シンプラル法律事務所
〒530-0047 大阪市北区西天満2丁目6番8号 堂島ビルヂング823号室TEL(06)6363-1860
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP−TOP |
真の再生のために(個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP−トップ |
論点の整理です(随時増やしていく予定です。)
約款の拘束力 | ||||
付合契約 | 意味 | 付合契約:相手方当事者の作成した契約条件をそのまま飲むか、契約しないかの自由しかない契約。 | ||
約款ないし普通契約条款:そこで使われるあらかじめ作成された契約条項 |
契約の成立 | |||||
虚偽表示 | 規定 | 第94条(虚偽表示) 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。 2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。 |
|||
■ | ■(3) 94条2項の制度趣旨 | ||||
● | ●権利外観法理 | ||||
「真の権利者(A)が自分以外の者(B)が権利者であるかのような外観を作りだしたときは、それを信頼した第三者(C)は保護されるべきであり、自らその外観を作った権利者は権利を失ってもやむを得ない」 | |||||
■ | ■(4) 「善意」 | ||||
不実登記への信頼の保護と民法94条2項 新注釈民法(3)p379 |
||||
■ | ■民法94条2項を類推適用する判例の理論と問題点 | |||
●原理的枠組み | ●原理的枠組み・・・真正の権利者への帰責 | |||
真正の権利者が不実の登記に直接かつ積極的に関与した場合に限らず、不実登記の存在の容認(明示黙示の承認)・放置(登記の回復をしなかった過失)にとどまる場合も、仮装行為の無効の主張は許されない。 | ||||
他方、不実登記の存在についての真正の権利者の単なる不知は、本条2項の類推適用を可能としない。 | ||||
「不動産につき真実の権利者の関与又は承認に基づいて実体上の権利関係と符合しない登記が作出され、あるいは存続している場合に、右不実登記を信頼して取引関係に立った善意の第三者があるときは、民法94条2項、110条の法意と外観尊重及び取引保護の要請に照らし、真実の権利者は、その登記が不実であることをもって右善意の第三者があるときは、民法94条2項、110条の法意と外観尊重及び取引保護の要請に照らし、真実の権利者は、その登記が不実であることをもって右善意の第三者に対抗し得ないものと解すべき場合がありうる。しかし、この法理が、不動産登記に公信力がないにもかかわらず、不実登記を信頼した第三者保護のために真実の権利者の権利を失わせるものであることを考えると、その適用にあたっては、当該不実登記の作出又は存続自体について、真実の権利者の側に権利喪失の不利益を貸されるのもやむをえないとするに足りるだけの事情(帰責事由)が存することを要するものと解されなければならない。」(東京高裁昭和60.1.29) | ||||
●第三者の無過失 | ●第三者の無過失 | |||
判例は、 @「意思外形対応・・自己作出型」の場合と A「意思外形対応型・・他者作出型」の場合、 つまり、「意思外形対応型」のケースにおいてはすべて、不実登記を信頼した第三者の保護要件として善意のみを要求 B「意思外形非対応型」の場合については、善意無過失であることを要求。 |
||||
「意思外形非対応型」においては「民法94条2項、110条の法意に照らして」判断すべきものとされている。 110条の「正当ノ理由」が第三者の無過失を要求⇒「意思外形非対応型」において善意無過失であることが帰結。 |
||||
「意思外形非対応型」では、他者が作出した不実の登記が真正権利者の予期したところと大きく異なり、善意第三者の出現によって喪失するであろう権利が著しく増大することが考えられる。 ⇒ 判例は、民法94条2項の類推適用に際して「意思外形対応型」の不実登記の場合との差異を項k慮し、そのため法技術として110条の法意を援用。 |
||||
AがBのために不実の仮登記をしたところBが自己の名で本登記をしたというのが「非対応型」の典型的なケース。 〜 AとBの関係を権限踰越の表見代理に準じるものとして表見法理に従わせるならば、外形の作出を単純に真正権利者に帰責できないケースにおいて第三者の無過失を医要求することができることになり、このことを通じて真正権利者の立場に配慮することができる。 |
||||
●第三者の登記の要否 | ●第三者の登記の要否 | |||
判例は登記不要 ←対抗問題ではない。 |
契約の主体 | |||||
★意思能力 | ★意思能力 | ||||
文献 | 判例タイムズNo.1146(2004.6.1) | ||||
意義 | 意思能力:自己の行為の法的な結果を認識・判断することができる能力(四宮・能見) | ||||
能力 | 十分な意思表示ができる状態でなければ自らゲームに参加することはできない。 自分で契約による取引をするには、有効に意思表示をするだけの能力がなければならない。 |
||||
意思表示:内心の(効果)意思の表示。 ex. この本を2000円で買おう。 この土地で1億円で売ろう。 |
|||||
意思能力:有効に意思表示をする能力。 (子供でいえば6〜7歳くらいから意思能力が備わりだすと言われている。) |
|||||
意思能力があるかどうかの判断は、どのような取引を行うかによって違いえる。 プラモデルを買う売買契約と親から相続した土地に抵当権を設定する意思表示とでは、レベルが違う。 |
|||||
効果 | 意思能力を欠く人の意思表示は無効(大判明治38.5.11)。 ← 法律行為が法律上の効果を生じるのは、「各個人は、原則として自己の意思に基づいてのみ、権利を取得しまたは義務を負担する」という近代法の根本原理に基づいており、意思能力のない者の行為はその者の意思に基づくとはいえない(我妻 民法講義Tp60)。 |
||||
表意者保護の制度⇒本人以外は主張できない無効。 | |||||
行為無能力制度との関係 | 意思能力の有無に関する立証責任は、意思能力の不存在を主張する無能力者側が負う(新版注釈民法(1)267頁)。 but 立証困難の救済 ⇒民法上行為無能力者制度 |
||||
後見、保佐、補助開始の審判や任意後見監督人選任の審判の要件とされる「精神上の障害」は継続的な障害(現在の判断能力と今後の回復見込みが問題となる。)を前提としている。 but 意思能力の有無の判断にあっては、過去の契約締結時点における判断能力が問題。 一時的な障害のこともある。 |
|||||
実際問題として、契約締結時においては、精神鑑定はもちろんのこと、精神上の障害の存否・内容・程度についての意思の診断も受けていないことが多い。 ⇒ 契約締結前の新大、契約締結後の診断、契約締結時の病状や言動、精神上の障害の特性その他の事情を考慮して、契約締結時における精神上の障害の存否・内容・程度を認定した上で、個々の事態における意思能力の有無の判断を行う必要性が生じる。 |
|||||
判断基準 | 一般に、意思能力が備わる年齢として、財産行為としては7歳くらいが、身分行為についてはその人生に及ぼす影響の重大性にかんがみて、15歳くらいが、それぞれ基準となるものと解されている(新版注釈民法(1)246頁)。 but より具体的な判断基準については、ほとんど説明がなされていない。 |
||||
結局のところ、意思能力の有無は、画一的・形式的な基準によって決せられるものではなく、個々の具体的な法律行為について、当該事実関係をもとに、行為者の年齢・知能などの個人差その他の状況を考慮して、実質的・個別的に判断するしかない。 | |||||
★行為能力 | ★行為能力 | ||||
能力的に劣った他人については、本人の保護をするために、ゲームのプレーにも一定の制限をする必要が生じる。 | |||||
@どのような範囲の人びとの取引に制限を加えるか。 A制限を加えられた人びとはどうやってゲームに参加することになるのか。 万一制限に反してプレーしたらどうするのか。 |
|||||
制限能力者 | @未成年・・・親権者・未成年後見人 A成年被後見人・・・成年後見人 B被保佐人・・・保佐人 被補助人・・・補助人 |
||||
相手方の保護 | 規定 | 民法 第20条(制限行為能力者の相手方の催告権) 制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。 2 制限行為能力者の相手方が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人、保佐人又は補助人に対し、その権限内の行為について前項に規定する催告をした場合において、これらの者が同項の期間内に確答を発しないときも、同項後段と同様とする。 3 特別の方式を要する行為については、前二項の期間内にその方式を具備した旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。 4 制限行為能力者の相手方は、被保佐人又は第十七条第一項の審判を受けた被補助人に対しては、第一項の期間内にその保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができる。この場合において、その被保佐人又は被補助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。 |
|||
民法 第21条(制限行為能力者の詐術) 制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。 |
|||||
取消権 | 規定 | 民法 第120条(取消権者) 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。 2 詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。 |
|||
民法 第121条(取消しの効果) 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。 |
|||||
● | 現存利益があるとされる範囲の代金額を返還する必要。 | ||||
返還義務なし: 浪費で残っていない⇒返還義務なし |
|||||
返還義務あり: 受け取った代金が残っている場合 そのお金で教科書を買ったような場合(←その分自らの出費を免れている) 生活費に使った場合(大判昭和7.10.26) |
|||||
第三者保護 | 行為能力の制限による取消しには、第三者保護の規定なし 取消し後の第三者との関係では対抗関係? |
契約の有効性 | |||||
★序 | ★序 | ||||
契約を締結しようとする当事者は、@申込みと承諾の意思表示が合致する以外に、A様々な要件をクリアしなければならない(=一般的有効要件)。 | |||||
★当事者にかかわる一般的有効要件 | ★当事者にかかわる一般的有効要件 | ||||
■ | ■意思能力・行為能力 | ||||
当事者が自然人の場合、意思能力と行為能力が必要。 | |||||
●意思能力なし⇒意思表示は無効 | |||||
●行為能力が制限(成年被後見人、日保佐人、被補助人、未成年者) 〜意思表示は取り消されうる。 取消権行使⇒申込みや承諾が遡って無効となる結果、契約も効力を失う。 |
|||||
■ | ■意思の欠缺・瑕疵 | ||||
● | ●意思が欠ける場合(心裡留保・虚偽表示・錯誤)⇒無効 | ||||
● | ●意思表示に瑕疵がある場合(詐欺・強迫)⇒取り消し得る意思表示。 | ||||
■ | ■代理人の場合 | ||||
代理権なし⇒効果は本人に帰属しない(効果帰属要件)。 | |||||
■ | ■法人の場合 | ||||
法人については、@権利能力があること、A法人のために行為する人(理事や代表取締役等)に代表権(代理権)のあることが必要 | |||||
★契約内容についての一般的有効要件 | ★契約内容についての一般的有効要件 | ||||
■ | ■4つの要件とその効果 | ||||
@確定性、A実現可能性、B適法性、C社会的妥当性 | |||||
法的・社会的に許容されないという評価⇒効果は無効 | |||||
■ | ■1 確実性 | ||||
● | ●給付目的物の確定 | ||||
×A:「司法試験に合格したらいいものをあげよう」B:「もらおう」 | |||||
契約が有効であるためには、その給付内容が確定できるものでなければならない。 | |||||
細かい契約条件を確定しておく必要はないが、契約の重要な部分が、解約によってでも確定しうることが必要。 | |||||
日本では、売買に限らず、対価を定めない契約が珍しくない。 ex.大学教授が現行の執筆や講演を依頼される場合も、履行完成まで対価の合意がない場合が多い。 〜 対価を定めない⇒「相当な相場」を想定⇒裁判官がしかるべき額を補充してやる必要がある(補充解釈)。 |
|||||
● | ●契約の解釈 | ||||
当事者が契約条件を定めない⇒事後的に補う必要。 明示的に合意しても、合意内容が不明確で意味不明⇒契約の解釈で契約内容を確定。 |
|||||
A:当事者が定めた契約内容を明らかにする場合 B:当事者が定めていない事柄を補充する場合(補充的解釈) C:当事者が明示的に定めた事柄について修正(修正解釈) |
|||||
● | ●当事者が定めている事柄の解釈 | ||||
当事者が定めている事柄⇒「当事者が意図したこと」を探求して解釈 | |||||
● | ●意思表示の解釈 | ||||
@相手方のある意思表示(契約の申込み、解除、債務の免除)⇒相手方の法的地位に重要な変動を生じさせる⇒相手方がどのようにその表示(ないし通知)を理解するかという考慮が尊重されるべき。 | |||||
A遺言のように、相手のない意思表示 〜可能な限り表意者の与えようとした意味を探求すべき。 |
|||||
● | ●当事者の与えた意味が食い違う場合 | ||||
ex. X会社はα型であることを前提にガラスケース100個を注文 Y会社はβ型のケースだと思い、B型ケースを100個製造し送付 |
|||||
A:双方の意思が合致していない⇒契約不成立(厳格な意思主義) vs.余りに取引の安全を害する。 ⇒ XY間の売買契約の目的物を客観的な解釈によって確定して、契約を有効に成立させるこができないかを検討。 |
|||||
X会社の行った注文(契約の申込み)の意思表示の解釈: 自らの用いた言葉に特異な意味を与えるつもりであった当事者は、そのリスクを負担すべき。 ⇒X会社側の意図を問題とすべきではない。 @慣習・取引慣行を斟酌して、本件のような注文を受けた者(Yの立場に立った者)は目的物をどのタイプと理解するのが合理的かを判断すべき。 A事柄によっては、民法が解釈指針を置いている場合(「推定」規定)。 B条理や信義則(1条2項) |
|||||
以上のような解釈(当事者の主観的意思を問題としない客観的解釈)を通して明らかにされた目的物のタイプが、いずれかの当事者の意思と合致 ⇒契約そのものは成立。 ⇒錯誤の問題。 |
|||||
α型、β型のいずれが合理的な理解であるかを判断できない ⇒目的物が確定性を欠くとして、契約は無効。 |
|||||
両当事者の想定していなかったγ型のケースと解釈するのが合理的 ⇒双方の錯誤が競合した場合となり、契約は無効。 |
|||||
● | ●修正的解釈 | ||||
当事者が明確に定めている事柄が、公序良俗(90条)や信義則に反するとして修正。 | |||||
ex. 借地借家関係の紛争で、賃貸人に有利な条項の印刷された市販の契約書を用いていた場合に、その条項は「例文」であって当事者には拘束される意思はなかったとする判決(例文解釈)。 〜 実質的に修正的解釈 |
|||||
● | ●当事者が定めていない事柄の解釈(=補充的解釈) | ||||
補充するための基準: @慣習や任意規定 A条理・信義則 |
|||||
任意規定と慣習はどちらを優先して適用すべきか? | |||||
● | ●民法92条と通則法3条 | ||||
民法 第92条(任意規定と異なる慣習) 法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。 |
|||||
法適用通則法 第3条(法律と同一の効力を有する慣習) 公の秩序又は善良の風俗に反しない慣習は、法令の規定により認められたもの又は法令に規定されていない事項に関するものに限り、法律と同一の効力を有する。 |
|||||
任意規定:一般的な合理性の基準 慣習:特定の取引社会における合理的実務の結晶物 ⇒ 「慣習>任意規定」が望ましい。 ⇒ 法適用通則法3条の「法令の規定により認められたもの」のひとつが民法92条だと解し、契約(法律行為)の解釈においては、当事者が反対の意思を表示していない限り、まず慣習が適用されると解すべき。 |
|||||
● | ●商法1条 | ||||
商法 第1条(趣旨等) 2 商事に関し、この法律に定めがない事項については商慣習に従い、商慣習がないときは、民法(明治二十九年法律第八十九号)の定めるところによる。 |
|||||
〜 「商慣習法>民法の規定」 |
|||||
■ | ■2 実現可能性 | ||||
■ | ■3 適法性 | ||||
■ | ■4 社会的妥当性 | ||||
★公序良俗 | ★社会的妥当性(内田p281〜) | ||||
規定 | 民法 第90条(公序良俗) 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。 |
||||
説明 | 法律行為の内容が個々の強行法規に違反しなくとも、その社会の一般的秩序または道徳観念に違反するものであれば、その法律行為は無効である。(我妻【304】) | ||||
■ | ■裁判型・・・基本権保護型公序良俗(山本再構成p63) | ||||
● | 当事者の基本権を侵害する契約について、裁判所がこれを公序良俗違反として無効だとする場合。 | ||||
● | 憲法の私人間適用 間接適用説(通説・判例): 「法律の概括的条項、とくに、公序良俗に反する法律行為は無効であると定める民法90条のような私法の一般条項を、憲法の趣旨をとりこんで解釈・適用し、間接的に私人間の行為を規律して以降とする見解」 |
||||
市民Aの基本権が他の市民Bによって侵害されている場合: 国家はAに対して少なくとも憲法上要請される最低限の保護をあたえなければならない。 この保護をあたえることによって、国家はその相手方であるBの基本権に対して過度に介入することになってはならない。 @過少保護の禁止とA過剰介入の禁止 にしたがい、双方の基本権を衡量して解決をみちびく。(山本再構成p65) |
|||||
「基本権侵害」が契約への拘束によって発生することが、契約関係における私人間適用の特徴。 ⇒ 問題設定は、契約への拘束を認めることがAの基本権に対する「侵害」を帰結し、過少保護の禁止に反することにならないか。 この場合のBの基本権は、「私的自治」(p67) |
|||||
2つの問題 @Bによる契約の承認・実現請求を認めることがAの基本権に対する「侵害」を帰結し、過少保護の禁止に反することにならないか。 Aそこで保護を与えることが、Bの私的自治ないしその個別的なあらわれとしての「基本権」に対して過剰介入にならないか 以上の2つの問題設定に即して、保護をあたえるべきか、あてえるとすればどのような保護手段を認めるべきかが判定される。 |
|||||
● | ●Aの同意自体に問題がある場合 | ||||
契約自由の侵害は二重の性格をもつ @自由に意思決定をおこなう機会の剥奪〜契約自由に対する事実的な加害行為 A本来ならばするはずのない契約に拘束される可能性の創出 |
|||||
この場合に存在するのは、せいぜいAの瑕疵なき同意の外観にすぎない。 Bはそれを本当に瑕疵亡き同意と信じたのか、また信じてよかったのかということが問題となる。 〜Bの「基本権」に対して過剰介入になるかどうかということろで考慮 (p71) |
|||||
契約自由についても、国家は憲法上の保護義務を負っている(憲法13条)。 民法96条に直接あたらないことを理由として保護を否定するならば、それは、国家が憲法上みずからに課せられた基本権保護義務を果たさないことを意味。 ⇒ 民法典が「詐欺」「強迫」の場合に保護を限定する趣旨であったとしても、それを拡張する方向で法創造することが憲法上要請される。 |
|||||
● | ●契約自由侵害による基本権侵害 | ||||
基本権の制限を内容とするような契約に対して自発的な同意が得られることは、通常ありえない。 ⇒そのような契約をするには、Aの契約自由を侵害するしかない。 この場合には、「契約自由侵害による基本権侵害」が問題となっている。 〜 契約を用いた不法行為というにふさわしい。 p73 |
|||||
契約自由の侵害の程度と、それを通して侵害される基本権の侵害の程度との間に相補性を認めてよいか? それぞれ単独では契約からの解放を認めるに足りる程度の侵害ではないときに、他方の侵害の程度を考慮することによって最終的に契約からの解放を認めていいか? 〜 肯定していい。 ← この両者はいずれも、契約への拘束を認めることがAの私的自治の侵害を帰結するという点で共通の性格をもつ。 |
|||||
■ | ■暴利行為 | ||||
● | 大審院: 「他人の窮迫軽率若しくは無経験を利用し著しく過当なる利益の獲得を目的とする法律行為は善良の風俗に反する事項を目的とするものにして無効なりと謂わざるべからず」 ⇒ @契約内容が一方当事者に不当に不利 Aそれがその当事者の窮迫・軽率・無経験に乗じて行われたものであることが必要 (山本再構成p142、147) |
||||
● | ●クラブやバーのホステスが顧客の飲食代金債務について店に保証する旨の契約 山本再構成p216 |
||||
契約をそのまま有効とすることが過少保護の禁止に反するかどうか? | |||||
B(店)の側の要因: 保証契約が有効でない⇒顧客に対する飲食代金債権の回収が困難になる(Bの財産権が問題)。 but 本当にBの財産権に損失が生じたといえるかは問題 ← 顧客に掛け売りを認めた場合に、その回収不能のリスクを負うのは本来Bのはず but Bとしても、ホステスの判断に依存せざるを得ない場合が多い。 その意味で、Aの判断にもとづいて掛け売りを認めたにもかかわらず、Aが保証契約を守らなければ、その限りでBの財産権に損失が生じる。 |
|||||
A(ホステス)側の要因: 保証契約が有効⇒Aは、経済的不利益を甘受しなければならなくなる⇒Aについても財産権が問題。 but その侵害の程度は非常に大きい。 ← @AはBから賃金を得ているが、それはあくまで接客という労働の対価にすぎない以上、Aはこの保証の負担を無償で引き受けている。 A顧客がどれだけ飲食するかわかんらない以上、Aが負担すべき保証額は際限なく高額にのぼる危険性がある。 |
|||||
保証契約とは、もともとそれ自体としては無償であり、不均衡な性格をもった契約である。したがって、保証契約という契約類型を承認する以上、この不均衡のみを理由としてこれを無効とすることはできない。 ただ、それはあくまでも、Aの同意がある場合にいえることである。かりにそうした契約がAに押しつけられたのであれば、それはまさに契約に名を借りたAの財産の侵奪にほかならない。そのような場合になおこの保証契約を有効とするならば、Aの財産権に最低限の保護すらあたえていないということができる。 |
|||||
この種の保証契約は、多くの場合、店の経営者が優越的な地位を利用して、本来ならば自分が負担すべきリスクを被用者たるホステスに転嫁するもの。 こうしの保証契約が有効とされれば、それが足かせとなって、ホステスの退職の自由がいちじるしく制約されるおそれもある。 ⇒下級審の多くは、こうした点を重視して、この保証契約を無効とした。 |
|||||
こうした問題がとくにみられない場合は、例外的に保証契約を有効とする可能性。 ex. ・ホステスが店に対して従属関係に立つわけではなく、むしろ独立・対等の関係にある場合 ・ホステスが高額の利益を得るためにあえて不利な条件を甘受した場合 |
|||||
■ | ■他人の無思慮・窮迫に乗じて不当の利を博する行為(我妻【306】) | ||||
ドイツ民法第138条第2項「他人の困迫・軽率・無経験などに乗じて甚だしき不相当の財産的給付を約させる行為を無効とする」 ワイマール憲法:「暴利行為は禁止される。善良の風俗に反する行為は無効である。」(同法152条2項) |
|||||
今日では、民法の解釈として、当然の事理と認められている。 ex. 貸金業者が、借主の無智に乗じて、違約の場合には生命保険契約上の権利を移転することを約させる契約(第判昭和9.5.1)。 借主が戦地から帰還後まもなくしかも病気をしているときに、その窮迫に乗じて、短期間の弁済期を定めて5千円貸与し、期限を経過すれば時価3万円の不動産を代物弁済とする契約(最高裁昭和27.11.20) |
|||||
■ | ■社会規範への抵触(反社会性)に着目する類型 | ||||
● | ●犯罪にかかわる行為 | ||||
犯罪の対価等 | |||||
● | ●取締規定に反する行為 | ||||
名義貸与が他の違法行為は、強行規定違反(効力規定違反)という理由のほか、90条違反で無効とされることがある。 | |||||
取締規定を効力規定と解するのではなく、90条の問題とする。 ⇒違反が軽微であるかどうか、当事者は違法であるきおとを認識していたか、取引の安全は害されるか、取締規定の目的は達せられるか、などの具体的な事情を考慮して柔軟な判断ができる。 |
|||||
● | ●人倫に反する行為 | ||||
● | ●射倖行為 | ||||
■ | ■一方当事者に生ずる被害や権利侵害を問題とする類型 | ||||
● | ●自由を極度に制限する行為 | ||||
● | ●暴利行為または不公正な取引行為 | ||||
暴利行為: 他人の無思慮・窮迫に乗じて不当な利益を得る行為は暴利行為として無効とされる。 |
|||||
消費者保護と不公正な取引行為: ex.いわゆる霊感商法・原野商法等 〜契約内容のみならず、契約締結に至る勧誘行為まで含めて、全体として公序良俗に反するという評価がされる。 |
|||||
最高裁昭和61.5.29: 金地金の先物取引について、その危険性を隠し、予備知識のない主婦に執拗に取引を勧めた事例で、著しく不公正な方法による取引として無効とした。 |
|||||
約款規制: 航空機事故の乗客に対する賠償金の額を100万円に制限した約款の規定が、公序良俗違反で無効とされた例 |
|||||
● | ●個人の尊厳・男女平等などの基本権に反するもの | ||||
■ | ■その他の問題 | ||||
● | ●動機の違法 |
代理 | |||||
★代理権 | |||||
★代理行為 | ★代理行為 | ||||
■ | ■顕名 | ||||
規定 | 民法 第99条(代理行為の要件及び効果) 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。 2 前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。 |
||||
民法 第100条(本人のためにすることを示さない意思表示) 代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。 ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第一項の規定を準用する。 |
|||||
● | ●顕名主義 | ||||
顕名:代理人が代理人としての意思表示だと明らかにすること 民法は代理行為に件名を要求する顕名主義に立っている。 |
|||||
Bは自らを「Aの代理人B」と表示して契約の申込みをする。 | |||||
● | ●顕名しなった場合 | ||||
民法100条 | |||||
● | ●署名代理 | ||||
署名代理:代理人の氏名を出さずに直接本人の名で契約を結ぶという代理行為 | |||||
〜 相手方としては契約の相手方について正しく情報を得ている ⇒特別な場合を除き(相手の人柄が非常に重要な契約で、行為者が本人だと信じて、それを見込んで契約をした場合など)、顕名主義に抵触せず、代理行為は有効。 |
|||||
● | ●商法の特則 | ||||
商法 第504条(商行為の代理) 商行為の代理人が本人のためにすることを示さないでこれをした場合であっても、その行為は、本人に対してその効力を生ずる。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったときは、代理人に対して履行の請求をすることを妨げない。 |
|||||
■ | ■代理行為の瑕疵 | ||||
● | ●代理人について判断する場合 | ||||
民法 第101条(代理行為の瑕疵) 意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。 2 特定の法律行為をすることを委託された場合において、代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。 |
|||||
● | ●本人側の事情が影響する場合 | ||||
物権 | |||||||
占有 | 民法 第180条(占有権の取得) 占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。 |
||||||
所持:評価を含んだ概念であり、占有の各効果を認めるべき程度に事実上の支配があるかどうかで判断。 | |||||||
自己のためにする意思(占有意思): |
|||||||
代理占有 | ● | 民法 第181条(代理占有) 占有権は、代理人によって取得することができる。 |
|||||
賃貸人・寄託者の占有:代理占有 賃借人・受寄者:占有代理人 〜 本人(賃貸人など)にも占有者としての保護を与える点にあり、とりわけ取得時効の要件としての占有を得ることに実益がある。 |
|||||||
● | 民法 第204条(代理占有権の消滅事由) 代理人によって占有をする場合には、占有権は、次に掲げる事由によって消滅する。 一 本人が代理人に占有をさせる意思を放棄したこと。 二 代理人が本人に対して以後自己又は第三者のために占有物を所持する意思を表示したこと。 三 代理人が占有物の所持を失ったこと。 2 占有権は、代理権の消滅のみによっては、消滅しない。 |
||||||
占有補助者 (占有機関) |
間接占有の場合は直接占有者にも占有者にも占有が認められるが、 占有機関には占有は認められない。 |
||||||
ex.家族や家事使用人 |
相当因果関係 | |||||||
2つの問題 | @どの範囲までの損害を債務者に負担させるのかの判断(損害賠償の範囲) Aその損害(負傷、精神的ショック、物の毀損等)をどのように金銭に置き換えるかという問題(損害の金銭的評価) (内田p157) |
||||||
規定 | 民法 第416条(損害賠償の範囲) 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。 2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。 |
||||||
我妻 | 416条をドイツ流に解釈 | ||||||
「相当因果関係に立つ損害」とは、当該の債務不履行によって現実に生じた損害のうち、当該の場合に特有な損害を除き、かような債務不履行があれば一般に生ずるであろうと認められる損害であり、 416条1項は、この相当因果関係の原則を宣言し、 2項は相当因果関係を判断する際に「その基礎とすべき特別の事情の範囲を示すもの」 と説明。 |
|||||||
内田 | ● | ●特別損害 | |||||
不動産売買で買主が有利な転売契約を結んでいた場合、売主が債務を履行しなかった場合: 転売契約の存在が「特別事情」となり、その「事情」から生じた損害、すなわち、転売利益の喪失が特別損害。 特別事情なし⇒当該不動産の所有権を得られなかったことが損害(通常損害)であり、あとはこれを金銭に評価するという問題(損害の金銭評価)が残るだけ。 |
|||||||
ケーキ屋が販売したケーキが古くて顧客が下痢。ある買主は特異体質で死亡: 特異体質という特別事情によって「死亡」という損害が発生⇒「死亡」は特別損害 特異体質故に下痢が長く続いた⇒2日目までは通常損害でり、それを超える部分は特別損害であり、予見可能性を要する。 |
|||||||
● | ●予見可能性 | ||||||
予見する主体の「当事者」=債務者(通説・判例) | |||||||
予見可能性の判断時期=不履行時(通説・判例) 〜 債務不履行をしようという段階でどのような損害が生ずるかを予測しえたなら、賠償すべき。 |
|||||||
● | ●賠償額算定基準時 | ||||||
◎ | ◎実体法上の原則か | ||||||
平井: 基準時は「債権者にできるだけ従前と同様の経済的地位を回復させるべし」との原則(全額評価の原則)に基づいて個別的に裁判官の自由裁量で判断されるべきで、弁論主義の適用もない。 |
|||||||
内田: 裁判官があくまで何らかの実体法上の原則に基づいて基準時を選択しているように見える⇒基準時を決める基準は実体法的に決まると考えるべき |
|||||||
◎ | ◎特定物の場合 | ||||||
損害賠償の目的としては、債権者を、契約が履行されたのと同様な経済的地位に置く、との原則 ⇒基準時はできるだけ判決時に近い時点が望ましい。 (←債務の履行がなされていれば、債権者は現にその物を保有していたであろう) |
|||||||
それまでに転売していた蓋然性が大きい場合には、その時点で評価されるが、これは、「算定基準時の問題」というより、転売利益の喪失という損害に案する、「損害賠償の範囲の問題」として処理するのが妥当。 | |||||||
◎ | ◎種類物の場合 | ||||||
損害軽減義務の原則: 種類物(代替物)の場合、買主は同じような物を市場で調達することが可能 ⇒なるべく損害の発生を食い止め、また最小限にするという義務を信義則上負っている。 |
|||||||
◎ | ◎損害軽減義務による説明 | ||||||
基準時を、解除時や履行期にとる裁判例は、明らかにそれらの時点で買主が契約を解除して代替取引を行うべきことを前提に、損害を算定。 | |||||||
損害軽減義務⇒種類物について基準時を口頭弁論終結時とするのは、価格が上昇傾向の場合、買主を保護し過ぎ、妥当とはいえない。 | |||||||
買主が現実に代替取引を行っている場合には、それが合理的なものである限り、現実の代替取引価格と契約価格の差額が損害額となる(判例)。 | |||||||
損害軽減義務は、買主不履行の場合の売主にも認められる。 〜契約を解除して目的物を遅滞なく別の買主に処分し、価格下落のリスクを回避すべき義務。 |
|||||||
売主債務不履行の事案で、買主がすでに対価を支払っているような場合、代替取引による損害軽減を期待すべきではない⇒特定物と同様な基準を適用すべき。 | |||||||
潮見 p351 |
● | 制限賠償原則と保護範囲論を指示するとしても、賠償範囲の確定問題を「予見可能性に基づく制限賠償」の思考様式に依拠させることに対しては疑問がある。 ← 「契約によって保護された債権者の利益」を確認して「契約の意味と目的に従った責任の限界づけ」を図る際に考慮すべきファクターを、すべて契約当事者の「認識」の平面へと還元して、「予見可能性」概念に基礎付けられた賠償範囲確定ルールに凝縮できるのかが問題。 |
|||||
賠償範囲を確定する際には、「事実的予見可能性」のように事実レベルではなく、当該規範のレベル、つまり「規範的・政策的価値判断」が決定的だということになる。 | |||||||
事実的予見可能性の意味で起草された416条2項の「予見可能性」の対象も、賠償範囲確定(履行傷害についてのリスク分配)のための契約解釈にあたりどこまでの事情を取り込むかという観点から、文字通り「特別の事情」としてとらえるのが適切。 ⇒ 我妻が「第1項は、相当因果関係の原則を立言し、第2項は、その基礎とすべき特別の事情の範囲を示すものである」と述べたのは、正鵠を射ていた。 |
|||||||
● | 「予見可能性」に賠償範囲確定に当たっての決定的意義を見出さない ⇒「契約利益説」と言うか、「政策説」と言うかはともかく、「履行障害についてのリスク分配に関して、契約を基点として価値判断をおこなう」プロセスに焦点を当てた分析が重要になる。 |
||||||
「当該契約当事者にどれだけの範囲について損害賠償義務を負わせるのが妥当かとうい政策的な価値判断」(平井)の具体化であり、「契約の解釈」に還元される作業。 〜 「通常損害」を含めての作業(規範的損害論ともつながる)。 |
|||||||
債権者側の損害回避行動へ向けての行為規範、すなわち、債権者の損害軽減義務(損害拡大抑止義務)・過失相殺制度とどのようにリンクさせるかという観点からも分析を要する。 | |||||||
● | 「保護範囲による賠償範囲の確定」といっても、ここで問題となっている作業は、「債権」(ないしは、契約から契約当事者に生ずる地位)に結びつけられたリスクに関する規範的評価。 | ||||||
不法行為法における保護範囲論でされるような、「どこまでの権利侵害を過去における行為義務違反と関連づけることができるか」という作業・・・責任設定ないし侵害帰責レベル(権利侵害+因果関係+帰責事由レベル)での作業・・・で捉えられるものではない。 | |||||||
債務不履行の存在の確認と帰責事由(免責事由)に関する判断がされた後、すなわち、「債務不履行がされたときに、実現を企図された契約利益の実現・不実現に伴うリスクなどの範囲で債務者に負担させるべきか」という点に関する当為判断。 |
債務不履行解除 | ||||||
債務不履行解除 | 規定 | 民法 第541条(履行遅滞等による解除権) 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。 |
||||
民法 第542条(定期行為の履行遅滞による解除権) 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、前条の催告をすることなく、直ちにその契約の解除をすることができる。 |
||||||
民法 第543条(履行不能による解除権) 履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。 |
||||||
要件 | 3要件 | @債務不履行があること A不履行が債務者の責に帰すべきこと B解除が541条の手続(相当の期間を定めた催告)に従ってなされたこと |
||||
Aは立証責任が転換され、債務者の方で帰責事由がないことを立証しないと解除の要件が充たされたものであるものと認定される。 | ||||||
債権者が立証すべき要件は@とB | ||||||
債務不履行 | 伝統的に3類型 @履行遅滞 A履行不能 B不完全履行 |
|||||
解除の規定 @「当事者の一方がその債務を履行しない場合」の解除(541条) A定期行為の解除(542条) B履行不能の場合の解除(543条) |
||||||
■ | ■履行遅滞による解除 | |||||
履行遅滞 | 規定 | 民法 第492条(弁済の提供の効果) 債務者は、弁済の提供の時から、債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる。 |
||||
民法 第493条(弁済の提供の方法) 弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。 |
||||||
民法 第412条(履行期と履行遅滞) 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。 2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。 3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。 |
||||||
意味 | 履行期に履行の提供(492条、493条)がなされないこと。 | |||||
履行期: 確定期限あり⇒期限の到来した時 不確定期限⇒債務者がその期限の到来を知った時 期限を定めなかった⇒請求を受けた時 |
||||||
催告 | 「相当の期間」を定めた「催告」 | |||||
催告: 債務者に対し債務の履行を請求する意思通知 付遅滞の要件としての「履行の請求」(法412条3項)とその性質は同じであり、解除をなすべき旨の表示は必要でない(最高裁昭和48.4.19)。(注釈p822) |
||||||
催告中に定められた期間そのものではなく、解除までに実質的に与えられた猶予期間の長さを考慮して判断(最高裁昭和31.12.6) 催告期間そのものが不相当⇒相当の期間経過後に解除は可能 催告期間を定めない⇒相当な期間経過後に解除すれば有効 |
||||||
● | ●催告の必要性(注釈p826〜) | |||||
解除の前提としての催告は付遅滞の催告と異なり、催告期間内に債務者に履行の機会を与え、それにもかかわらず履行しない場合に解除権を発生せしめるための要件。 | ||||||
あらかじめ履行を拒絶した債務者も、催告によって意思をひるがえし、履行することは絶無ではない⇒催告をすることが債権関係の正常のコースとして最も望むべきこと⇒催告を必要とする(通説・判例)。 | ||||||
but 債務者の不履行により契約の履行がもはや債権者にとって利益がない場合には、催告なしに解除できる(三宅)。 |
||||||
商人間の売買で、催告不要(判例)。 ←商人間の取引ではその性質上、契約関係が迅速に処理されることを要する |
||||||
催告は原則的に必要。 継続的契約では、当事者相互間の信頼関係が特に強くその基礎となる⇒一方が義務に違反して信頼関係を破壊し、契約の継続を著しく困難ならしめる不信行為がある⇒信義則上催告なしに解除が認められる(最高裁)。 but 信頼関係を基礎とする賃貸借においても、無催告告知が認められるか否かは、具体的事情に応じて慎重に判断される必要。 |
||||||
■ | ■履行不能による解除 | |||||
■ | ■不完全履行による解除 | |||||
賃借人の債務不履行 | 規定 | 民法 第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限) 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。 2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。 |
||||
民法 第541条(履行遅滞等による解除権) 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。 |
||||||
要件 | ● | ●信頼関係破壊理論(信頼関係の法理) | ||||
最高裁昭和39.7.28: Yには「いまだ本件賃貸借の基調である相互の信頼関係を破壊するに至る程度の不誠意があると断定することはできない」として、解除権の行使を信義則に反するとした。 |
||||||
@賃借人の債務の不履行があっても、信頼関係を破壊しない些細な不履行では解除できない。 | ||||||
A厳密には賃貸借契約上の債務の不履行といえなくても信頼関係が破壊されるに至れば、解除可能となる。 ex. アパートの借家人が隣の部屋が空いたので勝手に使用 借家人が家屋の敷地に勝手に建物を建てた 生活妨害(朝から晩まで楽器をうるさく鳴らす) |
||||||
賃借人(女)がその内縁の夫とともに家主を電話で脅かしたり罵倒したりして、常識では考えられないほど執拗に家主の生活の平穏を阻害したという事案で、家主からの無催告解除を認めた例(東京地裁昭和37.6.26)。 | ||||||
● | ●信頼関係の法理の射程 | |||||
信頼関係の法理は、不動産賃貸借特有の問題として議論されてきた。 しかし、同じような考慮は、債務不履行によって債権者が被る損害と解除によって債務者が被る損害の大きさが余りにアンバランスな継続的契約において常に必要となる。 特に、当事者間の経済的依存関係が強い場合、たとえば長期の代理店け約や特約店契約などにおいては、当事者がお互いに多額の投資を行い、人的・物的に深く契約関係にコミット ⇒契約の継続性を尊重することが重要。 そのような場面で、信頼関係の法理は、一般的な射程を有していると言える。 |
||||||
民法541条は、もともと経済的・人的つながりの密度が薄い契約、継続性に対する当事者の期待がそれほど強くない契約を想定していると見ることができる。 | ||||||
無催告解除 | 規定なし | 債務不履行の態様が余りに悪質である場合には、無催告の解除も許される。(最高裁昭和27.4.25、昭和50.2.20) | ||||
規定あり | 催告することなく解除しても不合理ではないような事情がある場合に無催告解除を許す条項として解釈されている。 | |||||
失権約款 | 催告も解の意思表示も不要とする条項 ex.賃料を2カ月分滞納すれば自動的に解除される 〜 借地・借家契約ではその有効性は疑わしい。(内田Up244) |
|||||
効果 | 規定 | 民法 第545条(解除の効果) 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。 2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。 3 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。 |
||||
原状回復 | 原状回復を求めるものが金銭⇒その利息の返還も求めることができる(法545A)。 | |||||
解除された契約が商行為⇒原状回復義務も商事性をもつ⇒商事法定利率 | ||||||
原状回復を求めるのが金銭以外⇒そこから生じた果実の返還も求めることができるし、賃料相当額の利用利益の返還も請求できる。(要件事実Up453) | ||||||
滅失・損傷 | 故意・過失による目的物の滅失・損傷の場合: 解除に規定なし⇒不当利得法の一般原則で処理。 あくまで売買契約のあと始末⇒売買に適用される法理を類推するのが妥当(給付不当利得型)。 |
|||||
Bの債務がBの責めに帰すべき事由により債務不履行⇒Bは車の価額に加え生じた損害の全部を賠償する義務を負う(内田Up97)。 | ||||||
不当利得 | Aは相続した古伊万里の高価な壺を安物と思い、安価でBに売却。引渡しと代金支払終了。 錯誤に基づき、売買契約の無効を主張。 Bが返還する前に、B宅に強盗が入り、壺を盗まれる。(内田Up603) |
|||||
×703条⇒善意のBに現存利益なし⇒Aの不当利得返還請求権は消滅。 | ||||||
○表見的法律関係が双務契約であったことを不当利得の関係に反映 ⇒ 危険負担の発想から、Bの支払領域で生じた帰責事由のない滅失のリスクはBに負担させ、Bに滅失した壺の時価を賠償させ、これとAの代金返還債務を同時履行の関係に立たせるべき。 Aの軽率さによりBが過大な債務を負うことになる不都合は、Aの不法行為責任を肯定することで調整できる。 |
||||||
解除と損害賠償請求 | 解除と損害賠償請求権 | 債務不履行による履行利益の損害賠償(通説)。 〜 解除は契約を遡及的に消滅させ、当事者に原状回復義務を負わしめるが、しかしそれだけでは債務不履行による債権者の損害を償うのに足りない場合が多いので、その損害場法を認めるもの。 賠償の範囲は、民法416条の一般原則によって決せられる。」 |
||||
通説:損害賠償の範囲で解除の遡求効は制限される。 | ||||||
損害賠償の算定 | 一般原則によって決せられる。 | |||||
相手方の履行に変わる損害賠償から、解除者が債務を免れまたは給付したものの返還を請求することによって得る利益を差し引いた残額が、解除・原状回復によって償われない損害賠償額。 | ||||||
解除の方法 | 規定 | 民法 第540条(解除権の行使) 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。 2 前項の意思表示は、撤回することができない。 |
||||
不可分性 | 規定 | 第544条(解除権の不可分性) 当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。 2 前項の場合において、解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅する。 |
||||
説明 | 解除権の不可分性 ← 当事者が知らない間に契約関係が消滅することを防ぎ、または、一部の当事者についてのみ解除の効果を認めることによる法律関係の複雑化を回避する趣旨。 |
|||||
当初から契約当事者が複数の場合だけでなく、後に複数となった場合、ことに共同相続が行われた場合にも適用がある。 (裁判例では共同相続のケースが多くを占める。) |
||||||
賃貸の目的物が共有物で、共有者から解除する場合、解除権の行使は「共有物の管理に関する事項」(民法252条)にあたり、共有持分の価格の過半数で行使できる ⇒全員がそろう必要はなく、544条1項の適用はない(最高裁昭和39・2・25)。 |
遅延損害金 | 不法行為 | 発生と同時に履行期が到来する。(最高裁昭和37.9.4」 ⇒原則として損害発生時について起算。) |
|
個々の損害費目ごとに遅滞時期が異なるものではなく(最高裁H7.7.14)、弁護士費用についても損害は不法行為時に発生したものとして、不法行為時から遅延損害金を求める。(最高裁昭和58.9.6) | |||
継続的不法行為(大気汚染)について、遅延損害金の起算日を口頭弁論終結時(死亡者については死亡の日)としたもの。(岡山地裁H6.3.23) | |||
債務不履行 | 要件事実 | @債務の発生原因事実 | |
A@の債務につき債務不履行の要件事実(履行遅滞・履行不能・不完全履行) | |||
B A:解除の意思表示、又は B:定期行為であること、又は C:催告+催告後相当期間の経過 |
|||
C損害の発生及び額 | |||
AとCの因果関係 | |||
金銭債務の履行遅滞 | 要件事実 | @金銭債務の発生原因事実 | |
A@の債務の履行遅滞の要件事実 | |||
A遅延損害金又は約定利息の利率の約定(約定利率による請求の場合) B:@の債務の発生原因である契約の当事者のいずれかが商人であること(商法503条、商事利率による場合) C:@の債務が商行為により発生したこと(商法501、502、会社5 商事利率(商法514)による請求の場合) |
|||
民法の法定利率 | 規定 | 民法第419条(金銭債務の特則) 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。 2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。 3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。 |
|
民法第404条(法定利率) 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。 |
|||
商事利息 | 規定 | 商法第513条(利息請求権) 商人間において金銭の消費貸借をしたときは、貸主は、法定利息(次条の法定利率による利息をいう。以下同じ。)を請求することができる。 2 商人がその営業の範囲内において他人のために金銭の立替えをしたときは、その立替えの日以後の法定利息を請求することができる。 |
|
商法第514条(商事法定利率) 商行為によって生じた債務に関しては、法定利率は、年六分とする。 |
|||
商法第503条(附属的商行為) 商人がその営業のためにする行為は、商行為とする。 2 商人の行為は、その営業のためにするものと推定する。 |
|||
商法第501条(絶対的商行為) 次に掲げる行為は、商行為とする。 一 利益を得て譲渡する意思をもってする動産、不動産若しくは有価証券の有償取得又はその取得したものの譲渡を目的とする行為 二 他人から取得する動産又は有価証券の供給契約及びその履行のためにする有償取得を目的とする行為 三 取引所においてする取引 四 手形その他の商業証券に関する行為 |
|||
商法第502条(営業的商行為) 次に掲げる行為は、営業としてするときは、商行為とする。ただし、専ら賃金を得る目的で物を製造し、又は労務に従事する者の行為は、この限りでない。 一 賃貸する意思をもってする動産若しくは不動産の有償取得若しくは賃借又はその取得し若しくは賃借したものの賃貸を目的とする行為 二 他人のためにする製造又は加工に関する行為 三 電気又はガスの供給に関する行為 四 運送に関する行為 五 作業又は労務の請負 六 出版、印刷又は撮影に関する行為 七 客の来集を目的とする場屋における取引 八 両替その他の銀行取引 九 保険 十 寄託の引受け 十一 仲立ち又は取次ぎに関する行為 十二 商行為の代理の引受け 十三 信託の引受け |
|||
会社法第5条(商行為) 会社(外国会社を含む。次条第一項、第八条及び第九条において同じ。)がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は、商行為とする。 |
|||
要件 | A(金銭消費貸借の場合)契約の当事者双方が証人であること | ||
B元本政権が元本債権が生じ債権であること⇒ @契約当事者のいずれかが商人であること(商法503条)又は A元本債権が商行為に基づく債権であること(商法501条、502条、会社法5条) |
権限濫用 | ||||||
規定 | 第93条(心裡留保) 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。 |
|||||
■ | ■本条本文の類推適用 | |||||
● | ●法人代表者の行為への類推適用。 | |||||
◎ | 会社Aの取締役Bが会社ののためにすることを示して自己の利益のためにその権限内にCに対し手形の振出または裏書を行った場合: CがBの「Aの為にする意思なきこと」ないしBの「真意」について善意無過失であるならば、振出・裏書行為は有効(Aは支払義務を負う) (東京控判大元・月日不祥) |
|||||
◎ | 清算会社Aの清算人Bが自己の利益のためにDを連帯保証人としてCから消費貸借によって借入を行った場合(大判大4.6.16): CがBの「真意」について善意無過失である限り、消費貸借及び連帯保証契約は有効。 |
|||||
◎ | 取締役Bが会社Aの信用を増すため、自己のためにすることを内心で留保しながら、自己の金員をA名義でC銀行に預金(東京地裁昭和28.11.10)⇒CがBの「内心の意思」について善意無過失である限り、A名義の預金契約は有効(Aは債権者による同預金の差押えに対して、Bは執行排除の請求をなしえない)。 | |||||
● | ●法人代表者の権限内の行為が自己の利益のために行われたのでなく、ただその意思表示を行うための要件が欠けていいた場合にも、本条の趣旨に従った解決がなされる。 | |||||
◎ | 代表取締役が取締役会の決議を必要とする取引行為をその決議を経ずに行った場合(最高裁昭40.9.22): その取引行為は、内部的意思決定を欠くに止まる⇒相手方が「決議を経ていないこと」について善意無過失である限り、「民法93条本文の法理に準拠し」て有効とされる。 (同旨:最高裁昭和42.7.6) |
|||||
◎ | 取締役会の決議を経ないでされた代表取締役の営業廃止許可申請の効力についても、同旨の判決がある。大阪地裁昭和41.2.28) | |||||
■ | ■本条但書の類推適用 | |||||
● | ●法人の代表者 | |||||
◎ | A会社の取締役Bが自己の利益を図る目的で約束手形を振り出した事案⇒Bの行為を権原の濫用とし、相手方銀行Cが手形を受け取るに当たって取引上の注意を用いれば必ずその事実を知り得たとして「心裡留保の法理に準拠して」手形振出行為の無効を正当とした大審院判例(大判昭16.5.1) | |||||
◎ | 名古屋高裁昭和28.8.20が、A組合の代理人が自己の利益のために金員を利用する目的でAの名においてCと定期預金契約を締結し、定期預金証書をCに交付⇒CがBの「背信の意思」について悪意または有過失である限り定期預金契約を無効とし、その判旨を説示するにあたって93条の法意を類推適用。 | |||||
◎ | 最高裁昭和38.9.5: A会社の代表取締役Bが辞任後未登記の間にA所有の建物をCに売却したという事案について、AはBの代表権喪失をCに主張できず、他方、代表取締役が会社を代表する場合に経済的利益を自己に収める真意があったという事実は会社に対する効果に影響を与えないとした原審判決を破棄して「株式会社の代表取締役が、自己の利益のため表面上会社の代表者として法律行為をなし得た場合於いて、相手方が右代表取締役の真意を知りまたは知りうべきものであったときは、民法93条但書の規定を類推し、右の法律行為はその効力を生じないものと解するのが相当である」とした。 (同旨、最高裁昭和51.11.26、判時839.111) |
|||||
◎ | 代表権を有しない取締役の行為でも、表見代表取締役の行為(商法262)と認められる場合には、本条但書が類推適用される(最高裁昭和42.7.6)。 | |||||
● | ●任意代理人 | |||||
◎ | 同様の判旨は、最高裁昭和42.7.6によって、任意代理のケース(A会社の仕入担当主任Bが主任の権限を濫用してC会社から仕入れた商品を他に転売したという事案)において踏襲された。 | |||||
大隅裁判官意見: 「代理行為が成立するために必要な代理意思としては、直接本人つについて行為の効果を生じさせようとする意思が存在すれば足り、本人の利益のためにする意思の存することは必要ではない。したがって、代理人が自己または第三者の利益をはかることを心裡に留保したとしても、その代理行為が心裡留保になるとすることはできない。おそらく多数意見も、代理人の権限濫用行為が心裡留保になると解するのではなくして、相手方が代理人の権限濫用の意図を「知りまたは知ることをうべかりしときは、その代理行為は無効である」という一般理論を民法93条但書に仮託しようとするするにとどまるのであろう。すでにして一般理論にその論拠を求めるのであるならば、・・・権限濫用の理論または信義則にこれを求めるのが適当でないかと考える。」 |
||||||
◎ | 表意者が代理人としての資格を有しない場合には、本条の適用ないし準用はない。 他店へ転出した銀行の預金係員が転出前の支店長の印鑑等を盗用して預金通帳を作成して交付した場合には、 表見代理(112条)にならないと同時に、心裡留保にもならない(東京高裁昭和38.2.28)。 |
|||||
● | ●法定代理人 | |||||
◎ | 代理権濫用の事例において本条但書を類推適用する判例理論は、その後、法定代理にの事案にも援用(最高裁H4.12.10)。 | |||||
Aの親権者Bが、C信用金庫からAの伯父Dが信用保証を受ける際の担保としてA所有の不動産に根抵当権を設定したというケースで、Aから根抵当権設定登記の抹消を請求。 最高裁は、法定代理権の濫用の場合にも本条但書の類推適用があることを当然として認める一方、「親権者が子を代理してこの所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、利益相反行為に当たらないものであるから、それが子の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど、親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、親権者による代理権の濫用に当たると解することはできない」として、代理権濫用の判断を著しく厳格化した。 |
||||||
● | ●代理行為が手形行為である場合 | |||||
◎ | 相手方との関係は本条但書の類推適用で処理される。 but 転得者(被裏書人)等第三者との関係においては民法上と手形法上では結論が異なる。 |
|||||
民法上では、相手方悪意の場合の転得者の保護は94条2項の準用による⇒善意の立証責任は転得者が負う(最高裁昭和41.12.22)。 but 手形法上では、転得者は、その悪意が立証されない限り、17条但書によって人的抗弁が切断され、手形の支払いを請求することができる(最高裁昭和44.4.3、同旨最高裁昭和53.2.16)。 人的抗弁が切断されるのた手形が流通証券として正常に流通する場合⇒期限後裏書(手20@但)、通常の債権譲渡の形式による手形の譲受け、手形の差押え(大判昭和12.1.16)などの場合には手形法上の保護がない。 ⇒国税滞納処分として手形を差し押さえた国については、民法に戻り、その善意を立証してはじめて手形上の保証人に訴求できる。 |
||||||
● | ●代理行為が訴訟行為である場合 | |||||
◎ | 株式会社の代表取締役が自己の利益のため会社代表者として訴訟行為をした場合に相手方がその真意を知りまたは知りうべきであったときは訴訟行為について必要な授権が欠けていたと同旨することができるとして確定判決に付き旧民訴法420条1項3号の再審事由(代理権欠缺)があるものとして原審判決を、「株式会社の代表者は、法に特別の規定がある場合を除き、当該会社の営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する・・・のであり、その代表権限は、右代表者の意思の知不知によって消長を来すものではない」として破棄(最高裁H5.9.9)。 〜 裁判外の行為についても本条但書の類推適用を否定するものと見られる。 |
錯誤 | 規定 | 民法 第95条(錯誤) 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。 |
||||
〜 一定の錯誤については重大な過失がない限り、相手方が錯誤に気づいいていたか否かを問わず、意思表示を無効として表意者を保護する。 |
||||||
■要件@ 法律行為の要素の錯誤 |
■「法律行為の要素の錯誤」 | |||||
「要素」とは重要な部分。 | ||||||
分類 | @動機の錯誤 A表示上の錯誤: 表示行為そのものに関する錯誤。 言い間違い等。£を$と書き間違い等 B表示行為の意味に関する錯誤: 内容の錯誤。 ドルとポンドが同じ価値であると思いこみ、1万ポンドで売りたいというつもりで1万ドルと言っていしまった場合。 |
|||||
表示行為の錯誤(AB)は、要素に錯誤があれば意思表示が無効となる。 動機の錯誤(@)は原則として要素の錯誤にならない。 but 動機の錯誤も、動機が表示されて意思表示の内容となった場合には、法律行為の要素となりうる(大判大正3年12月15日)。 |
||||||
「自分はこの本をまだ持っていないから、1冊買っておきたい」と言えば、動機(=この本をまだ持っていないからという動機)も意思表示の内容となり、この点に錯誤があっても、それが要素の錯誤と評価されれば、意思表示は無効となる。 ← 動機は本来表示されないいから錯誤無効を認めると取引の安全を害するが、意思表示の内容として表示されれば、そのようなことはないだろうと考えられた。 |
||||||
要素の錯誤 | 判例・通説: 「因果関係」と「重要性」という2つの要件をそなえた錯誤。 |
|||||
@因果関係:その錯誤がなければ表意者は意思表示をしなかったであろうということ。 A重要性:錯誤がなければ意思表示をしないであろうということが、通常人の基準からいっても(一般取引の通念に照らしても)もっともであるほどの、重要な部分についての錯誤であること。 |
||||||
判例 | 保証契約を締結する際に、他に物的担保があるとか保証人がいるといった情報が偽りであったとしても、動機の錯誤であって原則として保証契約は影響を受けない(最高裁昭和32.12.19)。 | |||||
主たる債務が想定していた性質のものではない場合は? 信販会社Xの立替払いによってAが売主Bから商品を購入し、AのXに対する立替金債務をYが保証したが、実はこれが「空クレジット」と呼ばれる詐欺行為で、Bが売主としてXから立替金を得るためにAB間の売買を仮装したに過ぎなかった場合で、 最高裁H14.7.11: 「商品売買契約の成否は、原則として、保証契約の重要な内容である」として、要素の錯誤を肯定。 〜 Aの債務を保証するという点にYの錯誤はなかったが、どのような債務であるかについて錯誤があった。これは動機のようにも見えるが、最高裁は、実際に売買が行われたかどうかがYの負うリスクに影響することに着目し、要素の錯誤と認めた。 (要素の錯誤を、形式的にではなk、取引の実質を考慮して判断する傾向を指摘できる。) |
||||||
保証契約 | ● | ●人についての錯誤 | ||||
〇 | 〇債務者の同一性・性状についての錯誤 | |||||
特段の事情がないかぎり要素の錯誤となる。 ←主債務者が誰であるかは一般的に重要。 |
||||||
〇 | 〇貸主の同一性・性状について錯誤 | |||||
貸主の同一性や性状の錯誤は要素の錯誤となるとはいえない。 | ||||||
「丙が承諾を与えたるは全く乙の言を信じ貸主となるべき他人の性格営業等に重きをおきたるに因るものとするも是れ唯その承諾の意思を決定したる理由たるに過ぎない」(大判明42.12.24) | ||||||
「金銭貸借において連帯人が特定の債権者たるべかりし者以外の者との間には貸借を為すの意思なく連帯責任を負わざる趣旨の下に法律行為ありと為すはその特段なる意思表示をもって初めてこれを認容し得べきもの」(大判大7.7.3) | ||||||
● | ●保証における債務者の資力・経営等の錯誤 | |||||
動機の錯誤⇒当然には要素の錯誤を認めるべきではない。 | ||||||
債権者側の説明に不備があり、それが誤信を招いたような事情⇒特段の事情があり、錯誤の成立を認めるべき。 | ||||||
● | ●保証約定書等についての錯誤 | |||||
錯誤否定例: 信用金庫取引約定書に連帯保証人として署名した者は、約款を具体的に認識していなくてもこれをすべて承認して契約したと認められる⇒錯誤を認める余地はない(最高裁昭和60.7.16)。 |
||||||
錯誤肯定例: 補償限度額の記載のない基本約定書に署名・捺印した連帯保証人の錯誤を肯定した事例(大阪地裁昭和63.3.24) |
||||||
■要件A | ■表意者に重大な過失のないこと(95条但書) | |||||
重過失 | 重過失: 職業、行為の種類・対象等からみて、注意義務を欠く程度がいちじるしいこと。 換言すると、取引上・社会上要求される調査義務をいちじるしく欠くことを意味する。 錯誤に陥ったことにつき、普通人に期待される注意を著しく欠いていること。 |
|||||
その立証責任は、相手方にある。 | ||||||
相手方が悪意、つまり表意者の錯誤を知っているときは、たとえ表意者が不注意であったにせよ、表意者の犠牲において相手方を保護する必要がない ⇒但書の適用はない。(通説・判例) |
||||||
● | ●電子消費者契約の特則 | |||||
コンピュウータ・ネットワークを用いた消費者契約(電子消費者契約)においては、簡単なクリックで契約が成立してしまうため、通常の取引よりも錯誤が生じやすい。 ⇒ 事業者が確認画面によって消費者の意思を確認した場合(またはその措置が不要であるとの意思を消費者が表明した場合)を除き、消費者が意思のない契約を結んだり、意思と異なる内容の契約を結んでしまったとしても、事業者は95条但書の重過失の抗弁を提出できない(電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律第3条)。 ⇒消費者からの錯誤無効の主張を回避するため、事業者が確認画面をだすことが促進。 |
||||||
■ | ■錯誤の存在時期 | |||||
法律行為の成立の時点(=行為時)で判断すべき(注釈p393) | ||||||
無権代理 | 追認 | 第113条(無権代理) 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。 2 追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。 |
||||
@無権代理行為の追認は、相手方または無権代理人のいずれに対してもなすことができる。 A無権代理人に対して追認した場合、相手方がその事実を知らなければこれを相手方に対抗しえないが、相手方から追認の事実を主張することは妨げない。 (最高裁昭47.12.22) |
||||||
消滅時効 | 存在理由 | @長期にわたって存続している事実状態を尊重して、その事実状態を前提として構築された社会秩序や法律関係の安定を図る。 A過去の事実の立証の困難を救い、真の権利者ないしは債務から解放された者(無権利者)を保護すること。 B「権利の上に眠る者は保護に値せず」 〜多元的な存在理由 |
||||
法的構成 | A:実体法説: 事項は権利者の権利を消滅させ、無権利者が権利を取得する制度。つまり、実体法上の権利特喪原因であるという理解。 〜 消滅時効により債権者の権利は消滅し、 取得時効によって無権利者が所有権を取得。 ← 存在理由@Bの考え方 |
|||||
B:訴訟法説 時効は、債務者が弁済の事実を証明し、あるいは所有権者が自らの所有権を証明する困難を緩和するための制度。 〜 時効の効果は訴訟上の法定証拠(その証拠が提出されれば法律上当然に一定の認定がなされる)と捉えられる。 ← 存在理由Aの考え方 |
||||||
権利 | 規定 | 民法第167条(債権等の消滅時効) 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。 2 債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。 |
||||
時効期間 | 原則 | 債権:10年 債権・所有権以外の財産権:20年 |
||||
10年 | 確定判決ないしこれと同等の効力を有する公的手続で確定した債権は、10年より短期の時効に服するものも、一律に10年の消滅時効が適用される(民法174条の2)。 ←その存在が公的に確定された債権について再び短期の時効を適用するのでは煩わしい。 〜 確定判決の時点から起算して10年の時効が進行。 |
|||||
確定判決の時点でまだ弁済期が到来していなかった債権には適用されない(民法174条の2第2項)。 | ||||||
5年 | 説明 | 追認できる時からの取消権(126条) 年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権(年金・恩給・扶助料・地代・利息・賃借料等)(169条) 財産管理に関する親子間の債権(832条) 商事債権(商法522条) 相続回復請求権:相続権を侵害された事実を知ったときから(884条) 労働者の退職手当(労働基準法第115条後段) |
||||
規定 | 民法 第126条(取消権の期間の制限) 取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。 |
|||||
民法 第169条(定期給付債権の短期消滅時効) 年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、五年間行使しないときは、消滅する |
||||||
3年 | 説明 | 医師・助産師・薬剤師の医療・助産・調剤に関する債権(170条1号) 工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権:工事終了のときから(170条第2号) 弁護士、弁護士法人、公証人の職務に関して受け取った書類についての義務に対する権利(171条) 不法行為に基づく損害賠償請求権 損害および加害者を知ったときから(724条、製造物責任法第5条) 為替手形の所持人から引受人に対する請求権(手形法第70条第1項) 約束手形の所持人から振出人に対する請求権(手形法第77条第1項第8号、なお、同法第78条第1項参照) |
||||
規定 | 民法 第170条(三年の短期消滅時効) 次に掲げる債権は、三年間行使しないときは、消滅する。ただし、第二号に掲げる債権の時効は、同号の工事が終了した時から起算する。 一 医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権 二 工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権 |
|||||
2年 | 説明 | 弁護士・弁護士法人・公証人の職務に関する債権(172条) 生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権(173条1号) 自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権(173条第2号) 学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権(173条3号) 詐害行為取消権:債権者が取消しの原因を知った時から(426条) 労働者の賃金(退職手当を除く)・災害補償その他の請求権(労働基準法115条前段) |
||||
規定 | 民法 第173条 次に掲げる債権は、二年間行使しないときは、消滅する。 一 生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権 二 自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権 三 学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権 |
|||||
1年 | 説明 | 月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権(174条1号) 自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に係る債権(174条第2号) 運送賃に係る債権(174条第3号) 旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権(174条第4号) 貸衣装など動産の損料(174条5号) 売主の担保責任:買主が事実を知った時から(566条) 遺留分減殺請求権:減殺すべき贈与、遺贈があったことを知った時から(1042条) 運送取扱人の責任(商法第566条第1項) 陸上運送人の責任(商法第589条・商法第566条第1項準用) 海上運送人の責任(商法第766条・商法第566条第1項準用、国際海上物品運送法第14条第1項) 船舶所有者の傭船者、荷送人、荷受人に対する債権(商法第765条) 為替手形の所持人から裏書人や振出人に対する請求権(手形法第70条) 約束手形の所持人から裏書人に対する請求権(手形法第77条第1項第8号) 支払保証をした支払人に対する小切手上上の請求権(小切手法第58条) |
||||
規定 | 民法 第174条(一年の短期消滅時効) 次に掲げる債権は、一年間行使しないときは、消滅する。 一 月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権 二 自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に係る債権 三 運送賃に係る債権 四 旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権 五 動産の損料に係る債権 |
|||||
6か月 | 約束手形・為替手形の裏書人から他の裏書人や振出人に対する遡求権または請求権(手形法第70条第3項) 小切手所持人・裏書人の、他の裏書人・振出人その他の債務者に対する遡求権(小切手法第51条) |
|||||
起算点 | 規定 | 第166条(消滅時効の進行等) 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。 |
||||
第140条 日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。 |
||||||
説明 | 時効期間は、権利を行使することができる時から進行する。 | |||||
期限や停止条件付の債権⇒期限到来・条件成就の時から進行。 | ||||||
時効期間の計算には、140条の初日不算入の原則が適用 | ||||||
期限の定めのない債権〜債権者はいつでも請求できる⇒原則として債権成立のときから時効は進行し、翌日が第1日 | ||||||
事例 | 保証人の主債務者に対する求償権: 消滅時効は、弁済その他自己の出捐をもって主債務を消滅させるべき行為(免責行為)をした時から起算し、免責行為前に事前求償権を取得した場合でも異ならない。(最判昭60・2・12民集39-1-89) |
|||||
中断 | 意義 | 債権者が、権利を行使したときは、それまでに進行した時効の期間はゼロになるという制度。 | ||||
規定 | 民法 第147条(時効の中断事由) 時効は、次に掲げる事由によって中断する。 一 請求 二 差押え、仮差押え又は仮処分 三 承認 |
|||||
民法第149条(裁判上の請求) 裁判上の請求は、訴えの却下又は取下げの場合には、時効の中断の効力を生じない。 |
||||||
民訴法 第147条(時効中断等の効力発生の時期) 時効の中断又は法律上の期間の遵守のために必要な裁判上の請求は、訴えを提起した時又は第百四十三条第二項(第百四十四条第三項及び第百四十五条第三項において準用する場合を含む。)の書面を裁判所に提出した時に、その効力を生ずる。 |
||||||
民法 第150条(支払督促) 支払督促は、債権者が民事訴訟法第三百九十二条に規定する期間内に仮執行の宣言の申立てをしないことによりその効力を失うときは、時効の中断の効力を生じない。 |
||||||
民法 第151条(和解及び調停の申立て) 和解の申立て又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事審判法(昭和二十二年法律第百五十二号)による調停の申立ては、相手方が出頭せず、又は和解若しくは調停が調わないときは、一箇月以内に訴えを提起しなければ、時効の中断の効力を生じない。 |
||||||
民法 第152条(破産手続参加等) 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加は、債権者がその届出を取り下げ、又はその届出が却下されたときは、時効の中断の効力を生じない。 |
||||||
民法 第153条(催告) 催告は、六箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法若しくは家事審判法による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。 |
||||||
民法 第157条(中断後の時効の進行) 中断した時効は、その中断の事由が終了した時から、新たにその進行を始める。 2 裁判上の請求によって中断した時効は、裁判が確定した時から、新たにその進行を始める。 |
||||||
請求 | 裁判上の請求 支払督促 和解または調停の申立て 破産手続参加・再生手続参加・更生手続参加 |
|||||
裁判上の請求 | ● | 訴訟提起⇒訴え提起の段階で中断の効力が発生(民訴法147条)。 中断の効力は裁判確定まで継続。裁判確定で、新たな時効が進行。 |
||||
● | 訴えの却下又は取下げ⇒時効中断の効力は生じない(法149条)。 「却下又は取下げ」には「棄却」も含むと解されている。 |
|||||
訴えの却下・取り下げは、「裁判上の請求」とうい中断事由にはならないが、「催告」としての効力を認めるべき。 訴え提起から却下等まで催告が続いている⇒却下等の時点で153条の6か月の期間が始まる。 |
||||||
● | ●「裁判上の請求」の拡張 | |||||
ex.被告として権利主張して勝訴したような場合。 取得時効の事例で、被告が訴訟で応訴し、その主張が認められた⇒裁判上の請求あり(最高裁昭和43.11.13)。 |
||||||
● | 一部請求の場合、残額に中断の効力は生じない(最高裁昭和34.2.20)。 | |||||
差押等 | 第154条(差押え、仮差押え及び仮処分) 差押え、仮差押え及び仮処分は、権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されたときは、時効の中断の効力を生じない。 |
|||||
第155条 差押え、仮差押え及び仮処分は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、時効の中断の効力を生じない。 |
||||||
承認 | 時効について訴訟法説⇒消滅時効の根拠は長年の権利行使が権利の不存在を推定させる点にある⇒その推定を破る意味を持つ債務者の承認が中断事由となるのはごく自然なこと。 | |||||
「100万円借りています」と認める行為。 一部弁済。 支払猶予を求める。 |
||||||
銀行預金につき、銀行が帳簿(現在は電子化されている)に利息の元金組入れを記入することは承認にはならない(判例)。 (←権利者に対してなされていない。) |
||||||
催告 | 単に弁済しろと請求することは「催告」と呼ばれ、それ自体には完全な時効の中断の効力はない。 | |||||
催告は6か月以内に裁判上の請求その他の裁判所の関与する手続を行わなければ中断の効力は生じない(法153条)。 | ||||||
時効期間満了の直前になされたものが、その後6か月内に裁判上の請求をすることにより、時効期間を伸長する効力。 (催告は繰り返すことはできない。) |
||||||
6か月は催告の到達した時から起算。 | ||||||
催告に対して相手方が請求権の存否について調査するために一定期間の猶予を求めた場合、6か月は猶予期間満了の時から起算するのが正当。(我妻) | ||||||
中断の効果 | 規定 | 第157条(中断後の時効の進行) 中断した時効は、その中断の事由が終了した時から、新たにその進行を始める。 2 裁判上の請求によって中断した時効は、裁判が確定した時から、新たにその進行を始める。 |
||||
第174条の2(判決で確定した権利の消滅時効) 確定判決によって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。裁判上の和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利についても、同様とする。 2 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。 |
||||||
中断後の時効 | 時効が中断⇒それまで進行した期間は御破算となり、中断の事由が終了した時から新たな時効が進行を始める(法157@) | |||||
裁判上の請求によって中断した時効は裁判が確定した時からさらに進行を始める(同条2項)。 | ||||||
確定判決によって確定した権利の時効期間は、短期消滅時効にかかる債権も一律に10年となる。(法174条の2第1項) | ||||||
人的範囲 | 規定 | 第148条(時効の中断の効力が及ぶ者の範囲) 前条の規定による時効の中断は、その中断の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。 |
||||
説明 | 当事者:中断行為をした者とその相手方 承継人:時効の対象となっている権利を譲り受けた者(特定承継人)や相続人(包括承継人) |
|||||
時効成立後の承認 | 債務につき消滅時効が完成した後に、債務者が債務の承認をした以上、時効完成の事実を知らなかったときでも、以後その完成した消滅時効の援用をすることは許されないと解するのが信義則に照らし相当である。(最大判昭41・4・20) |
共同所有関係 | |||||
序論 | 様々な「共有」 | 規定 | 民法 第668条(組合財産の共有) 各組合員の出資その他の組合財産は、総組合員の共有に属する。 |
||
民法 第676条(組合員の持分の処分及び組合財産の分割) 組合員は、組合財産についてその持分を処分したときは、その処分をもって組合及び組合と取引をした第三者に対抗することができない。 2 組合員は、清算前に組合財産の分割を求めることができない。 |
|||||
民法 第898条(共同相続の効力) 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。 |
|||||
説明 | 組合〜団体が存在していることによる団体的規制が前提とされており、民法249条以下が想定しているような個人主義的な共有とは性質が違う。 | ||||
相続でも、共同相続人という一種の団体が存在していることによる特殊性があるのではないかという点が争われる。 | |||||
共有・合有・総有 | 団体的規制に応じて、性質を異にする共同所有関係の類型を認めるべきという考え方。 個人主義的な共同所有関係⇒「共有」 組合や相続財産のように、やや団体的規制が加わったもの⇒「合有」 社団の財産のように構成員の所有権から半ば独立した財産となったもの⇒「総有」 but 問題はその中身。 |
||||
論点 | 共有の論点: @共有者相互の内部関係 A第三者に対する対外関係 B共有物分割 |
||||
■内部関係 | ■内部関係 | ||||
共有持分 | 規定 | 民法 第250条(共有持分の割合の推定) 各共有者の持分は、相等しいものと推定する。 |
|||
民法 第255条(持分の放棄及び共有者の死亡) 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。 |
|||||
説明 | 法律の規定や当事者の合意があれば、それで決まる。 そうでないときは、平等と推定される(民法250条)。 |
||||
共有者の1人が持分権を放棄したり相続人足に死亡して持ち分が消滅 ⇒他の2人の持分が拡大(民法255条)。 (共有の弾力性) |
|||||
応用 | 共有者の1人が持分を放棄、または相続人なしに死亡⇒他の共有者に帰属 相続人なしに死亡⇒特別縁故者制度(法958条の3) それでも残った財産は国庫に帰属(法959条) |
||||
共有者ABCのうちAが相続人なしに死亡、特別縁故者Dが存在: 〜 解決の決め手は、特別縁故者の相続財産に対する期待をどこまで法的に保護するか。 判例は、特別縁故者制度を優先適用(最高裁H1.11.24)。 |
|||||
目的物の利用 | 使用・管理・変更 | 規定 | 民法 第249条(共有物の使用) 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。 |
||
民法 第252条(共有物の管理) 共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。 |
|||||
民法 第251条(共有物の変更) 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。 |
|||||
説明 | どのように使うかの協議は、目的物の「管理」に関する事項⇒法252条本文により、持分の過半数で決する。 | ||||
共有者のひとりが勝手に農地を造成して宅地にすれば(=共有物の変更)、他の共有者は妨害排除請求権の行使として、工事の差止めのほか、可能である限り原状回復を求めることができる(最高裁H10.3.24)。 but 妨害排除請求が権利の濫用になる場合もあると付言。 (将来の遺産分割を考えると、あえて妨害排除を認める必要のない場合もありうる。) |
|||||
持分権の譲渡 | 持分権の譲渡は自由(規定はない) | ||||
共有者間の引渡請求 | 事例: AはABC3人で買ったヨットを独り占めし、いっこうにBCに利用させようとしない。 BCはAに対し、共有物持分権に基づき、ヨットの引渡を請求できるか? |
||||
個々の共有者は、がんら共有物全体を使用する権利を有する⇒BCは、持分権を侵害されたこあらといって、Aに対して当然には共有物の引渡しを求めることはできない(最高裁昭和41.5.19.請求者側の持分割合が12分の11であっても、建物の明渡請求はできない。)。 | |||||
持分権侵害を理由に損害賠償を求め、また共有物の管理に関する協議を共有者間で行うほかないが、どうしても収拾がつかなければ共有物分割で解決することになろう。 | |||||
対第三者の引渡請求 | 事例: Aが友人Dにヨットを貸し、Dがクルージングを楽しんでいる場合、BはDに引渡請求ができるか? |
||||
Dの占有使用がAの持分に基づくものと認められる限りは、A自身が占有使用する場合の論理をそのまま及ぼし、Bの引渡請求は認められない(最高裁昭和63.5.20)。 | |||||
■ 対外関係 | ■対外関係 | ||||
共有の対外的主張 | 滅失や損傷を防止する行為は保存行為⇒法252条但書で各共有者が単独でできる。 不法占有者に対する妨害排除や返還請求も同様(大判大正7.4.19)。 |
||||
ABCの共有であることの主張を裁判でするには、全員揃うことが必要。(固有必要的共同訴訟。単独だと持分権の主張にしかならない。) | |||||
不実の登記と共有 | ABDの3人の共有不動産が誰かの単独名義で登記されている場合、Aは何を請求できるか? | ||||
共有者の1人であるCが勝手に単独名義の登記⇒Aは自己の持分(3分の1)の登記だけを請求できる(最高裁昭和38.2.22、最高裁昭和59.4.24)。 | |||||
Cから譲渡を受けたDに対して請求するときも同じ(←DはCのン持分に関しては有効に譲渡を受けている)。 | |||||
全くの無権利者Eが単独名義の登記⇒Aは妨害排除請求権の行使として全部の抹消を請求できる(最高裁昭和31.5.10)。 | |||||
FがCからその持分(3分の1)の譲渡を受けたが、譲渡が無効であったとき(Fがまったくの無権利者であるとき)、AはFの持分登記の抹消を請求できるか? 〜 判例は、妨害排除請求権の行使としてAの請求を認めた(最高裁H15.7.11)。 〜 誰が自分とともに共有者であるかについて他の共有者が強い利害関係をもっているという理解に立っており、共有を純粋に個人主義的に理解することが正しくないことを示唆している。 |
委任 | 委任とは | 委任=事務の委託(準委任を含む) ・独立性を有する(vs.雇用) ・仕事の完成を目的とするわけではない(vs.請負) |
|
受任者の義務:善管注意義務 | 善管注意義務(法644条):受任者と同様な職業・地位にある者に対して一般に期待される水準の注意義務 | ||
抽象的な一般人ではなくて、具体的状況における行為者としての注意義務をいい、委任契約の信任関係から特に期待される誠実な受任者のなす注意義務と解される。 具体的軽過失と異なり、受任者個人の個人的技能や学歴・経験年数・健康状態・性別等の主観的標準は責任の基礎とはならない。 (新版注釈16p226) |
|||
受任者の義務:付随的義務 | 報告義務(法645条):委任者の請求があればいつでも委任事務処理の状況を報告し、また委任終了の後は遅滞なくその経過及び結果を報告する義務 | ||
受取物・果実の渡義務(法646@):委任事務を処理するにあたって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡す義務を負う。収取した果実も同様である。 | |||
取得権利の移転義務:受任者が委任者のために自己の名をもって取得した権利は、委任者に移転する義務を負う。 |
贈与 | ||
規定 | 第550条(書面によらない贈与の撤回) 書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。 |
不可分債権 | 不可分債権 | 第428条(不可分債権) 債権の目的がその性質上又は当事者の意思表示によって不可分である場合において、数人の債権者があるときは、各債権者はすべての債権者のために履行を請求し、債務者はすべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。 |
|
可分債権への変更 | 第431条(可分債権又は可分債務への変更) 不可分債権が可分債権となったときは、各債権者は自己が権利を有する部分についてのみ履行を請求することができ、不可分債務が可分債務となったときは、各債務者はその負担部分についてのみ履行の責任を負う。 |
||
不可分債務 | 債権者は債務者の1人に対して全部の履行を請求することができる。 | ||
不可分債務への準用 | 民法430条 | ||
性質上の不可分債務 | 性質上の不可分債務: 共有物の引渡し債務 共有不動産の所有権移転登記申請協力義務 共同賃借人の賃料債務(大判大正11.11.24) ←目的物は金銭で可分であるが、不可分な利用の対価であって、賃貸人が各債務者に分割された額しか請求できないのは不当。 不可分債務も、履行不能により損害賠償債務に変わるなど可分になると、分割債務となる(431条)。 but黙示の連帯の特約を広く認定して、連帯債務になるという解釈(通説)。 ← 債権の担保的効力が弱くなり、債権者が不当に害される。 |
||
性質上の不可分債権 | 性質上の不可分債権: 共同相続財産に属する建物の、使用貸借契約の終了を理由とする明渡請求権(最高裁昭和42.8.25)。 |
保証 | |||||
保証 | 主たる債務に生じた事由 | 説明 | 主たる債務に生じた事由は、保証債務の内容を加重するのでない限り、全て保証債務に影響を与える。 | ||
主たる債務の約定利率が低下⇒保証債務にもその効力が及ぶ。 | |||||
保証人は主たる債務者の反対債権により、相殺をもって債権者からの請求に対抗することができる(457条2項)。 | |||||
主たる債務の時効中断の効力は保証人にも及ぶ(457条1項)。 ← 債権者が主たる債務者に対して請求している間に保証人との関係で時効が完成するのでは、債権者に余りに不利。 |
|||||
規定 | 第457条(主たる債務者について生じた事由の効力) 主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は、保証人に対しても、その効力を生ずる。 2 保証人は、主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる。 |
||||
保証人に生じた事由 | 主たる債務者に影響しない。 | ||||
ex.保証人が債務を承認しても、主たる債務の時効は中断しない。 ⇒主たる債務の時効が先に完成すれば、保証人はこれを援用できる(内田民法Vp349)。 |
|||||
共同保証 | 複数の保証人が、それぞれ単純な保証債務を負担した場合、債務額は保証人の数に応じて分割されるのが原則。(456条) (分別の利益) |
||||
分別の利益のない保証人間で求償が行われる場合、連帯債務者の求償に関する442条〜444条が準用される。(465条1項) 他の保証人に求償が行われることは、弁済額が、自らの負担部分を超えることが必要。 |
|||||
連帯保証 | 意義 | 保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担する旨合意した保証。 | |||
@連帯保証である旨の合意 A主たる債務が、主たる債務者の商行為によって生じたとき B保証が商行為であるとき 〜連帯保証となる。 |
|||||
商法 第511条(多数当事者間の債務の連帯) 数人の者がその一人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は、各自が連帯して負担する。 2 保証人がある場合において、債務が主たる債務者の商行為によって生じたものであるとき、又は保証が商行為であるときは、主たる債務者及び保証人が各別の行為によって債務を負担したときであっても、その債務は、各自が連帯して負担する。 |
|||||
普通の保証との相違点 | ● | 催告・検索の抗弁権がない(法454条) 〜補充性がない。 |
|||
規定 | 民法 第452条(催告の抗弁) 債権者が保証人に債務の履行を請求したときは、保証人は、まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができる。ただし、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、又はその行方が知れないときは、この限りでない。 |
||||
民法 第453条(検索の抗弁) 債権者が前条の規定に従い主たる債務者に催告をした後であっても、保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行が容易であることを証明したときは、債権者は、まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない。 |
|||||
民法 第454条(連帯保証の場合の特則) 保証人は、主たる債務者と連帯して債務を負担したときは、前二条の権利を有しない。 |
|||||
● | ●連帯債務の規定の準用(法458条) | ||||
規定 | 民法 第458条(連帯保証人について生じた事由の効力) 第四百三十四条から第四百四十条までの規定は、主たる債務者が保証人と連帯して債務を負担する場合について準用する。 |
||||
民法 第434条(連帯債務者の一人に対する履行の請求) 連帯債務者の一人に対する履行の請求は、他の連帯債務者に対しても、その効力を生ずる。 |
|||||
説明 | 法458条の趣旨は、債権者に有利な効果を認めることによって、担保としての効力を強めようとしたもの。 but 準用することで意味のある規定は、法434条により、連帯保証人に対する履行の請求の効果が主たる債務者にも及ぶ点くらい(時効の中断の関係で問題)。 |
||||
@裁判外の請求(催告)(民法153条) A裁判上の請求(訴の提起)(民法149条〜152条) |
|||||
連帯債務者の1人に対する訴えの提起は、他の債務者に対しても、裁判上の請求としての中断力をもつ。 1人に対する訴えによって中断された時効が更に進行をはじめるのは、他の債務者に対しても、その裁判の確定した時から(大判昭和13.12.8)。 (我妻 債権総論p414〜) |
|||||
訴訟手続により連帯保証人に対して判決取得⇒連帯保証債務自体の時効期間は10年に伸長(民法174条の2) but 主債務の時効期間は10年に伸長しない。 ←民法174条の2の効力は当事者のみについて生じるにすぎない。 (主債務が10年に伸びた場合、保証人にもそれは及ぶ。) |
|||||
民法 第174条の2(判決で確定した権利の消滅時効) 確定判決によって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。裁判上の和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利についても、同様とする。 2 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。 |
|||||
根保証 | 規定 | 第465条の2(貸金等根保証契約の保証人の責任等) 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であってその債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(保証人が法人であるものを除く。以下「貸金等根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。 2 貸金等根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。 3 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、貸金等根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。 |
|||
民法 第465条の3(貸金等根保証契約の元本確定期日) 貸金等根保証契約において主たる債務の元本の確定すべき期日(以下「元本確定期日」という。)の定めがある場合において、その元本確定期日がその貸金等根保証契約の締結の日から五年を経過する日より後の日と定められているときは、その元本確定期日の定めは、その効力を生じない。 2 貸金等根保証契約において元本確定期日の定めがない場合(前項の規定により元本確定期日の定めがその効力を生じない場合を含む。)には、その元本確定期日は、その貸金等根保証契約の締結の日から三年を経過する日とする。 3 貸金等根保証契約における元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日がその変更をした日から五年を経過する日より後の日となるときは、その元本確定期日の変更は、その効力を生じない。ただし、元本確定期日の前二箇月以内に元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日が変更前の元本確定期日から五年以内の日となるときは、この限りでない。 4 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、貸金等根保証契約における元本確定期日の定め及びその変更(その貸金等根保証契約の締結の日から三年以内の日を元本確定期日とする旨の定め及び元本確定期日より前の日を変更後の元本確定期日とする変更を除く。)について準用する。 |
|||||
民法 第465条の4(貸金等根保証契約の元本の確定事由) 次に掲げる場合には、貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。 一 債権者が、主たる債務者又は保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。ただし、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。 二 主たる債務者又は保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。 三 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。 |
|||||
民法 第465条の5(保証人が法人である貸金等債務の根保証契約の求償権) 保証人が法人である根保証契約であってその主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれるものにおいて、第四百六十五条の二第一項に規定する極度額の定めがないとき、元本確定期日の定めがないとき、又は元本確定期日の定め若しくはその変更が第四百六十五条の三第一項若しくは第三項の規定を適用するとすればその効力を生じないものであるときは、その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権についての保証契約(保証人が法人であるものを除く。)は、その効力を生じない。 |
|||||
2004年(平成16年)民法改正 | @ | @対象の限定: | |||
主たる債務に融資による債務が含まれる根保証で、保証人が自然人であるもの(貸金等根保証契約)を対象とした(法465条の2第1項)。 | |||||
融資による債務のことを民法は「貸金等債務」と呼んでおり、消費貸借及び手形割引による債務が含まれる。 売掛金債務だけが主たる債務となる場合は対象外。 ← 2004年改正が、主として銀行取引などによる債務の個人保証を想定しつつ、保証人を経済的破綻から保護することを目的とした政策立法。 |
|||||
A | A極度額の約定 | ||||
極度額の約定を根保証契約の有効要件とした(法465条の2第2項)。 この約定は書面する必要がある(法465条の2第3項)。 |
|||||
極度額は、主たる債務の元本・利息・違約金・損害賠償その他のほか、保証債務について約定された違約金や損害賠償の額もカバーするものとされている。 | |||||
B | B存続期間 | ||||
根保証契約の存続期間が法定。 | |||||
元本の確定期日の定めがなければ契約締結から3年で元本が確定。 定めをする場合も5年超えることができない。 5年を超える確定期日を定めると、定めがないものと扱われ3年になる(法465条の3。確定期日を延長する場合も5年の制限がかぶる。(同条3項))。 |
|||||
経過措置 | 改正法は施行前に締結された貸金等根保証契約には適用されない ⇒極度額を定めない既存の根保証契約も無効とはならない。 ただし、既存の根保証契約が元本確定期日の定めがない場合は、極度額の定めの有無に関係なく改正法の施行日から起算して3年を経過する日(平成20年3月31日)に自動的に元本が確定するという経過措置が設けられる。 また、極度額の定めがなく、元本確定期日が例えば平成22年4月1日など改正法施行日から起算して3年を経過する日より後の日に定められている場合は、施行日から起算して3年を経過する日(平成20年3月31日)が元本確定期日になる。 改正法の施行前に締結された貸金等根保証契約の保証人は、元本が確定した後の融資については保証債務を負わないことになる。 |
||||
● | 自動更新を認めないという規律は、債権者に多少の不便を忍ばせてでも、保証人委保証契約終了の選択権を与えようとするもの。 | ||||
本当に保証人を保護するには、改正規定程度の規律では足りず、身元保証法の解約権(身元保証法4条)や裁判所の裁量権(同法5条)の明文化が必要という議論もある。 | |||||
求償権の特則 | 主たる債務に貸金等債務を含む法人の根保証契約についても、極度額及び元本確定期日に関する前述の要件を満たさなければ、この法人の主たる債務者に対する求償権についての個人の保証契約は効力を生じない(法465条の5)。 |
債権者取消権 | ||||
規定 | 第424条(詐害行為取消権) 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。 2 前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。 |
|||
第425条(詐害行為の取消しの効果) 前条の規定による取消しは、すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる。 |
||||
第426条(詐害行為取消権の期間の制限) 第四百二十四条の規定による取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から二年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。 |
||||
制度趣旨 | 強制執行の準備段階として、責任財産を保全することを目的とする制度。 | |||
事例 | α | GはSに対して、5000万円の債権を持っているが、多額の借金をかかえたSは、他に見るべき資産もないのに、唯一の財産である甲不動産(時価1億円)を、債権者Aに代物弁済として譲渡した。AはこれをBに転売した。 | ||
β | Gに対して債務を負うSは、執行逃れのために、自己の所有する不動産の登記名義を知人のAに移転した。 | |||
考慮する要素 | @債務者の責任財産を保全する必要性 | |||
A債務者が自己の財産を管理する自由(弁済する自由) | ||||
B受益者・転得者の取引安全 | ||||
虚偽表示との相違 | 詐害行為(α)⇒当事者間で実際に権利が移転する。 虚偽表示(β)⇒登記名義の移転等の外形はあっても、当事者間では権利が移転しない。 |
|||
虚偽表示(β)の場合、Gは、虚偽表示による無効を主張でき、債権者代位権によってAに対して登記名義をSに戻すよう請求できる。 but 虚偽表示として無効な行為は取り消し得ないし、登記法上の行為は法律行為ではないから債権者取消権の目的とならない。(大判明治41.6.20) 虚偽表示について善意の転得者が現れれば、その者との関係では、詐害高地の要件が満たされる限り、取り消し得る。(最高裁昭和6.9.16) |
||||
要件 | 債権者側 | 金銭債権 | 取消権を行使する債権者の債権は金銭債権が想定される。 ←本来の趣旨は責任財産の保全。 |
|
詐害行為がなされた時点で金銭債権である必要はない。 「特定物引渡請求権といえどもその目的物を債務者が処分することにより無視力となった場合には、該特定物債権者は右処分行為を詐害行為として取り消すことができるものと解する。けだし、かかる債権も、究極において損害賠償債権に変じうるのであるから、債務者の一般財産により担保されなければならないことは、金銭債権と同様だからである。」(最高裁) |
||||
債権取得の時期 | 「債権者の行為が詐害行為として債権者による取消の対象となるためには、その行為が右債権者の債権の発生後にされたものであることを必要とする。」 「詐害行為と主張される不動産物権の譲渡行為が債権者の債権成立前になされたものである場合には、たといその登記が右債権成立後にされたときであっても、債権者において取消権を行使する由はない」 |
|||
履行期 | 被保全債権は、履行期が到来している必要はない。 | |||
債務者側 | 無資力 | 「債権者を害する」とは、債務超過(無視力)になること。 | ||
保証債務を負担することは、主たる債務者に十分な資力があれば消極財産として算入されないが、そうでない限り、消極財産として算入される。(大判昭和4.3.14) | ||||
債務超過の要件は、法律行為が行われた時に存在するkとはもちろん、事実審口頭弁論終結時にも存在する必要。 | ||||
財産権を目的と訴る法律行為 | 財産権を目的とせざる法律行為: 典型は家族法上の行為で、婚姻、離婚、養子縁組、相続の承認・放棄等 |
|||
離婚に伴う財産分与(民法768条)について、最高裁昭和58.12.19は、本来は対象とはならないとしつつ、「民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情」があれば、取消の対象となる。 | ||||
有責配偶者の行った過大な慰謝料の合意について、最高裁H12.3.9は、「慰謝料支払の名を借りた金銭の贈与契約ないし対価を欠いた新たな債務負担行為」であるとして、一部取消を肯定した。 | ||||
遺産分割協議は取消の対象となり得る。(最高裁H11.6.11) | ||||
不動産の譲渡についてなされた移転登記について、それ自体は債権者取消権の対象とならない。(最高裁昭和55.1.24) 譲渡通知によって債権移転の効果が生ずるわけではないから、債権譲渡行為自体が詐害行為を構成しない場合に、譲渡通知のみを切り離して取消権の対象とすることは相当ではない。 ← 債権を重ねて譲り受けた者の優劣は、対抗要件の先後で決するのが公平にかなう。 対抗要件だけを取り消しても、取消権の応酬により対抗要件のない債権譲渡ばかりが残っていまい、紛争の抜本的解決につながらない。 |
||||
詐害の意思 | 「債権者を害することを知りて」なされたことが必要とされる。(詐害の意思) | |||
「詐害行為の成立には債務者がその債権者を害することを知って法律行為をしたことを要するが、必ずしも害することを意図もしくは欲してこれをしたことを要しないと解するのが相当である」(最高裁) | ||||
「債務超過の状態にある債務者が、他の債権者を害することを知りながら特定の債権者と通謀し、右債権者だけに優先的に債権の満足を得させる意図のもとに、債務の弁済に代えて第三者に対する自己の債権を譲渡したときは、たとえ譲渡された債権の額が右債権者に対する債務の額を超えない場合であっても、詐害行為として取消の対象になるものと解するのが相当」である。」(最高裁) | ||||
主観的要件は、独立の要件ではなく、行為の詐害生徒の相関で判断される。 行為の詐害性が強い⇒主観的要件は単なる認識でよいし、その認識も、詐害性のある行為がなされたという事実から推定される場合がある。 単なる弁済行為の場合は、それが「通謀」によってなされたことの立証まで必要。 |
||||
行為の「詐害性」とは | 債権者への弁済 | 一部の債権者への弁済について、判例は、原則として詐害行為に当たらないとしつつ、害意(通謀)があれば取り消しうるとしている。 | ||
財産の売却 | 不動産の売却は、価格が不相当であればもちろん詐害行為になるが、相当価格でも詐害行為になりうる(大判明治39.2.5) | |||
抵当権を消滅させるための弁済資金を調達することを目的とした不動産売却は詐害行為にならない。(最高裁昭和41.5.27) | ||||
適正価格での在庫商品の売却も、それが一部の債権者との通謀のもとに行われれば、詐害行為となる。(最高裁昭和39.11.17) | ||||
担保権の設定 | 担保権の設定は、その債権者に優先弁済を得させることだから、詐害行為になる。 | |||
新たに担保を設定して借金をした場合も、それが生活資金や子供の養育費を得るためであれば、詐害行為にならない。(最高裁昭和42.11.9) | ||||
取引先による担保権実行を回避して営業を継続するために、残された唯一の手段として新たに担保を提供する行為は詐害行為にならない。(最高裁昭和44.12.19) |
弁済 | |||||
意義 | 弁済=履行 | ||||
弁済自体に行為能力や意思能力を論ずる必要はない。 | |||||
弁済の充当 | 規定 | 民法 第488条(弁済の充当の指定) 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付がすべての債務を消滅させるのに足りないときは、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。 2 弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。 3 前二項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。 |
|||
民法 第489条(法定充当) 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも前条の規定による弁済の充当の指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。 一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。 二 すべての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。 三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。 四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。 |
|||||
民法 第490条(数個の給付をすべき場合の充当) 一個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、前二条の規定を準用する。 |
|||||
民法 第491条(元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当) 債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。 2 第四百八十九条の規定は、前項の場合について準用する。 |
|||||
●充当の順序 | ●充当の順位 | ||||
(1) | (1)合意による充当 当事者間に充当に関する合意あり⇒それによる。 |
||||
(2) | (2)合意なしの場合:法491条1項が適用 | ||||
@費用⇒A利息⇒B元本の順に充当 | |||||
(3) | (3)費用どうし、利息どうし、元本どうしの順序 | ||||
ex..α債権の利息が10万円、β債権の利息が20万円それぞれ弁済期にあり、利息として20万円支払われたような場合。 | |||||
@債務者から債権者に対する意思表示による指定充当(法488@B) | |||||
A債務者が指定せず⇒債権者が指定(法488AB) | |||||
BAに対して債務者が直ちに異議⇒指定なし | |||||
C指定なし⇒法定充当(法489条) | |||||
(4) | (4)法定充当 (法489条) | ||||
〜債務者の利益を考えた規定。 | |||||
@弁済期にあるものとないもの⇒あるもの(1号) A弁済期にあるもの(ないもの)どうし⇒「債務者のために弁済の利益が多いもの」から(2号) B利益が同じ⇒弁済期の早いものから(3号) Cそれも同じ⇒各債務の額に応じて(4号) |
|||||
「債務者のために弁済の利益が多いもの」 利息付と無利息⇒利息付に 低利率と高利率⇒高利率に 連帯債務と単独債務⇒単独債務に 担保付と無担保⇒担保付に どうしても判断できない⇒利益は同じとして、3号、4号で充当。 |
相殺 | |||||
規定 | 民法 第505条(相殺の要件等) 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。 2 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。 |
||||
民法 第506条(相殺の方法及び効力) 相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。 2 前項の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。 |
|||||
民法 第508条(時効により消滅した債権を自働債権とする相殺) 時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。 |
|||||
民法 第511条(支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止) 支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。 |
|||||
意味 | 自働債権:相殺する側の債権 受働債権:相手方の債権 |
||||
■ | ■2 訴訟上の相殺の法的性質(マニュアル1p698) | ||||
◎ | 訴訟上の相殺は、私法行為か訴訟行為か? | ||||
A:私法行為とし、当該訴訟において裁判所に判断されることを停止条件として、実体上の効果が生ずるとする見解(=条件説)が有力。 ⇒ その意思表示は相手方に対してなされる。 |
|||||
■ | ■3 相殺の抗弁の性質(マニュアル1p698) | ||||
相殺⇒自働債権と受働債権の弁済期がいずれも到来した時(=相殺適状時)に遡って効力を生ずる(民法506条U)。 ⇒相殺の抗弁は、本訴求債権の元本債権を消滅させるとともひ、相殺適状後の利息及び遅延損害金債権の発生を障害させる。 but すでになされた解除や弁済の効力を無効ならしめることはない。 |
|||||
■ | ■4 相殺による消滅する債権の額(マニュアル1p699) | ||||
相殺適状時を基準として、双方の債権額を定め、その対等額において差引計算をする。 既発生の遅延損害金又は利息がある場合、元本よりも先に相殺充当される(民法512条、491条T)。 |
|||||
民法 第512条(相殺の充当) 第四百八十八条から第四百九十一条までの規定は、相殺について準用する。 |
|||||
第491条(元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当) 債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。 2 第四百八十九条の規定は、前項の場合について準用する。 |
|||||
■ | ■5 相殺の抗弁が複数ある場合の先後関係(マニュアル1p699) | ||||
被告は、どの自働債権を先に相殺するかの指定をすることができる(民法512条、488条)。 被告が指定しない場合、原告が指定することができる。 |
|||||
元被告ともに指定せず⇒元本債権相互間で相殺に供し得る状態になるに至った時期が早い順に相殺をする(時期が同一⇒民法489条、491条を準用)。 | |||||
民法 第512条(相殺の充当) 第四百八十八条から第四百九十一条までの規定は、相殺について準用する。 |
|||||
民法 第488条(弁済の充当の指定) 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付がすべての債務を消滅させるのに足りないときは、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。 2 弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。 3 前二項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。 |
|||||
民法 第489条(法定充当) 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも前条の規定による弁済の充当の指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。 一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。 二 すべての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。 三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。 四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。 |
|||||
■ | ■6 他の抗弁との判断順序 | ||||
相殺の抗弁は、その判断に既判力が生じ(民訴114U)、他の抗弁が認められるよりも被告に不利益⇒裁判所は、他の抗弁を排斥した後に、相殺の抗弁について判断すべき。 | |||||
効果 | ● | ●遡及効 | |||
〇 | 相殺適状の時点に遡及 ← 相殺適状が生ずれば、相殺の意思表示をしなくても当事者には相殺に対する期待が生じているから、これを保護すべき。 |
||||
〇 | 自働債権の弁済期が到来した後に、受働債権につき期限の利益を放棄して相殺⇒自働債権の弁済期が基準。 相殺に際し期限の利益を放棄する時期を指定することができると解すれば、その指定した時期が基準(我妻348)。 いずれの場合も、受働債権については弁済期までの利息全額を算入(民法136A但書)。 |
||||
民法 第136条(期限の利益及びその放棄) 期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。 2 期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。 |
|||||
〇 | 自働債権につき一定の事由が生じれば債務者(相殺の相手方)は当然に期限の利益を喪失する特約があるときは、一定の事由が発生した時が基準「。 受働債権の弁済期がすでに到来している場合はもちろん、未到来の場合でも、同時に期限の利益を放棄すればいい。 |
||||
〇 | 相殺適状が生じた後は、相殺によって消滅した債権については約定利息は生じない。 受働債権の消滅した部分について、 @その弁済期が自働債権の弁済期と同時ないし後であるときは遅滞は生じなかったことになり、 Aその弁済期が自働債権の弁済期より先であるときは自働債権の弁済期にその遅滞は終了 ⇒ いずれにしても相殺適状を生じた後は遅延利息(遅延損害金)も生じない。 違約罰についても同様。 |
||||
● | ●遡及効の制限 | ||||
〇 | 相殺の遡及効は、両債権の差引計算の基準となるべき時を示すのみであって、相殺の意思表示前に生じた事実を覆すことはできない。 | ||||
● | ●債務の消滅と相殺の遡及効 | ||||
〇 | 両債権がいったん相殺適状を生じても、相殺の意思表示以前に債権が弁済その他の債権消滅事由によって消滅したときは、もはや相殺することはできない。 ← 相殺は、相殺適状の発生によって当然に行われるのではなく、相殺の意思表示によってはじめてなされる。 |
||||
〇 | 債務者が利息と元本の一部を弁済した後に改めてこれを受働債権として相殺しても、相殺の効果は及ばない(大判大4.2.17)。 | ||||
債務者が相殺適状の存在したがって相殺権の存在を知りながら弁済したときは、相殺権の黙示の放棄があったと構成。 | |||||
債務者が相殺権の存在とくに反対債権の存在を知らずに弁済した場合: @意思表示による相殺の下では相殺適状の存在により当然に債権が消滅するのではないから、弁済は有効な弁済であり不当利得とならない。 A有効な弁済を信頼して受領した債権者の利益は、もし後に相殺が許されるとすると不当に脅かされることになる⇒信義則に照らしても、いったん有効な弁済によって消滅した債権を再び相殺の用に供することはできない。 「けだし、相殺は意思表示によって効力を生ずるものとして法律関係の簡明を期した趣旨にも適合するからである」(我妻351) |
|||||
一般的要件 | 相殺適状 | 相殺をするに適した状態 | |||
@ | 「2人が互いに」債務を負担すること(505条1項本文) | ||||
A | 両債務が「同種の目的」を有すること(505条1項本文) | ||||
B | 両債務が弁済期にあること(505条1項本文) | ||||
受働債権(相手方の債権)の期限の利益は原則として債務者から放棄できる(法136条2項)⇒自働債権(相殺者側の権利)の弁済期が到来していることが必要 | |||||
C | 両債務が性質上相殺を許さないものではないこと(505条1項但書) | ||||
時効と相殺 | 消滅時効にかかった自働債権も、消滅前に相殺適状にあった場合には、債権者は相殺できる(508条)。 ← すでに生じている期待を保護した。 |
||||
相殺予約 | @ | 相殺契約の予約。 相殺契約による相殺の効果が、予約完結権のを持った当事者がこれを行使することにより発生。 |
|||
A | 一定の事由が発生した場合に、意思表示をまたずに、当然に相殺の効力が発生する旨定める場合。(停止条件付相殺予約) 銀行取引でみられる約定。 |
||||
B | 法定相殺が可能な相殺適状の発生を容易にする特約。(準法定相殺) ある一定の事由が生じたとき |
||||
担保的効力 | 実務での相殺予約 | 銀行は、貸付の際に預金債権に債権質を設定させ、かつ、貸付金の返済ができない場合には預金債権と相殺して回収する旨の相殺予約の合意をしていることが多い。 ⇒実質的に、預金債権を担保にして貸し付ける。 |
|||
自働債権の期限の利益喪失約款 ・「破産・民事再生・会社更生手続」等についてはその「申立て」 ・預金債権の「仮差押さえ、保全差押えまたは差押え」についてはその「命令、通知が発せられたとき」 ← 差押えの効力発生は第三債務者への送達時であるから、その直前に期限の利益を喪失するようにしてある。 それと同時に当然相殺されるという特約を入れたり、あるいは相殺の効果を発生させる予約完結権を金融機関に与えておく。 ⇒予約完結権の行使により、相殺適状が生じた時点に遡及して債権・債務が消滅する。 |
|||||
受働債権:銀行は自分の債務についてはいつでも期限の利益を放棄できる。 定期預金の場合、預金者は法136条2項但書の利益を害される相手方に当たるが、その場合でも、期限までの約定利息をつければ期限の利益を放棄できる。(大判唱和9.9.15) |
|||||
昭和45年判決 (無制限説) 差押の場合 |
相殺は「受動債権につきあたかも担保権を有するにも似た地位が与えられるという機能」を果たすことを認め、「この目的および機能は、現在の経済社会において取引の助長にも役立つものであるから、この制度によって保護される当事者の地位は、できるかぎり尊重すべきもの」 ⇒ 法511条を文言通り解釈して、「第三者は、その債権が差押後に取得されたものでない限り、自働債権および受働債権の弁済期の前後を問わず、相殺適状に達しさえすれば、差押後においても、これを自働債権として相殺をなしうる」とのべた。 |
||||
YA間の特約(差押え等の事由があったときに、Aの債務全額の弁済期到来)についても、「契約自由の原則上有効である」として、「差押の時に全部相殺適状が生じた」ことになり、Yの相殺の意思表示は、そん時点に遡って効力を生じる旨判示。 | |||||
債権譲渡の場合 |
第468条(指名債権の譲渡における債務者の抗弁) 債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。この場合において、債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。 2 譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。 |
||||
@A→Y 弁済期10月1日の売掛代金債権 AY→A 弁済期12月1日の債権 @の債権がXに譲渡され、9月1日に譲渡通知がYになされた。 11月1日にAが倒産し、期限の利益喪失によりAの債権の期日が同日到来し、Yは相殺。 |
|||||
上記事例で、最高裁は、昭和45年判決を踏襲し、弁済期の先後を問わず、両債権の弁済期が到来すれば相殺できる旨判示。(最高裁昭和50.12.8) | |||||
転付命令の場合 | @X銀行→A 貸金債権 AA→X銀行 定期預金債権 Aに対して債権を有するYがAのXに対する預金債権を差押、転付命令を得た。(5/1にXに送達) Yは、X銀行から事業資金の貸付を受けていたので、転付命令でえた預金債権(満期5/31)と対等額で相殺する旨の意思表示を6/1にXに行った。 Xは、Yによる預金差押えにりAの貸金債務が期限の利益を失い、貸付契約上の特約により相殺適状が生じたとして6/10にAに対する貸金債権と預金債権を相殺する旨の意思表示をした。 |
||||
Xの相殺は可能 ← 添付命令は債権の差押えが先行するから、差押えの時点で「相殺と差押え」の法理がそのまま妥当する。 |
|||||
Xの相殺とYの相殺の優劣: 原審:Xの相殺とYの相殺の優劣は、相殺適状の先後で決すべき。 Xにとっての相殺適状は、特約によりYの差押えが効力を生ずる直前に生じているが、Yにとっての相殺適状は、差押の後の添付命令を得てから生じている。 ⇒Xの相殺が優先。 |
|||||
最高裁 「相殺適状は、原則として、相殺の意思表示がされたときに現存することを要するのであるから、いったん相殺適状が生じていたとしても、相殺の意思表示がされる前に一方の債権が弁済、代物弁済、更改、相殺等の事由によって消滅していた場合には相殺は許されない(民法508条はその例外規定である)、と解するのが相当である」。そうすると、本件では、Xが相殺の意思表示を行った時点で、すでにXの受働債権がYの相殺により消滅していた可能性がある。そこで、この点を審理し直すため差し戻した。 |
|||||
金融機関の自衛 | 転付命令の効力発生は送達時であるが、送達後も抗告期間が経過するまでその効力が確定しない。(民執法159条5項、160条、10条2項) ⇒たとえ相殺特約を入れていなかった金融機関も、転付命令直後に相殺しておけば保護される。 (金融機関には十分な自衛策がある。) |
売買 | |||||
担保責任 | 規定 | 第401条(種類債権) 債権の目的物を種類のみで指定した場合において、法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する物を給付しなければならない。 2 前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。 |
|||
民法 第570条(売主の瑕疵担保責任) 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。 |
|||||
民法 第566条(地上権等がある場合等における売主の担保責任) 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。 2 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。 3 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。 |
|||||
債務不履行(不特定物)と担保責任 | 比較 | 債務不履行: @過失責任 A解除・損害賠償・完全履行 B10年で時効 |
|||
瑕疵担保責任: @無過失責任 A解除・損害賠償 B1年(瑕疵を知った時から) |
|||||
判例@ | 大判大正14.3.13: 不特定物の売買でも、買主が目的物を受領した場合には401条2項の特定があったといえる⇒特定物を対象とする570条が適用される。 |
||||
民法第401条(種類債権) 債権の目的物を種類のみで指定した場合において、法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する物を給付しなければならない。 2 前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。 |
|||||
判例A | 最高裁昭和36.12.15: 「債権者が瑕疵の存在を認識した上でこれを履行として認容し債務者に対しいわゆる瑕疵担保責任を問うなどの事情が存すれば各別、然らざる限り、債権者は受領後もなお、取替ないし追完の方法による完全なる給付の請求をなす権利を有し、従ってまた、その不完全な給付が債務者の責に帰すべき事由に基づくときは、債務不履行の一場合として、損害賠償請求権および契約解除権をも有する」 |
||||
570条 | 民法第570条(売主の瑕疵担保責任) 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。 |
||||
準用されるのは、 @損害賠償の請求ができること A瑕疵の「ために契約をした目的を達することができないときは」解除ができること B契約の解除や損害賠償の請求は、「買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない」ということ。 |
|||||
隠れた瑕疵 | 隠れた | 「隠れた」とは、取引上要求される一般的な注意では発見できないということを意味する。 | |||
買主には、瑕疵について善意・無過失が要求(判例)。 ←すぐ気がつくような瑕疵は、売買価格に織り込まれているはず。 |
|||||
瑕疵 | 「瑕疵」とは、目的物に何らかの欠陥があること。 | ||||
何が欠陥かは、当該目的物が通常備えるべき品質・性能が基準になるほか、契約の趣旨によって決まる。 契約当事者がどのような品質・性能を予定しているかが重要な基準を提供。 |
|||||
売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては、売買契約締結当時の取引観念を斟酌して判断すべき。 | |||||
期間制限 | 解除や損害賠償の請求は、買主が瑕疵の存在を知ってから1年以内に行使しなければならない。 ← @証拠を得るのが難しくなる。 A履行が完了したものと考えている売主の期待との調整のため。 |
||||
制限の意味 | 最高裁H4.10.20: 570条の準用する566条3項の1年の期間制限は除斥期間。 「損害賠償請求権を保存するには、少なくとも、売主に対し、具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し、請求する損害額の算定の根拠を示すなどして、売主の担保責任を問う意思を明確に告げる必要がある。」 ⇒ Xが「売買目的物の瑕疵を通知した際などに、右の態様により本件損害賠償請求権を行使して、除斥期間内にこれを保存した」といえるかどうかを審理させるため、事件を原審に差し戻した。 |
||||
時効との関係 | 隠れた瑕疵を理由とする損害賠償請求権は、もともと売主の債務不履行から生じた債権。 ⇒目的物の引渡時(権利行使が理論上可能となる時点)から10年の消滅時効に服する。 |
||||
最高裁H13.11.27: 法定責任説の立場から消滅時効の適用はないとした原審を破棄して、 「瑕疵担保による損害賠償請求権は、売買契約に基づき法律上生ずる金銭支払請求権であって、これが民法167条1項にいう「債権」に当たることは明らかである」として、引渡時から10年の消滅時効に服することを明らかにした。 |
|||||
@損害賠償請求権を行使する明確な意思が、瑕疵を知ってから1年の除斥期間内に表明されれば、A損害賠償請求権は引渡時から10年の消滅時効の期間内は行使できる。 | |||||
なお、解除権のような形成権は、除斥期間内に行使されればそれで目的は達成されるから、意思表明による権利の保存は観念できない。 除斥期間内に解除権が行使⇒不当利得返還請求権等の、原状回復のための権利関係が残ることになる。 |
|||||
担保責任と錯誤 | 比較 | 瑕疵担保: @効果は解除・損害賠償 A期間制限は1年 |
|||
錯誤: @効果は無効 A期間制限なし |
|||||
判例 | 当事者の主張に応じて瑕疵担保なり錯誤なりを認めている。 | ||||
内田 | 判例の考えで問題ないが、錯誤主張に期間制限がないのは問題⇒信義則などを使って制限する必要がある。 | ||||
瑕疵担保に関する特約 | 原則 | 瑕疵担保の規定は任意規定⇒異なる特約は可能。 | |||
民法 | 売主が物の瑕疵や権利の瑕疵を知りながら買主に告げなかった場合には、免責特約の効力は否定(民法572条)。 | ||||
第572条(担保責任を負わない旨の特約) 売主は、第五百六十条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。 |
|||||
消費者契約法 | 消費者契約法⇒瑕疵に対する損害賠償責任の全部免除を無効とする。 | ||||
第8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効) 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。 五 消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項 2 前項第五号に掲げる条項については、次に掲げる場合に該当するときは、同項の規定は、適用しない。 一 当該消費者契約において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該事業者が瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合 二 当該消費者と当該事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は当該事業者と他の事業者との間の当該消費者のためにする契約で、当該消費者契約の締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該他の事業者が、当該瑕疵により当該消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い、瑕疵のない物をもってこれに代える責任を負い、又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合 |
|||||
宅地建物取引業法 | 宅地建物取引業者が売主⇒担保責任の期間を「目的物の引渡しの時から2年以上となる特約をする場合を除き、同条(民法570条の準用する566条)に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない」と規定。 (引渡しから2年の期間制限は、民法の「知った時から1年以内」より不利な特約であり得るが、これだけは認められている。) |
||||
第40条(瑕疵担保責任についての特約の制限) 宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物の瑕疵を担保すべき責任に関し、民法(明治二十九年法律第八十九号)第五百七十条において準用する同法第五百六十六条第三項に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から二年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。 2 前項の規定に反する特約は、無効とする。 |
|||||
瑕疵担保と製造物責任 | 医薬品・食品・自動車等の欠陥により、物的・人的損害が生じた場合、不法行為(709条)による損害賠償請求が可能。 製造物責任法による責任追及も可能。 |
||||
瑕疵担保責任の追及の場合: @被告が売主に限られる。(当然にはメーカーの責任追及ができない。) A損害賠償の範囲が人身損害などの拡大損害に及ぶかについてルールが明確でない。 法定責任説⇒信頼利益の賠償に制限される。 契約責任説⇒416条の解釈問題となるが、拡大損害にまで賠償責任が及ぶかどうかについては必ずしも見解の一致がない。 |
|||||
保証書 | 多くの場合、保証書の内容は、一定期間の無償修理などを定めるもの。 その限りでは、一種のサービスを約束するもの(一方的債務負担行為)として拘束力を肯定できる。 |
||||
住宅品質確保促進法 | 「住宅の品質確保の促進等に関する法律」が新築住宅の売買に関する特則を置いている(同法95条) | ||||
特色 | @住宅の「構造耐力上主要な部分」及び「雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるもの」(雨水防止部分)における隠れた瑕疵を対象とする。 | ||||
A瑕疵修補請求権も担保責任の効果に含めた(修補に代わる損害賠償請求も可能) | |||||
B瑕疵担保責任の期間を引渡時から10年間とし、買主に不利な特約を無効とするん面的強行規定とした(20年以内で期間を延長することは可能、同法97条)。 |
使用貸借 | ||||
終了原因 | 規定 | 民法 第597条(借用物の返還の時期) 借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。 2 当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。 3 当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。 |
||
● | ●当事者が返還の時期を定めていないが、契約目的が定められている場合の返還時期 (新版注釈民法15p117) |
|||
名古屋高裁昭和56.12.17:「民法597条2項の使用及び収益の目的は、孟宗藪を耕作してタケノコを採取することのような使用、収益の方法、態様を定める意味の目的ではなく、何のためにそのような使用、収益をさせる(する)のかを明らかにする意味での目的をいう」 ⇒事案は、本条2項にいう目的を定めたものとは認められない。 |
||||
当事者が返還の時期を定めなかった場合⇒借主は、契約に定めた目的に従い使用収益の終わった時点で返還義務を負う。 | ||||
目的に従っての使用収益が終わったか否かについて争い ⇒@契約締結の事情、A目的物が何か、B契約がなされた目的、C契約後にどのくらい期間が経過したか、Dその他諸般の事情を総合考慮して、契約締結後相当期間が経過したときは、借主は使用収益は終わったとみなすべく、本条2項本文は、目的物を無償で「相当期間」貸した場合の規定。 |
||||
契約締結後の事情により、2項本文の「相当期間」よりも早く、使用貸借を終了させるべきだと考えられる場合は2項但書が規定。 但書は、その一場合である「但しそれ以前といえども使用及び収益を為すに足るべき期間を経過したとき」の場合だけを明文に表現。 |
||||
建物の使用貸借では、居住の目的ということが認められないと、返還期限の定めのないとき、貸主は何時でも返還請求できることになる ⇒居住という目的があるものとし、しかしそれは相当の期間無償で使用させるということを規定したのが本条2項本文の趣旨だと解釈すべしという理論。 |
||||
たとえば、建物の使用貸借で居住の目的が認められるときも、 @確定期限や不確定期限の定めあり⇒本条1項 A前記のごとき認定により相当の期間の定めあり⇒本条2項本文の適用のある場合 B契約締結後の事情により2項本文の相当期間より、更に短い相当期間の認定がなされる場合⇒2項但書 |
||||
説明 | 親族関係を基礎とした土地の使用貸借の事例で、38年8か月の経過と人的関係の著しい変化⇒借主がほかに住む場所がなく貸主に土地の使用を必要とする特別の事情がなくても、使用収益をなすに足るべき期間の経過を否定する事情としては不十分(最高裁H11.2.25)。 | |||
返還時期の定めのない使用貸借の貸主・借主間の信頼関係が崩壊して、無償使用させておく理由がなくなった場合にも、2項但書が類推適用され、貸主からの解約が認められている(最高裁昭和42.11.24)。 |
請負 | |||||
危険負担 | 仕事完成可能 | 仕事の目的物に滅失・損傷が生じても、契約の趣旨からして仕事の完成が可能な場合(本来の履行期より完成が遅れる場合を含む) @仕事完成債務は存続する。 A報酬請求権もそのまま。 |
|||
予定外のコストの負担 | 請負人に帰責事由⇒ @仕事完成の債務は当初の契約通り存続。 A履行が遅れたことによる損害があれば、その賠償責任が発生。 |
||||
注文者に帰責事由⇒請負人は注文者の義務違反を理由に損害賠償請求が可能。 | |||||
双方に帰責事由なし⇒ @仕事完成の債務存続A報酬増額請求権なし but 事情変更の原則・信義則の上の協力義務⇒一定の範囲でコストの分担を命じることがあり得る。 |
|||||
仕事完成不能 | 請負人の仕事完成債務は履行不能となって消滅。 | ||||
その後の処理 | 請負人に帰責事由⇒ @履行不能による債務不履行責任を負う。 A請負人の報酬請求権は消滅。 |
||||
注文者に帰責事由⇒ @請負人は報酬請求権を失わない。(民法536A)(出来高に応じた報酬ではなく報酬全額を得られる。) A自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを注文者に償還する必要。(最高裁昭和52.2.22) |
|||||
当事者双方に帰責事由なし⇒ 危険負担の債務者主義が適用されて(民法536@)、報酬請求権も消滅。 |
|||||
瑕疵担保 | 対象 | 隠れた瑕疵に限らない。 | |||
修補請求権 | 相当の期間を定めて修補請求できる。 軽微な瑕疵でその修補に過分の費用を要するときは否定される(民法634@) |
||||
損害賠償請求権 | 瑕疵の修補に代えまたは修補とともに請求できる(民法634A) 損害賠償の支払は未払報酬の支払と同時履行(民法634A後段) |
||||
解除権 | 原則:瑕疵により契約目的を達成できないとき解除できる(法635条)。 | ||||
建物その他の土地の工作物の請負の場合、解除権なし(法635但書)。 ←原状回復(工作物の収去)が請負人にとって多額の費用を要するから。 |
|||||
建築された建物に重大な欠陥があり(耐震強度が極端に不足しているなど)、立て替えるほかないという場合には、「そのような建物を建て替えてこれに要する費用を請負人に負担させることは、契約の履行責任に応じた損害賠償責任を負担させるものであって、請負人にとって苛酷であるともいえないのであるから、建て替えに要する費用相当額の損害賠償請求をすることを認めても、同条但書の規定の趣旨に反するものとはいえない。」(最高裁H14.9.24) | |||||
権利行使期間 | 原則:(法637条) 仕事の目的物の引渡時から1年 引渡を要しない請負は仕事終了時から1年 |
||||
建物その他の土地の工作物の請負の場合 @土地の普通の工作物または地盤の瑕疵については引渡後5年 A石造・土造・れんが造・コンクリート造・金属造そのたこれらに類する構造の工作物については10年 (法638@) 瑕疵によって工作物が滅失・損傷したときは、注文者は滅失・損傷の時から1年以内に瑕疵修補請求や損害賠償請求をする必要(法638A)。 |
|||||
住宅品質確保促進法⇒ 新築住宅の建築請負契約についても、「住宅のうち構造力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるもの」の瑕疵ついにて10年の担保責任を負うこととしている。(94条) |
(準)消費貸借 | |||
消費貸借 | 規定 | 第587条(消費貸借) 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。 |
|
借主の特定 | 借用書の成立に争いのない以上、反対の事情のない限り、借主名義人において同証書っ表示の金員を借り受け・・たものとすべきことは、むしろ実験則の命ずるところである。(大判昭和9.7.7)⇒契約書に署名押印した者が当事者。 | ||
形式上又は名義・名目上の契約当事者と実質上契約当事者が別人であるといわれる場合において、これを分化させた当事者の意図ないし意思が当該契約の法律効果をいずれに帰属させることとするにあるかを判断して、法律上の契約当事者がいずれであるかを決すべきとし、本件では担保提供行為が利益相反行為となる事態を避けようとの配慮によって、Yを借主としたものであるから本件消費貸借契約の法律効果をYに帰属させることにあったとし、Yを借主とした。(東京高裁H59.3.22) | |||
株式会社の代表取締役が代表資格を明示して借用書を差し入れた場合は、代表者個人が当事者である旨の別段の意思表示がない限り、会社が当事者である。(東京高裁昭和51.3.29) | |||
銀行から手形貸付を受けようとした者が、妻が将来店舗改装費用の融資を得ることを希望している旨発言したため、妻の融資実績確保のために妻名義とすることが得策である旨の技能支店長の勧めで妻を借受名義とした場合について借主を夫であるとした事例。(福岡高裁昭和51.11.22) 〜 夫は当初から金員借受けに必要な一切の行為をし借主名義変更後も借主は自分であると考えていたことが認定されていて、契約の効果を同人に帰属させる意思であったと認められる事案。 |
|||
準消費貸借 | 規定 | 第588条(準消費貸借) 消費貸借によらないで金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において、当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは、消費貸借は、これによって成立したものとみなす。 |
|
旧債務との関係 | 旧債務が無効→準消費貸借も無効。 準消費貸借が無効→旧債務は消滅しない。 |
★寄託 | ||||
第657条(寄託) 寄託は、当事者の一方が相手方のために保管をすることを約してある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。 |
||||
第658条(寄託物の使用及び第三者による保管) 受寄者は、寄託者の承諾を得なければ、寄託物を使用し、又は第三者にこれを保管させることができない。 2 第百五条及び第百七条第二項の規定は、受寄者が第三者に寄託物を保管させることができる場合について準用する。 |
||||
● | 第659条(無償受寄者の注意義務) 無報酬で寄託を受けた者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。 |
|||
その者としての普通の注意を用いれば具体的軽過失の責めを免れる。 | ||||
第660条(受寄者の通知義務) 寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し、又は差押え、仮差押え若しくは仮処分をしたときは、受寄者は、遅滞なくその事実を寄託者に通知しなければならない。 |
||||
第661条(寄託者による損害賠償) 寄託者は、寄託物の性質又は瑕疵によって生じた損害を受寄者に賠償しなければならない。ただし、寄託者が過失なくその性質若しくは瑕疵を知らなかったとき、又は受寄者がこれを知っていたときは、この限りでない。 |
||||
● | 第662条(寄託者による返還請求) 当事者が寄託物の返還の時期を定めたときであっても、寄託者は、いつでもその返還を請求することができる。 |
|||
● | 第663条(寄託物の返還の時期) 当事者が寄託物の返還の時期を定めなかったときは、受寄者は、いつでもその返還をすることができる。 2 返還の時期の定めがあるときは、受寄者は、やむを得ない事由がなければ、その期限前に返還をすることができない。 |
|||
第664条(寄託物の返還の場所) 寄託物の返還は、その保管をすべき場所でしなければならない。ただし、受寄者が正当な事由によってその物を保管する場所を変更したときは、その現在の場所で返還をすることができる。 |
||||
第665条(委任の規定の準用) 第六百四十六条から第六百五十条まで(同条第三項を除く。)の規定は、寄託について準用する。 |
||||
第666条(消費寄託) 第五節(消費貸借)の規定は、受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合について準用する。 2 前項において準用する第五百九十一条第一項の規定にかかわらず、前項の契約に返還の時期を定めなかったときは、寄託者は、いつでも返還を請求することができる。 |
★不当利得 | |||
規定 | 民法 第705条(債務の不存在を知ってした弁済) 債務の弁済として給付をした者は、その時において債務の存在しないことを知っていたときは、その給付したものの返還を請求することができない。 |
||
民法 第706条(期限前の弁済) 債務者は、弁済期にない債務の弁済として給付をしたときは、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、債務者が錯誤によってその給付をしたときは、債権者は、これによって得た利益を返還しなければならない。 |
|||
民法 第708条(不法原因給付) 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。 |
|||
原物返還 | 不当利得の返還義務は、それが可能なら原物を返還すべき(通説)。 ← @利得者は利得を保持する根拠を欠くから、原物返還が可能なら利得したもの自体を返還すべき。 A法705条、706条及び不法原因給付の708条は「給付シタルモノ」の変化を命じている。 |
||
方法 | 通常は、占有の回復・登録の抹消等 | ||
代償請求 | 意義 | AがBと売買契約によりう動産を給付で、動産が火災で滅失。 ⇒Bは動産の価値賠償義務を負う。 |
|
AからBに非債弁済、Bが動産の滅失により代償(ex.倉庫に放火したCに対する損害賠償請求権・保険金請求権等を取得) 〜 (不当利得返還)債務の履行が不能となったのと同一の事情により取得したもの(代償)を、利得債務者Bは利得債権者Aに返還すべき。 |
|||
内容 | ●事実による代償: @物の滅失・毀損・徴収による代償、 ex.第三者に対する損害賠償請求権、保険金請求権、公用徴収の補償金等 A権利取得によって得られた代償 ex.取得した債権からの弁済、取得した担保権の実行による換価金等 |
||
●法律行為による代償 ex.受領した物を第三者に売却して得た売得金 |
|||
通説:法律行為による代償は返還請求の対象外 ← 法律行為による代償は原物返還の代わりではなく、利得者の独自の才覚に由来するものであり、これをはく奪するのは不当利得による財貨の回復の守備範囲を超える。 (類型論は価値賠償の内容として、(給付利得に限らず、すべての不当利得類型で)利得移動したものの客観的価値(市場価格)の返還を指示しており、転売代金の返還を認めない。) |
|||
価値賠償 | 価値賠償となる場合 | 給付受領者の故意・過失の有無とは無関係に、原物返還不能によって発生。 | |
●利得の性質から利得自体を返還することが不可能な場合 ex.他人の労務の給付により利得した場合 |
|||
●原物返還が不可能となったとき ex. 給付された有体物が利得者の下で滅失・毀損した場合 利得者が給付目的物を第三者に条として原物返還が不能となったとき 消費した場合 譲渡された債権から弁済を受けたとき |
|||
数口の債務の代物弁済として数筆の土地が給付だれたが、債務の一部が存在しなかった場合には、どの土地が不当利得となるかが特定し得ない⇒価値賠償が指示(大判昭和16.2.19)。 | |||
代替物が給付された場合も同種・同量の代替物の返還ではなく価値賠償となる(通説)。 ←代替物の調達は可能だが、給付受領者に利得の返還以上の義務を課すべきではない。 |
|||
判例は一義的ではない 担保供与した特定の株式が処分⇒価値賠償(大昭和16.10.25) 名板株主の取引員に証拠金として交付した株式を処分された⇒同種の株式の返還を命じる(大判昭和18.12.22)。 |
|||
原物返還か価値賠償かは、返還の時点で決定される。 (訴訟なら口頭弁論終結時) ←不当利得は原物返還が第一義的効果であり、可能か限り原物返還が認められるべき。 |
|||
内容 | 客観的価値 | ||
基準時 | 価値賠償義務の発生時点が算定の基準時 |
★不当利得(内田) | |||
規定 | 第703条(不当利得の返還義務) 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。 |
||
第704条(悪意の受益者の返還義務等) 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。 |
|||
不当利得とは | ● | ●統一的把握: 自然法の思想は、法も数学と同じような体系性を持っていると考える⇒個々の利得返還請求権の背後に、より高次の統一的不当利得法が存在すると考えた。 |
|
かつての通説:我妻説: 不当利得法を「形式的・一般的には正当視される財産的価値の移動が、実質的・相対的には正当視されない場合に、公平の理念に従ってその矛盾の調整を試みようとすること」をその本質とする制度、として統一的に捉えていた。 |
|||
● | ●類型論の台頭 ←もともと多様なケースを含む不当利得法を統一的に捉えることには無理があった。 |
||
代表的2類型 | @給付利得の類型: 外形上有効な、契約その他の法律上の根拠に基づいて財産的利益(財貨)が移転したが、契約が、無効・取消し・解除により効力を失った結果、財貨を取り戻す類型。 |
||
A侵害利得の類型: 外形的に契約関係にない当事者間において、法律上一方当事者に割り当てられている権利を他方が侵害し、権原なく利益を得た場合に、それによって得た利得の返還を求める類型 |
|||
〜解釈論を導く判断基準が両者で異なる。 | |||
● | 契約と不当利得(注釈p367〜) | ||
種々の法分野で、法的効力はもたなくとも、事実上実現された法律関係の性格を一定程度顧慮しつつ、その法律関係の清算がなされていたことが判明。 ただ、法律関係の有効、無効、不存在等の枠組みは、一方がその法律関係の規範内容を100パーセント貫徹するものであり、他方がそれをゼロとして取り扱う両極的な枠組み。 ← 種々の方分野で上に列挙したような取扱いをする場合、あるいはそれを主張する場合、それは一般原則に対する例外的な取扱いであることが強調されてきた。 but 建前通りの、事実上一旦存在した法律関係を完全にゼロとして清算を考えてよい分野は存在しない。 ⇒ (矯正的な)不当利得返還請求権の効果は、「受けたる利益」の返還を本則としつつ、その具体的内容および細部は、法的に有効ではないが財貨移転を基礎づけると事実上考えられていた「表見的法律関係」によって規律されるという、表見的法律関係論。 |
|||
★要件 | ★要件 | ||
概観 | @受益 A損失 B受益と損失の因果関係 C法律上の原因がないこと |
||
■1.受益・損失・因果関係 | |||
■1.受益・損失・因果関係 | 給付利得 | 「受益」 「損失」 〜同一事実の両面で、表裏一体の関係。 ⇒「因果関係」を云々する意味はない。 |
|
占有の不当利得: 日本では、売買契約が取り消されれば所有権は移転しなかったことになる ⇒売主に所有権がある ⇒給付された物の返還を目的とする売主からの不当利得返還請求権の対象は「占有」ということになる。 |
|||
「損失」の有無: 最高裁H17.7.11: Aの預金について相続人BCDのうちBCに対して全額の払戻しをしたE銀行が、Dから法定相続分である3分の1に相当する金額の支払を求められたため、BCに対してDの法定相続分相当額を不当利得として返還請求した。 原審:E銀行がDに現実に弁済するまでEには「損失」が生じていないとしてEの請求を認めなかった。 最高裁: BCに対する払戻が債権の準占有者に対する弁済にもあたらないのであれば、Dは相続した預金債権を失わないから、Eは払戻をしたことによりDの法定相続分相当額の損失を被っている⇒Eの請求を肯定。 最高裁H16.10.26: DはBに対して不当利得を返還請求することも可能。 その場合、Bが、自分に払戻しをしたE銀行には過失があるから払戻しは有効ではなく、したがって預金債権を失ってはいないDには「損失」が発生していないと主張することは、信義誠実の原則に反する。 |
|||
侵害利得 | 他人の物を勝手に使用・消費・処分する場合のように、財産的利益が誰に帰属するかを決めている権利(物権や債権など)を侵害してい利益を得ることにより発生する。 | ||
ex.他人の車を勝手に使う場合。 物権的請求権を補完する役割を果たす。 |
|||
● | ●侵害利得の受益・損失 | ||
侵害利得のおける「受益」: 目的物を使用・消費・処分することによって得た利益 ex.Aの土地をBが無断で耕作して作物を得た場合のBの利益 |
|||
「損失」: むしろ多くの場合、「損失」要件は厳密に不要。 (「通常の使用料相当額」を返還させるとしても、それはそれだけの「損失」が現実に発生したからではない) |
|||
● | ●侵害利得の因果関係 | ||
「因果関係」は当事者の確定という機能を果たす。 | |||
ex.Mは、信用あるYに頼んで、Y名義でA信用金庫から1000万円借りてもらった。その後、A信用金庫に対するYの債務の弁済期が来たので、Mは資産家Xに近づき、有利な投資先があるからといって1000万円をだまし取り、これを使ってA信用金庫に対するYの債務を弁済。 Xは、Yに対して不当利得返還請求権を行使。 |
|||
大審院は、結論としてXの請求を認めなかった。 ←Yの受益とXの損失の間にはMの独立した行為が介在し、「直接の因果関係」がない。 but 第三者が介在する場合でも不当利得返還請求を認めるべき場合もあり、「直接の因果関係」という概念はそのような場合を区別する役割を十分に果たさない。 |
|||
● | ●社会観念上の因果関係 | ||
実質的な問題は、Yの利得をXとの関係でどう評価するかという問題であり、要件でいれば、むしろ「法律上の因果関係」の有無で問題とすべきもの。 ⇒因果関係は社会観念上の因果関係があればよいとして、これを広く認めるとともに、あとは「法律上の原因」で考えていこうとする(通説)。 |
|||
■2.法律上の原因のないこと | |||
■2. 法律上の原因のないこと |
要件論の中心 | 利得に法律上の原因がないこと=利得が「不当だ」ということ。 「1.」での要件は大きな役割を果たしていない⇒「法律上の原因」の要件が要件論の中心的な位置を占めている。 |
|
給付利得 | 財貨の移転を基礎づける法律関係が表見的には存在するように見えた(表見的法律関係)、実は存在していなかったということが、「法律上の原因」がないこと。 | ||
ex. 契約の無効、取消し、解除 不法行為による損害賠償金を支払ったが、不法行為の要件を満たさなかった。 不当利得の不成立。 養子縁組の無効。 遺産分割の無効。 |
|||
侵害利得 | 具体的法律関係が何ら存在しないのに、権原のない人に財貨が移転したことが、侵害利得における「法律上の原因がない」ということ。 | ||
ex. YがXの土地を勝手に占有して貸駐車場として利用 A銀行はC名義の預金通帳と印鑑の所持人であるBに預金の払い戻しをしたがそれはBが盗んだもの。 |
|||
AはBから土地を賃借し、建物を所有していた。借地契約終了後にあたって、Aは建物買取請求権を行使。Bが買取代金を支払わないので、支払がなされるまで土地を理由。Aは買取代金支払までの土地の使用に対して、賃料相当額を不当利得として支払う必要があるか? 賃貸借契約終了⇒Aには何らの占有権限はない⇒Aは占有継続による利得を返還する必要。 たとえ留置権があっても、Aに占有権限がないことに変わらないから、利用による利得は「法律上の原因」(最高裁昭和395.9.20) |
|||
● | ●二重の「法律上の原因」: 財貨の移転を基礎付ける法律関係が、当事者間に複数成立し、それが相互に矛盾する場合。 |
||
XがYに、1000万円の債権の弁済を求める訴訟を起こし、これに勝訴。Yは判決後にXに任意に債務を弁済したところ、Xは確定判決に基づいて強制執行を行い、Yの家財道具を競売して配当を受けた。 〜 執行行為によって形成された法律関係(Xへの配当)と、訴えの目的となった請求権に関する法律関係(任意弁済による債権の消滅)とが矛盾。 執行行為は訴えの目的となった請求権の実現のために存在。 ⇒実体法上の法律関係が優先し、実体法上の請求権の存否が配当に「法律上の原因」があるかどうかを決する。 |
|||
● | ●競合的法律関係: 当事者の数が増え結果、給付不当利得の「法律上の原因」に関するメルクマールが修正される場合 |
||
AはBから本件土地を賃借し、駐車場をとして利用。 BがCに土地を譲渡し、Aの借地権には対抗要件がない。 CはAがなした土地の使用収益について、不当利得の返還請求ができるか? 〜 財貨受益者(A)の法律関係が、その財貨に対して教護する権利を持っている第三者(C)に対抗できるか否かが、不当利得返還義務の成否を決する。 Aが当該期間の賃料をBに支払済みの場合、Aは使用収益の対価を支払っている結果、Aには利得が存在しない。⇒不当利得返還請求権は成立しない。 |
|||
● | ●扶養義務の例 | ||
Xが扶養権利者Pに扶養料を支払っていた事例で、Yとの間で扶養義務の順位をめぐって争い、家裁でYが先順位と定められた。 XはP自身から扶養料を不当利得として取り戻すことはできない。 ←XはPとの関係では扶養義務がある。 XはYに扶養料の償還を請求できる ←先順位の扶養義務者Yは不要を免れることによって、不当に利得を得たことになる。 |
|||
■3.多数当事者の不当利得 | ● | ●三角関係の不当利得 | |
Y(借主)はX(貸主)との間で消費貸借契約を締結し、貸付金は約定に従いBの当座預金口座に振り込まれた。 本件契約締結および振込指示は、暴力団幹部AのYに対する強迫のもとになされたもの。 Xからの貸金返還請求に対して、Yは、Aの強迫を理由に消費貸借契約を取り消す旨の意思表示をした。YはXに貸金相当額を不当利得として返還する義務を負うか? |
|||
最高裁: 「消費貸借契約の借主甲が貸主乙にたいして貸付金を第三者丙に給付するよう求め、乙がこれに従って丙に対して給付を行った後甲が右契約を取り消した場合、乙からの不当利得返還請求に関しては、甲は、特段の事情のない限り、乙の丙に対する右給付に当たり、その価額に相当する利益を受けたものとみるのが相当である。けだし、そのような場合に、・・甲は外見上は利益を受けないようにも見えるけれども、右給付により自分の丙に対する債務が弁済されるなど丙との関係に応じて利益を受け得るのであり、甲と丙との間には事前に何らかの法律上又は事実上の関係が存在するのが通常だからである。」 しかし、本件は「YとBとの間には事前に何らかの法律上又は事実上の関係」がないから、上記「特段の事情」のある場合にあたる。 つまり、3者の関係のうちXY間の契約が取り消され、かつ、YB間法律上・事実上の関係が欠如している場合には、法律上の原因のない利得は、給付を受けたBのもとに発生することを明らかにした。 |
|||
● | ●もう一歩前へ | ||
PがQとの法律関係に基づいてRに給付を行い、その後、Qに対して不当利得の返還を請求するという、3当事者間での不当利得(三者間の不当利得)において、法律上の原因のない利得がどのような基準で判断されるかを概観。 PQ:補償関係 QR:対価関係 |
|||
(1)PがQとの消費貸借に基づき、Qの指示によりQの口座のあるR銀行に金員を給付。 Qが消費貸借契約を取り消す⇒PはQに対する不当利得返還請求権。 |
|||
(2)補償関係だけが欠如(第三者弁済): PがQに対する義務もないのに(補償関係の欠如)QのRに対する債務を弁済。 ⇒PQ間の不当利得の関係。 |
|||
(3)対価関係だけが欠如: Qに対する債務を負っているPが、誤ってRに弁済し、それが債権の準占有者に対する弁済(法478条)として有効となる場合。 ⇒QからRに対する不当利得の館j系。 |
|||
■4.応用事例 | |||
■4.応用事例 | ● | ●結納金返還請求 | |
判例「他日婚姻の成立すべきことを予想し授受する一種の贈与」 vs. 端的に「婚姻不成立を解除条件とする贈与」と考えればいい。 |
|||
● | ●騙取金による弁済 | ||
事案: Aは、詐欺を原因とする不法行為による損害賠償義務をYに負う。 Xの経理課長Bと結託し、BにX名義で銀行から借金させ、これをAが一旦受け取り、自分の事業に一時流用したのちに、Yに対して支払った。 XはYに不当利得返還請求をできるか? |
|||
昭和42年判例: 「丙は、自らに対して乙が負担する債務の弁済として本件金員を善意で受領したのであるから、法律上の原因に基づいてこれを取得したものというべきであり、右金員が・・・乙において甲から騙取したものであるからといって、丙について何ら不当利得の関係を生ずるものではない。」 〜 因果関係の問題として扱うのをやめ、「法律上の原因」を問題とする方向に転換。 義務者の善意・悪意が法律上の原因の有無を決する。 |
|||
昭和49年判決: 因果関係について我妻説を採用し、損失と利得との間に「社会通念上の連結」があればよいとして、これを広く認定。 そのうえで、YがAから金銭を受領するにつき悪意または重大な過失がある場合には、Yの金銭取得は、被騙取者または被横領者であるXに対する関係においては法律上の原因がなく、不当利得となる。 |
|||
不当利得 | |||||
規定 | 第703条(不当利得の返還義務) 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。 |
||||
立証責任 | 「法律上の原因なく」 | 最高裁昭和59.12.21 |
事案: 生命保険契約上の受取人として保険金を受け取ったXが、保険契約者による受取人の変更により保険金受取権者になったと主張するYの執拗な要求により、受け取った保険金を引き渡したのち、民法703条に基づき給付金の返還を請求した。 |
||
規定: 商法 第675条 保険金額ヲ受取ルヘキ者カ第三者ナルトキハ其第三者ハ当然保険契約ノ利益ヲ享受ス但保険契約者カ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ従フ A前項但書ノ規定ニ依リ保険契約者カ保険金額ヲ受取ルヘキ者ヲ指定又ハ変更スル権利ヲ有スル場合ニ於テ其権利ヲ行ハスシテ死亡シタルトキハ保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ権利ハ之ニ因リテ確定ス |
|||||
原審: 保険契約者Aが商法675条2項による保険金受取人の変更権を予め留保していたとの事実について、Yが主張・立証していないから、保険金の受取人の変更の効力を認めることはできない⇒Yの主張を排斥し、Xの請求を認容。 |
|||||
判断: 民法703条の規定に基づき不当利得の返還を請求する者は、利得者が「法律上の原因なくして」当該利得をしたとの事実を主張・立証すべき責任を負っているものと解すべきであるところ、・・・・・ Xは(Yの主張を)争ったことが認められるから、Xは、本件保険契約においてAが保険金受取人の変更権を留保しなかったものであり、また、Aが保険金受取人をXからYに変更する旨の意思表示をしたことはなかった旨を請求の原因事実として主張したものと認めるべきであり、原審としてはこの存否について審理判断すべきであった。 |
|||||
解説: 法律上の原因の欠如の証明は、いわゆる消極的証明に属する。 返還請求者は、法律上の原因を推測させる事情の不存在を証明することによってこの証明を行うことができる。 |
|||||
財貨受領の原因として被請求者(不当利得債務者)が一定の事由を陳述することがあるが、この陳述は積極否認。 この場合、被請求者が陳述する法律上の原因の不成立、無効または消滅の証明に成功すれば、裁判所は法律上の原因の欠如を認定すべき。(返還請求者は、それ以上に、両者の間に給付の基礎となりうる一切の法律関係が存在しなかったことまで証明する必要はない。⇒法律上の原因の欠如の証明は悪魔の証明を要求することにはならない。) |
日常家事に関する法律行為 | |||||
規定 | 民法 第761条(日常の家事に関する債務の連帯責任) 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。 |
||||
意義 | 「日常の家事」:夫婦の共同生活関係から生ずる通常の事務 ex.子の養育や子の教育 |
||||
その具体的な内容・範囲・程度は、当該の夫婦の社会的地位・職業・資産・収入等によって、また、その夫婦が生活する地域の慣習によっても異なる。 | |||||
借財については、さして高額でなくても否定されている。 |
債権法改正 | ||||
損害賠償 (p136) |
債務不履行を理由とする損害賠償 | 規定 | 債権者は、債務者に対し、債務不履行によって生じた損害の賠償を請求することができる。 | |
損害賠償の免責事由 |
規定 | @契約において債務者が引き受けていなかった事由により債務不履行が生じたときには、債務者は損害賠償責任を負わない。 | ||
考え方 | 債務者は、契約により、債権者に対して債務を負担している。 債務者が契約に基づいて負担した債務を履行しなかったとき、債務者は債権者に対して損害賠償責任を負う。 債務不履行をもたらした事態(不履行原因)が契約において想定されず、かつ、想定されるべきものでもなかったときには、債務不履行による損害を債務者に負担させることは、契約の拘束力から正当化できない。 契約のもとで想定されず、かつ、想定されるべきものでもなかった事態から生じるリスクは、当該契約により債務者に分配されていないため、このような損害を債務者に負担させることは契約の拘束力をもっていしては正当化できない。 |
|||
契約上の債権において債務者が債務不履行責任から免責されるかどうかは契約に基づくリスク分配が基準となる。 ⇒免責の枠組みを、「過失」「無過失」から、契約のもとでの履行障害リスクの引受けへと変更した。 |
||||
損害賠償の範囲 | 規定 | @契約に基づき発生した債権において、債権者は、契約締結時に両当事者が債務不履行の結果として予見し、または予見すべきであった損害の賠償を、債務者に対して請求することができる。 A債権者は、契約締結後、債務不履行が生じるまでに債務者が予見し、または予見すべきであった損害についても、債務者がこれを回避するための合理的な措置を講じたのでなければ、債務者に対して、その賠償を請求することができる。 |