シンプラル法律事務所
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論点整理(民法改正(債権関係)中間試案関係)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

民法(債権関係)改正 
★概説            ★概説
  ■改正の基本姿勢 
●コンセンサス主義

全会一致の原則がとられ、異論がある場合は、提案から落とす。 
●ルール化 
可能な限り要件・効果を明確に定めたルールを規定
⇒評価の余地がある文言があるかぎり、適用が不安定になることや濫用のおそれがあること等を理由に明文化が見送られることが少なくなかった。
  ■民法の透明化・・・国民一般にわかりやすいものとする
●現行民法の明文化 
〜判例等により現在適用されている民法の規範を明文化し、民法典から読み取れるようにする。 
●基本原則の明文化 
but
法制執務の方針:「当然のことは書かない」「他の規定から読み取れる場合は書かない」
  ■民法の現代化・・・制定以来の社会・経済の変化への対応を図る
●原告民法の確認・補充 
●現行民法の修正 
   

見送られたもの 
●暴利行為 
甲案:
当事者の一方に著しく過大な利益を得させ、又は相手方に著しく過大な不利益を与える契約は、
相手方の窮迫、経験の不足その他の契約についての合理的な判断を困難とする事情を不当利に利用してされたものであるときに限り、
無効とする。


 
 第17 保証債務 ●1 保証債務の付従性(民法第448条関係)
保証債務の付従性に関する民法第448条の規律を維持した上で,新たに次のような規律を付け加えるものとする。
(1) 主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に減縮された場合には,保証人の負担は,主たる債務の限度に減縮されるものとする。
(2) 主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重された場合には,保証人の負担は,加重されないものとする。
(概要)
本文(1)は,民法第448条の解釈として,保証契約の締結後に主債務の目的又は態様が減縮された場合には,保証人の負担もそれに応じて減縮されるとされている(大連判明治37年12月13日民録10輯1591頁参照)ことから,これを明文化するものである。
本文(2)は,保証契約の締結後に主債務の目的又は態様が加重された場合の処理について,一般的な理解を明文化するものである。
●2 主たる債務者の有する抗弁(民法第457条第2項関係)
民法第457条第2項の規律を次のように改めるものとする。
(1) 保証人は,主たる債務者が主張することができる抗弁をもって債権者に対抗することができるものとする。
(2) 主たる債務者が債権者に対して相殺権,取消権又は解除権を有するときは,これらの権利の行使によって主たる債務者が主たる債務の履行を免れる限度で,保証人は,債権者に対して債務の履行を拒むことができるものとする。
(概要)
主たる債務者が債権者に対して抗弁権を有している場合について,主たる債務者の相殺のみを定めている民法第457条第2項を改め,類似の状況を規律する会社法第581条の表現を参考にして,規律の明確化を図るものである。
本文(1)は,主たる債務者が債権者に対して抗弁権を有している場合全般を対象として,一般的な理解(最判昭和40年9月21日民集19巻6号1542頁参照)を明文化するものであり,会社法第581条第1項に相当する。
本文(2)は,主たる債務者が債権者に対して相殺権を有する場合のほか,取消権又は解除権を有する場合に関する近時の一般的な理解を明文化するものであり,会社法第581条第2項に相当する。 

3 保証人の求償権
●3 保証人の求償権
 (1) 委託を受けた保証人の求償権(民法第459条・第460条関係)
民法第459条及び第460条の規律を基本的に維持した上で,次のように改めるものとする。

ア 民法第459条第1項の規律に付け加えて,保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,主たる債務の期限が到来する前に,弁済その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは,主たる債務者は,主たる債務の期限が到来した後に,債務が消滅した当時に利益を受けた限度で,同項による求償に応ずれば足りるものとする。

イ 民法第460条第3号を削除するものとする。
(概要)
本文アは,委託を受けた保証人が主たる債務の期限の到来前に弁済等をした場合の求償権について,そのような弁済等は委託の趣旨に反するものと評価できることから,委託を受けない保証人の求償権(民法第462条第1項)と同様の規律とするものである。
本文イは,民法第460条第3号の事前求償権の発生事由(債務の弁済期が不確定で,かつ,その最長期をも確定することができない場合において,保証契約の後10年を経過したとき)には,そもそも主たる債務の額すら不明であって事前求償になじむ場面ではないという問題点が指摘されていることから,同号を削除するものである。
(2) 保証人の通知義務
民法第463条の規律を次のように改めるものとする。

ア 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,保証人が弁済その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせる行為をしたにもかかわらず,これを主たる債務者に通知することを怠っている間に,主たる債務者が善意で弁済その他免責のための有償の行為をし,これを保証人に通知したときは,主たる債務者は,自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができるものとする。

イ 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,主たる債務者が弁済その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたにもかかわらず,これを保証人に通知することを怠っている間に,保証人が善意で弁済その他免責のための有償の行為をし,これを主たる債務者に通知したときは,保証人は,自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができるものとする。

ウ 保証人が主たる債務者の委託を受けないで保証をした場合(主たる債務者の意思に反して保証をした場合を除く。)において,保証人が弁済その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせる行為をしたにもかかわらず,これを主たる債務者に通知することを怠っている間に,主たる債務者が善意で弁済その他免責のための有償の行為をしたときは,主たる債務者は,自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができるものとする。
 (概要)
保証人の事前の通知義務(民法第463条第1項による同法第443条第1項前段の準用)は,廃止するものとしている(連帯債務者間の事前の通知義務の廃止について前記第16,4(2)参照)。委託を受けた保証人については,履行を遅滞させてまで主たる債務者
への事前の通知をする義務を課すのは相当ではないという問題点が指摘されており,また,委託を受けない保証人については,主たる債務者が債権者に対抗することのできる事由を有していた場合には,事前の通知をしていたとしてもその事由に係る分の金額については求償をすることができない(同法第462条第1項,第2項)のであるから,これを義務づける意義が乏しいという問題点が指摘されていることを考慮したものである。
その上で,本文アは,委託を受けた保証人と主たる債務者との間の事後の通知義務に関する規律として,先に弁済等をした保証人が事後の通知をする前に,後に弁済等をした主たる債務者が事後の通知をした場合には,主たる債務者は,自己の弁済等を有効とみなすことができるものとしている。委託を受けた保証人に関して,連帯債務者間の事後の通知義務の見直し(前記第16,4(2))と同様の見直しをする趣旨である。

本文イは,委託を受けた保証人がある場合に,先に弁済等をした主たる債務者が事後の通知をする前に,後に弁済等をした保証人が事後の通知をしたときについて,保証人は,自己の弁済等を有効とみなすことができるものとしている。現行の民法第463条第2項に相当するものである。

本文ウは,主たる債務者の委託を受けないが,その意思に反しないで保証をした保証人の事後の通知義務に関して,現行の民法第443条第2項(同法第463条第1項で保証人に準用)の規律を維持するものである。
なお,主たる債務者の意思に反して保証をした保証人については,事後の通知義務を廃止するものとしている。この保証人は,事後の通知をしたとしても,主たる債務者が求償時までに債権者に対抗することのできる事由を有していた場合には,その事由に係る分の金額については求償をすることができない(民法第462条第2項)のであるから,事後の通知を義務づける意義が乏しいという問題点が指摘されていることによる。
●4 連帯保証人に対する履行の請求の効力(民法第458条関係)
連帯保証人に対する履行の請求は,当事者間に別段の合意がある場合を除き,主たる債務者に対してその効力を生じないものとする。

(注)連帯保証人に対する履行の請求が相対的効力事由であることを原則としつつ,主たる債務者と連帯保証人との間に協働関係がある場合に限りこれを絶対的効力事由とするという考え方がある。
(概要)
民法第458条は,連帯債務者の一人について生じた事由の効力が他の連帯債務者にも及ぶかどうかに関する同法第434条から第440条までの規定を連帯保証に準用しているが,主債務者について生じた事由の効力に関しては,保証債務の付従性によって保証人にも及ぶことから,同法第458条の規定は,専ら連帯保証人について生じた事由の効力が主債務者にも及ぶかどうかに関するものと解されている。そして,連帯保証人に対する履行の請求の効力が主たる債務者にも及ぶこと(同法第458条,第434条)に対しては,連帯保証人は主たる債務者の関与なしに出現し得るのであるから,主たる債務者に不測の損害を与えかねないという問題点が指摘されている。そこで,当事者間に別段の合意がない場合には,連帯保証人に対する履行の請求は,主たる債務者に対してその効力を生じないものとしている。この点に関しては,相対的効力事由であることを原則としつつ,連帯保証人と主たる債務者との間に請求を受けたことの連絡を期待できるような協働関係がある場合に限り絶対的効力事由とする旨の規定に改めるという考え方があり,これを(注)で取り上げている。なお,連帯債務に関する民法第434条についても,以上と同
様の見直しが検討されている(前記第16,3(1))。

5 根保証
●5 根保証
(1) 民法第465条の2(極度額)及び第465条の4(元本確定事由)の規律の適用範囲を拡大し,保証人が個人である根保証契約一般に適用するものとする。
(2) 民法第465条の3(元本確定期日)の規律の適用範囲を上記(1)と同様に拡大するかどうかについて,引き続き検討する。
(3) 一定の特別な事情がある場合に根保証契約の保証人が主たる債務の元本の確定を請求することができるものとするかどうかについて,引き続き検討する。
 (概要)
本文(1)は,現在は貸金等根保証契約のみを対象としている民法第465条の2(極度額)と同法第465条の4(元本確定事由)の規律について,その適用範囲を拡大し,主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれないものにまで及ぼすものである。根保証契約を締結する個人にとって,その責任の上限を予測可能なものとすること(極度額)や,契約締結後に著しい事情変更に該当すると考えられる定型的な事由が生じた場合に,その責任の拡大を防止すべきこと(元本確定事由)は,貸金等債務が含まれない根保証にも一般に当てはまる要請であると考えられるからである。

本文(2)は,民法第465条の3(元本確定期日)の規律の適用範囲の拡大について,引き続き検討すべき課題として取り上げるものである。元本確定期日の規律については,例えば,建物賃貸借の保証に関して,賃貸借契約が自動更新されるなどして継続しているのに根保証契約のみが終了するのは妥当でないなどの指摘があることから,仮に元本確定期日の規律の適用範囲を拡大するとしても,一定の例外を設ける必要性の有無及び例外を設ける場合の基準等について,更に検討を進める必要があるからである。

なお,民法第465条の5(求償権の保証)については,本文(1)(2)の検討を踏まえた所要の見直しを行うことになると考えられる。

本文(3)は,主債務者と保証人との関係,債権者と主債務者との関係(取引態様),主債務者の資産状態に著しい事情の変更があった場合など,一定の特別な事情がある場合に根保証契約の保証人が主たる債務の元本の確定を請求する権利(いわゆる特別解約権)を有する旨の規定を設けるかどうかについて,引き続き検討すべき課題として取り上げるものである。後記6の検討課題とも関連するが,仮に特別解約権に関する規定を設ける必要があるとされた場合には,その具体的な要件の定め方について,更に検討を進める必要があるからである。

6 保証人保護の方策の拡充
●6 保証人保護の方策の拡充
 (1) 個人保証の制限
次に掲げる保証契約は,保証人が主たる債務者の[いわゆる経営者]であるものを除き,無効とするかどうかについて,引き続き検討する。

ア 主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(貸金等債務)が含まれる根保証契約であって,保証人が個人であるもの

債務者が事業者である貸金等債務を主たる債務とする保証契約であって,保証人が個人であるもの
 (概要)
保証契約は,不動産等の物的担保の対象となる財産を持たない債務者が自己の信用を補う手段として,実務上重要な意義を有しているが,その一方で,個人の保証人が必ずしも想定していなかった多額の保証債務の履行を求められ,生活の破綻に追い込まれるような事例が後を絶たないことから,原則として個人保証を無効とする規定を設けるべきであるなどの考え方が示されている。これを踏まえ,民法第465条の2第1項にいう貸金等根保証契約(本文ア)と,事業者の貸金等債務(同項参照)を主たる債務とする個人の保証契約(本文イ)を適用対象として個人保証を原則的に無効とした上で,いわゆる経営者保証をその対象範囲から除外するという案について,引き続き検討すべき課題として取り上げている。

適用対象とする保証契約の範囲がアとイに掲げるものでよいかどうか(例えば,イに関しては,債務者が事業者である債務一般を主たる債務とする保証契約であって,保証人が個人であるものにその範囲を拡大すべきであるという意見がある。),除外すべき「経営者」をどのように定義するか等について,更に検討を進める必要がある。
(2) 契約締結時の説明義務,情報提供義務

事業者である債権者が,個人を保証人とする保証契約を締結しようとする場合には,保証人に対し,次のような事項を説明しなければならないものとし,債権者がこれを怠ったときは,保証人がその保証契約を取り消すことができるものとするかどうかについて,引き続き検討する。

ア 保証人は主たる債務者がその債務を履行しないときにその履行をする責任を負うこと。
イ 連帯保証である場合には,連帯保証人は催告の抗弁,検索の抗弁及び分別の利益を有しないこと。
ウ 主たる債務の内容(元本の額,利息・損害金の内容,条件・期限の定め等)
エ 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合には,主たる債務者の[信用状況]
 (概要)
契約締結時の説明義務・情報提供義務に関する規定を設けることについて,引き続き検討すべき課題として取り上げたものであり,前記(1)の検討結果を踏まえた上で,更に検討を進める必要がある。

取り分け主たる債務者の「信用状況」(本文エ)に関しては,債権者が主たる債務者の信用状況を把握しているとは限らず,仮に把握していたとしても企業秘密に当たるという意見がある一方で,契約締結時に債権者が知っているか,又は容易に知ることができた主たる債務者の財産状態(資産,収入等)や,主たる債務者が債務を履行することができなくなるおそれに関する事実(弁済計画等)を説明の対象とすることを提案する意見があったことなどを踏まえて,説明すべき要件とその具体的内容等について,更に検討する必要がある。
(3) 主たる債務の履行状況に関する情報提供義務

事業者である債権者が,個人を保証人とする保証契約を締結した場合には,保証人に対し,以下のような説明義務を負うものとし,債権者がこれを怠ったときは,その義務を怠っている間に発生した遅延損害金に係る保証債務の履行を請求することができないものとするかどうかについて,引き続き検討する。

ア 債権者は,保証人から照会があったときは,保証人に対し,遅滞なく主たる債務の残額[その他の履行の状況]を通知しなければならないものとする。
イ 債権者は,主たる債務の履行が遅延したときは,保証人に対し,遅滞なくその事実を通知しなければならないものとする。
(概要)
主債務についての期限の利益の喪失を回避する機会を保証人に付与するために,主債務者の返済状況を保証人に通知することを債権者に義務付ける等の方策について,引き続き検討すべき課題として取り上げたものである。前記(1)の検討結果を踏まえた上で,主たる債務者の履行状況などに関して説明すべき要件とその具体的内容等について,更に検討を進める必要がある。
(4) その他の方策

保証人が個人である場合におけるその責任制限の方策として,次のような制度を設けるかどうかについて,引き続き検討する。

ア 裁判所は,主たる債務の内容,保証契約の締結に至る経緯やその後の経過,保証期間,保証人の支払能力その他一切の事情を考慮して,保証債務の額を減免することができるものとする。
イ 保証契約を締結した当時における保証債務の内容がその当時における保証人の財産・収入に照らして過大であったときは,債権者は,保証債務の履行を請求する時点におけるその内容がその時点における保証人の財産・収入に照らして過大でないときを除き,保証人に対し,保証債務の[過大な部分の]履行を請求することができないものとする。
(概要)

保証契約については,特に情義に基づいて行われる場合には,保証人が保証の意味・内容を十分に理解したとしても,その締結を拒むことができない事態が生じ得ることが指摘されており,保証人が個人である場合におけるその責任制限の方策を採用すべきであるとの考え方が示されている。

これについての立法提案として,本文アでは身元保証に関する法律第5条の規定を参考にした保証債務の減免に関するものを取り上げている。これは,保証債務履行請求訴訟における認容額の認定の場面で機能することが想定されている。

本文イではいわゆる比例原則に関するものを取り上げている。これらの方策は,個人保証の制限の対象からいわゆる経営者保証を除外した場合(前記(1)参照)における経営者保証人の保護の方策として機能することが想定されるものである。もっとも,以上については,前記(1)の検討結果を踏まえる必要があるほか,それぞれの具体的な制度設計と判断基準等について,更に検討を進める必要がある。