シンプラル法律事務所
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論点整理(コンプライアンス関係)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)


コンプライアンス
文献 それでも企業不祥事が起こる理由 國廣正 日本経済新聞出版社
人の命 パロマガス 事案 安全装置の不正改造による事故が5件
死者18名
修理業者が正しく修理せず、通電がなくても安全装置が作動せずガスが供給される。
社長が記者会見で「死亡事故の原因はj不正改造にある」と発言⇒非難の嵐
教訓 @今後新たな不正改造を禁止することだけでなく、
A不正改造された製品について危険を告知して事故を防ぐべき。
人が死亡する事故が続発しているという重大なリスク情報を公表して、次の事故を防ぐ。
思考 人の命を守る
市場を騙す 船場吉兆 事案 牛肉味噌漬事件:丹波牛として百貨店で販売していた牛肉が、実は九州産の牛肉であった。
客の食べ残し天ぷらを提供
ミートホープ 事案 コロッケを牛肉コロッケと偽って販売
製紙会社 事案 多くの製紙会社が古紙配合率60%以下の再生紙を「古紙配合率100%」として販売
不正会計事件 株価のもととなる商品表示を偽り、資本市場をだます
談合やカルテル 自由競争を装いながら価格維持のため裏で協調
教訓 消費者や資本市場をだましたところに本質
思考 消費者を騙す⇒「市場に参加する資格がない」
「公正な企業活動ができているか」
フェアプレー
コンプライアンス経営とは、新しい日本社会において、企業がルール違反による不祥事を防止し、安定的、持続的に成長していくために必要なリスク管理論
方法 NHK 事案 チーフ・プロデューサーの制作費不正事件
カラ出張問題
⇒書類等を個別に確認・書類作成業務の増大で残業が増加
⇒後ろ向きの形式主義的対応
記者とディレクター3人のインサイダー取引⇒
多くの理事が退任に追い込まれ、国会で厳しく追及され、受信料不払いも増大
教訓 量で勝負のコンプライアンスに取り組むだけではリスク管理を実現することができない。
職場全体に疲弊間を蔓延させ、仕事に対する前向きの意欲を失わせる。
コンプライアンスは、不祥事防止のためのリスク管理。
リスク管理とは、「当社でこれから起きそうな事件や危険は何なのか」というアンテナを立て、予防措置をとること。
リスクベースアプローチ:将来起こりうる脅威を特定・分類し、これに対するリスク評価を行い、優先順位をつけて必要な対応策を検討していくというリスク管理の手法
リスク・トレードオフ:あるリスクを減少させようとすると、それにより別のリスク(対抗リスク)が増加する場合。
×「あってはならない」
どの企業にも、規模の大小はともかく、必ず事故や不正は存在する。
⇒リスクの存在を認めた上で、できる限り減少させる。
小さなトラブルが事前に発生
「問題を隠さず、個人の責任にせず、知恵を出し合って解決する」
思考 「方法」についての示唆
元気の出るコンプライアンス 談合との決別 事案 「私は、コンプライアンスは法令の文言ではなく趣旨・精神を尊重することだと社員に宣言している。私が言行一致でなければ当社のコンプライアンスは本物にはならない。X社との関係は遮断する。これで当面の売上が減少しても、営業担当者の責任は問わない。正々堂々と入札を行い、長い目で見たら勝ちにつなげよう」
⇒灰色の営業を行う心理的負担から解放された営業担当者の士気は昂揚し、3年目以降、はるかに超える業績を記録。
金融商品の説明 事案 説明責任を求める法令の趣旨・精神は「顧客が十分に商品特性(リスクとメリット)を認識した上で、商品を購入するという自由な意思決定の確保」
このような顧客の自由な意思決定によるフェアの金融商品の販売が一般化することでリスク商品を適切に市場に提供できる基盤が確保され、資本市場が活性化し、経済成長が図られる。
教訓 灰色の領域での行動は、ミクロの観点からすれば合法性を保てるように見えるが、いつか必ず失敗し、取り返しのつかない制裁を受ける。
法令の趣旨、精神に従った企業行動を確保することが、適切なリスク管理を実現させるだけでなく、社員の意識(モラール)を向上させ、企業の持続的成長につながる。
「時間の経過」「社会の変化」という観点から考えると、法令の趣旨・精神を尊重する行動こそが、合理的なリスク管理であり、業績向上にもつながる。
十分にリスクを説明し、顧客の本当のニーズに合わないことがわかれば商品は売らないという顧客本位の姿勢⇒顧客の信頼につながり、継続的な好成績として表れる。
思考 コンプライアンスは、法令の字句よりも、その趣旨・精神を尊重した行動を求める。
手段であり目的 目的 コンプライアンスの目的は、
@実質的にリスク管理が実行され、
A社員が元気になり、
B企業の持続的成長が確保される体制を機能させること。
統制環境 統制環境:
トップが折に触れ「当社が競争社会で生き抜いていくにはコンプライアンスが不可欠だ」と自分の言葉で直接伝える。
「顧客本位」「フェアプレー最優先」「法律違反は許さない」「決して嘘はつくな」「お天道さまが見ているぞ」
「あってはならない」ではなく「問題行動があれば、すぐに上層部にあげる」
「隠蔽は許さない」
リスク情報の把握 社内に存在するリスク情報を、いかに迅速、正確に把握するか。
「おかしいと思うことができれば相談せよ」
コンプライアンス部門 把握したリスク情報を正しく評価し、リスクの大きさに応じた適切な対応を行う。
@リスクを察知する感性と、A事案を柔軟に解決する能力。
現場と共に考え、ダメなものはダメという毅然とした対応をすると同時に、その理由を説明して現場を納得っせ、新たな解決策を現場とともに考える。
モニタリング 「コンプライアンスが浸透しているか」という実態の調査。
・コンプライアンスの基本方針などが実際に遵守されているか
・コンプライアンスに関連する部署が実際に機能しているか
企業内情報の不正使用 目的 コンプライアンス=企業のリスク管理
企業のリスク管理の目的は、個人情報保護法の細かい知識を身につけた社員を増やすことではなく、企業内にある情報(個人情報・法人情報)の管理を徹底して流出などの事故を防ぐこと。
問題点 知識中心 企業のリスク管理の目的は、法律の細かい知識を身に付けた社員を増やすることではなく、企業内にある情報の管理を徹底して、流出などの事故を防ぐこと。
モグラ叩き ×目に見える事象に対するモグラ叩きのコンプライアンス
○「当社では、どこで重大な情報流出が発生しうるだろうか」という想像力を働かせるリスクベースアプローチの発想
悪意者の不想定 「悪意(=故意)で社内の情報を持ちだすような社員は、持ち出す情報が一件であっても厳罰に処する」というメッセージ
システムとの分断 技術的観点のみの対応を、技術的観点を持たない個人情報保護法に偏したモグラ叩き的な対応が無関係に並立⇒A社の顧客情報をどのような仕組みで保護することが最も有効か、とうい統合的、目的合理的な発想が不十分。
監査なし 最もセンシティブな顧客情報、取引先情報を大量に保有するシステム部が、事実上の治外法権状態に。
対策 リスクベースアプローチ A社に、将来起こりうる「脅威」を特定・分類し、これに対するリスク評価を行い、優先順位をつけて必要な対応策を検討するというリスクベースアプローチ。
人的リスク 悪意者を想定 悪意者:不正行為であることを理解しつつ行う者。
「不正行為は絶対に許さない」というメッセージを明確に伝える。
「不正は絶対に許さない」「不正は必ず発覚する」「不正行為は行為者本人にとっても致命的な結果を招く」というメッセージを明確に伝える内容の教育、研修プログラム。
システム部の特性 「何のために」研修が行われているのかという視点が欠けていた。
本来、情報セキュリティ研修は、各部門で、将来発生するかもしれない情報流出・漏洩等のリスクを現場経験と想像力を働かせて洗い出し、その予防を考えるというリスク管理を目的とするもの。
職業倫理 不正行為を抑止する最終的な砦は、社員の倫理観・プロフェッショナル意識。
「なぜそのようなルールがあるのかという原理原則(プリンシプル)」についての「理解」が不可欠。
「なぜ」を考えさせる原理原則に基づいた(プリンシプル・ベース)研修が不十分。
組織的リスク ぜい弱性 システム部には情報セキュリティ上の大きなリスクが存在
butA社では、情報システムについてのセキュリティは、内部監査部門から切り離されてシステム部だけで自己完結的に運営⇒システム部自身に対する組織的統制の仕組み(情報セキュリティ・ガバナンス)が機能していない。
内部監査部の充実 内部監査部にもい、システムの専門的な知識を持つ社員を配属する必要。
実効的な内部監査を行うには、被監査部門と監査部門を完全に分離する必要⇒内部監査部門にもシステムの専門家を配属する必要。
「人の分離」を伴う必要⇒専属で配置する必要。
合わせ技 @システム的牽制、A人的牽制、B組織的牽制の全体でバランスをとったコスト配置が必要。
合わせ技は1つのヘッドクォーターからの指揮命令により統合的に行われる必要。
ITリテラシー システムの全体像を把握し、最新のシステム対応が不可欠な部分はどこか、システム対応の限界はどこにあるのかを知ることが必要。
経営者やコンプライアンス担当役員が、個別法律の細かい解釈論を知らなくてもよいが、独禁法、金商法など企業を規律する基礎的法律の精神を理解しておかなければならないのと同じ。
インサイダー取引 どんな犯罪 市場の公正さに対する犯罪 資本市場の公正さに対する信頼。
企業情報不正使用 企業の情報管理体制の不備。
特徴 高権限者 高権限者が起こす事件が多い。
悪意者が私的利益を追求する行為。
ネット利用 ネット利用で瞬時に株取引ができる。
摘発の仕組み SESCの人員アップ
@株価に影響を及ぼす重要事実の公表の前後の株価の動向をチェック
A証券取引所から売買の状況を入手
B証券会社から顧客の売買明細を入手して分析
Cタイミングの良い売買をピックアップ
Dその顧客と会社の関係を調査
E摘発へ
売買記録を分単位で把握でき、行為者のパソコンや携帯電話の通信履歴などを全て把握できる。
内部統制 悪意者 インサイダー取引の重大性を理解させ、企業として許容しない姿勢を示す。
⇒「軽い気持ちで」インサイダー取引をすることを防止。
SESCの調査能力を理解させ、「インサイダー取引は割に合わない」という意識を受け付ける。
情報管理体制 重要情報が拡散⇒リスクが高まる
need to know の原則。(業務上、真に知る必要のある者だけに必要な情報を知らせる原則)
悪意者を限定⇒自分が疑われる危険性が高い⇒情報漏洩の防止にも有効
売買管理体制 役職員の株取引自体を規制。
日本証券業協会のJ-IRISSシステム:
日本証券業協会が中心となって各証券会社の情報を統合して管理するためのデータベースを構築し、上場企業の役員から自社株式の注文を受けた際に、「重要事実」を知っているかどうかを確認することなどを通じてインサイダー取引を防止。
実態に応じた施策 法律知識よりもい、「そもそも社員が企業内の情報を私的な経済活動の流用すること自体が許されない」という点を十分に理解させる。
コンプライアンス教育 業務上の情報を利用した指摘経済行為は決して許容しないこと。
そのような行為はインサイダー取引に該当するかしないかにかかわらず、厳重な社内処分の対象とされる。
就業期間中の株取引の禁止を含む規律の徹底。
位置付け 企業の情報管理施策全体の中で情報の流出・漏洩の防止、守秘義務の徹底とともに、情報の私的利用の禁止として適切に位置付けられる必要。
基本概念 コンプライアンス 目的 企業が、社会的要請に基づいて行動する規律を確保して、リスク管理を実現し、持続的に成長していくこと。
体制 全体にコンプライアンスの趣旨を浸透させるための制度・システム
内部統制 会社法 企業の全般的なリスク管理体制
インサイダー取引、カルテル、情報流出、リコール隠し、各種偽装の防止など(非財務リスク)は、金商法の内部統制では防止できない。
金商法 企業の財務報告の正確性を確保するためのリスク管理体制。
有価証券報告書の正確性を確保して粉飾決算などの会計不正を防止するための体制。
コーポレートガバナンスとの違い 内部統制:経営者から現場までの全社で取り組むべき企業がリスク管理をするためのプロセス。その活動の中核は経営者。
コーポレートガバナンス:企業の意思決定の仕組みをどうするかというもの。
経営者の暴走を防ぐための牽制。(経営者に対する牽制)
リスク管理の在り方 内部統制システム(コンプライアンスシステムを含む)は、リスク管理の手段⇒リスク管理実現の役に立つ合理的・効率的なものでなくてはならない。
企業者多種多様⇒業種・業態に応じて、財務リスク・非財務リスクを問わず、対処すべきリスクも様々⇒経営者は、実効的なリスク管理を実現するため、リスクベースアプローチの考え方に基づく経営判断により、必要と考える重点分野に対して優先的に経営資源(ヒト、モノ、カネ)を投入して内部統制システムを構築。
その過程で、業務プロセスの文書化が必要となれば、必要な限度で文書化を行う。
文書化〜「暗黙知」を「見える化」することで知識を共有できる。
@財務面のリスク管理とA非財務面のリスク管理が行われる
⇒その状況を開示
⇒投資家はそれを見て判断
文書化 金商法の内部統制の目的は、財務報告の信頼性、つまり「財務に関するリスク管理の実効+実行状況の投資家への適正な開示」
文書化は、財務報告の信頼性をチェックするための「手段」に過ぎない。
危機管理 ダスキン 事案
高裁
教訓 自ら積極的に事実を認めて公表し、消費者に対して誠意を持って謝罪し、2度と同様のことが起きないように徹底した再発防止策を実施すると消費者に約束する、しか方法はない。

一部の役員により行われた法令違反行為を、ダスキンという企業としては決して許容しないという強い姿勢を打ち出し、事実関係を自ら明らかにし、関係者を厳しく処分して再発防止を約束すれば、消費者はダスキンが会社ぐるみで消費者を裏切る企業ではないことを理解。
企業の説明責任を強調する流れは、製品の安全や環境保護に対する市民の関心の高まり、消費者庁の設置などの社会的背景のもとで、今後ますます強まる。
@隠さない 隠蔽は最大のリスク 企業を聞きに陥れる最大のファクターは「隠蔽」
×見つからないかもしれない
×この程度のことはマスコミも取り上げないだろう
×いちいち問題をつついていたら、困る人がたくさんでてくる
企業内で情報をもつ人が1人だけということはあり得ない
(ダスキンでは、問題が社内で発覚してから1年以上経った後に保健所に匿名通報されている)
インターネット社会では情報の拡散を止められない
各企業の監督官庁では、企業の不正行為に関する情報を受け付ける専門の公益通報窓口を設置。
不祥事は重大であればあるほど発覚しやすく、隠し通すことはできない。
巧妙に隠した結果、事件発生から発覚までの時間が長くなればなるほど、発覚した場合の隠蔽批判はより強いものになる。
事件報道 @事件に対する批判報道
A隠蔽批判
B憶測報道
⇒火だるまに
1回で終わらせる 自ら公表⇒隠蔽批判報道はできない。憶測報道も回避。
準備の上で公表⇒事実関係を明確に説明でき、対応の不手際を批判する報道回避が可能。
新聞社の社会部長:
新聞社としては、事件が発生している以上、たとえ企業が事件を自主的に公表したとしてもこれを批判する記事は書く。ただ、自主的に公表したことについては、当然、肯定的に評価して書く。
企業が自主的に公表⇒「新しい事実」は出てこないので、続報が書きにくい。
企業側隠してくれると、いくらでも記事は書ける。「隠蔽はこうして指示された」「実はこうだった」⇒社会部としては隠してくれた方がありがたい。
結論 危機管理広報で大切なことは「報道されないこと」ではなく「報道を1回で終わらせ、連続報道を防ぐこと」
A決断する コロンバイン 副社長が対応し事件に哀悼の意を表し、「当社はすべての店舗から90日以内に銃弾を撤去することを約束する」とアナウンス⇒監督らは「すばらしい」と「、昨日までの攻撃対象であったKマートを賞賛。
会社は、国をあげての激しい論争がある銃規制に関して1つの立場を明確に選択する。
この決断力とわずか1日で結論を出すスピード感。
参天製薬 全国約7万の薬局、薬店で販売されている一般用目薬24品目、250万個を全品回収すると発表し、回収が完了して再び店頭に商品が並ぶまで、同社製の目薬を購入しないよう新聞紙上やホームページなどで呼びかけた。
異物混入の脅迫状が届いた翌日には記者会見で事実を公表し、製品の回収を開始。
「短期的な利益よりも消費者の安全を優先させる」という明確な価値基準が社内のコンセンサスとして存在し、トップが強い指導力をもっていた。
結論 危機管理で求められるのは、短時間で集中的な議論を行って可能性のある選択肢の利害得失を十分に検討した上での「迅速な決断」
「何を守るために、何を捨てるのか」という「捨てる決断力」。
日頃のコンプライアンス経営で企業としての価値基準、理念をはっきり打ち出しておく。
企業理念と価値基準が平常時から明示されていれば、事態が錯綜し複雑化しても、常に原点に立ち返り、質の高い決断を下すことが可能になる。
B説明する 説明責任 「説明責任=謝罪」ではない。
事実の重要性 必要なことは、何よりも、「事実関係を明らかにすること」
←企業が社会的存在であることの帰結。
企業がクライシスの状態にあるということは、ステークホルダー(株主、消費者、従業員、取引先、地域社会等)も種々の影響を受ける。
マスコミはステークホルダーの代弁者。
「いつ、何が起きたのか」「被害は広がるものなのか」「なぜ、事件が発生したのか」「責任の所在はどこにあり、それはどのように果たされるのか」「現在、どのような対策を講じているのか」「同種の事件はおきていないのか」などの事実関係を説明。
自らが社会的存在であり、社会に対して説明責任を負うという自覚が不可欠。
ステークホルダーを念頭に置いて、企業の社会的責任を果たすという姿勢を貫く必要。
リスク情報の開示 自ら把握したマイナス情報を自発的、積極的に公表することで、自浄作用の能力を示すことができる。
消費者や報道機関も、「あってはならない」の精神論を捨てて、マイナス情報を開示する企業を正当に評価すべき。
企業の自発的なマイナス情報開示は、目に見えな危険を「見える化」する行為であり、消費者の対応をする企業を正当に評価することは、消費者自身の利益につながる。
クレーマー対応 本当にリコールすべき欠陥などがあれば、企業は「マスコミにばらされる」前に自発的にリコールすべき。逆に欠陥がなければ、脅迫に屈する必要はない。
仮に製品に問題があっても法律に定められた範囲で責任を負えば足り、これを超えた責任は負わないという基本姿勢を貫くべき。
企業にとって重要なのは「誰が主張しているか」ではない。「その主張は何か、根拠があるか」を客観的に判断する冷静さが必要。
危機管理広報 危機管理の成否を分けるのは「見栄え」ではなく「実質」
理念の必要性 「悪性腫瘍と健康体を切り離してみせること」が必要。
平常時から、「健康体を維持する仕組み」=「コンプライアンスによる不正を許さない企業の人格」が存在する必要。
したたかな誠実さ パナソニックの石油温風機による一酸化炭素中毒事故の徹底した回収:
@2005年に死亡事故⇒11月に経済産業省が消費生活用製品安全法に基づく緊急命令。
A15万台の対象機種を1台5万円で引取る。
BCMの全てを対象機種のリコール告知に変更。
C合計約6000万世帯にハガキ送付。
⇒「パナソニックは最後まで消費者の安全を追求する」という事実を強く消費者に印象付ける。
対外公表の考え方 不要 少額の使い込みをした社員に懲戒処分を行った場合。
必要 不特定多数の消費者が関係する製品の安全性や信頼性にかかわる案件
製品の安全 製品の欠陥などにより消費者に危険が及ぼおそれがある問題⇒対外的公表が必要。
一刻も早く警告を発して、消費者の危険な状態を解消する必要。
パロマ製ガス瞬間湯沸器による一酸化炭素中毒死事件⇒消費生活用製品安全法(「消安法」)が強化され、消費者庁への報告義務が規定。
一般消費者の生活の用に供される製品(消費生活用製品)について、製造、輸入を行う事業者は、重大製品事故(死亡、治療に要する期間が30日以上の負傷、一酸化炭素による中毒、火災等)が発生した場合には、それを知った日から起算して10日以内に、消費者庁長官に報告を行わなければならない。
「欠陥によって生じたものでないことが明らかな事故以外の事故」に課されるもの。
食の安全 迅速な公表による被害拡大防止が必要。
食品衛生法などに違反する状況が生じている以上、健康被害が実際に生じていないことを非公表の口実にはできない。
←法令は、安全性に問題があるとする食品添加物の使用を一律に使用禁止とする制度的保障によって国民の健康を守ろうとする。
表示に関する問題 表示の誤りの場合も対外的公表は必須。

@企業が、商品の実体を正しく表示していないという誤りに気づきながらその訂正を行わないことは、不作為により消費者をあざむくことと同視される。
A消費者の信頼を裏切らないために行うもの⇒表示の誤り消費者の安全や健康に影響を及ぼさない類のものであっても非公表が正当化されることはない。
環境に関する問題 有害物質が健康被害を及ぼしている可能性があれば議論の余地なく公表が必要だが、健康被害をもたらしていないと思われる場合でも、公表は必要。

@有害物質が存在するという事実は、企業のステークホルダーである地域住民に影響を与える事実。
A環境はビジネスのキーワードとなっており、企業はCSR報告書などで競って環境貢献をアピールしている。
投資判断に影響を及ぼす問題 企業不祥事は企業にダメージを与え、企業業績にも影響を及ぼす。⇒上場企業の不祥事の公表は、危機管理の問題であると同時に、適時開示の問題。
公表(適時開示)前の役職員などの関係者の株取引は、インサイダー取引に該当。
対外公表のタイミング 公表のXデー 現実の危機管理では、公表すべき事実の概略はわかっているがその詳細の確定に時間がかかることが多い。
消費者に重大な危険を及ぼす製品の欠陥
〜消費者にリスクを告知することが必要であり、詳細な調査よりスピードが優先。
それ以外の場合:
スピード重視で中途半端な公表⇒調査不十分を批判され、不信感を増幅
時間をかけすぎる⇒その間に情報流出の可能性と、企業側に本気で対外的公表をするつもりがあったか疑われる。
まず公表日(Xデー)を定めることが必要。
社内調査委員会 公表のための特別チーム(社内調査委員会)を編成し、厳格な守秘義務を課して調査に専従。
・責任者はトップかそれに準じる地位にある役員
・調査メンバー
・他のすべての案件に優先して調査と公表準備にあたらせる
・広報担当者を加える←調査結果をどのような形で公表するかと念頭に置く必要。
・関係者の事情聴取によって事実を確定する必要⇒調査に弁護士を加える。
Xデー以前に公表する必要 現実には、マスコミに情報をキャッチされ、公表を早めなければならないことも多い。
社内調査の全過程において、Xデー以前の公表に備え、現時点までに調査で判明した事実を基礎とした対外公表文案と想定Q&Aの最新バージョンを常に更新。
実務では1日2回(正午と午後9時)最新バージョンに更新。
「現在までに判明した事実」と「現在調査中であること」を明確に区分。
「現在調査中の事項」について、いつまでにそ結果を報告するのかについても明確に。
重要なのは、自発的な公表の姿勢を堅持し、その時点で可能な限りの事実を公表する大勢をとって危機に立ち向かう姿勢を示す能動的な危機管理。
消費者の意識 原則 安全・安心の問題については、企業は企業目線ではなく、消費者目線で考えることが不可欠。but
消費者の多数意見が常に正しいわけではなく、消費者の意見が、マスコミ方法で「作られる」こともある。
こんにゃくゼリー事件 危険の排除 「あってはならない」というメンタリティーに基づく「危険の排除」の考え方。
子供から危険と触れ合う機会を奪い、子供は遊びを通じて危険について学ぶ機会を失い、危険に対する免疫力をもたない大人が育つ。
「危険を完全に排除して子供を無菌状態に育てるのは、未来の大事故を準備しているようなもの。」
危険の管理 容器の形状を変えて中身が飛び出しにくくするとともに、「幼児にはたべさせないでください。高齢者は食べないでください」という警告表示でリスクを「見える化」して消費者に注意を促し、消費者自身の行動をも通じてリスクの権限を図るという考え方。
規制と安全 一定水準以上の安全レベルに達した後は、規制の効果は乏しくなり安全レベルは横ばいとなるが、検査等のお役所仕事が増え、生産コストは上がる一方。
〜「安全」ではなく「安心」のために費やされるもの。
ポイント @許容できないとして排除すべきリスクなのか、A管理すべきリスクなのか、Bそもそもリスクとはいえない感情論なのかを、客観的、冷静に判断し、メリハリをつけたコストの適正配分により現実のリスクを最小化する。
エコナ事件 教訓 「あってはならない」のメンタリティによる世論の暴走がいったん始まると、企業が正論で立ち向かうことは不可能になる。
花王は、まず何よりも企業の存続を優先し、闘うことを断念し徹底を選択。
消費者とのコミュニケーション 重要性 危機管理の観点からは、世論が暴走を始めてからでは打てる手は限られる。
日頃からコミュニケんーションが確保されていれば、企業は消費者意識をより正確にとらえ、時には先回りするセンスを身に付け、危機対応力を強化できる。
双方が冷静な状態での平常時のコミュニケーションでは、企業側の合理的な主張も受け入れられやすく、消費者側に存在する「あってはならない」のメンタリティを是正するための働きかけも可能になる。
雪印乳業 具体的な仕組み 食中毒事件と牛肉偽装事件⇒
全国消費者団体連絡会事務局の秘日和佐信子氏を社外取締役に。
消費者代表や学識経験者などの社外の専門家が多数を占める「企業倫理委員会」の委員長にも就任。
「企業倫理委員会」は毎月開催され、消費者問題や品質問題は当然として、経営全般についても経営陣対して提言・勧告を行う権限。
消費者の立場からの問題提起、社員とも徹底的に議論を交わし社員の意識変革。
消費者モニター制度で、消費者に工場を後悔。その過程をHPで公開。
⇒現在では、消費者の意思を迅速・的確に取り入れる企業体質。消費者の高い信頼を勝ち得る企業。
就任の経緯 NPOである株主オンブズマンが株主提案⇒それを実行するということで株主提案を取り下げてもらった。
条件:
@消費者という立場を貫く。(企業人にはならない。)
A言動や行動に規制をかけない。自由にさせる。
Bリスク情報を何もかも開示する。
実質的に機能する消費者代表 @消費者問題や品質問題を企業倫理(=コンプライアンス、企業の社会的責任)と一体の経緯全般の問題としてとらえる。消費者問題を企業経営のあり方そのものと位置付ける。
Aコーポレートガバナンスの観点から、強い権限を持つ社外の目を企業組織に組み入れる。(社外取締役と取締役会の諮問機関としての企業倫理委員会)
B企業体質、企業風土改革にまで踏み込む。
C企業倫理委員会の委員には、現場に足を運び、厳しい意見を述べる人物を選任選任し、それが実行されている。
現場レベルに及ぶコミュニケーション 社外取締役や企業倫理委員会の委員が全国を巡回して現場従業員との直接コミュニケんーションを行うとともに、一般消費者のモニタリングを常時受け付ける仕組みを構築、運用。
⇒消費者とのコミュニケーションを経営層でなく現場レベルでも多層的に実行することで、消費者の考え方や要望、不安などを肌で感じる現場感覚を身につける。
情報開示・透明性 コミュニケーションの前提となるのは事実(ファクト)。
「リスク情報は何もかも提供する」という企業側の情報開示により初めて企業と消費者との情報格差が解消され、対等なコミュニケーションが成立。
安全・安心の暴走は不安から引き起こされ、不安は情報不足から生まれる。⇒リスク情報を隠さずに開示することが出発点となる。??
●開示すべきものと開示すべきでないもの(秘密情報)がある。
●「顧客を守る」「人に迷惑をかけない」「情報開示」等、様々な価値観の両立。
●「人としてどうあるべきか」の視点が大事。
消費者目線を取り込む @消費者の意見をダイレクトに社内に取り込むという情報収集の段階。
(お客様相談窓口の充実や定期的な意見交換会)
A収集された情報の意味を適切に評価する。「企業としての判断プロセス」に消費者目線を取り込む。
企業内部に消費者目線をもつ外部者の採用を推進。
ex.国民生活センターや自治体の消費生活センターで実務経験のある消費者相談員資格を持つ職員の出向。
社員に消費生活相談員の資格をとらせた上で国民生活センターに出向させる。
コミュニケーション確保による効用 @消費者の意識とその変化を敏感にとらえて消費者の要求に応じた商品開発やサービス提供が可能になる。(競争力)
A何らかの問題が発生した場合でも、それを早期に把握して、その重要度・リスクの大きさを適切に判断できる。(企業目線が消費者目線と乖離することにより、リスク評価を誤る。)(リスク管理)
B消費者の信頼を得て、消費者との間で冷静で科学的な議論を可能にする場を構築できる。「あってはならない」というメンタリティの是正に寄与するCSR活動。(CSR活動)
危機管理と経営者 進退問題 企業の社会的責任(CSR) 「社会に存在するリスクを減少させることが企業の使命である」?
●リスク減少に限らない。文化的活動等もある。
不祥事 不正や事故を起こした企業がステークホルダーに損害(リスク)を及ぼす事態。
⇒何よりも、ステークホルダーに及ぼす現在および将来のリスクを低減させることが必要。
社会的リスク管理の実行。
責任の取り方 不正や事故が発生した原因を企業風土までさかのぼって徹底して、原因を究明することが必要。
説明責任 原因究明と再発防止の過程を各種のステークホルダーに透明性をもって説明。
⇒企業の対応が客観的視点から検証され、その有効性が担保される。
社会に存在するリスクを「見える化」し、社会的なリスク管理を可能にする。
●他社の不祥事の勉強会。
責任 「第三者委員会」による事案の徹底的な調査を行い、不正や事故を生み出した真の原因を究明し、その検証結果に基づいた有効な再発防止策を社会に対する約束(コミットメント)として示すという「目に見える具体的な対応」。
第三者委員会 要点 企業自身が@徹底した事実調査と原因究明を行い、その責任の所在を明確にした上で、A実効性ある再発防止策を実施すること。
その役割を第三者委員会(独立した弁護士、公認会計士、学識経験者などの中立公正な外部の第三者により構成、を設置する事例。)
NHKの例 調査 問題とされている違法・不正な行為そのもの(刑事事件でいえば起訴事実)には限定されず、当該行為の詳細、行為に至る経緯、動機、周辺事実、類似行為の有無までに及ぶ必要。
不祥事に至る経緯、行為者の動機など、関連する事実まで含めた不祥事の全体像を明らかにすることが社会から求められており、これが第三者委員会設置の目的。
組織論まで遡る 直接的原因:
「行為者らの倫理観、職業意識の欠如」。
「インサイダー取引に対するリスク管理(コンプライアンス施策)の不存在。」
組織上の問題点:
「組織として職業倫理を確立する力が低下した報道部門の責任」
「事件が発生するたぼいに「モグラ叩き」的に形式的かつ煩瑣なコンプライアンス施策を実行するのみで、新しいリスクへの対応を欠いていたコンプライアンス施策の問題点」
●リスクの洗い出し
●対応
●対応に限界がある場合、そのリスクをとるのかどうかについての判断。
(必要性と合理性)
NHKの例 再発防止策 徹底した事実調査により明らかにされた不祥事の実態と組織的問題点に応じた個別・具体的なオーダーメイドのものとして提言。
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「法令順守意識の向上」「コンプライアンス・マニュアルの改訂」「研修・教育の充実」「コーポレートガバナンス機能の向上」「内部通報制度の充実」
NHKの組織としての問題⇒NHKの組織再生という視点。
原因論(組織論)から再発防止策の提言に至った筋道を明確にした上で、
「プロフェッショナル意識の再生」「公共放送としての使命の認識」「真に実効性のあるコンプライアンス施策の実施」「組織改革」「株取引についての再発防止策」「報道情報システム」「NHK再生に対する国民によるモニタリング」という7つの切り口から、11項目の具体的施策を提言。l
第三者委員会の対立構造 依頼者 契約主体は代表取締役社長
第三者委員会は、、経営陣の保身のための風よけではなく、企業を危機的状況から立ち直らせるために事実を究明することがその任務。
理念共有 経営者との理念共有が出発点。
独立性 合意:
@調査報告書の起案権は第三者委員会に専属
A第三者委員会は、調査により判明した事実とその評価を、経営陣に不利になる場合であっても、調査報告書に記載。
企業との共同作業 トップのメッセージ 社員が、「第三者委員会に協力し、事実を究明することは会社のためでもあり、自分のためでもある」という認識。
トップが、本心から第三者委員会の徹底した調査を求めているのか、それとも世論に対するその場しのぎの風よけとして利用しようとしているのか。
トップの決断 「事実関係のすべてを明らかにする。そして自分は責任を取って職を辞する」
ステークホルダーを念頭に危機に立ち向かう。