シンプラル法律事務所
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論点整理(内部通報関係)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)


 公益通報ハンドブック
  ★Ⅰ はじめに 
  ◆1 公益通報者保護法とは?
①国民生活の安心・安全を損なうような企業不祥事は、事業者内部の労働者からの通報をきっかけに明らかになることも少なくありません。 
②こうした企業不祥事による国民への被害拡大を防止するために通報する行為は、正当な行為として事業者による解雇等の不利益な取扱いから保護されるべき。 

「公益通報者保護法」は、労働者が、公益のために通報を行ったことを理由として解雇等の不利益な取扱いを受けることのないよう、どこへどのような内容の通報を行えば保護されるのかという制度的なルールを明確にするものです。
     
     
  ★Ⅱ 労働者の方へ
公益通報とは、❶労働者が、❷労務提供先の不正行為を、❸不正の目的でなく、❹一定の通報先に通報することをいいます。
◆    ●「通報する人」(通報の主体)は、労働者
「労働者」には、正社員、派遣労働者、アルバイト、パートタイマーなどのほか、公務員も含まれます。
●「通報する内容」は、一定の法令違反行為
「労務提供先」(※1)において「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律」(※2)に違反する犯罪行為又は最終的に刑罰につながる行為が生じ、又はまさに生じようとしている旨を通報する必要があります。

※1 「労務提供先」については、P6を参照して下さい。
※2 どの法律が対象となっているかは、P32~36を参照して下さい。
● 「通報の目的」が不正の目的でないこと
不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的で通報した場合は、公益通報にはなりません。
● 「通報先」は3つ
通報先は、①事業者内部、②権限のある行政機関、③その他の事業者外部のいずれか。
※通報先ごとに保護を受けるための要件(保護要件)が異なりますので、注意してください(P10参照)。
     
  ★Ⅲ 事業者の方へ
    事業者の皆様には、自主的に通報対応の仕組みを整備し、コンプライアンス経営を推進することが期待されています。 
こうした仕組みを整備することは、事業者内部の自浄作用を高めるとともに、事業者外部への通報による風評リスク等を減少させることにもつながります。
    公益通報者保護法は、事業者に対して、公益通報をしたことを理由とする解雇の 無効やその他の不利益な取扱いの禁止を定めています。また、公益通報者に対 する是正措置等の通知などについても規定しています。

このような公益通報者保護法の規定を踏まえ、労働者等から事業者内部へ通報があった場合に、その通報を事業者内部において適切に取り扱うための指針を示すものとして、消費者庁では、民間事業者向けのガイドラインを作成・公表しています(P37~42参照)。

ガイドラインには、主に以下のような事項が定められています。
  ●1 通報対応の仕組みの整備
①通報の受付・調査・是正措置の実施・再発防止策の策定までを適切に行うため、通報に対応する仕組みを整備し、適切に運用することが必要です。
②事業者内部で通報対応の仕組みを整備するに当たっては、まず通報を受け付ける窓口を設置し、労働者等に広く周知する必要があります。
  ●2 通報に関する秘密保持・個人情報保護の徹底
通報への対応に当たっては、通報者や通報の対象となった者(被通報者)の個人情報等を取り扱うことになります。情報を共有する者の範囲を限定するなど、通報対応に従事する者に通報に関する秘密保持や個人情報保護を徹底させることが必要です。
  ●3 通報者への対応状況の通知
通報への対応状況を通報者へ伝えることは、通報者の通報窓口への信頼を確保するためにも必要と考えられる。⇒
ガイドラインでは、通報への対応状況に応じて、例えば、調査を行うか否かに加え、調査結果、是正結果などを通知するよう努めることとしています(P37~42参照)。
     
  ★Ⅳ 「公益通報者保護法」の内容について
  ◆1 公益通報となるために必要な事項
  ◇(1) 通報の主体と内容について
  ■ポイント 
    通報の主体:
①労働者

通報の内容:
②労務提供先(又はその役員、従業員、代理人その他の者)について③通報対象事実(通報の対象となる法令違反)が 生じ、又はまさに生じようとしている旨
     
  ◇(2) 通報先について 
    以下の3つが定められています。
  ■事業者内部
通報先としての「事業者内部」:
「労務提供先」又は「労務提供先が あらかじめ定めた者」(以下「労務提供先等」といいます。)。

「労務提供先」については、P6を参照。

「労務提供先があらかじめ定めた者」:
労務提供先が、社内規程に定める等すべての労働者が知り得る方法で、通報先を定めた場合。
例えば、グループ共通のヘルプライン、社外の弁護士、労働組合等を指定することが考えられます。
  ■行政機関 
通報先としての「行政機関」:
「通報対象事実について処分又は勧告等 をする権限を有する行政機関」、つまり通報対象事実について、法令に基づき 勧告や命令を行うことができる行政機関(注1)。

どの行政機関が「処分又は勧告等をする権限を有する行政機関」(注2)に当た るかは、各法令の規定に基づき定まっている。(注1)

「行政機関」には、各府省庁等のほか、都道府県等の地方公共団体も含まれます。(注2)

「処分又は勧告等をする権限を有する行政機関」は、消費者庁の「公益通報者保護制度ウェブ サイト」から、キーワードにより検索することができる。   

【参考】公益通報者保護制度ウェブサイト       
URL http://www.caa.go.jp/planning/koueki/index.html
  ■その他の事業者外部 
通報先としての「その他の事業者外部」とは、「その者に対し当該通報対象 事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必 要であると認められる者」です。(通報対象事実による被害者又は被害を受 けるおそれのある者を含みます。)  

例えば、
報道機関、消費者団体、事業者団体、労働組合  
周辺住民(有害な公害物質が排出されている場合等)など

ライバル企業など「労務提供先の競争上の地位その他正当な利益を 害するおそれがある者」は除かれます。
     
  ◆2 法に基づく保護を受けるための要件(保護要件) 
    通報先に応じて、公益通報者保護法に基づく保護を受けるための要件(保護
要件)が定められています。
  ●事業者内部への通報を行おうとする場合
通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料すること
  ●行政機関への通報を行おうとする場合
通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があること
単なる憶測や伝聞等ではなく、通報内容が真実であることを裏付ける証拠や関係者による信用性の高い供述など、相当の根拠が必要となります。
  ●その他の事業者外部への通報を行おうとする場合
 (通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があること)に加えて、

(イ)~(ホ)のいずれか 1 つに該当すること
(イ)事業者内部(労務提供先等)又は行政機関に公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
例:以前、同僚が内部通報したところ、それを理由として解雇された例がある場合

(ロ)事業者内部(労務提供先等)に公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
例:事業者ぐるみで法令違反が行われている場合

(ハ)労務提供先から事業者内部(労務提供先等)又は行政機関に公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
例:誰にも言わないように上司から口止めされた場合

(ニ)書面(紙文書以外に、電子メールなど電子媒体への表示も含まれます。)により事業者内部(労務提供先等)に公益通報をした日から 20 日を経過しても、当該通報対象事実について、当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
例:勤務先に書面で通報して 20 日を経過しても何の連絡もない場合

(ホ)個人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合
例:安全規制に違反して健康被害が発生する急迫した危険のある食品が消費者に販売されている場合 
     
  ◆3 公益通報者の保護の内容
    労働者が、保護要件を満たして公益通報をした場合、公益通報をしたことを理由とする解雇は無効。
その他の不利益な取扱いをすることも禁止。
  ●解雇の無効
公益通報をしたことを理由として事業者(公益通報者を使用する事業者)が公益通報者に対して行った解雇は無効。
  ●解雇以外の不利益な取扱いの禁止
公益通報をしたことを理由として事業者(公益通報者を使用する事業者)が公益通報者に対して不利益な取扱いをすることも禁止。
 「不利益な取扱い」の例
降格、減給、訓告、自宅待機命令
給与上の差別、退職の強要、専ら雑務に従事させること、退職金の減額・没収
  ●労働者派遣契約の解除の無効等
派遣労働者が公益通報をしたことを理由として、
①派遣先が行った労働者派遣契約の解除は無効であり、
②派遣先が派遣元に派遣労働者の交代を求めること等、
公益通報者に対して不利益な取扱いをすることも禁止されています。
  ●公務員に対する取扱い
公務員についても、公益通報を理由とする不利益な取扱いが禁止。
     

 公益通報者保護法の概要
  公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置を定めることにより、公益通報者の保護等を図る。
 (1)目的
公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資すること
(2)「公益通報」とは
(ⅰ)労働者(公務員を含む。)が、
(ⅱ)不正の目的でなく、
(ⅲ)労務提供先等について
(ⅳ)「通報対象事実」が
(ⅴ)生じ又は生じようとする旨を、
(ⅵ)「通報先」に通報すること
(3)「通報対象事実」(ⅳ)とは
① 国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律として別表に掲げるものに規定する罪の犯罪行為の事実
② 別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反することが①の事実となる場合における当該処分の理由とされている事実等
(別表)刑法、食品衛生法、金融商品取引法、JAS法、大気汚染防止法、廃棄物処理法、個人情報保護法、その他政令で定める法律(独占禁止法、道路運送車両法等)
「通報対象事実」とは、対象となる法律(及びこれに基づく命令)に違反する犯罪行為又は最終的に刑罰につながる行為のことです。
「対象となる法律」とは、
国民生活の安心や安全を脅かす法令違反の発生と被害の防止を図る観点から、全ての法律が対象となるのではなく、「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律」として公益通報者保護法の別表に定められた法律をいいます。(平成26 年8 月現在、442 本)
 「対象となる法律」の例

個人の生命・身体の保護
○刑法 ○食品衛生法 ○道路運送車両法
○核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律
○家畜伝染病予防法 ○建築基準法 ○薬事法

消費者の利益の擁護
○金融商品取引法
○農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律
○特定商取引に関する法律 ○割賦販売法 ○電気事業法
○不当景品類及び不当表示防止法

環境の保全
○大気汚染防止法
○廃棄物の処理及び清掃に関する法律
○水質汚濁防止法 ○土壌汚染対策法 ○悪臭防止法

公正な競争の確保
○私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
○不正競争防止法 ○下請代金支払遅延等防止法

その他
○個人情報の保護に関する法律 ○労働基準法
○出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律
○著作権法 ○不正アクセス行為の禁止等に関する法律
(4)「通報先」(ⅵ)と保護要件
① 事業者内部(内部通報)
:通報対象事実が生じ、又は生じようとしていると思料する場合
② 通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関
:通報対象事実が生じ、又は生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合(*)
③ 事業者外部(通報対象事実の発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者)
:上記(*)及び一定の要件(内部通報では証拠隠滅のおそれがあること、内部通報後20日以内に調査を行う旨の通知がないこと、人の生命・身体への危害が発生する急迫した危険があること等)を満たす場合
(5)公益通報者の保護
保護要件を満たして「公益通報」した労働者(公益通報者)は、以下の保護を受ける。
① 公益通報をしたことを理由とする解雇の無効・その他不利益な取扱いの禁止
② (公益通報者が派遣労働者である場合)公益通報をしたことを理由とする労働者派遣契約の解除の無効・その他不利益な取扱いの禁止
(6)公益通報者・事業者・行政機関の義務
① 公益通報者が他人の正当な利益等を害さないようにする努力義務
② 公益通報に対して事業者がとった是正措置等を公益通報者に通知する努力義務
③ 公益通報に対して行政機関が必要な調査及び適当な措置をとる義務
④ 誤って通報を受けた行政機関が処分等の権限を有する行政機関を教示する義務
(7)その他
① 本法は、労働契約法第16条(解雇権濫用の法理)など他の法令の適用を妨げない
② 施行後5年を目途に見直しの検討