漁業協同組合の組合員たる地位を喪失している
などと主張し、本件訴訟を提起。
  一審:
一部のYらに対する訴えを却下し、一部のYらに対する請求を認容
⇒Xは、棄却部分を不服として控訴 
控訴審:
本件各確定判決において本件開門請求権の根拠とされた共同漁業権は、存続期間の末日である平成25年8月31日の経過により消滅し、共同漁業権から派生する権利であるYらの各漁業行使権に基づく本件開門請求権も消滅。
⇒本件各確定判決に係る請求権は前訴の口頭弁論終結後に消滅し、請求異議事由となる。
⇒Xの請求を認容するとともに、本件各確定判決に基づく強制執行の停止を命じた。
上告審:
Yらの上告を棄却したが、上告受理の決定。
本件各確定判決の確定後、前訴の口頭弁論終結時に存在した共同漁業権の存続期間の経過により本件開門請求権が消滅したとしても、本件各確定判決が、その主文から、同存続期間の経過後に本件各確定判決に基づく開門が継続されることも命じていた

本件各確定判決に係る請求権は、本件開門請求権のみならず、道存続期間の翌日に免許がされた同共同漁業権と同一内容の共同漁業権から派生する漁業行使権に基づく開門請求権と同一内容の共同漁業権から派生する漁業行使権に基づく開門請求権をも包含するものと解され、前者の本件開門請求権が消滅したことは、それのみでは本件各確定判決に対する請求異議の訴えにおける異議事由とはならない。
本件各確定判決が、あくまでも将来予測に基づくものであり、開門の時期に判決確定の日から3年という猶予期間を設けた上、開門期間を5年間に限って請求を認容するという特殊な主文を採った暫定的な性格を有する債務名義であること、
前訴の口頭弁論終結日から既に長期間が経過していることなど
⇒前訴の口頭弁論終結後の事情の変動により、本件各確定判決に基づく強制執行が権利の濫用になるかなど、本件各確定判決について他の異議の事由の有無について更に審理を尽くさせる必要がある
⇒控訴審判決を破棄し、本件を福岡高裁に差し戻す。
  判断  本件訴訟の口頭弁論終結時(令和3年12月1日)においては、本件各確定判決に基づく強制執行が、権利濫用に当たり、又は、信義則に照らし、許されない
⇒本件請求異議の訴えを認めた。
最高裁昭和62.7.16を引用し、確定判決等の債務名義に基づく強制執行が権利の濫用と認められるか否かは、
①当該債務名義の性質
②同債務名義により執行し得る者として確定された権利の性質・内容
③同債務名義成立の経緯及び同債務名義成立後強制執行に至るまでの事情
④強制執行が当事者に及ぼす影響等諸般の事情
を総合して判断すべき。
本件各確定判決の性質や性格、これにより確定された権利の性質・内容等
⇒本件各確定判決が、暫定的・仮定的な利益衡量を前提とした上で、あくまで期間を短く限った判断をしている。

前記口頭弁論終結後の事情の変動を踏まえて、改めて利益衡量を行い、その結果等も踏まえ、前記のような判断に基づく債務名義たる本件確定判決により、現時点において強制執行を行うことの適否を検討すべきであり、本件各確定判決が現時点において強制執行を行うに適しないと判断される場合には、その結果として、Yらの強制執行が権利濫用に当たると評価される。
①漁業の状況、②本件潮受堤防の閉切りと漁業被害との関係、③営農関係の状況、④本件各確定判決後におけるXの本件各排水門の開閉に向けた取組、⑤本件潮受堤防の閉切りによる新たな自然環境の構築、⑥近時の気候状況、⑦防災に関係する事項等について、特に前訴の口頭弁論終結後の事情の変動を中心に詳細な事実認定を行い、
漁業に関する状況、防災機能に関する状況、営農等の状況のほか、新たに形成された生態系や自然環境への影響等その他の事情について、改めて利益衡量。
本件各確定判決の口頭弁論終結時と比較して、Yらが有する漁業権行使に対する影響の程度は軽減する方向となる一方、本件潮受堤防の閉切りの公共性等は増大する方向となったなどの諸事情を総合的に考察。

現時点において、Yらの救済として、本件各確定判決で認容された本件各排水門の常時開放請求を、防災上やむを得ない場合を除き常時開放する限度で認めるに足りる程度の違法性があるとはいえない。

現時点で、前記のような性質等を有する本件各確定判決に基づき、Yらが強制執行を行うことは、権利濫用に当たり、又は、信義則に照らし、許されない。
  民事p38
大津地裁R4.1.14  
  インプラント手術での過失(肯定事例)
  事案 ・・・神経損傷を生じさせないために適切な術前検査をして神経の走行位置を確認し、インプラント体の埋込方向や深度に注意を払うべき注意義務を怠ってインプラント体を下顎管に入り込む位置に埋入したため、左側三又神経を損傷

Yに対し、診療契約の債務不履行に基づく損害賠償を求めた。 
  争点  ①本件手術による神経損傷の有無
②術前検査におけるP医師の過失の有無 
  判断  争点①:
①本件手術後に他の病院で撮影されたCT画像上、インプラント体が下顎管に触れていると読影できる
②Xが本件手術の翌日からP医師に対し術部の傷みや知覚鈍麻の症状を訴えていた
③三又神経の損傷を示す他の病院の診断書がある
⇒神経損傷がある 
Yによる、神経の走行位置がXの指摘する位置より下であるとの主張
vs.
専門委員として関与した歯科医師等の説明を踏まえ排斥
  争点②:
術前検査におけるP医師の過失について、
①CT撮影すればインプラント体の先端が下顎管に重なる位置に達すると分かっていたはずであり、パノラマレントゲン写真でもそのような読影をし得る
but
P医師がそのような読影をせず、神経走行位置に関する誤解をした
②P医師が本件手術に先立ち撮影したパノラマレントゲン写真を見た以上には、下顎管の位置を正確に把握しようと務めたとはうかがえず、Yの主張するような口腔模型によって歯茎内部の構造を正確に把握することはできない⇒適切な検討を尽くしたとはいえない

適切な術前検査をして神経の走行位置を確認し、インプラント体の埋込方向や深度に注意を払うべき注意銀無に反した過失がある。
  解説 裁判例 
専門委員の説明は、あくまでも説明にすぎず、それ自体が証言や鑑定の結果ではない
⇒当該説明の内容を直ちに事実認定に用いることはできない。
but
専門委員の説明によって裁判官及び当事者双方が争点を正しく理解し、当該説明を前提とした主張立証の補充がされたたような場合であれば、専門委員がした説明の内容を記録化(当該説明の要旨を調書に記載したり、専門委員が作成した説明文書を記録に編てつ)した上で、これを弁論の全趣旨として事実認定に用いることは許容されるであろう。
  民事p43
神戸地裁R3.9.16  
  食道静脈瘤に対するEVLにおいて、鎮静剤であるミダゾラムの投与が問題となった事案
  事案 Yが開設する病院において、食道静脈瘤に対する内視鏡的静脈瘤結紮術⇒本件手術中に心肺停止となるなどした結果、低酸素脳症により寝たきり

Yに対し、 選択的に不法行為又は債務不履行による損害賠償として合計1億5058万5330円及び遅延損害金の支払を求めた。
  争点 鎮静剤であるミダゾラム10mgを側管注法で投与したことに過失又は注意義務違反があるか? 
  判断 ①Xは、ミダゾラムの投与により呼吸抑制に陥りやすい状態にあり、実際にミダゾラム0.08mg/kgに相当する本件混合溶液を投与したことにより既に呼吸抑制が生じていた
②本件医師らはこれらの事実を認識していた
③ミダゾラムには呼吸抑制の副作用発生が警告されており、投与は緩徐な方法によるべきものとされていた⇒・・緩徐な方法によるべきであった。
④体動が激しいため、緩徐な方法によるとうよでは対応できないような場合には、Xに対するEVLが、どうしても本件手術の当日に実施しなければ、その日におけるXの生存にかかわるといった意味での急を要する手術というわけではなかった⇒本件混合溶液を追加投与するのではなく、EVLの続行を中止すべき注意義務があった。
but
本件医師らは、前記注意義務があるにもかかわらず、EVLを中止する判断をせず、これを続行するために、側管注法により本件混合溶液の残量8ml全部をXに投与し、その結果、過鎮静による呼吸抑制が生じ、これによりXに低酸素状態がもたらされた。
⇒過失又は注意義務違反を肯定。

Yに対し、1億3830万5198円及び遅延損害金の支払を命じた。 
  解説 鎮静剤の投与等が医師の注意義務違反になるかを判断した裁判例
肯定例
否定例 
  民事p60
岐阜地裁R4.2.21  
  警察の情報提供が国賠法1条1項に反し違法とされた事案
  事案 A:Xらの地元で風力発電事業を計画
X1・X2:本件発電事業に反対する運動
X3・X4:市民運動などに積極的に関与した経歴
岐阜県大垣警察署警備課所属の警察官が、Aに情報交換をもちかけ、Aの従業員との間で、合計4回にわたり、Xらの情報提供。

岐阜県警等が、Xらの個人情報を長年にわたって収集、保有し、大垣警察の警察官がそれらの情報の一部を民間企業に提供したことにより、Xらの人格権としてのプライバシー等が侵害された

Xらが、Y1(岐阜県)に対し、国賠法1条1項に基づき損害賠償を求めるとともに、人格権としてのプライバシーに基づき、Y1に対しては岐阜県警察が保有する、Y2(国)に対しては警察庁警備局が保有する、Xらの個人情報の抹消を求めた。
  規定 警察法 第二条(警察の責務)
警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。
2警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。
  判断 大垣警察がAに提供したXらの情報は、
Xらが本件発電事業に関して現に行っている活動及び今後の活動の予測に関する情報、過去に関与した市民運動に関する情報などであり、これらの情報がプライバシー情報に当たる。
警察によるプライバシー情報の収集、保有及び利用は、警察法2条1項に照らし、犯罪の未然の防止も警察の責務に含まれる。
同条2項に抵触しない限度で、(犯罪の)発生の可能性がある限り、万が一の事態に備えて任意捜査の方法により情報収集するなどして、その発生を予防する手段を研究し、準備しておくこともその責務に含まれると解するのが相当。
警察によるこのための情報収集等の対象にプライバシーなどの個人情報が含まれることあるとしても、上記警察の責務に照らせば、法律上、明文の根拠規定がないことをもって、直ちに国賠法上違法であるということはできない。
情報提供行為の国賠法上の違法性:
行政機関がその職務において収集したプライバシー情報を、当該個人の承諾なく第3者に提供することは、プライバシー情報が憲法13条で保障されている個人の人格的利益に結びつくもので取扱い方によっては個人の人格的利益を損なうおそれがある。
⇒正当な理由のない限り、国賠法上違法。
・・・・必要性は認め難く、Xらのプライバシー情報を積極的、意図的に提供
⇒情報提供行為は国賠法上違法。
Xらについての情報の収集・保有についての国賠法上の違法性に関し、
警察法2条1項に規定する警察の職責に照らし、警察による情報収集活動は、強制に及ばない任意捜査の方法による限り原則として許容されると解すべき。
but
同条2項の規定に照らし、情報収集活動が、たとえ任意捜査の方法によった場合であっても「憲法の保障する個人の権利及び事由の干渉にわたる」などその権限を濫用することは許されない
⇒本件情報収集等の警察による情報収集活動が国賠法上違法となるか否かは、収集、保有された情報の私事性及び秘匿性、個人の属性、被侵害利益の性質、本件情報収集等の目的、必要性及び態様等の事情を総合考慮して判断するべき。
情報収集、保有の必要性は否定できず、任意の手段により収集が行われたことを踏まえると、大垣警察による情報収集・保有には国賠法上の違法性はない。
●  保有する情報の抹消請求は、請求の内容が特定されていない⇒訴えを却下。 
  解説 プライバシーの権利内容は、論者により異なっており、その外延についての共通の理解は得られているとはいえない。
but
少なくとも「私生活をみだりに後悔されない権利」という内容は、いずれの見解でも含まれている権利内容。 
最高裁H15.9.12:
大学が、その主催する講演会に参加を申し込んだ学生の氏名、住所等の情報を警察に開示した行為が不法行為を構成する。
これらの情報は、個人識別のための単純な情報であって、秘匿されるべき必要性は必ずしも高くない。
but
このような情報であっても「自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことである」と判示。
本件:
①上記判例の情報よりも秘匿されるべき必要性がはるかに高い情報
②情報提供の相手方がXらと対立関係にある本件発電事業の事業者
⇒情報提供の違法性が肯定されたことは相当。
警察が、犯罪発生を前提としない場合におけるプライバシー情報を収集したことの違法性:
違法性肯定事例



違法性否定事例

⑤ 
違法性肯定事例
プライバシー侵害の程度が著しい場合(①判決)
手段が不相当な場合(②判決)
情報収集の必要性が認められなかった場合(③判決)
本件:
プライバシー情報として高度なもの
but
任意捜査により収集されたもので、必要性も否定できないことなどを総合して、違法性を否定。
収集した情報の抹消請求:
請求が特定されていない⇒却下。
同種の裁判例。 
  労働p75
福岡高裁R3.10.15  
  懲戒免職された地方公務員の退職手当不支給処分の取消請求(肯定)
  事案 熊本県阿蘇市の地方公務員が酒気帯び運転で検挙⇒懲戒免職処分を受け、退職手当等の全部を支給しないこととする処分(本件制限処分)⇒それぞれについて審査請求をしたが認められず⇒本件制限処分は裁量権の逸脱又は濫用があって違法であると主張し、Y(熊本県市町総合事務組合)に対して、本件制限処分の取消しを求めるとともに、退職手当の支払を求めた。
市町村職員退職手当条例(本件条例):
懲戒免職処分を受けて退職した者について、処分行政庁である熊本県市町村総合事務組合長が、当該退職者に対し、その者が絞めていた職の職務及び責任、勤務の状況、非違の内容及び程度、非違に至った経緯、非違後における言動、非違が公務員の遂行に及ぼす支障の程度並びに非違が公務に対する信頼に及ぼす影響を勘案して、一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分を行うことができる。
  一審 ①Xの非違行為が悪質かつ極めて危険な行為であり、その同機において酌量の余地はなく、阿蘇市が飲酒運転への取組みを強めている中で、交通安全に係る業務を分掌する部署の管理職であるXが飲酒運転に及んだ責任は重く、阿蘇市に対する市民の評価・信頼を大きく損なうもの
②非違行為後に真摯に反省したとも認められない

本件制限処分について処分魚成長に裁量の逸脱又は濫用があるとは認められない⇒Xの請求を棄却。 
  判断 一審判決が指摘したような事情はあるものの、
①懲戒免職処分を受けるまでの約34年間懲戒処分を受けることなく勤務してきた
②Xが酒気帯び運転をした距離は比較的短く、物損事故や人身事故も発生させなかった
③非違行為の当日に総務課長に報告するなど速やかに必要な対応をした

Xの阿蘇市に対する長年の貢献が無になったとまではいえない。 
①公務員に対する退職手当が賃金の後払い及び退職後の生活保障の性格も有しており、退職手当の支給制限処分に係る裁量権の逸脱又は濫用の有無の判断においては、処分を受ける者の不利益の程度も考慮する必要がある。
②Xの年令からして再就職が用意でないと考えられる

1700万円を超える退職手当の全部を受け取れないことによるXの生活に対する影響は大きいとして、本件制限処分は社会通念上著しく妥当性を欠くものであって、処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと判断し、本件制限処分を取り消した。
処分行政庁は、退職手当の全額を支給しないこととする処分が違法であるとして取り消された場合、その一部を支給しないこととする新たな支給制限処分をすることが可能
⇒Xの退職手当の支払請求を棄却。 
  解説  ・・・これらの処分が社会通念上著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合に限り違法となる。
but
この枠組みから結論が一義的に導かれるものではなく、裁量権の範囲の逸脱又は濫用の有無は各事案の具体的な事情から判断するしかない。
飲酒運転は、交通事故を引き起こす危険性が高く、社会的に非難すべき行為であることは間違いない。
but
飲酒運転の一般的な危険性だけでなく、処分を受けた者に関する個別具体的な事情を全体的に考慮して判断する必要がある。
  労働p88
大津地裁R2.10.6  
  懲戒免職処分に先行する自宅待機の間の市職員の給料等請求権(肯定)
  事案 Y(滋賀県甲賀市)の職員であったXは、選挙の開票事務において不正行為を行った⇒自宅待機命令⇒1年以上の自宅待機を経て、公選法違反で罰金刑に処する旨の略式命令⇒懲戒免職処分。
Xが、前記自宅大金命令を受けてから懲戒免職処分がされるまでの間、各種手当を含む給料等の大半が支払われなかった⇒Yに対し、公法上の任用関係に基づき、未払給料等の支払を求めた。 
Yにおいて、職務命令として無給の自宅待機命令を発することができると定めた法律や条令はなし。
  争点 X:年次有給休暇の取得はYの一方的取扱いにすぎないし、法令や条例に根拠のない自宅待機命令は違法⇒給料等請求権は失われない。 
Y:年次有給休暇の取得はXの了解の下されたものであり、自宅待機命令は緊急にして合理的な理由にもとづくものであって、Xが勤務をしていない以上、勤務を前提とする給料等の支給はできない。
  判断  ●有給休暇期間中の管理職手当 
Xが、年次有給休暇を取得したものと扱われていたことを認識しつつ、Yに異を唱えなかった経緯⇒年次有給休暇の取得をする黙示の意思表示があった。
Yの条例上、管理職手当は、月の全日数にわたり勤務しなかった場合に支給できないと規定⇒有給休暇期間中の管理職手当の不支給は、条例の定めに従った相当な取扱い。
  ●有給休暇取得後 
Yが、Xに対して誠実義務に従い自宅待機に応じた服務規律を遵守するよう命じる自宅待機命令書を交付し、Xがこれを遵守して、兼職等せず自宅待機⇒職務命令に従った労務の提供がある。
Yの条例上、勤務に対する報酬と定められている給料、給料に連動して支給されると定められている地域手当、月の全日数にわたり勤務しなかった場合は支給することができないと定められている管理職手当
~Xに請求権がある。
Yの条例上、任命権者の決定する成績率に乗じた金額が支給されると定められている勤勉手当については、任命権者である市長が、Xのした不正行為の内容を踏まえて成績率をゼロと定めたと認められ、そのような市長の判断は裁量権を逸脱濫用したものでない⇒勤勉手当の不支給は相当。
  解説   ●  ●年次有給休暇の時季指定権 
年次有給休暇をいつ、どの程度取得するかは、本来、労働者が時季指定権を行使して特定される。
本件では、Xが時季指定権をあらかじめ明確に行使した経緯はない。
but
突発的な理由で欠勤をしたが、事後的にその欠勤日を年次有給休暇に振り替える取扱いがなされることが珍しくないように、労使間で合意があれば、時季指定権の行使が事前にされないことが許容されているのが多くの職場における実情。

年次有給休暇の取得について事後的な合意があったと認められる本件で、事前の時季指定権の行使がなかった点だけを理由に、Yが年次有給休暇の取得扱いをしたことが違法であるとまではいえない。
  自宅待機命令 
地公法29条4項は、職員の懲戒の手続及び効果は、法律に特別の定めがある場合を除く外、条例で定めなければならない旨規定。

地方公務員の地位及び権利を保護し、強い身分保障を与えるとともに、任命権者の恣意的な不利益処分から地方公務員を保護することによって、公務の民主的な運営を保障。
民間の労使関係において、使用者は、業務命令権の濫用とならないような相当の事由がある場合に、労働者に自宅待機や出勤停止を命じることができる
but
使用者は当然に賃金の支払義務を免れるものではなく、同義務を免れるためには、事故の発生は不正行為の再発のおそれがあるなど、就労を許容しないことについて合理的理由が必要。
裁判例:使用者が賃金支払義務を免れるためには、労働者を就労させないことについて「不正行為の再発、証拠隠滅のおそれなどの緊急かつ合理的な理由」等が必要。
  本件:
法令に基づいて行われるべき公法上の任用関係であるのに、法令の定めがない
仮に、緊急でやむを得ない場合として例外的に許容される余地を考えるとしても、年次有給休暇2か月の期間があった
その後懲戒免職処分がされるまで1年余りという長期間に及んでいる
その間、XはYの私事に従って兼業ができず、十分な収入を得られない生活を余儀なくされた
Xに在宅でなし得る仕事を与えなかったのはYの判断

就労を許容しないことについて緊急かつ合理的な理由があるとも言い難い事案。 
   2547
  行政p5
東京高裁R3.11.11  
  重婚的内縁関係にあった内妻からの遺族厚生年金等の請求(肯定事例)
  事案 老齢厚生年金等の受給権者であり死亡した男性Aと重婚的内縁関係にあったXが厚年法上の「配偶者」に当たる⇒遺族厚生年金の給付を請求⇒厚生労働大臣から支給しない旨の決定⇒本件不支給処分の取消しを求めた。
  規範 遺族厚生年金を受けることができる遺族としての「配偶者」には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む(厚年法3条2項、59条1項)。
重婚的内縁関係の場合には、戸籍上届出のある配偶者(本妻)であっても、その婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのないとき、すなわち、事実上の離婚状態にある場合には、「配偶者」に当たらず、事実上婚姻関係と同様の事情にある内妻が「配偶者」に当たる。

本妻が事実上の離婚状態にあるとはいえない場合には、内妻は「配偶者」には当たらない。 
  一審 亡AとBとの婚姻関係が形骸化しているとはいえず事実上の離婚状態にあったとは認められない。 
  判断 亡AとBの婚姻関係は実体を失って形骸化し、その状態が固定化して近い将来解消する見込みがない場合であり、事実上の離婚状態であった⇒Xは事実上婚姻関係と同様の事情にある者であったとして、遺族厚生年金等についての「配偶者」要件を満たす。
⇒1審判決を取り消しXの請求を認容。
  解説等  亡AとBとの別居後の音信、訪問等の状況:
一審判決:平成24年(亡Aが自身の設立した大阪府に本店を置くSの取締役を退任した頃)まで夫婦としての相応の交流が維持されていた。
本判決:遅くとも平成15年以降は夫婦としての音信、訪問による精神的交流はほとんど失われていた。
←控訴審において、Xが亡Aと親しかった会社関係者の陳述書により亡AとBの関係につき補充立証をしたのに対し、Bは補助参加しておらず、Yからは抽象的な記載にとどまるB側の回答書が提出されていただけであった。 
Bの亡Aへの経済的な依存関係:
本判決:
亡AとBが長期間にわたり別居し、音信、訪問による精神的交流もない状態が続いていた状況において、積極的に婚姻関係の維持存続を図る趣旨ではなく、実子の負担も考慮してBに対する経済的支援を続けてきたこと等の事実関係を総合的に考慮し、経済的支援のない状態が2年程度にとどまる本件において、亡AとBが事実上の離婚状態にあったと判断。
本判決:
亡AのBに対する経済的支援が事実上の離婚給付の性格を有するとまで判断していない(当事者は、この点の主張の応報)。

最高裁昭和58.4.14が当該事案における原審の具体的判断を摘示する場面でそのような表現をもちいているにとどまる⇒本判決としては、経済的支援がある場合にそれを事実上の離婚状態であると認定するための要件とまではみておらず、そこまで評価できない場合でも夫婦関係の諸事情の総合考慮の中で事実上の離婚状態と認定される場合があり得ると考えたのであろう。
  参考判例
  民事p18
最高裁R4.6.24  
  親子関係不存在確認の訴えについての確認の利益
  判断 ・・・・本件各親子関係が不存在であるとすれば、亡Dの相続において、亡Cの子らは法的相続人とならないことになり、本件各親子関係の存否によりXの法定相続分に差異が生ずることになるなどの判時の事情の下においては、Xは、本件訴えにつき法律上の利益を有するというべきである。
  解説 親子関係不存在確認の訴え:
特定人間の法律上の親子関係が存在しないことを確認する人事訴訟(人訴法2条2号)
人事訴訟の判決は対世効を有し(人訴法24条1項)、身分関係を変動させ、戸籍を訂正させる(戸籍法116条1項)。
人訴法には人事訴訟の原告適格に関する一般的な定めはなく、第三者であっても確認の利益を有する限り訴えを提起することができる⇒どのような場合に確認の利益があると認められるかが問題。
  養子縁組無効確認の訴えにおける確認の利益:
最高裁昭和63.3.1:
養子縁組無効の訴えは縁組当事者以外の者もこれを提起することができるが、当該養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることのない者は右訴えにつき法律上の利益を有しない。

親子関係不存在確認の訴えにおける確認の利益についても及ぶ
  ●  Xは亡Dの法定相続人の地位にあるところ、「相続人の地位」が単なる「財産上の権利義務」ではななく「身分関係に関する地位」であることは明らか。
本件各親子関係が不存在であることにより、Xの「相続人の地位」は、法定相続分が増えるという直接の「影響」を受けることになる。
~身分関係に関する地位への影響。 
  民事p20
福岡高裁R4.9.6  
  養子縁組無効の事案
  事案 亡Aの子であるXがYに対し、本件養子縁組(亡AとYとの養子縁組)は
①Yによる 本件養子縁組届の亡A自書部分の偽造
②本件養子縁組届作成時の亡Aの意思能力の不存在
③亡A・Y間の届出意思及び縁組意思の不存在
により無効
⇒本件養子縁組の無効確認を求めた事案。
  原審 本件養子縁組届の作成当時、亡Aに意思能力がなかったとは認められないが、
本件養子縁組当時、亡Aに届出意思又は縁組意思がなかったと認められる
⇒本件養子縁組は無効 
  判断 本件養子縁組について、Yが亡Aに無断で本件養子縁組届を提出したもので、亡Aには本件養子縁組をする意思がなかったと認められる⇒養子縁組を無効として、控訴を棄却。
上記①:
「養親になる人」欄の署名は亡Aが自署した可能性が高いが、
「届出人署名押印」欄の署名は、Yの筆跡と似通っている⇒Yが記載した可能性を否定できない。
上記②:
診療録の記載等に基づく認定事実
⇒本件養子縁組届作成当時、意思能力がなかったと認めることはできない。 
上記③:
養子縁組の目的、経緯について検討し、亡AとYとの関係からして、本件養子縁組をしたとしても不自然ではない程度の関係性があった。
but
①Yは、亡Aの死亡の前後にわたって多額の預貯金を払い戻し、その出金の必要性について合理的に説明することができていない⇒Yと亡Aとの信頼関係の存在に疑問を抱かせる。
②亡Aが「届出人署名押印」欄に署名していないにもかかわらず、亡Aが「養親になる人」欄と「届出人署名押印」欄の両方に署名したとするYの供述が信用できない

Yが亡Aに無断で「届出人署名押印」欄に亡Aの氏名を記載した上で届出をしたものと認めるのが相当。
⇒本件養子縁組は亡Aの縁組意思が存在せず無効。
  規定 民法 第八〇二条(縁組の無効)
縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
一 人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき。
二 当事者が縁組の届出をしないとき。ただし、その届出が第七百九十九条において準用する第七百三十九条第二項に定める方式を欠くだけであるときは、縁組は、そのためにその効力を妨げられない。
  解説 養子縁組は「人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき」(民法802条1号)に無効。
縁組意思の不存在:
実質的意思説:縁組意思を習俗的標準に照らして親子と認められるような関係を創設しようとする意思
形式的意思説:縁組意思を届出に向けられた意思と捉えるもの
判例:当事者間いおいて真に養親子関係の設定を欲する効果意思(実質的意思説)
(養子が養親の意思に基づかず)無断で縁組の届出⇒縁組意思の意義に関して前記のいずれの見解に立ったとしても、縁組意思を欠き無効。
本判決:
養子が養親に無断で縁組届を提出したか否かを判断するに当たって、
①縁組届の署名欄が自署であるか
②養親と養子との従前の生活関係
③縁組をする目的、経緯
④縁組届提出の前後における養子の不自然な言動等の有無等
の諸事情を具体的に事実認定した上で総合考慮し、養親に縁組意思がなかったと認められると判断。
  民事p27
札幌高裁R3.12.14  
  漁獲上限の定めと国賠請求
  事案 北海道内において沿岸漁業のくろまぐろ漁に従事するXらが、Y1(国)及びY2(北海道)は、遅くとも平成29年7月1日までに法的拘束力のある漁獲制限をする義務があったにもかかわらず、これを怠り、漁業者の自主管理に委ねた結果、第3管理期間において上限を大幅に超過する漁獲を招き、Xらは第4管理期間以降のくろまぐろ漁が事実上できなくなり、Y1の第4管理機関における超過差引きは裁量権を逸脱するものであり違法
⇒Yらに対し、国賠法1条1項に基づき、第4管理期間以降6年間の逸失利益及び慰謝料の損害賠償等を求めた。 
  争点 ①Yらが資源管理法、漁業法等に基づく法的措置を執らなかったことが、規制権限の不行使として国賠法1条1項の適用上違法といえるか
②Y1によって第4管理期間に行われた超過差引きが、農林水産大臣の裁量権の範囲を逸脱した著しく不合理なものとして国賠法1条1項の適用上違法といえるか。 
  原審 争点①:
国または地方公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、その不行使が著しく不合理と認められるときに、その不行使により被害を受けた者との関係において、国賠法1条1項の適用上違法となる(最高裁)。
資源管理法、漁業法及び水産資源保護法の趣旨、目的や農林水産大臣及び知事の権限の性質等を検討し、第3管理期間よりも前の時点で強制力のある数量管理や罰則を伴う採捕制限を行わなかったことが著しく不合理であるとはいえない。
争点②:
本件における超過差引きは資源管理法に基づく農林水産大臣の第料の範囲内。
⇒請求棄却。
  判断 控訴棄却。 
  民事p45
東京地裁R4.11.30  
  同性婚についての国賠請求
  事案 同性の者との婚姻を希望する原告らが、婚姻を異性間のものに限り同性間の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の諸規定が憲法14条1項、24条1項及び2項に違反⇒国会は本件諸規定が定める婚姻を同性間でも可能とする立法措置を講ずべき義務があるにもかかわらず、これを講じていないことが国賠法1条1項の適用上違法⇒慰謝料等の支払を求めた。 
  判断等   請求棄却 
  ●憲法24条1項
原告ら:憲法24条1項が国家以前の個人の尊厳に直接由来する事由として婚姻の自由を保証していると解すべきであることを前提に、その婚姻の自由が同性間の婚姻についても及ぶ。
本件諸規定は、憲法が婚姻制度について要請し想定した核心部分を正当化根拠なく制約するもの⇒憲法24条1項に違反。
憲法24条1項の文言や起草時の議論等⇒憲法24条にいう「婚姻」とは、異性間の婚姻を指し、同性間の婚姻を含まない。
伝統的な価値観を一方的に排除することは困難⇒現段階において、同性間の人的結合関係を異性間の夫婦と同じ「婚姻」とすることの社会的承認があるものとまでは認められない。
婚姻、結婚という人的結合関係は前国家的に社会内に存在し、それを規範によって統制するために法律婚制度が作られたという経緯
⇒どのような人的結合関係に「婚姻」としての社会的承認を与えるのかという点については、社会通念、国民の意識等に依拠するところが大きい。
婚姻及び家族に関する事項は、国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ、それぞれの時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断を行うことによって定められるべきもの(最高裁H27.12.16)であるが、どのよな人的結合関係を「婚姻」と捉えるかは、この最たるもの。
  ●憲法14条1項適合性 
原告ら:本件諸規定は性的指向によって婚姻の可否について区別取扱いを行うもの
判断:本件諸規定が性的指向によって婚姻の可否について区別取扱いをするもの。
but
これは、前記のように婚姻を異性間のものとする社会通念を前提とした憲法24条1項の法律婚制度の構築に関する要請に基づくものであって合理的な根拠が存する
⇒憲法14条1項に違反する者とはいえない。
憲法14条1項適合性の判断において、いかなる取扱いの区別が「事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくもの」であるかについては、立法目的と当該区別との合理的関連性の2点から判断することが一般的(最高裁H20.6.4)。
  ●憲法24条2項適合性 
A:要請説・保証説
B:禁止説
C:許容説(本判決)
同性愛者にとっても、パートナーと家族となり、共同生活を送ることについて家族としての法的保護を受け、社会的公証を受けることができる利益は個人の尊厳にかかわる重大な人格的利益
⇒現行法上、パートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、憲法24条2項に違反する状態。
but
そのような法制度を構築する方法は多様なものが想定され、それは立法裁量に委ねられており、必ずしも本件諸規定が定める現行の婚姻制度に同性間の婚姻を含める方法に限られない
⇒本件諸規定が憲法24条2項に違反すると断ずることはできない。
  民事p68
甲府地裁R3.11.30  
  学校でのいじめ等での国賠請求
  事案 Y(山梨市)が設置する中学校に在学していたXが、
①同級生からいじめられているにもかかわらず適切な対応がとられなかったこと
②かえってXの体臭に問題があるとして衛生指導を受けたこと
③本件中学校の教員によって髪を切られたこと
について、Yに対し、国賠法1条1項に基づき、慰謝料等の支払を求めた事案。
  判断 最高裁判例を引用し、
公務員による公権力の行使に国賠法1条1項にいう違法があるというためには、公務員が、当該行為によって損害を被ったと主張する者に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められることが必要である。
争点①:
学校の教師は、学校教育活動ないしこれに密接関連する生活関係において、いじめその他の加害活動を防止し、これから生徒の安全を保護すべき義務を負っており、教員が、被害者から救済を求められた場合や、いじめを認識又は予見し得る場合は、被害を回避すべき具体的が義務が生じずと考えられる。
but
担任であるB教諭においてXがいじめられていると認識することができたとは認められない
⇒国賠法1条1項の違法なし。
争点②:
本件衛生指導は、Xの衛生面について指導する目的で行われたものであり、内容や態様においても、学年主任であるA教諭、B教諭及び養護教諭であるC教諭は、Xに対し相応の配慮をしていたというべき
⇒国賠法1条1項の違法なし
争点③:
A教諭は、本件中学校に登校したXから、Xの母親からA教諭に髪を整えてもらうよう言われたことを契機として、Xの同意を得ながら本件ヘアカットをした。
but
・・・
A教諭には、保護者であるXの母親に髪を切ることの当否を事前に確認する必要があり、Xの母親が本件ヘアカット行為の当否などを検討する機会が与えられる利益は、本件ヘアカット行為の当事者であるXにとってっも法的利益である
⇒国賠証1条1項にいう違法がある
⇒慰謝料10万円及び弁護士費用1万円の限度でXの請求を一部認容。
  解説 教員は、教育法、学教法等の法令の趣旨、職務の内容・性質等に鑑み、学校教育活動により生じる危険から児童生徒保護すべき義務がある
最高裁:
学校の教師は、学校における教育活動により生ずるおそれのある危険から生徒を保護すべき義務を負う。

いじめの関係では、学校教育活動ないしこれに密接関連する生活関係において、いじめその他の加害行為を防止し、これから児童生徒の安全を保護すべき義務と解することができる。 
最高裁昭和62.2.13:
小学校の児童が体育の授業中の事故により後日失明した場合に担当教師には自己の状況等を保護者に通知してその対応措置を要請すべき義務はないとされた事例。
but
同義務の有無については、
事故の種類・態様、予想される障害の種類・程度、事故後における児童の行動・態度、児童の年令・判断能力等の諸事情を総合して判断すべき

学校の教員の保護者への通知義務の有無を判断するに当たっての考慮要素を示したもの。
  民事p75
大阪地裁R4.5.25  
   ロードサービスの不正利用についての損害賠償請求の事案
  事案 原告(JAF):全国でロードサービス等を提供している一般社団法人
被告ら:原告の一般会員(個人会員)であった者であり、中古車販売や自動車修理業、高級外車の販売業等を営んでいた。 
原告のロードサービスは、自動車修理業者等が商用目的で利用できないにもかかわらず、被告らが商用目的であることを秘して、走行中に故障した車両であると装い、無償で数百回のロードサービスを利用⇒不法行為又は不当利得に基づき、無償利用したロードサービスの対価相当額の賠償又は返還を求めた。
  争点 ①原告のロードサービスは商用目的で利用することが許容されていなかったか
②被告らは商用利用が許容されていないことを認識していたか
③被告らが、商用利用であるにもかかわらず、私的利用を装って無償利用をしたのか
④前記無償利用による原告の損害額(又は不当利得額)及び過失相殺の可否 
  判断 ●争点① 
設立経緯や事業内容・定款の記載等⇒公益目的の法人であり、車両の走行中に発生した偶発的な事故や故障に対応するという目的で、民間業者と比較しても低廉な価格で、かつ利用回数に制限なくロードサービスが利用できるという相互扶助の制度を設けている⇒会員が自己の事業のために利用することを想定していないことは明らか。
⇒会員規則等で明示されていなくても、商用目的でロードサービスを利用することは許容されていない。
  ●争点②③
被告らは、事業目的で、自動車の修理工場間や中古車のオークション会場間の搬送等にロードサービスを相当数利用⇒被告らは商用目的での利用が許容されないものだえることを認識しながら不正に無償利用をした⇒不法行為責任を肯定。
  争点④ 
原告の非会員向けの価格に基づき損害額を算出する一方、原告が、現場の作業員から被告らの商用利用を疑わせる報告を複数回受けていたにもかかわらず特段の対策をしていなかった
⇒被告らの不正な無償利用を看過した原告側にも相当程度の問題があった。
⇒被告らの利用時期に応じて3割~5割の過失相殺。
  解説 過失相殺について、特に詐欺類型の場合、欺罔者側の問題が大きく、過失相殺や相殺割合には慎重な配慮が求められる。
本件では、
①単に原告側が不正利用を阻止できる体制を構築していなかったことだけでなく、
②明らかに異常な回数の利用や、現場作業員からの報告等により、不正利用の徴候を現実的に覚知できたにもかかわらず、不正利用を防止する措置を講じなかったこと等
を理由に過失相殺を行った。
被告らの不正利用の疑いがより顕著になるにつれて、段階的に過失割合を大きくしており、5割という大きな過失相殺を行った意味でも、同種事案の参考に。 
不当利得請求権について、不法行為請求との平仄を念頭に、民法722条の類推適用による過失相殺はしなかったが、信義則上、過失相殺と同率の範囲で請求が制限されるとした。
  労働p93
最高裁R4.9.13  
  分限免職処分を違法とした原審の判断に違法ありとされた事例
  事案 普通地方公共団体である上告人(山口県長門市)の消防職員であり、部下への暴行等を繰り返した被上告人が、任命権者である長門市消防長から、その職に必要な適格性を下記、地公法28条1項3号の分限免職処分⇒上告人を相手にその取消しを求めた。 
  原審 被上告人の消防吏員としての素質、性格等に問題があることは前提としつつも、
①上告人の消防組織においては、公私にわたり職員間に濃密な人間関係が形成され、職務柄、上司が部下に対して厳しく接する傾向にあり、本件各行為も、こうした独特な職場環境を背景として行われた
②被上告人には、本件処分に至るまで、自身の行為を改める機会がなかったことに鑑み、本件各行為は、単に被上告人個人の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、性格等にのみ基因して行われたものとは言い難い⇒被上告人を分限免職とするのは重きに失する。
⇒本件処分の取消請求を認容。 
  判断 ・・・・のような長期間にわたる悪質で社会常識を欠く一連の行為に表れた被上告人の粗野な性格につき、消防職員として要求される一般的な適格性を欠くとみることは不合理ではなく、
本件各行為の頻度等も考慮すると、前記性格につき改善の余地がないとみることも不合理な点は見当たらない。
消防組織の特性も踏まえつつ、本件各行為による消防組織の職場環境への悪影響を重視することも合理的。
・・・被上告人を消防組織内に配置しつつ、その組織としての適正な運営を確保することは困難。 

本件処分に係る長門市消防長の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えたものであるとはいえず、本件処分が裁量権の行使を誤った違法なものであるとはいえない。
⇒本件処分を違法とした原審の判断には違法がある
⇒原判決を破棄し、第1審判決を取り消して請求を棄却。
  解説   ●判断枠組み 
最高裁(昭和48.9.14):
地公法28条に基づく分限処分については、大要、任命権者に一定の裁量権が認められるものの、その判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えたものである場合には、裁量権の行使を誤った違法のものであることを免れない。

講学上、判断過程審査の一種と位置付けられているが、
懲戒処分等について用いられる社会観念審査の手法(重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合に限り裁量権の逸脱濫用に当たるとして違法とする審査手法)と大きな相違はない。
最近では、社会観念審査の方法と判断過程審査の方法とが併用される判例が目立っているようにも見受けられるとの指摘(宇賀)。
  ●当てはめについて 
本判決に示されている被上告人の行為は、職務上の必要性と関係なく、部下等の立場にある者を身体的又は精神的に攻撃するものであり、いかなる職場環境においても許される余地はない⇒職場環境の問題と被上告人の行為の評価とを結びつけることは不合理。
(本判決:職場環境の点により判断が異なることにとならないとの説示)
免職処分については、慎重な判断が求められる(懲戒処分の場合においても同様)
but
被上告人の一連の行為の悪質性や継続性に鑑み、改善の余地がないとみることが不合理でない。
かかる状況においてまで、指導の機会を設けるなどしなければならないと解するのは、硬直的に過ぎる⇒あくまでも事案の特性に応じ、指導の機会を経ずに直ちに免職とすることが許容される余地もあるのであって、このことは、昭和48年最判が、免職処分につき特に慎重、厳密な検討を要するとしていることと矛盾するものではない。
   ● 裁判例 
2546   
  民事p5
最高裁R4.6.17   
  原発事故を防ぐための規制権限の不行使と国賠請求(否定)
  事案 本件事故により放出された放射性物質によってその当時の居住地が汚染されたと主張する者又はその承継人であるXらが、国(上告人)に対し、国が津波による本件発電所の事故を防ぐために電気事業法に基づく規制権限を行使しなかったことが違法であり、これにより損害を被った⇒国賠法1条1項に基づく損害賠償等を請求。 
  法令 事業用電気工作物の設置者は、事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならず(電気事業法39条1項)、経済産業大臣は、事業用電気工作物が前記技術基準に適合していないと認めるときは、その設置者に対し、前記技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理すべきこと等を命ずることができる(同法40条)。
前記技術基準は、原子炉施設等が津波等により損傷を受けるおそれがある場合ないし原子炉施設等が想定される津波等の自然現象により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合には、適切な措置を講じなければならないとしていた。
  原審 国の国家賠償責任を肯定。
  判断 国の国家賠償責任を否定。 
    電力会社が設置し運営する原子力発電所の原子炉に係る建屋の敷地に地震に伴う津波が到来し、前記建屋の中に海水が侵入して前記原子炉に係る原子炉施設が電源喪失の事態に陥った結果、前記原子炉施設から放射性物質が大量に放出される原子力事故が発生した場合において、次ア~カなど判示の事情の下では、経済産業大臣が前記発電所の沖を含む海域の地震活動の長期評価に関する文書を前提に電気事業法40条に基づく規制権限を行使して津波による前記発電所の自己を防ぐための適切な措置を講ずることを前記電力会社に義務付けていれば前記原子力事故又はこれと同様の事故が発生しなかったであろうという関係を認めることはできず、国が、経済産業大臣が前記の規制権限を行使しなかったことを理由として、前記原子力事故により放出された放射性物質によってその当時の居住地が汚染された者に対し、国賠法1条1項に基づく損賠償責任を負うということはできない。
ア:前記原子力事故




     
  解説 ●公務員による規制権限不行使の違法性 
最高裁:
国または公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国賠法1条1項の適用上違法となる。
規制権限不行使の違法性を判断する際には、
①規制権限を定めた法が保護する利益の内容及び性質
②被害の重大性及び切迫性
③予見可能性
④結果回避可能性
⑤現実に実施された措置の合理性
⑥規制権限行使以外の手段による結果回避困難性(被害者による被害回避可能性)
⑦規制権限行使における専門性・裁量性
といった要素が考慮されている。
④(結果回避可能性)は③(予見可能性)とともに、これを欠くと公務員の規制権限行使の義務を認めることがでできないという意味で、単なる考慮要素というにとどまらず、規制権限不行使の違法性を認めるための必要条件であるとされている。
「規制権限を行使していれば法益侵害の結果を回避することができた」とうい関係が認められない⇒規制権限の不行使と結果との間の因果関係が認められない⇒結果回避可能性は、因果関係の内実をなすものでもある。
   ● 原審は結果回避可能性を肯定。 
①事件の原判決:
本件では主張立証責任の分配につき当事者間の衡平の観点に特に留意する必要が高い。
Xは、防潮堤等の設置及び重要機器室等の水密化という、一定程度具体的に特定された事故防止措置についての主張立証を果たしている。
but
国は、その主張立証された措置を講じていても本件事故と同様の事故の発生が避けられなかったこと等の事実を相当の根拠、資料に基づき主張立証していない。

本件では、結果回避可能性があったことが事実上推認される。

原子炉施設の安全性に関する判断に不合理な点があるか否かの主張立証に関する伊方原発訴訟最高裁判決の判旨を参考にしたものと解される。
  本判決は、結果回避可能性否定。
a:
b:
c:

仮に、経済産業大臣が電気事業法40条に基づく規制権限を行使していた場合には、本件試算津波と同じ規模の津波による本件敷地の浸水を防ぐことができるように設計された防潮堤等を設置するという措置が講じられた蓋然性が高い。
but
d:
e:

仮に、本件試算津波と同じ規模の津波による本件敷地の浸水を防ぐことができるように設計された防潮堤等を設置するという措置が講じられていたとしても、本件事故と同様の事故が発生していた可能性が相当にある⇒本件では結果可能性が認められない。
②事件の原判決:
東京電力の内部における検討の際に本件試算津波と同じ規模の津波に対応した防潮堤等の設置には課題があることを指摘する意見が出されていた
⇒東京電力等が防潮堤防等の設置と併せて、これによっては防ぎきれない敷地の浸水に対する対策を講ずることを検討した蓋然性がある⇒それを前提に結果回避可能性を肯定。
vs.
①本件事故以前に原子炉施設の主たる津波対策として敷地の浸水を前提とする防護の措置が採用された実績があったことはうかがわれる、そのような措置の在り方について指針となるような知見が存在していたこともうかがわれない。
②・・・前記意見が出されていたからといって、それだけで、本件試算津波に対応した防潮堤等の設置を断念したであろうと推認することはできず、むしろ、その設置を実現する方策が更に検討されることとなった蓋然性が高い。

東京電力等が、防潮堤等によっては津波による敷地の浸水を防ぎきれないという前提で、そのような(不完全な)防潮堤等の設置と併せて他の対策を講ずることを検討した蓋然性があるとはいえない。
  民事p49
最高裁R4.7.14  
  「合計>自賠責保険の保険金額」の場合に、自賠責保険の保険会社が国の請求権の行使を受けて国に対してした支払の効力
  事案 交通事故にによって受傷したXが、加害者量を被保険自動車とする自動車損害賠償責任保険の保険会社であるYに対し、自賠法16条1項の規定による請求権に基づき、保険金額120万円の限度における損害賠償額からYのXに対する既払金を控除した残額(103万円余)の支払を求めた事案。
Xは、本件事故による傷害につき労災法に基づく給付(「労災保険給付」)を受けており、Yは、Xが前記労災保険給付を受けたことにより国に移転した直接請求権の行使を受け、国に対して103万円余を支払っている。
  原審 ①最高裁H30.9.27の判時内容
⇒被害者の有する直接請求権の額と労災法12条の4第1項による国に移転した直接請求権の額の合計額が自賠責保険の保険金額を超える場合に、自賠責保険の保険会社が、国に対し、被害者が国に優先して支払を受けるべき損害賠償額につき支払をしたときは、当該支払は有効な弁済に当たらない。
②本件支払はXが国に優先して支払を受けるべき損害賠償額についてされたもの
⇒有効な弁済に当たらない⇒Xの請求を認容。
  判断 被害者の有する直接請求権の額と労災法12条の4第1項により国に移転した直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超える場合であっても、自賠責保険会社が国の直接請求権の行使を受けて国に対して自賠責保険金額の限度でした損害賠償額の支払は、有効な弁済に当たる。
⇒原判決を破棄し、1審判決を取り消し、Xの請求を棄却。
  解説  直接請求権:
自賠法3条による保有者の損害賠償責任が発生したときに、交通事故の被害者が政令で定めるところにより保険会社に対して保険金額の限度で損害賠償額の支払を請求し得る権利。 
自賠責保険は責任保険
but
被害者の保有者に対する損害賠償請求権の行使を円滑かつ確実なものとし、迅速で実効性のある被害者保護を実現するため、前記損害賠償請求権の行使の補助的手段として、直接請求権の制度が定められている。
この直接請求権は、権利としては前記損害賠償請求権と同額のものとして成立した上で、権利行使が自賠責保険金額(傷害につき120万円、自賠法施行令2条1項3号イ)の限度に制限されていると解されている。
  労災法12条の4第1項:
労災保険給付の原因である業務災害等が第三者の行為によって生じたものである場合に、政府が保険給付をしたときは、国はその給付の価額の限度で当該受給権者の第三者に対して有する損害賠償請求権を代位取得する旨定め、被害者の有する直接請求権も、前記の代位取得の対象となると解されている。

政府が被害者に対して労災保険給付を行った場合、被害者が労災保険給付等を受けてもなお補填されない損害(「未填補損害」)について有する直接請求権の額と、労災法12条の4第1項により国に移転した直接請求権の額の合計が自賠責保険金額を超え、その行使の競合が生じることがある。 
  平成30年判決以前の実務:前記競合が生じた場合、被害者及び国に対して保険金額を各直接請求権の額で按分した額をそれぞれ支払う運用(案分支払)
平成30年判決:前記の場合でも、被害者は、国に優先して自賠責保険会社から損害賠償額の支払を受けることができる旨判示 

自賠責保険会社は、前記競合が生じた場合、被害者に優先して損害賠償額の支払をし
国のみが直接請求権を行使した場合には被害者に対して請求案内
本件:前記の運用変更前に、被害者と国に対して案分支払がされた事案
  平成30年判決:被害者は、未填補損害について直接請求権を行使する場合、他方で労災法12条の4第1項により国に移転した直接エ支給権が行使され、前記各直接請求権の額の合計額を自賠責保険金額を超える場合であっても、国に優先して保険会社から自賠責保険金額の限度で損害賠償額の支払を受けることができる。
but
前記判示が、
被害者の直接請求権の行使によって国の直接請求権が消滅するとか、
保険会社の国に対する支払が効力を有しないこととなるなどとする者とは解されない。

前記判示は、被害者又は国が各直接請求権に基づき損害賠償額の支払を受けるにつき両者の間に相対的な優先劣後関係があることを意味するにとどまるものであって、自賠責保険会社の国に対する支払の効力を否定する根拠となるものではないと解するのが相当。
直接請求権は、自賠法3条の規定による損害賠償請求権と同額のものとして成立し、労災保険給付が行われた場合には、国はその価額の限度で直接請求権を取得し、国は直接請求権を有する債権者に当たる。

自賠責保険会社の国に対する損害賠償額の支払は、債権者に対してされたものということになる⇒国に対する前記支払は有効な弁済に当たるとみるほかない。
  保険法25条2項:私保険において保険者が保険給付により対第三者請求権の一部を代位取得した場合に、被保険者は代位に係る保険者の債権に先立って弁済を受ける権利を有する旨規定。

加害者の資力不足の場合を念頭に、被保険者と保険者の権利行使が競合した場合に、被保険者の債権が保険者の債権に優先して弁済されるべきこととしたもの。 
but
同項は、商法662条2項の法的効果に争いがあったことから、その内容を明確化したんものであり、弁済における保険者と被保険者との間の相対的な優先劣後関係を定めたにとどまるもの
⇒保険者が被保険者より先に第三者に対する権利を行使した場合であっても、第三者が支払を拒絶したり、第三者又は被保険者が強制執行の停止を求めたりできるものではない。
民法502条3項は、債権の一部弁済による代位が生じた場合において、原債権者は権利の行使によって得られる金銭について代位者が行使する権利に優先する旨を規定。

例えば、原債権を担保するため保証債務が設定されていた場合、代位者の請求に応じて保証人が支払った金銭については、原債権者が代位者に優先して取得できることになる。
but
保証人が誤って原債権者が優先すべき部分についてまで一部代位者に対して支払ってしまった場合でも、当該支払は弁済として有効であり、同項によって前記弁済の効力が左右されるものではなく、単に代位者が受領した金銭につき原債権者に対して償還すべき義務を負うにとまると解されている。

他の制度等において、債権者間の優先劣後関係は相対的なものであり、債務者がした支払の弁済としての効力は否定されないとの解釈。
  本判決:
国が労災法12条の4第1項により移転した直接請求権を行使して損害賠償額の支払を受けた場合に、その額のうち被害者が国に優先して支払を受けるべきであった未填補損害の額に相当する部分につき、被害者に対し、不当利得として返還すべき義務をおうことは別論である旨が付記。

優先劣後関係にあって本来は受けることができないはずのものが劣後者に回ってしまった場合をいわゆる侵害利得の類型と捉え、これを優先者に回復する役割を不当利得返還請求権に求める立場に立つと解し得る。 
  知財p57
大阪地裁R3.3.11  
  特許権移転の際の許諾契約上の許諾者たる地位の承継を肯定した事例
  事案 訴外特許権者Zとの特許実施許諾契約の相手方であったXが、Zから本件許諾契約の対象であった特許権8件のうち4件を譲り受けた後に特許料不納付により本件特許権を消滅させたYに対し、
選択的に、
(1)本件許諾契約の債務不履行による解除に基づく原状回復請求として支払済み実施料の返還等(請求1)、又は
(2)本件許諾契約締結に先立つ虚偽の説明によりXを誤信させるなどして実施料を支払わせた不法行為に基づく損害賠償の支払等(請求2)
を求めた事案。 
  争点 請求1について
①本件許諾契約上の許諾者たる地位のYへの移転の有無、
②本件許諾契約の効力(X・Z間の通謀虚偽表示の成否)
③原状回復請求が認められる範囲
請求2について
④不法行為の成否等 
  判断   ●争点①について 
当事者及びZの関係性、本件特許権にかかる譲渡契約に至る経緯、本件特許権譲渡後のYの行動等に係る事実認定
⇒本件における事情の総合考慮のもとでは、Yは本件特許権の譲渡契約に伴い、本件許諾契約上の許諾者たる地位をZから承継⇒YのZに対する本件許諾契約上の許諾者たる地位をZから承継したものと判断。
Y:YZ感の本件特許権の譲渡契約書に「通常実施権等の・・・第三者の権利が設定されていないこと・・・を保証する」旨の保障条項がが存する⇒本件許諾契約上の許諾者たる地位を承継していない旨を主張
vs.
同条と契約書前文の記載に基づき、
本件譲渡契約により、Yは、Zから、本件特許権・・・のほか、これらの特許権につき第三者との間に締結した実施許諾契約及び再実施許諾契約における権利全てを承継しながら、他方で、個別の実施許諾契約に基づく義務は当然に承継しないとすることは、理論的には可能であるとしても、当事者間の合理的意思には必ずしも合致しない。
  ●争点②について 
通謀虚偽表示の主張を否定。

Yが特許料不納付により本件特許権を消滅させたことは、本件許諾契約上の特許維持義務の不履行に当たり、本件特許許諾契約は、Xの解除の意思表示により解除されたこととなり原状回復義務を負う。
  ●争点③について 
本件許諾契約における実施料が、特許権8件の実施料を個別に算定して合算した額ではなく、前記特許権8件が一体的なものとして取り扱われて定められている
⇒最後まで存続していた特許権が消滅するまで本件許諾契約に基づく通常実施権者としての地位を享受していた期間に相当する実施料を控除した額の不当利得返還請求権を認容。
  ●  ●争点④について 
X:本件許諾契約締結に先立つ積極的な欺罔行為の存在を主張
vs.
それを排除し、不法行為の成立を否定。
  解説 ●  特許法 第九九条(通常実施権の対抗力)
通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する。
  平成23年法律第63号による特許法の改正
⇒特許法99条において、通常実施権者はその後特許権が移転された場合でも、登録によらずして特許権の取得者に対抗することができるとする当然対抗制度が導入。 
but
特許法99条の効果として、各実施許諾契約において定められた種々の義務までも承継されるか?

個々の事案に応じて判断されることが望ましい。
学説:通説はなし
A:不動産賃貸借を類推し、実施許諾契約が通常実施権者と新特許権者間に承継される(承継説)
B:特許権の譲渡がなされても、設定権者たる地位は義務をも包含⇒一方的行為によっては譲渡できない(非承継説)
C:一定の権利義務の承継がなされる(折衷説)
本判決:
諸事情の総合考量を踏まえた上で許諾契約における特許維持義務の存在を肯定
少なくとも「個別の実施許諾契約に基づく義務は当然には承継しないとすることは、理論的には可能である」としている
⇒当然承継説からは一定の距離をおいたものと解することは可能。
  商事p71
大阪地裁R4.5.20  
   
  事案 Zとの株主であるXは、Y1(代表取締役)について、
①本件売買契約を稟議書によって承認したことや残代金決済前倒しを承認したことが経営判断上の誤りであること
②従業員に対する監視監督義務を怠ったこと
③内部統制システム(リスク管理体制)構築義務を怠ったこと
④被害回復措置を怠ったこと
⑤被害拡大防止措置を怠ったこと
等を理由として、
Y1及び経理財務部門担当の取締役(副社長)であったY2に対し、
Zに生じた損害をZに賠償するよう求めて本件を提訴。
  争点 主な争点:
Y1が本件売買契約を事前に承認した上、残代金決済前倒しについても事前に承認⇒会社が目的とする事業を遂行する上で取締役が行った判断が、その負っていた任務に違背するものであったといえるか? 
  判断 取締役による決裁を経て不動産を購入するに至ったが、それによって当該会社に損害が生じた場合、かかる意思決定に関与した取締役が当該会社に対して善管注意義務違反ないし忠実義務違反による責任を負うか否かについては、
取締役に求められる上記の判断が、当該会社の経営状態や当該不動産の購入によって得られる利益等の種々の事情に基づく経営判断であることからすれば、取締役による当時の判断が取締役に委ねられた裁量の範囲に止まるものである限り、結果として会社に損害が生じたとしても、当該取締役が上記の責任を負うことはない。
当該取締役の地位や担当職務等を踏まえ、当該判断の前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程が合理的なものである場合には、かかる事実等による判断の推論過程及び内容が著しく不合理なものでない限り、当該取締役が善管注意義務違反ないし忠実義務違反による責任を負うことはない。
当該会社が大規模で分業された組織形態となっている場合には、当該取締役の地位及び担当職務、その有する知識及び経験、当該案件との関わりの程度や当該案件に関して認識していた事情等を踏まえ、下部組織から提供された事実関係やその分析及び検討の結果に依拠して判断することに躊躇を覚えさせるような特段の事情のない限りm、当該取締役が上記の事実等に基づいて判断したときは、その判断の前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程は合理的なものということができる。
・・・・稟議書の記載や担当従業員から個別に受けた説明に依拠して判断することに躊躇を覚えさせるような事情があったとは認められない
⇒Y1の判断は、その前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程は合理的であったといえ、かかる事実等による判断の推論過程及び内容についても著しく不合理なものではなかった。
⇒経営判断としてY1に許された裁量の範囲に止まる。
Y1が残代金決済前倒しの方針を事前に承認したことについても、同様。
  解説  取締役のの経営に関する判断事項についての善管注意義務違反の成否:
最高裁:アパマンショップ株主代表訴訟事件(最高裁H22.7.15):
株式取得の方法や価格について、取締役は、様々な事情を総合考慮して決定することができ、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではない。 
取締役の業務執行は、不確実な状況で迅速な決定を迫られる場合が多く、
善管注意義務が尽くされたか否かの判断は、行為当時の状況に照らし合理的な情報収集・調査・検討等が行われたか、及び、その状況と取締役に要求される能力水準に照らし不合理な判断がなされなかったかを基準になされるべきであり、事後的・結果論的な評価がなされてはならない(江頭)。
取締役の裁量を踏まえた任務懈怠の検討にあたっては、従前から、
①経営判断の前提となる事実認識の過程(情報収集とその分析・検討)における不注意な誤りに起因する不合理さの有無と、
②事実認識に基づく意思決定の推論過程及び内容の著しい不合理の存否
の2点から判断。

情報収集過程と判断過程に着目して、
情報収集過程については不合理さの有無を
判断過程については著しい不合理性の有無を
検討

特に経営判断の内容については、経営判断の特質から取締役に広い裁量が認められ、裁判所による厳格な審査になじみにくいといえ、
経営判断の過程については、取締役に認められる裁量の幅が相対的に狭くなる。
  本判決:
取締役の判断の前提となるh情報収集・分析、検討について、大規模組織における意思決定の特質が考慮に入れられるべきものであり、特段の事情が認められない限り、下部組織の行った情報収集・分析、検討を基礎として自らの判断を行うことが許される。

善管注意義務の懈怠が問題となっている場合においても、
取締役は下部組織の報告に依拠することができるものの、
報告の信用性を疑わせるといった事情があるときは、取締役から改めて情報を収集することを求めることで、これらの特質に沿った判断が可能となる。 
  刑事p97
東京高裁R4.6.3  
   
  事案 いわゆる特殊詐欺事件の詐欺未遂幇助の事案
少年の関与:犯行の際に見張りをするなどして幇助
原決定時19歳の特定少年
  原審 事件が未遂に終わり、少年が幇助犯にとどまることを踏まえても、少年院送致も許容される。

①本件は、卑劣で組織的かつ計画的に行われたもの
②多数回の家庭裁判所係属歴があるのに本件に及んだ少年の規範意識の乏しさは顕著 
要保護性:
本件に至る経緯

①忍耐強く努力を続けることができず、遊興志向が強いため、目先の欲求を優先させて手っ取り早い金策を求めがちであるという問題
②都合の悪いことは考えようとせず、自己本位な志向及び行動傾向、犯罪に対する抵抗感が希薄であるという問題
③保護観察処分を含む家庭裁判所係属歴等⇒内省が表面的で深まりにくいという問題
④少年の内省は不十分であり、保護環境を見ても更生は期待できない

少年を第1種少年院に送致し、収容期間を2年とする決定。
  判断 少年が更に反省を深め、強い更生意欲を示したことは評価できる
but
①それを踏まえても少年の問題性が直ちに改善されるものとはいえない
②父親には少年を指導監督する意思は認められるものの、これまでの経緯に照らすと、少年の問題点の改善を期待することは困難
③現時点あるいは早期に少年に社会での生活を送らせた場合、再び従前の生活状況に戻ってしまい、犯罪に関与する可能性は相応に高い

在宅処遇で改善しなかった根深い問題性を改善するには第1種少年院への収容が必要不可欠。
収容期間をその犯情に鑑み2年間とした原裁判所の処遇判断に誤りはない。
  解説 令和3年5月に「少年法等の一部を改正する法律」が成立、令和4年4月1日施行。
少年法上、18際以上の少年については「特定少年」と呼称。
「第5章 特定少年の特例」が新設。 
本件:特殊詐欺事件とはいえ、未遂かつ幇助の事案⇒刑事裁判であれば執行猶予が付く余地はある。
but
原決定は、本件の犯情を検討した上、少年院送致も許容されると判断し、収容期間を2年間と定めた。
本決定は、収容期間の点も含め、少年院送致処分を洗濯した原決定の判断を是認。
2545   
  行政p19
最高裁R4.9.8  
  固定資産評価審査委員会の委員の職務上の注意義務違反を否定した原審の判断に違法があるとされた事例
  事案 Xが、土地課税台帳に登録された本件各土地の平成30年度の価格を不服として丹波市固定資産評価審査委員会に審査の申出⇒棄却⇒本件登録価格の適否に関する本件決定の判断に誤りがある⇒
Y(丹波市)を相手に、
①本件決定のうちxが適正な時価と主張する価格を超える部分の取消しを求める
②国賠法1条1項に基づき、弁護士費用相当額等の損害賠償
を求めた。
  関係法令 固定資産評価基準:
ゴルフ場用地の評価につき、
①当該ゴルフ場を開設するに当たり要した 当該ゴルフ場用地の取得価額に当該ゴルフ場用地の造成費を加算した価額を基準としてその価額を求める方法による
②この場合において、取得価額及び造成費は、当該ゴルフ場用地の取得後若しくは造成後において価格事情に変動があるとき又はその取得価額若しくは造成費が不明のときは、附近の土地の価額又は最近における造成費から評定した価額による。
自治省税務局資産評価失調は、各道府県総務部長等宛てに「ゴルフ場の用に供する土地の評価の取扱いについて」と題する通知
総務省自治税務局資産評価室長は、各道府県総務部長等宛てに「ゴルフ場用地の評価に用いる造成費について」と題する通知
を発出。

宅地比準方式と
山林比準方式
  判断 登録価格が評価基準によって決定される価格を上回る場合には、その登録価格の決定は違法となる(最高裁H25.7.12)ことを前提とした上で、
最高裁H5.3.11を引用し、
審査委員会が、評価基準の解釈適用を誤り、過大な登録価格を是認する審査の決定をした場合において、これを構成する委員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と判断したと認め得るような事情がるときには、国賠法1条1項にいう違法があったとの評価を受ける。
本件決定は、本件各土地の取得価額につき山林比準方式を用いて評定する以上、整合性の観点から、丘陵コースの平均的造成費(840円/㎡)を用いて造成費を評定するのが合理的である旨の理由によったものであり、必要な土工事(土量の切り盛り移動)の程度を考慮することなく造成費を評定し得るとの見解に立脚した点において評価基準の解釈適用を誤った。
①本件定め(=固定資産評価基準での定め)の趣旨に照らし、造成費については、必要となる工事の程度に応じた評定が予定されているものと解すべきことが明らか
②本件定め等において、ゴルフ場用地の取得価額の造成費はあくまでも別個に評定すべきものとされている。
本件定めの解釈適用に係る参考資料と位置付け得るゴルフ場通知や固定資産税務研究会編・前掲書においても、宅地比準方式によるか山林比準方式によるかは、周辺地域の大半が宅地化されているか否かにより決まるものとされている一方、造成費については、必要な土工事の程度等に応じた評定を予定しているとうかがわれる記述がみられ、少なくとも、取得価額の評定の方法に応じて造成費の評定の方法が直ちに決まることをうかがわせる記述はみられない。
③他に、前記の見解に沿う先例や文献等の存在もうかがわれない。

当該見解に相当の根拠はない。
  解説 ●判断枠組み等について 
職務行為基準説:
国賠法上の違法性(職務上の注意義務違反の有無)の判断と過失の判断とは、基本的に一致することになるものと解される。
本件:
本件決定が必要な土工事の程度に関する事情を考慮せず造成費を評定し得るとの見解に立脚した点において、客観的にみて評価基準の解釈適用の誤りがあることが前提。
法令の解釈等に誤りがある場合に違法性:
職務行為基準説を前提とした場合には、その誤った見解に関する相当の根拠の有無が問われることとなる。
最高裁H16.1.15:
法令の解釈が対立し、実務上の取扱いも分かれていて、そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に、公務員が一方の見解に立脚して公務を執行したときは、後にその執行が違法と判断されたからといって、直ちに当該公務員に過失があったものとすることは相当でない。
  行政p27
大阪高裁R3.12.14   
  船場センタービル(「本件ビル」)の上を通っている阪神高速道路の占有料をめぐる争い
  事案 大阪市中心部にある船場センタービル(「本件ビル」)の上を通っている阪神高速道路の占有料をめぐる争い 。
Y:阪神高速道路公団が行っていた本件ビルに係る業務等を承継した独立行政法人
X:本件ビルの区分所有者全員で構成される団体の管理者
Yは、平成25年度以降毎年、Xに対し固定資産税等と同額の占有料について納入告知をしている。
  争点 ①本件各納入告知の行政処分性
②本件各納入告知の理由の提示の適法性(手続的適法性)
③本件各納入告知の信義則違反ないし裁量権の逸脱・濫用の有無(実体的適法性) 
  原審・判断   争点①:
本件各納入告知は行政処分 
争点②:
平成26年度納入告知は理由の提示に不備があるが
平成27年度~平成30年度納入告知に不備はない
  争点③
  平成27年度納入告知は違法 
原審:裁量権の逸脱・濫用
本判決:信義則違反ゆえに裁量権の逸脱・濫用がある
平成28年度~平成30年度納入告知:
原判決:裁量権の逸脱・濫用の違法
本判決:適法
  原審: 
①本件ビルが本件高速道路と不可分一体のものとして建設されたという特殊性
②Xは本件ビルの敷地相当部分の事業費(用地費・補償費)の約30%に相当する47億円余を分担しており、この分担金は占有料の前払い的な性格を有する
③公団とその承継人であるYが昭和46年以降40年以上にわたって占有料を免除してきた

占有料を固定資産税等の額と同額と定めたYの判断には裁量権の逸脱・濫用があり、平成27年度~平成30年度納入告知はいずれも違法。
判断:

Xが分担した47億円余は占有料の前払いとは認められない。
but
40年以上の長期間にわたって占有料が免除され続けてきた事実には重みがあり、Xには占有料を徴収されないという強い信頼があった⇒平成27年度納入告知の実体的適法性を検討するに際してはこの信頼保護の必要性が重視される。

Yの側にも長年にわたって免除されていた固定資産税等が賦課されるようになったという事情はある
but
大阪市に対し不服申立てや取消しの訴え提起などの法的措置をとっていない
⇒平成27年度納入告知は信義則に反し違法。
平成28年度~平成30年度納入告知:
基礎となる事情は異ならない。
but
Yに対して固定資産税等を賦課し続ける大阪市の強固な姿勢が一層明白になってきた。
・・・資金調達等について準備する時間がXにあった。

平成27年度納入告知と異なり、Xの信頼を裏切る処分であるとの評価を低減させる事情がある。
信義則違反とまではいえず、平成28年度~平成30年度の納入告知は有効。
  民事p45
最高裁R4.6.21  
   
  事案 Xが、Xの夫であるYに対し、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(「ハーグ条約実施法」)134条に基づき、X・Y間の子らのフランスへの返還を命ずる終局決定を債務名義として、間接強制の方法による子の返還の強制執行の申立てをした。 
  経緯 (4)大阪家裁:
令和2年9月、Xの申立てに基づき、子らの返還事件について、Yに対し、本件子らを常居所のあるフランスに返還することを命ずる終局決定(本件返還決定)をし、その後確定。
(5)フランスの司法裁判所の裁判官は、令和2年11月、Yの離婚請求について、判決(第1審本案判決):
子らの常居所はYの住所に定められ、この判断については仮の執行力を有する。
(6)原々審(大阪家裁):
本件申立てに基づき、Yに対し、本件子らをフランスに返還することを命じ、Yが同債務を履行しないときは子1人につき1日当たり1万円を支払うよう命ずる決定。
(7)Yが執行抗告⇒原審は、本家申立てはフランス第1審本案判決が仮の執行力を有する間は権利を濫用するものとして許されない⇒原々決定を取消し、本件申立てを却下。
(8)フランスの控訴裁判所:本件子らの常居所はXの住所と定められた。
(9)奈良地裁の執行官は、令和3年8月、大阪家裁による授権決定に基づき、本件子らをYから解放し、返還実施者と指定されたXに引き渡した⇒その後、本件子らはフランスに返還された。
  判断 Xがハーグ条約実施法134条に基づき本件返還決定を債務名義として申し立てた子の返還の代替執行により子の返還が完了⇒本件返還決定が係る強制執行の目的を達したことが明らか⇒本件申立ては不適法になったと判断し、Xの抗告を棄却。
  解説   ●執行手続である間接強制手続において、代替執行により子の返還が完了したという事実を考慮することができるか? 
  裁判機関と執行機関を分離し、執行手続を迅速かつ円滑に進行させることとした民執法の趣旨
⇒債務の履行のような実体上の事由については、請求異議の訴えにより判決手続で審理すべきであって、執行手続において審理すべきではない(通説)。 
判例も取立訴訟についてではあるが、同様の見解。
請求異議の訴えは、当該債務名義に基づく強制執行が行われ、債権者が債権全額の満足を受けた場合には、その債務名義の執行力の排除を求める目的を欠く⇒訴えの利益はなくなり、却下される(判例・通説)。
but
強制執行手続きは、執行力のある債務名義の正本に基づき請求権を強制的に満足させる手続き
⇒他の執行手続により請求権の満足を得た場合には、強制執行手続を利用する目的を達したものといえ、そのことが有する執行手続上の意味合いは任意の履行による請求権の満足を得た場合とは同じとは言い難い。
子の返還を命ずる終局決定の強制執行として代替執行と間接強制を定めるハーグ条約実施法134条は、子に与える心理的負担を考慮して、間接強制を原則的な執行方法としつつ、間接強制によっても奏功しなかった場合又は間接強制を前置することが実効性を欠く場合に初めて代替執行を行うことができる。

最終的な強制執行方法を代替執行を位置付けている。
⇒代替執行による履行が完了した場合にまで間接強制決定を求める利益はないとも考えられる。
  平成15年の民執法改正により間接強制の適用範囲が拡大
⇒間接強制と代替執行(又は直接強制)との並行申立てを許容すべきか、代替執行における授権決定が先行した場合に間接強制決定が許されるかについて議論がある。
but
代替執行により履行が完了した後についてまで間接強制決定をすることを積極的に許容する見解は見当たらず、いずれも執行障害事由であることを前提としている。 
本決定:
以上を踏まえ、子の返還を命ずる終局決定に基づく間接強制決定に係る審理においては、代替執行による子の返還が完了したことにより終局決定に基づき強制執行を申立てる目的を達したことが明らかに認められる場合には、これを考慮することができることを前提として、本件申立てを不適法であるとしたもの。
本件申立てを不適法であることを根拠付ける手続上の事由としては、申立ての利益を欠くこと又は申立権の濫用に当たることが考えられる。
  原決定:
①フランス第1審本案判決は国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約及びハーグ条約実施法の意図に沿うものであるところ、フランス第1審本案判決により子らの常居所がYの住所に定められ、これについて仮の執行力を付与されたこと
②本件返還決定により子らをフランスに返還することは、再度、フランスから日本に移動する負担を子らに強いるおそれがある
⇒本件申立てが権利の濫用に当たる。
vs.
②については、子の返還を命ずる終局決定は、子を常居所地国に返還することにより原状回復を図り、常居所地国において子の監護に関する裁判をするためにされるもの
⇒常居所地国における前記裁判において、子の居住地が連れ去り先の国にいる者の居住地と指定されるなどすることにより、当該子に再び常居所地国から連れ去り先の国に移動する負担が生ずることは当然予定されており、そのような事態が生ずることをもって本件返還決定に基づく間接強制の申立てが権利の濫用であることを基礎づける事情とはいえない。

①のみを理由として、子の返還を命ずる終局決定に基づく間接強制の申立てが権利の濫用に当たるとしている。 
but
確定してもいない外国における子の監護に関する裁判がされたことのみを理由として子の返還の強制執行を許さないとすることは、前記裁判が適正な審理の下に行われたものであったとしても、ハーグ条約の目的、ハーグ条約17条及びこれを受け手定められたハーグ条約実施法28条3項の趣旨に反するおそれがある。
ハーグ条約17条前段:
The sole fact that a decision relating to custody has been given in or is entitled to recognition in the requested State shall not be a ground for refusing to return a child under this Convention, but the judicial or administrative authorities of the requested State may take account of the reasons for that decision in applying this Convention.

ハーグ条約実施法28条3項:
裁判所は、日本国において子の監護に関する裁判があったこと又は外国においてされた子の監護に関する裁判が日本国で効力を有する可能性があることのみを理由として、子の返還の申立てを却下する裁判をしてはならない。ただし、これらの子の監護に関する裁判の理由を子の返還の申立てについての裁判において考慮することを妨げない。
  民事p53
福岡高裁R3.9.30  
  いじめによる自殺で安全配慮義務違反肯定事例
  事案 学校法人であるYの設置する私立高校の3年であった男子生徒が平成25年11月に自死⇒
①本生徒の親族であるXらが、本件自死は本高校の生徒らのいじめによるものであるところ、Yは、本高校の教員をして、本生徒に対するいじめの事実を把握して、これを阻止し、本件自死を防止する義務を怠った⇒
Yに対し、債務不履行責任又は不法行為に基づき、
X1(本生徒の父)及びX2(同母)につきそれぞれ4300万円余の、
X3(同祖母)、X4(同兄)及びX5(同姉)につきそれぞれ330万円の
損害賠償金の支払を求め、
②X1及びX2が、Yは、本件生徒に対する前記いじめを阻止せず、本件生徒の名誉を毀損したなどと主張⇒Yに対し、本件生徒の名誉回復請求権に基づき、謝罪文の掲示を求めた。
Xらは、当初、いじめに関与した本高校の生徒ら8名に対しても損害賠償等を請求していたが、いずれも和解により終了。
  争点  ①Yの安全配慮義務違反又は過失の有無、Yの同義務違反又は過失と本件自死との因果関係の有無
②本生徒及びXらの損害並びにその額
③名誉回復請求権行使の可否 
③について
原判決:Yの不作為により本生徒の名誉が毀損されたとは認められない⇒請求棄却。
本判決もそのまま引用。
  判断 ●争点① 
原判決と同様の事実認定

本生徒は、加害生徒らのいじめにより、精神的に追い詰められ、現実から逃れる手段として自死に至ったと認めるのが相当⇒加害生徒らによるいじめと本件自死との間には、相当因果関係が認められる。
  Yの責任:
在学契約に基づく付随義務としての生徒の生命、身体等に対する安全配慮義務がある。
本高校の教員は、生徒に対するいじめやその徴候が発見された場合、いじめを阻止し、いじめが生徒の自死という重大な結果を招来しないように、本件自死前の事故を受けて策定された本件予防体制(=文部科学省が平成21年に公表した生徒の自殺予防についてのマニュアルに基づき、本高校の再発防止委員会が平成22年に策定した「自殺予防のための校内体制」)のほか、本件手順(=Yの教職員がいじめに係る具体的な情報の提供を受けた場合、生徒育成部長への報告、生徒育成部の会議の招集及び調査、関係者に対する事情聴取、再発防止委員会への結果の報告をすることとしているもの)や本件マニュアル(=いじめが発見された場合の対応等を定めるYの「危機管理マニュアル」であり、平成24年に改定されたもの)(「本件マニュアル等」)に従い、保護者や他の教員との連携を図りながら、情報を収集して、これを教員間で共有し、適正に事実関係を把握した上、いじめの被害者に対する心理的ケアを行ったり、加害者に対する指導等を行ったりするなど、生徒の自死を未然に防止する措置を執る義務を負う。 
①本件自死の前年に、本生徒の学級担任が本生徒の首に痣があることを確認し、自殺未遂を疑った。
②本生徒が本件自死直前まで複数日欠席し、うち数日については欠席の届出がなかった。
③本高校の教員が調理実習の際のいじめに気付き、本生徒の火傷の状態を確認。

本高校の教員としては、いじめが発見された、あるいは、自殺未遂が生じた可能性があり、本生徒の自死の危険が高まっているとして、本件マニュアル等に従い、管理職を含む他の教員に上記の情報を提供し、これを教員間で共有すべきであった。
上記の情報提供、情報共有により、・・・本高校の教員において、本生徒がいじめにより自死を図ることを、具体的に予見することが可能であったというべきであるし、本高校の教員が、上記の予見に基づき、本件マニュアル等に従い、保護者や他の教員との連携を図りながら、さらに情報を収集して、これを教員間で共有し、適正に事実関係を把握した上、危機対応チームや生徒育成部の会議を招集するなどして、本生徒に対する心理的ケアや、加害生徒らに対する指導等の具体的な対応策を決定し、これを実行していれば、本件自死を回避することが可能であった。
それにもかかわらず、本高校の教員は、痣についての情報提供や事情聴取、無断欠席についての事情聴取、調理実習中の出来事についての情報提供や事情聴取をしていない
⇒Yには、安全配慮義務の不履行ないし違反があった(本生徒の生命、身体に対する侵害として不法行為をも構成する)
  ●争点② 
逸失利益について増額
X1及びX2の損害については過失相殺の規定の適用及び類推適用により2割を減額
X1及びX2の両名につき各1400万円の支払請求をに尿
X3,X4及びX5に関する部分について、各88万円の支払を認容。
  解説 学校側による自死の予見可能性を肯定して相当因果関係を肯定した比較的少数の事例に1事例を加えるもの。 
  民事p77
仙台高裁R4.2.22  
  自動車の運転を一時的に避けるべき注意義務違反(肯定事例)
  事案 症候性てんかんの発作により意識を失ってA所有の自動車に衝突させる交通事故(本件事故)
Aに車両保険金を支払った損害保険会社であるXは、保険法25条1項の請求権代位に基づき、車両保険金支払額と同額の損害賠償を求めた。 
  一審 ・・・脳出血の原因の更なる調査が予定されていたことを踏まえても、本件事故発生前に、自動車運転時に意識を消失し、事故を発生させる具体的な危険をあることを認識することができたのではと認められず、一時的に自動車の運転を回避すべき注意義務があったとは認められない。

Yは、本件事故発生時、症候性てんかんによって意識消失状態にあった⇒民法713条本文にうい「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態」にあった⇒請求棄却。
  判断 本件事故より前に2度意識消失の発作を起こし、かねて本件事故発生日の2日後に意識消失の原因を調査するために大学病院での診察や検査が予定されていた
⇒Yには、運転中に意識を売すなって事故を起こさないようにするため、意識消失の原因が判明するまで自動車の運転を一時的に避けるべき注意義務があり、同義務に反して自動車を運転して衝突させた過失がある
⇒原判決を取り消し、Xの請求を全部認容。
道交法66条は、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で自動車を運転してはならないことを定める。
免許の取消し又は停止の事由となる道交法施行令で定められた病気である「てんかん」や「自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する病気」にかかっていることが、医師の診断により判明したとまではいえない場合でも、診療を受けている病気の症状や診療経過から、意識消失の発作により自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断、操作の能力を欠くこととなる症状を呈するおそれがある病気にかかっている可能性が高いときは、確定診断まではなくても診療中の病気により正常な運転ができないおそれがある状態にあり、道交法66条により、自動車を運転してはならない義務を負う。
本件事故当時、脳出血による意識消失の発作を繰り返し、その原因となった脳出血の原因がわからず、更に大学病院での専門的な検査、診療を受ける予定であった以上、意識消失の発作により「自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断、操作の能力を欠くこととなる症状を呈する病気」にかかり、その病気が治癒していない可能性が高かったといえる状態にあり、このような状態にあったYは、確定診断まではなくても診療中の病気により正常な運転ができないおそれがある状態にあり、道交法66条により、自動車を運転してはならない義務を負っていたと認めるのが相当であり、
少なくとも大学病院で原因を精査して意識消失の原因が判明するまでは、自動車の運転を一時的に回避すべき注意義務を負っていた。
  解説 道交法66条の過労運転等の禁止に関する規定は、正常な運転ができないおそれのある状態にあるか否かは、自動車を運転する者が、その責任において判断すべきこととなっており、本判決は、この規定の解釈との関係において、てんかんなどの病気による運転免許規制についても検討している。
(文献)
  民事p86
東京地裁R4.2.28  
  パイロット予備校の受講規約に定められた違約金の効力
  事案 X(航空大学校受験を目的としたパイロット予備校の運営などを目的とする会社)が、本件予備校の受講生であるYに対し、 受講規約に定められた違約金の支払を求めた事案。
  判断 ●本件譲渡禁止条項の有効性 
Y:本件教材は、Xの役務提供義務に付随するものとしてYが対価を支払って取得⇒Xの著作権は消尽しており(著作権法26条の2第2項)著作権侵害とはならず、
本件譲渡禁止条項は消費者の利益を一方的に害するもので消費者契約法10条に該当し無効。
X:本件教材は受講生に貸与したものであり、本件教材の譲渡を前提とするYの主張には理由がない。 
判断:
本件予備校では、受講生に配布する教材にID番号を付しており、受講生に教材を譲渡するのであれば、かかるID番号を付する必要はない⇒本件教材が貸与されているものであると強く推認させる⇒本件教材の譲渡を前提とするYの著作権の消尽の主張は認められない。

本件教材が第三者に譲渡されれば、第三者にXのノウハウが流出するというべきであり、営業上の利益が侵害されるといえる⇒本件譲渡禁止条項は合理性がないとはいえず、消費者契約法10条に該当するものではない。
  ●本件違約金条項の有効性 
Y:本件教材を第三者に譲渡転売されたとしてもXはそれにより損害を受けないにもかかわらず、本件違約金条項は受講者であるYの利益を一方的に害する不当な条項であり、消費者契約法10条により無効。
判断:
本件教材は航空大学校の入学試験に合格するためのものであり、売却等をするためのものではない⇒第三者に売却できなくても受講生に特段の不利益はない。
本件教材を第三者に譲渡されればXの営業上の利益が害される⇒消費者契約法10条に該当するとはいえない。
  ●公序良俗違反 
判断:本件違約金条項の目的が受講生による教材の売却等を防止し、Xが営業上の損害を被らないようにするという点にあるのであれば、必要な限度を超えた違約金を設定すると受講生が負う負担と比して不均衡となる
⇒必要な限度を超えた違約金の範囲については公序良俗に反して無効。
⇒100万円を限度として認める。
  規定  消費者契約法 第九条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分
第一〇条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
  解説 本件違約金条項が、本件譲渡禁止条項に違反した場合には、違約金をとることとは別に民事上の措置(損害賠償等)をとると規定⇒賠償額の予定ではなく違約罰であると認定。
経済・取引秩序に反する行為(経済的公序)のうち経済活動に伴う行き過ぎによる公序良俗違反行為については、当該契約の被害者を救済するという性格も強く、絶対無効とすべきか若干疑問があるという見解も(四宮・能見)。
本判決:
本件違約金条項が必要な限度を超えて定めた額であるか否かについては、受講生であるYが支払った受講料、本件教材を譲渡した価格、Yが事前に提示した金額等から100万円の範囲で有効であるとし、実質的に損害賠償請求の如き認定。
⇒消費者契約法9条、10条の適用も考えられる。
最高裁R4.12.12:
賃貸借保証会社が賃借人と締結する無催告解除の条項および賃料等不払の場合の明渡し条項について、いずれも消費者契約法10条に該当し無効であるとして、同条該当性について肯定の判断をしている。
  民事p93
長野地裁R4.2.8  
  てんかん病歴の運転者⇒痙攣で事故の場合の過失(肯定事例)
  事案 X1、X2(本件事故に関するX1の損害をてん補し保険代位した共済協同組合)が、Aの相続人であるY1(Aの妻)、Y2(Aの父)及びY3(Aの母)に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案。
  主張 Xら:
請求原因として、
選択的にAは病歴があったのであるからそもそも運転を差し控える等の義務があり、あるいは現場は下り坂であるから、路側帯に停車させるに当たり、その後の体調の急変に備え、エンジンを停止するなどA車の逸走防止措置を講ずるべき義務があった
予備的に、Aの責任無能力により免責される場合のY1の監督義務違反を主張(民法714条本文)。
Y:
①Aが発作を起こしそれが全身に及ぶことは予見できなかった
②当時の状況からしてA車のエンジンを停止することは不可能であった
③本件事故当時Aはけいれん発作や意識障害のため責任能力を欠いていた(民法い713条本文)
④監督義務違反はなかった
⇒Xらの請求を棄却。
  判断 Aが全身けいれん発作に見舞われるより前の、下り坂の途中で路側帯にA車を停止させた時点での注意義務を問題にした。
そこでは、全身けいれんの発作を起こしてアクセルを踏み込んでしまうという危険の予見可能性の問題ではなく、坂道でフットブレーキを踏み続けることができなければA車は逸走する⇒フットブレーキを踏み続けることができなくなることの予見可能性を問題とすべき。
その予見可能性あり⇒エンジンを切るなどの逸走防止のための確実な措置を採って、かかる逸走を回避すべき義務があるということになる。
本件:
①Aは「やばいやばい」と連呼してA車を停車させた⇒局所けいれんを自覚していたと認められる。
②Aが過去に意識消失を伴うけいれん発作を起こした経験がある
⇒前記停車の時点でフットブレーキを踏み続けることができなくなることの予見が可能であった。
A自身がエンジンを停止するなどの逸走防止措置を採ることが可能だったのか?
・・・普段Aはギアを右手で操作し、右手だけでA車を運転しており、A社の運転に習熟していた⇒エンジンキーを操作することは可能であった。

Aには、エンジンを切るなどのA車の逸走を確実に防止する措置を講ずべき義務があったのにこれを怠ったという過失がある。
この時点ではAの責任能力の問題は生じない。
  解説 全身けいれん発作を起こすなどの時点では責任能力の問題が出てくる⇒それより前の責任能力があるとされる時点で一定の過失があると捉えられるかが問題となる。 
過去の病歴等からしてそもそも車の運転自体を差し控えるべき義務があるのではないかという点も問題。
but
本件:
その点は取り上げず、
運転中の局所けいれんで車を路側帯に停車させた時点の、まだ全身けんれんを起こして意識を消失していない段階での注意義務を問題にして、その後に意識を消失してフットブレーキを踏み続けられなくなることのよけんが可能であったかを検討すべきであるし、予見可能性・結果回避可能性を肯定して過失を認めた。
but
アクセルを踏み込み車を急発進させたという点に着目することも考えられるが、その点は本件事故に至る因果の流れの一部に過ぎないとしている。
  民事p98
東京家裁R4.1.19  
   
  事案 申立人(フィリピン国籍)と前夫との親子関係を否定した上で、日本法を準拠法として相手方(日本国籍)が申立人を認知するとの合意に相当する審判(家事手続法277条1項)をした事例。 
  規定 民法  第七七九条(認知)
嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。
法適用通則法 第二八条(嫡出である子の親子関係の成立)
夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべきときは、その子は、嫡出である子とする。
2夫が子の出生前に死亡したときは、その死亡の当時における夫の本国法を前項の夫の本国法とみなす。
  解説 ●準拠法 
申立人と相手方との間の嫡出でない親子関係を検討するためには、申立人と前夫との間に嫡出親子関係が認められないことが必要(最高裁)。
本件で認知の準拠法となる日本法では、既に、嫡出親子関係が存在していると認められる場合には、認知によって親子関係を成立させることはできない(民法779条)
⇒認知の対象となる子の母に婚姻歴がある場合には、まず、申立人と母の夫又は前夫との間に嫡出親子関係が認められないことについての検討が必要。

本件では、フィリピン人である母がフィリピン人である前夫と婚姻していた⇒フィリピン法によって申立人と前夫との間に嫡出親子関係が認められないとされて初めて日本法による認知が可能となる。
  ●フィリピン法 
フィリピン家族法172条1項:
嫡出親子関係は、次のいずれかの方法により証明される。
(a)身分登録簿に記載された出生記録又は確定判決
(b)当該親が公的文書又は自筆の指摘文書において嫡出親子関係を認め、署名をしたこと

同条2項:
前項に規定された証拠がないときは、嫡出親子関係は、次のいずれかの方法によって証明される。
(a)公然かつ継続的な嫡出子の身分の占有
(b)裁判所規則及び特別法によって認められたその他の方法
  法適用通則法28条1項
「夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべきときは、その子は、嫡出である子とする。」
~嫡出否認の問題にも適用されるとされており、
嫡出の否認が許されるか否か、否認権者、嫡出否認の方法、否認権の喪失、嫡出否認の方法、否認権の喪失、否認権の行使期間なども、同条が定める準拠法による。
夫婦の本国法のうち双方又はいずれか一方において嫡出性が認められて嫡出子とされた場合における嫡出否認は、嫡出性を認める本国法により嫡出性が否認されることが必要。
  本審判:
フィリピン法上、嫡出親子関係の前提にはフィリピン家族法172条によって親子関係の立証が必要となるところ、その立証がない⇒フィリピン法上の嫡出否認の手続による必要はない。
フィリピン家族法172条によって親子関係が認められないような場合には、嫡出否認によるまでもなく親子関係が認められないとの考えが記載されている。
尚、文献 

フィリピン法において嫡出推定が及んでいるように思われる事案において、国際私法の通説的な考え方を基礎にしながら、フィリピン法の解釈を通じて、フィリピン法における嫡出否認の手続を経ることなく人法による認知を認める余地を認める判断をしたもの。
  刑事p101
最高裁R3.3.1  
   
  事案 コンピュータのソフトウェアの開発・販売等を業とする会社の代表者や販売責任者であった被告人らが、D社が電子書籍の影像を配信するに当たり、営業上用いている電磁的方法により前記影像の市長及び記録を制限する手段であって、視聴等機器が、D社が提供する専用ビューアによる変換を必要とするよう、前記影像を変換して送信する方法によるもの(「本件技術的制限手段」)により、 ライセンスの発効を受けた特定の視聴等聞きにインストールされた本件ビューア以外では視聴ができないように前記影像の視聴及び記録を制限しているのに、不正の利益を得る目的で、法定の除外自由がないのに、平成25年、顧客2名に対し、本件ビューアに組み込まれている影像の記録・保存を行うことを防止する機能を無効化する方法で本件技術的制限手段の効果を妨げることにより、本件ビューア以外でも前記影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムである「F3」を、電気通信回線を通じて提供し、もって不正競争を行ったという事案。
G:復号後の電子書籍の影像が」表示さえr多パソコン画面のキャプチャができないようにすることで、影像の記録・保存を防止する機能を有し、本体ビューア以外で前記影像の視聴ができないよう影像の視聴等を制限するプログラム。
F3:Gの前記機能を無効化し、画面キャプチャができるようにするソフトウェアであり、復号後の電子書籍の影像を記録・保存することにより、本件ビューア以外での前記影像の視聴を可能とする機能を有するプログラム。
  主張 検察官:改正前不正競争法2条1項10号にいう「技術的制限手段の効果を妨げる」とは、信号の除去・改変や、暗号の復号に限られるものではなく、技術的制限手段の効果を弱化又は無効化することであり、これに該当するか否かは、技術的制限手段を営業上用いている者が技術的制限手段を施した際に意図した効果が妨げられているかどうかによって実質的に判断すべき⇒F3の提供は不正競争に当たる。 
弁護人:「技術的制限手段の効果を妨げる」とは、信号の除去・改変や暗号の復号といった技術的制限手段そのものの無効化に限られると解すべき。
  原審 「技術的制限手段の効果を妨げる」とは、 技術的制限手段そのものを無効化することに限られない。
保護されるのは技術的制限手段の効果として通常理解できる範囲に限られる。
Gの前記機能はその範囲に含まれる。

これを妨げるF3は技術的制限手段の効果を妨げるものとしてその提供は不正競争となる。
  判断 弁護人の上告趣意は、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
F3は、改正前不正競争法2条1項10号にいう「技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴を可能にする機能を有するプログラム」に当たる。 
  解説 検察官の非限定説

①改正前不正競争法2条1項10号の文言は「技術的制限手段の効果を妨げる」というもので、「技術的制限手段を妨げる」などとはしていない
②限定説を採ると技術的制限手段を講じた意味がなくなる場合がある
③立法提案者による解説に寄れば、「技術的制限手段の効果」は、それを用いる者が(営業上の利益のために)意図したところとするものであり、限定説を採るものではない。 
弁護人の限定説
←著作権法の「技術的保護手段」の「回避」と調和的に解釈すべき
②非限定説を採ると処罰範囲が不明確又は過度に広範になる
2543・2544
  行政p5
東京地裁R4.6.24  
  生活扶助基準の引下げの改定が違法とされた事例
  事案 生活保護法は、保護の基準の設定を厚労大臣に委ねており(法8条1項)
厚労大臣は「生活保護法による保護の基準」(「保護基準」)を規定。 
厚労大臣は、平成25年から平成27年にかけて、保護基準における生活扶助の基準(「生活扶助基準」)につき
①生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との間における年齢区分、世帯人数及び級地区分別の格差を是正すること(「ゆがみ調整」)
②物価の動向を勘案すること(「デフレ調整」)
を目的とする改定(「本件改定」)を行った。

多くの保護受給世帯について生活扶助費が減額。
本件:生活保護を受けている原告らが、本件改定に伴う生活扶助費の変更決定の取消し等を求めた。
ゆがみ調整:生活保障審議会の下に設置された生活保護基準部会が平成25年1月に公表した検証の結果を2分の1の割合で生活補助基準に反映させるもの
デフレ調整:平成20年から平成23年までの生活扶助相当品目のみを対象とする消費者物価指数の変化率を生活扶助基準に反映させるもの。専門家によって公正される会議体による信義検討を経たものではない。
  判断   生活扶助基準の改定に係る判断においては、厚労大臣に専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められている。
生活扶助基準の引下げを内容とする保護基準の改定は、当該改定の時点において、改定前の生活扶助基準が最低限度の生活の需要を満たすに足りる程度を超えるものとなっており、改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持することができるものであるとした厚労大臣の判断に、最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続の過誤、欠落の有無などの観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合等には、法3条、法8条2項の規定に違反し、同条1項による委任の範囲を逸脱するものとして違法となる。
裁判所が前記場合に当たるか否かを判断するに当たっては、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等の観点から審理判断するのが相当。
前記厚労大臣の判断に当たり、いかなる専門家がどのような形で関与したか等は、裁判所の審理判断において重要な意味を帯び、基準部会設置以降における生活扶助基準の改定について、厚労大臣の判断の過程又は手続に過誤、欠落があるか否かを判断するに当たっては、
ア:当該改定が基準部会(又はこれに代わる専門家によって構成される他の会議体)による審議検討を経て行われたものである場合には、その検証手法等の合理性に関し、客観的な数値との合理的関連性等の観点から審理判断するのが相当
イ:当該改定が基準部会等による審議検討を経ないで行われたものである場合には、当該改定が専門的知見に基づく高度の専門技術的な考察を経て合理的に行われたものであことについて、被告側で十分な説明をすることを要し、その説明の内容に基づき、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無が審理判断されるべき。
  ●ゆがみ調整 
その手法やこれに用いられた資料に、統計等の客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところがあるとは認められない。
・・・2分の1の限度で生活扶助基準に反映したことは、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠くものといえず、政策的判断としても不合理であるとはいえない。
  ●デフレ調整 
  ①平成23年までに生活扶助基準が一般低所得世帯の消費実態に比較して高くなっていたとはにわかに認め難い状況であったもの
②ゆがみ調整の結果により標準世帯の生活扶助基準額に影響が及んでいることとデフレ調整との関係について被告らの説明は不十分であり、この点につき専門技術的な見地からの検討が行われたものとも認め難い
⇒デフレ調整の必要性に係る厚労大臣の判断は、統計上の客観的な数値等との合理的関連性を欠き、あるいは、専門的知見との整合性を有しない。
デフレ調整の起点平成20年としたことの合理性に関する被告らの説明は、同年において生活扶助基準が一般低所得世帯の消費実態よりも高くなっていたこと(少なくとも生活扶助基準が一般低所得世帯の消費実態を下回らない状態であったこと)を合理的根拠に基づいて説明するものとはいえず、前記合理性に係る厚労大臣の判断は、統計等の客観的な数値等との合理的関連性を欠き、あるいは、専門的知見との整合性を有しない。
厚労大臣がデフレ調整のために行った生活扶助総統CPIの設定は、デフレ調整の対象期間における保護受給世帯の可所分所得の実質的増加の有無、程度を正しく評価し得るものといえず、その合理性に係る厚労大臣の判断は、統計等の客観的数値等との合理的関連性を欠く。
本件改定の結果として及ぼされる影響が重大

本件改定にかかる厚労大臣の判断には、最低限度の生活の具体化に係る判断の過程に過誤、欠落がある⇒本件改定は、厚労大臣の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものとして、法3条、8条2項の規定に違反し、同条1項による委任の範囲を逸脱し違法。
  解説 10件の地裁判決のうち、8件⇒本件改定を適法、2件⇒違法で、本件は3件目 
いずれも、老齢加算の廃止に関する最高裁H24.2.28ほかに沿った判断枠組み採用。
but
本判決:
その裁量審査において改定の際の専門家の審議検討を経ていない場合には、当該改定が専門的知見に基づく高度の専門技術的な考察を経て合理的に行われたものであることについて被告側で十分な説明をすべきとする。
ゆがみ調整が水準均衡方式における「水準」にも影響を及ぼすものであることを明らかに。
本判決:
詳細な検討を加えて本件改定を違法と判断。
同種事案の処理において参考となるのみならず、専門技術的観点から行政庁に裁量権が認められる場合における裁量審査の在り方について興味深い点を含む。
  民事p47
最高裁R4.6.27  
  会社法423条1項に基づく損害賠償請求訴訟において原告の設置した取締役責任調査委員会の委員であった弁護士が原告の訴訟代理人として行う訴訟行為の排除(否定)
  原決定 Xらは、本件不祥事について、本件責任調査委員会の委員であるA弁護士らの独立かつ中立・公正な立場を信頼し、その事情聴取に応じたものであり、その回答は、A弁護士らに対して法律的解決を求めるためにされたに等しく、また、A弁護士らの立場は裁判官と代わるところがない
⇒本件各訴訟行為は、弁護法25条2号及び4号の各趣旨に反する
⇒前記各号の類推適用により、本件各訴訟行為を排除。
  判断 株式会社である原告の設置した取締役責任調査委員会により、原告の取締役であった被告に対する事情聴取が行われた後、原告が、被告に対し、前記委員会の委員であった弁護士らを訴訟代理人として、会社法423条1項に基づく損害賠償責任を追及する訴訟を提起した場合において、前記委員会が被告の前記責任の有無等を調査、検討するために設置されたものであるなどの判示の事実関係の下では、
前記訴訟において前記弁護士が原告の訴訟代理人として行う訴訟行為(本件各訴訟行為)について、弁護士法25条2号及び4号の類推適用があるとして、これを排除することはできない。
⇒原決定を破棄し、本件申立てを却下した原々決定に対する抗告を棄却。 
  規定 弁護士法 第二五条(職務を行い得ない事件)
弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
四 公務員として職務上取り扱つた事件
  解説  2号の「相手方の協議を受けた」:
当該具体的事件の内容について法律的な解釈や解決を求める相談を受けたこと
「協議の程度及び方法が信頼関係に基づく」:
協議を受けた当該具体的事件について、相談者が希望する一定の結論を擁護するための具体的な見解を示したり、法律的手段を教示したりすることや依頼を承諾することに匹敵するほどの信頼関係に基づくこと
4号の公務員のうち裁判官についての同号の趣旨:
裁判官は当該事件の内容を当事者双方から知悉することができ、退官後にこれを利用して事件を行うことによる弁護士の品位の失墜を防止すること等にある。
最高裁:
弁護士法25条違反の訴訟行為について、相手方に異議権ないし責問権を認め、異議ないし責問がなければ、同訴訟行為を有効とする説を採用。
弁護士法25条1号違反の訴訟行為について、相手方である当事者は訴訟行為を排除する旨の裁判を求める申立権を有する。
but
弁護士の訴訟行為が日本弁護士連合会の会規である弁護士職務基本規程57条に違反するにとどまるときは、同条が弁護士法25条1号と趣旨を同じくするとしても、相手方である当事者は、弁護士職務基本規程57条違反を理由として、裁判所にその行為の排除を求めることはできない。
  原決定は、弁護士法25条2号及び4号の趣旨を過度に抽象化してその妥当範囲を拡張したものといわざるをえず、本決定は、弁護士法25条2号及び4号の類推適用を否定。
本決定:
訴訟行為の排除の判断における弁護士法25条の解釈の在り方として「みだりに拡張又は類推して解釈すべきではない」

①訴訟行為の排除は、弁護士法25条の実効性を確保する観点から有用
but
②訴訟手続の安定、訴訟経済を害するおそれがある
③依頼者は、訴訟代理人弁護士の変更を余儀なくされるなどの不利益を被る

訴訟行為の排除が認められる場面が限定的であることを示唆
  民事p50
最高裁R4.7.19  
  宮古島市水道事業給付条例16条3項の趣旨
  事案 水道事業者であるY(沖縄県宮古島市)との間で給水契約を締結しているXらが、給水区域内である宮古島市伊良部において生じた断水によりXらの経営する宿泊施設における営業利益の喪失等の損害が生じた⇒Yに対し、本件給水契約の債務不履行等に基づく損害賠償を求めた。 
  規定等 水道法
15条1項:水道事業者は、事業計画に定める給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受けたときは、正当の理由がなければ、これを拒んではならない。
15条2項: 水道事業者は、当該水道により給水を受ける者に対し、常時水を供給しなければならない。ただし、・・・災害その他正当な理由があつてやむを得ない場合には、給水区域の全部又は一部につきその間給水を停止することができる。
水道法14条1項:水道事業者は、料金、給水装置工事の費用の負担区分その他の供給条件について、供給規程を定めなければならない。
宮古島市水道事業給水条例
16条1項:
給水は、非常災害、水道施設の損傷、公益上その他やむを得ない事情及び法令又はこの条例の規定による場合のほか、制限又は停止することはない。
3項:第1項の規定による、給水の制限又は停止のため損害を生ずることがあっても、市はその責めを負わない。
  原審 本件条例16条3項は、水道事業の安定的かつ継続的な運営を維持するため、給水の制限又は停止の原因となった水道施設の損傷がYの故意または重過失によるものである場合を除き、Yの給水義務の不履行に基づく損害賠償責任を免除した規定。
⇒免除を肯定。
  判断  本件条例16条3項について、Yが、水道法15条2項ただし書により水道の使用者に対し給水義務を負わない場合において、当該使用者との関係で給水義務の不履行に基づく損害賠償責任を負うものではないことを確認した規定にすぎず、
Yが給水義務を負う場合において、同義務の不履行に基づく損害賠償責任を免除した規定ではないと解すのが相当。
Yの損害賠償責任の有無については、本件断水につき、水道法15条2項ただし書の「災害その他正当な理由があってやむを得ない場合」に当たるか否かなどについて更に審理を尽くした上で判断すべき⇒原審に差し戻し。
  解説 ・・給水条例の定めは、そのまま私法上の契約である給水契約の内容となるが、水道法には、供給条件に関するもののうち、主として需要者保護の必要上、供給規定にまかせることなく自ら規定を設けたものがあり、これらの規定は強行規定⇒これに反する供給条件を条例によって定めても無効となる。
本件条例16条の文言は、厚生省作成の標準給水条例11条とほぼ同一。
⇒本件条例16条の趣旨を解釈するに当たっては、まずは水道法と整合的な解釈を試みるのが相当というべき。

水道法15条との関係
林裁判官の補足意見:
本件断水による給水義務の不履行に基づく損害賠償責任の存否を検討するに当たっては、水道施設の損傷につき水道事業者の過失が認められるか否かという問題と、
給水義務の存否との関連性についても検討する必要があるように思われる。 

仮に、経年劣化によって水道施設が破損したとして、そのような場合が、「災害その他正当な理由があってやむを得ない場合」に当たるといえるかについては、解釈上、必ずしも明らかであるとはいえない。
前記の補足意見は、水道事業者の管理上の過失の有無と、給水義務の存否を結び付けて検討することが、そもそも相当であるか否かを含め、差戻審に慎重な審理判断をするように求めたものであると思われる。
  民事p55
最高裁R4.6.3  
  建材メーカーの解体事業者に対する表示についての注意義務(否定)
  事案  建物の解体作業等に従事した後に石綿肺、肺がん等の石綿関連疾患にり患した者又はその承継人⇒建材メーカーであるYら(上告人)に対し、当該疾患へのり患は、Yらが、石綿含有建材を製造販売するに当たり、当該建材が使用される建物の解体作業等に従事する者に対し、当該建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿関連疾患にり患する危険があること等を表示すべき義務を負っていたにもかかわらず、その義務を履行しなかったことによる⇒不法行為等に基づく損害賠償請求。
  最高裁R3.5.17:建物の建設作業従事者との関係で、建材メーカーが本件警告情報の表示義務を負うことを認めた。
本件:解体作業従事者との関係でも、建材メーカーが本件警告情報の表示義務を負うかが争われた。
  判断 原審の説示する①~③の方法は、いずれも解体作業従事者が石綿粉じんに場頃する危険を回避するための本件警告情報の表示方法として実現性又は実効性に乏しい。
Yらは、その製造販売した石綿含有建材が使用された建物の解体に関与し得る立場になかった。
⇒Yらが、石綿含有建材を製造販売するに当たり、本件警告情報を表示すべき義務を負っていたということはできない。
  解説  不法行為の成立要件である「過失」:
損害の発生が予見可能であり、損害の発生を回避すべき義務があったのに、その義務を怠ったこと、
などと定義され、今日では客観的義務違反として理解されている。 
いかなる場合にいかなる行為義務を存在すると考えるべきか?
一般条項と同様、規範的判断を要する問題。
権利・法益侵害の発生可能性・緊急性の程度、被侵害利益の内容や重要性・修復可能性の程度、行為の社会的必要性・有用性の程度、代替手段の有無、危険防止にかかる費用の程度などの事情を総合的に考慮して判断。
不作為による過失:
権利・法益侵害に向かう因果系列を自己の支配領域内に有する者がこれを放置することを内容とするもの
⇒当該因果系列が自己の支配領域内にあるか否かやその認識可能性も考慮要素となり得る。
結果(損害)発生の蓋然性のある行為:
行為それ事態が損害発生の蓋然性を有するものだけでなく、損害発生の危険を創出し、その危険を継続させ、又はその危険の支配管理に従事する行為も考えられる。

例えば、生命・身体の安全に関わる製品の製造・販売など、危険の発生源を流通に置く行為(不特定多数人に関わる危険を生ぜしめる行為)については、製品の製造・販売者が、製品の危険性を予見し、被害発生を防止するための必要かつ相当な措置(危険の存在の指示や警告表示など)を講ずるべき義務を負うと解すべき場合があり得る。
  製造販売された石綿含有建材を開封するなどして加工等を行う建設作業従事者との関係:
建材メーカーが、当該建材に本件警告情報を表示することにより、建設従事者が石綿粉じんにばく露して石綿関連疾患にり患する危険の発生を防止することができる立場にある⇒警告表示義務を肯定。
but
解体作業従事者との関係では状況が異なる。 
  民事p65
東京地裁R3.11.30  
  (調停に代わる)審判で決まった子の監護の実施妨害⇒不法行為(肯定)
  事案 Yの元夫であるXが、Yにおいて、X・Y間の子であるAのXによる監護を妨害⇒
Yに対して、
主位的に不法行為による損害賠償請求権に基づき、
予備的に債務不履行による損害賠償請求権に基づき、
慰謝料等の支払を求めた。 
XとYは、平成24年9月に婚姻し、平成25年にAをもうけた。
平成27年4月、Xの転勤を理由にオーストラリアに移住⇒Yが同年7月10日、Aを連れて帰国⇒Xは、東京家裁に、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づく子の返還申立て。

東京家裁は、平成28年2月17日、
前記の子の返還申立事件に付随して、Yから申し立てられた夫婦関係調整調停事件において、
XとYを離婚すること
Aの親権者をYと定めること
XとYが、XによるオーストラリアでのAの監護につき、年に合計120日間(夏休み及び年末年始の2回に分ける。)とする
ことなどを合意する調停に代わる審判(「本件審判」)。
XがBと再婚し、Bの子らとも養子縁組
⇒Yが平成30年7月の子の渡豪を取りやめ、Xはオーストラリアで監護できない⇒同年11月本訴を提起。
  争点 オーストラリアにおいてAを監護するXの権利を侵害する不法行為又は債務不履行の成否。 
  主張 Y:Aのオーストラリアでの様子及び帰国後の様子並びにAの帰国後の内容等を踏まえ、Aの福祉の観点から本件7月渡豪を中止⇒同中止につき正当事由がある。
  判断 Xによる故意による不法行為を認めた。
Yの正当事由の主張につき、Aのオーストラリアでの様子及び医師の意見書等を踏まえても、Aの福祉の観点から本件7月渡豪の中止に正当事由があるということはできない。
  商事p75
東京高裁R4.3.10  
  従業員の長時間労働に起因する死亡⇒名目的代表取締役の責任(肯定)
  事案 Y1の経営するレストランにおいて調理を担当する板前(料理長)として勤務していた亡Aの相続人であるX1、X2が、亡AはY1における長時間の過重労働に起因する不整脈の発症により死亡し、これにより損害を被った

(1)Y1に対しては債務不履行に基づく損害賠償請求として
(2)Y1の代表取締役であったY2に対しては債務不履行に基づく損害賠償請求又は会社法429条1項に基づく損害賠償請求として
損害金及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求めた。
  原判決 (1)亡Aの死亡はY1の業務における長時間労働により生じたもの
(2)Y1は亡Aが業務に従事する状況について労働時間や労働内容を把握し必要に応じて是正すべき措置をとる義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、亡Aを長時間の時間外労働に従事させて本件発症に至らせた⇒安全配慮義務に違反した
(3)Y2は、Y1の代表取締役としてその職務を行うについて悪意又は重大な過失があり、これにより亡Aの損害を生じさせたというべき⇒会社法429条1項に基づきY1と連帯して亡Aの死亡により生じた損害の賠償責任を負い
(4)亡Aが病院を受診しなかったことを亡Aに不利に斟酌することは相当でない

XらのYらに対する請求を一部認容。
  規定 会社法 第四二九条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
  判断 (1)(2)は原判決と同様
(3)Y1の代表取締役であったY2の会社法429条1項に基づく責任:
Y2はY1の業務執行に関わることが予定されていない、いわゆる名目的な代表取締役であったと認められる。
but
名目的な代表取締役であったことをもってY2がY1の代表取締役として負うべき一般的な善管注意義務を免れ又は軽減されるものではない。
Y2はY1の業務執行を一切行わず、亡Aの労働時間や労働内容の把握や是正について何も行っていなかった⇒その任務の懈怠について悪意又は重大な過失があり、これにより亡Aに本件発症による損害を生じさせた。
Y1が他の実質的経営者を中心として経営されており、Y2はY1に出資しておらず、Y1から役員報酬を受け取っていなかったことや、Y2が別の仕事を兼務していたこと等の事情は前記の認定を左右するものではない。
(4)亡Aが体調不良を訴えて欠勤した際に病院を受診しなかったこと等の事情をしん酌⇒2割の過失相殺。
X1が受領した亡Aの労働者災害保険給付を損益相殺。 
  解説 適法な選任手続により有効に取締役に就任したが、取締役としての職務を何もしていない取締役(いわゆる名目的取締役)であっても、代表取締役らの業務執行に対する関し・監督義務を負い、これを怠った場合には会社に対する任務懈怠となり、会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う。 
他方で、下級審裁判例においては、
当該事案における具体的な事情から、重過失がない、相当因果関係がない等の理由により、名目的取締役の同項に基づく損害賠償責任を否定するものも少なからずあり、
その背景には、旧商法255条が会社の規模を問わず、3名以上の取締役の選任を要求していたことから、員数合わせのために選任された名目的取締役の責任を問うことが酷であるという考慮。
but
会社法においては、公開会社等ではない会社であれば取締役会を設置する必要はなく(同法327条1項)、取締役会を設置しない場合には取締役は1名で足りる(同法326条1項)。
⇒前記のような考慮を働かせる必要性はなくなった
⇒個々の事案における諸般の事情に照らして重過失や相当因果関係の有無等について個別具体的に検討することとなる。
  労働p97
仙台高裁R3.12.2   
  会社の決起大会での腕相撲による右ひじ骨折等のけがが「業務上負傷した場合」とされた事案
  事案 山形県Z市内の果物生産会社で農作業に従事する労働者であるXが、さくらんぼ収穫に向けた本件会社の決起大会で腕相撲により右ひじ骨折等の怪我⇒山形労働基準監督署長:労働者が業務上負傷した場合にはあたらないとして療養保障給付及び休業補償給付を支給しない旨の各処分⇒Y(国)に対して本件各処分の取消しを求めた。
  原審 腕相撲への参加には業務遂行性を認めることができず、Xの右肘骨折等のけがは業務上の負傷に該当しない⇒請求棄却。 
  判断 ①さくらんぼ等の果物生産という事業や労務の内容、さくらんぼ収穫期に向け労働者の意識を高めるという事業の根幹にかかわる目的で従業員全員参加の下に事業主により毎年開催されるという決起大会の性質、
②飲食店(そば処)の座敷での酒食の提供を伴う決起大会の場での恒例行事として全員参加で腕相撲が行われるという腕相撲と決起大会との一体性

従業員わずか8名の本件会社の社長が、初めて決起大会に参加した新人社員のXに直接指示して腕相撲に参加させたことは、業務命令に近い義務的な性質の指示とXに受け止められるのは当然

Xが腕相撲に参加したことは、決起大会への参加と一体の会社の業務として、社長の指示に従って業務を遂行した行為
⇒Xの右肘骨折等のけがは労働者が業務上負傷した場合に当たる。
  解説 労災保険給付の対象となる「業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」(労災法7条1項1号)につき、「業務上」といえるかどうかは、「業務遂行性」と「業務起因性」によって判断され、業務遂行性が問題となる典型的事案の1つが事業場外で行われる仕事関連の宴会に参加しての災害。 
裁判例:
東京地裁H26.3.19(判時2267・121):
・・・当該宴会時にはロケに必要な党の許可をまだ得ておらず、乾杯を繰り返すことは業務の遂行に必要不可欠な行為⇒「労働者が業務上死亡した場合」に該当

最高裁H28.7.8(判時H28.7.8):
①歓送迎会は、親会社の中国における子会社からの研修生の歓送迎会として社長代行である生産部長の発案で会社の経費負担で行われた
②研修生についてはアパート及び飲食店への送迎が会社所有の車で行われた
⇒研修目的を達成するための会社の行事の一環
③被災者は、仕事があるからと参加を一旦断ったが生産部長から強く要請されたため仕事を中断して途中参加し、仕事を再開するため会社に戻る際に、生産部長に代わって研修生を車でアパートに送る途上で事故に遭った

「業務上」の事故による災害に当たる。
  労働p104
横浜地裁R4.4.14  
  労働契約・減給処分・解雇・未払賃金請求権
  争点 ①XらとYとの間の労働契約の成否(労働契約上の労働契約者に当たるか)
②Xらに対する本件各減給処分の有効性
③Xらの解雇の有効性
④未払賃金請求権(いわゆるバックペイ)の有無
  規定 労契法 第二条(定義)
この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。
2この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。
  判断 ●労契法上の労働者性 
労働者:
①使用者の指揮監督下において労務の提供をする者であること
②労務に対する対償を支払われる者であること
という2つの要件(使用従属性の要件)を充足することを要する。
判断:
①Xらは、代表取締役の指揮監督の下に業務を遂行していた
②Y自身がXらを労働者として厚遭っていた
⇒Yとの間で使用監督関係の下で労務を提供していた⇒労働者性を肯定。
Xらはいずれも、代表取締役の親族であった
賃金及び業務内容の点において他の従業員らと大きな開きがあった
X2についてはYの監査役として登記されていた
vs.
Xらは部長として本件店舗の運営の中枢を担っており、賃金及び業務内容は、単にそれを反映したものにすぎない。
X2が監査役として登記されていた点についても、実態を伴わない名目的なものであった。
⇒いずれも労働者性を否定する事情とは判断せず。
親族であることも、同様に、労働者性と矛盾する事情ではない。
  ●本件各減給処分の有効性 
使用者の人事権に基づく役職又は職位の引下げは、就業規則上の明文の根拠規定がなくてもでき、これが人事権の濫用に当たる場合に無効となる。
but
役職又は職位の引下げに伴って賃金を減額するためには、労働契約上かかる定めがあることが必要。
but
Yの就業規則等においては、部長職から解任されたことを理由として賃金を減額できることを定める規定はなかった。
⇒本件各減給処分は労働契約上の根拠を欠くもの。
Yが主張した本件各減給処分の理由について、それがいずれも合理性を欠くものであったことを説示。
①Xらによるパチンコ台の遊戯釘の調整に係る警察への告発
vs.
同告発を理由とする減給処分は公益通報法5条1項に反する

②Xらによる同告発がされた当時、Xらは代表取締役であるAとの間で対立関係にあった
vs.
Xらが、AをYから排除する目的をも有していた可能性は否定していないものの、同告発に至る経緯等を踏まえて、同告発の主要な目的が「不正の目的」(公益通報法2条1項柱書)であったとはいえない。
  解雇の有効性 
◎   ◎普通解雇としての有効性 
就業規則における解雇事由の定めを限定列挙と解する場合、使用者が労働者を当該定めに基づいて解雇するためには、就業規則上の解雇事由のいずれかに該当することを主張・立証する必要
仮にこれが認められる場合であっても、当該解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効となる。
(労契法16条)
本判決は認めず。
  ◎整理解雇としての有効性 
①人員削減の合理性
②解雇回避努力
③人選の合理性
④手続の相当性
本判決:
前記①~④の4つの観点に関する具体的事情を総合的に考慮した上で、Xらの解雇が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないか否か(労契法16条)を判断
~(要件説ではなく)要素説に近い考え。
①人員削減の合理性は認められるが、
②解雇回避努力を尽くしたとはいえず、
③人選の合理性及び④手続の相当性も認められない
⇒整理解雇としても無効。
  ●バックペイの有無 
Xらが労務を提供しなかったのはYの責めに帰すべき事由によるもの
⇒民法536条2項前段に基づき、Yはその間の賃金を支払う義務を負う。
  刑事p118
最高裁R3.12.10  
  管轄移転の請求が訴訟を遅延する目的のみでされた⇒刑訴規則6条による訴訟手続停止の要否(否定)
  事案 被告は、公訴事実を争うとともに、管轄移転の請求をしていたにもかかわらず裁判所が訴訟手続を停止しなかったことは違法であると主張。
  規定 刑訴規則 第六条(訴訟手続の停止・法第十五条等)
裁判所に係属する事件について管轄の指定又は移転の請求があつたときは、決定があるまで訴訟手続を停止しなければならない。但し、急速を要する場合は、この限りでない。
刑訴規則 第一条(この規則の解釈、運用)
この規則は、憲法の所期する裁判の迅速と公正とを図るようにこれを解釈し、運用しなければならない。
2訴訟上の権利は、誠実にこれを行使し、濫用してはならない。
  判断 被告人が、第1審及び原審において、本件に関する高等裁判所に対する管轄移送の請求及びその管轄移転請求事件等に関する最高裁判所に対する管轄移転の請求を繰り返していたところ、これらの管轄移転の請求に及んだ経緯や経過、各請求の理由等に照らせば、遅くとも第1審裁判所が令和2年5月22日に第2回公判期日を指定した時点以降において係属していた管轄移転の請求は、いずれも訴訟を遅延させる目的のみでされたことが明らかであったという原判決及びその是認する第1審判決の認定

管轄移転の請求が、訴訟を遅延させる目的のみでされたことが明らかである場合には、刑訴規則6条により訴訟手続を停止することを要しない。
  解説  管轄移転の請求:
裁判が不可能である場合(刑訴法17条1項1号)、あるいは裁判の公平が維持できない場合(同項2号)において、管轄を移転することによって障害を除去し、公平な裁判を行い得るように環境を整えようとする制度。 
  刑訴規則6条の趣旨:
管轄移転の請求に理由があるのに審判手続が続行された場合、管轄移転後にこれをすべて是正するのが困難であることから、そのような事態をあらかじめ回避することにある。
⇒管轄移転の請求が認容される余地がないといえる場合には、そのような事態が生じるおそれはないから、必ずしも訴訟手続を停止する必要はないと解することが可能。
管轄移転の請求という制度は、その性質において忌避申立てと共通点があるところ、
忌避申立てであれば簡易却下すべきものとされるような明らかな訴訟遅延目的による濫用的なものである場合には、そのような請求はせおよそ認容される余地がない⇒刑訴規則6条の趣旨・目的に照らしても、これにより訴訟手続を停止することに合理性は見いだせず、同条により訴訟手続を停止することを要しないと解して差し支えない。
訴訟手続きを停止することを要しない場合につき規定する刑訴規則11条は、そのような濫用的な忌避申立ての際にもなお一旦訴訟手続を停止しなければならないとするのは背理であることから、当然の事理を確認したものにすぎない。
⇒同条は、その定めるところ以外には一切訴訟手続を停止しないことを認めない趣旨ではないし、そのような定めのない手続において、訴訟手続の停止を要しない場合があると解することを一切否定する趣旨でもない。
  刑事p121
東京高裁R4.1.24  
  保釈保証金の全額没収の事案
  事案 保釈保証金の没収金額が争点となった実刑判決確定後の逃亡事案
(刑訴法96条3項による没収請求の事案) 
  規定 刑訴法第九六条[保釈、勾留の執行停止の取消し]
③保釈された者が、刑の言渡を受けその判決が確定した後、執行のため呼出を受け正当な理由がなく出頭しないとき、又は逃亡したときは、検察官の請求により、決定で保証金の全部又は一部を没取しなければならない。
  判断 原決定を取り消し、事実調べの結果も踏まえて、保釈保証金を全部没取する旨の自判。
保釈制度は保釈保証金没取の制裁の予告による心理的威嚇に期待する制度であり、没取事由が生じた場合には制度趣旨を踏まえた適切な制裁を科すべき。
①本件は、刑訴法96条3項に定める没取事由の中でも刑の執行への影響がより大きい「逃亡したとき」に該当し、その期間も相当縫い長い⇒特に事情がない限り保釈保証金は全額没取すべし。
②このような事案においても、制裁を減じることを相当とする事情があれば、一部没取にとどめることもできるが、減額する放校で考慮することができる事情は、そのような事情を考慮することが保釈制度の趣旨から見て相当といえるものに限られる。
③実質的納付者の年齢、収入等や本件において実質的納付者に帰責事由がうかがわれないことなどについては、保釈制度の趣旨から見て、没取金額を減額する方向で考慮すべき事情ではない。
④原決定段階で刑の執行が開始されていることについては、没取金額を減ずる方向で考慮すべき事情に当たることを原決定が示しているとはいえない。

原決定は、制裁を減ずる方向で考慮すべきではない事情を考慮し、不当に低い没取金額を定めており、破棄を免れない。
  解説 保釈保証金没取決定に対しては、不服のある当事者は抗告(ないしは抗告に代わる異議)の申立てができ、抗告審(ないし異議審)では、原決定の裁量判断に対する審査が行われる。
本決定は、異議審の立場から、原決定の裁量判断に対し判断等を示したもの。
  刑事p126
名古屋家裁R3.12.15  
   
  事案 保護観察に付された少年が、保護観察所長から、「保護観察に付されたときに保護観察所の長に届け出た住居又は転居をすることについて保護観察所の長から許可を受けた住居に居住すること」という一般遵守事項違反について、更生保護法67条1項による警告を受けた⇒保護観察所の長から許可を受けた住居に居住しなかった⇒少年法26条の4第1項の決定の申請。
  判断 少年が前記遵守事項を遵守せず、その程度は重く、保護観察によっては少年の改善更生を図ることができない⇒前記申請を認容し、少年を第1種少年院に送致する旨の決定。
     
2542   
  行政p5
高松高裁R4.5.26  

  国民年金法の平成24年改正の違法(否定)
  争点 平成24年改正法及び本件処分が
①憲法25条及び人権A規約に違反するか
②憲法29条1項(財産権)に違反するか
③憲法13条に違反するか
④平成25年改正政令が法の委任の範囲を逸脱するか 
  判断 ●争点① 
平成24年改正法の立法目的は、世代間の公平及び年金財政の安定を図り、公的年金制度の持続可能性を確保する点にあったところ、このような立法目的自体は正当。
平成25年度から3年間にわたって段階的に年金額を減額するという手法は、特例水準(物価スライド制による年金額の減額改定を行わない特例法が適用された結果生じた年金額の水準)の解消を図ることとした平成24年改正法の立法目的達成のために必要⇒不相当とまではいえない⇒不合理であるということはできない。
  ●争点② 
目的が正当で、手段は不相当ではない。
  ●争点③ 
①特例水準の解消が、生活保護を受けることを強制するものとまではいえない
②公的年金制度はそれのみによって健康で文化的な最低限度の生活を保証するものではなく、老齢基礎年金が生活保護における給付水準を下回るからといって、それが直ちに、年金受給者の憲法13条によって保障された人格的権利を侵害するものとまえいうことはできない。
  ●争点④ 
平成25年改正政令が平成24年改正法の委任の範囲を逸脱するとは認められない。
  解説  Xらは、社会経済立法における立法裁量についても、行政裁量において論じられてきたいわゆる判断過程統制審査(判時1932、11頁)が妥当する旨主張
vs.
判断過程統制審査において考慮されるような事情は、立法目的の合理性、その目的達成のための手段の必要性・相当性について検討する際の考慮要素になるものとするのが相当であり、このような判断手法をとること自体は、前掲判例に反するものではない。 
  行政p43
名古屋高裁金沢支部R3.9.15  
  幼少期に発効された身体障碍者手帳が「・・・明らかにすることがでできる書類」に当たるとされた事例
  事案等 20歳未満のときに初診日がある傷病による障害者(20歳前障害者)については、障害福祉年金による各制度がある。
これらの給付を受ける権利は、受給権者の請求に基づいて、厚生労働大臣が裁定。
Xは、訴えの変更を繰り返し、最終的にはY(国)に対し、
主位的には、平成23年3月までの分の障害福祉年金及び障害基礎年金の支給を求め、
予備的には、社会保険事務所又は年金事務所の職員が、初診日を特定又は証明できる書類がなければ裁定請求はできないとの理由でXの最低請求を妨害したことにより、前記各年金の支給を受ける権利を時効により消滅させた⇒国賠法1条1項に基づき、前記同額の支払を求めた。
  争点 ①YがXの平成23年3月以前分の障害福祉年金及び障害基礎年金の支給を受ける権利(基礎となる受給権から毎月発生する支分権)が国年法102条1項所定の時効により消滅した旨の主張をすることが信義則に反するものといえるか。
②社会保険事務所又は年季事務所の職員がXに裁定請求書を渡さないなどの対応をしたことが国賠法上違法か
③②の職員の違法行為によるXの損害
  原審 いずれも棄却。 
争点②について、・・・職員の対応は違法とはいえない
  判断 ・・・昭和63年11月頃にXが社会保険事務所を訪問した際に所持していた身体障害者手帳の記載内容及びXの右手の状態を見れば、いずれも受給要件も充たしていることを確認することができた⇒同身体障害者手帳は初診日(当該疾病又は負傷が発生した日も含む趣旨)を明らかにすることができる書類として必要十分
but
窓口担当者は、法令の解釈を誤り、裁定請求用紙を交付しようとしなかった

かかる窓口担当者の行為を国賠法上違法かつ過失のあるものと判断。
  解説 原判決と本判決で結論を異にしたのは、認定事実が異なることによるのではなく、初診日を明らかにすることができる書類がどのようなものかを解釈するに当たって、原判決が国年法施行規則の文言を重視したのに対し、本判決が前記書類が必要とされる目的に立ち返ったことによる。
初診日を明らかにすることができる書類についての文献等
  民事p56
東京高裁R4.4.14  
  懲戒処分が違法⇒国賠請求(一審肯定・二審否定)
  争点 ①懲戒委員会が、本件綱紀議決が理由で懲戒事由が認められないとした事項、及び本件綱紀議決が懲戒請求事由として整理した事由と異なる観点の事由について審査したことが、懲戒委員会の審査権限を逸脱したものであって国賠法上違法となるか
②懲戒委員会がした懲戒事由についての事実認定が不合理であって国賠法上違法と評価されるか 
  原審 懲戒委員会において審理の対象とすべき事実は、綱紀委員会の議決において事案の審査を求めることを相当と認められた特定の具体的事実と同一の社会的事実のほか、これに基づく懲戒の可否等の判断に必要と認められる事実の範囲に限られ、これらの事実の範囲を安易に拡張して解釈することは許されない。 
  判断 ●争点① 
◎  弁護士会綱紀委員会が、懲戒請求の対象となっている複数の事実が事案ないし事件として同一性の範囲にあると認められた上でその一部について懲戒事由に相当すると判断し、議決主文として単に懲戒相当とした場合、
弁護士会懲戒委員会では全ての懲戒請求事由が審査の対象となると解するのが相当。
Y弁護士会の綱紀委員会は、1の①から③までのうち、事実が事案ないし事件として同一性の範囲にあると認めた上で、その一部である③の事実について懲戒事由に相当すると判断し、議決主文として単に懲戒相当としたものと認められると認定
⇒Y弁護士会の懲戒委員会が①及び②の各事実についても審査の対象としたことは、弁護士法が定める懲戒の手続に違反したものとはいえない。
◎  懲戒請求書の記載を検討して、Y弁護士会の懲戒委員会の整理とした懲戒請求事由は、本件の懲戒請求者の懲戒請求の趣旨に沿うもの。
Y弁護士会の懲戒委員会が、本件綱紀議決が整理した懲戒請求事由とは異なる観点を含む事由について審査の対象としたことが、弁護士法が定める懲戒の手続に違反したものとはいえない。 
  ●争点② 
懲戒委員会の議決に基づいて行われた弁護士会の懲戒処分に関する国賠法上の違法性の判断基準について
懲戒委員会が議決を行うについて、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然とこれをしたと認め得るような事情がある場合に限り、当該議決に基づいて行われた弁護士会の懲戒処分に国賠法1条1項にいう違法があったとの評価を受けると解するのが相当。
職務上通常尽くすべき注意義務の具体的内容について、
処分の基礎となる事実関係の認定については弁護士会の裁量の観念を入れる余地はないのに対し、
懲戒の可否、程度等の判断においては、懲戒事由の内容、被害の有無や程度、これに対する社会的評価、被処分者に与える影響、弁護士の使命の重要性、職務の社会性等の諸般の事情を総合的に考慮することが必要

認定された事実関係が「品位を失うべき非行」といった弁護士に対する懲戒事由に該当するかどうか、また、該当するとした場合に懲戒すべきか否か、懲戒するとしてどのような処分を選択するかについては、弁護士会の合理的な裁量にゆだねられている。

懲戒委員会が懲戒の可否及び程度等を判断する上において、全くの事実的基礎を欠くか、又は社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと評価される判断をしないという注意義務が問題となる。
本件では、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然とこれをしたと認め得るような事情があるとは認められない。
  民事p70
東京地裁R3.8.27  
  ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)で死亡の医療過誤の事案(肯定)
  事案 Yが開設する病院で、内視鏡的粘膜下層剥離術を受けたAが、出血性ショックにより手術の翌日死亡⇒Aの相続人であるXらが、執刀医であるD医師には、適応外のESDを実施した注意義務違反がある⇒Yに対し、使用者責任による損害賠償請求権に基づく請求。
  争点 ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)の適応があったのか否か 
  判断 ESDに係る各ガイドラインによれば、病変が一括切除できる大きさと部位にあることがESDの適応の基本的な考えとされており、潰瘍所見の有無に応じて2ないし3㎝が1つの指標。
but
①Aの病変は9~10㎝大の腫瘍
②術前の造影CTにおいて、以上に太い腫瘍内血管が認められていた
⇒本件ESDにおいては、処置に長時間を要し、多量の出血が見込まれることが事前に予測された。
③Aが手術当時84歳
⇒そのような長時間の施術や出血に耐えうる状況であったとは認め難く、術後の穿孔や出血のリスクもあった。

Aが回復手術よりも内視鏡治療の実施を希望していたことを踏まえても、本件ESDは適応を欠く⇒本件ESDを行ったD医師には、適応を欠く手術を実施したことにつき注意義務違反がある。
  解説 裁判例 
  民事p77
大阪地裁R4.4.15  
  血栓溶解剤の投与で死亡での報告義務違反が問題となった事案
  事案 医療法人であるY1の運営する病院(本件病院)で左人口股関節全置換手術を受けた翌日に、脳梗塞の知慮0宇のために血栓溶解剤であるアルテプラーゼの投与を受け、その後死亡

患者の子であるXらが
①本件病院の脳神経外科医師であるY2が禁忌の前記薬剤を投与したこと(本件投与)を理由に、Y1及びY2に対し、不法行為等に基づき、死亡慰謝料等の損害賠償金各約1530万円の支払等を、
②本件病院の整形外科医(担当医師)であるY3が死亡診断書に不適切な記載をしたことや異常死の届出をしなかったことを理由に、Y1及びY3に対し、不法行為等に基づき、遺族固有の慰謝料の損害賠償金各10万円の支払等を
③Y1の代表者であるY4が医療法上の医療事故の報告をしなかったことを理由に、Y1及びY4に対し、不法行為等に基づき、遺族固有の慰謝料の損害賠償金各5万円の支払等を、
④Y2~Y4に対し、不法行為及びン民法723条の類推適用に基づき、真摯な謝罪を、それぞれ求めたもの。 
  判断 Y3につき、死亡診断書の直接死因欄に脳梗塞と記載するなどしたこと、患者の死亡につき異常死として届けなかったことが、Y1の代表者Y4につき、医療法6条の10第1項に基づく医療事故の報告をしなかったことが、Xらの権利利益を違法に侵害したとは認められない⇒②③の請求を棄却。 
  解説   ●死亡診断書の記載 
医療行為が終了した後において、医師が医療行為についての顛末報告義務を負うか?
患者が生存⇒準委任契約である診療契約を根拠に(民法645条)を根拠に肯定
患者が死亡した場合⇒実質論からこれを肯定する見解が多数。
A:遺族が相続
B:遺族を受益者とする第三者のためにする契約
C:信義則上の義務
死亡診断書の死因記載欄に不正確な記載を行い、これを遺族に交付した場合の民事上の責任:
死亡診断書は、死因に関する医師の見解を示すものである点において、遺族に対する死因の説明と同じ性質を有する⇒医師において、患者が医療過誤により死亡した可能性を認識し又は容易に認識することができたにかかわらず、死亡診断書に正しい死因を記載せず病死と記載した場合、債務不履行ないし不法杭に該当する旨判断した裁判例(東京地裁)あり。
本判決:
①本件の患者に対し、脳梗塞の治療の経過の中で本件投与がされたものであり、Y3はY2が禁忌の薬剤を投与したことの認識がないまま死亡診断書を作成
②患者の症状の悪化に脳梗塞が影響していないとは言い難い
③遺族への説明経過等

前記死亡診断書の記載についてXらの権利利益を違法に侵害したとはいえない。
  ●異常死届出について 
医師は、死体等を検案して異常があると認めたときは、24時間以内に警察署に届け出なければならない(医師法21条)

警察官が犯罪捜査の端緒を得ることを容易にするほか、場合によっては、警察官が緊急に被害の拡大防止措置を講ずるなどして社会防衛を図ることを可能にする役割もになった行政手続法上の義務。
その内容
本判決:
①死亡診断書を作成したY3において死体を「検案」して「異常」と認識したとは認められない
②遺族への説明経過
③Y3はY2が禁忌の薬剤を投与したしたことの認識がないまま死亡診断書を作成

異常死の届出義務を負わない、ないし、違法にXらの権利利益を侵害したとは認められない。
医師法21上に基づく異常死の届出義務は、行政法規上の義務であって、遺族に対する診療契約上ないし不法行為法上の義務といえないとして、死因解明義務を否定した東京高裁の裁判例。
  ●医療法上の医療事故の報告 
~医療事故の原因究明及び再発防止を図り、もって医療の安全を確保することにある(医療法第3章)
医療法6条の10第1項の医療事故の報告の懈怠を理由に民事上の責任を追及できるか?
本判決:
法の趣旨、目的等を踏まえ、仮に、病院の管理者による適切な医療事故の報告がされなかったとしても、これをもって、患者の遺族の権利利益を違法に侵害するものとはいえない。
医療機関は、医療法上の医療事故調査によって死因解明する義務を負うものではなく、同義務が診療契約上の債務となる余地はないとして債務不履行責任を否定した東京地裁の裁判例あり。
  刑事p88
東京地裁R3.12.7
  いわゆる特殊詐欺等の事案で、包括的共謀否定事例
  事案 いわゆる特殊詐欺等を行う犯行グループにより、平成30年に行われた複数の犯行(電子計算機使用詐欺、組織的詐欺、窃盗)(本件各犯行)について、被告人が共謀共同正犯として起訴された事案。
  争点 共謀の成否等
  検察官:
①本件各犯行以前の平成26年から平成28年に、詐欺等をおkなう犯行グループの者(同グループ内のかけ子の統括者)と被告人との間で同グルー^プの犯行について包括的共謀が成立し
②同グループと平成30年に本件各犯行を行った犯行グループとの間に連続性が認められ
③共謀の成立後に被告人が犯行グループから離脱していない
⇒本件各犯行について被告人に共謀が認められる。
弁護人:
故意と共謀を争い、予備的に共犯関係の解消も主張
  判断 被告人に未必の故意は認められるものの
①の包括的共謀の成立は認められず
②の犯行グループの連続性も認められない
⇒無罪 
  解説  包括的共謀の成否:
当該事案の事実関係を前提に諸々の事情を総合的に検討してなされる。
共謀を認定するためには正犯意思が認められる必要がある。
その推認について、近時の裁判例には、自己の犯罪について関与したといえるかにより判断するものがしばしばみられる
but
その成否は
①被告人の関与の内容や犯罪結果への利害関係の有無(財産犯では、分け前の点は大きな判断要素となろう。)
②組織的犯行の場合には組織内での立場
③その他の諸事情
を総合考慮して決せられる。
本件:
被告人とS2:
被告人の関与内容は犯行用具の提供という犯行の準備行為に関するもの
立場は犯行グループの取引相手の1人であってグループの一員ではない
得ているのは提供したものの対価であって犯行から分け前などの利益を得てるわけではない

被告人が自己の犯罪として関与していたとはいい難い
  S1らの犯行については、被告人の関与の内容に受け子の紹介が付け加わった⇒改めて検討。
受け子の紹介:
犯行メンバーの調達という犯行の準備行為に類するもの⇒幇助犯として処断されている例もしばしば。
but
紹介にとどまらず、その後も何らかの形でその受け子に関わり、紹介料とは別に詐欺の犯行の分け前を得ているような場合には、共同正犯として処断されている例もみられる。
but
紹介した受け子の犯行について(包括的)共謀が認められたそていも、同人の関与しない犯行についてまで共謀が認められるかは別論。

本判決:
被告人が紹介した受け子の犯行について共謀を認める余地のあることを留保しつつ、その余の犯行を含めた包括的共謀の成立を認めなかった。
2541   
  民事p5
仙台高裁R3.12.16   
   
  事案 X(適格消費者団体)のYら(消火器のリース業を営む会社)に対する訴訟。
  判断 消費者契約法12条3項に基づく請求:
事業者であるYらが、消火器の設置・使用ないし保守点検に関する継続的契約にあたる消費者契約を締結するに際し、不特定かつ多数の消費者との間で、同法8条1項1号に規定する事業者の損害賠償責任を免除する条項又は同法10条に規定する消費者の利益を一方的に害する条項にあたる消費者契約の条項を含む消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を行うおそれがある
⇒これらの行為の停止又は予防として、これらの条項を含む意思表示を差止め、前記の停止または予防に必要な措置として、前記条項が記載された契約書用紙の破棄を命じた。
パッケージリース条項①及び②は、いずれも消費者契約法8条又は10条により無効となる条項が多数含まれ、これに関連する契約条項が全体として一体のものとして、消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項となり、信義則に反して消費者の利益を一方的に害する契約条項となっている
⇒同法10条により、契約条項全部が無効。
特定商取引法58条の18第2項2号に基づく請求については、
契約が解除されたときにリース料残余相当額を支払わなければならない旨を定めた特約が、同法10条1項3号及び4号の規定に反する
⇒行為の停止または予防として前記特約を含む契約の申込み又はその承諾の意思表示を差止め、前記の行為の停止又は予防に必要な措置として前記特約が記載された契約書用紙の破棄を命じた。
特定商取引法58条の18第1項に基づく請求については、
・・勧誘行為は、顧客が当該契約の締結を必要とする事情に関する事項(同法6条1項6号)又は当該契約に関する事項であって顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの(同項7号)について、不実のことを告げる行為に当たる
・・・勧誘行為は、役務の種類及びこれらの内容(同法58条の18第1項1号イ)の不可欠の要素となるリース物件の種類及びその性質につき、故意に事実を告げない行為(同項2号)にあたる

前記勧誘行為の停止又は予防として前記勧誘行為を差止め、
前記の行為の停止又は予防に必要な措置として前記勧誘行為を記載した文書等の破棄を命じた。
景表法30条1項に基づく請求については、
同項1号に規定する優良誤認表示、または同項2号に規定する有利誤認表示にあたると判断

これらの表示をする行為の停止又は予防として前記表示を差し止めた。
  解説 消費者契約法39条1項に基づき、消費者庁のホームページに、判決の概要、差し止め請求に係る相手方の名称等が公表。
差し止命令については、侵害態様の変更による強制執行回避への対応策が、特に知財侵害訴訟の分野において重要な課題して認識されて、実効的な救済を確保する観点から、包括的ないし抽象的な差止命令の必要性が論じられている。
本判決:パッケージリース契約条項①及び②について、契約条項が全体として一体のものとして信義則に反し、消費者の利益を一方的に害する契約条項となっていると評価⇒消費者契約法10条により契約条項全部が無効になると判断。

契約条項全部の使用を差し止める包括的な差止命令により、実効的な救済を志向した判断として、実務上参考となる。
  民事p14
大阪地裁R4.1.20  
  マンションの規約違反⇒障害者グループホームとしての利用の禁止と弁護士費用等の請求(認容)
  事案 マンション管理組合の管理者である原告が、マンションの住戸を当該住戸の区分所有者から賃借している被告(社会福祉法人)に対して、被告が当該住戸を障害者グループホームとして利用していることが、マンションの専有部分を住宅以外の用途に利用することを禁止しているマンション管理規約(「本件管理規約」)の規定に違反しており、区分所有者の共同の利益を侵害。

区分所有法57条4項、1項に基づき、当該住戸をグループホームとして利用することを禁止するよう求めるとともに、本件管理規約に基づき、提訴に要した弁護士費用等合計85万430円及び遅延損害金の支払を求めた。
  判断   ●争点1
  専有部分での住宅以外の利用を禁止している本件管理規約の趣旨及び目的

区分所有者及び占有者が許容されている「住宅」としての専有部分の使用は、生活の本拠であることに加えて、客観的な使用対象が、本件管理規約で予定されている建物等の管理の範囲内であることを要する。
被告による障害者グループホームとしての使用態様は、消防法等の関連法令によって、障害者グループホームが入居していない場合を比較して、消防設備の設置や点検といった義務等を負うことになり、かつ本件管理規約上も障害者福祉施設等の入居について許容する規定がいない
⇒本件管理規約で予定されている建物等の管理の範囲を超えるものであるとして、本件管理規約に違反する。
  ●争点2 
区分所有法6条の「区分所有者の共同の利益」に反するかどうかは、当該行為の必要性や他の区分所有者の被る不利益の程度等を総合考慮して判断すべき。
①被告が、本件管理規約に違反している
②マンション管理組合が点検費用等に要する金銭的負担等
⇒障害者グループホームが有する公益性の高さを考慮してもなお、区分所有法6条の「区分所有者の共同の利益」に反するj
⇒原告の被告に対する専有部分の障害者グループホームとしての利用の停止請求を認容。
  障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律8条1項の「不当な差別的取扱い」及び障害者基本法4条1項の「障害を理由」とする「差別」に該当しない。 
  弁護士費用等。 
  民事p37
東京家裁R4.7.7  
  フランスでの逮捕状と親権者選択
  判断 ・・・・フランスの裁判所が「監護責任を持つ者からの子どもの略奪」などの罪状でXについて逮捕状を発布し、Xが国際指名手配を受けている点については、
Xが現に子らを養育監護し、子らの監護状況について特段の問題がみられない

逮捕状が発布されているとの一事をもって、直ちにXが子らの親権者として不適格であるということはできない。
  解説   親権者の指定は、子の利益を基準としてされなければならない(民法819条6項参照)
問題は、父母のいずれを親権者とすることが子の利益に適うか?
諸事情を比較考慮して総合的に判断。
子を奪取した行為に違法性がある場合には、奪取者の親権適格に問題があり、奪取親の下で安定した生活を送るようになっていても、それは奪取の結果であって追認されないと判断された決定例もある。
(東京高裁H11.9.20)
子の奪取が違法性を帯びるかどうかに関し、一般的には、別居に至る経緯や別居時の態様(子に対する有形力の行使の有無)などを総合考慮して判断。
  夫婦の一方が子を連れて別居をした場合、別居後の安定した生活を重視⇒「連れ去り得」になるとの指摘。
本件でも、非監護親と子らとの面会交流が一切実施されていない。 
本判決:
面会交流が実施されていないことは問題である。
but
共同親権を認めていない現行法の下では、この点は、本件訴訟とは別に、XとYが協議をし、協議が整わないときには、調停及び審判の手続を経るなどして、子らの福祉に適うところを慎重に模索して、これを実施していくのが相当。
本判決:
子の奪取が違法であるとまではいえない事例では、監護親を親権者として指定した上で、監護親と非監護親が協議をし、協議が整わないときには、調停及び審判の手続を経るなどして面会交流を実施することが相当であるとの方向性を示した。
but
現実には、監護親が非監護親と子との面会交流の実施に積極的でない事案も多く見受けられる。
  民事p45
横浜地裁R3.12.24  
  地方議会議員の発言による国賠請求
  事案 X(在日コリアン)が、
①鎌倉市議会議員であったY1に対し、鎌倉市議会におけるY1の発言、Y1の議会外におけるSNS条の発言が、Xの名誉を毀損⇒不法行為に基づき慰謝料の支払等を
②Y2(神奈川県鎌倉市)に対しては、国賠法1条1項に基づき慰謝料の支払等を求めた。 
  判断 本件議会内発言については、地方議会議員としての職務としてなされたものであることは明らか⇒Y2が国賠法上の責任を負う。
本件議会外発言についても、当該SNSの性質、実名か匿名か・公開か非公開化といった当該投稿の形式、当該投稿の目的、内容、当該投稿に使用されたアカウントの投降履歴等の観点から検討を加えた上で、
本件議会外発言はいずれも、当該投稿の一般の読者の普通の注意と読み方とを基準にすると、地方議会議員としての職務執行の外形を備えていると認められる⇒Y2が国賠法上の責任を負う。
地方議会議員の発言が、その職務とは関わりなく違法又は不当な目的をもってされたものであるなど、その付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある場合には、国賠法1条1項にいう違法な行為があったものと解するのが相当。
「私、特に出身が出身なだけに本当に怖い。」との発言については、前後の文脈からして、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、Xが在日コリアンの出自を持つことから、Y1は強い恐怖心を感じるという意味の発言

在日コリアンに対する差別意識を前提に、在日コリアンというXの出自を理由にXを不当に貶める差別的発言と認められ、前記特別の事情がある。
⇒国賠法上の違法性を有する。
本件議会外発言のうち、Xの行為に対して否定的評価を与えるのを超えて、Xがその氏名からして日本人ではないというその属性自体をも否定的評価の根拠の1つとしていることが明らかであるものについては、Y1は、SNSにおいて広報活動をするに当たって、地方議会議員として職務上当然に尽くすべき注意義務を尽くさなかったといえる。
⇒国賠法上の違法性を肯定。
  解説 ●地方議会議員のSNSにおける発言の職務行為関連性
判例:
公務員がその職務を行うについて他人に損害を与えた場合の公務員の個人責任を否定し、
国賠法1条1項の「職務を行うについて」の意義については、客観的に職務の外形を備えている場合に職務行為関連性を認める外形標準説を採用
  ●地方議会議員の議会内発言の国賠法上の違法性 
  ●地方議会議員の議会外発言の国賠法上の違法性
本件議会内発言とは異なり、本件議会外発言については、Y1が地方議会議員として職務上当然に尽くすべき注意義務を尽くしたかどうかを問題にしている

議会内発言と議会外発言とで判断基準を使い分けている。

議会内発言と議会外発言では、その要保護性におのずと違いがある。
本判決は、「真実性・相当性の法理」に言及していない。

①「真実性・相当性の法理」は、報道の自由や個人の表現の自由と名誉毀損により害される利益の調整を図る基準であるところ、本件議会外発言は、公務員の広報活動としてなされたもので、報道機関による表現や私人によるSNS上での発言とは場面が異なる
②本件では、日本人ではないというその属性自体に否定的評価を加える発言が問題となっているところ、「真実性・相当性の法理」ではその違法性の実質を捉えることが難しい
  知財p65
東京地裁R4.6.28  
  特定農林水産物等の登録に関する処分の取消しを求める訴えと行政事件訴訟法14条1項ただし書の「正当な理由」
  事案  農林水産大臣は、特定農林水産物等の名称の保護に関する法律12条1項に基づく特定農林水産物等の登録に関する処分(「本件処分」)をした。
原告が、本件処分について、地理的表示13条1項3号イ及び同項4号イ所定の登録許否事由があるのにこれを看過した違法がある⇒その取消しを求めた⇒本件審査請求を棄却⇒本件処分の取消しを求める本件訴えを提起
  原告:豆味噌に「八丁味噌」という表示をして事業を行う株式会社
八丁味噌協同組合(八丁組合)の組合員
八丁組合は、地理的表示法7条1項に基づき、登録申請⇒申請取り下げ
県組合が、地理的表示法7条1項に基づき、生産地を「愛知県」とする豆味噌につき、名称を「八丁味噌」とする登録を申請⇒農林水産大臣は本件処分
  規定 行訴法 第一四条(出訴期間)
取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
2取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
3処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があつたときは、処分又は裁決に係る取消訴訟は、その審査請求をした者については、前二項の規定にかかわらず、これに対する裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したとき又は当該裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
  判断 本件訴えは、行訴法14条1項本文所定の出訴機関を徒過しており、同項ただし書の「正当な理」由も認められない⇒不適法。

(1)本件審査請求をした者は八丁組合であり、原告と八丁組合の法人格は異なるものであるから、原告は14条3項の「審査請求をした者」には当たらない。
(2)
(3)
  解説   ●審査請求の主体
  最高裁昭和61.6.10:地方団体の徴収金に関する滞納処分等の取消しの訴えは当該処分についての異議申立又は審査請求に対する決定又は採決を経た後でなければ提起することができないものとされているところ、被上告人が当該処分につき自らは審査請求をすることなく直接本件訴えを提起した事案において、
訴訟提起自身がその手続を経由していない以上、たまたま他の者が当該処分について訴訟提起者の主張と同一の理由に基づいて審査請求を経ていたとしても、両者が当該処分に対し一体的な利害関係を有し、実質的にみれば、その者のした審査請求は同時に訴訟提起者のための審査請求でもあるといいえるような特段の事情が存しない限り、訴訟提起者の訴えについて当然に審査請求の手続が経由されたと同視して、これを適法な訴えと解することはできない。
  ●行訴法14条1項ただし書の「正当な理由」
  訴訟追行為の追完を規定する民訴法97条1項の当事者の「責めに帰することができない事由」よりも緩やかかな概念であり、出訴期間内に出訴しなかったことについての社会通念上相当と認められる理由を意味。
具体的な事案においては、処分等の内容・性質、行政庁の教示の有無及びその内容、処分等に至る経緯及びその後の事情、処分当時及びその後の時期に原告が置かれていた状況、その他出訴期間徒過の原因となった諸事情を総合勘案して判断。 
原告は、八丁組合が本件処分の取消しを求める訴えを当然に提起することを想定
but提起せず。
vs.
もっぱら八丁組合を構成する原告と合資会社八丁味噌の内部事情をいうもの⇒「正当な理由」があったものとは解し難い。
  ●地理的表示法(いわゆるGI法)にいう先使用権 
地理的表示法3条2項4号は、登録の日前から不正の目的でなく登録に係る特定農林水産物等若しくはその法曹等に当該特定農林水産物等に係る地理的表示(GI)と同一の名称の表示若しくは類似等表示を使用していた者等が継続して、当該農林水産物等又はその包装等にこれらの表示を使用する場合には、前記表示を使用することができる(登録の日から7年後は、・・当該農林水産物等に当該特定農林水産物等との近藤を防ぐのに適当な表示がされているときに限る。)。
  ●地理的表示法15条1項に基づく生産者団体を追加する変更の登録 
  労働p74
東京地裁R3.12.16  
  科技イノベ活性化法15条の2第1項1号の「研究者」
  事案 Yとの間で有期労働稀有役を締結して更新しているXが、Yに対し、①労契法18条1項に基づき無期転換の申込をしたことにより期間の定めのない労働契約が成立、②YがXに対し無期転換申込権を認めない取扱いをしたことは違法

①期限の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、
②不法行為に基づく慰謝料100万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた
X:令和1年6月20日、Yに対し、労契法18条1項に基づき無機労働契約を申し込む旨の意思表示
Y:XとYとの間の労働契約は、「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」に基づき、契約期間が10年を超えるまで無期転換申込権は発生しない⇒無期転換申込権を否定。
  争点 Xが科技イノベ活性化法15条の2第1項1号の「科学技術に関する研究者」に該当するか。 
  判断 科技イノベ活性化法15条の2の趣旨:
①立法過程における審議内容
②条文の文言

科学技術に関する研究開発は、5年を超えた期間の定めのあるプロジェクトとして行われることも少なくないところ、このような有期のプロジェクトに参画し、研究開発及びこれに関連する業務に従事するため、大学等を設置する者と有期労働契約を締結している労働者に対し、労契法18条によって通算契約期間が5年を超えた時点で無期転換申込権が認められると、無期転換回避のために通算契約期間が5念を超える前に雇止めされるおそれがあり、これによりプロジェクトについての専門的知見が散逸し、かつ当該労働者が業績を挙げることができなくなるため、このような事態を回避することにある。

科技イノベ活性化法15条の2第1項1号の「研究者」というには、研究開発法人又は有期労働契約を締結した者が設置する大学等において、研究業務及びこれに関連する業務に従事している者であることを要する。
学校教育法92条及び大学設置基準16条(現15条)によれば、大学の教授、准教授及び講師の職務において、研究と教育は区別され、必ずしも不可分一体ではなく、研究は担当せず、教育のみを担当する教授、准教授及び行使が存在することが想定されている。
科技イノベ活性化法の立法の審議過程においても、教育のみを担当する講師については、「研究者」として10年超えの特例の対象とすることが想定していなかった。

大学等で研究開発及びこれに関連する業務に従事していない非常勤講師を「研究者」とすることは立法趣旨に合致しない。
科技イノベ活性化法と同時に、10年超えの特例が設けられた「大学の教員等の任期に関する法律」(「任期法」)が、10年超えの特例が適用される大学教員の対象を限定した上、手続的にも厳格な定めを置いている。
but
研究実績がある者、又は、大学等を設置する者が行った採用の選考過程において研究実績を考慮された者であれば「研究者」に該当すると解した場合、大学教員は、研究実績がある者であったり、研究実績を先行過程で考慮されたものであったりすることがほとんど⇒任期法が適用対象を限定したことは無意味となり、このような解釈は不合理である。

A大学において、学部生に対するドイツ語の授業、試験及びこれらの関連業務にのみ従事しているXは、「研究者」に該当しない⇒労契法18条1項に基づきく無機労働契約への転換を認め、地位確認請求を認容。
不法行為については、
Yの無期転換申込権を認めない取扱いという事実行為によって、Xの地位が影響を受けることはない等⇒成立を否定。 
  刑事p84
仙台高裁R3.12.16  
  特殊詐欺の回収役の認定の事例
  解説   被告人の犯人性については検察官が立証責任を負っている
⇒ アリバイの成立が確実とまで証明されなくとも、検察官の積極的立証とアリバイ立証を総合的に判断し、被告人のアリバイ供述を虚偽として排斥できないとして、被告人の犯人性に合理的な疑いが生じた場合には、無罪が言い渡される。
  ●特殊詐欺事案における包括的共謀について
特殊詐欺事案においては、
①犯行毎に実行犯等の関与者が変わることが多い
②役割によっては犯罪全体の実態を把握しておらず、また犯行組織との人的関係が希薄である場合も多い
包括的共謀が認められるためには、犯行組織を他の共犯者らと共に形成し、その構成員として犯罪を反復して遂行する旨の合意等がなされている必要
本件:
①被告人の枠割は回収役で代替性がある
②被告人が他の共犯者や組織における詐欺の実態につき詳細を認識しているともいえないこと等
⇒包括的共謀を否定。
原判決は、そのような認識の下、回収の依頼が撤回されるなどした時点での共謀の解消を認め、本判決もかかる判断を指示
 2540
  民事p5
東京高裁R4.3.17  
  婚費における年金収入についての計算
  事案 X(妻)とY(夫)は、いずれも60才代で婚姻し、別居。
XはYに対し、月額8万円の婚姻費用分担金の支払を求めて家事調停申立て。 
  原審 いわゆる標準的算定方式によることが相当
相手方が支払うべき婚姻費用分担金の額について、
①令和2年6月から令和3年8月までは、
Xが年金収入、相手方が事業収入及び年金収入を得ていたことを前提に、月額9万1666円と試算し、Xの申立ての限度内である月額8万円を相当。
②令和3年9月から当事者の離婚又は別居状態の解消までは、X、Yの双方が年金収入を得ている⇒月額3万8500円を相当 
  判断 上記①について6万円を相当。 
  解説  ●標準的算定方式における総収入
  標準的算定方式及び算定表:
基礎収入は「総収入」から公租公課(所得税・住民税・社会保険料)、職業費及び特別経費を控除したものとし、その算定は、前期費用を理論値又は統計資料に基づく推計を用いて割合的に算出した上で、これを「総収入」から控除。 
自営収入については、前提となる「総収入」として、確定申告書の「課税される所得金額」をベースとし、税法上控除されているものの現実には支出されていない費用(雑損控除、寡婦・寡夫控除、勤労学生・障害者控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、基礎控除)の額や青色申告特別控除額等を加算して修正したものを想定し、基礎収入は、「総収入」から所得税、住民税及び特別経費を控除した金額としている。
 「総収入」から基礎収入を算出するに当たり、給与収入と自営収入とで控除される費用が同じでない

自営収入における「総収入」が、給与収入と異なり、既に職業費に相当する費用と社会保険料とが控除済のものである。
  ●年金収入に対する標準的算定方式の適用 
年金収入のように、職業費の支出を要しない収入を標準的算定方式に当てはめるにあたって、
給与収入と同様に収入額から公租公課、職業費及び特別経費を控除して基礎収入を算定⇒実際にはかからない職業費が控除され、基礎収入が低くなりすぎる⇒実務上、何らかの修正を加える考え方が大勢
A:基礎収入の割合を修正して算定
B:年金額を(1ー職業費の割合)で女子て給与所得者の収入額に換算して算定
Yは、令和3年8月までは自営収入と年金収入を得ていた
本決定:同月までの年金収入を自営収入に換算した上で、前記自営収入と合算した収入額を標準的算定方式に当てはめている。
  民事p8
高松高裁R3.6.4  
  遺留分減殺請求と遺言執行者の預貯金の解約・払戻しの権限(肯定)
  事案 Aの遺言:
Aの有する通常貯金を含む一切の財産を、Aの夫Bの甥であるXに包括して遺贈する
本件遺贈の遺言執行者としてXを指定する
遺言執行者は、相続人の同意なしに、預貯金の解約・払戻し等本件遺言執行のために必要な一切の行為を行う権限を有する。 
Aは令和1年6月15日死亡
Aの全夫の子であるCらは、令和2年Cら令和2年2月8日、Xらを被告として、遺留分減殺請求訴訟を提起し、民法(改正前)1031条に基づき本件遺言による包括遺贈に対して遺留分減殺請求をする旨の意思表示をした。
X:本件貯金の払戻請求権に基づき、Y(ゆうちょ銀行)に対し、1049万5827円(令和2年3月31日時点における残高)及び遅延損害金の支払を求めて本訴を提起。
  解説・判断 改正前民法1012条1項:
遺言執行者は、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
本件遺言には、遺言執行者が預貯金の解約・払戻し権限を有することが明記

遺言執行者であるXは、本件貯金の払戻請求をする権限を有する。
(遺言中に遺言執行者による預貯金の解約・払戻権限に関する記載なし⇒遺言執行者にその権限が認められるかについて議論あり。)
1審:
遺留分原請求権が行使された場合の本件貯金に関する権利関係が、受遺者であるXと遺留分権利者であるCらによる準共有となる⇒受遺者であるXは、遺言執行者に指定されているか否かにかかわらじゅ、単独で本件貯金の払戻請求をすることができない。
本判決:
遺留分減殺請求権の行使により遺留分権利者に権利が帰属するといっても、その権利は具体的な遺留分の確定以前は抽象的なものにとどまる⇒遺留分減殺請求権が行使された結果生ずる権利の性質だけから、直ちに遺言執行者による遺言執行を制限すべきではない。

①預貯金の解約・払戻しそのものは、遺言執行の準備行為にすぎないともいえ、Cらの遺留分が現実に侵害されるとはいえない
②遺言執行者による遺言執行の事務が、遺言執行者に遺言執行の包括的な権利義務を与えた法の趣旨に反して制約されるべきではない

遺言執行者による預貯金の払戻権限を認めた。
改正前民法1031条による遺留分減殺請求権の行使が、遺言で付与された遺言執行者の預金の払戻権限に影響を及ぼすか?
影響を否定して遺言執行者による預金の払戻請求を認めた東京地裁。
but
本件は、包括遺贈の事案である点で事案をやや異にする。
  民事p15
大阪高裁R3.10.8  
  記名式定期預金及び記名式定期積金の預金債権の帰属と払戻(無効)
  事案 信用金庫に預け入れられた記名式定期預金及び記名式定期積金の帰属が争われた事案。 
信用金庫であるY1は、Xを名義人とする本件各預金の預入れを受けていたが、本件各預金は、平成5年から平成11年までの間に、いずれも払い戻されていた。
  主張 X:本件各預金の出演者はXであり、払戻請求権はXに帰属。
本件各預金の払戻しはY2(Xの父)がXに無断で行ったものであり無効。

Y1に対し、本件各預金の払戻請求をするとともに(甲事件)、Y2からY6までに対し、本件各預金の払戻請求権がXに帰属することの確認を求めた(乙事件)。
Xは、甲事件において、Y1が本件各預金の存在を隠蔽⇒不法行為に基づく損害賠償請求を選択的に併合。
Y1:独立当事者参加をして、Y2からY6までに対し、本件各預金の払戻債務がないことの確認を求めた(丙事件)。
  原審 本件各預金は「Xに帰属したが、いずれも有効に払い戻されXの払戻請求権は消滅
⇒Xによる甲事件及び乙事件の各請求をいずれも棄却。
Y1による丙事件の請求をに認容。
  判断 記名式定期預金契約において、当該預金の出捐者が他の者に金銭を交付して記名式定期預金をすることを依頼し、この者が預入行為をした場合、預入行為者が自己の預金とする意図で記名式定期預金をしたなどの特段の事情のない限り、出捐者をもって記名式定期預金の預金者と解すべき。
以上の考え方は、記名式定期積金にも当てはまる。
本件預金は、
①名義人がXであること、
②出演者として可能性のある者がX以外に認められないこと
③X以外に権利者であると主張する者がいないこと

本件各預金の払戻請求権はXに帰属する。
Y1:Y1が作成していた預金元帳・定期預金元帳に本件各預金が払い戻されたことが記録されており、これらは本件各預金の弁済に係る直接証拠たる類型的信用文書に当たる
vs.
本判決:これらの預金元帳上の払戻しの記録は、Y1が当該預金の払戻の手続を行った事実を証明するにとどまり、その払戻が当該預金の真の預金者又は同人から払戻しの授権を受けた者に対してなされた事実までを証明するものとはいえない。
本件各預金の証書又は通帳及び届出印がY6のの金庫に保管されていた(Y2が利用できる状態にあった)ことにつき
本判決:Y2が、本件訴訟において、本件各預金の預金者について不知であると認否し、Xから本件各預金の管理処分権を委ねられていたとは主張していない
⇒前記証書等の保管の事実から、直ちにY2がXから本件各預金の処分権を委ねられていたと推認することはできない。
結論として、本件各預金の一部の払戻は無効。

XのY1に対する預金払戻請求を認容し(甲事件)、XのY2からY6までに対する預金払戻請求権の確認請求を認容(乙事件)。
  解説 預金債権の帰属:
判例は、無記名定期預金及び記名式定期預金について客観説(自らの出捐によって、自己の預金とする意思で自ら又は代理人・使者を通じて預金契約をした者を預金者とする説)を採用。

本判決:
記名式定期預金及び記名正規定期積金について、客観説を採用。 
本判決:
担保提供や払戻しがXの意思に基づくか否かについて、その行為毎に、行為者、Xへの意思確認の有無、処分証書がある場合にはその成立の真正や信用性、保証意思確認票の信用性等を丁寧に検討して事実認定。
  民事p43
横浜地裁R4.6.17  
  インターネットオークションでの売買契約の成立
  事案 Xは、インターネットオークションで、Yが出品した腕時計を9万2000円の価格で入札⇒Xは、本件時計の落札に同意するか確認され、これに同意⇒ネット上の決済サービスで本件時計の代金(送料含む)を支払い、Yに連絡。
Yは、その直後に、Xによる落札価格では売れない旨をXに連絡し、Xにつき落札者から削除。

Xが、Yに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求として、逸失利益10万7480円の損害賠償を請求。
  判断 本件オークションに適用される約款、ガイドライン、利用者向けの解説(ヘルプ)ページ等には売買契約の成立時期を明記した規定は存在しない。
Yが、本件時計を出品した時点で、送料は落札者負担、送料は全国一律520円、支払手続から1~2日で発送する旨提示していたこと、本件時計の落札者は、インターネット上の決済システムなど複数の方法から自ら選択して落札金額に送料を足した額を即時に支払うことが可能であったこと
⇒Yと本件時計の落札者との間で、落札後に取引条件について交渉することは予定されていなかった。
Yが、入札可能期間が終了するまで本件時計の出品を取り消さず、さらに、「補欠を繰り上げる」が選択されている状態で、・・・補欠落札者となったXが、本件時計の落札に同意したという事実関係
⇒遅くとも、Yが、Xを落札者に繰り上げる旨の操作をした時点で、YからXに対し売買契約の申込みの意思表示があったと解することができ、Xが落札に同意したことで売買契約に承諾する意思表示があり、XとYとの間で、売買契約が成立したものと認めるのが相当。
  Yによる売買契約の申込の意思表示は法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要な錯誤に基づくもの
but
Yに重過失があった⇒Yによる意思表示の取消しを認めなかった。 
  ⇒本件時計の価値相当額15万円からXが支払うはずであった9万2520円を控除した残額5万7480円の損害賠償請求を認容。
  解説 売買契約は申込と承諾の意思表示の合致により成立。 
インターネットオークションにおける取引の流れ
①出品者が商品を出品
②一定期間の入札期間に、参加者が入札を行う
③最高値を表示した入札者が落札
④落札後、送料等の確認をした後、落札者が代金を支払う
⑤出品者が商品を発送
⑥落札者が商品を受け取った後、出品者が代金を受け取る
③④が売買契約の成立時点とされる可能性があるが、
さらに具体的には、個別事案における、当該インターネットオークションのシステムやサービスの内容、サービスに適用される利用規約等の内容、出品者及び落札者が行った取引の態様や具体的な経過を考慮して、出品者と落札者の合理的意思を解釈して決することとするしかない。
本判決:
インターネットオークションにおける「取引のどの過程のどの段階で(売買)契約が成立するかについては、個々の取引の規定、態様、経過等を考慮して当事者の合理的意思解釈をする必要がある」という一般論を述べた上で、具体的事実関係を検討して、結論を導くという手法。
  民事p48
熊本地裁R4.1.19  
  自衛官の自殺⇒安全配慮義務違反(肯定)
  事案 陸上自衛隊の陸曹候補生過程に入港し、共通教育中隊に配属中に自殺したA
父母であるXらが、Aの自殺の原因は、Aの指導に当たった自衛官であるY1及びY2による暴力的、威圧的ないじめないし嫌がらせ行為にある

Y1及びY2に対しては民法709条に基づき、
国に対しては民法715条、国賠法1条又は債務不履行に基づき、
それぞれ損害賠償金及び遅延損害金を支払うよう求めた。
  判断  ●Y1及びY2がAに対して行った行為の内容 
AがY1から指導を受けているところを目撃した他の学生の供述や、Y1からの指導についてAから相談を受けていた他の学生の供述に基づき、Y1がAに対して指導中に「殺してやりたい」というような発言をしたことなどを認定。
  ●国の安全配慮義務違反の有無 
国は、学生が教育訓練を受け、隊舎等の施設内において生活を送るに当たり、共通教育中隊の組織、体制、設備を適切に整備するなどして、学生の生命、健康に対する危険の発生を防止する安全配慮義務を負っている。
Y1は、Aが所属していた第1区隊の区隊長かつ学生全体の躾教育を担当する役割を担う同期生会指導部の指導幹部であり、Y2も学生全体の教育を担当する指導陸曹であった
⇒共に国の履行補助者としてAの生命、健康に対する危険の発生を防止する義務を負っていた。
・・・不適切な側面があったものの直ちに安全配慮義務違反に該当するとはいえない。
but
Y2がAに対する指導の際にその胸倉を掴んでゆすったこと、Y1がその状況を見ていながらその暴行を制止しなかったことは、共に安全配慮義務違反に違反。
Y1が業務ができていない者としてAに全学生の前で手を挙げさせたことは、Aに自己否定感や羞恥心を抱かせるもので、安全配慮義務に違反する。
Y1がAに対し、お前のような奴は殺してやりたいくらいというような発言をしたことは、学生に対する指導として何ら必要性がなく、社会通念上許されない暴言を述べたものにほかならず、安全配慮義務に違反する。
  ●安全配慮義務違反とAの死亡との間の相当因果関係 
Aが共通教育中隊に配属後、新しい環境や業務に対する不安や、初対面の上官に対する緊張感のストレスを感じていたと考えられ、Y1による不適切な指導によって自信を喪失する中で、Y1及びY2から安全配慮義務に違反する行為を受けたもので、Aの遺書の記載や医師による診断も考慮
⇒安全配慮義務違反とAの死亡との事実的因果関係は認められる。
①AがY1及びY2から指導を受けていたのは2日間のみで、そのうち安全配慮義務に違反する指導を受けたのは3時間弱という短時間にとどまり、
②Aが急速に精神的不調をきたして自殺に至っていることなどに照らせば、Y1及びY2がAの自殺を予見することは困難
⇒安全配慮義務違反とAの死亡との間に相当因果関係は認められない。
  ●国家賠償請求及びY1及びY2の不法行為責任 
Xらが本件訴えを提起した時点で、国に対して国賠法1条1項に基づく損害賠償請求をすることが可能な程度に損害及び加害者を知った時点から3年が経過⇒時効消滅。
Y1、Y2の行為は、いずれも共通教育中隊の教官としてAに対して指導する意図で行われたものであり、指導の一環として行われた外形を有している

公権力の行使に当たる公務員であるY1及びY2がその職務を行うについてしたものであるといえ、国賠法1条の適用がある
⇒Y1及びY2各個人は民法709条に基づく損害賠償責任を負わない。
  民事p66
岐阜地裁R3.12.10  
  重い管理区分に相当する病態発症の認定⇒国賠請求(肯定)
  事案 AはY(国)が規制権限を適切に行使しなかったために、同工場における作業中に石綿粉じんに暴露し、じん肺法における健康管理の管理区分管理3に相当する石綿肺を発症⇒かかる規制権限不行使は国賠法1条1項の適用上違法⇒Yに対し、慰謝料等の支払を求めた。
  争点 Aとの関係において、Yの規制権限不行使が国賠法1条1項の適用上違法と評価されることに争いはない。
Aが管理区分管理2に相当する石綿肺を発症したことに関するAの損害賠償請求権は、本件訴訟提起時点(令和1年)で除斥期間経過。
Aが遅くとも平成19年2月23日の時点で管理区分管理3に相当する石綿肺を発症していたと認められるか?
  判断 B医師の意見について、
①B医師は石綿関連疾患の診断に関して十分な専門的知識と経験を有していること
②B医師の意見は石綿肺の診断において通常用いられる方法によってAの胸部エックス線写真及び胸部CT画像を読影した結果を報告するものであって、胸部CT画像上の所見と整合することに照らし信用性が高い
③Y提出にかかる医師の意見書(B医師と異なる意見を示すもの)によってもその信用性は減殺されない

B医師の意見を採用してXらの請求を認容。
  解説 最高裁H16.4.27:
じん肺のように「身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害や、一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害のように、当該不法行為により発生する損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には、当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となると解すべきである」とした。

同判決の調査官解説では、「損害の全部又は一部が発生した時」の解釈につき、管理区分管理2ないし管理4に相当する病状に基づく各損害の質的な相違を根拠として「最終の行政上の決定時」を消滅時効の起算点と認めた最高裁H6.2.22の趣旨が妥当するとされている。 
前掲最高裁H6.2.22も、行政上の決定を損害発生時の基準としているが、これは、事案の性質上、行政上の決定をもって当該管理区分に相当する病状が発現したと認めるほかなかったことによるものと解され、行政上の決定がなくとも、管理区分決定の際に求められる程度の医学的証明があれば、損害の発生が認められるという考え方を否定するものではない。
証人の信用性の判断は自由心証主義の機能する場面
but
いわゆる鑑定証人に当たるB医師が、Aの石綿肺の症状の程度について、経験科学的・臨床的に述べる内容については、鑑定意見の場合に準じて、公正さや能力に疑いが生じた場合や、前提事実の誤り等診断の前提条件に問題があるような場合を除き、原則として、その意見は十分に尊重すべきといえる。
(刑事事件における鑑定意見の評価方法について判示した最高裁H20.4.25)
  労働p72
名古屋高裁金沢支部
R3.11.10  
  審査請求と取消訴訟で異なる理由でも審査請求前置の要件を満たす・心臓性突然死での死亡と認定
  事案  Aの妻であるXは、死亡原因は過労であるとして、福井労働基準監督署長(処分行政庁)に対して遺族補償給付及び葬祭料の請求⇒処分行政庁は、不支給処分(本件各処分)⇒本件各処分についての審査請求及び指針さ請求をしたが、いずれも棄却⇒Y(国)に対して本件各処分の取消しを求める本件訴訟を提起。
  X:審査請求及び再審査請求においては、Aが過労により急性脾膵臓壊死を発症して死亡した旨を主張⇒過労が急性膵臓壊死を引き起こすという医学的知見が確立されていないとして理由がないと判断。
本件訴訟では、Aが過労により心疾患を発症して死亡した旨を主張。
  争点 ①本件訴訟の審査請求前置要件充足性
②Aの死因
③Aの疾病及び死亡の業務起因性 
Aが心疾患をもたらし得るほどの長時間労働をしていたことは争いがない⇒Aの死因(②)が心疾患であると認定されれば、業務起因性(③)は半ば自動的に肯定されるという構造。
  判断・解説 ●争点①(本件訴訟の審査請求前提要件充足性) 
審査請求における主張事実を取消訴訟において変更することは処分の同一性の範囲内であれば許されると解するのが一般的。
Y:労災保険給付については、給付の種類が同一で、傷病及び災害原因が同じであれば処分に同一性があるが、いずれかが異なれば処分の同一性が失われる。
Xの主張するAの傷病は、本件不服申立てにおいては急性膵臓壊死であったが、本件訴訟においては心疾患⇒処分の同一性なし。
vs.
判断:
Yの主張の採否を明示することなく、本件不服申立て及び本件訴訟におけるXの主張はAが過労により死亡したとする点で共通⇒本件訴訟は審査請求前置の要件を満たす。

「Aが過労により死亡したこと」を「傷病」と捉えれば、Yの主張によっても、処分の同一性を肯定することができる。
再審請求に係る裁決書には、XがAの死因は心疾患であると主張した旨も記載。
  ●争点②(Aの死因) 
労働者がいわゆる「職業病リスト」所掲の疾病により死亡したものであることは、遺族補償給付等を請求する者がその証明責任を負う。
X:Aの死因を急性心機能障害を含む虚血性心疾患
vs.
判断:証拠はない
X:特異的な形態額的変化のない心臓性突然死が死因
vs.
心臓性突然死という診断名は、急に死亡し、他に原因がなく、心臓に原因がうかがわれる症例に付けられるものであり、労働者が心臓性突然死により死亡したことの証明は、労働者が他の疾病により死亡した合理的可能性がないことを証明するという消去法によらざるを得ない。
but
処分行政庁が、労働者が心臓性突然死により死亡したことを否認して、遺族補償給付等を不支給とした事案においては、処分行政庁において死因となる得る疾病を特定したからこそ、不支給処分をしたものであることが多い。このような事案においては、処分行政庁の主張する疾病が死因となった合理的可能性があるといえなければ、他に特段の事情のない限り、労働者が心臓性突然死により死亡したものであると推認することができる。
第1審:急性膵炎は死因となり得るとうい医学的知見と、Aが致死的な急性の膵炎の病変を発症した蓋然性があるという、いわば抽象的なレベルの論証をもって前記の合理的可能性を認めた。
控訴審:Aの死亡という具体的な症例において、死亡をもたらした可能性のある合理的機序が認められる必要があるとみた。
⇒判断の相違。
控訴審:
Aの死亡の機序については、D1医師の本件鑑定書及びこれを概ね支持するD2医師の意見書(本件鑑定書等)に記載されたもの以外には、具体的な仮説を提示する証拠がない⇒本件鑑定書等に記載された機序に合理性があるか否かを検討すれば足りる。
本件鑑定書等に記載された機序は、一般的が医学的知見と整合せず、このような不整合を合理的に説明説明し得る文献ないしは症例報告も見当たらないから、合理性がない
⇒第1審が判断のよりどころとした、Aの膵臓は生前に壊死したのか、死後に自己融解したのか等の問題点について判断する必要はない。
  解説 要証事実を消去法により認定せざるを得ない事案は実務上まま見られる。
そのような事案において、いずれの当事者がいかなる間接事実をどの程度の証明度をもって主張立証すべきものとするかについては、議論が紛糾することも珍しくない。 
  刑事p84
大阪高裁R1.12.12  
  解離性同一性障害で完全責任能力肯定事例
  事案 強盗殺人等の事案 
  争点 原審で、被告人の責任能力が問題となり精神鑑定
原審の鑑定人:
被告人が解離性同一性障害にり患しており、犯行当時者主として別人格が行動を支配しており、主人格は別人格をコントロールすることができないとしつつも、被告人は、犯行当時目的に従って合理的に行動しており、状況を正しく認識し、行動をコントロールできていた。
⇒争点は、この点をどのように評価するか。 
  原審・判断 責任能力は、犯行時の被告人の精神状態について、善悪の判断能力や行動制御能力を問題とするもので、その当時の精神状態に行動制御能力があると認められる以上、その状態を「主人格」というものがさらに制御できるかという点を問題にする必要はない。
⇒被告人の当時の行動の合理性を認めて完全責任能力を認めた。
原審鑑定人:
精神医学においては、解離性同一性障害にり患して、人格が多数現れたとしても、元々その人の中に包摂されていない人格が発現することはなく、その人が本来持っているいろいろな側面が、解離という精神状態を経て、際立った特徴を持った人格となって主として現れてくると考えられている。
  解説 本件:被告人が解離性同一性障害にり患していること、行為当時の人格は主人格ではなく別人格であり、しかも、主人格はこれをコントロールできなかったことを認めた上で、完全責任能力を認めたもの。
解離性同一性障害の刑事責任能力の判断方法:
①グローバル・アプローチを呼ばれる方法
②個別人格アプローチと呼ばれる方法
①:主人格の能力を基準に、主人格が行為時に行為に対する弁識・制御ができたかによって判断
②:行為時に行為を司っていた人格を基準に、この人格が行為時に行為に関する弁識・制御ができない(又は著しく困難な)状態にあったのではない限り、責任能力は失われず、それでは主人格が行為をコントロールできたか否かは問題にならない。
本判決及び原判決:②のアプローチ

「行為によ出ようとした時点で、その時点での行為者が思いとどまることができたか」という視点からのアプローチ。
①のアプローチ

責任能力概念を刑罰正当化の議論に基づいて構築するもので、受刑時にその責任を問いうるかという行為後の観点をも下り入れて判断。
解離性同一性障害については、判決上、責任能力に影響するとされた事例は事情に少ない。
but
ICD=11(国際疾病分類・第11回改訂版)では、解離性同一性障害について、それまで「その他」とされていたのを独立の類型として規定

その障害の認知度は高くなってきた⇒刑事裁判においてもその責任能力が争われる例が散見。 
文献
2539   
  行政p5
最高裁R4.5.17   
  特定商品等の預託等取引契約に関する法律違反及び不当景品類及び不当表示防止法違反に係る調査の結果に関する情報の不開示の事案 
  事案 X(被上告人)が、行政情報公開法(平成26年法律第67号による改正前のもの)に基づき、消費者庁長官に対し、㈱安愚楽牧場に関する行政文書の開示を請求⇒本判決別紙目録記載の部分等に記録された情報が行政情報公開法5条6号イ等所定の不開示情報に該当⇒本件各不開示部分等を除いた一部を開示する旨等の各決定⇒Y(国)を相手に、本件各決定のうち本件各不開示部分等に関する部分の取消しを求めた。
農林水産大臣は、特定商品等の預託等取引契約に関する法律における主務大臣として、農水省職員に、本件会社の事業所へ立入検査をさせ、その結果に基づき、財務諸表等を適切に作成し、かつ、その結果を定期的に報告するよう指示。
(平成21年法律第49号による改正前の預託法は、主務大臣が業務停止命令を行う。改正後:内閣総理大臣が業務停止命令等を行い、その権限は消費者庁長官に委任する旨を規定)
本件会社は、再生手続開始の申立て。
消費者庁長官:本件会社に対し、景表法6条に基づき、本件契約の内容についての雑誌広告における表示が景表法に違反するものである旨を一般消費者へ周知徹底することを命ずる措置命令。
目録記載1及び2の部分に係る各文書
目録記載3~11の部分に係る各文書
  争点 6号イ所定の不開示情報該当性(検査に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれの有無) 
  原審・1審 目録1及び2の部分に記録されている情報:
1審、原審とも、それぞれ一体的に6号イ所定の不開示情報に該当⇒取消請求棄却。
目録記載3~11の部分に記録されている情報:
1審:6号イ所定の不開示情報に該当
原審:
①預託法等違反に係る調査の結果の内容等の客観的な事実に関する情報は、6号イ所定の不開示情報に該当しない
②同部分に記録されている情報は、預託法等違反に係る調査の結果に関するもの⇒6号イ所定の不開示情報に該当しない
⇒同部分に関する部分の取消請求を認容。
  判断   ●目録記載3~11の部分: 
当該情報を公にすることにより、消費者庁長官等が預託法等の執行に係る判断をするに当たり、いかなる事実関係をいかなる手法により調査し、調査により把握した事実関係のうちいかなる点を重視するかなどの着眼点や手法等を推知され、将来の調査に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれがあるといえるか否かという観点から審理を尽くすことなく、当該情報が預託法等違反に係る調査の結果に関するものであることから直ちに6号所定の不開示情報に該当しないとした原審の判断には、違法がある。
  ●目録記載1及び2の部分に記録されている情報:
それぞれ一体的に6号イ所定の不開示情報に該当するか否かを判断した原審の判断には、違法がある。

原判決中、本件各不開示部分に関する部分を破棄し、本件各不開示部分に記録されている情報が6号イ所定の不開示情報に該当するか否か等につき更に審理を尽くさせるため、前記の破棄部分につき、本件を原審に差し戻した。
  解説  ●  行政情報公開法5条6号の解釈等:
公にすることにより国の機関等が行う事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報を含むことが容易に想定されるものを同号イ~ホに例示的に列挙するとともに、同号柱書きに包括的な規定を置いたもの。 
「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」(同号柱書き):
行政機関の長に広範な裁量権を与える趣旨ではなく、同号の要件該当性は客観的に判断する必要があり、「支障」の程度は名目的なものでは足りず実質的なものであることが必要。
「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が要求される。
  宇賀裁判官:
行政調査の過程において作成、入手した情報であって、客観的な事実に関するものは、一般的には、脱法的行為を防止するために不開示にせざるを得ない機微な情報に当たるということはできない。
but
そのような機微な情報を推知し得る場合があり得る⇒個別に6号イ所定の不開示情報該当性を判断すべきことが指摘。 
  行政p12
最高裁R4.4.21   
  法人税法132条1項による処分の取消(肯定)
  事案 Xは、・・法人税の確定申告において、同じ企業グループに属するフランス法人からの金銭の借入れに係る支払利息の額を損金の額に算入⇒麻布税務署長は、同族会社等の行為又は計算の否認に関する規定である法人税法132条1項を適用し、前記の損金算入の原因となる行為を否認してXの所得の金額につき本件支払利息の額に相当する金額を加算⇒本件各事業年度に係る法人税の各更正処分及び本件各事業年度に係る過少申告加算税の各賦課決定処分をした⇒Xが、Y(上告人)(国)を相手に、本件各処分の取消しを求めた。
  争点  本件借入れが法人税法132条1項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たるか 
  原審 Xの請求を認容 
  判断 上告を受理した上で、棄却。 
法人税法132条1項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、同項各号に掲げる法人である同族会社等の行為又は計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、法人税の負担を減少させる結果となるもの。
企業グループにおける組織再編成に係る一連の取引の一環として、当該企業グループに属する内国法人である同族会社が、当該企業グループに属する外国法人から行った金銭の借入れは、
(1)前記一連の取引は、前記企業グループのうち米国法人が直接的又は間接的に全ての株式又は出資を保有する法人から成る部門において日本を統括する合同会社として前記同族会社を設立するなどの組織再編に係るものであった
(2)前記一連の取引には、税負担の減少以外に、前記部門を構成する内国法人の資本関係及びこれに対する事業遂行上の指揮監督関係を整理して法人の数を減らす目的、機動的な事業運営の観点から当該部門において日本を統括する会社を合同会社とする目的、当該部門の外国法人の負債を軽減するための弁済資金を調達する目的、当該部門を構成する内国法人等が保有する資金の余剰を解消し、為替に関するリスクヘッジを不要とする目的等があり、当該取引は、これらの目的を同時に達成する取引として通常は想定されないものとはいい難い上、その資金面に関する取引の実体が存在しなかったことをうかがわせる事情も見当たらない
(3)前記借入れは、前記部門に属する他の内国法人の株式の購入代金及びその関連費用にのみ使用される約定の下に行われ、実際に、前記同族会社は、株式を取得して当該内国法人を自社の支配下に置いたものであり、借入金額が使途との関係で不当に高額であるなどの事情もうかがわれず、また、当該借入れの約定のうち利息及び返済期間については、当該同族会社の予想される利益に基づいて決定されており、現に利息の支払が困難になったなどの事情はうかがわれない
などの判示の事情のもとでは、当該借入れに係る支払利息の額を損金の額に算入すると法人税の額が大幅に減少することとなり、また、当該借入れが無担保で行われるなど独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは異なる点があるとしても、
法人税法132条1項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」には当たらない。
  解説  ●  ●法人税法132条1項の趣旨等
  同族会社等の場合には会社の意思決定が一部の資本主の意図により左右されるので、租税回避行為を容易に行い得る⇒これを是正し、負担の適正を図るためのもの。
法人税の負担を不当に減少させる行為又は計算が行われた場合に、これを正常な行為又は計算に引き直してその法人に係る法人税の更正又は決定をする権限を税務署長に認めた。
通説:
ある行為又は計算が経済的合理性を欠いている場合に、その行為又は計算について同項による否認が認められるとの経済的合理性説。
主要な論点:
ア:当該の具体的な行為又は計算が異常ないし変則的であるといえるか否か
イ:その行為又は計算を行ったことにつき租税回避以外に正当で合理的な理由ないし事業目的があったと認められるか否か
  ●関連する判例等 
法人税法132条の2の組織再編成に関する行為又は計算の否認の規定につき
最高裁H28.2.29:
同条の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為又は計算が組織再編税制・・・に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり、その濫用の有無に当たっては、
①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実体とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、
②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮
するのが相当である。

同条の解釈につき、いわゆる制度濫用基準を採用しつつ、濫用の有無の判断に当たっての考慮要素として、経済合理性説に係る考慮要素を、組織再編成の場面に即して表現を修正し、特に重要な考慮事情として位置付けたもの。
法人税法132条1項の規定につき、
東京高裁H27.3.25:
行為又は計算が「経済的合理性を欠く場合には、独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引(独立当事者間の通常の取引)と異なっている場合を含む」
(これに対する上告受理申立ては不受理)
  行政p19
東京地裁R3.9.21  
  「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物」該当性(肯定事例)
  事案 固定資産税等の各賦課決定⇒本件課税部分は地税法348条2項3号及び702条の2第2項の適用対象たる「境内建物」及び「境内地」に当たり非課税⇒Y(東京都)を相手に、本件処分の取消しを求めた。
  判断 「境内建物」該当性につき、宗教法人法3条1号が、宗教活動に直接用いられる場所のみならず、住職・牧師等が起居する建物や、宗教法人の組織運営事務を行うための建物も含めているのは、これらが宗教法人の目的を達成するために通常必要であり、同法の各種規律にかからせるべきものであるため。
「その他宗教法人の・・・目的のために供される建物」も含まれるのは、宗教法人によって異なる教義等を考慮して境内建物該当性を判断すべきとの趣旨。
そして、専らその本来の用に供されている境内建物は、通常収益性がないから非課税とされる。

「境内建物」該当性につて:
①宗教法人法3条1号に例示的に列挙された建物に当たるか否かのほか、教義等に照らし、当該建物を用いることが、宗教の教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成するという宗教法人の目的達成に必要なもので、当該建物につき同法の規律にかからせることが適当といえるかという観点からか検討し、それが肯定される場合
②当該建物が専らその本来の用に供されているか否かを検討すべき。
かかる各検討は、宗教法人内部の主観的な意図まで立ち入るのではなく、一般の社会通念に基づいて外形的、客観的にこれを行うべき。
本件において、
①バハイ教の宗教的活動が円滑に行われるためには管理人を配置して本件建物を常に開放する等の業務を行わせることが必要
②管理人が本件建物に通って前記業務を行うことは多大な困難を伴い、管理人を本件建物に起居させる必要がある
③本件管理人室から本件建物の外へ直接つながる出入口はなく、不特定の信徒が出入りする空間の一部であって、本件管理人室につき宗教法人法に定める規律にかからせることが適当である

本件管理人室は「境内建物」に該当し、前記業務のために管理人を起居させるという本来の用に供されている⇒本件処分は違法。
  解説 本件の「管理人室」は、宗教法人法3条1項が具体的に列挙する施設には含まれておらず、「その他宗教法人の・・・目的のために供される建物」として「境内建物」該当性が問題となった。 
Y:本件管理人室について、会社員であるAの私的生活に利用されている空間であり「境内建物」に当たらない旨主張。
but
本判決:
境内建物等に係る宗教法人法の規律及びその趣旨等を踏まえて判断枠組みを示した上で、バハイ教の教義を踏まえつつ、本件管理人室の利用状況等を具体的に検討し、本件管理人室が「境内建物」に該当し、専らその本来の用に供されていると判断。
裁判例
  民事p36
東京高裁R3.4.15  
  遺産分割の審判を本案とする審判前の保全処分における被保全権利等
  事案 本件抗告審の相手方(原審相手方)に対して金銭債権を有する抗告人(原審申立人)が、債権者代位権を行使して、相手方が相続した遺産につき遺産分割調停を申し立て、家事手続法105条1甲及び200条2項に基づいて、遺産分割の審判を本案とする審判前の保全処分として、遺産中の特定の土地につき、処分禁止の仮処分を求めた。
  原審 抗告人が金銭債権者⇒本件不動産について係争物に関する仮処分(処分禁止の仮処分)の被保全権利を有しているとは認められない⇒却下。
  判断 原審維持
but 
理由は↓
①本件が債権者代位に基づくこと及び審判前の保全処分が本案と密接に関連し民事保全とは異なる面を持つ特殊な保全処分⇒その被保全権利の主体は、抗告人自身ではなく、抗告人の債権者代位の対象となっている相手方、また、その権利は、既存の権利ではなく、本案である遺産分割の終局審判で形成される具体的権利
②審判前の保全処分の発令要件としての本案認容の蓋然性の内容は、係争物に関する仮処分としての処分禁止の仮処分が係争物についての給付請求権を保全するために発せられる仮処分(家事手続法115条、民保法23条1項)⇒保全処分の対象である本件不動産につき相手方への給付が命ぜられる見込みがあること
③本件で、抗告人が、前記の遺産分割調停不成立後の終局審判で本件不動産につき相手方への給付を命ずることになる見込みについて何ら主張・疎明していない⇒被保全権利を含む本案認容の蓋然性についての疎明があるとはいえない。
  解説 家事手続法が定める遺産分割の審判を本案とする審判前の保全処分は、旧法下における審判前の保全処分の規律を基本的に維持しつつ、新たに、家事調停の申立てがあった場合にも審判前の保全処分ができるものとした制度
被保全権利は、本案の終局審判で形成される具体的権利(通常、その権利主体は、審判前の保全処分の申立人と一致する。)と解される。
本件では、抗告人は、相手方の債権者として債権者代位権を行使して本件の遺産分割調停を申し立てており、遺産分割請求について債権者代位権の行使を認めるべきか否かについては、
A:肯定
B:否定(潮見)
同調停の申立書には、同調停における換価分割による債権回収を企図している旨が記載され・・・そもそも本案の終局審判で本件不動産につき相手方への給付を命ずることを想定していないことが窺える⇒申立却下。
  民事p38
高松高裁R3.3.17  
  暴対法31条の2の「威力利用資金獲得行為」該当性(肯定事例)
  事案 新規に開業した商業ビルのフロアの一画に家庭用調理器具を販売する店舗を出店する目的を有するYと定期賃貸借契約を締結した本件ビルの所有者であるXが、本件契約の賃貸期間の満了前にYがXの承諾なく本件店舗を閉鎖した⇒約定の解除権を行使した上、Yに対し、
本件契約に基づく違約金507万2127円
未払費用23万2358円
原状回復費用292万1886円
の合計822万6371円
並びに
これらに対する本件解約解除の日の翌日である平成29年3月15日から支払済みまで生じ法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
  主張 Y:
①Xの本件契約解除に先立ち、Xの債務不履行によりYが本件契約を解除した
②本件契約は、錯誤により無効であるか、詐欺により取り消す
③Xによる本件契約委解除事由もない 
  原審 Yの主張を排斥し、Xの請求を全部認容。 
    Y控訴
Xによる本件契約の解除権行使及び違約金請求が信義則違反ないし権利濫用であるとの主張を追加
  判断  ①Yによる本件契約の債務不履行解除を否定
②本件契約の錯誤無効、詐欺取消しを否定
③Xによる本件契約解除事由があるとして、Xによる本件契約の解除権行使を認めた。
but
原判決とは異なり、それによる違約金請求は信義則違反ないし権利の濫用に当たるとして3分の1に制限される。 
  Zが、Xの履行補助者として、本件ビルに入居するテナントの誘致を行うリーシング業務を行っていたところ、Zの担当者としては、Yの店舗形態(家庭用調理器具の販売)からして、Yが本件店舗の主要顧客として主婦層を想定しており、本件ビル地下1階に食品スーパーが出店するか否かに重大な関心を持っていたことを認識していた⇒本件契約勧誘に際し、信義則上、Yが本件契約締結の判断を左右する集客力に関する事情について、Yに誤解を与えないように正確な情報を提供する義務(説明義務)を負担していた。
but
Zの担当者は、食品スーパーとの交渉状況等については、詳細な情報、すなわち、本件ビルのオープン時に食品スーパーが出店しない可能性なども一切説明しなかった
⇒Xの履行補助者であるZは、前記義務に違反してYに対し、集客力に関する事情について正確な情報を提供しなかった。
前記説明義務違反はXによる約定の解除自体が許されないとするほどの根拠は見出し難いものの、X(Z)の前記義務違反のため、Yは短期間での本件店舗の閉店を余儀なくされた⇒Xが本件契約全期間について、違約金の請求をするのは信義則に反し、権利の濫用として許されない。
違約金の請求が信義則違反ないし権利の濫用として制限される範囲としては、本件契約に基づいて算定した違約金額の3分の1の範囲に制限されるものとするのが相当。
  解説 定期賃貸借契約においては、中途解約禁止条項が置かれ、賃借人が中途解約をした場合の違約金の定めが置かれることが多く、その違約金の約定が暴利行為として公序良俗に反して無効であるととして裁判において争われるケースがしばしばあるが、それが公序良俗違反であると判断されることは稀。
(公序良俗違反として1年分を超える賃料相当額を無効であるとした裁判例、
尚、フランチャイズ契約において、フランチャイザーの加盟店に対する約定の違約金の全部又は一部の請求がフランチャイザーの加盟店に対する情報提供義務違反を理由に、信義則違反ないし権利の濫用あるいは公序良俗違反により無効とされた裁判例は散見) 
本件:
本件契約の解除事由として、「Xの承認なく店舗を閉鎖したとき」が定められ、その場合の違約金としては、残存した賃貸借期間にYが支払うべき営業費総額に相当する金額を支払うと共に、既に預託した金額の敷金返還請求権を失うなどの内容

中途解約禁止条項委違反に基づく違約金請求と状況が類似している。
  民事p55
福岡地裁R4.1.31  
  暴対法31条の2の「威力利用資金獲得行為」該当性(肯定事例)
  事案 Xが工藤会傘下の5代目田中組構成員から刃物で顔面を切りつけられる等の襲撃行為を受け負傷⇒工藤会総裁であるY1及び工藤会会長であるY2に対しては、使用者責任(民法715条)又は暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(「暴対法」)31条の2に基づき、
田中組組長であるY3に対しては、共同不法行為(民法719条)又は使用者責任に基づき、
損害賠償金及び遅延損害金の連帯支払を求めた。 
  争点 Y1及びY2の暴対法31条の2に基づく責任の成否 
  判断   みかじめ料徴収を含むXと工藤会の関わり、Xが経営していた店舗における暴力団排除の活動やこれに対する田中組の反応、田中組組員らが本件襲撃前後に行った襲撃準備及び証拠隠滅等を詳細に認定し、
本件襲撃は工藤会排除の動きに対抗して、飲食店等からのみかじめ料収入を確保する等の目的で、工藤会を構成する田中組の活動として、田中組組長であるY3の指示に基づき行われた。
  暴対法31条の2に基づく責任:
①指定暴力団の首領及び最高幹部会議の出席メンバー等は、組織内におけるその肩書の呼称を問わず、同条の「代表者等」に当たる
②同条の「指定暴力団員」には、当該指定暴力団を構成する傘下組織の構成員が含まれる
③同条の「威力利用資金獲得行為」に当たるためには、指定暴力団員が資金獲得行為を実行する過程において、当該指定某旅団の威力が何らかの形で利用されていれば足りる。
  ①工藤会総裁として対外的に最上位の扱いを受け、組織内でも頂点とされていたY1及び工藤会会長として実権を握っていたY2は、いずれも工藤会において最上位の立場にあった首領であり、暴対法31条の2の「代表者等」に該当。
②本件襲撃は複数の田中組組員が関与して実効されたものであるところ、指定暴力団である工藤会の二次団体である田中組の組員らは同条の「指定暴力団員」に該当
③本件襲撃は、工藤会排除の活動に対抗して飲食店等から得られるみかじめ料を確保すること等を目的とし、工藤会の排除を試みていたXへの襲撃を通じて、同様の活動を行う他の飲食店等に恐怖による圧力を掛けることを企図
本件襲撃は、それ自体においてみかじめ料徴収等の資金獲得行為が行われたものではないが、田中組が工藤会による集金システムの一環でもあるみかじめ料徴収等を行うに際し、組員が指定暴力団員としての地位に基づいて組織的な暴力行為を実行し、これにより田中組ひいては工藤会の収入の確保を図ったもの⇒まさに資金獲得行為を実行する過程で指定暴力団の威力が利用されたもの
⇒本件襲撃は同条の「威力利用資金獲得行為」に該当する。
  解説 暴対法31条の2に基づく代表者等の損害賠償責任についての裁判例 
特殊詐欺の事案においては、詐欺行為やその準備行為等を含むスキーム全体が暴対法31条の2の「威力利用資金獲得行為」に該当するかが争点となるが、裁判例の多くは、
不法行為の被害者に対して威力が示される必要はなく、指定暴力団が資金獲得行為を実行する過程において、当該指定暴力団の威力が何らかの形で利用されていれば足りるという解釈をした上で、特殊詐欺に関与する人員の確保や犯行グループの内部統制等に指定暴力団の威力が利用されたと評価。
本件の、みかじめ料の徴収は威力利用資金獲得行為の典型例。
  商事p66
東京高裁R3.9.28  
  代表取締役による善管注意義務違反(役員報酬増額を含む)の事例
  事案 代表取締役による子会社設立に伴う同子会社用の機械設備の購入及び役員報酬の増額について、会社が当該代表取締役に対して善管注意義務違反による損害賠償を求めた。
  原審 本件機械の購入金額は、X社の資産合計の1.5パーセントに及ぶものであって、その種類、性能等はベトナム子会社及びX社の収益に影響するものであるのに、Yは取締役会決議を経ずに、X社にとって重要な財産に当たる本件機械を購入したことは、代表取締役としての任務を怠った。
追加的請求については、民訴法143条1項ただし書に基づいて、不許可。
  判断 本件機械の購入について、取締役としての善管注意義務違反を認定し、役員報酬の増額についても善管注意義務違反が認められるとして、Yの責任を認めた。 
X社の大口受注先から技術先から技術課題を指摘され、技術レベルが改善されなければ製品の発注を大幅に減少させることの予告を受けるとともに、ベトナム進出について消極的意見を示されるなどして、技術レベルの改善が緊急かつ最重要な課題であることを理解していた
⇒取締役会における十分な議論を改めですべきであり、その結論が出るまで、ベトナム進出に関する具体的な準備作業を一時中止すべき注意義務を負っていたのに、これを怠って、取締役会を開催して議論を行わず、本件機械を受注し購入した注意義務違反が認められる。
役員報酬の増額について
①X社に役員報酬を増額するような業績の向上や経営状況の改善があったとは認められない
②Yは、適切なガバナンスが効きにくい状況を作出した上でこれを利用して自らの報酬額を増額
③他の取締役が3~4パーセントの増額なのに対して、Yの報酬は25%の増額であり、40万円という増額金額や増額率からみても、いわゆるお手盛りの色合いの濃いものである
④経済的にみても、本件株式の一部につき、X社の出捐によりYが取得するのと同じ効果を有する
⑤本件の経緯からすれば、X社による本件株式の買取りをYが妨害して自己の利益を得たとも評価し得る背信性の強い行為

報酬額の増額は取締役としての善管注意義務に違反する。
  解説  取締役の善管注意義務の判断に当たっては、
取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況および会社を取り巻く社会、経済、文化等の情勢の下において、当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験を基準として、前提としての事実の認識に不注意な誤りがなかったか否か及びその事実に基づく行為の選択決定に不合理がなかったか否かという観点から、当該行為をすることが著しく不合理と評価されるか否かによって判断。
本判決:本件機械の購入ではなく、その前段階である準備作業の一時中止の判断をしなかったことについて、具体的事実を踏まえて、著しく不合理であると判断。
  役員報酬の増額(会社法361条1項)に関して:
株主総会の決議で取締役全員の報酬の総額を定め、その具体的な配分は取締役会の決定に委ねることができる、取締役会は具体的な決定を代表取締役に一任することができる。
(判例)
役員報酬について厳格な規律が設けられているのは、取締役によるいわゆるお手盛りを防止して、会社ひいては株主の利益を保護することにある。
株主総会で報酬総額が定められていたとしても、具体的な報酬額の決定が、会社の利益を損なうような不合理なものであるときは、前記基準により、善管注意義務違反が認められる。
  刑事p93
最高裁R2.8.24  
  母親を道具として利用するとともに、不保護の故意のある父親と共謀した殺人罪が肯定された事例
  事案 非科学的な力による難病治療を標榜する被告人が、Ⅰ型糖尿病にり患した被害者Aの治療をAの両親から依頼⇒インスリンを投与しなければAが死亡する現実的危険性があることを知りながら、インスリンは毒であるなどとしてAにインスリンを投与しないよう両親に指示し、両親をしてAにインスリンを投与させずAを死亡させて殺害 
  主張 検察官:
両親を利用した殺人の間接正犯を主位的訴因
両親との共謀による共謀共同正犯(被告人には殺人罪が成立し、保護責任者遺棄致死の限度で共同正犯)を予備的素因
として主張 
  1審・原審 母親との関係では間接正犯
父親との関係では共謀共同正犯(共謀は保護責任者遺棄致死の限度)
が成立するとして、殺人罪の成立を認め、懲役14年6月(求刑懲役15年) 
  判断 上告趣意は適法は上告理由に当たらない 
生命維持のためにインスリンの投与が必要なⅠ型糖尿病にり患している幼年の被害者の治療をその両親から依頼された被告人が、インスリンを投与しなければ被害者が死亡する現実的な危険性があることを認識しながら、自身を信頼して指示に従っている母親に対し、インスリンは毒であるなどとして被害者にインスリンを投与しないよう執ようかつ強度の働きかけを行い、母親をして、被害者の生命を救うためには被告人の指導に従う以外にないなどと一途に考えるなどして被害者へのインスリンの投与という期待された作為に出ることができない精神状態に陥らせ、被告人の治療法に半信半疑の状態であった父親に対しても母親を介してインスリンの不投与を指示し、両親をして、被害者へのインスリンの投与をさせず、その結果、被害者が死亡したなどの本件事実関係の下では、
被告人には、母親を道具として利用するとともに不保護の恋のある父親と共謀した未必ぼい殺意に基づく殺人罪が成立。
⇒原判決を支持。
  解説  ①事情を知らない者(犯罪の故意のない者)を利用する場合
②是非弁別能力のない者を利用する場合
③他人を強制して犯罪を実現する場合
について、間接正犯を認めることは学説上一致。 
理論的根拠・基準:
ア:実行行為性説:利用行為の構成要件実現の現実的危険性に求める
イ:行為支配説
ウ:規範的障害説
エ:自律的決定説
判例・実務は、特定の学説に依拠せず、事案ごとに、利用者及び被利用者の関係、両者の客観面・主観面の状況等の諸事情を総合考慮し、両者が被利用者を道具のように利用して自己の犯罪を実現したといえるか(規範的にみて自ら直接実行項をした場合と同視できるか)を判断。
  他人の不作為を利用した間接正犯:
判例・裁判例なし
ア:不真正不作為犯については、一種の身分犯⇒刑法65条1項の適用を受ける
イ:作為義務の存在は当該不作為の構成要件該当性(実行行為性)の問題であって、特定の身分犯を構成するものではない 
ア説⇒身分者を利用した非身分者に間接正犯が成立するか?
A:否定説
B:肯定説←非身分者も身分者を利用することにより身分犯の法益を侵害することが可能
but
Bでも、自ら直接実行行為を行うことができない者が間接正犯となり得るか?
  錯誤型・強制型の間接正犯
判例は、いずれも、利用者と被利用者の関係(支配従属関係、信頼関係等)、利用行為(欺罔、強制)の内容・態様、利用者の主観的意図・認識、被利用者の心理状態(錯誤、意思抑制状態等)等の諸事情を総合考慮して、利用者の間接正犯性(ないし利用行為の実行行為性)が判断されている。 
強制型で第三者利用の事例で、これまで間接正犯が認められたものは、いずれも刑事未成年者を利用したもの。
被害者利用の事例では、被害者が成人である場合も、利用者に正犯性(ないし実行行為性)が認められているものがある。
  共犯者間で認識していた犯罪事実が一致しない場合、各人にどのような共犯関係が成立するか?
ア:犯罪共同説⇒罪名の一致が要求
but
部分的犯罪共同説は、構成要件的に重なり合う限度で共犯の成立を認める。
イ: 行為共同説⇒異なる構成要件間の共犯も肯定される。
最高裁H17.7.4:
シャクティパット事件最高裁決定:
不保護の故意のある共犯者と共謀した殺意のある被告人につき、「殺人罪」が成立し、殺意のない患者の親族との間では保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯となる
と説示

部分的犯罪共同説を採用したものと評価されている。
  本決定:
母親の主観面の状況:
本件当時、被害者へのインスリンと投与という期待された作為に出ることができない精神状態に陥っていた
被告人と母親の関係、被告人の働きかけの内容・態様、母親が前記精神状態に陥った理由や経緯、被害者が死亡する危険性や母親の精神状態等についての被告人の認識等を認定、適示し、これらの被告人及び母親の主観面・客観面の状況等の諸事情を総合的に考慮して、被告人の間接正犯を認めた。

本件は、
①他人の不作為を利用した間接正犯の成否
②成人の第三者を利用した場合に間接正犯が肯定され得る意思決定の自由の阻害の程度
等の論点を含む。
被告人と不保護の故意のある父親との間の共謀を認めた。
第1審と原審:被告人と父親との間に保護責任者遺棄致死の限度で共謀が成立する旨判示
本決定:両者がどの範囲で共同正犯となるかについて判示しておらず、異なる故意を有する者同士の共犯関係の成立範囲に関する本決定の考え方は明らかにされていない。
  刑事p97
東京家裁R4.1.13  
  試験観察⇒無断退去⇒第1種少年院送致の事案
  事案 保護処分歴のない少年が、共犯者らと2度にわたり同一の被害者から現金等を強盗取し、1度はその際に傷害を負わせたという、強盗及び強盗致傷と、これらによる試験観察中の、補導委託先からの無断退去というぐ犯行状の事案。
  判断 強盗及び強盗致傷の各非行(「当初事実」)⇒少年の問題性を指摘しながら、身柄付き補導委託の方法による試験観察の余地があった。
無断退去の経緯と少年の説明⇒不快感情の蓄積に対する脆弱さ、不良交友に対する親和性の強さ、愛情欲求の不満の強さといった少年の問題性⇒指導者等との関係構築にも悪影響を及ぼす⇒試験観察により少年の問題性の根深さと矯正の難しさが浮き彫りになった。

少年が再非行に及ぶ危険性は高く、その防止のために種々の指導を実施することが必要不可欠⇒第1種少年院に送致。 
  解説 試験観察:
①それまでの調査を補強・修正し、要保護性についての専門的判断を一層的確にするという調査の機能
②終局決定が留保されていることによる心理的な強制効果を利用して少年に指導援護を行うという教育的処遇の機能
少年を委託先に宿泊等させて行う身柄付き補導委託の措置⇒従来の環境等から切り離し、家庭的な処遇を行い、受託者の人格的な感銘力に触れさせるなどしながら、社会内における改善更生の可能性を見極めることができる。 
2538   
  行政p5
大阪地裁R3.10.29  
  地自法238条の5第4項に基づく賃貸借契約の一部解除(肯定)
  事案 X⇒Y:
本件土地1のうち、道路拡幅相当部分に関する賃貸借契約をそれぞれ解除する旨の意思表示をした上で、本件訴訟を提起。
X⇒Y:
本件訴訟において、本件土地1に隣接する土地の各所有者であるYに対し、境界の確定を求めるとともに、本件土地1の一部の賃借人であるYらに対し、本件道路の拡幅の必要があるため地自法238条の5第4項に基づき賃貸借契約の一部を解除したなどと主張し、賃貸土地の一部の明渡し、解除後の土地の占有につき損害賠償請求金の支払及び解除後の借地権の範囲の確認を求めた。
  争点 地自法238条条の5第4項に基づく本件解除の可否
  規定  第二三八条の五(普通財産の管理及び処分)
4普通財産を貸し付けた場合において、その貸付期間中に国、地方公共団体その他公共団体において公用又は公共用に供するため必要を生じたときは、普通地方公共団体の長は、その契約を解除することができる。
  主張 X:
従来から、防災上必要であるとして各種整備計画において本件道路を幅員6.7mに拡幅することとし、現実に周辺土地の取得や借地権bの解除を行っている⇒本件解除部分の土地を公共用に供するための必要がある。 
Y:
①地自法238条の5第4項の必要性は、法令又は条例に基づくものでなければならないところ、Xの主張する整備計画は、法律又は条令に基づくものではない。
②防災上の拡幅の必要性に理由がない。
③本件解除の対象地を公共用に供するための必要がない。
⇒解除無効
  判断 地自法238条の5第4項について:
公有財産は普通財産であっても元来公共性を有するものであり、当該普通財産を特に公用又は公共用等の公益目的のために供する必要が生じたときには、その管理処分に当たっては公益を優先させるのが原則であるとして民法等の一般原則の特例を定めたもの⇒民法等に優越する。 
①本件において、「第3次庄内地域住環境整備計画」において本件道路を含む道路について幅員6.7メートルを標準として整備する計画が策定され、本件解除時においても維持されていた
②防災上の観点から本件道路を拡幅する旨の計画には合理性がある
③本件解除について、建築主にとって支障が小さい時期に合わせて必要な限度でされている
④そもそも、XとYらの賃貸借契約においては、Xが対象と地を他の用途に使用処分し、又は行政上必要とするときは賃貸借契約を解除することができる旨記載されている

本件解除の対象地を本件道路に供する必要があり、公共用に供する必要があった。
  解説 普通財産は、行政財産と異なり、主としてその経済的価値の保全運用によって生じる収益を普通地方公共団体の財源に充てることを目的とする財産であり、その管理処分は純然たる私経済行為⇒原則として一般私法の規定が適用される。
but
元来公共性を有するもの⇒当該普通財産を特に公用又は公共用等の公益目的のために供する必要がある場合について、民事法上の契約の解除に関する一般原則に対する特例が定められたものであり、国有財産法24条の例にならったもの。
契約の解除に際しては、借主に生じた損失についての補償が要求されるとともに(地自法238条の5第5項)、当該財産を公用又は公共用に供することの必要性についての慎重な判断とそのための公正な手続保障が望ましい。
  民事p22
大阪高裁R3.12.22  
  会社の取締役責任調査委員会の委員を担当⇒会社の訴訟代理人として訴訟行為を行うことは、弁護士法25条2号、4号に違反し、その類推適用により、訴訟行為が排除された事案
  事案 Y(関西電力)によるYの元取締役Xら5人に対する会社法423条1項に基づく損害賠償請求訴訟(「基本事件」)において、Xらが、基本事件の原告であるYの設置した取締役責任調査委員会の委員であった弁護士A・Bが基本事件の原告であるYの訴訟代理人として行う訴訟行為の排除決定を、
弁護士法25条2号及び4号等の各趣旨に反することを理由に、求めた。 
  原決定 申立てを却下 
  判断 本件責任調査委員会の委員を務めたA弁護士らが、その後に基本事件をYの訴訟代理人として受任し、訴訟行為をすることは、法25条2号、4号の趣旨に反する⇒同条2号、4号を類推適用して、A弁護士らの訴訟行為を排除。 
●理由:
①本件責任調査委員会は、Yの監査役の補助機関にすぎないものではなく、Yから独立して第三者的職務を行う機関であった
②法25条2号、4号の適用を考える上で、本件責任調査委員会は、Yから独立し、中立・公正な立場で調査検討を行う委員会であったとの前提に立つのが相当
③本件責任調査委員会において、A弁護士らがXらに事情聴取(面談)をした際に、Xらが回答したが、これは中立・公正な立場からの法律的な解決を求めるためにしたに等しく、A弁護士らの独立性・中立・公正さに対する特別な信頼に基づくもの⇒A弁護士らが基本事件の訴訟代理人として訴訟行為をすることは、法25条2号の趣旨に反する。
④本件責任調査委員会におけるA弁護士らの立場は、Xらの法的責任の有無・提訴の要否に関する事情について、YとXらの双方から知悉することができた⇒法25条4号が想定する裁判官と変わるところがなく、A弁護士らが、独立・中立・公正を標榜した本件責任調査委員会でXらの損害賠償責任を調査検討しながら、基本事件でのYの訴訟代理人として活動することは、本件責任調査委員会の委員として行った活動を相いれず、弁護士としての品位・信用を失墜させることになる
⇒基本事件の訴訟代理人として訴訟行為をすることは、法25条4号の趣旨に反する。
⑤A弁護士らが基本事件の訴訟代理人といて訴訟行為をすることは、法25条2号、4号の趣旨に反し、弁護士という職務の品位・引用を失墜させるおそれがあるだけでなく、第三者委員会制度の健全な発展や司法制度の中立・公正さへの悪影響が懸念される⇒同条2号、4号を類推適用し、A弁護士らの訴訟行為を排除するのが相当。
  規定  第二五条(職務を行い得ない事件)
弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
四 公務員として職務上取り扱つた事件
  解説   訴訟代理人弁護士の訴訟行為排除:
①民事訴訟の訴訟代理人弁護士が、法25条1号違反の訴訟行為について、「相手方たる当事者は、これに異議を述べ、裁判所に対してその行為の排除を求めることができる」
②法25条1号に違反する訴訟行為について、「相手方である当事者は、裁判所に対し、同号に違反することを理由として、上記各訴訟行為を排除する旨の裁判を求める申立権を有する」
③弁護士法違反ではなく弁護士職務基本規程違反にとどまるものは、それを理由として訴訟行為排除の裁判を申立てることはできない。
●法25条2号の趣旨:
①当事者の利益保護
②弁護士の品位の確保
③弁護士の職務執行の公正の確保
「協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの」:
同条1号の「賛助」、「依頼を承諾」という要件に代替するものと説明。
  法25条4号が禁止された趣旨:
将来弁護士として事件の依頼を受けることを予定して公職にある間に事件の処理に手心を加え、あるいは公職在任中の縁故等を誇張して事件依頼者に課題の信頼をはらわせる等の弊害があることを避けるため
  本決定:法25条2号、4号を類推適用 
学説:法25条は弁護士の職務規程であるところ、これに違反すると懲戒処分がされることがあるという意味において、実定懲戒規範であり、懲戒処分は不利益処分⇒刑事法にいう罪刑法定主義と同様の原理が妥当し、法25条各号の要件は、職務禁止事由を明示するものであるから、一義的に明確な定めであることを要する。
要件該当性の解釈についても、文理解釈を基本として、類推解釈など拡大解釈にわたる解釈は許されず、謙抑的な解釈が要請される。
  民事p31
東京地裁R3.12.3  
  東日本高速道路株式会社の供用約款の原因者負担金(肯定)
  事案 原告(東日本高速道路㈱)の管理する高速道路において、被告の保有する車両が関与して発生した多重事故に際し、ガードケーブル支柱が損傷⇒道路整備特別措置法40条1項により読み替えて適用される道路法58条1項に基づき、原因者負担金として損傷等の機能復旧費用52万7220円の支払を求めた。 
  争点  ①被告が本件損傷等の原因者に当たるか
②本件損傷等の復旧に要する費用額 
  判断   道路法上の原因者:
道路を損傷し、若しくは汚損した行為等につき費用を負担する者を指すにすぎず、
道路を直接損傷し又は汚損した行為者に限定されるものではない
⇒衝突部に直接衝突したのがC車ではなくD車であるとしても、Cないし被告が本件損傷等の原因者であることを直ちに免れることにはならない。
道路法上、道路の損傷、汚損等の費用を負担する原因者とは、当該損傷汚損等の行為について不法行為責任をが認められるか否かにかかわらず、これに事実的因果関係上の原因あるすべての利用者を指すと解するのが相当。
  原告の管理する高速道路について、原告の定める供用約款が負担金を支払うべき者を、単に「高速道路を損傷し、又は汚損した利用者」と規定しているのも、道路法の趣旨を踏まえたものであるところ、利用者は、同供用約款に同意したものとみなされる

原告の管理する高速道路を損傷し、又は汚損した利用者(損傷、汚損について事実的因果関係上の原因のある利用者)は、契約の性質を有する同供用約款の規定に基づいて、原告に対し、原因者負担金の支払義務を負う。
  C車は本件損傷等と事実的因果関係があるといえ、かつ、C車は被告の事業のために本件高速道路を利用していた⇒被告が前記の供用約款にいう利用者であり、本件損傷等の復旧に要する費用額を支払うべき義務を負う。
  本件損傷等の復旧に要する費用額として、要した直接工事費のほか一般管理費に相当する工事雑費等の経費も負担を求めることができる。
交換された支柱等について償却された時価によって負担金が査定されるべきものではない。
  ⇒原告の請求を全て認容。
  解説 ●原因者負担金 
道路法58条1項の原因者負担金については、河川法にも同種の規定が置かれていて(67条)、いわゆる公用負担の一種。
行政処分の形で課されるものと理解されていて、道路法73条3項は、道路管理者に、国税滞納処分の例により負担金等を徴収する権限を与えている。
これまでの裁判例。
◎   本件は、道路特措法40条1項において読み替えて準用する道路法58条1項の原因者負担金の問題。
道路特措法40条1項:
「道路管理者」⇒「会社」
「を負担させる」⇒「について負担を求める」
と読み替え。
徴収については、
会社が独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構に申請して行い、機構は道路法73条の規定を利用して、強制徴収を行うことができる。
道路特措法40条1項における負担金請求は、行政処分を介在させない、請求権の行使という形となる。

事件符号も(ワ)とし、公法上の債権ではなく、通常に民事債権として捉えている。
東京地裁H27.8.21:
道路特措法は、会社の選択に応じて、
ア:機構に申請した上で強制徴収の仕組みを利用して行うことができるが、
イ:私法上の契約の性質を有する共用約款上の請求権を根拠として民事訴訟制度を利用して行うこともできるという立法政策を採用していると説示。
  民事p39
東京地裁R3.12.15  
  事業向けファクタリング事業者が勝った事案
  事案 いわゆる事業者向けファクタリング業等を目的とする会社である被告との間で保有する請負代金債権575万円分を代金500万円で譲渡する旨の売買契約を締結
被告の原告に対する債権の売買代金500万円の交付は、「手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によってする金銭の交付」(貸金業法2条1項本文、出資法7条参照)に該当⇒本件債権譲渡契約は、貸金業法に違反する高利息を付した契約であり無効⇒不当利得返還請求権に基づき、譲渡債権の券面額と受領した代金額との差額である75万円の支払を求めた。
  主張 原告:
本件債権譲渡契約においては、原告は被告から金銭の交付を受け、その後、第三債務者から回収した金額を被告に対して支払うことになっている⇒被告から原告に対する債権譲渡代金の交付と原告からの資金の回収が一体となって資金移転の仕組みが構築されている⇒原告は、被告に対して、譲渡債権の価格相当額の支払義務を負っている。
  判断 本件金銭交付は、金銭の貸付けに当たるとはいえない。

①本件債権譲渡契約は、契約書上、売買契約であるとされている
②原告は譲渡債権から回収した限度で被告に支払を行えば足り、譲渡債権緒回収が不能となった場合であっても、被告は原告に対して代金の償還を請求することができず、譲渡債権の回収不能のリスクは被告が負っている。

本件債権譲渡契約は、別異に解すべき事情がない限り、契約書の文言どおり、債権譲渡契約であると認めることが相当。
原告の主張を排斥。
  解説 事業者向けファクタリング:
債権の売買契約の法形式をとりつつ、割引料等を控除して弁済期到来前の債権を売却して金銭の交付を受ける
~手形割引と類似。
経済的機能としては、金融取引の側面がある。
本件のように、債権の譲渡人が債権緒譲受人から債権の回収業務の委託を受け、かつ、債権の譲渡人が債権を全部回収してこれを債権の譲受人に交付

外形上の金銭の動きは、金銭の貸付けを受け、それに対して弁済をする場合と異ならない。
金融庁がこれを、貸金業法の適用対象とする旨の見解を公表、同旨の見解に立つ裁判例も複数出されている。
裁判例:
ファクタリング契約が債権の売買契約であることを前提としつつ、
譲渡債権の回収不能のリスクがどのように分配されているか、
債権の譲渡価格が債権譲渡人の信用リスクを考慮して決定されているかなど、
具体的な事実経過や契約上面を踏まえて検討する傾向。 
  民事p44
仙台地裁R3.3.20  
  消火器のリース契約と消費者契約法等
  事案 消費者契約法2条4項の適格消費者団体であるXが、消費者との間で消火器の保守が含まれるリース契約(本件契約)に関する訪問販売を行っていた特定商取引法2条1項の役務提供事業者であるYらに対し、本件契約条項の一部又は全部は消費者契約法10条により無効⇒同法12条3項等に基づき、本件契約条項の一部または全部を内容とする意思表示の停止等を求めた。 
  契約内容 業務用消火器1台を10年間リース料金2万9800円でリース。
所有権は借主に移転せず、借主は契約終了時にリース物件を貸主に返還する。
借主の申込により、リース物件の保守契約(保守期間10年、保守料金無料) が成立。
①消費者は本件契約を中途解約できないとする条項
②消費者は契約解除時に残余料金を一括して支払うとする条項
③消費者の有権代理人として署名した者は連帯債務を負うとする条項
④リース料金の支払方法は一括前払・月払限り等とする条項
⑤横浜簡裁又は横浜地裁を管轄裁判所とする条項
  争点 ア:前記①~⑤の各条項等の有効性
イ:本件契約条項全部の有効性
ウ:Yらの勧誘行為の特定商取引法該当性
エ:Yらの表示の景表法該当性
オ:Yらによる本件契約締結等のおそれ
  判断   ●(1)本件解約制限条項の有効性
本件契約は、消火器の賃貸借契約と消火器の保守という役務を提供する契約が一体となった契約。本件契約のリース料金2万9800円の中には保守料金が含まれている⇒消火器の保守という役務を提供する契約(法的性質は準委任契約及び請負契約)は実質的に有償契約。

本件解約制限条項は、法令中の公の秩序に関しない規定(民法641条、656条及び651条)の適用による場合に比して消費者の権利を制限する条項(消費者契約法10条前段)に該当し、同条後段にも該当⇒無効。 
  ●(2)本件違約金条項の有効性
Yらは、
①価値ある消火器の返還を受けられる
②本件契約が解除された場合、Yらは消火器の保守義務を免れる
⇒本件違約金条項は特定商取引法10条1項、3号又は4号に違反。
  ●(3) 本件連帯債務条項の有効性 
 連帯債務を負担するという意思表示をした者に対して連帯債務を負わせているにすぎない。
but
借主の代理人は、錯誤(民法95条1項1号)の規定によって、貸主との間の本件連帯債務条項に係る契約を取り消すことができる。
  ●(4)本件一括前払等条項の有効性 
  ●(5)本件合意管轄条項の有効性 
①本件合意管轄条項にかかわらず、義務履行地である消費者の住所地を管轄する裁判所に訴えを提起できる
②同訴訟においてYらが本件合意管轄条項を理由に横浜簡裁又は横浜地裁への移送を申立てても、受訴裁判所は、民訴法17条を類推適用して、同申立てを却下できると解される、
③・・・

本件合意管轄条項は、任意規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する条項とはいえない。
  ●(6)本件契約条項全部の有効性 
無効な条項は個別に修正することが可能⇒本件契約条項全部が消費者契約法10条によっても無効であるとはいえない。
  規定  消費者契約法 第一〇条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
特定商取引法 第一〇条(訪問販売における契約の解除等に伴う損害賠償等の額の制限)
販売業者又は役務提供事業者は、第五条第一項各号のいずれかに該当する売買契約又は役務提供契約の締結をした場合において、その売買契約又はその役務提供契約が解除されたときは、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を購入者又は役務の提供を受ける者に対して請求することができない。

三 当該役務提供契約の解除が当該役務の提供の開始後である場合 提供された当該役務の対価に相当する額
四 当該契約の解除が当該商品の引渡し若しくは当該権利の移転又は当該役務の提供の開始前である場合 契約の締結及び履行のために通常要する費用の額
  解説 ●  消費者契約法10条前段の「公の秩序に関しない規定」すなわち任意規定には一般的な法理等も含まれる(最高裁)。
同条後段の民法1条2項に規定する基本原則すなわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは、消費者契約法の趣旨、目的(同法1条参照)に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考慮して判断(最高裁)。
Yらが控訴、Xらが附帯控訴⇒Yらの控訴を棄却し、Xの附帯控訴及び控訴審における請求の変更に基づきXの請求を全て認容。
本件連帯債務条項及び本件合意管轄条項も消費者契約法10条によって無効。
本件一括前払等条項も消費者にクーリング・オフ期間が徒過していると誤信させるための条項⇒無効。
本件契約条項全部も同条によって無効。
本判決が否定した、勧誘行為の特定商取引法該当性も認め、Yらは消費者との間で「消火器の設置・使用ないし保守点検に関する継続的契約」を締結するに際しての意思表示の停止も求められる。 
  知財p62
大阪高裁R3.9.29  
  意匠の類否判断
  事案 物品「データ記憶機」についての登録意匠に係る意匠権(「本件意匠」「本件意匠権」)を有するXが、Yの製造販売するデータ記憶機(「Y製品」)の意匠及びその外装となるケースの意匠は本件意匠に類似⇒
本件意匠権に基づきYに対し、Y製品及びそのケースの製造販売等の差止め等及び損害賠償の請求。
  争点 侵害論:
①本件意匠とY製品に係る意匠の類否
②Y製品のケースの製造等による本件意匠権の侵害の成否
損害論:
③Xの損害の有無及び額 
  判断   ●争点①
一般論として、
両意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様を全体的に観察するとともに、
意匠に係る物品の用途や使用態様、公知意匠等を参酌して、需要者の最も注意を惹きやすい部分、すなわち要部を把握し、
要部において両意匠の構成態様が共通するか否か、差異がある場合はその程度や需要者にとって美感を異にするものか否かを重視して、
両意匠が全体として美感を共通にするか否かによって判断するのが相当。
それぞれについてそれが基本的構成態様と具体的構成態様のいずれに属するものかを仔細に検討及び認定し、
その上で「物品の需要者、用途及び使用態様」や「公知意匠」を参酌して本件意匠の要部を「基本的構成要素の全てである」と認定してY製品に係る意匠はこの点において共通する。
種々の具体的構成態様に係る差異点については、それぞれ「需要者の注意を惹く程度は低く、意匠全体の印象に与える影響は強くない」等々と評価。
結論として、両意匠は「需要者の視覚を通じて起こさせる美感によれば、類似するというべき。」
  ●争点② 
①本件意匠は物品「データ記憶機」に係る意匠
②Y製品のケースはデータ記憶機のケースにすぎない
⇒データ記憶機と同一又は類似する物品と認めることはできない⇒両社は類似せず、直接侵害は成立しない。
①Y製品のケースがY製品の製造にのみ用いられるものであること
②Yがこれを製造等したことは当事者間に争いがない
⇒意匠法38条1項に基づき間接侵害が成立。
  ●争点③ 
意匠法39条2項の「利益の額」を検討。
Y製品とそのケースについてそれぞれ売上額と経費の額を認定し、
Y製品の需要者が、第1次的には製品の機能を、第2次的にはデザイン性を、販売価格をも考慮に入れつつ評価し、その購入動機を形成する
⇒Y製品やそのケースに係るYの利益の全てが本件意匠と類似する意匠であるY製品の意匠に起因するということはできない。
本件では、Y製品及びそのケースに係るYの利益について、7割の限度で同項による「推定が覆滅されるとするのが相当である」。
推定が覆滅した部分と同条3項との関係に言及し、
推定が覆滅されるとはいえ無許可で実施されたことに違いはない以上、同部分については同項が適用される。
本件については実施料率を5%として算定するのが相当。
これによって算定された「受けるべき金銭の額に相当する額」と先に算定した額とを合わせて、同条2項に基づき算定される損害(逸失利益)とした。
  解説 意匠の類似判断:
一般論として
意匠の類否を判断するに当たっては、意匠を全体として観察することを要するが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して、取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、登録意匠と相手方意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して、両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべき
本判決:
意匠の対比において必要とされる全体観察を
「基本的構成態様及び具体的構成態様を全体的に観察する」ことと定義し、
各構成の対比において、
両意匠が「要部において構成態様を共通にするか否か」だけではなく
「差異がある場合はその程度や需要者にとって美感を異にするものか否か」
を併せて検討する必要がある。
  商事p94
東京地裁R3.9.29  
  証券会社の分別管理義務違反(否定)
  事案 金商法上の金融商品取引業者(金商業者)であるA(証券会社) の取扱いに係る本件レセプト債の取得のために、Aに資産を預託していた原告らが、Aの分別管理義務違反によって預託した資産の返還に係る債務の円滑な履行が困難になった

主位的に、金商法79条の56第1項に基づく補償金の支払等を求め、
予備的に、被告との間で、原告らが同項の認定を受けることができる地位にあることの確認を求めた。
  争点 ①補償対象債権の発生要件
 金商法の文理⇒被告による金商法79条の54に基づく弁済困難の認定が必要。
金商法施行令18条の10:
この認定は、金商業者の「財産状況」並びに金商法43条の2第1項及び2項等の規定による「管理の状況」に照らして、当該債権につき完全な弁済ができないと認められる場合等とする旨規定。

原告らの被告に対する補償対象債権が発生するためには、Aに原告らが預託した顧客資産に係る分別管理義務違反が認められる必要がある。
②分別管理の具体的内容
金商法が規定する分別管理:
金商業者が預かる顧客資産を当該金商業者自身の固有資産と明確に区分して管理することを義務付ける制度。
  主張 主位的には:
A(証券会社)は、本件 レセプト債を管理していたものの、実際には、本件レセプト債が診療報酬債権等の裏付資産を欠いていることを認識しつつ当該払込みを行った⇒このような払込みの効果は原告らには帰属せず、分別管理の対象となる資産は、原告らが預託した金銭にとどまる
予備的には:
Aが、本件レセプト債発行会社に対して、診療報酬債権等の裏付け資産が確保されていなかった本件レセプト債の取得のために原告らから預託を受けた金銭を移動させること(本件資産移動)は、原告らの投資判断に反する行為であって、このような行為も分別管理義務違反を構成するものと解される。
  判断  原告らの各主張を排斥し、Aに分別管理義務違反は認められない。 
  ●  ●主位的主張
  本件レセプト債の法的性質は、本件レセプト債の法的性質は、本件レセプト債発行会社が発行する社債であって、その債券が標章しているのは、募集要項に定められた条件の下、利金の支払や償還期限の到来によりその償還を受けることができる金銭債権にすぎない。
原告らがAに対して委任した事務の内容は本件レセプト債を取得するために預託した金銭を払い込むことに尽き、Aが原告らによって委任された権限外の行為を行ったとは認められない。 
  ●予備的主張 
金商法43条の2第2項は、所定の金銭を「自己の固有財産と分別して管理」することを規定しているのみであるという同項の文理⇒本件資金移動のような払込みのための金銭の移動を含めて規定したものとは解されない。
  解説 投資者保護基金制度は、証券会社が自己の固有資産と顧客資産とを明確に区別して管理すること(分別管理)を怠り、破綻時における顧客資産の確実かつ円滑な返還が困難となった場合のセーフティーネットとして設けられた制度。
証券会社が、投資家の意図に反する形で、債券の払込のために金銭を移動したことも含めて分別管理義務の射程を広く捉えることは、金商法の予定するところではない。
  刑事p114
金沢地裁R3.12.7  
   
  事案 危険運転致死の事案
  主張 弁護人:
自動車死傷法2条4号の「人又は車の通行を妨害する目的」(「通行妨害目的」)について、人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図する場合のほか、通行の妨害を来すことの確定的認識が必要。 
  判断 通行妨害目的:
①人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図する場合のほか、
②危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに、人又は車の自由かつ安全な運行を妨害する可能性があることを認識しながら、あえて走行中の自動車の直前に侵入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転すること(「危険接近行為」)を行う場合も含む。 
被告人は危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに、被害者運転車両に急な回避措置をとらせるなど通行を妨げる可能性があることを認識しながら、あえて危険接近行為を行った
⇒通行妨害目的があった。
  解説 自動車死傷法2条4号(刑旧法208条の2第2項前段)は「人又は車の通行を妨害する目的」(通行妨害目的)を要件とする目的犯。
判例上、本判決と同様に目的の実現について未必的な認識認容で足りるとされた犯罪:
虚偽告訴罪「人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的」
私文書偽造罪「行使の目的」
・・・
通行妨害目的:
A:相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することをいい、これらについての未必的な認識認容があるだけでは足りない
B:積極的意図がある場合のほか、危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに、人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら、あえて危険接近行為を行った場合にも認められる。

通行妨害目的に要件が規定された趣旨を、外形的には極めて危険かつ悪質な行為のうち危険回避等のためにやむをえなくされたものを処罰の対象から除外することにあると捉え、
このような目的犯の構造は背任罪における図利加害目的(「本人の利益を意図していた場合は処罰しない。」という命題の裏側として、処罰すべき「本人の利益をいとしていなかった場合」を表現するために設けられたもの)に類似
2537   
  行政p5
最高裁R4.3.8  
  不実証広告規制について規定した景表法7条2項の憲法適合性が問題となった事案 
  事案 Xが、景表法7条2項は憲法に違反する無効な規定⇒Y(国)を相手に、命令の取り消しを求めた事案。
  原判決  同項による規制は一般消費者の保護という正当な目的のために必要かつ合理的なもの⇒憲法21条1項、22条1項に違反しない。 
  判断 景表法7条2項は、憲法21条1項、22条1項に違反しない⇒上告棄却。 
  規定  第七条
内閣総理大臣は、第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。その命令は、当該違反行為が既になくなつている場合においても、次に掲げる者に対し、することができる。
一 当該違反行為をした事業者
二 当該違反行為をした事業者が法人である場合において、当該法人が合併により消滅したときにおける合併後存続し、又は合併により設立された法人
三 当該違反行為をした事業者が法人である場合において、当該法人から分割により当該違反行為に係る事業の全部又は一部を承継した法人
四 当該違反行為をした事業者から当該違反行為に係る事業の全部又は一部を譲り受けた事業者
2内閣総理大臣は、前項の規定による命令に関し、事業者がした表示が第五条第一号に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす。
  解説    景表法7条 2項を適用して同条1項の規定による命令⇒事業者のした表示が優良誤認表示に該当するものと「みなす」との効果が前提
⇒当該事業者は、その取消訴訟において、
①当該事業者が当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を資料を提出しない旨の消費者庁長官の判断を争うことができる一方、
②当該表示が優良誤認表示に該当しないこと自体を主張立証することはできないこととなる。
他方、当該表示について、景表法8条3項を適用して課徴金納付命令(同条1項)がされる場合もあるが、同項では当該表示が優良誤認表示に該当するものと「推定する」とされるにとどまる
⇒当該事業者は、①及び②のいずれもできる。

過去の行為を捉えた処分である課徴金納付命令に関して「みなす」との効果を認めると、事業者の財産権等の保障に支障を来たすおそれがあるため。

「みなす」との効果まで認める景表法7条2項が、事業者の(営利的)表現の自由及び営業の自由を過度に規制するものではないか?が問題となる。

景表法7条2項と同様の立法技術を採用した例として、特定商取引法52条の2、54条の2、東京都消費生活条例51条3項等がある。
  営利的表現の自由も、憲法上保障される(学説)。 
表現の自由に対する憲法適合性について、最高裁:
いわゆる利益衡量論を基本的な判断枠組みとして採用し、制限の必要性の程度と、制限される自由の内容や性質、具体的制限の態様や程度等とを衡量して決すべき。
憲法22条1項は、最高裁判例により、営業の自由を保障する趣旨を包含するものと解されている。
経済的自由の制約を伴う立法の憲法適合性について、最高裁判例は、利益衡量論を基本的な判断枠組みとした上で、規制措置の具体的内容及びその必要性と合理性については、立法府の判断が合理的裁量の範囲内にあるかを判断する枠組みを採用。
  景表法7条2項の憲法適合性 
規定新設の趣旨:
消費者庁長官は、優良誤認表示を排除する措置命令をするには、商品又は役務(以下「商品等」)の品質、規格その他の内容(以下「品質等」)が当該表示のとおりでないことを具体的に立証する必要があるが、その立証には専門機関を利用した鑑定等が必要であるために多大な時間を要し、その間に当該商品等の販売又は提供がされ続ければ被害が拡大するおそれがある。
・・・・・
合理的な根拠のない表示については、結果的な内容の真偽はともかく、迅速に規制することが必要。

景表法7条2項の目的は(優良誤認表示に係る立証の負担を軽減し)事業者との商品等の取引について自主的かつ合理的な選択を阻害されないという一般消費者の利益をより迅速に保護することにある⇒公共の福祉に合致することは明らか。
景表法7条の手段としての必要性・合理性:
商品等の品質等を示す表示をする事業者は、その裏付けとなる合理的な根拠を有していてしかるべきであって、このように解することが事業者にとって酷であるとはいえない。

同条2項により事業者がした表示が優良誤認表示とみなされるのは、当該事業者が一定の期間内にその裏付けとなる合理的な根拠を示すものと客観的に評価される資料を提出しない場合に限られる⇒同項が適用される範囲は、前記の目的を達成するために必要な限度を超えることのないよう、合理的に限定されている。

①措置命令の性格(将来における違法行為の抑止それ自体を内容とするものであること)や
②前記のような同項の趣旨

同項が適用される場合の措置命令は、当該事業者が裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を備えた上で改めて同様の表示をすることを何ら制限するものではないと解される⇒これによる事業者の営業活動に対する制約の程度も限定的。

景表法7条2項に規定する場合に事業者がした表示を優良誤認表示とみなすことは、前記の目的を達成するするための手段として必要かつ合理的であり、そのような取扱いを定めたことが立法府の合理的裁量の範囲を超えるとはいえない。

景表法7条2項が憲法21条1項、22条1項に違反しない。
  民事p7
最高裁R4.3.24  
  被害者との間での人傷一括払合意で、自賠責保険から損害賠償額の支払を受けた場合⇒被害者の加害者に対する損害賠償請求権の額からの全額控除(否定)
  事案 交通事故により傷害を受けた被害者であるXが加害者であるYに対して損害賠償請求をした事案。 
被害者を被保険者とする人身傷害条項のある普通保険約款が適用される自動車保険契約(「人傷保険」)に関して被害者に対して金員を支払った保険会社(「人傷社」)が、自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)から自賠法16条1項に基づく損害賠償額の支払として受領した金員相当額について、被害者の加害者に対する損害賠償請求権の額から全額控除することができるか?
  解説 交通事故の発生につき過失がある被害者に人傷社が保険代位(保険法25条又は保険約款に基づく請求権代位)する被害者の加害者に対する損害賠償請求権の範囲については、人傷保険金の額と過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が過失相殺前の損害額を上回る部分に相当する額の範囲であるとされ(裁判基準差額説)、各損害保険会社は、保険約款中の人身傷害条項に裁判基準差額説を前提とする代位条項を設けている。

人傷社による支払金全額が人傷保険金である場合、人傷社が被害者の自賠法16条1項に基づく請求権を行使して受け取った金額が人傷保険金の支払による代位額を超過することが生じ得る。
本件でも、Xを被保険者とする人身傷害条項のある普通保険約款(「本件約款」)が適用される自動車保険契約を締結した保険会社(本件「人傷社」)がXに支払った金員(「本件支払金」)により保険代位する範囲<<<本件人傷社がXの16条請求権を行使して自賠責保険から損害賠償額の支払いとして受領した金員
⇒本件代位以外に人傷社が自賠責保険から損害賠償額の支払を受ける法的根拠があるかが問題。
本件:いわゆる人傷一括払により支払われた本件支払金の中には、自賠責保険からの損害賠償額の支払分が含まれている⇒Xが本件人傷社に自賠責保険による損害賠償額の支払の受領権限を委任したかが争点。
対人賠償条項(賠償責任条項)の定める保険(「対人賠償保険」)の実務:
対人賠償保険:
同じく責任保険である自賠責保険の上積み保険(対人賠償保険金の上積み保険(対人賠償保険金を支払う損害保険会社(「対人社」)は「自賠責保険(共済)によって支払われる金額」については保険金給付義務を負わない。)であるが、保険約款外のサービスとして、対人社が自賠責保険分を含めて被害者に一括して支払うといういわゆる対人一括払が広く行われている。対人社は、一括払後、自賠責保険に対し、加害者から自賠法15条に基づく請求権(「15条請求権」)の行使の委任を受けたとして清算請求を行う。) 
被害者を被保険者とする傷害保険である人傷保険は、自賠責保険の上積み保険ではないが、対人一括払と同様に、人傷一括払が広く行われている。
人傷一括払においては、人傷社が、被害者に対し、自賠責保険を含めて保険金を一括して支払うか否かの選択肢を示し、その意思を確認した上で、人傷社が16条請求権を行使することの同意書又は承諾書の提出を求め、その後、保険金支払の際に、その支払を受けたときには16条請求権は支払保険金の限度で人傷社に移転するという内容の同意書又は協定書の提出を求めるのが一般。
そして、人傷社は、一括払後、自賠責保険に対し、被害者の16条請求権を保険代位したとして清算請求を行う。
  原判決  ①Xと本件人傷社との間では、Xが本件人傷者から受領する保険金には自賠責保険金が含まれるとの合意があったものということができ、
②Xは、本件人傷社に対し、受領した人傷保険金の限度で自賠責保険金の受領権限を委任したものと解される

本件人傷社は、Xの委任に基づき本件自賠金の支払を受けたものであり、Xは、これに先立ち本件支払金を受領したことにより本件自賠金の支払を受けたことになると解すべき
⇒Xの損害倍方請求権の額から本件自賠金に相当する額を全額控除することができる。
  判断 ①被害者を被保険者とする人身傷害条項のある自動車保険契約を締結していた保険会社が、被害者との間で、前記条項に基づく保険金について自賠責保険による損害賠償額の支払分を含めて一括して支払う旨の合意(いわゆる人傷一括払合意)をし、前記条項の適用対象となる事故によって生じた損害について被害者に対して金員を支払った後に自賠責保険から損害賠償額の支払を受けた場合において、保険会社が前記保険金として保険給付をすべき義務を負うとされている金額と同額を支払ったにすぎない
⇒被害者の加害者に対する損害賠償請求権の額から、保険会社が前記金員の支払により保険代位することができる範囲を超えて前記損害賠償額の支払金相当額を控除することはできない。

XのYに対する損害賠償請求権の額から、本件人傷社が本件支払金の支払により保険代位することができる範囲を超えて本件自賠金に相当する額を控除することはできない。
  解説 ●人傷社が自賠責保険から損害賠償額の支払として受領した金員相当額>保険代位する範囲
の場合に、当該受領金全額について被害者の損害賠償請求権の額から控除することができるか?
本判決:
本件支払金に自賠責保険による損害賠償額の支払分が含まれるとする合意の有無について、
ア:
自賠責保険から損害賠償額の支払を受けていないときにはこれを考慮することなく本件約款所定の基準に従って人傷保険金が算定されているものとされている⇒人傷一括払の合意をしたとしても、本件人傷社が人傷保険金として給付義務を負うとされている金額と同額を支払ったにすぎないときには、保険金請求者(被害者)としては人傷保険金のみが支払われたものと理解するのが通常である上、本件支払金の中に自賠責保険からの支払分が含まれており、当該支払分の全額について本件人傷社が自賠責保険から損害賠償額の支払を受けることができるものとすると、別途、人傷保険金を追加払しない限り、被害者の損害の填補に附則が生ずることになり得るが、このような事態が生じる解釈は、当事者の合理的意思に合致しない。
受領権限の委任の有無について、
イ:
Xの提出した保険金請求書及び協定書の説明内容は、本件約款の内容と併せて考慮すると、Xが本件人傷社に対して自賠責保険による損害賠償額の支払の受領権限を委任する趣旨を含むものとは解されない。
いずれの合意も否定し、保険代位する範囲を超えて本件自賠金相当額をXの損害賠償請求権の額から控除することはできない。
上記ア

対人賠償保険とは異なり、人傷保険では、人傷保険金額(アマウント)の範囲内で支払がされる限り、自賠責保険部分も保険給付の対象であることから、人傷一括払の合意をする被害者としては、人傷保険金の追加払が生じ得るような立替払をしてもらう利益はなく、そのような合意をする意思を有していたとは解し難い。

保険実務:
保険約款所定による基準にほる被害者の損害額>人傷保険金額
の場合(いわゆるアマウントオーバーのケース)、人傷保険金額と同額の保険金を支払った上で、人傷社が自賠責保険から損害賠償額の支払を受けた金員相当額を被害者に追加払するという運用。このような場合における当事者の意思解釈についてはまでは本判決の説示は及ばない。
上記イ

本件人傷社が用いた保険金請求権及び協定書の書式は、自賠責保険に対する生産方法の実務に従い、対人賠償保険(一括払に関する記載がある)については加害者の15条請求権の行使の委任に関する説明内容が、
人傷保険(一括払に関する記載はない)については被害者の16条請求権の保険代位に関する説明内容がそれぞれ記載されているにすぎない。
⇒これらの説明内容をもって16条請求権の行使による受領権限を委任するものとは解されない。
  民事p12
東京高裁R4.2.4  
  生活保護費と婚姻費用
  事案 X:妻
Y:夫
  原審 Xが受給している生活保護費は、Xの収入と評価できない⇒婚姻費用として月額13万円の支払等を命じた。 
  判断 生活保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われ、民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべての生活保護法に優先して行われる(生活保護法4条1項、2項)⇒X及び子らの生活を維持するための費用は、まずはX及び子らに対して民法上扶養義務を負うXによる婚姻費用の分担によって賄われるべきであり、生活保護費をXの収入と評価することはできない。
Xの潜在的稼働領力:
Xの病歴や障害等級、就労実績、医師の見解、現状の状況等⇒当面は就労することが困難⇒潜在的稼働能力を認めなかった。
  解説  権利者ではなく、義務者が生活保護を受給している場合
A:義務者の収入として扱うべきでない(秋武)
←生活保護費が、生活に困窮する受給者に対して最低限度の生活を保障するために支給
B:義務者の収入として扱うべき 
←配偶者や子に対して生活保持義務を負っている
  潜在的稼働能力 
総収入の認定:実収入によるのが原則
but
就労が制限される客観的、合理的事情がないのに、敢えて稼働しないなど、実収入をもとに算定することが公平の観点から許されないような場合⇒潜在的稼働能力をもとに実収入を犠牲することも許容される。
潜在的稼働能力に基づき収入の認定をすることが許されるの:
就労が制限される客観的・合理的事情がないのに主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず、そのことが婚姻費用の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される特段の事情がある場合でなければならない(東京高裁)
⇒就労が制限される客観的、合理的事情の有無等を検討した上で、慎重に運用。
  民事p16
東京地裁R3.2.19  
  「重大な過失」あり⇒補填金支払請求が棄却された事案
  事案 Xが、盗取されたキャッシュカードのうちの1枚に係る預貯金等契約を締結している金融機関であるYに対し、偽造カード法5条に基づく補償金支払請求として、当該キャッシュカードを用いて行われた、XがYに開設した口座からの現金自動支払機による預貯金払戻しの額に相当する金額の4分の3に相当する金額及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。 
  争点 本件払戻しがXの「重大な過失」により行われたか否か。 
  判断  本件払戻しがXの「重大な過失」により行われた⇒XのYに対する補填金支払請求を棄却。 
  「重大な過失」:
預貯金者において、真正カード等の管理、暗証番号の管理等に関し、通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、自らの預貯金等契約に係る預貯金口座から機械式預貯金払戻しが行われる結果をたやすく予見することができた場合であるのに、漫然こpれを見過ごしたような、故意と同視し得る著しい注意欠如の状態をいう。
  X:わずかの注意さえすれば、警察官をかたるCに対して本件被告カードの暗証番号を知らせた場合、C又はその関係者によって、当該暗証番号及び別途入手した本件被告カード又はその偽造カード等を用いるなどして、本件被告口座から機械式預貯金払戻しが行われる結果となることをたやすく予見することができたのに・・・Cに対して当該暗証番号を知らせるという行為を行った。
  ・・・・・Dのいる自宅玄関先に本件被告カードの入った封筒を置いたまま自宅居室に赴くという行為を行った。

Xには、わずかの注意さえすれば、本件払戻しが行われる結果をたやすく予見することができた場合であるのに、漫然これを見過ごしたような、故意と同視し得る著しい注意欠如の状態、すなわち「重大な過失」が認められる。
  解説 「重過失」概念:
相対的であって、各局面においてその意義が明らかにされる必要がある。
「重大な過失」について、
偽造カード法の目的に加えて、法律案の提出者が、その趣旨説明において、典型的には、故意と同視し得る程度に注意義務に著しく違反する場合であり、具体的には、預貯金者が、暗証番号の管理に関して、
①他人に暗証番号を知らせた場合、
②暗証番号をキャッシュカード上に書き記した場合や、
キャッシュカードの管理に関して、
③自らキャッシュカードを安易に第三者に渡した場合、
そして、これらと同等程度以上に注意義務違反が著しい場合に限られると考えている旨の説明を行っている
「重大な過失」の有無については、
当該貯金者の職業、年齢等の具体的な属性を基礎として判断するとの見解も考えられるが、
本判決は一般通常人を基準に判断するとの見解を採った上で、「重大な過失」を肯定。
Xが、本件払戻当時、キャッシュカード及び暗証番号の果たす役割、重要性等を理解することができない、第三者にキャッシュカードを渡す行為及び暗証番号を知らせる行為という客観的な行為自体の意味内容を認識できないなどの能力の状態
⇒本件払戻しにつき「重大な過失」が否定される余地もある旨も説示。

その理論的位置づけについては、今後の議論が期待。
  民事p29
大阪地裁R3.8.24  
  請負契約締結についての詐欺による不法行為(否定)の事案
  事案 株式会社であるXが、学校法人であるZから平成27年12月頃に受注した小学校の新築工事にかかる請負契約の締結に際し、Zの理事長であったY1及びその妻Y2において、Zには、当時、本件請負契約の報酬を支払う能力がなく、同報酬を支払う意思もないのに、これがあるかのように装い、Xを欺罔して本件請負契約を締結させたことが不法行為(詐欺)に当たる
⇒Zが経営破綻したことにより回収不能になった請負報酬債権等の一部について共同不法行為に基づく損害賠償請求及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
  争点 ①本件請負契約の報酬額
②Y1の不法行為の成否
③Y2のY1との共同不法行為の成否 
  判断 ・・・・
本件小学校の建築等に係る補助金ないし助成金として、2億円程度の交付が見込まれていたこと
平成28年10月12日には、銀行との間で極度額を10億円とする金銭消費貸借契約を締結していたこと等の事情

Zが、本件請負契約締結時において、本件請負契約の報酬である15億5520万円をその最終残金の支払時期までに調達するだけの資力ないし能力がなかったものと評価するのは相当ではない。 
Y1が、本件請負契約締結の際に、請負報酬の半額を架空の助成金で支払う旨を告げた事実については、請負報酬の弁済期を遅らせることで請負報酬の支払をより確実にするための方便であったにとどまる⇒Y1の欺罔行為及び詐欺の故意を否定。
Y1に不法行為が認められない⇒Y1の不法行為を前提に主張するY2の不法行為も認められない。
  解説 契約当事者である法人が無資力であるため、法人の代表者に対し、詐欺を理由に責任追及をする事案は、実務上散見される。 
契約締結後に債務者が支払ないし返済不能に陥ることは、あり得る。
これを詐欺として構成するには、契約締結時点において、代金支払の意思も能力もないのに、これを秘して契約締結したことを主張・立証する必要。
法人の役員等に対し、法人の支払能力に関する責任追及をする場合の訴え:
①過失を内容とする不法行為
②役員等の任務懈怠を内容とする第三者責任の追及(株式会社について会社法429条1項、一般社団法人について一般社団法人法117条1項、学校法人について私立学校法44条の3第1項)等
で、本件は、詐欺を理由とする故意の不法行為責任のみが問題となった事案。
  民事p40
大阪地裁R4.6.20  
  同性婚を認めていないことについての国賠請求等(否定)
  事案 同性の者との婚姻届けを不受理されたXらが、
①同性間の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の規程は、憲法24条、13条、14条1項に違反する
②Y(国)が必要な立法措置を講じていないことが国賠法1条1項の適用上違法
⇒Yに対して同項に基づき慰謝料の支払を求めた。
  争点 ①本件諸規定が憲法24条、13条、14条1項に違反するか
②本件諸規定を改廃しないことが国賠法1条1項の適用上違法であるか 
  解説  本件:
同性の相手との婚姻を望むXらが、本件諸規定は同性間の婚姻を認めていない規定であると解釈した上で、本件諸規定について、
①婚姻をするについての自由は同性間の婚姻についても及ぶ⇒憲法24条、13条に違反
②現在の婚姻制度における取扱いは性的指向による差別⇒憲法14条1項に違反
として本件諸規定の無効を主張。
札幌地裁判決:
本件諸規定は憲法24条、13条に違反しないが、憲法14条1項に違反。
but請求棄却。
Xら:本件諸規定を民法又は戸籍法の諸規定であるとするにとどまり具体的に特定していない
but
これらの諸規定の中には直接同性間の婚姻を禁止する文言はない
⇒本件諸規定がXらの主張するとおり同性間の婚姻を禁止する条文であるのか自体、本来議論の対象となり得、仮に無効となる場合に本件諸規定のどの部分が違憲無効となるのかという問題もある。
  同性婚の婚姻をするについての自由が憲法上保障されているか?
A:憲法24条1項
B:憲法13条
C:及ばない 
◎  本判決:
憲法24条1項の「婚姻」は同性間の婚姻は含まれない

①文理
②制定経緯等
包括的人権規定である憲法13条によっても保障が及ばない
憲法24条1項が、同性間の婚姻を禁止しているとまではいえない。

①旧来の家制度の否定がその趣旨であったという憲法24条1項の制定過程
②同性間の婚姻を許容することは個人の尊厳を重んじる憲法の普遍的な価値に合致
同性愛者の権利利益について更なる検討を加え、社会の中でカップルとして公に認知されて共同生活を営むことができることについての利益(公認に係る利益)は同性愛者にも認められるべき人格的利益であり、憲法24条2項の判断において考慮されるべきであると説示。
  ●憲法24条2項における憲法適合性 
本判決:
「当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し、当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという観点」から判断
~最高裁H27.2.16に従ったもの。
同最高裁判決と同様
憲法24条の「要請、指針は、単に、憲法上の権利として保障される人格権を不当に侵害するものではなく、かつ、両性の形式的な平等が保たれた内容の法律が制定されればそれで足りるというものではないのであって、憲法上直接保障された権利とまではいえない人格的利益をも尊重すべきこと・・・についても十分に配慮した法律の制定を求めるものであ」るとし、
公認に係る利益を前記のとおり尊重されるべき人格的利益に当たるものとして、
この点に配慮して本件諸規定から成る現行婚姻制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響について多角的に検討し、本件諸規定事態が立法裁量の範囲を超えるものか否かを判断。

同性カップルに対して公認に係る利益を実現する方法には現行の婚姻も含め様々な方法が考えられ、そのうちどのような制度が適切であるかについては、国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因や、各時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた上で民主的過程において決められるべきであり、現段階ではいまだその議論の過程にあって、司法が介入すべき時期ではないという判断。
  本判決:憲法14条1項適合性の判断の前に憲法24条2項の判断を示している。
上記最高裁判決のように「両性」の平等が問題になる場面では、憲法24条2項を「13条、14条においてはすくい上げることができなかった様々な権利や利益、実質的平等の観点等を立法裁量に限定的な指針を与えるもの」と捉えて最後に検討することが論理的。
but
本件は、憲法24条2項にいう「両性」の本質的平等の問題であなく、同項のいう「個人の尊厳」の問題⇒憲法13条ではすくい上げることができなかった同性カップルの権利利益について、更に「個人の尊厳」の見地から憲法24条2項の憲法適合性を検討し、その後で、性的指向による取扱いの差異について憲法14条1項の憲法適合性の判断をした。
  ●憲法14条1項における憲法適合性 
本件諸規定が憲法24条には違反しない
⇒同条により立法措置がとられることが「明示的に要請されている異性間の婚姻と、それが要請まではされていない同性間の婚姻との区別取扱いが、憲法14条1項における合理的な根拠に基づかない差異であるといえるかという観点から検討。
  札幌地裁:
同条において同性間の婚姻が精神疾患であるとの誤った知見に基づくもの⇒本件諸規定が同性愛者に対し婚姻による法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供していないことは立法裁量の範囲を超えている⇒憲法14条に違反 
but
憲法24条には違反しないこととの関係は必ずしも明らかではない。
本判決:
憲法24条1項が異性間の婚姻しか認めていない⇒憲法が異性間の婚姻と同性間の婚姻を同程度に保障しているとまではいえず、本件区別取扱いは憲法秩序に沿ったもの。
現在生じている差異の程度も、本件諸規定の下で緩和されつつあり、かつ今後立法上の手当てをすることによって更に緩和され得る⇒憲法14条1項に違反するとまではいえない。
  刑事p60
東京高裁R4.1.12  
  東京都迷惑防止条例違反の事例 
  事案
  原審  撮影された動画の本数(3本)や時間(Aが写っているのは数秒以内)、内容(足元、左半身、後ろ姿と左横からの姿)⇒
性的な部分を狙ったものとはいえず、また、Aを付け狙うなどの執ようさも認められない
⇒本件条例5条1項3号に想定する「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を憶えさせるような行為であって」「人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること」(「本件禁止行為」)該当性を否定し無罪。 
  判断 原判決を破棄し、被告人を懲役8月に。
本件条例の趣旨⇒
衣服を着用した身体を撮影し、又は衣服を着用した身体を身体に対して写真機等を構える行為であっても、その意図、態様、被害者の服装、姿勢、行動の状況や、写真機等と被害者との位置関係等を考慮し、被害者や周囲の人から見て、衣服で隠されている下着又は身体を撮影しようとしているのではないかと判断されるものについては」本件禁止行為に当たると解するのが相当。
  解説  原判決:
あくまで、被告人が実体として性的に意味のある部位を狙っていたかどうかを決定的な事情と捉え、この点が否定されれば本件禁止行為該当性は認められないと解している。
本判決:
「被害者や周囲の人からどう見えるか」といういわば「らしさ」論を重視し、少なくとも、衣服で隠されている下着または身体を撮影しようとしているのではないか、と思われるようなら本件禁止行為該当性を肯定してよいと解している。

迷惑防止条例の保護法益は被害者個人の法益ではなく、当該都道府県ごとの社会的法益、すなわち、県民生活の平穏。
  刑事p67
岡山地裁R3.11.29  
  殺人で心神耗弱の事案
  事案 殺人の事案
  判断  被告人は、犯行当時、統合失調症の影響により心神耗弱の状態にあった。
捜査段階で被告人の精神鑑定を行った医師の証言が信用できることを前提に、関係証拠により争いなく認められる本件に至る事実経過等を詳細に認定して、被告人の責任能力を検討。
心神耗弱の状態にあることをうかがわせる事情:
被告人は、統合失調症の影響で、
被害者が被告人の結婚等に反対していると思い込み、
これに不満を述べても被害者は取り合ってくれないとの思いを強め、
攻撃性や衝動性を高めた結果、
被害者の殺害を決意し、深夜に就寝中の被害者を包丁で刺そうと考え、
それまでの間、交際相手から犯行を思いとどまるよう促されたりした中でも、被害者を殺害することしか考えられない心理状態に至り、
被害者を殺害することを思いとどまることができなかったものとうかがえる。

被告人が、犯行当時、統合失調症の影響で行動制御能力が低下していた。
犯行当時、完全責任能力を有していたことをうかがわせる事情
被害者に結婚等を反対されたと思い込んだ2日後、相談支援専門員に対し、兄を指してしまいそうだなどと相談し、犯行前日に被害者の言動等に興奮した時も、いったんは落ち着きを取り戻し、その場で直ちに犯行に及んだわけではない
⇒一定程度衝動を制御する能力は残っていた。
・・・・用意周到かつ冷静に犯行に及んでおり、被害者の殺害という目的に向けて一貫性のある合理的な行動をとっている。
・・・・自分の行動が違法であり、逮捕等されてしばらく帰れなくなるようなことであると認識していたといえ、善悪の判断能力や状況認識に問題はない。
  ①犯行時に合理的な行動をとっている
②一定程度衝動を制御する能力が残っていた
③被害的解釈による思い込みに捉われての犯行ではあるが、完全な被害妄想といえるものでhなあい

行動制御能力が低下している程度については、著しいといえるほどには至っていないと考える余地もなくはない。
but
被害者を殺害しなければ自由がないという思い込み自体が統合失調症の精神症状といえる病的なもの⇒そのように認定するには疑問もあり、被告人が完全責任能力を有していたと認めるには合理的な疑いが残る。

被告人は心神耗弱の状態にあったと認めるのが相当。
  刑事p70
神戸地裁R3.11.30
  兵庫県迷惑防止条例にいう「卑わいな言動」該当性(否定事例)
  事案 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例3上の2第1項1号の「人に対する、不安を覚えさせるような卑わいな言動」に当たるとして起訴 
  判断・解説 ●「卑わいな言動」の意義・判断方法 
①社会通念上、性的道義的観念に反する下品でみだらな言語または動作をいい、
②その該当性は行為態様や犯行当時の状況、被害者及び被告人の関係等の客観的事情に照らして判断すべきものであって、性的な動機や目的があることを要しない
③卑わいな言動該当性は、当該事案の具体的状況を前提として、被害者の立場に置かれた一般通常人を基準に判断すべき。
●  ●「卑わいな言動」該当性
①大多数の男性の性的対象は女性であると認識されている⇒男性の男性に対する身体的接触が性的意味を有すると認識される度合いは小さい。
②臀部の性的意味の程度は、性的部位の中では比較的低く、また、女性よりも男性の方が低い
③臀部を叩くという行為は、特に男性に対しては、冗談、励まし、注意、体罰など、様々な意味でなされる⇒臀部が性的部位であることから臀部への接触が原則的に性的意味を有するということはできない。
本件各行為は、
①男性である被告人が②男子③小学生の④臀部を⑤1回軽く叩くという行為態様
⇒卑わいな言動に当たると解することは困難。
2536   
  特報p44
最高裁R4.5.25    
  在外邦人国民審査権行使制限憲法適合性訴訟
  事案 在外国民であるX3は、Y(国)に対し、
主位的に、次回の国民審査において審査権を行使することができる地位にあることの確認を求め、
予備的に、YがX3に対して国外に住所を有することをもって次回の国民審査において審査権の行使をさせないことが憲法15条1項、79条2項、3項等に違反して違法であることの確認を求めた。 
X1~X5は、Yに対し、国会において在外国民に審査権の行使を認める制度(「在外審査制度」)を総説する立法措置がとられなかったことにより、同日に施行された国民審査において審査権を行使することができず精神的苦痛を被った⇒国賠法1条1項に基づく損害賠償を求めた。
  規定 憲法 第一五条[公務員の選定罷免権、公務員の性質、普通選挙・秘密投票の保障]
公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
憲法 第七九条[最高裁判所の構成等]
②最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
③前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
④審査に関する事項は、法律でこれを定める。
  判断  裁判官審査法が在外国民に国民審査に係る審査権の行使を全く認めていないことは、憲法15条1項、79条2項、3項に違反する。 
国が在外国民に対して国外に住所を有することをもって次回の国民審査において審査権の行使をさせないことが憲法15条1項、79条2項、3項等に違反して違法であることの確認を求める訴えは、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法。
国会において在外審査制度を創設する立法措置がとられなかったことは、次のア~ウなど判示の事情の下では、平成29年国民審査の当時において、国賠法1条1項の適用上違法の評価を受ける。
ア:国会においては、平成10年、在外国民に国政選挙の選挙権の行使を認める制度を創設する法律案に関連して、在外審査制度についての質疑がされた。
イ:平成17年、最高裁大法廷判決により在外国民に対する選挙権の制約に係る憲法適合性について判断が示され、これを受けて、同18年の法改正により在外国民に国勢選挙の選挙権の行使を認める制度の対象が広げられ、同19年、在外国民に憲法改正についての国民の承認に係る投票の投票権の行使を認める法律も制定された。
ウ:在外審査制度の創設に当たり検討すべき課題があったものの、その課題は運用上の技術的な困難にとどまり、これを解決することが事実上不可能ないし著しく困難であったとまでは考え難い。
   
原判決中Xらの損害賠償請求を全部棄却すべきものとした部分を破棄し、
第1審判決中当該請求に係る部分についてのYの控訴を棄却するとともに、Xらのその余の上告、Yの上告及びX3の附帯上告を棄却。
  争点  ①裁判官審査法が在外国民に審査権の行使を全く認めていないことの憲法適合性
②本件違法確認の訴えの適法性
③本件立法不作為が国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるか
  解説   ●  ●争点① 
最高裁H17.9.14:
憲法は、国民主権の原理に基づき、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を国民に対して固有の権利として保障しており、その趣旨を確たるものとするため、国民に対して投票をする機会を平等に保障しているものと解するのが相当

選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない。

選挙権又はその行使の保障に重要な意義があることに鑑み、その制限については、厳格な基準による合憲性の審査がされるべき。
本判決:
国民審査に関わる憲法の規定等を掲げ、
再構成の地位と権能につき、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所であること(憲法81条)等を指摘し、
これらを踏まえて、
憲法は、選挙権と同様に、国民に対して審査権を行使する機会を平等に保障しているものと解するのが相当である。

国民の審査権又はその行使を制限することは原則として許されず、これらを制限するためには、やむを得ないと認められる事由がなければならない。

選挙権と同様、審査権又はその行使の保障に重要な意義があることに鑑み、その制限について、厳格な基準による合憲性の審査がされるべきものと判断。
裁判官審査法が定める投票用紙の調整や投票の方式に関する取扱い等を前提
⇒在外審査制度を創設することについては、在外国民による国民審査のための期間を十分に確保し難いといった運用上の技術的な困難があることを否定することができない。
but
現在の取扱いとは異なる投票用紙の調製や投票の方式等を採用する余地がないとは断じ得ない。

在外国民の審査権の行使を可能にするための立法措置が何らとられていないことについて、やむを得ない自由があるとは到底いうことができない。

裁判官審査法が在外国民に審査権の行使を全く認めていないことは、憲法15条1項、79条2項、3項に違反。
  ●争点② 
本件違法確認の訴え:公法上の当事者訴訟のうち公法上の法律関係に関する確認の訴え(行訴法4条後段)と解され、その適法性については両様の考えがあり得る。
行訴法 第四条(当事者訴訟)
この法律において「当事者訴訟」とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。
憲法 第八一条[法令等の合憲性審査権]
最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
憲法 第九九条[憲法尊重擁護義務]
天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
本判決:
憲法79条2項、3項により、国民に保障された審査権の基本的な内容等が憲法上一義的に定められている⇒在外国民につき、具体的な国民審査の機会に審査権を行使することができないという事態が生じる場合には、そのことをもって、個々の在外国民が有する憲法上の権利に係る法的地位に現実の危険が生じている。
侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができないという審査権の性質
②仮に本件違憲確認の訴えにつき違法を確認する判決が確定したときには、国会において裁判所がした判断が尊重されるものと解される(憲法81条、99条参照)

本件違憲確認の訴えが、国と個々の在外国民との間の法律関係の存否(次回の国民審査の機会に審査権の行使をさせないことが違法であるか否か)に関する争いを解決するために有効適切な手段。

①法律上の争訟性
②確認の利益
を肯定。
宇賀補足意見:
当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、法令の適用によって終局的に解決できるもの⇒法律上の争訟の要件を満たす。
次回の国民審査の前に、審査権を行使することができる地位を有することを確認することは有効⇒確認の利益も認められる。

予備的請求として提起された本件違法確認の訴え:
抽象的に法令の違憲審査を求めるものではなく、次回の国民審査において、自らの審査権を行使することができないことの違法の確認を求めるもの⇒法律上の争訟といえる⇒憲法32条により、実効的な裁判を受ける権利が保障されていなければならず、それは、立憲主義の要請。

平成17年判決の趣旨:
違法確認の訴えも法律上の争訟⇒他のより適切な訴えによってその目的を達成することができない場合には、確認の利益が認められるが、当該事件では、地位確認の訴えの方がより適切な訴えであるので、確認の利益が否定されるという趣旨。

地位確認の訴えに係る請求を認容するこたできず、他に適切な救済方法がない本件において、違法確認の訴えに係る確認の利益を認めるという解釈は、平成17年大法廷判決の趣旨に適合。
憲法 第三二条[裁判を受ける権利]
何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
  ●争点③ 
国会議員の立法行為又は立法不作為を理由とする国賠請求の可否について、
仮に立法の内容が憲法の規定に違反するものであるとしても、直ちに国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。
but
例外的に同項の適用上違法の評価を受けることがあり、その判断に当たっては、
①法律の規定の違憲性が明白でああるか否か、
②国会がこれを正当な理由なく長期にわたって放置しているか否か
という観点からの検討が求められる。
国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、
それが明白であるにもかかわらず
国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る
ときは、前記の例外的な場合に当たる。
当てはめにつき、
①平成10年法律第47号による公職選挙法改正の際に、国会において在外審査制度についての質疑が行われたことや
②平成17年大法廷判決及びそれ以後の立法の動向等の事情を指摘

遅くとも平成29年国民審査の当時においては、在外審査制度を創設する立法措置をとることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠ったものといえる。
  民事p59
広島高裁R4.2.25  
  死亡保険金請求権について民法903条の類推適用による特別受益に準じた持ち戻しを否定した事例
  事案 遺産分割事件において、被相続人を保険契約者兼被保険者とし、共同相続人の1人を死亡保険金の受取人とする定期保険特約付終身保険及びがん保険に係る各保険契約に基づく死亡保険金請求権について、民法903条の類推適用により特別受益に準じて持ち戻す(当該死亡保険金の額を被相続人が相続開始の時において有した財産の額に加える)べきか否かが争われた事案。
抗告人:被相続人の母
相手方:被相続人の妻
  争点 被相続人が自らを被保険者として、保険金受取人を共同相続人の1人である相手方として締結していた定期保険特約付終身保険及びがん保険に係る各保険契約に基づく死亡保険金合計2100万円を民法903条の類推適用により特別受益に準じて持ち戻しの対象とすべきか。
  事案 遺産分割の対象となった財産:預貯金等合計459万665円
それ以外の相続開始時に存在した遺産(預貯金等合計313万3034円)については、預金が引き出されるなどして現存しておらず、当事者間においてその使途等について争いがある。
抗告人:C国籍
被相続人は日本国籍
⇒本件の準拠法は日本法(法適用通則法36条)
本件死亡保険金に係る保険:
①保険料払済みとなるまでに被相続人(被保険者)が死亡した場合に定期保険に係る死亡保険金が支払われる定期保険特約付終身保険(被相続人が相手方と婚姻した後に変更された後の保険料月額1万2000縁、死亡保険金額2000万円)
②がんを原因とする死亡について死亡保険金が支払われるなどするいわゆるがん保険(保険料月額約2000円、死亡保険金100万円)
  原審 本件死亡保険金の遺産総額に対する割合は非常に大きい
but
①被相続人と相手方の婚姻期間及び同居期間並びに被相続人と相手方の生計の状況など

本件死亡保険金は、被相続人の死後、妻である相手方の生活を保障する趣旨のものであり、このことに加えて、
②本件死亡保険金の額が夫婦間の一般的な生命保険金額と比べてさほど高額なものとはいえないことや、
③抗告人と被相続人との関係などの事情

相手方と抗告人との間に不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存するとは認められない
⇒民法903条の類推適用による特別受益に準じた持戻しを否定
  判断 原審判で指摘された事情

相手方が、子がなく借家住まいで、その年齢にも照らし本件死亡保険金により生活を保障すべき期間が相当長期間にわたることが見込まれる一方、
抗告人が、被相続人の父(抗告人の夫)の遺産であった不動産に長女及び二女と共に暮らしていることなどの事情

前記の特段の事情が存するとは認められない。
⇒原審判と同結果。 
  解説   平成16年最高裁判決:
被相続人を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき本件金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらない
but
保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、特別受益に準じて持戻しの対象となる。

死亡保険金請求権が特別受益として持戻しの対象となるのか否かについて原則否定説を採った上で、例外的な処理をすべき場合も判断要素を明らかにしたもの。
基本的には、保険金の額、この額の遺産総額に対する比率の客観的な事情により、著しい不平等が生じないかを判断。
さらに、身分関係や生活実態等その他の事情からそれが公平を損なうといえないかどうかを判断。
  裁判例アイウ
肯定例:
相続開始時の相続財産の総額に対する死亡保険金の総額の割合:
ア約99%(1億129万円/1億134万円)
イ約61%(5154万円/8423万円)
否定例:
ウ:6.1%(428万円/6993万円)
平成16年最判:9.6%(574万円/5958万円)
本判決:
本件死亡保険金の総額2100万円が被相続人の相続開始時の遺産総額(772万3699円)の約272%(約2.7倍)
本件で遺産分割の対象となった財産の評価額(459万665円)の約457%(約4.6倍)
but
本件死亡保険金の額及び趣旨、各当事者の被相続人との関係(同居の有無、生計同一の有無等を含む。)や現在の生活実態等の諸事情を総合考慮して、民法903条の類推適用を否定。

本件に係る保険金額が被相続人の生前の生活実態に照らして課題であるといえない⇒民法903条の類推適用が認められる特段の事情の有無を検討するに当たり、保険金の額やこの額の遺産総額に対する比率等の客観的な事情により著しい不平等が生じないかを判断することを基本に据えるという考え方から逸脱するものとはいえない。
  保険金額が遺産総額の少なくとも3分の1を超える状況にある事案においては特段の事情を肯定する方向で検討をする必要が生じる(遺産分割の理論と審理)。 
  民事p66
福岡高裁那覇支部R3.1.21  
  本会議の撮影不許可処分と憲法違反(否定)
  事案 ドキュメンタリー映画製作のため、沖縄県議会本会議の撮影許可を申請⇒不許可処分(本件処分)

①本会議の撮影行為の許可制を定める同県議会傍聴規則15条は、地自法115条に反し、また、Xの報道・取材の自由を侵害するものとして憲法21条に反する
②本件規則が合憲・適法であるとしても、本件処分は、憲法14条1項、21条1項に反し、裁量権を逸脱・濫用するものとして違法
③沖縄県議会事務局が、Xに撮影許可を得るために必要な資料等の教示をしなかったことは不法行為に当たる
⇒Y(沖縄県)(被控訴人)に対し、国賠法1条1項又は民法709条に基づき、慰謝料等の支払を求めた。
  争点 ①Xが報道・取材の自由を有するか
②本件規則の地自法115条1項本文適合性
③本件規則の憲法21条1項適合性
④本件処分の憲法14条、21条1項適合性、裁量権の逸脱・濫用の違法の有無
⑤県議会事務局の対応による不法行為の成否
  原判決 争点①:
ドキュメンタリーも事実に基づく表現であり、報道の要素を含む等⇒Xにも憲法21条により報道の自由が認められ、取材の自由が尊重される。
  本判決   ●争点②: 
憲法は、住民自治を機能させる不可欠の前提として、会議の公開を制度として保障しており、地自法115条1項本文はこの憲法の要請を明記したもの。
but
同項にいう「公開」とは、その文言や憲法上の要請に照らし、会議の傍聴、会議録の閲覧および会議内容の発信・報道を自由に行うことができるようにすることであり、会議の撮影はこれらのための不可欠な行為ともいえない
⇒本件規則が、同項本文に反するということはできない。
  ●争点③: 
報道の自由は憲法21条の保障のもとにあり、報道のための取材活動としての撮影行為の自由についても、同条の精神に照らし、十分尊重に値する。
but
このような撮影行為の自由も、他の憲法上の要請等から必要かつ合理的な制限を受けることはあり、同制限が許容されるかは、制限の目的、その目的のために制限が必要とされる程度、制限される自由の内容・性質、具体的な制限の態様・程度を衡量して決せられる。
本件規制の目的は、撮影行為によって、会議の秩序が乱され、公正かつ円滑な議事の運営が訴外されることを防止される点にあり、憲法上重要な意義がある。

自由な撮影を許容した場合には、撮影した映像の切取り・編集等により不正確かつ公平・公正を欠く発信や、議員、参考人、傍聴人のプライバシーに関わる事項などについての撮影・発信がされる可能性があり、その心理的圧迫から議員らの活動に萎縮効果を与えたり、市民に会議の傍聴を差し控えたりするおそれがある。
このような弊害等は、文書名地によって不適切な発言がされる場合と比べて格段に大きく、その事後的な払拭が困難⇒撮影の許可制を定める必要性は肯定できる。
他方、
本件規則は傍聴人による発信や発信内容自体、撮影以外の取材行為を制限せず、これにより会議の内容についての発信等が不可能又は困難になるものとはいえない。

地方議会の自律的な権能が尊重されるべきもの

本件規則は、前記目的達成のために必要かつ合理的な範囲のものであり、憲法21条1項に反しない。
  ●争点④: 
①報道機関による会議の撮影に公益上の必要性があること、
②会議の内容を正確かつ公平に報道することができる能力・資質を有する報道機関であれば、撮影による弊害が生じるおそれが乏しいこと
③他方で議長が常にこの点につき個別的判断をすることは困難

このような能力・資質を備える報道機関であることが制度的に担保される基準を設定し、これを充たす傍聴人に包括的な撮影許可を与える取扱いには合理性はある。

県政記者クラブ等の加入要件等⇒その会員又は準会員について、前記能力・資質を備えている報道機関であることが制度的に担保されているとみることに相応の合理性はある。

地方議会の自律性の陽性から本件規則に基づく会議の撮影の許否の判断が議長の広汎な裁量に委ねられている。

前記先例に従った取扱いは、合理的根拠を有し、憲法14条1項に反しない。
①Xが典型的なマスメディアではなく、類似の前例もなく、
②Xの情報が乏しく、申請が本件会議の4日前にされたものであって、撮影による弊害のおそれが乏しいと判断するのが困難な状況にあり、
③本件会議で採決が予定されていた議案等に関しては、政治的意見の対立があったなどの事情

本件処分に係る判断が全く事実の基礎を欠き、又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるとはいえず、裁量権の逸脱・濫用の違法があったとはいえない。
  解説 表現の自由の制約の合憲性判定基準については、学説上、LRA等の厳格な審査基準によるべきとの見解
but
近年の最高裁判例は、
①一定の利益を確保しようとする目的のために制限が必要とされる程度と、
②制限される自由の内容及び性質、
③これに加えられる具体的制限の態様及び程度等
を具体的に比較衡量するという利益衡量の判断手法をとり、
その過程で、
規制される人権の性質、規制措置の内容・態様等に応じて、その処理に必要な一定の厳格な基準ないしはその精神を併せて考慮して適用するという態度。 
最高裁H1.3.8:
法廷における筆記行為の自由について、表現の自由そのものとは異なるとして、その制限に関して厳格な基準が要求されない。
本判決:
本件規則の憲法21条1項適合性につき利益衡量の判断手法を採った上で、撮影行為による弊害や取材の自由の制限の態様・程度等を衡量してその合憲性を導いている。
その際、制限の態様が必要最小限度のものであることまでは要求していない。
←撮影行為の自由が表現の自由そのものではないことや地方議会の自律性といった点を考慮。
憲法14条1項適合性:
判例は、法的取扱いの区別が「事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくもの」といえるかによって判断。
法律による区別に関する多くの判例は、立法府に合理的な範囲の裁量が認められることを前提として、その広狭に応じ、立法目的の合理性、目的達成のための手段・方法の合理性を具体的に検討して判断するという基本的枠組み。 
本件の先例に従った取扱いは、法律による区別ではない
but
本判決:
撮影の許可の判断が議長の広汎な裁量に委ねられているとした上で、前記判断手法に従い、県政記者クラブ等に所属する報道機関に限って包括的な許可を与えることの合理性を具体的に検討し、合憲性を導く。
  民事p73
福岡地裁R3.11.25  
  高校生の自殺と災害共済給付金請求・遅延損害金
  事案 X1及びX2の子であるCは、平成29年4月自殺を図り、心肺停止状態で搬送されたものの、同日死亡。 
本件学校は、Cと中が良かったDEFGを含む生徒等から聞き取りやアンケート等を実施、平成29年7月には本件自殺の調査を行う目的で第三者委員会を設置。
・・・いじめ防止対策推進法上のいじめに該当すると認めらるが、本件自殺との間には因果関係がないとの調査報告
福岡県知事は、再調査を決定し、再調査委員会を設置。
・・・いじめ防止対策推進法上のいじめに該当すると認めらるが、本件自殺については友人関係のトラブル以外に家庭問題や部活動における悩み等の複合的な要因が考えられ、いじめが本件自殺の主原因とは断定できない。
本件学校は、独立行政法人日本スポーツ振興センター法に基づき設立されたYに対し、災害共済給付金(死亡見舞金)の請求を行った。
⇒Yは、本件自殺が災害共済給付金支払事由である「学校の管理下において発生した事件に起因する死亡」に該当するとは認められない等として、災害給付金の不支給決定。
⇒X1及びX2が同不支給決定に対して不服審査請求を申立てた⇒不支給決定を変更しない旨の決定。

X1及びX2が、本件自殺が「学校の管理下において発生した事件に起因する死亡」に当たると主張して、Yに対し、センター法が規定する災害共済給付金及び遅延損害金の支払を求めた。
  争点 ①本件自殺が「学校の管理下において発生した事件に起因する死亡」に該当するか
②災害共済給付金支給請求権の発生時期及び遅延損害金の起算点 
  判断 ●争点① 
Dらの一連の行為は通常の対人関係における不和にとどまらないいじめとして、学校の管理下において発生した事件に当たる。
Cと仲が良かった女子グループの関係性やいじめが行われた時期、Cが自殺直前にEに送信した重要なメッセージ(本件自殺に責任がある者としてDFEを名指しするもの)等

Cはいじめにより孤立感等を高めるとともに精神的に不安定になっていた中で、Eとの不和が決定的になったことを機に学校生活について絶望感を募らせ、人間関係から逃避し、いじめに対する抗議等の意を示すために自殺を図った。
報告書②が指摘する両親の離婚問題や部活動における問題が本件自殺の原因となったとは考えられない

本件自殺は専らいじめが主たる原因となって生じた「学校の管理下において発生した事件に起因する死亡」に該当。
●争点② 
センター法に基づく災害共済給付金の支払請求権は、Yの支払決定によって生じるものではなく、当該事件がセンター法及びその関係法令等が定める要件を客観的に充足する場合に当然に発生。
センター法施行令の規定⇒その履行期は、給付金の支払請求を受けてから、当該請求内容が適正であるか否かを審査するための相当の期間を経過した日であると解するのが相当。
本件訴訟においては、Xらによる書証提出やX2の本人尋問等が実施されており、Yは、遅くとも本件口頭弁論終結時にはXらによる給付金支払請求の適否を審査するために必要となる情報を全て入手していたと認められる

災害共済給付金の支払請求を認容するとともに、口頭弁論終結時の翌日からの限度で遅延損害金請求を認容。
  労働p83
福岡高裁R3.12.9  
   
  事案 地方公共団体であるYとの間に雇用契約を締結し、Yが設置・運営する図書館において館長としt4え勤務していたXが、Yに対して未払の法内残業代金、法定時間外割増賃金を請求する権利を有する旨主張⇒雇用契約に基づく賃金(未払残業代等)請求権に基づき、未払残業代等及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるとともに、
労基法114条に基づく付加金支払請求権に基づき、Yに対し、付加金及びこれに対する遅延損害金の各支払を求めた。 
  判断 労基法41条2号の趣旨、行政実務や裁判例の大勢に沿って、公立図書館の館長として期間付きで雇用された労働者につき、
①図書館の館務を掌握し、職員を監督するという図書館法13条2項等で規定されている公立図書館の館長の職務の特殊性や権限の内容
②労働時間に関して当該労働者が有していた裁量の程度や労働時間管理の実態、
③他の一般職員及び管理監督者との給料面での待遇の比較等の視点から具体的な検討
⇒管理監督者該当性を肯定し、Xの控訴を棄却。
  解説 労基法41条は、労働時間、休憩及び休日に関する規制の除外を定めている。
その代表的な労働者が、管理監督者(2号)。
その趣旨:
①管理監督者の場合、職務及び責任の重要性に照らし、企業経営上の必要から、労基法所定の労働時間等を超えて事業活動をすることが求められ、勤務実態等に照らし、労働時間等による規制になじまない(企業経営上の必要性)
②管理監督者の場合、職務の内容、権限及び勤務実態等に照らし、労働時間等に関する規定の適用を除外されても、労働時間を自由裁量によって定めることができる⇒労基法1条の基本理念、労基法37条の趣旨に反するような事態(過重な長時間労働等)が避けられ、労働者保護に欠けることにならないであろう(労働者保護の要請との関係)
職制や地位の名称に捉われず、実態に即して判断されるべき。
①職務の内容、権限及び責任の程度、
②実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無及び労働時間管理の程度、
③賃金(基本給、手当、賞与)等の待遇の内容及び程度
を管理監督者該当性の主な判断要素とした。
より具体的な視点で判断
ex.
職務内容が少なくともある部門全体の統括的な立場にあるか
部下に対する労務管理上の決定権限等につき一定の裁量権を有し、人事考課・機密事項に接しているか
管理職手当などで時間外手当が支給されないことを十分に補っているか
自己の出退勤を自ら決定する権限があるか
  刑事p97
名古屋地裁R3.9.21  
  死刑確定者との信書発受の不許可処分が違法とされた事例
  事案 死刑確定者として名古屋拘置所に収容されているXが、名古屋拘置所長が、Xの信書の発受を許さなかったことが違法⇒Y(国)に対し、国賠法1条1項に基づく損害賠償を求めた。 
  判断  処分の内容が告知されてから3年が経過していたものについては、消滅時効を肯定。
  ●本件各発受不許可処分の違法性 
刑事収用法139条の趣旨⇒同条1項3号にいう「死刑確定者の心情の安定に資すると認められる信書」とは、死刑確定者が、来るべき死刑の執行による自己の死を待つことによる精神的な苦悩や同様を克服し、あるいはコントロールできる状態になることに直接に又は間接に資する内容のものをいう。
but
発受の相手方との交流自体が心情の安定に意味を有することが少なくない
⇒同号所定の信書に該当するか否かの判断に当たっては、厳格に信書の内容だけから判断するものではなく、発受の相手方との交友関係を十分考慮すべき。

刑事収用法139条2項は、同項所定の要件に該当するかの判断について、刑事施設内の実情に通暁し、刑事施設の規律及び秩序の維持その他適正な管理運営の責務を負う刑事施設の長の合理的裁量に委ねたものと解される一方、
この要件に該当する以上、刑事施設の長は当該信書の発受を許さなければならない。
一定期間以上外部交通をすることで交友関係を形成していた者からのXを気遣い、その誕生日を祝う旨の信書等、信仰上の交友関係を形成していた者からの祈りの言葉等を記載した信書や、これらの者に対する年賀状等は、Xが精神的な苦悩や動揺を克服し、あるいはコントロールできる状態になることに資するものであって、刑事収用法139条1項3号の信書に該当

このような信書の発受を許さなかった名古屋拘置所長の措置は、国賠法1条1項の適用上違法。
  ●  以上のほか、Xに対して差し入れられた物品について差入人に引取りを求めるなどしたことや書籍等の一部を抹消した上でXに閲覧させるなどしたことについても一部違法

Xの請求を合計20万5000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容。 
  解説 ●消滅時効
  最高裁H23.4.22:
被害者における加害行為の違法性の認識については、一般人であれば当該加害行為が違法であると判断するに足りる事実を被害者において認識すれば足りる
死刑確定者が信書の受信を許可されない場合、当該信書の発信者を知ることになる⇒当該発信者との関係等からして刑事収用法139条1項各号のいずれかに該当する(したがって、信書の受信を許可されるべきである)ことを認識することができる。
逐条解説刑事収容施設法(有斐閣) 
  刑事p125
千葉家裁R4.3.29  
  ぐ犯保護事件及び強制的措置許可申請事件
  事案 児童自立支援施設入所中の14歳の少年が
保護者である同施設の正当な監督に服さず、3回にわたり職員に暴行を加えてけがを負わせ、窓ガラスを割るなどし、将来においても暴行、傷害、器物損壊等の罪を犯すおそれがあるというぐ犯の事案及び少年に対する矯正的措置許可申請の事案
  決定 ①ぐ犯保護事件について、少年を児童自立支援施設に送致
②強制的措置許可申請事件について、事件を児童相談所長に送致し、強制的措置を許可
施設内でのルールを遵守せず、感情をコントロールできずに粗暴な行為が続いており、施設内に限られたものとはいえ、その非行の危険は大きい。
少年は、自閉症スペクトラム障害等の資質面を有しており、幼少期の被虐待経験を始め、被受容感や愛情を感じることができにくい家庭環境において、情緒の安定性が育まれず、社会適応力全般の発達が阻害されている。
その愛着形成の問題から、周囲の身近な大人に対する愛情の求め方が不適切出謝ったものとなっており、規則の不遵守や粗暴な言動により構ってくれるだろうという誤学習が生じている。
少年の母は単独で監護養育を行うことは困難で、現在の施設では指導困難。
 ・・・・
少年院送致までの必要はなく、少年を児童自立支援施設に送致することが相当。
少年の行状から、必要な処遇を行うためには強制的措置をとる必要があり、施設の準備が整う予定の日から2年の間に通算120日を限度として許可することが相当。
  解説   ●児童自立支援施設と強制的措置
  児童自立支援施設:
不良行為をなし、又はなすおそれのある児童等を入所させ、必要な指導を行い、その自立を支援する施設(児福法44条)。

寮で生活し、中学校の分校等に通学するなどの家庭的な雰囲気の下で行われる解放処遇が実施されており、中学生を中心とした年少少年が対象とされることが多い。
but
少年が自傷他害をし、無断外出をするなどの場合には、
少年の行動の自由を制限する強制的措置(閉鎖施設への入所等)が必要となる場合があり、
人権保障の観点から、都道府県知事又は児童相談所長は家庭裁判所の許可を求めなければならない(児福法27条の3、少年法6条の7第2項)。 
家裁は、これを許可する場合には、決定により、期限を付して強制的措置をとることができる旨を明示した上で、事件を児童相談所長に送致(少年法18条2項)。
実際に強制的措置が実施されているのは、2か所だけ。
文献。
  ●年少少年の児童自立支援施設送致に関する処遇選択のあり方
児童相談所に一時保護中であったり、児童自立支援施設に入所中の年少少年について、
児童相談所長からぐ犯等の事件送致がされた場合、収容処遇を選択するとしても、
児童自立支援施設送致と少年院送致のいずれを選択するのかが問題となることが多い。
本決定:
専門的な教育を施す必要性を認めつつ、
①少年の問題性が愛着形成に起因するものであること
②問題行動が施設内に限定されていることや少年の内省状況等

少年院送致までの必要はなく、児童自立支援施設送致が相当。
本件は、すでに児童自立支援施設において指導困難となっている⇒強制的措置を前提。
but
①本件のぐ犯事由が生じるまでは施設において概ね落ち着いて過ごせていた
②本件の調査審判による働きかけの結果
⇒福祉的な支援による原則的な解放処遇で足りるものと判断。
  ●強制的措置許可の可否 
強制的措置が必要となるのは、少年が心理的に不安定になり、自傷他害や無断外出のおそれがあるなど、解放処遇による指導が困難となる場合。
本決定では、少年の行状から、必要な処遇を行うためには強制的措置が必要。

本件のぐ犯事由が施設職員の指導に抵抗した際の暴行等を内容としており、解放処遇にyる指導が困難となるおそれがぐ犯の内容から明らか。
強制的措置の日数:
本決定では、申請どおり、2年の間に通算120日を限度として許可。
強制的措置の期間:
問題行動があった場合、1回につき、原則3週間/2週間以内で運用。