シンプラル法律事務所
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論点整理(消費者契約法関係)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

消費者契約法 

意義 概要 「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差」(法1条)を前提に、
①事業者の不適切な勧誘により、消費者の意思形成が正当になされないまま契約が締結された場合の取消権(不当勧誘による取消)
②消費者にとって不当な内容の契約条項の無効(不当条項の無効)
③適格消費者団体による、事業者の不当勧誘行為・不当条項利用に対する差止請求権の行使(消費者団体訴訟制度)
が3本柱。
制定の背景  個別の消費者保護立法(特商法、割賦販売法等)では、特定の分野にしか規制が及ばす、被害救済は限定的なものになる。
民法の規定(公序良俗違反、詐欺、強迫など)は、対等な当事者間を前提とし、各要件は厳格に定められる。また、規定の抽象性から、各要件の該当性は不明確。
適用対象と事業者の努力義務 適用対象  消費者と事業者との間で締結される契約(法2③)
消費者:事業として又は事業のために契約の当事者となる場合でない個人(法2①)
事業者:法人その他の団体又は事業として若しくは事業のために契約の当事者となる場合における個人(法2②)
事業者の努力義務 契約条項を明確かつ平易にすること
消費者に対して必要な情報を提供すること
(法3)
努力義務規定⇒本条のみで直ちに民事上の効果(取消権、損害賠償責任など)が発生するわけではない。
不当勧誘による契約の取消 取消権の行使期間 追認をすることができる時から6ヶ月
契約の締結の時から5年
←取引の早期安定化の要請と要件を緩和して取消権を認めることとのバランス。 
誤認類型
(詐欺要件の緩和)
不実告知(法4①(1)):
「重要事項について事実と異なることを告げ」て勧誘を行う場合。
ex.
宝石の売買について、一般的市場価格がせいぜい12万円程度であるのに、一般的な小売かっくを40万円程度であると告げて購入させたケース。(大阪高裁H16.4.22)
断定的判断の提供(法4①(2))
ex.
パチンコ・パチスロの攻略法(名古屋地裁H19.1.29)、先物取引について(名古屋地裁H17.1.26)
不利益事実の不告知(法4②)
ex.
先物取引について(札幌高裁H20.1.25)
困惑類型
(強迫要件の緩和)
不退去(法4③(1))
ex.
自宅の床下に拡散送風機等を設置する請負契約の締結につき、消費者が「換気扇は必要ない」などと言っているにもかかわらうz、午前11時頃から午後6時30分頃まで勧誘して契約。(大分簡裁H16.2.19)
退去妨害(法4③(2))
相談状況 不実告知に関する相談が多い一方、不利益事実の不告知に関する相談は少ない。 
媒介の委託を受けた第三者
(法5①) 
4条の取消権の規定は、事業者が第三者に対し、消費者契約の締結について媒介の委託をし、当該委託を受けた第三者(2段階以上も含む)が消費者に対して4条に規定する行為をした場合について準用。
ex.
不動産売買の仲介業者
クレジット契約における販売店(加盟店)は、クレジット契約の当事者ではないが、信販会社から委託を受けてクレジット契約締結の媒介→クレジット契約に関連して販売店が不当勧誘を行った場合は、クレジット契約を取り消すことができる。
不当条項の無効 不当条項規制の趣旨  原則:契約当事者による自由な決定が尊重される。(契約自由の原則)
but
契約不自由の実態
①消費者契約の条項は、事業者が事前に検討して一方的に作成する
②契約書などが消費者に事前に交付されなかったり、事前に交付されてもそれに目を通して理解する機会がなく、事業者からの説明も不十分
③契約条項は多岐にわたり、専門的・難解な言い回しが多く使われ、理解が困難
④消費者が個別に事業者と交渉して契約条項の修正を求めることは極めて困難
⇒不当な契約条項の拘束力を否定する必要。

条項無効判判決は同種の契約全体にも強い影響を与える⇒個別被害救済の手段にとどまらず、約款規制法の色彩を有する。
事業者の損害賠償責任を免除する不当条項
(8) 
債務不履行、不法行為による損害賠償責任と瑕疵担保責任の全部免除条項は無効。
債務不履行、不法行為による損害賠償責任の一部免除条項も、事業者に故意・重過失がある場合は無効。

ex.
「一切責任を負いません。」
消費者が支払う損害賠償の額を予定する不当条項類型
(9)
①契約解除に伴う違約金・損害賠償を定める条項について、解除に伴い事業者に生ずべき平均的損害額を超える部分について無効とする場合。(1号)
ex.
不当に高額なキャンセル料の定めのうち、高額な部分について無効とするもの。
学納金不返還事案について、授業料不返還条項は無効。(最高裁H18.11.27)

「平均的損害額」の立証責任:
「基本的には、違約金等条項である不返還特約の全部又は一部が平均的な損害を超えて無効であると主張する学生において主張立証責任を負う」(最高裁)
②消費者が金銭の支払い期日に遅れた場合における違約金・損害賠償を定める条項について、未払金の年14.6%を超える部分についての無効(2号)
ex.
家賃の支払いが滞った場合の遅延損害金など。

金銭消費貸借契約については、利息制限法が優先的に適用される。
消費者の利益を一方的に害する不当条項類型(10) 民法などの公の秩序に関しない規程の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法1条2項の信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものを無効とする。
不当条項を包括して規制する一般条項。
ex.
建物賃貸借契約における敷引特約。(神戸地裁H17.7.14)
建物賃貸借契約に関して自然損耗分を賃借人の負担とする特約。(大阪高裁H17.1.28)
利用状況 解除に伴う違約金条項(9①)と一般条項(10)がほぼ全て
消費者団体訴訟制度 概要  内閣総理大臣の認定を受けた適格消費者団体が、消費者全体の利益のために、事業者を相手に消費者契約法違反の勧誘行為や条項の使用の差止訴訟を提起することを認める制度。 
現状と課題 2008年3月31日現在、5つの団体が認定を受けた適格消費者団体として活動し、差止請求訴訟も提起されている。
2008年3月には、景品表示法や特定商取引法へ消費者団体訴訟制度を導入する方案の国会提出が閣議決定。
現在の制度は差止を内容とするもので、事業者が手にした違法収益を吐き出させることはできない。 
今後の可能性  実態法部分の改正に向けた検討事項  議論されているもの
①広告や表示を「勧誘」に含めるか
②断定的判断の対象を財産上の利得以外に含めるか
③不利益事実の不告知を使いやすいものにすべく要件を緩和するか
④困惑類型を拡張するか
⑤動機を「重要事項」に含めるか
⑥平均的損害の主張立証責任について何らかの手当をするか
⑦8条、9条以外に不当条項とされるべきもののリストを追加するか(ex.解約権・解除権を制限する条項、専属的裁判管轄条項、仲裁条項)
⑧10条を使いやすいものとすべく要件を緩和するか
⑨情報提供義務を法的義務とするか
⑩適合性原則を明示するか 


消費者契約法(研修レジュメ) 
  ■第1 消費者契約法の制定と概要 
●1 消費者契約法とは
事業者と消費者との間の情報力(質・量)・交渉力に格差があることを認め,その格差を是正するために消費者への不公正な勧誘行為に対して取消を認め, 不公正な契約条項に対して無効を認める民事的効果を持つ包括的法律である。
なお, 後に, 消費者団体訴訟制度が創設され, また集団的被害回復にかかる特例法が制定された。
  ●2 消費者契約法の制定の背景
    ① 消費者トラブルや被害の増加
② 規制緩和の進行
③ 格差のある契約当事者に適応した法制度の必要性④ 不十分な従来の法制度
⑤ 国際的な消費者法制の流れ
  ●3 消費者契約法の特徴
⑴ 契約当事者は対当であるという民法の基本原則の修正
消費者と事業者との間の構造的な格差の存在を正面から認める。
⑵ 全ての消費者契約に適用される
それまでの消費者保護法規は, 民事ルールがあるものもあったが, どちらかというと行政規制が中心であり適用範囲に限界があった (割賦販売法, 特定商取引法, 貸金業法等)。
⑶ 消費者団体訴訟制度の創設(平成18年改正)
適格消費者団体による, 不当勧誘や不当条項使用の差止訴訟
⑷ 消費者裁判手続特例法 (正式名 :消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律)の制定(平成25年制定・未施行)
特定適格消費者団体による共通義務確認訴訟, 個別消費者の債権確定手続
  ●  ●4 消費者契約法及び消費者団体訴訟制度関連法の制定と改正
  平成12年 5月12日 消費者契約法公布
平成13年 4月 1日 消費者契約法施行
平成19年 6月 7日 消費者団体訴訟制度(消費者契約法に基づくもの)についての改正法施行
平成21年 4月 1日 消費者団体訴訟制度(景品表示法に基づくもの)についての改正法施行
平成21年12月 1日 消費者団体訴訟制度(特定商取引法に基づくもの)についての改正法施行
平成25年 6月28日 消費者団体訴訟制度(食品表示法に基づくもの)についての改正法公布
* 公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行(改正附則1条)
平成25年12月11日 消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律 公布
* 公布の日から起算して3年を超えない範囲内において制令で定める日から施行(改正法附則1条)。
  ■第2 総則・消費者契約に関する部分の解説
  ●1 目的
第1条(目的)
この法律は,消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ, 事業者の一定の行為により消費者が誤認し, 又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに, 事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか, 消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより, 消費者の利益の擁護を図り, もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
⑴ 意義
消費者と事業者との間の情報力と交渉力格差につき, 従前民法の解釈として認められていた部分もあったが限界があったことから, かかる格差の存在を正面から認め, これを是正して消費者の利益保護を図り, もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与するという目的を明記した。
⑵ 解釈の指針
2条以下の解釈指針となる。 また, 民法その他の法律で消費者と事業者との間の法的紛争を解決する場合の解釈の指針となる場合もある。
※大津地判平成15年10月3日【判例1】
大津地判平成18年6月28日【判例15】
  ●2 定義
  第2条 (定義)
1 この法律において「消費者」とは,個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。) をいう。
2 この法律(第43条第2項第2号を除く。)において「事業者」とは,法人その他の団体及び事業と して又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。
3 この法律において 「消費者契約」 とは, 消費者と事業者との間で締結される契約をいう。
4 (略)
第48条(適用除外)
この法律の規定は, 労働契約については, 適用しない。
  ⑴ 消費者契約
ア 消費者契約法に言う消費者契約とは, 消費者と事業者との間で締結される全ての契約をいう。ただし,労働契約を除く (48条)。

イ 消費者
事業として又は事業のために契約当事者となる場合でない個人をいう。

ウ 事業者
「事業者」 とは, 法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者になる場合における個人をいう。
「事業」 とは,社会生活上の地位に基づいて,一定の目的をもって反復継続的になされる行為及びその総体をいう (営利・非営利,公益・非公益を問わない。)。

*具体的事案においては, 1条の趣旨を前提に柔軟に解釈する。
「事業として」とは,自己の事業遂行そのものの意であり,事業のためにとは,自己の事業遂行そのものではないが, 事業遂行に通常必要であるということである。
⑵ 消費者性が問題となる場合
ア 事業者が事業だけでなく個人としても使用するために物品を購入した場合
イ 内職商法などの場合
東京簡判平成16年11月15日 (最高裁HP)
「内職用に機材等を購入した被勧誘者について, 『消費者であることは明らか』 とした。」
ウ マルチ商法
エ 団体の場合
※東京地判平成23年11月17日【判例40】
  ●3 事業者及び消費者の努力義務
  第3条 (事業者及び消費者の努力)
1 事業者は, 消費者契約の条項を定めるに当たっては, 消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が消費者にとって明確かつ平易なものになるよう配慮するとともに, 消費者契約の締結について勧誘をするに際しては, 消費者の理解を深めるために, 消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならない。
2 消費者は, 消費者契約を締結するに際しては, 事業者から提供された情報を活用し, 消費者の権利義務その他の消費者契約の内容について理解するよう努めるものとする。
   ◎  ⑴ 事業者の義務
消費者契約法制定前から民法上の信義則等により情報提供義務を認め, この義務違反に対して損害賠償責任を認める判例があった。
※情報提供(説明)義務を認めた判例
・福岡地判平成5年10月7日判時1509-123 (美容整形)
・大津地判平成8年10月15日判時1591-94 (請負)
・最判平成8年10月28日金法1469-49 (変額保険)
・東京高判平成9年12月10日判タ982-192 (先物取引)
  ⑵ 消費者の義務
消費者にも事業者と同様,努力義務が課されているが, ニュアンスは若干弱められている。
まずは,事業者側の情報提供義務が果たされることが必要。消費者にとって不利な要素として考慮すべきでない (過失相殺等も許されるべきではない。)。
※3条2項等を理由に過失相殺をした裁判例として,大津地判平成15年10月3日
【判例1】。
  ⑶ 効果
本条は,努力義務であることから, 義務違反を理由とする契約取消や損害賠償責任といった法的効力は発生しない。
もっとも,不法行為の違法性を基礎づけることはあり得るものと思われる(大津地判平成15年10月3日【判例1】)。
  ●4 消費者契約の取消~誤認行為によるもの (4条1項, 2項)
  第4条 (消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
1 消費者は, 事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し, 当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし, それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは, これを取り消すことができる。

一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二 物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し,将来におけるその価額, 将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認

2 消費者は, 事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し, 当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ, かつ, 当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより, 当該事実が存在しないとの誤認をし, それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは, これを取り消すことができる。 ただし, 当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず, 当該消費者がこれを拒んだときは, この限りでない。

3 (省略)

4 第1項第1号及び第2項の「重要事項」とは,消費者契約に係る次に掲げる事項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。
一 物品, 権利, 役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質, 用途その他の内容
二 物品, 権利, 役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件

5 (省略)
  ⑴ 不実告知(4条1項1号)
事業者が,契約締結の勧誘に際し,(契約の)重要事項について,事実と異なることを告げたために, 消費者が, 告げられた内容が事実だと誤認して, 契約を締結した場合をいう。
  ア 契約締結の勧誘に際し
契約締結の意思形成を具体的に働きかける行為を広く含む。
→ パンフレット, チラシは含むか?
  イ 重要事項 (4条4項に記載)
消費者契約にかかる下記①又は②の事項であって, 消費者が当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。
① 物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質,用途その他の内容
② 物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件

【例】 「A社のOS版のソフトです」と説明をされたのでソフトウェアを購入したが, 実はB社のOS版のソフトウェアだったので, 使用できなかった。
→ あてはまる

【例】 英会話教室の勧誘において, 「当校の講師は全員アメリカ人です」 と説明されたが, イギリス人の講師がいた。
→ あてはまらない (通常は講師がネイティブであるかどうかに関心があり, イギリス人かアメリカ人かで契約の締結に関して影響を及ぼさないと考えられるから)
※「動機」に関する事項は含まれるか,争いがある。
【例】 「このままだと2, 3 年後には必ず肌がボロボロになる」 と言われたのでエステの契約をした。

→ あてはまらない(自分の肌は「当該消費者契約の目的となるもの」ではなく,4 条4 項の「重要事項」にあてはまらない。なお,2,3 年後に肌がボロボロになるか否かは, 「将来におけるその価額, 将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項」に該当しないと考えられ,4 条1 項2 号の要件にも該当しない。特定商取引法のクーリング・オフや中途解約の規定により解除することになろう)

→ あてはまる (「このままだとボロボロになる肌をボロボロにしないこと」が取引内容になると考え, 「その他の内容」に含め,不実告知があるとして, 取り消すことができると考える)
【例】シロアリがいると言われて駆除契約を締結
→ 「シロアリを駆除すること」が取引内容になると考えれば,不実告知があるとして取り消すことができる
※名古屋地判平成21年12月22日【判例29】
ウ 事実と異なることを告げる

① 事実と異なることとは,客観的に真実・真正ではないことをいうが,事実が異なることについて, 事業者の故意又は過失は不要である。
「安い」 「新鮮」 「情熱的」 など主観的評価は不実告知となるか?
→例:魚屋の店頭で「新鮮だよ。」 と言われ,魚を買ったが,たいして新鮮ではなかった。

② 告げるとは,必ずしも口頭による必要はなく,書面等によって消費者が認識し得る方法であれば足りる。
  エ 誤認させ
誤認とは, 違うものをそうだと思って認めることをいう。

オ 因果関係
事業者の行為→消費者の誤認→消費者の意思表示

カ 具体例
【例】 業者から, 中古の一戸建て住宅について「築3 年ですよ」 との説明を受けて売買契約を締結したが, 念のため登記簿を確認すると, 実際には築10 年であることが判明した。
→ 重要事項(築年数)について事実と異なることを告げているので,取消しできる
  ⑵ 断定的判断の提供(4条1項2号)
事業者が,契約締結の勧誘に際し, 当該消費者契約の目的となるものに関し,将来におけるその価額, 将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき, 断定的判断を提供したために, 消費者が, 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認をして, 契約を締結した場合をいう。
  ア 契約締結の勧誘に際し
  イ 将来における変動が不確実な事項
「・ ・将来におけるその価額, 将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の・・将来における変動が不確実な事項」
① 「その価額」とは,例えば,不動産取引に関し,将来における当該不動産の価額
② 「金額」とは,例えば,保険契約に関し,将来において当該消費者が受け取るべき保険金額
③ 「その他の事項」 とは,①②の概念には必ずしも含まれない消費者の財産上の利得に影響するものであって将来を見通すことが抑も困難であるもの(例えば,証券取引に関し,将来のおける各種の指数,数値,金利,通貨の価格など)。

財産上の利得に影響する経済的事項に限定されるか(例えば, 学業成績・体重・資格取得などは含まれるのか) は争いがある。
※ 易学受講契約に関する神戸地判尼崎支部平成15年10月24日,その控訴審の大阪高判平成16年7月30日【判例2】
ウ 断定的判断
断定的判断とは, 確実でないものが確実であると誤解させるような決めつけ方を言い,必ずしも「絶対」「必ず」などの文言を用いなくても良い。
但し, 非断定的な予想や個人的意見を示すことはこれに当たらない。
→例:A社の株式を購入すれば200万円儲かるかもしれない。

事業者側に断定的判断提供の認識は不要である。
エ 具体例
証券会社の担当者が「円高になりません」というので外国債を買ったところ円高になるケース。
  ⑶ 不利益事実の不告知 (4条2項)
事業者が, 契約締結の勧誘に際し, 当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について, 当該消費者の利益となる旨を告げ, かつ, 当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実を故意に告げなかったことにより,消費者が,当該(不利益な) 事実が存在しないとの誤認をして, 契約を締結した場合をいう。
ア 契約締結の勧誘に際し
イ 利益事項となる旨を告げること

契約締結前の状態と後の状態とを比較して, 当該消費者に利益 (財産上の利益[経済的利益]に限定されない)を生じさせるであろうという旨を告げること。
重要事項又は当該 (ある) 重要事項に関連する事項についてのものであること
事業者の故意は不要である (⇔不利益事実の不告知)。
ウ 不利益事実となる事実を故意に告げないこと

契約締結前の状態と後の状態を比較して, 当該消費者に不利益(必ずしも財産上の利益に限定されない) を生じさせるおそれのある事実をいう (例えば, 有価証券取引において元本欠損が生じるおそれがあること)。

当該重要事項についてのものであること

「消費者が通常存在しないと考えるもの」 に限られる (括弧書)。

事業者の故意(当該事実が当該消費者の不利益となるものであることを知り,あかつその者が当該事実を認識していないことを知っていながら, あえて)が必要である
(⇔利益事実の告知)

※東京地判平成18年8月30日【判例17】
  エ 事業者が告げようとしたのに消費者が拒絶していないこと (事業者の免責事由)オ 具体例

【例】 「眺望・日当たり良好」との業者の説明を信じて中古マンション3 階の一室を購入したが,1 年後には隣地に建物が建って眺望・日当たりが遮られた。
業者はこのことを知っていたが, 説明しなかった
→ あてはまる

【例】 デジタルCSチューナーセット(デジタルCSチューナー,CSアンテナ)を買えばすぐに某CS放送が見られると思ったのに, 見られない。取付機材が必要なことはカタログにも記載されていないし, 店員からも説明がなかった
→ あてはまらない (利益を告げていない)

【例】 「先週の価格の2 割引」と宣伝していたのでデジカメを購入したが,1 週間後に同じ商品が半値となった。 店員は今後さらに値段が下がることを知っていたが, これを告げなかった
→ あてはまらない(不利益(今後更に値段が下がること)が存在しないと一般平均的消費者は通常認識しないから)
  ●5 消費者契約の取消~困惑によるもの (4条3項)
  第4条 (消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
1~2 (省略)

3 消費者は, 事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し, 当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し, それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは, これを取り消すことができる。
一 当該事業者に対し, 当該消費者が, その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず, それらの場所から退去しないこと。
二 当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘を している場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず, その場所から当該消費者を退去させないこと。
4~5 (省略)
  ⑴ 不退去 (4条3項1号)
消費者が, 事業者に, 住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず, 事業者が退去しないこと

ア 退去すべき旨の意思を示した
明確に「帰ってくれ」と伝える場合だけでなく,間接的・黙示的に退去を望む意思が示されればよい。
例:「時間がありませんから」 と時間的余裕が無いことを伝える。
例:「要りません」 と契約しない意思を示す。
例:身振り手振りで拒絶の意思を示す。
※大分簡判平成16年2月19日【判例4】

イ 退去しない
滞留時間の長短を問わない。

ウ 困惑
困り戸惑い,どうしてよいかわからなくなるような,精神的に自由な判断ができない状況を言い,畏怖(怖れおののくこと)をも含む広い概念である。
  ⑵ 退去妨害 (4条3項2号)
消費者が, 事業者に, 勧誘を受けている場所から退去する旨の意思を示したにもかかわらず,事業者が,消費者を退去させないことをいう。

ア 退去する旨の意思を示した
明確に「帰ります」などと直接的・明示的に伝える場合だけでなく,直接的間接的,明示的黙示的を問わず退去する意思が示されればよい。
例:「時間がない」 と時間的余裕がないことを伝えている場合
例: 「要りません」 と契約を結ばない趣旨を明確に伝えている場合
例:身振りで「契約をしない」 という動作をして椅子から立ち上がって出口に向かっ
た場合

イ 退去させない
物理的・心理的方法を問わず (暴力や暴力の暗示に限定されない), 一定の場所からの脱出を不可能若しくは著しく困難にする行為を言い, 時間の長短も問わない。ウ 「勧誘するに際し」 「困惑」 は前述のとおり。
  ●6 消費者契約の取消の効果等(4条5項, 6条, 7条)
  第4条 (消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
1~4 (省略)
5 第1項から第3項までの規定による消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示
の取消しは, これをもって善意の第三者に対抗することができない。
第6条 (解釈規定)
第4条第1項から第3項までの規定は, これらの項に規定する消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示に対する民法第9 6条の規定の適用を妨げるものと
解してはならない。
第7条 (取消権の行使期間等)
1 第4条第1項から第3項までの規定による取消権は,追認をすることができる時か
ら6箇月間行わないときは, 時効によって消滅する。 当該消費者契約の締結の時から
5年を経過したときも, 同様とする。
2 会社法その他の法律により詐欺又は強迫を理由として取消しをすることができな
いものとされている株式若しくは出資の引受け又は基金の拠出が消費者契約として
された場合には, 当該株式若しくは出資の引受け又は基金の拠出に係る意思表示につ
いては,第4条第1項から第3項まで(第5条第1項において準用する場合を含む。)
の規定によりその取消しをすることができない。
   ⑴ 取消の効果 (4条5項)

消費者契約法には, 取消の方法やその効果について善意の第三者に対抗できないという以外の規定は置かれていないことから, 基本的には民法の規定に従うことになる
   ⑵ 民法の詐欺・強迫との関係(6条)

4条1項乃至3項までの規定により消費者契約の意思表示が取消の対象となり, かつこれにつき民法の詐欺・強迫(同96条)が成立する場合,消費者はこの両方を主張することができることを確認的に規定した。
   ⑶ 取消権の行使期間 (7条)

ア 民法との違い
「追認することができる時」より 6か月(民法126条は5年間)
行為(契約)時より 5年間(民法126条は20年間)

イ 「追認することができる時」
取消の原因となっていた状況が消滅したときである (民法124条参照)。
①「誤認」類型(4条1項, 2項)→消費者が誤認に気付いた時
② 「困惑」 類型 (4条3項) →事業者の行為による困惑から脱したとき
  ●7 媒介の委託を受けた第三者及び代理人
  第5条 (媒介の委託を受けた第三者及び代理人)
1 前条の規定は, 事業者が第三者に対し, 当該事業者と消費者との間における消費者契約の締結について媒介をすることの委託(以下この項において単に「委託」という。)をし, 当該委託を受けた第三者(その第三者から委託(2以上の段階にわたる委託を含む。)を受けた者を含む。以下「受託者等」という。)が消費者に対して同条第1項から第3項までに規定する行為をした場合について準用する。
この場合において,同条第2項ただし書中「当該事業者」とあるのは,「当該事業者又は次条第1項に規定する受託者等」 と読み替えるものとする。

2 消費者契約の締結に係る消費者の代理人 (復代理人 (2以上の段階にわたり復代理人として選任された者を含む。) を含む。 以下同じ。), 事業者の代理人及び受託者等の代理人は, 前条第1項から第3項まで (前項において準用する場合を含む。次条及び第7条において同じ。) の規定の適用については, それぞれ消費者,事業者及び受託者等とみなす。
  ⑴ 意義
事業者から契約締結についての媒介をすることの委託を受けた者が, 取消事由に該当する行為をした場合も, 消費者は契約を取り消すことができる。
  ⑵ 「媒介」
他人間に契約が成立するように,第三者が両者の間に立って尽力することを言い,契約成立までの一連の行為の一部でも担当すれば足り る。

例 : 不動産の売買や賃貸や仲介した宅地建物取引業者
例:旅行サービスを手配した旅行業者
  ●8 事業者の損害賠償責任を免除する条項の無効
  第8条 (事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)
1 次に掲げる消費者契約の条項は, 無効とする。
一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
二 事業者の債務不履行 (当該事業者, その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。) により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の全部を免除する条項
四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為 (当該事業者, その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。) により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の一部を免除する条項
五 消費者契約が有償契約である場合において, 当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき (当該消費者契約が請負契約である場合には, 当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。 次項において同じ。) に, 当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項

2 前項第5号に掲げる条項については, 次に掲げる場合に該当するときは, 同項の規定は, 適用しない。
一 当該消費者契約において, 当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに, 当該事業者が瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合
二 当該消費者と当該事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は当該事業者と他の事業者との間の当該消費者のためにする契約で, 当該消費者契約の締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて, 当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに, 当該他の事業者が当該瑕疵により当該消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い, 瑕疵のない物をもってこれに代える責任を負い,又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合
   (1) 趣旨
消費者契約においては, 契約当事者の一方である事業者が, 大量取引を迅速かつ画一的に処理しながら安定した契約を確保するために, 自己に有利なように, 自己の責任の免除・軽減する規定を置くことがある。

事業者と消費者との間に情報・交渉力の格差がある状況において, 消費者に一方的に不利な条項が定められた場合, 消費者の正当な利益を保護するため, 当該条項の効力の全部または一部を否定することが適当であることから, 本条が設けられた。
   (2) 効力
「無効とする」 とは, 当該契約条項のみが無効とされるのであって, 契約全体の効力が失われるわけではない。
無効になった契約条項は, 民法の任意規定によって補われる。
   (3) 事業者を免責させる条項が無効とされる場合
条項 責任発生の根拠 無効となる条項
1号 債務不履行 責任の「全部」免責
2号 債務不履行(故意・重過失) 責任の「一部」免責
3号 不法行為 責任の「全部」免責
4号 不法行為(故意・重過失) 責任の「一部」免責
5号 隠れた瑕疵があった場合 責任の「全部」免責
   (4) 具体例
【例】 事業者は, いかなる理由があっても一切損害賠償責任は負いません。
→ 無効となる

【例】事業者は,商品に隠れた瑕疵があっても,一切損害賠償,交換,修理をいたしません。
→ 無効となる

【例】当社は,手荷物について生じた損害については,旅行者1 名について5 万円を限度として賠償します。
→ 事業者に故意・重過失があれば, この条項は無効となる

【例】 事業者に故意又は重過失がある場合を除き, 損害賠償責任は10 万円を限度とします。
→ 一部免責の条項であるが, 事業者に故意・重過失がある場合を除外しているため, 無効とはならない

【例】事業者は, 天災等事業者の責に帰すべき事由によらない損害については賠償責任を負いません。
→ 事業者の責に帰すべき事由がない場合は, そもそも損害賠償責任を負わないことから, 単なる確認的規定といえ, 無効とはならない

【例】消費者が事業者に故意または過失があることを証明した場合には,損害を賠償します。
→ 証明責任を転換する条項は, 本条には該当しないが, 証明責任を法定の場合より消費者に不利となる場合は, 10 条により無効となる
   (5) 除外規定(2項)
瑕疵担保責任の免除(1 項5 号) に関する除外規定である。
ア 代替物給付義務または瑕疵修補義務がある場合 (2 項1 号)
【例】購入された犬が1 箇月以内に死亡した場合は,代わりの犬をお渡しいたしますが, 返金には応じません(ペット販売の例) → 瑕疵のない物を提供することとしているので, 無効とはならない
イ 他の事業者が損害賠償義務・代替物給付義務・瑕疵修補義務のいずれかを負う場合
(2 項2 号)
  ●9 消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効
   第9条 (消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
次の各号に掲げる消費者契約の条項は, 当該各号に定める部分について, 無効とする。

一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し, 又は違約金を定める条項であって, これらを合算した額が, 当該条項において設定された解除の事由,時期等の区分に応じ, 当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分

二 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日 (支払回数が2以上である場合には, それぞれの支払期日。 以下この号において同じ。) までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し, 又は違約金を定める条項であって, これらを合算した額が, 支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について, その日数に応じ, 当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年14.6パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分
  ◎   ⑴趣旨
消費者契約においては, 事業者が解除に伴う損害賠償額を高額に設定し, 消費者に不当な金銭的負担を強いる場合がある。

そこで, 消費者契約において, 契約の解除または契約に基づく金銭の支払義務を消費者が遅延した際の損害賠償額の予定または違約金を定めた場合, その額が一定の限度を超えるときに, その限度を超える部分を無効とする。
  ⑵ 契約解除に伴う損害賠償・違約金の制限(1号)
契約解除に伴う損害賠償額, 違約金額を定める契約条項で, その金額が解除に伴い通常当該事業者に生ずべき平均的損害を超えている場合には, その超える部分について無効となる。
  ア 契約の解除に伴う
解除の方法(法定・約定・合意)を問わない。消費者に(違約金の支払いを条件として) 解除権を認める場合も含む。
  イ 損害賠償の額を予定し又は違約金を定める条項
違約罰, 解約料, キャンセル料といった名目の如何を問わない。 実質的に賠償の予定と解釈される全ての約定を含む。
  ウ 当該事業者に生ずべき平均的損害
a 平均的損害の基準となる事業者

① 契約事業者を基準とする考え方 (判例)
文言に忠実に, 同一事業者が締結する多数の同種契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均的損害額とする。

② 一般的事業者を基準とする考え方
契約した当該事業者の平均的損害額を消費者に主張立証させることは不可能故, 当該事業者ではなく, 同種の一般的事業者を基準として算定される平均的損害額とする。

b 平均的損害の立証責任
① 消費者側にあるとする見解 (判例)
② 事業者側にあるとする見解
  エ 効果
条項に違反する規定があった場合には, 条項に定める金額を超える部分が無効となり,事業者は,平均的な損害の範囲内でしか消費者に損害賠償を請求することができない。
  オ 具体例(※最判平成18年11月27日他同日付判決4件【判例18~21】,東京高判平成20年12月17日【判例22】)
【例】契約後にキャンセルする場合には, 以下の金額をキャンセル料として申し受けます (結婚式場の場合)。
・実際に使用される日から1 年以上前の場合……契約金額の80%
→ 平均的損害を超える部分は無効
・実際に使用される日の前日の場合……契約金額の80%
→ 有効 (平均的損害を超えていないと考えられる)

【例】 契約の解除はいかなる理由があってもできません。
→ 9 条1 号の問題ではなく,10 条の問題
  ⑶ 金銭債務の不履行に対する損害賠償額・違約金の額の制限 (2号)
約定の期日に支払いをしない場合の損害賠償額や違約金を定めている契約条項が,年14. 6%を超える場合はその超える部分は無効となる。

【例】 毎月の家賃は当月末日までに支払う。 この期間を過ぎた場合は月額賃料に対し年50%の遅延損害金を支払う。
金銭消費貸借契約については, 利息制限法が特別法なので, 消費者契約法の適用はない(11条2項)。割賦販売には適用がある。
  ●10 消費者の利益を一方的に害する条項の無効
  第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し, 又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって, 民法第1 条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは,無効とする。
  ⑴ 意義
民法や商法等で定める任意規定と比較して, 消費者の権利を制限したり, 消費者の義務を加重する契約条項で, 信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効となる。
  ⑵ 趣旨
消費者契約の実態を踏まえると, 8 条, 9 条に規定する条項以外にも消費者の利益を一方的に害する条項が存在する。 そこで, 民法, 商法その他法律の任意規定の適用による場合に比べ, 消費者の権利を制限しまたは消費者の義務を加重する契約で, その程度が民法1 条2 項の基本原則に反するものの効力を否定する。
  ⑶ 前段の要件

ア 民法,商法その他の法律
その他の法律とは, 消費者契約の内容を規律するあらゆる法律という意味である。
純然たる民事ルールのみを規定する法律に限定されず, 消費者の権利・義務についての規定を含むものであれば, 民事訴訟法や業法等も含めてよい。

イ 公の秩序に関しない規定
a 任意規定を指す。なお,強行規定に反するものはそもそも無効である(民法91条)。
b 明文の任意規定に限られるかについては, 限られるとする見解と限られないとする見解とがある。

ウ 適用による場合に比し
問題とされる契約条項が「公の秩序に関しない規定」 と比較できない場合の本条の適用の可否について, 適用を否定する見解と肯定する見解とがある。
  ⑷ 後段の要件

ア 民法1条2項に規定する基本原則に反して
現行民法では必ずしも無効とされない契約条項についても, これを無効とする旨を規定した条項である。 すなわち民法上信義則≠消契法10条

イ 消費者の利益を一方的に害する
契約締結時を基準とした全ての事情を考慮して, 当該契約条項により消費者が受ける不利益とその条項を無効とすることにより事業者が受ける不利益とを衡量し,両者が均衡を失していると認められるか否かにより判断する。
判断要素としては,契約の目的とされた物品等の性質,契約締結に伴う状況, 当該契約の他の条項, その契約と依存関係にある他の契約の全条項等を考慮した総合判断をする。
  ⑸ 効果
当該条項が無効となる。その結果, 当該条項は最初からなかったことになり,民商法その他の法律の任意規定に従った扱いがなされることになる。
   ⑹ 裁判例
ア 更新料に関するもの
a 無効としたもの
大阪高判平成22年2月24日【判例30】など
b 有効としたもの
最判平成23年7月15日【判例38】など

イ 原状回復義務, 敷引, 定額補修合意に関するもの
最判平成23年3月24日【判例35】は無効となるケースがあると判示(ただし事案は有効)。
最判平成23年7月12日【判例37】も「敷引金の額が賃料の額等に照らし高額にすぎるなどの事情があれば格別」 と無効となるケースがあることを示唆している。

ウ 無催告失効条項,無催告解除条項
a 無効としたもの
東京高判平成21年9月30日【判例26】など
b 有効としたもの
最判平成24年3月16日【判例45】

エ その他
a 不正乗車ペナルティ
大阪地判平成17年1月12日【判例10】

b 管轄
松山地判西条支部平成18年4月14日【判例14】
  ●11 他の法律の定め
  第11条 (他の法律の適用)
1 消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し及び消費者契約の条項の効力については, この法律の規定によるほか, 民法及び商法の規定による。
2 消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し及び消費者契約の条項の効力について民法及び商法以外の他の法律に別段の定めがあるときは, その定めるところによる。
   ⑴ 金銭消費貸借契約 (9条2号関係)
利息制限法4条1項
   ⑵ 解除に伴う損害賠償額の制限(9条1号関係)
① 特定商取引法10条1項(訪問販売), 25条1項(電話勧誘販売), 49条2項・4項・6項(特定継続的役務提供)
② 割賦販売法6条1項(割賦販売), 30条の3第1項(割賦購入あっせん)③ 宅地建物取引業法38条
  ■第3 消費者団体訴訟制度についての解説(2条4項, 12条~)
   1 概要
消費者全体の利益を擁護するために, 事業者による不当な内容の契約条項の使用や, 不
当な勧誘行為を差し止める権利を, 適格消費者団体 (内閣総理大臣の認定を受けた消費者
団体) に付与する制度。
制度趣旨は,消費者取引は,少額でありながら,高度な法的問題をはらむ紛争が拡散的に多発するという特性を有する。そこで, 同種紛争の未然防止・拡大防止を図って消費者
の利益を擁護することを目的として,一定の要件を満たした適格消費者団体が,事業者に
よる不当な行為を差し止めることができる制度を創設したものである。
   2 適格消費者団体
特定非営利活動法人消費者支援機構関西(Kc ‘s)をはじめ,全国に12団体(平成27年2月現在。 消費者庁HP)。
     3 訴権の内容

⑴ 差止請求権のみ。 損害賠償請求権はない。
①不当条項の使用禁止, 不当勧誘行為の禁止。
②不当条項の使用推奨行為は含まれない。

⑵ 当初,消費者契約法のみ。その後,景品表示法,特定商取引法に基づくものにも拡大された。
  ■ 第4 集団的被害回復訴訟制度についての解説
    消費者被害(特に財産的被害) は,事業者との取引により相当多数の消費者に集団的に生ずる傾向があるところ,消費者と事業者との間の情報力,交渉力格差により消費者自らが被害回復を図ることには困難を生ずることが少なくない。かかる状況を踏まえ,消費者に生じた被害を一括して実効的に回復するための手続を創設し, もって, 国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
  ■【参考文献】
・日本弁護士連合会消費者問題対策委員会編『コンメンタール消費者契約法(第2版)』[商事法務]
・消費者庁企画課『逐条解説・消費者契約法(第2版)』[商事法務]
・村千鶴子 『Q&Aケースでわかる市民のための消費者契約法 (第4版)』 [中央経済社]・田島純蔵編『新・青林法律相談15 消費者契約の法律相談』[青林書院]
・名古屋消費者問題研究会編『〔新版〕 Q&A消費者契約法の実務マニュアル』 [新日本法規出版]
・大村敦志『法律学大系 消費者法(第4版)』[有斐閣]
・落合誠一『消費者契約法』[有斐閣]
・日本弁護士連合会編『消費者法講義(第4版)』[日本評論社]
・中田邦博=鹿野菜穂子編『基本講義 消費者法』 [日本評論社]
・島川勝=坂東俊矢編『判例から学ぶ消費者法(第2版)』[民事法研究会]
・坂東俊矢=五條操編著 『事例にみる消費者契約法における不当条項』 [新日本法規]
・消費者法ニュース発行会議 『消費者法ニュース』