シンプラル法律事務所
〒530-0047 大阪市北区西天満2丁目6番8号 堂島ビルヂング823号室 【地図】
TEL(06)6363-1860 mail:
kawamura@simpral.com 


遺産分割・遺留分の実務

★第1編 遺産分割手続  
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
★第2編 遺言・遺留分  
     
     
     
☆第8章 特別受益  
     
     
     
  ◆4 特別受益が問題となる事例(4版・p250) 
     
     
  ◇(8) 建物の無断使用 
     
    賃料相当額が特別受益となり得るか?
    私見:
建物について賃料相当額が特別受益になる場合はない
理由:
@建物使用貸借は、恩恵的要素が強く、遺産の前渡しという性格は定型的に薄い
A
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
☆第16章 遺留分制度の概説(p443)
  ◆1 意義
  ◇(1) 定義 
    遺留分制度:被相続人が有していた相続財産について、その一定割合の承継を一定の法定相続人に保障する制度。
     
     
     
  ◇(3) 遺留分の侵害 
  ■@定義 
    被相続人が自由分を超えて処分をなし、その結果、相続人が現実に受ける相続利益が法定の遺留分額に満たない状態
  ■A 相続人の遺留分を侵害する遺贈・贈与の効力 
    減殺請求を内売る
     
  ◆2 遺留分権利者(遺留分権を有する相続人) 
  遺留分権利者:
被相続人の配偶者、子、直系尊属、子の代襲相続人
兄弟姉妹には遺留分はない
     
     
  ◆3 遺留分の割合(遺留分率) 
  ◇(1) 総体的遺留分の割合 
    遺留分権利者全体に残されるべき遺産全体に対する割合として定められている(総体的遺留分)
    @直系尊属のみが相続人⇒被相続人の財産の3分の1
Aそれ以外の場合⇒被相続人の財産の2分の1
     
  ◇(2) 個別的遺留分の割合
    個別的理由分の割合=総体的遺留分緒割合×法的相続分の割合 
     
     
  ◆4 遺留分額の算定 
  ◇(1) 遺留分の算定の基礎となる財産額 
    遺留分算定の基礎となる財産額=
@被相続人が相続開始時に有していた財産の価額+
A贈与財産の価額ー
B相続債務の全額

Aは、被相続人が死亡する直前に所有財産のほとんどを他人に贈与していた場合には、遺留分制度の目的が達成できなくなる。
  ◇(2) 加算される贈与 (p452)
    @相続開始前の1年間にされた贈与
=贈与契約が相続開始前の1年間に締結されたことを意味する
    A遺留分の権利者に損害を加えることを知った贈与
「損害を加えることを知って」とは、遺留分を侵害する認識があればよい。
    B不相当な対価でなされた有償処分
〜対価を差し引いた残額が贈与として加算される。
     
  ※設例16−4:生命保険金受取人の変更 
受取人をAの父名義に変更することは、減殺の対象とならない。
被相続人Aの父が取得した死亡保険金請求権は、遺留分額に加算される贈与に当たらない。

@死亡保険金請求権は、指定された保険金受取人が自己の固有の権利として取得するのであり、保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく、これらの者の相続財産を構成するものではないというべき。
A死亡保険金請求権は、被保険者の死亡時に初めて発生するものであり、保険契約者の稼働能力に代わる給付でもないのであって、死亡保険金請求権が実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることもできない。
(最高裁)
     
    C特別受益としての贈与
〜特段の事情のない限り、相続開始1年前であるか否かを問わずまた、損害を加えることの認識の有無を問わず、すべて加算される。
  ※16−5:持ち戻しを免除された贈与価額の取扱い 
持ち戻し免除の意思表示がある場合においても、その贈与は、遺留分算定の基礎となる財産に算入される。

遺留分制度の趣旨等に鑑みれば、被相続人が、特別受益に当たる贈与につき、当該贈与に係る財産の価額を相続財産に算入することを要しない旨の意思表示(「持戻し免除の意思表示」)をしていた場合であっても、上記価額は遺留分算定の基礎となる財産額に算入される。
(最高裁)
     
  ※16−6 特別受益を受けた者の相続放棄
相続放棄⇒相続人としての地位を失う⇒受贈者Bが相続放棄をしてしまえば、もはや相続人が受ける特別受益としての贈与という観点から贈与財産を持ち戻すことはできない。
⇒遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与に当たるか否かで処理するしかない。
     
     
     
  ◇(3) 基礎財産への参入が問題となる財産 
     
  ◇(4) 控除される債務 
     
  ◇(5) 遺留分算定の基礎となる財産の評価 
    @過去の贈与の評価基準時:
相続開始時 
    A贈与財産の評価方法:
贈与された金銭の額を物価指数に従って相続開始の時の貨幣価値に換算する 
    B遺留分を算定する場合における鑑定人の選任 
     
  ◇(6) 遺留分額
    遺留分額
=遺留分算定の基礎となる財産額×個別的遺留分の割合
=(被相続人が相続開始時に有していた財産の価額+贈与財産の価額ー相続債務の全額)
×(民法1028条所定の遺留分の割合×法定相続分の割合)
     
     
  ◆5 算定式のまとめ 
     
     
     
☆第17章 遺留分減殺請求権 (p459)
  ◆1 意義 
    遺留分の減殺:
被相続人が自由分を超えて贈与や遺贈を行ったため遺留分が侵害されたときに、
受遺者や受贈者などに対して、その処分行為の効力を奪うこと

遺留分減殺を内容とする相続人の権利:遺留分減殺請求権
     
  ◆2 遺留分の減殺を請求できる者 
    @遺留分権利者:
兄弟姉妹及びその代襲者を除く相続人
     
  ◆3 遺留分減殺請求の相手方 
    減殺の対象となる遺贈・贈与の受遺者・受贈者及びその包括承継人
  ◆4 遺留分減殺請求権の行使(p461)
    意思表示の方法によればよく、必ずしも訴えの方法によることを要しない。
裁判外でもよく、裁判で抗弁として主張した場合でもよい。
    訴えの方法により遺留分減殺請求権を行使した場合、遺留分減殺請求権自体が訴訟物となるものではない。
減殺請求の効果として、遺留分権利者に帰属していた権利である所有権や持分権の確認の訴え、あるいは所有権等に基づいて目的物に対する給付の訴えを提起。
     
  ◆5 遺留分減殺請求に関する紛争解決手続 
  ◇(1) 裁判所の管轄
    遺留分減殺に関する紛争は、訴訟事項。
管轄裁判所:相続開始時における被相続人の普通裁判籍所在地の地方裁判所又は簡易裁判所。(民訴5条14号)
    but
遺留分をめぐる事件は、被相続人の相続に関する紛争
⇒「家庭に関する事件」として家裁の調停がでこる。(家事法244条)
⇒調停前置(家事法257条)。
「家庭に関する事件」とは、
@親族又はこれに準ずる者との間という一定の身分関係の存在、
Aその間における紛争の存在、
B人間関係調整の余地の存在の
3つの要素を備えている事件。
    遺留分に関わる事項は、家事事件手続法別表第2に定める審判事項ではなく、その他の過程に関する事件(一般調停事件)
調停不成立の場合には、家庭裁判所の審判ではなく、民事訴訟で解決。(家事法272条3項)
  ◇(2) 調停事件の申立て 
  ■@ 申立ての趣旨
異臭分権利者が遺留分減殺請求権を行使した上で、
受遺者又は受贈者に対し、
相続財産に属する物件の返還を求める。
  ■A 申立権者
  ■B 管轄 
    相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所(家事法245条1項)
民訴法で定められている被相続人の相続開始時の住所地(民訴5条14号)に管轄はない。
  ■C 調停申立てに必要な書類 
    ア 戸籍関係
イ 遺産関係
    ウ 遺留分減殺請求を行使したことを疎明する資料
  ■D 調停申立て時の留意事項 
     
  ◇(3) 受遺者又は受贈者からの調停申立て 
     
   
     
     
  ◆6 遺留分減殺請求の効果 
  ◇(1) 基本的効力
    遺留分減殺請求権行使
遺留分を侵害する贈与や遺贈は、侵害の限度で失効し、
贈与や遺贈が未履行⇒履行義務を免れ
既に履行⇒返還を請求できる

贈与や遺贈の目的物は受贈者・受遺者と減殺請求者との共有関係になる。
    減殺請求の相手方:
現物を返還するのが原則
but
価額で弁償することも許される。(民法1041条)
  ◇(2) 遺留分減殺請求権の法的性質 
    遺留分減殺請求権行使⇒遺留分減殺請求権に服する範囲で遺留分侵害行為(贈与・遺贈)の効力は消滅し、目的物の権利は当然に遺留分権利者に復帰
(形成権=物権説)
最高裁昭和41.7.14:
遺留分権利者が民法1031条に基づいて行う減殺請求権は形成権であって、その権利の行使は受贈者または受遺者に対する意思表示によってなせば足り、必ずしも裁判上の請求による必要はない。
一旦その意思表示がなされる⇒法律上当然に減殺の効力を生ずる
  ◇(3) 第三者との関係
     
  ◇(4) その他の効力 
    受贈者は、その返還すべき財産のほか、減殺の請求があた日以後の果実を返還しなければならない。
     
     
  ◆7 遺留分侵害額(p468)
  ◇(1) 遺留分侵害額の算定 
    遺留分侵害額=
遺留分額ー
(遺留分権利者が相続によって得た財産額ー相続債務分担額)ー
(特別受益額+遺贈額)
     
■発展:遺留分権利者が相続によって得た財産額についての検討 
  □(1) 遺産分割が先行して行われている場合 
  □(2)遺産分割が行われておらず、未分割遺産が存在する場合 
遺留分侵害額を算定するに当たり、遺留分額から相続によって得た財産額を控除
未分割遺産(未処理遺産)についての相続分をどのように考えるか?
A:法定相続分説

具体的相続分は、実体法上の権利ではなく、相続開始時には確定していない
vs.
@特別受益のある場合でも考慮されないことになる。
A遺留分減殺請求における遺留分侵害額の計算において、特別受益を考慮して公平を図ろうとする趣旨に合致しない。

〇B:具体的相続分説:
遺産分割が行われたと仮定した場合の共同相続人の具体的相続分を算定して、遺留分侵害額を算出
(←遺産分割が行われれば、共同相続人が具体的相続分に対応する財産を取得する。

@特別受益の有無は、相続開始時までに生じた事実であり、その価額を織り込んだ具体的相続分は相続開始時に観念し得る。
A最高裁H12.2.24は、具体的相続分が「遺産分割審判事件における遺産の分割や遺留分減殺請求に関する訴訟事件における遺留分の確定等のための前提問題として審理判断される」ことを否定していない。
松原正明:法定相続分説
遺留分減殺請求訴訟において、地裁が、遺留分を算定する際に遺産分割遺産における相続分を考慮⇒具体的相続分ではなく、法廷相続分によるべき。

遺留分の侵害額は相続開始時に算定され、確定されなければならないが、
その際、考慮すべきなのは、同時期すなわち相続開始時における、未分割遺産に対する相続人らの権利の割合であるところ、
それは法廷相続分と解すべき。
私見:
具体的相続分説が合理的。
but
地裁の民事訴訟において、寄与分による修正を加えた最終的な相続分をもとに遺留分算定の前提となる「遺留分権利者が被相続人から相続で取得した積極財産額」を算定することはできない。
寄与分の有無及びその額は、審判事項であるから、地裁において、寄与分による修正を加えた最終的な相続分を判定することはできない。
     
  ◆8 遺留分減殺の順序(p478)
  ◇(1) 遺贈と贈与
    @まず遺贈から減殺する。
     
  ◇(2) 死因贈与 
     
  ◇(3) 「特定の遺産を特定の相続人に相続させる」旨の遺言
     
  ◇(4) 受贈者が無資力の場合 
    損失は遺留分権利者の負担となり、他の贈与に対して減殺請求することはできない(1037条)。
     
  ◇(5) 減殺対象の選択 
    遺留分権利者は、減殺すべき物件を選択して減殺請求することはできない。

@選択を認めれば、受遺者側の事情が無視され、受遺者にとって必要不可欠の物件に対して減殺されることを受忍せざるを得なくなる。
A共同相続人に対する遺贈の減殺においては本来遺産分割手続によって決定されるべき権利関係の一部を減殺請求権者から先取りすること認める結果をもたらすことになる。
    遺留分権利者には物件を選択する権利はないが、他方、受遺者、受贈者には価額弁償をする物件を選択する権利がある。
     
  ●17-6:
被相続人A
Aの相続人はWのみ
Aの遺産5000万円、債務3000万円
Aは
死亡3か月前にBに2000万円の不動産と500万円の預金
9か月前にCに株券3500万円
を贈与。
Dにも1500万円の遺贈。 
遺留分侵害額は3500万円。
@Dへの遺贈1500万円を減殺⇒WはDに対し履行義務を免れる。
A不足する2000万円は、Bに減殺請求が、不動産贈与と預金贈与のいずれかを選択はできない。

WとBは、2000万:2500万(不動産贈与と預金贈与の合計)=4:5の持分割合での共有関係に。
     
  ◇(6) 共同相続人相互間の減殺請求(p482) 
    遺留分権利者である共同相続人に対してなされた遺贈や贈与が、他の共同相続人の遺留分を侵害する場合、減殺の対象となる部分は遺贈や贈与の価額全額まだ及ぶか?
減殺の対象となるのは、その遺贈や贈与がその者の遺留分額を超えている部分だけ。
    最高裁H10.2.26:
相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象となるべき場合においては、右遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみが、民法1034条にいう目的の価額に当たるものというべき。
  ●17-8:
被相続人Aの遺産8000万円
相続人:B、C、D、Eの4人の子供。
Bに5000万円
Cに2000万円
Dに1000万円
の遺贈。 
遺留分:1000万円
遺留分超過額
B⇒4000万円
C⇒1000万円
D⇒0
Eの減殺請求額:
Bに対して800万円
Cに対して200万円
     
  ◇(7) 共同相続において相続分の指定、特別受益の持戻し免除等があった場合と遺留分侵害 
  ■@ 問題の背景 
    減殺の対象は、法律上遺贈と贈与に限定
but
相続分の指定(902条1項ただし書)
特別受益の持戻し免除(903条3項)
遺産分割方法の指定(941条)

特定の相続人が大部分の遺産を相続する場合もあり、他の相続人の遺留分侵害が起こる。
  ■A 結論 
    遺留分を超える相続分の指定、持ち戻しの免除、遺産分割方法の指定、共同相続人間の担保責任の免除

遺留分権利者の減殺請求により、侵害の限度で効力を失う。
  ■B 遺留分を超える相続分の指定の効力
     
  ■C 特別受益に当たる贈与についてされたいわゆる持戻し免除の意思表示が遺留分減殺請求により減殺された場合 
  □ア 特別受益に当たる贈与に係る財産の価額の遺留分算定の基礎となる財産額への参入
    持戻し免除の意思表示をしている場合であっても、遺留分算定の基礎となる財産額に算入される。(判例)
  □イ 持戻し免除の意思表示が遺留分減殺請求により減殺された場合の効果
    遺留分減殺請求により特別受益に当たる贈与についてされた持戻し免除の意思表示が減殺

持戻し免除の意思表示は、遺留分を侵害する限度で失効し、当該贈与に係る財産の価額は、上記の限度で、遺留分権利者である相続人の相続分に加算され、当該贈与を受けた相続人の相続分から控除される。
     
  ◆9 遺留分減殺請求権と価額弁償(p488)
  ◇(1) 現物返還 
     
  ◇(2) 現物返還に代わる価額弁償(減殺請求の相手方からの価額弁償権) 
  ■@ 意義 
    特定物の贈与・遺贈の場合、減殺請求の相手方は、現物を返還するのが原則。
but
価額で弁償することも許される。(1041条)

分割によって経済的・社会的価値を著しく喪失する場合に現物での分割や返還を免れるため。
  ■A 要件 
  □ア 履行又は履行の提供
    単に価額の弁償をなすべき旨の意思表示をしただけでは足りず、価額の弁償を現実に履行するか、あるいは化学文章のための履行の提供をして、初めて現物返済を免れる。
  □イ 
    遺留分権利者:
受遺者が価額弁償の意思表示⇒遺留分減殺に基づく現物返還請求権もそれに代わる価額弁償請求権も行使できる。
     
  □ウ 目的財産の各個についてなされる価額弁償 
     
  ■B 価額弁償がなされるときの目的物の価額算定の基準時
    弁償すべき価額の算定時は、事実審の口頭弁論終結時。
     
  ■C 受遺者が裁判所が定めた価額による価額弁償の意思表示をした場合における遺留分権利者の目的物返還請求訴訟の主文 
     
  ■D 受遺者又は受贈者からの弁済すべき額の確定を求める訴えの可否 
     
  ■E 価額弁償請求に係る遅延損害金の起算日 
    遺留分権利者が価額弁償請求権を確定的に取得し、かつ、受遺者に対し弁償金の支払を請求した翌日。
     
  ■F 価額弁償の効力 
    価額弁償の法的関係
(1)遺留分権利者の減殺請求により、
@贈与・遺贈が遺留分侵害の程度で失効し、
A目的物がその限度で遺留分減殺請求者に復帰し、
B遺留分減殺請求者と受贈者・受遺者の共有関係が生じ、
(2)受贈者・受遺者が価額弁償を選択することにより、
復帰した権利(持分)が遺留分減殺請求者から受贈者・受遺者へ移転する
というプロセスをただおる。
    判例:
遺留分減殺の対象となる財産は、初めから受贈者・受遺者に帰属していたという扱いをしている。
     
  ■G 遺贈に対する遺留分減殺請求について価額による弁償が行われた場合と所得税法59条1項1号による遺贈 
     
  ◇(3) 遺留分権利者の受贈者・受遺者に対する価額弁償請求権 
  ■@ 目的物が減殺請求前に第三者に譲渡された場合の価額弁償 
     
  ■A 弁償すべき価額と「処分価格」 
    弁償すべき価額:目的物の譲渡時の評価額 
     
     
     
  ◆10 遺留分減殺請求権の法律関係(財産の分割手続)(p498) 
     
  ◇(1) 民事訴訟手続(家庭裁判所の一般調停事件を含む。)が必要な場合
  ■@ 減殺請求をして取り戻した場合 
  通説・判例:
遺留分減殺請求権者の固有財産となり、相続財産には復帰しない⇒共同相続の場合であっても遺産分割の対象とならない。

ア 遺留分減殺請求権を行使した者は、訴訟手続において、遺留分減殺請求権行使により自己に帰属した持分の確認や、この持分に基づく自己への所有権移転登記手続などを求めることができる。
イ 取り戻したのが個別財産上の持分⇒その物の分割手続は、物権法上の共有物分割手続によることになる。 
     
  ■A 全部包括遺贈の場合 
    訴訟による共有物分割手続によって共有関係を解消する。
     
  ◇(2) 遺産分割手続(家庭裁判所の審判及び調停)が必要な場合 
    割合的包括遺贈、相続分の指定、相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定、割相的「相続させる」胸の遺言
⇒遺留分減殺請求後に協議が調わないときは、家裁の遺産分割手続による。
     
  ◇(3) 遺留分減殺請求訴訟と家庭裁判所の遺産分割手続との関係 
    特定遺贈、贈与、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言:
@遺留分減殺請求訴訟における減殺請求⇒権利の確認⇒地裁(簡裁を含む)の共有物分割手続
Aその余の未分割遺産⇒家裁の遺産分割手続によって各相続人間における遺産帰属が具体的に確定
    二宮論文:
共同相続人間で遺留分減殺請求:
相続人間の遺産の分配をめぐる紛争⇒
@遺産分割的な要素をもつと同時に
A減殺請求した遺留分権利者と受遺者・受贈者との個別的な共有関係
としての要素をもつ。

相続人間の紛争であることを優先し、相続債務や特別受益の有無、寄与分の考慮、事業承継の必要性、各共同相続人の抱える事情などを総合的の考慮して、各相続人の遺留分額を算定し、当該遺言や生前贈与などによる遺留分侵害額を明らかにし、侵害された相続人に減殺の意思があるどうかを確認し、その上で、遺贈や「相続させる」旨の遺言んどの遺言処分を履行させる(占有や登記の移転)ことまで行うべき。
     
  ◆11 遺留分減殺請求権行使の制限(p503)
  ◇(1) 遺留分減殺請求権の消滅時効 
  規定 民法 第1042条(減殺請求権の期間の制限)
減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
   
相続関係に基づく権利変動はなるべく短期に決着をつけることによって法律関係の確定や取引の保護を図ろうとするもの。
    判例:
「減殺すべき贈与又は遺贈のあったことを知った時」とは、
贈与や遺贈が自己の遺留分を侵害し、減殺の対象となることまで認識していることが必要。
最高裁昭和57.11.12:
but
民法が遺留分減殺請求権につき特別の短期消滅時効を規定した趣旨に鑑みれば、
遺留分権利者が訴訟上無効の主張をしさえすれば、それが根拠のない言いがかりにすぎない場合であっても時効は進行を始めないとするのは相当ではない

被相続人の財産のほとんど全部が贈与されていて遺留分権利者が右事実を認識しているという場合においては、無効の主張について、一応、事実上及び法律上の根拠があって、遺留分権利者が右無効を信じているため遺留分減殺請求権を行使しなかったことがもっともと首肯しうる特段の事情が認められない限り、右贈与が減殺することのできるものであることを知っていたものと推認するのが相当。