シンプラル法律事務所
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論点整理(交通事故関係)

論点の整理です(随時加筆修正していく予定です。)

むち打ち損傷
前置き 医学的に日進月歩
レントゲン・MRI・CT
⇒他覚的所見がはっきりしてきた。
自転車〜強制保険なし⇒歩行者に対して交通強者
実態 実情 その後のめまい、吐き気等
不定愁訴を裏付ける客観的な所見がない。
外見にはでないがつらい思いをしている。
損害賠償での位置付け 昭和50年代:むち打ち友の会
賠償医学会:むち打ち撲滅運動
後遺障害(12級と14級)の合計割合は年々増加。
(59.8%(H9)⇒72.9%(H19))
その中でも
12級⇒下がっている。(31.7%(H9)⇒21.8%(H19))
14級⇒増えている。(28.1%(H9)⇒51.1%(H19))
自賠責保険後遺障害系列分布のうち「精神神経症」の占める割合の変遷。
31.7%(H9)⇒47.2%(H19)
従来:
他覚的所見なし⇒0
他覚的所見あり⇒14級
画像所見あり⇒12級
but
平成10年頃より認定が甘くなる。
認定の基準 「労災補償障害認定必携」
第12級の12(自賠責では12級13号)
「通常は労務に服することはでき、職種制限も認められないが、時には労務に支障が生じる場合があるもの
第14級の10(自賠責では14級9号)
旧基準
「労働には通常差し支えないが、医学的に可能な神経系統又は精神の障害に係る所見があると認められるもの」から「14級は12級依り軽度のものが該当」
「特に労働に差し支える程度の頭痛」でないと12級にはならない。
14級に認定するかどうかは、事故直後から同一の症状を訴え続けているかどうか。
医者にその表現で書いてもらう。
裁判所の考え方 後遺症を認めにくい
⇒自賠責で12級、14級の認定を受けて、裁判所にもっていく。
裁判所で争うよりも自賠責の等級認定のレベル。
損害賠償としての解決方法 @ 診療実態調査⇒過剰診療を除外
レセプト(医療機関が健康保険組合に請求する診療報酬明細書
〜いつからいつまで何を治療したかが書いてある。
1年も2年も同じことが続く⇒半年前くらいから症状固定の可能性がある。
A 入院治療の否定
すぐ入院⇒認められない。
東京地裁H10.6.8:個室入院否定
B 通院治療の否定
心因性が多いのではない?
名古屋地裁H11.12.24:5か月超は心因性
C 症状固定の繰り上げ認定
発生後1年以上通院⇒3か月で症状固定
京都地裁H4.9.24:発生後3カ月(男37歳)、同1カ月(女30歳)
D 自覚症状のみのむち打ち症の否定
東京高裁H11.8.9:傷害保険約款により免責
自動車保険(任意)の一部の約款(自損事故、人傷、搭乗者傷害)の後遺障害の定義の但書部分
「後遺障害とは、身体の一部を失いまたはその機能に重大な障害を永久に残した状態をいいます。ただし、被保険者が症状を訴えている場合であっても、それを裏付けるに足りる医学的他覚所見のないものを除きます」
E 労働能力喪失期間の限定
神戸地裁H10.10.8:
12級「軟部組織の損傷に止まっているので固定後3年」
F 休業損害、逸失利益を否定し、慰謝料で考慮
大阪地裁H10.12.15:同H11.11.9:休損否定
岡山地裁H2.5.10:逸失利益否定し、慰謝料算定の事情として考慮
G 割合的認定
東京地裁H11.5.10:心因的要因で長期化⇒30%減額(民法722A)
過失相殺類推(最高裁昭和63.4.21)
身体的特徴(最高裁H4.6.25)
首長判決(最高裁H8.10.29)
疾患判決(最高裁H8.10.29)
東京高裁H10.12.15:対向性変化及び心因性で50%減額
東京地裁八王子支部H10.8.28:既往症で50%減額
神戸地裁H13.1.19:既往症で3分の1減額
H 労働能力喪失率の逓減
大阪地裁H9.2.21:事故後76日間100%、その後186日間80%
大阪地裁H5.4.8:事故後1.43カ月100%、3.06カ月70%、3.36カ月40%
神戸地裁H10.6.25:
医療費につき、事故〜3カ月80%、〜6カ月60%、〜9カ月40%、以後因果関係なし。
大阪地裁H9..1.28:
「頸椎捻挫の治療に必要な期間は個人差があることを考慮しても最大限6カ月程度である」
後遺障害性 @ 低速度衝突の場合のむち打ち症発症の可能性およびその程度
(実験:速度変化が3.6km/h〜8.6km/h、衝突速度12.3km/h)
被験者のべ72名のうち14名(19%)が実験後、自覚症状を訴えた
4日以内に全症例が消えた
(羽成・藤村「検証むち打ち損傷」p144)
むち打ちの場合、1週間は何もしない方がいい。
A 治療の必要性
レセプトの検討
治療方法の固定化⇒症状固定時期
B 労働能力喪失期間と既存障害の問題
自賠法施行令2A
既存障害が過重したときは、既存障害の等級に応ずる金額を控除
近時の傾向 @ 脳脊髄液減少症(低隋液圧症候群)
A 胸郭出口症候群

交通事故(裁判実務)
争点 @責任論
A損害論
に絞られる⇒争点の把握がしやすい。
A算定基準⇒ばらつきが少ない
基準 @青い本(日弁連交通事故相談センター)
A赤い本(日弁連交通事故相談センター東京支部):東京地裁基準
B緑のしおり(大阪弁護士会交通事故委員会):大阪地裁で尊重している。
@被害者相互間の平等
A審理の早期化
Bできる限り蓋然性のある額を算定するためのもの。
の観点から
⇒一応の目安にすぎない。
実際の判断は個別具体的になされるもの。
★人身損害
★人身損害 @積極損害
A消極損害
B慰謝料
将来の損害〜不確定の中蓋然性を想定して算定(フィクションが入る)
生活費控除率は「調整弁的」に使用。
慰謝料:財産的損害を補完するという点も含め、一切の事情を考慮。
裁判所の裁量が広い⇒(全体として)相応の額になるよう調整。
■積極損害
■積極損害 実際に支出させられた損害
治療関係費 治療関係費:
実費を確認⇒領収書・診療報酬明細書(レセプト)を確認
事故と因果関係があり治療費として適切な支出であると認められるものが認められる。
(必要かつ相当な実費)
症状固定 症状固定:治療を続けてもそれ以上症状の改善を望めない状態
症状固定(治療を続けてもそれ以上改善が望めない状態)後の治療費は原則として認めない。
but
内容や程度に照らして相当なものは認められる場合がある。
(原告側の立証にかかる)
症状固定:
@治療費を認めるか
A「休業損害」と「後遺症による逸失利益」を分ける
B「入通院慰謝料」と「後遺症害慰謝料」を分ける
症状固定時期が争われる事案もある。

時期の認定:
@主治医の後遺障害診断書(症状固定日が記載される)
専門家の判断を尊重

Aカルテ
Bレセプト

裏付け資料

もっと早く症状固定がされたはず。
⇒医者の意見書をだしてくる。
but
それをするには、
基礎資料のカルテやその分析検討に時間がかかる

相談や示談交渉のレベルでは普通はでてこない。
どのような治療がなされて、どのような改善があったのかのチェック
Aカルテ
Bレセプト

・同じような治療が延々とされている
・症状改善の記載がない
⇒症状固定時の判断
個室使用料 医師の指示があった場合、症状が重篤であった場合、空室がなかった場合等の特別の事情がある場合に限り、相当な期間につき認める。
鍼灸・マッサージ 医師の指示があるか
指示がなくても、改善に有効かつ相当だと認める場合もある。
H14.2.22 時報1791号p81 判決

認めるために厳格な要件をあげた。
⇒当たる場合がほとんどないという結論になってしまう。
but
あまり厳格なのはいかがなものか(裁判官)。

整骨院の利便性
⇒「有効かつ相当」なものは認める。
入院雑費 入院雑費:
ex.電話費等
少額で大量⇒領収書をとるのは大変⇒1日当たり定額で認める。
何を購入したか立証不要
入院が長期間⇒適宜減額の例がある
入退院を繰り返している場合、入院日数を二重計上しなように。
交通費 現実に支出したものが原則。
タクシーはそれが必要は場合に認める。
公共交通機関の運賃を相当限度額で。
自家用車:ガソリン代等実費相当額。
原則:付添看護費に原則含まれる。
butそれでまかなえない遠方の場合認める場合ある。
(ex.堺市内の母親が三重県上野(入院場所)に通っていた。)
(何にも原則と例外がある)
付添看護費 医師の指示⇒問題なく認める
(診断書に、付添が必要な期間が書かれている場合)
完全看護で医者が指示をしていない場合
〜被害者の障害の部位や程度、被害者の年齢等を考慮して、付添が必要かどうか。

被害者が子供⇒近親者付添を認める
成人でも動けない⇒認める

職業付添人〜領収書提出⇒必要かつ相当な実費
近親者付添費用も定額化。
必要性が立証
⇒単価×日数
近親者が休業して付添い
〜休業による損害と付添看護費のうち高い方を認める
近親者が休業して付添い

休業による損害と付添看護費のうち高い方を認める
将来の介護費用 症状固定後の「将来の介護費用」:

職業付添人
近親者

平均余命分認める
中間利息を控除
基準時は症状固定時から
(症状固定時にそういう損害が現実化した)
装具・器具購入費、家屋改造費 被害者の症状等を考慮し必要かつ相当な範囲で認める。
従前住んでいた家屋が相当古く立替えも検討していた場合
改造費全額を加害者が賠償しないといけないのか?

互いの主張立証を見ながら対応

双方から見積もり
建築士の意見者
看護担当からの意見書

結構難しい問題
葬儀関係費 妥当な額を認定するのは難しい。
社会的地位にも左右される。
原則:定額で認める。
現実の支出額の立証までは認めない。

実際に支出した額が定額より低い場合は、実際に支出した額が損害。

基準額を超えることの立証が求められることがある。
(資料を確保しておく必要)
■消極損害
■消極損害 ●休業損害 ●休業損害
休業損害:症状固定時までに得べかりし利益。

現に休業し、収入減が生じてるいる必要。
⇒立証が必要。

現実の減収額が立証できない場合
⇒基礎収入額×休業期間
給与所得者は源泉徴収票。
源泉徴収票なし⇒事故直前の給与明細
事業所得者の基礎収入額
〜確定申告所得額

過少申告の主張がでることがある。
しおりp8

実収入額の立証ができれば、実収入額による。
but
立証のハードルが高くなる。
(←自己矛盾のことをしている。)
会社役員

基礎収入額は非常に難しい。

一応取締役報酬を基準。
but
@労務対価部分とA利益配当部分がある。
入院していても入ってくる部分(利益配当部分)がある。
Aの部分は基礎収入額として認めない。
実際に認定は難しい。

和解案でも一方当事者から「こういう認定では受け入れられない」と言われる。
理論武装が必要。
家事従事者
〜学歴計・女性全年齢平均賃金を基礎

家事の内容は年齢によって差がない。
but
高齢(70や75)⇒減額して実態に近い数字を出す。
(全年令平均賃金相当の家事労働を提供できていない。)
有職主婦
@家事労働(全年令女性平均賃金額)
A実収入
を比較して、高い方を認める。
1人暮らしの無職女性

自分の身の回りのことをやっているだけで、他人のためでない。
⇒休業損害額は認定できない。
原則:基礎収入×休業期間=休業損害
but
家事の場合100%できないわけではない。
症状が治るとできる家事の部分がちょっとづつ増える。

症状固定時まで100%ではなく、平均○%の就労制限等の扱い。
(家事従事者の場合100%認められる場合はあまりない。)
●後遺障害による逸失利益 ●後遺障害による逸失利益
症状固定後の減収の見込みの補償

できる限り蓋然性の額を算定(昭和39年最高裁)しようとしているのが、算定基準。
⇒いろいろな場合分けがある。
基礎収入額×労働能力喪失率×喪失期間に対するライプニッツ係数(=中間利息の控除)
労働能力喪失率
寝たきり⇒100%喪失
基準:労災でだしている○級だと喪失率○%の表に準拠
自賠責の後遺障害等級認定を当てはめ
⇒喪失率を出す。
★自賠責の後遺障害等級認定は重要
できるだけ早くとる必要。

喪失率は原告側の立証責任
等級認定がなければ立証が困難。
以上はあくまで原則。
後遺障害等級で必ずそうなるわけではない。
職種・年令・性別などいろいろなものを総合考慮して決められる。

小指の先を欠損
13級⇒喪失率9%

ピアニストだったら致命的なもの。

あくまで基準は基準、目安は目安
事案によってかわってくる。
労働能力喪失期間(=就労可能年齢)
〜67歳まで
今の世の中では67歳まで働けるという前提

将来的なもので、将来の蓋然性のある金額を出す。
⇒時代によってもかわってくる。
無職者でも逸失利益が認められる場合がある。

休業損害はない(実際に減収がないと認められない)。
症状固定後は、仕事について就労する蓋然性があれば、逸失利益あり。
〜認める余地はあるが、将来収入を得られたであろうという蓋然性を立証する必要がある。
(実際についていないのは重要な間接事実としてある)
未就労者(幼児、生徒、学生)の逸失利益
p9

ライプニッツ係数をどうとるか。

症状固定時15歳
就労開始年齢を18歳とすると
〜18歳からしか働けないが、18歳から67歳までにもらえるものを、15才の時点でもらう
⇒3年分の中間利息を控除する必要。

早見表はp33
18歳を開始
3庁共同提言
〜ライプニッツ方式を表明
(ホフマン方式でないとおかしいのでは⇒それなりの回答をする。)
中間利息は年5%(最高裁H17.6.14)
後遺障害逸失利益は、(死亡逸失利益と異なり)生活費の控除はしない。
●死亡逸失利益 ●死亡逸失利益
特徴:生活費控除をする。
基礎収入額×(1−生活費控除率)×就労可能年数ライプニッツ係数
控除する生活費の割合
概ね30%〜50%の範囲内で考える。
一家の支柱・女性:30%〜40%
その他:50%
年少女子で(女性でなく)全労働者の平均賃金を採用した場合⇒基礎収入額が高くなる⇒45%

生活費控除率は調整弁的なもの。

一家の支柱⇒遺族の生活維持の観点
女性が被害者の場合、基礎収入額が低い
一家の支柱かどうかが焦点になることがあるが、裁判官が見ているのは、遺族の生活保障が必要なのかどうか。
■慰謝料
■慰謝料 あくまで精神的損害に対する賠償。
(制裁的なものではない。)
死亡慰謝料 基準化と弾力化
一家の支柱の場合は2800万円と高め
〜残された家族の生活保障的要素を考えている。
基礎収入額が低い⇒逸失利益の認容額が低い⇒慰謝料増額で対応。
「被害者の損害額」が結論として相応な額になるよう調整している。
記載されている死亡慰謝料の額は「近親者固有慰謝料」を含めての額
but
近親者の悲しみが非常に大きい⇒立証によっては個別に認める場合あり。
慰謝料の増額事由:
飲酒・無免許・著しい速度違反・殊更な信号無視・ひき逃げ等
被扶養者が多数
損害額の算定不可能・困難な損害の発生が認められる場合
赤い本2008年下p38〜
入通院慰謝料 入通院慰謝料
しおりp14

横軸:通院期間
縦軸:入院期間

しおりp11

通院期間:「実通院日数の3.5倍」と「通院期間」と比較して少ない方
〜「通院が長期にわたり、かつ、不規則な場合」という要件に注意
〜事案の個別性に着目し、実質的な判断をしている。
実通院日数が非常に少ない
傷害内容は骨折
じっとして安静にしているしかない

週1回(経過観察)

実通院日数は少ないが、3.5倍ではなく、ちゃんと骨が融合するまでの「期間」が必要期間とすべき。
p11ウ

3分の2基準
軽度の神経症状の場合、通常の慰謝料の3分の2にする。

赤い本
(別表1、別表2)
「別表2」に相当するのが3分の2程度。

「他覚所見がない」神経症状
「○○が損傷しているから○○がでている」と医学的に立証できる場合⇒3分の2にしない

医学的に証明できないが、誇張や嘘でもなさそう。
医学的にみておかしいわけではない。

3分の2基準でする
12級と14級の差

他角的所見あり⇒12級
他角的所見なし⇒14級
重症基準
「重症」は意識不明の期間が長期間続く等、「瀕死の重傷」の場合等。
後遺障害慰謝料 後遺障害等級を認定⇒それを認める。
その他 弁護士費用 「事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、当該不法行為と相当因果関係に立つ損害」(最高裁昭和44.2.27)と認められ、認容額の10%程度が目安。
遅延損害金 不法行為に基づく損害賠償債務は、催告不要で、損害の発生と同時に遅滞に陥る(最高裁昭和37.9.4)。
物的損害 車両損害 基本となる発想

信義誠実の原則が適用される。
「被害又は損害を最小ならしめる義務」を負う。

時価額の認定

レッドブックに基づいて認定。
中古車市場で取得し得るに要する価額
評価損

そんなに多くない。
人気車種で新しい場合に認めているケースはある。
修理費用の○%という形で認める。
慰謝料 物損に対する慰謝料は認めない。
(財産的損害がカバーされれば慰謝される)
but
特別に主観的・精神的価値を認める場合は認める。
(主観的・精神的価値を有することが社会通念上相当と認められることが必要)
注意点 自賠責の被害者請求 自賠責の被害者請求

済ませておくことが被害者にとって有利になるケースがある。

「過失相殺」については被害者に有利に運用。
民事裁判のベースで7割以上8割未満の過失相殺⇒自賠責だと2割
8割以上9割未満⇒3割
9割以上⇒5割
特に過失相殺が問題となる事案では、そちらでできるだけ早くとっておく。

自賠責保険金をとらずに訴訟⇒認容額が低くなる⇒自賠責の場合より低くなることもあり得る。
後遺障害 後遺障害に基づく損害賠償請求
⇒自賠責による被害者請求(又は、加害者側保険会社を通じての事前認定)

損保料率機構による後遺障害等級認定の活用
(重要な証拠となる)
損益相殺・損害のてん補 最高裁H16.12.20:
自賠責保険金について法定充当する。
@遅延損害金から充当し、その後A元本に充当し、それででてくる数字が損害額元本。

労災給付の場合は少しづつ入る⇒遅延損害金の充当からでは、実務的計算が大変
労災給付は元本充当すべき。
最高裁H22.9.13 
労災給付金は元本充当。

最高裁H22.10.●
労災給付金は「元本充当」する。
原則として「事故時」に元本充当⇒確定遅延損害金も出てこない。

実務的に大きな判例。

訴状作成前に一読して算定する必要。
自転車による交通事故 自転車による交通事故:

@賠償資力がない人が加害者になる。
未成年者が加害者。

A自賠責がない⇒自転車が加害者⇒後遺症の等級認定がとれない。
(後遺症の程度の立証が難しい)

自動車の場合は一定程度の資力は確保されている。
資力のある保険にはいる必要。

交通事故関係 留意点 
事故状況の把握 交通事故証明 警察に届出がなされ、その事実が確認された交通事故について発行される証明書。
警察からの資料に基づいて、自動車安全運転センターの交通事故発生場所を所管する警察署が存する各都道府県事務所が発行業務を行う。
刑事記録 訴訟となった場合、裁判所が重視するのは刑事記録。
but杜撰に作成された交通事故現場見取図等もある→内容を十分に検討する必要。
民事訴訟手続での入手 文書送付嘱託申立て。(民訴法326条)
公訴提起事件 公判中(証拠調後) 請求先 当該刑事被告事件の係属する裁判所 
条文 犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律 3条
開示 閲覧・謄写とも可 
請求期間  第1審の第1回公判期日後から当該被告事件終結まで。
請求方法  裁判所備え付けの申請書に必要事項を記載して閲覧・謄写を行う。 
確定後 請求先 検察庁 
条文 刑訴法53@、刑事確定訴訟記録法4条 
開示 条文上は閲覧権のみ。 
保管検察官の裁量による謄写が認められている。(記録事務規程16@)
不起訴事件  原則として、実況見分調書に限って、請求可能。
供述調書 @民事裁判所から、不起訴事件記録中の特定の者の供述調書について文書送付嘱託がなされた場合であること、
A当該供述調書の内容が、当該民事訴訟の結論を直接左右する重要な争点に関するものであって、かつ、その争点に関するほぼ唯一の証拠であるなど、その証明に欠くことができな場合であること、
B供述者が死亡、所在不明、心身の故障若しくは深刻な記憶喪失等により、民事訴訟においてその供述を顕出することができない場合であること、又は当該供述調書の内容が供述者の民事裁判所における証言内容と実質的に相反する場合であること、
C当該供述調書を開示することによって、捜査・公判への具体的な支障又は関係者の生命・身体の安全を侵害するおそれがなく、かつ、関係者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがあるとは認められない場合であること
を要件として開示を認める。
その他  @自動車検査証(車検証)又は
A登録事項等証明書及び軽自動車検査記録簿 
運行供用者には自動車の所有者が含まれているので、交通事故事件処理にあたっては、必ず自動車の所有者の確認が必要となる。 
自動車登録事項等証明書を請求するには、自動車登録番号だけでなく、車台番号(下7桁)の明示が必要。
弁護士法23条の2による照会
(車台番号がわかっていれば、誰でも、全国どこの陸運局からでも全登録自動車について交付請求可能。)
軽自動車については、所有権の得喪について登録制度が採用されておらず、証明書の交付制度はない。
but軽自動車検査記録簿には、軽自動車の所有者及び使用者の指名又は名称と住所等が記載⇒弁護士法23条の2に基づく照会を行う。
依頼者に軽自動車かどうかを確認。
不明の場合、交通事故証明の車両番号を確認。
用途の表示が事業用であれば「りれ」、自家用であれば「あいうえおかきくけこを」の場合は軽自動車。
責任を負う者  @加害運転者(民法709条)
A加害行為者の使用者(民法715条)
B自動車の運行供用者(自賠法3条)
訴訟の相手  加害運転者 運行供用者の他に加害運転者を相手にすると過失の立証が必要(立証内容が異なる。)
任意保険に加入している場合、運行供用者に対する勝訴判決が確定すれば、契約保険金額の範囲内で、認容額の支払いがされる。⇒特別事情のない限り、加害運転者を被告とする必要なし。 
任意保険会社  被保険者に対し賠償を命じる判決が確定すれば、保険約款により、任意保険会社は支払いをする義務が生じる。⇒通常は保険会社に対する債務名義がなくても、保険会社は任意に支払いに応じる。
任意保険会社が約款上の免責事由を主張して保険金支払義務の存在自体を争う場合。⇒加害者に対する損害賠償請求訴訟とともに、任意保険会社に対する訴えを提起。
その場合、同時に被保険者を被告とし、被保険者に対する判決確定を条件とする将来給付を求める形をとる。
 ひき逃げ等の場合  ひき逃げ等自動車の保有者が明らかでない場合、加害者が無保険の場合⇒政府に対し自動車損害賠償保険事業に基づく損害の補填請求が可能。(自賠71条以下) 
ひき逃げで、政府の自動車損害賠償保証事業による損害の補填を受けるためには、事故証明書に「ひき逃げ」と明記してもらう。
自賠責の被害者請求  被害者死亡⇒相続人が請求権者。
相続人のうち1人が代表で請求する場合は、他の相続人の委任状が必要。
単独で法定相続分だけを請求することもできる。
 事故態様 受任後早期に交通事故の現場を実況見分し、道路の状況、事故の状況等を現場で確認。(←時間が経過すると、道路状況や標識、信号サイクル等が変わることがあり、立証が困難になることがある。) 
死亡事案の場合、実況見分調書の記載が偏ったものになることがある。
⇒警察に、実況見分への目撃者、被害者の相続人、弁護士等の立会いを求める。
事故現場見取図等を参考に、路面の状況等を調査し、事故車両の形状や色、変形状況、破損状況を写真撮影により保全。
不起訴記録については、受任弁護士に限り、かつ、実況見分調書に限って閲覧・謄写できる。
刑事事件としてとりあげない物損事故では、損保会社がリサーチ会社に作成依頼する事故状況等の調査報告書音開示・提出を求める。(要交渉)
警察官が現場で当事者からの事情聴取や略図等を記録したメモや簡易な捜査報告書等の書面が保存されている場合がある⇒所轄警察署にその存否や送付の可否を確認
3つの基準  裁判基準  裁判所が認定するであろう損害額算定基準
「交通事故損害賠償額算定のしおり」
自賠責基準 被害者の過失は重大なものを除き原則として問われない一方、支払額は、「国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準」(自賠法16条の3@ 国土交通省告示平成13年12月21日告示第1号)にしたがって算定。
支払額には上限。(自賠法13K、自動車損害補償法施行令2条)
任意基準  裁判基準に過失相殺を適用した額が、裁判において認容されうる賠償額。
自賠基準は、支払い限度があり、また物的損害などについては填補されないため、裁判において認容されうる賠償額に満たない場合が多い。
その不足分を担保するための保険が、任意保険。
任意保険会社は、各社独自に損害額の支払基準(任意基準)を定める。
任意保険会社が独自に設けている基準で、何らの拘束力は損害額算定の指針となるものではない。
任意保険会社は、一括払いの示談金を提示するにあたっては、自賠責保険の支払限度額内では自賠責保険の支払基準による積算額を下回ってはならない。(「自動車損害賠償保障法及び関係省令の改正等に伴う事務の実施細目について」平成14年3月12日国自保第2358号通知)⇒任意基準は自賠基準(支払い限度額を超える場合は、支払限度額)以上で定められている。
 傷病・治療 本人の体質的素因や既往症の関係が争われる可能性⇒医師の意見カルテ(診療録)の保全、レントゲン写真等の確認の必要。 
医療機関への照会、証拠収集方法:
@弁護士の私書書面での照会
A23条嘱託
B文書送付嘱託等

照会事項:
症状、治療経過、後遺障害の有無、症状固定時期、就労可能時期

送付嘱託の対象:
診療録、医師指示票、看護記録、X線写真、諸検査結果票(CT、MRI)、保険診療報酬請求書控、病理検査所見等
二重事故や被害者の持病の問題⇒事故後治療を受けた以外の病院からもカルテを取寄せる必要 
不必要な転医、遠隔地への通院、医師の指示なくしてなされる整骨院への通院は、治療費・通院費の賠償が認められない場合あり。
 後遺症 傷害がなおったとき(症状固定)に身体に存する障害。
症状固定「傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待しえない状態で、かつ残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態(症状の固定)に達したとき」 
後遺障害に対する自賠責保険金給付を受けるには、自算会(自動車保険料率算定会)の調査事務所による等級認定を受ける必要。
被害者請求による(自賠法16条)場合と、任意一括手続による等級認定を受ける場合の2通りがある。
後遺障害の等級認定を受けるにあたって、病院で症状固定後に後遺障害診断書を作成してもらう。
任意保険会社としては、自賠責の等級認定がなければ後遺障害の賠償金を自賠責保険からの回収に困難を伴うため、訴訟での和解等による解決が難しい。
自賠責の等級認定に不服があれば、自賠責保険会社に対して(自算会調査事務所ではない)異議申立や再審査請求を行い、その際医療記録等を参考資料として追加提出する。
請求権の消滅時効に注意。保険会社から請求者側に認定等級の通知(保険金・損害賠償額の支払通知)があった時から時効は進行し、自賠法上の被害者請求権は2年で消滅。
 積極損害 治療開始当初から、加害者側の任意保険会社に交渉して病院側と連絡をとってもらい、任意保険会社から直接病院へ治療費を支払うようにさせる。 
付添費は、通常は医師の診断書に付添いが必要な期間の記載のあるbが合いにその範囲で認められる。医師の指示がない場合でも、受傷の部位、程度や被害者の年齢などによっても認められる場合がある。
入院雑費、入院費慰謝料については、病院に対し、診療報酬明細書や診断書の交付を求めて、入院期間を確認して計算する。
合理的な通院経路である限り、通院先、通院日、利用交通機関及び往復の交通運賃の金額を明らかにすればよく、保険実務、裁判実務においても特段領収書その他の資料は要求されない。
タクシーの場合は、利用の必要性と相当性があり、かつ領収書等の資料による立証が必要。タクシー代の請求が否定されても電車賃等相当額の交通費は認められる。
家族の交通費は、家族付添費あるいは入院雑費に含まれるが、遠隔地の場合は、見舞看護が必要で相当なときに別途認められる。
入院先の医師、看護婦への謝礼については、社会通念上相当なものであれば認められる。
進級遅れのために余分に支払わざるを得なかった授業料、学業の遅れに伴う相当な範囲の補習費も損害となる。
義足、車椅子等の装具、器具代、家屋、自動車の改造費も必要性があれば相当性の範囲内で認められ、将来分も認められる。なお、自治体、国から現物ないし補助金が支給されることがある。
禁治産宣告申立のための鑑定料、損害賠償請求のための調査費用、通信費、自宅における家政婦費、愛玩動物の保管料、旅行のキャンセル料、老人ホームの介護料など。なお、遅延損害金は、弁護士費用も含め事故当日から起算する。
 消極損害 給与所得者の場合:
雇用主の証明書、前年度の源泉徴収票、給与明細書。(保険実務では、保険会社所定の休業損害証明書(休業した事実と事故前3か月の収入を立証)、前年度分の源泉徴収票、場合により賞与の増額、昇給昇格などの会社の証明書の提出が求められる。) 
事業所得者・自営業者:
@確定申告書の控、Aその添付書類(白色申告書の場合の収支内訳書の控、青色申告者の場合の所得税青色申告決算書の控)、B市町村長発行の住民税課税証明書、C税務署長発行の納税証明書、Dこれらが用意できない場合又は補充的資料として、帳簿、領収書、取引先の支払証明など、E場合による職業証明書を用意。(保険実務では、@Aの書類が必要で、@に税務署の受付印がない場合には、BCの書類を取寄せて、@の裏付けとする。@〜Cについて複数年度分(3年分程度)を要求されることがある。)
事業所得者・自営業者について上記資料が提出できない場合でも、現実に休業損害が発生した事実を確認できれば、休業損害が認められることもある。
事業所得者・自営業者の収入は、それを得るのに要した経費と、これを控除した所得からなり、さらに経費は、休業によって支出を免れる変動費と、これに無関係に支出しなければならない固定費からなる。事故によって、被害者は、本来得るべき収入を失ったのであるから、自営業者の休業損害も(所得ではなく)収入を基礎に算定される。変動費は、当然損益相殺として控除される。
 後遺障害逸失利益 算定はライプニッツ係数
逸失利益の本質:
差額説:交通事故がなかったら被害者が得られたであろう収入と事故後に現実に得られる収入との差額
←損害賠償制度は、被害者に生じた現実損害を填補することを目的とするもの。
 慰謝料 傷害慰謝料は、入通院期間を基礎として、慰謝料算定基準表(しおり)を参考に慰謝料を算出し、個別に慰謝料増減額事由の有無を判断する。
端数の処理:
入院期間50日。1月を30日として月単位に換算し端数を出すと、1.67月となり、端数は0.67月。これを基礎に計算すると、入院1月慰謝料60万円+(入院2月慰謝料117万円ー入院1月慰謝料60万円)×0.7=98.19万円 
 死亡の場合 逸失利益:収入(年収)×(1−生活控除率)×就労可能年数に対応する中間利息控除係数
葬儀費用は原則定額。立証不要。
仏壇購入費、墓石建立費、遺体搬送料が別途考慮されることがある。
香典は損益相殺を行わない。香典返しは損害と認められない。
 紛争解決方法の選択 @示談交渉
A裁判外紛争処理機関による紛争解決
 日弁連交通事故相談センター
 交通事故紛争処理センター
B自賠責保険の被害者請求
C弁護士会の仲裁センター
D交通調停手続き(民調33の2)
E裁判 
裁判外紛争処理機関による紛争解決
@?日弁連交通事故相談センター
A?交通事故紛争処理センター
いずれも無償で示談斡旋に応じてもらえる。
@は比較的短時間で斡旋手続をしてくれるが、双方の承諾がなければ手続きは進められない。
Aは、審査手続に移行する制度があり、その裁定については被害者は拘束されないが、任意保険会社は拘束される。
事実関係に比較的争いがなく、その法的評価や算定基準の金額に争いがある場合に利用できる。

保険制度等概説
自賠責保険又は自働車損害賠償責任共済 概説 自働車は、自賠責保険又は自働車損害賠償責任共済の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならない。(自賠5条、89条)⇒全ての自働車について、いずれかの契約の締結が義務づけられている。
自賠責保険 概要 自賠法は、事故のためにに自働車を運行の用にに供する者(運行供用者)は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(地賠3条)
自賠責保険は、被保険者である自働車の運行供用者に上記の自働車損害賠償責任が発生した場合に、
@被害者に支払われた損害賠償額につき自賠責保険会社が被保険者に対して保険金を支払い(自賠15条)、または、
A被害者からから自賠責保険会社に対して請求があれば自賠責保険会社は一定の保険金額の限度で損害賠償額の支払に応じる(自賠16条)(被害者請求)
制度。
保険金額の上限(自賠13条、自賠令2条):
死亡につき:3000万円
後遺障害につき:75万円ないし4000万円
傷害につき:120万円
ア被害者に有利な取扱い
@過失相殺:
被害者に重大な過失があある場合(過失割合が7割以上の場合)のみ減額。
減額割合も最大で5割。
A因果関係の認定:
自己との間に因果関係がないことが明らかなときは別論として、積算された損害額又は保険金額のいずれか小さい方から5割の限度で支払がされる。
イ:仮払金制度
当座の費用に充てるため、過払金として政令で定める金額(死亡の場合は290万円、傷害の場合は最高40万円)の支払を自賠責保険会社に請求できる。
ウ:後遺障害認定手続の整備:
その制度の一環として、損害保険料率算出機構及びその下部機構である自賠責損害調査事務所による等級認定手続が整備されちえる。⇒被害者は、医学上の専門的事項につき事情を明らかにする負担が軽減される。
@訴え提起前に後遺障害等級認定を受けている事案では、一般に、早期に和解による解決を実現することが容易。
(上記の手続きを経ていない場合、被告においては、被告に対して賠償した後に自賠責保険の保険金の支払を受けられるか否かについて不安が残ることから、和解による解決に応じることに消極的になりがち。)
A認定に不満が残る場合でも、被害者の後遺障害に関する主張がどのような事実に基づいているのか、自賠責保険の運用において用いられている基準との関係でどの点が問題となるのか等を把握することが容易であり、争点を早期に明確化できる。

被害者としては、訴え提起前に被害者請求をして後遺障害の認定を受けておくのが一般に利益。
限界 他人の生命・身体を害したことによる損害(人損)に係る自動車損害賠償責任を保険するもので、物損はその対象外
人損についても、自賠責保険の保険金額の限度額内の支払では被害者の損害を賄いきれないことが大半。

自賠責保険に加えて、保険会社との間で自家用自動車総合保険契約(任意保険)を締結することが多い。
自動車損害賠償保険事業 加害自動車につき自賠責保険契約が締結されていない場合や、ひき逃げ等の事案で運行供用者として自動車損害賠償責任を負うべき者が明らかでない場合には、被害者は、政府の自動車損害賠償保険事業から、政令で定める額の限度において、損害の填補を受けることができる。(自賠72条)
自家用自動車総合保険(任意保険) 通常、交通事故が発生した場合には、自己当事者は任意保険会社に対して直ちにその旨を通知する。これを怠ると、後に保険会社から免責の主張を受けることがある。
特約 @ @自損事故保険:
急激かつ偶然な外来の自動車事故により傷害を受け、かつ、それによって被保険者に生じた損害に関して自賠法3条の規定に基づく自動車損害賠償責任が発生しない場合に、保険金が支払われる特約。
A A無保険車傷害保険:
無保険自動車との事故により被保険者が死亡し、又は後遺障害を負った場合に、保険金が支払われる特約。
B B搭乗者傷害保険:
自動車に同乗していた者が事故により受傷した場合に一定の金額の保険金が支払われる特約。
損害のてん補を目的とするものではないことに特徴がある。
C C人身傷害補償保険
被保険者が自動車の運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故により身体に障害を受けた場合に保険金が支払われる特約。
被保険者の過失割合のいかんにかかわらず保険金が支払われる。
公的給付 労働者災害補償保険法に基づく給付 受傷が業務上の事由によるものに当たる場合には、労災保険法の規定に基づく保険給付がされる。(労災12条の8)
政府は、上記の保険給付をした場合には、その給付の価額の限度で給付を受けた被害者の損害賠償請求権を取得する。(労災12条の4)⇒その範囲で被害者の損害賠償請求権は減縮する。
国民健康保険法等に基づく給付 交通事故により受傷した場合であっても、健康保険による治療を受けることができる。
被害者に後遺障害が存する場合には、国民年金法に基づく障害基礎年金等が給付されることがあるほか、介護保険法に基づく給付を受けることができることもある。

損益相殺の問題
問題  @各種給付を損害賠償額から控除すべきか否か?
A控除すべき場合、過失相殺前の損害額からの控除か、過失相殺後の賠償額からの控除か?
検討要素 視点 @当該給付が損害の填補を目的としたものか
A当該給付をなしたものが規定上または解釈上、被害者に代位して損害賠償請求権を加害者に求償することができ、その結果加害者が当該給付の最終的負担者となるか
Bその給付の財源の拠出者は誰か
C損害の填補を目的としているとしても、損害自体の填補を主目的とする制度化、損害の賠償を主目的とする制度か
@ @について、当該給付が現物給付(健康保険における療養の給付など)でも、金銭給付(労災保険における休業給付など)でも、その目的が被害者の損害の填補⇒控除すべき。
対人・対物保険制度は、損害の填補のための給付⇒損害賠償から控除されるべき。
傷害保険は、将来の不測の事態に備えて生活の窮迫を回避しようとするもので、被保険者自身の生活保障という目的の給付⇒損害賠償額から控除すべきではない。
A 代位が生じる=損害賠償請求権が移転する⇒被害者の損害賠償請求権はその分だけ減少。
B 費用負担者が加害者側⇒損害賠償請求権から控除すべき方向。
費用負担者が被害者側⇒控除すべきではない方向。
C 損害の賠償を目的とする給付⇒過失相殺後に控除すべき。
ex.自賠責保険金や加害車両加入の任意保険。
損害自体の填補の目的とする給付⇒過失相殺前の損害から控除すべき。
←被害者の責任の有無や被害者側の相殺すべき過失の有無を問題にせず給付されるべきもの。
労災保険法 労災保険金 @控除の有無 控除すべき
労災保険給付は損害填補を目的とする。
←被害者が同一事由について損害賠償を受けたときは、政府は保険給付をしないことができる(労災保険法12条の4)。
加害者の損害賠償義務と政府の労災保険給付義務とは相互補完関係にあるので、労災保険給付と損害賠償金が同一の事由に基づく限り、労災保険給付の限度で損害賠償額は控除される。(最高裁昭和52.5.27)
「同一の事由」は、厳密に費目が同一である必要はなく、「積極損害」「消極損害」「慰謝料」の区分に応じた同一性で足りる。
相続人のうち配偶者のみが遺族年金等を受けて、その給付額がその配偶者の取得しうる損害賠償額を超えるような場合も、その超える部分が他の相続人の損害賠償額から控除されることはない。(最高裁昭和50.10.24)
A控除の時期 判例:控除されるのは過失相殺後。(最高裁H1.4.11)

労災保険給付の性質は基本的に損害の填補と考えられる。
but
休業補償給付分は平均賃金の6割であるなど損害自体全部をてん補するものではなく、第三者の損害賠償義務と政府の労災保険給付義務とは相互保管関係にあり、損害のニ重填補を認めるものではない。
対応 過失相殺により、民事上の損害賠償額<労災給付の場合(ex.休業損害総額100万円、労災支給額60万円、過失相殺50%):
労災保険の被保険者(被害者)は事故の過失に基づくときでも保険給付を受ける権利を有する⇒被保険者は、早期に労災保険を使用しないと被保険者にとって不利になる。
個別 療養補償給付について
A:付添看護費、入院雑費、通院交通費についても填補されたものと解する裁判例
B:地方公務員災害補償基金による療養補償給付について入院雑費・通院交通費は療養補償の対象ではなく、控除の対象とならないとする裁判例。
特別支給金 @控除の有無 控除すべきではない。

@特別支給金の目的は被災労働者の福祉増進にあり、損害填補を目的とせず、労災保険法も代位の対象としていない。
A特別給付の費用負担者である使用者による使用者行為災害についてすら、控除を認めない。
休業特別支給金・障害特別支給金の控除を否定。(最高裁H8.2.23)
類似の制度 類似の制度に基づく給付(国家公務員災害補償法、地方公務員災害補償法、船員保険法、労働基準法75条以下の規定による災害補償)については、同様の処理がされる。
健康保険法 @控除の有無 控除すべき。
給付が損害賠償と同一の性質を有する限り、損害賠償額から控除される。

@療養給付は、被保険者の治療費用をてん補するものであり、傷病手当金は、被保険者の傷病に伴う所得喪失を補うもの。
A保険者の代位規定もある(同法67条)。
A控除の時期 過失相殺前に控除。
健康保険から支払われた治療費分は、過失相殺前に控除される(結果、損害として考慮しないことと同じ結論になる。)。

療養給付は社会保障的性格が強い上、被害者自ら保険料を負担している保険。
対応 過失相殺が適用される事案においては、健康保険を使用しないと、実質的に考慮されないはずの治療費相当損害金が損害として顕在化し、過失相殺の対象となる。
⇒被害者にとって不利な結果となる。
健康保険を使用すべき
ex.被害者の損害が、治療費100万円、休業補償その他で100万円、合計200万円、過失割合50%。

@健康保険利用しない場合:
治療費100万円について、自賠責保険もしくは加害者が支払った⇒加害者は総損害200万円のうち過失割合に基づく負担分100万円を支払ったことになる。
A健康保険利用:
治療費全額が健康保険により支払われる⇒加害者は被害者の休業補償その他の損害100万円の50%に当たる50万円を被害者に支払い、健康保険からの求償100万円についてもその50%に当たる50万円を支払う。
⇒結局加害者の負担額に代わりはないが、治療費100万円のうち被害者の過失分50万円を健康保険が負担⇒被害者は実質的に50万円の賠償を手に入れることになる。
治療費のうち健康保険給付を受けた分については、損害にも損害填補(既払金)にも計上しない例が多い。
類似の制度 類似の制度である国民健康保険、船員保険法に基づく給付についても、同様の処理がなされるべき。
国家公務員共済組合法 @療養の給付、埋葬料、傷病手当金、休業手当金 控除すべき
同一の性質を有する限り損害賠償額から控除される。

@これらの給付は損害填補を目的とする。
A給付による保険者(共済組合)から第三者への求償があり、組合員が第三者から損害賠償を受けた場合には、保険者はその限度で保険給付義務を免れる。
A弔慰金・災害見舞金 控除されない

@遺族に対する見舞金的な性格を有し、損害填補を目的としない。
A第三者に対する求償も行われないので、損害額から控除されない。
介護保険法 過失相殺前に控除すべき。

@保険給付原因が加害者の行為によって生じた場合の、市町村の加害者に対する損害賠償請求権の取得規定や、受給権者が加害者から損害賠償を受けたときの市町村の給付義務免除規定あり→損害の填補。
A被害者自ら保険料を負担している等、社会保障的性格。
生命・傷害保険・自動車保険以外の所外損害保険 生命保険 保険金給付は、交通事故の損害賠償から控除されない(最高裁昭和39.9.25)。

@商法上代位の規定がない。
A当該被害者が自費で個別に加入した保険契約により支払われるもの。
傷害保険 保険金給付は、交通事故の損害賠償から控除されない
←代位の規定は適用されないと解される。
搭乗者傷害保険金による給付がなされた場合で、保険料を加害者側が拠出していたような場合は、慰謝料算定の減額要因として斟酌すべき。
裁判例でも斟酌する例の方が多い。
損害保険 所得補償保険については、休業補償の立替払いの性質を有するとして、賠償額から控除すべき。

保険者が自己の生活を守るために保険料を全額負担して加入するものであるが、損害保険という性質上、商法622条1項の規定により求償もできると解される。
控除は過失相殺前とすべき。

被害者が保険料を負担し、将来に備えて自衛の手段として加入するものであり、損害の補償を目的とするもの。
その他の効的給付 雇用保険法 控除すべきではない
←代位規定がなく、費用負担者は事業主及び国庫(雇用保険法66条、68条、労働保険の保険料の徴収等に関する法律)であるが、社会福祉的観点から拠出されているものであるから、社会保障的給付ということができる。
自動車事故対策機構法に基づく介護料 控除すべきでない
←@被害者の家庭の負担軽減を目的とする一種の贈与(見舞金)であり、損害の填補にあたらないとされた裁判例あり。
A代位規定がなく、給付の出資者は主として政府。
生活保護法 控除すべきではない
←被害者が損害賠償を受けることができるようになれば、その受けた保護費相当額の範囲で返還も予定されており、代位規定がない。
身体障害者福祉法 控除すべきではない
←身体障害者またはその扶養者の負担能力に応じて、一部または全部の費用負担が要請されることとなっており、代位の規定もない。

将来給付と損益相殺の問題
問題  A:控除説:
事故によって受給できなくなった年金の逸失利益性を肯定する場合、事故によって遺族が受領することとなった年金については、二重填補をさkせるため、控除の対象とする。
B:年金給付の不確実性⇒既給付分については控除しても、将来分については給付が確実視される部分に限り控除
国家公務員共済組合法に基づく遺族年金 類似の制度である地方公務員等共済組合法に基づく遺族年金につき、当該年金給付が現実に履行された場合、またはこれと同視しうる程度にその存続・履行が確実であるということができる場合に限り、当該金額を損害賠償額から控除。(最高裁H5.3.24)(平成5年判例)
労災保険制度 傷病補償年金・傷害補償年金 平成5年判例以後、下級審裁判例で、傷害補償年金の将来分について、当該給付を現実に得た場合及び当該給付を得たものと同視しうる程度にその履行が確実であるという場合に限り控除を認める。
遺族補償年金 現実に履行された場合、またはこれと同視しうる程度にその存続・履行が確実であると認められた場合に控除されるとした裁判例。(神戸地裁H9.4.15)
国民年金法 厚生年金の給付の効果と同様。
障害基礎年金について、未だ給付を受けておらず、給付を受けることが確定していないので損益相殺が認められないとした例。(大阪地裁H10.6.29)
寡婦年金について損益相殺を認めた裁判例。(大津地裁H9.3.28)
厚生年金保険法 遺族年金 平成5年判例⇒その後同様の判断が。
過失相殺前に控除すべき。
←厚生年金給付については、損害填補目的と社会保障目的を併有。
保険料の拠出者が被用者及び勤労者⇒損害填補目的についても損害の賠償ではなく損害の補償を目的としたものといえる。
障害厚生年金 平成5年判例と同様に考えるべき。
恩給法 遺族の受給する扶助料につき、国家公務員共済組合法と同様に考えるべき。
介護保険法 支給の調整規定がなく、損害賠償金を受領すれば介護保険の給がない扱い
⇒将来分については控除すべきではない。


保険制度等
 自賠責保険  あらかじめ被害者請求(自賠法16条)により、自賠責保険金の回収をする。
(示談交渉が長期化した場合や訴訟を提起する場合の訴額の減少等のメリット。) 
自算会は、重過失減額の他は被害者側の過失を争わないし、損害の算定も定額化⇒比較的スムーズに保険金の支払が受けられる。
重過失減額の割合については、被害者の過失の程度が勘案され、死亡による損害及び後遺障害による損害については20〜50%、死亡に至るまでの傷害による損害及び傷害による損害については20%の割合で減額が行われる。
受傷と死亡との間及び受傷と後遺障害との間の因果関係の認否が困難な場合には、損害額を50%の割合で減額される。
共同不法行為が成立する場合の自賠責保険の保険金額は、加害者の台数に政令で定める保険金額を乗じたものが最終的な保険金上減額となる。
支払限度額 死亡事故 死亡による損害(@) 3000万円
死亡に至るまでの傷害による損害(A) 120万円 
傷害事故 傷害による損害(A) 120万円 
後遺障害による損害(B) 介護を要する後遺障害 4000万円(第1級)〜3000万円(第2級)
後遺障害  3000万円(第1級)〜75万円(第14級) 
症状固定に至るまでの損害がA
症状固定日において後遺障害別等級表に該当する障害が残存している場合に、後遺障害による損害B
 労災保険 交通事故による人損(負傷・死亡)が、@「業務災害」又は「通勤災害」であって、A自賠責の支払に先行して労災保険給付を希望する場合で、B所轄の労働基準監督署に第三者行為災害届を提出した場合、事業者が労災補償の責任を負い、被災労働者又は遺族は、労災保険の給付により賠償金を受領することができる。 
労災保険の給付は、所轄の労働基準局に対して、第三者行為災害届を提出することによって、受けることができる。
第三者行為災害届の書式は最寄りの労働基準監督署労災担当者から入手可能。請求には2部作成し、提出する。添付書類は、@交通事故証明書、A念書、B示談がなされたときは示談書の謄本又は写し、C自賠責保険等の損害賠償等支払証明書(既に自賠責から仮渡金を受けている場合)、D死体検案書又は死亡診断書(死亡の場合)、E戸籍謄本又は抄本(死亡の場合)。
被害者は通勤災害や業務災害が自動車事故の場合、労災保険と自賠責保険の双方へ保険給付を請求することができる。
どちらの保険も政府によるもので、当該事故による被害者の損倍の賠償の填補を目的としているので、二重に保険金を受け取ることができない。
給付内容 療養(補償)給付 業務災害又は通勤災害による傷病により療養するとき
休業(補償)給付 業務災害又は通勤災害による傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けられないとき
障害(補償)給付 障害(補償)年金 業務災害又は通勤災害による傷病が治った後に障害等級第1級から第7級まで該当する障害が残ったとき。
障害(補償)一時金 業務災害又は通勤災害による傷病が治った後に障害等級第8級から第14級までに該当する障害
遺族(補償)給付 遺族(補償)年金  業務災害又は通勤災害により死亡したとき
遺族(補償)一時金 遺族(補償)年金を受け得る遺族がないとき
遺族(補償)年金を受けている者が失権し、かつ、他に遺族(補償)年金を受け得る者がない場合であって、すでに支給された年金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないとき。
葬祭料(葬祭給付) 業務災害又は通勤災害により死亡した者の葬祭を行うとき。
傷病(補償)年金 業務災害又は通勤災害による傷病が療養開始後1年6か月を経過した日又は同日後において次の各号のいずれにも該当することとなったとき
@傷病が治っていないこと
A傷病による障害の程度が傷病等級に該当するきこと
介護(補償)給付 障害(補償)年金又は傷病(補償)年金受給者のうち第1級の者又は第2級の者(精神神経の障害及び胸腹部臓器の障害の者)であって、現に介護を受けているとき 
特別支給金  上記のほか、休業(補償)給付・障害(補償)給付・傷病(補償)年金には、特別支給金が給付される。
労災保険と第三者への請求権との関係  第三者行為災害(労災保険法12条の4)の場合の民事損害賠償との調整 第三者行為災害  労災保険の給付の原因である事故が第三者(当該災害に関係する労災保険の保険関係の当事者(政府、事業主及び労災保険の受給者)以外の者)の行為などによって生じたものであって、労災保険の受給権者である被災労働者又は遺族に対して、第三者が損害賠償の義務を負担しているもの。 
調整の必要性 @同一の事由について重複して損害の填補を受けることを避ける。
A被災者等に填補されるべき損失は、最終的には加害者たる第三者が負担すべきであること。 
調整の方法 求償:
先に政府が労災保険の給付をしたときは、政府は、被災者等が当該第三者に対して有する損害賠償請求権を労災保険の給付の価額の限度で取得する。(労災保険法12条の4@)
控除:
被災者が第三者から先に損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で労災保険の給付をしないことできる。(労災保険法12条の4A)
求償  対象 保険給付を支払った時点で把握できる労災保険受給者の第三者に対する損害賠償請求可能額(過失相殺等の処理後の額)のうち、
A:人身損害であって慰謝料等を除く労災保険の保険給付と同一の事由による、@積極損害(治療費、介護費及び葬儀費)、A消極損害(休業補償、後遺障害及び死亡による逸失利益)の合計額と、
B:保険給付額
を比較していずれか低い額。
時期 災害発生後3年以内に支給事由の生じた保険給付であって、災害発生後3年以内に保険給付を行ったものについて行われる。
控除 控除の対象 各労災保険給付と同一の事由による損害賠償額の限度で行われる。 
同一の事由 労災保険給付 対応する損害賠償の項目 
労働者が負傷した場合 @療養(補償)給付  治療関係費 
  A休業(補償) 給付
B傷病(補償)給付
休業損害 
労働者が負傷し、後遺障害が残った場合  C障害(補償)給付  後遺障害による逸失利益
労働者が死亡した場合 D遺族(補償)給付 死亡による逸失利益
E葬祭料(葬祭給付) 葬祭費
重度の障害のため介護を要する場合 F介護(補償)給付  将来の介護費用 
控除の期間 災害発生後3年以内に支給事由の生じた保険給付の額を限度とする。  
労災保険の自賠責保険との調整 調整方法  原則として自賠責保険を先行する。
被災労働者が労災保険の給付を希望した場合には、労災保険の給付を先行する。 
自賠責保険先行の場合の労災保険の支払 同一の事由による損害については、その支払分を控除して、労災保険給付の支給が行われる。 
ただし、特別支給金は控除を受けない
労災保険先行の場合の自賠責保険の支払 労災保険が先に支払われた場合、政府の保険会社に対する求償請求と被災労働者の保険会社に対する損害賠償請求と名同列に扱われる。
つまり、被災労働者には、保険金額120万円のうち、自賠責の損害査定額から求償額を控除した額の損害査定額に対する割合相当分が支払われる。
被災労働者への支払額=120万円×(損害査定額−求償額)/損害査定額 
労災保険の年金給付と自賠責保険の調整 自賠責保険先行の場合  労災保険の年金が支給される前に、 被災労働者が保険会社から年金給付と同一の事由についての損害賠償金を受け取ると、年金は災害発生後3年以内の期間において、支給されるべき年金額が受領済みの損害賠償の額に至るまでの間は支給が停止される。
年金受給開始先行の場合 年金が損害賠償より先に支払われた場合には、災害発生後3年以内に支払われる年金について、年金が支払われるつど、その支払額について、損害賠償請求可能額の範囲内で保険会社に求償が行われる。
このときの、損害賠償請求可能額は、
給付基礎月給×365×労働能力喪失率×就労可能年数によるライプニッツ係数
労災保険と自賠責保険のメリット・デメリット 項目  労災保険  自賠責保険 
仮払金・内払金制度  なし  あり 
損害項目の範囲 狭い(休業損害は60%が限度、入院雑費や慰謝料等なし)  広い(休業損害は100%、入院雑費や慰謝料等あり) 
支払限度額なし  傷害部分の自賠責保険は120万円まで 
労災保険を先行すると、政府から保険会社への求償があるため、求償により120万円の限度額を超えると、自賠責を先行すればもらえたはずの慰謝料等がもらえなくなることがある。 
後遺障害等級の認定 医師面談による。  原則として書面審査のみ。 
 後遺障害・死亡による逸失利益の支払方法・支払額 死亡・高度の後遺障害(7級以上)の場合、年金払いが受給者の死亡まで続く。  一時金払い。限度額あり。 
過失相殺の有無  なし  重過失の場合あり 
損益相殺の有無  (保険給付ではないが)特別支給金は損益相殺の対象とならない。
障害年金や遺族年金は、将来分については支給額が確定している部分を除き、損益相殺の対象とならない。 
損益相殺の対象となる 
考察  治療費 労災事故には健康保険は使えない⇒@労災保険の療養給付を受ける、あるいはA自由診療で自賠責に請求する、のいずれかになるが、Aは高額になる。
被害者にも過失がある場合、損害総額が自賠責保険の保険金額を超えたときに、過失相殺により得られる賠償額が少なくなってしまう。
⇒労災保険を最初から使用。
 休業損害 自賠責保険では休業による減収の100%が対象となるが、労災保険では最初の3日はもらえず、給付基礎日額の60%しかもらえない。
⇒被害者に重大な過失がない限り、自賠責保険に請求すべき。
労災保険の休業特別支給金は控除の対象とならないので、休業(補償)給付も請求すべき。 
後遺障害による逸失利益  労災保険と自賠責保険の調整(控除・求償)は、事故後3年間分のみ。
重度の後遺障害等級が予想される場合には、まず自賠責保険を請求し、保険金額の満額を一時金でもらってから、労災の障害補償給付を請求し、事故後3年以降の年金の支給と特別支給金を受けることが考えられる。 
障害補償一時金になる場合でも、まず慰謝料分を確保するために自賠責保険に請求した上で、さらに障害(補償)給付を請求して、逸失利益の不足分と特別支給金をもらうことになる。
 任意保険  任意保険の給付内容:
@自損事故保険、A無保険者傷害保険、B対物賠償保険、C搭乗者傷害保険、D車両保険、E人身傷害補償特約付保険
提出書類:
@保険金・損害賠償額・仮渡金支払請求書、A交通事故証明書、B交通事故発生状況報告書、C医師の診断書、D診療報酬明細書、E休業損害証明書、F看護料の立証書類、G通院費の立証書類、H被害者の領収書及び示談書等加害者の支払を証明するもの、I印鑑証明書、J委任状、K戸籍謄本
加害者が保険会社に通知しない場合には、被害者は保険金の直接請求(保険約款により人損のみ可能)の前提として加害者の保険会社に通知しておくべき。
被害者自らに一方的過失があるため強制保険の支払を受けられない場合、加害者側が任意保険に加入していない場合には、被害者自ら加入している自動車保険の自損事故保険、無保険者傷害保険等により保険金の支払を受ける必要があり、その場合には、被害者は自らの保険会社に通知する必要がある。
(保険約款上、事故発生後速やかに保険会社又は代理店に事故に関する一定事項の通知をする必要があり、通知を怠った場合は、原則として免責事由として保険会社から保険金が支払われなくなる。)
 健康保険 被保険者の業務外の事由により負傷等の保険事故が発生した場合、被保険者又はその遺族に対して傷病給付・死亡給付等の給付がなされる保険。
交通事故によって発生した負傷の治療の場合でも、健康保険の利用は可能。
所轄の社会保険事務所宛てに(直接又は健康保険組合を通じて)第三者の行為による傷病届けを提出する。
第三者の行為による傷病届の書式は最寄の社会保険事務所で入手可能。
添付書類は、@事故証明書、A事故発生状況報告書、B診断書、C死亡の場合は戸籍謄本及び死亡診断書、D示談をしているときは示談書の写し。
第三者の行為による傷病届には、@概要、A被保険者証記号と番号、B氏名住所、C事業所、D加害者の氏名住所、E加害者の勤務先、F傷病名、G発生場所、H発生日時、I事故内容、J過失割合等を記載する。
加害者側としては、任意保険に加入していない場合、自賠責で傷害の治療費等に填補される部分は120万円しかなく、自由診療で治療行われると健康保険に比べて割高になる(単価は2倍以上)ので、被害者に、労災の申請(業務上の事故の場合)あるいは健康保険(それ以外の場合)を使用してもらうよう努めるべき。
任意保険に加入していても高額の治療費が予想される場合も同様。
被害者としては、治療について自由診療によるか、健康保険を使うかは自由であるが、被害者側にも大きな過失がある場合、入院期間が長期にわたり治療費が高額になる可能性が高い場合、健康保険等の保険診療を利用した方が有利。
健康保険による治療が有利と判断した場合、病院側の了解を得て保険会社と相談の上、被害者の加入している健康保険組合等に対し第三者行為による旨の届出を提出して、保険診療を受ける。
 仮渡金(自賠法17条) 保有者の損害賠償責任の有無に関わりなく、又は賠償額が確定しない段階でも賠償額の一部を仮払金として保険会社に請求することが可能で、自算会による損害調査も行われることなく、必要書類提出段階で支払われる。 
金額は政令で定められた一定金額(自賠法施行令第5条)
死亡290万円、傷害はその程度に応じ、40万円、20万円、5万円の3段階に分かれる。
 内払金 法令に基づく制度ではなく、保険会社が創設した制度。
傷害事案のみ可能。 
仮渡金と異なり、自算会による損害調査の結果、保有者責任が発生したと認められた場合に支払われる。
傷害による損害について、被害者が治療継続中のために総損害が確定しないときにでも、既に発生した損害額について被保険者あるいは被害者の損害が10万円以上あることを保険会社が認めたとき、その損害額全額が、傷害による損害の保険金額に達するまで支払われる。
治療期間が長期に渡る場合などに利用価値があるl。
 一括払い制度  自動車保険と自賠責保険の一括払い請求制度。
任意保険契約のある保険会社が請求者保険金を一括して支払った後、自賠責保険金相当額を自賠責保険に請求する。
一般には、任意保険の保険会社が被保険者の委任を受けて一括払いを請求する。
自賠責保険では、過失相殺については被害者に重過失がない限り、考慮しないこととされているが、任意保険の一括払いによると不利に働くことがある。
(死亡事故で被害者に過失が大きいとき、自賠責保険の被害者請求なら3000万円出るのに、一括払いの場合3000万円に達しないことがありえる。)
 政府保障事業 ひき逃げや無保険車による事故で損害を受けたときは、まず社会保険による救済を受けた後、自賠責保険と同額になるまでその不足分について政府の被害者救済の保障事業から補填される。
最寄の損害保険会社か共済の窓口に請求書を提出。
 被害者の直接請求の時効消滅 被害者の直接請求権の時効は、「損害及び加害者を知った時」から2年(自賠法19条)
不法行為による損害賠償請求権の時効期間3年より1年短いので注意。 
加害者との示談が成立しないときは、被害者ととりあえず保険会社に請求するか、あるいは時効中断の申請をして保険会社の承認を得るなどして時効が成立しないように注意する必要。
加害者に対して損害賠償請求訴訟を起こしていても、自賠責保険会社に対する被害者の直接請求権については、これを保険会社に対して請求するか又は時効中断の手続をしないでいると、2年の経過で時効により消滅するので注意が必要。
後遺障害以外の治療費等は後遺障害による損害とは別個に事故発生日から消滅時効が進行するので注意が必要。複数の後遺障害が認定され併合等級として扱われる場合も別個に進行するので注意が必要。
委任状 保険金請求の場合、委任状は指定の用紙があるほか、実印であることが必要。
印鑑証明は委任者のほか受任者の分も必要。 

交通事故 理論関係 
   論点 説明 
運行供用者の責任 自動車損害賠償保障法 第3条(自動車損害賠償責任) 
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。
ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
趣旨:一方で自動車事故の加害者側の責任を強化し、無過失責任に近づけるとともに、他方で責任保険を強制(同法5条以下 自賠責保険)し、賠償のコストを保険によって分散することで被害者の実質的な救済を図ろうとする。(内田Up474)
運行供用者 「自己のために自動車を運行の用に供する者」(法3条):
自動車の使用についての支配権(運行支配)を有し、かつ、その使用による享受する利益(運行利益)が自己に帰属する者。
but
運行利益は重視されない。  
 肯定例 20歳の息子が自分の金で買った自動車が父親名義で登録され、父と子は同居し、自動車が父親宅の庭に保管されていた事案でその父親
←「自動車の運行を事実上支配、管理することができ社会通念上自動車の運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にある」(最高裁昭和50年11月28日) 
会社が自家用車での通勤を禁じていた場合でも、寮に住む従業員が作業現場へ通勤手段として自家用車を利用するのを黙認し、会社の社屋に隣接する駐車場も使用させていた事案で、通勤途上の事故について会社(最高裁平成元年6月6日)
レンタカー会社(最高裁昭和46年11月9日)
所有者がキーを差し込んだまま車を路上に放置して盗難にあった場合は、車の管理に落ち度のあった所有者は運行供用者(札幌地裁昭和55年2月5日)
否定例  タクシー会社の自動車が、警備員のいる塀に囲まれた駐車場から盗み出され、事故を起こしたケース。(最高裁昭和48年12月9日)
←車の管理が一応行き届いていたことから、窃盗犯が車を盗んだ時点で、タクシー会社の運行支配が遮断された。
2時間の約束で友人から車を借りた者が、約束を破って返還の求めに応じず、その後も乗り続けて1ヶ月後に事故を起こした事案。(最高裁平成9年11月27日)
 自賠責保険 自動車損害賠償保障法により強制(法5条) 
被保険者(自賠責保険によって損害を填補される者):保有者と運転者(法11条)
保有者:自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供する者。(法3条3項)
×泥棒運転者
目的:人身事故による損害の填補
×物損
被害者救済が制度趣旨⇒
@免責事由の制限
A過失相殺等の制限(被害者に「重大な過失」がある場合にのみ20〜50%の減額)
A被害者による保険会社への直接請求(自賠法16条)
B仮渡金の支払(自賠法17条)
任意保険との関係 人身事故により損害賠償責任を負担することによって生じる損害は、まず自賠責保険により填補され、自賠責保険の負担額が損害の全部を填補するに足りない場合は、その不足額が任意保険により填補される。

大阪地裁での賠償の算定基準
積極損害 治療関係費 治療費及び入院費は、必要かつ相当な実費を認める。
症状固定後の治療費:
原則として認めない。
例外的に、症状の内容・程度に照らし、必要かつ相当なものを認める。
入院中の個室使用料:
医師の指示があった場合、症状が重篤であった場合、空室がなかった場合等の特別の事情がある場合に限り、相当な期間につき認める。
整骨院・接骨院における施術費、鍼灸、マッサージ費用、温泉治療費等:
医師の指示があった場合又は症状により有効かつ相当な場合は、相当額を認めることがある。
入院雑費 1日当たり次の額を基準として、入院期間に応じて定める。
平成10年1月1日以降の事故:1300円
平成17年1月1日以降の事項:1500円
交通費 入退院・通院の交通費:
実費相当額を認める。
タクシー利用の場合、傷害の内容・程度、交通の便からみて相当性が認められないときは、電車、バス等の公共交通機関の運賃とする。
自家用車利用による交通費を請求する場合のガソリン代(距離に応じて1km当たり15円程度を認める。)のほか、必要に応じて高速道路料金、駐車場代を認める。
近親者の付添い又は見舞いのための交通費:
原則として認めない。
近親者が遠隔地に居住し、その付添い又は見舞いが必要で社会通念上相当な場合は、別途認める。
付添看護費 入院または通常の付添看護費:
医師の指示があった場合又は症状の内容・程度、被害者の年齢等から付添看護の必要性が認められる場合は、被害者本人の損害として認める。
職業付添人を付した場合、必要かつ相当な実費を認める。
近親者付添看護の場合は、1日当たりの次の金額を基準とする。
<平成14年1月1日以降の事故>
入院付添:5500円
通院付添:3000円
@病院が完全監護の体制を採っている場合でも、症状の内容・程度や被害者の年齢により、近親者の付添看護費を認めることがある。
A近親者の付添看護費は、原則として、付添人に生じた交通費、雑費、その他付添看護に必要な諸経費を含むものとして認め、特別の事情がない限り、基準額に加えて、これらの費用を損害として認めない。
B有識者が休業して付き添った場合、原則として、休業による損害と近親者の付添看護費の高い方を認める。
C症状により自宅療養期間中の自宅付添費も認めるkとがあるが、近親者の自宅付添費は、近親者による入院・通院付添費を参考にして定める。
将来の介護費 原則:
平均余命までの間、
職業付添人の場合は必要かつ相当な実費を、
近親者付添の場合は、常時介護を要するときは1日につき8000円を、随時介護(入浴、食事、更衣、排泄、外出等の一部の行動について介護を要する状態)を要するときは介護の必要性の程度・内容に応じて相当な額を、
被害者本人の損害として認める。
身体的介護を要しない看視的付添を要する場合についても、障害の内容・程度、被害者本人の年齢、必要とされる看視の内容・程度等に応じて、相当な額を定めることがある。
装具・器具購入費等 車椅子、義足、電動ベッド等の装具・器具の購入費:
症状の内容・程度に応じて、必要かつ相当な範囲で認める。
一定期間で交換の必要があるものは、装具・器具が必要な期間の範囲内でk、将来の費用も認める。
将来の装具・器具購入費は、取得価格相当額を基準に、使用期間開始時及び交換を必要する時期に対応して中間利息を控除する。
家屋改造費等 家屋改造費、自動車改造費、調度品購入費、転居費用、家賃差額等については、症状の内容・程度に応じて、必要かつ相当な範囲で認める。
葬儀関係費 平成14年1月1日以降:150万円
@死亡の事実があれば、葬儀の執行とこれに伴う基準額程度の出費は必要なものと認められるので、特段の立証を要しない。
A葬儀関係費は、原則として、墓碑建立費・仏壇費・仏具購入費・遺体処置費等の諸経費を含むものとして考え、特段の事情がない限り、基準額に加えて、これらの費用を損害として認める扱いはしない。
B遺体運送費を要した場合は、相当額を加算する。
C香典については、損害から差し引かず、香典返し、弔問客接待費等は損害と認めない。
その他 事故証明書等の文書量、成年後見開始の審判手続費用等は、。必要かつ相当なものについて認める。なお、医師等への謝礼は、損害として認めない。
その他、交通事故と相当因果関係のある損害については認める。
消極損害 休業損害 算定方法 現実に休業により喪失した額が分かる場合はその額が損害として認められ、
それが判明しない場合は、基礎収入に休業期間を乗じて算定する。
賠償の対象となる休業期間は、原則として現実に休業した期間。
症状の内容・程度、治療経過等からして就労可能であったと認められる場合jは、現実に休業していても賠償の対象にならないことや一定割合に制限されることもある。
基礎収入の認定 平均賃金を使用する場合は、賃金センサス第1巻第1表産業計・企業規模計の男女別平均賃金を用いる
@給与所得者
受傷のための休業により現実に喪失した収入額を損害と認める。
その算定のための基礎収入は、少なくとも事故直前3か月の平均収入を用い、不確定要素の強い職種については、より長期間の平均収入を用いることがある。
休業中、昇給・昇格があった後はその額も基礎とする。
休業による賞与の減額・不支給、昇給・昇格遅延による損害も認められる。
なお、有給休暇は、現実の収入減がなくとも、損害として認める。
A事業所得者
受傷のため現実に収入減があった場合に認められ、原則として、事故直前の申告所得額を基礎とし、申告所得額を上回る実収入額の立証があった場合には、実収入額による。
所得中に、実質上、資本の利子や近親者の労働によるものが含まれている場合には、被害者の寄与部分のみを基礎とする。
事業を継続する上で休業中も支出を余儀なくされる家賃、従業員給与等の固定費も損害と認められる。
被害者のかわりに他の者を雇用するなどして収入を維持した場合には、それに要した必要かつ相当な費用が損害となる。
B会社役員
会社役員の報酬については、労働提供の対価の部分は認められるが、利益配当部分は認められない。
C家事従事者
学歴計・女性全年齢平均賃金を基礎とする。
年齢、家族構成、身体状況、家事労働の内容等に照らし、上記平均賃金に相当する労働を行い得る蓋然性が認められない場合は、学歴計・女性対応年齢の平均賃金を参照するなどして基礎収入を決める。
有識者で家事労働に従事している場合には、実収入額が学歴計・女性全年齢平均賃金を上回っているときは実収入額となるが、下回っているときは上記の家事従事者に準じる。
D無職者(Cの場合を除く)
事故前に現に労働の対価である収入を得ていない者に対しては、原則として、休業損害を認めることはできない。
ただし、治療が長期にわたる場合で、治療期間中に就職する蓋然性が認められるときは、休業損害を認めることができる。
後遺障害による逸失利益 算定方法 基礎収入に労働能力の喪失割合を乗じ、これに喪失期間に対応するライプニッツ係数を乗じて算定する。
基礎収入の算定 @給与所得者・事業所得者及び会社役員:
休業損害の場合に準じる。
若年者(概ね30歳未満の者)については、実収入額が学歴計・前年齢平均賃金を下回る場合であっても、年齢、職歴、実収入額と学歴計・全年齢平均賃金との乖離の程度、その原因等を総合的に考慮し、将来的に生涯を通じて学歴計・全年齢平均賃金を得られる蓋然性が認められる場合は、学歴計・全年齢平均賃金を基礎とする。
その蓋然性が認められない場合であっても、直ちに実収入額を基礎とするのではなく、学歴別・前平均賃金、学歴計・
年齢対応平均賃金等を採用することもある。
なお、だ医卒者については、大学卒・全年齢平均賃金との比較を行う。
A家事従事者:
休業損害の場合に準じる。
B幼児、生徒、学生:
原則として、学歴計・全年齢平均賃金を基礎とするが、大学生又は大学への進学の蓋然性が認められる者については、大学卒・全年齢平均賃金を基礎とする。
年少女子については、原則として、男女を合わせた全労働者の学歴計・全年齢平均賃金を用いることとする。
尚、未就学者の逸失利益の算定方法は
基礎収入×労働能力喪失率×{(67歳ー症状固定時の年齢)年のライプニッツ係数ー(就労開始の年齢ー症状固定時の年齢)年のライプニッツ係数}
C無職者(A及びBを除く):
被害者の年齢や職歴、勤労能力、勤労意欲等にかんがみ、就職の蓋然性がある場合には、認められる。
その場合、基礎収入は、被害者の年齢や失業前の実収入額等を考慮し、蓋然性が認められる収入額による。
労働能力喪失割合 労働省労働基準局通牒(昭和32年7月2日基発第551号)を参考にして、障害の部位・程度、被害者の性別・年齢・職業、事故前後の就労状況、減収を総合的に判断して定める。
労働能力喪失期間 労働能力喪失期間の始期:
症状固定日。
未就労者の就労の始期は原則として18歳とし、大学進学等によりそれ以後の就労を前提とする場合は、就学終了予定時とする。
労働能力喪失期間の終期:
労働能力喪失期間の終期は、67歳までとし、
年長者については67歳までの年数と平均余命の2分の1のいずれか長いほうとすることを原則としつつ、被害者の性別・年齢・職業・健康状態等を総合的に判断して定める。
ただし、いわゆるむち打ち症の場合は、後遺障害等級に応じ、次の期間を一応の目安とする。
第12級程度:5年から10年
第14級程度:2年から5年
中間利息控除 民事法定利率である年5%の割合で控除し、計算方法はライプニッツ方式による。
中間利息控除の基準時は、原則として、症状固定時とする。
@賃金センサスを用いる場合は、症状固定時の年度の統計を使用する。
A労働能力喪失期間を短期間に限定する場合、賃金センサスを使用するときは、原則として、学歴計・年齢対応平均賃金を用いる。
(家事従事者については学歴計・女性全年齢平均賃金を用いる。)
B後遺障害逸失利益については、生活費控除をしない。
死亡による逸失利益 算定方法等 基礎収入から被害者本人の生活費として一定割合を控除し、これに就労可能年数に応じたライプニッツ係数を乗じて算定
基礎収入、就労可能期間及び中間利息控除は後遺障害逸失利益の場合に準じる。
生活費控除率 原則:
一家の支柱及び女子:30〜40%
その他:50%
ただし、年少女子について男女を合わせた全労働者の平均賃金を採用する場合は、生活費控除率を45%とする。
@一家の支柱とは、被害者の世帯が主としてその被害者の収入によって生計を維持していた場合をいう。
A賃金センサスを用いる場合は、死亡時の年度の統計を使用する。
慰謝料 死亡慰謝料 <平成14年1月1日以降の事故>
一家の支柱:2800万円
その他:2000万円〜2500万円
@死亡慰謝料の基準額は本人分及び近親者分を含んだもの。
A次のような事情がある場合、慰謝料の増減を考慮する。
ア:加害者に飲酒運転、無免許運転、著しい速度違反、殊更な信号無視、ひき逃げ等が認められる場合。
イ:被扶養者が多数の場合。
ウ:損害額の算定が不可能又は困難な損害の発生が認められる場合。
B次のような事情があった場合は、慰謝料の減額を考慮する。
相続人が被害者と疎遠であった場合
入通院慰謝料 算定方法 入通院期間を基礎として別表の基準に基づいて定める。
仕事や家庭の都合等で本来より入院期間が短くなった場合には増額が考慮。
入院の必要性がないのに本人の希望によって入院していた場合には減額が考慮。
入院待機中の期間及びギブス固定中等による自宅安静期間は、入院期間とみることがある。
平成14年1月1日以降の事故:平成14年基準
平成17年1月1日以降の事故:平成17年基準
各基準の「重傷」とは、重度の意識障害が相当期間継続した場合、骨折又は臓器損傷の程度が重大であるか多発した場合等、社会通念上、負傷の程度が著しい場合をいう。
上記の重傷に至らない程度の傷害についても、傷害の部位・程度によっては、通常基準額を増額することがある。
日数計算 通院が長期にわたり、かつ、不規則な場合は、実際の通院期間(始期と終期の間の日数)と実通院日数を3.5倍した日数を比較して、少ないほうの日数を基礎として通院期間を計算する。
軽度の神経症状 軽度の神経症状(むち打ち症で他覚所見のない場合等)の入通院慰謝料は、通常の慰謝料の3分の2程度。
入通院慰謝料の増額を考慮しうる事情は、死亡慰謝料の場合に準じる。
後遺障害慰謝料 平成14年1月1日以降の事故:
1級より14級に応じて、基準あり。
14級に至らない後遺障害がある場合は、それに応じた後遺障害慰謝料を認めることがある。
@後遺障害慰謝料の増額を考慮しうる事情は、死亡慰謝料の場合に準じる。
A原則として、後遺障害慰謝料には介護に当たる近親者の慰謝料を含むものとして扱うが、重度の後遺障害については、近親者に別途慰謝料を認めることがある。その額は、近親者と被害者の関係、今後の介護状況、被害者本人に認められた慰謝料額等を考慮して定める。
物的損害 車両修理費等 全損の場合 車両が修理不能(修理が著しく困難で買替えを相当とする場合も含む)又は修理費が事故時の時価額を上回る場合は、原則として全損と評価し、事故時の時価額を損害とする。
時価は、原則として、同一車種、年式、型、使用状態、走行距離等の自動車を中古車市場で取得しうる価格であるが、その認定に当たってはオートガイド自動車価格月報(いわゆるレッドブック)等を参考資料とする。
事故車両が一定の経済的価値を有する場合は、時価相当額と事故車両の売却代金の差額が損害として認められる。
買替えのために必要となる諸手続費用は、必要かつ相当な範囲で認められる。
一部損傷 車両が修理可能であって、修理費が事故前の時価相当額を下回る場合は、必要かつ相当な範囲の修理費を損害とする。
評価損(格落ち) 修理してもなお機能に欠陥を生じ、あるいは事故歴により商品価値の下落が見込まれる場合、その減少分を損害と認める。
評価損の有無及びその額については、損傷の内容・程度、修理の内容、修理費の額、初年度登録からの経過期間、走行距離、車種(いわゆる高級乗用車であるか)等を考慮して判断。
代車使用料 事故により車両の修理又は買替えのために代車を使用する必要性があり、レンタカー使用等により実際に代車を利用した場合、相当な修理期間又は買替期間につき、相当額の単価を基準として代車使用料を損害と認める。
休車損害 営業用車両については、車両の修理、買替え等のためこれを使用できなかった場合、修理相当期間又は買替相当期間につき、営業を継続していれば得られたであろう利益を損害として認める。
代車使用料が認められる場合は、休車視y損害は認められない。
雑費等 保管料、レッカー代、廃車料等について、相当の範囲で損害と認める。
慰謝料 物的損害に関する慰謝料は、原則として認められない。
その他 弁護士費用 許容額の10%を基本としつつ、事案の難易、認容額その他諸般の事情を考慮して定める。
自賠責保険金の支払を受けることができるのに、それを受けないで訴訟を提起した場合、自賠責保険金の支払を受けた後に訴訟を提起した場合と比べ、認容額は高くなるが、弁護士費用の算定につき、この点を考慮する裁判例は多い。、
弁護士費用も、事故時から遅滞に陥る。
遅延損害金 事故時から起算する。
自賠法16条1項に基づく被害者の自賠責保険会社に対する直接請求権は、期限の定めのない債務であるから、被害者から履行の請求を受けた時から遅滞に陥る。
遅延損害金の利率は年5%。
自賠法72条1項(政府の自動車損害賠償保障事業)による損害の填補額の支払義務については、政府は被害者から履行の請求を受けた時から遅滞に陥る。
損害額の減額事由 過失相殺 被害者に過失があるときは、損害額から被害者の過失割合に相当する額が控除される。
過失相殺の基準について(「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(別冊判タ16号))
自賠責保険については、被害者に重大な過失がある場合に限り、2割から5割の過失相殺⇒裁判より被害者に有利な取扱い。
過失相殺は、加害者の主張がなくても裁判所が職権ですることができるが、被害者に過失があった事実は加害者において立証責任を負う。
被害者の過失 民法722条2項により被害者の過失を斟酌するには、被害者たる未成年者が、事理を弁識するに足る知能を備えていれば足り、行為の責任を弁識するに足る知能を備えていることを要しない。
民法722条2項に定める被害者の過失とは、単に被害者本人の過失のみではなく、被害者側の過失も包含する。
被害者側の過失とは、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失をいう。
Aが運転しBが同乗する自動二輪車とパトカーとが衝突しBが死亡した交通事故につき、Bの相続人がパトカーの運行供用者に対して損害賠償を請求する場合において、過失相殺をするに当たり、Aの過失をBの過失として考慮することができるとされた判例あり。
一部請求と過失相殺 一部請求の場合、損害の全額から過失割合による減額をし、その残額が請求額を超えないときは残額を認容し、残額が請求額を超えるときは請求の全額を認容することになる。
素因減額 身体的要因による減額 被害者に対する加害行為と被害者の疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、民ぷ722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、被害者の当該疾患を斟酌することができるものと解されているが、被害者が平均的ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の身体的特徴を斟酌することはできない。
心因的要因にjよる減額 身体に対する加害行為と発生した損害との間に相当因果関係がある場合において、その損害がその加害行為のみによって通常発生する程度、範囲を超えるものであって、かつ、その損害の拡大について被害者の心因的要因が寄与しているときは、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、その損害の拡大に寄与した被害者の事情を斟酌することができる。
損失の填補 被害者あるいはその相続人が損害を被っても、他方において何らかの給付を受けた場合には、賠償額からその給付額を控除する必要が生じる。
控除の対象となる給付といえるか 給付により損害の填補がされたとして損害額から給付額が控除されるのは、当該給付が損害の填補を目的としているものであるかによって決められる。
ア自賠責保険金 自賠責保険金は、損害の填補を目的としたものであり、控除の対象となるが、人身損害部分に限られ、物的損害は填補しない。
労災保険とは異なり、損害費目による拘束はなく、人身損害額全体から自賠責保険金を控除する。
充当方法については、特段の主張がないときは、元本に充当する裁判例が多い。
遅延損害金から充当すべきである旨の主張がされた場合は、遅延損害金から充当し、その残額を元本に充当することになる。
イ政府の自動車損害賠償保障事業は、アの自賠責保険金を填補するものであり、自賠責保険金と同様の性質を有する。
期限の定めのない債務として発生し、民法412条3項の規定により政府が被害者から履行の請求を受けた時から遅滞に陥る点で、自賠責保険金と異なる。
ウ任意保険金 任意保険金の支払は加害者の支払と同視でき、控除の対象となる。
自賠責保険金と同様、費目による拘束はないが、任意に支払われるものであるため、元本充当の合意が認められることが少なくない。

各種社会保険給付
各種社会保険給付が控除の対象になるかは、当該給付制度の趣旨・目的、代位規定の有無、社会保険の費用の負担者、被害者の二重取りの有無等の観点から決める。
労災保険給付 控除の対象となる労災保険給付には、
@療養補償給付(療養給付)、
A休業補償給付(休業給付)、
B障害補償給付(障害給付)、
C遺族補償給付(遺族給付)、
D葬祭料(葬祭給付)、
E傷病補償年金(傷病年金)、
F介護補償給付(介護給付)
の7種類(かっこ内は通勤災害)がある。
損害費目による拘束があり、補償給付の趣旨目的と民事上の損害賠償のそれとが一致する関係にあるものに限り、損害から控除される。

@療養補償給付(療養給付)⇒治療費を填補。(入院雑費、通院交通費、付添介護費等の積極損害を填補するかは争いがある。)
A休業補償給付(休業給付)、B障害補償給付(障害給付)、C遺族補償給付(遺族給付)、E傷病補償年金(傷病年金)⇒休業損害及び逸失利益を填補。
D葬祭料(葬祭給付)⇒葬祭関係費用を填補。
F介護補償給付(介護給付)⇒介護費用を填補。
(休業給付と逸失利益は、症状固定前後で区別しているもので、同質性を有する。)
労災保険給付を損害賠償債務の遅延損害金に充当することの可否:
最高裁H16.12.20:
自賠責保険金のみならず、労災保険法に基づく遺族厚生年金及び厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金についても、これらの金員が損害賠償債務の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは、自己の日から上記各保険金の各支払日までの間に発生した遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであることは明らかである。(民法491条1項参照)
特別支給金は、被災労働者の療養生活の援護等によりその福祉の増進を図るために行われるものであり、控除の対象とならない。(特別支給金は会計名目において福祉施設給付金に該当する。)
遺族年金の給付 被害者の遺族が被害者の死亡を原因として遺族年金を受給することになった場合、遺族年金は控除の対象となるが、逸失利益からのみ控除され、他の財産的損害や精神的損害との間で控除することはできない。
遺族年金については、被害者が支給を受けるべき障害年金等の逸失利益だけでなく、給与収入等を含めた逸失利益全般との関係で控除すべき。
健康保険法等 健康保険法、国民健康保険法における療養の給付(健康保険法63条、国民健康保険法36条)は、労災保険の療養補償給付と同様、控除の対象となる。
被害者の行使する自賠法16条1項に基づく請求権の額と市町村長が老人保健法(平成17年法律第77号による改正前のもの)41条1項により取得し行使する上記請求権の額の合計額が自動車損害賠償責任保険の保険金額を超える場合には、被害者は市町村長に優先して損害賠償額の支払を受けられるとされている。
介護保険法 介護保険法による給付:
既に給付された介護保険給付は控除の対象となるが、将来受給できる介護保険給付は控除を否定する裁判例が多い。
生活保護法 生活保護法による扶助費:
控除の対象にならないと解されている。
損害賠償金の支払を受けた被害者が、生活保護法63条に基づく費用返還義務を負うことになる。

各種保険金
損害保険については、保険料を支払った保険者は、保険法25条(旧商法662条)や約款の規定により、支払った保険金の限度で第三者に対する損害賠償請求権を取得する結果、支払われた保険金の額につき被害者の損害額から控除される。
生命保険については控除の対象にならない。
生命保険金 生命保険金は、既に払い込んだ保険料の対価たる性質を有し、不法行為の原因と関係なく支払われるものであり、代位制度もないので、控除の対象とはならない
搭乗者傷害保険金 搭乗者傷害保険(被保険自動車に搭乗中の者を被保険者として、被保険者が事故により死亡又は障害を被った場合に支払われるもの)は、控除の対象とならない
ただし、加害者側から保険料を支出している当事者傷害保険金が支払われた場合には、それを慰謝料で斟酌する裁判例も多い。
所得補償保険金 所得補償保険(被保険者が傷害又は疾病のために就業不能となった場合に、被保険者が喪失した所得を補てんすることを目的としたもの)は、保険事故により被った実際の損害を保険証券記載の金額を限度として填補することを目的とした損害保険の一種というべきであるから、控除の対象となる
カ 香典・見舞金 香典 被害者の遺族が受領した香典は、損害を填補する性質を有しないから控除の対象とならない。
見舞金 加害者が被害者に交付した見舞金は、損害の填補とならないのが原則であるが、多額のものは損害の填補と解されるので、控除の対象となる。
キ 租税 租税は控除しない。
ク 養育費  年少者が死亡した場合において、就労可能年齢に達するまで要したであろう養育費は控除しない。
控除すべき時的範囲 給付金を損害額から控除する場合において、現実に履行された場合又はこれと同視しうる程度にその存続及び履行が確実であるということがでっきる場合に限って控除の対象となる。
具体的には、年金については、口頭弁論終結時において支給額が確定している分までということになる。
控除すべき主観的範囲 損害額から給付金を控除する場合、各種給付の受給権者についてのみ、その者の損害額から控除する。
過失相殺との先後関係 ア 自賠責保険金等 自賠責保険金・政府の自動車損害賠償保険事業による填補金・任意保険金:
過失相殺をした後に控除する。
イ 労災保険金 過失相殺をした後に残額から控除する。
ウ 健康保険等による給付 健康保険法、国民健康保険法による給付については、過失相殺前に被害者の損害額から控除するのが実務の大勢であったが、最高裁H17.6.2が出された後において、見解が分かれている。