シンプラル法律事務所
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論点整理(震災と企業法務)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

総会・情報開示関係
株主総会 期日関係 会社法は、毎事業年度の終了時一定の時期に招集しなければならないと規定するのみであり、事業年度終了後3カ月以内に必ず定時株主総会を招集しなければならないとの規定は存在しない。
定款において「毎月6月」あるいは「毎事業年度終了後3か月以内」に定時幹部主総会を開催しなければならないと規定がある場合でも、「天災等のような極めて特殊な事情によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合にまで形式的・画一的に適用してその時期に定時株主総会を開催しなければならないものとする趣旨ではないと考えるのが合理的解釈である」(法務省見解)

災害により物理的に株主総会が開催できない場合に限定せず、質問のように災害による甚大な被害の結果、定時株主総会の目的である計算書類の作成が困難な場合も含まれる。
基準日の効力(会社法124条2項)⇒剰余金配当については、定款に定めた剰余金配当基準日かである3月末日から3か月以内の日を効力発生日とする剰余金配当決議を行う必要。
これができない場合には、別途基準日を公告して配当することを要する。
規定:第124条(基準日)
株式会社は、一定の日(以下この章において「基準日」という。)を定めて、基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主(以下この条において「基準日株主」という。)をその権利を行使することができる者と定めることができる。
2 基準日を定める場合には、株式会社は、基準日株主が行使することができる権利(基準日から三箇月以内に行使するものに限る。)の内容を定めなければならない。
定款の規定により定時幹部主総会終結時を任期満了とする役員についても、延期された定時株主総会終結の時をもって任期満了と解するのが合理的解釈。
そうでないと、定款所定の時期の経過とともに任期満了となり、これにより員数が欠けた場合は、退任した役員が役員としての権利義務を有することになる。(会社法346条1項)
きてい:第346条(役員等に欠員を生じた場合の措置)
役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。
対応 いったん開催の上延期・続行の決議を行う(会社法317条)。
法務省の見解に基づき、議決権行使の基準日を設定し直した上で(会社法124B)定款記載の事業年度の終了後3カ月以内という期限の後に延期。
会計監査人の意見 @意見表明がなされないかA限定付き適正意見
⇒会社は取締役会が承認した計算書類等を株主総会に付議して承認決議を求める。
株主総会の承認決議は、後日その計算書類に大きな見積り誤りがあった場合、会社法(429条2項、462条1項)および金商法(21条の2等)の取締役等の責任を免責するものではない。

剰余金配当議案を付議することには慎重であるべき。
付議する場合は、いかなる場合でも分配可能額を超える結とならないように慎重の上にも新法を期することが必要。
招集通知の記載 お見舞い文言。
電力事情⇒クールビズ。
懇親会やお土産の廃止⇒義援金へ。
事業報告 本震災等による損害や業績への影響と将来的影響について
「事業の経過及びその成果」にその旨を記載。
本震災を踏まえた業績回復への取組やそのための経営戦略の変更などを「対処すべき課題」に記載。
工場等が被災⇒「設備投資等の状況」に「重大な固定資産の撤去・滅失等」として記載し(被災した設備が復旧した場合はその旨)、「工場・営業拠点」にその状況を記載。
資金調達や融資枠の設定⇒「資金調達の状況」にその旨記載する。
計算書類 繰延税金資産、貸倒引当金、撤去費用等の引当金などの貸借対照表の勘定科目。
損益計算書における特別損失(固定資産滅失損失、棚卸資産滅失損失等、撤去費用、減損損失、原状回復費用、移転費用等)などに影響。
招集通知が不到達 招集通知は発信主義であり、株主名簿記載の住所に発送していれば、不到達の場合でも法的問題は生じない(会社法299条1項、126条1項2号)。
WEB修正による会場変更の可否 狭義の招集通知の記載事項(開催場所)はWEB修正の対象ではないが(会社法施行規則65条3項、133条6項、会社計算規則133条7項、134条7項)、会社のウェブサイト等であらかじめ変更を周知し、当日、予定された会場に案内係を置き、新会場に株主を誘導し、その出席を確保できるよう手だてを講じることは可能。
but現実には困難。

予定されていた開催場所において、決議に必要な最低限度の条件を整え、とにかく決議までは終了させるといった総会運営を考えることが優先されるべき。
招集通知発送後不測の事態で延期の場合 狭義の招集通知はWEB修正の対象ではない。
延期する旨の通知は、@延期後の会日の2週間前までに株主に発送され、A延期する旨の通知が当初予定されていた株主総会の会日の前に株主に到達している必要がある。
予定されていた会日になって総会開催が物理的に不可能となった場合、改めて招集手続を行うほかない。
議案への影響 計算書類の会計監査報告で「無限定適正意見」が得られない⇒計算書類承認議案が必要。
この場合、剰余金配当議案には慎重な対応が必要。
多額の損失が生じる会社⇒剰余金処分案においてその他資本剰余金や任意積立金の取り崩しが必要となったり、さらには欠損填補のため資本金や準備金を減少する議案を付議する必要。
報酬増額や賞与支給議案の見直し等。
総会当日の対応 冒頭 被災者へのお見舞いの言葉
黙祷を捧げる
総会開会に先立つ事務局のアナウンスに避難指示があった場合の避難場所等の説明を入れる。
続行・延会 総会開催中に避難指示がなされる場合に備え、議事の冒頭で議事の最中に、避難指示があった場合に総会を続行することを決議。
議事に入る前であれば延会の決議。
いずれの場合も、日時、場所を決議する必要があるが、定められない場合には議長に一任決議も可能。
継続会は相当の期間内であることを要し、株主への通知を要する。
継続会は当初の総会と同一性を保持⇒出席すべき株主も同一であり、基準日の効力期間(3か月)を超えてもその違反はない。
基準日の効力(会社法124条2項)⇒剰余金配当については、定款に定めた剰余金配当基準日かである3月末日から3か月以内の日を効力発生日とする剰余金配当決議を行う必要⇒継続会では剰余金配当議案を撤回することになる
⇒安全確保を最優先に剰余金処分案だけでも決議することが望ましく、それができない場合配当決議を優先する会社は、議案の修正では対応できないことから、改めて基準日を定め招集することになる。
シナリオ 総会開催中に地震などの災害が生じ得ることを考慮⇒決議事項の説明・採決を監査報告、報告事項の説明・審議・採決に先行させるシナリオもあり。
質疑応答 インサイダー情報の開示を総会場で行わない。
本年は業績見通しを公表しない会社も少なくない⇒例年インサイダー情報にならなかった経営経営見通しに関する情報がたちまちインサイダー情報の開示となるリスクを孕むことになる。
震災等による被害状況は損益計算書の特別損失として認識され、その内容は説明義務の範囲。
被災した施設の復旧見通しと所要コストについては、引当金の説明として、また剰余金処分案に関連する事項としても説明が認められる。
⇒インサイダー情報であるか否かの慎重な判断が求められる。
開示関係 開示時 3月13日に東北地方太平洋沖地震を特定非常災害に指定する政令を公布・施行:
本来の提出期限までに提出できない有価証券報告書等は、特例措置として、本年6月末までに提出すればよい。
3月決算会社などについても、同様に、9月末までに提出すればよいこととする方向で政令が整備される予定。

東京証券取引所は、上場会社が有価証券報告書または四半期報告書の提出を法定の提出期限より遅延した場合に、管理銘柄に指定し、上場廃止基準に該当するか否か確認することとしているが、この適用もない。
要開示 法令 臨時報告書の提出事由として、
@重要な災害の発生(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項5号・13号)
A被害額確定に伴う特別損失の発生(同項12号、13号)
有価証券報告書において、本震災等に伴う「事業等のリスク」、「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー状況の分析」の記載内容の見直しの要否に留意。
東証 適時情報開示(東京証券取引所)として、
@災害に起因する損害(東京証券取引所・有価証券上場規程402条2号a、同施行規則402条1号)
A業績予想の修正(同気鋭405条1項、3項、同施行規則407号各号)
B配当予想の修正(同規程405条2項、416条1項)
震災の影響で見通しを立てることが困難な場合、決算短信において業績見通しを発表することを要しない。(東京証券取引所通知)
会計監査 公認会計士協会通牒 日本公認会計士協会会長通牒平成23年第1号「東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について」

現行の会計基準および監査基準を踏まえた監査上の留意事項
基本 当期の「ある程度の概算による会計処理」が合理的な見積りの範囲に収まるよう留意して決算作業を進める。
翌期になって前記の決算に誤謬ありと判断されれば、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」により修正再表示も必要。
断片的にでも適時に震災の影響に関するディスクロージャーに努めることは重要であるが、決算については、企業の財政状態等に関する真実な報告を提供するという企業会計の根本に立ち戻って粛々と遂行する必要。
監査上の留意点 ●データの収集や見積りが困難な状況下で合理的な損失等の見積もりが財務諸表に適切に反映された上で、データの収集や見積りの制約に関する重要事項が適切に注記されていることを確かめる必要がある。

@ある程度の概算であっても必要な会計処理を行わなければならない。ll
A概算とならざるを得ない制約について注記により適切に開示しなければならない。
●一部の監査手続の実施に制約がある場合でも、他の監査手続等から入手した証拠を総合的に評価して、必要な心証を得ることができる場合には、重要な監査手続の制約とならない場合がある。
通常実施している監査手続の一部が実施できない場合
ex.
工場、事業所等が被災または立入禁止等によって棚卸資産の棚卸立ち会いが実施できない
取引先が震災等の影響を受けているために売掛金の確認状況を送付できない
銀行取引を行っている支店・工場等の被災により銀行確認状を送付できない


代替的な手続によって十分
災害損失等の会計処理 災害損失の範囲 @固定資産(建物等の有形固定資産、ソフトウェア等の無形固定資産、投資不動産等)や棚卸資産(商品等)の滅失損失
A災害により損壊した資産の点検費、撤去費用等
B災害資産の原状回復に要する費用、価値の減少を防止するための費用等
C災害による工場・店舗等の移転費用等
D災害による操業・営業休止期間中の固定費
E被災した代理店、特約店等の取引先に対する見舞金、復旧支援費用(債権の免除損を含む)
F被災した従業員、役員等に対する見舞金、ホテルの宿泊代金等の復旧支援費用
ポイント 原則として特別損失に計上するが、金額的重要性を考慮して経常的な費用として会計処理することも否定されていない。
それぞれの内容を表す適当な科目で計上するが、「災害損失」等の科目で計上し、主要な項目を注記する方法も考えられる。
3月11日より前に決算日を迎えた企業⇒開示後発事象となる。
@ 固定資産・棚卸資産の滅失損失
当期の損失として計上。
固定資産や棚卸資産に対する損害保険金の受取りの確定までにかなり時間を要する場合には、付保状況を注記において説明することが考えられる。
特約の有無は付保金額の内容等について十分に確認。
監査においては、実査・質問・観察やその他の情報の入手等によって適切に対応する必要。
企業による現地調査の結果を監査人が閲覧・質問。
A 損壊資産の撤去費用等
決算日までに実施された撤去等に関する費用⇒「未払金」に計上
決算日後に実施が予定⇒企業会計原則注解の要件を満たすことを条件に「引当金」として計上。
撤去費用について見積りが行われる場合には、その合理性を確かめるために、次のような監査手続が実施(監査基準委員会報告書第13号「会計上の見積りの監査」)

@経営者が行た会計上の見積もりの方法を次の手続により検討する。
・仮定の適切性、情報の適切性および実績と比較
・実施可能な場合、過年度の見積りと実績とを比較
・会社の承認手続を検討

A実施可能な場合、監査人が独自の会計上の見積りを実施し、経営者が行った見積りと比較して差異の内容を検討

B決算日後の取引および事象を検討し、確定額または確度の高い情報を利用して経営者が行った見積りと比較してその差異の内容を検討。
監査人が独自に会計上の見積りを行う場合には、通常一定の許容範囲があることから、撤去費用等に関する経営者の見積りが監査人の見積額の許容範囲内にある場合には、経営者の見積りは合理的であると判断される。
B 資産の原状回復費用等
修繕費に準じて会計処理。
関連する支出が現状回復を超えて価値を増加⇒資本的支出として会計処理
資本的支出として認められない現状回復費用等または引当金組入額⇒当期の損失として計上
C 工場・店舗等の移転費用等
決算日までに発生した移転費用等⇒当期の損失として計上
移転方針は決定しているが、決算日までに実行されておらず、金銭的に重要性が高い⇒注記で概要を説明することも考えられる。
D 操業・営業休止期間中の固定費
原価性が認められない場合⇒当期の損失として計上
E 取引先に対する見舞金、復旧支援費用
交際費または寄付金に準じて会計処理。
費用処理の対象はすでに発生ている部分。
見発生額については引当金の計上要件を満たさない。
被災に伴い取引先に対して債権を免除または減免⇒当期の損失として計上「
F 被災した従業員、役員等に対する見舞金、宿泊代等の復旧支援費用
従業員に対する復旧支援費用:
福利厚生費に準じて会計処理。
発生原因の臨時性⇒原則として当期の特別損失として計上。
見発生の部分は引当金の計上要件を満たさない。
関連する会計・
監査事象
@ 繰延税金資産の回収可能性の判断。
A 取り機先の財政状態の悪化等
B 保有有価証券の時価の下落
時価のある有価証券については、金融商品に関する会計基準に従って減損等の会計処理を行う。
C 固定資産の減損判定
内部統制の評価と監査 今回の震災によって経営者の評価手続が実施できない場合には、経営者の対応として、やむを得ない事情による評価範囲の制約として、当該事実の及ぼす影響を把握した上で、当該範囲を除外し、財務報告に係る内部統制の評価結果を表明することができる。(「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」)
監査人は、経営者による評価が、やむを得ない事情を除いて全体として適切に実施されており、かつ、評価範囲の制約が財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼすまでには至っていないことが確認できた場合には、評価が実施できなかった範囲等を記載して無限定意見を表明する。⇒内部統制の評価と監査の状況を十分に検討する必要。
監査人の監査意見 一部監査手続の実施に制約があった場合には、直ちに監査範囲の限定や意見不表明となるわけではなく、無限定適正意見とする場合があることを示唆。
上場企業に対して無限定適正意見以外の監査意見を表明することになる場合には、より説明責任を果たせるように努めなければならないとし、監査報告書において当該無限定適正意見以外の監査意見が震災によるものであることを明確にする
⇒東京証券取引所等の監理銘柄指定および上場廃止の対象外とする特例措置に対応。
東京証券取引所 上場廃止基準の緩和 ←震災による一時的な業績や財務の悪化で被災企業がすぐに上場廃止となれば、市場から資金を調達できないできなくなるほか、投資家も混乱する。
震災による特別損失の計上で債務超過になった場合、上場廃止までの猶予期間を通常の1年間⇒2年間に延長。
震災で一時的に事業活動を停止しても上場廃止にしない。
「本震災により、上場会社の財務諸表又は四半期財務諸表等に添付される監査報告書又は四半期レビュー報告書において意見不表明等が記載されることとなった場合、管理銘柄指定及び上場廃止の対象とはな」らない(東京証券取引所通知)
新規上場審査の弾力化 ←被災した中小・ベンチャー企業を支援。
「利益」や「企業の継続性・収益性」は震災による一時的な業績への影響を排除
上場時の資金調達で純資産額(1部・2部上場は連結で10億円以上)の条件を達成することも認める。
上場申請の時期(3月決算企業は例年6〜11月)より遅い申請も受け付け。
(3月決算企業ならば例年は6〜11月にしけ受け付けない)
震災が原因で上場が承認されなかった場合、3年以内の再申請時には400万円の上場審査料は免除。
復興への民間資金活用促進 復興事業を手掛ける企業の株式で運用する上場投資信託(ETF)のほか、復興事業や被災地のインフラに直接投資するファンドの組成や上場も働きかける。

電力会社関係
信用リスク 原発関連で巨額の賠償金
⇒どこからその資金を調達するのか?
格付けが下がる⇒デリバティブなどの取引先金融機関は追加担保を東電に要求すする権利がある。
取引関係 東電による債務不履行の可能性
電力各社は原子力発電に代わる発電原料の石炭や液化天然ガス(LNG)の確保に奔走⇒原料需要急増⇒契約が供給者側に有利に

震災法務
役割分担 @現地だからこそ分かる事情、
A離れていた方が見える現実
⇒本社と現地との役割分担の工夫。
債務不履行 取引先に部品等を納入できない⇒債務不履行。
損害賠償責任の存否の判断基準は、原因が震災による不可抗力かどうか。
証拠の確保が必要。
労務 解雇の問題。
(安易な解雇は不可)
仕事と生活の両面で強いストレス
⇒医師の診察を受けるよう勧めるなど、メンタルケアへの配慮。
復興プログラム 半年後をめどに、社内外に、「会社の復興プログラム」を示す。
〜従業員や取引先に、会社の将来像や希望を示す。
保険条項の確認 会社が契約している保険条項を確認。
保険内容によっては、相手に与えた損害を補てんできる可能性がある。
(商用保険の中にあ、特定の条件にあてはまれば第三者に与えた損害を補填するものもある)
相手との契約関係を維持するため、ある程度の賠償に応じる選択肢もあり得る。