シンプラル法律事務所
〒530-0047 大阪市北区西天満2丁目6番8号 堂島ビルヂング823号室TEL(06)6363-1860
MAIL    MAP


論点整理(刑事実体法)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

執行猶予
規定 刑法 第25条(執行猶予) 
次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。
刑法 第26条(執行猶予の必要的取消し)
次に掲げる場合においては、刑の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十五条第一項第二号に掲げる者であるとき、又は次条第三号に該当するときは、この限りでない。
一 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。
二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。

刑法の基礎理論(平野 総論)
★    ★第1章 刑法理論の系譜 
■一 刑法理論 
旧派:自由意思・行為主義・道義的責任・応報刑・一般予防
新派:決定論・行為者主義・社会的責任・改善刑・特別予防
■二 (前期)旧派の確立
アンシャン・レジームの刑法:干渉性、恣意性、身分性、過酷性
vs.
ベッカリーア、フォイエルバッハ(ドイツ)、ベンサム(イギリス)
刑罰の最も主要な機能が心理的矯正すなわち一般予防にあることを明らかにし、
罪刑法定主義を確立。
■  ■三 新派の発生 
刑罰を加えても、犯罪をくりかえす人たちがいる。

犯罪の原因に対する科学的研究。
ロンブローゾ(イタリア)
フェリー(イタリア)
リスト(ドイツ)
@生理的原因
A社会的原因
■  ■四 (後期)旧派の対抗
旧派:自由意思を認め、その発動である客観的な行為に対し、応報としてこれに相当する刑を科すべき。
前期旧派:
@法と倫理を区別。
A自由意思とは、利害を合理的に配慮し、これに従って行動する能力。
B応報とは一般予防を目的とする心理強制。
後期旧派:
@法と倫理を同一視。
A自由意思とは、いわば形而上学的な、原因がないという意味での自由意思。
B絶対的な応報、贖罪のための応報という色彩。
刑罰法規は定言的命令(カント)。
「犯罪は法の否定であり、刑罰は否定の否定である」(ヘーゲル)
国家自由主義のイデオロギーに基づくもの。
■五 両派の誇張 
全体主義的な国家のもとでは、新派も旧派も似た結論に達する。(初期ソビエト刑法、ナチスの刑法)
■六 わが国における対立 
新派:
牧野英一「刑罰は教育である」という教育刑論。
瀧川幸辰:前期旧派理論
小野清一郎:後期旧派
「法は倫理である」
道義的責任論。
⇒団藤重光(定型性+人格形成責任)
■七 刑法改正と刑法理論 
  ★第2章 刑罰理論
◆第一節 刑罰の内容と正当根拠 
■一 刑罰の内容と正当根拠 
応報刑論:「犯罪が行われたから刑罰を科する」
目的系論:「犯罪が行われないように刑罰を科する」
A:一般予防論:刑罰の内容は苦痛ないし害悪であることを前提とし、これを科することによって、一般人が犯罪に陥ることを抑止する効果があるところに、正当根拠がある。
B:特別予防論:犯罪行為者自身が再び犯罪に陥らないようにするという効果が、刑罰を正当化。
■二 応報刑と抑止刑 
応報刑論:応報であることが「それ自体として」刑罰を正当化する。
犯罪との間に均衡を保った「正しい」応報であることが刑罰を正当化する。
その「均衡」は、犯罪の結果の軽重との均衡だけではなく、行為者の責任との均衡が必要。

責任に応じた非難であることが、刑罰の正当性の根拠⇒応報刑は責任刑
犯罪防止の効果があるかどうかと関係なく、正しい応報であること「それ自体で」刑罰は正当とされる。
一般予防論ないし抑止論:
応報のための応報、非難のための非難を加えるのは、国家の任務ではないという考え方から出発。
国家が、その権力によって個人に苦痛という害悪をくわえるのは、それによって、犯罪の防止という効果がある場合に限られなければならない。
「均衡の原則」は要求される。 
自由意思とは、苦痛あるいはその意味内容である非難によって動機づけられる可能性
■三 犯罪者の社会復帰
■  ■四 刑の量定の基準 
◆  ◆第二節 刑事政策上の諸問題 
■一 刑法改正と刑事政策 
■  ■二 自由刑の種類と内容 
■  ■三 刑の猶予と保護観察 
■  ■四 不定期刑と改善保安処分 
  ★第3章 犯罪理論 
  ★第4章 犯罪論の体系 


実体法(総論)
身分犯の共犯      刑法 第65条(身分犯の共犯)
犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。
2 身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する
趣旨 1項:身分犯に非身分者が加功した場合に非身分者を共犯とする(身分の連帯性)
2項:身分によって刑の軽重がある場合に非身分者に通常の刑を科する(身分の個別性)
を規定。 
■身分   1項:真正身分犯(構成的身分:身分により犯罪を構成する場合)
2項:不真正身分犯(加減的身分:身分によって刑の軽重がある場合)
を対象 
●構成的身分(真正身分) 
背任罪:「他人のためにその事務を処理する者」
横領罪:「他人の物を占有する者」
業務上横領罪:「業務上他人の物」を占有する者
  ■身分によって構成すべき犯罪行為 
業務上横領は、単純横領との関係では不真正身分犯であるが、非占有者との関係では真正身分犯としての性格。

@非占有者が業務上横領に加功した場合、非身分者に65条1項を適用⇒65条1項の業務上横領の共同正犯
A同条2項によって、単純横領の刑を科すべき。
(最高裁昭和32.11.19)

@業務上横領は被身分者との関係では真正身分犯。
A単純占有者が業務上横領に加功した場合は単純横領の刑となるのに、非占有者が業務上横領に加功した場合には業務上横領の刑になるという不都合を回避。
会社の取締役が任務を負わない者と共同して背任行為を行った場合: 
会社に対して任務を負わない者について、65条2項により刑法247条の通常の背任罪の刑を科すべきとされている。

会社に対して任務を負わない者につき、65条1項に基づき特別背任が成立することを前提としている。
  ■身分により特に形の軽重があるとき
■    ■身分のない者には通常の刑を科する 
●通常の刑 
「通常の刑」:非身分者が単独犯であった場合に科せられるべき刑を意味。
●非身分者に対する犯罪 
A:行為共同説:身分のない者には、通所の犯罪の共犯が成立
〇B:犯罪共同説:犯罪としては身分犯の共犯が成立するが刑だけが通常の刑による
最高裁昭和31.5.24:
非身分者の行為は、尊属殺人罪の共同正犯になるとした上で、本条2項によって199条の刑を科すべきであるとした。
堕胎罪に関し、妊婦を教唆して堕胎の決意をさせるとともに、他方では医師を教唆して当該妊婦の堕胎の手術を行わせた場合、
妊婦を教唆した点では通常の堕胎罪(212条)の教唆、医師に対する関係では業務上堕胎罪(214条前段)の教唆がそれぞれ成立し、両社は包括して業務所堕胎の教唆が成立するが、被告人には医師たる身分がないから、その刑には本条2項により同意堕胎罪(213条前段)の刑を科すべき(大判大9.6.3)。
but
行為共同説的な立場に立つとされている判例もある。


実体法(各論)
脅迫  
恐喝  
強要  
窃盗罪 第235条(窃盗) 
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
常習累犯窃盗 第2条〔常習強窃盗〕
常習として左の各号の方法に依り刑法第二百三十五条、第二百三十六条、第二百三十八条若は第二百三十九条の罪又は其の未遂罪を犯したる者に対し窃盗を以て論ずべきときは三年以上、強盗を以て論ずべきときは七年以上の有期懲役に処す
一 兇器を携帯して犯したるとき
二 二人以上現場に於て共同して犯したるとき
三 門戸牆壁等を踰越損壊し又は鎖鑰を開き人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若は艦船に侵入して犯したるとき
四 夜間人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若は艦船に侵入して犯したるとき
第3条〔常習累犯強窃盗〕
常習として前条に掲げたる刑法各条の罪又は其の未遂罪を犯したる者にして其の行為前十年内に此等の罪又は此等の罪と他の罪との併合罪に付三回以上六月の懲役以上の刑の執行を受け又は其の執行の免除を得たるものに対し刑を科すべきときは前条の例に依る
★詐欺罪     ★詐欺罪 
規定 刑法 第246条(詐欺) 
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
趣旨 詐欺・恐喝:被害者の瑕疵ある意思に基づいて財物を交付させ、又は財産上の利益を取得
瑕疵ある意思を生じた原因について、
詐欺は欺かれて錯誤に陥ったことによる
恐喝は脅迫されて畏怖したことによる

窃盗罪・強盗罪:意思に基づかない 
  ■1項詐欺の行為 
●人(欺く行為の相手方)
必ずしも財物の所有者又は占有者であることを要しないが、その財物について事実上又は法律上財産的処分行為をなし得る権限ないし地位を有する者でなければならない(判例) 

〇銀行員を欺いて預金の払い戻しを受ける場合
〇教団の幹部を欺いて教団の金を借用する場合
×登記官吏に偽造の質権放棄承諾書を提出して質権消滅登記をさせた場合
×偽造した不動産売渡証書を行使して事故に所有権移転登記をさせた場合

登記官吏は処分権限も地位も有しない。
●欺いて(欺罔して) 
欺く:人を錯誤に陥らせる行為をすること。
相手が機械⇒窃盗
消費者金融会社の係員を欺いてローンカードを交付させた上、これを利用して同社の現金自動入出機kら現金を引き出した行為:
係員を欺いてローンカードを交付させた点⇒詐欺罪
同カードを利用して現金自動入出機から現金を引き出し⇒窃盗罪
●財物を交付させた 
相手方の錯誤に基づく財産的処分行為によって財物の占有を自己または第三者が取得すること
   
■2項詐欺の客体 
財産上の利益:
財物以外の財産的利益を意味し、積極的利益か消極的利益かを問わない。
一次的利益か永久的利益かを問わない。
ex.
債権の取得
債務の保証をさせること
債務の引受をさせること
債務の命所をさせること
債務の履行期を延期させること
民事訴訟において和解させること
労務・サービスを提供させること
不動産と賃貸させること
利用限度額の範囲で繰り返し借入れができるローンカードとして利用可能にさせること
  ■2項詐欺の行為
●財産的処分行為 
   
★横領罪       ★横領罪
規定 刑法 第252条(横領) 
自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
2 自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。
刑法 第253条(業務上横領)
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。
主体 身分犯 
客体 〇不動産
〇電気、水力、空気の圧力、人口冷気等のエネルギー
←管理可能性があればいい
占有 @物に対する事実上の支配に限らず、A法律上の支配も含む(判例)。
「占有」の重要性は、濫用のおそれのある支配力にある。

奪取罪の占有のように侵害の対象ではなく、委託者との関係における信頼関係の基礎としての意味をもつ。 
●金銭の占有 
他人の金銭を委託され保管する者が保管の方法として銀行等の金融機関に預け入れているときは、預金(すなわち、銀行に預金されている金銭)に対する占有を有する(判例)。

預金債権の支配がその性質上金銭そのものの支配と法律上同視し得る。

保管者がほしいままに預金を引き出したり、振替等により現金を引き出さずに処分した場合も、その行為は横領罪を構成すr。
預金通帳、印鑑、あるいはキャッシュカード等をただ事務的に預かっている場合等においては、預金を占有するものとはいえない。
小切手振出の権限をゆだねられたものは、小切手資金である当座預金を常時処分する権限を有する⇒当座預金の占有を有する。
委託信認関係  占有の基礎には、物の所有者又は公務所と占有者との間に委託関係がなければならない。 
委託関係が生じる原因:
法令の規定、使用貸借、賃貸借、委任、寄託等の民法上の契約
事務管理
取引上一般に容認されている慣習、条理、信義則
でも良い。
委託信任関係が法律上無効、取り消された場合でも、引き渡された物の占有は委託信認関係に基づくものといえる⇒これをほしいままに領得するときは横領罪を構成(判例)。
不動産について、売買契約による所有権移転登記がされた後、契約の無効・解除・取消等により終局的に所有権が移転しないことが判明

既に自己の登記名義を有する買主は、売主に登記名義を戻すまで当該不動産を保管すべき義務を有し、なおその不動産の占有者
⇒その間にほしいままに不動産を第三者に処分し委託登記を了したときは、横領罪を構成。
他人の物 ●委託金等 
封金のように特定物として委託された金銭の所有権〜委託者
封金されていなくても、委託者が費消・流用を禁止して委託した金銭の所有権〜委託者
費消・流用を許す趣旨で委託⇒所有権は受託者に移る
一定の目的・使途を定めて委託された金銭の所有権〜委託者⇒受託者が定められた目的・使途以外に処分すれば横領罪。
債権の取立てを依頼された者が取り立てた金銭の所有権〜依頼者(大判昭和8.9.11)
集金人が取立てた売掛代金の所有権〜主人(大判大11.1.17)
XがAに対する債権をBに譲渡した後、Aから弁済を受けた金員を費消する行為も横領罪。(最高裁昭和33.5.1)
行為   横領すること 
横領 横領:
自己の占有する他人の物又は公務所から保管を命じられた自己の物を不法に領得すること。
「不法領得の意思」を実現するすべての行為
(領得行為説:判例) 
横領罪における「不法領得の意思」:
「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思」(判例)
後日返済・弁償・補填する意思があっても、不法領得の意思は認められる(判例)。
目的物を自己のために領得する意思に限らず、第三者のために領得する意思も含まれる(判例)。
不法領得の意思が認められない場合:
・委託者本人のために目的物を処分する場合
・行為者の権利に属する処分行為
態様 着服 
既遂時期  不法領得の意思が客観された時=不法領得の意思が確定的に外部に表現された時に
横領罪の実行の着手があり、同時に既遂となる。 
共犯 他人の物の占有者でない者が、占有者の犯行に加功してその物を横領
⇒65条1項によって共犯となる。 
  ★業務上横領
規定 刑法 第253条(業務上横領)
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。
主体 2重の意味で身分犯
「業務」:人がその社会生活上の地位に基づき反復継続して行う事務。
客体 業務上占有する他人の物 
「業務上占有する」:業務者がその業務の遂行として他人の物を占有すること

業務者であっても、業務外で占有している者は、本罪の客体とならない。
業務の範囲を逸脱する物も同様。
★各罪の関係     ■横領罪と詐欺罪の関係
他人の財物を横領するために詐欺的手段を用いても、横領後、財物を確保するため詐欺的手段を用いてその返還を免れても、詐欺罪は成立しない。

財物の占有の移転や交付がない
×A:2項詐欺罪の成立を認める見解
〇B:横領罪と同一の被害者に対し、横領行為として、あるいは横領物の確保のためにされた詐欺的手段は、詐欺罪を構成しない。
■横領罪と背任罪の関係 
背任罪:事務処理車と本人との間に存在する信任関係違反による財産侵害を処罰
横領罪:物の所有者から信任委託を受けて占有する物について、不法領得の意思を実現して領得する罪

両社はいずれも、信任関係に背いて侵される財産犯という意味で共通
横領罪が成立する場合は、背任罪は成立しない(判例)
横領罪>背任罪
横領罪の対象は財物⇒財産上の利益については横領罪成立の余地なし。
横領罪が成立するには、不法領得の意思(「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思」(最高裁))の発現が必要。
不法領得の意思」は
事務処理者の行為が本人の事務を処理否定
本人の事務を処理していない⇒経済効果は本人に帰属しない(本人の物を第三者に交付する場合であれば、いったん行為者がその物を領得した上で交付しているとみられる)⇒肯定
(判例)
本人の名義・計算で行われた場合は背任罪
←本人の名義・計算で行われれば本人の事務処理
自己の名義・計算で行われた場合は横領罪
←自己の名義・計算で行われれば領得行為
but
最高裁昭和34.2.13:
森林組合の組合長が組合員に転貸すること以外の流用を一切禁止された政府貸付金を組合名義で第三者たる地方公共団体に貸し付けた事案で、本人名義の貸付でも横領罪が成立。

およそ本人の権限にもない行為を行うことは、本人の名義であっても、本人のためとは認められず、領得したものとみるほかないとされたものと解される。

本人名義であっても、委託の趣旨から絶対に許されない行為は横領罪。
そのような場合は、多くの場合自己の計算であると見ることができる(名義・計算の基準は計算に重点がある)。
支店長が本人名義で行う貸付けであっても、定められた手続を全く履践せず、貸付限度額を著しく超えてなされた貸付行為は、背任罪ではなく業務上横領罪にあたる(大阪地裁昭和55.10.13、東京地裁昭和58.10.6)。
  ■詐欺罪と背任罪との関係
詐欺罪>背任罪
他人のため事務処理をする者が、本人を欺いて財物を交付させる場合⇒詐欺罪が成立し、別に背任罪は成立しない。
もっとも、財物を交付させる過程において本人を欺く要素があっても、それが軽微であれば、むしろ背任罪として捉えた方が実態にあう場合も考えられる。
★背任罪     ★背任罪
規定 刑法247条
他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。(刑法247条)
説明 信頼関係違反、つまり背信により財産的侵害をするもの。
@他人のために事務を処理する者が
A自己又は第三者の利益を図る目的、あるいは本人に加害する目的
B任務違背の行為をし
Cその結果本人に財産上の損害を加える
ことにより成立。
@について、
「事務」とは、財産上の利害に関する仕事一般(事実的関係を含む)を意味する。
継続的なものに限らず、一時的な仕事でも良い。
事務処理者にはその事務を誠実に処理すべき「信任関係」が必要。
「信任関係」は、法令(親権者、後見人、破産管財人等)、契約(委任、雇用、請負等)に基づく場合の他、事務管理、慣習からも生じる。
「他人」は、行為者以外の者で法人も含む。
(前田各論3版p273)
Aについて
図利・加害目的は、自己の利益を図る目的、第三者の利益を図る目的、本人に損害を加える目的のうち少なくとも1つあることが要件で、事案により、2つ以上が併存することもある。
共犯 融資事案における借り手に背任の共同正犯の責任を問うためには、当該事案における貸し手と借り手との関係、借り手が実際に行った行為等の具体的事情を踏まえて、背任罪の個々の要件の検討を行う必要があり、手続的制約に反する貸付であると認識しているだけでは足りず、その貸付が十分何担保を要求しないなど貸し手の任務に反するものであることの認識が必要。(条解p789)
★(取締役等の)特別背任罪    ★特別背任罪
   第960条(取締役等の特別背任罪) 
次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 発起人
二 設立時取締役又は設立時監査役
三 取締役、会計参与、監査役又は執行役
四 民事保全法第五十六条に規定する仮処分命令により選任された取締役、監査役又は執行役の職務を代行する者
五 第三百四十六条第二項、第三百五十一条第二項又は第四百一条第三項(第四百三条第三項及び第四百二十条第三項において準用する場合を含む。)の規定により選任された一時取締役、会計参与、監査役、代表取締役、委員、執行役又は代表執行役の職務を行うべき者
六 支配人
七 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人
八 検査役
2 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は清算株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該清算株式会社に財産上の損害を加えたときも、前項と同様とする。
一 清算株式会社の清算人
二 民事保全法第五十六条に規定する仮処分命令により選任された清算株式会社の清算人の職務を代行する者
三 第四百七十九条第四項において準用する第三百四十六条第二項又は第四百八十三条第六項において準用する第三百五十一条第二項の規定により選任された一時清算人又は代表清算人の職務を行うべき者
四 清算人代理
五 監督委員
六 調査委員
主体  「他人のためにその事務を処理する者」のうち、本条に列挙されたもののみが本条の主体となる。
刑法の背任罪も本罪もともに身分犯。
身分は行為時にあればよく、身分消滅後損害が発生してもよい(大判昭和7.6.29)。
●  「支配人」:
名称のいかんを問わず、営業主に代わり、その営業に関する包括的代理権を与えられている商業使用人
会社法 第10条(支配人) 
会社(外国会社を含む。以下この編において同じ。)は、支配人を選任し、その本店又は支店において、その事業を行わせることができる。

会社法 第11条(支配人の代理権)
支配人は、会社に代わってその事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
2 支配人は、他の使用人を選任し、又は解任することができる。
3 支配人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。

会社法 第12条(支配人の競業の禁止)
支配人は、会社の許可を受けなければ、次に掲げる行為をしてはならない。
一 自ら営業を行うこと。
二 自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をすること。
三 他の会社又は商人(会社を除く。第二十四条において同じ。)の使用人となること。
四 他の会社の取締役、執行役又は業務を執行する社員となること。
2 支配人が前項の規定に違反して同項第二号に掲げる行為をしたときは、当該行為によって支配人又は第三者が得た利益の額は、会社に生じた損害の額と推定する。
「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」:
支店長・部長・課長・係長・主任等、事業に関するある種類または特定の事項について部分的包括代理権を有する商業使用人。
会社法 第14条(ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人)
事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する。
2 前項に規定する使用人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
   

親族相盗例
規定 刑法 第244条(親族間の犯罪に関する特例)
配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する
2 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
3 前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない
刑法 第251条(準用)
第二百四十二条、第二百四十四条及び第二百四十五条の規定は、この章の罪(第37章 詐欺及び恐喝の罪)について準用する。
刑法 第255条(準用)
第二百四十四条の規定は、この章の罪(第38章 横領の罪).について準用する。
刑法 第256条(盗品譲受け等) 
盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を無償で譲り受けた者は、三年以下の懲役に処する。
2 前項に規定する物を運搬し、保管し、若しくは有償で譲り受け、又はその有償の処分のあっせんをした者は、十年以下の懲役及び五十万円以下の罰金に処する。

刑法 第257条(親族等の間の犯罪に関する特例)
配偶者との間又は直系血族、同居の親族若しくはこれらの者の配偶者との間で前条の罪を犯した者は、その刑を免除する。
2 前項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。
刑の免除 配偶者、直系血族及び同居の親族の間において窃盗罪と不動産侵奪罪(及びその未遂罪)を犯した者はその刑を免除し、その他の親族に関するときは親告罪とする。
この特定は他の財産犯にも準用される(刑法251条、255条)。
ただし強盗罪および毀棄罪には準用されず、盗品等の罪についても親族間の犯罪につき独自に規定が存在する(法257条)。



横領・窃盗
預金の引出行為 横領 刑法 第252条(横領) 
自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
2 自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。
刑法 第253条(業務上横領)
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。
●銀行の預金は預金者に占有がある。(大判大1.10.8)
⇒相手の横領は成立しない。
●不法領得の意思の発現行為。
第255条(準用)
第二百四十四条の規定は、この章の罪について準用する。
第244条(親族間の犯罪に関する特例)
配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
2 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
3 前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。
●刑の免除は有罪判決。(前田3p188)
●親族間でも犯罪の成立は否定し得ないが、法律は家庭内に立ち入らない方が好ましい場合があるとして政策的に刑の免除を認めたもの(一身的刑罰阻却事由説)。(前田3p185)
窃盗 第235条(窃盗) 
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
●共同保管している者の1人が他の保管者の同意を得ないで自己単独の占有に移した場合、他人の占有を害するから窃盗罪が成立。(最高裁昭和25.6.6)
(前田3p172)
●普通預金口座に誤って入金された金員を名義人が自己のキャッシュカードを用いて現金自動支払機から引き出す行為は窃盗となる。(通帳を用いて窓口で引き出せば詐欺罪が成立する。)
(前田3p173)

現に引き出された現金自動支払機中の現金を占有しているのは、口座名義人ではなく銀行(支店長)
●横領罪の関係では、占有概念が緩やかで、名義人に預金債権相当額の金銭について法的占有が認められる。(誤って振り込まれた場合は、委託に基づく占有でjはないので占有離脱物横領の問題。)
現に引き出された金銭については占有が銀行に存すると解される以上窃盗に該当し、その評価が「委託に基づかず法的に占有する金銭の横領」という評価に優先する。(前田3p174)
思考 預金の占有はこちらにある⇒横領は成立しない。
預金通帳の窃盗(こちらに対する窃盗)+銀行に対する窃盗(預金を引き出す行為)

偽造
規定 第159条(私文書偽造等)
行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
2 他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3 前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
虚偽告訴
規定 刑法 第172条(虚偽告訴等) 
人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、三月以上十年以下の懲役に処する。
第173条(自白による刑の減免)
前条の罪を犯した者が、その申告をした事件について、その裁判が確定する前又は懲戒処分が行われる前に自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。


個別
覚せい剤取締法 規定 第41条(刑罰)
覚せい剤を、みだりに、本邦若しくは外国に輸入し、本邦若しくは外国から輸出し、又は製造した者(第四十一条の五第一項第二号に該当する者を除く。)は、一年以上の有期懲役に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、無期若しくは三年以上の懲役に処し、又は情状により無期若しくは三年以上の懲役及び一千万円以下の罰金に処する。
3 前二項の未遂罪は、罰する。
輸入 覚せい剤を船舶から保税地域に陸揚げし、あるいは税関空港に着陸した航空機から覚せい剤をとりおろすことによって既遂に達する。(最高裁昭和58.9.29)
営利目的 「営利の目的」について、「犯人がみおずから財産上の利益を得、又は第三者に得させることを動機・目的とする場合をいう」⇒いわゆる利他目的を含む。
反面、営利性については単なる認識では足りずより積極的にそれを「動機」とすることを要する。
(最高裁昭和57.6.28)
「営利目的」は刑法65条の「身分」⇒営利目的のない者が営利目的を有する者の行為に加功した場合、当該営利目的なき者んみついては非営利目的の罪の刑しか科せられない。
第65条(身分犯の共犯)
犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。
2 身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。
故意 未必の故意 認容説からは,結果発生の可能性を認識しながらこれを認容した場合が未必の故意であるとされ,動機説からは,最終的に結果が発生すると考えながら行為に出た場合が未必の故意であるとされている。
1◎犯意は、罪となるべき事実の認識予見があれば足り、その事実の発生を希望することを必要とせず、また、その認識予見は確定的のものであることを要しない。犯意のある行為とは、自己の意思活動によって罪となるべき事実の発生を予見しながら、あえてこれをする決意の実行である。(大判大11・5・6刑集1-255)
最高裁は、「故意が成立するためには必ずしも買受くべきものが賍物であることを確定的に知っていることを要しない。或いは賍物であるかもしれないと思いながらしかも敢えてこれを買受ける意思(いわゆる未必の故意)があれば足りる」とする。しかし、買受物品の性質、数量、受渡人の属性、態度等諸般の事情から「或は賍物ではないか」との疑を持ちながらこれを買い受けた事実が認められれば」よく、「あえて」であることの立証は必要でないとすうr。(最高裁昭和23年3月16日)
平野 その認識には、単にそういうことも可能だという段階から、そうらしいという蓋然性の段階を経て、まちがいないであろうという確実性の段階まで程度の差がありうる。(p181)
被告人が否認していることはもちろんであるが、自白した場合でも、被告人が正しく自己の真理を把握したか疑問があることが多い。
⇒いずれにせよ、状況証拠によって、こういう心理状態であったに違いないと認定する必要がある。(p183)
通常の場合、一般人ならば当然結果の発生を予見したはずだと思われる状況があれば、当該被告人も予見していたと認定することができる。
少なくとも、殺人として処罰するには、やはり本人の現実の認識、すなわち意識の世界における認識が必要である。そして、このような事態のもとでは、「認識の有無」を故意と過失とを分かつ限界とし、これを状況証拠によって認定するようにした方が妥当な結論がえられる。(p184)
「認容」:死んでも「かまわない」、賍物でも「かまわない」と思うこと。
積極的認容:死んでも「よい」、賍物でも「よい」と思うこと。
消極的認容:死んでも「しかたがない」。死ぬかどうかに「無関心であったこと」で足りる。
(p182)
古い認識説:
単に可能だと思ったにすぎないときは認識のある過失であり、蓋然的だと思った時は未必の故意
vs.故意と過失は単なる程度の差ではなく、質的な差があるべき。(p187)
平野説:
行為者も一応は、結果発生の蓋然性がある、あるいは可能性があると考えたとしても、「結局においては」、結果が発生するであろうという判断から、結果は発生しないであろうという判断のどちらかに到達しているものと考えることができる。
このような意味での犯罪事実の認識の有無が、故意と過失との限界をなす。(p187)
認識ある過失:
一応、結果の発生が可能だと考えたが、結局は否定したという場合にすぎない。
不作為犯 真正不作為犯 明文で法が不作為を犯罪と規定している場合。
「保護をしない」(218条)
「退去しない」(130条)
「解散しない」(107条)
不真正不作為犯 因果関係 不作為とは、何もしないこと、単なる無ではなく、「何か」をしないこと、「想定されたある作為」をしないこと。⇒その「何か」をしていたならば、結果は発生しなかったであろうという場合には、条件関係がある。(p150)
作為義務 法律上の義務であって、単なる倫理的な義務ではない。
どのような場合に、不作為犯を成立させるような作為義務違反があるのか:
結局のところ、作作為による結果の発生と「同視しうるとき」あるいは「同価値であるとき」というほかない。(p152)
社会生活において、通常、人は法益侵害の結果を発生させさえしなければいいのであるが、一定の状況のもとでは、法益の保護を、ある特定の個人に委ねるほかなく、その場合、法益を保護しなかったときは、自ら侵害したのと同じだといわざるをえない場合もある。
このように、社会生活上、この人が当然にその法益の保護にあたるべき地位を「保障者的地位」という。結局このような保障者的地位があるときに作為義務がある。(p152)
「不作為犯の成立を認めるのが適当である場合に不作為犯は成立する」というトートロジー的な性格のものであることを免れない。
不作為犯成立の限界は不明確であり、不真正不作為犯はこれを認めるとしても、あくまで例外として、その成立が明白な場合に限られなければならない。(p153)
作為可能性 作為可能性がない⇒作為義務がない。
どの程度「容易」に防止できるかも考慮される。
(飛びこんで助ける可能性はあっても同時にみずからも溺れる可能性もある場合には、不作為犯は成立しない。)
判例 放火判例1:p155
@行為者の管理下にある場所(自宅)でおこった。
B容易に消しえた。
C犯跡をくらますのに利用する意思
放火判例2:p155
@行使者の管理下にある場所(自宅)でおこった。
A自分が立てた灯明の立て方が悪く火を発したという先行行為。
B容易に消しえた。
C保険金を詐取するのに利用する意思
放火判例3:p155
A自らの重過失で火を発したという先行行為。
B容易に消しえた。
地裁判例:交通事故⇒殺人p157
@過失傷害という先行行為
A病院にはこぼうとした「引受け」
B車のなかに入れてしまって他の人の干渉できない「管理下」
⇒不作為の殺人
自動車で人をひいて重傷を負わせて歩行不能にいたらせたときは、運転者は刑法218条の「病者を保護すべき責任ある者」にあたり、そのまま逃走すれば保護義務者遺棄罪が成立し、その結果負傷者が死亡したときは保護者遺棄致死罪となる。(最高裁昭和34.7.24)
@人をひくという先行行為
A一度自分の自動車に乗せて運ぶ途中、捨てて逃走。
保護責任者が、死ぬことを予見しながら放置した場合にこれを遺棄致死で処罰することになると、不作為の殺人と不作為の遺棄致死との違いは、市の死の予見の有無ではなく、作為義務の程度による。
殺人の故意があっても殺人とするに足りるほどの作為義務のない者の場合は、保護責任者遺棄致死として軽く処罰される。
(不作為の場合、作為義務の強弱によって、重い罪から次第に軽い罪と、それぞれによって処罰されることになる。)p158
以下、大コンメンタール刑法 第二版 第5巻 60条〜72条
不作為の幇助犯 肯定 大審院昭和3.3.9:
選挙長たる町長が、選挙権のない者が選挙人の依頼に応じ政党の理由なく被選挙人の氏名を代書した上これを投票函に投入した行為を目撃しながら、制止しなかった行為
大審院昭和13.4.7:
正犯の保険金詐欺の犯行に対し、その事情を知りながら保険会社に報告せず、関係書類を送付して保険金請求手続をとってやった代理店主⇒詐欺罪の従犯
大審院昭和19.4.30:
物資配給制度の下において、町内会長が他人の世帯人員の異動を知りなッがら放置していて不正な受給を容易にした⇒詐欺罪の従犯
高松高裁昭和28.4.4:
工場の倉庫係として製品の搬出入管理に当たっていた者が、同僚から製品の計算を誤魔化してもらいたい旨言われ暗黙の承認を与えた上、この同僚に依る製品盗み出しを予想しながら、制止する会社の係員に連絡するなどの措置をとることもしなかった⇒窃盗罪の従犯
最高裁昭和29.3.2:
劇場責任者が、ストリッパーの公然わいせつの演技を目撃しながら、微温的な警告を発するにとどめて、公演を継続さえた事案
高松高裁昭和40.1.12:
暴力団幹部が、自己所有の登録済の刀剣類を輩下の者が不法に形態するのを放任した⇒刀剣類不法携帯罪についての不作為による従犯
大阪地裁昭和44.4.8:
一時使用を地主に認めてもらっており、買手からの問い合わせなどがあれば通知してほしいと地主から依頼されていた者が、第三者の侵奪行為を地主に通知しなかった⇒不動産侵奪罪の従犯
高松高裁昭和45.1.13:
農協の預金払戻業務を担当する者が、正犯者の業務上横領の情を知りながら払戻請求に応じたという事案⇒担当者として払戻請求を拒絶する法律上の義務があった⇒業務上横領罪の従犯
大阪高裁昭和62.10.2:
人気のない山中における殺人事件につき、正犯者が殺害行為を実行した10分間現場を離れて右実行を阻止しなかった⇒殺人罪の従犯
否定例 福岡高裁昭和25.8.11:
東京高裁昭和28.6.26:
麻薬取締法施行前には取締の対象になっていなかった麻薬含有品を譲渡された者が同法施行後にそのままにしていた行為。
名古屋高裁昭和31.2.10:
会社の取締役ら(被告人ら)が社長から会社の苦境を打開するため会社の工場に放火する決意を告げられたが、これを聞き流し、又はこれを進んで阻止しなかった事案
「成程、会社に無関係の者が、社長から項情報化の決意を打ち明けられた場合と異り会社の枢機に参与する重役たる被告人等が、社長より工場放火の決意を打ち開けられた場合であるから、万全の力を致して、これを阻止すべき責任があるは当然である。しかし、これは、道義上の責任であって、これを超えた法律上の責任を観念することを得ない。現に危機が差し迫り、例えば、現に放火行為に着手せんとした場面に遭遇して、これを阻止する挙に出ない場合であれば、幇助をもって論ずることも強ち無理とは言えないが、本件の如く、決意を打ち明けられたに止り、具体的に何時如何なる方法で放火するか、或いは、放火そのものを決行するかどうかも定かでない場合にまで、被告人等にこれを阻止すべき法律上の義務を認めるのは、無理であり、これを阻止する方法がないからである。社長の放火の意見に対し、沈黙し、或いは反対した被告人等の行動は、道義上の責任はともあれ、法律上の責任を期せしむることはできない」
大阪高裁H2.1.23:
料理店を開店しその客室を売春の場所に提供するのを業としようと企てていた乙の依頼により、右事情を知らずに料理店営業及び飲食店営業の許可について名義貸しを行った甲が、その後乙により売春の場所提供が行われている実態を知りながらこれを放置していた事案:
「不作為による幇助犯については、不真正不作為犯自体に実質的にみて犯罪の成立の限界が不明確になりがちであるという罪刑法定主義にかかわる問題があり、更にそれが正犯の犯罪(刑罰)拡張事由としての幇助犯にかかる場合であるから、その成立の根拠となる法的作為義務の認定には特に慎重でなければならず、あくまで例外としてその成立が明白な場合に限られなければならない」との解釈を前提とし、甲の先行行為が乙の犯行を容易ならしめる一事情となっていることは否定できいないが、各営業許可は店内における犯罪行為とは直接の関係はなく、乙は甲と関係なく独自の判断で売春場所の提供を業としたものであり、甲はそのようなことを予見していなかったのであるから、甲については、先行行為を根拠として、乙が営業許可を使用するのを禁止し、あるいは各所管行政庁に許可取消請求をするなどして、乙の正犯行為を防止する法律的作為義務を認めることはできないとして、不作為による売春防止法11条違反のほう助犯の成立を否定した。
東京高裁H11.1.29:
甲は乙と同じゲームセンターに勤務していたところ、乙はほか3名と共にそのゲームセンターと同じビル内にあるパチンコ店において強盗致傷の犯行に及んだが、甲は事前に乙から強盗の計画を明かされていたのに、警察等に通報するなどしなかったという事案における甲につき、不作為による従犯の成立を認める前提となる犯罪を防止すべき義務を認めることができないとして無罪とした。
釧路地裁H11.2.12:
母親(親権者)である甲が子丙を連れて乙と内縁関係に入り同棲中、乙が丙を折檻して死亡させた事案において、不作為による従犯が成立するためには、その不作為を作為による幇助と同視しうることが必要であるが、甲の不作為については作為を同視しうるとはいえないとして、不作為による傷害致死の従犯の成立を否定。
因果関係 幇助の因果関係 因果関係不要説
条件関係必要説:正犯結果との間に単独犯と同様の条件関係は必要
促進的因果関係説:(平野・大塚等)
正犯結果と幇助行為との間に単独犯のような条件関係は必要ではなく、幇助行為が正犯の実行行為を物理的又は心理的に容易ならしてこれを促進したと認められれば足りる。
幇助とは、犯行を容易にする行為である。その方法は、心理的であると物理的であるとを問わない。この場合の因果関係には、「幇助行為がなかったならば、正犯行為による結果は発生しなかっただろう」、という条件関係は必要ではない。ただ、「促進し、または容易にした」というだけで足りる。(平野p381)
ex.Aが殺人の正犯Bに、ピストルを貸したが、BはCから借りた担当を使ってXを殺し、そのピストルを使わなかったときは、そのこと自体は幇助を構成しないが、これによって正犯の犯行の決意を強化したとすれば、その点に幇助が認められる。

共犯の因果性は、心理的因果性を含むため、必ずしも明確でない性質を持つ。それだけに共犯の場合は、単に因果関係があるだけで処罰すると、処罰の範囲が不明確になり、どのような行為によって因果関係を与えたかとうい行為の限定性が必要になってくる。(●作為義務で絞るべき(MKA))
心理的因果関係説
判例 東京地裁H1.3.27:
「当初の意図どおり、Aが強盗目的により拳銃でVを射殺するという、被侵害法益や侵害態様など、構成要件条重要な点を共通にする行為が、前の計画と同一性を保って、時間的にも連続する過程において遂行されたものであるから、Bの見張り行為等は、Aの同日の一連の計画に基づくVの生命等の侵害を現実化する危険性を高めたものと評価できるのであって、幇助犯の成立に必要な因果関係に欠けるところはないというべきである」
⇒見張り等の行為および追従行為を幇助行為と認めた。(コンp578)
東京高裁H2.2.21:
「Bの見張り等の行為がAの現実の強盗殺人の実行行為との関係で全く役に立たなかったのであるが、このような場合、それにもかかわらず、目張り等の行為がAの現実の強盗殺人の実行行為を幇助したといい得るには、目張り等の行為が、それ自体、Aを精神的に力づけ、その強盗殺人の意図を維持ないし強化することに役立ったことを要すると解さなければならない。しかしながら、AがBに対し目張り等の行為を指示し、Bがこれを承諾し、Bの協力ぶりがAの意を強くさせたというような事実を認めるに足りる証拠はなく、また、Bが、目張り等の行為をしたことを、自ら直接に、もしくはCを介して、Aに報告したこと、又は、Aがその報告を受けて、あるいは自ら地下室に赴いてBが目張り等をしてくれたのを現認したこと、すなわち、そもそもBの目張り等の行為がAに認識された事実すらことを認めるに足りる証拠もなく、したがって、Bの目張り等の行為がそれ自体Aを精神的に力づけ、その強盗殺人の意図を維持ないし強化することに役立ったことを認めることはできないのである」
⇒目張り等の行為の幇助行為性を否定し、他方の追従行為には幇助行為性を認めてBに強盗殺人のほう助罪の成立を認めた。(コンp579)
事例
(コンp579〜)
@AがV宅に侵入し、ガスバーナーを使って金庫に穴をあけていたとき、V宅の使用人Bが現れ、Aに金庫の鍵を与えたので、Aはそれで金庫を開け、財物を摂取。

Bの加功はAの犯行を物理的に促進。
ABCはAがVの殺害を計画していることを知り、それぞれ日本刀をAに提供し、AはBの日本刀を使ってVを殺害。

Bの日本刀がなくても、Aは結局Cの日本刀でVを殺害しただろうという仮定的因果経過を考慮したらBもCも条件関係なし。butこういう仮定的因果経過を考慮してはいえkない。
Bの加功の幇助行為性は明確。
Cの行為は一般的にAの犯意を強化させる効果を有する⇒Aがその後殺意をいったんは放棄するなどという解く丹の事情がなければ、Aの正犯行為との心理的因果関係は肯認し得る。
BAは銀行強盗を企て、Bから拳銃をCからナイフを、それぞれ情を明かして借り受けたところ、Aは銀行強盗の際にナイフも持参したが、拳銃でい銀行員を脅したのみで、統合の目的を遂げなかった。

AがCの加功をその趣旨を了解して受け入れた以上は、特段の事情がなければ、Cの加功の心理的因果性は否定できない。
CBはAがV宅に侵入して窃盗を行う間見張りをしたが、結局何の障害も起こらず、Aは財物を窃取した。

Bの見張りがAの犯行を心理的に促進していることは明らか
⇒Bにつき窃盗の従犯が成立すると解すべきことは疑問の余地がない。
DV宅の使用人Bは、AがV宅に侵入し窃盗をしようとしているのを知り、AにV宅の合鍵を与えたが、AはV宅の窓が開いていたので、合鍵を使わず窓から侵入して財物を摂取。

Bの加功の心理的因果性は否定できないと解すべきである上、Aが事前に一応はV宅で窃盗をしようとして決意していたとしても、BがV宅の合鍵を渡したので、狙いをV宅に絞ることとして、すぐにV宅に決めた場合は物理的因果性もあり。
共犯 規定 刑法 第60条(共同正犯) 
二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
刑法 第61条(教唆)
人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
2 教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。
刑法 第62条(幇助)
正犯を幇助した者は、従犯とする。
2 従犯を教唆した者には、従犯の刑を科する。
刑法 第63条(従犯減軽)
従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。
共謀共同正犯 実行共同正犯を通じて自己の犯罪を実行した者。
⇒実行共同正犯を通じて自己の犯罪を実行したと認めるに足りる事情、つまりは、実行共同正犯による犯罪の実効を自己の犯罪の実行と同視するに足りる事情が必要。
?使役型 犯罪の実質上の主体である共謀者が実行行為者を利用して犯罪を実行させた場合。
@共謀者のみが法律上犯罪の実質上の主体を考えられる場合。
A共謀者が専ら又は主として犯罪の利益を受け、実行行為者の利益が従属であるかほとんど存在しない場合。
B共謀者がその地位、財力、威力等を利用して実行行為者を支配し、犯罪を実行させる場合。
?代表実行型 共謀者も実行行為者もともに犯罪の完成と結果に重大な関心を有しており、実行行為者が両者の代表として犯罪を実行した場合。
@共謀者が実行行為者と意思を通じて犯罪の予備にあたるような行為を行うとともに、犯罪の完成と結果に重大な利害関係を有していると認められる状況がある場合。
A共謀者が実行行為者と意思を通じて犯罪の陰謀にあたるような行為を行うとともに、犯罪の完成と結果に重大な利害関係を有していると認められる状況がある場合。
B共謀者が実行行為者と意思を通じてい犯罪のほう助にあたるような行為を行うとともに、犯罪の完成と結果に重大な利害関係を有している状況が認められる場合。
?準共同実行型 それ自体では厳密な意味での実行行為にあたらない行為ではあるが、仮に実行行為者が実行行為と併せてその行為をするときには実行行為の一部と評価してよい場合において、共謀者が実行行為者の実行行為の際にその行為を分担して実行行為の効果を高めた時。
ex.共謀者が新聞を掲げてすりの実行行為者の幕をつくる場合
教唆犯 他人をそそのかして犯罪実行の決意を生ぜしめ、その決意に基づいて犯罪を実行するに至らしめること。
⇒「過失による教唆」や「過失犯の教唆」を否定
「教唆犯の成立には、ただ漠然と特定しない犯罪を惹起せしめるにすぎないような行為だけでは足りないけれども、いやしくも一定の犯罪を実行する決意を相手方に生ぜしめるものであれば足りるのであって、これを生ぜしめる手段、方法が指示たると式たると、命令たると嘱託たると、誘導たると・・を問うものではない」(最高裁昭和26.12.6)
不作為の教唆 「他人が犯罪行為の決意にいたるのを阻止すべき義務のあるものが義務に違反して阻止しなかったというだけでは教唆とはいえない」(団藤・注釈(2)のU777))
「不作為による共犯も可能である。不作為による共犯を否定する見解は、作為義務は一種類で、作為義務があれば正犯であり、なければ犯罪は成立しないとするのであるが、正犯を基礎づける作為義務と共犯を基礎づける作為義務とは、その性質・内容において必ずしも同じではない」(平野総論396)
ほう助犯 他人の犯罪に加功する意思をもって、有形・無形の方法によりその他人の犯罪を容易にする者。
「従犯は他人の犯罪に加功する意思をもって、有形、無形の方法によりこれをほう助し、他人の犯意を容易ならしむるものであって、自ら当該犯罪行為それ自体を実行するものでない点において、教唆と異なるところはない。」(最高裁昭和24.10.1)
思考 Sに犯意が生じていない⇒教唆犯は不可。
Sを紹介した時点で、犯罪に加功する意思がない⇒不成立
その後も不安になっただけ(不安感)⇒犯意なし。
仮に犯意あり⇒その後知って撤回させなかった⇒不作為犯?
不安感
・シャブとかもあるんだよね。
・鞄を持っていくと言われた。
実行させる理由はない(利益を得ていない)⇒共同正犯も不成立。
最終的に覚せい剤と思っていたとまではいえない。⇒未必の故意なし。
認識:
不安感
当時の精神状況を覚えているのか。

@誘導による事実。
A正確に認識していない。
B「覚せい剤であった」という結果にひきずられる。
プラス方向:
@シャブもあるんだよね
Aバッグ
マイナス方向:
@内容は面接に行ったらわかる
A小切手といわれていた
B面接に行って内容を聞いている山中詩織が大丈夫
作為義務 「幇助したもの」⇒作為が予定されている。
プラス方向:
@自分が紹介した。
マイナス方向:
@被告人にとって先行行為(バイト紹介)は犯罪ではない。おいしいバイトを紹介しただけ。
A漠然とした不安感しかない。
B止めることが容易ではない。
(へたれの大学生に暴力団と対峙する作為義務があるのか?)
B−2
覚せい剤⇒暴力団に何をされるかわからない。(阻止困難)
覚せい剤でない⇒1か月以上かけて準備された仕事をひっくり返してしまうことになる。
C非常に気の毒だと思っているが、何をされたかわからない。
(覚せい剤の輸入だと気がついて断った)
作為義務の履行:
大丈夫かと確認した。