シンプラル法律事務所
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論点整理(金融被害関係)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

参入規制
概要 金融商品取引法の対象となるものを反復して取扱う行為は金融商品取引業(法2条8項)に該当し、これを行う場合は登録が必要となる。(法29条)
私設市場(PTS)開設は認可が必要。(法30条)
プロ間の集団投資スキームに関する業務は届出で足りる。(法63条、63条の3)
種類 第一種金融商品取引業、投資運用業、第二種金融商品取引業、投資助言・代理業の4種類(金商法28条)
それぞれごとに、一定の拒否事由に該当しない限り登録される。(法29条の4)
一般的拒否事由 登録取消、一定の金融犯罪の罰金刑執行後5年未満、公益に反する事業遂行、人的構成不足(法29条の4第1項1号)
法人 役員または一定の使用人が、制限能力者、破産者、
禁固以上の刑執行後・役員として勤務した法人の取消後・本人の登録取消後・本人の解散命令後・一定の金融犯罪は暴力団犯罪の罰金刑執行後5年未満。(同項2号)
個人 制限能力者、破産者、禁固以上の刑執行後・役員として勤務した法人の取消し後・本人の登録取消し後・本人の解任命令後5年未満。(同項2号)
各業の内容 第一種金融商品取引業 従来の証券業にほぼ対応するもので、株式や公社債、投資信託などの売買、店頭デリバティブ取引、有価証券市場デリバティブ取引を行う場合。(法28条1項)
株式会社であることが必要で、最低資本金額(5000万円)、自己資本規制比率120%などの要件がある。
PTS業務を行う場合は3億円、元引受けの主幹事は30億円、幹事は10億円に加重。
投資運用業 証券投資一任契約に基づく運用、証券投資信託・証券投資法人の財産の運用、投資型集団投資スキームの運用を行う場合。(法28条4項)
株式会社であることが必要であり、最低資本金額(5000万円)、純財産額(5000万円)などは第一種金融商品取引業と同程度のハードル。
自己資本規制比率はない。
第二種金融商品取引業 投資信託・抵当証券・集団投資スキーム持分等の自己募集、集団投資スキームなどのみなし有価証券の売買、有価証券以外についての市場デリバティブ取引等。(法28条2項)
個人でもよい。
法人の場合は最低資本金額1000万円(顧客から資金を預かる場合は5000万円)、個人の場合は営業保証金1000万円を必要とする。
投資助言・代理業 投資顧問契約を締結し助言する業務、投資顧問契約や投資一任契約の締結の代理または媒介業務が該当。(法28条3項)
個人でもよい。
法人の場合は最低資本金500万円、個人の場合は、営業保証金500万円。
登録の意義と違反の対処 問題のある業者は、登録申請段階で拒否事由に該当すればそもそも業務を行うことができない。
登録後は、内閣総理大臣(金融庁)が監督することとなり、「金融商品取引業者の業務の運営又は財産の状況に関し、公益又は投資家保護のため必要であると認めるとき」には、「業務の方法の変更その他業務の運営又は財産の状況の改善に必要な措置をとるべきことを命ずることができる」(法51条)
業務停止命令、登録取消処分(法52条1項)、役員の解任命令(法52条2項)を行うことができる。
無登録で金融商品取引業を行うと犯罪になる。(法198条1項、懲役3年以下もしくは罰金300万円以下、または併科)
規定 第2条(定義)
8 この法律において「金融商品取引業」とは、次に掲げる行為(その内容等を勘案し、投資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定めるもの及び銀行、優先出資法第二条第一項に規定する協同組織金融機関(以下「協同組織金融機関」という。)その他政令で定める金融機関が行う第十二号、第十四号、第十五号又は第二十八条第八項各号に掲げるものを除く。)のいずれかを業として行うことをいう。
・・・・
個別論点 「業として」 営利目的は不要
対公衆性:少数特定者はもちろん、1名を相手方とする場合であっても、「対公衆性を満たす場合があり得る。
反復継続性

第7 被害者救済の法理論(手引(6訂版)p86)
◆  ◆1 被害者救済の法理論の2つの道
@「契約の拘束からの開放型」(不当利得返還請求権型)
A「損害賠償請求型」
@支出済みの金銭について支出の法的根拠がない⇒返還を請求
不当利得返還請求権や預託金返還請求権
まず@の道を検討
予備的・追加的にAの道も検討
@A両方の道を主張する場合
@を主位的請求(メインの請求)、Aを予備的請求とするか、
@Aを選択的併合とする。
相手が詐欺的業者⇒業者である会社だけでなく、その役員や勧誘した従業員も請求対象。
業者に対しては@の道もあるが、
全体としてはAの道のうち共同不法行為による損害賠償請求が中心
◆      ◆2 契約の拘束からの不存在・不成立・無効・取消し・解除等) 
■(1) 契約の拘束からの解放とその形 
@契約の外形なし⇒契約不存在
A意思表示の不合致⇒契約不成立
B公序良俗違反(民法90条)、強硬法規違反(民法91条、90条)、錯誤(民法95条)、虚偽表示(民法94条)、不当条項(消費者契約法8条〜10条)、意思無能力、金商法171条の2
C詐欺・強迫取消し(民法96条)、未成年者取消し(民法5条)、不当勧誘取消し(消費者契約法4条、特商法9条の3)
D債務不履行解除(民法541条〜543条)、中途解約権(特商法40条の2、49条など)、クーリング・オフ(特商法9条、金商法37条の6、保険業法309条など)
E信義則(民法1条2項)による請求権の否定・減縮、義務調整、解釈による調整
F損害賠償請求(債務不履行(民法415条)、不法行為(民法709条)、金版法5条など)
■(2) 拘束からの解放の意義 
不当な契約をしたことにより被害⇒その被害救済では、不当な契約の拘束力を否定する方法をとることが合理的で理論的。
民法や特別法が契約の拘束力からの解放の手段を用意。
拘束力を信義則によって制限することについては裁判例も蓄積。
損害賠償による被害救済とは過失相殺の可否、時効期間等で有利な面が多い。
被害額が未定ないし不明な場合など、損害賠償請求では解決できないケースでも使える。
■(3) 解放の形と裁判例 
◎(A) 不存在 
◎(B) 不成立 
◎(C) 無効 
海外商品先物取引について、公序良俗違反で無効としたもの(東京地裁H4.11.10)
◎(D) 取消し 
◎(E) 解除 
◎(F) 信義則による請求権の否定・制限 
◆    ◆3 損害賠償請求 
■(1) 不法行為に基づく損害賠償請求 
適合性原則違反
説明義務違反
不当勧誘(断定的判断提供等)
仕組責任
■(2) 金融商品販売法等に基づく損害賠償請求 
金融商品販売法における説明義務(3条)
断定的判断提供等禁止(4条)
の違反を理由とする損害賠償請求権(5条)
が不法行為に基づく損害賠償請求権と併存
商品先物取引には金融商品販売法の適用がないが、商品先物取引法で、説明義務違反を理由とする損害賠償規定が設けられ(同法218条3項)、金融商品販売法の適用があるのと同じ状況が作られている。
■(3) 金融商品取引法の位置づけ 
  ◆請求原因の観点からの整理
■(1) 概要
■(2) 適合性原則違反 
■(3) 説明義務違反 
●(A) 概要 
●(B) 消費者契約法と説明義務 
●(C) 民法上の説明義務 
証券会社等の業者には当該取引の仕組みとリスク、その他の投資判断に必要な事項を投資者に理解できるように説明する信義則上の義務(説明義務)がある。
東京高裁H8.11.27:
「証券会社及びその使用人は、投資家に対し証券取引の勧誘をするに当たっては、投資家の職業、年齢、証券取引に関する知識、経験、資力等に照らして、当該証券取引による利益やリスクに関する的確な情報の提供や説明を行い、投資家がこれについての正しい理解を形成した上で、その自主的な判断に基づいて当該の証券取引を行うか否かを決することができるように配慮すべき信義則上の義務(「説明義務」)を負うものというべきであり、証券会社及びその使用人が、右義務に違反して取引勧誘を行ったために投資家が損害を被ったときは、不法行為を構成し、損害賠償責任をまぬかれない。」
最高裁H23.4.22:説明義務違反は不法行為であって債務不履行ではない。
⇒取引終了から3年以上経過した事件では、損害賠償請求権が時効により消滅していないと主張できる事実関係を意識する必要がある。
●(D) 金融商品販売法における説明義務 
金融商品販売法3条では、重要事項の説明義務を規定し、それに違反すると損害賠償義務を負うこととしている。
重要事項:
元本欠損のおそれとその要因・仕組み等、当初元本超過損のおそれとその要因・仕組み等および期間制限

消費者契約法の重要事項よりも限定的。
but
勧誘は要件ではなく、説明しないことの責任は無過失責任であり、「故意」が必要でないのはもちろん、過失も不要。
消費者契約法4条2項⇒効果が取消しであり過失相殺を受けにくい
金融商品販売法3条・5条による場合は、同法6条により、損害額と因果関係が推定。
■(4) 断定的判断提供 
消費者契約法4条1項2号の断定的判断提供と金融商品販売法4条の断定的判断提供は、要件がほとんど重なる。
不当勧誘として不法行為にもなる。
断定的判断提供を伴う勧誘⇒
@消費者契約法に基づく取消権が発生すると同時に、
A不法行為に基づく損害賠償請求権、
B金融商品販売法に基づく損害賠償請求権
の3つが同時に発生。
■(5) 確実性誤解(誤認)告知 
金融商品販売法4条は、@断定的判断と並んで、A確実性誤認告知の場合も損害賠償請求できることとした。
金融商品取引法でも確実性誤解告知を禁止しており(金商法38条)、裁判例上、。確実性誤解(誤認)告知は不当勧誘の一種と位置づけられ、断定的判断があった場合と同様、不法行為になる。
■(6) 不実告知 
■(7) 選択の際に考慮すべき要素 
●(A) 過失相殺 
消費者契約法4条に基づく取消しの結果発生する不当利得返還請求権ないし寄託物返還請求権⇒支出額を全額回復できる。
不法行為に基づく損害賠償請求権、金融商品販売法3条の説明義務違反は同法4条の断定的判断提供等禁止違反による発生する同法5条の損害賠償請求権
⇒過失相殺により減額されるおそれ。
but
金融商品販売法に規定する損害賠償責任は無過失責任で損害額の推定あり。
⇒顧客の過失を理由に損害賠償額が減額される過失相殺概念の働く余地は少ないと考えるべき。
加害者に無過失責任を認める場合は、被害者の過失の比重を少なくすると考えられる。
●(B) 時効 
●(C) 遅延損害金等の起算日、利率 
消費者契約法4条により取り消された場合、悪意の受益者に対する不当利得返還請求(民法704条)⇒交付した時から利息を請求できる。
不法行為等に基づく損害賠償請求:
遅延損害金の起算日につき、裁判例は支出時説と損害確定時説に分かれている。
損害金の率は民事法定利率5%を請求するのが通常。 
●(D) 立証の容易さ 
断定的判断提供等を理由とする損害賠償請求では、不法行為を請求原因とした裁判で因果関係を否定する判決がしばしば見られる
金融商品販売法に基づく請求のほうが、因果関係が推定される分だけ、請求者の負担が軽くなるはず。
■(8) 使い方 
■(9) 損害論 
●(A) 損益相殺 
●(B) 損益相殺と過失相殺の順序 
■(10) その他の論点 
   

違法行為の類型
証券取引法規と違法性 「いわゆる取引法規違反の行為は、直接的には行政上の処罰等の対象となっていても、理論上は民事上の不法行為の故意、過失を直接構成するものではないけれども、その違反の有無は、不法行為の要件である違法性を判断するための要素の一つとなることは明らかであり、また、その取締法規の目的が間接的にもせよ一般公衆を保護するためのものであるときは、その取締法規違反の事実は、他の諸事情をも勘案して不法行為の成否を判断する主要な要素であり、一応不法行為条の注意義務違反を推認させるものである。」(東京高裁H11.7.27判決)(手引p104)
適合性原則違反   意義 金融商品取引業者が、投資者の投資目的・財産状態および投資経験等に鑑みて不適合な金融商品取引を勧誘してはならないという原則
この原則は、金融商品取引業者は積極的に顧客の投資目的および財産状態について相当の調査をしなければならないという要請を含む。(手引p150)
規制  金融商品取引法 40条1号
金融商品取引業者は、「金融商品取引行為について、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとなっており、又はかけることとなるおそれがあること」のないように、業務を行わなければならない。 
金融庁の監督 「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」ではV−2−3−1で適合性原則の順守に関する監督指針を規定。
顧客の属性等および取引実態を適格に把握しうる顧客管理体制を確立することが重要。 
日本証券業協会 日本証券業協会の自主規制規則の1つである「協会員の従業員に関する規則」7条3項は、本文で、協会員は、その従業員が金融商品取引法等で禁止されている行為を行うことのないようにしなければならない。
⇒従業員が適合性原則に違反する勧誘をしないようにしなければならないことを規定。 
同項7号では、「顧客カード等により知り得た投資資金の額その他の事項に照らし、過当な数量の有価証券の売買その他の取引等の勧誘を行うこと」のないようにしなければならないと規定。

過当取引という形での適合性原則違反をしないようにしなければならない。
顧客カードには:
@指名または名称、A住所または所在地および連絡先、B生年月日、C職業、D投資目的、E資産の状況、F投資経験の有無、G取引の種類、H顧客となった動機、Iその他(協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則5条1項)が記載。
違反 一定の監督上の制裁(金商法52条1項6号) 
他の原則との関係  ■  ■顧客を知るべき原則との関係
顧客の実情に適合する取引をする前提として、金融商品取引業者は顧客の実情を知るべき
■誠実公正義務との関係
金商法36条「金融商品取引業者並びにその役員及び使用人は、顧客に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない」
■助言義務・警告義務との関係 
適合性原則は、投資勧誘に際し、投資者の意向や事情に適合しない金融商品取引を認めないという原則⇒禁止規範としての不作為を求めている。
勧誘もないのに顧客のほうが顧客の資産状況、投資経験および投資目的からみて不適当な注文を求めてきたとき⇒やめるように助言・警告する義務は、命令規範として作為まで求める。
⇒助言義務や警告義務も適合性原則の具体化。
適合性原則を投資勧誘がある場合にのみ妥当する原則
⇒助言・警告義務の根拠は、適合性原則とは別のところ、たとえば誠実公正義務など。
私法原理  金融商品取引業者の担当者が顧客の意向と実情に反して、明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性の原則から著しく逸脱した金融商品取引の勧誘をしてこれを行わせたときは、当該行為は不法行為上も違法となる。(最高裁H17,7.14)
投資勧誘の結果として契約に至る⇒勧誘が適合性原則に違反するものであれば、債務不履行にもなりうる。
適合性原則の違反だけでも不法行為や債務不履行になるが、過当取引や説明義務違反およびその他の不当勧誘がある場合は、それぞれが違法性を補強しあう要素として位置づけられることもある。
★説明義務違反    ★説明義務違反
■適合性原則との関係 
顧客に適合しない勧誘をしてはならないという「適合性原則」は、論理的には、金融商品取引に関する説明義務に先行する原則。
but
多くの裁判例は、適合性原則違反が認められる事例においてもさらに進んで説明義務違反を検討し、多額的または総合的に違法性を認定しているのが実際。
適合性原則違反が指摘される事例においては、過失相殺が行われずまた過失相殺割合が小さくなる傾向
説明義務の履行に際しては、顧客の適合性に配慮した程度の説明が求められる。
金販法3条2項「前項の説明は、顧客の知識、経験、財産の状況及び当該金融商品の販売に係る契約を締結する目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度によるものでなければならない。」
適合性原則違反と断定していない事例でも、当該金融取引が投資者に適合しているか否かについて疑問を提起し、金融商品取h企業者の説明義務について比較的高度なものを要求して、説明義務違反を認定している裁判例も少なくない。
投資方針に関する説明義務を課した裁判例
東証一部上場株につき具体的危険性の説明義務を課した裁判例
信義則 規定  民法 第1条(基本原則) 
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
根拠 民法1条2項等
効果 不法行為等による損害賠償責任
対象商品 投資商品全般(商品デリバティブ全般を含む)
説明事項 損失発生のおそれ、その程度、損失発生の理由、取引の仕組等
説明の程度 顧客の知識、経験、財産の状況および締結目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法および程度。
顧客の理解の確認を求める裁判例もある。
●  ●顧客の意思表明等による説明不要
信義則上の説明義務を免除するに足りる状況があるかによって判断される。
金商法            規定  
根拠 法38条8号、金商業等府令117条1項1号
効果 行政処分等(間接的に信義則上の説明義務違反の根拠となる)
対象商品 一般の預金・保険には適用されない(商品デリバティブには適用されない。)
説明事項 「損失が生ずることとなるおそれ」(法37条の3第1項5号)
「契約の概要」(法37条の3第1項3号)
損失が生ずるおそれがある「理由」(金商業等府令82条3項等)
説明の程度 顧客の知識、経験、財産の状況および締結目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法および程度(金商業等府令117条1項)
●  ●顧客の意思表明等による説明不要
顧客の意思表示のみでは原則として説明不要とはならない。
ただし、書面交付義務の適用除外の規定あり(金商業等府令80条)
金販法 根拠 法3条
効果 損害賠償責任(損害に関する推定規定の適用あり・金販法6条)
対象商品 金融商品全般(商品デリバティブのうち国内商品先物取引等には適用されない)
説明事項 「元本欠損が生ずるおそれ」
「当初元本を上回る損失が生ずるおそれ」
(法3条1項、3項、4項)
「取引の仕組みのうちの重要な部分」(金販法3条1項5項)
説明の程度 顧客の知識、経験、財産の状況および締結目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法および程度(金販法3条2項)
●顧客の意思表明等による説明不要
説明不要(金販法3条7項2号)
裁判の到達点 信用取引 信用取引の基本的な仕組みおよび追加保証金の負担について、投資者に十分な説明をする必要
@投資者が株式もしくはは株式購入代金を借り入れて現物株の取引を行うものであること
A保証金を現金または有価証券(代用有価証券)で預ける必要があることおよびその金額
B株価が変動した場合には追加保証金を差し入れる必要が生じること
Cその結果信用取引による損失は保証金額にとどまらない可能性があること(どのくらいの株価下落に対しどのくらいの追証負担が発生するかを含む)
D代用有価証券を差し入れている場合には保証金(または代用証券の評価)が不足した場合にあh投資者の承諾なく代用証券を売却する場合があること
E信用取引により借り入れた株式購入代金または株式は6か月以内に返済しなければならないこと
千葉地裁H12.3.29:
業者は、信用取引開始前にそのリスクについてわかりやすい説明書を交付した上(金商法40条)
@信用取引は3か月又は6か月の決済期間であること
A約定価格の30%以上の委託保証金を預託することにより売買が可能であるが、損失も現物株の数倍に及び、危険性も大きいこと
B委託証拠金の金額が顧客の取引した約定金額の20%を下回った場合には、追加委託証拠金を差し入れる必要があり(これを差し入れない場合には、強制的に決済される)、損害が当初の投資金額より増大する危険性があること
などについて顧客が理解できる程度に説明し、その理解の程度を確認すべき注意義務がある。
  ★合理的根拠の法理および合理的根拠適合性
意義 金融商品取引業者が顧客に投資勧誘ないし投資助言をする際には、それが意見の表明という形をとっていようと事実の表示という形をとっていようと、合理的な根拠が必要とされ、合理的な根拠を欠く場合には、そのような勧誘ないし助言は違法と解される
根拠 誠実公正義務:
金融商品取引業者と従業員も、「顧客に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない」(金商法36条)
不当勧誘(断定的判断提供等、不実表示) 概説   ■  ■金商法に規定する不当勧誘
顧客が金融商品取引をするに際して正常な判断をするのに妨げになるような勧誘は、不当勧誘として禁止される。
@断定的判断の提供等を伴う勧誘(法38条2号)
A虚偽告知を伴う勧誘(法38条1号)
Bその他内閣府令で定める行為(法38条6号、金商業等府令117条1号〜28号)
 ■    ■金融商品販売法に規定する不当勧誘
●  金融商品の販売等にかかる事項について、
@不確実な事項について断定的判断の提供等(断定的判断を提供し、または確実であると誤認させるおそれのあることを告げる行為)を禁止し(金販法4条)、
Aその違反を、損害賠償責任と結び付けている。(金販法5条)
@民法の使用者責任の規定を経由しない直接責任であること、
A故意過失の有無を問わない無過失責任であること、
B損害額(支出額ー受取額=損害額)と因果関係が推定されること(金販法6条)などの特徴がある。
規定 金融商品販売法 第3条(金融商品販売業者等の説明義務)
金融商品販売業者等は、金融商品の販売等を業として行おうとするときは、当該金融商品の販売等に係る金融商品の販売が行われるまでの間に、顧客に対し、次に掲げる事項(以下「重要事項」という。)について説明をしなければならない。
一 当該金融商品の販売について金利、通貨の価格、金融商品市場(金融商品取引法第二条第十四項に規定する金融商品市場をいう。以下この条において同じ。)における相場その他の指標に係る変動を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれがあるときは、次に掲げる事項
イ 元本欠損が生ずるおそれがある旨
ロ 当該指標
ハ ロの指標に係る変動を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれを生じさせる当該金融商品の販売に係る取引の仕組みのうちの重要な部分
二 当該金融商品の販売について金利、通貨の価格、金融商品市場における相場その他の指標に係る変動を直接の原因として当初元本を上回る損失が生ずるおそれがあるときは、次に掲げる事項
イ 当初元本を上回る損失が生ずるおそれがある旨
ロ 当該指標
ハ ロの指標に係る変動を直接の原因として当初元本を上回る損失が生ずるおそれを生じさせる当該金融商品の販売に係る取引の仕組みのうちの重要な部分
三 当該金融商品の販売について当該金融商品の販売を行う者その他の者の業務又は財産の状況の変化を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれがあるときは、次に掲げる事項
イ 元本欠損が生ずるおそれがある旨
ロ 当該者
ハ ロの者の業務又は財産の状況の変化を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれを生じさせる当該金融商品の販売に係る取引の仕組みのうちの重要な部分
四 当該金融商品の販売について当該金融商品の販売を行う者その他の者の業務又は財産の状況の変化を直接の原因として当初元本を上回る損失が生ずるおそれがあるときは、次に掲げる事項
イ 当初元本を上回る損失が生ずるおそれがある旨
ロ 当該者
ハ ロの者の業務又は財産の状況の変化を直接の原因として当初元本を上回る損失が生ずるおそれを生じさせる当該金融商品の販売に係る取引の仕組みのうちの重要な部分
五 第一号及び第三号に掲げるもののほか、当該金融商品の販売について顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものとして政令で定める事由を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれがあるときは、次に掲げる事項
イ 元本欠損が生ずるおそれがある旨
ロ 当該事由
ハ ロの事由を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれを生じさせる当該金融商品の販売に係る取引の仕組みのうちの重要な部分
六 第二号及び第四号に掲げるもののほか、当該金融商品の販売について顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものとして政令で定める事由を直接の原因として当初元本を上回る損失が生ずるおそれがあるときは、次に掲げる事項
イ 当初元本を上回る損失が生ずるおそれがある旨
ロ 当該事由
ハ ロの事由を直接の原因として当初元本を上回る損失が生ずるおそれを生じさせる当該金融商品の販売に係る取引の仕組みのうちの重要な部分
七 当該金融商品の販売の対象である権利を行使することができる期間の制限又は当該金融商品の販売に係る契約の解除をすることができる期間の制限があるときは、その旨
2 前項の説明は、顧客の知識、経験、財産の状況及び当該金融商品の販売に係る契約を締結する目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度によるものでなければならない。
3 第一項第一号、第三号及び第五号までの「元本欠損が生ずるおそれ」とは、当該金融商品の販売が行われることにより顧客の支払うこととなる金銭の合計額(当該金融商品の販売が行われることにより当該顧客の譲渡することとなる金銭以外の物又は権利であって政令で定めるもの(以下この項及び第六条第二項において「金銭相当物」という。)がある場合にあっては、当該合計額に当該金銭相当物の市場価額(市場価額がないときは、処分推定価額)の合計額を加えた額)が、当該金融商品の販売により当該顧客(当該金融商品の販売により当該顧客の定めるところにより金銭又は金銭以外の物若しくは権利を取得することとなる者がある場合にあっては、当該者を含む。以下この項において「顧客等」という。)の取得することとなる金銭の合計額(当該金融商品の販売により当該顧客等の取得することとなる金銭以外の物又は権利がある場合にあっては、当該合計額に当該金銭以外の物又は権利の市場価額(市場価額がないときは、処分推定価額)の合計額を加えた額)を上回ることとなるおそれをいう。
4 第一項第二号、第四号及び第六号の「当初元本を上回る損失が生ずるおそれ」とは、次に掲げるものをいう。
一 当該金融商品の販売(前条第一項第八号から第十号までに掲げる行為及び同項第十一号に掲げる行為であって政令で定めるものに限る。以下この項において同じ。)について金利、通貨の価格、金融商品市場における相場その他の指標に係る変動により損失が生ずることとなるおそれがある場合における当該損失の額が当該金融商品の販売が行われることにより顧客が支払うべき委託証拠金その他の保証金の額を上回ることとなるおそれ
二 当該金融商品の販売について当該金融商品の販売を行う者その他の者の業務又は財産の状況の変化により損失が生ずることとなるおそれがある場合における当該損失の額が当該金融商品の販売が行われることにより顧客が支払うべき委託証拠金その他の保証金の額を上回ることとなるおそれ
三 当該金融商品の販売について第一項第六号の事由により損失が生ずることとなるおそれがある場合における当該損失の額が当該金融商品の販売が行われることにより顧客が支払うべき委託証拠金その他の保証金の額を上回ることとなるおそれ
四 前三号に準ずるものとして政令で定めるもの
5 第一項第一号ハ、第二号ハ、第三号ハ、第四号ハ、第五号ハ及び第六号ハに規定する「金融商品の販売に係る取引の仕組み」とは、次に掲げるものをいう。
一 前条第一項第一号から第四号まで及び第七号に掲げる行為にあっては、これらの規定に規定する契約の内容
二 前条第一項第五号に掲げる行為にあっては、当該規定に規定する金融商品取引法第二条第一項に規定する有価証券に表示される権利又は同条第二項の規定により有価証券とみなされる権利(同項第一号及び第二号に掲げる権利を除く。)の内容及び当該行為が行われることにより顧客が負うこととなる義務の内容
三 前条第一項第六号イに掲げる行為にあっては、当該規定に規定する権利の内容及び当該行為が行われることにより顧客が負うこととなる義務の内容
四 前条第一項第六号ロに掲げる行為にあっては、当該規定に規定する債権の内容及び当該行為が行われることにより顧客が負担することとなる債務の内容
五 前条第一項第八号から第十号までに掲げる行為にあっては、これらの規定に規定する取引の仕組み
六 前条第一項第十一号の政令で定める行為にあっては、政令で定める事項
6 一の金融商品の販売について二以上の金融商品販売業者等が第一項の規定により顧客に対し重要事項について説明をしなければならない場合において、いずれか一の金融商品販売業者等が当該重要事項について説明をしたときは、他の金融商品販売業者等は、同項の規定にかかわらず、当該重要事項について説明をすることを要しない。ただし、当該他の金融商品販売業者等が政令で定める者である場合は、この限りでない。
7 第一項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 顧客が、金融商品の販売等に関する専門的知識及び経験を有する者として政令で定める者(第九条第一項において「特定顧客」という。)である場合
二 第一項に規定する金融商品の販売が金融商品取引法第二条第八項第一号に規定する商品関連市場デリバティブ取引及びその取次ぎのいずれでもない場合において、重要事項について説明を要しない旨の顧客の意思の表明があったとき。
金融商品販売法 第4条(金融商品販売業者等の断定的判断の提供等の禁止)
金融商品販売業者等は、金融商品の販売等を業として行おうとするときは、当該金融商品の販売等に係る金融商品の販売が行われるまでの間に、顧客に対し、当該金融商品の販売に係る事項について、不確実な事項について断定的判断を提供し、又は確実であると誤認させるおそれのあることを告げる行為(以下「断定的判断の提供等」という。)を行ってはならない。
金融商品販売法 第5条(金融商品販売業者等の損害賠償責任)
金融商品販売業者等は、顧客に対し第三条の規定により重要事項について説明をしなければならない場合において当該重要事項について説明をしなかったとき、又は前条の規定に違反して断定的判断の提供等を行ったときは、これによって生じた当該顧客の損害を賠償する責めに任ずる。
金融商品販売法 第6条(損害の額の推定)
顧客が前条の規定により損害の賠償を請求する場合には、元本欠損額は、金融商品販売業者等が重要事項について説明をしなかったこと又は断定的判断の提供等を行ったことによって当該顧客に生じた損害の額と推定する。
2 前項の「元本欠損額」とは、当該金融商品の販売が行われたことにより顧客の支払った金銭及び支払うべき金銭の合計額(当該金融商品の販売が行われたことにより当該顧客の譲渡した金銭相当物又は譲渡すべき金銭相当物がある場合にあっては、当該合計額にこれらの金銭相当物の市場価額(市場価額がないときは、処分推定価額)の合計額を加えた額)から、当該金融商品の販売により当該顧客(当該金融商品の販売により当該顧客の定めるところにより金銭又は金銭以外の物若しくは権利を取得することとなった者がある場合にあっては、当該者を含む。以下この項において「顧客等」という。)の取得した金銭及び取得すべき金銭の合計額(当該金融商品の販売により当該顧客等の取得した金銭以外の物若しくは権利又は取得すべき金銭以外の物若しくは権利がある場合にあっては、当該合計額にこれらの金銭以外の物又は権利の市場価額(市場価額がないときは、処分推定価額)の合計額を加えた額)と当該金融商品の販売により当該顧客等の取得した金銭以外の物又は権利であって当該顧客等が売却その他の処分をしたものの処分価額の合計額とを合算した額を控除した金額をいう。
金融商品販売法 第7条(民法の適用)
重要事項について説明をしなかったこと又は断定的判断の提供等を行ったことによる金融商品販売業者等の損害賠償の責任については、この法律の規定によるほか、民法(明治二十九年法律第八十九号)の規定による。
■    ■消費者契約法に規定する不当勧誘
  消費者契約法4条1項、2項、3項は不当勧誘につき取消権を認めている。
1項、2項は誤認類型(@不実告知、A不利益事実告知、B断定的判断提供)。3項は困惑類型。
不法行為や債務不履行による損害賠償事件では過失相殺がしばしばなされてきたが、取り消すことができれば、全額の返還が可能になる。
●  ●不実告知
勧誘の際に「重要事項について事実と異なることを告げ」られた場合、誤認、因果関係の要件を満たしたときは、消費者は意思表示を取り消すことができる。(法4条1項1号)
重要事項は、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの「質、要とその他の内容」や「対価その他の取引条件」であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすもの。(同条4項)
●  ●不利益事実不告知
勧誘の際に「ある重要事項又は重要事項に関する事項について当該消費者の利益となる事実・・・を故意に告げなかった」場合、誤認、因果関係の要件を満たしたときは、消費者は意思表示を取り消すことができる。(法4条2項)
●断定的判断の提供
勧誘の際に「将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供」された場合、誤認、因果関係の要件を満たしたときは、消費者は意思表示を取り消すことができる。(法4条1項2号)
断定的判断の提供等を伴う勧誘   ■    ■断定的判断提供・確実性誤解告知を伴う勧誘の禁止(金商法38条2号)の意義とその禁止の趣旨 
●  金融商品取引業者等またはその役員、使用人は、「顧客に対し、不確実な事項について断定的判断を提供し、又は確実であると誤解させるおそれのあることを告げて金融商品取引契約の締結を勧誘をする行為」をしてはならない(金商法38条2号)。
「必ず」「きっと」「確実に」「絶対」といった修飾語は必要ない。
従来は「価格」等が上昇しまたは下落することの断定的判断を提供して勧誘することを禁止⇒対象を「不確実な事項」と抽象的に規定して広げた。

金融商品取引のプロである金融商品取引業者が、「不確実な事項」について断定的判断を提供したり確実性を誤解させるような勧誘をしたりすると、顧客はそれを理由づける相当な根拠があるものとしてそれを信頼して損害を被る危険があるから。
「確実であると誤解させるおそれのあることを告げる」とは、確実であることが明示されなくとも、種々の状況から、通常は確実であると誤解するような言葉を告げること
「断定的判断を提供」すいるよりは確実性を伝える表現を広く含む。
規定 金融商品取引法 第38条(禁止行為)
金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人は、次に掲げる行為をしてはならない。ただし、第四号から第六号までに掲げる行為にあつては、投資者の保護に欠け、取引の公正を害し、又は金融商品取引業の信用を失墜させるおそれのないものとして内閣府令で定めるものを除く。
一 金融商品取引契約の締結又はその勧誘に関して、顧客に対し虚偽のことを告げる行為
二 顧客に対し、不確実な事項について断定的判断を提供し、又は確実であると誤解させるおそれのあることを告げて金融商品取引契約の締結の勧誘をする行為
  ■断定的判断の提供等を伴う勧誘の効果 
行政監督上の処分対象(金商法52条1項6号)
民事上は、損害賠償請求の根拠(金販法4条、5条、民法709条)、取消原因(消費者契約法4条)
金融商品販売法等の制定により、その違反は直ちに民事上、違法となることが明白となった。
虚偽告知、その他の不当勧誘 説明義務違反が問題とされた多くの判例では、同時に虚偽告知不実表示、誤解表示が認定されることおもよくある。
これらの判決理由としては説明義務違反となっており、虚偽告知等自体を理由とするものは少ないが、その主張・立証が説明義務違反の認定につながっているものが多くある。
損失保証等を伴う勧誘 規制 損失負担の約束(損失保証)や利益保証(利回保証)は、金商法39条に違反する違法なものとして禁止される(損失補てん等の禁止)とともに、このような勧誘は、正常な判断をするのに妨げになるような不当な勧誘でもある。
金商法は38条の2において、「金融商品取引業者等は、その行う投資助言・代理業又は投資運用業に関し、」「顧客を勧誘するに際し、顧客に対して、損失の全部または一部を補てんする旨を約束する行為」(同2号)を禁止し、損失負担の約束(損失言保証)と伴う勧誘を禁止。
金商法38条6号に基づき定められた金商業等府令は、117条1項3号において、「金融商品取引契約につき、顧客若しくはその指定した者に対し、特別の利益を提供を訳し、又は顧客若しくは第三者に対し、特別の利益を提供する行為」を禁止しており、利回保証を伴う勧誘はこれにも該当。
損失保証・利益保証は証券会社の従業員の権限外のことであり、損失補償・利益保証を伴う勧誘は、損失補償・利益¥保証を実際にはできないのに、できるかのように虚偽の事実を告げて勧誘することになるので、この点でも違法。
損失保証や利回保証の効力 1991年(平成3年)証取法改正後に、損失負担の約束(損失保証)や利益保証の約束がされた場合、これは公序良俗違反として無効となる。
⇒履行請求は認められない。
不法行為に基づく損害賠償請求 損失負担の約束(損失保証)や利益保証(利益保証)をして勧誘することは、投資家の正常な投資判断を妨げるものとして法令で棋士されており、これに違反した勧誘は、私法上の違法とされるべきであり、顧客の損害を生じた場合は顧客に対する不法行為を構成する。
民法708条(不法原因給付)の類推について
「顧客の不法性に比べ、証券会社の従業員の不法の程度がきわめて強い本件では、証券会社の損害賠償責任を認めても民法708条の趣旨に反しない。」(最高裁H9.4.24判決)
「証券市場における正常な価格形成機能の保持と市場仲介者としての公正性の保持に重大な責任を有する証券会社が、自ら、違法な利回り保証の約束の下に投資の勧誘をして顧客に資金を提供させ、有価証券の取引による手数料収入を得ておきながら、顧客からの損害賠償請求に対しては、投資家の自己責任を強調してこれを拒否し、損失を一方的に顧客の責任に帰せしめるようなことは、同じく不法の原因の存する証券会社をいわれなく利得せしめるものであって、正義公平の理念に反する。」(名古屋高裁H7.3.31判決)
★過当取引    ★過当取引
意義 証券会社等の金融商品取引業者が取引における顧客の口座に対し支配を及ぼし、当該顧客の金融商品取引業者への信頼を濫用して、手数料稼ぎ等の利益を図るために、当該口座の性格に照らして金額・回数において過当な取引を実行すること
取引の過当性は、当該口座における売買数ないし売買金額が投資目的からみて過当であることを意味する。
売買の頻度が高く、売買額も大きければ受取手数料額が増大金融商品取引業者が、自らの利益のために過当取引をし、その結果顧客は著しい損害を被る
(過去の)規制の経緯 取引一任勘定における過当売買について、かつて、証券取引法127条1項に基づく有価証券の取引一任勘定に関する規制(証券取引委員会規則第15号)1条において、「当該勘定における委任の本旨又は当該勘定の金額に照らし、過当と認められる数量又は頻度の売買取引を行ってはならない」とされ、その後、証券取引法上、取引の一任勘定そのものが原則として禁止された。
日本証券業協会の自主規制規則でも、協会員の従業員に関する規則7条3項7号で「顧客カード等により知り得た投資資金の額その他の事項に照らし、過当な数量の有価証券の売買その他の取引等の勧誘を行うこと」が禁止行為とされ、協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則12条も、過当勧誘の防止を規定。
投資者本位通達も、「短期間に他の有価証券への乗り換えを行わせる等投資者の能力、資金の性格等を無視した過当勧誘を行うこと」を禁止。
この通達廃止後も、その趣旨は、誠実公正義務および適合性の元素tく措定、金融商品取引法36条と40条に引き継がれている。
わが国においても、過当取引の違法判断にあたって、過当取引法理の展開がみられる米国法上と同様の要件が主張され、判例上も、これらの要件を満たす場合には、違法性があるとして損害賠償を認める法理が確立
金融商品取引法  「金融商品取引業者並びにその役員及び使用人は、顧客に対し誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない」(金融商品取引法36条)
金融商品取引法 第四〇条(適合性の原則等)
金融商品取引業者等は、業務の運営の状況が次の各号のいずれかに該当することのないように、その業務を行わなければならない。
一 金融商品取引行為について、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行つて投資者の保護に欠けることとなつており、又は欠けることとなるおそれがあること。
二 前号に掲げるもののほか、業務に関して取得した顧客に関する情報の適正な取扱いを確保するための措置を講じていないと認められる状況、その他業務の運営の状況が公益に反し、又は投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるものとして内閣府令で定める状況にあること。
金融商品取引法40条2号を受け、金商業等府令123条3号は「業務の運営の状況が公益に反し、又は投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるもの」として「著しく不適当と認められる数量、価格その他の条件により、有価証券の引受けを行っている状況」を定め、金融商品取引業者は、当該状況に該当することがないように業務を行うべきであるとしている。
証券会社の義務    証券会社が単に顧客の売買の指示の取次をするにすぎないときは、証券会社には正確に執行する義務が存するだけ。
証券会社が顧客に投資助言を与え、顧客もそれに従って売買の指示をするという関係にあるときは、証券会社が顧客に対して負う義務は、それにとどまらないでより高度になる。
米国法では、実質的に証券会社が顧客の口座を支配しているといえるような場合には、証券会社は受託者として顧客の利益を最大限に図る高度の信認義務(fiduciary duty)を負うとされるが、日本でも同様。
●   顧客の財産状態・投資目的・投資資金の性質などに従って、証券取引には、おのずと適当な数量・頻度というものがある。
他方、証券会社は顧客の売買から手数料収入を得る。顧客が大く売買をすればするほど、証券会社の利益にある。
⇒何の規制もしないで放置すれば、証券会社は顧客の利益よりも自己の利益を優先して、過当な取引をする危険性
がある。
特に証券会社側に顧客の口座を支配したといえるような状況があるときには、証券会社は、顧客の判断によらずに、証券会社の判断で顧客の計算での売買が可能になる⇒顧客の利益を犠牲にして自己の利益を図る危険性が高い
過当取引の認定要素 ■    ■取引の過当性
●回転率の計算方法 
証券取引口座の回転率=1年間の買付総額÷各月末の投資残高の単純平均
●信用取引の取扱い 
信用取引上の新規買付金・売付金総額を「買付総額」とみるべきであるし、
「買付総額」を信用取引上の新規買付金・売付金総額とみる以上「投資残高」も信用取引上の新規買付金・売付金総額とみるべき。
■  ■口座支配性(取引の主導性) 
証券会社が顧客の口座に対し主導的影響力を行使したこと。
米国の判例での判断要素
@顧客の証券投資についての知識の有無と程度:
知識が浅い⇒口座支配性大
A投資経験の有無と程度:
投資経験浅い⇒証券会社の意見に左右
B顧客が証券会社においた信認の程度
C証券会社の推奨取引率
■顧客の被害に対する主観的要素
顧客の被害に対する故意
証券取引における顧客の勘定について支配を及ぼし、顧客の信頼を濫用して、手数料稼ぎ等の自己の利益を図るために、当該口座の性格に照らして金額・回数において過当な取引を実行しようとする意思
著しく高い回転率、著しく頻繁な取引等の外形的事実
⇒ブローカーの著しく不合理な行為とされ、主観的要素が認定。
   
助言義務違反 意義 投資家が、その専門的知識等の欠如のため不合理な行為をとり、あるいは合理的な行動をとれない場合に、証券会社が専門家たる地位と継続的な取引関係を基礎とする投資家からの高度の信頼に鑑み、適切な助言や情報提供をなすべき義務
一任売買(一任勘定取引) 意義 顧客の個別の取引ごとの同意を得ないで、金融商品取引業者またはその役員もしくは使用人が、売買の別、銘柄、数または価格の一つでも定めて、顧客の計算で取引を行うことをする約束。
実際には、「年7%以上で回しますから任せてください」「任せます」とか「任せてもらえばうまくやります」「頼む」等といった大まかな合意であることが多い。
弊害 @金融商品取引業者が、広い裁量権を濫用して、顧客の意向に反した過当・過大な取引を行い、手数料稼ぎをする。
A投資決定を行う者と損益が帰属する者が異なるため、いきおい投資決定が慎重・真剣になされなくなる。その結果、価格形成の公正性は害され、市場の公正が失われる。
B損失保証・利益保証の温床となる危険が高い。
規制 金融商品取引法には一任売買(一任勘定取引)を禁止した規定はおかれていないが、基本的に証券取引法における規制を踏襲している。
規定が置かれていないのは、金商法は、投資運用業等を含む金融商品取引業全体を対象とすることとなったため、行為規制としての一任勘定取引を一律に禁止する規定がおかれなかったにすぎない。
一任勘定による投資一任業務は、投資一任契約によることとして(金商法2条8項12号)、投資運用業としての登録が必要とされ(法28条4項)、金融商品取引業者一般の行為規制のほか、投資運用業の特則により、金商法42条〜42条の7、金商業等府令128条〜135条が適用され、それらの規律の下で認められる。
証取法でも、「投資一任契約に係る業務として行うもの」等が一任勘定取引禁止の例外として認められていた(証取法42条1項)、金商法上も同様に例外が定められている。(法40条2号、金商業等府令123条13号)
@顧客からの売買の別、銘柄および数について同意を得たうえで、価格については当該同意の時点における相場を考慮して適切な幅ををもたせた同意の範囲内で当該金融商品取引業者等が定めることができることを内容とする契約に基づく取引、
A顧客から売買の別、銘柄および個別の取引の総額並びに数または価格の一方について同意を得たうえで、他方については当該金融商品取引業者等が定めることができることを内容とする契約に基づく取引等は、十分な管理体制のもとで、例外的に許容される。
実務上問題となるのは、証券会社外務員が、投資一任契約とは無関係に、顧客から一任を取り付けて、一任を背景ないし手段としてさまざまな違法取引が行われる場合であって、一任売買が、こうした他の違法取引と相まって違法要素となることは、金商法施行後も変わらない。
ラップ口座 1999年(平成11年)に登場したもので、証券会社が個人投資家の資産管理、運用、投資アドバイス、売買の実行、口座管理など、資産運用に関するさまざまなサービスを提供し、手数料を売買ごとではなく、投資家から預かっている運用資産残高の何%という形で一括して徴収する口座。
2004年(平成16年)、有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律(投資顧問業法)の改正により、自己売買に係る書面の顧客への交付義務が緩和され、ラップ口座に関する規制が緩和された。
この緩和措置は、証券会社が投資一任業務を行う場合に不正行為が発生しないための一定の条件、すなわち、証券会社の社内の内部監視体制が整備され、証券業の自己売買部門と投資顧問部門が組織的に分離されていることについて当局の承認をえた場合についてのみ認められる。
ただ、自己売買部門の取引で、顧客の運用銘柄が含まれている場合についての書面開示義務がなくなったため、ラップ口座と自己売買を悪用し、特定の顧客の利益誘導を目的とする不正な株価操作を惹起する可能性があるとの指摘がある。
一任売買の類型 @金はあるが時間的余裕のない顧客に対し、証券会社従業員は利回保証的言辞を用いてある程度まとまった金銭を預かり、一任勘定取引を行うもの。
包括的一任であり、損失負担約束による勧誘という違法行為と一体になり、損失補てん、利益補てんの要求という形で、自己責任原則がないがしろにされている。
A知識・経験の不十分な顧客が、投資商品の種類や運用資金の範囲も不明確なまま、証券会社従業員の勧めることを鵜呑みにし、自ら考えることも、異を唱えることも、拒否することもなく、ずるずると売買を行って取引商品や金額を拡大していき、次第に事前の勧誘もなく事後報告を受けるだけというまったくの受け身の状態に後退していくもの。
・説明義務違反、断定的判断の提供、過度の投資勧誘、適合性の原則違反、回転売買・過当売買、無断売買(自己決定が全くされていないに等しい)。
無断売買 意義 金融商品取引業者または従業員が、顧客の同意を得ずに、当該顧客の計算により取引を行うこと。
違法性 金商法では、「投資家の保護に欠け、若しくは取引の公正を害し、又は金融商品取引業の信用を失墜させるものとして」、無断売買禁止の規定が置かれた。(法38条6号、金商業等府令117条1項11号)
無断売買の効果 顧客の委託のない無断売買の効果は顧客に帰属しない。(最高裁H4.2.28判決)
無断売買は、顧客の自己決定権を侵害する最たる行為として、金融商品取引法36条に規定されている誠実公正義務に正面から違反するものであるし、同法64条の5第1項2号により外務員に対する行政処分の対象ともなっている。
無題売買がなされた場合の救済法理 預託金返還請求 無断売買の効果は顧客に帰属しないから、委託者はこのことを前提として預託金や株券の返還請求ができる。
この場合、委託を受けたこと、つまり無断でないことの立証責任は証券会社側にある。
預託金返還請求権で構成する場合でも、これと不法行為に基づく慰謝料・弁護士費用の損害賠償請求は併存するので、これらも合わせて請求すべき。(裁判例は、預託金返還請求を認めながら、不法行為に基づく弁護士費用の損害賠償を認める。)
損害賠償 慰謝料・弁護士費用を損害に加え、また、従業員を被告とすることが可能となるだけでなく、他の違法行為と合わせて不法行為ないし債務不履行を主張することができる。
無断売買を単独で取り上げるのではなく、他の違法行為と合わせて「全体としての不法行為」の成否を判断するほうが実態に即する場合がある。
無断売買の追認 清算金と領収したり、残高照合通知書の残高を承認する回答をしたり、無断買付けされた証券の売付に同意したりしたことをもって、無断売買の追認を安易に認めるべきではない。
顧客が自己のおかれた法的地位を十分に理解したうえで真意に基づいて当該売買の損益が自己に帰属することを承認したことを要し、証券会社側からは何らの利益誘導もなされていないことが必要。
無断売買を他の違法行為と合わせて債務不履行および不法行為に基づく損害賠償が請求されたケースにおいて、ワラントの無断買付けに対する事後承認が、説明義務違反によるものとして損害賠償責任を認めた事例。(奈良地裁H7.10.5判決)
手仕舞い義務違反 意義 「手仕舞い」とは、信用取引・先物取引・オプション取引等において、新規に玉の買い又は売りをしいていわゆる玉が建っている場合に、反対売買をして決裁すること。


開示義務違反
総論 発行市場における開示制度 発行(募集または売出し)に際しては際しては
一定の重要事項を記載した有価証券届出書の作成・提出を義務づけ(金商法5条)公衆縦覧に供し(金商法25条)広く一般投資家に情報提供する一方
個別の取得者への有価証券届出書の内容を記載した目論見書が作成されて(金商法13条)、交付されるように金融商品取引業者に交付義務を課して(金商法15条2項)、情報提供を徹底している。
流通市場における開示制度 発行者は事業年度ごとに有価証券報告書の作成・提出が義務付けられ(金商法24条)、それは公衆縦覧に供せられて(金商法25条)、有価証券を保有している者、これから保有しようと考えている者への情報提供が保障されている。
その対象は、年1回の有価証券報告書のほか半期報告書、臨時報告書、四半期報告書に拡張されている。
目論見書 意義 有価証券の募集もしくは売出しまたは適格機関投資家向け証券の一般投資家向け勧誘のために当該有価証券の発行者の事業その他の事項に関する説明を記載した文書であって、相手方に交付し、または相手方からの交付の請求があった場合に交付するもの。(金商法2条10項)
記載事項により必ず交付しなければならないもの(交付目論見書)と請求があったら交付しなければならないもの(請求目論見書)がある。
現在、請求目論見書が認められているのは金商法施行令3条の2で投資信託と指定されている。
義務 作成義務 内閣総理大臣への届出を要する有価証券の募集もしくは売出しの場合には、発行者は必ず目論見書を作成する義務がある。(金商法13条1項)
交付義務 募集または売出しでは目論見書を契約の締結の直前または契約と同時に取得者に交付しなkればならない。(金商法15条2項)
不交付の損害賠償 金商法15条2項の交付義務に違反すると損害賠償責任が生じる。(金商法16条)
無過失責任とされる。
違反行為との因果関係の立証が必要だが、目論見書にはリスク情報が記載されているので、取得後の交付だった場合には、目論見書のリスク情報を見ていたら取得しなかったといえれば、損害賠償が認められる。
不実記載の損害賠償義務 内容虚偽や必要記載事項が欠落した目論見書の使用は禁止される。(金商法13条4項)
使用者の損害賠償義務 目論見書の重要な事項について虚偽の表示があり、また重要な事実の表示が欠けているときは、当該目論見書を使用して有価証券を取得させた者は、知らないで当該有価証券を取得した者に対し、損害賠償責任を負う。(金商法17条本文)
ただし、目論見書の使用者が、相当な注意を用いたにもかかわらず、誤りを知ることができなかったことを証明したときはその責任を免れる。(同条但書)
原告は、損害額の立証のほか、虚偽・不開示を知らなかったことを立証する必要がある。
金商法17条の損害賠償責任は「目論見書」または「表示」もしくは「資料」を使用して有価証券を取得させた者の責任を定めている。

重要事項について虚偽の表示や誤解を生ずるような表示(口頭の勧誘文句も含まれる)にも本責任が発生し、「誤解を生じさせないために必要な事実の表示が欠けている資料を使用した」場合も責任が生ずる。
作成者の損害賠償義務 募集・売出しに応じて不実の目論見書の交付を受けて取得した者に対し目論見書を作成した発行者は金商法18条2項で賠償責任が規定されている。(損害額について金商法19条に特別の定めがあり、除斥期間につき同法20条の適用ある点が金商法17条責任とは違う。)
目論見書作成の役員・売出人にも賠償義務がある。(金商法21条3項)
公認会計士監査法人・引受証券会社は除外されている。(金商法21条3項は1項1号と2号のみ準用。)

有価証券届出書になされた監査証明は、発行者の責任で目論見書に転記されるからであり、また元引受証券会社等は前記の目論見書の使用者として責任を負うから。
有価証券届出書 意義 有価証券を発行(募集または売出し)する際に金融商品取引法によって金融当局に提出しなければならないと定められている発行内容を記載した書面。
有価証券報告書等 意義 金商法で規定されている。事業年度ごとに作成する企業内容の外部への開示資料。
発行会社の役員、公認会計士・監査法人の責任 継続情報開示書類(有価証券報告書など)についても、発行会社の役員、公認会計士・監査法人について不実記載責任規定がある。(金商法21条の2、24条の4)
山一証券の有価証券報告書の虚偽記載を看過した監査法人に対し責任追及がされたが、通常実施すべき監査をしており過失はないとされた判決。(大阪地裁H17.2.24判決)
発行会社の責任 金商法25条1項各号の開示文書(有価証券届出書、発行登録書、同追補書類、有価証券報告書、半期報告書、臨時報告書、自己株券買付報告書)が公衆縦覧に供されている間の募集・売出しによらない取得者(流通市場での取得者等)に対し発行会社は、重要事項に虚偽記載(記載不足)があった場合、これにより生じた損害を賠償する責任を負う。(金商法21条の2第1項)
金商法21条の2は金商法18条と同じく無過失責任だが、取得者の悪意を発行者が証明すれば免責される。(金商法21条の2第2項)、19条の制限がつく。(同条1項)
公開買付けの開示における不実表示責任 公開買付説明書その他の表示の使用者に金商法17条を準用し(金商法27条の19)、公開買付開始公告を行った者などに金商法18条1項を準用し、責任を負わせている。

市場に対する不正行為
市場に対する不正行為禁止規定 意義 金商法第6章「有価証券の取引等に関する規制」は、有価証券取引での不正行為について禁止規定を定める(金商法157条〜171条)

不正行為により市場が効率的に機能しないで公正な価格形成がゆがめられるなら、有価証券市場の価格形成機能が阻害されるばかりか、一般投資家の信頼も喪失させ市場原理に基づく自由主義経済そのものの存立が危ぶまれる。
不正行為の禁止(金商法157条) 趣旨 金商法157条は、証券取引等の不正取引行為を包括的に規制しようとするものであり、「雑品入れ」とも言われている。
規制を逃れようとして取引に工夫をしても逃さない狙いがある。
要件 @不正の手段、計画または技巧をすること(1号)
不正の手段とは「社会通念上不正と認められる一切の手段とする」と判示し、文理上その意味は明確で罪刑法定主義に反しない。(最高裁昭和40.5.25)
A重要な事項について虚偽の表示、誤解を生じさせないために必要な重要な事実の表示が欠けている文書等の使用(2号)
B有価証券の取引などを誘引する目的をもって虚偽の相場を利用すること(3号)
罰則 10年以下の懲役、1000万円以下の罰金、または併科。(金商法197条1項5号)
財産上の利益を得る目的で、変動させた相場により当該有価証券等にあっかる有価証券の売買等を行った者は刑が加重され、10年以下の懲役と3000万円以下の罰金が併科される。
風説の流布等の禁止(金商法158条) 禁止行為 「有価証券等の取引のため」+「風説の流布」「偽計」「暴行若しくは脅迫」
「相場の変動を図る目的」+「風説の流布」「偽計」「暴行若しくは脅迫」
風説とは、噂、風評の類を意味するが、虚偽であることは要件ではない。
偽計とは、他人に錯誤を生じさせる詐欺的ないし不公正な策略、手段をいう。
行為者が実際に証券取引をすることは要件ではない。
財産上の利益を得る目的で、変動させた相場により当該有価証券等にかかる有価証券の売買等を行った者は刑が加重される。
罰則 10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、または併科(金商法197条1項5号)
加重される場合は、10年以下の懲役および3000万円以下の罰金が併科。
相場操縦等の禁止(金商法159条) 規制対象 上場有価証券、店頭売買有価証券、有価証券指数、オプションに係る取引および上場有価証券店頭指数等に係る有価証券店頭デリバティブ取引
商品の価格が証券取引所の価格形成にかかかわるもの。
要件 A:取引の状況に関し誤解を生じさせる目的+異常な行動
「誤解を生じさせる目的」+「仮装売買」(金商法159条1項1号〜3号)
「誤解を生じさせる目的」+「馴合売買」(同条1項4号〜8号)
B:取引を誘引する目的+現実の売買等
「誘引目的」+「誤解または相場変動させるべき一連の取引」(金商法159条2項1号)
「誘引目的」+「相場操作による変動の流布」(同条2項2号)
「誘引目的」+「不実表示」(同条2項3号)
誘引目的:
人為的な操作を加え相場を変動させるにもかかわらず、投資者にその相場が自然の需給関係により形成させるものであると誤認させて有価証券市場における売買取引に誘い込む目的(最高裁H6.7.20判決)
有価証券の取引を行えば、市場での価格は変動する。それが違法性をもつのは、取引において「株がほしいのではなく値段がほしいような」経済合理性に反する取引を行えば、相場の価格形成をもくろんでいるものとして「誘引目的」を認定されても仕方がない。(藤田観光事件での東京証券取引所審査部次長の供述)
変動取引:
「買い上がり買いつけないし買い支え」であって、株に対する経済的な必要性もないのに市場に出ている浮動株を大量に買い込み、市場に出される安値の売り注文を買いさらって、相場の高騰に結びつける買い支え。
C:政令に違反しての固定・安定操作(金商法159条3項)
罰則 10年以下の懲役、1000万円以下の罰金、または併科。(金商法197条1項5号)
財産上の利益を得る目的で、変動させた相場により当該有価証券等にかかる有価証券の売買等を行った者は刑が加重され、10年以下の懲役と3000万円以下の罰金が併科されうr。(同条2項)
課徴金制度 意義 違反行為への抑止手段の多様化・柔軟化を図るため、不正行為者の利得を吐き出させる行政上の措置としての課徴金制度。
課徴金納付の決定は、公開の審判手続きによる。(金商法178条〜)
対象 風説の流布・偽計を用いて(金商法158条違反)相場を変動させ、違反行為から1月以内に変動させた相場により有価証券等の取引をした者、相場を変動させるべき有価証券売買等(金商法159条2項1号違反)をした者に、違反行為によって得た利益額について、課徴金を国庫に納付させる。(金商法173条、174条)
有価証券届出書等の虚偽記載等のいわゆる発行開示義務違反(金商法5条、23条の3、23条の8等)
インサイダー取引の禁止違反(金商法166条、167条)
有価証券虚偽記載等の継続開示義務違反。
不当な監査証明を行った監査人(公認会計士・監査法人)
利用 個人投資者が、審判の資料を入手して(金商法185条の13で利害関係人の閲覧・謄写権が定められている。)、相場操縦者に対し損害賠償請求することが可能になる。
流通市場での不実開示の発行会社の責任(金商法21条の2)を新設したことに関し「証券取引法に課徴金制度が導入されたことで、不実開示に関する審判手続を開始された場合、被害者は、利害関係人として事件記録を閲覧・謄写し、それを民事訴訟における証拠方法とすることによって、不実開示という違反行為の立証の負担が軽減される余地がある。」(商事法務1707号p50)
損害賠償 相場操縦等による損害賠償(金商法159条違反、160条) 金商法159条は犯罪として相場操縦を規定し、同法160条は、この犯罪の構成要件を満たしてはじめて損害賠償請求できるという規定。適用例はない。
刑事犯罪であるから構成要件の解釈は厳格であり、市場情報を含め相場操縦の証拠が顧客側にないことから、強制捜査を前提として刑事事件として立件されない以上、立証は極めて困難。
しかも、時効期間が短縮されている(知った時から1年、行為の時から3年(金商法160条2項))ため、立件されても、刑事判決を待っていると請求権が時効消滅する。
違法行為と損害との因果関係の立証も必要で民法709条を主張するのと大して違いはない。
損害について、条文は「相場操縦等で形成された」で取引して受けた損害の賠償責任を定める。
相場操縦等がなされなければ形成されたであろう価格(想定価格)と相場操縦等で形成された価格(実際の取引価格)との差額が損害となると考えられるが、想定価格を算定するには立証上の困難がある。
不正行為による損害賠償 金商法157条、158条に違反した場合についての特別の民事責任を規定した明文はないが、民法709条は適用される。


インサイダー取引規制
インサイダー取引規制 意義 投資家の投資判断に影響を及ぼすべき情報について、その発生に自ら関与し、または容易に接近しうる特別な立場にある有価証券の発行会社の役員等が、そのような情報で未公開のものを知りながら有価証券にかかわる取引を行うこと。

情報を知らない一般投資家との間で不公正を生じ、証券市場に対しうる公正性と透明性を著しく害し、証券市場に対する投資家の信頼を失うことになる。
内部情報に関するインサイダー取引の禁止(金商法166条) 規制対象者 会社関係者 @上場会社等(金商法163条1項参照)の役員、代理人、使用人その他従業員(役員等。同法166条1項1号)であり、当該上場会社の親会社および子会社における役員等も含む。
A当該上場会社等の帳簿閲覧権(会社法433条1項)を有する株主もしくは優先出資法に規定する普通出資者のうちこれに類する権利を有する者として内閣府令で定める者または、子会社の帳簿閲覧権(会社法433条3項)を有する社員(これらの株主、普通出資者または社員が法人であるときはその役員等を、これらの株主、普通出資者または社員が法人以外の者であるときはその代理人または使用人を含む)(金商法166条1項2号)
B当該上場会社等に対して法令に基づく権限を有する者(金商法166条1項3号)
C当該上場会社等と契約を締結している者または締結の交渉をしている者(その者が法人であるときはその役員等を、その者が法人以外の者であるときはその代理人または使用人を含む)(金商法166条1項4号)
D上記A〜Cの者が法人である場合の、当該法人の役員等(金商法166条1項5号)
E会社関係者でなくなった後1年以内の元会社関係者(金商法166条1項本文後段)
情報受領者 会社関係者等から業務等に関する重要事実の伝達を受けた情報受領者も取引規制対象者となる。
F上記@〜Eの会社関係者等から当該会社関係者が金商法159条1項各号に定めるところにより知った重要事情の伝達を受けた者
G職務上当該伝達を受けた者かが所属する法人の他の役員等(金商法166条3項)
情報受領者から情報の伝達を受けた第2次受領者は取引を禁じられないが、他方、情報受領者が法人の役員等でありその者が法人内で職務上情報を伝達する場合は伝達先も情報受領者として取引規制の対象となる。
規制対象情報:重要事実(金商法166条2項) 決定事実 上場会社の業務執行を決定する機関(取締役会に限らず常務会、専務会、経営委員会など実質的決定機関も含まれる(東京地裁H9.7.28))が以下の事項を行うことを決定した場合。
「決定した」というためには、実質的決定機関において株式の発行の実現を意図して行ったことを要するが、当該株式の発行が確実に実行されるとの予測が成り立つことは要しない。(最高裁H11.6.10判決)
それを行わないと決定した場合(ただそはじめに行うことを決定した旨公表した後に限られる)について、それが重要事実となる。(金商法166条2項1号)
@会社法199条1項に規定する株式会社の発行する株式もしくはその処分する自己株式を引き受ける者の募集または同法238条1項に規定する募集新株予約権を引き受ける者の募集
A資本金の額の減少
B資本準備金または利益準備金の額の減少
C同法156条1項による自己株式の取得
D株式無償割当て
E株式(優先出資法に規定する優先出資を含む)の分割
F剰余金の配当
G株式交換
H株式移転
I合併
J会社の分割
K事業の全部または一部の譲渡または譲受
L解散
M新製品または新技術の企業化
N業務上の提携のその他の@からMまでに掲げた事項に準ずる事項として政令に定める事項
発生事実 上場会社の株価に大きな影響を与えるような事実の発生も重要事実とされる。(金商法166条2項2号)
@災害に起因する損害や業務執行過程で生じた損害
A主要株主の異動
B特定有価証券、またはそれにかかるオプションの上場廃止、登録取消の原因となる事実
C上記@ないしBに準ずる事実として政令で定める事実の発生
決算変動 上場会社またはその属する企業集団の業績の変動を示す指標(売上高等)が項hy法された直近の予想値、それがないときには公表がなされた前事業年度の実績値と比較して、新たに算出した予想値または当該事業年度の決算との間に差異が生じたことをもって重要事実とする。(金商法166条2項3号)
包括条項(バスケット条項) 新たなタイプのインサイダー取引に対応するため、前記各重要事実を除き、当該上場会社等の運営、業務または財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすものも重要事項とする包括条項が定められている。(金商法166条2項4号)
多数の架空売上の経常(東京地裁H4.9.25)
製薬会社における新薬の副作用情報(最高裁H11.2.16)
子会社の重要事実 投資判断における連結情報の重要性に鑑み、上記の各重要事実が当該上場会社の子会社に生じた場合も規制対象となる。(金商法166条2項5号)
規制対象となる有価証券 特定有価証券 上場会社等が発行する。@社債券(金商法2条1項5号)、優先出資証券(同法2条1項7号)、B株券または新株予約権証券(同法2条1項9号)、Cその他政令で定める有価証券を特定証券とし、当該有価証券自体が上場していなくてもインサイダー取引規制の対象とする。(金商法166条1項)
関連有価証券 特定有価証券にかかるオプションを表示する証券または証書(金商法2条1項19号)、その他政令で定める有価証券を関連有価証券とし、その売買もインサイダー取引規制の対象となる。
重要事実の公表 インサイダー取引とは、重要事実が公表されるまでの間において禁止されるもの。
重要事実の公表とは、
@法定開示書類(有価証券届出書、発行登録書、有価証券報告書、四半期報告書、半期報告書、臨時報告書等)が公衆の縦覧に供されたこと。
A2以上の報道機関に公開したときから12時間を経過したこと。
B上場会社等が金融商品取引所に重要事実を通知し、取引所において公衆の縦覧に供されたこと。
(金商法166条4項)
適用除外 インサイダー取引規制の趣旨に照らして適用除外とされる取引について、金商法166条6項が列挙。
@既存株主が株式の割当てを受ける権利の行使(同項1号)
A新株予約権の行使(同項2号)
B特定有価証券等にかかるオプションの行使(同項2号の2)
C株式買取請求権の行使(同項3号)
D対象会社の要請による公開買付者等に対抗するための防戦買い(同項4号)
E自己株式取得を授権する決議公表後に自己株式を買い付ける行為(同項4号の2)
F適法な安定操作取引(同項5号)
G普通社債の売買(同項6号)
H金融商品市場外で行う取引で売買当事者双方が重要事実を知っている場合(同項7号)
I重要事実を知る前に締結された契約または決定された計画に基づいてする売買(同項8号)
規制違反取引の責任 刑事罰 インサイダーが禁止されるのは、当該上場会社の特定有価証券等にかかる売買その他の優勝の有償の譲渡・譲受け、またはデリバティブ取引である(金商法166条1項)が、その違反行為については、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処し、またはこれらの併科とされ(金商法197条の2第13号)、没収、追徴が科せられる(金商法198条の2)。
法人の両罰規定は5億円以下の罰金とされ、罰則が強化されている。(金商法)207条1項2号
課徴金納付命令 規制違反取引については、有価証券等の売買価額と重要事実が公表された後の価額との差額(インサイダーの利得相当額または回避した損失相当額)が課徴金として科される(金商法175条)。
@重要事実の公表前6カ月以内に有価証券の売付け等を行っている場合(ネガティブ情報の場合)は、その売付け等の価額から重要事項公表後の価額を控除した金額
A重要事実の公表前6カ月以内に有価証券の買付け等を行っている場合(ポジティブ情報の場合)は、重要事項公表後の価額からその買付け等の価額を控除した金額。
罰金の課徴金が併科されることもあるが、没収・追徴がなされたときは、それを控除して課徴金の額が定められることとなる。
外部情報に関するインサイダー取引の禁止 発行会社以外の第三者が、発行会社の株式を買い集めるために公開買付けが行われる場合、需要が生じることが価格上昇要因となるだけでなく、公開買付けが一般的に高値で行われることなどから、金融商品取引法は公開買付けを投資家の投資判断にとって重要な重要事実としてインサイダー取引規制の対象とする。
金商法167条の規定は、上述の金商法166条の規定とほぼ同じであり、
@公開買付けに関わる者(金商法167条1項)が、
A公開買付け等の実施または中止に関する事実(同条2項)を知った場合においては、
B当該事実が公表されるより以前に(同条4項)、
公開買付けの対象となる会社の株券等の売買をしてはならない。
投資ファンドの主催者が株式買い集め決定を知って対象株式の取引をしたとして訴追されたケースにつき、「決定」といえるためには実現可能性があれば足り、実現可能性の高低は問題にならないとして有罪判決を下した。(東京地裁H19.7.19判決)
その他の取引規制 上場会社等の役員・主要株主に対する規制等 売買報告書提出義務 役員・主要株主は、特定有価証券の売買についての報告義務が課される。(金商法163条)
短期売買差益の提供請求 役員・主要株主が、上場会社等の特定有価証券等について、自己の計算でその買付け等をした後6カ月以内に売付け等をし、また売付け等をした後6カ月以内に買付け等をして利益を得た場合には、会社は、その利益を会社に提供すべきことを請求できる。(金商法164条)
空売りの禁止 役員・主要株主による空売りが禁じられている。(金商法165条)
規制対象は以下のとおり。
@上場会社等の社債券、優先出資証券、優先出資引受権証券、株券、新株引受権証書、新株予約権証書(これらを「特定有価証券」という)の売付けやこれらの売買取引に係るオプションの取得または付与(これらを「特定取引」という)であって、その額が、その上場会社等の役員・主要株主が有する当該条項会社等同種の特定有価証券の額として内閣府令で定める額を超えるもの。
A上場会社等の特定有価証券等に係る売付け等(特定取引を除く)であって、その売付け等において授受される金銭の額を算出する基礎となる特定有価証券の数量として内閣府令で定める数量が一の役員・主要株主が有する当該上場会社等の同種の特定有価証券の数量として内閣府令で定める数量を超えるもの。