シンプラル法律事務所
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論点整理(遺留分制度)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

遺留分制度 
制度 被相続人の処分の自由と相続人の保護との調和のため、相続財産の一定割合を一定の範囲の相続人に留保するとうい制度が置かれた。
それが遺留分制度。
規定 民法 第1028条(遺留分の帰属及びその割合)
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一
遺留分権利者 兄弟姉妹を除く法定相続人(法1028号)
相続権がなくなれば(相続欠格・排除・相続放棄)遺留分も失われる。
←遺留分は相続人に与えられる権利。
遺留分率 直系尊属のみが相続人:被相続人の財産の3分の1
その他の場合:被相続人の財産の2分の1(法1028条)
配偶者と兄弟姉妹が相続人となるときは、2分の1の遺留分は全て配偶者にいく。
事例  Hの相続人:配偶者Wと子供A・B
Hは生前贈与で5000万円をMに与え、残った遺産4000万円から2000万円をNに遺贈。1000万円の相続債務がある。
遺留分算定の基礎となる財産:4000万+5000万ー1000万=8000万
遺留分額:遺留分算定の基礎となる遺産額×全体の遺留分率×法定相続分率
W:8000×1/2×1/2=2000万円
A・B:8000×1/2×1/4=1000万円
純取り分額:
W:2000×1/2−1000×1/2=500万円
A・B:2000×1/4−1000×1/4=250万円
遺留分侵害額:
W:1500万円
A・B:それぞれ750万円
■基礎となる財産   ■基礎となる財産
規定 民法 第1029条(遺留分の算定)
遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額その贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
民法 第1030条
贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。
当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
民法 第1044条(代襲相続及び相続分の規定の準用)
第八百八十七条第二項及び第三項、第九百条、第九百一条、第九百三条並びに第九百四条の規定は、遺留分について準用する。
民法 第903条(特別受益者の相続分)
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたもの相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
民法 第904条
前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。
民法 第1039条(不相当な対価による有償行為)
不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、これを贈与とみなす。この場合において、遺留分権利者がその減殺を請求するときは、その対価を償還しなければならない。
民法 第1038条(負担付贈与の減殺請求)
負担付贈与は、その目的の価額から負担の価額を控除したものについて、その減殺を請求することができる。
遺留分算定の基礎となる財産=
相続開始時の相続財産贈与した財産の価額相続債務
●遺留分の算定と「具体的相続分」の算定との相違点 
寄与分(特別の寄与)が考慮されない
寄与分は、遺贈された財産に対して主張することはできない(遺贈に対する寄与分の劣後(民法904条の2第3項))。
民法 第904条の2(寄与分)
3 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
相続債務が控除される
組み込まれる贈与財産に違いがあるし、対象となる受贈者は共同相続人に限られない(相続人以外への贈与を加える)。

算入される贈与の範囲は、「みなし相続財産」の場合にように相続人への贈与に限られない
●  ●加算される贈与 
加算される贈与の限定
@時期的に限定
A贈与の範囲の限定
←過去に無条件にさかのぼって贈与を基礎財産に算入することによって生じる取引の安全を害する危険の回避
相続開始前の1年間にされた贈与(民法1030条前段) 
贈与契約の時点が基準。
遺留分権利者に損害を加えることを知った贈与(民法1030条後段) 
「損害を加えることを知って」とは、遺留分を侵害する認識があればよく、損害を加えるという加害の意図や誰が遺留分権利者であるかを知っている必要はない。
不相当な対価でなされた有償処分(民法1039条) 
不相当な対価による有償行為は「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り」贈与とみなされる。(法1039条前段)
ただし、この行為が減殺の対象となるとき、遺留分権利者は、相手方が支払った「対価」を償還しなければならない」(法1039条後段)
負担付贈与は、目的の価額から負担の価額を控除したものについて減殺請求でききる。(法1038条)
特別受益としての贈与
特段の事情のない限り、相続開始1年前であるか否かを問わず、また、損害を加えることの認識の有無を問わず、すべて加算される。
  ●基礎財産への算入が問題となる財産 
◎生命保険金 
◎死亡退職金 
◎被相続人が生前に相続人に被相続人の土地を無償使用させていた場合 
◎寄与分との関係 
  ●控除される債務 
◎債務の範囲 
被相続人の負担した債務。
私法上の債務だけでなく、税金や罰金などの公法上の債務も含まれる。
◎保証債務 
主たる債務者が無資力で求償権の行使による填補の実効性がない場合に限り、被相続人の財産から控除すれば足りる(東京高裁H8.11.7)。
■減殺請求の方法   ■減殺請求の方法
規定 民法 第1031条(遺贈又は贈与の減殺請求)
遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。
民法 第1033条(贈与と遺贈の減殺の順序)
贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、減殺することができない。
民法 第1037条(受贈者の無資力による損失の負担)
減殺を受けるべき受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。
民法 第1041条(遺留分権利者に対する価額による弁償)
受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。
2 前項の規定は、前条第一項ただし書の場合について準用する。
侵害額の確定 相続によって最終的に相続人が手にする金額(純取り分額)が遺留分額より小さい時、遺留分の侵害があることになる。
純取り分=具体的相続分率に従った分配額+特別受益の額ー相続債務の分担額
遺留分侵害額=各相続人の遺留分額ー純取り分額
減殺請求の当事者 遺留分減殺請求を行使できるのは、遺留分を侵害された「遺留分権利者及びその承継人」(法1031条)
承継人:包括承継人(遺留分権利者の相続人等)のほか、特定承継人も含む。
減殺によって取り戻すべき財産の譲受人も減殺請求権の譲受人として権利行使できる。
相手方 受遺者及び受贈者

減殺請求の対象は、遺贈および相続開始1年前までの贈与(およびそれ以前の特別受益)
受贈者が贈与の目的物を第三者に譲渡すると、原則として遺留分権利者は受贈者に価額の弁償を請求できるだけだが、譲受人が譲渡の当時、遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、この者を相手に減殺請求ができる。(法1040条1項)
受贈者が贈与の目的物の上に抵当権や地上権などの権利を設定した場合も同様。(法1040条2項)
以上は、遺贈についても類推適用される。(最高裁昭和57.3.4)
代位行使 遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、これを第三者に譲渡するなど、権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き、債権者代位権の目的とすることができない。
(最高裁H13.11.22)
遺留分減殺請求権は帰属上の一身専属性はないが、行使上の一身専属性がある。
減殺の意思表示 遺留分減殺請求権の行使は、受遺者や受贈者に対する権利者の一方的な意思表示
裁判外でもできる
裁判実務は比較的厳格:
生前贈与や遺贈の効力を争いながら、遺産分割協議の申入れをするのは、遺留分減殺請求の意思表示が含まれているとはいえない(←生前贈与や遺贈を容認してはじめて遺留分減殺請求が成り立つ)。(東京高裁H4.7.20)
被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈されたという事案で、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解すべき(←この場合、遺産分割は、遺留分弁済請を伴わなければありえない。)(最高裁H10.6.11)。
減殺の順序・割合 遺留分の減殺請求とは、「遺留分を保全するのに必要な限度で」(1031条)、すなわち、遺留分の侵害額に相当する額の限度で、受遺者や受贈者から財産を取り戻すこと。
不動産⇒共有関係を生ずる形での一部減殺も可能。
動産⇒全部取り戻して超過額を返還すべき。
(価額弁償になる可能性もある。)
減殺対象が複数 @まず遺贈、Aついで贈与が減殺。(1033条)
←贈与は既に相続財産から離脱している財産であるが、遺贈は相続開始によってはじめて効力を生ずる。
遺贈が複数⇒遺贈全体について価額の割合に応じて減殺される(1034条)。
贈与が複数⇒新しい贈与から減殺(1035条)。
先後:贈与契約の先後。but死因贈与は最初に減殺すべき(←遺贈に近い)(東京高裁H12.3.8)。
減殺を受けるべき受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する(1037条)。
●  ●請求権者が複数
減殺請求権者が複数⇒各自の遺留分侵害額を保全するのに必要な限りで減殺請求ができる。(1031条参照)

侵害額の割合に応じて減殺請求することになる。
管轄 遺留分減殺をめぐる紛争は、訴訟事項で、家庭裁判所には管轄権はない。
but
遺産分割に際して共同相続人間で遺留分減殺請求権が行使されている場合など、遺産分割の前提問題として過程裁判所が分割審判の中で判断を行うことが妥当な事案もある。
■効力と法的性質 規定 民法 第1036条(受贈者による果実の返還)
受贈者は、その返還すべき財産のほか、減殺の請求があった日以後の果実を返還しなければならない。
民法 第1040条(受贈者が贈与の目的を譲渡した場合等)
減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし、譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる。
2 前項の規定は、受贈者が贈与の目的につき権利を設定した場合について準用する。
民法 第1041条(遺留分権利者に対する価額による弁償)
受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。
2 前項の規定は、前条第一項ただし書の場合について準用する。
●  ●贈与・遺贈の失効
基本的効力は、遺留分を侵害する贈与や遺贈の効力を奪い、目的物を取り戻すということ。
金銭の贈与・遺贈なら、未履行分については履行請求ができなくなり、既履行分については返還請求ができなくなる。
特定物 目的物が特定物⇒現物返還の原則が基本。
(1036条、1041条)
価額弁償 受贈者・受遺者が価額弁償によって現物返還の義務を免れることを認める(1041条1項)。
←受贈者・受遺者に目的物を帰属させるという、被相続人の意思を尊重。
受遺者が返還の義務を免れる効果を生じるためには、受遺者において遺留分権利者に対し価額の弁償を現実に履行し又は価額の弁償のための弁済の提供をしなければならず、単に価額の弁償をすべき旨の意思表示をしただけでは足りない(最高裁昭和54.7.10)。
(←そうでないと、遺留分権利者の地位が弱くなりすぎる。)
評価基準時 価額弁償における価額算定の基準時は、現実に弁償がなされる時であり、遺留分権利者においても当該価額弁償を請求する訴訟にあっては現実に弁償がされる時に最も接着した時点としての事実審口頭弁論終結の時(最高裁昭和51.8.30)
物の引渡請求権を有する債権者が債務者に物の引渡しを請求する場合に、執行不能の場合に備えて価額による賠償をも請求することがある。この場合は、賠償額算定の基準時を事実審口頭弁論終結時とするのが最高裁判例(最高裁昭和30.1.21)。
価額弁償の主文 遺留分減殺請求をした遺留分権利者が遺贈の目的物である不動産の持分移転登記手続を求め、これに対して受遺者が、裁判所が定めた価額にyり1041条により価額の弁償をする旨の意思表示をした事案で、最高裁H9.2.25は、事実審の口頭弁論終結時を算定基準時として弁償すべき額を定めたうえ、受遺者が右の額を支払わなかったことを条件として、遺留分権利者の請求を認容すべきである旨の判示。

価額弁償の事実は債務者(受遺者)が証明することになる(民執法174条3項)

遺留分権利者は、価額弁償または移転登記を確実に実現することができ、妥当。
目的物譲渡の場合 受贈者が遺留分減殺請求を受けるよりも前に贈与の目的物を他人に譲渡。
⇒遺留分権利者に価額弁償しなければならない(1040条1項)。
遺贈にも類推適用(最高裁昭和57.3.4)。
遺贈の目的物を相続開始後に受遺者が譲渡した事案で、受遺者が遺留分権利者に対してすべき価額弁償の額は、譲渡の価額がその当時において客観的に相当と認められるべきものでああったときは、譲渡価額を基準として算定すべき(最高裁H10.3.10)。
形成権or請求権 ●遺留分減殺請求権が行使されたとき、対象となった贈与契約あるいは遺贈の効力はどうなるか?
○A:形成権説(判例・通説):
遺留分減殺請求は取消権ないし解除権を行使するのと同じで、減殺の意思表示によってその限度で贈与・遺贈の効力が失われ、その結果現物返還も求められる。
(←遺留分減殺請求権を行使する相続人は、被相続人の地位を承継するので、被相続人からの遺贈や贈与の効力を否定しておかないと、遺贈や贈与に基づく権利移転義務が残ってしまい、遺留分減殺の目的を達することができない。)
B:請求権節
遺留分減殺請求権とは単に物の返還を求める請求権にすぎない(未履行分は履行拒絶の抗弁権が生じる)
←現物返還を求め、あるいは未履行の贈与・遺贈の履行を拒むのに、贈与契約や遺贈の効力を失わせることまでは必要なし
転得者 ●減殺請求前の転得者
原則として転得者に減殺請求できない。
遺留分を侵害された相続人は、目的物を譲渡した受贈者・受遺者に対して価額弁償を請求できるにとどまる(1040条1項本文)。
転得者が悪意(譲渡の当時遺留分権利者に損害を加えることを知っていたとき)⇒転得者に対して減殺請求することもできる(同条1項但書)。
減殺請求権の相手方となった転得者は、必ず現物を返還しなければならないのではなく、価額弁償を選択することもできる(1041条2項)。
以上は、第三者が贈与の目的物に地上権などの権利の設定を受けた場合に準用される(1040条2項)。
●減殺請求後の転得者
X(減殺請求者)とZ(転得者)が対抗関係にある。登記を先に得たZが確定的に所有権を取得(最高裁)。
転得者への減殺請求を認める1040条は、遺留分減殺請求前に現れた転得者との関係を規律するもので、本件のように減殺請求後の転得者との関係では適用されない(最高裁)。
■共同相続と遺留分減殺請求 審判説と訴訟説 最高裁(訴訟説・固有財産節)
特定遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない(最高裁H8.1.26)

分割手続は物権上の共有物分割手続(=訴訟手続)となる。
登記実務も、減殺請求により受遺者から減殺者への移転登記を澪tめている。
■期限制限 規定 民法 第1042条(減殺請求権の期間の制限)
減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
起算点 贈与・遺贈の存在のみならず、それが遺留分を侵害することも知る必要。
●「遺留分を侵害することを知った時」
少なくとも、減殺すべき贈与の存在を知ることは必要(最高裁昭和57.11.12)。
●遺留分権利者が贈与・遺贈が無効であるとして争っている場合
(Aの死後間もなくXは贈与の事実を知り、贈与は妾契約に基づくものだとしてAの相続人としての地位において無効を主張して、本件不動産の移転登記などを求める訴訟をY1、Y2に対して提起)
「被相続人の財産のほとんどが全部贈与されていて遺留分権利者が右事実を認識しているという場合においては、無効の主張について、一応、事実上及び法律上の根拠があって、遺留分権利者が右無効を信じているため遺留分減殺請求権を行使しなかったことがもっともと首肯しうる特段の事情が認められない限り、右贈与が減殺することのできるものであることを知っていたものと推認するのが相当」
形成権の時効 ●消滅時効にかかるのは、遺留分減殺の形成権だけかどうか?
時効にかかるのは形成権だけで、その行使によって発生する返還請求権は1042条の時効にかかるものではない(最高裁昭和57.3.4)。
減殺請求によって取得した所有権に基づくk登記手続請求権は時効にかからない(最高裁H7.6.9)。
(←返還請求権は物権的請求権であり、時効にかからない)