シンプラル法律事務所
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慰謝料関係(資料)

★慰謝料をめぐる問題・・・慰謝料はどのような場合に発生するか
現代訴訟の論点と法理論の検討  
☆T 問題意識
  民法 第七〇九条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法 第七一〇条(財産以外の損害の賠償)
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
  民法710条:財産権侵害の場合にも慰謝料請求権が発生し得る。
but
商取引において、偽証等の不法行為があったために敗訴したとしても、それによって被る損害は、一般には財産上の損害だけであり、そのほかになお慰謝を要する精神上の損害も併せて生じたと言い得るためには、侵害された利益に対し、財産価値以外に考慮に値する主観的精神的価値をも認めていたような特別の事情が存在しなければならない(最高裁昭和42.4.27)。

財産権侵害の場合に慰謝料請求権が認められる事例は例外的。
    慰謝料請求権が認められた裁判例:
選挙カー
ペットの損害、陶芸家の陶芸作品が壊された場合
墓石が損傷を受けた
but
どのような要素がどの程度必要なのか、純粋に主観的な事情があればいいのか、あるいは加害者も知り得たような事情が無ければいけないのかなど、その基準は明らかでない。
    問題提起:
思い出の品、アルバムが汚されたような場合

名誉、プライバシーが侵害⇒人格的な利益の侵害がある場合には、一般に慰謝料請求権が認められる。
but上記の例に当たらない場合。
ex.
それ自体プライバシーとは言い難いような個人情報の漏えいがあった場合
自己についての誤った情報が発信された場合
     
☆U 慰謝料請求の根拠・本質  
  ◆1.従来の判例・学説 
    709条によって、有形・無形の損害いずれも賠償対象になり得る
but
財産上の損害以外が賠償対象にならないという誤解を避けるため、710条を設けた(=確認規定)。
    不法行為の本質論:
損害填補が不法行為制度の本質。
判例通説:不法行為法が制裁とか抑止という機能を事実上有する、あるいは反射的な効果として持つことはあっても、それ自体を正面から不法行為制度の目的のように捉えることについては、否定的な立場。(懲罰的損害賠償を否定した最高裁判決H9.7.11)
    損害填補といっても、
精神的損害というものは金銭評価することが本来的には不能。
but
実際には何とか金銭によって賠償をさせる。
A:精神的苦痛の度合いを無理矢理にでも客観的に評価して、財産的損害と似たような方法で賠償
〇B:精神的苦痛は金銭評価できない⇒金銭を給付する形で被害者を満足させることによって、あるいはその金銭を給付させて何らかの享楽等に用いさせることによって、精神状態を回復させる、それが慰謝料の機能
    精神的損害を金銭的に評価することが本来はできない⇒裁判所の裁量を認めることにつながる。
算定根拠を逐一示す必要もない(最高裁)。

補完的機能
・財産的損害が証明困難な場合に慰謝料で補完
・算定式では足りない、男女間の不平等⇒慰謝料で考慮
    精神的損害以外の無形の損害も710条によって賠償対象になり得る(最高裁昭和39.11.28)。
「無形の損害」は、実際には抽象的な財産的損害⇒この賠償を710条によって認めるというのも、実質的には慰謝料の補完的機能と結びついてくる。
     
  ◆2.慰謝料という言葉の意味
    最高裁39年判決は病院に対する名誉毀損の事案において、法人の慰謝料があるかどうかという文脈で議論⇒「慰謝料」という言葉ではなく「無形の損害」という言葉を使って、自然人であれば慰謝料に当たるようなものを説明するもの。
     
  ◆3.精神的損害の認定 
    精神的損害の認定に精神科医の診断書は必要ない。
    ある程度類型的に考えて、身体的な損傷を受けた、怪我をしたという場合には、精神的な損害もある⇒こういう怪我だったらこのぐらいとように考えるのが、裁判官の道筋。
慰謝料の金額を決めるときには、その行為によって、一般的な人であれば、どのぐらいの精神的なダメージを受けるのかという観点とともに、その人が実際にどのくらいの精神的ダメージを受けたかという観点からも併せて検討。
⇒事案によっては、その人が実際に受けた精神的ダメージの程度を立証するために診断書が証拠として提出されることもある。
    慰謝料の多寡も大問題だが、それ以前に非典型的な場合に、慰謝料を認めていいのかという点が、1番の悩みどころ。
    名誉とか信用徒とか、そういう人格的な価値として確立しているもの、それについて傷付けられた⇒慰謝料という形で損害賠償を認めている。
身体的な損傷を受けたときにも、同様に慰謝料を認めている。
このような場合に当てはまらないときに慰謝料が認められるべきかが分からなくなるのは、一般的に精神的な苦痛とか精神的な損害と言われているものの実態をつかみきれていないところにある。
     
  ◆4.債務不履行と慰謝料 
    道垣内:
債務不履行の場合に慰謝料が認められるかという議論が何故あるかわからない。
山田:
財産的損害があって、それの補填がされるのであれば、それで損害が補填されると割り切る考え方もある。
100万円の指輪がなくなって付けていけなかったから「100万円で違う指輪を買いなさい」「後でそれは補填されますよ。」
再度購入する手間がかかった、付けていく機会が奪われたというところについて、どこまで慰謝料を認めるべきかということで、それなりにハードルが高い。
vs.
不法行為でも同じ。
山本:
定期行為?
後から次の日に借りられたとしても意味がない。成人の日は一生に1回しかない。
この場合はやはり何か、慰謝料ということはないのか?
     
☆V 財産権侵害ケース  
  ◆1.従来の判例・学説 
    非侵害権利あるいは被侵害利益が財産権・財産的利益か非財産権・非財産的利益かということと、損害が財産的か非財産的、精神的かということは、1対1の関係にはない。
    例外的に精神的損害の賠償が認められる場合:
@特別の主観的精神的価値のあるもの(ペット、陶芸作品、墓石)
A加害行為が著しく反道徳的、著しい精神的打撃を与えることを目的として加害した場合、被害者に著しい精神的な苦痛を生じせしめる状況の下で加害行為が行われた場合
B生活に関係の深い財産権(ex.住居)が侵害された場合
選挙カーの事案:実際に精神的損害として問題になっているのは、選挙活動がその後に円満にできなくなったという、精神的損害で、3類型とはちょっと違う。
    算定の際の考慮要素:

生命・身体侵害:
被害者と加害者の年齢、学歴、職業、社会的地位、財産状態、
加害者の主観的態様、被害者の過失等々

名誉毀損:
上記に加え、内容の真実性や、真実と信じるについての相当性、何目的の表現だったのかといったこと等

加害者側の事情を考慮することについては、およそ実務ではこれで動いてきている。
    709条の損害として問題となったとしても、709条の要件の因果関係が更に問題になり得る。
権利侵害あるいは違法行為と問題の精神的損害との間に因果関係がなければならない。
相当因果関係説⇒
問題の精神的損害が
通常生ずべき損害か、あるいは、
そのような精神的損害の発生に関する事情を当事者(加害者)が予見すべきであった
と言えることが必要。
特別な主観的精神的価値があるという場合には、予見可能性を問題としている特別損害として捉えられているケースが多い。
加害態様の悪質な場合についても、全部予見可能性が必要である、つまり、特別損害として処理されると書かれている文献も多い。
but
最高裁昭和35.3.10は、予見可能性を問題としていないのではない、通常損害として処理する場合があると言っているのではないかとの指摘。
まず、損害レベルでの議論があり、その上で、因果関係のところで更に枠がはまる。
  ●  物に対するその時代その時代の価値観によって、だいぶ変わってくる。
かつてはペットについても慰謝料に関してはかなり厳しい態度。
but
今では、ペットの慰謝料は、かなり広く認められるようになってきている。
  物に対する思い入れや価値観は、同じ時代でも人それぞれ。

実務的に慰謝料を認めていいだろうというのは、これはやはり大多数が思い入れを持つだろうというラインまで下がってくる。
  家族同然
家族の象徴
陶芸作品:無体物の面から見れば、著作者人格権(=思い入れを保護)が認められるようなタイプのもの。
  加害行為が反道徳的という類型: 
2番目の類型について、1番目の類型だったと落ちてしまうようなものでも、財産権でカバーされる場合はあるという、机上ではそういう話し。
純粋に主観的な事情だけでは特別の主観的精神的な価値を持っているとは恐らく認めてもらえない⇒そもそも「損害として認められない。
仮にこれを損害として認めたところで、通常損害でもなければ特別損害でもないということで、因果関係が否定。
加害者も知り得た事情がある場合には、加害者だけではなくて、これが考慮すべき主観的精神的価値なのだと認められれば、まず損害のところはクリアし、その上で特別損害として相当因果関係が認められる。
     
  ◆2.生活に深い関係のある財産権(住居等)の侵害と慰謝料 
    第3類型:
平穏生活権侵害⇒財産権侵害と人格権侵害が双方起っていて、人格権侵害の部分についても賠償が認められるにすぎない。
道垣内:第1類型と同じでは?
自分の住居として思い入れがあるところに住めなくなってしまったというのは、思い出の品が壊された場合の精神的な損害と同様⇒第1類型と同じ。
    道垣内:
外から丸見えになって安心して暮らせない⇒ホテル代あるいはアパート代相当額の請求ができるのではないか?
もちろん、ホテルに行かなくても自由なのだけど、実際に修理がされるまでの期間、完全な形ではその住居は使えなかった。例えば8割しかまともに使えない⇒居住利益の2割減という形で考えるべき話で、それを慰謝料というかたちで議論するというのが分からない。
(=居住利益の財産的侵害)
     
  ◆3.財産権侵害による財産的損害と精神的損害 
    小粥:
所有権というのは、その土地に対する愛着も込みだというように、ウェットな所有権というように考えれば、そこに慰謝料を足す必要はないかもしれない。
    道垣内:
1億円相当の不動産が壊されて住めなくなって、家を修理するのに1か月かかり、修理費相当額が支払われれば財産権的損害に対する賠償は尽きたとは、これまで理解されてこなかった。
つまり、1か月使用できなかったことが問題になっているが、それは財産的な侵害の話。
    道垣内:
財産的な価値の賠償という場合の財産的価値は、市場価値なのか?という問題。
ex.
曾祖父からの形見の時計で、アンティーク価格が10万円でも、主観的価値として100万円ということを主張することがあり得るか?
被害者の主観的価値が妥当し得るという抽象的なルールが認められたとしても、損害額の立証責任は被害者側にある。
ただ、それは、財産的価値の立証の問題であり、曾祖父の時計を壊されたからといって、精神的損害を別項目として立証しなければならないわけではないと思う。
    朝倉:
実務的には、財産的価値はたぶん市場価値で評価される。
それを超える部分は、財産的損害の問題ではなく、精神的損害の有無と金額の問題として検討されるというのが、実務的にほぼ一致した取扱い。
    道垣内:
アンティーク時計が不法行為により壊された⇒損害額は市場価格で評価。
but
著名な人物の曾孫が「祖父母の形見だ」と思いながら、その時計を所有しているときは、曾祖父の形見だという点が市場では評価されていない、
    朝倉:
同じものがあればいいとういのではなく、「小学校6年生のときに、あの教室で、あの先生から皆で一緒にもらって、ずっと大切にしてkちあこのアルバムだよ」ということについての価値は市場価値には入っていない⇒精神的損害というのは、その部分。
    道垣内:
故意と過失の区別ではなく、実際に生じている損害の差ではないかと思う。
何かされてしまったけれども、相手はミスでそうやってしまったとうい場合に受ける精神的ダメージと、憎くて無理にこういやったという場合に受ける精神的ダメージは違う。
それだけの話のような気もする。
過失不法行為の損害賠償の範囲は保護範囲によって定まるが、故意不法行為の場合には事実的因果関係にあるすべての賠償が対象となるという見解には賛成できないが、
加害者側の認識、つまり、それは誰それにとって重要な、曾祖父から引き継いだこういうものだということが分かっていて毀損した場合と、分からなくて毀損した場合とは、損害額が違い得るとは思っている。
民法416条の類推適用に当たってそうなるということ。
@損害があるかという問題
Aその損害が賠償の対象となるかという問題
B更に故意の話が意味を持ってくる。
     
  ◆4.財産的損害がない場合の慰謝料 
    朝倉:
市場価値があるものの場合には、一般的には慰謝料を認めない。
にもかかわらず、思い出が同じ程度であっても、市場価値すなわち財産的価値がゼロになってしまったときに慰謝料を認めるか否かが悩ましく、認められる例もある。 
    岸:
外貌醜状が残った場合で財産的な損害はないに等しい場合
医療事故でガーゼを置き忘れて、健康上何ら問題ない場合
物の毀損の場合で、財産的な損害がゼロ、あるいはそれに等しい場合でも、精神的な苦痛がそれとは比肩できないぐらい大きい場合
    岸:
医療事故の因果関係論で、高度の蓋然性が認められないけれども相当程度の可能性が認められる場合には慰謝料だけ認める。
     
    朝倉:
財産的損害が生じたことが立証されていないときには、それは精神的損害と併せて評価して慰謝料額に反映させてもいいという説に立ち、そのケースでは財産的損害の額が小さいから立証されていないに等しいと考えることになる。
    村田:
ずっと実務か教科書類でも定着している、
財産的損害をてん補すれば、精神的損害は填補慰謝される⇒精神的損害の賠償は要しない。
vs.
愛着は愛着としてずっとある。
     
    朝倉:
思い入れがあったらどんな場合でも慰謝料を請求できる⇒被害者がどのぐらいその物に対する愛着審が強い人かによって慰謝料の有無や金額が異なることになる⇒損害賠償が混乱して住みにくい世の中になる。
     
☆W 人格的権利・利益侵害ケース  
  ◆1.被侵害権利・利益を把握することの難しさ 
     
    道垣内:
抽象的にいえば、
一方で、権利・法益侵害があるのは確かであり、
他方では、被害者が主観的には悲しい思いをしたり、ショックを受けたりしたことは確か。
but
その2つがあり、その間に因果関係があれば、必ずそんな場合にも慰謝料が認められるのか、それとも、当該精神的ダメージが、精神的損害の賠償ないし慰謝料としての支払の対象となるというためには、もう1つクリアすべき何かがあるのか、という問題。
     
  ◆2.人格的な権利利益の侵害があれば必ず慰謝料が発生するのか
    道垣内:
権利侵害、法益侵害とういときには、その権利や法益が保護に値するかどうかということが議論される。
他方で、主観的に悲しかったり不安だったりするといったときに、それが損害として評価されるかどうかという点にもスクリーニングはある。
    朝倉:慰謝料を認めるほどの精神的な損害ではない。
    道垣内:
不法行為の成立のためには「法律上保護された利益」の侵害が必要であって、「利益」に当たれば、それだけで法律上保護されるわけではないのと同じように、「損害」ではないという言い方もできる。
賠償対象となる損害とならない損害がある、
    道垣内:
名誉毀損にせよ何にせよ、なかなかそれが違法行為あるいは権利侵害行為であると認められなかった時代においては、そこにおけるスクリーニングで全てが方がついていた。
but
人格権概念とか、プライバシー概念が広く認められることになって、そこの吸うりーにんぐ機能が衰えてきた。

別のところにスクリーニング機能が必要かという問題。
    山田:
大学主催の講演会に参加した額壊死が大学に提供した学籍番号、氏名、住所及び電話番号に係る情報についてプライバシーに係る情報として法的保護の対象となる旨を判示したH15.9.12最高裁。
     
  ◆3.損害の認定と損害額の評価 
    朝倉:法益侵害はあるけど損害はない。
    民訴的には、248条⇒損害があれば、損害額はやはり裁判所が算定すべきという規範
⇒損害はないという説明。
    道垣内:
裁判所は当該事件において使いやすいところでコントロールしている。
違法性
過失
因果関係
損害
     
☆X おわりに