論点整理（労働関係・・事案別）

シンプラル法律事務所
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論点整理（労働関係・・事案別）

序章　基本的用語、概念の説明
◆		◆１　はじめに
◆		◆２　訴訟物
◆		◆３　請求の趣旨
◆		◆４　要件事実
◆		◆５　請求原因、抗弁、再抗弁
◆		◆６　規範的要件
◆		◆７　主張責任と立証（証明）責任
◆		◆８　ブロックダイアグラム

第１章　地位確認請求事件（解雇一般）
◆		◆１　要件事実等
◇		◇１　訴訟物


◇		◇１０　懲戒解雇の有効要件
■		■(1)
		懲戒解雇：企業秩序の違反に対し、使用者によって課せられる一種の制裁罰として、使用者が有する懲戒権の発動により行われるもの。
■		■(2)
		労働者は、雇用契約を締結したことによって当然に企業秩序遵守義務を負う。企業秩序遵守義務違反に対する懲戒権は就業規則に懲戒事由及び手段を明定して初めて行使し得る（判例、通説）。 ⇒ 使用者としては、抗弁として ①就業規則の懲戒事由の定め ②懲戒事由に該当する事実の存在 ③懲戒解雇をしたことを主張立証すべき。解雇予告をせずに解雇した場合において、労基法２０条１項ただし書の「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」とは、解雇予告制度により労働者を保護するに値しないほどの重大又は悪質な義務違反ないし背信行為が労働者に存する場合であって、企業内における懲戒解雇事由とは必ずしも一致しない ⇒ 抗弁として ④予告期間の経過又は解雇予告の除外自由の存在を主張立証する必要。
■		■(3)
		判例⇒労働契約法は１５条において「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」
		懲戒処分が有効となるためには、使用者が労働者を懲戒することができる場合でなくてならないところ、最高裁によれば、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要するとされており、当該就業規則が法的規範として拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続がとられていることを要する。
■		■(4)
		最高裁：懲戒当時使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものではないことが明らか⇒その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠づけることはできない。 ⇒ 使用者側が懲戒当時認識していなかった非違行為を主張しても、主張自体失当。
■		■(5)
		最高裁：暴行、暴言、業務妨害事件から７年以上経過した後になされた諭旨退職処分は、仮にそのとおりの暴行等の事実が存在すると仮定しても、処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、権利の濫用として無効。～懲戒解雇事由が発生後、長期間経過後、懲戒解雇することは許されない。
■		■(6)
		労契法１５条：「当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」 ⇒ 労働者は、再抗弁として、懲戒権濫用の評価根拠事実を主張することができる。



◆		◆２　典型的な争点
◆		◆３　早期に確定すべき基本的な事実関係
◆		◆４　早期に提出されるべき基本的な書証
◆		◆５　関連書式

第１章　地位確認請求事件（解雇一般）
解雇一般	訴訟物			雇用（労働）契約上の権利を有する地位
	請求の趣旨	地位確認		「原告が、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。」
				×「解雇が無効であることを確認する。」 ← 過去の法律行為の効力は、法人の理事会の決議等のように多数の第三者を巻き込んで複雑な法律関係を生じさせ、その効力の確認の実益があるものではない限り、確認の利益はない。解雇は、このような場合に当たらず、現在の法律関係の確認をすれば足りる。
		賃金支払		賃金：「被告は、原告に対し、○○円（ＭＫＡ未払分）及び平成○年○月○日から本判決確定の日まで、毎月○日限り月額○万円の割合による金員並びにこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年６分の割合による金員を支払え。」
				賞与：「被告は、原告に対し、平成○年○月○日から本判決確定の日まで、毎年６月○日限り、○万○円、毎月１２月○日限り○万○円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払い済みまで年６分の割合による金員を支払え。」
		賃金		通勤手当・残業手当のように実額補償のものは請求できない。 ×時間外手当及び精勤手当 ○管理職手当、家族手当など、特に留保なく毎月支払われる手当 ○審査手続を経ずに支給されていた皆勤手当
		賞与		賞与請求が認められるのは、就業規則等で算定方法が具体的に定まっている場合など、具体的な権利性が認められる場合に限られる。認めた例として、東京地裁H18.11.29
				賞与が使用者の考査査定を経るものである場合、査定が行われなければ、具体的な賞与請求権は発生しないとして、賞与請求を認めない裁判例が多い。（東京地裁H7.12.25）ただし、慰謝料請求で考慮等（裁判法体系21ｐ５８）
		解雇後の賃金支払		民訴法　第135条（将来の給付の訴え）将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる。
				解雇後の賃金の支払を請求する場合、終期を記載しないまま請求する例がある。ｂｕｔ雇用契約上の地位を確認する判決が確定した場合に、その後の知慇懃について、将来請求の要件である、「あらかじめその請求をする必要」（民訴法１３５条）があるか否かは問題。
				地位確認の判決確定後もなお賃金の支払がされない特段の事情が存しない限り、本判決確定日の後に履行期が到来する賃金の支払を請求する部分は、あらかじめその請求をする必要があるとはいえず、訴えの利益を欠くものとして却下すべきとした裁判例。
	請求原因			①雇用契約の締結 ②使用者による雇用契約終了の主張
		①		雇用契約の本質は、労働力の提供とこれに対する一定の報酬の支払の約束 ⇒ 雇用契約時の賃金額は雇用契約の本質的要素として請求原因事実。ｂｕｔ実務上、地位確認請求は、解雇後の賃金請求と併合されてい提起されるのが通常 ⇒解雇時の賃金額が主張されていれば、ほとんどの事案で支障はない。
				「雇用契約における期間の定めの有無」は不要。 ←期間の定めは雇用契約の本質的な要素とはいえない。
		確認の利益		雇用契約上の地位の確認を求める労働者は、訴訟要件として確認の利益があるあることの主張立証をすべき。＝通常は、②「使用者による雇用契約終了の主張」
				解雇後の賃金請求と併合～賃金請求の請求原因である「請求に対応する期間の労務遂行が不能となったこと」「履行不能が使用者の責に帰すべき事由によること」に該当する具体的事実として、「解雇されたこと」が請求原因事実として主張。
				賃金請求に対応する期間の労働遂行不能の原因が解雇によることを明示する必要がある⇒ 「賃金の締日、支払日」の主張とともに、使用者の解雇の意思表示及び解雇の効果発生時期についての時的主張が必要不可欠。「○年○月○日、被告は、原告に対し、原告を○年○月○日をもって解雇する旨の意思表示をした。」
		解雇の無効原因の主張		地位確認の請求原因： ①雇用契約の締結 ②使用者による雇用契約終了の主張で足りる。
				解雇は、使用者の労働者に対する雇用契約を一方的に終了させる旨の意思表示 ⇒使用者は、抗弁として「解雇したこと」を主張立証すべき。
				ｂｕｔ実務上は、地位確認の訴訟要件又は賃金請求の請求原因として「解雇されたこと」が訴状において主張されることが多い。 ⇒ 解雇の抗弁に対する際抗弁である解雇の無効原因を訴状段階から主張する必要が生じる。
	懲戒解雇の有効要件			解雇には ①懲戒解雇と②普通解雇があり、 ②普通解雇が民法627条１項に基づく解雇であるのに対し ①懲戒解雇は、企業秩序の違反に対し、使用者によって課せられる一種の制裁罰として、使用者が有する懲戒権の発動により行われるもの。
				労働者は雇用契約を締結したことによって当然に企業秩序遵守義務を負うが、企業秩序遵守義務違反に対する懲戒権は就業規則に懲戒事由及び手段を明定して初めて行使し得る（最高裁昭和54.10.30）。 ⇒ 懲戒解雇の有効性を立証する使用者としては、抗弁として、 ①就業規則の懲戒事由を定め、 ②懲戒事由に該当する事実の存在 ③懲戒解雇をしたことを主張立証すべき。また、解雇予告をなさずに解雇した場合、労基法２０条１項但書の「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」とは、解雇予告制度により労働者を保護するに値しないほど重大又は悪質な義務違反ないし背信行為が労働者に存する場合であって、企業内における懲戒解雇事由とは必ずしも一致しない。 ⇒ 抗弁として ④予告期間の経過又は解雇予告の除外事由の存在を主張立証する必要。
				労基法　第20条（解雇の予告）使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。 ②前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
				最高裁H15.10.10：使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要するとされており、当該就業規範が法的規範として拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業所の労働者に周知させる手続がとられていることを要する。
				最高裁H8.9.26: 懲戒当時使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものではないことが明らか⇒その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠づけることはできない。 ⇒懲戒当時使用者が認識していなかった非違行為を主張しても、主張自体失当。（「認識していなかった非違行為」は｢理由｣として表示しなかった非違行為」と言うべき。菅野）「特段の事情ある場合」とは、懲戒理由とされた非違行為と密接に関連した同種の非違行為の場合などを指すのであろう（菅野）。
				最高裁H18.10.6：暴行、傷害、暴言、業務妨害事件から７年以上経過した後になされた諭旨退職処分は、仮にそのとおりの暴行等の事実が存在すると仮定しても、処分当時において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、権利の濫用として無効。～懲戒解雇事由が発生後、長期間経過後、懲戒解雇することは許されない。
				最高裁昭和58.9.16：「使用者の懲戒権の行使は、当該具体的事情の下において、それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合に初めて権利の濫用として無効となると解するのが相当である。」 ⇒ 労働者は、再抗弁として、解雇権濫用の評価根拠事実を主張することができる。
	賃金支払請求権			解雇無効⇒解雇によって就労を拒否されていた期間についての賃金を請求できる根拠については、債権者である使用者の責に帰すべき事由による就労債務の履行不能であるとして、民法536条2項本文により賃金請求権を失わない。（最高裁昭和37.7.20）
				第536条（債務者の危険負担等）前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。 2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
				解雇期間中の賃金として請求できる金額は、当該労働者が解雇されなかったならば雇用契約上確実に支給されたであろう賃金の合計額。原則として、解雇当時の基本給等を基本に算定される。
		各種手当		実費補償的な性質のものは請求できない。
				時間外手当⇒時間外勤務を明示されて現実に所定時間就労した場合に発生⇒請求できない。
		賞与・一時金		就業規則上、人事考課ないし成績査定によって初めて具体的権利として生じる ⇒就業規則等において支給日又は基準日が定められ、対象期間中に就労したというだけではその支払請求権の発生原因事実を主張し尽くしたとはいえない。
				労使交渉又は使用者の決定により算定基準・方法が定められているほか、これに従った査定がされたことまで主張立証する必要がある。 ⇒解雇期間中の賞与・一時金の請求の認容は困難。
			裁判例	一般従業員の査定配分額をもって支払を認めるもの（大阪地裁昭和47.3.17）
				被上告人が平均査定配分額の限度で上告人による査定を受けとったものとして取り扱われるべき（最高裁昭和53.7.18）。
				最低査定額をもって支払を認めるもの（大阪地裁昭和49.3.6）。
				査定が形式的であるとか、定額・対立の支払実績があることをもって支払を認めるもの、。期末手当及び勤勉手当の一部が使用者の査定に服すべきものであるとしても、使用者は慣行的にに上記査定権を行使しないこととしていたとして、労働者側に就業規則所定の支給率による上記各手当請求権を認めた事例（唱和60.2.26）。年間皆勤手当が定額であり、該当者に対しては特段の審査手続を経ずに例外なく支給されてきた⇒使用者は上記手当の支給を拒否することができない（東京地裁H７．６．１９）。
		中間収入の控除		解雇された労働者に解雇期間中の中間収入がある場合～その収入があったのと同時期の解雇期間中の賃金のうち、同時期の平均賃金の６割（労基法26条）を超える部分についてのみ、控除の対象となる（最高裁昭和62.4.2）。
				第26条（休業手当）使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

第９章　保全命令
仮差押
仮の地位を定める仮処分	意義			解雇された労働者が、解雇が無効であるとしてその効力を争う場合に申請される仮処分： ①労働者たる申請人が使用者たる被申請人に対し雇用契約上の地位を有することを仮に定める旨の地位保全仮処分 ②賃金の仮払いを命ずる内容の賃金仮払いの仮処分
				①は、強制執行（保全執行）を予定しないいわゆる「任意の履行を期待する仮処分」としての性格 ②は、強制執行（保全執行）によりその内容実現できる「満足的仮処分」としての性格
	申立ての趣旨
	被保全権利

	保全の必要性	●		●一般的判断基準
				民事保全法　第23条（仮処分命令の必要性等）　 2 仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。
				仮処分によって債権者が受ける利益と仮処分によって債務者が被る不利益を比較考慮して、被保全権利が疎明の段階であっても、仮処分を発令しないことによって生ずる債権者の不利益が著しく大きいと認められるときに保全の必要性が存在する。～仮差押と異なり、債権者側の事情も検討。
		●		●雇用契約上の地位保全の仮処分
				労働者側からの申立てであり、賃金を生活のかてとしている労働者が解雇によって被る著しい生活上の危険を防ぐことを主たる目的とするもの ⇒ 他からの収入の有無、再就職の難易、従業員としての地位がないことによる著しい不利益（社員寮の利用、社会保険の被保険者として取り扱われる利益等の喪失）等が考慮の対象となり、地位保全を認めることによって使用者が被る不利益（企業秩序の混乱等）と比較衡量。
				地位保全の仮処分は、いわゆる「任意の履行に期待する仮処分」であり、また、賃金等の金員仮払いの仮処分と併せて申し立てられる場合がほとんどであるところ、その保全すべき利益の中核は賃金の支払。 ⇒ 特段の事情がない限り、賃金仮払いの仮処分の他に地位保全の仮処分を認める必要性はないとするのが通常。ｂｕｔ任意の履行に期待する仮処分も適法であり、保全の必要性がある限り認容すべきものと考えられている。
				裁判が告知又は送達されれば、従業員としての地位が仮に形成され、強制執行による実現を予定していない。（債務者が行うべき命令の具体的内容が不明確⇒強制執行を行うことは不可能）裁判を受けた債務者がそれを尊重して、従業員として処遇するときにのみ原辞t具に効果を発揮する。
				不適法説：債務者が任意に履行しない場合の強制力がなく、実効が期し難い。裁判所は法的救済を求められているのであるから「任意の履行に期待する仮処分」のような中途半端な仮処分を行うべきではあく、仮処分申立は不適法。ｂｕｔ仮処分の裁判が出ることによって、債務者がこれを尊重して任意に履行するなど自主的な解決が期待できるので、保全目的は一応達せられることができると考えられ、実務一般では認められている。
				MKA：普通の労働者は賃金がもらえればいい。教授は・・・それ自体に価値がある。
				最近の決定例では、特段の事情がない限り、賃金仮払いの仮処分のほかに地位保全の仮処分を認める必要性はないとするものが多い。 ⇒ 単に賃金を仮払いさせる必要性を疎明するだけではなく、可能であれば具体的に賃金仮払いの仮処分によっては保全されない雇用契約上の権利又は利益が存在し、それらの権利又は利益を享受できないために著しい損害を受けるおそれがあることを主張・疎明することが必要。
			○	○特段の事情に基づくj例外を認めた決定例
				雇用契約上の地位保全が国内滞在の要件となる外国人（英語教師）の場合に認めたもの（アサヒ三教事件：東京地裁昭和62.1.26）
				北陸大学事件（金沢地裁H19.8.10）債権者らは、北陸大学の教授の職にあり、その地位に照らせば、教授として講義等を担当したり、研究活動を行うことは、単なる雇用契約上の債務者に対する労務の提供にとどまらず債務者が保障すべき雇用契約上の権利又は利益に関し、著しい損害又は急迫の危険が生じるというべきであるから、仮の地位保全の必要性が認められる。
				確かに、債権者らの仮の地位保全の申立てが認容されたからといって、それ自体は直接強制執行力がなく、それにより債権者らが直ちに現実に講義等を担当したり、北陸大学の諸施設を確実に利用することができることにはならないとしても、前記申立ての認容決定は、債務者に対して、解雇の意思表示のなかった状態における包括的地位を仮定的に形成する効果を生じ、前記権利又は利益を有する債権者に少なくとも図書館や研究室を利用させることなどを事実上強制する効果が認められるし、第三者に対しても、債権者らが北陸大学教授の地位にあることを前提にした研究発表活動を行うことが可能になるのであり、前記権利又は利益を有する債権者らの地位に鑑みれば、仮の地位の保全を認めなければ、債権者らの前記権利又は利益に関し著しい損害又は急迫の危険が生じるというべきであるから、前記申立てについて保全の必要性が認められる。
				派遣労働者が派遣先会社による労働者派遣契約解除を理由として行った期間途中の解雇について、賃金及び労働契約上の権利を有する地位につき保全の必要性が認められたワークプライス事件（福井地裁H21.7.23）。
		●		●賃金等の金員仮払いの仮処分
				賃金の支払がなされない結果、労働者及びその家族らの生活が危機に瀕して本案判決の確定を待てない状態に至り、又はそのおそれがある場合に、この状態を一時的に救済することを目的とするもの ⇒ 生活が困窮し、回復しがたい損害を被るおそれがあるか否かという観点から、他からの固定収入の有無等が考慮の対象となり、仮払いを認めることによって使用者が被る不利益（経済的負担）と比較考量。
				相当程度の固定収入や相当高額の預貯金がある場合には、保全の必要性が否定されたり、仮払金額が減じられたりすることがある。
				保全の必要性に関する流動的要素が多い ⇒ 仮払いを認める期間について、解雇後１年又は仮払発令後１年間程度とするものがある。これに対し、本案訴訟の第１審判決の言渡しまでとする例もある。
	発令			地位保全仮処分及び賃金等の仮払い仮処分は、ほとんどの決定例が無担保でされている。

第１１章　労働審判事件（第３版　ｐ１９５）
◆			◆Ⅰ　制度の概要
■			■１　目的・特徴
			個別的労働関係に関する紛争の増加傾向に対処⇒このような紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的に制定された非訟事件手続（労働審判法１条）。
			裁判官である労働審判員１名及び労働関係に関する専門的知識経験を有する労働審判員２名で組織する労働審判委員会が事件を審理。原則として３回以内の期日において、調停による解決を試みつつ、調停ができない場合には、当事者間の権利関係を踏まえて事案の実情に即した解決をするために必要な審判を行う。
■			■２　労働審判員
■			■３　審判の対象
			第１条（目的）この法律は、労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争（以下「個別労働関係民事紛争」という。）に関し、裁判所において、裁判官及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者で組織する委員会が、当事者の申立てにより、事件を審理し、調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み、その解決に至らない場合には、労働審判（個別労働関係民事紛争について当事者間の権利関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判をいう。以下同じ。）を行う手続（以下「労働審判手続」という。）を設けることにより、紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的とする。
			解雇・配点・降格の効力を争う紛争賃金・退職金・解雇予告手当の支払を求める紛争等
			対象外：行政事件使用者と労働者の間の単なる金銭貸借に関する紛争労働組合と使用者との間の集団的労働関係紛争会社代表者や上司個人を相手方とする事件等
◆			◆Ⅱ　手続きの概要
■			■１　管轄
			①相手方の住所、居所、営業所もしくは事務所の所在地を管轄する地方裁判所。 ②個別労働関係民事紛争が生じた労働者と事業主との間の労働関係に基づいて当該労働者が現に就業しもしくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所。 ③当事者が合意で定める地方裁判所。（法２条）
■			■２　申立て
			その趣旨及び理由
			３回以内の期日で審理⇒第１回期日から充実した審理を行う。～第１回期日が「勝負」
			①申立ての趣旨及び理由 ②予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実 ③予想される争点ごとの証拠 ④当事者間においてされた交渉その他申立てに至る経緯に関する事項等紛争解決にとって有益な情報を記載する必要。
			予想される争点についての証拠書類があるときは、その写しを申立書に添付
■			■３　第１回期日の指定、呼出等
			原則として、申立てがされた日から４０日以内に第１回期日を指定。答弁書の提出期限を定める。
■			■４　答弁書の提出
■			■５　審理・調停
			当事者は、やむを得ない事由がある場合を除き、第２回期日が終了するまでに、主張及び証拠書類の提出を終えなければならない。
			調停に置いて当事者間に合意が成立し、これを調書に記載⇒裁判上の和解と同一の効力。
■			■６　労働審判
■			■７　異議申立て
			当事者は、労働審判に対し、審判書の送達又は労働審判の告知を受けた日から２週間以内（不変期間）に、裁判所に対し、異議の申し立てをすることができる（法２１条１項）。
			適法な異議の申立て ⇒ 労働審判はその効力を失い、労働審判手続の申立てにかかる請求については、当該労働審判手続の申立てのときに、当該労働審判が行われた際に労働審判手続が係属していた地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされる（法２１条３項、２２条１項）。
■			■８　法２３条１項、２４条１項による終了
			①裁判所が審判書の送達ができないため労働審判を取り消した場合（法２３条１項） ②労働審判委員が事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないとして労働審判事件を終了させた場合（法２４条１項）労働審判に対する適正な異議申立てと同様に訴え提起が擬制される（法２３条２項、２４条２項）。
◆			◆Ⅲ　審理等のポイント
■			■１　手続選択
			①民事通常訴訟 ②少額訴訟 ③支払督促 ④民事調停 ⑤労働局長による紛争解決援助や紛争調整委員会によるあっせん

第５章　解雇以外の賃金請求事件（地位降格、減額等に伴うもの）
訴訟物			雇用契約に基づく賃金支払請求権
請求の趣旨	賃金	●	「被告は、原告に対し、金○円（既発生分）及び平成○年○月から本判決確定の日まで毎月○日限り金○円及び各支払日の翌日から支払済みまで年６分の割合による金員を支払え。」
		説明	判決確定後の賃金は、「あらかじめその請求をする必要がある場合」（民訴法１３５条）には該当しない。 ⇒主文は「原告の訴えのうち本判決確定後の賃金の支払を求める部分を却下する。」
			商人が雇主として締結する雇用契約は、そおの営業のためにするものと推定⇒同契約に基づく賃金債務の遅延損害金の利率は商事法定利率である年６パーセントの割合によるべき。（判例）会社と従業員間の労働協約により発生する賃金も生じ債権。（会社と従業員間の退職金に関する労働協約は商行為であって、それに基づく退職金債権は商事債権）（判例）
			退職した労働者に係る賃金の全部または一部を退職の日（退職の日後に支払期日が到来する賃金にあっては当該支払期日）までに支払わなかった場合には、使用者は、当該労働者に対し、退職の日の翌日から支払日までの期間について、年１４．６パーセントを乗じて得た金額を支払う義務がある（賃金の支払の確保等に関する法律６条１項、同法施行令１条）。・例外規定あり。
	降格処分の有効性を争う場合		×「被告が原告に対してした○年○月○日付けで○○部長を解く旨の降格処分が無効であることを確認する。」 ← 過去の意思表示の効力を問題とするものであって、法人の理事会の決議等と異なり多数の第三者を巻き込んで複雑な法律関係を生じさせるものではないので、この効力の有効性を確認すべき利益はない。
			△「原告が、被告に対し、○○部門○○部○○課長たる雇用契約上の地位を有することを確認する。」 △「原告が、被告に対し、被告の定める職能資格○級の雇用契約上の地位を有することを確認する。」特別な場合でない限り就労請求権を認めない実務の態勢⇒その職位に基づいて就労する権利の確認は認められない。（東京地裁H18.2.27）ｂｕｔ職位は、当該職位に基づいて付与される賃金体系、手当、旅費等の待遇上の階級を表す地位として捉えることが可能な場合があり、そのようなときは、前記地位の確認を求めることが許されると解すべき。訴訟物は「○○部門○○部○○課長たる雇用契約上の地位」「職能資格○級の雇用契約上の地位」一定の賃金額の支払を受ける雇用契約上の地位が訴訟物に加わると、請求の趣旨は、「原告が、被告に対し、○○部門○○部○○課長（又は被告の定める○級）であり、かつ、月額基本給○○円（及び職務手当○○円）の支払を受ける地位にあることを確認する。」「原告が、被告に対し、被告の定める資格級○級で、職能級月額○○円の支払を受ける地位にあることを確認する。」等となる。
原告の主張	労務を遂行した場合		①雇用契約の締結 ②雇用契約中の賃金額に関する定め ③請求に対応する期間における労働義務の履行（各月の所定労働日における労務の履行をしたことを主張立証） ④毎月の賃金の締日と支払日の主張～ (i)支払期日の約定の主張としての意味と (ii)民法624条2項の「期間をもって定めた報酬」の「期間」の主張としての意味がある。支払期日の翌日から遅延損害金を請求する場合、この主張が必要。
			第624条（報酬の支払時期）労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。 2 期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。
	就労の拒否・不能の場合（民法536条2項）		民法　第536条（債務者の危険負担等） 2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
			①雇用契約の締結 ②今日契約中の賃金額に関する定め ③労務の遂行が不能となったこと（債務の履行不能） ④③の履行不能が使用者（債権者）の責めに帰すべき事由によること
			④はいわゆる規範的要件⇒労働者側がその評価根拠事実を主張立証。
被告の主張	相殺	相殺	賃金は、その全額を支払わなければならない（労基法２４条１項、賃金全額払原則）
			労基法　第24条（賃金の支払）　賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
			使用者は、労働者の賃金債権に対しては、債務不履行や不法行為に基づく損害賠償債権をもって相殺をすることは許されない（最高裁昭和31.11.2、最高裁昭和36.5.31）。 ⇒主張自体失当。反訴や別訴で解決。
		調整的相殺	賃金過払による不当利得返還請求権を自働債権とする相殺については、過払のあった時期と賃金の清算・調整の実を失わない程度に接着した時期になされ、あらかじめ労働者に予告されるとかい、その額が多額にわたらないとか、その時期、方法、金額jなどからみて労働者の経済生活の安定を害さない限り、賃金全額払原則による相殺禁止の例外として許容される。
			抗弁： ①過払があったこと、時期、内容 ②「労働者の経済生活の安定を害さない」といえるその他の事情
		合意による相殺	使用者が労働者の同意を得てする相殺は、この同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、賃金全額払原則に反しない（最高裁H2.11.26）。
			抗弁： ①相殺の合意があること ②前記①の相殺の合意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる理由が存在することを基礎付ける事実
	消滅時効		労基法　第115条（時効）この法律の規定による賃金（退職手当を除く。）、災害補償その他の請求権は二年間、この法律の規定による退職手当の請求権は五年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
			民法１７４条１号は賃金債権について１年の短期消滅時効を定めているが、労働者保護のため、労基法１１５条は２年と定めている。
			①賃金支払期から２年が経過したこと、 ②消滅時効を援用する旨の意思表示をしたことを主張立証。

第８章　退職金請求事件
訴訟物				雇用契約に基づく退職金支払請求権
	説明			就業規則の性質を有する退職金規定等（労基法８９条の３の２号参照）により、支給することや支給基準が定められ、使用者に対し支払が義務付けられているもの。
				労働の対象となる賃金の性質を有し原則として賃金に関する規定が適用される（労基法１１条）。
	規定			労基法　第89条（作成及び届出の義務）　常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。三の二　退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
				労基法　第11条〔賃金〕この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
請求の趣旨				「被告は、原告に対し、○○円及びこれに対する平成○年○月○日から支払済みまで年○分の割合による金員を支払え。」
				遅延損害金の起算日：就業規則に特別の定めあり⇒それに従う。就業規則に定めなし⇒期限の定めのない債務となり、催告の日の翌日から。
				利率：会社その他の商人に対する請求⇒年６分公益法人等に対する請求⇒年５分なお、賃確法６条（年１４．６％）の適用はない。
請求原因				①雇用契約の締結 ②退職金規定等の存在 ③②に対応する退職金額算定の基礎となる事実 ④退職の事実（退職金請求権は労働者の退職によって発生する） ⑤退職事由主張の要否：退職金規程が退職事由によって異なる支給率を定めている場合の退職事由主張の要否：原則規定である一般退職金を請求する限り退職（労働関係終了）を主張すれば足り、退職事由の主張は必要ではない。ｂｕｔ自己に有利な加減額事由は、この適用を主張する側が主張立証。退職金規程が退職金発生原因である退職事由を定めているように見える場合も、通常それは例示⇒退職事由の主張は必要ではない。
訴訟上のポイント	●			●被告からの損害賠償の主張の取扱い
				訴訟上請求可能な退職金は労基法２４条の全額払の適用⇒相殺できない。相殺の主張は、抗弁としては主張自体失当。
				被告が損害賠償の主張⇒反訴提起の可否。退職金不支給（減額）条項が存し、当該不支給時級と一致する場合は、反訴要件を満たすことになる。そうでない場合は、別訴を提起。
	●			●当該退職が退職金支給規程の自己都合か会社都合かの判断
				(1)就業規則に規定⇒それによる
				(2)特段の定めなし：～退職に至る主たる原因が労働者側の事情やその主観的意思によるのか、会社側の経営上の必要や会社側の違法行為が大きいのかによる。
	■			■取締役の従業員性
		●		●従業員の地位を有するかの判断基準
			○	労基法　第９条〔労働者〕（定義）この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所（以下「事業」という。）に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
				他人のために労務を提供しその対価たる賃金等を得て生活する者～従属性ないし従属関係の存在。
				判例：経済的従属性ではなく、法的従属性（労務提供全般にわたり一般的な指揮監督を受ける関係）の存否による。従属性の存否を判定する考慮要素： ①勤務時間の拘束、勤務場所の指定 ②業務遂行過程での指揮命令の有無（業務の内容及び遂行の仕方） ③専属関係の有無 ④第三者による代行性の有無 ⑤個別の仕事の指示に対し諾否の自由があるか ⑥清算器具・道具等の所有 ⑦報酬が労働の代償たる性質を持つか否か、従業員との対比で金額、計算方法、支払形態が同質化 ⑧源泉徴収、雇用保険、厚生年金、健康保険の保険料両州の有無以上の中でも、一定の日時・場所で指定された業務に従事する義務の存否が重要であり、このような業務がある以上は、業務遂行過程で指揮命令を受け、報酬が労働の代償たる性格を持つことになりやすい。
			○	取締役も、工場長や部長の職にあって取締役としての業務執行以外の業務に従事し、上記のような関係が肯定される場合は個別的労働関係においては労働者性を肯定し得る。その判断の検討要素：
				Ａ：業務遂行上の指揮監督の有無（業務執行権、経営上の裁量権の有無）部長、支店長、支配人、工場長兼務は基本的に従業員兼務取締役。業務担当取締役（法人の特定の部門の職務を統括する者）ないし業務執行取締役：内部的な業務について自ら決定しかつ執行する権限を有し、その権限は、代表取締役から委譲（指示）ではなく（外部関係は代表取締役の専権なので委譲が必要）、定款又は取締役会の決議により一般的に包括的に定められている。（同じ職務を行っていても、それが定款等で定めたものか、代表取締役の委譲（指示）によるものかによって決定的な違いを生じる。）複数の業務担当取締役がいる場合には、分担や上下関係を定めることができるが、定めがなければ単独執行できる。
				Ｂ：拘束性の有無勤務時間・場所の管理や拘束の有無就業規則の適用を受けて、勤務時間が決められ、タイムカード等、出退勤の管理を受けている者は労働者性を有する。
				Ｃ：役付取締役専務取締役として代表者の職務を代行していたとしても、それ自体が定款等の定めによるものではなく、代表者の指示によるもので、それも代表者の指揮命令の下に労務提供していたにすぎない場合は、給料全額がその対価でである賃金として従業員としての退職金規程が適用される。（最高裁H7.2.9）代表取締役は基本的に業務執行取締役であるが、他人が実権を握っているいわゆる名目的代表取締役の場合は従業員性が肯定される余地がある。
				D：従業員時代からの職務内容従業員から取締役に就任した場合は、取締役としての業務のほか従来の職務を兼務しているときは従業員たる地位を併有するとみられる。従業員の職務以上に別の業務に従事しない場合は、むしろ実質的には完全な従業員で取締役は名目的。
				E：報酬の性質・額従業員給与の名目で就業規則等所定の諸手当支給があるか、それとも、諸手当なしの役員報酬一本か。従業員から取締役に就任した場合、支給額が増額されたか、他の従業員より相当高額か、業務主義で報酬額が変動しているか。
				F：社会保険特に雇用保険加入は補足的ではあるが、これに加入していれば、従業員性を認定する方向に働く。
				G：その他従前、取締役が就業規則等所定の定年で退職していたか、その際退職金の支給手続はどうなっていたか、また、従業員から取締役に就任した場合は、従来の立場・関係が変更されたか、取締役就任時に従業員の退職手続（就業規則で退職規程が定められている。退職辞令の交付）が行われているか、退職金を受領しているかなど。
		●		●従業員兼取締役の従業員退職金算出のための基礎賃金の認定
				従業員としての給与と取締役の報酬とが区別できる体系⇒基本的のそれぞれの規律に従った処理をすべき。
				全額賃金で処理 ⇒基本的には全額労務提供の対価である賃金で、取締役の報酬はないと解すべき。
				全額取締役の報酬として処理 ⇒ ①従業員から取締役に就任した場合、従来から社内での立場・関係が実質変更されず、その勤務状況が全くの雇用契約関係であると見得る場合は、全額労務提供の対価たる賃金の性質を有するとして処理。 ②実質的にも取締役を兼務するに至ったと見られる場合は、取締役就任直前の従業員の賃金額が目安に。
				○取締役の報酬に関する規定：株式会社の付属明細書には現実に取締役及び監査役に支払った報酬額を記載しなければならない。実務上は、使用人としての給与分を付記することが求められている。
	■			■退職金規定の不利益変更
				～いわゆる就業規則の不利益変更の問題
		●		●要件事実
				A.請求原因：旧就業規則に基づく権利発生根拠事実
				B.抗弁：変更した事実（不利益性がない変更なら合理性判断は必要ではない）
				C.再抗弁：不利益性の評価根拠事実
				D.再々抗弁：合理性の評価根拠事実
		●		●判断基準
				賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずる。