シンプラル法律事務所
〒530-0047 大阪市北区西天満2丁目6番8号 堂島ビルヂング823号室 【地図】
TEL(06)6363-1860 mail:
kawamura@simpral.com 


子の引渡し関係

子の引渡し・監護者指定に関する最近の裁判例の傾向について(松本哲泓 元大阪高裁総括判事)
家裁月報63・9
  ★1 はじめに
  ★2 最近の裁判例の傾向
  ◆(1) 母親優先の原則 
  ◆(2) 主たる監護者 
  ◇ア 主たる監護者の意味等 
  ◇イ 主たる監護者であることを重視した例 
  ◇ウ 主たる監護者の監護に問題があるとされた例 
  ◇エ 主たる監護者であることを監護者指定の前提にできない場合 
  ◆(3) 現状の監護の継続性 
  ◆(4) 監護態勢 
  ◇ア 監護態勢の優劣 
  ◇イ 母親の監護態勢に不安がある場合 
  ◇ウ 父親の監護態勢に問題がある場合 
  ◆(5) 看護補助者 
  ◇ア 補助体制の必要性 
  ◇イ 監護補助者による監護の位置付け 
  ◆(6) 違法な監護の開始(p27)
  ◇ア 違法な監護開始と子の福祉の関係(p27) 
    @違法な連れ去りによって有利な地位を獲得することを許すことは違法行為を助長させる結果となる
A法律や社会規範を無視する者には監護者とそしての適格性を疑わせる

そのような違法な行為をせざるを得ないような特段の事情がない限り、これを不問にすることはできない。
but
その監護の開始が違法であるからとっても、それだけで直ちに監護者となる資格がないということはできない。
これよりも子の福祉が優先される。
監護開始の違法性が強い⇒それが監護者としての適格性を疑わせる⇒これを主な理由として原状回復としての子の引渡しが肯定される。
but
監護の開始が相手方の承諾を得ていなくても、違法とまではいえない場合や、違法性が低い場合

原則的に、子の福祉の観点から監護態勢の優劣等によって決せられる。
  ◇イ 違法性が強い例(p28) 
●22:札幌高裁H17.6.3
    母親が、別居に当たって、実家に連れて行き、その後、父親においてもこれを前提に面会交流。
 
     
     
  ◇ウ 面会交流の際の連れ去り等(p29)
    面会交流により預かった未成年者を戻さなかった事例では、原状回復が認められる場合が多い。
これらの事例では、面会交流後に未成年者を戻さなかったこと自体を理由にはしていない。
but
面会交流の実施は未成年者の福祉に重要な意義を持つものであるところ、その実施後に未成年者が戻されないことがあるとすれば、面会交流の実施は著しく困難になる。
⇒面会交流における約束違反は、それ自体を原状回復の理由にすることができるのではないかと思われる。
 
   
 
  ◇エ 他方の親の同意のない監護の開始(p30)
 
    その違法性の有無は、子の年齢やその意向、連れ出すに当たっての具体的な経緯及び態様等を総合的に考慮して判断すべき。
     
  ◇オ 原状回復が子の福祉に適うものではないとした例(p34)
  ◆(7) 異性関係 
     
  ★3 おわりに 

子の引渡し保全処分事件の処理をめぐる諸問題
家裁月報47・7
 
  ★第4 子の引渡し保全処分の判断基準
  ◆1 審判前の保全処分の実質的要件 
   
    審判前の保全処分の要件としても、本案審判において一定の具体的な権利義務の形成がなされることについての蓋然性が必要とされる。

裁判所の心証の程度は疎明で足りるとしても、翻案の審判手続における権利義務形成の状況を一応見極められるまで、一般には、かなりの実質的審理が必要。 
     
  ◆2 子の引渡し保全処分の特殊性 
    子の引渡しをめぐる紛争に関して、考慮すべき最も重要な事項は子の福祉であり、それにはまず、子の安全な成長・発達のために、親子の間に円満に進行している心理学的な親子関係を破壊しないで、継続させることが子にとって重要な利益となる(いわゆる継続性のガイドライン)。

子の引渡し保全処分には、
@まず緊急性が求められ(「奪われたら速やかに返せ。」「時間がたっていたらもう返すな。」という原則が求められる。)
A本案審判と結論が異なることは避けなければならず、終局的なものであることが求められる(「一度決めたらもう動かすな。」という原則が求められる。)。
    保全処分認容審判:
平均審理期間は15日
最短2日
最長42日
却下審判:平均59日
     
  ◆3 子の引渡し本案事件の判断基準との異動 
    子の引渡し保全処分の終局性の要請

本案の審理手続における結論を一応見極められるまで、一般には、かなりの実質的審理が必要。
保全処分と本案審理とで、その判断基準は異ならないものと解するのが相当。
    子の奪取の態様が、暴力を伴うなど悪質であり、その違法性が顕著であると認められる場合に、奪取された方の親が監護者と指定される蓋然性を問わずに、まず、保全処分を発令することができるか?
審理の対象は、やはり、子の福祉の観点から、いずれが子の監護者として適格であるかという点に置くべき。
奪取の態様はその一事情に過ぎず、それだけを理由に保全処分の要件を肯定することはできない。

本案審判での結論の見通しなく、保全処分を発令することは、本案審判において逆の結論となる可能性があり、結論的に子の福祉を害するおそれがある。