シンプラル法律事務所
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判例時報の勉強会用の資料です(随時更新)
2588 | ||||
民事p21 熊本地裁R5.2.10 |
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事案 | Y(熊本市)の設置する小学校に通っていたXが、在籍するクラス担任であった教諭Aから、違法な体罰や発言を受けた⇒Yに対し、国賠法1条1項に基づく275万円の慰謝料等の支払を求めた。 | |||
・・・Aは、Xが帰宅するのを制止しようと、教室の扉付近にいたXの背後から、右手でXの左手首を掴んでXを教室に引き戻し、Xと生体してその首元を掴んだ上、Xを窓側にあったXの席の近くまで5メートル程度の距離を押した(「本件行為」)。 | ||||
・・ 同日の6限目の授業中に、Xを含むクラスの児童全員の前で、Xに対し、 ①「お前は、はっきり言ってクソだ。」 ②「もう学校に来なくていい。」 といい、 同クラスの児童全員に対し、 ③「もうXとは話すな。」「Xとは関わるな。」「友達は選びなさい。本当にこの人といたら楽しい、安心できるとう友達と過ごしなさない。」と言った後、 さらに、Xに対し、 ④「親に言っても無駄だ。俺は撤回しないから。」 と発言。 |
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判断 | ● | 公務員として職務上尽くすべき注意義務を怠ったことをもって違法とする職務行為基準説を前提に、 教諭の行為の目的、態様等に照らして、教諭が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱した場合に、国賠法1条1項にいう違法性があるとの判断枠組みを採用。 |
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● | 本件行為: Xに課された目標枚数の折り鶴を提出させることを目的とするもの⇒その目的自体は、指導の一環として不合理とはいえない。 but その態様は、 ①身体への危険性があったこと ②目的達成のために他にとりうる方法が考えられたこと ⇒ 教育的指導の範囲を逸脱したものとして違法であり、過失が認められる。 |
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● | 本件発言: ①Xを含むクラスの児童全員の前でされたものであり、その内容が、Xを侮辱するもの(発言①) ②Xを学校生活から排除するもの(発言②③) ③発言①~③についてXに対して親権者への口封じをするもの(発言④) ④Xの態度に憤慨したAが感情の赴くままに本件発言に及んだ経緯がある ⇒ その目的自体が不合理であり、指導の一環と評価することはできず、教育的指導の範囲を逸脱したことは明らかで違法であり、少なくともその過失が認められる。 |
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● | Xが一定の肉体的・精神的苦痛を負ったことは否定できない。 but 本件行為は、その目的自体は生活指導の一環として不合理とはいえず、単発的、一回的な行為 ⇒慰謝料として1万円。 |
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本件発言: Xを含むクラスの児童全員の前で、指導としてではなく、感情の赴くままにされた不合理なものであり、違法にXの権利を侵害することを認識しながら行われた行為であると推認できる。 ⇒ 本件発言全体として合計10万円の慰謝料を認めるのが相当。 |
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規定 | 学教法11条[児童・生徒・学生の懲戒] 校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。 |
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解説 | 懲戒が「体罰」に及んではいけないことはもちろん but 「教育上必要がある」とはいえない場合にも懲戒することができないなど、教員の懲戒権の範囲には一定の制約がある。 ⇒ 「体罰」に該当しない教育目的による懲戒であっても、その態様等によっては、「教育上必要がある」とはいえないものとして、国賠法1条1項の適用上違法と判断されることがある。 |
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公立小学校の教員が、悪ふざけをした2年生の男子を追い掛けて捕まえ、その胸元をつかんで壁に押し当て大声で叱った行為が、その目的、態様、継続時間等から判断して、教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく、学教法11条ただし書にいう体罰に該当せず、国賠法上違法とはいえない(最高裁)。 ~ 教員が児童に対してして有形力が軽微な事案についての事例判決であり、一般的な判断基準を示したものではない(調査官解説)。 but 学教法11条に基づく懲戒の違法性に関し、その教育上の目的、態様、継続時間等を総合考慮して判断をした点については、一定の先例性がある。 |
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本判決: 最高裁が示した考慮要素を踏まえつつ、教諭が児童に対してすることが許される教育的指導の範囲を逸脱した場合に、国賠法1条1項にいう違法性があるとの判断枠組みを採用。 |
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知財p26 知財高裁R4.10.20 |
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事案 | 「椅子式マッサージ機」等とする特許権A~Cを有するXが、Yによるマッサージ機(Y製品)の製造、販売等が同特許権を侵害すると主張して、Yに対し、Y製品の製造・販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、損害賠償請求をした事案。 | |||
原審 | Y製品は、特許権A湯折Cの技術的範囲に属さない⇒Xの請求をいずれも棄却。 | |||
判断 | YによるY製品の販売等が特許権Cの侵害に当たる⇒Y製品の販売等の差止請求を認容。 | |||
XがY製品との競合品を輸出・販売していたとの事実を基礎として特許法102条2項を適用し、また、同項による損害額の推定が覆滅された部分に同条3項が適用される場合がるものとして損害額を算定し、Xの請求を一部認容。 | ||||
規定 | 第一〇二条(損害の額の推定等) ・・・ 2特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。 3特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。 ・・・ |
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解説 | ● | 特許法102条2項適用の要件と、同項の推定覆滅部分に対する同条3項の適用の可否。 | ||
◎ | ◎2項適用の要件 | |||
紙おむつ処理容器事件判決(知財高裁): 権利者が特許を実施していない場合であっても、「特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合」には2項の適用がある。 |
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実務上は、概ね、権利者が、特許実施品の「競合品」を販売しているときには2項が適用できるものと解されている。 | ||||
本判決: 特許権者が、競合品(侵害品と需要者を共通にする同種の製品であって、市場において、侵害者の侵害行為がなければ輸出又は販売することができたという競合関係にある製品)を販売している場合に2項を適用できる。 「競合品」について、特許実施品である必要はなく、特許発明と同様の作用効果を奏することも要しない。 ~ 2項が適用できる場合の1事例を示したもの。 |
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◎ | ◎2項の推定覆滅部分に対する3項の適用の可否 | |||
本判決: 侵害行為により特許権者が受けた損害は、 ①侵害行為がなければ自ら販売等できて実施品又は競合品の売上の減少による逸失利益と、 ②実施許諾の機会(ライセンスの機会)の喪失による得べかりし利益 とを観念し得る。 ⇒ 2項による損害額の推定が覆滅される場合に、推定覆滅部分について、特許権者が実施許諾をすることができたと認められるときは、3項が適用される。 |
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そして、推定覆滅事由には、 ①侵害品の販売等の数量について特許権の販売等の実施の能力を超えることを理由とするものと、 ②それ以外の理由によって特許権者が販売等をすることができないとする事情があることを理由とするものがあるところ、 ①については、特段の事情のない限り3項が適用 ②については、特許権者が実施許諾をすることができたかどうかを個別的に判断すべき。 |
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◎ | 知財高裁の大合議判決として初めて、2項の推定覆滅部分について、3項が適用される場合があることを示した。 | |||
刑事p153 東京地裁R5.6.13 |
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事案 | 被告人が路上で通行人の背部をペティナイフで突き刺して傷害を負わせた殺人未遂とその際のペティナイフの不法携帯の事案。 | |||
争点 | 責任能力と故意の有無 | |||
主張 | 検察官: 被告人は統合失調症による幻覚の著しい影響を受けて本件犯行を行ったが、残された正常な精神機能によって本件犯行を行った部分もあり、心神耗弱の状態にあった。 |
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弁護人: 被告人は統合失調症による幻覚の圧倒的な影響を受けて本件犯行を行った⇒心神喪失を主張。 |
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故意について: 殺人未遂について、死亡という結果以前の「人」の認識に関わるもの。 |
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鑑定 | 起訴後に精神鑑定を行った医師の鑑定意見は、被告人は、本件犯行当時、統合失調症にり患していたほか、境界線の知的機能(境界知能)であり、統合失調症の症状は、幻聴や幻視の異常体験が非常に活発となって最も悪化しており、幻聴等の程度は非常に混乱を来す程度に重かった。 | |||
判断 | ||||
2587 | ||||
p5 大阪地裁R5.9.27 |
ノーモア・ミナマタ第2次近畿訴訟第1審 | |||
事案 | 水俣病にり患したと主張する患者128名が、メチル水銀の排出企業であるチッソ㈱に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めるとともに、国及び熊本県に対し、規制権限の行使を怠るなどしたとして、国賠法1条1項に基づく損害賠償を求めた。 | |||
判断 | 患者らがいずれもメチル水銀へのばく露により四肢抹消優位又は漸進性の感覚障害等の症状を生じており、水俣病にり患。 除斥期間等に関する被告らの主張を排斥し、患者1名当たり275万円の限度で請求を認容。 |
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経緯 | 公害健康被害の補償などに関する法律に基づいて、水俣病にりり患しているとの認定を受けた患者は、同法に基づく補償を受ける。 行政:昭和52年判断条件 but 未認定者による多数の訴訟が提起。 |
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①水俣病関西訴訟控訴審判決: 昭和52年判断条件より広い範囲で水俣病へのり患を認定 国についてはいわゆる水質2法に基づく規制権限の行使を怠ったことによる責任 熊本県については県漁業調整規則に基づく規制権限の行使を怠ったことによる責任 を肯定。 |
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②同訴訟上告審判決: 原審の判断を基本的に是認。 |
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⇒ 水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法(特措法)が平成21年7月に交付・施行。 救済を受けるべき人々があたう限りすべて救済されること(3条) 公健法に基づく判断条件を満たさない者であっても、対象地域に1年以上居住していたといったばく露に関する条件及び四肢抹消優位又は漸進性の感覚障害が認められるといった症状に関する条件を満たす ~ 事業者からの一時金等の支給がされる。 |
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● | ●病像及び診断基準 | |||
◎ | ◎疫学の位置付け | |||
原告ら: 過去の疫学調査及びこれを基にした津田教授の研究によれば、 メチル水銀のばく露地域に居住していたことと感覚障害との間に明らかな疫学的因果関係が認められる。 ~ 個々の患者におけるメチル水銀ばく露の事実と現在の感覚障害との法的因果関係を認める上での重要な根拠。 |
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被告ら: 疫学は集団を対象とするものであり、直ちに個々の患者における法的因果関係の判断のためにもちいることはできない。 疫学調査には各種のバイアスが介在。 |
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疫学的な知見を考慮すべきことに言及する最高裁判決がある一方で、 これまでの裁判例には、疫学的研究の限界を指摘し、事実認定の上で重視しないものが目立っていた。 |
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本判決: 疫学的因果関係が認められることは、法的因果関係を判断する上で重要な基礎資料となるとして津田教授の研究に信頼性を認めた。 水俣病のり患の判断に当たっては、 ①メチル水銀ばく露の事実が認められ、 ②四肢抹消優位又は全身性の感覚障害が認められることをを前提とした上で、 他の症候の有無、発症に至る経緯、他原因の可能性の有無等の個別的事情を総合的に考慮するのが相当。 |
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◎ | ◎遅発性水俣病 | |||
前記①判決: 遅発性水俣病の存在を認めつつ、除斥期間の起算点との関係で、転居(摂食中止)から遅くとも4年を経過した時点において客観的に最初の存在が発生していたとした第1審判決を指示。 前記②判決:原審の認定した事実関係の下では、転居から遅くとも4年を経過した時点が除斥期間の起算点となるとした原審の判断も是認し得る。 but 同判決は、遅発性水俣病に関する事実認定の当否について判断したものではない。 |
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本判決: 複数の研究報告を踏まえ、遅発性水俣病の存在を認めた上、特定の年数をもって発症時期を限定することはできない。 |
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● | ●ばく露の判断基準 | |||
◎ | ◎地理的範囲 | |||
本判決: 国が定めた暫定的規制値より低い水銀値の魚介類であっても、個人の感受性や魚介類の接触涼によって水俣病の発症リスクが認められる。 その上で、熊本県及び鹿児島県における毛髪水銀値の調査結果や、魚介類の水銀値の調査結果等を基に、水俣病を発症し得る程度のばく露が広範囲に広がっていた。 |
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特措法の対象地域外である各地域について、漁業や魚介類の流通の状況を個別に検討し、これらの地域の居住者でも、不知火海の魚介類を多食したと認められる場合には、水俣病を発症し得る程度のばく露が認められる。 | ||||
◎ | ◎昭和44年以降の汚染状況 | |||
地租が排水を停止した後の昭和44年以降について、人体や魚介類の水銀値に関する調査結果等 ⇒ 少なくとも、昭和49年1月に水俣病に仕切網が設置されるまでの時期に、水俣湾又はその近くで獲られた魚介類を多食した者は、感受性の程度によっては水俣病を発症し得る程度にメチル水銀を摂取したと推認される。 |
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● | ●個別の患者についての検討 | |||
個別の患者について、生活歴を認定した上、いずれもメチル水銀中毒症を発症し得る程度のばく露があった。 医師らが集団検診等で作成した共通診断書を基に四肢抹消優位又は全身性の感覚障害等の症候を認め、糖尿病や変形脊椎症等の他原因では当該症候を説明できない。 ⇒ 水俣病にり患している。 |
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● | ●除斥期間 | |||
水俣病の場合を含め、身体に蓄積する物質が原因で人の健康が害される、おとによる損害や、一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる疾病による損害のように、当該不法行為により発生する損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合 ~ 当該全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となる(確立した判例)。 ⇒ 損害の発生時期の認定が次の問題。 |
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被告ら: (1)ばく露終了(転居時若しくは排水停止後間もない時期)から最大4年間の潜伏期間経過時、又は (2)各患者の自覚症状出現時が損害の発生時期に当たる。 vs. 対(1):上記②判決は、摂食中止から4年以内に水俣病の症状が客観的に現れるという原審の認定を前提として、4年経過時が除斥期間の起算点となるとした原審の判断を是認⇒遅発性水俣病にそのまま適用することはできない。 対(2): 自覚症状の出現をもって損害の発生と評価できるか? 集団予防接種によるB型肝炎ウイルス感染訴訟で、最高裁H18..6.16: B型肝炎と診断された時を除斥期間の起算点として採用している but 同判決については、診断時より前に発生しているとの認定がないため、診断時を発症時とみているにすぎないとの指摘もされている。 |
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本判決: ①神経学的検査等によって確認可能な程度に症状が出現する時期と自覚症状の出現時期が一致するとは限らない ②遅発性水俣病について、ばく露終了から特定の期間内に症状が客観的に現れると認めることができない ⇒ 共通診断書により水俣病と診断された時が損害の発生時期すなわち除斥期間の起算点。 |
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民事p137 東京地裁R4.12.26 |
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事案 | Xは、離婚した元配偶者であるAから、不法行為に基づく損害賠償を求める訴えを提起された(別件訴訟)。 別件訴訟において、Aは、Xが腎臓病にり患していることを秘して婚姻したことが告知義務に違反し、不法行為を構成すると主張。 |
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Aは、別件訴訟において、Xが婚姻前に腎臓病にり患していることを認識していたことを立証する目的で、都道府県から¥Xに対する医療受給者証の交付の有無及び時期等の調査を東京都福祉保健局に求める旨の調査嘱託の申立て⇒Xは、同申立ては立証の必要性に欠け、探索的調査であることを理由に、申立ての却下を求める旨の意見書を提出⇒受訴裁判所は、同申立ての採否を留保。 | ||||
Aの代理人弁護士は、東京弁護士会に対し、Xの腎臓病の治療経過及びインフォームドコンセントの実施状況について、Z病院に弁護士法23条照会の申出⇒弁護士会が23条照会⇒Yは、Xの入院時に作成された診療録、所見さの結果に係る報告書及び治療実施に当たっての同意書等の各写しを送付。 | ||||
本件: Xが、Yに対し、Yが本件報告を行ったことはXの人格権等を侵害⇒不法行為又は債務不履行に基づき損害賠償を求めた。 |
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判断 | XとYとの間の診療契約上の付随義務として、Yは、Xに対し、Xの診療経過等を含む診療上知り得た患者の秘密を正当な理由なく第三者に漏えい、開示等をしてはならない義務(守秘義務)を負う。 but 23条照会を受けた団体は、当該照会の必要性等について積極的に調査をすべき義務を負わない。 |
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Yが本件報告をしたことにつき守秘義務違反を問われるのは極めて限定的な場合に限られるが、そのような場合には当たらない⇒請求棄却。 | ||||
解説 | 23条照会の制度趣旨: 最高裁を引用し、 22条照会の制度は、弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査等をすることを容易にするために設けられたもの。 23条照会を受けた団体は、正当な理由がない限り、照会された事項について報告すべき義務を負う。 ・・・この制度の適切な運用を図るためんじ、照会権限を弁護士会に付与し、個々の弁護士の申出が上記制度趣旨に照らして適切であるか否かの判断も当該弁護士会に委ねている。 ⇒ 23条照会を受けた団体は、当該紹介の必要性やこれに応ずることの相当性について積極的に調査をすべき義務を負わないものと解するのが相当。 |
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刑事p141 最高裁R4.6.9 |
他人の物の非占有者が業務上占有者の横領に加功した場合の時効 | |||
事案 | 代表取締役であった被告人が、同社の経理業務を統括していたCと共謀の上、横領。 被告人は、犯行時、代表取締役を退任しており、前記預金を占有していなかった。 |
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解説 | 最高裁: 他人の物の非占有者が業務上占有者の横領に加功した場合について、 最高裁: 刑法65条1項により同法と253条に該当する業務上横領罪の共同正犯として論ずべきものであるが、 同法65条2項により同法65条2項により同法252条1項の通常の横領罪の刑を科すべきもの。 |
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本件:犯行日から控訴提起まで6年10か月が経過⇒被告人に対する公訴時効の成否が問題。 | ||||
1審 | 公訴時効の期間は、科される刑を基準として定められるべき⇒5年⇒免訴 | |||
控訴審 | 公訴時効の期間は、成立する犯罪の刑を基準として定めるべき 業務上横領罪の法定刑を基準とすると、公訴時効の期間は7年 ⇒公訴時効は成立していない⇒懲役2年に。 |
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判断 | 非占有者である被告人に対する公訴時効の期間は、横領罪の法定刑を基準とした5年と解すべき⇒1審の免訴は正当。 | |||
解説 | ● | ●身分犯の共犯 | ||
身分犯の共犯について 刑法65条1項:真正身分犯(構成的身分犯) 同条2項:不真正身分犯(加減的身分犯) を規程。 |
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業務上横領罪:業務者かつ占有者という2つの身分を有する者を主体とする身分犯。 非占有者は、同条1項により業務上横領罪の共犯となるが、 同条2項により横領罪の刑を科す。 ~ 罪名として業務上横領罪が成立し、 科刑については横領罪の法定刑が適用。 |
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業務上横領罪は、非占有者との関係では真正身分犯⇒非占有者について同条1項が適用されて同罪の共犯。 but 占有者が業務上横領罪に加功したときとの刑の不均衡を回避するため、同条2項を適用して横領罪の刑を科すこととしたもの。 |
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● | ●公訴時効制度の趣旨 | |||
①時の経過により犯罪の社会的影響が微弱化し、当該犯罪行為の可罰性が減少という実体的法的根拠(実体法説) ②時の経過により証拠が散逸し、適正な裁判の実現が困難になるという訴訟法的根拠(訴訟法説) ③その両方を理由とする(競合説) ④犯人が一定期間訴追されていないという事実状態を尊重し、国家の訴追権を抑制し、個人の権利を保護する制度(新訴訟補説) 通説: これを多義的なものと捉え、公訴時効制度は、これらの存在理由を総合し、犯人の処罰の必要性と比較衡量して設けられた立法政策上の制度。 |
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● | ●本判決について | |||
原判決:成立罪名基準説 ← ① ② ③ |
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本判決: (1)公訴時効制度の趣旨: ①処罰の必要性と法的安定性の調和を図ることにある ②刑訴法250条が刑の軽重に応じて公訴時効の期間を定めているのもそれを示すもの (2)処罰の必要性(行為の可罰的評価)は、犯人に対して科される刑に反映される ~ 公訴時効制度を基礎付ける比較衡量の一方の要素である犯人に対する処罰の必要性は、行為の可罰的評価を表す当該犯人に科罰される刑に表されるとしてm公訴時効制度の趣旨から結論を導いている。 |
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原審が指摘する犯罪の社会的影響の希薄化という実体法的要素 ~ 比較衡量のもう一方の要素である法的安定性の一内容。 but 生じた社会的事象としては同一だっても、主観面等が異なることにより成立犯罪が異なることはあり得、それが共犯者間で生じることもあり得る。 ← 犯罪の社会的影響やその希薄化による可罰性の減少と言った観念にしても、行為の可罰的評価に左右される。 |
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● | 刑訴法 第二五三条[時効期間の起算点] 時効は、犯罪行為が終つた時から進行する。 ②共犯の場合には、最終の行為が終つた時から、すべての共犯に対して時効の期間を起算する。 |
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刑訴法 第二五四条[時効の停止①] 時効は、当該事件についてした公訴の提起によつてその進行を停止し、管轄違又は公訴棄却の裁判が確定した時からその進行を始める。 ②共犯の一人に対してした公訴の提起による時効の停止は、他の共犯に対してその効力を有する。この場合において、停止した時効は、当該事件についてした裁判が確定した時からその進行を始める。 |
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● | ●山口補足意見 | |||
身分のない共犯に「通常の刑」を科す刑法65条2項は、身分の有無による処罰の必要性の相違を科し得る刑に反映させるための規定であり、 公訴時効制度の趣旨に照らすと、法の制約の枠内で、処罰の必要性をよりよく反映した刑が公訴時効期間の基準とされるべき。 |
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①共犯事件について公訴時効期間の統一を求める規定は存在せず、刑訴法253条2項は、同条1項の「犯罪行為が終わった時」を公訴時効の起算点とする一般規定を共犯の場合に確認するものであって共犯の特則を定めるものではない。 ②同法254条2項についても、控訴提起以外の事情による時効の停止効(同法255条1項)は他の共犯に及ばない ⇒ 共犯の統一的処理の理念は、公訴時効制度の根幹にかかわるものとはいえない。 |
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業務上占有者に占有者が加功した場合、判例の立場によれば、刑法65条2項により占有者には横領罪が成立し、同罪の法定刑が公訴時効期間の基準となるところ、本論点について業務上横領罪の法定刑を基準とすると、非占有者と占有者との間で公訴時効につき不均衡が生じる。 | ||||
● | 判例は、不真正身分犯には刑法65条1項の適用はなく、同条2項のみが適用されるとの立場。 ~ 共犯者間の錯誤事案において、罪名と科刑を分離される処理を否定し、主観の異なる共犯者間では、当初から各人の主観に応じた犯罪が成立するとの判断(共犯者間で罪名の一致を要求する立場には立たない。)。 ⇒ 非身分者が不真正身分者に加功した場合、非身分者には当初から非身分犯の罪(通常の罪)が成立し、通常の刑が科される。 その場合、当然に通常の刑が公訴時効期間の基準となる。 |
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2586 | ||||
民事p17 東京高裁R4.4.12 |
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事案 | Y:IP電話サービスの提供等を目的とする会社。 | |||
金融商品取引等を装った詐欺の被害に遭ったと主張するXらが、Yに対し、Yが犯罪による収益の移転防止に関する法律所定又は条理上の本人確認義務等を怠って電話転送サービスを提供⇒前記各詐欺の実行を容易にし、もって前記各詐欺の実行犯を過失により幇助したものとして、共同不法行為責任を負う⇒損害賠償を請求。 | ||||
犯収法2条2項の「特定事業者」にいわゆる電話転送サービス事業者を含める旨の改正は、平成25年4月1日から施行。 | ||||
本件で問題になったYの電話転送サービス: Yから電話番号を購入し、自身の保有する携帯電話の番号やYから購入する端末機器のID等を紐づけを行うことにより、Yから購入した電話番号を利用して発着信を行うことができるというもの。 |
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争点 | ①犯収法上の本人確認義務の有無 ②犯収法改正以前における条理上の本人確認義務違反及び同法改正前後におけるその他の注意義務違反の有無 ③前記各注意義務違反と詐欺被害との間の因果関係の有無 |
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判断 | ● | ●争点①: 犯収法4上1項1号の本人確認義務の対象となる「顧客」とは、特定事業者が特定業務において行う特定取引の相手が、すなわち、特定取引に係る役務の直接の受け手である契約の相手方がこれに該当。 ⇒ Yは、電話転送サービスを提供する際に、Yと直接取引をした中間業者の本人確認を行っており、Yに犯収法上の本人確認義務違反はない。 |
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● | ●争点②③について | |||
①Yは、犯収法施行の前後を問わず、取引の相手方である中間業者などの顧客についての本人確認義務を負い、これを怠った結果、Yが提供する電話番号が特定できないエンドユーザーによって特殊詐欺に利用された場合には、欺罔行為を用意にしたものとして過失による幇助の不法行為を負う。 | ||||
②Yが提供した特定の電話番号について、解釈依頼を伴う捜査関係事項照会や特定の犯罪に使用されていることを明記した弁護士会照会がなされることなどにより、特殊詐欺その他の何らかの犯罪に利用される具体的な危険性が予見ないし認識できた場合には、当該電話番号の役務提供契約の解約等の措置を講ずるべき注意義務を負い、これを怠った結果、Yの提供番号が特殊詐欺に利用された場合には、欺罔行為を容易にしたものとして過失による幇助の不法行為責任を負う。 | ||||
③中間業者がYの提供による電話番号について契約の相手方に対する本人確認義務を怠り、その結果、Yの提供番号がエンドユーザーによって特殊詐欺等に利用された場合に、Yにおいて、契約の直接の相手方である中間業者が本人確認義務を怠っていることを予見でき、かつ、取引関係に基づく権利義務関係を適切に行使することによって、特殊詐欺等に利用された提供番号の使用を未然に防止できなときは、Yは、取引の相手方である中間業者の顧客の本人確認義務を履行されているかを調査し、本人が特定できない電話番号の回線については取引を停止するなどの条理上の注意義務を負う。 | ||||
本件では、Yは、Xらが受けた詐欺被害につき、過失による幇助の責任を負うものとは認められない。 | ||||
解説 | ● | 犯収法は、特殊詐欺について、特殊詐欺グループが電話が金融機関の口座等を調達する必要がある⇒これらを取り扱う特定事業者(同法2条2項)に対して、本人特手事項の確認義務を課して(同法4条1項1号)、犯罪による収益の移転防止を図っている(同法1条)。 but 同法4条1項が、IP電話サービスを提供する事業者と直接の取引関係にない者に対してまで確認を求めるものではない ⇒本件のような特殊事業者と直接の取引関係のない者による特殊詐欺について、同項を直接の根拠として、当該特定事業者の責任を問うことは困難。 |
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①特殊詐欺が増加傾向にある ②携帯電話などの番号が特殊詐欺に利用されることが社会一般に認知されている ⇒ IP電話サービスを提供する事業者としても、提供番号が特殊詐欺に用いられないような方策を講じる必要がある。 |
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⇒ 犯罪行為を容易にさせるという点につき過失による幇助を認めた。 |
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● | 違法な勧誘行為を行っていた者に事務所を使用させた者に幇助の責任を認めた事例(東京高裁H29.12.20)。 | |||
私書箱サービスを営む会社に、 契約締結時や個別の取引の際の事情から顧客等が犯罪収益を移転しようとしている疑いがある場合には、かかる事業についてより詳細な確認を行い、かかる疑いがある場合には、かかる事情についてより詳細な確認を行い、かかる疑いが払拭されない限りは取引を停止しなければならないという条理上の注意義務を認めた事例(東京地裁)。 |
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「条理上の注意義務」が、濫用的に用いられてはならないが、犯罪収益の移転防止に社会的役割を担う特定事業者に課せられる契約上の義務のみでは犯罪を防止することはできないことに照らして、一定の場合には積極的に肯定することも相当といえよう。 | ||||
労働p59 大阪高裁R5.4.20 |
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事案 | Xが、 ①Y1に対し、労働者派遣法40条の6により、 Y1がXに労働契約の申込みをしたとみなされ、Xがこれを承諾したなどと主張し、 ②Y2に対し、Y2との関係でも前記①と同様の主張をして、 ③Y3に対し、無効を主張して、 Yらそれぞれに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び賃金の支払を求めるとともに、 ④Yらに対し、Xに違法な就労をさせたこと等が不法行為に当たると主張し、損害賠償金の支払を求めた。 |
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争点 | 労働者派遣法の労働契約申込みみなしに関する同法40条の6をめぐって、 ❶二重偽装請負における注文者Y1に同条が適用又は類推適用されるか、 ❷二重偽装請負における元請人Y2に同条が適用されるか否か、 ➌Y2に同条1項5号所定の同法等の適用を免れる目的があったと認められるか否か |
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判断 | 原審:請求を全部棄却 判断:控訴棄却 |
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解説等 | ● | ●争点❶について | ||
◎ | 労働者派遣法40条の6第1項: 「労働者派遣の役務を受ける者」が同項各号に掲げる行為⇒その時点において「当該労働者派遣の役務の提供を受ける者」から「当該労働者派遣に係る派遣労働者」に対し、労働契約の申込みをしたものとみなす。 同項5号: 同法又は同法第3章第4節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的(「派遣法等免脱目的」)で、請負等の名目で契約を締結し、労働者派遣の役務の提供を受ける行為を掲げる。 |
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「労働者派遣」といえるためには、自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させる必要がある(同法2条1号)。 二重偽装請負についてみると、元請人が労働者を注文者に提供する行為派、自己の雇用する労働者を提供していない点で、労働者派遣に当たらず、そうすると、注文者は、元請人から労働者派遣を受けていない点で、同法40条の6の直接適用を受けない。 ⇒ 同条の直接適用を否定。 |
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◎ | 労働者派遣法40条の6の趣旨: 同条1項各号所定の違法派遣を受け入れた者は、善意無過失の場合を除き、その受入れについて責任がある⇒そのような者に対し、派遣労働者に労働契約の申込みをしたものとみなすという民事的制裁を科すこと等にある。 ⇒二重偽装請負の注文者についても、その趣旨が当てはまるといえ、類推適用されるとする有力説(菅野他)がある。 |
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but 原判決・本判決は否定。 本判決: ①労働者派遣法の昭和60年制定時に、職安法が従前禁止していた労働者供給の4類型のうち、1類型(供給元・労働者間に労働契約があり、供給先・労働者間に動労契約がなく事実上の関係のみgたある形態)を労働者供給から切り分け、これを労働者派遣法の規制対象とした上で適法化し、残りの3類型は職安法の規制対象として残したという点を重視。 ②労働者派遣法の制定時における衆議院及び参議院の審議の際の附帯決議に、二重派遣は労働者供給事業に該当する旨の解釈が示されていたことを指摘。 ③二重偽装請負における元請人に同法40条の6が適用⇒注文者に同条が類推適用されないと介しても、労働者にとって支障が大きいとはいえない。 |
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● | ●争点❷について | |||
元請けにン・労働者間に指揮命令関係あがれば、下請人に労働者派遣法40条の6が適用される。 | ||||
平成27年通達: 二重偽装請負の注文者・労働者間、元請人・労働者間の双方に指揮命令関係がある場合には、元請人に同条が適用されるとの解釈。 but 具体的にどのような場合に元請人・労働者間の指揮命令関係が認定され得るかは示されていない。 |
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原審:指揮命令関係を否定。 本判決: Y2・X間の指揮命令関係が認められるとし、Y2に労働者派遣法40条の6が適用される。 |
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● | ●争点❸について | |||
①Y2において、Y2・X間に偽装請負の状態が生じていることを明確に認識することが困難 ②大阪労働局長の是正支持の前後に偽装請負の解消に向けて相応の改善策を講じたといえる ⇒ 派遣法等免脱目的があったとは認められない。 |
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労働p73 津地裁R5.3.16 |
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事案 | 有期雇用契約社員又は準社員である原告らが、被告に対し、 ❶原告らと正社員との間で、 ①②③④⑤⑥⑦⑧に違いがあり、労契法20条に反する⇒不法行為に基づき損害賠償を求めるとともにm ❷原子kらと労働契約締結時典において、被告には有期雇用契約社員を規定する就業規則が存在しなかった⇒原告らは同時点から準社員であった。 ⇒ 主位的に不法行為に基づき、予備的に債務不履行に基づき、準社員であったのに支給されなかった賞与額につき、損害賠償を求めた事案。 なお、被告は、口頭弁論終結時までに、有期雇用契約社員を全て準社員とした上で、期間の定めのない労働契約(無期転換準社員)に変更。 |
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判断 | ❶について: 有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるかを判断するにあたっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるものではなく、当該賃金項目の趣旨を個別的に考慮するべきものと解するのが相当。 ②扶養手当 ③リフレッシュ休暇 ⑤年次有給休暇の半日単位の取得 ⑦特別休暇 の相違については不合理⇒原告らの請求を一部認容。 |
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❷について: 原告らと被告において個別の労働契約が締結されたものであり、準社員として労働契約を締結したとは認められない。 |
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解説 | ● | 労契法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理なものであってはならない旨を規定。 同条違反の判断枠組みについて、 判例は、 ①有期契約労働者と無期契約労働者との間の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度 ②当該職務の内容及びその配置の変更の範囲その他の事情 を指摘した上で、 その判断においては各賃金項目等の個別の趣旨を考慮すべき。 |
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● | 本判決: 原告らと、原告らが比較対照にすべきとする正社員との間で、職務の内容や配置の変更への範囲には大きな違いがあるとした一方、 その他の事情として、 ア:原告らは期間の定めのある労働契約であはあるものの、その契約は反復更新されることが前提となっていること、 イ:原告らの被告との間で本件訴訟に至るまでに労使交渉がされ、原告らの待遇が一部改善されてきたこと を重要なものとした。 |
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◎ | ①通勤手当: その趣旨⇒原告らにも支給すべきとも考えられる。 but 被告における代替手段があったことをその他の事情のとして考慮して、不合理であるとはしなかった。 |
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◎ | ②扶養手当及び③リフレッシュ休暇: その趣旨(②について、継続的な雇用の確保、③につき、長期間の勤務年数に達した者に対する報償)⇒被告との労働契約が反復更新されることを前提としていた原告らにおいても妥当するものとして、その相違は不合理。 |
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扶養手当に関して最高裁R2.10.15: 「扶養親族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれる」場合には、扶養手当の趣旨は有期契約社員にも妥当 最高裁R2.10.15: 病気休暇に関する判断の中でも「相応に継続的な勤務が見込まれる」かどうかを考慮事項としている。 |
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本件: 原告らは、6か月又は1年以内の労働契約を締結し、かつ、反復更新されることを前提とするものであった(被告においては、特段の事情がなければ契約更新され、原告らは退職した者も含めて10根に条勤務していた。) ⇒相応に継続的な勤務が見込まれると判断することが容易であった。 |
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◎ | ④賞与及び基本給: 原告らと正社員との職務の内容及びその配置の変更の範囲の違いが大きく、それを反映した賃金項目⇒不合理でない。 |
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◎ | ⑤年次有給休暇の半日単位の取得及び⑦特別休暇: その趣旨(⑤につき、柔軟な取得による年次有給休暇の有効活用、⑦につき、特別な事情における準備又は対応期間の確保)⇒職務の内容及びその配置の変更の範囲の違いに関係がないもの⇒その相違は不合理。 |
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◎ | ⑥年次有給休暇日数: 結論としてその付与日数の相違が不合理であるとはしなかった。 but 労基法39条1項及び2項の基準を満たすことのみで合理性を判断していない⇒同条の基準を満たすだけでは直ちに不合理ではないとしたものではない。 |
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◎ | ⑧福利厚生: 別組織によるものであり、被告が直接の権限を有しないものとして、労契法20条の問題として捉えなかった。 |
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● | 労契法20条違反が争われた最高裁判例 解説 |
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最高裁R5.7.20: 定年退職後再雇用された嘱託職員の事案につき、その性質・支給の目的及び労使交渉の具体的な経緯を検討又は勘案すべきと判示して原審に差し戻されている。 |
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知財p92 東京地裁R4.12.20 |
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事案 | 原告商品の形態は商品等表示に当たり、Y1が当該商品等表示に類似した形態を商品等表示として使用したジェネリック医薬品である商品を背う増資、Y2がこれを販売する行為は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当⇒Y1とY2に対し、同法3条1項に基づき、被告商品の譲渡等の差止めを、同条2項に基づき、被告商品の廃棄を求めるとともに、同法4条、5条2項に基づき、損害賠償金等の支払を求めた。、 | |||
規定 | 不正競争防止法 第二条(定義) この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。 一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為 |
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判断 | ● | ●判断基準 | ||
商品の形態は、特定の出所を表示する二次的意味を有する場合があるものの、商標等とは異なり、本来的には商品の出所表示機能を有するものではない⇒その形態が商標等と同程度に不正競争法による保護に値する出所表示機能を発揮するような特段の事情がない限り、商品等表示には該当しないとうべき。 | ||||
⇒ ①客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴(「特別顕著性」)を有しており、かつ、 ②特定の事業者によって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告がなされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知(「周知性」)であると認められる特段の事情がない限り、同号にいう商品等表示に該当しない。 |
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周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止するという同号の趣旨 ⇒商品の形態が、取引の際に出所表示機能を有するものではないと認められる場合には、特定の出所を表示するものとして特定顕著性又は周知性があるとはいえず、商品等表示に該当しないと解するのが相当。 |
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● | ●あてはめ | |||
①医師及び薬剤師は、・・・ ②医師は、・・・ ③薬剤師は、・・・ ④患者は、・・・ |
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⇒ 医師、薬剤師とも、有効成分、銘柄名、先発薬又は後発薬の区分を明確に認識した上で、医師にあっては、処方する医薬用医薬品を処方箋に記載し、薬剤師にあっては、医師からの当該処方に基づき医療用医薬品を調剤していることが認められ、また、患者は、調剤薬局において、一般に先発薬と後発薬のいずれかを希望するのか述べるにとどまり、それ以上に、違約用医薬品の形態そのものを見比べるなどして医療用医薬品を当該形態自体によって選択することはない。 ⇒ 原告商品の需要者である医師及び薬剤師は、医療用医薬品を選択するに当たり、原告商品の形態によってその出所を識別するものではなく、仮に患者も原告商品の需要者であるとしても、前記認定は同様に当てはまる。 |
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かかる取引の実情 ⇒原告商品の形態は、一定程度周知性があるとしても、取引の際に出所表示機能を有するものではなく、商品等表示に該当しない。 |
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仮に、原告商品の形態が商品等表示に該当するという見解に立ったとしても、原告商品の需要者である医師や薬剤師は・・・患者も・・・・⇒被告商品の形態自体が、原告商品と混同を生じさせるものでないことは明らか。 | ||||
解説 | ● | 商品形態の商品等表示該当性 | ||
◎ | 一般的判断基準が実務上定着。 | |||
but ①商品等の形態のうち出所表示機能を発揮する商品等表示部分は、取引の実情等によって時間的にも場所的にも変わり得る ②意匠権とは異なり図面又は写真で保護範囲が特定されて公示されるものではなく、仮に一旦保護されると認められた場合には、その他の知的財産権とは異なり、その保護期間が永続する余地を残す。 ⇒ 近時では、商品形態が商品等表示として保護されるための要件及びその範囲を明確かつ厳格に判断しようとする裁判例が増えている。 |
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◎ | ◎関連裁判例 | |||
◎ | ◎本判決の位置付け | |||
2585 | ||||
p23 最高裁R5.10.18 ● |
令和4年参議院議員選挙投票価値較差訴訟大法廷判決 | |||
事案 | 令和4年7月30日の参議院議員選挙について、東京都選挙区及び神奈川県選挙区の選挙人であるXらが、公選法14条、別表第3の参議院議員の議員定数配分規定は憲法に違反し無効⇒これに基づいて行われた本件選挙の前記各選挙区における選挙も無効 | |||
本件選挙当時における選挙区間の最大格差は3.03倍(神奈川県と福井県)、令和1年7月21日に行われた参議院議員通常選挙当時における選挙区間の最大格差は3.00倍(宮城県と福井県) | ||||
解説 | ● | ●基本的な判断枠組み | ||
昭和58年大法廷判決: いかなる選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国会に反映させることになるのかの決定は国会の裁量に委ねられ、その裁量権の行使として合理性を是認し得る限り、投票価値の平等が一定限度で譲歩を求められることになっても違憲ではない。 |
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判断基準1: 当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態(違憲状態)に至っているか否か (投票価値の不均衡の直接的な指標となるのは、選挙当時における選挙区間の最大格差) |
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判断基準2: 判断基準1で違憲状態に至っている⇒当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとして当該定数配分規定が憲法に違反するに至っているか。 |
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● | 平成26年大法廷判決まで | |||
平成16年・平成18年・平成21年: 当該各選挙当時の定数配分が違憲状態に至っているか否かについて明示的に判示することなく、当該各選挙までに国会において行われた改正又は更なる改正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えていない⇒合憲。 but 平成18年:投票価値の平等の重要性を考慮すると投票価値の不平等の是正について国会における普段の努力が望まれ得る 平成21年:当時の較差が投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって、最大格差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる |
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平成24年:平成22年選挙(最大格差5.00倍)について、結論において定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない but 長年にわたる制度及び社会状況の変化として、 ・・・・ 参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見出し難く、都道府県が政治的に1つのまとまりを有する単位として捉え得ること等の事情は、数十年間にもわたり投票価値の大きな格差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっており、・・・都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の要求に応えていくことははもはや著しく困難な状況に至っている。 ~ 平成22年選挙当時の選挙区間の最大格差が示す投票価値の不均衡は違憲状態にあった。 |
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平成26年:最大格差4.77倍で、結論において平成25年選挙当時の定数配分規定が憲法に違反するに至っていないが、平成24年の判断と同様の理由により違憲状態の判断。 | ||||
● | 平成29年・令和2年 | |||
平成29年: 平成27年改正法につき、 ①長期間にわたり投票価値の大きな格差が継続する要因となっていた都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを見なおすことをも内容とするものであり、これによって数十年にわたり5倍前後で推移してきた最大格差が3.08倍まで縮小⇒平成24年大法廷判決等の趣旨に沿って格差の是正を図ったものとみることができる ②その附則において・・・ ⇒ 平成28年は選挙当時は・・・違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえない(合憲状態)。 |
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令和2年: ① ② ~ 立法府の検討過程において格差の是正を指向する姿勢が失われるに至ったと断ずることはできないことを挙げ、令和元年選挙当時の定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡につき合憲状態の判断。 |
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原審 | 合憲状態 | |||
判断 | 本件選挙当時、平成30年改正後の定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず、前記規定が憲法に違反するに至っていたということはできない | |||
解説 | ● | ●本判決における考慮要素 | ||
◎ | 令和2年と同じく、格差の更なる是正等が引き続き求められることを明示した上で、参議院改革協議会等での議論状況⇒立法府における具体的な検討に進展がみられるとはいい難い。 ~ 取組の客観的な進展につきなお考慮していく姿勢を示している。 |
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◎ | ①最大格差の推移として、有意な拡大傾向がみられるとはいえないこと ②格差の更なる是正のための種々の方策に課題や制約があり、是正に向けた取組を進めていくには、合理的な成案に達するのになお一定の時間を要することが見込まれること について言及。 |
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①について: 仮に格差の有意な拡大傾向⇒格差の更なる是正等に向けた方向性を見いだすことは困難となって、前提状況に大きな相違が生ずるとも評価し得る⇒考慮要素として挙げられたものと考えられる。 |
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②について: 較差の更なる是正等が進まない要因いかんによっては、どのような是正手段を講じ得るか(成案の方向性)を容易に見通せないため直ちに是正手段を講ずることを合理的に期待し難く、現時点では違憲状態と評価して法的責任を課すまでに至らないという判断もあり得る⇒較差の更なる是正等が進まない要因などを問題とする趣旨。 |
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◎ | 投票価値の平等の要請が実現されるとしても、その一方で、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるという究極的な要請との関係で課題が生ずるような状況にあり、そうした憲法上の要請に関わる課題との兼ね合いにおいて成案に達することが容易でないとすれば、直ちに較差の是正をすべき法的責務を課すことはできない。 ~ 本判決は、合区の対象となった4県において平成28年選挙以降に生じている投票率の低下や無効投票率の上昇等に着目。 |
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国民の都道府県に対するいわば帰属意識も背景として、都道府県ごとに地域の実情に通じた国会議員を選出するとの考え方がなお強く、そのことが選挙に対する関心や投票行動に影響。 できるだけ多くの有権者が積極的に選挙権を行使し得るよう配慮することも、重要な憲法上の価値の実現に資する⇒前記の影響を考慮することは合理的。 |
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◎ | 財政負担の増加に関する国民の理解を得られにくいなどといった点、あるいは、比例代表選挙の定数からの振替えにつき、総体的に死票の多い選挙となるなどといった点。 | |||
◎ | 本判決:「合理的な成案に達するにはなお一定の時間を要する」 vs. 判断基準1と判断基準2を混同するものとの指摘も想定。 but 判断基準1の中でも諸事情が総合的に考慮される以上、時間的要素の考慮が当然に排除されるべき理由は見出し難い。 |
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較差の更なる是正等に係る課題や制約の性質・内容に鑑み、較差の更なる是正等に向けてどのような方策を講じ得るかについての方向性すらも不透明であることが、時間的要素との兼ね合いからもやむを得ないといえる状況の下では、違憲状態とすることで法的責務を課すまでの段階に至らないという判断もあり得る⇒判断基準1において時間的要素を考慮することが誤りであると断ずることは困難。 | ||||
令和2年:参議院議員の選挙制度改革に際しては、「事柄の性質上慎重な考慮を要することに鑑みれば、その実現は漸進的にならざるを得ない面がある」との判示。 | ||||
● | 宇賀: 投票価値が等しいことをデフォルトとする必要があるところ、本件選挙当時の不均衡について真にやむを得ないことについての説明もされていない⇒違憲無効(将来効)の立場を採る反対意見。 |
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民事p51 京都地裁R5.2.9 ● |
顧問教諭の指導上の過失を肯定した事例・過失相殺は否定 | |||
事案 | 自転車競技部の活動中に滋賀県内の国道の下り坂を走行中、右曲がりのカーブを曲がりることができずにガードレールに衝突し、側溝に転落⇒両四肢全廃等の後遺障害を負った。 | |||
X1とその父X2が、P1の指導に注意義務違反があったため本件事故が生じた⇒国賠法1条1項に基づき、Y(京都府)に対し、損害賠償を請求。 | ||||
判断 | P1は、X1を上級生らと共に走行させれば、上級生らは1年生の中から抜擢されたX1を配慮する相手ではないと考え、普段どおりの速度で走行し、技能が十分ではないX1が走行を制御することができない事態に陥る危険があることを予見することができた。 ⇒ ①X1に対し、上級生らに併せて走行する必要はないと指導する、 ②上級生らに対し、X1がグループに加わることから自分達の普段の練習より遅い速度で走行するよう指導する など、その危険を回避するための特別な指導をしていなかった ⇒P1の注意義務違反を認めた。 |
|||
過失相殺について: ①X1が転倒しない速度を維持できなかったこと ②車間距離を詰める必要があると道交法に違反した認識をもっていたこと ③疲労を申告しなかったこと などをもって過失とみることはできない。 |
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解説 | ● | 傾向として、 ①クラブ活動の性質・危険性の程度 ②生徒の学年・年齢 ③生徒の技能・体力 ④教育指導水準等 の要素を考慮して顧問教諭の過失の成否が判断。 |
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本件は①③を考慮。 | ||||
● | 過失相殺の可否及びその割合の判断: 加害者の過失の重さと被害者の過失の重さの相関関係によって定められる(最高裁)。 |
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部活動中の事故の場合 ①教諭の指導義務違反の危険性の程度と ②被害生徒の危険を回避する能力や技能の有無・程度 の比較衡量で判断。 |
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本判決:過失相殺否定 P1が自転車競技の経験の浅いX1に下り坂を上級生とともに走行させるという転倒・転落の危険性の高い練習を指示しておきながら、 転倒・転落を回避するための指示も、回避するための方法の指導も行っていないことが考慮されたと考えられる。 |
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知財p60 東京地裁R5.2.16 ● |
前訴と後訴と時機に後れた防御方法(否定) | |||
事案 | 特許権者であるXが、Yに対し、Yが自己の使用するサーバを通じて、外国為替取引管理方法である「iサイクル」を顧客に提供したところ、Yサーバが本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の実施に当たる⇒不法行為に基づき、損害賠償等を請求。 | |||
判断 | Xが金融商品取引業者としての登録を受けていないための実施の能力すらなく、FX取引業を営んでいなかった。 XとXの子会社は、あくまで別法人⇒完全子会社が被った損害がそのまま完全親会社の被った損害とするのは相当ではない。 ⇒ 特許法102条1項及び2項を類推適用せず、同条3項を類推したうえでXの請求を一部認容。 |
|||
経過等 | 平成29年、Xは、Yに対し、Yサーバは本件発明の技術的範囲に属し、Yサーバの仕様が本件特許権を侵害⇒Yサーバの使用の差止めを求める訴訟(「前訴」)を提起。 | |||
前訴1審:原告の請求を認容 控訴審:Yの控訴を棄却 |
||||
前訴の経緯を踏まえ、Xは、本件訴訟においてYが侵害論を争うのは訴訟上の信義則に照らし許されないと主張⇒充足論については争点としないことが確認。 | ||||
主張 | X: 本案の争点(本件特許の無効理由の有無)について主張するとともに、 訴訟法上の争点について: Yが主張する本件特許の無効理由は、いずれも前訴の口頭弁論終結時までに提出することができたものである上に、実質的には、前訴において主張された無効理由と同様のもの ⇒無効理由に係るYの主張は、訴訟法上の信義則(民訴法2条1項)に反し、又は時機に遅れた攻撃防御方法(同法157条1項)として却下されるべき。 |
|||
判断 | 訴訟法上の争点について; 前訴と後訴(本件訴訟)はあ、Yサーバが本件特許権を侵害することを請求の原因とする点において共通するものの、あくまで異なる訴訟物に基づく異なる訴え。 ⇒ 特許権侵害訴訟一般に当該後訴において無効主張が制限される運用が実務上定着していれば格別、Yが提出した後訴における無効理由に係る主張は、時機に遅れたものとはいえず、その内容を踏まえても、実質上の蒸し返しであるとして訴訟法上の信義則に反するものともいえない。 |
|||
解説 | ● | ●前訴確定後に後訴を提起した場合 | ||
時機に後れた攻撃防御方法の却下(民訴法157条)とは、あくまで同一訴訟内における攻撃防御方法をいう⇒前訴で提出することができたことを理由として後訴における提出を制限することはできない。 | ||||
後訴において新たな無効理由を提出することも、当該無効理由を前訴までに提出すべき訴訟法上の義務があったとするのは一般に困難⇒特段の事情がない限り、訴訟法上の信義則に違反するものではない。 | ||||
● | ●前訴と同時に後訴を提起した場合 | |||
前訴において特許の有効性が争点となって主張立証が尽くされ、有効という判断が確定していることに鑑み、当該原告と被告との間では、後訴である損害賠償請求訴訟においても、訴訟法上の信義則や特許法104条の4の趣旨により、同様の無効理由を主張できず、無効審決の確定の事実も主張できないと解する余地もあるとする有力説(高部)。 | ||||
知財p112 東京地裁R5.5.18 ● |
商業的写真をウェブページに掲載した行為と引用(否定) | |||
事案 | 写真家である原告は、被告会社が受託した小冊子の作成において、写真4点を掲載することを許可。 被告会社は、小冊子の作成後、自社の実績紹介として被告会社のウェブページに本件各写真を掲載。 ⇒ 本件著作権に係る公衆送信権侵害を構成⇒被告会社及び被告会社の代表取締役である被告Bに対し、連帯して、 被告会社については、民法709条及び著作権法114条3項に基づき、損害賠償金1億7540万円及び遅延損害金の支払を 被告Bについては、会社法429条1項に基づき、前記損害賠償金及び遅延損害金の支払を、それぞれ求めた。 |
|||
争点 | 著作権法32条1項の引用の成否。 | |||
規定 | 著作権法 第三二条(引用) 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。 |
|||
判断 | 著作権法32条1項の引用に該当するものとは認められない⇒連帯して414万円及び遅延損害金の支払を命じた。 | |||
公正な慣行に合致するものであり、かつ、引用の目的上正当な範囲内であるかどうかは、社会通念に照らし、他人の著作物を利用する目的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の程度などを総合考慮して判断されるべき。 | ||||
本件各写真は、被告会社に対し、合計460万円で利用許諾されたものであり、商業的価値が高いものであるところ、 ❶本件各写真は、その契約の許諾期間経過後に、本件ウェブページに掲載 ❷本件ウェブページにおいて、本件各写真にカーソルを合わせた場合、本件各写真は、画面左側にある本件小冊子についての解説文よりも、画面右側に大きく拡大表示され、また、同解説文において本件各写真と関連性のある内容は、本件小冊子のコンセプトが一文付されるにすぎず、その一文も少なくとも商業的価値の高い本件各写真との関係上は、本件各写真の沿え物にとどまる。 ❸本件各写真のデジタルデータは、無断複製防止措置がされず、インターネット上に原告の名前が付されずに相当広く複製等されるに至ったことが認められる。 ~ 本件ウェブページには、 ①商業的価値が高い本件各写真がそれ自体独立して鑑賞の対象となる態様で大きく掲載されており、 ②本件各写真のデジタルデータは、無断複製防止措置がされずインターネット上に相当広く複製等されている ⇒本件各写真の著作権者である原告に及ぼす影響も重大。 ⇒ 本件ウェブページにおける本件各写真の利用は、本件各写真の性質、掲載態様、著作権者である原告に及ぼす影響の程度などを総合考慮すれば、公正な慣行に合致せず、かつ、引用の目的条正当な範囲内であるものと認めることはできない。 |
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解説 | ● | ●引用の成立要件 | ||
A:主従関係説(2要件説): 「引用」の成立要件として、引用して利用する側が著作物であることを前提に、 ①引用して利用する側の著作物と引用されて利用される側の著作物とを明確に区別して認識することができること(明確区別性)、 ②前記の両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があること(主従関係性)を要する。 vs. 旧著作権法における判断基準であり、現行著作権法の文言に即して判断すべき。 |
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B:総合考慮説: 「公正な慣行」に合致するか否か、引用の目的上「正当な範囲内」であるか否かを総合的に判断するという基準。 |
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高部:「公正な慣行」と「正当な範囲」という2つの柱について、著作物の性質、利用態様、利用目的・利用分量等の諸要素を総合的に勘案して引用に当たるか否かを判断するのが相当。 中山:現行法の解釈としては、論理的には、まず引用であること、次いで32条に規定する「公正な慣行」、「正当な範囲」という要件の分析を図るべき。 |
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● | ●隣接法からの考察 | |||
パブリシティ権侵害の判断基準についての検討の中で、法32条の解釈と通じることがあるように思うとして、 著作物の創作性のある部分は主として引用して利用することは許されないが、 従として引用して利用するのであれば、引用の目的上正当な範囲内であり、かつ公正な慣行に合致するものである限るにおいて許される。 |
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パブリシティ権の判断基準: 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象とする利用はパブリシティ権を侵害。 金築補足意見: 侵害態様として、肖像写真と記事が同一出版物に掲載されている場合、写真の大きさ、取り扱われ方等と、記事の内容等を比較検討し、記事は添え物で独立した意義を認め難いようなものであったり、記事と関係なく写真が大きく扱われていたりする場合を挙げている。 |
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● | ●フェア・ユースの規定との関係 | |||
フェア・ユースの規定のない中で最も適用の可能性が高い個別的制限規定が、一般条項に近い「引用」の規定であるとされ、 総合考慮説は、「引用の目的」、「公正な慣行」という規範的要件を、個別事情を考慮して総合的に判断するもので、米国著作権法のフェア・ユースの規定の解釈手法に近いもの。 |
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第2要件説:著作権法32条1項を比較的制限的に解釈する傾向 総合考慮説:構成慣行要件と正当範囲内要件の関係で総合考慮⇒広く解釈することが可能な素地がある。 |
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2584 | ||||
行政p20 広島高裁R5.1.1 ● |
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事案 | A(広島県庄原市)が、木質バイオマス関連事業を実施するため、国から国庫補助金の交付を受け、同事業の実施主体であるB1社にに対し、同国庫補助金を原資とするAの補助金を交付したことについて、Aの住民であるXらが、当時の市長である補助参加者(「前市長」)が、故意又は過失により地自法232条の2に判旨て違法に補助金の交付決定を行ったことなどによって、2億3806万円余(Aが国に返還した国庫補助金相当額) の損害を被ったにもかかわらず、前市長に対し不法行為又は債務不履行に基づく疎なぎ賠償請求権の行使を違法に怠っている ⇒ 地自法242条の2第1項4号に基づき、Y(Aの執行機関である市長)に対し、前市長に対する前記損害賠償請求権を行使するよう求めた住民訴訟(いわゆる4号請求) |
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・・・ Xらは、平成27年4月30日、Aの監査委員に対し、前市長はB1社が本件事業の実施主体として適格性を有せず、また、本件事業は実現可能性を有しないにもかかわらず、本件各補助金を交付したことは、公益上の必要性を欠き、地自法232条の2に反し違法であり、Aは前市長に損害賠償請求権(国に返還した交付金相当額)を取得したにもかかわらず、その行使を怠る事実は違法であるとして、住民監査請求。 but Aの監査委員は、いわゆる不真正怠る事実を対象とする監査請求として地自法242条2項が規定する期間制限(1年)に服するところ、その期間制限を超えている⇒棄却 ⇒ Xらは、同年7月21日、本件訴えを提起。 |
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1審 | Xらの請求を認容 ⇒X及び前市長が控訴 |
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判断 | ● | 1審の判断を概ね是認し、控訴を棄却。 | ||
● | ●地自法242条2項所定の期間制限の適用 | |||
監査請求の対象事項のうち怠る事実については期間制限が規定されておらず、住民は怠る事実が現に存する限りいつでも監査請求ができる。 but ①怠る事実に対する監査請求であっても、特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法又は無効であるからこそ発生する実態法上の請求権の行使を怠る事実を対象とするものである場合には、当該行為が違法と初めて当該請求権が発生⇒監査請求は当該行為を対象とする監査を求める趣旨を含むものとみざるを得ない ②これについて期間制限が及ばないとすれば同上2項が期間制限を設けた趣旨を没却 ⇒このような監査請求についてはは、期間制限が適用。 |
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①Xらは、本件監査請求において、前市長による本件各補助金の交付が地自法232条の2に反し違法であり、これによりAが損害を被ったとしてAが前市長に対して取得した損害賠償請求権をYが行使しないという怠る事実監査請求の対象に取り上げ、Yに対して必要な措置を講じるよう請求 ②前記怠る事実は、前市長による本件各補助金の交付が地自法232条の2に違反し違法であるかを判断しなければ、その監査を遂げることができない ⇒監査請求の期間制限の適用がある。 |
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● | ●監査請求の期間制限の起算日 | |||
◎ | 特定の財務会計上の行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実(いわゆる不真正怠る事実)を対象とする監査請求については、当該行為のあった非又は終わった日を基準として地自法242条2項の規定を適用すべき。 but 実体法上の請求権が財務会計上の行為のされた時点においてはいまだ発生しておらず、又はこれを行使することができない場合には、 実体法上の請求権が発生し、これを行使することができることとなった日を基準として同項の規定を適用すべきものと解するのが相当。 |
|||
◎ | Aは、Aの予算措置を講じた上で本件各補助金を交付。 本件各補助金が違法に交付された場合、その交付の時点で、直ちに本件各補助金相当額の財産を失うこととなり、仮にその交付がなかったとした場合のあるべきAの財産状態との差額に当たる本件各補助金相当額の損害を被ったものと認めるのが相当。 |
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①Aは、国交付金を原資として本件各補助金を交付⇒Aに発生する損害は、実質的には国交付金によってあらかじめ補填されていたものといえる。 ②その交付時点においてAが前市長に対して本件各補助金相当額の損害賠償請求権を行使することができるとする場合、Aは本件各補助金相当額を正当な理由なく保有することとなる⇒Aは、本件各補助金と同額の国交付金の交付を受けながら、他方で前市長に対して本件各補助金の交付により損害を被ったと主張して損害賠償請求をすることはできない立場にあった。 ⇒ 仮に本件各補助金交付が違法であり、その交付の時点で本件各補助金相当額の損害が発生していたとしても、AがB1社から本件各補助金の返還を受けることのないまま、前記損害をあらかじめ補填していた国交付金を国に返還すべき義務が生じ、前記損害を補填する財産を欠くことが確実となった時点において、初めて前記損害に係るAの前市長に対する損害賠償請求権を行使することができると解するのが相当。 |
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本件: 国がAに対して本件各補助金の一部を取消し、その返還を命じた平成26年12月1日及び同月8日を基準として、地自法242条2項の規定を適用すべき。 本件監査請求は、平成27年4月30日⇒監査請求期間内に行われたもの。 |
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● | ●本件各補助金の交付が地自法232条の2に反するか、前市長の故意又は過失及び相当因果関係が認められるか。 | |||
◎ | 地自法 第二三二条の二(寄附又は補助) 普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる。 |
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◎ | 前市長は、Aの抱える課題を解決するために本件各補助金を交付⇒その目的自体は一応相当。 but ①本件各補助金の交付決定当時、本件事業の実施主体であるB1社が原料の調達、成果物の販売及び自己資金の調達を行うことの実現可能性は、いずれも相当低かった ⇒本件各補助金の交付によるAの課題解決の実現可能性も相当低かった。 ②Aの財政状況が著しくひっ迫していたことや、Aの市議会においても本件事業の実現可能性が度々問題視されてきた経緯 ⇒ 本件各補助金を交付することとした前市長の判断は、社会通念上著しく妥当性を欠き、その裁量の範囲を逸脱して行われたものと認められることから、公益上の必要性を欠く ⇒本件各補助金の交付は、地自法232条の2に反する。 |
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前市長は、本件事業の実現可能性(成果物の持続的販売、自己資金の調達)に関する事情を認識し、又は認識し得たにもかかわらず、調査確認することのないまま本件各補助金の交付決定を行った ⇒前市長の判断には過失があり、前市長の違法な行為とAの損害との間の相当因果関係もある。 |
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● | ⇒ Aは、前市長に対し、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求権の行使を違法に怠っている。 |
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解説 | ● | 不真正怠る事実に対する監査請求の起算日: 平成9年最判:実体法上の請求権を行使することができることとなった日 原審:国交付金を国に返還し、・・・損害を補填する財産を欠くこととなった時点 本判決:国交付金を国に返還すべき義務が生じ、損害を補填する財産を欠くことが確実になった時点 |
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● | 本判決:Aが国交付金を国に返還すべき義務が生じ、前記損害を補填する財産を欠くことが確実となった時点まで、本件各補助金相当額の損害賠償請求権を行使することができない立場にあった。 | |||
◎ | 2つの方向からの議論: | |||
◎ | 第1: 住民訴訟制度の目的が、普通地方公共団体がその機関の違法な財務会計行為によって損害を被ることを防止し、又は被った損害を回復する手段を設けることにある ⇒ 特定の行為又は事実が、地自法242条1項列記の財務会計上の行為又は怠る事実に当たるといえるものであっても、客観的にみてこれによって地方公共団体が「損害」を被る余地がないという場合には、その行為又は事実を住民訴訟の対象とすることはできないという議論。 ⇒ 補助金を国に返還する義務が生じるまでは、地方公共団体に損害は発生しておらず、住民訴訟の対象とならないし、監査請求の期間制限もその時点から適用される。 |
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◎ | 第2: 地方公共団体が損害賠償請求権を行使しなくても、「違法な・・・怠る事実」(地自法242条の2第1項柱書)に当たるとはいえない場合があり得るのではないかという方向からの議論。 |
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◎ | 東京都が自動販売機を都道にはみ出して設置した者に対して占有料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を行使しないことが違法でないとした最高裁H16.4.23。 | |||
地方公共団体が有する債権の管理について定める地自法240条、地方自治法施行令171条から171条の7までの規定によれば、客観的に存在する債権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず、原則として、地方公共団体の長にその行使又は不行使について裁量はない。 but 地方公共団体の長は、債権のうち履行期限後相当の期間を経過してもなお完全に履行されていないものについて、「再献金額が小学で、取立に要する費用に満たないと認められるとき」に該当し、これを履行させることが著しく困難又は不適当であると認めるときは、以後その保全及び取立をしないことができる(地自法施行令171条の5第3号)。 |
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はみ出し自販機は、当時約3万6000台もあった⇒1台ごとに債権者を特定して債権額を確定することは、多くの労力と多額の費用を要するもので、「債権金額が小学で、取立に要する費用に満たない」と認めた都の判断は違法ではない。 | ||||
はみ出し自販機に係る最大の課題は、通行妨害等の望ましくない状態を解消するためにこれを撤去させることにあり、商品製造業者が、都に協力し、撤去費用を負担することによって撤去の目的は達成された⇒そのような事情の下では、都が撤去前の占有料相当額を商品製造業者から取り立てることは著しく不適当であると判断しても、違法とはいえない。 | ||||
◎ | 上記平成16年最判の考え方 ~ 国からの補助金の交付決定の全部又は一部が取り消され、補助金を国に返還する義務が生じるまでは、地方公共団体が損害賠償請求権を行使しないことに特段の理由があるといえ、そのような例外的な場合には、当該損害賠償請求権の行使を「違法に」怠っているとはいえない⇒その間は監査請求期間は開始されないという考えの可能性。 |
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● | ●4号請求において、補助金の交付が「公益上必要」か | |||
◎ | 公益上の必要の有無の判断に当たっては、様々な行政目的を考慮した政策的な判断が要求される⇒支出権者等の裁量権が認められる。 but 地方公共団体の長等の裁量権の行使に逸脱又は濫用がある場合には、当該補助は、「公益上必要」という要件を満たさないものとして違法となる。 |
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◎ | 4号請求において、補助金の交付が「公益上必要」か否かが争われた判例・裁判例 | |||
◎ | 本判決:地方公共団体の長に裁量権があることを前提とした上で、本件各補助金を交付することとした前市長の判断に裁量の範囲の逸脱があり、地自法232条の2に違反。 | |||
①地方公共団体が民間企業を対象として補助金の交付決定をする時点において、事業の実現可能性が相当程度低かった場合には、補助金の政策目的を達成する可能性も低かった⇒補助金交付の判断は、社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量の範囲を逸脱し、公益上の必要性ありとは認められない。 ②地方公共団体の長が、事業の実現可能性が相当程度低かったという事情を認識し得たにもかかわらず、調査を尽くさなかった場合には、地方公共団体の長に過失が認められ得る |
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行政p61 東京地裁R4.12.13 ● |
漁業従事者であることの確認を求める訴訟等 | |||
事案 | Y(国)が、沖縄県尖閣諸島周辺で漁業の操業を行おうとしていたXらを漁業法2条2項所定の「漁業従事者」と認めず、船舶へ乗船させないようにした ⇒ ①主位的に行訴法3条6項に基づき、Xらが漁業従事者に該当することの確認の義務付けを求め(「本件義務付けの訴え」)、 予備的に行訴法4条に基づき、Xらが漁業従事者であることの確認を求める(「本件確認の訴え」)とともに、 ②国を思って行った活動を違憲・違法に制限された、あるいは日本国内で漁業活動を行うことを違法に制限されたとして、国賠法1条1項に基づき、慰謝料を請求。 |
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争点 | ❶本件義務付けの訴えの適法性 ❷本件確認の訴えの適法性 ❸Xらの漁業従業者該当性 ❹X等に対する国賠法上の違法行為の有無 |
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判断 | ● | 本件義務付けの訴え(❶): 行政庁が「漁業従事者」であることを認定する手続が法定されていない⇒「漁業庁が一定の処分をすべきであるにもかかわらずこれがされないとき」(行訴法3条6項1号)に該当せず不適法。 |
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● | 本件確認の訴え(❷): 「漁業従事者」とは「漁業者のために水産動植物の採捕又は養殖に従事する者をいう」(漁業法2条2項)とされているところ、船舶安全法の解釈運用上、具体的に航海に出る際に当該航海の目的や内容等との関係でその都度決定される性質のものであると解するほかない。 仮にXらが将来行う航海において漁業従事者であると認定されない可能性があるとしても、その航海の具体的な目的や内容が不明なまま、現にXらの有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在しているとか、これを除去するためにYに対し確定判決を得ることが必要かつ適切であるということは困難。 ⇒ 事前かつ一般的に漁業従事者としての地位を確認する余地はないとして、不適法。 |
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● | Xらの漁業従事者該当性(❸)について、争点❶❷が不適法⇒判断するまでもなく却下されるべき。 | |||
● | 争点❹: 本件船舶は小型兼用船。 ①X1については、過去に尖閣諸島周辺領域で、拡声器を用いて周辺を航行していた中国公船に対し日本の領域から出て行くように求めるなどしし、その様子をインターネットを通じて動画で配信していた ②尖閣諸島周辺海域で漁業活動を行うことで実効支配を新ネスことができるなどと述べていたこと ⇒ X1に漁ろう以外の目的があったことが推認できる。 |
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X2~X6についても、 X1の政治的主張に共感し、X1の所有する本件船舶で、Xが1代表となっている本件会社に雇用され、本件会社が労災保険にも加入した上で、X1がインターネットで配信することを前提とした本件船舶で航海に出ようとしているところを撮影した動画にもX2~X6が映っている ⇒ X2~X6にも漁ろう以外の目的があったことが推認される。 |
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⇒ 水産庁や海上保安庁の職員の行為の違法性を否定。 |
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行政p73 大阪地裁R5.2.21 ● |
開示決定の期限延長の違法性(否定) | |||
事案 | 原告が、内閣官房内閣総務官に対し、行政情報公開法に基づき、行政文書5件の開示請求⇒内閣総務官から、開示請求の日から30日以内に開示決定等を行うことが事務処理上困難⇒同法10条2項に基づき開示決定等の期間を30日延長する旨の通知。 ⇒ 本件延長は同項に定められた要件を満たさないものであり、内閣総務官が本件延長をしたことは国賠法1条1項の適用上違法⇒被告(国)に対して国賠請求をした。 |
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規定 | 行政情報公開法 第一〇条(開示決定等の期限) 前条各項の決定(以下「開示決定等」という。)は、開示請求があった日から三十日以内にしなければならない。ただし、第四条第二項の規定により補正を求めた場合にあっては、当該補正に要した日数は、当該期間に算入しない。 2前項の規定にかかわらず、行政機関の長は、事務処理上の困難その他正当な理由があるときは、同項に規定する期間を三十日以内に限り延長することができる。この場合において、行政機関の長は、開示請求者に対し、遅滞なく、延長後の期間及び延長の理由を書面により通知しなければならない。 |
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判断 | ● | ●開示決定等の園長の適否に係る考慮事情等 | ||
行政情報公開法10条2項にいう「事務処理上の困難」 開示請求があった日から30日以内に開示決定等をすることが当該行政機関にとって困難であることを意味。 その判断に当たっては、開示請求に係る行政文書の多寡、開示請求に係る行政文書の検索の難易、開示・不開示の審査の難易、第三者からの意見聴取の要否、当該時期における他に処理すべき開示請求事案の多寡のほか、当該行政機関の他の事務の繁忙、勤務日等の状況を考慮すべきものと解するのが相当。 |
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● | ●本件開示請求について: | |||
5件の文書の開示⇒件数が少ないとはいえない。 | ||||
一部について、文書の特定の程度が必ずしも高いとはいえないものが含まれている⇒検索が容易であるとはいい難く慎重な検索作業を要する文書も含まれていた⇒これらの文書の検索作業が全体として用意なものであったとはいえない。 | ||||
①内閣総務官室内の複数の部署において文書の検索作業を行う必要があった ②各部署における文書の検索作業を行う時期も、それぞれの部署ごとの繁忙度や緊急の業務の有無等に左右され得る ⇒文書の検索作業について、一定の期間を要することはやむを得ない。 |
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● | ●開示・不開示の審査の難易等 | |||
本件各開示文書が、本件開始請求により初めて開示を求められた文書⇒文書の全体(47頁)につき不開示情報の記録の有無を網羅的に検討する必要があったことや、複数の部署において前記の検討が必要であった⇒本件各開示文書の不開示部分の審査に一定の期間を要することはやむを得ない面があった。 | ||||
● | ●本件開示請求当時の業務の繁閑等 | |||
本件開示請求がされた当時、 ①内閣総務官室においては非常に多数の開示請求に対応する必要があり、開示請求に対応する事務を取り扱う職員は非常に繁忙 ②新内閣の発足に伴い、内閣総務官室全体が繁忙 |
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● | ⇒ 開示請求の日から30日以内に本件開示請求に係る事務処理を完了することは困難であったと認められ、法10条2項にいう「事務処理上の困難」があったと認められる。 ⇒本件延長は適法にされたものであり、本件延長をしたことが国賠法上違法なものとはいえない。 |
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解説 | ● | 文献・裁判例 | ||
● | 本判決:各文献が例示する要素の他に「開示請求に係る行政文書の検索の難易」を挙げる。 | |||
開示請求者は、行政文書を特定するに足りる事項を開示請求書の記載することとされているが(法4条1項2号)、実際には、その記載だけで直ちに開示請求に係る行政文書を特定することは難しく、行政機関の職員において、当該開示請求に係る行政文書として具体的にどのような文書が存在するかを検索し、特定する作業を要することが多い。 ⇒明示的に挙げた。 |
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● | 開示決定等の期限の延長が行政情報公開法10条2項の要件を満たさない場合(客観的に違法である場合)に、さらに進んで、その延長が国賠法1条1項の適用上違法となるかどうかについては、いわゆる職務行為基準説等を踏まえた検討が必要。 | |||
民事p85 最高裁R5.9.27 ● |
当事者双方の不出頭の事案 | |||
事案 | X:大阪拘置所に収容中の死刑確定者 Yの執筆した記事により名誉が毀損⇒Yに対し、損害賠償金等の支払を求める基本事件を大阪地裁に提起。 |
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X及びYは、第1回口頭弁論期日及び第2回口頭弁論期日(「本件口頭弁論期日」)に連続して出頭しなかった。 ⇒期日を延期し、新たな口頭弁論期日を指定する旨の措置。 |
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X:本件訴訟を東京地裁に移送することを求めた Y:本件訴訟は民訴法263条後段の規定によるい終了している |
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規定 | 民訴法 第二六三条(訴えの取下げの擬制) 当事者双方が、口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日に出頭せず、又は弁論若しくは弁論準備手続における申述をしないで退廷若しくは退席をした場合において、一月以内に期日指定の申立てをしないときは、訴えの取下げがあったものとみなす。当事者双方が、連続して二回、口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日に出頭せず、又は弁論若しくは弁論準備手続における申述をしないで退廷若しくは退席をしたときも、同様とする。 |
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原決定 | 本件口頭弁論期日において、審理を継続することが必要であるとして新たな口頭弁論期日の指定⇒本件口頭弁論期日は民訴法263条後段の「期日」に当たらず、訴えの取下げ擬制の規定は適用されない。 | |||
判断 | 審理を継続することが必要であるとして新たな期日を指定する措置がとられたからといって、直ちに民訴法263条後段の適用は否定されない。 | |||
Xに訴訟代理人を選任する具体的な見込があったとはうかがわれず、双方不出頭による訴訟運営上の支障が直ちに解消される状況にはなかった⇒本件訴訟について訴えの取下げがあったものとみなされないとした原決定の判断には、同条後段の解釈適用を誤った違法がある。 ⇒ 原決定を破棄し、移送決定をした原々決定を取り消し、本件申立てを却下。 |
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解説 | ● | ●民訴訟263条後段 | ||
訴えの取下げ擬制を規定する民訴法253条後段 ~ 当事者の不熱心が訴訟追行により、裁判所全体の事件処理の速度が遅れ、他の利用者にも迷惑となる等の弊害に対処。 |
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「みなす」であり「みなすことができる」ではない。 | ||||
条文上、当事者の帰責性は要求されていない but 緊急の入院などやむを得ない事由がある場合にも同条後段が適用されるというのは、当事者に酷であり、同条後段の趣旨にも添わないという評価 ⇒例外的に当事者を救済するための解釈論の必要性の指摘。 |
||||
● | 本決定: 裁判所が期日を指定する旨の裁量を行使したかによって、民訴法263条後段の適用の有無を決することはできない。 |
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本件訴訟の具体的事情をみても、仮に本件応答弁論期日における不出頭を救済しても訴訟を進行させることができない⇒例外許容説が妥当する状況にあるとはいえない。 主観的にはXが訴訟追行に不熱心でないとしても、客観的には訴訟制度全体の効率を図るなどといった同条後段の趣旨が害される状況がある ~ 少なくとも判示の事情の下では、同条後段の適用を否定することはできないと判断。 |
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● | 民訴法244条: 裁判所は、当事者双方が期日に不出頭であった場合、弁論を終結し、判決言渡期日を指定することが可能。 それが同法263条後段の要件をも満たしている時、いずれの規定が優先するかについては、学説上の議論がある。 but 本件訴訟では、第1回期日も開かれていない⇒前者によることは不可能。 |
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● | 受刑者等の提起する国賠訴訟では、被告国のみが出頭し、双方の提出書面の整理等がされるが、補充の主張を待ったう上で原告提出書面の陳述擬制をさせる目的で、被告国は弁論をしかったものとして取り扱い(=実質的な第1回期日とせず)期日を延期する実務。 | |||
民事p89 さいたま地裁R5.3.23 ● |
幼稚園で園児が誤嚥窒息で重篤な後遺症⇒損害賠償請求一部認容事例 | |||
事案 | 学校法人であるY1が設置する幼稚園の年中組に在籍していてX1が、幼稚園での昼食時に、持参した弁当に入っていたウインナーを誤嚥して、窒息死、低酸素性虚血性脳症等の重篤な後遺症を負った。 | |||
X1:Y1、救護に当たった職員のうち園長であるY3及び教諭であるY4並びにY1の理事長であるY2に対して、 ①適時適切に心肺蘇生法を実施しなかった過失又は安全配慮義務違反 ②適時適切な遺物除去措置を実施しなかった過失等 ③安全管理体制構築義務違反(Y4は除かれている) を主張し、不法行為(民法709条及び同法715条)又は債務不履行(同法415条)に基づき、損害賠償を求めた。 X1の父X3、母X4及び姉X2も、Yらに対し固有の慰謝料等(各880万円)を請求。 |
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判断 | ● | ●事実認定 | ||
X1の誤嚥後の事実経過: ❶ ❷ ❸ ❹ ❺ |
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● | ●主張①(適時適切に心肺蘇生法を実施しなかった過失又は安全配慮義務違反)について | |||
◎ | 原告ら: 傷病者の反応がなくなった場合は心肺蘇生法を実施すべきという教育・保育施設等における事故対応に関するガイドライン等の記載に基づき、前記❷の時点以降、Y3及びY4には心肺蘇生法を実施すべき義務があった。 vs. 本判決:Y3及びY4が医療従事者ではないこと等⇒Y3及びY4が講学上最良とされる救命措置を講じることができなかったとしても、それが直ちに法律上の過失等を構成するものではない。 |
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❷の時点で医学的には心停止に伴う全身痙攣状態であったと評価できるが、Y4にとってX1の反応がなくなたっと認識するのは困難。 ❸の時点では、X1が呼びかけに応じず、自ら口を開かなかった⇒Y4にとってX1の反応がなくなったと認識することが一応可能。 but 心配蘇生法をせずに背部叩打を続けたY4の対応は、X1の呼吸を復活させようとした行為としてなお一定の合理性を有していた ⇒ 両時点でのY4の過失等を否定。 |
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❹が終わった時点では、一貫して異物除去が奏功していなかったという経緯やX1の意識・反応がない様子等に照らして、医療従事者でないY3にとっても、少しでも早く心肺蘇生法を実施すべき状況⇒Y3に過失を認めた。 | ||||
◎ | ①心停止と低酸素性脳症発症との関係 ②心肺蘇生法開始までの時間等と予後との関係 ③傷病者が小児である場合は誤嚥窒息を原因とする心停止の特質等の医学的知見 ⇒ ❹が終わった時点で、X1は短く見積もっても心停止から3分程度経過していた。 |
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Y3の過失等がなければ、X1に重篤な後遺症が残らなかった高度の蓋然性が存するとまでは認められない。 相当程度の可能性侵害の限度で、Y1、Y2及びY3は責任を負う。 |
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● | ●主張②(適時適切な遺物除去措置を実施しなかった過失等)について | |||
原告ら: 蘇生に関するガイドライン等の記載から、Y4の背部叩打は、本来必要な程度の強い叩き方をしていないこと等不適切な点が複数あり、なおかつ2度の指入れも異物除去措置として本来許容されないとして、Y4の過失等を主張 vs. 前記ガイドライン等の関係各証拠の記載が救護者個人に記載どおりの救護措置を講じるべき法的義務を課す趣旨とは読み取れず、 医療従事者でないY3が最良の遺物除去措置を講じることができなければ直ちに過失等があるとまではいえない |
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Y4の背部叩打は講学上裁量の方法ではないとしても、不意に危機に直面した状況下においては一定の合理性を有しており、 2度の指入れも、一刻も早く苦しむX1を救わなければならないという当時の切迫した状況下におけるとっさの措置として不適切であったとはいえない。 ⇒Y4の過失等を否定し、Y1~Y3の過失等も否定。 |
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● | ●主張③(安全管理体制構築義務違反)について | |||
法令や教育・保育施設向けのガイドライン等の安全管理体制の構築に関する定めは、それを守らなければ学校や校長に直ちに司法上の過失等が認められることを定める趣旨とは解されず、 誤嚥事故が生じた場合に適切な救命措置を講じることは安全配慮義務の一内容となっており、それを超えて各種安全管理体制を構築することが義務付けられているとはいえない。 ⇒ 本件における事故との関係でY1、Y2及びY3に過失等はない。 |
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● | ⇒ X1との関係で、Y2、Y2及びY3に重篤な後遺症が残らなかった相当程度の可能性を侵害したことによる慰謝料等550万円の支払を命じた。 |
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民事p107 福岡地裁R5.8.30 ● |
訴訟代理人の訴訟行為の排除が認められた事例 | |||
事案 | ● | 基本事件: 区分所有者の管理法人であるXが、Yに対し、Yは、本件マンションの屋上の賃貸契約に係る賃料の回収に関し、法律上の原因がないにもかかわらず、Xから司法書士報酬の名目で162万円を利得した ⇒ 不当利得返還請求権に基づき、利得金の支払を求めるとともに、Yは、Xの代表理事であった際、管理費債権501万2403円の回収を怠り、Xに損害を生じさせたとして、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、損害金等の支払を求めた。 |
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● | 本件: Xが、Yに対し、Yの訴訟代理人弁護士であるAは、過去に基本事件と同一の事件(「前回事件」)において、Xの理事職務代行者として訴訟手続きに関与 ⇒このようなAがYの訴訟代理人として訴訟行為を行うことは、弁護士法25条1号、同条2号、弁護士職務基本規程27条1号及び同条2号に違反 ⇒ Aの基本事件における訴訟行為の排除を申立てた。 |
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Y: ①Aが前回訴訟に関与することとなったのは、裁判所から職務代行者として選任されたから⇒Xの依頼に基づくものではない。 ②前回訴訟においてAが行った訴訟行為はXが行った訴えの取下げのみ ③Xによる前回訴訟の訴えは控訴審において不適法なものとして却下された ~ AがYの訴訟代理人として関与することは弁護士法等に違反しない。 |
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判断 | ● | Aの基本事件における訴訟行為を排除。 | ||
● | 弁護士法25条1号は、先に弁護士を信頼して協議又は依頼をした当事者の利益を擁護するとともに、弁護士の職務執行の公正を確保し、弁護士の品位を保持することを目的とする。 同号が「その依頼を承諾した事件」と規定しているのは、通常、弁護士の職務が当事者の依頼によって行われるため、相手方の依頼を承諾した事件についての職務執行を禁ずれば前記目的と目的を達成できるため。 |
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裁判所から相手方の理事職務代行者に選任され、その資格に基づいて相手方のために職務を行った場合には、同号の前記目的ないし趣旨に照らし、当該事件について相手方の依頼を承諾したのと同様な利益状況にある ⇒同号の「その依頼を承諾した事件」には、裁判所から相手方の職務代行者として選任され、相手方のために訴訟行為をした事件も含むと解すべき。 仮に、このように解することができないとしても、・・・・同号を類推適用して、当該職務が排除されると解すべき。 |
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解説 | 弁護士法25条1号は弁護士の利益相反行為の禁止を規定するところ、相手方である当事者は、同号に違反する訴訟行為について、これに異議を述べ、裁判所に対しその行為の排除を求めることができる(最高裁)。 かかる申立ては、単に裁判所の職権発動を促すだけでなく、裁判所はこれに対して決定により応答する義務があると解され、同決定に対して不服のある当事者は即時抗告をすることができる。 |
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最高裁: 弁護士に委任をして訴訟を追行する当事者の利益や訴訟行為の安定を考慮すると、同上に違反する弁護士の訴訟行為を排除する判断において、同上の規定を「みだりに」拡張又は類推して拡張すべきではない。 ~ 類推適用事態を一切否定したわけではなく、 同最高裁決定は、取締役責任調査委員会の委員であった弁護士が会社法423条1項に基づく損害賠償請求訴訟の原告訴訟代理人となることの適否が問題となった事例であり、 前回訴訟において実際に相手方の代表者として訴訟を追行した本件とは事案が異なる。 |
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なお、本件については、「協議を受けて賛助し」た事件とみる余地もある。 | ||||
2583 | ||||
民事p12 仙台高裁R4.11.25 ● |
東日本大震災での東電事故の慰謝料 | |||
事案 | 東日本大震災の津波による東電福島第一原発事故に関し、避難生活に伴う精神的苦痛とふるさと(故郷)喪失・変容についての精神的苦痛に対する慰謝料等の損害賠償を東電に求めた事案。 | |||
❶避難指示解除準備区域(半径20キロ圏内) ❷緊急時非難準備区域(半径20キロ圏外で30キロ圏内) |
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❷:平成23年9月30日に指定が解除 ❶:平成28年7月12日に避難指示が解除 |
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被告:原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)が原賠法18条2項2号に基づき本件事故による原子力損害の範囲の判定に関して策定した第4次追補までの中間指針に従い、原告やその家族に対し、精神的損害、財産的損害、住居確保費用、弁護士費用として支払った賠償金を弁済の抗弁として主張。 | ||||
判断 | ● | 慰謝料額を1審より増額し、 ❶から避難した原告らには、1人あたり1100万円(1審1000万円) ❷から避難した原告らには、1人あたり300万円(1審250万円) の一律の慰謝料を認めた。 |
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● | 原子力発電所における原子炉損傷と水素爆発による大量の放射性物質の拡散という重大な事故により、 ①深刻な放射線被害の具体的な危険に直面し、突然住み慣れた生活を失って避難せざるを得なくなった精神的苦痛 ②更に長期間の避難生活の継続を余儀なくされた精神的苦痛、 ③故郷が変容してしまった結果として地域社会における共同生活の利益を失ったことによる有形、無形の損害ないし精神的苦痛をそれぞれ考慮するのが相当。 |
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前記①の算定にあたり、本件事故の発生について、事故を予見しながら結果回避を怠り深刻な原発事故を発生させた重大な責任が被告にあることも考慮して算定するのが相当。 | ||||
● | 被告の弁済の抗弁: 個別事情による精神的損害の賠償の増加分、財産的損害、住居各日費用、弁護士費用の賠償は、本件において請求している損害とは別の損害ないし前記の一律に認められる慰謝料を超える損害が発生し、被告がこれらの損害の発生を認め、損害賠償義務を履行したものと認められる。 ⇒前記慰謝料の損害賠償についての弁済とは認められない。 |
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● | 被告:避難の状況について個別の事情を考慮して慰謝料を算定すべき vs. 本件事故により生活の基盤である自宅やその地域で生活する権利や自由を奪われた原告らが失ったものは、原告それぞれの年齢、職業、通学先等の各自の事情により異なるが、 原発事故により生活の基礎となる基本的な権利や自由が奪われた原告らの精神的苦痛を評価するには、そのような個別の事情を重視するよりも、原発事故に直面し、生活状況が事故により激変した被害の重大性、共通性を重視する方が、被害の実情に即した実質的に公平な損害の算定方法である。 |
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地域の共同生活が失われた原因は、津波ではなく原発事故にあった。 災害危険区域への指定も、当該地域に居住していた者が当該土地で生活を再建することを希望するか否かによって決定され、その意思決定は、津波に加えて原発事故による避難指示が続いたことが決定的な原因。 ⇒ 津波ににより自宅が損壊した被災者あるいは地区のほとんどの家が津波被害を受けた地区の原告にも、慰謝料を同じように認めた。 |
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● | 以上より、 ❶から避難した原告: 一律1100万円の慰謝料から、既払金850万円(避難生活に伴う精神的損害の賠償金)を控除した残額250万円に弁護士費用25万円を加えた275万円の損害賠償を認め、 ❷から避難した原告: 一律300万円の慰謝料から、既払金180万円(避難生活に伴う精神的損害の賠償金)を控除した残額120万円に弁護士費用12万円を加えた132万円の損害賠償を認めた。 |
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慰謝料の内訳: ❶について ①避難を余儀なくされた慰謝料150万円(1審なし) ②避難生活の継続による慰謝料850万円(1審同様) ③故郷の変容による慰謝料100万円(1審150万円) ❷について: ①70万円(1審なし) ②180万円(1審同様) ③50万円(1審70万円) |
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解説 | 本判決後、令和4年12月20日に、原賠審は、「・・・第5次追補(集団訴訟の確定判決等を踏まえた指針の見直しについて) 」を策定。 | |||
民事p25 大阪地裁R4.12.23 ● |
当番弁護士の派遣要請の通知を怠った⇒国賠請求(肯定) | |||
事案 | 原告が、その警察官に対して、当番弁護士の派遣を要請したにもかかわらず、同警察官が故意又は過失により前記要請を弁護士会に通知することを怠り、原告の弁護人選任権が侵害⇒被告(大阪府)に対し、国賠法1条1項に基づき慰謝料等及び遅延損害金の支払を求めた。 | |||
主張 | 被告(大阪府): 被疑者による当番弁護士の派遣要請は刑訴法78条1項の弁護人選任の申出に当たらず、当番弁護士制度は各単位弁護士会が独自に運用するもの⇒警察官には派遣要請に対応すべき法的義務がない 原告からその派遣要請を受けた警察官よりその旨を依頼された別の警察官が留置主任官への連絡を失念but故意に原告の弁護人選任権を侵害したものではない。 |
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規定 | ||||
判断 | ● | 被告警察では、逮捕された被疑者から当番弁護士の派遣要請を受けた場合、刑訴法78条1項に規定する弁護士会に対する私選弁護人制度の申出があったとみなし、できる限り速やかに弁護士会に当該派遣要請を通知する実務上の取扱いをしていた。 | ||
同取扱いは、弁護人選任権を保障する憲法34条前段の趣旨に沿い、刑訴法78条の規定に整合 ⇒逮捕された被疑者から当番弁護士の派遣要請を受けた被告警察の警察官はできる限り速やかに弁護士会にその旨を通知する義務を負う。 |
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● | 被告の上記反論 vs. 被告警察の実務上の取扱いが合理的なものであり、 当番弁護士制度が長年にわたって安定的に運用され、被告警察も単位弁護士会から同制度について協力を求められてこれに応じている ⇒ 被告警察の警察官には、当番弁護士制度の存在を前提として、被疑者の弁護人選任権が損なわれないようにすることが求められている。 |
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解説 | 当番弁護士の派遣要請につき、刑訴法78条1項の弁護人選任の申出があったものとみなす実務上の取扱いがされていることを前提に、警察官には弁護士会に対してできる限り速やかに派遣要請を通知する義務があるとした。 | |||
知財p29 東京地裁R5.2.28 ● |
著作権法41条の時事の事件の報道のための利用に該当しないとされた事例 | |||
事案 | XがGoogleマップを運営するYに対し、氏名不詳者による投稿が、Xがインスタグラムに投稿した動画の著作権を侵害⇒特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律5条1項に基づき、発信者情報の開示を求めた。 | |||
争点 | ①本件動画の著作物性の有無 ②著作権法41条の適用の可否 |
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規定 | 著作権法 第四一条(時事の事件の報道のための利用) 写真、映画、放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる。 |
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判断 | ● | 本件動画は・・・・ ⇒撮影方法や編集等に工夫を凝らした点において創作性があるといえる⇒映画の著作物として、著作物性を認めるのが相当であり、本件動画の2か所をトリミングして静止画化した本件投稿画像についても著作物性が認められる。 |
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● | Y:本件投稿画像につき、医療関係者の男性が患者の麻酔中に当該患者の下を離れて外出している様子を収めたものであり、その様子を投稿することは、医療現場の実態や、医療事故につながりかねない様子を捉えたものとしてニュース性がある⇒著作権法41条の「時事の事件」を構成する。 vs. 本件投稿画像は、ある男性が住宅地の道路上を走っている画像に、本件テロップが付されているにとどまり、いつの出来事であるか一切明らかでなく、しかも、地図のアプリにおいて、本件歯科医院の上にカーソルを動かし、クリックした場合に表示されるものにすぎないもので、表示された出来事が生じた時期すら明らかでない。 ⇒ 本件投稿画像の出来事は、著作権法41条にいう「時事の事件」とはいえず、その投稿の表示態様に照らし、同条にいう「報道」ともいえない。 |
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一般の利用者の普通の注意と読み方とを基準として判断すれば、本件投稿画像は、医療現場の実態や、医療事故につながりかねない様子であると理解されるものとはいえず、Yが主張するようなニュース性を認めることもできない。 | ||||
解説 | ● | 著作権法41条にいう「時事の事件」: 学説上 ❶事実の事件を報道する場合とは、客観的に判断して時事の事件と認められるような報道でなければならず、また、出来事がその日におけるニュース性を有する必要がある ❷その日におけるニュースとしての価値を要するとすると、過去の報道のための利用は引用(同法32条)に該当しない限り許されないことになる⇒一概に時間だけで判断すべきでない。 |
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● | 裁判例: ①・・・前記継承式の影響等をテレビで放送するに当たり、前記ビデオ(山口組五代目継承式の模様)の一部を利用する行為が、著作権法41条にいう事実の事件の報道のための利用に該当。 |
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②映画の映像を、写真撮影し、記事に掲載。 前記記事の構成及び内容からみれば、読者の性的好奇心を刺激して本誌の購買意欲をかきたてようとの意図で記述されているものといわざるをえず、時事の事件の報道に該当しないことは明らか。 |
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③現代美術の芸術家である原告らが著作権を保有する美術品の画像を、オークション会社である被告がオークションのプレカタログとしてパンフレットに掲載 ~ 前記パンフレットはその記載内容等からすると、被告の開催するオークション等の宣伝広告を内容とするものであるというほかなく、時事の事件の報道であるということはできない⇒著作権法41条に該当しない。 |
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知財p34 東京地裁R5.3.24 ● |
靴製品の形態と不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」(肯定事例) | |||
事案 | 原告商品目録記載の靴製品等の製造及び販売を業とする英国法人である原告が、被告各商品を販売し又は販売のために展示した被告に対し、原告商品の形態と実質的に同一の被告各商品を販売し又は販売のために展示して原告商品と混同を生じさせた被告の行為は不正競争法2条1項1号の不正競争に該当⇒法3条1項及び2項に基づき、被告各商品の販売又は販売のための展示の差止め及び廃棄を求めた。 | |||
規定 | 不正競争防止法 第二条(定義) この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。 一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為 |
|||
第三条(差止請求権) 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。 2不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。第五条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。 |
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争点 | ❶原告商品の形態が原告の周知な商品等表示であるか ❷原告商品の形態と被告商品2の形態が同一又は類似であるか ❸被告商品2の販売等が原告商品と混同を生じさせる行為であるか |
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被告商品1について、選択的に、商標権侵害に基づき、販売又は販売のための展示の差止め及び廃棄を求めていたところ、本判決はこれを認容⇒不正競争該当性について判断していない。 | ||||
判断 | ● | ❶について | ||
・・・原告商品の形態は、少なくとも被告が被告商品2を販売した令和2年の時点において、原告の商品等表示として周知となっていた。 | ||||
● | ❷について | |||
・・・形態を比較すると、当該各形態に係る外観、呼称及び観念はいずれも一致している⇒需要者は両表示を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるというべき。 | ||||
● | ❸について | |||
需要者である一般消費者がオンラインストアに掲載された商品写真等を通じて原告商品の商品等表示に係る形態と類似する被告商品2の形態に接した場合には、両商品の出所が同一であると誤認するおそれがあると認めるのが相当。 ⇒ 被告による被告商品2の販売等は、原告商品と混同を生じさせる行為に当たる。 |
||||
解説 | ● | ●商品の形態の商品等表示該当性 | ||
◎ | 商品の形態は法2条1号所定の「商品等表示」に当たり得る。 but 商品の形態は、商標等と異なり、本来的には商品の出所表示する目的を有するものではない。 ⇒ 商品の形態が同号所定の「商品等表示」に当たるというためには、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至り、商標等と同程度法による保護に値する出所表示機能を発揮し得ることが必要。 |
|||
◎ | 従来の裁判例: (1)特別顕著性: 商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有している と (2)周知性: その形態が特定の事業者によって長期間独占的に利用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること を要すると指摘するものが多い。 |
|||
◎ | 本判決: (1)特別顕著性について: ・・・原告が昭和60年に我が国において原告商品の販売を開始した後、少なくとも被告が被告商品2を販売した令和2年までの期間において、原告商品のほかに、ウェルとには黒色、縫合糸には明るい黄色の組み合わせを使用し、かつ、ウェルとの表面に1つ1つの縫い目が比較的長い形状で露出しているとの形態上の特徴を有する靴製品が販売されていたことを認めるに足りる証拠はない。 ⇒この形態の点において、他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していたものと認められる。 |
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(2)周知性について: ①当該形態は他の同種商品には見られない形態として原告によってけいぞくてきかつ独占的に使用されていた ②他ブランドとのコラボレーションにより製造及び販売された商品においても当該形態が採用されていた ③広告での写真 ④紹介記事 ⇒ 当該形態は、少なくとも被告が被告商品2を販売した令和2年の時点において、原告の商品等表示として周知となっていた。 |
||||
◎ | 商品の形態にはその商品の技術的な機能及び効用を実現するために採用されているものがあるが、そのような形態が法2条1項1号所定の「商品等表示」に該当し得るか? | |||
知財高裁: 商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来する場合には、「商品等表示」に該当しない。 |
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本判決: 原告商品における黄色のウェルとステッチの特徴は、ウェルとの色とウェルとステッチの色の組み合わせや縫い目を露出させる程度を基礎とするものであって、技術的・機能的効果を実現するために必然的、不可避的に採用せざるを得ないものではない。 ⇒商品等表示性を否定すべき形態ではない。 |
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● | ●同一又は類似であるか | |||
ある商品表示が方2条1項1号にいう他人の商品等表示と類似のものに当たるか否かについて、 取引の実情の下において、 取引者又は需要者が両表示の外観、呼称又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両表示を全体的に類似しないものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当(最高裁)。 |
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本判決: ・・・原告商品の商品等表示に対応する部分に係る形態を比較し、当該各形態に係る外観、呼称及び観念はいずれも一致 ⇒需要者は両表示を全体的に類似のものとして受け取るおそれがある。 |
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● | ●混同を生じさせる行為であるか? | |||
◎ | 法2条1項1号に規定する「混同を生じさせる行為」 ~ 他人の周知の営業表示と同一又は類似のものを使用する者が自己と当該他人とを同一営業主体として誤信させる行為のみならず、両者間にいわゆる親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信させる行為をも包含する(最高裁)。 現実に混同が生じていることまでの必要はなく、混同のおそれがあれば足りる(最高裁)。 |
|||
下級審裁判例: 表示との類似性、表現の独自性や周知性、営業の態様や方法、営業地域などの具体的事情を考慮して、混同のおそれの有無を判断しているものが見られる。 混同を生じさせる行為か否かの判断にあたっては、一般取引者及び需要者の日常一般に払われる注意力の下で混同の恐れがあるか否かを基準とすべき(知財高裁)。 |
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◎ | 本判決: ①黄色のウェルとステッチが原告の商品等表示として周知 ②原告商品の商品表示に係る形態と被告商品2のそれに対応する形態との類似性 ③購買層や販売形態の共通性 ④原告商品と被告商品2のいずれもがインターネット上の怨来ストアにおいて販売されているとkろ、オンラインストアにおいて商品を購入しようとする者は、通常、販売者が予め記載及び掲載している商品名や商品写真といった限定的な情報からその商品の出所を識別することになると考えられる ⇒需要者である一般消費者がオンラインストアに掲載された商品写真等を通じて原告商品の商品等表示に係る形態と類似する被告商品2の形態に閲した場合には、両商品出所が同一であると誤認するおそれがあると認めるのが相当。 ⇒ 被告による被告商品2の販売等は原告商品と混同を生じさせる行為に当たる。 |
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● | 近時 女性用ハイヒールの靴底に赤色を付したものについて・・・商品等表示に該当するものといえないし、原告の商品と被告の商品とは需要者において出所の混同を生じさせるものと認めることはできないとした裁判例(東京地裁)。 仮に被告の商品の靴底に付された赤色が原告表示に類似するとしても、いわゆる広義の混同を認めて誤認混同のおそれがないとされた裁判例(知財高裁)。 |
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労働p64 大阪地裁R5.3.23 ● |
大学職員の精神障害発病後の自殺で業務起因性否定事例 | |||
事案 | P1の妻であるXが、P1が自殺したのは業務上の疾病である精神障害に基づくもの⇒労災法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求⇒処分行政庁からいずれも支給しない旨の処分⇒Y(国)を相手としてその取消しを求めた。 | |||
争点 | P1の自殺の原因となった精神障害の業務起因性 | |||
判断 | ● | 労働者の疾病等を業務上のものと認めるためには、業務と疾病等との間に条件関係があることを前提として、相当因果関係が認めることが必要。 そのためには、当該疾病等の結果が、当該業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要。 業務と精神障害発症との相当因果関係を判断するに当たっては、今日の精神医学において広く受け入れられる「ストレスー脆弱性」理論に依拠するのが相当。 その際には、厚労省労働基準局長によって平成23年12月26日付け「心理的負荷による精神障害の認定基準について」と題する行政通達を参考としつつ、本件における具体的事情を総合的に考慮して判断するのが相当。 |
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● | P1の発病した精神障害及びその発病時期: X:P1が自殺直前にうつ病を発病 Y:P1が自殺の約1か月前頃に適応障害を発病した 本判決: うつ病に関する医学的知見を踏まえ、P1に見られた各エピソードがDSM-5のうつ病診断基準を満たさない⇒Yが提出した医師意見書に基づき、P1は自殺の約1か月前頃に適応障害を発病。 |
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P1の労働時間: 適応障害発病前6か月の労働時間⇒P1が極度の長時間労働又は恒常的な長時間労働に従事したとは認められない。 出来事: その心理的負荷の強度はいずれも「弱」にとどまる。 ⇒ 精神障害発病の業務起因性を否定。 |
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適応障害の発病後に生じた各出来事は、いずれも前記通たち別表1にいう「特別な出来事」には当たらず、適応障害が自然経過を超えて著しく悪化したとも認められない ⇒精神障害悪化の業務起因性も否定。 |
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⇒処分行政庁が下した遺族補償給付等の不支給処分が違法であるとはいえない。 | ||||
解説 | 裁判例 参考文献 |
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労働p79 松山地裁R4.11.2 ● |
基準日前の病死での夏季賞与の支払請求権(肯定) | |||
事案 | 医療法人Yに正職員として雇用されていたが、令和1年6月8日に病死 Aの法定相続人であるXが、Yに対し、Aの夏季賞与の支払を求めた |
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Aの賃金規程: 夏季及び冬季賞与を支給日に在籍する従業員に対して支給する旨規定 令和1年の夏季賞与の支給日は6月28日⇒Yは同支給日において在籍せず。 |
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争点 | Aが死亡した時点において、夏季賞与の支払請求権が発生していたか? | |||
判断 | 本件支給日在籍要件には合理性が認められる。 but ①病死による退職は、労働者において事前に退職時期を予測したり自己の意思で選択することができず、また、労働者の責めに帰すべき理由による退職でない ②賞与の有する賃金の後払いとしての性格 ③考課対象期間満了後に病死した場合、賞与の支給を受けることに対する強い期待を有している ④本件では、夏季賞与の支給額がAの病死以前に具体的に確定しており、Aの病死が夏季賞与の支給日の20日前であった ⇒ Aに対する夏季賞与の支給につき、本件支給日在籍要件を機械的に適用することは公序良俗違反により排除される⇒Aの死亡した時点における夏季賞与支払い請求権の発生を認めた。 |
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解説 | ● | 賞与は、ボーナスや一時金とも呼ばれ、基本給とは別に支払われる。 その支給基準や時期などが就労規則等で明確に規程されれば労基法上の賃金として認められるが、就業規則等の抽象的条項のみで発生するものではなく、労使交渉や使用者の決定によって算定基準・方法が定まり、算定に必要な査定がなされて初めて発生すると解されている。 |
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賞与には、固定費的な基本給と異なり、変動費として賃金制度に柔軟性をもたらす性格があるとされ、賃金の後払いとして性格、功労報償的性格、及び将来の貢献に期待する給付としての性格等が混在。 ~ 純然たる労務の対価としての基本給とはやや異なる性格がある。 |
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● | 支給日在籍要件について | |||
学説: A:賞与支給対象期間の勤務によって抽象的な形であれ賞与支払い請求権が発生⇒支給日に在籍していなかったことを理由としてこれを不支給とする措置は許されない B:退職日を選択し得る自己都合退職、労働者の非違行為による解雇について支給日在籍要件を課すことは許されるが、会社の意思と都合による整理解雇や定年退職については支給日在籍要件を課すことは許されないなど、個々の離職事由に着目して支給日在職要件を課すことの可否を判断すべき。 C:賞与の具体的性格に照らして個別に判断すべき。 功労報償的性格、勤労奨励的性格。 賃金の後払的性格。 |
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最高裁: 支給日在籍者のみに賞与を支給するという従来の取扱いを明文化した就業規則について、その内容の合理性を肯定。 その後の裁判例: 就業規則等で支給日在籍要件を課すこと自体は許されるとするものが多いが、 個々の労働者に支給日在籍要件を課すことの可否については、当該労働者の離職事由等の具体的な事情に応じて、個別具体的に判断する傾向。 |
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許されるとした裁判例 許されないとした裁判例 |
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● | 本判決: 本件支給日在籍要件の合理性を肯定しつつ、 Aに対し本件支給日在籍要件を課すことの可否について、Yの夏季賞与の性格、Aの離職事由など本件の個別具体的事情に即して検討。 |
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刑事p84 札幌高裁R3.11.11 ● |
児相等での行為をぐ犯事由とするぐ犯保護事件で、第1種少年院に送致した決定が、著しく不当とされた事案 | |||
事案 | 少年が、半年余りの間に、児童相談所、一時保護委託先、養育委託先において、多数回にわたり、一時保護所から出て行こうとするなどして、職員の身体をたたく、つねる、蹴る、腕に噛みつく、膝蹴りにするなどの暴行を加え、うち2回については擦過傷と打撲の傷害を負わせ、蹴る、椅子を投げつける、棒を投げるなどして施設のドアを破損させるなどし、入院先の病院において、看護師の身体を殴る、蹴るなどの暴行を加えた ⇒ 少年は、保護者の正当な監護に服さない性癖があり、このまま放置すれば、その性格及び環境に照らして、将来、傷害、暴行及び器物損壊等の罪を犯すおそれがあるというぐ犯の事案及び少年に対する強制的措置許可申請の事案。 |
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原審 | ぐ犯保護事件と強制的措置許可申請事件が併合審理され、 前者につき、少年を第1種少年院に送致し 後者につき、強制的措置を許可しない決定。 |
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判断 | 第1種少年院送致は著しく不当⇒原判決を取り消し、本件を原審に差し戻した。 | |||
解説 | ● | ●「保護者の正当な監督に服さない性癖」 | ||
付添人原決定は病院の看護師に対する暴行を虞犯事由として認定しているが、看護師は保護者ではないから、同事実を非行事実とすることはできない。 vs. 本決定: 看護師に対する暴行を認定し、少年が将来傷害尚の罪を犯すおそれがあることを示す1事情とした原決定は何ら不合理ではない。 ~ ぐ犯保護事件の非行事実欄に記載される事実は、ぐ犯事由に該当する事実のみならず、ぐ犯性を基礎づける事実も含まれ得る⇒本決定の指摘は正当。 |
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付添人:本件非行時、少年の親は不純な動機で少年の引取りを申し出てこれを反故にし、児童相談所長も少年に対する配慮を書いた違法ないし不当な対応をしており、保護者が正当な監督をしていない状態が継続⇒少年が施設内で暴れたことは保護者の正当な監督に服さない性癖(少年法3条1項3号イ)を基礎づけるものとはいえない。 vs. 本決定:少年は児童相談所の一時保護となっており、同所所長が保護者に該当し、その正当な監督に服さずに本件非行に及んだことは明らか。 ~ 仮に、家庭引取りを巡る児童相談所の対応に不当な点があったとしても(違法になるとは考えがたい)、多様な判断の下、種々の事実行為を含めてなされている児童相談所長の監督が正当性を失うとは考え難い。 |
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付添人:本件非行後から終局決定時までの少年の落ち着き等を指摘して、少年には虞犯性は認められない。 vs. 本決定:ぐ犯性の判断基準時はぐ犯事由存在時であるから採用できない。 ~ 非行事実の内容として、ぐ犯性を求める現在の通説・実務においては、本決定の内容が正当。 |
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本件:ぐ犯事由に該当する、あるいはぐ犯性を基礎づける具体的事実は、暴行、傷害あるいは器物損壊という犯罪事実に該当する可能性の高い事実。 ~ 犯罪事実が認定できる場合には、ぐ犯事実ではなく犯罪事実を認定すべきではないか? vs. 家庭内や施設内の事実については、警察の介入の相当性や、非行事実名が少年や関係者に与える影響を考慮して、ぐ犯事実として処理することも実務上しばしば見られる。 そのような場合、保護者の正当な監督に服さない性癖(少年法3条1項3号イ)だけではなく、自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖(同号ニ)があるとされる例も多い。 |
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● | ●処分の著しい不当 | |||
◎ | (1)少年の非行は多数回にわたるものではあるが、①暴行は単純な態様の比較的軽度のものにとどまっている上、②本件非行はいずれも児童相談所若しくは関連施設内に限られたもの⇒悪質性が高いものとまではいえない。 (2)①断続的に粗暴行為がくり返されたことについては、家庭引取りが白紙に戻されたことによる気持ちの混乱が影響したものと認められること、②家庭裁判所係属歴はないから、非行性の程度が高まるとしても限度がある⇒非行性の程度は、直ちに少年院における矯正教育を必要とするような深刻さが認められるとはいえない。 (3)要保護性について、①問題性の背景には少年の資質上の特性があるが、家庭において少年の特性に応じた対応が採られず、かえって暴力を受けるなど家族からの愛情を感じられる場面が乏しかったことや、養育者が次々と交代したことなど家庭内の要因も影響している側面が認められ、②本件非行が家庭内の要因により惹起され、児童相談所若しくは関連施設内に限られたもの⇒現段階においてその問題性が根深いとまで評価するのは相当とはいい難く、要保護性が高いとまではいい難い ⇒ 本件に至る経緯に照らし、現段階において、強制的措置を許可した上での児童自立支援施設等においてすら改善更生する可能性がないと速断した原決定の処分は、著しく不当。 |
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◎ | 現実問題として、施設内で指導にあたる職員や施設自体に対して粗暴行為に出る少年をどのように指導できるのかという問題が存在⇒検討されるべきは、最終審判の時点で、少年が想定される施設における指導を受け入れる状況にあるかどうか。 | |||
付添人:少年は、本件非行後入院し、落ち着いて生活をしており、少年鑑別所送致後は、施設職員や看護師に対して謝罪をし、服薬により易刺激性や衝動性をコントロールできるようになっていた。 | ||||
◎ | 差戻後第1審: 少年は、ショートステイ施設で大きなトラブルを起こすことなく生活 ぐ犯保護事件について、少年を児童自立支援施設に送致し、強制的措置許可申請事件について、強制的措置を許可。 |
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● | ●付随的問題 | |||
原審: ぐ犯保護事件について、少年を第1種少年院に送致 強制的措置許可申請事件について、強制的措置を許可しなかった ⇒ 付添人は、双方の決定に対して抗告 ⇒ 本決定: 強制的措置許可申請事件の決定に対する抗告は、原決定が保護処分ではなく抗告の対象にならないから不適法 ~ 本決定で差し戻されたのはぐ犯保護事件のみ。 |
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本件においては、あらためて、都道府県知事又は児童相談所長から強制的措置許可申請事件の送致を受けたものと思われる。 | ||||
刑事p90 名古屋高裁R5.1.18 ● |
司法面接時の供述等⇒被害供述の信用性に疑いがあるとして無罪とされた事案 | |||
事案 | 実子(A)に対する準強制わいせつ被告事件で、被告人が犯行を否認 | |||
差戻前1審 | Aの証人尋問・Aの叔母などの証人尋問・被告人質問等 ⇒有罪 |
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差戻前控訴審 | 弁護人:令和1年8月16日に児童相談所で実施された同所職員によるAに対する司法面接の状況を録音録画した記録のうち一部を抜粋したDVDが添付された捜査報告書を、証拠調べの必要性なしとして却下した点等の訴訟手続の法令違反を主張 ⇒ 本件は、目撃者がおらず、被害そのものを裏付ける客観証拠がなく、被告人が捜査段階から否認 ⇒Aの証言の信用性が帰趨を決するという証拠構造。 本件司法面接時のAの供述状況の記録を取り調べなかったことは訴訟手続の法令違反に当たる⇒破棄して差し戻し。 |
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差戻後1審 | ①本件司法面接時のAの供述状況全体が録音録画されたDVD添付の捜査報告書及びその反訳等を内容とする捜査報告書の取調べ ②Aから事情聴取をした警察官や司法面接の手法等に関する専門家等の各証人尋問 ③被告人質問 ④検察官によるAの取調べを記録した録音録画媒体を添付した捜査報告書等 を取調べ ⇒ Aの証言の信用性に疑いを入れる余地があるとして、無罪判決。 |
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検察官: ❶本件司法面接前の暗示・誘導による供述汚染の有無が争点になってなかったにも関わらず、暗示・誘導があった可能性を理由としてAの供述の信用性を否定したことが不意打ちに当たり、審理不尽の違法があり、訴訟手続の法令違反がある ❷事実誤認がある ⇒控訴 |
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判断 | ● | ❶について | ||
本件司法面接前の暗示・誘導を争点としない合意があったという記録はなく、本件司法面接の証拠価値の判断に際しては、本件司法面接前の事情として暗示・誘導の有無について検討されるのは当然のこと | ||||
● | ❷について | |||
検察官: 本件公訴事実の有無を判断する上で重要な間接事実である、Aが被告人から日常的な性的被害にあっていたいたか否かという点につき、原判決が真偽不明としたのは論理則、経験則違反であり、Aは本件被害の前より被告人から日常的な性的被害にあっていた vs. 検察官が根拠としてあげた ①Aのインターネット上で知り合ったLINE相手に対する性的被害の開示 ②AがA母に送信した(被告人に胸を触られたとの)メッセージ ③Aを診察した産婦人科医師の証言 ④Aを診察した精神科医師の(AがPTSDを発症したとの)証言 ⑤被告人がAの母に送信したメッセージ内容 を検討し、 いずれもこの点に係るAの被害供述の真実性を補強する事情のものではない。 |
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検察官: 本件被害の発覚の経緯に関する証拠関係は差戻前第1審のときとは変化して明らかになった vs. Aの叔母とのやり取りにおいては具体的な被害状況の話はなく、Aの前記LINE相手とのやり取りにおいても本件被害自体を裏付ける証言、証拠は存在しない。 |
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検察官: 本件被害に係るAの供述について、信用性に疑いの余地があるとした原判決は誤っている vs. ①被告人の体勢に関する供述の不自然さ ②被告人が本件犯行を止めた経緯についての本件司法面接における供述と公判における証言の場当たり的な変転 ③Aの記載LINE相手に被害後の早い段階で伝えなかった不自然さ ④引き戸1枚を隔てた部屋に被告人の知人が寝ている状況で被告人が本件犯行に及ぶ不自然さ ⑤陰部に入れられたものが男性器だとわかった理由の不自然さ ⑥捜査段階に供述せず後に担任教諭や検察官に開示した理由について納得いく説明のないこと ⑦陰部の感覚に関する供述の変遷 ⇒ 原判決の評価に誤りはない。 |
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⇒ 原判決の事実認定に論理則、経験則等に照らして不合理な点は見当たらず、事実誤認があるとの検察官の主張には理由がない。 |
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解説 | ● | 司法面接:参考人取調べにおける被聴取者の負担の軽減と被聴取者の供述の信用性確保を目的として、法的な判断のために使用することのできる精度の高い情報を被面接者の心理的負担に配慮しつつ得るための面接技法であるとともに、 聴取者による被聴取者への暗示・誘導を回避して、被聴取者の記憶への汚染がなされない状態で供述を確保するために、事件発覚後できるだけ早期に、被聴取者による自由報告を求めるかたちで、構造化されたプロトコルに基づいて実施される面接技法。 |
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● | 差戻後第1審判決: 本件司法面接はNICHDプロトコルに従って適切に行われていたため、本件被害についての供述がどう面接時に自発的に得られたといえるとしつつ、 NICHDプロトコルは嘘と真実を見極める手法ではなく、どう面接時の供述の信用性が定型的、類型的に高まるとはいえない。 |
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裁判例: 司法面接の実施前の状況を踏まえて、司法面接によって得られた供述の信用性を否定した事例 被害申告に至る過程での供述内容への働きかけが問題とされた事例 ~ 司法面接がプロトコルを遵守していることそれ自体でその信用性が直ちに高くなるわけではない。 |
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文献 | ||||
● | 司法面接は、暗示・誘導による記憶の汚染を回避する点に調書を有する手法であるが、意図して虚偽を述べる者の供述の真実性まで確保する手法ではない。 司法面接時に供述であっても、意図して虚偽を述べている可能性がある場合には、差戻後第1審判決が詳細に検討しているとおり当該供述の信用性を吟味する必要がある。 |
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司法面接: 初期供述を録音録画して保全する側面も有しているところ、 司法面接に記録された初期供述とその後の検察官取調べにおける供述、公判における証言との間での供述の変遷を検討するために用いられる場合もあり得る。 ~ 差戻前控訴審が本件司法面接を証拠として採用することを求め、 本件判決及び差戻後第1審判決は、供述が変遷している状況を認定する際に、司法面接時の供述を援用。 |
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● | 証拠として用いる場合であっても、その供述に含まれる事実の真実性は、客観的事実を含む他の証拠によって検証される必要。 | |||
改正された刑訴法321条の3の運用。 | ||||
2582 | ||||
民事p20 名古屋高裁金沢支部R4.3.23 ● |
福井県公共嘱託登記土地家屋調査士協会の違法行為の事例 | |||
事案 | Y1:公益社団法人である福井県公共嘱託登記土地家屋調査士協会 Xらが、Y1の執行部構成員であるY2~Y6が、Xらに対し、共謀して、Y1の理事会を経ることなく、事実上又は法律上の根拠がないのに、土地家屋調査士法44条に基づく措置申立てを行うとともに、Xらの名誉を毀損する発言をし、これらの共同不法行為によりXらに精神的損害を与えた ⇒Yらに対して損害賠償等の支払を、Y1に対して謝罪広告の掲載を求めた。 |
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本件各申立て:前記業務につき、…福井県地方法務局長に対して適切な措置を求めたものであり、本件発言とは、Y3が、本件各申立てによる処分がなされていないのに、Y1の臨時社員総会において、Xらが非違行為をしたかのような発言をしたもの。 | ||||
原審 | ● | Xらの請求を一部認容 | ||
● | ・・・いずれも法令に違反するものとはいえない⇒本件各申立ては事実上又は法律上の根拠を欠く。 Yらはいずれについても調査義務を尽くしたとは認められない。 ⇒ 本件各申立ては、懲戒制度の趣旨・目的に照らし相当性を欠くと認められ、違法な措置申立てとして不法行為を構成する。 |
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Y6は本件各申立ての申立人にはなっておらず、X1に対しての調査義務違反等の責任は認められない。 but X2に対しては、P1に強く迫って報告書を作成させY2~Y5に提供したことにより違法な申立てを幇助 ⇒共同不法行為責任を負う。 |
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Y1については、本件各申立てはY1の当時の理事長であるY5がその職務に関連して行ったもの⇒一般法人法78条にいう「職務を行うについて」に当たり責任がある。 | ||||
● | 本件発言については・・・Xらの社会的評価を低下させるもの。 Y1執行部の報告事項としてなされたもの⇒執行部でないY6を除くYらの責任は免れない。 本件発言は公益を図るもの but 真実ではなく、誤信相当性なし ⇒不法行為が成立。 |
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判断 | 原審維持 | |||
解説 | 県公共嘱託登記土地家屋調査士協会の執行部構成員らが、同協会に所属していた土地家屋調査士らに対して、理事会を経ずに、土地家屋調査違法44条に基づく措置申立てを行ったことが、事実上又は法律上の根拠を欠き、調査義務を尽くしておらず、制度の趣旨・目的に照らし相当性を欠くものとして不法行為を構成。 | |||
弁護士に対する違法懲戒請求事案に関する規範: 弁護士法58条1項に基づく懲戒請求は、 ①これらが事実上又は法律上の根拠を欠く場合において、 ②請求者が、そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに、あえて懲戒を請求するなど、懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨・目的に照らし相当性を欠くと認められるときには、違法な懲戒請求として不法行為を構成。(最高裁) |
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民事p49 東京地裁R4.12.1 ● |
健康保険組合の被扶養者から外すとの判断が適法とされた事例 | |||
事案 | 健康保険組合Yの組合員(被保険者)であるXが、妻であるQ1から ①(Q1が連れてXと別居した)子らがXの被扶養者から外れる旨の申出書 ②配偶者からの暴力の被害者の保護等に関する証明書 ③XとQ1の婚姻費用分担に関する調停調書等が提出されたことを受け、 Y1した、Xの子らをXの被扶養者から外す旨の処分が違法 ⇒Yを相手に、国賠法1条1項に基づく損害賠償請求を行った。 |
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判断 | 本件処分は適法⇒請求棄却 | |||
健康保険組合は、被保険者からの届出がない場合においても、職権で被保険者の親族等について被扶養者から外すことができ、このことは、令和3年第1号通知の対象ではない場合であっても同様であり、当該親族等が被保険者からの暴力等を受けている者である場合に限定されない。 | ||||
昭和60年通知において定める被扶養者の認定基準は、夫婦間の生計が同一ではなくなった場合にはそのまま適用されず、かかる場合には、子らとの同居の有無や生活費の支出の負担割合などを比較して、被扶養者該当性を判断すべき。 | ||||
解説 | ● | ●本件処分の処分性 | ||
最高裁R4.12.13: 健康保険組合が被保険者に対して行う親族等が被扶養者に該当しない旨の通知が健保法189条1項所定の被保険者の資格に関する処分に該当。 その前提として、同通知が処分である旨説示。 |
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● | 本件:国賠法1条1項に基づく国賠請求訴訟 処分が違法であることから直ちに同法上の違法となるものではなく、行政庁が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と同処分をしたと認められる場合に違法となる(職務行為基準説)。 |
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● | 保険者である健康保険組合が従来被扶養者と認定していた被保険者の親族等を被扶養者から外す旨の判断については、健保法施行規則38条1項の規定の他には法令上の規定がなく、手続が明確ではなく、職権で行うことが可能かどうか明らかでない。 | |||
令和3年第1号通知: 被保険者等から暴力等を受けた被扶養者については、被保険者から健康保険の被扶養者から外れる旨の届出が出ることは期待できない ⇒当該被害者から所定の書類を添付した申出がなされた場合には、被保険者からの届出がなくても、当該被害者を被扶養者から外すことが可能である旨規定。 |
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本判決: 被保険者の資格の得喪自体が職権で行えることなどの理由によって、令和3年1号通知をもって、職権判断ができる場合が限定されると解するのは不合理。 |
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● | 離婚には至っていないが生計を異にする別居中の夫婦の場合、子の別居親が、同居親に対して婚姻費用等の負担をすることにより、両者で子を扶養していると評価できるケースがある。 | |||
昭和60年通知(令和3年4月30日に新たな通知で現在は廃止): 夫婦が共同して扶養している場合における被扶養者の認定に当たっては、あくまで原則であるが、年間収入の多い方の被扶養者とすることとしている。 ~ 両者の収入によって被扶養者の扶養をしている場合には、基本的に収入の多い方が扶養のための費用を多く支出していることが想定されるため。 but 夫婦が別居して、生計を同一にしていない場合においては、子と同居する親において子の生活費等を負担していることが多い⇒昭和60年通知の射程を外れている。 |
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札幌地裁H30.9.11: 子を非親権者・別居親である原告の扶養者から外した処分を違法とする判断。 ~ 非親権者である原告が、別居後も親権者の収入を大きく上回る額の養育費の支払いを行っていた⇒当該子の生活を経済的に支えていたのは原告であった旨判示で、基本的な考え方は本判決と異なるものではない。 |
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民事p58 大阪地裁R5.9.19 ● |
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事案 | 基本事件: 学校法人に対する業務上横領事件の被疑者として逮捕、勾留され、業務上横領の公訴事実で起訴⇒無罪判決確定⇒検察官の違法な逮捕、勾留、起訴及び違法な取り調べによって損害を被ったとして、相手方(国)に対し、国賠法1条1項に基づき損害賠償を請求。 本件:本件横領事件の刑事裁判で共犯者とされた者及び申立人の取調べの録音録画記録媒体について、担当検察官による取調べの具体的状況等を証明するため、これを所持する相手方に対し、民訴法220条1号、2号及び3号後段に基づき文書提出命令の申立てをした。 |
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判断 | 一部については、基本事件において証拠調べの必要性が認められる⇒P1録音録画は「挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成された」文書(民訴法220条3号後段)に該当⇒相手方に提出を命じた。 その余の録音録画記録媒体については、相手方が提出した担当検察官との取調べにおけるやりとりを反訳した報告書等で足り、基本事件において証拠調べの必要性がない⇒却下。 |
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規定 | 第二二〇条(文書提出義務) 次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。 三 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。 四 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。 ホ 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書 |
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解説 | ● | 被疑者の取調べの録音録画記録媒体は、「刑事事件に係る訴訟に関する書類」に該当⇒220条4号による文書提出義務は否定される。 but 法律関係文書に該当する場合には文書提出義務が否定されるものではない。 |
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● | 刑事関係書類の法律関係文書該当性: 最高裁R2.3.24: 民訴法220条3号後段の文言及び沿革に照らし、当該文書の記載内容やその作成の経緯及び目的等をしん酌して判断するのが相当。 ~ 刑事関係書類といっても種々多様⇒文書提出命令の申立人と所持者との関係、当該書類の作成目的、作成時間、内容等を勘案して判断する趣旨。 |
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本決定: P1録音録画について ①申立人が起訴され被告人の地位におかれたことにより刑事上の法律関係が生じた ②録音録画を義務づけた刑訴法301条の2の趣旨 ③前記①の法律関係を生じさせる判断にあたり重要な判断資料であったこと等 ⇒ 民訴法220条3号後段の法律関係書類に該当。 |
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● | 刑事事件の捜査に関して作成され、刑事裁判の公判に提出されなかった書類の原本については、「訴訟に関する書類」として後悔が禁止される(刑訴法47条本文)。 but 法律関係文書に該当⇒公判に提出されなかった書類が同条所定の「訴訟に関する書類」に該当するとしても、その保管者による提出の拒否が当該保管者の有する裁量権の範囲を逸脱し又は濫用するものである場合には、裁判所は、その提出を命ずることができるとするのが相当(最高裁)。 |
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本決定: P1録音録画のうち本件横領事件の公判に提出されなかった部分につき、 ア:基本事件で、本件横領事件の取調べにおける担当検察官の非言語的要素(恫喝する、机をたたく等)の指摘⇒基本事件において取調べの必要性が高い イ:P1がP1録音録画の証拠採用に反対しないことが確認⇒名誉・プライバシーの侵害のおそれがない ウ:本件横領事件の刑事裁判の進捗状況や基本事件での主張立証の内容⇒捜査、公判に不当な影響を与えるおそれがない ⇒ 提出を拒否することは、保管検察官の裁量を逸脱し又は濫用するものであると判断し提出義務を認めた。 |
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● | 公判に提出された書類は「訴訟記録に該当」⇒原則閲覧することが可能(刑訴法53条1項本文) but 刑事確定訴訟記録法4条2項各号に該当する場合については、例外的に閲覧が制限される。 |
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本決定:P1録音録画のうち本件横領事件の公判に提出された部分につき、いずれの閲覧制限事由も認められず、提出義務を認めるうえで支障はないとして提出を命じた。 | ||||
民事p64 名古屋地裁R5.2.28 ● |
特別養護老人ホームの注意義務違反(肯定事例) | |||
事案 | A(当時81歳)は、Yが運営する特別養護老人ホームに入所⇒令和1年12月、食事の提供を受けていた際に意識不明となり死亡。 | |||
Aの相続人:Yは、Aの食事を全介助するか、少なくともこれを常時見守るべき注意義務をお言っていたのにこれを怠ったもので、これによりAは食事を誤嚥して死亡⇒Yに対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求。 | ||||
争点 | ①Yの注意義務違反の有無 ②Yの注意義務違反とAの死亡との間の因果関係 ③損害額 ④過失相殺 |
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判断 | ● | ●争点①について | ||
Yは、地域密着型介護老人福祉施設(介護保険法8条22項)を運営する者として、入所契約を締結した要介護者に対し、当該契約に基づき、入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話等を行う過程において、その生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負う。 | ||||
Yの職員において、Aが食事をかき込んで食べることにより嘔吐し、その吐物を誤嚥し窒息する危険性があることを予見できた⇒Yは、Aに対し、入所契約に基づく安全配慮義務の具体的内容として、Aが食事をする際には、職員をしてこれを常時見守らせるべき注意義務を負っていたものというべきであるが、Yはこれを怠った。 | ||||
● | ●争点④について | |||
①Yは、遅くとも令和1年7月22日頃までには、X1に対し、Aの食事形態を嘔吐したりむせたりしにくいもの(全粥+刻み食)に変更した旨を説明 ②その後、普通の食事に戻して欲しいとのX1の要望⇒Yは、Aの食事形態のうち主食を「全粥」から「軟飯に近い普通食」に変更 ③X1は、前記の要望をした際、Yから、誤嚥のリスクという観点から食事形態の再度変更についての懸念を示されたことが推認される ④前記の食事形態の変更がAの死亡という結果の発生に相当程度寄与していたものというべき ⇒ Yの過失が重大なものであることなどを最大限考慮しても、被害者側の過失として5割の過失相殺をするのが相当。 |
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解説 | 介護事故に関する損害場補素請求訴訟を取りまとめた論考等 | |||
安全配慮義務違反の有無の判断は事例による個別性が高い。 | ||||
特別養護老人ホームを運営する事業者は、利用者のみならずその家族とも適切に連携を図ることが期待されている(指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準・・・)、利用者の家族の意向も尊重される(同・・・)。 事業者にとって利用者の家族の顧客という側面も事実上有する。 ⇒ 事業者としての専門技術的判断と家族の意向をどのように調整するか。 |
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本件:損害の公平な分担の見地から、5割の過失相殺をしたもの。 | ||||
民事p72 大津地裁R4.3.17 ● |
職員のトラブルにおける市長の対応が違法とされた事例 | |||
事案 | Y(大津市)の職員であるXが、Yの職員であったAとの間でトラブルが生じた際、Yの市長やYの職員はAの保護を優先し、Xに示談の強要をし、XがAの被害申告に係る刑事事件(強制わいせつ事件。その後Xは同事件につき無罪判決を受けている)に関する公文書公開請求等をした際に存在するはずの文書について不存在と虚偽の回答をする違法な対応をした ⇒Yに対し、国賠法1条1項に基づき経済的損害及び慰謝料等の損害賠償を求めた。 |
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Xの主張する違法事由: Xがした前記公文書公開請求の手続において、Yの内部には職員らが管理する対象文書の写しが存在していたのに、Y市長らが当該文書は存在しないと回答(「第6行為」)の違法性や Xが前記刑事事件について違法な行為はしていないと主張し、Aと示談をする意思はないと明言しているのに、Y市長らが繰り返し示談を強要したこと(「第14項」)の違法性等 |
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判断 | ● | ●第6行為 | ||
公文書公開の対象文書に関して文書の写しが存在しているときの組織共用性について検討。 | ||||
職員が自己の執務遂行の便宜上作成し、利用している文書の写しが存在する場合に、 その文書の写しが当該職員限りの使用にとどまる⇒その文書は組織共用性を欠き、公文書公開の対象となる文書に当たらない 当該文書の原本が存在しない等の事情から、その文書の写し自体が執務に用いられる状況にあり、後任者を含む他の職員らの執務のように供されている⇒その写しには組織共用性が認められる。 |
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本件: ①対象文書の内容が実施機関である人事課の所掌する事務に関する問題であって、継続的な対応が想定されるものであった ②同文書が職員(人事課長)の交代に伴い後任者に引き継がれており、人事課長以外の職員もその存在や保管場所を知っていた ⇒ 被告市長や担当職員において、同文書が人事課内における組織共用性のある文書であると解することは比較的容易に検討し得た⇒Y市長がこのような検討をせずに同文書は不存在であると回答したことには過失がある。 |
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● | ●第14行為 | |||
①Xが起訴され有罪判決を受けた場合に失職などの処分が見込まれる ②j強制わいせつの成否という判断しづらい問題 ⇒ Y市長らがXに示談をするよう促したこと自体は違法とはいえない。 |
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but Xが示談の意思はないと明確に伝えていたのにY市長らが多数回にわたって示談を促し続けた点に着目し、人事権者による執拗な促しは、裁判で正当に争う権利の行使を委縮させるもの ⇒社会的相当性をこえるとして、Y市長らがした対応は違法。 |
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解説 | ● | ●第6行為関係 | ||
行政情報公開法2条2項にいう「組織的に用いる」行政文書とは、行政機関の組織において業務上必要なものとして利用又は保存されている状態のものをいい、その判断は、当該文書の、①作成または取得の状況(職員個人の便宜のためにのみ作成又は取得されたものであるかどうか、直接的又は間接的に管理監督者の指示等の関与があったものであるかどうか)、②利用の状況(他の職員又は部外に配布されたものであるかどうか、他の職員がその職務上利用しているものであるかどうか)、③保存又は廃棄の状況(もっぱら職員個人の判断で処理できる性質の文書であるかどうか、組織として管理している職員供用の保存版所で保存されているものであるかどうか)などを総合的に考慮して行われる。 | ||||
正式文書が組織共用文書であっても、職員が自己の執務の便宜のためにその写しを保有している場合には、その写しについて組織共用文書とはならない。 | ||||
本判決:具体的な事情を慎重に検討し、写しであってもこれが組織共用文書として扱われている実態を踏まえ、組織共用性を肯定した事例。 | ||||
正式文書でない文書の組織共用性について、否定した裁判例(・・・)。 | ||||
● | ●第14行為関係 | |||
本判決:Xが明確に示談を拒否しているにもかかわらず、勤務する職場の人事権者であるY市長や副市長が繰り返し執拗に示談を勧めたことを特殊事情として考慮し、権利侵害があったと判断。 | ||||
他人に対し、ある行為をするよう、立場上の不利益を告知して説得したり警告等したりする行為が、強要罪(刑法223条)等が定める「脅迫」行為として可罰性のある行為になるか否かについて、その限界を画することは難しく、具体的には、行為の背景、その場の雰囲気、告知前後の事情、行為者と相手方の事情等を考慮し、告知内容の意味を把握。 | ||||
本判決:中立的な立場で対処すべきである市長の立場や示談を勧めるに至った経緯及び態様等を考慮し、その程度が許容される範囲を超えて相当性を欠くと判断されたもの。 | ||||
本判決:示談の促しが裁判で争う権利を委縮される効果についても言及。 訴えを取り下げるよう強要したことが裁判を受ける権利を侵害するものであると判断した裁判例(・・・)。 |
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労働p87 東京地裁R4.12.9 |
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事案 | 原告が被告に対し、入院雑費、休業損害、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益、弁護士費用の損害賠償を請求。 | |||
争点 | ①被告の原告に対する安全配慮義務違反の有無 ②原告に生じた損害の額 ③過失相殺の可否 ④損益相殺の可否 |
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判断 | ● | 争点①: 原告と被告との間で直接労働契約が締結されたとはまでは認め難い。 but 被告が原告に対し道具であるガスバーナーを提供したことや、被告代表者が原告に対して本件解体工事の作業工程を指示したことなど ⇒ 原告と被告との間には、信義則上、安全配慮義務を認めるべき特別な社会的接触の関係があったと認めるのが相当。 |
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一定程度の危険性がある本件解体工事に従事⇒被告には少なくともヘルメットを着用させる、安全教育等の措置を採るなどの義務があったというべきで、被告は原告に対する安全配慮義務に違反。 | ||||
● | 争点②: 入院雑費、休業損害、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益などの損害が発生。 |
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● | 争点③: | |||
①原告はP2が本件倒壊部分を支える縦性の根元部分を一部溶断する様子を見ていた ②原告は本件倒壊部分の天板上に乗らず本件倒壊部分以外の天板上に乗って溶断作業をすることも可能であった ⇒原告の過失割合は1割5分 |
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原告とP2は義理の兄弟の関係にあるものの、 ①P2はC1を経営し、原告は本件事故当時はC1社とは別の会社に勤務していたなど、収入は別個 ②その他原告とP2とが身分上、生活関係上一体をなすと評価すべき事情はうかがわれない ⇒ P2の過失を被害者側の過失として考慮することはできない。 |
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● | 争点④: 原告が支払を受けた休業補償給付、労災保険年金、障害基礎厚生年金等を損益相殺の対象とすることは当事者間に争いがない。 年金生活費支給給付金は、生活の支援を目的とするものであって、損害賠償と同一の事由に生じたものとはいえない⇒損益相殺の対象とすべきではない。 |
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解説 | ● | 民間の労働関係における安全配慮義務について、労働契約において、使用者は、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負う(最高裁)。 | ||
● | 直接の雇用関係がない場合であっても、労働関係に類する特別な社会的接触の関係⇒元請業者は、信義則上、当該労働者に対して安全配慮義務を負う。 | |||
特別な社会的接触の関係の有無の判断: 元請業者の指揮、監督を受けて稼働していたか、元請業者を管理する設備、工具等を用いていたか、その作業内容も元請け業者の従業員と類似性があったかなどが、その事情として考慮。 |
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● | 転落事故の事例の裁判例 過失相殺の文献 |
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商事p95 最高裁R5.5.24 |
非上場会社の譲渡制限株式の売買価格の決定が問題となった事案 | |||
事案 | 譲渡制限株式の株主である抗告人らは、非上場会社である相手方に対し、その所有する譲渡制限株式(「本件株式」)を第三者へ譲渡するに当たり、その承認を求めた ⇒相手方はこれを拒否し、自ら株式を買い取ることを前提に、会社法144条2項に基づき、裁判所に本件株式の売買価格の決定を申立てた。 |
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原決定 | ①本件株式の評価方法としてDCF法(将来期待されるフリー・キャッシュ・フローを一定の割引率で割り引くことにより株式の現在の価値を算定する方法)を用い、本件株式の1株当たりの評価額を算定し、 ②その評価額から、非流動性ディスカウント(非上場会社の株式には市場性がないことを理由とする減価)として30%の減価を行い、本件株式の売買価格を決めた。 |
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抗告人 | 最高裁H27.3.26は、非上場会社において吸収合併に反対する株主から株式買取請求がされ、裁判所が収益還元法(将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価値を算定する方法)を用いて株式の買取価格を決定する場合に、非流動性ディスカウントを行うことはできないと判示 ⇒本件株式について非流動性ディスカウントを行った決定には、判例違反があることなどと主張し、抗告許可の申立て⇒許可 |
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判断 | 抗告を棄却 | |||
会社法144条2項に基づく譲渡制限株式の売買価格の決定手続は、譲渡を希望する株主に投下資本の回収の手段を保障するために設けられたもの ⇒譲渡制限株式が任意に譲渡される場合には非流動性ディスカウントを行うことができることと同様に、減価を行うことが相当と認められる場合には非流動性ディスカウントを行うことができる。 but 譲渡制限株式の評価額の算定過程において当該譲渡制限株式に至上性がないことが既に十分に考慮されている場合には、当該評価額から更に非流動性ディスカウントを行うことは、二重の減価を行うこととなり相当ではないが、本件においてはそのような事情はうかがわれない。 ⇒ 本件においては、DCF法によって算定された本件株式の評価額から非流動性ディスカウントを行うことができる。 |
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解説 | ● | 非上場会社の株式は、上場会社の株式と比べて流動性がなく、その譲渡には取引コストがかかる⇒その分だけ株式の評価額は低い。 非上場会社の株式が任意に譲渡される場合、その株式の評価に当たり、非流動性ディスカウントを行うことができる点に特段の異論はない。 |
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会社法144条2項に基づく譲渡制限株式の価格決定は、株主による自発的な株式譲渡を前提とするものであり、株式の取引コストの発生が既に顕在化している場面で問題となる⇒非上場会社の株式が任意に譲渡される場合の株式評価と基本的に異なるものではない。 ⇒非流動性ディスカウントを行うことができる。 |
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● | 平成27年最決は、非上場会社の吸収合併に反対する株主が株式買取請求をした場合の価格決定において、結論として非流動性ディスカウントを否定。 but この場合の価格決定は、反対株主に会社から退出の機会を与え、企業価値を適切に配分するためのもの⇒本件のように株式の取引コストが顕在化している場面での株式評価が問題となるものではない。 ~ 本件とその性質・場面を異にする。 |
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● | 平成27年最決の計算過程においては、非流動性を織り込んだ計算が、非流動性ディスカウントを行う前に既にされており、当該収益還元法には「市場における取引価格との比較という要素は含まれていない」と言い得るものであった。 ~ そこには「市場における取引価格との比較という要素は含まれていない」から、そのような収益還元法による計算後に、更に非流動性ディスカウントを行うことは相当ではない旨を説示。 |
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刑事p101 岡山家裁R4.10.17 ● |
少年補償事件 | |||
事案 | 盗品等保管保護事件において逮捕勾留の基礎となった盗品等保管の事実が認められないとして保護処分に付されなかった少年に対し、逮捕勾留されていた22日間のうち2日間は別件である窃盗保護事件(「B事件」)の捜査にりようされたなどとして、残りの20日間について、少年の保護事件に係る補償に関する法律に基づく補償をしたもの。 | |||
経緯 | ①少年は、A事件の送致事件と同一の被疑事実で緊急逮捕され、同事実で勾留。 (身柄拘束は合計22日) ②少年は、B事件の送致事実と同一の被疑事実で逮捕され、同事実で勾留。 (身柄拘束の期間は9日で、勾留期間は8日) |
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規定 | 第三条(補償をしないことができる場合) 次の各号のいずれかに該当するときは、前条の規定にかかわらず、補償の全部又は一部をしないことができる。 ・・・ 二 数個の審判事由のうちその一部のみの存在が認められない場合において、本人が受けた身体の自由の拘束が他の審判事由をも理由とするものであったとき、又は当該身体の自由の拘束がされなかったとしたならば他の審判事由を理由として身体の自由の拘束をする必要があったと認められるとき。 |
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解説 | ● | ①の逮捕勾留(22日間)は、不処分となったA事件の送致事実と同一の被疑事実に基づくもの⇒少年補償法2条1項所定の補償の要件をを満たす。 ⇒ 少年補償法3条により補償をしないことができる場合に当たらないかが問題。 |
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3条2号: 「数個の審判事由のうちその一部のみの存在が認められない場合において、本人が受けた身体の自由の拘束が他の審判事由をも理由とするものであったとき、又は当該身体の自由の拘束がされなかったとしたならば他の審判事由を理由として身体の自由の拘束をする必要があったと認められるとき」 |
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同号後段: 非行無しとされた事実での身柄拘束が非行ありとされた事実の捜査や調査等のために実質的に利用されていたという関係にあり(実質的利用関係の存在)、かつ、 仮に非行なしとされた事実で身柄拘束されていなければ非行ありとされた事実で身柄拘束する必要があったと認められる場合(身柄拘束の必要性)に、補償を不要とする趣旨。 |
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● | 実質的利用関係: 本決定: 非行ありとされたB事件が、非行なしとされたA事件と密接に関連し、共通する証拠も多い⇒A事件に係る逮捕勾留が、B事件に関する捜査にも実質的に利用されていたことを認めているよう。 |
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● | 身柄拘束の必要性: ①非行ありとされた事実の重大性、 ②非行なしとされた事実との対比 ③身柄拘束の根拠 ④身柄拘束の利用状況等 から総合的に判断。 |
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本件: 非行ありとされたB事件について現に逮捕勾留されている(9日間)⇒進んで、どの程度の期間の身柄拘束が必要であったかを検討。 ~補償対象日数の問題と重複。 |
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● | 補償対象日数: 非行なしとされた事実による身柄拘束の期間から、非行ありとされた事実の捜査や調査に通常必要とされる期間を控除して算出すべき。 実際は、①~④の身柄拘束の必要性を判断する際の考慮要素を参照しながら検討。 |
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本決定: ①A事件とB事件とが密接に関連し、共通する証拠も多く、A事件に係る逮捕勾留において、B事件に関する捜査も行われている ②その結果としてB事件に係る逮捕勾留の期間が9日間で済んでいる ③B事件は単純であり、A事件はより複雑 ⇒ 非行なしとされたA事件に係る逮捕勾留期間である22日間から2日間を控除し、残りの20日間について補償。 |
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別件: 逮捕勾留の基礎となった覚醒剤所持の事実が認められないとして保護処分に付されていなかった少年に対する少年補償事件について、少年が逮捕勾留された12日間のうち4日間は別件の覚醒剤使用の時j地ウの捜査に利用され、その結果、同事実に基づく逮捕勾留の期間が合計10日とされた⇒残りの8日についてのみ補償を認めている。 |
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2580・2581 | ||||
p5 東京地裁R4.7.13 ● |
東電福島第1原発事故株主代表訴訟第1審判決 | |||
事案 | 東電の株主であるXらが、取締役であったYらにおいて、福島県沖で大規模地震が発生し、福島第1原発に津波が遡上して過酷事故(原子炉から放射性物質を大量に放出事故)が発生することを予見し得た⇒その防止対策を速やかに講ずべきであったのに、これを怠った取締役としての任務懈怠があり、これにより本件事故が発生し、東京電力に損害を被らせたなどと主張し、会社法847条3項に基づき、同法423条1項の損害賠償請求として、Yらに対し、連帯して、損害金22兆円等を東京電力に支払うよう求めた株主代表訴訟。 | |||
規定 | 会社法 第四二三条(役員等の株式会社に対する損害賠償責任) 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 |
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解説 | 原賠法3条1項に基づく東京電力に対する損害賠償請求訴訟のほか 国賠法1条1項に基づく損害賠償請求訴訟が全国で多数提起 既に、結果回避可能性が認められないとして国の責任を回避した最高裁判決も出されている。 (時報2546.5) |
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取締役の個人責任を問う訴訟としては、本件のほかに、 刑事の業務上過失致死傷事件及びその控訴審。 ~いずれも過失責任を否定。 本判決:一部の取締役について会社法423条1項の任務懈怠責任を認めた。 |
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争点 | ❶Yらに津波に対する安全対策の実施義務を生じさせるような過酷事故発生の予見可能性があったか ❷Yらに津波対策に係る取締役としての任務懈怠があったか(主位的請求) ❸Yらに過酷事故に係るリスク管理体制構築義務違反があったか(予備的請求) ❹任務懈怠と本件事故発生との因果関係の有無 ❺本件事故により東京電力に生じた損害の有無及びその額 |
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判断・解説 | ● | ●争点❷について | ||
本判決: 原子力発電所を設置、運転する原子力事業者たる会社は、最新の科学的、専門技術的知見に基づいて、過酷事故を万が一にも防止すべき社会的ないし公益的義務がある ⇒前記知見に基づいて想定される津波(予見可能性のある津波)により過酷事故が発生するおそれがある場合には、これにより生命、身体及び財産等に被害を受け得る者に対し、過酷事故を防止するために必要な措置を講ずべき義務を負う。 その取締役は、前記措置を講ずるよう指示等をすべき会社に対する善管注意義務を負う。 |
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会社の負う公的義務を根拠⇒経済合理性を強調できないことから、原子力発電所の津波対策に係る取締役の判断の裁量の幅は限定的に解されやすい。 | ||||
● | ●予見可能性の有無(争点❶)について | |||
◎ | ◎予見対象津波の程度について | |||
福島第1原発において、 OP(小名浜港工事基準面)+10m(主要建屋が配置された敷地)を1m超える高さの津波が襲来した場合には、主要建屋に浸水して非常用電源設備などが被水し、全交流電源喪失(SBO)及び主な直流電源喪失により原子炉冷却機能を失い、過酷事故が発生する可能性が高かった ⇒ 前記規模の津波の予見可能性が認められる場合には、Yらに過酷事故の結果回避義務を負わせる根拠tなり得る。 |
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◎ | ◎知見の信頼性 | |||
長期評価の見解及びこれに基づく津波の試算結果(明治三陸試計算結果)が、Yらに対し、福島第一原発において10m番を超える津波を想定した津波対策を義務付けるに足りる信頼性のある知見か否かについて、肯定 | ||||
● | ●任務懈怠の有無(争点❷)について | |||
◎ | 過酷事故の防止対策を速やかに指示等すべき取締役としての善管注意義務違反の有無について、 原子力発電所の安全性や健全性に関する評価及び判断は、極めて高度の専門的・技術的事項にわたる点が多い ⇒原子力発電所を設置、運転する取締役としては、会社内外の専門化や専門機関の評価ないし判断が著しく不合理でない限り、これに依拠することができ、逆に会社内外の専門家や専門機関の評価ないし判断があるにもかかわらず、特段の事情もないのに、これと異なる評価ないし判断を行った場合には、その判断の過程、内容は著しく不合理と評価される。 |
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~ 一般的に経営判断は、その過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役つぃての善管注意義務に違反するものではない(経営判断原則)と解されているところ、 原子力発電所の安全性に関する取締役の判断が、どのような場合に「著しく不合理」といえるかを示したもの。 |
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◎ | ◎原子力担当取締役のY4 | |||
Y4が下した長期評価の見解及び明治三陸試計算結果に相応の科学的信頼性が認められないとの判断は、社内の専門部署の説明及び意見に依拠したものではなく、これに反する独自のもので著しく不合理。 直ちに、明治三陸試計算結果を前提としてドライサイトコンセプト(津波によって安全上重要な機器のある施設の敷地への浸水を生じさせない設計にするとの考え方)に基づく防潮堤等の津波対策工に着手することが必要かつ可能であった。 |
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Y4について(防潮堤等の須波対策功を実施することなく)土木学会に長期評価の見解を踏まえた波源等の検討を委託するとの決定(Y4決定)自体は、過酷事故を防止し得る措置が講じられるのであれば、防潮堤等の大規模建造物の設置を周囲との軋轢泣く円滑に進め、工事の手戻りを防ぐという限度で一定の合理性を有する⇒著しく不合理とまではいえない。 but 福島第一原発がウェットサイトに陥っている以上、何らの津波対策に着手することなく放置する判断は、著しく不合理であってゆるされるものではない ⇒ Y4は、Y4決定を前提として、その間、明治三陸試計算結果と同様の津波が襲来した場合に過酷事故に至る事態が生じないための最低限の津波対策を速やかに実施するよう指示等をすべき取締役としての善管注意義務があったのに、これをしなかった(本件不作為)任務懈怠があった。 |
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~ 防潮堤等の津波対策工を当面は実施しないとのY4決定がされた事実を前提として、そのような場合にはドライサイトコンセプト以外の津波対策を実施すべき善管注意義務があるとしたもので、 国賠訴訟最高裁判決が否定した「防潮堤等によっては上記津波による保本件敷地の浸水を防ぎきれないという前提で、そのような防潮堤等の設置と併せて他の対策を講ずることを検討」させる義務があるとしたものではない。 |
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Xら:長期評価の見解及び明治三陸試計算結果の信頼性が認められる場合、Yらには、原子炉の運転停止措置義務があった 判断:相応の科学的信頼性を有する知見によれば、過酷事故発生の可能性があるにもかかわらず、これを防止するための安全対策が速やかに講じられる見込みがない場合であることを要する。 本件では、安全対策として建屋等の水密化装置が速やかに講じられる見込みがあった⇒Yらの原子炉運転停止措置義務を否定。 |
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◎ | ◎原子力担当取締役のY3及びY5 | |||
Y3及びY5について、長期評価の見解及び明治三陸計算結果並びにY4決定及び本件不作為を認識しており、本件不作為の判断が著しく不合理であることも容易に認識 ⇒Y4と同様の善管注意義務違反の任務懈怠を肯定 |
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~ 経営判断における、いわゆる信頼の原則(取締役が経営判断をする際には、他の取締役が収集、分析した情報については、その適正さについて疑いを抱かせる事情がない限り、これを信頼することが許され、たとえ当該情報に誤りがあった場合でも、当該情報に依拠して経営判断を行ったことについて善管注意義務違反の責任を負わないというもの)を踏まえた判断。 |
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◎ | ◎代表取締役会長Y1及び代表取締役社長Y2 | |||
東京電力において、代表取締役会長の職務は、株主総会及び取締役会の招集及びその議長とのみ規定⇒Y1の業務執行権限の有無(その内部的制限の有無)が争われた。 | ||||
①定款上、代表取締役の包括的業務執行権限を制限する明示的な定めがないこと ②Y1が代表取締役会長として御前会議と呼ばれる会議に出席し、福島第一原発の安全対策について積極的に意見を述べ、指示を出しており、これが全社的にも認容されていた ⇒ 少なくとも御前会議に出席し意見を述べ、指示をするなどの業務執行権限を有していた。 |
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Y1及びY2:福島第一原発の津波対策を直接担当しておらず、専門技術的な判断については専門部署たる原子力・立地本部に任せていた 判断:専門部署からの情報等であっても、著しく不合理な評価ないし判断であった場合には、信頼することは許されず、また、特に疑うべき事情がある場合には、なお調査、検討義務を負う。 御前会議における議論の状況を詳細に認定 ⇒ Y1及びY2は、原子力・立地本部の判断が著しく不合理であることを疑い、さらにその調査・確認をすべきであり、これをしていれば、長期評価の見解、明治三陸試計算結果、Y4決定及び本件不作為を認識し、本件不作為の判断が著しく不合理であることを容易に認識し得た ⇒Y4と同様の善管注意義務違反の任務懈怠を肯定。 ~ 信頼の原則を踏まえても、Y1及びY2の判断の家庭に著しい不合理があったとするもの。 |
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◎ | Yらの善管注意義務違反(争点❷の1)を肯定⇒法令違反の有無(争点❷の2)、リスク管理体制構築義務違反の有無(争点❸)は判断していない。 | |||
● | ●因果関係の有無(争点❹) | |||
防潮堤の建設以外の津波対策を着想し実施し得たか? 東京電力の担当部署が、Yらから、ドライサイトコンセプトに基づく津波対策を当面行わないことを前提として、過酷事故が生じないための最低限の弥縫策としての津波対策を指示された場合、その当時、日本原電や中部電力によるドライシトコンセプト以外の津波対策の実施例があった⇒主要建屋や重要機器室の水密化を着想し、実施することを期待し得た。 |
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水密化措置が本件事故発生の防止に資するものであったか? 明治三陸試計算結果の津波を想定して、当時の工学的な考え方等に基づき水密化措置が設計、施工された場合、これと規模が全く異なる本件津波に対しても電源設備の浸水を防ぐことができた可能性が十分あった。 |
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水密化措置が本件津波襲来時までに講ずることが時間的に可能であったか? | ||||
水密化措置の完了までに要する期間を合計2年程度 ⇒ 任務懈怠時が本件事故発生との因果関係を肯定し、2年未満であったY5については、これを否定。 |
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● | ● | ●損害の有無及びその額(争点❺) | ||
本件事故に係る、 ①福島第1原発の廃炉・汚染水対策費用 ②被災者に対する損害賠償費用 ③除染・中間貯蔵対策費用 が、本件事故によって東京電力が負うことになった費用負担であり、 Y1~Y4の各任務懈怠によって東京電力に発生した損害。 |
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①:東京電力が令和3年度第2四半期までに支出した約1兆6150億円 ②:令和3年10月22日現在において賠償金支払の合意がされた合計7超834億円 ③:平成31年度までの累計金額4超6226億円 ⇒ 合計額13兆3210億円を損害の額。 |
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民事p222 最高裁R5.5.17 ● |
事案 | Xが、その夫であるYに対し、婚姻費用分担審判の申立てをした。 XとYは、XがYとの婚姻成立の日から200日以内に出産したAについて、夫婦の嫡出子とする出生の届出をした上で、夫婦間の子として監護養育していたが、その後に別居し、XがAを監護養育。 XとYの別居後に実施されたDNA鑑定の結果は、YがAの生物学上の父であることを否定。 |
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一審 | YとAとの間の父子関係を否定した上で、XがYに対して婚姻費用の分担を求めることは信義則に反する⇒却下。 | |||
原審 | XがYに対して婚姻費用の分担としてX自身の生活費の分担を求めることは信義則に反する。 | |||
他方で、本件父子関係は前記鑑定結果から直ちに否定されるものではなく、その存否は訴訟でその他の諸事情も考慮して最終的に判断されるべきもの⇒本件父子関係の不存在を確認する旨の判決が確定するまでは、YはAに対する本件父子関係に基づく扶養義務を免れない。 Aの養育費相当額(月額4万円)はYの分担すべき婚姻表費用に当たる ⇒Yにその支払を命じた。 |
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Yが許可抗告の申立て | ||||
判断 | YのAに対する本件父子関係に基づく扶養義務の存否の確定を要する場合に、裁判所が本件父子関係の存否を審理判断することは妨げられない。 本件父子関係の存否を審理判断することなく、YのAに対する本件父子関係に基づく扶養義務を認めた原審の判断には法令違反がある。 ⇒ 原決定を破棄し、原々審判に対する抗告を棄却。 |
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解説 | ● | 民法760条の「婚姻から生ずる費用」(婚姻費用) ~ 夫婦の共同生活に必要な一切の費用をいうところ、 夫婦は、夫婦間の子に対して親子関係に基づく扶養義務を負う⇒夫婦間の子の監護費用も婚姻費用に含まれる。 |
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婚姻関係の破綻や別居について夫婦の一方に専ら又は主として責任⇒その者の生活費の全部又は一部は夫婦が分担すべき婚姻費用に含まれないとする考え方。 この場合でも、夫婦間の子の監護費用については、夫婦が分担すべき婚姻費用に含まれるという裁判例。 |
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● | 夫婦の婚姻成立の日から200日を経過した後に生まれた子の父子関係は、民法772条による嫡出の推定を受ける この推定は嫡出否認の訴えによってのみ覆し得る(774条、775条) ⇒ 婚姻費用分担審判で嫡出推定と異なる父子関係を前提にすることはできない。 |
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but 夫婦の婚姻成立の日から200日以内に生まれた子の父子関係については、同法772条による嫡出の推定を受けない ⇒嫡出子の身分は親子関係不存在確認の訴えによって否定され得るところ、このような父子関係の存否については、訴訟において財産上の紛争に関する先決問題として審理判断することも妨げられない(最高裁)。 非訟事件において、判断の基礎となる法律関係について、訴訟手続で審理判断される可能性があるのであれば、第1次敵に判断することも妨げられないと解されている。 ⇒ 婚姻費用分担審判の手続にいて、夫婦が婚姻後に妻が出産し戸籍上夫婦の嫡出子とされている子であって民法772条による嫡出の推定を受けないものを監護養育しており、夫婦が分担すべき婚姻費用に前記子の監護費用が含まれるか否かを判断する前提として、夫の前記子に対する父子関係に基づく扶養義務の存否を確定することを要する場合において、裁判所が父子関係の存否を審理判断することは妨げられない。 |
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● | 民法等の一部を改正する法律(令和4年12月10日成立)では、嫡出推定規定の見直しがされており、婚姻整理るの被から200日以内に生まれた子についても夫の子と推定。 ← ①婚姻成立の日から200日以内に生まれた子については、戸籍に嫡出子として記載されても、誰もが期間の制限なくその父子関係の存否を争うことができる⇒結果的に子の身分関係が不安定になっている旨の指摘。 ②母の婚姻成立の日から200日以内に提出される出生届のうち圧倒的多数は嫡出子としての届出。 ③婚姻をめぐる社会的実情としてのいわゆる「授かり婚」の割合が長期的に増加傾向をたどってきた。 but 施行日前に生まれた子の嫡出の推定については、改正法による改正前の民法772条が適用される旨の経過措置。 |
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民事p226 最高裁R5.3.24 ● |
調書判決の不備と勝訴当事者による控訴 | |||
事案 | 調書判決(民訴訟254条1項)の方式により全部認容する旨の判決 but その判決は弁論を終結した口頭弁論に関与していない裁判官が言い渡したもの⇒民訴法249条1項(直接主義)に違反 ⇒ Xは控訴 |
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原審 | Xの請求は全部認容⇒控訴の利益が認められず、本件控訴は不適法⇒却下 | |||
Xが上告受理申立て | ||||
判断 | 第1審において、事件が1任の裁判官により審理された後、判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が民訴法254条1項により判決書の原本に基づかないで第1審判決を言い渡した場合、その判決手続には同法249条1項に違反するものであり、同判決には民事訴訟の根幹に関わる重大な違法がある。 その場合、全部勝訴した原告であっても、第1審判決に対して控訴をすることができる。 ⇒ 原判決を破棄し、原審に差し戻した。 |
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解説 | ● | 判決手続について ①判決は、その基本となる口頭弁論に関与した裁判官がする(249条1項) ②判決の言渡しは、判決書の原本に基づいてする(252条) |
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「基本となる口頭弁論に関与した裁判官」:口頭弁論終結時に、これに立ち会った裁判官 同裁判官により判決書の原本が作成されていれば、他の裁判官の代読による判決言い渡しは問題ない。 |
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調書判決(254条)は、原本に基づく判決の言い渡し(②)の例外を定めたもので、この場合でも同法249条1項の規定(①)が適用。 調書判決の場合、判決書原本は存在せず、調書判決を言い渡した裁判官が判決をしたことになる⇒口頭弁論終結時に立ち会っていない裁判官が言渡したときは、同項違反。 その場合、「法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと」という再審事由(338条1項1号)に該当。 |
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● | 上訴:未確定の原裁判の取消し又は変更を上級裁判所に対して求める当事者の訴訟行為。 上訴の目的: ①当事者の救済 ②法令解釈の統一 |
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上訴が適法であるためには、原判決の効力により当事者が不利益を受けること、すなわち上訴の利益が必要。 請求の趣旨と判決主文とを比較し、後者が前者に満たない場合に上訴の利益を認める(形式的不服説)(通説・判例) 例外: 予備的な相殺の抗弁が認められて請求棄却判決を受けた被告が上訴をする場合 第1審判決を取り消し、事件を第1審に差し戻す旨の控訴審判決を受けた控訴人が取消理由に不服があるとして上告をする場合 ~全部勝訴者であっても例外的に上訴の利益が認められる。 |
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民事p229 旭川地裁R5.3.16 ● |
降雪で標識が見れなかった等での過失割合 | |||
事案 | Aが所有し、Bが運転する普通乗用自動車(ステップワゴン)と、Dが所有し、Cが運転する普通乗用自動車(コンフォート)の衝突事故について、 第1事件:AがCに対し 第2事件:DがBに対し それぞれ、民法709条に基づき、修理費用及び弁護士費用の損害賠償を求めた事案。 |
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争点 | 過失割合 AとB:ステップワゴン側の道路が優先道路であり、Cは、本件十字路入り口には三角形の道路標識が設置されていたことは認識できた⇒B10%、C90% CとD:Cは雪のため優先関係を認識できなかった⇒Bに80%、Cに20% |
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判断 | ①両者が走行する道路の幅員にほとんど差がなく、道路脇には堆雪があり、幅員の判断がより困難であった ②積雪により停止線は確認できず、標識は、雪が付着し内容を確認できない正三角形のものであったこと ③コンフォートの対向車側の本件十字路入り口には一時停止標識が設置されていたが、コンフォート側に効力を有さず、Cが対向車側の道路標識も把握すべき義務もない ④Cが本件十字路の通行経験がなく優先関係を認識していたとうかがえない ⇒ Cがステップワゴン側が優先関係にあると認識し、または認識し得たといえない。 |
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コンフォートが左方車であることやその速度を踏まえ、Cの過失がBより大きいとはいえない。 Bはステップワゴンの奏功道路の優先性を認識しており、優先通行の期待を有することは正当。 ⇒ 過失割合を各50%。 |
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解説 | 降雪のため標識・標示が認識できない状態の事故で過失割合が争われた事例。 | |||
刑事p232 最高裁R5.5.8 ● |
勾留理由開示に対する特別抗告(不適法) | |||
事案 | 建造物侵入、窃盗被疑事件につき勾留され、勾留のまま同一事件により起訴 ⇒起訴後第1回公判期日前に行われた勾留理由の開示に関し、裁判官が勾留の裁判当時の勾留理由を開示 ⇒ 起訴後の勾留理由を開示すべきであるなどとして当該勾留理由開示の取消しを求める旨の特別抗告。 |
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判断 | 勾留理由の開示は、公開の法廷で裁判官が勾留の理由を告げること⇒特別抗告の対象となる刑訴法433条1項にいう「決定又は命令」に当たらず、本件特別抗告は不適法。 | |||
規定 | 憲法 第三四条[抑留・拘禁に対する保障] 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。 |
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解説 | ● | 最高裁H5.7.19 裁判官において弁護人の選任がないのに開廷し勾留の理由を告知したの違法⇒準抗告⇒棄却⇒特別抗告 勾留理由の開示は、公開の法定で裁判官が勾留の理由を告げること⇒その手続においてされる裁判官の行為は、刑訴法429条1項2号にいう勾留に関する裁判には当たらない⇒準抗告の申立ては不適法で、それが適法であることを前提とする特別抗告の申立ても不適法。 |
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勾留理由開示制度: 憲法34条後段の規定を受け、 勾留理由を公開の法廷で開示することによって人権の侵害を抑制するのが狙い。 |
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勾留理由の開示と人権侵害の抑制の関連性: A:後日公開の法廷で勾留理由を開示することがあり得る⇒裁判官の判断を慎重にさせ、違法勾留を未然に防止 B:Aに加え、勾留理由の開示を勾留取消請求権の行使を容易にするための手段(被疑者・被告人に対する情報提供)でもあると位置付け、現実の拘禁からの解放に資するという機能をも肯定する考え方 but 勾留理由の開示自体が何らかの法律効果に直接結びつくものとは考えられていない。 当初の勾留の当否⇒準抗告や抗告により その後の事情を踏まえた交流継続の当否⇒勾留取消の請求により それぞれ争う。 |
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勾留理由の開示:公開の法廷で裁判官が勾留の理由を告げることに尽きる⇒「裁判」と解することは困難。 裁判:裁判所(裁判長)又は裁判官の意思表示を内容とする訴訟行為をいい、それは裁判機関としての公権的な判断であり、意思表示を要素としない事実行為とは区別を要する。 |
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● | 既に行われた勾留理由の開示が違法不当なもので、実質的に勾留理由の開示が行われていない⇒勾留理由開示が未だ行われていないものとして再度勾留理由の開示を請求⇒却下⇒不服申立て。 現時点における勾留が不当⇒端的に勾留取消し(刑訴法87)を請求⇒却下⇒不服申立て。 |
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2579 | ||||
行政p20 東京高裁R4.7.20 ● |
(厚生年金保険についての)激変緩和措置を終了させたことの違法⇒年金相当額・遅延損害金を請求 | |||
事案 | 本件各処分は被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う厚生年金保険の保険給付等に関する経過措置に関する政令50条の解釈を誤って本件激変緩和措置を終了させた⇒Y共済組合及び国に対して、本件各処分の無効確認、取消しのほか、本件各処分により支給停止となった年金相当額及び遅延損害金の支払を求めた。 | |||
原審 | 審査請求期間経過後の申立てに係る部分⇒適法な審査請求を前置していないから不適法で却下 その余の請求を棄却 |
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X:控訴審で、 前記支払を求める金銭請求は、国賠法1条1項に基づく損害賠償を求めるものであるほか、本件各処分が無効であることを前提に未払分の支払を求めるもの 後者の請求に係る訴えは当事者訴訟 である旨釈明。 |
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判断 | ①平成28年特退共年金支給停止処分及び平成29年各処分は違法であり取り消すべきものとし(無効であることの確認を求める訴えは却下) ②当事者訴訟としての金銭請求のうち平成29年各処分が無効ないし不存在であることを前提として金銭の給付を求める部分を不適法とし、 ③Y共済組合に対して29万2322円及び遅延損害金の支払を命ずることとして、 原判決を変更。 |
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解説 | ● | ●上記①について | ||
本判決:適用事業所の変更によって本件激変緩和措置の適用がなくなるという一般論は是認しつつも、一元化法施行前から被保険者資格を有し在職支給停止の対象となっていた者に対して支給停止の方法の変更による年金額の減額の影響を緩和するという本件激変緩和措置の趣旨 ⇒複数の適用事業所を有する法人内での適用事業所間での異動等により適用事業所が変更になったが、引き続き同一法人内において継続して就労しており、異動等により給与に関する雇用条件が異ならない場合にまで本件激変緩和措置の適用を除外することは相当でない。 このような場合は、本件政令50条にいう「施行日前から引き続き当該被保険者の資格を有するもの」及び、・・・・政令36条1項による読替後の一元化法改正不足15条3項にいう「施行日前から引き続き・・・規定する被保険者」と同視して本件激変緩和措置を適用しなかった違法がある。 |
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原判決:本件政令の文言を形式的に当てはめ、適用事業所の変更により本件激変緩和措置の適用は終了すると判断 本判決:形式的な当てはめをした場合の帰結が妥当性を欠く⇒本件政令等の前記各文言について、同一法人内との限定を付しながらも適用範囲をやや広げる解釈を行ったものと考えられ、実質的な観点から本件激変緩和措置の適用がされなくなったことによる年金減額処分を違法と判断。 |
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● | ●上記②について | |||
◎ | Xは、本件各処分が取り消しうる又は無効であることを前提として当事者訴訟としての請求。 問題となる行政処分が当初から無効である場合のみならず、取消しの結果無効となる場合であっても、当事者訴訟としての請求が認められる。 川神: 公法上の当事者訴訟について、「処分性が肯定される・・・とすると、その取消訴訟を提起すべきではないかと思われるところである。しかし、本件請求は、支給停止の措置の無効を前提とする請求であり、現在の法律関係に関する本件訴えによって直截にその目的を達することができるものであるから、このような訴訟形態も許されるものといえよう」とする。 |
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◎ | 本件のように、処分の内容としては他の処分に関する理由に照らすと違法であるのに形式的要件を欠くために不適法とされる処分Aがあるときには、その後の違法とされた処分Bが取り消されたことによって処分Aが直近の有効な処分となるところ、裁判所が処分Aに基づいて年金額を計算した上で支払を命ずることが許されるか? | |||
処分C及びその後の処分Dのいずれも違法として取り消されるものの、処分Dが違法とされた理由が処分の一部にのみ及ぶ場合、処分Dがすべて取り消されたことを前提として処分Cの直前の有効な処分に基づいて年金額を計算した上で支払を命ずることがで許されるか? | ||||
~ 処分が無効であることによって処分行政庁の支払うべき額が一義的に決定⇒当事者訴訟が許される 処分行政庁の支払うべき額について処分行政庁の処分によらなければ適正な額を決めることができない場合(取消判決の拘束力につき、行訴法33条1項)⇒当事者訴訟は不適法となる と整理することができる。 |
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本判決:平成29年各処分については、処分行政庁による処分を待つ必要があるとして当事者訴訟を不適法としたもの。 | ||||
行政p42 那覇地裁R4.7.14 ● |
SACO見舞金の請求 | |||
経緯 | Xら:沖縄に駐留する米国の軍隊に所属する米国国籍の兵2名による強盗傷害事件の被害者である亡Aの加害者米兵らに対する損害賠償請求権を相続。 Xらは、加害者米兵らに対し、亡A相続人であるXらに本件事件により亡Aに生じた損害を賠償することを命じる旨の判決を得た。 |
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亡A及びXら:沖縄防衛局長に対し、本件省令4条1項に基づく損害賠償請求書ないしSACO見舞金支給申請書を提出してSACO見舞金の支給を求めた ⇒沖縄防衛局長は、本件確定判決の認容額のうち元金相当部分の額と米国見舞金の額との差額につきSACO見舞金の支給 ⇒Xらは、本件確定判決の遅延損害金部分を含めSACO見舞金を支給すべきであるとして見舞金受諾書を提出せず⇒見舞金を支給せず |
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請求 | 第1事件: Xらが沖縄防衛局長の所属するY(国)に対し、 ①主位的に、亡Aによる本件省令4条1項前段の規定に基づく損害賠償請求書の提出が、 予備的に、Xらによる同項前段の規定に基づく損害賠償請求書又はSACO見舞金支給申請書の提出が、それぞれ行訴法3条5項及び同条6項2号にいう「申請」に当たることを前提として、 同法37条の規定に基づき、沖縄防衛局長が本件省令15条に基づく処分をしないことが違法であることの確認を求めるとともに、 ②行訴法37条の3第1項の規定に基づき、・・・支給する旨の決定をすることの義務付けを求めた。 |
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第2事件:Xらが前記②に係る予備的請求として、沖縄防衛局長が本件確定判決における認容額のうち元金相当部分の額とXらが支払を受けた米国見舞金の額との差額についてSACO見舞金を支給する旨の手続をしなかったことが違法な公権力の行使⇒国賠法1条1項に基づき、Xらに対し、前記差額に弁護士費用を加えた金額及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。 | ||||
判断 | ● | 争点❶ | ||
YがSACO見舞金を含む見舞金を支給する制度は、 ア:昭和39年閣議決定を根拠とするものであり、法律が、一定の者に給付金等を給付する要件を定めているものとはいえず、 イ:前記閣議決定、本件省令並びにこれを受けた局長通知及び実施要領の定める手続の詳細を見ても、当該給付に関する申請権を付与し、行政庁が当該申請権を有する者の申請に基づき、支給ないし不支給の決定をすることにより、当該申請権を有する者の受給権の存否を判断するという手続を採用していない ⇒ 本件見舞金支給制度に関する行政庁の行為は、公権力の行使としての行為とはいえず、また、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定するものともいえない ⇒抗告訴訟の対象となる処分には該当しない。 |
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● | 争点❷ | |||
本件見舞金支給制度における見舞金を支給することの法的性質は、国が、国と被害者等との間で締結された見舞金を贈与する旨の契約に基づき、国が同契約によって負う債務を履行することであると解するのが相当。 | ||||
①本件見舞金支給制度の内容⇒被害者等が地方防衛局長に対してSACO見舞金受諾書を提出することによってはじめて、国と被害者等のとの間でSACO見舞金に係る贈与契約を締結する旨の合意が成立するものと解するのが相当。 ②本件では、Xらは、沖縄防衛庁に対し、見舞金受諾書を現在に至るまで提出していない⇒国とXらとの間には、SACO見舞金に係る贈与契約を締結する旨の合意が成立していない。 ⇒ 沖縄防衛局長が、Xらに対し、SACO見舞金を支給していないとしても、そのことが、国賠法上違法な行為であるとの評価は受けない。 |
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解説 | 本件におけるSACO見舞金の支給のようないわゆる給付行政については、特別の規定がない限り、契約方式の推定が働く。 but 大量に発生する法律関係を明確にし、全体として統一のとれた適正公平な処理を図るという目的から、契約方式ではなく、直接法律の規定により給付をする場合を定める、あるいは、行政庁の行為に処分性を付与するという立法政策が採られることがあり、 その処分性の有無や法的性質の判断は必ずしも容易ではない。 |
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民事p64 仙台高裁R5.10.25 ● |
改正前民法724条後段の期間制限 | |||
事案 | 原告:優生保護法4条に基づく優生手術を受けた2名の男性 | |||
強制優生手術の実施件数は、昭和24年から平成元年までの間に合計1万4566件 平成8年改正により削除 |
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平成30年1月30日、強制優生手術を受けた者が、国に対して国賠請求を求める訴え 平成31年4月24日「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」制定 |
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主張 | 原告ら:平成30年12月17日、被告国に対し、国賠法1条1項に基づき、各原告につき3300万円の損害賠償を求める本件訴えを提起 優生保護法の優生手術に関する条項は、制定当初から憲法に違反することが客観的に明白であり、国会議員が、優生保護法を制定し、原告らが優生手術を受ける前にこれを改廃しなかったことは、国賠法上違法 |
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一審 | 被告国に対し、原告らそれぞれにつき、1650万円の損害賠償と訴状送達日の翌日からの遅延損害金の支払を命じ、国が控訴。 | |||
判断 | ● | ●国の控訴を棄却 | ||
● | ●法の違憲性と立法行為の違法 | |||
違憲性について、優生保護法の強制優生手術に関する規定は、法制度として、特定の疾患に罹っている者に対し、個人の尊厳という日本国憲法の基本理念に基づき、疾患があったとしても個人として尊重されるべきであるのに、疾患のみを理由として、合理的な根拠もないのぬい優生手術を強制して生殖を不能にする仕組みを作った ~ このような法律の規定は、優生手術を強制される者について、子を産み育てる自由や幸福追求に対する国民の権利を侵害し、疾患を理由として合理的な根拠もなく法の下のの平等に反する差別をしたもの ⇒立法と宇治から憲法13条、14条1項、24条2項に明白に違反 |
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国会議員は、明らかに日本国憲法に違反し、憲法によって保障された国民の基本的人権を明白に侵害する強制優生手術の仕組みを持った法律を立法し、その法律の適用により原告らに強制的に優生手術を受けさせた ~ この国会議員の立法行為は、立法と宇治の時代状況を踏まえても、国賠法1条1項の適用にあたり、少なくとも過失によって違法に原告らに損害を加えたと評価されるものと判示。 |
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● | 改正前民法724条後段の期間制限: | |||
①法の基本原則である正義・公平の観点から考えて ②不法行為による損害賠償請求権の期間の制限について、「不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。」と定めた改正前民法724条後段の規定が、前段に「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。」と規定したのを承けて「同様とする」と規定 ⇒ 時効の規定。 |
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憲法に違反する法律を制定し、法の運用という適法であるかのような外形の元に、障害者に対する強制優生手術を実施・推進して、法の下の平等に反する差別を行い、子を産み育てる自由を奪い、同意のない不妊手術をして身体への重大な侵襲を強制しるという重大な人権侵害の政策を推進してきた被告国が、改正前民法724条後段の20年の期間経過による損害賠償請求権の消滅の主張をすることは、民法2条に定める個人の尊厳という解釈基準に照らし、また、法の基本原則である正義・公平の観点からみても、信義則を定めた民法1条2項の基本原則に反するものであり、民法1条3項の適用上、権利の濫用にあたる。 ⇒時効によって消滅することはない。 |
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仮に除斥期間と解したとしても、被告国が20年の経過によって損害賠償義務を免れることは著しく正義・公平の理念に反する上に、原告らは権利行使を客観的に不能または著しく困難とする事由が解消した時から6か月以内に権利行使をしている⇒除斥期間の適用が制限される。 | ||||
解説 | 民法改正⇒時効消滅の規定に | |||
改正前の判例: 改正前民法724条後段の法意について、不法行為による損害賠償請求権の除斥期間を定めたものであり、裁判所は、除斥期間の性質に鑑み、除斥期間の経過により消滅した旨の主張がなくても、期間の経過により請求権が消滅したものと判断すべきであり、信義則違反又は権利濫用の主張は、主張自体失当であると判断。 |
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労働p86 最高裁R5.6.27 ● |
高校教諭の酒気帯び運転を理由とする懲戒免職(有効事例) | |||
事案 | 上告人(宮城県)の公立高校の教諭であった被上告人が、職場の歓迎会の帰途における酒気帯び運転を理由とする懲戒免職処分を受けたことに伴い、職員の退職手当に関する条例12条1項1号の規定により、退職手当管理機関である宮城県教育委員会から、一般の退職手当等の全部を支給しないこととする処分⇒上告人を相手に、前記懲戒免職処分の取消しを求めた。 | |||
1審 | 本件全部支給制限処分の取消請求を認容 | |||
原審 | 被上告人の本件非違行為の内容等⇒一般の退職手当等が大幅に減額されることはやむを得ない。 but 本件規定は、一般の退職手当等には賃金の後払いや退職後の生活保障としての正確もある⇒長年勤続する職員の権利としての面にも慎重な配慮を求めたもの。 本件全部支給制限処分は、本件規程の趣旨を超えて被上告人に著しい不利益を与えるものであり、本件全部支給制限処分のうち被上告人の一般の退職手当等の3割に相当する額を支給しないこととした部分は違法 ⇒本件全部支給制限処分の取消請求を一部認容。 |
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判断 | 本件規定は、個々の事案ごとに、退職者の功績の度合いや非違行為の内容及び程度等に関する諸般の事情を総合的に勘案し、給与の後払的な性格や生活保障的な性格を踏まえても、当該退職者の勤続の功を抹消し又は減殺するに足りる事情があったと評価することができる場合に、本件規定にいう一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分(「退職手当支給制限処分」)をすることができる旨を規定。 | |||
退職手当支給制限処分については、当該処分に係る判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に違法であると判断すべき。 | ||||
①本件非違行為の態様は、自家用車で酒席に赴き、長時間にわたって相当量の飲酒をした直後に、同自家用車を運転して帰宅しようとしたところ、運転開始から間もなく、過失により走行中の車両と衝突し、同車両に物的損害を生じさせる事故を起こしたというもの~重大な危険を伴う悪質なもの ②被上告人が勤務していた高等学校は、本件非違行為後、生徒やその保護者への説明のため、集会を開く対応を余儀なくされるなど、本件非違行為が公立学校に係る公務に対する信頼やその遂行に重大な影響や支障を及ぼすものであった ③本件非違行為の前年、教職員による飲酒運転が相次いでいたことを受けて、県教委が複数回にわたり服務規律の確保を求める旨の通知等を発出する などし、飲酒運転に対する懲戒処分につきより厳格に対応するなどといった注意喚起をしていたとの事情は、非違行為の抑止を図るなどの観点からも軽視し難い ⇒ 本件全部支給制限処分に係る県教委の判断は、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとはいえない。 |
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宇賀意見 | ①被上告人が管理職ではなく過去に懲戒処分を受けたことがなく、30年余り勤務してきたこと ②前記事故による被害は物損にとどまり既に回復されていること ③被上告人が反省の情を示していること ⇒ 一般の退職手当等の有する給与の後払いや退職後の生活保障の機能を完全に否定するのは酷に過ぎる⇒原審の判断に違法はない。 |
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解説 | ● | 従前、国家公務員退職手当法上、懲戒免職処分を受けて退職した者については、一律に一般の退職手当等を支給しない ⇒ 平成20年法改正で、・・・所定の諸事情を考慮して、一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする扱いが可能となった。 本件規定は、同法改正に準拠した条例改正により設けられたもの。 |
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● | 本判決: 退職手当支給制限処分の違法性に関する判断枠組みについて、懲戒処分について採用している社会観念審査の枠組みを採用。 |
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一部の裁判例や学説: 公務に対する信頼に及ぼす影響として相当に具体的なものが必要 (私企業労働者に対する退職金不支給につき、一般に、労働者の勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為ないし重大な不信行為があった場合に限り認められると解されているのと同様に、)重大な背信行為が認められなければ一般の退職手当等の支給制限は許容されない vs. 本判決: 一般的な判断枠組みと併せて、本件規定につき、 ①公務員に固有の事情を他の事情に比して重視すべきでないとする趣旨は含まれない ②退職手当支給制限処分をする場合を例外的なものに限定する趣旨は読み取れない |
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● | 講学上、社会観念審査は、処分行政庁に比較的広範な裁量を認める場合に適合的と言われることがある。 but 本判決: 裁量の広汎性を強調して大まかな司法審査をしているというより、退職手当管理機関に認められる裁量が広範なものであるかという一般論は措いて、個別具体的な事情を比較的詳細に取り上げた上で当てはめを行っている。 |
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● | 本判決は、原審が一部取消しを認めたことの適否について判断を示していない。 | |||
原判決の評釈等: 一部取消の処理の可能性につき肯定的にとらえるもの vs. 裁量処分⇒あくまでも処分行政庁が第一次的判断権を行使すべきであり、仮に全部の支給制限が裁量権を逸脱濫用したものであるにせよ、処分を全部取り消した上で、どの程度の割合で制限すべきかについて処分行政庁が再検討する余地を残すのが相当。 ⇒ 裁判所自らが支給制限の割合を定めるの相当とした原審の判断は、多分に実体的判断代置と親和的な思考に基づいている。 |
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● | but 飲酒運転を理由とする懲戒免職処分に伴う一般の退職手当等の全部支給制限処分を違法とした高裁判決が、最高裁で不受理決定により確定している例がそれなりの数ある。 but 事案が異なる それらの事案においては、最高裁は、「法令の解釈に関する重要な事項」を含むものとは認められないとしてきたのみであり、高裁の判断を是認する判断を示してきたわけではない。 |
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労働p91 最高裁R5.7.20 ● |
労働条件の相違が労契法(改正前のもの)20条にいう不合理と認められるか | |||
事案 | Yを定年退職した後に、Yと期間の定めのある労働契約を締結して勤務してたX1及びX2が、Yと期間の定めのない労働契約を締結している労働者との間における基本給、賞与等の相違は労契法20条に違反⇒Yに対し、不法行為等に基づき、前記相違に係る差額について損害賠償等を求めた。 | |||
一審・原審 | Xらについては、定年退職の前後を通じて、主任の役職を退任したことを除き、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲に相違がなかったにもかかわらず、嘱託職員であるXらの基本給及び嘱託委職員一時金の額は、定年退職時の基本給及び賞与の額を大きく下回り、正社員の基本給が勤続年数に応じて増加する年功的性格があることから金額が抑制される傾向にある勤続短期正社員の基本給及び賞与の額をも下回っている。 | |||
このような帰結は、労使自治が反映された結果でなく、労働者の生活保障の観点からも看過し難い ⇒ 基本給については定年退職時の基本給の60%を下回る部分が、 嘱託社員一時金については定年退職時の基本給の60%に所定の掛け率を乗じた得た額を下回る部分が 労契法20条にいう不合理と認められるものに当たる ⇒ 基本給及び賞与に係る損害賠償請求の一部を認容。 |
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判断 | 正社員と嘱託社員との間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違について、正職員の基本給につき一部の者の勤続年数に応じた金額の推移から年功的性格を有するものであったなどとするにとどまり、各基本給の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、前記相違の一部が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法があり、正職員と嘱託職員との間で賞与と嘱託職員一時金の金額が異なるとうい労働条件の相違についても、原審の判断には同条の解釈適用を誤った違法がある ⇒ 基本給及び賞与に係る損害賠償請求に関するY敗訴部分を破棄し、同部分について原審に差し戻した。 |
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規定 | 短時間・有期雇用労働法 第八条(短時間労働者の待遇の原則) 事業主が、その雇用する短時間労働者の待遇を、当該事業所に雇用される通常の労働者の待遇と相違するものとする場合においては、当該待遇の相違は、当該短時間労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。 |
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解説 | ● | ●判断枠組み: 基本給及び賞与に係る労働条件の相違について、それが不合理と認められるものに当たる場合があり得る。 その判断に当たっては、当該使用者における基本給及び賞与の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえて労契法20条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働者の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべき。 |
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● | ●基本給について | |||
◎ | 基本給:一般に、使用者が雇用及び人事に関する経営判断の観点から様々な事情を考慮して構築する賃金制度において、その中核に位置付けられ、固定的に支給されるもの。 何を基準に賃金額を決定するかによって、①年齢給・勤続給、②職務給、③職能給、④役割給、⑤業務給・成果給などに分類。 構築される賃金制度の内容に応じて、多様で複合的な性質を持ち得る。 基本給は、賞与や退職金と同様、長期勤続への誘因や代替性の低い人材の異時確保の観点から制度設計がされることも少なくない。 |
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◎ | 本件の正職員及び嘱託職員の各基本給について: 正職員(管理職以外の一部の者)の基本給の勤続年数による際が大きいとまではいえない⇒正社員の基本給は、勤続給としての性質のみを有するとはいえず、職務給としての性質を有するとみる余地。 正職員:長期雇用を前提として、役職に就き、昇進することが想定 ⇒正職員の基本給が職能給としての性質を有するとみる余地もある。 |
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様々な性質を有し得る正職員の基本給について、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図る目的から支給されたものであるか否かなど、その支給の目的を確定するに足りる事実関係も明らかにされていない。 | ||||
◎ | 嘱託社員: 役職に就くことが想定されていない⇒その基本給が正職員とは異なる基準の下で支給され、Xらの定年退職後の基本給が勤続年数に応じて増額されることもなかった ⇒嘱託職員の基本給は、正職員の基本給とは異なる性質や支給の目的を有する。 |
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◎ | これまでの各最高裁判決: 問題となる労働条件の性質や支給の目的につき、当該労働条件の性質に関する個別の事情に基づき、これを可能な限り客観的かつ具体的にとらえた上で、その相違に係る不合理性の判断がされてきた ⇒本件における前記各基本給の性質及び支給の目的についても、当事者双方がこれを基礎づける具体的な事情を主張立証することを通じて明らかにされるべき。 |
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● | ●労使交渉に関する事情 | |||
労契法20条にいう「その他の事情」として考慮される事情に当たる。 労働条件に係る合意の有無や内容といった労使交渉の結果のみならず、その具体的な経緯を勘案すべき。 |
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労使交渉につき、嘱託職員としての労働条件の見直しの要求に対するYの回答やこれに対する労働組合等の反応の有無及び内容といった具体的な経緯を明らかにせず、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、基本給に係る相違の伊津部を不合理と認められるものに当たるとした原判決の判断に違法がある。 | ||||
労働組合による労使交渉が有期契約労働者の利益を反映したものといえるか否かが問題となる場合もあり得る but 本件においては、嘱託職員であるX1自ら及びX1を分会長とする労働組合が定年後再雇用における賃金を含む労働条件を交渉事情として労使交渉をしていたものであり、本判決もこの点に言及。 |
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● | ●考慮要素 | |||
基本給の性質及び支給の目的 業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度 当該職務の内容及び配置の変更の範囲の相違の有無及びその内容 その内容 |
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「その他の事情」 労使交渉に関する事情 賃金額全体の相違の程度 Xらが定年後に再雇用された者であること (Xらが、定年退職に当たって退職金の支給を受けたことや、定年退職後に老齢厚生年金及び高年齢雇用継続基本給付金の支給を受けていたことは、その一事情と位置付けられる) 比較の対象とされた定年退職時のXらの正職員全体における位置付け等 |
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● | ●賞与について | |||
不合理性の判断に当たっては、賃金項目ごとにその趣旨を個別に考慮すべき⇒本件における賞与及び嘱託職員一時金の性質及び支給の目的については、各基本給の性質及び支給の目的とは別に検討。 | ||||
2578 | ||||
民事p5 最高裁R5.1.27 ● |
統合失調症患者の自殺についての病院の説明義務が問われた事案(結論否定) | |||
事案 | 統合失調症の治療のためY(香川県)の設置する病院に入院した患者が、入院中に無断離院して自殺⇒相続人Xが、Yには、診療契約に基づき、本件病院においては無断離院の防止策が十分に講じられていないことを本件患者に対して説明すべき義務があったにもかかわらず、これを怠った説明義務違反がある⇒債務不履行に基づく損害賠償を請求。 | |||
原審 | 説明義務違反を理由とする損害賠償請求を一部認容 | |||
本件患者とYとの間で締結された診療契約においては、本件病院における無断離院の防止策の有無及び内容が契約上の重大な関心事項になっていたということができ、Yは、本件患者に対し、無断離院の防止策を講じている他の病院と比較した上で入院する病院を選択する機会を保障するため、本件病院においては、平日の日中は敷地の出入口である門扉が解放され、通行者を監視する者がおらず、任意入院者に徘徊センサーを装着するなどの対策も講じていないため、単独での病院外離院をして自殺する危険性があることを説明すべき義務を負っていたというべきであり、Yにはこれを怠った説明義務違反がある。 | ||||
判断 | 本件の事情の下では、Yが本件患者に対し、本件病院と他の病院の無断離院の防止策を比較した上で入院する病院を選択する機会を保障すべきであったということはできず、これを保障するため、Yが本件病院の医師を通じて前記3の説明をすべき義務があったということはできない。 ⇒ 本件病院の医師が前記説明をしなかったことをもって、Yに説明義務違反があったということはできない。 ⇒ 原判決を破棄し、Xの請求を棄却する旨の自判。 |
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解説 | ● | 医師の患者に対する説明義務: ①患者の有効な承諾を得るための説明義務 ②療養方法の指導としての説明義務 |
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本件で問題とされているのは、①の説明義務で、その被害利益は、患者の人格権としての自己決定権。 前記説明義務に違反した医療行為によって、悪しき結果(死亡、障害等)が生じた場合、仮に患者が適切な説明を受けたとしても現に行われた医療行為を選択したであろうと認められるときであっても、医師は損害賠償義務を負う。 |
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● | 最高裁H13.11.27: 一般論として、医師は、患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては、診療契約に基づき、特別の事情のない限り、患者に対し、当該疾患の診断(病名と病状)、実施予定の手術の内容、手術に付随する危険性、他に選択可能な治療方法があれば、その内容と利害得失、予後などについて説明すべき義務がある。 |
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~ 伝統的には、手術等の身体的侵襲を伴う医療行為派患者の有効な承諾がない限り違法であり、その違法性阻却事由としての患者の有効な承諾を得る前提としての説明義務と解されていた。 but 現在では、医的侵襲に伴う危険を引き受けるか否かという自己決定権の保障の場面に限って医師の説明義務を認める見解は一般的ではなく、そこで保障される自己決定権の内容は、身体の侵襲を受けない権利に限って観念されているわけではない。 ⇒ 法的に保護される自己決定権の外縁をどのように画するかが問題となる。 その内容を一般的に定め、そこから演繹的に医師の説明義務違反を問うことができるかどうかを検討するのではなく、個々の事案に応じ、当該患者について当該状況において、いかなる人格的利益が法的保護に値するかを個別・具体的に検討すべき。 |
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● | 患者側の意向と医師の裁量判断が表裏の関係にある。 患者が適切な医療行為を決定することは相当困難⇒患者が治療過程においてあらゆる事について自己決定を望んでいるとは考え難く、医療行為が治療と言う目的の下になされ、それが医療水準に沿い、一定の治療効果を生じさせるものであれば、患者もこれを容認している場合が多い。 |
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自己決定権を尊重する見地からは、患者側の他の療法に対する関心・意向が法的保護に値するかどか、医学的に相応の理由があるかどうかを個別・具体的に検討すべきと」考えられる(平成13年最判の事案では、患者の意向に医学的に相応の理由があったということができよう)。 | ||||
● | 精神科医療において、医師は、日々の診察を通じ、患者の病状を観察し、様々な療法を施し、病状の回復に努めつつ、自傷他害の危険を把握すれば、治療効果との兼ね合いにも配慮しながらその防止のために種々の適切な措置を講じるものであり、常に厳重な無断離院の防止策(徘徊センサーの装着、移動の際の付添い等)をとることは現実的でない上、かえって自殺防止や社会復帰の促進といった医療目的が損なわれるおそれがある。 | |||
通常の患者にとっても、医師がいついかなる自殺防止策を講じることが前記医療目的に照らして有益であるかについては、それ医療水準に沿うものである限り、医師の専門的知見に基づく判断に委ねているのが一般的であると考えられるところ、 本件病院における任意入院患者に対する処遇は、医療水準や法令上の基準に沿うものであったといえるし、特に危険性が高いものであったわけでもない。 |
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本件患者も、自己が自殺に及ぶことを危惧し、自己が入院する病院の無断離院の防止策について感心を示し、これによって入院する病院を選択する意向を有していたこと等はうかがわれない。 | ||||
以上のような点を考慮し、Yに説明義務違反があったということはできないとしたものと考えられる。 | ||||
民事p9 東京高裁R3.8.27 ● |
国賠法4条において準用する民法734条後段が「不法行為の時」であると規定する除斥期間の起算点が争われた事案。 | |||
事案 | Xは、強盗殺人事件(昭和42年8月)で起訴され、有罪判決確定で服役⇒再審開始決定で無罪判決(平成23年6月8日確定)⇒平成24年頃、国及び県を被告として、県警の警察官及び検察かに種々の違法行為があったと主張し、身体拘束期間中と仮釈放後の逸失利益、慰謝料、弁護士費用等につき、国賠法1条1項に基づき損害賠償請求訴訟を提起。 | |||
原審 | 国らの違法行為を認定した上で、除斥期間の起算点につき、再審による無罪判決が確定した時である平成23年6月8日。 ← 最高裁H16.4.27を参照し、 ①再審による無罪判決が確定するまでの間除斥期間の親交を認めることは冤罪被害者にとって著しく酷 ②加害者である国や公共団体として違法行為の時から相当の期間が経過した後に損害賠償の請求を受けることを予期すべき ③捜査機関の違法行為によって有罪判決が確定した場合において、有罪判決が存在することによる損害については、その有罪判決自体が適法かつ有効なものである以上、再審による無罪判決が確定するまでは損害が生じたものとして取り扱うことはできない。 |
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判断 | Xに対して、国家刑罰権を実行するための一連一体の手続が行われた結果、居住、移転の自由及び名誉等の権利、利益が侵害され続けた⇒再審による無罪判決が確定した時を起算点とすべき。 | |||
解説 | ● | 最高裁H16.4.27: 継続的不法行為における起算点について、 身体に蓄積した場合に他人の健康を害することとなる物質による損害や、一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害のように、当該不法行為により発生する損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には、当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となる。 |
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● | 再審による無罪判決が確定するまで有罪判決の存在は適法かつ有効なもの⇒再審による無罪判決が確定するまで冤罪被害者の基本的人権が侵害され続けている。 国家機関による不法行為が継続的に存在していると評価することも不合理ではない。 |
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刑補法は、再審等の手続により無罪判決を受けた場合について、適法な行為に対する損失補償的な側面と国家機関による冤罪被害者に対する損害賠償的な側面を持つ(同法1条、5条)が、冤罪被害者が補償を受けられるのは無罪判決が確定した日から3年以内であると規定(5条3項)。 | ||||
● | 改正前民法724条後段は、平成29年法律第44号により改正によって、時効であることが明示され、時効の完成猶予等の規定が適用。 ⇒除斥期間の経過による効果の制限といった論点は、今後生じない。 |
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刑事p133 福岡地裁R4.7.25 ● |
犯行時15歳、判決時17歳の殺人等被告事件 | |||
事案 | 犯行時15歳、判決時17歳の少年が、夕刻の商業施設の中で、 ①包丁を窃取し、②・・・逆上して同包丁で女性を突き刺すなどして殺害し、③逃走中に児童を人質にしようとしてその母親に対し同包丁を示して脅迫し、④その際正当な理由なく同包丁を携帯していた事案。 |
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殺人被告事件が含まれる⇒裁判員が参加する合議体で審理。 | ||||
判断 | ● | 弁護人:家庭裁判所への移送を主張 被告人の情状鑑定を行った鑑定人:被告人の過酷な成育環境による問題を改善するためには、第3種少年院においてこれまで行われた形跡のない治療などを行う必要があり、この治療等によって更生できる可能性がある。 判断: 被告人が保護処分によって更生する余地は残されている。 but 本件犯行態様を具体的に指摘し、非常に残虐、凶悪な犯行によって、各被害者らに激しい恐怖心を与え、1人の生命を奪うという取り返しのつかない結果を生じさせ、社会も大きく動揺させた被告人が、その人格的な未熟さや成育歴等を理由に保護処分を受けることは、社会的に許容し難い。 |
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● | 量刑について: | |||
同種事案の中で非常に重い部類に属し、法定の上限の期限を長期とする不定期刑を科することはやむを得ない。 | ||||
①これまで複数の施設や少年院に入所したにもかかわらず、保護観察期間中に更生保護施設から脱走し、少年院を仮退院したわずか2日後に本件犯行に及んでいる ②法廷での反省や謝罪の態度が見られない ⇒再犯のおそれがは大きい 被告人の根深い問題の改善には相当の長期間を要する ⇒ 不定期刑の短期も、法定の上限の期間を定める必要。 |
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解説 | ● | 家裁移送は、保護処分相当性があるときにおこなわれる(5条)。 保護処分相当性: 少なくとも、保護処分が少年の改善更生に有効であり(保護処分有効性)、かつ、社会感情、被害感情等の観点から社会的に許容される(保護処分有効性)場合に認められる。 |
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● | 少年を執行猶予の付かない有期懲役刑・禁錮刑に処す場合には、いわゆる不定期刑にしなければならない(少年法52条)が、その長期及び短期をどのようにして定めるか。 | |||
平成26年改正により少年法52条の規定形式が変わったことを受け、同改正少年法施行後は、 定期刑を科すと仮定した場合の刑を長期とし、 短期については、少年は一般に短期間の矯正効果が期待できることや少年への人道的配慮に基づいて定めるものと考える説が有力 |
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刑事p136 那覇家裁沖縄支部 R5.3.7 ● |
特定少年の自動二輪車の無免許運転した道路交通法違反保護事件 | |||
事案 | 審判時19歳の特定少年が、普通自動二輪車の無免許運転をした道交法違反の事案。 | |||
判断 | 犯情の軽重の評価: ①無免許でありながら普通自動二輪車を運転し、その走行距離が約26キロに及ぶ ②警察官から呼び止められた後は、逃走するために対向車線を逆走するなどの行為に及んでいる ③本件非行自体が重大な交通事故を引き起こしかねない極めて危険な行為であること ④少年が過去にも普通自動二輪車の無免許運転により2回の保護処分(保護観察及び第1種少年院送致)を受けていながら、少年院仮退院直後に無免許運転を再開して、本件非行に及んでいること⇒交通法規軽視の姿勢が顕著 ⇒ その犯情の重さを考慮すると、保護処分の選択において、少年院送致も許容される。 |
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法保護性を踏まえた処遇判断: 前記の少年院送致を含む過去2回の保護処分歴にもかかわらず、少年院仮退院直後に本件非行に及ぶなど、保護処分が歯止めとならずに同種の非行を繰り返している⇒少年の非行性は深まりを見せており、規範意識の低さも顕著 少年が本件非行後に約9か月にわたって県外で逃亡生活をし、その間、職を転々としたり、SNSで知り合った交際相手を妊娠させたりするなど行き当たりばったりな行動を繰り返している ~ このような少年の行動に影響しているとされる少年の資質上の問題点は、前件非行時にも指摘されていたが、少年院による矯正教育を経ても改善されていない ⇒ 社会内処遇を選択することができず、少年を再度第1種少年院に収容することが必要。 |
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前記犯情に鑑み、少年を少年院に収容する期間を2年間 | ||||
解説 | ● | 「特定少年」に対する保護処分の特例 ①犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において、保護処分(6月の保護観察、2年の保護観察、少年院送致)を選択しなければならなず ②特定少年を2年の保護観察に付する場合には、1年以下の範囲内において犯情の軽重を考慮して同法66条1項の規定により少年院に収容することができる期間を定めなければならず、 ③特定少年を少年院送致とする場合には、その決定と同時に、3年以下の範囲内において犯情の軽重を考慮して少年院に収容することができる期間を定めなければならない(同条3項) |
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・・・保護処分も対象者の権利・自由の制約という不利益を伴うもの⇒民法上の成年とされ、監護権の対象から外れる特定少年に対して、保護の必要性を理由に、犯した罪の責任に照らして許容される限度を超える処分を行うことが、壊死ねん年齢引下げにかかる民法改正との整合性や責任主義の要請との関係で許容されるか、 国家による過度の介入とならないかといった問題 ⇒ 法制度としての許容性・相当性の点で慎重であるべきと考えられることから、犯した罪の責任に照らして許容される限度を超えない範囲内で保護処分に付すのが相当とされた。 |
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● | 「犯情の軽重」の検討について 要保護性に関する要素は、基本的に含まれない。 |
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前歴については、理論的な説明は様々であるが、少なくとも同種の保護処分歴は「犯情の軽重」を判断する際に考慮しうるとする見解が多数。 | ||||
● | 特定少年を少年院送致とする場合には、その決定と同時に、3年以下の範囲内において犯情の軽重を考慮して「少年院に収容することができる期間」を定めなければならない。 ~ 少年院に収容することができる期間の上限を意味し、その範囲内で、少年院における施設内処遇及び仮退院した場合の社会内処遇を行うことになる。 ~仮退院後の保護観察期間も含んだもの。 |
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統計によると、 335人のうち、 収容期間が1年6月超2年まで(多くは2年):219人(全体の7割近く) 2年6月超3年まで:90人 6月超1年まで:22人 |
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2577 | ||||
行政p5 最高裁R5.5.9 ● |
墓埋法に基づく大阪市長の納骨堂の経営等に係る許可の取消訴訟と原告適格 | |||
事案 | 大阪市長は、宗教法人であるA寺の申請を受け、墓地、埋葬等に関する法律10条の規定により、大阪市B区内の土地において鉄筋コンクリート造地上6階建ての納骨堂を経営すること及びその施設を変更することの各許可 ⇒本件納骨堂から直線距離で100メートル内に居住するXらが、Y(大阪市)を相手に、本件各許可の取消しを求めた。 |
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争点 | 墓埋法10条の規定による納骨堂の経営又はその施設の変更に係る許可について、周辺住民がその取消しを求める原告適格を有するか? | |||
規定 | 墓埋法第十条 墓地、納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない。 2 前項の規定により設けた墓地の区域又は納骨堂若しくは火葬場の施設を変更し、又は墓地、納骨堂若しくは火葬場を廃止しようとする者も、同様とする。 |
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大阪市墓地、埋葬等に関する法律施行細則 8条・・・当該申請に係る墓地等の所在地が、学校、病院及び人家の敷地からおおむね300m以内の場所にあるときは、当該許可を行わない ただし、市長が当該墓地等の付近の生活環境を著しく損なうおそれがないと認めるときは、この限りでない 10条1~3号:・・・墓地等の周囲に塀を設けなければならない |
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1審 | 墓埋法10条が納骨堂の周辺に居住する者の生活環境に関する利益を個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むと解することはできない。 | |||
原審 | 墓埋法10条は、本件細則8条本文所定の距離制限が設けられた区域内の人家に居住する者の生活環境に係る利益は個別的利益として保護する趣旨をも含むと解することができる⇒本件納骨堂からおおむんね300m以内の人家に居住するXらが本件各許可の取消しを求める原告適格を有する。 | |||
Yが上告受理の申立て | ||||
判断 | 墓埋法10条の規定により大阪市長がした納骨堂の経営等に係る許可について、当該納骨堂の所在地からおおむね300m以内の場所に敷地がある人家に居住する者は、その取消しを求める原告適格を有する。 本件細則10条2号は前記原告適格を認める根拠とはならない。 ⇒原審の判断は結論において是認することができる。 |
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規定 | 行訴法 第九条(原告適格) 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。 2裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。 |
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解説 | ● | ●取消訴訟の原告適格の判断枠組み | ||
取消訴訟の原告適格を有する者、すなわち、行訴法9条1項の「法律上の利益を有する者」とは、処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、当該処分を定めた行政法規が不特定多数者の具体的利益を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むと解される場合には、当該利益も法律上保護された利益に当たる。 | ||||
処分の相手方以外の者について法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮すべき(同条2項)。(最高裁) | ||||
同条2項は、司法制度改革の一環として、国民の権利利益の救済範囲の拡大を図る観点から、処分の相手方以外の者の原告適格が適切に判断されることを一般的に担保するために、裁判所が考慮すべき事項を法定したものとして、平成16年法律84号による行訴法の改正で新設。 | ||||
● | ●距離制限規定と第三者の原告適格 | |||
風俗営業や場外車券販売施設の設置について、許可の基準を定める法律の規定の委任を受けて、所定の類型の施設を起点として一定の距離の区域内における営業等を制限する政省令や条例の規定は、起点となる施設を設置する者の円滑に業務を行うことのできる利益を個別的利益として保護する趣旨を含むと解される傾向にある。(最高裁) | ||||
but 墓埋法10条1項の規定により大阪府知事がした墓地の経営許可について、大阪府墓地等の経営の許可等に関する条例7条1号は、墓地及び火葬場の設置場所の基準として「住宅、学校、病院、事務所、店舗その他これらに類する施設の敷地からおおむね300m以上離れていること。ただし、知事が公衆衛生上その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるときは、この限りでない。」と規定していたところ、 最高裁H12.3.17: 墓埋法10条1項自体が墓地等の周辺の居住する者個々人の個別的利益をも保護することを目的としているとは解し難く、また、前記条例7条1号の規定が特定の施設に着目してその設置者の個別的利益を特に保護する趣旨を含むとも解し難い ⇒墓地から300mに満たない地域に敷地がある住宅に居住する者は、前記許可の取消しを求める原告適格を有さない。 ~ 墓埋法が条例でもって個々人の個別的利益をも保護することを目的として墓地等の経営の許可の要件を定める余地を許容しているか否かについては態度を決定していない。 平成16年改正に伴って見直されるべきとの見解。 |
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平成16年改正後における下級審の裁判例では、原告適格を有すると判断する傾向。 | ||||
● | ●納骨堂の経営等に係る許可と周辺住民の原告適格 | |||
墓埋法10条は、許可の要件を特に規定していおらず、それ自体が墓地等の周辺に居住する者個々人の個別的利益の保護を目的としているとは解し難い。 but 墓地等の経営又は墓地の区域等の変更に係る許否の判断については、地域の特性に応じた自主的な処理を図る趣旨に出たもの⇒墓埋法の目的に適合する限り、許可の具体的な要件が、都道府県(市にあっては市)の条例又は規則により補完され得ることを当然の前提としていると解される。 ⇒同条の規定により大阪市長がした墓地等の経営又は墓地の区域等の変更に係る許可については、その根拠となる法令として本件細則8条の趣旨及び目的を考慮すべき。 ~ 墓地等の所在地からおおむね300m以内の場所に敷地がある人家については、平穏に日常生活を送る利益を個々の居住者の個別的利益として保護する趣旨を含むものと解することができる。⇒原告適格肯定。 |
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平成12年最判は、条例中に本件細則8条とは異なる内容の規定が設けられている場合に関するものであり、本件とは事案を異にする。 | ||||
本件細則10条2号は、納骨堂が静穏な環境の下で使者を追悼する施設となることを確保し、これを利用する者の利益を保護する趣旨の規定⇒原告適格を認める根拠となるものではない。 | ||||
民事p11 長崎地裁R4.11.7 ● |
下請け労働者に対する安全配慮義務(肯定)・寄与度に応じた損害賠償責任 | |||
事案 | Yが設営する長崎造船所において、Y又は下請会社の労働者として、船舶建造又は修繕の労務に従事していた者とその相続人であるXらが、前記労務の歳の粉じんばく露に起因して、じん肺等にり患したなどと主張⇒Yに対し、安全配慮義務違反の債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を請求。 | |||
争点 | ①じん肺り患の有無 ②じん肺り患等と長崎造船所における就労との因果関係 ③安全配慮義務違反の有無 |
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解説 | じん肺法の管理区分制度の概要: 労働者及び元労働者について、じん肺健康診断の結果に基づき、エックス線写真の像の区分(同法4条1項)及び肺機能障害等の程度により、管理1から管理4に区分して健康管理を行うものとし(同条2項)、 管理2ないし管理4の管理区分は、一般医師によるエックス線写真おy薄井じん肺健康診断結果証明書等を基礎として、地方じん肺審査医の診断又は審査により決定される。 |
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判断 | ● | ●じん肺り患の有無 | ||
管理2以上の決定を受けた労働者⇒特段の事情jがない限り、これに相当する程度のじん肺にり患したことが推認される but じん肺の診断におけるCT画像所見の有用性⇒これを反証として用いることができる。 ~ 反証の成否を検討してじん肺り患の有無を判断。 |
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前記反証が奏功した者のうち、石綿粉じんにばく露し、じん肺に沿う所見が認められる者については、管理2には至らない程度の繊維増殖性変化を生じているか、これに進展する可能性のある状態にあるとして、一定の健康被害の存在を認めた。 | ||||
● | ●安全配慮義務違反の有無 | |||
Yは、労働契約関係に立つ労働者に対し、遅くともじん肺法が施行された昭和35年4月頃には、その当時の実践可能な最高の科学的・工学的技術水準に基づいて、粉じん発生の防止・抑制、粉じんばく露の防止・抑制を主体とするじん肺防止対策の実施、粉じん量の測定、粉じん作業従事者にじん肺教育を講じる等の措置を講じることにより、粉じん作業従事者の生命・健康を保護すべき安全配慮義務を負っており、下請け労働者に対しても、粉じんの発生又は滞留状況等に大きく影響する作業環境等について、主にYが支配・管理していた ⇒ 信義則上、安全配慮義務を負うと認めるのが相当。 |
||||
Yが、長崎造船所において、本件労働者らが粉じん作業に従事した時期に講じていた粉じん対策措置では不十分であった⇒安全配慮義務を肯定。 | ||||
● | ●じん肺り患等と長崎造船所における就労との因果関係 | |||
長崎造船所と他の事業所における粉じん作業による粉じんばく露が相まって、じん肺等にり患し又は前記の健康被害を受けたことが認められる but 長崎造船所における粉じんばく露のみによって、じん肺等にり患等したとまではみとめられない。 ⇒ 民法719条1項後段の類推適用又はその法意に照らして、各粉じん作業職歴の期間等に鑑みた寄与度に応じた損害賠償責任を負う。 |
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解説 | ● | 裁判例 | ||
● | 元請企業と下請労働者との間には直接の契約関係が存在しないが、元請企業が、下請労働者との間で特別な社会的接触に入ったといえる場合に、信義則上、下請労働者に対しても安全配慮義務を負うことを認めた事例判例があり、下請労働者に対する安全配慮義務違反が認められている。 | |||
● | 石綿含有建材を製造販売した建材メーカーの中皮腫り患者に対する不法行為に基づく損害賠償責任について、民法719条1項後段の類推適用により、寄与度に応じた損害賠償責任を認めた判例(最高裁R3.5.17)。 | |||
安全配慮義務違反による債務不履行に基づく損害賠償責任について、寄与度に応じた損害賠償責任を認めた裁判例。 | ||||
民事p63 長崎地裁R4.12.6 ● |
安全配慮義務の予見可能性、業務起因性 | |||
事案 | Aは、昭和37年1月10日から同年12月29日までの間、Yに雇用され、Yの事務所において就労し、平成17年10月17日に悪性胸膜中皮腫と診断され、平成20年11月30日に死亡。 Aの相続人であるXらが、Aが前記就労の際の石綿粉じんばく露に起因して、悪性胸膜中皮腫にり患して死亡⇒Yに対し、雇用契約上の安全配慮義務違反による債務不履行に基づき損害賠償請求。 |
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争点 | ❶Aの中皮腫り患の業務起因性(事実的因果関係) ❷Yの安全配慮義務う違反の有無 ❸安全配慮義務違反と中皮腫り患との間の相当因果関係の有無 |
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解説 | 労基法の委任を受けた旧労働安全衛生規則は、粉じん等を発散する屋内作業場において、局所吸引排出送致設置等の適当な措置を講じなければならないこと(同規則173条)等を規定。 | |||
労働省労働基準局通達は、じん肺法の前身であるけい肺及び外傷性せき髄障害に関する特別保護法に定める粉じん作業等について定めた「労働環境における職業病予防に関する技術指針」の実施の促進等を求め、同技術指針は石綿の抑制目標限度を1000個/cc(20mg/㎥)と定めていた。 | ||||
判断 | ● | ❶Aの中皮腫り患の業務起因性(事実的因果関係) | ||
Aが、昭和37年当時、Yの事業所において、石綿保温材等を原材料とする保温筒の製造作業の従事し、石綿粉じんにばく露したことを認め、その程度は、前記2の抑制目標限度を上回るような高濃度の石綿粉じんにばく露したとは認められない but Aが約43年後に胸膜中皮腫と診断されたことは、 ①胸膜中皮腫が石綿ばく露の特異性が高く、閾値が存在せず、少量、低濃度の石綿ばく露によっても発症し得ること ②発症までに要する期間といった医学的知見に沿うこと Aが他の事務所において石綿粉じん作業に従事したとは確認されていないこと ⇒ 業務起因性を肯定。 |
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● | ❷Yの安全配慮義務う違反の有無 | |||
石綿肺に関する医学的知見の確立や関係法令の状況等 ⇒じん肺法が施行された昭和35年4月1日頃には、石綿粉じん作業を行う事業者において、石綿粉じんばく露により石綿肺を発症する危険性があることを予見し得た but (1)昭和37年当時、石綿の使用が禁止されておらず、 石綿粉じんばく露と石綿肺発症との間に量・・反応関係があること等を前提とした当時の医学的知見に照らして、前記抑制目標限度が合理性を欠くものとはいえず、 これを下回る石綿粉じんばく露による石綿肺発症の危険性についての予見可能性があったとは認められない。 (2)少量・低濃度の石綿ばく露により発症し得る中皮腫に関する医学的知見が確立したのは昭和47年以降と認められる ⇒ 昭和37年当時、前記抑制目標限度を下回る石綿粉じんばく露によって、石綿肺や中皮腫等の石綿関連疾患等の健康被害が生じる危険性があることについて予見可能性があったとは認められない。 ⇒ 安全配慮義務違反を否定。 |
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● | ❸安全配慮義務違反と中皮腫り患との間の相当因果関係も否定。 | |||
解説 | ● | 石綿粉じんばく露と中皮腫り患との間の因果関係が問題となりこれを肯定した裁判例 ①~⑧ ~ 石綿ばく露の特異性が高く、低濃度ばく露でも発症すること等の中皮腫に関する医学的知見を基礎として、石綿粉じんばく露が認められ、潜伏期間が整合する場合、両者の関係を否定するような事情がない限り、中皮腫り患との因果関係を肯定する傾向。 因果関係否定裁判例⑨ |
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● | 安全配慮義務違反の前提となる予見可能性: 福岡高裁: 使用者が認識すべき予見義務の内容は、生命、 健康という被害法益の重大性に鑑み、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り、必ずしも生命、健康に対する障害の性質、程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はない。 |
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中皮腫のり患が問題となった事案においても、同旨の見解に立ち、石綿粉じんばく露により生命、健康に重大な傷害が生じる危険性を認識し得れば、中皮腫の発生につき具体的に認識し得なくても足りるとするものが多い。 | ||||
民事p72 東京地裁R4.12.23 ● |
下請法違反but公序良俗違反で無効とはならないとされた事案 | |||
事案 | 被服等の製造販売等を行う株式会社であるX1及びX2が、長年にわたりXらが製造した婦人服を納品してきたY2において、一方的に前記納品に係る取引にY1を介在させ、Y1に対する高額の手数料をXらに支払わせた⇒前記介在に関するXとY1との合意が公序良俗に反する無効なものであることを理由に、Yらに対し、共同不法行為に基づく損害賠償等を求めた。 | |||
問題 | 継続的企業間取引において、従前の商流の一部変更につき、下請代金支払遅延等防止法4条1項3号(下請代金の減額の禁止)違反 | |||
判断 | 従前のXとY2との取引の法的性質: Xらが製造してY2に納品する婦人服の仕様、内容等については、発注者であるY2の能動的な関与が認められる⇒XとY2との間の各取引は、下請法2条1項所定の製造委託に当たり、Xらは下請事業者に該当。 |
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Xらが納品時に受領する下代が本件合意により目減りした⇒本件合意が下請法4条1項3号に反する。 | ||||
but 最高裁昭和52.6.20を参照して、 本件合意は、同号違反をもって直ちに無効となるのではなく、同号の趣旨に鑑み、不当性の強い場合に限り、公序良俗に反して無効となると解するのが相当。 本件合意に基づく商流変更の移行期においてXらが損失を被ることを防ぐための措置が講じられている⇒本件合意は、下請法4条1項3号の趣旨に鑑みて不当性が強く、公序良俗に反して無効とまではいうことができない。 |
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規定 | 下請法 第四条(親事業者の遵守事項) 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第一号及び第四号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。 三 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること。 |
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解説 | ● | 下請法:独禁法の特別法・補完法 | ||
「委託」取引においては、相手方の仕事の内容を発注者の指示により決めることになる⇒類型的に発注者が優越的地位に立ちやすい⇒一定の構造を有する委託取引を規制対象に。 | ||||
「委託」:事業者が、他の事業者に対し、給付に係る仕様、内容等を指定して物品等の製造(加工を含む。)若しくは修理、情報成果物の作成または役務の提供を依頼すること。 取引の内容が発注者と供給者の協議を経て決定される場合であっても、仕様等の指定について発注者の能動的な関与が認められる場合には、発注者が仕様等を指定するものといえる。 |
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● | 下請法4条1項3号: 対価の減額は、供給者に不利益となるように取引の条件を変更し、又は取引を実施することの1類型(独禁法2条9項5号ハ)。 下請法は、下請事業者の責に帰すべき理由がある場合を除き、一切の下請代金の減額を認めていない。 |
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● | 最高裁昭和52.6.20: 独禁法19条に違反した契約の私法上の効力については、その契約が公序良俗に反するとされるような場合は格別として、上告人のいうように同条が強行法規であるからとの理由で直ちに無効であると解すべきではない。 ・・・同法20条は、専門的機関である公正取引委員会をして、取引行為につき同法19条違反の事実の有無及びその違法性の程度を判定し、・・勧告、差止命令を出すなど弾力的な措置をとらしめることによって、同法の目的を達成することを予定している⇒同法条の趣旨に鑑みると、同法19条に違反する不公正な取引方法による行為の私法上の効力についてこれを直ちに無効とすることは同法の目的に合致するとはいい難い。 |
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知財p85 大阪高裁R4.9.30 ● |
特許権に関する訴訟の管轄について管轄違いとされ判決が取り消された事案 | |||
事案 | XがYに対し、P1(Yの研究者)がXとの協議に応じずに本件発明につき単独で特許出願したことは本件契約上の約定に反する⇒債務不履行に基づく損害賠償を求めた。 | |||
X:訴状において、P1による前記行為は、本件契約14条1項に規定する 「Yは、本件受託研究の実施に伴い発明等が生じたとき、・・・Xに通知の上、当該発明等に係る知的財産権の取扱いについてX及びYが協議し決定するものとする」との協議義務及び同条2項に規定する「Yは、前記の知的財産権をYが承継を希望した場合には、Xに対して相当の対価と引き換えにその全部を譲渡するものとする」との義務に違反すると主張。 |
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原審 | 本件契約上の協議義務違反等の債務不履行を否定し、請求棄却。 | |||
控訴審で、一審の管轄裁判所が問題に | ||||
規定 | 民訴法 第三〇九条(第一審の管轄違いを理由とする移送) 控訴裁判所は、事件が管轄違いであることを理由として第一審判決を取り消すときは、判決で、事件を管轄裁判所に移送しなければならない。 |
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判断 | ● | 原判決を取り消し、本件を大阪地裁へ移送(民訴法309条)。 | ||
● | 民訴法6条1項、同条3項本文、知財高裁設置法2条の各規定が、「特許法」「に関する訴え」に関して、1審については東京地裁及び大阪地裁、控訴審については知財高裁の専属管轄を定めていることの趣旨は、「特許法」「に関する訴え」の審理には、知的財産関係訴訟の中でも特に高度の専門技術的事項についての理解が不可欠であり、その審理の充実及び迅速化のためには、技術の専門家である調査官を配置して専門的処理体制を整備しているこれらの裁判所の管轄に専属させることが適当と解されたことにある。 | |||
民訴法6条1項が「特許法」「に基づく訴え」とせず「特許法」「に関する訴え」として広い解釈を許容する規定ぶり⇒ 「特許権」「に関する訴え」には、特許権そのものでなくとも特許権の専用実施権や通常実施権さらには特許を受ける権利に関する訴えも含んで解されるべき。 その訴えには、前記権利が訴訟物の内容をなす場合だけでなく、訴訟物又は請求原因に関係しその審理において専門技術的な事項の理解が必要となることが類型的抽象的に想定される場合も含まれる。 |
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● | 専属管轄の有無が訴え提起時を基準として画一的に決せられるべきこと(民訴法15条)⇒「特許法」「に関する訴え」該当性の判断は、訴状の記載に基づく類型的抽象的な判断によってせざるを得ず、その場合には、実際には専門技術的事項が審査対象とならない訴訟までが「特許権」「に関する訴え」に含まれる可能性が生じる。 but 民訴法20条の2第1項は、「特許権」「に関する訴え」の中には、その審理に専門技術性を要しないものがあることを考慮して、東京地裁又は大阪地裁において、当該訴訟が同法6条1項の規定によりその管轄に専属する場合においても、当該訴訟において審理すべき専門技術的事項を欠くことその他の事情により著しい損害又は遅滞を避けるため必要があると認めるときは、管轄の一般原則により管轄が認められる他の地方裁判所に移送をすることができる旨規定。 |
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● | (1)本件で争点となっている本件契約の条項の内容から、特許を受ける権利が本件の請求現認に関係しているといえること (2)債務不履行の成否の判断のためには、本件発明が本件受託研究の成果物に含まれるかという専門技術的事項に及ぶ判断をすることが避けられないものと考えられる ⇒ 本件は、債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟として訴訟提起された事件であるが、その訴状の記載からは、その争点が、特許を受ける権利に関する契約条項違反ということで特許を受ける権利が請求原因に関係しているといえるし、その判断のためには専門技術的な事項の理解が必要となることが類型的抽象的に想定される ⇒本件は「特許権」「に関する訴え」に含まれると解するのが相当。 |
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本件訴訟は、民訴法6条1項2号により大阪地裁の管轄に専属というべきであって、神戸地裁において言い渡された原判決は管轄違いの判決であって、取消しを免れない。 | ||||
解説 | ● | ●特許権等に関する訴えの土地管轄 | ||
訴えは被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属するのが原則(民訴法4条1項)、特許権等に関する訴えは東京地裁又は大阪地裁の管轄に専属(6条1項)、その終局判決に対する控訴は知財高裁の管轄に専属(同法6条3項本文、知財高裁設置法2条1号)。 民訴訟6条2項の追加で、事物管轄については両地裁と簡裁の競合管轄。 but 一般の専属管轄(民訴法340条等)とは異なり、両地裁間では管轄の専属性はない(・・・) |
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● | ●「特許権等に関する訴え」に該当するかの判断手法 | |||
受訴裁判所が管轄権を有することは訴訟要件であり、その判断の基準時は提訴時(民訴法15条)⇒「特許権等に関する訴え」に該当するか否かは抽象的な事件類型によって判断すべきとされている。 | ||||
知財高裁: 審理の途中で間接事実の1つとして「特許」が登場したものが専属管轄に当たるとすると、これを看過した場合に絶対的上告理由となる⇒訴訟手続が著しく不安定になって相当でない。 |
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● | ●「特許権」「に関する訴え」の解釈 | |||
「特許権等に関する訴え」の「等」が「実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利」を意味。 | ||||
同項の趣旨⇒ 「特許権」「に関する訴え」には、特許権侵害を理由とする差止請求訴訟や損害賠償請求訴訟、職務発明の対価の支払いを求める訴訟等に限られず、特許権の専用実施権や通常実施権の設定契約に関する訴訟、特許を受ける権利や特許権の帰属の確認訴訟、特許権の移転登録請求訴訟、特許権を侵害する旨の虚偽の事実を告知したことを理由とする不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟等が含まれる(知財高裁)。 |
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裁判例: 実施契約が特許権の通常実施権設定としての効力を有するかが争点とされている⇒「特許権等に関する訴え」に該当。 欺罔行為の内容として「特許」という用語が使用されているからといって「特許権等に関する訴え」に該当するということはできないとしたもの。 |
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本判決: 「特許権」「に関する訴え」には特許権の専用実施権や通常実施権さらには特許を受ける権利に関する訴えも含まれる。 これに加えて、「前記権利が訴訟物の内容をなす場合はもちろん、そうでなくとも、訴訟物又は請求原因に関係し、その審理において専門技術的な事項の理解が必要となることが類型的抽象的に想定される場合も含まれる」という規範。 ~ 審理の途中で専門技術的事項が顕わになる訴えもあるが「特許権等に関する訴え」に該当するか否かは訴状の記載に基づいて判断せざるを得ないこと及び「特許権等に関する訴え」の中には専門技術的事項を欠く訴えもあるが、そのような訴えに対する手当がされていることを前提として、民訴法6条3項や知財高裁設置法2条1号の趣旨に鑑み、特許権等が関係しその審理において専門技術的な事項の理解が必要となる全国の訴訟を両地裁及び知財高裁が漏れなく取り扱うようにしようとするもの。 |
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● | A:専門技術的事項を欠く「特許権等に関する訴え」については、民訴法20条の2第1項の規定の類推適用により受訴地方裁判所は両地裁との移送の往復を経ずに自庁処理することができるとする見解 B:これを否定する見解が有力 |
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このような訴えが受訴地方裁判所で審理判断されて判決に至った場合、当該手続の適法性を判断する場面の評価規範としては、当該判決を取り消すことに慎重であるべきという見解が有力 | ||||
知財p103 東京地裁R5.3.30 |
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事案 | 原告が、本件発信者2名が原告が著作権を有する写真をそれぞれウェブサイトに投稿したことによって、原告の本件写真に係る複製権、送信可能化権及び自動公衆送信権が侵害された⇒前記ウェブサイトを管理する被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律5条1項に基づき、発信者情報の開示を求めた事案。 | |||
争点整理⇒本件の権利侵害の明白性に係る争点は、著作権法41条(事実の事件の報道のための利用)の適用の可否。 | ||||
規定 | 著作権法 第四一条(時事の事件の報道のための利用) 写真、映画、放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる。 |
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判断 | 認定事実によれば、本件投稿1及び2は、各別件訴訟判決の要旨を伝える目的で本件写真を掲載しているところ、本件写真は、各別件訴訟判決という時事の事件において正に侵害の有無が争われた写真そのものであり、当該事件の主題となった著作物であることが認められる。 ⇒本件写真は、著作権法41条にいう事件を構成する著作物に該当。 |
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前記認定に係る本件写真の利用目的、利用態様、前記事件の主題性等⇒本件投稿1及び2において、本件写真は、同条にいう報道の目的上正当な範囲内において利用されたものと認めるのが相当。 | ||||
解説 | 第1類型:その事件を構成する著作物 第2類型:その事件の過程において見られ聞かれる著作物 |
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著作権41条該当性が問題とされた裁判例 | ||||
2576 | ||||
★民事司法改革シンポジウム 損害賠償制度改革の課題と展望 |
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窪田 | p14: 入試に関する不正のケース、会社を辞めることを余儀なくされた ~人生における1つの可能性が失われた、あるいは、期待していた人生のコースを修正すrことを余儀なくされた これをもう少し具体的していれば、財産的損害の問題になる。 |
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慰謝料を規定する民法710条は財産でない損害についても賠償するというもので、民法自体が非財産的な損害賠償という仕組みをとっている。 ⇒ 差額説を前提とする財産的な観点からしか捉えられないものでないものについても、本来広く捉えることができるし、それは単に気持ちの問題ではない。 |
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p15論文 | ||||
考慮要素を明確にすると金額が上がるというほど単純な構造ではない。 | ||||
判例は、不法行為の主観的な非難可能性のようなものに着目して慰謝料を決めるということを、これまでもやってきたし、もう既に正当化されているのではないか。 | ||||
行政p45 東京高裁R5.3.23 ● |
岩石採取計画認可申請に対する不認可処分に係る取消裁定申請への別訴判断の影響 | |||
規制 | 採石法33条:採石業者は、岩石の採取を行おうとするときは、当該岩石の採取を行う場所(岩石採取場)ごとに採取計画を定め、当該岩石採取場の所在地を管轄する都道府県知事の認可を受けなければならない。 採石計画の認可申請書には、岩石の採取に係る行為に関し、他の行政庁の許可、認可その他の処分を受けることを必要とするときは、その処分を受けていることを示す書面又は受ける見込みに関する書面を添付しなければならない。 都道府県知事:前記申請があったときは、採取計画に基づいて行う岩石の採取が他人に危害を及ぼし、・・・公共の福祉に反すると認めるとき・・は、当該採取計画の認可をしてはならない。(採石法33条の4) |
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事案 | 原告:見込み等書面として、岩石採取計画に係る岩石採取場の所在地である遊佐町が同庁の条例に基づき本件採取計画に係る事業を規制対象事業に認可した処分の取消しを求めて別件訴訟において争っていることを示す別件訴訟の係属証明書及び訴状の写しを添付して、採石法33条に基づく岩石採取計画の認可を申請 ⇒ 山形県知事が、湧水を利用する世帯や農業、水産業等に影響を及ぼすおそれがあるという理由に加えて、「その他考慮した点」として、遊佐町処分を挙げて採石法33条の4に基づき本件認可申請を拒否する処分 ⇒ 採石法39条1項に基づき、公害等調整委員会に対し、本件認可処分の取消しを求める裁定の申請。 |
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本件: 鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律2条1項に基づき設けられた裁定委員会が、前記裁定の審理中に遊佐町処分の取消しの請求を棄却するとの判断が確定⇒本件採取計画について他法令の許可等を受ける見込みがないことが確定し本件不認可処分が適法であることが確定したとして前記裁定申請を棄却する裁定。 ⇒原告が被告(国)に対し、その取消しを求めた。 |
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主張 | 被告:別件訴訟により遊佐町処分が有効であることが確定⇒原告が本件認可申請に係る事業を行うことは事実上不可能となった⇒裁定申請の法律上の利益を失った。 | |||
被告:採石法における採取計画に係る認可又は不認可の判断に当たっては、他法令に基づく認可又は不認可の判断に当たっては、他法令に基づく許可等の取得可能性が失われたことは、不認可要件の充足という意味を持ち、認可申請後処分がされるまでの間に、他法令に基づく許可等を受ける見込みが無くなった場合には、処分庁が当該認可申請に対し不認可処分をすることができ、本件裁定においては本案判断として棄却判断を行うことが採石法の仕組みに即している。 vs. 森林法の林地開発許可申請に係る裁判例を挙げるなどして、山形県知事が申請を受理した以上、他法令の許可等を受ける見込みが失われたことを理由とする不認可処分をすることはできず、また、別件訴訟の判決が言い渡されていなかった本件不認可処分時の状況を前提として本件不認可処分の違法性の有無が問題とされなければならない。 |
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判断 | ● | 原告の請求を棄却 | ||
● | 採石法及び同法施行規則の規定が見込み等書面の提出を定めているのは、採石法以外の法令等の規制により認可の申請に係る採取計画に基づく岩石の採取を実施できない場合には、当該申請につき、実体的な要件を審査し、本件採取計画の認可をしても無意味であるため ⇒ 申請時の見込み等書面が他の行政庁の許可等を受ける見込みに関する書面であり、その後の実体的な要件の審査中に許可等を受けられないことが確定し、申請に係る採取計画に基づく岩石の採取を実施できないことが確定した場合には、都道府県知事は、他の行政庁の許可等を受けられないこと等の確定を理由に、不認可処分をすることができる。 |
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本件不認可処分の通知書に「その他考慮した点」として遊佐町処分がなされたことが記載されていたこと等からすれば、別件訴訟の帰すうによって遊佐町処分の効力を争う機会が失われたとの事情を考慮する限度で本件不認可処分後の事情を考慮することは許容される。 ⇒本件裁定が本件不認可処分は結論として適法であることが確定したと判断したことが、違法であるということはできない。 |
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● | 裁定委員会が、裁定申請に法律上の利益がないと判断した上で、経過等から却下する必要性は失われている上、紛争の終局的解決の観点からも、本案判断として棄却の判断をすることが合理的であるなどとした点も、本案裁定引用の判例や本件の経過に照らし相当なものというべき。 | |||
解説 | 本件: 岩石採取計画認可申請に見込等の書面の添付がなされ申請審査に入った場合でも、他法令に基づく行政庁の許可等を取得する可能性が後に失われたことを理由として不認可処分をすることが可能。 取消訴訟の違法判断の基準時に関しては処分後の事情を考慮することを許容。 法律上の利益が認められない場合であっても紛争の終局的解決の観点から棄却判断をすることが相当。 |
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行政p57 大阪高裁R5.5.10 ● |
地方団体が国に対して特別交付税の額の決定の取消しを求める訴え | |||
事案 | いわゆるふるさと納税に係る寄付金の収入見込額が一定額を超えた場合に特別交付税の額の減額項目とする旨を規定する「特別交付税に関する省令」の規定の適用で、X(大阪府泉佐野市)の令和1年12月分及び令和2年3月分の特別交付税の額をそれぞれ決定⇒本件各特例規定の適用を受けて特別交付税の額を減額されたXが、本件各特例規定は地方交付税法(「交付税法」)15条1項の委任の範囲を逸脱し違法・無効であり、本件各特例規定に基づく本件各決定は違法⇒Y(国)を相手に、本件各決定の取消を求めた(行訴法3条2項の「処分の取消しの訴え」)事案。 | |||
Y: 本案前の主張:行政主体にしかないような権限や地位が他の行政主体の権限によって制約を受けたとしても、それは一般私人たる国民が権利利益を侵害された場合とは異なり、司法権の本来的な役割の範疇を超える⇒本件訴えは裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないため却下されるべき。 本案の主張:本件各特例規定は交付税法15条1項の委任の範囲内である。 |
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解説 | 地方交付税: 本来、地方団体の税収入とすべきであるが、地方団体間の財源の不均衡を調整し、全ての地方団体が一定の水準を維持し得るよう財源を保障する見地から、国税として国が変わって徴収し、一定の合理的な基準によって再配分する、いわば「国が地方に代わって徴収する地方税」という性格を持つもの。 |
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(1)基準財政需要額が基準財政収入額を上回る地方団体に対して交付される普通交付税(地方交付税総額の94%) (2)普通交付税の算定では捕捉されない特別の財政需要がある場合に交付される特別交付税(地方交付税総額の6%) |
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各地方団体に交付すべき特別交付税の具体的な算定方法は、交付税法15条1項の委任を受けた「特別交付税に関する省令」に定められており、毎年度、12月と3月の2回に分けて総務大臣により決定される(交付税法15条2項)。 | ||||
経緯 | 総務大臣は、令和1年12月11日、特別交付税に関する省令の一部を改正する省令を制定・・本件各特例規定を適用して、令和1年12月及び令和2年3月、本件各決定 ⇒Xに交付された令和1年度の特別交付税の額は、前年度よりも大幅に減少。 ⇒Xは、令和1年12月、総務大臣に対し、交付税法18条1項に基づき、同年12月分の特別交付税の決定について審査申立て⇒却下⇒本件各決定の取消しを求める訴えを提起。 |
|||
地方交付税の額の決定は、地自法245条柱書括弧書の「国・・・の普通地方公共団体に対する支出金の交付」に当たり、同条の「国・・・の関与」の定義から除かれる⇒地自法251条の5に規定する「国の関与に関する訴え」(行訴法6条の機関訴訟に当たる。)の対象にはならないと解されている。 | ||||
一審 | ● | ●中間判決 | ||
◎ | 裁判所が固有の権限に基づいて審判することのできる対象歯、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」、すなわち、 ❶当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、 ❷それが法令の適用により終局的に解決することができるもの に限られる。 |
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・・・地方団体が国から法律の定めに従い地方交付税の分配を受けることがdけいるか否かに関する紛争は、地方団体と国との間の具体的な権利ないし法律関係の存否に関するものということができ(❶を満たす)、地方交付税の額の算定方法及び交付の手続は法定されていること(交付税法10条、15条、16条等)に照らすと、特別交付税の額の決定が適法であるか否かは、交付税法その他の関係法令を適用することによって判断することが可能(❷を満たす) ⇒本件訴えは「法律上の争訟」に当たる。 |
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◎ | Y:本件訴えは、地方団体であるXが「固有の資格」(一般私人が立ち得ないような行政機関に特有の立場)に基づいて提起した訴訟であって、一般私人と共通する法的根拠に基づいて提起した訴訟ではない⇒主観的権利利益の保護救済を目的とするものではなく、「法律上の争訟」に当たらない。 vs. 行政主体であっても、独立の法人格を有するものとして具体的な権利ないし法律関係の存否を争い得る場面においては、それらの存否について裁判所による判断を求めることが否定される根拠は見当たらず、これは一般私人と共通する法的根拠に基づく場合に限られない。 |
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平成14年最判:国または地方団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は不適法。 but 本件訴えはX(地方団体)がY(国)に対して特別交付税の額の決定の取消しを求めるもので、X・Y間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であり、専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求めるものではない。⇒事案を異にする。 |
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● | ●終局判決 | |||
特別交付税の額の決定の処分性及び訴えの利益を認めるとともに、 本件各特例規定は、交付税法15条1項の委任の範囲を逸脱したものとして、違法・無効 ⇒Xの請求を認容。 |
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判断 | ● | ・・・司法権(憲法76条1項)が審判する権限が及ぶ紛争であり、司法権の概念には国民の裁判を受ける権利の保障が反映されている、。 このような見地に立ち「当事者」の面から見ると、基本的に個々の国民が提起する紛争であって、その具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争がこれが該当し、個々の国民と同様の立場に立って行うもの(財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合)は格別として、双方が行政権の主体同士として関与する、行政権内部の法適用の適正をめぐる一般公益に係る紛争である限り、法律上の争訟に該当しないと解するのが相当。 |
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その解決は、行政権内部の調整に委ね、その適正性については、国会審議等の民主的な統制の対象とすることによって確保するのを基本とし、紛争によって、裁判所で解決するのがふさわしいものについて、法律によって特に権限が定められた場合には、裁判所はこれを裁判する権限を持つことになると解すべき。 | ||||
● | ・・・交付税法の仕組や目的等に照らすと、地方団体が国から法律の定めに従い地方交付税の分配を受けることができるか否かに関する紛争は、国と地方団体が、それぞれ行政主体としての立場に立ち、地方団体全体が適正に行政事務を遂行し得るように、法規(交付税法)の適用の適正をめぐって一般公益(地方団体全体の利益)の保護を目的として係争するものというべき。 ~ 本件訴えは、行政主体としてのXが、法規の適用の適正をめぐる一般公益の保護を目的として提起したものであって、自己の財産上の権利利益の保護救済を目的として提起したものと見ることはできない ⇒裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」には当たらないというべき。 |
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解説 | ● | 裁判所法3条1項の「法律上の争訟」 ①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、 ②それが法令の適用により終局的に解決することができるもの に限られる。 |
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司法権=法律上の争訟=裁判を受ける権利(国民の権利利益の保護救済。これを目的とする訴訟が主観訴訟と言われる。)と捉えるところ、 行政訴訟には、国民の権利利益の救済にかかわらない民衆訴訟(行訴法5条)及び機関訴訟(行訴法6条)(これらは客観訴訟といわれる)があるが、これらは専ら客観的な法秩序の維持を目的とするものであって、前記①要件を充たさず法律上の争訟に当たらないが、法律に特別の定めがあることによって訴訟を提起することが可能(裁判所法3条1項後段)と解している。 |
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平成14年最判: 国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできない⇒法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく、法律に特別の規定がある場合に限り、提起することが許される。 |
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● | but 行政上の権限は、通常、公益確保のために認められているにすぎないが、財産的権利に由来する場合は、行政主体がその実現について主観的な権利を有すると捉え、国又は地方団体といえどもそのような財産的権利を主張して訴訟を提起できると解されている。 平成14年最判: 「国または地方公共団体が提起した訴訟であって、財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たるというべきであるが」 |
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最高裁H13.7.13: 那覇市長が那覇市情報公開条例に基づいてした公文書(海上自衛隊・・の建築工事に関する建築工事計画通知及びその添付図面)の公開決定につき、国が那覇市長を被告として、その取消しを求めたという事案について、本件が建物の所有権という財産権の問題として捉え得るとして、法律上の争訟性を肯定。 |
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学説: 異なる行政主体相互間の訴訟の「法律上の争訟」性に関する見解に様々なものがあるが、 地方団体が国に対してその権限行使を不服として提起する訴訟については、自治権の侵害に対する救済の途を開く必要があることを理由として(塩野)、あるいは補助金の受給をめぐる問題は私人間の金銭債権をめぐる争いと類似することを理由として(藤田)、一定の場合に地方団体の出訴を肯定する見解が多い。 |
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普通地方団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の取消しを求める訴えについて、司法審査の対象とならないとした従来の最高裁判決を変更し、これが「法律上の争訟」に当たり司法審査の対象となるという最高裁判決。 ~ 出席停止の懲罰を受けた議員は、出席停止の期間中、議事に参与して議決に加わるなどの議員としての中核的な活動をすることができなくなり、住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすことはできなくなることを理由として、「法律上の争訟」性を認めたもの。 ~ 議員個人の私的権利利益の保護を目的とする訴訟ではなく、議会と言う機関の構成員である議員の公的権限の保護を目的とする訴訟が「法律上の争訟」として認められたとして、平成14年最判の見直しの「橋頭堡」となるという見解もある。 |
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● | 第1審判決: 平成14年最判の射程が、国又は地方団体が専ら行政権の主体として「国民に対して行政上の義務の履行を求める」訴訟に限定されるという立場であり、行政主体が「法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とする」訴訟一般に及ぶという見解を採らない。 その上で、地方交付税の額の決定に係る紛争を、国の地方団体に対する支出金に関する紛争とみて、「法律上の争訟」性を認めた。 |
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国・地方団体間の補助金をめぐる訴訟である摂津訴訟やその後の下級審裁判例において、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金適正化法)6条1項に基づく補助金の交付決定を抗告訴訟の対象となる行政処分と捉え、行政処分の取消訴訟の形でならば、訴えで争うことも認めるものが多い。 地方交付税は、補助金適正化法が適用される「補助金等」(補助金適正化法2条1項)ではないが、補助金もその1つである「国・・・の普通地方公共団体に対する支出金」(地自法245条柱書括弧書)に含まれると解されるもので、1審判決が地方交付税の額の決定の「法律上の争訟」性を認めたことは、補助金適正化法上の補助金の処分性を認める(当然、その前提として「法律上の争訟」性を認める)各裁判例の立場と相通ずるものがある。 |
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● | 本判決: 司法権の概念には国民の裁判を受ける権利の保障が反映されているとし、「法律上の争訟」の概念の内容をなす「紛争」とは、基本的に個々の国民が提起する争訟であって、その具体的な紛争がこれに該当。 双方が行政権の主体同士として関与する、行政権内部の法適用の適正をめぐる一般公益に係る紛争である限り、法律上の争訟に該当しない。 |
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Xの平成14年最判の射程が本件に及ばないとする主張も採用できない。 ~ 司法権=法律上の争訟=裁判を受ける権利(国民の権利利益の保護救済)と捉える従来の通説に依拠。 |
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本件訴えが、財産権の主体として自己の再残上の権利利益の保護救済を求めるような場合として「法律上の争訟」性を肯定できないか? 本判決: 地方交付税の仕組み(特定の地方団体への甲府営の配分はその他の全ての地方団体への配分と密接不可分であること)から、各地方団体への地方交付税の交付は、Yが特定の地方団体に財産的利益を付与することを目的とするのではなく、全ての地方団体が適正に行政事務を遂行できるよう、地方団体全体の利益を考慮して、税の配分を行うことを目的としている⇒否定。 地方交付税は、その総額を行政主体間で配分するものであり、実質的には贈与の性質を持つ給付金である国庫補助金と同列に論じることはできない。 |
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民事p67 東京高裁R4.5.31 ● |
役員としての資格審査不適格との判断⇒公益社団法人の使用者責任が認められた事例 | |||
事案 | Xらは、不動産取引にかかる公益社団法人であるYらのそれぞれのA県本部に所属する会員⇒県本部における平成31年度の役員選任に際し、その候補者となったものの、役員としての資格要件を審査する県本部の資格審査委員会において不適格とされ、県本部の理事会に上程されなかったため、同年度の役員に選任されなかった。 | |||
Xら:役員に選任されなかったのは本件委員会がその権限を濫用して所定の手続に反した違法な決議を行った結果であり、Yらは当該不法行為につき民法715条の使用者責任を負う⇒Yらに対し損害賠償請求をした。 | ||||
規程 | 本件委員会の規程: 資格審査(11条): 資格審査委員会 A県本部役員候補者等の資格審査を行うに当たっては、次の事項について審査し、その適否を決定し本部長に報告しなければならない。 特別決議(12条): 資格審査に関する事項の決定は、出席委員(利害関係等がある者として排斥された者を除く。)の3分の2以上に当たる多数による決議をもって行う。 |
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判断 | ● | 原審・控訴審: 本件請求が、Yらの定めた規則等の役員の資格審査基準の適否を直接の審理の対象とするものではない⇒司法審査の対象となる。 |
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● | 原審: Xらの請求をいずれも棄却。 ←県本部が定めた本件委員会規程等の解釈、運用は、原則として県本部の裁量に委ねられており、役員選任に関する本件委員会における資格審査については、その裁量の逸脱・濫用のない限り、これが役員候補者に対する不法行為を構成することはない。 |
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● | 控訴審: 原判決のような裁量権の逸脱・濫用の規範を採用せず、Xらの請求を一部認容。 |
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本件委員会規程12条: ・・・・県本部における役員選任手続の流れに照らすと、役員候補者が役員として不適任であることにつき審査権限を行使するものと解するのが相当。 |
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本件委員会のP2委員長は、上記解釈は異なり、本件委員会規程12条に関して、役員候補者が役員として適任であることにつき特別多数による決議を要することを定めたものと解釈・・・。 | ||||
県本部事務局は、資格審査委員の指示を受け、Yらの総本部を通じて、Yらの顧問弁護士に対し、・・・同顧問弁護士から、同条が、役員候補者として不適任であることにつき特別多数による決議を要するとの趣旨であり、書面による決議はできないとの回答。 | ||||
P2委員長は、・・・自らの解釈が誤っていることを認識したにもかかわらず、これを是正する措置を何ら講じなかった。 P2委員長は、・・・再度資格審査をやり直すべきであったにもかかわらず、これを怠ったものと認められ、Xらに対し不法行為責任を負う。 |
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Yらの地方本部の組織及び運営に関する規則によれば、Yらは、地方本部の組織である本件委員会に対しても指揮監督権限を有するものと認められ、P2委員長は、県本部の理事でもあり、総本部から直接指揮監督を受ける立場にあったものと認められる ⇒Yらは、P2委員長の行為につき、それぞれ独立して民法715条の使用者責任を負う。 |
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解説 | 公益社団法人の地方本部役員の選任に関する資格審査委員会の内部規程の解釈が問題となった事案。 but 内部規程における役員の資格審査基準の適否を直接の審理の対象とするものではない。 ⇒本件請求は司法審査の対象となる。 |
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原判決: 役員選任における資格審査に関する本件委員会規程の解釈について、その裁量の逸脱・濫用のない限り、これが役員候補者に対する不法行為を構成しない。 本判決: 裁量権の逸脱・濫用の規範を採用せず、本件委員会規程ほかの各条項や事実関係に照らして踏み込んだ解釈をした。 |
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公益社団法人の内部規程の解釈を行った裁判例。 | ||||
民事p77 大阪地裁R5.7.21 ● |
USJのチケット販売と消費者契約法違反(否定) | |||
事案 | 適格消費者団体である原告が、テーマパーク(USJ)を運営する被告に対し、WEBチケットストアを通じて行うチケット購入契約の利用規約中、 ①顧客の法令上の解除又は無効事由等がある場合を除き購入後のチケットをキャンセルできない旨の条項(「本件条項1」)については消費者契約法(「法」)9条1号(令和4年改正前のもの)及び10条に規定する条項に、 ②営利目的の有無にかかわらず、顧客の第三者へのチケットの転売を禁止する旨の条項(「本件条項2」)については法10条に規定する条項にそれぞれ該当 ⇒法12条3項に基づき本件各条項を内容とする意思表示の停止等を求めた事案。 |
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本件各条項: チケットの高額転売のために、WEBチケットストアを通じてチケットを大量に購入した上で不特定多数の者に正規の販売価格より高額で販売して利益を上げ、他方で、かかる手法で入手したチケットのうち転売できなかったものについてはキャンセルすることでチケットの大量購入のリスクを軽減させるなどの手法でのチケットの転売に対処するために設けられた。 なお、特定興業についてのチケットの不正転売について罰則を設けるいわゆるチケット不正転売禁止法の規制対象にテーマパークは入っていない。 |
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争点 | 本件条項1について ❶法10条前段該当性 ❷同条後段該当性 ❸法9条1号該当性 本件条項2について ❹法10条前段該当性 ❺同条後段該当性 |
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規定 | 法10条: その前段において、当該規定が「法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」に該当することが必要とされる。 この「法令中の公の秩序に関しない規定」はいわゆる任意規定のことを指す。 |
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同条後段では、当該規定が「民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に該当することを要する。 | ||||
判断・解説 | ● | 請求棄却 | ||
● | ●チケット購入契約の法的性質 | |||
原告:準委任契約にあたる 判断: 消費者である顧客が、特定の入場日等を指定した上で、チケット代金を支払って、これを購入し、 他方で、被告においては、チケット購入者に対して、そのチケットの内容に応じて、創られた非日常的空間であるテーマパークに入所させ、アトラクション等を稼働して利用させるなどするものとして、民法に規定のない無名契約(非典型契約)であるとし、売買契約に類似する側面を有するものといえる一方、多分に役務提供契約としての側面も有する。 |
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● | ●争点❶ | |||
①チケット購入契約が無名契約であり、被告の提供する役務の内容などからして、チケット購入契約が準委任契約とは相当異質な内容を含んでいる ②準委任契約に認められる任意解除権(民法656条、651条1項)が契約の一般的拘束力の例外としての機能を果たしているのは、準委任契約が党j氏は間の人的信頼関係に基づくものbutチケット購入契約にはこのような人的信頼関係に基づく契約の締結及び履行という側面が認められず、任意解除権を認めた趣旨があてはまるような契約類型ではない ⇒ 原告の任意解除権についての規定が適用ないし準用されるとの主張を斥け、法10条前段該当性を否定。 |
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● | ●争点❷ | |||
◎ | ①顧客にとって一定の不利益が及ぶ内容 but ②その趣旨及び目的は合理性があり、これを維持する必要がある。 ③本件条項1によって顧客においても利益となる側面もある。 ④WEBチケットストアにおいては複数回にわたって本件各条項の内容が表示されるなど顧客もその内容を十分に認識して契約している。 ⑤一部のチケットでは経済的負担なく90日間は日付変更が可能となっており、顧客の予定変更等にも対応している。 ⇒ 本件条項1は、信義則に反する程度に当事者間の衡平を害するものということはできず、法10条後段該当性も否定。 |
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◎ | 法10条の規定する消費者契約は、消費者と事業者との間にある情報・交渉力の格差を背景とするもの 契約締結過程における本件条項1についての顧客(消費者)の主観的認識についてもWEBチケットストアの体裁、仕様の点から検討を加えて消費者である顧客が当該条項について十分な利益を得られる状況にある。 顧客に生じる体調不良や天候不良による公共交通機関の運休などによる予定の変更等の不利益についても、利用規約上、一部のチケットを除き、日程変更が経済的負担なく柔軟に可能とされており、前記不利益への回避措置として機能している。 |
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~ 消費者に生じ得る不利益の内容及び程度を、法10条後段該当性を認める積極的な要素とし、他方で、当該条項の置かれた趣旨、目的の合理性・必要性、契約締結過程における消費者の主観的認識、消費者に及ぶ不利益のへの回避措置の有無及びその内容などの前記不利益を緩和ないし軽減する事情を同条後段該当性の消極的な要素として対置した上で、これらを総合考慮の結果、同条後段該当性を否定。 |
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◎ | 最高裁: 法10条後段該当性の判断にあたっては、 消費者契約法の趣旨、目的(同法1条参照)に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の較差その他諸般の事情を総合考慮して判断されるべき。 |
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差止訴訟における法10条後段該当性の判断において、契約当事者間の個別的事情を考慮すべきか? 仮に、差し止め請求においては類型的な判断をすべきであり、契約当事者間における個別事情を考慮することに消極的な見解をとっても、 本件での検討は、本件条項1に規定する内容以外の事情ではあるが、事業者である被告が、不特定多数の顧客に対して、同一の取扱いをするものであり、これは本件条項1が適用される場面において一般的な取扱いといえる ⇒これらを考慮要素するのも類型的な判断と必ずしも抵触せず許容される。 |
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● | ●争点❸ | |||
原告の本件条項1が法9条1項に規定する「解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」及び「平均的な損害の額を超える」損害賠償を定めたものに該当するとの主張は、本件条項1及び同号の文理解釈として無理がある。 | ||||
~ 法9条1号は、解除に伴う損害賠償の予定又は違約金を定める条項についてのものであり、これは、解除に伴う損害賠償額の予定等につき高額な金額が設定され、消費者が不当な出捐を強いられる場面を規制するもの。 but 本件条項1は、顧客による任意解除自体を制限するもの。 ⇒前記の想定される場面と大きく異なる。 |
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● | ●争点❹ | |||
原告:チケット転売は原則自由な債権譲渡であり、本件条項2はそれを制限するもので、任意規定の適用による場合と比して消費者の権利を制限するもの。 判断: チケットの購入者には、テーマパーク内における各種制約等を遵守することが求められており、チケットを譲り受けた者においても同様の制約を遵守することが求められる ⇒チケットの譲渡には、債権譲渡に還元できない要素があり、複合的な権利義務関係としての法的地位の移転を伴うものとして、契約上の地位の地点とみるべきであり、原則自由とされている債権譲渡を制限するものということはできない。 |
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● | ●争点❺ | |||
法10条後段該当性についても検討を進め、同様の考慮要素を総合検討の上、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものということはできない。 | ||||
刑事p92 最高裁R4.12.5 ● |
条例の「人を著しく羞恥させ、人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」に当たるとされた事例 | |||
事案 | 被告人の行為が、本件条例5条1項3号の「人を著しく羞恥させ、人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」(「本要件」)に該当するか否かが争点となり、第1審と原審の判断が分かれ、最高裁が、本要件該当性を肯定した原判決の判断を是認したもの。 | |||
原審における訴因の概要: 被告人が、東京都内の開店中の店舗において、女性客Aに対し、本体の大部分を黒色ビニールテープで覆う細工をして判別困難にした小型カメラを下方に下げた手に持ち、Aの背後の至近距離から、Aの下半身に向けた本件カメラでスカート着用のAの臀部等を約5秒間撮影しさらに、前かがみの姿勢をとったAに対し、そのスカートの裾と同程度の高さで、Aの下半身に向けて本件カメラを構えた |
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規定 | (粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止) 第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。 (1) 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。(「痴漢行為」) (2) 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。(「盗撮行為等」) イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所 ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。) (3) 前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。 |
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第1審 | 本要件該当性を否定 | |||
原審 | 法令適用の誤りを理由に第1審判決を破棄し、被告人を懲役8月に処した。 | |||
判断 | 職権判示を加えて本要件該当性を肯定した原判決を是認し、上告を棄却。 | |||
解説 | 最高裁判例: 「卑わいな言動」とは、社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言動又は動作をいうとし、細身のズボンを着用した女性の臀部を執ように撮影した行為について、本要件と同様の文言の要件に該当するとした。 |
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その後の高裁判例: 迷惑防止条例の保護法益(社会的法益)を念頭に、客観的、外形的事情を考慮して本要件を判断する傾向。 |
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学説上、例示列挙型の卑わいな言動の禁止規定について、受け皿構成要件に該当するためには、例示行為と同程度の卑わい性を具備している必要があると指摘する見解。 | ||||
本決定 | 被告人が、本件店舗において、 「小型カメラを手に持ち、膝上丈のスカートを着用したAの左後方の至近距離に近づき、前かがみになったAのスカートの裾と同程度の高さで、その下半身に向けて同カメラを構えるなどした」と摘示した上で、「このような被告人の行為派、Aの立場にある人を著しく羞恥させ、かつ、その人に不安を覚えさせるような行為であって、社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな動作といえる」 と判断し、本要件該当性を肯定した原判断を是認した。 ~ 本件構える行為に関わる客観的・外形的事情を重視し、被害者の立場に置かれた一般通常人を基準に判断したもの。 本件構える行為は、本件j法令5条1項2号の衣服内撮影を目的とした「差し向け」行為に至る手前の行為とみることもできるが、「差し向け」に至らない行為であるとしても、そのことによって同項3号に当たるとして処罰することが許されなくなるものではない。 ~ 同項2号と3号の規定ぶりや改正経緯が考慮されたものと推察される。 |
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刑事p94 大阪地裁R5.3.17 ● |
幼児揺さぶり事案で、先天性グリコシル化以上症が問題とされ、無罪とされた事例 | |||
事案 | 父である被告人が、実子である生後2か月の乳児Aに対し、Aの頭部に衝撃を加え、よって、急性硬膜下血腫及び両眼底出血の傷害を負わせたとされる事案。 | |||
争点 | ❶被告人がAに不法な有形力の行使としての暴行を加えたか?具体的には、本件傷害が激しい揺さぶりなどの外力が加えられたことが原因か? ❷Aに本件傷害の原因となりうるような血液凝固機能の異常があったか? |
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争点判断のため、医師8名(検察官請求5名、弁護人請求3名)の証人尋問がされた。 | ||||
判断 | ● | 被告人がAに対して不法な有形力の行使としての暴行を加えたと認めるには合理的な疑いが残る⇒無罪 | ||
● | ●争点❶ | |||
①Aに生じた急性硬膜下血種のみからAに加わった外力が強度であると推認することはできない。 ②外力によって直接生じた1次性の脳実質損傷は生じておらず、重篤な暴行があったとは考え難い ③脳浮腫も強度の外圧が加わったことの根拠とすることができない ④眼底出血のみによって外力がどの程度強度であったかを推認することはできない ⑤首がすわっていないAの頭部の動きや揺れの程度及びAに対する外力の程度は、人形を使って再現した動画によって正確に推測することは困難 ⇒ 本件傷害は激しい揺さぶりなどの外力が加えられたことが原因であるとする検察官の主張は、その根拠が大きく揺らいでおり、その根拠に基づく推認力も、検察官が主張するほど高くない。 |
||||
● | ●争点❷ | |||
①本件当日、感染症にり患し、心筋炎を発症していた可能性が否定できない ②糖鎖異常、発達遅滞、てんかん、逸脱酵素の異常、血液凝固因子の異常等が認められる⇒先天性グリコシル化異常症の診断基準を満たしており、本件当日頃、高ストレス状態(感染症と心筋炎)にあり、基礎疾患としての先天性グリコシル化異常症の影響によって、軽微な外力でも頭蓋内出血を起こしやすい状態にあったなどと証言する弁護側請求の医師(小児の遺伝疾患等が専門)の見解を信頼できないものとして否定することはできない。 ⇒ 被告人がAを激しく揺さぶるなどの暴行を加えていなくても本件傷害結果が生じた可能性は否定できない。 |
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● | ●医学的視点以外の事情 | |||
被告人は、普段から粗暴であったことはうかがわれず、本件当日も、激しい揺さぶり行為に及ぶような苛立ちや怒りを抱く心理状態にあったとは直ちに考え難い ⇒被告人には社会生活上許容されない激しい揺さぶり等に及ぶ動機等は存在せず、検察官が主張するような不法の有形力の行使に及んだとすることには、多大な疑問がある。 |
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解説 | ● | 関連裁判例 | ||
● | 乳幼児頭部外傷AHT(Abusive Head Trauma in Infants and Children)事案では、 検察官は、ア:硬膜下血腫、イ:網膜出血、ウ:脳実質異常所見の3徴候の傷害結果から遡って、故意の暴行行為の存在(事件性)等を推認するという立証方法。 |
|||
本件では、3徴候の中のウに関す、1次性の脳実質損傷は生じていないと認定。 平成30年中に起訴がされ、その後の長期間にわたる公判前整理手続を経て、弁護側証人の専門家(医師)により先天性グリコシル化異常症という新しい医学的知見が問題にされたことにも特徴。 |
||||
間接事実からの推認による事実認定では、弁護人が主張する反対仮説の成立可能性が問題になることが多いが、先天性グリコシル化異常症はかなり稀な疾患。 弁護側証人が相応の裏付けや根拠のある証言をしており、それが排斥されるに至らなかったことから、立証責任に従って判断された。 |
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刑事p104 東京高裁R5.1.19 ● |
殺人予備などで、第3種少年院送致事案 | |||
事案 | 非行時及び原決定時ともに18歳の特定少年である少年が、 ①交際相手の男性を殺害して自殺する目的で、事前に購入していた包丁の刃先を寝ていた個人に突き付けるなどし、もって殺人の予備をし、 ②業務その他正当な理由による場合でないのに、前記包丁1本を携帯したという事案 |
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原審 | 少年の経歴、資質上の問題、病状、保護環境の不十分さを指摘し、 本件の犯情の重さ⇒少年院送致を選択することも許容される。 |
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少年の謝罪や反省の言葉、これまでに家庭裁判所係属歴がない but 現状のままでは、自殺を企図することに伴い互い行為に至る可能性が高く、その要保護性は高い。 ⇒ 少年の問題を改善させるためには、少年院に収容し、強い枠組みの中での医療措置と矯正教育を通じて、まずは精神疾患に対する治療教育を行いながら治療を継続するとともに、本件の問題を振り返らせて自己の認知や考えの偏りを自覚させながら、適切な対人関係の築き方を学ばせることが必要。 |
||||
収容期間について、 殺人予備、銃刀法違反の中でも特に重いものといえる本件の犯情を考慮し、 少年院収容の不利益性は刑事施設収容の不利益性と比較しても一般的、類型的に小さい ⇒本件の各罪の処断刑に照らしても3年間。 精神科的な精査、適切な医療措置に加え、実質的な偏りの大きい少年に前記のような矯正教育を実施すること考慮 ⇒少年の問題の改善のためには1年6か月程度の比較的長期間にわたる矯正教育が必要不可欠であり、その旨の処遇勧告を付す。 |
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判断 | 原審は正当⇒抗告棄却 | |||
解説 | ● | 令和3年改正で、18歳及び19歳の少年は「特定少年」とされ、 これに対する保護処分については、 犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において、 6月の保護観察、2年の保護観察、少年院送致のいずれかの処分を選択。(少年法64条1項) |
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「犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において」 ~ 当該犯罪の性質、犯行の態様、犯行による被害等を踏まえ、犯した罪の責任に照らして許容される限度を上回らない範囲内で、対象者の要保護性に応じ処分を選択。 犯情が保護処分の上限を画する but 刑罰は保護処分よりも一般的、類型的に不利益な処分 ⇒執行猶予付きの懲役刑又は禁錮刑を科すことが通常想定されるような事案であっても、直ちに少年院送致処分を選択できないということにはならない。 |
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● | 少年院送致処分を選択 ⇒その決定と同時に、3年以下の範囲内において犯情の軽重を考慮して少年院に収容する期間を定める。(64条3項) |
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「少年院に収容する期間」 対象者を少年院に収容できる期間の上限を意味し、その範囲内で少年院における処遇及び仮退院した場合の社会内処遇が行われることになる。 この期間を定めるに当たり「犯情の軽重を考慮」 ⇒家裁は、犯情の軽重を中心に考慮し、対象者の要保護性の程度や今後の変化の見込み等の処遇の必要性に関わる事情は基本的に考慮しない。 ~ 犯情に照らして許容される限度を上回らない範囲内で、できるだけ長く少年院に収容する期間を設定することとし、少年院において適切かつ柔軟な処遇を行うことができるようにしたもの。 |
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家裁は、「少年に収容する期間」の範囲内で、要保護性の程度を踏まえて、矯正教育の期間に関する処遇勧告の要否についても検討すべき。 | ||||
● | 殺人予備罪:法定刑は2年以下の懲役で、情状によりその刑を免除することができる 銃刀法違反:法定刑は2年以下の懲役または30万円以下の罰金 ⇒ 刑事裁判であれば、懲役刑が選択されたとしてもその上限は3年 犯行の経緯や犯罪歴がない⇒執行猶予の可能性もある。 |
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刑事p106 大阪家裁R4.9.5 ● |
特定少年による建造物等放火(=原則検察官送致)の事案で、(刑事処分でなく)第1種少年院送致とされた事案 | |||
事案 | 特定少年である少年がマンションのゴミ集積所に置かれたごみ袋等に火をつけて公共の危険を生じさせた建造物等以外放火(刑法110条1項)の事案。 その法定刑(1年以上10年以下の懲役)から、少年法62条2項2号の原則検察官送致対象事件に該当。 |
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判断 | 少年を第1種少年院に送致。 収容期間は2年が相当。 |
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解説 | ● | ●特定少年に係る原則検察官送致の規定 | ||
特定少年に係る原則検察官送致の規定(法62条2項)⇒対象事件の範囲拡大(同項2号)。 | ||||
実務では、同項各号該当の事件についても、従前の方20条2項該当の事件についてと同様に、その罪質及び情状の類型的な重さから保護不適が推定され、 「ただし書」を適用して保護処分を選択するにはこの推定を破る「特段の事情」が必要になると解されている。 新たに対象事件とされた罪については、様々な罪質・社会的類型の事案が含まれている⇒刑事処分以外(保護処分)を相当とする例が一定程度存在⇒家裁としては、きめ細かな調査、適正な事実認定、犯情の軽重及び要保護性の十分な考慮に務め、事案に応じた適切な判断を心掛けなければならない。 |
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● | ●犯情の軽重の考慮による保護処分の規制 | |||
特定少年の保護処分の選択:「犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内」でなすこととされた(法64条1項)。 犯情: ①処罰の根拠となる処罰対象そのものの要素と ②当該行為の意思決定への非難の程度に影響する要素 とからなる。 |
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保護処分については、少年の要保護性(非行の反復につながる少年の資質上・環境上の問題性)の程度が高ければ、犯した罪の責任に照らして許容される限度を超える処分を科すことも可能とされている。 but 自律的な法的主体となった特定少年に対する保護処分については、量刑と同様に、犯した罪の責任(行為責任)に照らして許容される限度を超えてはならないという、責任主義の観点からの制約を受けることを明らかにしたもの。 |
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● | ●少年院送致における収容期間の定め方 | |||
● | ●保護処分選択の判断の段階性と決定書の記載の在り方 | |||
特定少年の保護処分の選択: ①犯情の軽重による制限の中で許される最も重い保護処分は何かという検討 ②その範囲内で少年の要保護性に応じた具体的な処遇を定める という2段階の判断過程。 |
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2575 | ||||
民事p5 最高裁R5.3.2 ● |
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事案 | Xが、Xを債務者とする動産執行事件において物資搬送装置一式を買い受けたYに対し、本件動産の売却は無効であるなどと主張して、所有権に基づき、本件動産の引渡し等を求めた。 | |||
事実関係 | Y:Xに対し、Xが占有するY所有の土地の明渡し及び賃料相当損害金の支払等を求める訴えを提起⇒Xに対して同土地の明渡し及び平成28年4月1日から同土地の明渡し済みまで月額52万円余の損害金(「本件損害金」)の支払等を命ずる確定判決を得た上で、同判決を債務名義とし、本件損害金の平成29年5月26日時点の未払額訳200万円の未払請求権等を請求債権として、Xを債務者とする動産執行の申立て。 | |||
執行官は、Xが所有する本件動産を差押え、競り売り期日を定めた。 | ||||
Y:既発生の本件損害期の支払請求権全部が請求債権であるとの誤った前提に立って、執行官に対し、当該請求債権の額が変更になることを知らせるため、本件損害金のうち平成30年1月分までの全部及び同年2月分の一部についてXから入金があり、本件動産の競り売り期日の前日時点の未払額が93万円余となる旨が記載された「債権額変更上申書」と題する書面を提出。 | ||||
執行官:本件上申書の提出から8日後に本件動産の競り売り期日を開き、本件動産をYに売却。 | ||||
原審 | ❶本件上申書は民執法39条1項8号にいう債権者が債務名義の成立後に弁済を受けた旨を記載した文書に該当⇒執行官は、本件上申書の提出があった時から4週間、動産執行の手続を停止しなければならなかったにもかかわらず、この間に本件売却をしたものであり、本件売却には瑕疵がある。 | |||
❷本件の事実関係の下においては、本件売却の前記瑕疵は、重大かつ明白なものと言わざるを得ない⇒本件売却は、法律上当然に無効⇒Xの動産引渡請求を一部認容。 | ||||
判断 | 執行処分が弁済受領文書の提出による強制執行の停止の期間中になされたものであったとしても、そのことにより当該執行処分が当然に無効となるものではない⇒❷の判断には法令の違反がある⇒原審中Y敗訴部分を破棄し、請求棄却の第1審判決に対するXの控訴を棄却。 | |||
本件の事実関係によれば、Yが本件上申書を提出したことをもって弁済受領文書の提出があったとみることはできない⇒❶の判断にも法令の違反がある。 | ||||
解説 | ● | 民執法: 執行処分に対する不服申立ての制度として、執行抗告と執行異議の各手続を設け、 執行処分の適法性に関する争いは、前記各手続により解決。 執行処分に瑕疵があっても、原則として、前記各手続において取り消されるまでは有効であり、執行処分が当然に無効となるのは例外的な場合にとどまる。(通説) ← 執行処分に不服のある者が、前記各手続とは別にいつでも執行手続外で執行処分の効力を争い得るというのでは、執行の実効性や執行手続の安定性が著しく損なわれる。 |
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例外的に執行処分が当然に無効となる場合: A:執行の本質的要件や当事者が放棄できない公益的要件を欠く場合 B:瑕疵が重大かつ明白である場合 |
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● | 各論として、執行処分が当然に無効となる場合: ア:執行力のある債務名義の正本を欠く強制執行 イ:担保権の実行としての動産競売における担保権の不存在・消滅 ウ:職分管轄違反 エ:騙取された債務名義による強制執行 オ:動産の二重差押えでの、後行の差押 カ:封印その他の表示を欠いたとき~差押えが不成立 |
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強制競売であるか担保権の実行としての競売であるかを問わず、不動産競売の手続に瑕疵があったとしても、これによって執行処分が当然に無効となるものではなく、売却許可決定が確定し、買受人が代金を完納した以上、前記瑕疵の存在をもって買受人の所有権取得の効果を争うことはできない(判例・通説)。 | ||||
差押禁止動産の差押えについても、当然無効とはならないと解するのが通説。 | ||||
● | 弁済受領文書の提出による強制執行の停止の規定に違反してされた執行処分の効力が問題となるところ、同規定は、主として債務者の便宜を図る趣旨で設けられたもの。 ~ 債務者が執行手続外で請求債権を弁済しても、これによって当然に債務名義の執行力が排除されるわけではなく、債務者が執行手続を止めるためには、請求異議の訴えを提起するとおもに、執行停止の裁判(民執法36条1項)を得る必要。 but その手続にも多少の時間を要する⇒民執法は、弁済受領文書の提出という簡便な方法により4週間に限って強制執行の一時の停止を認めることとして、債務者の便宜を図った。 |
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学説上も、執行停止文書(民執法39条1項7号又は8号所定の文書)の提出による強制執行の停止中にされた執行処分であっても、執行抗告等により取り消され得るにとどまると解するのが通説。 | ||||
競落許可決定の確定後に競売手続の停止を命ずる裁判書が提出され、その後の競売手続を停止すべきであったにもかかわらず、競売裁判所が競売手続を続行し、競落代金指定期日の指定、その納付の手続を経て、所有権移転登記が完了⇒もはや競売手続の違法主張して競落人による所有権の取得を主張して競落人による所有権の取得を否定することはできない(判例)。 | ||||
⇒ 執行処分が弁済受領文書の提出による強制執行の停止の期間中にされたものであったとしても、その執行処分が当然に無効となるものではないと解するのが相当。 |
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● | 民執法39条による強制執行の停止については、債権者、債務者又は第三者の「申立て」により行われる旨の記述が複数の文献にみられる ~ 執行停止を求める意思(「申立て」の意思)を欠く場合に執行停止の効力を認めない考え方に親和的。 |
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弁済受領文書を提出した後に「その文書の提出の撤回(執行停止の申立ての取下げ)」をすることも認められるとの見解 ⇒文書の提出時点で提出者に執行停止を求める意思がない場合には、最初から執行停止の効力が生じないことになる。 |
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弁済受領文書の提出による執行停止の期間は、債務者が請求異議の訴えを提起して執行停止の裁判を得るまでの、いわばつなぎの期間として認められたもの。 債権者であるYが、執行官に請求債権の残額を通知する目的で、Xには知らせることなく、執行官に本件上申書を提出したという本件の経緯 ⇒ 仮に強制執行を停止したとしても、その停止の期間中にXが請求異議の訴えを提起することは想定されず、単に執行手続を遅延させるだけの結果となることが明らか。 |
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民事p11 大阪高裁R4.5.27 ● |
放送法遵守義務確認等請求事件の控訴審 | |||
事案 | Yとの間で公共放送の受信契約を締結しているXらは、Yに対し ア:主位的に ❶YがXらに対し、ニュース報道番組において、「政治的に公平であること」等の準則を定める放送法4条を遵守して放送する義務があることの確認を求めるとともに、 ❷Yが前記に違反する放送をしたことによりXらが精神的苦痛を受けた⇒受信契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求として、Xらそれぞれにつき各5万5000円の支払を求め、 ➌YがXらに対し、ニュース報道番組基準を遵守して放送する義務があることの確認を求めるとともに、 ❹Yが前記義務に違反する放送をしたことによりXらが精神的苦痛を受けた⇒受信契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求として、Xらそれぞれにつき各5万5000円の支払を求めた。 |
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判断・解説 | ● | ●裁判所法3条1項の「法律上の争訟」かどうか | ||
裁判所の審判権の限界を画する「法律上の争訟」: 法令を適用することによって解決しうべき具体的な権利義務に関する当事者間の紛争 |
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~ 宗教団体の紛争についてどこまで裁判所の審査が及ぶかが争われた事例が多いが、そのほかにも憲法上の論点でもある統治行為論や部分社会の法理を含む幅広い問題として論じられてきた。 地方議会が議員に対してした出席停止の懲罰が司法審査の対象となるとした最高裁判例等。 |
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判断: 前記遵守義務確認の訴え自体は、放送法の解釈により放送事業者であるYが受信契約者との関係でいかなる義務を負うかの判断が可能⇒法律上の争訟であるとの判断。 給付訴訟である債務不履行に基づく損害賠償請求の訴えについても同様。 |
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● | ●確認の利益 | |||
確認訴訟では確認の対象が性質上無限定 ⇒判例・学説上、民事訴訟の原告の権利又は法的地位に危険・不安が現存し、かつ、その危険・不安を除去する方法として、確認請求について判決することが有効適切(方法選択が適当)である場合に訴えの利益(確認の利益)が認められる。 |
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①放送法4条1項又は国内番組基準に定める放送内容に関する義務は、放送に対して一般的抽象的に負担する義務ないし基準にすぎず、放送法の解釈上、個々の受信契約者がYに対して放送法4条1項や国内番組基準を遵守して放送することを求める受信契約上の具体的な権利ないし利益を付与されているとはいえない ②Yにそのような遵守義務があることを確認したところ受信契約者がそれを直接強制する法的な手段を欠いている ⇒ 前記遵守義務確認の訴えは、紛争解決に有効適切な手段ではなく、確認の利益を欠く。 |
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放送法4条・5条は、第一義的には放送事業者の自律・自主規制によることが前提とされている。 | ||||
Xらは確認の訴えを、行訴法4条の「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」(実質的当事者訴訟)としても構成していたが、この点についても、民事訴訟と同様に確認の利益を欠くものと判断。 | ||||
● | 放送法4条1項又は国内番組基準に定める放送内容に関する義務は、放送に対して一般的抽象的に負担する義務ないし基準にすぎない ⇒Yが主張するような債務不履行の前提となる債務を負っていない。 |
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知財p39 知財高裁R4.10.19 ● |
発信者情報開示請求で、権利侵害の明白性が否定された事例 | |||
事案 | 氏名不詳者により、ツイッター(当時)上において、X作成のイラスト画像を含む4件の投稿⇒Xの著作権、著作者人格権、名誉権及び営業権が侵害されたことが明らか⇒Xが、ツイッターを運営するYに対し、令和3年改正前の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づき、発信者情報開示請求。 | |||
原審 | 名誉権、著作権及び著作者人格権(同一性保持権)についての権利侵害の明白性を認め、Xの請求を一部認容。 | |||
判断 | ● | 権利侵害の明白性が認められない⇒原判決を変更し、Xの請求を棄却。 | ||
● | ●権利侵害の明白性 | |||
プロバイダ責任制限法4条1項1号の権利侵害の明白性があるといえるためには、侵害情報の流通によって請求者の権利が侵害されたことに加え、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の存在しないことまで主張立証されなければならない。 | ||||
● | ●名誉毀損 | |||
X:氏名不詳者が投稿した本件各ツイートによって、Xのイラストがトレースによって他者の著作権を侵害して作成されたものであり、Xが違法なトレースを行う人物であるとの印象を抱かせた⇒名誉毀損による権利侵害の明白性を主張。 | ||||
判断: Xのイラストが第三者のイラストのトレースであるとの事実は、プロのイラストレーターであるXからイラストを購入しようとする需要者にとって重要な情報⇒公共性、公益性があり、かつ、証拠によると同事実は真実である蓋然性が高い ⇒ 違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことの立証が足りない⇒権利侵害の明白性は認められない。 |
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● | ●著作権侵害 | |||
X:氏名不詳者は、本件各ツイートの投稿によって、Xの許諾を得ることなくXのイラストをツイッターのサーバーに複製し、送信可能化したとして、複製権(著作権法2条1項15号)、自動公衆送信権(同項9号の4)の侵害を主張。 | ||||
判断: 本件ツイート1-1: 検証及び批評のために、X作成のイラストを、トレース元とされるイラスト又は写真と重ね合わせて利用することは、2枚のイラストの類似性を検討するにあたり、便宜でかつ客観性を確保できる態様⇒適法な「引用」(著作権法32条1項)に当たる。 本件ツイート2-1: ・・・Xの画力をみるには、Xの作成した複数のイラストを比較観察することが相当⇒ツイートにXのイラストを2枚利用したことは、適法な「引用」に当たる ⇒ 権利侵害の明白性は認められない。 |
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● | ●著作者人格権侵害 | |||
X:本件各ツイートの投稿により、X作成のイラストがトリミングされてツイッターのタイムライン上に表示⇒Xは著作者人格権(同一性保持権(著作権法20条1項))の侵害を主張。 | ||||
判断: ①ツイッターのタイムライン上の表示は、ツイッター又はクライアントアプリの仕様により決定されるものであって、投稿者が自由に設定できるものではなく、投稿者自身も投稿時点では、どのような表示がされるか認識し得ない ②ツイートに添付された画像データ自体は東亜儀ツイートを閲覧したユーザーの端末にダウンロードされており、タイムライン上の画像をクリックすると、画像の全体が表示されること等 ⇒ タイムライン上の表示が画像の一部のみとなることは、著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に当たる ⇒ 権利侵害の明白性は認められない。 |
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規定 | 著作権法 第三二条(引用) 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。 |
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著作権法 第二〇条(同一性保持権) 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。 2前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。 一 第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十三条の三第一項又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの 二 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変 三 特定の電子計算機においては実行し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において実行し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に実行し得るようにするために必要な改変 四 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変 |
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解説 | ● | ●引用 | ||
最高裁昭和55.3.28(パロディ=モンタージュ写真事件)が示した2要件 ①明瞭区別性 ②主従関係 vs. 条文上の文言との関係が明らかでない⇒2要件により判断することの妥当性については疑問も呈されている。 ⇒ 近時、2要件によらずに条文(32条1項)に立ち戻り、事情を総合考慮して、 「公正な慣行に合致」し、「引用の目的条正当な範囲内」であるかを判断する裁判例が主流。 |
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● | ●トリミング表示 | |||
①トリミング画像はいわゆるサムネイルであって、簡単に元の画像を表示させることができる、 ②サムネイルが元の画像と異なることはユーザーにとって常識 ⇒ 改変に当たらないという見解 そうでないとしても、「やむを得ない改変」該当性で考慮すべきとの指摘 |
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労働p78 大阪高裁R4.4.15 ● |
地方公共団体の職員が公務上の疾病による休職⇒「給与の全額」の支払いを受けた場合の遅延損害金(肯定) | |||
事案 | 地方公共団体であるY(京都府)の職員であるXが、うつ病により休職。 その後、Yにおける休職者の給与に関する条例2条1項に基づき、「公務上の疾病」による休職であったとして休職期間中等の「給与の全額」の支払を受けたが、遅延損害金が付されていなかった ⇒Yに対し、本来の給与支給日の翌日から支払済みまで民法(改正前)所定の年5分の割合による遅延損害金(145万7101円)の支払を求めた。 |
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規定 | 本件条例2条1項: 「職員が公務上負傷し、若しくは疾病にかかり、・・・地方公務員法・・・第28条第2項第1号に掲げる事由に該当して休職にされたときは、その休職の期間中、これに給与の全額を支給する」との規定。 これは、国家公務員に関する一般職の職員の給与に関する法律23条1項の定めと同一文言。 |
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事実関係 | Yの職員であるXは、うつ病を発症し、年次休暇及び約6か月の病気休暇を取得した後、心身の故障のため地公法28条2項1号に該当するとして分限処分としての休職発令⇒平成26年11月から平成29年3月まで休職。 休職期間中、Xは1年間のみ100分の80の給与の支給を受けた。 |
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Xは、平成29年4月に復職。 | ||||
Xは、平成28年5月に、地方公務員災害補償法45条1項に基づき、地方公務員災害補償基金に対し、前記うつ病が公務により生じたものであるかどうかについて認定請求⇒平成30年11月に、公務上の災害認定。 ⇒ 平成31年1月、本件条例2条1項に基づき、休職期間中及び復職後の「給与の全額」(本来支給額)との差額を支給。 |
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X:本件支給が本来の給与支給日を徒過して支払われた以上、Yは民法412条1項により履行遅滞の責任を負う⇒本件訴訟を提起。 | ||||
1審 | 本件条例2条1項に基づく休職者給付は、名目上「給与」として支払われるが、同規定は、ノーワーク・ノーペイの原則からすると休職者に賃金が発生しないことから、休職者に対する生活上の配慮として本来の賃金と同じ「金額」を支給するという特別の保護を与えた規定。 ⇒ 本来の賃金と全く同一の性質のものであるとはいえないため、履行期が当然に賃金の本来支給日とはいえず、本件支給が履行期を徒過したとはいえない⇒棄却。 |
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判断 | ①地方公務員の給与は、条例で定めることとされ(地公法24条5項)、Yにおいては、休職者の給与につき本件条例2条1項のとおり規定⇒ここにいう「給与」は、文理上、地公法上における「給与」と同義の給料及び各種手当、すなわち賃金を指すといえる。 ②本件条例2条1項は、職員の勤務条件について国の職員との間に権衡を失しないように配慮された結果(地公法24条4項参照)、国家公務員に関する給与法23条1項と同様の定めがされたものと解されるところ、給与法上、「休職給」というような特別の給与種目はなく、休職者に支給される給与は、一般の職員(国家公務員)に支給さえっる俸給その他の給与(給与法5条1項)と同じものであり、その支給日、支給方法等については、それぞれの給与種目について定められている規定がそのまま適用されると解されている ⇒ 本件条例2条1項に定められた休職者給与は、本来の「給与」すなわち賃金であり、その支払期限は給与の本来支給日と解するのが相当。 ⇒ Yの本件支給は支払期限を徒過し履行遅滞に陥っていたとして原判決を変更。 |
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解説 | Yの主張⇒期限の定めのない債務 vs. 休職者から履行請求がない限り支給期限が到来しないという解釈は、「給与」という文言や支払の実態にそぐわず、給与法23条1項に関する理解ともかい離。 |
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Yの主張の拠り所はノーワーク・ノーペイの原則 vs. 同原則にも例外があり、労働者が稼働していなくとも、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」による履行不能の場合は、労働者は賃金債権を失わない。 一般に、労働者の就労不能の原因となった傷病が「業務上」のものというだけでは「債権者の責めに帰すべき事由」による履行不能とはいえないものの、業務上の傷病が使用者の安全配慮義務違反により生じたと認められる場合には「債権者の責めに帰すべき事由」によるものと解されている ⇒ 立法判断として、本件条例2条1項が、職員が公務上の疾病により休職にされたときには賃金の全額を支払うとすることは不合理とはいえない。 |
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Y:実務上の不都合として、地方公務員災害補償法が整備されたことにより、公務災害認定は基金が行うこととされ(同法45条1項)、地方自治体は公務災害性の認定を行うための独自の調査・判断能力を有していない。 vs. 本件条例2条1項の文理上、地方公務員災害補償法に基づき基金による公務災害認定を受けることは要件とはされておらず、休職者給付の支給の可否をこれに係らしめる必然性はない。 |
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国家公務員については、毎月の一定期日払いを定めた労基法24条2項の適用ない点で、地方公務員とは異なる(地公法58条3項参照)点に留意。 | ||||
労働p87 横浜地裁R4.12.22 ● |
停職処分・諭旨退職処分が無効とされた事案 | |||
事案 | Xら:学校法人であるYが設置運営する高等学校及び中学校に教員として勤務していた者であるが、労働組合に所属し、令和2年5月23日、Yに対して、本件学校の教員が数年にわたり毎年解雇及び雇止めされていることがYの職場環境配慮義務に違反⇒不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起(「別件訴訟」)。 新聞記者からの取材に応じ、各取材コメントに基づいた記事が新聞に掲載。 同年7月から11月にかけ、労働組合の活動として、ストライキをすた上で、駅前等で各種のビラを配布。 |
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Y:Xらに対し、 ❶令和3年1月18日及び14日付けで、別件訴訟の提起及び本件各ビラ等の配布を理由とする各停職処分 ❷同年3月24日付けで、別件訴訟の提起及び本件各ビラ等の配布を理由とする各諭旨退職処分⇒Xらが従わず⇒同月31日付けで懲戒解雇。 ⇒ Xらが、本件各停職処分及び本件各諭旨退職処分がいずれも無効⇒これらの処分の無効確認及び未払賃金の支払を求めた。 |
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主張 | ❶について: Y:本件各取材コメントに基づいて作成された本件新聞記事の文脈⇒本件各取材コメントは、Yが行政から受給している補助金を不適切な使途に執行している等と述べたもので懲戒事由に当たる。 vs. X: ①補助金を不適切に執行している等との趣旨で本件各取材コメントをしていない ②本件各取材コメントはXらが労働組合員の立場でしたもの ⇒これを懲戒事由とすることはできない。 |
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❷について: Y: ①本件各ビラにおけるYに関する記事は、懲戒事由に該当 ②XらによるYを相手とする別件訴訟の提起は不当訴訟であり、懲戒事由に該当 vs. X: ①別件訴訟の提起は不当訴訟ではない上労働組合の行為として行ったもの⇒懲戒事由とすることはできない ②本件各ビラの配布は正当な組合活動に含まれる⇒懲戒事由とすることはできない |
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判断 | ● | ❶について | ||
補助金の使途に言及したものと認めることはできず、主として本件学校の教員が大量に退職している問題について言及。 | ||||
本件各取材コメントは、その経緯及び内容に照らして組合活動として行われたものであり、その目的、手段・態様、内容に照らし正当な組合活動に該当⇒懲戒事由に該当しない。 | ||||
● | ❷について | |||
別件訴訟は不法行為に該当しない⇒懲戒事由に該当しない。 | ||||
ビラの配布について: ある表現行為が正当な組合活動として懲戒処分の対象として含まれるか否かについて、 ①当該表現行為が、労働条件、労働環境等の改善及び使用者の経営方針、活動内容等の改善を求める目的でされており、 ②当該表現行為を行った手段、態様などが必要かつ相当なものであり、 ③当該表現が、虚偽の事実を記載したものであったり、殊更に事実を誇張又は歪曲したりしたものではないなどのときには、 正当な組合活動として、懲戒処分の理由にするこてゃ許されない。 |
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本件各ビラの配布は、 その目的:労働条件、労働環境等及びYの経営方針、活動内容等に係る問題点を指摘し、改善を求めるもの 配布態様:ストライキを実施した上で駅前等での配布をしており組合活動の情宣活動として通常想定される範囲内 本件ビラの記載内容:その基礎となる事実を認定し、いずれも殊更に事実を誇張又は歪曲したものであると認めることはできない ~ 正当な組合活動の範囲を逸脱するものではない⇒懲戒事由に該当しない。 |
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● | 未払賃金請求について、判決確定の日以降に支払日が到来する未払賃金請求に係る訴えについては、民訴法135条に反し不適法。 | |||
民訴法 第一三五条(将来の給付の訴え) 将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる。 |
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解説 | 表現行為が組合活動として行われたときに、それが正当な組合活動の範囲内に含まれる場合には、それを懲戒事由とすることができない。 最高裁判例。 |
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組合活動の表現行為の性質に触れて正当な組合活動の範囲について言及した裁判例。 懲戒処分の無効を争い、組合名義で配布したビラの記載内容が争点となった裁判例。 |
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刑事p109 大阪高裁R4.11.17 ● |
特殊詐欺の電子計算機使用詐欺罪の事案 | |||
事案 | 被告人が共犯者と共謀の上、 ①多数の被害者に医療費過払金の還付手続であると誤信させ、ATM(現金自動預払機)の操作により被告人らの特殊詐欺グループが管理する他人名義の預貯金口座へ振込送金させ、虚偽の情報を電子計算機に与えて不実の電磁的記録を作り、財産上不法の利益を得た ②出し子役が前記①にて不正送金を受けた同口座から現金を引き出し窃取した ③出し子役が同口座から同グループが管理する別の他人名義の預貯金口座への振込送金により、虚偽の情報を電子計算機に与えて不実の電磁的記録を作り、財産上不法の利益を得た、 ④前記①~③より前に、同グループから受領した他人名義の預貯金口座から現金を引き出し窃取したという特殊詐欺の事案。 |
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主張 | 被告人: ②④に関与したことは認めるが、 ①③の電子計算機使用詐欺について、その旨の認識や共犯者との共謀はない |
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原審 | 被告人は、特殊詐欺グループ関係者から複数の他人名義のキャッシュカードを受領後、出し子役に同カードを交付して預貯金口座から現金を回収させ、報酬を渡す等、出し子役と同グループをつなぐ重要な役割 ⇒同カードを出し子役に交付した時点で①及び③の事前共謀が成立したと認めるのが相当であり、出し子役が出金を行う同口座内の金員が詐欺等の犯罪に基づいて送金された旨の認識があれば電子計算機使用詐欺の故意に欠けるところはない。 ⇒ 電子計算機使用詐欺の共謀共同正犯に当たる。 |
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主張 | 弁護人: ❶詐欺罪の成立を前提として、 ア:原審裁判所が訴因変更等を促すなどしなかった点に訴訟行為の法令違反があり、 イ:電子計算機使用詐欺罪の成立を認めた原判決には法令適用の誤りがある ❷仮に①③が電子計算機使用詐欺に該当する場合、振込詐欺の故意はあったが、電子計算機使用詐欺の故意及び共謀はない ❸ ②及び③は①の不可罰的事後行為に当たる、あるいは①及び②は牽連犯である。 |
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判断 | ❶について: 被告人らの特殊詐欺グループが用いた欺罔は、各被害者を意のままに操り、それとは気付かずに振込送金させるためのもので、各被害者を錯誤に陥らせて財産処分を行わせるためのものではなく、詐欺の実行行為に当たる欺罔行為は存在しない⇒詐欺を論じる余地はない。 |
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❷について: 被告人は、電子計算機使用詐欺に該当する基本的な事実関係を認識した上で、特殊詐欺グループと出し子役をつなぐ役割を果たしたことが明らか ⇒電子計算機使用詐欺についての故意や共謀を認めることができる。 |
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❸について: ①~③は、いずれも別個独立したものであり、②及び③は、①とは別の新たな法益侵害を生じている⇒①の不可罰的事後行為とはいえない。 電子計算機使用詐欺と窃盗が、罪質上、通例一般的に手段結果の関係にある(すなわち、窃盗が電子計算機使用詐欺の当然の結果にある)ともいえない ⇒①及び②が牽連犯の関係に立つともいえない。 |
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解説 | ● | ●特殊詐欺の類型及び本件で詐欺罪が成立しない理由 | ||
広義の特殊詐欺: 現金・キャッシュカード等の詐欺(オレオレ詐欺や預貯金詐欺など)、すりかえによるキャッシュカードの窃盗等の複数の類型が含まれる。 |
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本件: 医療費等の還付手続であると誤信させ、電話で指示するなどし、ATMにおいて「振込送金操作をしていると気付かせないまま」同操作を行わせ、口座間送金により財産上不法の利益を得る手口 ~ 被害者を錯誤に陥らせて財産的処分行為をさせるための欺罔行為がない⇒詐欺罪は成立しない。 |
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電子計算機使用詐欺:「前条に規定するもののほか」(刑法246条の2)と規定 ⇒詐欺罪の補充規定。 本件: 詐欺罪が成立せず、被害者に振込送金操作をしていると気付かせないまま、同操作を行わせ、虚偽の情報を与えて不実の電磁的記録を作り、財産上不法の利益を得るもの⇒電子計算機使用罪が成立。 |
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● | ●詐欺罪・電子計算機使用詐欺罪の選別と検察官の訴因設定権限との関係 | |||
補充規定の場合に、検察官の訴因設定権限が何らかの制約を受けるか (たとえば詐欺罪が成立するのに、電子計算機使用詐欺罪で起訴することが許されるか) |
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児童買春・ポルノ法における「姿態をとらせ」製造罪(同法7条4項)の補充規定としての「ひそかに」製造罪(同条5項) 検察官が「姿態をとらせ」製造罪で起訴せずに「ひそかに」製造罪で起訴した事案について、 検察官の訴因設定に裁量を認めるものと認めないものの双方の裁判例 |
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● | ●本件における電子計算機使用罪の故意の認定 | |||
ATMを使用した特殊詐欺が横行し、その中には還付金詐欺という類型があり、これらは詐欺と言う名は付くものの、本件のように、高齢者を誘導してATMの操作を行わせ、本人に悟られないように振込送金をさせる手口であることが広く知られている。 | ||||
● | ●罪数関係 | |||
ATMからの出金には1日当たりの限度額が設定⇒出し子役の共犯者が、限度額内で出金をした上で、さらにグループが管理する別の口座へ送金して、早期に最大限の利得を現実化しようとするのが典型的。 | ||||
本判決: ②③は、①の電子計算機使用詐欺と別個の行為で、新たな法益侵害を生じる⇒不可罰的事後行為に当たるとの弁護人の主張を排斥。 but 包括一罪と解し得る余地は残して、明示的に併合罪と判断してはいない。 ①及び②に当たる行為を包括一罪とした裁判例がある。 |
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2574 | ||||
行政p5 最高裁R5.3.9 ● |
特定個人情報の収集等と憲法13条 | |||
事案 | 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律により個人番号を不番されたXらが、Y(国)が番号利用法に基づきXらの特定個人情報の収集、保管、利用又は提供をする行為派、憲法13条の保障するXらのプライバシー権を違法に侵害するもの⇒Yに対し、Xらの個人番号の利用、提供等の差止め等をした事案。 | |||
判断 | 行政機関、地方公共団体その他の行政事務を処理すする者(「行政機関等」)が番号利用法に基づき特定個人情報の利用、提供等をする行為は、憲法13条の保障する個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を侵害するものではなく、Yが番号利用法に基づきXらの特定個人情報の利用、提供等をする行為がXのプライバシー権を違法に侵害するものであるということはできない ⇒上告棄却。 |
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解説 | ● | ●プライバシーの権利についての議論の変遷と住基ネット訴訟最高裁判決 | ||
◎ | プライバシーの権利: 当初:私人間にける私生活秘匿権と捉えられていたが、その後の高度情報化社会の進展に伴い、個人情報が公権力等に広く収集、保管、管理されるようになると、個人情報の開示・非開示、開示する場合の内容等についての自己決定や同意と言いう積極的な側面が重視され、自己に関する情報をコントロールする権利と捉える見解が通説。 but その外縁や内容は必ずしも明らかでなかった。 |
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自己決定や同意を重視しすぎることには円滑な行政活動等の反対利益を著しく阻害するおそれがあるのみならず、近時のデータ社会の下では自己決定や同意のみでは個人情報保護を実現できないという限界。 ⇒ 個人情報を取り扱うシステム構造の適切性や堅牢性に審査の重点を置く必要性が指摘。 文献 |
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◎ | 行政機関が住基ネットにより住民の本院核に情報を収集、管理又は利用する行為の合憲性について: 最高裁H20.3.6: 憲法13条が個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を保障している。 前記行為が前記自由を侵害するものであるか否かについて ①前記行為が、法令の根拠に基づき、正当な行政目的の範囲内で行われているものということができるかのみならず、 ②住基ネットにシステム技術上又は法制度の不備があり、そのために本人確認情報情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているかについても検討を加え、 前記自由の侵害を否定。 |
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~ ②について、 個人情報を取り扱うシステム構造の適切性や堅牢性に審査の重点を置く必要性に着目したものであり、セキュリティシステムの構築ないし整備を憲法レベルの要請にまで引き上げた上、その不備を(主観的)権利侵害の評価と結び付けた点で画期的といった指摘。 |
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● | ●本判決 | |||
◎ | 憲法13条が個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を保障している。 | |||
行政機関等が番号利用法に基づき特定個人情報の利用、提供等をする行為が前記自由を侵害するものであるかについて: ❶番号利用法は、個人番号等の有する対象者識別機能を活用して、情報の管理及び利用の効率化、情報連携の迅速化を実現することにより、行政運営の効率化、給付と負担の公正性の確保、国民の利便性向上を図るという、正当な行政目的を有するものと認められるところ、 厳格な規制により個人番号の利用や特定個人情報の提供等の範囲が限定されていることから、番号利用法に基づく特定個人方法の利用、提供等は前記の正当な行政目的の範囲内で行われているということができるのみならず、 ❷番号利用法がその種々の規制の実効性を担保するための制度を設けるととともに、情報提供ネットワークシステム(番号利用法の下でも各行政機関等が個人情報を分散管理している状況に変わりがない中で、各行政機関等の間で情報連携を行う際の各となるシステム)が特定個人情報の漏えい等の危険性が極めて低いものとなるように設計されていること等 ⇒ 番号利用法に基づく特定個人情報の利用、提供等に関して法制度上又はシステム技術上の不備があり、そのために特定個人情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできない。 |
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◎ | ①住基ネットにおける本人確認情報と異なり、番号制度における特定個人情報の中には個人の所得等の秘匿性の高い情報が多数含まれることになる ②理論上は対象者識別機能を有する個人番号を利用してこれらの情報の集約や突合を行い、個人の分析をすることが可能 ⇒ 上記❷の具体的な危険の有無については慎重な検討を要する。 |
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番号制度固有のプライバシー侵害の危険性は、これまで容易に情報連携されることのなかった複数の行政機関等において保管する個人情報が、個人番号を利用して大量かつ効率的に名寄せされ、個人の分析がされたり芋づる式に外部に流出したりすることにあるが、これらは他の組織・期間との間の特定個人情報の授受である「提供」があって初めて可能となる。 | ||||
番号制度固有のプライバシー侵害の危険性は、専ら特定個人情報の「提供(開示)」を前提として生ずるものということができる⇒「提供」を行う際の核となるシステムである情報提供ネットワークシステムの適切性や堅牢性について詳細な検討を要する。 | ||||
行政p26 奈良地裁R4.6.2 ● |
銃刀法上の射撃教習を受ける資格の認定申請⇒欠格事由ありとの判断が争われた事案 | |||
事案 | X:銃刀法9条の5第1項所定の射撃教習を受けるために、同条2項に基づき、処分行政庁である奈良県公安委員会に対して、3度にわたり射撃教習を受ける資格の認定申請⇒同公安委員会は、Xが銃刀法5条1項18号所定の欠格事由に該当し、同法5条の4第1項ただし書に規定する者に該当⇒Xの3度にわたる認定申請をいずれも不認定とする処分。 ⇒ 自身の欠格事由該当性を争い、Y(奈良県)に対し、本件各処分の取消しを求めるとともに、慰謝料等の国家賠償を求めた。 |
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争点 | Xの本件欠格事由該当性 | |||
判断 | ● | これを肯定した処分行政庁(奈良県公安委員会)の判断は合理的根拠を有するものであって、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとは認められず、本件各処分はいずれも適法⇒Xの請求をいずれも棄却。 | ||
● | ●本件欠格事由に関する解釈 | |||
銃刀法は、銃砲又は刀剣類によりもたらされる危害の発生の防止を目的とし、その所持を原則として禁止していることに加え、銃刀法5条1項1号ないし17号は、類型的に危害発生のおそれを高める属性を有すると認められる者を一律に欠格事由のあるものと規程 ⇒ 同項18号に規定する「おそれ」とは、銃砲又は刀剣類を所持しようとする者が、これを使用し、他人の生命、身体等を害し又は自殺する具体的、現実的危険がある場合だけでなく、その者の言動、生活環境、人間関係等から、将来において銃砲又は刀剣類を使用して前記の行為に及びかねない相当程度の危険性がある場合を含むものと解するのが相当であり、合理的な根拠をもって前記の危険性があると認められる場合には、本件欠格事由に該当するというべき。 |
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①銃刀法5条1項18号の「おそれがあると認めるに足りる相当な理由がある」との文理 ②公共の安全を確保することが、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査等に当たること等の警察の責務(警察法2条1項)と密接に関連するもの ⇒ 本件欠格事由該当性は、都道府県警察を管理する者として置かれる都道府県公安委員会の合理的な判断に委ねる趣旨。 |
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● | ●本件各処分について | |||
・・・ これらの言動は、自己の行動を十分に統制できない粗暴な性格と被害意識が講じると社会的規範についてゆがんんだ認識の下に行動に及ぶ性格を有していると評価されてもやむを得ない。 ⇒ 処分は適法。 |
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解説 | ● | ●処分行政庁の裁量権 | ||
本件欠格事由に該当するか否かについては、処分行政庁である都道府県公安委員会にある程度の裁量権が認められているが、それは単なる主観的な判断を許すものではなく、他人の生命、身体若しくは財産若しくは公共の安全を害し、又は自殺するおそれがあるということについて、客観的・合理的な根拠があることを要すると解されている。 | ||||
● | ●銃刀法5条1項18号の解釈 | |||
「おそれ」について、 A:他人の生命、身体若しくは財産若しくは公共の安全を害し、又は自殺する具体的な危険性まで必要 vs. いつ、どこで、どのような危険性が発生するおそれがあるかまで具体的に特定してにんていしなければならないとすると、過重な要求になり、危害予防を図る上で支障になることは明らか ⇒ B:抽象的危険性で足りる |
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本判決: 具体的・現実的危険性がある場合だけでなく、生命侵害等の行動に及びかねない相当程度の危険性がある場合を含む。 ~ 抽象的危険性で足りるとしていないが、具体的危険性までは必要としておらず、 また、いずれの見解も危険性の判断は合理的な根拠に基づいて行うものとしている ⇒ 具体的事案の当てはめにおいては、結論をほぼ同じくするものと考えられる。 |
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民事p37 東京地裁R3.12.24 ● |
機械式駐車装置設定に関し、団地管理組合法人⇒設置した被告への損害賠償請求(否定) | |||
事案 | マンションの団地管理組合法人である原告が、当該マンションの機械式駐車装置について、利用者の生命、身体、財産を危険にさらすことがないような安全性を備えているべきであるにもかかわらず、それが欠けているなどと主張して、本件マンション駐車装置を設置した被告に対し、不法行為に基づき、当該安全性を備えた状態にするのに必要な費用に相当する額の一部について損害賠償請求をした。 | |||
主張 | ❶本件型式駐車装置には設計ミスがあり、この本件設計ミスに関し、本件型式駐車装置を設計・製造する会社との契約に基づいて設計図書等の利用の許諾を受けるなどして、本件型式駐車装置をOEM製品として販売していたC2に不法行為法上の注意義務違反が認められるところ、被告はC2からの事業譲渡によってその法的責任を承継。 ❷本件型式駐車装置には、駐車場法施行令15条に基づく建設大臣(当時)の認定の内容とは異なる部品が使われており、この本件設計変更につき、C2には不法行為法上の注意義務違反が認められるところ、被告はこの点についても事業譲渡により法的責任を承継した。 ❸前記事業譲渡より前に、本件設計変更に係る部品を使用して本件マンション駐車装置を設置した被告には、不法行為法上の注意義務違反(本件被告注意義務1)が認められる。 ❹本件設計変更に係る部品を使用するのであれば別の個所についてはより頑丈な部品を使用すべきであるのに使用しなかった被告には、不法行為法上の注意義務違反(本件被告注意義務2)が認められる。 |
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判断 | ❶: 本件型式駐車場装置の設計、製造及び設置を直接行っておらず、設計図書等の利用の許諾を受けるなどしていたに過ぎないC2が、原告に対し、本件C2注意義務1を負うことについての法令上の根拠その他当該義務を裏付け得るような事情は認められない。 尚、原告が主張する本件設計ミスなるものが存するとしても、それをもって本件マンション駐車装置が、その利用者の生命、身体、財産を危険にさらすことがないような安全性を備えていないということはできない。 |
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❷: 本件設計変更が利用者の生命、身体、財産を危険にさらすことを裏付ける客観的かつ適格な証拠はない。 本件大臣認定の根拠である駐車場法施行令15条は、一般公共の用に供されず一定面積未満である本件マンション駐車装置には適用されない上、本件大臣認定の際に用いられていた技術的基準は、機械式駐車装置一般に存在する利用者の生命、身体及び財産に対する危険を防止するために必要な事項を定めるものとは解されない。 |
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❸: 上記❷⇒本件被告義務1違反を内容とする原告の主張は採用できない。 |
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❹: 本件被告注意義務2を負う法令上の根拠その他当該義務を裏付け得るような事情は認められない。 |
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解説 | 不法行為において、権利ないし法律上保護された利益につき、明確に定式化されていない内容の利益が主張される場合がある。 本件:機械式駐車装置が安全性を備えているべきだという利益 |
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不法行為の判例の大まかな傾向: 権利侵害があれば、それだけで損害賠償の責任を負うもの(権利侵害型)と 違法な権利侵害と評価されるかについて利益衡量を必要とするもの(利益衡量型) があると理解する見解。 |
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労働p50 高松高裁R4.5.25 ● |
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事案 | Xは、社会福祉法人であるY1の理事かつY1が運営するリハビリテーションセンターのセンター長であった⇒Y1から、XのパワーハラスメントがY1の就業規則上の懲戒解雇事由に該当するとして懲戒解雇。 | |||
それに先立ち、Y1が設置した第三者委員会の調査報告書。 | ||||
主張 | X: ①Y1に対し、本件懲戒解雇は懲戒事由を欠く上、Y1は、実質的には本件第三者委員会による調査以前からXを懲戒解雇することを決定しており、本件第三者委員会による前記調査や理事会での弁明の機会の付与はY1による前記決定に形式上の正当性を持たせるためだけのものにすぎず、社会的相当性を欠き、違法 ⇒ Xが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、未払賃金及び未払賞与の支払を求める。 ②Y1及びY1の理事長P2の娘であり、P2が理事長を務める社会福祉法人が設置運営する病院の院長であるY2に対し、違法な本件懲戒解雇並びに本件懲戒解雇に至る過程におけるP2及びY2による嫌がらせ行為によって精神的苦痛を被った ⇒ 慰謝料の連帯支払を求めた。 |
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Yら: ①・・・本件懲戒解雇は、合理的理由に基づく社会通念上相当なもので不法行為に該当しない。 ②・・・いずれも不法行為は成立しない。 |
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争点 | ❶本件懲戒解雇の有効性 ❷本件懲戒解雇の不法行為該当性 ❸P2の言動の不法行為該当性 ❹Xの損害 ❺未払賞与請求の可否 |
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判断 | ● | ●争点❶ | ||
Y1の意思決定機関である理事会が本件調査報告書の記載に基づきXのパワハラを認定。 本件調査報告書上パワハラに当たり懲戒事由に該当すると認定評価したのは・・についての言動⇒本件調査報告書に懲戒事由としての記載がなかった・・・に関する主張は考慮できない。 ・・・に対する言動は、いずれもY1の主張事実が認められないか、認められるとしても懲戒事由に該当するとは「いえない。 ⇒ 社会的相当性を欠くか否かの点について判断するまでもなく、本件懲戒解雇は無効。 |
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● | ●争点❷❹ | |||
①本件懲戒解雇の原因にはそれまでのXの言動も関係 ②Xは本件第三者委員会での弁明の機会を放棄しており、本件調査報告書にXの意見が十分に反映できなかった原因の一端はXにもあった ③Y1の就業規則上、懲戒処分に関する手続上の規定はなく、本件第三者委員会の設置や委員の構成等についてY1には広範な裁量が認められるところ、各委員の選出経緯に不自然不合理な点は見当たらず、本件第三者委員会による一連の手続保障について公平性を欠くとは認められない ⇒ Xが本件懲戒解雇の無効の確認及びその間の賃金賞与の支払によっても慰謝し尽くされない損害を受けたとまでは認められず、不法行為には該当しない。 |
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● | ●争点❸について | |||
P2が行った退職勧奨は社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないしは執拗なものとは認められず、またY1の職員等に対する説明会の場でのP2の言動もその対応を総体としてみれば不法行為法上の違法性を有するとまではいえない。 ⇒ 不法行為には該当しない。 |
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● | ●争点❺について | |||
Y1の給与規程によれば、夏季賞与は本俸の50%の部分、冬季賞与は本俸の100%の部分について具体的権利性が認められることを踏まえ、その限度で賞与を請求することができる。 | ||||
解説 | ● | ●未払賞与請求について(争点❺) | ||
就業規則又は労働契約等において、支給時期及び支給金額が具体的に算定できる程度に算定基準が定められている場合には、使用者の成績査定等を要せず、具体的な権利として発生する⇒解雇無効の場合にはその限度で賞与を請求できる。 | ||||
本判決:Y1の給与規定により具体的権利性が認められる限度で、賞与請求を認めたもの。 | ||||
● | ●懲戒解雇の有効性(争点❶) | |||
懲戒解雇を主張する使用者は、抗弁として、 ア:就業規則の懲戒事由と手段の定め、 イ:懲戒事由に該当する事実の存在 ウ:前記イを理由として懲戒解雇をしたこと エ:社会的相当性を有すること(懲戒権濫用でないこと) オ:予告期間の経過又は解雇予告の除外事由 を主張立証 |
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本判決:: Y1の理事会が、本件第三者委員会の作成した本件調査報告書の記載に基づきパワハラを認定したと認められるところ、 本件調査報告書上パワハラに当たり懲戒事由に該当すると認定評価した者に対する言動のみを考慮(前記ウ)。 これらを言動を個別に検討し、いずれも客観的な裏付けがないなどのためY1の主張事実が認められないか、認められるとしても懲戒事由に該当するとはいえない(前記イ) ⇒ 前記エの点について判断するまでもなく、本件懲戒解雇は無効。 |
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エについては、手続的に相当性を欠く場合にも、社会通念上相当なものと認められず、懲戒権の濫用となるところ、 就業規則や労働協約上、懲戒処分に関する手続上の規定が何もない場合にも、特段の支障がない限り、本人に弁明の機会を与えることが要請されるとの見解。 |
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● | 原告から、種々の不正支出等について損害賠償を求められている原告の元理事長等であった被告らが、第三者委員会の委員の人選に関連してその作成された報告書の証拠価値一般を争ったのに対して、県がその委員を推薦したという対応は、被告らの行動に関する従前の経緯も踏まえると、被告らからの干渉・影響も排除して適正な調査を実施するために必要な措置であり、そのことから第三者委員会の中立性や公平性が損なわれたとはいえず、その調査結果等が一般的に信用性を欠くとはいえないとした裁判例(神戸地裁)。 | |||
労働p72 富山地裁R5.7.5 ● |
教員が長時間労働等によるくも膜下出血での死亡⇒校長の安全配慮義務違反(肯定事例) | |||
事案 | Y1の設置する中学校の教員が長時間労働等によりくも膜下出血を発症して死亡⇒本件中学校の校長の安全配慮義務違反が原因⇒亡Aの遺族であるXらが、本件中学校の設置主体であるY1(富山県滑川市)及び同校長の費用負担であるY2(富山県)に対し、国賠法1条1項ないし3条1項等に基づく損害賠償を求めた事案。 | |||
争点 | 校長の安全配慮義務違反の有無 | |||
地方公共団体の設置する中学校の校長は、自己の監督する教員が、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等を過度に蓄積させ心身の健康を損なうことのないよう、その業務の遂行状況や労働時間等を把握し、必要に応じてこれを是正する義務(安全配慮義務)を負う(最高裁)。 | ||||
亡Aの死亡については、本件訴訟提起に先立ち、公務災害認定がされており、亡Aが所定勤務時間外に長時間にわたり業務等に従事していたことについては概ね争いがない。 but その多くが部活動指導に充てられていた ⇒ 校長の負う安全配慮義務違反の範囲及び内容が、所定勤務時間内の勤務並びに「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(「給特法」)6条1項及び「公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令」2号イないし二のいわゆる「超勤4項目」に該当する勤務と、それ以外の勤務とで異なるか? |
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判断 | ● | タイムカード等による勤務時間の把握はされていなかった but 亡Aが本件中学校から貸与されていたパソコンのログ 部活動指導業務記録簿 休日等に部活動指導にあたった顧問に特殊勤務手当を支給するための日額特殊勤務実績簿等 から明らかな勤務時間を基に、 本件発症以前の亡Aの時間外勤務時間を認定。 |
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本件発症前1か月:119時間35分 同2か月にわたり平均127時間35分 同3か月にわたり平均116時間45分 同4か月にわたり平均106時間6分 同5か月にわたり平均94時間18分 同6か月にわたり平均89時間00分 の時間外勤務に従事。 |
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本件発症前日まで25日間連続で勤務し、休日を1日挟んで、さらにその前に27日間連続で勤務。 | ||||
主な担当業務は、 ①3年生の学級担当 ②3年生の理科の教科担当 ③女子ソフトテニス部の顧問 ④生徒会のボランティア活動の指導等 多くは③ |
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● | ①本件中学校において、基本的に全ての教員がいずれかの部活動顧問を担当するものとされていたこと ②休日等の部活動指導に特殊勤務手当が支給されていたこと ⇒ 本件中学校では、教員が部活動顧問を担当し、所定勤務時間外にわたりその関連業務に従事することが当然に想定されていた。 |
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本件中学校の女子ソフトテニス部の活動実績等 ⇒ 週末等の練習の実施や練習試合への参加の有無を亡Aの裁量のみで決定していたとみることは困難。 |
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⇒ 亡Aが所定勤務時間外に行った同部の顧問としての業務は、いずれも、本件中学校の教員の地位に基づき、その職責を全うするために行われたもので、全くの自主的活動の範疇に属するものであったとはいえない ⇒ 同業務に従事していた時間を含め、業務の量的過重性を評価。 |
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● | 各学校における部活動指導の位置付けや方針、教員の配置状況等に鑑み、部活動指導が当該学校の教員としての地位に基づき、その業務として行われたことが明らかな場合にまで、部活動指導とそれ以外の業務を区別して校長の安全配慮義務の内容を画するのは相当でなく、過重な長時間労働が労働者の心身の健康を損ねることが広く知られている事に照らせば、校長の予見義務の対象を外部から認識し得る具体的な健康被害又はその徴候が生じていた場合に限定すべき理由は見出し難い。 | |||
● | 本件中学校の校長は、女子ソフトテニス部の顧問業務の内容及び時間を部活動指導業務記録簿や日額特殊勤務実績等で把握できた ⇒ 同校長が同業務に関する具体的な指導又は命令をしていなかったことをもってしても予見可能性は否定されない。 ⇒ 同校長の安全配慮義務違反を認め、Xらの請求を一部認容。 |
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解説 | ● | 本判決:本件事実認定の下では、部活動指導であったことや、当該教員に外務から認識し得る具体的な健康被害又はその徴候が生じていたか否か、さらには、校長の具体的な指導又は命令の有無などによって、校長の安全配慮義務の範囲及び内容を限定すべきではない ⇒本件中学校の校長の安全配慮義務違反を肯定。 |
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● | 校長の安全配慮義務について、 最高裁H23.7.12: 中学校の教諭らが勤務時間外に職務に関連する事務等に従事していた場合において、教諭らの上司である校長は時間外勤務を明示的にも黙示的にも明示ておらず、教諭らは自主的に前記事務等に従事していたものというべきであり、教諭らに外務から認識し得る具体的な健康被害又はその徴候が生じていたとは認められないなどの事情の下では、校長が義務に違反した過失はない。 |
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その後、名古屋地裁・名古屋高裁: 教育職員が所定勤務時間内に職務遂行の時間が得られなかたっために、その勤務時間内に職務を終えられず、やむを得ずにその職務を勤務時間外に遂行しなければならなかたっと認められる事案について、 勤務時間外に勤務を命ずる旨の個別的な指揮命令がなかったとしても、それが社会通念上必要と認められるものである限り、校長の包括的な職務命令に基づく勤務時間外の職務遂行と認められる。 |
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福井地裁: 明示的な時間外勤務命令がなかったことは、校長の当該教員に対する安全配慮義務の有無に影響しない。 |
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大阪地裁: 個別具体的事情の下では、業務の量的過重性評価の基礎となる時間外勤務時間に算入されるか否かは、校長による時間外勤務命令に基づく勤務であったか否かによって左右されるものではない。 |
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労働p86 広島地裁R4.7.13 ● |
警察官の自殺で、公務起因性と安全配慮義務違反を肯定 | |||
事案 | Y県警に在籍し、交番に勤務していた警察官であったAが自殺⇒ Aの妻子であったXらが、本件自殺には公務起因性があり、Y県には安全配慮義務違反があると主張し、Y県に対し、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、Aから相続したAの死亡による損害の賠償を求めた。 |
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争点 | ①本件自殺の公務起因性の有無 ②安全配慮義務違反の有無 ③損害の発生及びその数額等 |
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判断等 |
公務起因性を認め、県は、Aの業務上の負荷を軽減しAの心身の健康を損なうことがないようにするための必要な措置を講じたとはいえない⇒安全配慮義務違反があるとして、一部認容。 その後、Y県の控訴は棄却。 |
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同日、Aの父母が原告となってY県に対し、国賠法1条1項に基づいて近親者慰謝料を請求した別件についても、請求を一部認容する判決。 その後、控訴で、公務起因性が否定され原判決が取り消されている。 |
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説明 | ● | ●公務起因性(争点①) | ||
◎ | 労働者の自殺につき、業務起因性があるというためには、 ①精神疾患が業務に起因してり患したものと認められること ②当該自殺が当該精神疾患の症状に起因して行われたものであること の双方が必要。 業務による心理的負荷が、社会通念上、客観手故意にみて、精神障害を発病させる程度に過重であるときは、特段の事情がない限り、精神障害の発症及びこれを原因とする死亡(自殺)は、当該業務に内在する危険が現実化したものであといえ、前記因果関係が認められる。 |
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◎ | ◎ア:行政基準のしん酌について | |||
民間企業の同労者の過労自殺の事案: 労災認定における行政基準を判断資料としてしん酌する裁判例が多い。 |
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本件:地方公務員である警察官の自殺の公務起因性が問題 公務災害の認知手についても、行政基準(「精神疾患等の公務災害の認定について」)が存在しており、本判決も、本件自殺の公務起因性の判断にあたり、前記行政基準の内容を斟酌すべきであるとしたうえで、Aの公務の状況を前記行政基準にあてはめ、その心理的負荷の程度を評価。 |
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◎ | ◎労働時間の認定について | |||
労働者の自殺の業務起因性の判断に際して、労働時間(時間外勤務時間)を考慮するのは、労働時間が、当該労働者に精神的又は肉体的負荷を与える程度に量的に過重なものであり、当該労働者に心理的負荷を及ぼしたと言えるか否かを評価するために行うもの ⇒ 業務起因性の判断の前提となる労働時間については、そのような評価目的に即して認定することが必要。 |
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労働時間の認定資料: タイムカードや出退勤記録といった客観的資料が乏しく、時間外労働時間はAが自主的に作成・提出する報告書に基づいて把握 but 上司がその時間外勤務時間の時間の一部を抹消したり、より短時間に修正 ⇒同報告書がAの時間外勤務の状況を正確に反映していない ⇒ Aと妻であるX1との間の私的なメール(「今から帰る」といったもの)をも時間外勤務時間の認定根拠として使用。 |
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A自身が公務扱いとはしないことを事前に了承していた、Aの在籍するY県警察とは別の組織が実施主体となって実施される海外研修参加のための事前研修の参加や、そのための移動時間について: 前記海外研修参加の経緯等⇒これらにより生じる精神的及び肉体的な負荷は業務による負荷として考慮することが相当であるとして(公務起因性判断の前提となる)労働時間に含まれると判断。 ~ 時間外勤務時間の認定に関する前記評価目的を考慮。 |
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◎ | ◎質的過重性について | |||
①Aの勤務する交番の管内で発生していた連続窃盗事件の捜査 ②実習生の指導 ③異動のための引継ぎ ④Y県警察とは別主体が実施する海外研修参加のための事前準備 |
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・・・本件自殺直前の1か月には、これらの要因が重なって生じており、その結果、Aの時間外労働時間が大幅に増大⇒Aに大きな心理的負荷を与える要因となった。 ~ 個々の要因をそれぞれから生じる心理的負荷の程度を考慮するのみならず、 各要因の重複等をも総合的に考慮して、 Aの業務の質的過重性を肯定。 |
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● | ●安全配慮義務違反に関する判断について | |||
本判決:電通事件最高裁判決の枠組みに即して検討し、Y県の安全配慮義務違反を肯定。 | ||||
Y県:Aの精神疾患のり患および本件自殺についての予見可能性がないとの主張 vs. 業務が客観的にみて過重なものであった場合には、使用者等において、それを認識し又は認識し得たときは、労働者が精神疾患を発症したり、自殺したりすることがあり得ることは当然予想できる ⇒業務の過重性に対する認識可能性があれば、予見可能性を認めることができるとの指摘。 本判決も同様に考えたと解される。 |
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刑事p112 最高裁R4.7.27 ● |
押収処分を受けた者の還付請求が否定された事案 | |||
事案 | 司法警察員が申立人から差し押さえた申立人所有の携帯電話機等について、申立人が、刑訴法222条1項が準用する刑訴法123条1項に基づき、検察官に対して還付を請求⇒同検察官がこれに応じず還付をしない処分⇒準抗告⇒棄却⇒特別抗告 | |||
原審 | 本件各不還付物件は、現時点では留置の必要のないもの⇒申立人は本件各不還付物件の還付請求権を一応有している。 but 申立人の本件各不還付物件の請求は還付請求権の濫用に当たる ⇒本件各処分は違法とはいえない。 |
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判断 | 捜査機関が押収した各押収物には、被押収者らに対する各準強制性交等被疑事件等に関する動画データ等が記録されており、同動画データ等は、被害者とされた女性らに無断で撮影又は録音されたもので、これらが流布された場合には、同人らの名誉、人格等を著しく害し、同人らに多大な精神的苦痛を与えるなどの回復し難い不利益を生じさせる危険性があり、 同動画データ等が含めた各押収物の還付を受けられないことにより被押収者に著しい不利益が生じていることはうかがわれないなどの事情 ⇒ 被押収者が各押収物の還付を請求することは、権利の濫用として許されない。 |
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規定 | 刑訴法 第一二三条[押収物の還付・仮還付、電磁的記録の交付・複写] 押収物で留置の必要がないものは、被告事件の終結を待たないで、決定でこれを還付しなければならない。 |
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同項は捜査機関が行う押収に準用されている(刑訴法222条1項)。 | ||||
刑訴規則 第一条(この規則の解釈、運用) 2訴訟上の権利は、誠実にこれを行使し、濫用してはならない。 |
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解説 | ● | 最高裁: 捜査機関による押収処分を受けた者は「留置の必要がない」場合に当たることを理由として、当該捜査機関に対して押収物の還付を受けることができる(還付請求権を有する)。 最高裁: 刑訴法123条1項による押収物の還付について、被押収者が還付請求権を放棄するなどして現状を回復する必要がない場合又は被押収者に還付することができない場合のほか、被押収者に対して還付すべきである(被押収者還付の原則)。 |
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● | 先例:権利の濫用 | |||
学説: 性犯罪の被害者の被害時の状況等を撮影した写真や録音・録画した記録媒体が証拠品として押収された場合など、押収物をそのまま還付することが相当でない場合等、 犯人が所有権の放棄をせず、没収の要件にも該当しないとき、 犯人による還付請求権の行使が権利の濫用に当たり、捜査機関による還付をしない措置が違法とはならないことがある(注釈)。 |
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● | 本決定:権利濫用(禁止)法理をとった。 | |||
刑訴規則1条2項は「訴訟上の権利は、誠実にこれを行使し、濫用してはならない」と規定。 | ||||
but 権利濫用の法理は一般条項であり、要件・効果が法定されていない⇒法律関係が不明確になるのを避けるべく、判断基準・要素の明確化を図る必要がある。 |
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押収物の還付請求が権利濫用に当たるか否かについては、押収物の性質・内容を踏まえ、被押収者が還付を請求する目的、押収物(不)還付による被押収者と関係者の利益・損失の内容・程度、被押収者が押収物の占有を取得した手段・経緯等を考慮して判断。 | ||||
● | 令和5年6月: 性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁記録の消去等に関する法律 が成立(令和5年7月13日施行) 押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する規定が設けられている。 |
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2573 | ||||
行政p24 東京高裁R5.5.25 ● |
地自法242条の2第1項4号に基づく訴訟(4号訴訟)の係属中に、当該普通地方公共団体が別訴で当該損害賠償請求を訴訟物とする訴えを提起したが、それが一部請求である場合に、4号訴訟は訴えの利益を失うか | |||
事案 | 山梨県の住民Xが、山梨県とZ社との間で締結された県有地に係る賃貸借契約は地自法237条2項(地方公共団体の財産は条例又は議会の議決による場合でなければ適正な対価なくして貸し付けてはならないとする規定)に違反し無効 ⇒ 地自法242条の2第1項4号に基づき、県の執行機関であるY(山梨県知事)に対し、県有地を占有しているZ社に損害賠償請求又は不当利得返還請求として山梨県に364億余円を支払うよう請求することを求める住民訴訟。 |
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山梨県は、昭和2年以降、現在に至るまで、Z社に対し、県内の県有地を継続的に賃貸し、Z社は、本件土地を別荘地として第三者に転貸するなどの事業 | ||||
本件賃貸借に係る賃料については、山梨県において「適正な時価に比し不相当と認めたとき」に、いつでも改定することができるとされ、Z社は正当な理由がない限りこれを拒否することができない旨規定。 | ||||
X:山梨県監査委員に対し、本件賃貸借は、適正賃料を下回る不当廉価賃貸であると主張し、山梨県知事に対し旧契約について賃料増額措置を怠ったことによる損害を賠償する等の措置を講じるよう勧告すること、並びに新契約は無効であり、同県知事に対し損害賠償請求及びZ社に対する土地明渡請求ないし適正な賃料による賃貸借契約の締結等の必要な措置を講じるよう勧告することを求めて、住民監査請求⇒棄却。 | ||||
X:旧契約において当時の山梨県知事が賃料増額請求を怠ったことから適正賃料と既払賃料との差額相当の損害が生じている⇒地自法242条の2第1項4号に基づき、山梨県の執行機関たるYを被告として、山梨県元知事2名(G1、G2)及び前知事(G3)に対する損害賠償請求をするよう求めるとともに、新契約は地自法237条2項に判旨て無効であることから不法占拠による損害が生じていると主張して、G1ら及びZ社に対して不法占拠による損害の賠償請求をするよう求める住民訴訟(いわゆる「4号」訴訟)を提起。 | ||||
Y:本件訴えにおいて、当初、Xの主張を争っていたが、その後、主張を変更し、令和2年11月、少なくとも新契約は無効であると主張。 | ||||
Z社:令和3年3月、山梨県を被告として、別訴を提起。 ①新契約が有効であることを前提にZ社が本件土地に関する賃借権を有すること ②山梨県に対して損害賠償義務を負っていないなこと 等の確認。 山梨県:令和3年7月、その別訴に関し、Z社に対し、旧契約及び新契約が地自法237条2項に反し無効であるとして、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求を内容とする反訴を提起(「別件反訴」)。 不動産鑑定評価によれば平成13年7月9日から令和3年7月8日までの間の適正賃料との差額は、364億余円⇒「さしあたり」「一部請求」として、平成13年7月9日から平成15年7月8日までの無権限占有によって生じた31億余円の不当利得返還請求(合計93億余円)を行った。 |
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本件訴え: Xは、G1らに対する請求に係る訴えを取り下げるとともに、令和3年9月、旧契約及び新契約はいずれも地自法237条2項に反し無効であることを前提として、Yに対し、平成13年7月9日から令和3年7月8日までの間、Z社が本件土地を占有、使用又は収益したことにより生じる不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権(適正賃料額と既払賃料の差額の合計額364億余円)を行使するよう求めるとし、請求の原因を変更。(「本件訴え変更」) Y:前記訴えの取下げに同意し、本件訴え変更に異議を述べず、訴え変更後の請求の原因についていずれも認める |
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原審 | ● | 旧契約に関しては本件監査請求の対象とされている行為と本件訴え変更後の請求の対象とされている行為とは異なる⇒その部分について適法な監査請求前置があるとは認められない。 but 本件訴え変更後の請求のうち、新契約の無効を理由とする部分については、適法な監査請求前置がある。 |
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● | 訴えの利益について判示し、本件訴えを却下。 | |||
判断 | ● | 控訴を棄却 | ||
旧契約に関する本件訴え変更後の請求は、旧契約が地自法237条2項に違反し無効であることを理由とするもの⇒これが住民監査請求の前置を経たといえるためには、その監査において、旧契約の締結行為という財務行為が同項に違反し、その結果旧契約が無効であるか否かについて監査委員の判断がされることを要するものと解されるところ、本件監査請求ではその判断が必要ではなく(Yが賃料の総額措置を行ったか否かを判断すれば足りる。)、本件監査請求に係る監査結果をみても、その判断がされていたとはいえない。 ⇒ 旧契約に関する本件訴え変更後の請求は、監査請求前置がされていたとはいえない。 |
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①Yは、本件請求の請求原因をいずれも認めていること ②Z社は、別訴の本訴請求の中で別件反訴請求外部分の債務を負っていないことの確認を求め、山梨県はその全部を争っていること ③山梨県は、別訴反訴において、さしあたり本件請求を超える額(365億余円)の一部請求としてZ社に対し別件反訴請求部分の請求をしていること ④山梨県が別件反訴での請求を明示的一部請求とした理由は、主として貼用印紙額が高額が高額となることを避けるためであり、その一部請求の対象は、主として消滅時効等を考慮したものであること、 ⑤Z社と山梨県との間に係属している別訴において本件請求の全てに係る債権債務の存否が審理と判断の対象となっていること ⇒ 本件訴えでXの求めている内容は全て実現したものといえる⇒本件訴えについて訴えの利益を認めることはできない。 |
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規定 | 地自法 第二四二条の二(住民訴訟) 普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、同条第五項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第五項の規定による監査若しくは勧告を同条第六項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。 一 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求 二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求 三 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求 四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二の二第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合には、当該賠償の命令をすることを求める請求 |
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地自法 第二四二条の三(訴訟の提起) 前条第一項第四号本文の規定による訴訟について、損害賠償又は不当利得返還の請求を命ずる判決が確定した場合においては、普通地方公共団体の長は、当該判決が確定した日から六十日以内の日を期限として、当該請求に係る損害賠償金又は不当利得の返還金の支払を請求しなければならない。 2前項に規定する場合において、当該判決が確定した日から六十日以内に当該請求に係る損害賠償金又は不当利得による返還金が支払われないときは、当該普通地方公共団体は、当該損害賠償又は不当利得返還の請求を目的とする訴訟を提起しなければならない。 3前項の訴訟の提起については、第九十六条第一項第十二号の規定にかかわらず、当該普通地方公共団体の議会の議決を要しない。 |
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(強制執行等) 第百七十一条の二 普通地方公共団体の長は、債権(地方自治法第二百三十一条の三第三項に規定する分担金等に係る債権(第百七十一条の五及び第百七十一条の六第一項において「強制徴収により徴収する債権」という。)を除く。)について、同法第二百三十一条の三第一項又は前条の規定による督促をした後相当の期間を経過してもなお履行されないときは、次に掲げる措置をとらなければならない。ただし、第百七十一条の五の措置をとる場合又は第百七十一条の六の規定により履行期限を延長する場合その他特別の事情があると認める場合は、この限りでない。 一 担保の付されている債権(保証人の保証がある債権を含む。)については、当該債権の内容に従い、その担保を処分し、若しくは競売その他の担保権の実行の手続をとり、又は保証人に対して履行を請求すること。 二 債務名義のある債権(次号の措置により債務名義を取得したものを含む。)については、強制執行の手続をとること。 三 前二号に該当しない債権(第一号に該当する債権で同号の措置をとつてなお履行されないものを含む。)については、訴訟手続(非訟事件の手続を含む。)により履行を請求すること。 |
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解説 | ● | 監査請求前置の問題のほか、地自法242条の2第1項4号に基づく訴訟(4号訴訟)の係属中に、当該普通地方公共団体が別訴で当該損害賠償請求を訴訟物とする訴えを提起したが、それが一部請求である場合に、4号訴訟は訴えの利益を失うかという問題。 | ||
● | 4号訴訟は形成訴訟⇒4号訴訟の判決で形成される法律関係と同じ状態が生じている場合は、4号訴訟の訴えの利益が消滅。 | |||
● | 4号訴訟の判決で形成される法律関係: A:地自法242条の3第1項の「支払の請求の義務付け」と捉え、同条2項の「訴訟の提起の義務付け」はその付随的効果と捉える説(「石津説」) ⇒ 「支払の請求の義務付け」を求める裁判がされる前に「支払の請求」が全額につき既にされているか、したがって、訴えの利益がないと捉えることができるか? |
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地自法242条の3第2項との対比⇒同条1項の「支払の請求」は訴訟上の請求に限らないことが明らか。 同条2項の規定は、債務名義のない債権についての訴訟(非訟手続を含む。)の提起を規定する地自法施行令171条の2第3項に期限を付す特例と捉えられている。 |
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● | B:形成的効果を地自法242条の3第1項の「支払の請求の義務付け」及び同条2項の「訴訟の提起の義務付け」を併せたものとして捉える(同条2項を単なる付随効果とは見ない)説。 ~ 地自法242条の3第1項は、債務名義のない債権についての訴訟の提起を規定する施行令171条の2第3号に60日の期限を付す特例を法律上定めるものであり、4号訴訟とその判決に基づく請求が履行されあに場合の地方団体による請求訴訟という2段階構成とすることにより住民訴訟制度の実効性を確保しようとするもの⇒地自法242条の3第2項の「訴訟の提起の義務付け」は単なる付随的な法効果とはいえない。 同条3項が、同条2項の訴訟の提起には地方団体が訴訟を提起する場合に必要とされる議会の議決(地自法96条1項12号)を不要とするという重要な法効果を付与していることも、この説の根拠となる。 ⇒ 本件において支払の請求が全額につきされたと捉えることができたとしても、一部請求の形で訴えが提起されている場合、少なくとも差額部分につき「訴訟提起の義務付け」はなお意味が残るから、訴えの利益がなくならないのではないか? |
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● | A説⇒ 地自法242条の3第2項に基づく訴訟の提起は、施行令171条の2第3項で既に義務付けられているものであるから、4号訴訟の付随的効果に過ぎず、訴えの提起を義務付けるだけを目的とする4号訴訟については訴えの利益を否定すべきであり、裁判j外とはいえ、既に地方団体が「請求」をしている場合は訴えの利益はない。 |
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本件では、訴え自体は一部請求の形を採っているものの、明示の一部請求という形で訴えが提起され、全額について支払を請求するということが訴状その他の理由の記載欄で明らかになっているといえる⇒この「支払の請求」は全額につきされているとみて、訴えの利益はないと解する余地。 | ||||
地方団体が「支払の請求」(又は督促)をする場合には、地方団体の財務規則等において所定の方式(債権の調定、納付通知の送付、督促状の送付)により行うことが規定。 本件では、別件反訴請求以外の部分について、所定の方式による請求は認定されていない⇒所定の方式によらない「支払の請求」が有効かという点についても議論の余地。 |
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● | B説⇒ なお残部部分について、訴え提起の余地があり(明示的な、数量的一部請求の場合は、訴訟法的にみて、地方団体が義務付けられた残部部分の訴え提起をすることは可能)、その限りで、訴えの利益があるという考え方。 |
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but 実務の運用において、金銭賠償を求めて訴えを提起する場合、高額の印紙を貼付することを避ける等のため試験訴訟として明示の一部請求をすることがみられる。 一部請求がされても、全額の存否について審理がされ、それが是認された結果として一部請求認容の判決が出れば、多くの場合、全額について、被告は争わず、紛争が解決するはず⇒一部請求の形を採ることは合理性がないとはいえない。 ~ 訴訟提起の義務付けが付随的なものではないという説にたっても、地方団体の長が4号訴訟に係る債権の一部請求をする合理的な理由がある場合において、そういった一部請求訴訟が提起されている場合には、地自法242条の3第2項の訴訟提起の義務付けは達成されていると同視できるものと捉え、訴えの利益がないとする見解もあり得る? but 本件は、不法占有による損害賠償ないし不当利得返還請求の事案であり、一部請求というのは、その占有期間の一部に限定して請求するというもの(全占有期間を通じての損害賠償ないし不当利得の額を算定し、その数量的な一部を請求するというものはない)⇒占有の全期間について裁判所の判断が示されるといえるか疑問。 |
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● | 本判決: 地方自治法242条の2第1項4号の訴訟の認容判決で普通地方公共団体の執行機関等が義務付けられるのは、損害賠償又は不当利得返還の請求をすることであり、普通地方公共団体の長は、一般に、裁判外でその請求をして履行がされないときは、上記訴訟の認容判決がなくても、債権管理の一般原則に従い、訴訟手続による履行請求の措置をとらなければならないのであるから(地自法171条の2第3号)、普通地方公共団体の執行機関等に提訴を義務付けられるという点に上記訴訟の訴えの利益を見いだすすことは困難である。 ~ A説と解される余地。 |
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民事p45 最高裁R5.3.29 ● |
事後的に被転付債権が消滅したが、消滅の効果が転付命令の効力発生時点に遡及しない場合 | |||
事案 | X(相手方)が、Y(抗告人)の有する各売掛債権について差押命令の申立てをし、これに基づく差押命令が発せられたのに対し、Yが請求債権の大部分は従前の債権執行手続で既に消滅していると主張して、執行抗告をした事案。 | |||
経緯 | X:令和3年11月、Yの有する売掛債権について差押命令(「前件差押命令」)及び転付命令(「前件転付命令」)を得た。 | |||
前記転付命令等の第三債務者は、前件差押命令の送達を受ける前に、Yとの間で、前件転付命令等に係る売掛債権の一部について、その支払のために電子記録債権を発生させていたため、Yに対し、前記電子記録債権の支払をし、Xに対しては本件被転付債権の支払をしなかった。 | ||||
X:令和4年1月、前件転付命令等と同一の債務名義に基づき本件申立てをし、本件差し押さえ命令。 本件差押命令の執行債権には、前件転付命令の執行債権が含まれていたが、本件被転付債権の額が控除されていなかった。 |
||||
Y:本件被転付債権は前件転付命令が第三債務者に送達された時点で存在⇒前件転付命令の執行債権は、本件被転付債権の券面額んで弁済されたとみなされ、本件差押命令は、超過差押えに当たる⇒その取消しを求める執行抗告。 | ||||
原審 | 差押えに係る金銭政債権がその支払のために発生した電気記録債権の支払により消滅し、第三債務者がこれを差押債権者に対抗することができるときは、前記差押えに係る金銭債権について発せられた転付命令により執行債権等が弁済されたものとみなされることはない⇒執行抗告を棄却 | |||
Y:抗告許可の申立てで許可 | ||||
判断 | 第三債務者が差押命令の送達を受ける前に債務者との間で差押えに係る金銭債権の支払のために電子記録債権を発生させた場合において、前記差押えに係る金銭債権について発せられた転付命令が第三債務者に送達された後に前記電子記録債権の支払がされたときは、前記支払によって民執法160条による前記転付命令の執行債権及び執行費用の弁済の効果が妨げられることはない ⇒原決定を破棄し、本件を原審に差し戻した。 |
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規定 | 民執法 第一六〇条(転付命令の効力) 転付命令が効力を生じた場合においては、差押債権者の債権及び執行費用は、転付命令に係る金銭債権が存する限り、その券面額で、転付命令が第三債務者に送達された時に弁済されたものとみなす。 |
|||
解説 | ● | 電子記録債権: その発生又は譲渡について電子記録債権法の規定による電子記録を要件とする金銭債権(同法2条1項)。 電子記録債権は、これを発生させる原因となった法律関係(原因関係)に基づく債権(原因債権)とは別個の債権。 |
||
当事者が、原因債権の支払に変えて電子記録債権を発生⇒原因債権は消滅 原因債権の支払のために電子記録債権を発生⇒両債権は併存 後者の場合も、いずれか一方の債権が支払われれば他方の債権は消滅。 |
||||
後者の場合で両債権が併存する場合、原因債権のみが他に譲渡 ~ 譲渡人は、債務者に対し、電子記録債権の請求をすることができ、債務者が譲渡人に対し、電子記録債権の請求をすることができ、債務者が譲渡人に対しててその支払をすれば、原因債権は消滅。 |
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原因債権が差し押さえられた場合における電子記録債権の行使: 昭和49年最判と同様に解すべき。 昭和49年最判: 第三債務者が債権仮差押命令の送達を受ける前に債務者に対し債務支払のために小切手を振り出していた場合には、前記送達後に債務者に対し前記小切手が支払われたとしても、第三債務者は前記債務の消滅を仮差押債権者に対抗することができる。 |
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本決定の事案にいても、前記転付命令等の第三債務者は、前件差押命令の送達を受ける前に、Yとの間で本件被転付債権の支払のために電子記録債権を発生⇒Yに対してその支払をしたことにより本件被転付債権が消滅したことをXに対抗することができる。 | ||||
● | 転付命令: ①被転付債権の移転(民執法159条1項) ②執行債権消滅(民執法160条) という実体的効果。 |
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転付命令の確定により、転付命令が第三債務者に送達された時に遡って、被転付債権につき現実に弁済等の満足を受けられなくても、執行債権は消滅⇒事実上債権回収をすることができないリスクを伴う。 | ||||
同条の文言(「転付命令に係る金銭債権が存する限り」)によれば、転付命令が実体的効果を生ずるには、転付命令の効力発生時点で被転付債権が存在することが要件となる。 ⇒ 前記効力発生時点で被転付債権が既に不存在である場合はもちろん、事後的に前記効力発生時点に遡って被転付債権が消滅する場合(取消、解除、相続放棄等)には、転付命令による執行債権消滅の効力が生じず、債権者は、同一の債務名義により、債務者の他の財産について再び強制執行を申し立てることができる。 |
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事後的に被転付債権が消滅したが、消滅の効果が転付命令の効果発生時点に遡及しない場合について、転付命令の実体的効果をいかに解すべきか? (昭和49年最判の事案は、転付命令の効力発生時点で被転付債権が既に不存在であり、本件と異なる。) |
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● | 転付命令の効力発生後、第三者が被転付債権(又はこれと同一の経済的利益を目的とする債権)の満足を受けることにより被転付債権が消滅するが、その消滅の効果が転付命令の効力発生時点に遡及しない場合: ❶被転付債権に質権が設定され、質権実行の結果、質権者に支払がされた場合 ❷第三債務者が債務者に対して有する反対債権をもって被転付債権と相殺した場合で相殺適状時が転付命令の第三者への送達後である場合 ❸弁済供託の供託金取戻請求権に対し転付命令が発せられ、被供託者が供託金の還付を受けた場合等 ~ 転付命令の効果は覆滅せずに執行債権は消滅し、転付債権者は債務者に対する不当利得返還請求権等を取得する。 ⇒ 転付債権者は、前記不当利得返還請求権等について改めて債務名義を取得し、他の財産について強制執行することになる。 |
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● | 転付命令の効力発生後に被転付債権の全部又は一部が消滅する可能性がある場合: これまで被転付適格(券面額)の有無という問題として議論。 |
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判例:券面額を比較的緩やかに解する傾向 ← ①不利益を被る可能性があることを前提に転付命令の制度を利用する者がある以上、転付命令の制度の利用自体を制限する必要はないであろうとの考え方。 ②転付命令は、転付債権者あ他の債権者に優先して債権を回収することができ、執行における平等主義の例外となる制度であり、このような制度を利用して債権を独占的に取得した以上、当該債権の消滅のリスクは制度の利用者が負うべき。 ③事後的に転付命令の効力が失われることは法律関係を不安定にするため、安易にその場面を拡大すべきではない。 ⇒ 被転付債権の事後的消滅により転付命令の効力が失われるのは、原則として当該消滅が転付命令の効力発生時点に遡る場合に限るのが相当。 民法160条の文言にも沿う。 |
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本決定の説示⇒電子記録債権でなく手形が振り出された場合であっても、結論は同様。 | ||||
裁判例: 原決定と同様、第三債務者は手形債権の支払いにより原因債権が消滅したことを転付債権者に対抗することができる⇒転付命令の効力が覆滅とのものがある。 vs. 第三債務者が被転付債権の消滅を転付債権者に対抗することができるかどうかは、転付債権差と第三債務者との間の法律関係の問題にすぎない。 本件では、第三債務者がこれを対抗することができるのを前提として、転付命令の効果がいかなる影響を受けるか、すなわた転付債権者と債務者との間の法律関係が問題。 |
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● | 被転付債権を失った転付債権者は誰にいかなる請求をすることができるか? | |||
電子記録債権が債務者に帰属しており、第三債務者が債務者に対して電子記録債権を支払った場合⇒転付債権者は、債務者に対し、前記の支払額について不当利得返還請求をすることができる。 | ||||
電子記録債権が債務者から他者に譲渡され、第三債務者がその譲渡人に対して電子記録債権を支払った場合: 転付債権者は、債務者に対し、譲渡の対価について不当利得返還請求をすることができると考えられるが、譲受人に対しては、原則として不当利得返還請求等をすることは困難。 |
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民事p51 最高裁R5.2.1 ● |
管財人による債務承認⇒消滅時効中断が認められた事案 | |||
事案 | X所有の不動産について、Xの破産手続終了後、Yを根抵当権者とする根抵当権の実行としての競売の開始決定⇒Xが、Xを債務者とする本件根抵当権の被担保債権が時効により消滅したと主張し、Yに対し、前記競売手続の停止及び本件根抵当権の実行禁止の仮処分命令の申立て。 | |||
争点 | 破産手続きにおいて、Xの破産管財人が、本件被担保債権が存在する旨の認識を表示⇒本件被担保債権について債務の承認としてその消滅時効を中断する効力を有するか | |||
判断 | 破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻しについて前記別除権を有する者との間で交渉し、又は、前記不動産につき権利の放棄をする前後に前記の者に対してその旨を通知するに際し、前記の者に対して破産者を債務者とする前記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をしたときは、その商人は前記被担保債権の消滅時効を中断する効力を有する。 | |||
規定 | (時効の中断事由) 旧民法 第一四七条 時効は、次に掲げる事由によって中断する。 一 請求 二 差押え、仮差押え又は仮処分 三 承認 |
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解説 | ● | 承認:時効の利益を受けるべき者が、時効によって権利を失うべき者に対し、その権利の存在の認識を表示すること。 ~ 既に得ている権利を放棄するなどといった新たな処分行為をするものではない⇒承認をするには、相手方の権利についての処分権限を有することを要しない。 but 承認によって時効中断効という不利益が生ずる以上、同条の反対解釈により、管理権限を有することを要する。 |
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● | 破産管財人:破産財団に属する財産に対し管理権限のみならず処分権限を有し、その権限は破産財団に属する財産を引当てとする債務にも及び得る。 ←破産財団に属する財産を引当てとする破産債権に関する訴訟が中断(破産法44条) |
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● | 破産管財人の職務:破産財団に関する処理をするところにあり、破産管財人の破産財団に属する財産に対する管理処分権限もその限度で付与されるべきもの ⇒破産管財人がした行為が債務の承認として時効中断効を生ずるためには、当該行為が破産管財人の職務の遂行の範囲に属するものである必要がある。 |
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破産管財人が、別除権者に対し、 ①交渉に際し、別除権に係る担保権の被担保債権の存否に関する事故の認識を表示することは当然に予定されている ②権利の放棄に際し、前記被担保債権の存在の認識を表示しつつ放棄に至った経緯の説明を付加するなどして前記不動産を破産財団から放棄する旨の通知をすることも、破産管財人の職務遂行の手法の1つとしてその裁量の範囲内のもの ⇒ これらの職務を遂行するに当たって破産管財人が被担保債権の存在の認識を表示することは、職務の遂行上想定されるものであって、職務の遂行の範囲に属する行為。 |
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● | 大判昭和3.10.19: 破産管財人がした破産債権についての債務の承認について、時効中断効を否定 but 同判決は、破産管財人が、破産手続を簡易に終了させるために、既に異議を述べていた破産債権について、異議の撤回の手続を経ることなく当該破産債権について債務の承認をして破産債権者に当該破産債権を取下げさせたという事案であり、破産管財人の職務の遂行の手法として正当なものとは言い難く、破産管財人の職務の遂行の範囲に属する行為に係る本件とは事案を異にする。 |
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● | 改正後民法 第一五二条(承認による時効の更新) 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。 2前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。〔本条の施行は、平三二・四・一〕 |
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民事p58 大阪高裁R4.9.29 ● |
建設コンサルタントの損害賠償義務(肯定事例) | |||
事案 | X(大阪府)は、地下トンネルを構築することを計画し、建設コンサルタントであるYに対して両立杭及びその構築方法の設計業務を約2300万円で委託⇒機能せず、多額の費用を要した。 | |||
請求 | X:Yの担当者には ①滑動・転倒しない立杭を設計すべき注意義務を怠った過失 ②立杭の最適な構築工法を提案すべき注意義務を怠った過失 ③設計した立杭が滑動・転倒するおそれがあることを説明すべき義務を怠った過失 ④基本的な安全性を欠く立杭を設計した過失 ⇒ Yに対し、不法行為(使用者責任)に基づき、追加工事費用相当額の損害賠償金約61億9000万円及び遅延損害金の支払を求めた(第1事件)。 |
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Y:Xに対し、別件工事に関する設計業務の委託代金約1900万円の支払を求めた(第2事件)。 | ||||
争点 | 不法行為の成否(❶) 過失相殺の成否(❷) 損害及び因果関係の有無(❸) |
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原審 | 第1事件: Yの担当者には説明義務違反の過失(上記③の過失)があったが、Xの担当者にも重大な過失があった⇒8割の過失相殺⇒損害賠償金約1億9400万円及び遅延損害金 |
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第2事件: 相殺の抗弁に基づきYの請求を棄却 |
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判断 | 第1事件: Yの担当者には、側面開削後の立杭の滑動のおそれ等に関する説明義務違反の過失(上記③の過失)があったが、Xの担当者にも、立杭が滑動する可能性等に関する建設業者等からの指摘が正しいかの検討を尽くすことなくトンネル工事を進めて行ったという過失があった⇒4割の過失相殺⇒損害賠償金約3億9500万円及び遅延損害資金の支払を命じる限度で一部認容。 |
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第2事件: 相殺の抗弁に基づきYの請求を棄却 |
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解説等 | ● | 不法行為の成否(❶): | ||
側面の開削による立杭の滑動・転倒の有無及び程度の検討がYの受託業務に含まれていたことを前提に、 Yが提出した設計成果物の記載は、Xに対して、側面を開削しても立杭は滑動せず、これを防止するための支保工事は不要であるとの誤解を与えるものであっただけでなく、その後もXの誤解を解消するに足りる説明を行わなかった。 ~ Yの担当者には、側面開削語の立杭の滑動のおそれ及び支保工事の要否についてXに誤解を生じさせる説明をした過失及びこの点の誤解を解消するに足りる説明をすべき信義則以上の義務を怠った過失があった。 |
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● | 過失相殺の成否(❷): | |||
原判決:8割 本判決:4割 |
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Xの担当者には、建設業者等から立杭が滑動する可能性や支保工事を行う必要性についての指摘を繰り返し受けていたにもかかわらず、その指摘が正しいかの検討を尽くすことなく工事を進行した過失があり、これが損害の発生に相当程度寄与した。 | ||||
①Xは、専門性の高いトンネル工事の設計を行うことが技術的に困難であったため、相当額の対価を支出してYに設計業務を委託 ②Yは高度の専門性を有する建設コンサルタントであり、Xとしては、Yの示す見解を信頼し、これに基づいて行動したのも無理からぬ面があった ③Yによる検討に技術的誤りが含まれていたことにより発生した損害については、Yが第一義的責任を負うべき ④Yは、Xから建設業者等による指摘に対する見解を求められたにもかかわらず、その指摘を否定する旨の回答をするなどした ⇒ Yの責任は重く、Xの責任がYの責任を上回るものと評価するのは相当ではない ⇒過失相殺をXが4割、Yが6割とした。 |
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● | 損害及び因果関係の有無(❸) | |||
追加工事費用のうち出水対策工法(凍結工法等)に関する費用約41億7900万円はXの説明義務違反と相当因果関係が認められないなどとして、約6億5800万円の損害を認め、これに4割のj過失相殺をした上で、約3億9500万円の損害賠償を命じた。 | ||||
知財p70 大阪高裁R4.5.13 ● |
控訴人の標章の剥離抹消行為(それが商標権侵害かも争いあり)と評価されなかった事例 | |||
事案 | 「ローラーステッカー」との商品名(「X標章」)のもとで、車輪付き杖である商品(「本件商品」)を販売し、X標章につき商標登録を受けたXが、Xから本件小hンを仕入れ「ハンドレースステッキ」との商品名(「Y標章」)のもとで本件商品を販売していたY1及びY2に対して、Yらの行為が、令和元年8月からX標章についての登録商標の公報が発行された令和2年1月7日までの(「前半期間」)については、X表象に化体する信用や出所表示機能を毀損する共同不法行為に当たり、前記公報の発行から令和2年3月31日までの期間(「後半期間」)については、商標権侵害の共同不法行為に当たる ⇒ 本件商品に対するY標章の使用の差止め及び損害賠償等を請求。 |
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経緯 | 平成26年9月:Y1とXが取引基本契約締結。 Y1:Xより納入された本件商品について、こん包箱側面のXの屋号が記載された箇所の上に「ハンドレールステッキ 販売元Y1」と印字されたシールyを貼付し、こん包箱に同梱されていた「ローラーステッカー使用説明書」をY1が作成した「ハンドレールステッキ取扱説明書」に差し替えて販売。 |
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Y2:遅くとも平成29年から、前記仕様の商品をY1より仕入、訴外Aに売り渡した。 | ||||
平成31年2月、XはX標章について商標登録の出願⇒令和1年12月に商標登録⇒令和2年1月7日にこれに係る公報が発行 | ||||
X:令和1年8月以降、Y1に対して取引の停止を通告。 | ||||
Y1:取引停止以前に納入されていた本件商品の在庫を、令和1年8月から11月にかけて、Y2に卸売り、Y2は訴外Aに卸売り。 Y1は、前記在庫の残余を、令和2年3月頃まで自社のオンラインショップで廉価で販売。 |
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Y2は、令和1年8月又は9月、Xから本件商品の納入を受ける。 Y2は、本件商品の梱包箱上面にY標章を商品名として印字したシール(「Yシール2」)を貼付し、訴外Aに納品。 Yシール2の貼付によって、梱包箱のXの屋号の記載箇所が隠れることはなかった、 |
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争点 | ❶前半期間におけるYらの共同不法行為の成否 ❷後半期間におけるYらによる商標権侵害の成否 ❸損害の発生及び額 |
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判断 | ● | 争点❶ | ||
前半期間においては、X標章は商標登録がされていない⇒商標法の問題とななり得ない。 Xから、前半期間におけるYらの行為が不正競争法の規律に抵触するとの主張もされていない。 ⇒ 卸売業者は又は小売業者が製造者から商品名を伏した商品の譲渡を受けた場合、卸売業者あるいは小売業者としては、当初の商品名により販売すべき旨の合意や製造者が譲渡する際に付した条件、あるいは商品の性質上当然そのようにすべき特段の事情や公的規制のない限り、当初の商品名のまま販売することでその顧客吸引力等を生かすこともできれば、より需要者に訴えることのできる商品名に変更したり、あるいはより商品の内容を適切に説明し得る商品名に変更して販売することも許されると解される。 |
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XとY1との間では、本件基本契約の内容及び両者の対応を検証し、 XとY2との間でも、Y2がXに直接の取引を打診した際のやりとりを検証 ⇒そのような特段の事情はなかったとして、前半期間における不法行為の成立を否定。 |
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● | 争点❷ | |||
Xの主張する登録商標の剥離抹消行為について 商標法の目的は、信用化体の対象となる商標が登録された場合に、その登録商標を使用できる権利を商標権者に排他的に与え、商品又は役務の出所の誤認ないし混同を抑止することにあり、商標権侵害は、指定商品又は指定役務の同一類似の範囲内で、商標権者以外の者が、登録商標と同一又は類似の商標を使用する場合に成立することが基本(商標法25条、37条)。 商標権者が指定商品に付した登録商標を、商標権者から譲渡を受けた卸売業者等が流通過程で剥離抹消し、さらには異なる自己の標章を付して流通させる行為は、登録商標の付された商品に接した取引者や需要者がその商品の出所を誤認混同するおそれを生ぜしめるものではなく、上記行為を抑止することは商標法の予定する保護の態様とは異なる。 ⇒ 登録商標の剥離抹消行為等が、それ自体で商標権侵害を構成するとは認められない。 |
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後半期間のYらの行為について ①XがYらに納入した本件商品の梱包箱の外側にはX標章は表示されておらず、Yらが仕入後に貼付したYシールによってX標章が覆い隠されたという事実はない ②XがYシール1によって覆い隠されたのを問題としているのはXの屋号であってX標章ではない ③説明書の差し替えに関しても、本件商品に貼付等されずに単に同梱されていたものにすぎないX説明書は、本件商品に標章を付した(商標法2条3項1号)とはいえず、 取引書類(同項8号)に当たると認めるに足りる事情もうかがわれない。 ⇒ 「ローラーステッカー使用説明書」との記載をもってX標章を商標として使用したものとは認められないことなどを考慮し、そもそもX標章の剥離抹消行為と評価し得る行為には当たらない。 |
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解説 | ● | 商標法上、商標権の効力: 指定商品役務と同一又は類似のものについて登録商標と同一又は類似の商標を使用する行為に及ぶ(同法25条本分、37条1号)。 商標の「使用」:同法2条3項各号に掲げる行為。 |
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商標権者が上市した商品に付された登録商標を、流通過程にいて第三者が剥離抹消し、当該第三者の標章を付して流通させる行為(商標の抹消剥離行為)は、商標の機能を害するとも考えられるものの、同項各号に掲げる行為ではない ⇒商法権侵害となるか否かは必ずしも明らかではない。 本判決:傍論ではあるが、否定。 |
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● | 裁判例: 東京地裁H23.7.22: 原告と被告会社との間の婦人靴の製造に係る継続的請負契約に基づき、被告会社から原告に納品された婦人靴について、その一部が原告から被告会社に返品されたところ、原告商標が剥離されないままに返品された婦人靴を被告会社が展示、販売した事案において、 原告商標のふされた織りネームの上に被告会社のブランドを記載した中敷きを貼付して販売する行為は、需要者が原告商標を認識することができず商標の使用に当たらない⇒商標権侵害を否定。 |
|||
大阪地裁H26.3.27: 原告が訴外ドイツ起業に発注したノンアルコールビールを原告が受領しなかった⇒訴外ドイツ企業からの要請を受けた被告がこれを購入し、ノンアルコールビールの梱包ケースの原告の商標と同一の文字標章が付された部分に被告会社名等を記載したシールを貼付するなどして販売。 シールの貼付により需要者が視認できない状態にあった⇒当該標章の使用を否定。 |
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~ A:商標の剥離抹消による商標権侵害を否定した事例 vs. 「商標の冒用行為の有無」を問題とし、それが否定されたために侵害が否定されたにとどまり、商標の剥離抹消行為自体の判断は行っていない。 |
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● | 傍論において、当該行為の商標権侵害該当性を肯定した裁判例: 大阪地裁H6.2.24: 原告が卸売りする肥料である原告商品を小分けして詰め替え包装し直したものを、原告商標と類似する被告標章を使用して被告が販売した事案で、 被告標章を「指定商品(肥料)と同一の商品である被告小分け品について、その出所表示機能及び品質表示機能等の自他識別機能を果たす態様で使用している」などとして、小分け販売行為が商標権侵害に当たるとした。 |
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被告の主張に応答する中で、商標の剥離抹消行為について 商標権者が登録商標を指定商品に独占的に使用する行為を妨げ、その商品標識としての機能を中途で抹殺するものであって、商品の品質と信用の維持向上に務める商標権者の利益を害し、ひいては商品の品質と販売者の信用に関して公衆を欺瞞し、需要者の利益をも害する結果を招来するおそれがある⇒当該商標権の侵害を構成。 あくまで傍論。 |
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● | 学説上も、 商標権侵害成立を肯定する見解(西沢、網野)と 否定する見解(田村) |
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● | 原審: 商標権侵害該当性を否定 ← XがX標章を付した本件商品をYらに譲渡した際に、X標章と同一又は類似の商標を使用する競業者が存在しなかった⇒X標章に係る商標権はその役割を終えたとみることができる。 (いわゆる消尽論に立つもの) |
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知財p85 大阪地裁R5.1.31 ● |
特許出願前に公然実施された発明とされた事例 | |||
事案 | 名称を「シュープレス用ベルト」とする発明についての特許にかかる各特許権を有するXが、Yに対し、本件製品の製造、販売の差止め等を求めた事案。 | |||
争点 | ❶本件世品の本件発明1の技術的範囲への属否 ❷本件製品の本件発明2の技術的範囲への属否 ❸本件特許1の無効理由の有無 |
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尚、本件発明1について、以前Yにより進歩性欠如を理由とする特許無効審判が請求され、特許無効審決取消判決を経て請求不成立審決がされ、これが確定。 | ||||
判断 | ● | 争点❶:肯定 争点❷:否定 |
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● | 争点❸について: | |||
◎ | Y:Xの本件特許1の出願前に、本件発明1の構成要件に一致する商品(ベルトB)を自己の顧客に納品⇒特許法29条1項2号にいう「公然実施」により本件発明1は新規性を欠如し、本件発明1に係る特許は無効。 | |||
◎ | 本判決: 特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいう。 |
|||
本件特許1の出願前である平成11年5月から平成12年4月にかけて、Yが本件発明1の構成要件を充足するベルトBをYの顧客に納品した ベルトBは事由に解析等をなされ得る状態に置かれたものであり、解析等によりベルトの構造等を特定することは可能。 |
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◎ | ベルトBにジメチルオトルエンジアミン(DMTDA)という化学物質が含まれていることを不特定多数の者が知り得たかについて: 本件特許1の出願前において、ウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合してポリウレタンとし、これをベルトの弾性材料とすることが技術常識であたっと認定し、 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⇒ 本件特許1の出願前に、エタキュアー300は、ウレタン用の硬化剤として注目され、実用化されていたものと認められ、分析機関のライブラリにDMTDAのマススペクトルが登録されていなかったとしても、エタキュアー300をサンプルとして分析機関に送付して分析を依頼した蓋然性があったといえ、当業者はベルトBにDMTDAが含まれていることを知り得たものと認められる。 |
|||
⇒ 本件発明1は、本件特許1の出願前に公然実施された発明であるから、新規性を欠き、本件特許1は特許無効審判により無効とされるべき。 |
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規定 | 特許法 第二九条(特許の要件) 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。 一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明 二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明 三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明 2特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。 |
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解説 | ● | ●「公然実施された発明」の意味 | ||
特許法29条1項2号の「公然実施」: 発明の内容を不特定多数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいうもので・・・物の発明の場合には、商品が不特定多数の者に販売され、かつ、当業者がその商品を外部から観察しただけで発明の内容を知り得る場合はもちろん、外部からはわからなくても、当業者がその商品を通常の方法で分解、分析することによって知ることができる場合も公然実施となる(知財高裁)。 |
||||
「実施」が譲渡ではなく展示である場合は、「観察」「分解、分析」は展示品の目視や体験などに限られると解される。 | ||||
公然実施をされた「発明」というためには「当業者が創作された技術内容を反復実施することにより同一の結果を得られること、すなわち、反復可能性のあることが必要」(東京地裁)とされており、 31回製造したフィルムのうち28本が出願発明の発明特定事項を充足していたことをもって出願発明に相当する選考発明が完成していたとした裁判例。 |
||||
公然実施を主張するとしても、前提として、出願発明の新規性を否定する側の十分な主張立証が必要。 | ||||
● | ●事案へのあてはめ | |||
本件におけるベルトBに含まれている成分を分析するに当たっては、質量分析法(マススペクトロメトリー)という分析手法を用いることが通常。 質量分析により得られる結果をマススペクトルというが、化学物質のマススペクトルはその化学物質に固有のもの。 化学製品などの測定対象から得られたマススペクトルと欠く化学物質のマススペクトルとを網羅的に比較することにより、測定対象に含まれている化学物質を特定していくことができる。 but それはマススペクトルが判明している化学物質に限られ、それが判明していない化学物質については測定対象にそれが含まれているかを知ることはできない。 |
||||
⇒ 本件におけるベルトBにDMTDAが含まれているか否かを知るためには、依頼を受けた分析機関がDMTDAのマススペクトルを保有しているか、依頼をする者がベルトBにDMTDAが含まれている可能性予め認識してベルトBと共にDMTDAを分析機関に送付する必要。 |
||||
本判決: Yの主張立証を踏まえて本件特許1の出願前の状況を丁寧に認定し、本件特許1の出願前に、エタキュアー300はウレタン用の硬化剤として注目され、実用化されていた ⇒分析機関のライブラリにDMTDAのマススペクトルが登録されていなかったとしても、当業者は、エタキュアー300をサンプルとして分析機関に送付して分析を依頼した蓋然性があった。 |
||||
● | 本判決: 当業者が当該商品を通常の方法で分解、分析するにあたりその商品の内容を高度に予測しておくことが必要である事案において、それが肯定された事案。 |
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刑事p112 最高裁R5.1.30 ● |
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事案 | 申立人が、刑事確定記録法(「法」)に基づき、東京簡裁の略式命令により終結した政治資金規正法違反被告事件に係る刑事確定訴訟記録の閲覧請求⇒保管検察官が閲覧を一部不許可⇒東京簡裁に準抗告⇒管轄違いで棄却⇒特別抗告 | |||
原決定 | 申立人宛の閲覧一部不許可通知書の作成者の肩書が「東京地方検察庁保管検察官」と記載⇒本件準抗告の管轄裁判所は、東京地方検察庁の対応する東京地方裁判所⇒本件準抗告は不適法 | |||
特別抗告 | ||||
判断 | 法8条2項、刑訴法433条の抗告理由には当たらないとしつつ、職権で判断。 地方検察庁に属する検察官が区検察庁の検察官の事務取扱いとして保管記録の閲覧に関する処分をした場合、当該区検察庁の対応する簡易裁判所は法8条1項にいう「保管検察官が所属する検察庁の対応する裁判所」に当たると判断 ⇒原決定には法令違反があるとして、東京簡裁に差し戻した。 |
|||
解説 | 法2条1項:刑事被告事件に係る訴訟の記録は、訴訟終結後は当該被告事件について第1審の裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官が保管。 この検察官を「保管検察官」 |
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略式命令によって終結した事件の訴訟の記録も刑事被告事件の訴訟記録に該当。 東京簡易裁判所に対応する検察庁は東京区検察庁(検察法2条1項)⇒本件保管記録の保管検察官は、東京区検察庁の検察官。 |
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申立人に対する閲覧一部不許可通知書の作成者の肩書は「東京地方検察庁保管検察官」 検察法12条は、検事長又は検事正はその指揮監督する検察官の事務をその指揮監督する他の検察官に取り扱わせることができるとしており、 本件閲覧一部不許可処分をした検察官は関係通達により本件保管記録の保管検察官に指定されていた⇒当該処分を行う権限自体は有していた。 but 本件保管記録の閲覧に関する処分は、法により東京区検察庁の検察官のみが取り扱うことのできる事務とされている⇒東京区検察庁の検察官の職務として行ったとみるほかなく、このような場合、東京簡易裁判所は法8条1項にいう「保管検察官が所属する検察庁の対応する裁判所」に当たると考えられたもの。 |
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刑事p114 金沢家裁R5.3.9 ● |
一般遵守事項違反(同種再犯)を理由とする施設送致申請(更生保護法67条2項)がなされた事案 | |||
事案 | 令和3年少年法改正以前に保護観察に付された21際の元少年に対して、改正施行後に、一般遵守事項違反(同種再犯)を理由とする施設送致申請(更生保護法67条2項)がなされた事案。 | |||
家裁 | 少年法26条の4第1項の要件を満たしているとして本件申請を認容し、本人を第1種少年院送致とするとともに、同条2項の規定に従い、本人が23歳を越えない期間内において、収容期間を定めた。 | |||
解説 | ● | ●制度の沿革 | ||
平成19年以前: 少年院からの仮退院中に付される保護観察(現在の更生保護法48条2号)について、その過程で、少年が遵守事項を守らず再非行のおそれがある場合に、少年院への戻し収容という措置を取り得る一方 保護処分としての保護観察(少年法24条1項1号)は、独立の処分であるため、対応する措置がなく、保護観察の実効性を確保することができないという問題。 |
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⇒平成19年少年法改正により、 保護処分としての保護観察に付されている少年が遵守事項を守らない場合に、保護観察所長が ❶少年に警告を発し、少年がそれでもなお遵守事項を遵守せず、 ❷その程度が重いと認めるときには、 家庭裁判所に施設送致申請をし、 同裁判所が、さらに、 ❸保護観察によっては本人の改善及び更生を図ることができないと判断した場合には、少年を少年法24条1項2号または3号の保護処分に付すことができるようになった。 (更生保護法67条2項、少年法26条の4第1項) |
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令和3年改正: 2年の保護観察に付された特定少年について遵守事項があった場合には、保護観察所長は、施設送致申請ではなく、収容決定申請(少年法66条、更生保護法68条の2)をするものと定められ、家庭裁判所は、保護観察の決定をする際に、あらかじめ犯情の軽重を考慮して1年以下の収容期間を定めることとなった(少年法64条2項)。 but 特定少年について施設送致申請事件は係属しないと捉えるのは正確ではなく、本件のように、現在、特定少年またはそれ以上の年齢であったとしても、前件保護処分の根拠条文が少年法24条1項である場合、従来通り施設送致申請事件の対象である。 |
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● | ●施設送致申請事件における考慮要素 | |||
❷の考慮要素:遵守事項違反の程度が高いこと 保護観察によって本人の改善及び更生を図ることができないことを示す徴表を指し、 遵守事項違反の内容(遵守事項の違反に対して最終的に少年院送致等の措置をとることが妥当な内容であるか) 遵守違反事項の態様(違反がどの程度継続しているか、どのような原因で違反がなされているか、違反が社会にどの程度の犯罪的危険をもたらすものか) 指導監督の内容及びこれへの対応などの観点から総合的に判断。 |
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❸の考慮要素(保護観察によっては本人の改善及び更生を図ることができないこと) 家庭裁判所における審判時の要保護性を示すものであって、 申請に至るまでの本人の行状や保護観察の状況のほか、 本人の事情(本人の反省の有無、申請後の行状の重大な変化の有無、違反が今後も繰り返される見通しか)や それ以外の事情(申請後の本人を取り巻く環境の重大な変化の有無、そのまま保護観察を継続することによって具体的にどのような効果が期待できるか) を総合的に考慮して判断。 |
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● | ●本決定の内容 | |||
本件申請の約2年前に、SNSを通じて知り合った18歳未満の女子にわいせつな行為をしたという条例違反で「再び犯罪をすることがないよう、又は非行をなくすよう健全な生活態度を保持すること」という一般遵守事項等が設定されて、保護観察。 その後も18際に満たない女子に対し、性的目的でSNSを通じてメッセージを送るといった遵守事項違反を繰り返し、保護観察所長から2回の警告⇒10日後にも同種違反⇒本件申請。 |
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❷❸の要件を認め、第1種少年院送致の決定。 | ||||
本人は20際以上であったところ、このような者について少年院送致決定をした場合、少年院法のみによっては収容を継続できる期間が定まらない⇒本人が23歳を超えない範囲内において、少年院に収容する期間を定める必要(少年法26条の4第2項)。 | ||||
● | 全国的にも例のない、20歳以上の元少年についての施設送致申請事件における判断の1事例。 | |||